(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-22
(54)【発明の名称】がんの処置のための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 51/04 20060101AFI20240415BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
A61K51/04 100
A61P35/00
A61K51/04 200
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564146
(86)(22)【出願日】2022-04-22
(85)【翻訳文提出日】2023-12-18
(86)【国際出願番号】 US2022025933
(87)【国際公開番号】W WO2022226299
(87)【国際公開日】2022-10-27
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519210572
【氏名又は名称】フュージョン ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Fusion Pharmaceuticals Inc.
【住所又は居所原語表記】270 Longwood Road South Hamilton,Ontario L8P 0A6,Canada
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ブラク, エリック エス.
(72)【発明者】
【氏名】フォーブズ, ジョン アール.
(72)【発明者】
【氏名】シムス, ライアン ダブリュー.
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C084AA12
4C084MA66
4C084NA13
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085HH03
4C085JJ02
4C085KA09
4C085KA29
4C085KB07
4C085KB09
4C085KB15
4C085KB56
4C085LL18
(57)【要約】
本開示は、がんを有する対象を、式(I)の化合物でキレート化された225Acを含む225Ac-放射性医薬品で処置する方法に関し、その化合物はニューロテンシンレセプター1(NTSR1)に結合し、その化合物は血液脳関門を通過せず、その225Ac-放射性医薬品は、その対象の体重1kg当たり10MBq/kg未満の投与量で投与されるかまたは40MBq未満の単位投与量としてその対象に投与される。一部の実施形態において、その対象は動物(例えば、マウス)またはヒト(例えば、患者)である。一部の実施形態において、その対象はヒト(例えば、がんを有する患者)である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんを処置する方法であって、
それを必要とする対象に、治療有効量の
225Ac-放射性医薬品を投与する工程
を含み、該
225Ac-放射性医薬品は式I:
【化4】
の化合物でキレート化された
225Acを含み、該化合物はニューロテンシンレセプター1(NTSR1)に結合し、該化合物は血液脳関門を通過せず、該
225Ac-放射性医薬品は、該対象の体重1kg当たり10MBq未満の投与量で投与されるかまたは40MBq未満の単位投与量として該対象に投与される、方法。
【請求項2】
前記対象がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記
225Ac-放射性医薬品が前記対象の体重1kg当たり1MBq未満の投与量で投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記
225Ac-放射性医薬品が前記対象の体重1kg当たり250kBq未満の投与量で投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記
225Ac-放射性医薬品が前記対象の体重1kg当たり75kBq~225kBqの投与量で投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記
225Ac-放射性医薬品が前記対象の体重1kg当たり100kBq~200kBqの投与量で投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記
225Ac-放射性医薬品が前記対象の体重1kg当たり約75kBq、約100kBq、約125kBq、約150kBq、約175kBq、約200kBq、または約225kBqの投与量で投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記
225Ac-放射性医薬品が前記対象の体重1kg当たり約150kBqの投与量で投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記
225Ac-放射性医薬品が20MBq未満の単位投与量として前記対象に投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記
225Ac-放射性医薬品が5MBq~15MBqの単位投与量として前記対象に投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記
225Ac-放射性医薬品が約6MBq、約8MBq、約10MBq、約12MBq、約14MBq、約16MBq、または約18MBqの単位投与量として前記対象に投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記
225Ac-放射性医薬品が約10MBqの単位投与量として前記対象に投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記がんが、結腸直腸がん、膵管腺癌、小細胞肺がん、前立腺がん、乳がん、髄膜腫、ユーイング肉腫、胸膜中皮腫、頭頸部がん、非小細胞肺がん、消化管間質腫瘍、子宮平滑筋腫、および皮膚T細胞リンパ腫からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記がんが結腸直腸がん、膵管腺癌、小細胞肺がん、前立腺がん、乳がん、髄膜腫、またはユーイング肉腫である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記がんが結腸直腸がんまたは膵管腺癌である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記対象に、放射性同位体でキレート化された式Iの化合物を含む画像化剤を投与する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記放射性同位体が、
62Cu、
64Cu、
67Cu、
67Ga、
68Ga、
89Zr、
99mTc、および
111Inからなる群より選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記放射性同位体が
68Ga、
89Zr、または
111Inである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記
225Ac-放射性医薬品が静脈内投与される、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2021年4月23日に出願された米国仮特許出願第63/179,089号の優先権を主張し、この米国仮特許出願の内容全体が、すべての目的のために参照によって本明細書により援用される。
【背景技術】
【0002】
(背景)
ニューロテンシン(13アミノ酸の神経ペプチドである)は、黄体形成ホルモンおよびプロラクチンの放出の調節に関係付けられており、ドーパミン作動系との顕著な相互作用を有する。ニューロテンシンは、ニューロテンシンレセプター(とりわけ、ニューロテンシンレセプター1(NTSR1)が挙げられる)によって結合される。
【0003】
NTSR1は、主に中枢神経系ならびに腸(平滑筋、粘膜、および神経細胞)において発現される。さらに、NTSR1は、哺乳動物の身体およびヒトの身体、特にいくつかの腫瘍適応症におけるいくつかの新生物細胞において高度に発現されるが、哺乳動物の身体およびヒトの身体の他のほとんどの組織におけるNTSR1の発現は、存在しないかまたは低いかのいずれかである。
【0004】
この選択的発現が原因で、NTSR1は、診断薬ならびにがん(例えば、結腸直腸がんおよび膵がん)を処置するための薬物のための適切な標的と見なされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
がんを処置するためにNTSR1結合剤を使用する新規な方法を開発する必要性が、存在する。
【0006】
(概要)
本開示は、がんを処置する方法に関し、その方法は、それを必要とする対象に、治療有効量のアクチニウム-225(
225Ac)-放射性医薬品を投与する工程を含み、その
225Ac-放射性医薬品は式I:
【化1】
の化合物でキレート化された
225Acを含み、その化合物はNTSR1に結合し、その化合物は血液脳関門を通過せず、その
225Ac-放射性医薬品は、その対象の体重1kg当たり10MBq未満の投与量で投与されるかまたは40MBq未満の単位投与量としてその対象に投与される。
【0007】
一部の実施形態において、その対象は動物(例えば、マウス)またはヒト(例えば、患者)である。一部の実施形態において、その対象はヒト(例えば、がんを有する患者)である。
【0008】
一部の実施形態において、その225Ac-放射性医薬品は、その対象の体重1kg当たり8MBq未満(例えば、6MBq未満、4MBq/kg未満、2MBq/kg未満、1MBq/kg未満または0.5MBq/kg未満)の投与量で投与される。一部の実施形態において、その225Ac-放射性医薬品は、その対象の体重1kg当たり1MBq未満の投与量で投与される。
【0009】
一部の実施形態において、その225Ac-放射性医薬品は、その対象の体重1kg当たり250kBq未満(例えば、約225kBq/kg以下、約200kBq/kg以下、約175kBq/kg以下、約150kBq/kg以下、約125kBq/kg以下、約100kBq/kg以下、約75kBq/kg以下、約50kBq/kg以下)の投与量で投与される。
【0010】
一部の実施形態において、その225Ac-放射性医薬品は、その対象の体重1kg当たり50kBq~250kBq(例えば、50~225kBq/kg、50~200kBq/kg、50~175kBq/kg、50~150kBq/kg、50~125kBq/kg、50~100kBq/kg、75~250kBq/kg、75~225kBq/kg、75~200kBq/kg、75~175kBq/kg、75~150kBq/kg、75~125kBq/kg、75~100kBq/kg、100~250kBq/kg、100~225kBq/kg、100~200kBq/kg、100~175kBq/kg、100~150kBq/kg、100~125kBq/kg)の投与量で投与される。その投与量の各々は、単回投与としてかまたは複数回(例えば、2回、3回、4回、もしくは必要に応じてそれよりも多い回数)投与され得る。一部の実施形態において、その225Ac-放射性医薬品は、その対象の体重1kg当たり75kBq~225kBqの投与量で投与される。一部の実施形態において、その225Ac-放射性医薬品は、その対象の体重1kg当たり100kBq~200kBqの投与量で投与される。
【0011】
一部の実施形態において、その225Ac-放射性医薬品は、その対象の体重1kg当たり約250kBq/kg、約225kBq/kg、約200kBq/kg、約175kBq/kg、約150kBq/kg、約125kBq/kg、約100kBq/kg、約75kBq/kg、または約50kBq/kgの投与量で投与される。その投与量の各々は、単回投与としてかまたは複数回(例えば、2回、3回、4回、もしくは必要に応じてそれよりも多い回数)投与され得る。一部の実施形態において、その225Ac-放射性医薬品は、その対象の体重1kg当たり150kBqの投与量で投与される。
【0012】
一部の実施形態において、その225Ac-放射性医薬品は、30MBq未満、例えば、1MBq~28MBq、3MBq~25MBq、5MBq~20MBq、5MBq~15MBq、または10MBq~15MBqの単位投与量としてその対象に投与される。本明細書において使用される場合、「単位投与量」とは、代表的には1回の用量を指す。本発明の方法を実施するために、その225Ac-放射性医薬品は、単位投与量として複数回(例えば、2回、3回、4回、もしくは必要に応じてそれよりも多い回数)投与され得、すなわち、複数回用量投与され得る。その225Ac-放射性医薬品が単位投与量として複数回投与される場合、各々の単位投与量は同じであっても異なっていてもよい。
【0013】
一部の実施形態において、その225Ac-放射性医薬品は、20MBq未満の単位投与量としてその対象に投与される。一部の実施形態において、その225Ac-放射性医薬品は、5~15MBqの単位投与量としてその対象に投与される。
【0014】
一部の実施形態において、その225Ac-放射性医薬品は、約6MBq、約8MBq、約10MBq、約12MBq、約14MBq、約16MBqまたは約18MBqの単位投与量としてその対象に投与される。
【0015】
一部の実施形態において、その225Ac-放射性医薬品は、約10MBqの単位投与量としてその対象に投与される。
【0016】
一部の実施形態において、本発明の方法は、結腸直腸がん、膵管腺癌、小細胞肺がん、前立腺がん、乳がん、髄膜腫、ユーイング肉腫、胸膜中皮腫、頭頸部がん、非小細胞肺がん、消化管間質腫瘍、子宮平滑筋腫、および皮膚T細胞リンパ腫からなる群より選択されるがんを処置するために使用され得る。
【0017】
一部の実施形態において、そのがんは、NTSR1を発現する以下の進行固形腫瘍、転移固形腫瘍および/または再発固形腫瘍のうちの一種から選択される:膵管腺癌(PDAC)、頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)、結腸直腸がん(CRC)、胃がん、神経内分泌分化(NED)前立腺がん、およびユーイング肉腫。
【0018】
一部の実施形態において、そのがんが結腸直腸がん、膵管腺癌、小細胞肺がん、前立腺がん、乳がん、髄膜腫、またはユーイング肉腫である。
【0019】
一部の実施形態において、そのがんが結腸直腸がんまたは膵管腺癌である。
【0020】
一部の実施形態において、本発明の方法は、処置される対象(例えば、がん患者)の適格性を決定するための診断手段として、放射性同位体でキレート化された式Iの化合物を含む画像化剤の投与をさらに含み、その理由は、この化合物がNTSR1発現に関連するからである。
【0021】
一部の実施形態において、その放射性同位体が、62Cu、64Cu、67Cu、67Ga、68Ga、89Zr、99mTc、または111Inからなる群より選択される。一部の実施形態において、その放射性同位体が68Ga、89Zr、または111Inである。
【0022】
一部の実施形態において、その225Ac-放射性医薬品が静脈内投与される。
【0023】
本開示の1つまたは複数の実施形態の詳細が、以下の説明において示される。本開示の他の特徴、目的、および利点は、添付の図面、以下の説明、および特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、2.1mCiおよび4.5mCiの投与量での[
177Lu]-3BP-227放射線治療についての群の動物の平均重量±標準偏差(g)を示す概略図である。
【0025】
【
図2】
図2は、1μCiおよび3μCiの投与量での[
225Ac]-3BP-227放射線治療についての群の動物の平均重量±標準偏差(g)を示す概略図である。
【0026】
【
図3】
図3は、2.1mCiおよび4.5mCiの投与量での[
177Lu]-3BP-227放射線治療についての群平均の動物腫瘍体積±標準偏差(mm
3)を示す概略図である。腫瘍体積(TV)はTV=0.52×(L×W
2)として算出した。この式において、L(長さ)は腫瘍の最大径であり、W(幅)は腫瘍の最小径である。
【0027】
【
図4】
図4は、1μCiおよび3μCiの投与量での[
225Ac]-3BP-227放射線治療についての群平均の動物腫瘍体積±標準偏差(mm
3)を示す概略図である。腫瘍体積(TV)はTV=0.52×(L×W
2)として算出した。この式において、L(長さ)は腫瘍の最大径であり、W(幅)は腫瘍の最小径である。
【0028】
【
図5】
図5は、2.1mCiおよび4.5mCiの投与量での[
177Lu]-3BP-227放射線治療についての群平均の相対重量パーセンテージ±標準偏差を示す概略図である。相対重量パーセントは、所定の動物について、0日目でのその重量と比較したn日目でのその重量のパーセンテージとして算出した。
【0029】
【
図6】
図6は、1μCiおよび3μCiの投与量での[
225Ac]-3BP-227放射線治療についての群平均の相対重量パーセンテージ±標準偏差を示す概略図である。相対重量パーセントは、所定の動物について、0日目でのその重量と比較したn日目でのその重量のパーセンテージとして算出した。
【0030】
【
図7】
図7は、2.1mCiおよび4.5mCiの投与量での[
177Lu]-3BP-227放射線治療についての群平均の相対腫瘍体積±標準偏差を示す概略図である。相対腫瘍体積は、所定のマウスについて、0日目での腫瘍体積と比較したn日目での腫瘍体積の比として算出した。
【0031】
【
図8】
図8は、1μCiおよび3μCiの投与量での[
225Ac]-3BP-227放射線治療についての群平均の相対腫瘍体積±標準偏差を示す概略図である。相対腫瘍体積は、所定のマウスについて、0日目での腫瘍体積と比較したn日目での腫瘍体積の比として算出した。
【0032】
【
図9】
図9は、2.1mCiおよび4.5mCiの投与量での[
177Lu]-3BP-227放射線治療についての腫瘍退縮パーセントを示す概略図である。腫瘍退縮は、所定の日の対照群平均の相対腫瘍体積と比較した所定の治療群平均の相対腫瘍体積のパーセンテージとして算出した。
【0033】
【
図10】
図10は、1μCiおよび3μCiの投与量での[
225Ac]-3BP-227放射線治療についての腫瘍退縮パーセントを示す概略図である。腫瘍退縮は、所定の日の対照群平均の相対腫瘍体積と比較した所定の治療群平均の相対腫瘍体積のパーセンテージとして算出した。
【0034】
【
図11】
図11は、2.1mCiおよび4.5mCiの投与量での[
177Lu]-3BP-227放射線治療ならびに1μCiおよび3μCiの投与量での[
225Ac]-3BP-227放射線治療についての動物の生存曲線を示す概略図であり、生存は初期コホート(n=6)からの生存マウスのパーセンテージである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(詳細な説明)
(定義)
本明細書において使用される場合、用語「約」または「およそ」とは、定量的値に関して使用される場合は、別途具体的に記載されない限りは、記載された定量的値自体を含む。本明細書において使用される場合、用語「約」または「およそ」とは、別途示されることも文脈から推認されることもない限りは、記載された定量的値から±10%の変動を指す。例えば、約100kBq/kgの投与量とは、100kBq/kg±10%、すなわち、90kBq/kg~110kBq/kgの投与量を意味する。
【0036】
本明細書において使用される場合、用語「結合する」または標的化部分の「結合」とは、標的分子との少なくとも一時的な相互作用または会合(例えば、本明細書において記載されるNTSR1への結合)を意味する。
【0037】
用語「がん」とは、悪性新生物細胞の増殖によって引き起こされるあらゆるがん(例えば、腫瘍、新生物、癌腫、肉腫、白血病、およびリンパ腫)を指す。「固形腫瘍がん(solid tumor cancer)」とは、組織の異常な塊を含むがん(例えば、肉腫、癌腫、およびリンパ腫)である。本明細書において交換可能に使用される「血液のがん」または「液性がん(liquid cancer)」とは、体液に存在するがん(例えば、白血病、リンパ腫、および多発性骨髄腫)である。
【0038】
本明細書において使用される場合、句「共投与する」、「組み合わせて投与する」、または「併用投与」とは、2種またはそれより多くの薬剤が対象に、同時に、またはその対象に対する各薬剤の効果の重複が存在し得るような間隔で、投与されることを意味する。したがって、組み合わせて投与される2種またはそれより多くの薬剤は、一緒に投与される必要はない。一部の実施形態において、それらの2種またはそれより多くの薬剤は、互いの24時間(例えば、12時間、6時間、5時間、4時間、3時間、2時間、もしくは1時間)以内に、または互いの約60分間、約30分間、約15分間、約10分間、約5分間、もしくは約1分間以内に、投与される。一部の実施形態において、それらの2種またはそれより多くの薬剤は、一緒に(例えば、同じ処方物中で、または例えば、別々の処方物中であるが同時に)投与される。
【0039】
用語「キレート」とは、本明細書において使用される場合には、2つまたはそれより多い点で中心金属原子または放射性金属原子に結合され得る、有機化合物もしくはその部分を指す。
【0040】
本明細書において使用される場合、用語「化合物」とは、示される構造のすべての立体異性体、幾何異性体、および互変異性体を含むことが意図される。
【0041】
本明細書において示されるかまたは記載される化合物は、不斉(例えば、1つまたは複数の立体中心を有する)であり得る。すべての立体異性体(例えば、鏡像異性体およびジアステレオマー)が、別途示されない限りは意図される。不斉置換された炭素原子を含む本開示において考察される化合物は、光学的に活性な形態またはラセミ形態で単離され得る。光学的に活性な出発物質から光学的に活性な形態を調製するやり方に関する方法は、当該分野で公知であり、例えば、ラセミ混合物の分割によるか、または立体選択的合成による。
【0042】
薬剤(例えば、225Ac-放射性医薬品)の「有効量」という用語は、本明細書において使用される場合には、量が、有益または望ましい結果(例えば、臨床結果)をもたらすために十分であり、したがって、「有効量」は、それが適用される状況に依存する。例えば、治療適用において、「有効量」は、障害の症状およびその合併症を治癒もしくは少なくとも部分的に停止するため、および/またはその疾患もしくは医学的状態に関連する少なくとも1つの症状を実質的に改善するために、十分な量であり得る。例えば、がんの処置において、その疾患あるいは状態のなんらかの症状を減少、防止、遅延、抑制または停止する薬剤もしくは化合物が、治療上有効である。治療有効量の薬剤または化合物は疾患または状態を治癒するためには必要とされないが、治療有効量の薬剤または化合物は、例えば、疾患または状態の発症が遅延、妨害、もしくは防止されるようにか、疾患または状態の症状が改善されるようにか、あるいは疾患または状態の期間が変更されるように、疾患または状態の処置を提供し得る。例えば、その疾患または状態は重症度がより軽くなり得、かつ/または回復が個体において促進される。有効量は、単回用量または複数回(例えば、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、もしくは少なくとも6回)用量を投与することによって、投与され得る。
【0043】
用語「薬学的組成物」とは、本明細書において使用される場合には、薬学的に受容可能な添加物(excipient)を用いて処方された、本明細書に記載される225Ac-放射性医薬品を含む組成物を示す。一部の実施形態において、その薬学的組成物は、哺乳動物における疾患の処置のための治療レジメンの一部として政府当局の認可を受けて製造または販売される。薬学的組成物は、例えば、単位投与形態(例えば、錠剤、カプセル剤、カプレット、ゲルカプセル(gelcap)、もしくはシロップ剤)での経口投与のため;局所投与のため(例えば、クリーム、ゲル、ローション、もしくは軟膏として);静脈内投与のため(例えば、塞栓粒子を含まない滅菌溶液として、および静脈内使用のために適切な溶媒系で);または本明細書において記載される他の任意の処方物に、処方され得る。
【0044】
「薬学的に受容可能な添加物」とは、本明細書において使用される場合には、本明細書において記載される化合物以外であり(例えば、その活性化合物を懸濁または溶解可能なビヒクル)、患者において非毒性で非炎症性である特性を有する、任意の成分を指す。添加物としては、例えば、付着防止剤(antiadherent)、抗酸化剤、結合剤、コーティング剤、圧縮助剤、崩壊剤、色素(着色剤)、軟化剤、乳化剤、充填剤(希釈剤)、フィルム形成剤もしくはコーティング剤、矯味矯臭剤(flavor)、香料、流動化剤(glidant)(流動促進剤(flow enhancer))、滑沢剤、保存剤、印刷インク、放射線防護剤、吸着剤、懸濁化剤もしくは分散剤、甘味料、または湿潤化(hydration)用の水が挙げられ得る。例示的な添加物としては、アスコルビン酸、ヒスチジン、リン酸緩衝液、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム(二塩基性)、ステアリン酸カルシウム、クロスカルメロース、架橋ポリビニルピロリドン、クエン酸、クロスポビドン、システイン、エチルセルロース、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、マルチトール、マンニトール、メチオニン、メチルセルロース、メチルパラベン、微結晶性セルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポビドン、アルファー化デンプン、プロピルパラベン、パルミチン酸レチニル、シェラック、二酸化ケイ素、カルボキシメチルセルロースナトリウム、クエン酸ナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、ソルビトール、デンプン(トウモロコシ)、ステアリン酸、ステアリン酸、スクロース、タルク、二酸化チタン、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンC、およびキシリトールが挙げられるが、それらに限定はされない。
【0045】
用語「薬学的に受容可能な塩」とは、本明細書において使用される場合には、過度の毒性も刺激もアレルギー反応も伴わずにヒトおよび動物の組織と接触する使用のために適切な、健全な医学的判断の範囲内にある本明細書において記載される化合物の塩を示す。薬学的に受容可能な塩は、当該分野において周知である。例えば、薬学的に受容可能な塩は、Bergeら、J.Pharmaceutical Sciences、66:1~19、1977ならびにPharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use、(P.H.StahlおよびC.G.Wermuth編)、Wiley-VCH、2008において記載されている。塩は、本明細書において記載される化合物の最終的な単離および精製の過程でインサイチュで調製され得るか、または遊離塩基基を適切な有機酸と反応させることによって別個に調製され得る。
【0046】
本発明の化合物は、薬学的に受容可能な塩として調製可能であるように、イオン化可能な基を有し得る。これらの塩は、無機酸もしくは有機酸を含む酸付加塩であり得るか、またはそれらの塩は、本発明の化合物の酸性形態の場合には、無機塩基もしくは有機塩基から調製され得る。しばしば、その化合物は、薬学的に受容可能な酸または塩基の付加生成物として調製される薬学的に受容可能な塩として、調製または使用される。適切な薬学的に受容可能な酸および塩基は、当該分野において周知であり、例えば、酸付加塩を形成するための塩酸、硫酸、臭化水素酸、酢酸、乳酸、クエン酸、または酒石酸、および塩基性塩を形成するための水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、カフェイン、種々のアミンである。適切な塩の調製のための方法は、当該分野において十分に確立されている。
【0047】
代表的な酸付加塩としては、とりわけ、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、ショウノウ酸塩、カンファースルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプトン酸塩、ヘキサン酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチニン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トルエンスルホン酸、ウンデカン酸塩、吉草酸塩が挙げられる。代表的なアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、およびマグネシウム、ならびに非毒性のアンモニウム、四級アンモニウム、およびアミンカチオン(アンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、およびエチルアミンが挙げられるが、それらに限定はされない)が挙げられる。
【0048】
「対象」によって、ヒト(例えば、患者)または非ヒト動物(例えば、哺乳動物)が意味される。
【0049】
本明細書において使用される場合、用語「標的化部分」とは、所定の標的に結合可能である任意の分子または分子の任意の部分を指す。「NTSR1標的化部分」という用語は、NTSR1分子に結合可能である標的化部分を指す。
【0050】
本明細書において使用される場合、当該分野において十分に理解されているとおり、状態を「処置すること」またはその状態(例えば、本明細書において記載される状態、例えば、がん)の「処置」とは、有益または望ましい結果(例えば、臨床結果)を得るためのアプローチである。有益または望ましい結果としては、1つもしくは複数の症状もしくは状態の軽減もしくは改善;疾患、障害、もしくは状態の程度の減弱;疾患、障害、もしくは状態の安定化した(すなわち、悪化しない)状況;疾患、障害、もしくは状態の拡張を防止すること;その疾患、障害、もしくは状態の進行の遅延もしくは遅くすること;その疾患、障害、もしくは状態の改善もしくは緩和;および検出可能であろうと検出不能であろうと、寛解(部分的なものであろうと完全なものであろうと)が挙げられ得るが、それらに限定はされない。疾患、障害、もしくは状態を「緩和すること」とは、処置が存在しない場合の程度もしくは時間経過と比較して、その疾患、障害、もしくは状態の程度および/もしくは望ましくない臨床的症状発現が減らされること、および/またはその進行の時間経過が遅くなるかもしくは長くなることを意味する。
【0051】
(処置の方法)
ニューロテンシンレセプター1(NTSR1)は、処置の選択肢が限られていて医学的必要性が満たされていない複数の固形腫瘍の型(結腸直腸がんおよび膵がんが挙げられる)においてアップレギュレートされることが公知である確認されたがん標的である。標的化されたα線治療(targeted alpha therapy)(TAT)は、その標的化された腫瘍細胞への高エネルギーα粒子放射同位体(例えば、アクチニウム-225すなわち
225Ac)の送達を可能にする。本開示は、式I:
【化2】
の化合物にキレート化された
225Acを含むNTSR1標的化治療剤、すなわち、
225Ac-放射性医薬品(本明細書で以後は[
225Ac]-3BP-227とも呼ばれる)の前臨床治療効力研究を提供する。
【0052】
本開示は、前臨床結腸直腸異種移植片モデルにおいて使用された場合の[225Ac]-3BP-227と[177Lu]-3BP-227との直接比較を提供する。本明細書において使用される場合、[177Lu]-3BP-227とは、式Iの化合物でキレート化された177Luを含む177Lu-放射性医薬品を指す。
【0053】
式Iの化合物(3BP-227とも呼ばれる)は、NTSR1を標的とする低分子アンタゴニストであり、アクチニウム-225またはルテチウム-177のいずれかで放射標識されてそれぞれ[225Ac]-3BP-227および[177Lu]-3BP-227を形成し得る。式Iの化合物、または金属にキレート化されたその放射性医薬品の合成は、米国特許第10,961,199(B2)号を参照し得る。例えば、[225Ac]-3BP-227は、米国特許第10,961,199(B2)号において記載されている方法を使用して合成され得る。
【0054】
化合物3BP-227はまた、診断または画像化のために適切な放射性医薬品を形成するために放射性同位体で放射標識され得る。その放射性同位体の例としては、62Cu、64Cu、67Cu、67Ga、68Ga、89Zr、99mTc、および111Inが挙げられるが、それらに限定はされない。
【0055】
一部の実施形態において、式Iの化合物にキレート化された225Acを含む225Ac-放射性医薬品は、非経口的に、静脈内に、動脈内に、腹腔内に、皮下に、皮内に、経胃腸管的に、経口的に、または局所的に、投与される。一部の実施形態において、式Iの化合物にキレート化された225Acを含む225Ac-放射性医薬品は、腫瘍周囲注入または腫瘍内注入を介して投与される。特定の実施形態において、式Iの化合物にキレート化された225Acを含む225Ac-放射性医薬品は、静脈内投与される。
【0056】
本開示はまた、がんを処置する方法を提供し、その方法は、それを必要とする対象に、
225Ac-放射性医薬品を含む治療有効量の薬学的組成物を投与する工程を含み、その
225Ac-放射性医薬品は、式Iの化合物:
【化3】
でキレート化された
225Acを含み、その化合物はニューロテンシンレセプター1(NTSR1)に結合し、その化合物は血液脳関門を通過せず、その
225Ac-放射性医薬品は、その対象の体重1kg当たり10MBq未満の投与量で投与されるかまたは40MBq未満の単位投与量としてその対象に投与される。
【0057】
一部の実施形態において、その薬学的組成物は、非経口的に、静脈内に、動脈内に、腹腔内に、皮下に、皮内に、経胃腸管的に、経口的に、または局所的に、投与される。一部の実施形態において、その薬学的組成物は、腫瘍周囲注入または腫瘍内注入を介して投与される。特定の実施形態において、その薬学的組成物は、静脈内投与される。
【0058】
治療効力研究のために、3,885MBq/kg~8,325MBq/kgの[177Lu]-3BP-227(2,100μCi~4,500μCi)または1.85MBq/kg~5.55MBq/kgの[225Ac]-3BP-227(1μCi~3μCi)の単回用量を、HT29異種移植片(平均腫瘍体積=212±46mm3)を有する動物に投与し、腫瘍増殖を77日間モニターした。対照群のマウスに、ビヒクル単独(PBS中の10%エタノール)を投与した。研究のエンドポイントは、腫瘍体積の測定および/または動物の健康状態に対する影響を含んだ。
【0059】
治療効力研究の結果は、8,325MBq/kgの[177Lu]-3BP-227で処置した動物において、対照群と比較して顕著で持続的な腫瘍増殖の阻害を示した。それとは対照的に、3,885MBq/kgの[177Lu]-3BP-227を投与したマウスは、腫瘍増殖の識別可能な阻害を全く示さなかった。重要なことに、[225Ac]-3BP-227による治療効力は、[177Lu]-3BP-227で得られた治療効力よりも予想外にはるかに優れていた。その理由は、持続的な腫瘍退縮が、低処置線量および高処置線量の両方の[225Ac]-3BP-227(それぞれ、1.85MBq/kgおよび5.55MBq/kg)で観察されたからである。これらの研究のいずれにおいても、処置に関連する毒性は何も存在しなかった。
【0060】
治療効力の直接比較は、[225Ac]-3BP-227での処置が、結腸直腸がんの異種移植片モデルにおいて、[177Lu]-3BP-227と比較して予想外の優れた効力をもたらしたことを示した。
【0061】
一般に、本開示は、ニューロテンシンレセプター1(NTSR1)を発現する進行固形腫瘍、転移固形腫瘍および/または再発固形腫瘍を有する患者における225Ac-放射性医薬品の使用を網羅する。
【0062】
その患者は、代表的には、認可されている療法による処置後に進行したかもしくは何の根治療法も利用可能ではない、組織学的および/もしくは細胞学的に確認された、切除不能な転移固形腫瘍または切除不能な局所進行固形腫瘍を有する。例えば、患者は、NTSR1を発現する以下の進行固形腫瘍、転移固形腫瘍および/または再発固形腫瘍のうちの一種を有する:膵管腺癌(PDAC)、頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)、結腸直腸がん(CRC)、胃がん、神経内分泌分化(NED)前立腺がん、ユーイング肉腫。
【0063】
画像化剤(例えば、111Inにキレート化された式Iの化合物)の投与後の単一光子放射断層撮影(SPECT)画像化が、適格性を決定するための診断手段として実施され得る。その理由は、それがNTSR1発現に関連するからである。一部の実施形態において、適格性は、骨格筋において測定されるレベルの少なくとも2倍として定義される、少なくとも1つの病変における十分な標的発現を必要とし得る。用量拡大(dose expansion)の間に、画像化基準は、処置に反応する可能性がより高い患者を同定するために適切であるとこれが見なされる場合に、より高い腫瘍対バックグラウンド比またはより多数の病変を必要とするように修正され得る。一部の実施形態において、SPECT/CT画像化剤としての使用のための111Inにキレート化された式Iの化合物(「111In-放射性医薬品」)についての診断上有効な線量は、185MBq(または5mCi)であり、4μCi/kg未満の質量線量(mass dose)である。
【0064】
本発明の方法が、がんを有する患者を処置するために使用される場合、患者は、局所評価により適格性を評価するため、および225Ac-放射性医薬品の最大許容累積線量を推定するために、画像化スクリーニング期間中に111In-放射性医薬品の注入を受け得る。顕著な標的発現は、111In-放射性医薬品投与およびSPECT/CT画像化後に骨格筋よりも多い取込みを伴う少なくとも1つの測定可能な病変として定義される。プラナー画像化が、111In-放射性医薬品投与後0時間~4時間、24時間±6時間、48時間±6時間、72時間~96時間で線量測定算出のために4つの時点にて取得され得る。適格な患者は、4サイクルまでの225Ac-放射性医薬品を受け得る。
【0065】
さらなる労力を伴うことなく、当業者は、上記の説明に基づいて、本開示をその最大限まで使用し得ると考えられる。したがって、以下の具体的な実施例は、本開示の残りの単なる例示に過ぎず決して限定ではないと解釈されるべきである。
【実施例】
【0066】
(研究の概略)
[177Lu]-3BP-227および[225Ac]-3BP-227の治療効力研究を、以下を含むマウスにおいて実施した:
1.5つの群(n=6)に分配した皮下HT-29(ATCC番号HTB-38;結腸直腸腺癌)腫瘍異種移植片を有する30匹のCD-1ヌードマウス(5週齢~6週齢の雌;Charles River Laboratories)。[177Lu]-3BP-227または[225Ac]-3BP-227で各々を処置した2つの群および1つの対照群(下記)が存在した。
2.放射能の標的線量は、放射線治療群について、マウス1匹当たり2.1mCiもしくは4.5mCiの[177Lu]-3BP-227、またはマウス1匹当たり1μCiもしくは3μCiの[225Ac]-3BP-227であった。
3.対照群のマウスに、ビヒクル単独(PBS中10%エタノール)を投与した。
4,すべての群について、腫瘍サイズおよびマウス重量を、34日間~77日間モニターした。対照と比較した相対腫瘍体積、相対マウス重量、および腫瘍退縮もまた、算出した。
【0067】
(実験プロトコル)
この実験は、下記で提供されるプロコトル「HT-29異種移植片腫瘍を有するCD-1ヌードマウスにおける[177Lu]-3BP-227および[225Ac]-3BP-227の治療研究」にしたがって実施した。
【0068】
(目的)
ヌードマウスにおける皮下HT-29異種移植片腫瘍の処置のための、[177Lu]-3BP-227および[225Ac]-3BP-227の効力を決定するためのインビボ治療研究を実施する。
【0069】
(範囲)
評価すべき化合物は、[177Lu]-3BP-227および[225Ac]-3BP-227であり、これらは、それぞれ、式Iの化合物(3BP-227とも呼ぶ)の177Lu放射標識バージョンおよび225Ac放射標識バージョンである。NTSRlは、いくつかの型のがん(例えば、膵管腺癌(PDAC)、ユーイング肉腫および前立腺がん)において過剰発現されるが、これは正常組織においては稀にしか発現されない。これは、ヌードマウスにおけるNTSR1を発現するHT-29異種移植片腫瘍において[177Lu]-3BP-227の良好な取込みおよび持続を示した。これはまた、NTSR1を発現しない293腫瘍異種移植片への最小限の取込みを示した。
【0070】
研究は、[177Lu]-3BP-227が、ヌードマウスにおけるHT-29異種移植片の腫瘍増殖を抑制するための治療として少なくとも60日間有効であったことを示した。この効果は、マウス1匹当たり約4.5mCiの線量の[177Lu]-3BP-227で特に明らかであった一方で、マウス1匹当たり約2.1mCiの線量は、腫瘍増殖をいくぶん阻害した(研究1)。同様の研究を別個に実施した(研究2)が、マウス1匹当たり4.5mCiの[177Lu]-3BP-227の注入は、HT-29腫瘍増殖を抑制するのに有効ではなかった。しかし、化合物注入時点での平均腫瘍体積は、研究1(約200mm3)と比較して研究2では顕著に大きかった(約450mm3)。このことは、治療効果を隠した可能性がある。[177Lu]-3BP-227治療によってマウスにおける急性毒性は何も観察されなかった。
【0071】
この研究は、適切なサイズ(約200mm3)のHT-29腫瘍を有するマウスを使用した。この研究はまた、同じ腫瘍モデルにおける[225Ac]-3BP-227の治療能力を評価するように設計した。[225Ac]は、3BP-227のα粒子標識バージョンである。
【0072】
(研究設計)
雌CD-1ヌードマウスの群(5つの群;各々n=6、合計30匹)に、1回の静脈内注入を介して放射標識試験物品を投与する。
【0073】
[177Lu]-3BP-227を、10%エタノールを含むPBS中に溶解し、約13mCi/mLおよび約25mCi/mLの濃度で調製する。[177Lu]-3BP-227化合物を、2つの群の動物(合計n=12)に2.1mCi(ストック1mLあたり約13mCi)または4.5mCi(ストック1mLあたり約25mCi)の投与量で(200μLで)投与する。[225Ac]-3BP-227を、10%エタノールを含むPBS中に溶解し、5μCi/mLおよび15μCi/mLの濃度で調製する。[225Ac]-3BP-227化合物を、2つの群の動物(合計n=12)に1μCi(ストック1mLあたり5μCi)または3μCi(ストック1mLあたり15μCi)の線量で(200μLで)投与する。非標識3BP-227を使用して、すべての用量を5nmolに質量を一致させる。対照マウスに、尾静脈注入によって200μLのPBS/10%エタノールを投与する(n=6)。マウスを28日目まで1週間に3回秤量して、治療効果および毒性効果をモニターする。腫瘍の長さ(L)および幅(W)を28日目まで1週間に3回測定し、腫瘍体積を、第13節、データ算出および統計分析によって算出する。
【0074】
(材料)
PBS(Life Technologies、10010-015)
DPBS(Life Technologies、14287-080)
マッコイSa培地(Life Technologies、16600-082)+ペニシリン/ストレプトマイシン+10%FBS
ペニシリン/ストレプトマイシン(Life Technologies、15240-062)
FBS(Life Technologies、12483020)
アルコールワイプ(VWR、CA70000125)
30g針(VWR、CABD305106)
26g針(VWR、CABD305111)
1mLスリップチップシリンジ(VWR、CABD309659)
1mLルアーロック式シリンジ(VWR、CABD309602)
マウス拘束器
タングステン製シリンジシールド
ホルマリン(PBS中に緩衝化した3.7%ホルムアルデヒド)
デジタルキャリパー(VWR)
ガイガー計数管(LM 14C)
ドーズキャリブレーター(Capintec Inc、CRC-25R)。
【0075】
(動物および収容)
送達時に3週齢~4週齢および研究開始時に5週齢~6週齢である33匹の雌CD-1ヌードマウスを、Charles River Laboratoriesから取り寄せる。動物を、滅菌マイクロアイソレーター式ケージにケージ1個当たり3匹収容し、オートクレーブ済みのHarlan8460固形飼料および水(Clean Level husbandry)を自由に利用させる。ケージエンリッチメントはPVC管からなる。動物は、腫瘍細胞株接種前に5日間~10日間馴化させる。
【0076】
(実験群)
群1:対照;n=6
群2:2.1mCiの[177Lu]-3BP-227;n=6
群3:4.5mCiの[177Lu]-3BP-227;n=6
群4:1μCiの[225Ac]-3BP-227;n=6
群5:3μCiの[225Ac]-3BP-227;n=6。
【0077】
(腫瘍細胞株の接種)
(組織培養)
【0078】
1.各マウスについての接種材料は、体積100μl中で100万個のHT-29細胞からなる。これは、DPBSに懸濁した75μLの細胞と、25μlのマトリゲルとの組合せである。
【0079】
2.接種日のために必要とされるHT-29細胞の数(最低7,000万個の細胞)の少なくとも2倍をT225フラスコにおいて調製する。細胞を、10%FBSとペニシリン/ストレプトマイシンとを含むマッコイSa培地において増殖させる。
【0080】
3.注入の1日前に、冷凍庫からマトリゲルを取り出し、低温室において氷上で一晩解凍する。
【0081】
4.注入日に、針およびシリンジを冷凍庫に配置する。細胞収集後にBSC中にある氷に移す。
【0082】
5.その細胞から培地を除去し、10mLの滅菌PBSをそのフラスコに添加し、穏やかに揺すって細胞をリンスし、PBSを吸引する。
【0083】
6.5mLの0.25%トリプシン/EDTAを各フラスコに添加し、増殖表面が完全に覆われることを確実にする。増殖表面から脱離するまで(約5分間)細胞を37℃でインキュベートする。
【0084】
7.10mLの培地を各フラスコに添加し、リンスして、細胞を表面から取り出す。再懸濁した細胞を50mlコニカルチューブに収集してプールし、400gにて5分間遠心分離する。
【0085】
8.培地を細胞ペレットから吸引し、細胞を1.5mLの冷たいDPBSに再懸濁する。氷上にて維持する。
【0086】
9.生/死染色用のトリパンブルーを含む、計数のための細胞希釈物を調製する。血球計数器にて計数し、細胞濃度を算出する。7,500万個の生細胞を新しい50mLコニカルチューブにアリコートに分け、再懸濁した細胞の体積を1ml当たり3,300万個の細胞の細胞濃度に調整する。
【0087】
10.マトリゲルをその細胞懸濁物体積の半分の体積でそのコニカルチューブに添加して、1mL当たり1,000万個の細胞の最終濃度にする。混合して氷上にて維持する。
【0088】
11.予め冷やした1mLシリンジを使用して、その細胞懸濁物を150μLの線まで穏やかに汲み上げる。そのシリンジに予め冷やした30g針でキャップをし、プランジャーを押したり引いたりすることによりシリンジから空気を除去する。そのプランジャーを調整して、過剰な細胞懸濁物を排出して最終体積100μLにする。シリンジを氷上にあるプラスチックバッグ中に配置する。この手順を継続してすべての針に充填する。
【0089】
(接種)
【0090】
1.接種日の前に、マウスの耳に穿孔する。
【0091】
2.動物BSCで作業し、キャップを緩めることによって注入用シリンジを準備する。
【0092】
氷上で維持する。
【0093】
3.マウスをそのケージから取り出し、手または円錐形拘束具で拘束する。
【0094】
4.側腹部後方の皮膚のすぐ下にシリンジの針を注意深く挿入し、テントを行い、皮下空間に針が留まることを確実にする。
【0095】
5.注入し、あらゆる実質的な流体漏出の事例を記録する。各マウスを秤量して記録する。
【0096】
(治療手順)
(用量投与の前)
【0097】
1.腫瘍誘導は、研究開始前に7日間の期間にわたって生じる。デジタルキャリパーを使用して腫瘍の長さ(L)および幅(W)を測定し、腫瘍体積を算出する(下記)。
【0098】
2.また、動物を健康全般のバイオマーカーとして秤量する。
【0099】
3.腫瘍誘導の結果として健康不良であるように見える動物、または移動性に影響を与える潰瘍形成したもしくは大きくなり過ぎた腫瘍の徴候を示す動物は、倫理的理由で屠殺する。
【0100】
(治療プロトコル)
【0101】
1.治療前の日々:注入用のルアーロック式シリンジを準備して表示を付け、注入記録表を準備する。
【0102】
2.放射線治療投与の日:マウスを秤量し、その腫瘍を測定する。腫瘍体積を算出する。最も均一な群の腫瘍サイズを達成することに基づいて、接種した33匹から治療研究のために30匹のマウスを選択する。群の平均腫瘍体積がほぼ等しくなるように、それらのマウスを実験群に割り当てる。
【0103】
3.遮蔽した注入ステーションを配置する。
【0104】
4.上記「研究設計」において記載した作業濃度で放射標識化合物を調製する。ドーズキャリブレーターでシリンジを測定し、その放射能を記録表に記録する。注入用シリンジシールドに[177Lu]-3BP-227シリンジを配置する。
【0105】
5.注入部位をアルコールワイプで清浄にし、200μLの[177Lu]-3BP-227、[225Ac]-3BP-227または10%エタノール/PBS緩衝液を各動物の側方尾静脈中に注入する。動物をそのケージに戻す。
【0106】
6.注入後の各シリンジの放射能を測定して記録する。群2~群5のマウスに活性物質(activity)または緩衝液対照を注入するまで、工程4を繰り返す。
【0107】
7.注入の24時間後に、すべての治療群のケージを変更して、排泄された放射性核種に起因する効力の可能性を減少させる。
【0108】
8.キャリパーを使用して腫瘍の長さ(L)および幅(W)を1週間に3回測定して記録し、マウスの重量を健康のバイオマーカーとしてモニターする。
【0109】
9.規定した取込み期間の最後(28日目)に、頸椎脱臼によって各動物を安楽死させる。その腫瘍を収集し、秤量し、固定のためにホルマール中に配置する。
【0110】
10.プラスチックバッグ中に動物の死体を配置し、放射性バイオハザード廃棄物として表示を付ける。
【0111】
(データ算出および統計分析)
1.腫瘍体積を式TV=(L×W2)×0.52にしたがって算出し、この式において、Lは腫瘍の最大径(長さ)であり、Wは腫瘍の最小径(幅)である。n日目での腫瘍体積を、式RTV=TVn/TV0にしたがって相対腫瘍体積(RTV)として表し、この式において、TVnはn日目での腫瘍体積であり、TV0は0日目での腫瘍体積である。n日目での各マウスの重量を、式RW=Wn/W0にしたがって相対マウス重量(RW)として表し、この式において、Wnはn日目でのマウス重量であり、W0は0日目でのマウス重量である。n日目での腫瘍退縮(T/C(%))を、式T/C(%)=l00×(処置群の平均RTV)/(対照群の平均RTV)にしたがってRTVを算出することによって決定する。
【0112】
2.スプレッドシートをExcelにて構築して、各時点での腫瘍体積、相対腫瘍体積、重量および相対腫瘍重量を算出する。データをGraphpad Prismでグラフ化する。
【0113】
(結果の概要)
放射線治療研究を、HT-29腫瘍異種移植片を有するCD-1ヌードマウスにおいて[177Lu]-3BP-227または[225Ac]-3BP-227を用いて実施した。2バッチの[177Lu]-3BP-227の合成が、下記の研究を実施するために必要であった。両方の[177Lu]-3BP-227バッチの放射化学収率は100%であり、両方の放射化学的純度は99%であった。1バッチの[225Ac]-3BP-227を作製し、放射化学収率は98%であり、放射化学的純度は99%であった。物品(または放射性トレーサー)を試験するための分析概要シートを、下記の表1~表3に示す。
【0114】
(表1.バッチ6(群3の注入)についての[
177Lu]-3BP-227分析概要シート)
【表1】
【0115】
(表2.バッチ7(群2の注入)についての[
177Lu]-3BP-227分析概要シート)
【表2】
【0116】
(表3.バッチ1(群4および群5の注入)についての[
225Ac]-3BP-227分析概要シート)
【表3】
【0117】
研究開始時のマウスの平均重量は23±2g(平均±SD)であり、研究開始日の平均腫瘍体積は212±46mm
3(平均±SD)であった。割り当てた動物の数、体重、腫瘍体積、相対体重、および相対腫瘍体積を記録する。これらのデータの群平均を
図1~
図7に示す。動物を、34日目に[
177Lu]-3BP-227群またはPBS/10%エタノール(対照)群で屠殺した。[
225Ac]-3BP-227を受けた動物を、77日目に屠殺した。放射線治療処置群についての用量記録を記録した。
【0118】
治療は、放射線治療群のマウスによって概して十分に許容された。[
177Lu]3BP-227を投与したマウスは、ビヒクル単独を投与したマウス(対照)と区別不能な重量増加を示した(
図6)。[
225Ac]-3BP-227治療を投与したマウスもまた、対照よりは程度が小さいものの、最初の34日間にわたって重量を増加させた。治療投与の65日後に、3μCiの[
225Ac]-3BP-227群のマウスは、対照と比較して減少した体重増加を有した(
図6)。3μCiの[
225Ac]-3BP-227群の1匹のマウスは、健康全般の不良が原因で、治療投与後22日目に安楽死させた。他の4つの群の各々の数匹のマウスもまた安楽死させたが、これは過度の腫瘍量または腫瘍潰瘍形成が原因であり、これは3μCiの[
225Ac]3BP-227群では生じなかった(
図11)。
【0119】
Lu-177群平均の相対腫瘍体積データ(
図3)および腫瘍退縮データ(
図5)の分析は、4.5mCiの[
177Lu]-3BP-227処置群において、マウスをモニターした34日間の間に、対照と比較して腫瘍増殖の阻害が存在したことを示した。対照的に、2.1mCiの[
177Lu]-3BP-227処置群の腫瘍は、増殖の短期間の阻害(6日目~12日目)だけを示した。
【0120】
Ac-225群平均の相対腫瘍体積データ(
図4)および腫瘍退縮データ(
図5)の分析は、腫瘍が両方の[
225Ac]-3BP-227処置群において退縮したことを示した。この効果は、1μCi群において少なくとも34日間継続し、この期間の後、6個中2個の腫瘍が再増殖した一方で、3μCi群では、腫瘍再増殖は観察されなかった。3μCi群もまた腫瘍のより迅速な収縮を示し、これは6日間の放射線治療投与中に生じた(
図10)。
【0121】
3μCiの[225Ac]-3BP-227の投与は、この研究において最も有効な治療であったが、これは、処置に関連する病的状態と関連した。1μCiの[225Ac]-3BP-227および4.5mCiの[177Lu]3BP-227の両方もまた、腫瘍増殖を抑制するのに有効であった。しかし、顕著な腫瘍再増殖は、1μCiの[225Ac]-3BP-227処置群と比較して4.5mCiの[177Lu]-3BP-227の方が頻度が高かった。2.1mCiの[177Lu]-3BP-227の投与は、このモデルにおいて腫瘍増殖を阻害するのに一時的に有効であった。まとめると、この研究において十分に許与されると同時に最も有効であった治療は、1μCiの[225Ac]-3BP-227であり、それに4.5mCiの[177Lu]-3BP-227が続いた。
【0122】
(他の実施形態)
本発明がその具体的な実施形態に関して記載されてきたが、本発明はさらなる改変が可能であること、および本出願は、本発明が属する分野内の公知の実務もしくは通例の実務の範囲内にあり本明細書において上記に示された本質的特徴に適用され得るような本開示からの逸脱を含む、一般的には本発明の原理にしたがう本発明のあらゆる変化形、使用、または適合を含むことが意図されることが、理解される。
【国際調査報告】