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特表2024-517631乱流中で血小板を放出する方法、および当該方法を実施するための血小板放出システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】乱流中で血小板を放出する方法、および当該方法を実施するための血小板放出システム
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/078 20100101AFI20240416BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20240416BHJP
【FI】
C12N5/078
C12M3/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563947
(86)(22)【出願日】2022-04-21
(85)【翻訳文提出日】2023-12-14
(86)【国際出願番号】 EP2022060554
(87)【国際公開番号】W WO2022223693
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】2104123
(32)【優先日】2021-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】522122802
【氏名又は名称】エタブリスモン フランセ デュ サン
(71)【出願人】
【識別番号】511142062
【氏名又は名称】アンスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ レシェルシュ メディカル(アンセルム)
(71)【出願人】
【識別番号】509228260
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ストラスブール
(71)【出願人】
【識別番号】522122813
【氏名又は名称】アヴィニョン ユニベルシテ
(71)【出願人】
【識別番号】511134470
【氏名又は名称】セントレ ナショナル デ ラ ルシェルシェ サイエンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】522373448
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ エクス マルセイユ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE D’AIX MARSEILLE
【住所又は居所原語表記】Jardin du Pharo,58 Boulevard Charles Livon,13007 MARSEILLE(FR)
(71)【出願人】
【識別番号】515322183
【氏名又は名称】エコール・サントラル・ドゥ・マルセイユ
【氏名又は名称原語表記】ECOLE CENTRALE DE MARSEILLE
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ストラッセル,キャサリン
(72)【発明者】
【氏名】マロ,レア
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ サクラメント,バレンティン
(72)【発明者】
【氏名】ベルトラン,エリック
(72)【発明者】
【氏名】クナップ,ヤニック
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC01
4B029DG06
4B065AA94X
4B065BC01
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、システム(1)を用いて、流体(F)に含まれる巨核球から血小板を放出させる方法に関する。使用するシステム(1)は、円筒壁(12)を備えた内側シリンダ(11)と、この内側シリンダの半径方向外側に位置すると共に円筒壁(14)を有する中空な外側シリンダ(13)とを含み、両シリンダは、流体(F)を受容するように意図された空間(15)によって分離されている。本方法は、巨核球を含む流体(F)を空間(15)に供給するステップ(100)と、内側シリンダ(11)をその軸を中心に回転させると共に外側シリンダ(13)は静止していることで、又は、2つのシリンダ(11、13)をそれらの軸を中心に逆方向に動かすことで、空間(15)内に少なくとも部分的に流体(F)の乱流を発生させ、血小板で濃縮された第2の流体(F’)を得るステップ(200)とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体(F)に含まれる巨核球から血小板を放出させる方法であって、当該方法は、システム(1)によって実行され、そのシステム(1)は、2つの同心シリンダ(11、13)として、円筒壁(12)を備える内側シリンダ(11)と、前記内側シリンダ(11)の半径方向外側に位置する中空な外側シリンダ(13)とを含み、前記外側シリンダ(13)は、前記第2シリンダが閉じられる高さにベース(13a)を有する円筒壁(14)を備え、前記二つのシリンダ(11、13)は、機械部品のない空間(15)によって分離され、前記空間(15)は、前記流体(F)を受容するように意図されており、
当該方法は、以下のステップ、即ち、
(100) 巨核球を含む流体(F)を前記空間(15)に供給するステップと、
(200) 前記内側シリンダ(11)をその軸を中心に回転させると共に、前記外側シリンダ(13)は静止していることで、または、前記2つのシリンダ(11、13)をそれらの軸を中心に逆方向に動かすことで、前記空間(15)内に少なくとも部分的に流体(F)の乱流を発生させ、血小板で濃縮された第2の流体(F’)を得るステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記外側シリンダ(13)が静止した状態で前記内側シリンダ(11)を動かす場合、前記内側シリンダは、レイノルズ数Re(数1参照)を1400以上に定めるように動かされる、
【数1】

式中、rは前記内側シリンダ(11)の半径、ωは前記内側シリンダ(11)の角速度、dは前記内側シリンダ(11)と前記外側シリンダ(13)とを隔てる距離、θは前記内側シリンダと外側シリンダとの間の流体の動粘度である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記2つのシリンダ(11、13)を逆方向に動かす場合、前記内側シリンダ(11)及び前記外側シリンダ(13)はそれぞれ、1000より大きいレイノルズ数Re(数2参照)、及び1000より大きいレイノルズ数Re(数3参照)を定めるように動かされる、
【数2】

【数3】

式中、rは前記内側シリンダ(11)の半径、rは前記外側シリンダ(13)の半径、ωは前記内側シリンダ(11)の角速度、ωは前記外側シリンダ(13)の角速度、dは前記内側シリンダ(11)と前記外側シリンダ(13)とを隔てる距離、θは前記内側シリンダと外側シリンダとの間の流体の動粘度である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記2つのシリンダ(11、13)は、5mm未満の距離(d)だけ隔てられている、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記2つのシリンダ(11、13)は、2mm~4mmの距離(d)だけ隔てられている、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記2つのシリンダ(11、13)は、約3mmの距離(d)だけ隔てられている、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(100)において、前記流体(F)を前記空間(15)へと連続的に供給し、前記システム(1)は、前記空間(15)を前記流体(F)で満たすための入口(2)と、血小板で濃縮された流体(F’)を排出するための開口部(3)とを含み、前記開口部(3)は、前記ベース(13a)の高さに位置する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(200)の間、前記空間(15)における流体(F)の滞留時間は、4分~6分、好ましくは、約5分である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記内側シリンダ(11)と前記外側シリンダ(13)は、それぞれ第1パターン(120)と第2パターン(140)を形成する他の周辺内側壁(122、142)を含み、前記第1パターン及び第2パターン(120、140)は、前記内側シリンダ(11)の前記他の壁(122)と、前記外側シリンダ(13)の前記他の壁(142)とが互いに同心で、少なくとも部分的に対向するように、互いに入れ子になっている、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
流体(F)に含まれる巨核球から血小板を放出させる方法であって、当該方法は、システム(1)によって実行され、そのシステム(1)は、機械部品のない空間(15)によって隔てられた2つの平行な平面壁(12、14)を含み、前記空間(15)は前記流体(F)を受容するように設計されており、前記平面壁(12、14)は移動可能であり、
当該記方法は、以下のステップ、即ち、
(100) 巨核球を含む流体(F)を前記空間(15)に供給するステップと、
(200) 前記平面壁(12、14)の一方を当該平面壁の平面内で移動させると共に、前記平面壁(12、14)の他方は静止していることで、または、前記2つの平面壁(12、14)を逆方向に、且つ各平面壁をその平面内で移動させることで、前記空間(15)内に少なくとも部分的に流体(F)の乱流を発生させ、血小板で濃縮された第2流体(F’)を得るステップと、
を含む、方法。
【請求項11】
第1の平面壁(12)は第1のコンベヤベルトの壁であり、第2の平面壁(14)は第2のコンベヤベルトの壁である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記2つの壁(12、14)を逆方向に移動させる場合、前記2つの壁(12、14)は同じ速度で逆方向に移動する、請求項10又は請求項11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記2つの壁(12、14)は毎秒約1メートルの速度で移動する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記2つの壁(12、14)が逆方向に移動する場合、前記2つの壁(12、14)は平均値に対して最大10%の速度差で移動する、請求項10又は請求項11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
細胞外小胞が追加的に放出される、請求項1~14のいずれか一項に記載の血小板を放出させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とりわけ、巨核球前駆細胞を含む流体から血小板を放出する方法に関する。本発明に係る方法は、この目的用に設計された血小板放出システムによって実施される。更に本発明は、血小板を放出するためのかかるシステムにも関する。本発明は、産業規模での血小板のin vitro(イン・ビトロ)産生、及び細胞外小胞の産生にとりわけ適している。
【背景技術】
【0002】
これまでは、通常、数十マイクロメートル~数センチメートルの小型システムを使用してin vitro血小板放出法を実施するための一般的な解決策は、人体で発生する自然な血小板放出機序を再現することであった。このため、こうした方法はバイオミメティクスと呼ばれている。
【0003】
人体内で血小板が放出される機序については、今なお多くの研究がなされている。血小板放出は、巨核球の断片化の過程、及び/又は細胞質拡張体が血小板になる過程で起こることが分かっている。この高度に調整されたin vivoのプロセスは、血流の力によって、細胞質拡張体が内皮バリアを通過し、次いで、血小板前駆細胞が成熟して肺微小循環に入る際に、血液中で自然に発生する。巨核球は前駆細胞として重要な役割を果たしている。こうした機序は人体内では非常にゆっくりとした速度で作用しており、従来のバイオミメティクスマイクロ流体反応器内の血小板産生も比較的ゆっくりとした速度で行われている。
【0004】
特許文献1では、流体がその内部を循環する際、内皮通路を模した微細孔壁を備えた構造を持つマイクロ流体バイオリアクタを提案している。通常の動作では、流体の流れ状態は層流であり、微細孔壁の高さで測定されたせん断速度は生理学的せん断速度に対応する。通常、処理時間は数時間である。特許文献2も同様であり、この文献では、膜構造が特許文献1の微細孔壁の役割を担っている。
【0005】
近年、血小板を放出する方法を産業化する取り組みがなされ、新たな種類のバイオリアクタが開発された。特許文献3では、この種の使用を目的としたバイオリアクタの例が開示されている。提案システムは、健康な血小板の数と寿命を延ばすことを目的としている。これは、巨核球を含む流体用のリザーバと、血小板が放出されるようにリザーバ内で乱流を発生させるための少なくとも1つの手段とを備える。一実施形態において、この手段は、リザーバに沿って前後に動くブレードから構成される。このようなシステムの欠点は、ブレードが流体中に含まれる巨核球と衝突する可能性が高く、これにより、システムの使用中に得られた巨核球前駆細胞のかなりの割合が損傷を受けるという事実にある。実際、流体が移動する体積の中にブレードが存在することが、すでに巨核球前駆細胞との衝突の原因となっている。次に、ブレードの動きは、巨核球前駆細胞により強い衝撃を与えると思われている。したがって、得られた血小板の大部分が、活性が著しく低下しているか、存在すらしないこともある。さらに、培養/放出リザーバのカバー1aは、軸を通過して、ブレードが前後に動けるようになる。かかかる配置では、リザーバ内の無菌状態を保てない可能性が高い。
【0006】
特許文献4は、巨核球から血小板を放出する別の方法を開示しており、この方法は特許文献3のチームによって実現されている。このバイオリアクタは、巨核球を含む培養液を撹拌するように、前後上下に往復運動するブレードを含む。特許文献3に記載される方法と同様、血小板放出が発生する流体が循環する空間内でブレードが動くと、巨核球前駆細胞との衝突が発生し、これにより、前記巨核球前駆細胞から放出される血小板の活性が低下する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2014/107240A1号
【特許文献2】WO2018/165308A1号
【特許文献3】WO2019/09364A1号
【特許文献4】EP3372674A1号(WO2017/077964相当)
【発明の概要】
【0008】
本発明は、上記欠点を克服することを目的とし、この目的のために、流体中に含まれる巨核球から血小板を放出させる方法を提案する。当該方法は、システムによって実行され、当該システムは、2つの同心シリンダとして、シリンダ壁(円筒壁)を備える内側シリンダと、内側シリンダの半径方向外側に位置する中空外側シリンダとを含み、上記外側シリンダは、上記第2シリンダが閉じる高さにあるベースのシリンダ壁(円筒壁)を含み、前記シリンダ(群)は、機械部品のない空間によって分離され、上記空間は、流体を受容するように意図されている。そして、上記方法は、以下のステップ、即ち、
- (100)巨核球を含む流体を前記空間に供給するステップ、
- (200)内側シリンダをその軸を中心に回動させるステップであって、外側シリンダは静止しているステップ、あるいは、2つのシリンダをそれらの軸を中心に逆方向に移動させるステップであり、上記空間内に少なくとも部分的に乱流流体の流れを発生させて血小板で濃縮された第2流体を得るステップ、
を含む。
【0009】
本発明で使用する乱流状態での血小板放出法は、その血小板放出システムの構造によって、血小板の劣化を防ぐことができ、かくして、血小板放出効率が著しく向上し、産業的な手法を予見させるものである。本発明に係る方法で使用されるシステムの同心シリンダは、1つ又は複数のシリンダがその軸を中心に移動する際、シリンダ間空間に位置するシステムの他の部品、又は要素がそれらに影響を与えることなく、血小板が流体中に放出されるよう、機械部品のない空間で分離される。
【0010】
さらに、シリンダ(群)は同心円状であるため、壁に沿って一定の空隙(エアーギャップ)が保証される。空隙(エアーギャップ)とは、2つの壁の間の距離のことである。これは、血小板の放出を可能にするために、システム内の流れ状態をより良好に制御するために操作可能なパラメータである。同時に、空隙自体の値によって、血小板放出の効率を更に向上させることができる。また、流体の乱流条件を得るために、1つ又は複数のシリンダの移動速度に影響を与えることも可能である。このようにして、本方法を実施する際には、乱流の流れ状態特有の条件を得るために動作パラメータを調整することができる。
【0011】
本発明の様々な特徴によれば、以下の点を総合的にあるいは個別に考慮に入れるものとする。即ち:
【0012】
- 外側シリンダが静止している間に、内側シリンダを移動させる場合、
レイノルズ数Re(数1参照)を1400以上に定めるように内側シリンダを移動させる、
【数1】

式中、rは内側シリンダの半径、ωは内側シリンダの角速度、dは内側シリンダと外側シリンダとを隔てる距離、θは上記内側シリンダと外側シリンダとの間の流体の動粘度である;
【0013】
- 2つのシリンダが逆方向に移動する際、内側シリンダと外側シリンダはそれぞれ、
1000より大きいレイノルズ数Re(数2参照)と、
1000より大きいレイノルズ数Re(数3参照)を定義するように移動し、
【数2】

【数3】

式中、rは内側シリンダの半径、rは外側シリンダの半径、
ωは内側シリンダの角速度、ωは外側シリンダの角速度、
dは内側シリンダと外側シリンダを隔てる距離、
θは上記内側シリンダと外側シリンダとの間の流体の動粘度である;
【0014】
- 2つのシリンダは、5mm未満の距離dだけ隔てられる;
- 2つのシリンダは、2mm~4mmの距離dだけ隔てられる;
- 2つのシリンダは、約3mmの距離dだけ隔てられる;
- ステップ100において、流体を空間へと連続的に供給し、システムは、空間を前記流体で満たすための入口と、血小板濃縮流体を排出するための開口部とを含み、上記開口部は、ベースの高さに位置する;
- ステップ200の間、上記空間における流体の滞留時間は、4分~6分、好ましくは約5分である;
- 上記内側シリンダと上記外側シリンダは、それぞれ第1パターンと第2パターンを形成する他の周辺内側壁を含み、上記第1パターン及び第2パターンは、上記内側シリンダの上記他の壁と上記外側シリンダの上記他の壁とが互いに同心で、少なくとも部分的に対向するように、互いにネスト化されている(入れ子にされている);
- 細胞外小胞も放出される方法である。
【0015】
本発明の代替的実施形態によれば、本発明の方法は、流体に含まれる巨核球から血小板を放出させる方法に関し、上記方法は、システムによって実行され、当該システムは、機械部品のない空間によって隔てられた2つの平行な平面壁を含み、上記空間は流体を受容することを意図しており、上記(二つの)壁は移動可能である。そして、当該方法は以下のステップ、即ち、
(100)巨核球を含む流体を上記空間に供給するステップ、
(200)上記(二つの)平面壁の一方を、当該平面壁の平面内で移動させるステップであって、上記壁の他方は静止しているステップ、あるいは、2つの壁を逆方向に動かし、それぞれの壁をその平面内で動かすステップであり、上記空間内に少なくとも部分的に乱流流体の流れを発生させて血小板で濃縮された第2流体を得るステップ、
を含む。
【0016】
本発明の様々な特徴によれば、以下の点を総合的にあるいは個別に考慮に入れる。
即ち:
- 第1平面壁は第1コンベヤベルトの壁であり、第2平面壁は第2コンベヤベルトの壁である;
- 2つの壁が逆方向に動く場合、2つの壁は同じ速度で逆方向に動く;
- 2つの壁は毎秒約1メートルの速度で移動する;
- 2つの壁が逆方向に移動している場合、2つの壁は平均値に対して最大10%の速度差で移動する;
- 細胞外小胞も放出される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1a】本発明の第1実施形態に係る方法の実施を可能にする血小板放出システムを射影図(斜視図)で概略的に示す図である。
図1b】本発明の第1実施形態に係る方法の実施を可能にする血小板放出システムを断面図で概略的に示す図である。
図2a図1の血小板放出システムを、両シリンダが回動する際の内側シリンダと外側シリンダとの間の速度の分布を含めて、上面図で概略的に示す図である。下側の図は、空間内の流体の半径方向の速度分布を示す。
図2b図1の血小板放出システムを、内側シリンダが回動する際の内側シリンダと外側シリンダとの間の速度の分布を含めて、上面図で概略的に示す図である。下側の図は、空間内の流体の半径方向の速度分布を示す。
図3a図1で示した血小板放出システムの代替実施形態を射影図(斜視図)で概略的に示す図である。
図3b図1で示した血小板放出システムの代替実施形態を断面図で概略的に示す図である。
図4a】本発明の第2実施形態に係る方法の実施を可能にする血小板放出システムを射影図(斜視図)で概略的に示す図である。
図4b】本発明の第2実施形態に係る方法の実施を可能にする血小板放出システムを断面図で概略的に示す図である。
図5a図4a及び図4bで示した血小板放出システムの代替実施形態を概略的に示す図である。
図5b図4a及び図4bで示した血小板放出システムの代替実施形態を概略的に示す図である。
図6】Andereckのダイアグラム(1986年)を示す図である。
図7】基準試料に関する、さらに、シリンダを逆方向に回動させ、空隙が3mm、4mm、5mm(左から右へ)の図1a及び図1bで示す実施形態に係る血小板放出システムを使用して、本発明に係る方法で処理された試料に関する、二重陽性血小板の数を示す図である。
図8】基準試料(左側の点)に関する、さらに、シリンダが逆方向に回動する場合(中央の点)と、内側シリンダだけが回動する場合(右側の点)における、空隙が3mmの図1a及び図1bで示す血小板放出システムを使用して、本発明に係る方法で処理した試料に関する、二重陽性血小板の数を示す図である。
図9】本発明の方法を実施するための2シリンダ・デバイスの一例を示す図である。
図10】a)フローサイトメトリにおける5,000個のビーズの通過、b)培養7日目の細胞あたりの血小板数、そして、c)播種したCD34+あたりの血小板数について、放出されたCD41+及びCD42+の血小板の数を示す図であり、白色の列は、ピペットで得られた結果を表し、灰色の列は、2つのシリンダが逆方向に回動する構成で得られた結果を表し、さらに、黒色の列は、内側シリンダのみが回動する構成で得られた結果を表している。
図11】放出様式に応じて、主要な糖タンパク質を表面に発現している血小板の数を示す図である。図11(a)は、2つのシリンダが逆方向に回動する構成(灰色の列)と、内側シリンダのみが回動する構成(黒色の列)との、陽性血小板の割合を比較した図である。図11(b)は、2つのシリンダが逆方向に回動する構成(灰色の列)と、ピペットを使用する構成(白色の列)とを比較した図である。図11(c)は、内側シリンダのみが回動する構成(黒色の列)と、ピペットを使用する構成(白色の列)とを比較した図である。
図12】放出された血小板の前活性化(静止)状態と、拮抗薬(トロンビン)の存在下に置かれた際の活性化性能を示す図であり、白色の列は、ピペットで得られた結果を表し、灰色の列は、2つのシリンダが逆方向に回動する構成で得られた結果を表し、さらに、黒色の列は、内側シリンダのみが回動する構成で得られた結果を表している。左側の図はGPIIb-IIIa前活性化マーカを分析した結果に対応し、右側の図は血小板表面のP-セレクチンの発現を分析した結果に対応する。
図13】本発明の方法を使用して得られた血小板濃縮物(左図の実線円)と培養血小板との混合物と比較した、内側シリンダのみが回動する場合(左図の四角)における、及び、血小板濃縮物(右図の実線円)の混合物と比較した、2つのシリンダが逆方向に回動する場合(右図の四角)における、本発明の方法を使用して得られたマウス生体内の培養血小板についての血小板の再循環現象(時間の関数としての3分間の血小板数に対する血小板数の比)を示す図である。
図14】放出された血小板の免疫蛍光画像を示す図であり、手動ピペッティング(図14a)によって放出された血小板の免疫蛍光画像、内側シリンダのみが回動する場合(図14b)における本発明の方法によって放出された血小板の免疫蛍光画像、2つのシリンダが逆方向に回動する場合における本発明の方法によって放出された血小板の免疫蛍光画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、巨核球を含む流体Fから血小板を放出する方法、並びに、図1a、図1b、図2a、図2b、図3a、図3b、図4a、図4b、図5a及び図5bで例示されるような、前記方法を実施するためのシステム1に関する。
【0019】
対象の流体Fは、例えば、巨核球前駆細胞、巨核球を含む、様々な分化段階の不死化株細胞、又は非不死化株細胞から得られた細胞集団を含む培地である。巨核球、又は巨核球細胞は、成熟すると細胞質拡張体、又は血小板前駆細胞と呼ばれる長い拡張体を持つ大きな血液細胞(最大100μm、培養では30μm)である。
【0020】
血小板の形成に関わる機序は、未だに多くの研究の対象となっている。その中でも、血小板放出は、巨核球Mkの断片化の過程、及び/又は細胞質拡張体Ckが血小板になる過程で起こることが分かっている。これは、血流の力によって血液中で自然に起こる、高度に調整されたin vivoプロセスである。巨核球Mkは、これらが前駆細胞であるので、重要な役割を果たしている。しかし、血小板が体内で放出される過程については、依然として十分解明されておらず、内皮通過、及び血小板形成において血流が担う精確な役割についても多くの疑問が残されたままである。このプロセスは、マイクロ流体システムを使用してin vitroで再現され、これにより、ある特定のin vivo機序がマイクロ流体実験によって裏付けられるようになった。このプロセスは、手動ピペットあるいは本明細書の導入部で紹介したデバイス等を使用して、in vitroでも再現することができ、血小板の放出に伴う機序について、より深く理解することができる(Strasselら、”Aryl hydrocarbon receptor-dependent enrichment of a high potential to produce propalets”,Blood,5 May 2016,vol.127,n18)。in vitroで血小板を産生することにより、血小板の形成に関与する機序を更に深く理解することができる。しかし、血小板の放出効率はin vivoで得られたものより低いことが多い。したがって、本発明は、乱流状態内で血小板を放出する方法について、巨核球Mk、及び/又は細胞質拡張体Ckの断片化過程を再現することを目的とする。
【0021】
本発明についてより詳細に説明する前に、血小板の放出を可能にすることに加え、本発明はこうして放出された血小板から、細胞外小胞等の他の機能的細胞質要素も放出できることに、留意されたい。現状、細胞外小胞は、細胞間で生物学的物質の内容物を移動可能とする生物学的物質のベクターとして認識されている。細胞外小胞は、細胞膜に由来し、生理学的に細胞外培地に分泌されるナノ小胞である。これらはいくつかのサブタイプ(エクソソーム、微小小胞、アポトーシス小体)から構成され、大きさは30nm~1μmと様々である。比較として、血小板の直径は一般的に3.5μm~5μmである。
【0022】
血小板を放出するこの手法の背後にある原理について、次の段落で紹介する。乱流を発生させる方法は数多くあるが、本発明で説明する方法は、2つの同心円シリンダのシステムに不安定性を発生させるのに使用されるのと同様のメカニズムを使用する。ターボマシンの動作、及び惑星の形成の根底にあるこうしたメカニズムは、一般に大規模システムで使用されている。本発明の技術分野では、工業化以前のバイオリアクタがより多く導入されているにもかかわらず、本明細書の導入部で記載したような小規模システムを使用するのが一般的な傾向であることを忘れないものとする。
【0023】
C.Andereckらによる論文「Flow regimes in a circular Couette system with independently rotating cylinders」、J.Fluid Mech.1986、並びにGrossmannらの論文「High-Reynolds Number Taylor-Couette Turbulence」、Annu.Rev.Fluid Mech.,2016を参照のこと。以下では、これらの公開文献で示され、本願の図6に再現されているAndereckらの相図について、より具体的に焦点を当てる。Andereckらの相図は、乱流を発生させるために角速度、ひいては、レイノルズ数を変化させることができる2つの同心円シリンダのシステムで発生しうる様々な流れ状態を示している。Andereckの相図は、横軸に内側シリンダのレイノルズ数(公開文献によっては、Re又はR)、縦軸に外側シリンダのレイノルズ数(公開文献によっては、Re又はR)を示している。こうして、前述のパラメータに従って流れ状態を定義し、各種類の流れが所定のペア(Re、Re)によって特徴付けられるようになる。
【0024】
本発明の発明者らは、乱流の流れ状態において巨核球細胞を含む流体Fからの血小板放出現象が存在すること、さらに、Andereckダイアグラムのある特定の非常に特異的なエリアにおいて、血小板放出現象が著しく改善されることを実証した。
【0025】
絶対値で内側シリンダのレイノルズ数Re(数4参照)が有利には500以上、外側シリンダのレイノルズ数Re(数5参照)が有利には1000以上の場合、これらの流れ状態(Andereckダイアグラムでは「スパイラル乱流」または「無特徴乱流」)が発生する。
【数4】

【数5】

式中、rは内側シリンダ11の半径、rは外側シリンダ13の半径、ωは内側シリンダ11の角速度、ωは外側シリンダ13の角速度、dは内側シリンダ11と外側シリンダ13とを隔てる距離、θは前記内側シリンダと外側シリンダとの間の流体の動粘度である。この状態は、(二つの)シリンダをそれぞれの軸(シリンダ軸)を中心に逆方向に回動させることで得られる。これらは二重反転シリンダとして知られている。
【0026】
これらの状態のもう1つは、乱流テイラー渦の流れ(Andereckダイアグラムでは「乱流テイラー渦」)に対応しており、以下ではこれを「渦」と称する。この状態は、外側シリンダが静止し、内側シリンダがその軸を中心に回動する構成に相当する。テイラー乱流渦の状態を達成するためには、内側シリンダのレイノルズ数Re(数6を参照)が1400以上であれば都合がよい。
【数6】

式中、rは内側シリンダ11の半径、ωは内側シリンダ11の角速度、dは内側シリンダ11と外側シリンダ13とを隔てる距離、θは前記内側シリンダと外側シリンダとの間の流体の動粘度である。
【0027】
これらは、本発明者らが2つの円形同心シリンダのシステムで血小板放出プロセスの改善を実証した状態であり、流れ状態が乱流になるとすぐに血小板の放出が起こり、かくして、ReとReの範囲が前述の範囲よりも大きくなることが分かるであろう。
【0028】
以下の段落から明らかになるように、本発明の発明者らは、血小板の放出が、2つの円形同心シリンダを有するシステムだけでなく、他のシステムによっても達成され得ることを実証したが、これらのシステムはすべて、2つの実質的に平行な壁が実験で得られた所定距離だけ隔てられるという、上述のシステムと共通する点を有する。
【0029】
図1a及び図1bを参照すると、システム1の実施形態の一例は、機械部品のない空間15で隔てられた2つの同心シリンダ11、13を含む。システム1は、内側シリンダ11と、内側シリンダ11の半径方向外側に位置する中空な外側シリンダ13とを含み、前記内側シリンダ11と外側シリンダ13は同心である。「同心シリンダ」とは、内側シリンダ11と外側シリンダ13が同軸であること、すなわち、内側シリンダ11と外側シリンダ13の軸が一致していることを意味する。
【0030】
内側シリンダ11は、内側シリンダ11の高さに対応する距離hだけ隔てられた、実質的に円形形状の2つの平行なベース11a、11bを含む、中実体に相当する。内側シリンダ11は、その高さhに沿って外側側面を画定しており、以下、これを「第1壁12」と称する。ちなみに、第1壁12は円筒形状をしている。
【0031】
外側シリンダ13は、形状が実質的に円形のベース13aを含む中空な固体であり、そこから第1壁12と同様に、形状が円筒形である第2壁14が延在している。このようにして、図示の実施形態では、外側シリンダ13は、ベース13aと第2円筒壁14とによって外部に区切られ、その上面の高さに開口部を有するシリンダハウジング16の境界を定める。ここで、「上位」と「下位」という語句は、限定を意図するものではなく、図を参照して本発明を理解しやすくするためだけのものである。
【0032】
先に示したように、ハウジング16は、内側シリンダ11を外側シリンダ13と同心に配置できるように、内側シリンダ11を収容する。ただし、ハウジング16の一部は空間15を形成するために残されているため、内側シリンダ11がハウジング16全体を占めることはない。空間15は、第1円筒壁12を第2円筒壁14から、より広義には、内側シリンダ11を外側シリンダ13から分離しており、これにより空間15は、内側シリンダ11によって内側に区切られ、外側シリンダ13によって外側に区切られた中空シリンダの形状を有する。したがって、空間15は、血小板の前駆細胞である巨核球細胞を含む流体Fを収容できるリザーバを形成する。さらに、本発明によれば、空間15には機械部品がない。この構成の利点を以下で説明する。
【0033】
前節から分かるように、第1円筒壁12は、第2壁14から一定の距離dだけ隔置されている。同様に、外側シリンダ13のベース13aと平行な第1シリンダのベース11aも、距離d´だけ外側シリンダから隔置されるが、この距離d´は、必ずしも距離dと同一ではない。本説明の残りの部分では、第1円筒壁12を第2壁14から分離する距離dを「空隙」(エアーギャップ)と呼ぶことにする。空隙は、システム1の設計時に設定される。空間15内の流れ状態を制御するため、空隙は一定である。このことは、空隙が第1シリンダ11と第2シリンダ13の寸法によって設定される場合、最適な空隙は前記寸法に応じて選択されることはなく、前記内側シリンダ11及び外側シリンダ13の寸法は、所望の空隙に応じて選択される(ただし、単独ではない)。流体Fからの血小板放出の効率における顕著な改善は、選択された空隙に依存し、さらに、第1円筒壁12及び第2円筒壁14の一方、あるいは、双方の速度に依存することが実証された。
【0034】
シリンダの一方、あるいは、双方の回動速度vは、前記内側シリンダ11、及び外側シリンダ13の寸法に依存することに留意されたい。定義上、前記内側シリンダ11と外側シリンダ13それぞれの線形速度vは、前記シリンダの寸法、より具体的には、それぞれの直径に依存する。そのため、内側シリンダ11と外側シリンダ13の寸法は、所望の空隙に応じて選択されるが、内側シリンダ11と外側シリンダ13の回動速度を考慮に入れて、選択することもできる。例えば、当業者が、シリンダを駆動するためのシステムの選択、具体的には、駆動力に制限がある場合、システム1を設計する際には、この新たな制約を考慮に入れる必要がある。
【0035】
システム1は、図1aと図1bでは示されていない(しかし、図9では示されている)フレームを備えており、このフレームによって、前記第1シリンダ11と第2シリンダ13を上述のように配置することができる。そのため、図1a及び図1bでは、内側シリンダ11が宙吊りされているように見えるが、実際にはフレームによって意図した位置に保持されている。外側シリンダ13についても、同様である。
【0036】
実際には、内側シリンダ11と外側シリンダ13が動くと、空間15に収容された流体Fが移動する。この点で、システム1は、内側シリンダ11と外側シリンダ13を駆動するためのシステム(図示せず)も備えている。その駆動システムは、電源システム、1つ以上のモータ、並びに1つ又は複数のモータを制御する速度制御システムを含む。この駆動システムにより、規定速度を前記各シリンダ11、13に個別に適用することができる。次に、本発明に係る方法を様々な実施形態で実施することが可能であり、以下で更に詳述する。例えば、駆動システムは、速度調整システムによって制御される電気モータで回動する磁気駆動システムから構成することができる。
【0037】
本発明に係る方法の第1実施形態によると、空間15が巨核球を含む流体Fで充填された後、流体Fの乱流を空間15内で発生させるよう、内側シリンダ11と外側シリンダ13がそれらの軸を中心に逆方向に移動する。つまり、内側シリンダ11と外側シリンダ13は回動運動を行い、内側シリンダ11の回動方向は外側シリンダ13の回動方向に対して逆である。
【0038】
図2aは、内側シリンダ11と外側シリンダ13が逆方向に動いている際の空間15内の速度の分布を示す。図2aで示すシステム1は、図1a及び1bに示すシステム1の拡大上面図である。第1壁12と第2壁14は平らに見えるが、これらは円筒形である。さらに、図示したシステム1は縮尺通りではなく、空間15内の局所的な流れ状態をより分かりやすく説明するための寸法を選んでいるに過ぎない。以下では、流体Fの流速をvと表記するが、この流速は各壁12、14の近傍、すなわち、それぞれエリアRP12、RP14の高さでは比較的速く、空間15の中央領域RCでは、流体Fの流速vはほぼゼロである。この中央領域RC、及びエリアRP12とエリアRP14における流体Fの流れは乱流である。そのため、第1壁12と第2壁14との間では平均して流体Fは半径方向に静的であるが、壁RP12と壁RP14に近い領域では、大きな乱流がある。
【0039】
内側シリンダ11と外側シリンダ13をそれぞれレイノルズ数1000より大きくすることで、乱流を発生させれば都合がよい。とはいえ、これは好ましい態様であり、血小板の放出を得るための前提条件ではない。
【0040】
前記内側シリンダ11と外側シリンダ13が、5mm未満の空隙dで隔てられていれば都合がよく、空間15があるのでゼロではない。この値の範囲内(0mm<d≦5mm)では、血小板放出効率を向上させることができるが、この範囲外、とりわけ、d>5mmの場合、血小板放出効率は非常に低い。したがって、血小板の放出が非常に低い基準試料と比較して、空隙値を0mm<d≦5mmの範囲にすれば、血小板放出効率を改善することができる。
【0041】
実際には、空隙dは、前記内側シリンダ11と外側シリンダ13の回動速度vと関連しているので、所定のペア(d、v)でシステム1を定義すれば、都合がよい。シリンダの回動速度は、それ自体がシリンダのレイノルズ数と連動している。システム1の各形状(つまり、寸法)は、1つ以上の最適なペア(d、v)、すなわち、流体Fからの血小板の放出を最適化できる乱流を生成可能とするペアと関連している。しかし、最適な回動速度vはシステム1の形状に本質的に依存するが、最適な空隙はこの形状には依存しない。したがって、上述のように、最高の血小板放出効率を達成できる最適な空隙dを実験により決定してから、空隙を考慮して、システム1の形状を選択する。それ故、図1a及び図1bで示されているように、システム1には、この制約を満たせる、多くの異なる形状が存在することは明らかであろう。形状を選択する際には、利用可能な内側シリンダ11と外側シリンダ13を駆動するシステムの種類も考慮に入れる。システム1を製造したいが、小型システムを回動させる駆動システムしかないユーザは、処理される流体Fの量の制限を受けることになる。
【0042】
システム1の実施形態の一例によると、内側シリンダ11は外径が2cm~6cmであり、外側シリンダ13は内径が2cm~6cm、外側シリンダ13の高さhは5cm~6cmである。前述したように、かかるシステム1は、空隙が0mm<d≦5mmの範囲であり、内側シリンダ11と外側シリンダ13が0.5m/s~2m/sの回動速度vで逆方向に移動する構成の場合、血小板放出効率の改善を実現できる。例えば、内側シリンダ11の外径が27mmであり、外側シリンダ13の内径が33mmであり、外側シリンダ13の高さが60mmであるシステム1では、空隙が0mm<d≦5mmの範囲にあり、内側シリンダ11及び外側シリンダ13がそれぞれ0.8m/s~1.5m/sの回動速度vで逆方向に移動する場合、血小板放出効率の向上を達成することができる。
【0043】
前記第1シリンダ11と第2シリンダ13は、2mm~4mmの空隙dで隔てられていれば、一層都合が良い。この構成は、本方法が実行される場合、空隙がこの範囲外にあるシステム1で実施される方法と比較して、血小板放出効率が更に改善されるという点で有利である。内側シリンダ11の外径が2cm~6cm、外側シリンダ13の内径が2cm~6cm、外側シリンダ13の高さhが5cm~6cmのシステム1を例にとると、内側シリンダ11と外側シリンダ13の最適な回動速度vは0.9m/s~1.2m/sであり、前記シリンダはそれぞれ逆方向に移動する。
【0044】
前記第1シリンダ11と第2シリンダ13は、3mmの空隙dによって隔てられていれば、極めて都合がよい。この空隙により、図1a及び図1bに示される構成では、本発明に係る方法がこの範囲外の空隙で実施される場合と比較して、より良好な血小板放出効率を得ることができる。図7では、2つのシリンダが逆方向に回動する構成における、このような最適状態を示す。内側シリンダ11の外径が2cm~6cm、外側シリンダ13の内径が2cm~6cm、外側シリンダ13の高さhが5cm~6cmのシステム1を例にとると、内側シリンダ11と外側シリンダ13の最適な回動速度vはそれぞれ、約1m/sであり、前記シリンダはそれぞれ逆方向に移動する。
【0045】
本発明に係る方法の第1実施形態の変形形態によると、この方法の第1ステップは、空間15を流体Fで満たすことにあり、さらに、この方法の第2ステップは、第1壁12を回動させる一方で、第2壁14は静止したままとすることにあり、理解すべき点として、外側シリンダ13が静止している間、内側シリンダ11がその軸を中心に回動するということである。この条件下において、乱流の流れ状態が空間15内で得られる。図8では、内側シリンダ11のみがその軸を中心に回動する場合(右側サンプル)、両方のシリンダ11、13が逆方向に回動する構成と比較して、血小板放出効率が更に改善されることを示している。
【0046】
図2bは、第1壁12のみが回動している場合における、第1壁12と第2壁14との間の流体Fの速度の分布を示す。図2bで示すシステム1は、図1a及び1bに示すシステム1の拡大上面図である。この図で示される様に、内側シリンダ11のみが回動している場合、本発明者らは、流体Fが第1壁12から離れるにつれ、その速度vが徐々に減少することを観察した。つまり、流体Fの速度vは、第1壁12の高さで最も高く、第2壁14に近づくにつれて徐々に減少し、第2壁14の高さでは非常に遅くなる。この速度分布は、2つのシリンダ11、13が逆回動する構成で見られるものとは実質的に異なる。この半径方向の速度変化を補償するために、以下に述べるような流体の循環を使用することができる。
【0047】
完璧な乱流を発生させて、血小板放出を増加させる乱流渦を発生させることができれば、都合がよい。システム1によってこのような流れ状態を実現するには、内側シリンダ11が単独でその軸を中心に回動し、内側シリンダ11のレイノルズ数が1400超に相当する非常に高い角速度で駆動されなければならない。この流れ状態は、シリンダの回動軸を中心に、シリンダの高さに沿って、科学文献では「ローラ」とも呼ばれる、渦という高乱流現象が存在する低乱流によって特徴付けられる。
【0048】
2つのシリンダ11、13が回動する第1実施形態と同様、空隙は有利には、0mm<d≦5mm、更に有利には、2mm≦d≦4mm、極めて有利には、d=3mmの範囲にある。第1実施形態と同様の効果が認められた。とはいえ、こうした好ましい実装形態のそれぞれに関連する最適な回動速度vは、内側シリンダ11のみが回動するという点で実質的に異なる。
【0049】
内側シリンダ11の外径が2cm~6cmであり、外側シリンダ13の内径が2cm~6cm、外側シリンダ13の高さhが5cm~6cmである、システム1について検討する。かかるシステム1において、内側シリンダ11の最適な回動速度vは、空隙dが0mm(0mmは含まず)~5mmの場合、0.8m/s~2.5m/sであり、空隙dが2mm~4mmの場合、1.2m/s~2.2m/sであり、さらに、空隙が約3mmの場合は1.6m/s~1.9m/sである。
【0050】
さらに、空間15に流体Fの流れの状態が生じることで血小板を放出させることができれば、産生された血小板がその生化学的活性の点で、生体内の血小板と同様の挙動を示すことも重要である。これは、流体Fのみを含む空間15に機械部品がないことによって達成される。従来技術で知られる、流体を含むリザーバ内で動くブレードがリザーバ内で撹拌を起こすシステムとは異なり、本発明では、乱流は、内側シリンダ11、必要に応じて、外側シリンダ13の移動速度によって生み出される。空間15に可動機械部品がないことにより、巨核球との衝突を防ぎ、放出された血小板の生化学的活性を保つことができる。不活性な血小板、又は活性が低下した血小板は、血管の構造的完全性を保持する機序、一次止血、あるいはプロ凝固等の機序に関与することができない。同様に、これによって血小板から放出される細胞外小胞の生化学的活性を維持することができる。
【0051】
図1a及び図1bに示すシステム1は、寸法が数センチメートルから数十センチメートルの範囲であり得る。高い血小板放出効率を保ちつつ、処理される流体の量を増加させるための解決策の1つとして、内側シリンダ11と外側シリンダ13のサイズを大きくすることがある。とはいえ、上述の構成でこの解決策を実現するには、空隙を0mm(0mmは含まない)~5mmに保つために、内側シリンダ11及び外側シリンダ13の寸法を大幅に大きくする必要がある。
【0052】
このような状況において、本発明の発明者らは、図3a及び図3bで図示されるシステム1を実装した。この実施形態では、システム1は、図1a及び図1bで示されるシステム1等の内側シリンダ11及び外側シリンダ13を含み、以下の特徴においてのみこれとは異なる。
【0053】
図3a及び図3bで示されるように、内側シリンダ11及び外側シリンダ13はそれぞれ、更なる壁122、142を含む。特に、壁122、142は、前記シリンダの第1壁12と第2壁14にそれぞれ追加される。すなわち、内側シリンダ11は第1壁12と他の壁122を含み、外側シリンダ12は第2壁14と他の壁142を含む。第1壁12と他の壁122は第1パターン120を形成し、第2壁14と他の壁142は第2パターン140を形成する。
【0054】
一方では第1壁12と他の壁122とが、他方では第2壁14と他の壁142とが互いに平行であり、さらに、少なくとも部分的に互いに対向するよう、第1パターン120と第2パターン140はネスト化(入れ子化)している。こうして得られたシステム1は、平行な円筒壁の交互配置を含み、最も外側の壁は第2壁14であり、次に第1壁12が来て、次に他の第1壁142が来て、次に他の第1壁122が来て、更に次に他の第2壁142が来るといった、具合である。したがって、第1壁12は、少なくとも部分的に第2壁14と第1他の壁142に対向している。「少なくとも部分的に対向している」という表現は、第1壁12がその高さ全体にわたっては、前記第2壁14及び前記他の第1壁142と対向していないことを意味している。図1a及び図1bで示す構成と同様に、外側シリンダ13のベース13aと内側シリンダ11「ベース」11aとの間には、空隙d´が存在する。しかしながら、図3a及び図3bで示されるシステム1のベース11aは、流体Fが浸透するために残されている壁同士の間の何もない空間があるため、連続的ではないことに留意すべきである。したがって、この構成では、内側シリンダ11のベース11aは不連続である。
【0055】
この構成は、システム1の寸法を極端に増加させずに、処理される流体Fの量を増加させることができるので、とりわけ有利である。壁12、14、122、142を交互に配置することにより、システム1の中心軸と第2壁14との間には多数の中間空間が形成される。これらはすべて、流体Fが進入できる空間である。図3a及び図3bで示す実施形態の例示では、システム1は、第1壁12及び他の2つの壁122と、第2壁14及び他の2つの壁142とを含む。つまり、円周上に空間が4つ追加されたことになる。他の壁の数は、図3a及び図3bに示す実施形態の例に限定されない。したがって、他の壁122、142を設けることも可能であり、n(nは厳密に正の自然数)個の他の壁122と、n個の他の壁142があれば、2xn個の追加の空間が、すなわち、空間15に加えて存在することが理解されよう。ちなみに、前記内側シリンダ11と外側シリンダ13の直径が大きいほど、追加の空間を多く作ることができ、処理される流体の量も増える。
【0056】
システム1の様々な空間で同じレイノルズを保つよう、壁12、14、122、142の間に形成されるすべての空間について、空隙がシステム1の連続する2つの空間の間に適合されることが、望ましい。これは、回動角速度が半径方向に一定で、線形速度が空間15ごとに異なり、さらに、血小板放出効率がシステム1全体で均一に改善されるよう、空隙を適合させることが好ましいからである。したがって、第2壁14と第1壁12との間の空隙dは、第1壁12と他の第1壁142との間の空隙d、並びに、他の第1壁142と他の第1壁122との間の空隙dとは異なる。
【0057】
最適なペア(d,v)、つまり、流体Fからの血小板の放出を最適化する乱流を発生させることができるペアは、以前に見たものと同じである。この段階で、本発明に係る方法は、図3a及び図3bで概略的に示された構成のシステム1を使用して、先に説明した2つの実施形態に従って実施できることに留意されたい。したがって、内側シリンダ11だけを回動させるのと同様、内側シリンダ11及び外側シリンダ13を逆方向に回動させることも可能である。どのような構成を考えても、最適なペア(d,v)は同じであり、得られる血小板放出効率も同様である。留意すべき点として、図1a及び図1bで示される構成と比較して、図3a及び図3bで示される構成は、処理される流体Fの量を大幅に増加できることが、有利である。
【0058】
空隙dと、内側シリンダ11及び外側シリンダ13の回動速度vとに加え、第3パラメータ、すなわちリザーバ内の流体の滞留時間によって、血小板放出現象に影響を与えることも可能である。念のためとして、図1a及び図1bで例示されるシステム1では、空間15が流体F用のリザーバを形成するのに対し、図3a及び図3bで例示されるシステム1では、流体F用のリザーバを形成するのは空間15だけでなく、平行な円筒壁の間に形成されるすべての空間も、である。いずれの場合にも流体の滞留時間を変化させるために、システム1には、フレームの高さに入口オリフィス(図示せず)を、外側シリンダのベース13aの高さに出口オリフィス(図示せず)を設けることができ、それぞれ流体Fがリザーバに浸透し、リザーバから出ることができる。
【0059】
さらに、デバイスが入口オリフィスと出口オリフィスとを備えている場合、どのような構成を想定しても、つまり、内側と外側の2つのシリンダ11、13が逆方向に回動する場合でも、あるいは、内側シリンダ11だけが回動する場合であっても、リザーバ内で流体Fを循環させるプロセスを設定することが可能である。流体の循環は、すでに処理されてリザーバから抜き出された流体を絶えず回収し、リザーバからの未処理の流体と交換することを伴う。当然のことながら、かかる循環は、流体Fが外部媒体及び汚染源に曝されることがないよう、閉ループで行われれば都合が良い。したがって、循環によってバッチ処理法を連続処理法に変えることができる。これは特に産業用途に有利である。
【0060】
流体の滞留時間は、開口径、より一般的には、出口オリフィスの開口断面に作用することによって、より明確に制御される。これにより、巨核球を含む流体Fを継続的に処理することが可能になるため、本発明に係る方法の産業化に向けた更なる一歩となる。この構成では、流体Fが継続的に処理され、僅か1時間で数リットルの流体を処理できることから、システム1の寸法はそれほど重要ではない。つまり、血小板放出効率を最適化するよう、流体の滞留時間を選択する必要がある。
【0061】
リザーバ内の流体Fの滞留時間は、4分~6分、好ましくは、約5分であれば都合が良い。リザーバ内の液の滞留時間が5分未満の場合、血小板放出効率は最適ではない。しかし、リザーバ内の流体の滞留時間が5分を超えると、新たな利点は見られない。つまり、血小板放出効率が上がらないのは、流体Fがリザーバ内に5分以上留まるからである。したがって、滞留時間が5分を超える必要はない。このことは、前述の方法のいずれの実装形態において、すなわち、図1a及び図1bに示されるシステム1、又は図3a及び図3bに示されるシステム1において、内側シリンダ11と外側シリンダ13とが逆方向に回動する場合、並びに、図1a及び図1bに示されるシステム1、又は図3a及び図3bに示されるシステム1において、内側シリンダ11のみが回動する場合においても認められた。
【0062】
図4a及び図4bを参照されたい。本発明に係る第2実施形態では、これは2つのコンベヤベルト17、18を含むシステム1によって実施される。コンベヤベルト17、18はそれぞれ、2つのガイド手段17b、18bを中心に密接して配置されたエンドレスストリップ17a、18aを含む。ガイド手段17b、18bはローラ状である。エンドレスストリップが、各コンベヤベルト17、18の側縁のガイド手段17b、18bの外輪郭と完全に一致するよう、かつ、エンドレスストリップがガイド手段の外輪郭と一致するエリア外では、エンドレスストリップ17a、18aが比較的広い平坦表面を有するよう、これらガイド手段は、エンドレスストリップ17a、18aに張力をかけるのに十分な距離を隔てている。「広い(寸法)」とは、数センチから数十センチまでの平坦表面を意味する。
【0063】
「上位ベルト」と称する第1コンベヤベルト17は、前記上位ベルト17の平坦表面の1つに対応する第1平面壁12を含み、「下位ベルト」と称する第2コンベヤベルト18は、前記下位ベルト18の平坦表面の1つに対応する第2平面壁14を含む。上位ベルト17と下位ベルト18は重ね合わされている。つまり、上位ベルト17は下位ベルト18に対向して配置されている。また、第1実施形態(図1a~図3b)と同様、第1壁12と第2壁14とが平行で、少なくとも部分的に対向するように、下位ベルト18と平行に配置される。注意すべき点として、「上位」と「下位」という語句は、限定的となることを意図するものではなく、図を参照して本発明を理解しやすくするためだけのものである。
【0064】
上位ベルト17は下位ベルトから非ゼロ距離dだけ隔置され、これにより2つのベルトの間に空間15が形成される。上位ベルト17と下位ベルト18との間に位置する空間15は、システム1の第1実施形態における内側シリンダ11と外側シリンダ13との間に位置する空間15と同様である。しかし、第1実施形態と同様、これは流体Fを収容することができるが、第1実施形態とは異なり、流体F用の閉鎖リザーバを形成しない。実際、図4a及び図4bに示される実施形態では、システム1は、コンベヤベルト17、18が配置されるリザーバ20を含む。このリザーバには、前述の流体Fが含まれている。さらに、システム1は、コンベヤベルト17、18が図4a及び図4bで示す位置を取れるようにするフレーム(図示せず)も含む。
【0065】
エンドレスストリップ17a、18aは移動可能である。この点について、ガイド手段17b、18bは、それぞれの回動軸A17、A´17、A18、A´18を中心に、駆動システムによって回動を誘導する。第1実施形態の駆動システムと同様、これは、電源システム、1つ以上のモータ、並びに1つ又は複数のモータを制御するために使用される速度調整システムを含む。この駆動システムにより、規定速度を前記ガイド手段17b、18bに個別に適用することができる。ガイド手段17b、18bは、それぞれの回動軸を中心にいずれかの方向に回動することができ、その結果として、エンドレスストリップ17a、18aを所与の方向に移動させる。
【0066】
したがって、エンドレスストリップ17a、18aを逆方向に回動させて、前記第1壁及び第2壁12、14をそれぞれ、その平面内で移動させるか、又は、エンドレスストリップ17a、18aの一方のみを回動させ、第1壁及び第2壁12、14の一方をその平面内で移動させるかの何れかにより、本発明に係る方法を実行することができる。そして、当業者であれば、第1実施形態と同様、このようにして、流体Fに含まれる巨核球からの血小板の放出に適した乱流の流れ状態を空間15内で生成できることを、理解するであろう。血小板放出効率を更に向上させるには、最適な空隙dを選択すれば十分である。同時に、ガイド手段の回動速度vを適切な範囲、すなわち流体Fの流れの状態が血小板の放出を最適化できる速度範囲に選択すれば十分である。回動速度はこのパラメータに依存するため、コンベヤベルト17、18の寸法を十分に考慮して、乱流の流れ状態を達成するように回動速度を選択する。
【0067】
上位コンベヤベルト17と下位コンベヤベルト18とが同じ速度で逆方向に移動すれば都合が良い。この構成では、流体は第1壁12と第2壁14との間で平均的に静止したままであるにもかかわらず、更にせん断される。さらに、この構成では、その場合、最適な滞留時間は、内側シリンダ11及び外側シリンダ13を備えた実施形態と同じである、すなわち、最適な血小板放出効率を得るには、4分~6分、好ましくは約5分の滞留時間で十分であるはずである。とはいえ、コンベヤベルト17、18間の回動速度に差があれば、流体Fの連続供給を想定できるので、これは強制ではない。
【0068】
あるいは、上位コンベヤベルト17と下位コンベヤベルト18、ひいては、2つの壁12、14は、平均値に対して最大でも10%の速度差で移動する。デバイス1の設計に柔軟性を持たせながら、流体の適切なせん断が維持される。
【0069】
この第2実施形態のシステム1は、コンベヤベルトのレイノルズ数の計算が異なる点を除き、第1実施形態のシステム1と同様に動作する。実際、シリンダの直径が非常に大きな値に近づいたり、無限大に近づいたりすると、このシリンダの円筒壁は平面壁と同一に見なすことができる。例えば、シリンダ11、13の寸法が数センチメートルから数十センチメートルの間で変化することが分かっている第1実施形態で使用されるシステム1について検討する場合、非常に大きな円筒壁は、直径が少なくとも1メートル程度となる。従って、局所的には、こうした壁は平坦とみなすことができる。システム1の第2実施形態では、コンベヤベルト17、18の第1壁12と第2壁14は、非常に大きな直径のシリンダの壁と見なすことができる。このことは、2つのシリンダ11、13が回動する構成、並びに内側シリンダ11のみが回動する構成において、第1実施形態に係るシステム1に関連して見られる乱流に伴う現象が、2つのコンベヤベルトを備えたシステム1によって再現できる理由を説明する。
【0070】
さらに、図5aで見られるように、より多くのコンベヤベルトを設けることも可能である。図5aで示す変形形態では、追加的な一対のコンベヤベルト17´、18´もシステム1に設けられている。これらは上位コンベヤベルト17及び下位コンベヤベルト18に重ねられているため、4つのコンベヤベルトと3つの空間15を備えたシステム1が得られる。これらの空間15はそれぞれ乱流エリアを構成する。コンベヤベルトの数は限定的なものではなく、より多くのベルトを想定することもできるが、ただし、リザーバ20の寸法が、想定されるコンベヤベルトの数を収容するのに適切であることを前提とする。コンベヤベルトの数が多いほど、処理できる流体Fの量は多くなる。この実施形態例を、図3a及び図3bに示すシステム1の実施形態例と比較するべきであるが、この実施形態例では、空間15が、各シリンダ内の一組の他の壁122、142によって大幅に拡張されている。
【0071】
図5bに示す実施形態の例示では、上位コンベヤベルト17と下位コンベヤベルト18は、より大きくなっている。これにより、空間15の長さを長くすることができるので、処理される流体Fの量を増やすことができる。しかし、この選択肢は、より大きなガイド手段17b、18bに関連する動作が技術的及び/又は経済的な制約をもたらす可能性がある限り、前の選択肢よりも制約が大きくなる恐れがある。
【0072】
<本発明の材料と方法>
図9で示すデバイスを使用して、本発明に係る方法を実施し、実験結果を以下の図に示し、さらに、以下の段落で解説する。
【0073】
[培養中の巨核球の分化]
不安定な血液製剤の調製で使用される白血球除去フィルタ(TACSI、Terumo BCT社、Zaventem,Belgium)から、造血前駆細胞CD34を抽出した。フィルタに含まれる細胞を溶出し、磁気ビーズ(CD34 MicroBead Kit UltraPure,Miltenyi Biotec社、Bergisch Gladbach,Germany)に結合した抗CD34抗体を使用して磁気ソーティングを行うことにより、この細胞をCD34細胞として濃縮した。次に細胞を、20μg/mLのヒト低密度リポタンパク質(LDL)、サイトカイン(IL-6、IL-9、SCF、TPO)のカクテル(CC220、Stemcell Technologies社、カナダ、バンクーバー、BC州)、及び1μMのSR1(Stemcell Technologies社)を添加したSerum-Free Expansion Medium(SFEM)に播種した。7日目に細胞を回収、洗浄し、1μMのSR1、50ng/mLのTPOと、20μg/mLのLDLとを含むStemSpan SFEMに播種し、更に6日間培養した(Strasselら、2016)。37℃、正常酸素条件下、5%のCO雰囲気下で、培養液をインキュベートした。
【0074】
[培養血小板の放出]
培養13日後、巨核球は血小板前駆細胞と称する細胞質拡張(体)を示した。血小板前駆細胞巨核球を含む培地をCouetteデバイスに入れて、以下に定義するいずれかの構成で血小板を放出した。
【0075】
以下のCouetteデバイスの2つの構成について、試験した:
- デバイスの2つのロータ(内側シリンダ11と外側シリンダ13)が逆方向に回動する「2ロータ」構成
- 内側ロータ11のみが回動する「ロータアップ」構成。
互いに相対的に移動する、密に配置された2つの壁の間の流体について調査した流れのマッピングに基づいて、これらの構成を決定した。
【0076】
キャリブレーション用ビーズ(BD Trucount(商標),BD Biosciences社、San Jose、USA)を含むチューブを使用して、放出された血小板の数を推定した。5,000個のビーズを通過させた場合の血小板数を示し、続いて、D7での細胞あたりの血小板数、及びD0でのCD34細胞の播種数に減らした。
【0077】
[形態学的調査(図14)]
パラホルムアルデヒドで固定後、血小板をサイトスピンし、0.1%のTriton X-100で透過処理し、抗β1-チューブリン抗体(1μg/mL、Eurogentec社、Liege,Belgium)でインキュベートし、その後、GAM-488二次抗体(10μg/mL)及び抗GPIIbIIIa mAb(10μg/mL)をBSA(ウシ血清アルブミン)1%のPBSで希釈した。次に、細胞をMowiol(Mountant、Permafluor、Thermo Fisher Scientific社、UK)に取り込み、オイル対物レンズ(F型浸液、ne23=1.5180、ve=46、Leica Microsystems社)を装着した共焦点顕微鏡(TCS SP8、Leica Microsystems社、Rueil-Malmaison、France)で観察した。LASAFソフトウェア、バージョン1.62(Leica Microsystems社)を使用して、データを取得した。
【0078】
[in vitroでの機能性の調査]
活性化能力(図12
活性化アッセイでは、血小板懸濁液をGPIIb-IIIaとGPIbαに対する抗体で標識化し、室温で10分間インキュベートした。抗CD62P抗体、PAC1抗体(活性化型抗GPIIb-IIIa)、アイソトープコントロールのいずれかを含む、3種類の分析チューブを作製した。室温で10分間インキュベートした後、10μg/mLの10μM TRAP(活性化チューブ用)又はPBS(非活性化チューブ用)を加えた。活性化血小板の割合をフローサイトメトリで分析した。
【0079】
糖タンパク質の発現(図11
糖タンパク質の発現アッセイでは、GPIIb-IIIa、GPIbα、GPIbβ、GPV、GPIX、GPVI及びCD9に対する抗体で血小板懸濁液を標識化した。室温で30分間インキュベートした後、サンプルをフローサイトメトリで分析した。複数の蛍光色素を使用する場合の分析窓を決定するために、FMO(Fluorescence Minus One)を実施した。
【0080】
[In vivoでの機能性の調査(図13)]
輸血後の再循環
血小板前駆細胞巨核球を含む培地に、0.5μMのイロプロスト(Ilomedine0.1mg/1ml、Bayer AG社、Germany)を添加した後、培養血小板を採取した。次に血小板を遠心分離し、文献(Hechlerら、2013;Strasselら、2016)に記載されているように、アルブミンを含むTyrode緩衝液に再懸濁した。最終洗浄工程の後、3分の1の血漿と、3分の2の添加液としてインターソル(Fresenius Kabi、Homburg社、Germany)とからなる保存液に、血小板を移した。この保存液は、native血小板の保存と輸血に使用される。
【0081】
MCP(混合血小板濃縮物)からの培養、又はnativeの5×10の洗浄済みヒト血小板を含むアリコートを、あらかじめマクロファージを枯渇させた(1日目にクロドロネートリポソームを注射することによる)NSGマウス(NOD.Cg-Prkdc scid、Il2rg tm1Wjl/SzJ)に眼窩後静脈を介して注射した。
【0082】
輸血後3分、6分、10分、15分、30分、120分、240分、1400分、2800分、及び4320分に採取した全血サンプルについて、フローサイトメトリによりヒト及びマウスの血小板の循環を分析した。各血液サンプルを、ヒトとマウスのGPIbβを認識するRAM.1-568抗体、及びヒトGPIIb-IIIaのみを認識するALMA17-488抗体で標識した後、フローサイトメトリで分析した(Do Sacramentoら、2020)。結果を比較できるようにするため、分析の第1段階の3分後に、ヒト血小板数の全血小板数に対する比率を、任意で1に設定した。
【符号の説明】
【0083】
1 システム
11 内側シリンダ
12 内側シリンダの円筒壁、または、コンベヤベルトの平面壁
13 外側シリンダ
13a 外側シリンダのベース
14 外側シリンダの円筒壁、または、コンベヤベルトの平面壁
15 空間
図1a
図1b
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
図5a
図5b
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】