(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-22
(54)【発明の名称】アルギン酸オリゴ糖の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/734 20060101AFI20240415BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
A61K31/734
A61P13/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570073
(86)(22)【出願日】2021-05-14
(85)【翻訳文提出日】2024-01-05
(86)【国際出願番号】 CN2021093850
(87)【国際公開番号】W WO2022236814
(87)【国際公開日】2022-11-17
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523426404
【氏名又は名称】海糖(江蘇)生物医薬科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】HAITANG (JIANGSU) BIOTECHNOLOGY COMPANY, LTD.
【住所又は居所原語表記】No.100, Dongtinghu Road, Linjiang Town, Haimen District, Nantong, Jiangsu 226126, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】劉振徳
(72)【発明者】
【氏名】高河勇
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA25
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA81
(57)【要約】
本発明は、急性腎障害を治療するための薬物の製造におけるアルギン酸オリゴ糖又は薬学的に許容されるその塩の用途を提供し、前記アルギン酸オリゴ糖は、アルギン酸二糖、アルギン酸三糖又はアルギン酸四糖である。アルギン酸二糖、三糖、四糖は、虚血再灌流(I/R)、内毒素リポ多糖(LPS)及び抗腫瘍薬シスプラチンによって誘発される急性腎障害動物モデルにおいて、いずれも非常に明らかな保護効果を有することが研究で判明された。本発明のアルギン酸オリゴ糖で急性腎障害動物を治療した後、血清クレアチニンレベルは有意に低下し、腎臓の尿濃縮機能は明らかに回復し、尿細管障害マーカー(KIM-1、NGAL)レベルは明らかに低減し、炎症性因子の発現は有意に低下し、腎臓の病理学的変化は有意に改善され、かつ、用量の増加に伴って、治療効果は強化される。したがって、本発明のアルギン酸オリゴ糖は、急性腎障害に対して比較的高い治療効果を有する。
【選択図】
図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性腎障害を治療するための薬物の製造におけるアルギン酸オリゴ糖又は薬学的に許容されるその塩の用途であって、
前記アルギン酸オリゴ糖は、アルギン酸二糖、アルギン酸三糖又はアルギン酸四糖である用途。
【請求項2】
前記アルギン酸オリゴ糖は、単糖G、M及び/又はΔが1,4位のグリコシド結合によって接続されて構成されたものであり、Gはα-L-グルロン酸を表し、Mはβ-D-マンヌロン酸を表し、Δは、α-L-グルロン酸又はβ-D-マンヌロン酸の4,5位でβ-脱離が起きて、4,5位が共役二重結合である不飽和単糖を生成することを表すことを特徴とする請求項1記載の用途。
【請求項3】
前記アルギン酸二糖は、ΔG、ΔM又はその組み合わせから選ばれることを特徴とする請求項2に記載の用途。
【請求項4】
前記アルギン酸三糖は、ΔGG、ΔGM、ΔMM及びΔMGから1種又は複数種選ばれることを特徴とする請求項2に記載の用途。
【請求項5】
前記アルギン酸四糖は、ΔGGG、ΔGGM、ΔGMG、ΔGMM、ΔMMG、ΔMMM、ΔMGG及びΔMGMから1種又は複数種選ばれることを特徴とする請求項2に記載の用途。
【請求項6】
前記薬学的に許容される塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩及び/又はアンモニウム塩であることを特徴とする請求項1記載の用途。
【請求項7】
前記急性腎障害は、血液灌流の不十分、感染又は薬物の腎毒性によって引き起こされることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の用途。
【請求項8】
急性腎障害を治療するためのアルギン酸オリゴ糖又は薬学的に許容されるその塩であって、
前記アルギン酸オリゴ糖は、アルギン酸二糖、アルギン酸三糖又はアルギン酸四糖であるアルギン酸オリゴ糖又は薬学的に許容されるその塩。
【請求項9】
治療有効量のアルギン酸オリゴ糖又は薬学的に許容されるその塩を、必要とする患者に投与することを含む急性腎障害の治療方法であって、
前記アルギン酸オリゴ糖は、アルギン酸二糖、アルギン酸三糖又はアルギン酸四糖である急性腎障害の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ医薬品の技術分野に属し、アルギン酸オリゴ糖の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
糖質(Carbohydrate)は、核酸、タンパク質と共に3つの主要な生命鎖と呼ばれている。アルギン酸は、主に昆布、ホンダワラ及びオオウキモの細胞壁の中に存在し、直鎖状で分岐のない、負に帯電した一連の多糖化合物である。アルギン酸は、β-D-(1,4)-マンヌロン酸(Mannuronic acid、M)及びα-L-(1,4)-グルロン酸(Guluronic acid、G)からなる二元の線状ブロック化合物である。その分子には、主に、3種の構造フラグメント、即ち、β-D-(1,4)-マンヌロン酸が互いに接続して構成されたポリマンヌロン酸(Polymannuronate、PM)、α-L-(1,4)-グルロン酸が互いに結合によって構成されたポリグルロン酸(Polyguluronate、PG)、MとGの交互共重合によって形成されたPMGフラグメントが存在する。
【0003】
アルギン酸は、高粘度、ゲル形成などの特性から、凝固剤、増粘剤、安定剤などとして食品、化学、医薬品、紡績などの工業生産において幅広く使用されている。医薬品分野では、アルギン酸はその独特な物理的及び化学的特性と良好な生体適合性から、医療用生体材料、薬物の徐放性及び放出制御性材料の面で幅広く使用されている。アルギン酸には、抗酸化、免疫調節、抗腫瘍などの生物学的活性があることも研究で判明されたが、アルギン酸は分子量が大きく、ゲル化特性が強く、吸収されにくいため、その使用は大きく制限されている。一方で、オリゴ糖は、構造が明確であり、活性が著しく、吸収性が良く、副作用が少ないなどの特徴から、注目を集めている。
【0004】
近年、アルギン酸オリゴ糖は、その独特な構造から、糖質医薬品の研究でその活性研究がホットスポットとなっており、その生物活性の研究が大きな進歩を遂げている。アルギン酸オリゴ糖及びその誘導体は、例えば、抗酸化性、抗腫瘍、抗凝固、免疫調節、神経保護、抗炎症活性、抗ウイルス活性、抗アルツハイマー病、抗尿路結石、抗糖尿病など様々な生物学的活性を有することが研究で判明された。
【0005】
糖質は、極めて複雑でありながら変化が多い一連の生体高分子である。オリゴヌクレオチド及びポリペプチドと違って、糖質は、単なる線状のオリゴマーだけではなく、一般的には分岐しているものである。哺乳動物の細胞で発見された9種の一般的な単糖は、天然に存在する20種のアミノ酸又は4種のヌクレオチドの接続よりも多様性を備える構造に接続することができる。糖質化合物の構造がこのように複雑であるため、天然物から純粋な糖質化合物を得るのは非常に難しくなる。化学的分解にしても、酵素的分解にしても、いずれも均一な重合度を有するオリゴ糖又は多糖を分離させるのは難しい。これまでには、研究で用いられるオリゴ糖又は多糖の殆どは重合度が近い一連の糖の混合物であるため、その活性研究、代謝、毒物学及び医薬品の品質研究などに大きな困難をもたらしている。
【0006】
本発明者らは、準備研究でこれまでの糖質研究の難題に対して、一連の特異性が比較的高いアルギン酸分解酵素を開発し、アルギン酸を、それぞれ、純度が比較的高く、非還元末端が共役二重結合を備え、均一な重合度を有するアルギン酸二糖、三糖又は四糖に分解し、酵素による不活化、遠心分離及び上清の取得、濃縮を経て、ゲルカラム又はイオン交換樹脂で一層精製して均一な重合度を有するアルギン酸二糖、三糖又は四糖を得ることができる。前記アルギン酸二糖は、ΔG及び/又はΔMの2種の構造とその任意の比率の組み合わせであり、アルギン酸三糖は、ΔGG、ΔGM、ΔMM及びΔMGの4種の構造とその任意の比率の組み合わせであり、アルギン酸四糖は、ΔGGG、ΔGGM、ΔGMG、ΔGMM、ΔMMG、ΔMMM、ΔMGG及びΔMGMの8種の構造とその任意の比率の組み合わせであり、全てのオリゴ糖は、いずれも単糖が1,4位のグリコシド結合によって接続されたものであり、Gはα-L-グルロン酸を表し、Mはβ-D-マンヌロン酸を表し、Δは、α-L-グルロン酸及び/又はβ-D-マンヌロン酸の4,5位でβ-脱離が起きて、非還元末端の4,5位が共役二重結合である不飽和単糖を生成することを表す。各単糖の構造は、下図に示すとおりである。
【化1】
【0007】
ΔGMを例とすると、対応するアルギン酸三糖の構造は、次のとおりである。
【化2】
【0008】
急性腎障害(acute kidney injury、AKI)は以前、急性腎不全とも呼ばれ、様々な原因から引き起こされる、短期間で腎機能が急速に低下することで生じる臨床症候群を指し、症状は血清クレアチニンの迅速な増加及び尿量の減少である。統計によると、世界で毎年入院患者の約10~20%がAKIと診断され、ICU患者では50%を超えており、そのうち患者の85%が発展途上国にいる。AKIは、入院患者の死亡率を高め、入院期間を延長させ、治療費を増やすだけでなく、心血管イベント、長期の慢性腎臓病(CKD)及び末期腎不全(ESRD)に罹患するリスクを高める可能性もある。腎臓病学会ではAKIが重要視されてきているにもかかわらず、現在では特異的な治療がまだなく、発生率及び死亡率は依然として高い。AKI患者における心血管イベントの発生率は38%であり、例えば、心不全(リスクは58%上昇)、急性心筋梗塞(リスクは40%上昇)、高血圧(リスクは22%上昇)、脳卒中(リスクは15%上昇)などであり、AKIは既に人類の健康を脅かす世界的な公衆衛生問題となっている。
【0009】
現在、AKI腎障害を回復させられる効果的な薬物はまだない。高血圧性腎症など一部の二次性の慢性腎臓病と違って、AKIは、腎実質(糸球体、尿細管、間質など)の原発性病変であり、原因(例えば、虚血、酸欠、毒性物質、薬物、感染など)が複雑であり、進行が早く、一部の患者では、心血管疾患などの合併症を伴う慢性腎臓疾患に進行している。早期診断、タイムリーな介入は、腎障害を最大限に軽減させ、腎機能の回復を促進することができる。可逆的な原因の早期認識と是正、内部環境の安定性の維持、栄養補給、合併症の防止、腎代替療法などは、現在依然としてAKIに対する主な治療方法である。一方で、高血圧性腎症は、長期にわたる血圧の上昇によって引き起こされる、腎毛細血管の肥厚及び粗大化、糸球体の線維化、血管内腔の狭窄、腎動脈の硬化、腎実質の虚血、腎単位の減少などの腎血管の病変である。腎実質の変化は、腎臓の血液濾過機能の低減、腎機能の低下を引き起こす。これは、血圧の継続的な上昇によって引き起こされる長期の腎臓の二次性疾患であり、経過が長く、血圧のコントロールは基本的な治療方法である。現在、高血圧性腎症の治療で主に血圧コントロール療法を用いるが、この療法はAKIの治療には向いていない。AKIの原因が複雑であることから、全てのAKI患者に利益をもたらすことができる単剤療法を確立することは非常にチャレンジがある。
【0010】
本発明は、アルギン酸オリゴ糖に対して更なる研究を行い、急性腎障害の治療におけるアルギン酸オリゴ糖の使用を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、アルギン酸オリゴ糖の使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、次の技術的解決手段によって達成される。
一態様では、本発明は、急性腎障害を治療するための薬物の製造におけるアルギン酸オリゴ糖又は薬学的に許容されるその塩の用途を提供し、前記アルギン酸オリゴ糖は、アルギン酸二糖、アルギン酸三糖又はアルギン酸四糖である。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態では、前記アルギン酸オリゴ糖は、単糖G、M及び/又はΔが1,4位のグリコシド結合によって接続されて構成されたものであり、Gはα-L-グルロン酸を表し、Mはβ-D-マンヌロン酸を表し、Δは、α-L-グルロン酸又はβ-D-マンヌロン酸の4,5位でβ-脱離が起きて、4,5位が共役二重結合である不飽和単糖を生成することを表す。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態では、前記アルギン酸二糖は、ΔG、ΔM又はその組み合わせから選ばれる。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態では、前記アルギン酸三糖は、ΔGG、ΔGM、ΔMM及びΔMGから1種又は複数種選ばれる。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態では、前記アルギン酸四糖は、ΔGGG、ΔGGM、ΔGMG、ΔGMM、ΔMMG、ΔMMM、ΔMGG及びΔMGMから1種又は複数種選ばれる。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態では、前記薬学的に許容される塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩及び/又はアンモニウム塩である。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態では、前記急性腎障害は、血液灌流の不十分、感染又は薬物の腎毒性によって引き起こされる。
【0019】
別の態様では、本発明は、急性腎障害を治療するためのアルギン酸オリゴ糖又は薬学的に許容されるその塩を提供し、前記アルギン酸オリゴ糖は、アルギン酸二糖、アルギン酸三糖又はアルギン酸四糖である。
【0020】
もう1つの態様では、本発明は、治療有効量のアルギン酸オリゴ糖又は薬学的に許容されるその塩を、必要とする患者に投与することを含む急性腎障害の治療方法を提供し、前記アルギン酸オリゴ糖は、アルギン酸二糖、アルギン酸三糖又はアルギン酸四糖である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の均一な重合度を有するアルギン酸二糖、三糖、四糖は、糖質原薬の品質管理、薬理学、毒性学などの分析及び研究にとって、いずれも画期的な進歩性がある。
【0022】
アルギン酸二糖、三糖、四糖は、虚血再灌流(I/R)、内毒素リポ多糖(LPS)及び抗腫瘍薬シスプラチンによって誘発される急性腎障害動物モデルにおいて、いずれも非常に明らかな保護効果を有することが研究で判明された。本発明のアルギン酸オリゴ糖で急性腎障害動物を治療した後、血清クレアチニンレベルは有意に低下し、腎臓の尿濃縮機能は明らかに回復し、尿細管障害マーカー(KIM-1、NGAL)レベルは明らかに低減し、炎症性因子の発現は有意に低下し、腎臓の病理学的変化は有意に改善され、かつ、用量の増加に伴って、治療効果は強化される。したがって、本発明のアルギン酸オリゴ糖は、腎障害に対して比較的高い治療効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【
図1】アルギン酸二糖の波長230nmにおける高速液体クロマトグラムを示す。
【
図2】アルギン酸二糖のプロトン核磁気共鳴スペクトル(
1H NMR、溶媒D
2O)を示す。
【
図3】アルギン酸二糖の高分解能マススペクトル(HRMS(ESI))を示す。
【
図4】アルギン酸三糖の波長230nmにおける高速液体クロマトグラムを示す。
【
図5】アルギン酸三糖のプロトン核磁気共鳴スペクトル(
1H NMR、溶媒D
2O)を示す。
【
図6】アルギン酸三糖の高分解能マススペクトル(HRMS(ESI))を示す。
【
図7】アルギン酸四糖の波長230nmにおける高速液体クロマトグラムを示す。
【
図8】アルギン酸四糖のプロトン核磁気共鳴スペクトル(
1H NMR、溶媒D
2O)を示す。
【
図9】アルギン酸四糖の高分解能マススペクトル(HRMS(ESI))を示す。
【
図10】急性虚血再灌流(I/R)障害によって引き起こされるラットの血清クレアチニンレベルに対するアルギン酸二糖の影響を示す。
【
図11】急性虚血再灌流(I/R)障害によって引き起こされるラットの尿量に対するアルギン酸二糖の影響を示す。
【
図12】急性虚血再灌流(I/R)障害によって引き起こされるラットの腎組織中のKim-1及びNGALのmRNAレベルに対するアルギン酸二糖の影響を示す。
【
図13】急性虚血再灌流(I/R)障害によって引き起こされるラットの腎組織中の炎症指標に対するアルギン酸二糖の影響を示す。
【
図14】急性虚血再灌流(I/R)障害によって引き起こされるラットの血清クレアチニンレベルに対するアルギン酸三糖の影響を示す。
【
図15】急性虚血再灌流(I/R)障害によって引き起こされるラットの尿量に対するアルギン酸三糖の影響を示す。
【
図16】急性虚血再灌流(I/R)障害によって引き起こされるラットの腎組織中のKim-1及びNGALのmRNAレベルに対するアルギン酸三糖の影響を示す。
【
図17】急性虚血再灌流(I/R)障害によって引き起こされるラットの腎組織中の炎症指標に対するアルギン酸三糖の影響を示す。
【
図18】急性虚血再灌流(I/R)障害によって引き起こされるラットの腎組織損傷の病理切片に対するアルギン酸三糖の影響を示す。
【
図19】急性虚血再灌流(I/R)障害によって引き起こされるラットの血清クレアチニンレベルに対するアルギン酸四糖及び混合糖の影響を示す。
【
図20】急性虚血再灌流(I/R)障害によって引き起こされるラットの尿量に対するアルギン酸四糖及び混合糖の影響を示す。
【
図21】急性虚血再灌流(I/R)障害によって引き起こされるラットの腎組織中のKim-1及びNGALのmRNAレベルに対するアルギン酸四糖及び混合糖の影響を示す。
【
図22】急性虚血再灌流(I/R)障害によって引き起こされるラットの腎組織中の炎症指標に対するアルギン酸四糖の影響を示す。
【
図23】内毒素リポ多糖(LPS)によって引き起こされるマウスの血清クレアチニンレベルに対するアルギン酸二糖の影響を示す。
【
図24】内毒素リポ多糖(LPS)によって引き起こされるマウスの腎組織中のKim-1及びNGALのmRNAレベルに対するアルギン酸二糖の影響を示す。
【
図25】内毒素リポ多糖(LPS)によって引き起こされるマウスの腎組織中の炎症指標に対するアルギン酸二糖の影響を示す。
【
図26】内毒素リポ多糖(LPS)によって引き起こされるマウスの腎組織中の炎症指標に対するアルギン酸二糖及び対照品デキサメタゾンの影響を示す。
【
図27】内毒素リポ多糖(LPS)によって引き起こされるマウスの血清クレアチニンレベルに対するアルギン酸三糖の影響を示す。
【
図28】内毒素リポ多糖(LPS)によって引き起こされるマウスの腎組織中のKim-1及びNGALのmRNAレベルに対するアルギン酸三糖の影響を示す。
【
図29】内毒素リポ多糖(LPS)によって引き起こされるマウスの腎組織中の炎症指標に対するアルギン酸三糖の影響を示す。
【
図30】内毒素リポ多糖(LPS)によって引き起こされるマウスの腎組織中の炎症指標に対するアルギン酸三糖及び対照品デキサメタゾンの影響を示す。
【
図31】内毒素リポ多糖(LPS)によって引き起こされるマウスの腎組織損傷の病理切片に対するアルギン酸三糖の影響を示す。
【
図32】内毒素リポ多糖(LPS)によって引き起こされるマウスの血清クレアチニンレベルに対するアルギン酸四糖及び混合糖の影響を示す。
【
図33】内毒素リポ多糖(LPS)によって引き起こされるマウスの腎組織中のKim-1及びNGALのmRNAレベルに対するアルギン酸四糖及び混合糖の影響を示す。
【
図34】内毒素リポ多糖(LPS)によって引き起こされるマウスの腎組織中の炎症指標に対するアルギン酸四糖及び混合糖の影響を示す。
【
図35】内毒素リポ多糖(LPS)によって引き起こされるマウスの腎組織中の炎症指標に対するアルギン酸四糖、混合糖及び対照品デキサメタゾンの影響を示す。
【
図36】シスプラチンによって引き起こされるマウスの血清クレアチニンレベルに対するアルギン酸三糖の影響を示す。
【
図37】シスプラチンによって引き起こされるマウスの尿量に対するアルギン酸三糖の影響を示す。
【
図38】シスプラチンによって引き起こされるマウスの腎組織中のKim-1及びNGALのmRNAレベルに対するアルギン酸三糖の影響を示す。
【
図39】シスプラチンによって引き起こされるマウスの腎組織中の炎症指標に対するアルギン酸三糖の影響を示す。
【
図40】本発明の実施例4及び実施例5で用いられた混合糖のマススペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明し、実施例は、解釈及び説明を行うためのものに過ぎず、いずれの方式で本発明の範囲を限定するものにはならない。
【0025】
実施例1:均一な重合度を有するアルギン酸二糖の製造及びその構造の同定
購入した100gのアルギン酸(青島明月海藻集団有限公司から購入)を水に溶解し、所定の温度で、フコイダン分解酵素(中国海洋大学から提供)を加え、所定の時間の分解後に、高速遠心機で遠心分離し、上清を取得した。上清をゲルカラムで精製して、少量の不純物であるオリゴ糖、多糖及び非糖不純物を除去して、純度95%以上の60gのアルギン酸二糖のナトリウム塩を得た。得られたアルギン酸二糖のナトリウム塩を高速液体クロマトグラフィー(HPLC、230nm)で純度を測定し、プロトン核磁気共鳴スペクトル(1H NMR)及び高分解能マススペクトル(HRMS-ESI)で構造を同定した。
【0026】
HPLC:純度99.06%、RT=13.6分(関連するスペクトルは、
図1を参照する)。
1H NMRスペクトルは、
図2を参照する。
HRMS(ESI)m/z:C
12H
15O
12{(M-H)
-}、計算値は351.0569であり、実測値は351.0572(M-H)
-であった(関連するスペクトルは、
図3を参照する)。
【0027】
アルギン酸二糖のナトリウム塩は、分子中の2つのカルボキシ基がいずれもナトリウム塩である場合は、ナトリウムイオンの理論的な含有量は11.58%であり、実際にイオンクロマトグラフィーで検出したところ、ナトリウムイオンの含有量は10.3%であった。強熱残分法で検出する場合は、ナトリウムイオンが硫酸ナトリウムの形態で存在し、理論的な残分の割合は35.77%のはずであるが、実際に強熱残分法で検出したところ、残分は34.3%であった。2つの検出方法の結果がいずれも比較的近いため、化合物のカルボン酸官能基が確かにナトリウム塩の形態であることが示された。ただし、実測値がいずれも理論値よりやや小さかったのは、そのナトリウム塩が弱酸と強塩基の塩であり、少量のカルボン酸が遊離状態のままであるためと考えられる。
【0028】
実施例2:均一な重合度を有するアルギン酸三糖の製造及びその構造の同定
購入した100gのアルギン酸を水に溶解し、所定の温度で、フコイダン分解酵素(中国海洋大学から提供)を加え、所定の時間の分解後に、高速遠心機で遠心分離し、上清を取得した。上清をゲルカラムで精製して、少量の不純物であるオリゴ糖、多糖及び非糖不純物を除去して、純度95%以上の70gのアルギン酸三糖のナトリウム塩を得た。得られたアルギン酸三糖のナトリウム塩を高速液体クロマトグラフィー(HPLC、230nm)で純度を測定し、プロトン核磁気共鳴スペクトル(1H NMR)及び高分解能マススペクトル(HRMS-ESI)で構造を同定した。
【0029】
HPLC:純度100%、RT=17.43分(関連するスペクトルは、
図4を参照する)。
1H NMRスペクトルは、
図5を参照する。
HRMS(ESI)m/z:C
18H
23O
18{(M-H)
-}、計算値は527.0890であり、実測値は527.0891(M-H)
-であった(関連するスペクトルは、
図6を参照する)。
【0030】
アルギン酸三糖のナトリウム塩は、分子中の3つのカルボキシ基がいずれもナトリウム塩である場合は、ナトリウムイオンの理論的な含有量は11.59%であり、実際にイオンクロマトグラフィーで検出したところ、ナトリウムイオンの含有量は9.9%であった。強熱残分法で検出する場合は、ナトリウムイオンが硫酸ナトリウムの形態で存在し、理論的な残分の割合は35.80%のはずであるが、実際に検出したところ、強熱残分は33.01%であった。2つの検出方法の結果がいずれも比較的近いため、化合物のカルボン酸官能基が確かにナトリウム塩の形態であることが示された。ただし、実測値がいずれも理論値よりやや小さかったのは、そのナトリウム塩が弱酸と強塩基の塩であり、少量のカルボン酸が遊離状態のままであるためと考えられる。
【0031】
実施例3:均一な重合度を有するアルギン酸四糖の製造及びその構造の同定
購入した100gのアルギン酸を水に溶解し、所定の温度で、フコイダン分解酵素(中国海洋大学から提供)を加え、所定の時間の分解後に、高速遠心機で遠心分離し、上清を取得した。上清をゲルカラムで精製して、少量の不純物であるオリゴ糖、多糖及び非糖不純物を除去して、純度95%以上の55gのアルギン酸四糖のナトリウム塩を得た。得られたアルギン酸四糖のナトリウム塩を高速液体クロマトグラフィー(HPLC、230nm)で純度を測定し、プロトン核磁気共鳴スペクトル(1H NMR)及び高分解能マススペクトル(HRMS-ESI)で構造を同定した。
【0032】
HPLC:純度99.71%、RT=18.71分(関連するスペクトルは、
図7を参照する)。
1H NMRスペクトルは、
図8を参照する。
HRMS(ESI)m/z:C
24H
31O
24{(M-H)
-}、計算値は703.1211であり、実測値は703.1207(M-H)
-であった(関連するスペクトルは、
図9を参照する)。
【0033】
アルギン酸四糖のナトリウム塩は、分子中の4つのカルボキシ基がいずれもナトリウム塩である場合は、ナトリウムイオンの理論的な含有量は11.59%であり、実際にイオンクロマトグラフィーで検出したところ、ナトリウムイオンの含有量は9.8%であった。強熱残分法で検出する場合は、ナトリウムイオンが硫酸ナトリウムの形態で存在し、理論的な残分の割合は35.80%のはずであるが、実際に検出したところ、強熱残分は32.5%であった。2つの検出方法の結果がいずれも比較的近いため、化合物のカルボン酸官能基が確かにナトリウム塩の形態であることが示された。ただし、実測値がいずれも理論値よりやや小さかったのは、そのナトリウム塩が弱酸と強塩基の塩であり、少量のカルボン酸が遊離状態のままであるためと考えられる。
【0034】
実施例4:虚血再灌流(I/R)によって引き起こされるラットの急性腎障害(acute kidney injury、AKI)に対する均一な重合度を有するアルギン酸オリゴ糖の影響
虚血再灌流によって引き起こされる腎障害は、臨床上、血液灌流の不十分によって引き起こされる急性腎障害をシミュレートする標準的な動物モデルである。本発明者らは、ラット虚血再灌流モデルを利用し、実施例1~3で製造された均一な重合度を有するアルギン酸オリゴ糖及びその混合物をそれぞれ投与し、ブランク群及びモデル非投与群と比較して、各均一な重合度を有するアルギン酸オリゴ糖の治療効果を検討した。
【0035】
1.虚血再灌流によって引き起こされるラットの急性腎障害に対するアルギン酸二糖の影響
Sprague Dawleyラットを選び、中山大学実験動物センターから、体重220~250gの雄ラット30匹を購入し、手術前に24時間の尿量を収集し、測定して異常はなかった。モデリングラットをランダムに偽手術群、モデル群、アルギン酸二糖0.01、0.05、0.1g/kg/日の3つの用量群(1群あたり6匹)に分けた。本発明では、アルギン酸二糖を「AOS2」と略称する。薬物は胃内投与し、モデル群、偽手術群はいずれも等量の生理食塩水を強制経口投与した。手術当日、3%のペントバルビタールナトリウムを腹腔内投与してラットを麻酔した後、皮膚を通常消毒し、腹部を切開して、左右の腎臓を露出させた。偽手術群は腎臓を検査するだけで、次に、切口を層ごとに縫合して、手術を終了した。モデル群及びモデリング投与群は大サイズの動脈クリップで両側の腎臓の腎茎部を挟んで閉じ、次に、腎臓を戻して、ガーゼで切口を覆い、水分補給のために少量の生理食塩水を滴加した。45分間後、両側の動脈クリップを解放し、次に、切口を層ごとに縫合して、手術を終了した。手術後のラットを37℃の温熱パッドの上に置き、ラットが蘇生すると代謝ケージに戻し、この間に、ラットの体重、摂餌量、飲水量及び尿量を測定した。手術後に通常飼育し、24時間後にラットを殺して検体を採取した。血液サンプルの採取では、ラットの下大静脈で血液を採取し、遠心分離後に上層の血清を収集し、次に、南京建成製のクレアチニン測定キットを用いてキット法でラットの血清クレアチニン(Serum creatinine)を測定し、実験結果をt検定で統計学的に処理して、結果を
図10に示す。収集された24時間の尿量結果を
図11に示す。検体を採取する時は両側の腎臓を摘出して、腎臓の皮質と髄質を分離させ、皮質はtrizolの中で保存し、使用する時はtrizol法で皮質中のmRNAを抽出して、AKIバイオマーカー(KIM-1、NGAL)のmRNA発現を検出し、結果を
図12に示す。組織分解液を加えて、超音波法で腎臓をホモジナイズした後に総タンパク質を抽出し、ウェスタン・ブロッティング技術(western blotting)を用いて腎臓の皮質組織中の炎症性因子(p-NFκB/NFκB、pro-IL-1β/IL-1β)を検出し、結果を
図13に示す。
【0036】
図10は、急性虚血再灌流(I/R)障害がラットの血清クレアチニンレベルの有意な上昇を引き起こし、異なる用量のAOS2が血清クレアチニンを異なる程度に低減させることを示し、AOS2は腎保護効果を有することを示唆した。*は、sham(偽手術群)と比べて、p<0.05であることを表し、#は、I/R群(モデル群)と比べて、p<0.05であることを表す。
【0037】
この結果から明らかなように、I/R群のラットは、虚血再灌流手術後に腎臓の濾過機能障害が生じ、血清クレアチニンが有意に上昇した。3つの異なる用量のAOS2で治療した後に血清クレアチニンが有意に低下することから、糸球体の機能がある程度回復していることが示唆された。特に、投与用量が0.1g/kg/日である場合に、血清クレアチニンはほぼ正常なレベルに回復することができたことから、AOS2は急性腎障害に対して有意な治療効果を有し、その治療効果にはある程度の用量依存性があることが示された。
【0038】
図11は、急性虚血再灌流(I/R)障害がラットの尿量の増加を引き起こし、異なる用量のAOS2がラットの尿量を低減させることを示し、AOS2は腎保護効果を有することを示唆した。*は、shamと比べて、p<0.05であることを表し、#は、I/R群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、I/R群のラットは、虚血再灌流手術後に腎臓の尿濃縮機能障害が生じ、尿量が有意に増加した。3つの異なる用量のAOS2を投与して治療した後に尿量が低下していることから、尿細管の再吸収機能がある程度回復していることが示された。
【0039】
図12は、急性虚血再灌流(I/R)障害がラットの腎組織中の急性腎障害(AKI)指標(即ち、尿細管障害指標)であるKim-1及びNGALのmRNAレベルの上昇を引き起こし、用量が0.1g/kg/日のAOS2が2つの指標の発現を明らかに低減させたことを示し、AOS2は腎保護効果を有することを示唆した。*は、shamと比べて、p<0.05であることを表し、#は、I/R群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、I/R群のラットは、虚血再灌流手術後に急性腎障害(AKI)指標であるKIM-1及びNGALの発現が有意に上昇することから、尿細管障害が示唆され、0.1g/kg/日のAOS2が2つの指標を明らかに低減させることができたことから、AOS2は虚血再灌流によって引き起こされる急性腎障害に対して有意な保護効果を有することが示された。
【0040】
図13は、急性虚血再灌流(I/R)障害がラットの腎組織中の炎症指標の有意な増加を引き起こし、異なる用量のAOS2が腎臓の炎症反応を異なる程度に抑えることを示し、AOS2は腎保護効果を有することを示唆した。I/R+AOS2-L用量は0.01g/kg/日であり、I/R+AOS2-M用量は0.05g/kg/日であり、I/R+AOS2-H用量は0.1g/kg/日であった。この結果から明らかなように、I/R群のラットは、虚血再灌流手術後にTLR4、p-NFκB/NFκB、pro-IL-1β/IL-1βなどの腎臓炎症指標が有意に上昇し、AOS2での治療が炎症性因子の生成を減少させ、かつ、ある程度の用量依存性があることから、AOS2の抗炎症効果は有意であることが示された。
【0041】
2.虚血再灌流によって引き起こされるラットの急性腎障害に対するアルギン酸三糖の影響
アルギン酸二糖と同じ実験方法を用いて、虚血再灌流によって引き起こされるラットの急性腎障害に対するアルギン酸三糖の影響を検討した。本発明では、アルギン酸三糖を「AOS3」と略称する。南京建成製のクレアチニン測定キットを用いてキット法でラットの血清クレアチニンを測定し、実験結果をt検定で統計学的に処理して、結果を
図14に示す。収集された24時間の尿量結果を
図15に示す。検体を採取する時は両側の腎臓を摘出して、腎臓の皮質と髄質を分離させ、皮質はtrizolの中で保存し、使用する時はtrizol法で皮質中のmRNAを抽出して、AKIバイオマーカー(KIM-1、NGAL)のmRNA発現を検出し、結果を
図16に示す。組織分解液を加えて、超音波法で腎臓をホモジナイズした後に総タンパク質を抽出し、ウェスタン・ブロッティング技術(western blotting)を用いて腎臓の皮質組織中の炎症性因子(p-NFκB/NFκB、pro-IL-1β/IL-1β)を検出し、結果を
図17に示す。また、最終回の採血後に動物を殺し、腎臓を4%のホルムアルデヒド溶液の中で固定し、通常のパラフィン包埋を行って、切片を作製し、HE染色して、光学顕微鏡下で一般的な腎組織の形態を観察し、結果を
図18に示す。
【0042】
図14は、急性虚血再灌流(I/R)障害がラットの血清クレアチニンレベルの有意な上昇を引き起こし、異なる用量のAOS3が血清クレアチニンを異なる程度に低減させることを示し、AOS3は腎保護効果を有することを示唆した。*は、shamと比べて、p<0.05であることを表し、#は、I/R群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、I/R群のラットは、虚血再灌流手術後に腎臓の濾過機能障害が生じ、血清クレアチニンが有意に上昇した。3つの異なる用量のAOS3で治療した後に血清クレアチニンが有意に低下することから、糸球体の機能がある程度回復していることが示唆された。特に、投与用量が0.1g/kg/日である場合に、血清クレアチニンはほぼ正常なレベルに回復することができ、その治療効果にはある程度の用量依存性がある。
【0043】
図15は、急性虚血再灌流(I/R)障害がラットの尿量の増加を引き起こし、異なる用量のAOS3がラットの尿量を低減させることを示し、AOS3は腎保護効果を有することを示唆した。*は、shamと比べて、p<0.05であることを表し、#は、I/R群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、I/R群のラットは、虚血再灌流手術後に腎臓の尿濃縮機能障害が生じ、尿量が有意に増加した。3つの異なる用量のAOS3で治療した後に尿量がいずれも低下しており、特に、0.1g/kg/日の用量で投与した場合に、ラットの翌日の尿量がほぼ正常に近いレベルに回復したことから、尿細管の機能がある程度回復していることが示唆された。その治療効果にはある程度の用量依存性がある。
【0044】
図16は、急性虚血再灌流(I/R)障害がラットの腎組織中の急性腎障害(AKI)指標(即ち、尿細管障害指標)であるKim-1及びNGALのmRNAレベルの上昇を引き起こし、用量が0.1g/kg/日のAOSが2つの指標の発現を明らかに低減させることを示し、AOS3は腎保護効果を有することを示唆した。*は、shamと比べて、p<0.05であることを表し、#は、I/R群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、I/R群のラットは、虚血再灌流手術後に急性腎障害(AKI)指標であるKIM-1及びNGALの発現が有意に上昇し、0.1g/kg/日のAOS3が2つの指標を明らかに低減させることができたことから、AOS3は虚血再灌流によって引き起こされる急性腎障害に対して有意な保護効果を有することが示された。
【0045】
図17は、急性虚血再灌流(I/R)障害がラットの腎組織中の炎症指標の有意な増加を引き起こし、異なる用量のAOS3が腎臓の炎症反応を異なる程度に抑えることを示し、AOS3は腎保護効果を有することを示唆した。I/R+AOS3-Lは、用量が0.01g/kg/日であることを表し、I/R+AOS3-Mは、用量が0.05g/kg/日であることを表し、I/R+AOS3-Hは、用量が0.1g/kg/日であることを表す。この結果から明らかなように、I/R群のラットは、虚血再灌流手術後にTLR4、p-NFκB/NFκB、pro-IL-1β/IL-1βである腎臓炎症指標が有意に上昇し、異なる用量のAOS3での治療がいずれも炎症性因子の生成を減少させることができ、かつ、ある程度の用量依存性があることから、アルギン酸三糖は明らかな抗炎症効果を有することが示された。
【0046】
図18は、腎組織の病理所見を示す。偽手術群(SHAM)では、糸球体の形態、メサンギウム細胞及び尿細管がほぼ正常であった。I/R群では、糸球体の萎縮及び脱落が起こり、メサンギウム細胞及び基質が減少して空洞ができ、尿細管が幅広く拡張し、内腔が拡大し、大量の上皮細胞が浮腫、壊死及び脱落し、空胞変性が見られた。I/R+AOS3(0.1g/kg/日)群では、糸球体及び尿細管の病変が軽度であった。これらの結果は、I/R群では、糸球体及び尿細管の病変が非常に明らかであるが、同様に虚血再灌流後に、AOS3(0.1g/kg/日)を投与して治療すると、腎障害が非常に軽度であるということを示唆した。AOS3は、虚血再灌流によって引き起こされるラットの腎臓の形態学的変化に対して優れた保護効果を有することが示された。
【0047】
3.虚血再灌流によって引き起こされるラットの急性腎障害に対するアルギン酸四糖及び混合糖の影響
アルギン酸二糖及びアルギン酸三糖と同じ実験方法を用いた。モデリングラットをランダムに偽手術群、モデル群、アルギン酸四糖(0.01、0.05、0.1g/kg/日の3つの用量)群及び混合糖(重合度が2~8の混合アルギン酸オリゴ糖であり、そのマススペクトルは
図40を参照し、中国海洋大学から提供され、0.1g/kg/日の1つの用量であった)群(1群あたり6匹)に分けた。本発明では、アルギン酸四糖を「AOS4」と略称し、混合糖を「AOS(混)」と略称する。南京建成製のクレアチニン測定キットを用いてキット法でラットの血清クレアチニンを測定し、実験結果をt検定で統計学的に処理して、結果を
図19に示す。収集された24時間の尿量結果を
図20に示す。検体を採取する時は両側の腎臓を摘出して、腎臓の皮質と髄質を分離させ、皮質はtrizolの中で保存し、使用する時はtrizol法で皮質中のmRNAを抽出して、AKIバイオマーカー(KIM-1、NGAL)のmRNA発現を検出し、結果を
図21に示す。組織分解液を加えて、超音波法で腎臓をホモジナイズした後に総タンパク質を抽出し、ウェスタン・ブロッティング技術(western blotting)を用いて腎臓の皮質組織中の炎症性因子(p-NFκB/NFκB、pro-IL-1β/IL-1β)を検出し、結果を
図22に示す。
【0048】
図19は、急性虚血再灌流(I/R)障害がラットの血清クレアチニンレベルの有意な上昇を引き起こし、異なる用量のAOS4及び混合糖が血清クレアチニンを異なる程度に低減させることを示し、AOS4は優れた腎保護効果を有する。*は、shamと比べて、p<0.05であることを表し、#は、I/R群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、I/R群のラットは、虚血再灌流手術後に腎臓の濾過機能障害が生じ、血清クレアチニンが有意に上昇した。3つの異なる用量のAOS4及び混合糖(0.1g/kg/日)で治療した後に血清クレアチニンが有意に低下することから、いずれも糸球体の機能がある程度回復していることが示唆された。特に、投与用量が0.1g/kg/日のアルギン酸四糖である場合に、血清クレアチニンは正常に近いレベルに回復することができた。異なる用量のAOS4は、その治療効果にある程度の用量依存性がある。
【0049】
図20は、急性虚血再灌流(I/R)障害がラットの尿量の増加を引き起こし、異なる用量のAOS4及び混合糖がラットの尿量を低減させることを示し、AOS4は優れた腎保護効果を有する。*は、shamと比べて、p<0.05であることを表し、#は、I/R群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、I/R群のラットは、虚血再灌流手術後に腎臓の尿濃縮機能障害が生じ、尿量が有意に増加した。3つの異なる用量のAOS4及び混合糖で治療した後に尿量が低下していることから、尿細管の機能がある程度回復していることが示唆され、特に、AOS4の治療効果は同じ用量の混合糖より有意に良く、治療効果にはある程度の用量依存性がある。
【0050】
図21は、急性虚血再灌流(I/R)障害がラットの腎組織中の急性腎障害(AKI)指標(即ち、尿細管障害指標)であるKim-1及びNGALのmRNAレベルの上昇を引き起こし、用量が0.1g/kg/日のアルギン酸四糖が2つの指標の発現を明らかに低減させることを示し、それは良い腎保護効果を有することを示唆した。*は、shamと比べて、p<0.05であることを表し、#は、I/R群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、I/R群のラットは、虚血再灌流手術後に急性腎障害(AKI)指標であるKIM-1及びNGALの発現が有意に上昇し、0.1g/kg/日のAOS4が2つの指標を明らかに低減させることができたことから、AOS4は、虚血再灌流によって引き起こされる急性腎障害に対して優れた保護効果を有することが示された。
【0051】
図22は、急性虚血再灌流(I/R)障害がラットの腎組織中の炎症指標の有意な増加を引き起こし、異なる用量のAOS4が腎臓の炎症反応を異なる程度に抑えることができることを示し、AOS4は腎保護効果を有することを示唆した。I/R+AOS4-Lは、用量が0.01g/kg/日であることを表し、I/R+AOS4-Mは、用量が0.05g/kg/日であることを表し、I/R+AOS4-Hは、用量が0.1g/kg/日であることを表し、I/R+AOS(混)-Hは、用量が0.1g/kg/日であることを表す。この結果から明らかなように、I/R群のラットは、虚血再灌流手術後にTLR4、p-NFκB/NFκB、pro-IL-1β/IL-1βなどの腎臓炎症指標が有意に上昇し、AOS4での治療が炎症性因子の生成を明らかに減少させることができ、かつ、ある程度の用量依存性があることから、AOS4は抗炎症効果を有することが示された。
【0052】
実験結論:
虚血再灌流によって引き起こされる腎障害は、臨床上、血液灌流の不十分によって引き起こされる急性腎障害をシミュレートする標準的な動物モデルである。アルギン酸二糖、三糖、四糖を異なる用量(0.01、0.05、0.1g/kg/日)で投与して治療した後、ラットの血清クレアチニンレベルが有意に低下し、そのうち、0.1g/kg/日の用量の場合に血清クレアチニンレベルはいずれもほぼ正常な値に回復することができた。投与治療後、腎臓の尿濃縮機能の回復が明らかに良くなり、尿量が減少し、そのうち、0.1g/kg/日の用量群は、腎障害マーカー(KIM-1、NGAL)レベルが明らかに低減し、炎症性因子の発現が有意に低下し、腎臓の病理学的変化が有意に改善され、かつ、用量の増加に伴って、治療効果が強化される。これらから分かるように、血清クレアチニン、尿量、炎症性因子などの異なる指標の測定結果は、いずれも、アルギン酸二糖、三糖、四糖は、いずれも虚血再灌流によって引き起こされるラットの急性腎障害に対して優れた保護効果を有し、且つ、重合度が2~8の混合アルギン酸オリゴ糖よりも、均一な重合度を有するアルギン酸二糖、三糖及び四糖の治療効果が有意に良いということを示した。
【0053】
実施例5:内毒素リポ多糖(LPS)によって引き起こされるマウスの急性腎障害に対する均一な重合度を有するアルギン酸オリゴ糖の影響
内毒素リポ多糖処理によって引き起こされる腎障害は、臨床上、感染によって引き起こされる急性腎障害をシミュレートする標準的な動物モデルである。当方は、マウスの内毒素リポ多糖モデルを利用し、それぞれ異なる均一な重合度を有するアルギン酸オリゴ糖及びその混合物を投与し、ブランク群及びモデル非投与群と比較して、各均一な重合度を有するアルギン酸オリゴ糖の治療効果を検討した。
【0054】
1.LPSによって引き起こされるマウスの急性腎障害に対するアルギン酸二糖(AOS2)の影響
22~28gの雄のC57/B16マウスを24匹選び、手術前に24時間の尿量を収集し、測定して異常はなかった。モデリングマウスを1群あたり6匹で、ランダムに対照群、モデル群、モデル+投与群(AOS2 0.1g/kg/日)及びモデル+陽性対照群(酢酸デキサメタゾン0.1g/kg/日)に分けた。サンプルは胃内投与し、モデル群、対照群はいずれも等量の生理食塩水を強制経口投与し、デキサメタゾンは腹腔内注射で投与した。LPSでモデリングすることで敗血症型急性腎障害の発生を誘発し、モデリングする時は、各モデル群はLPS 15mg/kgを腹腔内注射し、対照群は等量の生理食塩水を腹腔内注射した。モデリング後に直ちにマウスをマウス代謝ケージに戻して観察した。この間に、マウスの体重、摂餌量、飲水量及び尿量を測定した。24時間後にマウスを殺して検体を採取し、尿液を収集し、血液サンプルの採取では、マウスの下大静脈で血液を採取し、遠心分離後に上層の血清を収集し、次に、南京建成製のクレアチニン測定キットを用いてキット法でマウスの血清クレアチニンを測定し、実験結果をt検定で統計学的に処理して、結果を
図23に示す。検体を採取する時は両側の腎臓を摘出して、腎臓の皮質と髄質を分離させ、皮質はtrizolの中で保存し、使用する時はtrizol法で皮質中のmRNAを抽出して、Qpcr法を用いてAKIバイオマーカー(KIM-1、NGALであり、結果を
図24に示す)及び炎症性因子(IL-1β、IL-18、TNF-α、MCP-1であり、結果を
図25に示す)のmRNA発現を測定した。組織分解液を加えて、超音波法で腎臓をホモジナイズした後に総タンパク質を抽出し、ウェスタン・ブロッティング技術(western blotting)を用いて腎臓の皮質組織中の炎症性因子(p-NFκB/NFκB、pro-IL-1β/IL-1β)を検出し、結果を
図26に示す。
【0055】
図23は、LPS処理がマウスの血清クレアチニンレベルの有意な上昇を引き起こし、AOS2が血清クレアチニンを明らかに低減させ、デキサメタゾンと同等な血清クレアチニン低減効果を有することを示し、アルギン酸二糖は腎保護効果を有することを示唆した。Dexは、デキサメタゾンであり、*は、CTL(対照群)と比べて、p<0.05であることを表し、#は、LPS群(モデル群)と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、対照群と比べて、マウスにLPSを腹腔内注射した後に血清クレアチニンが有意に上昇し、AOS2投与群ではマウスの血清クレアチニンが明らかに低下し、ほぼ正常なレベルに回復することができたことから、アルギン酸二糖は、LPSによって引き起こされるマウスの腎臓機能低下に対して有意な保護効果を有することが示された。
【0056】
図24は、LPS処理がマウスの腎組織中の急性腎障害(AKI)指標(即ち、尿細管障害指標)であるKim-1及びNGALのmRNAレベルの上昇を引き起こすことを示し、アルギン酸二糖は腎臓保護効果を有することを示唆した。*は、CTLと比べて、p<0.05であることを表し、#は、LPS群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、マウスにLPSを腹腔内注射した後にAKI指標(KIM-1、NGAL)が有意に上昇し、AOS2で治療した後、KIM-1及びNGALの生成が有意に減少することから、AOS2は、LPSによって引き起こされるマウスの腎障害に対して明らかな保護効果を有することが示された。
【0057】
図25は、LPS処理がマウスの腎組織中の炎症指標の有意な増加を引き起こし、AOS2が腎臓の炎症反応を比較的明らかに抑えることを示し、アルギン酸二糖は腎臓保護効果を有することを示唆した。*は、CTLと比べて、p<0.05であることを表し、#は、LPS群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、マウスにLPSを腹腔内注射した後に炎症性因子(IL-1β、IL-18、TNF-α、MCP-1)遺伝子の発現が有意に上昇し、AOS2での治療が炎症性因子の生成を明らかに低減させることから、アルギン酸二糖は、LPSによって引き起こされるマウスの急性腎障害に対して良好な保護効果を有することが示唆された。
【0058】
図26は、LPS処理がマウスの腎組織中の炎症指標の有意な増加を引き起こし、AOS2が腎臓の炎症反応を明らかに抑え、効果は陽性対照のデキサメタゾンに近いことを示し、AOS2は腎臓保護効果を有することを示唆した。*は、CTLと比べて、p<0.05であることを表し、#は、LPS群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、LPSで処理した後、TLR4、p-NFκB/NFκB、pro-IL-1β/IL-1βタンパク質の発現などのマウスの腎臓炎症指標が有意に上昇し、AOS2での治療が炎症性因子の生成を有意に減少させており、その効果はデキサメタゾンの作用に近いことから、AOS2は明らかな抗炎症効果を有することが示された。
【0059】
2.LPSによって引き起こされるマウスの急性腎障害に対するアルギン酸三糖(AOS3)の影響
アルギン酸二糖と同じ実験方法を用いた。南京建成製のクレアチニン測定キットを用いてキット法でマウスの血清クレアチニンを測定し、実験結果をt検定で統計学的に処理して、結果を
図27に示す。検体を採取する時は両側の腎臓を摘出して、腎臓の皮質と髄質を分離させ、皮質はtrizolの中で保存し、使用する時はtrizol法で皮質中のmRNAを抽出して、Qpcr法を用いてAKIバイオマーカー(KIM-1、NGALであり、結果を
図28に示す)及び炎症性因子(IL-1β、IL-18、TNF-α、MCP-1であり、結果を
図29に示す)のmRNA発現を測定した。組織分解液を加えて、超音波法で腎臓をホモジナイズした後に総タンパク質を抽出し、ウェスタン・ブロッティング技術を用いて腎臓の皮質組織中の炎症性因子(p-NFκB/NFκB、pro-IL-1β/IL-1β)を検出し、結果を
図30に示す。また、最終回の採血後に動物を殺し、腎臓を4%のホルムアルデヒド溶液の中で固定し、通常のパラフィン包埋を行って、切片を作製し、HE染色して、光学顕微鏡下で一般的な腎組織の形態を観察し、結果を
図31に示す。
【0060】
図27は、LPS処理がマウスの血清クレアチニンレベルの有意な上昇を引き起こし、AOS3が血清クレアチニンを明らかに低減させ、デキサメタゾンと同等な血清クレアチニン低減効果を有することを示し、アルギン酸三糖は腎保護効果を有することを示唆した。Dexは、デキサメタゾンであり、*は、CTLと比べて、p<0.05であることを表し、#は、LPS群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、対照群と比べて、マウスにLPSを腹腔内注射した後に血清クレアチニンが有意に上昇し、AOS3投与群ではマウスの血清クレアチニンが明らかに低下し、ほぼ正常なレベルに回復することができたことから、アルギン酸三糖は、LPSによって引き起こされるマウスの腎臓機能低下に対して有意な保護効果を有することが示唆された。
【0061】
図28は、LPS処理がマウスの腎組織中の急性腎障害(AKI)指標(即ち、尿細管障害指標)であるKim-1及びNGALのmRNAレベルの上昇を引き起こすことを示し、アルギン酸三糖は腎臓保護効果を有することを示唆した。*は、CTLと比べて、p<0.05であることを表し、#は、LPS群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、マウスにLPSを腹腔内注射した後にAKI指標(KIM-1、NGAL)が有意に上昇し、AOS3で治療した後、KIM-1及びNGALの生成が有意に減少することから、AOS3は、LPSによって引き起こされるマウスの腎障害に対して保護効果を有することが示唆された。
【0062】
図29は、LPS処理がマウスの腎組織中の炎症指標の有意な増加を引き起こし、AOS3が腎臓の炎症反応を比較的明らかに抑えることを示し、アルギン酸三糖は腎臓保護効果を有することを示唆した。*は、CTLと比べて、p<0.05であることを表し、#は、LPS群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、マウスにLPSを腹腔内注射した後に炎症性因子(IL-1β、IL-18、TNF-α、MCP-1)遺伝子の発現が有意に上昇し、AOS3での治療が炎症性因子の生成を明らかに低減させることから、アルギン酸三糖は、LPSによって引き起こされるマウスの急性腎障害に対して良好な保護効果を有することが証明された。
【0063】
図30は、LPS処理がマウスの腎組織中の炎症指標の有意な増加を引き起こし、AOS3が腎臓の炎症反応を明らかに抑え、効果は陽性対照のデキサメタゾンに非常に近いことを示し、AOS3は良い腎臓保護効果を有することを示唆した。*は、CTLと比べて、p<0.05であることを表し、#は、LPS群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、LPSで処理した後、TLR4、p-NFκB/NFκB、pro-IL-1β/IL-1βタンパク質の発現などのマウスの腎臓炎症指標が有意に上昇し、AOS3での治療が炎症性因子の生成を有意に減少させ、その効果はデキサメタゾンの作用に非常に近いことから、AOS3は良い抗炎症効果を有することが示された。
【0064】
図31は、腎組織の病理所見を示す。対照群では、糸球体の形態、メサンギウム細胞及び尿細管がほぼ正常であった。LPS群では、糸球体の体積が大きくなり、腎間質で炎症細胞の浸潤が見られ、尿細管が幅広く拡張し、上皮細胞の浮腫、壊死及び脱落が生じ、空胞変性が見られた。LPS+AOS3群では、糸球体及び尿細管の病変が比較的軽度であった。これらの結果は、AOS3は、内毒素リポ多糖処理が誘発させるマウスの腎臓の形態学的変化に対して有意な保護効果を有することを示した。
【0065】
3.LPSによって引き起こされるマウスの急性腎障害に対するアルギン酸四糖(AOS4)及び混合糖の影響
アルギン酸二糖及びアルギン酸三糖と同じ実験方法を用いた。モデリングマウスを1群あたり6匹で、ランダムに対照群、モデル群、モデル+投与群1(AOS4 0.1g/kg/日)、モデル+投与群2(重合度が2~8の混合アルギン酸オリゴ糖であり、そのマススペクトルは
図40を参照し、中国海洋大学から提供され、0.1g/kg/日であった)及びモデル+陽性対照群(酢酸デキサメタゾン0.1g/kg/日)に分け、サンプルは胃内投与し、モデル群、対照群はいずれも等量の生理食塩水を強制経口投与し、デキサメタゾンは腹腔内注射で投与した。南京建成製のクレアチニン測定キットを用いてキット法でマウスの血清クレアチニンを測定し、実験結果をt検定で統計学的に処理して、結果を
図32に示す。検体を採取する時は両側の腎臓を摘出して、腎臓の皮質と髄質を分離させ、皮質はtrizolの中で保存し、使用する時はtrizol法で皮質中のmRNAを抽出して、Qpcr法を用いてAKIバイオマーカー(KIM-1、NGALであり、結果を
図33に示す)及び炎症性因子(IL-1β、IL-18、TNF-α、MCP-1であり、結果を
図34に示す)のmRNA発現を測定した。組織分解液を加えて、超音波法で腎臓をホモジナイズした後に総タンパク質を抽出し、ウェスタン・ブロッティング技術を用いて腎臓の皮質組織中の炎症性因子(p-NFκB/NFκB、pro-IL-1β/IL-1β)を検出し、結果を
図35に示す。
【0066】
図32は、LPS処理がマウスの血清クレアチニンレベルの有意な上昇を引き起こし、混合糖は血清クレアチニンの低減にある程度の効果があるが、AOS4は、血清クレアチニンを明らかに低減させ、デキサメタゾンの血清クレアチニン低減効果に近いことを示し、アルギン酸オリゴ糖は腎保護効果を有することを示唆した。Dexは、デキサメタゾンであり、*は、CTLと比べて、p<0.05であることを表し、#は、LPS群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、対照群と比べて、マウスにLPSを腹腔内注射した後に血清クレアチニンが有意に上昇し、AOS4及びデキサメタゾン群ではマウスの血清クレアチニンが明らかに低下し、ほぼ正常なレベルに回復することができたことから、アルギン酸四糖は、LPSによって引き起こされるマウスの腎臓機能低下に対して有意な保護効果を有し、その効果はデキサメタゾンに近いことが示された。
【0067】
図33は、LPS処理がマウスの腎組織中の急性腎障害(AKI)指標(即ち、尿細管障害指標)であるKim-1及びNGALのmRNAレベルの上昇を引き起こし、アルギン酸四糖及び混合糖(用量0.1g/kg/日)を投与した後、2つの指標がいずれも低減しており、特に、アルギン酸四糖の場合に、2つの指標をいずれも明らかに低減させることを示し、アルギン酸四糖は良い腎臓保護効果を有することを示唆した。*は、CTLと比べて、p<0.05であることを表し、#は、LPS群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、マウスにLPSを腹腔内注射した後にAKI指標(KIM-1、NGAL)が有意に上昇し、AOS4を投与して治療した後、KIM-1及びNGALの生成が有意に減少することから、アルギン酸四糖は、LPSによって引き起こされるマウスの腎障害に対して保護効果を有することが示唆された。
【0068】
図34は、LPS処理がマウスの腎組織中の炎症指標の有意な増加を引き起こし、AOS4及び混合糖が腎臓の炎症反応を比較的明らかに抑え、そのうち、アルギン酸四糖は良い腎臓保護効果を有することを示す。*は、CTLと比べて、p<0.05であることを表し、#は、LPS群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、マウスにLPSを腹腔内注射した後に炎症性因子(IL-1β、IL-18、TNF-α、MCP-1)遺伝子の発現が有意に上昇し、AOS4及び混合糖での治療が炎症性因子の生成を明らかに低減させることができ、そのうち、AOS4は、LPSによって引き起こされるマウスの急性腎障害に対して良好な保護効果を有する。
【0069】
図35は、LPS処理がマウスの腎組織中の炎症指標の有意な増加を引き起こし、AOS4及び混合糖が腎臓の炎症反応を明らかに抑え、効果は陽性対照のデキサメタゾンに近いことを示し、AOS4は良い腎臓保護効果を有することを示唆した。*は、CTLと比べて、p<0.05であることを表し、#は、LPS群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、LPSで処理した後、TLR4、p-NFκB/NFκB、pro-IL-1β/IL-1βタンパク質の発現などのマウスの腎臓炎症指標が有意に上昇し、アルギン酸四糖及び混合糖での治療が炎症性因子の生成を有意に減少させ、その効果はデキサメタゾンの作用にほぼ一致することから、それは非常に効果的な抗炎症効果を有することが示された。
【0070】
実験結論:
内毒素リポ多糖(LPS)処理によって引き起こされる腎障害は、臨床上、感染によって引き起こされる急性腎障害をシミュレートする標準的な動物モデルである。LPSで処理したモデル群では、マウスの血清クレアチニンレベルが有意に上昇し、アルギン酸二糖、三糖、四糖0.1g/kg/日でマウスを治療した後、血清クレアチニンレベルが有意に低下し、腎障害マーカー(KIM-1、NGAL)レベル及び炎症性因子の発現が有意に低下し、腎臓の病理学的変化が有意に改善された。重合度が2~8の混合糖のほうが、それらの指標をいずれも異なる程度に改善しているが、アルギン酸二糖、三糖、四糖とはある程度の差があった。これらの結果は、均一な重合度を有するアルギン酸オリゴ糖は、内毒素リポ多糖によって引き起こされる急性腎障害に対して優れた保護効果を有するということを明らかにした。
【0071】
実施例6:シスプラチン(Cisplatin)によって引き起こされるマウスの急性腎障害に対する均一な重合度を有するアルギン酸オリゴ糖の影響
シスプラチン処理によって引き起こされる腎障害は、臨床上、薬物の直接的な腎毒性による急性腎障害をシミュレートする標準的な動物モデルである。当方は、マウスシスプラチンモデルを利用し、それぞれ異なる均一な重合度を有するアルギン酸オリゴ糖及びその混合物を投与し、ブランク群及びモデル非投与群と比較して、各均一な重合度を有するアルギン酸オリゴ糖の治療効果を検討した。
【0072】
1.シスプラチンによって引き起こされるマウスの急性腎障害に対するアルギン酸三糖(AOS3)の影響
22~28gの雄のC57BL/J6マウスを30匹選び、手術前に24時間の尿量を収集し、測定して異常はなかった。モデリングマウスを1群あたり6匹で、ランダムに対照群、モデル群、モデル+投与低用量群(AOS3 0.05g/kg/日)、モデル+投与中用量群(AOS3 0.1g/kg/日)及びモデル+投与高用量群(AOS3 0.2g/kg/日)に分け、アルギン酸三糖は胃内投与し、モデル群、対照群はいずれも等量の生理食塩水を強制経口投与した。シスプラチンを用いてモデリングすることで薬物毒性型急性腎障害の発生を誘発し、モデリングする時は、各モデル群はシスプラチン 20mg/kgを腹腔内注射し、対照群は等量の生理食塩水を腹腔内注射した。モデリング後に直ちにマウスをマウス代謝ケージに戻して観察した。この間に、マウスの体重、摂餌量、飲水量及び尿量を測定した(結果を
図37に示す)。72時間後にマウスを殺して検体を採取し、尿液を収集し、血液サンプルの採取では、マウスの下大静脈で血液を採取し、遠心分離後に上層の血清を収集し、次に、南京建成製のクレアチニン測定キットを用いてキット法でマウスの血清クレアチニンを測定し、実験結果をt検定で統計学的に処理して、結果を
図36に示す。検体を採取する時は両側の腎臓を摘出して、腎臓の皮質と髄質を分離させ、皮質はtrizolの中で保存し、使用する時はtrizol法で皮質中のmRNAを抽出して、Qpcr法を用いてAKIバイオマーカー(KIM-1、NGALであり、結果を
図38に示す)のmRNA発現を測定した。組織分解液を加えて、超音波法で腎臓をホモジナイズした後に総タンパク質を抽出し、ウェスタン・ブロッティング技術(western blotting)を用いて腎臓の皮質組織中の炎症性因子(p-NFκB/NFκB、IL-1β)を検出し、結果を
図39に示す。
【0073】
図36は、シスプラチン処理がマウスの血清クレアチニンレベルの有意な上昇を引き起こし、AOS3が血清クレアチニンを明らかに低減させることを示し、アルギン酸三糖は腎保護効果を有することを示唆した。*は、CTL(対照群)と比べて、p<0.05であることを表し、#は、Cis群(モデル群)と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、対照群と比べて、マウスにシスプラチンを腹腔内注射した後に血清クレアチニンが有意に上昇し、AOS3投与群ではマウスの血清クレアチニンが明らかに低下し、ほぼ正常なレベルに回復することができたことから、アルギン酸三糖は、シスプラチンによって引き起こされるマウスの腎臓機能低下に対して有意な保護効果を有することが示された。
【0074】
図37は、シスプラチンは、マウスの24時間の尿量が増加し、その後の72時間で減少して乏尿期に入ることを引き起こし、異なる濃度のAOS3を投与した後に24時間でマウスの尿量を低減させて腎臓の機能を回復させ、その後、尿量が徐々に正常に転じることを示し、アルギン酸三糖は腎保護効果を有することを示唆した。*は、CTLと比べて、p<0.05であることを表し、#は、モデル群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、モデル群ではマウスにシスプラチンを注射した後に腎臓の尿濃縮機能障害が生じ、尿量が有意に増加し、その後、乏尿期に入った。3つの異なる用量のAOS3で治療した後に尿量が低下していて、その後、正常に転じることから、尿細管の機能がある程度回復していることが示唆された。ある程度の用量依存性がある。
【0075】
図38は、シスプラチン処理がマウスの腎組織中の急性腎障害(AKI)指標(即ち、尿細管障害指標)であるKim-1及びNGALのmRNAレベルの上昇を引き起こすことを示し、アルギン酸三糖は腎臓保護効果を有することを示唆した。*は、CTLと比べて、p<0.05であることを表し、#は、モデル群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、マウスにシスプラチンを腹腔内注射した後にAKI指標(KIM-1、NGAL)が有意に上昇し、AOS3で治療した後、KIM-1及びNGALの生成が有意に減少することから、AOS3は、シスプラチンによって引き起こされるマウスの腎障害に対して明らかな保護効果を有することが示された。
【0076】
図39は、シスプラチン処理がマウスの腎組織中の炎症指標の有意な増加を引き起こし、AOS3が腎臓の炎症反応を明らかに抑えることを示し、AOS3は腎臓保護効果を有することを示唆した。*は、CTLと比べて、p<0.05であることを表し、#は、モデル群と比べて、p<0.05であることを表す。この結果から明らかなように、シスプラチンで処理した後、TLR4、p-NFκB/NFκB、IL-1βタンパク質の発現などのマウスの腎臓炎症指標が有意に上昇し、AOS3での治療が炎症性因子の生成を有意に減少させたことから、AOS3は明らかな抗炎症効果を有することが示された。
【0077】
同様に、アルギン酸二糖及びアルギン酸四糖のほうも、シスプラチンによって引き起こされるマウスの急性腎障害に対してアルギン酸三糖に似ている効果があるということが更なる試験で判明された。
【0078】
実験結論:
シスプラチンで処理されるモデル群ではマウスの血清クレアチニンレベルが有意に上昇し、アルギン酸二糖、三糖、四糖0.1g/kg/日でマウスを治療した後、血清クレアチニンレベルが有意に低下し、腎障害マーカー(KIM-1、NGAL)レベル及び炎症性因子の発現が有意に低下し、治療効果には用量依存性がある。これらの結果は、アルギン酸二糖、三糖、四糖は、シスプラチンによって引き起こされる急性腎障害に対して優れた保護効果を有するということを明らかにした。
【0079】
最後に明言すべきことではあるが、上述したのが本発明のいくつかの好ましい実施例に過ぎず、本発明の保護範囲に対する限定と理解することはできず、当業者が本発明の上記の内容に基づいて趣旨に触れないいくつかの改良及び調整を行った場合は、そのいずれも本発明の保護範囲に属する。
【国際調査報告】