(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-22
(54)【発明の名称】電気モーターの、および/または、その設置環境の振動挙動を判断する方法、ならびに、対応する電気モーターおよびファン
(51)【国際特許分類】
H02P 31/00 20060101AFI20240415BHJP
【FI】
H02P31/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566782
(86)(22)【出願日】2022-04-27
(85)【翻訳文提出日】2023-11-27
(86)【国際出願番号】 DE2022200076
(87)【国際公開番号】W WO2022233373
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】102021204463.8
(32)【優先日】2021-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510334790
【氏名又は名称】ジール・アベッグ エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シューベル、 ドミニク
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA08
5H501BB05
5H501BB09
5H501KK05
5H501LL47
(57)【要約】
電気モーターの、特に、ファンの電気モーターの、および/または、その設置環境の振動挙動を判断する方法が開示され、制動プロセスにおいて電気モーターのローターの回転運動を制動可能である。
開示される方法は、制動プロセスもしくは加速プロセスを開始することによって、または、制動プロセスもしくは加速プロセスを変更することによって、衝撃を発生させるステップと、少なくとも1つの振動センサを用いて、電気モーターの少なくとも一部の振動を検出することで検出振動値を生成するステップ(S3)と、前記検出振動値の周波数分析によってスペクトル成分を決定するステップ(S4)と、前記スペクトル成分を評価することで、電気モーターの、および/またはその設置環境の振動挙動を判断するステップ(S5)と、を含む。
さらに、本方法を実行するように構成されている、対応する電気モーター、ファンおよびシステムが開示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モーターの、特に、ファンの電気モーターの、および/またはその設置環境の振動挙動を判断する方法であって、制動プロセスにおいて前記電気モーターのローターの回転運動を制動可能な方法であって、
前記制動プロセスもしくは加速プロセスを開始することによって、または、前記制動プロセスもしくは加速プロセスを変更することによって、衝撃を発生させるステップと、
少なくとも1つの振動センサを用いて前記電気モーターの少なくとも一部の振動を検出することで検出振動値を生成するステップ(S3)と、
前記検出振動値の周波数分析によってスペクトル成分を決定するステップ(S4)と、
前記スペクトル成分を評価することで前記電気モーターの、および/またはその設置環境の振動挙動を判断するステップ(S5)と、
を含む方法。
【請求項2】
前記制動プロセスによって衝撃を発生させるステップが、
前記ローターを初速度にするステップ(S1)と、
前記ローターの速度を前記初速度から最終速度まで制動時間にわたって減速させる制動プロセスを開始するステップ(S2)と、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載された方法。
【請求項3】
前記振動挙動を判断する際に、1つ以上の共振点が決定され、その臨界性が評価され、好ましくは、スペクトル成分が所定の限界値を超える場合、および/または、検出された振動が評価周波数のオーダーによって支配される場合に、共振点の存在が決定されることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載された方法。
【請求項4】
前記振動挙動を判断する際に、少なくとも1つの種類の振動が判断され、
前記少なくとも1つの種類の振動が、傾き、ぐらつき、ねじれ、および/または軸方向のポンピングを含むことを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載された方法。
【請求項5】
同期が、前記衝撃と検出振動値の前記生成との間で実行され、
前記同期が、好ましくは、前記電気モーターのモーター電子機器によって、および/または、前記少なくとも1つの振動センサのセンサ信号のピークの検出によって、実行されることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載された方法。
【請求項6】
前記電気モーターの少なくとも一部の前記振動が、少なくとも1つの軸に沿って、好ましくは、複数の軸に沿って、検出され、
前記少なくとも1つの軸または前記複数の軸の1つが、前記ローターの回転軸と平行であることを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載された方法。
【請求項7】
急速な制動が、好ましくは、短絡制動が、前記制動プロセス中に実行されることを特徴とする、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載された方法。
【請求項8】
前記制動プロセスが開始されたとき、および/または、前記最終速度に到達したときに、検出振動値の前記生成が開始されることを特徴とする、請求項2乃至請求項7のいずれか一項に記載された方法。
【請求項9】
前記初速度が、毎分100回転以上、好ましくは、毎分200回転以上であり、かつ/または、前記初速度が、前記電気モーターの定格速度の30%以下、好ましくは、前記電気モーターの定格速度の20%以下、より好ましくは、前記電気モーターの定格速度の10%以下であることを特徴とする、請求項2乃至請求項8のいずれか一項に記載された方法。
【請求項10】
前記最終速度が、毎分50回転以下、好ましくは、毎分25回転以下、特に好ましくは、0回転であることを特徴とする、請求項2乃至請求項9のいずれか一項に記載された方法。
【請求項11】
前記制動時間が、10秒以下、好ましくは、5秒以下、特に好ましくは、3秒以下となるように選択されることを特徴とする、請求項2乃至請求項10のいずれか一項に記載された方法。
【請求項12】
フーリエ変換、好ましくは、FFT(高速フーリエ変換)、および/または、ゲルツェルアルゴリズムを用いてスペクトル成分を生成することを特徴とする、請求項1乃至請求項11のいずれか一項に記載された方法。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれか一項に記載された方法を実行するように構成されている電気モーターであって、
軸/シャフトの周りを回転するように取り付けられているローターと、
制動プロセスもしくは加速プロセスを開始することによって、または、制動プロセスもしくは加速プロセスを変更することによって、衝撃を発生させる衝撃発生装置と、
前記電気モーターの少なくとも一部の振動を検出し、検出振動値を生成するように構成されている振動センサと、
前記検出振動値のスペクトル成分を決定するように構成されている分析ユニットと、
前記スペクトル成分を評価することで前記振動挙動を評価するように構成されている評価ユニットと、を備える電気モーター。
【請求項14】
前記振動センサが、前記電気モーターに一体化されているか、もしくは、前記電気モーターのハウジングの外側に配置されている、かつ/または、前記振動センサが、前記電気モーターの電子機器ハウジング内に配置されていることを特徴とする、請求項13に記載された電気モーター。
【請求項15】
前記電気モーターの動作中に該電気モーターを制御するモーター電子機器を特徴とし、
該モーター電子機器が、判断された振動挙動を用いて前記電気モーターを制御し、それによって、前記電気モーターの好ましくない振動挙動を伴う速度を回避することを特徴とする、請求項13または請求項14に記載された電気モーター。
【請求項16】
請求項1乃至請求項12のいずれか一項に記載された方法を実行するように構成されているファンであって、羽根車と、請求項13乃至請求項15に記載された電気モーターと、を備え、
前記羽根車が、前記電気モーターのローターに連結されていることを特徴とする、ファン。
【請求項17】
設置環境と駆動機構とを含むシステムであって、
前記駆動機構が、請求項13乃至請求項15のいずれか一項に記載された電気モーターおよび/または請求項16に記載されたファンを含み、
前記設置環境が、前記駆動機構と相互作用し、
前記駆動機構が、該駆動機構の振動と前記設置環境の振動との両方を検出して評価するように構成されていることを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気モーターの、特に、ファンの電気モーターの、および/または、その設置環境の振動挙動を判断する方法、ならびに、その方法を実行するように構成されている、電気モーター、ファンおよびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気モーターが動作すると、適切な動作か不適切な動作かに関わらず、振動が発生する。
この振動は、電気モーター自体から発生している場合があり、かつ/または、電気モーターの駆動対象(例えば、ファンの羽根車)および/もしくは電気モーターの設置環境によって励振される場合がある。
実際には、(例えば、バランスの不均衡による)調和励振、(例えば、ノイズによる)確率的励振、または、(例えば、衝撃または衝撃シーケンスによる)パルス励振が発生する可能性がある。
これらの励振が、構造特有の適切な動作を刺激すると、共振が発生する可能性がある。
このような共振によって、振動のオーバーシュートが引き起こされる。
【0003】
多くの共振、特に、バランスの不均衡によって引き起こされる共振は、電気モーターの速度に依存する。
共振は、例えば、騒音の増加や電気モーターの耐用年数に悪影響を与えるなど、電気モーターの動作に悪影響を与えるため、共振を引き起こす速度で電気モーターを可能な限り動作させないようにする試みが行われる。
これは、例えば、共振を引き起こす速度を急速に超えることによって、および/または、共振を引き起こす速度での動作を許可しないことによって、実行可能である。
このアプローチは、特に、ファンを使用する場合、通常は、問題なく実行可能である。
【0004】
共振点での動作を回避するには、共振が発生する速度を知る必要がある。
この目的のために、製造後にテストベンチで電気モーターを測定することが知られている。
共振が発生する速度には、さまざまな影響要因があり、主に、電気モーターの設置状況に依存するため、電気モーターの出荷前にテストベンチで共振点を判断するだけでは充分ではないことがよくある。
したがって、振動検出用のセンサが取り付けられた電気モーターが知られている。
このような電気モーターは、例えば、特許文献1および特許文献2に記載されている。
【0005】
共振点を検出するには、電気モーターの振動を検査する必要がある。
特に、ファンの場合、この検査は、通常、起動動作中または停止動作中に行われる。
起動動作中、ファンは、理想的には、直線的な速度傾斜で、所定の時間内に最低速度(通常は、ファンの停止状態)から最高速度まで加速される。
停止動作中、速度は、ゼロ以外の開始速度(通常は、最高速度)から最低速度まで減速される。
どちらの場合も、電気モーターの振動が検出され、速度の関数として評価される。
このような振動挙動の検出については、例えば、特許文献3および特許文献4を参照されたい。
【0006】
検出された振動値が、例えば、7ミリメートル/秒(RMS-二乗平均平方根)、または、9ミリメートル/秒(RMS)など、事前に定義された限界値を超える場合、共振点が存在するとみなされる。
このような限界値は、ISO14694などの規格や他の規制で、しばしば定義される。
この限界値を超えるすべての速度は、「禁止」速度として記録可能であり、可能な限り使用しないか、その後の動作中に、すぐにその速度を超過する可能である。
【0007】
振動挙動のこのような評価の欠点は、起動動作や停止動作が必要であることである。
共振点が変化しない用途では、電気モーターの試運転中にこのようなテストランを実施するだけで充分である。
しかし、実際には、例えば、堆積物や磨耗/経年変化、あるいは、(システムの調整や拡張、メンテナンスなどによる)ファンの設置環境の変化の結果として、共振点は、変化する。
このような状況では、少なくとも場合によって、新たなテストランを実行する必要がある。
特に連続動作で使用される電気モーターの場合、追加のメンテナンス期間が必要となり、かなりのコストがかかる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許出願公開第102018211838(A1)号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102018211846(A1)号明細書
【特許文献3】独国実用新案第202019101262(U1)号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第102018211850(A1)号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第102021203932(A)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、電気モーターの、および/または、その設置環境の振動挙動が簡単な方法で(可能であれば、時間がかからない測定方法で)判断可能なように、上述の種類の方法、電気モーター、ファンおよびシステムを設計および発展させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題は、本発明によると、請求項1の特徴によって解決される。
その方法は、
制動プロセスもしくは加速プロセスを開始することによって、または、制動プロセスもしくは加速プロセスを変更することによって、衝撃を発生させるステップと、
少なくとも1つの振動センサを用いて前記電気モーターの少なくとも一部の振動を検出することで検出振動値を生成するステップと、
前記検出振動値の周波数分析によってスペクトル成分を決定するステップと、
前記スペクトル成分を評価することで前記電気モーターの振動挙動を判断するステップと、
を含む方法である。
【0011】
方法に関する上述の課題は、請求項13に記載された本発明の特徴によって解決される。
請求項13によると、主題の電気モーターは、
軸/シャフトの周りを回転するように取り付けられているローターと、
制動プロセスもしくは加速プロセスを開始することによって、または、制動プロセスもしくは加速プロセスを変更することによって、衝撃を発生させる衝撃発生装置と、
前記電気モーターの少なくとも一部の振動を検出して検出振動値を生成するように構成されている振動センサと、
前記検出振動値のスペクトル成分を決定するように構成されている分析ユニットと、
前記スペクトル成分を評価することで前記振動挙動を評価するように構成されている評価ユニットと、を備える電気モーターである。
【0012】
ファンに関する上述の課題は、請求項16の特徴によって解決される。
請求項16によると、主題のファンは、
羽根車と、本発明による電気モーターと、を備え、
前記羽根車が、前記電気モーターのローターに連結されているファンである。
【0013】
システムに関する上述の課題は、請求項17の特徴によって解決される。
請求項17によると、そのシステムは、設置環境と駆動機構とを含むシステムであって、
前記駆動機構が、本発明による電気モーターおよび/または本発明によるファンを含み、
前記設置環境が、前記駆動機構と相互作用し、
前記駆動機構が、該駆動機構の振動と前記設置環境の振動とを検出して評価するように構成されているシステムである。
【0014】
本発明によれば、電気モーターの振動挙動および設置環境を単一の検査によって容易に判断可能であり、起動動作または停止動作を行う必要がないことが、まず、認識された。
本発明によれば、この目的のために、制動プロセスもしくは加速プロセスによって、または、制動プロセスもしくは加速プロセスを変更することによって、「衝撃」が生成される。
「衝撃」は、制動プロセスの場合には、「制動ショック」とも呼ばれ、加速プロセスの場合には、「加速ショック」とも呼ばれる。
一般的に言えば、衝撃は、ローターの回転運動を適切に制御/調整することで引き起こされる。
【0015】
電気モーターのローターに制動をかけると、慣性モーメントが制動プロセスを妨げる。
これにより、電気モーターと設置環境とからなるシステムの機械的励振を実現でき、このことは、音叉を叩くことに似ている。
音叉を叩くと、パルスが構造物(つまり音叉)を励振させることで振動が発生し、この振動は、構造物の固有振動数で決定される。
「制動ショック」は、このことに非常によく似た影響を電気モーターに与える。
結果的に生じる励振では、構造物(この場合は、電気モーターとその設置環境)を刺激することで振動が発生し、この振動は、構造物の固有振動数で決定される。
このように「制動ショック」直後の電気モーターの少なくとも一部の振動を検出することにより、設置環境および/または電気モーターの振動挙動を判断可能である。
【0016】
同様の説明が、「加速ショック」の場合にも当てはまる。
事実として、加速ショックによる振動以外にも、ローターの回転運動による振動も存在する。
しかし、この回転運動に関連した振動は、「加速ショック」による振動と全く同じように電気モーターの振動挙動を説明可能であるため、振動挙動を判断する上では、重要ではない。
【0017】
本発明による方法では、「制動ショック」または「加速ショック」を開始することによって、衝撃が発生する。
これは、制動プロセスもしくは加速プロセスによって、または、制動プロセスの変更もしくは加速プロセスの変更をすることによって実施される。
「制動ショック」や「加速ショック」による振動を振動センサで検出し、その際に発生する振動の検出値を周波数分析する。
この分析により、電気モーターおよび/またはその設置環境の振動挙動を判断するために評価可能なスペクトル成分が決定される。
【0018】
本発明による電気モーターは、ローターと、衝撃発生装置と振動センサと分析ユニットと評価ユニットとを備える。
ローターは、軸またはシャフトの周りを回転するように取り付けられている。
衝撃発生装置は、制動プロセスを開始または変更したり、加速プロセスを開始または変更したりすることができる。
振動センサは、電気モーターの少なくとも一部の振動を検出し、検出振動値を生成可能である。
分析ユニットは、検出振動値のスペクトル成分を決定可能であり、それが評価ユニットによって評価される。
さらに、他のユニット、例えば、振動センサからのセンサ信号をデジタル変換するアナログデジタル変換器、別の振動量に変換する積分器/微分器、または、振動値をフィルタリングするバンドパスフィルターが存在していてもよい。
【0019】
本発明は、多種多様な電気モーターおよび電気モーターの多種多様な駆動対象と関連して使用可能である。
電気モーターおよび電気モーターの設置環境を充分に励振させて振動を発生させる衝撃を発生可能である限り、その電気モーターを本開示に関連して使用可能である。
この目的のために、電気モーターは、通常、小さすぎてはならない。
通常、そのような電気モーターは、数百ワット、好ましくは、数キロワット以上の出力を有することが多い。
特に「加速ショック」を用いる際は、ローターの、および/または、ローターの駆動対象の慣性モーメントが充分に大きいと、有用である。
電気モーター自体は、電子的に整流されるモーターとして構成可能である。
羽根車を電気モーターの駆動対象として使用可能であり、この場合、羽根車は、電気モーターのローターに連結され、電気モーターは、ファンの一部となる。
ファンは、さまざまな態様で構成可能である。
例としては、軸流ファンや遠心ファンが挙げられる。
【0020】
ここで、「設置環境」という用語は、振動という観点で電気モーターと相互作用するあらゆるものを指す。
このことは、設置環境が電気モーターに振動を伝達する可能性があり、かつ、電気モーターが設置環境に振動を伝達する可能性があることを意味する。
設置環境には、例えば、電気モーターの取り付け部、電気モーターを含むシステムの構成要素、外部ハウジング、電気モーターの駆動対象などが含まれてもよい。
【0021】
「振動センサ」も、電気モーターの少なくとも一部からの振動を検出可能である限り、様々な態様で構成可能である。
さまざまな技術が使用可能であり、MEMS(微小電気機械システム)センサの使用は、単なる一例にすぎない。
【0022】
「衝撃発生装置」は、様々な態様で構成可能である。
これは、専用ユニットとして存在してもよいし、電気モーターの別の構成要素で形成されてもよい。
衝撃発生装置が「加速ショック」を生成する場合、衝撃発生装置は、例えば、電気モーターの実際の駆動機構(すなわち、ステータとそれと相互作用するローター)によって形成されていてもよい。
「加速ショック」を生成する場合、一定の加速度から(特定の速度または動作点への)一定の動作条件へ移行可能である。
しかし、初速度から最終速度へ加速してもよく、ここでは、ローターの停止状態やゼロではない速度を初速度として使用可能である。
長すぎる加速時間が設定されて、過度な「加速ショック」を引き起してはならない。
10秒以下、好ましくは、5秒以下、より好ましくは、3秒以下の加速時間がおそらく適切である。
【0023】
衝撃発生装置が「制動ショック」を引き起こす場合、衝撃発生装置は、「制動装置」によって形成可能である。
このような「制動装置」は、様々な態様で実施可能である。
制動装置が、目標とする態様で電気モーターのローターに制動をかけることができることが、重要である。
どのように実施するかの詳細は、二の次である。
一実施形態では、制動装置は、回転エネルギーが摩擦によって熱に変換される機械制動によって形成される。
別の実施形態では、制動装置は、磁場によってローターに制動をかける電気制動によって形成される。
電気制動は、例えば、ステータ内の適切な磁界によって、および/または、ローター内に電流を生成することで、実施可能である。
後者は、短絡に至るまでのローターの巻線の電気抵抗によって発生させてもよく、電流の流れは、ステータ磁界内のローターの回転運動によって誘導される電圧によって駆動される。
【0024】
一実施形態では、衝撃は、制動プロセスによって引き起こされ、衝撃を生成することは、ローターを初速度にすることと、制動プロセスを開始して、ローターの速度を初速度から最終速度まで制動時間にわたって減速させることとを含む。
これにより、特に、効果的に「制動ショック」を発生可能である。
【0025】
制動動作中に「制動ショック」を引き起こすほど初速度がゼロから充分に乖離している限り、さまざまなローター速度を「初速度」として使用可能である。
原則として、初速度は、電気モーターの定格速度であってもよい。
しかし、ほとんどの場合、定格速度または最大速度を大幅に下回る初速度で充分である。
【0026】
また、「最終速度」は、様々な速度とすることができる。
最終速度が初速度よりも低く、制動プロセスで充分な「制動ショック」が発生することが重要である。
また、ローターが、まだ回転中であるが、最終速度において振動がまったく発生しないか、せいぜいわずかな振動しか発生しない速度も、最終速度として使用可能である。
最終速度は、ローターの停止、つまり、ゼロまたはゼロに近い速度になる。
【0027】
「制動時間」は、使用する電気モーター、初速度、および/または、最終速度の関数として定義可能である。
ここでも、充分な「制動ショック」を発生させるために制動プロセスが充分に短いことが重要である。
同時に、制動プロセスが引き起こす大きな機械的負荷に対処する必要性を無くすために、制動時間が短すぎてはならない。
したがって、数秒の範囲の制動時間が適切である場合がある。
【0028】
一実施形態では、「初速度にする」ことは、テストモードでローターを明示的に加速するか、必要に応じて、初速度まで減速することによって達成されてもよい。
別の実施形態では、この方法が、電気モーターの動作を一時停止する際の開始時に使用されてもよい。
この場合、初速度への到達は、ローターの惰性回転によって、または、「弱い」制動をかけることによって実施可能であり、初速度に到達すると、「制動ショック」によって実際の制動プロセスを開始可能である。
【0029】
一実施形態では、振動挙動を判断するとは、1つ以上の共振点を特定し、それらの臨界性を評価することを含む。
このようにすると、振動挙動の重要な部分を判断可能である。
原理的には、実際の経験から知られている様々な方法をこの目的で使用できる。
さらに、発展的な態様では、スペクトル成分が所定の限界値を超える場合、共振点の存在が決定される。
別のさらに発展的な態様では、検出された振動が、重み付け周波数のオーダーによって支配される場合に、共振点の存在が決定される。
このような方法は、例えば、特許文献5に記載されている。
【0030】
一実施形態では、振動挙動を判断するとは、少なくとも1つの振動モードを判断することを含み、少なくとも1つの振動モードには、例えば、傾き、ぐらつき、ねじれ、および/または、軸方向のポンピングが含まれる。
振動の種類は、電気モーターやその設置環境が実際にどのように振動するかを表している。
このようにすると、電気モーターの動作にとって重要である可能性のある様々な結論を導出可能である。
傾きは、電気モーターが、軸の周りで傾くかどうか、また、どのように傾くかを表す。
ぐらつきは、ローターの回転軸がどのように変化するかを表す。
傾きは、振動の一次のオーダーで表現可能である。
ねじれは、電気モーターが軸(通常は、モーター軸/モーターシャフト)を中心に、または、付属品(ファンのノズルなど)に対して、どのようにねじれるかを表し、揺動トルクを表す。
軸方向のポンピングは、駆動対象に依存してもよい。
例えば、軸流ファンでは、この軸方向のポンピングは、ブレードの数に依存する場合がある。
振動形状を判断することで、振動挙動がさらに特定可能になることがわかる。
【0031】
一実施形態では、同期が、衝撃と検出振動値の生成との間で実行され、同期が、電気モーターのモーター電子機器によって、および/または、少なくとも1つの振動センサのセンサ信号のピークの検出によって、実行されることが好ましい。
同期を実行することで、検出振動値をより的を絞って処理可能になる。
同期のためにモーター電子機器を使用することは、本発明で用いられるユニットの一部(例えば、分析ユニットや評価ユニット)が、モーター電子機器に実装されている場合、および/またはモーター電子機器が制動プロセスを制御する場合に、特に役立つ。
特に、制動プロセスを開始することで、検出された振動値の中に容易に識別可能な明確な振動ピークが発生している場合があるため、ピークを検出可能である。
しかし、ローターが静止状態になるときなど、他の状況でも、振動のピークが発生する可能性はある。
【0032】
一実施形態では、電気モーターの少なくとも一部の振動が、少なくとも1つの軸に沿って、好ましくは、複数の軸に沿って、検出され、その少なくとも、1つの軸または複数の軸のうちの1つが、ローターの回転軸と平行である。
このようにすると、振動を特に効果的かつ包括的に検出可能である。
複数の軸がある場合、それらが互いに直交していてもよい。
例えば、振動センサは、1つの軸がモーター軸/モーターシャフトに平行な、互いに垂直な3つの軸に沿って一体で測定可能である。
【0033】
一実施形態では、制動プロセスには、急速な制動、好ましくは、短絡制動が含まれる。
急速な制動によって、ローターを制御状態で素早く減速することができる。
短絡制動により、非常に大きな制動ショックが発生する。
【0034】
一実施形態では、検出振動値の生成は、制動プロセスが開始されたとき、および/または、最終速度に到達したときに開始される。
制動プロセスを開始したときに検出振動値の生成を開始すると、制動ピークの使用が可能になる。
最終速度に到達したときに検出振動値の生成を開始すると、制動プロセスの終わりのピークの使用が可能になり、このことは、検出された振動が実質的にローターの回転運動の影響を受けていないことを意味している。
どちらの場合も、振動を継続的に測定したり、振動値を一時メモリにバッファリングしたりすることができる。
このようにすると、検出された振動値を、制動プロセスが開始される直前、または、最終速度に到達する前に検出可能である。
【0035】
一実施形態では、初速度が毎分100回転以上、好ましくは、毎分200回転以上であり、かつ/または、初速度が電気モーターの定格速度の30%以下、好ましくは、電気モーターの定格速度の20%以下、より好ましくは、電気モーターの定格速度の10%以下である。
多くの場合、振動挙動を判断するには、毎分100回転の初速度で充分である。
毎分200回転の初速度では、制動ショックがさらに顕著になる。
定格速度の30%以下の初速度では、ローターの静止状態から素早く初速度に到達できるため、顕著な制動ショックを伴いながら迅速に処理を実行できる。
定格速度の20%では、ローターは、さらに早く初速度に到達する。
公称速度の10%では、このプロセスは、特に迅速に完了するが、それでも充分に強い制動ショックを発生可能である。
【0036】
一実施形態では、最終速度が、毎分50回転以下、好ましくは、毎分25回転以下、より好ましくは、毎分0回転である。
毎分50回転以下の最終速度では、ローターに残っている回転運動は、実質的に振動への影響を及ぼさない。
最終速度が毎分25回転以下の場合、ローターに残っている回転運動の影響は、さらに小さくなる。
最終速度を0回転にすると、回転運動の影響が排除され、振動値の静止ピークを使用可能になる。
【0037】
一実施形態では、制動時間が、10秒以下、好ましくは、5秒以下、より好ましくは、3秒以下となるように選択される。
制動時間は、制動プロセスに対する厳密な要件ではなく、例えば、制動力を制御することで設定するべきであることに留意されたい。
概ね制動時間内に制動プロセスが完了すれば、充分である。
通常、制動時間は、制動を指定することで適切に推定可能である。
これは、制動時間に影響を与える慣性モーメント、制動力、その他の量が、通常は、既知であるか、推定可能なためである。
【0038】
一実施形態では、フーリエ変換、好ましくは、FFT(高速フーリエ変換)、および/またはゲルツェル(Goertzel)アルゴリズムを用いてスペクトル成分を生成する。
フーリエ変換またはFFTには、それらを用いることでスペクトル成分に関する広範な知識が得られるという利点がある。
ゲルツェルアルゴリズムを用いると、スペクトル成分を特に効率的に決定可能である。
潜在的に存在する振動および/または共振点についての事前の知識がすでに利用可能な場合、特に有利である。
【0039】
一実施形態では、振動センサが電気モーターに一体化されているか、もしくは、電気モーターのハウジングの外側に配置されている、かつ/または、電気モーターの電子機器ハウジング内に配置されている。
振動センサを電気モーターに一体化させることで、振動を明確に検出できるという利点がある。
さらに、制動プロセスの開始と振動の検出との間の時間同期を単純化できる。
振動センサを電気モーターのハウジングの外側に配置させることで、特に、既存の電気モーターが優れた改造性を有するようになる。
どちらの場合でも、つまり、振動センサを一体化させる場合または外部に取り付ける場合でも、電子機器ハウジングを使用することで、電子機器ハウジング内で利用可能な電子機器および/または電源も使用可能であるという利点がある。
例えば、電子機器のマイクロコントローラを使用すると、分析ユニットまたは評価ユニットを実装するためのソフトウェアを処理可能である。
同時に、マイクロコントローラのアナログ/デジタル変換器を使用すると、振動センサのセンサ信号のデジタル化が可能である。
【0040】
一実施形態では、電気モーターは、電気モーターの動作中に電気モーターを制御するモーター電子機器を備え、このモーター電子機器が、判断された振動挙動を用いて電気モーターを制御し、それによって、電気モーターの好ましくない振動挙動を伴う速度を回避する。
このように、振動挙動を特定することで、電気モーターの動作を改善可能である。
好ましくない振動挙動を伴う速度は、好ましくない振動挙動を伴うスペクトル成分に起因する場合がある。
この速度は、スペクトル成分を60倍し、振動のオーダー(基本周波数の倍数)で割ると計算可能である。
モーター電子機器が、制動プロセスを制御および/または調整可能である。
【0041】
本発明を発展させ、改良するさまざまな態様がある。
図面を参照する、独立請求項に従属する請求項および本発明の実施形態の説明を参照されたい。
一般的に、本発明の実施形態およびさらなる発展的な実施形態が、図面に基づく本発明の実施形態の説明に関連して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明による電気モーターの一実施形態の断面図である。
【
図2】本発明による方法の一実施形態のステップを示すフローチャートである。
【
図3】Z軸に沿う検出された振動値の時間データを示す図である。
【
図4】
図3による時間データの周波数分析を示す図である。
【発明の詳細な説明】
【0043】
図1は、本発明による電気モーター1の一実施形態のステータ2の断面図を示す。
モーター軸3には、軸受管4が形成されており、その長手方向の端部それぞれに軸受取り付け領域5が形成されている。
軸受(不図示)が、軸受取り付け領域5内に収容され、その軸受を介して電気モーター1のシャフト(不図示)が回転可能に取り付けられる。
ステータブッシング6は、アルミニウム部品によって形成され、その一端には、軸受管4が形成され、他端には、モーター電子機器を収容する電子機器ハウジング7が形成されている。
モーター電子機器は、供給信号を生成し、その信号をステータの巻線および/またはローターの巻線に出力する。
わかりやすさのために、モーター電子機器のプリント回路基板8のみが示されている。
振動センサ9が、プリント回路基板8上に配置されている。
プリント回路基板8は、埋込用樹脂10、11内に埋め込まれており、埋込用樹脂10、11は、プリント回路基板8のエッジ領域に接着されている。
具体的には、埋込用樹脂10は、連結要素として機能し、ステータブッシング6からの振動をプリント回路基板8、したがって、振動センサ9に伝達する。
さらなる連結要素として、ねじ12が存在し、電子機器ハウジング7の穴13にねじ込まれている。
このように、振動センサ9を電気モーター1内に配置可能であり、電気モーター1の少なくとも一部の振動を検出可能である。
このような電気モーターが、本明細書に開示される方法で使用されてもよい。
【0044】
図2は、本発明による方法の実施形態のフローチャートを示し、本実施形態では、「制動ショック」が引き起こされる。
ステップS1では、ローターの回転速度が初速度にされる。
この初速度は、例えば、毎分200回転である。
ステップS2では、電気モーターのローターを初速度から最終速度(この場合、静止状態)まで制動する制動プロセスが開始される。
ステップS3では、電気モーターの少なくとも一部の振動が振動センサにより検出され、検出振動値が生成される。
ここでは、
図1による電気モーターの振動センサ9が使用可能である。
ステップS4では、取得した振動値に周波数分析、例えば、FFTを実施して、スペクトル成分を決定する。
ステップS5では、電気モーターおよび/またはその設置環境の振動挙動が判断される。
この目的のために、決定されたスペクトル成分が評価される。
【0045】
図3は、振動センサの時間信号の曲線を示し、モーター軸3/モーターシャフトに平行な振動の加速度値(単位:m/s2)が経時的(単位:秒)に示されている。
最初に、電気モーターの初速度での回転運動に起因する振動値を測定する。
時間tB(図示の時間尺度で約2.3秒後)において、制動プロセスが開始され、制動ピーク14が発生する。
その後、約1.4秒間、ローターは、減速され、ローターは、時間tS(約3.7秒)で静止状態になる。
静止状態で、静止ピーク15が発生する。
振動挙動を判断するために、振動値が静止ピーク15から検出され、一例として評価される。
【0046】
図4は、静止ピーク15からの、
図3による時間信号のスペクトル成分を示す。
スペクトル成分の振幅(単位:m/s2)が周波数(単位:ヘルツ)に対してプロットされている。
周波数0ヘルツのピークに加えて、約27ヘルツ、約35ヘルツおよび約58ヘルツの3つの異なるピークが形成されていることがわかる。
このことから、潜在的な共振点を特定可能である。
各共振点が一次のオーダーの共振点であると仮定すると、理論的には、毎分1620回転、毎分2100回転、および、毎分3480回転で臨界速度になる。
例えば、最大毎分2400回転で回転可能な電気モーターの場合、問題となる可能性があるのは、最大でも前述の最初の2つの速度値である。
3番目の共振点は存在する可能性はあるが、実際の動作では、高次のオーダーでの励振にのみ関係する。
【0047】
さらに有利な実施形態については、繰り返しを避けるために、上述の説明の一般的な部分および添付の特許請求の範囲を参照されたい。
【0048】
最後に、上記の実施形態は、特許請求の範囲に記載された発明を説明するためにのみ使用され、これらの実施形態に限定するものではない。
【符号の説明】
【0049】
1 ・・・電気モーター
2 ・・・ステータ
3 ・・・モーター軸
4 ・・・軸受管
5 ・・・軸受取り付け領域
6 ・・・ステータブッシング
7 ・・・電子機器ハウジング
8 ・・・回路基板
9 ・・・振動センサ
10 ・・・埋込用樹脂
11 ・・・埋込用樹脂
12 ・・・ねじ
13 ・・・穴
14 ・・・制動ピーク
15 ・・・静止ピーク
【国際調査報告】