(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】化学反応のシミュレーションモデルを構築する方法
(51)【国際特許分類】
G16C 20/10 20190101AFI20240416BHJP
G06N 3/04 20230101ALI20240416BHJP
【FI】
G16C20/10
G06N3/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566838
(86)(22)【出願日】2022-04-22
(85)【翻訳文提出日】2023-10-30
(86)【国際出願番号】 EP2022060739
(87)【国際公開番号】W WO2022233602
(87)【国際公開日】2022-11-10
(32)【優先日】2021-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】メル、 セドリック
(72)【発明者】
【氏名】ファニー、 ティボー
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つの化学反応のシミュレーションモデル(MSI)を構築する方法に関する。この方法は、人工ニューラルネットワーク(RNA)と訓練ベース(BAP)を使用して中間モデルを構築し、次に、人工ニューラルネットワーク(RNA)に対して追加の質量保存層(RNC)を追加することによってシミュレーションモデルを構築する。さらに本発明は、このように構築されたシミュレーションモデル(MSI)を実行する、化学反応をシミュレーションする方法(SIM)に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
訓練ベース(BAP)を使用して、反応システム内の複数の化学種の間の少なくとも1つの化学反応のシミュレーションモデル(MSI)を構築するシミュレーションモデル構築方法において、
前記訓練ベース(BAP)は、前記化学反応の訓練入力データ及び訓練出力データを含み、前記訓練入力データ及び前記訓練出力データは、前記化学反応の入口及び出口における前記化学種の質量分率をそれぞれ表すものであり、
a.入力層(CE)と少なくとも1つの隠れ層(CC)と出力層(CS)とを含む人工ニューラルネットワークを使用して中間モデルを構築するステップと、
b.前記中間モデルと、前記人工ニューラルネットワークの前記出力層の後に使用される追加層(RNC)とを用いて前記シミュレーションモデル(MSI)を構築するステップと、
とが実行され、
前記中間モデルの構築は前記訓練ベース(BAP)を用いて達成され、
前記追加層は、前記化学反応に関与する前記化学種を形成する化学元素の質量保存を保証するために前記人工ニューラルネットワーク(RNC)の前記出力層(CS)の出力データに線型補正を適用する線型作用素からなることを特徴とする、シミュレーションモデル構築方法。
【請求項2】
前記追加層(RNC)は、線型補正の計算のステップと、計算された前記線型補正を適用するステップとによって構築される、請求項1に記載のシミュレーションモデル構築方法。
【請求項3】
前記線型補正は、前記化学反応の化学元素の数に対応する数の、前記化学反応の複数の化学種に対して計算される、請求項2に記載のシミュレーションモデル構築方法。
【請求項4】
前記人工ニューラルネットワークのシナプスの重みが、前記訓練ベースの入力データ及び出力データによる前記追加層の追加ののちに最適化(OPT)される、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシミュレーションモデル構築方法。
【請求項5】
前記入力データ及び前記出力データは、前記化学反応の前及び後にそれぞれ決定されるか、あるいは前記化学反応の時間ステップの前及び後にそれぞれ決定される、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシミュレーションモデル構築方法。
【請求項6】
前記入力データは前記化学種の質量分率である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のシミュレーションモデル構築方法。
【請求項7】
前記出力データは、前記化学種の質量分率、または前記化学種の質量分率の変化である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のシミュレーションモデル構築方法。
【請求項8】
反応システム内の複数の化学種の間での少なくとも1つの化学反応のシミュレーションを行うシミュレーション方法において、
a.上記の特徴に基づくシミュレーションモデルを構築する方法を用いてシミュレーションモデル(MSI)を構築するステップと、
b.シミュレーション入力データ(DES)に前記シミュレーションモデル(MSI)を適用するステップと、
が実行され、
前記シミュレーション入力データは、前記化学反応の入口における前記化学種の質量分率を表すものであることを特徴とする、シミュレーション方法。
【請求項9】
前記シミュレーションモデル(MSI)は、時間ステップに対して構築され、前記シミュレーションモデル(MSI)を適用するステップは、複数の連続する時間ステップに対して繰り返され、繰り返しのたびに、前記シミュレーション入力データ(DES)は、前の前記時間ステップでのシミュレーション出力データ(DSS)である、請求項8に記載のシミュレーション方法。
【請求項10】
前記化学反応は、例えばエンジン内の燃焼または電池内の化学反応、または燃料電池内の化学反応であるエネルギー変換システム内での化学反応、または、前記化学種を輸送するシステムの内部での化学反応である、請求項8または9のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応システムの出口における化学種の混合の予測のための化学動力学シミュレーションの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
化学反応システムの挙動を予測することは、化学推進輸送におけるエネルギー変換方法及びシステムのような多くの産業システムを設計することに対し、及びこれらの化合物の輸送に関連する課題に対して重要である。これらのシステムでは、化学種の混合物を含む流体が、化学反応と呼ばれる種々の変換を受ける。例えばこれは、燃焼、特に燃焼機関内での燃焼における化学種の組成の予測であっても、電池内、燃料電池内、反応流内、触媒プロセス内などにおける化学反応の予測であってもよい。
【0003】
このモデル化は、入口と出口との間での反応システムにおける化学反応体(化学種)の発展を予測することによって構成される。この特許出願において、入口及び出口の概念は、次の定義の一つに対応することができる:入口及び出口は、システムの物理的入口及び出口(化学反応の前及び後)に対応することができ、また、数値シミュレーション中の2つの時間ステップ(化学反応の時間ステップの前または後)の間の系の発展に対応することができる。
【0004】
いわゆるデータベース型のやり方は、化学反応のシミュレーションを行うために使用できる。このようなやり方は、事前のシミュレーションまたは実験から生じるデータから、及び機械学習アルゴリズムによって、反応システムにおける化学反応の挙動を予測することを可能にする。一般に、物理学に直接は関係しないこれらのやり方は、化学反応に含まれるすべての物理現象、特に化学種の混合物中に存在する各原子の質量の保存を考慮することができない。したがってこのようなやり方は不正確なままである。
【0005】
質量保存を考慮するためにいくつかのやり方は、質量保存がチェックされる追加のステップを含む。ただし、この追加ステップはモデルの外部で実行されるため、予測の最適化が制限される。
【0006】
特許出願WO2020/176914(特許文献1)は、ニューラルネットワークからのガス濃度予測について説明している。この方法は、エンジン排気ガスの後処理に適用されている。化学動力学の直接計算は高コストであり、したがってニューラルネットワークが使用される。しかしながらこの方法に関し、質量保存はニューラルネットワークによっては考慮されず、そのため排気ガスの濃度の正確な予測を行うことができない。
【0007】
特許出願CN 109,918,702(特許文献2)は、制約条件を用いて原子の質量保存を考慮する、ニューラルネットワークによる化学状態の予測について説明している。ただしこの制約条件は、ニューラルネットワークには含まれていない。
【0008】
文献「Hendricks et al., "LINEARLY CONSTRAINED NEURAL NETWORKS," arXiv:2002.01600, 2020」(非特許文献1)は、流体力学の分野に関する。この文献は、非圧縮性流体の場合に速度場のゼロ発散を保証する人工ニューラルネットワークを提案する。この文献は、化学反応に関し質量保存を考慮することができない。
【0009】
文献「Mohan et al., "EMBEDDING HARD PHYSICAL CONSTRAINTS IN NEURALNETWORK COARSE-GRAINING OF 3D TURBULENCE," arXiv: 2002.00021, 2020」(非特許文献2)も流体力学の分野に関連している。この文献も、非圧縮性流体の場合に速度場のゼロ発散を保証する人工ニューラルネットワークを提案する。この文献は、化学反応に関し質量保存を考慮することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2020/176914号
【特許文献2】中国特許出願第109918702号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Hendricks et al., "LINEARLY CONSTRAINED NEURAL NETWORKS,"arXiv: 2002.01600,2020年
【非特許文献2】Mohan et al., "EMBEDDING HARD PHYSICAL CONSTRAINTS IN NEURALNETWORK COARSE-GRAINING OF 3D TURBULENCE," arXiv: 2002.00021,2020年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、正確かつ信頼できる態様で、少なくとも1つの化学反応の間の化学組成物を予測することを可能にするシミュレーションモデルを構築することである。したがって本発明は、人工ニューラルネットワーク及び訓練ベースによって中間モデルを構築し、次いで、人工ニューラルネットワークに対して追加の質量保存層を追加することによってシミュレーションモデルを構築する、少なくとも1つの化学反応のシミュレーションモデルを構築する方法に関する。
【0013】
さらに本発明は、このように構築されたシミュレーションモデルを使用する、化学反応をシミュレーションする方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、訓練ベースを使用して、反応システム内の複数の化学種の間の少なくとも1つの化学種のシミュレーションモデルを構築する方法に関するものである。前記訓練ベースは、前記化学反応の訓練入力データ及び訓練出力データを含み、前記訓練入力データ及び前記訓練出力データは、それぞれ、前記化学反応の入口及び出口における前記化学種の質量分率を表す。この方法では、次のステップが実行される:
a.入力層と少なくとも1つの隠れ層と出力層とを有する人工ニューラルネットワークを用いて前記シミュレーションモデルの中間モデルを構築する。前記中間モデルの構築は、前記訓練ベースを用いて達成される;
b.前記中間モデルと、前記人工ニューラルネットワークの前記出力層の後に使用される追加層とを用いて前記しミューレーションモデルを構築する。前記追加層は、前記化学反応に関与する前記化学種を形成する化学元素の質量保存を保証するために、前記人工ニューラルネットワークの前記出力層の出力データに線型補正を適用する線型作用素からなる。
【0015】
一実施態様によれば、前記追加層は、線型補正の計算のステップと、計算された前記線型補正を適用するステップとによって構築される。
【0016】
有利には、線型補正は、前記化学反応の化学元素の数に対応する数の、前記化学反応の複数の化学種に対して計算される。
【0017】
実現例によれば、人工ニューラルネットワークのシナプスの重みが、訓練ベースの入力データ及び出力データによる追加層の追加ののちに最適化される。
【0018】
一態様によれば、前記入力データ及び前記出力データは、前記化学反応の前及び後にそれぞれ決定されるか、あるいは前記化学反応の時間ステップの前及び後にそれぞれ決定される。
【0019】
実施形態での選択肢によれば、前記入力データは、前記化学種の質量分率である。
【0020】
特徴的なことによれば、前記出力データは、前記化学種の質量分率、または前記化学種の質量分率の変化である。
【0021】
さらに本発明は、反応システム内の複数の化学種の間での少なくとも1つの化学反応のシミュレーションを行う方法に関する。この方法では、次のステップが実行される:
a.上記の特徴の1つによるシミュレーションモデルを構築する方法を用いてシミュレーションモデルを構築する:
b.シミュレーション入力データに前記シミュレーションモデルを適用する。前記シミュレーション入力データは、前記化学反応の入口における前記化学種の質量分率を代表するものである。
【0022】
一実施態様によれば、前記シミュレーションモデルは、時間ステップに対して構築され、前記シミュレーションモデルを適用するステップは、複数の連続する時間ステップに対して繰り返され、繰り返しのたびに、前記シミュレーション入力データ(DES)は、前の時間ステップでのシミュレーション出力データ(DSS)である。
【0023】
実現例によれば、例えばエンジン内の燃焼または電池内の化学反応、または燃料電池内の化学反応であるエネルギー変換システム内での化学反応、または、前記化学種を輸送するシステムの内部での化学反応である。
【0024】
本発明に係る方法の他の特徴及び利点は、添付の図を参照して非限定的な例として与えられる以下の実施形態の説明を読むことにより明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1の実施形態に基づく化学反応のシミュレーションモデルを構築する方法のステップを示す図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態に基づく化学反応のシミュレーションモデルを構築する方法のステップを示す図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に基づく化学反応をシミュレーションする方法のステップを示す図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に基づく化学反応をシミュレーションする方法のステップを示す図である。
【
図5】本発明の第3の実施形態に基づく化学反応をシミュレーションする方法のステップを示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態に基づく化学反応シミュレーションモデルを示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態に基づく化学反応シミュレーションモデルを示す図である。
【
図8】先行技術に基づく方法を実行するシミュレーションに関する、時間の関数として4つの化学元素の質量分率曲線を示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態に基づく方法を実行するシミュレーションに関する、時間の関数として4つの化学元素の質量分率曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、反応システム内の複数の化学種の間の少なくとも1つの化学反応のシミュレーションモデルを構築する方法に関する。換言すれば本発明は、化学動力学の予測、すなわち、化学反応の最中の、または化学反応の所与の時刻における、化学種の予測に関する。
【0027】
例示のためだけに、燃焼室内のメタンの燃焼の場合において種々の用語が示されるであろう。しかしながら本発明による方法は、他の化学反応に適用することができる。本発明による方法の様々な可能な応用例は、本出願の最後に記載されている。
【0028】
化学反応は、反応システムにおける種々の化学種の間での物質の交換であると理解される。一般に化学反応は、バランス式の形態で記述することができる。(空気中の窒素の存在を考慮いない)メタンの燃焼の例では、化学反応は次のように書くことができる。
CH4 + 2O2 → CO2 + 2H2O
【0029】
反応システムは、化学反応が生起するシステムである。メタンの燃焼の例では、反応システムは燃焼室である。化学種は、化学反応に関与する分子であると解釈される。またメタンの燃焼の例においては、化学種は、メタンCH4、酸素O2、二酸化炭素CO2及び水H2Oである。さらにまた化学元素は、化学反応に関与する原子であると理解される。メタンの燃焼の例では、化学元素は、炭素C、水素H及び酸素Oである。
【0030】
本発明は、訓練ベースを実装する。訓練ベースは、反応システムの入口における化学種の質量分率を表す入力データを含んでいる。訓練ベースはさらに、反応システムの出口における化学種の質量分率を表す出力データを含む。化学種の質量分率は、反応システムでの混合物の全質量に対するその化学種の質量の比率によって定義される。
【0031】
入口及び出口の概念は次の定義の1つに対応することができる:この入口及び出口の概念は、システムの物理な入口及び出口に対応することができる(化学反応の前及び後)、または数値シミュレーションの際の2つの時間ステップの間の系の発展に対応することができる(化学反応の時間ステップの前または後)。
【0032】
有利には、訓練ベースの入力データは化学種の質量分率に対応することができる。
【0033】
一実施態様によれば、訓練ベースの出力データは化学種の質量分率に対応することができる。
【0034】
変形例として、訓練ベースの出力データは、化学種の質量分率の変化に対応することができ、これらの変化は化学反応中に実現されたものである。
【0035】
訓練ベースの入力データ及び出力データは、実験的に測定されたデータからの結果、及び/または、シミュレーションによって得られたデータからの結果であることができる。本発明の実現例によれば、この方法は、実験的に測定されたデータ、及び/またはシミュレーションによって得られたデータから訓練ベースを構築する予備ステップを含むことができる。
【0036】
本発明によれば、シミュレーションモデルを構築する方法は、以下のステップを含む:
1.中間モデル(人工ニューラルネットワーク)の構築;
2.シミュレーションモデルの構築。
【0037】
これらのステップは、特にコンピュータまたはサーバを含む計算手段によって実行することができる。これらのステップについて、明細書の残りの部分で詳しく説明する。
【0038】
図1は、非限定的な例として、本発明の第1の実施態様に基づく方法のステップを概略的に示している。中間モデルは、人工ニューラルネットワークRNAと人工ニューラルネットワークRNAの最適化(訓練)OPTとによって、訓練ベースBAPから形成される。この最適化ステップは、訓練ベースBAPのデータの関数として人工ニューラルネットワークRNAのシナプス重みを決定することを可能にする。シミュレーションモデルMSIは、最適化された(学習された)人工ニューラルネットワークRNAと、追加の保存層RNCと呼ばれる追加の層とを使用して構築される。
【0039】
一実施形態によれば、人工ニューラルネットワークのシナプス重みは、訓練ベースのデータを使用して、追加の保存層を追加した後に最適化することができる。言い換えれば訓練は、人工ニューラルネットワークと追加の保存層とによって構成されるモデル全体に適用される。したがって、訓練ベースのデータを考慮することにより、シミュレーションモデルを最適化することができる。
【0040】
図2は、非限定的な例として、この実施形態の方法のステップを概略的に示している。人工ニューラルネットワークRNAと追加の保存層RNCとが構築される。次に、シミュレーションモデルMSIを構築するために、訓練ベースBAPから、追加の保存層RNCと同時に人工ニューラルネットワークRNAが最適化OPT(訓練)される。したがってこの最適化ステップでは、訓練ベースベースBAPから、追加の保存層RNCを伴なう人工ニューラルネットワークのシナプス重みの更新が実行される。
【0041】
さらに本発明は、反応システム内の複数の化学種間の少なくとも1つの化学反応についての数値シミュレーションの方法に関する。このような数値シミュレーション法は、反応システム内の化学反応の間の化学種を予測する方法に対応する。シミュレーション方法は、本出願に記載されている変形例または変形例の組み合わせのいずれか1つに基づくモデル構築方法を実施し、シミュレーション入力データにシミュレーションモデルを適用するステップを実施する。その後、数値シミュレーションがシミュレーション出力データを生成する。
【0042】
シミュレーション入力データ及びシミュレーション出力データは、訓練ベースの入力データ及び出力データと同じ性質のものである。言い換えればシミュレーション入力データ及びシミュレーション出力データは、それぞれ、シミュレーションされた反応システムの入口及び出口での化学種の質量分率を表す。
【0043】
シミュレーション入口及びシミュレーション出口の概念は、以下の定義の1つに対応することができる。すなわち一方では、システムの物理的な入口及び出口(化学反応の前及び後)に対応し、他方では数値シミュレーション中の2つの時間ステップ(化学反応の時間ステップの前及び後)の間の系の発展に対応することができる。
【0044】
有利なことに、シミュレーション入力データは化学種の質量分率に対応することができる。
【0045】
一実施形態によれば、シミュレーション出力データは化学種の質量分率に対応することができる。
【0046】
変形例として、シミュレーション出力データは化学種の質量分率の変化に対応することができる。
【0047】
シミュレーション入力データは、実験的にまたはシミュレーションによって得ることができる。
【0048】
したがって、シミュレーション方法は、以下のステップを含む:
1.中間モデル(人工ニューラルネットワーク)の構築;
2.シミュレーションモデルの構築;
3.シミュレーションモデルの適用。
【0049】
これらのステップは、演算手段、特にコンピュータまたはサーバを備える演算手段を使用して実行することができる。好ましくは、ステップ1及びステップ2は、事前に一度だけ実行することができ、ステップ3はシミュレーションモデルを用いて繰り返すことができる。これらのステップについては、本明細書の残りの部分で詳しく説明する。
【0050】
図3は、非限定的な例として、本発明の第1の実施形態に基づく数値シミュレーション方法のステップを概略的に示している。訓練ベースBAPから、人工ニューラルネットワークRNAと人工ニューラルネットワークRNAの最適化OPTとによって中間モデルが形成される。この最適化ステップは、訓練ベースBAPのデータの関数として、人工ニューラルネットワークRNAのシナプス重みを決定することを可能にする。次にシミュレーションモデルMSIが、最適化された人工ニューラルネットワークRNAと追加の保存層RNCとを用いて構築される。引き続いてシミュレーション出力データDSSを決定するために、シミュレーションモデルMSIのシミュレーション入力データDESへの適用SIMが実行される。
【0051】
図4は、非限定的な例として、本発明の第2の実施形態に基づく数値シミュレーション方法のステップを概略的に示している。数値シミュレーション方法のこの第2の実施形態は、
図2のシミュレーションモデル構築方法の第2の実施形態を実施する。人工ニューラルネットワークRNAと追加の保存層RNCとが構築される。次に、シミュレーションモデルMSIを構築するために、訓練ベースBPAから、人工ニューラルネットワークRNAが追加の保存層RNCと同時に最適化OPTされる。したがって、この最適化ステップの間に、訓練データベースBAPから、追加の保存層RNCを伴なう人工ニューラルネットワークのシナプス重みの更新が実行される。引き続いてシミュレーション出力データDSSを決定するために、シミュレーションモデルMSIがシミュレーション入力データDESに適用される。
【0052】
本発明の実行例によれば、複数の連続する時間ステップに対して(すなわち、化学反応の複数の中間段階に対して)、シミュレーションが実行される。シミュレーションモデルを適用するステップを数回反復することができ、各反復において、シミュレーション入力データは、前の時間ステップのシミュレーション出力データとすることができる。したがって化学反応は、正確で堅牢な方法で段階的にシミュレーションすることができる。
【0053】
図5は、非限定的な例として、本発明の第3の実施形態に基づく数値シミュレーション方法のステップを概略的に示している。数値シミュレーション方法のこの第3の実施形態は、
図2のシミュレーションモデル構築方法の第2の実施形態を実行する。人工ニューラルネットワークRNAと追加の保存層RNCとが構築される。次に、シミュレーションモデルMSIを構築するために、訓練ベースBPAから、人工ニューラルネットワークRNAが追加の保存層RNCと同時に最適化OPTされる。したがってこの最適化ステップの間に、訓練データベースBAPから、追加の保存層RNCを伴なう人工ニューラルネットワークのシナプス重みの更新が実行される。引き続いてシミュレーション出力データDSSを決定するために、シミュレーションモデルMSIがシミュレーション入力データDESに適用される。その後、シミュレーションのステップは、前の時間ステップのシミュレーション出力データに対応する新しいシミュレーション入力データに対して繰り返される。
【0054】
1.中間モデルの構築
このステップは、人工ニューラルネットワークによって中間モデルを構築することからなる。このモデルは、本方法によって得られたシミュレーションモデルではないため「中間」と呼ばれ、この中間モデルはステップ2において修正される。人工ニューラルネットワークは、制限されたコンピュータメモリ要件で、特に化学反応の複雑な数値モデル表現よりも高速で出力データの高速評価を可能にするモデルを得ることを可能にする。さらに人工ニューラルネットワークは、複雑な化学反応、特に多数の化学種を含む複雑な化学反応に適している。実際、これらの複雑な系のシミュレーションは、特にメモリに関して大量の情報処理能力と、かなりのシミュレーション時間とを必要とする。人工ニューラルネットワークは、訓練入力/出力ペアを含む訓練ベースからのいわゆる学習データベースによってパラメータが最適化されるアルゴリズムである。ひとたびデータに基づいて訓練されればこのネットワークは、これまでに見られたことのない入力データに対して推論を実行するために使用できる。
【0055】
人工ニューラルネットワークは、入力層、少なくとも1つの隠れ層、及び出力層を備える。入力層と出力層は、化学反応の化学種の数に対応する複数のニューロンから構成される。人工ニューラルネットワークの構築は、訓練ベースを使用して達成される。言い換えればニューラルネットワークのシナプス重みは、訓練ベースの入力データ及び出力データに対応するように、教師付き学習を介して学習される。このようにして形成された中間モデルは、訓練ベースのデータを代表するものであることによって、入力データからの出力データを決定することを可能にする。中間モデルの入力は、訓練ベースの入力データと同じ性質のものであり、中間モデルの出力は、訓練ベースの出力データと同じ性質のものである。
【0056】
人工ニューラルネットワークは、例えば、深層ニューラルネットワーク、反復ニューラルネットワーク、多層パーセプトロン型ニューラルネットワークなど、任意の形態をとることができる。
【0057】
中間モデルの構築には、特に過剰訓練問題の発生を防止するために、人工ニューラルネットワークの検証のステップが含まれる場合がある。検証は、訓練ベースのデータの一部を使用して実行できる。
【0058】
2.シミュレーションモデルの構築
このステップは、ステップ1で構築された中間モデルと、追加の保存層と呼ばれる追加層とによってシミュレーションモデルを構築することからなる。追加の保存層は、人工ニューラルネットワークの出力層の後に追加される。追加の保存層は、化学反応中に存在する化学元素の質量保存のための線型作用素からなる。言い換えるとシミュレーションモデルは、人工ニューラルネットワークの入力層、少なくとも1つの隠れ層及び出力層と、追加の保存層とを含む。したがって追加の保存層は、シミュレーションモデル内の化学元素の質量保存をチェックすることを可能にし、これは、シミュレーションモデルをより正確にする。さらに追加保存層の線型性は、人工ニューラルネットワークの利点、すなわち制限されたコンピュータメモリと制限された計算時間での複雑な系のシミュレーションという利点を維持することを可能にする。
【0059】
追加の保存層は、化学反応の化学種の数に対応する複数の入力と複数の出力とから構成される。化学反応における化学種の質量分率を表すデータは追加保存層の出力で決定され、したがってシミュレーションモデルの出力で決定される。ひとたび決定されると、追加の保存層は変化がなく一定である。つまり、追加の保存層は変更されない。
【0060】
本発明の一態様によれば、追加の保存層は、線型補正の計算のステップと、計算された線型補正を適用するステップとによって構築されることができる。
【0061】
この実施形態では、化学種の数が化学元素の数よりも多い場合、化学元素の数に対応する数の複数の化学種に対して修正ステップを適用することができる。好ましくは、選択される化学種は、混合物中に存在する各原子を少なくとも1回含むことができる。これにより、問題の未決定性を回避することができる。
【0062】
入力データと出力データが正規化される実施形態によれば、これらの2つのステップ(補正と補正の適用)の前に正規化の逆を行うステップを行い、その後に正規化ステップを行うことができる。
【0063】
これらの2つのステップ(補正及び補正の適用)については、以下の本明細書の残りの部分において詳しく説明する。
【0064】
本明細書の残りの部分では、1,…,NSと番号付けられた化学種の混合物を考え、これらの化学種は、これらの化学種の各々の質量分率Ykによって記述される。質量分率は、Yk=mk/mで定義され、ここでmkは混合物における化学種kの質量であり、mは混合物の全質量である。原子核型反応を除外し、化学種が相互に反応する場合を考える。したがって、混合物の分子を構成する各原子の質量は、入力状態と出力状態の間で保存される。本明細書の残りの部分では、入力化学状態は「in」で表され、対応する出力状態は「out」で表される。対応する質量分率は、それぞれ、Yk
in及びYk
outで表される。入力と出力の間の変化は、これらの化学種の間の一定数の化学反応を含む。
【0065】
混合物中に存在する任意の原子(化学元素)は、「j」で表される(例えば燃焼反応を含む系の場合、j=O,H,C,Nである)。
【0066】
混合物中に異なるNa種類の原子があると仮定する。分率Yjは、混合物の全質量に対する原子jの質量に対応する。この質量分率は、化学種の質量分率から次のように書くことができる。
【0067】
【0068】
ここでMkは化学種kのモル質量に対応し、nk
jは化学種kの分子に存在する原子jの個数であり、Mjは原子jのモル質量に対応する。この関係は、原子の質量分率を含むベクトルを
【0069】
【0070】
と置き、化学種の質量分率を含むベクトルを
【0071】
【0072】
と置くことにより、行列形式で記載することができる。すなわち、
【0073】
【0074】
と書くことができる。
【0075】
入力と出力の間の原子の質量の保存は次の性質を与え、これは混合物中に存在する任意の原子jに対して次のように書くことができる。
Yj
in= Yj
out
【0076】
すなわち行列形式では、
【0077】
【0078】
人工ニューラルネットワークの出力ベクトルはgで表される。本実施形態は、前述の関係を満たすようにベクトルgを補正することによって構成される。補正は、αで表される、決定されるべきアプリオリ項を加えることによって、以下のように表すことができる。
【0079】
【0080】
先の式は次のようになる。
【0081】
【0082】
この式は、未知数ak,k∈[1,Ns]を含む線型方程式系である。
【0083】
【0084】
である限り、この方程式系はNs個の未知数とNa個の方程式とを含む。一般に、原子の種類の数は化学種の数よりもかなり少なく(Na≪Ns)、したがってシステムは未決定である。
【0085】
未決定性を除去するために、混合物中に存在するNs個の化学種の中からNa個の化学種からなる集合を抽出することができる。これらの化学種は、混合物中に存在する各原子を少なくとも1回含むことが好ましい。これらの化学種を
【0086】
【0087】
によって表す。ここで、
【0088】
【0089】
であると想定する(言い換えれば、この実現例では、選択された化学種に対して補正を行うことができ、化学反応の他の化学種に対しては補正はなされない)。したがって、以下に示すように新しい補正ベクトルを定義することができる。
【0090】
【0091】
すると、方程式系は次のようになる。
【0092】
【0093】
さらに、選択された化学種において各原子が表現されるとすると、系が可逆であることを示すことができる。したがって、解は下式で表される。
【0094】
【0095】
このようにしてこの計算により、補正が決定される。次に、選択された化学種に対してこの補正を適用することにより、原子の正確な保存が保証される。この補正の適用は、化学種kごとに書くことができる。
Yk
out = g +α
【0096】
発明の実現例(
図2に対応)によれば、ニューラルネットワークの修正を、ここで示す場合ではシナプス重みの修正を、補正を適用した後に行うことができる。したがって、化学種の任意に選ばれた集合が選択されて原子の質量を補正するという事実にもかかわらず、ニューラルネットワーク内にこの補正が適用されると、出力が良好に予測されるように少なくとも1つの隠れ層の上流側のパラメータを調整することができる。
【0097】
図6は、非限定的な例として、本発明の一実施形態に基づくシミュレーションモデルの構築を概略的に示している。人工ニューラルネットワークがまず構築される。人工ニューラルネットワークRNAは、化学種の質量分率Y
1
in,…,Y
Ns
inが入力データを形成する入力層CEを含む。人工ニューラルネットワークRNAは、少なくとも1つの隠れ層CCを含む。人工ニューラルネットワークRNAは、さらに、化学種の質量分率g
1,…,g
Nsが出力データを形成する出力層CSを含む。人工ニューラルネットワークRNAの層は、円によって表される複数の人工ニューロンNAを含む。シナプス重みは各人工ニューロンNAと関連付けられている。さらにシミュレーションモデルRNCは、化学元素の質量保存を保証にしながら、出口での化学種の質量分率Y
1
out,…,Y
Ns
outを決定するために出力データg
1,…,g
Nsの線型補正を決定する追加の保存層L
cを含む。出力データY
1
out,…,Y
Ns
outが質量分率である
図6の実施形態の場合、追加の保存層L
cは入力データY
1
in,…,Y
Ns
inを考慮する。
【0098】
図7は、
図6に類似しており、ω
i=Y
i
out-Y
i
inとして出力データが化学種の質量分率の変化ω
1,…,ω
Nsである場合のものである。
図6と同一の要素については、再度詳細には説明しない。この実施形態では、追加の保存層L
cは入力データY
1
in,…,Y
Ns
inを考慮する必要はない。
【0099】
3.シミュレーションモデルの適用
このステップは、少なくとも1つの化学反応の数値シミュレーション方法に関するものに過ぎない。このステップでは、ステップ2で構築されたシミュレーションモデルがシミュレーション入力データに適用される。言い換えれば、化学反応の化学動力学のシミュレーションをシミュレーション入力データ及びシミュレーションモデルから実行する。化学反応全体に対するシミュレーションであってもよいし、化学反応の時間ステップに対するシミュレーションであってもよい。
【0100】
複数の連続する時間ステップに対して(すなわち、化学反応のいくつかの中間段階に対して)シミュレーションが実施される本発明の実現例によれば、シミュレーションモデルを適用するステップは、数回反復されることができ、各反復において、シミュレーション入力データは、前の時間ステップでのシミュレーション出力データとすることができる。したがって化学反応について、正確かつ堅牢な形態で段階的にシミュレーションを行うことができる。この実現例は、
図5に示すものに対応する。
【0101】
化学反応は、反応性流体機構の分野における化学反応であることができる。この場合、化学種は液体または気体であることができる。
【0102】
第1の例示実現例によれば、本発明は燃焼の化学反応、特に燃焼機関、タービンまたは任意の同様のシステムにおける燃焼の化学反応に関係することができる。実際、本発明に基づく方法は、多くの化学種を伴なう複雑なシステムのモデル化を可能にすることができる。
【0103】
第2の例示実現例によれば、本発明は、エネルギー貯蔵及び供給システムにおける化学反応、特に電池または燃料電池における化学反応に関係することができる。実際、本発明に基づく方法は、多くの化学種を伴なう複雑なシステムのモデル化を可能にすることができる。
【0104】
第3の例示実現例によれば、本発明は、触媒化学反応、特に、排気ガス後処理システム内の触媒、または炭化水素製造の分野の触媒に関係することができる。実際、本発明に基づく方法は、多くの化学種を伴なう複雑なシステムのモデル化を可能にすることができる。
【0105】
第4の例示実現例によれば、本発明は、多孔質媒体内の流体流れに特有の化学反応、特に、1以上の無機物の沈殿または溶解の反応に関係することができる。実際、本発明に基づく方法は、多くの化学種を伴なう複雑なシステムのモデル化を可能にすることができる。
【0106】
さらに本発明は、本発明に基づく方法の変形例または変形例の組み合わせの1つにしたがった方法によって構築されたシミュレーションモデルを実装する数値化学反応シミュレータに関する。数値シミュレータは、シミュレーション入力データを使用してシミュレーション出力データを決定する。シミュレーション入力データ及びシミュレーション出力データは、化学反応の化学種の質量分率を表す。
【0107】
さらに本発明は、以下のステップが実行される、少なくとも1つの化学反応が行われる反応システムを設計する方法に関する:
・上述の変形例または変形例の組み合わせのいずれか1つに基づくシミュレーション方法によって、反応システム内の化学反応の数値シミュレーションを実行する;
・反応システムを設計し、反応システム内で化学反応を実行させる。
【0108】
この設計方法では、(例えば最初に存在する化学種を修正することによって)複数の化学反応に対して、及び/または複数の反応システムに対して(例えば、反応システムのいくつかの寸法または形状に対して)、複数の数値シミュレーションを実行することができる。シミュレーションの比較により、設計されるべき化学反応及び/または反応システムを決定することができる。
【0109】
本発明はまた、少なくとも1つの化学反応が起こり、以下のステップが実施される反応システムを制御する方法に関することができる:
・上述の変形例または変形例の組み合わせのいずれか1つに基づくシミュレーション方法によって、反応システム内の化学反応の数値シミュレーションを実行し;
・特に、危険な状況または望ましい使用に適さない状況を回避するために、シミュレーションされた化学反応の関数として反応システムを好ましくは実時間で制御する。
【0110】
好ましくは、反応システムを制御するために、シミュレーション入力データとして使用されるデータは、実時間で測定されることができる。
【0111】
燃焼の例では、制御は、燃焼室内の空気または燃料の量を制御することからなってもよい。この制御の目的は、汚染物質の排出を制限したり、ノッキング現象などを防止するこであることができる。
【0112】
電池の例では、特に、電池の過熱または早期の経年劣化を制限するために、制御は、電圧または電流を制御することに対応できる。
【0113】
燃料電池の例では、燃料電池内の化学動力学を最適化し、それによってその性能を向上させるために、特に空気流供給を制御することに対応できる。
【0114】
比較例
本発明に基づく方法の特徴及び利点は、以下の比較例を読むことで明らかになろう。
【0115】
本発明を説明するために、この節において一例を示す。ここでは燃焼の数値シミュレーションの文脈におけるニューラルネットワークの使用について考える。ここでの意図は、正確な解決アルゴリズムを等価なニューラルネットワークに置き換えることである。特に、ニューラルネットワークは、シミュレーションの時刻t(上記の方法の説明では状態「in」)での質量分率を入力として採用し、時刻t+dt(状態「out」)での質量分率を評価する。これは、シミュレーションの反復の総回数をNiteとして、tk=kdt,k∈[0,Nite]に対して反復的に実行される。
【0116】
ここで考察した事例は、定圧でのメタンの燃焼の事例であり、一般に存在する原子は炭素(C)、水素(H)、酸素(O)及び窒素(N)である。
【0117】
この比較例では、(追加の保存層を伴なわない)人工ニューラルネットワークを実装する先行技術による方法と、追加の保存層を伴なう持つ人工ニューラルネットワークを実装する本発明による方法とを比較する。この2つのシミュレーションでは、訓練ベースは同じであり、人工ニューラルネットワークの層の数とニューロンの数はいずれも同じである。より詳細には、選択されたニューラルネットワークは、それぞれ64ユニットを有する2つの隠れ層を含む多層パーセプトロン型ネットワークである。データベースは、種々の初期温度T0及び燃料/空気比φに対するH2/空気混合気の燃焼のシミュレーションからなる。ラテン超立方体サンプリングアルゴリズムを使用して、訓練ベース内の1000個のシミュレーションが選択される。このサンプリングは、1600K(約1326℃)以上1800K(約1526℃)以下のT0の値と、0.7以上1.5以下の燃料/空気比の値に対して実行される。ネットワークの重みの最適化は、勾配下降法を使用して行われる。
【0118】
図8は、ミリ秒を単位とする時刻tの関数として、正規化された炭素の質量分率Y
C(左上)、正規化された水素の質量分率Y
H(右上)、正規化された酸素の質量分率Y
O(左下)及び正規化された窒素の質量分率Y
N(右下)についての先行技術にしたがった方法の曲線を示している。これらの図では、炭素と水素の質量分率の曲線が時間の経過に対して一定ではないことが注目される。したがって、シミュレーション中の原子の質量保存は重大なポイントであるにも関わらず、先行技術による人工ニューラルネットワークは、炭素原子と水素原子の質量保存を保証することができない。実際、ある時刻における質量の偏りは、シミュレーションの残りの部分によくない影響を与え、シミュレーションを不正確にする可能性がある。
【0119】
図9は、ミリ秒を単位とする時刻tの関数として、正規化された炭素の質量分率Y
C(左上)、正規化された水素の質量分率Y
H(右上)、正規化された酸素の質量分率Y
O(左下)及び正規化された窒素の質量分率Y
N(右下)についての(追加の保存層を伴なう)本発明にしたがった方法の曲線を示している。4つの曲線が時間の経過に対して一定であることが注目される。したがって、本発明に基づく層L
cを使用することは、原子の質量保存、したがって、シミュレーションモデルのより高い精度及び堅牢性を提供する。
【手続補正書】
【提出日】2023-11-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
訓練ベース(BAP)を使用して、反応システム内の複数の化学種の間の少なくとも1つの化学反応のシミュレーションモデル(MSI)を構築するシミュレーションモデル構築方法において、
前記訓練ベース(BAP)は、前記化学反応の訓練入力データ及び訓練出力データを含み、前記訓練入力データ及び前記訓練出力データは、前記化学反応の入口及び出口における前記化学種の質量分率をそれぞれ表すものであり、
a.入力層(CE)と少なくとも1つの隠れ層(CC)と出力層(CS)とを含む人工ニューラルネットワークを使用して中間モデルを構築するステップと、
b.前記中間モデルと、前記人工ニューラルネットワークの前記出力層の後に使用される追加層(RNC)とを用いて前記シミュレーションモデル(MSI)を構築するステップと、
とが実行され、
前記中間モデルの構築は前記訓練ベース(BAP)を用いて達成され、
前記追加層は、前記化学反応に関与する前記化学種を形成する化学元素の質量保存を保証するために前記人工ニューラルネットワーク(RNC)の前記出力層(CS)の出力データに線型補正を適用する線型作用素からなることを特徴とする、シミュレーションモデル構築方法。
【請求項2】
前記追加層(RNC)は、線型補正の計算のステップと、計算された前記線型補正を適用するステップとによって構築される、請求項1に記載のシミュレーションモデル構築方法。
【請求項3】
前記線型補正は、前記化学反応の化学元素の数に対応する数の、前記化学反応の複数の化学種に対して計算される、請求項2に記載のシミュレーションモデル構築方法。
【請求項4】
前記人工ニューラルネットワークのシナプスの重みが、前記訓練ベースの入力データ及び出力データによる前記追加層の追加ののちに最適化(OPT)される、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシミュレーションモデル構築方法。
【請求項5】
前記入力データ及び前記出力データは、前記化学反応の前及び後にそれぞれ決定されるか、あるいは前記化学反応の時間ステップの前及び後にそれぞれ決定される、請求項1乃至
3のいずれか1項に記載のシミュレーションモデル構築方法。
【請求項6】
前記入力データは前記化学種の質量分率である、請求項1乃至
3のいずれか1項に記載のシミュレーションモデル構築方法。
【請求項7】
前記出力データは、前記化学種の質量分率、または前記化学種の質量分率の変化である、請求項1乃至
3のいずれか1項に記載のシミュレーションモデル構築方法。
【請求項8】
反応システム内の複数の化学種の間での少なくとも1つの化学反応のシミュレーションを行うシミュレーション方法において、
a.
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシミュレーションモデ
ル構築方法を用いてシミュレーションモデル(MSI)を構築するステップと、
b.シミュレーション入力データ(DES)に前記シミュレーションモデル(MSI)を適用するステップと、
が実行され、
前記シミュレーション入力データは、前記化学反応の入口における前記化学種の質量分率を表すものであることを特徴とする、シミュレーション方法。
【請求項9】
前記シミュレーションモデル(MSI)は、時間ステップに対して構築され、前記シミュレーションモデル(MSI)を適用するステップは、複数の連続する時間ステップに対して繰り返され、繰り返しのたびに、前記シミュレーション入力データ(DES)は、前の前記時間ステップでのシミュレーション出力データ(DSS)である、請求項8に記載のシミュレーション方法。
【請求項10】
前記化学反応は、例えばエンジン内の燃焼または電池内の化学反応、または燃料電池内の化学反応であるエネルギー変換システム内での化学反応、または、前記化学種を輸送するシステムの内部での化学反応である、請求項
8に記載のシミュレーション方法。
【国際調査報告】