(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-22
(54)【発明の名称】分離特性を向上させた中空糸膜フィルタ
(51)【国際特許分類】
A61M 1/18 20060101AFI20240415BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240415BHJP
B01D 63/02 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
A61M1/18 517
A61M1/18 513
B01D69/00
B01D63/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568314
(86)(22)【出願日】2022-05-10
(85)【翻訳文提出日】2023-12-13
(86)【国際出願番号】 EP2022062580
(87)【国際公開番号】W WO2022238373
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】102021112314.3
(32)【優先日】2021-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597075904
【氏名又は名称】フレゼニウス メディカル ケア ドイッチェランド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100170634
【氏名又は名称】山本 航介
(72)【発明者】
【氏名】ガスタウアー パウル
(72)【発明者】
【氏名】クーゲルマン フランツ
(72)【発明者】
【氏名】パウル ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ルフィング アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ファイト トビアス
【テーマコード(参考)】
4C077
4D006
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077CC02
4C077CC04
4C077CC06
4C077CC07
4C077EE01
4C077EE03
4C077LL05
4D006GA13
4D006HA02
4D006JA01B
4D006JA02A
4D006JA02B
4D006JA25A
4D006JA25B
4D006JA25C
4D006JA27C
4D006MA01
4D006MA31
4D006MA33
4D006MC40
4D006MC62
4D006PA01
4D006PB09
4D006PC47
(57)【要約】
本発明は、向上した分離特性を有する液体を浄化するための中空糸膜フィルタに関するものであり、円筒形ハウジングと、円筒形ハウジングのそれぞれ第1及び第2の端部を囲む第1の流入室又は流出室及び第2の流入室又は流出室と、を備え、中空糸膜フィルタは、円筒形ハウジング内部の中空糸膜への改善された液体流入を行い得るような、中空糸膜の有効長と円筒形ハウジングの内径との或るアスペクト比を有する。
【選択図】
図1b
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜フィルタ(100)であって、
長手方向に中心軸(A)に沿って延び、ハウジング内部空間(102)と、第1の端部(104)を備えた第1の端部領域(103)と、第2の端部を備えた第2の端部領域と、を有する円筒形ハウジング(101)と、
150~190μmの内径と25~38μmの壁厚とを有する複数の中空糸膜であって、前記中空糸膜は、前記円筒形ハウジング(101)内に配置されて、前記円筒形ハウジングの前記第1の端部領域(103)及び前記第2の端部領域においてポッティングゾーン(106)でそれぞれのポッティング化合物(105)中に密封して埋め込まれ、前記中空糸膜の前記端部は開口しており、前記中空糸膜のルミナが第1の流動空間を形成し、前記中空糸膜を取り囲む前記ハウジング内部空間(102)が第2の流動空間を形成するようになる、複数の中空糸膜と、
第1の流入空間又は流出空間(107)であって、第1の流入空間又は流出空間(107)の各々が前記円筒形ハウジング(101)の前記第1の端部(104)及び前記第2の端部の前端と前記ポッティングゾーン(106)とに隣接し、且つ前記中空糸膜フィルタの前記第1の流動空間と流体連通しており、第1の流入空間又は流出空間(107)の各々が前記第1の流入空間又は流出空間(107)の中/外に液体を導くための第1の液体アクセスポイント(108)を有する、第1の流入空間又は流出空間(107)と、
前記円筒形ハウジング(101)の前記第1及び前記第2の端部領域を取り囲む第2の流入空間又は流出空間(109)であって、前記第2の流動領域と流体連通して、各々の第2の流入空間又は流出空間(109)が前記第2の流入空間又は流出空間(109)の中/外に液体を導くための第2の液体ポート(116)を有する、第2の流入空間又は流出空間(109)と、
前記第1の流入空間又は流出空間(107)を前記第2の流入空間又は流出空間(109)から分離するそれぞれのシール(110)と、
前記第2の流入空間及び/又は流出空間(109)と前記第2の流動空間との間に流体接続を形成する、前記円筒形ハウジングの前記端部領域(103)にある流路開口部(113)と、を備える、中空糸膜フィルタ(100)において、
前記中空糸膜フィルタの実有効長と前記円筒形ハウジングの内径とのアスペクト比が8~12である、
ことを特徴とする中空糸膜フィルタ(100)。
【請求項2】
前記中空糸膜フィルタの前記膜表面積が1.2~2m
2である、ことを特徴とする、請求項1に記載の中空糸膜フィルタ(100)。
【請求項3】
前記中空糸膜の前記実有効長は270~320mmである、請求項1又は2に記載の中空糸膜フィルタ(100)。
【請求項4】
前記円筒形ハウジング(101)の内径が25~35mmである、ことを特徴とする、請求項1~3の内の少なくとも1項に記載の中空糸膜フィルタ(100)。
【請求項5】
前記中空糸膜の充填密度が50~70%である、ことを特徴とする、請求項1~4の内の少なくとも1項に記載の中空糸膜フィルタ(100)。
【請求項6】
前記中空糸膜フィルタは、前記中空糸膜が波状形状を有することを特徴とし、特に、前記中空糸膜の前記波状形状の振幅は0.1~0.5mmであり、前記中空糸膜の前記波状形状の波長は5~10mmである、ことを特徴とする、請求項1~5の内の少なくとも1項に記載の中空糸膜フィルタ(100)。
【請求項7】
前記円筒形ハウジングの前記端部領域において、全ての前記流路開口部(113)の流動断面積の和と前記少なくとも1つの第2の流入空間又は流出空間(109)の流動断面積との比が、0.5:1~7:1、又は0.75:1~5:1、又は1:1~3:1の範囲にある、ことを特徴とする。請求項1~6の内の少なくとも1項に記載の中空糸膜フィルタ。
【請求項8】
前記円筒形ハウジング(101)の前記端部領域において、前記第2の液体アクセスポイントから始まって前記円筒形ハウジング(101)の中心軸(A)に向かう前記流入空間又は流出空間(109)が、回転対称な周方向空間、特に環状間隙を形成する、ことを特徴とする、請求項7に記載の中空糸膜フィルタ(100)。
【請求項9】
前記流路開口部(113)が、前記円筒形ハウジング(101)の前記端部領域において、隔離された及び/又は対向する区画に、又は周方向に配置される、ことを特徴とする、請求項1~8の内の少なくとも1項に記載の中空糸膜フィルタ(100)。
【請求項10】
前記少なくとも1つの端部領域(103)、及び任意選択的に前記第2の端部領域が、近位端領域(103a)と、遠位端領域(103b)と、前記近位端領域と前記遠位端領域との間に配置された移行領域(103c)とに分割され、前記第1及び/又は第2の端部領域の前記遠位端領域(103b)の1つの端部が前記円筒形ハウジング(104)のそれぞれの端部に対応し、前記遠位端領域が、前記近位端領域の内径よりも少なくとも2%大きい内径を有することを特徴とする、請求項1~9の内の少なくとも1項に記載の中空糸膜フィルタ。
【請求項11】
全ての前記流路開口部(113)の流動断面積の和が10~350mm
2、又は15~200mm
2、又は15~150mm
2、又は20~110mm
2である、ことを特徴とする、請求項1~10の内の少なくとも1項に記載の中空糸膜フィルタ(100)。
【請求項12】
前記第2の流入空間又は流出空間の流動断面積が20~50mm
2、20~40mm
2、又は25mm
2である、ことを特徴とする、請求項1~11の内の少なくとも1項に記載の中空糸膜フィルタ(100)。
【請求項13】
前記円筒形ハウジング(101)の前記第1の端部領域(103)にある前記第1の流入空間又は流出空間(107)及び前記第2の流入空間又は流出空間(109)と、前記円筒状ハウジングの前記第2の端部領域にある前記第1及び前記第2の流入空間又は流出空間とが、それぞれ第1及び第2のエンドキャップ(111)によって囲まれている、ことを特徴とする、請求項1~12の内の少なくとも1項に記載の中空糸膜フィルタ(100)。
【請求項14】
前記第1及び前記第2のエンドキャップ(111)が、前記円筒形ハウジング(101)の前記第1の端部領域(103)上及び前記第2の端部領域上の環状外周突出部(112a)に、確実に、特に液密に、隣接する、請求項8に記載の中空糸膜フィルタ(100)。
【請求項15】
前記第1及び前記第2のエンドキャップ(111)が、特に内周円形線(110a)に沿って液密に、前記円筒形ハウジング(101)のそれぞれ前記第1の端部(104)と前記第2の端部とに確実に隣接することを特徴とする、請求項8又は9に記載の中空糸膜フィルタ(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の浄化、特に血液を浄化するための中空糸膜フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜フィルタは、液体の浄化に使用される。特に、中空糸膜フィルタは、水の浄化及び除染に関する医療技術において、並びに体外血液療法による腎臓障害患者の治療において透析器又はヘモフィルタの形態で使用される。中空糸膜フィルタは、一般に、円筒形ハウジングと、その中に配置された複数の中空糸膜とから成り、これらの中空糸膜は、ハウジング内の端部においてポッティングゾーン内のポッティング化合物と共に注型封入され、ハウジングに密封して連結される。このような中空糸膜フィルタは、いわゆるデッドエンド・プロセス又は2つの液体を伴うクロスフロー・プロセスで使用するように設計され、中空糸膜の膜壁を介して物質移動が生起可能であり、液体の又は液体の一方の所望の浄化が行われるようになることが知られている。このために、中空糸膜フィルタは、中空糸膜のルミナが、第1の液体が流動する第1の流動空間を形成し、中空糸膜フィルタのハウジング内の中空糸膜間の隙間が、第2の液体が流動可能な第2の流動空間を形成するように設計される。中空糸膜フィルタの一方又は両方の端部領域には、第1及び第2の液体を中空糸膜フィルタのそれぞれの流動空間に流入させ、そこから流出させるための液体アクセスポイントを有する流入空間又は流出空間が配置される。
【0003】
特に端部領域並びに端部に接続する流入空間又は流出空間の構造に関して、異なった設計を有する中空糸膜フィルタが、市場には数多く存在する。体外血液処理(透析器及び血液フィルタ)用の中空糸膜フィルタの開発に関しては、中空糸膜フィルタの設計を変更し改善する試みが継続的に行われている。一方で、血球に損傷を与える可能性のある乱流又は停滞流を回避することができるように、血液が流れる中空糸膜フィルタの流入空間又は流出空間の幾何形状によって、確実に、血液が可能な限り穏やかに空間を流動可能となることに重点が置かれている。体外血液浄化では一般に通例であるが、中空糸膜フィルタは、患者の血液が第1の流動空間を通って-すなわち中空糸膜のルミナを通って導かれるように設計される。
【0004】
更に、市販されている体外血液処理用の中空糸膜フィルタの中には、第2の流動空間における中空糸膜に対する流れを改善するように意図された設計案が数多く存在する。体外血液処理用の中空糸膜フィルタを治療目的で使用する間、水性で生理学的に適合した液体(透析液)は、通常、第2の流動空間を流れる。その場合、患者の血液から有害な代謝物の除去が膜貫通型の物質移動によって行われる。中でも、第2の流動空間における中空糸膜に対する流れは、代謝物の分離を改善するために極めて重要である。
【0005】
Kunikataらは(Kunikata著;ASAIO Journal,55(3),231-235頁(2009))、透析液の流入領域における異なる設計に関して、様々な市販の透析器の性能データを評価している。この刊行物には、透析器に流入する透析液の好適な流動挙動をもたらし、それによって中空糸膜フィルタの性能特性の改善を可能にするように意図された様々な設計モデルが示されている。しかしながら、このような設計案は、多くの場合、精巧なハウジング設計を必要とするため、これらの設計は、規模が大きい場合に切望される高レベルの生産性に関して不利であると考えなければならない。
【0006】
欧州特許出願公開第3238758(A1)号は、中空糸膜の充填密度、中空糸膜の全長、有効膜表面積、及び中空糸膜の内面とポッティング化合物の前面領域との面積比に関する設計パラメータの特定の選択を特徴とする血液透析フィルタを開示する。欧州特許出願公開第3238758(A1)号によれば、これらのパラメータを選択することで、ヘモフィルタの使用時に血液側及び透析液側の過剰な圧力損失を回避し、その目的は、中空糸膜の損傷リスクを低減することである。欧州特許出願公開第3238758(A1)号は、特に血液透析濾過の治療適用における中空糸膜の完全性を扱っている。欧州特許出願公開第3238758(A1)号は、直径195~205μmの中空糸膜の使用を開示している。
【0007】
血液透析における中空糸膜フィルタの性能特性改善の観点からは、血液透析に望まれる高い性能特性を達成できるように、直径190μm以下の中空糸膜を38μm以下の壁厚と組み合わせて使用することが特に好ましい。しかしながら、第2の流動空間における中空糸膜に対する流れを更に改善し、中空糸膜フィルタの性能特性を更に向上させることができるように、中空糸膜フィルタの設計を改善する必要性も依然として存在する。
【0008】
それゆえ、Kunikataが検討した設計を考慮すると、代替設計を考案する必要性があった。更に、中空糸膜フィルタを省コスト方式で製造する方法の探求も継続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3238758(A1)号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102016224627(A1)号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Kunikata著;ASAIO Journal,55(3),231-235頁(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、中空糸膜に対する流れを改善し、結果として性能データを向上させる中空糸膜フィルタを提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、請求項1の特徴を備えた中空糸膜フィルタによって達成される。請求項2~14は、好ましい実施形態に関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、長手方向に中心軸に沿って延び、ハウジング内部と、第1の端部を備えた第1の端部領域と、第2の端部を備えた第2の端部領域と、を有する円筒形ハウジングと;150~190μmの内径と25~38μmの壁厚とを有する複数の中空糸膜であって、中空糸膜は、円筒形ハウジング内に配置されて、円筒形ハウジングの第1の端部領域及び第2の端部領域にあるそれぞれのポッティングゾーンにおいて、それぞれのポッティング化合物中に密封して埋め込まれ、中空糸膜の端部は開口しており、中空糸膜のルミナが第1の流動空間を形成し、中空糸膜を取り囲むハウジング内部空間が第2の流動空間を形成するようになる中空糸膜と;第1の流入空間又は流出空間であって、各々が前側及びポッティングゾーンで円筒形ハウジングの第1及び第2の端部に隣接し、各々が中空糸膜フィルタの第1の流動空間と流体連通して、第1の流入空間又は流出空間の中/外に液体を導くためのそれぞれの第1の液体アクセスポイントを有する、第1の流入空間又は流出空間と;円筒形ハウジングの第1及び第2の端部領域を取り囲む第2の流入空間又は流出空間であって、第2の流動領域と流体連通して、各々が第2の流入空間又は流出空間の中/外に液体を導くための第2の液体アクセスポイントを有する第2の流入空間又は流出空間と;第1の流入空間又は流出空間を第2の流入空間又は流出空間から分離するそれぞれのシールと;第2の流入空間及び/又は流出空間と第2の流動空間との間に流体接続を形成する、円筒形ハウジングの端部領域の流路開口部と;備え、中空糸膜フィルタのアスペクト比が8~12であることを特徴とする、中空糸膜フィルタに関する。
【0014】
上記タイプの中空糸膜フィルタは、液体の浄化に関して高い性能特性を有する。更に、この中空糸膜フィルタは、所定のアスペクト比にわたって内径が小さくなるが、膜表面積は変わらないため、第2の流動空間における中空糸膜に対する流れが改善される。その結果として、第2の流動空間に流入した液体は、複数の中空糸膜の周りをより迅速に、より効果的に洗い流すことができる。特に、検査溶質である尿素及びビタミンB12に関する改善された分離性能を、本発明による中空糸膜フィルタについて測定する。分離性能の1つの尺度は、DIN/EN/ISO 8637:2014規格に準拠して決定されるクリアランスである。
【0015】
一実施形態では、中空糸膜フィルタを透析器として具現化することができる。本出願の観点から、用語「透析器」を使用して、透析フィルタ又はヘモフィルタなどの中空糸膜フィルタの構造に基づく血液フィルタデバイスを表す。他の用途では、本発明による中空糸膜フィルタを水処理用のフィルタとしても使用することができる。
【0016】
用語「円筒形ハウジングの端部領域」とは、本出願の文脈では円筒形ハウジングの端部から円筒形ハウジングの中心まで長手方向に延びる円筒形ハウジング上の区画として理解すべきである。用語「端部領域」によって、それが円筒形ハウジングの長手方向の延長部と比べて小さな部分だけを占める円筒形ハウジング上の領域であることを示す。特に、これら端部領域の1つは、円筒形ハウジングの全長の5分の1未満、又は8分の1未満、又は10分の1未満、又は15分の1未満を占める。
【0017】
ポッティングゾーンは、円筒形ハウジングの端部領域の一部に位置する。本出願の文脈において、「ポッティングゾーン」とは、中空糸膜フィルタの中空糸膜がポッティング化合物中に埋め込まれる領域である。中空糸膜は、円筒形ハウジングの端部領域に固定されるようにポッティング化合物中に埋め込まれる。ポッティング化合物は、円筒形ハウジングの端部領域とシールを形成する。特に、ポッティングゾーンが端部領域幅の4分の3未満、又は3分の2未満、又は半分未満を占めるように用意される。ポッティング化合物は板状であり、円筒形ハウジングの中心軸に対して垂直に円筒形ハウジング内に配置される。用語「中心軸」とは、中空糸膜フィルタの円筒形ハウジングの中心を通る中央長手方向軸として理解すべきである。本出願の文脈では、用語「中心軸」を中空糸膜フィルタの幾何学的記述のために使用する。
【0018】
第1の流入空間又は流出空間は、円筒形ハウジングのそれぞれの端部でポッティングゾーンに隣接する前側に位置する。本出願の文脈において、用語「第1の流入空間又は流出空間」とは、液体が中空糸膜フィルタの第1の流動空間に入る前か、又は液体が中空糸膜フィルタの第1の流動空間から出た後の何れかに、液体が流入できる中空糸膜フィルタ内の容積領域を意味すると理解される。第1の流入空間及び流出空間は、エンドキャップの壁によって密封状態でポッティングゾーンに隣接し、及び/又は円筒形ハウジングの端部領域の端に隣接する。一般的な設計では、第1の流入空間又は流出空間をエンドキャップとして具現化することができる。エンドキャップは、円筒形ハウジングの端部に位置し、エンドキャップの壁によって中空糸膜フィルタの円筒形ハウジングに液密に且つ確実に連結される。第1の流入空間又は流出空間は各々、第1の流入空間又は流出空間の中/外に液体を導くための第1の液体アクセスポイントを有する。ポッティング化合物内の中空糸膜の端部は開口している。従って、第1の流入空間又は流出空間は、中空糸膜のルミナによって形成される中空糸膜フィルタの第1の流動空間と流体連通している。本出願の文脈では、「ルミナ(lumina)」又は「ルーメン(lumen)」は、中空糸膜のキャビティを意味すると理解される。
【0019】
第1の態様によれば、中空糸膜フィルタはまた、円筒形ハウジングのそれぞれの端部領域を取り囲む第2の流入空間又は流出空間を有する。本出願の文脈において、用語「第2の流入空間又は流出空間」とは、液体が中空糸膜フィルタの第2の流動空間に入る前か、又は液体が中空糸膜フィルタの第2の流動空間から出た後の何れかに、液体が流入できる中空糸膜フィルタ内の定められた容積領域を意味すると理解される。第2の流入空間又は流出空間は各々、円筒形ハウジングの端部領域を取り囲むケーシングによって形成される。ケーシングの壁は、ポッティングゾーンに及び/又は円筒形ハウジングの端部領域の端に密封状態で隣接する。ケーシングは、円筒形ハウジングの一部であり、それに取り付けることができ、その場合、第2の流入空間又は流出空間は、ケーシングによって密封状態で囲まれる。代わりに、別個のスリーブによって、或いは第1の流入空間又は流出空間を囲むエンドキャップの一部として、ケーシングを形成することもできる。その場合、エンドキャップは、円筒形ハウジングの端部に確実に着座して、液密にハウジングに隣接し、同時に第2の流入空間又は流出空間のケーシングも形成するように設計される。第2の流入空間又は流出空間は各々、第2の流入空間又は流出空間の中/外に液体を導くための第2の液体アクセスポイントを有する。第2の流入空間又は流出空間は、中空糸膜フィルタの第2の流動空間と流体連通しており、この第2の流動空間は、中空糸膜を取り囲む中空糸膜フィルタのハウジング内部空間によって形成される。
【0020】
第1及び第2の流入空間又は流出空間は、ポッティングゾーンに及び/又は円筒形ハウジングの端部領域の端に密封状態で隣接する。従って、第1及び第2の流入空間又は流出空間は、この位置で液密に互いに分離される。好適なシール手段の一部の例としては、円筒形ハウジングの端部領域の端又はポッティング化合物の端と、第1及び第2の流入空間又は流出空間の壁との間に配置されるOリング、溶接ゾーン、又は接合ゾーンが挙げられる。
【0021】
円筒形ハウジングの端部領域にある流路開口部を介して、第2の流入空間又は流出空間と第2の流動空間との間に流体接続が形成される。従って、液体は第2の流動空間に入る、又は第2の流動空間から排出されるとすることができる。円筒形ハウジングの端部領域にある流路開口部の数は、少なくとも5、又は10、又は15、又は20、又は30、又は40、又は60とすることができる。流路開口部の数は、多くとも350、又は300、又は250、又は200、又は180、又は150である。円筒形ハウジングの端部領域にある流路開口部の数は、好ましくは10~350、又は10~40、又は15~300、又は20~250、又は30~200、又は40~180、又は60~180である。
【0022】
本出願の文脈において、「アスペクト比」とは、中空糸膜の実有効長と中空糸膜フィルタの円筒形ハウジングの内径との比率であると理解される。本出願の文脈において、中空糸膜フィルタの実「有効長」とは、中空糸膜を介して物質の効果的な交換が行われるポッティング化合物間の距離であると理解される。本発明に従って定められるアスペクト比により、特に大きな膜表面積を備えた中空糸膜フィルタの場合に、性能特性の向上がもたらされる。特定の実施形態において、本発明による中空糸膜フィルタは、8.5~11、又は8.5~10、又は9~10のアスペクト比を有する。
【0023】
本発明の有利な実施形態において、中空糸膜フィルタは、その膜表面積が1.2~2m2であることを特徴とする。代替実施形態では、本発明による中空糸膜フィルタの膜表面積は、1.3~1.9m2、又は1.3~1.8m2、又は1.4~1.7m2である。円筒形ハウジングの内径は、本発明に従って定められたアスペクト比の範囲内で、25~35mm、又は25~33mm、又は28~33mmに縮小することができるので、第2の流動空間における中空糸膜に対する改善された流れが生じる可能性がある。
【0024】
本発明に従って定められたアスペクト比を通して円筒形ハウジングの直径を縮小することの付加的な利点は、8未満のアスペクト比を備えた市販の中空糸膜フィルタと同じ膜表面積を作り出すために、中空糸膜の数が少なくて済むことである。これにより、円筒形ハウジング内に中空糸膜を固定するために必要なポッティング化合物の量を効果的に減らすこともできる。一方で、これはコスト上の利点を提示し、他方では、これにより、中空糸膜フィルタの製造時に中空糸膜を円筒形ハウジング内に注型する工程ステップを短縮することもできる。
【0025】
特定の実施形態において、本発明による中空糸膜フィルタは、1.6~2.0m2の膜表面積と共に8.0~10のアスペクト比を有する。代替実施形態において、中空糸膜フィルタは、1.3~1.6m2の膜表面積と共に8.5~9.5のアスペクト比を有する。
【0026】
従って、これらの実施形態における中空糸膜の実有効長は270~320mmである。本発明の有利な実施形態では、中空糸膜フィルタは、中空糸膜の実有効長が280~320mm、特に285~310mm又は290~310mmであることを特徴とする。特に、上述の領域におけるアスペクト比、膜表面積及び実有効長の選択により、血液透析又は血液濾過などの体外血液浄化に関する治療において中間分子の効果的な除去が可能となる。この文脈では、10,000ダルトンから50,000ダルトンの分子量を有する血清タンパク質を中間分子と呼ぶ。しかしながら、同時に、過度に大きな圧力降下が中空糸膜のルミナ長にわたってルーメン側で生じ、過度の溶血又は膜の目詰まりという問題を招くことが防止される。
【0027】
本発明の別の実施形態において、中空糸膜フィルタは、第2の流入空間又は流出空間の第2の液体アクセスポイント間の平均距離に対する中空糸膜の実有効長の比率が、1~1.1、又は1~1.05、又は1.0~1.03であることを特徴とする。第2の流入空間又は流出空間の第2の液体アクセスポイント間の平均距離は、好ましくは270~320mm、又は245~290mm、又は257~305mm、又は262~310mmである。「第2の液体アクセスポイント間の平均距離」は、液体アクセスポイントの中心軸間の距離を意味すると理解される。
【0028】
本発明の有利な実施形態では、中空糸膜フィルタは、中空糸膜の充填密度が50~70%、好ましくは56~63%、特に57~63%であることを特徴とする。本出願の文脈では、「充填密度」とは、円筒形ハウジングのハウジング内部において中空糸膜が占める部分を意味すると理解される。充填密度は、中空糸膜フィルタの円筒形ハウジングの断面積に対する中空糸膜の断面積の和の百分率比から計算され、円筒形ハウジングの断面積は、単に内径で指定される断面積であると理解される。充填密度は、所与の繊維長に対する膜間圧力差に影響を及ぼす。有利には、繊維長と充填密度は、体外血液浄化の治療上適用において、前もって対流により除去された限外濾過液に基づいて置換液の効果的な逆濾過を確保できるように調整される。
【0029】
本発明の別の実施態様において、中空糸膜フィルタは、中空糸膜が波状形状を有することを特徴とし、特に、中空糸膜の波状形状の振幅は0.1~0.5mmであり、中空糸膜の波状形状の波長は5~10mmである。中空糸膜の波状形状により、円筒形ハウジング内に配置される複数の中空糸膜が補剛される。これは、大きな実有効長と本発明に従って定められるアスペクト比と備えた本発明による中空糸膜フィルタの製造において中空糸膜束を加工する場合に特に有利である。特定の実施形態では、中空糸膜の波形状の振幅は0.35~0.45mm、又は0.38~0.43mmである。代替実施形態では、中空糸膜の波形状の波長は6~9mm、又は7~8mmである。特定の実施形態では、中空糸膜の波形状の振幅は0.35~0.45mmであり、中空糸膜の波形状の波長は6~9mmである。別の実施形態では、中空糸膜の波形状の振幅は0.38~0.43mmであり、中空糸膜の波形状の波長は7~8mmである。
【0030】
本発明の別の有利な実施形態では、中空糸膜フィルタは、円筒形ハウジングの端部領域において、全ての流路開口部の流動断面積の和と少なくとも1つの第2の流入空間又は流出空間の流動断面積との比が、0.5:1~7:1、又は0.75:1~5:1、又は1:1~3:1の範囲にあることを特徴とする。
【0031】
流動断面積に関する上記の定義によれば、液体が第2の接続部を通って第2の流入空間又は流出空間に流入し、円筒形ハウジングの端部領域の流路開口部を通って第2の流動空間に流入する結果として、中空糸膜に対する液体の改善された流れは、中空糸膜フィルタの少なくとも1つの端部領域で生じる。
【0032】
「流路開口部の流動断面積の和」とは、円筒形ハウジングの端部領域における個々の流路開口部に関する全ての表面積の和を意味すると理解される。
【0033】
本出願の文脈において、「第2の流入空間又は流出空間の流動断面積」とは、中空糸膜フィルタを貫き且つ円筒形ハウジングの中心軸を通る断面の形成を介して作り出される第2の流入空間又は流出空間の断面積を意味すると理解される。この断面は、第2の流入空間及び流出空間において第2の液体アクセスポイントに接触しないように配置される。前述の断面図に第2の流入空間又は流出空間の2つの断面積を位置付けて、例えば、第2の流入空間又は流出空間が回転対称な幾何形状を有する場合、これら断面積の内の1つだけを用いて流動断面積を決定する。
【0034】
本発明の有利な実施形態では、中空糸膜フィルタは、円筒形ハウジングの端部領域において、第2の液体アクセスポイントから始まって円筒形ハウジングの中心軸に向かう流入空間又は流出空間が、回転対称な周方向空間、特に環状間隙を形成することを特徴とする。第2の流入空間又は流出空間の回転対称な幾何形状のおかげで、中空糸膜フィルタ用の構成部品は、特に射出成形技術を用いて、プロセスを最適化して製造することができる。
【0035】
本発明の別の有利な実施形態では、中空糸膜フィルタは、流路開口部が円形、長円形、又はスロットの形状であることを特徴とする。異なる用途のために提供される円筒形ハウジングの異なる内径に応じて、円筒形ハウジングの端部領域における流路開口部の数及び形状は変わる可能性がある。これは、円筒形ハウジングの製造可能性にも依存し、円筒形ハウジングは射出成形技術を用いて製造されるのが好ましい。従って、円筒形ハウジングの端部領域に、円形、長円形、又はスロットの形状を有する多数の流路開口部を配置することが有利である。
【0036】
本発明の別の有利な実施態様では、中空糸膜フィルタは、流路開口部が、円筒形ハウジングの端部領域の周囲において、隔離された及び/又は対向する区画に、又は均等に配置されることを特徴とする。
【0037】
別の実施形態では、中空糸膜フィルタは、少なくとも1つの端部領域、及び任意選択的に第2の端部領域が、近位端領域と、遠位端領域と、近位端領域と遠位端領域との間に配置された移行領域とに分割され、遠位端領域の1つの端部が円筒形ハウジングの端部であり、遠位端領域が、近位端領域の内径よりも少なくとも2%大きい内径を有することを特徴とする。この実施形態の観点では、近位端領域は円筒形ハウジングの重心に近接している。従って、遠位端領域は、円筒形ハウジングのこの重心の遠位に配置され、従って円筒形ハウジングの端に位置する。有利なことに、中空糸膜フィルタの円筒形ハウジング内に配置された中空糸膜の充填密度は、遠位端領域において、遠位端領域のこの部分における円筒形ハウジングの内径が大きいために減少する。これにより、中空糸膜フィルタの製造時に中空糸膜を円筒形ハウジング内に注型封入する際に生じる欠陥点が少なくなるという利点が提供される。更に、この遠位端領域では充填密度が低いため、中空糸膜は透析液の流れに適応したものとなる。
【0038】
端部領域103の移行領域では、円筒形ハウジングの内径が2%以上増加する。好ましくは、円筒形ハウジングの内径は、移行領域において、3%以上、又は4%以上、又は5%以上、多くとも10%、又は多くとも8%、又は多くとも7%、又は多くとも6%、特に2~10%、又は3~8%、又は4~7%増加する。移行領域は、円筒形ハウジングの中心軸の延長方向において、円筒形ハウジングの全長の少なくとも1/10、又は少なくとも1/12、又は少なくとも1/14、又は少なくとも1/15、又は少なくとも1/17、又は少なくとも1/18、又は少なくとも1/20、並びに多くとも1/40、又は多くとも1/35、又は多くとも1/30、又は多くとも1/25、特に1/10~1/40、又は1/12~1/35、又は1/14~1/30、又は1/15~1/25を占める。
【0039】
前述の実施形態の更なる実施形態では、中空糸膜フィルタは、流路開口部が遠位端領域に配置されていることを特徴とする。従って、第2の流動空間に流入する透析液は、流路開口部を介して、充填密度の低い中空糸膜の部分の中に直接通されるとすることができる。この結果、遠位端領域の中空糸膜にとって有利な周方向に一様な流れが生じ、この一様流はまた、透析液の流れが充填密度の高い中空糸膜の部分に入るまでは遠位端領域のこの部分で充填密度が低いために、中空糸膜の配列をより良好に貫通することができる。
【0040】
本発明の別の有利な実施態様では、中空糸膜フィルタは、全ての流路開口部の流動断面積の和が10~350mm2、又は15~200mm2、又は15~150mm2、又は20~110mm2であることを特徴とする。想定される全ての流路開口部の流動断面積の和は、中空糸膜フィルタの円筒形ハウジングの内径に、ひいては中空糸膜の数に依存する。中空糸膜の表面積が大きく、中空糸膜の数が多い中空糸膜フィルタでは、十分な濾過性能を達成するために、中空糸膜フィルタの第2の流動空間の流動容積を相応に大きくする必要がある。一例として、中空糸膜フィルタの第2の流動空間内に約1万本の中空糸膜を配置した場合、流路開口部の全流動断面積の和は約90~150mm2の範囲にある。円筒形ハウジングの内径は28~33mmとすることができる。流路開口部の全流動断面積の和を円筒形ハウジングの内径に適合させることで、第2の流動空間への液体の流入を調節し、ひいては第2の流動空間における中空糸膜に対する流れの改善を達成する。
【0041】
本発明の別の有利な実施態様では、中空糸膜フィルタは、第2の流入空間又は流出空間の一方又は両方の流動断面積が、20~50mm2、20~40mm2、又は25mm2であることを特徴とする。ここでも、流入空間又は流出空間の流動断面積は、中空糸膜フィルタの円筒形ハウジングの内径に適合させることができ、従って、中空糸膜フィルタの数についても異なる値を採用することができる。一例として、中空糸膜フィルタの第2の流動空間内に約1万本の中空糸膜を配置した場合、流入空間又は流出空間の流動断面積は20~30mm2である。流入空間又は流出空間の流動断面積を円筒形ハウジングの内径に適合させることで、第2の流入空間又は流出空間に流入する液体の効率的な分配が得られるので、液体が第2の流動空間に入る時に中空糸膜に対する一様な流れを実現することができる。
【0042】
本発明による中空糸膜フィルタの内径は、一実施形態では25~35mmである。特に、6000~12000本の中空糸膜を中空糸膜フィルタの円筒形ハウジング内に配置することができるので、中空糸膜フィルタは1.2~2.0m2の膜表面積を有することができる。「膜表面積」は、中空糸膜の内部表面積と中空糸膜フィルタの円筒形ハウジング内に配置される中空糸膜の数との積から計算される。中空糸膜の内部表面積は、中空糸膜の内径、円周率π、及び実有効長の積から計算される。
【0043】
本発明による中空糸膜フィルタを構成するために、ポリスルホン及びポリビニルピロリドンでできた中空糸膜を使用することが好ましい。
【0044】
中空糸膜が円筒形ハウジングのそれぞれの端部領域に埋め込まれて密封されるポッティング化合物は、好ましくはポリウレタンでできている。
【0045】
円筒形ハウジング及びエンドキャップは、好ましくはポリプロピレン材料でできている。ポリプロピレン製のハウジングは、製造時に長い繊維束を確実に受け入れるのに有利に適している。
【0046】
本発明の別の有利な実施態様では、中空糸膜フィルタは、円筒形ハウジングの第1の端部領域にある第1及び第2の流入空間又は流出空間と、円筒状ハウジングの第2の端部領域にある第1及び第2の流入空間又は流出空間とが、それぞれ第1及び第2のエンドキャップによって囲まれていることを特徴とする。エンドキャップは、一体に成形されるのが有利である。エンドキャップは、エンドキャップの1つの壁が第1の流入空間又は流出空間を囲み、別の壁が第2の流入空間又は流出空間を囲むケーシングを形成するように設計される。エンドキャップは、円筒形ハウジングの端部領域上に着座し、シールによって液密となるように幾何学的に形づくられる。エンドキャップは、射出成形によって製造されるのが有利である。ここで定められたエンドキャップを用いた中空糸膜フィルタの製造は、中空糸膜フィルタの製造プロセスの最適化に寄与する。第1及び第2の液体アクセスポイントはエンドキャップ上に配置される。
【0047】
本発明の別の有利な実施態様では、中空糸膜フィルタは、第1エンドキャップが、特に液密に、円筒形ハウジングの第1の端部領域上の環状外周突出部に確実に隣接できることを特徴とする。特に、第2エンドキャップも、特に液密に、円筒形ハウジングの第2の端部領域上の環状外周突出部に確実に隣接することができる。こうして、エンドキャップと円筒形ハウジングは、外周突出部に沿って液密に連結される。シールは、溶接又は接着で施すことができる。
【0048】
本発明の別の有利な実施態様では、中空糸膜フィルタは、第1エンドキャップが、特に内周円形線に沿って液密に、円筒形ハウジングの第1の端部に確実に隣接できることを特徴とする。特に、第2エンドキャップも、特に内周円形線に沿って液密に、円筒形ハウジングの第2の端部に確実に隣接することができる。この内周円形線は、例えば、エンドキャップの内側に円形ビード又は突出部として具現化することができる。しかしながら、代わりに、エンドキャップの壁の内側を円筒形ハウジングの端部に直接連結することもできる。エンドキャップの円形線を円筒形ハウジングの端部に連結することにより、溶接、接着、又はOリングによって、第1の流入空間及び流出空間と第2の流入空間及び流出空間との間に液体シールが作り出される。
【0049】
本発明の別の有利な実施態様では、中空糸膜フィルタは、第2の流入空間又は流出空間の一方又は両方の容量が1.5~5cm3であることを特徴とする。第2の流入空間及び/又は流出空間の定められた容積領域によって、特に、第2の流入空間又は流出空間に入る液体を円筒形ハウジングの内径の関数として均等に分配できるよう確保することができる。これはまた、少なくとも1つの第2の流入空間又は流出空間の領域で流れが停滞し、第2の流動領域で中空糸膜に対して不均一に流れることを防止する。
【0050】
本発明の別の有利な実施態様では、中空糸膜フィルタは、円筒形ハウジング及びエンドキャップが熱可塑性材料、特にポリプロピレンでできていることを特徴とする。従って、円筒形ハウジング及びエンドキャップは、有利には、最適化した射出成形プロセスを用いて製造することができる。更に、材料の選択により、溶接プロセスを通して円筒形ハウジングとエンドキャップとを互いに確実に且つ密封して連結できるという利点も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1a】
図1aは、円筒形ハウジングの中心軸Aを通る、本発明による中空糸膜フィルタの断面を示す。
【
図1b】
図1bは、円筒形ハウジングの中心軸Aも第2の液体アクセスポイントの中心軸Bも通る、本発明による中空糸膜フィルタの別の断面を示す。
【
図2a】
図2aは、本発明による中空糸膜フィルタの円筒形ハウジングの側面図を示し、円筒形ハウジングの端部領域を描写している。
【
図2b】
図2bは、本発明による中空糸膜フィルタの円筒形ハウジングに関する別の実施形態の側面図を示し、円筒形ハウジングの端部領域を描写している。
図2bによる図解には寸法が設けてある。寸法値は単位ミリメートル(mm)を指す。
【
図3】
図3は、円筒形ハウジングの中心軸Aも第2の液体アクセスポイントの中心軸Bも通る、Fresenius Medical Care Deutschland GmbHから入手可能なFX60中空糸膜フィルタの断面概略図を示す。
【
図4】
図4は、Fresenius Medical Care社から入手可能なFX60中空糸膜フィルタの円筒形ハウジングの側面図を示す。
【
図5a】
図5aは、市販のFX60中空糸膜フィルタの概略横断面図を示す。
【
図5b】
図5bは、本発明による中空糸膜フィルタの概略図を示す。
【0052】
図1aは、円筒形ハウジングの中心軸Aに沿った、本発明による中空糸膜フィルタ100の断面を示す。
図1aには中空糸膜フィルタの一部だけが示してあり、これは、第1の端部領域103を備えた円筒形ハウジング101上の第1の端部104を説明するものである。端部領域103の一部は、ポッティング化合物105を長手方向、すなわち円筒形ハウジングの中心軸Aに垂直な方向に対して前側に配置したポッティングゾーン106によって占められ、このポッティング化合物105は、ハウジング101とのシールを形成するために、円筒形ハウジング101の第1の端部領域103及び第2の端部領域(図示せず)でハウジング内部空間102内の中空糸膜(
図1aには図示せず)にそれぞれ埋め込まれる。また、図示してあるのは、第1の流入空間又は流出空間107を取り囲む壁114と、第2の流入空間又は流出空間109を取り囲むケーシング領域115とを備えたエンドキャップ111である。第2の流入空間又は流出空間109の流動断面積の面は、
図1aに平行線で表示してある。液体アクセスポイント108も示してある。この図解では、液体アクセスポイント108が透析器の血液接続部の典型的な詳細を表している。液体アクセスポイント108は、第1の流入空間又は流出空間107への液体アクセスポイントを形成する。
図1に示すエンドキャップ111は一体に成形されているので、壁114とケーシング115はエンドキャップの一部である。
図1aに示す配置によれば、第1及び第2の流入空間又は流出空間(107,109)の空間は、エンドキャップ111、円筒形ハウジング101、及びポッティング化合物105に囲まれている。第1の流入空間又は流出空間は、円筒形ハウジング101の端部104において、周方向シール110で封止される。
図1では断面だけを示すエンドキャップ111の内円周110aが、この目的で使用される。
図1に示す実施形態では、エンドキャップ111の内周110aが円筒形ハウジング101の端部104に着座するので、円筒形ハウジングの端部104とエンドキャップ111との間にシール110が作り出される。液体アクセスポイント108を通って第1の流入空間又は流出空間107に流入した液体は、中空糸膜のルミナに流入し、ひいてはポッティング化合物105内の中空糸膜の開放端部(
図1aには図示せず)を介して排他的に第1の流動空間に流入する。もう1つの周方向液体シール112は、エンドキャップ111のケーシング115に確実に且つ液密に隣接する円筒形ハウジング101上の環状外周突出部112aによって作り出される。
【0053】
図1bは、円筒形ハウジングの中心軸Aも第2の液体アクセスポイントの中心軸Bも通る、本発明による中空糸膜フィルタ100の別の断面を示す。中心軸Bは、第2の流入空間又は流出空間109に隣接する第2の液体アクセスポイント116の中心を通る。
図1bの100~111、114及び115の表記は、
図1aの表記と同一である。また、
図1aで示したように、
図1bでも第2の流入空間又は流出空間109の流動断面積が平行線で表示してある。更に、この断面図では、円筒形中空糸膜フィルタの端部領域103と対向する側に流路開口部113を見ることができる。この図は、第2の液体アクセスポイント116が第2の流入空間又は流出空間109と流体連通していること、並びに流路開口部113を介して中空糸膜フィルタ100のハウジング内部102にある第2の流動空間への流体接続が依然として存在することを示している。
図1bに示す実施形態では、多数の流路開口部(
図1bの断面図ではその内の2つだけが見えている)が、円筒形中空糸膜フィルタの端部領域103に互いに対向して配置される。
【0054】
図2aは、本発明による中空糸膜フィルタの円筒形ハウジング101の一部に関する概略図を側面図に示す。
図2aの説明図には、円筒形ハウジング101の第1の端部104を備えた部分が示してある。
図2aはまた、円筒形ハウジング101上の環状外周突出部112aを示しており、この突出部は、エンドキャップ111のケーシング115上にシール112を作り出す目的で設けられる。参照番号103は、円筒形ハウジング101の端部領域を表す。参照番号106は、端部領域のポッティングゾーンを表し、ポッティング化合物105自体は、
図2aに示されない。中心軸Aは円筒形ハウジングの長手方向を指し示すが、図示の側面図では、円筒形ハウジングを描写した表面に関する図面平面より下に位置する。側面図には、複数の流路開口部113が示してあり、これらの流路開口部は、中空糸膜フィルタにおいて第2の流入空間又は流出空間109と第2の流動空間との(
図2Aには何れも図示せず)接続部を形成する。図示の説明図では、流路開口部は円形として描いてあるが、長円形、スロット、又はU字の形状を有することもできる。流路開口部113の流動断面積は、個々の流路開口部113の全てに関する流動断面積の和から生じる。
図2aに従って示す実施形態は、円筒形ハウジング101の端部領域103に22個の流路開口部113を有し、その内の半分-すなわち11個-だけが
図2に見えている。付加的な11個の流路開口部は、円筒形ハウジング101の端部領域103の向こう側に位置する。
【0055】
図2bは、本発明による中空糸膜フィルタの円筒形ハウジング101の一部に関する実施形態の概略図を側面図に示す。
図2bの説明図には、円筒形ハウジング101の第1の端部104を備えた部分が示してある。
図2bはまた、円筒形ハウジング101上の環状外周突出部112aを示しており、この突出部は、エンドキャップ111のケーシング115上にシール112を作り出すために設けられる。更に
図2bに示してあるのは、103-円筒形ハウジング101の端部領域、中心軸A、113-円形貫通開口部である。
【0056】
図示の実施形態では、流路開口部113の中心から円筒形ハウジング101の端部104までの距離は10mmである。円筒形ハウジングの端部104において、円筒形ハウジングの開口部の直径は34mmである。図示の実施形態では、円筒形ハウジングの端部領域103は、近位端領域103aと遠位端領域103bとに分割される。図示の実施形態では、近位端領域103aは、環状外周突出部112aに隣接して配置され、従って、
図2bに示す実施形態の観点では、円筒形ハウジングの重心に近接している。
図2bに示す実施形態では、円筒形ハウジングの遠位端領域103bの内径は、近位端領域103aの内径よりも大きい。近位端領域と遠位端領域は、移行領域103cを介して互いに隣接する。端部領域103の移行領域103cでは、円筒形ハウジングの内径が3%以上増加する。特に、
図2bに示す実施形態によれば、円筒形ハウジングの端部における遠位端領域103bの直径は34mmであるのに対し、それに続く移行部103cにおける遠位端領域103bの内径は33.5mmである。近位端領域における円筒形ハウジング101の内径は、
図2bに示す実施形態では31.9mmである。従って、近位端領域103aから遠位端領域103bまでの内径の増加は、図示の実施形態では1.6mmである。円筒形ハウジング101の内径は、中央領域で31.4mmである。
図2bに示す寸法から、遠位端領域103b及び近位端領域103aのそれぞれにおける内径は、円筒形ハウジングの中央部に向かって更に先細になっていることが分かる。
図2bに従って説明した円筒形ハウジング101の個々の領域に関する内径の円錐形状は、射出成形機から射出成形部品として円筒形ハウジングを脱型できるようにする必要性から生じる。射出成形部品に必要とされるこのような幾何形状は、射出成形技術において公知である。移行領域103cにおける内径の変化は、これらの必要な円錐状に広がる内径の変化とは区別しなければならない。移行領域103cは、
図2bに示す実施形態では中心軸Aの延長方向に2mm未満の領域を占め、この領域では、近位端領域の内径が31.9mmから遠位端領域の内径33.5mmまで増加する。移行領域は、円筒形ハウジングの全長の約1/15を占めるに過ぎない。
【0057】
図1a、1b及び2に示す詳細に従って作られる、本発明による中空糸膜フィルタの一実施形態では、全ての流路開口部の流動断面積の和は、例えば17mm
2とすることができる。更に、この実施形態では、第2の流入空間又は流出空間の流動断面積は、約26mm
2とすることができる。全ての流路開口部の流動断面積の和と、少なくとも1つの第2の流入空間又は流出空間の流動断面積との比は、0.65:1である。
【0058】
図3は、Fresenius Medical Care社から入手可能なFX中空糸膜フィルタの断面の一部に関する概略図を示しており、この断面は円筒形ハウジングの中心軸Aも第2の液体アクセスポイントの中心軸Bも通る。前の図と同様に、
図3は以下を示す:
300 中空糸膜フィルタ
301 円筒形ケース
302 複数の中空糸膜(
図3には図示せず)を受け入れるための円筒形ケースのハウジング内部空間
303 円筒形ハウジングの端部領域
304 円筒形ハウジングの第1の端部
305 ポッティング化合物
306 ポッティングゾーン
307 第1の流入空間又は流出空間
308 第1の流入空間又は流出空間への第1の液体アクセスポイント
309 第2の流入空間又は流出空間
310 Oリングとして具現化された周方向シール
310a エンドキャップの内周
311 エンドキャップ
312a 環状外周突出部
314 エンドキャップの壁
315 エンドキャップ上にある円筒形ハウジングの端部領域のケーシング、
316 第2の液体アクセスポイント。
【0059】
図3から分かるように、
図1a、1b、及び3に示す中空糸膜フィルタは、第2の流入空間及び流出空間の構造が構造的に異なっている。第2の流入空間又は流出空間を中空糸膜フィルタの第2流動領域に接続する流路開口部(図示せず)は、
図3では見えない。
【0060】
図4は、Fresenius Medical Care社から入手可能なFX中空糸膜フィルタの円筒形ハウジング401の概略側面図を示し、このフィルタはポッティングゾーン406にポッティング化合物405を有する。
図4は、環状外周突出部412aを示している。側面図はまた、ハウジング401の端部領域403上に周方向に配置された流路開口部413を示している。
図3及び4に従って説明するFX60中空糸膜フィルタは、26mm
2という第2の流入空間又は流出空間の流動断面積を有する。FX中空糸膜フィルタの同じ実施形態では、全ての流路開口部の流動断面積の和は392mm
2である。全ての流路開口部の流動断面積の和と、少なくとも1つの第2の流入空間又は流出空間の流動断面積との比は、15:1である。
【0061】
図5aは、Fresenius Medical Care社から市販されているFX60中空糸膜フィルタ300の側面断面図を示す。
図5aに示す中空糸膜フィルタの構造詳細は、
図3に対応している。
図5aは、第2の液体アクセスポイント316a及び316b、ポッティング化合物305a及び305b、並びに円筒形ハウジング301を示す。
図5aに示す中空糸膜フィルタの全長は292mmである。第2の液体アクセスポイント間の平均距離は248mmである。中空糸膜の実有効長は228mmである。円筒形ハウジングの内径は34mmである。描写する中空糸膜フィルタのアスペクト比は6.71である。第2の液体アクセスポイント316a及び316b間の平均距離に対する中空糸膜の実有効長の比率は0.92である。
【0062】
図5bは、本発明による中空糸膜フィルタ100の概略図を示す。
図5bに示す中空糸膜フィルタの構造詳細は、
図1に対応している。
図5bは、第2の液体アクセスポイント116a及び116b、ポッティング化合物105a及び105b、並びに円筒形ハウジング101を示す。
図5bに従って描写する中空糸膜フィルタの全長は333mmである。第2の液体アクセスポイント間の平均距離は285mmである。実有効長は280mmである。円筒形ハウジングの内径は31mmである。描写する中空糸膜フィルタのアスペクト比は9.1である。第2の液体アクセスポイント116a及び116b間の平均距離に対する中空糸膜の実有効長の比率は1.018である。
【実施例】
【0063】
クリアランスの決定
クリアランスは、DIN/EN/ISO 8637:2014規格に準拠して決定し、実施例では300ml/minの血液流量及び500ml/minの透析液流量を設定する。試験液として、血液側に16.7mmol/lの尿素(Merck社製)及び36.7μmol/lのビタミンB12(Biesterfeld、BCD Chemie社製)の水溶液、透析液側に蒸留水を使用する。ビタミンB12の濃度は、361nmで測光法により決定する。UREAL検査を備えたCobas Integra 400 plusデバイス(Roche Diagnostics社、ドイツ)を用いて尿素を測定する。
【0064】
実施例1:本発明による中空糸膜フィルタ
図1a、1b、及び5bに従う構造詳細と表1に示すパラメータとを備えた中空糸膜フィルタを製造した。波形ポリスルホン/ポリビニルピロリドン中空糸膜を使用し、これは特にFresenius Medical Care社のFX60フィルタに組み込まれている。中空糸膜フィルタは、先行技術で公知の方法に従って製造した。
本発明による中空糸膜フィルタは、先行技術で公知であり、独国特許出願公開第102016224627(A1)号に記載される蒸気滅菌法を用いて滅菌した。クリアランス及びふるい係数を滅菌実施形態と共に非滅菌実施形態に関して調べた。その結果を表2に示す。
【0065】
比較例1: FX60中空糸膜フィルタ
Fresenius Medical Care社のFX60中空糸膜フィルタを比較実施形態として使用した。FX60中空糸膜フィルタの構造詳細を
図3、4、及び5aに模式的に示す。FX60フィルタの技術パラメータを表1に示す。
FX60中空糸膜フィルタは、本発明による中空糸膜フィルタに使用したのと同じ蒸気滅菌プロセスを用いて滅菌した。中空糸膜フィルタを使用して決定したクリアランスを滅菌実施形態と共に非滅菌実施形態に関して調べた。その結果を表2に示す。
表1
実施例1による本発明に従う中空糸膜フィルタ、並びに比較例1によるFX60中空糸膜フィルタには、同じ製造に由来する中空糸膜を使用した。これらの中空糸膜は、直径、壁厚、細孔特性、及び材料組成の点で一致している。実施例1及び比較例1の中空糸膜数は、それぞれの中空糸膜フィルタが同じ膜表面積1.4m
2を有するように調整した。
表2
表2の結果から、実施例1による滅菌及び非滅菌の中空糸膜フィルタの尿素及びビタミンB12に対するクリアランスは、比較例1のFX60中空糸膜フィルタよりも高いことが分かる。更に、本発明による実施例は、滅菌後に尿素クリアランスの僅かな減少を示すだけである。
【符号の説明】
【0066】
100 中空糸膜フィルタ
101 円筒形ハウジング
102 ハウジング内部空間
103 第1の端部領域
104 第1の端部
105 ポッティング化合物
106 ポッティングゾーン
107 第1の流入空間又は流出空間/
108 液体アクセスポイント
109 第2の流入空間又は流出空間
110 周方向シール
110a エンドキャップの内周
111 エンドキャップ
112 もう1つの周方向液体シール
112a 環状外周突出部
113 流路開口部
114 壁
115 ケーシング領域
116 第2の液体アクセスポイント
A 円筒形ハウジングの中心軸
B 第2の液体アクセスポイントの中心軸
【国際調査報告】