(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】フレア出口を有する誘導結合プラズマトーチ構造
(51)【国際特許分類】
H05H 1/30 20060101AFI20240416BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20240416BHJP
G01N 21/73 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
H05H1/30
G01N27/62 F
G01N21/73
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565533
(86)(22)【出願日】2022-04-21
(85)【翻訳文提出日】2023-12-22
(86)【国際出願番号】 US2022025745
(87)【国際公開番号】W WO2022231939
(87)【国際公開日】2022-11-03
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516257707
【氏名又は名称】エレメンタル・サイエンティフィック・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ELEMENTAL SCIENTIFIC, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】ウィーデリン,ダニエル アール
(72)【発明者】
【氏名】バレット,ゲイリー ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ウィーデリン,ケビン
【テーマコード(参考)】
2G041
2G043
2G084
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA14
2G041FA16
2G043BA01
2G043CA02
2G043CA03
2G043DA01
2G043EA08
2G084AA27
2G084BB23
2G084BB26
2G084BB36
2G084CC13
2G084FF02
2G084FF33
2G084FF38
2G084GG03
2G084GG18
2G084GG24
(57)【要約】
テーパ付きの外側端部を含む誘導結合プラズマ(ICP)トーチについて説明する。システムの実施形態は、管状試料インジェクタの壁によって画定された内部でエアロゾル化された試料を受け入れるように構成された管状試料インジェクタと、管状試料インジェクタの少なくとも一部を取り囲んで内側チューブと管状試料インジェクタの壁との間に第1環状空間を形成する内側チューブであって、第1環状空間に補助ガスを導入するための少なくとも1つの入口ポートを画定する内側チューブと、内側チューブの少なくとも一部を取り囲んで第2環状空間を形成する外側チューブであって、第2環状空間に冷却ガスを導入するための少なくとも1つの入口ポートを画定する外側チューブであって、外側チューブの出口においてフレア領域を有する外側チューブと、を含むが、これらに限定されない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状試料インジェクタの壁によって画定された内部にエアロゾル化された試料を受け入れるように構成された管状試料インジェクタと、
前記管状試料インジェクタの少なくとも一部を取り囲んで内側チューブと前記管状試料インジェクタの壁との間に第1環状空間を形成する内側チューブであって、補助ガスを前記第1環状空間に導入するための少なくとも1つの入口ポートを画定する内側チューブと、
前記内側チューブの少なくとも一部を取り囲んで第2環状空間を形成する外側チューブであって、冷却ガスを前記第2環状空間に導入するための少なくとも1つの入口ポートを画定する外側チューブと、を備え
前記外側チューブは、前記外側チューブの出口においてフレア領域を有する、
誘導結合プラズマトーチ。
【請求項2】
前記フレア領域は、前記内側チューブの出口端の下流に位置し、
前記内側チューブの前記出口端は、前記外側チューブの中に位置する、
請求項1に記載の誘導結合プラズマトーチ。
【請求項3】
前記外側チューブは、前記フレア領域において、第1チューブ幅から前記外側チューブの出口で第2チューブ幅に幅を広げる、
請求項2に記載の誘導結合プラズマトーチ。
【請求項4】
前記第1チューブ幅から前記第2チューブ幅までの幅の増加は、一定の増加である、
請求項2に記載の誘導結合プラズマトーチ。
【請求項5】
前記第1チューブ幅から前記第2チューブ幅までの幅の増加は、非線形的な増加である、
請求項2に記載の誘導結合プラズマトーチ。
【請求項6】
前記フレア領域は、前記第1チューブ幅と前記第2チューブ幅との間で、幅が一定である1つまたは複数の領域を含む、
請求項2に記載の誘導結合プラズマトーチ。
【請求項7】
前記第2チューブ幅は、前記第1チューブ幅よりも約10%から約20%大きい、
請求項2に記載の誘導結合プラズマトーチ。
【請求項8】
前記フレア領域は、前記外側チューブの長さの約4%から約10%の長さを有する、
請求項1に記載の誘導結合プラズマトーチ。
【請求項9】
管状試料インジェクタの少なくとも一部を受け入れるように構成された内側チューブと、
前記内側チューブの少なくとも一部を取り囲んで環状空間を形成する外側チューブであって、冷却ガスを前記環状空間に導入するための少なくとも1つの入口ポートを画定する外側チューブと、を備え
前記外側チューブは、前記外側チューブの出口においてフレア領域を有し、
前記フレア領域は、前記内側チューブの出口端の下流に位置し、
前記内側チューブの前記出口端は、前記外側チューブの中に位置する、
誘導結合プラズマトーチ。
【請求項10】
前記外側チューブは、前記フレア領域において、第1チューブ幅から前記外側チューブの出口で第2チューブ幅に幅を広げる、
請求項9に記載の誘導結合プラズマトーチ。
【請求項11】
前記第1チューブ幅から前記第2チューブ幅までの幅の増加は、一定の増加である、
請求項9に記載の誘導結合プラズマトーチ。
【請求項12】
前記第1チューブ幅から前記第2チューブ幅までの幅の増加は、非線形的な増加である、
請求項9に記載の誘導結合プラズマトーチ。
【請求項13】
前記フレア領域は、前記第1チューブ幅と前記第2チューブ幅との間で、幅が一定である1つまたは複数の領域を含む、
請求項9に記載の誘導結合プラズマトーチ。
【請求項14】
前記第2チューブ幅は、前記第1チューブ幅よりも約10%から約20%大きい、
請求項9に記載の誘導結合プラズマトーチ。
【請求項15】
前記フレア領域は、前記外側チューブの長さの約4%から約10%の長さを有する、
請求項9に記載の誘導結合プラズマトーチ。
【請求項16】
誘導結合プラズマトーチの運転方法であって、
エアロゾル化された試料を誘導結合プラズマトーチの管状試料インジェクタの内部に導入することであって、前記誘導結合プラズマトーチは、
前記管状試料インジェクタの少なくとも一部を取り囲んで内側チューブと前記管状試料インジェクタの壁との間に第1環状空間を形成する内側チューブであって、補助ガスを前記第1環状空間に導入するための少なくとも1つの入口ポートを画定する内側チューブと、
前記内側チューブの少なくとも一部を取り囲んで第2環状空間を形成する外側チューブであって、冷却ガスを前記第2環状空間に導入するための少なくとも1つの入口ポートを画定する外側チューブであって、外側チューブの出口においてフレア領域を有する外側チューブと、を含む、エアロゾル化された試料を導入することと、
補助ガスを前記内側チューブの少なくとも一つの入口ポートを介して前記誘導結合プラズマトーチの前記第1環状空間に導入することと、
前記外側チューブの少なくとも1つの入口ポートを介して前記誘導結合プラズマトーチの前記第2環状空間に冷却ガスを12L/分未満の流量で導入することと、を含む、
方法。
【請求項17】
前記フレア領域は、前記内側チューブの出口端の下流に位置し、
前記内側チューブの前記出口端は、前記外側チューブの中に位置する、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記外側チューブは、前記フレア領域において、第1チューブ幅から前記外側チューブの出口で第2チューブ幅に幅を広げる、
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第2チューブ幅は、前記第1チューブ幅よりも約10%から約20%大きい、
請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記フレア領域は、前記外側チューブの長さの約4%から約10%の長さを有する、
請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2021年4月26日に提出された「INDUCTIVELY COUPLED PLASMA TORCH STRUCTURE FOR LOW COOLING GAS FLOWS」という名称の米国仮出願第63/179,715号、2021年4月26日に提出された「ICP TORCH ASSEMBLY WITH PROTECTED INJECTOR」という名称の米国仮出願第63/179,759号、および2021年4月26日に提出された「FLARED LOW-FLOW TORCH FOR ICP AND ICPMS」という名称の米国仮出願第63/179,827号の35 USC§119(e)の利益を主張する。米国仮出願第63/179,715号、第63/179,759号、および第63/179,827号は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
誘導結合プラズマ(ICP)質量分析法は、液体試料中の微量元素濃度と同位体比の測定に一般的に使用される分析手法である。ICP質量分析法では、約7000Kの温度に達する、電磁的に生成され、部分的にイオン化されたアルゴンプラズマが使用される。試料がプラズマに導入されると、高温により試料原子がイオン化または発光する。各化学元素は特徴的な質量または発光スペクトルを生成するため、そのスペクトルを測定することにより、元の試料の元素組成を決定できる。
【0003】
試料導入システムは、液体試料をICP質量分析装置(例えば、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP/ICPMS)、誘導結合プラズマ原子発光分析計(ICP-AES)など)に導入するために使用されてもよい。例えば、試料導入システムは、液体試料のアリコートを容器から取り出し、その後、アリコートをネブライザーに輸送してもよく、ネブライザーは、アリコートをICP質量分析装置によるプラズマ中のイオン化に適した多分散エアロゾルに変換する。次に、エアロゾルはスプレーチャンバ内で選別され、より大きなエアロゾル粒子が除去される。スプレーチャンバから出ると、エアロゾルは分析のためにICPMSまたはICPAES機器に導入される。多くの場合、試料導入は自動化され、多数の試料を効率的な方法でICP質量分析装置に導入できる。
【発明の概要】
【0004】
エアロゾル化された試料をプラズマに導入するためにインジェクタを取り囲むように構成された外側チューブと内側チューブとの間の複数の入力ポートによって導入される冷却ガスの層流を促進する誘導結合プラズマ(ICP)トーチが説明される。システムの実施形態は、内側チューブと、内側チューブの少なくとも一部を取り囲んで環状空間を形成する外側チューブとを含むがそれに限定されず、外側チューブは、複数の入口ポートの各入口ポートを介して層流として冷却ガスを環状空間に導入するための複数の入口ポートを画定する。
【0005】
システムの実施形態は、管状試料インジェクタの壁によって画定された内部でエアロゾル化された試料を受け入れるように構成された管状試料インジェクタと、管状試料インジェクタの少なくとも一部を取り囲んで内側チューブと管状試料インジェクタの壁との間に第1環状空間を形成する内側チューブであって、補助ガスを第1環状空間に導入するための第1の複数の入口ポートを画定する内側チューブと、内側チューブの少なくとも一部を取り囲んで第2環状空間を形成する外側チューブであって、冷却ガスを層流として第2環状空間に導入するための第2の複数の入口ポートを画定する外側チューブとを含むが、これに限定されない。
【0006】
方法の実施形態は、誘導結合プラズマトーチの管状試料インジェクタの内部にエアロゾル化された試料を導入することを含み、誘導結合プラズマトーチは、管状試料インジェクタの少なくとも一部を取り囲んで内側チューブと管状試料インジェクタの壁との間に第1環状空間を形成する内側チューブであって、第1環状空間に補助ガスを導入するための第1の複数の入口ポートを画定する内側チューブと、内側チューブの少なくとも一部を取り囲んで第2環状空間を形成する外側チューブであって、第2環状空間に冷却ガスを導入するための第2の複数の入口ポートを画定する外側チューブと、を含む。方法の実施形態は、第1の複数の入口ポートを介して、補助ガスを誘導結合プラズマトーチの第1環状空間に導入することと、第2の複数の入口ポートを介して、冷却ガスを12L/分未満の流量で誘導結合プラズマトーチの第2環状空間に導入することとを含むが、これに限定されない。
【0007】
誘導結合プラズマ(ICP)トーチは、トーチの少冷却ガス運転中にインジェクタ端部を遮蔽するインジェクタプロテクタを含む。システムの実施形態は、管状試料インジェクタの壁によって画定された内部でエアロゾル化された試料を受け入れるように構成された管状試料インジェクタと、管状試料インジェクタの少なくとも一部を取り囲むインジェクタプロテクタと、インジェクタプロテクタの少なくとも一部を取り囲んで内側チューブとインジェクタプロテクタとの間に第1環状空間を形成する内側チューブであって、補助ガスを第1環状空間に導入するための少なくとも1つの入口ポートを画定する内側チューブと、内側チューブの少なくとも一部を取り囲んで第2環状空間を形成する外側チューブであって、冷却ガスを第2環状空間に導入するための少なくとも1つの入口ポートを画定する外側チューブと、を含むが、これに限定されない。
【0008】
システムの実施形態は、管状試料インジェクタの壁によって画定された内部でエアロゾル化された試料を受け入れるように構成された管状試料インジェクタと、管状試料インジェクタの少なくとも一部を取り囲むインジェクタプロテクタと、インジェクタプロテクタの少なくとも一部を取り囲んで内側チューブとインジェクタプロテクタとの間に第1環状空間を形成する内側チューブであって、補助ガスを第1環状空間に導入するための少なくとも1つの入口ポートを画定する内側チューブと、内側チューブの少なくとも一部を取り囲んで第2環状空間を形成する外側チューブであって、冷却ガスを第2環状空間に導入するための少なくとも1つの入口ポートを画定する外側チューブと、管状試料インジェクタとインジェクタプロテクタの間にガスを導入するために、管状試料インジェクタとインジェクタプロテクタのそれぞれの入力端に結合されたガス導入シースであって、インジェクタプロテクタと管状試料インジェクタの間に画定された第3環状空間に導入するためのガスを受け入れるように構成されたガス入口ポートを画定するガス導入シースと、を含むが、これに限定されない。
【0009】
方法の実施形態は、誘導結合プラズマトーチの管状試料インジェクタの内部にエアロゾル化された試料を導入することを含み、誘導結合プラズマトーチは、管状試料インジェクタの少なくとも一部を取り囲むインジェクタプロテクタと、インジェクタプロテクタの少なくとも一部を取り囲んで内側チューブとインジェクタプロテクタとの間に第1環状空間を形成する内側チューブであって、第1環状空間に補助ガスを導入するための少なくとも1つの入口ポートを画定する内側チューブと、内側チューブの少なくとも一部を取り囲んで第2環状空間を形成する外側チューブであって、第2環状空間に冷却ガスを導入するための少なくとも1つの入口ポートを画定する外側チューブと、を含む。方法の実施形態は、内側チューブの少なくとも1つの入口ポートを介して、補助ガスを誘導結合プラズマトーチの第1環状空間に導入することと、外側チューブの少なくとも1つの入口ポートを介して、冷却ガスを12L/分未満の流量で誘導結合プラズマトーチの第2環状空間に導入することとを含むが、これに限定されない。
【0010】
誘導結合プラズマ(ICP)トーチは、外側チューブのテーパされた外側端を含み、トーチの少冷却ガス運転の間、テーパされた外側端によって外側端をプラズマから離す。システムの実施形態は、管状試料インジェクタの壁によって画定された内部でエアロゾル化された試料を受け入れるように構成された管状試料インジェクタと、管状試料インジェクタの少なくとも一部を取り囲んで内側チューブと管状試料インジェクタの壁との間に第1環状空間を形成する内側チューブであって、補助ガスを第1環状空間に導入するための少なくとも1つの入口ポートを画定する内側チューブと、内側チューブの少なくとも一部を取り囲んで第2環状空間を形成する外側チューブであって、冷却ガスを第2環状空間に導入するための少なくとも1つの入口ポートを画定し、外側チューブの出口でフレア領域を有する外側チューブと、を含むが、これに限定されない。
【0011】
システムの実施形態は、管状試料インジェクタの少なくとも一部を受けるように構成された内側チューブと、内側チューブの少なくとも一部を取り囲んで環状空間を形成する外側チューブと、を含むが、これに限定されず、外側チューブは、冷却ガスを環状空間に導入するための少なくとも1つの入口ポートを画定し、外側チューブの出口でフレア領域を有し、フレア領域は、内側チューブの出口端の下流に位置し、内側チューブの出口端は外側チューブの中に位置する。
【0012】
方法の実施形態は、誘導結合プラズマトーチの管状試料インジェクタの内部にエアロゾル化された試料を導入することを含み、誘導結合プラズマトーチは、管状試料インジェクタの少なくとも一部を取り囲んで内側チューブと管状試料インジェクタの壁との間に第1環状空間を形成する内側チューブであって、第1環状空間に補助ガスを導入するための少なくとも1つの入口ポートを画定する内側チューブと、内側チューブの少なくとも一部を取り囲んで第2環状空間を形成する外側チューブであって、第2環状空間に冷却ガスを導入するための少なくとも1つの入口ポートを画定し、外側チューブの出口でフレア領域を有する外側チューブと、を含む。方法の実施形態は、内側チューブの少なくとも1つの入口ポートを介して、補助ガスを誘導結合プラズマトーチの第1環状空間に導入することと、外側チューブの少なくとも1つの入口ポートを介して、冷却ガスを12L/分未満の流量で誘導結合プラズマトーチの第2環状空間に導入することとを含むが、これに限定されない。
【0013】
この概要は、「詳細な説明」で後述する概念の一部を簡略化して紹介するものである。概要は、特許請求の範囲に記載された事項の主要な特徴または本質的な特徴を特定することを意図したものではなく、特許請求の範囲に記載された事項の範囲を決定する際の補助として使用することを意図したものでもない。
【0014】
詳細な説明は、添付の図面を参照しながら説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の実施例に準じたICPトーチを用いた試料分析システムの概略図である。
【
図2】本開示の実施例に準じたICPトーチの側面図である。
【
図3】
図2のICPトーチの一部の断面側面図である。
【
図4】
図3に示す線4-4に沿って取った、
図2のICPトーチの断面端面図である。
【
図5】本開示の実施例に準じたICPトーチの部分等角図である。
【
図6A】本開示の実施例に準じた、インジェクタプロテクタ管を有するICPトーチの断面側面図である。
【
図6B】
図6AのICPトーチの断面側面図であって、本開示の実施例に準じて、インジェクタプロテクタ管の端部が、インジェクタの端部と実質的に面一になっている。
【
図6C】
図6AのICPトーチの断面側面図であって、本開示の実施例に準じて、インジェクタプロテクタ管の端部がインジェクタの端部を越えて延びている。
【
図6D】
図6AのICPトーチの断面側面図であって、本開示の実施例に準じて、ICPトーチは、テーパ付きインジェクタの端部を越えて延びるテーパ付きインジェクタプロテクタ管の端部を有する。
【
図7A】本開示の実施例に準じて、ICPトーチの試料導入端に結合されたガス導入シースを有する
図6CのICPトーチの等角図である。
【
図8A】本開示の実施例に準じて、フレア出口を有するICPトーチの等角図である。
【
図9A】円筒形の非フレア出口を有するICPトーチの出口の実験結果を示す写真であり、一定期間の運転使用後の失透と析出を示す。
【
図9B】フレア出口を有するICPトーチの実験結果を示す写真であり、
図9Aのトーチと同じ期間使用された後、損傷が最小限に抑えられていることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(概要)
誘導結合プラズマ質量分析計(ICP/ICPMS)、誘導結合プラズマ発光分光分析計(ICP-AES)、誘導結合プラズマ発光分光分析計(ICP-OES)などのICP分光分析装置は、エアロゾル化された試料をイオン化するために発生するプラズマを維持し、試料を分析するためにトーチで発生する高温からトーチを冷却するためにアルゴンガス(Ar)を利用する。例えば、ICPの温度は、石英、アルミナ、窒化ケイ素、その他のセラミックやガラス質の材料から構成されるトーチ材料の融点よりも高い8000Kを超えることがある。プラズマガスまたはクールガスと呼ばれることもあるアルゴンガスのメインフローは、2本のトーチチューブの間の環状ギャップに入り、トーチ材料をプラズマから熱的に絶縁するのに役立ち、初期劣化(失透と呼ばれることもある)、溶融、または交換を必要とする、または分析中に試料に汚染物質を混入させる可能性があるような他の損傷を抑制する。しかし、ガスの流量が少なすぎると、トーチによって形成されたプラズマがトーチチューブの端部やトーチチューブ内に同心に配置された試料インジェクタの端部に侵入し、トーチチューブ及び/または試料インジェクタの失透または他の損傷を引き起こす可能性がある。
【0017】
さらに、ICP装置は、ICPトーチが連続的または実質的に連続的な運転期間となるバルク試料分析期間中に、大量の試料を処理するために利用できる。これらの運転期間は、ICPトーチ内のプラズマを維持するために、アルゴンガスなどのガス及び電気の一定または実質的に一定的な流れを有し、ICP装置の運転コストが発生する。さらに、一般的に、ICPトーチのイオン化パワーが大きくなると、プラズマを維持するために多くの電力が必要となり、低いイオン化パワーで同じ時間ICPトーチを運転するのに比べて、ICPトーチの運転コストが増加する。ICPトーチを動作させるコストは、トーチが、損傷を防ぐためにプラズマをトーチの出力端から十分に離して配置するのに十分に多いガス流量で連続的または実質的に連続的な運転期間にわたって運転されると、しばしば指数的に増加する(compounded)。このため、従来のICPトーチを長時間使用すると、プラズマの位置決めによるトーチの損傷を防ぐために必要なアルゴン使用量が多くなる可能性がある。
【0018】
従って、1つの態様において、本開示は、ICPトーチへおよびトーチ本体内へのガスの導入中におけるICPトーチガスの流れを制御するためのシステムおよび方法に適用される。例えば、本開示は、冷却ガスを実質的に乱流で導入するICPトーチと比較して、より低いイオン化パワーでのICPの運転を可能にするために、少ないAr冷却ガス流量を利用するICPトーチの運転に適用できる。実施態様において、トーチは、冷却ガスがトーチの第1の端部から第2の端部まで移動する際に、環状スペース内に実質的に層流として冷却ガスを供給するために、トーチの外側チューブと内側チューブとの間で環状スペースに対して実質的に接線方向に配向された複数の入口ポートを含む。入口ポートは、トーチの外側チューブに沿って長手方向に配置されてもよい。実施例において、トーチは、プラズマガスをトーチに供給するために、内側チューブとトーチのインジェクタとの間の環状スペースに対して実質的に接線方向に配向された第2の複数の入口ポートを含む。
【0019】
(実施例)
図1から
図5を全体的に参照すると、分析測定用の試料を準備するためにICPトーチを利用した試料分析のためのシステム100が示されている。例えば、
図1を参照すると、システム100は、試料104と、ICP分析装置108によって分析される試料の準備のための1つまたは複数のガス106とを受け入れるICPトーチ(本明細書では「トーチ102」と呼ぶ)を含んで示されている。試料104は、トーチ102のインジェクタに導入するためのエアロゾル化された試料を含んでもよい。例えば、試料104は、エアロゾル化された試料の一部をトーチ102に通過させながら、プラズマ火炎に悪影響を及ぼす可能性のある大きなエアロゾル粒子を除去するために使用されるスプレーチャンバから移送されてもよい。ガス106は、プラズマガス(例えば、Ar)、冷却または補助ガス(例えば、Ar、窒素(N
2)など)、移送ガスなどを含んでもよい。ガス106は、プラズマガス、冷却ガス、および移送ガスのうちの1つまたは複数に使用するためのArを含んでもよいが、特定の実施例において、Arの代わりに、またはArに加えて、他のガスが使用され得ることが考えられる。ガス106をトーチ102に導入する実施例を、
図2~
図4を参照して説明する。
【0020】
図2~
図5を参照すると、トーチ102は、本開示の実施例に準じて示されている。トーチ102は一般に、トーチ102に導入されるガスの流れを制御する構造を有する内側チューブ110と外側チューブ112を含む。内側チューブ110は、エアロゾル化された試料をトーチ102に導入するために使用されるインジェクタ116を受け入れるように構成された内部114を画定する。外側チューブ112は、内側チューブ110の少なくとも一部を取り囲んでおり、内側チューブ110の外側の表面120と外側チューブ112の内側の表面122の間に環状領域118が形成されている。環状領域118は、プラズマ発生を促進し、外側チューブ112の材料をトーチ102によって発生されるプラズマの熱から保護するように、ガス(例えば、冷却ガス、プラズマガスなど)の流れをトーチ102に受け入れるように構成される。 外側チューブ112は、内側の表面122と外側チューブ112の外側の表面126との間の外側チューブ112の壁に形成された複数の入口ポート124を含む。
図2~
図5は、外側チューブ112に形成された4つの入口ポート124を示しているが、本開示は、4つの入口ポート124に限定されず、4つ未満の入口ポート124(例えば、2つの入口ポート、3つの入口ポート)または4つより多くの入口ポート124(例えば5つの入口ポート、6つの入口ポート、7つの入口ポートなど)を含んでもよい。複数の入口ポート124は、接線流れを提供するためにトーチ102に導入されるガスの強度を高めることを容易にしつつ、層流条件下でそのような導入のための複数の入口を提供できる。
【0021】
入口ポート124は、トーチ102内での冷却ガスの層流を可能にする向きで、内側チューブ110と外側チューブ112の間の環状領域118に冷却ガスを導く構造を有する。実施例において、1つまたは複数の入口ポート124は、環状領域118に実質的に接するように配置される(例えば、入口ポート124の端部は、外側チューブ112の内側の表面122に実質的に接する)。実施例では、入口ポート124のそれぞれは、環状領域118に実質的に接するように配置される。トーチ102は、環状領域118内に冷却ガスを供給するために、環状領域118内の出口が様々な角度(例えば、
図4においてαとして示される)に向くように、外側チューブ112を通して方向付けされた入口ポート124を含んでもよい。実施例では、αの値は約10度から約20度までであってもよい。
【0022】
実施例において、トーチ102は、トーチ102の入口端128と出口端130との間でトーチ102に沿って実質的に長手方向に配置された入口ポート124を含む。例えば、
図2~
図5は、外側チューブ112に沿って長手方向に配置された実質的に直線状のパターンで配置された入口ポート124を示す。入口ポートは、実質的に直線状に配置された実質的に円形の断面として示されているが、トーチ102は、そのような構成に限定されず、本開示の範囲から逸脱することなく、冷却ガスを環状領域118に送達するために、他の形状およびパターン化された配置(例えば、非直線状の配置)を含んでもよい。
【0023】
内側チューブ110とインジェクタ116は、インジェクタ116が内部114内に配置されたとき、内部114内に環状領域132を画定する。実施例では、インジェクタ116と内側チューブ110は、一体構造として融合されるなどして、固定的に結合される。実施例では、インジェクタ116と内側チューブ110は、内側チューブ110にねじ込むか、または他の方法で取り外し可能に結合するための1つまたは複数の嵌合特徴を含む取り外し可能なインジェクタ(例えば、ねじ切りされた取り外し可能なインジェクタ)を提供することなどにより、取り外し可能に結合される。インジェクタ116を内側チューブ110内で保護でき、試料のエアロゾル流れから独立した中央流路ガス流れの最適化を可能にする。
【0024】
内側チューブ110は、トーチ102によるプラズマの形成を支援するために、補助ガスを環状領域132に受け入れるための1つまたは複数の特徴を含む。例えば、内側チューブ110は、プラズマの位置を調整することによってトーチ102によるプラズマの形成を支援するように、内側チューブ110の外側の表面120とトーチ102への補助ガスの流れを受け入れるように構成された内側チューブ112の内側の表面136との間の内側チューブ110の壁に形成された複数の入口ポート134を備えて示されている。
図2~
図5は、内側チューブ110に形成された4つの入口ポート134を示しているが、本開示は、4つの入口ポート134に限定されず、4つ未満の入口ポート134(例えば、2つの入口ポート、3つの入口ポート)または4つより多くの入口ポート124(例えば5つの入口ポート、6つの入口ポート、7つの入口ポートなど)を含んでもよい。あるいは、単一の入口ポート134が内側チューブ110に含まれる。実施例では、1つまたは複数の入口ポート134が環状領域132に実質的に接するように配置され(例えば、入口ポート134の端部が内側チューブ110の内側の表面136に実質的に接する)、環状領域132内での補助ガスを実質的に層流として提供する。実施例では、入口ポート134のそれぞれが環状領域132に実質的に接するように配置されている。入口ポート124の方向付けと同様に、トーチ102は、環状領域132内の補助ガスに供給するために、環状領域132内の出口が様々な角度に向くように、内側チューブ110を通して方向付けされた入口ポート134を含んでもよい。実施例では、トーチ102が入口端128から出口端130に進むにつれて、環状領域118の面積が小さくなるように、内側チューブ110が外側チューブ112の内側の表面122に向かって外側に拡大する。例えば、
図3は、外側チューブ112に向かって拡大するチューリップ部分138を含む内側チューブ110の実施例を示しており、出口端130に向かってチューリップ部分138に続くより小さな環状領域118を提供している。実施例では、内側チューブ110は、内側チューブ110の外側の表面120と外側チューブ112の内側の表面122との間に、チューリップ部分138に続いて出口端130に向かって約0.5mmの寸法を有する隙間を画定している。トーチ102は、入口ポート124への少ない冷却ガス流量(例えば、12L/分未満)での運転を容易にするため、内側チューブ110の外側の表面120と外側チューブ112の内側の表面122との間の比較的狭いギャップは、チューリップ部分138の下流のガスの速度を増加させて、少ない冷却ガス流量でのプラズマ形成を維持でき、それにより、運転に12L/分以上の冷却ガス流量を必要とするトーチと比較して、トーチ102の運転のための冷却ガス使用量を減少させることができる。
【0025】
実施例では、トーチ102の一部を一体に形成できる。例えば、外側チューブ112は、内側チューブ110の一部に融着されてもよく、外側チューブ112を内側チューブ110に対して固定した状態で保持できる。代替的または追加的に、内側チューブ110はインジェクタ116の一部に融着されてもよい。
【0026】
図5に示す実施例では、トーチ102は、システム100の動作のためにプラズマを点火するための火花または他の点火源のためにトーチ102の内部へのアクセスを提供するために、外側チューブ112に形成された点火孔140を含んでもよい。実施例では、トーチ102の全部または一部を、セリウムドープ石英を含むがこれに限定されないドープ石英ガラス材料から形成されてもよい。代替的または付加的に、トーチ(troch)102の全部または一部は、アルミナ、白金、サファイアなどを含むがこれらに限定されない他の材料から形成されてもよい。
【0027】
トーチ102は、冷却ガスから入口ポート124への少ない流量時のような少ない流量ガス流れの間においても、高いプラズマロバスト性を実証している。例えば、トーチ102は、入口ポート124への12L/分未満の冷却ガス流量とともに利用できる。実施例では、入口ポートの124への冷却ガスの流量は、約5L/分から約12L/分である。トーチ102は、トーチ102を取り囲むコイルに供給されるRFパワーが低い間、高いプラズマロバスト性を示した。例えば、トーチは約1000Wのイオンかパワーを提供した。トーチ102は、トーチ102への少ない流量ガス流れの導入と組み合わせて、トーチ102を取り囲むコイルに供給される低いRFパワーの間、高いプラズマロバスト性を示した。実施例では、プラズマロバスト性は、トーチ102がビューイングスロットを含まないことを可能にし、これは、ビューイングスロットを含むトーチと比較して、より短いトーチ102(例えば、トーチの長さ)を提供できる。実施例では、プラズマロバスト性により、トーチ102は、有機および無機の用途に単一のインジェクタを利用でき、これは、通常、より狭いインジェクタを使用する有機用途に滞留時間の増加を提供する。例えば、トーチ102と共に使用するように構成されたインジェクタは、有機試料の注入速度を低下させることができ、これは、マトリックス耐性を改善するようにICP内の滞留時間を増加させる。
【0028】
実施例において、トーチ102は、内側チューブ110内に、インジェクタ116をプラズマから絶縁し遮蔽するようにインジェクタ116の少なくとも一部を取り囲むインジェクタプロテクタ管を含んでもよく、それにより、インジェクタ116が過熱し、及び/又は他の方法でICPMS質量スペクトルに測定可能な汚染物質が導入される機会を減少させる。例えば、トーチ102は、
図6A~
図6Dに示されるように、内側チューブ110内にインジェクタプロテクタ600を有し、インジェクタプロテクタ600はインジェクタ116の少なくとも一部を取り囲み、インジェクタプロテクタ600はインジェクタ116と内側チューブ110との間に配置され、内側チューブ110はインジェクタプロテクタ600と外側チューブ112との間に配置されている。実施例では、外側チューブ112、内側チューブ110、インジェクタプロテクタ600、及びインジェクタ116が同心円状に配置され、外側から順に並んでいる。
【0029】
インジェクタプロテクタ600は、トーチによって形成されたプラズマに関連するエネルギからインジェクタ116を保護でき、プラズマの相対的な位置決めを助けることができ、インジェクタ116の出口先端からプラズマを離すように押すことができる。一般に、インジェクタプロテクタ600は、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、またはジルコニア(ZrO2)を含むが、これらに限定されない、化学的に耐性があり、高温への長時間の曝露に(例えば、融合または分解することなく)耐えることができる材料から形成される。インジェクタ116をプラズマから遮蔽することによって、インジェクタプロテクタ600は、トーチ102の動作中にインジェクタ600から流出する材料の誤った背景を防止できる。実施例では、インジェクタプロテクタ600は、内側チューブ110および/または外側チューブ112と同じ材料から形成される。実施例では、インジェクタプロテクタ600は、内側チューブ110および/または外側チューブ112とは異なる材料から形成されている。実施例では、インジェクタ116とインジェクタプロテクタ600は、一体構造として融合されるなどして、固定的に結合される。実施例では、インジェクタ116とインジェクタプロテクタ600は、インジェクタプロテクタ600にねじ込むか、他の方法でインジェクタプロテクタ600に取り外し可能に結合するための1つまたは複数の嵌合特徴を含む取り外し可能なインジェクタ(例えば、ねじ切りされた取り外し可能なインジェクタ)を提供することなどにより、取り外し可能に結合される。
【0030】
インジェクタプロテクタ600は、内側チューブ110とインジェクタプロテクタ600の間に環状領域132が形成されるように、内側チューブ110と配置されてもよい。インジェクタプロテクタ600は、内側チューブ110の出力端604とインジェクタ116の出力端606に隣接する外側チューブ112内に配置された出力端602を含む。例えば、トーチ102は、インジェクタプロテクタ600の出力端602が内側チューブ110の出力端604と実質的に面一になるように
図6A~
図6Dに示されているが、本開示はこのような相対的な位置関係に限定されない。インジェクタ116の出力端606に対するインジェクタプロテクタ600の出力端602の位置は、様々な構成で提供できる。例えば、インジェクタプロテクタ600の出力端602は、インジェクタ116の出力端606に対してトーチ出口に向かって外側に延びるように
図6Aに示されている。
図6Bにおいて、インジェクタプロテクタ600の出力端602は、インジェクタ116の出力端606に対して実質的に面一であるように示されている(例えば、出力端602と出力端606は、トーチ102の入口端128と出口端130との間の実質的に同じ長手方向位置で終端する)。
図6Cにおいて、インジェクタプロテクタ600の出力端602は、トーチ出口に向かう方向で、インジェクタ116の出力端606を超えて延びているのが示されている。インジェクタプロテクタ600の出力端602に対するインジェクタ116の出力端606のこのようなはめ込み位置は、トーチ102によって形成されるプラズマからのインジェクタ116の出力端606の保護を提供でき、これにより、インジェクタ116の材料(例えば、プラチナ、サファイアなど)がプラズマによって損傷されること、プラズマ中に放出されること(例えば、これは分析中のICPMSバックグラウンドに悪影響を及ぼす可能性がある)、またはこれらの組み合わせを抑制できる。
【0031】
インジェクタプロテクタ600は、
図6Aから
図6Cにおいて実質的に円筒形の管構造として形成されて示されているが、インジェクタプロテクタ600はこのような構成に限定されるものではない。実施例では、インジェクタプロテクタ600は、インジェクタ116の一部に適合するか、一致するか、または他の方法で取り囲むように、湾曲部分、フレア部分、テーパ部分、またはそれらの組み合わせを含んでもよい。例えば、インジェクタプロテクタ600は、
図6Dに示すように、テーパ付きインジェクタ116に適合するようにテーパ部608を有する。テーパ付きインジェクタプロテクタ600は、
図6A~
図6Cに関して示されるように、インジェクタ116の出力端606にはめ込まれる、面一である、またはそれを越えて延びる出力端602を有してもよい。例えば、
図6Dは、テーパ付きインジェクタプロテクタ600の出力端602がインジェクタ116の出力端606に対して挿入して配置されたトーチ102の例を示す。
【0032】
実施例において、トーチ102は、インジェクタプロテクタ600とインジェクタ116との間にガスの流れを導入して、インジェクタプロテクタ600の出力端602をトーチ102によって形成されたプラズマから保護することを容易にできる。例えば、トーチ102に結合されたガス導入シース700を含むトーチ102が
図7Aおよび
図7Bに示されている。ガス導入シース700は、インジェクタ116とインジェクタプロテクタ600の入力端を受けるように構成され、インジェクタプロテクタ600とインジェクタ116の間の環状スペース704に導入するガスを受けるように構成されたガス入口ポート702を含む。ガス入口ポート702に導入されるガスは、アルゴン、窒素など、またはそれらの組み合わせを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0033】
一般に、ICPトーチの出口または出口端は、冷却ガスの少ない流量での運転中、トーチの部品として最初に損傷を受けるのが普通である。トーチ出口が加熱され、失透するにつれて、トーチ出口から遠位にあるトーチの隣接部品が過熱(overhead)し、劣化し始めるので、トーチの耐用年数が短くなる。しかし、単にトーチを短くするだけでは現実的でないため、設計上の制約が利用可能な解決策を制限している。多くのICPやICPMS装置では、プラズマ点火時に負荷コイルや外部RFプレートからプラズマを絶縁するのに十分な長さのトーチが必要であり、プラズマ形状に悪影響を与えたり、外部空気の巻き込みによる悪影響が観測されたりしないよう、トーチの長さを十分に長くする必要がある。実施例では、トーチ102は、トーチ102によって形成されるプラズマへの近接の影響からトーチ102を保護する他の特徴を含んでもよい。
【0034】
例えば、フレア出口800を有するトーチ102は
図8Aおよび
図8Bに示されている。フレア出口800は、トーチ102の出口端130に隣接する外側チューブ112によって形成され、プラズマ効果によるトーチ102の損傷を防止しながら、トーチ102の少ガス流れ運転を補助できる。フレア出口800は、外側チューブ112をトーチに導入されたガスの組み合わせを通して形成されたプラズマから遠ざけ(例えば、環状領域118と環状領域132に)、エアロゾル化された試料は、インジェクタ116を通してキャリアガスを通してその中を通過する。外側チューブ112の端部をプラズマから離して位置させることにより、外側チューブ112はプラズマの影響からさらに保護され、トーチ102の失透損傷を大幅に減少させるが、それでもなお、環状領域118に導入される冷却ガスに対して層流環境を提供し、トーチ102の少ガス流れ運転を可能にする(例えば、約12L/分未満の冷却ガス流量を有する)。フレア出口800は、ICP負荷コイル内での適切な位置決めを容易にし、(例えば、イグニッションポート802経由の)点火を容易にし、トーチ102の運転中の外部空気の巻き込みを制御しながら、効果的に短いトーチプロファイルを提供するために、トーチ102の長さを維持する一方で、少ない冷却ガス流量条件(例えば、約12L/分未満の流量)でのトーチ102の運転を可能にする。トーチ102の運転は、アルゴン消費量の減少、(より低いイオン化エネルギによる)電力消費量の減少を提供し、同時に、トーチの失透によるバックグラウンド干渉または他の汚染、およびインジェクタ116への全体的な損傷を回避する。
【0035】
実施例において、フレア出口800は、内側チューブ110の出口端804よりも下流(すなわち、出口端130に向かう方向)に形成されている。例えば、
図8Bにはトーチ102を示し、外側チューブ112は、内側チューブ110との接続領域806から、内側チューブ110の出口端804よりも下流のフレア領域808まで延びる実質的に円筒形の形状を有する。フレア領域808において、外側チューブ112は、第1チューブ幅810から出口端130において第2チューブ幅812まで幅を広げ、外側チューブ112の端部をトーチ102によって形成されたプラズマから離して配置する。第1チューブ幅810と第2チューブ幅812の違いは、トーチ102の全体的な寸法に基づいて変化し得る。例えば、実施例では、第2チューブ幅812は第1チューブ幅810よりも約10%から約20%大きい。実施例では、第1チューブ幅810と第2チューブ幅812の移行は、一定の増加である。実施例では、第1チューブ幅810と第2チューブ幅812の間の移行は、幅の非線形増加を含む。実施例では、第1チューブ幅810と第2チューブ幅812の間の移行部、同じ幅を持つ1つまたは複数のセクションを含む。フレア領域808は、一般に外側チューブ112の長手方向の長さの一部を画定する。例えば、フレア領域808は、外側チューブ112の長手方向の長さの約4パーセントから約10パーセントであってもよい。
【0036】
実験例では、2つのトーチが、1600WのRFパワーで、同じ少冷却ガス流れの運転条件に同じ時間さらされた。
図9Aに示される第1トーチ900は、実質的に円筒形の出口端(すなわち、フレアでない端部)を含んでいた。試験時間後、トーチ900は、非フレア出口の端部近傍の領域902に著しい失透損傷を有していた。
図9Bに示す第2トーチ904は、本開示の実施例に準じた構造を有していた。例えば、トーチ904は、トーチ900で提供されるような内側チューブおよびインジェクタの同じ寸法および特徴を維持しながら、外側チューブによって形成されたフレア出口800を含んでいた。試験時間(すなわち、第1トーチ900が経験したのと同じ時間)の後、第2トーチ904は、第1トーチ900が示した大幅な失透損傷がなく、外側チューブではほとんど損傷を示さなかった。
【0037】
別の実験例では、フレア出口800を有するトーチ102を使用して、ICPMS分析システムで試料を約8時間の期間にわたって分析し、トーチ102のマトリックス安定性を測定した。トーチ102は1200WのRFパワー、13L/分の冷却ガスで運転された。校正には、1%硝酸ブランク、1%硝酸中100ppmのMg、Al、Ca、K、Fe、Naを含む50ppbスパイク、1%硝酸中100ppmのMg、Al、Ca、K、Fe、Naを含む100ppbスパイクが用いられた。複数の試料を1%硝酸中100ppmのMg、Al、Ca、K、Fe、Naで負荷し、1回のサンプルランを約8時間行った(試料から試料までの時間は約2分、分析時間は約50秒)。8時間後、トーチ102は検出可能な失透の兆候を示さず、相対標準偏差(RSD)値は50ppbで分析された全種(Bi、Ce、Cd、Co、Ga、In、Pb、U、Ho、Tb、Cu、Mg、Al、Fe)で1.9%~2.9%、100ppbで分析された全種(Bi、Ce、Cd、Co、Ga、In、Pb、U、Ho、Tb、Cu、Mg、Al、Fe)で0.8%~2.0%であった。
【0038】
別の実験例では、フレア出口800を有するトーチ102を使用して、ICPMS分析システムで試料を分析し、所定の試料中のBe、In、Ce、Uの量を測定した。トーチ102は1000WのRFパワーと10L/分の冷却ガスで運転された。ICPMSのデイリーチューニングレポートでは、4日間の運転期間中、分析されたすべての化学種の平均RSDが0.6%であった。
【0039】
別の実験例では、インジェクタプロテクタ600(
図6Cに関して記載した挿入構成)を有するトーチ102を使用して、内径2mmの白金インジェクタおよびパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)ネブライザーを有するNH3コールドプラズマ条件下で運転するICPMS分析システムで試料を分析した。第1テストでは、0.1mL/分NH3と1.0mL/分H2を使用し、Siのバックグラウンド相当濃度(BEC)は0.2ppbとなった(28/28)。第2テストでは、0.1mL/分NH3と1.5mL/分H2を使用し、Siのバックグラウンド相当濃度(BEC)は0.1ppbとなった(28/28)。第3テストでは、0.1mL/分NH3と1.0mL/分H2を使用し、Siのバックグラウンド相当濃度(BEC)は0.1ppbとなった(28/44)。第4テストでは、0.1mL/分NH3と1.0mL/分H2を使用し、Siのバックグラウンド相当濃度(BEC)は0.5ppbとなった(28/28)。第5テストでは、0.1mL/分NH3と1.5mL/分H2を使用し、Siのバックグラウンド相当濃度(BEC)は0.5ppbとなった(28/28)。第6テストでは、0.1mL/分NH3と1.0mL/分H2が用いられ、Siのバックグラウンド相当濃度(BEC)は0.3ppbとなった(28/44)。
【0040】
別の実験例では、インジェクタプロテクタ600を有するトーチ102(
図6Cに関して説明した挿入構成)を、インジェクタプロテクタが存在しない標準トーチと比較した。各トーチは同じ条件で四重極ICPMSでSi-28バックグラウンド分析に使用されたが、実験の主な違いはインジェクタプロテクタ600であった。インジェクタプロテクタがない標準トーチの検出限界(DL)は0.35ppbで、バックグラウンド相当濃度(BEC)は9.3ppbであった。インジェクタプロテクタ600を有するトーチ102は、3.6ppbのバックグラウンド相当濃度(BEC)で0.3ppbの検出限界(DL)を示し、高純度材料の分析にトーチを使用するためのシリコンバックグラウンド干渉の劇的な改善を示した。
【0041】
本明細書で説明するトーチ102は、本明細書で説明するすべての特徴、または本明細書で説明する特徴のサブセットの組み合わせを含んでもよい。例えば、トーチ102は、複数の入口ポート124および/または入口ポート134を、インジェクタプロテクタ600と組み合わせて、およびフレア出口800と組み合わせて含んでもよい。別の例として、トーチ102は、単一の入口ポート124および単一の入口ポート134を、インジェクタプロテクタ600と組み合わせて、およびフレア出口800と組み合わせて含んでもよい。別の例として、トーチ102は、複数の入口ポート124および/または入口ポート134を、フレア出口800なしでインジェクタプロテクタ600と組み合わせて含んでもよい。別の例として、トーチ102は、複数の入口ポート124および/または入口ポート134を、インジェクタプロテクタ600なしでフレア出口800と組み合わせて含んでもよい。
【0042】
(結論)
本保護対象は、構造的特徴および/またはプロセス操作に特有の表現で説明されてきたが、添付の特許請求の範囲に定義される保護対象は、必ずしも上述の特定の特徴または行為に限定されるものではないことを理解されたい。むしろ、上述した特定の特徴や行為は、特許請求の範囲を実施するための例示的な形態として開示されている。
【国際調査報告】