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特表2024-517930敗血症の発症を判定するための方法およびデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】敗血症の発症を判定するための方法およびデバイス
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/20 20180101AFI20240416BHJP
【FI】
G16H50/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023569821
(86)(22)【出願日】2022-05-11
(85)【翻訳文提出日】2023-12-21
(86)【国際出願番号】 EP2022062760
(87)【国際公開番号】W WO2022238472
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】21173588.1
(32)【優先日】2021-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516308401
【氏名又は名称】シーメンス ヘルスケア ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】アンキット・グプタ
(72)【発明者】
【氏名】カーステン・ディートリヒ
(72)【発明者】
【氏名】サラバナン・ジー
(72)【発明者】
【氏名】リサ・ヴァリンス
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA04
(57)【要約】
敗血症の発症を判定する方法(200)およびデバイス(100)が提供される。一態様において、本方法(200)は、患者に関連する少なくとも1つの医療データセットを受信することを含み、医療データセットが複数の特徴を含む。さらに、本方法(200)は、医療データセットから1つまたはそれ以上の特徴を抽出することを含み、1つまたはそれ以上の特徴は、敗血症のインジケータである患者に関連するパラメータを含む。加えて、本方法(200)は、医療データセット内の少なくとも1つの欠損値を補完することを含み、欠損値は、医療データセット内の特徴に関連する。本方法(200)は、1つまたはそれ以上の特徴および医療データセット内の少なくとも1つの欠損値を、1つまたはそれ以上の訓練済み機械学習モデル(700)の入力として使用することによって、患者における敗血症の発症を示す出力パラメータを決定することをさらに含む。さらに、本方法(200)は、出力パラメータが敗血症に関連する所定の基準を満たす場合、患者における敗血症の発症を示すアラート(ALT)を生成することを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における敗血症の発症を判定する方法(200)であって:
処理装置(101)によって、患者に関連する少なくとも1つの医療データセットを受信することであって、該医療データセットは、複数の特徴を含むことと;
処理ユニット(101)によって、医療データセットから、敗血症のインジケータである患者に関連するパラメータを含む1つまたはそれ以上の特徴を抽出することと;
処理ユニット(101)によって、医療データセット内の少なくとも1つの欠損値を補完することであって、該欠損値は、医療データセット内の特徴に関連し、該少なくとも1つの欠損値は、所与の閾値を超えた値であることと;
処理ユニット(101)によって、医療データセット内の1つまたはそれ以上の特徴および少なくとも1つの補完された欠損値を、1つまたはそれ以上の訓練済み機械学習モデル(700)の入力として使用することによって、患者における敗血症の発症を示す出力パラメータを決定することと;
処理ユニット(101)によって、出力パラメータが敗血症に関連する所定の基準を満たす場合、患者における敗血症の発症を示すアラート(ALT)を生成することと
を含む前記方法。
【請求項2】
医療データセットから1つまたはそれ以上の特徴を正規化することをさらに含み、ここで、正規化することは、1つまたはそれ以上の特徴の各々について一律の最小閾値および最大閾値を定義することを含む、請求項1に記載の方法(200)。
【請求項3】
医療データセット内の少なくとも1つの欠損値を補完することは:
処理ユニット(101)によって、医療データセット内の特徴に関連する欠損値を決定することと;
処理ユニット(101)によって、特徴に関連する欠損値に先行する、または後続する値を決定することと;
処理ユニット(101)によって、医療データセット内の特徴に関連する欠損値に先行する値、または欠損値に後続する値で欠損値を置換することと
を含む、請求項1に記載の方法(200)。
【請求項4】
患者に関連する医療データセット内の1つまたはそれ以上の特徴は、患者に関連するバイタルサイン、患者の血液試料中に存在する分析物、ならびに患者のバイタルサインおよび血液試料中に存在する分析物に関連する派生パラメータのうちの少なくとも1つを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法(200)。
【請求項5】
患者における敗血症の発症を示す出力パラメータは確率スコアであり、確率値0は敗血症ではないことを示し、確率値1は敗血症の発症を示す、請求項1に記載の方法(200)。
【請求項6】
患者における敗血症の発症を示すアラートを生成することは:
処理ユニット(101)によって、患者に関連する確率値が第1の所定の閾値を超えるかどうかを判定することと;
処理ユニット(101)によって、確率値が第1の所定の閾値を超える場合、警告(ALT)を生成することと
を含む、請求項1または5に記載の方法(200)。
【請求項7】
処理ユニット(101)によって、敗血症の発症を示す生成された警告(ALT)の数を特定することと;
処理ユニット(101)によって、生成された警告(ALT)の数が第2の所定の閾値を超えるかどうかを判定することと;
処理ユニット(101)によって、生成された警告の数が第2の所定の閾値を超える場合、敗血症の発症を示すアラーム(ALM)を生成することと
をさらに含む、請求項6に記載の方法(200)。
【請求項8】
訓練済み機械学習モデル(700)は、特に長短期記憶ブロックを含むリカレントニューラルネットワークである、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法(200)。
【請求項9】
患者における敗血症の発症を判定するための機械学習モデル(700)を訓練する方法(500)であって:
処理ユニット(101)によって、患者に関連する医療データセットを受信することであって、該医療データセットは、患者に関連する複数の特徴を含むことと;
処理ユニット(101)によって、所与の時点における敗血症の発症のインジケータである患者に関連するパラメータを含む1つまたはそれ以上の特徴を、医療データセット内の複数の特徴から抽出することと;
処理ユニット(101)によって、機械学習モデル(700)を受信することと;
機械学習モデル(700)によって、医療データセット内に存在する1つまたはそれ以上の特徴に基づいて、患者における敗血症の発症に関する確率値を決定することと;
処理ユニット(101)によって、医療データセットに関連する敗血症データを受信することであって、該敗血症データは、医療データセットに関連する患者の定義された期間における敗血症の発症を示すか、または敗血症の非存在を示すことと;
確率値と敗血症データとの比較結果に基づいて機械学習モデル(700)を調整することとを含み、
方法(500)は、敗血症データを前処理することをさらに含み、敗血症データを前処理することは:
処理ユニット(101)によって、敗血症データ内の少なくとも1つの欠損値を補完することであって、該欠損値は、敗血症データ中の1つまたはそれ以上の特徴に関連することと;
処理ユニット(101)によって、敗血症データから1つまたはそれ以上の特徴を正規化することと、を含み、正規化することは、1つまたはそれ以上の特徴の各々について一律の最小閾値および最大閾値を定義することを含む、前記方法。
【請求項10】
敗血症データは、患者の定義された期間における敗血症の発症を示すか、または敗血症の非存在を示すようにラベル付けされた医療データセットを含む、請求項9に記載の方法(500)。
【請求項11】
敗血症データに関連するラベルは、ラベルが示す定義された期間を2~10時間の範囲、好ましくは3~9時間、より好ましくは6~8時間、最も好ましくは5~7時間進めるように変更される、請求項10に記載の方法(500)。
【請求項12】
患者における敗血症の発症を判定するための敗血症判定デバイス(100)であって:
1つまたはそれ以上の処理ユニット(101)と;
1つまたはそれ以上の処理ユニット(101)に連結され、患者に関連する複数の医療データセット、および敗血症データを含む医療データベース(112)と;
1つまたはそれ以上の処理ユニット(101)に連結され、少なくとも1つの訓練済み機械学習モデル(700)を使用して、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法工程を実行するように構成された敗血症判定モジュール(110)を含むメモリ(102)と
を含む、前記敗血症判定デバイス。
【請求項13】
1つまたはそれ以上の処理ユニット(101)によって実行されたとき、1つまたはそれ以上の処理ユニット(101)に請求項1~11のいずれか1項に記載の方法工程を実行させる機械可読命令を含むコンピュータプログラム製品。
【請求項14】
コンピュータプログラムのプログラムコードセクションが保存されたコンピュータ可読媒体であって、プログラムコードセクションは、該プログラムコードセクションがシステム(100)で実行されたとき請求項1~11のいずれか1項に記載の方法工程をシステム(100)に実行させるために、システム(100)にロード可能および/またはシステム(100)で実行可能である、前記コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者における敗血症の発症を判定するための方法およびデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
敗血症は、感染症に対する個人の身体の極端な免疫反応である。敗血症は生命を脅かす可能性があり、全身に一連の反応を引き起こし、これにより組織損傷、臓器不全、および死亡を引き起こすことがある。敗血症の早期発見は、敗血症の治療成績を向上させる重要な側面の1つと考えられている。敗血症の認識を助ける臨床基準は広く利用可能であるが、敗血症の早期発見および治療に対する根本的なニーズは依然として満たされていない。既存の敗血症早期発見法では、病院環境における敗血症の正確な発見に必要なレベルの特異度および感度を達成していない。さらに、既存の敗血症早期発見法は、医療データセットの不均衡および結果の歪みといった限界により損なわれている。
【0003】
現在、患者の敗血症の発症を早期に高い特異度で発見できる方法はない。したがって、患者における敗血症の発症の適時判定を有効にする、効果的で正確な方法およびデバイスが必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、患者における敗血症の発症の早期の段階の効果的な判定を有効にする方法およびデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、患者における敗血症の発症を判定する方法によって目的を達成する。本方法は、患者に関連する少なくとも1つの医療データセットを受信することを含む。医療データセットは、例えば、患者に関連する医療情報を含む。医療情報は、血液試料分析から得られた検査室パラメータ(血液分析物測定値など)、心拍数などのバイタル統計、および患者の年齢、患者の性別などの患者の人口統計データなどの複数の特徴を含み得るが、これらに限定されない。一実施形態において、医療データセットは、医療データベースに記憶され、必要なときにアクセスされる。本方法は、医療データセットから、敗血症のインジケータである患者に関連するパラメータを含む1つまたはそれ以上の特徴を抽出することを含む。一実施形態において、医療データセットは、敗血症のインジケータとなり得ない特徴をさらに含んでいてもよい。したがって、医療データセットのうち、患者における敗血症の発症の判定を支持し得る1つまたはそれ以上の特徴が、さらなる処理のために抽出される。本方法はさらに、医療データセット内の少なくとも1つの欠損値を補完することを含む。例えば、欠損値は医療データセットの特徴に関連している可能性がある。例えば、患者に関連する心拍数は、ある期間Xに記録されていない可能性がある。これにより、医療データセットの、期間Xの心拍数の欠損値が生じ得る。このような欠損値の補完を実行して、医療データセットが完全であることを確実にする。
【0006】
本方法はさらに、1つまたはそれ以上の特徴を、訓練済み機械学習モデルの入力として使用することによって、患者における敗血症の発症を示す出力パラメータを決定することを含む。訓練済み機械学習モデルは、医療データセット内の1つまたはそれ以上の特徴を処理し、患者における敗血症の発症を示す出力パラメータを生成するように構成される。例えば、出力パラメータは、患者における敗血症の発症または患者における敗血症の非存在を示すことができる。一実施形態において、訓練済み機械学習モデルは、長短期記憶を有するリカレントニューラルネットワークであってもよい。本方法はさらに、患者における敗血症の発症を示すアラートを生成することを含む。アラートは、例えば、訓練済み機械学習モデルによって生成された出力パラメータが敗血症に関連する所定の基準を満たす場合に生成される。一実施形態において、アラートは、ユーザが使用する出力デバイスで生成される。アラートは、例えば、患者における敗血症の発症を示す通知であってもよい。通知は、出力デバイスのグラフィカルユーザインタフェースで生成される。あるいは、通知は、出力デバイスに提供される音および/または触覚フィードバックをさらに含んでもよい。有利には、本方法は、患者における敗血症の発症の早期特定を有効にする。したがって、患者を効果的かつ適時に治療することができる。
【0007】
一実施形態によれば、本方法は、訓練済み機械学習モデルへの入力として提供される、医療データセット内の1つまたはそれ以上の特徴に関連する値を正規化することをさらに含む。一実施形態において、1つまたはそれ以上の特徴の値を正規化することは、医療データセット内の1つまたはそれ以上の特徴の各々について一律の最小閾値および最大閾値を定義することを含む。一般に、医療データセット内の各特徴は、多様な最小閾値および最大閾値を有していてもよい。正規化により、訓練済み機械学習モデルでデータセットの効果的な分析が可能になるように、すべての閾値を同じレベルにすることができる。一実施形態において、特徴の最小閾値および最大閾値は、最小値1から最大値5の範囲に再定義される。患者に関連する1つまたはそれ以上の特徴の値が1~5の範囲外にある場合、その値は特徴に関連する最小値および最大値の閾値に置き換えられる。閾値の正規化に大きな値を使用すると、一定期間にわたる特徴の時間的変化が失われる可能性があることに留意されたい。そのため、閾値は、最小値1および最大値5に限定される。有利には、本発明は、患者に関連する1つまたはそれ以上の特徴の値における最小限の変化さえも捕捉を有効にする。これにより、敗血症の発症の判定における高い特異度の達成を有効にする。
【0008】
別の実施形態によれば、医療データセット内の少なくとも1つの欠損値を補完することは、医療データセット内の特徴に関連する欠損値を特定することを含む。一実施形態において、医療データセット内の1つまたはそれ以上の特徴に関連する値は、その値が所与の時間間隔で、患者に関して捕捉/記録されていない可能性がある場合、欠損している可能性がある。あるいは、医療データセット内の1つまたはそれ以上の特徴に関連する値は、その値がありそうもないか、または妥当な閾値を超えている場合、欠損とみなされる。本方法はさらに、特徴に関連する欠損値に先行する値を決定することを含む。欠損値に先行する値は、所与の時間間隔の前に患者に関して最後に捕捉/記録された値であってもよい。本方法は、医療データセット内の特徴に関連する欠損値に先行する値で欠損値を置換することをさらに含む。一実施形態において、先行する値による欠損値の置換は、値が記録される限られた期間に実行される。この期間は、医療データセット内の1つまたはそれ以上の特徴の種類に依存してもよい。例えば、バイタルサインに関して定義される期間は4~6時間の範囲に限定され、検査室パラメータに関して定義される期間は22~24時間の範囲に限定される。有利には、医療データセットは、訓練済み機械学習モデルによって完全でより有用なものとなる。したがって、患者の敗血症発症の判定の正確度が向上する。
【0009】
一実施形態によれば、医療データセット内の1つまたはそれ以上の特徴は、患者に関連するバイタルサイン、患者の血液試料中に存在する分析物、患者に関連する人口統計データ、ならびにバイタルサインおよび患者の血液試料中に存在する分析物に関連する派生パラメータのうちの少なくとも1つを含む。例えば、患者に関連するバイタルサインとしては、患者に関連する心拍数、パルスオキシメトリ測定値、患者の体温、収縮期血圧、平均動脈圧、拡張期血圧、および呼吸数が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、患者に関連する血液試料中に存在する分析物としては、血中尿素窒素、クレアチニン、乳酸塩、ビリルビン、白血球、血小板、血液のpH、および血清グルコースが挙げられるが、これらに限定されない。患者の人口統計データとしては、例えば、患者に関連する年齢および性別が挙げられる。患者に関連する派生特徴としては、患者に関連するショック指数、血中尿素窒素対クレアチニンの比、修正早期警戒スコア(MEWS)、および部分的SOFA(Sequential Organ Failure Assessmentの頭字語)スコアが挙げられるが、これらに限定されない。
【0010】
別の実施形態によれば、患者における敗血症の発症を示す出力パラメータは、訓練済み機械学習モデルによって生成された確率値である。機械学習モデルは、1つまたはそれ以上の特徴を処理し、患者における敗血症の発症に関連する確率値を生成するように構成される。本発明の利点は、確率値が患者に関連する1つまたはそれ以上の特徴に基づいていることである。したがって、1つまたはそれ以上の特徴に関連する値の変化によって、確率値も変化し、それによって患者における敗血症の発症の正確な尺度が得られる。
【0011】
一実施形態によれば、患者における敗血症の発症を示すアラートを生成することは、患者に関連する確率値が第1の所定の閾値を超えるかどうかを判定することを含む。第1の所定の閾値は、機械学習モデルによって生成された確率値に関連する閾値であってもよい。確率値が第1の所定の閾値を超える場合、警告またはアラートが生成される。例えば、第1の所定の閾値は、0.4~1.0の範囲内、好ましくは0.5~1.0の範囲内であってもよい。一実施形態において、第1の所定の閾値は、患者に関連するユーザの好みに応じて変更される。別の実施形態において、確率値が第1の所定の閾値内に収まる場合、警告が生成される。有利には、患者における敗血症の発症の確率が特定される、または増加する場合、ユーザ(医師または医療関係者など)に速やかにアラートが発せられる。したがって、患者の生命を救うために必要な医療行為を適時とることができる。
【0012】
さらに別の実施形態によれば、アラートを生成することは、敗血症の発症を示す生成された警告の数を特定することをさらに含む。例えば、生成された警告の数は、患者が監視される定義された期間に関して特定される。さらに、生成された警告の数が第2の所定の閾値を超えるかどうかの判定が行われる。生成された警告の数が第2の所定の閾値を超える場合、患者における敗血症の発症を示すアラームが生成される。例えば、第2の所定の閾値は、患者が監視される期間に依存し得る。例えば、定義された期間が2時間である場合、第2の所定の閾値は2回の警告であってよい。したがって、生成された警告の数が2時間内に2を超える場合、敗血症の発症を示すアラームが生成される。一実施形態において、生成されるアラームは、患者に対して生成された警告/アラートの数を示す通知を含み得る。アラームは、通知とともに、音に基づく出力または触覚に基づく出力と関連付けられる。本発明の利点は、アラームにより、ユーザが患者の身体における疾患の進行を早期に特定できることである。したがって、患者の状態を適時に改善するために必要な措置が実施される。
【0013】
好ましい実施形態によれば、訓練済み機械学習モデルは、特に、長短期記憶ブロックを含むリカレントニューラルネットワークである。特に、リカレントニューラルネットワークは、ノード間の接続が時間的シーケンスに沿った有向グラフを形成する人工ニューラルネットワークである。特に、リカレントニューラルネットワークは、有向非巡回グラフとして解釈することができる。特に、リカレントニューラルネットワークは、有限インパルスリカレントニューラルネットワークまたは無限インパルスリカレントニューラルネットワークであることができる(ここで、有限インパルスネットワークは、展開して厳密なフィードフォワードニューラルネットワークと置き換えることができ、無限インパルスネットワークは、展開して厳密なフィードフォワードニューラルネットワークと置き換えることができない)。特に、リカレントニューラルネットワークは、追加の記憶状態、または時間遅延を組み込んだ、もしくはフィードバックループを構成する追加のネットワーク構造を含むことができる。
【0014】
同様な意味合いで、リカレントニューラルネットワークは、出力が入力値およびエッジ重みに依存するだけでなく、隠れ状態ベクトルにも依存するニューラルネットワークとして定義することもでき、隠れ状態ベクトルは、リカレントニューラルネットワークで使用される以前の入力に基づいている。本発明のさらなる態様によれば、リカレントニューラルネットワークは、少なくとも1つの長短期記憶(LSTM)ブロックを含む。特に、LSTMブロックは、セル、入力ゲート、出力ゲート、および忘却ゲートを含み、セルは隠れベクトルに対応し、入力ゲート、出力ゲート、および忘却ゲートは、セルへの情報の流入およびセルからの情報の流出を制御する。特に、セルを使用することにより、LSTMブロックは、他のタイプのリカレントニューラルネットワークを訓練するときに起こり得る発散および勾配消失問題を防止できる。
【0015】
有利には、リカレントニューラルネットワークはデータの時間的分析を有効にし、それによってリアルタイムの入力データセットだけでなく、ニューラルネットワークによって以前の時間に分析された可能性のあるデータセットも考慮する。さらに、LSTMブロックは、多様な、または未知の時間間隔で区切られた入力データに適している。
【0016】
本発明の目的は、患者における敗血症の発症を判定するための機械学習モデルを訓練する方法によっても達成される。本方法は、患者に関連する医療データセットを受信することを含み、医療データセットは患者に関連する複数の特徴を含む。医療データセットは、医療データベースなどのソースから受け取られる。さらに、本方法は、医療データセット内の複数の特徴から1つまたはそれ以上の特徴を抽出することを含み、1つまたはそれ以上の特徴は、所与の時点における敗血症の発症のインジケータである患者に関連するパラメータを含む。1つまたはそれ以上の特徴は、リアルタイムまたはほぼリアルタイムで患者の医学的状態を反映し得る。したがって、医療データセット内の1つまたはそれ以上の特徴は、所与の時点における敗血症の発症を示し得る。さらに、本方法は、機械学習モデルを受信することと、医療データセット内の1つまたはそれ以上の特徴に基づいて、患者における敗血症の発症に関する確率値をモデルによって決定することとを含む。一実施形態において、確率値は、医療データセット内の1つまたはそれ以上の特徴に関連する値に基づいて決定される。
【0017】
本方法は、医療データセットに関連する敗血症データを受信することをさらに含み、敗血症データセットは、医療データセットに関連する患者の定義された期間における敗血症の発症を示すか、または敗血症の非存在を示す。一実施形態において、敗血症データセットは、患者の定義された期間における敗血症の発症を示すか、または敗血症の非存在を示すようにラベル付けされた医療データセットを含み得る。さらなる実施形態において、ラベル付けされた医療データセットは、既往歴が監視され、敗血症を治療されている複数の患者に関連付けられる。ラベル付けされた医療データセットは、規則的な時間間隔で記録された1つまたはそれ以上の特徴を含み、それにより、その時間間隔にわたる1つまたはそれ以上の特徴に関連する値の変動を示すことができる。代替的実施形態において、敗血症データは、患者に関連する医療データセット内に存在する1つまたはそれ以上の特徴の分析を含み、敗血症の発症または敗血症の非存在を示す、医師/専門家から受信したデータであってもよい。
【0018】
本方法はさらに、確率値と敗血症データとの比較結果に基づいて機械学習モデルを調整することを含む。比較は、機械学習モデルによって生成された確率値の正確度を示し得る。したがって、確率値と敗血症データとの間の差異がこの比較において特定された場合、機械学習モデルが調整される。有利には、機械学習モデルはより頑健になり、それによって確率値がモデルによって生成される正確度が向上する。したがって、患者における敗血症の発症の判定は効果的かつ適時に行われる。
【0019】
一実施形態によれば、本方法は敗血症データを前処理することをさらに含む。前処理は、敗血症データ中の少なくとも1つの欠損値を補完することをさらに含んでもよい。敗血症データは、規則的な時間間隔で捕捉/記録された1つまたはそれ以上の特徴値を含む。データセットに特徴値が欠損している場合、そのような値は医療データセットの先行する値に基づいて補完される。一実施形態において、値が欠損している特徴の性質に基づいて、そのような補完のために閾値が定義される。例えば、欠損値が患者のバイタルサインに関連する場合、欠損値の補完は、欠損値に先行する4~6時間の範囲の値を使用して実行される。同様に、欠損値が血液試料中の分析物に関連する場合、欠損値の補完は、欠損値の前または後に続く22~24時間の範囲の値を使用して実行される。有利には、敗血症データにおける値の補完により、データはより完全で有用なものとなる。
【0020】
敗血症データの前処理は、敗血症データから1つまたはそれ以上の特徴を正規化することをさらに含み、正規化は、1つまたはそれ以上の特徴の各々について一律の最小閾値および最大閾値を定義することを含む。有利には、正規化により、機械学習モデルでデータセットの効果的な分析が可能になるように、すべての閾値を同じレベルにすることができる。これにより、敗血症の発症の判定において高い特異度を達成することができる。
【0021】
本発明のさらに別の実施形態によれば、敗血症データに関連するラベルは、ラベルが示す定義された期間を2~10時間の範囲、好ましくは3~9時間、より好ましくは6~8時間、最も好ましくは5~7時間進めるように変更される。有利には、定義された期間を変更することで、約5~7時間の先読み時間が得られる。したがって、機械学習モデルは、患者における敗血症の発症を十分に前もって判定するように訓練される。
【0022】
本発明の目的は、患者における敗血症の発症を判定するための敗血症判定デバイスによっても達成される。本デバイスは、1つまたはそれ以上の処理ユニットと、1つまたはそれ以上の処理ユニットに連結され、患者に関連する複数の医療データセット、および敗血症データを含む医療データベースとを含む。本デバイスは、1つまたはそれ以上の処理ユニットに連結されたメモリをさらに含む。メモリは、少なくとも1つの訓練済み機械学習モデルを使用して、上述の方法工程を実行するように構成された敗血症判定モジュールを含む。
【0023】
本発明は、一態様において、コンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品に関し、このコンピュータプログラムは、システムの記憶ユニットにロード可能であり、コンピュータプログラムがシステムで実行されたとき本発明の一態様による方法をシステムに実行させるためのプログラムコードセクションを含む。
【0024】
本発明は、一態様において、コンピュータプログラムのプログラムコードセクションが保存されたコンピュータ可読媒体に関し、プログラムコードセクションは、プログラムコードセクションがシステムで実行されたとき本発明の一態様による方法をシステムに実行させるために、システムにロード可能および/またはシステムで実行可能である。
【0025】
コンピュータプログラム製品および/またはコンピュータ可読媒体による本発明の実現は、本発明によって提案されるように動作するために、ソフトウェアの更新によって既存の管理システムを容易に適合できるという利点を有する。
【0026】
コンピュータプログラム製品は、例えばコンピュータプログラムであることも、またはコンピュータプログラムとは別の要素から構成されることもできる。この別の要素とは、例えばコンピュータプログラムが記憶されているメモリデバイスなどのハードウェア、コンピュータプログラムを使用するためのハードウェアキーなど、および/または、例えばコンピュータプログラムを使用するためのドキュメンテーションもしくはソフトウェアキーなどのソフトウェアである。
【0027】
以下、本発明は、添付図面に示す図示された実施形態を参照してさらに説明する:
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】患者における敗血症の発症を判定するための一実施形態が実施可能な敗血症判定デバイスのブロック図を示す図である。
図2】本発明の一実施形態による、患者における敗血症の発症を判定する方法のフローチャートを示す図である。
図3】本発明の一実施形態による、医療データセットの欠損値を補完する方法のフローチャートを示す図である。
図4】本発明の一実施形態による、患者における敗血症の発症を示すアラートを生成する方法のフローチャートを示す図である。
図5】本発明の一実施形態による、患者における敗血症の発症を判定するための機械学習モデルを訓練する方法のフローチャートを示す図である。
図6】本発明の一実施形態による、敗血症データを前処理する方法のフローチャートを示す図である。
図7】本発明の一実施形態による、患者における敗血症の発症を判定するための機械学習モデルの動作を示す図である。
図8】本発明の一実施形態による、患者における敗血症の発症を示すアラートおよびアラームの生成根拠となる確率値を監視するためのグラフ表示を示す図である。
図9-1】本発明の一実施形態による、患者における敗血症の発症を判定するための機械学習モデルの動作のさらに別の実施形態を示す図である。
図9-2】図9-1の続き。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための実施形態を詳細に記述する。様々な実施形態は、図面を参照して記述され、同じ参照数字は、全体を通して同じ要素を参照するために使用される。以下の記述では、説明のために、1つまたはそれ以上の実施形態の完全な理解を提供するために、多数の具体的な詳細を記載する。このような実施形態は、これらの具体的な詳細がなくても実施されることは明らかであろう。
【0030】
以下、本発明による解決策を、特許請求された提供システムおよび特許請求された方法に関して記載する。本明細書における構成、利点または代替的実施形態は、他の特許請求される対象に割り当てることができ、その逆も同様である。換言すれば、提供システムの特許請求の範囲は、本方法との関連で記載または特許請求される構成により改善される。この場合、本方法の機能的構成は、提供システムの目的とするユニットによって具現化される。
【0031】
さらに、以下、患者における敗血症の発症を判定するための方法およびシステム、ならびに患者における敗血症の発症を判定するための機械学習モデルを訓練する方法およびシステムに関して、本発明による解決策を記述する。本明細書における構成、利点または代替的実施形態は、他の特許請求される対象に割り当てることができ、その逆も同様である。換言すれば、患者における敗血症の発症を判定するための機械学習モデルを訓練する方法およびシステムに関する請求項は、患者における敗血症の発症を判定するための方法およびシステムとの関連で記述または特許請求される構成により改善することができ、その逆も同様である。特に、患者における敗血症の発症を判定するための方法およびシステムの訓練済み機械学習モデルは、患者における敗血症の発症を判定するための機械学習モデルを訓練する方法およびシステムによって適合される。さらに、入力データは、訓練入力データの有利な構成および実施形態を含むことができ、その逆も同様である。さらに、出力データは、出力訓練データの有利な構成および実施形態を含むことができ、その逆も同様である。
【0032】
図1は、図1に記載されるような処理を実行するように構成された、例えば、患者における敗血症の発症を判定するためのデバイス100としての、一実施形態が実施可能な敗血症判定デバイス100のブロック図である。図1において、当該デバイス100は、処理ユニット101と、メモリ102と、記憶ユニット103と、入力ユニット104と、バス106と、出力ユニット105と、ネットワークインタフェース107とを含む。
【0033】
本明細書で使用される処理ユニット101は、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、複雑命令セットコンピューティングマイクロプロセッサ、縮小命令セットコンピューティングマイクロプロセッサ、超長命令ワードマイクロプロセッサ、明示的並列命令コンピューティングマイクロプロセッサ、グラフィックプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、または任意の他のタイプの処理回路を含むが、これらに限定されない任意のタイプの計算回路を意味する。処理ユニット101は、汎用またはプログラマブル論理デバイスまたはアレイ、特定用途向け集積回路、シングルチップコンピュータなどの組み込みコントローラも含むことができる。
【0034】
メモリ102は、揮発性メモリおよび不揮発性メモリであってよい。メモリ102は、当該処理ユニット101と通信するように連結されている。処理ユニット101は、メモリ102に記憶された命令および/またはコードを実行し得る。種々のコンピュータ可読記憶媒体が、当該メモリ102に記憶され、当該メモリ102からアクセスされる。メモリ102は、読み取り専用メモリ、ランダムアクセスメモリ、消去可能プログラマブル読み取り専用メモリ、電気的に消去可能なプログラマブル読み取り専用メモリ、ハードドライブ、コンパクトディスク、デジタルビデオディスク、ディスケット、磁気テープカートリッジ、メモリカードなどを扱うためのリムーバブルメディアドライブなど、データおよび機械可読命令を記憶するための任意の適切な要素を備え得る。本実施形態において、メモリ102は、当該上述の記憶媒体のいずれかに機械可読命令の形態で記憶された敗血症判定モジュール110を備え、プロセッサ101と通信可能であり、プロセッサ101によって実行される。プロセッサ101によって実行されると、敗血症判定モジュール110は、プロセッサ101に医療データセットを処理させて、患者における敗血症の発症を判定させる。上述の機能を実現するためにプロセッサ101によって実行される方法工程は、図2図3図4図5および図6において詳細に説明されている。
【0035】
記憶ユニット103は、医療データベース112を記憶している非一時的な記憶媒体であってもよい。医療データベース112は、健康管理サービス提供者によって維持される、1人またはそれ以上の患者に関連する医療データセットおよび敗血症データのリポジトリである。入力ユニット104としては、医用画像のような入力信号を受信可能なキーパッド、タッチセンシティブディスプレイ、カメラ(ジェスチャーに基づく入力を受信するカメラなど)などの入力手段を挙げることができる。バス106は、プロセッサ101、メモリ102、記憶ユニット103、入力ユニット104、出力ユニット105、およびネットワークインタフェース107間の相互接続として機能する。
【0036】
当業者であれば、図1に描かれた当該ハードウェアは、特定の実施態様のために変化してもよいことを理解するであろう。例えば、光ディスクドライブなどの他の周辺デバイス、ローカルエリアネットワーク(LAN)/ワイドエリアネットワーク(WAN)/無線(例えば、Wi-Fi)アダプタ、グラフィックアダプタ、ディスクコントローラ、入出力(I/O)アダプタも、描かれているハードウェアに追加して、またはその代わりに使用することができる。当該描かれた例は、説明だけを目的として提供され、本開示に関するアーキテクチャ上の制限を示唆することを意図していない。
【0037】
本開示の一実施形態によるデバイス100は、グラフィカルユーザインタフェースを採用するオペレーティングシステムを含む。当該オペレーティングシステムは、複数のディスプレイウィンドウを、グラフィカルユーザインタフェースに同時に表示させることができ、各ディスプレイウィンドウは異なるアプリケーションまたは同じアプリケーションの異なるインスタンスへのインタフェースを提供している。当該グラフィカルユーザインタフェース内のカーソルは、ポインティングデバイスを介してユーザによって操作される。カーソルの位置が変更され、かつ/またはマウスボタンをクリックするなどのイベントが生成されて、所望の応答を作動させる。
【0038】
ワシントン州レドモンドにあるMicrosoft Corporationの製品であるMicrosoft Windows(商標)のあるバージョンなど、種々の商用オペレーティングシステムのうちの1つが、適切に変更すれば採用することができる。当該オペレーティングシステムは、記載のように、本開示に従って変更または作成される。
【0039】
開示された実施形態は、医療データセットを処理するシステムおよび方法を提供する。特に、本システムおよび方法は、患者における敗血症の発症の判定を有効にし得る。
【0040】
図2は、本発明の一実施形態による、患者における敗血症の発症を判定する方法200のフローチャートを示す。工程201において、患者に関連する医療データセットがソースから受信される。本実施形態において、ソースは医療データベース112である。医療データセットは、患者に関連する複数の特徴を含む。この特徴は、患者に関連するバイタルサイン、血液分析物情報および/または患者の人口統計データなどの医療情報に関連する。特徴は、患者における敗血症の発症を決定するために必須の入力を提供する。本実施形態において、特徴に関連する値が規則的な時間間隔で捕捉/記録されている。これにより、患者の状態の進行を規則的な間隔で特定することを有効にする。さらに、工程202において、1つまたはそれ以上の特徴が医療データセット内の複数の特徴から抽出される。一実施形態において、医療データセットは、敗血症の発症の判定に必須ではない特徴を含んでいてもよい。したがって、患者の敗血症の発症を反映する1つまたはそれ以上の特徴が抽出される。そのような1つまたはそれ以上の特徴としては、患者に関連するバイタルサイン、患者の血液分析物レベルなどの検査室パラメータ、患者の人口統計データ、および複数の派生特徴などのパラメータが挙げられるが、これらに限定されない。派生特徴は、患者に関連するバイタルサインおよび血液分析物レベルから導出される。1つまたはそれ以上の特徴に関連する値は規則的な時間間隔で捕捉されるため、工程203で確認が行われ、医療データセット内の欠損値の存在が判定される。抽出された1つまたはそれ以上の特徴に関連する値が欠損している場合、工程204において、1つまたはそれ以上の特徴に関連する欠損値が医療データセットにおいて置換/複製されるように、欠損値の補完が実行される。1つまたはそれ以上の特徴の補完に関連する方法工程は、図3に詳細に記載されている。
【0041】
工程205において、医療データセットからの1つまたはそれ以上の特徴が正規化される。正規化は、医療データセットが訓練済み機械学習モデルによって処理される前に実行されることが要求される必須プロセスである。1つまたはそれ以上の特徴に関連する値は、様々な最小閾値および最大閾値を有し得る。その結果、データセットの時間的変化が失われる可能性がある。したがって、1つまたはそれ以上の特徴に関連する値を正規化することにより、医療データセットが反映し得る微細な時間的変化を捕捉することを有効にする。したがって、有利には、患者の健康状態のあらゆる変化を監視し、効果的に治療することができる。例えば、下表は、経時的に測定された、医療データセット内の1つまたはそれ以上の特徴に関連する臨床的に関連する最小閾値および最大閾値を示す。
【0042】
【表1】
【0043】
工程205において、1つまたはそれ以上の特徴値に関連する最小閾値および最大閾値は、値が1~5の範囲になるように再定義される。1つまたはそれ以上の特徴値の正規化は、以下の数式を使用して実行される:
【数1】
式中、「y」は特徴に関連する正規化値を表し、「x」は患者に関連する特徴の記録値を表し、「xmin」は特徴に関連する臨床的に関連する最小値を表し、「xmax」は特徴に関連する臨床的に関連する最大値を表す。一実施形態において、特徴(x)の値が欠損している場合、「y」には値0が割り当てられる。
【0044】
一実施形態において、患者に関連するパラメータの値が1~5の範囲外にある場合、その値はそれぞれ範囲内の最小値または最大値で置き換えられる。
【0045】
工程206において、敗血症の発症を示す出力パラメータは、医療データセット内の1つまたはそれ以上の特徴値および補完された値を使用して決定される。出力パラメータは、訓練済み機械学習モデルによって決定される。本実施形態において、モデルは、長短期記憶ブロックを含むリカレントニューラルネットワークである。機械学習モデルの動作は、図7でさらに詳細に記載される。モデルは、1つまたはそれ以上の特徴値を処理して出力パラメータを生成するように構成される。本実施形態において、出力パラメータは、患者における敗血症の発症に関連する確率値である。工程207において、出力パラメータが敗血症に関連する所定の基準を満たす場合、患者における敗血症の発症を示すアラートが生成される。例えば、モデルによって生成された確率値が0であれば、患者における敗血症の発症はなく、確率値が1であれば、患者における敗血症の発症の可能性が高い。あるいは、確率値1は、患者が敗血症であることを示すこともある。一実施形態において、所定の基準は、医師、医療関係者などのユーザの要求に従って定義される。医師は、モデルによって生成された確率値に関連する最小値および最大値を定義することを選択することができ、これに基づいてアラートが生成される。アラートの生成に関連する方法工程は、図4でさらに詳細に記載される。
【0046】
図3は、本発明の実施形態による、医療データセット内の欠損値を補完する方法300のフローチャートを示す。工程301において、1つまたはそれ以上の特徴値を含む医療データセットが受信される。工程302において、医療データセット内の1つまたはそれ以上の特徴に関連する欠損値の存在を特定するための判定を行う。欠損値が識別された場合、工程303において、欠損値を置換できる値が決定される。本実施形態では、欠損値に先行する値が決定される。さらなる実施形態では、特徴に関連する先行値を決定するプロセスは、医療データセット内で値が特定されるまで継続することができる。
【0047】
工程304において、決定された置換値が所定の閾値を満たすかどうかを判定するための確認が実行される。一実施形態において、1つまたはそれ以上の特徴値は、その特徴値が時間閾値内にある場合にのみ、使用が有効であり得る。時間閾値は、医療データセット内の特徴に依存して変化し得る。例えば、患者のバイタルサインに関連する値は、4~6時間の時間範囲においてのみ有効である。例えば、患者に関連する血液分析物レベルは、22~24時間の時間範囲においてのみ有効である。したがって、決定された置換値が所定の閾値外にある場合、工程305において、補完は実行されず、値は欠損としてラベル付けされる。しかしながら、置換値が所定の閾値の範囲内にある場合、工程306において、医療データセット内の欠損値を置換値で置換する。工程302において、医療データセットに欠損値がないと判断された場合、工程307において、1つまたはそれ以上の特徴値がさらに処理され、患者における敗血症の発症が判定される(図2に記載)。
【0048】
図4は、本発明の一実施形態による、患者における敗血症の発症を示すアラートを生成する方法400のフローチャートを示す。工程401において、訓練済み機械学習モデルによって生成された確率値が処理ユニット101によって受信される。工程402において、確率値が第1の所定の閾値を超えるかどうかが判定される。第1の所定の閾値は、患者における敗血症の発症を示す確率値と関連付けられる。したがって、第1の所定の閾値を超えている確率値は、患者における敗血症の発症を示す。一実施形態において、第1の所定の閾値は、ユーザの要求に従って変更可能である。あるいは、第1の所定の閾値は、患者の状態に基づいて変更可能であってもよい。例えば、第1の所定の閾値は、モデルによって生成された確率値が0.5を超える場合、アラートが生成されるように、0.5~1の範囲内であり得る。したがって、工程404において、確率値が第1の所定の閾値を超える場合、アラートが生成される。アラートは、患者における敗血症の発症を示す警告である。しかしながら、工程402で確率値が第1の所定の閾値を超えていない場合、工程403でアラートは生成されない。
【0049】
工程405において、生成されるアラートの総数が特定される。これは、定義された期間内に生成されたアラートの数が特定されるように、規則的な時間間隔で実行される。工程406において、定義された期間内に生成されたアラートの総数が、第2の所定の閾値を超えるかどうかが判定される。第2の所定の閾値は、敗血症の発症を示すアラームを生成するために、定義された期間内に生成されることが要求されるアラートの最大数を示す。定義された期間内に生成されたアラートの総数が第2の所定の閾値を超える場合、工程407において、患者における敗血症の発症を示すアラームが生成される。しかしながら、第2の所定の閾値を超えない場合、アラームは生成されない。
【0050】
図5は、本発明の一実施形態による、患者における敗血症の発症を判定するために機械学習モデルを訓練する方法500のフローチャートを示す。工程501において、患者に関連する医療データセットが受信される。医療データセットは、患者に関連する複数の特徴を含む。工程502において、医療データセット内の複数の特徴から1つまたはそれ以上の特徴が決定される。そのような1つまたはそれ以上の特徴は、所与の時点における敗血症の発症のインジケータである患者に関連するパラメータを含む。工程503において、機械学習モデルは処理ユニット101によって受信される。工程504において、確率値は機械学習モデルによって決定される。機械学習モデルは、医療データセットからの1つまたはそれ以上の特徴を処理して、患者における敗血症の発症に関する確率値を決定する。
【0051】
工程505において、医療データセットに関連する敗血症データが受信される。本実施形態において、敗血症データは、医療データセットに関連する患者の定義された期間における敗血症の発症を示すか、または敗血症の非存在を示す。敗血症データは、敗血症のインジケーションのためにラベル付けされた医療データセットを含む。このようなラベル付けは、1つまたはそれ以上の特徴に関連する値に基づいて、医師または任意の専門家によって実行される。一実施形態において、敗血症データは、複数の患者について定義された期間、過去に記録された1つまたはそれ以上の医療データセットを含んでいてもよい。例えば、敗血症データは、Sepsis-3基準に基づいており、8のバイタルサイン、26の血液分析物測定値、および6の人口統計入力を含む40の特徴を含み、各々は1時間単位で記録される。工程506において、機械学習モデルによって決定された確率値と、敗血症データとの比較が行われ、差異が存在するかどうかを判定する。差異が存在する場合、工程507において、機械学習モデルが敗血症データに基づいて調整される。代替的実施形態において、決定された確率値と敗血症データとの間に差異が存在することを示す通知がユーザに対して生成される。さらに、機械学習モデルを調整する必要性についてユーザからの入力が要求され、モデルは、ユーザ入力に基づいて調整される。
【0052】
図6は、本発明の一実施形態による、敗血症データを前処理する方法のフローチャートを示す。工程601において、敗血症データが医療データベース112などのソースから受信される。工程602において、敗血症データは、敗血症データが属する患者の年齢、および患者が集中治療を受けている期間に基づいてフィルタリングされる。例えば、フィルタリングされた敗血症データは、18~20歳の年齢範囲を超える患者に関連するデータを含んでいてもよい。さらに、そのような患者の集中治療を受けている期間は8時間以上であってもよい。さらなる実施形態において、敗血症を示す1つまたはそれ以上の特徴は、敗血症データの複数の特徴から抽出される。例えば、敗血症データの40の特徴から、4つの派生特徴(バイタルサインおよび血液分析物測定値から導出される)とともに17の特徴のセットが抽出された。
【0053】
工程603において、1つまたはそれ以上の特徴が欠損値を有するかどうかが判定される。欠損値が特定された場合、工程604において、欠損値の補完が実行される。補完は、敗血症データ中の欠損値に先行する、または後続する特徴値に基づくことができる。工程605において、敗血症データは、1つまたはそれ以上の特徴に関連する最小閾値および最大閾値がそれぞれ1~5の範囲内に維持されるように正規化される。これにより、患者の状態の時間的変化の捕捉を有効にする。さらに、工程606において、敗血症データに関連付けられたラベルは、ラベルによって示される定義された期間が5~7時間の範囲で進められるように変更される。この定義された期間の変更により、機械学習モデルが患者における敗血症の発症に関連するパターンを特定し、そのような発症を十分に前もって、すなわち5~7時間前までに予測することができる。
【0054】
図7は、本発明の一実施形態による、患者における敗血症の発症を判定するための機械学習モデル700の動作を示す。特に、図7は、複数のリカレントニューラルネットワークブロックRNB.i、RNB.jを含むLSTMネットワークの詳細図を表示する。各リカレントニューラルネットワークブロックRNB.i、RNB.jは、入力データID.i、ID.jを使用して、出力データOD.i、OD.jを生成または計算する。一実施形態において、入力データID.iは、時間iで記録された患者に関連する医療データセットからの1つまたはそれ以上の特徴である。同様に、入力データID.jは、時間jに記録された患者に関連する医療データセットからの1つまたはそれ以上の特徴である。出力データOD.iおよびOD.jは、それぞれ時間iおよび時間jでリカレントニューラルネットワークブロックRNB.iおよびRNB.jによって生成された確率値を含む。さらに、各リカレントニューラルネットワークブロックRNB.i、RNB.jは、追加の入力中間データIBD.i、IBD.jとして受け取り、追加の出力中間データOBD.i、OBD.jとして生成し、出力中間データOBD.i、OBD.jは、次の工程内で入力中間データIBD.i、IBD.jとして使用できる。
【0055】
図7は、2つの入力に対して展開された反復プロセスを表示していることを理解することが重要である。より多くの入力データに適合させるために、反復を拡張して、任意の数の入力データID.i、ID.jをカバーすることができる。さらに、リカレントニューラルネットワークブロックRNB.i、RNB.jは、複数の内部状態IG.i、IG.j、OG.i、OG.j、FG.i、FG.jまで同じである。特に、これはニューラルネットワークブロックRNB.i、RNB.jの出力が入力データID.i、ID.j、追加入力中間データIBD.i、IBD.j、および内部状態IG.i、IG.j、OG.i、OG.j、FG.i、FG.jにのみ依存することを意味する。
【0056】
本実施形態において、ニューラルネットワークはLSTMネットワークであり、リカレントニューラルネットワークブロックRNB.i、RNB.jは、入力ゲートIG.i、IG.j、出力ゲートOG.i、OG.jおよび忘却ゲートFG.i、FG.jとして示される内部状態を有する。より詳細には、これらの内部状態の値は以下のように計算可能である
ij=σ(W(x,I)*xj+W(y,I)*yi+W(c,I)・ci+b(I))
fj=σ(W(x,F)*xj+W(y,F)*yi+W(c,F)・ci+b(F))
oj=σ(W(x,O)*xj+W(y,O)*yi+W(c,O)・cj+b(O))
cj=fj・ci+ij・tanh(W(x,C)*xj+W(y,C)*yi+b(C))
yj=oj・tanh(cj)
【0057】
この反復の中で、演算「・」は要素同士の積、「*」は畳み込み演算、「σ」はシグモイド関数を表す。値ij、ojおよびfjは入力ゲートIG.j、出力ゲートOG.jおよび忘却ゲートFG.jの値に対応する。値xjおよびyjはそれぞれのブロックの入力データID.jおよび出力データOD.jに対応する。値ciおよびcjは、入力中間データIBD.iおよび出力中間データOBD.i、OBD.jに対応し、しばしば「セル状態」と表記される。値Wおよびbはネットワークの重みに対応し、リカレントニューラルネットワークの訓練によって固定される。
【0058】
代替的実施形態において、セル状態が入力ゲートIG.i、IG.j、出力ゲートOG.i、OG.j、および忘却ゲートFG.i、FG.jの更新に影響を与えないようにすることによって、更新を単純にすることができる:
ij=σ(W(x,I)*xj+W(y,I)*yi+b(I))
fj=σ(W(x,F)*xj+W(y,F)*yi+b(F))
oj=σ(W(x,O)*xj+W(y,O)*yi+b(O))
cj=fj・ci+ij・tanh(W(x,C)*xj+W(y,C)*yi+b(C))
yj=oj・tanh(cj)
【0059】
別の代替的実施形態において、セル状態の計算を次のように変更することができる:
cj=fj・ci+(1-fj)・tanh(W(x,C)*xj+W(y,C)*yi+b(C))
【0060】
図8は、本発明の一実施形態による、患者における敗血症の発症を示すアラートおよびアラームの生成根拠となる訓練済み機械学習モデルによって生成された確率値を監視するためのグラフ表示800を示す。グラフ表示800のX軸は、確率値がモデルによって生成される期間を表す。本実施形態において、定義された時間間隔は1時間である。グラフ表示800のY軸は、患者における敗血症の発症を示す確率値を表す。本実施形態において、第1の所定の閾値は確率値0.5に設定される。したがって、訓練済み機械学習モデルによって生成された確率値が0.5を超える場合、アラートALTが生成される。さらに、第2の所定の閾値は、連続して生成される4つのアラートALT、すなわち、4時間の間、1時間ごとに生成されるアラートALTに設定される。本実施形態において、患者モニタリングの16時間目から1時間ごとにアラートALTが生成されるため、アラートALTの生成数は19時間目に第2の所定の閾値を超える。したがって、19時間目に、患者の敗血症SEPの発症を示すアラームALMが生成される。
【0061】
図9は、機械学習モデルのさらなる実施形態を示す。モデルアーキテクチャは、LSTM920、921、922とともに、追加の層、すなわちマスキング層901、902および層正規化910、911、912を含む。マスキング層901、902は、医療データセット内の欠損値に、敗血症の発症を示す確率値の決定に参加させないようにする。層正規化910、911、912は、リカレントニューラルネットワークの隠れ状態のダイナミクスを安定化させる。モデル900はさらに、ドロップアウト層930、931、932および早期停止基準を含み、オーバーフィッティングを防止する。モデル900で使用される活性化は、ReLuおよび最終層のシグモイド活性化である。モデル900は、256データポイントのミニバッチおよび1e-4の初期学習率を持つAdamオプティマイザを使用して訓練される。このモデルは、LSTMでコンパイルされたLIME(Local Interpretable Model-agnostic Explanations)および/またはSHAP(SHapley Additive exPlanations)ライブラリを使用し、特徴の重要度をリアルタイムで与える。有利には、これによってユーザがモデルによって生成された確率値の根本的原因を特定することを有効にする。
【0062】
訓練済み機械学習モデルの評価指標:
モデルの性能は、正確度、精度、感度および特異度などの標準的なパラメータを使用して評価した。さらに、モデルの性能を評価するために、ユーティリティスコア、および真のアラームあたりの誤アラーム率という2つのパラメータを考慮した。効用関数は、敗血症の早期予測に対しては分類器に報酬を与え、遅い/外れた予測、および非敗血症患者における敗血症予測に対しては分類器にペナルティを与える。このモデル(5時間以内に3回の警告というアラーム基準の場合)は、92.01%の正確度、96.96%の精度、87.03%の感度および96.99%の特異度の値を達成した。さらに、このモデルは(0~1のスケールで)0.74のユーティリティスコアを達成した。さらに、このモデルは5~7時間の先読み時間中央値を達成する。したがって、有利には、このモデルは敗血症の発症を5~7時間先まで予測する。このモデルは3%の誤アラーム率および3.45%の真のアラームあたりの誤アラーム率を達成する。
【0063】
本発明の利点は、患者における敗血症の発症の効果的な判定を有効にする方法およびデバイスである。本発明は、患者における敗血症の発症を約5~7時間前に判定する。したがって、敗血症に関連する死亡率は、患者への適時の治療により減少させることができる。さらに、本発明は、モデルによって決定された確率値の背後にある根本的原因をユーザが特定することを可能にする。したがって、これによってユーザは、患者に関連する治療経過を修正/変更する際に正しい手順を踏むことができる。さらに、モデルは患者に関連する最新の特徴値に基づいて確率値を提供する。そのため、古い特徴値は分析の対象から除外される。これにより、患者における敗血症の発症をより高い正確度で予測することが可能となる。
【0064】
前述の実施例は、単に説明のために提供されたものであり、本明細書に開示された本発明を限定するものとして決して解釈すべきではない。本発明は、種々の実施形態を参照して記載したが、本明細書で使用された用語は、限定する用語ではなく、説明および例示の用語であることが理解される。さらに、本発明は、特定の手段、材料、および実施形態を参照して本明細書に記載されているが、本発明は、本明細書に開示された特定のものに限定されることを意図するものではなく;むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲の範囲内にあるような、機能的に等価なすべての構造、方法、および使用に及ぶ。本明細書の教示の利益を有する当業者であれば、本明細書に多数の変更を加えることができ、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、その態様において変更が加えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
【国際調査報告】