(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】ヒドロキシル官能性チオエーテル化合物、及び硬化性組成物におけるその使用方法
(51)【国際特許分類】
C07C 323/52 20060101AFI20240416BHJP
C08G 18/38 20060101ALI20240416BHJP
C07C 319/14 20060101ALI20240416BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240416BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240416BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240416BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240416BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240416BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20240416BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C07C323/52 CSP
C08G18/38 063
C07C319/14
C09D201/00
C09J201/00
C09J11/06
C09D7/63
B05D7/24 301U
B05D7/24 302T
B05D1/36 Z
B05D3/02 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566780
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(85)【翻訳文提出日】2023-12-21
(86)【国際出願番号】 EP2022061299
(87)【国際公開番号】W WO2022229304
(87)【国際公開日】2022-11-03
(32)【優先日】2021-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ベックハオス,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】クライン,ギュンター
(72)【発明者】
【氏名】コーク,フィンセント
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンキンク,ウルリケ
【テーマコード(参考)】
4D075
4H006
4J034
4J038
4J040
【Fターム(参考)】
4D075AE03
4D075AE08
4D075AE17
4D075BB26X
4D075BB26Z
4D075BB33Z
4D075BB93Z
4D075CA02
4D075CA44
4D075CA48
4D075EA27
4D075EA43
4D075EB22
4D075EB38
4D075EB45
4D075EB60
4D075EC35
4D075EC47
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB48
4H006AC63
4H006TA04
4H006TB32
4H006TB55
4J034CA03
4J034CA05
4J034CD08
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC03
4J034HC22
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4J034HC52
4J034HC61
4J034HC63
4J034HC64
4J034HC67
4J034KA01
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4J034KC23
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4J038CG001
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4J038NA04
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4J040DF001
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4J040JB02
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4J040KA16
4J040KA23
4J040KA24
4J040KA25
4J040KA28
4J040KA29
4J040KA32
4J040KA35
4J040KA36
4J040KA38
4J040KA42
4J040LA06
4J040LA07
(57)【要約】
本発明は、式(I)、
【化1】
(式中、Zは、任意にエーテル部分、チオエーテル部分及びイソシアヌレート部分から選択される1つ以上の部分を含有する、n価のヒドロカルビル基であり;R
1は直鎖又は分岐状のアルキレン基であり;R
2は、CH
2CH(OH)CH
2及びCH(CH
2OH)CH
2から選択され;R
3は直鎖又は分岐状のアルキル基であり;mは0又は1であり;nは2~10である)を有するヒドロキシル官能性チオエーテル化合物に関する。本発明はさらに、このヒドロキシル官能性チオエーテル化合物を製造する方法、このヒドロキシル官能性チオエーテル化合物を含有する熱硬化性組成物、及び熱硬化性組成物中の反応性希釈剤としてのヒドロキシル官能性チオエーテル化合物の使用方法を提供する。さらに、少なくとも1つの層がそのような組成物から形成される多層コーティング、このようにして得られた多層コーティング基材、及びそのような多層コーティングの製造方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)、
【化1】
(式中、Zは、任意にエーテル部分、チオエーテル部分及びイソシアヌレート部分から選択される1つ以上の部分を含有する、n価のヒドロカルビル基であり;
R
1は直鎖又は分岐状のアルキレン基であり;
R
2は、CH
2CH(OH)CH
2及びCH(CH
2OH)CH
2から選択され;
R
3は直鎖又は分岐状のアルキル基であり;
mは0又は1であり;
nは2~10である)
を有する、ヒドロキシル官能性チオエーテル化合物。
【請求項2】
n価のヒドロカルビル基Zが2~16個の炭素原子を含有し;及び/又は
直鎖又は分岐状のアルキレン基R
1が1~6個の炭素原子を含有し;及び/又は
直鎖又は分岐状のアルキル基R
3が1~16個の炭素原子を含有し;及び/又は
nが2~8である、
請求項1に記載のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物。
【請求項3】
n価のヒドロカルビル基Zが2~10個の炭素原子を含有し;及び/又は
直鎖又は分岐状のアルキレン基R
1が1~3個の炭素原子を含有し;及び/又は
直鎖又は分岐状のアルキル基R
3が1~10個の炭素原子を含有する、
請求項3に記載のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物。
【請求項4】
n価のヒドロカルビル基Zが2~10個の炭素原子を含有し;及び/又は
R
2がCH
2CH(OH)CH
2であり;及び/又は
直鎖又は分岐状のアルキル基R
3が1~9個の炭素原子を含有し;及び/又は
nが2~6である、
請求項4に記載のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物。
【請求項5】
Zが、n価のヒドロカルビル基、又は1つ以上のエーテル部分を含有するn価のヒドロカルビル基であり;
mが1である、
請求項1から4のいずれか一項に記載のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物。
【請求項6】
Zが、1つ以上のチオエーテル部分を含有するn価のヒドロカルビル基であり;
mが0である、
請求項1から4のいずれか一項に記載のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のヒドロキシル官能性チオエーテルを製造する方法であって、
(a)1種以上のZ-[O(C=O)R
1]
m-SH]
nを、
(b)式(II)、
【化2】
の1種以上と反応させ、
(c)m=1の場合、1種以上のZ-[O(C=O)R
1]
m-SH]
nが、1種以上のZ[OH]
nをn種のHOOC-R
1-SHと反応させることにより得ることができ;
Z、R
1、R
3、m及びnは、請求項1から6のいずれか一項の記載のように定義される、方法。
【請求項8】
(A)1つ以上の、請求項1から6のいずれか一項に記載のヒドロキシル官能性チオエーテル;及び
(B)前記1つ以上のヒドロキシル官能性チオエーテル(A)のヒドロキシル基と反応性である、1つ以上の架橋剤
を含む、熱硬化性組成物。
【請求項9】
少なくとも1つの前記架橋剤が、遊離ジイソシアネート、ブロック化ジイソシアネート、遊離ポリイソシアネート、ブロック化ポリイソシアネート、及びアミノプラスト樹脂の群から選択される、請求項8に記載の熱硬化性組成物。
【請求項10】
(C)1つ以上のポリマーポリオールをさらに含む、請求項8又は9に記載の熱硬化性組成物。
【請求項11】
ぜんき組成物が、コーティング組成物、接着剤組成物又はシーラント組成物から選択される、請求項8から10のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項12】
請求項1から6のいずれか一項に記載のヒドロキシル官能性チオエーテルの、熱硬化性組成物中の反応性希釈剤としての使用方法。
【請求項13】
少なくとも2つのコーティング層を含む多層コーティングであって、少なくとも1つの層が請求項8から11のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物から形成される、多層コーティング。
【請求項14】
請求項13に記載の多層コーティングでコーティングされている、多層コーティング基材。
【請求項15】
基材上に多層コーティングを製造する方法であって、以下の工程:
(i)少なくとも1つのベースコート組成物を基材上に適用して、ベースコート層を形成する工程と、続いて
(ii)少なくとも1つのトップコート組成物を前記ベースコート組成物上に適用して、トップコート層を形成する工程と、続いて
(iii)完全に硬化したコーティング層を20℃~200℃の範囲の温度で硬化させる工程と
を含み、
前記少なくとも1つのベースコート組成物又は前記少なくとも1つのトップコート組成物が、請求項8から11のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシル官能性化合物、その製造方法及び熱硬化性組成物における使用方法、及びそのような組成物に関する。本発明はさらに、少なくとも1つの層がこのような組成物から形成される多層コーティング、このようにしてコーティングされた基材、及びこのような多層コーティングの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的には、市販のコーティング組成物は、物理的に乾燥するコーティング組成物及び化学的に架橋するコーティング組成物に包含することができる。化学的に架橋するコーティング組成物の中でも、架橋がUV放射線のような放射線の手段によって開始される放射線硬化性コーティング組成物と、架橋が通常、好ましくはポリマー種の自己架橋又は官能基を有するポリマーの官能基を有するいわゆる架橋剤との架橋(架橋剤が前述のポリマーの官能基と反応し、その結果、硬化した、すなわち架橋したコーティングを形成する)によって達成される熱硬化性コーティング組成物とが区別される。
【0003】
本発明は、後者のタイプの熱架橋性コーティング組成物の分野に属する。これらは、一液型(one-pack)又は二液型(two-pack)組成物として配合することができ、その両方において、本質的にポリマー種が架橋剤で架橋される。
【0004】
このような先行技術組成物では、ポリマーバインダーはしばしばヒドロキシル基を有し、架橋剤は遊離又はブロック化ジイソシアネート及び/又はポリイソシアネートの群、又はメラミン-ホルムアルデヒド樹脂のようなアミノプラスト樹脂の群に属する。
【0005】
多くの場合、架橋剤で架橋されるポリマーメインバインダーは、本質的にコーティング組成物の粘度を決定し、したがって使用可能な塗布方法を制限する。この問題を克服するために、低分子量の種を利用するのが一般的であり、これは、高分子量ポリマー結合剤のみが採用されるシステムと比較して、粘度を低下させる傾向がある。このような低分子量の種は架橋ネットワークに組み込まれる必要があるため、通常、架橋剤に含まれる反応性基に対して反応性の基を有する。その粘度低減効果、すなわち希釈効果とその反応性から、このような低分子量の種は反応性希釈剤とも呼ばれる。
【0006】
架橋性組成物の粘度を低下させる用途の他に、組成物の固形分を増加させるために採用することもでき、その結果、有機溶剤のような有機揮発性成分を置き換えることができる。その結果、このような組成物は、一般的に著しく多量の揮発性有機化合物、いわゆるVOCを含む従来の組成物よりも環境に優しい。
【0007】
WO 2013/072481 A1は、ポリオール、すなわちグリセロールとカルボン酸グリシジルエステルとの反応生成物として得られる反応性希釈剤を開示している。このようにして得られた反応性希釈剤は、ポリイソシアネート、アミノプラスト樹脂、又はTACTなどのトリアジンの群からの架橋剤に対して反応性のヒドロキシル基を含んでいる。このような反応性希釈剤と架橋剤の組み合わせは、コーティング組成物、接着剤及びシーラントとして好適な組成物、特にヒドロキシ官能性ポリマーをさらに含有する組成物に採用することができる。WO 2013/072481 A1に開示されているコーティング組成物は、良好なレベリング挙動を有する。
【0008】
チオール基だけでなくヒドロキシル基もイソシアネート基を有する架橋剤と反応することが知られているため、硬化性二液型組成物にヒドロキシル官能性バインダーと共に、又は単独でチオール官能性反応性希釈剤を使用することも知られている。このような場合、チオウレタン基を含有するポリマーネットワークが構築される。このような反応において、ヒドロキシル官能性バインダーと共に2つ以上のチオール基を含有する化合物を使用すると、通常、反応速度が加速されるだけでなく、厚い層であっても気泡形成が低減され、その結果、硬化生成物が改善される。このような低分子量ポリチオールは、例えば、Bruno Bock Chemische Fabrik GmbH & Co.KG,Marschacht,ドイツからThiocure(登録商標)の商品名で市販されている。
【0009】
さらに別の先行技術のアプローチでは、前述の低分子量ポリチオールをポリエポキシドと直接反応させ、チオエーテル結合及びヒドロキシル基を含有する架橋ネットワークを生成する。
【0010】
しかしながら、前述のいずれの応用システムにおいても、架橋反応には遊離のチオール基を有する化合物が使用される。このような成分は一般に不快な臭いを有するので、対象システムでは避けるべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、新しいクラスの反応性希釈剤を提供することであった。しかしながら、本発明のさらなる目的は、優れた耐薬品性及び耐スクラッチ性を有する硬化ネットワークを生成する架橋性組成物を提供することであった。このような組成物はさらに、好ましくはより高い膜厚で、しばしば競合する特性であるレベリング特性と耐たるみ性との良好なバランスを示すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
概要
前述の目的は、式(I)、
【化1】
(式中、Zは、任意にエーテル部分、チオエーテル部分及びイソシアヌレート部分から選択される1つ以上の部分を含有する、n価のヒドロカルビル基であり;
R
1は直鎖又は分岐状のアルキレン基であり;
R
2は、CH
2CH(OH)CH
2及びCH(CH
2OH)CH
2から選択され;
R
3は直鎖又は分岐状のアルキル基であり;
mは0又は1であり;
nは2~10である)
を有するヒドロキシル官能性チオエーテル化合物を提供することによって達成された。
【0014】
前述の式(I)のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物は、本明細書において、「本発明のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物」又は「本発明の反応性希釈剤」とも表記される。
【0015】
本発明のさらなる目的は、本発明のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物を製造する方法であり、ここで
1つ以上のZ-[O(C=O)R
1]
m-SH]
nを、式(II)、
【化2】
の1つ以上と反応させ、
m=1の場合、1つ以上のZ-[O(C=O)R
1]
m-SH]
nが、1つ以上のZ[OH]
nをn種のHOOC-R
1-SHと反応させることにより得ることができ;Z、R
1、R
3、m及びnは、本発明のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物の場合と同様に定義される。
【0016】
本発明のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物の前述の製造方法を、本明細書では「本発明の製造方法」とも表記される。
【0017】
本発明の別の目的は、
(A)1つ以上の本発明のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物;及び
(B)前記1つ以上のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物(A)のヒドロキシル基と反応性である、1つ以上の架橋剤
を含む、熱硬化性組成物である。
【0018】
前述の熱硬化性組成物は、本明細書では「本発明の熱硬化性組成物」又は単に「本発明の硬化性組成物」とも表記される。
【0019】
本発明のさらに別の目的は、熱硬化性組成物における反応性希釈剤としての本発明のヒドロキシル官能性チオエーテルの使用方法である。
【0020】
前述の使用方法は、本明細書では「本発明による使用方法」とも表記される。
【0021】
本発明はさらに、少なくとも2つのコーティング層を含む多層コーティング(ここで、少なくとも1つの層が熱硬化性組成物から形成される)、及びこのようにしてコーティングされた基材を提供し、本明細書では「本発明による多層コーティング」及び「本発明による多層コーティング基材」と表記される。
【0022】
本発明のさらなる目的は、基材上に本発明の多層コーティングを製造する方法であり、該方法は以下の工程:
(i)基材上に少なくとも1つのベースコート組成物を適用してベースコート層を形成する工程と、その後
(ii)前記ベースコート組成物上に少なくとも1つのトップコート組成物を適用してトップコート層を形成する工程と、次いで
(iii)完全に硬化したコーティング層を20℃~200℃の範囲の温度で硬化させる工程と
を含み、
少なくとも1つのベースコート組成物又は少なくとも1つのトップコート組成物が本発明による熱硬化性組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、好ましい特徴及び実施形態を参照することにより、本発明をより詳細に説明する。
【0024】
式(I)のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物
好ましくは、式(I)のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物において
【化3】
Zは、2~16個の炭素原子を含有し、任意に1つ以上のエーテル部分及び/又は1つ以上のチオエーテル部分を含有する、n価のヒドロカルビル基であり;及び/又は
R
1は、1~6個の炭素原子を含有する、直鎖又は分岐状のアルキレン基であり;及び/又は
R
2は、CH
2CH(OH)CH
2及びCH(CH
2OH)CH
2から選択され;及び/又は
R
3は、1~16個の炭素原子を有する、直鎖又は分岐状のアルキル基であり;及び/又は
mは0又は1であり;及び/又は、nは2~8である。
【0025】
「及び/又は」で区切られた前段落の好ましい限定は、互いに独立しており、それぞれの限定は、独立して、別の限定又は上記の「概要」の見出しの下に見出される式(I)のより広い定義と組み合わせることができることが強調される。しかしながら、好ましくは、本発明のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物の1つの実施形態において、前述の全ての限定が組み合わされる、すなわち、「及び/又は」が「及び」に置き換えられる。
【0026】
さらにより好ましくは、n価のヒドロカルビル基Zは、2~10個の炭素原子を含有し;及び/又は、直鎖又は分岐状のアルキレン基R1は、1~3個の炭素原子、例えば1、2又は3個の炭素原子を含有し;及び/又は、直鎖又は分岐状のアルキル基R3は、1~10個、好ましくは3~9個の炭素原子を含有し;及び/又はnは2~6である。ここでも、「及び/又は」で区切られたこれらの限定は、互いに独立しており、それぞれの限定は、独立して、別の限定又は前述の実施形態のいずれかと組み合わせることができる。しかしながら、特に好ましくは、本発明のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物の1つの実施形態において、この段落のすべての限定が組み合わされる、すなわち、「及び/又は」が「及び」に置き換えられる。
【0027】
本発明によるヒドロキシル官能性チオエーテル化合物のいずれかにおいて、好ましくは、R2はCH2CH(OH)CH2である。
【0028】
上記式(I)においてm=1である場合、Zは、好ましくはn価のヒドロカルビル基又は1つ以上のエーテル部分を含有するn価のヒドロカルビル基であり;一方、上記式(I)においてm=0である場合、Zは、好ましくは1つ以上のチオエーテル部分を含有するn価のヒドロカルビル基である。
【0029】
本発明の全ての実施態様において、n価のヒドロカルビル基Zは、好ましくは、脂環式ヒドロカルビル基を包含する脂肪族ヒドロカルビル基であり、最も好ましくは飽和の脂肪族ヒドロカルビル基である。n価のヒドロカルビル基Zの好ましい例を以下に示す。前述のヒドロカルビル基は、任意に、エーテル部分、チオエーテル部分及びイソシアヌレート部分から選択される1つ以上の部分を含有してもよい。
【0030】
n=2の場合、基Zは、好ましくは2~10個、より好ましくは2~8個、最も好ましくは2~6個の炭素原子、例えば2、3又は4個の炭素原子を有する直鎖又は分岐状のアルキレン基;又は4~10個、より好ましくは4~8個、最も好ましくは4~6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐状のアルキレンエーテル基である。
【0031】
n=3の場合、基Zは、好ましくは
【化4】
から選択される。
【0032】
n=4の場合、基Zは、好ましくは
【化5】
から選択される。
【0033】
n=6の場合、基Zは、好ましくは
【化6】
である。
【0034】
最も好ましくは、式(I)における基R3-C(=O)Oは、トリアルキルアセテート基であり、さらにより好ましくは、ネオデカン酸に由来する、いわゆるネオデカノイル基である。本明細書では、ネオデカン酸は、通常の構造式C10H20O2、172.26g/molの分子量、CAS番号26896-20-8を有するカルボン酸又はカルボン酸の混合物を示す。ネオデカン酸の通常特性は、COOH基と結合する炭素に3つのアルキル基を有する「トリアルキル酢酸」という一般的な用語に包含されることである。ネオデカン酸(単数又は複数)は典型的に、2,2,3,5-テトラメチルヘキサン酸、2,4-ジメチル-2-イソプロピルペンタン酸、2,5-ジメチル-2-エチルヘキサン酸、2,2-ジメチルオクタン酸及び2,2-ジエチルヘキサン酸を含む。
【0035】
式(I)のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物の製造方法
上記で定義したヒドロキシル官能性チオエーテル化合物は、
(a)1つ以上のZ-[O(C=O)R
1]
m-SH]
nを、
(b)式(II)
【化7】
(式中、Z、R
1、R
3、m及びnは、本発明のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物の場合と同様に定義される)
の1つ以上と反応させつことにより、製造することができる。
【0036】
この反応では、SH基が式(II)に存在するオキシラン環の開環を引き起こし、残基R2を形成する。ほとんどの場合、開環により残基R2はCH2CH(OH)CH2となり、したがって2級OH基を含有する。しかしながら、場合によっては、開環により、1級OH基を含有する残基CH(CH2OH)CH2が形成され、ここで、典型的には、「CH」部分が隣接するS原子に結合し、この部分の末端CH2基が標的化合物において隣接するO原子に結合する。しかしながら、どちらの反応も、本発明の熱硬化性組成物中のそれぞれの架橋剤と反応しやすいOH基の形成をもたらす。
【0037】
m=1の場合、1つ以上のZ-[O(C=O)R1]m-SH]nは、1種以上のZ[OH]nをn個のHOOC-R1-SHの種と反応させることにより得ることができ;Z、R1、m及びnは、本発明のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物の場合と同様に定義される。しかしながら、式Z-[O(C=O)R1]m-SH]n(式中、m=1である)の多数の種は、Bruno Bock Chemische Fabrik GmbH & Co.KG,Marschacht,ドイツからThiocure(登録商標)の商品名で市販されている。
【0038】
典型的かつ好ましい種のZ[OH]nは、例えば、2~10個の炭素原子を有するアルキレンジオール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン-1,4-ジオール、ペンタン-1,5-ジオール、ヘキサン-1,6-ジオール、ネオペンチルグリコール、2-ブチル-2-エチルプロパン-1,3-ジオール及びジメチロールシクロヘキサン;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセロール、ジグリセロール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、糖アルコール、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート、ジ(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、及びジ(ペンタエリスリトール)である。
【0039】
典型的かつ好ましい種のHOOC-R1-SHは、メルカプト酢酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、又はメルカプト酪酸、例えば3-メルカプト酪酸である。
【0040】
1種以上の式(II)は、分岐又は直鎖アルカン酸(R3COOH)(式中、R3は、本発明のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物の場合と同様に定義される)、好ましくは分岐アルカン酸のグリシジルエステルである。好ましくは、1種以上の式(II)は、トリアルキル酢酸のグリシジルエステルであり、さらにより好ましくはネオデカン酸のグリシジルエステルである。このような種は、例えば、Hexion,Inc.からCardura(登録商標)E10の商品名で市販されている。
【0041】
1種以上のZ-[O(C=O)R1]m-SH]nと1種以上の式(II)との反応は、好ましくは、反応に不活性である有機溶媒の存在下で行われる。そのような溶媒は、例えば、ソルベントナフサのような炭化水素である。好ましくは、1種以上のZ-[O(C=O)R1]m-SH]nを反応容器中で秤量し、撹拌しながら1種以上の式(II)をゆっくり添加する。好ましくは、反応は窒素雰囲気のような不活性ガス雰囲気下で行われる。典型的には、反応混合物を加熱する必要はない。反応は、本質的に全てのチオール基が消費されるまで行われる。反応は、触媒、好ましくは3級アミン又はテトラメチルグアニジンのような触媒としての塩基の存在下で行うことができる。
【0042】
熱硬化性組成物
熱硬化性組成物は、一液型組成物又は二液型組成物であってもよい。好ましくは、溶媒ベースのコーティング組成物である。
【0043】
教科書「Rompp Lexikon Lacke und Druckfarben」,Thieme,1998年に定義されている「一液型組成物」という用語は、以下に記載する二液型組成物とは逆に、成分間の早期反応なしに、1つの組成物中にベース樹脂及び架橋剤を含むように製造及び供給される、組成物、特にコーティング組成物を指す。反応は、好ましくは加熱または焼成によって引き起こされる。
【0044】
本明細書で使用される「二液型組成物」という用語は、保存条件下で安定であるが、混合後、互いに反応性である成分を含有するパックを少なくとも2つ含む組成物、特にコーティング組成物を指す。典型的には、少なくとも2つのパックのいずれも単独では、好適なコーティング、接着層又はシーラントを提供するのに適していない。本発明では、組成物が二液型組成物であることが好ましい。
【0045】
本発明による熱硬化性組成物は、本発明の1種以上のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物;及び1種以上のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物のヒドロキシル基と反応性である1種以上の架橋剤を含む。熱硬化性組成物はさらに、例えば、ポリマーポリオール又は典型的な添加剤の群からの追加のバインダーをさらに含有してもよい。さらに、有機溶媒及び/又は着色剤及びフィラーを含有してもよい。
【0046】
熱硬化性組成物は、好ましくはコーティング組成物、接着剤組成物又はシーラント組成物であり、最も好ましくはコーティング組成物である。
【0047】
架橋剤(B)
ジイソシアネート及びポリイソシアネート
本発明の熱硬化性組成物が二液型組成物である場合、ジイソシアネート及び/又はポリイソシアネートに含有されるイソシアネート基は遊離イソシアネート基である。
【0048】
本発明の熱硬化性二液型組成物に使用される最も好ましい架橋剤は、ジイソシアネート及び/又はポリイソシアネートである。本明細書で定義されるポリイソシアネートは、平均して2個以上の遊離イソシアネート基を有する。
【0049】
本発明のジイソシアネート及び/又はポリイソシアネートは、芳香族ポリイソシアネート、例えばトリレンジイソシアネート及びそれらの二量体、三量体及びポリマーであり得るが、本発明の熱硬化性二液型組成物において脂肪族ジイソシアネート及び/又は脂肪族ポリイソシアネートを採用することがより好ましい。芳香族ポリイソシアネートの使用は、芳香族ポリイソシアネートを含むコーティング材料から得られるコーティングが望ましくない黄変を起こす傾向があるため、あまり好ましくない。したがって、コーティング材料における芳香族ジイソシアネート及び/又は芳香族ポリイソシアネートの使用はあまり好ましくない。
【0050】
本明細書では、脂肪族ジイソシアネート及び脂肪族ポリイソシアネートはそれぞれ、分子中に少なくとも2個の遊離イソシアネート基、特に少なくとも3個の遊離イソシアネート基、すなわち室温(25℃)でブロックされていないイソシアネート基を有する化合物であると理解される。「脂肪族ポリイソシアネート」という用語は、脂肪族ジイソシアネートの二量体、三量体及びポリマーも包含する。その例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)の二量体、三量体及びポリマー、例えばそのウレジオン、より特にはそのイソシアヌレート及びイミノオキサジアジンジオンが挙げられ、特に低粘度が必要な場合には、イミノオキサジアジンジオンが最も好適である。
【0051】
本明細書において、「脂肪族」という用語は、「脂環式」という用語も包含し、例えば、より特にイソホロンジイソシアネート(IPDI)及びその二量体、三量体及びポリマー、又はシクロヘキサン(ビス-アルキルイソシアネート)及びその二量体、三量体及びポリマーが挙げられる。
【0052】
好ましい脂肪族非ブロックポリイソシアネートは、HDIの三量体であり、例えば、BASF SE(ドイツ、ルートヴィヒスハーフェン)のBasonat HI 100、Bayer Material Science AG(ドイツ、レバークーゼン)のDesmodur(登録商標)N 3300及びDesmodur(登録商標)XP 2410、又はスウェーデン、パーストープにおけるPerstorp ABのTolonate(登録商標)HDT及びHDB、及びまた商品名Duranate(登録商標)TLA、Duranate(登録商標)TKA又はDuranate(登録商標)MHGである旭化成ケミカルズ、川崎、日本の類似製品が挙げられる。
【0053】
本発明の熱硬化性組成物が一液型組成物である場合、ジイソシアネート及び/又はポリイソシアネートに含有されるイソシアネート基は、遊離のイソシアネート基ではなく、ブロックされたイソシアネート基である。一般に、前述のジイソシアネート及びポリイソシアネートはいずれも、遊離イソシアネート基をブロック剤と反応させた後、いわゆるブロック化ジイソシアネート及びブロック化ポリイソシアネートとして使用することができる。
【0054】
ブロック化ジイソシアネート及びポリイソシアネートを調製するためのブロック化剤は、例えば以下のものが挙げられる、
i.フェノール、ピリジノール、チオフェノール及びメルカプトピリジン、好ましくはフェノール、クレゾール、キシレノール、ニトロフェノール、クロロフェノール、エチルフェノール、t-ブチルフェノール、ヒドロキシ安息香酸、この酸のエステル、2,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、チオフェノール、メチルチオフェノール及びエチルチオフェノールからなる群から選択されるもの;
ii.メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、n-アミルアルコール、t-アミルアルコール、ラウリルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メトキシメタノール、2-(ヒドロキシエトキシ)フェノール、2-(ヒドロキシプロポキシ)フェノール、グリコール酸、グリコール酸エステル、乳酸、乳酸エステル、メチロールウレア、メチロールメラミン、ジアセトンアルコール、エチレンクロロヒドリン、エチレンブロモヒドリン、1,3-ジクロロ-2-プロパノール、1,4-シクロヘキシルジメタノール又はアセトシアノヒドリンからなる群から選択される、及び好ましくは、ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタンからなる群から選択されるメルカプタン;
iii.オキシム、好ましくはテトラメチルシクロブタンジオンのケトキシム、メチルn-アミルケトキシム、メチルイソアミルケトキシム、メチル3-エチルヘプチルケトキシム、メチル2,4-ジメチルペンチルケトキシム、メチルエチルケトキシム、シクロヘキサノンオキシム、メチルイソプロピルケトキシム、メチルイソブチルケトキシム、ジイソブチルケトキシム、メチルt-ブチルケトキシム、ジイソプロピルケトキシム、及び2,2,6,6-テトラメチルシクロヘキサノンのケトキシムからなる群のケトキシム;又は好ましくはホルマルドキシム、アセタルドキシムからなる群から選択されるアルドキシム;
iv.好ましくは、ラクタム、例えばε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム又はβ-プロピオラクタム;酸アミド、例えばアセトアニリド、アセトアニシジンアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、アセトアミド、ステアルアミド又はベンズアミド;及びイミド、例えばスクシンイミド、フタルイミド又はマレイミドからなる群から選択されるアミド、環状アミド及びイミド;
v.イミダゾール及びアミジン;
vi.ピラゾール及び1,2,4-トリアゾール、例えば3,5-ジメチルピラゾール及び1,2,4-トリアゾール;
vii.アミン及びイミン、例えばジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、キシリジン、N-フェニルキシリジン、カルバゾール、アニリン、ナフチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ブチルフェニルアミン、及びエチレンイミン;
viii.イミダゾール、例えばイミダゾール又は2-エチルイミダゾール;
ix.尿素類、例えば尿素、チオ尿素、エチレン尿素、エチレンチオ尿素、又は1,3-ジフェニル尿素;
x.活性メチレン化合物、例えばジエチルマロネートのようなジアルキルマロネート、及びアセト酢酸エステル;及び
xi.ヒドロキサムエステル、例えばベンジルメタクリロヒドロキサメート(BMH)又はアリルメタクリロヒドロキサメート、及びカルバメート、例えばフェニルN-フェニルカルバメート又は2-オキサゾリドンなどのその他のもの。
【0055】
さらなる架橋剤
上記の遊離及びブロック化ジイソシアネート及びポリイソシアネートとはそれぞれ異なる架橋剤を使用することも可能である。この文脈において特に有利なのは、遊離又はブロック化ジイソシアネート及び/又は遊離又はブロック化ポリイソシアネートと同じ温度範囲、すなわち20℃~200℃の範囲内で反応性希釈剤又は他のバインダーとの硬化反応を開始するものである。このような架橋剤の例としては、WO 2008/074489、WO 2008/074490及びWO 2008/074491で特定されている種類のシリル基含有成分が挙げられる。
【0056】
一液型コーティング材料のためのさらに好ましい架橋剤は、活性メチロール基、メチルアルコキシ基又はブチルアルコキシ基を有するアミノプラスト架橋剤、及び例えばヒドロキシル基と反応性であるブロック化ポリイソシアネート架橋剤である。
【0057】
アミノプラスト、又はアミノ樹脂は、Encyclopedia of Polymer Science and Technology,第1巻,752~789頁(1985年)に記載されている。アミノプラストは、活性化窒素と低分子量のアルデヒドとを反応させ、任意にアルコール(好ましくは、1~4個の炭素原子を有するモノアルコール、例えばメタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノールなど)とさらに反応させて、エーテル基を形成することにより得られる。活性化窒素の好ましい例は、活性化アミン、例えばメラミン、ベンゾグアナミン、シクロヘキシルカルボグアナミン、及びアセトグアナミン;尿素、例えば尿素そのもの、チオ尿素、エチレン尿素、ジヒドロキシエチレン尿素、及びグアニル尿素;グリコールウリル;ジシアンジアミドなどのアミド;及び少なくとも1つの1級カルバメート基又は少なくとも2つの2級カルバメート基を有するカルバメート官能性化合物である。活性化窒素は低分子量のアルデヒドと反応させる。このアルデヒドは、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、ベンズアルデヒド、又はアミノプラスト樹脂の製造に使用される他のアルデヒドから選択することができるが、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒド、特にホルムアルデヒドが好ましい。活性化窒素基はアルデヒドで少なくとも部分的にアルキロール化され、完全にアルキロール化されていてもよく、好ましくは活性化窒素基は完全にアルキロール化される。この反応は、例えば参照によって本明細書に組み込まれている米国特許第3,082,180号で教示されているように、酸によって触媒されてもよい。
【0058】
さらなるポリマーバインダー(C)
本発明の熱硬化性組成物には、本発明の1種以上のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物及び架橋剤の他に、前述のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物及び架橋剤とは異なるさらなるポリマーバインダーを含有することができる。
【0059】
本発明の熱硬化性組成物に好ましく含有されるさらなるポリマーバインダーの中でも、ヒドロキシル官能性ポリマーバインダー、すなわち「ポリマーポリオール」が特に好ましい。好ましくは、ポリマーポリオールは硫黄を含有しない。
【0060】
本明細書において「ポリマーポリオール」とは、少なくとも2つのヒドロキシル基を有するポリオールを意味し、本明細書において「ポリマー」という用語は、「オリゴマー」という用語も包含する。本明細書において、オリゴマーは、少なくとも3つのモノマー単位から構成される。
【0061】
好ましくは、ポリマーポリオールは、ポリスチレン標準を用いたGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって決定される質量平均分子量Mwが、500Da超、特に800~100,000Da、より特に1,000~50,000Daである。さらにより好ましくは、ポリマーポリオールは、1,000~10,000Daの質量平均分子量を有するものである。
【0062】
好ましくは、ポリマーポリオールは、30~350mg KOH/g、より好ましくは80~250mg KOH/g、特に好ましくは100~180mg KOH/gのヒドロキシル価(OH価)を有する。ヒドロキシル価は、アセチル化時に1gの物質が結合する酢酸の量に相当する水酸化カリウムのmg数を示す。測定では、サンプルを無水酢酸-ピリジンで煮沸し、得られた酸を水酸化カリウム溶液で滴定する(DIN 53240-2)。
【0063】
ポリマーポリオールは、好ましくは、ポリ(メタ)アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテル-ポリエステルポリオール及びポリウレタンポリオールを含む又はからなる群から選択される。
【0064】
好ましくは、ポリマーポリオールはポリ(メタ)アクリレートポリオールである。本明細書で使用される「ポリ(メタ)アクリレート」という用語は、ポリアクリレートだけでなく、ポリメタクリレートも指し、また、メタクリレート及び/又はメタクリル酸と、アクリレート及び/又はアクリル酸の両方を含むポリマーも指す。アクリル酸、メタクリル酸及び/又はアクリル酸及び/又はメタクリル酸のエステルの他に、ポリ(メタ)アクリレートは、他のエチレン性不飽和モノマーを含んでもよい。1つ以上の実施形態において、ポリ(メタ)アクリレートが得られるモノマーは、モノエチレン性不飽和モノマーである。「ポリ(メタ)アクリレートポリオール」は、少なくとも2つのヒドロキシル基を含有するポリ(メタ)アクリレートを指す。それらは、単一段階又は複数の段階で調製されてもよい。また、それらは、例えばランダムポリマー、グラジエントコポリマー、ブロックコポリマー又はグラフトポリマーの形態で存在してもよい。
【0065】
ポリ(メタ)アクリレートポリオールのヒドロキシル基は、重合反応においてヒドロキシル官能性モノマーを使用することによりポリマー中に導入される。使用されるポリ(メタ)アクリレートポリオールのヒドロキシル含有モノマーは、好ましくは、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、例えば、より特には、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシブチルアクリレート、3-ヒドロキシブチルメタクリレート、及びまた特に、4-ヒドロキシブチルアクリレート及び/又は4-ヒドロキシブチルメタクリレートから選択される。特に、工業的調製から得られる混合物を使用することも有利に可能である。したがって、例えば、工業的に調製されたヒドロキシプロピルメタクリレートは、約20%~30%の3-ヒドロキシプロピルメタクリレート及び70%~80%の2-ヒドロキシプロピルメタクリレートから構成される。
【0066】
ポリ(メタ)アクリレートポリオールの合成のためのさらなるモノマーとして、アルキル(メタ)アクリレート、例えば、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、tert-ブチルアクリレート、tert-ブチルメタクリレート、アミルアクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、エチルヘキシルアクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、3,3,5-トリメチルヘキシルアクリレート、3,3,5-トリメチルヘキシルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルアクリレート又はラウリルメタクリレート、シクロアルキルアクリレート及び/又はシクロアルキルメタクリレート、例えばシクロペンチルアクリレート、シクロペンチルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、又は特にシクロヘキシルアクリレート及び/又はシクロヘキシルメタクリレートを使用することが可能である。
【0067】
ポリ(メタ)アクリレートポリオールの合成のためのさらなるモノマーとして、ビニル芳香族炭化水素、例えばビニルトルエン、アルファ-メチルスチレン又は特にスチレン、アクリル酸又はメタクリル酸のアミド又はニトリル、ビニルエステル又はビニルエーテル、及びまた、特に、少量のアクリル酸及び/又はメタクリル酸を使用することが可能である。
【0068】
重合したモノマーのOH基及び/又はCOOH基の少なくとも一部が、モノオキシラン基含有モノマー、例えば上記で定義したようの式(II)の種で修飾される場合、ヒドロキシ基又はカルボキシル基含有モノマーの使用により調製されたポリ(メタ)アクリレートポリオールを使用することがさらに可能である。このような修飾は、例えば、Z.W.J.Wicks,F.N.Jones,s.P.Pappa及びD.A.Wicks,Organic Coatings - Science and technology,Hoboken,NewJersey:Wiley,2007;又はH.Petit,N.Henry,A.Krebs,G.Uytterhoeven及びF.deJong,「Ambient cure high solids acrylic resins for automotive refinish clear coat applications」,Progress in Organic Coatings,pp.41~49,2001;及びWO 2003/011923 A1(8ページ以降の例を参照)に記載されている。
【0069】
ポリ(メタ)アクリレートポリオールの代わりに、又はポリ(メタ)アクリレートポリオールに加えて、ポリエステルポリオールを使用することも可能である。ここで、ポリエステルポリオールとは、少なくとも2つのヒドロキシル基を有するポリエステルである。
【0070】
ポリ(メタ)アクリレートポリオールとポリエステルポリオールを併用する場合、両成分は個別に調製してもよいし、ポリ(メタ)アクリレートポリオールをポリエステルポリオール成分又は適切な溶媒中のその溶液中でその場で重合させてもよい。
【0071】
このようなポリ(メタ)アクリルポリオール中のヒドロキシル基は、例えば上記式(II)の化合物のようなグリシジルエステルと少なくとも部分的に反応させることにより、さらに修飾することができる。また、尿素結晶修飾ポリ(メタ)アクリルポリオールも採用できる。
【0072】
好適なポリエステルポリオールは、例えばEP-A-0 994 117及びEP-A-1 273 640に記載されている。特に、当業者に知られているように、ポリオールとポリカルボン酸又はその無水物からの重縮合により、好適なポリエステルポリオールを得ることが可能である。
【0073】
ポリエステルポリオールを製造するための重縮合反応に使用できるポリオール又はポリオール混合物として特に適しているのは、多価アルコール及びそれらの混合物であり、これらのアルコールは少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つのヒドロキシル基を有する。1つ以上の実施形態において、使用されるポリオール混合物又は使用されるポリオールは、少なくとも3つのヒドロキシル基を含有する少なくとも1種の多官能性ポリオールを含むか、又はこの多官能性ポリオールである。少なくとも3つのヒドロキシル基を有する好適な多官能性ポリオールは、トリメチロールプロパン(TMP)、トリメチロールエタン(TME)、グリセロール、ペンタエリスリトール、糖アルコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ジグリセロール、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート及びそれらの混合物からなる群から選択される。具体的な一実施形態では、ポリエステルポリオールを調製するために使用されるポリオールは、3つ超のヒドロキシル基を有する多官能性ポリオールのみから構成される。別の具体的な実施形態では、ポリエステルポリオールの調製に使用されるポリオール混合物は、少なくとも3つのヒドロキシル基を有する少なくとも1種の多官能性ポリオールと少なくとも1種のジオールとを含む。好適なジオールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン-1,4-ジオール、ペンタン-1,5-ジオール、ヘキサン-1,6-ジオール、ネオペンチルグリコール、2-ブチル-2-エチルプロパン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、高級ポリエーテルジオール、ジメチロールシクロヘキサン、及び前述のポリオールの混合物が挙げられる。
【0074】
ポリエステルポリオールの調製に適したポリカルボン酸又はその無水物としては、例えば、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、ピロメリット酸二無水物、テトラヒドロフタル酸、1,2-、1,3-又は1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物、トリシクロデカンジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、ダイマー脂肪酸及びそれらの混合物が挙げられる。
【0075】
本発明のコーティング材料組成物が、ポリマーポリオールの用語に包含されるバインダーとは別に、追加のバインダーをさらに含む場合、これらの他のバインダーは、コーティング材料の他の成分と反応し得るか、さもなければ、前記成分に対して化学的に不活性であってもよい。
【0076】
このようなバインダーには、物理的に乾燥するバインダー、すなわち他の塗料成分に対して化学的に不活性なバインダー、例えばセルロースアセトブチレート(CAB)、ポリアミド又はポリビニルブチラールが含まれる。
【0077】
添加剤
さらに、熱硬化性組成物は、さらなる典型的な添加剤、特に前述の成分とは異なるコーティング材料用の添加剤を含んでもよい。いずれの添加剤も、本明細書で前述したバインダー(A)、(B)及び(C)とは異なる。
【0078】
好適なコーティング添加剤の例としては以下のものが挙げられる:
- 特に、UV吸収剤、例えば、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシベンゾフェノン、ヒドロキシフェニル-s-トリアジン、及びオキサラニリド;
- 特に、光安定剤、例えばHALS化合物として知られている光安定剤(「ヒンダードアミン光安定剤」;これらは2,2,6,6-テトラメチルピペリジンの誘導体であり、例えばBASF SEからTinuvin(登録商標)292として市販されている)、ベンゾトリアゾール、例えばヒドロキシフェニルアルキルベンゾトリアゾール、又はオキサラニリド;
- ラジカル捕捉剤;
- スリップ防止添加剤;
- 重合抑制剤;
- 消泡剤;
- 反応性希釈剤、より特には、他の成分及び/又は水との反応によってのみ反応性を示す反応性希釈剤、例えば、オキサゾリジン(例えばIncozol(登録商標))又はアスパラギン酸エステル;
- 湿潤剤及び分散剤、例えばシリキソアン(silxoanes)、フッ素含有化合物、カルボン酸モノエステル、リン酸エステル、ポリアクリル酸及びそのコポリマー、又はポリウレタン;
- 接着促進剤;
- 流動制御剤、特にポリアクリレートをベースとするもの。ここで好ましく使用されるのは、エチルヘキシルアクリレートとエチルアクリレートのコポリマーである。これらのコポリマーは、好ましくは非常に低いTGを有し、比較的非極性であり、低いOH価を有する;
- フィルム形成助剤、例えばセルロース誘導体;
- レオロジー制御添加剤、例えば特許WO 94/22968、EP-A-0 276 501、EP-A-0 249 201、又はWO 97/12945から知られる添加剤;例えばEP-A-0 008 127に開示されているような架橋ポリマー微粒子;無機フィロシリケート、例えばアルミニウムマグネシウムシリケート、ナトリウムマグネシウムフィロシリケート、及びモンモリロナイトタイプのナトリウムマグネシウムフッ素リチウムフィロシリケート;シリカ、例えばAerosils(登録商標);又はイオン性基及び/又は会合性基を有する合成ポリマー、例えばポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリビニルピロリドン、スチレン-無水マレイン酸コポリマー又はエチレン-無水マレイン酸コポリマー及びそれらの誘導体、又は疎水的に修飾されたエトキシル化ウレタン、又はポリアクリレート;及び
- 難燃剤。
【0079】
着色剤及びフィラー
本発明の熱硬化性組成物は、着色剤、例えば可溶性染料、顔料又はフィラーをさらに含んでもよい。熱硬化性組成物がクリアコートコーティング組成物として使用される場合、それらは非透明顔料及びフィラーを含まないか、又は実質的に含まない。しかしながら、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又は酸化ジルコニウムをベースとするナノ粒子の形態のフィラーを使用することができる(さらなる詳細については、Roempp Lexikon「Lacke und Druckfarben」Georg Thieme Verlag,Stuttgart,1998,250~252頁を参照)。
【0080】
溶媒
特に、組成物は溶媒を含んでもよい。好適な溶媒としては、すべての典型的な塗料溶媒、例えば、より特に、芳香族炭化水素又は酢酸ブチルが挙げられる。
【0081】
溶媒は好ましくは極性有機溶媒及び/又は芳香族溶媒である。有用な溶媒としては、ケトン、エステル、アセテート、非プロトン性アミド、非プロトン性スルホキシド、及び非プロトン性アミン、脂肪族及び/又は芳香族溶媒が挙げられる。具体的な有用な溶媒の例としては、ケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン、エステル、例えばエチルアセテート、ブチルアセテート、ペンチルアセテート、エチルエトキシプロピオネート、エチレングリコールブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、脂肪族及び/又は芳香族炭化水素、例えばトルエン、キシレン、ソルベントナフサ、及びミネラルスピリット、エーテル、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテルのようなグリコールエーテル、アルコール、例えばエタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール及びtert-ブタノール、又はアルコキシアルカノール、例えばメトキシプロパノール又はジ(プロピレングリコール)モノメチルエーテル、窒素含有化合物、例えばN-メチルピロリドン及びN-エチルピロリドン、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0082】
熱硬化性組成物中の成分の量及び比
好ましくは、本発明のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物は、組成物中のバインダーの総質量に基づいて、0.1質量%~70質量%の量で、より好ましくは1質量%~50質量%の量で、最も好ましくは2質量%~30質量%の量で、さらに好ましくは3質量%~15質量%の量で、本発明の熱硬化性組成物中に存在する。バインダーの量(すなわち、バインダー含有量)は、組成物の固形分から顔料及びフィラーの量を引いたものである。固形分は、組成物を130℃で60分間乾燥した後に残る組成物1gの分率として決定される。顔料および充填剤の量は、組成物に使用される顔料および充填剤の秤量乾燥量である。顔料及びフィラーを含まない組成物、例えばクリアコート組成物では、バインダー含有量は固形分含量に等しい。
【0083】
架橋剤(B)、さらなるポリマーバインダー(C)、添加剤、着色剤、フィラー及び溶媒のような他の成分の量範囲は特に重要ではない。典型的には、架橋剤(B)の量範囲は、本発明のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物及びさらなるポリマーバインダー(C)の選択された量から得られる。コーティング組成物が例えば顔料及びフィラーを含む場合、顔料及びフィラーを分散させておくために湿潤剤及び分散剤のような添加剤を使用する必要がある。本発明のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物は溶媒(反応性希釈剤)としても作用するので、通常、非反応性溶媒の量は変化させることができ、好ましくは減らすことができる。
【0084】
本発明のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物の割合が、バインダーの総質量に基づいて0.1質量%未満である場合、本発明による効果は通常小さい。
【0085】
本発明の熱硬化性2液型組成物は、架橋剤の反応性基、好ましくはジイソシアネーと及び/又はポリイソシアネートの遊離イソシアネート基と、本発明のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物及び任意のポリマーポリオール中に存在するヒドロキシル基との間の架橋反応が室温でも進行する可能性があるため、好ましくは成分を混合することにより、適用直前に調製される。ヒドロキシル官能性チオエーテル化合物とポリマーポリオールが存在する場合の予備混合は、一般に問題はない。いずれの場合も、コーティング組成物、接着剤又はシーラントなどの組成物を適用する直前まで、望ましくない反応ができるだけ起こらないようにするために、互いに反応性のある硬化性組成物の構成成分を混合すべきではない。
【0086】
ヒドロキシル官能性チオエーテル化合物の使用
本発明のヒドロキシル官能性チオエーテル化合物は、熱硬化性組成物中の反応性希釈剤として使用することができ、その組成物は、好ましくは、コーティング組成物、接着剤及びシーラントの群から選択される。したがって、この使用は本発明のさらなる目的である。
【0087】
コーティング組成物に使用される場合、本発明のコーティング組成物は、好ましくは、多層コーティングの最上層の塗膜として採用される。特に好ましくは、自動車塗装のクリヤーコートとして適用される。本発明の組成物は低温でも化学的に硬化するので、自動車再塗装に使用することができる。
【0088】
多層コーティング、その製造方法及びこのようにしてコーティングされた基材
本発明はさらに、少なくとも2つのコーティング層、好ましくは少なくとも3つのコーティング層を含む多層コーティングを提供する。コーティング層は、下塗りされた又は下塗りされていない基材上に配置され、ベースコート及び/又は好ましくは最上層のコートは、本発明の熱硬化性コーティング組成物から形成される。基材が下塗りされている場合、プライマーは、好ましくは電着プライマー、より特にカソード電着プライマーである。下塗りはまた、特に、化成被覆層を形成するためにリン酸塩化処理のような化成被覆工程を先行させてもよい。
【0089】
下塗りされた基材又は下塗りされていない基材の上には、例えば、従来のプライマー-サーフェーサーコーティング材が適用されていてもよい。プライマー-サーフェーサーコーティング材が存在する場合、その上に、従来のベースコート組成物から形成されてもよい1つ以上のベースコートが適用されてもよい。自動車再塗装の場合、当該ベースコートは、通常、純粋に物理的に乾燥するもの、架橋剤によって熱的に硬化するもの、又は熱的及び化学線的に硬化するもの、又は化学線的にのみ硬化するものである。もう一つの可能性は、ベースコートの特性を持つプライマー-サーフェーサーコーティング材を提供すること、又は逆に、プライマー-サーフェーサーの特性を持つベースコートを提供することである。典型的には、プライマー-サーフェーサーコートとしてプライマー-サーフェーサーコーティング材が適用され、ベースコートとして少なくとも1つのベースコート組成物が適用される。プライマー-サーフェーサーコーティング材及びベースコート組成物としての適性は、すべての市販のプライマー-サーフェーサー又はベースコート材料、より好ましくは自動車再塗装に使用されるものに備わっている。ベースコート材料が本発明による熱硬化性組成物であることも可能であるが、最後に適用されるコートが、トップコートとして、特に透明トップコート(クリアコート)として、本発明の熱硬化性コーティング組成物であることがより好ましい。
【0090】
さらに、本発明により提供されるのは、以下の工程:
(i)少なくとも1つのベースコート組成物を、未処理又は前処理された、任意に電着塗装された、及び/又はプライマー-サーフェーサー塗装された基材上に適用して、ベースコート層を形成する工程と、続いて
(ii)少なくとも1つのトップコート組成物、好ましくはクリアコート組成物の形態のトップコート組成物を前記ベースコート組成物上に適用して、トップコート層、好ましくはクリアコート層を形成する工程と、続いて
(iii)完全に硬化していないコーティング層を20℃~200℃の範囲の温度で硬化させる工程と
を含む、本発明の多層コーティングを製造する方法であり、
ここで、前記少なくとも1つのベースコート組成物又は前記少なくとも1つのトップコート組成物が、本発明による熱硬化性組成物である。好ましくは、トップコート組成物のみが本発明による熱硬化性組成物である。
【0091】
プライマー-サーフェーサーコーティング材及びベースコート組成物としては、従来の市販のプライマー-サーフェーサー及びベースコート組成物を使用することが可能である。
【0092】
個々のコーティング層は、当業者に周知の慣用的な塗装方法によって適用される。好ましくは、組成物及びコーティング材料は、噴霧、空気圧及び/又は静電により適用される。
【0093】
プライマー-サーフェーサー層へのベースコート組成物の適用及び/又はベースコート層へのトップコート組成物の適用は、ウェット・オン・ウェット塗布、すなわち、コーティング組成物を適用する前に先行層が硬化していないか、又は完全に硬化していない塗布によって実施することができる。したがって、ベースコート組成物又はベースコート組成物の適用の前に、プライマー-サーフェサーは、単に室温でフラッシングオフされてもよく、さもなければ、代替的に、高温で乾燥されてもよい。乾燥はIR照射によっても行われる。
【0094】
フラッシング及び/又は乾燥に関して、プライマー-サーフェーサーコーティングシステムに関連して上記で述べたコメントは、ベースコート又は複数のベースコートにも同様に当てはまる。
【0095】
ウェット・オン・ウェット塗布の代わりに、さらなる可能性は、トップコート組成物の適用の前に、プライマー-サーフェーサー層及び/又はベースコート層、又はその他のコーティング層を硬化させることである。従来のプライマー-サーフェーサー及び/又は従来のベースコート組成物は、熱で、化学線で、又は熱硬化と化学線硬化の組み合わせで硬化することができる。
【0096】
本発明の熱硬化性組成物から形成されるコーティング層、例えばベースコート層又はクリアコート層の硬化は、200℃以下の温度、より特に室温(すなわち25℃)~150℃の温度、非常に特に30℃~100℃の温度で行われる。
【0097】
本発明の熱硬化性組成物が1液型組成物である場合、硬化温度は、好ましくは100℃超~200℃、より好ましくは110℃~190℃、最も好ましくは120℃~180℃であり、時間は5分~30分、より好ましくは10分~25分である。
【0098】
本発明の熱硬化性組成物が2液型組成物である場合、硬化温度は、好ましくは20℃~130℃、より好ましくは40~100℃、最も好ましくは60~90℃であり、時間は5分~30分、より好ましくは10分~25分である。
【0099】
さらに、本発明により提供されるのは、本発明の多層コーティングでコーティングされた基材である。
【0100】
好適な基材材料としては、特に、金属基材、例えば自動車ボディ及びその部品が挙げられるが、プラスチック基材、好ましくは自動車生産に使用されている基材も使用することができる。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに説明する。以下の表で示される量は、特に明記しない限り、質量による量又は質量パーセントである。
【0102】
試験手順
固形分
固形分は、DIN EN ISO 3251に従い、約1gのサンプルを130℃で60分間乾燥させて測定した。
【0103】
たるみ
耐たるみ性の測定は、電着塗料で下塗りし、ベースコートをコーティングしたパネルに、層厚10~50μmのコーティング材をくさび状に適用して行った。クリアコート製剤を適用する前に、ベースコートを硬化させた。たるみは車体のエッジを模倣したパネルの穴で発生した。たるみの測定基準は、たるみの長さが3mm及び10mmに達したときの層厚とした。
【0104】
より詳細には、DIN EN ISO 28199-1、セクション8.2(バージョンA)と同様に、硬化したカソード電着塗料(BASF Coatings GmbH社のCathoguard(登録商標)800)及び硬化した市販の水性のベースコート材料(BASF Coatings GmbH社のColorBrite)でコーティングした57cm×20cmの寸法を有する有孔スチールパネル(DIN EN ISO 28199-1、セクション8.1、バージョンAによる)を調製した。次に、DIN EN ISO 28199-1、セクション8.3に基づく方法で、10μm~50μmの目標膜厚(乾燥した材料の膜厚)で、クリアコート材料をウェッジ状に静電塗装した。室温(25℃)で10分間のフラッシュ時間の後、得られた透明塗膜を80℃の強制空気オーブンで30分間硬化させた。スチールパネルは直立させた状態でフラッシングと硬化を行った。
【0105】
それぞれの場合、たるみの測定は、DIN EN ISO 28199-3、セクション4に従って行った。たるみの測定基準は、たるみの長さが3mm及び10mmに達したときの層厚であった。
【0106】
レベリング
レベリングの測定値は、Byk WaveScanによる測定で得られた値である。長波の値は、1.2~12mmの波長を有する構造の視覚的外観を模倣する。短波の値は、0.3~1.2mmの波長を有する構造の視覚的外観を模倣する。測定は、37.5±2.5μmの硬化コーティングの膜厚で行った。
【0107】
耐薬品性
DIN EN ISO 2812-5(2018年12月)に従い、ツリーガム、1%の水酸化ナトリウム水溶液、及び1%の硫酸水溶液で、耐薬品性を試験した。試験温度は36~78℃であり、試験時間は15分間であった。
【0108】
耐スクラッチ性
工業用洗車設備を模倣したAMTEC-Kistler装置で耐スクラッチ性を試験した。試験前、試験後のパネル洗浄後、及び60℃で2時間のリフロー後に、20°光沢を測定した。DIN EN ISO 20566 DE(2013)。光沢はDIN EN ISO 2813(2015)に従って測定した。
【0109】
材料
【0110】
【0111】
ヒドロキシル官能性チオエーテル化合物A1~A5の製造
触媒としてテトラメチルグアニジンの存在下で、表1に示すチオールをグリシジルネオデカノエート(Cardura(登録商標)E-10)と反応させることにより(混合物の固形分に基づく)、ヒドロキシル官能性チオエーテル化合物を合成した。すべての量は質量部である。窒素雰囲気下で、温度制御装置と還流コンデンサーを備えた3つ口ガラスフラスコにチオールと(使用した)SN IIの一部を入れることにより、反応を行った。45分間かけて、加熱することなく、攪拌しながら、グリシジルネオデカノエートを滴下漏斗を通して滴下添加した。45分後に滴下漏斗に残ったグリシジルネオデカノエートは、残留量のSN IIを用いて反応混合物に流し込んだ。反応中に到達した最高反応温度(Tmax)も表1に示している。
【0112】
【0113】
比較用反応性希釈剤(CRD)の製造
2つの供給容器、還流コンデンサー、及び攪拌部材を備えた圧力設計のステンレス鋼反応器に、溶媒ナフサを入れた。供給容器の1つには、1340gの2-エチルヘキシルアクリレートと495gの2-ヒドロキシエチルアクリレートとのモノマー混合物を入れた。第2フラスコには、溶媒ナフサ中のラジカル開始剤(例えばジ-tert-ブチルペルオキシド)の溶液を入れた。絶対圧2.5バールの圧力で、反応器を150℃に加熱した。この温度に達すると、開始剤の供給が開始した;全体の供給時間は270分間であった。開始剤の供給開始から5分後、モノマーの供給を開始し、240分間かけて供給した。両方の供給終了後、バッチを150℃でさらに60分間保持し、その後冷却して放置した。溶媒ナフサを用いて、樹脂溶液の固形分を66.5%±1%に調整した。
【0114】
熱硬化性コーティング組成物の製造
パックA(すなわち、架橋性バインダーパック)とパックB(すなわち、架橋剤を含むバインダーパック)を均一に混合することによって、熱硬化性組成物を得た。
【0115】
表2Aに示す成分を均一に混合することにより、パックAを得た。示された数字は質量部であり、使用された成分及びそれらの固形分は、本発明の「材料」のセクションに記載されている。
【0116】
【0117】
表2Bに示す成分を均一に混合することにより、パックBを得た。示された数字は質量部であり、使用された成分及びそれらの固形分は、本発明の「材料」のセクションに記載されている。
【0118】
【0119】
表2Cに、AパックとBパックの混合比、及び最終コーティング組成物の決定した固形分を示している。
【0120】
【0121】
熱硬化性コーティング組成物の応用
レベリングパネルとたるみパネルを除き、黒色ベースコートと実施例E1~E5及び比較例C1のクリアコートを、電着塗装された鋼板パネルに空気圧スプレー塗布で適用した。10分間のフラッシュオフの後、ベースコートを80℃で10分間静置した。10分間のフラッシュオフの後、クリアコートを80℃で30分間硬化させた。クリアコートの層厚は30±5μmであった。
【0122】
レベリング試験とたるみ試験では、大型の電着塗装鋼板に黒色ベースコートを一定の層厚で適用した。10分間のフラッシュオフの後、ベースコートを80℃で10分間静置した。実施例E1~E5及び比較例C1のクリアコートを、ロータリーアトマイザーを用いて静電塗布することにより、10μm~50μmの厚さのウェッジ層厚で適用した。垂直フラッシュオフを10分間行った後、クリアコートを80℃で30分間垂直硬化させた。垂直に硬化させたパネルに加え、水平にフラッシュオフし硬化させたパネルについてもレベリングを測定した(フラッシュオフと硬化条件は同じ)。
【0123】
結果
すべての実施例(本発明の実施例及び比較例)は、優れた耐薬品性を示した。ツリーガムに関しては、コーティングに最初の効果が認められた温度は、全ての実施例において36℃であった。すべての実施例において、温度は、硫酸(水中1質量%)に関して55±1℃であり、水酸化ナトリウム(水中1質量%)に関して55.5±1.5℃であった。
【0124】
すべての実施例(本発明の実施例及び比較例)は、スクラッチ試験を実施する前に優れた光沢を示した。全ての実施例の光沢は89.5±0.5光沢単位の範囲であった。試験後のパネルの洗浄後、全ての実施例の光沢単位は72.5±3.5の範囲であり、60℃で2時間リフローした後の光沢度値は73.5±2.5であった。したがって、バランスのとれたリフロー挙動を示唆している。
【0125】
その結果、耐薬品性及び耐スクラッチ性は、比較用の硫黄を含まない反応性希釈剤を含有する組成物と完全に匹敵することができる。
【0126】
しかしながら、本発明の実施例E1~E5では、優れたレベリング挙動を維持しつつ、たるみ挙動に関して比較例C1と比較して有意な改善が見出された。結果を表3に示している。
【0127】
【0128】
たるみ試験での厚さ値が高いほど、耐たるみ性が優れている。3mmのランナー長さでの厚さは、比較例の33μmに対して約38.5±1.5μmであり、これは層厚の約17%の大幅な向上となった。10mmのランナー長さでの厚さは、比較例の46μmに比べて約51.5±0.5μmであり、これは未だに約12%の向上となった。
【0129】
短波値と長波値が小さいほど、レベリングは優れている。すべての短波値(垂直)の平均値は約13.5±1.5であり、比較例では15であった。すべての短波値(水平)の平均値は約14±1であり、比較例ではほぼ同じの14であった。また、すべての長波値(垂直)の平均値は約12±1であり、比較例ではほぼ同じの12であった;すべての長波値(水平)の平均値は約8±1であり、比較例の値は7であった。
【国際調査報告】