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  • 特表-腫瘍由来細胞外小胞に関する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】腫瘍由来細胞外小胞に関する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/24 20060101AFI20240416BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20240416BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20240416BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20240416BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240416BHJP
【FI】
C12Q1/24
C12N5/09 ZNA
C12Q1/06
C07K16/18
G01N33/53 Y
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568546
(86)(22)【出願日】2022-05-06
(85)【翻訳文提出日】2023-12-28
(86)【国際出願番号】 AU2022050428
(87)【国際公開番号】W WO2022232886
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】2021901359
(32)【優先日】2021-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523419370
【氏名又は名称】イノヴィック・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・フレンチ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QR48
4B063QS33
4B063QX01
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BD39
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA50
4H045EA51
(57)【要約】
本開示は、試料から腫瘍由来細胞外小胞を検出及び/又は単離する方法、並びにそれを含む集団及び組成物に関する。検出された及び/又は単離された腫瘍由来細胞外小胞及びそれを含む組成物は、がんの診断等の用途において有用であり得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料から腫瘍由来細胞外小胞を単離する方法であって、
腫瘍由来細胞外小胞を含む試料を、前記試料中の前記腫瘍由来細胞外小胞への結合分子の結合を可能にする条件下で、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)に結合する前記結合分子と接触させることと、
前記試料から前記結合分子を単離することと、を含む、方法。
【請求項2】
試料中の腫瘍由来細胞外小胞を捕捉及び/又は検出するために使用されたときにN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)に結合する、結合分子。
【請求項3】
試料から腫瘍由来細胞外小胞を単離する方法であって、
前記試料を、前記試料中の腫瘍由来細胞外小胞への結合分子の結合を可能にする条件下で、Neu5Gcに結合する少なくとも1つの結合分子の複数の層を含む層状のマルチポリマー分子網目と接触させることと、
前記試料から前記層状のマルチポリマー分子網目を単離することと、を含む、方法。
【請求項4】
腫瘍由来細胞外小胞を検出する方法であって、
細胞外小胞を含む試料を、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)に結合する結合分子と接触させることと、
前記試料中の細胞外小胞への前記Neu5Gc結合分子の結合を検出することと、を含み、細胞外小胞への前記Neu5Gc結合分子の結合が、前記試料中の腫瘍由来細胞外小胞の存在を示す、方法。
【請求項5】
N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)を発現する細胞外小胞が濃縮された細胞外小胞を含む組成物であって、前記細胞外小胞が、請求項1又は2に記載の方法によって単離された腫瘍由来細胞外小胞である、組成物。
【請求項6】
Neu5Gcを発現する細胞外小胞が濃縮された細胞外小胞の集団であって、前記細胞外小胞が腫瘍由来細胞外小胞である、細胞外小胞の集団。
【請求項7】
前記組成物又は前記集団中の前記細胞外小胞の少なくとも20%が、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)を発現する、請求項5に記載の組成物、又は請求項6に記載の集団。
【請求項8】
前記組成物又は前記集団中の前記細胞外小胞の少なくとも50%が、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)を発現する、請求項5若しくは7に記載の組成物、又は請求項6若しくは7に記載の集団。
【請求項9】
前記組成物又は前記集団中の前記細胞外小胞の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも60%、又は少なくとも70%が、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)を発現する細胞外小胞である、請求項5若しくは7若しくは8のいずれか一項に記載の組成物、又は請求項6~8のいずれか一項に記載の集団。
【請求項10】
前記試料が、がんを有することが疑われる対象又はがんを有する対象から得られる、請求項1又は3又は4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記試料が、血液、血漿、血清、尿、唾液、糞便、涙、気管支肺胞洗浄液(BALF)、脳脊髄液(CSF)、及び精液からなる群から選択される、請求項1、3、4、又は10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記試料が、精製された又は部分的に精製された細胞外小胞の集団である、請求項1、3、4、10、又は11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記精製された又は部分的に精製された細胞外小胞の集団が、CD63、b2ミクログロブリン、CD11、CD81、CD13、EGFRからなる群から選択される1つ以上のタンパク質を発現する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記試料が、細胞を実質的に含まない、請求項1、3、4、又は10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記試料が、腫瘍細胞培養物の上清である、請求項1、3、又は4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記結合分子が、配列番号2若しくは配列番号4に記載のアミノ酸配列、又は配列番号2若しくは配列番号4の前記アミノ酸配列のうちの少なくとも1つに対する修飾を含む配列番号2若しくは配列番号4の断片若しくはバリアントを含む、単離されたタンパク質であり、前記その断片又はバリアントが、α2-3結合N-グリコリルノイラミン酸及びα2-6結合N-グリコリルノイラミン酸に結合することができる、請求項1、3、4、又は10~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記修飾が、配列番号1からのTTSTの下線を引いた残基のうちの少なくとも1つの非保存的置換又は欠失を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記結合分子が、
(i)一本鎖Fv断片(scFv)、
(ii)二量体scFv(di-scFv)、あるいは
(iii)ダイアボディ、
(iv)トリアボディ、
(v)テトラボディ、
(vi)ナノボディ、
(vii)Fab、
(viii)F(ab’)
(ix)Fv、
(x)アプタマー
(xi)抗体の定常領域、Fc又は重鎖定常ドメイン(C)2及び/若しくはC3に結合した(i)~(ix)のうちの1つ、
(xii)アルブミン又はその機能的断片若しくはバリアント、又はアルブミンに結合するタンパク質に結合した(i)~(ix)のうちの1つ、あるいは
(xiii)抗体、を含む、請求項1、3、4、又は10~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記結合分子が、抗体である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記方法が、前記結合分子から結合した腫瘍由来細胞外小胞を解離することと、前記解離された腫瘍由来細胞外小胞を収集することと、を更に含む、請求項1、3、又は10~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記方法が、前記腫瘍由来細胞外小胞を分析することを更に含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記がんが、乳がん、黒色腫、悪性上皮腫瘍、食道がん、胃がん、結腸直腸がん、直腸の類表皮がん、膵臓がん、肝細胞がん、リンパ節転移、腎臓がん、膀胱がん、卵巣がん、子宮がん、精巣がん、前立腺がん、神経芽腫、非小細胞肺がん、リンパ腫、神経外胚葉性腫瘍(星状細胞腫及び神経膠芽腫)、腎芽腫(ウィルムス腫瘍)、肉腫、ユーイング肉腫及び甲状腺がんからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項23】
前記がんが、乳がん、卵巣がん、又は膵臓がんからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞外小胞が、小型細胞外小胞、エクソソーム、エクソメア、及びマイクロベシクルからなる群から選択される、請求項1、3、4、若しくは10~23のいずれか一項に記載の方法、又は請求項2に記載の結合分子、又は請求項7~9のいずれか一項に記載の組成物、又は請求項6~9のいずれか一項に記載の集団。
【請求項25】
前記細胞外小胞が、エクソソームである、請求項1、3、4、若しくは10~23のいずれか一項に記載の方法、又は請求項2に記載の結合分子、又は請求項7~9のいずれか一項に記載の組成物、又は請求項6~9のいずれか一項に記載の集団。
【請求項26】
前記細胞外小胞が、CD63+エクソソームである、請求項1、3、4、若しくは10~23のいずれか一項に記載の方法、又は請求項2に記載の結合分子、又は請求項7~9のいずれか一項に記載の組成物、又は請求項6~9のいずれか一項に記載の集団。
【請求項27】
がんを検出する方法であって、
細胞外小胞を含む試料を、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)に結合する結合分子と接触させることと、
前記試料中の細胞外小胞へのNeu5Gc結合分子の結合を検出することと、を含み、細胞外小胞への前記Neu5Gc結合分子の結合が、前記試料中の腫瘍由来細胞外小胞の存在を示し、それによってがんを検出する、方法。
【請求項28】
前記結合分子が、配列番号2又は配列番号4に記載のアミノ酸配列を含む、請求項27に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料から腫瘍由来細胞外小胞を検出及び/又は単離する方法、並びにそれを含む集団及び組成物に関する。検出された、かつ/又は単離された腫瘍由来細胞外小胞及びそれを含む組成物は、がんの診断等の用途において有用であり得る。
【背景技術】
【0002】
エクソソーム等の小型細胞外小胞(sEV)は、細胞によって放出されるナノベシクル(30~150nm)である。腫瘍細胞は、がんを有する対象又はがん細胞培養物において腫瘍微小環境中に分泌される、腫瘍細胞外小胞(例えば、腫瘍エクソソーム又はTEX)と称される小型細胞外小胞を生成する。
【0003】
腫瘍エクソソーム(TEX)は、抗腫瘍免疫応答の抑制等の様々な分子プロセスに関与していると考えられるため、関心を集めている。TEX及び非TEXは同じサイズ範囲であり、共通のエクソソーム関連細胞外タンパク質を有し得るため、エクソソームの混合集団におけるTEXの単離及び/又は検出は困難である。したがって、超遠心分離及びサイズ排除等の古典的なエクソソーム捕捉及び単離方法は、TEXを単離及び/又は特異的に検出するのに特に有用な手段というわけではない。更に、TEXの分子プロファイルは、それらが分泌される細胞を代表していない場合がある。例えば、Batistaらによる研究では、いくつかの分子(例えば、高マンノース、ポリラクトサミン、α2,6結合シアル酸、複合体N-結合グリカン)は濃縮された一方で、他の分子は、それらの親細胞と比較してエクソソーム表面上で枯渇していたこと(例えば、末端血液型A及びB抗原)が見出された(Batista et al.,J Proteome Res.2011;10(10):4624-4633)。そのため、TEXの検出及び単離のためのマーカーの同定は、依然として課題が多い。
【0004】
したがって、特に研究及び診断用途のために、TEXを検出及び/又は単離するための新たな方法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、意外にも、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)が、エクソソーム等の腫瘍由来細胞外小胞の表面上に発現し、したがって、試料から腫瘍由来細胞外小胞を検出及び/又は単離するためのマーカーとして使用することができることを明らかにした。
【0006】
したがって、第1の態様において、本開示は、試料から腫瘍由来細胞外小胞を捕捉する方法を包含し、方法は、
腫瘍由来細胞外小胞を含む試料を、試料中の腫瘍由来細胞外小胞への結合分子の結合を可能にする条件下で、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)に結合する結合分子と接触させることを含む。
【0007】
第2の態様において、本開示は、試料から腫瘍由来細胞外小胞を単離する方法を包含し、方法は、
腫瘍由来細胞外小胞を含む試料を、試料中の腫瘍由来細胞外小胞への結合分子の結合を可能にする条件下で、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)に結合する結合分子と接触させることと、
試料から結合分子を単離することと、を含む。ある例では、方法は、試料から腫瘍由来細胞外小胞を単離することを含む。ある例では、腫瘍由来細胞外小胞は、試料から単離される前に、Neu5Gc結合分子で標識される。ある例では、腫瘍由来細胞外小胞は、結合分子へのNeu5Gcの結合を阻害することができる緩衝液を使用して、それらをNeu5Gc結合分子から解離することによって単離される。
【0008】
別の態様において、本開示は、試料中の腫瘍由来細胞外小胞を検出する方法を包含し、方法は、
腫瘍由来細胞外小胞を含む試料を、試料中の腫瘍由来細胞外小胞への結合分子の結合を可能にする条件下で、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)に結合する結合分子と接触させることと、試料中の腫瘍由来細胞外小胞への結合分子の結合を検出することと、を含み、腫瘍由来細胞外小胞への結合分子の結合は、試料中の腫瘍由来細胞外小胞の存在を示す。ある例では、検出された腫瘍由来細胞外小胞は、抗体(例えば、抗CD63)等のエクソソーム特異的結合分子を使用して単離される。
【0009】
本開示はまた、試料から腫瘍由来細胞外小胞を検出及び/又は単離するために使用されたときにN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)に結合する結合分子を提供する。
【0010】
本開示は、試料から腫瘍由来細胞外小胞を単離する方法であって、
試料を、試料中の腫瘍由来細胞外小胞への結合分子の結合を可能にする条件下で、Neu5Gcに結合する少なくとも1つの結合分子の複数の層を含む層状のマルチポリマー分子網目と接触させることと、
試料から層状のマルチポリマー分子網目を単離することと、を含む、方法を提供する。
【0011】
本開示は、試料から腫瘍由来細胞外小胞を単離する方法であって、
試料を、試料中の腫瘍由来細胞外小胞への分子の結合を可能にする条件下で、エクソソームに結合する少なくとも1つの結合分子の複数の層を含む層状のマルチポリマー分子網目と接触させることと、試料から層状のマルチポリマー分子網目を単離して、単離された腫瘍由来細胞外小胞上のNeu5Gcの検出を可能にすることと、を含み、
Neu5Gcは、本明細書に記載の結合分子、例えば、Neu5Gcに対する抗体、又はEscherichia coli(配列番号1)のサブチラーゼサイトトキシン(SubAB)の五量体Bサブユニットに由来するNeu5Gc結合タンパク質を使用して検出することができる、方法を更に提供する。ある例では、Neu5Gcは、配列番号2に記載されるアミノ酸配列を有する結合タンパク質を使用して検出することができる。
【0012】
本発明者らの知見はまた、腫瘍由来細胞外小胞が濃縮された細胞外小胞の集団又は組成物を単離するための基礎を提供する。そのような集団及び組成物は、基礎研究、又は対象におけるがんの状態及び/若しくは進行を決定する等の様々な用途において使用することができる。
【0013】
したがって、別の態様において、本開示は、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)を発現する細胞外小胞が濃縮された細胞外小胞を含む組成物を提供する。別の態様では、本開示はまた、Neu5Gcを発現する細胞外小胞が濃縮された細胞外小胞の集団であって、細胞外小胞が腫瘍由来細胞外小胞である、集団を提供する。ある例では、腫瘍由来細胞外小胞は、エクソソームである。ある例では、組成物又は集団は、本明細書に開示される方法によって腫瘍由来エクソソームを単離することによって得られる。
【0014】
ある例では、組成物又は集団中の細胞外小胞の少なくとも20%が、Neu5Gcを発現する。ある例では、組成物又は集団中の細胞外小胞の少なくとも50%が、Neu5Gcを発現する。別の例では、組成物又は集団中の細胞外小胞の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも60%、又は少なくとも70%が、Neu5Gcを発現する細胞外小胞である。
【0015】
ある例では、本開示の方法で使用される試料は、がんを有することが疑われる対象から得られ得る。ある例では、本開示の方法で使用される試料は、がんを有する対象から得られ得る。ある例では、がんは、乳がん、黒色腫、悪性上皮腫瘍、食道がん、胃がん、結腸直腸がん、直腸の類表皮がん、膵臓がん、肝細胞がん、リンパ節転移、腎臓がん、膀胱がん、卵巣がん、子宮がん、精巣がん、前立腺がん、神経芽腫、非小細胞肺がん、リンパ腫、神経外胚葉性腫瘍(星状細胞腫及び神経膠芽腫)、腎芽腫(ウィルムス腫瘍)、肉腫、ユーイング肉腫及び甲状腺がんからなる群から選択される。
【0016】
ある例では、がんは、乳がん、卵巣がん、又は膵臓がんである。
【0017】
ある例では、試料は、血液、尿、唾液、糞便、涙、気管支肺胞洗浄液(BALF)、脳脊髄液(CSF)、及び精液からなる群から選択される。ある例では、試料は血液試料である。別の例では、試料は、血漿又は血清である。
【0018】
ある例では、試料は、精製された又は部分的に精製された細胞外小胞の集団である。ある例では、精製された又は部分的に精製された細胞外小胞の集団は、CD63、b2ミクログロブリン、CD11、CD81、CD13、EGFRからなる群から選択される1つ以上のタンパク質を発現する。ある例では、試料は細胞を実質的に含まない。別の例では、試料は細胞を含まない。ある例では、試料は腫瘍細胞培養物である。
【0019】
ある例では、結合分子は、配列番号2若しくは配列番号4に記載のアミノ酸配列、又は配列番号2若しくは配列番号4のアミノ酸配列のうちの少なくとも1つに対する修飾を含む配列番号2若しくは配列番号4の断片若しくはバリアントを含む、単離されたタンパク質であり、その断片又はバリアントが、α2-3結合N-グリコリルノイラミン酸及びα2-6結合N-グリコリルノイラミン酸に結合することができる。ある例では、修飾は、TTSTの下線を引いた残基のうちの少なくとも1つの非保存的置換又は欠失を含む。別の例では、修飾は、TTSTの下線を引いた残基のうちの少なくとも1つの欠失を含む。別の例では、修飾は、TTSTの下線を引いた残基の両方の欠失を含む。
【0020】
別の例では、結合分子は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む。別の例では、結合分子は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む。
ある例では、結合分子は、
(i)一本鎖Fv断片(scFv)、
(ii)二量体scFv(di-scFv)、あるいは
(iii)ダイアボディ、
(iv)トリアボディ、
(v)テトラボディ、
(vi)ナノボディ、
(vii)Fab、
(viii)F(ab’)
(ix)Fv、
(x)アプタマー
(xi)抗体の定常領域、Fc又は重鎖定常ドメイン(C)2及び/若しくはC3に結合した(i)~(ix)のうちの1つ、
(xii)アルブミン又はその機能的断片若しくはバリアント、又はアルブミンに結合するタンパク質に結合した(i)~(ix)のうちの1つ、あるいは
(xiii)抗体、を含む。
ある例では、結合分子は抗体である。
【0021】
別の例では、本開示の方法は、結合分子から結合した腫瘍由来細胞外小胞を解離することと、解離された腫瘍由来細胞外小胞を収集することと、を更に含む。ある例では、方法は、腫瘍由来細胞外小胞を分析することを更に含む。
【0022】
上記実施例では、細胞外小胞は、小型細胞外小胞、エクソソーム、エクソメア、及びマイクロベシクルからなる群から選択され得る。ある例では、細胞外小胞は、エクソソームである。ある例では、細胞外小胞は、CD63+エクソソームである。
【0023】
別の例では、本開示は、がんを検出する方法であって、細胞外小胞を含む試料を、本明細書に開示される結合分子と接触させることと、試料中の細胞外小胞への結合分子の結合を検出することと、を含み、細胞外小胞への結合分子の結合が、試料中の腫瘍由来細胞外小胞の存在を示し、それによってがんを検出する、方法に関する。ある例では、がんを検出する方法は、細胞外小胞を含む試料を、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)に結合する結合分子と接触させることと、試料中の細胞外小胞へのNeu5Gc結合分子の結合を検出することと、を含み、細胞外小胞へのNeu5Gc結合分子の結合が、試料中の腫瘍由来細胞外小胞の存在を示し、それによってがんを検出する。ある例では、結合分子は、配列番号2又は配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含む。しかしながら、以下で論じられるもの等の他の例では、結合分子は抗体であってもよい。
【0024】
本明細書の任意の例は、別段の記載がない限り、任意の他の例に準用するものとする。
【0025】
本発明は、例示のみを目的とする、本明細書に記載される特定の例によって範囲が限定されるものではない。機能的に等価な生成物、組成物、及び方法は、本明細書に記載されるように、明らかに本発明の範囲内である。
【0026】
本明細書全体を通して、別段の記載がない限り、又は文脈上他の解釈が必要な場合を除き、単一のステップ、組成物、ステップの群、又は組成物の群への言及は、それらのステップ、組成物、ステップの群、又は組成物の群のうちの1つ及び複数(すなわち、1つ以上)を包含するものとする。
【0027】
本発明は、以下の非限定的な実施例によって、及び付属の図面を参照して、以下に記載される。
【0028】
配列表の凡例
配列番号1:E.coli(SubB)野生型アミノ酸配列のサブチラーゼサイトトキシン(AB)のBサブユニット
AMAEWTGDARDGMFSGVVITQFHTGQIDNKPYFCIEGKQSAGSSISACSMKNSSVWGASFSTLYNQALYFYTTGQPVRIYYKPGVWTYPPFVKALTSNALVGLSTCTTSTECFGPDRKKNS
配列番号2:SubBΔS106/ΔT107変異体アミノ酸配列。
EWTGDARDGMFSGVVITQFHTGQIDNKPYFCIEGKQSAGSSISACSMKNSSVWGASFSTLYNQALYFYTTGQPVRIYYKPGVWTYPPFVKALTSNALVGLSTCTTECFGPDRKKNS
配列番号3:ABの天然Bサブユニットのグリカン結合モチーフのアミノ酸配列。
TTSTE
配列番号4:SubB2Mアミノ酸配列
EWTGDARDGMFSGVVITQFHTGQIDNKPYFCIEGKQSAGSSISACSMKNSSVWGASFSTLYNQALYFYTTGQPVRIYYEPGVWTYPPFVKALTSNALVGLSTCTTECFGPDRKKNS
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】:健常な個人及びがん患者由来のエクソソーム試料中のNeu5Gcレベル。
図2】:エクソソーム数を制御した、健常な個人及びがん患者由来のエクソソーム試料中のNeu5Gcレベル。
図3】肺がん、前立腺がん、及び対照患者由来の血漿試料とSubB2M及びSubA12との接触後のHPRT1 mRNAレベル(q-RT-PCR後の平均CT)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
一般的な技術及び選択された定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有するものとする(例えば、分子生物学、生化学、腫瘍学、及び親和性に基づく精製)。
【0031】
別段の指示がない限り、本開示で利用される分子及び統計的な技術は、当業者に周知の標準的な手順である。そのような技術は、J.Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning,John Wiley and Sons(1984),J.Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory Press(1989),T.A.Brown(editor),Essential Molecular Biology:A Practical Approach,Volumes 1 and 2,IRL Press(1991),D.M.Glover and B.D.Hames(editors),DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes 1-4,IRL Press(1995 and 1996)、及びF.M.Ausubel et al.(editors),Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988,including all updates until present),Ed Harlow and David Lane(editors)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory,(1988)、及びJ.E.Coligan et al.(editors)Current Protocols in Immunology,John Wiley&Sons(including all updates until present)等の出典の文献を通して記載及び説明されている。
【0032】
「N-グリコリルノイラミン酸」又は「Neu5Gc」は、特定のグリカンを指すために本明細書で使用される。ある例では、グリカンは、アルファ2-3結合N-グリコリルノイラミン酸又はアルファ2-6結合N-グリコリルノイラミン酸で終端する。Neu5Gc分子は、しばしばシアル酸分子と称される。シアル酸は、9個の炭素骨格を有するα-ケト酸であり、通常、その末端がグリカンの非還元末端に配置されている。ある例では、Neu5Gcは、以下の化学式、C1119NO10によって定義され得る。
【0033】
以下の図に示すように、Neu5Gcは、酵素CMP-N-アセチルノイラミン酸ヒドロキシラーゼ(CMAH)によってNeu5ACから生成される。
【化1】
Neu5Gcは、CMAHにおけるエクソンの欠失のために、通常、正常なヒト組織には存在しない。しかしながら、Neu5Gcは、乳がん、黒色腫、悪性上皮腫瘍、食道がん、胃がん、結腸直腸がん、直腸の類表皮がん、膵臓がん、肝細胞がん、リンパ節転移、腎臓がん、膀胱がん、卵巣がん、子宮がん、精巣がん、前立腺がん、神経芽腫、非小細胞肺がん、リンパ腫、神経外胚葉性腫瘍(星状細胞腫及び神経膠芽腫)、腎芽腫(ウィルムス腫瘍)、肉腫、ユーイング肉腫及び甲状腺がんからの細胞を含むヒトがん細胞で検出されている(Labrada et al.,Seminars in Oncology 2018;45(1-2):41-51)。
【0034】
「結合分子」という用語は、Neu5Gcに結合する分子を指すために本開示の文脈において使用される。ある例では、本開示の結合分子は、Neu5Gc結合分子と称されてもよい。ある例では、本開示の結合分子は、腫瘍由来細胞外小胞の表面上に発現するNeu5Gcに結合する。ある例では、結合分子は、Neu5GcをNeu5ACと区別するN-アセチル部分のメチル基のヒドロキシルに結合する(上の図に示されるように)。別の例では、結合分子は、「アルファ2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸及びアルファ2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸に結合することができる」。ある例では、これは、単離された分子が、野生型SubBタンパク質(配列番号1;UniProtKB/Swiss-Prot:Q6EZC3.1)よりも実質的に高い親和性でアルファ2-6結合N-グリコリルノイラミン酸グリカンに結合する一方で、野生型SubBタンパク質(配列番号1)のものと同等の親和性でアルファ2-3結合N-グリコリルノイラミン酸グリカンにも結合することを意味する。ある例では、本開示の結合分子は、Neu5Gc又はそのシアリル結合形態に結合する。
【0035】
例示的な結合分子としては、免疫グロブリン、抗体、抗原結合断片、及びSubBΔS106/ΔT107変異体(配列番号2)等のタンパク質又はNeu5Gcに結合するそのバリアント(例えば、配列番号1、配列番号4の配列バリアント)が挙げられる。ある例では、結合分子は、抗体等の結合タンパク質である。ある例では、結合分子はアプタマーである。結合分子の他の例は、以下に記載される。「免疫グロブリン」という用語は、免疫グロブリンドメインを含む任意の抗Neu5Gc結合分子を含むと理解されるであろう。例示的な免疫グロブリンは、抗体である。「免疫グロブリン」という用語に包含される追加のタンパク質は、ドメイン抗体、ラクダ科抗体、及び軟骨魚由来の抗体(すなわち、免疫グロブリン新抗原受容体(IgNAR))を含む。一般に、ラクダ科抗体及びIgNARは、Vを含むが、Vを欠き、しばしば重鎖免疫グロブリンと称される。
【0036】
「アプタマー」という用語は、標的抗原、この場合はNeu5Gcに対して高い親和性を有する三次元構造に折り畳まれる非天然の核酸又はペプチド構造を指す。これらの分子は、一般に、標的特異性を最大化する目的で、インビトロ選択の繰り返しラウンドによって操作される。
【0037】
「抗体」という用語は、特定の抗原に免疫学的に反応性の免疫グロブリン分子を指すために本開示の文脈において使用され、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体の両方を含む。この用語は、キメラ抗体(例えば、ヒト化マウス抗体)及びヘテロコンジュゲート抗体(例えば、二重特異性抗体)等の遺伝子操作された形態も含む。「抗体」という用語はまた、抗原結合能力を有する断片を含む、抗体の抗原結合形態も含む(例えば、Pierce Catalogue and Handbook,1994-1995(Pierce Chemical Co.,Rockford,Ill.);Kuby,J.,Immunology,3rd Ed.,W.H.Freeman&Co.,New York(1998)において論じられるようなFab′、F(ab′)、Fab、Fv及びrIgG)。抗体という用語には、二価又は二重特異性分子も含まれる。二価及び二重特異性分子の例は、Kostelny et al.(1992)J Immunol 148:1547;Pack and Pluckthun(1992)Biochemistry 31:1579;Hollinger et al.,1993、上記参照、Gruber et al.(1994)J.Immunol.:5368,Zhu et al.(1997)Protein Sci 6:781,Hu et al.(1996)Cancer Res.56:3055,Adams et al.(1993)Cancer Res.53:4026、及びMcCartney,et al.(1995)Protein Eng.8:301に記載されている。
【0038】
抗体の「抗原結合断片」は、インタクトな抗体の1つ以上の可変領域を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2及びFv断片、ダイアボディ、線状抗体、一本鎖抗体分子、並びに抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられる。例えば、抗原結合断片という用語は、組換え一本鎖Fv断片(scFv)並びにその二価(di-scFv)及び三価(tri-scFV)形態を指すために使用され得る。
【0039】
「完全長抗体」、「インタクトな抗体」又は「全抗体」という用語は、抗体の抗原結合断片とは対照的に、実質的にインタクトな形態の抗体を指すために互換的に使用される。具体的には、全抗体には、Fc領域を含む重鎖及び軽鎖を有する抗体が含まれる。定常ドメインは、野生型配列定常ドメイン(例えば、ヒト野生型配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列バリアントであり得る。
【0040】
本明細書で使用される場合、「可変領域」は、抗原に特異的に結合し、例えば、CDRのアミノ酸配列、すなわち、CDR1、CDR2、及びCDR3、並びにフレームワーク領域(FR)を含む、本明細書で定義される抗体の軽鎖及び/又は重鎖の部分を指す。例えば、可変領域は、3つのCDRとともに、3つ又は4つのFR(例えば、FR1、FR2、FR3、及び任意選択的にFR4)を含む。Vは、重鎖の可変領域を指す。Vは、軽鎖の可変領域を指す。
【0041】
本明細書で使用される場合、「相補性決定領域」という用語(CDRと同義、すなわち、CDR1、CDR2、及びCDR3)は、抗体可変領域のアミノ酸残基を指し、その存在が特異的抗原結合に大きく寄与する。各可変領域は、典型的には、CDR1、CDR2及びCDR3として特定される3つのCDR領域を有する。
【0042】
「フレームワーク領域」(FRと同義)は、CDR残基以外の可変ドメイン残基である。
【0043】
本明細書で使用される「定常領域」という用語は、可変領域以外の抗体の重鎖又は軽鎖の一部を指す。重鎖において、定常領域は、一般に、複数の定常ドメイン及びヒンジ領域を含み、例えば、IgG定常領域は、以下の連結された構成要素、定常重鎖C1、リンカー、C2及びC3を含む。重鎖において、定常領域は、Fcを含む。軽鎖において、定常領域は、一般に、1つの定常ドメイン(CL1)を含む。
【0044】
「結晶化可能断片」又は「Fc」又は「Fc領域」又は「Fc部分」という用語(本明細書で互換的に使用され得る)は、少なくとも1つの定常ドメインを含み、一般的に(必ずしもそうではないが)グリコシル化され、補体カスケードの1つ以上のFc受容体及び/又は成分に結合することができる、抗体の領域を指す。重鎖定常領域は、α、δ、ε、γ、又はμの5つのアイソタイプのうちのいずれかから選択され得る。例示的な重鎖定常領域は、ガンマ1(IgG1)、ガンマ2(IgG2)及びガンマ3(IgG3)、又はそれらのハイブリッドである。
【0045】
「定常ドメイン」は、抗体/同じタイプの抗体、例えば、IgG又はIgM又はIgEにおいて、配列が非常に類似している抗体のドメインである。抗体の定常領域は、一般に、複数の定常ドメインを含み、例えば、γ、α、又はδ重鎖の定常領域は、2つの定常ドメインを含む。
【0046】
「裸の」という用語は、別の化合物にコンジュゲートされていないか、又は本明細書に開示される分子網目等のより広い構造に組み込まれていない本開示の結合分子を説明するために使用することができる。換言すると、本開示の結合分子は、非コンジュゲートであり得る。
【0047】
対照的に、「コンジュゲートされた」という用語は、別の化合物又は構造、例えば、分子網目又は検出可能なマーカーにコンジュゲートされている本明細書に開示される結合分子を説明するために本開示の文脈において使用することができる。したがって、一例では、本開示の結合分子は「コンジュゲートされる」。本開示の結合分子は、翻訳後修飾(例えば、リン酸化、ユビキチン化、グリコシル化)、化学修飾(例えば、架橋、アセチル化、ビオチン化、酸化又は還元)及び/又は標識(例えば、フルオロフォア、酵素、放射性同位体)とのコンジュゲーションによって、他の化学部分とのコンジュゲーション又は複合体化を介して修飾され得る。本開示のコンジュゲート結合分子は、Neu5Gc及びそのシアリル結合形態、α2-3結合N-グリコリルノイラミン酸及びα2-6結合N-グリコリルノイラミン酸に結合する能力を保持する。ある例では、本明細書に開示される結合分子は、蛍光標識等の検出可能な標識にコンジュゲートされる。
【0048】
結合分子への言及は、一般に、その非コンジュゲート形態及びコンジュゲート形態の両方を包含すると解釈されるべきである。
【0049】
本明細書で使用される場合、「結合」という用語は、結合分子とNeu5Gcとの相互作用を指し、相互作用がNeu5Gc上の特定の構造(例えば、抗原決定基又はエピトープ)の存在に依存することを意味する。例えば、本開示の結合分子は、一般的に分子ではなく、Neu5Gcの特定の構造要素を認識して結合する。
【0050】
本明細書で使用される場合、「特異的に結合する」という用語は、本明細書に開示される結合分子とNeu5Gcとの間の結合相互作用が、結合分子によるNeu5Gcの検出に依存することを意味すると解釈されるべきである。したがって、結合分子は、他の分子又は生物の混合物中に存在する場合でも、Neu5Gcに優先的に結合するか又はそれを認識する。
【0051】
本明細書で使用される場合、「捕捉」という用語は、腫瘍由来細胞外小胞への本明細書に開示される抗Neu5Gc結合分子の結合を指す。「検出する」又は「検出すること」等の用語は、腫瘍由来細胞外小胞への本明細書に開示される抗Neu5Gc結合分子の結合を検出するためのプロセス及び方法を指すために使用される。
【0052】
本明細書で使用される場合、「単離する」又は「単離すること」又は「単離」という用語は、試料の少なくともいくつかの構成要素から分離された腫瘍由来細胞外小胞、又はそれを行う方法を指す。これらの用語には、腫瘍由来細胞外小胞をそれらの天然環境から物理的に分離すること(例えば、がんを有することが疑われる対象から得られた試料からの除去/精製及び/又はエクソソームの集団からの除去/精製)が含まれる。「単離する」という用語は、腫瘍由来細胞外小胞の、試料中の他の細胞外小胞(例えば、非がん性細胞外小胞)との関係の変化を含む。例えば、不均一な細胞外小胞集団から腫瘍由来細胞外小胞を単離することにより、腫瘍由来細胞外小胞の純粋な又は部分的に純粋な集団を提供することができる。ある例では、本開示による「単離すること」は、試料中の非がん性細胞外小胞に対する腫瘍由来細胞外小胞の比率を増加させる。本明細書に開示されるNeu5Gc結合分子によって結合された腫瘍由来細胞外小胞は、様々な方法を使用して試料から単離することができる。例えば、腫瘍由来細胞外小胞の表面上のNeu5Gcに結合する本開示の結合分子が試料から分離される。ある例では、親和性に基づく分離方法が使用される。そのような方法は、Neu5Gcに対する結合分子の親和性を利用して、その表面上にNeu5Gcを発現する腫瘍由来細胞外小胞を試料から単離する。別の例では、本明細書に開示されるNeu5Gc結合分子を使用して、腫瘍由来細胞外小胞をタグ付け又は標識することができ、その結果、標識又はタグ付けされた細胞外小胞を試料から濾過又は選別することができる。例えば、蛍光ベースの選別システムを試料に適用して、本明細書に開示される結合分子で標識された腫瘍由来細胞外小胞を選択してもよい。
【0053】
本明細書で使用される場合、「細胞外小胞」という用語は、細胞の原形質膜又はエンドソーム系の外向きの出芽に由来する不均一な膜構造の群を指す。細胞外小胞は、小型細胞外小胞、エクソソーム、及びマイクロベシクルを含むことができる。腫瘍細胞に由来する細胞外小胞は、本明細書において「腫瘍由来細胞外小胞」と称される。そのような細胞外小胞は、一般に、腫瘍細胞からその周囲の微小環境内に分泌される。細胞外小胞は、小型細胞外小胞(50~200nm)、マイクロベシクル(0.2~1μm)、エクソメア及びエクソソーム(30~150nm)、並びにオンコソーム(1μm~10μm)を含む。エクソメアは、膜結合ナノ粒子である。一例では、腫瘍由来細胞外小胞は、腫瘍由来の小型細胞外小胞(50~200nm)、マイクロベシクル(0.2~1μm)又はエクソソーム(30~150nm)である。別の例では、腫瘍由来細胞外小胞は、腫瘍由来エクソソームである。別の例では、腫瘍由来細胞外小胞は、エクソメアである。ある例では、腫瘍由来エクソソームはCD63+でもある。
【0054】
本明細書で使用される場合、「発現する」という用語は、例えば、その表面上に、タンパク質(例えば、Neu5Gc)を表示する細胞外小胞を指す。例えば、細胞外小胞は、膜関連タンパク質を発現する。ある例では、本開示に従って単離された腫瘍由来細胞外小胞は、本明細書に開示される抗Neu5Gc結合分子による結合のために利用可能な形態で、その表面上にNeu5Gcを発現する。
【0055】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、ヒト対象を指す。ある例では、対象は、がんを有することが疑われる。別の例では、対象は、がんであると診断されている。この例では、対象は、以前にがんであると診断されており、寛解期にある。ある例では、対象は、以前のがん診断に基づいてスクリーニングプログラムに登録される。
【0056】
本明細書で使用される場合、「断片」という用語は、完全長結合分子の定義された活性、具体的にはNeu5Gcに結合する能力を維持する、本明細書に開示される結合分子の一部を指す。一例では、断片は、配列番号1又は配列番号2が、α2-3結合N-グリコリルノイラミン酸及びα2-6結合N-グリコリルノイラミン酸に結合する能力の少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%を有する。ある例では、断片は、配列番号1、SubBΔS106/ΔT107変異体(配列番号2)又は配列番号4に由来する。ある例では、配列番号1に由来する断片は、配列番号1又は配列番号4を含むアミノ酸配列を有する。
【0057】
ある例では、Neu5Gc結合分子は、配列番号1、又は配列番号2若しくは配列番号4のいずれかに由来するバリアントである。ある例では、バリアントは、配列番号3に対する配列修飾を含む。本明細書で使用される場合、「バリアント」という用語は、配列番号1又は配列番号2等の本明細書に開示される結合分子と1つ以上のアミノ酸配列が異なるが、α2-3結合及びα2-6結合Neu5Gcに結合する能力を保持する結合分子を指す。例えば、配列番号2のバリアントは、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むことができる。一例では、バリアントは、配列番号1、配列番号2又は配列番号4に示されるアミノ酸配列を有する結合分子が、α2-3結合N-グリコリルノイラミン酸及びα2-6結合N-グリコリルノイラミン酸に結合する能力の少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%を有する。一例では、バリアントは、配列番号1、配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列と、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を共有する。ある例では、配列同一性は、参照配列(例えば、配列番号1)の少なくとも50、60、70、80、90、100個のアミノ酸にわたって決定される。本明細書に開示されるバリアントは、欠失した、又は異なるアミノ酸によって置換された、1つ以上のアミノ酸を有し得る。
【0058】
ある例では、結合分子は、少なくとも10、20、50、60、70、80、90、100アミノ酸長である。別の例では、結合分子は、少なくとも50、60、70、80、90、100アミノ酸長である。別の例では、結合分子は、少なくとも50アミノ酸長である。ある例では、バリアント又は断片は、少なくとも10、20、50、60、70、80、90、100アミノ酸長である、配列番号1、配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列を含む。別の例では、バリアント又は断片は、少なくとも50、60、70、80、90、100アミノ酸長である、配列番号1、配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列を含む。別の例では、バリアント又は断片は、少なくとも50アミノ酸長である、配列番号1、配列番号2、又は配列番号4のアミノ酸配列を含む。ある例では、バリアント又は断片は、配列番号3を含む。ある例では、バリアント又は断片は、配列番号3に対する修飾を含む。
【0059】
本明細書で使用される場合、「SubB」という用語は、細菌AB5毒素のサブチラーゼサイトトキシンBサブユニットタンパク質を指す(例えば、WO2018/085888、配列番号1を参照されたい)。SubBは、α2-3結合N-グリコリルノイラミン酸に結合する能力を有する。ある例では、本開示の結合分子は、アミノ酸配列TTSTE(配列番号3)の1つ以上のアミノ酸残基が修飾されたSubBのバリアントを包含する。例示的な修飾としては、置換、欠失、及び付加が挙げられる。ある例では、修飾は、置換又は欠失である。ある例では、修飾は欠失である。
【0060】
本明細書で使用される場合、「SubBΔS106/ΔT107変異体」という用語は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する成熟SubBの変異体を指す。SubBΔS106/ΔT107変異体は、Neu5Gcの2つのシアリル結合形態(α2-6結合N-グリコリルノイラミン酸及びα2-3結合N-グリコリルノイラミン酸)に結合する能力を有する。成熟SubBの別の例示的な変異体は、配列番号4に記載のアミノ酸配列を含む。配列番号4は、79部分(K79E)のアミノ酸修飾を除いて、配列番号2に実質的に対応する。成熟SubBの両方の変異体は、Neu5Gcの2つのシアリル結合形態(α2-6結合N-グリコリルノイラミン酸及びα2-3結合N-グリコリルノイラミン酸)に結合する能力を有する。
【0061】
本明細書で使用される場合、「層状のマルチポリマー分子網目構造」という用語は、Neu5Gc及びそのシアリル結合形態、例えば、α2-3結合N-グリコリルノイラミン酸又はα2-6結合N-グリコリルノイラミン酸に結合する結合分子、並びにリンカー及びスペースを含む、共有結合した複数層の三次元マトリックスを指す。ある例では、層状のマルチポリマー分子網目構造のNeu5Gc結合分子、リンカー及びスペーサーの配置及び間隔は、各層内のNeu5Gc結合分子の密度及び網目構造の多孔性を付与するため、網目構造はサイズ排除も可能にし得る。層状のマルチポリマー分子網目構造は、任意の固体表面(例えば、磁気ビーズ、ディップスティック、ELISAプレートウェル)に適用することができる。網目構造及びその構成要素については、以下に更に記載される。ある例では、層状のマルチポリマー分子網目構造は、α2-3結合N-グリコリルノイラミン酸及びα2-6結合N-グリコリルノイラミン酸に結合する結合分子を含む。ある例では、層状のマルチポリマー分子網目構造は、少なくとも2つの層を含む。別の例では、層状のマルチポリマー分子網目構造は、少なくとも3つの層を含む。別の例では、層状のマルチポリマー分子網目構造は、3つの層を含む。
【0062】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形の用語「a」、「an」、及び「the」は、文脈上そうではないと明確に指示されない限り、任意選択的に複数の指示対象を含む。
【0063】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、反対の記載がない限り、指定された値の+/-10%、より好ましくは+/-5%、より好ましくは+/-1%を指す。
【0064】
「及び/又は」という用語、例えば、「X及び/又はY」は、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味すると理解されるべきであり、両方の意味又はいずれかの意味を明示的に支持すると解釈されるものとする。
【0065】
本明細書全体を通して、「含む(comprise)」という語、又は「含む(comprises)」若しくは「含む(comprising)」等の変化形は、記載される要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップの群の包含を意味するが、任意の他の要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップの群の除外を意味するものではないことが理解されるであろう。
【0066】
結合分子
本開示での使用に好適な結合分子は、腫瘍由来細胞外小胞の表面上に発現するNeu5Gc又はそのシアリル結合形態に結合することができる限り、特に限定されない。ある例では、結合分子は、α2-6結合N-グリコリルノイラミン酸及びα2-3結合N-グリコリルノイラミン酸に結合する。「抗Neu5Gc結合分子」及び「Neu5Gc結合分子」等の用語は、Neu5Gcに結合する分子を指すために本明細書で使用される。
【0067】
ある例では、結合分子は、Escherichia coliからのサブチラーゼサイトトキシン(SubAB)の五量体Bサブユニットに由来する(配列番号1;例えば、Day et al.(2017)Scientific Reports.,7:1495に記載されている結合タンパク質を参照されたい)。例えば、結合タンパク質は、Day et al.(2017)に記載されるような変異体SubBΔS106/ΔT107であってもよい。Neu5Gc結合分子の他の例は、Wang et al.(2018)Biochem Biophys Res Comm.,500:765-771に記載されている。
【0068】
一例では、結合分子は、Neu5Gcの2つのシアリル結合形態(α2-3結合N-グリコリルノイラミン酸及びα2-6結合N-グリコリルノイラミン酸)に結合する能力を有する変異体サブチラーゼサイトトキシンBサブユニットタンパク質(SubBΔS106/ΔT107)である。ある例では、結合分子は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する。ある例では、結合分子は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有する。
【0069】
一例では、結合分子は、SubB又はそのバリアントのアミノ酸配列を含み、結合分子のアミノ酸配列TTSTE(配列番号3)の1つ以上のアミノ酸残基が修飾され、結合分子は、α2-3結合N-グリコリルノイラミン酸及びα2-6結合N-グリコリルノイラミン酸に結合することができる。
【0070】
一例では、結合分子は、TTSTの下線を引いた残基のうちの少なくとも1つの非保存的置換又は欠失を含む、配列番号1のバリアントである。別の例では、結合分子は、TTSTの下線を引いた残基の欠失を含む。別の例では、結合分子は、TTSTの下線を引いた残基の欠失を含む。別の例では、結合分子は、TTSTの下線を引いた残基の欠失を含む。
【0071】
ある例では、結合分子のアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸配列からなる。ある例では、結合分子のアミノ酸配列は、配列番号4のアミノ酸配列からなる。
【0072】
ある例では、結合分子は、Neu5Gcに結合する細菌由来の結合タンパク質である。ある例では、細菌由来の結合タンパク質は、Neu5Gcに結合する配列(例えば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、又は配列番号4)を有するタンパク質を選択する配列検索によって選択される。このようにして細菌タンパク質を同定するための好適な方法は、タンパク質blast検索(Blastp;Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.,215:403-410)を含み、当業者に既知であろう。
【0073】
一例では、結合分子は、
(i)一本鎖Fv断片(scFv)、
(ii)二量体scFv(di-scFv)、あるいは
(iii)ダイアボディ、
(iv)トリアボディ、
(v)テトラボディ、
(vi)ナノボディ、
(vii)Fab、
(viii)F(ab’)
(ix)Fv、
(x)アプタマー、
(xi)抗体の定常領域、Fc又は重鎖定常ドメイン(C)2及び/若しくはC3に結合した(i)~(ix)のうちの1つ、
(xii)アルブミン又はその機能的断片若しくはバリアント、又はアルブミンに結合するタンパク質に結合した(i)~(ix)のうちの1つ、あるいは
(xiii)Neu5Gcに結合する抗体、を含む。この例では、結合分子は、Neu5Gcへの結合について、配列番号2又は配列番号4に示されるようなアミノ酸配列を含む結合分子と競合し得る。
【0074】
一例では、結合分子は、抗体である。例示的な抗体は、完全長抗体及び/又は裸の抗体である。
【0075】
一例では、結合分子は抗Neu5Gc抗体である。ある例では、抗Neu5Gc抗体は、ニワトリにおいて産生される。結合分子の例は、ポリクローナルチキン抗Neu5Gc抗体(例えば、Creative Diagnostics;Biolegend)である。一例では、抗Neu5Gc抗体は、モノクローナル抗Neu5Gc抗体である。
【0076】
一例では、結合分子は、組換え、キメラ、CDR移植、ヒト化、合成ヒト化(synhumanized)、霊長類化、脱免疫、又はヒトである。
【0077】
一例では、結合分子は、DNA又はRNAアプタマーである。
【0078】
ある例では、結合分子は、Neu5Gcに結合する結合分子をスクリーニングすることによって同定される。別の例では、結合分子は、Neu5Gcへの結合についてSubBΔS106/ΔT107と競合する抗体をスクリーニングすることによって同定される。
【0079】
ある例では、Neu5Gc結合分子は、検出可能に標識される。例えば、Neu5Gc結合分子は、蛍光標識することができる。
【0080】
結合分子を含む分子網目
本開示はまた、試料から腫瘍由来細胞外小胞を検出及び/又は単離する方法であって、
試料を、試料中の腫瘍由来細胞外小胞への結合分子の結合を可能にする条件下で、Neu5Gcに結合する少なくとも1つの結合分子の複数の層を有する層状のマルチマー分子網目構造と接触させることと、試料から層状のマルチマー分子網目構造を単離することと、を含む、方法を提供する。
【0081】
本開示は、試料から腫瘍由来細胞外小胞を単離する方法であって、
試料を、試料中の腫瘍由来細胞外小胞への分子の結合を可能にする条件下で、エクソソームに結合する少なくとも1つの結合分子の複数の層を含む層状のマルチポリマー分子網目と接触させることと、試料から層状のマルチポリマー分子網目を単離して、単離された腫瘍由来細胞外小胞上のNeu5Gcの検出を可能にすることと、を含み、Neu5Gcは、Neu5Gc結合分子を使用して検出することができる、方法を更に提供する。
【0082】
ある例では、Neu5Gcは、Neu5Gc又はSubBΔS106/ΔT107変異体に対する抗体を使用して検出される。
【0083】
ある例では、分子網目は、擬似ランダム構造を有する。ある例では、層状のマルチポリマー分子網目構造は、エクソソーム等の細胞外小胞上のNeu5Gcに結合する1つ以上の結合分子を更に含むことができる。
【0084】
本明細書に開示される層状のマルチポリマー分子網目構造を作製する方法は、当該技術分野で既知であり(例えば、WO2011/066449、WO2014/011673、WO2014/153262を参照されたい)、かつ/又は本明細書に記載される方法によって調製することができる。好適な方法の簡単な概要もまた、以下に例示される。
【0085】
ある例では、層状のマルチポリマー分子網目構造は、層状又は縞状の様式で構築され得る。例えば、1つ以上の結合分子の均一又は不均一混合物を含有する溶液を部位に堆積させ、架橋剤と結合分子が架橋網目を形成する条件下で架橋剤を溶液に添加する。ある例では、架橋剤は、撹拌しながら添加される。結合分子は、例えば、平面(例えば、炭素、ポリマー表面、又はガラス表面)上に堆積され得る。別の例示的な表面は、磁気ビーズ等のビーズである。その後に、1つ以上の結合分子の均一又は不均一混合物を添加し、続いて更なる架橋剤を添加してもよい。ある例では、結合分子及び架橋剤は、分子網目構造に組み込まれる前に予め混合される。ある例では、分子網目の各層は、Neu5Gc結合分子を含む。ある例では、分子網目の各層は、結合分子及び架橋剤を予め混合することによって調製される。その結果は、1つ以上の結合分子及び架橋剤を含む分枝状擬似ランダムコポリマーであり得る。架橋剤の例は当該技術分野で既知であり、BS3、[N-e-マレイミドカプロピル]スクシンイミドエステル(EMCS)、エチレングリコールビス[スクシンイミジルコハク酸塩](EGS)、NHS-(PEG)n-マレアミド、NHS-(PEG)n-NHSを含み、nは1~50であり得る。ある例では、化学架橋剤は、2~200オングストロームの長さであってもよい。
【0086】
ある例では、分子網目の層は、一般にエクソソームの表面エピトープに結合する抗体を含む。ある例では、これらの網目は、SubBΔS106/ΔT107等の本明細書に開示される結合分子を使用してエクソソーム上のNeu5Gcの発現を検出する前に、試料からエクソソームを精製するために使用される。そのような網目の例としては、抗CD63抗体等の抗CD63結合タンパク質を含む網目が挙げられる。
【0087】
試料の調製
本開示の方法は、様々な試料に対して行うことができる。本明細書で使用される場合、「試料」という用語は、対象又は細胞培養試料から得られた試料であり得る。例えば、試料は、対象の体液であり得る。一例では、試料は、血液、血清、血漿、尿、唾液、糞便、涙液、気管支肺胞洗浄液(BALF)、脳脊髄液(CSF)及び精液からなる群から選択される。一例では、試料は血液である。別の例では、試料は、細胞培養物又はその上清である。別の例では、試料は、腫瘍細胞を含む細胞培養物又はその上清である。別の例では、試料は、血漿及び血清からなる群から選択される。ある例では、試料は血清試料である。ある例では、試料はエクソソームの集団である。ある例では、試料は、がんを有することが疑われる患者から得られたエクソソームの集団である。ある例では、試料は、本開示に従って腫瘍由来細胞外小胞を検出/単離する前に、精製されるか又は部分的に精製される。例えば、血清試料は、細胞を除去するために精製されてもよい。ある例では、本開示の方法を行う前に、元々試料内にある他の成分(例えば、デブリ、アルブミン又は遊離Neu5Gc)が試料から除去されるか、又は部分的に除去される。ある例では、試料は、組織培養物の上清である。ある例では、試料は、細胞を実質的に含まない。
【0088】
試料は、本明細書に開示される対象又は細胞培養物から得られた元の試料の抽出物、誘導体、画分又は懸濁液を含む。
【0089】
一例では、試料は、精製された又は部分的に精製された細胞外小胞の集団である。一例では、試料は、精製されたエクソソームの集団である。一例では、試料は、部分的に精製されたエクソソームの集団である。ある例では、これらの試料を精製して、非細胞外小胞結合Neu5Gcを除去する。
【0090】
細胞外小胞の不均一な集団を単離する方法は、当該技術分野で既知である(例えば、WO2010/121335、WO2013/188832、WO2014/159662)。他の例では、細胞外小胞の不均一な集団を、超遠心分離、濾過又はカラムクロマトグラフィーを使用して試料から精製することができる。ある例では、細胞外小胞は、細胞外小胞の膜に関連する1つ以上のタンパク質を使用して試料から精製され得る。例えば、細胞外小胞の膜に関連する1つ以上のタンパク質を標的とする親和性クロマトグラフィーを使用することができる。
【0091】
一例では、エクソソーム等の細胞外小胞の集団は、CD63、b2ミクログロブリン、CD11、CD81、CD13、EGFRからなる群から選択される1つ以上のタンパク質の発現に基づいて精製される。ある例では、細胞外小胞は、腫瘍由来細胞外小胞を検出/単離するための本開示の方法に供される前に、上述のタンパク質のうちの1つ以上の発現に基づいて精製される。
【0092】
腫瘍由来細胞外小胞の単離及び/又は検出
本発明者らは、Neu5Gcが腫瘍由来細胞外小胞の外膜に関連していることを同定した。これらの発見は、腫瘍由来細胞外小胞のNeu5Gcの発現に基づいて、試料から腫瘍由来細胞外小胞を検出、捕捉、標識及び/又は単離するための基礎を提供した。したがって、ある例では、本開示は、試料から腫瘍由来細胞外小胞を単離する方法であって、
腫瘍由来細胞外小胞を含む試料を、試料中の腫瘍由来細胞外小胞への結合分子の結合を可能にする条件下で、Neu5Gcに結合する結合分子と接触させることと、
試料から腫瘍由来細胞外小胞に結合した結合分子を単離することと、を含む、方法を提供する。
【0093】
一例では、方法は、単離された結合分子から結合した腫瘍由来細胞外小胞を解離することを更に含む。ある例では、腫瘍由来細胞外小胞は、結合分子への腫瘍由来細胞外小胞の結合を妨害することができる緩衝液を使用して、結合分子から解離される。例示的な解離緩衝液は、以下に記載される。
【0094】
他の例では、エクソソーム等の腫瘍由来細胞外小胞は、本明細書に開示される結合分子を使用して様々な試料から捕捉することができる。ある例では、そのような方法は、腫瘍由来細胞外小胞を含む試料を、試料中の腫瘍由来細胞外小胞への結合分子の結合を可能にする条件下で、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)に結合する結合分子と接触させることと、任意選択的に、試料から結合分子を単離することとを含む。ある例では、本明細書に開示されるNeu5Gc結合分子によって結合又は標識された腫瘍由来細胞外小胞を単離することができる。例えば、単離するのではなく検出するためにNeu5Gc結合分子を使用することができ、別の好適な単離方法を用いて、その膜表面上にNeu5Gcを発現する腫瘍由来細胞外小胞を捕捉/単離する。例えば、Neu5Gc結合タンパク質を使用して、標識された細胞外小胞が捕捉/単離される前に、試料中の腫瘍由来細胞外小胞の集団を標識することができる。ある例では、試料は精製されたエクソソームの集団であり、腫瘍由来エクソソームは、本明細書に開示されるNeu5Gc結合タンパク質、例えば、蛍光標識されたNeu5Gc結合タンパク質で検出可能に標識される。この例では、腫瘍由来エクソソームは、その後、検出可能な標識(例えば、蛍光選別)に基づいて単離され得る。
【0095】
別の例では、本明細書に記載のNeu5Gc結合分子は、その膜表面上にNeu5Gcを発現する腫瘍由来細胞外小胞の親和性に基づく精製に用いられる。例えば、本明細書に記載の抗Neu5Gc結合分子は、固体支持体又はマトリックスに結合させることができる。別の例では、Neu5Gc結合タンパク質は、本明細書に開示される分子網目に組み込まれる。
【0096】
ある例では、本開示の方法は、腫瘍由来細胞外小胞を含む試料を、試料中の腫瘍由来細胞外小胞への結合分子の結合を可能にする条件下で、抗Neu5Gc結合分子と接触させることと、任意選択的に、腫瘍由来細胞外小胞を検出及び/又は単離することと、を含む。
【0097】
単離されたエクソソームは、その後、本明細書に記載されるように分析され得る。
【0098】
本明細書に開示される例では、腫瘍由来細胞外小胞への結合分子の結合を検出して、様々な手段(視覚化、化学的及び免疫化学的分析)によって試料中の腫瘍由来のエクソソームの存在を示すことができる。そのような検出は、試料中の腫瘍由来細胞外小胞の存在を示す。そのような例では、結合分子から腫瘍由来細胞外小胞を溶出する必要なく、腫瘍由来細胞外小胞の生化学的分析が可能である。
【0099】
ある例では、方法は、腫瘍由来細胞外小胞を単離することを更に含む。
【0100】
結合を「検出する」方法は、本明細書に開示される結合分子と、腫瘍由来細胞外小胞の表面上に発現するNeu5Gcとの間の結合を検出することができる限り、特に限定されない。例としては、結合分子/細胞外小胞複合体の凝集体が検出される電子顕微鏡法又は共焦点顕微鏡法等の高分解能顕微鏡法、及びタグ付き抗体を使用して、結合したエクソソームのレベルを検出すること、及び任意選択的に定量することを可能にする免疫吸着アッセイが挙げられる。本明細書に開示される結合を検出するための方法の例は、検出可能に標識された抗Neu5Gc結合分子(例えば、蛍光標識)の使用によって補助されてもよい。
【0101】
ある例では、Neu5Gc結合タンパク質で標識された試料中の腫瘍由来細胞外小胞の数が定量される。適切な定量方法の例は、使用される検出可能な標識に依存する。例えば、蛍光標識されたエクソソームをカウントしてもよい。
【0102】
本開示による腫瘍由来細胞外小胞を検出及び/又は単離するために、試料を本明細書に開示される結合分子と接触させる。「接触させること」、「曝露すること」、又は「適用すること」等の用語は、本開示で互換的に文脈において使用することができる用語であると考えられる。接触させるという用語は、結合分子を試料と接触させて、試料中の細胞外小胞の表面上にNeu5Gcが発現するかどうかを検出することを必要とする。結合は、Neu5Gcを発現する細胞外小胞が試料中に存在することを示す。結合は、当該技術分野で既知の様々な結合分子/抗原結合検出技法を使用して検出され得る。例えば、本明細書に開示される結合分子を組み込んだイムノアッセイを使用してもよい。ある例では、結合は、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して検出される。ある例では、試料中の細胞外小胞は、本開示の方法を行う前に標識され得る。例えば、エクソソームは、蛍光標識することができる。
【0103】
Neu5Gcを発現する腫瘍由来細胞外小胞への本明細書に開示される結合分子の結合を可能にする条件を決定することは、当業者の範囲内に十分にあることが想定される。例えば、以下の実施例を出発点として使用して、結合分子の適切な濃度を決定することができる。一般に、本開示の結合分子は、それらが腫瘍由来細胞外小胞の表面上でNeu5Gcを認識して結合することができるように、好適な溶液及び濃度で提供され得る。
【0104】
ある例では、細胞外小胞を含む試料は、対象から得られる。試料を任意選択的に精製して、試料から細胞外小胞の集団を単離する。試料中の細胞外小胞を、Neu5Gcを発現する腫瘍由来細胞外小胞への結合分子の結合を可能にする条件下で、Neu5Gc結合分子と接触させる。次いで、Neu5Gc結合タンパク質によって結合された腫瘍由来細胞外小胞を試料から単離する。
【0105】
別の例では、細胞外小胞を含む試料は、対象から得られる。試料を任意選択的に精製して、試料から細胞外小胞の集団を単離する。試料を、Neu5Gcに結合する1つ以上の結合分子を含む親和性カラムに通す。Neu5Gcを発現する細胞外小胞が親和性カラムから溶出する前に、親和性カラムを洗浄する。
【0106】
別の例では、細胞外小胞を含む試料は、対象から得られる。試料を任意選択的に精製して、試料から細胞外小胞の集団を単離する。試料を、一定の体積で、Neu5Gcに結合する1つ以上の結合分子とともに一定の期間(例えば、30分間)インキュベートする。Neu5Gcを発現する腫瘍由来細胞外小胞に結合した結合分子は、その後、一定の体積から検出及び/又は単離される(例えば、結合分子が磁性ビーズに固定された磁気ホルダーを使用する)。任意選択的に、検出された結合を定量して、試料中の腫瘍由来細胞外小胞の目安を提供する。この場合、標識された結合分子及び/又は標識細胞外小胞(例えば、蛍光標識された)を試料中に提供することが好ましい場合がある。
【0107】
ある例では、本明細書に記載の方法は、結合分子から結合した腫瘍由来細胞外小胞を解離することと、解離された腫瘍由来細胞外小胞を収集することと、を更に含む。本明細書に開示される結合分子から結合した腫瘍由来細胞外小胞を解離する様々な方法は、当業者に既知である。例えば、好適な解離緩衝液、例えば、Ishida et al.(2020)Sci Rep 10.,18718に記載される解離緩衝液による洗浄が、本開示の方法において実施され得る。代替として、ある例では、解離緩衝液はリン酸緩衝食塩水(PBS)である。他の例では、親和性クロマトグラフィーを使用して、本明細書に開示される試料から腫瘍由来細胞外小胞を単離する。
【0108】
腫瘍由来細胞外小胞の分析
一例では、本明細書に記載の方法は、エクソソーム等の単離された腫瘍由来細胞外小胞を分析することを更に含む。ある例では、細胞外小胞の内容物が分析される。ある例では、タンパク質発現プロファイルが分析される。別の例では、マイクロRNA発現プロファイルが分析される。
【0109】
本開示に従って単離された腫瘍由来細胞外小胞は、当該技術分野で既知の様々な方法を使用して分析され得る。例えば、分析は、腫瘍由来細胞外小胞の数及び/又は組成(タンパク質、核酸、脂質又は糖の含有量)を定量することを含むことができる。例えば、核酸及び/又はタンパク質は、腫瘍由来細胞外小胞から単離され、分析されてもよい(例えば、定量されてもよい)。そのような分析に使用される例示的な方法としては、PCR等の定量的増幅反応、DNA及び/又はRNA配列解析、小分子RNA配列決定、マイクロRNA配列決定、定量的タンパク質発現解析、ELISA、質量分析、免疫親和性捕捉、サイトメトリー解析、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)、及びレクチン結合が挙げられる。
【0110】
ある例では、分析される細胞外小胞は、小型細胞外小胞、エクソメア、エクソソーム、及びマイクロベシクルからなる群から選択される。別の例では、分析される細胞外小胞は、小型細胞外小胞である。別の例では、分析される細胞外小胞は、マイクロベシクルである。別の例では、分析される細胞外小胞は、エクソソームである。
【0111】
腫瘍の検出
本明細書に開示されるエクソソーム等の腫瘍由来細胞外小胞を検出する方法は、対象ががんを有するかどうかを決定するために使用され得ることが想定される。ある例では、そのような方法を使用して、がんを示す症状を有する対象におけるがんを検出することができる。ある例では、本明細書に開示される方法はルーチン的ながんスクリーニングに使用することができる。例えば、試料は、ルーチン的ながんスクリーニングに登録した対象から得ることができ、試料は、本明細書に開示される方法を使用してがん由来の細胞外小胞の存在について評価することができる。ある例では、本明細書に開示される方法を使用して腫瘍由来細胞外小胞の存在を検出した後、対象の更なるスクリーニング(例えば、PETスキャン、生検、細胞診、組織学)によって、がんの位置及びタイプを確認することができる。
【0112】
本開示に従って検出されるがんのタイプは、Neu5Gcを発現するエクソソーム等の腫瘍由来細胞外小胞を分泌する限り、特に限定されない。ある例では、がんは、乳がん、黒色腫、悪性上皮腫瘍、食道がん、胃がん、結腸直腸がん、直腸の類表皮がん、膵臓がん、肝細胞がん、リンパ節転移、腎臓がん、膀胱がん、卵巣がん、子宮がん、精巣がん、前立腺がん、神経芽腫、非小細胞肺がん、リンパ腫、神経外胚葉性腫瘍(星状細胞腫及び神経膠芽腫)、腎芽腫(ウィルムス腫瘍)、肉腫、ユーイング肉腫及び甲状腺がんからなる群から選択される。ある例では、がんは乳がんである。ある例では、がんは、乳がん、卵巣がん、又は膵臓がんである。ある例では、がんは固形腫瘍である。ある例では、がんは乳がんである。別の例では、がんは肺がんである。別の例では、がんは前立腺がんである。別の例では、がんは、乳がん、肺がん又は前立腺がんである。
【0113】
Neu5Gc腫瘍由来細胞外小胞の集団又は組成物
本開示はまた、Neu5Gcを発現する細胞外小胞が濃縮された腫瘍由来細胞外小胞の集団を提供する。ある例では、腫瘍由来細胞外小胞の集団は、細胞外小胞の試料を、本明細書に開示される結合分子と接触させることによって得られる。ある例では、腫瘍由来細胞外小胞は、組成物中に提供される。ある例では、組成物は、配列番号4を含む結合分子を含む。
【0114】
本開示は更に、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)を発現する細胞外小胞が濃縮された細胞外小胞を含む組成物を提供し、細胞外小胞は、本明細書に記載の方法によって単離/精製された腫瘍由来細胞外小胞である。ある例では、濃縮された試料は、非腫瘍由来細胞外小胞に対する腫瘍由来細胞外小胞のより高い比率を有する。ある例では、増加した比率は、本明細書に開示される方法に供されていない出発試料の比率と比較して決定される。
【0115】
一例では、組成物又は集団中の細胞外小胞の少なくとも20%が、Neu5Gcを発現する。別の例では、組成物又は集団中の細胞外小胞の少なくとも30%が、Neu5Gcを発現する。別の例では、組成物又は集団中の細胞外小胞の少なくとも40%が、Neu5Gcを発現する。別の例では、組成物又は集団中の細胞外小胞の少なくとも50%が、Neu5Gcを発現する。別の例では、組成物又は集団中の細胞外小胞の15%~50%が、Neu5Gcを発現する。別の例では、組成物又は集団中の細胞外小胞の30%~50%が、Neu5Gcを発現する。
【0116】
別の例では、組成物又は集団中の細胞外小胞の60%超、70%超が、Neu5Gcを発現する細胞外小胞である。
【0117】
ある例では、本開示は、腫瘍由来細胞外小胞の検出等の本明細書に定義される方法において使用されたときにNeu5Gcに結合する結合分子を包含する。
【0118】
ある例では、本開示は、試料中の腫瘍由来細胞外小胞を捕捉及び/又は検出するために使用されたときにN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)に結合する結合分子を包含する。ある例では、結合分子は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む。
【0119】
スクリーニングの方法
ある例では、本開示の方法は、エクソソーム等の腫瘍由来細胞外小胞のバイオマーカーのスクリーニング方法に関する。ある例では、方法は、本明細書に記載される方法に従って試料から腫瘍由来細胞外小胞を捕捉することを含み、方法は、捕捉された腫瘍由来細胞外小胞をバイオマーカーについてスクリーニングすることを更に含む。ある例では、バイオマーカーは、腫瘍由来細胞外小胞を更に特徴付ける。別の例では、バイオマーカーは、腫瘍由来細胞外小胞を正常な腫瘍由来細胞外小胞と区別する。ある例では、捕捉された腫瘍由来細胞外小胞をバイオマーカーについてスクリーニングすることは、例えば、定量的逆転写PCRを使用したDNA(exoDNA)及び/又はRNAに基づく評価を伴う。ある例では、捕捉された腫瘍由来細胞外小胞をバイオマーカーについてスクリーニングすることは、例えば、質量分析を使用したタンパク質ベースの評価を伴う。次いで、これらのスクリーニング方法によって特定されたバイオマーカーを本開示の方法に組み込んで、腫瘍由来細胞外小胞を捕捉/検出することができる。
【実施例
【0120】
実施例1:Neu5Gcは腫瘍由来エクソソームの外膜上に発現する
腫瘍由来エクソソームの膜表面上でNeu5Gcを検出できるかどうかを決定するために、結合アッセイを行った。健常な個人及びがん患者に由来するエクソソーム集団を、SubBΔS106/ΔT107を含む一連のビオチン化Neu5Gc結合分子及び2つの抗Neu5Gc抗体(BioLegend[BL];Creative Diagnostics[CD])と接触させた。試料はまた、非特異的結合の対照を提供するためにIgYと接触させ、各試料中のエクソソーム数を制御するために抗CD63抗体(エクソソームに特異的なマーカー)と接触させた。図1は、驚くべきことに、がん対象に由来するエクソソームが、試験した全てのNeu5Gc結合分子によって検出可能な形態で、その膜表面上にNeu5Gcを発現することを示す。IgY対照と比較して上昇したNeu5Gcレベルによって示されるように、CD及びBL抗Neu5Gc抗体並びにSubBΔS106/ΔT107は全て、がん試料に由来するエクソソーム集団においてNeu5Gc陽性エクソソームを検出した。対照的に、Neu5Gc結合分子は、健常者に由来するエクソソーム集団における対照を上回るNeu5Gcレベルを検出しなかった(図1)。エクソソームは、検出されたCD63のレベルによって示されるように、評価した全ての試料中に存在した(図1)。図2 エクソソーム数の制御。
【0121】
これらのデータは、Neu5Gcが腫瘍由来エクソソームの膜表面上に発現し、様々な抗Neu5Gc結合分子を使用して、このようにして腫瘍由来エクソソームを検出できることを示唆している。これらのデータはまた、腫瘍由来エクソソームが、Neu5Gcの発現に基づいてエクソソームの集団から精製され得ることを示唆する。
【0122】
実施例2:SubBΔS106/ΔT107分子網目の形成
Neu5Gcに結合するSubBΔS106/ΔT107の複数の層を有する層状のマルチポリマー分子網目構造(「SubB2M分子網目」)は、磁気ビーズ上でリンカー及びスペーサーを使用してSubBΔS106/ΔT107を共有結合させることによって作製した。端的に述べると、0.1~0.5mg/mlのSubBΔS106/ΔT107を調製した後、撹拌しながらリンカー(BS3、BS(PEG)9、BS(PEG)7、BS(PEG)5、BS2G-d0、BS2G-d4;Tri Link)を添加し、次いで、暗所にて室温でインキュベートして第1の網目層を提供した。第1の網目層を磁気ビーズに共有結合させた。次いで、撹拌しながらSubBΔS106/ΔT107溶液にリンカーを添加し、続いて暗所にて室温でインキュベートすることによって、第2の網目層を作製した。次いで、撹拌しながらSubBΔS106/ΔT107溶液にリンカーを添加し、続いて暗所にて室温でインキュベートすることによって、第3の網目層を作製した。
【0123】
実施例3:腫瘍由来エクソソームのNeu5Gcベースの精製
腫瘍由来エクソソームがNeu5Gc発現に基づいて精製され得るかどうかを決定するために、結合アッセイを行った。MCF7エクソソーム(1×10エクソソーム)を、1mLのダルベッコリン酸緩衝食塩水(DPBS)中のExo-Red(SBI)で予め標識した。実施例2に記載の方法から作製したSubBΔS106/ΔT107分子網目を、予め標識しておいたMCF7エクソソームとともに30分間インキュベートした。インキュベーション混合物を、1mLのDPBSで3回洗浄した。次いで、蛍光標識MCF7エクソソームの平均蛍光強度(MFI)を、結合アッセイのフロースルー(FT)、洗浄及び結合画分(WABF)において決定した(表1及び2を参照)。
【0124】
表1は、試料中の一定量のMCF7エクソソームを、様々な量のSubBΔS106/ΔT107分子網目と接触させた結果を示す。15μLのSubBΔS106/ΔT107分子網目の存在下で、結合アッセイの全MFI画分と比較して約49%のMCF7エクソソームがWABF中に検出され、これは、対照(SubBΔS106/ΔT107分子網目の非存在下)の量の約3倍であった(表1)。これらのデータは、Neu5Gcが腫瘍由来エクソソームの膜表面上に発現し、Neu5Gcを使用して試料からNeu5Gcを発現する腫瘍由来エクソソームを検出及び/又は単離することができることを示す。エクソソーム捕捉は、SubBΔS106/ΔT107分子網目の量にかかわらず比較的一貫性があり、腫瘍由来エクソソームの膜表面上に発現するNeu5Gcに結合するのに十分なNeu5Gc結合分子が存在していたことが実証された(表1)。
【表1】
【0125】
表2は、一定量のSubBΔS106/ΔT107分子網目を、試料中の様々な量のMCF7エクソソームと接触させた結果を示す。50μLのMCF7エクソソームを一定量のSubBΔS106/ΔT107分子網目と接触させた場合、結合アッセイの全MFI画分と比較して約52%のMCF7エクソソームがWABF中に検出された(表2)。100μL及び200μLのMCF7エクソソームをそれぞれ一定量のSubBΔS106/ΔT107分子網目と接触させた場合、結合アッセイの全MFI画分と比較してWABF中に検出されたMCF7エクソソームの割合は、約44%及び36%であった(表2)。予想通り、MCF7エクソソームが存在しない対照試料において、低いMFI(バックグラウンドシグナル)が検出された(表2)。
【表2】
【0126】
表1及び表2は、予想外にNeu5Gcが腫瘍由来エクソソームの膜表面上に発現し、この表面発現を利用して、SubBΔS106/ΔT107等のNeu5Gc結合分子を使用して腫瘍由来エクソソームを単離及び/又は検出することができることを示す。
【0127】
表1及び表2の結果は、約50%のMCF7由来のエクソソームが、SubBΔS106/ΔT107分子網目を使用して単離されたことを実証する。SubB2M分子網目が腫瘍由来エクソソームを捕捉していることを確認するために、qRT-PCRを使用して単離されたエクソソームにおいて一般的ながんバイオマーカーmiR-21のレベルを分析した。その結果を表3に提示する。
【表3】
【0128】
予想通り、miR-21の回復は、腫瘍由来エクソソームを含む全ての複製物で検出された。対照試料中にmiR-21は検出されなかった。これらのデータは、Neu5Gc結合分子を使用して、核酸発現分析等の更なる分析に好適な形態で腫瘍由来エクソソームを単離及び/又は検出できることを裏付けるものである。
【0129】
実施例4:腫瘍由来エクソソームの追加のNeu5Gcベースの精製
実施例4は、実施例1及び3で証明されたNeu5Gc結合タンパク質SubB2Mの腫瘍由来エクソソーム捕捉能力を更に支持する。本実施例では、ヒト血漿試料を、肺がん、前立腺がんを有する患者、及び健常な対照から得た。400~500uLのそれぞれの血漿試料を、磁気ビーズ上に提示された30uLのSubB2M(Neu5Gc結合タンパク質)又はSubA12(非シアル酸成分に結合するが、Neu5Gcには実質的に結合しない結合タンパク質)のいずれかと接触させた。次いで、qPCRを使用してHPRT1 mRNAレベルを評価し、SubB2Mによって捕捉されたエクソソームの目安を提供した。実施例3の結果と一致して、SubB2Mは、正常な血漿よりも有意に多くのHPRT1 mRNAをがん血漿から捕捉し、この知見は、試験した両方のがんにわたって一貫していた(図3)。実施例1及び3の結果と合わせて、これらのデータは、Neu5Gcの発現に基づいて腫瘍から細胞外小胞を捕捉することの一般的な概念を更に支持する。
【0130】
実施例5:がんエクソソームの検出
架橋剤、及びエクソソームの異なる表面エピトープに対する抗体からなる層状のマルチポリマー分子網目構造でコーティングされたビーズを、エクソソームを含有する試料と接触させる。次いで、捕捉されたエクソソームを、抗Neu5Gc抗体又はSubBΔS106/ΔT107変異体及びNeu5Gcへの結合を検出するための適切なレポーターのいずれかを使用して、がんバイオマーカーNeu5Gcについてスクリーニングする。
【0131】
実施例6:がんの検出
架橋剤及び抗Neu5Gc結合分子からなる層状のマルチポリマー分子網目構造でコーティングされたビーズを、がんを有することが疑われる患者から単離されたエクソソームを含有する試料と接触させる。細胞外小胞へのNeu5Gc結合分子の結合は、試料中の腫瘍由来細胞外小胞の存在を示す。
【0132】
当業者は、広く説明される本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示されるように、本発明に多数の変形及び/又は修正が行われ得ることを理解するであろう。したがって、本発明の実施形態は、全ての点で例示的であり、限定的ではないと見なされるべきである。
【0133】
上述の全ての刊行物は、それらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0134】
本出願は、2021年5月6日に出願されたAU2021/901359からの優先権を主張し、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0135】
本明細書に含まれている文書、行為、材料、デバイス、物品等についてのあらゆる議論は、本発明の文脈を提供するためのものに過ぎない。これらの事項のいずれか又は全てが、先行技術の基礎の一部を形成することを認めるものとして、又は本出願の各請求項の優先日前に存在したために本発明に関連する分野の共通の一般的知識であったことを認めるものとして解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
【配列表】
2024517893000001.app
【国際調査報告】