(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-22
(54)【発明の名称】ストリップをコーティングするためのコーティングシステムおよびストリップをコーティングする方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20240415BHJP
【FI】
C23C14/24 V
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565214
(86)(22)【出願日】2022-01-27
(85)【翻訳文提出日】2023-12-15
(86)【国際出願番号】 EP2022051904
(87)【国際公開番号】W WO2022223156
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】102021110394.0
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510041496
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel Europe AG
【住所又は居所原語表記】Kaiser-Wilhelm-Strasse 100,47166 Duisburg Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャニーヌ-クリスティーナ シャウアー-シュパース
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル ストラック
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA24
4K029AA25
4K029CA01
4K029DB15
4K029EA01
4K029JA10
4K029KA01
4K029KA03
(57)【要約】
【課題】コーティングの均一性を向上させるコーティングシステムおよびコーティング方法を提供する。
【解決手段】本発明は、たとえば、鋼ストリップなどのストリップ2を、気相中に存在する材料でコーティングするコーティングシステムに関する。前記コーティングシステムは、コーティングチャンバと、前記材料を蒸着するための装置と、ストリップ搬送を修正するためのストリップ位置決めアセンブリと、を備える。前記ストリップ位置決めアセンブリは、第1ガイドローラ12と第2ガイドローラ13とを備える。特に、枢軸22を中心にした枢動が可能であり、前記枢動は、調整部23を用いて実行することができる。また、本発明は、ストリップ2をコーティングする方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストリップ(2)、特に、たとえば、鋼ストリップなどの金属ストリップ(2)を、気相中の材料でコーティングするためのコーティングシステム(1)であって、前記コーティングシステム(1)は、
コーティングチャンバ(3)であって、チャンバ入口(4)とチャンバ出口(5)とを備え、コーティングチャンバ(3)を介して前記ストリップ(2)を搬送するためのコーティングチャンバ(3)と、
前記材料を蒸着する装置(7)であって、
前記気相中に前記材料を蒸発させる蒸発部と、
前記コーティングチャンバ(3)内に開口するノズル吐出口(8)を有し、前記ノズル吐出口(8)に前記気相中の前記材料を誘導し、前記ストリップのコーティング対象のストリップ表面(9)の方向に前記気相中の前記材料を前記ストリップに向けて吐出するノズル部と、
を有し、前記ストリップ(2)が搬送されるコーティングゾーン(10)において、コーティング対象の前記ストリップ表面(9)と前記気相中の材料とを連続して接触させ、凝縮によって前記ストリップ表面(9)にコーティングを形成する前記装置(7)と、
ストリップ搬送を連続的に修正するストリップ位置決めアセンブリ(11)であって、ストリップ搬送方向(6)に見て前記コーティングゾーンの手前に配置され、前記ストリップ位置決めアセンブリ(11)は、前記ストリップの第1の側に配置された少なくとも1つの第1ガイドローラ(12)と、前記ストリップの第2の側に配置された第2ガイドローラ(13)と、を備え、前記第1ガイドローラ(12)と前記第2ガイドローラ(13)とは、前記ストリップ(2)の搬送中、前記第1ガイドローラ(12)及び前記第2ガイドローラ(13)の両方が前記ストリップ(2)と接触するように配置される、ストリップ位置決めアセンブリ(11)と、
を備える、コーティングシステム(1)。
【請求項2】
前記第1ガイドローラ(12)と前記第2ガイドローラ(13)は、前記ストリップ搬送方向(6)において互いに間隔をおいて配置されている、
請求項1に記載のコーティングシステム(1)。
【請求項3】
前記ストリップ位置決めアセンブリ(11)は、前記コーティングゾーン(10)の直前、すなわち、好ましくは前記コーティングゾーン(10)から11メートル未満離れた位置にある、
請求項1または2に記載のコーティングシステム(1)。
【請求項4】
前記2つのガイドローラ(12、13)のうち、一方の回転軸は、固定されているか、または、ストリップ搬送中、連続して固定されるように構成されており、
前記2つのガイドローラ(12、13)のうち、他方の回転軸は、前記ストリップ(2)と前記ガイドローラ(12)との接触点において、前記ストリップ表面に垂直な方向に移動可能であるか、または、前記ストリップ表面に垂直な方向成分を有する方向に移動可能である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のコーティングシステム(1)。
【請求項5】
前記ストリップ搬送方向(6)に見て、層厚センサ(14)であって、好ましくは蛍光X線センサとして設計された層厚センサ(14)は、前記コーティングゾーン(10)の後方に配置され、前記コーティングの層厚値を非接触で測定する、
請求項1~4のいずれか1項に記載のコーティングシステム(1)。
【請求項6】
前記層厚センサ(14)は、横断移動可能に配置され、たとえば、前記層厚センサ(14)は、前記コーティングチャンバ(3)に配置され、層厚センサ調整機構(15)によって移動可能であり、層厚プロファイルとして形成される層厚値を測定する、
請求項5に記載のコーティングシステム(1)。
【請求項7】
前記ストリップ(2)の距離値を測定する距離センサ(16)を備え、前記距離センサ(16)は、好ましくは誘導式センサまたは静電容量式センサとして設計された距離センサであり、好ましくは前記ストリップ搬送方向(6)に見て前記コーティングゾーン(10)の手前に配置される、
請求項1~6のいずれか1項に記載のコーティングシステム(1)。
【請求項8】
前記距離センサ(16)は、横断移動可能に配置される、たとえば前記コーティングチャンバに配置され、距離センサ調整機構(17)によって移動可能である、
請求項7に記載のコーティングシステム(1)。
【請求項9】
前記層厚センサ(14)および/または前記距離センサ(16)は、制御部(21)を介して前記ストリップ位置決めアセンブリ(11)と連結し、前記制御部(21)は、検出された層厚値および/または距離値に応じたストリップ位置決めを調整、好ましくは規制するために、前記ストリップ位置決めアセンブリ(11)を作動させるように構成されている、
請求項5~8のいずれか1項に記載のコーティングシステム(1)。
【請求項10】
前記2つのガイドローラ(12、13)の回転軸は、前記ストリップのストリップ位置を変更するために前記コーティングチャンバ(3)に枢動可能に連結するように、共通の枢軸(22)を中心に互いに対して回転可能に固定した形で連結している、
請求項1~9のいずれか1項に記載のコーティングシステム(1)。
【請求項11】
好ましくは光学式ストリップ位置センサを備え、
前記光学式ストリップ位置センサは、前記ストリップ搬送方向(6)において前記ストリップ位置決めアセンブリ(11)の下流に配置され、かつ、前記ストリップ位置決めアセンブリに連結した枢動装置に制御装置を介して連結し、前記制御装置は、前記ストリップ位置センサのセンサ信号に応じた前記ストリップ位置を調整、好ましくは規制するために、前記枢動装置を作動させるように構成されている、
請求項10に記載のコーティングシステム(1)。
【請求項12】
前記材料を蒸着するための前記装置(7)は、ジェット蒸着装置であるか、または、
前記材料を蒸着するための前記装置(7)は、前記蒸発部を備えて形成され、前記蒸発部は、蒸発前部と蒸発後部とを有し、かつ、好ましくは、るつぼとして形成され、
前記蒸発前部は、出発材料として存在するコーティング材料を調製するためのスプレーヘッドと、注入管と、を有し、前記注入管は、前記スプレーヘッドで処理された前記コーティング材料を前記蒸発後部に誘導するように設計され、かつ、処理された前記コーティング材料を前記蒸発後部の内部に誘導し、前記コーティング材料を前記気相に変換するように前記蒸発後部に連結されており、
前記スプレーヘッドは、好ましくは、前記出発材料が導入され、かつ、前記出発材料をアーク溶解および/またはアーク蒸発させるワイヤ噴霧器であり、
コーティング速度は、前記スプレーヘッドに出発材料を投入する投入速度によって調整される、
請求項1~11のいずれか1項に記載のコーティングシステム(1)。
【請求項13】
コーティングシステム(1)を用いてストリップ(2)をコーティングするための方法であって、前記コーティングシステム(1)は、好ましくは請求項1~12のいずれか1項に記載のコーティングシステム(1)であり、前記方法は、
前記ストリップ表面(9)をコーティングするために前記コーティングシステム(1)のコーティングゾーン(10)を介して前記ストリップ(2)を搬送するステップと、
i)以下に示すパラメータの少なくとも1つを、繰り返しまたは連続的に測定するステップであって、前記パラメータは、
a)層厚センサ(14)による層厚値、および、
b)距離センサ(16)による距離値、
である、ステップと、
ii)前記パラメータを目標値と連続的に比較するステップと、
iii)前記少なくとも1つのパラメータが設定値から許容偏差を超えて逸脱した場合、ストリップ位置決めアセンブリ(11)を作動させて、前記ストリップ(2)の横方向円弧を調整するステップであって、前記ストリップ位置決めアセンブリ(11)は、前記ストリップの第1の側に配置された少なくとも1つの第1ガイドローラ(12)と、前記ストリップの第2の側に配置された第2ガイドローラ(13)と、を備え、前記第1ガイドローラ(12)と前記第2ガイドローラ(13)は、前記ストリップ(2)の搬送中、前記第1ガイドローラ(12)と前記第2ガイドローラ(13)の両方が前記ストリップと接触しているように配置され、前記2つのガイドローラ(12)のうちの一つが、前記ストリップと前記ガイドローラ(12)との接触点において、前記ストリップ表面に垂直な方向に移動可能である、ステップと、
iv)前記ベルト(2)の前記横方向円弧を制御調整するために、制御された方法で前記設定値に到達するまで、または、前記設定値からの値の逸脱が、許容偏差未満で、前記許容偏差を超えないようになるまで、前記ステップii)およびiii)を繰り返す、任意のステップと、
を含む、方法。
【請求項14】
さらに、前記ストリップ(2)のストリップ位置をストリップ位置センサによって測定し、前記ストリップ位置が目標値から許容偏差を超えて逸脱した場合、前記ストリップ位置決めアセンブリ(11)の前記ガイドローラ(12、13)であって、互いに対して回転可能に固定され、共通の枢軸(22)を中心に前記コーティングチャンバに枢動可能に連結されうるガイドローラ(12、13)を枢動することによって、前記ストリップ位置決めアセンブリ(11)に連結した枢動装置の作動を行って前記ストリップ(2)の前記ストリップ位置を調整する、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
制御部に保存され、実験に基づいて決定された基準値に基づいて、前記作動を実行する、
請求項13または請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストリップをコーティングするためのコーティングシステムに関する。また、本発明は、ストリップをコーティングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる蒸着の原理に基づく方法は、ストリップ、たとえば、鋼ストリップなどのような、特に金属ストリップをコーティングするために用いることができる。蒸着の原理とは、出発材料を準備し、それを気相に変換することである。気相中に存在する材料の成分、特に原子および/またはイオンは、コーティングチャンバ内を移動し、コーティングが行われる領域へと誘導される。以下、前記領域を、コーティングゾーンと称する。ストリップはコーティングゾーンを介して搬送されることで、コーティング対象であるストリップ上に気相中の材料の成分が沈降し、これにより、コーティングが形成される。
【0003】
蒸着の利点は、非常に経済的にコーティングを形成することができ、前記コーティングの特性に対して、高度に、かつ、広い特性範囲内で、明確に影響を及ぼすことができることである。蒸着の別の利点は、多くの異なる材料のコーティングを形成するのに好適であることである。他の方法とは対照的に、蒸着は、たとえば、高融点材料でコーティングを形成する、または、1つもしくは複数の準安定相の材料でコーティングを形成するのに好適である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
Komarenko, P., et al.“Handbook of Deposition Technologies for Films and Coatings Science, Applications and Technology”,[online],2010年、881頁~901頁,[2021年4月23日検索]、インターネット
<URL:https://doi.org/10.1016/B978-0-8155-2031-3.00018-1>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、材料を蒸着するための装置に関連し、気相に変換された材料は、材料を蒸着するための装置のノズル部のノズル吐出口を通ってコーティングゾーンへと誘導される。
【0006】
ストリップは、コーティングチャンバ内の蒸着するための装置を通るように誘導され、装置から発生する気相中に存在する成分でコーティングされる。ここで、コーティングは、可能な限り均一に、すなわち、特に、ストリップの長手方向だけではなく、ストリップの横方向にも均一な厚みで施されることが望ましい。ストリップの搬送自体が変化しやすいというだけでなく、コーティングの特定の条件(材料、ノズルの形状など)によって、気相中に存在する材料の移動の均一性も変化しうるという背景に対して、本発明の目的は、コーティングの均一性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的は、請求項1に記載の特徴を有するコーティングシステム、および、請求項13に記載の特徴を有する、ストリップをコーティングする方法によって達成される。
【0008】
また、前記コーティングシステムは、ストリップをコーティングすることができ、このため、以下の構成要素を備える。
【0009】
コーティングシステムは、コーティングチャンバを備える。コーティングチャンバは、チャンバ入口とチャンバ出口を備え、コーティング対象であるストリップは、チャンバ入口から、チャンバを通過し、チャンバ出口の外へと誘導される。コーティングチャンバは、典型的には、ほぼ密閉されたチャンバであり、このチャンバにおいて、たとえば、10(-3)mbar~100mbar、好ましくは、20mbar未満の技術的な真空状態を付与できることが好ましい。
【0010】
コーティングチャンバは、さらに、材料を蒸着するための装置を備える。蒸着するための装置は、蒸発部とノズル部とを備える。前記蒸発部は、最初に出発材料として提供された材料を蒸発させて気相とし、その後、ノズル部が、ノズル部のノズル吐出口から流出する気相の粒子がコーティングゾーンに向かって流れるように、コーティング対象であるストリップ表面に向けて、気相中に存在する前記材料を誘導する。
【0011】
たとえば、熱蒸発、アーク蒸発、そのほかの蒸発、またはこれらの組み合わせなど、既知の方法で、出発材料を蒸発させることができる。本発明の文脈において重要なことは、蒸発部を通過後、気相中に存在する前記材料は、ノズル部によって、コーティング対象であるストリップ表面へと誘導され、ストリップ表面に到達すると凝縮することである。
【0012】
ストリップは、コーティングチャンバを通って連続的に搬送されるストリップと気相中に存在する材料とが接触する領域であるコーティングゾーンを通過する。したがって、前記チャンバを通る搬送において、ストリップは、連続的に移動し、それによって、気相中の材料がストリップ表面に凝縮して所望のコーティングが形成されるように、連続的に気相中の材料に曝される。
【0013】
任意には、コーティングチャンバ内にコーティングチャネルを配置することができ、前記コーティングチャネルは、加熱のための加熱手段を備えうる。ストリップは、少なくともコーティングゾーンの領域において前記コーティングチャネルを通って搬送される。
【0014】
本明細書全体にわたって、「気相」および「蒸発」という用語は、蒸着分野の技術で一般にも用いられている語として使用される。この場合、「気相」という用語については、低重量分率、たとえば、30重量%以下、好ましくは10重量%以下の、気相中の材料は、厳密な物理的意味においては存在しないが、その代わりに、蒸気として、エアロゾルとして、および/またはクラスタとして存在するという事実を含みうる。「蒸発」という用語については、用いる材料や用いる技術によっては、厳密な物理的意味において蒸発以外のメカニズム、たとえば昇華によって、粒子が少なくとも部分的に気相に移行するという事実を含む。蒸着分野における言語使用の文脈である本明細書の文脈では、「蒸発」という用語は、厳密に物理的な意味での蒸発、すなわち液体から気体への相転移に加えて、特に昇華などの他のメカニズムも含む。同様に、気相中に存在する材料も、材料蒸気と同義に称される。
【0015】
ストリップ搬送方向に見て、ストリップ位置決めアセンブリは、コーティングゾーンの手前に配置されている。ストリップ位置決めアセンブリは、ストリップ搬送を連続修正することに貢献するという目的にかなう。この目的のため、ストリップ位置決めアセンブリは、ストリップの第1の側に配置された少なくとも1つの第1ガイドローラと、ストリップの第2の側に配置された第2ガイドローラと、を含む。ストリップの搬送中、第1ガイドローラだけでなく第2ガイドローラもストリップと接触するように、すなわち、第1ガイドローラおよび第2ガイドローラは、第1ガイドローラが第1のストリップ表面に接触し、第2ガイドローラが第2のストリップ表面に接触するように配置される。
【0016】
ストリップ位置決めアセンブリは、コーティングゾーンの手前に位置する2つのガイドローラであって、好ましくは両方ともストリップ表面と接触する2つのガイドローラを備え、ストリップ表面が材料蒸気でコーティングされる直前に、ストリップ位置決めアセンブリによって、ストリップのストリップ誘導を修正する。前記位置決めアセンブリを通過後、ストリップの走行は、それまでよりも、模範かつ理想な走行に近づく。特に、ストリップの横方向の曲率は所望の状態に近づく。すなわち、横方向の曲率が低減することが好ましく、除去されることが特に好ましい。「横方向の曲率」という用語は、ストリップ搬送の技術分野において既知である。これは、搬送方向に垂直な方向のストリップ断面における湾曲の形態において、理想的なストリップ面からのストリップの偏差を意味する。したがって、ストリップ表面が、断面において、直線ではなく、円弧状の曲線を形成している場合、横方向の曲率が生じている。横方向の曲率を最小限に抑えるか、または完全に除去することを目的とし、この目的は、本発明によるコーティングシステムと、そのさらなる展開とによって達成される。本発明による手順は、コーティング時間全体にわたって、コーティングゾーン内のストリップの横方向の曲率の変化をより小さくすることを有利に保証し、その結果、コーティングは、位置決めアセンブリを用いずに行われるコーティングと比較して、ストリップの長手方向のみならずストリップの横方向においてもより均一になる。
【0017】
つまり、ストリップ搬送の修正は、少なくとも、横方向の曲率の修正、すなわち、横方向の曲率を低減または除去することを含む。横方向の曲率の修正は、ストリップの両側に配置され、かつ、ストリップと接触するガイドローラ、すなわち第1ガイドローラと第2ガイドローラとによって行われる。
【0018】
好ましくは、前記2つのガイドローラのうち、一方のガイドローラの回転軸は固定されるか、または、ストリップ搬送中、連続的に固定されるように構成され、前記2つのガイドローラのうち、他方のガイドローラの回転軸は、ローラ側面とストリップとの接触点において、ストリップ表面に垂直な方向に移動可能であるか、もしくは、ストリップ表面に垂直な方向成分を有する方向に移動可能である。つまり、ストリップ表面に垂直な方向におけるガイドローラの位置を変更することができ、それによって、選択した回転軸位置に応じて、引き続き回転可能なガイドローラは、様々な方法、たとえば、わずかな偏向が生じているストリップに向き合う方向に回転軸を移動させることで、ストリップの誘導に影響を及ぼす。ストリップ搬送方向におけるストリップ位置決めアセンブリの上面から見たとき、実際の空間位置とは無関係に第1ガイドローラを上側のガイドローラとみなした場合に、第1ガイドローラの下縁が第2ガイドローラの上縁よりも下方に位置するように、偏向が達成される。たとえば、ストリップ表面に垂直な方向への回転軸の移動は、真空に対応するよう設計され、コーティングチャンバ内に配置された調整部によって達成することができる。ここでは、専門家に既知の、電気式、空気圧式、またはそれらの混合形式の調整部を設けることができる。または、ストリップ表面に対して垂直移動するために、コーティングチャンバの外側に位置するメカニズムをコーティングシステムに配置することもできる。このとき、移動を生じさせる前記装置の入口は、たとえば金属棒の真空チャンバへの引き込み部として設計され、前記引き込み部は、ベローズによって真空気密に実装されることが好ましい。
【0019】
たとえば、ノズル吐出口側のガイドローラを固定し、ノズル吐出口と反対側のストリップのローラをストリップ表面に対して垂直移動可能なローラとして設計することができる。特に有利な実施形態においては、ストリップ表面に対する移動には自由度があり、ストリップ表面に対して垂直移動可能なガイドローラが移動することによって、固定ローラによって生じる反圧力と組み合わさって表面に対して垂直な圧力がストリップ表面にかかる。このような配置により、ストリップ表面の方向に移動可能なローラの偏向を増加させて圧力をかけることで、ガイドローラの回転軸に対して長手方向にガイドローラ側面の接触線に沿って表面にかかる力を増加させることをストリップに対して施すことができる。これには、移動可能に配置されたローラの輪郭とストリップとがストリップの横方向に揃うという効果がある。たとえば、ローラがその側面に円-円筒形の弧を有する好ましい場合では、ストリップに存在しうる任意の横方向の円弧、すなわち、ストリップの横方向輪郭の、直線からの偏差を、補正または少なくとも部分的に補正することができる。ストリップ表面に対して垂直移動可能であるガイドローラがストリップの移動とともに回転するという事実が意味するところは、修正動作を、コーティング工程全体にわたって、また、必要に応じてストリップの全長にわたって行うことができ、それによって、コーティング工程後、ストリップのコーティングが、ストリップ表面において全方向に優れた均一性を有するということである。
【0020】
固定ガイドローラに対して可動ガイドローラを相対移動させることが可能であるという事実によれば、ストリップ表面に対して垂直に作用する力は、比較的複雑ではない手段、すなわち、ただ1つの可動ローラのみを設けることによって達成可能である。
【0021】
たとえば、可動ガイドローラの側面および固定ガイドローラの側面は、互いに平行で、ストリップ表面にも平行な接線面を有し、その間の距離がストリップ厚に対応するという好ましい基本位置において、可動ローラによってかけられる力は最小限となる。さらなる展開によれば、2つのガイドローラのうち、他方が、以下のような形で可動であることが好ましい。すなわち、可動ローラを、上述した基本位置から非可動ローラが位置する半空間の方向に移動可能に取り付けるか、または、言い換えれば、可動ローラの回転軸が、ストリップを偏向路に強制的に乗せる態様で、ストリップ表面に垂直な方向に移動可能である。これは、幾何学的に言えば、未変形ストリップのストリップ表面に平行な面であって可動ガイドローラの回転軸を含む面を、これら2つの面の距離が、2つのガイドローラの2つの半径にストリップ厚を加えた合計値よりも小さくなるように、未変形ストリップの表面に平行な面であって固定された回転軸を含む面の方向に移動させることによってなされる。可動ガイドローラの回転軸が上述した方向に移動するにつれて、前記距離は減少し、それに伴い、ストリップ表面に作用する力が増加し、その結果、任意の既存の横方向の円孤を徐々に除去することができる。この機構は、ストリップ位置決めアセンブリの好ましい変形例であり、これにより、比較的複雑ではない方法で、コーティング対象のストリップの横方向の円孤を除去または低減することができる。
【0022】
ストリップ搬送方向に見て、第1ガイドローラと第2ガイドローラとがコーティングシステム内で互いに間隔をあけて配置される、すなわち、ストリップ搬送方向に見たときに、ガイドローラによって形成され、ストリップと接触する2本の線が、互いから間隔をおいているように配置されると、特に好ましい。このように、特に有利な方法でストリップを誘導することができる。ストリップの横方向の円孤を除去または少なくとも低減でき、それによって、最終的には、ノズル吐出口から見た場合に、凹状の横方向の円孤も凸状の横方向の円孤もないか、または、前記各々の横方向の円孤を、位置決めアセンブリよりも手前にあったときの大きさと比べて少なくとも低減することができる。
【0023】
ストリップ位置決めアセンブリを、コーティングゾーンの直前に配置するのが好ましい。つまり、コーティングゾーンが、ストリップ位置決めアセンブリの後ろから、最長11メートル、特に好ましくは最長4メートルの地点で始まることが好ましい。コーティングゾーンの直前にストリップ位置決めアセンブリを配置することで、以下のことが確実となる。すなわち、コーティングのために実施されるストリップ位置決めは、コーティング箇所における横方向の円弧を低減または除去することによって、さらに完全に、または、少なくともほぼ完全に保証される。
【0024】
有利な展開によれば、ストリップ搬送方向に見てコーティングゾーンの後方に層厚センサが配置されるように規定されている。層厚センサは、すでに施されたコーティングの層厚値を非接触で測定するのに好適である。したがって、層厚または層厚に依存する値を測定および検出するために、好ましくは垂直視方向に、コーティングに向けて前記センサを配置する。ストリップ搬送の際、ストリップが層厚センサを通過し、その結果、層厚値、特に層厚を、ストリップ長に沿って順次または連続的に測定する。その後、ストリップの位置決めを、単発で、繰り返して、または連続的に調整、好ましくは規制するために、測定値を用いて層厚を変更することができる。たとえば、測定された厚さが目標とする厚さから逸脱していたり、または、層厚の相対的な変化が一定量を超えていたりする場合、ストリップ位置を調整または規制することができる。代替または追加として、蒸着するための装置の作動を変更することによっても、コーティングを調整することができる。このため、蒸着するための装置は、対応するコーティング制御装置を介して層厚センサと連結していることが好ましい。層厚センサは、蛍光X線センサとして設計されていることが特に好ましく、これは、蛍光X線センサが、安価に入手でき、かつ、少ない労力とメンテナンスで操作できるからであり、また、それによって、検出精度が十分に高くなるからである。
【0025】
さらなる展開において、層厚センサを横断移動するように配置する。たとえば、層厚センサをコーティングチャンバに配置し、そして層厚センサ調整機構によって移動させることができる。層厚センサ調整機構は、たとえば、真空対応可能に設計し、コーティングチャンバ内に配置することができる。層厚センサ調整機構は、たとえば、電気式または空気圧式でありうる。あるいは、層厚センサ調整機構をコーティングチャンバの外側に配置し、たとえばベローズなどにより、フィードスルーを介してコーティングチャンバに連結することができる。層厚センサ調整機構は、ストリップの横方向における層厚センサの位置を設定および/または調節制御するためのモータを備えることが好ましい。コーティングシステムは、コーティングシステムにコーティング厚センサを上述したように横断移動可能に配置することで、層厚値を検出する。前記層厚値は、ストリップの横方向におけるコーティングストリップの層厚プロファイルに関する情報を含む。その結果、コーティングシステムは、層厚プロファイルの、所望または予想される層厚プロファイルからの偏差を検出することができ、この偏差は、ストリップ位置決めの想定外の特性についての終局、特に、たとえば、ストリップにおける横方向の円孤の形成、および/または、ノズル吐出口から吐出される材料蒸気の起こりうる不均一性の結果として生じる、蒸着するための装置によるストリップへの材料蒸気の塗布における不均一性についての終局を導き出すことに使用することができる。
【0026】
代替または追加として、展開実施形態において、コーティングシステムは、距離センサを備えうる。前記距離センサは、センサからの距離の変化を検出することができ、したがって、ストリップ張力の変動などによって生じうるストリップの走行の変化を検出することに使用することができる。距離センサによって得られた測定値が分かれば、コーティングシステムを調整することによって、特に、ストリップ位置決めアセンブリによるストリップ位置決めを再調整することによって、施されたコーティングの均一性を改善することができる。たとえば、当業者によく知られている誘導式距離センサや静電容量式距離センサは、距離センサとして機能しうる。
【0027】
距離センサがある場合、当該距離センサは、ストリップ搬送方向に見てストリップ位置決めアセンブリの後方を走行するストリップの領域の距離を検出するように配置される。距離センサは、ストリップ搬送方向に見てコーティングゾーンの手前を走行するストリップの領域の距離を検出するように、コーティングゾーンの手前に配置するのが好ましい。これは、ストリップ位置決めアセンブリに比較的近い領域で距離を測定し、その結果、その距離に応じて、ストリップ位置決めアセンブリを特に正確に調整または規制するための条件が満たされるという利点を有する。
【0028】
層厚センサがある場合、当該層厚センサは、ストリップ搬送方向に見てコーティングゾーンの後方を走行するストリップの領域のコーティングの層厚を検出するように配置される。
【0029】
好ましい展開において、距離センサは、横断移動可能に配置され、たとえばコーティングチャンバ内に配置され、距離センサ調整機構によってコーティングシステム上で移動可能であるように設計される。層厚センサの横断移動に関連する上記説明と同様、距離センサは、ストリップの横方向の固定位置で、長手方向位置の変化に対する距離情報を追跡することができるだけでなく、距離情報を、ストリップの横方向の少なくとも一部、好ましくはストリップの横方向全体に沿って検出することができ、したがって、横方向の位置決めに依存する距離プロファイルまたは距離プロファイルの変化を検出することができる。この実施形態は、このようにして得られた情報から、ストリップの位置決めの修正を特に有利な方法で行うことができ、それによってコーティングの均一性を改善できるという利点を有する。
【0030】
一展開によれば、層厚センサがある場合、および/または距離センサがある場合、層厚センサおよび/または距離センサは、制御部を介してストリップ位置決めアセンブリと連結される。制御部は、1つまたは複数のセンサの各々の値を読み取る、すなわち、層厚値および/または距離値を読み取るように構成され、検出された層厚値および/または距離値に応じてストリップ位置決めを調整、好ましくは規制するために、ストリップ位置決めのための配置を制御するように構成されている。つまり、コーティングシステムは、制御部を備え、前記制御部は、層厚センサおよび/または距離センサ(これらのセンサのうち1つがあるか、または複数があるかに依存する)からデータを受信し、ストリップの位置決めを調整するために、送信された値に基づいてストリップ位置決めアセンブリを制御することができる。ストリップの位置決めは、特に、ストリップ表面に垂直な方向に移動可能なガイドローラを移動させることによって調整することができる。たとえば、力を増大させ、かつ、ストリップに向かって移動するにつれて、それに対応してストリップを偏向させて、存在しうる横方向の円弧を低減するために、ストリップ表面に垂直な方向に移動可能であるガイドローラをストリップに向かって移動させることができる。制御部において対応する装置は、たとえば、実験に基づいて得たデータ記録を制御部に保存するように実装することができ、前記データ記録は、ストリップ表面に向かって垂直方向に移動可能なガイドローラの位置と、該ガイドローラの位置の変化に伴う横方向の円弧の変化との間の依存を関連付ける。しかし、代わりに、単に、制御部を、対応するプログラムシーケンスに基づいて制御ループを実行するように設けることもできる。前記制御ループは、制御変数として層厚および/または距離を用いることで機能し、対応する設定値からの制御変数の偏差を検出した後、ストリップ表面に垂直な方向に移動可能なガイドローラの位置を変更させ、また、その後に再検出された制御変数に基づいて、ストリップ表面に垂直な方向に移動可能なガイドローラの位置の変更がさらに必要かどうか、および、この位置変更をどのように実行するかを決定する。言い換えれば、さらなる展開は、ストリップ位置決めアセンブリの可動ローラの位置の変化が、層厚および/または距離として選択された制御変数を制御するための操作変数であるコーティングシステムとして提供される。
【0031】
横方向の円弧を調整、好ましくは横方向の円弧を規制することができるように、コーティングシステムは、測定した層厚プロファイルに基づいた調整、好ましくは規制を行うために、横断移動可能な前記層厚センサを備えることが好ましい。横断移動可能な層厚センサの代わりに、2つ以上の層厚センサ、好ましくは少なくとも3つの層厚センサがあってもよく、ストリップの横方向の、たとえば等間隔にある、様々な位置に向くようにして、層厚センサをコーティングゾーンの後方に位置するストリップの好適な長手方向位置に配置する。本実施形態は、横断移動する層厚センサを必要とすることなく、層厚プロファイルを取得することを保証する。
【0032】
代替または追加として、第1ガイドローラの回転軸と第2ガイドローラの回転軸とを、機械的接続部を介して回転可能に固定された形で互いに連結することができる。すなわち、両ガイドローラはたがいに対して一定の角度をなし、好ましくは互いに対して平行に配置されるが、機械的接続部自体は枢動可能に取り付けられ、前記枢動は、ストリップ搬送方向に平行な枢軸で行われることが好ましい。したがって、本実施形態において、ストリップ位置決めアセンブリ、すなわち、第1ガイドローラおよび第2ガイドローラを、互いに対する角度を基準として互いに対する向きを変化させることなく、枢軸を中心にして一緒に枢動させることができる。前記枢動は、たとえば、ストリップ位置決めアセンブリに連結した枢動装置によって行われる。枢動装置は、全体として、たとえば、調整部、および、調整部とストリップ位置決めアセンブリとの間の接続ロッドなどの連結素子から形成することができる。調整部は、たとえば機械的接続部に係合し、機械的接続部によって、第1ガイドローラと第2ガイドローラとが、枢軸からさらに離れたストリップ側の位置において互いに接続し、その結果、たとえば昇降ロッドとして設計されている調整部を調整することによって、第1ガイドローラと第2ガイドローラを枢動させる。回転運動のための調整部を、たとえば、真空に対応するように設計し、コーティングチャンバ内に配置することができるが、あるいは、シーリングチャンバの外側に設けることもできる。調整部は、空気圧式または電気モータとして電気式に設計されるのが好ましい。互いに対して回転可能に固定されて配置された回転軸の共同枢動によってストリップ位置決めアセンブリを枢動可能に組み立て、それによって、理想的なストリップ中心位置からのストリップ位置の偏差を修正することができるという利点が得られる。その結果、特に層厚分布における層の均一性が直接的に改善する。
【0033】
本明細書の文脈において、ストリップ位置とは、回転軸方向に見て、ストリップを搬送するガイドローラの側面部を意味する。ストリップ位置決めアセンブリを枢動させると、ストリップ位置は、所望部分へと修正される。ストリップ走行の枢動不可能なローラのうち、少なくとも1つのローラの側面部の中央、好ましくは全てのローラの中央に、ストリップが誘導されることが好適に望ましく、このような場合を、本明細書の文脈では、ストリップ中心位置が好適に望ましい場合と称する。
【0034】
特に好ましい実施形態では、ストリップとガイドローラとの接触点における2つのガイドローラのうち少なくとも1つの回転軸が、ストリップ表面に垂直な方向に移動可能であるか、または、他方のガイドローラに対してストリップ表面に垂直な方向成分を有する方向に移動可能であり、ストリップ位置決めアセンブリが枢動可能に取り付けられている。そのような構成により、同じ装置によって、横方向の曲率を防ぐ、または大いに防ぐことが可能となるだけでなく、ストリップ中心位置の広範囲に及ぶ維持、または、ストリップ中心位置の完全な維持が可能というさらなる利点が得られる。
【0035】
コーティングシステムがコーティングチャンバにより枢動可能であり、かつ、回転可能に固定された形で互いに連結したガイドローラ回転軸を有する場合において、特に好ましいのは、コーティングシステムが、ストリップ位置決めアセンブリよりもストリップ搬送方向下流に配置され、制御装置を介して枢動装置に連結された光学式ストリップ位置センサも備えることである。ストリップ位置センサからのセンサ信号に応じてストリップ位置決めアセンブリを枢動させることによってストリップ位置を調整、好ましくは規制するために枢動装置を制御するように、制御装置を準備する。たとえば、これは、実験に基づいて取得したデータを制御装置のメモリ領域に保存することによって実施することができ、センサによって検出された、ストリップ中心位置からのストリップ位置の偏差に対して枢動を実施し、また、たとえば、電気モータなど対応する利用可能なモータを作動させることによって、それを実行する。ストリップ位置をストリップ中心位置に向けて生じさせるか、または接近させるためにストリップ位置決めアセンブリの枢動を調整、好ましくは規制する制御装置は、ガイドローラの互いの相対位置を制御するための前記制御部から独立した別個の第2制御部として実現することもできるが、制御装置は、前記制御部の別個のメモリ領域とすることもできる。
【0036】
材料を蒸着するための装置は、ジェット蒸着装置であることが好ましい。
【0037】
当業者であれば、ジェット蒸着装置という用語は、たとえば、るつぼ内でコーティング材料を熱によって気相にし、その後、典型的には不活性ガスのキャリアガス流と共にガス流によって、基材へと送る装置であると理解するが、いくつかの実施形態では、気相にされた材料のみからなるガス流としても、好ましくは音速を超えるガス流速度で、特に好ましくは500m/sを超えるガス流速度で送る装置としても理解する。動作モードは、たとえば、「Handbook of Deposition Technologies for Films and Coatings Science, Applications and Technology」(2010年、881頁~901頁、https://doi.org/10.1016/B978-0-8155-2031-3.00018-1)(出願日にリンク付けした)の総説に記載されている。
【0038】
コーティング対象である表面は、通常、るつぼ内の雰囲気に対して負圧の雰囲気下に置かれる。コーティング対象である表面は、たとえば、好ましくは100mbar未満、たとえば10(-3)mbar~20mbarの圧力の技術的真空の中に置かれる。これは、大規模な実施においては、コーティングの良好な特性と真空を発生かつ維持するための労力との間における適切な妥協点である。
【0039】
JVD法は、特にストリップの大面積コーティング、特に、たとえば、ストリップ鋼などのストリップ金属の大面積コーティングにおいて、利点を有する。JVD法の利点の一つは、蒸発した気相中に存在する材料を比較的高い圧力で表面に向けることによって、ストリップを高いコーティング率でコーティングすることが可能であるということであり、これは、たとえば、それに応じて選択された高いストリップ速度によって、ストリップのコーティングが経済的に良好となるという利点をもたらす。
【0040】
代替の好ましい展開では、材料を蒸着するための装置は蒸発部を備えるようにして形成され、蒸発部は、蒸発前部と蒸発後部とを備え、好ましくは、るつぼとして設計されている。蒸発前部は、出発材料としてのコーティング材料を調製するためのスプレーヘッドと注入管とを備える。注入管は、スプレーヘッドで調製したコーティング材料を蒸発後部に誘導し、そこで、気相に変換するために、調製したコーティング材料を蒸発後部へ導入するように設計されている。
【0041】
スプレーヘッドは、ワイヤ噴霧器であることが好ましく、ワイヤ噴霧器は、ワイヤ噴霧器に導入された出発材料をアーク溶解および/またはアーク蒸発するためのものである。各コーティングを形成するために使用する材料は、たとえば、ワイヤ状またはストリップ状である。出発材料を電気アークの影響範囲内に導入し、ここでは、好ましくは、2本のワイヤまたは2本のストリップの出発材料が存在し、2本のうちの1本を陰極としてDC電圧源に接続し、もう1本を陽極としてDC電圧源に接続し、アークを形成するのに十分な電圧がDC電圧源で設定される。アークエネルギーにより溶融および/または蒸発した材料は、ガスまたは混合ガスから入口を通ってガス流によって、いわゆるるつぼと称されるチャンバの内部に流入し、コーティングに用いられる少なくとも1つの材料の蒸発温度、または最も高い蒸発温度を有する材料の蒸発温度に少なくとも等しい温度まで加熱される。この場合、るつぼ内の材料は、完全に蒸発するか、および/または、るつぼの開口部を通って排出される。蒸発した各材料は、ストリップ状の材料の部品または加工対象物の部品におけるコーティング対象面と接触して、各コーティングを形成する。
【0042】
蒸発後部は、連結するノズル部を備えることが好ましく、ノズル部は、ノズル吐出口を有し、それを末端とする。
【0043】
蒸発後部から放出される材料の放出速度が相応に高い特別な場合には、上述した代替実施形態をJVDの変形例と見なしてもよい。
【0044】
本発明の一概念は、コーティングシステムを用いてストリップをコーティングするための方法に関する。前記方法は、たとえば、冒頭で述べたタイプのコーティングシステムまたはその展開例のうちの1つを用いて実行することができる。前記方法は、少なくとも、以下に示すステップを含む。
【0045】
コーティングシステムのコーティングゾーンを介してストリップを搬送するステップであって、コーティングシステムにおいて、ストリップのストリップ表面をコーティングするステップ。
【0046】
コーティング中、以下のパラメータのうちの1つを繰り返してまたは連続的に測定するステップ。
a)層厚センサによる層厚値。層厚値は、たとえば層厚または層厚プロファイルでありうる。
b)距離センサによる距離値。距離値は、たとえば、距離または距離プロファイルでありうる。
【0047】
パラメータを、設定値と連続的に比較するステップ。前記設定値は、たとえば、比較値、比較曲線、または曲線パラメータのセットでありうる。
【0048】
少なくとも1つのパラメータが設定値から許容偏差を超えて逸脱したときに、ストリップの横方向円弧を調整するためにストリップ位置決めアセンブリを作動させるステップ。ここで、ストリップ位置決めアセンブリは、少なくとも、ストリップの第1の側に配置された第1ガイドローラと、ストリップの第2の側に配置された第2ガイドローラと、を備え、第1ガイドローラと第2ガイドローラは、ストリップの搬送中、第1ガイドローラと第2ガイドローラの両方がストリップと接触するように配置され、2つの前記ガイドローラのうち1つは、ストリップと該ガイドローラとの接触点で、ストリップ表面に垂直な方向に移動可能である。
【0049】
ベルトの横方向円弧を制御して調整するために、制御された方法で設定値に到達するまで、または、設定値からの値の逸脱が、許容偏差未満で、許容偏差を超えないようになるまで、直前の前記2つのステップを繰り返す、任意のステップ。
【0050】
移動可能な前記第1ガイドローラの位置を変化させて横方向円弧を制御または調整することは、測定したコーティング厚を制御変数として使用する特別な場合に利点を有する。したがって、コーティング厚センサを備えるコーティングシステムおよび制御変数として層厚を用いてコーティングする方法は、本展開において特に好ましい実施形態である。
【0051】
前記方法のさらなる好ましい展開では、ストリップのストリップ位置を既存のストリップ位置センサによって測定し、ストリップ位置が、設定値、好ましくはストリップ中心位置から許容偏差を超えて逸脱した場合、枢動装置を作動して、ストリップ位置決めアセンブリのガイドローラを枢動させることでストリップのストリップ位置を調整する。前記ガイドローラは、共有する枢軸を中心に回転可能に固定された形で互いに対して枢動できるように、コーティングチャンバに連結されている。ストリップ位置がストリップ中心位置に達していることが好ましい。この好ましい展開において、ストリップ搬送の修正は、少なくとも、横方向円弧を低減または除去することだけでなく、ストリップ位置をストリップ中心位置に向かって変位させることを含む、または、からなる。
【0052】
層厚センサは、ストリップの搬送方向から見てコーティングゾーンの後方に配置されることが好ましい。距離センサおよび/またはストリップ位置センサは、ストリップ位置決めアセンブリの後方であってコーティングゾーンの手前に配置されることが好ましい。
【0053】
動作は、上述したセンサだけでなくベルト位置決めアセンブリにも連結している制御部に保存されている実験に基づいて決定した基準値に基づいたものであることが好ましい。
【0054】
代替または追加として、層厚、距離、および/またはストリップ位置を制御変数として用いて、横方向円弧および/またはストリップ位置を制御する。
【0055】
本発明の主題のさらなる詳細、特徴、および利点について、例として、本発明の実施形態を表す図面に関連した以下の説明によって示す。
【0056】
上記および下記の特徴は、提示する組み合わせだけでなく、他の組み合わせ、または単独でも用いることができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図面は以下の通りである。
【
図1】
図1は、本発明によるコーティングシステムの一実施形態の概略側面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す実施形態の展開におけるコーティングシステムのストリップ位置決めアセンブリを、ストリップ搬送方向に見た場合(a)と側面図から見た場合(b)の概略図である。
【
図3】
図3は、ストリップ位置決めアセンブリを用いたストリップ位置決めの修正を示す層厚分布図である。
【
図4】
図4は、ストリップ位置決めアセンブリを用いたストリップ位置決めの修正を示す層厚分布図である。
【
図5】
図5は、ストリップ位置決めアセンブリを用いたストリップ位置決めの修正を示す層厚分布図である。
【
図6】
図6は、ストリップ位置決めアセンブリを用いたストリップ位置決めの修正を示す層厚分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
図1は、本発明によるコーティングシステム1の一実施形態の概略側面図である。コーティングシステム1は、ストリップ2をコーティングする機能を有する。このために、前記システムは、チャンバ入口4とチャンバ出口5を備えたコーティングチャンバ3を備える。ストリップは、示される矢印6に沿ってチャンバを通って搬送される。
図1に詳細には示していないが、好ましくは、別のコーティングチャネルは、チャンバ内に配置され、加熱コイルなどとして設計された加熱手段を有し、そこをストリップ2が通過する。前記ストリップは、材料を蒸着するためにコーティングチャンバ内に配置された装置7を通過する。前記装置は、ノズル吐出口8を備え、ノズル吐出口8は、コーティング対象であるストリップ表面9に向けられている。コーティング中、コーティングゾーン10内の材料蒸気は、コーティングゾーン10を通過するストリップ2に接触し、凝縮した結果、そこにコーティングを形成する。原理的には、ノズル吐出口8がコーティングチャンバ内で開口している限り、材料を蒸着するための装置7の一部がコーティングチャンバ3の外側に配置されうる。
【0059】
ストリップ搬送方向6に見て、コーティングゾーン10の手前に、ストリップ位置決めアセンブリ11が配置される。ストリップ位置決めアセンブリ11は、ストリップの第1の側に第1ガイドローラ12を備える。第2ガイドローラ13は、ストリップの第2の側に配置される。ストリップ2の搬送中、第1ガイドローラ12と第2ガイドローラ13の両方がストリップ2に接触するように、第1ガイドローラと第2ガイドローラとを配置する。
【0060】
例示した実施形態では、第2ガイドローラ13の回転軸は固定されており、これは、コーティングチャンバに対する位置は変化しないことを意味する。第1ガイドローラ12は、ストリップの接触位置において、ストリップ表面に垂直な方向に移動可能であり、したがって、たとえば、円12’が示す位置の方向に、第1ガイドローラ12を移動させることができ、それによって、ストリップの偏向が生じる。この移動のために、ガイドローラ12は、サスペンション18を介して電気機械的に作動可能な機構19と連結しており、このとき、ベローズ20によって真空気密に連結されている。
【0061】
コーティングゾーン後方のストリップ搬送方向に見て、層厚センサ14と距離センサ16は、対応する層厚センサ調整機構15と距離センサ調整機構17によってストリップの横方向に横断移動できるように配置されている。
【0062】
層厚センサ14と距離センサ16は、制御部21を介して、ストリップ位置決めアセンブリ11、より正確にはストリップ位置決めアセンブリ11の電気機械的に作動可能な機構19と連結している。
【0063】
図2aおよび
図2bは、展開実施形態を示し、2つのガイドローラ12、13の回転軸は、枢動装置の調整部23によってストリップ2のストリップ位置を変更するためにコーティングチャンバと枢動可能であるように、共通の枢軸22を中心に互いに回転可能に固定された形で連結されている。ここでは、詳細には示していないが、枢動装置を、たとえば、可動サスペンションおよび調整部23の全体として設計することができる。
【0064】
図3は、
図1のコーティングシステム有利な態様でどのように使用されうるかを例示する。材料蒸気の質量流量がストリップの横方向において均一である場合、ストリップは、ストリップの横方向における平らな位置からのストリップの偏差、つまり、横方向円弧を示し、関連する例では、その結果、ストリップの縁部よりもストリップの中央部において、ノズル吐出口からの距離がより大きくなる。
図3cに示すように、このことによって、許容範囲のストリップの外側で層厚が不均一となり、これは、可能な設定値の総計(破線領域)である。ストリップに向かう方向にローラ12が移動するようにローラ12を作動させることによって、ガイドローラ12がストリップに及ぼす力により、横方向円弧はほとんど除去される(
図4b参照)。その結果、許容範囲のストリップ内の層厚分布が得られる(
図4c参照)。
【0065】
図5は、
図3の比較対象となりうる構成を示す。
図5aは、
図3aに示す構成とは対照的に、質量流量の分布が不均一であることを示している。材料蒸気の分布が不均一であることによって質量流量が不均一になったという結果は、横方向円弧の結果と重なる。
図6によれば、あるレベルの横方向円弧が保持されている場合(
図6b)にのみ、均一なコーティング(
図6c)を得ることが可能であることが分かる。このことから、第1ガイドローラ12の位置を変更することによって平坦位置の変化を制御または調節することは、測定された層厚を制御変数として使用する場合に、特別に利点があるという結論が導き出されうる。したがって、層厚センサを備えるコーティングシステムおよび制御変数として層厚を用いてコーティングする方法は、本展開の特に好ましい実施形態である。
【国際調査報告】