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特表2024-517499ユニバーサル負荷方向伝達用静電吸着クラッチ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-22
(54)【発明の名称】ユニバーサル負荷方向伝達用静電吸着クラッチ
(51)【国際特許分類】
   H02N 13/00 20060101AFI20240415BHJP
【FI】
H02N13/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571113
(86)(22)【出願日】2022-05-16
(85)【翻訳文提出日】2024-01-04
(86)【国際出願番号】 US2022029495
(87)【国際公開番号】W WO2022241326
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】63/188,874
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523429771
【氏名又は名称】エスタット アクチュエーション,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ESTAT ACTUATION,INC.
【住所又は居所原語表記】91 43rd Street,Pittsburgh,PA 15201 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウィッテ,カービー エイ.
(72)【発明者】
【氏名】ディラー,スチュアート ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ワトキンス,ジョン ディー.
(72)【発明者】
【氏名】マジディ,カーメル
(72)【発明者】
【氏名】ゼカニー,ブロック
(57)【要約】
【解決手段】 静電吸着クラッチは、2つのコンポーネントについて電気的に制御可能な迅速な接続を確立し、その接続を介して複雑な荷重を伝達することができる。その迅速な接続は、誘電体部材によって仕切られた少なくとも2つの電極で構成され、一方の電極は可撓性を有する。誘電体部材は、1又は複数の電極を被覆してよく、その他の方法で取り付けられてよく、或いは、対向する電極の間に配置されてよい。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直荷重、剪断荷重、又はねじり荷重を伝達するための静電吸着クラッチにおいて、
導電性表面を有している第1の電極であって、前記第1の電極の表面の少なくとも一部は可撓性である、第1の電極と、
導電性表面を有する第2の電極と、
前記第1の電極の導電性表面と前記第2の電極の導電性表面とを仕切る誘電体部材と、
前記第1の電極と前記第2の電極とに電圧差を印加する制御装置と、
を備える、静電吸着クラッチ。
【請求項2】
前記第1の電極に取り付けられた剛性要素であって、前記第1の電極の導電性表面に対して実質的に垂直な方向に力を伝達することができる剛性要素を更に備える、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項3】
前記第1の電極と前記剛性要素との間に配置された低剛性部材を更に含む、請求項2に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項4】
前記第1の電極の周辺付近における前記第1の電極の部分は、前記剛性要素に取り付けられていない、請求項2に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項5】
前記第1の電極の周辺付近における前記第1の電極の部分は、前記第1の電極の中央部分よりも低い曲げ剛性を有する、請求項2に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項6】
前記導電性表面を有する少なくとも1つの追加電極を更に備えており、前記少なくとも1つの追加電極は、前記第1の電極とは独立して前記第2の電極と係合する又は前記第2の電極から切り離される、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項7】
前記第1の電極が第1の物体に取り付けられ、前記第2の電極が第2の物体に取り付けられることで、前記第1の物体が前記第2の物体に機械的に結合してトルク、剪断力、又は垂直力を伝達することを可能にする、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項8】
前記低剛性部材は、前記第2の電極の表面形状に合うように変形する、請求項3に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項9】
前記第1の電極に関連する第1のコネクタと、
前記第2の電極に関連する第2のコネクタであって、前記第1のコネクタと前記第2のコネクタとは、前記第1の電極の周辺の脱離を防止するように機械的に係合するように構成されている、第2のコネクタと、
を更に備える、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項10】
前記第2の電極の導電性表面の少なくとも一部は可撓性を有する、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項11】
前記第2の電極は、円柱状、立方体状、角柱状、球状、及び非平面状からなる群から選択される形状を有しており、
前記第1の電極は前記第2の電極の形状に適合する、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項12】
導電性表面を有する少なくとも1つの追加電極と、
前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記少なくとも1つの追加電極を裏打ちする基材と、
を更に備えており、
前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記少なくとも1つの追加電極は、互いに隣接して配置され、物体の導電性表面に係合可能である、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項13】
前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記少なくとも1つの追加電極の各々に取り付けられた伸縮可能フィンガーを備えており、
解除状態にある場合に、前記第1の電極、前記第2の電極、前記少なくとも1つの追加電極、及び前記基材の間の相対変位を可能にする静電吸着クラッチを使用して、前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記少なくとも1つの追加電極は、前記伸縮可能フィンガーを介して前記基材に選択的に接続される、請求項12に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項14】
前記第1の電極と前記第2の電極は、並列に、螺旋状に、市松状に、相互接続フィンガー状に、同心円状に、又は交互パターンでクラッチ板に配置されている、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項15】
前記第1の電極の面積は前記第2の電極の面積と実質的に等しい、請求項14に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項16】
前記第1の電極の導電性表面の少なくとも一部を覆う絶縁体部材を備える、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項17】
前記第1の電極又は前記第2の電極に関連するセンサを更に備える、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項18】
前記センサは、第2のクラッチ板に対する第1のクラッチ板の距離、近接度、垂直アライメント、又は平行アライメントを検出する、請求項17に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項19】
前記第1の電極は、解除状態では非平面であり、係合状態では変形し、前記係合状態から前記解除状態に移行する場合に、前記第1の電極が前記第2の電極から解放されることが可能である、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項20】
解放機構を更に備えており、前記解放機構は、前記第2の電極からの前記第1の電極の解放を開始するために係合状態から解除状態へ移行する場合に前記第1の電極を引き付ける追加の電極を備えている、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項21】
係合状態で生じた真空を解放するために前記第1の電極に関連付けられた第1のチャッキバルブを備える、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項22】
前記第1の電極が前記第2の電極の凹部に嵌まる、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項23】
前記第1の電極と前記第2の電極とを裏打ちして前記クラッチ板を形成する基材と、
前記基材に接続されたハンドルと、
を更に備える、請求項14に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項24】
前記第1の電極は、ばね付きピン、軟質又は可撓性の電気ブラシ、或いは、同様の電気コネクタを使用して、前記第2の電極への接触ベースの電気的接続を設定可能とする切り抜き部を更に備える、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項25】
前記第1の電極は、前記第1の電極の導電性表面に対して実質的に垂直な荷重を伝達可能な剛性コネクタに取り付けられている、請求項24に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項26】
前記第1の電極に関連する第1の磁石と、前記第2の電極に関連する第2の磁石とを備えるアライメント機構を更に備えており、
前記第1の磁石及び前記第2の磁石は、前記第1の電極及び前記第2の電極の面内又は面外のアライメントを促進する引力又は斥力をもたらす、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項27】
前記第1の電極の選択された部分が前記剛性要素に取り付けられる、請求項2に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項28】
前記第1の電極は前記基材に着脱し、着脱自在な一時的ハンドルとして機能する、請求項23に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項29】
前記第1の電極の形状は能動素子を用いて変形して、前記第2の電極との係合又は解除を補助する、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項30】
前記制御装置は、前記第1の電極と前記第2の電極の静電容量を測定して、前記第1の電極と前記第2の電極の近接度、重なり面積、又は前記誘電体部材の厚さを決定するための静電容量測定回路を備える、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項31】
導電性表面を有する少なくとも1つの追加電極であって、
前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記少なくとも1つの追加電極は互いに電気的に絶縁されており、
前記誘電体部材は、前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記少なくとも1つの追加電極の誘電体表面を仕切る、
少なくとも1つの追加電極と、
前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記少なくとも1つの追加電極の少なくとも1つに接続された制御可能な電圧源と、
を更に備える、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項32】
前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記少なくとも1つの追加電極のうちの少なくとも1つは、前記電圧源に直接電気的に接続されていない、請求項31に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項33】
前記電圧源に接続された2つの電極間に電圧差が印加されて、接続されていない電極における電圧は中間電圧である、請求項32に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項34】
前記第1の電極と前記少なくとも1つの追加電極との間の重なり面積は、前記第2の電極と前記少なくとも1つの追加電極との間の重なり面積と実質的に等しい、請求項33に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項35】
2つの電極のみが前記電圧源に電気的に直接接続されている、請求項31に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項36】
前記電圧源に電気的に接続された前記2つの電極間に電圧差が印加され、残りの電極は中間電圧となる、請求項35に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項37】
前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記少なくとも1つの追加の電極は、単一の電源に並列に接続された複数の組で配置される、請求項31に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項38】
前記電圧源に電気的に直接接続されていない電極は、前記電圧源に対して並進又は回転する、請求項32に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項39】
前記電圧源は、前記電圧源に電気的に直接接続される電極に関連するハウジングに組み込まれる、請求項38に記載の静電吸着クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
該当なし。
【0002】
<連邦政府資金による研究開発の記載>
該当なし。
【0003】
本発明は概して静電吸着クラッチに関しており、より具体的には、垂直荷重、剪断荷重、及びねじり荷重の任意の組合せを伝達するために、対向プレート、複数のプレート、又は導電性表面に迅速且つ電気的に制御可能に係合する少なくとも1つのプレートを有する静電吸着クラッチに関する。
【背景技術】
【0004】
表面を接続又は分離するための、又はデバイスを開閉するための既存の方法は、実用的な設計上の制約によって制限される。従来の機械式ラッチは、ドアに見られるような機構を必要としており、そのような機構は大きく、重く、表面から突出しており、故障又は破損しやすい。吸引を用いた装置は、低圧環境では良好に機能せず、作動用の機械的機構、又は、圧縮機若しくはその他の真空源を有する大きなバルブの何れかを必要とする。吸引を用いた装置はまた、孔の開いた基材に接続するのに苦労する。電磁石は、大きな力を発生させることができるが、典型的には、鉄材料と相互作用するときにのみ機能し、また、電磁石は、重量と電力消費が大きく、動作中にかなり発熱する可能性がある。
【0005】
静電吸着クラッチは、静電気を利用して吸着力を発生させるものであり、誘電体部材によって仕切られた導電性クラッチ板を使用する。対向しているクラッチ板にわたって電圧を印加すると、プレートが電極として機能して、静電荷が発生して引き合う状態になり、それらプレートが密着する。プレートを互いに密着させれば、一方のプレートから他方のプレートへと力を伝達することができる。静電吸着クラッチは、回転式、積層型回転式、直線式など、様々な形状で作られ得る。既存の静電吸着クラッチは、剪断力を伝達する能力を発揮する一方で、垂直荷重を伝達する際に脱離しやすく、モーメント荷重に抵抗するのに苦労する。さらに、平行面間で垂直力を選択的に伝達するように設計された静電吸着クラッチは、通常、平面櫛形電極設計に依存してきた。これらの櫛は、製造が困難で高価であり、起動するために1,000ボルトを超える高電圧を必要とすることが多く、単位面積あたりのオン状態の力の伝達が所望よりも低下して、デバイスの有用性が制限されることがある。現在の静電吸着クラッチの中には、複雑で、大きく、及び/又は故障しやすい電気接続を必要とするものがある。したがって、これらの制限を克服して、剪断力だけでなく垂直力及びモーメントも含むより複雑な荷重の伝達を可能にするような、より単純な低電圧静電吸着クラッチを開発することが有益であろう。このようなクラッチは、2つの構成要素間の接続を迅速に確立、解放するために使用することができ、多くの分野にわたって適用できるであろう。
【発明の概要】
【0006】
本明細書に開示されるのは、静電吸着クラッチであって、2つの構成要素における電気的に制御可能な迅速な接続を確立するものであり、その接続を介して複雑な負荷を伝達することができる。迅速な接続は、誘電体部材によって仕切られた少なくとも2つの電極を備えている。誘電体部材は、一方又は両方の電極にコーティング又は付着されてよい。誘電体部材はまた、何れの電極にも取り付けられることなく、それら電極の間に配置されてよい。誘電体層は、ポリマー又はセラミックベースであってよく、接続ハードウェア又は接着剤で電極に取り付けられてよく、或いは、陽極酸化、スパッタリング、化学蒸着、溶媒キャスティング、印刷、ロールツーロールコーティング、UV硬化やその他の公知の方法を介して付されてよい。誘電体は、2つの電極が互いに接触することを防止する。
【0007】
電極の少なくとも1つは可撓性であって、中央で剛性コネクタに接続されて、その周囲で可撓性を持たせてよく、或いは、軟質隙間充填材又は接着剤を用いて剛性基板に接続されてよい。電極の一方が完全に剛性であってもよい。電極は、その表面全体にわたって連続的であってよく、又は、複数の電極を散在させるようにパターン化されてよい。可撓性電極に加えられる荷重は、その中心付近に加えられてよく、これは、脱離が可撓性縁部で開始されるのを防止するのに役立つ。中心付近に負荷を加えることで、電極が引き離される場合に電極間に真空を生成することができ、これは、脱離に更に耐えるのに役立つ。本明細書には、3つ以上の電極を使用して、リニア、回転、ユニバーサル、及び他の静電吸着クラッチ設計における恒常的及び/又は一時的な電気接続の数、サイズ、又はコストを低減する方法も開示される。電気的に絶縁された3つ以上の電極を使用する電気的構成は、電極のうちの幾つかが電源への直接的電気接続を有していない場合であっても、クラッチ全体が機能することを可能にしており、電気接続の総数の低減をもたらし、及び/又は、ある種のスリップリング、ブラシ、ピンやその他のタイプの接続の必要性を排除する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、静電吸着クラッチの基本的な動作原理を示す。
【0009】
図2図2は、ある実施形態によるユニバーサル負荷型(universal-loading)静電吸着クラッチを示す。
【0010】
図3図3A乃至図3Cは、ユニバーサル負荷型静電吸着クラッチの動作状態と可能な負荷シナリオとを示す。
【0011】
図4図4は、剛性が空間的に変化する可撓性電極を示す。
【0012】
図5図5A乃至図5Bは、1つの可撓性電極と1つの剛性電極を用いたユニバーサル負荷型静電吸着クラッチの1つの構造を示している。
【0013】
図6図6A乃至図6Bは、ユニバーサル負荷型静電吸着クラッチの1つの構造を示しており、一方の電極は適合可能隙間充填材を有する剛性裏材を有し、他方の電極は剛性であって表面粗さ又は不規則性を有する。
【0014】
図7図7A乃至図7Bは、更に縁部での脱離の発生を防止するためのレールを採用したユニバーサル負荷型静電吸着クラッチの1つの構造を示している。
【0015】
図8図8A乃至図8Bは、2つの可撓性電極を採用したユニバーサル負荷型静電吸着クラッチの1つの構造を示している。
【0016】
図9図9A乃至図9Bは、丸面又は円筒面を把持するためのユニバーサル負荷静電吸着クラッチの1つの構造を示している。
【0017】
図10図10A乃至図10Cは、ユニバーサル負荷クラッチの1つの構造を示しており、凸面、凹面、又はその他の非平坦面に適合するように複数の小さい電極を使用している。
【0018】
図11図11Aは、2つの電極の各々が単一の電圧源に電気的に接続されている電気的構成を示す。図11Bは、1又は複数の電極が電気的に浮いており、電圧源への明示的な接続を必要としない電気的構成を示す。
【0019】
図12図12A乃至図12Cは、ユニバーサル静電吸着クラッチマニピュレータを示しており、電極の窓を通したプローブを使用して導電性物体との電気的接続を確立する。
【0020】
図13図13A乃至図13Cは、ユニバーサル静電吸着クラッチマニピュレータを示しており、可撓性クラッチ板が2つの電極に分割され、操作対象物への明示的な電気的接続は不要である。
【0021】
図14図14は、静電吸着クラッチマニピュレータのための潜在的な幾つかの電極分割パターンを描いている。
【0022】
図15図15は、アライメントを確立するために磁石が使用される静電吸着式ユニバーサル負荷クラッチを示す。
【0023】
図16図16は、被覆電極の切断端部での短絡を防止するために施された絶縁リップを示している。
【0024】
図17図17A乃至図17Cは、可撓性電極がクラッチインターフェースにおいて凸状の曲率を有する実施形態を示す。
【0025】
図18図18は、第2の電極が静電吸着クラッチの解放を補助する実施形態を示す。
【0026】
図19図19は、静電吸着クラッチが、第1のクラッチ板と導電性物体との間のインターフェースへの空気流を制御する実施形態を示す。
【0027】
図20図20は、静電吸着クラッチが使用されて、他の方法では把持することが困難な蓋が操作される実施形態を示す。
【0028】
図21図21は、薄くて可撓性又は適合性のある物体を取り扱うための分割電極型静電吸着マニピュレータを示す。
【0029】
図22図22は、静電吸着マニピュレータの分解図であり、概ね平らな導電性部材を取り扱うために、選択的に接着された可撓性電極を有する。
【0030】
図23図23は、クラッチ制御を知らせるために基材の近接を検出するセンサが組み込まれた静電吸着クラッチコネクタ又はマニピュレータの実施形態を示す。
【0031】
図24図24は、ユニバーサル静電吸着クラッチの幾つかの可能な構成を示す。
【0032】
図25A図25Aは、3つの電極からなる複数の並列セットを示しており、各セットの電極の1つは、電圧源への明示的な電気接続を必要としない。
図25B図25Bは、3つの電極からなる複数の並列セットを示しており、各セットの電極の1つは、電圧源への明示的な電気接続を必要としない。
【0033】
図26A図26Aは、5つの電極からなる複数の並列セットを示しており、5つの電極のうちの3つは、電圧源への明示的な電気接続を必要としない。
図26B図26Bは、5つの電極からなる複数の並列セットを示しており、5つの電極のうちの3つは、電圧源への明示的な電気接続を必要としない。
【発明を実施するための形態】
【0034】
静電クラッチ100の基本動作は、誘電体部材102によって仕切られた少なくとも2つの電極101を含む。それら電極101に電圧が印加されると、電極101に正負の電荷が蓄えられて、図1に示すような電気吸引力が生じる。誘電体部材102は、対向している電極101に存在する正と負の電荷の均一化を防ぐ。コントローラ103を使用して対向電極101間の電圧を調整することで、生じる電気吸引力を調節することができる。電極101間の電圧差が解除されると、クラッチ100は切られる。これは、両方の電極101を接地させること、両方の電極101に同じ電圧を印加すること、又は、互いに逆に帯電した電極101を短絡させることによって達成することができる。
【0035】
以下で言及する図は、電極(又はクラッチ板)101の少なくとも一方が可撓性であって、対向する電極101が誘電材部材102によって仕切られている静電クラッチ100の様々な構成を示す。本開示を通じて、「対向する」クラッチ板又は電極101は、相反する電荷を持っている電極101を有する構造に言及しており、これらは、互いに隣接して、平行に、周方向に、又は、分散されて配置されてよい。以下に述べる図が示すように、電極101の構成における可撓性により、静電クラッチ100を様々な用途に使用することが可能となる。
【0036】
図2は、可撓性電極101の中心に荷重を加えることによって係合すると、垂直荷重、剪断荷重及びモーメント荷重を伝達する能力を有する静電吸着クラッチ100の一実施形態を示す。図2に示すように、クラッチ100には、剛性電極101と可撓性電極101を含む2つの態様がある。図2に示す例示の実施形態では、クラッチ100の各側は、薄い誘電体部材102で被覆された電極101を含んでいる。誘電体部材102は、図1乃至図2に示すようにクラッチ100の両側に適用されてよく、又は、電極101の一方のみに適用されてよい。あるいは、誘電体部材102は、どちらに適用されることなく、対向する電極101の間に配置されてよい。例えば、誘電体部材102は、2つの電極101の間に配置されるシート又はフィルムを備えてよい。クラッチ100の可撓性側には、電極101の中央に、ロープ連結部のような小さな剛性要素110が含まれており、他の部品に機械的に取り付けることができる。剛性要素110が、可撓性電極101の外辺部ではなくて中央に位置することで、クラッチインターフェースでの脱離を低減することができる。しかしながら、剛性要素110が、中心部を越えて拡大するような、外辺付近に配置されるような、又は、可撓性電極101の他の領域に取り付けられるような用途もあり得る。
【0037】
剛性要素110と可撓性電極101の間に、随意選択的な低剛性の隙間充填材111を含めることで、吸着を強化することができる。軟質接着材のような隙間充填材111は、電極101の1又は複数が他の電極101に適合することを可能にすることで、それらの間の空間を減少させ、電極101間の静電容量を増加させ、それにより、保持力が向上する。隙間充填材111で裏打ちされた電極101のこの適合機能は、誘電体被覆電極101間でのより調節された表面接触を可能にし、2つの剛性表面間で達成されるよりも大きな吸着をもたらす。これは、適応する能力により、可撓性電極101が物理的に変形して、対向する電極表面のうねり又は粗さなどの表面の不規則性を克服することが可能になるからである。隙間充填材111はまた、可撓性電極101の表面にわたって荷重を分散させ、又は、電極101を引き離すことなく、剛性コネクタ110と剛性基板112の間で相対的な角度たわみにある程度対応する。隙間充填材111は、保持強度を増加させ得るが、クラッチが精密用途で使用される場合には、配置精度を低下させることがあるため、任意選択的である。隙間充填材111は、パターン状に又は単一の連続範囲で選択的に付されてよい。隙間充填材111は、ゴム、シリコーン、アクリル系接着材、キャストポリマーなどの比較的柔らかい材料で構成されてよい。
【0038】
クラッチ板はまた、電極101の表面にわたる剛性の変化を利用してよい。一例が図4に示されており、複数のフィルムが重ね合わされることで剛性勾配を形成し、他方の電極101との表面適合性の最適な組合せを可能する一方で、電極表面全体に負荷を分散させている。クラッチフィルム界面の層が導電性であって必要な静電電極101を形成する限りにおいて、複数の材料を使用することができ、クラッチ100の静電電極101の少なくとも1つは、誘電体部材102又は電極101間に配置された誘電体部材102で覆われる。この剛性勾配はまた、表面にわたって連続的に変化する材料厚さ又は材料特性によって、或いは、剛性若しくは半剛性のフィンガー部又は剛性接続部110から広がる構造である上部構造によって達成できるであろう。
【0039】
クラッチ100は、その使用中に3つの状態、即ち、図3A乃至図3Cに示すように、切断、接続無負荷、並びに接続負荷を経験する。クラッチ100は、電圧が印加されていない場合には切られて、クラッチの各側は互いに対して自由に動くことができる。コネクタとして使用される場合には、クラッチ100の2つの側は大きな距離だけ離されて、その後、接続前に一緒に配置されてよい。この実施形態では、クラッチ100の一方の側が、作動前に他方の側の上に手動で置かれてよく、或いは、機械的又は磁気的機構120が用いられてクラッチ100の一方の側が他方の側に向けられてよい。他の実施形態では、クラッチ電極101は、ほんの僅かな接触から数ミリメートルの幅の範囲である小さな空隙が切断状態で維持された状態で、恒常的に互いに近接して離間してよい。電圧が印加されると、引力が可撓性電極101を空隙にわたって引き寄せて、静電吸着接続を確立し、負荷がかかると力及びトルクがインターフェースにわたって伝達されることを可能にする。吸引と負荷を伝達する能力とは、印加電圧が維持され、また、2つの電極101が短絡して電荷が均一にされない限り、無期限に維持される。
【0040】
例えば、可撓性側の外辺付近に力が加わると、反対側の電極101が剛性である場合には、クラッチ100は脱離しやすい。脱離は、可撓性クラッチ板の縁部が剛性クラッチ板から離れて、その分離が縁部から表面全体に伝播することで発生する。それらは、可撓性クラッチの中心に力が加えられると、クラッチ板間の静電力と、クラッチ板が離れ始める場合にプレート間に生じる真空との両方によって抵抗を受ける。このクラッチの実施形態は、垂直力、剪断力、面内ねじれ、及び面外モーメントからなる複雑な負荷に耐えることができる。これは、特に2つの剛性クラッチ板が使用される場合に面内負荷のみを伝達することができる既存の静電クラッチとは異なっている。連続的な接触を有する負荷電極101から生じる真空は、力伝達能力がより高い、より強固な接続を可能にし、それ故に、静電クラッチ100のより広範な使用を可能にするが、静電クラッチ100の最も基本的な機能には必須ではない。
【0041】
表1は、幾つかの可能な誘電体部材102が与えられた場合におけるクラッチインターフェースを介して伝達できる垂直力の大きさを示している。単位面積当たりの力は、誘電体絶縁層の厚さ、印加電圧、誘電率、絶縁破壊強度、誘電体絶縁層の表面抵抗、及び、クラッチ板構造全体が適合してクラッチインターフェースで良好な表面接触を可能にする能力に依存する。さらに、発生する真空(大気に対する圧力差)の程度は、クラッチ100が作動する際にインターフェースにある空気の量(空気が多いほど圧力差はより少ない)と、可撓性電極101が第2の電極101又は表面にどれだけ良好に吸着されているかと、電極101の粗さの程度と、大気からクラッチインターフェースへと空気が移動する経路があるか否かとに依存する。力/電圧ヒステリシスとは、電圧を落とした後も残る望ましくない残留吸引力と電圧であって、その後の充放電サイクルにおいて応答性又は保持力を低下させる可能性がある。
【0042】
【表1】
【0043】
ここで説明するクラッチ100は、典型的なクラッチ、コネクタ、ブレーキ、ダンパ、フォースリミッタ、トルクリミッタ、又は機械的ヒューズとして使用されてよい。各クラッチ100の多様な使用は、印加電圧の戦略的な制御によって可能になる。高電圧は、クラッチ100が大きい力又はトルクを生成し、運動に抵抗すること、又は構成要素の相対的位置を固定することを可能にするであろう。中電圧は、使用者又は駆動アクチュエータによって克服され得るより小さな力又はトルクを供給するであろう。この場合、本明細書で説明されるクラッチ100は、加えられた力が許容荷重を超えると開放する機械的ヒューズとして機能する。添付の図は、固体セラミックベースの誘電体層102を用いた様々なクラッチ100を示している。
【0044】
図5A乃至図5Bは、以下を利用するクラッチ100の構成を示している。図5Aは、剛性クラッチ半体である、平らで滑らかな導電性要素(即ち、電極101)と、可撓性クラッチ半体である、導電性要素を伴う可撓性膜(即ち、電極101)とを示している。剛性要素110は可撓性クラッチ半体に取り付けられており、可撓性クラッチ半体を通して荷重を伝達するために使用することができる。図5Bは、係合している場合に、可撓性膜がクラッチ100の剛性側の平らな面に適合している模様を示している。
【0045】
図6A乃至6Bは、図6Aに示すような粗い又は不規則な面を有する剛性クラッチ半体を収容するクラッチ100を示している。この実施形態では、一方のクラッチ半体は、低剛性の隙間充填材111を備えた平らな半可撓性又は剛性部分で構成されており、図6Bに示されるように、可撓性電極101がクラッチ100の剛性側の不規則な表面に適合することを可能にしている。半可撓性部分は、クラッチ100からハンドル又は他の部品に荷重を伝達するための剛性要素110に接続されている。この実施形態では、剛性裏材112は導電性表面を有しており、可撓性電極101に対向する第2の電極101として作用する。
【0046】
図7A乃至図7Bは、静電気力及び真空力に加えて、脱離に抵抗するためにレール又はスロットを用いるコネクタ121を示す。図7Aは、脱離抵抗レール121を備えた剛性面としてのクラッチ半体を示している。クラッチインターフェースの表面は誘電体部材102で被覆されている。もう一方のクラッチ半体は、もう一方の電極101のスロット121に係合する剛性裏材112を有しており、可撓性電極101の上に任意選択的な隙間充填材111が載せられている。図7Bに示すように、クラッチ半体は一緒にスライドする。クラッチ構成要素のスライドのしやすさは、面取りを又は傾斜したガイドを追加することによって改善されてよい。
【0047】
図8A乃至図8Bは、クラッチ100の両側において、負荷を伝達するための剛性構造体110が可撓性要素130に配置された実施形態を示す。図8Aは、両方の半体が可撓性であることを示している。図8Bは、接続状態で電圧が印加されると可撓性部分が互いに適合することを示している。ここで、可撓性要素130は、電極101と、場合によっては誘電体部材102とを備える。
【0048】
図9A乃至図9Bは、可撓性クラッチ電極101に取り付けられた剛性構造体110が長くて薄いため、電極101の「フィンガー」が円状又は円筒状構造上に垂れ下がる実施形態を示す。この構成は、より複雑な形状の物体を把持するための2つ以上の可撓性「フィンガー」を有するグリッパー型クラッチ100に適用されてよい。
【0049】
図10A乃至図10Cは、曲面又はその他の不規則な表面を有する物体を摘まんで配置するために使用できるクラッチ100を示す。図10Aに示すように、グリッパー型クラッチ100は、可撓性又伸縮可能フィンガー140に取り付けられた複数の可撓性クラッチ面を備えている。フィンガー140の可撓性端部は、図10Bに示すように電圧が印加されるとフラットな表面に適合して吸着する。図10Cは、グリッパー型クラッチが、各伸縮可能要素又は可撓性フィンガー140は物体の表面における高さの変化に適応するように異なる長さに収縮することができることから、湾曲又は不規則表面を伴う物体を把持できることを示している。各フィンガー140のクラッチ電極101の可撓性によっても、各フィンガーは不規則な表面にもある程度適合することができる。伸縮可能フィンガー140はまた、電圧が印加されて電極101が吸着される場合に伸縮長をロックするために個々にクラッチ100を有してもよい。グリッパーの作動及び作動停止と同時に伸縮可能フィンガーをロック又は解放する個々のクラッチ100を用いることで、制御は簡単になるだろう。2つのクラッチ板が直接接触しないこのタイプの構成用のコントローラ103については、以下で詳述する。
【0050】
クラッチ100の設計の全ての実施形態は、限定ではないが図11A及び図11Bに示される構成を含む、幾つかの異なる電気的構成又はコントローラ103を利用することができる。
【0051】
図11A図11Bは、異なるクラッチ動作を可能にする2つの電気的構成を示す。図11Aは、クラッチ100の両側が電気回路に恒常的に接続されている構成を示す。この構成では、クラッチ半体は互いに接触して配置されて、電圧がそれらに印加される。電極101間に配置された誘電体被膜102はコンデンサを形成する。このコンデンサは、2つのクラッチ半体にわたって電荷が等しくなることを防止し、静電吸着を可能にする。低電圧が一方のクラッチ半体に印加され、高電圧が他方のクラッチ半体に印加される。大半の電極101及び誘電体部材102において、クラッチ100のどちらの側が低電圧又は高電圧を受けるかにかかわらず性能は同じである。図11Aは、この構成の電気回路図を示す。クラッチインターフェースは、並列抵抗器及び直列抵抗器を有するコンデンサとしてモデル化されており、これは、誘電体部材102の静電容量、クラッチインターフェースの有効抵抗、及び電気コネクタ抵抗を説明する。
【0052】
図11Bは、より汎用的な物体操作を可能にする別の電気的構成を示す。この実施形態には、静電吸着マニピュレータとして使用される2つの可撓性電極101がある。一方の可撓性電極101には高電圧が印加され、他方の電極101には低電圧が印加される。両電極101は導電性面を有する物体に接触する。この構成では、第2のクラッチ半体として機能する物体の導電性表面への明示的な電気的接続はなされない。物体との両方のクラッチインターフェースにおける有効電気抵抗が等しい場合、その剛性物体の相対電圧は、マニピュレータの電極101にわたって印加される総電圧の半分になる。可撓性電極101と操作対象物の間の電圧差により、静電吸着が可能となる。この構成は、クラッチを用いたマニピュレータが、マニピュレータ型クラッチ100と共通の電気回路に接続されていない物体に複雑な機械的負荷を加えることを可能にする。この構成は、2つ以上の物理的に別々の可撓性クラッチ電極101を含んでよく、それら電極は、物体と同時に相互作用する。これらの物理的に分離しているが電気的に接続された電極101は、オペレータの各手用のパドルのような2つの分離した構造上に存在してもよく、又は、単一のより大きい構造に装着されてもよい。この改良は、ブラシレスDCモータがモータ構成要素を再構成して、ローターの構成要素から電圧源の端子への明示的な電気接続の必要性を排除するという点で、ある意味、ブラシ付きDCモータとブラシレスDCモータの間の差異に類似している。
【0053】
これらの同じ2つの電気的構成は、クラッチ設計の異なるバリエーションで達成することができる。図12A乃至図12Cは、静電吸着マニピュレータ型クラッチ100の一実施形態を示しており、操作対象物への明示的だが一時的な電気的接続がプローブ141によって達成される。このプローブ141は、図示のようなポゴピン、ばね接点、マグネットアシスト接点、又はその他の電気プローブであってよい。図13A乃至図13Cは、2つ以上の電極101が誘電体部材102又は空隙によって電気的に絶縁されているが、単一の連続的な構成要素の一部として機械的に接続されている実施形態を示す。この設計は、図11Bに示される電気回路図によって表すことができる。図11Bに示される実施形態と図13A乃至13Cに示される実施形態との間の差異は、2つの電極101が、2つの異なるグリップ要素上で分離されているか、又は単一のグリップ要素内に含まれていることである。何れの場合も、電気的に絶縁される電極101の数は、2つ又は任意の複数であってよい。
【0054】
分割パドルが使用される場合、各電極101の同じ領域が係合されることで、クラッチインターフェースの各々においてほぼ等しい静電容量が保証されることが有益である。これにより、2つの電極101を利用する場合には、操作対象物は印加電圧の二分の一に近い電圧に確実に保持される。図14は、両方の電極101上でほぼ等しいサイズの係合領域を可能にする幾つかの可能な電極構成を示す。同じ電極領域を係合させることは、操作される物体が把持面の中心に容易に置かれる、把持面と同じ大きさである、又は把持面よりも大きい場合、表面を半分に分割することによって最も簡単に達成される。しかしながら、操作される物体がクラッチ100の把持面よりも小さい場合、十分な大きさの任意の物体が各電極101によって等しく又はほぼ等しく覆われるように、2つの電極101をパターン化することが有益である。パターンには、櫛状、螺旋状、又は、連続パイスライス(pie slices)状が挙げられ得る。これらのパターンは、電極領域が連続しているため、単層構造で容易に実現できる。ほぼ等しい範囲を保証する同心環、市松、ストライプ、ドット、及びその他のパターンは、多層構造によって達成することができ、その多層構造では、電極101は、誘電体部材102によって電気的に絶縁された状態に保たれる。これらの多層構造は、多層プリント回路で構成されてよい。
【0055】
ユニバーサル静電吸着クラッチ100の2つの半体間の迅速且つ繰り返し可能な位置合わせは、位置合わせ機構120として磁石を構造に組み込むことによって達成されてよい。図15はそのような実施形態を示している。位置合わせ機構120は、互いに引き合うように配向された2つの永久磁石を、又は単一の磁石と非鉄構造内の鉄材を含んでよい。磁石は永久磁石であってよく、又は、電気的に作動してよい。クラッチ半体の迅速且つ繰り返し可能な位置合わせはまた、電極101の一方を凹ませることによって支援されてよい。一方のクラッチ半体の電極面が他方のクラッチ半体の電極面より大きいクラッチ100は、ミスアライメントに対してクラッチをより寛容にすることができる。
【0056】
多くの実施形態では、クラッチ電極101は誘電体部材102で覆われている。この部材102は、電極101が最終形状に切断される前に、シート状又はロール状で電極部材上に置かれてよい。このプロセスが使用される場合、表面が誘電体102で覆われているにもかかわらず、電極101の切断端は、導電性のままである。これは、短絡の可能性を生じさせることがあり、図16に示すように、切断端を絶縁することによって解決することができる。切断端に配置される絶縁体145は、限定ではないが、接着、積層、機械的締結、浸漬、噴霧、又は塗装を含む、幾つかの方法で適用されてよい。任意の絶縁材料が使用されてよい。絶縁材料145がゴム又はシリコーンなどの適合性を有する場合、それが使用されて、クラッチ100が受ける吸引効果が高められてよい。
【0057】
電圧が解除されると、電極101間の静電引力は消滅して、クラッチ100は切られる。ファンデルワールス引力又は残留吸引のために、電極101間に一時的に幾らかの力が残ることがある。図17Aに示すように、外辺に沿って隆起した又は湾曲した縁部を有するように形成された又はプレストレスを与えられた低剛性の可撓性電極101を利用することによって、切られたクラッチ100を分離するのに必要な力をほぼゼロまで低減することができる。プレストレス又は湾曲設計は、対応している電極101に適合するように湾曲縁部を平らするために小さな力しか必要とせず、これらの力は、電圧が印加されたときに引き付ける静電ジッピング力(electrostatic-zipping forces)によってもたらすことができる。図17Bは、静電力によって対向するクラッチ半体に接触するように引き下げられている湾曲縁部を示す。電圧が除去されると、可撓性電極101の内部応力により、湾曲縁部が元の形状に戻るにつれて、縁部が脱離して真空を解放する。この効果はまた、弾性バンド又は小さな梁ばねなどの追加の低剛性構造146を追加することによって達成されてよい。圧電部材が、曲げ機構146として作用するように、クラッチインターフェースから離れて面する電極表面に配置されてもよい。この部材は、その長さ変化の方向が電極の縁部に対して垂直になるように配置されるべきである。これにより、印加電圧を調節することによって圧電部材が短くなると、その結果、クラッチインターフェースから離れるように縁部がカールして、解放を助けることが確実になる。
【0058】
図17Cに示される別の実施形態では、曲げ機構146として使用される圧電ピラーが、それらが伸びるとクラッチ電極101を引き離すように働くように、クラッチインターフェースの周縁付近に配置されてもよい。これは、真空力を緩和し、電極101間の空隙を増加させるので、電圧が解除されるとクラッチ100を切るために必要とされる力を低減させることができる。
【0059】
図18は、二次電極105が使用されて、解放中に可撓性電極101を一次クラッチインターフェースから離れるように後退させる別の実施形態を示す。可撓性電極101は、クラッチインターフェースにわたって電圧が印加されると、対向するクラッチ電極101に吸着する。切るためには、クラッチインターフェースの両端の電圧差が解除され、可撓性電極101と可撓性電極101の反対側に位置する二次電極105との間に電圧差が印加される。
【0060】
図19は、可撓性電極101が制御可能なチャッキバルブ147として使用される実施形態を示す。静電吸着チャッキバルブ147が係合すると、空気が2つの電極101の間の空間に入ることが防止される。これにより真空が形成される。静電吸着チャッキバルブ147が解放されると、空気はクラッチ電極101間の空間に自由に移動する。これにより、クラッチインターフェースに存在する真空が緩和される。この構成により、解除状態で2つの電極101を切り離すのに必要な力をより小さくすることができる。
【0061】
着脱自在なハンドルを設けることによって、不所望ないたずらやアクセスを防止するためにユニバーサルクラッチ100を使用してよい。図20は、埋め込み式の蓋が把持可能な表面を有さず、凹部にぴったりと嵌る装置を示す。静電吸着クラッチ100は、蓋を取り外すための一時的なハンドルとして使用される。同様に、静電吸着クラッチ100は、重くて又は大きくて掴みにくい物体を移動させるための一時的なハンドルとして機能することができる。また、ハンドル又は把持する場所が常設されていないことで、盗難防止やいたずら防止につながるという更なる利点を有する。
【0062】
静電吸着表面クラッチ100は、デリケートな部材を取り扱うために使用することができる。図21は、被操作部材への明示的な電気的接続を行うことなく、箔又はその他の薄くてデリケートな導電性部材を操作するための分割電極101を有する表面クラッチ100を示す。この実施形態では、クラッチ100の適合性は、箔又は導電性布地のような操作される部材によって提供される。図22は、デリケート部材用ハンドラ型クラッチ100の変形例を示しており、これは、可撓性を高めることによって、より重い及び/又はより不規則な材料に対応することができる。この可撓性は、電極101をクラッチ100のより大きな構造に固定するための、コンプライアント(compliant)接着材の選択的なパターニングを介して可能にされる。図示されているパターンは、複数の六角形状ポケットを生じており、これらにより、可撓性電極101がクラッチインターフェースに向かって、又は、そこから離れるように曲がることが可能にされている。電極101にわたって誘電体部材102が配置される。この部材用ハンドラ型クラッチ100は、図12A乃至図12C及び図13A及び図13Cに示す何れの電気的構成でも使用することができる。図22は、電極101及び誘電体102の開口を通ってフィルムの表面に接触するばね接点141を介して、操作される部材への電気接続が確立される実施形態を示す。この電気的接触は、開口を利用せずに、電極表面の側部に対して確立することもできるだろう。あるいは、電極101は、操作される部材への明示的な電気接続を必要としない分割型のものであってもよい。
【0063】
図23は、係合のタイミングを補助するセンサ150を含むことができる実施形態を示す。このセンサ150は、近接度センサ、フォトレジスタ、ポゴピン、接触スイッチ、又はその他のセンサであってよい。あるいは、電極101自体が、静電容量式タッチ又は距離センサとして使用されてもよい。クラッチインターフェースの静電容量を連続的に又は断続的にサンプリングすることにより、適切な部材と接触したときにクラッチ100を係合させるための信号を提供することができる。クラッチインターフェースの静電容量はまた、電極間の重なり面積の量及び電極のアライメントを知る手がかりを与える。
【0064】
クラッチ100の実施形態において、誘電体部材102は、クラッチの一方又は両方の半体に適用されるか、又は、対向する電極101を仕切るように配置されてよく、可撓性電極101は、金属化ポリマーシート、炭素繊維、炭素又は金属注入ポリマー、他の任意の可撓性導電性材料で構成されてもよい。さらに、クラッチ100の他の実施形態は、先に説明した電気的構成の何れかを利用してよい。
【0065】
図24は、可撓性、誘電体102の配置、及び電気的構成に関して利用可能な組合せの非包括的概要を幾つか示している。1つ又は全ての電極101は、可撓性又は適合性を有してよい。電極101の1つ又は全ては誘電体コーティングを有してよい。クラッチ100がコネクタとして使用される多くの用途の場合のように、全ての電極101は、回路又はコントローラ103への明示的な電気的接続を含んでよい。この電気的接続は、恒常的であってよく、又は、ばね接点若しくはポゴピンのような電気プローブ141を介して一時的に確立されてよい。ユニバーサルクラッチ100はまた、分割型電極構成を用いることによって、明示的な電気的接続を確立することなく一般的な導電性部材のためのマニピュレータとして使用されてよい。マニピュレータとして使用される場合、クラッチ電極101又は操作される部材自体における幾らかの可撓性は、低電圧での動作と、通常許容されるよりも不規則な表面の適応とを可能にする。
【0066】
図25は、3つ以上の電極101を有する静電吸着クラッチの電気的構成の実施形態を示しており、当該実施形態は、幾つかの電極101が、それらを電源の端子に取り付ける直接的な電気コネクタなしで動作することを可能にしている。電気的等価回路図が図25Aに示されており、現実のコンデンサに存在する直列抵抗及び並列抵抗は省かれており、単にクラッチインターフェースの静電容量が示されている。この構成では、2組のクラッチ板が、同じ電圧源を用いて並列に動作する。その他の形態では、多数の組が同様に並列動作できるだろう。各組の高圧側電極は、コントローラ103の電圧源のプラス端子に直接接続されており、その結果、電圧は2Vとなる。各組の低圧側電極は電圧電源のマイナス端子に接続されて、その結果、電圧は0Vとなる。電極101は、第2及び第3の電極101に隣接して、回路を完成させており、中間電圧のVで存在する。これにより、各クラッチインターフェース間に1Vに等しい電圧差が生じて、各クラッチインターフェースで吸着と固定が起こる。図25Bは、電極101の物理的概略図である。電極101のうちの2つは、電気的接続によって電圧源に物理的に接続されるが、他の電極101の各々は、可撓性、伸張性、又はブラシ式電気的接続を必要とすることなく、電圧源に対して自由に並進又は回転する。
【0067】
図26A乃至図26Bは、3つ以上の電極を有する静電吸着クラッチの電気構成の別の実施形態を示しており、当該実施形態は、幾つかの電極101が、それらをコントローラ103の電源端子に取り付ける直接的な電気コネクタなしで動作することを可能にしている。電気的等価回路図が図26Bに示されており、現実のコンデンサに存在する直列抵抗及び並列抵抗は省かれており、単にクラッチインターフェースの静電容量が示されている。この実施形態は、互いに直列の4つのコンデンサと等価な回路を形成する。各クラッチインターフェースの有効抵抗が同じであると仮定すると、これは、各クラッチインターフェースにわたって約1Vの電圧差をもたらす。図26Bは、電極101の物理的概略図である。電極101の第1の組は、電気的接続によって電圧源に物理的に接続されるが、電極101の第2の組は、可撓性、伸張性、又はブラシ式電気的接続を必要とすることなく、電圧源に対して自由に並進又は回転する。
【0068】
前述の説明、特許請求の範囲、又は添付の図面に開示された特徴は、必要に応じて、特定の形式で、或いは、開示された機能を実行するための手段又は開示された結果を達成するための方法又はプロセスの観点から表現されており、これらの特徴は、本発明をその多様な形態で実現するために、個別に、又は、そのような特徴の任意の組合せとして利用することができる。特に、本明細書に記載される実施形態の何れかにおける1又は複数の特徴は、本明細書に記載される他の実施形態の1つ又は複数の特徴と組み合わされてよい。
【0069】
本開示と組み合わせて参照され、及び/又は、参照により組み込まれる任意の1つ又は複数の文献に開示された任意の特徴に対しても保護が求められる場合もある。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図13C
図14
図15
図16
図17A
図17B
図17C
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25A
図25B
図26A
図26B
【手続補正書】
【提出日】2024-01-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直荷重、剪断荷重、又はねじり荷重を伝達するための静電吸着クラッチにおいて、
導電性表面を有している第1の電極であって、前記第1の電極の表面の少なくとも一部は可撓性であ外辺付近の少なくとも一部は構造要素に取り付けられていない、第1の電極と、
導電性表面を有する第2の電極と、
前記第1の電極の導電性表面と前記第2の電極の導電性表面とを仕切る誘電体部材と、
前記第1の電極と前記第2の電極とに電圧差を印加する制御装置と、
を備える、静電吸着クラッチ。
【請求項2】
前記第1の電極に取り付けられた剛性要素であって、前記第1の電極の導電性表面に対して実質的に垂直な方向に力を伝達することができる剛性要素を更に備える、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項3】
前記第1の電極の周辺付近における前記第1の電極の部分は、前記第1の電極の中央部分よりも低い曲げ剛性を有する、請求項2に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項4】
前記第1の電極が第1の物体に取り付けられ、前記第2の電極が第2の物体に取り付けられることで、前記第1の物体が前記第2の物体に機械的に結合してトルク、剪断力、又は垂直力を伝達することを可能にする、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項5】
前記第1の電極に関連する第1のコネクタと、
前記第2の電極に関連する第2のコネクタであって、前記第1のコネクタと前記第2のコネクタとは、前記第1の電極の周辺の脱離を防止するように機械的に係合するように構成されている、第2のコネクタと、
を更に備える、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項6】
前記第2の電極は、円柱状、立方体状、角柱状、球状、及び非平面状からなる群から選択される形状を有しており、
前記第1の電極は前記第2の電極の形状に適合する、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項7】
前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記少なくとも1つの追加電極の各々に取り付けられた伸縮可能フィンガーを備えており、
解除状態にある場合に、前記第1の電極、前記第2の電極、前記少なくとも1つの追加電極、及び前記基材の間の相対変位を可能にする静電吸着クラッチを使用して、前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記少なくとも1つの追加電極は、前記伸縮可能フィンガーを介して前記基材に選択的に接続される、請求項に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項8】
前記第1の電極と前記第2の電極は、並列に、螺旋状に、市松状に、相互接続フィンガー状に、同心円状に、又は交互パターンでクラッチ板に配置されている、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項9】
前記第1の電極の面積は前記第2の電極の面積と実質的に等しい、請求項に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項10】
前記第1の電極又は前記第2の電極に関連するセンサを更に備えており前記センサは、第2のクラッ板に対する第1のクラッチ板の距離、近接度、垂直アライメント、または平行アライメントを検出する、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項11】
前記第1の電極は、解除状態では非平面であり、係合状態では変形し、前記係合状態から前記解除状態に移行する場合に、前記第1の電極が前記第2の電極から解放されることが可能である、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項12】
解放機構を更に備えており、前記解放機構は、前記第2の電極からの前記第1の電極の解放を開始するために係合状態から解除状態へ移行する場合に前記第1の電極を引き付ける追加の電極を備えている、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項13】
係合状態で生じた真空を解放するために前記第1の電極に関連付けられた第1のチャッキバルブを備える、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項14】
前記第1の電極が前記第2の電極の凹部に嵌まる、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項15】
前記第1の電極は、ばね付きピン、軟質又は可撓性の電気ブラシ、或いは、同様の電気コネクタを使用して、前記第2の電極への接触ベースの電気的接続を設定可能とする切り抜き部を更に備える、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項16】
前記第1の電極は、前記第1の電極の導電性表面に対して実質的に垂直な荷重を伝達可能な剛性コネクタに取り付けられている、請求項15に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項17】
前記第1の電極に関連する第1の磁石と、前記第2の電極に関連する第2の磁石とを備えるアライメント機構を更に備えており、
前記第1の磁石及び前記第2の磁石は、前記第1の電極及び前記第2の電極の面内又は面外のアライメントを促進する引力又は斥力をもたらす、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項18】
導電性表面を有する少なくとも1つの追加電極であって、
前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記少なくとも1つの追加電極は互いに電気的に絶縁されており、
前記誘電体部材は、前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記少なくとも1つの追加電極の誘電体表面を仕切る、
少なくとも1つの追加電極と、
前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記少なくとも1つの追加電極の少なくとも1つに接続された制御可能な電圧源と、
を更に備える、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項19】
前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記少なくとも1つの追加電極のうちの少なくとも1つは、前記電圧源に直接電気的に接続されていない、請求項18に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項20】
2つの電極のみが前記電圧源に電気的に直接接続されている、請求項18に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項21】
前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記少なくとも1つの追加の電極は、単一の電源に並列に接続された複数の組で配置される、請求項18に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項22】
前記電圧源に電気的に直接接続されていない電極は、前記電圧源に対して並進又は回転する、請求項19に記載の静電吸着クラッチ。
【請求項23】
前記第1の電極は、ばね付きピン、軟質又は可撓性の電気ブラシ、或いは、同様の電気コネクタを使用して、前記第2の電極への接触ベースの電気的接続を設定可能とするように構成されている、請求項1に記載の静電吸着クラッチ。
【国際調査報告】