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特表2024-517977薬物送達のためのリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】薬物送達のためのリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子およびその用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/51 20060101AFI20240416BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240416BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240416BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240416BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240416BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240416BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20240416BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240416BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240416BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240416BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240416BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240416BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 15/115 20100101ALI20240416BHJP
【FI】
A61K9/51
A61K31/713
A61K31/7088
A61K48/00
A61P35/00
A61K47/14
A61K47/28
A61K47/24
A61K47/18
A61K47/22
A61K47/42
A61K31/337
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/11 Z
C12N15/115 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570424
(86)(22)【出願日】2022-05-23
(85)【翻訳文提出日】2023-11-14
(86)【国際出願番号】 KR2022007299
(87)【国際公開番号】W WO2022255701
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】10-2021-0070586
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521470629
【氏名又は名称】ティオンラボ・セラピューティクス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ドク・ス・イム
(72)【発明者】
【氏名】ジン-ホ・キム
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA65
4C076AA95
4C076CC27
4C076DD46
4C076DD49
4C076DD59
4C076DD63
4C076DD70
4C076EE41
4C076FF70
4C076GG41
4C084AA13
4C084NA13
4C084ZB26
4C086AA01
4C086AA10
4C086BA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA13
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明によれば、アルブミン結合コレステロール、融合誘導性脂質、カチオン性脂質、トリグリセリドおよびコレステリルエステルを構成とするコア-シェル構造のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子を製造することによって、生体利用率に優れ、薬物封入効率が向上した薬物送達体を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリグリセリドおよびコレステリルエステルを含むコアと;
アルブミン結合コレステロール、融合誘導性脂質およびカチオン性脂質を含むシェルと;を含むリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子。
【請求項2】
コレステリルエステルは、コレステロールに炭素数10~24の飽和または不飽和脂肪酸がエステル結合したものである、請求項1に記載のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子。
【請求項3】
トリグリセリドは、グリセロール1分子に炭素数10~24の飽和または不飽和脂肪酸3分子がエステル結合したものである、請求項1に記載のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子。
【請求項4】
アルブミン結合コレステロールは、コレステリルクロロホーメートとアルブミンの反応物であり、
前記コレステリルクロロホーメートのクロロホーメート基とアルブミンのアミン基が結合したものである、請求項1に記載のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子。
【請求項5】
アルブミン結合コレステロールにおいてコレステリルクロロホーメートとアルブミンのモル比は、1:1~5:1である、請求項4に記載のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子。
【請求項6】
融合誘導性脂質は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルエタノールアミン(1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phosphatidylethanolamine,DOPE)、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(palmitoyloleoylphosphatidylethanolamine,POPC)、卵ホスファチジルコリン(egg phosphatidylcholine,EPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(distearoylphosphatidylcholine,DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(dioleoylphosphatidylcholine,DOPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(dipalmitoylphosphatidylcholine,DPPC)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(dioleoylphosphatidylglycerol,DOPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(dipalmitoylphosphatidylglycerol,DPPG)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(distearoylphosphatidylethanolamine,DSPE)、ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamine,PE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(dipalmitoylphosphatidylethanolamine)、1-パルミトイル-2-オレイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)、1-パルミトイル-2-オレイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-L-セリン](DOPS)、および1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-L-セリン]から成る群から選ばれた1つ以上である、請求項1に記載のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子。
【請求項7】
カチオン性脂質は、3β-[N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC-コレステロール)、3β-[N-(N’,N’,N’-トリメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(TC-コレステロール)、3β-[N-(N’-モノメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(MC-コレステロール)、3β-[N-(アミノエタン)カルバモイル]コレステロール(AC-コレステロール)、N-(N’-アミノエタン)カバモイルプロパノイックトコフェロール(AC-トコフェロール)、N-(N’-メチルアミノエタン)カバモイルプロパノイックトコフェロール(MC-トコフェロール)、N,N-ジオレオイル-N,N-ジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、N,N-ジステアリール-N,N-ジメチルアンモニウムブロミド(DDAB)、N-(1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTAP)、N,N-ジメチル-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピルアミン(DODMA)、N-(1-(2,3-ジオレオイル)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DODAP)、1,2-ジオレオイルカルバミル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DOCDAP)、1,2-ジリネオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(Dilineoyl-3-Dimethylammonium-propane,DLINDAP)、ジオレオイルオキシ-N-[2-スペルミンカルボキサミド)エチル}-N,N-ジメチル-1-プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE)、3-ジメチルアミノ-2-(コレスタ-5-エン-3-ベータ-オキシブタン-4-オキシ)-1-(cis,cis-9,12-オクタデカジエノキシ)プロパン(CLinDMA)、2-[5’-(コレスタ-5-エン-3-ベータ-オキシ)-3’-オキサペントキシ]-3-ジメチル-1-(cis,cis-9’,12’-オクタデカジエノキシ)プロパン(CpLinDMA)、N,N-ジメチル-3,4-ジオレイルオキシベンジルアミン(DMOBA)、1,2-N,N’-ジオレオイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパン(DOcarbDAP)、1,2-ジアザ-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(TAP)、1,2-ジアザ-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DAP)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン、および1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパンから成る群から選ばれた1つ以上である、請求項1に記載のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子。
【請求項8】
リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子は、20~200nmの直径を有するものである、請求項1に記載のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子。
【請求項9】
リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子は、高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子であり、
全体高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子100重量部を基準として、コレステリルエステル5~30重量部、トリグリセリド0.01~5重量部、アルブミン結合コレステロール1~20重量部、融合誘導性脂質5~40重量部およびカチオン性脂質10~60重量部を含む、請求項1に記載のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子。
【請求項10】
リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子は、低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子であり、
全体低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子100重量部を基準として、コレステリルエステル30~60重量部、トリグリセリド0.01~5重量部、アルブミン結合コレステロール1~20重量部、融合誘導性脂質5~40重量部およびカチオン性脂質10~40重量部を含む、請求項1に記載のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子。
【請求項11】
有機溶媒でコレステリルエステル、トリグリセリド、アルブミン結合コレステロール、融合誘導性脂質およびカチオン性脂質を混合し、リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子が分散した水性分散液を製造する段階を含む、リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の製造方法。
【請求項12】
製造された水性分散液を透析して精製し、濃縮させる段階をさらに含む、請求項11に記載のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の製造方法。
【請求項13】
アルブミン結合コレステロールは、有機溶媒に溶解したコレステリルクロロホーメートとアルブミン水溶液を混合して製造されたものである、請求項11に記載のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の製造方法。
【請求項14】
アルブミン結合コレステロールでコレステロールとアルブミンのモル比は、1:1~5:1である、請求項12に記載のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の製造方法。
【請求項15】
有機溶媒は、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、C1~C4の低級アルコール、メチレンクロリド、クロロホルム、アセトン、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ジオキサン、エチルアセテート、メチルエチルケトン、アセトニトリルおよびこれらの混合物から選ばれる、請求項11に記載のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の製造方法。
【請求項16】
リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の直径は、20~200nmである、請求項11に記載のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の製造方法。
【請求項17】
リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子は、高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子であり、
全体高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子100重量部を基準として、コレステリルエステル5~30重量部、トリグリセリド0.01~5重量部、アルブミン結合コレステロール1~20重量部、融合誘導性脂質5~40重量部およびカチオン性脂質10~60重量部を含む、請求項11に記載のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の製造方法。
【請求項18】
リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子は、低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子であり、
全体低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子100重量部を基準として、コレステリルエステル30~60重量部、トリグリセリド0.01~5重量部、アルブミン結合コレステロール1~20重量部、融合誘導性脂質5~40重量部およびカチオン性脂質10~40重量部を含む、請求項11に記載のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の製造方法。
【請求項19】
請求項1に記載のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子を含む、薬物送達用組成物。
【請求項20】
薬物は、核酸および非水溶性薬物のうち1つ以上を含む、請求項19に記載の薬物送達用組成物。
【請求項21】
核酸は、siRNA、rRNA、RNA、DNA、cDNA、アプタマー、mRNA、tRNAおよびアンチセンス-オリゴデオキシヌクレオチド(AS-ODN)から成る群から選ばれた1つ以上であり、
前記核酸は、前記固体脂質ナノ粒子のシェルのカチオン性脂質と静電気的相互作用によって結合したものである、請求項20に記載の薬物送達用組成物。
【請求項22】
非水溶性薬物は、難溶性薬物、アニオンを帯びるペプチド、タンパク質、ヒアルロン酸-ペプチド結合体、またはヒアルロン酸-タンパク質結合体である、請求項20に記載の薬物送達用組成物。
【請求項23】
KRASを標的とする核酸および非水溶性薬物のうち1つ以上と;
請求項1に記載のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子と;を含む、KRAS遺伝子変異によって誘発されるがんの予防または治療用薬学組成物。
【請求項24】
KRASを標的とする核酸は、還元可能な核酸ダイマー(dimer)である、請求項23に記載のKRAS遺伝子変異によって誘発されるがんの予防または治療用薬学組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物送達のためのリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子およびその薬物送達体としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
K-ras遺伝子(KRAS)は、いくつかのがん腫でよく突然変異されるras遺伝子の1つであり、KRAS遺伝子のコドン12および13における突然変異は、この遺伝子の産物であるp21-rasタンパク質の機能的変化をもたらし、その結果、細胞核に成長シグナルを必要以上に伝達することによって、細胞の成長と分裂を促進し、発がん過程に関与する。KRASの突然変異は、膵がんの約90%、大腸がんの約50%、非小細胞肺がんの約30%に現れ、ヒトのがんにおいて非常に多く見られ、これらの突然変異の大部分は、コドン12および13に集中していることが突然変異プロファイルで確認された(非特許文献1)。
【0003】
これより、様々な方法でKRASと関連した抗がん剤の開発に関する研究が数十年間試みられてきたが、臨床に至った抗がん剤はなかったので、KRASは、「治療剤として発掘できない(undruggable)」ターゲットと見なされてきた。KRASは、GTP(guanosine triphosphate)と結合すると活性化するが、GTPと結合力が非常に高く、表面に結合するほどのポケットが殆どないため、これを標的に新薬開発することが非常に難しい。また、KRASは、細胞内タンパク質であるから、分子量の大きい抗体を使用することもできないという問題がある。
【0004】
また、アルブミンの様々な結合能を活用したアルブミン融合(Albumin-fusion)技術を応用し、抗がん剤であるパクリタキセルをアルブミンに付着した薬剤であるナノ粒子パクリタキセル、商品名アブラクサン(Abraxane)は、パクリタキセルの腫瘍反応を改善することが明らかになったが、アブラクサンの薬物動態学的特性と生体内分布(biodistribution)は、タキソール(Taxol)剤形よりも効果が低いという問題がある。
【0005】
したがって、生体適合的かつ高効率の薬物送達効率を有しながらも、KRASを直接的に標的する薬物送達体の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Samowitz WS,et al.,Cancer Epidemiol.Biomarkers Prev.9:1193-7,2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、生体利用率に優れ、高効率の薬物送達効果を有する薬物送達体としてリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子およびその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、天然リポタンパク質と類似の組成の固体脂質ナノ粒子を製造する場合、薬物を高効率で封入できながらも、生体利用率に優れた薬物送達体として活用可能であることを確認し、本発明を完成した。
【0009】
したがって、本発明は、生体適合的かつ高効率で薬物を送達するためのリポタンパク質(lipoprotein)模倣固体脂質ナノ粒子(solid lipid nanoparticle,SLN)およびその用途に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コレステリルエステル、トリグリセリド、アルブミン結合コレステロール、融合誘導性脂質およびカチオン性脂質を構成とするコア-シェル構造のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子を製造することによって、粒子間の凝集を防き、構造的安定性を確保することができる。また、生体利用率に優れ、薬物封入効率が向上した薬物送達体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明によるリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の製造および薬物送達体としての形態を図式化した図である。
図2図2は、リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の構成成分の含有量によるリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子のZ平均値を示す図である。
図3図3aおよび図3bは、リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子のTEM写真を示す図である。
図4図4は、モノマーsiRNAを還元可能なダイマーsiRNAに合成する過程を図式化した図である。
図5図5は、還元可能なダイマーsiRNAの還元性を確認した結果である。
図6図6は、siRNA/SLN複合体の細胞内吸収をフローサイトメトリー分析で確認した結果である。
図7図7は、siRNA/SLN複合体の遺伝子沈黙効果を確認するために、逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を用いてKras mRNAレベルを確認した結果である。
図8図8は、siRNA/SLN複合体の遺伝子沈黙効果を確認するために、Kras mRNAレベルを定量化した結果である。
図9図9は、動物モデルでsiRNA/SLN複合体の遺伝子沈黙効果を確認するために、逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を用いてKras mRNAレベルを確認した結果である。
図10図10は、動物モデルでsiRNA/SLN複合体の遺伝子沈黙効果を確認するために、Kras mRNAレベルを定量化した結果である。
図11図11は、マウスモデルでダイマーsiRNAによって形成されたsiRNA/SLN複合体の血液除去率を確認した結果である。
図12図12は、マウスモデルでダイマーsiRNAによって形成されたsiRNA/SLN複合体の生体分布を確認した結果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の構成を具体的に説明する。
本発明において数値の限定は、別途の記載がないと、以上または以下を示す。
【0013】
本発明は、コレステリルエステルおよびトリグリセリドを含むコアと;アルブミン結合コレステロール、融合誘導性脂質およびカチオン性脂質を含むシェルと;を含む低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子を提供する。
【0014】
本発明において、「固体脂質ナノ粒子(solid lipid nanoparticle,SLN)」とは、形態的な観点から、ナノメートル(nm)単位のサイズを有し、リポソーム(liposome)やエマルジョン(emulsion)剤形とは異なって、固体マトリックス形態で存在する粒子を意味する。本発明の固体脂質ナノ粒子は、コア-シェル構造を有するものであり、例えば、構造的に中心部(コア)あるいは表面部(シェル)に非水溶性薬物および/または核酸を捕集する形態で構成されてもよい。本発明による固体脂質ナノ粒子は、非水溶性薬物および/または核酸を捕集することによって、前記非水溶性薬物および/または核酸の生体内伝達効率を大きく増加させることができる。前記固体脂質ナノ粒子は、通常の方法で製造することができ、必要に応じてその方法を適切に変形して行うことができる。
【0015】
天然高比重リポタンパク質(HDL)は、サイズが5~17nmであり、リポタンパク質のうちタンパク質の組成が最も大きいため、1.063~1.21g/dLの最も高い比重を有する。高比重リポタンパク質は、全体成分中、タンパク質が約50%を占め、コレステロールが約17%、リン脂質が約22%を占める。主要タンパク質は、apoA-IとapoA-IIである。高比重リポタンパク質は、その構造上、2つの脂質相、すなわち、極性脂質相(リン脂質、アポリポタンパク質および遊離コレステロール)および、非極性脂質相(コレステリルエステルおよびトリグリセリド)からなる。リン脂質は、非極性脂質を乳化させて、ナノ粒子の表面を安定化できるという利点がある。
【0016】
本発明による固体脂質ナノ粒子は、高比重リポタンパク質(HDL)模倣固体脂質ナノ粒子(SLN)である。天然高比重リポタンパク質とは異なって、本発明による高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子は、アポリポタンパク質を実質的に含まなくてもよい。また、アポリポタンパク質を含む天然高比重リポタンパク質とは異なって、本発明による高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子は、アポリポタンパク質の代わりに、カチオン性脂質を高含有量で含んでもよい。前記カチオン性脂質によって固体脂質ナノ粒子の表面にカチオン性を付与することによって、薬物と結合し、薬物送達体として活用することができる。
【0017】
また、本発明の高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子は、天然高比重リポタンパク質とは異なって、遊離コレステロールをアルブミン結合コレステロール形態に変えて含んでもよい。上記のように、アルブミン結合コレステロールを含ませることによって、前記固体脂質ナノ粒子が薬物送達体として活用されるとき、がん細胞標的能を有することができる。このようながん細胞標的能は、コレステロールに結合したアルブミンによるものであり、アルブミンによってがん細胞標的能を発揮するためには、粒子サイズを細胞膜を通過できるレベル、すなわち20~50nmレベルとしなければならない。これより、本発明による高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子サイズは、20~50nmであることが好ましい。
【0018】
なお、天然低比重リポタンパク質(LDL)は、2つの脂質相、すなわち、極性構成成分(リン脂質およびアポリポタンパク質)およびコレステロールエステルとトリグリセリドで事前構成された非極性中性脂質からなり、サイズは、約18~25nmであり、ゼータ電位は、-11.4±1.9mVである。具体的には、コア部(core)は、コレステロールエステル45%およびトリグリセリド3%で構成され、表面部(surface)は、コレステロール10%、リン脂質22%およびアポリポタンパク質(apolipoprotein)B-100 20%で構成される。
【0019】
本発明による固体脂質ナノ粒子は、低比重リポタンパク質(LDL)模倣固体脂質ナノ粒子(SLN)である。天然低比重リポタンパク質とは異なって、本発明による低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子は、アポリポタンパク質を実質的に含まなくてもよい。また、アポリポタンパク質を含む天然低比重リポタンパク質とは異なって、本発明による低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子は、リン脂質およびアポリポタンパク質の代わりに、融合誘導性脂質、カチオン性脂質を含んでもよい。前記カチオン性脂質によって固体脂質ナノ粒子の表面にカチオン性を付与することによって、薬物と結合し、薬物送達体として活用することができる。
【0020】
また、本発明の低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子は、天然低比重リポタンパク質とは異なって、遊離コレステロールをアルブミン結合コレステロール形態に変えて含んでもよい。
【0021】
上記のように、アルブミン結合コレステロールを含ませることによって、前記低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子が薬物送達体として活用されるとき、がん細胞標的能を有することができる。また、非極性脂質を乳化させて表面の安定性を提供し、粒子間凝集を防き、構造的に安定したナノ粒子を形成することができる。
【0022】
このようながん細胞標的能および透過力は、コレステロールに結合したアルブミンによるものであり、アルブミンによってがん細胞標的能を発揮するためには、粒子サイズを細胞膜を通過できるレベルとしなければならない。すなわち、EPR(Enhanced permeability and retention)効果で腫瘍組織の新生血管が不完全で、200nm程度に隙間が広がり、200nm以内の粒子は、正常組織に入らず、腫瘍血管を浸透することができ(Enhanced permeability)、または、腫瘍組織は、リンパ系が発達していないため、漏出した物質が滞留しやすい。これより、本発明による固体脂質ナノ粒子サイズは、60~200nmとし、EPR効果でがん組織などに薬物を安定的に輸送することができる。
【0023】
本発明において、前記高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子および/または低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子は、カチオン性固体脂質ナノ粒子形態の高比重および/または低比重リポタンパク質模倣カチオン性固体脂質ナノ粒子であってもよい。前記ナノ粒子は、天然高比重および/または低比重リポタンパク質の構成成分を模倣して再構成されたものであり、タンパク質、ペプチド、アプタマーまたはsiRNAのような核酸治療剤は、物理化学的特性によって循環系への吸収率が非常に低い。また、固体脂質ナノ粒子は、タンパク質分解酵素、ペプチド分解酵素、または核酸分解酵素などによって分解され、細網内皮系(Reticuloendothelial system,RES)などを通して除去された後、腎臓を介して迅速に排出されるので、これを改善した天然高比重リポタンパク質模倣ナノ粒子に薬物を封入し、酵素による分解を阻害し、標的臓器や細胞に吸収を促進し、細網内皮系(Reticuloendothelial system,RES)により分解されることを阻害し、血中滞留時間を延長させることができ、生体内天然リポタンパク質を模倣したという点から、生体内安定性および生体利用率に優れ、高効率で薬物を封入して伝達することができるという利点がある。
【0024】
下記実施例では、高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子と低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子を製造し、前記リポタンパク質模倣ナノ粒子が優れた薬物封入率を有することを確認した。より具体的には、平均粒子サイズが、低比重リポタンパク質固体脂質ナノ粒子の場合、約100nmであり、高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の場合、約30nmであり、薬物の封入率は、類似のレベルであることを確認した。
【0025】
本発明では、リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子を固体脂質ナノ粒子と言及することができる。また、別途の記載がない限り、開示された内容は、低比重および/または高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の両方に適用されると理解すべきである。
【0026】
本発明において、固体脂質ナノ粒子のコアは、常温および体温で固体状態でコアの内部に非水溶性薬物および/または核酸遺伝子の疎水性相互作用を通じて薬物を捕集することができる。前記固体脂質ナノ粒子のコアは、コレステリルエステルおよびトリグリセリドを含む。
【0027】
前記ナノ粒子のコアを成す成分の1つであるコレステリルエステルは、コレステロールに炭素数10~24個の飽和または不飽和脂肪酸がエステル結合したものであり、オレイン酸のような炭素数16~18個の不飽和脂肪酸のエステルであってもよい。本発明による固体脂質ナノ粒子は、単一または複数種のコレステリルエステルを含んでもよい。
【0028】
一具体例において、前記コレステリルエステルは、コレステリルステアレート、コレステリルパルミテート、コレステロールヒドロキシステアレート、ソイビーンステロールから成る群から選ばれる1種以上またはその誘導体であってもよく、好ましくは、コレステリルオレエートであってもよい。
【0029】
前記コレステリルエステルは、全体リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子100重量部を基準として、5~60重量部であってもよい。
【0030】
例えば、リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子が高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の場合、前記コレステリルエステルは、高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子100重量部を基準として、5~30重量部、10~25重量部、または15~20重量部で含まれてもよい。コレステリルエステルが上記のような範囲で高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子のコアを構成するとき、多量の薬物を封入しながらも、細胞膜を通過することができ、細胞内薬物送達効率に優れた固体脂質ナノ粒子を製造することができる。また、前記含有量のコレステリルエステルを含むことによって、天然高比重リポタンパク質と類似の固体脂質ナノ粒子を製造することができる。
【0031】
また、例えば、リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子が低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の場合、前記コレステリルエステルは、低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子100重量部を基準として、30~60重量部、30重量部超過~50重量部以下、40~50重量部で含まれてもよい。コレステリルエステルが上記のような範囲で低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子のコアを構成するとき、多量の薬物を封入しながらも、細胞膜を通過することができ、細胞内薬物送達効率に優れた低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子を製造することができる。また、前記含有量のコレステリルエステルを含むことによって、天然低比重リポタンパク質と類似の固体脂質ナノ粒子を製造することができる。
【0032】
また、前記ナノ粒子のコアを成す成分の1つであるトリグリセリドは、様々な脂肪酸の組成を有する精製トリグリセリド、または多数の脂肪酸で構成されたトリグリセリドを主成分とする植物油であってもよい。例えば、前記トリグリセリドは、動物または植物油であってもよく、大豆油、オリーブ油、綿実油、ゴマ油および肝油などから成る群から選ばれた1つ以上であってもよいが、これらに限定されるものではない。より具体的には、前記トリグリセリドは、グリセロール1分子に炭素数10~24の飽和または不飽和脂肪酸3分子がエステル結合したものであってもよい。
【0033】
一具体例において、前記トリグリセリドは、トリヘプタノイン、トリミリスチン、トリパルミチン、トリステアリン、トリリノレインから成る群から選ばれる1種以上またはその誘導体であってもよく、好ましくは、トリオレインであってもよい。
【0034】
前記トリグリセリドは、全体リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子100重量部を基準として、0.01~5重量部、0.05~3.5重量部、0.1~2.5重量部、0.5~1.5重量部で含まれてもよい。トリグリセリドが上記のような範囲でリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子のコアを構成するとき、前記トリグリセリドがコレステリルエステルと疎水性結合し、細胞膜を通過できるサイズを有するナノ粒子を形成することができる。
【0035】
前記コレステリルエステルおよびトリグリセリドは、疎水性結合を通じてリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子のコアを形成することができる。
【0036】
本発明において、固体脂質ナノ粒子のシェルは、コアの上層面に疎水性相互反応によって結合されており、シェルには、薬物、特に非水溶性薬物および/または核酸遺伝子と静電気的相互作用ができるカチオン性脂質が露出している。本発明によるナノ粒子は、上記のようなシェルに露出したカチオン性脂質を通じて薬物、特に非水溶性薬物および/または核酸遺伝子と静電気的相互作用によって結合して複合体を形成することができ、薬物、特に非水溶性薬物および/または核酸遺伝子を細胞内に安定的に伝達することができる。これより、前記ナノ粒子のシェルは、アルブミン結合コレステロール、融合誘導性脂質およびカチオン性脂質を含む。
【0037】
本発明において、アルブミン結合コレステロールは、疎水性を有するモイアティであり、天然脂質であるコレステロールに親水性タンパク質であるアルブミンを結合させて製造することができる。特に本発明は、コレステロールにアルブミンを共有結合させることによって、コレステロールとアルブミンをかたく結合させることができる。これを通じて、2つの成分が単純混合されて相互作用によって非特異的に結合した複合体とは異なって、コレステロールにアルブミンが一定の割合でかたく結合したコレステロール-アルブミンを提供することができる。本発明において、前記アルブミン結合コレステロールは、用語「コレステロール-アルブミン」と相互交換的に使用することができる。
【0038】
本発明のアルブミン結合コレステロールは、当業界において一般的に知られている様々な方法によって製造可能である。これらに限定されるものではないが、本発明の一具体例において、前記アルブミン結合コレステロールは、コレステロールクロロホーメートとアルブミンが反応して形成されたものであってもよい。これは、コレステロールクロロホーメートのクロロホーメート基とアルブミンのアミン基が反応して結合したものであってもよい。
【0039】
前記「アルブミン」は、細胞の基本物質を構成するタンパク質の1つであり、自然状態で存在する単純タンパク質のうち最も分子量の小さいタンパク質である。アルブミンは、水溶性(water-soluble)であり、血漿で多く見られる主要タンパク質であり、水、カルシウム、ナトリウム、カリウムなどのカチオン、脂肪酸、ホルモン、ビリルビン(bilirubin)、薬物など様々なリガンドと結合し、血液のコロイド浸透圧を調節および伝達する役割をする。特に薬物とアルブミンの結合は、薬物の薬効発現に大きく寄与する。前記アルブミンは、卵白(egg white、オボアルブミン;ovalbumin)、ウシ血清またはヒト血清から相当量を収得することができ、大豆、牛乳および穀物から抽出することもできる。または、自然的に存在するアルブミンと同じアミノ酸配列を有するポリペプチドを発現するように製造された形質転換体から収得した組換えアルブミンを利用することもできる。
また、前記「コレステロール」は、ステロイドとアルコールの組み合わせであるステロールの一種であり、すべての動物細胞の細胞膜に存在する脂質であり、血液を通じて輸送される有機分子である。コレステロールは、食物を通じて吸収されたり体内で合成され、細胞膜の多い器官に高濃度で存在し、細胞に適切な膜透過性および流動性を付与する。分子内に複数の融合した環構造を含むので、環構造を含む物質と向上した相互作用を示すことができる。
【0040】
前述したように、本発明は、天然リポタンパク質の遊離コレステロールの代わりに、アルブミン結合コレステロールをその構成成分として含んでもよい。
【0041】
前記アルブミン結合コレステロールは、全体固体脂質ナノ粒子100重量部を基準として、1~20重量部であってもよい。
【0042】
例えば、リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子が高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の場合、前記アルブミン結合コレステロールは、高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子100重量部を基準として、1.5~8重量部、2~5重量部、3.5~4.5重量部で含まれてもよい。また、例えば、リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子が低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の場合、前記アルブミン結合コレステロールは、低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子100重量部を基準として、3~15重量部、5~12重量部、9~11重量部で含まれてもよい。アルブミン結合コレステロールが上記のような範囲で固体脂質ナノ粒子を構成するとき、天然リポタンパク質を模倣しながらも、粒子間凝集を防ぎ、薬物封入率に優れた固体脂質ナノ粒子を形成することができる。上記のような固体脂質ナノ粒子において多量の薬物を封入しながらも、食作用(Phagocytosis)によるナノ粒子の分解を防止し、標的部位への薬物送達効率を最大化させることができる。さらに、アルブミン結合コレステロールを前記含有量で含ませることによって、アルブミン結合コレステロールによって固体脂質ナノ粒子のシェルをかたく形成することができ、遺伝子伝達のための遺伝子形質感染の効率が向上することができ、後述するカチオン性脂質の細胞毒性が減少するという利点があり、食作用(Phargocytosis)を抑制し、固体脂質ナノ粒子の薬物送達効率が向上することができる。
【0043】
アルブミンは、エンドソーム-リソソーム区画でナノ粒子の放出を促進できるエンドソーム溶解活性を有するので、薬物送達効率の向上に寄与することができる。例えば、下記実施例では、このようなエンドソーム溶解活性によって固体脂質ナノ粒子とsiRNAの複合体(albumin_SLN/siRNA複合体)が生体内遺伝子伝達(沈黙)効率の向上に寄与することを示す。また、前記ナノ粒子は、血管循環中にもナノ構造を維持できるので、腫瘍組織に優先的に分布し、副作用を最小化すると共に、薬物の治療効能を最大化できるという利点がある。
【0044】
前記融合誘導性脂質は、固体脂質ナノ粒子を形成できるすべての種類の中性、カチオン性、またはアニオン性脂質であってもよく、単一または2種以上のリン脂質の混合物であってもよいが、これらに限定されるものではない。前記融合誘導性脂質としては、融合誘導可能なすべての種類のリン脂質を使用することができ、例えば、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルエタノールアミン(1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phosphatidylethanolamine,DOPE)、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(palmitoyloleoylphosphatidylethanolamine,POPC)、卵ホスファチジルコリン(egg phosphatidylcholine,EPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(distearoylphosphatidylcholine,DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(dioleoylphosphatidylcholine,DOPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(dipalmitoylphosphatidylcholine,DPPC)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(dioleoylphosphatidylglycerol,DOPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(dipalmitoylphosphatidylglycerol,DPPG)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(distearoylphosphatidylethanolamine,DSPE)、ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamine,PE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(dipalmitoylphosphatidylethanolamine)、1-パルミトイル-2-オレイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)、1-パルミトイル-2-オレイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-L-セリン](DOPS)、および1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-L-セリン]から成る群から選ばれた1つ以上であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0045】
一具体例において、前記融合誘導性脂質は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルエタノールアミン(DOPE)であってもよい。
【0046】
前記融合誘導性脂質は、全体固体脂質ナノ粒子の重量を基準として、5~40重量部、15~40重量部、20~35重量部、20~30重量部で含まれてもよい。融合誘導性脂質が上記のような範囲で固体脂質ナノ粒子を構成するとき、遺伝子形質感染の効率を向上させ、後述するカチオン性脂質の細胞毒性を減少させるという利点がある。また、融合誘導性脂質は、固体脂質ナノ粒子の細胞膜通過およびエンドソーム脱出(endosomal escape)を助けて、細胞内薬物送達を容易にする。
【0047】
前記カチオン性脂質は、生理学的pHのように特定のpHで正味の負電荷を帯びるカチオン性脂質を含んでもよい。例えば、前記カチオン性脂質は、3β-[N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC-コレステロール)、3β-[N-(N’,N’,N’-トリメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(TC-コレステロール)、3β-[N-(N’-モノメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(MC-コレステロール)、3β-[N-(アミノエタン)カルバモイル]コレステロール(AC-コレステロール)、N-(N’-アミノエタン)カバモイルプロパノイックトコフェロール(AC-トコフェロール)、N-(N’-メチルアミノエタン)カバモイルプロパノイックトコフェロール(MC-トコフェロール)、N,N-ジオレオイル-N,N-ジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、N,N-ジステアリール-N,N-ジメチルアンモニウムブロミド(DDAB)、N-(1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTAP)、N,N-ジメチル-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピルアミン(DODMA)、N-(1-(2,3-ジオレオイル)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DODAP)、1,2-ジオレオイルカルバミル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DOCDAP)、1,2-ジリネオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(Dilineoyl-3-Dimethylammonium-propane,DLINDAP)、ジオレオイルオキシ-N-[2-スペルミンカルボキサミド)エチル}-N,N-ジメチル-1-プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE)、3-ジメチルアミノ-2-(コレスタ-5-エン-3-ベータ-オキシブタン-4-オキシ)-1-(cis,cis-9,12-オクタデカジエノキシ)プロパン(CLinDMA)、2-[5’-(コレスタ-5-エン-3-ベータ-オキシ)-3’-オキサペントキシ]-3-ジメチル-1-(cis,cis-9’,12’-オクタデカジエノキシ)プロパン(CpLinDMA)、N,N-ジメチル-3,4-ジオレイルオキシベンジルアミン(DMOBA)、1,2-N,N’-ジオレオイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパン(DOcarbDAP)、1,2-ジアザ-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(TAP)、1,2-ジアザ-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DAP)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン、および1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパンから成る群から選ばれた1つ以上であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0048】
一具体例において、前記カチオン性脂質は、3β-[N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC-コレステロール)であってもよい。前記DC-コレステロールは、他のカチオン性脂質よりもその毒性が弱く、DC-コレステロール系遺伝子担体が黒色腫、嚢胞性線維腫、子宮頸がん、乳がんまたは卵巣がんなどの様々な疾患の臨床治療に使用承認を受けたという点から特に好ましい。
【0049】
前記カチオン性脂質は、全体固体脂質ナノ粒子100重量部を基準として、10~60重量部で含まれてもよい。
【0050】
例えば、リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子が高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の場合、前記カチオン性脂質は、高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子100重量部を基準として、10~60重量部、35~58重量部、40~50重量部で含まれてもよい。カチオン性脂質が上記のような含有量の範囲で固体脂質ナノ粒子のシェルを構成するとき、固体脂質ナノ粒子が多量の薬物を封入しながらも、細胞膜を通過できるサイズで形成され、効率的に薬物を送達することができる。
【0051】
また、例えば、リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子が低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の場合、前記カチオン性脂質は、低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子100重量部を基準として、10~40重量部、10~30重量部、12~28重量部で含まれてもよい。カチオン性脂質が上記のような含有量の範囲で固体脂質ナノ粒子のシェルを構成するとき、固体脂質ナノ粒子が多量の薬物を封入しながらも、細胞膜を通過できるサイズで形成され、効率的に薬物を送達することができる。
【0052】
本発明において、前記シェルは、アルブミン結合コレステロールを含むことによって、シェルの表面にアルブミンを露出させて、細胞内薬物送達効率を最大化させることができる。また、前記シェルは、アポリポタンパク質を実質的に含まなくてもよい。本発明による固体脂質ナノ粒子は、従来の固体脂質ナノ粒子とは異なって、アポリポタンパク質の代わりに、カチオン性脂質を固体脂質ナノ粒子の構成に含むことによって、前記カチオン性脂質によって固体脂質ナノ粒子の表面部(シェル)にカチオン特性を付与し、薬物を結合させることができ、細胞膜を通過できるサイズで固体脂質ナノ粒子を形成することができる。
【0053】
本発明において、前記「実質的に含まない」は、固体脂質ナノ粒子の全体100重量部を基準として3重量部未満、1重量部未満で含まれることを意味する。
【0054】
また、前記固体脂質ナノ粒子は、細胞内薬物送達が容易となるように、平均粒子直径が20~200nmであってもよい。
【0055】
例えば、リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子が高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の場合、平均粒子直径は、20~50nm、20~45nm、25~40nm、20~40nmであってもよい。
【0056】
また、例えば、リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子が低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の場合、平均粒子直径は、60~200nm、60~150nm、25~40nm、20~40nmであってもよい。
【0057】
前記固体脂質ナノ粒子は、均一な粒度分布を有していてもよい。上記のような範囲の直径および均一な粒度分布を有する固体脂質ナノ粒子は、全身薬物送達(systemic drug delivery)に有用に活用することができる。
【0058】
本発明において、高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子は、全体高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子100重量部を基準として、コレステリルエステル5~30重量部、トリグリセリド0.01~5重量部、アルブミン結合コレステロール1~20重量部、融合誘導性脂質5~40重量部およびカチオン性脂質10~60重量部を含んでもよい。
【0059】
また、本発明において低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子は、全体低比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子100重量部を基準として、コレステリルエステル30~60重量部、トリグリセリド0.01~5重量部、アルブミン結合コレステロール1~20重量部、融合誘導性脂質5~40重量部およびカチオン性脂質10~40重量部を含んでもよい。
【0060】
また、本発明は、前記リポタンパク質固体脂質ナノ粒子の製造方法を提供する。
前記製造方法は、有機溶媒でコレステリルエステル、トリグリセリド、アルブミン結合コレステロール、融合誘導性脂質およびカチオン性脂質を混合し、リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子が分散した水性分散液を製造する段階を含む。
【0061】
また、前記製造方法は、アルブミン結合コレステロールを製造する段階;および/または前記水性分散液を透析して精製し、濃縮させる段階をさらに含んでもよい。
【0062】
前記製造方法において、コレステリルエステル、トリグリセリド、アルブミン結合コレステロール、融合誘導性脂質およびカチオン性脂質および前記リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子のすべての説明は、前述したすべての内容をそのまま適用することができる。
【0063】
より具体的には、前記製造方法は、
i)アルブミン結合コレステロールを製造する段階;
ii)有機溶媒にコレステリルエステル、トリグリセリド、アルブミン結合コレステロール、融合誘導性脂質およびカチオン性脂質を混合し、固体脂質ナノ粒子が分散した水性分散液を製造する段階;および
iii)前記水性分散液を蒸留水で一定の時間間隔で12~36時間透析した後、透析液を濃縮させる段階を含んでもよい。
【0064】
前記i)段階は、コレステロールクロロホーメートを有機溶媒に溶解した後、この溶液をアルブミン溶液に滴下して反応させる段階;および前記反応溶液を蒸留水で12~36時間透析した後、凍結乾燥させる段階を含んでもよい。この際、前記コレステロールクロロホーメートとアルブミンは、1:1~5:1のモル比で使用することもできるが、これに限定されるものではない。
【0065】
前記ii)段階で、有機溶媒は、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、C1~C4の低級アルコール、メチレンクロリド、クロロホルム、アセトン、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ジオキサン、エチルアセテート、メチルエチルケトン、アセトニトリルおよびこれらの混合物から選ばれることもできるが、これらに限定されるものではない。前記有機溶媒は、固体脂質ナノ粒子の製造段階で全部除去されるので、有機溶媒による毒性は考慮しない。
【0066】
一具体例において、前記ii)段階で有機溶媒は、クロロホルムとメタノールの混合物であってもよい。
【0067】
また、前記ii)段階で、有機溶媒にコレステリルエステル、トリグリセリド、アルブミン結合コレステロール、融合誘導性脂質およびカチオン性脂質を混合する過程で前記混合物を超音波処理および/または減圧乾燥する過程をさらに含んでもよい。
【0068】
本発明のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子は、シェルの表面に露出したカチオン性脂質との静電気的相互作用によって各種非水溶性薬物および/または核酸遺伝子のような薬物の伝達体として使用することができる。これより、本発明は、前記リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子を含む薬物送達用組成物を提供する。
【0069】
本発明において、前記薬物は、非水溶性薬物、核酸、または非水溶性薬物と核酸を同時に含んでもよい。
【0070】
本発明において、前記非水溶性薬物は、難溶性薬物、アニオンを帯びるペプチド、タンパク質、ヒアルロン酸-ペプチド結合体またはヒアルロン酸-タンパク質結合体であってもよいが、これらに限定されるものではない。前記難溶性薬物は、パクリタキセル、ドセタキセル、アンフォテリシン、ドキソルビシン、ニフェジピン、プロポフォール、ジアゼパム、エストラジオール、シクロスポリン、リトナビル、サキナビル、ビフェニルジメチルジカルボキシレート、コエンザイムQ10、ウルソデオキシコリン酸、イラプラゾール 、イマチニブ、メシラート、アシクロビル、アロプリノール、アミオダロン、アザチオプリン、ベナゼプリル、カルシトリオール、カンデサルタン、エプロサルタン、カルビドパ/レボドパ、クラリスロマイシン、クロザピン、デスモプレシンアセテート、ジクロフェナク、エナラプリル、ファモチジン、フェロジピン、フェノフィブラート、フェンタニル、フェキソフェナジン、フォシノプリル、フロセミド、グリブリド、ヒヨスチアミン、イミプラミン、イトラコナゾール、レボチロキシン、アトルバスタチン、ロバスタチン、メクリジン、メゲステロール、メルカプトプリン、メトラゾン、モメタゾン、ナブメトン、オメプラゾール、パロキセチン、プロパフェノン、キナプリル、シンバスタチン、シロリムス、タクロリムス、チザニジン、フルバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、エピルビシンまたはそれらの混合物から選ばれるものであってもよいが、これらに限定されない。
【0071】
一具体例において、前記非水溶性薬物は、難溶性薬物であってもよい。
前記組成物において、非水溶性薬物および/または核酸と固体脂質ナノ粒子は、1:1~1:10、1:3~1:8の重量比で複合体を形成することができる。
【0072】
前記複合体は、固体脂質ナノ粒子のシェルに非水溶性薬物および/または核酸が相互作用によって結合していてもよく、コアに非水溶性薬物および/または核酸を捕集する形態を全部含んでもよい。
【0073】
前記核酸は、短い干渉リボ核酸(siRNA)、リボソームリボ核酸(rRNA)、リボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)、相補性デオキシリボ核酸(cDNA)、アプタマー(aptamer)、伝令リボ核酸(mRNA)、運搬リボ核酸(tRNA)およびアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド(AS-ODN)から成る群から選ばれた1つ以上であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0074】
一具体例において、前記核酸は、siRNAであってもよい。
特にsiRNAは、二本鎖RNA(duplex RNA)、または一本鎖RNA内部で二本鎖の形態を取る一本鎖RNAを意味する。二本鎖間の結合は、ヌクレオチド間の水素結合を通じてなされ、二本鎖内部のすべてのヌクレオチドが相補的に完全に結合すべきものではない。siRNAの長さは、約15~60、約15~50個、約15~40個、約15~30個、約15~25個、16~25個、19~25個、20~25個、または20~23個のヌクレオチドであってもよい。前記siRNA長さは、二本鎖RNAの片方ヌクレオチドの個数、すなわち、塩基対の個数を意味し、一本鎖RNAの場合には、一本鎖RNA内部の二本鎖の長さを意味する。また、siRNAは、血中安定性を増加させたり免疫反応を弱化させるなどの目的のために様々な官能基を導入したヌクレオチドからなってもよい。
【0075】
したがって、本発明のsiRNAは、典型的なsiRNAから非修飾型または修飾型の両方を含んでもよい。
【0076】
また、本発明は、前記リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子を用いて標的細胞に非水溶性薬物および/または核酸を伝達する方法を提供する。
【0077】
前記方法は、
i)非水溶性薬物および/または核酸と前記リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の複合体を形成する段階;および
ii)前記複合体を標的細胞に形質感染させる段階を含んでもよい。
【0078】
前記i)段階で、複合体は、例えば、リン酸緩衝食塩水(PBS)または脱塩水内で非水溶性薬物および/または核酸の存在下に前記リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子を混合して形成することを特徴とするが、この際、前記PBSは、pH7.0~8.0であり、NaClを含んでもよいが、これらに限定されるものではない。
【0079】
また、前記i)段階で、非水溶性薬物および/または核酸と固体脂質ナノ粒子は、1:1~1:10、1:3~1:8の重量比で複合体を形成することができる。
【0080】
また、本発明は、KRASを標的とする非水溶性薬物または核酸を捕集した、前記リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子を含むKRAS遺伝子変異によって誘発されるがんの予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0081】
前記薬学組成物において、非水溶性薬物、核酸および高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子は、前述した内容をそのまま適用または準用することができる。
【0082】
前記KRAS遺伝子変異によって誘発されるがんは、例えば、非小細胞肺がん、大腸がんまたは膵がんであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0083】
前記薬学組成物において、KRASを標的とする非水溶性薬物または核酸を捕集したリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子は、非水溶性薬物または核酸と高比重リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の複合体形態であってもよい。
【0084】
前記複合体に含まれる非水溶性薬物は、難溶性薬物であってもよい。
また、前記複合体に含まれるKRASを標的とする核酸は、還元可能な核酸ダイマーであってもよい。
【0085】
本発明の利点および特徴、そしてそれらを達成する方法は、詳細に後述している実施例を参照すると明確になる。しかしながら、本発明は、以下に開示される実施例に限定されるものではなく、互いに異なる様々な形態で具現されるものであり、単に本実施例は、本発明の開示を完全にし、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものであり、本発明は、請求項の範疇によって定義されるだけである。
【発明を実施するための形態】
【0086】
実施例
リポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の製造過程および薬物送達体としてのリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子の形態を図式化し、図1に示した。
【0087】
[製造例1]アルブミン結合コレステロール(コレステロール-アルブミン)の製造
アルブミン結合コレステロールを製造するために、ヒト血清アルブミン(Human serum albumin(HSA)、Sigma-Aldrich,Germany)とコレステリルクロロホーメート(Sigma-Aldrich,Germany)を使用した。
【0088】
まず、ヒト血清アルブミン0.5mmolをリン酸塩緩衝食塩水(PBS、pH8.0)2mLに溶解させた。1mLのDMFにコレステロールクロロホーメート1.5mmolを溶解し、この溶液をヒト血清アルブミン溶液に滴下した。この際、コレステリルクロロホルマートとヒト血清アルブミンは、3:1のモル比で使用された。その後、常温で一晩中弱く振って反応させた後、反応溶液を分子カットオフ12000g/mol透析チューブを用いて3Lの蒸留水に対して3時間透析し、蒸留水は、24時間の間3~4時間間隔で交換した。その後、生成物溶液を凍結乾燥し、アルブミン結合コレステロール(以下、コレステロール-アルブミンという)を製造した。
【0089】
[製造例2]高比重リポタンパク質(HDL)模倣固体脂質ナノ粒子(SLN)の製造
HDL模倣SLNは、溶媒乳化法(solvent-emulsification method)を一部変形して製造した。
【0090】
コア構造脂質としてコレステリルオレエートおよびトリオレインを使用し、表面(シェル)構造脂質としてDOPE、前記製造例1で製造されたコレステロール-アルブミンおよびDC-コレステロールを使用した。下記表1および表2の成分を2mLのクロロホルム/メタノール混合物(2:1、v/v)に溶解させた。そこへ10mLの脱イオン水を添加し、混合物を完全にボルテキシングした。懸濁液は、Branson Sonifier(登録商標)(20kHz、デューティサイクル(duty cycle)=40、出力制御=3.5)を用いて5分間超音波処理した。乳化した溶液を回転蒸発器に移し、溶媒は、コレステリルオレエートの融点である52℃以上の温度で蒸発させて除去した。最後に、HDL模倣SLNの水性分散液を一晩中透析(MWCO:5,000)して精製し、真空蒸発を通じて最大5mg particle/mLで濃縮させた。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
また、製造されたHDL模倣SLN(実施例1-1~1-12)の組成による粒子サイズおよびゼータ電位値を比較した。
【0094】
この際、陰性比較群としては、実施例1-2の組成で製造するものの、コレステロール-アルブミンでなく、コレステロールを使用して製造した固体脂質ナノ粒子(SLN)を使用した。前記SLNは、下記実験例1~5におけるHDL陰性比較群に使用された。
【0095】
その結果、前記表1および表2から明らかなように、コレステリルオレエートおよびアルブミン結合コレステロール(コレステロール_アルブミン)の量が減少するほどHDL模倣SLNのサイズが減少する傾向を示した。また、DC-Cholの量が増加するほどHDL模倣SLNのサイズが減少する傾向を図2で確認した。
【0096】
図2の結果では、コレステリルオレエートおよびコレステロール(コレステロール_アルブミン)の含有量が大きいほど、DC-Cholの含有量が少ないほどHDL模倣SLNのZ平均値が増加する傾向を確認することができる。
これをベースに実施例1-2を最適なHDL模倣SLNの組成に選定した。
【0097】
[製造例3]低比重リポタンパク質(LDL)模倣固体脂質ナノ粒子(SLN)の製造
下記表3および表4の成分および組成を使用したことを除いて、製造例2と同様の方法でLDL模倣SLNを製造した。
【0098】
【表3】
【0099】
【表4】
【0100】
また、製造されたLDL模倣SLN(実施例2-1~2-10)の組成による粒子サイズおよびゼータ電位値を比較した。
【0101】
この際、陰性比較群としては、実施例2-5の組成で製造するものの、コレステロール-アルブミンでなく、コレステロールを使用して製造した固体脂質ナノ粒子(SLN)を使用した。前記SLNは、下記実験例1~5におけるLDL陰性比較群に使用された。
【0102】
その結果、前記表3および表4から明らかなように、コレステリルオレエートおよびアルブミン結合コレステロール(コレステロール-アルブミン)の量が減少するほどLDL模倣SLNのサイズが減少する傾向を示すことを確認することができる。また、DC-Cholの量が増加するほどLDL模倣SLNのサイズが減少することを確認することができる(図2)。
【0103】
図2の結果では、コレステリルオレエートおよびコレステロール(コレステロール-アルブミン)の含有量が大きいほど、DC-Cholの含有量が少ないほどLDL模倣SLNのZ平均値が増加する傾向を確認することができる。
これをベースに実施例2-5を最適なLDL模倣SLNの組成に選定した。
【0104】
[実験例1]最適なHDL模倣SLNと最適なLDL模倣SLNの薬物封入率の比較
下記表5および表6の組成で構成されたHDL模倣SLN(実施例1-2の組成)とLDL模倣SLN(実施例2-5の組成)の薬物封入率を比較した。
【0105】
【表5】
【0106】
【表6】
【0107】
【表7】
【0108】
【表8】
【0109】
その結果、前記表7および表8から明らかなように、HDL模倣SLNおよびLDL模倣SLNは、いずれも、優れた薬物封入率を有することを確認することができる。
【0110】
より具体的には、LDL模倣SLNの場合、HDL模倣SLNに比べて、ナノ粒子の平均粒径が2.5倍以上大きいことが測定されたが、薬物封入率は、類似のレベルであることが分かった。これを通じて、HDL模倣SLNがさらに優れた薬物封入効果を有することを確認することができる。
【0111】
また、図3aは、表5の組成を有するSLNで、LDL陰性比較群(左写真)およびLDL模倣SLN(右写真)のTEM写真を示す。また、図3bは、表6の組成を有するSLNで、HDL陰性比較群(左写真)およびHDL模倣SLN(右写真)のTEM写真を示す。図3から明らかなように、本発明によるHDL模倣SLNおよびLDL模倣SLNは、粒子間凝集なく、優れた分散度を有する均一なナノ粒子であることを確認することができる。
【0112】
[製造例4]ダイマーsiRNAの製造
1)Kras siRNAの選定
Kras siRNA配列は、3つのライブラリーを選定して研究を進めた。前記3つの配列は、公開されていないものであり、Kras自体は、自然的な遺伝子であるが、Kras遺伝子を構成する全塩基配列中、いずれかの配列をsiRNAのターゲット配列として使用するかは、研究者の選択である。本発明者らは、下記表1の配列を使用した。本実験に使用されたすべての二本鎖モノマーsiRNAは、Bioneer社(大田、韓国)に合成依頼して購入した。
【0113】
【表9】
【0114】
2)siRNAダイマー合成
切断可能なカップリング剤を介して連結された還元性ダイマーsiRNAを合成するために、3’末端(sense)でチオール基に変更された二本鎖モノマーsiRNA(anti-Kras、スクランブルされる)を使用した。
【0115】
簡単に言えば、500μlのジエチルピロカーボネート(DEPC)処理された脱イオン水(DW)で50nmolの二本鎖モノマーsiRNAは、ジメチルスルホキシドに含まれた50nmolの切断可能なカップリング剤であるジチオビスマレイミドエタン(DTME、15.6μg)で活性化した(siRNA:DTMEのモル濃度は1:1)。アニオン性の高い二本鎖siRNA間の電荷反発を最小化するために、750mM NaClを溶液に添加した(最適溶液pHの範囲、6.5~7.5)。常温で弱く振って一晩中培養した後、生成されたダイマーsiRNAをDWに対して一晩中透析(MWCO:10kDa)して精製し、真空蒸発を通じて1nmol/μlまで濃縮した。モノマーsiRNAを還元可能なダイマーsiRNAに合成する過程を図4に図式化した。
【0116】
3)ダイマーsiRNAの解離
まず、2)で合成したダイマーsiRNAは、細胞内でモノマーの形態で作用するので、モノマーsiRNAにさらに分離され得る場合に細胞内におけるsiRNAの作用を行うことができる。これより、還元剤であるジチオトレイトール(DTT)を使用して還元性ダイマーsiRNAであるかを証明するための実験を行った。
【0117】
ダイマーsiRNAに対する二硫化結合の切断を確認するために、100nmolのダイマーsiRNAサンプル(100μl)を2μmolのジチオトレイトール(DTT、100μl)で一晩中常温で培養した。溶液の最終pHは、5M NaOHを使用して8.0に調整した。生成された切断モノマーsiRNAをDWに対して一晩中透析(MWCO:10 kDa)して精製し、真空蒸発を通じて最大1nmol/μlまで濃縮した。
【0118】
また、スクランブルされたモノマーsiRNAに対する配列を有する非カップリング連結されたダイマーsiRNAをBioneer社(大田、韓国)から得た。
【0119】
すべての結果生成物、モノマーsiRNA、切断可能な二硫化結合を通じて連結されたダイマーsiRNA、切断モノマーsiRNAおよび非結合ダイマーsiRNAは、10%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)で分析した。
【0120】
その結果、図5から明らかなように、ダイマーsiRNAがモノマーsiRNAに切断されたことを確認することができた。
【0121】
[製造例5]ダイマーsiRNAとリポタンパク質模倣SLNの複合体の製造
モノマー、切断可能な二硫化結合を通じて連結されたダイマーsiRNAおよび非カップリング連結されたダイマーsiRNAの複合体は、リポタンパク質模倣SLN(実施例1-2および実施例2-5)を使用して形成された。各siRNA(1.5μg、100 pmol)は、10分間6の重量比(siRNA/SLN)で固体脂質ナノ粒子(SLN)と複合体化された(siRNA/SLN複合体)。
【0122】
複合体の安定性を調査するために、複合体に様々なヘパリン/siRNAの重量比(0、1、2、5、10、20および50)でヘパリンを添加し、37℃で30分間さらに培養した。培養後、分解されたsiRNAの量を1%アガロスゲル電気泳動で分析した。
【0123】
血清安定性を分析するために、複合体をあらかじめ定められた時間(0、2、4、8、12、24および48時間)で37℃、50%v/v血清で培養し、生成されたサンプルをさらにヘパリン(100μg)およびDTT溶液(100mM)で処理した後、放出されたsiRNA分画を対象にアガロスゲル電気泳動を行った。
【0124】
siRNA/SLN複合体の流体力学的直径および表面ζ電位値は、He-Neレーザービーム付きZetasizer nano-series nano-ZS(Malvern Instruments Ltd.,Malvern,UK)を使用して663nmの波長、90°の固定された散乱角度で測定された。測定は、すべてのサンプルに対して25℃で3回行われた。
【0125】
siRNA/SLN複合体の形態およびサイズは、AFM(XE-100,Park Systems,Korea)で観察した。AFM分析のために、siRNA/SLN複合体を新しい雲母の表面に配置し、空気中で乾燥させた後、イメージを312kHzの獲得周波数で非接触モードで記録した。
【0126】
[実験例2]siRNA/SLN複合体の細胞内吸収の確認
製造例5で製造したsiRNA/SLN複合体の細胞内吸収を確認し、比較するために、FITC標識されたsiRNAを複合体化に使用し、細胞内吸収をフローサイトメトリー分析装置(FACSCalibur,USA)で分析した。この際、細胞は、H441細胞株を使用した。
【0127】
FITC標識されたモノマーsiRNAの場合、モノマーsiRNAは、スクランブルされたモノマーsiRNAに対する配列で3’末端(sense)でチオール基修飾と共に5’末端(sense)でFITCによって末端標識され、Bioneer社(大田、韓国)に合成依頼して購入した。FITC標識されたダイマーsiRNAは、ダイマーsiRNA合成セクションに説明された通り合成し、10%PAGEで分析した。
【0128】
細胞をウェル当たり2×10細胞数の密度で6ウェルプレートに24時間接種した後、ダイマーsiRNA/SLN複合体をあらかじめ定められた時間(30分)で37℃でそれぞれ形質感染させた(128nmのsiRNA)。培養培地を除去して細胞吸収を中断させ、形質感染された細胞をPBSで3回滑らかに洗浄した後、PBSに分散させた。細胞の蛍光は、FACSCaliburフローサイトメトリー分析システム(BD Bioscience)およびCellQuestソフトウェア(PharMinutesgen)を使用して測定された。
【0129】
その結果を図6に示した。図6で、dimeric siRNA/albumin HDLは、実施例1~2によるHDL模倣SLNを使用した場合であり、dimeric siRNA/LDLは、HDL陰性比較群を使用した場合を示す。また、dimeric siRNA/albumin LDLは、実施例2~5によるLDL模倣SLNを使用した場合であり、dimeric siRNA/LDLは、LDL陰性比較群を使用した場合を示す。
【0130】
その結果、図6から明らかなように、dimeric siRNA/albumin HDLおよびdimeric siRNA/albumin LDLで優れた細胞内吸収程度を示し、dimeric siRNA/albumin HDLで最も高い細胞内吸収程度を示した。
【0131】
このようなデータは、アルブミン融合したHDL模倣siRNA/SLN複合体が約50nmサイズのナノ粒子サイズで形成され、細胞内吸収性に最も優れていて、効果的な薬物送達体として使用され得ることを示唆する。
【0132】
[実験例3]siRNA/SLN複合体の試験管内活性の確認
2つの類型のダイマーsiRNA、Kras(内因性)およびスクランブル(対照群)により形成されたsiRNA/SLN複合体の遺伝子沈黙効果を確認し、比較した。
【0133】
まず、実施例1~2および実施例2~5で製造されたリポタンパク質模倣SLNと複合体を形成した後、細胞に処理し、Kras mRNAの細胞レベルで逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を行い、遺伝子沈黙効果を確認した。この際、細胞は、H441細胞株を使用した。
【0134】
簡単に言えば、細胞をウェル当たり2×10細胞数の密度で6ウェルプレートに24時間播種した後、様々なsiRNA濃度でダイマーsiRNA/SLN複合体で形質感染させた(各グループ当たりn=3)。3日間培養した後、細胞を回収し、製造社のプロトコルによってTrizol試薬を使用してトータルRNAを分離した。
【0135】
cDNA合成は、製造社のプロトコルによってHigh Capacity RNA-to-cDNAキットを使用して行われた。
【0136】
標的遺伝子(ヒトKras)および対照群遺伝子(ヒトβ-アクチン)に対するDNA増幅は、2分間94℃の1サイクル;および30秒間94℃、30秒間57℃、1分間72℃の30サイクル;5分間72℃の1サイクルの熱循環条件でプライマーおよびPrime Taq Premixで行われた。
プライマー配列は、下記表10の配列を使用した。
【0137】
【表10】
【0138】
PCR産物を1%アガロースゲル電気泳動で分析し、ImageJプログラムを使用して各バンド強度を定量化した。
【0139】
その結果を図7および図8に示した。図7および図8(および後述する図9図12)でalbumin HDLは、実施例1~2によるLDL模倣SLNを使用した場合(すなわち、HDL模倣siRNA/SLN複合体使用)であり、HDLは、HDL陰性比較群を使用した場合を示す。また、albumin LDLは、実施例2~5によるLDL模倣SLNを使用した場合(すなわち、LDL模倣siRNA/SLN複合体を使用)であり、LDLは、LDL陰性比較群を使用した場合を示す。
【0140】
その結果、図7および図8から明らかなように、本発明によるHDL模倣siRNA/SLN複合体において最も優れたkras沈黙効果が現れることを確認することができる。これを通じて、HDL模倣siRNA/SLN複合体の優れた薬物送達効果を確認することができる。
【0141】
[実験例4]siRNA/SLN複合体の生体内活性の確認
1)動物モデルの構築
異種移植マウスモデルを構築するために、雌SPF BALB/C-nuマウス(8週齢)のわき腹にがん細胞(5×10細胞)を皮下注射した。腫瘍が平均体積が50~100mmに到達すれば、治療を始めた。
【0142】
2つの類型のモノマーまたはダイマーsiRNA、Kras(内因性)およびスクランブル(対照群)の遺伝子沈黙効果を調査し、比較するために、実施例1~2および実施例2~5で製造されたリポタンパク質模倣SLNと複合体を形成した後、雌C57BL/6マウスに尾静脈注射を通じて静脈投与し、腫瘍組織でマウスKras mRNAの遺伝子沈黙効果は、RT-PCRで評価した。
【0143】
簡単に言えば、剤形は、各マウスに投与されるようにsiRNA濃度でPBSに希釈された。24時間処理後、腫瘍組織を粉砕し、均質化装置(Tissuelyser,QIAGEN,Germany)で組織溶解物を製造した。次に、製造社のプロトコルによってTRIzol試薬を使用してトータルRNAを分離し、β-アクチンに対して正規化されたKras mRNAレベルを測定した。
【0144】
RT-PCRの場合、標的遺伝子(マウスKras)および対照群遺伝子(マウスβ-アクチン)に対するDNA増幅をプライマーおよびPrimer Taq Premixで2分間94℃の1サイクル;および30秒間94℃、30秒間57℃、1分間72℃の26サイクル;5分間72℃の1サイクルの熱循環条件で行った。
プライマー配列は、下記表11の配列を使用した。
【0145】
【表11】
【0146】
PCR産物は、1%アガロースゲル電気泳動で分析し、ImageJプログラムを使用して各バンド強度を定量化した。
【0147】
図9および図10の結果から明らかなように、動物モデルにおいても前記結果(図7および図8)と同様に、本発明によるHDL模倣siRNA/SLN複合体において最も優れた遺伝子伝達効果を示したことを確認することができる。
【0148】
[実験例5]siRNAの組織分布および薬物動態学的プロファイルの確認
マウスでダイマーsiRNAによって形成されたsiRNA/SLN複合体の生体分布および血中クリアランス (blood clearance)を確認し、比較するために、125I標識されたsiRNAをBolton-Hunter方法を使用して製造し、複合体化に使用した。
【0149】
まず、放射性標識されたモノマーsiRNAの合成のために、Bolton-Hunter試薬であるN-スクシンイミジル-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(N-succinimidyl-3-(4-hydroxyphenyl)propionate,SHPP)をDMSOに10mg/mlの濃度で溶解させ、10μlの125I溶液(1mCi)を10μlのSHPP溶液に添加した。クロラミン-Tを10mg/mlの濃度でPBSに溶解させ、50μlのクロラミン-T溶液をSHPPのヨウ化のために15秒間激烈に混合し、準備した20μlのSHPP/125I混合物に直ちに添加した。ヨード化したSHPP溶液をベンゼン/DMF混合物1mL(40:1、v/v)で抽出した後、有機相をきれいなチューブに移した。有機溶媒を蒸発して除去し、乾燥したヨード化したSHPPを溶解させ、4℃で2時間10nmolのアミン作用化したモノマーsiRNA(100μl)に反応させて、ヨード化したSHPP相のNHS基とモノマーsiRNAの5’末端で修飾されたアミン基を共有結合した。125I標識されたモノマーsiRNAを一晩中透析(MWCO:5kDa)して精製した(NHS基のモル比、SHPPのNHS基/モノマーsiRNAのアミン基)。
【0150】
アミン作用化したモノマーsiRNAの場合、モノマーsiRNAは、スクランブルされたsiRNAに対する配列を有する3’末端(sense)でチオール基修飾と共に5’末端(sense)でアミン基によって末端標識され、Bioneer社(大田、韓国)に合成依頼して購入した。125I標識されたダイマーsiRNAは、ダイマーsiRNA合成セクションに記述された通り合成され、10%PAGEで分析された。
【0151】
注射時点まで放射性崩壊に対して修正された薬物動態学的プロファイルは、雌SPC C57BL/6マウスグループで血液サンプルを収集して測定された。125I標識されたモノマーまたはダイマーsiRNAによって形成されたsiRNA/SLN複合体を静脈内(iv)注射した後、指定された時間にサンプリングを行い、収穫したサンプルの放射能は、γカウンター(1470自動ガンマカウンター、Perkin Elmer,USA)を使用して測定された。実験に使用された時点は、0.25、0.5、1、2、4、24および48時間であり、マウス尾静脈から約2μlの血液を収集し、血液凝固を防止するために、8μlのEDTA溶液に保存した(各グループに対してn=3)。
【0152】
生体内siRNA組織分布を評価するために、125I標識されたダイマーsiRNAによって形成されたsiRNA/SLN複合体を雌SPF C57BL/6マウスに静脈(iv)注入を通じて注射した。注射後、特定の時点(1、4、24および48時間)にマウス(n=3マウス/時点)を犠牲させ、サンプル臓器を収穫し、重さを測った。生体内siRNA組織分布は、γ-カウンターを使用して測定された各組織の放射能数値から、最初注射投与時の放射能数値と比較して計算された(% of injection dose/gram)。
【0153】
その結果、図11に示されたように、すべての実験群のうちHDL模倣siRNA/SLN複合体(albumin HDL)において最も優れた血液安定性を示し、最も高い血中半減期を示し、これによって、時間が経過するほどがん組織にsiRNAが多く分布していることを確認することができた(図12)。これを通じて、本発明によるHDL模倣siRNA/SLN複合体ががん組織への薬物送達効率に最も優れていることを確認した。
【0154】
[実験例6]非水溶性薬物送達体の製造
1)非水溶性薬物としてパクリタキセル(Taxol)を封入したリポタンパク質模倣SLNの製造(Taxolを封入したSLN)
下記表12および表13に示されたように、構成成分をガラス瓶に含まれた2mLのクロロホルム:メタノール(2:1)溶液に溶解させた。10mLの蒸留水を前記ガラス瓶に添加して、1分間撹拌(vortexing)して混合し、その後、溶液をBranson超音波処理器450(20kHz、デューティサイクル=40、出力制御=3.5)で3分間超音波処理した。溶液を回転蒸発器に移し、溶媒であるクロロホルム:メタノール(2:1、v/v)溶液をコレステリルオレエートの融点である60℃以上の温度で除去した。蒸留水中で一晩中分画分子量(Molecular weight of cut-off,MWCO)5000の透析膜(dialysis membrane)を用いて精製し、精製された非水溶性薬物(taxol)を封入した固体脂質ナノ粒子溶液は、4℃で保管し、非水溶性薬物(taxol)を封入した固体脂質ナノ粒子(Taxol containing SLN)を製造した。
【0155】
ここで、HDL模倣SLNを使用した場合、Taxolを封入したHDL模倣SLNで表現し、LDL模倣SLN使用した場合、Taxolを封入したLDL模倣SLNで表現した。
【0156】
【表12】
【0157】
【表13】
【0158】
2)Taxolを封入したSLNの物理化学的特性の確認
実験例6-1)で製造されたTaxolを封入したHDL模倣SLNおよびTaxolを封入したLDL模倣SLNの平均サイズおよびゼータ電位測定は、レーザー光散乱法で測定し、波長632nmおよび検出角度90°のHe-Neレーザーが搭載された動的光散乱装置(DSL)(Zeta-Plus、ブルックヘブンインスツルメント社、NY)を使用して測定した。25℃の蒸留水内に分散したTaxolを封入したHDL模倣SLNおよびTaxolを封入したLDL模倣SLNの濃度が5mg/mlであるとき、サイズを3回測定し、前記Taxolを封入したHDL模倣SLNおよびTaxolを封入したLDL模倣SLNに含まれた薬物の含有量および封入率を評価するために、高性能液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography,HPLC)を使用した。前記Taxolを封入したHDL模倣SLNおよびTaxolを封入したLDL模倣SLN溶液を凍結乾燥(Freeze drying)し、蒸留水を除去した。凍結乾燥した非水溶性薬物(taxol)を封入した固体脂質ナノ粒子をメタノール20mLに分散させて完全に溶かした後、フィルター(Millex SR 0.45um filter unit)を用いて非水溶性薬物を抽出した後、高性能液体クロマトグラフィーを用いて封入した非水溶性薬物の量を分析し、その結果を次の表14および表15に示した。この際、薬物の濃度による検量線(calibration curve)と共に比較して、非水溶性薬物の量を定量分析し、封入した非水溶性薬物の量(%、w/w)および封入率(%)は、次の数式1および数式2を使用して一緒に分析した。
【0159】
【数1】
【0160】
【数2】
【0161】
【表14】
【0162】
【表15】
【0163】
前記表14は、Taxolを封入したHDL模倣SLNの結果であり、表15は、Taxolを封入したLDL模倣SLNの結果である。
【0164】
表14および表15に示されたように、Taxolを封入したHDL模倣SLNおよびTaxolを封入したLDL模倣SLNが水溶液相で安定した物理化学的特性を有していることを確認することができた。
【0165】
より具体的には、Taxolを封入したHDL模倣SLNの場合、粒子の重さ対比11%(w/w)の効率で薬物を封入しており、115~125nmレベルのサイズと65~85mVレベルの表面電荷を有するTaxolを封入したHDL模倣SLNであることを確認した。
【0166】
また、Taxolを封入したLDL模倣SLNの場合、粒子の重さ対比14.9%(w/w)の効率で薬物を封入しており、100~130nmレベルのサイズと65~85mVレベルの表面電荷を有するTaxolを封入したLDL模倣SLNであることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明によれば、コレステリルエステル、トリグリセリド、アルブミン結合コレステロール、融合誘導性脂質およびカチオン性脂質を構成とするコア-シェル構造のリポタンパク質模倣固体脂質ナノ粒子を製造することによって、粒子間の凝集を防ぎ、構造的安定性を確保することができる。また、生体利用率に優れ、薬物封入効率が向上した薬物送達体を提供することができる。
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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【国際調査報告】