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特表2024-517770複数のバイアス電極を有するイオン源
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】複数のバイアス電極を有するイオン源
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/30 20060101AFI20240416BHJP
   H01J 27/08 20060101ALI20240416BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
H01J37/30 A
H01J27/08
H01J37/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566856
(86)(22)【出願日】2022-05-11
(85)【翻訳文提出日】2023-10-30
(86)【国際出願番号】 US2022028786
(87)【国際公開番号】W WO2022240998
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】17/318,325
(32)【優先日】2021-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505413587
【氏名又は名称】アクセリス テクノロジーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】プラトウ,ウィルヘルム
(72)【発明者】
【氏名】シルバースタイン,ポール
(72)【発明者】
【氏名】バッサム,ニール
(72)【発明者】
【氏名】ファーリー,マービン
(72)【発明者】
【氏名】スポールダー,デヴィッド
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA25
5C101BB03
5C101DD03
5C101DD13
5C101DD20
5C101DD25
5C101DD30
(57)【要約】
イオン源は、第1端部および第2端部を有するアークチャンバと、チャンバ空間を包囲する開口プレートとを備える。引出開口は、第1端部と第2端部との間に配置されている。カソードはアークチャンバの第1端部に近接しており、リペラは第2端部に近接している。略U字状の第1バイアス電極は、チャンバ空間内において、引出開口の第1の側に位置している。略U字状の第2バイアス電極は、チャンバ空間内において、引出開口部の第2の側に位置している。第1バイアス電極と第2バイアス電極とは、引出開口に対する近位において第1距離だけ隔離されており、引出開口に対する遠位において第2距離だけ隔離されている。電極電源は、第1バイアス電極および第2バイアス電極に第1正電圧および第2正電圧を供給する。第1正電圧と第2正電圧とは、所定のバイアス差だけ異なっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源であって、
アークチャンバと、
開口プレートと、
カソードと、
リペラと、
第1バイアス電極と、
第2バイアス電極と、
電極電源と、を備えており、
前記アークチャンバは、第1端部と、前記第1端部とは反対側に位置している第2端部と、を有しており、
前記開口プレートは、前記アークチャンバに動作可能に接続されていることによって、チャンバ空間を概ね包囲し、
前記開口プレートは、前記アークチャンバの前記第1端部と前記第2端部との間に配置されている引出開口を含んでおり、
前記カソードは、前記チャンバ空間の内部において、前記アークチャンバの前記第1端部に近接して配置されており、
前記リペラは、前記チャンバ空間の内部において、前記アークチャンバの前記第2端部に近接して配置されており、
前記第1バイアス電極は、前記チャンバ空間の内部において、前記引出開口の第1の側に配置されており、
前記第1端部から見た場合に、前記第1バイアス電極は略U字状であり、
前記第2バイアス電極は、前記チャンバ空間の内部において、前記引出開口の第2の側に配置されており、
前記第1端部から見た場合に、前記第2バイアス電極は略U字状であり、
前記引出開口に対して近位の第1領域において、前記第1バイアス電極と前記第2バイアス電極とは、第1距離だけ隔離されてしており、
前記引出開口に対して遠位の第2領域において、前記第1バイアス電極と前記第2バイアス電極とは、第2距離だけ隔離されており、
前記電極電源は、前記第1バイアス電極および前記第2バイアス電極に電気的に接続されており、
前記電極電源は、前記第1バイアス電極に第1正電圧を供給するとともに、前記第2バイアス電極に第2正電圧を供給し、
前記第2正電圧は、所定のバイアス差だけ、前記第1正電圧とは異なっている、イオン源。
【請求項2】
前記第1バイアス電極および前記第2バイアス電極は、前記アークチャンバの前記第1端部および前記第2端部に近接しているそれぞれの位置の間において、所定の長さだけ延在している、請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
前記アークチャンバの前記第1端部から見た場合に、前記第1バイアス電極および前記第2バイアス電極は、アーチ形状を有している、請求項1に記載のイオン源。
【請求項4】
前記第1距離は、前記第2距離よりも大きい、請求項1に記載のイオン源。
【請求項5】
前記第1距離は、前記第2距離の約2倍である、請求項4に記載のイオン源。
【請求項6】
前記第1距離は、前記引出開口の幅よりも大きい、請求項4に記載のイオン源。
【請求項7】
前記第1バイアス電極および前記第2バイアス電極のそれぞれは、前記第1距離を定めるそれぞれのベベルを備えており、
各ベベルは、前記引出開口のそれぞれの近接エッジからそれぞれの前記第1電極および前記第2電極へと向かって延在しているラインに関連している、請求項1に記載のイオン源。
【請求項8】
前記アークチャンバは、前記アークチャンバの壁に画定されたガスホールをさらに備えており、
前記ガスホールは、前記第2領域に近接している前記アークチャンバの前記第1端部と前記第2端部との間に配置されており、
前記ガスホールは、ガス源に流体的に接続されている、請求項1に記載のイオン源。
【請求項9】
前記所定のバイアス差は、約10ボルトのオーダである、請求項1に記載のイオン源。
【請求項10】
前記電極電源は、第1電源と第2電源とを含んでおり、
前記第1電源は、前記第1バイアス電極に前記第1正電圧を供給し、
前記第2電源は、前記第2バイアス電極に前記第2正電圧を供給する、請求項1に記載のイオン源。
【請求項11】
抵抗素子をさらに備えており、
前記抵抗素子は、前記電極電源と前記第2バイアス電極との間において電気的に接続されており、
前記抵抗素子の抵抗は、前記所定のバイアス差を定める、請求項1に記載のイオン源。
【請求項12】
前記抵抗素子は、選択的に可変な抵抗を有する可変抵抗器を含んでいる、請求項11に記載のイオン源。
【請求項13】
前記第1バイアス電極および前記第2バイアス電極のそれぞれは、1つ以上のロッドによって支持されているプレートをそれぞれ備えており、
1つ以上の前記ロッドは、前記アークチャンバの壁を貫通するように延在しており、かつ、それぞれの電極クランプにクランプされており、
それぞれの前記クランプ、1つ以上の前記ロッド、および前記プレートは、前記アークチャンバから電気的に絶縁されている、請求項1に記載のイオン源。
【請求項14】
前記カソードは、ヒータフィラメントおよびキャップを備える間接加熱カソードを含んでおり、
前記ヒータフィラメントは、前記キャップを選択的に通電および加熱するヒータ電源に電気的に接続されている、請求項1に記載のイオン源。
【請求項15】
イオン源であって、
アークチャンバと、
間接加熱カソードと、
第1バイアス電極と、
第2バイアス電極と、
抵抗素子と、を備えており、
前記アークチャンバは、前記アークチャンバの第1端部から前記アークチャンバの第2端部まで延在している第1アークチャンバ壁を有しており、
前記第1壁は、前記第1壁の内部に画定された引出開口を有しており、
前記引出開口は、前記アークチャンバの前記第1端部と前記第2端部との間に配置されており、
前記間接加熱カソードは、前記アークチャンバの第1端部に近接して配置されており、
前記間接加熱カソードは、ヒータフィラメントおよびキャップを備えており、
前記ヒータフィラメントは、電力を受けて前記キャップを加熱し、
前記第1バイアス電極は、前記アークチャンバの第1の側において、前記第1端部と前記第2端部との間に配置されており、
前記第1端部から見た場合に、前記第1バイアス電極は略U字状であり、
前記第2バイアス電極は、前記アークチャンバの第2の側において、前記第1端部と前記第2端部との間に配置されており、
前記第1端部から見た場合に、前記第2バイアス電極は略U字状であり、
前記抵抗素子は、前記第1バイアス電極および前記第2バイアス電極のうちの1つ以上に関連しており、
前記抵抗素子の抵抗は、前記第1バイアス電極と前記第2バイアス電極との間の所定のバイアス差を定める、イオン源。
【請求項16】
前記引出開口に対して近位の第1領域において、前記第1バイアス電極と前記第2バイアス電極とは、第1距離だけ隔離されており、
前記引出開口に対して遠位の第2領域において、前記第1バイアス電極と前記第2バイアス電極とは、第2距離だけ隔離されており、
前記第1距離は、前記第2距離よりも大きい、請求項15に記載のイオン源。
【請求項17】
前記第1バイアス電極と前記第2バイアス電極とに電気的に接続されている電極電源をさらに備えており、
前記電極電源は、前記第1バイアス電極に第1正電圧を供給するとともに、前記第2バイアス電極に第2正電圧を供給し、
前記第2正電圧は、前記所定のバイアス差だけ、前記第1正電圧とは異なっている、請求項15に記載のイオン源。
【請求項18】
前記電極電源は、第1電源と第2電源とを含んでおり、
前記第1電源は、前記第1バイアス電極に前記第1正電圧を供給し、
前記第2電源は、前記第2バイアス電極に前記第2正電圧を供給し、
前記所定のバイアス差は、約10ボルトのオーダである、請求項17に記載のイオン源。
【請求項19】
前記抵抗素子は、前記電極電源と前記第2バイアス電極との間において電気的に接続されている、請求項17に記載のイオン源。
【請求項20】
間接加熱カソード(IHC)イオン源におけるビーム電流を増加させる方法であって、
前記方法は、アークチャンバの内部に配置されている間接加熱カソードを電気的にバイアスするステップを含んでおり、
前記間接加熱カソードは、互いに対向する第1アークチャンバ壁および第2アークチャンバ壁に対してバイアスされており、
前記第1アークチャンバ壁は、前記アークチャンバの第1端部と第2端部との間に配置されている引出開口を備えており、
前記方法は、第1バイアス電極を第2バイアス電極に対して所定のバイアス差だけ電気的にバイアスするステップを含んでおり、
前記第1バイアス電極および前記第2バイアス電極は、前記アークチャンバの前記第1端部と前記第2端部との間に配置されており、
前記第1バイアス電極と前記第2バイアス電極とは、前記第1アークチャンバ壁に近接している第1ギャップと、前記第2アークチャンバ壁に近接している第2ギャップと、によって隔離されており、
前記方法は、前記引出開口を通じてイオンビームを引き出すステップを含んでおり、
前記所定のバイアス電位は、前記イオンビームのビーム電流を増加させる、方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、一般的にはイオン注入システムに関する。より詳細には、本発明は、複数のバイアス電極を利用することによって改善された電流、効率、および寿命を有するイオン源に関する。
【0002】
[背景]
半導体デバイスの製造においては、半導体に不純物をドープするためにイオン注入が用いられている。多くの場合、半導体ウェハなどのワークピースを、イオンビームに由来するイオンによってドープするために、イオン注入システムが利用される。これにより、n型またはp型の材料ドーピングを生じさせることができる。あるいは、集積回路の製造時にパッシベーション層を形成できる。集積回路の製造時に半導体材料を生成するために、多くの場合、このようなビーム処理は、所定のエネルギーレベルで、かつ、制御された濃度で、特定のドーパント材料の不純物をウェハに選択的に注入するために使用される。イオン注入システムは、半導体ウェハをドープするために使用される場合、選択されたイオン種をワークピースに注入して所望の外因性材料を生成する。例えば、アンチモン、ヒ素、またはリンなどのソース材料から生成されたイオンを注入することは、「n型」外因性材料ウェハを生じさせる。その一方、多くの場合、「p型」外因性材料ウェハは、ホウ素(ボロン)、ガリウム、またはインジウムなどのソース材料を用いて生成されたイオンから生じる。
【0003】
典型的なイオン注入装置は、イオン源と、イオン引出デバイスと、質量分析デバイスと、ビーム輸送デバイスと、ウェハ処理デバイスとを含んでいる。イオン源は、所望の原子または分子のドーパント種のイオンを発生させる。これらのイオンは、引出システム(典型的には電極のセット)によってソース(源)から引き出される。引出システムは、当該ソースに由来するイオンの流れにエネルギーを与え、イオンビームを形成する。所望のイオンは、質量分析デバイス(典型的には、引き出されたイオンビームの質量分散または分離を実行する磁気双極子)の内部において、イオンビームから分離させられる。ビーム輸送デバイス(典型的には、一連の合焦デバイスを含む真空システム)は、イオンビームの所望の特性を維持または改善しつつ、当該イオンビームをウェハ処理デバイスへと輸送する。最終的に、半導体ウェハは、ウェハハンドリングシステムを介して、ウェハ処理デバイスの内外へと輸送される。ウェハハンドリングシステムは、処理されるべきウェハをイオンビームの正面に配置するとともに、処理された後のウェハをイオン注入装置から取り出すために、1つ以上のロボットアームを含みうる。
【0004】
イオン源(一般的にはアークイオン源と称される)は、注入装置において使用されるイオンビームを発生させる。イオン源は、ウェハ処理のために適切なイオンビームへと成形されるイオンを発生させるために、加熱フィラメントカソードを含んでいてよい。例えば、Sferlazzoらの米国特許第5,497,006号は、カソードを有するイオン源を開示している。当該カソードは、ベースによって支持されており、ガス収容チャンバに対して配置されており、かつ、当該ガス収容チャンバの内部に向けてイオン化電子を放出する。Sferlazzoらのカソードは、ガス収容チャンバの内部に向かって部分的に延在しているエンドキャップを有する管状導電体である。フィラメントは管状ボディの内部において支持されており、エンドキャップを加熱する電子を、電子衝突によって放出する。このように、フィラメントは、イオン化電子をガス収容チャンバの内部へと熱電子的に放出する。
【0005】
従来では、フィラメントは、チャンバの片側に配置されている。普及している多くのイオン源では、間接加熱カソード(indirectly heated cathode,IHC)が実装されている。この場合、タングステンキャップがフィラメントの上方に配置されており、フィラメントが当該キャップを加熱する。その一方、当該キャップはイオン源の寿命を増加させるためにフィラメントを保護する。しかしながら、キャップまたはカソードは、時間の経過に伴いスパッタされ除去される。このため、キャップの厚さは大きく設定されている。この場合、フィラメントは、かなりの量の電子を放出するために高温まで加熱される。したがって、この例におけるキャップは、電子を放出するためのフィラメントと同様に振る舞うが、その著しい厚さに起因して、より長い寿命が実現可能である。
【0006】
より高い電荷状態において引き出されたイオンビームのビーム電流を増加させるために、1つ以上のバイアス電極がイオン源チャンバ内にさらに設けられている。バイアス電極を有するイオン源チャンバの様々な構成が、以前から提供されている。当該構成は、例えば、Lowらの米国特許第8,330,127号、Tiegerらの米国特許第9,691,584号、および、Kawaguchiの米国特許公開第2018/0254166号に記載されている。しかしながら、これらの従来のアークチャンバは、典型的にはアークチャンバに接地されるべき複数のバイアス電極のうちの1つ以上を提供している。
【0007】
バイアス電極が設けられていない状況では、カソードはアークチャンバに対して負にバイアスされる。したがって、カソードによって熱的に放出された電子は、負電位からアークチャンバ内へと駆動される。バイアス電極を追加することによって、正電圧によってこれらの電子を引きつけることができる。そして、カソードを接地し、バイアス電極のみをバイアスすることによって、カソードの寿命を増加させることができる。ただし、この場合においても、複数のバイアス電極のうちの少なくとも1つは、従来のシステムにおいて接地されている。
【0008】
[概要]
イオン源は、イオン注入システムの主要なコンポーネントである。したがって、スループット、アップタイム、グリッチレートに加えて、所望の注入パラメータなどの、イオン注入システムに関連する様々なメトリック(測定量)は、イオン源の性能に影響を及ぼす。本開示は、イオン源の内部において独立してバイアスされた複数の電極を提供している。これにより、複数荷電イオン(多価イオン)に応じて増加したビーム電流を実現しつつ、イオン源に関連する他のパラメータの改善を容易化して、イオン源の寿命を有利に増加させることができる。
【0009】
そこで、本開示は、イオン源によって生じる効率およびイオンビーム電流を増加させるためのシステムおよび装置を提供する。本開示は、イオン源のアークチャンバの内部に配置されている少なくとも2つの電極を提供している。少なくとも2つの電極は、それぞれ個別に電気的にバイアスされている。本開示のイオン源は、従来のイオン源におけるイオンビーム電流の2倍よりも大きいイオンビーム電流を提供できるので、複数荷電イオン種にとって特に有益である。加えて、本開示のイオン源は、従来の間接加熱カソード(IHC)イオン源と比較して、ノイズおよびいわゆるグリッチ速度が低下した間接加熱カソードを提供している。このため、本開示のイオン源は、従来のIHCイオン源と比較して、イオン源に関連する所望のビーム電流と増加した寿命とのバランスを提供できる。
【0010】
そこで、以下では、本発明の複数の態様についての基本的な理解を提供するために、本開示の簡略化された概要を提示する。この概要は、本発明の広範な概観ではない。本概要は、本発明の重要な要素を特定することを意図していないし、本発明の範囲を規定することも意図していない。本概要の目的は、後に記載する詳細な説明の序文として、本発明の複数のコンセプトを単純化した形で提示することにある。
【0011】
本開示の一態様によれば、イオン源が提供されている。イオン源は、第1端部と、当該第1端部とは反対側に位置している第2端部と、を有しているアークチャンバを備えている。開口プレートは、アークチャンバに動作可能に接続されていることによって、チャンバ空間(chamber volume)を概ね包囲する。開口プレートは、アークチャンバの第1端部と第2端部との間に配置されている引出開口を備えている。カソードは、チャンバ空間内において、アークチャンバの第1端部に近接して配置されている。リペラ(例:アンチカソード)は、チャンバ空間内において、アークチャンバの第2端部に近接して配置されている。例えば、カソードは、ヒータフィラメントおよびキャップを備えた間接加熱カソードを含みうる。ヒータフィラメントは、キャップを選択的に通電して当該キャップを加熱するように構成されているヒータ電源に電気的に接続されている。
【0012】
例えば、第1バイアス電極は、チャンバ空間内において、引出開口の第1の側に配置されている。第1端部から見た場合に、第1バイアス電極は略U字状(概ねU字状)である。さらに、第2のバイアス電極が、チャンバ空間内において、引出開口の第2の側に配置されている。第1端部から見た場合に、第2バイアス電極は略U字状である。例えば、第1バイアス電極と第2バイアス電極とは、引出開口に対して近位の第1領域において、第1距離だけ隔離されている。さらに、第1バイアス電極と第2バイアス電極とは、引出開口に対して遠位の第2領域において、第2距離だけ隔離されている。
【0013】
さらに、例えば、電極電源は、第1バイアス電極および第2バイアス電極に電気的に接続されている。電極電源は、第1バイアス電極に第1正電圧を供給するとともに、第2バイアス電極に第2正電圧を供給するように構成されている。例えば、第2正電圧は、所定のバイアス差だけ、第1正電圧と異なっている。例えば、所定のバイアス差は、約10ボルトのオーダである。
【0014】
一例として、第1バイアス電極および第2バイアス電極は、アークチャンバの第1端部および第2端部に近接しているそれぞれの位置の間において、所定の長さだけ延在している。別の例では、アークチャンバの第1端部から見た場合に、第1バイアス電極および第2バイアス電極はアーチ形状を有している。
【0015】
別の例では、第1バイアス電極と第2バイアス電極との間の第1距離は、第2距離よりも大きい。例えば、第1距離は、第2距離の約2倍である。別の例では、第1距離は、引出開口の幅よりも大きい。
【0016】
別の例によれば、第1バイアス電極および第2バイアス電極のそれぞれは、第1距離を画定するそれぞれのベベルを備えている。各ベベルは、引出開口のそれぞれの近接エッジからそれぞれの第1電極におよび第2電極に向かって延びているライン(線)に関連している。
【0017】
別の例では、アークチャンバは、ガスホール(ガス孔)をさらに備えている。ガスホールは、アークチャンバの壁に画定されている。例えば、ガスホールは、第2領域に近接しているアークチャンバの第1端部と第2端部との間に配置されている。ガスホールは、ガス源に流体的に接続されている。
【0018】
別の例によれば、電極電源は、第1電源と第2電源とを含んでいる。例えば、第1電源は、第1正電圧を第1バイアス電極に供給するように構成されている。第2電源は、第2正電圧を第2バイアス電極に供給するように構成されている。別の例では、抵抗素子が、電極電源と第2バイアス電極との間に電気的に接続されている。抵抗素子の抵抗は、所定のバイアス差を定める。例えば、抵抗素子は、選択的に可変な抵抗を有する可変抵抗器を含みうる。
【0019】
例えば、第1バイアス電極および第2バイアス電極のそれぞれは、1つ以上のロッドによって支持されているプレートをそれぞれ備えていてよい。1つ以上のロッドは、アークチャンバの壁を貫通するように延在している。例えば、1つ以上のロッドは、それぞれの電極クランプにクランプされている。それぞれのクランプ、1つ以上のロッド、およびプレートは、アークチャンバから電気的に絶縁されている。
【0020】
別の提示的な態様によれば、イオン源が提供されている。アークチャンバは、当該アークチャンバの第1端部から当該アークチャンバの第2端部まで延在している第1アークチャンバ壁を有している。例えば、第1壁は、当該第1壁の内部に画定された引出開口を有している。引出開口は、アークチャンバの第1端部と第2端部との間に配置されている。例えば、間接加熱カソードは、アークチャンバの第1端部に近接して配置されている。間接加熱カソードは、ヒータフィラメントおよびキャップを備えている。ヒータフィラメントは、電力を受けてキャップを加熱するように構成されている。
【0021】
例えば、第1バイアス電極は、引出開口の第1の側において、アークチャンバの第1端部と第2端部との間に配置されている。第1端部から見た場合に、第1バイアス電極は略U字状である。さらに、第2バイアス電極が、引出開口の第2の側において、アークチャンバの第1端部と第2端部との間に配置されている。第1端部から見た場合に、第2バイアス電極は略U字状である。例えば、抵抗素子は、第1バイアス電極と第2バイアス電極との間に電気的に接続されている。抵抗素子の抵抗は、第1バイアス電極と第2バイアス電極との間の所定のバイアス差を定める。所定のバイアス差は例えば、約10ボルトのオーダである。
【0022】
一例として、第1バイアス電極と第2バイアス電極とは、引出開口に対して近位の第1領域において第1距離だけ隔離されており、かつ、引出開口に対して遠位の第2領域において第2距離だけ隔離されている。第1距離は、第2距離よりも大きい。
【0023】
さらに別の例では、電極電源は、第1バイアス電極および第2バイアス電極に電気的に接続されている。電極電源は、第1正電圧を第1バイアス電極に供給するとともに、第2正電圧を第2バイアス電極に供給するように構成されている。第2正電圧は、所定のバイアス差だけ、第1正電圧と異なっている。
【0024】
別の態様では、間接加熱カソード(IHC)イオン源内におけるビーム電流を増加させるための方法が提供されている。当該方法は、例えば、アークチャンバの内部に配置されている間接加熱カソードを電気的にバイアスするステップを含んでいる。間接加熱カソードは、互いに対向する第1アークチャンバ壁および第2アークチャンバ壁に対してバイアスされている。第1アークチャンバ壁は、アークチャンバの第1端部と第2端部との間に配置されている引出開口を備えている。第1バイアス電極は、第2バイアス電極に対して所定のバイアス差だけ電気的にバイアスされている。第1バイアス電極および第2バイアス電極は、アークチャンバの第1端部と第2端部との間に配置されている。第1バイアス電極と第2バイアス電極とは、第1アークチャンバ壁に近接している第1ギャップと、第2アークチャンバ壁に近接している第2ギャップと、によって隔離されている。さらに、イオンビームは、引出開口を通じて引き出される。所定のバイアス電位は、イオンビームのビーム電流を増加させる。
【0025】
上述の目的および関連する目的を達成するために、本開示は、以下において十分に説明されており、かつ、特許請求の範囲において特に挙示されている構成を含んでいる。以下の記載および添付の図面は、本発明の例示的な実施形態を詳細に開示している。ただし、これらの実施形態は、本発明の原理を用いる様々な手法の一部を示しているにすぎない。本発明の他の目的、利点、および新規な構成は、図面を参照して、本発明の詳細な記載から明らかになるであろう。
【0026】
[図面の簡単な説明]
図1は、本開示の複数の態様に係るイオン源を利用する例示的な真空システムのブロック図である。
【0027】
図2Aは、本開示の複数の態様に係る例示的なアークチャンバの上面視におけるブロック図である。
【0028】
図2Bは、本開示の複数の態様に係る例示的なアークチャンバの側面視におけるブロック図である。
【0029】
図3は、本開示の複数の態様に係るバイアス電極間の様々なバイアス電圧差を使用して実現される様々なビーム電流を示すグラフである。
【0030】
図4は、本開示の様々な態様に係るイオン源の斜視図を示す。
【0031】
図5は、図4のイオン源の部分斜視断面図を示す。
【0032】
図6は、本開示の様々な態様係るアークチャンバの斜視断面側面図を示す。
【0033】
図7は、本開示の様々な態様に係る例示的なアークチャンバの斜視断面上面図を示す。
【0034】
図8は、本開示の様々な態様に係る例示的なアークチャンバの断面平面図を示す。
【0035】
図9は、本開示の様々な態様に係る例示的なアークチャンバの断面立面図を示す。
【0036】
[詳細な説明]
本開示は、一般的には、イオン注入システムおよびそれに関連するイオン源を対象としている。より詳細には、本開示は、イオンビーム電流およびイオン源の寿命を増加させるためのシステムおよび装置を対象としている。そこで、図面を参照して本発明が説明されている。全体を通して、同様の参照番号が同様の要素を指すために使用されてよい。これらの態様の説明は単なる例示であり、限定的な意味で解釈されるべきでないことを理解されたい。以下の説明では、説明を目的として、本発明についての十分な理解を提供すべく、様々な特定の詳細が記載されている。当業者であれば、本発明は、これらの特定な詳細がなくとも実施されてもよいことが明らかであろう。さらに、本発明の範囲は、添付の図面を参照して以下に説明されている実施形態または例によって限定されることを意図しているのではなく、添付の特許請求の範囲およびその均等物によってのみ限定されることを意図している。
【0037】
図面は、本開示の実施形態の複数の態様についての例示を与えるために提供されているので、概略的なものに過ぎないと見なされるべきであることにも留意されたい。特に、図面に示されている各要素は必ずしも互いに一定のスケール(縮尺)ではなく、図面における様々な要素の配置は、それぞれの実施形態についての明確な理解を提供するために選択されており、本発明の実施形態に係る具現化における様々なコンポーネントの実際の相対的な位置を表現していると必ずしも解釈されるべきではない。さらに、本明細書に記載されている様々な実施形態および例の構成は、別段の定めがない限り、互いに組み合わせ可能である。
【0038】
以下の説明において、図面に示されている、または、本明細書において説明されている、機能ブロック、デバイス、コンポーネント、回路素子、または他の物理的もしくは機能的なユニット間の任意の直接的な接続または結合は、間接的な接続または結合によっても具現化されうることも理解されたい。さらに、図面に示されている機能ブロックまたはユニットは、ある実施形態では個別の構成またはコンポーネントとして具現化されてよく、あるいは代替的に、別の実施形態では共通の構成またはコンポーネントとして完全にまたは部分的に具現化されてもよいことを理解されたい。
【0039】
本開示についての理解を得るために、図1は、例示的な真空システム100を示している。例示的な当該真空システムは、本開示の様々な装置、システム、および方法を具現化しうる。この例における真空システム100は、イオン注入システム101を備えている。ただし、プラズマ処理システムまたは他の半導体処理システムなどの様々な他のタイプの真空システムも考慮されている。イオン注入システム101は、例えば、ターミナル102と、ビームラインアセンブリ104と、エンドステーション106とを備えている。
【0040】
一般的には、ターミナル102内のイオン源108は、電源110に接続されている。この場合、イオン源に供給されるソースガス112(ドーパントガスとも称される)が、複数のイオンへとイオン化されることにより、イオンビーム114が形成される。この例におけるイオンビーム114は、ビームステアリング装置116を通って、開口118を出てエンドステーション106に向かうように導かれる。エンドステーション106において、イオンビーム114は、ワークピース120(例:シリコンウェハなどの半導体、ディスプレイパネル)に衝突する。ワークピースは、チャック122(例:静電チャックまたはESC)に選択的にクランプされる、または、取り付けられる。注入されたイオンは、ワークピース120の格子に埋め込まれると、ワークピースの物理的特性および/または化学的特性を変更させる。このため、イオン注入は、半導体デバイスの製造および金属仕上げのみならず、材料科学研究における様々な用途にも用いられている。
【0041】
本開示のイオンビーム114は、ペンシルビームもしくはスポットビーム、リボンビーム、走査ビーム、またはイオンがエンドステーション106に導かれる任意の他の形態など、任意の形態を取りうる。全てのそのような形態は、本開示の範囲内に含まれるものとして考慮されている。
【0042】
例示的な一態様によれば、エンドステーション106は、プロセスチャンバ124(例:真空チャンバ126)を備えている。プロセス環境128は、プロセスチャンバに関連している。プロセスチャンバ124内のプロセス環境128は、例えば真空を含んでいる。プロセスチャンバに接続されており、当該プロセスチャンバを実質的に(十分に)排気するように構成された真空源130(例:真空ポンプ)によって、真空が発生させられる。さらに、真空システム100の全体的な制御のために、コントローラ132が設けられている。
【0043】
本開示は、上述のイオン注入システム101におけるイオン源のダウンタイムを減少させつつ、イオン源108のビーム電流および稼働率を増加させるように構成された装置を提供している。本開示の装置は、CVD、PVD、MOCVD、エッチング装置、および様々な他の半導体処理装置などの様々な半導体処理装置において具現化されてもよく、全てのそのような具現化は、本開示の範囲内に含まれるものとして考慮されていることを理解されたい。本開示の装置は、予防保全サイクル間のイオン源108の使用の長さをさらに有利に増加させる。したがって、当該装置は、システム真空100の全体的な生産性および寿命を増加させる。
【0044】
イオン源108は、例えばイオン注入システム101において大きな役割を果たす。したがって、イオン源108の性能は、スループット、アップタイム、グリッチレート、ならびに所望のイオン種のエネルギー状態などの所望の注入パラメータなど、イオン注入システム101に関連するメトリックにおいて大きな役割を果たしうる。
【0045】
次いで、図2A~2Bを参照する。これらの図では、図1のイオン源108の例示的なハードウェア構成および動作原理が、本開示の様々な態様に従って提示されている。図2Aは、例えば、イオンビーム202を形成するためのイオン源200を示している。図2Bは、イオンビームに直交する断面204を示している(例えば、イオンビームは、図2Bのページ内へと向けられている)。この例のイオン源200は、アークチャンバ212内に配置されている様々なIHCコンポーネント(例:カソード208およびリペラ210)を備えている。イオンビーム202は、引出開口214を通じて引き出される。したがって、例えば、カソード208およびリペラ210を用いて、磁界(例えば、図2Aでは「B」として示されている)がイオン源200の長手方向に(例えば、図2Aのページ内外へと)印加されうる。
【0046】
この例では、図2A図2Bは、第1バイアス電極216Aおよび第2バイアス電極2216Bとして識別されている一対のバイアス電極をさらに示している、図2Bのアークチャンバ212の端部217から見た場合に、一対のバイアス電極は略U字状である。第1バイアス電極216Aおよび第2バイアス電極216Bは、例えば、1つ以上の電気絶縁体218A,218Bによって、アークチャンバ212から電気的に絶縁されている。一例として、1つ以上の電気絶縁体218A,218Bは、以下に説明する通り、アークチャンバ212の外部に提供されている。この場合、1つ以上の絶縁体に対するイオン源材料によるコーティングが概ね軽減される。したがって、バイアス電極216A,216Bのアークチャンバへの電気的短絡を概ね防止できる。
【0047】
図2Aに示す通り、例えば、電極電源220が設けられている。当該電極電源は、第1バイアス電極216Aおよび第2バイアス電極216Bのそれぞれを、アークチャンバ212に対して正にバイアスするように構成されている。例えば、電極電源220は、第1電源222Aおよび第2電源222Bを含んでいる。当該第1電源および当該第2電源は、それぞれの第1バイアス電極216Aおよび第2バイアス電極216Bに電気的に接続されており、第1バイアス電極に第1正電圧224Aを、第2バイアス電極に第2正電圧224Bを、それぞれ供給するように構成されている。本開示によれば、第1正電圧224Aは、所定のバイアス差(例:10V)だけ、第2正電圧224Bと異なっている。
【0048】
一代替例として、電極電源220は、第1バイアス電極216Aおよび第2バイアス電極216Bのそれぞれに電気的に接続されている単一のバイアス電源を含んでいてもよい。この場合、固定抵抗または可変抵抗を有する抵抗器(不図示)が、第1バイアス電極と第2バイアス電極との間に接続されている。したがって、抵抗器が固定抵抗器である場合、抵抗器の両端間の電圧降下は、所定のバイアス差について固定値を供給しうる。あるいは、抵抗器が可変抵抗器である場合、所定のバイアス差は選択的に変更されうる。
【0049】
本開示によれば、第1バイアス電極216Aおよび第2バイアス電極216Bは、引出開口214に対して概ね反対側に位置している領域228において互いに近接するように構成されている。本開示では、例えば、引出開口214とは反対側の領域228内において第1距離230(例:約数ミリメートルのギャップ)だけ互いに近接している第1バイアス電極216Aと第2バイアス電極216Bとが、従来のイオン源よりも増大されたイオンビーム電流を有利に提供できると理解している。
【0050】
引出開口214に近接している引出領域232において、例えば、第1バイアス電極216Aと第2バイアス電極216Bとは、第2距離234だけ離間していてよい。当該第2距離は、第1距離230よりも大きい。第2距離234は、例えば、引出開口214の引出開口幅236の約2倍である。1つの非限定的な例では、約5mmの引出開口幅236の場合、第2距離234は約10mmである。
【0051】
別の態様によれば、本開示は、第1バイアス電極216Aおよび第2バイアス電極216Bのそれぞれを、接地電位よりも高い正のそれぞれの第1バイアス電圧および第2バイアス電圧に、独立して(例:個別に)バイアスすることを考慮している。これにより、イオンビーム202のビーム電流は、接地されている少なくとも1つのバイアス電極を有する従来のイオン源よりも、または印加される同じバイアス電圧を有する複数のバイアス電極よりも、有利に増加する。
【0052】
図3は本発明の様々な態様に係る例示的な三重荷電ヒ素(すなわち、As+++またはAs3+)イオンビームにおいて実現されるイオンビーム電流を示すグラフ300を例示している。グラフ300は、例えば、バイアス電極電圧302の範囲に対してイオン源から引き出されるイオンビームのイオンビーム電流301を示している。ベースライン303は、従来のIHCイオン源を使用している比較のために提供されている。この例では、両電極が電気的に接地されている場合に、一定のイオンビーム電流301が観察されうる。対照的に、図3では、図2A図2Bにおける第1バイアス電極216Aに印加されるそれぞれの複数の第1バイアス電極電圧304,306,308,310,312,314,316,318に関連するイオンビーム電流301は、第2バイアス電極216Bが0Vから+60Vまでの範囲の様々な第2バイアス電極電圧302によって通電される場合に観察されうる。
【0053】
図3では、例えば、第1バイアス電極電圧316は、第1バイアス電極216Aに印加されている+50Vの電位バイアスを、第2バイアス電極電圧302の上記範囲に亘って示している。この例では、第2バイアス電極電位が約+40Vにバイアスされている場合に、イオンビーム電流301に最大値またはピーク322(例:約1790μA)が観察される。この場合、第1バイアス電極と第2バイアス電極との間の電位差は約10Vである。
【0054】
別の例では、図3の第1バイアス電極電圧318は、図2A図2Bの第1バイアス電極216Aが+60Vで正にバイアスされている一方、第2バイアス電極216Bが+50Vで正にバイアスされている場合に実現されるイオンビーム電流301に、最大値またはピーク324(例:約1820μA)を生じさせる。この例においても、第1バイアス電極と第2バイアス電極との間の電位差は、約10Vである。同様に、最大イオンビーム電流を生じさせる同様の10Vの電位差は、第1バイアス電極216Aおよび第2バイアス電極216Bに印加される様々な他の電圧スキームにおいても観察される。これらは、例えば、イオンをプラズマから引出開口214に移動させる、いわゆるE×Bドリフト効果によって裏付けられている。
【0055】
このように、図3は、図2A図2Bにおける第1バイアス電極216Aおよび第2バイアス電極216Bが約10Vの電位差を有している場合に最大ビーム電流が実現されうる、本開示の実験結果の例を示している。本開示は、他の実験において、様々な他のイオン源パラメータ(例:ソース磁石電力、ガスフローレートなど)を調整し、例えば、+55Vの第1バイアス電極電圧および+45Vの第2バイアス電極電圧により、As+++イオンビームに最適な最大イオンビーム電流を生じさせることができることを示した。この場合、これらの値を超えて電圧を増加させた場合には、リターンの減少が概ね生じることも示された。
【0056】
本開示では、他のイオン種(例:As2+、As4+、B2+、B3+、P2+、P3+など)を利用しつつ、第1バイアス電極216Aと第2バイアス電極216Bとの差動バイアスを提供することが、バイアス電極を有していない従来の装置、等しくバイアスされたバイアス電極を有している従来の装置、または接地された1つのバイアス電極を有している従来の装置におけるイオンビーム電流に比べて、1.5倍~3.5倍のイオンビーム電流の増大を有利に提供するとさらに考慮している。このように、本開示は、第1バイアス電極216Aと第2バイアス電極216Bとの所定の差動バイアスを考慮している。この場合に、第1電極と第2電極との両方が正にバイアスされることは、予見されない新規な発見である。
【0057】
このように、本開示は、所定のバイアス差によって個別に正にバイアスされるように構成されているバイアス電極216A,216Bのペアを提供している。これにより、三重荷電ヒ素(As3+)などの複数荷電イオンを用いて、イオンビーム電流の増加を実現できる。(例えば、アークチャンバ212に接地された)第1バイアス電極216Aの電気的接地および第2バイアス電極216Bの正バイアスとは対照的に、本開示は、第1バイアス電極と第2バイアス電極との両方に電気的バイアスを供給している。その結果、第1バイアス電極と第2バイアス電極との間に所定のバイアス差が供給されており、第1電極と第2電極との両方が電気的接地に対して正にバイアスされている。1つの好ましい実施形態では、第1バイアス電極216Aと第2バイアス電極216Bとの間に約10Vの所定のバイアス差が供給される一方、正のアーク電圧(例:100V)がカソード208に供給されてもよい。この場合、従来観察されているよりも大きいイオンビーム電流がもたらされる。
【0058】
図4は、例示的なイオン源400を示している。図4によれば、本開示の様々なさらなる態様が理解されるであろう。イオン源400は、例えば、IHCイオン源402を含んでいる。この例では、所望の種のイオンを発生させるために、カソード404(例:間接加熱カソード406)がアークチャンバ410のチャンバ空間408内に配置されている。カソード404は、例えば、アークチャンバ410の第1端部412に近接して配置されている。リペラ414は、チャンバ空間408内において、アークチャンバ410の第2端部416に近接して配置されている。この例では、当該第2端部は、第1端部412の概ね反対側に位置している。
【0059】
図5は、図4のIHCイオン源400におけるアークチャンバ410のブローアップ(膨張)部分418を例示している。図5では、様々な態様がより詳細に示されている。図5に示す通り、例えば、開口プレート420は、アークチャンバ410に動作可能に接続されており、チャンバ空間408を概ね包囲している。この例では、開口プレート420は、アークチャンバ410の第1端部412と第2端部416との間に配置されている引出開口422を備えている。この例では、開口プレート420の引出開口422は、細長いビーム(不図示)を生じさせるように設定されている。ただし、引出開口の他の形状も、本開示の範囲内に含まれるものと考慮されている。さらに、アークチャンバが正のターミナル電位に維持されている間に、アークチャンバ410からイオンビームを引き出すために、不図示の様々な抑制電極および接地(グランド)電極が設けられてもよい。
【0060】
図6および図7にさらに示す通り、チャンバ空間408内において、第1バイアス電極424は、引出開口422の第1の側426に配置されている。例えば、図7に示す通り、図6のアークチャンバ410の第1端部412から見た場合に、第1バイアス電極424は略U字状である。図7に示す通り、例えば、チャンバ空間408内において、第2バイアス電極428は、引出開口422の第2の側430にさらに配置されている。図6のアークチャンバ410の第1端部412から見た場合に、第2バイアス電極も略U字状である。本開示では、U字状の第1バイアス電極424および第2バイアス電極428が例示されているが、様々な他のアーチ状(弓状)、角度付き、または他のU字状の構成が、本開示の範囲内に含まれるものとして考慮されている。
【0061】
図8に示す通り、例えば、第1バイアス電極424と第2バイアス電極428とは、引出開口422に対して近位の第1領域434において、第1距離432だけ隔離されている。さらに、例えば、第1バイアス電極424と第2バイアス電極428とは、引出開口部422に対して遠位の第2領域438において、第2距離436だけ隔離されている。図2Aの電極電源220は、例えば、図8の第1バイアス電極424および第2バイアス電極428に電気的に接続されてよい。当該電極電源は、第1正電圧224Aを第1バイアス電極に供給するとともに、第2正電圧224Bを第2バイアス電極に供給するように構成されている。上述の通り、第2正電圧は、所定のバイアス分だけ、第1正電圧と異なっている。
【0062】
図9に示す通り、第1バイアス電極424および第2バイアス電極428は、例えば、アークチャンバ410の第1端部412および第2端部416に近接しているそれぞれの位置の間において、所定の長さ440だけ延在している。例えば、所定の長さ440は、引出開口422の長さ441よりも長い。
【0063】
別の例によれば、図8に示されている第1距離432は、第2距離436よりも大きい(例えば、当該第2距離の約2倍である)。例えば、第1距離432は、引出開口の幅442よりも大きい。一例として、第1バイアス電極424および第2バイアス電極428のそれぞれは、第1距離432を画定するそれぞれのベベル(面取り部)444を備えている。各ベベルは、引出開口422のそれぞれの近接エッジ446からそれぞれの第1電極および第2電極に向かって延びているライン(不図示)に関連付けられる。
【0064】
図9に示す通り、本開示では、アークチャンバ410がガスホール446をさらに備えていることを考慮している。当該ガスホールは、アークチャンバの壁448に画定されている。当該ガスホールは、アークチャンバ410の第1端部412と第2端部416との間に配置されている。一例として、ガスホール446は、第2領域438に近接している。当該ガスホールは、アークチャンバ410にソースガスを提供するためのガス源(不図示)に流体的に接続されていてもよい。
【0065】
別の例では、図8に示されている第1バイアス電極424および第2バイアス電極428のそれぞれは、プレート450A,450Bをそれぞれ備える。プレート450A,450Bは、アークチャンバ410の壁454を貫通するように延在している1つ以上のロッド452A,452Bによって支持されている。例えば、1つ以上のロッド452A,452Bは、それぞれの電極クランプ456A,456Bにクランプされている。それぞれのクランプ、1つ以上のロッド、およびプレート450A,450Bは、アークチャンバ410から電気的に絶縁されている。
【0066】
本発明は特定の実施形態に関して図示および説明されているが、上述の実施形態は本発明の一部の実施形態の具現化のための例としての役割のみを果たしており、本発明の適用範囲はこれらの実施形態に限定されないことに留意されたい。特に、上述のコンポーネント(アセンブリ、デバイス、回路、システムなど)によって実行される種々の機能に関して、当該コンポーネントを説明するために使用される用語(「手段」(means)に対する言及も含む)は、別段の定めがなければ、たとえ開示されている構成と構造的に同等でなくとも本明細書において例示されている本発明の例示的な実施形態においてその機能を果たすものであれば、説明されているコンポーネントの特定の機能を実行する(すなわち、機能的に同等である)いずれかのコンポーネントに相当すると意図されている。さらに、本発明の特定の構成は、複数の実施形態のただ1つに対して開示されているが、当該構成はいずれかの所与または特定の用途にとって望ましくかつ有利な他の実施形態における1つ以上の構成と組み合わせられてよい。したがって、本発明は、上述の実施形態に限定されるべきではなく、添付の特許請求の範囲およびその均等物によってのみ限定されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1】本開示の複数の態様に係るイオン源を利用する例示的な真空システムのブロック図である。
図2A】本開示の複数の態様に係る例示的なアークチャンバの上面視におけるブロック図である。
図2B】本開示の複数の態様に係る例示的なアークチャンバの側面視におけるブロック図である。
図3】本開示の複数の態様に係るバイアス電極間の様々なバイアス電圧差を使用して実現される様々なビーム電流を示すグラフである。
図4】本開示の様々な態様に係るイオン源の斜視図を示す。
図5図4のイオン源の部分斜視断面図を示す。
図6】本開示の様々な態様係るアークチャンバの斜視断面側面図を示す。
図7】本開示の様々な態様に係る例示的なアークチャンバの斜視断面上面図を示す。
図8】本開示の様々な態様に係る例示的なアークチャンバの断面平面図を示す。
図9】本開示の様々な態様に係る例示的なアークチャンバの断面立面図を示す。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】