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特表2024-517932スルホン部分を有するシリコーンオリゴマーの合成プロセスおよびスルホン部分を有するケイ素含有化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】スルホン部分を有するシリコーンオリゴマーの合成プロセスおよびスルホン部分を有するケイ素含有化合物
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/08 20060101AFI20240416BHJP
   C07F 7/12 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C07F7/08 Y CSP
C07F7/12 L
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023569827
(86)(22)【出願日】2022-04-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-04
(86)【国際出願番号】 US2022025522
(87)【国際公開番号】W WO2022240559
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】63/187,515
(32)【優先日】2021-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508229301
【氏名又は名称】モメンティブ パフォーマンス マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Momentive Performance Materials Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】シンガール,プラヴェーン,クマール
(72)【発明者】
【氏名】タラフダル,ゴウラヴ
(72)【発明者】
【氏名】アペクシャ,ラメシュ
【テーマコード(参考)】
4H049
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP10
4H049VQ02
4H049VQ54
4H049VQ79
4H049VR22
4H049VR23
4H049VR41
4H049VR42
4H049VS02
4H049VS12
4H049VS49
4H049VU31
4H049VV02
4H049VV16
4H049VW02
4H049VW38
(57)【要約】
本願においてはスルホニルシランの合成のためのプロセスが提供される。また本願においてはこのプロセスにより作成された、種々のスルフェニル化およびスルホニル化ケイ素-含有化合物が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホニルシランの合成のためのプロセスであって:
(a)式(I)の化合物:
X-(R-S-R (I)
をLi、Na、Mg、Al、Cs、Sn、NiおよびHgからなる群より選択される金属(M)と反応させて式(II)のスルフェニル金属中間体:
(X)-M-[(R-S-R] (II)
を取得し、
(b)スルフェニル金属中間体(II)を式(III)のシラン:
Si(X)(R (III)
と接触させてスルフェニル化ケイ素含有反応生成物を取得し;そして
(c)スルフェニル化ケイ素含有反応生成物を酸化剤と接触させる工程を含み、
ここでXはCl、BrおよびIからなる群より選択されるハロゲンであり;下付き文字nの各々は1から約10の整数であり;Rの各々はHまたは1から約12の炭素原子を有する1価の有機基であり;Rの各々は1から約8の炭素原子を有する2価の有機基であり;そしてRの各々は1から約12の炭素原子を有する1価の有機基であり;下付き文字aは0または1であり;そして下付き文字bは1から約10の整数であり、但しaが0である場合bは1から約10であり、そしてaが1である場合bは1である、プロセス。
【請求項2】
工程(b)のスルフェニル化ケイ素含有反応生成物は式(IVa):
Q-Si(R-(R-S-R (IVa)
を有し、ここでQはQまたはQであり、ここでQはCl、BrおよびIからなる群より選択されるハロゲンであり;そしてQは式-(R-S-Rの部分である、請求項1のプロセス。
【請求項3】
QはCl、BrおよびIからなる群より選択されるハロゲンである、請求項2のプロセス。
【請求項4】
Qは式-(R-S-Rの部分である、請求項2のプロセス。
【請求項5】
RおよびRはそれぞれメチルであり、Rの各々は-(CH)-であり、そしてnの各々は約2から約4の整数である、請求項2のプロセス。
【請求項6】
工程(b)において式(II)のスルフェニル金属中間体は式(III)のシランと接触され、ここで式(III)のシランは式(II)のスルフェニル金属中間体に対して化学量論でモル過剰に存在する、請求項1から5のいずれか1のプロセス。
【請求項7】
工程(b)においてスルフェニル金属中間体(II)は、式(II)のスルフェニル金属中間体の式(III)のシランに対する繰り返し添加によって式(III)のシランと接触される、請求項1から6のいずれか1のプロセス。
【請求項8】
繰り返し添加は、式(II)のスルフェニル金属中間体を式(III)のシランに対して滴下注入することによって行われる、請求項7のプロセス。
【請求項9】
工程(b)のスルフェニル化ケイ素含有反応生成物はスルフェニル化シランであり、水と接触して工程(c)に先立ちスルフェニル化シロキサンを形成する、請求項1から8のいずれか1のプロセス。
【請求項10】
スルフェニル化シロキサンは一般式(V)によって表され:
R-S-(R-Si(R-O-[Si(R-O]-Si(R2--(R-S-R (V)
ここでRおよびRの各々は独立して1から12の炭素原子の1価の脂肪族基であり、Rの各々は1から8の炭素原子の2価の有機基であり、下付き文字nの各々は1から約10の整数であり、そして下付き文字xは0から10の整数である、請求項9のプロセス。
【請求項11】
工程(b)のスルフェニル化ケイ素含有反応生成物はスルフェニル化シランであり、工程(c)に先立って塩基で処理される、請求項1から10のいずれか1のプロセス。
【請求項12】
工程(c)の酸化剤は、酸素、オゾン、過酸化水素、および有機過酸化物からなる群より選択される、請求項1から11のいずれか1のプロセス。
【請求項13】
プロセスの工程(a)、工程(b)または工程(c)の1つまたはより多くは開始剤の存在下に行われる、請求項1から12のいずれか1のプロセス。
【請求項14】
開始剤は、ジハロアルカン、金属ヨウ化物およびヨウ素からなる群より選択される、請求項13のプロセス。
【請求項15】
式(IV)のスルフェニル化ケイ素含有化合物であって:
Q-Si(R-(R-S-R (IV)
ここでQはCl、BrおよびIからなる群より選択されるハロゲンであり;または式-(R-S-Rの部分であり;または式-O-[Si(R-O]-Si(R-(R-S-Rの部分であり、そしてここでRの各々は1から約12の炭素原子を有する1価の有機基であり、Rの各々は1から約8の炭素原子を有する2価の有機基であり、Rの各々はHまたは1から約12の炭素原子を有する1価の有機基であり、下付き文字nの各々は1から約10の整数であり、またyは1から約10の整数である、スルフェニル化ケイ素含有化合物。
【請求項16】
Qは-(R-S-Rであり、Rの各々は2価の-(CH)-基であり、Rの各々はHまたは1から約4の炭素原子を有する1価のアルキル基であり、nの各々は約2から約4の整数部分である、請求項15のスルフェニル化ケイ素含有化合物。
【請求項17】
式(VI)のスルホニル化ケイ素含有化合物であって:
-Si(R-(R-S(=O)-R (VI)
ここでQはQ2*またはQ3*であり;Q2*は式-(R-S(=O)-Rの部分であり;そしてQ3*は式-O-[Si(R-O]-Si(R-(R-S(=O)-Rの部分であり、またRの各々は1から約12の炭素原子を有する1価の有機基であり、Rの各々は1から約8の炭素原子を有する2価の有機基であり、Rの各々はHまたは1から約12の炭素原子を有する1価の有機基であり、下付き文字nの各々は1から約10の整数であり;そしてyは1から約10の整数である、スルホニル化ケイ素含有化合物
【請求項18】
がQ2*であるときRの各々は-(CH)-基であり、Rの各々はHまたは1から約4の炭素原子を有する1価のアルキル基である、請求項17のスルホニル化ケイ素含有化合物。
【請求項19】
がQであるときRの各々は1から約4の炭素原子を有するアルキル基であり、Rの各々は-(CH)-基であり、そしてRの各々はHまたは1から約4の炭素原子を有する1価のアルキル基である、請求項17のスルホニル化ケイ素含有化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対するクロスリファレンス
この出願は2021年5月12日に出願された米国特許出願第63/187515号の優先権を請求しており、その全内容は参照によって本願に取り入れられる。
【0002】
本発明はスルホニルシランを作成するためのプロセスに関し、このスルホニルシランは種々の商業的および工業的な用途において使用することができる。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン(Li-イオン)電池の電解質組成物には、非水溶媒が用いられている。こうした溶媒は、電池の充放電サイクルの間に電気化学的電位が存在することによって、分解しやすい。しかしながら所定の添加剤は、電解質組成物に添加された場合に、そうした分解を防止することが知られている。そのような添加剤は電極に固体電解質界面(SEI)層を形成して電極に安定性を付与し、電解質組成物への遷移金属イオンの溶出を防止すると考えられている。そうしたSEI層形成性の電解質添加剤の1つの群は、スルホニルシランである。
【0004】
スルホニルシラン電解質添加剤を合成するための従来のプロセスは所望の収率をもたらさず、および/またはコスト集約的であり、それゆえ商業的に実行可能なものではない。例えば、スルホニルシランを作成するための従来の1つの合成経路はヒドロシリル化反応を用いるが、これは白金触媒を必要とする欠点があり、コストがかかる割には所望とする結果をもたらすものではない。
【0005】
したがって、リチウムイオン電池用の電解質添加剤を高収率かつよりコスト効率的な仕方で製造することのできる、スルホニルシラン合成のための中間体およびプロセスに対するニーズが存在している。
【発明の概要】
【0006】
本願の発明者らは驚くべきことに、スルホニルシランを作成する従来のヒドロシリル化反応プロセスと比較して、スルホニルシランのようなスルホニルケイ素含有材料をより大きな純度において、またより低いコストにおいて形成するプロセスを見出した。特に予想外に見出されたのは、スルフェニル金属中間体とのSi-C結合を先に形成した後にシランの酸化の実行(すなわちスルホン部分の形成)を行うことが、異性体副生物を形成する分子内反応を回避するために重要であり、そしてさらにまた、スルホニルシラン製造のためのコストが低減されたプロセスをもたらすことである。実際のところ、本願に記載するプロセスにおいては、ヒドロシリル化触媒を完全に省略することが可能である。加えて本出願人は、上記したSi-C結合の形成に続いての酸化という特定順序の工程を逆にすると、生成物が何も得られないことを例証している。
【0007】
本願において提供されるのはスルホニルシラン(単数または複数)の合成のためのプロセスであり:
式(I)の化合物:
X-(R-S-R (I)
をLi、Na、Mg、Al、Cs、Sn、NiおよびHgからなる群より選択される金属(M)と反応させて式(II)のスルフェニル金属中間体:
(X)-M-[(R-S-R] (II)
を取得し、スルフェニル金属中間体(II)を式(III)のシラン:
Si(X)(R (III)
と接触させてスルフェニル化ケイ素含有反応生成物を取得し;そしてスルフェニル化ケイ素含有反応生成物を酸化剤と接触させる工程を含み、
ここでXはCl、BrおよびIからなる群より選択されるハロゲンであり;下付き文字nの各々は1から約10の整数であり;Rの各々はHまたは1から約12の炭素原子を有し任意選択的にO、NまたはSのような1つまたはより多くのヘテロ原子を有する1価の有機基であり;Rの各々は1から約8の炭素原子を有し任意選択的にO、NまたはSのような1つまたはより多くのヘテロ原子を有する2価の有機基であり;そしてRの各々は1から約12の炭素原子を有し任意選択的にO、NまたはSのような1つまたはより多くのヘテロ原子を有する1価の有機基であり;下付き文字aは0または1であり;そして下付き文字bは1から約10の整数であり、但しaが0である場合bは1から約10であり、そしてaが1である場合bは1である。
【0008】
1つの実施形態においてXはClであり、下付き文字nの各々は2から6の整数であり、Rの各々はHまたは1から約4の炭素原子の1価のアルキル基であり、Rの各々は1から約6の炭素原子を有し任意選択的にO、NまたはSのような1つまたはより多くのヘテロ原子を有する2価のアルキル基であり、Rの各々は1から約4の炭素原子の1価のアルキル基であり、下付き文字aは0または1であり;そして下付き文字bは1から約10の整数であり、但しaが0である場合bは1から約10であり、そしてaが1である場合bは1である。
【0009】
1つの実施形態においてXはClであり、下付き文字nの各々は2から4の整数であり、Rの各々は独立してH、メチル、エチルまたはプロピルであり、Rの各々は1から約4の炭素原子の2価のアルキル基であり、Rの各々は1から約4の炭素原子の1価のアルキル基であり、下付き文字aは0または1であり;そして下付き文字bは1から約10の整数であり、但しaが0である場合bは1から約10であり、そしてaが1である場合bは1である。
【0010】
1つの実施形態においてXはClであり、下付き文字nの各々は2から4の整数であり、Rの各々は独立してH、メチル、エチルまたはプロピルであり、Rの各々は-(CH)-であり、Rの各々はメチルであり、下付き文字aは0または1であり;そして下付き文字bは1から約10の整数であり、但しaが0である場合bは1から約10であり、そしてaが1である場合bは1である。
【0011】
本願においては式(IV):
Q-Si(R-(R-S-R (IV)
のスルフェニル化ケイ素含有化合物が提供され、ここでQはCl、BrおよびIからなる群より選択されるハロゲンであり;または式-(R-S-Rの部分であり;または式-O-[Si(R-O]-Si(R-(R-S-Rの部分であり、そしてここでR、RおよびRの各々は上記で定義した通りであり、そしてここで下付き文字nの各々は約1から約10の整数であり、またyは1から約10の整数である。1つの実施形態において、yは1から3の整数である。
【0012】
本願においてはまた、式(VI):
Si(R-(R-S(=O)-R (VI)
のスルホニル化ケイ素含有化合物が提供され、ここでQはQ2*またはQ3*であり;ここでQ2*は式-(R-S(=O)-Rの部分であり;そしてQ3*は式-O-[Si(R-O]-Si(R-(R-S(=O)-Rの部分であり、そしてここでR、RおよびRの各々は上記で定義した通りであり、そして下付き文字nおよびyの各々は上記で定義した通りである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願の明細書および特許請求の範囲において、以下の用語および表現は以下に示すように理解される。
【0014】
単数形「ある」、「1つの」および「その」は複数形を含んでおり、また特定の数値に対する参照は、文脈において特に断りがない限り、少なくともその特定の数値を含んでいる。
【0015】
本願において提示されるあらゆるすべての例示、または例示的な用語(例えば「のような」)の使用は、単に本発明をよりわかりやすく説明することを意図したものであり、特に断りがない限り本発明の範囲に対して制限を課するものではない。
【0016】
「含む」、「包含する」、「含有する」、「特徴とする」という用語、およびこれらの文法的に等価な表現は、包括的または非限定的な用語であって、付加的な記載されていない構成要素または方法的過程を排除するものではなく、またより限定的な用語である「からなる」および「から本質的になる」を含むものであることが理解される。
【0017】
本明細書におけるいかなる用語も、特許請求の範囲に記載されていない構成要素が本発明の実施に不可欠であることを示すものとして解釈されてはならない。
【0018】
さらに、構成的、組成的および/または機能的に関連する化合物、材料または物質の群に属するものとして本明細書に明示的または黙示的に開示され、および/または請求項において記載されたすべての化合物、材料または物質は、その群の個々の構成因子およびそれらのすべての組み合わせを含むことが理解される。
【0019】
実施例以外において、または特に断りがない限り、本明細書および特許請求の範囲に記載された材料の量、反応条件、時間の長さ、物質の定量化された特性およびその他を表現するすべての数値は、表現中に用語「約」が使用されているか否かを問わず、すべての場合において用語「約」によって修飾されているものとして理解される。
【0020】
本願における1つの実施形態においては、本願で記載した任意の数値範囲はその範囲内のすべての部分範囲、およびそうした範囲または部分範囲の種々の端点の任意の組み合わせを、それらが実施例または本明細書の他の部分で記載されているか否かを問わず含むことが理解される。
【0021】
本願においてはまた、任意の特定の属または種によって記載され、または本明細書の実施例の欄において詳述された本願発明の成分のいずれのものも、1つの実施形態においては、その成分に関して本明細書の他の部分に記載された範囲の任意の端点について代替的な定義を規定するために使用することができ、したがって1つの非限定的な実施形態においては、そうした他の部分に記載された範囲の端点を置き換えることができることが理解される。
【0022】
本開示にしたがって1つまたはより多くの他の物質、構成要素、または成分と最初に接触される直前の時点において存在し、現場で形成され、ブレンドされ、または混合される物質、構成要素、または成分に対する参照が行われる。反応生成物、得られる混合物またはその他として特定される物質、構成要素または成分は、本開示にしたがい常識と関連技術分野の当業者(例えば化学技術者)の通常の知識を適用して行われる接触、現場形成、ブレンド、または混合操作の過程の間における化学反応または変性を通じて、識別性、特性、または特徴を獲得してよい。化学反応物質または出発材料の化学生成物または最終物質への変性は連続的に展開する過程であり、それが生ずる速度とは無関係である。したがって、そうした変性過程が進行するにつれて、出発物質と最終物質の混合物、さらに恐らくは熱力学的寿命に応じて、当業者に知られた現在の分析技術で検出が容易または困難な中間種との混合物が存在する。
【0023】
本願の明細書または特許請求の範囲において化学名または化学式によって参照される反応物質および成分は、単数形または複数形のいずれで参照される場合でも、化学名または化学種によって参照される別の物質(例えば別の反応物質または溶媒)と接触するよりも前に存在しているものとして識別されてよい。得られる混合物、溶液、または反応媒体において生ずる予備的および/または遷移的な化学変化、変性、または反応が存在する場合には、中間種、マスターバッチその他として識別され、反応生成物または最終物質の有用性とは別個の有用性を有していてよい。特定された反応物質および/または成分を本開示にしたがって要求される条件の下で一緒に合わせることから、他の後続の変化、変性、または反応がもたらされてよい。こうした他の後続の変化、変性、または反応においては、一緒に合わせられる反応物質、成分または構成要素が、反応生成物または最終物質を特定または指定してよい。
【0024】
本願において使用される「有機基」という表現は、60までの炭素原子を含む直鎖または分岐鎖のアルキル、直鎖または分岐鎖のアルケニルといった任意の脂肪族基、アリール、アラルキル、シクロアルキルおよびその他として理解され、これらは本願において記載されるそれぞれの有機基中に任意選択的に少なくとも1つのヘテロ原子、および/または異なるヘテロ原子基を含むことができる。
【0025】
用語「アルキル」は、任意の1価の飽和した直鎖、分岐鎖、または環状の炭化水素基を意味する。アルキルの非限定的な例には、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、およびイソブチルが含まれる。
【0026】
スルフェニル化ケイ素含有反応生成物という表現は、スルフェニル化シラン化合物およびスルフェニル化シリコーン化合物の両者を含むものと理解されるべきである。
【0027】
本願発明は、スルフェニルおよびスルホンのような、ヘテロ官能基を有するSi-C結合を作成する方法を記載している。最終生成物(スルホン基を有するテレケリックシランおよびシロキサン)は添加剤の形成のための中間体であり、Li-イオン電池の分野において添加剤としての用途を有することができる。
【0028】
本願における1つの具体的な非限定的実施形態においては、ハロ-ブロモアルカンが金属アルキルスルフィドと反応して1-クロロ-3-メチルスルファニル-プロパンが形成され、続いてMgとの反応が行われ、その後ジメチルジクロロシランとの反応が行われて、クロロ-ジメチル-(3-メチルスルファニルプロピル)シラン)が形成される。1つまたはより多くの実施形態において、MgはLi、Na、Al、Cs、Sn、NiおよびHgの1つによって置き換えることができる。
【0029】
クロロ-ジメチル-(3-メチルスルファニルプロピル)シラン)と水との反応は、メチルスルファニルプロパン官能性を有するテレケリックシロキサンの形成を導き、これは酸化されるとテレケリックメチルスルホニルプロパンシロキサンの形成を導く。
【0030】
本願における1つの実施形態において、本発明のプロセスは、工程(a)、工程(b)、任意選択的工程(b-1)および工程(c)という以下の反応機構によって説明することができ、ここで一般式のすぐ下側にはその好ましい種を示している:
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】
【0031】
本願で記載する式(I)、(II)、(III)、(IVa)、(IV)、(V)および(VI)は、上述した反応工程(a)、(b)、(b-1)、および(c)を非限定的な仕方で参照することによって理解することができる。本願において記載するプロセスにおいては、接触工程(b)が酸化工程(c)に先行しなければならないことが理解されよう。上記の式中において、XはCl、BrおよびIからなる群より選択されるハロゲンであり;下付き文字nの各々は1から約10の整数であり;Rの各々はHまたは1から約12の炭素原子を有する1価の有機基であり;Rの各々は1から約8の炭素原子を有する2価の有機基であり、そしてRの各々は1から約12の炭素原子を有する1価の有機基であり;下付き文字aは0または1であり;そして下付き文字bは1から約10の整数であり、但しaが0である場合bは1から約10であり、そしてaが1である場合bは1である。
【0032】
1つの特定的な実施形態において、本願で記載するプロセスの工程(a)の化合物(I)は、任意の適切な商業的プロセスによって製造することができる。しかしながら、1つの好ましい実施形態において化合物(I)は、一般式(Ia)の臭素化された有機ハロゲン化合物:
X-R-Br (Ia)
と式(Ib)のアルカリ金属チオアルコキシド:
Y-S-R (Ib)
の反応から形成することができ、ここでXはCl、BrおよびI、好ましくはClからなる群より選択されるハロゲンであり、そしてRは上記で定義した通りであり、また最も好ましくは式(Ia)は1-ブロモ-3-クロロプロパンであり、そしてここでYは非限定的な例がLi、NaおよびKであり、好ましくはNaであるようなアルカリ金属であり、そしてRは上記で定義した通りであり、また最も好ましくは式(Ib)はナトリウムチオメトキシドである。好ましくは反応は、化合物(Ia)と化合物(Ib)のモル比の範囲が約0.5:2.0から約2.0:0.5において、より好ましくは大体等モル比において行われる。好ましくは、この反応は約20℃から約30℃の温度において、好ましくは大体室温において行われる。本願に記載するプロセスの工程の各々は無溶媒で、または有機溶媒の存在下に行うことができ、その非限定的な例としてはヘキサン、ヘプタン、ドデカンなどのアルカン溶媒、シクロペンタン、シクロヘキサンおよびシクロオクタンのような環状アルカン、テトラヒドロフランのようなフラン溶媒、トルエンのような芳香族溶媒、ジオキサンのようなアセタール溶媒、酢酸エチルのようなエステル溶媒、アセトニトリルのようなニトリル溶媒、エチレングリコールジメチルエーテルのようなグリコール溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジフェニルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエーテルのようなエーテル溶媒、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、ジブチルスルフィドのようなスルフィド溶媒、ジメチルスルホキシドのようなスルホキシド溶媒、N-メチルピロリドンのような環状アミド溶媒、N,N-ジメチルホルムアミドのようなホルムアミド溶媒、メチルイミダゾールおよびジメチルイミダゾールのようなイミダゾール溶媒、アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン溶媒があり、最も好ましくはトルエンである。加えて、(Ia)と(Ib)の反応は任意選択的に、当業者に知られた種類の相間移動触媒の存在下に行うことができ、その1つの非限定的な例はテトラブチルアンモニウムブロミドである。この反応は任意の適切な長さの時間にわたって行うことができるが、しかし好ましくは、1時間から12時間、好ましくは2時間から8時間の長さの時間にわたって行うことができる。
【0033】
上記式(Ia)の化合物はまた、上記した反応機構の工程において、好ましくは上記した式(Ia)および(Ib)の反応の未反応反応物質として、本願で記載した反応工程(a)における反応開始剤としても存在することができる。好ましくは、式(Ia)の化合物は、本願に記載したプロセスの工程(a)における反応物質の重量に基づいて、約2重量%までの量で存在することができ、より好ましくは反応工程(a)は約2重量%までのクロロブロモプロパンを含むことができる。特定の状況においては、式(Ia)の化合物の添加は結果として反応工程(a)における発熱をもたらすことがあるが、これは本願に記載したような繰り返しての段階的添加、およびドライアイスのような従来からの冷却技術によって制御することができる。幾つかの実施形態においては、繰り返し添加は中間体を滴下により注入することによって実行される。本願の1つの実施形態においては、本願に記載したプロセス工程の任意の1つまたはより多く、特に(a)、(b)、(b-1)および(c)は任意選択的に、ジハロアルカン、金属ヨウ化物およびヨウ素、並びに式(Ia)の化合物、最も好ましくはクロロブロモプロパンからなる群より選択される少なくとも1つの開始剤の存在下において行われ、開始剤は反応混合物に対して一度に、または滴下式に添加することができる。
【0034】
反応工程(a)は化合物(I)の金属(M)との反応を伴うことができ、この金属は本願に記載の1つまたはより多くを含むことができる。こうした金属は元素形態で、および/または有機化合物中に存在することができる。1つの実施形態において、金属Mはグリニャール試薬であることができる。1つの実施形態において、金属はマグネシウムである。幾つかの実施形態において、化合物(I)は1-ブロモ-3-ハロゲンアルカンである。1つの実施形態において、化合物(I)は1-ブロモ-3-クロロプロパンである。化合物(I)と金属Mの反応は、本願で記載したような有機溶媒、THFおよび/またはキシレン中で、約60℃から約80℃の温度において行うことができる。1つまたはより多くの実施形態において、この温度は約65℃から約80℃であり、またいくつかの他の実施形態においては、この温度は約75℃である。幾つかの実施形態において、化合物(I)と金属Mのモル比は約0.5:2.0から2.0:0.5である。幾つかの他の実施形態において、化合物(I)と金属Mのモル比は大体等モル比である。反応は、任意の適切な長さの時間にわたって行うことができる。幾つかの実施形態において、反応は約10分間から約2時間の長さの時間にわたって行うことができ、幾つかの実施形態において、反応は約30分間から1.5時間の長さの時間にわたって行うことができる。上述したように、反応工程(a)はから開始剤として約2重量%までのクロロブロモプロパンの存在下で行うことができる。ある実施形態において、化合物(I)の金属Mに対する添加は、長時間にわたり、例えば本願で上記したような長さの時間にわたり、滴下により行われる。
【0035】
反応工程(a)は、本願で上記したスルフェニル金属中間体(II)を生成する。式(II)の1つの実施形態において、下付き文字aが0である場合、下付き文字bは1であり、2官能性またはより大きな官能性のスルフェニル金属中間体がもたらされる。代替的な実施形態においては、aが1である場合、下付き文字bは1であり、そして式(II)の化合物はハロゲン化スルフェニル金属中間体である。
【0036】
工程(a)のスルフェニル金属中間体(II)は次いで工程(b)において、Si-C結合を形成するために、すなわち一般式(IVa):
Q-Si(R-(R-S-R (IVa)
のスルフェニル化ケイ素含有反応生成物を得るために、上記したように式(III)のシランと接触され、ここでQはQまたはQであり、またここでQはCl、BrおよびIからなる群より選択されるハロゲンであり;またQは式-(R-S-Rの部分であり;そしてここでR、RおよびRの各々は上記された通りに定義され、またより好ましくはRおよびRは各々メチルであり、そしてRの各々は-(CH)-であり、また下付き文字nの各々は1から10の整数であり、幾つかの実施形態においては2から8であり、幾つかの他の実施形態においては2から4である。ある実施形態においては、工程(b)において使用される上記した一般式(III)のシランはジメチルジクロロシランである。ある実施形態において、QはClである。
【0037】
工程(b)の非限定的な実施形態において、スルフェニル金属中間体(II)、1つの実施形態においてはハロゲン化スルフェニル金属中間体(II)は、スルフェニル金属中間体(II)のシラン(III)への繰り返し添加によって、式(iii)のシランに接触される。例えばこの繰り返し添加は、スルフェニル金属中間体(II)をシラン(III)に対して滴下注入することによって行われる。
【0038】
幾つかの実施形態において、この反応は本願で上記した有機溶媒(単数または複数)、例えばTHFおよび/またはキシレンの存在下に行うことができる。
【0039】
工程(b)の非限定的な実施形態において、スルフェニル金属中間体(II)は式(III)のシランと接触され、ここで式(III)のシランは式(II)のスルフェニル金属中間体に対して化学量論でモル過剰に存在する。
【0040】
工程(b)の1つの実施形態において、化合物(III)と化合物(II)のモル比は一般に、約2:1から約7:1のモル過剰といったモル過剰であるが、しかし等モル比もまた考慮されている。上述したスルフェニル金属中間体(II)のモル過剰の使用、および/または上述したスルフェニル金属中間体(II)の使用は、式(IVa)のシランダイマー形態の形成、すなわちQが式-(R-S-Rの部分である場合を導きうる。反応工程(b)は、-5℃から約10℃において、1つの実施形態においては約0℃で行うことができ、また任意の適切な長さの時間にわたって行うことができるが、1つの実施形態においては約30分間から約3時間であり、1つの実施形態においては約1から2時間である。
【0041】
しかしながら、本願に記載のプロセスにとって必要という訳ではないが、ある実施形態においては、スルフェニル化ケイ素含有反応生成物(IVa)はQがQである実施形態において、反応工程(b-1)において任意選択的に水と接触される。反応生成物(IVa)に対する水の量は一般に、0.5:1から約2.0モル量までのモル比の範囲にあり、そして1つの実施形態においては、反応生成物(IVa)の量は水に対して大体等モル量である。反応工程(b-1)は、一般式(V):
R-S-(R-Si(R-O-[Si(R-O]-Si(R-(R-S-R (V)
のスルフェニル化シロキサンを形成し、ここでR、RおよびRの各々は本願で定義した通りであり、またnの各々は本願で定義した通りであり、そして下付き文字xは0から10、幾つかの実施形態においては1から8、幾つかの実施形態においては1から4の整数である。反応工程(b-1)は大体室温において、また約10分間から約2時間といった適切な長さの時間にわたり、1つの実施形態においては約30分間から約1時間にわたり、行うことができる。反応工程(b-1)における水の使用は、式(V)のシロキサン(ダイマー)の形成をもたらし、このシロキサン(V)は次いで反応工程(c)の間、化合物(IVa)と共に、または(工程(b-1)において生ずる加水分解の量に応じて)単独で作用する。
【0042】
工程(b)に続いて、存在するなら工程(b-1)、化合物(IVa)、また存在するなら化合物(V)が、任意選択的に工程(c)に先立って塩基で処理されることができる。適切な塩基には、アンモニア、アミン、金属水酸化物、例えばNaOHおよびその同類といった、任意の商業的に入手可能な塩基が含まれうる。用いられる塩基の量は、当業者によって決定されることができるが、一般に工程(b)および/または(b-1)の反応生成物に対して、約5から8、幾つかの実施形態において約7のpHをもたらすものであるべきである。
【0043】
スルフェニル化ケイ素含有反応生成物(IVa)、また存在するならスルフェニル化シロキサン反応生成物(V)は次いで、工程(c)において酸化剤と接触されて、一般式(VI):
-Si(R-(R-S(=O)-R (VI)
のスルホニル化ケイ素化合物が形成され、ここでQはQ2*またはQ3*であり、ここでQ2*は式-(R-S(=O)-Rの部分であり;またQ3*は式-O-[Si(R-O]-Si(R-(R-S(=O)-Rの部分であり、そしてここでR、RおよびRの各々は本願において上記で定義した通りであり、また下付き文字nおよびyの各々は本願において定義した通りである。
【0044】
適切な酸化剤には、酸素、オゾン、過酸化水素、および有機過酸化物が含まれる。酸化はオゾン/発生期の酸素[O]を使用して実行されてよく、そして加水分解は回避されうる。オゾンの存在下においては、副生物なしに酸化物だけが形成される。過酸化水素の存在下においては、Si-Cl結合は完全に加水分解される。
【0045】
反応工程(c)は、その非限定的な例がタングステン酸ナトリウム2水和物であるような、任意の適切な酸化触媒の存在下に行うことができる。反応工程(c)はまた、幾つかの実施形態においてアセトニトリルである、本願に記載する任意の有機溶媒の存在下に行うことができる。反応工程(c)は、約65℃から約80℃、好ましくは約70℃から約75℃の温度において、そして約1時間から約8時間、好ましくは約2時間から4時間の長さの時間にわたって行うことができる。酸化剤に対する化合物(IV)および/または(V)の量は一般に、約0.5:2から約2.0:0.5の範囲にあることができ、好ましくは等モル量である。
【0046】
式(VI)のスルホニル化ケイ素含有化合物の純度は、幾つかの実施形態においてはデカンテーション、抽出、蒸留、およびその他といった従来からの精製技術を用いる行うことができる反応生成物(VI)の精製の後に、約90重量%よりも大きく、幾つかの実施形態において95重量%よりも大きく、そして最大では幾つかの実施形態において約99重量%よりも大きいことができ、これらの範囲の各々は工程(c)の反応生成混合物の合計重量に基づく。
【0047】
一般式(VI)のスルホニル化ケイ素化合物は次いで、さらに技術的に知られているようにして反応されて、一般式(VI)のスルホニル化ケイ素化合物の電解質組成物における非限定的な使用や、Li-イオン電気に用いられる電解質組成物といった、種々の商業的に適切な材料が生成される。本願に記載の式の他の化合物のいずれもまた、電解質組成物において使用することができる。
実施例
【0048】
実施例1:
スルフィド前駆体(2)の合成:
【化5】

オーバーヘッドスターラーおよび添加漏斗を装着した3Lの3口丸底フラスコ中で、1-ブロモ-3-クロロプロパン(1)(500g、3.18モル)を235グラムのトルエンに添加した。テトラブチルアンモニウムブロミド(25g、0.08モル)を相間移動触媒として添加した。この混合物を油浴で24℃まで冷却した。ナトリウムチオメトキシドの21%水溶液(1058g、3.17モル)を反応混合物に対して3時間の長さの時間にわたって10~30℃で一定撹拌しながら滴下により添加した。反応温度を同じ温度でさらに2時間保持した。分離漏斗を使用して有機分画と水性分画を分離した。再度テトラブチルアンモニウムブロミド(7g、0.02モル)およびナトリウムチオメトキシドの21%水溶液(160g、0.48モル)を反応混合物に対して2時間の長さの時間にわたって10~30℃で一定撹拌しながら滴下により添加した。反応温度を同じ温度でさらに2時間保持した。有機分画を水(200ml)で洗浄し、水性分画と合わせてトルエン(50ml)で洗浄した。トルエンを減圧下に有機分画から除去し、粗生成物を分留によって精製して未反応の出発物質を除去した。純粋な1-クロロ-3-メチルスルファニル-プロパン95%(2)が副生物であるジ(メチルスルファニル)プロパン3%および2%のクロロブロモプロパンと共に、~0mbar、56℃において無色の液体として得られた。反応中に開始剤として作用することから、典型的には2%までのクロロブロモプロパンが混合物中に必要であることが見出されている。
【0049】
スルフェニル金属中間体(工程(a))の形成および続いてのジメチルジクロロシランとの反応(工程(b))とその後の水との接触(工程(b-1))
機構:
【化6】
【0050】
反応手順:凝縮器、添加漏斗およびマグネティックスターラーバーを装着した2Lの乾燥した4口丸底フラスコに、マグネシウム(23g、0.95モル)を秤量して入れた。この反応設定構成を窒素でフラッシュした。160mlの無水テトラヒドロフランおよび400mlのキシレンを窒素雰囲気下で反応容器に添加した。100g(0.80モル)の1-クロロ-3-メチルスルファニル-プロパン(2)を添加漏斗に入れた。反応混合物を65℃に加熱し、~15%の1-クロロ-3-メチルスルファニル-プロパン(2)を一定撹拌しながらマグネシウムに添加した。この時点では発熱は観察されなかった。続いて反応温度を75℃に上昇させ、1-ブロモ-3-クロロプロパン(3.2g、0.02モル)を一度に反応混合物へと添加した。この時点で20℃の発熱が観察された。この発熱はドライアイスを用いた冷却によって制御し、温度を~70℃に低下させた。この温度において、残りの1-クロロ-3-メチルスルファニル-プロパン(2)を一定撹拌しながら滴下により添加した。添加の割合と冷却とを同時に制御することによって反応温度を75℃付近に維持した。反応の進行につれて、反応混合物の色は灰色っぽく変化し、スルフェニル金属中間体の形成が確認された。添加が完了した後、反応混合物はさらに1時間にわたって75℃で撹拌した。その後加熱を中止し、溶液は窒素雰囲気下に室温まで冷却させた。同時に、オーバーヘッドスターラーと添加漏斗を装着した別の2Lの乾燥した4口丸底フラスコをセットし、窒素でフラッシュした。溶液はカニューラを使用して添加漏斗に移した。ジメチルジクロロシラン(310g、2.4モル)および400mlのキシレンを窒素雰囲気下に第2の丸底フラスコに入れた。溶液を~0℃まで冷却し、そして溶液を一定撹拌しながら滴下により添加した。添加の進行と共に、塩化マグネシウムが徐々に析出するのが見られた。添加が完了した後、反応混合物は同じ温度でさらに2時間保持した。反応混合物は次いで室温まで昇温させ、窒素雰囲気下に2時間にわたって撹拌した。続いてTHFおよび未反応のジメチルジクロロシランを減圧下に反応混合物から除去した(~11mbar、55℃)。H-NMR分析により、~1.1ppmおよび~1.9ppmにおける多重項によって示されるように(図1)、Si-C結合の形成が示唆された。


図1:工程bの反応混合物のCDCl中におけるH-NMRスペクトル
【0051】
工程(c):クロロ-ジメチル-(3-メチルスルファニルプロピル)シラン(4)および高次類縁体(5)の酸化
機構:
【化7】
【0052】
反応手順:前の工程からの有機分画を、凝縮器、添加漏斗およびマグネティックスターラーバーを装着した2Lの3口丸底フラスコに移し替えた。250mlのアセトニトリルを反応混合物に添加した。タングステン酸ナトリウム2水和物(5g、15ミリモル)を40mlの水に溶解し、反応混合物に添加した。過酸化水素の30%水溶液(220g、1.94モル)を添加漏斗に入れた。反応混合物を70℃に加熱し、一定撹拌しながら過酸化水素を2時間かけて滴下により添加した。過酸化水素の添加中に発熱が観察された。冷却およびゆっくりとした添加によって、反応温度を75℃付近に維持した。添加の完了後、反応混合物はさらに3時間にわたって同じ温度で撹拌した。その後、減圧下にアセトニトリルを反応混合物から除去し、分離漏斗を使用して有機分画を水性相から分離した。水性分画は酢酸エチル(2×100ml)で抽出し、溶媒をストリッピングすることによって回収した物質を有機分画に添加した。H-NMR分析は、出発物質がシロキサンダイマーのスルホン誘導体および高次類縁体(6)へと完全に酸化したことを示した。有機分画は次の工程へとそのまま用いられる。
【0053】
比較例1:スルフィドの酸化および続いてのジメチルジクロロシランおよびマグネシウムによる処理
工程1:1-クロロ-3-メチルスルファニル-プロパン(2)の酸化
【化8】
【0054】
手順:1-クロロ-3-メチルスルファニル-プロパン(10g、80ミリモル)を、凝縮器、添加漏斗およびマグネティックスターラーバーを装着した250mlの3口丸底フラスコに入れた。キシレン(50ml)およびアセトニトリル(50ml)をフラスコに添加した。タングステン酸ナトリウム(0.5g、1.5ミリモル)を2mlの水に溶解し、反応混合物に添加した。反応混合物を75℃に加熱し、そして一定撹拌しながら30%の過酸化水素水溶液(20.7g、200ミリモル)を滴下により添加した。反応混合物は同じ温度で3時間にわたって撹拌した。その後、減圧下にアセトニトリルを反応混合物から除去した。キシレン分画を水性分画から分離し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。H-NMR分析は、出発物質が1-クロロ-3-メチルスルホニル-プロパンへと完全に酸化したことを示した。
【0055】
工程2:マグネシウムと1-クロロ-3-メチルスルホニル-プロパンとの反応
【化9】
【0056】
手順:凝縮器を備えた100mlの3口丸底フラスコにマグネシウム(340mg、14ミリモル)を入れた。この反応設定構成を窒素でフラッシュし、窒素雰囲気下に反応容器へと無水THF(40ml)およびキシレン(40ml)を添加した。1-クロロ-3-メチルスルホニル-プロパン(2g、12.8ミリモル)を75℃において反応混合物へと滴下により添加した。発熱は観察されなかった。同じ温度で撹拌しながら反応を窒素雰囲気下に一晩放置した。回っているマグネシウムが消失するのが見られ、金属の挿入が示唆された。窒素でフラッシュした別の250mlの丸底フラスコに、ジメチルジクロロシラン(2.4g、19.2ミリモル)およびキシレン(40ml)を入れた。反応混合物は0℃まで冷却した。同じ温度において、最初の反応容器からの反応混合物をシリンジを用いて滴下により添加した。第2の容器中の混合物は0℃において1時間撹拌し、次いで室温まで昇温させた。H-NMR分析は、~1.1ppmおよび1.9ppmにおいて明確な多重項が欠如していること(図2)により、Si-C結合が形成されていないことを示唆した。

図2:比較例の工程2(酸化後のシランとMgでの処理工程)の後の反応混合物のH-NMR


図3:実施例1の反応後の反応混合物(上側のスペクトル)と比較例1の反応後の反応混合物(下側のスペクトル)の比較。比較例1の場合には、スルフィドからスルホンへの酸化はシランおよびMgでの処理の前に行われている。比較例においては、~1.1ppmおよび1.9ppmにおける多重項の欠如によって示されるようにC-Si結合は形成されていない。
【0057】
本発明を所定の実施形態に関して説明してきたが、本発明の思想から逸脱することなしに、その構成要素に対して種々の変更を行ってよく、また均等物で置換してよいことが、当業者には理解される。加えて、特定の状況または材料に適合するために、本発明の本質的な範囲から逸脱することなしに、本発明の教示に対して多くの修正を行ってよい。したがって本発明は、発明を実施するために考えられた最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されないことを意図したものであり、また本発明は添付の請求項の範囲内に包含されるすべての実施形態を含むものである。

【国際調査報告】