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特表2024-517665表面から生体試料を得るための装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】表面から生体試料を得るための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/02 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
A61B10/02 130
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565149
(86)(22)【出願日】2022-04-20
(85)【翻訳文提出日】2023-12-12
(86)【国際出願番号】 IB2022053674
(87)【国際公開番号】W WO2022224152
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】2021/02598
(32)【優先日】2021-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ZA
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523397403
【氏名又は名称】サーダック (ピーティーワイ) リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】カモルツ、ラーズ-ピーター
(57)【要約】
ヒトまたは動物の身体の露出表面から生体試料を得るための装置であって、当該装置が、上記露出表面から生体物質を吸収および吸着するための複数の独立した多孔質セラミック粒子と、上記複数の独立した多孔質セラミック粒子を収容するための透過性被覆と、を含み、上記複数の独立した多孔質セラミック粒子によって吸収および吸着された上記生体物質が、上記生体試料を形成する、装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物の身体の露出表面から生体試料を得るための装置であって、当該装置が、前記露出表面から生体物質を吸収および吸着するための複数の独立した多孔質セラミック粒子と、前記複数の独立した多孔質セラミック粒子を収容するための透過性被覆と、を含み、前記複数の独立した多孔質セラミック粒子によって吸収および吸着された前記生体物質が、前記生体試料を形成する、装置。
【請求項2】
前記複数の独立した多孔質セラミック粒子が不活性であり、その空隙率が25%から85%である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記複数の独立した多孔質セラミック粒子が、直径が0.3マイクロメートルから30マイクロメートルである細孔を有し、前記細孔が、本質的に蜂窩状であり、かつブローホールによってそれぞれ相互接続されている、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記複数の独立した多孔質セラミック粒子の直径が、300マイクロメートルから3000マイクロメートルである、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記複数の独立した多孔質セラミック粒子の表面が、イオン性相互作用、静電相互作用、水素結合、および電荷移動相互作用によって荷電している、先行する請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記透過性被覆が、有機不織布材料から形成された透過性および湿潤性を有する滅菌小袋の形態である、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記露出表面が、ヒトまたは動物の創傷であり、前記生体物質が、微生物;バイオマーカー;デオキシリボ核酸(DNA)、タンパク質、細胞分子、エンドトキシン、またはその組み合わせ;マクロファージ;好中球;線維芽細胞;血小板;TNF-α、インターロイキン(IL)、および成長因子(血小板由来成長因子(PDGF)を含む)などのサイトカイン分子;マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP);組織メタロプロテイナーゼ阻害剤(TIMP)、組織IL-1阻害剤、組織IL-6阻害剤、および組織MMP阻害剤;プロテアーゼ;プロテアーゼ阻害剤;ならびに炎症マーカーからなる群から選択されるいずれか1つまたは複数を含有する創傷滲出物を含み、前記微生物が、細菌、ウイルス、真菌、および寄生虫からなる群から選択されるいずれか1つまたは複数を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
ヒトまたは動物の身体の露出表面から生体試料を得るための方法であって、当該方法が、請求項1に記載の装置を準備するステップと、前記複数の独立した多孔質セラミック粒子が前記露出表面から生体物質を吸収および吸着できるように、前記装置を前記露出表面に接触させるステップと、を含み、前記複数の独立した多孔質セラミック粒子によって吸収および吸着された前記生体物質が、前記生体試料を形成する、方法。
【請求項9】
前記露出表面が、ヒトまたは動物の創傷であり、前記生体物質が、微生物;バイオマーカー;デオキシリボ核酸(DNA)、タンパク質、細胞分子、エンドトキシン、またはその組み合わせ;マクロファージ;好中球;線維芽細胞;血小板;TNF-α、インターロイキン(IL)、および成長因子(血小板由来成長因子(PDGF)を含む)などのサイトカイン分子;マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP);組織メタロプロテイナーゼ阻害剤(TIMP)、組織IL-1阻害剤、組織IL-6阻害剤、および組織MMP阻害剤;プロテアーゼ;プロテアーゼ阻害剤;ならびに炎症マーカーからなる群から選択されるいずれか1つまたは複数を含有する創傷滲出物を含み、前記微生物が、細菌、ウイルス、真菌、および寄生虫からなる群から選択されるいずれか1つまたは複数を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法にしたがってヒトまたは動物の身体の露出表面から生体試料を得るための、請求項1に記載の装置の使用。
【請求項11】
請求項1に記載の装置を準備するステップと、前記複数の独立した多孔質セラミック粒子が前記露出表面から生体物質を吸収および吸着できるように、前記装置を前記露出表面に接触させるステップと、超音波処理液を形成するために、前記装置を超音波処理に供するステップと、を含む、診断方法であって、前記超音波処理ステップが、前記吸収および吸着された生体物質に存在する微生物のバイオフィルムを分解する役割を果たして、微生物を含有する超音波処理液が形成される、診断方法。
【請求項12】
前記超音波処理が、20キロヘルツの周波数において行われる、請求項11に記載の診断方法。
【請求項13】
前記超音波処理液に存在する細菌株を特定する目的で1つまたは複数の細菌培養物を培養するために、前記超音波処理液を用いる追加のステップを含む、請求項11に記載の診断方法。
【請求項14】
前記露出表面が、ヒトまたは動物の創傷であり、前記生体物質が、微生物;バイオマーカー;デオキシリボ核酸(DNA)、タンパク質、細胞分子、エンドトキシン、またはその組み合わせ;マクロファージ;好中球;線維芽細胞;血小板;TNF-α、インターロイキン(IL)、および成長因子(血小板由来成長因子(PDGF)を含む)などのサイトカイン分子;マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP);組織メタロプロテイナーゼ阻害剤(TIMP)、組織IL-1阻害剤、組織IL-6阻害剤、および組織MMP阻害剤;プロテアーゼ;プロテアーゼ阻害剤;ならびに炎症マーカーからなる群から選択されるいずれか1つまたは複数を含有する創傷滲出物を含み、前記微生物が、細菌、ウイルス、真菌、および寄生虫からなる群から選択されるいずれか1つまたは複数を含む、請求項11から請求項13のいずれか一項に記載の診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面から生体試料を得るための装置および方法に関する。より詳細には、本発明は、ヒトまたは動物の身体の露出表面から生体試料を得るための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
急性創傷および慢性創傷の感染は、創傷治癒に大きな障害をもたらす。感染創のほとんどは、皮膚上の正常な微生物叢(normal flora)、または身体の他の部分もしくは外部環境に由来する細菌のいずれかによる細菌定着によって引き起こされる。
【0003】
感染創に正しい治療を処方するためには、適切な診断評価を行う必要がある。この診断評価は、感染の原因となる生物(例えば、細菌)を特定するために必要である。
【0004】
創傷治癒を予測し、かつ創傷治療の指針とするために、創傷滲出物を分析することが知られている。しかしながら、現時点では、創傷閉鎖時期を選択するのに役立つように、かつ治療法の指針となるように、創傷を客観的に評価する生物学的アッセイは、存在しない。プロテアーゼレベル、プロテアーゼ阻害剤レベル、および炎症マーカーレベルの変化は、創傷治癒と相関している。これらの知見は、炎症性調節不全および持続的な炎症状態が、急性期における創傷治癒の失敗につながるという考えをさらに支持している。患者の生理機能および応答に基づいて複雑な軟組織創傷の管理を個別に行うための生物学的アッセイを開発するための潜在的標的が、このような知見によって浮き彫りになる。このアッセイは、軍事的外傷だけでなく、一般外傷にも適用可能である。最終的には、創傷の早期閉鎖、手術室の移動回数の削減、および医療費の削減につながることになる。(Hahm,G.,Glaser,JJ.,Elster,EA.(2011)Biomarkers to predict wound healing:the future of complex war wound management. Plastic Reconstructive Surgery 127)。
【0005】
生物学的マーカー(バイオマーカー)は、生物学的状態の指標として用いられる物質である。ゲノミクス、プロテオミクス、および分子病理学の進歩により、潜在的な臨床的価値を有する多くのバイオマーカー候補が生み出されている。バイオマーカーとして機能できる、創傷治癒に関連する細胞的事象およびメディエーターが、研究によっていくつか特定されている。マクロファージ、好中球、線維芽細胞、および血小板が、TNF-α、インターロイキン(IL)、および成長因子(このうち、血小板由来の成長因子(PDGF)が最も重要である)などのサイトカイン分子を放出する。結果的に、様々な白血球および結合組織細胞が、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)および組織メタロプロテイナーゼ阻害剤(TIMP)の両方を放出する。非治癒創傷においては、IL-1、IL-6、およびMMPが正常以上のレベルであり、MMP/TIMP比が異常に高いことが多いということが、研究によって実証されている。これらのメディエーターについて創傷を臨床検査することによって、どの創傷が治癒し、どの創傷が治癒しないかを予測し得る。このことは、これらの化学物質を創傷治癒のバイオマーカーとして用いることを示唆するものである。また、PDGFのような成長因子を適用することで、慢性非治癒創傷の回復過程が改善されるという証拠もある。創傷の治癒状況に関する特定のバイオマーカーを発見することは、この分野におけるブレークスルーとなり、創傷治癒障害の治療に役立つであろう。(Patel,S.,Maheshwari,A.,Chandra,A.(2016);Biomarkers for wound healing and their evaluation - Wound Care (1):46-55)。
【0006】
いわゆるスワブ-リンス法(swab-rinse technique)が、診断評価のために最もよく採用されている。
【0007】
スワブ-リンス法で用いられる従来のスワブは、木製またはプラスチック製の軸からなり、この軸の一端において綿球を形成するように紡がれた綿繊維が付いている。スワブ-リンス法を行う際には、創傷の表面を綿球でこすって細菌を採取する。任意選択で、綿球を適切な湿潤剤で湿らせてもよい。その後、実験室培養を行うために、綿球から細菌を採取し、直接、固体栄養培地に移す。そして、実験室培養を用いて、原因生物を特定する。
【0008】
上記の手法の有効性は、特に、以下の点に依存する:
(i)創傷表面からの細菌の採取;
(ii)スワブの綿球からの細菌の放出;および
(iii)細菌の培養。
【0009】
上記の手法は、スワブが適切に実行された場合にのみ機能する。
【0010】
多くの場合、スワブの有効性は低いということが知られている。細菌の回収率は、当初の接種原の25%からほんの0.1%までの範囲であることが、研究により報告されている(NiskanenおよびPohja 1977;Roelofsenら 1999;MooreおよびGriffith 2002;Takuら 2002;Obeeら 2004)。
【0011】
従来のスワブ法の有効性が低い理由としては、スワブの使用者のトレーニングが不十分であること、スワブの綿球が効果的な吸収能および吸着能を有していないこと、ならびにスワブの綿球から細菌が効果的に放出されないことが挙げられる。
【0012】
[発明の目的]
本発明の目的は、ヒトまたは動物の身体の露出表面から生体試料を得るための装置および方法を提供することであり、出願人は、これらによって、上記の不利益が少なくとも軽減される可能性があると確信しており、すなわち、これらは、公知の装置および方法の代替として有用な装置および方法を提供するものである。
【発明の概要】
【0013】
ヒトまたは動物の身体の露出表面から生体試料を得るための装置であって、当該装置が、
上記露出表面から生体物質を吸収および吸着するための複数の独立した多孔質セラミック粒子と、
上記複数の独立した多孔質セラミック粒子を収容するための透過性被覆と、を含み、
上記複数の独立した多孔質セラミック粒子によって吸収および吸着された上記生体物質が、上記生体試料を形成する、装置。
【0014】
上記露出表面は、ヒトまたは動物の創傷であってもよい。上記創傷は、感染していてもよい。上記生体物質は、微生物;バイオマーカー;デオキシリボ核酸(DNA)、タンパク質、細胞分子、エンドトキシン、またはその組み合わせ;マクロファージ;好中球;線維芽細胞;血小板;TNF-α、インターロイキン(IL)、および成長因子(血小板由来成長因子(PDGF)を含む)などのサイトカイン分子;マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP);組織メタロプロテイナーゼ阻害剤(TIMP)、組織IL-1阻害剤、組織IL-6阻害剤、および組織MMP阻害剤;プロテアーゼ;プロテアーゼ阻害剤;ならびに炎症マーカーからなる群から選択されるいずれか1つまたは複数を含有する創傷滲出物を含む生体物質を含んでいてもよく、上記微生物は、細菌、ウイルス、真菌、および寄生虫からなる群から選択されるいずれか1つまたは複数を含む。
【0015】
上記透過性被覆は、透過性および湿潤性を有する小袋形態または封筒形態であってもよい。上記透過性被覆は、有機不織布材料から形成されてもよい。上記透過性被覆は、滅菌被覆であってもよい。
【0016】
上記複数の独立した多孔質セラミック粒子は、不活性であってもよい。
【0017】
上記複数の独立した多孔質セラミック粒子の空隙率(porosity)は、25%から85%であってもよい。
【0018】
上記複数の独立した多孔質セラミック粒子は、直径が0.3マイクロメートルから30マイクロメートルである細孔を有していてもよい。上記細孔は、本質的に蜂窩状(cellular)であってもよい。上記細孔は、ブローホール(blow-holes)によってそれぞれ相互接続されていてもよい。
【0019】
上記複数の独立した多孔質セラミック粒子の直径は、300マイクロメートルから3000マイクロメートルであってもよい。
【0020】
上記複数の独立した多孔質セラミック粒子の表面は、荷電していてもよい。上記表面の荷電は、イオン性相互作用、静電相互作用、水素結合、および電荷移動相互作用によって生じてもよい。
【0021】
本発明の第2の態様によれば、ヒトまたは動物の身体の露出表面から生体試料を得る方法が提供され、当該方法は、
(i)上記本発明の第1の態様に係る装置を準備するステップと、
(ii)上記複数の独立した多孔質セラミック粒子が上記露出表面から生体物質を吸収および吸着できるように、上記装置を上記露出表面に接触させるステップと、を含み、
上記複数の独立した多孔質セラミック粒子によって吸収および吸着された上記生体物質が、上記生体試料を形成する。
【0022】
上記露出表面は、ヒトまたは動物の創傷であってもよい。上記創傷は、感染していてもよい。上記生体物質は、微生物;バイオマーカー;デオキシリボ核酸(DNA)、タンパク質、細胞分子、エンドトキシン、またはその組み合わせ;マクロファージ;好中球;線維芽細胞;血小板;TNF-α、インターロイキン(IL)、および成長因子(血小板由来成長因子(PDGF)を含む)などのサイトカイン分子;マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP);組織メタロプロテイナーゼ阻害剤(TIMP)、組織IL-1阻害剤、組織IL-6阻害剤、および組織MMP阻害剤;プロテアーゼ;プロテアーゼ阻害剤;ならびに炎症マーカーからなる群から選択されるいずれか1つまたは複数を含有する創傷滲出物を含んでいてもよく、上記微生物は、細菌、ウイルス、真菌、および寄生虫からなる群から選択されるいずれか1つまたは複数を含む。
【0023】
本発明の第3の態様によれば、ヒトまたは動物の身体の露出表面から生体試料を得るための、上記本発明の第1の態様に係る装置の使用が提供される。
【0024】
本発明の第4の態様によれば、診断方法が提供され、当該診断方法は、
(i)上記本発明の第1の態様に係る装置を準備するステップと、
(ii)上記複数の独立した多孔質セラミック粒子が上記露出表面から生体物質を吸収および吸着できるように、上記装置を上記露出表面に接触させるステップと、
(iii)超音波処理液を形成するために、上記装置を超音波処理に供するステップと、を含み、上記超音波処理ステップが、上記吸収および吸着された生体物質に存在する微生物のバイオフィルムを分解する役割を果たして、微生物を含有する超音波処理液が形成される。
【0025】
上記露出表面は、ヒトまたは動物の創傷であってもよい。上記創傷は、感染していてもよい。上記生体物質は、微生物;バイオマーカー;デオキシリボ核酸(DNA)、タンパク質、細胞分子、エンドトキシン、またはその組み合わせ;マクロファージ;好中球;線維芽細胞;血小板;TNF-α、インターロイキン(IL)、および成長因子(血小板由来成長因子(PDGF)を含む)などのサイトカイン分子;マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP);組織メタロプロテイナーゼ阻害剤(TIMP)、組織IL-1阻害剤、組織IL-6阻害剤、および組織MMP阻害剤;プロテアーゼ;プロテアーゼ阻害剤;ならびに炎症マーカーからなる群から選択されるいずれか1つまたは複数を含有する創傷滲出物を含んでいてもよく、上記微生物は、細菌、ウイルス、真菌、および寄生虫からなる群から選択されるいずれか1つまたは複数を含む。
【0026】
超音波処理は、20キロヘルツの周波数で行われてもよい。
【0027】
上記診断方法は、上記超音波処理液に存在する細菌株を特定する目的で1つまたは複数の細菌培養物を培養するために、上記超音波処理液を用いる追加のステップを含んでいてもよい。
【0028】
[発明の詳細な説明]
複数の独立した多孔質セラミック粒子は、
(i)アルミナ(Al23)を直径がおよそ1マイクロメートルである粒子からなる粉末になるまで粉砕するステップと、
(ii)粉末に可燃性物質を添加するステップと、
(iii)ペーストまたはスラリーを形成するために粉末を水と混合するステップと、
(iv)直径が300マイクロメートルから3000マイクロメートルである粒子が分離されるように、ペーストまたはスラリーから粒子を形成するステップと、
(V)細孔径が0.3マイクロメートルから30マイクロメートルである不活性微孔質固体セラミック体が形成されるように、セラミック骨材を1200℃に加熱するステップと、を含む方法によって形成されてもよい。
【0029】
複数の独立した多孔質セラミック粒子は、それぞれ、直径が30マイクロメートルから3000マイクロメートルであり、不活性で、空隙率が25%から85%である。
【0030】
複数の独立した多孔質セラミック粒子の細孔は、本質的に蜂窩状であり、その直径は、0.3マイクロメートルから30マイクロメートルである。細孔は、ブローホールによってそれぞれ相互接続されているが、これらは、セラミック骨材が1200℃またはそれに近い温度で融解した際に、可燃性物質がセラミック骨材から流出すると形成される。
【0031】
ヒトまたは動物の身体の露出表面(例えば、創傷)から生体試料を得るための装置を形成するために、複数の独立した多孔質セラミック粒子を、液体および気体を透過する小袋で包む。小袋は滅菌小袋であり、独立した多孔質セラミック粒子をその中に緩く詰めることで、それを通って空気が浸透できるようになっている。小袋は、有機不織布材料から形成される。
【0032】
複数の独立した多孔質セラミック粒子の表面積は、比較的大きく、微小孔は、大きな毛細管吸引力を示す。
【0033】
使用時、装置がヒトまたは動物の身体の創傷に接触すると、複数の独立した多孔質セラミック粒子は、創傷表面に存在する生体物質に対して毛細管吸引力を発揮する。その後、生体物質は、複数の独立した多孔質セラミック粒子の微小孔において、吸収され、輸送され、貯蔵される。独立した多孔質セラミック粒子のそれぞれは、周囲の同種粒子と接触しているため、ヒトまたは動物の身体の創傷表面の生体物質は、粒子間を連続的に移動し、小袋内の独立した多孔質セラミック粒子のすべてにおいて、静水圧ポテンシャルが均等化される。独立した多孔質セラミック粒子の微小孔から生体物質が離れるようにする駆動力はない。このようにして、ヒトまたは動物の身体の創傷から生体試料が得られる。
【0034】
上述したように、複数の独立した多孔質セラミック粒子は、それぞれアルミナ(Al23)からなる。複数のアルミナ(Al23)粒子の表面は、高度に荷電している。アルミナ(Al23)粒子の表面は比較的粗く、濡れ角は0°である。したがって、アルミナ粒子は、容易に濡れる。アルミナ(Al23)粒子の表面積は、典型的には、アルミナ(Al23)1グラムあたり0.5m2である。1グラムのアルミナ(Al23)は、3.5×1021個の酸素イオン(O2-)および2.4×1021個のアルミニウムイオン(Al3+)を含み、そのかなりの部分が粒子表面に露出している。
【0035】
生体のあらゆる細胞は、細胞膜の両側にある荷電した原子間の差として定義される電荷を有することが知られている。一方、プロトンコロイド固体は、側鎖アミノ酸基のイオン化により、表面電荷を発生する場合がある。
【0036】
使用時、複数の独立した多孔質アルミナ粒子が創傷からの生体物質と接触すると、高度に荷電したアルミナ表面(1グラムあたり5.9×1021のイオン電荷)は、生体物質によって連続的に濡れる。複数の独立した多孔質アルミナ粒子の表面は、粗く、荷電コロイド細胞、微生物、バイオマーカー、デオキシリボ核酸(DNA)分子、タンパク質、およびエンドトキシンなどを吸着して付着するのに理想的である。付着は、イオン性相互作用、静電相互作用、水素結合、および電荷移動相互作用によって起こる。このようにして、強力な吸着が起こり、ヒトまたは動物の身体の創傷から生体試料が得られる。
【0037】
生体物質は、微生物;バイオマーカー;デオキシリボ核酸(DNA)、タンパク質、細胞分子、エンドトキシン、またはその組み合わせ;マクロファージ;好中球;線維芽細胞;血小板;TNF-α、インターロイキン(IL)、および成長因子(血小板由来成長因子(PDGF)を含む)などのサイトカイン分子;マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP);組織メタロプロテイナーゼ阻害剤(TIMP)、組織IL-1阻害剤、組織IL-6阻害剤、および組織MMP阻害剤;プロテアーゼ;プロテアーゼ阻害剤;ならびに炎症マーカーからなる群から選択されるいずれか1つまたは複数を含有する創傷滲出物を含み、微生物は、細菌、ウイルス、真菌、および寄生虫からなる群から選択されるいずれか1つまたは複数を含む。
【0038】
ヒトまたは動物の身体の露出表面(例えば、創傷)から生体試料を得るための装置は、粘着性被覆材を含んでいてもよい。装置を創傷から取り外すと、創傷から吸い取られた生体物質は、複数の独立した多孔質セラミック粒子の微小孔内のみならずその表面にも存在する。そして、この生体物質が、創傷から得られた生体試料を形成する。
【0039】
創傷から得られた生体試料を超音波処理に供することで、生体試料に存在する微生物(例えば、細菌)のバイオフィルムを分解し、微生物を含有する超音波処理液を形成する。超音波処理は、典型的には、20キロヘルツの周波数で行われる。その後、微生物を含有する超音波処理液に存在する微生物を特定する目的で微生物を培養するために、微生物を含有する超音波処理液を用いる。これらの微生物は、典型的には細菌であり、細菌を培養することによって、超音波処理液に存在する異なる細菌株を同定することができる。これにより、医療関係者が、ヒトまたは動物の患者の感染創に対して正しい治療を処方することが可能になる。
【0040】
創傷治癒の段階を示すバイオマーカーを特定するために、超音波処理液を用いることもできる。これにより、ヒトまたは動物の患者の感染創に対して正しい治療を処方するように、医療関係者にさらに情報が与えられるであろう。
【0041】
創傷から得られた生体試料を分析すると、創傷治癒を予測することおよび創傷治療の指針とすることが可能となることがわかった。特に、マクロファージレベル、好中球レベル、線維芽細胞レベル、血小板レベル、TNF-α、インターロイキン(ILS)、および成長因子(血小板由来成長因子(PDGF)を含む)などのサイトカイン分子レベル、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)レベル、組織メタロプロテイナーゼ阻害剤(TIMP)レベル、組織IL-1阻害剤レベル、組織IL-6阻害剤レベル、組織MMP阻害剤レベル、プロテアーゼレベル、プロテアーゼ阻害剤レベル、ならびに炎症マーカーレベルを分析することで、創傷治癒過程の状態について有用な見識が創傷治療専門家に提供され、進行状況を予測すること、および適切な治療計画を処方することの助けとなる。
【0042】
本発明は、本明細書に記載されている厳密な詳細に限定されず、本発明の範囲から逸脱することなく多くの変更が可能であることは、当業者であれば理解されるであろう。
【0043】
本発明の原理および概念的態様について最も有用で容易に理解されると考えられる説明を提供するために、例示としてのみ、説明が提示されている。この点に関して、本発明の根本的な理解に必要である以上の詳細を示す試みはなされていない。本明細書で用いられている用語は、説明と例証のためのものであって、限定するためのものではない。
【0044】
[参考文献]
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Moore, G. and Griffith, C. (2002) Factors influencing recovery of microorganisms from surfaces by use of traditional hygiene swabbing. Dairy Food Environ Sanit 22, 14-25.
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Roelofsen, E., Van Leeuwen, M., Meijer‐Severs, G.J., Wilkinson, M.H.F. and Degener, J.E. (1999) Evaluation of the effects of storage in two different swab fabrics and under three different transport conditions on recovery of aerobic and anaerobic bacteria. J Clin Microbiol 37, 3041-3043.
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【国際調査報告】