(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】二重特異性PD-1及びTIGIT結合タンパク質並びにその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240416BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240416BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240416BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240416BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240416BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240416BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240416BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240416BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240416BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240416BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20240416BHJP
A61K 31/282 20060101ALI20240416BHJP
A61K 33/243 20190101ALI20240416BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20240416BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20240416BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240416BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 D
A61K39/395 U
A61K39/395 N
A61P35/00
A61K31/519
A61K31/282
A61K33/243
A61K31/7068
A61K31/337
A61K48/00
A61K31/7088
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558151
(86)(22)【出願日】2022-04-29
(85)【翻訳文提出日】2023-10-17
(86)【国際出願番号】 IB2022053997
(87)【国際公開番号】W WO2022229919
(87)【国際公開日】2022-11-03
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】504333972
【氏名又は名称】メディミューン,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メイゾル、ヤリヴ
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ユエ
(72)【発明者】
【氏名】ムーディー、ゴードン
(72)【発明者】
【氏名】マルホトラ、ディーパリ
(72)【発明者】
【氏名】オーヴァーストリート、マイケル
(72)【発明者】
【氏名】クランシー-トンプソン、エレノア
(72)【発明者】
【氏名】リー、カリン
(72)【発明者】
【氏名】プリッツ、ステイシー
(72)【発明者】
【氏名】ハモンド、スコット
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C084AA13
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB11
4C085BB36
4C085BB42
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086CB05
4C086EA16
4C086EA17
4C086HA09
4C086HA12
4C086HA24
4C086HA28
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB26
4C206AA01
4C206AA02
4C206JB16
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZB26
4H045AA11
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA54
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、PD-1(Programmed Death-1)並びにTIGIT(T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)に特異的に結合する抗体を含む、結合タンパク質に関する。本開示はまた、かかる結合タンパク質及びかかる結合タンパク質をコードする核酸分子を含む組成物を提供する。本開示は更に、かかる結合タンパク質を使用して障害又は症状を治療する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PD-1及びTIGITに特異的に結合する二重特異性結合タンパク質であって、
a)PD-1に特異的に結合する第1の結合ドメインであって、配列番号1のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号2のアミノ酸配列を有するHCDR2、及び配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変ドメイン、並びに配列番号4のアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号5のアミノ酸配列を有するLCDR2、及び配列番号6のアミノ酸配列を有するLCDR3を含む軽鎖可変ドメインを含む、第1の結合ドメインと、
b)TIGITに特異的に結合する第2の結合ドメインであって、配列番号11のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号12のアミノ酸配列を有するHCDR2、及び配列番号13のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変ドメイン、並びに配列番号14のアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号15のアミノ酸配列を有するLCDR2、及び配列番号16のアミノ酸配列を有するLCDR3を含む軽鎖可変ドメインを含む、第2の結合ドメインと、を含む二重特異性結合タンパク質。
【請求項2】
PD-1に特異的に結合する前記第1の結合ドメインが、配列番号7のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインと、配列番号9のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインとを含む、請求項1に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項3】
PD-1に特異的に結合する前記第1の結合ドメインが、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインと、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインとを含む、請求項1に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項4】
PD-1に特異的に結合する前記第1の結合ドメインが、配列番号8のアミノ酸配列を有する重鎖と、配列番号10のアミノ酸配列を有する軽鎖とを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項5】
PD-1に特異的に結合する前記第1の結合ドメインが、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖と、配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖とを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項6】
TIGITに特異的に結合する前記第2の結合ドメインが、配列番号17のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインと、配列番号19のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインとを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項7】
TIGITに特異的に結合する前記第2の結合ドメインが、配列番号17のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインと、配列番号19のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインとを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項8】
TIGITに特異的に結合する前記第2の結合ドメインが、配列番号18のアミノ酸配列を有する重鎖と、配列番号20のアミノ酸配列を有する軽鎖とを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項9】
TIGITに特異的に結合する前記第2の結合ドメインが、配列番号18のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖と、配列番号20のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖とを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項10】
前記軽鎖定常領域が、カッパ鎖である、請求項4に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項11】
前記軽鎖定常領域が、ラムダ鎖である、請求項8に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項12】
前記結合タンパク質が、抗体である、請求項1~11のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項13】
前記抗体が、IgG抗体である、請求項12に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項14】
前記抗体が、IgG1抗体である、請求項13に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項15】
前記抗体が、ヒト抗体又はヒト化抗体である、請求項13又は14に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項16】
前記二重特異性結合タンパク質-ヒトTIGIT相互作用の平衡解離定数(K
D)が、約15pM以下である、請求項1~15のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項17】
前記二重特異性結合タンパク質-ヒトTIGIT相互作用の平衡解離定数(K
D)が、約9pM以下である、請求項1~15のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項18】
前記二重特異性結合タンパク質-ヒトTIGIT相互作用の平衡解離定数(K
D)が、約9pM~約15pMである、請求項1~14のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項19】
前記二重特異性結合タンパク質-ヒトPD-L1相互作用の平衡解離定数(K
D)が、約0.4nM以下である、請求項1~18のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項20】
前記二重特異性結合タンパク質-ヒトPD-L1相互作用の平衡解離定数(K
D)が、約0.3nM~約0.5nMである、請求項1~19のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項21】
変異Fc領域を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項22】
インビボで補体依存性細胞傷害を誘発しない、請求項21に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項23】
野生型Fc領域を有する二重特異性結合タンパク質と比較して低減された補体依存性細胞傷害を有する、請求項21に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項24】
インビボで抗体依存性細胞傷害を誘発しない、請求項21に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項25】
野生型Fc領域を有する二重特異性結合タンパク質と比較して低減された抗体依存性細胞傷害を有する、請求項21に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項26】
Kabatに記載されたEUインデックスによって番号付けされたときに、221K, 221Y, 225E, 225K, 225W, 228P, 234D, 234E, 234N, 234Q, 234T, 234H, 234Y, 234I, 234V, 234F, 235A, 235D, 235R, 235W, 235P, 235S, 235N, 235Q, 235T, 235H, 235Y, 235I, 235V, 235E, 235F, 236E, 237L, 237M, 237P, 239D, 239E, 239N, 239Q, 239F, 239T, 239H, 239Y, 240I, 240A, 240T, 240M, 241W, 241L, 241Y, 241E, 241R, 243W, 243L 243Y, 243R, 243Q, 244H, 245A, 247L, 247V, 247G, 250E, 250Q, 251F, 252L, 252Y, 254S, 254T, 255L, 256E, 256F, 256M, 257C, 257M, 257N, 262I, 262A, 262T, 262E, 263I, 263A, 263T, 263M, 264L, 264I, 264W, 264T, 264R, 264F, 264M, 264Y, 264E, 265A, 265G, 265N, 265Q, 265Y, 265F, 265V, 265I, 265L, 265H, 265T, 266I, 266A, 266T, 266M, 267Q, 267L, 268E, 269H, 269Y, 269F, 269R, 270E, 280A, 284M, 292P, 292L, 296E, 296Q, 296D, 296N, 296S, 296T, 296L, 296I, 296H, 296G, 297S, 297D, 297E, 298A, 298H, 298I, 298T, 298F, 299I, 299L, 299A, 299S, 299V, 299H, 299F, 299E, 305I, 308F, 313F, 316D, 318A, 318S, 320A, 320S, 322A, 322S, 325Q, 325L, 3251, 325D, 325E, 325A, 325T, 325V, 325H, 326A, 326D, 326E, 326G, 326M, 326V, 327G, 327W, 327N, 327L, 328S, 328M, 328D, 328E, 328N, 328Q, 328F, 3281, 328V, 328T, 328H, 328A, 329F, 329H, 329Q, 330K, 330G, 330T, 330C, 330L, 330Y, 330V, 3301, 330F, 330R, 330H, 331G, 331A, 331L, 331M, 331F, 331W, 331K, 331Q, 331E, 331S, 331V, 3311, 331C, 331Y, 331H, 331R, 331N, 331D, 331T, 332D, 332S, 332W, 332F, 332E, 332N, 332Q, 332T, 332H, 332Y, 332A, 333A, 333D, 333G, 333Q, 333S, 333V, 334A, 334E, 334H, 334L, 334M, 334Q, 334V, 334Y, 339T, 370E, 370N, 378D, 392T, 396L, 416G, 419H, 421K, 428L, 428F, 433K, 433L, 434A, 434W, 434Y, 436H, 440Y 及び443Wから選択される少なくとも1つの置換を含む変異体Fc領域を含む、請求項21に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項27】
前記変異Fc領域が、Kabatに記載されたEUインデックスによって番号付けされた428及び434から選択される位置に1つ以上のアミノ酸置換を含む、請求項21に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項28】
前記変異Fc領域が、428L, 428F, 434A, 434W及び434Yから選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、請求項21~27のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項29】
前記変異Fc領域が、YTE変異を含む、請求項21~28のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項30】
前記変異Fc領域が、FcRnに対する増加した結合親和性を有する、請求項21~29のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項31】
前記変異Fc領域が、L234F/L235E/P331S三重変異(TM)を含む、請求項21~30のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項32】
Fc領域を含み、前記Fc領域がグリコシル化されていない(aglycosylate)、請求項12~31のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項33】
Fc領域を含み、前記Fc領域が脱グリコシル化(deglycosylate)されている、請求項12~31のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項34】
Fc領域を含む、請求項12~31のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質であって、前記Fc領域が、低減されたフコシル化を有するか、又はフコシル化されていない、二重特異性結合タンパク質。
【請求項35】
請求項1~34のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項36】
ペメトレキセド、カルボプラチン、ゲムシタビン、シスプラチン、パクリタキセル又はそれらの組合せから選択される抗癌化合物を更に含む、請求項35に記載の医薬組成物。
【請求項37】
請求項1~34のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸。
【請求項38】
前記核酸配列が、配列番号21と少なくとも95%同一の配列、配列番号23と少なくとも95%同一の配列、配列番号25と少なくとも95%同一の配列、及び/又は配列番号27と少なくとも95%同一の配列を含む、請求項37に記載の核酸。
【請求項39】
前記核酸配列が、配列番号21、配列番号23、配列番号25、及び/又は配列番号27を含む、請求項37に記載の核酸。
【請求項40】
前記核酸配列が、配列番号22と少なくとも95%同一の配列、配列番号24と少なくとも95%同一の配列、配列番号26と少なくとも95%同一の配列、及び/又は配列番号28と少なくとも95%同一の配列を含む、請求項37に記載の核酸。
【請求項41】
前記核酸配列が、配列番号22、配列番号24、配列番号26、及び/又は配列番号28を含む、請求項37に記載の核酸。
【請求項42】
請求項37~41のいずれか一項に記載の核酸を含むベクター。
【請求項43】
請求項42に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項44】
配列番号21と少なくとも95%同一である核酸配列、配列番号23と少なくとも95%同一である核酸配列、配列番号25と少なくとも95%同一である核酸配列、及び配列番号27と少なくとも95%同一である核酸配列を含むベクターを含む宿主細胞。
【請求項45】
配列番号22と少なくとも95%同一の核酸配列、配列番号24と少なくとも95%同一の核酸配列、配列番号26と少なくとも95%同一の核酸配列、及び配列番号28と少なくとも95%同一の核酸配列を含むベクターを含む、請求項44に記載の宿主細胞。
【請求項46】
請求項43~45のいずれか一項に記載の宿主細胞によって発現される二重特異性抗体。
【請求項47】
腫瘍を有する対象を治療する方法であって、前記対象に、治療有効量の請求項1~34のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質、請求項35若しくは36に記載の医薬組成物、又は請求項37~41のいずれか一項に記載の核酸を投与することを含む、方法。
【請求項48】
対象における癌を治療又は予防する方法であって、前記対象に、請求項1~34のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質、請求項35若しくは36に記載の医薬組成物、又は請求項37~41のいずれか一項に記載の核酸を投与することを含む、方法。
【請求項49】
前記癌が、卵巣癌、乳癌、結腸直腸癌、前立腺癌、子宮頸癌、子宮癌、精巣癌、膀胱癌、頭頸部癌、黒色腫、膵臓癌、腎細胞癌、及び肺癌のうちの1つ以上である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記癌が、非小細胞肺癌(NSCLC)である、請求項48又は49に記載の方法。
【請求項51】
前記NSCLCが、進行性又は転移性である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
対象における免疫応答を増強する方法であって、前記対象に、請求項1~34のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質、請求項35若しくは36に記載の医薬組成物、又は請求項37~41のいずれか一項に記載の核酸を投与することを含む方法。
【請求項53】
治療に使用するための、請求項1~34のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項54】
癌の治療に使用するための、請求項1~34のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質。
【請求項55】
癌の治療のための医薬の製造における、請求項1~34のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質の使用。
【請求項56】
治療に使用するための、請求項37~41のいずれか一項に記載の核酸。
【請求項57】
癌の治療に使用するための、請求項37~41のいずれか一項に記載の核酸。
【請求項58】
癌の治療のための医薬の製造における、請求項37~41のいずれか一項に記載の核酸の使用。
【請求項59】
腫瘍を有する対象を治療する方法であって、ペメトレキセド、カルボプラチン、ゲムシタビン、シスプラチン、パクリタキセル又はそれらの組合せから選択される抗癌化合物と組み合わせて、治療有効量の請求項1~34のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質、請求項35若しくは36に記載の医薬組成物、又は請求項37~41のいずれか一項に記載の核酸を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項60】
対象における癌を治療又は予防する方法であって、請求項1~34のいずれか一項に記載の二重特異性結合タンパク質、請求項35若しくは36に記載の医薬組成物、又は請求項37~41のいずれか一項に記載の核酸を、ペメトレキセド、カルボプラチン、ゲムシタビン、シスプラチン、パクリタキセル又はそれらの組合せから選択される抗癌化合物と組み合わせて投与することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年4月30日に出願された米国仮特許出願第63/182,156号の優先権を主張し、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
電子的に提出された資料の参照による組み込み
2022年4月26日に作成され、本明細書と同時に提出された、「TIGIT-101-WO-PCT_SL_ST25.TXT」と命名された28,168バイトのASCII(テキスト)ファイルとして特定されるコンピュータ可読ヌクレオチド/アミノ酸配列リストは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
本開示は、「PD-1」(Programmed Death-1)並びに「TIGIT」(T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)に特異的に結合する抗体を含む、結合タンパク質に関する。本開示はまた、かかる結合タンパク質及びかかる結合タンパク質をコードする核酸分子を含む組成物を提供する。本開示は更に、かかる結合タンパク質を使用して障害又は症状を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
「PD-1」(Programmed Death-1)は、T細胞調節因子の拡張CD28/CTLA4ファミリーのメンバーである約31kDのI型膜タンパク質である(Ishida et al.,”Induced Expression of PD-1,A Novel Member of the Immunoglobulin Gene Superfamily,Upon Programmed Cell Death,”EMBO J.11:3887-95(1992)を参照されたい)。PD-1は、活性化T細胞、B細胞、及び単球上で発現され、ナチュラルキラー(NK)T細胞では低レベルで発現される。PD-1は、腫瘍学における免疫媒介療法のための十分に検証された標的である。PD-1/PD-L1相互作用の拮抗阻害は、T細胞活性化を増加させ、宿主免疫系による腫瘍細胞の認識及び排除を増強する。
【0005】
TIGIT(T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domainsとしても知られる)は、幾つかのT細胞及びナチュラルキラー細胞(NK)上に存在する免疫受容体である。TIGITは、活性化T細胞、ナチュラルキラー細胞、及び制御性T細胞を含む免疫細胞によって上方制御される。
【発明の概要】
【0006】
本明細書では、
a)配列番号1のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号2のアミノ酸配列を有するHCDR2、及び配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変ドメインと、配列番号4のアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号5のアミノ酸配列を有するLCDR2、及び配列番号6のアミノ酸配列を有するLCDR3を含む軽鎖可変ドメインとを含む、PD-1に特異的に結合する第1の結合ドメインと、
b)配列番号11のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号12のアミノ酸配列を有するHCDR2、及び配列番号13のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変ドメインと、配列番号14のアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号15のアミノ酸配列を有するLCDR2、及び配列番号16のアミノ酸配列を有するLCDR3を含む軽鎖可変ドメインとを含む、TIGITに特異的に結合する第2の結合ドメインと、
を含む、PD-1及びTIGITに特異的に結合する二重特異性結合タンパク質が提供される。
【0007】
本明細書では、治療有効量の本明細書に開示される二重特異性結合タンパク質を対象に投与することを含む、腫瘍を有する対象を治療する方法も提供される。本明細書では、本明細書に開示される二重特異性結合タンパク質を投与することを含む、対象における癌を治療又は予防する方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1-1】親VAR1可変重鎖において同定された残基の配列分析を示す。
【
図1-2】親VAR1可変重鎖において同定された残基の配列分析を示す。
【
図2-1】親VAR1可変軽鎖において同定された残基の配列分析を示す。
【
図2-2】親VAR1可変軽鎖において同定された残基の配列分析を示す。
【
図3A】
図3A、3B-1及び3B-2は、親VAR1の可変重鎖と生殖系列配列とのアラインメントを示す。
図3AのCDRは、Chothia番号付けシステムに従って強調されている。アラインメントは、親VAR1が、生殖系列ではなく、バーニア残基ではない4つのアミノ酸をFR1中に有したことを示す。
【
図3B-1】
図3A、3B-1及び3B-2は、親VAR1の可変重鎖と生殖系列配列とのアラインメントを示す。
図3B-1及び3B-2のCDRは、IMGT番号付けシステムに従って強調されている。アラインメントは、親VAR1が、生殖系列ではなく、バーニア残基ではない4つのアミノ酸をFR1中に有したことを示す。
【
図3B-2】
図3A、3B-1及び3B-2は、親VAR1の可変重鎖と生殖系列配列とのアラインメントを示す。
図3B-1及び3B-2のCDRは、IMGT番号付けシステムに従って強調されている。アラインメントは、親VAR1が、生殖系列ではなく、バーニア残基ではない4つのアミノ酸をFR1中に有したことを示す。
【
図4A】
図4A、4B-1、及び4B-2は、親VAR1の可変軽鎖と生殖系列配列とのアラインメントを示す。アラインメントは、親VAR1のVLが、生殖系列ではない10個のアミノ酸、FR3中のバーニア残基Q(Q-K)、CDRL3の前の鎖パッキング残基F(F-Y)、及びCDRL3の後の鎖パッキング残基L(L-F)を有したことを示す。
【
図4B-1】
図4A、4B-1、及び4B-2は、親VAR1の可変軽鎖と生殖系列配列とのアラインメントを示す。アラインメントは、親VAR1のVLが、生殖系列ではない10個のアミノ酸、FR3中のバーニア残基Q(Q-K)、CDRL3の前の鎖パッキング残基F(F-Y)、及びCDRL3の後の鎖パッキング残基L(L-F)を有したことを示す。
【
図4B-2】
図4A、4B-1、及び4B-2は、親VAR1の可変軽鎖と生殖系列配列とのアラインメントを示す。アラインメントは、親VAR1のVLが、生殖系列ではない10個のアミノ酸、FR3中のバーニア残基Q(Q-K)、CDRL3の前の鎖パッキング残基F(F-Y)、及びCDRL3の後の鎖パッキング残基L(L-F)を有したことを示す。
【
図5】VAR1変異体が効率的な発現及びペアリング特性を維持したことを示す。
【
図6A】
図6A及び6Bは、VAR1変異体が、ヒト及びカニクイザルTIGIT OE 293に対する親mAbの細胞結合特性を保持していたことを示す。データを蛍光強度の中央値(MFI)として示す。
【
図6B】
図6A及び6Bは、VAR1変異体が、ヒト及びカニクイザルTIGIT OE 293に対する親mAbの細胞結合特性を保持していたことを示す。データを蛍光強度の中央値(MFI)として示す。
【
図7】本明細書に開示される結合タンパク質の特定の態様の特徴及び形式を示す。
【
図8A】
図8Aは、抗原捕捉フォーマットを用いた同時結合を示す。ヒトTIGIT抗原をロードしたセンサーを、最初にAZD2936と、次いでヒトPD-1との連続的な会合及び解離相互作用に曝露した。Asso:会合;Disso:解離;SA:ストレプトアビジン。
【
図8B】
図8Bは、抗原捕捉フォーマットを用いた同時結合を示す。ヒトPD-1抗原をロードしたセンサーを、最初にAZD2936と、次いでヒトTIGITとの連続的な会合及び解離相互作用に曝露した。Asso:会合;Disso:解離;Ni-NTA:ニッケルニトリロ三酢酸。
【
図9A】
図9A~9Cは、AZD2936が、単一特異性抗体と比較してPD-1及びTIGITへの結合活性を示したことを示す。
図9Aは、操作されたJurkat PD-1
-TIGIT
+細胞上のヒトTIGIT受容体へのAZD2936の細胞結合を示す。MFI=幾何平均蛍光強度;PD-1=programmed cell-death protein 1;TIGIT=T cell immunoreceptor with Ig and immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif domains。ヒト単一発現細胞株への細胞結合:Jurkat PD-1
-TIGIT
+及びJurkat PD-1
+TIGIT
-又はヒト二重発現Jurkat PD-1
+TIGIT
+試験物品及び対照物品の抗体を、蛍光コンジュゲートヤギ抗ヒトIgG二次抗体を用いて検出し、フローサイトメトリーによって評価した。
【
図9B】
図9A~9Cは、AZD2936が、単一特異性抗体と比較してPD-1及びTIGITへの結合活性を示したことを示す。
図9Bは、操作されたJurkat PD-1
+TIGIT
-細胞上のヒトPD-1受容体へのAZD2936の細胞結合を示す。MFI=幾何平均蛍光強度;PD-1=programmed cell-death protein 1;TIGIT=T cell immunoreceptor with Ig and immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif domains。ヒト単一発現細胞株への細胞結合:Jurkat PD-1
-TIGIT
+及びJurkat PD-1
+TIGIT
-又はヒト二重発現Jurkat PD-1
+TIGIT
+試験物品及び対照物品の抗体を、蛍光コンジュゲートヤギ抗ヒトIgG二次抗体を用いて検出し、フローサイトメトリーによって評価した。
【
図9C】
図9A~9Cは、AZD2936が、単一特異性抗体と比較してPD-1及びTIGITへの結合活性を示したことを示す。
図9Cは、Jurkat PD-1
-TIGIT
+、Jurkat PD-1
+TIGIT
-、又は二重発現Jurkat PD-1
+TIGIT
+上のヒトPD-1及びTIGIT受容体へのAZD2936の細胞結合を示す。MFI=幾何平均蛍光強度;PD-1=programmed cell-death protein 1;TIGIT=T cell immunoreceptor with Ig and immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif domainsヒト単一発現細胞株への細胞結合:Jurkat PD-1
-TIGIT
+及びJurkat PD-1
+TIGIT
-又はヒト二重発現Jurkat PD-1
+TIGIT
+試験物品及び対照物品の抗体を、蛍光コンジュゲートヤギ抗ヒトIgG二次抗体を用いて検出し、フローサイトメトリーによって評価した。
【
図10A】
図10A~10Cは、AZD2936が、Jurkatレポーターアッセイを用いて、単一特異性抗体と比較して、PD-1及びTIGITリガンドを遮断することでTCR媒介シグナル伝達を増強する活性を実証したことを示す。
図10Aは、ヒトPD 1
+TIGIT
-Jurkat T細胞NFAT-ルシフェラーゼレポーター2細胞共培養アッセイにおけるAZD2936及び抗PD-1抗体の生物活性を示す。CD155=分化抗原群155;CHO=チャイニーズハムスター卵巣;NFAT=nuclear factor of activated T cells;PD-1=programmed cell-death protein 1;RLU=相対光単位;SD=標準偏差;TCR=T細胞受容体;TIGIT=T cell immunoreceptor with Ig and immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif domains。
【
図10B】
図10A~10Cは、AZD2936が、Jurkatレポーターアッセイを用いて、単一特異性抗体と比較して、PD-1及びTIGITリガンドを遮断することでTCR媒介シグナル伝達を増強する活性を実証したことを示す。
図10Bは、ヒトPD-1
-TIGIT
+Jurkat T細胞NFATルシフェラーゼレポーター2細胞共培養アッセイにおけるAZD2936の生物活性を示す。CD155=分化抗原群155;CHO=チャイニーズハムスター卵巣;NFAT=nuclear factor of activated T cells;PD-1=programmed cell-death protein 1;RLU=相対光単位;SD=標準偏差;TCR=T細胞受容体;TIGIT=T cell immunoreceptor with Ig and immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif domains。
【
図10C】
図10A~10Cは、AZD2936が、Jurkatレポーターアッセイを用いて、単一特異性抗体と比較して、PD-1及びTIGITリガンドを遮断することでTCR媒介シグナル伝達を増強する活性を実証したことを示す。
図10Cは、ヒトPD-1
+TIGIT
+Jurkat T細胞NFATルシフェラーゼレポーター2細胞共培養アッセイにおけるAZD2936の生物活性を示す。CD155=分化抗原群;155;CHO=チャイニーズハムスター卵巣;NFAT=nuclear factor of activated T cells;PD-1=programmed cell-death protein 1;RLU=相対光単位;SD=標準偏差;TCR=T細胞受容体TIGIT=T cell immunoreceptor with Ig and immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif domains。
【
図11A】
図11A~11Dは、実施例4に記載される細胞死滅アッセイにおけるAZD2936の細胞死滅活性及びIFN-γ放出の刺激を示す。
図11Aは、5人のドナーからのPBMCについてのデータを示す。
【
図11B】
図11A~11Dは、実施例4に記載される細胞死滅アッセイにおけるAZD2936の細胞死滅活性及びIFN-γ放出の刺激を示す。
図11Bは、AZD2936及び他の抗体に応答して、T細胞及びヒト腫瘍細胞共培養アッセイから放出されたヒトIFN-γの増加倍率を示す。
【
図11C】
図11A~11Dは、実施例4に記載される細胞死滅アッセイにおけるAZD2936の細胞死滅活性及びIFN-γ放出の刺激を示す。
図11Cは、10nM~0.1pMの抗体の濃度滴定を示す。
【
図11D】
図11A~11Dは、実施例4に記載される細胞死滅アッセイにおけるAZD2936の細胞死滅活性及びIFN-γ放出の刺激を示す。
図11Dは、
図11Cと同様に行われたアッセイにおけるAZD2936(n=6)についての算術平均細胞毒性EC50を示す。
【
図12A】
図12A~12Dは、AZD2936が、OE21腫瘍モデルにおいて抗PD-1よりも強い抗腫瘍活性を有したことを示す。
図12A及び12Bにおける縦の点線は、腹腔内注射(IP)薬物投与を示す。
【
図12B】
図12A~12Dは、AZD2936が、OE21腫瘍モデルにおいて抗PD-1よりも強い抗腫瘍活性を有したことを示す。
図12A及び12Bにおける縦の点線は、腹腔内注射(IP)薬物投与を示す。
【
図12C】
図12A~12Dは、AZD2936が、OE21腫瘍モデルにおいて抗PD-1よりも強い抗腫瘍活性を有したことを示す。
【
図12D】
図12A~12Dは、AZD2936が、OE21腫瘍モデルにおいて抗PD-1よりも強い抗腫瘍活性を有したことを示す。
【
図13A】
図13A~13Dは、AZD2936が、PC9-MART1腫瘍モデルにおいて抗PD-1よりも高い抗腫瘍活性を有したことを示す。
図13A及び13Bにおける縦の点線は、腹腔内注射(IP)薬物投与を示す。
【
図13B】
図13A~13Dは、AZD2936が、PC9-MART1腫瘍モデルにおいて抗PD-1よりも高い抗腫瘍活性を有したことを示す。
図13A及び13Bにおける縦の点線は、腹腔内注射(IP)薬物投与を示す。
【
図13C】
図13A~13Dは、AZD2936が、PC9-MART1腫瘍モデルにおいて抗PD-1よりも高い抗腫瘍活性を有したことを示す。
【
図13D】
図13A~13Dは、AZD2936が、PC9-MART1腫瘍モデルにおいて抗PD-1よりも高い抗腫瘍活性を有したことを示す。
【
図14A】
図14A及び14Bは、実施例6に記載されるように、AZD2936、IgG1-TMアイソタイプ対照、リツキシマブ、又はIgG1アイソタイプ対照と共に、補体含有ヒト血清又は熱不活化ヒト血清と共にインキュベートした後の、PD-1及びTIGITを発現するJurkat生細胞(
図14A)又はDaudi生細胞(
図14B)のパーセンテージを示す。エラーバーはSD(n=2)を表す。
【
図14B】
図14A及び14Bは、実施例6に記載されるように、AZD2936、IgG1-TMアイソタイプ対照、リツキシマブ、又はIgG1アイソタイプ対照と共に、補体含有ヒト血清又は熱不活化ヒト血清と共にインキュベートした後の、PD-1及びTIGITを発現するJurkat生細胞(
図14A)又はDaudi生細胞(
図14B)のパーセンテージを示す。エラーバーはSD(n=2)を表す。
【
図15】初代ヒトPBMCによる、PD-1及びTIGITを発現するJurkat細胞又はDaudi細胞の特異的な死滅を示す。実施例6に記載されるように、濃度依存的ADCCはリツキシマブによって媒介されたが、IgG1アイソタイプ対照、AZD2936、又はIgG1 TMアイソタイプ対照によっては媒介されなかった。エラーバーはSD(n=2)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、PD-1及びTIGITに結合する抗体を含む結合タンパク質に関する。本開示はまた、かかる結合タンパク質及びかかる結合タンパク質をコードする核酸分子を含む組成物を提供する。本開示は更に、かかる結合タンパク質を使用して障害又は症状を治療する方法に関する。
【0010】
本開示に従って利用される場合、別段の指示がない限り、全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有すると理解されるものとする。文脈によって特に必要とされない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。
【0011】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、抗原を認識して特異的に結合することができるタンパク質を指す。通常の又は従来の哺乳動物抗体は、四量体を含み、これは、典型的には、ポリペプチド鎖の2つの同一の対から構成され、各対は、1つの「軽」鎖(典型的には、約25kDaの分子量を有する)と1つの「重」鎖(典型的には、約50~70kDaの分子量を有する)とからなる。本明細書で使用される「重鎖」及び「軽鎖」という用語は、標的抗原に対する特異性を付与するのに十分な可変ドメイン配列を有する任意の免疫グロブリンポリペプチドを指す。各軽鎖及び重鎖のアミノ末端部分は、典型的には、抗原認識に典型的に関与する約100~110個以上のアミノ酸の可変ドメインを含む。各鎖のカルボキシル末端部分は、典型的には、エフェクター機能を担う定常ドメインを画定する。したがって、天然に存在する抗体において、完全長重鎖免疫グロブリンポリペプチドは、可変ドメイン(VH)及び3つの定常ドメイン(CH1、CH2、及びCH3)、並びにCH1とCH2との間のヒンジ領域を含み、VHドメインは、ポリペプチドのアミノ末端にあり、CH3ドメインは、カルボキシル末端にあり、完全長軽鎖免疫グロブリンポリペプチドは、可変ドメイン(VL)及び定常ドメイン(CL)を含み、VLドメインはポリペプチドのアミノ末端にあり、CLドメインはカルボキシル末端にある。しかしながら、当業者は、天然に存在する抗体におけるドメインの位置が、抗原結合能力を失うことなく、特定の抗体様結合タンパク質フォーマットにおいて改変され得ることを理解する。ヒト軽鎖のクラスは、カッパ軽鎖及びラムダ軽鎖と呼ばれる。
【0012】
幾つかの態様では、軽鎖定常領域はカッパ鎖である。幾つかの態様では、軽鎖定常領域はラムダ鎖である。
【0013】
完全長軽鎖及び重鎖内で、可変ドメイン及び定常ドメインは、典型的には、約12個以上のアミノ酸の「J」領域によって連結され、重鎖はまた、約10個以上のアミノ酸の「D」領域を含む。各軽鎖/重鎖の対の可変領域は、典型的には抗原結合部位を形成する。天然に存在する抗体の可変ドメインは、典型的には、相補性決定領域又はCDRとも呼ばれる3つの超可変領域によって連結された比較的保存されたフレームワーク領域(FR)の同じ一般構造を示す。各対の2つの鎖からのCDRは、典型的にはフレームワーク領域によって整列され、これは特異的エピトープへの結合を可能にし得る。アミノ末端からカルボキシル末端まで、軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインの両方は、典型的に、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4を含む。
【0014】
「抗体断片」という用語は、無傷若しくは全長鎖又は抗体の一部、一般的には標的結合領域又は可変領域を指す。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2及びFv断片が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で使用される場合、「機能的断片」という用語は、一般に「抗体断片」と同義であり、抗体に関しては、Fv、Fab、F(ab’)2などの抗体断片を指すことができる。
【0015】
本明細書に記載されるアミノ酸残基の番号付けへの言及は、EU番号付けシステムに従って行われる(また、Kabat et al, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed.Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991)にも記載されている)。
【0016】
用語「ベクター」は、コードされた情報を宿主細胞に移入するために使用される任意の分子(例えば、核酸、プラスミド、又はウイルス)を指す。ベクターの1つのタイプは、「プラスミド」であり、これは、更なるDNAセグメントが挿入され得る環状二本鎖DNA分子をいう。別のタイプのベクターは、ウイルスベクターであり、更なるDNAセグメントをウイルスゲノムに挿入することができる。ある種のベクターは、それらが導入される宿主細胞中で自律複製することができる(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクター及びエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれることができ、それによって宿主ゲノムと共に複製される。更に、特定のベクターは、それらが作動可能に連結された遺伝子の発現を指向することができる。かかるベクターは、本明細書中では「発現ベクター」と称する。
【0017】
用語「ヒト抗体」は、本明細書で使用される場合、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に実質的に対応する可変領域及び定常領域を有する抗体を包含する。幾つかの態様では、ヒト抗体は、マウス及びラットなどの齧歯類、並びにウサギなどのウサギ目を含むがこれらに限定されない非ヒト哺乳動物において産生される。他の態様では、ヒト抗体は、ハイブリドーマ細胞において産生される。更に他の態様では、ヒト抗体は、組換えにより産生される。幾つかの態様では、二重特異性結合タンパク質は、ヒト又はヒト化抗体である。
【0018】
本明細書で使用される「抗原」又は「標的抗原」という用語は、本開示の結合タンパク質によって認識され、結合されることができる分子又は分子の一部を指す。標的抗原は、その抗原のエピトープに結合することができる抗体を産生するために動物において使用することができる。標的抗原は、1つ以上のエピトープを有し得る。
【0019】
本明細書で使用される「エピトープ」という用語は、本開示の結合タンパク質によって認識され結合される抗原の領域又は構造的エレメントを指す。より正確には、エピトープは、結合タンパク質のCDRによって結合される特異的構造である。エピトープは、タンパク質構造エレメント、炭水化物、又は膜に存在する脂質構造の部分さえも含み得る。結合タンパク質は、タンパク質及び/又は高分子の複合混合物中でその抗原標的を優先的に認識する場合に、抗原に特異的に結合すると言われる。「特異的に結合する」という用語は、分子又はその断片(例えば、抗原)に特異的に結合する結合タンパク質を指す。分子又はその断片に特異的に結合する結合タンパク質は、例えば、イムノアッセイ、BIAcore、又は当該分野で公知の他のアッセイによって測定したときに、より低い親和性で他の分子に結合し得る。特に、少なくとも1つの分子又はその断片に特異的に結合する抗体又は断片は、非特異的に結合する分子と競合することができる。本開示は、複数の特異性を有する抗体(例えば、2つ以上の別個の抗原に対する特異性を有する抗体)を具体的に包含する。例えば、二重特異性抗体は、単一の標的抗原上の2つの隣接するエピトープに結合することができるか、又は2つの異なる抗原に結合することができる。
【0020】
本明細書で使用される「抗原結合部位」という用語は本開示の結合タンパク質の表面上に作製された部位であって、抗原又は抗原上のエピトープが結合する部位を指す。結合タンパク質の抗原結合部位は、典型的には、結合タンパク質の相補性決定領域(CDR)によって作製されるループ構造を参照することによって記載される。
【0021】
幾つかの態様では、本明細書で提供される結合タンパク質は、二重特異性である。本明細書で使用される場合、二重特異性結合タンパク質は、少なくとも2つの独立した抗原(若しくは標的)に、又は同じ抗原内の異なるエピトープに、対する結合特異性を有する。例示的な二重特異性結合タンパク質は、標的内の2つの異なるエピトープに結合してもよく、又は2つの異なる標的に結合してもよい。他のかかる結合タンパク質は、第1の標的結合部位を別の標的に対する第2の結合部位と組み合わせ得る。幾つかの態様では、結合タンパク質は、二重特異性抗体である。
【0022】
幾つかの態様では、二重特異性抗体は、単一の製造された分子の投与と共に、2つの抗原を同時に標的化することに由来する、相加的及び/又は相乗的な治療効果を提供する。
【0023】
幾つかの態様では、本明細書に提供される抗体は、一価二重特異性抗体(MBab)である。本明細書に記載される一価二重特異性抗体足場は、その一価の性質に起因して、上記の潜在的な治療リスクを低減しながら、二重特異性抗体に関連する全ての利益を満たす二重特異性抗体を生成するための、優れたプラットフォームを提供する。更に、本明細書において提供されるMBabは、容易に発現され、安定であり、低い免疫原性を有する可能性が高い。本明細書で使用される場合、「MBab」と略記され得る「一価二重特異性」という用語は、各アームが異なる標的抗原に特異的に結合することができ、異なる標的抗原(A及びB)の所与の対について、MBabがそれぞれのうちの1つに結合することができる、二重特異性抗体を指す。ある特定の態様では、一価二重特異性抗体は、2つの独立した抗原(若しくは標的)に、又は同じ抗原上の2つの独立したエピトープに特異的に、結合することができる。典型的には、一価二重特異性抗体は、2つの異なる可変領域を含む。幾つかの態様では、2つの独立した抗原に対する結合親和性は、ほぼ同じである。幾つかの態様では、2つの独立した抗原に対する結合親和性は、異なる。
【0024】
幾つかの態様では、本明細書では、
a)配列番号1のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号2のアミノ酸配列を有するHCDR2、及び配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変ドメインと、配列番号4のアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号5のアミノ酸配列を有するLCDR2、及び配列番号6のアミノ酸配列を有するLCDR3を含む軽鎖可変ドメインとを含む、PD-1に特異的に結合する第1の結合ドメインと、
b)配列番号11のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号12のアミノ酸配列を有するHCDR2、及び配列番号13のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変ドメインと、配列番号14のアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号15のアミノ酸配列を有するLCDR2、及び配列番号16のアミノ酸配列を有するLCDR3を含む軽鎖可変ドメインとを含む、TIGITに特異的に結合する第2の結合ドメインと、
を含む、PD-1及びTIGITに特異的に結合する二重特異性結合タンパク質が提供される。
【0025】
幾つかの態様では、PD-1に特異的に結合する第1の結合ドメインは、配列番号7のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインと、配列番号9のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインとを含む。幾つかの態様では、PD-1に特異的に結合する第1の結合ドメインは、配列番号8のアミノ酸配列を有する重鎖と、配列番号10のアミノ酸配列を有する軽鎖とを含む。
【0026】
幾つかの態様では、PD-1に特異的に結合する第1の結合ドメインは、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインを含む。幾つかの態様では、PD-1に特異的に結合する第1の結合ドメインは、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインを含む。
【0027】
幾つかの態様では、PD-1に特異的に結合する第1の結合ドメインは、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖を含む。幾つかの態様では、PD-1に特異的に結合する第1の結合ドメインは、配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む。
【0028】
幾つかの態様では、TIGITに特異的に結合する第2の結合ドメインは、配列番号17のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインと、配列番号19のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインとを含む。幾つかの態様では、TIGITに特異的に結合する第2の結合ドメインは、配列番号18のアミノ酸配列を有する重鎖と、配列番号20のアミノ酸配列を有する軽鎖とを含む。
【0029】
幾つかの態様では、TIGITに特異的に結合する第2の結合ドメインは、配列番号17のアミノ酸配列と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインを含む。幾つかの態様では、TIGITに特異的に結合する第2の結合ドメインは、配列番号19のアミノ酸配列と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインを含む。
【0030】
幾つかの態様では、TIGITに特異的に結合する第2の結合ドメインは、配列番号18のアミノ酸配列と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖を含む。幾つかの態様では、TIGITに特異的に結合する第2の結合ドメインは、配列番号20のアミノ酸配列と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む。
【0031】
幾つかの態様では、PD-1に特異的に結合する第1の結合ドメインは、配列番号21の核酸配列によってコードされる重鎖可変ドメインと、配列番号23の核酸配列によってコードされる軽鎖可変ドメインとを含む。幾つかの態様では、PD-1に特異的に結合する第1の結合ドメインは、配列番号22の核酸配列によってコードされる重鎖及び配列番号24の核酸配列によってコードされる軽鎖を含む。
【0032】
幾つかの態様では、PD-1に特異的に結合する第1の結合ドメインは、配列番号21と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一である核酸配列によってコードされる重鎖可変ドメインと、配列番号23と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一である核酸配列によってコードされる軽鎖可変ドメインとを含む。
【0033】
幾つかの態様では、PD-1に特異的に結合する第1の結合ドメインは、配列番号22と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一である核酸配列によってコードされる重鎖と、配列番号24と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一である核酸配列によってコードされる軽鎖とを含む。
【0034】
幾つかの態様では、TIGITに特異的に結合する第2の結合ドメインは、配列番号25の核酸配列によってコードされる重鎖可変ドメインと、配列番号27の核酸配列によってコードされる軽鎖可変ドメインとを含む。幾つかの態様では、TIGITに特異的に結合する第2の結合ドメインは、配列番号26の核酸配列によってコードされる重鎖と、配列番号28の核酸配列によってコードされる軽鎖とを含む。
【0035】
幾つかの態様では、TIGITに特異的に結合する第2の結合ドメインは、配列番号25と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一である核酸配列によってコードされる重鎖可変ドメインと、配列番号27と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一である核酸配列によってコードされる軽鎖可変ドメインとを含む。
【0036】
幾つかの態様では、TIGITに特異的に結合する第2の結合ドメインは、配列番号26と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一である核酸配列によってコードされる重鎖と、配列番号28と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一である核酸配列によってコードされる軽鎖とを含む。
【0037】
一態様では、有用な二重特異性結合タンパク質は、PD-1及びTIGITの両方への結合について、本明細書に含まれる任意の二重特異性結合タンパク質と競合する。一態様では、有用な結合タンパク質は、PD-1及びTIGITの両方への結合について、配列番号7、配列番号9、配列番号17、及び配列番号19を含む抗体と競合する。別の態様では、有用な結合タンパク質は、PD-1及びTIGITの両方への結合について、配列番号8、配列番号10、配列番号18、及び配列番号20を含む抗体と競合する。
【0038】
一態様では、本開示は、本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。
【0039】
一態様では、本開示は、本明細書に記載の二重特異性結合タンパク質をコードする核酸配列であって、配列番号21と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、若しくは99%同一の配列、配列番号23と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、若しくは99%同一の配列、配列番号25と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、若しくは99%同一の配列、又は配列番号27と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、若しくは99%同一の配列、のうちの1つ以上を含む核酸配列を提供する。一態様では、核酸配列は、配列番号21と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一の配列、配列番号23と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一の配列、配列番号25と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一の配列、及び配列番号27と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一の配列、を含む。
【0040】
一態様では、本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質をコードする核酸配列は、配列番号21、配列番号23、配列番号25、及び配列番号27を含む。
【0041】
一態様では、本開示は、本明細書に記載の二重特異性結合タンパク質をコードする核酸配列であって、配列番号22と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、若しくは99%同一の配列、配列番号24と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、若しくは99%同一の配列、配列番号26と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、若しくは99%同一の配列、又は配列番号28と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、若しくは99%同一の配列、のうちの1つ以上を含む核酸配列を提供する。一態様では、核酸配列は、配列番号22と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一の配列、配列番号24と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一の配列、配列番号26と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一の配列、及び配列番号28と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%同一の配列、を含む。
【0042】
一態様では、本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質をコードする核酸配列は、配列番号22、配列番号24、配列番号26、及び配列番号28を含む。
【0043】
一態様では、本開示は、本明細書に記載の核酸を含む宿主細胞を提供する。一態様では、本開示は、本明細書に記載の核酸を含むベクターを含む宿主細胞を提供する。一態様では、本開示は、そのゲノムに組み込まれた本明細書に記載の核酸を有する宿主細胞を提供する。
【0044】
一態様では、本開示は、配列番号21と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、若しくは99%同一の核酸配列、配列番号23と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、若しくは99%同一の核酸配列、配列番号25と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、若しくは99%同一の核酸配列、及び/又は配列番号27と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、若しくは99%同一の核酸配列、を含むベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0045】
一態様では、本開示は、配列番号22と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、若しくは99%同一の核酸配列、配列番号24と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、若しくは99%同一の核酸配列、配列番号26と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、若しくは99%同一の核酸配列、及び/又は配列番号28と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、若しくは99%同一の核酸配列、を含むベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0046】
一態様では、本開示は、本明細書に記載される宿主細胞によって産生される二重特異性結合タンパク質を提供する。
【0047】
本明細書で使用される「天然Fc」という用語は、単量体形態であろうと多量体形態であろうと、抗体の消化から生じるか、又は他の手段によって産生される、非抗原結合断片の配列を含む分子を指し、ヒンジ領域を含有することができる。天然Fcの元の免疫グロブリン源は、好ましくはヒト起源であり、免疫グロブリンのいずれかであり得る。天然Fc分子は、共有結合(すなわち、ジスルフィド結合)及び非共有結合によって二量体又は多量体の形態に連結され得る単量体ポリペプチドから構成される。天然Fc分子の単量体サブユニット間の分子間ジスルフィド結合の数は、クラス(例えば、IgG、IgA、及びIgE)又はサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgA1、及びIgGA2)に応じて1~4の範囲である。天然Fcの一例は、IgGのパパイン消化から生じるジスルフィド結合二量体である。本明細書で使用される「天然Fc」という用語は、単量体、二量体、及び多量体形態の総称である。
【0048】
幾つかの態様では、Fc領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgM、IgE、又はIgDからのFc領域のうちの1つ以上であるドメインであるか、又はそれを含む。幾つかの態様では、抗体はIgG1抗体である。
【0049】
本明細書で使用される「Fc変異体」という用語は、天然Fcから改変されているが、サルベージ受容体、FcRn(新生児Fc受容体)に対する結合部位を依然として含む分子又は配列を指す。例示的なFc変異体、及びサルベージ受容体とのそれらの相互作用は、当技術分野において公知である。したがって、「Fc変異体」という用語は、非ヒト天然Fcからヒト化された分子又は配列を含むことができる。更に、天然Fcは、本開示の結合タンパク質に必要とされない構造的特徴又は生物学的活性を提供する特定の残基を改変するために、Fc変異体を産生するように除去又は変異され得る領域を含む。したがって、「Fc変異体」という用語は、(1)ジスルフィド結合形成、(2)選択された宿主細胞との不適合性、(3)選択された宿主細胞における発現時のN末端不均一性、(4)グリコシル化、(5)補体との相互作用、(6)サルベージ受容体以外のFc受容体への結合、又は(7)抗体依存性細胞傷害(ADCC)に影響を及ぼすか又は関与する、1つ以上の天然Fc部位若しくは残基を欠くか、又は1つ以上のFc部位若しくは残基が改変されている、分子又は配列を含む。
【0050】
幾つかの態様では、二重特異性結合タンパク質は、Kabatに記載されたEUインデックスによって番号付けされたときに、221K, 221Y, 225E, 225K, 225W, 228P, 234D, 234E, 234N, 234Q, 234T, 234H, 234Y, 234I, 234V, 234F, 235A, 235D, 235R, 235W, 235P, 235S, 235N, 235Q, 235T, 235H, 235Y, 235I, 235V, 235E, 235F, 236E, 237L, 237M, 237P, 239D, 239E, 239N, 239Q, 239F, 239T, 239H, 239Y, 240I, 240A, 240T, 240M, 241W, 241L, 241Y, 241E, 241R, 243W, 243L 243Y, 243R, 243Q, 244H, 245A, 247L, 247V, 247G, 250E, 250Q, 251F, 252L, 252Y, 254S, 254T, 255L, 256E, 256F, 256M, 257C, 257M, 257N, 262I, 262A, 262T, 262E, 263I, 263A, 263T, 263M, 264L, 264I, 264W, 264T, 264R, 264F, 264M, 264Y, 264E, 265A, 265G, 265N, 265Q, 265Y, 265F, 265V, 265I, 265L, 265H, 265T, 266I, 266A, 266T, 266M, 267Q, 267L, 268E, 269H, 269Y, 269F, 269R, 270E, 280A, 284M, 292P, 292L, 296E, 296Q, 296D, 296N, 296S, 296T, 296L, 296I, 296H, 296G, 297S, 297D, 297E, 298A, 298H, 298I, 298T, 298F, 299I, 299L, 299A, 299S, 299V, 299H, 299F, 299E, 305I, 308F, 313F, 316D, 318A, 318S, 320A, 320S, 322A, 322S, 325Q, 325L, 3251, 325D, 325E, 325A, 325T, 325V, 325H, 326A, 326D, 326E, 326G, 326M, 326V, 327G, 327W, 327N, 327L, 328S, 328M, 328D, 328E, 328N, 328Q, 328F, 3281, 328V, 328T, 328H, 328A, 329F, 329H, 329Q, 330K, 330G, 330T, 330C, 330L, 330Y, 330V, 3301, 330F, 330R, 330H, 331G, 331A, 331L, 331M, 331F, 331W, 331K, 331Q, 331E, 331S, 331V, 3311, 331C, 331Y, 331H, 331R, 331N, 331D, 331T, 332D, 332S, 332W, 332F, 332E, 332N, 332Q, 332T, 332H, 332Y, 332A, 333A, 333D, 333G, 333Q, 333S, 333V, 334A, 334E, 334H, 334L, 334M, 334Q, 334V, 334Y, 339T, 370E, 370N, 378D, 392T, 396L, 416G, 419H, 421K, 428L, 428F, 433K, 433L, 434A, 434W, 434Y, 436H, 440Y 及び443Wから選択される少なくとも1つの置換を含む変異体Fc領域を含む。
【0051】
幾つかの態様では、変異Fc領域は、Kabatに示されるEUインデックスによって番号付けされたときに、428及び434から選択される位置に1つ以上の修飾を含む。幾つかの態様では、変異Fc領域は、Kabatに示されるEUインデックスによって番号付けされたときに、428及び434から選択される位置に1つ以上のアミノ酸置換を含む。幾つかの態様では、変異Fc領域は、428L, 428F, 434A, 434W及び434Yから選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む。
【0052】
Fc領域の操作は、治療用抗体の半減期を延長し、インビボでの分解から保護するために、当技術分野において広く使用されている。幾つかの態様では、IgG抗体又は抗原結合断片のFc領域は、IgG異化作用を媒介し、IgG分子を分解から保護するFc受容体-新生児(FcRn)に対するIgG分子の親和性を増加させるために修飾することができる。
【0053】
他の適切なFc領域アミノ酸置換又は修飾は、当技術分野において公知であり、例えば、KabatにおけるようなEUインデックスに従って番号付けされた、252位におけるメチオニン(M)からチロシン(Y)への置換、254位におけるセリン(S)からトレオニン(T)への置換、及び256位におけるトレオニン(T)からグルタミン酸(E)への置換の三重置換(M252Y/S254T/T256E; 「YTE」又は「YTE」変異)(例えば、米国特許第7,658,921号、米国特許出願公開第2014/0302058号、及びYu et al.,Antimicrob.Agents Chemother., 61(1):e01020-16(2017)、これらの各々の全内容を、参照により本明細書に組み込む)が挙げられる。
【0054】
幾つかの態様では、抗体又はその抗原結合断片は、半減期を改善するように操作されたFc領域を含む。幾つかの態様では、抗体又はその抗原結合断片は、YTE変異を有するFc領域を含む。
【0055】
幾つかの態様では、Fc領域はグリコシル化されていない(aglycosylated)。幾つかの態様では、Fc領域は脱グリコシル化(deglycosylated)されている。幾つかの態様では、Fc領域は、低減されたフコシル化を有するか、又はフコシル化されていない。
【0056】
幾つかの態様では、Fc変異抗体又はその結合断片は、FcRnに対する増加した結合親和性を有する。
【0057】
三重変異(TM)L234F/L235E/P331S(欧州連合番号付け規則による、Sazinsky et al. Proc Natl Acad Sci USA, 105:20167-20172(2008))は、IgGエフェクター機能を顕著に低下させることができる。幾つかの態様では、抗体又はその抗原結合断片は、L234F/L235E/P331S三重変異(TM)を有するFc領域を含む。
【0058】
幾つかの態様では、Fc変異抗体又はその結合断片は、インビボで投与された場合に低減された補体依存性細胞傷害(CDC)を有する。幾つかの態様では、Fc変異抗体又はその結合断片は、野生型Fc領域を含有する抗体又はその結合変異体と比較して低減されたCDCを有する。幾つかの態様では、Fc変異抗体又はその結合断片は、インビボで投与された場合にCDCを誘発しない。幾つかの態様では、Fc変異抗体又はその結合断片は、インビボで投与された場合にCDCの低下を引き起こす。幾つかの態様では、低減されたCDC活性を有するか、又はCDC活性を有さないFc変異抗体又はその結合断片は、変異Fc領域に三重変異(L234F/L235E/P331S)を含む。
【0059】
幾つかの態様では、Fc変異抗体又はその結合断片は、インビボで投与された場合に、低減された抗体依存性細胞傷害(ADCC)を有する。幾つかの態様では、Fc変異抗体又はその結合断片は、野生型Fc領域を含有する抗体又はその結合変異体と比較して低減されたADCCを有する。幾つかの態様では、Fc変異抗体又はその結合断片は、インビボで投与された場合にADCCを誘発しない。幾つかの態様では、Fc変異抗体又はその結合断片は、インビボで投与された場合にADCCの低下を引き起こす。幾つかの態様では、低減されたADCC活性を有するか、又はADCC活性を有さないFc変異抗体又はその結合断片は、変異Fc領域に三重変異(L234F/L235E/P331S)を含む。
【0060】
幾つかの態様では、低減されたCDC活性を有する抗体又はその結合断片は、対象に投与された場合に低減された毒性を有する。幾つかの態様では、低減されたADCC活性を有する抗体又はその結合断片は、対象に投与された場合に低減された毒性を有する。
【0061】
本明細書で使用される「Fcドメイン」という用語は、上記で定義された天然Fc及びFc変異体及び配列を包含する。Fc変異体及び天然Fc分子と同様に、「Fcドメイン」という用語は、全抗体から消化されたか、又は他の手段によって産生されたかにかかわらず、単量体又は多量体形態の分子を含む。
【0062】
結合タンパク質の収率を改善するために、CH3ドメインは、例えば、国際公開第96/027011号、Ridgway et al., 1996, Protein Eng. 9: 617-21、及びMerchant et al., 1998, Nat. Biotechnol. 16: 677-81などの、幾つかの例示的な分子と共に詳細に記載されている「ノブ-イントゥ-ホール」技術により改変されることができる。具体的には、2つのCH3ドメインの相互作用表面を変化させて、これらの2つのCH3ドメインを含有する両方の重鎖のヘテロ二量体化を増加させる。(2つの重鎖の)2つのCH3ドメインの各々は「ノブ」であり得るが、他方は「ホール」である。ジスルフィド架橋の導入は、ヘテロ二量体を更に安定化させ(Merchant et al., 1998; Atwell et al., 1997, J. Mol. Biol. 270: 26-35)、収率を増加させる。
【0063】
幾つかの態様では、結合タンパク質は、「DuetMab」フォーマットを有する。DuetMabは、以下の基本構造を有する:
改変重鎖を有するFc領域であって、前記改変重鎖のCH1領域が、天然システインから非システインアミノ酸への置換、及び天然非システインアミノ酸からシステインアミノ酸への置換を有する、Fc領域;対応する改変軽鎖であって、前記改変軽鎖のCL領域もまた、天然システインから非システインアミノ酸への置換、及び天然非システインアミノ酸からシステインアミノ酸への置換を有する、対応する改変軽鎖;第2の重鎖を有する第2のFc領域;及び第2の対応する改変軽鎖、ここで、改変重鎖が対応する改変軽鎖に直接連結され、別個の標的結合アーム上で、第2の重鎖が第2の対応する軽鎖に直接連結され、ここで、天然非システインアミノ酸のシステインアミノ酸への置換から生じる改変重鎖の置換システインと、天然非システインアミノ酸のシステインアミノ酸への置換から生じる対応する改変軽鎖の置換システインとが、ジスルフィド結合を形成することができる。DuetMabに関する開示は、例えば、米国特許9,527,927号に存在し、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0064】
本明細書で使用される「KD」という用語は、本開示の結合タンパク質と抗原標的との間の相互作用の解離定数(KD=[A]×[B]/[AB])を指し、モル/リットルの単位を有する。本開示の結合タンパク質は、典型的には、10-5~10-12モル/リットル以下、又は10-7~10-12モル/リットル以下、又は10-3~10-12モル/リットルの解離定数(KD)、及び/又は、少なくとも107M-1、又は少なくとも108M-1、又は少なくとも109M-1、又は少なくとも1012M-1の結合親和性を有する。10-4モル/リットルより大きい任意のKD値は、一般に、非特異的結合を示すと考えられる。したがって、KD値が低いほど、親和性は大きい。幾つかの態様では、本開示の結合タンパク質は、500nM未満、又は200nM未満、又は10nM未満、又は500pM未満の親和性で所望の抗原に結合する。高い親和性又は非常に強い結合は、しばしば、より大きな効力と関連するが、親和性が大きいほど効力が大きいとは限らない。
【0065】
解離定数(KD)は、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)によって決定することができる。一般的に、表面プラズモン共鳴分析は、例えば、BIAcore(登録商標)システム(Pharmacia Biosensor;Piscataway,NJ)を使用する表面プラズモン共鳴によって、リガンド(バイオセンサーマトリックス上の標的抗原)と分析物との間のリアルタイム結合相互作用(オン速度及びオフ速度の両方)を測定する。表面プラズモン分析は、分析物を固定化し、リガンドを提示することによっても行うことができる。本開示の結合タンパク質の抗原又は抗原決定基への特異的結合はまた、例えば、スキャッチャード分析及び/又は競合結合アッセイ、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、酵素イムノアッセイ(EIA)、及びサンドイッチ競合アッセイを含む、当技術分野で公知の任意の適切な様式で決定することができる。
【0066】
一態様では、本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質とヒトTIGITとの相互作用の平衡解離定数(KD)は、約15pM以下である。一態様では、本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質とヒトTIGITとの相互作用のKDは、約9pM以下である。一態様では、本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質とヒトTIGITとの相互作用のKDは、約15、14、13、12、11、10、9、又は8pM以下である。
【0067】
一態様では、本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質とヒトTIGITとの相互作用のKDは、約9pM~約15pMである。一態様では、本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質とヒトTIGITとの相互作用のKDは、約10pM~約15pMである。一態様では、本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質とヒトTIGITとの相互作用のKDは、約11pM~約15pMである。一態様では、本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質とヒトTIGITとの相互作用のKdKdは、約12pM~約15pMである。一態様では、本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質とヒトTIGITとの相互作用のKDは、約13pM~約15pMである。一態様では、本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質とヒトTIGITとの相互作用のKDは、約14pM~約15pMである。
【0068】
一態様では、本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質とヒトPD-L1との相互作用のKDは、約0.4nM以下である。一態様では、本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質とヒトPD-L1との相互作用のKDは、約0.2nM~約0.5nMである。一態様では、本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質とヒトPD-L1との相互作用のKDは、約0.3nM~約0.5nMである。一態様では、本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質とヒトPD-L1との相互作用のKDは、約0.4nM~約0.5nMである。
【0069】
特定の態様では、疾患又は状態を有する対象を治療する方法であって、治療有効量の本明細書に開示される結合タンパク質を対象に投与することを含む方法が、本明細書に提供される。本開示は、タンパク質、核酸分子及び/又は組成物を対象に投与することによって、対象において免疫応答を誘導する方法、並びに対象において腫瘍及び/又は癌を治療又は予防する方法を提供する。
【0070】
特定の態様では、本明細書に記載される二重特異性タンパク質を対象に投与することを含む、対象において免疫応答を誘導する方法が本明細書で提供される。一態様では、本明細書に記載される核酸を対象に投与することを含む、対象において免疫応答を誘導する方法が本明細書で提供される。一態様では、本明細書に記載される医薬組成物を対象に投与することを含む、対象において免疫応答を誘導する方法が本明細書で提供される。
【0071】
一態様では、治療に使用するための、本明細書で定義される二重特異性タンパク質が本明細書で提供される。一態様では、癌の治療に使用するための、本明細書で定義される二重特異性タンパク質が本明細書で提供される。一態様では、癌の治療のための医薬の製造における、本明細書で定義される二重特異性タンパク質の使用が本明細書で提供される。一態様では、治療に使用するための本明細書で定義される核酸が本明細書で提供される。一態様では、癌の治療に使用するための、本明細書で定義される核酸が本明細書で提供される。一態様では、癌の治療のための医薬の製造における、本明細書で定義される核酸の使用が本明細書で提供される。
【0072】
一態様では、治療方法は、追加の抗癌化合物と組み合わせて、治療有効量の本明細書に開示される結合タンパク質を対象に投与することを含む。幾つかの態様では、抗癌化合物は、小分子薬である。幾つかの態様では、抗癌化合物は、ペメトレキセド、カルボプラチン、ゲムシタビン、シスプラチン、パクリタキセル又はそれらの組合せである。幾つかの態様では、結合タンパク質及び追加の抗癌治療は、同時に投与される。幾つかの態様では、結合タンパク質及び追加の抗癌治療は、同時に投与されないが、同じ治療過程中に投与される。
【0073】
「疾患」又は「症状」は、本開示の方法を使用する治療から利益を得る任意の状態を指す。「疾患」及び「症状」は、本明細書において互換的に使用され、患者を問題の障害に罹りやすくする病理学的状態を含む、慢性及び急性の障害又は疾患を含む。幾つかの態様では、疾患は腫瘍である。幾つかの態様では、疾患は固形腫瘍である。幾つかの態様では、疾患は癌である。幾つかの態様では、癌は、卵巣癌、乳癌、結腸直腸癌、前立腺癌、子宮頸癌、子宮癌、精巣癌、膀胱癌、頭頸部癌、黒色腫、膵臓癌、腎細胞癌、及び肺癌のうちの1つ以上である。幾つかの態様では、疾患は非小細胞肺癌(NSCLC)である。幾つかの態様では、NSCLCは進行性又は転移性である。幾つかの態様では、進行性NSCLCは、ステージIII又はステージIVのNSCLCである。
【0074】
用語「対象」は、ヒト及び非ヒト動物、特に哺乳動物を含むことが意図される。特定の態様では、対象はヒト患者である。
【0075】
本明細書で使用される「治療」又は「治療する」という用語は、治療的処置及び予防的又は防止的手段の両方を指す。治療を必要とする対象には、疾患若しくは症状を有する対象、並びに疾患若しくは症状を有する傾向がある対象、又は疾患若しくは症状が予防される対象が含まれる。
【0076】
本明細書で使用される「投与」又は「投与すること」という用語は、所望の効果を達成するために、任意の適切な経路によって1つ以上の化合物を提供、接触、及び/又は送達することを指す。投与には、経口、舌下、非経口(例えば、静脈内、皮下、皮内、筋肉内、関節内、動脈内、滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、病巣内、又は頭蓋内注射)、経皮、局所、頬側、直腸、膣、鼻、眼、吸入、及びインプラントが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0077】
本明細書で使用される「同時投与される」又は「組み合わせて」という用語は、複数の化合物若しくは薬剤の同時若しくは連続投与を指す。第1の化合物若しくは薬剤は、第2の化合物若しくは薬剤の投与の前に、それと同時に、又はその後に投与され得る。第1の化合物若しくは薬剤及び第2の化合物若しくは薬剤は、同じ日に同時に若しくは連続して投与されてもよく、又は互いに1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週間、若しくは1ヶ月以内に連続して投与されてもよい。幾つかの態様では、化合物若しくは薬剤は、それぞれの化合物若しくは薬剤が少なくともいくらかの生理学的効果を発揮している期間及び/又は有効性が残っている期間に同時投与される。
【0078】
本明細書で使用される「医薬組成物」又は「治療組成物」という用語は、対象に適切に投与された場合に所望の治療効果を誘導することができる化合物又は組成物を指す。幾つかの態様では、本開示は、薬学的に許容される担体と、治療有効量の本開示の結合タンパク質とを含む医薬組成物を提供する。
【0079】
「治療有効用量」又は「治療用量」は、所望の臨床結果をもたらす(すなわち、治療有効性を達成する)のに十分な量である。治療有効量は、1回以上の投与で投与することができる。
【0080】
本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」又は「生理学的に許容される担体」という用語は、本開示の1つ以上の結合タンパク質の送達を達成又は増強するのに適した1つ以上の製剤材料を指す。
【0081】
幾つかの態様では、本明細書に開示される結合タンパク質は、薬学的に許容される担体、賦形剤、又は安定剤と共に、医薬組成物として製剤化され得る。特定の態様では、かかる医薬組成物は、当技術分野で公知の方法を使用する任意の1つ以上の投与経路を介したヒト又は非ヒト動物への投与に適している。用語「薬学的に許容される担体」は、活性成分の生物学的活性の有効性を妨害しない1つ以上の非毒性物質を意味する。かかる調製物は、慣用的に、塩、緩衝剤、保存剤、適合性担体、及び必要に応じて他の治療剤を含み得る。かかる薬学的に許容される調製物はまた、ヒトへの投与に適切な適合性の固体又は液体の充填剤、希釈剤又はカプセル化物質を含み得る。本明細書に記載される製剤において利用され得る他の企図される担体、賦形剤、及び/又は添加剤としては、例えば、香味剤、抗菌剤、甘味剤、抗酸化剤、帯電防止剤、脂質、タンパク質賦形剤、例えば血清アルブミン、ゼラチン、カゼイン、塩形成対イオン、例えばナトリウムなどが挙げられる。本明細書に記載の製剤における使用に適したこれら及び追加の公知の薬学的担体、賦形剤、及び/又は添加剤は、例えば、「Remington: The Science & Practice of Pharmacy」、第2版、Lippincott Williams & Wilkins、(2005年)、及び「Physician’s Desk Reference」、第60版、Medical Economics, Montvale, N.J.(2005)に列挙されているように、当技術分野において公知である。所望又は必要とされる投与様式、溶解度、及び/又は安定性に適した薬学的に許容される担体を選択することができる。
【0082】
幾つかの態様では、本開示の医薬組成物は、追加の抗癌化合物を含む。幾つかの態様では、抗癌化合物は、小分子薬である。幾つかの態様では、抗癌化合物は、ペメトレキセド、カルボプラチン、ゲムシタビン、シスプラチン、パクリタキセル又はそれらの組合せである。幾つかの態様では、抗癌化合物はペメトレキセドである。幾つかの態様では、抗癌化合物はカルボプラチンである。幾つかの態様では、抗癌化合物はゲムシタビンである。幾つかの態様では、抗癌化合物はシスプラチンである。幾つかの態様では、抗癌化合物はパクリタキセルである。
【0083】
一態様では、本開示の製剤は、エンドトキシン及び/又は関連する発熱性物質を実質的に含まない、パイロジェンフリーの製剤である。エンドトキシンとしては、微生物の内部に封入された後、微生物が破壊されるか又は死滅したときにのみ放出される、毒素が挙げられる。発熱性物質にはまた、細菌及び他の微生物の外膜からの熱誘導性、熱安定性物質(糖タンパク質)が含まれる。これらの物質は両方とも、ヒトに投与されると、発熱、低血圧、及びショックを引き起こし得る。潜在的な有害な影響に起因して、少量のエンドトキシンであっても、静脈内投与される医薬溶液から除去しなければならない。米国食品医薬品局(「FDA」)は、静脈内薬物適用のために、1回の1時間の期間で体重1キログラム当たり用量当たり5エンドトキシン単位(EU)の上限を設定している(The United States Pharmacopeial Convention, Pharmacopeial Forum 26(1):223(2000))。ある態様では、組成物中のエンドトキシン及び発熱物質レベルは、10EU/mg未満、又は5EU/mg未満、又は1EU/mg未満、又は0.1EU/mg未満、又は0.01EU/mg未満、又は0.001EU/mg未満である。
【0084】
インビボ投与に使用される場合、本開示の製剤は無菌であるべきである。本開示の製剤は、例えば、滅菌濾過又は放射線照射などの様々な滅菌方法によって滅菌され得る。一態様では、製剤は、予め滅菌された0.22ミクロンフィルターで濾過滅菌される。注射用滅菌組成物は、”Remington:The Science & Practice of Pharmacy,”21st ed.,Lippincott Williams & Wilkins,(2005)に記載されているような従来の薬務に従って製剤化することができる。
【0085】
幾つかの態様では、治療用組成物は、特定の投与経路、例えば、経口、経鼻、肺、局所(口腔及び舌下を含む)、直腸、膣、及び/又は非経口における投与のために製剤化することができる。本明細書で使用される「非経口投与」及び「非経口的に投与される」という用語は、通常は注射による、腸内及び局所投与以外の投与様式を指し、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外及び胸骨内注射及び注入を含むが、これらに限定されない。局所又は経皮投与に適した本開示の製剤としては、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチ、及び吸入剤が挙げられる。抗体及び他の活性物質は、無菌条件下で、薬学的に許容される担体と、及び必要とされ得る任意の保存剤、緩衝剤、又は噴射剤と混合され得る(例えば、米国特許第7,378,110号、同第7,258,873号、及び同第7,135,180号、米国特許出願公開第2004/0042972号及び同第2004/0042971号参照)。
【0086】
製剤は、単位剤形で提供することができ、薬学の分野で公知の任意の方法によって調製することができる。本開示の医薬組成物中の活性成分の実際の投与量レベルは、患者に対して毒性ではなく、特定の患者、組成物、及び投与様式に対して所望の治療応答を達成するのに有効な活性成分の量(例えば、「治療有効量」)を得るように変動させ得る。選択される用量レベルは、使用される特定の組成物の活性、投与経路、投与時間、使用される特定の化合物の排出速度、治療期間、使用される特定の組成物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物及び/又は物質、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、一般的健康状態及び以前の病歴、並びに医学分野で周知の同様の要因などの、種々の薬物動態学的要因に依存する。これらの投薬量は、投薬量、投与の方法、処置されるべき障害又は症状、及び個々の対象の特徴に依存して、毎日、毎週、隔週、毎月、又はより少ない頻度(例えば、半年)で投与され得る。投薬量はまた、連続注入(例えば、ポンプによる)を介して投与され得る。投与用量はまた、投与経路に依存し得る。例えば、皮下投与は、静脈内投与よりも高い用量を必要とし得る。上記のように、任意の一般的に使用される投薬レジメン(例えば、注射又は注入によって1日1回又は1週間に2回、1~10mg/kg投与)は、ヒト癌患者を治療することに関する方法において適合され得、適切であり得る。
【0087】
特許、特許出願、論文、教科書などを含む本明細書に引用された全ての参考文献、及びそれらに引用された参考文献は、それらがまだ引用されていない限りにおいて、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0088】
本開示を限定することなく、本開示の幾つかの態様が、例示の目的で本明細書で説明される。
【実施例】
【0089】
以下の実施例は、本開示の特定の態様及びその様々な使用を例示するものである。それらは説明の目的のためだけに記載されており、本開示の範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【0090】
実施例1:二重特異性抗体の抗TIGIT部分の生成及び特徴付け
一連のモノクローナルTIGIT抗体を開発し、特徴付けた。親VAR1(P-VAR1)WT可変重鎖及び軽鎖(VL WT+VH WT)における配列を再検討した。可変重鎖では、メチオニン酸化の潜在的リスクがCDRH3領域において同定され、DP断片化の潜在的リスクがCDRH3領域において同定された(
図1-1及び
図1-2)。可変軽鎖では、メチオニン酸化の潜在的リスクがCDRL1領域において同定された(
図2-1及び
図2-2)。この潜在的な酸化を除去し、生殖系列(GL)配列と一致させるために、以下の5つの変異体モノクローナル抗体を生成した:
VL WT + VH WT;
VL GL + VH WT;
VL WT + VH GL;
VL GL + VH GL;
VL GL (CDRL1 M-I)+ VH GL
【0091】
具体的には、可変重鎖領域において、最初のEアミノ酸をQに変異させて、生殖系列配列と一致させた。可変重鎖領域において、CDRL1中のメチオニン残基を、潜在的な酸化を軽減するために、生殖系列配列におけるように、1つの変異体においてイソロイシンに変異させた。P-VAR1 VH及びVLドメインは、変異体の生産性及び動態に影響を及ぼすことなく、良好に改変された。(表1、
図5、
図6A及び6B)。更に、変異体は、加速熱安定性アッセイにおいて顕著な単量体の損失、凝集又は断片化を示さなかった(表2)。
【0092】
【0093】
全ての変異体を、1mg/mL PBS緩衝液中、45℃で2週間、加速熱安定性アッセイに供した。単量体損失、凝集及び断片化を、標準的な技術を使用して高温貯蔵の前及び後の両方で測定し、結果を表2に示した。
【0094】
【0095】
PD1-TIGIT duetMab LO115/P-VAR1(VHWT-VLWT)及びVAR1(LO115/VHGL-VLGL(M-I))の固有の動態を、製造業者の説明書に従ってBiaCoreによって評価した。BIAcore T200装置(BIAcore)を使用して結合実験を行った。結合結果を表3に示す。
【0096】
【0097】
実施例2:PD-1/TIGIT二重特異性結合タンパク質及び結合タンパク質の特徴付け
PD-1及びTIGITに結合するDuetMabフォーマットの二重特異性結合タンパク質を、以下の表4の配列を用いて作製した。表4中のCDRを、Kabat定義システムに基づいて強調表示する。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
同時結合試験
組換えヒトPD-1及びTIGITタンパク質に対する同時結合試験を、Octet384機器(ForteBio,Fremont,CA)でのバイオレイヤー干渉法によって測定した。
図8Aに示すように、アッセイ緩衝液[PBS pH 7.2、3mg/mLウシ血清アルブミン(BSA)、0.05%(v/v)Tween 20]中0.5μg/mLのビオチン化ヒトTIGITタンパク質を、ストレプトアビジン(SA)バイオセンサー(ForteBio,Fremont,CA)上に捕捉した。アッセイ緩衝液中5μg/mLのヒトPD-1タンパク質を、
図8Bに示すように、ニッケルニトリロ三酢酸(Ni-NTA)バイオセンサー(ForteBio, Fremont,CA)上に捕捉した。任意の非結合タンパク質を除去するための洗浄ステップの後、それぞれのロードされたバイオセンサーを、最初に133nMのAZD2936と、次いで300nMのヒトPD-1又はヒトTIGIT抗原との連続的な会合及び解離相互作用に供した。Octet384ソフトウェアv.9.0を使用して、データの非線形フィットから、会合及び解離曲線を計算した。組換えヒトPD-1及びTIGITタンパク質に同時に結合するAZD2936の能力を、Octet分析によって決定した。
図8A及び8Bに示されるように、AZD2936は、ヒトTIGIT及びヒトPD-1抗原への同時結合を実証した。
【0104】
実施例3:細胞結合アッセイ
図9A~9Cに示すように、単一特異性抗PD1(LO115)、単一特異性抗TIGIT(VAR1)、及びアイソタイプ対照に対して細胞表面上に発現されたPD1及びTIGITに対するAZD2936の結合を試験した。具体的には、細胞ベースの平衡結合アッセイを実施して、操作された細胞株の細胞表面上に発現されるヒトPD-1及びTIGIT受容体へのAZD2936結合の見かけの親和性を測定した。この目的のために、Jurkat細胞株を、ヒトPD-1及び/又はTIGIT受容体を発現するように操作した。これらの細胞サブセットがAZD2936結合の評価に関連しているかどうかを決定するために、ヒトPD-1及びTIGITの細胞表面受容体密度を定量した。表5に示されるように、単一陽性Jurkat PD-1+TIGIT-細胞上のPD-1受容体密度は、11700(SD±6690)受容体/細胞と決定され、単一陽性Jurkat PD-1-TIGIT+細胞上のTIGIT受容体密度は、147000(SD±91500)受容体/細胞と決定された。二重陽性Jurkat PD 1+TIGIT+細胞上のPD-1及びTIGIT受容体密度は、621000(SD±210000)及び149000(SD±89100)であり、TIGIT受容体に対して4.17:1過剰のPD-1受容体を示した。
【0105】
【表5】
ND=測定せず;PD-1=programmed cell-death protein 1;TIGIT=T cell immunoreceptor with Ig and immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif domains;SD=標準偏差。
【0106】
AZD2936の結合を二価mAbと一緒に評価し、ヒトPD-1及び/又はヒトTIGIT受容体を発現するように操作された3つのJurkat細胞株で検出した。AZD2936は、濃度依存的にJurkat PD-1
-TIGIT
+細胞に結合し、抗TIGIT mAbのTIGIT受容体への細胞結合特性を維持した(
図9A)。二価抗TIGIT抗体と比較して、AZD2936は、結合EC
50値の増加(2.85倍)(表6)及び最大結合の増加を示した(
図9A)。AZD2936は、濃度依存的にJurkat PD-1
+TIGIT
-細胞に結合した。PD-1
+TIGIT
-Jurkat細胞への結合についての二価抗PD-1抗体と比較して、AZD2936は、結合EC
50値の増加(4.82倍)(表7)及び最大結合の増加(
図9B)を示した。これらの結果は、一価結合が、Jurkat細胞上のTIGIT又はPD-1の結合に十分であることを実証した。
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
PD-1(PD-1
+TIGIT
-)若しくはTIGIT(PD-1
-TIGIT
+)のいずれか、又は両方の受容体(PD-1
+TIGIT
+)を発現するJurkat細胞株に対するAZD2936の細胞結合特性を、フローサイトメトリー結合アッセイによって決定した。
図9Cに示されるように、AZD2936は、同様の細胞結合特性で、Jurkat細胞の3つのタイプ全てに結合した。3つの細胞株間のAZD2936結合親和性の差を評価するために、EC
50値を決定した(表8)。PD-1単一発現細胞株に対するAZD2936の平均EC
50は、0.797nMであった。TIGIT
+PD-1
+二重発現細胞株に対するAZD2936の平均EC
50は、0.632nMであった。TIGITのみの受容体を発現するように操作された細胞株への結合は、0.314nMで最も低い平均EC
50値をもたらした。
【0111】
NFAT-ルシフェラーゼレポーター2細胞共培養アッセイ
図10A~10Cに示すように、AZD2936を、単一特異性抗PD1(LO115)、単一特異性抗TIGIT(VAR1)、及びアイソタイプ対照に対して試験した。AZD2936は、活性であり、単一特異性抗体と比較して、PD-1及びTIGITの両方に対してより強いリガンド遮断活性を有することが示された。具体的には、PD-1/PD-L1及び/又はTIGIT/CD155相互作用を遮断するAZD2936の能力を評価するために、OKT3、PD-L1及びCD155の抗CD3 scFvを発現するように遺伝子操作されたCHO-K1細胞、並びにヒトPD-1、ヒトTIGIT又は両方の抗原を発現するように遺伝子操作されたJurkat NFATルシフェラーゼレポーターT細胞を使用して、2細胞共培養生物活性アッセイを利用した。アッセイにおいて、NFAT応答エレメントの制御下でのルシフェラーゼ活性を、OKT3による刺激に応答して測定した。NFATシグナル伝達は、TCRシグナル伝達の下流で起こり、増殖及びサイトカイン放出などのT細胞活性化の他の尺度と相関することが報告されている。PD-1/PD-L1及び/又はTIGIT/CD155相互作用の完全な遮断は、最大TCRアゴニズム及びその後のルシフェラーゼ活性を促進した。
【0112】
CHO-K1 OKT3 PD-L1 CD155細胞及びPD-1
+TIGIT
-Jurkat T細胞 NFAT-ルシフェラーゼレポーター細胞を用いた2細胞共培養アッセイにおいて、PD-1/PD-L1相互作用を遮断するAZD2936の活性を試験した。AZD2936は、4.26nMの平均EC50(実験#1及び#2から、それぞれ4.70及び3.83nMのEC50)で、2つの二連実験において濃度依存的活性を示した(
図10A及び表9)。同じアッセイにおいて、抗PD-1の平均EC50は3.03nMであった(実験#1及び#2から、それぞれ1.93及び4.14nMのEC50)。抗TIGIT抗体もアイソタイプ対照抗体も、このアッセイにおいて活性を示さなかった。
【0113】
AZD2936がTIGIT/CD155相互作用を遮断する活性を試験した。このアッセイでは、CD155 aAPC/CHO-K1細胞をJurkat PD-1
-TIGIT
+ NFAT-ルシフェラーゼレポーター細胞と共培養し、AZD2936、抗TIGIT mAb、及びアイソタイプ対照mAbの処理後に誘導されたルシフェラーゼ活性を比較した。このアッセイにおいて、AZD2936は、2つの実験から15.3nMの平均EC50(実験#1及び#2において、それぞれ17.0nM及び13.7nMのEC50)で、アイソタイプ対照抗体よりも高い活性を示した(
図10B及び表10)。同じ実験において、抗TIGITの処置は、2つの実験から2.22nMの平均EC50をもたらした(実験#1及び#2においてそれぞれ1.59及び2.85nMのEC50)。
【0114】
アッセイにおいてPD-1/PD-L1及びTIGIT/CD155相互作用を遮断するAZD2936の活性を、CHO-K1 OKT3 PD-L1 CD155細胞及びPD-1
+TIGIT
+Jurkat T細胞 NFAT-ルシフェラーゼレポーター細胞を用いて試験した。AZD2936は、5.82nMの平均EC50(2つの別々の実験においてEC50は5.57nM及び6.07nM)で、2つの二連実験において活性を示した(
図10C及び表11)。
【0115】
【表9】
EC
50=半数効果濃度(half maximal effective concentration);NFAT=nuclear factor of activated T cells;PD-1=programmed cell-death protein 1;TIGIT=T cell immunoreceptor with Ig and immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif domains。EC
50は、3つの反復から得られた平均値から導出した。
【0116】
【表10】
EC
50=半数効果濃度;NFAT=nuclear factor of activated T cells;PD-1=programmed cell-death protein 1;TIGIT=T cell immunoreceptor with Ig and immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif domains。
EC
50は、3つの反復から得られた平均値から導出した。
【0117】
【表11】
EC
50=半数効果濃度;NFAT=nuclear factor of activated T cells;PD-1=programmed cell-death protein 1;TIGIT=T cell immunoreceptor with Ig and immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif domains。EC50は、3つの反復から得た平均値から導出した。
【0118】
実施例4:OE21腫瘍細胞死滅アッセイ
OE21腫瘍細胞を死滅させるAZD2936の能力をインビトロアッセイ系で評価した。このセクションで使用される略語は以下の通りである:ANOVA=分散分析;CMV=サイトメガロウイルス;EBV=エプスタイン・バーウイルス;ELISA=酵素結合免疫吸着アッセイ;IFN-γ=インターフェロン-γ;ns=有意でない;OE21-VP=ウイルスペプチド(VP)を発現するように操作されたヒト白人食道扁平上皮癌細胞株;PBMC=末梢血単核細胞;PD-1=programmed cell-death protein 1;TIGIT=T cell immunoreceptor with Ig and immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif domains。
【0119】
HLA適合、抗原特異的T細胞及び腫瘍細胞の共培養系、並びに
ウイルスペプチド抗原を安定に発現するOE21腫瘍細胞株の作製
腫瘍細胞のT細胞媒介性死滅に対するAZD2936のインビトロ活性及び効力を評価するために、HLA適合抗原特異的T細胞及び腫瘍細胞共培養モデルを作製した。HLA-A*02:01陽性ヒト食道扁平上皮癌細胞株OE21を、HLA-A*02:01に結合することが知られている6つのウイルス抗原ペプチド(OE21-VP)を発現するように操作した。利用した6種のウイルスペプチドは、ヒトエプスタイン・バーウイルスLMP2 356-364ペプチド(FLYALALLLのアミノ酸配列; 配列番号29)、LMP2 426-434(CLGGLLTMVのアミノ酸配列; 配列番号30)、BMLF1 280-288(アミノ酸配列GLCTLVAML; 配列番号31)、インフルエンザM1 58-66(アミノ酸配列GILGFVFTL; 配列番号32)、A型インフルエンザPA46-54(アミノ酸配列FMYSDFHFI; 配列番号33)、及びサイトメガロウイルスpp65 495-503(アミノ酸配列NLVPMVATV; 配列番号34)とした。構成的ヒトユビキチン-Cプロモーターから駆動されるウイルスペプチド及びGFPレポーターカセットをコードする導入遺伝子を、遺伝子合成(GeneArtTM,Pleasanton,CA)によって生成した。標準的な分子生物学技術を用いて、導入遺伝子をレンチウイルス発現ベクターに挿入した。次いで、配列を検証した導入遺伝子構築物を使用して、pPACKH1 HIVレンチベクターパッケージングキット(Systems Bioscience,Palo Alto,CA)を製造業者の説明書に従って使用して、HEK293FT(Life Technologies,Grand Island,NY)プロデューサー細胞株からレンチウイルス粒子を生成した。単一細胞導入遺伝子過剰発現クローン株を蛍光活性化細胞選別(FACS)によって選択してGFP+細胞を単離し、均一な導入遺伝子発現プロファイルを示す細胞株をバンクし、更なる特徴付けのために以降用いた。
【0120】
HLA-A*02:01陽性健常ドナーからのGLCTLVAML(配列番号31)及びNLVPMVATV(配列番号34)ペプチド特異的T細胞の増殖
HLA-A*02:01陽性健常ドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)を、活性化マーカーについてフローサイトメトリーを使用して、EBV BMLF1 280-288ペプチド(GLCTLVAML)及びCMV pp65 495-503ペプチド(NLVPMVATV)に対する反応性についてスクリーニングした。簡潔には、PBMCを1μg/mLのペプチド及び55国際単位(IU)/mLのIL-2で7日間処理し、その後、蛍光コンジュゲートしたCD3、CD8、CD25、及びTIM3抗体で染色し、結合についてフローサイトメトリーによって評価した。ドナーは、>10%のCD3+CD8+T細胞がCD25及びTIM-3の両方に対して陽性に染色される場合に、EBV又はCMV反応性として同定した。
【0121】
EBV BMLF1 280-288ペプチド又はCMV pp65 495-503ペプチドに対して反応性のPBMCを、EasySep
TMDirect Human PBMC単離キット(StemCell Technologies)と組み合わせたRoboSep
TM-S自動細胞分離装置StemCell Technologies,Cambridge,MA)を製造業者の指示に従って使用して健常ドナー(HLA A
*02:01陽性)血液から単離した。
図1Bに示されるように、次いで、単離されたPBMCを、1μg/mLペプチド(MBL International Corporation)及び55 IU/mL組換えヒトIL-2(PeproTech)の存在下で、RPMI-1640
TM培地(Gibco)及びAIM-V
TM培地(Gibco)の1:1混合物、5%HIヒト血清(Sigma Aldrich)、100 U/mLペニシリン(Gibco)、及び100μg/mLストレプトマイシン(Gibco)を含有する完全RPMI培養培地中に1.5×10
7細胞/mLで30分間再懸濁し、その後、G-Rex6(登録商標)Well Plate(Wilson Wolf Corporation)中で、1ウェルあたり40mLのIL-2培地で、37℃、5% CO2で7日間培養した後、分析した。
【0122】
GLCTLVAML(配列番号31)及びNLVPMVATV(配列番号34)ペプチド特異的CD8+T細胞の分析
増殖させたPBMCを、LSR II(登録商標)装置(BD Biosciences)を用いてフローサイトメトリーによって分析して、抗原特異的CD8+T細胞を定量した。増殖後、PBMCをFACS緩衝液(PBS pH7.2(Gibco)、2%FBS(Gibco)、及び2mM EDTA(Gibco))で洗浄し、蛍光標識したHLA-A*02:01/GLCTLVAML又はHLA-A*02:01/NLVPMVATVデキストラマー(ImmuDex(商標))と共に室温で30分間インキュベートした。異なる細胞集団を区別するために、PBMCを更に蛍光標識抗CD3(クローンHIT3a、Biolegend)、抗CD8(クローンHIT8A、Biolegend)、抗PD-1(クローンEH12.2H7、Biolegend)、及び抗TIGIT(クローンA15153G、Biolegend(商標))で共染色した。FACS緩衝液で2回洗浄した後、フローサイトメトリーによって結合抗体の検出について細胞を分析した。細胞表面に結合した抗体の数を、FACSDiva(商標)ソフトウェア(BD Biosciences)を使用して検出した。データ分析を、FlowJo(商標)ソフトウェア(BD Biosciences)を用いて行った。増殖後の抗原特異的CD8+T細胞(シングレット、デブリなし、CD3+、CD8+及びGLCTLVAML又はNLVPMVATVデキストラマー陽性に基づいてゲーティングされた)のパーセンテージを、下式を用いて決定した:
【0123】
抗原特異的CD8+T細胞の総数=A×(B/100);
式中、Aは収集された細胞の総数であり、Bはデキストラマー陽性であるシングレット、デブリなし、CD3+CD8+T細胞の%である。
【0124】
T細胞死滅アッセイ
腫瘍細胞の抗原特異的CD8+T細胞死滅を改変するAZD2936の能力を測定するために、共培養アッセイ系を開発した。Agilent xCELLigence RTCA(登録商標)プラットフォームを利用して腫瘍細胞溶解を評価し、それによって、細胞インピーダンスの喪失を腫瘍細胞死の代用として使用した(Oberg et al.,Front Immunol. 2014;5:643)。簡単に説明すると、トリプシンを用いてOE21-VP細胞を細胞培養フラスコから採取し、完全RPMI(商標)培養培地で1回洗浄し、完全RPMI(商標)培地に再懸濁し、96ウェルRTCA E-Plates(登録商標)の各ウェルに10,000細胞/ウェルで加えた。腫瘍細胞を、製造業者の指示に従って、5%CO2中、37℃で24時間、E-Plate(登録商標)中で培養した。試験物品及び対照物品を、ペプチド特異的CD8+T細胞を最適化されたエフェクター対標的比率(E:T)で添加する直前にウェルに添加したが、これは、本試験において利用した各ドナーCD8+T細胞集団について予め決定されたものである(2:1のエフェクターT細胞対腫瘍標的の比)。腫瘍細胞の死及び細胞溶解の%を、T細胞添加後3~8日の範囲にわたってモニタリングし(ドナー依存性)、値を、RTCA Pro(登録商標)ソフトウェアを製造業者の指示に従って使用して計算した。
【0125】
EC50値の分析
細胞インピーダンスの損失をRTCA PRO(登録商標)ソフトウェア(Agilent)で計算し、その際、腫瘍細胞死滅のマーカーとしてリアルタイム細胞インピーダンスを測定した。リアルタイム細胞溶解の曲線下面積(細胞溶解*時間)を決定し、試験物品又は対照物品の単独を含まないT細胞共培養と比較して、0.0001nM~10nMの範囲の濃度での試験物品及び対照物品共培養について、Prism Software(登録商標)(GraphPad Software,San Diego,CA)においてEC50値を計算するためにプロットした(ベースライン効果)。T細胞添加の6日後に生じる試験完了まで、インピーダンスを10分毎に連続的に測定した。
【0126】
共培養上清中のIFN-γ濃度の測定
OE21-VP腫瘍細胞及び腫瘍反応性CD8+T細胞を含有する共培養物の上清内で検出されたIFN-γの量を評価するために、別々の並行共培養物を、xCELLigence(登録商標)RTCA E-Plates(登録商標)と一緒にNunc 96ウェルプレート(Sigma Aldrich)中で確立した。IFN-γ放出の評価のために、Nunc 96ウェルプレート中の共培養物から24時間後に上清を回収した。IFN-γレベルの比較を、200pM濃度の試験物品及び対照物品で評価した。ヒトIFN-γに対するMesoscale DiscoveryマルチスポットELISAを製造業者の指示に従って使用して、IFN-γを測定した。
【0127】
統計的方法
細胞溶解及びIFN-γ放出については、Windows(登録商標)用のPrism(登録商標)、バージョン8.0.1(GraphPad Software,San Diego,CA)で統計分析を行った。一元配置分散分析(One-Way ANOVA)、真球度仮定(差異の等しい変動性)、テューキーの多重比較検定を行った。対数用量 対 正規化応答を使用して、EC50値を非線形フィット曲線でモデル化した。AZD2936処理群と抗PD-1処理群との間のEC50値の差を評価するために、EC50値を対数変換し、対のない両側スチューデントt検定を使用して群平均を比較し、2群について不等分散を仮定して評価した。p値は、各図において、有意でない(ns)p>0.05、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001として示す。
【0128】
CD8陽性T細胞を5人の健康なヒトドナーから収集し、プールした。EBV又はCMVペプチドで増殖させた初代ヒトPBMCを、試験物品及び対照物品(0.2nMアイソタイプ対照、0.2nM抗PD-1、0.2nM抗TIGIT、0.1nM抗PD-1+0.1nM抗TIGIT、又は0.2nM AZD2936)及びOE21-VP腫瘍細胞と共培養した。
【0129】
図11Aは、このCD8 T細胞媒介性インビトロ細胞死滅アッセイにおいて、AZD2936が抗PD-1よりも高い活性を有したことを示す。
図11Aに示されるように、AZD2936は、抗PD1抗体単独の投与と比較して、OE21-VP腫瘍細胞死滅の有意な改善を示す。
【0130】
抗原認識の際に、CD8+T細胞は、抗腫瘍免疫及びCD8+T細胞細胞傷害性効果を更に促進するサイトカインであるIFN-γを分泌する(Bhat et al Cell Death Dis., 2017 Jun 1;8(6):e2836)。したがって、ペプチド特異的CD8+T細胞をOE21-VP細胞と共培養した後に、IFN-γ放出を評価した。
【0131】
EBV又はCMVペプチドで増殖させた初代ヒトPBMCを、試験物品及び対照物品(0.2nMアイソタイプ対照、0.2nM抗PD-1、0.2nM抗TIGIT、0.1nM抗PD-1+0.1nM抗TIGIT、又は0.2nM AZD2936)及びOE21-VP腫瘍細胞と共培養した。T細胞及び腫瘍細胞共培養アッセイのIFN-γの濃度を、T細胞添加の24時間後に収集した上清から測定した。結果を
図11Bに示す。IFN-γの濃度を、ヒトIFN-γについてMesoscale DiscoveryマルチスポットELISAを使用して決定した。アイソタイプ対照の平均と比較した全ての値の倍率変化を報告する。データは4人の異なるドナーを表す。統計的有意性は、一元配置ANOVA及びテューキーの多重比較検定を用いて計算した。水平線は群内算術平均値を表す。
***、p<0.001、
****、p<0.0001。
【0132】
図11Bに示されるように、4人の健常ドナーのPBMCから単離及び増殖させたT細胞の共培養物において、AZD2936は、アイソタイプ対照及び抗PD-1と比較して、腫瘍細胞との共培養物の上清中のIFN-γの量を統計的に有意に増加させた。
【0133】
インビトロ細胞死滅アッセイも使用して、AZD2936と抗PD-1抗体との間の細胞毒性の差を決定した。10nMから0.1pMまでの抗体の濃度滴定は、AZD2936についての算術平均EC50が21.9±3.4pM(SD)であり、抗PD-1については163±70.6pM(SD)であることを示し(
図11D)、抗PD-1と比較してAZD2936の効力が6.44倍増加した(
図11C)。
【0134】
実施例5:OE21及びPC9-MART1ヒト異種移植片腫瘍マウスモデル
OE21腫瘍モデル及びPC9-MART1腫瘍モデル(それぞれ、
図12A~12D及び13A~13D)を使用して、腫瘍増殖を阻害するAZD2936の能力を調べた。AZD2936の活性を、免疫不全非肥満糖尿病/重症複合免疫不全(NOD-scid)IL-2受容体ガンマヌル(NSG)マウスを使用して、ヒト腫瘍異種移植マウスモデルにおいて調査した。動物に、HLA-A
*2:01によって提示されるペプチド抗原を発現するように操作されたヒト癌性細胞株を皮下接種した。1つのモデルは、ウイルスペプチドを発現するように操作された食道癌細胞株であるOE21-VPを利用した。別のモデルは、黒色腫抗原-1を発現するように操作された肺腺癌細胞株であるPC9-MART1を利用した。
【0135】
腫瘍細胞株を皮下(SC)注射によってマウスの側腹部に注射し、腫瘍が約200mm3の体積に成長した後、各マウスに、腫瘍細胞株によって発現される抗原に特異的なヒトT細胞をIV注射した。動物に、無作為化後24時間以内に試験物品及び対照物品の初回用量を受けさせ、その後、試験物品及び対照物品の3回の追加用量を投与した。
【0136】
動物へのAZD2936の腹腔内投与は、
図12A~12D及び13A~13Dに示すように、その親二価抗PD-1抗体(抗PD-1)、抗TIGIT及び抗PD-1の組合せ、並びに無関係な抗原を標的とする二価アイソタイプ対照抗体R347(アイソタイプ対照)の活性と比較して、腫瘍の増殖を有意に阻害した。AZD2936処置は、試験の全期間にわたって、及び異なる抗原特異性を有するT細胞を利用する2つの異種移植マウスモデルにおいて、腫瘍増殖を阻害した。AZD2936の抗癌活性は、2人の独立した健常ドナーに由来する腫瘍特異的T細胞を利用して生じさせた(それぞれ、OE21-VPandモデル及びPC9-MART-1モデルについて)。
【0137】
実施例6:AZD2936についてのエフェクター機能の特徴付け
治療用抗体は、臨床的有効性を発揮する2つのタイプの機能性、すなわちFabドメインによる標的特異的結合及びFcドメインの相互作用を介した免疫媒介性エフェクター機能、に依存する。IgG抗体がそれらのFabドメインを介して細胞表面抗原に結合する場合、抗体のFc部分は、補体成分1q(C1q)(古典的補体経路を誘発する抗体の第1のメンバー)に結合し得るか、又はナチュラルキラー及び他の骨髄性細胞上に発現されるFcγ受容体(FcγR)と会合し得る。
【0138】
C1qとの相互作用は補体カスケードを開始し、その結果、細胞膜を破壊することによって標的細胞を死滅させる膜攻撃複合体が形成され、このプロセスは補体依存性細胞傷害(CDC)として記載される。抗体のFcドメインとFcγRIIIaとの相互作用は、FcγRの架橋を誘導し、これが、パーフォリン及びグランザイムを含有する細胞傷害性顆粒の放出を誘発し、抗体の抗原結合ドメインによって結合された標的細胞の死、抗体依存性細胞傷害(ADCC)と呼ばれるプロセスをもたらす(Nimmerjahn and Ravetch, Nature Reviews Immunology, 8:34-47,2008)。AZD2936は、Fc媒介性エフェクター機能を減少させるためにそのFcドメイン内に変異を有するように操作された一価二重特異性ヒト化IgG1モノクローナル抗体である。これらのFc変異は、三重変異L234F/L235E/P331Sである。TIGIT及びPD-1を発現するように操作されたJurkat細胞株を利用して、AZD2936がCDC及びADCC活性を開始する能力を評価した。
【0139】
補体含有ヒト血清又は熱不活性化ヒト血清と一緒に、AZD2936、IgG1-TMアイソタイプ対照、リツキシマブ、又はIgG1アイソタイプ対照と共にインキュベートした後に、生きているPD-1及びTIGIT発現Jurkat細胞(
図14A)又はDaudi細胞(
図14B)のパーセンテージを、Cell-Titer Glo(登録商標)の添加によって推定した。Cell-Titer Glo(登録商標)は、各ウェル中の生細胞の数に比例する発光シグナルを生成する。これらの結果は、AZD2936がJurkat PD-1
+TIGIT
+細胞においてCDCを誘発しなかったことを示す(
図14A)。逆に、CDC活性を有することが知られている抗CD20抗体であるリツキシマブは、AZD2936を用いたアッセイで使用したのと同じヒト血清の存在下でCD20発現Daudi細胞に対して濃度依存的効果を示したが、熱不活化血清対照の存在下では示さなかった(
図14B)。IgG1アイソタイプ対照は、いずれの細胞型についても生存細胞のパーセンテージに対していかなる効果も有さなかった。熱不活性化血清を使用した試料は、生存率の濃度依存的減少をもたらさず、観察された細胞死がCDCによって媒介されたことが確認された。
【0140】
エフェクター細胞として健常ドナー由来のPBMC、並びに標的細胞としてPD-1及びTIGIT発現Jurkat細胞株を利用して、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を評価した。このアッセイにおいて、AZD2936は、アイソタイプ対照試料と同様の活性を示し、標的細胞としてCD20発現Daudi細胞を使用した陽性対照リツキシマブと比較して、0.061ng/mLを超える全ての対応濃度で、ADCC活性の統計的に有意な低下をもたらした(
図15)。本試験の結果は、AZD2936が、PD-1及びTIGITを発現するJurkat細胞株に対してADCC又はCDCを誘発しなかったことを示す。
【配列表】
【国際調査報告】