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特表2024-517981通信ネットワークにおける使用率分布を最適化するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】通信ネットワークにおける使用率分布を最適化するための方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 41/142 20220101AFI20240416BHJP
【FI】
H04L41/142
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570454
(86)(22)【出願日】2022-09-15
(85)【翻訳文提出日】2023-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2022075647
(87)【国際公開番号】W WO2023041645
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】102021004716.8
(32)【優先日】2021-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】21205005.8
(32)【優先日】2021-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522288832
【氏名又は名称】フジツウ テクノロジー ソリューションズ ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】595135947
【氏名又は名称】ドイチェ テレコム アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Deutsche Telekom AG
【住所又は居所原語表記】Friedrich-Ebert-Allee 140, D-53113 Bonn, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ガイツ・マーク
(72)【発明者】
【氏名】ホルシュケ・オリバー
(72)【発明者】
【氏名】シュラー・ティミー
(72)【発明者】
【氏名】ミュンヒ・クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】シンケル・フリッツ
(72)【発明者】
【氏名】エンゲル・セバスチャン
(57)【要約】
本発明は、量子概念プロセッサ(6)を使用して、通信ネットワーク(1)における使用率部分のルーティングを最適化するためのコンピュータ実装方法に関する。複数の通信ノード2のうち、起点ノードoと終点ノードdとの間で、決定されたデータボリュームの転送に対するトラフィック要求のセットがキャプチャされる。トラフィック要求(5)は、サブ要求(7、p)にスプリットされる。各サブ要求(7、p)の個別のルーティングのための選択的な通信経路(k)のセットが指定される。選択的な通信経路(k)のセット内のエッジ(e)には、それぞれの使用率容量制限が割り当てられる。エッジ(e)の部分容量使用率は、それぞれの使用率容量制限に基づいて計算される。次いで、計算された部分容量使用率が、二次応力関数の項として定式化される。量子論的概念プロセッサ6を用いて、二次応力関数が最小となるように、各サブ要求(7、p)に対して、選択的な通信経路(k)のセットから1つの通信経路(k)を選択することにより、最適化されたルーティングが決定される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
データトラフィックがルーティングされる通信ネットワーク(1)において、使用率分布を最適化するためのコンピュータ実装方法であって、前記通信ネットワーク(1)は、前記データトラフィックのルーティングのために通信経路のエッジ(4)を介して接続可能な複数の通信ノードを有し、前記方法は、
トラフィック要求のセット(5)をキャプチャすることであって、各トラフィック要求(5a~5c)は、前記複数の通信ノード(2)のうち、起点ノード(o)から宛先ノード(d)への決定されたデータボリュームの転送を指定する、ことと、
前記トラフィック要求(5a~5c)をサブ要求(7、p)にスプリットすることと、
各サブ要求(7、p)の個別のルーティングに対して選択的な通信経路(k)のセットを指定することであって、前記選択的な通信経路(k)のセット内のエッジ(e)には、それぞれの使用率容量制限が割り当てられる、ことと、
各サブ要求(7、p)に対して、前記選択的な通信経路(k)のセット内の前記エッジ(e)の部分容量使用率を計算することであって、前記部分容量使用率は、前記それぞれの使用率容量制限に基づいて計算される、ことと、
計算された前記部分容量使用率を二次応力関数の項として定式化することと、
量子論的概念プロセッサ(6)を使用して、前記二次応力関数が最小となるように、各サブ要求(7、p)に対して、前記選択的な通信経路(k)から1つの通信経路(k1、k2)を選択することにより、最適化されたルーティングを決定することと、を含む、方法。
【請求項2】
経路変数のセットを指定することであって、各経路変数は、前記選択的な通信経路のセット(k)から、サブ要求(7、p)のうちの1つと1つの通信経路(k1、k2)に関連付けられる、ことと、
前記二次応力関数において、経路項を定式化することであって、前記経路項は、前記選択的な通信経路(k)のセットからのそれぞれの通信経路(k1、k2)の前記エッジ(e)の算出された部分容量使用率を、前記選択的な通信経路(k)のセットからの前記それぞれの通信経路(k1、k2)に関連付けられた前記経路変数と接続する、ことと、
前記量子論的概念プロセッサ(6)を使用して、前記二次応力関数が最小になるように、各サブ要求(7、p)に対して、前記選択的な通信経路(k)のセットから1つの通信経路(k1、k2)を選択するための経路項を計算することと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記経路項は、各サブ要求(7、p)が前記選択的な通信経路(k)のセットから正確に1つの通信経路(k1、k2)に沿ってルーティングされるという経路条件を考慮して計算される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
トラフィック要求(5)は、決定された離散データボリュームを有するサブ要求(7、p)にスプリットされる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記二次応力関数は、前記トラフィック要求のセット(5)又は前記それぞれのサブ要求(7、p)に対する以下の制約、すなわち、
異なるネットワークドメインにおける通信ネットワーク(1)の組織、
前記通信ネットワーク(1)のレイテンシ、のうちの1つ又は両方を考慮して定式化される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
各サブ要求(7、p)の個別のルーティングのための前記選択的な通信経路のセット(k)は、以下の制約、すなわち、
前記通信ネットワーク(1)のサブネットワークに関連付けられた1つ以上の冗長な選択的な通信経路(k)、
異なるネットワークドメインにおける通信ネットワーク(1)の組織、
前記通信ネットワーク(1)のレイテンシ、のうちの1つ以上を考慮して指定される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
各サブ要求(7、p)の個別のルーティングのための前記選択的な通信経路(k)のセットは、トポロジー的に近い起点ノード及び宛先ノード(o、d)に対して、トポロジー的に遠い起点ノード及び宛先ノード(o、d)に対するよりも少ない数の選択的な通信経路(k)が選択されるように指定される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記二次応力関数は、二次制約なし二値最適(QUBO)関数として定式化される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法の1つ以上のステップを実行するように構成された、量子概念プロセッサ(6)、特に、デジタルアニーリング処理ユニット又は量子アニーリング処理ユニット。
【請求項10】
命令を含むコンピュータプログラムであって、前記命令は、前記コンピュータプログラムが1つ以上のプロセッサによって実行されるときに、前記1つ以上のプロセッサの各々に、請求項1に記載の方法の1つ以上のステップを実行させる、コンピュータプログラム。
【請求項11】
請求項10に記載のコンピュータプログラムが記憶されたコンピュータ可読記憶媒体。
【請求項12】
請求項1に記載の方法によって決定された最適化されたルーティングを検証するように構成された、ネットワークプランナーのためのワークプレイス。
【請求項13】
データトラフィックがルーティングされる通信ネットワーク(1)の複数の通信ノード(2)への1つ以上のインターフェースを含むインターフェース構成であって、請求項1に記載の方法によって決定された最適化されたルーティングを、前記通信ネットワーク(1)の前記通信ノード(2)に自動的に展開するように構成されたインターフェース構成。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データトラフィックがルーティングされる通信ネットワークにおいて、使用率分布を最適化するためのコンピュータ実装方法に関し、通信ネットワークは、データトラフィックのルーティングのために通信経路のエッジ(リンク)を介して接続可能な複数の通信ノードを有する。本発明は、そのような方法を実行するために構成された量子概念プロセッサ、及びそのような方法を実行するように実装されたコンピュータプログラムにも関する。
【背景技術】
【0002】
通信ネットワークにおけるデータトラフィックに関する今日の要求は、これらの時代に劇的に増加している。最近の5Gの導入により、ますます多くのデバイス及びアプリケーションがデータトラフィックを新たなピークに押し上げている。さらに、デジタル化され分散化された作業の要求の増加と、民間世帯の国内環境におけるストリーミング要求の増加も、この傾向に大きく寄与している。インターネットのような通信ネットワークを介して転送されるデータ量の増加は、サービスプロバイダにとって大きな課題を課している。通信ネットワークの輻輳とユーザ体験の劣化を回避するために、トラフィックエンジニアリング技術は、ネットワークインフラストラクチャの比較的低速で高価な拡張を補完するために展開され得る。
【0003】
通信ネットワークにおけるデータトラフィック管理のために最も広く展開されているエンジニアリング技術は、リンク重みに関して計算される通信経路を前提として動作する。これらの重みは、リンク容量、すなわち、開始ノードから、そのリンクによってそれぞれエッジで接続された終了ノードまで、リンクを介してルーティングすることができる単位時間当たりの最大データ量に関連することが多い。データストリームの起点ノードから宛先ノードへの最終的なルーティングは、中間ノード及び所与のリンク又はエッジを考慮して、発見された最も短い経路の識別された経路に基づく。その結果、トラフィック要求をガイドするための最も単純で実用的な技法は、リンクメトリック又はIGP(Interior Gateway Protocols)メトリックとも呼ばれるこれらのリンク重みの操作によるものである。エッジのリンク重みが高いほど、データがそれぞれのエッジを介してルーティングされる確率が高くなる。このアプローチに従って、反応的な方法で、特定のリンクに過大な負荷がかかる傾向があるときはいつでも、リンク重みが局所的に適応される。より体系的な方式では、この問題は、線形整数コンピュータプログラムを適用することによってさらに処理され、ここでは、最適化の目標は、ネットワークにおける最大リンク容量使用の最小化である。しかし、大域的に最適なメトリックのセットを見つけるタスクは非常に複雑である。計算の複雑さに関しては、このタスクはNP困難である。これは、各リンクメトリックが多数の通信経路に影響を与える可能性があるためである。
【0004】
これまでに適用された線形最適化技術は、冗長性、地理的サブグループ又はサブドメイン(例えば、1つのモデルで考慮されるヨーロッパのネットワークと米国のネットワーク)、衛星の包含、サービス品質、QoS、関係などの実際の非線形条件を考慮するときに、急速に限界に達する。さらに、既知の技術は、ネットワーク内の通信経路における未使用の容量使用率及びリンク容量の過負荷の問題につながることが多く、ここでは、多くのリンクがその容量限界に近い。
【発明の概要】
【0005】
したがって、本開示の問題は、容量制限に関して通信ネットワーク内の通信経路の最適化された利用を可能にし、それによって最適化されたルーティングを達成する強化された技術を提供することにある。
【0006】
この問題は、請求項1に記載の方法によって解決される。さらなる実施形態は、従属する請求項及び以下の説明に記載される。
【0007】
本方法は、データトラフィックがルーティングされる通信ネットワークにおいて使用率部分を最適化するためのコンピュータ実装手順であって、通信ネットワークは、複数の通信ノードを有する。通信ノードは、通信ネットワークのエッジによって接続される。一連のエッジは、データトラフィックのルーティングのための通信経路を生成する。したがって、このコンテキストにおける通信経路のエッジは、通信経路内の2つの隣接するノード間の接続を記載する。
【0008】
本方法は、
- トラフィック要求のセットをキャプチャすることであって、各トラフィック要求は、複数の通信ノードのうち起点ノードから宛先ノードへの決定されたデータボリュームの転送を指定する、ことと、
- トラフィック要求をサブ要求にスプリットすることと、
- 各サブ要求の個別のルーティングに対して選択的な通信経路のセットを指定することであって、選択的な通信経路のセット内のエッジには、それぞれの使用率容量制限が割り当てられる、ことと、
- 各サブ要求に対して、選択的な通信経路のセット内のエッジの部分容量使用率を計算することであって、部分容量使用率は、それぞれの使用率容量制限に基づいて計算される、ことと、
- 計算された部分容量使用率を二次応力関数の項として定式化することと、
- 量子論的概念プロセッサを使用して、二次応力関数が最小となるように、各サブ要求に対して、選択的な通信経路から1つの通信経路を選択することにより、最適化されたルーティングを決定することと、を含む。
【0009】
本方法は、ネットワーク内の全体的な容量が最適に使用されるように、最適化された通信経路に沿って通信ネットワーク内のネットワーク要求をルーティングする問題に確実に対処し、それにより、ネットワーク内のリンク容量が超過されることを回避する。
【0010】
本方法を適用することにより、トラフィック要求からの与えられたサブ要求ごとに、選択的な通信経路のセットから通信経路に対する1つの最適な選択肢が選択され得る。この選択は、ネットワーク内の使用される通信経路内の全てのエッジ(リンク)の容量が、それらに沿ってルーティングされるトラフィック要求の総ボリュームの上限として尊重され、ネットワーク内の全ての通信経路の平均負荷が最小になるように選択される。さらに、最大リンク利用率(MLU)の最小化が達成され得る。
【0011】
このコンテキストにおける「トラフィック要求」は、3タプルとしてモデル化され、起点ノード(データストリームのソース)、終点ノード又は宛先ノード(データストリームの宛先)、及び起点と宛先の間で転送される決定されたデータトラフィックを定義する。焦点は、ネットワーク上で連続したデータストリームを提供することにあり、これは、与えられたトランスポートリンク上で指定された容量を超えることによって伝送中にデータが失われないようにモデル化され、ルーティングされる。このようなデータストリーム要求又は要求のデータ転送レートの測定は、現在、Gbps(ギガビット/秒)で指定されている。
【0012】
このコンテキストでの「サブ要求」は、フラグメントにスプリットされたトラフィック要求である。したがって、1つのサブ要求は、決定されたデータボリュームパケットにスプリットされたデータボリュームに関して、初期トラフィック要求のフラグメントを表す。
【0013】
このコンテキストにおける選択的な通信経路は、一般に、ルーティング、パス長、又はネットワーク内の中間ノードの数に関するいかなる制限も受けない。しかしながら、選択的な通信経路のセットは、ネットワークを介して伝送される各サブ要求に関して予め決定される。このような予めの決定では、有用又は好適な経路は、レイテンシ(可能な限り最も短い経路、可能な限り最も少ないIPホップ)、冗長性(モデルは接続の障害に対して冗長性を持つべきである)、ドメイン(例えば、EU、US)又は階層(コアネットワーク、アクセスネットワーク)などに関して考慮され得る。例えば、選択的な通信経路のセットは、各トラフィック要求又は各それぞれのサブ要求に対する可能な通信経路のサブセットである。選択的な通信経路のセットは、例えば、コンピュータ実装アルゴリズムによってアクセスされ得る「経路ボックス」として記憶される。有利には、二次応力関数を解く、すなわち、量子概念プロセッサによって、(大域的な)最小値を見つけるための十分に大きな解空間を提供するために、適切なだけの数の発散(最も多様な又は互いに素な)経路が経路ボックス内で予め選択される。このような予めの選択は、量子概念プロセッサの処理性能及び容量に依存する可能性がある。
【0014】
さらに、このコンテキストにおけるトラフィック要求は、理論的には、実際の実装に好適である任意の均等又は不均等なフラグメントサイズを有するサブ要求にスプリットされ得る。ここでのアプローチは、各トラフィック要求を複数のサブ要求にスプリットし、各サブ要求に対してネットワークを通る最適な通信経路を見つけることである。このようにして、このアプローチは、ソースルーティングの一種である、いわゆるMCFR(Multi Commodity Flow Routing)に基づいている。このようなトラフィック要求のスプリットは、量子概念プロセッサの処理性能及び容量に依存する可能性がある。
【0015】
各サブ要求に対して、選択的な通信経路のセット内のエッジの部分容量使用率を計算し、計算された部分容量使用率を二次応力関数の項として定式化することによって、上記に説明した最適化問題の複雑さに対処するために二次最適化問題を定式化することができる。このような二次最適化問題の適用は、通信経路の個別のエッジ上での高い容量使用率を大きく不利にする二次応力関数を定式化することができるという効果を有する。
【0016】
このようにして、二次応力関数が最小になるように、各サブ要求に対して、選択的な通信経路のセットから1つの通信経路を選択することによって、最適化されたルーティングが決定される。二次応力関数の最小値は、大域的な最小値であることが好ましいが、局所的な最小値とすることもできる。
【0017】
したがって、本方法は、容量制限に関してネットワークの均一な最小の利用を達成するために、ネットワークの均一な最小の利用と、ネットワーク内の容量制限までの距離の分散という技術的効果と利点を有する。
【0018】
基礎となる二次最適化問題は、上述したように、非常に複雑である。これは、選択された1つの通信経路が他の通信経路に影響を与える可能性があること、及びネットワーク内の複数の起点ノードと宛先ノードとの間で管理される膨大な量のデータトラフィックによるものだけではない。また、考慮しなければならない多くの実際的な制約があるため、この問題は非常に複雑である。より多くの制約が実装されるにつれて、このような問題はより複雑になり、解くことが困難になる。これは、トラフィックエンジニアリング解が迅速に必要とされる場合、例えば、予期しないネットワーク障害への対応として、又はレイテンシ(可能な限り最も短い経路、可能な限り最小のIPホップ)、冗長性(モデルは、1つ以上/多数のエッジの障害、計画された停止、又はネットワークリンクのメンテナンスに対して冗長とすべきである)、ドメイン(EU、US)又は階層(コアネットワーク、アクセスネットワーク)などのさらなる実際的な制約を考慮している場合には、問題があるか、困難である。ここに記載された方法は、根本的な問題がますます複雑になる従来のアプローチと比較して、その強度を有利に示す。言い換えれば、上記に説明されたような実際的な制約を考慮した複雑な最適化問題に対して、ここに記載された方法は、従来の技術に対してかなりの強さを有する。
【0019】
ここに記載された方法は、量子コンピューティングに触発されたアプローチを利用する。トラフィック要求のセットの全てのサブ要求に対する最適化された通信経路を決定するための二次応力関数の最適解の計算は、いわゆる量子論的概念プロセッサによって実行される。本開示のコンテキストにおける量子概念プロセッサとして、いわゆる「イジングモデル」又は等価な二次制約なし二値問題を解くプロセッサが定義される。例えば、量子アニーリングや量子アニーリングエミュレーションを用いて最適化問題を解くように構成されたプロセッサである。このようなプロセッサは、例えば、従来のハードウェア技術、例えば、相補型金属酸化物半導体(CMOS)技術に基づく。このような量子概念プロセッサの例として、富士通のデジタルアニーラがある。代替的には、他の任意の量子プロセッサを、本明細書に記載された方法に使用することができ、将来は、実際の量子ビット技術に基づく技術も使用することができる。このような量子概念プロセッサのさらなる例は、DWaveの量子アニーラ(例えば5000Q)だけでなく、QAOA又はVQEなどの量子最適化アルゴリズムを利用する量子論的ゲートコンピュータ(IBM、Rigetti、OpenSuperQ、IonQ 又はHoneywell)もある。
【0020】
言い換えれば、本明細書で定義される量子概念プロセッサは、特殊なプロセッサの古典的技術、量子ゲートコンピュータ、又は量子アニーラのいずれかで、いわゆる二次制約なし二値最適化(QUBO)関数の最小化の概念を実現するプロセッサである。
【0021】
少なくとも1つの実装では、本方法は、
- 経路変数のセットを指定することであって、各経路変数は、選択的な通信経路のセットから、サブ要求のうちの1つと1つの通信経路に関連付けられる、ことと、
- 二次応力関数において、経路項を定式化することであって、経路項は、選択的な通信経路のセットからのそれぞれの通信経路のエッジの算出された部分容量使用率を、選択的な通信経路のセットからのそれぞれの通信経路に関連付けられた経路変数と接続する、ことと、
- 量子論的概念プロセッサを使用して、二次応力関数が最小になるように、各サブ要求に対して、選択的な通信経路のセットから1つの通信経路を選択するための経路項を計算することと、をさらに含む。
【0022】
このようにして、各サブ要求に対して、ネットワーク内の隣接するノード間の接続の連結に沿った、1つの選択された通信経路上の起点ノードと宛先ノードとの間の最適ルーティングを個別に計算することができる。これは、特に、上記に説明されたようなMCFRアプローチを考慮した場合に、データトラフィックの非常に柔軟で可変のルーティングのエレガントな実装を提供する。したがって、(例えば、異なる中間ノードを介した)異なるサブ要求に対する異なる通信経路は、ネットワーク内の通信経路の各エッジでの容量使用率の過負荷又は重大な増加を回避し、ネットワーク全体にわたって最適化された方式で全体的な容量使用率を分布させるために、選択され得る。
【0023】
選択的な通信経路内のエッジの計算された部分容量使用率を、それぞれの通信経路に関連付けられた経路変数と接続することにより、全てのサブ要求に対する二次応力関数の最適解(最小値)の計算が可能となる。このようにして、各サブ要求に対して経路ボックスから1つの経路を最適に選択することが、上記に説明した最適化問題を満たすために達成され得る。したがって、1つのサブ要求に対して選択された通信経路が、他のサブ要求に対して可能な他の通信経路に与える影響が緩和され得る。これにより、ルーティングの自由度が非常に高くなるが、解くのは非常に複雑である。全てのサブ要求に対する経路ボックスからのそれぞれの経路の最適化された選択は、上記に説明されたように、量子概念プロセッサによって実行される。
【0024】
本方法の少なくとも1つの実装では、経路項は、各サブ需要が、選択的な通信経路のセットから正確に1つの通信経路に沿ってルーティングされるという経路条件を考慮して計算される。このような経路条件は、各サブ要求が経路ボックスから正確に1つの経路にのみ割り当てられるように、方法に対する制約又は「境界」を形成する。これにより、望ましくない解が回避され、各サブ要求のルーティングが十分に考慮されることが保証される。
【0025】
本方法の少なくとも1つの実装では、トラフィック要求は、決定された離散(discrete)データボリュームを有するサブ要求にスプリットされる。サブ要求は、実装及び実際的な考慮に応じて、各々同じサイズ又は異なるサイズを有することができる。例えば、ボリュームサイズが1000Gbit/sのトラフィック要求は、50Gbit/sの偶数サイズの複数のサブ要求にスプリットされる。代替的に、異なるサイズを有するサブ要求が生成され、異なるサブ要求は、例えば、50、100、及び250Gbit/sの異なるサイズを有してもよい。決定された離散データボリュームを有するサブ要求へのトラフィック要求のスプリットは、ネットワーク内で実際に実装可能なアルゴリズム手順の効果を有し、安定で信頼性のあるデータストリームの制御を維持するのに役立つ。このようにして、このようなアプローチは、一種の離散MCFRアプローチである。
【0026】
本方法の少なくとも1つの実装では、二次応力関数は、トラフィック要求のセット又はそれぞれのサブ要求に対する以下の制約、すなわち、
- 異なるネットワークドメインにおける通信ネットワークの組織、
- 通信ネットワークのレイテンシ、のうちの1つ又は両方を考慮して定式化される。
【0027】
二次応力関数の定式化においてこのような制約を考慮することにより、上記の条件に反する最適化問題の解にペナルティを課すことができる。これにより、通信ネットワークの実際のネットワーク条件の実際的な制約を考慮して、好適な最適解を見つけることが可能となる。
【0028】
本方法の少なくとも1つの実装では、各サブ要求の個別のルーティングのための選択的な通信経路のセットは、以下の制約、すなわち、
- 通信ネットワーク(1)のサブネットワークに関連付けられた1つ以上の冗長な選択的な通信経路、
- 異なるネットワークドメインにおける通信ネットワークの組織、
- 通信ネットワークのレイテンシ、のうちの1つ以上を考慮して指定される。
【0029】
これは、最適化されたルーティングの計算が、通信ネットワーク内のゾーン、セグメント、又はサブネットワークにおける障害に反応して補償することができ、ネットワークの異なるドメインを考慮し、及び/又はネットワークにおけるレイテンシに反応して補償することができるという有利な効果を有する。これはまた、全てのサブ要求の最適化されたルーティングの計算において、それぞれのサブネットワーク、ドメイン、及びレイテンシを強調することを可能にする、追加の自由度を与える。例えば、通信ネットワーク内のあるゾーン又は領域は、他のゾーン又は領域よりも大きな重要度、重要性又は使用密度を有することができる。これは、そのような方策によって対抗され得る。また、通信ネットワークは、異なるサブネットワークにセグメント化されて、この点に関して異なるレイテンシ要件をよりよく処理することができる。
【0030】
本方法の少なくとも1つの実装では、各サブ要求の個別のルーティングのための前記選択的な通信経路のセットは、トポロジー的に近い起点ノード及び宛先ノードに対して、トポロジー的に遠い起点ノード及び宛先ノードに対するよりも少ない数の選択的な通信経路が選択されるように指定される。これは、通信経路の全ての可能な組み合せ及び選択肢が、各それぞれのサブ要求に対して、経路ボックス内の好適な数の選択的な経路に凝縮され得るという利点を有する。トポロジー的に近い起点ノード及び宛先ノードに対しては、より少ない数の選択的な通信経路で十分であるが、トポロジー的に遠い起点ノード及び宛先ノードに対しては、より多い数の選択的な通信経路が推奨される。近い起点ノードと終点ノードに対しては、むしろ短い経路が好まれるが、遠い起点ノードと終点ノードに対しては、十分な代替ルート又は迂回が考慮され得る。したがって、起点ノードと宛先ノードとの間の「距離」が増加するにつれて、各々の場合において、アルゴリズムの複雑さに過度の負担をかけることなく、好適かつ十分な選択肢及び代替案を、選択的な通信経路として事前に決定することができる。
【0031】
本方法の少なくとも1つの実装では、二次応力関数は、二次制約なし二値最適(QUBO)関数として定式化される。このQUBO関数は、上記の方法により、全てのサブ要求の最適化されたルーティングのために、この最適化問題を解決する量子概念プロセッサの「入力」として機能する。一般に言えば、QUBOは、ビット又は量子ビット(以下、Qビット)として量子概念プロセッサ内で表現される二値変数の二次多項式である。本開示の最適化問題のコンテキストでは、QUBO関数は、異なるQビットの関数として、選択的な通信経路内のそれぞれのエッジの部分容量使用率の可能性がある寄与の合計を表し、各Qビットは、値「0」又は値「1」を仮定することができる経路代替の選択を表す。二次最適化問題(二次応力関数)を解くために、量子論的概念プロセッサは、二次最適化問題を最小化するような解を見つけるために、異なるQビットの異なるセッティングを実行する。このようにして、最適化問題のQUBO表現は、ここで適用される量子概念コンピューティングに関してエレガントな特性を有する。例えば、上記に説明した経路変数は、そのようなQビットの形式で定式化される。
【0032】
本方法の少なくとも1つの実装では、二次応力関数及び経路条件は、上記に説明されたように、大域的なQUBO関数に向けて重み付け及び結合される。大域的なQUBO関数では、上記に説明した制約のうちの1つ以上を考慮することができる。この点に関して、上記に説明した制約のうちの1つ以上は、ソフト制約としてQUBO関数内で重み付けされ得る。これは、QUBO機能が、ネットワーク全体にわたる均一な容量使用率分布の最適化、又は前述の(ソフト)制約の1つ以上の達成のいずれかの最適化問題の焦点に応じて、ある程度微調整され得るという利点を有する。
【0033】
上述の問題は、添付の特許請求の範囲に請求されてれている量子概念プロセッサによっても解決される。量子概念プロセッサは、上記のような方法の1つ以上のステップを実行するために構成される。例示的な実装によれば、量子概念プロセッサは、デジタルアニーリング処理ユニットである。このユニットは、上記に説明されたように、量子アニーリング又は量子アニーリングエミュレーションを実行するように特別に構成され得る。量子概念プロセッサは、任意のタイプの上記に説明したもののうちのものとすることができる。
【0034】
上述の問題は、命令を含むコンピュータプログラムであって、命令は、プログラムが1つ以上のプロセッサによって実行されるときに、1つ以上のプロセッサの各々に、上述の記載の方法の1つ以上のステップを実行させる、コンピュータプログラムによっても解決される。これらのプロセッサのうちの少なくとも1つは、例えば、上記で説明されたような量子概念プロセッサである。他のプロセッサは、コンピュータプログラムを実行することによって、上記で説明されたような方法の予備的ステップ又は反復的ステップを処理するために構成され得る。
【0035】
さらに、上述されたような方法によって決定された最適化経路を検証するためにネットワークプランナーのためのワークプレイスによっても上述の問題は解決される。このようなワークプレイスは、例えば、上述されたような方法によって決定された最適化された経路の(自動又は半自動の)検証のために構成された検証手段を有する。これは、ネットワークプランナーが、上述されたような方法によって見つけられた最適化結果を検証するのに機能する。検証手段は、ソフトウェア及び/又はハードウェアで実装され得る。例えば、ワークプレイスは、上述されたような方法を実行する量子概念プロセッサを含むシステムと通信するか、又はこれに接続され得る。次いで、結果は、ワークプレイスに引き継がれ得る。
【0036】
さらに、上述の問題はまた、データトラフィックがルーティングされる通信ネットワークの複数の通信ノードへの1つ以上のインターフェースを含むインターフェース構成によっても解決され、インターフェース構成は、上述されたような方法によって決定された最適化されたルーティングを、通信ネットワークの通信ノードに自動的に展開するように構成されている。このようにして、上述されたような方法によって決定された最適化されたルーティングは、それぞれの通信ネットワークの複数の通信ノードに(自動的に又は半自動的に)展開され得る。例えば、インターフェース構成は、上述のされたようなワークプレイス、又は上述されたような方法を実行する量子概念プロセッサを含むシステムと通信するか、又はこれに接続され得る。結果は、インターフェース構成に引き継がれ得る。
【0037】
さらに、コンピュータ実施手順の上記に説明したステップのうちの1つ以上のための予備的な方策として、それぞれの最適化の前に通信ネットワークからパラメータを読み出し、そのようなパラメータを説明されたコンピュータ実施最適化手順に入力するためのインターフェースが実装又は使用され得る。パラメータは、例えば、ネットワーク構成、ネットワークのグラフ記述のための隣接情報、ネットワーク内の利用可能な容量、及び予想されるトラフィック要求を含む。
【0038】
上記で説明された方法に関連して単独で又は互いに組み合わせて記載される任意の態様、特徴、効果及び方策は、上記で説明された量子概念プロセッサ又はコンピュータプログラムに関連して単独で又は互いに組み合わせて記載される態様、特徴、効果及び方策に適用されるか、又は類似の表現を見つけることができ、逆もまた同様である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
本発明は、複数の図面の助けを借りていくつかの実装を考慮して、以下にさらに記載される。
【0040】
図1】従来のアプローチに従ったトラフィック要求の例示的なルーティングを有する通信ネットワークの例示的な構成を示す。
図2A】代替的なアプローチに従ったトラフィック要求の例示的なルーティングを有する通信ネットワークの例示的な構成を示す。
図2B】本発明によるアプローチに従ったトラフィック要求の例示的なルーティングを有する通信ネットワークの例示的な構成を示す。
図3】起点ノードと宛先ノードとの間のトラフィック要求のルーティングのための選択的な通信経路の例示的な概略図を示す。
図4A】本発明によるアプローチに従う部分的な最適化問題の例示的な数学的定式化を示す。
図4B】本発明によるアプローチに従う部分的な最適化問題の例示的な数学的定式化を示す。
図5】本発明によるアプローチを実行するアルゴリズムの例示的な概略図を示す。
【0041】
図1は、従来のアプローチに従ったトラフィック要求5a、5b及び5cの例示的なルーティングを有する通信ネットワーク1の例示的な構成を示す。通信ネットワーク1は、複数の通信ノード2を含む、2つの隣接する通信ノード2間の接続4をエッジと呼ぶ。これは、通信ノード2と別の通信ノード2cとの間で示され、これらは、接続4を介して相互に通信することができる。通信ネットワーク1の歴史的に成長した構成及び実装に応じて、いくつかの通信ノード2は、いわゆる集約ノード3に集約される。図1に例示的に示されるように、例えば、通信ノード2aは、集約ノード3a内に集約され、他の通信ノード2b、2d、2eは、集約ノード3b内に集約される。
【0042】
通信ノード2は、例えば、ネットワーク1内の着信及び発信データトラフィックをルーティングするための、いわゆるラベルエッジルータ(LER)である。集約ノード3は、メタノードと呼ばれ、ネットワーク1の特定の領域におけるLERの集約ゾーンである。例えば、集約ノード3は、通信が行われるべき決定された経済地域又は都市の集中集約ゾーンである。他のアプリケーションでは、集約ノード3は、例えば、産業ネットワーク又はトラフィックネットワークなどのエンティティとすることができる。
【0043】
通信ネットワーク1は、一般に、部分的にマッシュされている。これは、全ての通信ノード2が他の全ての通信ノード2と接続されているわけではないことを意味する。その代わりに、ネットワーク1に実装されたいくつかの通信ノード2の間には、例えば、ネットワーク1の歴史的発展から生じた、いくつかの接続4(点線の接続を参照)しかない。それぞれの通信ノード2間の接続4は、例えば、光ファイバ接続によって実装される。しかし、無線技術(例えば、5G)及び銅線/DSL技術などの他の技術も一般に適用可能である。
【0044】
上記に説明したように、図1は、トラフィック要求5a、5b及び5cの特定のシナリオを示し、それに従って、特定のデータ量が、ネットワーク1内のそれぞれの通信ノード2間で転送されなければならない。例示的に示されるように、第1のトラフィック要求5aは、集約ノード3a内の通信ノード2aと、集約ノード3d内の別の通信ノード2fとの間にある。第2のトラフィック要求5bは、集約ノード3b内の通信ノード2eと、繰り返しになるが集約ノード3d内の通信ノード2fとの間にある。第3のトラフィック要求5cは、集約ノード3c内の通信ノード2cと、繰り返しになるが集約ノード3d内の通信ノード2fとの間にある。したがって、各トラフィック要求5a、5b及び5cは、起点ノードから宛先ノードに転送される決定された量を定義する。図1による例示的なシナリオでは、トラフィック要求5aに対する起点ノードは通信ノード2aであるが、トラフィック要求5aに対する宛先ノードは通信ノード2fである。同様に、トラフィック要求5bに対して、起点ノードは通信ノード2eであり、宛先ノードは通信ノード2fである。さらに、同様に、トラフィック要求5cに対して、起点ノードは通信ノード2cであり、繰り返しになるが宛先ノードは通信ノード2fである。
【0045】
代替の実装では、トラフィック要求は、それぞれの集約ノード3内のどの内部通信ノード2で通信が開始又は終了するかに関係なく、集約ノード3間の要求として定義することができる。例えば、要求5a、5b、5bは、集約ノード3aと3dとの間の要求(要求5a)、集約ノード3bと3dとの間の要求(要求5b)、集約ノード3dと3dとの間の要求(要求5c)と定義することができる。このような実装では、それぞれの集約ノードとその内部通信ノードとの間に「仮想」エッジがあり、仮想エッジは非常に高い容量を有する。これは、それぞれの集約ノード3内の内部通信ノード2上で通信が開始又は終了することが重要な役割を果たさないという効果につながる。
【0046】
各トラフィック要求5a、5b及び5cは、ネットワーク1にネットワークの容量の使用率、すなわち、ネットワーク1内のそれぞれの通信ノード2間の可能性がある通信経路のそれぞれの接続4の容量の使用率で負担をかける。図1の例示的なシナリオでは、トラフィック要求5aは、通信ノード2b、2c、2d、2e、及び2fを介して、通信ノード2aから通信ノード2fに転送される。これと並行して、通信ノード2eと2fとの間の接続4を介して、トラフィック要求5bが単純に転送される。さらに、トラフィック要求5cは、通信ノード2d、2e、及び2fを介して、通信ノード2cから通信ノード2fに転送される。このシナリオでは、主に2つの欠点が発生する。第1の欠点は、トラフィック要求5a及び5cを転送するための通信経路が長く、ネットワーク1を通るかなり複雑な経路であることにある。これらの転送は、トラフィック要求5a及び5cを転送するために、ネットワーク1内に複数の通信ノード2及び接続4を埋め込み、これは、ネットワーク内の他の転送に大きな影響を与える可能性がある。第2の欠点は、全てのトラフィック要求5a~5cが、最終的に、通信ノード2e及び2fの間の接続4を介して転送されるという事実にある。したがって、ノード2eと2fとの間の接続4のリンク容量は、かなりの程度までの負荷となる。これは、ノード2eと2fとの間の接続4の過負荷につながり、レイテンシの増加又はデータの損失などをもたらすことがある。
【0047】
図2Aは、代替的なアプローチに従ったトラフィック要求5a、5b及び5c(上記を参照)の例示的なルーティングを伴う通信ネットワーク1の例示的な構成を示す。図2Aによるシナリオでは、トラフィック要求5aに対して、トラフィック要求5aが、繰り返しになるが通信ノード2Aで開始し、通信ノード2b、2d、2e、及び2fに続く代替的な通信経路上で転送されるように、代替的な経路が選択される。代替的な経路は、例えば、ネットワーク1内の接続4のリンク重みを操作することにより選択される。
【0048】
図2Aによるシナリオは、トラフィック要求5aの転送のための通信経路が、短い経路戦略に近くなり、それによって、他の転送に対する影響を低減するために、ネットワーク1内の関与する通信ノード2及び接続4の数を低く(少なくとも図1のシナリオよりも低く)保ち、図1のシナリオよりも有利である。しかし、図2Aのシナリオにおいても、他の欠点が残っており、それによれば、ノード2eと2fとの間の接続4には、トラフィック要求5a~5cの3つ全てがネットワーク1のこの接続を通過し依然として重い負荷がかかっている。
【0049】
図2Bは、図1及び図2Aによる通信ネットワーク1の例示的な構成を示すが、ここでは、トラフィック要求5a~5cの例示的なルーティングが本発明によるアプローチに従う。図2Bのシナリオでは、3つの全てのトラフィック要求5a~5cのデータボリュームに関して最適化された複数の通信経路が選択される。この点に関して、トラフィック要求5a~5cは全て複数のサブ要求にスプリットされており、各サブ要求は、トラフィック要求5a~5cのうちの関連するもののデータボリュームの離散フラグメントを表す。これは、図2Bに示されており、トラフィック要求5a~5cは、破線の矢印によってのみ示されている。したがって、図2Bの実装によれば、各トラフィック要求5a~5cに対して、1つの規定された経路だけでなく、各トラフィック要求5a~5cの各サブ要求に関する複数の(異なる、別個の)経路がある。
【0050】
したがって、図2Bによるシナリオは、複数のフラグメント(サブ要求)にスプリットされたトラフィック要求5a~5cの全体的なデータボリュームを、ネットワークを介してそれぞれの起点からそれぞれの宛先までの非常に異なる通信経路上で転送する。したがって、このアプローチは離散MCFRアプローチに従う。図2Bによるシナリオの実質的な価値は、全てのトラフィック要求5a~5cの全体的なデータボリュームがネットワーク全体に分布し、それにより、ネットワーク内の単一セグメントにわたって大きな負荷が転送され、ネットワーク内の単一接続4に大きな負担をかけることを回避するという事実にある。
【0051】
したがって、図2Bのシナリオは、図1及び2Aによるアプローチの欠点を解決し、それによって、可能な限り異なるトラフィック要求5a~5cの転送間の影響及び採用の低減と共に、ネットワーク1内で転送されなければならない全てのトラフィック要求5に対して、ネットワーク1内の接続4の全体的な容量使用率の均一で最適化された分布を達成する。
【0052】
以下では、図2Bによるアプローチの実装をさらに詳細に説明する。
【0053】
解決すべき最適化問題は、数学的に定式化された二次応力関数(コア最適化問題)が最小化されるように、それぞれのトラフィック要求5のフラグメントとしての各サブ要求に対して、選択的な通信経路のセットから1つの通信経路を選択することによって、ネットワーク1を通る最適化されたルーティングを決定することにある。これは、ネットワーク1内の全てのトラフィック要求5の全てのサブ要求に対して、ネットワーク1内の接続4の全体的な容量使用率がネットワーク1にわたって均一に最小化することができるという効果と共にそれぞれの通信経路を選択するという目的を果たす。これにより、接続4に、重い負担又は過大な負荷がかかることが回避される、一方、他の接続4の小さな負荷は、そのようなストレスを著しく低下させることができる。
【0054】
上記の効果を達成するために、通信ネットワーク1内のルーティングを最適化するためのコンピュータ実装アルゴリズム方法が実装される。これは、以下に説明される。
【0055】
図3は、起点ノードoと宛先ノードdとの間のトラフィック要求のフラグメント(サブ要求)のルーティングのための選択的な通信経路k1及びk2の例示的な概略図を示す。(トラフィック要求o,dがスプリットされる)決定されたデータボリュームの複数のサブ要求が、oとdの間で転送される。ここで、コア最適化問題は、ネットワーク内の容量の全体的な使用率がネットワーク内で均一に最小化されるように、選択的な通信経路内の接続の全体的な容量使用率が最小化されるように、oとdの間の全てのサブ要求に対して最適に分布した通信経路を選択し、決定することにある。
【0056】
図3によれば、選択的な通信経路k1~k2のセットが予め指定される。これは、転送される各サブ要求に対して、起点ノードoと宛先ノードdとの間の選択的な通信経路を計算する任意の好適な経路計画アルゴリズムの適用を通じて行われ得る。図3に例示的に示されているように、経路k1は、o1から中間ノードi1を介してd1に至る。経路k2は、o1から別の中間ノードi2を介してd1に至る。これらは、起点oから宛先dへの各サブ要求に含まれるデータトラフィックのルーティングのための選択的な通信経路である。計画経路k1、k2は、経路ボックスの形態で予め記憶され、経路ボックスから各サブ要求に対して1つの経路を選択するためのアルゴリズムによってアクセスされ得る。
【0057】
図3は、エッジe1及びe2としてさらに参照され、選択的な通信経路k1、K2内にある2つの例示的な接続をさらに示す。エッジe1は、中間ノードi1と宛先dとの間に構成され、エッジe2は、中間ノードi2と宛先dとの間に構成される。
【0058】
経路ボックスk1、k2に基づいて、起点oと宛先dの間の2つのサブ要求のルーティングのための異なるオプションを例示的に仮定する。サブ要求ごとのルーティングの1つの選択肢は、データトラフィックがエッジe1を介して転送されるような経路k1である。サブ要求ごとのルーティングの他の選択肢は、データトラフィックがエッジe2を介して転送されるような経路k2である。サブ要求ごとのデータトラフィックのルーティングのためのこれらの異なる選択肢から分かるように、2つのサブ要求の各々に対して通信経路の組み合わせがあり、2つのエッジe1及びe2にはそれぞれ1つのサブ要求のみの負担がかかる。これは、例えば、経路k1を通る一方のサブ要求と経路k2を通る他方のサブ要求で与えられる。しかし、エッジe1及びe2の一方に両方のサブ要求の負荷が実質的かつ重くかかり、エッジe1及びe2の他方が全く使用されない通信経路の可能な組み合わせもある。これは、同じ経路k1又はk2を通る両方のサブ要求で与えられる。
【0059】
後者の組み合わせは、エッジe1及びe2のうちの一方の容量使用率が著しく高く、それぞれのエッジの過負荷又は故障をもたらす可能性があるという重大な欠点を有する。したがって、最適化問題は、全体的な容量使用率が両方のエッジe1及びe2の両方にわたって分布するように、oとdとの間の全てのサブ要求に対して分布した通信経路を決定し、選択することにある。
【0060】
この最適化問題を解くために、全てのトラフィック要求がスプリットされるサブ要求のセット全体に対して、選択的な通信経路k1、k2のセット内の全てのエッジの部分容量使用率が計算される。図3に例示的に与えられるように、このような方策は、oとdとの間のサブ要求の各々に対するエッジe1及びe2の各々の部分容量使用率の計算を含む。それぞれのエッジの「部分容量使用率」とは、各エッジのそれぞれの使用率容量制限に基づいて、このエッジを介して伝送される各サブ要求に必要な容量使用率の部分(fraction)が計算されることを意味する。
【0061】
例えば、図3に関して、oとdとの間の各サブ要求が、それぞれのエッジを通過するときに、各エッジe1及びe2の最大使用率容量の半分を必要とすると仮定する(すなわち、容量の50%)。これは、エッジe1及びe2に、それぞれのサブ要求がそれぞれのエッジを通過するときに、oとdとの間の各サブ要求に対するその使用率容量の半分の負担がかかることを意味する。言い換えれば、一方のサブ要求が経路k1を通り、他方のサブ要求が経路k2を通る場合、エッジe1及びe2の両方に、それら使用率容量制限の50%の負担がかかる。そうでなければ、両方のサブ要求が1つの同じ経路k1又はk2を通る場合、それぞれのエッジe1(k1の場合)又はe2(k2の場合)には、十分かつ完全に負担がかかり(2x50%=100%)、それにより、その容量制限に達し、エッジ容量全体の利用をもたらす。
【0062】
このような部分容量使用率の計算は、図3のシナリオでは、選択的な通信経路k1及びk2内にある残りの全てのエッジに対して実行される。次いで、計算された部分容量使用率は、以下で詳細に説明し、かつ図4Bを参照して、二次応力関数の項として定式化される。
【0063】
図4A及び図4Bは、図2B及び図3に関して、上記に説明されたようなアプローチに従う部分的な最適化問題の例示的な数学的定式化を示す。図4A及び図4Bの数学的定式化は、いわゆるハミルトニアン関数、短いハミルトニアンとして表される。
【0064】
図4Aの数学的定式化は、それぞれの起点と宛先(o、d)との間の各サブ要求が、経路ボックスP(k∈P)から正確に1つの経路kに沿ってルーティングされることにより経路条件を定式化する。これは、図3のシナリオに対して、oとdとの間の各サブ要求がk1又はk2を通ることを意味する。
【0065】
図4Aの数学的定式化は、値「0」又は値「1」(又は、その両方が特定の確率を有する)を仮定することができ、ビット(又は、以下で使用されるようなqビット)として量子論的概念プロセッサにおいて表されるバイナリ変数
【数1】
の合計項として定式化される。各選択的な経路k∈Pに対して、かつ、起点oから宛先dまでのパケットサイズpを有する各サブ要求を考慮して、それぞれのQビット
【数2】
が経路変数としてセットされ得る。それぞれのQビット
【数3】
は、それぞれのサブ要求が通信経路kを通る場合、値「1」にセットされ、通らない場合、値「0」にセットされる。図4Aのハミルトニアンの定式化を考慮すると、ハミルトニアンは「0」に等しくなければならない。これは、各サブ要求pに対して、1つの経路変数
【数4】
のみが値「1」を仮定し、他の経路に対する他の全ての経路変数
【数5】
が値「0」を有するように、正確に1つのパスk∈Pが選択される場合にのみ満たされる。そうでなければ、経路kが選択されないか、又は複数の経路kが選択される場合、図4Aの条件は満たされない。図4Aのハミルトニアンとして数学的に定式化された経路条件は、ネットワーク内の全てのサブ要求の最適化されたルーティングの全体的な計算のために、このサブ要求pを考慮するために、各サブ要求pに対して正確に1つの通信経路kが選択されなければならないという効果を有する。
【0066】
図4Bによるハミルトニアンの数学的定式化は、ネットワーク内の全てのエッジEのうちのエッジe(e∈E)の計算された部分的容量使用率を考慮した二次応力関数として定式化されるコア最適問題を表し、エッジeは、全てのトラフィック要求o、dに対して、選択的な通信経路k∈Pのセット内にある。したがって、ここでのコア最適化問題は、ネットワーク内で伝送される全てのサブ要求に対して最適化された通信経路を見つけるために、図4Bによりハミルトニアンを最小化することにある。
【0067】
図4Aの式が満たされると仮定すると、図4Bのハミルトニアンは、全ての起点oと宛先dとの間の全てのサブ要求pを考慮して、選択的な通信経路k内の各エッジeに対する合計項を考慮する。したがって、図4BのQUBOは、次いで、選択的な通信経路kの一部である全てのエッジeの、全ての計算された部分容量使用率
【数6】
を合計する。ここで、
【数7】
は、それぞれのサブ要求pのボリュームを表し、
【数8】
は、それぞれのエッジeの容量を表す。部分容量使用率
【数9】
は、経路項に向けてそれぞれのQビット
【数10】
(経路変数)と接続される。上記に説明されたように、Qビット
【数11】
は、それぞれのQビット
【数12】
に関連付けられた選択的な経路が考慮されるかどうかに応じて、値「0」又は値「1」のいずれかを仮定することができる。
【0068】
2つのサブ要求p1、p2及び2つのエッジe1及びe2の例示に対する図3のシナリオを考慮すると、図4Bによるハミルトニアンは、以下の式を有してもよい。
【数13】
【0069】
各サブ要求p1、p2がそれぞれのエッジe1、e2にそれらの容量の半分(50%)の負担をかけるという仮定の下で、上記に説明されたように、p1及びp2が異なるパスk1、k2を介してルーティングされる場合、上記の項は最小値に達する。そして、上記の項は以下のようである。
【数14】
【0070】
そうでなければ、p1及びp2が1つの共通経路k1又はk2を介してルーティングされる場合(他の経路は使用されない)、上記の項は以下のようである。
【数15】
【0071】
したがって、ネットワークのコスト/ストレスは、後者の解の方が高く、上記の解よりも悪い。
【0072】
上記の例は、2つのサブ要求p1、p2に対して異なるパスk1、k2を選択することが、ネットワーク全体の全体的な容量使用率の分布という最適化目標を達成するための好ましい解決策であることを示している。
【0073】
図4Bのハミルトニアンは、一般に、ネットワーク内の全てのサブ要求に対して、それぞれのQビット
【数16】
の値の異なるセッティング通して実行する量子論的概念プロセッサによって解かれ、それによってハミルトニアンのそれぞれの結果を計算する。そうすることの目標は、Qビット
【数17】
のそれぞれのセット値に対するハミルトニアンの最小値を見つけることである。図4Bのハミルトニアンのそれぞれの最小値が見つかるとすぐに、この最小値につながるQビット
【数18】
のそれぞれの値が記憶され、最終的に、それぞれのサブ要求のそれぞれの通信経路を定義する。これは、上記に説明されたように、各Qビット
【数19】
が各サブ要求pに対して1つの通信経路を定義するという事実による。したがって、量子概念プロセッサを使用して図4Bのハミルトニアンの最小値を計算することによって、各サブ要求pに対して、選択的な通信経路のセットから1つの通信経路kを選択することによって、最適化されたルーティングが計算される。
【0074】
図5は、上記に説明されたようなアプローチを実行するアルゴリズムの例示的な概略図を示す。図5は、トラフィック要求のセット5を考慮した、上記で説明した方法のステップ及び手順の処理を示す。トラフィック要求5は、各々、決定された離散的なパケットサイズを有するそれぞれのサブ要求7にスプリットされる。
【0075】
前処理されたサブ要求7は、次いで、量子概念プロセッサ6内のアルゴリズム手順に入力される。例えば、図5による量子概念プロセッサ6は、量子アニーリングエミュレーションによって最適化問題を解くように構成されている。量子概念プロセッサ6は、図4A及び図4Bによる全体の最適化問題の数学的定式化を適用する。次いで、量子概念プロセッサ6は、図4Aによる制約を考慮して、図4Bによる最適化問題の最適化されたルーティング解をサブ要求7に対して計算する。
【0076】
アルゴリズム手順が完了した後、図4Bによる最適化問題の最終的に計算された最小値が、それぞれのサブ要求7に対して量子概念プロセッサ6から出力される。次いで、最適化問題の見つかった最適値により決定した通信経路kが、サブ要求7に対して記憶される。次いで、アルゴリズムが終了する。
【0077】
したがって、図2B図4Bに関する上記の実装及び説明に基づく、図5によるコンピュータ実施アルゴリズム手順を適用することによって、最適化されたルーティングが、通信ネットワーク1を介して個別に選択された通信経路上の全てのトラフィック要求に対して提供され得る。
【0078】
QUBO表現としての最適化問題の定式化は、プロセッサ6内でのここで適用される量子概念コンピューティングに関してエレガントな特性を有する。今日、量子概念コンピューティングは依然として大きな限界に達している。しかし、量子コンピュータに向けてコンピュータ科学がますます発展するにつれて、ここに記載されたアプローチは、将来さらに強化され、発展する可能性がある。例えば、量子コンピューティングが、基礎となる最適化問題の複雑さの増加にますます適用可能となるときに、より多くの経路変数が量子コンピューティングを通じて計算され得るため、経路ボックスは、通信経路のためのより多くの代替オプションを有することができる。さらに、量子コンピューティングがますます適用可能になるにつれて、ますます増加するQビット数、ますます複雑な最適化問題、及び/又はますます非線形制約を、ここで説明するアプローチによって考慮することができる。
【0079】
本明細書で説明するアプローチは、主に通信ネットワークに適用可能である。しかし、このアプローチは、鉄道ネットワーク、エネルギーグリッド、交通ネットワークなど、他の任意のネットワークにも適用でき、ここで、特定の「トラフィック」又は「負荷」が、最適化された経路を介してネットワーク全体に伝送されなくてはならない。
【0080】
本明細書に示され説明される実施形態は、例示にすぎない。
【符号の説明】
【0081】
1 通信ネットワーク
2、2a~2f 通信ノード
3、3a~3f 集約ノード
4 隣接ノード間の接続
5 トラフィック要求のセット
5a~5c トラフィック要求
6 量子コンセプトプロセッサ
7 サブ要求
d 宛先ノード
e、e1、e2 エッジ
i1、i2 中間ノード
o 起点ノード
p 特定のサイズpを有するサブ要求
k、k1~k2 可能性がある通信経路
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
【国際調査報告】