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特表2024-517668骨内カテーテルの留置確認装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】骨内カテーテルの留置確認装置および方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/03 20060101AFI20240416BHJP
   A61M 25/01 20060101ALI20240416BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
A61B5/03
A61M25/01
A61B5/00 101L
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565200
(86)(22)【出願日】2022-04-20
(85)【翻訳文提出日】2023-12-18
(86)【国際出願番号】 US2022071818
(87)【国際公開番号】W WO2022226509
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】63/178,175
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523399108
【氏名又は名称】サブラ・メディカル・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】SABRA MEDICAL,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100225026
【弁理士】
【氏名又は名称】古後 亜紀
(74)【代理人】
【識別番号】100230248
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 圭二
(72)【発明者】
【氏名】グリーンスタイン・ヨナタン
【テーマコード(参考)】
4C017
4C117
4C267
【Fターム(参考)】
4C017AA20
4C017AB10
4C017AC06
4C017BD06
4C017FF05
4C117XB01
4C117XB20
4C117XC21
4C117XD40
4C117XE27
4C117XJ11
4C267AA02
4C267CC19
4C267CC30
(57)【要約】
【課題】骨内(IO)カテーテルが正確に留置されているか否かを迅速に判断するための装置および方法を提供する。
【解決手段】本発明の装置は、骨内カテーテルに直接接続されて、該カテーテルが正確に留置されているか否か、例えば、該カテーテルが骨の髄腔内に位置しているか否かを判断するための、動脈圧波形(308)の有無を活用した実用的情報を臨床医に提供するように構成された持ち運び可能な装置(300)である。骨内カテーテルの留置を評価する本発明の方法は、組織内に配置された骨内カテーテルに圧力トランスデューサを連結することと、前記圧力トランスデューサにより提供される圧力信号から連続した圧波形を取得することと、前記連続した圧波形に基づいて前記カテーテルの留置を評価することと、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨内カテーテルの留置を評価する方法であって、
組織内に配置された骨内カテーテルに圧力トランスデューサを連結することと、
前記圧力トランスデューサにより提供される圧力信号から連続した圧波形を取得することと、
前記連続した圧波形に基づき、前記組織内の前記カテーテルの留置を評価することと、
を備える、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記カテーテルの留置を評価することが、前記連続した圧波形を目視で確認することを含む、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、前記カテーテルの留置を評価することは、前記連続した圧波形中に脈動波形が存在するか否かを判断することを含む、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、前記連続した圧波形中に脈動波形が存在することは、骨の髄腔内に前記カテーテルが位置していることを表し、脈動波形が存在しないことは、軟部組織内に前記カテーテルが位置していることを表す、方法。
【請求項5】
請求項3に記載の方法において、前記連続した圧波形中に脈動波形が存在するとの判断は、前記連続した圧波形中に律動的な脈動を検出することを含む、方法。
【請求項6】
請求項3に記載の方法において、前記連続した圧波形中に脈動波形が存在するとの判断は、ピーク圧-トラフ圧間に5mmHg以上の差を検出することを含む、方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法において、前記カテーテルの留置を評価することは、前記連続した圧波形の、動脈圧波形との類似度を求めることを含む、方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法において、前記圧力トランスデューサが、表示部を具備した持ち運び可能な装置に組み込まれており、前記連続した圧波形を取得することが、前記連続した圧波形を前記表示部に表示することを含む、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記圧力トランスデューサが、前記持ち運び可能な装置の接続手段を介して前記骨内カテーテルに接続されて、前記接続手段は、前記持ち運び可能な装置の内部流路と流体連通しており、前記圧力トランスデューサは、前記内部流路から圧力をサンプルして前記圧力信号を提供するように構成されている、方法。
【請求項10】
骨内カテーテルの留置を評価する装置であって、
ハウジングと、
前記ハウジングに組み込まれた表示部と、
前記ハウジングの第1の側において、組織内に配置された骨内カテーテルと接続する第1の接続手段と、
前記接続手段と流体連通した、前記ハウジング内の内部流路と、
前記内部流路から圧力をサンプルするように、かつ、サンプルした圧力に基づいて圧力信号を提供するように構成された圧力トランスデューサと、
前記圧力トランスデューサにより提供される前記圧力信号から連続した圧波形を取得するように、かつ、前記表示部に前記連続した圧波形を表示させるように構成されたプロセッサと、
を備え、表示される前記連続した圧波形が、前記カテーテルが前記組織内に位置していることを示唆する、装置。
【請求項11】
請求項10に記載の装置において、前記連続した圧波形中に脈動波形が存在することは、骨の髄腔内に前記カテーテルが位置していることを表し、前記連続した圧波形中に脈動波形が存在しないことは、軟部組織内に前記カテーテルが位置していることを表す、装置。
【請求項12】
請求項10または11に記載の装置において、さらに、前記ハウジングの第2の側に、前記ハウジング内の前記流路と流体連通した第2の接続手段を備える、装置。
【請求項13】
請求項12に記載の装置において、前記流路が、前記第1および第2の接続手段間に延在している、装置。
【請求項14】
請求項12に記載の装置において、さらに、前記第2の接続手段を閉じる蓋部を備える、装置。
【請求項15】
骨内カテーテルを留置する方法であって、
組織内に骨内カテーテルを配置することと、
組織内に配置された前記骨内カテーテルに圧力トランスデューサを連結することと、
前記圧力トランスデューサにより提供される圧力信号から連続した圧波形を取得することと、
前記連続した圧波形中に脈動波形が存在するか否かを判断することによって、前記連続した圧波形に基づき、前記組織内の前記カテーテルの留置を評価することと、
脈動波形が存在しない場合は、前記組織内の前記カテーテルの位置を調節することと、
を備える、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法において、前記圧力トランスデューサが持ち運び可能な装置に組み込まれており、前記持ち運び可能な装置が表示部、および前記圧力トランスデューサと流体連通した接続手段を具備しており、前記骨内カテーテルに圧力トランスデューサを連結することは、前記接続手段を前記骨内カテーテルに直接連結することを含み、前記連続した圧波形を取得することは、前記連続した圧波形を前記表示部に表示することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、2021年4月22日付出願の米国仮特許出願第63/178,175号の利益を主張する。この出願の全教示内容は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。
【背景技術】
【0002】
重症患者の静脈(IV)路がないか又はその確保が困難な場合、医療従事者は、骨内(IO)カテーテルにより、流体や薬剤を迅速に投与することができる。IOカテーテルは、アメリカ心臓協会が公表している二次心肺蘇生法ガイドラインで推奨されており、院外救急医療、入院患者治療の双方で多くの臨床医に利用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本技術は、骨内(IO)カテーテルの留置を迅速に確認するための方法および装置に関する。このようなIOカテーテルは、救急医療時に静脈路や中心静脈路の確保ができない場合に血管へのアクセスを確保して薬剤や流体を投与するのに用いられる。IOカテーテルは正確に留置されることが重要であり、正確に留置されているかを迅速に判断することもしばしば求められる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一実施形態は、使い捨ての小型無菌装置であって、IOカテーテルに接続されて、該カテーテルが例えば骨の髄腔内に正確に配置されているか否かについての臨床医による判断を助ける実用的情報(actionable information)を該臨床医に提供する装置である。同装置は新規の概念を用いて、例えば動脈圧波形等の脈動圧波形の有無を活用したこの情報を提供する。
【0005】
他の実施形態は、骨内カテーテルの留置を評価する方法である。同方法は、組織内に配置された骨内カテーテルに圧力トランスデューサを連結することと、前記圧力トランスデューサにより提供される圧力信号から連続した圧波形を取得することと、を備える。前記連続した圧波形に基づき、前記カテーテルの留置が評価される。
【0006】
前記カテーテルの留置を評価することが、前記連続した圧波形を目視で確認すること、前記連続した圧波形中に脈動波形が存在するか否かを判断すること、前記連続した圧波形の、動脈圧波形との類似度を求めること、またはこれらの組合せを含む。
【0007】
前記連続した圧波形中に脈動波形が存在することは、骨の髄腔内に前記カテーテルが位置していることを表す。脈動波形が存在しないことは、軟部組織内に前記カテーテルが位置していることを表す。
【0008】
前記連続した圧波形中に脈動波形が存在するとの判断は、前記連続した圧波形中に律動的な脈動を検出すること、ピーク圧-トラフ圧間に5mmHg以上の差を検出すること、またはその両方を含み得る。
【0009】
前記圧力トランスデューサは、表示部を具備した持ち運び可能な装置に組み込まれたものであり得て、前記連続した圧波形を取得することが、前記連続した圧波形を前記表示部に表示することを含み得る。
【0010】
骨内カテーテルの留置を評価する装置は、ハウジングと、前記ハウジングに組み込まれた表示部と、前記ハウジングの第1の側において、組織内に配置された骨内カテーテルと接続する第1の接続手段と、前記接続手段と流体連通した、前記ハウジング内の内部流路と、前記内部流路から圧力をサンプルするように、かつ、サンプルした圧力に基づいて圧力信号を提供するように構成された圧力トランスデューサと、を備える。前記圧力トランスデューサにより提供される前記圧力信号から連続した圧波形を取得するように、かつ、前記表示部に前記連続した圧波形を表示させるように構成されプロセッサが設けられており、表示される前記連続した圧波形が、前記組織内に前記カテーテルが位置していることを示唆する。
【0011】
前記連続した圧波形、例えば、前記表示される連続した圧波形中に、脈動波形が存在することは、骨の髄腔内に前記カテーテルが位置していることを表す。前記連続した圧波形、例えば、前記表示される連続した圧波形中に、脈動波形が存在しないことは、軟部組織内に前記カテーテルが位置していることを表す。
【0012】
前記装置は、前記ハウジングの第2の側に、前記ハウジング内の前記流路と流体連通した第2の接続手段を備え得る。前記流路は、前記第1および第2の接続手段間に延在し得る。前記装置は、さらに、前記第2の接続手段を閉じる蓋部を備え得る。
【0013】
骨内カテーテルを留置する方法は、組織内に骨内カテーテルを配置することと、組織内に配置された前記骨内カテーテルに圧力トランスデューサを連結することと、前記圧力トランスデューサにより提供される圧力信号から連続した圧波形を取得することと、前記連続した圧波形中に脈動波形が存在するか否かを判断することによって、前記連続した圧波形に基づき、前記組織内の前記カテーテルの留置を評価することと、脈動波形が存在しない場合は、前記組織内の前記カテーテルの位置を調節することと、を備える。
【0014】
前述の内容は、添付の図面に示した例示的な実施形態についての以下の詳細な説明から明白になる。異なる図をとおして、同一の参照符号は同一の構成/構成要素を指すものとする。図面は必ずしも縮尺どおりではなく、むしろ、実施形態を図示することに重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】骨髄内輸液用の骨内(IO)カテーテルの留置の一例を示す図である。
図2】動脈路圧波形および正確な留置の骨髄路圧波形の一例を示す図である。
図3】IOカテーテルの留置を評価する装置の一例を示す概略外観図である。
図4図3の装置例の概略内部図である。
図5】装置の一例と骨内に配置されたIOカテーテルとの接続の様子を示す図である。
図6】圧波形の表示および解釈によってIOカテーテルの留置を評価する方法の一例を示すフロー図である。
図7】(IOカテーテルが正確に留置されていることを表す)脈動波形の複数の例を示す図である。
図8】(IOカテーテルが正確に留置されていないことを表す)非脈動波形の複数の例を示す図である。
図9A】骨内(IO)カテーテルの正確な留置を確認する各方法を比較した、診断精度調査の結果を示す表である。
図9B】骨内(IO)カテーテルの正確な留置を確認する各方法を比較した、診断精度調査の結果を示す他の表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、例示的な実施形態について説明する。
【0017】
骨内(IO)カテーテルは、救急医療時に静脈路の確保や中心静脈路の確保ができない患者の骨髄内に薬剤や流体を直接送達させるのに用いられる。IOカテーテルが正確に留置されているかどうかを迅速かつ確実に判断することがしばしば求められる。
【0018】
様々なIOカテーテルが、世界中で、病院前救急医療の場面、入院診療の場面の双方で日常的に利用されている。米国で普及しているEZ-IOカテーテルの製造元であるTeleflex(テレフレックス)社は、2017年の販売個数が300万個を超えたことを発表している。
【0019】
図1に、骨髄内輸液用の骨内(IO)カテーテルの留置の一例を示す。本例では、IOカテーテル100が上腕骨105の近位端に留置されている。IOカテーテル100は、針102が皮質骨110を通って骨105の髄腔115内に挿入されている。一般的に、前記針はスタイレット(図示せず)を使って挿入される。前記針が骨内に配置された後、該スタイレットは取り外される。針102の近位側の端部には接続手段104が設けられており、流体ラインが接続される。一般的に、IOカテーテルは、長管骨の近位端や遠位端に留置される。このような長管骨の髄腔内には、血管系が存在している。これらの血管は、皮質骨110の細孔(canals)を介して骨外の動脈や静脈と繋がっている(符号120)。
【0020】
現在のところ、IOカテーテルの正確な留置を評価するための簡便な方法は存在していない。一般的に、医療従事者は、下記の1つ以上によってIOカテーテルの留置を判定する:
a)吸引に伴い骨髄が返ってくること;
b)スタイレット上に血液が見えるようになったこと;
c)骨内で針が堅固に留置されていること;
d)フラッシュ液(fluid flush)のスムーズな送液が可能であること;および
e)IO周囲部分を手で圧迫して骨内液流(IO flow)を確認すること(例えば、Jacob Avila et al.による“Trick of the Trade: Squeeze test for confirmation of IO placement”, Aliem, July 22, 2015(https://www.aliem.com/trick-of-the-trade-squeeze-test-for-confirmation-of-io-placement/でオンライン入手可能)、Strausbaughet al.による“Circumferential pressure as a rapid method to assess intraosseous needle placement.” Pediatric Emergency Care 1995;11(5):274-276等を参照のこと)。
【0021】
日常的にIOカテーテルの留置を実施する臨床医によると、正確に留置されているかどうかを判断するにあたって、現在利用されている上記のような手法は、満足のいくものではないとのことである。IOカテーテルは極めて安全であるが、カテーテルの不適切な留置や逸脱に関係した有害事象が数多く報告されている(例えば、Greensteinet al.によるCrit Care Med 2016; 44(9):e904-e909等を参照のこと)。
【0022】
本明細書で説明する方法及びこれに関連した装置により、臨床医は、IOカテーテルが正確に留置されているか否かの判断をより良好に行うことが可能になる。さらに、臨床医はこの装置を用いることで、カテーテルが正確に留置されているかどうかについてのスポット検査を長期的に実施できるようになる。
【0023】
体内に留置されたIOカテーテルからの圧力測定値に動脈波形が存在することについては、過去の研究論文に記載されている(例えば、Frascone RJet al.による“Use of an intraosseous device for invasive pressure monitoring in the ED” Am J Emerg Med Jun 1, 2014, 692.e3-692.e4(https://doi.org/10.1016/j.ajem.2013.12.029(オンライン公開日:2013年12月19))、Salzman JGet al.による“Intraosseous Pressure Monitoring in Health Volunteers” Prehosp Emerg Care 2017; 21:567-574等を参照のこと)。
【0024】
患者の蘇生中の骨内装置による骨内圧(IOP)モニタリングの成功事例が、Fransconeet al.の論文に記載されている(Frascone RJ et al.による“Use of an intraosseous device for invasive pressure monitoring in the ED” Am J Emerg Med June 1, 2014, 692.e3-692.e4)。Franscone et al.の別の論文では、骨内(IO)波形が、ダイクロティックノッチの存在を含む動脈圧波形に最も類似しているという報告がなされている(Frascone RJet al.による“Evaluation of intraosseous pressure in a hypovolemic animal model” Journal of Surgical Research 193(2015) 383-390)。
【0025】
小型のトランスデューサを骨内空間に直接挿入して骨内圧を測定する手法が、McDermottet al.の論文に記載されている(McDermott AG、Yabsley RH及びLeahey JLによる“A new method to measure intraosseous pressures” (1986) Clin. Orthop. Relat. Res. Jul;(208):25-7)。
【0026】
以上の研究論文には、IOカテーテルが正確に留置されているかの判断に骨内圧波形を利用することは記載されていない。むしろ、これらの論文は、骨内圧と全身血圧との潜在的な関係について触れているに過ぎない。
【0027】
骨内空間(例えば、髄腔等)には細動脈網が存在していることから、適切に留置されたIOカテーテルを圧力トランスデューサに取り付けると、脈動波形が生成される。IOカテーテルからの収縮期圧、拡張期圧及び平均圧の読取測定値は、可変である。しかし、圧力の読取値のこのような可変性にもかかわらず、適切に留置されたIOカテーテルに圧力トランスデューサが取り付けられた際の脈動波形の生成には一様性がある。したがって、IOカテーテルからの脈動波形を示すことができれば、骨内空間から直接、客観的データを記録していることになるから、正確な骨内留置が確認される。
【0028】
なお、「無脈」の患者は、動脈圧波形や骨内圧波形を示さない。むしろ、「フラットライン」の波形を示すことになる。このような患者では、連続した圧波形解析に基づくIOカテーテルの留置の評価は上手く行かないものと予想され、別のアプローチを利用してIOカテーテルの留置を確認することが必要となる。
【0029】
図2に、患者のモニタ上に他のバイタルサインと同時に表示された動脈路圧波形(Arterial Line Pressure Waveform)及び骨髄路圧波形(IO Line Pressure Waveform)の一例を示す。表示部200には、上から下にかけて、第1および第2のECG波形202,204、橈骨動脈路圧波形206、骨髄路圧波形208、酸素飽和度(SPO)波形210および呼吸数波形212が表示されている。このとき、骨内圧波形208は、動脈路圧波形206と見た目が似ている。IOカテーテルが髄腔内に正確に留置されているとき、該カテーテルを一般的な圧力トランスデューサで信号変換すると、動脈圧波形がはっきりと表れる。この有用な情報を提供することのできる典型的な圧力トランスデューサは、設置が煩雑であるほか、熟練した看護師や専用のベッドサイドモニタが必要になる。ICU Medical社のTranspac IV装置(https://www.icumed.com/products/critical-care/blood-pressure-monitoring/transpac-iv)は、骨内圧の測定に利用可能な使い捨て圧力トランスデューサの一例であるが、設置が面倒で時間がかかり、救急の場面ではリスクとなり得る。
【0030】
本開示の技術は、IOカテーテルの正確な留置を評価する迅速かつ確実な方法に関する。使い捨て圧力トランスデューサをIOカテーテルに接続し、骨内空間内での使用に合わせて校正し、連続した骨内圧波形を提供させるよう用いる。該波形が動脈波形に類似している場合には、IOカテーテルが正確に留置されていることを示唆している。
【0031】
図3は、IOカテーテルの留置を評価する装置300の一例を示す概略外観図である。装置300は、2つの接続ポート(例えば、第1および第2の接続手段等)を有するハウジング302、雌型ルアーロックチップ接続部304および雄型ルアーロックチップ接続部306、ならびに内部の圧力トランスデューサ(図4の符号424を参照のこと)から得られた圧波形308を例えばリアルタイムで表示するデジタル表示部310を具備する。ここで、図示された波形308は、動脈波形に類似している。該波形は、ピーク圧311およびトラフ圧309を有する。一般的に、ピーク圧-トラフ圧間の圧力差が5mmHg以上のものは、脈動波形を表す。前記表示部には、このほかに、前記トランスデューサにより測定される実際の圧力の数値も表示され得る。前記表示部は、このような圧力の測定値を、収縮期圧(本例では、22mmHg)及び拡張期圧(本例では、12mmHg)として表示し得る(符号312)。表示部310は、例えば表示波形の垂直方向および水平方向の拡大縮小といった表示パラメータの調節や、該表示部の一時停止、リセット等のユーザ操作を可能にするタッチ検知ディスプレイとされ得る。
【0032】
本装置の電源を入れたり消したりするための電源ボタン316が設けられている。電源ボタン316は、60秒の自動電源オフ機能付きのものであり得る。雌型ルアーロック接続部304には、着脱可能な蓋部314が設けられている。圧力測定時に、装置300が雄型ルアーロックチップ接続部306を介してIOカテーテルに連結される際には、雌型ルアーロック接続部304に蓋部314が被されているか、あるいは、該雌型ルアーロック接続部にシリンジ(図示せず)が取り付けられ得る。本装置は、小型で持ち運び可能な寸法とされる。図示の例では、本装置の長さ寸法をL、幅寸法をWとしている。例えば、Lが約2.5インチ(約6.35cm)、Wが約1.125インチ(約2.86cm)とされ得る。装置300は、単回使用の無菌医療機器であり得る(但し、同じ患者に複数回使用されてもよい)。
【0033】
図4は、図3の装置例300の概略内部図である。図示のように、本装置は、雌型ルアーロック接続部304と雄型ルアーロック接続部306との間に連続した内部流路420を備える。圧力トランスデューサ424が、インターフェース部422を介して内部流路420から圧力をサンプルする。本装置は、トランスデューサ424から圧力信号を受け取り、受け取った圧力信号に基づいて表示部310(図3)に圧波形を表示させるように構成された例えばプロセッサ426等の電子機器を具備する。前記プロセッサは、自動的に又はユーザの操作に応じて波形の表示を調節するように構成されたものであり得る。前記プロセッサは、メモリ記憶部、表示部310、電源ボタン316、圧力トランスデューサ424、無線入出力(I/O)部430などといった、本装置の他の構成要素にも動作可能に接続されている。無線部430は、WIFIやBLUETOOTH(登録商標)などの適切な無線ネットワーク/通信プロトコルによって無線でデータの送受信を行うように構成されている。例えばバッテリ等の電力源428が、前記プロセッサ、前記圧力トランスデューサ、前記無線部、前記表示部などの前記電子機器を駆動する。
【0034】
前記カテーテルの留置の評価は目視で、臨床医によって実施され得る。解析を自動化することも考えられる。臨床医は、脈動波形の有無を確認し得る。臨床医は、骨内圧波形のみに基づいて判断を行うことができ、動脈波形が併せて存在している必要はない。前記カテーテルが正確に留置されていない場合、すなわち、骨の髄腔内にない場合、本装置に脈動波形は表示されない。この場合、臨床医は、前記IOカテーテルの位置を調節するか又は前記IOカテーテルを取り出して別のカテーテルを留置する必要がある。
【0035】
有利には、前記圧力トランスデューサは、骨内空間内での使用に合わせて校正を施され得る。文献や臨床経験に基づけば、適正な圧力範囲は20mmHg~60mmHgになると考えられる。例えば、0mmHg~120mmHg等のより広い範囲が適用されてもよい。より広い範囲が適用された場合には、脈動波形の有無をユーザが推察できるように、本装置(例えば、前記プロセッサ等)が、前記表示部に表示された波形のスケールを例えば該波形のピーク圧等に基づいて自動的に、あるいは、例えばボタンやユーザインターフェース等によるユーザの操作に応じて調節することが可能であるのが好ましい。スケールが大き過ぎると、波形は非脈動(すなわち、フラット)に見えてしまう。
【0036】
本発明の実施形態は、市販されている小型で持ち運び可能な単回使用の圧力トランスデューサであるCOMPASSと称されるトランスデューサ装置(Centurion Medical Products社製)(http://compass.centurionmp.com/)と同様の寸法及び接続構成(connection interfaces)のものであり得る。該装置は、雄型ルアーロックチップ接続部や、蓋部付きの雌型ルアーロックチップ接続部を具備する。該装置の重量は、16グラムである。このCOMPASS装置は、中心静脈路穿刺、腰椎穿刺、胸腔穿刺および区画圧のモニタリング用に販売されている。該装置は、使い勝手が良いものの、圧波形を提供するものでない。該COMPASS装置は、3秒間の平均圧力を表した圧力値の表示を1秒間に2回更新しながら行う。対照的に、本件のアプローチは、連続した波形表示を例えばリアルタイムで遥かに高速に更新しながら行うものである。
【0037】
本装置は、骨内空間内での使用に合わせて校正が施される圧力トランスデューサを具備する。本装置は、臨床医に測定圧の数値だけを提供するのではなく、測定圧に基づく連続した圧波形を表示部で臨床医に提供する。臨床医は、該波形を確認して、該波形が動脈波形であるか又は動脈波形に類似し、骨内に前記カテーテルが正確に留置されていることを示唆しているのかどうかを判断することができる。
【0038】
図5に、長管骨105内に配置されたIOカテーテル500に接続されている使い捨て圧力トランスデューサ装置300の一例を示す。該使い捨て圧力トランスデューサ装置は、ルアーロック接続部306を介して前記IOカテーテルのチューブ502に接続され、骨内空間内での使用に合わせて校正が施され、連続した骨内圧波形を提供するように用いられる。該波形が動脈波形に類似している場合には、前記IOカテーテルが正確に留置されていることを示唆している。本開示の技術は、IOカテーテルの正確な留置を評価する迅速かつ確実な方法を提供する。
【0039】
図6は、圧波形の表示および解釈によってIOカテーテルの留置を評価する方法の一例を示すフロー図600である。602にて、臨床医は、本装置の電源を入れて本装置をIOカテーテルに対し、例えば、本装置のルアーロック接続部をIOカテーテルの対応する接続手段に連結することによって接続する。604にて、本装置が、IOカテーテルからの圧力をアナログで検出する。606にて、本装置は、アナログの圧力信号を波形に変換して本装置に表示する。そして、表示波形の評価が行われ得る。該表示波形が脈動波形である場合(608)、これはIOカテーテルが正確に留置されていることを表す(610)。該表示波形が脈動波形でない(非脈動波形である)場合(612)、これはIOカテーテルが正確に留置されていないことを表す(614)。IOカテーテルが正確に留置されていない場合、臨床医は該IOカテーテルを配置し直すことができる。正確に留置されるまで、ステップ604以降が繰り返し行われ得る。
【0040】
図7に、IOカテーテルからそれぞれ得られた脈動波形の複数の例702,704,706,708を示す。各波形は、脈動波形、例えば、ピークやトラフが等間隔になるような律動的な脈動によって特徴付けられる波形であり、骨内空間内にカテーテルが正確に配置されたことを示唆している。
【0041】
図8に、IOカテーテルが正確に留置されていないことを示唆する非脈動波形の複数の例802,804,806,808を示す。各波形は、正確に留置されずに骨内空間内ではなく軟部組織内となったIOカテーテルからのものである。
【0042】
図9A及び図9Bは、骨内(IO)カテーテルの正確な留置を確認する各方法を比較した、診断精度調査の結果を示す表である。図9Aの表にまとめたように、本解析では、42回のIOカテーテル挿入のうち、24%のIOカテーテルの留置に誤りがあった。圧波形の解析に基づく手法では、正確に留置されていないカテーテルが全て特定されたのに対し、一般的な手法では、そのうち30%しか特定されなかった(マクネマー:p<0.01)。本調査では、IOカテーテルの正確な留置の判定として、カテゴリカル判定(yes/no)を採用した。前記一般的な手法では、IOカテーテルの留置を実施した医師が下記の質問1、2、3の全てに「yes」と回答した場合に、IOカテーテルが正確に留置されている(yes)とした:
1. IOカテーテルが補助なしで自立可能であるか?(yes/no);
2. IOカテーテルに取り付けたシリンジで骨髄又は血液が吸引されたか?(yes/no);および
3. 10mL生理食塩液のプレフィルドシリンジでフラッシュを行った際にIOカテーテル部位の周辺で目視可能又は明白な溢出がないか?(yes/no)。
【0043】
波形解析に基づく手法では、IOカテーテルの信号変換が行われるあいだ該IOカテーテルからの圧波形を収縮期圧、拡張期圧及び平均圧の数値と共に表示するモニタで医師が脈動波形を確認した場合に、該IOカテーテルが正確に留置されている(yes)とした。
【0044】
図9Bの表にまとめた結果により、圧波形に基づく手法は、不正確な留置の一致が12件中10件、正確な留置の一致が30件中28件という実質的な評価者間信頼性を示したことが分かる(カッパ係数:0.77、p<0.001)。
【0045】
以上の結果は、臨床試験:NCT03908879として登録された骨内カテーテル確認試験からの未公表の結果である。同試験のその他の情報は、clinicaltrials.govで確認できる(clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03908879でオンライン入手可能(閲覧日:2022年4月19日))。
【0046】
本明細書で引用した全ての特許、特許出願公開公報および引用文献は、その全教示内容を参照をもって取り入れたものとする。
【0047】
例示的な実施形態について詳細に図示および説明したが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲に包含される実施形態の範囲を逸脱しない範疇で、形態や細部に様々な変更が施され得るということが分かるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
【国際調査報告】