(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-22
(54)【発明の名称】自己免疫を治療するための操作されたHLA対立遺伝子
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20240415BHJP
C07K 14/74 20060101ALI20240415BHJP
C12N 5/0789 20100101ALI20240415BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/74 ZNA
C12N5/0789
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023569852
(86)(22)【出願日】2022-05-10
(85)【翻訳文提出日】2024-01-09
(86)【国際出願番号】 US2022028644
(87)【国際公開番号】W WO2022240916
(87)【国際公開日】2022-11-17
(32)【優先日】2021-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】308032460
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ コロラド,ア ボディー コーポレイト
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF COLORADO,a body corporate
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】フリード ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】ロアーク クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】サンダーハウス エリザベス
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA42
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
自己免疫疾患を予防又は治療する方法が開示される。いくつかの場合、自己免疫疾患を有する又はそれを発症するリスクのある対象は、1以上のHLA遺伝子座に1以上の自己免疫感受性HLA対立遺伝子を有すると同定される。多くの場合、HLA遺伝子座は、クラスI及びクラスII遺伝子座、例えば、クラスI A、B、及びC、及びクラスII DQ、DR、及びDPから選択される。多くの場合、自己免疫疾に罹患している又はそれを発症するリスクのある対象に、抗原結合クレフトにその変異型HLA分子の抗原結合及び/又は特異性を変化させる少なくとも1つの突然変異を有する変異型感受性対立遺伝子を保有し発現するように改変された複数の操作された自己HSCを投与することができる。多くの実施形態では、操作されたHSCは、1以上の改変HLAタンパク質を発現するCD34+免疫細胞である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DQA、HLA-DQB、HLA-DRA、HLA-DRB、HLA-DPA、及びHLA-DPBからなる群から選択される野生型HLAタンパク質と少なくとも95%同一のアミノ酸配列;並びに
抗原結合クレフト内に少なくとも1つのアミノ酸置換
を含み、
前記野生型HLAタンパク質の抗原結合親和性とは異なる抗原結合親和性を有し、操作されている、変異型HLAタンパク質。
【請求項2】
前記アミノ酸配列がHLA-Aと少なくとも95%同一であり、前記少なくとも1つのアミノ酸置換が、位置9、31、56、62、63、66、73、77、80、81、95、97、99、114、116、150、152、156、171、又はこれらの組合せから選択される、前記アミノ酸配列内の位置にある、請求項1に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項3】
前記HLA-AがA
*02、A
*03、及びA
*29から選択される、請求項2に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項4】
前記HLA-AがA
*02:01、A
*03:01、及びA
*29:01から選択される、請求項2又は請求項3に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項5】
前記HLA-Aのアミノ酸配列が配列番号1、2、又は3から選択される、請求項2~4のいずれか一項に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項6】
前記アミノ酸配列がHLA-Bと少なくとも95%同一であり、前記少なくとも1つのアミノ酸置換が、位置9、24、33、45、46、52、59、62、66、70、73、77、81、95、97、99、114、116、143、147、152、156、163、167、171、178、又はこれらの組合せから選択される、前記アミノ酸配列内の位置にある、請求項1に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項7】
前記HLA-BがB
*07、B
*08、B
*27、B
*51、B
*54、及びB
*57から選択される、請求項6に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項8】
前記HLA-BがB
*07:02、B
*08:01、B
*27:03 B
*27:05、B
*27:09、B
*51:01、B
*54:01、及びB
*57:01から選択される、請求項6又は請求項7に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項9】
前記HLA-Bのアミノ酸配列が配列番号4~13から選択される、請求項6~8のいずれか一項に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項10】
前記位置が59又は116であり、前記少なくとも1つのアミノ酸置換がヒスチジンである、請求項6~9のいずれか一項に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項11】
前記アミノ酸配列がHLA-Cと少なくとも95%同一であり、前記少なくとも1つのアミノ酸置換が、位置4、24、30、33、45、52、59、62、63、66、67、70、73、74、77、80、81、95、97、99、114、116、143、147、152、167、171、又はそれらの組合せから選択される、前記アミノ酸配列内の位置にある、請求項1に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項12】
前記HLA-CがC
*06及びC
*18から選択される、請求項11に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項13】
前記HLA-CがC
*06:02及びC
*18:01から選択される、請求項11又は請求項12に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項14】
前記HLA-Cのアミノ酸配列が配列番号14又は15から選択される、請求項11~13のいずれか一項に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項15】
前記アミノ酸配列がHLA-DQA1と少なくとも95%同一であり、前記少なくとも1つのアミノ酸置換が、位置34、44、61、64、69、76、80、又はこれらの組合せから選択される、前記アミノ酸配列内の位置にある、請求項1に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項16】
前記HLA-DQA1がDQA1
*01、DQA1
*02、DQA1
*03、及びDQA1
*05から選択される、請求項15に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項17】
前記HLA-DQA1がDQA1
*01:01、DQA1
*01:02、DQA1
*02:01、DQA1
*03:01、DQA1
*05:01及びDQA1
*05:05から選択される、請求項15又は請求項16に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項18】
前記HLA-DQA1のアミノ酸配列が配列番号19~23から選択される、請求項15~17のいずれか一項に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項19】
前記アミノ酸配列がHLA-DQB1と少なくとも95%同一であり、前記少なくとも1つのアミノ酸置換が、位置9、26、28、30、37、38、47、53、57、67、70、71、74、86、87、90、又はこれらの組合せから選択される、前記アミノ酸配列内の位置にある、請求項1に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項20】
前記HLA-DQB1がDQB1
*02、DQB1
*03、DQB1
*05、及びDQB1
*06から選択される、請求項19に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項21】
前記HLA-DQB1がDQB1
*02:01、DQB1
*03:01、DQB1
*03:02、DQB1
*05:01、DQB1
*06:01及びDQB1
*06:02から選択される、請求項19又は請求項20に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項22】
前記HLA-DQB1のアミノ酸配列が配列番号24~29から選択される、請求項19~21のいずれか一項に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項23】
前記位置が57又は71であり、前記少なくとも1つのアミノ酸置換がアスパラギン酸、グルタミン酸、又はチロシンである、請求項19~22のいずれか一項の変異型HLAタンパク質。
【請求項24】
前記アミノ酸配列がHLA-DPA1と少なくとも95%同一であり、前記少なくとも1つのアミノ酸置換が、位置11、28、31、72、73、96、又はこれらの組合せから選択される、前記アミノ酸配列内の位置にある、請求項1に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項25】
前記HLA-DPA1がDPA1
*02である、請求項24に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項26】
前記HLA-DPA1がDPA1
*02:01である、請求項24又は請求項25に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項27】
前記HLA-DPA1のアミノ酸配列が配列番号16である、請求項24~26のいずれか一項に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項28】
前記アミノ酸配列がHLA-DPB1と少なくとも95%同一であり、前記少なくとも1つのアミノ酸置換が、位置9、11、33、35、36、55、56、65、69、72、76、84、87、91、又はこれらの組合せから選択される、前記アミノ酸配列内の位置にある、請求項1に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項29】
前記HLA-DPB1がDPB
*13である、請求項28に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項30】
前記HLA-DPB1がDPB
*13:01である、請求項28又は請求項29に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項31】
前記HLA-DPB1のアミノ酸配列が配列番号17である、請求項28~30のいずれか一項に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項32】
前記アミノ酸配列がHLA-DRB1、HLA-DRB3、HLA-DRB4、及びHLA-DRB5と少なくとも95%同一であり、前記少なくとも1つのアミノ酸置換が、位置9、11、13、26、28、30、32、33、37、38、40、47、57、58、67、71、74、78、85、86、又はこれらの組合せから選択される、前記アミノ酸配列内の位置にある、請求項1に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項33】
前記HLA-DRBがDRB1
*01、DRB1
*03、DRB1
*04、DRB1
*07、DRB1
*08、DRB1
*09、DRB1
*10、DRB1
*11、DRB1
*12、DRB1
*13、DRB1
*14、DRB1
*15、DRB1
*16、DRB3
*01、DRB3
*02、DRB3
*03、DRB4
*01、及びDRB5
*01から選択される、請求項32に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項34】
前記HLA-DRBがDRB1
*01:01、DRB1
*01:03、DRB1
*03:01、DRB1
*04:01、DRB1
*04:02、DRB1
*04:03、DRB1
*04:04、DRB1
*04:05、DRB1
*04:08、DRB1
*07:01、DRB1
*08:01、DRB1
*09:01、DRB1
*10:01、DRB1
*11:02、DRB1
*11:03、DRB1
*12:01、DRB1
*13:01、DRB1
*14:01、DRB1
*15:01、DRB1
*15:02、DRB1
*16:01、DRB3
*01:01、DRB3
*02:02、DRB3
*03:01、DRB4
*01:03、及びDRB5
*01:01から選択される、請求項32又は請求項33に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項35】
前記HLA-DRBのアミノ酸配列が配列番号30~58から選択される、請求項32~34のいずれか一項に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項36】
前記位置が47、67、70、71、74、85、86、又は71であり、前記少なくとも1つのアミノ酸置換がイソロイシン、アスパラギン酸、アラニン、バリン、ロイシン、メチオニン、チロシン、アルギニン、又はフェニルアラニンである、請求項32~35のいずれか一項に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項37】
関節リウマチ(RA)、セリアック病、1型糖尿病、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、多発性硬化症(MS)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質抗体障害(MOGAD)、筋無力症候群及び視神経脊髄炎(NMO)、強直性脊椎炎、ベーチェット症候群、バードショットブドウ膜炎、ナルコレプシー、ナルコレプシー1型(NT1;以前はカタプレキシーを伴うナルコレプシーと呼称)、川崎病、クローン病、乾癬、皮膚筋炎(DM)、アジソン病、過敏性腸症候群(IBS)、グレーブス病、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病(HSP)、サルコイドーシス、シェーグレン症候群、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、橋本病、特発性血小板減少性紫斑病、多発性筋炎(PM)、傍腫瘍性神経症候群(PNS)、自己免疫性脳炎、狼瘡腎炎(LN)、重症筋無力症(MG)、乾癬性関節炎、移植片拒絶、移植片対宿主病(GVHD)、望ましくない遅延型過敏症反応、T細胞介在性肺疾患、神経炎、白斑、自己免疫性膵炎、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、糸球体腎炎、強皮症、自己免疫性甲状腺疾患、喘息、自己免疫性ブドウ膜網膜炎、尋常性天疱瘡、肺線維症又は特発性肺線維症、原発性胆汁性肝硬変、及び悪性貧血から選択される自己免疫性障害に罹患している患者の治療において使用するための、請求項1~36のいずれか一項に記載の変異型HLAタンパク質。
【請求項38】
請求項1~36のいずれか一項に記載の変異型HLAタンパク質を含む、操作された造血系細胞。
【請求項39】
請求項1~36に記載の変異型HLAタンパク質をコードする非天然核酸。
【請求項40】
請求項39に記載の核酸を含む操作された造血系細胞。
【請求項41】
自己免疫性障害の治療のための薬剤の製造における、請求項1~36のいずれか一項に記載の変異型HLAタンパク質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示される組成物、方法、及びシステムは、自己免疫性病態の治療及び予防を対象とする。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年5月10日に出願された「HLA Engineering Methods, Compounds, and Compositions for Treatment of Autoimmunity」と題する米国仮特許出願第63/186,770号の35U.S.C.§119(e)に基づく利益及び優先権を主張するものであり、又その全体が本明細書に援用される。本出願は、「HLA Engineering Methods and Compositions for Treatment of Autoimmunity」と題された関連する米国非仮出願、並びに「Methods of HLA Engineering and Treatments for Autoimmunity」、及び「Pocket Engineering of HLA Alleles for Treating Autoimmunity」と題されたPCT出願と同時に出願されており、これらは本明細書の一部として援用される。
【0003】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、その全体が本明細書の一部として援用される。2022年 に作成された当該ASCIIコピーは、 .txtの名称で、サイズは バイトである。
【背景技術】
【0004】
自己免疫とは、身体の免疫系が健康な組織及び細胞を誤って異物と認識し、それらを攻撃する病的状態を指す。この誤った免疫反応に起因する疾患は、自己免疫疾患、障害又は病態と呼ばれる。関節リウマチ(RA)、1型糖尿病(T1D)、及び多発性硬化症(MS)等の幾つかの自己免疫疾患は、他の疾患よりも多くみられるが、総体的には、世界中の何百万人もの人々に影響を及ぼす、重大な公衆衛生問題である。一般的に、自己免疫疾患の患者は、限定されるものではないが、倦怠感、発熱、筋肉痛、関節痛や腫脹、皮膚障害、腹痛、及び消化不良を含む軽度のものから、運動能力の低下、視力低下、及び臓器不全を含み得る重度のものまで、様々な症状に悩まされる。
【0005】
自己免疫疾患は、様々な分子的、細胞的、及び生理学的基盤を有し得る。一般に、自己免疫は、遺伝的又は環境的要因に起因し得る調節不全の免疫系の結果であり、その結果、対象の免疫系が自己に向く。理想的には、正常な状況下では、健康な免疫系は異物(例えば、微生物、ウイルス、タンパク質、及び核酸)を認識し、撃退する。しかし、これを効果的に行うためには、対象自身の組織、細胞、タンパク質、及び核酸を攻撃しないように訓練する必要がある。
【0006】
ヒト白血球抗原(HLA)とは、免疫機能に関与するタンパク質をコードする関連遺伝子の一群を指す。HLAクラスI及びIIタンパク質は、T細胞受容体にペプチドを提示するためのペプチドクレフトを備えた細胞表面タンパク質である。HLA遺伝子複合体は、ヒト第6染色体の短腕に存在する。HLAタンパク質の対立遺伝子は、よく知られた命名法で呼称される。例えば、DRB1*01:01:01:01は、当業者のHLA研究者にはよく知られているように、HLA複合体のDRB1遺伝子の対立遺伝子を指し、HLA遺伝子の指定の後に「*」で区切られた最初の2つの値(この例では「01:01」)は、対立遺伝子群又はレベル、及びタンパク質配列レベルでの変異を指し、例えば、DRB1*01:01とDRB1*01:02は、ペプチド結合領域において2つのアミノ酸が異なる。3番目のフィールド(ここでは、3番目の「01」)は、遺伝子コードの縮重により、アミノ酸が変化せず、従って免疫学的に同一である、遺伝子配列の違いを示し、つまり、DRB1*01:02:01はDRB1*01:02:02と免疫学的に同一である。最後のフィールド(即ち、最後の「01」)は、タンパク質のコード領域外(イントロン、プロモーター等)で生じる遺伝子配列の違いを示し、従って、DRB1*01:01:01:01と仮想的なDRB1*01:01:01:02は、コード配列内では免疫学的レベル及び遺伝子レベルで同一であるが、非コード配列は異なる。この種の変化は、通常、発現レベルに影響を及ぼす可能性がある。従って、本明細書で言及されるように、慣例により、操作されたHLA対立遺伝子は、一般に最初の2つのフィールドを使用して記述される。
【0007】
HLAは自己免疫疾患に関連する主要な遺伝因子であり、既知の遺伝的素因のおよそ半分を占めている。HLAと疾患との関連は200以上が記載されているが、その根底にある発症機序まだ十分定義されておらず。HLAの特定の遺伝的特徴、並びに他の遺伝子及び環境との複雑な相互作用が、この分野における臨床的に意味のあるさらなる発展を妨げてきた。疾患感受性におけるHLAの役割を解明し、理解する必要性が高まっている。
【0008】
自己免疫疾患の1つである関節リウマチ(RA)は関節包滑膜の炎症を特徴とし、その結果、マクロファージ、好中球、T細胞、及びB細胞の浸潤が起こる。これにより広範な関節破壊、身体障害、及び生活の質の低下が生じる。RAに関連する持続的な炎症は、虚血性心疾患及び呼吸器疾患の発症リスクも高め、早期の死亡につながる。RAは世界人口のおよそ1%に生じ、米国(US)だけでも130万人が罹患していると推計される。RAは40歳を超える女性及び長期喫煙者に多く発症する。年間数十億ドルの直接的な医療費がRAの治療に関連しており、RAの年間の社会的総コスト(直接的、間接的及び無形的)は、米国だけでも数百億ドルに達すると推計される。
RAの治療には、患者に適した最適な治療レジメンを決定するために、疾患活動性及び薬剤の副作用を頻繁にモニタリングする体系的なアプローチが必要である。現在、症状を制御し、疼痛を管理し、関節損傷を制限するために、多様な治療薬が承認されている。現在のRA治療薬には、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)、鎮痛薬、コルチコステロイド、合成疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)、及び生物学的薬剤がある。DMARD治療は、世界的には、RAの進行を阻止するために免疫系の主要な成分を標的とし、寛解を維持するためには持続的な投与が必要である。このため、患者は望ましくない副作用、重篤な感染症、悪性腫瘍、及び臓器毒性を発症するリスクがあり、又、患者は、効果を無効にする生物学的製剤に対する抗薬物抗体(ADA)を生じる可能性がある。更に、およそ6%~21%の患者は、現在の治療法では、疾病を十分に管理するだけの十分な応答を得ることができない。このような患者は一般に難治性RA患者と呼ばれる。
【0009】
自己免疫疾患に対する既存の治療法は、疾患の根本原因ではなく、症状を対象としている。RAのような多くの自己免疫疾患は、HLA対立遺伝子のサブセットによって改変された自己ペプチドが提示されることによって発症する。
RAを治癒させるための造血幹細胞(HSC)の移植は、安全に長期寛解をもたらすという点では成功していない。第一に、自家移植は免疫系をリセットするために短期間の化学療法を用い、比較的安全であるが、根本的な問題に対処するのではなく、RAを最初に発症させたのと同じ、問題のある細胞を骨髄に再定着させるだけである。第二に、HLAが一致したドナーからの同種骨髄移植も、患者の骨髄を置き換えるために同じHLA対立遺伝子が使用されるため、高い再発率を示す。更に、この技術は移植片対宿主病(GVHD)を伴うため、治療戦略としては受け入れがたい。自己HSC移植を受けた155人のRA患者を含む17の研究の最近のメタ分析では、寛解は2年以上維持されないことが示された。
【0010】
米国国立衛生研究所(NIH)は2005年、米国で2350万人もの人々が自己免疫疾患に罹患している可能性があると報告し、多くの場合で治療法がない。治療法がないため、多くの患者が衰弱症状、臓器機能の低下、仕事の生産性の低下、及び高額な医療費に苦しんでいる。必要とされているのは、自己免疫疾患を治療するための効果的な治療法である。
本明細書で、出願者らは、自己免疫疾患に関連するHLA対立遺伝子を標的とし、この情報を使用して、標的HLA対立遺伝子が抗原結合親和性及び/又は特異性を変化させるように操作された1以上の自己HSCを含むテーラーメード治療法を作出する技術を記載する。
【発明の概要】
【0011】
本明細書で、自己免疫疾患の既存の治療及び管理における前述の欠点及び他の欠点に対処するために、出願者らは、疾患に関連するHLA対立遺伝子を同定及び標的化し、この情報を使用して、標的HLA対立遺伝子が自己抗原結合親和性及び/又は特異性を変化させるように操作された1以上の自己HSCを含むテーラーメード治療を作出する方法を開発した。
【0012】
本明細書では、自己免疫疾、障害、又は病態に罹患している又はそれを発症するリスクのある対象において自己免疫を低減するのに有用な方法及び組成物が開示される。このような疾患、障害、及び病態としては、限定されるものではないが、関節リウマチ(RA)、セリアック病、1型糖尿病、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、多発性硬化症(MS)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質抗体障害(MOGAD)、筋無力症候群及び視神経脊髄炎(NMO)、強直性脊椎炎、ベーチェット症候群、バードショットブドウ膜炎、ナルコレプシー、ナルコレプシー1型(NT1;以前はカタプレキシーを伴うナルコレプシーと呼称)、川崎病、クローン病、乾癬、皮膚筋炎(DM)、アジソン病、過敏性腸症候群(IBS)、グレーブス病、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病(HSP)、サルコイドーシス、シェーグレン症候群、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、橋本病、特発性血小板減少性紫斑病、多発性筋炎(PM)、傍腫瘍性神経症候群(PNS)、自己免疫性脳炎、狼瘡腎炎(LN)、重症筋無力症(MG)、乾癬性関節炎、移植片拒絶、移植片対宿主病(GVHD)、望ましくない遅延型過敏症反応、T細胞介在性肺疾患、神経炎、白斑、自己免疫性膵炎、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、糸球体腎炎、強皮症、自己免疫性甲状腺疾患、喘息、自己免疫性ブドウ膜網膜炎、尋常性天疱瘡、肺線維症又は特発性肺線維症、原発性胆汁性肝硬変、及び悪性貧血が挙げられる。様々な自己免疫疾患が、免疫機能に関与するタンパク質をコードする関連遺伝子の一群であるヒト白血球抗原(HLA)遺伝子の1以上の対立遺伝子の存在に関連する。HLAクラスI及びクラスIIタンパク質は、T細胞受容体にペプチドを提示するペプチドクレフトを備えた細胞表面タンパク質である。HLA遺伝子複合体は、ヒト第6染色体の短腕に存在する。
【0013】
一態様において、自己免疫疾患に関連するHLA対立遺伝子を改変する方法が提供される。このような方法の1つには、自己免疫感受性HLA対立遺伝子を同定する工程;感受性HLA対立遺伝子がコードするタンパク質の結合クレフト内の標的アミノ酸位置を同定する工程、上記標的アミノ酸位置は、自己免疫耐性HLA対立遺伝子において異なる識別性を有する;標的アミノ酸位置のアミノ酸識別性を自己免疫耐性HLA対立遺伝子における同じアミノ酸位置の識別性に改変して改変された自己免疫感受性HLA対立遺伝子を作出する工程、上記改変された自己免疫感受性HLA対立遺伝子によりコードされるタンパク質は、少なくとも1つの自己ペプチドに対する結合親和性が改変されている、を含む。
本開示の関連の態様では、自己免疫疾に罹患している又はそれを発症するリスクのある対象を治療する方法が提供される。1つのこのような方法には、上記対象のHLA複合体内の自己免疫感受性HLA対立遺伝子を同定する工程;上記対象から複数のCD34+免疫細胞を単離する工程;及びCD34+免疫細胞を改変して、改変された自己免疫感受性HLA対立遺伝子を発現する改変されたCD34+免疫細胞を作出する工程を含む。改変された自己免疫感受性HLA対立遺伝子は、自己免疫感受性HLA対立遺伝子によりコードされるタンパク質と比較して少なくとも1つの自己ペプチドに対する結合親和性が改変されているタンパク質をコードする。
【0014】
本開示による特定の実施形態では、操作された自己HLAを発現する造血系細胞で治療可能な、HLAクラスI及びクラスIIタンパク質による抗原提示に関連する自己免疫性病態を同定するための方法が提供される。多くの実施形態では、HLA遺伝子座は、クラスI A、B、及びC、及びクラスII DP、DR、及びDQから選択される。いくつかの実施形態では、HLA遺伝子、対立遺伝子、及びタンパク質としては、HLA-A*02、HLA-A*03、HLA-A*29、HLA-B*07、HLA-B*08、HLA-B*27、B*27:03 B*27:05、B*27:09、HLA-B*51、HLA-B*54、HLA-B*57、HLA-C*06、HLA-C*18、HLA-DPA1*02、HLA-DPB1*13、HLA-DQA1*02、HLA-DQA1*03、HLA-DQA1*05、HLA-DQB1*02、HLA-DQB1*03、HLA-DQB1*06、HLA-DRB1*01、HLA-DRB1*04、HLA-DRB1*07、HLA-DRB1*08、HLA-DRB1*11、HLA-DRB1*15、HLA-DRB1*16、及びこれらHLAの変異体のうち1以上を含み得る。開示される方法は、特定の実施形態において、特定の自己免疫疾患に対する感受性に関連する1以上のHLA対立遺伝子(感受性対立遺伝子)及び同じHLA遺伝子の、特定の自己免疫疾患に対する耐性に関連する1以上の対立遺伝子(耐性対立遺伝子)を同定する工程、HLA遺伝子の抗原結合グルーブ内の1以上の可変アミノ酸位置を同定する工程を含み、上記感受性対立遺伝子の可変アミノ酸位置は第1の識別性(first identity)を有し、上記耐性対立遺伝子の可変アミノ酸位置は第2の識別性(second identity)を有する。
【0015】
本開示の特定の実施形態は、一つには、特定の自己免疫疾患と特定のHLA対立遺伝子の間の因果関係の発見を前提としている。例えば、特定の実施形態は、1型糖尿病とDQB1*02及び/又はDQB1*03、特に、DQB1*02:01及び/又はDQB1*03:02との関連に基づいている。いくつかの実施形態では、関節リウマチは、DRB1*04及びDRB1*01、特に、DRB1*04:01、DRB1*04:05、及びDRB1*01:01に関連している。いくつかのこのような実施形態では、多発性硬化症は、DRB1*15、特に、DRB1*15:01に関連している。いくつかのこのような実施形態では、セリアック病は、DQB1*02、特に、DQB1*02:01に関連している。いくつかのこのような実施形態では、NMOは、DRB1*03、特に、DRB1*03:01に関連している。いくつかのこのような実施形態では、ベーチェット症候群は、B*51又はB51に関連している。いくつかの場合、乾癬は、C*06、B*57、DRB1*07、及び/又はDQB1*03に関連している可能性がある。いくつかの場合、バードショットブドウ膜炎は、A*29に関連している可能性がある。いくつかの場合、ナルコレプシーは、DQB1*06、特に、DQB1*06:02に関連している可能性がある。いくつかの場合、重症筋無力症は、A*03、B*07、DR2(DRB1*15及び/又はDRB1*16)及び/又はDR4(DRB1*04)に関連している可能性がある。いくつかの場合、川崎病は、B*54、特に、アミノ酸位置91、104、及び329に関連している可能性がある。いくつかの場合、炎症性腸疾患は、DRB1*01、特に、DRB1*01:03に関連している可能性がある。いくつかの場合、全身性硬化症は、DRB1*11、DPB1*13、B*08、DQA1*02:01、DQA1*05、DRB1*08、DRB1*07、DPA1*02、DQB1*03、特に、DRB1*11:04、DPB1*13:01、B*08:01、DQA1*02:01、DQA1*05:01、DRB1*08:01、DRB1*07:01、DPA1*02:01、DQB1*03:01に関連している可能性がある。
【0016】
又、本明細書では、自己免疫性病態を治療又は予防するのに有用な化合物及び組成物も開示される。多くの実施形態では、開示される化合物及び組成物は、改変されたHLA対立遺伝子を含む1以上の操作された免疫細胞を含む。ほとんどの実施形態では、改変されたHLA対立遺伝子は、編集されたタンパク質分子であり、改変されたHLA対立遺伝子によりコードされるHLAタンパク質のペプチド結合クレフト内に少なくとも1つのアミノ酸突然変異を含む。他の実施形態では、改変されたHLA対立遺伝子は、編集されたHLAタンパク質をコードする編集された核酸分子であり、編集された核酸は、編集されたHLAタンパク質のペプチド結合クレフト内にアミノ酸突然変異をコードする少なくとも1つのコドンを含む。ほとんどの実施形態では、アミノ酸突然変異は、T細胞受容体界面にない。多くの実施形態では、改変されたHLA対立遺伝子は、操作された免疫細胞に保有されるか、含まれるか、又は操作された免疫細胞により発現される。多くの実施形態では、操作された免疫細胞は自己細胞であり、即ち、それらは自己免疫疾患が治療される対象から取得される。多くの実施形態では、操作された免疫細胞は、組成物、例えば、自己免疫疾患に罹患している又はそのリスクがある対象に投与される治療用組成物内に含まれ得る。多くの実施形態では、操作された免疫細胞は、HSCであり得る。
【0017】
更に、開示される化合物及び組成物を作製する方法が開示される。多くの実施形態では、これらの方法は、特定の自己免疫疾患の高い罹患率に関連する1以上のHLA遺伝子を同定すること、特定の自己免疫疾患に対する感受性に関連するHLA遺伝子の1以上の対立遺伝子(感受性対立遺伝子)及び/又は耐性に関連する1以上の対立遺伝子(耐性対立遺伝子)を同定すること、HLA分子の抗原結合グルーブ内の1以上の可変アミノ酸位置を同定することを含み、上記感受性対立遺伝子の可変アミノ酸位置は第1の識別性を有し、上記耐性対立遺伝子の可変アミノ酸位置は第2の識別性を有する。特定の実施形態では、開示される化合物を作製する方法は、上記感受性対立遺伝子の操作されたHLA分子を作出することを更に含み、上記可変位置のアミノ酸の識別性は第2の識別性である。いくつかの実施形態では、操作されたHLA分子は、発現ベクター又は操作されたゲノム配列によりコードされる。
【0018】
又、開示される療法を必要とする対象を治療する様々な方法も開示され、治療は、MHC抗原結合領域(例えば、HLAタンパク質の抗原結合グルーブ)内に少なくとも1つの変異型アミノ酸を有する1以上の操作された抗原提示細胞の投与を含む。多くの実施形態では、治療方法は、ドナーから1以上の細胞を単離することを含む。多くの実施形態では、単離された細胞はHSCである。多くの実施形態では、この方法は、HSCを改変して操作されたHSCを作出する工程を更に含む。操作されたHSCは、自己抗原又は変異体自己抗原に対する結合特異性又は親和性が変化している操作されたHLA対立遺伝子(編集されたHLA対立遺伝子、変異型HLA対立遺伝子、改変されたHLA対立遺伝子)を含む。いくつかの実施形態では、改変されたHSCは、ゲノム配列に操作されたHLA対立遺伝子をコードする1以上の核酸配列又は操作されたHLA対立遺伝子をコードする核酸配列を含む1以上の発現ベクターを含む。多くの実施形態では、改変されたHSCは、対象の骨髄に生着し、1以上の改変された抗原提示細胞を産生する可能性がある。
【0019】
本明細書では、自己免疫疾患を発症するリスクがある又はそれに罹患している対象を治療するための様々な組成物が開示される。代表的な特定の実施形態では、組成物は、配列番号59~96からなる群から選択されるDNA配列を含む。
本開示によるいくつかの特定の実施形態では、自己免疫疾患に対する感受性は、HLA-DRB1遺伝子、例えば、DRB1*01、DRB1*03、DRB1*04、DRB1*07、DRB1*09、DRB1*10、DRB1*11、DRB1*12、DRB1*13、DRB1*14、DRB1*15、及びDRB1*16に関連する。多くの実施形態では、自己免疫疾患は、DRB1*01:01、DRB1*01:02、DRB1*01:03、DRB1*03:01、DRB1*04:01、DRB1*04:02、DRB1*04:03、DRB1*04:04、DRB1*04:05、DRB1*04:08、DRB1*07:01、DRB1*09:01、DRB1*10:01、DRB1*11:01、DRB1*11:02、DRB1*11:03、DRB1*12:01、DRB1*13:01、DRB1*14:01、DRB1*15:01、DRB1*15:02、及びDRB1*16:01から選択されるHLA-DRB1の対立遺伝子に関連する。関連の実施形態では、組成物は、L67、Q70、V85、G86、R71(アミノ酸の位置はebi.ac.uk/ipd/imgt/hlaに示されるような成熟タンパク質配列に関するものである)、及びこれらの組合せから選択される位置に突然変異、例えば、限定されるものではないが、L67I、Q70D、V85A、G86V、R71E、及びこれらの組合せを含むDRB1*01:01タンパク質又はそのDNAコード領域を含む。例えば、いくつかの実施形態では、組成物は、位置V86に突然変異、例えば、V86L又はV86Mを含む変異型DRB1*03:01タンパク質又はコード領域を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、位置R71に突然変異、例えば、R71Eを含む変異型DRB1*04:03、DRB1*04:04 DRB1*04:05、及びDRB1*04:08タンパク質又はコード領域を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、位置V86に突然変異、例えば、V86L又はV86Mを含む変異型DRB1*13:01タンパク質又はコード領域を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、位置F47、A71、又はV86に、突然変異例えば、F47Y、A71R、V86L、V86M、及びこれらの組合せを含む変異型DRB1*15:01タンパク質又はコード領域を含む。
【0020】
本開示のいくつかの実施形態では、自己免疫疾患に対する感受性は、HLA-DRB3、HLA-DRB4、又はHLA-DRB5遺伝子、例えば、HLA-DRB3*01、HLA-DRB3*02、HLA-DRB3*03、DRB4*01、及びDRB5*01に関連する。例えば、特定の実施形態では、自己免疫疾患は、DRB3*01:01、DRB3*02:02、DRB3*03:01、DRB4*01:01、DRB4*01:03、及びDRB5*01:01から選択されるHLA-DRB3/4/5の対立遺伝子に関連する。
本開示による更なる実施形態では、自己免疫疾患に対する感受性は、HLA-DQA及び/又はHLA DQB遺伝子に関連する。例えば、特定の実施形態では、自己免疫疾患は、HLA-DQA1の、及び/又はDQA1*01、DQA1*03、DQA1*05、DQB1*02、DQA1*03、DQB1*05、DQB1*06、及びこれらの組合せ、例えば、DQ5、DQA1*01:01及びDQB1*05:01;DQ6、DQA1*01:02及びDQB1*06:02;DQ2、DQA1*05:01及びDQB1*02:01;DQ2トランス、DQA1*03:01及びDQB1*02:01;DQ8、DQA1*03:01及びDQB1*03:02;DQ8トランス、DQA1*05:01及びDQB1*03:02;DQA1*05:05及びDQB1*03:01;及びDQA1*03:01及びDQB1*03:01から選択される対立遺伝子に関連する。いくつかのこのような実施形態では、少なくとも1つの改変型又は変異型HLAは、抗原結合グルーブ内に、例えば、位置57又は71に少なくとも1つの置換を有するように操作され、突然変異はA57D、K71E、K71T、又はこれらの組合せである。
【0021】
本開示による更なる実施形態では、自己免疫疾患に対する感受性は、HLA-B遺伝子に関連する。例えば、いくつかの実施形態では、自己免疫疾患は、B27の、及び/又はB*27:03 B*27:05、及びB*27:09から選択される対立遺伝子に関連する。多くの実施形態では、突然変異は、抗原結合グルーブ内の任意の多形性の位置から選択される位置、例えば、位置59又は116であってよく、突然変異はY59H、D116H、又はこれらの組合せである。
本明細書では更に、変異した場合に、自己免疫に対する感受性又は自己免疫の症状を低減又は排除するのに有用であり得るHLA対立遺伝子の位置を同定するための方法が開示される。これらの方法は、多くの実施形態において、自己免疫疾患に罹患しているの個人のコホートを比較すること、疾患感受性に関連する特定のHLA遺伝子対立遺伝子(感受性対立遺伝子)を同定すること、疾患耐性に関連する特定のHLA遺伝子対立遺伝子(耐性対立遺伝子)を同定すること、HLA分子の抗原結合グルーブ内の耐性対立遺伝子と感受性対立遺伝子の間に位置する多形性のアミノ酸位置、即ち、耐性対立遺伝子でのアミノ酸識別性が感受性対立遺伝子での識別性と異なる位置を同定することを含む。一例として、抗原結合グルーブ内に位置するDRB1遺伝子の残基には、8~14、16、25~26、28、30~33、37~38、40、47、57~60、67、70~71、73~74、77~78、85~86、及び93が含まれる。関連の実施形態では、これらの方法は、多形性の位置に耐性対立遺伝子のアミノ酸識別性を含むように感受性対立遺伝子を操作することを更に含む。本開示による特定の実施形態では、1以上の抗原提示細胞(APC)上でこのような1又は複数の操作されたHLA分子を発現させると、対象の自己免疫疾患が抑制、治療、又は改善される。
【0022】
又、本明細書では、非操作HLA分子と比較して抗原結合及び/又は特異性が変化している操作されたHLA分子も開示される。多くの実施形態では、抗原は、改変されたペプチド、シトルリン化ペプチド、ハイブリッドペプチド、核酸等を含む様々なペプチドから選択され得る。いくつかの実施形態では、ハイブリッドペプチドは、ハイブリッドインスリンペプチドである。いくつかの実施形態では、ペプチドは、ENPVVHFFKNIVTPRTPPP、LVRYWISAFP、FFRDHSYQEEA、AQGTLSKIFKLGGRDSRSGSPMARR、GQVELGGWSKMDQLA、GQVELGGGNAVEVLK、GQVELGGGSSPETLI、SLQPLALEAEDLQV、HLVEELYLVAGEEG、AMMIARFKMFPEVKEKG、SHLVEALYLVCGERG、RSQVETDDLILKPGV、SQVETDDLILKPGVV、PGIAGFKGEQGPKGE、IFDSRGNPTVEVDLF、IFDS{CIT}GNPTVEVDLF、SAVRLRSSVPGVR、SAVRL{CIT}SSVPGVR、QDFTNRINKLKNS、QDFTN{CIT}INKLKNS、ATEGRVRVNSAYQDK、ATEG{CIT}VRVNSAYQDK、ATIKAEFVRAETPYM、ATIKAEFV{CIT}AETPYM、AVRLQGSVAGVR、PYHFKYHEKHFANAI、PVSKMRMATPLLMQA、PKYVKQNTLKLAT、及びこれらの組合せから選択され、ここで、{CIT}は脱イミノ化アルギニン残基を示し、これはシトルリン化残基と呼称することもできる。
【0023】
又、HLA対立遺伝子の結合クレフト内のポケットを閉塞する方法も開示され、これらの方法は、感受性HLA対立遺伝子を同定する工程、及び抗原結合クレフトのポケット又はその付近の標的アミノ酸位置を同定する工程を含み、ポケットは抗原結合クレフトの底部の凹部を画定する。これらの方法は、標的アミノ酸よりも大きな側鎖を有するアミノ酸を置換して閉塞HLA対立遺伝子を作出すること、第2のアミノ酸の側鎖は抗原結合クレフトの底部の凹部に伸びる、それにより、HLA対立遺伝子のポケットを閉塞することを更に含み得る。様々な実施形態では、HLA対立遺伝子は、HLA-DRB1、HLA-DRB3、HLA-DRB4、及びHLA-DRB5から選択することができ、ポケットはポケット1であり得る。これらの実施形態では、標的アミノ酸は例えば位置86であり得、置換アミノ酸の識別性は、バリン、メチオニン、及びロイシンから選択され得る。多くの実施形態では、ポケットが閉塞しているHLAタンパク質は、任意選択で、自己免疫疾患に関連する少なくとも1つの自己ペプチドに対してより低い結合親和性を有してよく、少なくとも1つの自己ペプチドは脱イミノ化され、更に任意選択で、標的アミノ酸はT細胞受容体結合界面にない。
【0024】
本開示を通じて、様々な刊行物が参照され得る。これらの刊行物の開示は、これらの全体が法律で認められる限り、本出願の一部として援用される。
本開示は、当業者が本開示を実施するのに十分である。記載の実施形態は本開示の特定の態様の例示として意図され、機能的に等価であるいずれの構築物も本開示の範囲内にあるため、本開示は記載の構築物によって範囲が限定されない。
特許又は出願ファイルには,カラーで作成された少なくとも1つの図面が含まれる。カラー図面を含む本特許又は特許出願公開公報の写しは、請求して必要な手数料を支払えば特許庁から提供される。
実施形態は、添付図面と共に以下の詳細な説明を読めば容易に理解されるであろう。実施形態は、添付図面において例示として示され、これらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、自己免疫における様々な経路、相互作用、及び薬学的介入の模式図である。
【
図2】
図2は、マウスTCR/CD4と操作されたヒト化HLA-DR4/I-E
dの相互作用を示す模式図であり、下は、CD4
+T細胞のex vivo増殖により検出した場合のコラーゲン感作に関する試験から得られた結果のグラフであり、記号は、個々のヒト化DRB1
*04:01、DRB1
*01:01及びDRB1
*04:01
K71Eマウス由来サンプルを示し、バーは平均を示す。データは一元配置ANOVAにより分析されたものである。
【
図3A】
図3Aは、クレフト内のDRB1
*04:01同定位置K71及びコラーゲンペプチドにより占められた抗原結合クレフトの三次元表示であり(左)、右の図はDRB1
*04:01
K71Eの構造及びコラーゲンペプチド結合が存在しない場合を示し、酸性残基を青で示し、塩基性残基を赤で示す。
【
図3B】
図3Bは、0日目と9日目の代表的マウスのDRB1
*04:01レシピエントの皮膚移植片を示し、15~18日目の全てのマウスを示す。右下のパネルに、DRB1
*04:01
K71E移植片(70日目)の長期移植を示す。赤いかさぶたは移植片の拒絶を示す。
【
図4】
図4は、本開示の実施形態によるDRB1
*01:01、DRB1
*11:01及びDRB1
*15:01成熟長タンパク質の配列アラインメントである。
【
図5】
図5は、DRB1
*01:01、
*15:01及び
*11:01対立遺伝子の抗原結合試験を示し、ボックスの左上の数字は、HLAクラスII分子を発現しない、従ってペプチド結合のない細胞(陰性対照)と比較したペプチドの結合比である。
【
図6】
図6は、自己免疫性脱髄関連ペプチドのDRB1
*15:01及び15:02単一及び二重変異実施形態への結合を示し、ボックスの左上の数字は、陰性対照(薄いグレー)と比較した結合比である。
【
図7】
図7は、自己免疫性脱髄関連ペプチドのDRB1
*15:01対立遺伝子への結合及び位置71と86における編集効果を示し、ボックスの左上の数字は、陰性対照と比較した結合比である。
【
図8】
図8は、本開示の実施形態によるDRB1
*03:01、DRB1
*07:01、及びDRB1
*09:01成熟長タンパク質の配列アラインメントである。
【
図9】
図9は、アクアポリン4ペプチド5及び6のDRB1
*03:01及びDRB1
*07:01への結合を示す。
【
図10】
図10は、本開示の実施形態による
*04:01及び
*04:05成熟長タンパク質の配列アラインメントである。
【
図11】
図11は、本開示の実施形態による、関節リウマチに関連する3つのペプチドのDRB1対立遺伝子
*04:05対立遺伝子への結合及びR71E編集の効果を示す。ボックスの右上の比は、陰性対照(コラーゲン)との比較又は天然型のビメンチン及びα-エノラーゼとの比較を示す。
【
図12】
図12は、複数の濃度にわたるHIP8-NPYペプチドの天然とA57Dへの結合の比較を示し、黒丸は天然対立遺伝子であり、白丸はA57D変異である:パネルA、DQ2;パネルB、DQ8;パネルC、DQ2トランス;及びパネルD、DQ8トランス。
【
図13】
図13は、複数の濃度にわたるHIP11-Cペプチドの天然とA57Dへの結合の比較を示し、黒丸は天然対立遺伝子であり、白丸はA57D変異である:パネルA、DQ2;パネルB、DQ8;パネルC、DQ2トランス;及びパネルD、DQ8トランス。
【
図14】
図14は、複数の濃度にわたるインスリンミモトープの天然とA57D結合の比較を示し、黒丸は天然対立遺伝子であり、白丸はA57D変異である:パネルA、DQ2;パネルB、DQ8;パネルC、DQ2トランス;及びパネルD、DQ8トランス。
【
図15】
図15(上)は、DQ2 T2細胞株が親EBV株よりも遙かに良好にE2 T細胞クローンを刺激することを示す。A57D変異を導入するとE2 T細胞の刺激が低下する、DQ2及びDQ2 A57Dを有するE2 T細胞の、10uM及び20uMの前負荷濃度のHIP11ペプチドでの刺激、黒丸はDQ2であり、白丸はDQ2 A57Dであり、菱形は患者EBV形質転換B細胞株であり、(下)は、DQ2トランス及びDQ2トランス A57Dを有するE2 T細胞の、10uM及び20uM前負荷濃度のHIP11ペプチドでの刺激を示し、黒丸はDQ2トランスであり、白丸はDQ2トランス A57Dであり、菱形は患者EBV形質転換B細胞株である。
【
図16】
図16は、様々なHLA-DQ対立遺伝子結合ハイブリッドインスリンペプチドを示し、ボックスの左上の数字は結合比である。
【
図17】
図17は、本開示の実施形態による様々なHLA-DQ対立遺伝子結合糖尿病誘発ペプチドを示す。ボックスの左上の数字は、陰性対照と比較した結合比である。
【
図18】
図18は、本開示の実施形態による、DRB1
*03:01、
*04:01及び
*15:01へのハイブリッドインスリンペプチドの結合を示す。ボックスの左上角の数字は、陰性対照と比較した結合比である。
【
図19】
図19は、本開示の実施形態による、DRB1
*03:01、
*04:01及び
*15:01への糖尿病誘発ペプチド及びインフルエンザ血球凝集素ペプチドの結合を示す。ボックスの左上角の数字は、陰性対照と比較した結合比である。
【
図20】
図20は、本開示の実施形態による、DRB3、DRB4及びDRB5対立遺伝子へのハイブリッドインスリンペプチドの結合を示す。ボックスの左上の数字は、陰性対照と比較した結合比である。これらの対立遺伝子の「一般的な」血清学的名称(例えば、HLA-DR52)は対立遺伝子名の上に示されている。
【
図21】
図21は、本開示の実施形態による、DRB3、DRB4及びDRB5対立遺伝子への糖尿病誘発ペプチドの結合を示す。ボックスの左上の数字は、陰性対照と比較した結合比である。
【
図22】
図22は、本開示の実施形態による、遺伝子編集されたHLA分子による結合を検討するために本試験で使用した様々な抗原の一覧である。
【
図23A】
図23Aは、本開示の実施形態による、ポケット1の位置を示すDRB1構造の三次元表示とアミノ酸化学の二次元表示である。
【
図23B】
図23Bは、本開示の実施形態による、DRB1
*04:01並びにポケット1変異G86L及びG86Mで編集された本開示の対立遺伝子の抗原結合試験を示す。ボックスの左上の数字は、陰性対照と比較した結合比である。
【
図24】
図24は、本開示の実施形態による、DRB1
*04:01並びにポケット1変異G86L及びG86Mで編集された本開示の2つの対立遺伝子へのハイブリッドインスリンペプチドの結合を示す。ボックスの左上の数字は、陰性対照と比較した結合比である。
【
図25】
図25は、本開示の実施形態による、DRB1
*04:01並びにポケット1変異G86L及びG86Mで編集された本開示の対立遺伝子への神経自己免疫性ペプチドの結合を示す。ボックスの左上の数字は、陰性対照と比較した結合比である。
【
図26】
図26は、本開示の実施形態による、DRB1
*04:01及びポケット1変異で操作された本開示の対立遺伝子への関節炎誘発ペプチドの結合を示す。ボックスの左上の数字は、天然ペプチドと比較したシトルリン化ペプチドの結合比である。
【
図27】
図27は、本開示の実施形態による、DRB1
*04:01及びポケット1変異で操作された本開示の対立遺伝子への天然及びシトルリン化関節炎誘発ペプチドの結合を示す。ボックスの左上の数字は、陰性対照と比較した結合比である。
【
図28】
図28は、本開示の実施形態による、代表的HLA対立遺伝子、アミノ酸位置、及び変異の一覧である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書では、自己免疫疾患に罹患している又はそれを発症するリスクのある対象において自己免疫疾患を治療、軽減、又は排除するのに有用な様々な方法及び組成物が開示される。このような自己免疫疾患としては、限定されるものではないが、関節リウマチ(RA)、セリアック病、1型糖尿病、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、多発性硬化症(MS)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質抗体障害(MOGAD)、筋無力症候群及び視神経脊髄炎(NMO)、強直性脊椎炎、ベーチェット症候群、バードショットブドウ膜炎、ナルコレプシー、ナルコレプシー1型(NT1;以前はカタプレキシーを伴うナルコレプシーと呼称)、川崎病、クローン病、乾癬、皮膚筋炎(DM)、アジソン病、過敏性腸症候群(IBS)、グレーブス病、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病(HSP)、サルコイドーシス、シェーグレン症候群、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、橋本病、特発性血小板減少性紫斑病、多発性筋炎(PM)、傍腫瘍性神経症候群(PNS)、自己免疫性脳炎、狼瘡腎炎(LN)、重症筋無力症(MG)、乾癬性関節炎、移植片拒絶、移植片対宿主病(GVHD)、望ましくない遅延型過敏症反応、T細胞介在性肺疾患、神経炎、白斑、自己免疫性膵炎、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、糸球体腎炎、強皮症、自己免疫性甲状腺疾患、喘息、自己免疫性ブドウ膜網膜炎、尋常性天疱瘡、肺線維症又は特発性肺線維症、原発性胆汁性肝硬変、及び悪性貧血が挙げられる。
【0027】
本開示による特定の実施形態では、開示される自己免疫疾患は、1以上のヒト白血球抗原(HLA)対立遺伝子の存在と相関している。出願者らは、本明細書に自己免疫疾患に罹患している対象において自己免疫疾患の1以上の症状を改善するのに有用な方法及び化合物を記載する。多くの実施形態では、これらの方法は、対象の抗原提示細胞により発現される自己免疫性感受性HLA対立遺伝子を同定すること、感受性HLA対立遺伝子のアミノ酸配列と同じ自己免疫疾患に対する耐性に関連する1以上のHLA対立遺伝子を比較することを含み得る。ほとんどの実施形態では、造血幹細胞が動員され、対象から単離され、感受性HLA対立遺伝子は、HLA対立遺伝子によりコードされるタンパク質の抗原結合クレフト内に1以上のアミノ酸置換を含む操作されたHLA対立遺伝子で改変又は置換され、置換アミノ酸の特定の識別性は、耐性に関連するHLA対立遺伝子の同じアミノ酸位置の識別性と一致する。
【0028】
特定の実施形態では、HLA遺伝子のクレフトを提示する抗原の標的化操作は、1以上の自己抗原に対する結合特異性及び/又は親和性を改変する。ほとんどの実施形態では、TCR尋問から隠されているクレフト内の単一のアミノ酸が、TCR結合に直接影響を及ぼさずにペプチド結合を変化させるように変異される。ほとんどの実施形態では、開示されるHLA突然変異は、患者において拒絶反応又はGVHDを惹起できないHLAタンパク質変化をもたらす。ほとんどの実施形態では、自己免疫疾患に罹患している対象の1以上の抗原提示細胞での操作されたHLAタンパク質の発現は、自己免疫疾患に関連する1以上の症状の改善をもたらし得る。
【0029】
又、HLA対立遺伝子の結合クレフト内のポケットを閉塞する方法も開示され、これらの方法は、感受性HLA対立遺伝子を同定する工程、及び抗原結合クレフトのポケット又はその付近の標的アミノ酸位置を同定する工程を含み、ポケットは抗原結合クレフトの底部の凹部を画定する。これらの方法は、標的アミノ酸よりも大きな側鎖を有するアミノ酸を置換して閉塞HLA対立遺伝子を作出すること、第2のアミノ酸の側鎖は抗原結合クレフトの底部の凹部に伸びる、それにより、HLA対立遺伝子のポケットを閉塞することを更に含み得る。様々な実施形態では、HLA対立遺伝子は、HLA-DRB1、HLA-DRB3、HLA-DRB4、及びHLA-DRB5から選択することができ、ポケットはポケット1であり得る。これらの実施形態では、標的アミノ酸は例えば位置86であり得、置換アミノ酸の識別性は、バリン、メチオニン、及びロイシンから選択され得る。多くの実施形態では、ポケットが閉塞しているHLAタンパク質は、自己免疫疾患に関連する少なくとも1つの自己ペプチドに対してより低い結合親和性を有してよく、任意選択で少なくとも1つの自己ペプチドは脱イミノ化され、更に任意選択で、標的アミノ酸はT細胞受容体結合界面にない。
出願者の現在の概念は、
図1の図に示されている。HLA T細胞受容体(TCR)相互作用は、多くの自己免疫疾患、例えば上記のものの病因における中心的な側面である。自己免疫疾患を標的とする現在の生物学的薬剤は、このシグナルから下流の自然経路および適応経路を標的として遮断する傾向がある。これらの経路は無数の病原体に対する防御免疫応答に関与しており、それらを遮断する又は変化させると、患者は様々な日和見感染のリスクに曝されるので、このことは問題である。
【0030】
APCは、骨髄内のHSC前駆細胞に由来する。今回記載される操作されたHSCは、自己免疫につながる抗原を提示する対象APCに取って代わる。操作されたHSCは変化したHLA分子を発現し、自己反応性CD4+T細胞の事前の活性化並びに慢性炎症性サイトカイン産生、マクロファージ活性化、及びB細胞自己抗体産生に対するその後の影響を軽減、抑制、及び/又は解消する。
よって、本開示の一態様において、出願者らは本明細書で、今回記載するような編集されたHLAタンパク質を含む操作された自己HSCを用いて自己免疫疾患を治療する能力を提供する。開示される方法は有利には、患者の免疫系の他の側面への広範な影響を避けつつ患者の自己免疫疾患の基礎にある病因を特異的に標的とする。
【0031】
単球、マクロファージ、及び樹状細胞(DC)は、多くの自己免疫疾患において病態の発症と維持を助ける主要なAPCである。例えば、RAでは、これらの細胞は関節の炎症亢進状態を持続させ、疼痛及び疾患の衰弱性の関節損傷の進行を伴う。しかし、これらの細胞は短命であり、定期的に骨髄中のCD34+HSCから補充されなければならない。例えば、単球は通常、血液中で数日間しか生存しない。しかし、単球が炎症を起こしている関節に移動すれば、単球は単球由来のDC及びマクロファージに移行し、数週間~数か月生存する可能性がある。従って、出願者らの本開示は、患者の骨髄のサブセットを、もはや自己免疫原性抗原を提示しない新たな操作された単球、マクロファージ及びDCを産生する操作されたHSCに置き換えることで、T細胞の活性化を抑制し、及び/又は自己反応性T細胞を休止記憶状態に戻すことを記載している。
本開示の方法、組成物、及びシステムは、一般に、操作されたHSCを注入する前に患者のT細胞及びB細胞を枯渇させることを含まない。従って、本開示の治療方法は、微生物病原体による感染及び認識腫瘍抗原に対する患者の正常な自然免疫及び適応免疫を保持する。
【0032】
操作されたHSCによる発現のためのHLA対立遺伝子、位置、及び変異の選択
本明細書には、操作されたHSCによる発現のために、HLA対立遺伝子、それらの対立遺伝子内の標的アミノ酸の位置、及びそれらの位置における変異を選択するための方法が開示される。いくつかの実施形態では、開示される方法、組成物、及びシステムは、2つ以上のHLA対立遺伝子、位置、及び/又は変異を選択及び同定すること、上記対立遺伝子を改変して、非改変HLA対立遺伝子と比較して少なくとも1つの自己抗原に対する結合親和性が変化した操作されたHLA対立遺伝子を作出することを含み得る。多くの実施形態では、操作されたHLA対立遺伝子は、開示された療法により治療される患者の操作された造血系細胞により発現される。
【0033】
開示される方法は、自己免疫の高いリスクに密接に関連するHLA対立遺伝子(感受性対立遺伝子又は感受性HLA対立遺伝子と呼ぶことができる)を同定及び/又は選択することを含み得る。特定の実施形態では、感受性HLA対立遺伝子は、特定の自己免疫疾患を有する患者の約5%超、例えば、約5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%超、又は約90%、80%、70%、60%、50%、45%、40%、40%、39%、38%、37%、36%、35%、34%、33%、32%、31%、30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、又は5%に見られる。多くの実施形態では、感受性HLA対立遺伝子は、より低パーセンテージの、例えば、約35%、30%、25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、又は5%未満の、同定された自己免疫疾患に罹患していない個人(即ち、対照集団又は対照)に見られ得る。
【0034】
RAの場合、DRB1*04:04、DRB1*01:01又はDRB1*04:01が、操作のためのHLA対立遺伝子として選択され得る。例えば、いくつかのDRB1対立遺伝子が位置71にアルギニンを含み、RAを発症する高いリスクがあるが、それらは比較的まれである。DRB1*01:01は、RA患者に13%の対立遺伝子頻度で見られ、対照の9.7%と比較して、これらの他の「共有エピトープ」の中でも最も多い。対立遺伝子DRB1*04:03(0.6%)、*04:04(9.1%)、*04:05(1.2%)、*04:08(1.7%)及び*10:01(2%)は全て、RA患者間ではまれである。対照的に、DRB1*04:01は、RA患者の31%に見られる(対照の10%と比較、ρ=10-3)。DRB1*04:01の頻度は、疾患の重症度とともに増加し、難治性RA患者では50%超、最も重症型のRA(フェルティ症候群)では88%である。又、DRB1*04:01はRAに対する最も高い感受性を示す。
【0035】
開示される方法は、操作されたHLA対立遺伝子を作出するために変異させる感受性HLA対立遺伝子内の標的アミノ酸位置を同定及び/又は選択することを含み得る。特定の実施形態では、選択された標的アミノ酸位置(1)は、HLAタンパク質の構造コアに埋もれておらず、(2)HLAタンパク質の抗原結合クレフト又はその付近に位置し、(3)グルーブ/クレフト内にあって、T細胞受容体に直接接近できず、即ち、TCR:HLA結合界面になく、及び/又は(4)操作されたHLA対立遺伝子に対する少なくとも1つの抗原の結合親和性が変化している。多くの実施形態では、選択された感受性HLA対立遺伝子分子によりコードされるタンパク質の、開示される標的アミノ酸位置は、同じHLA遺伝子の感受性に関連しない別の対立遺伝子とは異なる識別性を有し得る。その代わりに、この他のHLA対立遺伝子は、同じ自己免疫疾患に対する耐性に関連している可能性があり;このHLA対立遺伝子は、耐性HLA対立遺伝子と呼ぶことができる。例えば、RA関連感受性HLA対立遺伝子DRB1*04:01の成熟タンパク質の位置71の標的アミノ酸はリシンであるが、RA関連耐性HLAタンパク質では、DRB1*04:02の位置71はグルタミン酸である。
【0036】
特定の実施形態によれば、HLAの操作は、HLA不一致の結果を最小化する又は完全になくすために最適化される。同種骨髄移植のレシピエントでは、いかなるHLA不一致も移植不全(拒絶反応)及びGVHDのリスクを増加させるので、本明細書に記載される特定の実施形態は、HLA分子の抗原結合グルーブ/クレフト内の変異を含む。例えば、DRB1*04:01のK71の位置は、HLA分子の上面(TCR相互作用面)の下にあり、TCRに直接接触しない。従って、DRB1*04:01におけるK71の変異は、直接的な同種反応性を誘導する可能性は低い。特定の実施形態において、適切な操作部位は、in silicoモデリング、ペプチド結合の解析、及び/又は操作されたHSCにより惹起されるT細胞応答のin vitro特性評価等によって、T細胞応答を惹起できないことに基づいて評価される。
【0037】
本明細書には、抗原結合を変化させるには十分であるが、拒絶反応を惹起しない編集されたHLA対立遺伝子を作製するための方法が記載される。具体的には、編集されたHLA対立遺伝子DRB1*04:01K71Eは、自然界には見られない変異体であり、そのペプチドレパートリーおよび同種反応性の可能性は未知であった。
対象の免疫系による拒絶反応を回避しながら変更され得るHLA標的アミノ酸位置を同定するための本開示の方法論に基づいて、出願者らは本明細書において、そのようなアミノ酸の変更が拒絶反応を回避しながら自己免疫を治療することを示す。具体的には、出願者らは、DRB1*04:01又はDRB1*04:01K71Eのいずれかを発現するトランスジェニックマウスを作製し、これらの系統間で皮膚移植を行った。あるDRB1*04:01マウスから採取し、別のDRB1*04:01マウスに適用した皮膚移植は、DRB1*04:01免疫細胞により自己として受け入れられる。しかしながら、DRB1*04:01マウスの免疫細胞がDRB1*04:01K71Eを外来組織とみなすと、拒絶される(逆も同様)。
ここで、出願者らの実験結果は、本開示の、対象自身の感受性HLA対立遺伝子及びHSCに基づき操作されたHLA対立遺伝子を作出する方法は拒絶されない。開示される操作されたHLA-DRB1*04:01K71E対立遺伝子は、抗原結合クレフト内に1つの非天然アミノ酸置換を含み、その置換は少なくとも1つの抗原への結合を変化させる(天然感受性対立遺伝子と比較)が、DRB1*04:01K71E編集のようなT細胞受容体相互作用に直接影響を及ぼさず、天然DRB1*04:01レシピエントに同種反応性を誘導しない。
【0038】
100を超える遺伝子座がRAに関連している。しかしながら、RA病因との最も強い遺伝的関連は、主要組織適合性複合体内のDRB1遺伝子とのものであり、遺伝的リスクのおよそ50%に寄与している。より具体的には、HLA-DRB1における3つのアミノ酸位置(11、71及び74;ウェブサイトebi.ac.uk/ipd/imgt/hlaで公開されているウェブサイトImmuno Polymorphism Database-ImMunoGeneTics project/Human Leukocyte Antigen又はIPD-IMGT/HLAに示されているように、HLA内のaa位置は成熟タンパク質に対する相対的なものであることに留意されたい)は、HLA-DRB1遺伝子座と血清陽性RAとの関連の大部分を説明する。
関連のあるRA感受性対立遺伝子及びRA耐性対立遺伝子を全てクローニングした後、個々のアミノ酸に部位特異的突然変異誘発を行うことにより、出願者らは、位置71をKからEへ変異させることによってペプチド結合プロファイルが耐性HLA対立遺伝子DRB1*04:02と類似のものに変換されたことを実証した(下記)。
【0039】
ペプチド競合アッセイを用い、出願者らは、HLA対立遺伝子DRB1*04:01が、RA関連抗原のセット、具体的には、翻訳後修飾された「変化した自己」ペプチドに対して最大の選好性を有すると同定した。これらの変化した自己ペプチドは、前臨床RAにおける寛容の初期破壊のシグナルとなり得る。変化した自己ペプチドのコレクションには、感染及び炎症時にアップレギュレートされる一連のシトルリン化ペプチド新抗原が含まれる。ヒトII型コラーゲンは動物モデルで関節炎を誘発し、マウスでは関節炎を起こすCD4+T細胞はコラーゲンのアミノ酸258~272の間に位置する免疫優位ペプチドを認識する。コラーゲン258~272ペプチドを認識するCD4+T細胞はRAの関節に見られ、疾患発症時の末梢血におけるその存在は、関節疾患の急速な進行と、従来の合成および生物学的疾患修飾抗リウマチ薬(DMARD)に対する反応性の低さと関連している。出願者らは、位置71の酸性K残基とコラーゲン258~272ペプチド中の塩基性E残基との間のイオン引力が、DRB1*04:01へのペプチド結合を増強することを発見した。
難治性RAは、様々な関節の滑膜が不断の炎症状態に維持される、疾患のより重篤な形態である。この炎症状態は、T細胞マクロファージ、好中球、及びB細胞の浸潤を特徴とする。本開示の組成物、方法、及び治療法は、骨髄にDRB1*04:01K71E対立遺伝子を発現する骨髄性APCを補充する操作されたHSCの生着をもたらす。
【0040】
理論によって限定されることを望むものではないが、天然DRB1*04:01とは異なり、操作されたDRB1*04:01K71Eは、コラーゲン258-272に強固に結合せず、コラーゲンに反発する可能性があり、その結果、この自己抗原に対するCD4+T細胞応答が減弱する。コラーゲン特異的メモリーCD4+T細胞の集団は患者に持続し得るが、それらの細胞は慢性関節炎症を維持するのに必要なTCRシグナルをもはや受け取らない可能性がある。
開示される操作されたHSCは数日以内に骨髄に生着し、10日以内にDRB1*0401K71E発現骨髄細胞を生成し始める。開示される操作されたHSCを投与する前に患者が免疫抑制コンディショニングを受けない実施形態では、患者は処置前に存在した獲得T細胞及びB細胞免疫を保持する。患者が低用量ブスルファンを用いた非骨髄破壊的コンディショニング処置を受ける実施形態では、患者は短期間の好中球減少症(7~10日;感染症、特に細菌に対する免疫応答を惹起するのに必要な好中球の濃度が低い)及び血小板数の減少(20~30日;血液凝固に影響を及ぼす可能性がある)を被る可能性がある。これらの現象は生命を脅かすものではないはずであり、重篤な有害事象(SAE)は予想されない。
【0041】
本開示の療法で治療可能な自己免疫疾患
関節リウマチ(RA)は、関節包滑膜の炎症を特徴とする自己免疫疾患であり、その結果、マクロファージ、好中球、T細胞及びB細胞の浸潤が生じ、広範な関節破壊、障害及び生活の質の低下をもたらす。RAに伴う持続的な炎症は、虚血性心疾患及び呼吸器疾患の発症リスクも高め、早期の死亡につながる。RAは世界人口のおよそ1%に生じ、米国だけで130万人が罹患していると推計される。RAは40歳以上の女性と長期喫煙者に多く発症する。RAの治療に伴う直接的な医療費は年間数十億ドルにのぼり、RAの年間の総社会的コスト(直接的、間接的及び無形的)は、米国だけで数百億ドルに達すると推計される。
【0042】
ベーチェット症候群は、再発性口腔潰瘍、性器潰瘍、皮膚病変、ブドウ膜炎、並びに関節炎、及び消化器系または中枢神経系病変等の広範な全身症状を特徴とする慢性の多系統炎症性疾患である。この疾患は、あらゆる大きさの動脈及び静脈血管に多発性病変を伴う可変性血管炎に分類される。
バードショットブドウ膜炎(バードショット脈絡網膜症又はバードショット網脈絡膜症としても知られる)は、自己免疫性ブドウ膜炎(眼のブドウ膜層の炎症)のよく特徴付けられた形態であり、そのほとんどが、眼の後方の脈絡膜(即ち、これらの病変が写真で見える眼底)に沿って分布する「散弾銃パターン」様に見える卵形の光病変で知られている。炎症と脈絡膜の広範な色素脱失、黄斑浮腫、末梢の虚血、網膜の変性、及び網膜上の薄い瘢痕組織層の進行性の形成(「網膜上膜」)により、かなりの割合の患者で視力が徐々に低下する。バードショットブドウ膜炎は、一般に50歳を超える西欧系祖先の患者が罹患し、男性よりも女性が多く罹患する。
【0043】
セリアック病は、遺伝的素因のある人が食事性グルテンに曝されることによって引き起こされる、慢性的な免疫介在性腸疾患である(1)。セリアック病患者では、グルテンの摂取によって免疫系の自然応答と適応応答の両方が活性化され、これに絨毛萎縮、陰窩過形成及びリンパ球浸潤を含む粘膜構造の変化を決定付ける慢性炎症が続く。このような構造の変化の後に腸粘膜の機能が失われ、栄養吸収不良による症状が現れる。
乾癬は、樹状細胞の関与を伴うTリンパ球によって媒介される慢性炎症性疾患である。遺伝的および環境的因子は、明白な疾患の発症に寄与するか、又は必要とされる。病変は紅斑と落屑を特徴とし、境界の鮮明な斑からびまん性の紅皮症まで、様々な臨床像を構成する。患者の30%までに関節病変がみられ、処置しなければ、糜爛性疾患及び機能障害をきたすことがある。西洋諸国では人口の2%が罹患しており、有病率の高い疾患と考えられている。
【0044】
ナルコレプシーは、1877年にWestphalによって初めて報告され、1880年にGelineauによって命名された。1953年に急速眼球運動(REM)睡眠が発見された後、数人の研究者がナルコレプシー患者の入眠を研究した。健常者は通常、入眠後およそ90分で最初のレム睡眠に入るが、ナルコレプシー患者では入眠時に直接レム睡眠に入ることが多い。レム睡眠を調節するメカニズムの不全は、ナルコレプシーの症状の一部を説明することができる。ナルコレプシーには現在知られている治療法はない。その症状は適切な治療によって管理することができるが、ほとんどの患者には生涯にわたる治療が必要である。
川崎病(KD)は、急性全身性血管炎であり、小児における後天性心疾患の主要な原因である。KDの病因は未だ不明である。KDは、遺伝的に感受性のある小児において、未知の誘因に対する異常な免疫応答によって引き起こされると思われる。1 HLA(ヒト白血球抗原)遺伝子は、脊椎動物の中で最も多型性の遺伝子として知られており、免疫系の調節に関与する細胞表面の抗原提示タンパク質上のタンパク質をコードしている。HLA遺伝子の役割は、ベーチェット病、KD、及びウェゲナー肉芽腫症を含む、いくつかの免疫介在性血管疾患で研究されてきた。最近のゲノムワイド関連研究では、日本人集団においてHLAクラスII領域(HLA-DQB2-DOB)とKDとの有意な関連が実証された。
【0045】
重症筋無力症(MG)は、神経筋伝達のまれな障害であり、単一の疾患というよりはむしろ症候群として認められつつある。近年、重症筋無力症における新しい抗原の探索が活発に行われており、一方、臨床的及び実験的研究により、免疫調節における、将来の治療薬の標的となり得る重要な経路に関する新たな知見が得られている。
全身性紅斑性狼瘡(SLE)は、複数の臓器系を侵す重篤な自己免疫疾患である。ループス腎炎(LN)はSLEの合併症であり、低い生存率及び高い罹患率が伴う。多くのゲノム研究が世界中で行われ、いくつかの組織適合性白血球抗原(HLA)遺伝子座がループス感受性と関連している。
【0046】
クローン病(CD)は、1932年にCrohnらが14例の終末回腸炎を報告して以来知られている。クローン病は、主に口から肛門までの消化管を侵す再発性の炎症性疾患である。クローン病は、主に口から肛門までの消化管を侵す再発性の炎症性疾患である。クローン病は、消化管のどの部分も侵し、最も一般的には回腸末端部又は肛門周囲の領域を非連続的に侵す。
自己免疫神経学は、近年大きな発展を遂げている拡大分野である。この進歩の大部分は、末梢神経系及び/又は中枢神経系の抗原に対する自己抗体(Ab)の発見と特徴決定によるものであり、これらの疾患のバイオマーカーとして使用されている。これらのAbの中には、視神経脊髄炎(NMO)におけるアクオポリン-4に対するAb(抗AQP4 Ab)のように、既に知られている実体をより明確にすることを可能にしたものもある。
【0047】
1型糖尿病(T1D)は、膵臓のインスリン分泌β細胞の破壊を起こす多因子性の自己免疫疾患である。ゲノムワイド関連研究により、T1D発症リスクに関連する50を超える遺伝子座が同定されている。しかしながら、DQ2及びDQ8等の特定のヒト白血球抗原(HLA)遺伝子の遺伝が、疾患感受性と最も強く関連している。
強直性脊椎炎(AS)は、脊椎及び末梢関節の免疫介在性関節炎を起こす慢性炎症性疾患である。この疾患は男性に多く、症状は一般に人生の早期に始まる。HLA-B*27:05はASと強く関連しているが、B*27:06及びB*27:09は抵抗性と関連している。
多発性硬化症(MS)は、脳と中枢神経系の自己免疫疾患である。MSでは、免疫系が神経線維を覆っているミエリン鞘を攻撃し、神経の永続的な損傷又は劣化を引き起こす可能性がある。MSに対する感受性はDRB1*15:01対立遺伝子と関連している。
【0048】
以下の表1に、上記の自己免疫疾患に対する感受性に関連する様々なHLA対立遺伝子を示す。又、表1には、耐性HLA対立遺伝子における同じ位置のアミノ酸に対応するように変異させた場合に、自己免疫疾患に関連する少なくとも1つの症状を軽減又は排除するのに役立ち得る標的アミノ酸位置も示す。表1は又、自己免疫疾患を治療するための標的アミノ酸位置における特定の変異も開示している。
【0049】
操作されたHLA分子
本明細書では、様々な操作されたHLA分子が開示される。いくつかの実施形態では、HLA分子は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQB1、HLA-DRB1、HLA-DRB3、HLA-DRB4、及びHLA-DRB5のうち1以上から選択され得る。
多くの実施形態では、開示される操作されたHLA-Aは、9、12、17、31、35、43、44、56、62、63、65、66、67、70、73、74、76、77、79、80、81、82、83、90、95、97、99、102、105、107、109、114、116、127、142、144、145、149、150、151、152、156、158、161、163、166、167、171、184、及び186;特に、9、31、56、62、63、66、73、77、80、81、95、97、99、114、116、150、152、156、及び171から選択される多形性の位置のうち1以上に変異を含み得る。
多くの実施形態では、開示される操作されたHLA-Bは、4、9、11、12、24、30、32、33、41、45、46、52、59、62、63、65、66、67、69、70、71、73、74、76、77、80、81、82、83、90、94、95、97、99、103、109、113、114、116、131、143、145、147、152、156、158、162、163、166、167、171、177、178、及び180;特に、9、24、33、45、46、52、59、62、66、70、73、77、81、95、97、99、114、116、143、147、152、156、163、167、171、及び178から選択される多形性の位置のうち1以上に変異を含み得る。
【0050】
多くの実施形態では、開示される操作されたHLA-Cは、4、9、11、12、24、30、32、33、41、45、46、52、59、62、63、65、66、67、69、70、71、73、74、76、77、80、81、82、83、90、94、95、97、99、103、109、113、114、116、131、143、145、147、152、156、158、162、163、166、167、171、177、178、及び180;特に、4、24、30、33、45、52、59、62、63、66、67、70、73、74、77、80、81、95、97、99、114、116、143、147、152、167、及び171から選択される多形性の位置のうち1以上に変異を含み得る。
多くの実施形態では、開示される操作されたHLA-DQA1は、20、26、34、40、41、44、46、47、48、50、52、53、54、55、61、64、66、69、75、76、及び80;特に、34、44、61、64、69、76、及び80から選択される多形性の位置のうち1以上に変異を含み得る。
多くの実施形態では、開示される操作されたHLA-DQB1は、9、13、14、26、28、30、37、38、45、46、47、52、53、55、56、57、66、67、70、71、74、75、77、84、85、86、87、89、及び90;特に、9、26、28、30、37、38、47、53、57、67、70、71、74、86、87、及び90から選択される多形性の位置のうち1以上に変異を含み得る。
【0051】
多くの実施形態では、開示される操作されたHLA-DPA1は、11、18、28、30、31、50、72、73、83、及び96;特に、11、28、31、72、73、及び96から選択される多形性の位置のうち1以上に変異を含み得る。
多くの実施形態では、開示ざれる操作されたHLA-DPB1は、8、9、11、33、35、36、55、56、57、65、69、72、76、84、85、86、87、及び91;特に、9、11、33、35、36、55、56、65、69、72、76、84、87、及び91から選択される多形性の位置のうち1以上に変異を含み得る。
多くの実施形態では、開示される操作されたHLA-DRB1、HLA-DRB3、HLA-DRB4、及びHLA-DRB5は、9、10、11、12、13、14、16、25、26、28、30、31、32、33、37、38、40、47、57、58、60、67、70、71、73、74、77、78、85、及び86;特に、9、11、13、26、28、30、32、33、37、38、40、47、57、58、67、71、74、78、85、及び86から選択される多形性の位置のうち1以上に変異を含み得る。
【0052】
多くの実施形態では、開示される方法は、
A*02、A*03、A*29;
B*07、B*08、B*08:01、B*27、B*27:03 B*27:05、B*27:09、B*51、B*54:01、B*57;
C*06、C*18;
DPA1*02:01;
DPB1*13:01;
DQ;
DQA1*02:01、DQA1*03:01、DQA1*05、DQA1*05:01;
DQB1*02、DQB1*02:01、DQB1*03、DQB1*03:01、DQB1*03:02、DQB1*06:02;
DR;
DRB1*01:03、DRB1*04、DRB1*07、DRB1*07:01;DRB1*15、DRB1*15:01;DRB1*16;DRB1*08、DRB1*08:01、DRB1*11:04
から選択される1以上の感受性HLA対立遺伝子から1以上の操作されたHLA対立遺伝子を作出し得る。
【0053】
本明細書では、成熟HLAタンパク質配列内の標的アミノ酸位置における様々な変異が開示される。多くの実施形態では、突然変異は、上記に開示される基準に基づいて選択される。いくつかの実施形態では、治療される自己免疫疾患又は障害に基づいて、特定の対立遺伝子変異が選択され得る。例えば、1型糖尿病の治療はDQB1*02:01にA57Dの変異(ここでは、位置57の天然のA、アラニンがD、アスパラギン酸に変異される)及び/又はDQB1*03:02にA57Dの変異を含むことができ;関節リウマチの治療はDRB1*04:01にL67I、Q70D、L67I+Q70D、K71E、K71R、L67F、A74L、L67F-A74F、G86V、G86M、G86L、G86F、及びA74E;DRB1*04:05にR71E、DRB1*01:01にL671、Q70D、R71E、V85A、及びG86V、DRB1*04:03にR71E、DRB1*04:04にR71E、DRB1*04:08にR71Eの1以上の変異を含むことができ;多発性硬化症の治療はDRB1*15:01にF47Y、A71R、A71R-V86G、V86L、及びV86Fの1以上の変異を含むことができ;セリアック病の治療はDQB1*02:01にK71E、及びK71Tの1以上の変異を含むことができ;視神経脊髄炎の治療はDRB1*03:01にV86L及びV86Mの1以上の変異を含むことができ;ベーチェット症候群の治療はB*51に1以上の変異を含むことができ;乾癬の治療はC*06;B*57、及びC*06;C*18、A*02に1以上の変異を含むことができる。
【0054】
治療方法
本開示は、操作されたAPC及び/又はAPC前駆体、即ち、操作されたHSCを投与することによって自己免疫疾患を治療又は予防する方法を含む。例えば、T細胞療法とは対照的に、本明細書で開示される操作された組成物は、T細胞介在性拒絶応答を惹起するのではなく低減又は抑制するために提供される。従って、操作された組成物は、対象の特定の病態を標的としつつ比較的に広い治療域を提供する。特定の実施形態では、これらの方法は、治療上有効な量の操作されたHSCの投与を含む。
特定の実施形態では、対象に、1日以上にわたって1用量以上での静脈内投与などにより、体重1kg当たり1×106、2×106、3×106、4×106、5×106、例えば、100万~500万、又はそれより多い操作された自己HSCを投与する。
【0055】
本開示の方法には、記載のような操作されたHSCの生産及び投与が含まれる。現在の特定の実施形態を含む特定の実施形態では、操作されたHSCは、治療される対象に対して自己である。従って、いくつかの実施形態は、対象からHSC又はHSC前駆体を単離すること、単離されたHSCをex vivoで操作すること、操作されたHSCの任意選択の選択及び/又は拡大増殖、並びに操作された自己HSCの対象への投与を含む。
HSC又は前駆体は当技術分野で公知の方法により対象から単離することができる。例えば、PBMC及び/又は骨髄細胞は、CD34の発現に基づいて動員、単離、及びHSC精製することができる。所望により、HSC亜集団は更なる抗原の発現に基づいて選択することができる。それに加えて、又はその代わりに、HSCは、当技術分野で公知のように、対象の採取前の幹細胞又は脱分化細胞等の前駆細胞から生産することもできる。自己HSCは現在特定のものであるが、本開示は自己HSCに限定されない。例えば、特定の実施形態では、非自己応答を惹起し得るタンパク質を発現せずに所望のHLAを発現するように操作された非自己(ドナー)HSCが提供される。
【0056】
本明細書で提供される方法の特定の実施形態は、非骨髄破壊的コンディショニング等のプレコンディショニング、及び/又は操作されたHSCの生着を促進するため等の治療後介入も含む。それに加えて、又はその代わりに、本開示によるHSC操作は、本明細書に記載されるように、とりわけ、発現自己免疫耐性対立遺伝子及び/又は遺伝子編集構築物をコードするウイルスベクターの投与によるなどでin vivoで行うことができる。更に、本明細書では主に単一の操作されたHSC集団について言及するが、複数対立遺伝子自己免疫疾患の場合等では、個別のHLA対立遺伝子修飾を有する複数のHSC組成物を個別に又は順次に提供することもできる。
【0057】
HLA対立遺伝子の操作
本開示は、遺伝子編集のためのシステム、構築物、及び技術、並びに自己免疫に対する耐性を提供するためのその適用を含む。特に、本開示の特定の実施形態は、本明細書で開示されるようなHLA対立遺伝子操作のための構築物、システム、及びベクターを含む。
多くの遺伝子編集システムが利用可能であり、好適であり、当技術分野で十分に特徴付けられている。例えば、特定の実施形態では、修飾されるHLA対立遺伝子に相補的なDNA標的化ポリヌクレオチド及びCas9等のCRISPR関連ヌクレアーゼを含むCRISPR-Casシステムが提供される。RNAの治療のための関連するCRISPR-Cas9システムは、WO2019200635として公開されたPCT/US2018/029302に開示されており、その全体が本明細書の一部として援用される。
【0058】
他の実施形態では、例えば、WO/2020/023529として公開されたPCT/US2019/043066、WO/2018/195545として公開されたPCT/US2018/028919等、例えば、CasX、Cas12a、Cas13、又はMAD7を含むHSC HLA対立遺伝子操作のためのCRISPRシステムが提供される。特定のCRISPRシステムは、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)特異性に基づいて選択することができ、ほぼ全てのゲノム配列の標的化、オンターゲット選択性、ヒトHSCにおける効率、及び他の考慮事項が可能である。別の実施形態では、Nucleic Acid Res. 2011 Sep. 1; 39 (17):7879に開示されているように、HLA対立遺伝子操作のためにTALエフェクターヌクレアーゼ(TALEN)又はジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)が採用される。
更なる実施形態では、HLA対立遺伝子操作は、酵素的に不活性なdCas9に基づく融合タンパク質等の融合タンパク質を用いて行うことができる。これらのシステムは、CRISPRに関連するプログラム可能なDNA標的化能力を、他の遺伝子操作プラットフォームの付加的なオンターゲット選択性及び/又は機能的能力と組み合わせたものである。例えば、特定の実施形態では、HLA対立遺伝子の操作は、PCT/US2015/036226に記載されているように、Cas-CLOVER融合を含むシステムを用いて行われる。
【0059】
特定の実施形態を含む更なる実施形態において、HLA対立遺伝子の操作は、核酸塩基編集システムを用いて行われる。例えば、特定の実施形態は、HLA対立遺伝子標的化ポリヌクレオチドとdCas9及びデアミナーゼ等の核酸塩基編集酵素を含む融合タンパク質とを提供する。このような実施形態は、有利には、DNA二本鎖の切断及び修復を生じずに又は必要とせずに、標的HLA対立遺伝子コドンにおいてコードされるアミノ酸を変化させるに十分な特定の点突然変異を創出する。
CRISPR-Casシステム及びそのためのベクターの設計原理は当技術分野で周知であり、現在の文脈では、本質的に、操作されるHLA対立遺伝子の部分に相補的な配列を選択することのみを必要とする。記載の例を含むCRISPR-Cas融合に基づくシステムに関しても同様である。TALEN及びジンクフィンガー等のタンパク質に基づくDNAの標的化を含む遺伝子操作プラットフォームの作出も又、十分に特徴付けられており、本開示で使用するための適切なそのようなシステムは、常法と実験だけで作出することができる。
【0060】
更なる及び別の実施形態では、HLA対立遺伝子操作システムは相同修復鋳型を含む。例えば、特定の実施形態では、MHC遺伝子座内の感受性HLA対立遺伝子の全遺伝子を切除し、操作されたHLA対立遺伝子に置き換えることができる。多くの実施形態において、感受性HLA対立遺伝子をコードする遺伝子は、操作されたHLA対立遺伝子の挿入によって破壊され得、これは、操作されたHLA対立遺伝子のcDNA配列を有する中断されない核酸として存在し得る。
本開示によるHLA対立遺伝子操作、及びそのためのシステムは又、例えば、開示されたHLA対立遺伝子操作構築物の発現のためのレトロウイルスベクター等のベクターを含み得る。従って、一過性トランスフェクション技術及びシステムも又適用され得る。従って、本開示は、特定のHLA対立遺伝子操作構築物若しくはシステムによって限定されるものではなく、又は特定のHLA対立遺伝子操作構築物若しくはシステムに限定されるものではない。いくつかの特定の実施形態を含む特定の実施形態では、下表によるHLA対立遺伝子操作が提供される。
【表1】
【0061】
操作された造血系細胞
自己免疫細胞は、本明細書で開示されるような様々なシステムを用いて操作され得る。例えば、細胞は、ゲノム編集可能な様々なウイルスベクター及び/又はヌクレアーゼを用いた操作されたHLA遺伝子及び分子を保有し発現するように操作することができる。当業者に周知の様々なプロトコールが、ウイルス挿入、DNAの二本鎖切断(DSB)又は他の潜在的変異原性事象の頻度及び/又は位置を評価するための操作された細胞のゲノムのスクリーニングを可能にし得る(Li H, Haurigot V, Doyon Y, et al. In vivo genome editing restores haemostasis in a mouse model of haemophilia. Nature. 475(7355):217-21, 2011)。多くの実施形態において、本システムは、感受性HLA対立遺伝子の発現を除去又は抑制するのに有用であり得るとともに、操作されたHLA対立遺伝子を同じ遺伝子座に挿入するのに有用であり得る。多くの実施形態において、操作されたHLA対立遺伝子はcDNA配列から発現される。感受性HLA対立遺伝子及び操作されたHLA対立遺伝子の特定のcDNA配列は、
図30、及び配列番号59~96に示される。
臨床転帰をもたらすために必要な、治療上適切なレベルの遺伝子改変造血幹細胞は、ex vivoで細胞の大集団の拡大及び患者への再導入によってより容易に達成できる可能性がある。
【0062】
定義
以下の用語及び語句は、以下に提供される意味を含む。示される定義は、特定の実施形態の記載を補助することを意図しており、特許請求される組成物、方法、化合物、システム、及び療法を限定することを意図しない。別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。当技術分野における用語の用法と本明細書に示されるその定義との間に明らかな不一致がある場合には本明細書内で示される定義が優先する。
【0063】
「約」又は「およそ」という用語は、当業者によって決定される特定の値に対する許容誤差を意味し、一部は値がどのように測定又は決定されるかに依存する。特定の実施形態では、「約」又は「およそ」という用語は、1、2、3、又は4標準偏差以内を意味する。特定の実施形態では、「約」又は「およそ」という用語は、所与の値又は範囲の30%、25%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、又は0.05%以内を意味する。「約」又は「およそ」という用語が、一連の2つ以上の数値の最初の数値の前にある場合は、「約」又は「およそ」という用語は、その一連の各数値に適用されると理解される。
「アミノ酸識別性」、「残基識別性」、「識別性(identity)」等は、本明細書で使用する場合、所与の位置におけるポリペプチド主鎖上の官能基(R基)の構造を指す。天然アミノ酸の識別性は(名称/3文字コード/1文字コード):アラニン/ala/A;アルギニン/arg/R;アスパラギン/asn/N;アスパラギン酸/asp/D;システイン/cys/C;グルタミン/gln/Q;グルタミン酸/glu/E;グリシン/gly/G;ヒスチジン/his/H;イソロイシン/ile/I;ロイシン/leu/L;リシン/lys/K;メチオニン/met/M;フェニルアラニン/phe/F;プロリン/pro/P;セリン/ser/S;トレオニン/thr/T;トリプトファン/trp/W;チロシン/tyr/Y;及びバリン/val/Vである。HLA分子内の位置を示すために本明細書で使用するアミノ酸位置は、ウェブサイトebi.ac.uk/ipd/imgt/hlaに示されるような成熟タンパク質配列を参照する。よって、例えば、DRB1*04:01K71Eは、DRB1の対立遺伝子*04:01の成熟タンパク質の位置71を指し、天然識別性はリシン、Kであり、非天然の編集された識別性はグルタミン酸、Eである。
【0064】
「自己免疫疾患、障害、又は病態」とは、免疫系が内因性の抗原に対して免疫応答(例えば、B細胞又はT細胞応答)を生じて1以上の組織を傷害する疾患、障害、又は病態を指す。このような疾患としては、限定されるものではないが、関節リウマチ(RA)、セリアック病、1型糖尿病、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、多発性硬化症(MS)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質抗体障害(MOGAD)、筋無力症候群及び視神経脊髄炎(NMO)、強直性脊椎炎、ベーチェット症候群、バードショットブドウ膜炎、ナルコレプシー、ナルコレプシー1型(NT1;以前はカタプレキシーを伴うナルコレプシーと呼称)、川崎病、クローン病、乾癬、皮膚筋炎(DM)、アジソン病、過敏性腸症候群(IBS)、グレーブス病、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病(HSP)、サルコイドーシス、シェーグレン症候群、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、橋本病、特発性血小板減少性紫斑病、多発性筋炎(PM)、傍腫瘍性神経症候群(PNS)、自己免疫性脳炎、狼瘡腎炎(LN)、重症筋無力症(MG)、乾癬性関節炎、移植片拒絶、移植片対宿主病(GVHD)、望ましくない遅延型過敏症反応、T細胞介在性肺疾患、神経炎、白斑、自己免疫性膵炎、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、糸球体腎炎、強皮症、自己免疫性甲状腺疾患、喘息、自己免疫性ブドウ膜網膜炎、尋常性天疱瘡、肺線維症又は特発性肺線維症、原発性胆汁性肝硬変、及び悪性貧血が挙げられる。本明細書で使用する場合、「疾患」、「障害」、及び「病態」という用語は互換的である。
「HLA」又は「ヒト白血球抗原」とは、免疫系の調節を担う細胞の表面にある主要組織的合成複合体(MHC)タンパク質をコードするヒト遺伝子を指す。「HLA-I」又は「HLAクラスI」とは、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、HLA-G、及びβ2-ミクログロブリン遺伝子座を含むヒトMHCクラスI遺伝子を指す。「HLA-II」又は「HLAクラスII」とは、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQB1、HLA-DRA1、HLA-DRB1、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5、HLA-DM、HLA-DOA、及びHLA-DOB遺伝子座を含むヒトMHCクラスII遺伝子を指す。
【0065】
「静脈内」投与とは、治療目的で、例えば注入(静脈中への緩徐な治療的導入)により、患者の静脈中に薬物又は療法、例えば開示される1以上の操作されたHSCを投与することを指す。「注入」または「注入する」とは、治療目的で静脈を通して患者の体内に薬物、療法、及び/又は溶液を導入することを指す。一般に、これは静脈内(IV)バッグを介して達成され得る。
「静脈内バッグ」又は「IVバッグ」は、患者の静脈を介して投与可能な溶液を保持し得るバッグである。一実施形態では、溶液は、生理食塩水(例えば、約0.9%又は約0.45%NaCl)、又は開示される操作されたHSCの投与のために治療上有用な任意の溶液であり得る。
【0066】
「共投与」とは、2種類以上の薬物を順次(即ち、他方の後に一方を)注入するのではなく、同じ投与中に2種類の(またはそれを超える)薬物を静脈内投与することを意味する。一般に、共投与には、2種類の(またはそれを超える)薬物を同じIVバッグに組み合わせること、又はその共投与の前に第1の薬物を含むIVバッグに第2の薬物を加えることを含み得る。
「改善」という用語は、本明細書で使用する場合、本開示による、1以上の治療、薬物、及び/又は組成物の、そのような患者又はそれを必要とする対象への投与による、それに罹患している患者の疾患状態の任意の改善(例えば、自己免疫疾患の症状、例えば、関節リウマチの症状の改善)を指す。そのような改善は、患者の疾患の進行の減速、若しくは進行の停止、任意の症状の頻度、持続時間、及び/若しくは重症度の減少、並びに/或いは疾患の症状のない期間の頻度若しくは持続時間の増加、又は疾患による損傷若しくは障害の予防として見られ得る。
【0067】
「抗原」とは、天然、改変、又は合成のいずれであっても、動物における抗体産生又はT細胞応答を刺激することができる化合物、組成物、物質、タンパク質、ペプチド、核酸、ヌクレオペプチド等を指し、動物に注射若しくは吸収される、又は動物によって改変される組成物を含む。本明細書で使用する場合、抗原は、天然型又は操作されたHLA分子の抗原結合クレフト内に結合する能力によって定義され得る。いくつかの態様において、抗原は、特定の体液性免疫系又は細胞性免疫系の1以上の産物と反応し得る。「抗原」という用語は、関連する全ての抗原エピトープ及び抗原決定基を含む。
「抗原提示細胞」(APC)は、クラスI又はクラスII MHC分子と会合した、ペプチドを含む抗原性化合物を処理し、T細胞に提示することができる細胞を指す。多くの場合、APCはT細胞の活性化に必要な共刺激シグナルを送達することができる。典型的なAPCとしては、単球、マクロファージ、樹状細胞、B細胞、胸腺上皮細胞、及び血管内皮細胞が挙げられる。
【0068】
「抗原結合領域」、「抗原結合クレフト」、「抗原結合グルーブ」、及び「抗原クレフト」等は、HLAにより提示される抗原と相互作用して結合するHLA分子の領域を指す。本明細書の一部として援用されるNguyen, A. et al., “The pockets guide to HLA class I molecules,” Biochemical Society Transactions (2021) 49 2319-2331に述べられているように、HLA-Iペプチド結合クレフトは、N末端及びC末端で閉塞し(ペプチド抗原の長さを約8~10アミノ酸に制限する)、一方、HLA-IIクレフトの末端は開放していて、より長いペプチド抗原(例えば、>13アミノ酸長)を許容する。本明細書の一部として援用されるK.J. Smith et al., “Crystal Structure of HLA-DR2 (DRA*0101, DRB1*1501) Complexed with a Peptide from Human Myelin Basic Protein,” Vol. 188, No. 8, October 19, 1998, 1511-1520には、HLAクラスII分子の結合クレフト及びポケット構造が考察されている。一般に、特定の結合ポケットが、抗原結合クレフト内に結合した抗原の特定の成分と結合する。本明細書で使用する場合、クレフトの「底部」は、分子のコアに最も近く、TCR界面から最も遠いクレフトの表面であり得、クレフトは底部からTCR界面に向かって概ね上方に伸びる側面を有し得る。ほとんどの実施形態において、抗原はペプチドであり、構成成分はアミノ酸である。HLA分子の三次元構造は当業者に参照可能であり(例えば、ebi.ac.uk/ipd/imgt/hla)、任意のHLA分子の抗原結合領域の同定を可能とする。
cDNA(相補的DNA)は、内部の非コードセグメント(イントロン)と転写を決定する調節配列を欠いたポリ核酸である。DNAは、実験室では、細胞から抽出されたメッセンジャーRNAから逆転写により合成される。
【0069】
「投与量」又は「用量」という用語は、本明細書で使用する場合、単回投与で治療効果を生じるのに十分な量を含む有効成分製剤のいずれの形態も示す。
「治療上有効な量」という語句は、単独で、又は他の療法と組み合わせて、(i)特定の疾患、病態、若しくは障害を治療するか、(ii)特定の疾患、病態、若しくは障害の1以上の症状を減弱、改善若しくは排除するか、又は(iii)本明細書に記載される特定の疾患、病態、若しくは障害の1以上の症状の発症を予防若しくは遅延させる、本開示の薬物、組成物、化合物、治療、又は療法の量を意味する。この用語は、療法全体を改善するか、疾患の症状若しくは原因を軽減若しくは回避するか、又は治療効果を増強する、若しくは別の治療薬と相乗作用する量を包含し得る。標的自己免疫の場合、治療上有効な量の薬物、組成物、化合物、治療、又は療法は、T細胞等の反応性又は活性免疫細胞の数を減少させ;炎症を軽減し;細胞、組織、若しくは器官の免疫に基づく攻撃若しくは劣化を阻害し(即ち、ある程度緩徐化する、好ましくは停止させる);及び/又は自己免疫応答に関連する症状の1以上を部分的に若しくは完全に寛解させ得る。
【0070】
「免疫応答」は、刺激に対する、B細胞、又はT細胞等の免疫系の細胞の応答を指す。一実施形態では、応答は、特定の抗原に特異的である(「抗原特異的応答」)。別の実施形態では、免疫応答はT細胞応答である。
「自己免疫応答」とは、自己抗原(auto- or self-antigen)に対する免疫応答を指す。多くの場合、自己免疫応答は、1以上の自己抗原(auto- or self-antigen)を認識する自己反応性T細胞の結果である。免疫系は通常、微生物及びその他の有害な異物に対する防御免疫反応を指示するように機能する。自己免疫応答では、患者自身の組織に存在する抗原が自己反応性免疫応答の標的となり、細胞、組織、又は器官の劣化、破壊、又は機能不全を引き起こす。
【0071】
「哺乳動物」という用語は、限定されるものではないが、ヒト、マウス、ラット、モルモット、サル、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ及びヒツジを含む。
「患者」又は「対象」には、哺乳動物又はヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、ラム、ブタ、ニワトリ、シチメンチョウ、ウズラ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、若しくはモルモット等の動物が含まれる。動物は非霊長類又は霊長類(例えばサル及びヒト)等の哺乳動物であり得る。一実施形態では、患者はいずれかの性別又は性別を問わず幼児、小児、青年、又は成人等のヒトである。
「薬学上許容される組成物」は、哺乳動物細胞の生存力を維持又は支持するための有機又は無機溶液である。
「予防」は、本明細書で使用する場合、本開示による組成物、化合物、治療、又は療法を、それを必要とする対象に投与することによる、本明細書に明示されるような疾患、障害、又は病態の発生又は再発の回避を意味する。
【0072】
「組換え体」とは、患者において通常見出されないか若しくは発現されない配列を有するか、又は1以上の核酸若しくはアミノ酸の変異等の人為的操作の結果である配列を有する核酸又はポリペプチドを指す。人為的操作は、化学合成、又はより一般的には、例えば遺伝子工学技術による、核酸の単離されたセグメントの編集(挿入、欠失、突然変異等)により達成され得る。
アミノ酸配列又はペプチド配列間の類似性は、2つの配列間の類似性(他には配列同一性と呼ばれる)で表される。配列同一性は、しばしば同一性のパーセンテージ(ペプチドでは同一残基又は核酸では同一塩基のパーセンテージ、又は類似性又は相同性)で測定され、パーセンテージが高いほど2つの配列は類似性が高い。完全な同一性とは、例えば50、100、150、又は200の塩基又は残基等の与えられた配列において100%同一である。
「特異的に結合する」、「抗原特異的」である、抗原「に特異的」である、「選択的結合剤」、「特異的結合剤」、「抗原標的」、又は抗原と「免疫反応性」があるという用語は、類似の配列の他の抗原よりも高い親和性で標的抗原と結合する分子またはポリペプチドを指す。本明細書では、抗原がAPCの表面でHLA分子と特異的に結合することが企図される。
【0073】
「必要とする対象」、「患者」又は「治療を必要とする」者には、既に既存の疾患(即ち、自己免疫疾患、例えば、限定されるものではないが、関節リウマチ(RA)、セリアック病、1型糖尿病、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、多発性硬化症(MS)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質抗体障害(MOGAD)、筋無力症候群及び視神経脊髄炎(NMO)、強直性脊椎炎、ベーチェット症候群、バードショットブドウ膜炎、ナルコレプシー、ナルコレプシー1型(NT1;以前はカタプレキシーを伴うナルコレプシーと呼称)、川崎病、クローン病、乾癬、皮膚筋炎(DM)、アジソン病、過敏性腸症候群(IBS)、グレーブス病、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病(HSP)、サルコイドーシス、シェーグレン症候群、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、橋本病、特発性血小板減少性紫斑病、多発性筋炎(PM)、傍腫瘍性神経症候群(PNS)、自己免疫性脳炎、狼瘡腎炎(LN)、重症筋無力症(MG)、乾癬性関節炎、移植片拒絶、移植片対宿主病(GVHD)、望ましくない遅延型過敏症反応、T細胞介在性肺疾患、神経炎、白斑、自己免疫性膵炎、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、糸球体腎炎、強皮症、自己免疫性甲状腺疾患、喘息、自己免疫性ブドウ膜網膜炎、尋常性天疱瘡、肺線維症又は特発性肺線維症、原発性胆汁性肝硬変、及び悪性貧血)を有する者並びにその疾患のリスクがある又はその疾患に対して感受性のある者が含まれる。これらの用語は又、本明細書で開示されるような予防的処置又は治療的処置のいずれかを受けるヒト及び他の哺乳動物対象も含む。
【0074】
「免疫寛容」とは、抗原に対して特異的な免疫応答を起こす能力が低下しているか、又はない状態を指す。免疫寛容は、本明細書に記載されているように、2ドメインMHC分子の存在下で抗原と接触した結果として生じることが多い。一実施形態では、B細胞応答が低下するか、又は生じない。別の実施形態では、T細胞応答が低下するか、又は生じない。或いは、T細胞応答とB細胞応答の両方が低下するか、又は生じないこともある。
「治療する」、「治療すること」、及び「治療」という用語は、本明細書に記載される免疫障害及び疾患に関連する事象、疾患、又は病態の臨床症状、発現、又は進行を、一時的又は永続的に、部分的又は完全に、排除、軽減、抑制、又は改善することを指す。関連分野で認識されているように、療法として採用される方法および組成物は、所与の疾患状態の重症度を軽減し得るが、有用とみなされるために疾患の全ての発現を消失させる必要はない。同様に、予防的に投与される処置は、実行可能な予防方法又は薬剤を構成するために、病態の発症を予防する上で完全に有効である必要はない。単に、疾患の影響を軽減する(例えば、本明細書に開示されるように、炎症、T細胞の活性化等を軽減する、及び/又は関連する症状の数若しくは重症度を軽減する、又は別の治療の有効性を増大させることによる、又は別の有益な効果を生じることによる)、又は対象において疾患が発症若しくは悪化する可能性を軽減することで十分である。本開示の一実施形態は、既存の病態、又は特定の障害の重症度を反映するベースライン指標よりも持続的な改善を誘導するのに十分な量、期間、及び反復で患者に治療的処置を投与することを含む、治療の有効性を決定するための方法を対象とする。
【0075】
本明細書で使用する場合、「タンパク質」及び「ポリペプチド」という用語は、隣接する残基のα-アミノとカルボキシ基の間のペプチド結合によって互いに接続した一連のアミノ酸残基を表して互換的に使用される。「タンパク質」、及び「ポリペプチド」という用語は、大きさ又は機能にかかわらず改変されたアミノ酸(例えば、リン酸化、糖化、グリコシル化されたもの等)及びアミノ酸類似体を含むアミノ酸のポリマーを指す。「タンパク質」及び「ポリペプチド」は、比較的大きいポリペプチドを指して用いられる場合が多く、「ペプチド」という用語は小さいポリペプチドを指して用いられる場合が多いが、これらの用語の用法は当技術分野では重複している。「タンパク質」及び「ポリペプチド」という用語は、本明細書で遺伝子産物及びその断片を指す場合に互換的に使用される。従って、例示的ポリペプチド又はタンパク質としては、遺伝子産物、天然タンパク質、ホモログ、オーソログ、パラログ、断片及び他の等価物、上記の変異体、断片、及び類似体が含まれる。
HLA分子内のアミノ酸は操作されたHLA分子を作出するために置換することができる。アミノ酸(aa又はa.a.)残基は、類似の物理化学的特徴を有する残基、即ち「保存的置換」で置換する-例えば、ある脂肪族残基を別の残基に(例えば、Ile、Val、Leu、又はAlaを互いに)置換すること、又はある極性残基を別の残基に(例えば、LysとArg;GluとAsp;又はGlnとAsnの間で)置換することができる。例えば、大きさ、電荷、極性、疎水性、鎖の剛性/配向等に基づく他のこのような保存的置換は、タンパク質工学の技術分野において周知である。保存的アミノ酸置換を含むポリペプチドは、所望の活性、例えば、天然又は参照ポリペプチドの結合、特異性、及び/又は機能が達成されることを確認するために、本明細書に記載されるアッセイのいずれか1つで試験することができる。
【0076】
アミノ酸はそれらの側鎖の特性の類似性に従って分類することができる (A. L. Lehninger, in Biochemistry, 第2版, pp. 73-75, Worth Publishers, New York (1975)):(1)非極性:Ala(A)、Val(V)、Leu(L)、Ile(I)、Pro(P)、Phe(F)、Trp(W)、Met(M);(2)非荷電極性:Gly(G)、Ser(S)、Thr(T)、Cys(C)、Tyr(Y)、Asn(N)、Gln(Q);(3)酸性:Asp(D)、Glu(E);(4)塩基性:Lys(K)、Arg(R)、His(H)。或いは、天然残基は、共通の側鎖特性に基づいて分類することができる:(1)疎水性:ロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;(3)酸性:Asp、Glu;(4)塩基性:His、Lys、Arg;(5)鎖の配向に影響を及ぼす残基:Gly、Pro;(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーを別のクラスと交換することを必要とする。特定の保存的置換としては、例えば、AlaのGly又はSerへの置換;ArgのLysへの置換;AsnのGln若しくはHisへの置換;AspのGluへの置換;CysのSerヘの置換;GlnのAsnへの置換;GluのAspへの置換;GlyのAla若しくはProへの置換;HisのAsn若しくはGlnへの置換;IleのLeu若しくはValへの置換;LeuのIle若しくはValへの置換;LysのArg、Gln若しくはGluへの置換;MetのLeu、Tyr若しくはIleへの置換;PheのMet、Leu若しくはTyrへの置換;SerのThrへの置換;ThrのSerへの置換;TrpのTyrへの置換;TyrのTrpへの置換;及び/又はPheのVal、Ile若しくはLeuへの置換が挙げられる。
【0077】
「T細胞」は、胸腺で成熟した免疫細胞を指す。活性化T細胞は、G0を抜け、DNAを合成し、CD25をアップレギュレートし、及び/又はCDをアップレギュレートしているT細胞である。
「T細胞受容体」又は「TCR」は、本明細書で使用する場合、APC上のHLA分子を認識し/それと相互作用する、T細胞上の細胞表面タンパク質を指す。
「T細胞受容体:HLA結合界面」、「T細胞受容体結合界面」、「TCR:HLA結合界面」、「TCR:HLA界面」は、本明細書で使用する場合、TCR:HLA結合の間に近接しているTCRの表面及びHLA分子の表面を指し、ほとんどの場合、TCR:HLA結合界面は、TCRと直接接触していないHLAの抗原結合クレフト内のアミノ酸を含まない。
【0078】
「変異体」は、本明細書で使用する場合、天然又は参照メンバーと実質的に相同であるが、1又は複数の欠失、挿入、置換、分子、発現レベル等のために天然又は参照メンバーとは異なるポリペプチド、核酸、遺伝子、配列、又は分子を指す。変異型ポリペプチドをコードするDNA配列は、天然又は参照DNA配列と比較した場合に1以上のヌクレオチド付加、欠失、又は置換を含む、変異型タンパク質又はその断片をコードする配列を包含する。多様なクローニング、PCRに基づく部位特異的突然変異誘発、及びゲノム編集アプローチが当技術分野で公知であり、当業者により適用可能である。
変異型HLA遺伝子及び分子には、IPD-IMGT/HLAデータベース(ウェブサイトebi.ac.uk/ipd/imgt/hla;「IPDデータベース」)に列挙されているような天然変異体が含まれる。例えば、HLA-A変異体には、IPDデータベースに列挙されている*01~*80の全てのHLA-A対立遺伝子が含まれる。
変異型アミノ酸又は核酸配列は、天然又は参照配列と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又はそれを超える同一性を有し得る。天然配列と変異配列の間の相同性の程度(同一性パーセント)は、例えば、これら2つの配列をワールドワイドウェブ上でこの目的のために一般的に採用される自由に利用できるコンピュータープログラム(例えば、デフォルト設定のBLASTpまたはBLASTn)を使用して比較することによって決定することができる。
【0079】
天然アミノ酸配列の改変は、当業者に公知の多くの技術のいずれかによって達成することができる。変異は、例えば、天然配列の断片とのライゲーションを可能にする制限部位に挟まれた変異配列を含むオリゴヌクレオチドを合成することにより、特定の遺伝子座に導入することができる。ライゲーション後、得られた再構築された配列は、所望のアミノ酸の挿入、置換、又は欠失を有する類似体をコードする。或いは、オリゴヌクレオチド指向性の部位特異的突然変異誘発法を用いて、必要な置換、欠失、又は挿入に応じて特定のコドンを変化させた改変ヌクレオチド配列を提供することもできる。このような改変を行うための技術は、当業者には非常によく確立されており、理解されている。
「核酸」又は「核酸配列」は、リボ核酸、デオキシリボ核酸又はそれらの類似体の単位を組み込んだ任意の分子、好ましくは高分子を指す。核酸は一本鎖でも二本鎖であり得る。一本鎖核酸は、変性した二本鎖DNAの一方の核酸鎖であり得る。或いは、二本鎖DNAに由来しない一本鎖核酸であってもよい。一態様において、核酸はDNAであり得る。別の態様では、核酸はRNAであり得る。適切なDNAとしては、例えば、ゲノムDNA、cDNA、又はベクターDNAが挙げられる。適切なRNAとしては、例えばmRNAが挙げられる。
【0080】
「発現」は、本明細書で使用する場合、該当する場合、限定されるものではないが、例えば、転写、転写産物のプロセシング、翻訳及びタンパク質の折りたたみ、修飾及びプロセシングを含む、RNA及びタンパク質の産生、提示(例えば、細胞の表面/外膜における)、又は分泌に関与する細胞プロセスを指す。発現は、1若しくは複数の核酸断片に由来するセンス(例えばmRNA)又はアンチセンスRNAの転写及び安定な蓄積、並びに/又はmRNAのポリペプチドへの翻訳を指し得る。
「ベクター」とは、遺伝子工学的方法を用いて、通常は共有結合的に連結された別の核酸を輸送することができる核酸分子を指す。ベクターの1つのタイプは「プラスミド」であり、これは、付加的なDNAセグメントがライゲーションされ得る環状二本鎖DNAを指す。別のタイプのベクターとしてファージベクターがある。さらに別のタイプのベクターとしてウイルスベクターがあり、ウイルスゲノムに付加的なDNAセグメントをライゲーションすることができる。ある種のベクターは、導入された宿主細胞内で自律的複製が可能である(例えば、細菌複製起点を持つ細菌ベクター及びエピソーム型哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム型哺乳動物ベクター)は、宿主細胞に導入されると宿主細胞のゲノムに組み込まれ、従って宿主ゲノムと共に複製される。更に、ある種のベクターは、それらが作動可能に連結されている遺伝子の発現を指示することができる。このようなベクターは、本明細書では「組換え発現ベクター」又は単に「発現ベクター」と呼ばれる。一般に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは、プラスミドの形態であることが多い。本明細書では、プラスミドがベクターの中で最も一般的に使用される形態であるため、「プラスミド」と「ベクター」は互換的に使用する場合がある。
【0081】
「操作された」とは、本明細書で使用する場合、人間の介入によって操作されたという側面を指す場合がある。本明細書では、操作された細胞、HSC、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、分子、HLAタンパク質、核酸、遺伝子等が開示される。一例として、HLAタンパク質は、ポリペプチドの少なくとも1つの側面、例えばその配列が、患者/対象に存在する、又は自然界に存在するような側面と異なるように、人間の介入(直接的又は間接的)によって意図的に操作された場合、「操作された」とみなされる。一般的な慣行であり、当業者には理解されているように、操作された細胞の後代は、実際の操作が以前の実体に行われたとしても、一般にはやはり「操作された」と呼ばれる。対照的に、「天然」又は「野生型」とは、本明細書で用いる場合、非操作及び/又は非改変の細胞、遺伝子、タンパク質、核酸、核酸配列、対立遺伝子、及びアミノ酸配列、並びにそれらの部分を指す。
【0082】
略号:ACR、米国リウマチ学会;ADA、抗薬物抗体;AE、有害事象;ANC、絶対好中球数;APC、抗原提示細胞;AUC、濃度-時間曲線下面積;DMARD、疾患修飾抗リウマチ薬;CBC、全血算;cGCP、現行の医薬品の臨床試験の実施の基準;CD、分化抗原群;CMP、全代謝パネル;cGMP、現行の適正製造規範;cGTP、現行の適正組織規範;DC、樹状細胞;DM、皮膚筋炎;DMSO、ジメチルスルホキシド;DRB1*04:01、HLAのHLA DR β1鎖 04:01対立遺伝子;E、グルタミン酸;EBMT、欧州骨髄移植登録;G-CSF、顆粒球コロニー刺激因子;GVHD、移植片対宿主病;GWAS、ゲノムワイド関連解析;HLA、ヒト白血球抗原;HLA-DRB1、ヒト白血球抗原-DR β1;HSA、ヒト血清アルブミン;HSC、造血幹細胞;HSP、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病;IBS、過敏性腸症候群;IL、インターロイキン;IV、静脈内;K、リシン;LN、狼瘡腎炎;MG、重症筋無力症;MHC II、主要組織適合性複合体クラスII(ヒトのHLA);MOGAD、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質抗体障害;MS、多発性硬化症;MTX、メトトレキサート;NIS、全米入院情報抽出データセット;NMO、視神経脊髄炎;NSAIDEs、非ステロイド系抗炎症薬;NT1、ナルコレプシー1型;PNS、傍腫瘍性神経症候群;PM、多発性筋炎;RA、関節リウマチ;SC、皮下;SAE、重篤有害事象;SLE、全身性紅斑性狼瘡;TCR、T細胞受容体;TNF、腫瘍壊死因子。
【0083】
「感受性HLA対立遺伝子」、及び「感受性対立遺伝子」等は、本明細書で使用する場合、所与の集団における1以上の自己免疫疾患に対する感受性に関連する所与のHLA対立遺伝子を指す。
「耐性HLA対立遺伝子」、及び「耐性対立遺伝子」等は、本明細書で使用する場合、所与の集団における1以上の自己免疫疾患に対する耐性に関連する所与のHLA対立遺伝子を指す。
「ゲノム」は、本明細書で使用する場合、コードデオキシリボ核酸(DNA)(即ち、遺伝子)及び非コードデオキシリボ核酸の両方を含む生物の全ての遺伝情報を指す。「ゲノム配列」は、ゲノムのDNAのヌクレオチド配列である。「天然ゲノム」は、本明細書で使用する場合、本明細書に記載されるような修飾又は操作前の、対象又は患者等の個体の元のゲノム配列を指す。
同様の主題を指す特定の用語は、本明細書において互換的に使用され得る。例えば、特定の遺伝子の特定の対立遺伝子によりコードされるHLAタンパク質については、HLA対立遺伝子を参照して同定することができる。同様に、HLA対立遺伝子における特定のコドンは、それによってコードされるアミノ酸を参照して同定することができる。例えば、HLA対立遺伝子によってコードされるHLAタンパク質のアミノ酸配列中の特定の位置は、HLA対立遺伝子中の対応する位置を参照して同定することができ、逆もまた同様である。
【実施例】
【0084】
実施例1-材料及び方法
細胞株
簡単に述べれば、cDNA発現構築物は、対象とする対立遺伝子をその対立遺伝子を発現する細胞から直接クローニングするか、又はIntegrated DNA Technologies(コーラルビル、IA)から「gBlock」配列(ウェブサイトebi.ac.uk/ipd/imgt/hla/で利用可能なIPD-IMGT/HLAデータベース配列に基づく)を得ることによって取得した。RE部位を有する様々なgBlock配列を
図30に示す。試験のために、cDNAをレトロウイルス形質導入及び発現用のマウス幹細胞ウイルス(MSCV)プラスミドにクローニングした。従前に記載されたように(Bowerman et 2011)、Phoenix 293T細胞をGFP+MSCVプラスミドで一過性にトランスフェクトすることにより、様々な対立遺伝子をレトロウイルスとして個々にパッケージングした。HLAクラスIIタンパク質をヒトクラスII陰性T2細胞株(T2親)で発現させた。以下にクラスIIの発現を示す。
【0085】
DRB1*03:01、DRB3*02:02、DQA1*05:01、DQB1*02:01、DQA1*03:01、DQB1*03:02、DRB1*15:01、DQA1*01:02、又はDQB1*06:02を発現する個体からRNAを単離し、各個のHLA-DR、DQA1又はDQB1対立遺伝子の相補的DNA(cDNA)を作製した。HLA-DRB1*04:01、DRB3*03:01、DRB4*01:03、及びDRB5*01:01 T2細胞株は予め作製された(Anderson et al. 2016)。DRB1*11:03、DRB3*01:01、DQA1*05:05、及びDQB1*03:01のcDNA配列をIPD-IMGT/HLAデータベース(ウェブサイトebi.ac.uk/ipd/imgt/hla/)から取得し、Integrated DNA Technologies(コーラルビル、IA)からgBlockとして入手した。cDNAをヒトクラスII陰性T2細胞株(T2親)のレトロウイルス形質導入用のマウス幹細胞ウイルス(MSCV)プラスミドにクローニングした。従前に記載されたように(Bowerman et 2011)、Phoenix 293T細胞をGFP+MSCVプラスミドで一過性にトランスフェクトすることにより、HLA-DRB1、-DRB3、-DQA1、及び-DQB1対立遺伝子をレトロウイルスとして個々にパッケージングした。HLA-DRB1及び-DRB3対立遺伝子については、上清中のレトロウイルスを用いて、DRA1*01:01を発現する1×105のT2細胞に導入し、形質導入7日後にHLA-DR+/GFP+の高発現で選別した(抗DR-APC(LN3) Invitrogenカタログ番号17-9956-42)。-DQ対立遺伝子については、HLA-DQB1対立遺伝子のレトロウイルスを用いて1×105のHLAクラスII陰性T2細胞に導入し、形質導入7日後にGFP+の高発現で選別した。次に、シス及びトランス二量体の対応するHLA-DQA1対立遺伝子のレトロウイルスを用いて1×105のDQB1+T2細胞に導入し、形質導入7日後にHLA-DQ+/GFP+の高発現で選別した(抗ヒトHLA-DP/DQ/DR Starbright Blue(WR18)700 BioRadカタログ番号 MCA477SBB700)。選別後、各細胞株からRNAを単離して、シス及びトランスの両方のHLA対立遺伝子のHLA配列をサンガーシークエンシング(Quintara Biosciences)により確認した。細胞株は全て、ピルビン酸ナトリウム、チオ-ペニシリン/ストレプトマイシン、及び10%ウシ胎仔血清(FBS)を添加したIMDM-GlutaMAX(Life Technologies)で増殖させた。
【0086】
ペプチド結合アッセイのためのペプチド設計及び合成
ハイブリッドインスリンペプチドHIP1-WE14(GQVELGGWSKMDQLA)、HIP6-IAPP2(GQVELGGGNAVEVLK)、HIP8-NPY(GQVELGGGSSPETLI)、及びHIP11-Cペプチド(SLQPLALEAEDLQV)は、Genscript(ピスカタウェイ、NJ)(Delong 2016, Baker2019)によりトリフルオロ酢酸(TFA)を除去して>98%純度となるように、ビオチン化PEG3リンカーを用いてN末端に合成した。本研究に使用したHIPは、利用可能なT細胞クローンを刺激するそれらの能力のために選択した(表1)。ビオチン化GAD65265-281(AMMIARFKMFPEVKEKG)、インスリンミモトープ(HLVEELYLVAGEEG)、及びインフルエンザA(PKYVKQNTLKLAT)ペプチドも、HLA-DR及びDQ結合の対照として合成した[S. Dai, at doi.org/10.1073/pnas.1716527115]。HIP6を除き、全てのペプチドをジメチルスルホキシド(DMSO)、次いで等量の水、及び最後にダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)(Life Technologies)で再構成して400μM濃度とし、ペプチド結合及びT細胞研究で使用するまで-20℃で凍結保存した。HIP6を3%アンモニア水、次いで当量の水、中性pHに戻すための75μLの1M HCL、及び最後にDPBSで再構成して400μMとした。
【0087】
患者特異的HLA-クラスII発現T2細胞のペプチド結合
Pt3977のHLA-クラス-DR及び-DQ遺伝子型を発現するT2細胞株を採取し、100μM HIP1を用いて再懸濁させ、播種し、前述のように一晩培養した。プレートをDPBSで2回洗浄して結合していないペプチドを除去し、次いで100μLの1:1000希釈eBioscience(商標)Fixable Viability Dye eFluor(商標)780に4℃で30分間再懸濁させた。次に、これらの細胞を従前のように処理し、染色した。データはCanto IIフローサイトメーター(BD Biosciences)で取得し、FlowJo Version X(Tree Star)で解析した。3回の独立した実験の平均結合比(HLAクラスII+T2細胞のMFI/MFI T2親HLAクラスII-)±SEMを、GraphPad Prismソフトウエアバージョン9.1を用いて決定した。
【0088】
T細胞刺激アッセイのペプチド合成
ハイブリッドインスリンペプチドHIP1(GQVELGGWSKMDQLA)、及びHIP11(SLQPLALEAEDLQV)は、Genscript(ピスカタウェイ、NJ)[Baker et al. 2019]によりトリフルオロ酢酸(TFA)を除去して>98%純度で合成した。ペプチドをDMSOで再構成して終濃度を10,000μMとした。刺激アッセイでは、ペプチドを1:100希釈して検量線作成濃度100μMとした。
【0089】
耐性及び感受性HLA-クラスII発現T2細胞のペプチド結合
ペプチド結合アッセイは従前に記載されているように行った(Anderson et al. 2016, Roark et al. 2016)。簡単に述べれば、T1D耐性及び感受性HLA-DR及び-DQ対立遺伝子を発現するT2細胞株を採取し、培地(IMDM-GlutaMAX、10%FBS、チオ-ペニシリン/ストレプトマイシン及びピルビン酸ナトリウム)に4×106細胞/mLで再懸濁させた。96ウェル丸底プレートで、再懸濁細胞、100μMビオチン化原液ペプチド、及びDPBSを合わせた。陰性対照ウェルは再懸濁細胞をDPBS単独とともに含んだ。プレートを37℃で一晩インキュベートした。プレートをDPBSで2回洗浄して結合していないペプチドを除去し、次いで1×Zombie Aqua(Biolegend Zombie Aqua(商標)Fixable Viability Kitカタログ番号423102)に再懸濁させ、室温で15分間置いた。細胞をDPBS中1%ホルムアルデヒド中で5分間軽く固定して細胞表面からのペプチドの喪失を防いだ。ペプチド結合を検出するために、1×PE標識ストレプトアビジン(One Lamda LT-SA-PE)を4℃で30分間加えた。Canto IIフローサイトメーター(BD Biosciences)で取得する前に、細胞を再び固定した。データをFlowJoバージョンX(Tree Star)で解析し、3回の独立した実験の平均結合比(HLAクラスII+T2細胞のMFI/MFI T2親HLAクラスII-)±SEMを、GraphPad Prismソフトウエアバージョン9.1(Graph Pad)を用いて決定した。
HIP11の力価決定のため、T2親、HLA-DQ2、及びHLA-DQ2トランスを採取し、前述のように再懸濁させた。次に、96ウェルの丸底プレートで、ペプチドの終濃度を5μM、10μM、20μM、及び50μMとした以外は前述のように反応を設定した。細胞を一晩培養し、DPBSで2回洗浄した。細胞を100μLの1:1000希釈eBioscience(商標)Fixable Viability Dye eFluor(商標)780(カタログ番号65-0865-18)に再懸濁させ、4℃で30分間置いた。次に、細胞を前述のように処理し、染色し、分析した。
【0090】
T細胞刺激アッセイ
T細胞を従前に記載されているように(Baker 2019)クローニングし、拡大培養した。HIP11については、HLA-DQ2及びHLA-DQ2トランス発現T2株又は自己EBV形質転換B細胞株(EBV3537)に種々の濃度のHIP11(5μM、10μM、20μM、及び50μM)を負荷しないか、前負荷した。抗原提示細胞には、選択された濃度の抗原を細胞と共に37℃で1時間インキュベートすることにより、前負荷を行った。次に、DPBSで洗浄することにより過剰な抗原を除去し、結合しHLA対立遺伝子により提示された抗原のみがT細胞クローンを刺激できるようにした。次に、1×105のCD4+T細胞クローン(E2)を5×104の抗原提示細胞株と共に一晩インキュベートした後、生存能色素(eBioscience(商標)Fixable Viability Dye eFluor(商標)780)で4℃にて30分間染色した。細胞を洗浄した後、抗CD4-PE(Biolegend PE抗ヒトCD4抗体カタログ番号317410)、及び抗CD25-BV421(BD Biosciences BV421マウス抗ヒトCD25カタログ番号562443)で4℃にて30分間染色した。細胞を洗浄した後、Canto IIフローサイトメーター(BD Biosciences)で取得する前に固定した。データはFlowJoバージョンX(Tree Star)で解析した。GraphPad Prismソフトウエアバージョン9.1を用いて3回の独立した実験の平均CD25 MFI±SEMを計算した。
HIP1については、1×105のCD4+T細胞クローン(D11)を、抗原の不在又は存在下で5×104の患者特異的HLA-クラスII T2株又は自己EBV形質転換B細胞株(EBV 3977)と共にインキュベートした。HLA-クラスII T2細胞株及びEBV株に前述のように20μM濃度を前負荷した。細胞を一晩共培養し、それらを前述のように処理し、分析した。
【0091】
実施例2-ヒト化DRB1
*04:01
K71Eトランスジェニックマウスはコラーゲン感作に耐性がある
コラーゲン誘発性関節炎(CIA)は、MHC II分子の重要な役割及びコラーゲン特異的T細胞応答を含むRAの重要な特徴を再現する、十分に確立された自己免疫性関節炎のマウスモデルである。完全フロイントアジュバント(CFA)中に乳化した異種II型コラーゲンタンパク質を注射したHLA-DR4トランスジェニックマウスは、CIA発症に必要な必須の第一段階である強力なコラーゲン特異的CD4
+T細胞応答を生じる(コラーゲン感作)。
DRB1
*04:01-K71E遺伝子編集がin vivoコラーゲン感作を予防するのに十分であるかどうかを判定するために、H-2クラスIIノックアウトバックグラウンドに対するキメラHLA-DR4/I-E
dトランスジェニックマウスを用いた。
図2の上は、キメラMHC II分子における遠位/ヒトDRα1及びDRβ1ドメインはマウスT細胞受容体(mTCR)とのペプチド結合及び相互作用を媒介し、近位マウスI-E
dα2ドメイン及びI-E
dα2ドメインはマウスCD4共刺激分子との相互作用を媒介することを示す図である。これらの実験では、3つのトランスジェニック系統を用いた:DRB1
*04:01遺伝子を有するもの、DRB1
*01:01遺伝子を有するもの(例えば、J. Exp. Med., Vol. 180, 1994, pp. 173-18、及びJ. of Exp. Med., Vol. 185, No. 6, 1997, p. 1113-1122参照、双方ともそれらの全体が本明細書の一部として援用される)、及びDRB1
*04:01
K71E遺伝子を有するもの(本明細書の一部として援用されるPLOS ONE, Vol. 8, 12, 2013, e84908の方法に基づく)。3系統は全て、CFAで乳化した可溶性II型コラーゲンタンパク質で0日目と21日目に免疫した。56日目にマウスを犠死させ、リンパ節を採取し、増殖細胞のDNAに組み込まれるチミジンヌクレオシドアナログ5-エチニル-2’-デオキシウリジン(EdU)の存在下、コラーゲン
258-272ペプチド(Pep)とともに又は培地のみで(Pepなし)培養した。
蛍光アジドとCu(I)触媒による[3+2]環化付加「クリック」化学を用いて、増殖細胞におけるEdUの取り込みを検出した。細胞は又、CD3とCD4の蛍光抗体で共染色した。コラーゲン
258-272に応答してex vivoで増殖したCD4
+T細胞の頻度を用いて感作を定量した。
図2の下に示すように、DRB1
*04:01マウスはコラーゲン
258-272特異的CD4
+T細胞応答を生じたが、DRB1
*01:01トランスジェニックマウス由来のCD4
+T細胞は、DRB1
*04:01と比較してコラーゲン
258-272との結合能が低く、RAとの関連が弱いことに相応して、弱い増殖応答を示した。対照的に、DRB1
*04:01
K71Eトランスジェニックマウス由来のCD4
+T細胞では増殖応答は見られなかった。このことは、感受性マウスにDRB1
*04:01
K71Eを発現させると、マウスがコラーゲンに感作されなくなることを示した。
【0092】
実施例3-DRB1
*04:01
K71E皮膚移植はDRB1
*04:01マウスにおいて安定した生着を達成する
K71E編集はDRB1
*04:01レシピエントにおいて同種反応性を誘発しないことを確認するために、DRB1
*01:01及びDRB1
*04:01
K71EマウスからDRB1
*04:01レシピエントへ皮膚移植を行った。皮膚移植片は豊富なAPCを含んでいるので、生着しにくい組織である。皮膚生着の評価は、潜在的な同種反応性を試験するための強固なモデルである。この前臨床モデルを用いて、DRB1
*04:01レシピエントにおけるDRB1
*04:01
K71E皮膚移植片の拒絶反応の頻度を決定した。
図3の下に示されるように、DRB1
*01:01皮膚移植片は14日までに完全に拒絶されたが(n=3)、DRB1
*04:01(n=3)及びDRB1
*04:01
K71E(n=3)移植片は双方とも安定した生着状態に留まった。DRB1
*04:01
K71E同種移植片が無期限に生存したことは、DRB1
*04:01
K71E発現が急性拒絶反応も慢性拒絶反応も誘発しないことを示している。従って、一度骨髄に生着すれば、DRB1
*04:01
K71Eを発現する長期前駆HSCは、DRB1
*04:01レシピエントにおいて拒絶されたり、免疫応答を誘導したりすることはないはずである。
【0093】
実施例4-MSに関与するHLA対立遺伝子
MS耐性及び感受性に関連する対立遺伝子を検討した。2つのDRB1対立遺伝子、
*01:01及び
*11:01を、耐性を付与する対立遺伝子として同定し、
*15:01は感受性に関連する。これら3つの対立遺伝子の成熟タンパク質配列をアラインし、DRB1
*15:01対立遺伝子:F47、A71、及びV86に関して、上記の基準に適合する多形性の位置を同定した。4つのペプチド:MOGADに関連するMOG
97-109(FFRDHSYQEEA);脳で発現し、MSにおいてメモリーT細胞を活性化させて特徴的な脳炎症をもたらし得るRASGRP
278-87(LVRYWISAFP)(Jelcic et al., 2018, Cell 175);DRB1
*15:01と結合する免疫原性ペプチドであるMBP
83-101(ENPVVHFFKNIVTPRTPPP);及びMSに対する耐性に役割を果たしている可能性があり、DRB1
*01:01と結合し、MS T細胞を活性化しないMBP
146-170(AQGTLSKIFKLGGRDSRSGSPMARR)(Mamedov et al., Front. Immunol. 2020)に対してこれらの位置(F47Y、A71R、及びV86G)の1以上に変異を作出した。
収集したデータ(
図5~7)は、MSに感受性を付与するDRB1
*15:01は、2つの耐性対立遺伝子よりもRASGRP2とよく結合すること、又、MBP
83-101ペプチドと強く結合するが、MBP
1146-170ペプチドとは結合しないことを示している。又、これらのデータから、V86G及びF47Y変異は、MBP
146-170ペプチド(結合が良好であり、このペプチドが耐性に役割を果たす可能性があることを示唆する)を除き、結合パターンに与える影響は軽度であることが示唆された。最後に、DRB1
*15:01のA71R変異単独では、MBP146-170の結合を増加させる以外は、ペプチド結合に変化はない(
図6)。二重変異であるA71R-V86Gは、RASDRP2結合の減少も示しており(
図7)、二重変異がMSの自己免疫に対処する上で更なる利点をもたらし得ること示唆している。
【0094】
実施例5-HLA対立遺伝子はNMO(視神経脊髄炎)に関連する
NMOの臨床症候群は、アクアポリン4(AQP4)に対する病原性血清IgG自己抗体により引き起こされる急性視神経炎及び横断性脊髄炎を特徴とする。AQP4は、中枢神経系(症例の>80%)で最も豊富な水チャネルタンパク質である。NMOに対する感受性はHLA-DRB1
*03:01に関連し、耐性は対立遺伝子DRB1
*07:01に関連する。2つのAQP4ペプチドを、両対立遺伝子に対するそれらの結合に関して試験した。
収集したデータは、AQP4-5ペプチドは感受性対立遺伝子に結合し、耐性対立遺伝子に結合しないことを示す(
図9)。同じことがAQP4-6ペプチドでも見られ、これも又感受性対立遺伝子に結合するが、耐性対立遺伝子には結合しない。これらの結果は、ペプチド結合グルーブの位置を変異させることにより、DRB1
*03:01のペプチド結合プロファイルに、AQP4ペプチドの結合を抑制又は減弱し、従って自己免疫を抑制するような影響を与え得ることを示唆する。DRB1
*03:01及びDRB1
*07:01の配列アラインメントから、このような変異のための候補位置(例えば、他所で開示されるように、標的アミノ酸位置9、11、13、26、28、30、32、33、37、38、40、47、57、58、67、71、74、78、85、及び86)を同定することができる(
図8;位置38、40、及び85は多形的に03:01及び07:01を示さないことに留意;又、アラインされた配列位置は成熟タンパク質配列に基づいて符番されることにも留意されたい)。
【0095】
実施例6-RAに関連するHLA対立遺伝子
HLA-DRB1対立遺伝子
*04:05はRAに対する感受性も示す。特に、この対立遺伝子は、日本人集団のRAと強い関連を示す。これらの試験のために、DRB1
*04:05の位置71をRからEに変異させた(
図10参照)。
これらの試験は、DRB1対立遺伝子
*04:05が免疫優性コラーゲンペプチドへの結合に対して強い優先性を示さないことを示す(
図11)。しかしながら、位置71をグルタミン酸に変異させると(R71E)、低レベルの結合が更に低下する。ビメンチン及びα-エノラーゼの場合、
*04:05対立遺伝子は、天然型よりもシトルリン化型と優先的に結合する。K71E突然変異の場合、この優先性はDRB1
*04:05の位置71のアルギニンをグルタミン酸に変更する(R71E)ことによって低減される。MFI結合比は、2回の実験の平均である。
本明細書で開示されるように、RAに感受性の他のDR4対立遺伝子、例えば、DRB1
*04:03、
*04:04、及び
*04:08は、位置71がアルギニン(R)からグルタミン酸(E)に変更されると耐性(即ち、耐性対立遺伝子)を付与し得る。
【0096】
実施例6-I型糖尿病に関連するHLA対立遺伝子-T1D
I型糖尿病に対する感受性に関連するDQB1対立遺伝子が、抗原結合グルーブにおける1以上の変異で耐性を付与することができるどうか試験した。具体的には、いくつかのDQB対立遺伝子及び対応するA57D変異体をT2細胞株にクローニングした。いくつかの耐性対立遺伝子の位置57にはアスパラギン酸が見られる。
【表2】
【0097】
ペプチド選択-ビオチン化PEG3リンカーを用い、ハイブリッドインスリンペプチドHIP1-WE14(GQVELGGWSKMDQLA)、HIP6-IAPP2(GQVELGGGNAVEVLK)、HIP8-NPY(GQVELGGGSSPETLI)、及びHIP11-Cペプチド(SLQPLALEAEDLQV)をN末端に、Genscript(ピスカタウェイ、NJ)(Delong 2016, Baker2019)によりトリフルオロ酢酸(TFA)を除去して>98%純度で合成した。この試験に使用したHIPをT細胞クローンの刺激能及びアベイラビリティのため選択した(表1)。ビオチン化GAD65265-281(AMMIARFKMFPEVKEKG)、インスリンミモトープ(HLVEELYLVAGEEG)、及びインフルエンザA(PKYVKQNTLKLAT)ペプチドも又、HLA-DR及びDQ結合の対照として合成した[S. Dai、doi.org/10.1073/pnas.1716527115で利用可能]。
ハイブリッドインスリンペプチドを、様々な濃度でこれらの細胞株に対する結合に関して試験した。具体的には、天然HLA DQB1対立遺伝子のペプチド結合をそのA57D変異型と比較した。感受性対立遺伝子はハイブリッドインスリンペプチドと結合すると仮定された。
【0098】
これらの試験は、感受性DQ2及びDQ8対立遺伝子はHIP8-NPYペプチドと結合しないが、DQ2トランスHLA分子とは結合することが示された(
図12)。位置57がAからDに変わると、このハイブリッドインスリンペプチドの結合は、DQ2及びDQ8では増加するが、DQ2トランスでは低下する。同様に、DQ2及びDQ8はHIP11-Cペプチドと結合しないが(
図13)、DQ2トランス分子とは結合する。A57Dが導入されると、DQ2はペプチド結合を示す。DQ2トランスとこのペプチドとの結合は低下するものの、結合は無くなるわけではない。インスリンミモトープペプチドの結合は上記のペプチドと同様のパターンに従う(
図14)。具体的には、DQ2はミモトープペプチドと結合しないが、DQ2トランス及びDQ8はこのペプチドと結合する。A57D変異が導入されると、その場合にはDQ2及びDQ2トランスはそのペプチドに結合する。一方、この変異はDQ8分子との結合を低下させる。
A57D変異によるT細胞刺激に対する効果も試験した。具体的には、DQ2に限定され、HIP11-Cペプチドに特異的なE2 T細胞が得られた。これらのT細胞を、種々の濃度のHIP11-Cペプチドの存在下で、DQ2又はDQ2トランス分子を発現するT2細胞との培養で一晩刺激した。A57D変異を有する両分子も試験した。次に、T細胞刺激を、細胞表面のIL-2R(CD25)に関して細胞を染色することにより測定した。
【0099】
これらの試験は、DQ2 T2細胞株が親EBV株よりも遙かに良くE2 T細胞クローンを刺激することを示した(
図15、一番上のパネル)。これらの対立遺伝子にA57D変異を導入すると、E2 T細胞の刺激が少なくなる。
図15の下のパネルに示されるように、E2 T細胞クローンはDQ2トランス分子により刺激されるが、DQ2トランス分子にA57Dを導入するとT細胞クローンの刺激が少なくなる。
図16は、HLA-DQ対立遺伝子結合ハイブリッドインスリンペプチドを示す。ビオチン化HIP1-WE14、HIP6-IAPP2、HIP9-NPY、及びHIP11-Cペプチドの結合は、DQ2のリスク対立遺伝子(A1
*05:01/B1
*02:01)、DQ8のリスク対立遺伝子(A1
*03:01/B1
*03:02)、DQ2トランスのリスク対立遺伝子(A1
*03:01/B1
*02:01)、及びDQ8トランスのリスク対立遺伝子(A1
*05:01/B1
*03:02)を発現するT2細胞で測定した。DQ6の耐性対立遺伝子(A1
*01:02/B1
*06:02)も又試験した。薄いグレーはHLA-クラスII(-)T2親株に対するペプチドのバックグラウンド結合であり、濃いグレーは特定のHLA-クラスII(+)T2株のペプチド結合である。列は種々の対立遺伝子を表し、行は種々のペプチドを表す。右上角の数字は平均結合比(SA-PE MFI T2 HLAクラス(+)/SA-PE MFI T2親)である。数字は3回の独立した実験からの平均結合比を表す。
【0100】
図17は、HLA-DQ対立遺伝子結合対照天然ペプチドを示す。ビオチン化インスリンミモトープ及びGAD65
265-281の結合を、DQ2のリスク対立遺伝子(A1
*05:01/B1
*02:01)、DQ8のリスク対立遺伝子(A1
*03:01/B1
*03:02)、DQ2トランスのリスク対立遺伝子(A1
*03:01/B1
*02:01)、及びDQ8トランスのリスク対立遺伝子(A1
*05:01/B1
*03:02)を発現するT2細胞で測定した。DQ6の耐性対立遺伝子(A1
*01:02/B1
*06:02)も又試験した。薄いグレーはHLA-クラスII(-)T2親に対するペプチドのバックグラウンド結合であり、濃いグレーはHLA-クラスII(+)T2株のシグナルである。右上角の数字は平均結合比(SA-PE MFI T2 HLAクラス(+)/SA-PE MFI T2親)である。数字は3回の独立した実験からの平均結合比を表す。
図18は、感受性及び耐性HLA-DRB1対立遺伝子結合HIPを示す。ビオチン化HIP1、HIP6、HIP8、及びHIP11の結合を、感受性対立遺伝子DRB1
*03:01及びDRB1
*04:01及び耐性対立遺伝子DRB1
*15:01を発現するT2細胞で測定した。薄いグレーはHLA-クラスII(-)T2親株に対するペプチドのバックグラウンド結合であり、濃いグレーはHLA-クラスII(+)T2株のシグナルである。角の数字は3回の独立した実験からの平均結合比である。
【0101】
図19は、感受性及び耐性HLA-DRB1対立遺伝子結合天然対照ペプチドを示す。ビオチン化インスリンミモトープ、GAD65
265-281、及びインフルエンザHAの結合を、感受性又は耐性HLA-DRB1対立遺伝子のいずれか、具体的には、DRB1
*03:01、DRB1
*04:01、及びHLA
*DRB1
*15:01を発現するT2細胞で測定した。角の数字は平均結合比である。
図20は、様々なHLA-DRB3/4/5対立遺伝子結合HIPを示す。ビオチン化HIP1、HIP6、HIP8、及びHIP11に対するHLA-DRB3/4/5対立遺伝子の結合能を、DRB3の対立遺伝子(
*01:01、
*02:02、
*03:01)、DRB4
*01:03、及びDRB5
*01:01を発現するT2細胞で測定した。薄いグレーはHLA-クラスII(-)T2親株に対するペプチドのバックグラウンド結合であり、濃いグレーはHLA-クラスII(+)T2株のシグナルである。角の数字は3回の独立した実験からの平均結合比である。
図21は、様々なHLA-DRB3/4/5対立遺伝子結合天然対照ペプチドを示す。ビオチン化インスリンミモトープ、GAD65
265-281、及びインフルエンザHAの結合を、DRB3(
*01:01、
*02:02、
*03:01)、DRB4
*01:03、及びDRB5
*01:01を発現するT2細胞で測定した。薄いグレーはHLA-クラスII(-)T2親株に対するペプチドのバックグラウンド結合であり、濃いグレーはHLA-クラスII(+)T2株のシグナルである。角の数字は3回の独立した実験からの平均結合比である。
【0102】
実施例7-DRB1のポケット1における変異の効果
本明細書では、HLAクラスIIタンパク質の抗原結合位置、ポケット1を閉塞するための方法及び組成物が開示される。多くの実施形態では、HLAクラスIIタンパク質は、DRB、例えば、DRB1、DRB3、DRB4、又はDRB5である。多くの実施形態では、ポケット1内の1以上のアミノ酸位置が編集された変異型DRB分子が記載される。多くの実施形態では、この編集は、グリシンをより大きなアミノ酸識別性、例えば、バリン、メチオニン、又はロイシンに変更することを含み得る。多くの実施形態では、アミノ酸位置は、成熟DRBタンパク質の85又は86である。
位置86は、DRB1のペプチド結合領域のポケット1内に位置し、結合グルーブ内の深い部分でペプチド係留位置として働き得る。DRB分子のポケット1(又はP1)は、1以上の大きなアミノ酸側鎖を受容してペプチド抗原の係留を補助するための深い凹部、くぼみ、又は穴を形成し得る。研究は、DRB1の位置86のグリシンを他のアミノ酸に置き換えた場合の効果を検討するために計画された。具体的には、より大きな非極性アミノ酸、バリン、メチオニン、及びロイシンを置換して、このペプチド係留位置のサイズを小さくした。
【0103】
これらの研究では、DRB1*04:01の結合クレフト内の特定のアミノ酸位置である位置86を、グリシンからメチオニン(G86M)又はロイシン(G86L)のいずれかに変更した。T2細胞株を、変異体をコードする操作された遺伝子でトランスフェクトし、新規なHLA分子を発現させた。細胞株を、100uMビオチン化ペプチドと共に一晩インキュベートした。翌日、細胞を洗浄し、軽く固定した後に、ストレプトアビジン-PEを添加して、結合したビオチン化ペプチドを検出した。細胞は、BD Canto装置を用いたフローサイトメトリーにより分析した。ポケット1の変更がペプチド結合にどのような影響を与えるか(それを増加するか、減少するか、又は維持するか)を見るために様々なペプチドを調べた。
位置86がグリシンからメチオニン(G86M)に又はグリシンからロイシン(G86L)に変更されたDRB1*04:01又はDRB1*04:01を発現するT2細胞株を、様々なペプチドとの結合能に関して調べた。位置86は、DRB1のペプチド結合領域のポケット1内に位置しており、本発明者らは、グリシンをより大きな非極性アミノ酸に置き換えれば、この係留位置を埋めてペプチド結合を本質的に遮断できるのではないかと考えた。
【0104】
DRB1
*04:01は、ここに列挙された全てのペプチドと結合する(
図23)。位置86がメチオニン又はロイシンに変更されると、コラーゲン、MOG、及びGAD65に関してペプチド結合の阻害が見られる。インスリンミモトープ及びインフルエンザウイルスHAペプチドに関しては、ペプチド結合の低下が見られる。薄いグレーのピークは、T2親細胞株Aによる結合である。濃いピークは、特定のHLA対立遺伝子によるペプチド結合である。右角の数字は、クラスII HLAを発現しないT2親株に対するバックグラウンド結合に対するMFI比である。太字の数字は、HA、コラーゲン、MOG、及びGAD65に関する2回の実験の結合比であり、インスリンミモトープだけが1回の実験であった。
同じ細胞株を、ハイブリッドインスリンペプチドを用いて調べた(
図24)。位置86をGからMへ又はGをLへ変更しても、これらのハイブリッドインスリンペプチドの機能獲得型を生じなかった。それらはDRB1
*04:01又は2つの変異体に結合しなかった。
図25に示されるように、これら2つの変異体では、MSに役割を果たすと思われるRASGRP2ペプチドの結合が低下していた。しかしながら、これらの変異細胞株はなおMBPペプチドと結合した。AQP4ペプチド(NMO)は、DRB1
*04:01及びこれら2つの変異体と同様に結合した。
【0105】
位置86をM又はLに変更すると、シトルリン化ビメンチンペプチドの結合が優先され、シトルリン化a-エノラーゼペプチドの結合は低下する。
図26は、a-エノラーゼペプチドとのこれらの結合を示す。これらの変異は全てのペプチド結合を遮断するわけではない。薄いグレーはシトルリン化ペプチドであり、濃いグレーは天然ペプチドである。ごく薄いグレーのピークは、HLA分子を発現しないT2細胞へのペプチドのバックグラウンド結合である。シトルリン化ペプチド結合と天然ペプチド結合の比率を右角に示す。
関節炎誘発ペプチドを、DRB1
*04:01及び2つの変異体に対して試験した。
図27は、これらの細胞株での天然ペプチドとシトルリン化型ペプチドの比較を示す。これらの研究は、天然ビメンチンとシトルリン化型ビメンチンは位置86が変異された場合により良く結合することを示す。G86L細胞株では、天然a-エノラーゼ結合が増加するが、両変異株ともシトルリン化型の結合は少ない。ここでは、T2親株のバックグラウンドに対する比率を計算する。
【0106】
実施例8-骨髄治療
実験の少なくとも48時間前に、マウスにバイトリル水(バイトリル22.7mg/ml:50ml試験管に、1135mgエンロフロキサシン、45ml水、1.25ml 1-ブタノール(n-ブタノール)及びエンロフロキサシンが溶解するまで(50%NaOH、19M)45%KOH(11.7M)を滴下(約150~200μl);pH確認、HClでpH8.9~10.9に調整、及び50mlとなるように適量の水)を水ボトル1本(約375ml)当たり2mlのバイトリル水を与えた。骨髄細胞をドナーK71Eマウスから単離し、照射済みのDR4レシピエントに移入した。レシピエントマウスには、総線量に達するまで6時間あけて2回の照射を行った。
【0107】
骨髄再構成
エタノールで洗浄し、筋肉組織と腱を全て取り除いた後、骨から骨髄細胞を単離した。骨髄細胞を除去するために、骨の端を切り、25ゲージの針をつけた10mlのシリンジを用いて流出させ、骨髄細胞を除去した。細胞を新鮮なPBSを入れた10mlの組織培養プレートに流出させた。骨髄細胞は、プレート内のPBSと共に18ゲージの針/10mLシリンジに細胞を通すことで破砕した。単細胞懸濁液を50mlコニカルチューブに移し、遠心分離して細胞をペレットとした。2mlのRBC溶解バッファーで1分間インキュベートして赤血球を溶解し、次いで、組成物を70μMのフィルターで新しい50mlチューブへ濾過した。10ulのアリコートをトリパンブルーで1:2に希釈して染色した。非RBC細胞を数え、各種ドナーについて細胞総数を集計した。細胞を再び400xgで遠心分離し、2~5×107細胞/mLになるようにPBSに再懸濁させた。100ulを後眼窩注射により各照射レシピエントマウスに移入した。
【0108】
再構成及びキメラ性に関するモニタリング及び確認
最初の2週間は毎日、その後は毎週マウスをモニタリングした。バイトリル水は4週間、週1回交換した。マウスの血液サンプルは、6週間後にB細胞及びT細胞を染色することにより再構成を確認した。ドナー細胞マーカーを持つマウスはフローサイトメトリーを用いてキメラ性を確認した。細胞表面マーカーが得られない場合、サンプルに対して遺伝子型分析を行い、改変遺伝子又は遺伝子破壊の有無を検査した。
【0109】
移植のためにレシピエントの細胞を除去するために抗CD117又は他の試薬を使用する骨髄移植
抗CD117抗体は、HSCを標的とするため、開示された、操作されたHSCの生着を助ける可能性がある(2019 May 9;133(19):2069-2078 doi: 10.1182/blood-2018-06-858159)。抗ヒトCD117 mAbであるSR-1は、in vitroで正常な臍帯血及び骨髄HSCを阻害する。SR-1及び臨床グレードのヒト化抗ヒトCD117 mAbであるAMG 191は、異種移植マウスモデルにおいてin vivoで正常及びMDS HSCを枯渇させる。これらの抗CD117 mAbは又、MDS異種移植マウスモデルにおいて正常ドナーのヒトHSCの生着を促進し、正常なヒト造血を回復させ、侵攻性の病理学的MDS細胞を根絶するのに有用であり、場合によっては、抗CD117抗体は造血幹細胞の骨髄間質への結合を遮断し、ひいては造血幹細胞は骨髄から末梢循環に放出させるのに役立つ。このため、自己免疫疾患を発症している、又は発症するリスクのある対象を治療する1つの方法は、開示された変異型HLA分子を含む操作されたHSCの生着を補助するために、抗CD1117抗体による前処置を含み得る。或いは、上記でHSCの採取について開示したように、操作細胞の投与に先立ち、対象をGCF治療による免疫細胞の動員に曝してもよい。
【0110】
マウスを2群に分ける。これらの実験では、群IはDR4+マウスであり、抗CD117の2回の後眼窩iv注射(0日目と2日目)を行った。次に、これらのマウスに8日目にDRB1*04:01K71Eドナー由来の骨髄細胞を投与した。その後、レシピエントの血液を2つの時点(BMT後14日目と28日目)で採取し、解析した。群IIのマウスもDR4+であったが、抗CD117は投与しなかった(0日目と2日目)。しかしながら、これらには8日目にK71E骨髄細胞が投与された。その後、群Iと同様に2つの時点(BMT後14日目と28日目)で血液を採取した。最後のサンプルは56日目に採取した。
血液サンプルは、DR4マウスとK71Eマウスの間の単一アミノ酸の違いを調べるために、デジタルPCRを用いて分析する。
アルキル化化学療法薬であるブスルファンも又、同種操作HSCを受容するために対象を準備するために使用され得る。いくつかの実施形態では、ブスルファンは、操作されたDRB1*04:01K71E対立遺伝子を有するドナーマウス由来の骨髄細胞を移入する前にレシピエントマウスを処置する目的でも使用される。
【0111】
考察
本明細書に開示された実験及びデータは、RA並びに1型糖尿病、多発性硬化症、視神経脊髄炎、及び免疫エフェクター細胞への自己ペプチドの望ましくないHLAタンパク質媒介性結合及び提示から生じる他の障害を含む自己免疫疾患の治療のための概念の独自の証明を提供する。本開示は又、本出願者らの知る限り、RA以外の自己免疫疾患の治療に関する最初の記載である。従って、本開示は、本出願者らの知る限り、開示されたようなHLA操作による自己免疫の治療を幅広く可能にし、その保有を初めて実証するものである。
本開示は更に、自己免疫疾患において抗原として認識される自己ペプチドを含むペプチドの結合及び提示を改変するために、HLAクラスIIタンパク質の抗原結合ポケット(ポケット1)を立体的に閉塞するという新規なHLA操作戦略を提供する。特に、本開示は、自己免疫に関連するHLAタンパク質によるペプチド結合の量及び親和性を一般的に減少させるために、比較的小さいアミノ酸(例えば、グリシン)を比較的大きいアミノ酸(例えば、メチオニン)に置換する戦略を記載し、例示する(実施例7参照)。
【0112】
従って、広範に具体化されるように、本開示は、特に、HLA操作による自己免疫の治療又は予防方法、及び自己免疫疾患のためのHLA操作治療を設計する方法を提供する。in vivo又はex vivoで実施され得るHLA操作は、自己免疫応答に関連する1以上の自己ペプチドの結合を減少させ、HLAタンパク質によるその自己ペプチドの結合に寄与する1以上のアミノ酸を置換するように設計及び実施され、ここで、1以上のアミノ酸は、HLAタンパク質の抗原結合クレフト内のその位置により相対的に「免疫特権化」されている。
置き換えられた又は置換アミノ酸は、対象が罹患しているか、又は対象が罹患しやすいと考えられる特定の自己免疫疾患等の、自己免疫に対する耐性に関連するHLA対立遺伝子を参照して同定することができる。特定の実施形態において、例えば、操作のための候補HLAタンパク質アミノ酸残基は、自己免疫疾患に関連するHLAタンパク質及び同じ自己免疫疾患に対する耐性に関連するHLAタンパク質の配列及び/又は三次元モデルの比較によって同定される。このような三次元モデルには、自己免疫疾患に関連する1又は複数のペプチドと複合したHLAタンパク質の結晶構造が含まれる。それに加えて、又はその代わりに、置換アミノ酸は、自己免疫関連ペプチド(例えば、糖尿病、RA、及びMSにおいて、それぞれインスリン、コラーゲン、RASDRP2に由来するペプチド)へのHLAタンパク質の結合を減少させる置換を同定するためのin silicoモデリング及び/又はハイスループットin vitroアッセイ等によって、de novoで同定することができる。
【0113】
いくつかの実施形態では、これらの方法は、自己免疫疾患に関連するHLAタンパク質のポケット1等の適切な位置にあるグリシン等の小さなアミノ酸を同定すること、及び対応するHLA対立遺伝子を操作して、より大きなサイズの置換アミノ酸を発現させることを含む。これらの方法は、上述の機能アッセイと同様に、操作されたHLAタンパク質への自己及び/又は非自己ペプチドの結合をアッセイすることを更に含み得る。
本明細書で企図され、例えば実施例4で明示的に記載されるように、HLA操作は、HLAタンパク質中の2つ以上のアミノ酸の置換(又は変異)を含むことができ、治療法を設計する方法は、それに応じて適用され、最適化され得る。
【0114】
特定の実施形態は、自己免疫疾患を治療又は予防する方法、及びHLA操作による自己免疫疾患の治療法を設計する方法を提供する。特定の実施形態は、RA、T1D、MS、視神経脊髄炎、ベーチェット症候群、セリアック病、及び乾癬を治療又は予防する方法、並びにそれらの治療法を設計する方法を提供する。特定の実施形態は、T1D、MS、視神経脊髄炎、ベーチェット症候群、セリアック病、及び乾癬を治療又は予防する方法、並びにそれらの治療法を設計する方法を提供する。特定の実施形態では、HLA操作は、DRB1*04:01K71E変異を含まない。特定の実施形態では、HLA操作は、DRB1*04:01対立遺伝子の位置71の変異を含まない。特定の実施形態では、HLA操作は、DRB1*04:01対立遺伝子の変異を含まない。
重要なことに、特定の実施形態を含む本開示の多くの実施形態は、治療後の免疫抑制を必要とせず、排除することができる。従って、本開示によるHLA操作による自己免疫疾患の治療法を設計する特定の方法は、例えば、候補変異の有効性及び非拒絶性を確認するためのin vitro T細胞刺激アッセイ及び/又は皮膚移植実験を含み、このような有効性及び/又は非拒絶性は、本明細書に開示されるようなHLA操作に適した変異を同定する。
【0115】
複数の実施形態が開示されているが、本開示の概念、化合物、組成物、方法、工程、システム、及び療法の更なる他の実施形態は、以下の詳細な説明から当業者に明らかになるであろう。明らかなように、本開示は、様々な明白な局面において、全て本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく改変可能である。従って、詳細な説明は、本質的に例示的なものとみなされ、限定されるものではない。
本明細書で開示される全ての参考文献は、特許であれ非特許であれ、その全体がそれぞれ引用に含まれているかのように、本明細書の一部として援用される。参考文献と本明細書との間に矛盾がある場合には、定義を含む本明細書が優先する。
本開示は、ある程度の特殊性をもって記載されているが、本開示は例示としてなされたものであり、詳細又は構造の変更は、添付の特許請求の範囲に定義されるような本開示の趣旨から逸脱することなくなされ得ることが理解される。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-01-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0025
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0025】
【
図1】
図1は、自己免疫における様々な経路、相互作用、及び薬学的介入の模式図である。
【
図2】
図2は、マウスTCR/CD4と操作されたヒト化HLA-DR4/I-E
dの相互作用を示す模式図であり、下は、CD4
+T細胞のex vivo増殖により検出した場合のコラーゲン感作に関する試験から得られた結果のグラフであり、記号は、個々のヒト化DRB1
*04:01、DRB1
*01:01及びDRB1
*04:01
K71Eマウス由来サンプルを示し、バーは平均を示す。データは一元配置ANOVAにより分析されたものである。
【
図3A】
図3Aは、クレフト内のDRB1
*04:01同定位置K71及びコラーゲンペプチドにより占められた抗原結合クレフトの三次元表示であり(左)、右の図はDRB1
*04:01
K71Eの構造及びコラーゲンペプチド結合が存在しない場合を示し、酸性残基を青で示し、塩基性残基を赤で示す。
【
図3B】
図3Bは、0日目と9日目の代表的マウスのDRB1
*04:01レシピエントの皮膚移植片を示し、15~18日目の全てのマウスを示す。右下のパネルに、DRB1
*04:01
K71E移植片(70日目)の長期移植を示す。赤いかさぶたは移植片の拒絶を示す。
【
図4】
図4は、本開示の実施形態によるDRB1
*01:01、DRB1
*11:01及びDRB1
*15:01成熟長タンパク質の配列アラインメントである。
【
図5】
図5は、DRB1
*01:01、
*15:01及び
*11:01対立遺伝子の抗原結合試験を示し、ボックスの左上の数字は、HLAクラスII分子を発現しない、従ってペプチド結合のない細胞(陰性対照)と比較したペプチドの結合比である。
【
図6】
図6は、自己免疫性脱髄関連ペプチドのDRB1
*15:01及び15:02単一及び二重変異実施形態への結合を示し、ボックスの左上の数字は、陰性対照(薄いグレー)と比較した結合比である。
【
図7】
図7は、自己免疫性脱髄関連ペプチドのDRB1
*15:01対立遺伝子への結合及び位置71と86における編集効果を示し、ボックスの左上の数字は、陰性対照と比較した結合比である。
【
図8】
図8は、本開示の実施形態によるDRB1
*03:01、DRB1
*07:01、及びDRB1
*09:01成熟長タンパク質の配列アラインメントである。
【
図9】
図9は、アクアポリン4ペプチド5及び6のDRB1
*03:01及びDRB1
*07:01への結合を示す。
【
図10】
図10は、本開示の実施形態による
*04:01及び
*04:05成熟長タンパク質の配列アラインメントである。
【
図11】
図11は、本開示の実施形態による、関節リウマチに関連する3つのペプチドのDRB1対立遺伝子
*04:05対立遺伝子への結合及びR71E編集の効果を示す。ボックスの右上の比は、陰性対照(コラーゲン)との比較又は天然型のビメンチン及びα-エノラーゼとの比較を示す。
【
図12】
図12は、複数の濃度にわたるHIP8-NPYペプチドの天然とA57Dへの結合の比較を示し、黒丸は天然対立遺伝子であり、白丸はA57D変異である:パネルA、DQ2;パネルB、DQ8;パネルC、DQ2トランス;及びパネルD、DQ8トランス。
【
図13】
図13は、複数の濃度にわたるHIP11-Cペプチドの天然とA57Dへの結合の比較を示し、黒丸は天然対立遺伝子であり、白丸はA57D変異である:パネルA、DQ2;パネルB、DQ8;パネルC、DQ2トランス;及びパネルD、DQ8トランス。
【
図14】
図14は、複数の濃度にわたるインスリンミモトープの天然とA57D結合の比較を示し、黒丸は天然対立遺伝子であり、白丸はA57D変異である:パネルA、DQ2;パネルB、DQ8;パネルC、DQ2トランス;及びパネルD、DQ8トランス。
【
図15】
図15(上)は、DQ2 T2細胞株が親EBV株よりも遙かに良好にE2 T細胞クローンを刺激することを示す。A57D変異を導入するとE2 T細胞の刺激が低下する、DQ2及びDQ2 A57Dを有するE2 T細胞の、10uM及び20uMの前負荷濃度のHIP11ペプチドでの刺激、黒丸はDQ2であり、白丸はDQ2 A57Dであり、菱形は患者EBV形質転換B細胞株であり、(下)は、DQ2トランス及びDQ2トランス A57Dを有するE2 T細胞の、10uM及び20uM前負荷濃度のHIP11ペプチドでの刺激を示し、黒丸はDQ2トランスであり、白丸はDQ2トランス A57Dであり、菱形は患者EBV形質転換B細胞株である。
【
図16】
図16は、様々なHLA-DQ対立遺伝子結合ハイブリッドインスリンペプチドを示し、ボックスの左上の数字は結合比である。
【
図17】
図17は、本開示の実施形態による様々なHLA-DQ対立遺伝子結合糖尿病誘発ペプチドを示す。ボックスの左上の数字は、陰性対照と比較した結合比である。
【
図18】
図18は、本開示の実施形態による、DRB1
*03:01、
*04:01及び
*15:01へのハイブリッドインスリンペプチドの結合を示す。ボックスの左上角の数字は、陰性対照と比較した結合比である。
【
図19】
図19は、本開示の実施形態による、DRB1
*03:01、
*04:01及び
*15:01への糖尿病誘発ペプチド及びインフルエンザ血球凝集素ペプチドの結合を示す。ボックスの左上角の数字は、陰性対照と比較した結合比である。
【
図20】
図20は、本開示の実施形態による、DRB3、DRB4及びDRB5対立遺伝子へのハイブリッドインスリンペプチドの結合を示す。ボックスの左上の数字は、陰性対照と比較した結合比である。これらの対立遺伝子の「一般的な」血清学的名称(例えば、HLA-DR52)は対立遺伝子名の上に示されている。
【
図21】
図21は、本開示の実施形態による、DRB3、DRB4及びDRB5対立遺伝子への糖尿病誘発ペプチドの結合を示す。ボックスの左上の数字は、陰性対照と比較した結合比である。
【
図22】
図22は、本開示の実施形態による、遺伝子編集されたHLA分子による結合を検討するために本試験で使用した様々な抗原の一覧である。
【
図23A】
図23Aは、本開示の実施形態による、ポケット1の位置を示すDRB1構造の三次元表示とアミノ酸化学の二次元表示である。
【
図23B】
図23Bは、本開示の実施形態による、DRB1
*04:01並びにポケット1変異G86L及びG86Mで編集された本開示の対立遺伝子の抗原結合試験を示す。ボックスの左上の数字は、陰性対照と比較した結合比である。
【
図24】
図24は、本開示の実施形態による、DRB1
*04:01並びにポケット1変異G86L及びG86Mで編集された本開示の2つの対立遺伝子へのハイブリッドインスリンペプチドの結合を示す。ボックスの左上の数字は、陰性対照と比較した結合比である。
【
図25】
図25は、本開示の実施形態による、DRB1
*04:01並びにポケット1変異G86L及びG86Mで編集された本開示の対立遺伝子への神経自己免疫性ペプチドの結合を示す。ボックスの左上の数字は、陰性対照と比較した結合比である。
【
図26】
図26は、本開示の実施形態による、DRB1
*04:01及びポケット1変異で操作された本開示の対立遺伝子への関節炎誘発ペプチドの結合を示す。ボックスの左上の数字は、天然ペプチドと比較したシトルリン化ペプチドの結合比である。
【
図27】
図27は、本開示の実施形態による、DRB1
*04:01及びポケット1変異で操作された本開示の対立遺伝子への天然及びシトルリン化関節炎誘発ペプチドの結合を示す。ボックスの左上の数字は、陰性対照と比較した結合比である。
【
図28】
図28は、本開示の実施形態による、代表的HLA対立遺伝子、アミノ酸位置、及び変異の一覧である。
【
図29】
図29では、様々なHLA対立遺伝子の成熟タンパク質配列を表に示す。
【
図30】
図30では、感受性HLA対立遺伝子及び操作されたHLA対立遺伝子の様々な実施形態のcDNA配列を表に示す。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0086
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0086】
ペプチド結合アッセイのためのペプチド設計及び合成
ハイブリッドインスリンペプチドHIP1-WE14(GQVELGGWSKMDQLA)、HIP6-IAPP2(GQVELGGGNAVEVLK)、HIP8-NPY(GQVELGGGSSPETLI)、及びHIP11-Cペプチド(SLQPLALEAEDLQV)は、Genscript(ピスカタウェイ、NJ)(Delong 2016, Baker2019)によりトリフルオロ酢酸(TFA)を除去して>98%純度となるように、ビオチン化PEG3リンカーを用いてN末端に合成した。本研究に使用したHIPは、利用可能なT細胞クローンを刺激するそれらの能力のために選択した(表2)。ビオチン化GAD65265-281(AMMIARFKMFPEVKEKG)、インスリンミモトープ(HLVEELYLVAGEEG)、及びインフルエンザA(PKYVKQNTLKLAT)ペプチドも、HLA-DR及びDQ結合の対照として合成した[S. Dai, at doi.org/10.1073/pnas.1716527115]。HIP6を除き、全てのペプチドをジメチルスルホキシド(DMSO)、次いで等量の水、及び最後にダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)(Life Technologies)で再構成して400μM濃度とし、ペプチド結合及びT細胞研究で使用するまで-20℃で凍結保存した。HIP6を3%アンモニア水、次いで当量の水、中性pHに戻すための75μLの1M HCL、及び最後にDPBSで再構成して400μMとした。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0095
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0095】
実施例6
A-RAに関連するHLA対立遺伝子
HLA-DRB1対立遺伝子
*04:05はRAに対する感受性も示す。特に、この対立遺伝子は、日本人集団のRAと強い関連を示す。これらの試験のために、DRB1
*04:05の位置71をRからEに変異させた(
図10参照)。
これらの試験は、DRB1対立遺伝子
*04:05が免疫優性コラーゲンペプチドへの結合に対して強い優先性を示さないことを示す(
図11)。しかしながら、位置71をグルタミン酸に変異させると(R71E)、低レベルの結合が更に低下する。ビメンチン及びα-エノラーゼの場合、
*04:05対立遺伝子は、天然型よりもシトルリン化型と優先的に結合する。K71E突然変異の場合、この優先性はDRB1
*04:05の位置71のアルギニンをグルタミン酸に変更する(R71E)ことによって低減される。MFI結合比は、2回の実験の平均である。
本明細書で開示されるように、RAに感受性の他のDR4対立遺伝子、例えば、DRB1
*04:03、
*04:04、及び
*04:08は、位置71がアルギニン(R)からグルタミン酸(E)に変更されると耐性(即ち、耐性対立遺伝子)を付与し得る。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0096
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0096】
実施例6
B-I型糖尿病に関連するHLA対立遺伝子-T1D
I型糖尿病に対する感受性に関連するDQB1対立遺伝子が、抗原結合グルーブにおける1以上の変異で耐性を付与することができるどうか試験した。具体的には、いくつかのDQB対立遺伝子及び対応するA57D変異体をT2細胞株にクローニングした。いくつかの耐性対立遺伝子の位置57にはアスパラギン酸が見られる。
【表2】
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0097
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0097】
ペプチド選択-ビオチン化PEG3リンカーを用い、ハイブリッドインスリンペプチドHIP1-WE14(GQVELGGWSKMDQLA)、HIP6-IAPP2(GQVELGGGNAVEVLK)、HIP8-NPY(GQVELGGGSSPETLI)、及びHIP11-Cペプチド(SLQPLALEAEDLQV)をN末端に、Genscript(ピスカタウェイ、NJ)(Delong 2016, Baker2019)によりトリフルオロ酢酸(TFA)を除去して>98%純度で合成した。この試験に使用したHIPをT細胞クローンの刺激能及びアベイラビリティのため選択した(表2)。ビオチン化GAD65265-281(AMMIARFKMFPEVKEKG)、インスリンミモトープ(HLVEELYLVAGEEG)、及びインフルエンザA(PKYVKQNTLKLAT)ペプチドも又、HLA-DR及びDQ結合の対照として合成した[S. Dai、doi.org/10.1073/pnas.1716527115で利用可能]。
ハイブリッドインスリンペプチドを、様々な濃度でこれらの細胞株に対する結合に関して試験した。具体的には、天然HLA DQB1対立遺伝子のペプチド結合をそのA57D変異型と比較した。感受性対立遺伝子はハイブリッドインスリンペプチドと結合すると仮定された。
【国際調査報告】