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特表2024-517439固体リチウムイオン電池セルのコンディショニング処理および構成物
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  • 特表-固体リチウムイオン電池セルのコンディショニング処理および構成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-22
(54)【発明の名称】固体リチウムイオン電池セルのコンディショニング処理および構成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20240415BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240415BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240415BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240415BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20240415BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20240415BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240415BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240415BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240415BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240415BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/052
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M50/414
H01M50/446
H01M50/443 M
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/134
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566729
(86)(22)【出願日】2022-05-03
(85)【翻訳文提出日】2023-12-15
(86)【国際出願番号】 US2022027510
(87)【国際公開番号】W WO2022235696
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】63/201,524
(32)【優先日】2021-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519030084
【氏名又は名称】ブルー カレント、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウジシク、ケビン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、チャオイー
(72)【発明者】
【氏名】ペダーセン、ジョセフィーヌ
(72)【発明者】
【氏名】リン、テリー
(72)【発明者】
【氏名】ナシブリン、エデュアルド
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H021EE02
5H021EE06
5H021EE21
5H029AJ06
5H029AJ11
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK04
5H029AK05
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM12
5H029CJ03
5H029CJ16
5H029CJ28
5H029DJ04
5H029DJ08
5H029DJ09
5H029HJ04
5H029HJ15
5H029HJ17
5H029HJ18
5H029HJ19
5H029HJ20
5H050AA12
5H050AA14
5H050BA16
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA10
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA11
5H050DA13
5H050DA19
5H050FA17
5H050GA03
5H050GA18
5H050GA26
5H050GA27
5H050HA04
5H050HA15
5H050HA17
5H050HA18
5H050HA19
(57)【要約】
本明細書で説明する固体リチウムイオンセルでは、複数の圧力での動作が可能である。一部の実施形態において、固体リチウムイオンセルは、サイクリング中に体積変化をほとんどまたは全く起こさない。低い圧力でセルのパフォーマンスを著しく向上させるコンディショニング処理には、高圧力でセルをサイクリングすることが含まれてよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体リチウムイオン電池セルを提供する段階;
前記固体リチウムイオン電池セルに対して、動作圧力より高い印加圧力で1回目の充放電サイクルを含む高圧力コンディショニング処理を行う段階;および
オペレーションのために前記印加圧力を取り除くか、またはこれを前記動作圧力まで下げる段階
を備える方法。
【請求項2】
前記動作圧力に対する前記印加圧力の比が少なくとも1.5:1である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記高圧力コンディショニング処理中の前記印加圧力が少なくとも1MPaである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
さらに、前記高圧力コンディショニング処理には、前記動作圧力より高い印加圧力での1回または複数回の追加の充電/放電サイクルが含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
完全放電状態で測定された前記固体リチウムイオン電池セルのサイクル間厚み変化率が閾値より小さくなるまで、前記高圧力コンディショニング処理が行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
完全放電状態で測定された前記固体リチウムイオン電池セルの厚みが、前記高圧力コンディショニング処理を行う前の前記完全放電状態にある前記固体リチウムイオン電池セルの厚みと比べて5%未満の増加となる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記固体リチウムイオン電池セルのサイクル間抵抗変化率が閾値より小さくなるまで、前記高圧力コンディショニング処理が行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記印加圧力が前記高圧力コンディショニング処理全体を通じて一定である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記印加圧力が前記高圧力コンディショニング処理中に変化する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記固体リチウムイオン電池セルのa)電圧、b)電流、c)要求充電状態、またはd)容量のうちの1つが予め決められたレベルに達するまで、サイクルの充電処理が行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記予め決められたレベルが少なくとも2つのサイクルにわたって変化する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記固体リチウムイオン電池セルが、シリコンを含んだアノード活物質を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記アノード活物質が、元素シリコン、シリコン酸化物、シリコン合金、およびシリコン-カーボン複合材のうちの少なくとも1種を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記固体リチウムイオン電池セルが、ポリマーおよび無機固体電解質粒子を含んだセパレータを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
1回目のサイクルより高い電流レートで、次のサイクルの充電処理が行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
セル付属圧力装置内で測定された圧力のサイクル間変化率が閾値より小さくなるまで、前記高圧力コンディショニング処理が行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項17】
ポリマー結合剤、シリコン含有活物質粒子、および固体電解質粒子を含んだアノード;
ポリマー結合剤、活物質粒子、および固体電解質粒子を含んだカソード;および
ポリマー結合剤および固体電解質粒子を含んだセパレータ
を備える固体リチウムイオン電池セルであって、
前記固体リチウムイオン電池セルが、a)1つのサイクルの放電終了(EOD)からb)その次のサイクルの放電終了までに2.5%以下の厚み増加を起こす
固体リチウムイオン電池セル。
【請求項18】
ポリマー結合剤、シリコン含有活物質粒子、および固体電解質粒子を含んだアノード;
ポリマー結合剤、活物質粒子、および固体電解質粒子を含んだカソード;および
ポリマー結合剤および固体電解質粒子を含んだセパレータ
を備える固体リチウムイオン電池セルであって、
前記固体リチウムイオン電池セルが、
前記固体リチウムイオン電池セルに、25℃の温度および1MPaの動作圧力においてC/5のレートで完全放電深度まで20サイクルのサイクリングを行うこと;
同一の固体リチウムイオン電池セルに、25℃の温度および3MPaの動作圧力においてC/5のレートで完全放電深度まで20サイクルのサイクリングを行うこと;
1MPaの動作圧力下でサイクリングされた前記固体リチウムイオン電池セルの1サイクル当たりの容量損失率(PCLPC-1)を計算すること;
3MPaの動作圧力下でサイクリングされた前記固体リチウムイオン電池セルの1サイクル当たりの容量損失率(PCLPC-3)を計算すること;および
PCLPC-1がPCLPC-3と比べて5倍未満の大きさである場合、前記固体リチウムイオン電池セルを自己完結型セルであると特定すること
を含んだ試験を適用することで自己完結型セルであると特定できる
固体リチウムイオン電池セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[参照による援用]
本願の一部として、PCT願書様式が本明細書と同時に出願されている。同時に出願されたPCT願書様式で特定されるものとして、その利益またはそれに基づく優先権を本願が主張する各出願は、あらゆる目的のために、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
固体一次電池および固体二次電池は、液体電解質を用いる電池に勝る様々な利点を示す。例えば、リチウムイオン二次電池では、無機固体電解質によって、従来の液体有機電解質より可燃性が低くなる可能性がある。固体電解質には、高エネルギー密度、良好なサイクリング安定性、および様々な条件での電気化学的安定性といった利点も示す可能性がある。しかしながら、固体電解質セパレータを備えた電池の大規模な製品化には様々な課題がある。課題の1つは、セパレータおよび電極の間の接触を維持することである。例えば、無機硫化物ガラスおよびセラミックなどの無機材料は室温で高いイオン伝導性を有する(10-4S/cmを上回る)が、電極への接着が不十分であるために、電池のサイクリング中に効率的な電解質として機能しない。ガラスおよびセラミックの固体導体の場合、高密度の薄いフィルムに大規模加工するにはもろ過ぎるという別の課題もある。このため、フィルムが厚くなりすぎることによってバルク電解質抵抗が高くなり、デンドライトの侵入を可能にする空隙の存在によってデンドライト形成が生じる可能性がある。比較的延性がある硫化物ガラスでさえ、その機械的性質はガラスを高密度の薄いフィルムに加工するには適していない。
【発明の概要】
【0003】
本開示の1つの態様は、固体リチウムイオン電池セルを提供する段階;固体リチウムイオン電池セルに対して、動作圧力より高い印加圧力での1回目の充放電サイクルを含む高圧力コンディショニング処理を行う段階;およびオペレーションのために印加圧力を取り除くかまたはこれを動作圧力まで下げる段階、を含む方法に関する。
【0004】
一部の実施形態において、セルはサイクリングを行わずに提供される。一部の実施形態では、セルを組み立てた後に、セルがサイクリングされる前に、1回目の充放電サイクルが行われる。他の実施形態では、1回目のサイクルの前に、1回または複数回の初期サイクルが行われることがある。
【0005】
一部の実施形態において、動作圧力に対する印加圧力の比は、少なくとも1.5:1である。
【0006】
一部の実施形態において、高圧力コンディショニング処理中の印加圧力は、少なくとも1MPaである。
【0007】
一部の実施形態において、高圧力コンディショニング処理には、動作圧力より高い印加圧力での1回または複数回の追加の充電/放電サイクルが含まれる。一部のそのような実施形態では、(完全放電状態で測定された)セルのサイクル間厚み変化率が閾値より小さくなるまで、高圧力コンディショニング処理が行われる。一部の実施形態において、この閾値は10%以下または5%以下である。一部の実施形態において、この閾値は2.5%以下である。
【0008】
一部の実施形態では、セルのサイクル間抵抗変化率が閾値より小さくなるまで、高圧力コンディショニング処理が行われる。
【0009】
一部の実施形態において、完全放電状態で測定されたセルの厚みは、コンディショニング処理を行う前の完全放電状態にあるセルの厚みと比べて5%未満の増加となる。
【0010】
一部の実施形態において、印加圧力は高圧力コンディショニング処理全体を通じて一定である。一部の実施形態において、印加圧力は高圧力コンディショニング処理中に変化する。
【0011】
一部の実施形態では、セルのa)電圧、b)電流、c)要求充電状態、またはd)容量のうちの1つが予め決められたレベルに達するまで、サイクルの充電処理が行われる。一部のそのような実施形態において、予め決められたレベルは、少なくとも2つのサイクルにわたって変化する。
【0012】
一部の実施形態では、1回目のサイクルより高い電流レートで、次のサイクルの充電処理が行われる。
【0013】
一部の実施形態において、固体リチウムイオン電池セルは、シリコン含有アノード活物質を含む。
【0014】
一部のそのような実施形態において、アノード活物質は、元素シリコン、シリコン酸化物、シリコン合金、およびシリコン-カーボン複合材のうちの少なくとも1種を含む。
【0015】
一部の実施形態において、固体リチウムイオン電池は、ポリマーおよび無機固体電解質粒子を含んだセパレータを含む。
【0016】
一部の実施形態では、セル付属圧力装置内で測定された圧力のサイクル間変化率が閾値より小さくなるまで、高圧力コンディショニング処理が行われる。
【0017】
一部の実施形態において、セルが完全に放電したときにセル付属圧力装置内で測定される圧力は、コンディショニング処理の開始時にセルに印加される圧力より低い。
【0018】
本開示の別の態様は、ポリマー結合剤、シリコン含有活物質粒子、および固体電解質粒子を含んだアノード;ポリマー結合剤、活物質粒子、および固体電解質粒子を含んだカソード;およびポリマー結合剤および固体電解質粒子を含んだセパレータ、を含む固体リチウムイオン電池セルに関する。この固体リチウムイオン電池セルは、a)1つのサイクルの放電終了(EOD)からb)その次のサイクルの放電終了までに2%以下の厚み増加を起こす。
【0019】
本開示の別の態様は、ポリマー結合剤、シリコン含有活物質粒子、および固体電解質粒子を含んだアノード;ポリマー結合剤、活物質粒子、および固体電解質粒子を含んだカソード;およびポリマー結合剤および固体電解質粒子を含んだセパレータ、を含む固体リチウムイオン電池セルに関する。この固体リチウムイオン電池セルは、3回またはそれより多くのサイクルにわたって5%以下の厚み増加を起こす。一部の実施形態において、5サイクルまたはそれより多くのサイクル、または10サイクルまたはそれより多くのサイクルにわたって5%以下の厚み増加を起こす。
【0020】
本開示の別の態様は、ポリマー結合剤、シリコン含有活物質粒子、および固体電解質粒子を含んだアノード;ポリマー結合剤、活物質粒子、および固体電解質粒子を含んだカソード;およびポリマー結合剤および固体電解質粒子を含んだセパレータ、を含む固体リチウムイオン電池セルに関する。この固体リチウムイオン電池セルは、固体リチウムイオン電池セルに第1の圧力でサイクリングを行うこと、同一のセルに第1の圧力より高い第2の圧力でサイクリングを行うこと、セルの1サイクル当たりの容量損失率を比較すること、を含む試験を適用することにより自己完結型セルであると特定できる。一部の実施形態において、セルが自己完結型セルであると特定できるのは、1サイクル当たりの容量損失率(PCLPC)が第2の圧力でサイクリングされたセルのそれと比べて5倍未満の大きさである場合である。一部の実施形態では、それが3倍未満の大きさであってよい。
【0021】
一部の実施形態において、試験には、固体リチウムイオン電池セルに、25℃の温度および1MPaの動作圧力においてC/5のレートで完全放電深度まで20サイクルのサイクリングを行うこと;同一の固体リチウムイオン電池セルに、25℃の温度および3MPaの動作圧力においてC/5のレートで完全放電深度まで20サイクルのサイクリングを行うこと;1MPaの動作圧力下でサイクリングされたリチウムイオン電池の1サイクル当たりの容量損失率(PCLPC-1)を計算すること;1MPaの動作圧力下でサイクリングされたリチウムイオン電池の1サイクル当たりの容量損失率(PCLPC-3)を計算すること;およびPCLPC-1がPCLPC-3と比べて5倍未満の大きさである場合、固体リチウムイオン電池セルを自己完結型セルであると特定すること、が含まれる。
【0022】
これらの特徴および他の特徴を、図面に関して以下でさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】通常動作の前にセルをコンディショニングする方法における作業を示した工程フロー図である。
【0024】
図2】異なる圧力条件でサイクリングされたセルの平均放電容量を示したグラフである。図2には、1MPaでサイクリングされたセルの平均放電容量を示している。
図3】異なる圧力条件でサイクリングされたセルの平均放電容量を示したグラフである。図3には、最初に3MPaでサイクリングされてから、1MPaに減圧したセルの平均放電容量を示している。
【0025】
図4図2に表した放電容量を生成するようにサイクリングされた電池セルのうちの1つについて、充放電電圧プロファイルを示した図である。
【0026】
図5】高圧力でサイクリングされた後に低い圧力に下げたセルの電圧プロファイルを例示した図である。
【0027】
図6】1MPaでサイクリングされたセルについて50%の充電状態で行われた電気化学的インピーダンス分光法(EIS)のEIS結果を示したプロットである。
【0028】
図7】3MPaで最初にサイクリングされた後に1MPaでサイクリングされたセルについて、50%の充電状態で行われた電気化学的インピーダンス分光法(EIS)のEIS結果を示したプロットである。
【0029】
図8A】1MPaでコンディショニング処理中のセルについて、各サイクルにわたって測定されたセルの厚みおよび厚みの増加率を示した図である。
【0030】
図8B】3MPaでコンディショニング処理中のセルについて、各サイクルにわたって測定されたセルの厚みおよび厚みの増加率を示した図である。
【0031】
図9】1MPaの下で動作する自己完結型セルの1サイクル当たりの容量を、3MPaの下で動作する基準自己完結型セルと比較して示した図である。
【0032】
図10】コンディショニングの前に固体電池を組み立てる方法における特定の作業を例示した概略例を示した図である。
【0033】
図11】多層固体リチウムイオン電池を形成する方法における特定の作業を示した工程フロー図である。
図12】コンディショニングの前に固体電池を組み立てる方法における特定の作業を例示した概略例を示した図である。
図13】コンディショニングの前に固体電池を組み立てる方法における特定の作業を例示した概略例を示した図である。
【0034】
図14】予成形セル要素を形成する方法における特定の作業を示した工程フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本明細書では、固体電極および固体セパレータを含んだ固体電池セルを提供する。固体セパレータは、固体電解質粒子およびポリマーを含む。電極は、活物質粒子、固体電解質粒子、およびポリマーを含む。電極は、導電性ネットワークを形成するカーボン粒子などの電子伝導性添加剤も含むことがある。
【0036】
セパレータおよび電極の間、および電極活物質および固体電解質の間の接触を維持するために、電池セルを高圧力下で動作させることがある。電極/セパレータの接触を維持することに加えて、固体電解質粒子同士の接触、固体電解質粒子および活物質粒子の間の接触が維持されるか、または改善される。
【0037】
圧力の印加は、充放電中に著しい体積変化を起こす活物質を含んだ固体電池には特に有益である。例えば、純粋なシリコン(アノード活物質)は、リチオ化/脱リチオ化中に最大300%まで膨張収縮する可能性がある。以下の説明では主にシリコン活物質について言及するが、本方法および結果として得られる微細構造は他の活物質にも適用されてよい。本方法は、シリコンのような、充放電中に大きな体積変化を起こす活物質に特に有益である可能性がある。これらの活物質としては、アノードではシリコン含有材料(例えば、シリコン酸化物、シリコン炭化物など)、スズ、およびゲルマニウム、カソードでは元素硫黄が挙げられてよい。
【0038】
液体電解質セルでは、この体積変化がセル体積の著しい膨張につながる可能性があり、これによってアノード集電体の層間剥離が生じる場合があり、商品化にとって重大な課題が生み出される。連続的な体積膨張/収縮によって、セルのリチウム含有量を消費する固体電解質相間(SEI)層の連続的な形成が引き起こされ、アノードにおける活物質およびカーボン添加剤の間の接触が悪化する。これらの問題は、急速な容量フェードおよび電極抵抗率の増加を引き起こす。
【0039】
固体セルでは、アノードの膨張収縮によって、シリコン活物質粒子が電解質粒子およびカーボン添加剤との接触を失うことになる可能性がある。これにより、セル抵抗の増加および容量フェードが引き起こされる。そのため、圧力の印加がシリコン系固体セルのパフォーマンスを維持するために特に重要になり得る。圧力が電極の厚みの膨張を抑えて、アノード粒子同士の接触を維持するからである。
【0040】
低圧力でセルを充電すると、固体リチウムイオンセルのアノードの著しい不可逆的な膨張が引き起こされる可能性がある。これにより、固体電解質粒子が引き離されて、カーボン添加剤ネットワークが破壊されることがある。その結果、アノードのイオンおよび電気の伝導性が著しく低下する場合がある。活物質および固体電解質および/またはカーボン粒子の間の接触が失われて、リチウムメッキ、充電中の過電圧上昇、放電時における出力電圧低下、および容量フェードを引き起こすことがある。
【0041】
低圧力でセルを放電すると、シリコン活物質粒子の縮小を生じさせる可能性がある。シリコン活物質粒子は、カーボン粒子および固体電解質粒子から離れるように収縮して、こうした粒子との接触を失う。これにより、シリコン粒子が各放電処理の終了時に部分的にリチオ化されたままになるので、不可逆的な容量損失が生じる可能性がある。充電処理中に分離した電解質粒子およびカーボン粒子は、圧力を十分に印加しないと分離したままであり、電極は抵抗性のままである。
【0042】
シリコン活物質を含んだ固体電池に印加する動作圧力は、上述した問題を回避するために2~100MPaとしてよい。具体的には、充電中にアノードの厚みの全体的な膨張が抑制されて、電解質粒子同士の接触が維持され、導電性添加剤ネットワークが損なわれずに残るので、電解質およびカーボン粒子のシリコン活物質との接触を維持することができる。放電中には、活物質粒子が縮小し、粒子界面から離れるように収縮する可能性があるとしても、圧力の印加によって、活物質粒子および電解質およびカーボン添加剤粒子の間の接触が確実に維持される。圧力は、様々な方法で印加することができる。例えば、セルを加圧流体にさらすことで、セルに静水圧を印加することができる。別の例では、ボルトで締め合わされた2枚の平坦なプレートの間にセルを挟んで、ボルトトルクで要求圧力をセルに与えることにより、一軸圧力を印加することができる。
【0043】
高圧力で動作させる固体リチウムイオンセルは上述の問題を回避することができるが、特に、低圧力下でまたは圧力を受けずに動作可能な液体電解質セルと比較すると、高圧力を印加するのに用いられる装置およびシステムによって、セルのエネルギー密度を著しく低下させる可能性がある大きな体積および質量が加わる。
【0044】
本開示の1つの態様によれば、本明細書で説明する固体リチウムイオンセルは、1MPaまたはそれより低い圧力で、上述した問題もなく動作する。本開示の別の態様において、固体リチウムイオンセルは、サイクリング中に体積変化をほとんどまたは全く起こさない。本開示の別の態様は、低い圧力でセルのパフォーマンスを著しく向上させるコンディショニング処理である。
【0045】
様々な実施形態によれば、コンディショニング処理は、高圧力でセルをサイクリングすることを含む。一部の実施形態では、これによってセルが、充放電におけるセル全体の厚みの変化が著しく抑制された状態に改善される。そのため、圧力を下げると、セルはもっとサイクリングすることができ、最初に低圧力でサイクリングされたセルと比較して、セル全体の抵抗がはるかに遅いレートで増加する。一部の実施形態において、この処理は、高圧力(例えば、1MPaまたは2MPaまたはそれより高い圧力)でセルをサイクリングした後に、要求される低い動作圧力にセルを減圧することを含む。これにより、アノードの著しい膨張および収縮を起こすことなく、且つセルの厚みに大きな変化を起こすことなく電池のサイクリングを行うことが可能になる固体アノードの微細構造形成につながる可能性がある。セル動作は、実質的に圧力を低下させて行うことができる。これにより、付属圧力装置を除去するか、またはその質量および大きさを大幅に減らすことが可能になり得る。
【0046】
図1は、通常動作の前にセルをコンディショニングする方法における作業を示す工程フロー図である。101では、固体リチウムイオン電池セルが提供される。これは通常、サイクリングしていないセルであるが、必ずしもそうとは限らない。一部の実施形態では、1回または複数回の事前のサイクルが行われている場合がある。しかしながら、セルが、高圧力でのサイクリングの前に何回もサイクリングされている場合、アノード抵抗率の不可逆的な増加を引き起こす可能性がある。
【0047】
セルは単層セルでも、または多層セルでもよい。単層セルおよび多層セル、およびセル製造工程の例が以下に提供されている。
【0048】
一部の実施形態において、セルは、そのアノードにシリコンまたはシリコン含有活物質を含む。固体リチウムイオンセル、およびその構成要素であるアノード、カソード、およびセパレータのさらなる説明および例を以下に示す。
【0049】
コンディショニング処理は、寿命の開始時に、例えば、セルが最初に製造されたときに且つそれをデバイスに用いる前に行われてよい。一部の実施形態において、コンディショニング処理は、セルの組み立ておよび製造工程中に且つセルがパウチまたはケースに収められる前に行われる。例えば、コンディショニング処理は、セル構成要素(すなわち、カソード/セパレータ/アノードの多層)を積層するのにも用いられる器具で行われることがある。コンディショニング処理は、セルスタックがパウチまたはケースに収められた後に行われてもよい。コンディショニング処理は通常、デバイスに取り付ける前に行われるが、必要に応じて、取り付けた後に行われることがある。
【0050】
図1の方法では、事前にサイクリングしていないセルに対して、コンディショニング処理が行われる。1回目のサイクルの充電容量は、その後のサイクルで得られるものより高く(例えば、10~100mAh/g高い)、その量はセルの1回目のサイクルにおけるクーロン効率に依存する。この違いは、1回目のサイクル中に発生するカソード活物質の不可逆的な比容量損失、リチウムとアノード活物質の間の不可逆的な反応、および電解質分解反応によるものである。その後のサイクルでは、余分の容量は取り戻せない。そのため、シリコン活物質粒子は1回目のサイクルで最大量の膨張を起こす。1回目のサイクルにおけるアノードの膨張を抑制することは、パフォーマンス低下、容量フェード、および場合によってはリチウムメッキを引き起こすアノード抵抗率の不可逆的な増加を防止する上で極めて重要になり得る。
【0051】
103では、高圧力で初期サイクルが行われる。セルは、最終的な動作圧力より高い圧力で電気化学的に充放電される。一部の実施形態において、セルに印加する圧力は1~100MPaとしてよく、少なくとも2MPaまたは3MPaとしてよい。一部の実施形態において、この圧力は2MPaおよび10MPaの間である。動作圧力が非常に低い実施形態では、1MPaより低い印加圧力が用いられる場合がある。一部の実施形態において、動作圧力に対するコンディショニング中の印加圧力の比は、少なくとも1.5:1である。
【0052】
圧力とは、セルの有効面積に印加される力の量をセルの有効面積で割ったものとして定義される。付属静水圧装置の場合、圧力は静水圧システム内にある流体の圧力として定義されてよい。
【0053】
圧力は、様々な方法でセルに印加することができる。例えば、圧力は静水圧プレス機を用いて印加することができる。この場合、セルは加圧流体または一軸圧力にさらされる。ここで、セルはボルトで締め合わされた2枚の平坦なプレートの間に挟まれており、ボルトトルクで要求圧力をセルに与えている。圧力印加システムによりセルに印加される力は、圧力ゲージ、ロードセル、圧力紙、二次元圧力/フォースゲージ、またはコンピュータモデリングを用いて求めることができる。定圧力に設定されないシステムでは、このシステムによりセルに加えられる力が充電処理中に増加することがあり、逆の場合も同じだが、これは、セル内の材料が膨張していたり、材料の周囲にあるものに力を加えていたりすることを示している。
【0054】
充放電処理は、定電流、定電圧、またはその両方の何らかの組み合わせとしてよい。各充放電処理は、セルが予め決められた電圧または電流制限カットオフに達するまで、セルが要求充電状態に達するまで、またはセルが予め決められた量の容量を超えるまで実行することができる。一部の実施形態において、例えば、セルは100%未満の充電状態に充電される。ベンチマークは、サイクルごとに(例えば、30%充電、次に50%充電などに)変化しても、または同じであってもよい。充放電中に流れる電流のレートは、一部の実施形態において、0.02C~10Cに及ぶことがある。一部の実施形態において、これは0.2Cおよび5Cの間である。電流のレートはサイクルごとに変化しても、または同じであってもよい。
【0055】
105では、高圧力で1つまたは複数の追加のサイクルが、任意選択で行われる。一部の実施形態において、作業105は、セルの厚みおよび/またはセル抵抗が安定するまで続けてよい。
【0056】
一部の実施形態において、特定の種類のセルに対するコンディショニング処理のサイクル数は、各充放電処理後のセル全体の厚みまたはアノードの厚みの変化を測定することにより決定されてよい。一部の実施形態において、このサイクル数は、セルに印加された圧力が減少すると経時的にまたはサイクリングの間に増加するセル抵抗を測定することにより決定されることがある。サイクル数は、各充電処理の終了時における抵抗が安定するか、またはコンディショニング処理の初期サイクルよりはるかに遅いレートで増加するように選択されてよく、これはコンディショニング処理が平衡に達したことを示している。
【0057】
一部の実施形態において、作業105のサイクル数は予め決められている。これは、同じまたは同様の種類のセルに関するコンディショニング処理に基づいてよい。例えば、厚み、セル抵抗、および圧力のうちの1つまたは複数が測定されて、最適サイクル数を決定するのに用いられてよい。
【0058】
一部の実施形態では、セルの厚みをコンディショニング処理中に測定することができる。一部の実施形態では、セルの厚みが変化しなくなるまで、またはアノードの計算された厚み変化が完全な充電処理または放電処理における閾値(例えば、5%)以下になるまで、コンディショニング処理が実行されてよい。これは、セルの厚みが、サイクリング全体を通じて全体の厚みに変化がほとんどまたは全くない状態に達したことを示している。
【0059】
一部の実施形態において、セルの圧力は、コンディショニング処理中に測定されることがある。具体的には、この処理はセルおよび付属圧力印加装置システム内の圧力が平衡に近づくまで実行されてよく、この状態では充放電全体を通じて且つサイクル間で圧力の変化がほとんどまたは全くない。これは、セルの厚みが、サイクリング全体を通じて全体の厚みに変化がほとんどまたは全くない状態に達したことを示している。
【0060】
一部の実施形態において、セルに印加される圧力は、コンディショニング処理中に測定されて、能動的に制御されることがある。例えば、印加圧力は、充放電処理の間で、またサイクル間で変化することがある。一部の実施形態において、付属圧力印加装置内の圧力は、セル体積が充電中に膨張すると増加し、放電中には減少することがある。上記実施形態において、セルに印加される圧力は、要求圧力を維持するように、圧力変化に応答して充放電中に制御されてよい。
【0061】
各充放電処理中に流れる電流のレートは、作業103および105においてサイクルごとに変化する可能性がある。例えば、充電処理または放電処理中に流れる電流のレートは、その後の各サイクルでは減少または増加する可能性がある。所与のサイクルにおける充放電処理中に流れる電流のレートは、作業103および105において変化する可能性がある。コンディショニング処理には、電流が流れない「休止」段階も含まれることがある。休止段階は、所与の充電処理または放電処理中に、または充放電処理間で行われてよい。例えば、充電処理中にセルが要求充電状態に達すると、その後に放電される前に、セルは休止段階を経ることがある。
【0062】
一部の実施形態において、コンディショニング処理は温度を上げて実行されることがある。例としては、室温の数度上から60℃まで、または35℃から45℃までが挙げられる。コンディショニング処理の温度を上げると、固体電解質は導電性が高くなり、活物質内のリチウムイオン拡散が増えるので、セル全体の抵抗が低下する可能性がある。そのため、充放電の電流レートが増加して、コンディショニング処理を実質的に高速化することができる。一部の実施形態において、コンディショニング処理の温度を上げると、アノード内の様々な材料間の接着も向上する可能性がある。例えば、熱を印加すると、アノード内のポリマー結合剤が軟化するか、またはセパレータおよび/またはカソードのポリマー成分が軟化する可能性がある。各セル構成要素内のポリマー成分を軟化させることで、セルの高密度化がより効果的に起こる可能性があり、各セル構成要素内およびセル構成要素間の接着が向上する可能性がある。特定の温度が、固体電解質相間(SEI)層形成の度合いに、またはSEI層の構成物に有益な影響を与える可能性もある。
【0063】
作業103および(行うならば)105における圧力の印加によって、以下に挙げる利点のうちの1つまたは複数をもたらすことができる。アノードの厚みの膨張が充電中に抑制される可能性があり、(セパレータ内、電極内、セパレータおよび電極の界面において)電解質粒子間の接触が維持される可能性があり、導電性添加剤ネットワークが損なわれずに残る可能性があり、シリコン活物質との接触が維持される可能性がある。放電中には、圧力の印加によって、活物質粒子および電解質およびカーボン添加剤粒子の間の接触が確実に維持されるが、活物質粒子は縮小し、上記粒子界面から離れるように収縮する可能性がある。
【0064】
107では、オペレーションのために印加圧力を取り除いてもまたは下げてもよい。以下でさらに説明するように、作業103および105の高圧力コンディショニング処理によって、セルは1MPaまたはそれより低い圧力で動作できるようになる。
【0065】
セルパフォーマンスを向上させるために、高圧力コンディショニング処理が寿命の後期にも行われてよい。
【0066】
一部の実施形態では、初期サイクリング中に高圧力を印加することによって、低圧力動作を容易にするアノードおよび/またはセルの微細構造がもたらされる。例えば、シリコン活物質粒子は、アノードにおいて、周囲の構造体を押しのけるのではなく、周囲の自由体積へと膨張することが可能である。周囲の構造体を押しのけた場合、不可逆的な厚み膨張が引き起こされる可能性がある。自由体積へと膨張することで、セルの厚みは変化しない。さらに、そうしなければ空き空間になっていたはずの部分が利用される。
【0067】
一部の実施形態では、シリコン活物質粒子が充電中に膨張しているときに高圧力を印加すると、活物質粒子は周囲の電解質、結合剤、および導電性添加剤材料との接触を増やすことになる。
【0068】
一部の実施形態では、高圧力の印加によって、シリコン活物質粒子は周囲の材料および環境に力を加えることになる。これにより、1つまたは複数の利点をもたらすことができる。一部の実施形態では、活物質によって電解質粒子、カーボン添加剤、ポリマー、およびこれらの成分を囲む自由体積に加えられる力によって、こうした成分が高密度化される。これにより、活物質が膨張中に利用できる自由体積が増加することになる。一部の実施形態では、活物質が電解質粒子ネットワークに力を加えることで、活物質および電解質粒子の間の接触面積が増加することになり、よりコンフォーマルでより接着性のある接触界面がもたらされる。一部の実施形態では、力を加えることで電解質粒子が一緒に押されるので、電解質粒子の連結性およびアノードのイオン伝導性が向上する。
【0069】
一部の実施形態では、高圧力の初期印加によってアノードの厚みが膨張するのを防止するか、または著しく制限することで、アノードがアノード/セパレータ界面およびカソード/セパレータ界面に圧力を内部的に印加することになる。これにより、アノード/セパレータおよびカソード/セパレータの界面間の接着および接触を向上させることができる。これによっても、集電体界面または集電体の表面にあるプライム層において電極の構成要素に圧力を印加することができ、アノードおよびアノード集電体の間の接着が実質的に向上する。アノードによる圧力の内部的な印加でも、セパレータおよびカソードを高密度化することができ、これはセルパフォーマンスにとって有益である。カソードの高密度化により、電解質粒子、およびリチオ化/脱リチオ化で小さな(例えば、2~3%の)体積変化を起こす遷移金属酸化物カソード活物質粒子の間の接触が向上する可能性がある。セパレータおよびカソード(最初は多孔性の可能性がある)の高密度化により、アノード内に存在するセル全体の自由体積の割合も増加する可能性がある。これにより自由体積が実質的に増加し、その中でアノード活物質がセル全体の厚みを増やす/減らすことなく膨張および収縮が可能になる。
【0070】
放電中には、圧力の印加によって、活物質粒子および電解質およびカーボン添加剤粒子の間の接触も確実に維持されるが、活物質粒子は縮小し、これらの粒子界面から離れるように収縮する可能性がある。これは、全体的な体積膨張が最大になり得る1回目の完全な充放電において、特に重要になる場合がある。
【0071】
圧力の印加は、初期の固体電解質相間(SEI)層形成処理においても有利になる可能性がある。一部の実施形態において、例えば、シリコン活物質粒子および固体電解質粒子を一緒にプレス加工することで、さらにSEI層を形成することができ、これは、固体電解質粒子および活物質粒子の間にイオン伝導性経路を生み出すのに役立てることができる。
【0072】
高圧力コンディショニング処理について上述した効果のうちの1つまたは複数により、低圧力で動作するセルの能力に有益なアノードおよびセルの微細構造および構成物が形成されることになる可能性がある。
【0073】
一部の実施形態において、コンディショニングされた電池セルには、セル全体の微細構造を有するという特徴があり、これによって、セルが低圧力でサイクリングすることが可能になり、パフォーマンス能力が著しく向上し、且つ充電/放電中におけるセル全体の厚みの変化が著しく抑制される。アノードの微細構造の特徴としては、空隙に囲まれている固体電解質粒子、アノード活物質粒子、ポリマー結合剤、およびカーボン添加剤の領域の密度を非常に高めて、その領域を密に埋めていることが挙げられ得る。これらの材料は、セルを完全に放電した後でも、互いに密接したままでいることができる。周囲の空隙は、電極の厚みを変えることなくシリコン活物質粒子が膨張し、収縮するための空間をもたらしている。
【0074】
一部の実施形態において、セルには、固体電解質粒子にしっかり付着し、固体電解質粒子とのコンフォーマルな界面を持つシリコン活物質を有するという特徴がある。そのような界面によって、リチウムイオンの電極内での、およびシリコン活物質粒子への移動が高まり、材料間の接着が向上する。そのため、シリコン活物質の膨張/収縮全体を通じて、固体粒子間の接触を維持することが可能になる。
【0075】
一部の実施形態において、アノードには、固体電解質粒子の高濃度領域を有するという特徴がある。領域内の粒子は一緒に溶着している場合がある。アノードも、活物質の高濃度領域を有する場合がある。
【0076】
一部の実施形態において、セルおよび/またはアノードの微細構造は、セルが最初に低圧力でサイクリングされたときに形成される微細構造とは明らかに異なる。そのようなセルでは、固体電解質粒子およびアノード活物質粒子が高濃度領域に存在することはなく、固体電解質粒子および活物質粒子は空隙にかなり囲まれている。そのような微細構造では、固体電解質粒子および活物質粒子の間の接触が弱まり、電気伝導性およびイオン伝導性が低下する。
[電極構成物]
【0077】
アノードは、非リチウム金属アノードであることを特徴とする。これは、活物質、電解質、および結合剤を含む複合フィルムである。一部の実施形態では、導電性添加剤が用いられることがある。一部の実施形態では、導電性添加剤が省略されることがある。
【0078】
カソードも、活物質、電解質、および結合剤を含む複合フィルムである。一部の実施形態では、導電性添加剤が用いられることがある。一部の実施形態では、導電性添加剤が省略されることがある。
【0079】
アノード活物質の例としては、グラファイト、シリコン、カーボン被覆シリコン、シリコンを埋め込んだカーボン構造体、シリコン合金(例えば、Al、Zn、Fe、Mn、Cr、Co、Ni、Cu、Ti、Mg、Sn、およびGeのうちの1種または複数種と合金化したシリコン)、シリコン酸化物(例えばSiOx、ここで0≦x≦2)、チタン酸リチウム、これらの類似したアノード活物質または組み合わせが挙げられる。
【0080】
カソード活物質の例としては、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LiNiMnCo)(「NMC」)、ここで(x=0.8、y=0.1、z=0.1;x=0.6、y=0.2、z=0.2;x=0.5、y=0.3、z=0.2;またはx=0.1、y=0.1、z=0.1)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(LiNiCoAl)(「NCA」)、ここで(x=0.80、y=0.15、z=0.05)、リチウムマンガン酸化物(LiMn)(「LMO」)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)(「LFP」)、硫化リチウム(LiS)、元素硫黄(S)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、二フッ化鉄(FeF)、三フッ化鉄(FeF)、二フッ化コバルト(CoF)、これらの類似したカソード活物質または組み合わせが挙げられる。
【0081】
カソードおよびアノードの両方には、電気伝導をもたらすカーボン添加剤、例えば、グラフェン、活性カーボン、カーボンファイバ、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、C-ENERGY SUPER C65、C-ENERGY SUPER C45、SUPER P Liカーボンブラック、または類似物が独自に含まれてよい。一部の実施形態では、導電性添加剤が省略されることがある。例えば、カーボン被覆シリコンまたはシリコン-カーボン複合材がアノードの活物質として用いられる一部の実施形態では、導電性添加剤が省略されることがある。
【0082】
電極は、電極凝集および接着強度をもたらす結合剤を有することがある。結合剤は概して、有機ポリマーである。結合剤の例としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンスチレン(SIS)、スチレンエチレンブチレンスチレン(SEBS)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ニトリルゴム(NBR)、フッ化ポリビニリデン(PVDF)などのフッ素化ブロックコポリマー、または類似したブロックコポリマーが挙げられる。ポリマーの別の例が、以下のセパレータの説明の中で提供される。様々な実施形態によれば、ポリマーはイオン伝導体であってもよく、またはそうでなくてもよい。イオン伝導性があるポリマーの例としては、ポリ(酸化エチレン)(PEO)およびリチウム塩を溶解させたPEO系ブロックコポリマーが挙げられる。
【0083】
アノードおよびカソード電解質のそれぞれは、無機電解質であってよい。これは、酸化物系構成物であっても、硫化物系構成物であっても、またはリン酸塩系構成物であってもよく、結晶質であっても、部分的に結晶質であっても、または非晶質であってもよい。特定の実施形態において、無機相は導電性を高めるためにドープされることがある。固体リチウムイオン伝導材料の例としては、ペロブスカイト(例えば、Li3xLa(2/3)-xTiO、0≦x≦0.67)、リチウム超イオン伝導体(LISICON)化合物(例えば、Li2+2xZn1-xGeO、0≦x≦1;Li14ZnGe16)、thio-LISICON化合物(例えば、Li4-x1-y、AはSi、Ge、またはSn、BはP、Al、Zn、Ga;Li10SnP12)、ガーネット(例えば、LiLaZr12、LiLa12、MはTaまたはNb);NASICON型Liイオン伝導体(例えば、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO)、酸化物ガラスまたはガラスセラミック(例えば、LiBO-LiSO、LiO-P、LiO-SiO)、硫銀ゲルマニウム鉱(例えば、LiPSX、ここでX=Cl、Br、I)、硫化物ガラスまたはガラスセラミック(例えば、75LiS-25P、LiS-SiS、LiI-LiS-B)、およびリン酸塩(例えば、Li1-xAlGe2-x(PO(LAGP)、Li1+xTi2-xAl(PO))が挙げられる。別の例としては、リチウムリッチアンチペロブスカイト(LiRAP)粒子が挙げられる。参照によって本明細書に組み込まれる、ZhaoおよびDaementが著したJour J.Am.Chem.Soc.、2012年、134(36)、15042~15047頁に記載されているように、これらのLiRAP粒子には、室温で10-3S/cmを超えるイオン伝導性がある。
【0084】
固体リチウムイオン伝導材料の例としては、ナトリウム超イオン伝導体(NASICON)化合物(例えば、Na1+xZrSi3-x12、0<x<3)が挙げられる。固体リチウムイオン伝導材料の別の例が、Caoらが著したFront.Energy Res.(2014年)2:25、およびKnauthが著したSolid-state Ionics 180(2009年)911~916頁で確認でき、これらは両方とも参照により本明細書に組み込まれる。
【0085】
イオン伝導ガラスの別の例が、Ribesらが著したJ.Non-Cryst.Solids、Vol.38-39(1980年)271~276頁、およびMinamiが著したJ.Non-Cryst.Solids、Vol.95-96(1987年)107~118頁に開示されており、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0086】
一部の実施形態において、固体電解質は硫銀ゲルマニウム鉱である。硫銀ゲルマニウム鉱の一般式はA7-xPS6-xHalとしてよく、ここでAはアルカリ金属であり、Halは塩素(Cl)、臭素(Br)、およびヨウ素(I)から選択される。
【0087】
一部の実施形態において、硫銀ゲルマニウム鉱は上述した一般式を有し、さらにドープされてもよい。一例が、親硫黄性金属でドープされた硫銀ゲルマニウム鉱、A7-x-(z*m) PS6-xHalである。ここでAはアルカリ金属であり;Mはマンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、および水銀(Hg)から選択された金属であり;Halは塩素(Cl)、臭素(Br)、およびヨウ素(I)から選択され;zは金属の酸化状態であり;0<x≦2であり;0<y<(7-x)/zである。一部の実施形態において、Aはリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、またはカリウム(K)である。一部の実施形態において、AはLiである。さらに、金属をドープした硫銀ゲルマニウム鉱については、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第16/829,962号に記載されている。一部の実施形態では、複合材として、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第16/576,570号に記載されている酸化物硫銀ゲルマニウム鉱が含まれてよい。
【0088】
アルカリ金属の硫銀ゲルマニウム鉱はより一般的には、アルカリ金属を含む立方対称性を持った導電性結晶の種類のいずれかである。これには、上述した式の硫銀ゲルマニウム鉱、および米国特許公開第20170352916号に記載されているLi7-x+yPS6-xClx+yを含む硫銀ゲルマニウム鉱(ここでxおよびyは、0.05≦y≦0.9および-3.0x+1.8≦y≦-3.0x+5の式を満たす)、またはA7-x+yPS6-xHalx+yという式による他の硫銀ゲルマニウム鉱が含まれる。そのような硫銀ゲルマニウム鉱も上述した金属でドープされてよく、これにはA7-x+y-(z*m) PS6-xHalx+yが含まれる。
【0089】
一部の実施形態において、活物質粒子は、スラリーを調合する前に、まず固体電解質で被覆して活物質および固体電解質の間の接触を向上させることがある。
【0090】
カソード構成物については、以下の表で構成物の例を示す。
【表1】
【0091】
アノード構成物については、以下の表で構成物の例を示す。
【表2】
[セパレータ]
【0092】
セパレータとしては、アルカリイオンを伝導するポリマー相および固体電解質粒子を含んだ複合材料が挙げられてよい。一部の実施形態では、固体電解質粒子が、複合材料のイオン伝導性の全てを担い、複合材料を通るイオン伝導性経路を提供する。他の実施形態では、イオン伝導性ポリマーが用いられることがある。
【0093】
固体電解質の例が、電極構成物に用いられ得る電解質を参照して上述されている。
【0094】
一部の実施形態において、ポリマー相は実質的にイオン伝導性がなく、「非イオン伝導性」と呼ばれている。ここで説明する非イオン伝導性ポリマーのイオン伝導性は0.0001S/cm未満である。一部の実施形態において、有機相には、LiTFSiなどの塩の存在でイオン伝導性となるポリマーが含まれることがある。酸化ポリエチレン(PEO)、酸化ポリプロピレン(PPO)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)などのイオン伝導性ポリマーは、LiTFSiなどの塩を溶解するか、または解離する。非イオン伝導性ポリマーは塩を溶解することも、または解離することもなく、塩が存在してもイオン伝導性にはならない。これは、塩を溶解しないと、伝導する可動イオンが存在しないためである。
【0095】
用いることが可能なポリマーの例が、参照により本明細書に組み込まれる米国特許公開第2021/0194039号に提供されている。これらには、スチレンブタジエンスチレン(SBS)、スチレンイソプレンスチレン(SIS)、スチレンエチレン/プロピレンスチレン(SEPS)、スチレンエチレン/ブチレンスチレン(SEBS)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、ポリブタジエン(PBD)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、およびポリスチレン(PS)が含まれる。一部の実施形態において、ポリマー結合剤としては、無水マレイン酸で修飾されたSEBS(SEBS-gMA)が挙げられる。一部の実施形態において、ポリマー結合剤としては、フルフリルアミンで修飾されたSEBS(SEBS-gFA)が挙げられる。
【0096】
一部の実施形態において、固相セパレータは、イオン伝導性無機粒子および有機相で基本的に構成される。しかしながら、代替実施形態では、1種または複数種の別の成分が固体セパレータに添加されることがある。
【0097】
様々な実施形態によれば、固体構成物は、添加塩を含んでもよく、またはそうでなくてもよい。PEOなどのイオン伝導性ポリマーを含む実施形態では、イオン伝導性を高めるために、リチウム塩(例えば、LiPF6、LiTFSI)、カリウム塩、ナトリウム塩などが添加されることがある。一部の実施形態において、固体構成物には実質的に添加塩が含まれない。「実質的に添加塩がない」とは、微量の塩しかないことを意味する。一部の実施形態において、複合材のイオン伝導性は、実質的に無機粒子によってもたらされる。イオン伝導性ポリマーを用いたとしても、複合材のイオン伝導性には、0.01mS/cm、0.05mS/cm、または0.1mS/cmしか寄与しない可能性がある。他の実施形態では、もっと寄与することがある。
【0098】
一部の実施形態において、固体セパレータには1種または複数種の導電助剤が含まれることがある。一部の実施形態において、電解質には、Alなどのセラミック充填材を含む1種または複数種の充填材料が含まれることがある。充填材を用いる場合、それが、特定の実施形態に応じて、イオン伝導体であってもよく、またはそうでなくてもよい。一部の実施形態において、複合材には1種または複数種の分散剤が含まれることがある。さらに、一部の実施形態において、固体構成物の有機相には、特定の用途に要求される機械的性質を有する電解質の製造を容易にするために、1種または複数種の追加有機成分が含まれることがある。
【0099】
一部の実施形態において、セパレータ構成物には、電極の表面にパッシベーション層を形成するのに用いられ得る電極安定化剤が含まれることがある。電極安定化剤の例が、米国特許第9,093,722号に記載されている。一部の実施形態において、電解質には、上述した導電助剤、充填材、または有機成分が含まれることがある。
【0100】
セパレータフィルムは、特定の電池または他のデバイスの設計に応じて、任意の好適な厚みとしてよい。多くの用途では、厚みを1μmおよび250μmの間、例えば、15μmとしてよい。一部の実施形態において、電解質は、例えば、ミリメートルのオーダーで、著しく厚くすることがある。
[例示的な実施形態]
【0101】
図2および図3には、1MPaでサイクリングされたセル(図2)、および最初に3MPaでサイクリングされた後に1MPaに減圧したセル(図3)の平均放電容量を示している。サイクリングの開始時に、1MPaセルで得られた平均放電容量は164mAh/gであったが、3MPaではセルの平均した1回目のサイクルの放電容量は170mAh/g(6mAh/g高い)であった。1MPaセルの放電容量は急速に低下し始め、8~10サイクル後にはリチウムメッキが発生する。15サイクル後では、1MPaセルの平均放電容量はわずか129mAh/gであり、これは1サイクル当たり約1.4%の容量損失に相当する。3MPaセルの圧力を5回目のサイクル後に1MPaに減圧すると、1MPaで15サイクル後では、平均容量が157mAh/gに下がっただけであり、これは1サイクル当たり約0.2%の容量損失に相当する。コンディショニング処理を受け、1MPaでサイクリングされたセルの容量保持率は、コンディショニング処理を受けなかったセルの5倍を超える大きさであった。
【0102】
図4には、図2に表した放電容量を生成するようにサイクリングされた電池セルのうちの1つについて、充放電電圧プロファイルを示している。寿命の開始から1MPaでサイクリングすると、充電電位の著しい増加および放電電位の減少が生じるが、これはセル抵抗の急速な増加を示している。これには、サイクル1からサイクル5にかけてのセル容量の全体的な減少も伴う。サイクル10の電圧プロファイルには、リチウムメッキの明らかな痕跡(すなわち、出力電圧のノイズ、長々と続く充電処理、その後の放電における非常に低い放電容量およびクーロン効率)が示されている。これは、アノードでの膨張収縮過程を受けて、アノードが過度に抵抗性になっていることを示している。
【0103】
図5には、高圧力でサイクリングされた後に低い圧力に下げたセルの電圧プロファイルを例示している。示されているように、高圧力処理(サイクル1及び5)では、充放電電圧プロファイルが非常に類似している。圧力を下げると、セルの充電に必要な電圧および放電中に得られる電圧はわずかな変化を起こすが、これは、セルの抵抗性がわずかに高くなっている可能性があることを示している。しかしながら、この変化は、図4で観察された1MPaセルの変化と比較した場合、かなり小さいものである。このことは、初期の高圧力コンディショニング処理によって、抵抗性が低く、且つシリコンの膨張および収縮に関連することになる抵抗増加に十分に耐えることができる、セル全体の微細構造がもたらされたことを示している。
【0104】
セルを低い圧力で起動させた場合のセル抵抗の上昇は、電気化学的インピーダンス分光法(EIS)の測定値にも示されている。図6および図7には、1MPaで起動させたセル、および3MPaで起動させた後に1MPaに下げたセルの様々な抵抗を表したナイキストプロットを示している。EISは50%の充電状態で各セルに対して測定され、充電手順中にはセルを休止させた。
【0105】
各インピーダンススペクトルについて、左端のx軸切片はセルのオーミック抵抗を表しており;左端の高周波の半円はアノードの電荷移動抵抗に起因する可能性があり;左から2番目の半円はカソードの電荷移動抵抗に起因する可能性があり;右端のテールはワールブルグ(Warburg)インピーダンス(すなわち、活物質内のリチウムイオン拡散)を表している。EC-Labを用いてインピーダンスプロファイルをフィッティングし、アノードの電荷移動抵抗値を求めた。
【0106】
以下の表には、各セルの2回目および16回目のサイクルについて、インピーダンス値がまとめられている。1MPaでサイクリングされたセル、および3MPaでサイクリングされた後に5回目のサイクル後に1MPaに下げたセルについて、電気化学的インピーダンス分光法で求めたセル抵抗がそれぞれ示されている。アノードの電荷移動抵抗(RCT1)、カソードの電荷移動抵抗(RCT2)、および全セル抵抗(Rtotal)が示されている。
【表3】
【0107】
示されているように、1MPaでサイクリングされたセルのアノードの電荷移動抵抗(RCT1)は、サイクル2および16の間で2.07Ωから5.36Ωへと、最初に3MPaでサイクリングされたセルと比較して著しく増加している。3MPaでサイクリングされた後に1MPaに減圧したセルの場合、アノードの電荷移動抵抗は、サイクル2および16の間で1.48Ωから3.29Ωになるがあまり大きくない。この特定のセル構成物において、全体の抵抗(Rtotal)は、電解質およびカソード活物質の間の起こり得る副反応によって、実質的にカソードの電荷移動抵抗(RCT2)に影響を受ける。
【0108】
セルの厚みは、1MPaおよび3MPaでサイクリングするセルの充電終了時に、および放電終了時に測定した。測定したセルの厚みおよび厚みの増加率が、1MPaセルについては図8Aに、3MPaセルについては図8Bに示されている。以下の説明では、厚みの変化がアノードの厚みの変化だけによるものと仮定している。図8Aは、1MPaでサイクリングされたセルが1回目の充電で著しい体積膨張を起こし、アノード全体の厚みが62.9%増加したことを示している。比較してみると、高圧力セルでは、1回目の充電処理中に17.4%の厚み増加しか起こしていない。この違いは、高い圧力(3MPa)を印加すると電極の膨張が抑えられることを示している。1回目の放電後に、1MPaセルの厚みは元の厚みより実質的に20%大きい厚みに減少し、高圧力セルの厚みは元の厚みより6.5%大きい厚みに減少する。このことは、1MPaセルのシリコン粒子が完全に脱リチオ化していないことを示唆しており、得られる放電容量の減少が観察されていることと一致する。このことは、放電中にアノードの自由体積を系統的に減少させると共に活物質の粒径を減少させるには、セルに印加する圧力が十分高くないことも示唆している。3MPaセルでは、大きく低下したアノードの厚みに戻る。(シリコン活物質粒子が1回目の放電で元の体積に完全に戻るとは期待されていない。これは、シリコン活物質がリチウムと不可逆的な反応を起こすことがあり、これにより粒径が不可逆的に増加する可能性があるからである。さらに、1回目の充電で実現される容量は、その後にカソード活物質が貯蔵できる容量を上回ることがある。これは、NMC粒子が、NMCの比容量を実質的に変える不可逆的な構造変化および固体電解質との寄生反応を起こす可能性があるからである)。
【0109】
その後のサイクルにおいて、1MPaセルは継続的に体積の大きな膨張および収縮を起こし、サイクル2,3、および4では20~30%の変化が生じる。充電終了時におけるアノードの厚みは各サイクルでほぼ一定のままだが、放電後のアノードの厚みは、サイクルのたびに連続的に上昇する。厚みの連続的な上昇は、放電終了時にリチオ化したままのシリコン活物質量の増加、電極抵抗およびセル抵抗の増加、場合によっては不可逆的なリチウム損失につながる可能性があるリチウムメッキ、といったことに起因する場合がある。特にこのセルでは、サイクル3でリチウムメッキが発生した。
【0110】
3MPaセルについて、その後のサイクルで観察された厚みの変化は予想外であった。2回目の充電(2C)では、アノードの厚みの増加はわずか2.2%であり、これは1MPaで観察された変化(31.4%)よりはるかに低い。次の放電処理(2D)では、アノードの減少は4.3%であり、これは直前の放電状態の厚みより低い。3回目のサイクルでは、セルの厚みが充電中にわずか2.2%増加し、放電時には4.3%減少する。ここでも、より低い厚みに、次にサイクルが始まる前の初期の厚みに減少する。この厚みの減少は、粒子の膨張/収縮と相まって、印加圧力により、アノードがサイクリング中により高い充填密度を実現できるようになることを示している。その後、セルの厚みは次に、元の厚みよりわずか2.2~4.3%高い厚みにとどまり続け、その後のサイクルでは変化をほとんどまたは全く起こさない。サイクル2~5の間のアノードの厚みの変化量は、1回の充電/放電当たり約1~2μmであり、これは実験誤差の範囲内である。
【0111】
セル同士を比較すると、3MPaでサイクリングされたセルでは、1回目の充電でアノードの厚み増加がわずか17.4%であり、これに対して1MPaでサイクリングされたセルでは62.9%であった。3回目のサイクルまでに、充電後のアノードの厚みは、3MPaセルでは最初のアノードの厚みよりわずか2~4.5%厚くなるのに対して、1MPaセルでは48~51%厚くなり、3MPaではアノードが各サイクリングで0~2%の全体的な体積膨張/収縮を起こすのに対して、1MPaでは20~30%の体積膨張がある。
【0112】
上記のセルパフォーマンス結果が証明しているのは、3MPaでの初期サイクリングにより、セルは1MPaでの15サイクル後に157mAh/gという平均放電容量を実現できるようになり、これに対して1MPaで起動したセルは、15サイクル後に129mAh/gしか維持せず、リチウムメッキが生じているということである。これが示唆しているのは、高圧力サイクリング処理によってアノードおよびセル全体の微細構造が生み出され、これにより、シリコン活物質粒子がアノード内の空隙をより十分に利用する形で膨張および収縮できるようになり、最終的にはアノードおよびセルの厚みの全体的な変化が最小限に抑えられるということである。
【0113】
アノードが充電中に膨張すると見込まれている量は、いくつかのパラメータによって変わる。例えば、カソード容量に対するアノード容量の比(「n/p比」)、アノードの空孔率(ρ)、アノード中のシリコン活物質の重量パーセント(wSi)、およびシリコン活物質がリチオ化中に起こすと見込まれている膨張量(通常、100%リチオ化時の全期待増加率として報告されるものであり、選択されたアノード活物質の、fexpで表される固有の特性である)といったパラメータである。
【0114】
アノードに存在する、セルに何らかの充電をする前のアノード活物質の元の体積は、Vで表すことができる。100%SOCでのアノード活物質の最終的な体積は、V100で表すことができる。アノード内の全自由体積(すなわち、空孔率または空隙比)は、Vで表すことができる。
【0115】
0%充電状態(SOC)から100%SOC(すなわち、セルの充電)にかけての活物質体積の全体的な増加は、V100からVを差し引くことで計算ができ、これはVで表すことができる。一部の実施形態において、n/p比、ρ、wSi、およびfexpは、VがVより小さくなると見込まれるように設計されてよい。例えば、アノードは十分に多孔性となるように製造されてよい。液体電解質を含んだ従来のリチウムイオンセルの場合と異なり、本明細書で説明するセルのアノード活物質は、理論的には、アノード全体の厚みに影響を与えることなく、アノードの孔隙内に膨張することができる。しかしながら、圧力を印加しないと、シリコン活物質は、充電中にアノードの全体の厚みが増加する形で依然として膨張することになるであろう。初期サイクリング中に高圧力を印加することで、アノードの厚みが増加する力を抑制し、その代わりに、アノード活物質がVしか利用できないようにする。そのため、本明細書で説明する高圧力コンディショニング処理を用いて、且つアノードのVが期待どおりVより小さくなるように設計することで、何もないとはいえ、サイクリング中に起こす厚み変化が最小量になる固体セルを実現することができる。これにより、サイクリング全体を通じて著しく低い圧力を印加することが可能になる。
【0116】
セルのエネルギー密度が高くなる可能性があるのは、VがVより大きい場合、例えば、n/p比が1.0および1.2の間にあるときで、且つ初期のアノード空孔率が低い場合である。そのような実施形態において、アノードの厚みは、充放電中に増加したり減少したりすることが見込まれる。アノードのこの膨張および収縮は避けられないが、本明細書で説明する高圧力コンディショニング処理により、活物質の膨張がアノード全体の厚み増加につながる度合いを最小限に抑えられる。すなわち、セルおよびアノードの微細構造をコンディショニングすることで、Vをより十分に利用することができる。
【0117】
アノードの空孔率は、セルの製造時の高密度化処理において、例えば、アノードがカレンダープレス機または熱プレス機を通るときに制御されてよい。アノードに印加される力の量、つまりアノードが通るカレンダーロールの間隙を制御することで、様々なレベルの空孔率を実現することができる。例えば、高い力を用いるとフィルムを低い空孔率に高密度化することができ、低い力を用いると高い空孔率を実現することができる。
【0118】
n/p比は、アノードおよびカソードの面積比容量(area-specific capacity)の比を変えることで制御することができる。アノードの面積比容量を高くして、カソードの面積比容量を低くすることで、高いn/p比を得ることができる。例えば、カソードの面積比容量を3.0mAh/cmにして、アノード担持量を6.0mAh/cmにすることで、2.0のn/p比を得ることができる。各電極の要求面積比容量は、製造工程中に、例えば、電極スラリーをコーティングするときに各電極の全体の厚みを制御することにより、および/または各電極に存在する活物質の重量パーセントを増やすかまたは減らすことにより実現することができる。高い面積比容量は、厚い電極および/または活物質重量パーセントが高い電極を製造することにより実現することができる。
【0119】
面積比容量は、電極の容量を求めて、電極フィルムの面積で割ることにより計算することができる。電極の容量は、電極フィルムの質量を測定し、この質量と電極内の活物質の重量パーセントを掛け合わせて、存在する活物質の質量を求めた後に、活物質の比容量を掛け合わせることにより求めることができる。
【0120】
最初に高圧力(すなわち、1MPaより高い圧力)でシリコン系固体セルをサイクリングすることなく、早期故障を起こさずに低い圧力(1MPaと等しいまたはそれより低い圧力)でサイクリングするのは難しいかまたは不可能である。これは、アノードの初期の自由な膨張がアノードの微細構造の不可逆的な変化をもたらすことで、急速な容量フェード、抵抗増加、場合によってはリチウムメッキが引き起こされるからである。このことは、図2図3,および図8に例示されている。
【0121】
一部の実施形態では、セルが自己完結型セルであると決定される。そのようなセルは、上述した高圧力コンディショニング処理によって入手することができる。「自己完結型」セルとは、コンディショニング後に、活物質の膨張がアノード全体の厚みおよびアノード抵抗の増加につながる度合いを最小限に抑えるセルである。自己完結型セルは、本明細書で説明したコンディショニング処理を用いて入手することができる。
【0122】
一部の実施形態では、固体リチウムイオン電池セルを第1の圧力でサイクリングすること、第1の圧力より高い第2の圧力である以外は同一条件で同一のセルをサイクリングすること、およびセルの容量損失を比較することを含んだ試験を適用することにより、固体リチウムイオン電池セルが自己完結型セルであると特定できる。一部の実施形態において、セルが自己完結型セルであると特定できるのは、その容量損失が第2の圧力でサイクリングされたセルのそれと比べて5倍未満の大きさである場合である。一部の実施形態では、その容量損失が第2の圧力でサイクリングされたセルのそれと比べて3倍未満の大きさであってよい。一部の実施形態において、第1の圧力は1MPaであり、第2の圧力は3MPaである。
【0123】
一部の実施形態において、セルが自己完結型セルであると特定できるのは、1サイクル当たりの容量損失率(PCLPC)が第2の圧力でサイクリングされたセルのそれと比べて5倍未満の大きさである場合である。一部の実施形態では、それが3倍未満の大きさであってよい。
【0124】
一部の実施形態では、以下の試験を用いて、自己完結型セルが決定されてよい。1)シリコン含有活物質を有する同一の固体リチウムイオン電池を2つ入手する。2)一方の入手した電池に、温度25℃および1MPaの動作圧力においてC/5のレートで完全放電深度まで20サイクルのサイクリングを行う。もう一方の入手した電池に、温度25℃および3MPaの動作圧力においてC/5のレートで完全放電深度まで20回のサイクリングを行う。3)20サイクルの間に失われた総容量を測定し、それを20およびセルの期待容量で割ることにより、1サイクル当たりの容量損失率を計算する。この数字を100と掛け合わせると、1サイクル当たりの容量損失率が求められる。セルの期待容量は、製造業者から提供されたもの、または以下で説明するように求められたものである。4)1MPaの動作圧力下でサイクリングされたセルの1サイクル当たりの容量損失率を、3MPaセルの動作圧力下でサイクリングされたセルのそれと比較する。5)1MPaセルの値が3MPaセルの値と比べて5倍未満の大きさである場合には、このセルは自己完結型セルと特定される。
【0125】
同一とは、実質的に全く同じ製造工程(セルの組み立ておよびコンディショニングを含む)で作られ、且つ実質的に全く同じ取り扱いをされた、実質的に全く同じ電池を指す。例えば、同じ製造工程の同一の電池として販売され、且つ同じ取り扱いを受けた2つの市販の電池であれば(例えば、両方とも使用前に販売されたままの状態で入手されているならば)、基準を満たすことになる。
【0126】
1MPaまたは3MPaで電池をサイクリングするために、ボルトで締め合わされた2枚の平坦なプレートの間にセルを挟むことができ、ボルトトルクでセルに要求圧力を与える。必要なボルトトルクは、セルの領域に印加する圧力を測定する二次元圧力ゲージを用いて予め決められてよい。フレキシブルに圧縮できる付属装置が、圧力を一定に保つのに用いられてよい。そのような付属装置は、2枚の平坦なプレートの間にスプリングを有し、広げることができるようになっている。
【0127】
上述したように、期待容量が製造業者から提供され得る。あるいは、温度25℃で圧力を3MPaで固定(fixtured)されたセルを、C/20の定電流充電、続いて完全放電深度まで定電流放電によって完全に充放電することにより、セルの期待容量を求めることができる。この手順は、平均期待容量を求めるために、3つまたはそれより多くのセルに対して行われてよい。
【0128】
図9には、Blue Currentで製造された同一の乾式全固体電池のサイクリングパフォーマンスを示している。これらの電池は、シリコン活物質を含有したアノード、および遷移金属酸化物の活物質を含有したカソードを含む。一番上の曲線は、3MPaに設定した動作圧力でサイクリングされた1つのセルで得られた比放電容量を表している。3本の赤い曲線は、1MPaに設定した動作圧力でサイクリングされ、且つサイクリング前に初期の高圧力コンディショニング処理を受けた、3つのセルで得られた比放電容量を表している。これらの3つのセルに対するコンディショニング処理は、28℃(±1℃)の温度で実行され、5回のフルサイクルを含み、その全てが3MPaの圧力で行われた。サイクリング条件は次の通りで、充電はC/5のレートで定電流法、続いて4.2Vで電圧制限した定電圧充電ステップを用いて行われ、定電圧ステップは充電電流がC/20の電流制限と等しくなるまで実行された;放電はC/5で、下限電圧カットオフを2.0Vにして行われた。
【0129】
図9に例示したサイクル寿命試験は、28℃(±1℃)の温度で、次のサイクリングパラメータを用いて実行された。充電はC/5のレートで定電流法、続いて電圧制限を4.2Vにした定電圧充電ステップを用いて行われ、定電圧ステップは充電電流がC/20の電流制限と等しくなるまで実行された;放電はC/5で、下限電圧カットオフを2.0Vにして行われた。さらに、低い圧力のセルは、サイクリング全体を通じてセルの健康状態(SOH)を調べるために、C/20の定電流充放電レートで25サイクルごとに1つの遅いサイクルを受けた。
【0130】
セルは、ボルトで締め合わされた2枚の平坦なプレートの間に挟まれ、ボルトトルクでセルに要求圧力を与えた。必要なボルトトルクは、セルの領域に印加する圧力を測定する二次元圧力ゲージを用いて予め決められた。
【0131】
図9に示すように、3MPaで連続的にサイクリングしたセルの容量損失は、1サイクル当たり0.05%であったのに対して、1MPaでサイクリングした同一のセルの損失は0.1%であった。1サイクル当たりの容量損失率は、1MPaセルの場合、3MPaセルより2倍高いだけである。高圧力コンディショニング処理を何も行わずに1MPaでサイクリングされた同一のセルでは、容量が急速に失われ、サイクリングの初期段階で故障が発生し、1サイクル当たりの容量損失率が3MPaの値より5倍大きい。これらのセルも、上述した同様の試験を通り、自己完結型セルと特定されることになるであろう。
[セルの製造]
【0132】
固体リチウムイオン電池の製造工程の例を図10図14に関して以下で説明する。
【0133】
図10には、固体電池をどのように組み立てることができるかについて概略図を示している。最初に1001では、集電体上にあるアノードフィルムが示されている。1003では、貼り合わせ、キャスティング、または押し出し成形などの手法を用いて、アノードに固体電解質セパレータを付ける。1005では、集電体/アノード/セパレータスタックに(例えば、貼り合わせ、キャスティング、または押し出し成形で)集電体/カソードフィルムスタックを付ける。これで、単一のセルスタック1007になる。複数のセルスタックの積層が、複数のセル要素(カソード/セパレータ/アノード)をスタックに含む電池を形成するのに用いられ得る。しかしながら、セルスタック1007のような複数の構成単位を積層すると、エネルギー密度の低下を引き起こす。
【0134】
図11は、多層固体リチウムイオン電池を形成する方法における特定の作業を示した工程フロー図である。最初に、作業1101において、予成形セル要素が提供される。作業1103では、予成形セル要素を積層して多層セルを形成する。以下でさらに説明するように、予成形セル要素を貼り合わせて高密度化し、高密度化した構成単位を形成する。一部の実施形態において、予成形セル要素は、高密度化した電極/セパレータ/両面電極/セパレータ/電極という構成単位であり、作業1103で集電体と共に層状に積み重ねられている。他の実施形態では、予成形セル要素の一端にだけ集電体が含まれており、作業1103で積層されて高密度化した電極/セパレータ/両面電極/セパレータ/電極/集電体という構成単位が形成される。これらの実施形態のそれぞれに関する概略例を、図12および図13を参照して以下に示す。
【0135】
カソード集電体には、隣接した電極フィルムとの接着を高める導電性接着剤の薄い層があってよい。両面カソードが予成形セル要素の一部である実施形態において、予成形セル要素は導電性接着剤を含む。カソード集電体が予成形セル要素と共に層状に積み重ねられた実施形態において、導電性接着剤は、スタックの別の層として提供されても、またはカソード集電体に予め塗布されてもよい。
【0136】
同様に、アノード集電体には導電性接着剤の薄い層があってよい。両面アノードが予成形セル要素の一部である実施形態において、予成形セル要素は導電性接着剤を含む。アノード集電体が予成形セル要素と共に層状に積み重ねられた実施形態において、導電性接着剤は、スタックの別の層として提供されても、またはアノード集電体に予め塗布されてもよい。
【0137】
図11に戻ると、多層セルは次に、作業1105で熱プレス加工される。一部の実施形態では、予成形要素の全てが層状に積み重ねられ、次いで一度に熱プレス加工される。他の実施形態では、作業1103および1105を1回または複数回繰り返して、スタックを1つの要素または要素の一部に一度に積み上げる。
【0138】
図12は、予成形セル要素が電極/セパレータ/両面電極/セパレータ/電極という構成単位である多層固体リチウムイオン電池を製造する工程の概略図である。1201では、アノード集電体の両面にアノードフィルムを付けて、両面アノードを形成する。1203では、アノードの両面にセパレータフィルムを付ける。スタックは、例えば、カレンダーロールプレス機で高密度化される。1205では、アノード/セパレータの両面にカソードフィルムを付ける。これで、積層されて多層セルスタックになる予成形セル要素が形成される。1207では、カソード集電体を間に挟んで、予成形セル要素を積層する。示されている例において、集電体には各面に導電性接着剤のコーティングが設けられている。次いで1209では、スタックを熱プレス加工して、最終的な多層セルを形成する。
【0139】
図13は、予成形セル要素が電極/セパレータ/両面電極/セパレータ/電極/集電体という構成単位である多層セル固体リチウムイオン電池を製造する工程の概略図である。作業1301および1303を、図12の作業1201および1203に関して上述したように行う。1305では、アノード/セパレータの両面に(作業1305にあるように)カソードフィルムを付けて、スタックの一方の面に集電体を付ける。これで、積層されて多層セルになる予成形セル要素が形成される。1307では、予成形セル要素を積層する。示されている例において、集電体には各面に導電性接着剤のコーティングが設けられている。単一のカソード集電体を、露出したカソードを有するスタックの端部に追加する。次いで1309では、スタックを熱プレス加工して、最終的な多層セルを形成する。
【0140】
ここで説明した固体電極および電解質セパレータは複合フィルムである。複合電解質セパレータフィルムは、無機粒子を有機ポリマーと調合して作られてよい。複合フィルムの例を以下でさらに説明する。
【0141】
図14は、予成形セル要素を形成する方法における特定の作業を示した工程フロー図である。図14に示す例において、予成形セル要素は両面アノードを含む。最初に作業1401では、非リチウム金属複合フィルムをアノード集電体の両面に付ける。非リチウム金属活物質の例には、グラファイトおよびシリコンが含まれる。図14の例において、アノードは複合フィルムであり、結合剤として有機ポリマー、および固体電解質も含む。導電性添加剤も存在することがある。
【0142】
作業1401にはスラリーキャスト工程が含まれてよく、電極の乾燥固形成分が適切な溶媒と調合されて、基板にキャストされる。一部の実施形態では、集電体フィルムに、または集電体フィルムに転写されるリリースフィルム上に電極をキャストする。スラリーコーティング法としては、ドクターブレードコーティング、スロットダイコーティング、スプレーコーティング、スクリーン印刷、およびグラビアコーティングが挙げられる。あるいは、電極の乾燥固形成分を、乾燥無溶媒押し出し成形法でシートに成形してもよい。次いで、カレンダープレス機、ホットプレス機、または類似した手法を用いて、電極フィルムを集電体に付けてよい。
【0143】
一部の実施形態では、アノードフィルムおよびアノード集電体の間に導電性接着剤が配置される。導電性接着剤を用いる場合には、アノード複合フィルムを付ける前にアノード集電体に塗布する。一部の実施形態では、導電性接着剤を被覆した市販の金属箔を用いることがある。他の実施形態では、作業1401の前に導電性接着剤を塗布することがある。導電性接着剤の例を以下にさらに示す。
【0144】
作業1403では、両面アノードのアノード複合フィルムの高密度化および/または表面処理を任意選択で行うことができる。高密度化処理は、縦型熱プレス機、カレンダーロールプレス機、または他の手法を用いて行うことができる。セパレータを付ける前にアノードフィルムを高密度化する一部の実施形態では、セパレータフィルムの接触面積を大きくして接着を向上させ、高い界面イオン伝導性を提供するために、アノードフィルム表面をエンボス加工しても、粗くしても、または他の方法で物理的に処理してもよい。
【0145】
1405では、両面アノードの両面に複合電解質セパレータ(CES)を付ける。多くの実施形態において、CESは、上述した有機ポリマー相内にあるイオン伝導性無機粒子相の複合フィルムである。CESフィルムは従来のスラリーキャスト法で調製されてよく、セパレータの乾燥固形成分が適切な溶媒と調合されて、基板にキャストされる。あるいは、セパレータの乾燥固形成分を、乾燥無溶媒押し出し成形法でシートに成形してもよい。一部の実施形態では、セパレータをリリースフィルム上にキャストして、電極表面に転写する。一部の実施形態では、セパレータを電極表面に直接的にキャストする。スラリーコーティング法としては、ドクターブレードコーティング、スロットダイコーティング、スプレーコーティング、スクリーン印刷、グラビアコーティング、および類似した方法が挙げられる。自立型フィルムとしてセパレータを形成した場合、カレンダープレス機を用いて、セパレータをアノードに直接的に貼り合わせる。複合フィルムとしてリリースフィルム上にセパレータを形成した場合、カレンダープレス機を用いてセパレータをアノード表面に転写し、次いでリリースフィルムを取り除く。セパレータフィルムを付けることがカレンダープレス機を用いて行われるのは、これによって均一な圧力分布が得られるからである。セパレータの厚みの例としては、セパレータをアノードに付けて高密度化した後で、1μmおよび250μmの間、例えば、15μm、または5~10μmであってよい。
【0146】
セパレータを電極表面に付けた後に、作業1407では、次の電極フィルムを付ける前に、CES/アノード/集電体/アノード/CESスタックを高密度化する。他の電極フィルムを付ける前に高密度化の段階を行うことで、パフォーマンスが向上することになる。
【0147】
一部の実施形態において、任意選択の作業1408では、複合カソードフィルムの接触面積を大きくして接着を向上させ、高い界面イオン伝導性を提供するために、CESフィルムをエンボス加工しても、粗くしても、または表面処理してもよい。
【0148】
作業1409では、両方のセパレータフィルムの表面、すなわち、セル要素の上部および底部に複合カソードフィルムを付ける。カソードフィルムは従来のスラリーキャスト法で調製してよく、電極の乾燥固形成分が適切な溶媒と調合されて、基板にキャストされる。一部の実施形態では、電極をリリースフィルムなどの基板にキャストしてセパレータ表面に付けるか、またはセパレータ表面に直接的にキャストする。スラリーコーティング法としては、ドクターブレードコーティング、スロットダイコーティング、スプレーコーティング、スクリーン印刷、グラビアコーティング、または類似した方法が挙げられる。あるいは、電極の乾燥固形成分を、乾燥無溶媒押し出し成形法でシートに成形してもよい。次いで、カレンダープレス機、縦型プレートプレス機、または類似した手法を用いて、カソードフィルムをセパレータ表面に付けてよい。
【0149】
最初にカソードフィルムをリリースフィルムなどの基板に堆積させた場合、カソードフィルムを、セパレータフィルム表面に転写する前に高密度化してもよく、またはそうしなくてもよい。一部の実施形態では、セパレータフィルムの接触面積を大きくして接着を向上させ、高い界面イオン伝導性を提供するために、カソードフィルムをエンボス加工しても、粗くしても、または表面処理してもよい。
【0150】
作業1409の後に、カソード/CES/アノード/集電体/アノード/CES/カソードによるセル要素が形成される。任意選択の作業1411では、セル要素を高密度化してよく、および/またはカソードフィルムをエンボス加工しても、粗くしても、または他の方法で処理してもよい。予成形セル要素は、図11を参照して説明したように、カソード集電体と積層される準備ができている。
【0151】
図14を参照して上述した工程は、アノードおよびカソードの作業を入れ替えた状態に変更してもよく、その場合、予成形セル要素の組み立ては両面カソードから始まり、続いてカソードにセパレータを付けることなどがある。この場合、予成形セル要素はアノード集電体と積層される。
【0152】
また図13を参照して上述したように、図14の工程は、作業1409または1411の後で、その両方の電極表面のうちの一方に集電体を付けるように変更されてよい。
【0153】
別の実施形態において、積層工程は2つの種類の予成形セル要素を必要とする場合がある。一方の種類では最外電極フィルムがその表面に集電体を付けており、もう一方の種類では最外電極フィルムがその表面に集電体を付けていない。この方法では、両方の種類の予成形セル要素をカレンダープレス機で連続的に且つ均一に成形することが可能になる。これらの要素は次いで、積層工程中に一緒にプレス加工される。
【0154】
上述した実施形態の積層工程は、予成形セル要素、および一部の実施形態では集電体箔を受け取る段階、およびセル要素および集電体箔のスタックを一緒に熱プレス加工する段階を含む。これを全て一度に行ってもよく、または1つずつ行ってもよい。例として、熱プレス加工温度は25℃~200℃に及び、一部の実施形態では80℃~150℃の間である。多層セルに熱および圧力を印加することで、電極フィルムを集電体の表面に押し付けることができる。
【0155】
上述したように、一部の実施形態では、積層工程中に貼り合わせた集電体が、その表面に、電極フィルムとの接着を向上させる導電性接着剤の薄い層を有する。積層工程中に熱を印加することで、カソードまたはアノードフィルム、および集電体フィルムの表面に付いた導電性接着剤を軟化させることが可能になり、これにより、その両方の構成要素間の接着が向上する。この処理は、0.5MPa~200MPaに及ぶ圧力、一部の実施形態では1MPa~40MPaの間で行われることがある。
[結論]
【0156】
以上では、本発明およびその特定の実施形態を説明した。本発明の実施に際して、多数の変更例および変形例が当業者に思い付くことが想定される。例えば、上記明細書では、アルカリイオンまたはアルカリ金属電池向けの電解質および電極について説明しているが、説明した構成物は他の状況で用いられてよい。さらに、本明細書で説明した電池および電池構成要素は、特定のセル設計に限定されるものではない。そのような変更例および変形例は、以下の特許請求の範囲に包含される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
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図11
図12
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【国際調査報告】