(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】分子試験に適合する迅速な乳試料調製方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20240416BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20240416BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20240416BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240416BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20240416BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20240416BHJP
【FI】
C12Q1/04 ZNA
C12Q1/6851 Z
C12N15/11 Z
C12N15/31
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566464
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(85)【翻訳文提出日】2023-12-25
(86)【国際出願番号】 US2022026739
(87)【国際公開番号】W WO2022232396
(87)【国際公開日】2022-11-03
(32)【優先日】2021-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】515230154
【氏名又は名称】ゾエティス・サービシーズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】ベリネニ,スリドハール
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA23
4B029BB02
4B029CC01
4B029FA03
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4B063QS03
4B063QS15
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、下流核酸増幅プロセスのために乳試料を調製する方法を提供する。この方法は、乳腺炎に関与する少なくとも1つの疑わしい細菌病原体を含む乳試料を、コーティングされていない磁気ビーズと接触させることと、乳試料を、コーティングされていない磁気ビーズの存在下でインキュベートして、乳試料中の細菌細胞がビーズに結合することを可能にし、それによってビーズ-細菌複合体を形成することと、ビーズ-細菌複合体が乳試料上清から分離されるように、ビーズ-細菌複合体を磁石に当てることと、乳試料上清を除去することと、分離されたビーズ-細菌複合体を水溶液中に直接再懸濁して、ビーズ結合細菌を溶液中に放出することと、ビーズ再懸濁液又はビーズの分離後のビーズを含まない上清のアリコートを、プライマー特異的下流核酸増幅のための鋳型として用いることと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下流核酸増幅プロセスのために乳試料を調製する方法であって、
a)乳腺炎に関与する少なくとも1つの疑わしい細菌病原体を含む乳試料を、コーティングされていない磁気ビーズと接触させることと、
b)前記乳試料を、前記コーティングされていない磁気ビーズの存在下でインキュベートして、前記乳試料中の細菌細胞が前記ビーズに結合することを可能にし、それによって、ビーズ-細菌複合体を形成することと、
c)前記ビーズ-細菌複合体が乳試料上清から分離されるように、前記ビーズ-細菌複合体を磁石に当てることと、
d)前記乳試料上清を除去することと、
e)分離された前記ビーズ-細菌複合体を水溶液中に直接再懸濁して、ビーズ結合細菌を前記溶液中に放出することと、
f) e)からのビーズ再懸濁液のアリコートを、プライマー特異的下流核酸増幅のための鋳型として用いることと、を含む、方法。
【請求項2】
前記ビーズを上清から分離するために、f)からの前記ビーズ再懸濁液を磁石に当てることを更に含み、ビーズを含まない上清のアリコートを、前記プライマー特異的下流核酸増幅のための鋳型として使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記乳試料が、生乳試料である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記生乳試料が、乳牛の乳腺炎分房由来である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
e)における前記ビーズ-細菌複合体が、DNAポリメラーゼの活性に好適な化学環境を提供する緩衝水溶液中に再懸濁される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記緩衝水溶液のpHが8.0~9.5である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記緩衝水溶液が、Tris-HCl、Tris-H
3PO
4、MOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、又はそれらの組み合わせによって安定化される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記緩衝水溶液が、約10~約50mM、及び約8.0~約9.0のpHで存在するTris-HCl又はTris-H
3PO
4によって安定化される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記緩衝水溶液が、25mMのTris-HCl、pH8.5である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記緩衝水溶液が、キレート剤、塩、洗剤、又はそれらの組み合わせを更に含む、請求項5~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)四酢酸(EGTA)、又は4-アミノサリチル酸ナトリウムである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記洗剤が、トリコサエチレングリコールドデシルエーテル(Brij L23)、オクトキシノール-1(Triton X-100)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween-20)、トリエタノールアミン(TEA)、3-((3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)-1-プロパンスルホネート(CHAPS)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、又はそれらの組み合わせである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記塩が、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl
2)、塩化カリウム(KCl)、又はそれらの組み合わせから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記乳試料及び前記コーティングされていない磁気ビーズが、インキュベーションの前に混合される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記インキュベーションが、室温で約5~約10分間である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記乳試料を調製するステップが、チューブ内で行われる、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記チューブが、前記磁気ビーズを捕捉するために磁気スタンド内に配置される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記コーティングされていない磁気ビーズが、シリカ様表面化学を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記コーティングされていない磁気ビーズが、レシチン、ストレプトアビジン、又はアミンで表面誘導体化される、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記鋳型が、乳腺炎に関与する細菌病原体に特異的なプライマーを使用してリアルタイムPCRによって分析される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記乳腺炎に関与する細菌病原体が、Staphylococcus aureus、Streptococcus sp.、及びコアグラーゼ陰性staphylococci(CNS)からなる群から選択される、請求項20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
乳試料中の病因病原体の同定を可能にするポイントオブケア(PoC)分子試験であって、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法に従って調製された、プライマー特異的核酸増幅のための鋳型の使用を含む、分子試験。
【請求項23】
前記乳試料が、乳牛の乳腺炎分房由来である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記分子試験が、リアルタイムPCRである、請求項22又は23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酪農家が乳中の病原体を判定することを可能にする分子試験に関する。より詳細には、本発明は、乳牛における乳腺炎に関連する病因病原体のポイントオブケア分子検出のための迅速な乳試料調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
牛の乳腺炎は、世界的に乳牛の中で最も広がっている、コストがかかる病気である。乳腺炎は、微生物感染又は身体的外傷に起因する乳腺及び乳房組織の炎症である。牛の乳腺炎及び関連する病原体の早期診断の欠如は、酪農家に経済的な悪影響を及ぼす。米国では、乳腺炎により、乳製品業界では年間約17億~20億ドルのコストがかかっている。多種多様な細菌病原体が関与しているが、最も一般的な病原体は、Staphylococcus aureus、Streptococcus sp.、コアグラーゼ陰性staphylococci(CNS)、Escherichia coli及びMycoplasma spである。牛の乳腺炎の診断は、California Mastitis Test(CMT、牛側試験)、体細胞数(SCC)、及び乳培養(参照ラボ試験)を利用して定期的に実施されている。典型的には、乳腺炎が高い体細胞数(SCC)に基づいて診断される場合、牛は搾乳され、抗生物質の乳房内注入で処置される。抗生物質の賢明な使用は、耐性菌の出現の可能性を低減し、牛が必要とする可能性のある処置期間を短縮し、ひいては運用コストを低減することができる。
【0003】
したがって、適切な治療介入を可能にし、異なる管理戦略を計画するためには、正確な細菌同定が不可欠である。時間のかかる細菌培養方法を除き、他の全ての利用可能な農場での試験では、病因物質は検出されない。参照ラボでの定期的な細菌培養では、通常、数日から数週間のターンアラウンドタイムで、乳試料を出荷する必要がある。更に、培養試験は、試料が収集されるときに非常に低い細菌負荷の存在に起因して、真にサブ臨床的に感染した腺からであっても、陰性の結果を示し得る。分子方法は、細菌同定の熟練した方法であることが証明されているが、病因病原体を同定するための迅速かつ信頼性の高い農場での分子試験は、酪農家に大幅な節約をもたらす可能性がある。更に、迅速な乳試料調製方法は、訓練されていない酪農業者によって使用され得るポイントオブケア(PoC)分子乳腺炎試験をサポートするために必要とされる。本発明は、牛の乳腺炎分房に由来する乳中の細菌病原体の同時検出のための、下流のリアルタイムPCRに適合する新規かつ迅速な乳試料調製方法を記載する。
【0004】
シンプルで効果的な乳試料調製方法は、牛の乳腺炎のためのPoC分子試験の開発における重要なステップである。乳からの従来のDNA抽出方法は、農場環境における分子診断の適用を制限する。核酸抽出の標準的な方法は、大きく2つのカテゴリーに分類することができる:(a)固相抽出(カラムベースの抽出)、及び(b)磁気ビーズを使用した核酸捕捉。カラムベースの抽出のための標準的なワークフローは、溶解緩衝液、機械的破壊、加熱、又はこれらの技術の組み合わせによる、試料の成分の溶解を伴う。核酸は、溶解された試料中で放出され、精製カラム中のシリカ表面に結合される。いくつかの洗浄ステップは、シリカ結合核酸の汚染物質を除去し、最終溶出ステップは、精製されたDNA/RNAをシリカから水性緩衝液に放出する。この方法は、多くの市販のキット及び器具がこのタイプの核酸抽出に利用可能であるため、分子ラボ全体で最も一般的に使用される。抽出プロセスは、一握りの試料に対して手動で実施され得るか、又はハイスループット抽出のために自動化され得る。磁気ビーズベースの核酸抽出キットは、カラムベースの抽出(すなわち、溶解、捕捉、洗浄、及び溶出)と同様の原理に従うが、シリカカラムの代わりにDNA/RNAを捕捉するために磁気ビーズを使用する。洗浄ステップ中、磁石を使用して磁気ビーズを捕捉する。最終溶出ステップの後、核酸が溶液中に放出され、磁気ビーズを廃棄することができる。これらの抽出方法の両方は、研究及び診断ラボで広く使用されるが、特にPoC設定で使用する場合、これらの方法には欠点がある。1)高価な計装(例えば、遠心分離機)は、いくつかの手動方法にさえ必要とされること、2)複数の洗浄及び溶出ステップ、3)手順を実行するために基本的なラボ技術の事前訓練が必要であること、4)時間がかかること、5)いくつかの試薬は、保管のために冷蔵を必要とすること、及び6)遠心分離機及び加熱ブロックなどの追加の装置を収容するためのスペース要件。したがって、分子診断における現在の原動力は、核酸調製のより簡単でより速い方法を開発することであり、例えば、任意の追加の装置及び訓練を必要とすることなく、わずか数ステップを伴うべきである。この目標に向けて、核酸精製又は遠心分離機若しくは複数の溶出ステップなどの追加の装置を必要とすることなく、臨床乳試料から病原体を直接検出することを可能にする、シンプルで使いやすい乳試料調製方法を開発した。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、下流核酸増幅プロセスのために乳試料を調製する方法を提供する。この方法は、a)乳腺炎に関与する少なくとも1つの疑わしい細菌病原体を含む乳試料を、コーティングされていない磁気ビーズと接触させることと、b)乳試料を、コーティングされていない磁気ビーズの存在下でインキュベートして、乳試料中の細菌細胞がビーズに結合することを可能にし、それによってビーズ-細菌複合体を形成することと、c)ビーズ-細菌複合体が乳試料上清から分離されるように、ビーズ-細菌複合体を磁石に当てることと、d)乳試料上清を除去することと、e)分離されたビーズ-細菌複合体を水溶液中に直接再懸濁して、ビーズ結合細菌を溶液中に放出することと、f)e)からのビーズ再懸濁液のアリコートを、プライマー特異的下流核酸増幅のための鋳型として用いることと、を含む。一実施形態では、本方法は、ビーズをビーズを含まない上清から分離するために、f)からのビーズ再懸濁液を磁石に当てることを更に含み、ビーズを含まない上清のアリコートを、プライマー特異的下流核酸増幅のための鋳型として使用する。
【0006】
一実施形態では、乳試料は、生乳試料である。別の実施形態では、生乳試料は、乳牛の乳腺炎分房由来である。
【0007】
更なる実施形態では、本方法のステップe)で分離されたビーズ-細菌複合体を、DNAポリメラーゼの活性に好適な化学環境を提供する緩衝水溶液中に直接再懸濁させる。一実施形態では、緩衝水溶液のpHは、8.0~9.5である。更なる実施形態では、緩衝水溶液は、Tris-HCl、Tris-H3PO4、MOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、又はそれらの組み合わせによって安定化される。
【0008】
一実施形態では、分離されたビーズ-細菌複合体を再懸濁させるために使用される緩衝水溶液は、約10~約50mM、及び約8.0~約9.0のpHで存在するTris-HCl又はTris-H3PO4によって安定化される。特定の実施形態では、緩衝水溶液は、25mMのTris-HCl、pH8.5である。
【0009】
いくつかの実施形態では、緩衝水溶液は、キレート剤、塩、洗剤、又はそれらの組み合わせを更に含む。一実施形態では、キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)四酢酸(EGTA)、又は4-アミノサリチル酸ナトリウムである。更なる実施形態では、洗剤は、トリコサエチレングリコールドデシルエーテル(Brij L23)、オクトキシノール-1(Triton X-100)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween-20)、トリエタノールアミン(TEA)、3-((3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)-1-プロパンスルホネート(CHAPS)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、又はそれらの組み合わせである。別の実施形態では、塩は、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化カリウム(KCl)、又はそれらの組み合わせから選択される。
【0010】
本方法の一実施形態では、乳試料及びコーティングされていない磁気ビーズを、インキュベーションステップの前に混合する。別の実施形態では、インキュベーションは、室温で約5~約10分間である。
【0011】
更なる実施形態では、乳試料を調製するステップは、チューブ内で行われる。一実施形態では、チューブは、磁気ビーズを捕捉するために磁気スタンド内に配置される。
【0012】
一実施形態では、コーティングされていない磁気ビーズは、シリカ様表面化学を含む。別の実施形態では、コーティングされていない磁気ビーズは、レクチン、遊離アミン基、又はストレプトアビジンで表面誘導体化される。
【0013】
一実施形態では、ステップf)の鋳型は、乳腺炎に関与する細菌病原体に特異的なプライマーを使用して、リアルタイムPCRによって分析される。一実施形態では、乳腺炎に関与する細菌病原体は、Staphylococcus aureus、Streptococcus sp.、又はコアグラーゼ陰性staphylococci(CNS)から選択される。更なる実施形態では、ビーズ再懸濁液のアリコート又はビーズを含まない上清のアリコートをPCRチューブ又はマイクロ流体PCRカートリッジに移す。
【0014】
本発明はまた、乳試料中の病因病原体の同定を可能にするポイントオブケア(PoC)分子試験を提供し、この分子試験は、乳試料調製方法の上述の実施形態のいずれか1つに従って調製されたプライマー特異的核酸増幅のための鋳型の使用を含む。一実施形態では、乳試料は、乳牛の乳腺炎分房由来である。別の実施形態では、分子試験は、リアルタイムPCRである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明による迅速な乳試料調製のためのワークフロー実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
本明細書全体にわたって、文脈上他に要求されない限り、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含むこと(comprising)」という語句は、記載されたステップ若しくは要素又はステップ若しくは要素の群を包含するが、任意の他のステップ若しくは要素又はステップ若しくは要素の群を除外しないことを暗に示すことが理解されるであろう。
【0017】
本明細書全体で使用される「コーティングされていない磁気ビーズ」という用語は、Staphylococcus aureus、Streptococcus sp.又はコアグラーゼ陰性staphylococci(CNS)などの乳腺炎に関与する標的細菌病原体に特異的な免疫グロブリン又はペプチドでコーティングされていない磁気ビーズ又は磁気粒子を意味する。しかしながら、磁気ビーズ又は磁気粒子は、ビーズが細菌細胞に結合し、ビーズ-細菌複合体を形成することを可能にする他の成分で表面誘導体化され得ることを理解されたい。例えば、一実施形態では、ビーズの表面は、シリカ様化学(シラノール基)で誘導体化することができる。いずれかの一つの理論に縛られることを望まないが、そのようなシリカ様化学を有する磁気ビーズは、弱いヴァンダーワールス力を介して乳試料中の細菌に結合すると考えられる。別の実施形態では、磁気ビーズ又は磁気粒子は、レクチン誘導体化される。レシチンは、乳試料中の細菌細胞の表面に存在する炭水化物に結合する。あるいは、ストレプトアビジンを磁気ビーズの表面に固定することができる。ストレプトアビジンは、乳試料中の細菌細胞の表面上の細胞外ビオチンに結合する。ストレプトアビジン-ビオチン結合は、タンパク質-リガンド相互作用である。あるいは、磁気ビーズの表面は、リガンドと結合する準備ができている遊離アミン基で官能化することができる。例えば、アミン基は、乳試料中の細菌細胞の表面上に局在するタンパク質と相互作用する。
【0018】
本明細書で使用される「分離されたビーズ-細菌複合体を直接再懸濁する」という用語は、乳試料上清の除去後に、結合した細菌を有する磁気ビーズが、事前にビーズ-細菌複合体の洗浄がない場合に水性緩衝液中に再懸濁されることを意味する。
【0019】
「核酸」、「ポリヌクレオチド」、「核酸分子」等の用語は、本明細書で互換的に使用されてもよく、DNA及びRNA中の一連のヌクレオチド塩基(「ヌクレオチド」とも呼ばれる)を指す。核酸は、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、及び/又はそれらの類似体を含有し得る。「核酸」という用語は、例えば、一本鎖及び二本鎖分子を含む。核酸は、例えば、遺伝子又は遺伝子断片、エクソン、イントロン、DNA分子(例えば、ゲノムDNA)、RNA分子(例えば、mRNA)、組換え核酸、プラスミド、並びに他のベクター、プライマー及びプローブであり得る。5’~3’(センス)及び3’~5’(アンチセンス)ポリヌクレオチドの両方が含まれる。
【0020】
上述のように、本発明は、下流核酸増幅プロセスのために乳試料を調製する方法を提供する。ここで
図1を参照すると、乳試料をコーティングされていない磁気ビーズと接触させる。乳試料は、Staphylococcus aureus、Streptococcus sp.、又はコアグラーゼ陰性staphylococci(CNS)などの乳腺炎に関与する少なくとも1つの疑わしい細菌病原体を含むことが疑われる。乳試料は、チューブ内のコーティングされていない磁気ビーズの存在下で十分な期間インキュベートされ、乳試料中の細菌細胞がビーズに結合することを可能にし、それによってビーズ-細菌複合体を形成する。次いで、このように形成されたビーズ-細菌複合体は、例えば、磁気ラック上に配置することによって、磁気力に当てられる。これにより、結合した細菌細胞を有するビーズをペレット化し、乳試料上清から分離し、次いでチューブから除去することができる。次いで、チューブ中の分離されたビーズ-細菌複合体を、事前に水溶液中の任意の洗浄ステップの不在下で直接再懸濁して、ビーズ結合細菌を溶液中に放出する。次に、2つのオプションのうちの一方を選択することができる。オプション1は、ビーズ再懸濁液のアリコートを、細菌病原体の存在を検出するためのプライマー特異的下流核酸増幅(例えば、リアルタイムPCR)のための鋳型として直接用いることができることである。オプション2は、ビーズ再懸濁液が、ビーズをビーズを含まない上清から分離するために磁石に当てられ、ビーズを含まない上清のアリコートが、プライマー特異的核酸増幅(例えば、リアルタイムPCR)のための鋳型として使用されることである。「ビーズを含まない上清」は、依然として残留量のビーズを含有し得ること、すなわち、ビーズを実質的に含まないか、又はビーズを含まないことを理解されたい。一実施形態では、0.1%v/v未満の残留ビーズが、「ビーズを含まない上清」に存在し得る。
【0021】
本発明は、乳試料中の病因病原体の同定を可能にするポイントオブケア(PoC)分子試験を提供する。この分子試験は、本明細書に記載の乳試料調製方法に従って調製されたプライマー特異的核酸増幅のための鋳型を用いる。
【0022】
図1に示されるように、ポイントオブケア設定のユーザ(例えば、酪農家、獣医師、又は獣医技術者)は、わずか3~4ステップで乳試料調製方法を行う。また、方法を行うためには、磁石又は磁気分離ラック以外の特別な計装は必要ない。更に、本方法は、核酸精製ステップを必要としない。更に、試料調製方法は、マイクロフュージングチューブなどの単一のチューブで行うことができる。対照的に、市販の磁気ビーズベースのキットでは、溶解ステップの後、磁気粒子を使用して核酸(DNA/RNA)に結合し、続いて洗浄ステップを使用して任意の非結合不純物を除去する。かかるキットにおいて、最終的な溶出ステップは、磁気ビーズに結合した核酸を溶出させるための緩衝液の添加を伴う。このワークフローは、労働集約的であり、各洗浄間の遠心分離を伴う複数の洗浄ステップを伴い、複数の洗浄ステップ中の磁気ビーズの損失を最小限に抑えるために高度な技術的専門知識を必要とするため、ポイントオブケアでこれらのキットを使用することが困難になる。
【0023】
酪農家又は獣医師が、牛の乳腺炎分房から収集された乳中の病因病原体を迅速に判定することを可能にするポイントオブケア(PoC)分子試験が必要である。本発明の乳試料調製方法は、核酸精製ステップを必要とせずに、臨床乳試料からの病原体の直接検出を可能にすることによって、そのようなPoC分子乳腺炎試験をサポートする。一実施形態では、この方法は、磁気ビーズを臨床乳試料と混合して細菌細胞を捕捉し、その後、混合物を室温で約5分間インキュベートすることを含む。一実施形態では、インキュベーション後、磁気ビーズは、ペレット化され、乳試料は、磁気分離ラックを使用して吸引される。別の実施形態では、磁気ビーズペレットをTris緩衝液(pH8.5)中に再懸濁し、ビーズ懸濁液又はビーズを含まない上清のアリコートを、下流のリアルタイムPCRによる増幅のための鋳型として直接使用する。
【0024】
一実施形態では、本発明の方法で用いられる磁気ビーズは、任意の好適な磁気材料の酸化物又は材料の組み合わせ、例えば、マグネタイト、ウルボスピネル、ヘマタイト、イルメネテ、マグヘマイト、ヤコブサイト、トレボライト、マグネシオフェライト、ピロータイト、グライガイト、トロイライト、ゲータイト、レピドクロサイト、フェロキシハイト、鉄、ニッケル、コバルト、アワルアイト、及びワイラウイトを含む。
【0025】
所望の一実施形態では、磁気ビーズは、二価酸化物、三価酸化物、又はそれらの組み合わせを含む。1つの好ましい実施形態では、磁気ビーズは、ビーズ全体にガンマFe2O3及びFe3O4を含む。
【0026】
磁気材料は、ビーズを形成するために、ポリマーと更に組み合わせてもよい。例えば、磁気ポリマービーズは、ポリマーマトリックスに埋め込まれた磁気ナノ粒子又は微粒子で構成される。ビーズのサイズは、100ナノメートルから数ミリメートルまで様々であり得る。磁気ポリマービーズの合成は、3つの一般的な方法によって実施され得る。第1のものでは、磁気粒子は、ポリマーマトリックス内で合成される。第2のものでは、ポリマーは、磁気粒子の存在下で合成される。第3のものでは、ビーズは、事前形成されたポリマー及び磁気粒子から調製される。ビーズは、異なる構造を有することができる。一種のビーズでは、磁気粒子は、ポリマーマトリックスの体積に均一に分布する。他の種類のビーズは、コアシェル構造(ポリマーコア磁気シェル又は磁気コアポリマーシェル)によって特徴付けられる。また、コア-シェル粒子がポリマーマトリックス中に均一に分散される、混合系が調製され得る。
【0027】
上記のように、本発明による乳試料調製方法で用いられる磁気ビーズは、コーティングされていない磁気ビーズ又はコーティングされていない磁気粒子である。これは、それらの表面が、Staphylococcus aureus、Streptococcus sp.、又はコアグラーゼ陰性staphylococci(CNS)等の乳腺炎に関与する標的細菌病原体に特異的な抗体又はペプチドで被覆されていないことを意味する。しかしながら、磁気ビーズ又は磁気粒子は、ビーズが細菌細胞に結合し、ビーズ-細菌複合体を形成することを可能にする他の成分で表面誘導体化され得ることを理解されたい。
【0028】
一実施形態では、磁気ビーズは、均一に分布した磁気材料及びシリカ様表面化学(シラノール基)と組み合わされた架橋ポリスチレンで構成される、直径約1μmの均一なモノサイズのフェリ磁気ビーズである。そのようなビーズは、市販されている。例えば、例示的なセクションは、Dynabeads(登録商標)MyOne(商標)Silane(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)の使用を記載する。しかしながら、本発明は、この実施形態に限定されない。
【0029】
別の実施形態では、磁気ビーズは、それらの表面にストレプトアビジンを含み得る。そのようなビーズは、市販されている。例えば、Dynabeads(登録商標)MyOne ストレプトアビジンT1ビーズ(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)は、直径1μmの超常磁気ビーズであり、共有結合した組換えストレプトアビジンの単層及び疎水性表面を有する。また、Dynabeads M-280ストレプトアビジンビーズ(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)は、共有結合した組換えストレプトアビジン及び疎水性表面を有する2.8μm磁気ビーズである。しかしながら、本発明は、これらに限定されない。
【0030】
更に別の実施形態では、磁気ビーズは、レクチン誘導体化される。そのようなビーズは市販されている。例えば、本発明者らは、GlycoMatrix(Dublin,Ohio)由来の以下の2つのタイプのレクチン誘導体化ビーズを使用した。1)Concanavalin A(Jackbean)Lectin(Con A)-MagneZoom(商標)ビーズ、及び2)Triticum vulgaris(Wheat)Lectin(WGA)-MagneZoom(商標)ビーズであるが、本発明はこれらに限定されない。
【0031】
なお更なる実施形態では、磁気ビーズは、遊離アミン基で誘導体化される。そのようなビーズは市販されている。例えば、MagnaBind(商標)アミン誘導体化ビーズは、Thermo Fisher Scientific,Waltham,MAから入手可能であるが、本発明はこれらに限定されない。
【0032】
一実施形態では、乳試料は、約95%v/v~約98.75%v/vの濃度で用いられる。磁気ビーズは、約1.25%v/v~約5.0%(v/v)の濃度で用いられる。「(v/v)」という用語は、その通常の意味に従って体積当たりの体積を意味するものとする。
【0033】
乳試料は、乳牛の乳腺炎分房由来の生乳試料であり得る。一実施形態では、コーティングされていない磁気ビーズを、乳試料と混合し、次いで、室温で約5分間インキュベートして、ビーズが乳試料中の細菌細胞に結合することを可能にし、したがって、ビーズ-細菌複合体を形成する。一実施形態では、乳試料は、約95%v/vで存在し、磁気ビーズは、混合及びインキュベーション中に約5%v/vで存在する。
【0034】
乳試料を磁気ビーズとインキュベートした後、ビーズを磁石と接触させる。一実施形態では、この磁石は、磁気スタンドの形態である。磁気スタンドは市販されている。例えば、Ambion(登録商標)シングルチューブ磁気スタンド(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)は、1.5mLのマイクロフュージングチューブを1本収容し、Invitrogen(商標)MagnaRack(商標)磁気分離ラックは、24×1.5mLのマイクロフュージングチューブを収容する。これらのスタンド/ラックでは、任意の磁気スタンド/ラックと同様に、遠心分離は、溶液中の捕捉ビーズとスタンド内の磁石との間の引力に置き換えられ、その結果、ビーズがマイクロフュージングチューブの片側に収集される。したがって、乳試料から結合した細菌細胞を含む磁気的に捕捉されたビーズは、乳試料の他の成分を含む乳試料上清から迅速かつ効率的に分離することができる。乳試料上清は、200μLの先端などの清潔な先端を有する清潔な使い捨てピペット又は自動化されたラボピペットを使用して手動で行うことができるデカンティング又は吸引によって、チューブから除去される。
【0035】
結合した細菌細胞を含む磁気的に分離されたビーズは、本明細書ではビーズ-細菌複合体と称されてもよい。乳試料上清をチューブから除去した後、ビーズ-細菌複合体を次に水溶液中に再懸濁させる。これは、発明者らが単純に蒸留水であると想定することができる。しかしながら、一実施形態では、ビーズ-細菌複合体は、DNAポリメラーゼの活性に好適な化学環境を提供する緩衝水溶液中に再懸濁される。
【0036】
一実施形態では、ビーズ-細菌複合体を再懸濁させるために使用される緩衝水溶液のpHは、8.0~9.5である。別の実施形態では、緩衝水溶液は、Tris-HCl、Tris-H3PO4、MOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、又はそれらの組み合わせによって安定化される。更なる実施形態では、緩衝水溶液は、約10~約50mM、及び約8.0~約9.0のpHに存在するTris-HCl又はTris-H3PO4によって安定化される。なお更なる実施形態では、緩衝水溶液は、25mMのTris-HCl、pH8.5である。
【0037】
なお更なる実施形態では、ビーズ-細菌複合体を再懸濁するために使用される緩衝水溶液は、キレート剤、塩、洗剤、又はそれらの組み合わせを更に含む。そのような成分は、典型的には、PCR緩衝液中に含まれる。一実施形態では、キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)四酢酸(EGTA)、又は4-アミノサリチル酸ナトリウムである。別の実施形態では、洗剤は、トリコサエチレングリコールドデシルエーテル(Brij L23)、オクトキシノール-1(Triton X-100)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween-20)、トリエタノールアミン(TEA)、3-((3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)-1-プロパンスルホネート(CHAPS)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、又はそれらの組み合わせである。更に別の実施形態では、塩は、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化カリウム(KCl)、又はそれらの組み合わせから選択される。
【0038】
本明細書に記載され、
図1に示されるように、ビーズ再懸濁液のアリコートを、プライマー特異的下流核酸増幅のための鋳型として用いることができる。あるいは、
図1にも示されるように、ビーズ再懸濁液を、ビーズをビーズを含まない上清から分離するために磁石に当てることができ、ビーズを含まない上清のアリコートを、プライマー特異的下流核酸増幅のための鋳型として使用する。これら2つのオプションの各々で許容できる結果が得られたが、本発明者らは、鋳型としてのビーズ懸濁液と比較した場合、ビーズを含まない上清の性能が優れていることを見出した(実施例6、表2)。
【0039】
本発明の試料調製プロセスを使用して得られた鋳型は、標的配列を検出可能な量に特異的に増幅するポリメラーゼ鎖反応(PCR)で増幅され得る。所望の一実施形態では、本発明と併せて使用するための好適な核酸検出方法は、染料ベース又はプローブベースであり得るリアルタイム定量PCR法である。プローブベースの定量PCR(qPCR)は、蛍光標識された標的特異的プローブの5’~3’エキソヌクレアーゼ切断からのリアルタイム蛍光を使用して、PCRの各サイクルにおけるDNA増幅を測定する。プローブベースのqPCRは、典型的には、染料ベースのqPCRよりも特異的であるため、qPCR診断アッセイで用いる基礎技術であることが多い。プローブの設計は様々であるが、最も一般的なタイプの加水分解(例えば、TaqMan(登録商標))プローブは、標的配列に相補的な短いオリゴヌクレオチド上に5’レポーター蛍光団及び3’消光剤を組み込む。蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)は、オリゴプローブが損傷していない間の蛍光団の放出を禁止する。各PCRサイクル中、Taq DNAポリメラーゼの5’フラップエンドヌクレアーゼドメインは、プライマーが伸長され、標的配列が増幅されるにつれてプローブを加水分解する。この切断事象は、レポーター蛍光団を消光剤から分離し、蛍光の増幅依存的な増加をもたらす。プローブベースのqPCRは、各アンプリコン特異的プローブに対して独自の蛍光色素を使用することによって、単一の反応(多重化)において複数の標的を定量化することを可能にする。PCRプライマーを設計するためのソフトウェアが存在する。例えば、PCRプライマーは、Primer Express(著作権)ソフトウェア(Applied Biosystems)又はPrimerQuest(商標)ツール(Integrated DNA Technologies)を用いて設計することができる。
【0040】
以下の実施例及びその中の表は、本発明の理解を助けるために提供され、その真の範囲は添付の特許請求の範囲に記載されている。本発明の趣旨から逸脱することなく、記載された手順に修正を加えることができることが理解される。
【実施例】
【0041】
実施例1-乳試料収集
乳試料を、異なる酪農場の乳屋で乳牛の乳腺炎分房(n=68)から無菌的に収集した。サンプリング方法は、National Mastitis Council’s Laboratory Handbook on Bovine Mastitisによる標準的な推奨事項に従った。簡単に言えば、各分房からの乳の最初の流れを、乳腺刺激のために廃棄し、その後、乳首をヨウ素チンキに浸した。次に、乳首を洗浄し、70%のエタノールを使用して消毒し、最初の3つの流れを廃棄し、乳試料を保存剤なしで滅菌プラスチックチューブに収集した。試料を実験室に輸送するまで氷上に保管し、培養及びMALDI-TOF分析のためにアリコートを分離し、本発明による乳試料調製方法を使用してリアルタイムPCR分析のために残りの試料を-80℃で保存した。
【0042】
実施例2-微生物培養
下流分子分析に適した試料を同定するために、寒天プレート培養システムを使用して、乳腺炎に一般的に関連する標的細菌病原体の各乳試料中の検出を行った。乳試料(100μL)のアリコートを血液寒天プレートの表面にプレートし、37℃で一晩好気的にインキュベートし、続いて読み取って細菌負荷(CFU/mL)を推定した。その後、全ての試験試料からの細菌集団を、MALDI-TOF分析によって属及び種レベルで更に分類した。
【0043】
実施例3-迅速な乳試料の調製方法
一実施形態では、本発明による乳試料調製方法は、10μLの磁気ビーズとシリカ様表面化学(Dynabeads(商標)MyOne(商標)シラン、Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)と200μLの臨床乳試料とを混合し、続いて室温で約5分間インキュベートすることを伴った。インキュベーション後、磁気分離ラックを使用して磁気ビーズペレットを捕捉し、乳上清を吸引した。次いで、磁気ビーズペレットを、100μLの25mMのTris緩衝液(pH8.5)に再懸濁した。磁気ラックを使用して再度、ビーズから分離したビーズ懸濁液又はそれ以外の場合ビーズを含まない上清のアリコート(10μL)を、リアルタイムPCRによる増幅のための鋳型として直接使用した。
図1は、この新規の方法のワークフローの実施形態を示す。
【0044】
実施例4-病原体特異的リアルタイムPCRアッセイ
以前の研究では、以下のプライマー及びプローブが、グラム陽性細菌に特異的であることを検証した。フォワードプライマー(FP):5’CAACGCGAAGAACCTTAC C3’(配列番号1)、リバースプライマー(RP):5’ACGTCATCCCCACCTTCC3’(配列番号2)、及びプローブ:5’FAM-ACGACAACCATGCACCACCTG BHQ13’(配列番号3)(Wu et al.,2008 Journal of Clinical Microbiology.46(8):2613-2619)を選択し、本発明による迅速な乳試料の調製方法を評価した。下流のリアルタイムPCRで用いられたこれらのグラム陽性特異的プライマー及びプローブは、臨床的に関連するグラム陽性及びグラム陰性細菌の同時検出及び同定を可能にする16S rRNA遺伝子を含んでいた。乳腺炎に関与するグラム陽性細菌病原体は、Staphylococcus aureus及びコアグラーゼ陰性staphylococci(CNS)を含み、下流のリアルタイムPCRにおいて乳牛の乳腺炎分房から採取された乳試料において検出されるはずである。
【0045】
アッセイ開発の前に、プライマー及びプローブの両方を合成し(Integrated DNA Technologies,IA)、20μLのフォワードプライマー(FP)、20μLのリバースプライマー(RP)、及び10μLのプローブを150μLのIDT DNA緩衝液(Integrated DNA Technologies,Inc.,Coralville,Iowa)と混合することによって、20Xストック溶液を調製した。
【0046】
リアルタイムPCRアッセイを、迅速な乳試料調製方法によって鋳型として調製された10μLの標的磁気ビーズ懸濁液又は磁気ビーズを含まない上清について、1.5X又は1.0Xプライマープローブ混合物を含む1X TaqPath ProAmpマスターミックス(Applied Biosystems,CA)を含む反応混合物中でそれぞれ行った。DNase-RNaseを含まない水を用いて、最終体積を25μLに補う。反応混合物を、1回、60℃で30秒、95℃で10分間、続いて45回、95℃で15秒、60℃で60秒、熱循環させた。続いて、CFX96 qPCRマシン(Bio-Rad Laboratories,Hercules,CA)を使用して、リアルタイムでこれらのアンプリコンを検出した。
【0047】
Jeffreyの95%CIに伴う診断感度及び特異性は、牛の乳腺炎に関連するグラム陽性細菌病原体(S.aureus及びコアグラーゼ陰性staphylococci)について陽性の臨床乳試料を試験することによっても推定された(以下の表1)。上記のように、迅速な乳試料調製、続いてリアルタイムPCR試験を実施し、次いで、CFX96 qPCRマシン(Bio-Rad Laboratories,Hercules,CA)機器によってリアルタイムでアンプリコンを検出した。
【0048】
実施例5-乳試料調製方法の最適化及び性能
本発明の方法は、乳試料中の細菌に結合するための磁気ビーズの使用を含み、場合によっては、乳試料中に存在する遊離DNA及び他の宿主細胞にも結合する。単純な磁気ビーズ(Dynabead(商標)MyOne(商標)シラン))、又は他の表面誘導体化ビーズ(レクチン磁気ビーズ、ストレプトアビジン及びアミン誘導体化磁気ビーズ)、並びに免疫磁気ビーズ(抗体と結合した磁気ビーズ)を含む、異なるタイプの磁気ビーズを評価した。試験された異なる磁気ビーズの中で、シリカ様表面化学を有するDynabeads(商標)、ストレプトアビジンを有するDynabeads(商標)、レクチン誘導体化、及びアミン誘導体化磁気ビーズは有望と思われた。レクチン誘導体化磁気ビーズは、N-アセチルグルコサミンなどの細菌表面上に位置する糖に対して特異性を有し得る。ストレプトアビジンを有するDynabeads(商標)は、細菌細胞の表面上の細胞外ビオチンに結合する。また、いずれかの一つの理論に拘束されることを望まないが、単純な磁気ビーズ(シリカ様表面化学を用いたDynabeads(商標))の包含を推進する仮説は、細菌細胞との結合がランダムであり、静電相互作用(Vander Waals力)に起因する可能性があるということである。更に、アミン誘導体化磁気ビーズ上のアミン基は、乳試料中の細菌細胞の表面に局在するタンパク質と相互作用する。臨床乳試料から調製された磁気ビーズ懸濁液を選択的寒天プレート上で培養することにより、細菌コロニーが明らかになり、細菌細胞への結合が確認された。
【0049】
結合した細菌細胞を含有するビーズを再懸濁するために使用される水溶液の選択に関して、詳細な説明に記載されているように、水溶液は、好ましくは、Tris-HCl、MOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)、又はHEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)などの下流PCR増幅に適合する緩衝水溶液であり、緩衝水溶液のpHは8.0~9.5である。所望の一実施形態では、緩衝水溶液は、例えば、約20~30mM、及び約8~9のpHで存在するTris-HClによって安定化される。本発明の非限定的な例では、緩衝水溶液は、下流qPCRに適合する25mMのTris-HCl、pH8.5である。本発明者らはまた、洗剤(Brij-L23、サポニン、CHAPS、SDS)、高塩(NaCl)、及び/又はキレート剤(EDTA)を、これらの添加された成分が性能を改善したかどうかを評価するために、以下に示されるように、25mM又は50mMのTris pH8.5緩衝液に添加した。
1.25mM Tris(pH8.5)+0.5%のBrij-L23
2.25mM Tris(pH8.5)+1.0%のBrij-L23
3.25mM Tris(pH8.5)+1.5%のBrij-L23
4.25mM Tris(pH8.5)+0.5%のサポニン
5.25mM Tris(pH8.5)+1.0%のサポニン
6.25mM Tris(pH8.5)+0.5%のCHAPS
7.25mM Tris(pH8.5)+50mMのNaCl
8.25mM Tris(pH8.5)+50mMのNaCl+5mMのEDTA+1%のSDS
9.50mM Tris(pH8.5)+100mMのNaCl+5mMのEDTA
【0050】
上記のTris緩衝水溶液1~9は、添加された洗剤、塩、又はキレート剤なしで、25mMのTris(pH8.5)と同様に作用したことがわかった。しかしながら、性能の有意な改善は観察されなかったため、その簡易性のために25mMのTris緩衝液(pH8.5)を選択した。
【0051】
リアルタイムPCRプログラムはまた、細菌細胞が溶解され、DNAが放出され得る、95℃での初期変性ステップの時間を5分から7.5~10分に増加させるように、本発明者らによって修正された。
【0052】
磁気ビーズの選択に関しては、シリカ様表面化学を有するDynabeads(商標)、Dynabeads(商標)-ストレプトアビジン、レクチン誘導体化又はアミン誘導体化磁気ビーズを使用して乳試料調製方法を試験したときに得られた結果に差はなかったことがわかった。したがって、シリカ様表面化学を有するDynabeads(商標)を、それらの簡易性のために後続の試験に使用した。
【0053】
本発明の乳試料調製方法の別の顕著な態様は、臨床乳からの細菌細胞の分離であり、これにより、下流のリアルタイムPCRアッセイに対する乳成分の阻害効果が排除される。
【0054】
更なる最適化の間、乳試料入力と磁気ビーズの異なる組み合わせを評価し、200μLの臨床乳試料と10μLの磁気ビーズの組み合わせが有望であると思われることが観察された。
【0055】
実施例6-乳試料中の病原体の検出
本明細書に記載される迅速な乳試料調製方法及び下流のリアルタイムPCRアッセイの試験のために、牛の乳腺炎分房から収集された合計42のアーカイブされた乳試料を考慮した(表1)。これらの乳試料に対して行った培養及びMALDI-TOF分析の組み合わせは、S.aureus及びコアグラーゼ陰性staphylococci(CNS)などのグラム陽性病原体を同定した。特異性を推定するために、E. coli(グラム陰性)増殖を伴う牛の乳腺炎分房から収集された26の乳試料のセットも含まれた(表1)。本発明による乳試料調製方法の下流のリアルタイムPCRアッセイを用いた予備評価を、参照方法として培養及びMALDI-TOFを使用して、これら68の臨床乳試料に対して行った。
【0056】
PCRアッセイで使用されるグラム陽性特異的プライマー及びプローブは、上記実施例4に記載されている。Staphlylococcus aureus及びコアグラーゼ陰性staphylococci(CNS)は、グラム陽性細菌であり、増幅されるべきであり、これは感受性の指標を提供する。一方、大腸菌はグラム陰性細菌であり、本研究で使用されるグラム陽性特異的プライマー及びプローブは、E.coliを増幅してはならず、これは特異性の指標を提供する。培養及びMALDI-TOFは、本発明の方法と比較するために乳試料の真の状態を提供する参照方法である。
【0057】
この研究の結果は、鋳型としてのビーズ懸濁液と比較して、ビーズを含まない上清の性能が優れていることを示した(表2)。追加の分子アッセイ最適化及び新鮮な臨床乳試料は、アッセイ転帰を改善し得る。典型的には、分子方法は、死んだ細胞及び生存細胞の両方を検出する。一方、培養方法は、生存細胞のみを実証する可能性を有する。したがって、分子方法は、培養方法と比較して特異性が低いようである。
【表1】
【表2】
【0058】
本発明において、乳中の細菌病原体の検出のために、下流のリアルタイムPCRアッセイに適合する、迅速な乳試料調製方法が首尾よく開発された。従来技術と比較して重要な利点は、以下の特徴を含む、
1.この迅速な方法は、乳中の細菌病原体を検出するためのポイントオブケアアプリケーションにとって実現可能である。
2.計装(遠心分離機及び加熱ブロック)は必要ない。
3.この方法は、下流分子アッセイにおける乳成分の阻害効果を低減する可能性を有する。
4.複数の洗浄又はピペットのステップは必要ない。
5.緩衝液の特別な保管(冷蔵又は-20℃)は必要ない。
6.いかなる危険な化学物質の使用も必要としない。
【配列表】
【国際調査報告】