(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】ネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲート並びにその調製方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 47/68 20170101AFI20240416BHJP
A61K 38/07 20060101ALI20240416BHJP
A61K 31/537 20060101ALI20240416BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20240416BHJP
A61K 38/12 20060101ALI20240416BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20240416BHJP
A61K 31/357 20060101ALI20240416BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20240416BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240416BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240416BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240416BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240416BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240416BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240416BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240416BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240416BHJP
C07K 1/20 20060101ALI20240416BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240416BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240416BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240416BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240416BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240416BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240416BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
A61K47/68 ZNA
A61K38/07
A61K31/537
A61K38/05
A61K38/12
A61K31/704
A61K31/357
A61K31/4745
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P35/02
A61K31/7088
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/12
C07K16/28
C07K1/20
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N1/15
C12N1/21
C12N1/19
C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566911
(86)(22)【出願日】2022-04-29
(85)【翻訳文提出日】2023-12-26
(86)【国際出願番号】 CN2022090450
(87)【国際公開番号】W WO2022228563
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】202110481199.4
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523408662
【氏名又は名称】江▲蘇▼▲邁▼威康新▲薬▼研▲発▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】522261352
【氏名又は名称】▲邁▼威(上海)生物科技股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110003845
【氏名又は名称】弁理士法人籾井特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】周 ▲偉▼
(72)【発明者】
【氏名】▲譚▼ 小▲釘▼
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 大涛
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
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4B064DA01
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4C084ZB27
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4C085GG01
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4C087AA01
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4C087BC83
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4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA72
4H045DA76
4H045DA83
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA25
(57)【要約】
ポリオウイルス受容体様分子4(ネクチン-4)を標的とする抗体薬物コンジュゲート。抗体薬物コンジュゲートを使用して、ネクチン-4関連疾患を治療する薬物を調製することができる。抗体薬物コンジュゲートは、ネクチン-4に対する強力な標的化特性と、標的を介した強力なエンドサイトーシス効果とを有し、かつ優れた腫瘍殺傷効果を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物に共有結合により連結された抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントを含む、ネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲート又はその塩であって、
前記抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントは、重鎖相補性決定領域1~重鎖相補性決定領域3(CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3)と、軽鎖相補性決定領域1~軽鎖相補性決定領域3(CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3)とをそれぞれ以下の通りに含む:
(i)それぞれ配列番号11、配列番号12、及び配列番号13に示されるアミノ酸配列を有するCDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3と、それぞれ配列番号14、配列番号15、及び配列番号16に示されるアミノ酸配列を有するCDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3とを含むか、
(ii)それぞれ配列番号11、配列番号17、及び配列番号13に示されるアミノ酸配列を有するCDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3と、それぞれ配列番号18、配列番号15、及び配列番号16に示されるアミノ酸配列を有するCDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3とを含むか、又は、
(iii)それぞれ配列番号19、配列番号20、及び配列番号13に示されるアミノ酸配列を有するCDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3と、それぞれ配列番号14、配列番号15、及び配列番号16に示されるアミノ酸配列を有するCDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3とを含む、
重鎖及び軽鎖を含む、抗体薬物コンジュゲート又はその塩。
【請求項2】
前記抗体薬物コンジュゲート又はその塩は、次の式:Ab-[L-CTD]
mを有し、式中、Abは、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントを表し、Lは、リンカーを表し、CTDは、前記薬物を表し、かつmは、Ab分子1つ当たりに接続された前記薬物の平均数を表し、
好ましくは、CTDは、細胞傷害性薬物であり、好ましくは、CTDは、微小管阻害剤のMMAE、DM1、DM4、ツブリシン、アマニチン、カリケアマイシン、エリブリン、及びそれらの誘導体、トポイソメラーゼ阻害剤のSN38、エキサテカン、及びそれらの誘導体、並びにDNA結合性作用物質のPBD、ドキソルビシン、及びそれらの誘導体からなる群から選択される1つ以上であり、
好ましくは、mは、1.0~5.0、好ましくは3.0~4.2、より好ましくは3.5~4.5、なおもより好ましくは3.8~4.2、更により好ましくは3.9~4.1、特に好ましくは4.0である、請求項1に記載の抗体薬物コンジュゲート又はその塩。
【請求項3】
前記抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントに含まれる前記重鎖及び前記軽鎖は、それぞれ重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、ここで、前記重鎖可変領域(VH)は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、若しくは配列番号7に示されるアミノ酸配列、又はそれらの変異体を含み、かつ前記軽鎖可変領域(VL)は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、若しくは配列番号8に示されるアミノ酸配列、又はそれらの変異体を含み、
好ましくは、前記抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントに含まれる前記重鎖可変領域(VH)及び前記軽鎖可変領域(VL)は、それぞれ、
(i)配列番号1に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、及び配列番号2に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、
(ii)配列番号3に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、
(iii)配列番号5に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、又は、
(iv)配列番号7に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、及び配列番号8に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、
を含む、請求項1又は2に記載の抗体薬物コンジュゲート又はその塩。
【請求項4】
前記抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントは、あらゆる形態で、例えば、ネクチン-4に対するモノクローナル抗体、一本鎖抗体、ダイアボディ、単一ドメイン抗体、ナノボディ、完全ヒト化抗体若しくは部分的ヒト化抗体、又はキメラ抗体等で存在し、代替的には、前記抗体又はそのフラグメントは、ネクチン-4に対する半抗体又は半抗体の抗原結合フラグメント、例えば、scFv、BsFv、dsFv、(dsFv)
2、Fab、Fab’、F(ab’)
2、又はFvであり、
好ましくは、前記ネクチン-4は、哺乳動物ネクチン-4、好ましくは霊長類ネクチン-4、より好ましくはヒトネクチン-4である、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体薬物コンジュゲート又はその塩。
【請求項5】
前記抗体は、モノクローナル抗体、好ましくはマウスモノクローナル抗体、キメラモノクローナル抗体、又はヒト化モノクローナル抗体であり、より好ましくは、前記モノクローナル抗体の重鎖定常領域は、IgG1サブタイプ又はIgG4サブタイプのものであり、かつ前記モノクローナル抗体の軽鎖定常領域は、カッパ型のものであり、
代替的には、前記抗体は、免疫グロブリン、特にIgA、IgD、IgE、IgG、又はIgM、例えばIgA、IgD、IgE、IgG、又はIgMのヒトサブタイプ、より好ましくはヒトIgG1サブタイプ、ヒトIgG2サブタイプ、ヒトIgG3サブタイプ、又はヒトIgG4サブタイプであり、
好ましくは、前記抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントは、配列番号9に示されるアミノ酸配列又はその変異体を含む重鎖定常領域を含み、代替的には、前記抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントは、配列番号10に示されるアミノ酸配列又はその変異体を含む軽鎖定常領域を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体薬物コンジュゲート又はその塩。
【請求項6】
前記抗体薬物コンジュゲート又はその塩は、以下の式Ia
【化1】
及び/又は式Ib:
【化2】
及び/又は
(式中、
Abは、前記抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントであり、
Ar’は、置換又は非置換のC
6~C
10アリーレン及び置換又は非置換の5員~12員のヘテロアリーレンからなる群から選択されるいずれか1つであり、ここで、前記置換は、基上の水素原子を、ハロゲン(F、Cl、Br、又はI)、ハロゲン化アルキル(例えば、ハロゲン化C
1~C
6アルキル、好ましくはハロゲン化C
1~C
4アルキル、例えばトリフルオロメチル)及びアルコキシ(例えば、C
1~C
6アルコキシ、好ましくはC
1~C
4アルコキシ、例えばメトキシ)からなる群から選択される1つ以上の置換基によって置き換えることを指し、
L
1は、Ar’に連結された-O(CH
2CH
2O)
n-であり、ここで、nは、1~24、好ましくは1~10、より好ましくは3~5の範囲内の整数であり、
L
2は、酵素切断可能な断片、例えばジペプチド若しくはトリペプチド若しくはテトラペプチド、又は切断可能な自己犠牲リンカーとのそれらの組合せ(すなわち、2個~4個のアミノ酸からなるポリペプチド断片、又は前記ポリペプチド断片と、切断可能な自己犠牲リンカーとの組合せ)、例えば、Val-Ala、Val-Ala-PAB、Val-Cit、Val-Cit-PAB、Phe-Lys-PAB、Ala-Ala-Ala、Gly-Gly-Phe-Gly(GGFG)、MACグルクロニドフェノールである)により表される構造を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体薬物コンジュゲート又はその塩。
【請求項7】
L
2-CTDは、VcMMAE、GGFG-Dxd、又はVC-seco-DUBAであり、
好ましくは、Ar’が置換又は非置換の5員~12員のヘテロアリーレンである場合、ヘテロ原子は、Nであり、
好ましくは、Ar’は、置換若しくは非置換のC
6アリーレン、又は置換若しくは非置換の6員のヘテロアリーレンであり、
より好ましくは、前記抗体薬物コンジュゲート又はその塩は、以下の構造:
コンジュゲートADC-1
【化3】
コンジュゲートADC-2
【化4】
コンジュゲートADC-3
【化5】
コンジュゲートADC-4
【化6】
コンジュゲートADC-5
【化7】
コンジュゲートADC-6
【化8】
コンジュゲートADC-7
【化9】
を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体薬物コンジュゲート又はその塩。
【請求項8】
以下の式Ia
【化10】
及び/又は式Ib:
【化11】
及び/又は
により表される構造を有する、ネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲート又はその塩の調製方法であって、
前記方法は、以下の工程:
(1)抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントを緩衝液中で還元剤と反応させて、還元された抗体又はそのフラグメントを得る工程、
(2)緩衝液と有機溶媒との混合物中で、工程(1)で得られた還元された抗体又はそのフラグメントに薬物-リンカー(リンカー薬物コンジュゲート)をコンジュゲートさせて、ネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲートを得る工程、
を含む、調製方法。
【請求項9】
前記薬物-リンカーは、以下の式Ic:
【化12】
(式中、
Rは、X又はR’Sであり、ここで、Xは、ハロゲン(F、Cl、Br、又はI)、好ましくはBr又はIであり、R’は、置換若しくは非置換のC
6~C
10アリール又は置換若しくは非置換の5員~12員のヘテロアリールであり、ここで、前記置換は、基上の水素原子を、アルキル(例えば、C
1~C
6アルキル、好ましくはC
1~C
4アルキル)、アルコキシ(例えば、C
1~C
6アルコキシ、好ましくはC
1~C
4アルコキシ、例えばメトキシ)、ハロゲン(F、Cl、Br、又はI)、エステル、アミド、及びシアノからなる群から選択される1つ以上の置換基によって置き換えることを指し、
好ましくは、Rは、R’Sであり、ここで、R’は、フェニル又は置換フェニルであり、前記置換フェニルにおける置換基は、アルキル(例えば、C
1~C
6アルキル、好ましくはC
1~C
4アルキル)、アルコキシ(例えば、C
1~C
6アルコキシ、好ましくはC
1~C
4アルコキシ、より好ましくはメトキシ)、ハロゲン(F、Cl、Br、又はI)、エステル、アミド、及びシアノからなる群から選択され、好ましくは、R’は、フェニル、4-メチルホルムアミド置換フェニル(
【化13】
)、又は4-ホルミルモルホリン置換フェニル(
【化14】
)であり、かつ、
Ar’、L
1、L
2、及びCTDは、請求項6~8のいずれか一項に規定される通りである)により表される構造を有する、請求項8に記載の調製方法。
【請求項10】
前記薬物-リンカーは、
【化15】
からなる群から選択されるいずれか1つである、請求項8又は9に記載の調製方法。
【請求項11】
前記調製方法は、以下の工程:
a.抗体の還元:5mg/mL~30mg/mLの濃度で前記抗体を含むリン酸緩衝液に還元剤を5.5以上:1(前記還元剤:前記抗体)の当量モル比で添加し、前記還元剤と前記抗体とを1.5時間~2時間反応させる工程、
なお、前記還元剤は、TCEP、DTT、2-MEA、及びDTBAからなる群から選択される1つ以上である;
b.抗体のコンジュゲーション:工程aで得られた還元された抗体をpH6.5~7.8のリン酸緩衝液中へと置き換え、それによって前記抗体を前記緩衝液中で3.5mg/mL~15mg/mLの濃度に希釈して、希釈された抗体溶液を得て、有機共溶媒中に溶解された薬物含有リンカーを前記希釈された抗体溶液に4.5~6.5:1(前記薬物含有リンカー:前記抗体)の当量モル比で添加し、次いで、この反応系を撹拌しながら15℃~35℃で0.5時間以上反応させる工程、
なお、前記有機共溶媒は、DMA、DMSO、DMF、及びACNからなる群から選択される1つ以上である;
c.疎水性クロマトグラフィー:得られた抗体コンジュゲート生成物を、疎水性充填剤を使用する疎水性クロマトグラフィーによる精製に供する工程、
を含み、
好ましくは、前記調製方法は、工程bの後、又は工程cの後に、以下の工程:
d.加水分解:前記抗体コンジュゲート生成物をpH7.4~9.0のリン酸緩衝液中へと置き換え、次いで、前記緩衝液を35±10℃で2時間~24時間加熱して加水分解生成物を得る工程、
を更に含む、請求項8~10のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項12】
重鎖及び軽鎖を含む抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントであって、前記重鎖及び前記軽鎖は、重鎖相補性決定領域1~重鎖相補性決定領域3(CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3)と、軽鎖相補性決定領域1~軽鎖相補性決定領域3(CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3)とをそれぞれ以下の通りに含む:
それぞれ配列番号19、配列番号20、及び配列番号13に示されるアミノ酸配列を有するCDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3と、それぞれ配列番号14、配列番号15、及び配列番号16に示されるアミノ酸配列を有するCDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3とを含む、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメント。
【請求項13】
前記抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントに含まれる前記重鎖及び前記軽鎖は、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、かつ前記重鎖可変領域(VH)は、配列番号5若しくは配列番号7に示されるアミノ酸配列、又はそれらの変異体を含み、かつ前記軽鎖可変領域(VL)は、配列番号6若しくは配列番号8に示されるアミノ酸配列、又はそれらの変異体を含み、
好ましくは、前記抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントの前記重鎖可変領域(VH)及び前記軽鎖可変領域(VL)は、
(A)配列番号5に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、又は、
(B)配列番号7に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、及び配列番号8に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、
を含み、
更に好ましくは、前記抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントは、請求項4又は5において規定される通りである、請求項12に記載の抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメント。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントに含まれる重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖、又は軽鎖をコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子。
【請求項15】
請求項14に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項16】
請求項14に記載の核酸分子及び/又は請求項15に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項17】
請求項1~7のいずれか一項に記載のネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲート又はその塩、請求項12又は13に記載の抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメント、請求項14に記載の核酸分子、請求項15に記載のベクター、及び/又は請求項16に記載の宿主細胞を含む組成物。
【請求項18】
腫瘍を治療する医薬の製造における、請求項1~7のいずれか一項に記載のネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲート又はその塩、請求項12又は13に記載の抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメント、請求項14に記載の核酸分子、請求項15に記載のベクター、請求項16に記載の宿主細胞、及び/又は請求項17に記載の組成物の使用。
【請求項19】
前記腫瘍は、ネクチン-4の高発現に関連する腫瘍又は癌であり、
好ましくは、前記腫瘍又は癌は、膀胱癌、乳癌、卵巣癌、膵臓癌、肝細胞癌、胃癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、急性リンパ性白血病、未分化大細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、前立腺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、悪性黒色腫、扁平上皮癌、神経膠芽腫、腎細胞癌、消化管腫瘍、結腸直腸癌、神経膠腫、及び中皮腫からなる群から選択されるいずれか1つである、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
腫瘍を治療する方法であって、治療を必要とする被験体に、請求項1~7のいずれか一項に記載のネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲート又はその塩、請求項12又は13に記載の抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメント、請求項14に記載の核酸分子、請求項15に記載のベクター、請求項16に記載の宿主細胞、及び/又は請求項17に記載の組成物を投与することを含む、方法。
【請求項21】
前記被験体は、哺乳動物、好ましくは霊長類、より好ましくはヒトであり、
好ましくは、前記腫瘍は、ネクチン-4の高発現に関連する腫瘍又は癌であり、
好ましくは、前記腫瘍又は癌は、膀胱癌、乳癌、卵巣癌、膵臓癌、肝細胞癌、胃癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、急性リンパ性白血病、未分化大細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、前立腺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、悪性黒色腫、扁平上皮癌、神経膠芽腫、腎細胞癌、消化管腫瘍、結腸直腸癌、神経膠腫、及び中皮腫からなる群から選択されるいずれか1つである、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2021年4月30日に出願された中国特許出願第202110481199.4号の優先権を主張し、その特許出願の内容は引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【0002】
本発明は、抗体薬物コンジュゲート、特にポリオウイルス受容体様分子4(ネクチン-4)を標的とする抗体薬物コンジュゲート並びにその調製方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0003】
ネクチン(ポリオウイルス受容体様分子)は、カドヘリンと協調して又はカドヘリンとは独立して細胞間接着を制御する新規のクラスの細胞接着タンパク質である。ネクチンには、ネクチン-1、ネクチン-2、ネクチン-3、及びネクチン-4の4つのメンバーのファミリーが含まれる。全てのネクチンは、3つのIg様ループを含む1つの細胞外領域と、1つの膜貫通セグメントと、1つの細胞質尾部とを有している。これらのメンバーの中で、ネクチン-4は、胚及び胎盤だけでなく腫瘍細胞においても特異的に発現されており、一部の研究では、様々な腫瘍細胞の発生及び発達に密接に関連していることが判明している。例えば、2394名の腫瘍患者由来の病理学的切片の分析により、ネクチン-4が膀胱癌、乳癌、及び膵臓癌に罹患している患者集団において広く発現されていることが明らかになった。したがって、ネクチン-4は、多くの腫瘍又は癌の診断及び治療のための重要な標的となっている。
【0004】
抗体薬物コンジュゲート(ADC)技術は、抗体が腫瘍細胞の表面上の特異抗原を特異的に認識する能力を利用することによって抗腫瘍薬(例えば、細胞傷害性作用物質、細胞増殖抑制剤、小分子化学療法剤等)を標的腫瘍細胞に正確に送達し、抗腫瘍薬を集積して細胞内に放出し、それにより腫瘍を正確に殺傷する技術である。抗体薬物コンジュゲートは一般に、抗体又は抗体様リガンドと、小分子薬物と、それら2つを互いに接続するリンカーとの3つの部分から構成されている。抗体薬物コンジュゲートは、それらの適切な分子量、高い安定性、強力な標的化特性、並びに小さな毒性効果及び副作用のため、最も有望な抗悪性腫瘍薬の1つと考えられている。
【0005】
しかしながら、ADCの開発を成功させるには、多くの問題を検討し、それらに対処しなければならない。例えば、抗体が罹患領域を特異的に認識する必要があり、低いアレルゲン性を有し、エンドサイトーシスを介して効率的かつ迅速に細胞内移行され得ること、抗体と薬物とを接続するリンカーが血中で非常に安定であるべきであり、かつ特異的に活性化されて標的化細胞内で小分子薬物を効率的に放出する必要があること(そうでなければ正常細胞に対する許容することができないレベルの毒性を生ずることとなる)、接続された小分子薬物が強力な細胞殺傷活性等を有する必要があること等である。現在臨床試験中の抗体薬物コンジュゲートにおいては、高活性の細胞傷害性小分子薬物は典型的には、2~4の最適な薬物対抗体比(DAR)でリンカーを介して抗体表面上のリジン残基又はヒンジ領域中のシステイン残基のいずれかに接続されている。しかしながら、抗体表面上の多数のリジン残基(80個超)及びコンジュゲーション反応の非選択性により、接続される薬物の数とコンジュゲーション部位とが不確実となり、ひいては不均一な抗体薬物コンジュゲートの生成につながる。例えば、標的化薬トラスツズマブ(抗HER2抗体)及び微小管阻害剤DM1(マイタンシン誘導体)から作られた抗体薬物コンジュゲートT-DM1は、0~8のDAR分布(平均DARは3.5)を有する。同様に、抗体のヒンジ領域には4つの鎖間ジスルフィド結合しか存在しないが、最適な平均DAR(2~4)を達成するには鎖間ジスルフィド結合の部分的な還元が必要とされる。しかしながら、現在利用可能な還元剤(DTT、TCEP等)は鎖間ジスルフィド結合を選択的に還元することができないため、得られるコンジュゲートは均一ではなく、複数の構成要素から構成される。構成要素の中でも、主要な構成要素は、0、2、4、6、又は8のDARを有し、1つの対応する特定のDARを有する構成要素は、異なるコンジュゲーション部位により形成される異性体で存在する。ADC製品の不均一性は、構成要素間の薬物動態特性、効力、及び毒性の不均一性につながる可能性がある。例えば、より高いDARを有する構成要素はin vivoでより迅速にクリアランスされ、より高い毒性をもたらす。
【0006】
Seattle GeneticsはAstellasと協力し、ランダムなコンジュゲーションを介した独自のリンカーmc-vc-MMAE及び抗ネクチン-4抗体エンホルツマブを利用して、エンホルツマブベドチン(Padcev)という名称の抗ネクチン-4抗体薬物コンジュゲートを提供した。或る臨床試験の結果では、化学療法及びPD-1/PD-L1阻害剤のレジメンを受けた患者において、エンホルツマブベドチンを受けた患者が、コントロール群における化学療法を受けた患者よりも3.9ヶ月長い12.9ヶ月という中程度の全生存期間を示し、それによりエンホルツマブベドチンによる腫瘍治療について良好な有効性が示されることが明らかになった。しかしながら、臨床研究では、エンホルツマブベドチン治療が発熱、皮膚の痒み、末梢神経障害、ドライアイ、好中球減少症等を伴うことが多いことも判明した。これらの有害反応は、抗体への小分子の過剰な接続及び不安定な接続様式に直接関連している。
【0007】
したがって、ネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲートの研究開発のための効率的で簡単かつ実用的な化学的コンジュゲーション方法が依然として必要に迫られている。
【発明の概要】
【0008】
本発明が解決すべき技術的問題は、ハイブリドーマスクリーニング技術及びヒト化技術を使用し、それによりヒト化設計を通じて最も少ない数のマウスアミノ酸を有することになり、ひいてはより良好なin vivoでの安全性及び応用の見通しのある、ヒトネクチン-4に高い親和性で特異的に結合することができる抗体を提供し、この抗体に基づいて、より強力な細胞内移行効果を有する抗体を更にスクリーニングすることであり、この抗体は小分子化学薬物との抗体薬物コンジュゲートへと調製されることになる。抗体薬物コンジュゲートは、抗体のネクチン-4発現細胞への標的化及び標的ネクチン-4を介した強力な細胞内移行効果と、小分子化学薬物の作用とを兼ね備えて、優れた腫瘍殺傷効果を達成することになる。
【0009】
したがって、本開示の1つの目的は、ネクチン-4に特異的に結合することができる抗体又はそのフラグメントを提供することである。本開示の文脈において、抗体のフラグメントは、抗体の様々な機能的フラグメント、例えば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、又はscFvフラグメント等のその抗原結合部分を包含する。本開示のもう1つの目的は、抗体又はそのフラグメントを使用して調製されるネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲート又はその塩を提供することである。
【0010】
本開示は、以下の技術的解決策を提供する。
【0011】
一態様において、本開示は、薬物に共有結合により連結された抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントを含む、ネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲート又はその塩を提供する。
【0012】
本開示により提供される抗体薬物コンジュゲート又はその塩において、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントは、重鎖相補性決定領域1~重鎖相補性決定領域3(CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3)と、軽鎖相補性決定領域1~軽鎖相補性決定領域3(CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3)とをそれぞれ以下の通りに含む:
(i)それぞれ配列番号11、配列番号12、及び配列番号13に示されるアミノ酸配列を有するCDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3と、それぞれ配列番号14、配列番号15、及び配列番号16に示されるアミノ酸配列を有するCDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3とを含むか、
(ii)それぞれ配列番号11、配列番号17、及び配列番号13に示されるアミノ酸配列を有するCDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3と、それぞれ配列番号18、配列番号15、及び配列番号16に示されるアミノ酸配列を有するCDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3とを含むか、又は、
(iii)それぞれ配列番号19、配列番号20、及び配列番号13に示されるアミノ酸配列を有するCDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3と、それぞれ配列番号14、配列番号15、及び配列番号16に示されるアミノ酸配列を有するCDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3とを含む、
重鎖及び軽鎖を含む。
【0013】
好ましくは、本開示により提供される抗体薬物コンジュゲート又はその塩は、次の式:Ab-[L-CTD]mを有し、式中、Abは、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントを表し、Lは、リンカーを表し、CTDは、薬物を表し、かつmは、Ab分子1つ当たりに接続された薬物の平均数を表す。
【0014】
好ましくは、本開示により提供される抗体薬物コンジュゲート又はその塩において、CTDは、細胞傷害性薬物であり、好ましくは、CTDは、微小管阻害剤のMMAE、DM1、DM4、ツブリシン、アマニチン、カリケアマイシン、エリブリン、及びそれらの誘導体、トポイソメラーゼ阻害剤のSN38、エキサテカン、及びそれらの誘導体、並びにDNA結合性作用物質のPBD、ドキソルビシン、及びそれらの誘導体からなる群から選択される1つ以上である。
【0015】
mは、1.0~5.0、好ましくは3.0~4.2、より好ましくは3.5~4.5、なおもより好ましくは3.8~4.2、更により好ましくは3.9~4.1、特に好ましくは4.0である。
【0016】
好ましくは、本開示により提供される抗体薬物コンジュゲート又はその塩において、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントに含まれる重鎖及び軽鎖は、それぞれ重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、ここで、重鎖可変領域(VH)は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、若しくは配列番号7に示されるアミノ酸配列、又はそれらの変異体を含み、かつ軽鎖可変領域(VL)は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、若しくは配列番号8に示されるアミノ酸配列、又はそれらの変異体を含む。
【0017】
より好ましくは、本開示により提供される抗体薬物コンジュゲート又はその塩において、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントに含まれる重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)は、それぞれ、
(i)配列番号1に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、及び配列番号2に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、
(ii)配列番号3に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、
(iii)配列番号5に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、又は、
(iv)配列番号7に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、及び配列番号8に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、
を含む。
【0018】
本開示の文脈において、アミノ酸配列の「変異体」とは、そのアミノ酸配列に対して少なくとも75%の配列同一性(75%以上のあらゆる同一性パーセント、例えば、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更に好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は更には99%の同一性等)を有するアミノ酸配列を指す。
【0019】
特に、本開示による抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントは、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を少なくとも含み、どちらも上記のCDR及び間隔を置いて配置されるフレームワーク領域(FR)を含み、これらのドメインは、次のように配置される:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4。このように、本開示により提供される抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントに含まれる重鎖可変領域及び軽鎖可変領域に関して、「少なくとも75%の配列同一性」による最大25%の差異は、重鎖可変領域又は軽鎖可変領域におけるどのフレームワーク領域に存在してもよい。あるいは、本開示による抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントの全体に関して、最大25%の差異が、本開示による抗体又はそのフラグメントにおける重鎖可変領域及び軽鎖可変領域以外のどのドメイン又は配列に存在してもよい。差異は、あらゆる位置でのアミノ酸の欠失、付加、又は置換から生じ得るものであり、置換は保存的置換又は非保存的置換であってもよい。
【0020】
本開示により提供される抗体薬物コンジュゲート又はその塩において、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントは、あらゆる形態で、例えば、ネクチン-4に対するモノクローナル抗体、一本鎖抗体、ダイアボディ、単一ドメイン抗体、ナノボディ、完全ヒト化抗体若しくは部分的ヒト化抗体、又はキメラ抗体等で存在し、代替的には、抗体又はそのフラグメントは、ネクチン-4に対する半抗体又は半抗体の抗原結合フラグメント、例えば、一本鎖可変フラグメント(scFv)、二価の一本鎖可変フラグメント(BsFv)、ジスルフィド安定化可変フラグメント(dsFv)、(ジスルフィド安定化可変フラグメント)2((dsFv)2)、抗原結合フラグメント(Fab)、Fab’フラグメント(Fab’)、F(ab’)2フラグメント(F(ab’)2)、又は可変フラグメント(Fv)である。本開示により提供されるフラグメントに関して、好ましくは、フラグメントは、哺乳動物ネクチン-4、好ましくは霊長類ネクチン-4、より好ましくはヒトネクチン-4に結合することができる抗体のあらゆるフラグメントである。
【0021】
好ましくは、本開示により提供される抗体薬物コンジュゲート又はその塩において、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントは定常領域を更に含んでいてもよい。好ましくは、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントは、ヒト又はマウスの重鎖定常領域(CH)及び/又は軽鎖定常領域(CL)、より好ましくは、IgG、IgA、IgM、IgD、及びIgEの定常領域からなる群から選択される重鎖定常領域及び/又はカッパ型又はラムダ型の軽鎖定常領域を更に含む。
【0022】
好ましくは、抗体は、モノクローナル抗体、好ましくはマウスモノクローナル抗体、キメラモノクローナル抗体、又はヒト化モノクローナル抗体であり、より好ましくは、モノクローナル抗体の重鎖定常領域は、IgG1サブタイプ又はIgG4サブタイプのものであり、かつモノクローナル抗体の軽鎖定常領域は、カッパ型のものである。代替的には、例えば、抗体は、免疫グロブリン、特にIgA、IgD、IgE、IgG、又はIgM、例えばIgA、IgD、IgE、IgG、又はIgMのヒトサブタイプ、より好ましくはヒトIgG1サブタイプ、ヒトIgG2サブタイプ、ヒトIgG3サブタイプ、又はヒトIgG4サブタイプである。
【0023】
本開示の特定の一実施の形態によれば、好ましくは、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントは、配列番号9に示されるアミノ酸配列又はその変異体を含む重鎖定常領域を含む。代替的には、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントは、配列番号10に示されるアミノ酸配列又はその変異体を含む軽鎖定常領域を含む。上に定義されるように、アミノ酸配列の「変異体」とは、そのアミノ酸配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を指す。
【0024】
さらに、本開示により提供される抗体薬物コンジュゲート又はその塩は、以下の式Ia
【化1】
及び/又は式Ib:
【化2】
及び/又は
(式中、
Abは、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントであり、
Ar’は、置換又は非置換のC
6~C
10アリーレン及び置換又は非置換の5員~12員のヘテロアリーレンからなる群から選択されるいずれか1つであり、ここで、置換は、基上の水素原子を、ハロゲン(F、Cl、Br、又はI)、ハロゲン化アルキル(例えば、ハロゲン化C
1~C
6アルキル、好ましくはハロゲン化C
1~C
4アルキル、例えばトリフルオロメチル)及びアルコキシ(例えば、C
1~C
6アルコキシ、好ましくはC
1~C
4アルコキシ、例えばメトキシ)からなる群から選択される1つ以上の置換基によって置き換えることを指し、
L
1は、Ar’に連結された-O(CH
2CH
2O)
n-であり、ここで、nは、1~24、好ましくは1~10、より好ましくは3~5の範囲内のいずれかの整数であり、
L
2は、酵素切断可能な断片、例えばジペプチド若しくはトリペプチド若しくはテトラペプチド、又は切断可能な自己犠牲リンカーとのそれらの組合せ(すなわち、2個~4個のアミノ酸からなるポリペプチド断片、又はポリペプチド断片と、切断可能な自己犠牲リンカーとの組合せ)、例えば、Val-Ala、Val-Ala-PAB、Val-Cit、Val-Cit-PAB、Phe-Lys-PAB、Ala-Ala-Ala、Gly-Gly-Phe-Gly(GGFG)、MACグルクロニドフェノールである)により表される構造を有する。
【0025】
好ましくは、L2-CTDは、VcMMAE、GGFG-Dxd、又はVC-seco-DUBAである。
【0026】
好ましくは、Ar’が置換又は非置換の5員~12員のヘテロアリーレンである場合、ヘテロ原子は、Nである。
【0027】
好ましくは、Ar’は、置換若しくは非置換のC6アリーレン、又は置換若しくは非置換の6員のヘテロアリーレンである。
【0028】
本開示の特定の実施の形態によれば、本開示により提供される抗体薬物コンジュゲート又はその塩は、以下の構造:
コンジュゲートADC-1
【化3】
コンジュゲートADC-2
【化4】
コンジュゲートADC-3
【化5】
コンジュゲートADC-4
【化5】
コンジュゲートADC-5
【化6】
コンジュゲートADC-6
【化7】
コンジュゲートADC-7
【化8】
を有する。
【0029】
別の態様において、本開示は、以下の式Ia
【化9】
及び/又は式Ib:
【化10】
及び/又は
により表される構造を有する、ネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲート又はその塩の調製方法であって、
方法は、以下の工程:
(1)抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントを緩衝液中で還元剤と反応させて、還元された抗体又はそのフラグメントを得る工程、
(2)緩衝液と有機溶媒との混合物中で、工程(1)で得られた還元された抗体又はそのフラグメントに薬物-リンカー(リンカー薬物コンジュゲート)をコンジュゲートさせて、ネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲート又はその塩を得る工程、
を含む、調製方法を提供する。
【0030】
本開示により提供される調製方法において、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントは上記に定義される通りである。薬物-リンカーは、以下の式Ic:
【化11】
(式中、
Rは、X又はR’Sであり、ここで、Xは、ハロゲン(F、Cl、Br、又はI)、好ましくはBr又はIであり、R’は、置換若しくは非置換のC
6~C
10アリール又は置換若しくは非置換の5員~12員のヘテロアリールであり、ここで、置換は、基上の水素原子を、アルキル(例えば、C
1~C
6アルキル、好ましくはC
1~C
4アルキル)、アルコキシ(例えば、C
1~C
6アルコキシ、好ましくはC
1~C
4アルコキシ、より好ましくはメトキシ)、ハロゲン(F、Cl、Br、又はI)、エステル、アミド、及びシアノからなる群から選択される1つ以上の置換基によって置き換えることを指し、
好ましくは、Rは、R’Sであり、ここで、R’は、フェニル又は置換フェニルであり、置換フェニルにおける置換基は、アルキル(例えば、C
1~C
6アルキル、好ましくはC
1~C
4アルキル)、アルコキシ(例えば、C
1~C
6アルコキシ、好ましくはC
1~C
4アルコキシ、より好ましくはメトキシ)、ハロゲン(F、Cl、Br、又はI)、エステル、アミド、及びシアノからなる群から選択され、好ましくは、R’は、フェニル、4-メチルホルムアミド置換フェニル(
【化12】
)、又は4-ホルミルモルホリン置換フェニル(
【化13】
)であり、かつ、
Ar’、L
1、L
2、及びCTDは、上記に規定される通りである)により表される構造を有する。
【0031】
本開示の文脈において、「薬物-リンカー」、「[L-D]」、「薬物含有リンカー」、「リンカー薬物コンジュゲート」等は互換的に使用される。本出願の特定の実施の形態によれば、薬物-リンカーは、
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化28】
【化29】
【化30】
【化31】
【化32】
【化33】
からなる群から選択されるいずれか1つである。
【0032】
好ましくは、本開示により提供される調製方法は、以下の工程:
a.抗体の還元:5mg/mL~30mg/mLの濃度で抗体を含むリン酸緩衝液に還元剤を5.5以上:1(還元剤:抗体)の当量モル比で添加し、還元剤と抗体とを1.5時間~2時間反応させる工程、
なお、還元剤は、TCEP、DTT、2-MEA、及びDTBAからなる群から選択される1つ以上である;
b.抗体のコンジュゲーション:工程aで得られた還元された抗体をpH6.5~7.8のリン酸緩衝液中へと置き換え、それによって抗体を緩衝液中で3.5mg/mL~15mg/mLの濃度に希釈して、希釈された抗体溶液を得て、有機共溶媒中に溶解された薬物含有リンカーを希釈された抗体溶液に4.5~6.5:1(薬物含有リンカー:抗体)の当量モル比で添加し、次いで、この反応系を撹拌しながら15℃~35℃で0.5時間以上反応させる工程、
なお、有機共溶媒は、DMA、DMSO、DMF、及びACNからなる群から選択される1つ以上である;
c.疎水性クロマトグラフィー:得られた抗体コンジュゲーション生成物を、疎水性充填剤を使用する疎水性クロマトグラフィーによる精製に供する工程、
を含む。
【0033】
更に好ましくは、調製方法は、工程bの後、又は工程cの後に、以下の工程:
d.加水分解:抗体コンジュゲーション生成物をpH7.4~9.0のリン酸緩衝液中へと置き換え、緩衝液を35±10℃で2時間~24時間加熱して加水分解生成物を得る工程、
を更に含む。
【0034】
好ましくは、工程a、工程b、及び工程dにおける置き換えは、モレキュラーシーブ、超遠心分離チューブ、又は限外濾過膜を使用して実施される。好ましくは、工程cにおいて使用される疎水性充填剤は、Butyl Sepharose HP、Capto Phenyl Impres、又はButyl Sepharose FFであり得る。
【0035】
更に別の態様において、本開示は、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントを提供する。上記のネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲート又はその塩に含まれる抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントに関する説明及び定義は、この態様における抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントに適用される。詳細な配列に関して、本開示により提供される抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントは重鎖及び軽鎖を含み、重鎖及び軽鎖は、重鎖相補性決定領域1~重鎖相補性決定領域3(CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3)と、軽鎖相補性決定領域1~軽鎖相補性決定領域3(CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3)とをそれぞれ以下の通りに含む:
それぞれ配列番号19、配列番号20、及び配列番号13に示されるアミノ酸配列を有するCDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3と、それぞれ配列番号14、配列番号15、及び配列番号16に示されるアミノ酸配列を有するCDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3とを含む。
【0036】
好ましくは、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントに含まれる重鎖及び軽鎖は、それぞれ重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、重鎖可変領域(VH)は、配列番号5若しくは配列番号7に示されるアミノ酸配列、又はそれらの変異体を含み、かつ軽鎖可変領域(VL)は、配列番号6若しくは配列番号8に示されるアミノ酸配列、又はそれらの変異体を含む。
【0037】
より好ましくは、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントに含まれる重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)は、
(A)配列番号5に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、又は、
(B)配列番号7に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、及び配列番号8に示されるアミノ酸配列若しくはその変異体、
を含む。
【0038】
更にこの態様において、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントはまた、抗体薬物コンジュゲートにおける抗体部分について本明細書において上記で定義したそれぞれの特徴を有し得る。
【0039】
上記のように本開示により提供される抗体によれば、本開示は、本開示による抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントに含まれる重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖、又は軽鎖をコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子を提供する。
【0040】
本開示による核酸分子は、ベクターにクローニングすることができ、次にこのベクターが宿主細胞をトランスフェクト又は形質転換する。したがって、更に別の態様において、本開示は、本開示の核酸分子を含むベクターを提供する。ベクターは、真核生物発現ベクター、原核生物発現ベクター、人工染色体、ファージベクター等であり得る。
【0041】
本開示により提供されるベクター又は核酸分子は、宿主細胞を形質転換若しくはトランスフェクトするために、又は抗体の保存若しくは発現等のために宿主細胞に入るために任意の方法で使用され得る。したがって、更なる態様において、本開示は、本開示の核酸分子及び/又はベクターを含む宿主細胞、又は本開示の核酸分子及び/又はベクターで形質転換若しくはトランスフェクトされた宿主細胞を提供する。宿主細胞は、任意の原核生物細胞又は真核生物細胞、例えば細菌若しくは昆虫、真菌、植物又は動物の細胞であり得る。
【0042】
本開示により提供される抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメントを、当該技術分野において知られるあらゆる従来の技術を使用して得ることができる。例えば、抗体の重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域、又は抗体の重鎖及び/又は軽鎖を本開示により提供される核酸分子から得ることができ、次いで、これらを抗体の任意の他のドメインと集成して抗体を得ることができ、代替的には、本開示により提供される宿主細胞は、宿主細胞が抗体の重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域、又は抗体の重鎖及び/又は軽鎖を発現し、これらが集成して抗体となることができる条件下で培養される。任意に、この方法は更に、生成された抗体を回収する工程を含む。
【0043】
ネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲート若しくはその塩、抗ネクチン-4抗体若しくはそのフラグメント、核酸分子、ベクター、又は宿主細胞を、組成物中、より詳細には医薬調剤中に含めて、実際に必要とされるときに様々な目的に使用することができる。したがって、なおも更なる態様において、本開示はまた、本開示のネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲート又はその塩、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメント、核酸分子、ベクター、及び/又は宿主細胞を含む組成物を提供する。好ましくは、この組成物は、薬学的に許容可能な担体、補助物質、又は賦形剤を任意に含む医薬組成物である。
【0044】
なおも別の態様において、本開示は、腫瘍を治療する医薬の製造における、ネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲート又はその塩、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメント、核酸分子、ベクター、宿主細胞、及び/又は組成物の使用を提供する。代替的に、本開示は、腫瘍を治療する方法であって、治療を必要とする被験体にネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲート又はその塩、抗ネクチン-4抗体又はそのフラグメント、核酸分子、ベクター、宿主細胞、及び/又は組成物を投与することを含む、方法を提供する。被験体は、哺乳動物、好ましくは霊長類、更に好ましくはヒトである。
【0045】
好ましくは、腫瘍は、ネクチン-4の高発現に関連する腫瘍又は癌であり、好ましくは、腫瘍又は癌は、膀胱癌、乳癌、卵巣癌、膵臓癌、肝細胞癌、胃癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、急性リンパ性白血病、未分化大細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、前立腺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、悪性黒色腫、扁平上皮癌、神経膠芽腫、腎細胞癌、消化管腫瘍、前立腺癌、結腸直腸癌、神経膠腫、及び中皮腫からなる群から選択されるいずれか1つである。
【0046】
本発明の実施形態を、添付の図面を参照して以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1A】ADCの3dの特性評価結果を示す図である。パネル1A:疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)プロファイル。
【
図1B】ADCの3dの特性評価結果を示す図である。パネル1B:サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)プロファイル。
【
図1C】ADCの3dの特性評価結果を示す図である。パネル1C:非還元キャピラリー電気泳動-ドデシル硫酸ナトリウム(NR-CE-SDS)プロファイル。
【
図1D】ADCの3dの特性評価結果を示す図である。パネル1D:液体クロマトグラフィー質量分析法(LCMS)スペクトル。
【
図2】様々なADCのin vivo有効性の結果を示す図である。
【
図3】様々なADCのin vivo有効性の結果を示す図である。
【
図4】様々なADCのin vivo有効性の結果を示す図である。
【
図5】様々なADCのin vivo有効性の結果を示す図である。
【
図6】様々なADCのin vivo有効性の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下に本発明を、具体例を参照して説明する。これらの実施例は本発明の単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を何ら限定するものではないことが当業者には理解されよう。
【0049】
以下の実施例における実験手順は、特に明示がない限り、全て慣用のものである。以下の実施例で用いた原材料及び試薬は、特に明示がない限り、いずれも市販品である。
【実施例】
【0050】
実施例群1 抗ネクチン-4抗体のスクリーニング及び調製
マウスを組換えヒトネクチン-4タンパク質(Novoprotein Scientific Inc.から購入した、カタログ番号:CJ19)で免疫化し、B細胞を免疫化マウスから取得し、事前に調製されたSP20骨髄腫細胞と融合させて、ヒトネクチン-4抗原に結合することができる陽性ハイブリドーマ細胞をスクリーニングした。それぞれが1種の抗体のみを分泌する陽性ハイブリドーマ細胞株を最終的に得た。
【0051】
抗ネクチン-4抗体を分泌するハイブリドーマ細胞を拡大培養した後、細胞から全RNAを抽出し、次いでcDNAに逆転写した。抗体の軽鎖可変領域IgVL(κ)及び重鎖可変領域VHの配列をPCRにより増幅した。PCR産物を精製し、Tベクターにライゲーションした。得られたベクターをE.コリ(E. coli)細胞へと形質転換した。細胞の伸展培養後、DNA配列決定用にプラスミドを抽出して、モノクローナル抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の配列を取得した。
【0052】
各マウス抗ヒトネクチン-4モノクローナル抗体の重鎖可変領域配列と、公開されているヒトモノクローナル抗体IgG1サブクラスの重鎖定常領域配列(配列番号9)とを共にスプライシングして、哺乳動物細胞発現ベクターへと構築し、各マウス抗ヒトネクチン-4モノクローナル抗体の軽鎖可変領域配列と、公開されているヒトモノクローナル抗体κサブクラスの軽鎖定常領域配列(配列番号10)とを共にスプライシングして、哺乳類細胞発現ベクターへと構築した。構築した抗ヒトネクチン-4キメラ抗体調製用の重鎖ベクター及び軽鎖ベクターをペアで混合し、ポリエチレンイミン(PEI)を使用してHEK293細胞にベクターをトランスフェクトし、約7日後に細胞上清を収集した。抗ヒトネクチン-4キメラ抗体を、Mabselectを使用して取得した。
【0053】
抗体コードスキームを用いた包括的な分析に従って、各マウス抗体の重鎖及び軽鎖の6つの相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列、並びに保存された三次元立体構造を支持するフレームワーク領域を決定した。続いて、マウス抗体とほぼ似通ったヒト抗体の重鎖可変領域配列を既知のヒト抗体配列から検索し、例えばIGHV1|IGHJ4*01を選択した。その中のフレームワーク領域配列を鋳型として選択し、マウス抗体の重鎖CDRをヒト抗体のフレームワーク領域と組み合わせて、最終的にヒト化重鎖可変領域配列を作製した。同様にして、ヒト化軽鎖可変領域配列を作製した。結合活性の変化に応じて、フレームワーク領域における個々のアミノ酸が復帰突然変異に供されて、ヒトのものからマウスのものに変化し、及び/又は翻訳後修飾が行われる場合には個々のアミノ酸が修飾された。代替的なヒト化重鎖可変領域及びヒト化軽鎖可変領域を最終的に得た。
【0054】
ヒト化重鎖可変領域及びヒト化軽鎖可変領域をペアで組み合わせ、上記のキメラ抗体の調製方法を参照することによりヒト化抗体を得た。ヒトネクチン-4に対するin vitro細胞結合アッセイ、標的癌細胞におけるエンドサイトーシスアッセイ、標的癌細胞増殖阻害アッセイによるだけでなく、既知の薬物含有リンカーを用いてADCへと調製した際の抗体の抗原結合能力、細胞内移行活性、又は薬力学等を測定することを通じても、以下のヒト化抗体をスクリーニングした(CDRに下線を付した):
【0055】
42D20-hz63
VH(配列番号1、順次のCDR:配列番号11、配列番号12、配列番号13、CHOTHIAナンバリングスキームによる)
QVQLQESGPGLVKPSETLSLTCTVSGFSLIDYGVSWIRQPPGKGLEWIGVIWGGGKIYYNSVLKSRVTISKDNSKSQVSLKLSSVTAADTAVYYCAKQGGLLFYAMDYWGQGTLVTVSS
VL(配列番号2、順次のCDR:配列番号14、配列番号15、配列番号16、CHOTHIAナンバリングスキームによる)
DIVMTQSPDSLAVSLGERATINCKSSQSLLNTYSQKNYLAWYQQKPGQSPKLLIYFASTRESGVPDRFSGSGSETDFTLTISSLQAEDLAVYFCQQHYNTPFTFGAGTKLELK
【0056】
42D20-hz10:
VH(配列番号3、順次のCDR:配列番号11、配列番号17、配列番号13、CHOTHIAナンバリングスキームによる)
QVQLQESGPGLVKPSETLSLTCTVSGFSLIDYGVSWIRQPPGKGLEWIGVIWGDGKIYYNSVLKSRVTISKDNSKSQVSLKLSSVTAADTAVYYCAKQGGLLFYAMDYWGQGTLVTVSS
VL(配列番号4、順次のCDR:配列番号18、配列番号15、配列番号16、CHOTHIAナンバリングスキームによる)
DIVMTQSPDSLAVSLGERATINCKSSQSLLNSYSQKNYLAWYQQKPGQPPKLLIYFASTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCQQHYNTPFTFGAGTKLELK
【0057】
hH2L1:
VH(配列番号5、順次のCDR:配列番号19、配列番号20、配列番号13、KABATナンバリングスキームによる)
EVQLQESGPGLVKPSETLSLTCTVSGFSLIDYGVSWIRQPPGKGLEWIGVIWGGGKIYYNSVLKSRVTISKDNSKSQVSLKLSSVTAADTAVYYCAKQGGLLFYAMDYWGQGTLVTVSS
VL(配列番号6、順次のCDR:配列番号14、配列番号15、配列番号16、KABATナンバリングスキームによる)
DIVMTQSPDSLAVSLGERATINCKSSQSLLNTYSQKNYLAWYQQKPGQPPKLLIYFASTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCQQHYNTPFTFGGGTKVEIK
【0058】
hL2H1mut1:
VH(配列番号7、順次のCDR:配列番号19、配列番号20、配列番号13、KABATナンバリングスキームによる)
EVQLQESGPGLVKPSETLSLTCTVSGFSLIDYGVSWIRQPPGKGLEWIGVIWGGGKIYYNSVLKSRVTISVDTSKNQFSLKLSSVTAADTAVYYCAKQGGLLFYAMDYWGQGTLVTVSS
VL(配列番号8、順次のCDR:配列番号14、配列番号15、配列番号16、KABATナンバリングスキームによる)
DIVMTQSPDSLAVSLGERATINCKSSQSLLNTYSQKNYLAWYQQKPGQSPKLLIYFASTRESGVPDRFSGSGSETDFTLTISSLQAEDLAVYFCQQHYNTPFTFGGGTKVEIK
【0059】
実施例群2 抗体薬物コンジュゲートの調製及び物理化学的特性評価
実例となる実験に以下の方法を使用する:
2.1 薬物含有リンカーC-1、C-2、C-3、及びC-4の調製
【化34】
【化35】
【化36】
【化37】
【0060】
国際公開第2018/095422号に開示された方法を使用して化合物を合成し、全ての生成物は黄色の固体であった。LC-MS(ESI)M+1:それぞれ、1927(C-1)、1987(C-2)、1963(C-3)、及び1995(C-4)。
【0061】
薬物含有リンカーMC-VC-MMAEをMCE(MedChemExpress)から購入した。
【化38】
【0062】
2.2 部位特異的にコンジュゲートされた抗体薬物コンジュゲートの調製
【化39】
【0063】
抗体薬物コンジュゲートを調製する方法は、中国特許出願第202011046911.X号に記載される通りであり、抗体を還元してジスルフィド結合を切断することと、還元された抗体を薬物含有リンカーとコンジュゲートさせて抗体薬物コンジュゲートを形成することと、抗体薬物コンジュゲートに含まれるマレイミド環を、加水分解を介して開環することと、得られた生成物を精製して、4のDARを有する抗体薬物コンジュゲートを得ることとを含むものであった(中国特許出願第202011046911.X号の内容は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす)。
【0064】
使用される例示的な方法は詳細には以下の通りである:
【0065】
試料の還元及びコンジュゲーション:抗体を含む試料を、Sephadex G-25を充填したNAP-25脱塩カラムを用いて、50mMの塩化ナトリウム及び50mMのリン酸水素二ナトリウム-リン酸二水素ナトリウムからなる緩衝液(pH7.4)中へと置き換え、抗体濃度を10mg/mLに希釈した。10mLの希釈された抗体試料(合計100mg)を取り、これに10mg/mLの濃度のTCEP(Sigma-Aldrich)の水溶液を10:1(還元剤:抗体)の当量モル比で加えた。2時間インキュベートした後、反応溶液を、Sephadex G-25脱塩カラムを用いて、50mMのNaCl及び50mMのリン酸水素二ナトリウム-リン酸二水素ナトリウムからなる緩衝液(pH7.0)中への緩衝液交換に供した。
【0066】
還元された抗体を緩衝液中で5mg/mLに希釈し、その中に総反応容量の7.4%を占める1.33mLのN,N-ジメチルアセトアミド(DMA、前溶媒として)及びDMA中の薬物含有リンカーの溶液(10mg/mL)を5.5:1(薬物:抗体)の当量モル比で順次加えた。反応物を室温で60分間撹拌した後に、Sephadex G-25を充填したNAP-25脱塩カラムを用いて、リン酸水素二ナトリウム-リン酸二水素ナトリウムからなる緩衝液(pH8.0)中への緩衝液交換に供して、過剰な薬物含有リンカーを除去した。得られた溶液を水浴中で37℃にて3時間加熱した。水浴中での加熱の前後に、溶液を採取して、質量分析法を使用してその中に含まれるコンジュゲート生成物の構造を分析した。様々なコンジュゲート生成物の分析結果によれば、水浴中で加熱する前にコンジュゲート生成物は式Iaにより表される構造であったのに対し、水浴中で加熱した後にはコンジュゲート生成物について式Ibにより表される完全に開環した構造が得られた、すなわちこれらが100%加水分解されたことが明らかになった。
【0067】
試料の精製:上記の溶液を、AMICOM限外濾過遠心分離チューブを使用して、約15mg/mLの濃度まで濃縮した。50mMのリン酸水素二ナトリウム-リン酸二水素ナトリウム及び3Mのリン酸アンモニウムからなる緩衝液を溶液へと加えて、74ms/cmの導電率を達成した。次いで、これを、相A:50mMのリン酸水素二ナトリウム-リン酸二水素ナトリウム及び0.45Mの硫酸アンモニウムからなる緩衝液、相B:50mMのリン酸水素二ナトリウム-リン酸二水素ナトリウムからなる緩衝液を使用して、Butyl-Sepharose 4 FF(GE Healthcareから購入した)を充填した疎水性カラムに適用した。0%→80%の相Bでの12カラム容量の線形グラジエント溶離及び100%の相Bでの均一濃度グラジエント溶離を行い、主ピークを収集した。
【0068】
得られた最終試料を、AMICOM限外濾過遠心分離チューブを使用して、50mMのリン酸水素二ナトリウム-リン酸二水素ナトリウムからなる緩衝液(pH7.4)中への緩衝液交換に供した後に、これを0.22μmフィルター(Sartorius stedimのMinistart)を通して濾過した。
【0069】
実際の反応規模が1g以上である場合、Sephadex G-25を充填したNAP-25脱塩カラム及びAMICOM限外濾過遠心分離チューブを、反応で使用された当量比を変更せずにHYDRO-30kD(Sartorius)限外濾過膜に交換した。他の主要なパラメーターも変更しなかった。
【0070】
2.3 部位特異的にコンジュゲートされた抗体薬物コンジュゲートの物理化学的特性評価
a.薬物対抗体比(UV-DAR法)及び濃度を決定するのに使用される紫外分光光度法
抗体薬物コンジュゲートの濃度は、280nmでのUV吸光度及び小分子に特徴的な吸収波長を測定し、以下の通りに計算することによって得ることができる。
【0071】
a1.ランダムにコンジュゲートされたADCの薬物対抗体比(DAR)の決定
これは、文献(Clin Cancer Res. 2004 Oct 15; 10(20): 7063-70)から、DAR(薬物対抗体比)=
(式中、
は、280nmでの抗体のモル吸光係数であり、A
280は、280nmでの抗体を含む抗体薬物コンジュゲートのUV吸光度であり、A
248は、抗体薬物コンジュゲート中の薬物含有リンカーに特徴的な吸収波長である248nmでの抗体薬物コンジュゲートのUV吸光度であり、
は、薬物含有リンカーに特徴的な吸収波長である248nmでの抗体のモル吸光係数であり、
は、248nmでの薬物含有リンカーのモル吸光係数であり、かつ
は、280nmでの薬物含有リンカーのモル吸光係数である)であることが知られており、以下の通りである:
【0072】
【0073】
a2.部位特異的にコンジュゲートされたADCの薬物対抗体比(DAR)の決定
これは、文献(Clin Cancer Res. 2004 Oct 15; 10(20): 7063-70)から、DAR(薬物対抗体比)=
(式中、
は、280nmでの抗体のモル吸光係数であり、A
280は、280nmでの抗体を含む抗体薬物コンジュゲートのUV吸光度であり、A
251は、抗体薬物コンジュゲート中の薬物含有リンカーに特徴的な吸収波長である251nmでの抗体薬物コンジュゲートのUV吸光度であり、
は、薬物含有リンカーに特徴的な吸収波長である251nmでの抗体のモル吸光係数であり、
は、251nmでの薬物含有リンカーのモル吸光係数であり、かつ
は、280nmでの薬物含有リンカーのモル吸光係数である)であることが知られており、以下の通りである:
【0074】
【0075】
a3.ADCの濃度の決定
或る特定の波長での総吸光度は、系内に存在する全ての吸収性化学種の吸光度の合計に等しいため(吸光度の相加的性質)、ADCに含まれる抗体及び薬物含有リンカーのモル吸光係数が、抗体と薬物含有リンカーとのコンジュゲーションの前後に変化しない場合、そのときのADCの濃度は以下の関係に従うと仮定される:
【0076】
したがって、抗体薬物コンジュゲートのモル濃度(mol/L)は、
である。
【0077】
したがって、抗体薬物コンジュゲートの濃度(g/L)は、
(式中、MW
ADCは、抗体薬物コンジュゲートの分子量であり、MW
abは、抗体の分子量であり、MW
Dは、薬物含有リンカーの分子量であり、DAR値を式に代入することによりタンパク質濃度を得ることができる)である。
【0078】
b-1.部位特異的にコンジュゲートされた抗体薬物コンジュゲートのDAR値を決定するのに使用される疎水性クロマトグラフィー(HIC-HPLC)
試料の準備:試料を移動相Bで2.0mg/mLに希釈した後に、12000rpmで10分間遠心分離し、得られた上清をHPLC分析用に採取した。
【0079】
クロマトグラフィーカラム:Sepax Proteomix HIC Butyl-NP5、5μm、4.6mm×35mm、
移動相A:0.025Mのリン酸塩+1.2Mの硫酸アンモニウム(pH7.0)、
移動相B:0.025Mのリン酸塩(pH7.0)、
移動相C:100%のIPA、
流速:0.8mL/分、
検出波長:280nm、
カラム温度:30℃、
ローディング容量:20μL。
【0080】
【0081】
DARについての計算式:
DAR=Σ(加重ピーク面積)/100、すなわち、DAR=(D0ピーク面積比×0+D1ピーク面積比×1+D2ピーク面積比×2+D3ピーク面積比×3+D4ピーク面積比×4+D5ピーク面積比×5+D6ピーク面積比×6+D7ピーク面積比×7+D8ピーク面積比×8)/100。
【0082】
b-2.ランダムにコンジュゲートされた抗体薬物コンジュゲートのDAR値を決定するのに使用される疎水性クロマトグラフィー(HIC-HPLC)
試料の準備:試料を移動相Bで2.0mg/mLに希釈した後に、12000rpmで10分間遠心分離し、得られた上清をHPLC分析用に採取した。
【0083】
クロマトグラフィーカラム:東ソー株式会社、Butyl NPR、2.5μm、4.6mm×100mm、
移動相A:125mMのリン酸塩+2.5Mの硫酸アンモニウム(pH6.8)、
移動相B:125mMのリン酸塩(pH6.8)、
移動相C:100%のIPA、
移動相D:H2O、
流速:0.7mL/分、
検出波長:280nm、
カラム温度:30℃、
ローディング容量:10μL。
【0084】
【0085】
DARについての計算式:
DAR=Σ(加重ピーク面積)/100、すなわち、DAR=(D0ピーク面積比×0+D1ピーク面積比×1+D2ピーク面積比×2+D3ピーク面積比×3+D4ピーク面積比×4+D5ピーク面積比×5+D6ピーク面積比×6+D7ピーク面積比×7+D8ピーク面積比×8)/100。
【0086】
c.DAR値を決定するのに使用される質量分析法(LC-MS)
試料の準備:適量の試料を限外濾過チューブに入れ、これを50mMのNH4HCO3からなる緩衝液(pH7.1)中への緩衝液交換に供した。緩衝液を補充したら、得られた試料を限外濾過遠心分離(13000g×5分)に供した。8μLのPNGアーゼFを試料中に添加し、これを更に37℃で5時間インキュベートして脱糖した。インキュベートした後に、試料を12000rpmで5分間遠心分離し、得られた上清を後の試験用の試験試料として試料バイアル中に添加した。
【0087】
クロマトグラフィーカラム:PolyLC(商標)PolyHYDROXYETHYLAカラム、300Å、5μm、2.1mm×200mm、
移動相:50mMの酢酸アンモニウム(pH7.0)、
溶出時間:10分、
流速:0.1mL/分、
ローディング容量:2μL、
カラム温度:25℃、
検出波長:280nm、
イオン化モード:ESIポジティブ、
乾燥ガス温度:325℃、
乾燥ガス流速:8L/分、
アトマイザー圧力:20psig、
シースガス温度:325℃、
シースガス流速:12L/分、
スキャン設定:900m/z~8000m/z。
【0088】
d.分子の分子サイズの不均一性を決定するのに使用されるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC-HPLC)
試料の準備:試料を移動相で1.0mg/mLに希釈した後に、12000rpmで10分間遠心分離し、得られた上清を分析用に採取した。
【0089】
クロマトグラフィーカラム:東ソー株式会社、TSKgel G3000SWXL、5μm、7.8mm×300mm、
移動相:100mMのリン酸塩+200mMのアルギニン塩酸塩、5%のイソプロパノール(pH6.8)、
流速:0.6mL/分、
検出波長:280nm、
カラム温度:30℃、
ローディング容量:20μL、
溶離時間:25分、
溶離グラジエント:均一濃度溶離。
【0090】
e.非還元キャピラリー電気泳動-ドデシル硫酸ナトリウム(NR-CE-SDS)による純度の決定
この決定は、中国薬局方の第IV部の総則3127に記載される「モノクローナル抗体の分子サイズ変異体の決定(Determination of molecular size variants of monoclonal antibodies)」の方法に従って行った。
【0091】
実施例1 ネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲートの調製及び物理化学的分析
抗ネクチン-4抗体Ref(WHO Drug Informationにおいて提供されるエンホルツマブの配列を参照して調製した)、42D20-hz63、42D20-hz10、hH2L1、hH1L2mut1、及び無関係のIgG1(Bio-Rad Antibodies、カタログ番号:MCA928)(各100mg)を、本実施例群2におけるセクション2.2に記載されるように、薬物含有リンカーC-1及びC-3とそれぞれコンジュゲートさせ、部位特異的にコンジュゲートされたADCの1a、1b、1c、1d、1e、1f及び2a、2b、2c、2d、2eを得た。
【0092】
本実施例群2におけるセクション2.2に記載されるように、中国特許出願第202011046911.X号に記載される抗体薬物コンジュゲートの調製方法を使用して、抗ネクチン-4抗体hH2L1を、薬物含有リンカーC-3と大規模にコンジュゲートさせ、ADCの3dを得た。
【0093】
米国特許出願公開第2009/0010945号に記載される方法を使用して、抗ネクチン-4抗体の42D20-hz63、42D20-hz10、及びIgG1(各100mg)、並びにRef、hH2L1、及びhH1L2mut1(各500mg)を、薬物含有リンカーMC-VC-MMAEとコンジュゲートさせ、ランダムにコンジュゲートされたADCの4a、4b、4c、4d、4e、及び4fを得た。
【0094】
得られた部位特異的にコンジュゲートされたADC及びランダムにコンジュゲートされたADCの物理化学的特性を、本実施例群2におけるセクション2.3a、2.3b-1、2.3b-2、2.3d、並びに2.3c、及び2.3eに記載されるように決定した。結果を第1表~第3表及び
図1にそれぞれ示す。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
質量分析法により測定された分子量によって、加水分解前の試料には、式Ia及び式Ibにより表される構造を有する化合物の混合物が含まれているのに対し、加水分解後の試料には、マレイミド環の完全な開環によって得られる式Ibにより表される構造を有する化合物のみが含まれていることが明らかになった。
【0099】
実施例群3 抗体薬物コンジュゲートのin vitro殺傷効果及びin vivo有効性の研究
実例となる実験に以下の方法を使用する:
【0100】
3.1 in vitro殺傷効果を研究する方法
この実験において、BT474細胞、すなわちヒト乳管癌細胞(ATCCから購入した)を利用した。BT474細胞の密度を、完全培地(45mLのRPMI 1640培地及び5mLのFBSを混合することによって調製した)中で1mL当たり1.5×104個に調整した。細胞を細胞培養プレートに1ウェル当たり100μLで加え、一晩培養した。翌日、ADC試料を上記の完全培地で50μg/mLに希釈し、続いて4倍の勾配希釈を行って、合計9通りの勾配に加えてゼロ濃度を得た。全ての試料を3つの反復ウェル用に調製した。ネガティブコントロール(細胞+培養培地)及びブランクコントロール(細胞なし、培養培地のみ)を用意した。希釈したADC試料を、一晩培養した細胞培養プレートに1ウェル当たり100μLで加えた。次いで、細胞プレートを細胞インキュベーター内で96時間インキュベートした。細胞培養プレートを取り出し、MTSを1ウェル当たり40μLでプレートへと加えた後に、これらを37℃のインキュベーター内で2時間~4時間インキュベートした。細胞プレートを取り出し、490nmでのOD値を読み取った。
【0101】
3.2 in vivo有効性を研究する方法
BT474細胞、すなわちヒト乳管癌細胞(ATCCから購入した)及びMDA-MB-468細胞、すなわちヒト乳癌細胞(ATCCから購入した)を利用してヌードマウス(BALB/cJGpt-Foxn 1nu/Gpt、4週齢~5週齢)にそれぞれ接種することで、マウスモデルを樹立した。腫瘍が100mm3~200mm3に成長したとき、マウスにそれぞれ1kg当たり10mLの容量で静脈内注射(IV)し、ビヒクル群のマウスには同容量のビヒクル(生理食塩水)を静脈内注射した。投与量及び投与スキームを以下で詳細に示す。腫瘍体積を1週間に2回測定し、マウスを秤量してデータを記録した。
【0102】
実験が終了したときに、実験のエンドポイントに達したときに、又は腫瘍体積が1500mm3に達したら、動物をCO2麻酔下で屠殺し、腫瘍を解剖して写真を撮った。
【0103】
3.3 in vivo有効性を評価する方法
この実験は、腫瘍成長に対するADCの影響を調べるものであり、特定の指数T/C(%)又は腫瘍成長阻害(TGI(%))を使用した。
【0104】
腫瘍直径を、ノギスを用いて1週間当たり2回測定し、腫瘍体積(V)を次のように計算した:V=1/2×a×b2(式中、a及びbは、それぞれ長さ及び幅である)。
【0105】
T/C(%)=(T-T0)/(C-C0)×100(式中、T及びCは、実験終了時の腫瘍体積であり、T0及びC0は、実験開始時の腫瘍体積である)。
【0106】
腫瘍成長阻害(TGI)(%)=100-T/C(%)。
【0107】
腫瘍退縮が起こった場合、腫瘍成長阻害(TGI)(%)=100-(T-T0)/T0×100である。
【0108】
腫瘍がその初期体積から縮小した場合、すなわちT<T0又はC<C0であった場合、部分腫瘍退縮(PR)を記録し、腫瘍が完全に消失した場合は、完全腫瘍退縮(CR)を記録した。
【0109】
実施例1 ネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲートのin vitro殺傷効果の研究
様々な薬物含有リンカーを様々な抗ネクチン-4抗体とコンジュゲートさせることによって生成されたADCを群分けし、本実施例群3におけるセクション3.1に記載されるように研究した。所見(founding)は以下の通りであった。
【0110】
様々な抗体をMC-VC-MMAEとコンジュゲートさせてADCを形成した場合、抗体hH2L1がコンジュゲートされたADCは、コントロール抗体Ref(エンホルツマブ)がコンジュゲートされたADCと同等のレベルのin vitro殺傷効果を示し、一方で、抗体42D20-hz10、42D20-hz63、及びhH1L2mut1がコンジュゲートされたADCよりも僅かに良好であった。さらに、ADCの2aと、1aと、2eとの間の比較により、化合物C-3及び化合物C-1が同等のin vivo活性を有することが明らかになった。結果を第4表に示す。
【0111】
【0112】
実施例2 ネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲートのin vivo有効性の研究(1)
マウスモデルを、BT474細胞を使用して樹立し、様々な薬物含有リンカーを様々な抗ネクチン-4抗体とコンジュゲートさせることによって生成されたADCを群分けし、本実施例群3におけるセクション3.2及びセクション3.3に記載されるように研究した。
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
実施例3 ネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲートのin vivo有効性の研究(2)
マウスモデルをMDA-MB-468細胞を使用して樹立し、様々な薬物含有リンカーを様々な抗ネクチン-4抗体とコンジュゲートさせることによって生成されたADCを群分けし、本実施例群3におけるセクション3.2及びセクション3.3に記載されるように研究した。
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
実施例群4 様々な腫瘍モデルにおける候補薬剤としての抗体薬物コンジュゲート3dの有効性の評価
実例となる実験に以下の方法を使用する:
【0121】
4.1 群分け及び実験設計
MDA-MB-468細胞、すなわちヒト乳癌細胞(ATCCから購入した)、NCI-H322細胞、すなわち肺癌細胞(ATCCから購入した)、及びT24/ネクチン-4、すなわち膀胱癌細胞(中国科学院の細胞バンクから入手可能)をそれぞれ利用してヌードマウス(BALB/cJGpt-Foxn1nu/Gpt、4週齢~5週齢)に接種して、マウスモデルを樹立した。
【0122】
抗体薬物コンジュゲート3d及びコントロール薬物PADCVE(エンホルツマブベドチン、Seattle Genticsから購入した)を群分けして研究した(以下の第9表に示す)。マウスにそれぞれ1kg当たり10mLの容量で静脈内注射(IV)し、ビヒクル群のマウスには同容量のビヒクル(生理食塩水)を静脈内注射した。投与量及び投与スキームを第9表において詳細に示す。腫瘍体積を1週間に2回測定し、マウスを秤量してデータを記録した。
【0123】
実験が終了したときに、実験のエンドポイントに達したときに、又は腫瘍体積が1500mm3に達したら、動物をCO2麻酔下で屠殺し、腫瘍を解剖して写真を撮った。
【0124】
【0125】
4.2 in vivo有効性を評価する方法
in vivo有効性を評価する方法は、実施例群3におけるセクション3.3に記載されるものと同じとした。
【0126】
実施例1 乳癌動物モデルにおけるネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲートのin vivo有効性の研究
マウスモデルをMDA-MB-468細胞を使用して樹立し、ADCの3d及びPADCVEを群分けし、本実施例群4におけるセクション4.1及びセクション4.2に記載されるように研究した。結果を
図4及び第10表に示す。
【0127】
【0128】
実施例2 肺癌動物モデルにおけるネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲートのin vivo有効性の研究
マウスモデルをNCI-H322細胞を使用して樹立し、ADCの3d及びPADCVEを群分けし、本実施例群4におけるセクション4.1及びセクション4.2に記載されるように研究した。結果を
図5及び第11表に示す。
【0129】
【0130】
実施例3 膀胱癌動物モデルにおけるネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲートのin vivo有効性の研究
マウスモデルをT24/ネクチン-4細胞を使用して樹立し、ADCの3d及びPADCVEを群分けし、本実施例群4におけるセクション4.1及びセクション4.2に記載されるように研究した。結果を
図6及び第12表に示す。
【0131】
【0132】
実施例群5 抗体薬物コンジュゲートの機能の評価
実施例1 ネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲートのFab領域の親和性の分析
BIAcoreアッセイを使用して、抗原、すなわちヒトネクチン-4タンパク質の組換え細胞外ドメインに対する抗体薬物コンジュゲート3d及びPadcevの親和性を求めた。
【0133】
ヒトネクチン-4タンパク質(Novoprotein Scientific Inc.から購入した)を、脱塩カラムを用いて、ランニング試薬1(10mMのN-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N-2スルホン酸、150mMの塩化ナトリウム、3mMのエチレンジアミン四酢酸、0.005%のTween-20、pHを7.4に調整した)を使用して緩衝液交換に供した。検出対象の試料をランニング試薬1で5μg/mLに希釈し、約400RUについて10μg/分の流速でHis捕捉チップを備えた実験流路に順次注入した。参照流路にはリガンドの捕捉は必要とされなかった。ヒトネクチン-4タンパク質を、対応するランニング試薬で50nM、25nM、12.5nM、6.25nM、3.125nM、1.563nM、0.781nM、0.391nM、及び0nMに希釈した後に、希釈したヒトネクチン-4タンパク質を30μL/分の流速で実験流路及び参照流路へと注入した。会合時間及び解離時間はそれぞれ120秒及び300秒とした。Biocore 8K分析ソフトウェアを使用して、各抗体についてのKD値を計算した。参照流路を使用してバックグラウンドの減算を行った。
【0134】
ヒトネクチン-4に対するhH2L1、3d、及びPadcevの親和性の検出結果を第13表に示す。これらの結果により、ヒトネクチン-4に対するhH2L1、3d、及びPadcevの親和性(KD)が全てナノモル規模であるとともに、バッチ間の一貫性が良好であることが明らかになった。hH2L1の親和性は基本的にADCの3dの親和性と一致していたことから、ADCを調製するコンジュゲーション過程が抗体のネクチン-4への結合に大きな影響を及ぼさないことが示され、また、Padcevは、ADCの3dよりも高い会合速度定数(ka)及び解離速度定数(kd)の両方を有したため、ADCの3dは全体として、Padcevよりも約2倍高いPadcevよりも良好な親和性を示した。
【0135】
【0136】
実施例2 ネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲートのFc領域の分析
BIAcoreアッセイを使用して、FcRn、ヒトFcγR I(CD64)、ヒトFcγR IIa(ヒトCD32a(H167))、ヒトFcγR IIb(ヒトCD32b)、及びヒトFcγR IIIa(ヒトCD16a(V176))を含むFc受容体に対する抗体hH2L1、並びに抗体薬物コンジュゲートの3d及びPadcevの親和性を求めた。ヒトのFcγR I(CD64)、FcγR IIa(CD32a(H167))、FcγR IIb(CD32b)、及びFcγR IIIa(CD16a(V176))のタンパク質を、ランニング試薬1(10mMのN-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N-2スルホン酸、150mMの塩化ナトリウム、3mMのエチレンジアミン四酢酸、0.005%のTween-20、pHを7.4に調整した)で0.25μg/mLに希釈し、FcRnタンパク質をランニング試薬2(2mMのリン酸二水素ナトリウム、10mMのリン酸水素二ナトリウム、137mMの塩化ナトリウム、2.7mMの塩化カリウム、0.05%のtween-20、pHを6.0に調整した)で0.25μg/mLに希釈し、全ての希釈したタンパク質を、約40RUについて10μg/分の流速でHis捕捉チップを備えた実験流路(FC2)に順次注入した。参照流路(FC1)にはリガンドの捕捉は必要なかった。検出対象の試料を対応するランニング試薬で希釈した後に、30μL/分の流速で実験流路及び参照流路に注入した。会合及び解離を或る特定の時間間隔にわたって監視した。Biocore 8K分析ソフトウェアを使用して、各抗体についてのKD値を計算した。参照流路(FC1)を使用してバックグラウンドの減算を行った。
【0137】
Fc受容体に対するhH2L1、3d、及びPadcevの親和性の検出結果を第14表に示す。これらの結果により、Fc受容体に対するhH2L1及び3dの4つのバッチの親和性がバッチ間の有意差を示さず、FcγR IIIaに対するADCの3d及びPadcevの1つのバッチの親和性はhH2L1の親和性より僅かに劣っており、また他の各受容体に対する3つのバッチの親和性には明らかな差異は見られないことが明らかになった。
【0138】
【0139】
実施例3 ネクチン-4を標的とする抗体薬物コンジュゲートの細胞内移行活性の研究
ネクチン-4を高発現する安定的にトランスフェクトされた細胞株PC-3-Nectin4(2-4)(自作)を標的細胞株として使用して、hH2L1、3d、及びPadcevの細胞内移行活性を検出した。
【0140】
実験方法は以下の通りとした:対数成長期にある標的細胞を遠心分離により採取し、完全培地(10%のFBS及び250μg/mlのG418を含むF-12K培地)中で1ml当たり5×105個の細胞の密度に調整した。1mLの得られた細胞懸濁液(すなわちそれぞれ5×105個の細胞)をEPチューブにピペットで移した後に、これらを遠心分離した。上清を廃棄し、細胞をPBSで2回洗浄した。hH2L1、3d、及びPadcevのそれぞれの200μLの試料を細胞に添加した後に、これらをそれぞれ4℃(コントロール群として)及び37℃(実験群として)に置いた。2時間インキュベートした後、蛍光標識された二次抗体であるヤギ抗ヒトIgG Fc-FITC(Sigmaから購入した)を添加し、4℃で1時間インキュベートした。インキュベートした後、フローサイトメーターを用いて蛍光強度を測定し、以下の式により各試料の細胞内移行効率を計算した:時点txでの細胞内移行のパーセント=(1-37℃での試料の蛍光強度)/4℃での試料の蛍光強度)×100%(txは、試料を細胞とともにインキュベートした期間xである)。
【0141】
この結果により、比較的高レベルの標的タンパク質ネクチン-4がPC-3-Nectin4(2-4)細胞の表面に発現され、これに対して対象となるADC、裸の抗体、及びPadcevの全てが、無関係な抗体と比較してかなり強力なネクチン-4に対する結合能力を示すことが明らかになった。得られた結果から、ADCの3d及びADCのストック溶液の3つのバッチの細胞内移行活性と、Padcevの細胞内移行活性との間に有意差は見られなかった。
【0142】
結果を第15表に示す。
【0143】
【0144】
本開示の実施形態に関する以上の説明は、本開示を限定することを意図するものではなく、当業者は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で本開示に種々の変更及び修正を加えることができ、これは添付の特許請求の範囲に含まれるべきである。
【配列表】
【国際調査報告】