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特表2024-517528FeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能を向上させる方法及びFeCrAl系抵抗合金
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】FeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能を向上させる方法及びFeCrAl系抵抗合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240416BHJP
   C22B 9/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22B9/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524857
(86)(22)【出願日】2022-11-25
(85)【翻訳文提出日】2023-04-23
(86)【国際出願番号】 CN2022134252
(87)【国際公開番号】W WO2023193451
(87)【国際公開日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】202210363946.9
(32)【優先日】2022-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518309666
【氏名又は名称】中南大学
(74)【代理人】
【識別番号】100216471
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬戸 麻希
(72)【発明者】
【氏名】李志明
(72)【発明者】
【氏名】朱書亜
(72)【発明者】
【氏名】甘科夫
(72)【発明者】
【氏名】厳定舜
(72)【発明者】
【氏名】張勇
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001FA14
(57)【要約】
本発明によれば、FeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能を向上させる方法及びFe
CrAl系抵抗合金が開示される。本発明は、FeCrAl合金に合金元素であるTi及
びSiを導入することにより、FeCrAl合金のBCCマトリックスと整合する多成分
ナノ分散相の形成が誘導される。最適化された合金の化学組成は、Fe:52~59%、
Cr:25~29%、Al:11~15%、Ti:2.5~5%、Si:1.5~3%で
ある。本発明の方法によって得られた合金マトリックスは、BCC構造組織の特徴を呈し
、マトリックスにL21構造を有する多成分ナノ粒子が拡散分布しており、ナノ粒子はB
CCマトリックスに完全に整合する配向関係を維持し、合金の圧縮強度を著しく向上させ
、変形性が高まり、電気抵抗率を向上させ、抵抗率の温度係数を低下させ、力学及び抵抗
性能が全面的に向上されることを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeCrAl系抵抗合金であって、
原子百分率でFe:52~59%、Cr:25~29%、Al:11~15%、Ti:2
.5~5%及びSi:1.5~3%の成分からなり、
そのうち、Fe、Cr、Alの原子百分率の合計は92%以上かつ96%以下であり、
Ti、Siの原子百分率の合計は8%以下かつ4%以上であり、各成分の原子百分率の合
計は100%である、
ことを特徴とするFeCrAl系抵抗合金。
【請求項2】
FeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能を向上させる方法であって、
FeCrAl合金に合金元素であるTi及びSiを導入することにより、FeCrAl
合金のBCCマトリックスと整合する多成分ナノ分散相の形成が誘導され、
そのうち、Ti及びSiの原子百分率の合計は全体の4~8%を占める、
ことを特徴とするFeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能を向上させる方法。
【請求項3】
前記Tiの原子百分率の合計は、全体の2.5~5%を占め、
前記Siの原子百分率の合計は、全体の1.5~3%を占める、
ことを特徴とする請求項2に記載のFeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能を向上
させる方法。
【請求項4】
前記FeCrAl合金は、Fe、Cr、Alからなり、Feの原子百分率の合計が全体
の52~59%を占め、Crの原子百分率の合計が全体の25~29%を占め、Alの原
子百分率の合計が全体の11~15%を占める、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のFeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能を
向上させる方法。
【請求項5】
合金の各構成要素原子の配合比に応じて各成分原料を配合し、真空又は不活性ガスの保護
条件で溶錬して、合金材料を得る、
ことを特徴とする請求項4に記載のFeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能を向上さ
せる方法。
【請求項6】
前記真空条件下で溶錬し、炉内の真空度を1~0.0001Paに維持する、
ことを特徴とする請求項5に記載のFeCrAl系合金の力学及び抵抗性能を向上させ
る方法。
【請求項7】
前記不活性ガス保護条件下で溶錬し、炉内の不活性ガスの圧力を0.000001~5
MPaに維持する、
ことを特徴とする請求項5に記載のFeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能を向上
させる方法。
【請求項8】
前記溶錬は、溶錬の温度が1623~2473Kであり、0.01~1h保温する、
ことを特徴とする請求項5~7のいずれか1項に記載のFeCrAl系抵抗合金の力学
及び抵抗性能を向上させる方法。
【請求項9】
前記各成分原料は、純度が99wt.%以上の純金属元素粒子又はバルク体を用いて3~
8回繰り返し溶錬する、
ことを特徴とする請求項8に記載のFeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能を向上
させる方法。
【請求項10】
得られた合金材料は、圧縮降伏強度が600~1400MPa、圧壊強度が900~22
00MPa、圧縮歪みが10%以上であり、合金は、673K以下の広い温度域での抵抗
率が140~230μΩ・cmであり、抵抗率の温度係数が-200~100ppm/k
の特性を有する、
ことを特徴とする請求項2、3、5~7、9のいずれか1項に記載のFeCrAl系抵
抗合金の力学及び抵抗性能を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の製造技術分野に属し、具体的には、FeCrAl系抵抗合金の力学
及び抵抗性能を向上させる方法及びFeCrAl系抵抗合金に関する。
【背景技術】
【0002】
高抵抗率(>100μΩ・cm)及び低抵抗率の温度係数(TCR)(<100ppm
/K)を有する抵抗合金は、高精密電子測定システム、GPS測位システム、データスト
レージ、熱電設備及び温度制御センサーなどの多くの重要分野で重要な役割を果たしてい
る。鉄・クロム・アルミニウム(FeCrAl)系合金は、高抵抗率、高強度、高温酸化
に対する優れた耐性及び低コストなどの利点を備えているため、抵抗合金として使用され
ている。
【0003】
ますます増えている工業発展により、加工性や感度をさらに向上させ、電子機器の小型化
、集積化の発展を推進するために、高強度、高変形性、高抵抗率、低抵抗率の温度係数を
兼ねて備える低コストの抵抗合金が求められている。しかし、以下の要因により、低コス
トでメリットを持つ従来のFeCrAl系合金の抵抗材料としてのさらなる発展と実用化
が制限されている。まず、Fe-Cr-Al合金の強度及び抵抗率を向上させる従来の方
法は、Cr及びAlの含有量を増やすことであるが、Cr及びAlの含有量が多いと、応
力の集中を招きやすく脆性破壊が進行し、加工性が悪く、すなわち、高強度と高変形性を
兼ね備えることが困難である。次に、Fe、Cr、Alの割合を調整することにより、抵
抗率の温度係数を調整することができるが、高抵抗率と低抵抗率の温度係数を兼ね備える
ことが困難な場合が多い。
【発明の概要】
【0004】
このセクションの目的は、本発明の実施例のいくつかの態様を概説し、いくつかの好まし
い実施例を簡単に説明することである。このセクション及び本願の明細書の要約書及び発
明名称では、このセクション、明細書の要約書及び発明名称の目的が曖昧にならないよう
に、簡略化又は省略することがあり、このような簡略化又は省略は、本発明の範囲を限定
するために使用することはできない。
【0005】
本発明は、上記及び/又は従来技術に存在する欠点に鑑みて、従来のFeCrAl抵抗合
金の高抵抗率と低抵抗率の温度係数を兼ね備えることが困難であり、高強度と高変形性の
相乗能力が劣るなどの技術的課題を解決するFeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能
を向上させる方法及びFeCrAl系抵抗合金を提供する。
【0006】
本発明の目的の1つは、広い温度域で高強度、高変形性、高抵抗率、低抵抗率の温度係数
という優れた総合特性を兼ね備えることを実現できるFeCrAl系抵抗合金を提供する
ことである。
【0007】
ここで、本発明でいう「広い温度域」とは、673K以下の広い温ど範囲を意味する。本
発明でいう「高強度」とは、圧縮降伏強度が600~1400MPa、圧壊強度が900
~2200MPaの特性を有する本発明で得られた合金材料を意味する。本発明でいう「
高変形性」とは、圧縮歪みが10%以上の特性を有する本発明で得られた合金材料を意味
する。本発明でいう「高抵抗率」とは、抵抗率が140~230μΩ・cmの特性を有す
る本発明で得られた合金材料を意味する。本発明でいう「低抵抗率の温度係数」とは、抵
抗率の温度係数が-200~100ppm/kの特性を有する本発明で得られた合金材料
を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の技術的解決策を提供する。FeCrAl系抵抗合金は、原子百分率でFe
:52~59%、Cr:25~29%、Al:11~15%、Ti:2.5~5%及びS
i 1.5~3%の成分からなる。
【0009】
そのうち、Fe、Cr及びAlの原子百分率の合計は92%以上かつ96%以下であり、
Ti及びSiの原子百分率の合計は8%以下かつ4%以上であり、各成分の原子百分率の
合計は100%である。
【0010】
例えば、本発明における合金の原子百分率組成は、54%のFe、27%のCr、13.
5%のAl、4%のTi、1.5%のSi、又は、55%のFe、28%のCr、12%
のAl、3%のTi、2%のSi、又は52%のFe、29%のCr、14%のAl、2
%のTi、3%のSi、又は、59%のFe、26%のCr、11%のAl、2.5%の
Ti、1.5%のSi、又は56%のFe、25%のCr、13%のAl、3.5%のT
i、2.5%のSiなどであってもよいが、これらに限定されない。
【0011】
本発明の他の目的は、FeCrAl合金に合金元素であるTi及びSiを導入することに
より、FeCrAl合金のBCCマトリックスと整合する多成分ナノ分散相の形成が誘導
される、FeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能を向上させる方法を提供することに
ある。
【0012】
そのうち、Ti及びSiの原子百分率の合計は、全体の4~8%を占める。
【0013】
ここで、本発明でいう「BCCマトリックス」とは、体心立方マトリックスを意味する。
【0014】
本発明でいう「分散相」とは、過飽和固溶体からの析出によって形成された微細で分散分
布した固相を意味する。
【0015】
本発明のFeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能を向上させる方法の好ましい一態様
として、ここで、前記Tiの原子百分率の合計は、全体の2.5~5%を占め、前記Si
の原子百分率の合計は、全体の1.5~3%を占める。
【0016】
本発明のFeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能を向上させる方法の好ましい一態様
として、ここで、前記FeCrAl合金は、Fe、Cr及びAlからなり、Feの原子百
分率の合計が全体の52~59%を占め、Crの原子百分率の合計が全体の25~29%
を占め、Alの原子百分率の合計が全体の11~15%を占める。
【0017】
本発明のFeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能を向上させる方法の好ましい一態様
として、ここで、合金の各構成要素原子の配合比に応じて各成分原料を配合し、真空又は
不活性ガスの保護条件で溶錬し、鋳込み、合金材料が得られる。
【0018】
本発明でいう「溶錬」とは、金属材料を加熱炉に投入して溶融して粗金属を産出する乾式
冶金過程を意味し、懸濁炉、誘導炉、高炉、反射炉、アーク炉などの既存の設備を用いて
実施することができる。
【0019】
本発明のFeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能を向上させる方法の好ましい一態様
として、ここで、前記真空条件下で溶錬し、炉内の真空度を1~0.0001Paに維持
する。
【0020】
本発明のFeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能を向上させる方法の好ましい一態様
として、ここで、前記不活性ガス保護条件下で溶錬し、炉内の不活性ガスの圧力を0.0
00001~5MPaに維持する。
【0021】
本発明のFeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能を向上させる方法の好ましい一態様
として、ここで、前記溶錬は、溶錬の温度が1623~2473Kであり、0.01~1
h保温する。
【0022】
本発明のFeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能を向上させる方法の好ましい一態様
として、ここで、前記各成分原料は、純度が99wt.%以上の純金属元素粒子又はバル
ク体を用いて3~8回繰り返し溶錬する。
【0023】
本発明のFeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗性能を向上させる方法の好ましい一態様
として、ここで、得られた合金材料は、圧縮降伏強度が600~1400MPa、圧壊強
度が900~2200MPa、圧縮歪みが10%以上である。合金は、673K以下の広
い温度域での抵抗率が140~230μΩ・cmであり、抵抗率の温度係数が-200~
100ppm/kの特性を有する。
【効果】
【0024】
従来技術と比較すると、本発明は、以下のような有益な効果を有する。
本発明は、合金元素であるTi及びSiを適量導入することにより、BCCマトリックス
と整合する多成分ナノ分散相の形成が誘導されるという新たな方法を提供する。当該多成
分L21ナノ粒子相は、合金の圧縮強度を著しく向上させ、変形性が高まり、抵抗率を向
上させ、抵抗率の温度係数を低下させ、力学及び抵抗性能の全面的な向上を示す。本発明
によって提供される方法は、製造工程が簡単で、複雑な熱処理を行う必要がなく、鋳造状
態で優れた性能を得ることができる。これにより、従来のFeCrAl抵抗合金の高抵抗
率と低抵抗率の温度係数の兼ね備えが困難であり、高強度と高変形性の相乗能力が劣るな
どの課題を解決する新たな方法を提供することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
以下、本実用新案の実施例の技術的解決策をより明確に説明するために、実施例の説明に
使用する必要がある図面について簡単に説明する。なお、以下の説明における図面は、本
実用新案の一部の実施例に過ぎず、当業者にとっては、創造的な労働を行うことなく、こ
れらの図面に基づいて他の図面を得ることもできることは自明なことである。ここで、
図1】本発明の実施例1によって得られるFeCrAl系抵抗合金のXRDスペクトルを示す図である。
図2】本発明の実施例1によって得られるFeCrAl系抵抗合金のEBSD相分布図及び逆極図(IPF)を示す図である。
図3】本発明の実施例1によって得られるFeCrAl系抵抗合金のミクロ組織の走査型電子顕微鏡形態を示す図である。
図4】本発明の実施例1によって得られるFeCrAl系抵抗合金の透過型電子顕微鏡における高角環状暗視野像(HAADF)及び選択範囲電子回折スペクトルを示す図である。
図5】本発明の実施例1によって得られるFeCrAl系抵抗合金の透過型電子顕微鏡におけるHAADF像及びそれに対応するエネルギースペクトル分布を示す図である。
図6】本発明の実施例1によって得られるFeCrAl系抵抗合金の抵抗率-温度曲線を示す図である。
図7】本発明の実施例1によって得られるFeCrAl系抵抗合金室温における圧縮工程応力-歪み線図である。
図8】本発明の実施例1によって得られるFeCrAl系抵抗合金の673 Kでの圧縮工程応力-歪み線図である。
図9】本発明の実施例2によって得られるFeCrAl系抵抗合金のミクロ組織の走査型電子顕微鏡形態図である。
図10】本発明の実施例2によって得られるFeCrAl系抵抗合金の抵抗率-温度曲線を示す図である。
図11】本発明の実施例3によって得られるFeCrAl系抵抗合金のミクロ組織の走査型電子顕微鏡形態図である。
図12】本発明の実施例3によって得られるFeCrAl系抵抗合金の抵抗率-温度曲線を示す図である。
図13】本発明の実施例3によって得られるFeCrAl系抵抗合金の室温圧縮工程応力-歪み線図である。
図14】本発明の比較例1によって得られる合金のミクロ組織の走査型電子顕微鏡形態図である。
図15】本発明の比較例1によって得られる合金の抵抗率-温度曲線を示す図である。
図16】本発明の比較例1によって得られる合金の室温圧縮工程応力-歪み図である。
図17】本発明の比較例2によって得られる合金のミクロ組織の走査型電子顕微鏡形態図である。
図18】本発明の比較例2によって得られる合金の抵抗率-温度曲線を示す図である。
図19】本発明の比較例2によって得られる合金の室温圧縮工程応力-歪み線図である。
図20】本発明の比較例3によって提供される合金材料のXRDスペクトルを示す図である。
図21】本発明の比較例3によって提供される合金材料のEBSD相分布図及び逆極図(IPF)を示す図である。
図22】本発明の比較例3によって提供される合金材料のミクロ組織の走査型電子顕微鏡形態図である。
図23】本発明の比較例3によって提供される合金材料の走査型電子顕微鏡後方散乱電子像と、それに対応するエネルギースペクトル分布を示す図である。
図24】本発明の比較例3によって提供される合金材料の抵抗率-温度曲線を示す図である。
図25】本発明の比較例3によって提供される合金材料室温での圧縮工程応力-歪み線図である。
図26】本発明の比較例4によって提供される合金材料のミクロ組織の走査型電子顕微鏡形態図である。
図27】本発明の比較例4によって提供される合金材料の抵抗率-温度曲線を示す図である。
図28】本発明の比較例4によって提供される合金材料室温での圧縮工程応力-歪み線図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の上記目的、特徴及び利点をより明らかに分かりやすくするために、以下に、明細
書の実施例を組み合わせて本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。
【0027】
以下の説明では、本発明を充分に理解するために、多くの具体的な詳細を述べたが、本発
明は、ここで説明されたものと異なる他の方式で実施することもできる。当業者であれば
、本発明の内容に反することなく同様の拡張を行うことができるため、本発明は、以下に
開示された具体的な実施例によって限定されない。
【0028】
次に、ここでいう「一実施例」又は「実施例」とは、本発明の少なくとも1つの実現形態
に含まれ得る特定の特徴、構造又は特性を意味する。本明細書の異なる箇所に現れる「一
実施例において」は、すべてが同じ実施例を指すわけではなく、他の実施例と相互に排他
的な単独又は選択的な実施例を指すわけでもない。
実施例1
【0029】
原料は、各純元素に対応するバルク体を用いて、化学式Fe55Cr28Al12Ti
Si(原子百分率)に従って配合する。不活性ガス保護雰囲気下で懸濁溶錬を用いて溶
錬し、4回繰り返し溶錬する。溶錬時の真空度を0.001Paまで引き出した後、気圧
がわずかにプラスになるまでアルゴンガスを充填し、溶錬温度は1873Kで、5 mi
n保温し、直方体の形状に鋳込み、すなわち、実施例1のFeCrAl系抵抗合金が得ら
れた。
【0030】
図1及び図2から分かるように、実施例1によって得られるFeCrAl系抵抗合金の主
相は、BCC固溶体構造である。図3から分かるように、実施例1によって得られるFe
CrAl系抵抗合金には、分散分布しているナノ粒子が存在する。図4から分かるように
、実施例1によって得られるFeCrAl系抵抗合金におけるナノ分散粒子は、L21構
造を呈し、かつBCCマトリックスと完全に整合する関係を示し、粒子のサイズは45
± 11nmで、面積百分率は33% ± 4%である。図5から分かるように、実施例
1によって得られるFeCrAl系抵抗合金に分散分布しているL21構造のナノが同じ
であれば、Al、Ti及びSi元素に富み、Fe及びCr元素に欠乏している。図6から
分かるように、実施例1によって得られるFeCrAl系抵抗合金は、室温抵抗率が~1
83 μΩ・cmと高く、673 Kまで昇温されると依然として~181 μΩ・cm
に維持する。室温から673 Kまでの温度範囲における抵抗率の温度係数は、-35
± 10 ppm/Kと低い。図7から分かるように、実施例1によって得られるFeC
rAl系抵抗合金は、室温での圧縮降伏強度が約1096MPa、圧壊強度が約1694
MPa、圧縮歪みが約20%である。図8から分かるように、実施例1によって得られる
FeCrAl系抵抗合金は、673 Kにおける圧縮降伏強度が約1055MPaであり
、圧壊強度が1980MPaと高く、圧縮歪みが35%と高い。
実施例2
【0031】
原料は、各純元素に対応するバルク体を用いて、化学式Fe55Cr28Al12Ti
Si(原子百分率)に従って配合する。不活性ガス保護雰囲気下で懸濁溶錬を用いて溶
錬し、4回繰り返し溶錬する。溶錬時の真空度を0.001Paまで引き出した後、気圧
がわずかにプラスになるまでアルゴンガスを充填し、溶錬温度は1873 Kで、5 m
in保温し、直方体の形状に鋳込み、合金を4 K/minの昇温速度で室温から673
Kまで昇温して急速焼入れした後、すなわち、実施例2のFeCrAl系抵抗合金が得
られた。
【0032】
図9及び10から分かるように、実施例2によって得られるFeCrAl系抵抗合金にお
けるL21構造のナノ分散相は、673 K温度で安定した状態を保ち、室温から673
Kまでの温度範囲における低抵抗率の温度係数(-46 ppm/K)を決定する。
実施例3
【0033】
原料は、各純元素に対応するバルク体を用いて、化学式Fe54Cr27Al13.5
Si1.5(原子百分率)に従って配合する。アーク溶錬により不活性ガス保護雰囲
気下で溶錬し、4回繰り返し溶錬する。溶錬時の真空度を0.001Paまで引き出した
後、気圧がわずかにプラスになるまでアルゴンガスを充填し、溶錬温度は1873 K、
すなわち、実施例3のFeCrAl系抵抗合金が得られた。
【0034】
図11から分かるように、実施例3によって得られるFeCrAl系抵抗合金には、ナノ
粒子が分散分布している。図12から分かるように、実施例3によって得られるFeCr
Al系抵抗合金は、室温抵抗率が~184 μΩ・cmと高く、673 Kまで昇温され
ると依然として~180 μΩ・cmに留まる。室温から673 Kまでの温度範囲にお
ける抵抗率の温度係数は、-58 ppm/Kと低い。図13から分かるように、実施例
3によって得られるFeCrAl系抵抗合金は、圧縮降伏強度が約1243MPa、圧壊
強度が約1823MPa、圧縮歪みが約17%である。
比較例1
【0035】
原料は、各純元素に対応するバルク体を用いて、化学式Fe58Cr22Al15Ti
Si(原子百分率)に従って配合する。不活性ガス保護雰囲気下でアーク溶錬を用いて
溶錬し、4回繰り返し溶錬する。溶錬時の真空度を0.001Paまで引き出した後、気
圧がわずかにプラスになるまでアルゴンガスを充填し、溶錬温度は1873Kで、すなわ
ち、比較例1における合金が得られた。
【0036】
図14から分かるように、比較例1によって得られる合金にナノ粒子が存在する兆候が見
られる。図15から分かるように、比較例1によって得られる合金は、室温抵抗率が約2
04 μΩ・cmである。室温から673 Kまでの温度範囲における抵抗率の温度係数
は、約-159 ppm/Kである。図16から分かるように、比較例1によって得られ
る合金は、圧縮降伏強度が約850MPa、圧壊強度が約1878MPa、圧縮歪みが約
30%である。
比較例2
【0037】
原料は、各純元素に対応するバルク体を用いて、化学式Fe56Cr25Al14Ti
Si(原子百分率)に従って配合する。、アーク溶錬により不活性ガス保護雰囲気下で
溶錬し、4回繰り返し溶錬する。溶錬時の真空度を0.001Paまで引き出した後、気
圧がわずかにプラスになるまでアルゴンガスを充填し、溶錬温度は1873K、すなわち
、比較例2における合金が得られた。
【0038】
図17から分かるように、比較例2によって得られる合金に分散しているナノ粒子が存在
する。図18から分かるように、比較例2によって得られる合金は、室温抵抗率が約19
7 μΩ・cmである。室温から673Kまでの温度範囲における抵抗率の温度係数は、
約-171 ppm/Kである。図19から分かるように、比較例2によって得られる合
金は、圧縮降伏強度が約980MPa、圧壊強度が約2026MPa、圧縮歪みが約30
%である。
比較例3
【0039】
原料は、各純元素に対応するバルク体を用いて、化学式Fe55Cr28Al12Ti
Si(原子百分率)に従って配合する。懸濁溶錬を用いて不活性ガス保護雰囲気下で溶
錬し、4回繰り返し溶錬する。溶錬時の真空度を0.001Paまで引き出した後、気圧
がわずかにプラスになるまでアルゴンガスを充填し、溶錬温度は1873 K、5 mi
n保温し、直方体の形状に鋳込む。次に、アルゴンガス保護雰囲気で(アルゴンガス圧力
が10Pa)、温度1573 Kで、高温均一化処理を行い、3時間均一化処理した後に
油焼入れを行い、すなわち、比較例3の合金が得られた。
【0040】
図20及び21から分かるように、比較例3によって得られる合金は、単相BCC構造を
呈している。図22及び23は、比較例3によって得られる合金に分散分布しているナノ
粒子が存在しないことをさらに確認する。図24から分かるように、比較例3によって得
られる合金は、室温から673 Kまでの温度範囲における抵抗率の温度係数が-163
± 10 ppm/Kである。図25から分かるように、比較例3によって得られる合
金は、圧縮降伏強度が約1191MPa、圧壊強度がわずか1254MPa、圧縮歪みが
わずか8%であった。
比較例4
【0041】
原料は、各純元素に対応するバルク体を用いて、化学式Fe55Cr29Al16(原子
百分率)に従って配合する。アーク溶錬により、不活性ガス保護雰囲気下で溶錬し、4回
繰り返し溶錬する。溶錬時の真空度を0.001Paまで引き出した後、気圧がわずかに
プラスになるまでアルゴンガスを充填し、溶錬温度は1873K、すなわち、比較例4の
合金が得られた。
【0042】
図26から分かるように、比較例4によって得られる合金は、単相BCC構造である。図
27から分かるように、比較例4によって得られる合金は、室温から673 Kまでの温
度範囲における抵抗率の温度係数が約-146 ppm/Kである。図28から分かるよ
うに、比較例4によって得られる合金は、圧縮降伏強度が実施例1又は2の強度よりはる
かに低かった。
比較例5
【0043】
公開文献Metallurgical transactions Aの[T. Nao
hara,A. Inoue,T.Minemura,T.Masumoto,K. K
umada,Metallurgical transactions A 13 (1
982) 337-343]記載によれば、従来のFe65Cr20Al15、Fe60
Cr20Al20、Fe50Cr30Al20合金の室温抵抗率は、それぞれ156 μ
Ω・cm、180 μΩ・cm及び186 μΩ・cmである。室温から673 Kまで
の範囲における抵抗率の温度係数は、それぞれ-17 ppm/K、-73 ppm/K
及び-85 ppm/Kである。すなわち、高抵抗率と低抵抗率の温度係数を兼ね備える
ことは困難である。
【0044】
実施例1、2と3を比較すると、本発明が提供する方法によって最適化された合金に存在
するBCCマトリックスと完全に整合する多成分L21ナノ分散相は、673 Kで安定
した状態を保ち、最適化された合金は、優れた中温力学性能を備えるとともに、高抵抗率
と673 K以内の抵抗率-温度安定性を維持していることが分かる。
【0045】
実施例1と比較例1、2を比較すると、導入されたTi及びSi元素の含有量が本発明の
範囲内でないときに得られた合金は、抵抗率の温度安定性が実施例1よりも明らかに劣る
ことが分かる。
【0046】
実施例1と比較例3を比較すると、本発明の方法によって提供されるBCCマトリックス
と完全に整合する多成分L21ナノ分散相を含まない合金、すなわち、比較例3の合金は
、圧壊強度、圧縮歪み及び抵抗率温度安定性がいずれも実施例1よりも劣ることが分かる
。実施例1と比較例4を比較すると、Ti及びSi元素を導入しない合金の圧縮降伏強度
は、本発明の最適化後に得られる合金の降伏強度よりはるかに低く、かつ抵抗率の温度安
定性が悪いことが分かる。すなわち、本発明では、合金元素であるTi及びSiを適量導
入することにより、体心立方(BCC)マトリックスと整合する多成分ナノ分散相である
多成分L21ナノ分散相の形成が誘導され、変形性及び673K以内の抵抗率-温度安定
性を効果的に向上させることができる。実施例1と比較例5を比較すると、本発明の方法
によって取得された合金は、高抵抗率と低抵抗率の温度係数を兼ね備えることが分かる。
【0047】
本発明は、合金元素であるTi及びSiを適量導入することにより、BCCマトリックス
と整合する多成分ナノ分散相の形成が誘導されるFeCrAl系抵抗合金の力学及び抵抗
性能を向上させる方法を提供する。以下の特徴がある。まず、合金元素であるTi及びS
iを適量導入し、BCCマトリックスと完全に整合する多成分ナノ分散相の形成が誘導さ
れる。当該整合する多成分ナノ分散相は、高強度を維持しながら、加工硬化能力を向上さ
せることにより、圧壊強度と圧縮歪みを向上させる。次に、当該多成分が整合するナノ分
散相の存在により、抵抗率の温度係数が低下する。また、添加された合金元素であるTi
及びSiは、原子半径がFe及びCr元素の原子半径と大きく異なり、格子歪みが大きく
なり、合金における固溶強化効果と格子散乱作用を効果的に向上させることにより、強度
と抵抗率を向上させる。また、当該合金は、従来のFeCrAl合金に比べて、希少金属
元素を含まないことで、環境に優しい抵抗合金に発展することができる。すなわち、本発
明が提供する技術的手段により、広い温度域で高強度、高変形性、高抵抗率、低抵抗率の
温度係数を兼ね備えるという優れた総合特性を実現することができる。
【0048】
なお、以上の実施例は、本発明の技術的解決策を説明するためにのみ使用され、限定する
ものではない。本発明は、好ましい実施例を参照して詳しく説明したが、当業者であれば
、本発明の技術的解決策の精神及び範囲を逸脱することなく、本発明の技術的解決策を修
正又は均等に置換することができ、そのすべてが本発明の特許請求の範囲に含まれるべき
であることを理解されるはずである。
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【図
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【国際調査報告】