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特表2024-517713固形腫瘍の癌免疫療法のための新規の抗MUC1 CARおよび遺伝子編集免疫細胞
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】固形腫瘍の癌免疫療法のための新規の抗MUC1 CARおよび遺伝子編集免疫細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20240416BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240416BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240416BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240416BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240416BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240416BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/85 Z
C12N15/12
C12N15/13
C12N5/0783
C12N5/10
C07K19/00
A61K35/17
A61P35/00
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565867
(86)(22)【出願日】2022-04-29
(85)【翻訳文提出日】2023-12-19
(86)【国際出願番号】 EP2022061532
(87)【国際公開番号】W WO2022229412
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】63/182,330
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】PA202170361
(32)【優先日】2021-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】519350465
【氏名又は名称】セレクティス ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】アランダ-オルギジェス ベアトリス
(72)【発明者】
【氏名】クルコン トマシュ
(72)【発明者】
【氏名】ポアロ ローラン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA12
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、新規の抗MUC1キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変免疫細胞、および特に同種異系細胞免疫療法に適した、固形腫瘍の治療におけるそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
・tMUC1エピトープを標的とするモノクローナル抗体に由来するVHおよびVLを含む、細胞外リガンド結合ドメイン;
・膜貫通ドメイン;ならびに
・CD3ゼータシグナル伝達ドメインを含む細胞質ドメイン、および共刺激ドメイン
を少なくとも含む、抗MUC1キメラ抗原受容体(CAR)であって、
該細胞外リガンド結合ドメインが、MUC1ポリペプチド領域 HGVTSAPDTRPAPGSTAPPA(SEQ ID NO:1)の抗原に対して向けられる、
前記抗MUC1 CAR。
【請求項2】
前記細胞外リガンド結合ドメインが、それぞれMUC1-A ScFv(SEQ ID NO:17)、MUC1-B(SEQ ID NO:27)、MUC1-C(SEQ ID NO:37)、および/またはMUC1-D(SEQ ID NO:47)と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するScFvを含む、請求項1記載の抗MUC1 CAR。
【請求項3】
・SEQ ID NO:11(CDR-VL1-A)、SEQ ID NO:12(CDR-VL2-A)、およびSEQ ID NO:13(CDR-VL3-A)とそれぞれ少なくとも90%の同一性を有するCDRを含む、可変軽(VL)鎖、ならびに
・SEQ ID NO:14(CDR-VH1-A)、SEQ ID NO:15(CDR-VH2-A)、およびSEQ ID NO:16(CDR-VH3-A)とそれぞれ少なくとも90%の同一性を有するCDRを含む、可変重(VH)鎖
を含む、請求項1または2記載の抗MUC1 CAR。
【請求項4】
前記細胞外リガンド結合ドメインが、それぞれSEQ ID NO:9(MUC1-AフルVH)およびSEQ ID NO:10(MUC1-AフルVL)と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するVH鎖およびVL鎖を含む、請求項3記載の抗MUC1 CAR。
【請求項5】
・SEQ ID NO:21(CDR-VL1-B)、SEQ ID NO:22(CDR-VL2-B)、およびSEQ ID NO:23(CDR-VL3-B)とそれぞれ少なくとも90%の同一性を有するCDRを含む、可変軽(VL)鎖、ならびに
・SEQ ID NO:24(CDR-VH1-B)、SEQ ID NO:25(CDR-VH2-B)、およびSEQ ID NO:26(CDR-VH3-B)とそれぞれ少なくとも90%の同一性を有するCDRを含む、可変重(VH)鎖
を含む、請求項1または2記載の抗MUC1 CAR。
【請求項6】
前記細胞外リガンド結合ドメインが、それぞれSEQ ID NO:19(MUC1-BフルVH)およびSEQ ID NO:20(MUC1-BフルVL)と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するVH鎖およびVL鎖を含む、請求項5記載の抗MUC1 CAR。
【請求項7】
・SEQ ID NO:31(CDR-VL1-C)、SEQ ID NO:32(CDR-VL2-C)、およびSEQ ID NO:33(CDR-VL3-C)とそれぞれ少なくとも90%の同一性を有するCDRを含む、可変軽(VL)鎖、ならびに
・SEQ ID NO:34(CDR-VH1-C)、SEQ ID NO:35(CDR-VH2-C)、およびSEQ ID NO:36(CDR-VH3-C)とそれぞれ少なくとも90%の同一性を有するCDRを含む、可変重(VH)鎖
を含む、請求項1または2記載の抗MUC1 CAR。
【請求項8】
前記細胞外リガンド結合ドメインが、それぞれSEQ ID NO:29(MUC1-CフルVH)およびSEQ ID NO:30(MUC1-CフルVL)と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するVH鎖およびVL鎖を含む、請求項7記載の抗MUC1 CAR。
【請求項9】
・SEQ ID NO:41(CDR-VL1-D)、SEQ ID NO:42(CDR-VL2-D)、およびSEQ ID NO:43(CDR-VL3-D)とそれぞれ少なくとも90%の同一性を有するCDRを含む、可変軽(VL)鎖、ならびに
・SEQ ID NO:44(CDR-VH1-D)、SEQ ID NO:45(CDR-VH2-D)、およびSEQ ID NO:46(CDR-VH3-D)とそれぞれ少なくとも90%の同一性を有するCDRを含む、可変重(VH)鎖
を含む、請求項1または2記載の抗MUC1 CAR。
【請求項10】
前記細胞外リガンド結合ドメインが、それぞれSEQ ID NO:39(MUC1-DフルVH)およびSEQ ID NO:40(MUC1-DフルVL)と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するVH鎖およびVL鎖を含む、請求項9記載の抗MUC1 CAR。
【請求項11】
前記膜貫通ドメインが、T細胞受容体のアルファ鎖、ベータ鎖、もしくはゼータ鎖、PD-1、4-1BB、OX40、ICOS、CTLA-4、LAG3、2B4、BTLA4、TIM-3、TIGIT、SIRPA、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、またはCD154の膜貫通領域に由来する、請求項1~10のいずれか一項記載の抗MUC1 CAR。
【請求項12】
前記膜貫通ドメインが、CD8αに由来するSEQ ID NO:5と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を共有する、請求項1~11のいずれか一項記載の抗MUC1 CAR。
【請求項13】
前記細胞外リガンド結合ドメインと前記膜貫通ドメインとの間にヒンジをさらに含む、請求項1~12のいずれか一項記載の抗MUC1 CAR。
【請求項14】
前記ヒンジが、CD8αヒンジ、IgG1ヒンジ、およびFcγRIIIαヒンジから選択される、請求項13記載の抗MUC1 CAR。
【請求項15】
前記ヒンジが、SEQ ID NO:4(CD8α)とそれぞれ、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を共有する、請求項13記載の抗MUC1 CAR。
【請求項16】
SEQ ID NO:4に示すアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するCD8αヒンジ、およびSEQ ID NO:5に示すアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するCD8α膜貫通ドメイン
を含むポリペプチド構造を有する、請求項1~15のいずれか一項記載の抗MUC1 CAR。
【請求項17】
表8から選択されるエピトープを含むセーフティ・スイッチをさらに含む、請求項1~16のいずれか一項記載の抗MUC1 CAR。
【請求項18】
前記セーフティ・スイッチが、リツキシマブが特異的に結合するエピトープCPYSNPSLC(SEQ ID NO:49)を含む、請求項17記載の抗MUC1 CAR。
【請求項19】
4-1BBまたはCD28に由来する共刺激ドメインを含む、請求項1~18のいずれか一項記載の抗MUC1 CAR。
【請求項20】
前記共刺激ドメインが、4-1BBに由来する、かつ/またはSEQ ID NO:6と少なくとも80%の同一性を有する、請求項19記載の抗MUC1 CAR。
【請求項21】
前記CD3ゼータシグナル伝達ドメインが、SEQ ID NO:7と少なくとも80%の同一性を有する、請求項1~20のいずれか一項記載の抗MUC1 CAR。
【請求項22】
シグナルペプチドをさらに含む、請求項1~21のいずれか一項記載の抗MUC1 CAR。
【請求項23】
SEQ ID NO:18(CLS MUC1-A CAR)と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の全体的なアミノ酸配列同一性を有する、請求項1記載の抗MUC1 CAR。
【請求項24】
SEQ ID NO:28(CLS MUC1-B CAR)と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の全体的なアミノ酸配列同一性を有する、請求項1記載の抗MUC1 CAR。
【請求項25】
SEQ ID NO:38(CLS MUC1-C CAR)と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の全体的なアミノ酸配列同一性を有する、請求項1記載の抗MUC1 CAR。
【請求項26】
SEQ ID NO:48(MUC1-D CAR)と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の全体的なアミノ酸配列同一性を有する、請求項1記載の抗MUC1 CAR。
【請求項27】
請求項1~26のいずれか一項記載のキメラ抗原受容体をコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項28】
レンチウイルスベクターなどの請求項27記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項29】
請求項27記載のポリヌクレオチドまたは請求項28記載の発現ベクターを含む、改変免疫細胞。
【請求項30】
請求項1~26のいずれか一項記載の抗MUC1 CARを細胞表面に発現する、改変免疫細胞。
【請求項31】
T細胞またはNK細胞である、請求項29または30記載の改変免疫細胞。
【請求項32】
前記T細胞またはNK細胞が、初代細胞に由来するか、またはiPS細胞などの幹細胞から分化している、請求項31記載の改変免疫細胞。
【請求項33】
TCRの発現が、前記免疫細胞において低減または抑制されている、請求項29~32のいずれか一項記載の改変免疫細胞。
【請求項34】
TCRアルファまたはTCRベータをコードする少なくとも1つの遺伝子が、前記細胞において不活化されている、請求項33記載の改変免疫細胞。
【請求項35】
前記TCRアルファまたはTCRベータをコードする少なくとも1つの遺伝子が、低頻度切断エンドヌクレアーゼによって切断されている、請求項34記載の改変免疫細胞。
【請求項36】
前記抗MUC1 CARをコードするポリヌクレオチドが、内在性プロモーターの転写制御下で内在性座位に、好ましくはTCRアルファまたはTCRベータ座位に組み込まれている、請求項30~35のいずれか一項記載の改変免疫細胞。
【請求項37】
患者における同種異系使用のためのドナーを起源とする、請求項29~36のいずれか一項記載の改変免疫細胞。
【請求項38】
抗CD52抗体などの少なくとも1つの免疫抑制薬に対する抵抗性を与えるように変異されている、請求項29~37のいずれか一項記載の改変免疫細胞。
【請求項39】
少なくとも1つの化学療法薬、具体的にはプリンアナログ薬に対する抵抗性を与えるようにさらに変異されている、請求項29~38のいずれか一項記載の改変免疫細胞。
【請求項40】
患者中で、具体的にはHLAまたはB2mなどのMHCI構成要素をコードする遺伝子中で、持続性または寿命を改良するように変異されている、請求項29~39のいずれか一項記載の改変免疫細胞。
【請求項41】
CAR依存性免疫活性化を改良するように、具体的には免疫チェックポイントタンパク質および/またはそれらの受容体の発現を低減または抑制するように変異されている、請求項29~40のいずれか一項記載の改変免疫細胞。
【請求項42】
前記MUC1 CARが、TGFベータ受容体の阻害剤またはデコイをコードする別の外来性遺伝子配列と、前記細胞中で同時発現される、請求項29~41のいずれか一項記載の改変免疫細胞。
【請求項43】
前記TGFベータ受容体のデコイが、ドミナントネガティブTGFベータ受容体(dnTGFβRII)、例えばSEQ ID NO:59と少なくとも80%のポリペプチド配列同一性を有するものである、請求項42記載の改変免疫細胞。
【請求項44】
前記抗MUC1 CARをコードする第1のポリヌクレオチド配列、2A自己切断ペプチドをコードする第2のポリヌクレオチド、および前記ドミナントネガティブTGFベータ受容体をコードする第3のポリヌクレオチド
を含む外来性ポリヌクレオチドを含む、請求項35記載の改変免疫細胞。
【請求項45】
低減または不活化された少なくとも1つのTGFベータ受容体遺伝子の発現を有する、請求項29~44のいずれか一項記載の改変免疫細胞。
【請求項46】
前記TGFベータ受容体遺伝子が、TGFβRIIである、請求項45記載の改変免疫細胞。
【請求項47】
前記抗MUC1キメラ抗原受容体(CAR)が、
・HLAG、HLAE、もしくはULBP1などの、NK細胞阻害剤;
・変異型IL6Ra、sGP130、もしくはIL18-BPなどの、CRS阻害剤;または
・シクロホスファミドおよび/もしくはイソホスファミドなどの薬物に対する前記免疫細胞の過感受性を与える、チトクロムP450、CYP2D6-1、CYP2D6-2、CYP2C9、CYP3A4、CYP2C19、もしくはCYP1A2;
・薬物抵抗性を与える、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ2(IMPDH2)、カルシニューリンもしくはメチルグアニントランスフェラーゼ(MGMT)、mTORmutもしくはLckmut;
・IL-2、IL-12、IL-15、およびIL-18などの、ケモカインもしくはサイトカイン;
・HYAL1、HYAL2、およびSPAM1などの、ヒアルロニダーゼ;
・CCR2、CXCR2、もしくはCXCR4などの、ケモカイン受容体;
・免疫細胞の治療活性を強化するための、CCR2/CCL2中和剤などの、腫瘍関連マクロファージ(TAM)の分泌阻害剤;ならびに/または
・グルコースリン酸イソメラーゼ1(GPI1)、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDHA)、および/もしくはホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1(PCK1)などの、代謝酵素
をコードするものから選択される別の外来性遺伝子配列と、前記細胞中で同時発現される、請求項29~46のいずれか一項記載の改変免疫細胞。
【請求項48】
治療法における使用のための、請求項29~47のいずれか一項記載の改変免疫細胞。
【請求項49】
癌の治療用の薬剤としての使用のための、請求項29~48のいずれか一項記載の改変免疫細胞。
【請求項50】
MUC1陽性細胞を特徴とする前悪性または悪性の癌状態の治療法における使用のための、請求項29~49のいずれか一項記載の改変免疫細胞。
【請求項51】
食道癌、乳癌、胃癌、胆管癌、膵臓癌、結腸癌、肺癌、胸腺癌、中皮腫、卵巣癌、および子宮内膜癌から選択される癌状態の治療法における使用のための、請求項29~50のいずれか一項記載の改変免疫細胞。
【請求項52】
固形腫瘍の治療用の哺乳動物における同種異系使用のための、tMUC1エピトープに対して特異的に向けられるキメラ抗原受容体(CAR)を発現する、改変免疫細胞であって、該CARによって標的とされる該tMUC1エピトープが、配列 HGVTSAPDTRPAPGSTAPPA(SEQ ID NO:1)の切断型グリカンペプチドに含まれる、前記改変免疫細胞。
【請求項53】
請求項29~51のいずれか一項に従う、請求項52記載の改変免疫細胞。
【請求項54】
以下の工程を含む、固形腫瘍の治療のための改変治療用免疫細胞の集団を製造するための方法:
e)患者、または好ましくはドナーを起源とする免疫細胞を準備する工程;
f)該細胞中で抗MUC1キメラ抗原受容体(CAR)を発現させる工程;
g)該細胞のゲノムに少なくとも1つの遺伝子改変を導入する工程であって、該改変が、
・TCR発現の低減もしくは不活化;
・B2Mの低減もしくは不活化;
・TGFβとTGFβR2との間の相互作用の低減;
・PD1とPDL1との間の相互作用の低減;および/または
・IL-2、IL-12、IL-15、もしくはIL-18の発現の強化
をもたらすものから選択される、工程;
h)治療的に有効な免疫細胞集団の集団を形成するように、該細胞を拡大増殖させる工程。
【請求項55】
前記遺伝子改変が、低頻度切断エンドヌクレアーゼ/ニッカーゼまたは塩基エディターなどの、配列特異的遺伝子編集試薬を用いることによって得られたものである、請求項54記載の方法。
【請求項56】
前記免疫細胞が、HYAL1、HYAL2、および/またはHYAL3(SPAM1)などのヒアルリナーゼ(hyalurinase)の分泌を強化するようにさらに遺伝子改変されている、請求項54または55記載の方法。
【請求項57】
前記免疫細胞が、該細胞中でGPI1、PCK1、および/またはLDHAの発現を強化するようにさらに遺伝子改変されている、請求項54~56のいずれか一項記載の方法。
【請求項58】
tMUC1エピトープを標的とする前記CARが、請求項1~26のいずれか一項記載のCARである、請求項54~57のいずれか一項記載の方法。
【請求項59】
請求項54~58のいずれか一項記載の方法によって取得可能な、細胞の集団。
【請求項60】
前記集団中の前記細胞の少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%が、前記遺伝子改変のうちの少なくとも1つを有する、請求項59記載の細胞の集団。
【請求項61】
前記集団中の前記細胞の少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%が、前記遺伝子改変のうちの少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ、好ましくは少なくとも4つ、さらにより好ましくは少なくとも5つを有する、請求項59記載の細胞の集団。
【請求項62】
以下の(表現型)特性を特徴とする改変免疫細胞の集団を含む、治療組成物:
・tMUC1エピトープを標的とするCARの外来性発現、ならびに
・少なくとも30%;好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%の、B2M発現の低減;ならびに/または
・少なくとも30%;好ましくは50%、より好ましくは少なくとも75%の、PD1発現の低減;ならびに/または
・任意で、少なくとも50%;好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%の、TCR発現の低減;
・任意で、少なくとも30%;好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%の、IL2、IL-12、IL-15、もしくはIL-18の発現の増大;
・任意で、少なくとも30%;好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%の、TGFβ発現の低減;
・任意で、TGFβR2のデコイの外来性発現;
・任意で、外来性コード配列の導入によるHYAL1、HYAL2、およびSPAM1の分泌;ならびに
・任意で、外来性コード配列の導入によるGPI1、PCK1、および/もしくはLDHAの発現。
【請求項63】
以下の(遺伝子型)特性を特徴とする改変免疫細胞の集団を含む、治療組成物:
・免疫細胞の少なくとも50%が、tMUC1エピトープを標的とするCARをコードする外来性ポリヌクレオチド配列を提示する;ならびに
・免疫細胞の少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%が、B2M不活性アレルを提示する;ならびに/または
・免疫細胞の少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは75%が、変異したPD1アレルを提示する;
・任意で、T細胞の少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%が、TCR不活性アレルを提示する;
・任意で、免疫細胞の少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは75%が、IL-2、IL-12、IL-15、もしくはIL-18をコードする外来的に導入された配列を提示する;
・任意で、免疫細胞の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは75%が、そのゲノムに外来的に挿入されたTGFβR2のデコイをコードする配列を提示する;
・任意で、免疫細胞の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは75%が、そのゲノムに外来的に挿入されたHYAL1、HYAL2、および/もしくはSPAM1をコードする配列を提示する;
・任意で、免疫細胞の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは75%が、そのゲノムに外来的に挿入されたGPI1、PCK1、および/もしくはLDHAをコードする配列を提示する;
・任意で、免疫細胞の少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは75%が、変異したTGFβアレルを提示する。
【請求項64】
少なくとも1つのTCRアルファアレルが、破壊されている、請求項63記載の治療組成物。
【請求項65】
前記TCRアルファが、外来性コード配列の挿入によって破壊されている、請求項64記載の治療組成物。
【請求項66】
前記外来性コード配列が、dnTGFβR2(SEQ ID NO:59)などのTGFβR2のデコイをコードする、請求項63~65のいずれか一項記載の治療組成物。
【請求項67】
前記外来性コード配列が、dnTGFβR2などのTGFβR2のデコイをコードし、好ましくはウイルスベクター挿入時に、CARと同時発現される、請求項63~65のいずれか一項記載の治療組成物。
【請求項68】
前記B2Mアレルが、HLA-E(SEQ ID NO:60)またはHLA-G(SEQ ID NO:61)などのNK阻害剤をコードする外来性配列の挿入によって破壊されている、請求項63~67のいずれか一項記載の治療組成物。
【請求項69】
IL-12a(SEQ ID NO:63)および/もしくはIL12b(SEQ ID NO:64)、IL-15a(SEQ ID NO:66)、またはIL-18(SEQ ID NO:68)をコードする前記外来性配列が、前記PD1変異アレルおよび/または前記TGFβ変異アレル中に挿入される、請求項63~68のいずれか一項記載の治療組成物。
【請求項70】
HYAL1(SEQ ID NO:69)、HYAL2(SEQ ID NO:70)、SPAM1(SEQ ID NO:71)、GPI1(SEQ ID NO:72)、PCK1(SEQ ID NO:73)、またはLDHA(SEQ ID NO:74)をコードする前記外来性配列が、PD1、CD69、CD25、またはGMCSF座位に挿入される、請求項63~69のいずれか一項記載の治療組成物。
【請求項71】
前記免疫細胞を、リンパ球除去治療に対する抵抗性を与えるため、例えば、CD52および/またはdCK遺伝子アレルの発現を不活化または低減するために、さらに変異させる、請求項63~70のいずれか一項記載の治療組成物。
【請求項72】
tMUC1エピトープを標的とする前記CARが、請求項1~26のいずれか一項記載のCARである、請求項34~71のいずれか一項記載の治療組成物。
【請求項73】
以下の工程を含む、MUC1発現細胞を特徴とする状態を有する患者を治療するための方法:
・請求項1~26のいずれか一項記載の機能的抗MUC1 CARを発現するように、ドナー由来の免疫細胞を改変する工程;
・tMUC1エピトープを発現する細胞を排除するために、該CAR陽性改変免疫細胞を患者に投与する工程。
【請求項74】
患者がリンパ球除去される追加の治療工程を含む、請求項73記載の患者を治療するための方法。
【請求項75】
tMUC1エピトープを発現する細胞を排除する前記CAR陽性改変免疫細胞を、リンパ球除去治療に対する抵抗性を与えるように変異させる、請求項74記載の患者を治療するための方法。
【請求項76】
前記CAR陽性改変免疫細胞を、CD52遺伝子において変異させる、請求項75記載の患者を治療するための方法。
【請求項77】
MUC1発現細胞を特徴とする状態を有する患者を治療するための方法であって、
(1)リンパ球除去剤、および
(2)tMUC1エピトープに対して特異的に向けられたキメラ抗原受容体(CAR)を発現する、ドナー由来の同種異系改変免疫細胞の集団
の投与を組み合わせる、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、細胞免疫療法の分野に関し、より具体的には、固形腫瘍の治療に有用な、抗MUC1キメラ抗原受容体(CAR)を発現する改変免疫細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
CAR免疫細胞療法、主にT細胞およびNK細胞は、過去10年にわたって血液癌の治療に革命をもたらした。しかし、これまでのところ、同じタイプの治療法は、固形腫瘍を治療する有効な手段とはなっていない[June et al., CAR T cell immunotherapy for human cancer (2018) Science 359:1361-1365(非特許文献1)]。
【0003】
実際に、固形腫瘍の治療における課題は、2つの大きな領域:1)排他的な腫瘍特異性の欠如によるオフ腫瘍毒性、および2)固形腫瘍の複雑な免疫抑制生物学、から生じる[Marofi, F., et al. (2021) CAR T cells in solid tumors: challenges and opportunities. Stem Cell Res Ther. 18(4):843-851(非特許文献2)]。
【0004】
CAR免疫細胞の特異性は、健常組織に対して損傷を結果としてもたらすオン標的オフ腫瘍活性のために、依然として重要な課題である。この点において、免疫療法における治療用抗体の効率は、以前に開発された抗体と同じScFvを用いたCAR-T細胞の特異性/活性について低い予測値であることが証明されている。CD19抗体が血液癌に対して開発できなかった場合に、抗CD19 CARが非常に効率的であることが証明されているため、その逆もまた真実である。
【0005】
血液腫瘍において、オフ標的損傷は、より低いリスクを伴う。一般に、関連する毒性は、十分に許容されるか、または効果的に管理される。これは、部分的に、抗原が、B細胞上のCD19など、血液学的区画の特定の細胞系列に限定されていることによる。CD19 CAR-T活性による健常B細胞の消失は、B細胞形成不全を結果としてもたらす場合があり、これは、より高い感染症のリスクを伴うが、それ以外は致死的ではなく、静脈内免疫グロブリン(IVIG)補充療法で十分に管理することができる。
【0006】
全く対照的に、固形組織上のCAR-T標的抗原の発現は、致死的毒性に関連している。例えば、転移性結腸癌の治療のために投与された抗HER2 CAR-T細胞は、低HER2発現肺上皮を攻撃し、致死の事象を結果としてもたらした[Morgan, R. A. et al. (2010) Case report of a serious adverse event following the administration of T cells transduced with a chimeric antigen receptor recognizing ERBB2. Mol. Ther. 18(4):843-851(非特許文献3)]。類似した毒性が、腎癌に対する治療法において観察され、CAIXに対するCAR-T細胞が、CIAX発現胆管上皮を攻撃することによって、肝臓損傷を引き起こした[Lamers CH, et al. (2006) Treatment of metastatic renal cell carcinoma with autologous T-lymphocytes genetically retargeted against carbonic anhydrase IX: first clinical experience. Journal of Clinical Oncology. 24(13):e20-2(非特許文献4)]。全体的に、固形腫瘍に対するCAR-T療法の成功は限定されており、測定可能な応答が観察された例では、部分的にはオフ標的結合に関連する毒性のために、有効性を改良する手段としての用量漸増が可能ではなかった[Wagner, J. (2020) CAR T Cell Therapy for Solid Tumors: Bright Future or Dark Reality? Molecular Therapy. 28(11):2320-23394(非特許文献5)]。
【0007】
最も活性が高く、特異的なscFVについてさえも、固形腫瘍において有意な応答が得られない追加的な水準は、以下の腫瘍微小環境に由来する:(1)CAR免疫細胞の浸潤が、細胞外マトリックスの沈着および高い間質圧のために制限される、ならびに(2)腫瘍内CAR免疫細胞の拡大増殖およびエフェクター機能が、低酸素および栄養不足のために遮断される。3)制御性T細胞(T-reg:TGF-β)、癌関連線維芽細胞(CAF:TGF-β)、および骨髄由来抑制細胞(MDSC:IL-10およびTGF-β)を含む他の腫瘍常在細胞によって産生される免疫抑制シグナルが、CAR-T細胞の拡大増殖およびエフェクター機能を防止する。4)PDL1などの免疫チェックポイントリガンドの上方制御が、CAR-T細胞の活性を直接阻害する。固形腫瘍の治療に成功するCAR-T産物を開発するためには、次世代CAR-T細胞の複雑な改変を通して、これらの課題に対処する必要がある。
【0008】
(表1)固形腫瘍における成功するCAR-T療法の決定要因
【0009】
表1に要約されているこれらの課題に、腫瘍に排他的なMUC1エピトープの非常に特異的な翻訳後バージョンを標的とする抗MUC1 CAR免疫細胞を改変することによって、およびそれらがMUC1陽性固形腫瘍に関連する免疫抑制腫瘍微小環境と闘うことを可能にする遺伝子改変を導入することによって、本発明において取り組む。
【0010】
MUC1は、肺、子宮頸部、胃、および腸を含むいくつかの臓器を裏打ちする上皮細胞によって産生される、大きなムチン型糖タンパク質である。正常組織において、MUC1は、上皮内層の先端側にのみ局在し、内腔中に延びており、そこでMUC1上のグリカンが、水を捕捉し、これらの組織を損傷および病原体から防御する粘膜バリアを形成する。MUC1は、他の固形腫瘍標的と同様に、腫瘍において非常に富んでいるが、他の固形腫瘍標的とは異なり、MUC1は、腫瘍細胞によって産生される場合に構造的に異なっている(本明細書でtMUC1と省略される)。MUC1における構造の違いは、細胞外サブユニットのVNTR領域内のMUC1の異なるグリコシル化のために生じる(図1を参照されたい)。tMUC1に付加されるO-グリカンは、切断されているか、完全に失われているか、または早期にシアル酸で修飾されている。その結果、腫瘍細胞によって産生されるtMUC1は、分子レベルで異なっており、グリコシル化不十分の(underglycosylated)tMUC1に対して産生されるscFVは、正常細胞によって産生される完全にグリコシル化されたMUC1を認識しないはずである。tMUC1とMUC1との間のこれらの違いに基づいて、tMUC1に対して産生されるCAR免疫細胞は、腫瘍を認識するのに非常に特異的であることが仮定されている[Naito et al. (2017) Generation of Novel Anti-MUC1 Monoclonal Antibodies with Designed Carbohydrate Specificities Using MUC1 Glycopeptide Library. ACS Omega. 2(11): 7493-7505(非特許文献6)]。
【0011】
文献からの14個の抗MUC1 ScFv候補の一次選択に基づいて、本発明者らは、MUC1の同じポリペプチドセグメントを共通に標的とする4個のScFvを含めることによって、tMUC1に対するCARスキャフォールドを開発した。免疫細胞における様々なCARの発現は、すべて、陽性のかつ特異的な抗tMUC1抗腫瘍応答活性を結果としてもたらした。しかし、CARは、異なる程度のインビボ抗腫瘍応答を示した。
【0012】
固形腫瘍におけるCAR免疫細胞活性は、多くの場合、腫瘍免疫抑制環境により阻害されるため、本発明者らは、以下のような、固形腫瘍に関連するいくつかの問題に同時に取り組むように改変された免疫細胞中において、本発明の様々なCARを発現させた:
1)サイトカイン誘導性異種発現による、CAR免疫細胞の効力の増大;
2)CAR免疫細胞の活性化を阻害する免疫チェックポイント遺伝子を不活化することによる、CAR-T細胞の疲弊の限定;
3)TGF-βの免疫抑制効果を緩和するための代替手段を用いることによる、腫瘍微小環境からの免疫抑制の防止;
4)細胞外マトリックスの不可欠な構造およびシグナル伝達構成要素であるグリコサミノグリカンである、ヒアルロナン(HA)を発現させることによる、腫瘍浸潤の強化;ならびに/または
5)とりわけ、低酸素および栄養欠乏環境における炎症性Th17細胞の増殖能力を高めるための、代謝酵素、例えば、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ(例えば、GPI1)、乳酸デヒドロゲナーゼ(例えば、LDHA)、およびホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1(例えば、PCK1)を過剰発現させることによる、低酸素および低栄養環境の緩和。
それらの実験中に、最終的に、抗MUC1 CAR免疫細胞の遺伝子改変を最適化し、改良された効力を有する治療用細胞を提供するために、遺伝子ターゲティング組込み、およびレトロウイルスアプローチを用い、組み合わせた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】June et al., CAR T cell immunotherapy for human cancer (2018) Science 359:1361-1365
【非特許文献2】Marofi, F., et al. (2021) CAR T cells in solid tumors: challenges and opportunities. Stem Cell Res Ther. 18(4):843-851
【非特許文献3】Morgan, R. A. et al. (2010) Case report of a serious adverse event following the administration of T cells transduced with a chimeric antigen receptor recognizing ERBB2. Mol. Ther. 18(4):843-851
【非特許文献4】Lamers CH, et al. (2006) Treatment of metastatic renal cell carcinoma with autologous T-lymphocytes genetically retargeted against carbonic anhydrase IX: first clinical experience. Journal of Clinical Oncology. 24(13):e20-2
【非特許文献5】Wagner, J. (2020) CAR T Cell Therapy for Solid Tumors: Bright Future or Dark Reality? Molecular Therapy. 28(11):2320-23394
【非特許文献6】Naito et al. (2017) Generation of Novel Anti-MUC1 Monoclonal Antibodies with Designed Carbohydrate Specificities Using MUC1 Glycopeptide Library. ACS Omega. 2(11): 7493-7505
【発明の概要】
【0014】
本発明を達成するために、tMUC1に対する4つの異なるCARを合成した:CLS MUC1-A、CLS MUC1-B、CLS MUC1-C、およびCLS MUC1-D。これらのCAR構築物において用いたscFVは、乳癌細胞特異的であるとスクリーニングされた(HCC70およびT47D細胞株)、SEQ ID NO:1のtMUC1ポリペプチドセグメントの異なるエピトープを認識した。陰性対照として、MUC1/tMUC1陰性のHEK293FT細胞を用いた。本明細書の実験部分に示すように、4つの異なるCARは、乳癌細胞株T47DおよびHCC70に対してインビトロで高い細胞傷害活性を示したが、肺、腎臓、または子宮頸部由来の正常初代細胞に対しては細胞傷害性でなかった。これらのデータにより、作製した4つのCARは、tMUC1に非常に特異的であることが実証された。同時に、本発明者らは、4つのCARが、初代T細胞中に発現させた場合に、異なるレベルの活性を与えたこと、およびそのうちの1つ(CAR MUC1-A)が、インビボの抗腫瘍活性の点で予想外に他を超えたことを、観察することができた。
【0015】
すべてが固形腫瘍に対する特異的な免疫応答を惹起するのに適切であると主として考えられた、本発明の上記の抗MUC1 CARを、具体的には同種異系の設定への適用可能性を考慮して、遺伝子改変された免疫細胞において試験した。
【0016】
結果により、抗MUC1CARを、本明細書で詳述する4つのCARだけではなく、様々な遺伝子特性と成功裏に組み合わせて、抗腫瘍効力が有意に改良された精巧な遺伝子編集CAR免疫細胞を作製できることが示される。
【0017】
したがって、本発明は、新規の抗MUCI CAR、および、固形腫瘍のインビボ排除のために該CARの活性を高める様々な遺伝子特性を示す抗MUCI CARを備える改変免疫細胞の作製を包含する。
【0018】
本発明の抗MUC1キメラ抗原受容体(CAR)は、好ましくは、MUC1ポリペプチド領域
の低グリコシル化エピトープを識別することができる抗原に対して向けられる。
【0019】
本発明の1つの例示的なかつ好ましい抗MUC1 CARは、以下を含むものである:
・膜貫通ドメイン
・CD3ゼータシグナル伝達ドメインを含む細胞質ドメイン、および共刺激ドメイン
・MUC1-A(SEQ ID NO:17)、MUC1-B(SEQ ID NO:27)、MUC1-C(SEQ ID NO:37)、またはMUC1-D(SEQ ID NO:37)から選択される1つと少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するScFvを含む、リガンド結合ドメイン。
【0020】
本発明で用いられるそのようなCARの構造は、一般に、抗tMUCIリガンド結合ドメインを、CD8アルファ由来のヒンジおよび膜貫通ドメインと、4-1BB由来の共刺激ドメインおよびCD3ゼータ由来のシグナル伝達ドメインと共に組み合わせることによって、当技術分野で記載されているような第2、第3、または第4世代に属する[Subklewe, M., et al. (2019) Chimeric Antigen Receptor T Cells: A Race to Revolutionize Cancer Therapy. Transfusion medicine and hemotherapy. 46(1), 15-24]。
【0021】
本発明はまた、免疫細胞の表面に抗MUC1 CARを導入して発現させるために用いられる、ポリペプチドおよびポリヌクレオチド配列、ならびにベクターに関する。
【0022】
本発明による抗MUC1-CARを発現する改変免疫細胞は、一般に、同種異系の設定における使用に適している、ヒトドナーを起源とするNK細胞もしくはT細胞、またはそれらの前駆細胞である。そのような細胞を、患者の宿主細胞に対して免疫反応性がより低く、かつ同時に患者の腫瘍細胞に対してより攻撃的であるように、遺伝子編集することができる。この点で、図5、6、7、および/または15に例示するいくつかのまたはすべての遺伝子改変を、有利に組み合わせることができる。
【0023】
いくつかの態様では、TCRアルファおよび/またはTCRベータの発現を、前記改変細胞において抑制または不活化することができる。
【0024】
いくつかの態様では、前記改変免疫細胞を、抗CD52抗体などの少なくとも1つの免疫抑制薬に対する抵抗性を与えるように変異させることができる。
【0025】
いくつかの態様では、前記改変免疫細胞を、少なくとも1つの化学療法薬、具体的にはプリンアナログ薬に対する抵抗性を与えるように変異させることができる。
【0026】
いくつかの態様では、前記改変免疫細胞を、患者中で、具体的にはHLAまたはB2mなどのMHCI構成要素をコードする遺伝子中で、その持続性またはその寿命を改良するように変異させることができる。
【0027】
いくつかの態様では、前記改変免疫細胞を、そのMUC1 CAR依存性免疫活性化を改良するように、具体的には免疫チェックポイントタンパク質および/またはそれらの受容体、例えば、PD-1/PDL1、CTLA4、および/またはTIM3の発現を低減または抑制するように、変異させることができる。
【0028】
いくつかの態様では、前記改変免疫細胞を、TGFベータ経路に関与する遺伝子、例えば、TGFベータおよび/またはTGFベータ受容体(TGFβRII)をコードするものの中で変異させることができる。
【0029】
いくつかの態様では、前記改変免疫細胞は、TGFベータ受容体のデコイ、例えば、SEQ ID NO:59と少なくとも80%のポリペプチド配列同一性を有するドミナントネガティブTGFベータ受容体(dnTGFβRII)を発現することができる。
【0030】
いくつかの態様では、前記改変免疫細胞に、CARおよびTGFベータ受容体のデコイの同時発現を可能にする、例えば、前記抗MUC1特異的CARをコードする第1のポリヌクレオチド配列、2A自己切断ペプチドをコードする第2のポリヌクレオチド、および前記ドミナントネガティブTGFベータ受容体(dnTGFβRII)をコードする第3のポリヌクレオチドを含む、外来性ポリヌクレオチドをトランスフェクトする。
【0031】
いくつかの態様では、前記改変免疫細胞に、抗MUC1キメラ抗原受容体(CAR)と、
・HLAG、HLAE、もしくはULBP1などの、NK細胞阻害剤;
・変異型IL6Ra、sGP130、もしくはIL18-BPなどの、CRS阻害剤;または
・シクロホスファミドおよび/もしくはイソホスファミドなどの薬物に対する前記免疫細胞の過感受性を与える、チトクロムP450、CYP2D6-1、CYP2D6-2、CYP2C9、CYP3A4、CYP2C19、もしくはCYP1A2;
・薬物抵抗性を与える、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ2(IMPDH2)、カルシニューリンもしくはメチルグアニントランスフェラーゼ(MGMT)、mTORmutもしくはLckmut;
・IL-12、IL-15、もしくはIL-18などの、ケモカインもしくはサイトカイン;
・HYAL1、HYAL2、およびHYAL3(SPAM1)などの、ヒアルロニダーゼ;
・CCR2、CXCR2、もしくはCXCR4などの、ケモカイン受容体;
・免疫細胞の治療活性を強化するための、CCR2/CCL2中和剤などの、腫瘍関連マクロファージ(TAM)の分泌阻害剤;ならびに/または
・グルコースリン酸イソメラーゼ1(GPI1)、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDHA)、および/もしくはホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1(PCK1)などの、代謝酵素
から選択される1つと同一性を示す別のポリペプチドとの同時発現を可能にする、外来性ポリヌクレオチド配列をトランスフェクトする。
【0032】
本発明はまた、固形腫瘍の治療に有用な上記の改変治療用免疫細胞の集団を製造するための方法を提供する。そのような方法は、典型的には、以下の工程を含むことができる:
a)患者、または好ましくはドナーを起源とする免疫細胞を準備する工程;
b)該細胞中で抗MUC1キメラ抗原受容体(CAR)を発現させる工程;
c)該細胞のゲノムに少なくとも1つの遺伝子改変を導入する工程であって、該改変が、
・TCR発現の低減もしくは不活化;
・B2Mの低減もしくは不活化;
・TGFβとTGFβRIIとの間の相互作用の低減;
・PD1とPDL1との間の相互作用の低減;および/または
・IL-12、IL-15、もしくはIL-18の発現の強化
をもたらすものから選択される、工程;
d)治療的に有効な免疫細胞集団の集団を形成するように、該細胞を拡大増殖させる工程。
【0033】
いくつかの態様では、特に遺伝子発現をノックアウトする遺伝子改変は、低頻度切断エンドヌクレアーゼ/ニッカーゼまたは塩基エディターなどの、配列特異的遺伝子編集試薬を用いることによって行われる。
【0034】
上記の遺伝子編集改変の組み合わせは、免疫細胞、具体的にはT細胞の、炎症性腫瘍(hot tumor)細胞へのアクセスを防止する、腫瘍によって生じる生化学的バリアを克服するために特に適切であると見出されている。
【0035】
結果として生じた細胞の集団は、一般に、少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%の、前記遺伝子改変のうちの少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ、好ましくは少なくとも4つ、さらにより好ましくは少なくとも5つを有する改変細胞を含む。
【0036】
いくつかの態様では、治療組成物は、1つの、いくつかの、またはすべての以下の(表現型)特性を特徴とする、改変免疫細胞の集団を含むことができる:
・tMUC1エピトープを標的とするCARの外来性発現、ならびに
・少なくとも30%;好ましくは50%、より好ましくは75%の、B2M発現の低減;ならびに/または
・少なくとも30%;好ましくは50%、より好ましくは75%の、PD1発現の低減;ならびに/または
・任意で、少なくとも50%;好ましく75%の、TCR発現の低減;
・任意で、少なくとも50%;好ましくは75、より好ましくは100%の、IL-12、IL-15、もしくはIL-18の発現の増大;
・任意で、少なくとも30%;好ましくは50%、より好ましくは75%の、TGFβもしくはTGFβRIIの発現の低減;
・任意で、TGFβR2のデコイの外来性発現;
・任意で、外来性コード配列の導入によるHYAL1、HYAL2、およびHYAL3(SPAM1)の分泌;ならびに
・任意で、外来性コード配列の導入によるGPI1、PCK1、および/もしくはLDHAの発現。
【0037】
遺伝子型の観点から、そのような改変免疫細胞の治療用集団は、以下の(遺伝子型)特性の1つ、いくつか、またはすべてを特徴とする:
・免疫細胞の少なくとも50%が、tMUC1エピトープを標的とするCARをコードする外来性ポリヌクレオチド配列を提示する;ならびに
・免疫細胞の少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%が、B2M不活性アレルを提示する;ならびに/または
・免疫細胞の少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは75%が、変異したPD1アレルを提示する;
・任意で、T細胞の少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%が、TCR不活性アレルを提示する;
・任意で、免疫細胞の少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは75%が、IL-12、IL-15、もしくはIL-18をコードする外来的に導入された配列を提示する;
・任意で、免疫細胞の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは75%が、そのゲノムに外来的に挿入されたTGFβR2のデコイをコードする配列を提示する;
・任意で、免疫細胞の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは75%が、そのゲノムに外来的に挿入されたHYAL1、HYAL2、および/もしくはSPAM1をコードする配列を提示する;
・任意で、免疫細胞の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは75%が、そのゲノムに外来的に挿入されたGPI1および/もしくはPCK1をコードする配列を提示する;
・任意で、免疫細胞の少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは75%が、TGFβもしくはTGFβRIIをコードする変異したアレルを提示する。
【0038】
本発明の改変免疫細胞は、tMUC1発現細胞を特徴とする状態、具体的には固形腫瘍、例えば典型的には、食道癌、乳癌、特にトリプルネガティブ乳癌、胃癌、胆管癌、膵臓癌、結腸癌、肺癌、胸腺癌、中皮腫、卵巣癌、および/または子宮内膜癌を治療するのに特に適している。
【0039】
したがって、本発明は、改変細胞を作製するための方法、結果として生じた治療用細胞、そのような細胞を含む細胞の集団、およびそれを含む治療組成物、ならびにtMUC1発現細胞によって誘導される病理に取り組むことを可能にする治療の方法を包含する。
【0040】
全体的な治療の方法は、典型的には、以下の工程を含む:
・機能的抗MUC1 CARを発現するように、患者由来またはドナー由来の免疫細胞を改変する工程
・tMUC1エピトープを発現する細胞を排除するために、該CAR陽性改変免疫細胞を患者に投与する工程。
【0041】
同種異系の設定において、しかしそれだけではなく、そのような治療の方法は、(1)リンパ球除去剤、および(2)tMUC1エピトープに対して特異的に向けられたキメラ抗原受容体(CAR)を発現する、同種異系改変免疫細胞の集団、の投与を有利に組み合わせることができる。
【0042】
そのような設定において、抗MUC1 CAR陽性改変免疫細胞は、リンパ球除去治療に対する抵抗性を与えるために、そのCD52遺伝子発現、またはリンパ球除去剤によって標的とされる任意の他のポリペプチドが不活化されることが有利であり得る。
【0043】
本発明はまた、より多数の癌を標的とし得る、およびCAR-T療法の選択圧下でのグリコフォームの変化による抗原逃避を排除し得る、2つの抗tMUC1 scFVの組み合わせのいずれかを有するデュアルCARを利用することを提供する。また、標的細胞認識の比率およびCAR-T細胞治療の効率を増大させるための、MUC-1の2つの独立した抗原を標的とするデュアルCAR T細胞の使用も包含する。好ましいアプローチでは、抗MUC1 CARを、改変T細胞中で抗メソテリンCARと同時発現させる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】A. 正常細胞および腫瘍細胞の表面上のMUC1発現の概略図。B. 健常細胞および腫瘍細胞上のMUC1のグリコシル化状態の比較概略図。癌関連MUC1は、タンデムポリペプチドリピート(SEQ ID NO:20)に沿ってグリコシル化不十分である。
図2】癌細胞ならびに腎臓、肺、および子宮頸部組織由来の初代細胞について測定した、選択したMUC1 scFVの特異性。乳癌細胞株(T47DおよびHCC70)とは対照的に、高レベルの正常MUC1を発現するこれらは後に、候補scFVによって染色されない。
図3】インビトロでの初代T細胞における本発明の抗MUC1-CARの発現によって得られた、それぞれの乳癌細胞T47DおよびHCC70の特異的溶解のパーセンテージを示す図(1:1、2,5:1、および5:1の比)。図は、新規の抗MUC1 CAR-Tの高い活性応答、およびCLS MUC1-A CARの優位性を示す。
図4】固形腫瘍微小環境の、および固形腫瘍においてCAR-Tの機能を阻害する様々な因子の解析。
図5】その主な特徴的遺伝子特性を伴う、本発明の抗MUC1-CAR改変免疫細胞の概略図。A. 抗MUC1 CARとTGFベータのデコイ(dnTGRBR2B)との同時発現のための遺伝子構築物の表示。この遺伝子構築物は、ヌクレアーゼまたはニッカーゼ遺伝子編集試薬を用いた相同組換えまたはNHEJによる部位特異的遺伝子挿入のために、レンチウイルスベクター中にまたはドナー鋳型上に含めることができる。B. 患者のNK細胞に対する抵抗性を提供するβ2mの不活化およびHLA-Eの発現をもたらす、β2m内在性座位での遺伝子挿入の表示。C. 免疫細胞の活性を高めるPD1の不活化およびIL-12の発現をもたらす、PDCD1(PD1)内在性座位での遺伝子挿入の表示。D. 抗MUC1 CAR、NK阻害剤としてのHLA-E、IL-12の分泌、およびTGFβのデコイとしてのdnTGFβRIIの異種発現を示す、改変免疫細胞表面の表示。他方で、TCR、PD1、およびβ2mの発現は、抑制または不活化される。
図6】上記図5Bに示したΔB2M-HLA-E遺伝子特性の詳細なメカニズム。
図7】上記図5Cに示したΔPD1-IL12遺伝子特性の詳細なメカニズム。IL-12をコードする外来性配列を、内在性PD1プロモーターの転写制御下に挿入することによって、IL-12の分泌は、CARによる腫瘍抗原認識と同期する。
図8】改変細胞の集団中の細胞の少なくとも30%が、主な遺伝子特性のうちの少なくとも3つを示すことを示す、本発明によって改変された細胞のFACS解析(実験セクションに詳述)。集団中の細胞の少なくとも30%は、CAR陽性、[PD1]陰性、[TCR]陰性、[β2m]陰性、および[HLAE]陽性と判定された。
図9】OCA(オリゴキャプチャーアッセイ)解析を行った場合に、本発明の改変細胞(rLV CAR-DNTGFBR2形質導入+トリプルTALEN(登録商標)トランスフェクション(TRAC/B2M/PD-1)+HLA-EのAAV媒介性KI)において観察された、候補オフ部位の低スコア。
図10】HCC70癌細胞に対する、ΔPD1-IL12遺伝子特性で達成されたUCARTMUC1の強いインビボ腫瘍内拡大増殖を示す、実施例2に詳述したような実験結果を示す図(図12に例示したものと同じ実験設定)。
図11】本発明の4つの抗MUC1 CAR-Tでそれぞれ処置したマウスにおける、その接種から28日目までのインビボ腫瘍体積を示すグラフ。
図12図5に詳述した遺伝子特性が、抗MUC1 CARで処置した場合にマウスの生存期間を延長することを示す、実験(実施例2を参照されたい)。
図13】マウス実験においてCLS MUC1-A CAR-T細胞での処置によって得られた、皮下腫瘍体積低減を示すグラフ。
図14】遺伝子特性を伴うおよび伴わない、抗MUC1 CAR T細胞で処置したマウス由来のHCC70腫瘍の解析。グラフは、本発明の遺伝子特性を有する細胞で達成された、より強い腫瘍内UCARTMUC1拡大増殖を示す。
図15】固形腫瘍の不均一性を克服することを目指す、抗MUC1 CAR/抗メソテリンCARデュアルアプローチの原理。
図16】最適化免疫シナリオのための、本発明の抗MUC1 CAR-T特性の原理。
図17】その主な特徴的遺伝子特性を伴う、本発明の最適化抗MUC1-CAR改変免疫細胞の概略図。抗MUC1 CAR構築物を、ランダムに(レンチウイルスベクターで)または特異的部位に(遺伝子編集試薬を用いた相同組換えまたはNHEJによって)導入することができ;HLA-Eは、β2m内在性座位に組み込まれ、宿主免疫逃避をもたらし;IL-12は、PDCD1(PD1)内在性座位に組み込まれ、PD1の不活化および腫瘍特異的なかつ局在化したIL-12の発現をもたらし、TGFBR2は、不活化され、TGFβ経路の遮断をもたらす。
図18A】A. MUC1-A改変CAR-T細胞およびMUC1-C改変CAR-T細胞の評価のための、実験インビボ設定。B. MUC1-A改変CAR-T細胞およびMUC1-C改変CAR-T細胞の指示された用量を用いた処置後に得られた、腫瘍体積。C. 生存曲線。D. 処置の54日後の腫瘍におけるhCD45+細胞検出のパーセンテージ。これらの結果により、他の抗tMUC1 CARを上回る、MUC1-Aの優位性および用量反応感受性が明らかになる。
図18B図18Aの説明を参照のこと。
図18C図18Aの説明を参照のこと。
図18D図18Aの説明を参照のこと。
図19】CAR MUC1-Aが、患者腫瘍細胞の試料に対してより大きい親和性を示すことを明らかにした、MUC1-A、MUC1-C、およびMUC1-DのscFVタンパク質を用いて腫瘍マイクロアレイに対して行ったIHCの結果。
【発明を実施するための形態】
【0045】
発明の詳細な説明
本明細書で特に定義しない限り、本明細書で使用する科学技術用語はすべて、遺伝子治療、生化学、遺伝学、および分子生物学の分野の当業者が一般に理解するのと同じ意味をもつ。
【0046】
本発明を実施または試験するにあたり、本明細書に記載される方法および材料と類似のまたは相当するあらゆる方法および材料が使用できるが、好適な方法および材料は本明細書に記載されている。本明細書で言及しているあらゆる刊行物、特許出願、特許、およびほかの参照物は、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。矛盾がある場合は、定義も含めて本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および諸例は、例示にすぎず、特に断らない限り、限定する意図はない。
【0047】
本発明の実施では、特に断らない限り、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA、および免疫学の従来の技法を使うが、それらは当技術分野の技能範囲である。そのような技法は、文献に十分に説明されている。例えば、Current Protocols in Molecular Biology (Frederick M. AUSUBEL, 2000, Wiley and son Inc, Library of Congress, USA); Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, (Sambrook et al, 2001, Cold Spring Harbor, New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press); Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait ed., 1984); Mullis et al. 米国特許第4,683,195号; Nucleic Acid Hybridization (B. D. Harries & S. J. Higgins eds. 1984); Transcription And Translation (B. D. Hames & S. J. Higgins eds. 1984); Culture Of Animal Cells (R. I. Freshney, Alan R. Liss, Inc., 1987); Immobilized Cells And Enzymes (IRL Press, 1986); B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning (1984);Methods In ENZYMOLOGYのシリーズ(J. Abelson and M. Simon, eds.-in-chief, Academic Press, Inc., New York)、とくにVols.154および155 (Wu et al. eds.)ならびにVol. 185, "Gene Expression Technology" (D. Goeddel, ed.); Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells (J. H. Miller and M. P. Calos eds., 1987, Cold Spring Harbor Laboratory); Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology (Mayer and Walker, eds., Academic Press, London, 1987); Handbook Of Experimental Immunology, Volumes I-IV (D. M. Weir and C. C. Blackwell, eds., 1986);ならびにManipulating the Mouse Embryo, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1986)を参照されたい。
【0048】
本発明は、グリコシル化不十分のMUC1腫瘍抗原、具体的にはこのポリペプチドのポリペプチド配列SEQ ID NO:1にわたる特定のエピトープ領域に対して向けられる養子免疫細胞によって、およびより具体的には、そのような抗原を標的とする際に特に効率が証明されている、改変同種異系CAR免疫細胞を用いることによって、固形腫瘍を治療する、一般的な方法に関する。
【0049】
本明細書には、悪性細胞の表面でグリコシル化不十分である、ヒトMUC1タンパク質(UniprotデータベースにおいてMUCIN-1およびP15941とも呼ばれる)、およびより具体的にはSEQ ID NO:1によって表されるポリペプチド領域に対して向けられる、改変免疫細胞を作製するための方法が記載される。本明細書の実験セクションに示すように、CARを、SEQ ID NO:1を含むかまたはそれからなるこの抗原領域に対して向けることによって、具体的には、SEQ ID NO:17(MUC1-A)、SEQ ID NO:27(MUC1-B)、SEQ ID NO:37(MUC1-C)、またはSEQ ID NO:47(MUC1-D)を含むscFvを含む、結合ドメインの1つを用いることによって、効率的なCAR T細胞を作製した。
【0050】
結果として生じた本発明の改変免疫細胞、一般に、本発明の抗MUC1 CARを持つNK細胞またはT細胞は、他の以前の抗MUC1 CARを備えるそれらの等価物よりも、高い活性化、効力、殺滅活性、サイトカイン放出、およびインビボ持続性を示している。
【0051】
したがって、本発明は、MUC1の配列SEQ ID NO:1に含まれる特定のエピトープを標的とするCARを備える免疫細胞、特に、トリプルネガティブ乳癌腫瘍などの固形腫瘍を治療するために改変された免疫細胞に関する。
【0052】
免疫細胞における発現のための抗MUC1-CARの設計
キメラ抗原受容体(CAR)」とは、単一の融合分子において1つまたは複数のシグナル伝達ドメインと結合している標的指向部分を含む、組換え受容体を意味する。一般に、CARの結合部分は、一本鎖抗体(scFv)の抗原結合ドメインからなり、フレキシブルリンカーによって連結されたモノクローナル抗体の軽鎖可変断片および重鎖可変断片を含む。これらのScFvは、一般に、エピトープ領域との相互作用の特異性に重要な短い不変ポリペプチド配列である、相補性決定領域CDRを特徴とする。受容体またはリガンドドメインに基づく結合部分もまた、成功裏に用いられている。CARのシグナル伝達ドメインは、一般に、CD3ゼータまたはFc受容体ガンマ鎖の細胞質領域に由来し、それらは一般に、細胞の生存を強化し、かつ増殖を増大させるために、CD28、OX-40(CD134)、ICOS、および4-1BB(CD137)を含む共刺激分子由来のシグナル伝達ドメインと組み合わされる。CARは、一般に、エフェクター免疫細胞中で発現されて、それらの免疫活性を、リンパ腫および固形腫瘍を含む様々な悪性腫瘍由来の腫瘍細胞の表面に発現する抗原に対して向け直す。CARの一構成要素は、細胞中に導入される外来性ポリヌクレオチド配列によってコードされる、CARの任意の機能的サブユニットである。例えば、この構成要素は、標的抗原との相互作用、細胞中でのCARの安定性または局在化に役立ち得る。
【0053】
一般に、そのようなCARは、
・モノクローナル抗MUC1抗体由来のVHおよびVLを含む、細胞外リガンド結合ドメイン;
・膜貫通ドメイン;ならびに
・シグナル伝達ドメイン、好ましくは、CD3ゼータシグナル伝達ドメインを含む細胞質ドメイン、および共刺激ドメイン
を含む。
【0054】
好ましい局面では、本発明の抗MUC1キメラ抗原受容体(CAR)は、それぞれMUC1-A ScFv(SEQ ID NO:17)、MUC1-B(SEQ ID NO:27)、MUC1-C(SEQ ID NO:37)、および/またはMUC1-D(SEQ ID NO:47)と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するScFvを含む、細胞外リガンド結合ドメインを有する。
【0055】
前記ScFvは、特異的CDRを含む可変軽(VL)鎖および可変重(VH)鎖を特徴とし、したがって、本発明の抗MUC1 CARの細胞外リガンド結合ドメインは、第1の例として、
・SEQ ID NO:11(CDR-VL1-A)、SEQ ID NO:12(CDR-VL2-A)、およびSEQ ID NO:13(CDR-VL3-A)と少なくとも90%の同一性の可変軽(VL)、ならびに
・SEQ ID NO:14(CDR-VH1-A)、SEQ ID NO:15(CDR-VH2-A)、およびSEQ ID NO:16(CDR-VH3-A)とそれぞれ少なくとも90%の同一性を有するCDRを含む、可変重(VH)鎖
を含むことができ、
前記細胞外リガンド結合ドメインは、好ましくは、それぞれSEQ ID NO:9(MUC1-AフルVH)およびSEQ ID NO:10(MUC1-AフルVL)と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するVH鎖およびVL鎖を含む。
【0056】
第2の例として、前記ScFvは、
・SEQ ID NO:21(CDR-VL1-B)、SEQ ID NO:22(CDR-VL2-B)、およびSEQ ID NO:23(CDR-VL3-B)とそれぞれ少なくとも90%の同一性を有するCDRを含む、可変軽(VL)鎖、ならびに
・SEQ ID NO:24(CDR-VH1-B)、SEQ ID NO:25(CDR-VH2-B)、およびSEQ ID NO:26(CDR-VH3-B)とそれぞれ少なくとも90%の同一性を有するCDRを含む、可変重(VH)鎖
を含むことができ、
前記細胞外リガンド結合ドメインは、それぞれSEQ ID NO:19(MUC1-BフルVH)およびSEQ ID NO:20(MUC1-BフルVL)と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するVH鎖およびVL鎖を含む。
【0057】
第3の例として、前記ScFvは、
・SEQ ID NO:31(CDR-VL1-C)、SEQ ID NO:32(CDR-VL2-C)、およびSEQ ID NO:33(CDR-VL3-C)とそれぞれ少なくとも90%の同一性を有するCDRを含む、可変軽(VL)鎖、ならびに
・SEQ ID NO:34(CDR-VH1-C)、SEQ ID NO:35(CDR-VH2-C)、およびSEQ ID NO:36(CDR-VH3-C)とそれぞれ少なくとも90%の同一性を有するCDRを含む、可変重(VH)鎖
を含むことができ、
前記細胞外リガンド結合ドメインは、それぞれSEQ ID NO:29(MUC1-CフルVH)およびSEQ ID NO:30(MUC1-CフルVL)と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するVH鎖およびVL鎖を含む。
【0058】
第4の例として、前記ScFvは、
・SEQ ID NO:41(CDR-VL1-D)、SEQ ID NO:42(CDR-VL2-D)、およびSEQ ID NO:43(CDR-VL3-D)とそれぞれ少なくとも90%の同一性を有するCDRを含む、可変軽(VL)鎖、ならびに
・SEQ ID NO:44(CDR-VH1-D)、SEQ ID NO:45(CDR-VH2-D)、およびSEQ ID NO:46(CDR-VH3-D)とそれぞれ少なくとも90%の同一性を有するCDRを含む、可変重(VH)鎖
を含むことができ、
前記細胞外リガンド結合ドメインは、それぞれSEQ ID NO:39(MUC1-DフルVH)およびSEQ ID NO:40(MUC1-DフルVL)と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するVH鎖およびVL鎖を含む。
【0059】
一般に、結合ドメインのフレームワーク領域中の残基を、抗原結合を改良するか、またはこれらの領域をヒト化するために、置換することができる。これらのフレームワーク置換は、当技術分野で周知の方法によって、例えば、抗原結合に重要なフレームワーク酸基を特定するためのCDRとフレームワーク残基との相互作用のモデリング、および特定の位置の普通ではないフレームワーク残基を特定するための配列比較によって、特定される[例えば、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる、Queen et al., 米国特許第5,585,089号;およびRiechmann et al., (1988) Nature, 332:323を参照されたい]。
【0060】
いくつかの態様では、上記の抗MUC1 CAR構築物中のVH鎖およびVL鎖を、それらのヒト化バージョンによって置き換えることができる。例えば、MUC1-A CARの好ましい態様として、VHは、本明細書の表3に提供される、それぞれSEQ ID NO:228~234(SEQ ID NO:9によって表されるMUC1フルVHのヒト化バリアント)から選択される1つであることができ、VLは、SEQ ID NO:235~239(SEQ ID NO:10によって表されるMUC1フルVHのヒト化バリアント)から選択することができる。
【0061】
本発明の様々な態様は、当業者の通常の実施および知識に鑑み、特許請求の範囲に提供される特徴を通して提供される。本発明のCARの詳細な配列を、表2、表3、表4、表5、表6、および表7に詳述し、ここで、各々の行または列は、本発明の独立した態様とみなされるべきである。
【0062】
(表2)本発明の抗MUC1 CARを構成する、scFv以外の様々なドメインのアミノ酸配列
【0063】
(表3)CLS MUC1-A CAR中に含まれるポリペプチド配列
【0064】
(表3)(続き)MUC1-A CAR中に任意で含まれるヒト化ポリペプチド配列
【0065】
(表4)CLS MUC1-B CAR中に含まれるポリペプチド配列
【0066】
(表5)CLS MUC1-C CAR中に含まれるポリペプチド配列
【0067】
(表6)CLS MUC1-D CAR中に含まれるポリペプチド配列
【0068】
(表7)MUC1-A、MUC1-B、MUC1-C、およびMUC1-D CARのポリペプチド構造
【0069】
本発明のCARのシグナル伝達ドメインまたは細胞内シグナル伝達ドメインは、細胞外リガンド結合ドメインが標的に結合した後の細胞内シグナル伝達を担い、その結果として免疫細胞および免疫応答が活性化する。換言すると、シグナル伝達ドメインは、CARが発現する免疫細胞の正常エフェクター機能の少なくとも1つの活性化を担う。例えば、T細胞のエフェクター機能は、サイトカインの分泌を含め、細胞溶解活性またはヘルパー活性であり得る。したがって、「シグナル伝達ドメイン」という用語は、エフェクターシグナル機能シグナルを伝達して細胞に特別な機能を実行させる、タンパク質の一部分を指す。
【0070】
CARに使用されるシグナル伝達ドメインの好ましい例は、T細胞受容体の、および抗原受容体に結合した後で協調作用してシグナル伝達を開始させる補助受容体の、細胞質配列、ならびにこれらの配列の任意の誘導体(derivate)またはバリアント、ならびに同じ機能的能力のある任意の合成配列であり得る。シグナル伝達ドメインは、2つの別個のクラスの細胞質シグナル伝達配列を含み、それらは抗原依存性一次活性化を開始させる配列、および抗原に依存せず作用して二次または共刺激シグナルを提供する配列である。一次細胞質シグナル伝達配列は、免疫受容活性化チロシンモチーフまたは(of)ITAMとして知られるシグナル伝達モチーフを含み得る。ITAMは、syk/zap70クラスのチロシンキナーゼのための結合サイトとなる様々な受容体の細胞質内尾部に見られるシグナル伝達モチーフであり、十分に定義されている。本発明で使用されるITAMの例としては、非現定例として、TCRゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、FcRイプシロン、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79b、およびCD66dに由来するものを挙げることができる。好ましい態様では、CARのシグナル伝達ドメインは、CD3ゼータシグナル伝達ドメインを含み得、それは(SEQ ID NO:7)からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。
【0071】
特定の態様では、本発明のCARのシグナル伝達ドメインは、共刺激シグナル分子を含む。共刺激分子は、高効率の免疫応答に必要な、抗原受容体ではない細胞表面分子またはそれらのリガンドである。「共刺激リガンド」とは、抗原呈示細胞上の分子を指し、それはT細胞上の同族共刺激分子に特異的に結合し、そうすることによって、例えばTCR/CD3複合体とペプチド負荷MHC分子との結合によりもたらされる一次シグナルに加えて、T細胞応答、例えば限定ではないが増殖活性化および分化等を媒介するシグナルをもたらす。共刺激リガンドとしては、限定ではないが、CD7、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、PD-L1、PD-L2、4-1BBL、OX40L、誘導共刺激リガンド(ICOS-L)、細胞内接着分子(ICAM、CD30L、CD40、CD70、CD83、HLA-G、MICA、M1CB、HVEM、リンホトキシンベータ受容体、3/TR6、ILT3、ILT4、Tollリガンド受容体に結合するアゴニストまたは抗体、およびB7-H3と特異的に結合するリガンドを挙げることができる。共刺激リガンドはまた、とりわけ、T細胞上に存在する共刺激分子と特異的に結合する抗体、たとえば限定ではないが、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LTGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に結合するリガンドを包含する。
【0072】
好ましい態様では、本発明のCARのシグナル伝達ドメインは、4-1BB(GenBank: AAA53133.)およびCD28(NP_006130.1)の断片からなる群より選択される共刺激シグナル分子の一部を含む。具体的には、本発明のCARのシグナル伝達ドメインは、4-1BBまたはCD28と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、または99%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む。したがって、本発明の抗MUC1キメラ抗原受容体は、好ましくは、SEQ ID NO:7と少なくとも80%の同一性を有するCD3ゼータシグナル伝達ドメインを含み、かつSEQ ID NO:6(4-1BB)と少なくとも80%の同一性を有する共刺激ドメインを一般に含む。
【0073】
本発明のCARは、一般に、細胞の膜表面に発現する。したがって、そのようなCARは、膜貫通ドメインをさらに含む。適切な膜貫通ドメインの区別的な特徴は、細胞、好ましくは本発明では免疫細胞、具体的にはリンパ球細胞またはナチュラルキラー(NK)細胞の表面に発現して、共に相互作用して該免疫細胞の細胞応答を所定の標的細胞に向けさせる能力を含む。膜貫通ドメインは、天然ソースにも合成ソースにも由来し得る。膜貫通ドメインは、あらゆる膜結合または膜貫通タンパク質に由来し得る。非現定例として、膜貫通ポリペプチドは、α、β、γもしくはζなどのT細胞受容体のサブユニット、CD3複合体を構成するポリペプチド、IL2受容体p55(α鎖)、p75(β鎖)、もしくはγ鎖、Fc受容体のサブユニット鎖、具体的にはFcγ受容体III、またはCDタンパク質であり得る。あるいは、膜貫通ドメインは合成であり得、ロイシンおよびバリンなどの疎水性残基を主として含み得る。好ましい態様では、前記膜貫通ドメインは、ヒトCD8アルファ鎖(例えばNP_001139345.1)に由来する。膜貫通ドメインは、前記細胞外リガンド結合ドメインと前記膜貫通ドメインとの間にヒンジ領域をさらに含み得る。本明細書で用いられる「ヒンジ領域」という用語は、膜貫通ドメインを細胞外リガンド結合ドメインに連結するよう機能する任意のオリゴペプチドまたはポリペプチドを広く意味する。具体的には、ヒンジ領域は、細胞外リガンド結合ドメインにさらなるフレキシビリティおよびアクセシビリティを与えるために用いられる。ヒンジ領域は、最大300のアミノ酸、好ましくは10~100アミノ酸、最も好ましくは25~50アミノ酸を含み得る。ヒンジ領域は、CD8、CD4、またはCD28の細胞外領域の全部または一部など、天然分子の全部または一部に由来してもよく、あるいは抗体定常領域の全部または一部に由来してもよい。あるいは、ヒンジ領域は、天然ヒンジ配列に対応する合成配列であってもよく、またはまったくの合成ヒンジ配列であってもよい。好ましい態様では、前記ヒンジドメインは、ヒトCD8アルファ鎖、FcγRIIIα受容体、もしくはIgG1それぞれの一部、またはこれらのポリペプチドと好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、もしくは99%の配列同一性を示すヒンジポリペプチドを含む。
【0074】
したがって、本発明のキメラ抗原受容体(CAR)は、細胞外リガンド結合ドメインと膜貫通ドメインとの間にヒンジを含み、前記ヒンジは一般に、CD8αヒンジ、IgG1ヒンジ、およびFcγRIIIαヒンジ、またはこれらのポリペプチドと、特にはSEQ ID NO:4(CD8α)と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するポリペプチドから選択される。
【0075】
本発明のCARは一般に、好ましくはCD8αおよび4-1BBから、より好ましくはCD8α-TMまたはSEQ ID NO:5(CD8α TM)と少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%もしくは99%の配列同一性を示すポリペプチドから選択される、膜貫通ドメイン(TM)をさらに含む。
【0076】
さらなる態様では、本発明の抗MUC1 CARは、改変免疫細胞を分別する、精製する、かつ/または除去するのに便利なセーフティ・スイッチを含む。本発明の方法はエクスビボで実施されるよう設計されるが、除去はインビボで実施して、免疫細胞が患者体内で増殖するのを制御することができ、かつ規制当局によりヒトへの治療用途が承認されている抗体を用いることにより、潜在的に治療の効果を停止することができる。本発明のCARの細胞外結合ドメインに組み込まれ得るmAb特異性エピトープ(およびそれらの対応するmAb)の例を表8に挙げる。
【0077】
(表8)本発明のCARの細胞外結合ドメインに挿入され得るmAb特異性エピトープ(およびそれらの対応するmAb)の例
【0078】
したがって、本発明の特異的CARは、少なくとも1つの表8に挙げた外来性mAbエピトープを含むセーフティ・スイッチ、好ましくは、リツキシマブが特異的に結合するエピトープCPYSNPSLC(SEQ ID NO:49)を含むセーフティ・スイッチを含むことができる。より好ましくは、そのようなCARは、SEQ ID NO:3と少なくとも90%の同一性を有する、「R2」と呼ばれるセーフティ・スイッチを含む。
【0079】
本発明の抗MUC1 CARの好ましいポリペプチド構造の構造を、表7に例示する。
【0080】
本発明のCARはまた、改変細胞の表面でのその発現を助けるシグナルペプチドを含むことができる。キメラ抗原受容体(CAR)は、一般に一本鎖ポリペプチドを形成するが、例えばWO2014039523に記載されるように、多鎖形式で作製されてもよい。
【0081】
したがって、本発明の抗MUC1 CARは、CD8α由来のSEQ ID NO:5と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を共有する膜貫通ドメインを呈することができる。
【0082】
本発明の抗MUC1 CARは、細胞外リガンド結合ドメインと膜貫通ドメインとの間にヒンジをさらに含むことができ、これは、好ましくは、CD8αヒンジ、IgG1ヒンジ、およびFcγRIIIαヒンジから選択される。好ましい態様では、ヒンジは、SEQ ID NO:4(CD8α)とそれぞれ少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を共有する。
【0083】
好ましい態様では、抗MUC1CARは、SEQ ID NO:4に示すアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するCD8αヒンジを、SEQ ID NO:5に示すアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するCD8α膜貫通ドメインと共に含む、ポリペプチド構造を有する。
【0084】
好ましい態様では、本発明の抗MUC1CARは、表8から選択されるエピトープなどの、治療法における使用に適した抗体によって特異的に認識されるポリペプチド配列である、セーフティ・スイッチを含む。例えば、エピトープCPYSNPSLC(SEQ ID NO:49)を含むセーフティ・スイッチには、B細胞を除去する癌治療において一般的に用いられる承認された抗CD20キメラモノクローナル抗体である、リツキシマブ(Rituxan, Hoffmann-La Roche)が特異的に結合することができる。
【0085】
好ましい態様では、本発明の抗MUC1CARは、4-1BBまたはCD28、好ましくは4-1BB由来の共刺激ドメイン、またはSEQ ID NO:6と少なくとも80%の同一性を有する任意の機能的類似ドメインを含む。
【0086】
好ましい態様では、本発明の抗MUC1CARは、SEQ ID NO:7と少なくとも80%の同一性を有するCD3ゼータシグナル伝達ドメインを含む。それはまた、細胞表面でより良好にアドレスされるようにシグナルペプチドを含むことができる。
【0087】
実施例および表2~8に例示するように、本発明の好ましいCARは、SEQ ID NO:18(CLS MUC1-A)、SEQ ID NO:28(CLS MUC1-B)、SEQ ID NO:38(CLS MUC1-C)、およびSEQ ID NO:48(CLS MUC1-D)とそれぞれ少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の全体的なアミノ酸配列同一性を有する、抗MUC1 CARである。1つの好ましい抗MUC1-CARは、SEQ ID NO:18によって表されるCLS MUC1-Aである。
【0088】
より一般的には、本発明のCARは、CARポリペプチドの連続する断片をコードする種々のポリヌクレオチド配列をベクター内で組み立てて免疫細胞に遺伝子導入して発現させることにより生産され、それは、当技術分野で記載されるか、また例えば[Boyiadzis, M.M., et al. (2018) Chimeric antigen receptor (CAR) T therapies for the treatment of hematologic malignancies: clinical perspective and significance. j. immunotherapy cancer 6, 137]に概説されるとおりである。
【0089】
本発明は、ポリヌクレオチドおよびベクター、ならびに本明細書で言及する免疫細胞の製造プロセスの任意の工程に介在する任意の中間産物に関する。
【0090】
「ベクター」とは、自体に連結されている別の核酸を輸送する能力のある核酸分子を意味する。本発明における「ベクター」としては、限定ではないが、ウイルスベクター、プラスミド、RNAベクター、または染色体、非染色体、半合成、もしくは合成核酸からなり得る線状もしくは環状DNAもしくはRNA分子が挙げられる。好ましいベクターは、自己複製能のあるベクター(エピソームベクター)、および/または自体に連結されている核酸を発現させる能力のあるベクター(発現ベクター)である。多数の好適なベクターが当業者には公知であり、市販されている。ウイルスベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス(例えばアデノ随伴ウイルス(AAV)、コロナウイルス、マイナス鎖RNAウイルス、例えばオルソミクソウイルス(例えばインフルエンザウイルス)、ラブドウイルス(例えば狂犬病および水疱性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば麻疹およびセンダイ)、プラス鎖RNAウイルス、例えばピコルナウイルスおよびアルファウイルス、ならびに二本鎖DNAウイルス、例えばアデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば単純ヘルペスウイルス1および2型、エプスタイン・バーウイルス、サイトメガロウイルス)、およびポックスウイルス(例えばワクシニア、鶏痘、およびカナリアポックスウイルス)が挙げられる。ほかのウイルスとしては、例えばノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パポーバウイルス、ヘパドナウイルス、および肝炎ウイルスが挙げられる。レトロウイルスの例としては、トリ白血病肉腫ウイルス、哺乳類C型、B型ウイルス、D型ウイルス、HTLV-BLV群、レンチウイルス、スプーマウイルスが挙げられる(Coffin, J. M., Retroviridae: The viruses and their replication, In Fundamental Virology, Third Edition, B. N. Fields, et al., Eds., Lippincott-Raven Publishers, Philadelphia, 1996)。
【0091】
具体的には、本発明は、とりわけ、CAR、IL-12、dnTGFβR、HLA-Eまたは任意の他の有用な導入遺伝子をコードする本明細書に記載される外来性ポリヌクレオチド配列を含む非組み込みのレンチウイルスベクター(IDLV)またはAAVベクターの形態のベクターを、遺伝子標的化組み込みを実施するためのドナーポリヌクレオチド鋳型として使用するために提供する。
【0092】
そのようなレンチウイルスベクターは、(脾フォーカス形成ウイルスプロモーター(SFFV)などの)プロモーターに機能的に連結された本発明のCARをコードするポリヌクレオチド配列を含み得る。「機能的に連結される」とは、記載の構成要素同士が、所期のように機能できるような関係で並置されることを意味する。(CARをコードするポリヌクレオチド配列などの)遺伝子があるプロモーターに「機能的に連結され」、その転写が前記プロモーターの制御下にある場合、この転写の結果として前記遺伝子にコードされる産物が生じる。
【0093】
本発明のレンチウイルスベクターは、典型的には5'および3'末端反復配列(LTR)などの制御要素を含むが、もとはレンチウイルスに由来するほかの構造的および機能的遺伝子要素も含み得る。そのような構造的および機能的遺伝子要素は、当技術分野では周知である。レンチウイルスベクターは、例えば、遺伝子gag、pol、およびenvを含んでいてもよい。しかし好ましくは、本発明のレンチウイルスベクターは、遺伝子gag、pol、およびenvを含まない。さらなる制御要素として、レンチウイルスベクターは、1つまたは複数(2つ以上など)のパッケージングシグナル(パッケージングシグナルψなど)、プライマー結合部位、トランス活性化応答領域(TAR)、およびrev応答領域(RRE)を含み得る。
【0094】
典型的にはレンチウイルスゲノムの両側にある5'末端反復配列(LTR)と3'末端反復配列(LTR)とは、プロモーター/エンハンサー活性を有し、全長レンチウイルスベクター転写物の正しい発現に不可欠である。LTRは普通、二本鎖DNA分子の5’末端および3’末端の両方に存在する反復配列U3RU5を含み、それは一本鎖RNAの5’R-U5セグメントと3’U3-Rセグメントとの組み合わせであり、ここで反復RはRNAの両端で生じるが、U5(ユニーク配列5)はRNAの5'末端でのみ生じ、U3(ユニーク配列3)はRNAの3'末端でのみ生じる。レンチウイルスベクターは、U3配列の除去により安全性が改良され得、その結果として、もともとLTRに存在していたウイルスプロモーターおよびエンハンサー配列が完全に無くなった「自己活性化」ベクターとなり得る。したがって、ベクターは、宿主ゲノムに感染し、それから組み込まれることが、一度限りはできるが、それ以上は継承されないので、ベクターを遺伝子送達ベクターとして使用する安全性が高まる。
【0095】
いくつかの態様では、レンチウイルスベクターは、自己不活化(SIN)レンチウイルスベクターである。特定の態様では、レンチウイルスベクターは3’LTRを含み、ここで該3'LTRエンハンサー-プロモーター配列(すなわちU3配列)は修飾されている(例えば欠失している)。
【0096】
いくつかの態様では、レンチウイルスベクターは、5’から3’へという順で以下の要素:
・5’末端反復配列(5’LTR);
・プロモーター(例えばEF1-アルファプロモーター);
・本発明のキメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチド配列;および/または
・3’末端反復配列(3’LTR)、好ましくは3’自己不活化LTR
の1つまたはいくつかを含むポリヌクレオチド配列を含む。
【0097】
特定の態様では、レンチウイルスベクターは、5’から3’へという順で以下の要素:
・5’末端反復配列(5’LTR);
・プロモーター(例えばEF1-アルファプロモーター);
・R2などのセーフティ・スイッチ含んでいてもよい本発明のCAR、
・2Aペプチドをコードするポリヌクレオチド配列;
・CARと同時発現させる1つのまたは任意のさらなるポリペプチド、例えばdnTGFβRをコードするポリヌクレオチド配列;
;および/または
・3’末端反復配列(3’LTR)、好ましくは3’自己不活化LTR
を少なくとも1つ含むポリヌクレオチド配列をさらに含み得る。
【0098】
あるいは、レンチウイルスベクターは、5’から3’へという順で以下の要素:
・5’末端反復配列(5’LTR);
・プロモーター(例えばEF1-アルファプロモーター);
・CARと同時発現させる1つのまたは任意のさらなるポリペプチド、例えばdnTGFβRをコードするポリヌクレオチド配列;
・2Aペプチドをコードするポリヌクレオチド配列;
・R2などのセーフティ・スイッチ含んでいてもよい本発明のCAR、
;および/または
・3’末端反復配列(3’LTR)、好ましくは3’自己不活化LTR
を少なくとも1つ含み得る。
【0099】
一般に、得られたベクターは、アイテム(b)のプロモーターに機能的に連結された単一の転写ユニットを形成し、すべてが前記プロモーターの制御下で転写される。
【0100】
AAVベクター、特にAAV6ファミリー由来のベクター[Wang, J., et al. (2015) Homology-driven genome editing in hematopoietic stem and progenitor cells using ZFN mRNA and AAV6 donors. Nat Biotechnol 33, 1256-1263]は、部位特異性相同組換えにより本発明の抗MUC1 CARをゲノムに導入するのに特に便利である。一般に、部位特異性相同組換えは、EP3276000およびWO2018073391で血液の癌を治療するほかのCARに関してすでに教示されているように、TALENなどの低頻度切断エンドヌクレアーゼの発現により免疫細胞内へ誘導される。CAR部位特異性の組み込みは、より安定した組み込み、導入遺伝子を選択した座位で内在性プロモーターの転写制御下に置く組み込み、内在性座位を不活化できる組み込みなど、いくつかのメリットがあり得る。これら後半の局面については、治療用免疫細胞のゲノム工学に関する以下のセクションで詳述する。
【0101】
本発明の1つの目的として、先述のように抗MUC1 CARをコードするポリヌクレオチド配列と、任意選択により、改変免疫細胞の治療効力を改良する産物をコードする第3の配列の同時発現を可能にする、シス制御要素(例えば2Aペプチド切断部位)または配列内リボソーム進入部位(IRES)をコードする別の配列とを含む、AAVベクターが提供される。本明細書ではdnTGFβRIIの過剰発現の例が挙げられ、それはSMAD2-3リン酸化を低減することが判明しており、腫瘍環境においてTGFβに誘導される細胞の疲弊を低減することになる。
【0102】
治療特性」という用語は、そのような細胞を、治療処置における使用の観点から改良できる種々の方策を包含する。このことは、遺伝子工学により、細胞に治療上有利なメリット(すなわち治療効力)を与えること、またはそれらの使用もしくは生産を促進することを意味する。例えば、遺伝子工学は、生存率がよりよい、成長がより早い、細胞周期がより短い、免疫活性が改良されている、より機能的である、より分化が進んでいる、標的細胞に対しより特異的である、薬物に対しより感受性もしくは抵抗性のある、グルコース欠乏、酸素、もしくはアミノ酸欠乏に対しより感受性の高い(すなわち腫瘍微小環境に対しより順応力の高い)エフェクター細胞を生じさせることができる。前駆細胞は、より生産性があり得、レシピエント患者により許容され得、所望のエフェクター細胞に分化する細胞が産生しやすくなり得る。これらの「治療特性」の例は、限定ではない例として記載されるものである。
【0103】
細胞療法のための抗MUC1 CAR免疫細胞のゲノム工学
「免疫細胞」とは、典型的にはCD3またはCD4陽性細胞などの、機能的に自然および/または適応免疫応答の開始に関与する造血由来の細胞を意味する。本発明の免疫細胞は、樹状細胞、キラー樹状細胞、マスト細胞、NK細胞、B細胞、または炎症性Tリンパ球、細胞傷害性Tリンパ球、制御性Tリンパ球、もしくはヘルパーTリンパ球からなる群より選択されるT細胞であり得る。
【0104】
「初代細胞」とは、生体組織から直接採取し(例えば生検材料)、限られた時間だけインビトロで増殖させて、つまり限られた回数だけ個体群が倍増できるようにして、株化させた細胞をいう。初代細胞は、持続的腫瘍原性または人工不死化細胞株の反対である。そのような細胞株の非現定例は、CHO-K1細胞;HEK293細胞;Caco2細胞;U2-OS細胞;NIH 3T3細胞;NSO細胞;SP2細胞;CHO-S細胞;DG44細胞;K-562細胞、U-937細胞;MRC5細胞;IMR90細胞;Jurkat細胞;HepG2細胞;HeLa細胞;HT-1080細胞;HCT-116細胞;Hu-h7細胞;Huvec細胞;Molt4細胞である。
【0105】
初代免疫細胞は、限定ではないが、末梢血単核球(PBMC)、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、炎症部位由来の組織、腹水、胸水、脾臓組織などのいくつかのソースから、および腫瘍浸潤リンパ球などは腫瘍から、得ることができる。いくつかの態様では、前記免疫細胞は、健常ドナー、癌と診断された患者、または感染症と診断された患者に由来し得る。別の態様では、前記細胞は、CD4、CD8、およびCD56陽性細胞などを含む、異なる表現型特徴を示す免疫細胞の混合集団の一部である。初代免疫細胞は、当技術分野では公知の様々な方法、例えばSchwartz J.et al. (Guidelines on the use of therapeutic apheresis in clinical practice-evidence-based approach from the Writing Committee of the American Society for Apheresis: the sixth special issue (2013) J Clin Apher. 28(3):145-284)が概説しているような白血球除去により、ドナーまたは患者から提供される。
【0106】
幹細胞由来の免疫細胞、具体的には人工多能性幹細胞(iPS)[Yamanaka, K. et al. (2008). "Generation of Mouse Induced Pluripotent Stem Cells Without Viral Vectors". Science. 322 (5903): 949-53]由来の免疫細胞も、本発明の初代免疫細胞とみなされる。リプログラミング因子のレンチウイルス発現が、ヒト末梢血細胞から多能性細胞を誘導するのに用いられている[Staerk, J. et al. (2010). "Reprogramming of human peripheral blood cells to induced pluripotent stem cells". Cell stem cell. 7 (1): 20-4] [Loh, YH. et al. (2010). "Reprogramming of T cells from human peripheral blood". Cell stem cell. 7 (1): 15-9]。
【0107】
本発明の好ましい態様では、免疫細胞は、当技術分野では周知の、ヒト胎児を破壊しない技法により、ヒト胚性幹細胞から誘導される[Chung et al. (2008) Human Embryonic Stem Cell lines generated without embryo destruction, Cell Stem Cell 2(2):113-117]。
【0108】
「遺伝子工学」とは、細胞に遺伝子材料を導入する、それを改変する、かつ/または細胞からそれを抜き取ることを目的とする、任意の方法を意味する。「遺伝子編集」とは、点(punctual)変異を含め、ゲノム内の特定の場所(座位)の遺伝子材料の付加、除去、または改変を可能にする遺伝子工学を意味する。遺伝子編集は一般に、配列特異性試薬を伴う。
【0109】
「配列特異性試薬」とは、あるゲノム座位の発現の改変に鑑み、前記ゲノム座位における一般には少なくとも9bp、より好ましくは少なくとも10bp、さらに好ましくは少なくとも12pbの長さの「標的配列」と呼ばれる選択されたポリヌクレオチド配列を特異的に認識する能力を有する任意の活性分子を意味する。前記発現は、コードもしくは制御性ポリヌクレオチド配列における変異、欠失、もしくは挿入により、メチル化もしくはヒストン修飾などによるエピジェネティック変化により、または転写因子もしくはポリメラーゼとの相互作用による転写レベルの干渉により、改変することができる。
【0110】
配列特異性試薬の例は、エンドヌクレアーゼ、RNAガイド、RNAi、メチラーゼ、エキソヌクレアーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、エンドヌクレアーゼ、末端プロセシング酵素、たとえばエキソヌクレアーゼ、デアミナーゼ、より具体的にはシチジンデアミナーゼ、例えばCRISPR/cas9システムまたはTALEシステムと結合して塩基編集(すなわちヌクレオチド置換)を、ただし例えばHess, G.T. et al.[Methods and applications of CRISPR-mediated base editing in eukaryotic genomes (2017) Mol Cell. 68(1): 26-43]またはMok et al.[A bacterial cytidine deaminase toxin enables CRISPR-free mitochondrial base editing (2020) Nature 583:631-637]に記載されるように必ずしもヌクレアーゼによる切断に頼ることなく、実施するものである。
【0111】
本発明の好ましい局面では、前記配列特異性試薬は、配列特異性ヌクレアーゼ試薬、たとえば誘導されるエンドヌクレアーゼと結合したRNAガイドである。
【0112】
本発明は、遺伝子編集法、特に標的遺伝子組込みにより、免疫細胞の治療可能性を改良することを目的とする。
【0113】
「標的遺伝子組込み」とは、生細胞にゲノムコード配列を挿入する、それと置き換えるかまたはそれで修正することを可能にする、任意の公知の部位特異的方法を意味する。
【0114】
本発明の好ましい局面では、前記標的遺伝子組込みは、標的遺伝子の座位における相同遺伝子組換えにより、少なくとも1つの外来性ヌクレオチド、好ましくはいくつかのヌクレオチドの配列(すなわちポリヌクレオチド)、より好ましくはコード配列の挿入または置換をもたらすことを含む。
【0115】
「DNA標的」、「DNA標的配列」、「標的DNA配列」、「核酸標的配列」、「標的配列」、または「プロセシング部位」とは、本発明の配列特異性ヌクレアーゼ試薬により標的化かつプロセシングされ得るポリヌクレオチド配列を意図する。これらの用語は、細胞内の特定のDNA内位置、好ましくはゲノム内位置を指すが、遺伝子材料の本体とは独立して存在し得る遺伝子材料の一部分、例えば非現定例として、プラスミド、エピソーム、ウイルス、トランスポゾン、またはミトコンドリアなどのオルガネラの一部分も指す。RNA誘導標的配列の非現定例としては、RNA誘導エンドヌクレアーゼを所望の座位へ導くガイドRNAとハイブリダイズできるようなゲノム配列がある。
【0116】
「低頻度切断エンドヌクレアーゼ」は、それらの認識配列が概ね10~50の連続塩基対、好ましくは12~30bp、より好ましくは14~20bpの範囲である限り、自由選択の配列特異性エンドヌクレアーゼ試薬である。
【0117】
本発明の好ましい局面では、前記エンドヌクレアーゼ試薬は、例えばArnould S., et al.[WO2004067736]に記載されているようなホーミングエンドヌクレアーゼ、例えばUrnov F., et al.[Highly efficient endogenous human gene correction using designed zinc-finger nucleases (2005) Nature 435:646-651]に記載されているようなジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、例えばMussolino et al. [A novel TALE nuclease scaffold enables high genome editing activity in combination with low toxicity (2011) Nucl. Acids Res. 39(21):9283-9293]に記載されているようなTALEヌクレアーゼ、または例えばBoissel et al. [MegaTALs: a rare-cleaving nuclease architecture for therapeutic genome engineering (2013) Nucleic Acids Research 42(4):2591-2601]に記載されているようなMegaTALヌクレアーゼなどの、「改変」または「プログラム可能」低頻度切断エンドヌクレアーゼをコードする、核酸である。
【0118】
別の態様では、エンドヌクレアーゼ試薬は、とりわけDoudna, J., and Chapentier, E., [The new frontier of genome engineering with CRISPR-Cas9 (2014) Science 346 (6213):1077](参照により本明細書に組み入れられる)の教示によるCas9またはCpf1などのRNA誘導エンドヌクレアーゼといっしょに用いられる、RNAガイドである。
【0119】
本発明の好ましい局面では、エンドヌクレアーゼ試薬を細胞内で一時的に発現させ、つまり前記試薬は、RNA、より具体的にはmRNA、タンパク質、またはタンパク質と核酸との混合複合体(例えばリボヌクレオタンパク質)などの場合のように、ゲノムに組み込まれたり、または長期にわたり存続したりするものではない。
【0120】
mRNA形態のエンドヌクレアーゼは、安定性を強化するために、例えばKore A.L., et al. [Locked nucleic acid (LNA)-modified dinucleotide mRNA cap analogue: synthesis, enzymatic incorporation, and utilization (2009) J Am Chem Soc. 131(18):6364-5]に記載されているような当技術分野では周知の技法により、キャップを有するように合成されるのが好ましい。
【0121】
一般に、PBMCなどの初代免疫細胞に遺伝子導入するのに用いられる電気穿孔の工程は、典型的には、参照により本明細書に組み入れられるWO2004083379(特に23ページ25行目から29ページ11行目)に記載のように、平行平板電極を含む閉チャンバで実施され、前記平行平板電極間に100ボルト/cmよりも大きく5000ボルト/cmよりも小さい、処理体積を通して実質的に均一なパルス電場が生じる。そのような電気穿孔チャンバの一つは、好ましくは、電極間隙を二乗した商(cm2)をチャンバ容積(cm3)で割ることにより定められる形態係数(cm-1)を有し、この形態係数は0.1 cm-1以下であり、ここで細胞と配列特異性試薬との懸濁液は、0.01~1.0ミリジーメンスの範囲の導電性を有するよう調節された培地中にある。一般に、細胞懸濁液は1つまたは複数のパルス電場をかけられる。この方法では、懸濁液の処理体積はスケーラブルであり、かつチャンバ内での細胞処理時間は実質的に均一である。
【0122】
例えばMussolino et al. [TALENfacilitate targeted genome editing in human cells with high specificity and low cytotoxicity (2014) Nucl. Acids Res. 42(10): 6762-6773]に報告されているように、TALEヌクレアーゼまたはTALE塩基エディターは、特異性が比較的高いため、特にヘテロ二量体の形態で、すなわち「右」(「5’」または「フォワード」とも呼ばれる)モノマーと「左」(「3’」または「リバース」とも呼ばれる)モノマーとのペアで作用する場合に、治療用途のための特に適切な配列特異性ヌクレアーゼ試薬であることが証明されている。
【0123】
前述したように、配列特異性試薬は、好ましくは核酸の形態で、例えば低頻度切断エンドヌクレアーゼ、そのサブユニットをコードする、DNAまたはRNAの形態であるが、いわゆる「リボヌクレオタンパク質」などのポリヌクレオチドおよびポリペプチドを含む結合体の一部であってもよい。そのような結合体は、試薬とともに、それぞれZetsche, B. et al. [Cpf1 Is a Single RNA-Guided Endonuclease of a Class 2 CRISPR-Cas System (2015) Cell 163(3): 759-771]およびGao F. et al. [DNA-guided genome editing using the Natronobacterium gregoryi Argonaute (2016) Nature Biotech]に記載されているようなCas9またはCpf1(RNA誘導エンドヌクレアーゼ)などとして形成され得、これらはそれぞれのヌクレアーゼと複合体化され得るRNAまたはDNAガイドを含む。
【0124】
「外来性配列」は、選択された座位に当初は存在していなかった任意のヌクレオチドまたは核酸配列を指す。この配列は、ゲノム配列と相同であるかもしくはその複製であり得、または細胞に導入される外来配列であり得る。その反対の「内在性配列」とは、座位に初めから存在する細胞のゲノム配列を指す。外来性配列は、好ましくは、発現すると該外来性配列が座位に組み込まれていない姉妹細胞に比べて治療上の利点を与えるポリペプチドをコードする。異なるポリペプチドを発現させるために、本発明の方法にしたがいヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの挿入により遺伝子編集された内在性配列を、広く外来性コード配列と呼ぶ。
【0125】
上記の試薬および技法を用いることにより、また、実験セクションに詳述するように、本発明では、
・ドナーまたは患者由来の免疫細胞、好ましくは初代細胞を、準備する工程;
・そのような細胞内で、前述のようにして抗MUC1 CARを、一般には抗MUC1 CARコード配列をウイルスベクターを介して細胞のゲノムに導入することにより、発現させる工程;
・内在性遺伝子座位における改変(変異またはコード配列挿入)を誘導するために、そのような免疫細胞に配列特異性試薬、例えば低頻度切断エンドヌクレアーゼまたは塩基エディターを導入する工程;および/または
・前記細胞の治療効力、具体的にはその免疫特性を改良するために、前記細胞に外来性コード配列を導入する工程
の1つまたはいくつか実行することにより、治療用細胞を生産する方法を展開することになる。
【0126】
本発明のいくつかの局面では、免疫細胞は患者または適合ドナーに由来し、改変されたCAR陽性免疫細胞のいわゆる「自家」注入の実施に鑑み、該細胞内で抗MUC1 CARを発現させる。免疫細胞はまた、そのような患者もしくは適合ドナーに由来するiPS細胞などの幹細胞に、または腫瘍浸潤リンパ球(TILL)に由来してもよい。
【0127】
本発明のいくつかの局面では、方法は、免疫細胞の「既製の」組成物を提供することを目的とし、前記免疫細胞は、同種異系治療処置用に改変されている。
【0128】
「同種異系」とは、細胞がドナーに由来することを意味する。それらをアフェレーシスにより直接採取することができ、または幹細胞から生産もしくは分化させることができる。同種異系の設定に使用されるということは、異なるハプロタイプを有する患者に改変細胞が注入されることを意味する。
【0129】
そのような免疫細胞は一般に、患者宿主に関して、同種異系反応しにくいよう、かつ/またはより存続性となるよう改変される。より具体的には、方法は、T細胞内またはT細胞に誘導される幹細胞内の、TCRの発現を低減するかまたは不活化する工程を含む。このことは、種々の配列特異性試薬により、例えば遺伝子サイレンシングまたは遺伝子編集法(ヌクレアーゼ、塩基編集、RNAi等)により、得られ得る。
【0130】
出願人は以前、特にTALEヌクレアーゼ(TALEN(登録商標))の形態の非常に安全かつ特異的なエンドヌクレアーゼ試薬を提供することにより、同種異系治療グレードのT細胞をPBMCから生産するロバストなプロトコルおよび遺伝子編集の戦略を利用可能にした。ドナー由来の[TCR]neg T細胞である、いわゆる「ユニバーサルT細胞」の生産が達成され、成功裏に患者に注射され、移植片対宿主病(GVhD)も軽かった[Poirot et al. (2015) Multiplex Genome-Edited T-cell Manufacturing Platform for “Off-the-Shelf” Adoptive T-cell Immunotherapies. Cancer. Res. 75 (18): 3853-3864] [Qasim, W. et al. (2017) Molecular remission of infant B-ALL after infusion of universal TALEN gene-edited CAR T cells. Science Translational 9(374)]。
【0131】
好ましい態様では、本発明は、免疫細胞を改変する方法を提供し、前記免疫細胞において、好ましくは低頻度切断エンドヌクレアーゼの発現により、TCRアルファまたはTCRベータをコードする少なくとも1つの遺伝子を不活化するが、前述したように、抗MUC1 CARをコードする外来性ポリヌクレオチドが、安定発現のために前記細胞のゲノムに導入される。前記外来性配列は、TCRアルファまたはTCRベータをコードする前記座位に、より好ましくはTCRアルファまたはTCRベータの内在性プロモーターの転写制御下で、組み込まれ得る。
【0132】
さらなる態様では、改変免疫細胞は、例えば抗CD52抗体(例えばアレムツズマブ)の標的のCD52を不活化することにより、少なくとも1つの免疫抑制剤に対する抵抗性を与えるためにさらに改変され得、それは例えばWO2013176915に血液癌の治療に関して記載されている。
【0133】
今のところ抗CD52リンパ球除去剤の使用は液体腫瘍癌に限られているが[Quasim W. et al. (2019) Allogeneic CAR T cell therapies for leukemia Am J Hematol. 94:S50-S54.]、本発明の一つの主要な局面は、固形腫瘍の治療用のリンパ球除去レジメンに対し抵抗性とされた遺伝子改変リンパ球の使用である。
【0134】
本発明はまた、固形腫瘍に、特にMUC1陽性細胞に対して向けられているキメラ抗原受容体を備える改変リンパ球を提供し、それらはリンパ球除去治療工程と併用で、またはその後に、固形腫瘍の癌治療に用いられる。
【0135】
そのようなリンパ球除去レジメンは、抗CD52試薬、例えば血液癌の治療に用いられるアレムツズマブまたはプリンアナログを含み得る。
【0136】
好ましい態様では、本明細書に記載される抗MUC1 CARを備える改変リンパ球は、例えばアレムツズマブの場合は抗原CD52のような、リンパ球除去試薬が標的とする分子の発現を阻害または妨害することにより、そのようなリンパ球除去レジメンに対し抵抗性とされる。
【0137】
さらなる態様では、改変免疫細胞は、例えばWO201575195に記載されるようにDCKを不活化することにより、化学療法薬、具体的にはプリンアナログ薬に対する抵抗性および/または を与えるためにさらに改変され得る。
【0138】
前述したように、化学療法またはリンパ球除去レジメンに対し抵抗性のあるキメラ抗原受容体を備える遺伝子改変リンパ球を用いて固形腫瘍癌を治療することは、本発明の重要な局面である。そのようなレジメンは、免疫細胞の表面に存在するCD52、CD3、CD4、CD8、CD45などの抗原、または他の特異的マーカーを標的とする抗体のみならず、プリンアナログ(例えばフルダラビンおよび/またはクロロファラビン)およびグルココルチコイドなどのさほど特異的ではない薬物を含み得る。本発明の一局面は、これらのリンパ球除去試薬の少なくとも1つの分子標的をコードする遺伝子、例えばプリンアナログを代謝する遺伝子DCK、またはグルココルチコイド受容体(GR)をコードする遺伝子の発現を不活化するかまたは低減することにより、改変リンパ球をそのようなレジメンに対し抵抗性とすることである。
【0139】
したがって本発明は、より具体的には、CAR陽性細胞に着目し、該細胞を固形癌治療において同種異系使用するために、そのTCR、CD52、ならびに/またはDCKおよび/もしくはGRの発現を低減し、不活化し、または損なうことによって、該細胞の同種異系反応性を低下させ、かつリンパ球除去レジメンに対し抵抗性とする。
【0140】
抗MUC1 CAR-T細胞の効力を増大させ、固形腫瘍の抵抗性メカニズムを克服するために、本発明者らは、本明細書で遺伝子特性と呼ばれるいくつかの遺伝子改変を組み合わせて、MUC1陽性腫瘍の免疫療法に特異的に専用のものを作製した。図5に例示するこれらの遺伝子改変は、より具体的には、以下のものから選択される。
【0141】
1)PD1などの免疫チェックポイント遺伝子の不活化の遺伝学的抑制による、CAR-T細胞の疲弊の限定
腫瘍細胞は、T細胞上のPD-1と相互作用するリガンドである、PDL1の発現を上方制御することが知られている。この相互作用は、T細胞媒介性免疫応答を効果的に遮断し、腫瘍のクリアランスを防止する。免疫チェックポイント療法の成功は、PD1とPDL-1との相互作用を遮断することに依存し、これが、免疫系が癌細胞を殺滅することを可能にする。したがって、本発明は、PD-1/PDL-1媒介性免疫抑制を防止するために、CAR-T細胞においてPD1をノックアウトすることを規定する。この改変は、以下に示唆するような誘導性IL-12放出などの他の特性と並行して、腫瘍微小環境内でのCAR-T細胞の疲弊の問題を和らげることができる。
【0142】
2)IL-12(ならびに/またはIL-2、IL-15、および/もしくはIL-18)の発現の誘導
IL-12は、Th1応答を正に制御し、T細胞の生存および拡大増殖を促進する、樹状細胞、単球、およびマクロファージ(ならびにいくらかのB細胞)を含む様々な免疫細胞によって産生されるサイトカインである。CAR-T細胞によるIL-12の送達は、同種異系の設定における抗tMUC1 CAR-T細胞の効力に特に重要である。
【0143】
IL-12は、全身レベルで送達された場合に毒性であるため、そのコード配列を、腫瘍標的の存在下でCAR-T細胞の活性化時に排他的なIL-12放出を可能にする、誘導性IL-12カセットの下に組み込むことができる。この点で、2A自己切断ペプチドによって分離されたIL-12aおよびIL-12bを含む外来性配列(IL-12a-P2A-IL-12b)を用いることによってIL12を発現させることが、有利である。同じことを、IL-2、IL-15、またはIL-18をコードする配列に適用することができる。そのため、誘導性サイトカイン放出は、細胞によって必要とされるようにCAR-T効力を高める安全な方法を提供する。好ましい態様では、IL-2、IL-12、IL-15、および/またはIL-18を発現する外来性ポリヌクレオチド配列を、AAVベクターによって送達し、実施例に記載されるようにPD1座位中に、優先的には、内因性PD1プロモーターの転写制御下に組み込むことができる。PD-1発現は、CAR T細胞の活性化に依存するため、IL-12発現は、それによって、CAR T細胞の機能が強化される腫瘍領域に制限される。
【0144】
実施例に提供されるように、IL-12放出を一緒に伴うPD-1ノックアウトは、CAR-T細胞の機能および腫瘍内拡大増殖を有意に強化し、そのような改変を伴わないCAR-T細胞では治療できなかった固形腫瘍に対する抗腫瘍活性を結果としてもたらした。
【0145】
3)ヒアルロニダーゼ酵素の誘導性発現による腫瘍浸潤の強化
ヒアルロナン(HA)は、細胞外マトリックスの不可欠な構造およびシグナル伝達構成要素である、グリコサミノグリカンである。HAの蓄積は、前立腺癌、膀胱癌、肺癌、および乳癌を含む様々な固形腫瘍において観察され、不良の臨床転帰に関連している。HAカプセルは、静水圧を増大させて、固形腫瘍においてT細胞の浸潤および小さな薬物の拡散を防止し、治療をより困難にする。より大きなHA断片は、増殖を促進し、T細胞浸潤を防止することによって、および腫瘍細胞の遊走を強化することによって、多くの癌タイプで腫瘍進行を強化するが、小さなHA断片(HA-オリゴ:1~10kda)は、癌細胞のアポトーシスを誘導することが示された。本発明者らは、固形腫瘍のCAR-T浸潤を強化するために、CAR-T細胞においてヒアルロナンマトリックスを分解することができるヒアルロニダーゼ酵素を発現させることに成功した。CAR-T細胞によるヒアルロニダーゼ酵素の分泌はまた、HA-オリゴの局所的産生を通してバイスタンダー腫瘍細胞の殺滅を誘導するのに有用である。重要なことに、オリゴ-HA媒介性アポトーシスは、CAR標的抗原の認識に依存せず、したがって、細胞表面上に抗原を欠くかまたは低レベルの抗原を発現する腫瘍細胞に作用する可能性を有する。
【0146】
CARとヒアルロニダーゼ活性との組み合わせは、オリゴ-HAに対する曝露により、必要な抗原レベルを欠くバイスタンダー癌細胞を死滅させることができる抗体薬物コンジュゲートに同程度に類似している。この戦略は、抗原の不足または腫瘍の不均一性による腫瘍逃避を最小限に抑えると考えられる。
【0147】
本発明は、ヒアルロニダーゼ酵素をコードする外来性配列が導入されている、好ましくは抗MUC1 CAR-T細胞であるがそれだけではない、改変免疫細胞を提供する。このヒアルロニダーゼ酵素は、好ましくは、HYAL1(Uniprot Q12794)、HYAL2(Q12891)、および/もしくはHYAL3(SPAM1-Uniprot P38567)、またはそれと少なくとも80%の同一性を有する類似した機能的ヒアルロニダーゼである。HYAL1、HYAL2、およびSPAM1の配列はまた、分泌タグで修飾することができ、腫瘍微小環境中への分泌を強化するように実行することができる。
【0148】
いくつかの好ましい態様では、免疫細胞を、PD1、CD69、CD25、もしくはGMCSFから選択される座位に、またはCARと標的抗原との結合時に発現が誘導される任意のそのような座位に、ヒアルロニダーゼコード配列を組み込むことによって、免疫細胞活性化時にヒアルロニダーゼ酵素が分泌されるように有利に改変することができる。
【0149】
本発明はまた、機能的ヒアルロニダーゼをコードする外来性配列を含む、HYAL1、HYAL2、またはSPAM1の免疫細胞中への媒介性挿入のためのAAV、好ましくはAAV6ベクターを提供する。
【0150】
さらなる態様では、追加のグリコシダーゼであるヒトβ-グルクロニダーゼ(GUSB)およびβ-N-アセチルグルコサミニダーゼ(ENGASE)を同時発現させて、ヒアルロニダーゼ酵素によって切断されたHA鎖をさらに短くすることができる。
【0151】
結果として生じたヒアルロニダーゼを発現するCAR免疫細胞は、固形腫瘍中により良好な浸潤を示し、健常組織を温存しながらオリゴ-HA媒介性アポトーシスを通して腫瘍細胞死を直接誘導することによって、CAR-T媒介性殺滅と相乗的に働くことができる。
【0152】
4)低酸素および低栄養環境の緩和
腫瘍微小環境は、低酸素であるだけでなく、栄養も欠如しており、これは、CAR-T細胞の拡大増殖を妨げる2つの特徴である。最近の研究は、炎症誘発性Th17細胞が、低酸素および栄養欠乏環境において効果的に拡大増殖し、炎症を引き起こすメカニズムを説明した[Wu, L. et al. (2020) Niche-Selective Inhibition of Pathogenic Th17 Cells by Targeting Metabolic Redundancy. Cell 182(3):641-654]。Th17リンパ球は、低酸素および低栄養環境を克服するためにグルコースリン酸イソメラーゼ1(GPI1)を上方制御し、増殖上の利点を獲得する。代謝的に重複する酵素であるGPI1のノックアウトは、栄養が十分および正常酸素の条件に存在する恒常性Th17細胞に対していかなる影響も有しなかったが、低酸素および栄養欠乏環境において炎症性Th17細胞の増殖能力を著しく損ねた。嫌気性解糖中に、乳酸が生成される。最近まで、乳酸は、老廃物と考えられてきた。しかし、新たな知見により、それはまた、最も可能性が高くは糖新生を通して、解糖流量を増大させるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1(PCK1)の助けで、エネルギーのために代謝されることができ、乳糖の消費および細胞内グルコースの増加を結果としてもたらすことが実証されている[Yuan, Y. et al. (2020) PCK1 Deficiency Shortens the Replicative Lifespan of Saccharomyces cerevisiae through Upregulation of PFK1. Biomed Res. Int. Article ID 3858465]。さらに、PCK1の過剰発現は、CD8+ Tm細胞の形成および維持を促進し、全体的に栄養の獲得におけるT細胞の競争力を増大させることが示されている[Ho, P. C. et al. (2015) Phosphoenolpyruvate Is a Metabolic Checkpoint of Anti-tumor T Cell Responses. Cell. 162(6):1217-1228]。
【0153】
本発明は、GPI1(Uniprot Q9BRB3)、PCK1(Uniprot P35558)、および/またはLDHA(Uniprot P00338)酵素をコードするか、またはそれと少なくとも80%の同一性を有する任意の機能的酵素をコードする外来性配列が導入されている、好ましくは抗MUC1 CAR T細胞であるがそれだけではない、改変免疫細胞を提供する。本発明者らは、固形腫瘍の低酸素および栄養欠乏環境において免疫細胞を高めるために、GPI1およびPCK1を発現させた。GPI1およびPCK1酵素、または任意の機能的な類似した酵素をコードする遺伝子は、好ましくは、TRAC座位でのその標的挿入のために、AAVベクター、特にAAV6を用いて送達される。あるいは、外来性配列は、その構成的発現を得ることが好ましい際には、レンチウイルスベクターを用いることによって、EF1アルファなどの強いプロモーターの制御下で送達することができる。2つの遺伝子の発現は、自己切断2Aペプチドによって分離された両方の遺伝子を有するバイシストロニック構築物の送達を通して、達成することができる。
【0154】
固形腫瘍においてCAR-T効果を高めるための上述の改変は、同種異系CAR-Tの標準的な改変と組み合わせて実行することができ、これは、より具体的には、以下の改変を含む:
・移植片対宿主病を予防するための遺伝子編集を用いたTRACノックアウト;
・宿主対移植片活性を防止するための遺伝子編集もしくはサイレンシング法を用いたB2Mノックアウト;および/または
・NK細胞がB2M陰性細胞を攻撃するのを防止するための、例えばAAV6を用いることによる、またはrLV送達による、標的遺伝子組込みを通したHLA-EまたはHLA-Gの過剰発現。
【0155】
合わせると、上述の戦略のいくつかを実行する複合改変は、固形腫瘍を治療することができる次世代のCAR-T細胞を生成する革新的な可能性を有する。
【0156】
また、本発明は、以下の工程を含む、固形腫瘍の治療のための改変治療用免疫細胞の集団を製造するための方法を提供する:
a)患者、または好ましくはドナーを起源とする免疫細胞を準備する工程;
b)該細胞中で抗MUC1キメラ抗原受容体(CAR)を発現させる工程;
c)該細胞のゲノムに少なくとも1つの遺伝子改変を導入する工程であって、該改変が、
・TCR発現の低減もしくは不活化;
・B2Mの低減もしくは不活化;
・TGFβとTGFβR2との間の相互作用の低減;
・PD1とPDL1との間の相互作用の低減;および/または
・IL-12、IL-15、もしくはIL-18の発現の強化
をもたらすものから選択される、工程;
d)治療的に有効な免疫細胞集団の集団を形成するように、該細胞を拡大増殖させる工程。
【0157】
この方法における遺伝子改変は、一般に、低頻度切断エンドヌクレアーゼ/ニッカーゼまたは塩基エディターなどの、配列特異的遺伝子編集を用いることによって得られる。方法はまた、HYAL1、HYAL2、および/もしくはHYAL3(SPAM1)などのヒアルリナーゼ(hyalurinase)の分泌を強化するため、またはGPI1、PCK1、および/もしくはLDHAなどの他の酵素の発現を強化するために、細胞をさらに遺伝子改変することを含むことができる。
【0158】
(表9)遺伝子特性ポリペプチド配列
【0159】
さらなる態様では、改変免疫細胞は、患者体内での持続性または寿命を改良するためにさらに改変され得、具体的には、WO2015136001またはLiu, X. et al. [CRISPR-Cas9-mediated multiplex gene editing in CAR-T cells (2017) Cell Res 27:154-157]に記載されるように、例えばHLAまたはβ2mなどのMHC-I構成要素をコードする遺伝子を不活化する。
【0160】
本発明の好ましい局面では、改変免疫細胞を、そのCAR依存性免疫活性化を改良するために、具体的には、免疫チェックポイントタンパク質および/またはそれらの受容体、例えばWO2014184744に記載されるようにPD1またはCTLA4の発現を低減するかまたは抑制するために変異させる。
【0161】
治療用改変免疫細胞における抗MUC1 CAR発現とTGFbRIIシグナル伝達経路妨害との組み合わせ
本発明は、より具体的には、前述の抗MUC1 CARをコードする外来性配列の発現を、TGFベータ受容体の阻害剤、特にTGFβRIIの阻害剤をコードする別の外来性配列と組み合わせる。
【0162】
TGFベータ受容体(Uniprot - P37173)は、腫瘍微小環境において主要な役割を有する、として記載されている[Papageorgis, P. et al. (2015). Role of TGFβ in regulation of the tumor microenvironment and drug delivery (Review). International Journal of Oncology, 46, 933-943]。
【0163】
腫瘍発生におけるTGFベータ受容体の正確な役割についてはまだ議論の余地があるが、本発明者らは、抗MUC1キメラ抗原受容体(CAR)をTGFBRIIシグナル伝達の阻害剤をコードする別の外来性遺伝子配列と同時発現させると、かつ/または配列特異性試薬を用いてTGFベータ受容体シグナル伝達を不活化もしくは低下させると、改変免疫細胞の治療効力の改良がもたらされることを見出した。具体的には、本発明者らは、TGFβRIIシグナル伝達経路を阻害する2つの異なるアプローチを用いたが、これらは併用してもよい:
・Hiramatsu, K., et al. [Expression of dominant negative TGF-β receptors inhibits cartilage formation in conditional transgenic マウス (2011) J. Bone. Miner. Metab. 29: 493]に記載されるような、ドミナントネガティブTGFβRII(SEQ ID NO:26)などのTGFβRIIの不活性リガンド、またはポリペプチド配列SEQ ID NO:26と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有する類似の不活性形態のTGFβRIIの発現
および/あるいは
・具体的にはTALEヌクレアーゼまたはRNA誘導エンドヌクレアーゼ(例えばCas9もしくはCpf1)などの低頻度切断エンドヌクレアーゼを用いることによる、TGFβRIIの内在性遺伝子配列の不活化。
【0164】
受容体介在性シグナル伝達活性化を阻害するLY3022859などの抗TGFβRII IgG1モノクローナル抗体[Tolcher, A.W. et al. (2017) A phase 1 study of anti-TGFβ receptor type-II monoclonal antibody LY3022859 in patients with advanced solid tumors Cancer Chemother Pharmacol.79(4):673-680]も、本発明のCARと組み合わせて、TGFベータ受容体シグナル伝達を阻害するのに用いることができる。
【0165】
本願は、本明細書において、一揃いのTALEヌクレアーゼを開示し、それらはTGFβRII遺伝子内の一揃いの標的配列に対し特に特異的である。これらのTALEヌクレアーゼは、最高のTGFβRIIノックアウト効率を示しつつもオフターゲット切断が極めて少なく、数名の患者への投与に十分な改変生細胞の大集団を生じた。これらの好ましいTALEヌクレアーゼおよびそれらの対応する標的配列を表10に挙げる。
【0166】
(表10)TGFβRII遺伝子に関するTALEヌクレアーゼ標的配列
【0167】
Cas9ヌクレアーゼ試薬を用いることによりTGFβRII遺伝子不活化するため、RNAガイドも設計した。対応する各標的配列を表11に開示する。
【0168】
(表11)TGFβRII遺伝子に関するCRISPR標的配列
【0169】
本発明は、したがって、本明細書の教示内の治療用免疫細胞を生産するための、TGFβRIIの発現を不活化させるかまたは低減するために表10または表11に記載の標的配列SEQ ID NO:90~204のいずれかに結合するよう設計されたTALEヌクレアーゼまたはRNA誘導エンドヌクレアーゼの使用を包含する。
【0170】
本発明はまた、改変免疫細胞であって、その内在性TGFβRII遺伝子の発現を不活化させるかまたは低減するために、前述したようなヌクレアーゼをコードする外来性ポリヌクレオチドを含む、改変免疫細胞に関する。この戦略を、より具体的には図16および図17に例示する。
【0171】
本明細書の実験セクションに示すように、低頻度切断エンドヌクレアーゼまたは塩基エディターなどの配列特異的試薬の細胞中への発現によるTGFBRIIの不活化は、より高い抗腫瘍活性を有する抗MUC1 CAR T細胞をもたらす。
【0172】
この点で好ましい特異的試薬は、SEQ ID NO:86、87、88、または89、より好ましくはSEQ ID NO:89から選択されるTGFBRIIの1つの標的配列中に変異を導入するためのTALEヌクレアーゼまたはTALE塩基エディター、特に、ポリペプチド配列SEQ ID NO:223およびSEQ ID NO:224のうちの1つと少なくとも95%の同一性を示す少なくとも1つの単量体を有するTALEヌクレアーゼである。
【0173】
そのような態様では、本発明は、固形腫瘍に対して活性のCAR免疫細胞を作製する方法を提供し、ここで、各TCR(例えば、TRAC)、PD1、B2M、およびTGFBRII遺伝子の少なくとも1つのアレルは、それらの発現を低減または不活化するために、配列特異的試薬(ヌクレアーゼまたは塩基エディター)を用いることによって変異されている。そのような方法は、好ましくは、それらの配列特異的試薬をコードするポリヌクレオチド配列が、好ましくはmRNA形態下で、細胞中に導入される、2つのエレクトロポレーション工程を含む。これらの2つのエレクトロポレーション工程は、好ましくは少なくとも48時間、より好ましくは少なくとも72時間、およびさらにより好ましくは少なくとも96時間の間隔が空いている。本発明者らは、第1のエレクトロポレーション工程中にTCRおよびB2Mを標的とする特異的試薬を、第2のエレクトロポレーション工程中にPD1およびTGFBRIIを標的とする特異的試薬を導入することによって、特に良好な結果を得た。これは、細胞傷害性を低減するように起こり、より高い収率の四重変異改変細胞を作製することを可能にした。
【0174】
しかし、いくつかの腫瘍常在細胞が、強力な免疫抑制効果を有するTGF-βを産生し、CAR-Tの増殖およびエフェクター機能の両方を遮断できることが、起こり得る。この遮断を防止するために、本発明は、ドミナントネガティブTGFBR2(dnTGFBR2)の送達を提供する。ドミナントネガティブTGFBR2は、細胞内シグナル伝達ドメインを欠く受容体であり、したがって、TGF-βに対する高い親和性を保持するが、TGF-Bシグナルを伝達することができない。したがって、dnTGFBR2は、TGF-βをCAR-Tから隔離するスポンジとして作用し、TGF-β1の免疫抑制効果もまた改善する。dnTGFBR2の好ましい送達は、単一の実体として、またはCARを発現し、2A自己切断ペプチドによって分離されたバイシストロニック構築物としてのいずれかで、rLVを通して成功裏に達成されている。しかし、これはまた、免疫抑制性固形腫瘍微小環境のリプログラミングを補助する目的で、誘導性座位(例えば、PD-1、CD25...)における例えばAAVベクターでの標的組込みを介して、達成することもできる。
【0175】
本願は、したがって、TGFベータ受容体の阻害剤をコードする外来性配列、より具体的にはドミナントネガティブTGFベータ受容体をコードする配列が導入されている、改変免疫細胞、特にCAR免疫細胞を報告する。そのような細胞は、より具体的には固形腫瘍、特にMUC1陽性腫瘍の治療に専用とされる。
【0176】
したがって、本願はまた、ドミナントネガティブTGFβRIIをコードするポリヌクレオチド配列と、任意選択により抗MUC1キメラ抗原受容体とを少なくとも含む、ベクター、特にウイルスベクター、例えば当技術分野で記載されているようなレンチウイルスベクターまたはAAVベクターを主張する。好ましい態様では、前記ベクターは、前記ドミナントネガティブTGFβRIIをコードする第1のポリヌクレオチド配列、2A自己切断ペプチドをコードする第2のポリヌクレオチド配列、および前記特異性抗MUC1キメラ抗原受容体をコードする第3のポリヌクレオチド配列を含む。
【0177】
免疫細胞への標的化挿入は、AAVベクター、特にAAV6ファミリーのベクター、またはSharma A., et al. [Transduction efficiency of AAV 2/6, 2/8 and 2/9 vectors for delivering genes in human corneal fibroblasts. (2010) Brain Research Bulletin. 81 (2-3): 273-278]により既に記載されているキメラベクターAAV2/6を用いることにより、大きく改良され得る。
【0178】
本発明の一局面は、したがって、前述の座位における遺伝子組込みを増加させるための、TALEエンドヌクレアーゼなどの配列特異性エンドヌクレアーゼ試薬の発現と連携する、ヒト初代免疫細胞における抗MUC1 CARコード配列を含むAAVベクターの形質導入である。
【0179】
本発明の好ましい局面では、配列特異性エンドヌクレアーゼ試薬は、遺伝子導入、より好ましくは前記配列特異性エンドヌクレアーゼ試薬をコードするmRNAの電気穿孔により、細胞に導入され得る。
【0180】
外来性核酸配列の挿入が得られた結果、遺伝子材料の導入、内在性配列の修正または置換が、より好ましくはその座位の内在性遺伝子配列に対し「インフレーム」で、生じ得る。
【0181】
本発明の別の局面では、細胞1個あたり105~107、好ましくは106~107、より好ましくは約5.106のウイルスゲノムが形質導入される。
【0182】
本発明の別の局面では、細胞をボルテゾミブなどのプロテアソーム阻害剤、またはHDAC阻害剤で処理して、相同組換えをさらに助けることができる。
【0183】
本発明の1つの目的として、方法で用いられるAAVベクターは、プロモーターを含まない外来性コード配列を含み得、前記コード配列は本明細書で言及する配列のいずれかである。
【0184】
本発明はまた、初代免疫細胞を得るための効率のよい方法を提供し、該初代免疫細胞は、より具体的に宿主-移植片の相互作用および認識に関与する、様々な遺伝子座位が編集され得る。他の座位も、改変初代細胞、特に初代T細胞の活性、生存、または寿命の改良に鑑み、編集され得る。
【0185】
図2は、改変免疫細胞の効率を改良するために、本発明の遺伝子編集により改変され得る、主な細胞機能をマップしている。各機能の下に記載の遺伝子不活化はどれでも互いに組み合わせて、免疫細胞の総合治療効力に及ぼす相乗効果を得ることができる。
【0186】
本発明は、より具体的には、免疫細胞における遺伝子改変(遺伝子型)の組み合わせを提供し、それらは、固形腫瘍、特に、
・[抗MUC1 CAR]+
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [TCR]-
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [TGFβRII]- [TCR]-
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]-
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [TCR]-
・[抗MUC1 CAR]+ [β2m]-
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [β2m]-
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [β2m]-
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [β2m]- [TCR]-
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [β2m]- [TCR]-
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [TGFβRII]- [β2m]- [TCR]-
・[抗MUC1 CAR]+ [PD1]-
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [PD1]-
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [PD1]-
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [TGFβRII]- [PD1]-
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [β2m]- [PD1]-
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [PD1]- [TCR]-
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [TGFβRII]- [PD1]- [TCR]-
・[抗MUC1 CAR]+ [PD1]- [β2m]-
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [PD1]- [β2m]-
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [PD1]- [β2m]-
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [TGFβRII]- [PD1]- [β2m]-
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [β2m]- [PD1]- [TCR]-
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [PD1]- [TCR]- [β2m]-、または
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [TGFβRII]- [PD1]- [TCR]- [β2m]-
などの抗MUC1陽性悪性細胞に対する免疫細胞の効力をすぐに改良する。
【0187】
さらに好ましい態様では、上記の遺伝子型は、以下の遺伝子型のうちの1つを得るために、好ましくは、本明細書に記載され、図5に示すような、IL-12a-2A-IL-12b構築物およびHLAEの挿入を介して、IL-12の過剰発現と組み合わされる:
・[抗MUC1 CAR]+ [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [TCR]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [TGFβRII]- [TCR]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [TCR]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [β2m]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [β2m]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [β2m]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [β2m]- [TCR]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [β2m]- [TCR]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [TGFβRII]- [β2m]- [TCR]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [PD1]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [PD1]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [PD1]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [TGFβRII]- [PD1]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [β2m]- [PD1]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [PD1]- [TCR]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [TGFβRII]- [PD1]- [TCR]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [PD1]- [β2m]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [PD1]- [β2m]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [PD1]- [β2m]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [TGFβRII]- [PD1]- [β2m]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [β2m]- [PD1]- [TCR]- [HLAE]+ [IL12]+
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [PD1]- [TCR]- [β2m]- [HLAE]+ [IL12]+、または
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [TGFβRII]- [PD1]- [TCR]- [β2m]- [HLAE]+ [IL12]+
【0188】
前述したように、本発明はまた、固形癌治療におけるCAR陽性細胞の使用に特に着目し、該細胞はリンパ球除去剤に対し抵抗性とされているので、同種異系の設定で、リンパ球除去レジメンと併用で、またはその後で使用され得る。そのような細胞は、好ましくは、次の遺伝子型を示す:
抗CD52抗体に対し部分または完全耐性:
・[抗MUC1 CAR]+ [CD52]- [TCR]-
・[抗MUC1 CAR]+ [CD52]- [TCR]- [β2m]-、、
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [CD52]- [TCR]-
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [CD52]- [TCR]- [β2m]-
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [CD52]- [TCR]-
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [CD52]- [TCR]- [β2m]-
プリンアナログに対し部分または完全耐性:
・[抗MUC1 CAR]+ [DCK]- [TCR]-
・[抗MUC1 CAR]+ [DCK]- [TCR]- [β2m]-、、
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [DCK]- [TCR]-
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [DCK]- [TCR]- [β2m]-
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [DCK]- [TCR]-
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [DCK]- [TCR]- [β2m]-
グルココルチコイドに対し部分または完全耐性:
・[抗MUC1 CAR]+ [GR]- [TCR]-
・[抗MUC1 CAR]+ [GR]- [TCR]- [β2m]-、、
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [GR]- [TCR]-
・[抗MUC1 CAR]+ [TGFβRII]- [GR]- [TCR]- [β2m]-
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [GR]- [TCR]-
・[抗MUC1 CAR]+ [dnTGFβRII]+ [GR]- [TCR]- [β2m]-
【0189】
不活化座位における導入遺伝子の発現による治療用免疫細胞のさらなる改良
上記の好ましい遺伝子型は、標的遺伝子組込みにより、好ましくはPD1、TCR(TCRアルファおよび/またはTCRベータ)、またはTGFβRII座位において、ただし後述のさらなる選択座位においても、得られ得る。
【0190】
「標的遺伝子組込み」とは、生細胞にゲノム配列を挿入するか、それと置き換えるか、またはそれで修正することを可能にする、任意の公知の部位特異的方法を意味する。標的遺伝子組込みには普通は相同遺伝子組換えまたはNHEJ(非相同末端結合)のメカニズムが関与し、それがエンドヌクレアーゼ配列特異性試薬により強化されて、少なくとも1つの外来性ヌクレオチド、好ましくはいくつかのヌクレオチドの配列(すなわちポリヌクレオチド)、より好ましくはコード配列の挿入または置換が所定の座位でもたらされる。
【0191】
固形腫瘍に対する免疫細胞の効力を改良し得るさらなる導入遺伝子の発現
本発明の方法は、遺伝子転換を伴う他の方法、例えばウイルス形質導入と組み合わせることができ、また、必ずしも組み込みを伴わない他の導入遺伝子発現と組み合わせてもよい。
【0192】
一局面では、本発明の方法は、
a)カルシウムシグナル伝達を増加させるSERCA3、解糖を増加させるmiR101およびmir26A、解糖貯蔵物を動員するBCATなどの、その発現が低グルコース条件に応答しての解糖およびカルシウムシグナル伝達の低下に関与する、ポリヌクレオチド配列;ならびに/または
b)IL27RA、STAT1、STAT3などの、その発現が免疫チェックポイントタンパク質(例えばTIM3、CEACAM、LAG3、TIGIT)を上方制御する、ポリヌクレオチド配列;ならびに/または
c)ILT2もしくはILT4などの、その発現がHLA-Gとの相互作用を媒介する、ポリヌクレオチド配列;ならびに/または
d)Treg増殖を低減するSEMA7A、SHARPIN、アポトーシスを低下させるSTAT1、IL-2分泌を増加させるPEA15、およびCD8メモリーの分化を支持するRICTORなどの、その発現がT細胞増殖の下方制御に関与する、ポリヌクレオチド配列;ならびに/または
e)mir21などの、その発現がT細胞活性化の下方制御に関与する、ポリヌクレオチド配列;ならびに/または
f)JAK2およびAURKAなどの、その発現がサイトカインに応答するシグナル伝達経路に関与する、ポリヌクレオチド配列;ならびに/または
g)DNMT3、miRNA31、MT1A、MT2A、PTGER2などの、その発現がT細胞の疲弊に関与する、ポリヌクレオチド配列
から選択される変異またはポリヌクレオチドコード配列を免疫細胞の内在性座位に導入する工程を含み、それは好ましくは、前記選択された内在性座位を特異的に標的とする配列特異性試薬を前記細胞内で発現させることによる。
【0193】
さらなる態様では、本発明の改変免疫細胞は、前記細胞内で抗MUC1 CARと別の外来性遺伝子配列との同時発現を得るようさらに改変され得、該外来性遺伝子配列は、
・変異型IL6Ra、sGP130、もしくはIL18-BPなどの、CRS阻害剤;
・シクロホスファミドおよび/もしくはイソホスファミドなどの薬物に対する前記免疫細胞の過感受性を与える、チトクロムP450、CYP2D6-1、CYP2D6-2、CYP2C9、CYP3A4、CYP2C19、もしくはCYP1A2;
・薬物抵抗性を与える、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ2(IMPDH2)、カルシニューリン、もしくはメチルグアニントランスフェラーゼ(MGMT)、mTORmut、もしくはLckmut;
・CCR2、CXCR2、もしくはCXCR4などの、ケモカイン受容体;ならびに/または
・免疫細胞の治療活性を強化する、CCR2/CCL2中和剤などの、腫瘍関連マクロファージ(TAM)の分泌阻害剤
をコードするものから選択される。
【0194】
前記導入遺伝子または外来性ポリヌクレオチド配列は、好ましくは、その発現が前記座位の1つに存在する少なくとも1つの内在性プロモーターの転写制御下に置かれるように、挿入される。
【0195】
遺伝子組込みを実施することにより上述のような1つの座位を標的とすることは、本発明の治療用免疫細胞の効力をさらに改良するのに有益である。
【0196】
選択座位で発現または過剰発現され得る、そのような外来性配列または導入遺伝子の例を、以下に詳述する。
【0197】
薬物または免疫除去剤に対する抵抗性を与える導入遺伝子のさらなる発現
本方法の一局面では、免疫細胞のゲノム座位に組み込まれる外来性配列は、前記免疫細胞の薬物に対する抵抗性を与える分子をコードする。
【0198】
好ましい外来性配列の例は、メトトレキサートなどの葉酸アナログに対する抵抗性を与えるジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)のバリアント、ミコフェノール酸(MPA)またはそのプロドラッグのミコフェノール酸モフェチル(MMF)などのIMPDH阻害剤に対する抵抗性を与えるイノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ2(IMPDH2)のバリアント、FK506および/またはCsAなどのカルシニューリン阻害剤に対する抵抗性を与えるカルシニューリンまたはメチルグアニントランスフェラーゼ(MGMT)のバリアント、ラパマイシンに対する抵抗性を与えるmTORmutなどのmTORのバリアント)、ならびにイマチニブおよびグリベックに対する抵抗性を与えるLckmutなどのLckのバリアントである。
【0199】
「薬物」という用語は、本明細書では、化合物またはその誘導体、好ましくは、癌細胞と相互作用し、そうすることで該細胞の増殖または生存の状態を低減するのに一般に用いられる、標準的な化学療法剤を指すのに用いられる。化学療法剤の例としては、限定ではないが、アルキル化剤(例えば、シクロホスファミド、イホサミド(ifosamide))、代謝拮抗薬(例えば、プリンヌクレオシド代謝拮抗薬、例えばクロファラビン、フルダラビン、もしくは2’-デオキシアデノシン、メトトレキサート(MTX)、5-フルオロウラシル、またはそれらの誘導体)、抗腫瘍抗生物質(例えば、マイトマイシン、アドリアマイシン)、植物由来抗腫瘍剤(例えば、ビンクリスチン、ビンデシン、タキソール)、シスプラチン、カルボプラチン、エトポシド等が挙げられる。そのような剤としては、限定ではないが、抗癌剤TRIMETHOTRIXATE(商標)(TMTX)、テモゾロミド(商標)、RALTRITREXED(商標)、S-(4-ニトロベンジル)-6-チオイノシン(NBMPR)、6-ベンジグアニジン(benzyguanidine)(6-BG)、bis-クロロニトロソウレア(BCNU)、およびカンプトテシン(商標)、またはそれらのいずれかの治療用誘導体をさらに挙げることができる。
【0200】
本明細書で使用される場合、免疫細胞は、前記細胞または細胞集団が改変されると薬物に対し「抵抗性または耐性」とされ、その結果、50%最大阻害濃度(IC50)の前記薬物を含有する培養培地中少なくともインビトロでは増殖することができる(前記IC50は、未改変細胞または細胞集団について決定される)。
【0201】
特定の態様では、前記薬物抵抗性は、少なくとも1つの「薬物抵抗性コード配列」の発現により、免疫細胞に与えられ得る。前記薬物抵抗性コード配列は、ある剤、例えば上述した化学療法剤の1つに対する「抵抗性」を与える核酸配列に関する。本発明の薬物抵抗性コード配列は、代謝拮抗薬、メトトレキサート、ビンブラスチン、シスプラチン、アルキル化剤、アントラサイクリン、細胞傷害性抗生物質、抗イムノフィリン、それらのアナログまたは誘導体等に対する抵抗性をコードすることができる(Takebe, N., S. C. Zhao, et al. (2001) "Generation of dual resistance to 4-hydroperoxycyclophosphamide and methotrexate by retroviral transfer of the human aldehyde dehydrogenase class 1 gene and a mutated dihydrofolate reductase gene". Mol. Ther. 3(1): 88-96)、(Zielske, S. P., J. S. Reese, et al. (2003) "In vivo selection of MGMT(P140K) lentivirus-transduced human NOD/SCID repopulating cells without pretransplant irradiation conditioning." J. Clin. Invest. 112(10): 1561-70) (Nivens, M. C., T. Felder, et al. (2004) "Engineered resistance to camptothecin and antifolates by retroviral coexpression of tyrosyl DNA phosphodiesterase-I and thymidylate synthase" Cancer Chemother Pharmacol 53(2): 107-15)、(Bardenheuer, W., K. Lehmberg, et al. (2005). "Resistance to cytarabine and gemcitabine and in vitro selection of transduced cells after retroviral expression of cytidine deaminase in human hematopoietic progenitor cells". Leukemia 19(12): 2281-8)、(Kushman, M. E., S. L. Kabler, et al. (2007) "Expression of human glutathione S-transferase P1 confers resistance to benzo[a]pyrene or benzo[a]pyrene-7,8-dihydrodiol mutagenesis, macromolecular alkylation and formation of stable N2-Gua-BPDE adducts in stably transfected V79MZ cells co-expressing hCYP1A1" Carcinogenesis 28(1): 207-14)。
【0202】
本発明による免疫細胞におけるそのような薬物抵抗性外来性配列の発現は、より具体的には、細胞療法を化学療法と併用する細胞療法の治療スキームにおける、またはこれらの薬物治療を受けたことのある患者における、前記免疫細胞の使用を可能にる。
【0203】
本発明の薬物抵抗性を与えるよう使用できる可能性のある、いくつかの薬物抵抗性コード配列が特定されている。薬物抵抗性コード配列の一例は、例えばジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)の変異体または改変体であり得る。DHFRは、細胞内のテトラヒドロ葉酸の量の調節に関わる酵素であり、DNA合成に不可欠である。メトトレキサート(MTX)などの葉酸アナログは、DHFRを阻害するので、抗悪性腫瘍剤として臨床で使用されている。治療に用いられる葉酸代謝拮抗剤による阻害に対し抵抗性が増したDHFRの種々の変異体形態が記載されている。特定の態様では、本発明の薬物抵抗性コード配列は、ヒト野生型DHFR(GenBank: AAH71996.1)の変異体形態をコードする核酸配列であり得、それは、メトトレキサートなどの葉酸代謝拮抗剤療法に対する抵抗性を与える少なくとも1つの変異を含む。特定の態様では、DHFRの変異体形態は、少なくとも1つの変異アミノ酸を、位置G15、L22、F31、またはF34に、好ましくは位置L22またはF31に含む(Schweitzer et al. (1990) “Dihydrofolate reductase as a therapeutic target” Faseb J 4(8): 2441-52; 国際特許出願WO94/24277;および米国特許第6,642,043号)。特定の態様では、前記DHFR変異体形態は、位置L22およびF31に2つの変異アミノ酸を含む。本明細書に記載されるアミノ酸位置の対応は、野生型DHFRポリペプチドの形態のアミノ酸の位置として表現されることが多い。特定の態様では、位置15のセリン残基が、好ましくは、トリプトファン残基で置き換えられる。別の特定の態様では、位置22のロイシン残基が、好ましくは、変異体DHFRが葉酸代謝拮抗剤に結合するのを妨害するようなアミノ酸で、好ましくはフェニルアラニンまたはチロシンなどの無電荷アミノ酸残基で、置き換えられる。別の特定の態様では、位置31または34のフェニルアラニン残基が、好ましくは、アラニン、セリン、またはグリシンなどの小さい親水性アミノ酸で置き換えられる。
【0204】
薬物抵抗性コード配列の別の例はまた、グアノシンヌクレオチドの新規合成の律速酵素であるイオニシン(ionisine)-5’-モノホスファートジヒドロゲナーゼII(IMPDH2)の変異体または改変体であり得る。IMPDH2の変異体または改変体は、IMPDH阻害剤抵抗性遺伝子である。IMPDH阻害剤は、ミコフェノール酸(MPA)またはそのプロドラッグ、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)であり得る。変異体IMPDH2は、少なくとも1つ、好ましくは2つの変異を、野生型ヒトIMPDH2(Genebank: NP_000875.2)のMAP結合部位に含み得、したがってIMPDH阻害剤に対する抵抗性が大幅に増加している。これらのバリアントにおける変異は、好ましくは、位置T333および/またはS351にある(Yam, P., M. Jensen, et al. (2006) “Ex vivo selection and expansion of cells based on expression of a mutated inosine monophosphate dehydrogenase 2 after HIV vector transduction: effects on lymphocytes, monocytes, and CD34+ stem cells” Mol. Ther. 14(2): 236-44)(Jonnalagadda, M., et al. (2013) “Engineering human T cells for resistance to methotrexate and mycophenolate mofetil as an in vivo cell selection strategy.” PLoS One 8(6): e65519)。
【0205】
別の薬物抵抗性コード配列は、カルシニューリンの変異体形態である。カルシニューリン(PP2B - NCBI: ACX34092.1)は、偏在的に発現するセリン/スレオニンタンパク質ホスファターゼであって、多くの生物学的プロセスに関与し、かつT細胞活性化にとって重要でる。カルシニューリンは、触媒サブユニット(CnA;3つのアイソフォーム)および制御サブユニット(CnB;2つのアイソフォーム)で構成される、ヘテロ二量体である。T細胞受容体との結合後、カルシニューリンは転写因子NFATを脱リン酸し、それが核およびIL2などの活性主要標的遺伝子に移行するのを可能にする。FKBP12と複合体化したFK506、またはCyPAと複合体化したシクロスポリンA(CsA)は、NFATがカルシニューリンの活性部位にアクセスするのを妨害し、その脱リン酸化を防止し、そうすることによってT細胞活性化を阻害する(Brewin et al. (2009) “Generation of EBV-specific cytotoxic T cells that are resistant to calcineurin inhibitors for the treatment of posttransplantation lymphoproliferative disease” Blood 114(23): 4792-803)。特定の態様では、前記変異体形態は、野生型カルシニューリンヘテロ二量体の少なくとも1つの変異アミノ酸を位置V314、Y341、M347、T351、W352、L354、K360に、好ましくはダブル変異を位置T351およびL354、またはV314およびY341に含み得る。特定の態様では、位置341のバリン残基が、リジンまたはアルギニン残基で置き換えられ得、位置341のチロシン残基が、フェニルアラニン残基で置き換えられ得;位置347のメチオニンが、グルタミン酸、アルギニン、またはトリプトファン残基で置き換えられ得;位置351のスレオニンが、グルタミン酸残基で置き換えられ得;位置352のトリプトファン残基が、システイン、グルタミン酸、またはアラニン残基で置き換えられ得、位置353のセリンが、ヒスチジンまたはアスパラギン残基で置き換えられ得、位置354のロイシンが、アラニン残基で置き換えられ得;位置360のリジンが、アラニンまたはフェニルアラニン残基で置き換えられ得る。別の特定の態様では、前記変異体形態は、野生型カルシニューリンヘテロ二量体bの少なくとも1つの変異アミノ酸を、位置V120、N123、L124、またはK125に、好ましくはダブル変異を位置L124およびK125に含み得る。特定の態様では、位置120のバリンが、セリン、アスパラギン酸、フェニルアラニン、またはロイシン残基で置き換えられ得;位置123のアスパラギンが、トリプトファン、リジン、フェニルアラニン、アルギニン、ヒスチジン、またはセリンで置き換えられ得;位置124のロイシンが、スレオニン残基で置き換えられ得;位置125のリジンが、アラニン、グルタミン酸、トリプトファンで置き換えられ得、あるいはロイシン-アルギニンまたはイソロイシン-グルタミン酸などの2つの残基が、アミノ酸配列の位置125のリジンのあとに付加され得る。本明細書に記載されるアミノ酸位置の対応は、野生型ヒトカルシニューリンヘテロ二量体bポリペプチド(NCBI: ACX34095.1)の形態のアミノ酸の位置として表現されることが多い。
【0206】
別の薬物抵抗性コード配列は、ヒトアルキルグアニントランスフェラーゼ(hAGT)をコードするO(6)-メチルグアニンメチルトランスフェラーゼ(MGMT - UniProtKB: P16455)である。AGTはDNA修復タンパク質であって、ニトロソウレアおよびテモゾロミド(TMZ)などのアルキル化剤の細胞傷害効果に対する抵抗性を与える。6-ベンジルグアニン(6-BG)は、ニトロソウレアの毒性を高めるAGT阻害剤であり、TMZと同時投与されて、同剤の細胞傷害効果を高める。AGTのバリアントをコードするいくつかのMGMT変異体形態は、6-BGによる不活化に対し極めて抵抗性が高いが、DNA損傷を修復する能力は保持している(Maze, R. et al. (1999) “Retroviral-mediated expression of the P140A, but not P140A/G156A, mutant form of O6-methylguanine DNA methyltransferase protects hematopoietic cells against O6-benzylguanine sensitization to chloroethylnitrosourea treatment” J. Pharmacol. Exp. Ther. 290(3): 1467-74)。特定の態様では、AGT変異体形態は、野生型AGTの位置P140の変異アミノ酸を含み得る。好ましい態様では、位置140の前記プロリンが、リジン残基で置き換えられている。
【0207】
別の薬物抵抗性コード配列は、多剤耐性タンパク質(MDR1)遺伝子であり得る。この遺伝子は、細胞膜を越えての代謝副産物の輸送に関与する、P-糖タンパク質(P-GP)として知られる膜糖タンパク質をコードする。P-Gpタンパク質は、構造的関連のないいくつかの化学療法剤に対し、広い特異性を示す。したがって、MDR-1(Genebank NP_000918)をコードする核酸配列の発現により、細胞に薬物抵抗性を与えることができる。
【0208】
別の薬物抵抗性コード配列は、bleまたはmcrA遺伝子に由来するものなど、細胞傷害性抗生物質の生産に寄与し得る。免疫細胞におけるble遺伝子またはmcrAの異所性発現は、それぞれ化学療法剤ブレオマイシンおよびマイトマイシンCに曝露すると、選択的利点をもたらす(Belcourt, M.F. (1999) “Mitomycin resistance in mammalian cells expressing the bacterial mitomycin C resistance protein MCRA”. PNAS. 96(18):10489-94)。
【0209】
別の薬物抵抗性コード配列は、Lorenz M.C. et al. (1995) “TOR Mutations Confer Rapamycin Resistance by Preventing Interaction with FKBP12-Rapamycin” The Journal of Biological Chemistry 270, 27531-27537に記載されているようなラパマイシンに対する抵抗性を与えるmTORの変異バリアント(mTOR mut)、またはLee K.C. et al. (2010) “Lck is a key target of imatinib and dasatinib in T-cell activation”, Leukemia, 24: 896-900に記載されているようなグリベックに対する抵抗性を与える特定のLckの変異バリアント(Lckmut)など、薬物標的のコードされた変異バージョン遺伝子に由来し得る。
【0210】
上述したように、方法の遺伝子改変工程は、薬物抵抗性コード配列をコードする少なくとも1つの配列を含む外来性核酸と、内在性遺伝子の一部分とを細胞に導入するステップを含み得、したがって内在性遺伝子と外来性核酸との間で相同組換えが生じる。特定の態様では、前記内在性遺伝子は、野生型「薬物抵抗性」遺伝子であり得るので、相同組換え後は、野生型遺伝子が、薬物に対する抵抗性を与える遺伝子の変異体形態で置き換えられる。
【0211】
免疫細胞のインビボ持続性を強化する導入遺伝子の発現
本方法の一局面では、免疫細胞ゲノム座位に組み込まれる外来性配列は、免疫細胞の持続性、特に腫瘍環境におけるインビボ持続性を強化する分子をコードする。
【0212】
「持続性を強化する」とは、特に改変免疫細胞が患者に注射された後、寿命という点で免疫細胞の生存期間を延ばすことを意味する。例えば、改変細胞の平均生存期間が無改変細胞よりも大幅に、少なくとも10%、好ましくは20%、より好ましくは30%、さらに好ましくは50%長い場合、持続性が強化されている。
【0213】
このことは特に、免疫細胞が同種異系である場合に妥当である。それは、免疫抑制ポリペプチドを細胞膜でまたは細胞膜を貫通して異所発現させる、かつ/または分泌させるコード配列を導入することにより、局所免疫保護を作ることによって実施され得る。そのようなポリペプチド、具体的には免疫チェックポイントのアンタゴニスト、ウイルスエンベロープまたはNKG2Dリガンドに由来する免疫抑制ペプチドの様々なパネルが、患者体内の同種異系免疫細胞の持続性および/または移植を強化することができる。
【0214】
一態様では、前記外来性コード配列がコードする免疫抑制ポリペプチドは、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CD152としても知られるCTLA-4、GenBankアクセッション番号AF414120.1)のリガンドである。前記リガンドポリペプチドは、好ましくは、抗CTLA-4免疫グロブリン、例えばCTLA-4a IgおよびCTLA-4b Ig、またはそれらの機能バリアントである。
【0215】
一態様では、前記外来性コード配列がコードする免疫抑制ポリペプチドは、PD1のアンタゴニスト、例えばPD-L1(別名CD274、プログラム細胞死1リガンド;ヒトポリペプチド配列Q9NZQ7のUniProt参照)であり、30アミノ酸のIg V様ドメイン、Ig C様ドメイン、疎水性膜貫通ドメイン、および細胞質尾部からなる290アミノ酸のI型膜貫通タンパク質をコードする。そのようなPD-L1リガンドの膜結合形態は、本発明では、原型(野生型)の形態であるか、あるいは例えば細胞内ドメインの除去または1つもしくは複数の変異により切断された形態であるものとする(Wang S et al., 2003, J Exp Med. 2003; 197(9): 1083-1091)。なお、PD1は、本発明ではPD-L1リガンドの膜結合形態とはみなされない。別の態様では、前記免疫抑制ポリペプチドは、分泌形態である。そのような組換え分泌PD-L1(または可溶性PD-L1)は、PD-L1の細胞外ドメインを免疫グロブリンのFc部分に融合させることにより作られ得る(Haile ST et al., 2014, Cancer Immunol. Res. 2(7): 610-615; Song MY et al., 2015, Gut. 64(2):260-71)。この組換えPD-L1は、PD-1を中和してPD-1介在T細胞阻害を打ち切ることができる。PD-L1リガンドをCTLA4 Igと同時発現させて、両者の持続性をさらに強化することができる。
【0216】
別の態様では、外来性配列は、Margalit A. et al. (2003) “Chimeric β2 microglobulin/CD3ζ polypeptides expressed in T cells convert MHC class I peptide ligands into T cell activation receptors: a potential tool for specific targeting of pathogenic CD8+ T cells” Int. Immunol. 15 (11): 1379-1387に記載されているような、非ヒトMHCホモログ、特にウイルスMHCホモログ、またはキメラβ2mポリペプチドをコードする。
【0217】
一態様では、外来性配列は、NKG2Dリガンドをコードする。サイトメガロウイルスなどのいくつかのウイルスは、NK細胞介在免疫監視を避ける、かつNKG2Dリガンドに結合してそれらの表面発現を防止する能力のあるタンパク質を分泌することによりNKG2D経路に干渉するメカニズムを獲得している(Welte, S.A et al. (2003) “Selective intracellular retention of virally induced NKG2D ligands by the human cytomegalovirus UL16 glycoprotein”. Eur. J. Immunol., 33, 194-203)。腫瘍細胞では、ULBP2、MICB、またはMICAなどのNKG2Dリガンドを分泌することによりNKG2D応答を逃れるように進化したメカニズムもある(Salih HR, Antropius H, Gieseke F, Lutz SZ, Kanz L, et al. (2003) Functional expression and release of ligands for the activating immunoreceptor NKG2D in leukemia. Blood 102: 1389-1396)。
【0218】
一態様では、外来性配列は、サイトカイン受容体、例えばIL-12受容体をコードする。IL-12は、免疫細胞活性化の周知の活性因子である(Curtis J.H. (2008) “IL-12 Produced by Dendritic Cells Augments CD8+ T Cell Activation through the Production of the Chemokines CCL1 and CCL171”. The Journal of Immunology. 181 (12): 8576-8584)。
【0219】
一態様では、外来性配列は、阻害性ペプチドまたはタンパク質に対して向けられている抗体をコードする。前記抗体は、好ましくは、免疫細胞によって可溶性の形態で分泌される。その点では、サメおよびラクダ由来のナノボディが一本鎖抗体として構造されているので有利である(Muyldermans S. (2013) “Nanobodies: Natural Single-Domain Antibodies” Annual Review of Biochemistry 82: 775-797)。それらはまた、より簡単に分泌シグナルポリペプチドおよび可溶性親水性ドメインと融合すると考えられている。
【0220】
上記で展開した細胞の持続性を強化する種々の局面は、以下でさらに詳述するが、β2mまたは別のMHC構成要素をコードする内在性遺伝子を妨害することにより外来性コード配列が導入される場合に、特に好ましい。
【0221】
免疫細胞の治療活性を強化する導入遺伝子の発現
本方法の一局面では、免疫細胞ゲノム座位に組み込まれる外来性配列は、該免疫細胞の治療活性を強化する分子をコードする。
【0222】
「治療活性を強化する」とは、本発明にしたがい改変された免疫細胞または細胞集団が、無改変細胞または細胞集団に比べ、選択されたタイプの標的細胞に対しより攻撃的になることを意味する。前記標的細胞は、好ましくは一般的な表面マーカーを特徴とする、所定のタイプの細胞または細胞集団からなる。本明細書では、「治療可能性」は、インビトロの実験により測定される治療活性を反映する。一般に、Daudi細胞などの感受性癌細胞株を用いて、前記細胞に対し免疫細胞が多少なりとも活性であるかどうか、細胞溶解または増殖低下の測定を実施することにより評価する。これは、免疫細胞の脱顆粒またはケモカインおよびサイトカイン産生のレベルを測定することによっても評価され得る。実験は、マウスでも、腫瘍細胞を注射し、その結果の腫瘍増殖を観察することにより、実施することができる。活性の強化は、これらの実験で発生する細胞の数が、免疫細胞によって10%超、好ましくは20%超、より好ましくは30%超、さらに好ましくは50%超低下すれば、有意と見なされる。
【0223】
本発明の一局面では、前記外来性配列は、ケモカインまたはサイトカイン、例えばIL-12をコードする。IL-12が発現することは、このサイトカインが免疫細胞の活性化を促進することは文献でも広く言及されているように、特に有利である(Colombo M.P. et al. (2002) “Interleukin-12 in anti-tumor immunity and immunotherapy” Cytokine Growth Factor Rev. 13(2):155-68)。
【0224】
本発明の好ましい局面では、外来性コード配列は、制御性T細胞などの他の免疫細胞集団に働きかけて、前記免疫細胞に対するそれらの阻害効果を和らげる分泌因子を、コードするかまたは促進する。
【0225】
本発明の一局面では、制御性T細胞活性の阻害剤をコードする前記外来性配列は、フォークヘッド/ウィングドヘリックス転写因子3(FoxP3)のポリペプチド阻害剤であり、より好ましくは、FoxP3の細胞貫通ペプチド阻害剤、例えばP60と呼ばれるものである(Casares N. et al. (2010) “A peptide inhibitor of FoxP3 impairs regulatory T cell activity and improves vaccine efficacy in mice.” J Immunol 185(9):5150-9)。
【0226】
「制御性T細胞活性の阻害剤」とは、T細胞により分泌される分子または前記分子の前駆体を意味し、制御性T細胞がT細胞に対し及ぼす下方制御活性を、T細胞が免れることを可能にする。一般に、そのような制御性T細胞活性の阻害剤は、前記細胞におけるFoxP3転写活性を低減する効果を有する。
【0227】
本発明の一局面では、前記外来性配列は、CCR2/CCL2中和剤などの、腫瘍関連マクロファージ(TAM)の分泌阻害剤をコードする。腫瘍関連マクロファージ(TAM)は、腫瘍微小環境の重要な修飾因子である。臨床病理学の研究によると、腫瘍におけるTAMの蓄積は、臨床結果の不振と相関している。そのエビデンスと一致して、実験的および動物を用いた研究は、TAMは腫瘍発生および増悪の促進に好都合な微小環境を提供し得る、という見解を支持している(Theerawut C. et al. (2014) “Tumor-Associated Macrophages as Major Players in the Tumor Microenvironment” Cancers (Basel) 6(3): 1670-1690)。ケモカインリガンド2(CCL2)は、単球走化性タンパク質1(MCP1 - NCBI NP_002973.1)とも呼ばれる小さなサイトカインであり、CCケモカインファミリーに属し、マクロファージにより分泌され、単球、リンパ球、および好塩基球で化学誘引を生じる。CCR2(C-Cケモカイン受容体2型 - NCBI NP_001116513.2)はCCL2の受容体である。
【0228】
前記座位に挿入されるコード配列は、一般には改変免疫細胞の治療可能性を向上させるポリペプチドをコードするが、挿入配列は、干渉RNAまたはガイドRNAなどの他の遺伝子の発現を指令または阻止することができる核酸の場合もある。挿入配列がコードするポリペプチドは、シグナル伝達因子または転写制御因子など、直接または間接的に作用し得る。
【0229】
改変された免疫細胞および免疫細胞集団
本発明はまた、本明細書に記載される方法の1つにより、単離された形態で、または細胞集団の一部として得ることができる、様々な改変免疫細胞に関する。
【0230】
本発明の好ましい局面では、改変細胞は、NK細胞またはT細胞などの初代免疫細胞であり、それらは一般には、種々のタイプの細胞を含み得る細胞集団の一部である。一般に、PBMC(末梢血単核球)から白血球除去により単離される、患者またはドナーに由来する集団。
【0231】
本発明は、種々の外来性コード配列および遺伝子不活化の任意の組み合わせを含む免疫細胞を包含し、それらについては、それぞれ、独立して上述した。これらの組み合わせのなかでも特に好ましいのは、免疫細胞活性化の際に活性である内在性プロモーター、具体的には1つのTCR座位に存在する1つのプロモーター、具体的にはTCRアルファプロモーターの転写制御下でのCARの発現を組み合わせるものである。
【0232】
別の好ましい組み合わせは、低酸素誘導因子1遺伝子プロモーター(Uniprot: Q16665)の転写制御下での、CARをコードする外来性配列、またはその構成成分の1つの挿入である。
【0233】
本発明はまた、感染症または癌の治療に関して前述した改変初代免疫細胞または免疫細胞集団を含む薬学的組成物、および治療を必要とする患者を治療する方法に関し、前記方法は、
・本発明の方法により改変された初代免疫細胞の集団を前述のようにして準備する工程;
・任意選択により、前記改変初代免疫細胞を精製または分別する工程;
・前記改変初代免疫細胞集団を、前記細胞を前記患者に注入したとき、または注入した後、活性化させる工程
を含む。
【0234】
本発明はまた、上記の方法から結果として生じる改変免疫細胞を対象とし、ここで、該細胞は、特にその細胞表面での抗MUC1 CARの発現のために、本明細書で言及するような外来性ポリヌクレオチドまたは発現ベクターを含む。そのような改変免疫細胞は、好ましくは、初代細胞に由来するか、またはiPS細胞などの幹細胞から分化している、T細胞またはNK細胞である。
【0235】
特定の態様では、TCRの発現が、TCRアルファまたはTCRベータをコードする少なくとも1つの遺伝子の不活化によって、前記免疫細胞において低減または抑制される。これは、低頻度切断エンドヌクレアーゼによるものである。
【0236】
特定の態様では、抗MUC1 CARをコードするポリヌクレオチドを、内在性プロモーターの転写制御下の内在性座位に、好ましくはTCRアルファまたはTCRベータ座位に組み込むことができる。
【0237】
特定の態様では、免疫細胞を、抗CD52抗体などの少なくとも1つの免疫抑制薬に対する抵抗性を与えるように、さらに変異させることができる。
【0238】
特定の態様では、免疫細胞を、少なくとも1つの化学療法薬、具体的にはプリンアナログ薬に対する抵抗性を与えるように、さらに変異させることができる。
【0239】
好ましい態様では、本発明の改変免疫細胞を、患者中で、具体的にはHLAまたはB2mなどのMHCI構成要素をコードする遺伝子中で、その持続性またはその寿命を改良するように変異させている。
【0240】
好ましい態様では、本発明の改変免疫細胞を、そのCAR依存性免疫活性化を改良するように、具体的には免疫チェックポイントタンパク質および/またはそれらの受容体の発現を低減または抑制するように、変異させることができる。
【0241】
特定の態様では、抗MUC1 CARを、TGFベータ受容体の阻害剤またはデコイ、例えば、SEQ ID NO:59と少なくとも80%のポリペプチド配列同一性を有するドミナントネガティブTGFベータ受容体(dnTGFβRII)をコードする別の外来性遺伝子配列と、前記細胞中で同時発現させることができる。この発現は、前記抗MUC1 CARをコードする第1のポリヌクレオチド配列、2A自己切断ペプチドをコードする第2のポリヌクレオチド、および前記ドミナントネガティブTGFベータ受容体をコードする第3のポリヌクレオチドを含む外来性ポリヌクレオチドを細胞中に導入することによって、得ることができる。
【0242】
代替的にまたは補足的に、改変免疫細胞は、低減または不活化された少なくとも1つのTGFベータ受容体遺伝子の発現を有する。
【0243】
いくつかのさらなる態様では、抗MUC1キメラ抗原受容体(CAR)を、
・HLAG、HLAE、もしくはULBP1などの、NK細胞阻害剤;
・変異型IL6Ra、sGP130、もしくはIL18-BPなどの、CRS阻害剤;または
・シクロホスファミドおよび/もしくはイソホスファミドなどの薬物に対する前記免疫細胞の過感受性を与える、チトクロムP450、CYP2D6-1、CYP2D6-2、CYP2C9、CYP3A4、CYP2C19、もしくはCYP1A2;
・薬物抵抗性を与える、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ2(IMPDH2)、カルシニューリンもしくはメチルグアニントランスフェラーゼ(MGMT)、mTORmutもしくはLckmut;
・IL-2、IL-12、およびIL-15などの、ケモカインもしくはサイトカイン;
・HYAL1、HYAL2、およびSPAM1などの、ヒアルロニダーゼ;
・CCR2、CXCR2、もしくはCXCR4などの、ケモカイン受容体;
・免疫細胞の治療活性を強化するための、CCR2/CCL2中和剤などの、腫瘍関連マクロファージ(TAM)の分泌阻害剤;ならびに/または
・グルコースリン酸イソメラーゼ1(GPI1)、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDHA)、および/もしくはホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1(PCK1)などの、代謝酵素
をコードするものから選択される別の外来性遺伝子配列と、前記細胞中で同時発現させることができる。
【0244】
デュアル抗メソテリン/抗MUC1 CAR免疫細胞
さらなる態様として、本発明はまた、前述したような抗MUC1 CARおよび抗メソテリンCARの両方を発現する免疫細胞または免疫細胞集団を特徴とする。この特定のCARの組み合わせは、メソテリンおよびMUC1の両方が陽性である固形腫瘍を治療するのに有意な利点を有する。これらの2つの遺伝学的に無関連の抗原を標的とすることは、抗原逃避の機会を低減する。本発明者らは、この組み合わせが、本発明の細胞集団に、インビボで固形腫瘍に対する格別の能力を与えることを見出した。これはまた、特に、様々なタイプの腫瘍原性細胞が共存し得る不均一な固形腫瘍において、抗腫瘍活性の適用範囲を拡張することを可能にする。例えば、抗メソテリンCARおよび抗MUC1 CAR陽性細胞を発現するデュアルCAR免疫細胞は、メソテリン陽性細胞またはtMUC1陽性細胞のいずれかを殺滅することができるが、MUC1 CAR単独ではできなかった。
【0245】
抗MUC1 CARおよび抗メソテリンCARは両方とも、前述したような方法によって改変した免疫細胞中で同時発現させることができ、したがって、TCR、B2M、およびPD1の発現の低減などの、本願で言及した遺伝子特性のいずれかを含むことができる。例えば、免疫細胞に、抗MUC1 CARまたは抗メソテリンCARのいずれかをコードする配列を含むポリヌクレオチド構築物、またはまた、2Aポリペプチドによって連結された両方のコード配列をコードするポリヌクレオチドを含む、ウイルスベクターで形質導入することができる。あるいは、細胞の治療用集団は、抗MUC1 CARまたは抗メソテリンCARを独立して発現する免疫細胞を混合することによって、得ることができる。
【0246】
したがって、本発明は、抗癌療法におけるその使用のため、特に乳癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、卵巣癌、膵臓癌、胃癌、および肺癌の治療のための、抗MUC1 CARもしくは抗メソテリンCARのいずれか、または両方のCARを発現する細胞の混合物を含む、改変免疫細胞の治療用集団を包含する。
【0247】
好ましい態様では、メソテリン特異的キメラ抗原受容体(抗MESO CAR)は、典型的には、
・モノクローナル抗メソテリン抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメイン;
・膜貫通ドメイン;ならびに
・CD3ゼータシグナル伝達ドメインを含む細胞質ドメイン、および共刺激ドメイン
を含む構造を呈するものである。
【0248】
好ましい態様では、メソテリン特異的キメラ抗原受容体(抗MESO CAR)は、悪性細胞の表面に呈される、ヒトメソテリン(UniprotデータベースにおいてQ13421と呼ばれるMSLN_ヒト)、より具体的にはSEQ ID NO:209によって表される特定のメソテリンのポリペプチド領域に対して向けられるものである。この抗原領域に対する効率的なCAR、具体的には、SEQ ID NO:210(Meso1-VH)およびSEQ ID NO:211(Meso1-VL)とそれぞれ少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するVH鎖およびVL鎖を含む、細胞外リガンド結合ドメインを含むものが、本出願人によって開発されている。
【0249】
抗MESO CARの細胞外リガンド結合ドメインは、好ましくは、meso1と呼ばれる抗体由来の1つまたはいくつかのscFvセグメント、より具体的には、SEQ ID NO:216、217、218、219、220、および/または221を含むそれ由来のCDRを含む。
【0250】
好ましい局面では、前記CARの前記細胞外リガンド結合ドメインは、
・SEQ ID NO:3(CDRH1-Meso1)、SEQ ID NO:4(CDRH2-meso1)、および/またはSEQ ID NO:5(CDRH3-meso1)とそれぞれ少なくとも90%の同一性を有する、抗体meso1由来のCDRを含む、可変重VH鎖、ならびに
・SEQ ID NO:6(CDRL1-meso1)、SEQ ID NO:7(CDRL2-meso1)、および/またはSEQ ID NO:8(CDRL3-meso1)とそれぞれ少なくとも90%の同一性を有する、抗体Meso1由来のCDRを含む、可変重VL鎖
を含む。
【0251】
本発明による抗MUC1 CARと組み合わせて用いられる1つの好ましい抗メソテリンCARは、SEQ ID NO:222と少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の同一性を有する、MESO1 CARと呼ばれるものである。
【0252】
他の抗MESO CAR、例えば、表12および表13で言及したポリペプチド配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも99%の同一性のScFv配列を含む、MESO2およびP4-R2、またはそれらの任意の機能的バリアントなどもまた、本発明の一部として発現させることができる。
【0253】
(表12)抗MESO CARの例示的な結合ドメインのアミノ酸配列
【0254】
(表13)P4-R2、Meso1-R2、Meso1、およびMESO2-R2 CARのアミノ酸配列の例
【0255】
T細胞の活性化および増殖
遺伝子改変の前であれ後であれ、本発明の免疫細胞は、それらがたとえ抗原結合メカニズムから独立して活性化または増殖できるとしても、活性化または増殖させることができる。特に、T細胞は、例えば米国特許第6,352,694号;同第6,534,055号;同第6,905,680号;同第6,692,964号;同第5,858,358号;同第6,887,466号;同第6,905,681号;同第7,144,575号;同第7,067,318号;同第7,172,869号;同第7,232,566号;同第7,175,843号;同第5,883,223号;同第6,905,874号;同第6,797,514号;同第6,867,041号;および米国特許出願公開第20060121005号に記載されるような方法を用いて、活性化させる、かつ増殖させることができる。T細胞は、インビトロまたはインビボで増殖させることができる。T細胞は一般に、CD3 TCR複合体およびT細胞表面の共刺激分子を刺激する剤との接触によりT細胞の活性化シグナルが生成することによって増殖する。例えば、カルシウムイオノフォアA23187、ホルボール12-ミリスタート13-アセタート(PMA)、またはフィトヘマグルチニン(PHA)のような分裂促進レクチンなどの化学物質を用いて、T細胞の活性化シグナルを生成することができる。
【0256】
非現定例として、T細胞集団は、インビトロで、例えば表面に固定化された抗CD3抗体もしくはその抗原結合断片、または抗CD2抗体との接触により、あるいはカルシウムイオノフォアとともにタンパク質キナーゼC活性化因子(例えばブリオスタチン)との接触により、刺激され得る。T細胞表面のアクセサリー分子の共刺激には、該アクセサリー分子に結合するリガンドを用いる。例えば、T細胞集団を、T細胞増殖を刺激する適切な条件下で、抗CD3抗体および抗CD28抗体と接触させることができる。T細胞培養に適切な条件には、血清(例えば、ウシ胎仔またはヒト胎児血清)、インターロイキン-2(IL-2)、インスリン、IFN-g、IL-4、IL-7、GM-CSF、IL-10、IL-2、IL-15、TGFp、およびTNF、または当業者には公知の細胞増殖用の任意の他の添加物などの増殖および生存可能性に必要な因子を含み得る、適切な培地(例えば、最小必須培地、またはRPMI Media1640もしくはX-vivo 5(Lonza))が含まれる。細胞増殖用の他の添加物としては、限定ではないが、界面活性剤、プラスマネート(plasmanate)、および還元剤、例えばN-アセチル-システインおよび2-メルカプトエタノール(mercaptoethanoi)が挙げられる。培地は、RPMI 1640、A1M-V、DMEM、MEM、a-MEM、F-12、X-Vivo 1、およびX-Vivo 20、オプティマイザー(Optimizer)を含み得、アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、およびビタミン類が添加され、血清フリーであるか、または適量の血清(もしくは血漿)、もしくは一組の所定のホルモン、ならびに/もしくはT細胞の成長および増殖に十分な量のサイトカインが補充される。抗生物質、例えばペニシリンおよびストレプトマイシンは、実験用培養物にのみ含まれ、対象に注入する細胞の培養物には含まれない。標的細胞は、例えば適切な温度(例えば37℃)および大気(例えば空気プラス5% C02)など、増殖を支えるのに必要な条件下に維持される。様々な刺激時間に曝露されたT細胞は、異なる特徴を示し得る。
【0257】
別の特定の態様では、前記細胞は、組織または細胞との共培養により増殖され得る。前記細胞は、インビボで、例えば前記細胞を対象に投与した後の対象の血液内で、増殖させることもできる。
【0258】
治療組成物および用途
上述した本発明の方法は、約15~30日間、好ましくは15~20日間、最も好ましくは18~20日間という限られた時間枠内で改変初代免疫細胞を生産することを可能にし、したがって、それらは特に細胞傷害活性に関して免疫治療の最大な潜在能力を保持する。
【0259】
これらの細胞は細胞集団を形成し、それらは好ましくは単一ドナーまたは患者に由来する。これらの細胞集団は、閉じた培養物レシピエントにおいて増殖できるので製造業務の最も厳しい要件に準拠し、かつ患者に注入する前に凍結できるので、「既製の」または「すぐに使える」治療組成物を提供する。
【0260】
本発明では、同じ白血球除去を起源とする多くの数の細胞を得ることができ、それは患者を治療する十分な用量を得るために重要である。様々なドナーを起源とする細胞集団同士の違いは観測され得るが、白血球除去により獲得される免疫細胞の数は、一般に、約108~1010個のPBMC細胞である。PBMCは、顆粒球、単球、およびリンパ球などいくつかのタイプの細胞を含み、その30~60%がT細胞であり、単一ドナー由来の初代T細胞は一般に108~109個である。本発明の方法は、一般に約108超のT細胞、より一般には約109超のT細胞、さらに一般には約1010超のT細胞、普通は1011超のT細胞に達する、改変細胞の集団を最終的に得る。
【0261】
本発明はしたがって、より具体的には、治療上有効な初代免疫細胞集団に関し、前記集団の少なくとも30%、好ましくは50%、より好ましくは80%の細胞が、本明細書に記載される方法のいずれか1つにしたがい改変されている。
【0262】
本発明の好ましい局面では、前記集団に含まれる免疫細胞の50%超がTCR陰性T細胞である。本発明のより好ましい局面では、前記集団に含まれる免疫細胞の50%超がCAR陽性T細胞である。改変免疫細胞、細胞集団、治療組成物、および使用。
【0263】
本発明は、具体的には、治療組成物としてのその使用のために、本明細書に記載される方法によって取得可能である、1つまたはいくつかの特性を含む改変細胞の混合物を含むことができる、細胞の集団に着目している。
【0264】
そのような細胞の集団は、一般に、前記遺伝子改変のうちの少なくとも1つを有する、少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%の細胞を含む。
【0265】
そのような細胞の集団は、好ましくは、本明細書で「特性」とも呼ばれる前記遺伝子改変のうちの少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ、好ましくは少なくとも4つ、さらにより好ましくは少なくとも5つを有する、少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%の免疫細胞を含む。
【0266】
また、本発明は、以下の(表現型)特性を特徴とする改変免疫細胞の集団を含む、治療組成物を包含する:
・tMUC1エピトープを標的とするCARの外来性発現、ならびに
・少なくとも30%;好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%の細胞による、B2M発現の低減;ならびに/または
・少なくとも30%;好ましくは50%、より好ましくは少なくとも75%の、PD1発現の低減;ならびに/または
・任意で、少なくとも50%;好ましくは少なくとも75%の、TCR発現の低減;
・任意で、少なくとも30%;好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%の、IL-12、IL-15、もしくはIL-18の発現の増大;
・任意で、少なくとも30%;好ましくは50%、より好ましくは少なくとも75%の、TGFβ発現の低減;
・任意で、TGFβR2のデコイの外来性発現;
・任意で、外来性コード配列の導入によるHYAL1、HYAL2、およびSPAM1の分泌;ならびに
・任意で、外来性コード配列の導入によるGPI1、PCK1、および/もしくはLDHAの発現。
【0267】
上記の発現のパーセンテージは、これらの表現型のうちの少なくとも1つを有する、集団中の細胞の80%、90%、95%、または100%超を反映することができる。パーセンテージは、例えば、全体的なタンパク質発現の測定による、同じ培養条件における非改変細胞との比較に基づく。
【0268】
遺伝子型の観点から、本発明の細胞の集団は、以下の遺伝学的特徴を特徴とすることができる:
・免疫細胞の少なくとも50%が、tMUC1エピトープを標的とするCARをコードする外来性ポリヌクレオチド配列を提示する;ならびに
・免疫細胞の少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%が、B2M不活性アレルを提示する;ならびに/または
・免疫細胞の少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは75%が、変異したPD1アレルを提示する;
・任意で、T細胞の少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%が、TCR不活性アレルを提示する;
・任意で、免疫細胞の少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%が、IL-12、IL-15、もしくはIL-18をコードする外来的に導入された配列を提示する;
・任意で、免疫細胞の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%が、そのゲノムに外来的に挿入されたTGFβR2のデコイをコードする配列を提示する;
・任意で、免疫細胞の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%が、そのゲノムに外来的に挿入されたHYAL1、HYAL2、および/もしくはSPAM1をコードする配列を提示する;
・任意で、免疫細胞の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%が、そのゲノムに外来的に挿入されたGPI1、PCK1、および/もしくはLDHAをコードする配列を提示する;
・任意で、免疫細胞の少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%が、変異したTGFβアレルを提示する。
【0269】
上記のパーセンテージは、遺伝子改変のうちの少なくとも1つを含む、集団中の細胞の80%、90%、95%、または100%超を反映することができる。パーセンテージは、例えば、全体的な細胞集団またはその代表的な試料に対して行った定量PCRによる、非改変細胞との比較に基づく。
【0270】
そのような集団において、患者におけるその後のその同種異系使用のために、少なくとも1つのTCRアルファアレルが、細胞の90%超、好ましくは95%超において破壊されることが、望ましい場合がある。好ましい態様では、前記TCRアルファ遺伝子は、CAR自体もしくはdnTGFBRII(SEQ ID NO:59)またはその両方などの、遺伝子特性をコードする外来性配列の挿入によって破壊される。そのようなTGFβR2のデコイは、ウイルスベクター形質導入時に、CARと同時発現させることができる(両方のコード配列を含むrLVまたはAAVベクター)。
【0271】
好ましい態様では、B2Mおよび/またはPD1アレルは、HLA-E(SEQ ID NO:60)もしくはHLA-G(SEQ ID NO:61)、またはそれと少なくとも80%、90%、もしくは95%の同一性を有する任意の機能的配列などの、NK阻害剤をコードする外来性配列の挿入によって、前記細胞の集団において破壊される。
【0272】
好ましい態様では、B2Mおよび/またはPD1アレルは、IL-12a(SEQ ID NO:63)および/もしくはIL12b(SEQ ID NO:64)、IL-15a(SEQ ID NO:66)、もしくはIL-18(SEQ ID NO:68)、またはそれと少なくとも80%、90%、もしくは95%の同一性を有する任意の機能的配列をコードする外来性配列の挿入によって、前記細胞の集団において破壊される。
【0273】
好ましい態様では、前記細胞の集団は、好ましくはPD1、CD69、CD25、またはGMCSF座位に挿入される、HYAL1(SEQ ID NO:69)、HYAL2(SEQ ID NO:70)、SPAM1(SEQ ID NO:71)、GPI1(SEQ ID NO:72)、PCK1(SEQ ID NO:73)、もしくはLDHA(SEQ ID NO:74)、またはそれと少なくとも80%、90%、もしくは95%の同一性を有する任意の機能的配列をコードする外来性配列を含む。
【0274】
好ましい態様では、前記細胞の集団は、リンパ球除去治療に対する抵抗性を与えるように、例えば、CD52および/またはdCK遺伝子アレルの発現を不活化または低減するように、さらに変異させた細胞を含む。
【0275】
前記細胞の集団は、好ましくは、しかし必ずではなく、CLS MUC1-A、CLS MUC1-B、CLS MUC1-C、CLS MUC1-Dなどの、tMUC1エピトープを標的とするCARをコードする外来性ポリヌクレオチド配列を含む。tMUC1エピトープを標的とするCARをコードするそのような外来性ポリヌクレオチド配列は、好ましくは、それぞれSEQ ID NO:205、SEQ ID NO:206、SEQ ID NO:207、およびSEQ ID NO:208と少なくとも80%、90%、または95%の同一性を有する。
【0276】
そのような組成物または細胞集団は、したがって、薬剤として、特に癌治療のために、具体的にはリンパ腫治療のために、ただし固形腫瘍、例えば黒色腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、または癌腫、例えば肺腫瘍、乳房腫瘍、直腸腫瘍、前立腺腫瘍、または卵巣腫瘍のためにも、それを必要とする患者で使用することができる。
【0277】
本発明は、より具体的には、単一ドナーを起源とする初代TCR陰性T細胞集団に関し、前記集団の少なくとも20%、好ましくは30%、より好ましくは50%の細胞が、少なくとも2つ、好ましくは3つの異なる座位において配列特異性試薬により改変されている。
【0278】
別の局面では、本発明は、治療を必要とする患者を治療する方法に依存し、前記方法は、
(a)患者の腫瘍生検の表面に存在する特定の抗原マーカーを決定する工程;
(b)前述した本発明の方法の1つにより改変された、好ましくは前記特定の抗原マーカーに対して向けられている組換え受容体を発現する、改変初代免疫細胞集団を準備する工程;
(c)前記改変された改変初代免疫細胞集団を前記患者に投与する工程
を少なくとも1つは含む。
【0279】
一般に、前記細胞集団は、T細胞などのCD4およびCD8陽性免疫細胞を主として含み、それはロバストなインビボT細胞増殖を経ることができ、そしてインビトロおよびインビボで長時間にわたり生存することができる。
【0280】
本発明の改変初代免疫細胞を含む治療は、寛解的、治癒的、または予防的であり得る。それは自家免疫療法の一環または同種異系免疫療法の治療の一環であり得る。
【0281】
別の態様では、本発明の前記単離細胞または前記単離細胞に由来する細胞株を、固形腫瘍、具体的には、典型的には食道癌、乳癌、胃癌、胆管癌、膵臓癌、結腸癌、肺癌、胸腺癌、中皮腫、卵巣癌、および/または子宮内膜癌などの固形腫瘍の治療に用いることができる。
【0282】
成人腫瘍/癌および小児腫瘍/癌も含まれる。
【0283】
本発明の改変免疫細胞による治療は、抗体療法、化学療法、サイトカイン療法、樹状細胞療法、遺伝子療法、ホルモン療法、レーザー光療法、および放射線療法の群より選択される1つまたは複数の癌治療法と併用され得る。
【0284】
本発明の好ましい態様では、前記治療は、免疫抑制治療を受けている患者に投与され得る。実際、本発明は、好ましくは、少なくとも1つの免疫抑制剤の受容体をコードする遺伝子の不活化のおかげでそのような免疫抑制剤に対し抵抗性とされた細胞または細胞集団に依存する。この面で、免疫抑制治療は、本発明のT細胞の患者体内の選択および増殖を助けるはずである。
【0285】
本発明の細胞または細胞集団の投与は、エアロゾル吸引、注射、経口摂取、輸注、植え込み、または移植を含め、任意の便利な方式で実行され得る。本明細書に記載される組成物は、患者に、皮下的に、皮内的に、腫瘍内的に、節内的に、髄内的に、筋内的に、静脈内もしくはリンパ内注射により、または腹腔内的に、投与され得る。一態様では、本発明の細胞組成物は、好ましくは静脈内注射により投与される。
【0286】
細胞または細胞集団の投与は、体重1キロあたり104~109細胞、好ましくは体重1キロあたり105~106細胞の投与からなり得、これらの範囲内の細胞の個数のすべての整数が含まれる。本発明は、したがって、単一ドナーまたは患者のサンプリングを起源とする106~108の遺伝子編集細胞を含む、10超、一般には50超、より一般には100超、普通は1000超の用量を提供し得る。
【0287】
細胞または細胞集団は、1つまたは複数の用量で投与され得る。別の態様では、前記有効量の細胞を単一用量として投与する。別の態様では、前記有効量の細胞を、ある期間にわたり2用量以上として投与する。投与のタイミングは担当医の判断内であり、患者の臨床的状態による。細胞または細胞集団は、血液バンクまたはドナーなど、任意のソースから得られ得る。個人のニーズは様々であるが、特定の疾患または状態のための所与の細胞種の有効量の最適な範囲の決定は当技術分野の技能内である。有効量とは、治療上または予防上のメリットを提供する量を意味する。投与量は、レシピエントの年齢、健康、および体重、同時治療があればその種類、治療頻度、ならびに所望の効果の性質による。
【0288】
別の態様では、前記有効量の細胞またはそれらの細胞を含む組成物が、非経口投与される。前記投与は、静脈内投与であり得る。前記投与は、腫瘍注射により直接なされ得る。
【0289】
本発明の特定の態様では、細胞は、限定ではないが、抗ウイルス療法、シドホビル、およびインターロイキン-2、シタラビン(ARA-Cとしても知られる)などの剤による治療、またはMS患者用ナタリジイマブ(nataliziimab)治療、または乾癬患者用エファリズチマブ(efaliztimab)治療、またはPML患者用の他の治療を含め、任意の数の関連治療モダリティと一緒に(例えばその前、同時に、または後で)患者に投与される。さらなる態様では、本発明のT細胞は、化学療法、放射線、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸、およびFK506、抗体、または他の免疫除去剤、例えばCAMPATH、抗CD3抗体、または他の抗体療法、サイトキシン(cytoxin)、フルダリビン(fludaribine)、シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、ミコプリエン酸(mycoplienolic acid)、ステロイド、FR901228、サイトカイン、および照射法と併用され得る。これらの薬物は、カルシウム依存性ホスファターゼカルシニューリン(シクロスポリンおよびFK506)を阻害するか、または成長因子に誘導されるシグナル伝達に重要なp70S6キナーゼ(ラパマイシン)を阻害する(Henderson, Naya et al. 1991; Liu, Albers et al. 1992; Bierer, Hollander et al. 1993)。さらなる態様では、本発明の細胞組成物は、骨髄移植、フルダラビンなどの化学療法剤、外照射療法(XRT)、シクロホスファミド、またはOKT3もしくはCAMPATHなどの抗体のいずれかを用いてのT細胞除去療法と一緒に(例えばその前、同時に、または後で)患者に投与される。別の態様では、本発明の細胞組成物は、CD20と反応する剤などのB細胞除去療法、例えばリツキサンに続いて投与される。例えば、一態様では、対象は、高用量化学療法による標準治療を受けた後、末梢血幹細胞移植を受ける場合がある。特定の態様では、移植に続いて、対象は、増殖した本発明の免疫細胞の注入を受ける。追加の態様では、増殖細胞を手術の前または後に投与する。
【0290】
本発明はまた、具体的には、患者の固形腫瘍を治療する一般的な方法に関し、前記方法は、リンパ球除去レジメンにより該患者を免疫除去する工程、およびリンパ球除去レジメンで用いられたリンパ球除去剤に対し抵抗性とされており、かつ前記固形腫瘍を特異的に標的とする、遺伝子改変リンパ球を注入する工程を含む。そのような遺伝子改変リンパ球は、好ましくはCAR陽性T細胞であり、より好ましくは本明細書に記載される抗MUC1 CARを備えている。
【0291】
リンパ球除去レジメンは、好ましくは、免疫細胞の表面に存在するCD52、CD3、CD4、CD8、CD45などの抗原、もしくは他の特異的マーカーに対して向けられている抗体、またはプリンアナログ(例えばフルダラビンおよび/またはクロロファラビン)およびグルココルチコイドなどの薬物を含む。
【0292】
本発明の好ましい態様では、方法は、CD52に対して向けられている抗体を含むリンパ球除去レジメンに患者を委ねること、およびCD52の発現が低下、不足、または不活化している、抗MUC1 CARを備える改変CAR T細胞を投与することを含む。
【0293】
本発明の好ましい態様として、リンパ球除去治療は、アレムツズマブなどの抗CD52抗体を、単剤または併用で含み得る。リンパ球除去レジメンは、例えば、シクロホスファミドを典型的には1~3日間、フルダラビンを1~5日間、およびアレムツズマブを1~5日間、併用する場合がある。一般に、リンパ球除去レジメンは、シクロホスファミド50~70 mg/kg/日、フルダラビン20~40 mg/m2/日、およびアレムツズマブ0.1~0.5 mg/kg/日を、単剤または併用で含み得る。
【0294】
そのために、本発明は、固形腫瘍に侵されている患者のリンパ球除去用の組成物であって、抗CD52抗体を含む組成物と、前記抗体に対し非感受性の、MUC1を標的とする改変リンパ球集団との併用を提供し、そのような集団は、好ましくは、抗MUC1 CARを発現する、かつ損なわれたCD52発現を有する、細胞を含む。そのような改変細胞では、CD52遺伝子のアレルは、好ましくは、前述したようなTALEヌクレアーゼまたはRNA誘導エンドヌクレアーゼなどの低頻度切断エンドヌクレアーゼにより不活化されている。
【0295】
本発明はまた、以下の工程を含む、MUC1発現細胞を特徴とする状態を有する患者を治療するための方法である:
・前述したような機能的抗MUC1 CARを発現するように、ドナー由来の免疫細胞を改変する工程;
・tMUC1エピトープを発現する細胞を排除するために、該CAR陽性改変免疫細胞を患者に投与する工程。
【0296】
好ましい態様では、本方法は、患者がリンパ球除去される、事前の治療工程を含む。この点で、前記CAR陽性改変免疫細胞を、前記リンパ球除去治療に対する抵抗性を与えるように変異させることできる。例えば、前記CAR陽性改変免疫細胞を、アレムツズマブなどの抗CD52治療に対する抵抗性を得るように、そのCD52遺伝子において変異させることができる。
【0297】
同種異系の設定に適用した場合、そのようなプロトコルは、MUC1発現細胞を特徴とする状態を有する患者を治療するための方法とみなすことができ、ここで、該方法は、(1)リンパ球除去剤、および(2)tMUC1エピトープに対して特異的に向けられたキメラ抗原受容体(CAR)を発現する、ドナー由来の同種異系改変免疫細胞の集団、の投与を組み合わせる。
【0298】
本発明はまた、前記リンパ球除去用組成物およびそれに対し抵抗性のある前記改変細胞集団を含む、固形腫瘍の癌治療に用いられる医療用キットを提供する。
【0299】
「細胞溶解活性」または「細胞傷害活性」または「細胞傷害性」とは、免疫細胞により与えられる標的細胞の細胞溶解パーセンテージを意味する。
【0300】
細胞傷害性を決定する方法を以下に記載する。
【0301】
接着標的細胞の場合: 2.104の特異標的抗原(STA)陽性細胞またはSTA陰性細胞を96ウェルプレートに1ウェルあたり0.1 ml蒔く。蒔いた翌日、STA陽性およびSTA陰性細胞をCellTrace CFSEで標識し、4時間4 x 105 T細胞と共培養する。それから細胞を回収し、固定可能な生死判別色素(eBioscience)で染色し、MACSQuantフローサイトメーター(Miltenyi)を用いて分析する。
【0302】
懸濁標的細胞の場合: STA陽性およびSTA陰性細胞をそれぞれCellTrace CFSEおよびCellTrace Violetで標識する。約2 x 104 のROR1陽性細胞を2 x 104 STA陰性細胞と、96ウェルプレートで1ウェルあたり0.1 mlの4 x 105 T細胞と一緒に共培養する。4時間インキュベーションした後、細胞を回収し、固定可能な生死判別色素(eBioscience)で染色し、MACSQuantフローサイトメーター(Miltenyi)を用いて分析する。
【0303】
特異的溶解のパーセンテージは以下の式を用いて計算することができる。
【0304】
「増加した細胞傷害性」とは、改変免疫細胞により与えられる標的細胞の細胞溶解%が、改変されていない免疫細胞により与えられる標的細胞の細胞溶解%に比べて、少なくとも10%、例えば少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも100%もしくはそれ以上増加することを意味する。
【0305】
「同一性」とは、2つの核酸分子またはポリペプチド間の配列同一性を指す。同一性は、各配列内の位置を比較することにより決定され得、比較するためにそれらを整列させる場合がある。比較した配列内の位置が同じ塩基で占められている場合、それらの分子はその位置において同一である。核酸またはアミノ酸配列間の類似性または同一性の程度は、核酸配列に共通する同じ位置の同一のまたは整合するヌクレオチドの数の関数である。様々なアライメントのアルゴリズムおよび/またはプログラムを用いて2配列間の同一性を計算することができ、それにはFASTAまたはBLASTが含まれ、それらはGCG配列分析パッケージ(ウィスコンシン州マディソンのウィスコンシン大学)の一環として利用可能であり、例えばデフォルト設定で使用することができる。例えば、本明細書に記載される特定のポリペプチドと少なくとも70%、85%、90%、95%、98%、または99%の同一性を有する、かつ好ましくは実質的に同じ機能を示すポリペプチド、ならびにそのようなポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、想定されている。
【0306】
特に記載しない限り、本発明は、本明細書に記載されているポリペプチドおよびポリヌクレオチドと、少なくとも70%、一般的に少なくとも80%、より一般的に少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、およびさらにより好ましくは少なくとも97%を共有するポリペプチドおよびポリヌクレオチドを包む。
【0307】
「対象」または「患者」という用語は、本明細書で使用される場合、一般には哺乳類、好ましくは霊長類、よりより好ましくはヒトを指す。
【0308】
上記した本発明の明細書は、本発明を実施し使用する様式および方法を提供して、当業者が誰でも本発明を実施し使用することができるようにするものであり、そうできるようにすることは、具体的には添付請求項の主題に関して提供され、添付請求項の主題は、本明細書の一部を構成する。
【0309】
本明細書で数字の限度または範囲が記載される場合、端点も含まれる。また、数字の限度または範囲内のあらゆる値および下位範囲は、あたかも明記されているかのように、具体的に含まれる。
【0310】
本発明について広く記載してきたが、特定の具体例を参照することにより、さらなる理解を得ることができる。そのような特定の具体例は、例示目的でのみ本明細書に提供され、特許権を請求する本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0311】
実施例1:インビトロ実験および抗MUC1 CAR-Tの作製
インビトロアッセイ用のUCARTMUC1標的細胞株の選択:
標的細胞株T47D(ATCC(登録商標) HTB-133(商標))およびHCC70(ATCC(登録商標) CRL-2315(商標))は、American Type Culture Collection(ATCC)から購入し、MUC1陰性対照細胞株293FT(R70007)は、ThermoFisher Scientificから購入した。すべての細胞株を、製造業者の推奨に従って培養した。
【0312】
腫瘍関連MUC1(tMUC1)の細胞表面発現は、フローサイトメトリーを用いて測定した。接着細胞であるT47D、HCC70、および293FTを、Accutase Cell Dissociation Reagent(Biolegend: 423201)を用いて細胞培養フラスコから剥離し、その後、市販の抗MUC1抗体HMFG2(BD Biosciences: 566590)、16A(Biolegend: 355608)、またはSM3(Invitrogen: 53989382)で染色した。データを、BD FACS CANTO IIフローサイトメーターで取得し、FlowJoで解析した。
【0313】
レポーター細胞株T47D-NanoLuc-GFPおよびHCC70-NanoLuc-GFPを、単一のバイシストロニック転写産物を形成する、自己切断ペプチドT2Aによって分離されたNanoLuciferase(NanoLuc)およびEGFPをコードするヌクレオチド配列を有するrLVで、野生型T47DおよびHCC70細胞に形質導入することによって生成した。レポーター細胞株のMUC1発現は、上記のように評価した。
【0314】
上位4つの抗MUC1 scFvのインビトロ特異性:
表3~6に記載したような抗MUC1 scFv(CLS MUC1-A、CLS MUC1-B、CLS MUC1-C、およびCLS MUC1-D)を、マウスFCに融合した組換えタンパク質として、Lake Pharma(201 Industrial Road San Carlos, CA 94070)が作製した。高レベルの正常MUC1を発現することが知られている組織由来の初代細胞:腎臓(PCS-400-012)、肺(PCS-300-010)、および子宮頸部(PCS-480-011)を、ATCCから入手し、製造業者の推奨に従って培養した。T47D、HCC70、および293FT細胞を、(それぞれ)陽性対照および陰性対照として用いた。すべての細胞を、Accutase Cell Dissociation溶液を用いて剥離し、組換えscFV-FCタンパク質およびそれに続くPEコンジュゲートヤギ抗マウスFCガンマ特異的抗体(Jackson Immunoresearch: 115-115-164)、または市販のHMFG2抗体(BD Biosciences: 566590)で染色した。データを、BD FACS CANTO II装置で取得し、FlowJoで解析した。比較のために、細胞をまた、市販の抗TROP2抗体(Biolegend (NY18): 363804およびMiltenyi (REA916): 130-115-055)で染色した。FlowJoのグラフ解析を、図2に示し、ここで、市販のHMFG2抗体および組換えscFV(MUC1-A-scFV、MUC1-B-scFV、MUC1-CおよびMUC1-D-scFV)は、tMUC1発現乳癌細胞株であるT47DおよびHCC70を染色するが、正常MUC1を発現する組織由来の初代細胞(腎臓、肺、および子宮頸部)またはMUC1陰性対照細胞株293FTは染色できないことが観察される。これらの結果により、4つのscFV候補のtMUC1に対する強い特異性が実証される。
【0315】
MUC1 CAR-T細胞の作製:
0日目に、AllCells(Alameda, California 94502)由来の凍結ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を、解凍し、洗浄し、計数して、5% AB血清(GeminiBio: 100-318)および20 ng/mL組換えヒトIL-2(Miltenyi: 130-097-743)を補充したX-vivo 15培地(Lonza: 04-418Q)に再懸濁した。次いで、細胞を、37℃、5% CO2に設定したインキュベーターに移した。
【0316】
1日目に、PBMCを、計数し、フローサイトメトリーにより解析してCD3+細胞の%を評価し、遠心分離して、5% AB血清、20 ng/mLヒトIL-2、およびDynabeads Human T activator CD3/CD28(ThermoFisher #11161D:100万個のCD3+細胞あたり25μl)を補充したX-vivo 15培地に再懸濁した。次いで、細胞を、37℃、5% CO2に設定したインキュベーターに移した。
【0317】
4日目に、T細胞、および抗MUC1 CARをコードするポリヌクレオチド配列を有するrLVベクターを、5% AB血清および20 ng/ml IL-2を補充したX-vivo 15培地に再懸濁して、レトロネクチンでコーティングしたプレートに播種した。次いで、プレートを、37℃、5% CO2に設定したインキュベーターに移した。
【0318】
5日目に、T細胞を、5% AB血清、20 ng/ml IL-2を補充した新鮮なX-vivo 15培地中に継代培養した。次いで、細胞を、37℃、5% CO2に設定したインキュベーターに移した。
【0319】
7日目に、T細胞を、5% AB血清、20 ng/ml IL-2を補充した新鮮なX-vivo 15培地中に継代培養した。CAR-T細胞を、追加の特性(TCRおよびPD1ノックアウト、ならびに誘導性IL-12放出)で改変した場合には、細胞を、午前中に、5% AB血清、20 ng/ml IL-2を補充したX-vivo 15培地において1e6細胞/mLで継代した。6時間後に、細胞に、以前に報告されたように[Poirot et al. (2013) Blood. 122 (21): 1661およびSachdeva et al. (2019) Nat Commun. 10 (1)]、それぞれTRAC TALEN(SEQ ID NO:75および76)およびPD1 TALEN(SEQ ID NO:77および78)の右アームおよび左アームをコードするmRNAを、同時電気穿孔により導入して、TCRαおよびPD-1遺伝子を効率的に不活化し、初代T細胞の表面でのTCRαβ発現を防止した。TALEN(登録商標)は、VoytasらによってWO2011072246に最初に記載されたようにヌクレアーゼ触媒ドメインとしてFok1を用いる、Cellectis(8, rue de la Croix Jarry, 75013 Paris, France)が設計したヘテロ二量体TALEヌクレアーゼの登録名である。
【0320】
トランスフェクションは、AgilePulse技術を用いて行った。細胞を、37℃、5% CO2に設定したインキュベーターに15分間置き、この工程に続いて、細胞を、ペレット化し、5% AB血清、20 ng/ml IL-2を補充した200 uLのX-vivo 15培地で再懸濁した。細胞に、自己切断ペプチドT2Aによって分離されたIL-12サイトカインおよびLNGFRレポーター遺伝子をコードするポリヌクレオチド配列を有するAAV6で、50,000ゲノム/細胞で形質導入した。
【0321】
8日目に、T細胞を、拡大増殖のためにGRexデバイスに移した。8日目~18日目の間、T細胞を、GRexデバイスにおいて拡大増殖させた。GRex10またはGRex6マルチウェル細胞培養プレートを用いた場合、75%の培養培地を、13日目に除去して、IL-2を含有する新鮮な培地で置き換え、新鮮なIL-2を、11日目および15日目に添加した。拡大増殖期間中、細胞培養物を、37℃、5% CO2下でインキュベートした。
【0322】
18日目に、UCART細胞の全体を、後のインビトロおよびインビボのアッセイにおける使用のために凍結保存した。
【0323】
次世代MUC-1 CAR T細胞[dnTGFBR2]pos [TCR]neg [B2M]neg [HLA-E]pos [PD1]neg [IL-12/LNGFR]posを改変するために(図5)、以下のプロトコルを用いた。
【0324】
0日目に、AllCells(Alameda, California 94502)由来の凍結ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を、解凍し、洗浄し、計数して、5% AB血清(GeminiBio: 100-318)および20 ng/mL組換えヒトIL-2(Miltenyi: 130-097-743)を補充したX-vivo 15培地(Lonza: 04-418Q)に再懸濁した。次いで、細胞を、37℃、5% CO2に設定したインキュベーターに移した。
【0325】
1日目に、PBMCを、計数し、フローサイトメトリーにより解析してCD3+細胞の%を評価し、遠心分離して、5% AB血清、20 ng/mLヒトIL-2、およびDynabeads Human T activator CD3 CD28(ThermoFisher #11161D:100万個のCD3+細胞あたり25μl)を補充したX-vivo 15培地に再懸濁した。次いで、細胞を、37℃、5% CO2に設定したインキュベーターに移した。
【0326】
3日目に、T細胞、およびdnTGFBR2と共にバイシストロニック構築物から発現される抗MUC1 CARをコードするポリヌクレオチド配列を有するrLVベクターを、5% AB血清および20 ng/ml IL-2を補充したX-vivo 15培地に再懸濁して、レトロネクチンでコーティングしたプレートに播種した。次いで、プレートを、37℃、5% CO2に設定したインキュベーターに移した。
【0327】
5日目に、T細胞に、以前に報告されたプロトコルに従って[Poirot et al. (2013) Blood. 122 (21): 1661およびSachdeva et al. (2019) Nat Commun. 10 (1)]、それぞれTRAC TALEN(SEQ ID NO:75および76)およびB2M TALEN(SEQ ID NO:79および80)の右アームおよび左アームをコードするmRNAを、同時電気穿孔により導入し、30分後に、HLA-E AAV6(SEQ ID NO:85)で形質導入して、TCRαおよびB2M遺伝子を効率的に不活化し、初代T細胞の表面でのTCRαβ発現を防止した。TALEN(登録商標)は、VoytasらによってWO2011072246に最初に記載されたようにヌクレアーゼ触媒ドメインとしてFok1を用いる、Cellectis(8, rue de la Croix Jarry, 75013 Paris, France)が設計したヘテロ二量体TALEヌクレアーゼの登録名である。
【0328】
6日目に、改変T細胞を、5% AB血清および20 ng/ml IL-2を補充した新鮮なX-vivo 15培地中に継代培養した。
【0329】
7日目に、T細胞に、以前に報告されたプロトコルに従って[Poirot et al. (2013) Blood. 122 (21): 1661およびSachdeva et al. (2019) Nat Commun. 10 (1)]、それぞれPD-1 TALEN(SEQ ID NO:77および78)の右アームおよび左アームをコードするmRNAを、電気穿孔により導入し、30分後に、以前に報告されたようにIL-12-LNGFR AAV6(SEQ ID NO:84)で形質導入した。
【0330】
トランスフェクションは、AgilePulse技術を用いて行った。細胞を、37℃、5% CO2に設定したインキュベーターに15分間置き、この工程に続いて、細胞を、ペレット化し、5% AB血清、20 ng/ml IL-2を補充した200 uLのX-vivo 15培地で再懸濁した。細胞に、HLA-Eをコードするポリヌクレオチド配列を有するAAV6で5日目に、または自己切断ペプチドT2Aによって分離されたIL-12サイトカインおよびLNGFRレポーター遺伝子をコードするポリヌクレオチド配列を有するAAV6で7日目に、50,000ゲノム/細胞で形質導入した。形質導入後に、細胞を、30℃、5% CO2に設定したインキュベーターに移して、一晩インキュベートした。
【0331】
8日目に、T細胞を、拡大増殖のためにGRexデバイスに移した。8日目~18日目の間、T細胞を、GRexデバイスにおいて拡大増殖させた。GRex10またはGRex6マルチウェル細胞培養プレートを用いた場合、75%の培養培地を、13日目に除去して、IL-2を含有する新鮮な培地で置き換え、新鮮なIL-2を、11日目および15日目に添加した。拡大増殖期間中、細胞培養物を、37℃、5% CO2下でインキュベートした。
【0332】
18日目に、UCART細胞の全体を、後のインビトロおよびインビボのアッセイにおける使用のために凍結保存した。
【0333】
次世代MUC-1 CAR T細胞[TGFBR2]neg [TCR]neg [B2M]neg [HLA-E]pos [PD1]neg [IL12/LNGFR]posを改変するために(図17)、以下のプロトコルを用いた。
【0334】
0日目に、AllCells(Alameda, California 94502)由来の凍結ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を、解凍し、洗浄し、計数して、5% AB血清(GeminiBio: 100-318)および20 ng/mL組換えヒトIL-2(Miltenyi: 130-097-743)を補充したX-vivo 15培地(Lonza: 04-418Q)に再懸濁した。次いで、細胞を、37℃、5% CO2に設定したインキュベーターに移した。
【0335】
1日目に、PBMCを、計数し、フローサイトメトリーにより解析してCD3+細胞の%を評価し、遠心分離して、5% AB血清、20 ng/mLヒトIL-2、およびDynabeads Human T activator CD3/CD28(ThermoFisher #11161D:100万個のCD3+細胞あたり25μl)を補充したX-vivo 15培地に再懸濁した。次いで、細胞を、37℃、5% CO2に設定したインキュベーターに移した。
【0336】
2日目に、T細胞、および抗MUC1 CARをコードするポリヌクレオチド配列を有するrLVベクターを、5% AB血清および20 ng/ml IL-2を補充したX-vivo 15培地に再懸濁して、レトロネクチンでコーティングしたプレートに播種した。次いで、プレートを、37℃、5% CO2に設定したインキュベーターに移した。
【0337】
3日目に、T細胞を、5% AB血清、20 ng/ml IL-2を補充した新鮮なX-vivo 15培地中に継代培養した。CAR-T細胞を、追加の特性(TCRおよびB2Mノックアウト、ならびにHLA-E)で改変した場合には、細胞を、午前中に、5% AB血清、20 ng/ml IL-2を補充したX-vivo 15培地において1e6細胞/mLで継代した。6時間後に、細胞に、以前に報告されたように[Poirot et al. (2013) Blood. 122 (21): 1661およびSachdeva et al. (2019) Nat Commun. 10 (1)]、それぞれTRAC TALEN(SEQ ID NO:75および76)およびB2M TALEN(SEQ ID NO:79および80)の右アームおよび左アームをコードするmRNAを、同時電気穿孔により導入して、TCRαおよびB2M遺伝子を効率的に不活化し、初代T細胞の表面でのTCRαβ発現を防止した。TALENは、VoytasらによってWO2011072246に最初に記載されたようにヌクレアーゼ触媒ドメインとしてFok1を用いる、Cellectis(8, rue de la Croix Jarry, 75013 Paris, France)が設計したヘテロ二量体TALEヌクレアーゼの登録名である。
【0338】
トランスフェクションは、AgilePulse技術を用いて行った。細胞を、37℃、5% CO2に設定したインキュベーターに15分間置き、この工程に続いて、細胞を、ペレット化し、5% AB血清、20 ng/ml IL-2を補充した200 uLのX-vivo 15培地で再懸濁した。細胞に、自己切断ペプチドT2Aによって分離されたHLA-E遺伝子をコードするポリヌクレオチド配列を有するAAV6で、50,000ゲノム/細胞で形質導入した。
【0339】
7日目に、T細胞を、追加の特性(TGFBR2およびPD1 KO、ならびにIL12発現)でさらに改変した。T細胞を、5% AB血清、20 ng/ml IL-2を補充したX-vivo 15培地において1e6細胞/mLで継代した。6時間後に、細胞に、以前に報告されたように、PD1 TALEN(SEQ ID NO:77および78)およびTGFBR2 TALEN(SEQ ID NO:223および224)の左アームおよび右アームをコードするmRNAを、同時電気穿孔により導入して、TGFBR2およびPD1遺伝子を効率的に不活化し、MUC1認識およびT細胞活性化時の特異的なIL-12発現を可能にした。
【0340】
9日目に、T細胞を、拡大増殖のためにGRexデバイスに移した。9日目~18日目の間、T細胞を、GRexデバイスにおいて、37℃、5% CO2下で拡大増殖させ、時々培地交換を行った。
【0341】
18日目に、UCART細胞の全体を、後のインビトロおよびインビボのアッセイにおける使用のために凍結保存した。
【0342】
いくつかのTALENの同時トランスフェクションから同時に生じるゲノムのオン標的部位および潜在的なオフ標的部位を解析するために、本発明者らは、以前のアッセイ(Tsai et al. 2015)から適合させた次世代シーケンシングと連結したオリゴキャプチャーアッセイを用いた。オン標的のみが、高スコアを呈し、これは、いかなるオフ標的も、UCART MUC1-A [dnTGFBR2]pos [TCR]neg [B2M]neg [HLA-E]pos [PD1]neg [IL-12/LNGFR]pos 細胞を生成するために用いたTRAC、B2M、およびPD1 TALENの組み合わせで検出できなかったことを示唆した(図9)。
【0343】
(表14)UCART MUC1中に遺伝子特性を導入するために用いたポリヌクレオチドおよびポリペプチドの配列
【0344】
CAR発現の検出:
次いで、CLS MUC1-A、CLS MUC1-B、CLS MUC1-C、およびCLS MUC1-Dの異なるUCART細胞産物を、インビトロで評価した。CAR表面発現は、CAR構築物のマウスF(ab)2断片を検出するBiotin-SPコンジュゲートヤギ抗マウスF(ab)2断片特異的抗体もしくはCAR ScFvのヒトF(ab)2断片を検出するBiotin-SPコンジュゲートヤギ抗ヒトF(ab)2断片特異的抗体、またはすべてのCARのR2自殺スイッチ部分を認識するAlexa Fluor-488コンジュゲートリツキシマブのいずれかを用いたフローサイトメトリーによって評価した。
【0345】
殺滅活性アッセイ
CLS MUC1-A、CLS MUC1-B、CLS MUC1-C、およびCLS MUC1-D CARを備えるMUC1 UCART細胞を作製し、上記のようにCAR発現を試験した。0日目に、標的細胞であるT47D-NanoLuc-GFPまたはHCC70-NanoLuc-GFPのいずれかを、平底96ウェルプレートに1ウェルあたり10,000個の標的細胞の密度でプレーティングした。細胞は、そのそれぞれの完全培地においてプレーティングした。1日目に、標的細胞から培地を除去し、CLS MUC1-A、CLS MUC1-B、CLS MUC1-C、およびCLS MUC1-D、または非形質導入(NTD)UCART細胞を、5% AB血清を補充したX-Vivo培地において、5:1、2.5:1、または1:1のCAR+エフェクター対標的(E:T)比で標的細胞に添加した。標的細胞を、CARまたはNTD対照と、37℃、5% CO2に設定したインキュベーターにおいて48時間、共培養した。その後、NanoLuciferaseシグナルを発生させた。培地の除去後に、ウェルを、100 uLのPBSで1回洗浄し、次いで、PBS中0.026% Triton X-100と、ボルテックスしながら2分間インキュベートした。合計10 uLの溶解物を、40 uLのPBSに希釈し、50 uLのNano-Glo基質と混合して、3分間インキュベートした。インキュベーション後に、発光を読み取った。特異的溶解パーセントを、以下の式を用いて計算した:溶解%=(1-(標的+scFV UCART)/(標的+NTD UCART))*100。
【0346】
結果を、5:1、2.5:1、または1:1の異なる比で4つの抗MUC1 CAR-Tの各々について溶解%を示す、図3の図に示す。図は、濃度依存様式の、4つのCAR構築物をそれぞれ備える初代T細胞の殺滅活性を示す。CLS MUC1-A CAR構築物によって誘導された殺滅活性は、他の構築物よりも有意に高かった。
【0347】
乳癌腫瘍におけるMUC1発現の検出のための腫瘍マイクロアレイ
CD8ヒンジおよびマウスIgG1 Fcに結合したCLS MUC1-A、CLS MUC1-C、およびCLS MUC1-D scFVを発現するタンパク質を、CHO細胞で作製し、プロテインAを用いて精製した。84個の乳癌試料を含むヒトパラフィン包埋組織マイクロアレイ (TMA) を、US Biomaxから購入した。scFVタンパク質を、免疫組織化学アッセイに用いた。TMAを、キシレン、100%エタノール、96%エタノール、70%エタノール、および水の連続浴において脱蝋した。次いで、スライドを、反応緩衝液で洗浄し、自動染色用のDiscovery XT2装置で染色した。スライドを、最初に、反応緩衝液と32分間インキュベートし、次いで、CAR CLS MUC1-AおよびCLS MUC1-Cについては3 ug/ml、CAR MUC1-Dについては9 ug/mlでの一次抗体と、37Cで60分間インキュベートした。次いで、抗マウスHRPを16分間アプライし、切片を、ヘマトキシリンおよび青化(bluing)試薬で染色した。次いで、スライドを、石鹸水および水道水で洗浄し、最後に、マウントして顕微鏡下で解析した。特異的陽性染色を、以下のようにグレード分けした:グレード1:最小限;グレード2:軽微;グレード3:中等度;グレード4:顕著;グレード5:強。スライドは、LeicaのホールスキャニングデバイスAT2を用いてデジタル化した(図19)。
【0348】
実施例2:インビボ抗MUC1 CAR活性
動物モデルの選択の根拠
MUC-1 CAR+ T細胞のヒト特異性のために、標準的な免疫適格動物モデルでの研究は、異種免疫反応によるヒトT細胞の急速な標的化および排除により、適用不可能である。選択した動物モデルは、高度免疫不全NSGマウス系統(Jackson laboratory由来のNOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ系統)であり、それが、ヒトMUC1+腫瘍細胞およびヒトCAR T細胞の両方の生着を可能にするためである。
【0349】
UCART MUC1細胞の遺伝子特性およびTCR除去の検証
実施例1に記載したプロトコルに従って作製し、CLS MUC1-A CARで改変したUCART細胞の20%未満が、TCRαβ+のままであり、これは、TCRα遺伝子のTALEN媒介性不活化のレベルが、細胞の集団において非常に効率的であったことを示唆する。
【0350】
残りのTCRαβ+細胞を、CAR-T細胞作製の18日目に除去した。UCART MUC1細胞を、計数し、ペレット化して、0.5%の熱不活化FBSを含有するPBSに10e8細胞/mLの密度で再懸濁した。その後、細胞を、抗TCRα/β-ビオチン抗体(Miltenyi CliniMACS TCRα/β Kit: 200-070-407)と、10e7細胞ごとに1.875 uLの抗体の濃度で、4Cで30分間インキュベートした。インキュベーション後に、細胞を、0.5% FBSを含有する5体積のPBSで洗浄し、10e8細胞/mLで再懸濁して、10e7細胞ごとに3.75 uLの抗ビオチンビーズ(Miltenyi CliniMACS TCRα/β Kit: 200-070-407)と、4Cで30分間インキュベートした。インキュベーション後に、細胞を、前と同様に洗浄し、1.25e8細胞/mLで再懸濁して、あらかじめ平衡化したLSカラムを通過させた。TCRαβ-細胞を含有するフロースルーを、5回の1 mL洗浄液と共に回収した。TCRαβ+細胞の除去を、細胞を抗TCRαβ-PE-Vio770抗体(Miltenyi: 130-119-617)で染色することによって、フローサイトメトリーにより解析した。PD-1遺伝子の不活化の効率およびIL-12放出の効率を、PMA/イオノマイシン(40 ng/mL PMAおよび2 nMイオノマイシン)で24時間活性化したCAR-T細胞上の、PD-1およびLNGFRレポーターの細胞表面発現の直接比較によって試験した。活性化後に、PD-1およびLNGFRの細胞表面発現を、細胞を抗PD-1抗体または抗LNGFR抗体で染色することによって、フローサイトメトリーにより試験した。CLS MUC1-Aおよび特性で改変したUCART MUC1の編集の効率は、50% PD-1ノックアウトおよび4.7% LNGFR+であると計算された。類似した値が、NTD対照細胞について達成された。特性を伴わないCLS MUC1-A CARで改変したUCART MUC1細胞は、高レベルのPD-1(68%)を発現し、LNGFRを発現しなかった。
【0351】
NSGマウスにおけるHCC70ヒト腫瘍細胞の生着
NSGマウスを、6週齢で購入し、移植の1週間前に剃毛した。野生型HCC70(ATCC(登録商標) CRL-2315(商標))細胞を、供給元の推奨に従って培養した。移植当日に、80~90%コンフルエントの単層のHCC70細胞を、PBSで洗浄し、次いで、Accutase Cell Dissociation Regentと、37℃、5% CO2に設定したインキュベーターにおいてインキュベートした。Accutase消化を、1体積当量の完全増殖培地を添加することによって終えた。細胞を、300 gで5分間ペレット化し、30 mLのPBSで再懸濁して、Vi-cellを用いて計数した。計数した細胞を、50 mLコニカルチューブにおいて、300 gで5分間、4℃でペレット化した。ペレット化した細胞を、氷上で5分間インキュベートし、次いで、100e6細胞/mLまたは50e6細胞/mLの密度で、マトリゲル(Corning: 356237)とPBSとの1:1混合物に再懸濁した。0日目に、100 uLのHCC70細胞懸濁液を、1マウスあたり合計10e6個または5e6個のHCC70細胞になるように、NSGマウスの乳腺脂肪パッド中に移植した。腫瘍体積を、週に1回、19日間測定した。HCC70の良好な生着が、観察された。
【0352】
腫瘍移植、CAR-T処置、および腫瘍モニタリング
図12にまとめたように、100e6細胞/mLの密度の100μLのHCC70-NanoLuc-GFP細胞を、6週齢のNSG系統の乳腺脂肪パッド中に注射した。0日目に、マウスに、10e6個のCAR+ UCART CLS MUC1-Aおよび非形質導入の対応するT細胞(NDT)対照を、それぞれ注入した。動物を、1群あたりの平均腫瘍体積が最も類似するように、各処置群に割り当てた。腫瘍体積を、週に1回測定した。腫瘍体積が2000 mm3を超えるか、または腫瘍が潰瘍化したら、動物を屠殺した。
【0353】
図11および図13は、処置がそれぞれ乳腺脂肪移植または皮下腫瘍移植の7日後に始まり、腫瘍体積を指示された日にわたって追跡した、実験の結果を示す。CLS MUC1-A CARを備えるT細胞で処置したマウスは、約28日目までに腫瘍がなくなったが、対照は、同じ腫瘍の体積が指数関数的に増大したことを、観察することができる。
【0354】
インビボ注入のために改変したCAR-T細胞:
UCART細胞を、特性を伴ってまたは伴わずに、改変してCLS MUC1-A CARを形質導入し、比較を行った(CAR-T CLS MUC1-AまたはUCART CLS MUC1-A+特性)。特性は、TCRノックアウト、PD-1ノックアウト、およびIL-12放出からなっていた。同様に、非形質導入対照(NTD:CAR陰性対照T細胞)を、特性を伴ってまたは伴わずに作製した(NTDおよびNDT+特性)。CAR-T細胞は、上記のように作製し、事前の凍結を伴わずに、作製から新鮮な状態で注入した。作製に対するわずかな改変を、実行した。CAR-T細胞作製の18日目に、細胞を、G-rexから取り出し、2e6細胞/mLで再懸濁して、通常の組織培養フラスコに播種した。作製の20日目に、細胞を、PBSで1回洗浄し、計数して、100e6 CAR+細胞/mLに濃縮した。合計100 uLのUCART産物または対照を、静脈内注射した。
【0355】
UCART細胞に、CLS MUC1-AまたはCLS MUC-1 Cを形質導入し、TCR KO、PD1-KO、およびIL-12組込みのためにさらに改変した。CAR-T細胞は、上記のように作製した。改変T細胞を、10e6個もしくは3e6個のCAR+ UCARTMUC1-AもしくはUCARTMUC1-Cのいずれかで、作製から新鮮な状態で注入し、または3e6個もしくは10e6個の総非形質導入T細胞(NTD)対照(同じドナー由来)またはPBSを注入した。腫瘍体積を、CLS MUC1-A改変CAR-T細胞またはCLS MUC1-C改変CAR-T細胞での処置後に、週に1回測定した。腫瘍体積が2000 mm3を超えるか、または腫瘍が潰瘍化したら、動物を屠殺した(図18A)。結果により、CLS MUC1-Aを有するUCARTが、300万個の注入した細胞で、およびさらには1000万個の細胞で腫瘍成長を防止することができ、最良の生存を提供したことが実証される(図18Bおよび図C)。
【0356】
UCARTMUC1+/-特性で処置した腫瘍試料のFACS解析
特性(PD-1およびTCRノックアウト、ならびにIL-12放出)を伴うかもしくは伴わない、CLS MUC1-Aを形質導入したCAR-T細胞で、またはNTD細胞(特性を伴うかもしくは伴わない)で、前述したように処置したマウスから、腫瘍を単離した。腫瘍を、Accutase Cell Dissociation Reagent中でホモジナイズし、37℃、5% CO2に設定したインキュベーターに30分間移した。解離した細胞を、3% FBSを含有する20 mLの氷冷PBSで洗浄し、100 umメッシュを通過させた。腫瘍単離物を、vi-cellで計数し、FACS解析のために染色した。
【0357】
腫瘍中のCAR-T細胞の浸潤、および腫瘍細胞上のMUC1の発現を調べ、抗原逃避を示すMUC1発現の消失があるかどうかを判定するために、細胞を、生存細胞にゲートをかけるための固定可能な生存率色素e780で、ヒト細胞にゲートをかけるための抗ヒトHLA-ABC-VioBlueおよび抗マウスMHCII-PEで、ならびに上皮腫瘍細胞にゲートをかけるための抗ヒトCD45および抗ヒトEpCAMで、ならびに最後に、抗MUC1(HMFG2もしくは16A)抗体、またはそれらの対応するアイソタイプ対照で染色して、個々のマウスから単離した腫瘍上のMUC1発現を判定した。
【0358】
図10および図14に表すように、FACSデータを、FlowJoで解析し、各動物由来の生存ヒト上皮細胞の中のMUC1陽性細胞のパーセンテージに対応する値を、Excellにエクスポートし、各処置群の平均としてプロットした。各腫瘍単離物について、すべての生存ヒト細胞(生存率e780-、hHLA-ABC+)の中のCAR-T細胞(hCD45+)および腫瘍細胞(hEpCAM+)の頻度を、個々のデータポイントおよび各処置群の平均の両方としてプロットした。
【0359】
結果により、特性(PD1/TRACノックアウトおよびIL-12放出)を伴って改変したCAR-T細胞が、特性を伴わないCAR-T細胞よりもはるかに高い頻度で、HCC70腫瘍において見出されたことが示された。
【0360】
これらの結果により、特性の追加が、腫瘍浸潤および/または腫瘍内CAR-T細胞の拡大増殖を強化することが示唆される。腫瘍浸潤の強化は、図12において以前に観察された結果と一致した、観察された抗腫瘍応答を支持する。
【0361】
全体的に、これらの結果により、特性の追加が、固形腫瘍の処置において完全な応答を達成するのに有意であることが示唆される。
【0362】
CLS MUC1-A改変CART細胞またはCLS MUC1-C改変CART細胞で処置したマウス由来の腫瘍を、54日目にマウスから単離し(図18A)、Accutase Cell Dissociation Reagent中でホモジナイズして、37℃、5% CO2に設定したインキュベーターに30分間移した。解離した細胞を、3% FBSを含有する20 mLの氷冷PBSで洗浄し、100 umメッシュを30回通過させた。腫瘍単離物を、vi-cellで計数し、FACS解析のために染色した。腫瘍中のCAR-T細胞の浸潤を調べるために、生存細胞を、固定可能な生存率色素e780を用いて特定し、ヒトCAR T細胞を、ヒト抗CD45抗体およびマウス抗CD45抗体で特定した。MUC-1A改変CAR-T細胞およびMUC1-C改変CAR-T細胞は両方とも、チャレンジの54日後に腫瘍において検出することができ(図18D)、10e6個の注射したCLS MUC1-A改変CAR-T細胞について40%超の平均値であった。
【0363】
敵対的な腫瘍微小環境では、CAR-T細胞の拡大増殖、浸潤、およびエフェクター機能が、無数の腫瘍内因子によって阻害される場合がある。したがって、最も活性が高いCARでさえも、追加的な特徴を伴わないと、臨床的な抗腫瘍応答をほとんど達成できない。本明細書で、本発明者らは、腫瘍微小環境バリアのいくつかを、特性の組み合わせ、例えば、T細胞の効力を強化する誘導性IL-12放出と合わせた、CAR-T細胞の疲弊を限定するPD1ノックアウトを通して、成功裏に排除できることを実証する。本発明に含まれる特性は、固形腫瘍に対するCAR-T細胞の成功する株の開発において、効力を増大させる戦略に相乗作用を示すことができる。
【0364】
また、上記の結果から、MUC1 CAR T細胞を改変することは、固形腫瘍の状況で、特にトリプルネガティブ乳癌を標的とするために、効力を強化し、かつ同種異系持続性を改良する、有望なアプローチであることが明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図18C
図18D
図19
【配列表】
2024517713000001.app
【国際調査報告】