(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】可変投与量治療薬ディスペンサ
(51)【国際特許分類】
A61M 5/178 20060101AFI20240416BHJP
A61M 39/10 20060101ALI20240416BHJP
A61M 5/145 20060101ALI20240416BHJP
A61M 5/19 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
A61M5/178 500
A61M39/10 120
A61M5/145
A61M5/19
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566954
(86)(22)【出願日】2022-04-29
(85)【翻訳文提出日】2023-12-14
(86)【国際出願番号】 GB2022051102
(87)【国際公開番号】W WO2022229660
(87)【国際公開日】2022-11-03
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523408204
【氏名又は名称】ニューロチェイス テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】ギル,スティーヴン ストレトフィールド
(72)【発明者】
【氏名】ギル,トーマス
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD07
4C066EE14
4C066FF06
4C066GG06
4C066GG13
4C066GG19
4C066HH02
4C066HH14
4C066JJ02
4C066JJ03
4C066KK06
4C066LL23
4C066MM04
4C066MM09
4C066QQ27
4C066QQ79
(57)【要約】
医学的治療および診断で用いられる可変容量流体ディスペンサ(10)は、基端(16)および先端(14)を有する管状本体(12)を含む。各端は流体コネクタ(18、26)を含み、管状本体(12)は内部容量を画定する。ピストン(30)は、内部容量内に配置され、管状本体(12)の内部容量内に流体および気体のシールを形成し、流体コネクタ(18、26)を介した変位流体の作用下で基端(16)と先端(14)の間を軸方向に移動するように構成される。先端に対するピストン(30)の位置によって、分注される流体の容量が決まる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医学的治療および診断で用いられる可変容量流体のディスペンサであって、
基端および先端を備える管状本体であって、前記基端と前記先端との間に内部容量を画定する管状本体と、
前記基端および前記先端にそれぞれある流体コネクタと、
前記内部容量内に位置するピストンであって、前記流体コネクタを介した流体変位の作用下で前記基端と前記先端との間で軸方向に移動するように構成され、前記先端に対する前記ピストンの位置が分注される流体の容量を規定するピストンと、
を備える可変容量流体のディスペンサ。
【請求項2】
前記ピストンは、前記内部容量を基端容量と先端容量とに分割するように動作可能であり、分注流体の量は、前記内部容量の容量よりも少なく、前記先端容量に含まれる請求項1に記載のディスペンサ。
【請求項3】
前記管状本体は、硬質の薬理学的に不活性な材料から形成されている請求項1または2に記載のディスペンサ。
【請求項4】
前記管状本体はガラスからなる請求項1~3のいずれか1つに記載のディスペンサ。
【請求項5】
前記管状本体はホウケイ酸ガラスからなる請求項4に記載のディスペンサ。
【請求項6】
前記管状本体はプラスチックからなる請求項1~3のいずれか1つに記載のディスペンサ。
【請求項7】
前記管状本体は、実験室グレードのポリプロピレンおよび/またはポリエチレンの樹脂からなる請求項6に記載のディスペンサ。
【請求項8】
一方または両方の前記流体コネクタは中空針を含む請求項1~7のいずれか1つに記載のディスペンサ。
【請求項9】
一方または両方の前記流体コネクタは、中空針によって突き刺すことが可能なシールを備える請求項1~8のいずれか1つに記載のディスペンサ。
【請求項10】
一方または両方の前記流体コネクタは、流体の流れを促進するために開くことが可能な分割シールを備える請求項1~7のいずれか1つに記載のディスペンサ。
【請求項11】
一方または両方の前記流体コネクタはバルブを備え、前記バルブは、作動相互接続部材への接続によって開く/作動する請求項1~7のいずれか1つに記載のディスペンサ。
【請求項12】
前記バルブは機械式バルブであり、前記機械式バルブは、流体の流れを可能にするために物理的な作動を必要とする請求項11に記載のディスペンサ。
【請求項13】
前記バルブは感圧バルブであり、前記感圧バルブは、流体が流れると開き、流体の流れが停止すると閉じるように動作可能である請求項11に記載のディスペンサ。
【請求項14】
一方または両方の前記流体コネクタは無針コネクタを備える請求項1~7のいずれか1つに記載のディスペンサ。
【請求項15】
一方または両方の前記流体コネクタは、取り外し可能なキャップをさらに備える請求項1~14のいずれか1つに記載のディスペンサ。
【請求項16】
前記基端の前記流体コネクタは、中空針によって突き刺すことが可能な隔壁ストッパを備える請求項1~15のいずれか1つに記載のディスペンサ。
【請求項17】
前記先端の前記流体コネクタは、中空針を組み込んだ接続部材を備え、前記中空針は、前記ディスペンサが接続される装置に設けられる突き刺し可能な相互接続部材を突き刺すように構成される請求項1~16のいずれか1つに記載のディスペンサ。
【請求項18】
前記基端の接続部材はルアーフィッティングであり、前記ルアーフィッティングは、相互ルアーフィッティングと接続するように構成される請求項1~7のいずれか1つに記載のディスペンサ。
【請求項19】
前記先端の接続部材はルアーフィッティングであり、前記ルアーフィッティングは、相互ルアーフィッティングと接続するように構成される請求項1~7のいずれかに記載のディスペンサ。
【請求項20】
前記管状本体の少なくとも軸方向部分は、透明であり、前記ピストンの先端の位置を示すマーキングを内部または外部に含み、それによって前記管状本体内に含まれる流体の流量を示す請求項1~19のいずれか1つに記載のディスペンサ。
【請求項21】
前記マーキングは、目盛りマークを含む校正されたスケールを含む請求項20に記載のディスペンサ。
【請求項22】
前記ピストンは、前記管状本体の内部容量内に流体および気体のシールを形成するように動作可能な外周シール部材を含む請求項1~21のいずれか1つに記載のディスペンサ。
【請求項23】
前記外周シール部材は、1つまたは複数の接触面を含む請求項22に記載のディスペンサ。
【請求項24】
流体が前記ピストンの先端面または基端面に作用するときに、前記ディスペンサの内面に対する前記ピストンの動きが低抵抗で自由であるように、前記外周シールは低摩擦特性を有するように構成される請求項22または23に記載のディスペンサ。
【請求項25】
前記外周シールの少なくとも外面はガラスを含む請求項24に記載のディスペンサ。
【請求項26】
前記外周シールの少なくとも外面はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む請求項24に記載のディスペンサ。
【請求項27】
前記外周シールの少なくとも外面はシリコンを含む請求項24に記載のディスペンサ。
【請求項28】
前記外周シールの少なくとも外面はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を含む請求項24に記載のディスペンサ。
【請求項29】
前記先端の前記流体コネクタに接続するためのカニューレをさらに備える請求項1~28のいずれか1つに記載のディスペンサ。
【請求項30】
前記カニューレは、気体および/または微生物が前記カニューレに進入するのを防ぐように構成される隔壁シールコネクタを備える請求項29に記載の神経外科装置。
【請求項31】
前記隔壁シールコネクタは、エアギャップによって分離される第1膜および第2膜を備え、前記第1膜は疎水性であり、前記第2膜は親水性である請求項30に記載の神経外科装置。
【請求項32】
請求項1~31のいずれか1つに記載の可変容量流体のディスペンサの分注チャンバに充填する方法であって、
前記内部容量を脱気し、前記基端の流体コネクタを介して前記内部容量を不活性流体でプライミングし、前記内部容量が前記不活性流体で充填されて前記ピストンが前記先端に当接するまで前記ピストンが前記不活性流体によって軸方向に駆動されるステップと、
流体の容器を前記先端に取り付け、抽出器を前記基端に取り付けるステップと、
前記内部容量から不活性流体を抽出すると同時に、前記容器から所定量の流体を先端容量内に引き込むことにより、分注すべき規定量の流体で前記先端容量を充填するステップと、
前記抽出器および流体の前記容器をそれぞれ前記基端および前記先端から切り離すステップを備える方法。
【請求項33】
前記先端および前記基端の一方または両方に輸送用キャップを取り付けることにより、前記可変容量流体のディスペンサの流体内容物を気密シールすることをさらに含む請求項32に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療装置に関し、特に、注入液および/または治療薬などの規定量の流体を貯留するための装置および関連する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療行為には、診断と治療の両方の目的で、正確な容量の流体を体内に注入することが含まれる。投与経路には、静脈内、動脈内、腹膜内、筋肉内、硝子体内、腫瘍内、嚢胞内、くも膜下腔内、脳室内、および対流強化送達(CED)と呼ばれる技術を介した脳実質内への投与が含まれるが、これらに限定されない。
【0003】
これらの経路を介して送達される病気の診断とモニタリングのために注入される薬剤を含む流体には、磁気共鳴画像法(MRI)、X線、およびX線コンピュータ断層撮影(CT)用の放射線不透過性造影剤、単一光子放出コンピュータ断層撮影法(SPECT)および陽電子放射断層撮影法(PET)で使用される放射性同位体、および色素が含まれるが、これらに限定されない。
【0004】
これらの経路を介して注入される治療薬を運ぶ流体は、これらに限定されないが、化学治療薬、抗生物質、酵素、ニューロトロフィン、遺伝子治療薬、SiRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチド、酵素、免疫調節治療薬(モノクローナル抗体やキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)治療薬など)、オージェ電子放出体、免疫毒素、分子標的治療薬、モノクローナル抗体、腫瘍溶解性ウイルス、ナノ粒子、ボツリヌス毒素が含まれる。これらの治療薬の一部は、患者にとっても、治療の準備に携わる臨床スタッフにとっても潜在的に危険な場合があり得る。さらに、これらの治療薬の多くは非常に高価である。
【0005】
上記の投与経路の1つまたは複数を介してこれらの薬剤を注入することによる治療が可能な病状は広範囲に及びうる。そのような病状の例には、感染症、悪性疾患、代謝疾患、自己免疫疾患、リウマチ疾患、酵素欠乏疾患、神経疾患が含まれる。
【0006】
神経疾患の治療の成功は、全身投与される場合、中枢神経系への治療法のアクセスが制限されることによって損なわれてきた。これは血液脳関門(BBB)の存在によるものである。それにもかかわらず、たとえ全身的に送達される治療薬によってBBBを自由に通過できたとしても、多くの潜在的な治療薬の遍在的効果が重大な毒性を引き起こす可能性がある。したがって、多くの神経疾患の治療を成功させるには、中枢神経系(CNS)の病理学的変化量に限定された薬剤の有効な治療用量を送達する手段が必要である。
【0007】
CED法を使用すると、臨床的に意味のある脳領域への治療薬の直接送達を実現できる。CED法を使用すると、ウイルスベクター、タンパク質、または化学治療薬を含む薬物などの治療薬を含む流体が、慎重に配置されたマイクロカニューレを通して慎重に制御された流速で注入され、限定された脳標的全体にバルクフローによって治療薬が均一に運ばれる。治療薬/注入液は組織内の細胞外空間を通って進み、細胞外液と置き換わりえる。細胞外液は脳容量の約20%を構成するため、注入量あたりの分布容量は約5/1になりえる。CEDによって送達された用量は、BBBが治療薬/注入液を保持するように作用して長い曝露時間を与え、全身曝露があったとしても無視できるようになる標的量、において厳密に制御することができる。
【0008】
CED法を使用して脳実質への治療薬/注入液の直接注入によって潜在的に治療され得る神経疾患には、神経変性疾患、酵素欠損状態、神経炎症性疾患、神経腫瘍学的疾患および後天性神経学的損傷が含まれる。治療する特定の病状に応じて、個人の脳内の複数の標的領域への注入が必要になる場合がありえる。たとえば、ハンチントン病患者を遺伝子治療薬で治療する場合、患者の尾状核と被殻容量が標的となりえる。通常、各尾状核に1本のカニューレが送達され、各被殻を満たすには2本のカニューレが必要になりえる。したがって、合計6本のカニューレが必要になりえる。ハンチントン病患者の治療に必要な遺伝子治療薬の容量は、それぞれの核の大きさに応じて個人差があり、さらに脳全体のサイズと受けた脳萎縮の程度によって異なりえる。したがって、個人の特定の標的を満たすための各カニューレの注入量を計算して処方する必要がある。
【0009】
皮質下の灰白質構造に注入される典型的な量は、カニューレあたり200~800μlの範囲であるが、脳全体をカバーする場合は大幅に多くなる場合がありえる。これらのより大きな量は、カニューレあたり3~5mlを送達できる広範囲の脳疾患や脳腫瘍の場合に必要となりえる。
【0010】
上で述べたように、幅広い病状に使用される治療薬は、多くの場合、危険であり、および/または高価である。これらの薬剤を患者に投与するための既存の技術では、多くの場合、医師または他の医療スタッフが、薬剤をシリンジに引き込み、患者の体内に留置されたカテーテルまたはカニューレに接続する前に注入ラインを通して治療薬を洗い流す必要がある。これは通常、病棟、または手術室などの関連する臨床空間で行われる。治療薬/注入液がCEDによって送達され、患者がMRIスキャナー内にある間に注入液の分布が監視される場合、関連するポンプを磁場から離す必要があるため、注入ラインの長さは2~3メートルである必要がある。シリンジは、適切な流量で規定量を送達するようにプログラムされたポンプに装填される。長い注入ラインの追従性は、ポンプがオンになったときのライン内の流体の最初の流れがラインの膨張、つまりラインの内容量の増加を引き起こすため、予測不可能な投与を引き起こす可能性がありえる。さらに、ポンプのスイッチがオフになると、ライン内の残留圧力がラインからのブリードアウトを引き起こし、それがしばらく続く可能性がありえる。注入の完了後、シリンジと注入ラインはカニューレまたはカテーテルから切り離され、危険廃棄物容器に廃棄される。
【0011】
この処置に関連するリスクには、スタッフや患者の危険な薬剤や治療薬への曝露、シリンジや長い注入ライン内の高価な薬剤や治療薬の無駄遣い、投与ミスなどが含まれる。これらのリスクは、複数のカニューレを介して同時に脳に治療を送達するための上記のような複雑な投与計画により増大し、各カニューレは異なる量の注入を必要とする可能性がある。
【0012】
国際公開第2013/117661号は、脳に治療液を送達するための装置の一例を提供する。この装置は、脳に挿入されるカニューレと、患者の頭蓋骨に直接固定される経皮的流体アクセス装置とを含む。アクセス装置には、治療薬を送達する外部シリンジポンプとカニューレを組み込んだ内部システムとの間の流体リンクを提供する外部コネクタ装置が組み込まれている。
【0013】
外部システムには、両端が隔壁でシールされた柔軟なプラスチックチューブで構成される流体貯留装置が含まれている。チューブの内径(内径寸法および長さ)は、内部容量および注入液の容量、すなわちチューブ内に含まれる治療薬の容量を表す。特定の治療用量が必要な場合、つまり選択されたチューブが必要な用量の注入液で満たされている場合に、適切なチューブを選択できるように、さまざまな治療用量、つまり固定容量セットを利用できるように、さまざまなチューブの長さが考慮される。注入液の送達が必要な場合は、中空針コネクタを備えた注入ラインを介して適切なチューブを介してシリンジ(不活性流体で事前にプライミングされている)に基端で接続でき、先端では両端中空針コネクタが固定容量注入ラインを、基端隔壁シールを含むカニューレに接続しえる。
【0014】
シリンジは注入ポンプに接続されており、注入ポンプは、不活性流体を固定容量延長ラインを通して移動させることにより、規定用量の治療薬をカニューレ内に移動させて対流により脳組織に送達し、それによって残留治療のカニューレのデッドスペースを洗い流す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このシステムの欠点は、特定の脳領域への治療薬の送達に非常にばらつきがあり、上記のように個人の脳のサイズ、より具体的には個々の脳核のサイズと形状に依存することである。特に遺伝子治療薬の場合、オフターゲットトランスフェクションや長期的な副作用の発生を防ぐために、非常に正確な投与が必要となる場合がありえる。例えば、±20μlの容量差が望ましい場合があり、これらの容量差に対応するために必要な数の固定容量セット(国際公開第2013/117661号に記載)により、記載された方法は非実用的となる。
【0016】
国際公開第2013/117661号に記載されている固定容量延長ラインは、注入ラインに接続されると、基端で不活性流体と治療薬とが混合することになる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、医学的治療および診断用途のための可変容量流体ディスペンサを提供し、可変容量流体ディスペンサは、
基端および先端を備える管状本体であって、前記基端と前記先端との間に内部容量を画定する管状本体と、
前記基端および前記先端にそれぞれある流体コネクタと、
前記内部容量内に位置するピストンであって、前記流体コネクタを介した流体変位の作用下で前記基端と前記先端との間で軸方向に移動するように構成され、前記先端に対する前記ピストンの位置が分注される流体の容量を規定するピストンと、を備える。
【0018】
使用中、内部容量の容量よりも少ない量の分注流体がディスペンサ内に含まれる場合、ピストンは内部容量を先端容量と基端容量に分割することができ、そのようにして先端容量は、先端流体コネクタとピストンの先端面との間に分注チャンバを画定する。使用中、分注チャンバに含まれる流体は、流体の規定の容量を画定し、この流体は、送達/分注まで可変容量流体ディスペンサ内に貯留することができ、分注チャンバの容量、すなわち、先端容量は、基端及び先端に対する相対的なピストンの位置に依存する。
【0019】
可変容量流体ディスペンサは、病気の治療、診断、モニタリングのための、規定容量の流体の安全な分注、安全な保管、および正確な送達に関連する問題に対処する。
【0020】
可変容量流体ディスペンサの可変容量の態様は、先端容量を増加または減少させるピストンの移動によって提供され、先端容量は、管状本体の先端とピストンの先端面との間に画定される。可変容量流体ディスペンサに含まれる流体の最大容量は、ピストンが基端に当接するときであることが理解されるであろう。基端容量は、管状本体の基端とピストンの基端面との間に画定される。
【0021】
管状本体は、硬質の薬理学的に不活性な材料から形成され得る。例えば、管状本体は、ガラスまたはプラスチックからなり得る。例えば、管状本体は、Pyrex(登録商標)などのホウケイ酸ガラス(任意選択でタイプ1ホウケイ酸ガラス)からなり得る。あるいは、管状本体は、実験室グレードのポリプロピレンおよび/またはポリエチレン樹脂からなり得る。管状本体は、環状オレフィンポリマー(COP)または環状オレフィンコポリマー(COC)などのプラスチックから形成され得る。
【0022】
一方または両方の流体コネクタは、ディスペンサが接続されている装置の接続部材の隔壁を突き刺すことによって流体接続を行う中空針を備えていてもよい。あるいは、一方または両方の流体コネクタは、中空針によって突き刺し可能なシールであってもよい。例えば、シールは、中空針によって突き刺し可能な隔壁ストッパであってもよい。あるいは、一方または両方の流体コネクタは、開くことができる分割隔壁であってもよい。例えば、鈍いカニューレまたは雄型ルアーなどの装置は、分割隔壁を貫通して、分割隔壁を介した流体の流れを促進することができる。代替的または追加的に、一方または両方の流体コネクタは、例えば、作動相互接続部材への接続によって作動/開放され得るバルブを備え得る。例えば、バルブは機械バルブであってもよく、機械バルブは、流体の流れを可能にするためにバルブの物理的な作動を必要とする。代替的または追加的に、バルブは感圧バルブであってもよく、感圧バルブは、流体が流れると(例えば、バルブを横切って成り立つ圧力勾配に応答して)開き、流体の流れが停止すると閉じるように動作可能である。感圧バルブは、分割シールまたは分割隔壁を備えていてもよい。代替的または追加的に、一方または両方の流体コネクタは無針コネクタを備えていてもよい。
【0023】
一方または両方の流体コネクタは、取り外し可能なキャップをさらに備えることができる。特に、いずれかの流体コネクタが中空針である場合、流体コネクタは、さらにキャップ、例えば針を気密にシールして取り外し可能な輸送用キャップ、を備えてもよい。
【0024】
基端の流体コネクタは、ディスペンサの基端を、例えばシリンジポンプからの注入ラインに接続するように構成され得る。注入ラインは、基端の流体コネクタへの相互コネクタを含むことができる。例えば、基端の流体コネクタは、隔壁を含むことができ、相互コネクタは、隔壁を通過するように構成される中空針を含むことができる。
【0025】
先端の流体コネクタは、ディスペンサの先端をカニューレの基端に接続するように構成でき、カニューレの基端は、先端の流体コネクタへの相互コネクタを含む。あるいは、例えば、先端の流体コネクタは中空針を含み、相互コネクタは、突き刺し可能な隔壁シールを含み、中空針は隔壁シールを突き刺すように構成される。
【0026】
前述したように、ピストンは内部容量を基端容量と先端容量に分割することができる。先端容量および基端容量は両方とも、比較的非圧縮性の流体、特に液体を保持するように構成され得る。
【0027】
基端の接続部材および/または先端の接続部材はルアーフィッティングであってもよく、ルアーフィッティングは、相互ルアーフィッティングと接続するように構成される。有利なことに、雄型ルアーフィッティングに収容される中空針コネクタは、装置を扱う際に使用者を針による怪我から保護する。
【0028】
使用時、両端中空針コネクタは、例えばカニューレまたは注入ラインである適合部材にディスペンサを接続するために使用することができ、ディスペンサの流体コネクタおよび適合部材/装置の流体コネクタは、それぞれ突き刺し可能なシールを含む。
【0029】
本発明による可変容量流体ディスペンサは、患者に送達するために、診断または治療目的のために調整された容量の流体を収容するように構成された装置を提供する。可変容量流体ディスペンサは、治療薬、例えば特定の脳標的領域に送達される遺伝子治療薬、を含んでもよい。
【0030】
前述したように、一例として、ハンチントン病の治療では、6本のカニューレを6つの標的に送達する必要があり、すなわち、各被殻に対して2本のカニューレとし、各尾状核に対して1本のカニューレとする。核のサイズは個人間で変わり、さらにはある個人の脳の異なる側の間でも変わることが理解されるであろう。したがって、各カニューレを介して送達する必要がある治療薬の量は予め決められており、したがって、各カニューレに関連付けられた各ディスペンサは、治療薬を安全かつ正確に患者に送達するために、治療薬を含む、対応する規定量の流体で満たされる必要がある。可変容量ディスペンサはこの要件を満たす。なぜなら、各ディスペンサは、先端容量、すなわち分注チャンバ内に治療薬を含む規定量の流体を含むように構成できるからである。
【0031】
管状本体の少なくとも軸方向部分は、透明であり、ピストンの先端の位置を示す表面マーキングを内部または外部に含み、それによって管状本体内に含まれる流体の流量を示してもよい。マーキングは、目盛りマークを含む校正されたスケールを含んでもよい。
【0032】
ピストンは、管状本体の内部容量内に流体および気体のシールを形成するように動作可能な外周シール部材を含むことができる。外周シール部材は、1つまたは複数の接触面を含むことができる。例えば、外周シールは、Oリングタイプのシール、リップシール、細長いシール面などを備え得る。流体がピストンの先端面または基端面に作用するときに、ディスペンサの内面に対するピストンの移動がほとんどまたはまったく抵抗なく自由になるように、外周シールの1つまたは複数の接触面は低摩擦特性を備えて構成され得る。例えば、外周シールの少なくとも外面は、ガラスまたはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含むことができる。ピストンの先端面上のPTFEまたは代替のフッ素ポリマーコーティングは、薬物適合面を提供する。管状本体部分は、また、相互作用する表面の摩擦を低減するために、シリコーンコーティングされているか、または焼き付けられたシリコーンコーティングを有していてもよい。あるいは、外周シールの外面はシリコンを含んでもよい。
【0033】
本発明のさらなる態様は、可変容量流体ディスペンサの分注チャンバの充填方法を提供し、分注チャンバの充填方法は、
前記内部容量を脱気し、前記基端の流体コネクタを介して前記内部容量を不活性流体でプライミングし、前記内部容量が前記不活性流体で充填されて前記ピストンが前記先端に当接するまで前記ピストンが前記不活性流体によって軸方向に駆動されるステップと、
流体の容器を前記先端に取り付け、抽出器を前記基端に取り付けるステップと、
前記内部容量から不活性流体を抽出すると同時に、前記容器から所定量の流体を先端容量内に引き込むことにより、分注すべき規定量の流体で前記先端容量を充填するステップと、
前記抽出器および流体の前記容器をそれぞれ前記先端および前記基端から切り離すステップを備える。
【0034】
上記方法は、さらに、前記先端および前記基端の一方または両方に輸送用キャップを取り付けることにより、前記可変容量流体ディスペンサの流体内容物を気密シールすることを含む。
【0035】
内部容量から不活性流体を抽出するのと同時に規定量の流体を先端容量に引き込むステップは、いずれかの方向に圧力勾配を生成することによって実行することができる。基端の流体コネクタを介して不活性流体を汲み出すことによって基端容量内の圧力を下げることができ、または先端のコネクタを介して流体を汲み入れることによって先端容量内の圧力を高めることができる。
【0036】
基端容量に送り込まれる、または基端容量から抽出される不活性流体は、ピストンに作用して、先端容量内、すなわち分注チャンバ内の流体の容量を増減させ、分注チャンバ内の流体は、治療または診断のために分注される流体の規定容量である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0038】
【
図1】
図1は、可変容量治療薬ディスペンサを示す。
【
図2】
図2は、規定量の治療薬およびある量の不活性流体を含む
図1のディスペンサの断面図を示す。
【
図3】
図3は、
図1のディスペンサのガス抜きと不活性流体の充填を示す。
【
図4】
図4は、治療薬を含む流体の
図1のディスペンサへの充填を示す。
【
図6】
図6は、カニューレの基端に設けられた隔壁シールコネクタの分解図を示す。
【
図7】
図7は、注入ライン上に設けられた相互ルアーフィッテイングと接続するように構成されたルアーフィッテイングを含む接続部材を示す。
【
図8】
図8は、隔壁シールコネクタの代替設計を示す図である。
【
図12】
図12は、使用中にディスペンサを保持するための着用可能物品を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
可変容量流体ディスペンサ10の一例を
図1および
図2に示す。可変容量流体ディスペンサ10は、両端がシールされた管状本体12を含む。以下、管状本体12の一端を他端から区別するために、これらの端を先端14および基端16と呼ぶことにする。
【0040】
先端14および基端16はそれぞれ、管状本体が不活性流体または分注流体を含む場合にディスペンサ10のシールを容易にする流体コネクタ18、26を含む。流体コネクタ18、26の一方または両方は、中空針コネクタ、シール、例えば中空針によって突き刺すことが可能な隔壁シール、流体の流れを促進するために分割隔壁を貫通できる例えば鈍いカニューレまたは雄型ルアーによって開けることができる分割隔壁、を含むことができる。あるいは、流体コネクタ18、26は、作動相互接続部材に接続することによって作動/開放することができるバルブを含んでもよい。バルブは、流体の流れを可能にするためにバルブの物理的な作動を必要とする機械バルブであってもよい。あるいは、バルブは、流体が流れると開き、流体の流れが停止すると閉じるように動作可能な感圧バルブであってもよい。あるいは、一方または両方の流体コネクタが無針コネクタを含んでもよい。無針コネクタの例は、Journal of InFusion NurSing、2010年1月、第33巻、第1号、p22-31に掲載された記事「Needleless Connectоrs:A Primer on Terminology」に記載されている。流体コネクタ18、26は、例えば接着剤を使用するなど、任意の適切な手段によって管状本体12に取り付けることができる。流体コネクタ18、26は、クリンプを使用して管状本体に取り付けることができる。ディスペンサ10の総重量を最小限に抑えるために、クリンプは、例えばアルミニウムなどの軽量または低密度の材料で作られることが好ましい。
【0041】
図示の例では、先端14は、中空針20を組み込んだ流体コネクタ18を含む(
図2を参照)。ディスペンサ10とその内容物が確実に密封されるように、図示の例では、先端14は、また、シリコンストッパ24を含む輸送用キャップ22を含む。ディスペンサ10を気密シールするために、流体コネクタ18にキャップ22を固定する際に中空針20の先端によってシリコンストッパ24は貫通される。に装着される。キャップ22は、ディスペンサ10に適用されると、大気からの進入を防ぎ、ディスペンサ10の安全な輸送を確実にする。
【0042】
図示の例では、基端16は流体コネクタ26を含む。この例では、流体コネクタ26は隔壁ストッパであり、隔壁ストッパは、基端16に気密シールを提供し、それによって大気からの進入を防ぎ、流体が入っているときのディスペンサ10の安全で無菌の輸送を確実にする。隔壁ストッパ26は、通常の方法で使用するように構成されており、中空の針またはカニューレを突き刺して、含まれている流体を分注できるようにすることができることが理解されるであろう。
【0043】
図2に示した上述したような中空針20およびキャップ22の配置の代わりに、先端14が隔壁ストッパを含んでもよいことが理解されるであろう。この点に関して、使用時における先端の隔壁ストッパ、および典型的にはカニューレに取り付けられ、流体が分注されるときに患者への治療流体の送達を容易にする別の隔壁シールコネクタ(
図5参照)、を突き刺すために両端/先端の中空針(図示せず)を使用することができることが理解されるであろう。
【0044】
先端14と基端16の両方が、ディスペンサ10に含まれる流体の送達/分注に必要とされるまで、ディスペンサ10の各端および内容物が無菌のままであることを確実にするために、キャップ(図示せず)を含んでもよいことが理解されよう。
【0045】
ディスペンサ10は、可動ピストン部材30によって先端容量27と基端容量28に分割できる内部容量を含む。可動ピストン部材30は短いシリンダであり、管状本体12の内壁31に対して軸方向に移動するように構成されている。可動ピストン部材30は、ピストン30の外側シールの外周/外周面33と管状本体12の内周/内壁31との間に界面流体および気体のシールを形成する。
【0046】
ピストン30は、好ましくは剛性材料からなる。これにより、ピストン30の追従性を最小限に抑えながらディスペンサ10に対する流体の分注および回収が可能になり、それによって投与量の精度および分注時の応答性が向上する。図示の例では、ピストン30は、表面接触を提供する外周シール33を備えたガラス(例えばホウケイ酸ガラス)またはプラスチック材料(例えばポリテトラフルオロエチレン、PTFE、またはポリエーテルエーテルケトン、PEEK)からなり、それによってディスペンサ本体12の内部容量内に流体および気体のシールを形成する。少なくとも接触面は、端面、すなわちピストン30の先端37または基端35に作用する流体の作用によりピストン30が妨げられることなく変位するように、低い摩擦抵抗特性を有する。
【0047】
外周シール33の構成は、1つまたは複数のシール接触面を含むことができる。例えば、外周シール33は、ピストン10の内部容量内での流体および気体のシールを確実にするために、ピストン30の外周の幅に沿って配置される1つまたは複数のOリング型シールを備え得る。他のシール、例えばピストンの周囲に形成されたリップシールをOリングシールの代わりに使用してもよい。しかし、ピストンの外周壁の構成は、流体および気体のシールが形成され、基端容量28と先端容量27との間の流体の浸入が防止されるような構成であることが理解されよう。
【0048】
ピストン30は、流体コネクタ18、26が開き/作動してディスペンサ10への流体の流れおよびディスペンサ10からの流体の流れが可能になると、流体がディスペンサ10に加えられたりディスペンサ10から分注されたりするのに応じて移動するように構成される。この点に関して、流体がピストン30の先端面37または基端面35に作用するときにディスペンサ10の内壁31に対するピストン30の移動がほとんどまたは全く抵抗なく自由になるように、ピストン30の外周シールは低摩擦特性を備えて構成される。例えば、外周シールの少なくとも外面は、ガラス、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、シリコン、またはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの材料を含むことができる。
【0049】
ピストン30の変位は、流体の装填および分注を容易にし、液体としては、例えば、ディスペンサ10への治療薬およびディスペンサ10からの治療薬を含む流体がある。内部容量内にピストン30を含ませることにより、治療薬を含む流体といった流体の所定の最大容量の貯蔵を可能にするが、流体の可変容量を、先端容量27内に収容されるディスペンサ10の最大容量まで可能にする。可動ピストン部材30の位置は、流体変位の作用下において、先端14に対して相対的に収容および分注され得る流体の容量を画定する。ディスペンサ10の最大内部容量は、ピストン30の基端35がディスペンサ10の基端16に当接するとき、ディスペンサ10の先端14とピストン30の先端面37との間で画定される。
【0050】
先端容量27がある量の流体を含む場合、先端容量27は分注チャンバとなり、既知の容量の流体、例えば、治療薬を含む流体で満たされる。図示の例では(
図2、
図4を参照)、ディスペンサ10は、ある量の不活性流体38と、治療薬を含むある量の流体36とを収容する。不活性流体38は基端容量28に含まれ、治療薬36を含む流体は先端容量27に含まれる。この例では、ディスペンサ10は、分注チャンバ(先端容量27)および不活性チャンバ(基端容量28)を含む。ディスペンサ10を準備するプロセスを、
図3および
図4を参照して以下に説明する。
【0051】
図示の例では、管状本体12は透明であり、ガラス、例えばホウケイ酸ガラス(PyrEX(登録商標))、またはプラスチック、例えば実験室グレードのポリプロピレンおよび/またはポリエチレン樹脂、などの硬質材料からなる。管状本体は、環状オレフィンポリマー(COP)または環状オレフィンコポリマー(COC)などのプラスチックから形成され得る。
【0052】
本体12は、ピストン30の位置および分注チャンバ(先端容量27)内に含まれる治療薬36を含む流体の量が視覚的に容易に識別できるように、目盛りマーク34を含む校正済み目盛り32を含む。本体12の軸方向部分のみが透明であり、ピストン30の位置および治療流体の量が見えるように調整された目盛りを含むことができることが理解されるであろう。有利なことに、ディスペンサ10上の校正された容量目盛り32は、注入されるディスペンサ10内に含まれる治療薬36を含む流体の真の容量を正確に示し、正確な容量の送達をより確実にする。ピストン30の先端37は、分注チャンバ、すなわち先端容量27内に流体36が残っているかどうかをスケール32上に示す。したがって、流体36が完全に分注されると、ピストン30の先端37はディスペンサ10の先端14に当接する。
【0053】
可変容量流体ディスペンサ10は、所定の最大容量、例えば0.5ml、1ml、2ml、3ml、4ml、および5mlに対応するサイズ範囲で提供され得る。各ディスペンサは、上述し、以下に示すように、ディスペンサ10の内部容量の最大容量よりも少ない容量の流体を収容することができる。
【0054】
図示の例では、
図1は空のディスペンサ10を表し、
図2は所定量の分注流体、すなわち治療薬36およびある量の不活性流体38を含むディスペンサ10を表す。不活性流体38は、体内に注入された場合に生物学的効果も治療効果も持たない流体、例えば、人工脳脊髄液(aCSF)、生理食塩水、またはハートマン流体であってもよい。ほとんどの場合、不活性流体38は純粋に水圧流体として機能し、体内には入らない。
【0055】
図3は、aCSFでプライミングされているディスペンサ10を示す。この例では、ディスペンサ10の内部容量は脱気され、aCSFでプライミングされる。
【0056】
図3に示される方法では、キャップ22が先端14から省略され、例えばaCSFである不活性流体を収容するシリンジ42の中空針40は、基端16の隔壁ストッパ26を貫通する。シリンジ42のプランジャ44を押すと、不活性流体38がシリンジ42からディスペンサ10内に移動し、すなわち、不活性流体38が基端容量28を満たし、ピストン30をディスペンサ10の先端14に向かって移動させる。ピストン30に対する不活性流体38の作用は、また、ディスペンサ10の先端14にある中空針20を介して先端容量27内から気体を移動させる。ディスペンサ10を不活性流体で充填するプロセスは、ピストン30の先端37がディスペンサ10の先端14に当接するまでピストン30を軸方向に移動させ、ディスペンサの内部容量が完全に不活性流体38で満たされるようにする。
【0057】
ディスペンサ10を脱気し、不活性流体38で満たした後、治療薬36を含む流体を分注チャンバ、すなわち先端容量27に充填することが可能である。このプロセスは
図4に示されている。
【0058】
図4は、
図2に示される治療用ディスペンサ10の作製を示し、すなわち、ディスペンサ10の内部容量は、分注するための治療薬36を含む流体の所定/規定の容量(先端容量27)と、ある容量(基端容量)を含む。
図4では、治療薬36を含む流体のバイアル(容器)46がディスペンサ10の先端14に取り付けられ、空のシリンジ(抽出器)48がディスペンサ10の基端16に取り付けられている。
【0059】
図示の例では、ディスペンサ10の先端14は中空針20を含み、中空針20は、治療液36のバイアル(容器)46上の図示の隔壁ストッパ50を貫通する。
【0060】
シリンジ42のプランジャ44を引くことによって、シリンジ42は、基端16を介してディスペンサ10の内部容量から不活性流体38を抽出することを容易にし、同時に、先端14を介してディスペンサ10内に治療薬36を含む流体を引き込むことを容易にする。不活性流体38を抽出する動作は、ピストン30に作用して治療薬36を含む流体を引き込み、分注チャンバを形成し、分注チャンバでは、治療薬36を含む流体の容量が同容量の不活性流体38と置き換わる。
【0061】
内部容量から不活性流体を抽出すると同時に所定量の流体を先端容量に引き込むステップは、いずれかの方向に圧力勾配を生成することによって実行することができる。基端流体コネクタを介して不活性流体を汲み出すことによって基端容量内の圧力を下げることができ(
図4に示すように)、または先端コネクタを介して流体を汲み入れることによって先端容量内の圧力を高めることができる。
【0062】
ディスペンサ10内に引き込まれる治療薬36を含む流体の容量は、管状本体12の壁に設けられた校正済み目盛り32と整列するピストン30の先端の位置によって示される。
【0063】
ディスペンサ10が必要な量、すなわち治療薬36を含む流体の規定量を含む場合、シリンジ42(抽出器)およびバイアル(容器)46をディスペンサ10から取り外すことができる。図示の例では、ディスペンサ10の先端14は、流体コネクタ18として中空針を含む。そのため、安全のために、またディスペンサ10の内容物が無菌で汚染されていないことを確実にするために、内部キャップ22を含む輸送用キャップ22が設けられており、輸送用キャップ22は、例えばシリコンシールが先端14に取り付けられる内部シール/ストッパ24を含む。図示の例では、中空針20の先端は、輸送用キャップ22の一部として設けられたシール24を途中まで突き刺している。この構成では、ディスペンサ10はシールされており、安全に輸送することができる。
【0064】
上記から、治療薬36を含む規定/所定の容量の流体をディスペンサ10に充填することは、訓練を受けた薬剤師が無菌技術を用いて送達前に実行できることが理解されるであろう。治療薬、例えば遺伝子治療薬を含む液体は、クラスIIの生物学的安全キャビネットでの準備を必要とすることが理解されるであろう。
【0065】
図5は、無菌技術を使用してディスペンサ10から所定量の流体36を分注/送出するために必要な装置60の一例を示す。
【0066】
図示の例では、ディスペンサ10の基端16は、注入ライン64の第1端62に接続されており、注入ライン64の端62は、中空針コネクタ66を含み、中空針コネクタ66は、ディスペンサ10の基端16の隔壁ストッパコネクタ26を突き刺す。注入ライン64の第2端67は、ポンプ68、例えばシリンジポンプであるポンプ68に接続する。
【0067】
先端14が輸送キャップ22を含む場合、治療薬36を含む流体を患者に送達する手段に接続できるように、キャップ22は取り外され、中空針20が露出する。図示の例では、送達手段は、隔壁シールコネクタ72から延びるカニューレ70である。
【0068】
カニューレ70は、脳への流体36の直接注入を容易にする頭蓋内カニューレであってもよい。
【0069】
カニューレの隔壁シールコネクタ72が清潔/無菌であることを確認した後、ディスペンサ10の先端14を中空針コネクタ20を介してカニューレ70に接続することができる。流体接続がディスペンサ10の基端16と先端14の両方で確立されると、ポンプ68を作動させることができる。
【0070】
図示の例では、ディスペンサ10とカニューレ70の接続を容易にする隔壁シールコネクタ72は、気泡ベント74を含む。気泡ベント74の構成および構成部品は以下に説明され、
図6に示される。要約すると、気泡ベント74は、可変容量流体ディスペンサ10または注入ライン64のカニューレ70への接続および/または切断中に、気泡が注入中の溶液から出てきた場合、または注入液中に混入した場合に、気泡が脳に入るリスクを軽減する。脳組織に注入された気泡は組織を引き裂き、治療流体/注入液の分注を混乱させる可能性があることが理解されるであろう。
【0071】
隔壁シールコネクタ72は、カニューレ70の基端に設けられることが好ましい。隔壁シールコネクタ72は、カニューレ70に永久的に接合され、および/またはカニューレ70と一体的に形成されてもよく、これにより、カニューレ70を先端流体コネクタ20に接続している間に、気泡が混入する可能性がさらに低減される。隔壁シールコネクタ72はさらに、病原体(例えば、細菌などの微生物)がカニューレ70に進入するのを防ぐように構成され得る。これにより、治療により生じる頭蓋内感染のリスクが低減される。
【0072】
図6は、カニューレ70および先端流体コネクタ20に取り付けるように構成された隔壁シールコネクタ72の分解図を示す。隔壁シールコネクタ72は、穴あきフィルタガード80、フィルタ82、保持リング83A、83B、保持キャップ84、隔壁ストッパ86、および隔壁キャップ88を含む。
【0073】
図示の例では、フィルタ82は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)からなる低容量気泡フィルタであり、流れる治療流体から気泡を除去するように構成された超疎水性、気体透過性の微多孔構造を有する。図示の例では、フィルタ82は、30μl/分以下の流量で気泡を除去するのに効果的である。フィルタ82は、穴あきフィルタガード80内に収容されており、図示の例では、フィルタ82は中空ポスト85上に受容され、保持リング83Aによって中空ポスト85に保持され、中空ポスト85はフィルタガード80と同心上に配置されている。
【0074】
図示の例では、フィルタガード80は、隔壁の周囲に複数の穿孔(小さな穴)87を分布させた中空シェルである。穿孔87は、流体がディスペンサ10からカニューレ70までフィルタ82を通って流れるときに流体の脱気を促進する。フィルタガード80は、名前が示すように、フィルタ82を損傷から保護/保護する。
【0075】
フィルタ82とフィルタガード80の組み合わせは、流体がカニューレ70に入る前に、ディスペンサ流体の流れから巻き込まれた空気/気泡の分散を促進する。
【0076】
隔壁シールコネクタ72はまた、シールコネクタの組立てを完了するためにフィルタガード80に接続し、組立体内にフィルタ82を収容する保持キャップ84を含む。保持キャップ84は、中空の保持ポスト89および保持リング83Bを含み、これらはフィルタ82と係合して、フィルタ82がフィルタガード80内に正しく位置決めされて保持されることを確実にし、使用中のフィルタ82の効率的な機能を確実にする。
【0077】
図示の例では、保持キャップ84は隔壁ストッパ86を含み、隔壁ストッパ86は、隔壁86が中空針によって突き刺され、それによってコネクタ72をカニューレ70に流体接続するまでシールユニットを提供する。
【0078】
隔壁ストッパ86は、隔壁キャップ88によって圧縮状態で保持される。
【0079】
図示の例では、保持キャップ84とフィルタガード80はスナップフィット接続によって結合されている。ただし、ねじ接続、溶接接続、接着接続などの代替構成を使用してそれらを結合することもできる。
【0080】
低容量気泡フィルタ82を組み込んだ隔壁シールコネクタ72は、治療薬/注入液を含む流体と共に、例えば脳に空気が供給されるリスクを低減する。空気/気泡を含む流体は空間を占有するため、脳組織を引き伸ばしたり引き裂いたりすると同時に、治療薬/注入液の送達/分注を妨害する可能性があることが理解されるであろう。隔壁シールコネクタ72は、流体から細菌および他の微生物を含む病原体を濾過するように機能することもできる。
【0081】
図8から
図11は、隔壁シールコネクタ174の代替設計を示す。
図8は、使用可能な組み立て状態の隔壁シールコネクタ174を示す。隔壁シールコネクタ72と同様に、隔壁シールコネクタ174は保持キャップ84を備える。保持キャップ84は、送達システムの流体コネクタに接続するための、例えばねじ付きコネクタである、基端コネクタ176を備える。
【0082】
図9は隔壁シールコネクタ174の分解図を示し、
図10は断面図を示す。基端コネクタ176は、例えば中空針によって隔壁86が突き刺されるまで基端コネクタ176をシールするための隔壁86を備えることができる。隔壁シールコネクタ174は、基端コネクタ176とカニューレ70とを流体接続する流体通路140を備える。この設計では、隔壁シールコネクタ174は、第1膜150および第2膜152を備える。第1膜150および第2膜152は、流体通路140の先端とカニューレ70の基端との間に配置される。第1膜150および第2膜152は、互いに実質的に平行であってもよく、流体通路140の軸に対して実質的に垂直であってもよい。第1膜150は、隔壁86を通って隔壁シールコネクタ174に入る流体が、第2膜152よりも先に第1膜150に到達するように、第2膜152よりも流体通路140の先端の近くに配置される。環状ワッシャ153は、第1膜150と第2膜152との間に配置されてもよく、膜とコネクタ174のハウジングとの間に周辺流体シールを形成し、膜を中央で分離してそれらの間に円筒状の隙間を形成する。円筒形の隙間は、2mmから6mmの間の直径を有してもよく、最も好ましくは4mmの直径を有してもよい。隙間は膜150、152を0.05mmから0.2mm分離してもよく、最も好ましくは0.1mm分離してもよい。第1膜150および第2膜152は、接続面180を介して隔壁シールコネクタ174の他の構成要素に接続されてもよい。接続面180は、例えば超音波溶接または接着層を使用するなど、任意の適切な方法によって結合することができる。隔壁シールコネクタ174は、第2膜152の先端面を支持し、第2膜152を通過した流体がより容易にカニューレ70に到達できるようにするための支持部材184を備え得る。
【0083】
第1膜150は疎水性であり、ガス透過性である。第1膜150のうち、流体通路140が第1膜150に接触する場所には、流体通路140からの流体が穴154を介して第1膜150を通過できるように、穴154が設けられている。隔壁シールコネクタ174は、第1膜150の基端面を支持するための支持部材と、膜をその周囲およびその中心穴154の周囲に取り付けるための環状接続面とを備え得る(
図9には示されていない)。第2膜152は流体透過性であり、好ましくは親水性である。第2膜152が親水性であることは必須ではないが、ガス抜きは疎水性膜と親水性膜の組み合わせを使用することで最も効率的に機能する。疎水性の第1膜150を単独で使用すると、ライン内の圧力が大気圧を下回った場合、空気が大気から第1膜150を通って注入液に引き込まれる可能性がある。これは、コネクタが頭より10~25cm以上高くなっている場合に発生する可能性がありえる(頭蓋内圧によって異なりえる)。親水性である第2膜152は、そのような状況でも脳への空気の進入を防ぐ。第2膜152は、気体およびバクテリアに対して不透過性である。流体通路140からの流体がカニューレ70に到達するために第2膜152の材料を通過しなければならないように、第2膜152には穴が設けられていない。少なくとも1つの通気孔160(例えば、2つ、3つ、4つ、または4つ以上の通気孔)が、第1膜150の基端側の隔壁シールコネクタ174に設けられる。流体通路140からの流体が第1膜150の材料を通過して通気孔160に到達しなければならないように、第1膜150のうち、通気孔160が第1膜150と接する場所には穴が設けられていない。
【0084】
隔壁シールコネクタ174の動作を
図11の拡大図において説明する。流体と気体の混合物(例えば、いくらかの巻き込まれた空気の泡を伴い、カニューレ70を介して患者の脳に送達される注入液)は、隔壁86および流体通路140を介して隔壁シールコネクタ174に入る。混合物は、穴154を介して第1膜150を通過する。流体は、親水性の第2膜152に引き寄せられ、(流体透過性である)第2膜152を通ってカニューレ70内に浸透する。流体の層と第2膜152とは、気体がカニューレ70に進入するのを防ぐ障壁を形成する。気体は、第1膜150と第2膜152との間の隙間に沿って通過し、通気孔160の1つの位置でガス透過性の第1膜150を通って逃げることができる。第1膜150の疎水的な性質は、流体をはじき、流体が第2膜152上と同様の障壁を形成するのを防ぎ、それにより気体が通気孔160を介して隔壁シールコネクタ174から流出することを可能にする。
【0085】
有利には、ディスペンサ10の管状本体12は剛性であり、これは、ディスペンサ10の構成が圧力上昇に対して非追従性である/追従性が低いことを意味し、すなわち、管状本体12が圧力の増加により膨張しないことを意味する。したがって、システム60が、
図5に示すように、治療薬36を含む測定された容量の流体を送達したとき、ピストン30のさらなる移動は、ディスペンサ10の先端14によって防止される。管状本体12の剛性の特徴は、ディスペンサ10および注入ライン64の内部容量内で圧力の急激な上昇が生じることである。装置60は、典型的には、圧力が上昇すると、治療薬36が完全に分注されたことを示す指標としてポンプ68で反応警報が発せられ、ポンプ68の自動停止機能が作動するように構成される。
【0086】
アラームは療法士への治療薬36の送達の完了も示すことが理解されるであろう。治療薬36が完全に投与されると、療法士はディスペンサ10をカテーテルの隔壁シールコネクタ72および注入ライン64から外すことができる。有利には、注入が完了すると、ディスペンサ10から治療薬36がなくなる。したがって、いったん接続を外すと、消耗したディスペンサ10は、例えば化学製品用/鋭利物用のゴミ箱等の適切な廃棄容器に安全に廃棄することができる。
【0087】
プロセスを完了するために、治療薬を含む流体をカニューレ70内のデッドスペースから洗い流せてもよい。そうするために、注入ライン64は、注入ライン64の中空針コネクタ66Aを介してカニューレの隔壁シールコネクタ72に直接接続されることができ、ポンプ68は、デッドスペースの治療薬36を例えばaCSFである不活性流体で洗い流すために作動されることができる。
【0088】
図3、
図4、および
図5を参照した上記の説明は、ディスペンサ10を準備および使用する手順が、単純で論理的なステップおよびディスペンサ10の最小限の取り扱いにより安全であることを実証している。
【0089】
上記から、ディスペンサ10が所定量の治療薬36を収容しているため、注入ポンプ68の誤ったプログラミングによる過剰投与が回避されることが理解されるであろう。
【0090】
上述したように、基端流体コネクタは隔壁コネクタ26を含む。
図7は、ディスペンサ10の基端16をシリンジポンプ68(
図5参照)からの注入ライン64に接続するように構成され、雌型ルアーフィッティングである接続部材100の一例を示す。ルアーフィッティング100は、隔壁26を通過する中空針110を含む相互コネクタである。図示の例では、ルアーフィッティング100は、MRI適合材料、例えばPEEKまたはチタンで作られた中空バレット先端針110を含む。ルアーフィッティング100は、中空針110を保持し、中空針110を隠すことができ、ルアーフィッティング100を取り扱う際の怪我の危険性を低減することができる。
【0091】
先端流体コネクタは、
図7に示されるようなルアーフィッティングを含むことができ、ルアーフィッティング100は、例えばコネクタ72(
図5を参照)である相互ルアーフィッティングに接続するように構成された中空針110を含み、カテーテルまたはカニューレ70の基端にある隔壁ストッパを含む。
【0092】
上記から理解されるように、ディスペンサ10が剛性/非追従性材料からなることに加えて、システムは、非追従性/低追従性材料、すなわち、圧力下での膨張に耐性のある材料、からなる注入ライン64からも利益を得るであろう。例えば、注入ラインは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの材料からなる細長いチューブであってもよい。一例では、注入ラインの外径は0.5mmであり、内径は0.1mmから0.3mmの範囲であるが、好ましくは0.1mmから0.2mmの範囲である。
【0093】
剛性の管状本体12(上述のような)と非追従性の注入ラインとの組み合わせは、潜在的な投与不正確のリスクを低減する。
【0094】
したがって、上述のディスペンサ10を組み込んで得られる水圧システムは、ポンプ圧力および流量の変化に非常に敏感になる。これは重要な安全機能である。なぜなら、カニューレ70が閉塞した場合、その結果生じる圧力の急激な上昇によってポンプ警報が作動し、ポンプ68のスイッチがオフになるからである。対照的に、注入ラインの追従性がある場合、つまり圧力下で拡張する場合、圧力上昇は緩やかになり/遅くなり、拡張する注入ライン内にかなりの量の流体が蓄積する可能性がありえる。したがって、カニューレの閉塞が克服されると、例えば、コア化された組織のペレットが排出されると、その結果として生じる流体の噴流が局所的な脳損傷を引き起こす可能性がありえる。
【0095】
図5に示される例は、治療薬36を含む流体を患者の脳に送達するために使用されるディスペンサ10を表す。しかし、そのようなディスペンサ10は、人間および動物の病気の診断、モニタリングおよび治療に使用される薬剤の別個の量の制御された注入に使用できることを理解されたい。この装置は、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、硝子体内、脳室内、くも膜下腔内、実質内、腫瘍または嚢胞腔内を含む多くの経路のうちの1つを介して体内に診断薬および治療薬を注入するために使用することができる。
【0096】
可変容量ディスペンサ10を使用してこれらの経路を介して送達され、疾患の診断およびモニタリングのために注入される薬剤を含む流体には、磁気共鳴画像法(MRI)、X線およびX線コンピュータ断層撮影用の放射線不透過性造影剤、単一光子放出コンピュータ断層撮影法(SPECT)および陽電子放射断層撮影法(PET)で使用される放射性同位体、および色素が含まれるが、これらに限定されない。
【0097】
可変容量ディスペンサ10を使用してこれらの経路を介して送達され、治療薬を含む流体には、化学治療薬、抗生物質、酵素、ニューロトロフィン、遺伝子治療薬、SiRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチド、酵素、免疫調節治療薬(モノクローナル抗体およびキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)治療薬など)、免疫毒素、ボツリヌス毒素、分子標的治療薬、モノクローナル抗体、腫瘍溶解性ウイルス、ナノ粒子、ホウ素やオージェ電子エミッターを含む治療用放射性核種が含まれるが、これらに限定されない。
【0098】
図1から
図5に例示され、上述した可変容量治療薬ディスペンサ10は、遺伝子治療薬、化学治療薬、および放射性同位体などの潜在的に危険な診断薬および治療薬/薬物を送達する既存の方法よりも有利である多くの安全機能を有する。例えば、ディスペンサ10は、必要に応じて生物学的および/または放射線安全キャビネット内で、訓練を受けた薬剤師によって薬局の制御された環境で処方された量の治療薬または診断薬36を充填することができる。上述したように、ディスペンサ10が充填された後、その先端の中空針コネクタ18に輸送キャップ22を適用することにより、ディスペンサ10を気密シールすることができる。ディスペンサにラベルを付けて、診断薬または治療薬36を含む流体を送達できる場所、例えば病棟またはMRI室である場所に安全に運ぶことができる。ディスペンサのラベル付き内容物を受け取り、患者の詳細および処方箋と照合してチェックすると、患者のカニューレまたはカテーテルの流体コネクタが洗浄され、キャップ22が取り外され、ディスペンサ10の先端14の中空針コネクタ18が、カニューレまたはカテーテルの隔壁シールコネクタに接続する。不活性流体でプライミングされ、注入ポンプに接続された注入ラインは、その先端コネクタ62を介してディスペンサの基端の流体コネクタ26に接続され、ポンプのスイッチがオンになる。
【0099】
この記載された方法には、医師が病棟でバイアルからシリンジに生物学的危険物質を吸い上げ、シリンジから気泡を取り除き、次に注入ラインをプライミングして患者のカテーテルまたはカニューレに接続し、シリンジをポンプに装填し、適切な流量で規定の量を送達するようにポンプをプログラムするという作業に比べて、明らかに安全性の利点がある。リスクには、病棟などのストレスのかかる臨床環境で処方箋を調剤する際の人的ミス、針刺し傷害、調剤時のこぼれによる臨床環境の汚染、スタッフや患者への生体有害物質の曝露が含まれる。処方された治療薬が薬剤師によってシリンジに調剤され、その後病棟に運ばれる状況では、注入ラインのプライミングおよびガス抜きの際に偶発的にこぼれたり、シリンジポンプに装填する際にシリンジプランジャーを誤って押し下げたりする可能性がありえる。
【0100】
可変容量流体ディスペンサ10の使用は、注入システム内のデッドスペースを最小限に抑える点で特に有利である。通常、装置はカニューレまたはカテーテルに直接接続されるため、標的までの距離は比較的短く、診断薬または治療薬はピストンによって注入ポンプおよび場合によっては長い注入ラインから分離される。これにより、注入ラインとシリンジのデッドスペースにおける潜在的に貴重な治療薬の損失が最小限に抑えられ、注入ラインの素材に付着する可能性のある治療薬の損失が最小限に抑えられる。ウイルスベクターの場合、この損失は投与量の10%を超える可能性がありえる。ウイルスベクター結合が非常に低く、例えばガラスである硬い、可変容量流体ディスペンサと、比較的短いカニューレとを組み合わせることで、この損失を最小限に抑えることができる。可変容量流体ディスペンサは、0.5ml、1.0ml、2.0ml、3ml、4ml、5mlなどのさまざまなサイズで提供され、例えば、提供される治療薬に合わせて装置のサイズを調整でき、無駄を最小限に抑える。これは、通常、2ml、5ml、10ml、20ml、50mlなどのガラスシリンジではなく、限られた範囲と種類の準拠プラスチックに対応する臨床的に利用可能な注入ポンプとは対照的である。それにもかかわらず、標準的なプラスチックシリンジを駆動する標準的な注入ポンプに接続された場合、ガラス製可変容量ディスペンサ10によって治療薬を送達することができる。一例として、CEDカニューレから脳標的に送達される遺伝子治療薬の典型的な量は300μlであろう。これは、0.5mlの剛性/非追従性の可変容量流体ディスペンサ10の先端の分注端に装填され、CEDカニューレに接続され得る。次に、ディスペンサ10の基端が、不活性流体で満たされた2mlのプラスチックシリンジおよび延長ラインに接続され、次いで、治療薬を送達するために使用される(
図5を参照)標準的な医療用シリンジポンプに接続され得る。
【0101】
上述したように、ディスペンサ10は剛性があり、ガラスまたはプラスチックからなり、これによりディスペンサ10はMRIに適合するようになる。したがって、ディスペンサ10は、頭部コイルなどのMRIコイル内に安全かつ確実に配置することができる。さらに、可能であれば、注入ライン64に低追従性材料を使用することは、注入ラインが、注入ポンプ68が磁場から安全な距離に配置されることを確実にするために必要な長さであり得ることを意味する。注入ポンプ内のシリンジと可変容量流体ディスペンサ10との間に低追従性の注入ラインを使用することは、例えば内径が0.1mmから0.2mmであるPEEKチューブを使用することは、治療薬の送達を駆動するための応答性の高い水圧システムを作成する利点がある。これにより、加圧時に伸びる追従性ラインのデッドスペースで注入治療薬の可変容量が失われる可能性があるため、送達の精度が向上しえる。さらに、カニューレの詰まりによって非追従性ライン内の圧力が急速に上昇すると、ポンプが警報を発してスイッチをオフにするため、システムがより安全になりえる。
【0102】
ディスペンサ10は、例えば、複数のカニューレを通して同時に治療薬を含む異なる容量の流体を患者の脳内に送達するための、複雑な投与計画に特に適している。治療薬によっては、6本または8本のカニューレを介して送達する必要がある場合がありえる。この場合、規定量の治療薬を含み、対応する数の可変容量流体ディスペンサ10を、それぞれ割り当てられたカニューレに接続することができ、また、それぞれを別個の注入ラインおよびシリンジポンプに接続することができる。すべてのポンプが所定の流量に設定されている場合、治療を監督する臨床医はそれらをランダムに動作させることができ、いずれかのディスペンサ10に規定量が送達されると、ピストン30がディスペンサ10の先端14と係合して停止し、該ディスペンサ10は、基端チャンバ28および注入ライン内の圧力上昇を引き起こし、それらがポンプに警報を発せさせてスイッチをオフにする。すべてのポンプが警報を発してスイッチをオフにすると、治療は完了する。これは、臨床医が各ディスペンサ10のマーク付き目盛り32に対するピストン30の位置を検査することによって確認することができる。流体がなくなると、各ディスペンサ10をそれぞれのカニューレから取り外して、適切な臨床廃棄物容器に廃棄することができる。このプロセスにより、配送方法が大幅に簡素化され、安全性が高まり、人的ミスの可能性が減る。
【0103】
処置によっては投与に何時間もかかる場合があるため、処置中はディスペンサ10が安全かつ便利に保持されることが好ましい。これは、複数のディスペンサ10を同時に使用する場合に特に当てはまる。このようにディスペンサ10を保持すると、ディスペンサ10が損傷する可能性が減り、患者の快適さが向上する。この目的のために、1つ以上のディスペンサ10を保持するように構成された着用可能物品200が提供され得る。
図12は、着用可能物品200の一例を示す。好ましくは、着用可能物品200は、複数のディスペンサ10、例えば、2つ、4つ、6つ、8つ、または8つを超えるディスペンサ10を保持することができる。着用可能物品200は、患者の頭、腕、または胸の周りに着用されるように構成され得る。着用可能物品200は、患者の通常の衣服に加えて着用できる小さな衣類、例えばヘッドバンド、ベルト、またはサッシュの形態で提供され得る。例えば、
図12に示される着用可能物品200は、患者の腕の周りに着用されるバンドの形態である。あるいは、着用可能物品200は、例えばジャケット、コート、シャツ、帽子などのより大きな衣類として提供されてもよい。
【0104】
着用可能物品200は、患者のサイズに関わらず患者にしっかりとフィットできるように調節可能であってもよい。着用可能物品200は、好ましくは、ディスペンサ10を、患者の動きを妨げる可能性が低い位置、および/またはX線または磁気共鳴画像スキャンのような、投与処置中に患者に対して実行され得る診断処置を妨げる可能性が低い位置にディスペンサ10を保持するように構成される。例えば、着用可能物品200は、患者の上胸部もしくは上腕、または患者の額にディスペンサを保持するように構成され得る。着用可能物品200はまた、ディスペンサ10に接続される注入ライン64および/またはカニューレ70を保持するための1つまたは複数のストラップまたはクロージャを備え得る。
【0105】
着用可能物品200は、1つまたは複数のディスペンサホルダ210を備えることができ、各ディスペンサホルダ210は、1つのディスペンサ10を保持するように構成される。ディスペンサホルダ210は、ディスペンサ10を配置することができる区画または保持ループを備えることができる。ディスペンサホルダ210は、ディスペンサ10を容易に挿入して確実に保持できるように調節可能であってもよい。着用可能物品200および/またはディスペンサホルダ210は、例えば1つまたは複数の弾性体や、ベルト、バックル、ストラップなどの調節可能な固定具、または面ファスナーなどの任意の適切な手段の使用によって調節可能であってもよい。代替的または追加的に、ディスペンサホルダ210は、例えばフラップまたは蓋を使用して開閉するように構成することができる。ディスペンサホルダ210が区画を備える場合、ディスペンサホルダ210は、区画が閉じているときでも注入ライン64およびカニューレ70が区画から出ることができるように構成される。
【0106】
ディスペンサホルダ210は、各ディスペンサホルダ210を他のディスペンサホルダ210から区別する、例えば番号、文字、または色などの固有の識別子で個別にラベルを付けることができる。これにより、例えばディスペンサ10が空になり、同じ治療薬が充填された新しいディスペンサ10と交換する必要がある場合など、投与処置中にディスペンサ10を容易かつ迅速に識別することができる。
【0107】
複数のカニューレが埋め込まれ、ディスペンサ10に接続される場合、頭部とディスペンサホルダ210との間のチューブの管理は、ケーブルタイ、ストラップ、またはスパイラルラップを設けることによって支援され得る。
【0108】
要約すると、さまざまな病状に対して体内への注入を必要とする多くの診断薬や治療薬は、多くの場合、危険であり、かつ/または高価である。したがって、
図1から
図7を参照して上述したように、ディスペンサ10、方法およびシステム60を使用すると、スタッフおよび/または患者が危険な医薬品または薬剤にさらされることが減り、シリンジおよび長い注入ライン内の高価な医薬品または薬剤の無駄が減り、ディスペンサ10は正確な用量を含むように構成されているので投与ミスのリスクが減り、ディスペンサ10の流体が枯渇したときに正確な用量の治療薬が投与されたことが確実なために推測作業が不要になる。
【0109】
以上、本発明の特定の実施形態を説明したが、説明した実施形態からの逸脱は依然として特許請求の範囲内に含まれることが理解されるであろう。
【国際調査報告】