(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】燃料用の生物活性添加剤とその使用、燃料の組成、及び方法
(51)【国際特許分類】
C10L 1/232 20060101AFI20240416BHJP
C07D 233/22 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C10L1/232
C07D233/22
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563921
(86)(22)【出願日】2022-05-06
(85)【翻訳文提出日】2023-11-29
(86)【国際出願番号】 EP2022062325
(87)【国際公開番号】W WO2022243068
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519051322
【氏名又は名称】トゥーナップ ゲーエムベーハー ウント コー. カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホシュタイン、クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】リハ、サビーネ
(72)【発明者】
【氏名】ノシグ、フォルカー
(57)【要約】
本発明は、生物活性添加剤、その使用、及び添加剤を含有する燃料組成物、並びに添加剤若しくは燃料組成物が使用される方法に関する。添加剤は以下に示す一般式(I)を有し、Rは、14~20個の炭素原子を有する飽和又は不飽和の炭化水素基であり、nは、1~6の整数である、少なくとも1つの化合物を含む。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料用の生物活性添加剤であって、前記生物活性添加剤は、以下に示す一般式(I)
【化1】
を有する少なくとも1つの化合物を含み、
Rは、14~20個の炭素原子を有する飽和又は不飽和の炭化水素基であり、
nは、1~6の整数である、生物活性添加剤。
【請求項2】
Rは、16~18個の炭素原子を有する飽和又は不飽和の炭化水素基であり、nは、2~4の整数であり、並びに/或いは前記生物活性添加剤が2-(2-ヘプタデカ-8-エニル-2-イミダゾリン-1-イル)エタノールを含む、
請求項1に記載の生物活性添加剤。
【請求項3】
前記生物活性添加剤は、少なくとも1つの抗酸化剤を更に含み、特に、前記抗酸化剤は、フェノール、ベンゾトリアゾール、フェニレンジアミン、及びジアリルアミンからなる群から、特に、ブチルヒドロキシトルエン(BHT、2,6-ジ-tert-ブチル-4-クレゾール)、ビス(2-エチルヘキシル)[(4-メチル-1H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]アミン、ビス(2-エチルヘキシル)[(4-メチル-2H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-2-イル)メチル]アミン、ビス(2-エチルヘキシル)[(5-メチル-1H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]アミン、ビス(2-エチルヘキシル)[(5-メチル-2H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-2-イル)メチル]アミン、ビス(2-エチルヘキシル)[(6-メチル-1H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]アミン、スチレン化ジフェニルアミン及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の生物活性添加剤。
【請求項4】
前記生物活性添加剤は、少なくとも1つの着火性を高めるための薬剤を更に含み、特に、前記着火性を高めるための薬剤は、硝酸アルキル及び過酸化物からなる群から、特に硝酸2-エチルヘキシル、ジーtert-ブチルペルオキシド、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の生物活性添加剤。
【請求項5】
前記生物活性添加剤は、少なくとも1つの溶媒を更に含み、特に、前記溶媒は、少なくとも1つの極性溶媒、特にアルコール、並びに/或いは少なくとも1つの非極性溶媒、特に炭化水素、又は炭化水素の混合物を含む、請求項1又は2のいずれか一項に記載の生物活性添加剤。
【請求項6】
前記生物活性添加剤は、少なくとも50重量%の前記一般式(I)の少なくとも1つの化合物と、更に以下の成分、すなわち
・5~20重量%の少なくとも1つの抗酸化剤、例えば5~10重量%の1又は複数のフェノール及び/又は5~10重量%の1又は複数のベンゾトリアゾール、
・5~20重量%の少なくとも1つの着火性を高める薬剤、例えば5~10重量%の1又は複数の硝酸アルキル及び/又は5~10重量%の1又は複数の過酸化物、
・5~30重量%の少なくとも1つの溶媒、例えば5~10重量%の少なくとも1つの極性溶媒及び/又は10~20重量%の少なくとも1つの非極性溶媒、
のうち少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の生物活性添加剤。
【請求項7】
燃料用の生物活性添加剤としての、以下に示す一般式(I)
【化2】
の化合物の使用であって、
Rは、14~20個の炭素原子を有する飽和又は不飽和の炭化水素基であり、
nは、1~6の整数である、使用。
【請求項8】
燃料の微生物負荷を低減するための請求項7に記載の使用。
【請求項9】
燃料の微生物負荷を低減するための、及び/又は燃料を安定化するための、請求項1又は2に記載の生物活性添加剤の使用。
【請求項10】
微生物負荷を低減する、及び/又は燃料を安定化する方法であって、請求項1又は2に記載の生物活性添加剤を燃料に添加することを包含する方法。
【請求項11】
燃料組成物であって、燃料と、請求項1又は2に記載の生物活性添加剤を含む、燃料組成物。
【請求項12】
前記生物活性添加剤が、前記燃料組成物に対して100~5000ppmの量で含有される、請求項11に記載の燃料組成物。
【請求項13】
前記燃料が液体燃料であり、特にガソリン、ディーゼル燃料、暖房用オイル、重油、灯油、石油、及びバイオディーゼルなどのバイオ燃料からなる群から選択される、請求項11に記載の燃料組成物。
【請求項14】
内燃機関を動作させる方法であって、請求項11に記載の燃料組成物を燃焼させる、方法。
【請求項15】
前記内燃機関は、
自動車、特に乗用車、商用車両、又はオートバイ、
船舶、或いは航空機の一部である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料用の生物活性添加剤、添加剤の使用、添加剤を含む燃料組成物、及び添加剤若しくは燃料組成物が使用される方法に関する。添加剤は、特に燃料を安定化及び/又は細菌の繁殖から保護することを目的とすることができる。
【背景技術】
【0002】
燃料(推進剤、燃焼剤)が充填されたタンク又は他の設備では、長期の貯蔵時間、燃料のさまざまな組成、燃料中の生物含有量、並びに凝縮水の形成、酸化プロセス及び微生物学的プロセスなどの外的影響の相互作用により、推進剤の組成が変化して望ましくない結果につながる可能性がある。例えば、濁り、更に沈殿(いわゆる「ディーゼルペスト」又は「スラッジ」)、及びフィルタの詰まり、更には腐食や材料侵食さえも生じる可能性があり、それが燃料を引き続き使用することを妨げるばかりでなく、設備が故障したり、修理にコストがかかる可能性がある。これは、固定式及び移動式の推進剤処理設備及びタンクに当てはまる。燃料中の生物含有量の増加によって、上記の問題は一段と悪化する。
【0003】
とりわけ独国特許出願公開第102009033161号公報、独国特許出願公開第10340830号公報、独国特許出願公開第19961621号公報、国際公開第2009/060057公報、独国特許出願公開第19842116号公報、国際公開第2011/006734号公報、欧州特許出願公開第1800539号公報、欧州特許出願公開第0330416号公報、欧州特許出願公開第1512323号公報、国際公開第01/1041570号公報に記載されているように、推進剤及び燃焼剤用の殺生物組成物は従来技術から知られている。独国特許出願公開第10340830号公報は、例えばホルムアルデヒドドナー化合物及び抗酸化剤に基づく組成物を開示している。従来の組成物には、作用物質として殺生物剤である3,3-メチレンビス(5-メチルオキサゾリジン(MBO)を含有することが多い。
【0004】
しかし、そのような殺生物剤含有組成物若しくはそれに含有される殺生物剤は毒性及び発癌性であり、したがって対応する危険物質マークを表示しなければならず、その取り扱いは危険であり、エンドカスタマ若しくはエンドユーザへの販売は不可能であり、むしろ禁止されている。
【0005】
したがって、上述の妨げとなる影響を軽減又は理想的には防止でき、同時にそれ自体が毒性や発癌性でない燃料添加剤の必要があり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、殺菌効果があり、毒性や発癌性の特性がない燃料用の生物活性添加剤(又は生物活性添加剤混合物)を提供することである。更に、添加剤は、これを混ぜた燃料を安定化させ、かつ防食効果を有し得る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、この課題を解決するために広範な研究を行い、特に、特定のイミダゾリン化合物が、この目的に適した燃料に添加するための添加剤若しくは組成物の構成要素であることを発見した。特に、イミダゾリン化合物が比較的疎水性の残基と、アルキルヒドロキシ基で置換された比較的親水性のイミダゾリン基とを有し、このことが化合物に両親媒性の性質を与え得る場合に有利であることが分かった。理論に束縛されるものではないが、発明者らは、イミダゾリン基と化合物の両親媒性の性質との相互作用が、燃料中の添加剤の殺菌、更に防食作用に決定的に寄与し得るということを出発点とする。多機能製剤の検査では、驚くべきことに、そのようなイミダゾリン化合物の高濃度(例えば、燃料に対して100ppm以上)の添加が、燃料の典型的な微生物害に対して極めて有効であることが分かった。
【0008】
したがって、本発明は、(殊に液体)燃料用の(生物活性)添加剤(若しくは添加剤混合物)に関し、添加剤は以下に示す一般式(I)
【化1】
を有する少なくとも1つの化合物を含み、
Rは、14~20個の炭素原子を有する飽和又は不飽和の炭化水素基であり、
nは、1~6の整数である。
【0009】
本発明は更に、(殊に液体)燃料用の(生物活性)添加剤として、以下に示す一般式(I)
【化2】
の化合物の使用に関し、
Rは、14~20個の炭素原子を有する飽和又は不飽和の炭化水素基であり、
nは、1~6の整数である。
【0010】
本発明は更に、燃料の微生物負荷を低減するため(特に殺菌するため)、及び/又は燃料を安定化するための、本明細書に記載される添加剤の使用に関する。
【0011】
更に、本発明は、微生物負荷を低減する、及び/又は(殊に液体)燃料を安定化する方法であって、本明細書に記載される添加剤を燃料に添加することを包含する方法に関する。
【0012】
更に、本発明は、(殊に液体)燃料及び本明細書に記載される添加剤を含む燃料組成物に関する。
【0013】
更に、本発明は、本明細書に記載される燃料組成物が燃焼されるか、若しくは燃料として使用される(若しくは燃料に本明細書に記載される添加剤が加えられる)、内燃機関を動作させる方法に関する。
【0014】
本発明の実施形態の他の課題及び利点は、以下の詳細な説明及び添付の図面から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】DIN EN 15457:2014-11に従って検知された、ケロシン菌 Hormoconis resinae ATCC20495に対するさまざまな検査サンプルの抗菌有効性に関する試験結果を示す図である。
【
図2】DIN EN 15457:2014-11に従って検知された、酵母Yarrowia tropicalis ATCC48138に対するさまざまな検査サンプルの抗菌有効性に関する試験結果を示す図である。
【
図3】ASTM E 1259-10に従って検知された、ケロシン菌 Hormoconis resinae ATCC20495に対するさまざまな検査サンプルの抗菌有効性に関する試験結果を示す図である。
【
図4】ASTM E 1259-10に従って検知された、細菌Pseudomonas aeruginosa DSM15980に対するさまざまな検査サンプルの抗菌有効性に関する試験結果を示す図である。
【
図5】ASTM E 1259-10に従って検知された、酵母Yarrowia tropicalis ATCC48138に対するさまざまな検査サンプルの抗菌有効性に関する試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のより詳しい詳細及びそれらのさらなる実施形態を以下に説明する。しかし、本発明は以下の詳細な説明に限定されるものではなく、これらの説明は本発明の教示を示すに過ぎない。
【0017】
例示的実施形態に関連して説明した特徴は、他のどの例示的実施形態とも組み合わせることができることに言及しておく。特に、本発明による添加剤の例示的実施形態に関連して説明される特徴は、特に明記しない限り、本発明による添加剤の他のどの例示的実施形態とも、及び本発明による燃料組成物のどの例示的実施形態とも、及び本発明による方法のどの例示的実施形態とも、及び本発明による使用のどの例示的実施形態とも組み合わせることができ、その逆も同様である。
【0018】
文脈が一義的にそれ以外のことを定めない限り、例えば「a」、「an」、「the」、「that」などの不定冠詞又は定冠詞を伴う単数の概念が示される場合、これは複数の概念も含み、またその逆も同様である。本明細書で使用される「有する」若しくは「含む」という表現は、「含有する」又は「内容とする」という意味を含めるだけでなく、「からなる」及び「実質的にからなる」も意味することができる。
【0019】
第1の態様では、本発明は、(殊に液体)燃料用の生物活性添加剤(若しくは添加剤混合物)に関する。
【0020】
本明細書で使用される「生物活性」という表現は、特に抗菌作用若しくは抗菌有効性を意味することができる。
【0021】
添加剤若しくは添加剤混合物は、特に、燃料に添加するための、2つ、3つ、4つ又はそれ以上の成分の混合物などの組成物であり得る。添加剤の個々の構成要素が一緒に、実質的に均質な混合物又は溶液を形成する場合が有利となり得る。添加剤と、添加剤が添加される燃料が互いに良好に混和可能であり、特に実質的に均質な混合物又は溶液を形成する場合も有利となり得る。本明細書で単に添加剤という場合も、これを燃料に添加するための添加剤混合物若しくは組成物と理解することができる。
添加剤は、以下に示す一般式(I)を有する少なくとも1つの化合物(以下、「イミダゾリン化合物」とも称される)を含む。
【化3】
【0022】
一般式(I)において、Rは、14~20個の炭素原子を有する飽和又は不飽和の炭化水素基を表す。基Rは、分岐又は非分岐の炭化水素基であり得、殊に非分岐(直鎖)炭化水素基であり得る。基Rは、1つ又は複数の二重結合、好ましくは1つの二重結合、すなわちモノ不飽和炭化水素基(例えば、cis配置で、若しくはZ異性体として)を有することができる。一実施形態では、Rは、16~18個の炭素原子、例えば17個の炭素原子を有する飽和又は不飽和の炭化水素基である。
【0023】
一般式(I)において、nは、1~6の整数を表し、すなわちイミダゾリン環上のアルキルヒドロキシ置換基が1~6個のメチレン基を有し得るか、若しくはC1~C6アルキルヒドロキシ置換基(分岐又は非分岐)であり得る。一実施形態では、nは、2~4の整数、例えば2又は3、殊に2である。
【0024】
例示的実施形態によれば、添加剤(若しくは少なくとも1つのイミダゾリン化合物)は、2-(2-ヘプタデカ-8-エニル-2-イミダゾリン-1-イル)エタノールを含む。この化合物は、毒性や発癌性の特性がなく、これを用いることで有利にも殺菌効果と、それに加えて防食効果も達成できるため、燃料用の添加剤に使用するのに特に適することが分かった。
【0025】
例示的実施形態によれば、添加剤は、一般式(I)の少なくとも1つの化合物を少なくとも50重量%、例えば60~90重量%含有し、一般式(I)の少なくとも1つの化合物を100重量%まで含有することができる。
【0026】
例示的実施形態によれば、添加剤は少なくとも1つの抗酸化剤を更に含む。本出願の範囲内で、「抗酸化剤」とは、特に、他の物質の酸化を遅らせるか、又は(完全に)抑制することができる化合物と理解される。抗酸化剤の添加は、特に、添加剤の防食作用を更に高めることができる。
【0027】
抗酸化剤の適切な例は、フェノール、ベンゾトリアゾール、フェニレンジアミン、及びジアリルアミンである。フェノールの中でも、例えばブチルヒドロキシトルエン(BHT、2,6-ジ-tert-ブチル-4-クレゾール)又はブチルヒドロキシアニソール(BHA)などの立体障害のあるフェノール、クレゾール又はフェノールエーテルが特に適し得る。ベンゾトリアゾールの中でも、アミン基、殊に三級アミン基で機能化されたもの、例えばビス(2-エチルヘキシル)[(4-メチル-1H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]アミン、ビス(2-エチルヘキシル)[(4-メチル-2H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-2-イル)メチル]アミン、ビス(2-エチルヘキシル)[(5-メチル-1H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]アミン、ビス(2-エチルヘキシル)[(5-メチル-2H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-2-イル)メチル]アミン、ビス(2-エチルヘキシル)[(6-メチル-1H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]アミン、又はこれらのうち2つ以上による混合物などが特に適し得る。ジアリルアミンの中でも、スチレン化ジフェニルアミンが特に適し得る。
【0028】
例示的実施形態によれば、添加剤は、5~20重量%の少なくとも1つの抗酸化剤、例えば5~10重量%の1又は複数のフェノール、並びに/或いは5~10重量%の1又は複数のベンゾトリアゾールを含有する。
【0029】
例示的実施形態によれば、添加剤は、少なくとも1つの着火性を高めるための薬剤を更に含む。本出願の範囲内で、「着火性を高めるための薬剤」とは、特に、燃料、特にディーゼル燃料のセタン価を高めること、したがってその着火性を向上させることができ、それにより燃料自体が発火しやすくなる化合物と理解される。したがって、着火性を高めるための薬剤は、「セタン価向上剤」又は「セタン価ブースタ」とも称される。
【0030】
着火性を高めるための薬剤の適切な例は、(有機)過酸化物及び(有機)硝酸塩、特に硝酸アルキルである。過酸化物の中でも、例えばジ-tert-ブチルペルオキシドなどの立体障害のある過酸化物が特に適し得る。硝酸塩の中でも、例えば硝酸2-エチルヘキシルなどの分岐又は非分岐のC6~C10アルキル硝酸塩が適し得る。
【0031】
例示的実施形態によれば、添加剤は、5~20重量%の少なくとも1つの着火性を高める薬剤、例えば5~10重量%の1又は複数の過酸化物、及び/又は5~10重量%の1又は複数の硝酸塩を含有する。
【0032】
例示的実施形態によれば、添加剤は少なくとも1つの溶媒を更に含む。本出願の範囲内で、「溶媒」とは、特に、他の成分、特にイミダゾリン化合物を溶解することができ、添加剤が添加される燃料とも容易に混和可能な化合物と理解される。溶媒は、添加剤が添加される燃料中の他の成分、特にイミダゾリン化合物の溶解度を向上させ、したがって可溶化剤として作用することもできる。このために、溶媒が(比較的)極性の溶媒と(比較的)非極性の溶媒の混合物を含む場合も有利であり得る。
【0033】
例示的実施形態によれば、溶媒は、少なくとも1つの極性溶媒(若しくは極性を高める溶媒)及び/又は少なくとも1つの非極性溶媒を含む。極性溶媒の適切な例は、例えば2-エチルヘキサノールなどのアルコールであり、これは燃料の着火性を高めることもでき、かつ再生する原料から取得できるという事実に基づき、温室効果ガスに有利な効果を及ぼし、燃焼ガスに不利な影響を及ぼすことができる。極性溶媒の適切な例は、炭化水素又は炭化水素の混合物、例えばC10~C13炭化水素の混合物である。
【0034】
例示的実施形態によれば、添加剤は、5~30重量%の少なくとも1つの溶媒、例えば5~10重量%の少なくとも1つの極性溶媒、及び/又は10~20重量%の少なくとも1つの非極性溶媒を含有する。
【0035】
例示的実施形態によれば、添加剤は、少なくとも50重量%(最大若しくは合計100重量%)の一般式(I)の少なくとも1つの化合物と、更に以下の成分、すなわち
・5~20重量%の少なくとも1つの抗酸化剤、例えば5~10重量%の1又は複数のフェノール及び/又は5~10重量%の1又は複数のベンゾトリアゾール、
・5~20重量%の少なくとも1つの着火性を高める薬剤、例えば5~10重量%の1又は複数の硝酸アルキル(例えば硝酸2-エチルヘキシル)及び/又は5~10重量%の1又は複数の過酸化物(例えばジ-tert-ブチルペルオキシド)、
・5~30重量%の少なくとも1つの溶媒、例えば5~10重量%の少なくとも1つの極性溶媒及び/又は10~20重量%の少なくとも1つの非極性溶媒、
のうち少なくとも1つ(1つ、2つ又は3つすべて)を更に含む。
【0036】
例示的実施形態によれば、添加剤若しくは添加剤混合物は、毒性及び/又は癌を引き起こす可能性のある(発癌性)化合物を実質的に含まない。特に、添加剤若しくは添加剤混合物は、ドイツ危険物質規則(GefStoffV)に従って急性毒性及び/又はがん原性がありと表示されなければならない物質を実質的に含まないことができる。本明細書で使用される「実質的に含まない」という表現は、特に、添加剤若しくは添加剤混合物がそのような化合物及び物質を1重量%未満、殊に0.1重量%未満しか含有しないことを意味する。
【0037】
別の態様では、本発明は、(殊に液体)燃料用の生物活性添加剤としての、本明細書に記載されるイミダゾリン化合物の使用に関する。
【0038】
例示的実施形態によれば、イミダゾリン化合物は、燃料の微生物負荷を低減するため(特に、殺菌するため、若しくは微生物害を回避するため)に使用され得る。更に、イミダゾリン化合物は、防食効果も有することができる。
【0039】
別の態様では、本発明は、燃料の微生物負荷を低減するため(特に殺菌するため)及び/又は燃料を安定化するための、本明細書に記載される添加剤の使用に関する。更に、添加剤は防食としても使用することができる。
【0040】
本明細書で使用される「微生物負荷を低減する」という表現は、特に、例えば細菌、ウイルス、酵母及び真菌などの(生息又は活性)微生物の数が低減される、或いは微生物害が軽減されるか回避さえされることを意味する。このために、微生物負荷が低減されるべき燃料に添加される添加剤は、抗菌作用若しくは抗菌有効性を有することができる。
【0041】
本出願の範囲内で、「抗菌作用」若しくは「抗菌有効性」とは、例えば細菌、ウイルス、酵母及び真菌などの微生物を死滅させる能力、或いは少なくともそれらの増殖を制御若しくは制限する能力と理解される。例示的実施形態によれば、本出願の範囲内で、「抗菌作用」若しくは「抗菌有効性」とは、抗菌及び/又は抗真菌作用又は特性と理解され、特に、静菌性、殺菌性、静真菌及び/又は殺真菌作用又は特性、特に、燃料中に発生、若しくはそこに生息できる細菌、酵母及び/又は真菌に対する有効性を含むことができる。
【0042】
例示的実施形態によれば、イミダゾリン化合物若しくは添加剤は、いわゆるケロシン菌(Hormoconis resinae若しくはAmorphotheca resinae)に対して有効であり得る。ケロシン菌は、どこにでも存在する土壌菌で、ケロシンを分解することができ、航空機、船舶、その他の乗り物の燃料タンクでも生息できる。そこでは、ケロシン菌の増殖が詰まりを引き起こすだけでなく、ケロシン菌により生成される脂肪酸が腐食を引き起こす可能性もある。
【0043】
例示的実施形態によれば、イミダゾリン化合物若しくは添加剤は、いわゆるディーゼルペストを引き起こす他の微生物(細菌、酵母、カビ)に対しても有効であり得、それによって、フィルタ及び推進剤配管を詰まらせる可能性のある燃料中の生物腐食及び生物スラッジの発生を防止することができる。
【0044】
本出願の範囲内で、「燃料の安定化」とは、一定期間にわたり燃料の安定性、例えば劣化に対する安定性及び/又は貯蔵安定性を保証する能力と理解される。
【0045】
本出願の範囲内で、「防食」若しくは「防食作用」とは、(例えば金属製の)部品の腐食によって引き起こされる可能性のある(例えば金属製の)部品の破損、内燃機関及びその供給管の破損を含めた、例えばタンク、配管、又は燃料を貯蔵、輸送及び/又は処理するための他の設備の破損を遅らせるか、又は回避する能力と理解される。
【0046】
例示的実施形態によれば、燃料は液体燃料(20℃、1バール)である。特に、燃料は、ガソリン(ガソリン燃料)、ディーゼル燃料、暖房用オイル、重油、ケロシン、石油、及びバイオディーゼルなどのバイオ燃料からなる群から選択することができる。
【0047】
別の態様では、本発明は、微生物負荷を低減する、及び/又は燃料を安定化する方法に関し、この方法は、本明細書に記載される添加剤を燃料に添加することを包含する。更に、方法は防食ももたらす。
【0048】
例示的実施形態によれば、添加剤は製油所で、又は貯蔵前に燃料に加えることができる。この添加剤は毒性が低いため、必要に応じてエンドユーザ自身で燃料に加えることもできる。
【0049】
別の態様では、本発明は、(殊に液体)燃料及び本明細書に記載される添加剤を含む燃料組成物に関する。
【0050】
例示的実施形態によれば、添加剤は、燃料組成物中に100~5000ppmの量、例えば燃料組成物に対して200~4000ppmの量で、特に500~2500ppmの量で含有され得る。添加剤の割合が100ppm未満であると、所望の抗菌効果及び/又は安定化効果を達成できない可能性がある。添加剤の割合が5000ppmを超えると、所望の抗菌効果及び/又は安定化効果をそれ以上高められないかもしれない。
【0051】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載される燃料組成物が燃焼されるか、若しくは燃料として使用される(若しくは方法において、燃料に本明細書に記載される添加剤が加えられる)、内燃機関を動作させる方法に関する。
【0052】
例示的実施形態によれば、内燃機関は、自動車、特に乗用車(例えばハイブリッド車を含む、ガソリンエンジン又はディーゼルエンジンを搭載した)、商用車両(例えばトラック又は建設車両)又はオートバイ、船舶、或いは航空機の一部である。言い換えれば、この添加剤はあらゆる可能な種類の移動手段若しくは車両の燃料に加えることができる。しかしながら、添加剤は、定置式エンジンの燃料に加えたり、又は推進剤を貯蔵するためのタンク内の燃料に加えることもできる。
【0053】
添加剤は、車両の最初の充填(いわゆる「初回充填」)時に、また車両の耐用年数若しくは寿命期間全体において定期的に、或いは車両(例えば季節限定でしか使用されない車両)を長期間使用しなくなる前にも加えることができる。
【0054】
本発明は、以下の実施例を用いて更に説明されるが、これらは本発明の教示を明らかにするために用いられるに過ぎず、決して本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0055】
抗菌有効性の最初の検査
検査サンプル:
-「TUNAP neu」:1重量%の2-(2-ヘプタデク-8-エニル-2-イミダゾリン-1-イル)エタノール添加剤を含む試験溶液(本発明による例)
-「MBOを含む標準ディーゼルペスト殺生物剤」:0.1重量%の殺生物剤MBO(3,3-メチレンビス(5-メチルオキサゾリジン))を含む試験溶液(比較サンプル)
-「MIT」:0.1重量%の殺生物剤MIT(2-メチル-2H-イソチアゾール-3-オン)を含む試験溶液(比較サンプル)
-「推進剤 pur」:添加剤を添加しない推進剤(比較サンプル)
【0056】
試験対象微生物:
-Hormoconis resinae ATCC20495(「ケロシン菌」)
-Yarrowia tropicalis ATCC48138(「酵母菌」)
【0057】
試験対象微生物に対するサンプルの抗菌有効性はDIN EN 15457:2014-11に従って検知された。
【0058】
試験対象ケロシン菌に対する検査サンプルの有効性の試験結果を
図1に示す。これらの結果から見て取れるように、本発明による添加剤は、試験対象ケロシン菌に対して、従来の、そして更に毒性の殺生物剤MBO及びMITよりも格段に向上した有効性を有し、それにより本発明による添加剤を用いて燃料をケロシン菌による汚染から極めて効果的に保護することができる。
【0059】
試験対象酵母菌に対する検査サンプルの有効性の試験結果を
図2に示す。これらの結果から見て取れるように、本発明による添加剤は、試験対象酵母菌に対して、従来の、しかし毒性の殺生物剤MBO及びMITと少なくとも類似の有効性を示し、それにより本発明による添加剤を用いて、毒性の内容物なしでも従来技術から知られるのと同じ程度に、燃料を酵母菌による汚染から保護することができる。
【0060】
抗菌有効性のさらなる検査
検査サンプル:
-「TUNAP 作用物質」:1000ppmの2-(2-ヘプタデク-8-エニル-2-イミダゾリン-1-イル)エタノール添加剤を含む試験溶液(本発明による例)
-「TUNAP 保護システム ディーゼル」:2000ppm若しくは5000ppmの下記の添加剤組成物「1903391」を含む試験溶液(約1000ppm若しくは2500ppmの作用物質2-(2-ヘプタデク-8-エニル-2-イミダゾリン-1-イル)エタノール)に相当)(本発明による例)
-「Tunap 685(Protezione Diesel)MBOを含む殺生物剤」:1000ppmの殺生物剤MBO(3,3-メチレンビス(5-メチルオキサゾリジン))を含む試験溶液(比較サンプル)
-「BIT」:1000ppmの殺生物剤BIT(ベンズイソチアゾリノン)を含む試験溶液(比較サンプル)
-「blank」:添加剤を添加しない推進剤(比較サンプル)
【0061】
添加剤組成物「1903391」:
・少なくとも50重量%の2-(2-ヘプタデカ-8-エニル-2-イミダゾリン-1-イル)エタノール
・10~20重量%のC10~C13炭化水素
・5~10重量%の2,6-ジ-tert-ブチル-4-クレゾール
・5~10重量%の2-エチルヘキサノール
・5~10重量%の硝酸2-エチルヘキシル
・5~10重量%のビス(2-エチルヘキシル)[(4-メチル-1H-1.2.3-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]アミン、ビス(2-エチルヘキシル)[(4-メチル-2H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-2-イル)メチル]アミン、ビス(2-エチルヘキシル)[(5-メチル-1H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]アミン、ビス(2-エチルヘキシル)[(5-メチル-2H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-2-イル)メチル]アミン、ビス(2-エチルヘキシル)[(6-メチル-1H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]アミンの混合物
【0062】
試験対象微生物:
-Hormoconis resinae ATCC20495(「ケロシン菌」)
-pseudomonas aeruginosa DSM15980(「細菌」)
-Yarrowia tropicalis ATCC48138(「酵母」)
【0063】
試験対象微生物に対するサンプルの抗菌有効性は、ASTM E 1259-10に従って検知された。
【0064】
試験対象ケロシン菌に対する検査サンプルの有効性の試験結果を
図3に示す。これらの結果から見て取れるように、本発明による添加剤は、本発明による添加剤組成物と同様に、従来の殺生物剤BITよりも試験対象ケロシン菌に対して格段に向上した有効性を有する一方で、この方法では、本発明による例とMBOを含む比較サンプルの両方が試験対象ケロシン菌をほぼ完全に死滅させる結果となったため、他の従来の、しかし毒性の殺生物剤との違いが確認できなかった。したがって、本発明による添加剤と本発明による添加剤組成物の両方で、毒性の内容物質を使用することなく、ケロシン菌による汚染から極めて効率よく保護することが可能である。
【0065】
試験対象細菌に対する検査サンプルの有効性の試験結果を
図4に示す。これらの結果から見て取れるように、少なくとも本発明による添加剤組成物は、従来の殺生物剤BITよりも試験対象細菌に対して格段に向上した有効性を有する一方で、この方法では、本発明による添加組成物とMBOを含む比較サンプルの両方が試験対象細菌をほぼ完全に死滅させる結果となったため、本発明による添加剤組成物と他の従来の、しかし毒性の殺生物剤MBOとの違いを確認できなかった。したがって、少なくとも本発明による添加剤組成物を用いて、毒性の内容物質を使用することなく、細菌による汚染から極めて効率よく保護することが可能である。
【0066】
試験対象酵母に対する検査サンプルの有効性の試験結果を
図5に示す。これらの結果から見て取れるように、本発明による添加剤は、本発明による添加剤組成物と同様に、従来の殺生物剤BITよりも試験対象酵母に対して格段に向上した有効性を有する一方で、本発明による添加剤組成物は、試験対象酵母に対して他の従来の、しかし毒性の殺生物剤MBOと少なくとも同等の有効性を示す。したがって、本発明による添加剤組成物を用いて、毒性の内容物質なしでも従来技術から知られているのと同じ程度に酵母による汚染から燃料を保護することができる。
【0067】
添加剤組成物「1903391」を250ppm、500ppm若しくは1000ppmしか含まない試験溶液も、試験対象微生物(ケロシン菌、細菌、酵母)に対して非常に良好な有効性を示し、これは添加剤組成物の非常に幅広い用途に対する抗菌効果を証明する。
【0068】
本発明を、特定の実施形態及び実施例を用いて説明した。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなくさまざまな変更が可能である。
【国際調査報告】