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特表2024-517989標的指向遺伝子組み込みによる高IgE症候群(HIES)の治療のための遺伝子治療
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  • 特表-標的指向遺伝子組み込みによる高IgE症候群(HIES)の治療のための遺伝子治療 図1
  • 特表-標的指向遺伝子組み込みによる高IgE症候群(HIES)の治療のための遺伝子治療 図2
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  • 特表-標的指向遺伝子組み込みによる高IgE症候群(HIES)の治療のための遺伝子治療 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-23
(54)【発明の名称】標的指向遺伝子組み込みによる高IgE症候群(HIES)の治療のための遺伝子治療
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20240416BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240416BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20240416BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20240416BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240416BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240416BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
C12N5/0789
C12N9/16 Z
C12N15/55
C12N15/09 100
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
A61K35/17
A61P35/00
A61P37/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571278
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(85)【翻訳文提出日】2023-12-26
(86)【国際出願番号】 EP2022063762
(87)【国際公開番号】W WO2022243529
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】PA202170257
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519350465
【氏名又は名称】セレクティス ソシエテ アノニム
(71)【出願人】
【識別番号】512315119
【氏名又は名称】アルベルト-ルドビクス-ウニベルジテート フライブルク
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】カトーメン トニ
(72)【発明者】
【氏名】コルヌ タチアナ
(72)【発明者】
【氏名】デットマー-モナコ ビビアン
(72)【発明者】
【氏名】ハース シモーネ
(72)【発明者】
【氏名】ロシツカ ジュリア
(72)【発明者】
【氏名】ドゥシャトー フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ジュイラット アレクサンドル
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA12
4C087MA67
4C087NA14
4C087ZB08
4C087ZB26
(57)【要約】
本発明は、概して、ゲノム改変(遺伝子編集)の分野に関し、より具体的には、高IgE症候群(HIES)の治療のための遺伝子治療に関する。具体的には、本発明は、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STATS遺伝子を特異的に標的とし、それによって、正常な細胞表現型の回復を可能にする遺伝子編集試薬、例えば、TALEヌクレアーゼを含む、HSCまたはT細胞を遺伝子改変するための手段および方法を提供する。本発明は、少なくとも機能性STATS遺伝子の部分配列または完全配列を含む外来性ポリヌクレオチド配列を含む細胞を含む、改変されたHSCまたはT細胞の集団も提供し、ここで、該外来性ポリヌクレオチド配列は、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STATS遺伝子に組み込まれており、機能性STATSポリペプチドの発現をもたらす。本発明は、本発明の細胞集団を含む薬学的組成物、および高IgE症候群(HIES)の治療のための遺伝子治療におけるそれらの使用をさらに提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HIESに罹患している患者に由来する改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団であって、少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列を含む外来性ポリヌクレオチド配列を含む細胞を含み、
該外来性ポリヌクレオチド配列が、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STAT3遺伝子に組み込まれており、機能性STAT3ポリペプチドの発現をもたらす、
改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【請求項2】
前記内在性STAT3遺伝子に組み込まれた前記外来性ポリヌクレオチド配列が、それぞれSEQ ID NO:2~18のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン8~24より選択される少なくとも1つのエクソンを含む、請求項1記載の改変されたHSCまたはT細胞の集団。
【請求項3】
前記内在性STAT3遺伝子に組み込まれた前記外来性ポリヌクレオチド配列が、それぞれSEQ ID NO:2~16のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン8~22より選択される少なくとも1つのエクソンを含む、請求項1または2記載の改変されたHSCまたはT細胞の集団。
【請求項4】
前記内在性STAT3遺伝子に組み込まれた前記外来性ポリヌクレオチド配列が、少なくとも、SEQ ID NO:17のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン23をさらに含み、任意で、SEQ ID NO:18のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン24をさらに含む、請求項3記載の改変されたHSCまたはT細胞の集団。
【請求項5】
前記外来性ポリヌクレオチド配列が、エクソン23の上流に位置しかつエクソン23へのオルタナティブスプライシングを可能にする、SEQ ID NO:27に記載のSTAT3のイントロン22を含む、請求項4記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【請求項6】
前記外来性ポリヌクレオチド配列が、前記内在性STAT3遺伝子のイントロン配列に挿入されている、請求項1~5のいずれか一項記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【請求項7】
前記外来性ポリヌクレオチド配列が、イントロン7、イントロン8、またはイントロン9より選択される内在性STAT3遺伝子のイントロンに挿入されている、請求項6記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【請求項8】
前記外来性ポリヌクレオチド配列が、少なくとも、STAT3のエクソン8~22、STAT3のイントロン22、およびSTAT3のエクソン23~24を、その順に含み、エクソン8~24がそれぞれSEQ ID NO:2~18のアミノ酸配列をコードする、請求項1~7のいずれか一項記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【請求項9】
前記外来性ポリヌクレオチド配列が、前記内在性STAT3遺伝子のイントロン7に挿入されている、請求項8記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【請求項10】
前記外来性ポリヌクレオチド配列が、少なくとも、STAT3のエクソン9~22、STAT3のイントロン22、およびSTAT3のエクソン23~24を、その順に含み、エクソン9~24がそれぞれSEQ ID NO:3~18のアミノ酸配列をコードする、請求項1~7のいずれか一項記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【請求項11】
前記外来性ポリヌクレオチド配列が、前記内在性STAT3遺伝子のイントロン8に挿入されている、請求項10記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【請求項12】
前記外来性ポリヌクレオチド配列が、少なくとも、STAT3のエクソン10~22、STAT3のイントロン22、およびSTAT3のエクソン23~24を、その順に含み、エクソン10~24がそれぞれSEQ ID NO:4~18のアミノ酸配列をコードする、請求項1~7のいずれか一項記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【請求項13】
前記外来性ポリヌクレオチド配列が、前記内在性STAT3遺伝子のイントロン10に挿入されている、請求項12記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【請求項14】
前記外来性ポリヌクレオチド配列に含まれる前記機能性STAT3の部分配列または完全配列が、コドン最適化されている、請求項1~13のいずれか一項記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【請求項15】
前記外来性ポリヌクレオチド配列が、前記機能性STAT3の部分配列または完全配列の上流に、人工スプライス部位、例えば、SEQ ID NO:28またはSEQ ID NO:29に記載の人工スプライス部位を含む、請求項1~14のいずれか一項記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【請求項16】
前記外来性ポリヌクレオチド配列が、機能性STAT3ポリペプチドをコードする配列を含む、請求項1~15のいずれか一項記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【請求項17】
前記外来性ポリヌクレオチド配列が、前記改変された細胞によるSTAT3αおよびSTAT3βの発現を可能にする、請求項1~16のいずれか一項記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【請求項18】
前記改変された細胞が、約3:1~約7:1の比率、または約4:1~約6:1の構成で、STAT3αアイソフォームおよびSTAT3βアイソフォームを発現する、請求項1~17のいずれか一項記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【請求項19】
前記外来性ポリヌクレオチド配列が、DNA切断を誘導する配列特異的試薬、例えば、低頻度切断エンドヌクレアーゼまたはニッカーゼを使用することによる部位特異的遺伝子組み込みによって挿入されている、請求項1~18のいずれか一項記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【請求項20】
前記改変されたHSCまたはT細胞が初代細胞である、請求項1~19のいずれか一項記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【請求項21】
前記T細胞が、少なくとも1%、例えば少なくとも10%の長寿命T細胞、例えば、ナイーブT細胞(Th0)、エフェクターメモリーT細胞(TEM)、セントラルメモリーT細胞(TCM)、および幹細胞メモリーT細胞(TSCM)を含む、請求項1~20のいずれか一項記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか一項記載の細胞の集団と、薬学的に許容される賦形剤および/または担体とを含む、薬学的組成物。
【請求項23】
高IgE症候群(HIES)の治療において使用するための、請求項1~21のいずれか一項記載の改変されたHSCもしくはT細胞の集団、または請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項24】
幹細胞移植、例えば骨髄移植において使用するための、請求項1~21のいずれか一項記載の改変されたHSCの集団、または改変されたHSCの集団を含む請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項25】
少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列を含むことを特徴とする、ポリヌクレオチドドナーテンプレート、例えばDNAドナーテンプレート。
【請求項26】
それぞれSEQ ID NO:2~18のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン8~24より選択される少なくとも1つのエクソンを含む、請求項25記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【請求項27】
それぞれSEQ ID NO:2~16のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン8~22より選択される少なくとも1つのエクソンを含む、請求項25または26記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【請求項28】
少なくとも、SEQ ID NO:17のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン23をさらに含み、任意で、SEQ ID NO:18のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン24をさらに含む、請求項27記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【請求項29】
エクソン23の上流に位置しかつエクソン23へのオルタナティブスプライシングを可能にする、SEQ ID NO:27に記載のSTAT3のイントロン22を含む、請求項28記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【請求項30】
前記ポリヌクレオチドドナーテンプレートが、少なくとも、STAT3のエクソン8~22、STAT3のイントロン22、およびSTAT3のエクソン23~24を、その順に含み、エクソン8~24がそれぞれSEQ ID NO:2~18のアミノ酸配列をコードする、請求項25~29のいずれか一項記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【請求項31】
前記ポリヌクレオチドドナーテンプレートが、少なくとも、STAT3のエクソン9~22、STAT3のイントロン22、およびSTAT3のエクソン23~24を、その順に含み、エクソン9~24がそれぞれSEQ ID NO:3~18のアミノ酸配列をコードする、請求項25~29のいずれか一項記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【請求項32】
前記ポリヌクレオチドドナーテンプレートが、少なくとも、STAT3のエクソン10~22、STAT3のイントロン22、およびSTAT3のエクソン23~24を、その順に含み、エクソン10~24がそれぞれSEQ ID NO:4~18のアミノ酸配列をコードする、請求項25~29のいずれか一項記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【請求項33】
前記機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列がコドン最適化されている、請求項25~32のいずれか一項記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【請求項34】
前記機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列の上流に、人工スプライス部位、例えば、SEQ ID NO:28またはSEQ ID NO:29に記載の人工スプライス部位を含む、請求項25~33のいずれか一項記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【請求項35】
機能性STAT3ポリペプチドをコードする配列を含む、請求項25~34のいずれか一項記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【請求項36】
STAT3αおよびSTAT3βの発現を可能にする、請求項25~35のいずれか一項記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【請求項37】
SEQ ID NO:33に対して少なくとも70%の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む、請求項25~36のいずれか一項記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【請求項38】
SEQ ID NO:33、SEQ ID NO:34、SEQ ID NO:35、SEQ ID NO:36、SEQ ID NO:37、SEQ ID NO:41、SEQ ID NO:42、SEQ ID NO:43、SEQ ID NO:44、SEQ ID NO:45、およびSEQ ID NO:47より選択されるポリヌクレオチド配列のうちの1つを含む、請求項25~37のいずれか一項記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【請求項39】
請求項25~38のいずれか一項記載のポリヌクレオチドドナーテンプレートを含む、AAVベクターまたはIDLVベクター。
【請求項40】
高IgE症候群(HIES)の治療において使用するための、請求項25~38のいずれか一項記載のポリヌクレオチドドナーテンプレートまたは請求項39記載のベクター。
【請求項41】
STAT3遺伝子内の配列を切断することができることを特徴とする、低頻度切断エンドヌクレアーゼまたはニッカーゼ。
【請求項42】
STAT3遺伝子のイントロン7、イントロン8、またはイントロン9に含まれる配列を切断することができることを特徴とする、請求項41記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼまたはニッカーゼ。
【請求項43】
メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEヌクレアーゼ、megaTAL、またはRNA誘導型エンドヌクレアーゼである、請求項41または42記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼ。
【請求項44】
TALEヌクレアーゼである、請求項41または42記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼ。
【請求項45】
前記TALEヌクレアーゼが、SEQ ID NO:38、SEQ ID NO:39、およびSEQ ID NO:40より選択されるSTAT3ポリヌクレオチド配列を標的とするモノマーを含む、請求項44記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼ。
【請求項46】
前記TALEヌクレアーゼモノマーが、SEQ ID NO:21~26のいずれか1つのポリペプチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する、請求項44記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼ。
【請求項47】
前記TALEヌクレアーゼが、
SEQ ID NO:21のポリペプチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する第1のモノマー、およびSEQ ID NO:22のポリペプチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する第2のモノマー;
SEQ ID NO:23のポリペプチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する第1のモノマー、およびSEQ ID NO:24のポリペプチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する第2のモノマー;または
SEQ ID NO:25のポリペプチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する第1のモノマー、およびSEQ ID NO:26のポリペプチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する第2のモノマー
を含む、請求項45または46のいずれか一項記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼ。
【請求項48】
請求項41~47のいずれか一項記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼまたはニッカーゼをコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項49】
高IgE症候群(HIES)の治療において使用するための、請求項41~47のいずれか一項記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼもしくはニッカーゼ、または請求項48記載のポリヌクレオチド。
【請求項50】
T細胞またはHSCを遺伝子編集するために、請求項26~38のいずれか一項記載のポリヌクレオチドドナーテンプレートと組み合わせて使用するための、請求項41~47のいずれか一項記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼもしくはニッカーゼ、または請求項48記載のポリヌクレオチド。
【請求項51】
T細胞またはHSCの集団を改変する方法であって、
・少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列を含むポリヌクレオチドドナーテンプレートを、HIESに罹患している患者に由来するT細胞またはHSCに導入する工程;
・イントロン配列、好ましくは、イントロン7、8、または9における内在性STAT3遺伝子の切断を得るために、DNA切断を誘導する配列特異的試薬を該T細胞またはHSCに導入し、相同組換えまたはNHEJによって該ポリヌクレオチドドナーテンプレートをこの遺伝子座に挿入する工程;ならびに
・任意で、STAT3αアイソフォームおよびSTAT3βアイソフォームの発現のために、該細胞を培養する工程
を含む、方法。
【請求項52】
前記ポリヌクレオチドドナーテンプレートが、請求項26~38のいずれか一項記載のポリヌクレオチドドナーテンプレートである、請求項51記載の方法。
【請求項53】
前記DNA切断を誘導する配列特異的試薬が、請求項41~46のいずれか一項記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼまたはニッカーゼである、請求項51または52記載の方法。
【請求項54】
前記配列特異的試薬が、SEQ ID NO:38においてDNA切断を誘導し、前記ポリヌクレオチドドナーテンプレートがSEQ ID NO:45を含む、請求項51~53のいずれか一項記載の方法。
【請求項55】
(1)請求項26~38のいずれか一項記載のポリヌクレオチドドナーテンプレートと、(2)請求項41~47のいずれか一項記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼとを含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、概して、ゲノム改変(遺伝子編集)の分野に関し、より具体的には、高IgE症候群(HIES)の治療のための遺伝子治療に関する。具体的には、本発明は、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STAT3遺伝子を特異的に標的とし、それによって、正常な細胞表現型の回復を可能にする遺伝子編集試薬、例えば、TALEヌクレアーゼを含む、HSCまたはT細胞を遺伝子改変するための手段および方法を提供する。本発明は、少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列を含む外来性ポリヌクレオチド配列を含む細胞を含む、改変されたHSCまたはT細胞の集団も提供し、ここで、該外来性ポリヌクレオチド配列は、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STAT3遺伝子に組み込まれており、機能性STAT3ポリペプチドの発現をもたらす。本発明は、本発明の細胞集団を含む薬学的組成物、および高IgE症候群(HIES)の治療のための遺伝子治療におけるそれらの使用をさらに提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
高IgE症候群(HIES)は、再発性の皮膚および肺の膿瘍ならびに血清中のIgEレベルの上昇を特徴とする、稀な免疫不全症である[1]。この疾患は、ヨブ症候群としても公知であり、その有病率は100,000人に約1~9人である。HIES患者は、著しく低下した生活の質を有するが、同種造血幹細胞移植(HSCT)は、重篤な副作用、例えば、移植片対宿主病の可能性があるため、一般的に適応されない。
【0003】
HIESにつながる変異は、STAT3遺伝子座に最も高頻度に見出され、DNA結合ドメインまたはSH2ドメインをコードするエクソンにおいて最も高頻度である(図1)。それらは、主として、単一アミノ酸の変化または短いインフレーム欠失をもたらすミスセンス変異である[2~5]。興味深いことに、ナンセンス変異は同定されておらず、このことは、ヘミ接合性が、致死的であるか、または表現型につながらないことを示唆している。STAT3対立遺伝子の完全な欠失を有するマウスは、表現型的に正常である[6]。
【0004】
STAT3の記載されている変異は、ナイーブT細胞のTh17細胞への分化の失敗と、その後のIL-17およびIL-22の分泌の失敗をもたらし、これは、HIES患者の感染に対する感受性の増加を説明する[7~10]。STAT3タンパク質は、活性化によってホモダイマーおよび他のSTATタンパク質とのヘテロダイマーを形成するため、前記の変異の表現型は、機能性STATダイマーの形成を防止する変異型STAT3タンパク質のドミナントネガティブ効果、またはハプロ不全のいずれかによって引き起こされ得る。
【0005】
前述のように、STAT3は、IL-6型サイトカインシグナル伝達の主要なメディエーターであり、細胞の増殖、成熟、および生存の重要な転写調節因子である。さらに、STAT3は、がん発生におけるキープレーヤーとしても、強力な腫瘍抑制因子としても記載されている。この不均一性は、部分的には、異なるアイソフォームとしての発現に依存する。オルタナティブスプライシングは、STAT3αおよびその切断されたバージョンSTAT3βという2つのSTAT3アイソフォームを生じさせる(図2A)。両アイソフォームは、転写活性を有し、生理学的条件および病理学的条件において異なる機能を示す。実際、STAT3αは、転写活性化因子として、またはがん遺伝子として、広く記載されており、一方、STAT3βは、可能性のある腫瘍抑制因子として注目を集めている[11]。
【0006】
劣性遺伝の遺伝性障害の遺伝子治療は、通常、遺伝子付加型アプローチによる、欠損している遺伝子機能の修正または交換を目標とするが、優性変異、または厳密に調節された遺伝子座、例えば、JAK/STAT経路タンパク質をコードする遺伝子の変異[12]によって引き起こされる疾患は、より複雑な戦略を必要とする[13]。しかしながら、一部には、STAT3αアイソフォームおよびSTAT3βアイソフォームを、制御された、バランスの取れた様式で発現させることが困難であるため、高IgE症候群(HIES)を治療するためのそのような遺伝子治療戦略は、未だ提唱されていない。
【0007】
したがって、STAT3遺伝子の複雑な構造全体を考慮に入れた、高IgE症候群(HIES)を治療するための新しい遺伝子治療アプローチが必要とされている。本発明は、HIESを引き起こす変異の修正のみならず、完全なSTAT3遺伝子機能の回復も目標とする。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、適切なSTAT3αアイソフォームおよびSTAT3βアイソフォームの発現を可能にする、高IgE症候群(HIES)を治療するための最初の遺伝子治療アプローチを提供することによって、この必要性に対処する。具体的には、本発明は、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STAT3遺伝子の遺伝子編集のための手段および方法を提供する。結果として、少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列(特にイントロン22)が、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STAT3遺伝子に組み込まれ、それによって、オルタナティブスプライシングを可能にし、結果として両方のSTAT3アイソフォームの発現を可能にすることによって、正常な細胞表現型を回復させている、改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団が提供される。
【0009】
本発明は、以下の項によって、さらに要約され得る:
【0010】
1. HIESに罹患している患者に由来する改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団であって、少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列を含む外来性ポリヌクレオチド配列を含む細胞を含み、該外来性ポリヌクレオチド配列が、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STAT3遺伝子に組み込まれており、機能性STAT3ポリペプチドの発現をもたらす、改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0011】
2. 内在性STAT3遺伝子に組み込まれた外来性ポリヌクレオチド配列が、それぞれSEQ ID NO:2~18のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン8~24より選択される少なくとも1つのエクソンを含む、項1に記載の改変されたHSCまたはT細胞の集団。
【0012】
3. 内在性STAT3遺伝子に組み込まれた外来性ポリヌクレオチド配列が、それぞれSEQ ID NO:2~16のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン8~22より選択される少なくとも1つのエクソンを含む、項1または2に記載の改変されたHSCまたはT細胞の集団。
【0013】
4. 内在性STAT3遺伝子に組み込まれた外来性ポリヌクレオチド配列が、少なくとも、SEQ ID NO:17のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン23をさらに含み、任意で、SEQ ID NO:18のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン24をさらに含む、項3に記載の改変されたHSCまたはT細胞の集団。
【0014】
5. 外来性ポリヌクレオチド配列が、エクソン23の上流に位置しかつエクソン23へのオルタナティブスプライシングを可能にする、SEQ ID NO:27に記載のSTAT3のイントロン22を含む、項4に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0015】
6. 外来性ポリヌクレオチド配列が内在性STAT3遺伝子のイントロン配列に挿入されている、項1~5のいずれか一項に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0016】
7. 外来性ポリヌクレオチド配列が、イントロン7(SEQ ID NO:32)、イントロン8(SEQ ID NO:33)、またはイントロン9(SEQ ID NO:34)より選択される内在性STAT3遺伝子のイントロンに挿入されている、項6に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0017】
8. 外来性ポリヌクレオチド配列が、少なくとも、STAT3のエクソン8~22、STAT3のイントロン22、およびSTAT3のエクソン23~24を、その順に含み、エクソン8~24がそれぞれSEQ ID NO:2~18のアミノ酸配列をコードする、項1~7のいずれか一項に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0018】
9. 外来性ポリヌクレオチド配列が内在性STAT3遺伝子のイントロン7に挿入されている、項8に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0019】
10. 外来性ポリヌクレオチド配列が、少なくとも、STAT3のエクソン9~22、STAT3のイントロン22、およびSTAT3のエクソン23~24を、その順に含み、エクソン9~24がそれぞれSEQ ID NO:3~18のアミノ酸配列をコードする、項1~7のいずれか一項に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0020】
11. 外来性ポリヌクレオチド配列が内在性STAT3遺伝子のイントロン8に挿入されている、項10に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0021】
12. 外来性ポリヌクレオチド配列が、少なくとも、STAT3のエクソン10~22、STAT3のイントロン22、およびSTAT3のエクソン23~24を、その順に含み、エクソン10~24がそれぞれSEQ ID NO:4~18のアミノ酸配列をコードする、項1~7のいずれか一項に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0022】
13. 外来性ポリヌクレオチド配列が内在性STAT3遺伝子のイントロン10に挿入されている、項12に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0023】
14. 外来性ポリヌクレオチド配列に含まれる機能性STAT3の部分配列または完全配列がコドン最適化されている、項1~13のいずれか一項に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0024】
16. 外来性ポリヌクレオチド配列が、機能性STAT3の部分配列または完全配列の上流に、人工スプライス部位、例えば、SEQ ID NO:28またはSEQ ID NO:29に記載の人工スプライス部位を含む、項1~15のいずれか一項に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0025】
17. 外来性ポリヌクレオチド配列が、機能性STAT3ポリペプチドをコードする配列を含む、項1~16のいずれか一項に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0026】
18. 機能性STAT3ポリペプチドが、SEQ ID NO:1に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する、項17に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0027】
19. 機能性STAT3ポリペプチドがSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む、項17に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0028】
20. 外来性ポリヌクレオチド配列が該改変された細胞によるSTAT3αおよびSTAT3βの発現を可能にする、項1~19のいずれか一項に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0029】
21. 該改変された細胞がSTAT3α(SEQ ID NO:19)およびSTAT3β(SEQ ID NO:20)を発現する、項1~20のいずれか一項に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0030】
22. STAT3αが、SEQ ID NO:19に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有し、STAT3βが、SEQ ID NO:20に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する、項20または21に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0031】
23. STAT3αがSEQ ID NO:19のアミノ酸配列を含み、STAT3βがSEQ ID NO:20のアミノ酸配列を含む、項1~18のいずれか一項に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0032】
24. 改変された細胞が、約3:1~約7:1の比率、または約4:1~約6:1の構成、例えば約4:1もしくは約5:1(STAT3α:STAT3β)で、STAT3αアイソフォームおよびSTAT3βアイソフォームを発現する、項1~23のいずれか一項に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0033】
25. 外来性ポリヌクレオチド配列が、DNA切断を誘導する配列特異的試薬、例えば、低頻度切断エンドヌクレアーゼまたはニッカーゼを使用することによる部位特異的遺伝子組み込みによって挿入されている、項1~24のいずれか一項に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0034】
26. 外来性ポリヌクレオチド配列が相同組換えまたは非相同末端結合(NHEJ)によって組み込まれている、項1~25のいずれか一項に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0035】
27. 機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列が内在性STAT3プロモーターの転写制御下で挿入されている、項1~24のいずれか一項に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0036】
28. 内在性STAT3遺伝子が、図1に示される少なくとも1つの変異を含む、項1~27のいずれか一項に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0037】
29. 内在性STAT3遺伝子が、C328_P330dup、H332Y、H332L、R335W、K340E、G342D、c.1020delGAC、V343F、V343L、D369del、c.110-1G>a、c.110-1G>G、c.1139+1G>T、c.1139+1G>A、c.1139+2insT、c.1140-2A>C、R382W、R382L、R382Q、F384S、F384L、T389I、T412A、R423Q、R432M、H437P、H437Y、V463del、S465A、N466D、N466S、N466T、N466K、Q469H、Q469R、N472D、K531E、I568F、K591E、S611N、S611I、S611G、S614G、G617E、G617V、T620A、F621V、S636Y、V637M、V637L、V637A、V638G、P639A、P639、Y640N、K642E、Q644P、Q644del、N647D、E652K、Y657C、Y657N、Y657S、M660T、M663S、I665N、S668F、S668Y、E690_P699del、Y705H、L706P、L706M、T708S、T708N、K709E、F710C、I711T、V713M、V713L、T714I、T714A、およびc.2144+1G>Aからなる群より選択される少なくとも1つの変異を含む、項1~28のいずれか一項に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0038】
30. 該HSCまたはT細胞が初代細胞である、項1~29のいずれか一項に記載の改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団。
【0039】
31. 該細胞がCD34+である、項1~30のいずれか一項に記載の改変された造血幹細胞(HSC)の集団。
【0040】
32. 該T細胞がCD4+またはCD8+である、項1~30のいずれか一項に記載の改変されたT細胞の集団。
【0041】
33. 該T細胞が少なくとも1%、例えば、少なくとも10%の長寿命T細胞、例えば、ナイーブT細胞(Th0)、エフェクターメモリーT細胞(TEM)、セントラルメモリーT細胞(TCM)、および幹細胞メモリーT細胞(TSCM)を含む、項1~30および32のいずれか一項に記載の改変されたT細胞の集団。
【0042】
34. 項1~33のいずれか一項に記載の細胞の集団と、薬学的に許容される賦形剤および/または担体とを含む薬学的組成物。
【0043】
35. 高IgE症候群(HIES)の治療において使用するための、項1~33のいずれか一項に記載の改変されたHSCもしくはT細胞の集団、または項34に記載の薬学的組成物。
【0044】
36. 幹細胞移植、例えば、骨髄移植において使用するための、項1~31のいずれか一項に記載の改変されたHSCの集団、または改変されたHSCの集団を含む項34に記載の薬学的組成物。
【0045】
37. 少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列を含むことを特徴とする、ポリヌクレオチドナーテンプレート、例えば、DNAドナーテンプレート。
【0046】
38. それぞれSEQ ID NO:2~18のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン8~24より選択される少なくとも1つのエクソンを含む、項37に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【0047】
39. それぞれSEQ ID NO:2~16のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン8~22より選択される少なくとも1つエクソンを含む、項37または38に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【0048】
40. 少なくとも、SEQ ID NO:17のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン23をさらに含み、任意で、SEQ ID NO:18のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン24をさらに含む、項39に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【0049】
41. エクソン23の上流に位置しかつエクソン23へのオルタナティブスプライシングを可能にする、SEQ ID NO:27に記載のSTAT3のイントロン22を含む、項38に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【0050】
42. ポリヌクレオチドドナーテンプレートが、少なくとも、STAT3のエクソン8~22、STAT3のイントロン22、およびSTAT3のエクソン23~24を、その順に含み、エクソン8~24がそれぞれSEQ ID NO:2~18のアミノ酸配列をコードする、項37~41のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【0051】
43. ポリヌクレオチドドナーテンプレートが、少なくとも、STAT3のエクソン9~22、STAT3のイントロン22、およびSTAT3のエクソン23~24を、その順に含み、エクソン9~24がそれぞれSEQ ID NO:3~18のアミノ酸配列をコードする、項37~41のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【0052】
44. ポリヌクレオチドドナーテンプレートが、少なくとも、STAT3のエクソン10~22、STAT3のイントロン22、およびSTAT3のエクソン23~24を、その順に含み、エクソン10~24がそれぞれSEQ ID NO:4~18のアミノ酸配列をコードする、項37~41のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【0053】
45. 機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列がコドン最適化されている、項37~44のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【0054】
46. 機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列の上流に、人工スプライス部位、例えば、SEQ ID NO:28またはSEQ ID NO:29に記載の人工スプライス部位を含む、項37~45のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【0055】
47. 機能性STAT3ポリペプチドをコードする配列を含む、項37~46のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【0056】
48. 機能性STAT3ポリペプチドが、SEQ ID NO:1に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する、項47に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【0057】
49. 機能性STAT3ポリペプチドがSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む、項47に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【0058】
50. STAT3αおよびSTAT3βの発現を可能にする、項37~49のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【0059】
51. STAT3αが、SEQ ID NO:19に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有し、STAT3βが、SEQ ID NO:20に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する、項50に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【0060】
52. STAT3αがSEQ ID NO:19のアミノ酸配列を含み、STAT3βがSEQ ID NO:20のアミノ酸配列を含む、項50に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【0061】
53. ポリアデニル化配列、例えば、SV40ポリAをさらに含む、項37~52のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【0062】
54. STAT3をコードする内在性ポリヌクレオチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する左および/または右側の相同配列をさらに含む、項37~53のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【0063】
55. 左および/または右側の相同配列が、SEQ ID NO:30、31、または32に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む、項54に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【0064】
56. SEQ ID NO:33に対して少なくとも70%の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む、項37~55のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート。
【0065】
57. 項37~56のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレートを含むAAVベクターまたはIDLVベクター。
【0066】
58. AAV6ベクターである、項57に記載のAAVベクター。
【0067】
59. 高IgE症候群(HIES)の治療において使用するための、項37~56のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレート、または項57もしくは58に記載のベクター。
【0068】
60. STAT3遺伝子内の配列、好ましくは、イントロン7ポリヌクレオチド配列(SEQ ID NO:30)、イントロン8ポリヌクレオチド配列(SEQ ID NO:31)、またはイントロン9ポリヌクレオチド配列(SEQ ID NO:32)に含まれる配列を切断することができることを特徴とする低頻度切断エンドヌクレアーゼまたはニッカーゼ。
【0069】
61. 低頻度切断エンドヌクレアーゼが、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEヌクレアーゼ、megaTAL、またはRNA誘導型エンドヌクレアーゼである、項60に記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼ。
【0070】
62. TALEヌクレアーゼである、項60または61に記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼ。
【0071】
63. TALEヌクレアーゼが、SEQ ID NO:38、SEQ ID NO:39、およびSEQ ID NO:40より選択されるSTAT3ポリヌクレオチド配列を標的とするモノマーを含む、項56に記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼ。
【0072】
64. TALEヌクレアーゼモノマーが、SEQ ID NO:21~26のいずれかのポリペプチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する、項63に記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼ。
【0073】
65. TALEヌクレアーゼが、SEQ ID NO:21のポリペプチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する第1のモノマー、およびSEQ ID NO:22のポリペプチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する第2のモノマー;SEQ ID NO:23のポリペプチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する第1のモノマー、およびSEQ ID NO:24のポリペプチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する第2のモノマー;またはSEQ ID NO:25のポリペプチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する第1のモノマー、およびSEQ ID NO:26のポリペプチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する第2のモノマーを含む、項62または63に記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼ。
【0074】
66. 項60~65のいずれか一項に記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼまたはニッカーゼをコードするポリヌクレオチド。
【0075】
67. 高IgE症候群(HIES)の治療において使用するための、項60~65のいずれか一項に記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼもしくはニッカーゼ、または項66に記載のポリヌクレオチド。
【0076】
68. T細胞またはHSCを遺伝子編集するために、項37~56のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレートと組み合わせて使用するための、項60~65のいずれか一項に記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼもしくはニッカーゼ、または項66に記載のポリヌクレオチド。
【0077】
69. エクスビボでT細胞またはHSCを遺伝子編集するために使用するための、項68に記載の使用のための低頻度切断エンドヌクレアーゼ。
【0078】
70. 項37~56のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレートおよび/または項66に記載のポリヌクレオチドによってトランスフェクトされていることを特徴とする、造血細胞系譜由来の細胞。
【0079】
71. 治療用組成物または細胞の集団の製造において使用するための、項70に記載の細胞。
【0080】
72. 以下の工程を含む、T細胞またはHSCの集団を改変する方法:
少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列を含むポリヌクレオチドドナーテンプレートを、HIESに罹患している患者に由来するT細胞またはHSCに導入する工程;
イントロン配列、好ましくは、イントロン7、8、または9における内在性STAT3遺伝子の切断を得るために、DNA切断を誘導する配列特異的試薬を該T細胞またはHSCに導入し、相同組換えまたはNHEJによって該ポリヌクレオチドドナーテンプレートをこの遺伝子座に挿入する工程;ならびに
任意で、STAT3αアイソフォームおよびSTAT3βアイソフォームの発現のために該細胞を培養する工程。
【0081】
73. ポリヌクレオチドドナーテンプレートが項37~56のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドドナーテンプレートである、項72に記載の方法。
【0082】
74. ポリヌクレオチドドナーテンプレートが項51または52に記載のベクターを介してT細胞またはHSCに導入される、項72または73に記載の方法。
【0083】
75. DNA切断を誘導する配列特異的試薬が項60~65のいずれか一項に記載の低頻度切断エンドヌクレアーゼまたはニッカーゼである、項72~74のいずれか一項に記載の方法。
【0084】
76. 項72~75のいずれか一項に記載の方法によって得られ得る細胞の集団。
【0085】
77. 治療的に有効な量の、項1~33のいずれか一項に記載のHSCもしくはT細胞の集団、または項34に記載の薬学的組成物を、患者に投与することを含む、それを必要とする患者における高IgE症候群(HIES)を治療する方法。
【0086】
78. 少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列の異種発現によって、それを必要とする患者における高IgE症候群(HIES)を治療する方法であって、該異種の部分的または完全なSTAT3遺伝子配列がT細胞におけるSTAT3αアイソフォームおよびSTAT3βアイソフォームの機能的発現を回復させる、方法。
【0087】
79. 部分的または完全なSTAT3遺伝子配列が項1~25のいずれか一項定義の外来性ポリヌクレオチド配列に含まれる、項78に記載の方法。
【0088】
80. STAT3アイソフォームの機能的発現が約3:1~約7:1または約4:1~6:1、例えば、約4:1もしくは約5:1(STAT3α:STAT3β)の比率を可能にする、項79に記載の方法。
【0089】
81. 遺伝子治療によって、それを必要とする患者における高IgE症候群(HIES)を治療する方法であって、該遺伝子治療が、標的特異的(targeted)遺伝子組み込みによって、少なくとも1つの修正されたSTAT3エクソン配列を、HSCまたはT細胞の内在性ゲノムSTAT3配列に導入することを含む、方法。
【0090】
82. HSCまたはT細胞が患者に由来する、項81に記載の方法。
【0091】
83. 遺伝子治療が項1~25のいずれか一項定義の少なくとも1つの外来性STAT3遺伝子配列をHSCまたはT細胞に導入することを含む、項81または82に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0092】
図1】高IgE症候群を引き起こすSTAT3変異。STAT3遺伝子座および疾患を引き起こす公知の変異の概略図。エクソン領域1~24がボックスとして図示され、STAT3遺伝子の機能性領域が異なる灰色の影で強調されている。全ての公知のSTAT3変異が、エクソン10~24に及ぶメインクラスターと共に列挙されており、黒い線はゲノム内の領域を指している。
図2】遺伝子編集戦略。(A)STAT3遺伝子座およびmRNA。STAT3エクソン1~24がボックスとして図示され、それらを結ぶ線としてイントロン配列が示されている。STAT3αアイソフォーム(灰色ボックスセグメント)およびSTAT3βアイソフォーム(黒色ボックスセグメント)を生じるためのエクソン22~23のオルタナティブスプライシングが強調されている。エクソン7~10は、3つの異なるTALEN標的部位を強調するために拡大されている。(B)AAV6ドナーベクター設計。3つの対応するドナーが、コードされた各STAT3エクソンを示す矢印付きボックスで示されている。組み込みは、各構築物に特異的なドナーテンプレートに隣接する左右の相同アーム(HA)によって媒介される。切断およびドナー組み込みは、STAT3αアイソフォームおよびSTAT3βアイソフォームの発現のために必要とされるオルタナティブなスプライスドナー部位およびスプライスアクセプター部位を含有している全長STAT3転写物を生成する。
図3】インデル頻度の査定。(A~B)未処理(-)T細胞、またはTALEN i7、TALEN i8、もしくはTALEN i9で処理された(+)T細胞からのT7E1アッセイ結果。代表的なアガロースゲル(A)または棒グラフ(B)が示される。(C)示されたTALENで処理されたT細胞(+)または未処理のT細胞(-)のNGSによる遺伝子型決定。NGS分析の結果が棒グラフで示される。
図4-1】標的特異的組み込みおよび相対導入遺伝子発現の査定。(A~B)単独で、または増加する量の対応するドナーと共に、TALEN i7またはTALEN i9が誘導した標的特異的組み込みの検出。イン/アウト(In/out)-PCRを、アガロースゲル電気泳動によって定性的に(A)、ddPCRによって定量的に(B)査定した。(C~D)示された編集された細胞におけるSTAT3導入遺伝子特異的mRNA発現。RT-PCRを、アガロースゲル電気泳動によって定性的に(C)、RT-ddPCRによって定量的に(D)査定した。導入遺伝子発現は、STAT3αおよびSTAT3βの内在性発現に対して相対的に表示される。(E)STAT3β/α比:RT-ddPCRによって定量化された導入遺伝子および内在性遺伝子(endogene)からのSTAT3β/α mRNA比。β/α比の信頼区間(CI)は、未処理細胞における内在性mRNA発現に基づき決定された。E:内在性遺伝子、ST:STAT3導入遺伝子。
図4-2】図4-1の説明を参照。
図5】3人の高IgE症候群患者のPBMCの特徴決定。(A)健常ドナー(HD)、または変異V637M、R382W、およびK340Eを有する高IgE症候群患者に由来するPBMCにおけるIL-6処理後(+)または未処理時(-)の相対STAT3p/STAT3タンパク質発現。(B)HD、V637M、R382W、およびK340Eに由来するPBMCにおけるIL-6処理後(+)または未処理時(-)のSOCS3発現。(C~F)HD、V637M、R382W、およびK340Eに由来するPBMCにおけるPMA/イオノマイシン刺激後(+)または未刺激時(-)のサイトカインIL-17(C)、IFNγ(D)、TNF(E)、およびIL-10(F)の放出。グラフ内の数字は、未刺激対照に対する増加倍率である。
図6】3人の高IgE症候群患者のPBMCにおける遺伝子編集アプローチのバリデーション。(A~B)HD、V637M、R382W、およびK340Eに由来するTALEN編集(+)PBMCのT7E1アッセイ結果。未処理対照(-)。代表的なアガロースゲル(A)および棒グラフ(B)が示される。(C)HD、V637M、R382W、およびK340Eに由来する未処理のPBMC、TALEN i7で処理されたPBMC、およびTALEN i7/AAV i7で処理されたPBMCにおける定量的イン/アウトddPCRによって測定された標的特異的組み込み効率。(D)STAT3導入遺伝子特異的mRNA発現。導入遺伝子発現は、STAT3αおよびSTAT3βの内在性発現に対して相対的に表示される。(E)再刺激(CD2/CD3/CD28)後または未再刺激時の、HD、V637M、R382W、およびK340Eに由来する未処理のPBMC、TALEN i7で処理されたPBMC、およびTALEN i7/AAV i7で処理されたPBMCのT細胞サブセット分析。エフェクター表現型(Teff+Tem)およびセントラルメモリー表現型(Tcm+Tscm)の百分率が示される。
【発明を実施するための形態】
【0093】
発明の詳細な説明
本明細書において特に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、遺伝子治療、生化学、遺伝学、および分子生物学の分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0094】
本明細書に記載されるものと類似または同等の全ての方法および材料が、本発明の実施または試行において使用され得るが、適切な方法および材料が本明細書に記載される。本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、その全体が参照によって組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が優先される。さらに、材料、方法、および例は、他に明示されない限り、例示的なものに過ぎず、限定するためのものではない。
【0095】
本発明の実施は、他に示されない限り、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、遺伝学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA、および免疫学の従来の技術を利用するが、これらは当業者の技能の範囲内である。そのような技術は、文献において十分に説明されている。例えば、Current Protocols in Molecular Biology[Frederick M.AUSUBEL(2000)Wiley and son Inc,Library of Congress,USA;Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Third Edition][Sambrook et al(2001)Cold Spring Harbor,New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press];Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait ed.,1984);Mullisら、米国特許第4,683,195号;Nucleic Acid Hybridization(B.D.Harries & S.J.Higgins eds.1984);Transcription And Translation(B.D.Hames & S.J.Higgins eds.1984);Culture Of Animal Cells(R.I.Freshney,Alan R.Liss,Inc.,1987);Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press,1986);B.Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning(1984);the series,Methods In ENZYMOLOGY(J.Abelson and M.Simon,eds.-in-chief,Academic Press,Inc.,New York)、特に、Vols.154および155(Wu et al.eds.)ならびにVol.185,"Gene Expression Technology"(D.Goeddel,ed.);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells(J.H.Miller and M.P.Calos eds.,1987,Cold Spring Harbor Laboratory);Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology(Mayer and Walker,eds.,Academic Press,London,1987);Handbook Of Experimental Immunology,Volumes I-IV(D.M.Weir and C.C.Blackwell,eds.,1986);ならびにManipulating the Mouse Embryo(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1986)を参照すること。
【0096】
本発明の細胞および細胞集団
本発明者の知る限り、本発明は、適切なSTAT3αアイソフォームおよびSTAT3βアイソフォームの発現を可能にする、高IgE症候群(HIES)を治療するための最初の遺伝子治療アプローチである。具体的には、本発明は、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STAT3遺伝子の遺伝子編集のための手段および方法を提供する。結果として、少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列を含む外来性ポリヌクレオチド配列を含む細胞を含む、改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団が提供され、ここで、該外来性ポリヌクレオチド配列は、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STAT3遺伝子に組み込まれており、機能性STAT3ポリペプチドの発現をもたらす。
【0097】
HIESにつながる大部分の変異が主にDNA結合ドメインおよびSH2ドメインに影響するため(図1)、本発明は、具体的には、HIESに罹患した患者のHSCまたはT細胞における内在性STAT3遺伝子のイントロン7の下流の欠陥STAT3遺伝子配列を、修正STAT3配列に交換し、それによって、オルタナティブスプライシングを可能にし、したがって、両方のSTAT3アイソフォームの発現を可能にすることによって、正常な細胞表現型を回復させることを目標とする。通常、修正STAT3配列は、少なくとも、HIES患者の内在性STAT3遺伝子におけるHIESを引き起こす変異を保持するエクソンとして同定されたSTAT3のエクソンを含むべきである。例えば、本発明の意味における修正STAT3配列は、それぞれSEQ ID NO:2~18のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン8~24より選択される少なくとも1つのエクソンを含み得る。修正STAT3配列は、例えば、少なくともエクソン8~24、少なくともエクソン9~24、または少なくともエクソン10~24を、それぞれ、包含していてよく、エクソン23へのオルタナティブスプライシングを可能にするためのイントロン22(280bp)も包含していてよい。さらに、STAT3の他のイントロン、特に、それぞれのエクソンに隣接するものの存在は、除外されない。そのようなさらなるイントロンも、これが好ましい場合、修正STAT3配列に含まれていてよい。
【0098】
本発明は、内在性STAT3遺伝子内の任意のイントロンにおける修正STAT3配列の標的特異的組み込みを企図するが、標的特異的組み込みのための最も適切な部位は、STAT3のイントロン7、8、または9である。そのようなアプローチは、イントロン7の下流にある、疾患を引き起こす全ての変異を、全く同じ戦略およびツールでそれぞれ修正することができるため、単一のアプローチを使用した、HIES患者の大多数の治療を可能にする。臨床的な観察に基づき、修正STAT3配列(例えば、エクソン8-22 - イントロン22 - エクソン23-24)の標的特異的組み込みは、オルタナティブスプライシングを可能にし、したがって、両方のSTAT3アイソフォームの発現を可能にすることによって、正常な細胞表現型を回復させる。対立遺伝子特異的な遺伝子破壊は、高度に個別化された治療アプローチとなるが、少なくとも部分的なイントロン含有外来性STAT3遺伝子配列の、選択された内在性STAT3イントロンへの標的特異的組み込みは、この厳密に調節された遺伝子の変異によって引き起こされる大部分のSTAT3障害を治療するためのパラダイムとして機能する強力な治療オプションとなる。
【0099】
したがって、一般的な局面において、本発明は、少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列を含む外来性ポリヌクレオチド配列を含む細胞を含む、改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団に関し、ここで、該外来性ポリヌクレオチド配列は、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STAT3遺伝子に組み込まれており、機能性STAT3ポリペプチドの発現をもたらす。
【0100】
より具体的には、本発明は、少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列を含む外来性ポリヌクレオチド配列を含む細胞を含む、HIESに罹患している患者に由来する改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞の集団に関し、ここで、該外来性ポリヌクレオチド配列は、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STAT3遺伝子に組み込まれており、機能性STAT3ポリペプチドの発現をもたらす。
【0101】
好ましくは、細胞集団の全細胞の少なくとも10%が、少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列を含む外来性ポリヌクレオチド配列を含む細胞であり、ここで、該外来性ポリヌクレオチド配列は、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STAT3遺伝子に組み込まれており、機能性STAT3ポリペプチドの発現をもたらす。
【0102】
いくつかの態様によると、細胞集団の全細胞の少なくとも20%、例えば、少なくとも30%または少なくとも40%が、少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列を含む外来性ポリヌクレオチド配列を含む細胞であり、ここで、該外来性ポリヌクレオチド配列は、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STAT3遺伝子に組み込まれており、機能性STAT3ポリペプチドの発現をもたらす。
【0103】
いくつかの態様によると、細胞集団の全細胞の少なくとも50%、例えば、少なくとも60%または少なくとも70%が、少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列を含む外来性ポリヌクレオチド配列を含む細胞であり、ここで、該外来性ポリヌクレオチド配列は、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STAT3遺伝子に組み込まれており、機能性STAT3ポリペプチドの発現をもたらす。
【0104】
いくつかの態様によると、細胞集団の全細胞の少なくとも80%、例えば、少なくとも90%または少なくとも95%が、少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列を含む外来性ポリヌクレオチド配列を含む細胞であり、ここで、該外来性ポリヌクレオチド配列は、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STAT3遺伝子に組み込まれており、機能性STAT3ポリペプチドの発現をもたらす。
【0105】
「機能性STAT3遺伝子」とは、機能性ヒトSTAT3ポリペプチド、好ましくは、SEQ ID NO:1のSTAT3ポリペプチド、より具体的には、2つのSTAT3アイソフォーム、STAT3α(SEQ ID NO:19)およびSTAT3β(SEQ ID NO:20)の発現と同時に起こる、DNAまたはRNAのいずれかの形態の遺伝子配列のアセンブリを意味する。「機能性STAT3遺伝子」は、疾患状態、例えば、高IgE症候群(HIES)を引き起こす変異を含有しておらず、オルタナティブスプライシングを可能にし、したがって、両方のSTAT3アイソフォームの発現を可能にすることによって、正常な細胞表現型を提供する。
【0106】
「機能性STAT3ポリペプチド」とは、ヒト集団内の健常対象に存在するSTAT3ポリペプチド、例えば、SEQ ID NO:1の代表的なSTAT3配列、より具体的には、2つのSTAT3アイソフォーム、STAT3α(SEQ ID NO:19)およびSTAT3β(SEQ ID NO:20)を意味する。機能性STAT3ポリペプチドの定義には、Th17細胞分化に対する同等の効果を保持しながら、SEQ ID NO:1に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する、SEQ ID NO:1のヒト変異体が包含される。
【0107】
いくつかの態様によると、集団は、改変されたHSCの集団である。好ましくは、改変されたHSCの集団は、少なくとも50%、より好ましくは、少なくとも70%、さらに好ましくは、少なくとも90%のCD34+細胞を含む。
【0108】
いくつかの態様によると、集団は、改変されたT細胞の集団である。T細胞は、CD4+またはCD8+であり得る。いくつかの態様によると、該T細胞は、少なくとも1%、好ましくは、少なくとも5%、より好ましくは、少なくとも10%、さらに好ましくは、少なくとも15%、最も好ましくは、少なくとも20%の長寿命T細胞、例えば、ナイーブT細胞(Th0)、エフェクターメモリーT細胞(TEM)、セントラルメモリーT細胞(TCM)、および幹細胞メモリーT細胞(TSCM)を含む。
【0109】
集団に含まれるHSCまたはT細胞は、初代細胞であり得る。初代細胞は、より機能的であり、腫瘍形成性が低いと見なされるため、細胞治療において一般的に使用されている。通常、初代細胞は、当技術分野において公知の多様な方法を通じて、例えば、Schwartz J.ら[Guidelines on the use of therapeutic apheresis in clinical practice-evidence-based approach from the Writing Committee of the American Society for Apheresis:the sixth special issue(2013)J.Clin.Apher.28(3):145-284]によって概説されたような白血球アフェレーシス技術によって、HIESに罹患している患者から得られ得る。HSCおよび前駆細胞は、針または注射器を使用して、骨髄から、より具体的には、骨盤の腸骨稜から採取され得る。あるいは、細胞が骨髄を離れ、血管内を循環するよう誘導するHSC動員剤、例えば、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)および/またはプレリキサホルを血液ドナーに注射しながら、循環末梢血からHSCを採集してもよい。HSCは、臍帯血から採集されてもよい。
【0110】
HSCまたはT細胞は、通常、ヒト細胞である。
【0111】
いくつかの態様によると、内在性STAT3遺伝子に組み込まれた外来性ポリヌクレオチド配列は、それぞれSEQ ID NO:2~18のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン8~24より選択される少なくとも1つのエクソンを含む。
【0112】
いくつかの態様によると、内在性STAT3遺伝子に組み込まれた外来性ポリヌクレオチド配列は、それぞれSEQ ID NO:2~16のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン8~22より選択される少なくとも1つのエクソンを含む。
【0113】
いくつかの態様によると、内在性STAT3遺伝子に組み込まれた外来性ポリヌクレオチド配列は、少なくとも、それぞれSEQ ID NO:2~16のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン8~22を含む。
【0114】
いくつかの態様によると、内在性STAT3遺伝子に組み込まれた外来性ポリヌクレオチド配列は、少なくとも、それぞれSEQ ID NO:3~16のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン9~22を含む。
【0115】
いくつかの態様によると、内在性STAT3遺伝子に組み込まれた外来性ポリヌクレオチド配列は、少なくとも、それぞれSEQ ID NO:4~16のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン10~22を含む。
【0116】
いくつかの態様によると、内在性STAT3遺伝子に組み込まれた外来性ポリヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:17のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン23をさらに含み、SEQ ID NO:18のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン24を任意でさらに含む。
【0117】
いくつかの態様によると、外来性ポリヌクレオチド配列は、エクソン23の上流に位置しかつエクソン23へのオルタナティブスプライシングを可能にする、SEQ ID NO:27に記載のSTAT3のイントロン22を含む。
【0118】
いくつかの態様によると、外来性ポリヌクレオチド配列は、内在性STAT3遺伝子のイントロン配列に挿入されている。
【0119】
いくつかの態様によると、外来性ポリヌクレオチド配列は、イントロン7(SEQ ID NO:30)、イントロン8(SEQ ID NO:31)、またはイントロン9(SEQ ID NO:32)より選択される内在性STAT3遺伝子のイントロンに挿入されている。
【0120】
いくつかの態様によると、外来性ポリヌクレオチド配列は、内在性STAT3遺伝子のイントロン7(SEQ ID NO:30)に挿入されている。
【0121】
いくつかの態様によると、外来性ポリヌクレオチド配列は、内在性STAT3遺伝子のイントロン8(SEQ ID NO:31)に挿入されている。
【0122】
いくつかの態様によると、外来性ポリヌクレオチド配列は、内在性STAT3遺伝子のイントロン9(SEQ ID NO:32)に挿入されている。
【0123】
いくつかの態様によると、外来性ポリヌクレオチド配列は、少なくとも、STAT3のエクソン8~22、STAT3のイントロン22、およびSTAT3のエクソン23~24を、その順に連続して(即ち、5'から3'へ)含み、ここで、エクソン8~24は、それぞれSEQ ID NO:2~18のアミノ酸配列をコードする。適切には、外来性ポリヌクレオチド配列は、内在性STAT3遺伝子のイントロン7に挿入されている。
【0124】
いくつかの態様によると、外来性ポリヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:33、SEQ ID NO:34、SEQ ID NO:35、SEQ ID NO:36、またはSEQ ID NO:37のポリヌクレオチド配列を含む。適切には、外来性ポリヌクレオチド配列は、内在性STAT3遺伝子のイントロン7に挿入されている。
【0125】
いくつかの態様によると、外来性ポリヌクレオチド配列は、少なくとも、STAT3のエクソン9~22、STAT3のイントロン22、およびSTAT3のエクソン23~24を、その順に連続して(即ち、5'から3'へ)含み、ここで、エクソン9~24は、それぞれSEQ ID NO:3~18のアミノ酸配列をコードする。適切には、外来性ポリヌクレオチド配列は、内在性STAT3遺伝子のイントロン8に挿入されている。
【0126】
いくつかの態様によると、外来性ポリヌクレオチド配列は、少なくとも、STAT3のエクソン10~22、STAT3のイントロン22、およびSTAT3のエクソン23~24を、その順に連続して(即ち、5'から3'へ)含み、ここで、エクソン10~24は、それぞれSEQ ID NO:4~18のアミノ酸配列をコードする。適切には、外来性ポリヌクレオチド配列は、内在性STAT3遺伝子のイントロン9に挿入されている。
【0127】
通常、内在性STAT3遺伝子に組み込まれた後、外来性ポリヌクレオチド配列は、改変された細胞による、好ましくは、SEQ ID NO:1の、機能性STAT3ポリペプチドの発現、より具体的には、2つのSTAT3アイソフォーム、STAT3αおよびSTAT3βの発現を可能にする。好ましくは、改変された細胞は、約3:1~7:1または約4:1~約6:1、例えば、約4:1もしくは約5:1(STAT3α:STAT3β)の比率でSTAT3αアイソフォームおよびSTAT3βアイソフォームを発現する。いくつかの態様によると、改変された細胞は、約4:1(STAT3α:STAT3β)の比率で、STAT3αアイソフォームおよびSTAT3βアイソフォームを発現する。いくつかの態様によると、改変された細胞は、約5:1(STAT3α:STAT3β)の比率で、STAT3αアイソフォームおよびSTAT3βアイソフォームを発現する。いくつかの態様によると、改変された細胞は、約6:1(STAT3α:STAT3β)の比率で、STAT3αアイソフォームおよびSTAT3βアイソフォームを発現する。
【0128】
機能性STAT3ポリペプチドの発現を改善し、内在性STAT3コード配列との相同組換えを回避するために、外来性ポリヌクレオチド配列に含まれる機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列は、コドン最適化されていてよい。したがって、いくつかの態様によると、機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列は、コドン最適化されている。
【0129】
「コドン最適化された」とは、少なくとも1つの、または複数の、または相当数のコドンを、その脊椎動物の遺伝子においてより高頻度に使用される1つまたは複数のコドンに交換することによって、所定の脊椎動物、例えば、ヒトまたはその他の哺乳動物の細胞における発現のために、ポリヌクレオチド配列が適合化されていることを意味する。したがって、機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列は、コドン最適化に基づき、所定の生物における最適な遺伝子発現のために調整され得る。コドン最適化は、例えば、(Kazusa DNA Research Institute(Japan)によって管理されている)http://www.kazusa.or.jp/codon/において入手可能な「コドン使用データベース(Codon Usage Database)」にある、確立されたコドン使用表、またはその他の種類のコンピュータアルゴリズムに基づき、実施され得る。非限定的な例は、タンパク質発現の種々の段階に関与する多様な重要因子、例えば、コドン適合性、mRNA構造、ならびに転写および翻訳における様々なシスエレメントを考慮に入れる、GenScript(登録商標)のOptimumGene PSOアルゴリズムである。コドン使用表またはその他の種類のコンピュータアルゴリズムを活用することによって、当業者は、任意の所定のポリペプチド配列に頻度を適用し、そのポリペプチドをコードするが、所定の生物にとって最適なコドンを使用するコドン最適化されたコード領域の核酸断片を作製することができる。
【0130】
好ましくは、コドン最適化は、クリプティックスプライシング部位の除去も含み、マイクロRNA標的部位、および/または翻訳を妨害するmRNA二次構造を生成するであろう配列の除去も含む。したがって、いくつかの態様によると、コドン最適化された配列は、少なくとも1つのクリプティックスプライシング部位を除去するために、かつ/または少なくとも1つのマイクロRNA標的部位、および/もしくは翻訳を妨害するmRNA二次構造を生成するであろう配列を除去するために、さらに最適化されている。クリプティックスプライシング部位の予測を可能にするコンピュータアルゴリズムは、当業者に周知であり、例えば、http://wangcomputing.com/assp/において入手可能なスプライス予測ツールを含む。同様に、当業者は、miRNA標的部位を同定するために、確立されたコンピュータアルゴリズム、例えば、http://mirdb.org/において入手可能なmiRNA標的予測ツールを使用することができる。コドン最適化は、標的特異的遺伝子組み込みの過程に干渉し得る、望ましくない遺伝子組換えを促す、同一のポリヌクレオチド配列を除去することも可能にする。
【0131】
外来性ポリヌクレオチド配列は、機能性STAT3の部分配列または完全配列の上流に、天然または人工のスプライス部位を含み得る。そのようなスプライス部位は、下流配列のより容易なスプライシング、および/またはより良好な転写/翻訳を可能にするという利点を有する。したがって、いくつかの態様によると、外来性ポリヌクレオチド配列は、機能性STAT3の部分配列または完全配列の上流に、天然または人工のスプライス部位を含む。いくつかの態様によると、外来性ポリヌクレオチド配列は、機能性STAT3の部分配列または完全配列の上流に、人工スプライス部位、例えば、SEQ ID NO:28またはSEQ ID NO:29に記載の人工スプライス部位を含む。
【0132】
さらに、mRNAからのコード配列の翻訳の調節を可能にするために、外来性ポリペプチド配列は、天然または人工のスプライス部位と、機能性STAT3の部分配列または完全配列との間に置かれた(リーダー配列、転写物リーダー、またはリーダーRNAとしても公知の)5'非翻訳領域(5'UTR)をさらに含み得る。そのような5'UTRの非限定的な例は、SEQ ID NO:5UTRに示される。
【0133】
好ましくは、外来性ポリヌクレオチド配列は、相同組換えまたは非相同末端結合(NHEJ)によって組み込まれる。さらに、外来性ポリヌクレオチド配列に含まれる機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列は、内在性STAT3プロモーターの転写制御下で挿入されている。
【0134】
外来性ポリヌクレオチド配列の内在性STAT3遺伝子への標的特異的(即ち、部位特異的)組み込みは、DNA切断を誘導する配列特異的試薬、例えば、低頻度切断エンドヌクレアーゼまたはニッカーゼを使用することによって適切に実施される。したがって、いくつかの態様によると、外来性ポリヌクレオチド配列は、DNA切断を誘導する配列特異的試薬を使用することによって、部位特異的遺伝子組み込みによって挿入されている。DNA切断を誘導する配列特異的試薬に関するさらなる詳細を以下に示し、準用する。
【0135】
前述のように、HIESにつながる大部分の変異が、DNA結合ドメインおよびSH2ドメインに影響する(図1)。したがって、内在性STAT3遺伝子は、C328_P330dup、H332Y、H332L、R335W、G342D、c.1020delGAC、K340E、V343F、V343L、D369del、c.110-1G>a、c.110-1G>G、c.1139+1G>T、c.1139+1G>A、c.1139+2insT、c.1140-2A>C、R382W、R382L、R382Q、F384S、F384L、T389I、T412A、R423Q、R432M、H437P、H437Y、V463del、S465A、N466D、N466S、N466T、N466K、Q469H、Q469R、N472D、K531E、I568F、K591E、S611N、S611I、S611G、S614G、G617E、G617V、T620A、F621V、S636Y、V637M、V637L、V637A、V638G、P639A、P639、Y640N、K642E、Q644P、Q644del、N647D、E652K、Y657C、Y657N、Y657S、M660T、M663S、I665N、S668F、S668Y、E690_P699del、Y705H、L706P、L706M、T708S、T708N、K709E、F710C、I711T、V713M、V713L、T714I、T714A、およびc.2144+1G>Aからなる群より選択される少なくとも1つの変異を含み得る。
【0136】
本発明の範囲内にさらに含まれるのは、前記において詳述されたような改変された造血幹細胞(HSC)またはT細胞である。具体的には、本発明は、少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列を含む外来性ポリヌクレオチド配列を含む造血幹細胞(HSC)またはT細胞を提供し、ここで、該外来性ポリヌクレオチド配列は、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STAT3遺伝子に組み込まれており、機能性STAT3ポリペプチドの発現をもたらす。より具体的には、本発明は、少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列を含む外来性ポリヌクレオチド配列を含む、HIESに罹患している患者に由来する造血幹細胞(HSC)またはT細胞を提供し、ここで、該外来性ポリヌクレオチド配列は、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STAT3遺伝子に組み込まれており、機能性STAT3ポリペプチドの発現をもたらす。
【0137】
細胞の集団に関して前記において与えられた全ての詳細、具体的には、外来性ポリヌクレオチド配列および細胞の型に関する詳細は、本発明の改変された造血幹細胞(HSC)およびT細胞にも当てはまることが理解される。
【0138】
本発明は、本明細書に開示される作製方法のいずれかによって得られ得る、改変されたHSCまたはT細胞、および改変されたHSCまたはT細胞の集団をさらに提供する。
【0139】
本発明による遺伝子編集のための手段および方法
本発明は、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STAT3遺伝子を特異的に標的とし、それによって、正常な細胞表現型の回復を可能にする遺伝子編集試薬を含む、HSCまたはT細胞を遺伝子改変するための手段および方法をさらに提供する。遺伝子機能を達成するための標的特異的(即ち、部位特異的)組み込みは、DNA切断を誘導する配列特異的試薬、例えば、低頻度切断エンドヌクレアーゼまたはニッカーゼと、標的部位に対して相同性を保持しており、修正配列を含む外来性ポリヌクレオチドドナーテンプレートとを使用することによって、適切に実施される。標的特異的組み込みは、Ownsら[15]、Voigtら[16]、またはBhattおよびChalmers[17]に記載されているような、転位を誘導する配列特異的試薬を使用しても達成され得る。
【0140】
したがって、本発明は、高IgE症候群(HIES)を引き起こす少なくとも1つの変異を含む内在性STAT3遺伝子を特異的に標的とするDNA切断を誘導する配列特異的試薬と、標的部位に対して相同性を保持しかつ修正配列を含む(好ましくは最適化されている)ポリヌクレオチドドナーテンプレートとを提供する。
【0141】
したがって、本発明は、少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列を含むことを特徴とするポリヌクレオチドドナーテンプレートを提供する。細胞に対して外来性であるそのようなポリヌクレオチドドナーテンプレートは、種々の形態で提供され得、細胞内に電気穿孔され得る二本鎖もしくは一本鎖のポリヌクレオチド、例えば、一本鎖DNA(ssDNA)として提供されてもよいし、またはウイルス形質導入を通じてウイルスベクター、好ましくは、AAVベクターの一部として提供されてもよい。これらのポリヌクレオチドドナーテンプレートは、当技術分野において周知の方法によって細胞に導入される。
【0142】
本発明において、一本鎖DNAおよび二本鎖DNAは、いくつかの点でウイルスベクターより有利であり得る。例えば、一本鎖DNAおよび二本鎖DNAは、ベクター特異的配列、例えば、LTRおよびITRを含有していない。それらは、作製過程における望ましくないプラスミド配列の混入を回避することもできる。さらに、ssDNAおよびdsDNAは、宿主細胞において作製されるウイルスベクターより安価に優良製造規範(good manufacturing practices)(GMP)下で作製可能である。いくつかの態様によると、一本鎖DNA(「ssDNA」)または二本鎖DNA(dsDNA)は、DNA末端の保護、またはドナーテンプレートを分解から保護する特定の構造(例えば、ヘアピン、ループ)を含み得る。それらは、WO2012065143に記載されているような修飾、例えば、修飾された糖部分または修飾されたヌクレオシド間結合も含み得る。いくつかの態様において、dsDNA末端は共有結合的に閉鎖され得る。ssDNAおよびdsDNAの配列は、通常、インビトロで合成され、したがって、修飾された塩基(例えば、メチル化、ビオチン化等)の任意での組み入れを可能にするため、より容易に最適化され得る。いくつかの態様において、ssDNAおよびdsDNAの配列には、部位特異的ヌクレアーゼの配列、例えば、本発明に記載されるものを組み入れることができる。特異性に関して、ssDNAは、古典的な相同組換え(rad51依存性)ではなく、rad51非依存性の機序に主に頼るため、より特異的で安定的なゲノム組み込みを可能にすると見なされている。そのような組み込みは、特定の分子、例えば、53BP1の阻害剤および/もしくはGSE56;ならびに/またはsiRNA、例えば、rad51siRNA;ならびに/またはRad59mRNAもしくはヘリカーゼmRNA、例えば、Srs2、UvrD、PcrA、Rep、もしくはFBH1で細胞を処理することによって、さらに促進され得る。
【0143】
いくつかの態様によると、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、それぞれSEQ ID NO:2~18のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン8~24より選択される少なくとも1つのエクソンを含む。
【0144】
いくつかの態様によると、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、それぞれSEQ ID NO:2~16のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン8~22より選択される少なくとも1つのエクソンを含む。
【0145】
いくつかの態様によると、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、少なくとも、それぞれSEQ ID NO:2~16のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン8~22を含む。
【0146】
いくつかの態様によると、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、少なくとも、それぞれSEQ ID NO:3~16のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン9~22を含む。
【0147】
いくつかの態様によると、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、少なくとも、それぞれSEQ ID NO:4~16のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン10~22を含む。
【0148】
いくつかの態様によると、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、SEQ ID NO:17のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン23をさらに含み、SEQ ID NO:18のアミノ酸配列をコードするSTAT3のエクソン24を任意でさらに含む。
【0149】
いくつかの態様によると、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、エクソン23の上流に位置しかつエクソン23へのオルタナティブスプライシングを可能にする、SEQ ID NO:27に記載のSTAT3のイントロン22を含む。
【0150】
いくつかの態様によると、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、少なくとも、STAT3のエクソン8~22、STAT3のイントロン22、およびSTAT3のエクソン23~24を、その順に連続して(即ち、5'から3'へ)含み、ここで、エクソン8~24は、それぞれSEQ ID NO:2~18のアミノ酸配列をコードする。
【0151】
いくつかの態様によると、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、少なくとも、STAT3のエクソン9~22、STAT3のイントロン22、およびSTAT3のエクソン23~24を、その順に連続して(即ち、5'から3'へ)含み、ここで、エクソン9~24は、それぞれSEQ ID NO:3~18のアミノ酸配列をコードする。
【0152】
いくつかの態様によると、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、少なくとも、STAT3のエクソン10~22、STAT3のイントロン22、およびSTAT3のエクソン23~24を、その順に連続して(即ち、5'から3'へ)含み、ここで、エクソン10~24は、それぞれSEQ ID NO:4~18のアミノ酸配列をコードする。
【0153】
通常、内在性STAT3遺伝子に組み込まれた後、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、改変された細胞による、好ましくは、SEQ ID NO:1の、機能性STAT3ポリペプチドの発現、より具体的には、2つのSTAT3アイソフォーム、STAT3αおよびSTAT3βの発現を可能にする。
【0154】
機能性STAT3ポリペプチドの発現を改善し、相同組換えを回避するために、ポリヌクレオチドドナーテンプレートに含まれる機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列は、コドン最適化されていてよい。したがって、いくつかの態様によると、機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列は、コドン最適化されている。
【0155】
ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、機能性STAT3の部分配列または完全配列の上流に、天然または人工のスプライス部位を含み得る。そのようなスプライス部位は、下流配列のより容易なスプライシングおよび/またはより良好な転写/翻訳を可能にするという利点を有する。したがって、いくつかの態様によると、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、機能性STAT3の部分配列または完全配列の上流に、天然または人工のスプライス部位を含む。いくつかの態様によると、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、機能性STAT3の部分配列または完全配列の上流に、人工スプライス部位、例えば、SEQ ID NO:28またはSEQ ID NO:29に記載の人工スプライス部位を含む。
【0156】
相同組換えを介した内在性STAT3遺伝子における標的特異的(即ち、部位特異的)組み込みを容易にするために、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、内在性STAT3遺伝子の一部と、より具体的には、標的配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する左および/または右側の相同配列をさらに含み得る。ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、機能性STAT3遺伝子の部分的もしくは完全な配列に対して5'側に位置する左側相同配列、および/または機能性STAT3遺伝子の部分的もしくは完全な配列に対して3'側に位置する右側相同配列を含み得る。
【0157】
部位特異的組み込みの好ましい標的部位は、内在性STAT3遺伝子のイントロン7、8、または9である。したがって、いくつかの態様によると、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、SEQ ID NO:30、31、または32に対して少なくとも80%の配列同一性を有する左および/または右側の相同配列を含む。イントロン7への部位特異的組み込みのために、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、機能性STAT3遺伝子の部分的もしくは完全な配列に対して5'側に位置する、SEQ ID NO:30に対して少なくとも80%の配列同一性を有する左側相同配列、および/または機能性STAT3遺伝子の部分的もしくは完全な配列に対して3'側に位置する、SEQ ID NO:30に対して少なくとも80%の配列同一性を有する右側相同配列を含み得る。イントロン8への部位特異的組み込みのために、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、機能性STAT3遺伝子の部分的もしくは完全な配列に対して5'側に位置する、SEQ ID NO:31に対して少なくとも80%の配列同一性を有する左側相同配列、および/または機能性STAT3遺伝子の部分的もしくは完全な配列に対して3'側に位置する、SEQ ID NO:31に対して少なくとも80%の配列同一性を有する右側相同配列を含み得る。イントロン9への部位特異的組み込みのために、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、機能性STAT3遺伝子の部分的もしくは完全な配列に対して5'側に位置する、SEQ ID NO:32に対して少なくとも80%の配列同一性を有する左側相同配列、および/または機能性STAT3遺伝子の部分的もしくは完全な配列に対して3'側に位置する、SEQ ID NO:32に対して少なくとも80%の配列同一性を有する右側相同配列を含み得る。
【0158】
ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、関心対象のSTAT3イントロンと相同な配列を含み得るのみならず、隣接するエクソンと相同な配列も含み得る。例えば、左側相同配列は、エクソン7の一部およびイントロン7の一部を含んでもよく、右側相同配列は、イントロン7の一部およびエクソン8の一部を含んでもよい。
【0159】
いくつかの態様によると、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、SEQ ID NO:33、SEQ ID NO:34、SEQ ID NO:35、SEQ ID NO:36、SEQ ID NO:37、SEQ ID NO:41、SEQ ID NO:42、SEQ ID NO:43、SEQ ID NO:44、SEQ ID NO:45、およびSEQ ID NO:47に対して、少なくとも70%、例えば、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む。通常、ssDNAであるか、またはAAVベクターに含まれている、これらのポリヌクレオチド配列は、通常、コドン最適化されており、したがって、PCRまたはハイブリダイゼーションツールによって容易に検出可能である。
【0160】
本発明によるポリヌクレオチドドナーテンプレートの好ましい最適化されたバージョンは、SEQ ID NO:41、SEQ ID NO:42、SEQ ID NO:43、SEQ ID NO:44、SEQ ID NO:45、およびSEQ ID NO:47である。最良の発現結果は、特に、低頻度切断エンドヌクレアーゼ、具体的には、SEQ ID NO:21もしくはSEQ ID NO:22の少なくとも1つのポリペプチドを含むTALEヌクレアーゼヘテロダイマー、またはSEQ ID NO:38を切断するTALEヌクレアーゼモノマー、またはSEQ ID NO:21もしくはSEQ ID NO:22との少なくとも90%、好ましくは、95%の同一性による、標的配列SEQ ID NO:38の切断と共に、SEQ ID NO:45を含むポリヌクレオチドナーテンプレートを使用することによって得られた。
【0161】
切断された遺伝子座におけるNHEJ修復機構を介した内在性STAT3遺伝子への標的特異的(即ち、部位特異的)組み込みを容易にするために、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、マイクロホモロジー、即ち、短い相同DNA配列を含み得る。
【0162】
さらに、mRNAの核外輸送、翻訳、および安定性を容易にするために、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、ポリアデニル化配列をさらに含み得る。ポリアデニル化配列の非限定的な例には、SV40、hGH(ヒト成長ホルモン)、bGH(ウシ成長ホルモン)、およびrbGlob(ウサギβグロビン)に由来するポリアデニル化配列が含まれる。いくつかの態様によると、ポリアデニル化配列は、SEQ ID NO:46に対して、少なくとも70%、例えば、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む。
【0163】
本発明は、本発明のポリヌクレオチドドナーテンプレートを含む、ベクター、例えば、プラスミド、PCR産物、ウイルスベクター、より具体的には、非組み込み型ウイルスベクター、例えば、AAVベクターまたはIDLVベクターをさらに提供する。したがって、いくつかの態様によると、ベクターは、AAVベクター、好ましくは、AAV6ベクターである。例えば、Sather,B.D.ら[18]によって記載されているように、AAVベクター、具体的には、AAV6は、ポリヌクレオチドドナーテンプレートの細胞への形質導入のために、そして低頻度切断エンドヌクレアーゼによって指図される相同組換えによる組み込みを実施するために、特に適している。
【0164】
本発明は、HSCまたはT細胞、特に、HIESに罹患している患者のHSCまたはT細胞の遺伝子編集における、本発明によるポリヌクレオチドドナーテンプレート、またはそれを含む本発明のベクターのエクスビボ使用をさらに提供する。
【0165】
本発明は、内在性STAT3遺伝子内の配列、より具体的には、HIESに罹患している患者の内在性STAT3遺伝子内の配列を標的とし、切断することができる、DNA切断を誘導する配列特異的試薬をさらに提供する。いくつかの態様によると、DNA切断を誘導する配列特異的試薬は、STAT3遺伝子内の配列、好ましくは、イントロン7ポリヌクレオチド配列(SEQ ID NO:30)、イントロン8ポリヌクレオチド配列(SEQ ID NO:31)、またはイントロン9ポリヌクレオチド配列(SEQ ID NO:32)に含まれる配列を切断することができる。
【0166】
本発明による「DNA切断を誘導する配列特異的試薬」の非限定的な例には、ニッカーゼ活性またはエンドヌクレアーゼ活性を有する試薬が含まれる。配列特異的試薬は、DNA結合ドメインと触媒活性を示すもう1つのドメインとを含むキメラポリペプチドであり得る。そのような触媒活性は、例えば、遺伝子不活性化を実施するためのヌクレアーゼ、または相同組換えによる遺伝子組み込みを容易にするための付着末端を生成することによって遺伝子挿入を優先的に実施するための、もしくはKomorら[19]に記載されているような塩基編集を実施するためのニッカーゼもしくはダブルニッカーゼであり得る。
【0167】
通常、本発明の配列特異的試薬は、内在性STAT3遺伝子座内の「標的配列」、特に、内在性STAT3遺伝子のイントロン、例えば、イントロン7(SEQ ID NO:30)、イントロン8(SEQ ID NO:31)、またはイントロン9(SEQ ID NO:32)内の「標的配列」を認識し、それに結合する能力を有する。配列特異的試薬によって認識され、結合される「標的配列」は、通常、ヒトゲノムデータベース、例えば、http://www.ensembl.org/index.htmlから入手可能なソフトウェアおよびデータを使用して決定され得るように、細胞のゲノム、より広範には、ヒトゲノムにおいて稀であるか、または独特であるよう選択される。そのような「標的配列」には、好ましくは、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、またはSEQ ID NO:32と同一性を有するものが及んでいる。
【0168】
いくつかの態様によると、DNA切断を誘導する配列特異的試薬は、低頻度切断エンドヌクレアーゼである。「低頻度切断エンドヌクレアーゼ」とは、認識配列が、通常、10~50の連続する塩基対、好ましくは、12~30bp、より好ましくは、14~20bpの範囲である限りにおいて選択される配列特異的エンドヌクレアーゼ試薬である。
【0169】
いくつかの態様によると、低頻度切断エンドヌクレアーゼは、例えば、Arnould S.ら(W02004067736)によって記載されているようなホーミングエンドヌクレアーゼ、例えば、Urnov F.ら[20]によって記載されているようなジンフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、例えば、Mussolinoら[21]によって記載されているようなTALEヌクレアーゼ、または、例えば、Boisselら[22]によって記載されているようなMegaTALヌクレアーゼなどの「改変された」または「プログラミング可能な」低頻度切断エンドヌクレアーゼである。
【0170】
例えば、Mussolinoら[23]によって報告されているように、より高い特異性のため、TALEヌクレアーゼは、特に、ヘテロダイマーの形態において、即ち、(「5’」または「順方向」とも呼ばれる)「右」モノマーと(「3’」または「逆方向」とも呼ばれる)「左」モノマーとの対で作用する形態において、治療的適用のための特に適当な配列特異的ヌクレアーゼ試薬であることが判明している。したがって、いくつかの態様によると、低頻度切断エンドヌクレアーゼは、TALEヌクレアーゼである。
【0171】
いくつかの態様によると、ヘテロダイマーTALEヌクレアーゼは、SEQ ID NO:38、SEQ ID NO:39、およびSEQ ID NO:40より選択されるSTAT3ポリヌクレオチド配列を標的とするモノマーを含む。いくつかの態様によると、TALEヌクレアーゼモノマーは、SEQ ID NO:21~26のうちのいずれかのポリペプチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する。
【0172】
いくつかの態様によると、TALEヌクレアーゼは、SEQ ID NO:21のポリペプチド配列に対して、少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を有する第1のモノマーと、SEQ ID NO:22のポリペプチド配列に対して、少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を有する第2のモノマーとを含む。
【0173】
いくつかの態様によると、TALEヌクレアーゼは、SEQ ID NO:23のポリペプチド配列に対して、少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を有する第1のモノマーと、SEQ ID NO:24のポリペプチド配列に対して、少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を有する第2のモノマーとを含む。
【0174】
いくつかの態様によると、TALEヌクレアーゼは、SEQ ID NO:25のポリペプチド配列に対して、少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を有する第1のモノマーと、SEQ ID NO:26のポリペプチド配列に対して、少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を有する第2のモノマーとを含む。
【0175】
いくつかの態様によると、低頻度切断エンドヌクレアーゼは、とりわけ、Doudna,J.ら[24]およびZetsche,B.ら[25]による教示に従って、RNAガイドと共に使用される、RNA誘導型エンドヌクレアーゼ、例えば、Cas9またはCpf1である。RNAガイドは、標的配列にハイブリダイズするよう設計される。
【0176】
いくつかの態様によると、DNA切断を誘導する配列特異的試薬は、EP3004349に記載されるようなニッカーゼである。
【0177】
本発明は、本発明のDNA切断を誘導する配列特異的試薬をコードするポリヌクレオチドをさらに提供する。
【0178】
本発明は、本発明のDNA切断を誘導する配列特異的試薬をコードするポリヌクレオチドを含む、ベクター、例えば、ウイルスベクター、より具体的には、非組み込み型ウイルスベクター、例えば、AAVベクターまたはIDLVベクターをさらに提供する。
【0179】
本発明は、HSCまたはT細胞、特に、HIESに罹患している患者のHSCまたはT細胞の遺伝子編集における、本発明のDNA切断を誘導する配列特異的試薬、それをコードする本発明のポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む本発明のベクターのエクスビボ使用をさらに提供する。
【0180】
本発明は、
- 少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列を含むポリヌクレオチドドナーテンプレート、例えば、本発明によるポリヌクレオチドドナーテンプレートを、HIESに罹患している患者に由来するT細胞またはHSCに導入する工程;
- イントロン配列、好ましくは、イントロン7、8、または9における内在性STAT3遺伝子の切断を得るために、DNA切断を誘導する配列特異的試薬を該T細胞またはHSCに導入し、相同組換えまたはNHEJによって該ポリヌクレオチドドナーテンプレートをこの遺伝子座に挿入する工程;ならびに
- 任意で、STAT3αアイソフォームおよびSTAT3βアイソフォームの発現のために該細胞を培養する工程
を含む、T細胞またはHSCの集団を改変する方法をさらに提供する。
【0181】
当該方法は、具体的には、遺伝子治療によって、より具体的には、本明細書に記載されるポリヌクレオチドドナーテンプレートと、DNA切断を誘導する配列特異的試薬とを使用して、修正されたポリヌクレオチド配列を内在性STAT3遺伝子座に組み込むことによって、HIESに罹患している患者を治療するための改変されたHSCまたはT細胞を得るために設計されている。
【0182】
方法は、好ましくは、安定的に改変されたHSCまたはT細胞を得るためにエクスビボで実施される。次いで、得られた改変されたHSCまたはT細胞は、本明細書に詳述されるポリヌクレオチドドナーテンプレート、それぞれ、外来性ポリヌクレオチド配列を含む改変された細胞の長期インビボ作製のために、それを必要とする患者に生着させられ得る。
【0183】
いくつかの態様によると、ポリヌクレオチドドナーテンプレートは、本発明のベクターを介してT細胞またはHSCに導入される。
【0184】
いくつかの態様によると、DNA切断を誘導する配列特異的試薬は、ゲノムDNAの二本鎖切断を誘導する配列特異的試薬である。
【0185】
いくつかの態様によると、DNA切断を誘導する配列特異的試薬、例えば、低頻度切断エンドヌクレアーゼは、細胞内に一過性に発現されるか、または送達され、即ち、該試薬は、RNA、より具体的には、mRNA、タンパク質、またはタンパク質と核酸とが混合された複合体(例えば、リボ核タンパク質)の場合のように、ゲノムに組み込まれるか、または長期間にわたって持続することは想定されていない。通常、配列特異的試薬の80%が、トランスフェクションの30分以内、好ましくは、24時間後までに、より好ましくは、20時間後までに分解される。好ましくは、DNA切断を誘導する配列特異的試薬、例えば、低頻度切断エンドヌクレアーゼは、配列特異的試薬をコードする核酸分子、例えば、DNA分子またはRNA分子、好ましくは、mRNA分子の形態で細胞に導入され、トランスフェクトされた細胞によって発現される。mRNA形態のDNA切断を誘導する配列特異的試薬、例えば、低頻度切断エンドヌクレアーゼは、好ましくは、例えば、Kore A.L.ら(Locked nucleic acid (LNA)-modified dinucleotide mRNA cap analogue:synthesis,enzymatic incorporation,and utilization(2009)J Am Chem Soc.131(18):6364-5)によって記載されているように、当技術分野において周知の技術に従って、安定性を増強するためのキャップを含んで合成される。
【0186】
いくつかの態様によると、DNA切断を誘導する配列特異的試薬は、本発明のベクターを介してT細胞またはHSCに導入される。
【0187】
いくつかの態様によると、DNA切断を誘導する配列特異的試薬は、電気穿孔によってmRNAとしてT細胞またはHSCに導入される。
【0188】
いくつかの態様によると、DNA切断を誘導する配列特異的試薬は、ナノ粒子、好ましくは、HSC表面タンパク質、例えば、CD105(Uniprot#P17813)またはT細胞表面タンパク質に対して特異的な親和性を有するリガンド、例えば、抗体によってコーティングされたナノ粒子を介して、T細胞またはHSCに導入される。好ましいナノ粒子は、ポリヌクレオチド形態の配列特異的試薬が、ポリβアミノエステルのポリマーと複合体化され、ポリグルタミン酸(PGA)によってコーティングされている、生分解性ポリマーナノ粒子である。
【0189】
いくつかの態様によると、ポリヌクレオチドドナーテンプレートおよび/またはDNA切断を誘導する配列特異的試薬の非ウイルス送達の方法、例えば、電気穿孔、リポフェクション、微量注入、微粒子銃、ビロソーム、リポソーム、イムノリポソーム、ポリカチオン、または脂質:核酸コンジュゲート、裸のDNA、裸のRNA、キャッピングされたRNA、人工ビリオン、および薬剤によって増強されるDNA取り込みが使用され得る。例えば、Sonitron 2000系(Rich-Mar)を使用したソノポレーションも、送達のために使用され得る。
【0190】
いくつかの態様によると、電気穿孔工程が、細胞をトランスフェクトするために使用され得る。通常、細胞をトランスフェクトするために使用される電気穿孔工程は、典型的には、WO/2004/083379、具体的には、23頁25行目~29頁11行目に記載されているような、処理体積全体で実質的に均一な100ボルト/cmより大きく、5,000ボルト/cmより小さいパルス電場を平行平板電極間に生成する、平行平板電極を含む密閉チャンバーにおいて実施される。1つのそのような電気穿孔チャンバーは、好ましくは、電極間隙の2乗(cm2)をチャンバー体積(cm3)で割った商によって定義される幾何学的因子(cm-1)を有し、ここで、幾何学的因子は0.1cm-1以下であり、細胞の懸濁物および配列特異的試薬は、培地が0.01~1.0ミリシーメンスに及ぶ範囲の伝導度を有するよう調整された培地の中にある。通常、細胞の懸濁物は、1つまたは複数の電場パルスを受ける。この方法では、懸濁物の処理体積はスケーラブルであり、チャンバー内の細胞の処理の時間は実質的に均一である。
【0191】
HSCの活性化および遺伝子編集
好ましくは、動員された末梢血(MPB)の白血球アフェレーシスに由来する末梢血細胞が使用され、CD34+細胞が、通常、免疫磁気ビーズ、例えば、CliniMACSを使用して処理され、濃縮される。精製されたCD34+細胞は、細胞培養グレードの幹細胞因子(SCF)(好ましくは、300ng/ml)の存在下で、好ましくは、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)(300ng/ml)およびトロンボポエチン(TPO)(好ましくは、およそ100ng/ml)、さらにインターロイキンIL-3(好ましくは、60ng/ml超)(全て、CellGenix)を含む、無血清培地において、1×106細胞/mlで、好ましくは、12~24時間、培養バッグに播種された後、配列特異的試薬をコードするmRNAを含む電気穿孔緩衝液に移される。電気穿孔後、好ましくは、細胞は凍結保存される。
【0192】
T細胞の活性化および拡大増殖
本発明によるT細胞は、抗原結合機序とは独立に活性化または増殖することができたとしても、遺伝子改変の前であっても、後であっても、活性化され、または拡大増殖させられ得る。T細胞は、具体的には、例えば、米国特許第6,352,694号;第6,534,055号;第6,905,680号;第6,692,964号;第5,858,358号;第6,887,466号;第6,905,681号;第7,144,575号;第7,067,318号;第7,172,869号;第7,232,566号;第7,175,843号;第5,883,223号;第6,905,874号;第6,797,514号;第6,867,041号;および米国特許出願公開第20060121005号に記載されている方法を使用して、活性化され、または拡大増殖させられ得る。T細胞は、インビトロまたはインビボで拡大増殖させられ得る。T細胞は、通常、T細胞の活性化シグナルを生成するよう、T細胞の表面上のCD3 TCR複合体および共刺激分子を刺激する薬剤との接触によって拡大増殖する。例えば、化学物質、例えば、カルシウムイオノフォアA23187、ホルボール12-ミリスタート13-アセタート(PMA)、または分裂促進レクチン、例えば、フィトヘマグルチニン(PHA)が、T細胞の活性化シグナルを生成するために使用され得る。
【0193】
非限定的な例として、T細胞集団は、例えば、表面に固定化された抗CD3抗体もしくはその抗原結合断片または抗CD2抗体との接触によって、またはカルシウムイオノフォアと組み合わされたプロテインキナーゼC活性化因子(例えば、ブリオスタチン)との接触によって、インビトロで刺激され得る。T細胞の表面上のアクセサリー分子の共刺激のためには、アクセサリー分子に結合するリガンドが使用される。例えば、T細胞の増殖を刺激するために適当な条件で、T細胞の集団を、抗CD3抗体および抗CD28抗体と接触させることができる。T細胞培養のために適当な条件には、血清(例えば、ウシ胎仔血清もしくはヒト血清)、インターロイキン2(IL-2)、インスリン、IFN-g、1L-4、1L-7、GM-CSF、-10、-2、1L-15、TGFp、およびTNF-、または当業者に公知の細胞の増殖のための任意のその他の添加剤を含む、増殖および生存に必要な因子を含有していてよい適当な培地(例えば、最小必須培地またはRPMI培地1640またはX-vivo 5(Lonza))が含まれる。細胞の増殖のためのその他の添加剤には、界面活性剤、プラズマネート(plasmanate)、ならびに還元剤、例えば、N-アセチル-システインおよび2-メルカプトエタノールが含まれるが、これらに限定されるわけではない。培地には、無血清であるか、または適当な量の血清(もしくは血漿)もしくは明確なホルモンのセット、ならびに/もしくはT細胞の増殖および拡大増殖のために十分な量のサイトカインが補足された、アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、およびビタミンが添加された、RPMI 1640、A1M-V、DMEM、MEM、a-MEM、F-12、X-Vivo 1、およびX-Vivo 20、Optimizerが含まれ得る。抗生物質、例えば、ペニシリンおよびストレプトマイシンは、実験的培養物にのみ含まれ、対象に注入される細胞の培養物には含まれない。標的細胞は、増殖を支持するために必要な条件、例えば、適当な温度(例えば、37℃)および雰囲気(例えば、空気+5%C02)で維持される。様々な刺激時間に曝されたT細胞は、異なる特徴を示し得る。
【0194】
もう1つの具体的な態様において、組織または細胞と共培養することによって、細胞を拡大増殖させることができる。インビボで、例えば、細胞を患者に投与した後、患者の血中で、細胞を拡大増殖させることもできる。
【0195】
本発明の治療方法、組成物、および使用
前記の本発明は、高IgE症候群(HIES)を引き起こす欠陥を元々有していた内在性STAT3遺伝子配列が、修正STAT3配列に交換され、それによって、オルタナティブスプライシングを可能にし、したがって、両方のSTAT3アイソフォームの発現を可能にすることによって、正常な細胞表現型を回復させている、改変されたHSCもしくはT細胞、またはそのような改変された細胞を含む集団を作製することを可能にする。したがって、本発明の改変されたHSCまたはT細胞、それぞれ、HSCまたはT細胞の集団は、HIESの治療において特に有用である。これらの細胞または細胞の集団は、医薬、例えば、高IgE症候群(HIES)の治療において使用するための医薬の製造においても使用され得る。
【0196】
したがって、本発明は、高IgE症候群(HIES)の治療において使用するための、本発明の改変されたHSCまたはT細胞、それぞれ、HSCまたはT細胞の集団を提供する。
【0197】
したがって、本発明は、幹細胞移植、例えば、骨髄移植において使用するための、本発明の改変されたHSC、それぞれ、HSCの集団を提供する。
【0198】
本発明は、本発明の少なくとも1つの改変されたHSCもしくはT細胞、または本発明の改変された造血幹細胞(HSC)もしくはT細胞の集団と、薬学的に許容される賦形剤および/または担体とを含む薬学的組成物も提供する。
【0199】
適切なそのような組成物は、治療的に有効な量の、改変されたHSCもしくはT細胞、または改変された造血幹細胞(HSC)もしくはT細胞の集団を含む。「有効量」または「治療的に有効な量」とは、対象に投与されたときに、治療的または予防的な利益を提供するのに十分である、即ち、疾患の治療または予防を助ける、本明細書に記載される組成物の量をさす。「治療的に有効な量」を構成する組成物の量は、細胞調製物、状態およびその重症度、投与の様式、ならびに処置される対象の年齢に依って変動し得るが、自身の知識および本開示を考慮して、当業者によってルーチンに決定され得る。
【0200】
したがって、本発明は、より具体的には、改変されたHSCまたはT細胞の治療的に有効な集団に関し、ここで、集団内の細胞の少なくとも30%、好ましくは、50%、より好ましくは、80%が、本明細書に記載される方法のいずれかに従って修飾されている。本発明による改変されたHSCまたはT細胞の治療的に有効な集団は、両方のSTAT3アイソフォームの発現を可能にする修正された内在性STAT3遺伝子座を有する細胞を含む。
【0201】
適切な薬学的に許容される賦形剤および担体は、当業者に周知であり、文献、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences,the Handbook of Pharmaceutical Additives or the Handbook of Pharmaceutical Excipientsに記載されている。
【0202】
いくつかの態様において、本発明は、(a)改変されたHSCまたはT細胞の生存可能な組成物と;(b)HSCまたはT細胞の凍結保存のために十分な量の凍結保存剤と;(c)薬学的に許容される担体とを含む凍結保存された薬学的組成物を提供する。
【0203】
本明細書において使用されるように、「凍結保存」とは、低い氷点下の温度、例えば、(典型的には)77Kまたは-196℃(液体窒素の沸点)に冷却することによる細胞の保存をさす。これらの低温では、細胞死につながる生化学的反応を含む、任意の生物学的活性が、効果的に停止する。凍結保護剤は、低温での凍結または室温への加温による損傷から細胞を保存するために、氷点下の温度で、しばしば使用される。凍結に関連した有害作用は、(a)凍結保護剤の使用、(b)凍結速度の制御、および(c)分解反応を最小限に抑えるために十分に低い温度での保管によって回避され得る。使用され得る凍結保護剤には、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、ポリビニルピロリジン、ポリエチレングリコール、アルブミン、デキストラン、ショ糖、エチレングリコール、i-エリスリトール、D-ソルビトール、D-マンニトール、D-ソルビトール、i-イノシトール、D-ラクトース、塩化コリン、アミノ酸、メタノール、アセトアミド、グリセロールモノアセテート、および無機塩が含まれるが、これらに限定されるわけではない。好ましい態様において、低濃度では細胞に対して無毒である液体、DMSOが使用される。低分子であるDMSOは、細胞内に自由に透過し、水と結びついて、凍結可能性を修飾し、氷形成による損傷を防止することによって、細胞内オルガネラを保護する。(例えば、20~25%の濃度への)血漿の添加は、DMSOの保護効果を強化することができる。約1%というDMSO濃度は、4℃より高い温度では毒性であるため、DMSOの添加後、細胞は、凍結するまで0~4℃に維持されなければならない。
【0204】
本発明は、高IgE症候群(HIES)の治療において使用するための、本発明の薬学的組成物を提供する。
【0205】
本発明は、幹細胞移植、例えば、骨髄移植において使用するための、本発明の薬学的組成物も提供する。
【0206】
本発明は、高IgE症候群(HIES)の治療において使用するための、本発明によるポリヌクレオチドドナーテンプレート、またはそれを含む本発明のベクターも提供する。
【0207】
本発明は、高IgE症候群(HIES)の治療において使用するための、本発明のDNA切断を誘導する配列特異的試薬、それをコードする本発明のポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む本発明のベクターも提供する。
【0208】
本発明は、高IgE症候群(HIES)の治療において使用するための、本発明によるポリヌクレオチドドナーテンプレート、またはそれを含む本発明のベクターと組み合わせられた、本発明のDNA切断を誘導する配列特異的試薬、それをコードする本発明のポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む本発明のベクターも提供する。
【0209】
本発明は、HSCまたはT細胞、特に、HIESに罹患している患者のHSCまたはT細胞のインビボ遺伝子編集において使用するための、本発明によるポリヌクレオチドドナーテンプレート、またはそれを含む本発明のベクターと組み合わせられた、本発明のDNA切断を誘導する配列特異的試薬、それをコードする本発明のポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む本発明のベクターも提供する。
【0210】
本発明は、治療的に有効な量の、本発明の改変されたHSCまたはT細胞、それぞれ、HSCまたはT細胞の集団を、患者に投与することを含む、それを必要とする患者における高IgE症候群(HIES)を治療する方法も提供する。
【0211】
本発明は、少なくとも機能性STAT3遺伝子の部分配列または完全配列の異種発現によって、それを必要とする患者における高IgE症候群(HIES)を治療する方法も提供し、ここで、該異種の部分的または完全なSTAT3遺伝子配列は、T細胞におけるSTAT3αアイソフォームおよびSTAT3βアイソフォームの機能的発現を回復させる。いくつかの態様によると、部分的または完全なSTAT3遺伝子配列は、本明細書において前記において定義された外来性ポリヌクレオチド配列に含まれる。
【0212】
本発明は、遺伝子治療によって、それを必要とする患者における高IgE症候群(HIES)を治療する方法も提供し、ここで、該遺伝子治療は、標的特異的遺伝子組み込みによって、HSCまたはT細胞の内在性ゲノムSTAT3配列に少なくとも1つの修正されたSTAT3エクソン配列を導入することを含む。いくつかの態様によると、HSCまたはT細胞は、患者に由来する。いくつかの態様によると、遺伝子治療は、本明細書において前記において定義された少なくとも1つの外来性STAT3遺伝子配列をHSCまたはT細胞に導入することを含む。
【0213】
通常、本発明によるHIESの治療は、寛解的、完治的、または予防的なものであり得る。
【0214】
本発明による細胞または細胞の集団の投与は、注射、注入、植込み、または移植を含む任意の便利な様式で実施され得る。本発明による細胞または細胞の集団は、静脈内注射によって患者に投与され得る。
【0215】
細胞または細胞の集団の投与は、体重1kg当たり104~108個の遺伝子編集された細胞、好ましくは、体重1kg当たり105~106個の細胞(これらの範囲内の全ての整数値の細胞数を含む)の投与からなることができる。したがって、本発明は、単一の患者の試料採取に由来する体重1kg当たり104~106個の遺伝子編集された細胞を含む10を超える用量を提供することができる。
【0216】
細胞または細胞の集団は、1つまたは複数の用量として投与され得る。いくつかの態様によると、特に、改変されたHSCの永久的な生着が疾患を確実に治癒させることを目指す時、治療的に有効な数の細胞が、単一用量として投与される。
【0217】
免疫系に対する重度の攻撃的な処置である、HIESを治癒させるための永久的なHSC生着の代替法として、T細胞を直接改変し、その後、それを拡大増殖させ、逐次使用のために凍結させる方法を、本発明は提供する。この戦略は、数年に及び得る長期間にわたって患者に複数回再投与する可能性を可能にする。いくつかの態様によると、治療的に有効な数の細胞が、ある期間にわたって、複数の用量として投与される。投与のタイミングは、主治医の判断の範囲内であり、患者の臨床的状態に依存する。投与される投与量は、処置を受けている患者の年齢、健康状態、および体重、同時処置がある場合、その種類、処置の頻度、ならびに所望の効果の性質に依存する。
【0218】
その他の定義
- ポリペプチド配列内のアミノ酸残基は、1文字記号に従って、本明細書において表記され、例えば、Qは、Glnまたはグルタミン残基を意味し、Rは、Argまたはアルギニン残基を意味し、Dは、Aspまたはアスパラギン酸残基を意味する。
【0219】
- アミノ酸置換とは、あるアミノ酸残基のもう1つのアミノ酸残基への交換を意味し、例えば、ペプチド配列内のアルギニン残基のグルタミン残基への交換は、アミノ酸置換である。
【0220】
- ヌクレオチドは、以下のように表記される:ヌクレオシドの塩基を表記するための1文字記号が使用される:aはアデニンであり、tはチミンであり、cはシトシンであり、gはグアニンである。縮重ヌクレオチドについて、rはgまたはa(プリンヌクレオチド)を表し、kはgまたはtを表し、sはgまたはcを表し、wはaまたはtを表し、mはaまたはcを表し、yはtまたはc(ピリミジンヌクレオチド)を表し、dはg、a、またはtを表し、vはg、a、またはcを表し、bはg、t、またはcを表し、hはa、t、またはcを表し、nはg、a、t、またはcを表す。
【0221】
- 本明細書において使用されるように、「核酸」または「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドおよび/またはポリヌクレオチド、例えば、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、オリゴヌクレオチド、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生成された断片、ならびにライゲーション、切断、エンドヌクレアーゼ作用、およびエキソヌクレアーゼ作用のいずれかによって生成された断片をさす。核酸分子は、天然に存在するヌクレオチド(例えば、DNAおよびRNA)、または天然に存在するヌクレオチドの類似体(例えば、天然に存在するヌクレオチドの鏡像異性体)、または両方の組み合わせであるモノマーから構成され得る。修飾型ヌクレオチドは、糖部分および/またはピリミジン塩基もしくはプリン塩基の部分に変更を有し得る。糖修飾には、例えば、1つもしくは複数のヒドロキシル基の、ハロゲン、アルキル基、アミン、およびアジド基への交換が含まれ、またはエーテルもしくはエステルとして糖が官能化されてもよい。さらに、糖部分全体が、立体的かつ電子的に類似した構造、例えば、アザ糖および炭素環式糖類似体に交換されてもよい。塩基部分における修飾の例には、アルキル化されたプリンおよびピリミジン、アシル化されたプリンもしくはピリミジン、またはその他の周知の複素環式置換体が含まれる。核酸モノマーは、ホスホジエステル結合またはそのような結合の類似体によって連結され得る。核酸は、一本鎖または二本鎖のいずれかであり得る。
【0222】
- 「変異」とは、ポリヌクレオチド(cDNA、遺伝子)またはポリペプチド配列の最大1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、40、50、またはそれ以上のヌクレオチド/アミノ酸の置換、欠失、挿入を意味する。変異は、遺伝子のコード配列またはその調節配列に影響し得る。また、ゲノム配列の構造またはコードされたmRNAの構造/安定性にも影響し得る。
【0223】
- 「遺伝子」とは、特定のタンパク質またはタンパク質のセグメントをコードする、染色体上に直線的に配置されたDNAのセグメントからなる遺伝の基本単位を意味する。遺伝子は、典型的には、プロモーター、5'非翻訳領域、1つまたは複数のコード配列(エクソン)、任意で、イントロン、3'非翻訳領域を含む。遺伝子は、ターミネーター、エンハンサー、および/またはサイレンサーをさらに含み得る。
【0224】
- 本明細書において使用されるように、「遺伝子座」という用語は、ゲノム内のDNA配列(例えば、遺伝子、例えば、STAT3遺伝子)の特定の物理的位置である。「遺伝子座」という用語は、染色体上の低頻度切断エンドヌクレアーゼ標的配列の特定の物理的位置をさし得る。そのような遺伝子座は、本発明による配列特異的試薬によって認識され、かつ/または切断される標的配列を含み得る。細胞の遺伝材料の本体(即ち、染色体)に存在する核酸配列のみならず、遺伝材料の本体とは独立に存在し得る遺伝材料、例えば、非限定的な例として、プラスミド、エピソーム、ウイルス、トランスポゾン、またはオルガネラ、例えば、ミトコンドリアの一部分も、本発明の関心対象の遺伝子座であり得ることが理解される。
【0225】
- 「DNA標的」、「DNA標的配列」、「標的DNA配列」、「核酸標的配列」、または「標的配列」とは、本発明による配列特異的試薬によって標的とされ、プロセシングされ得るポリヌクレオチド配列を意味する。これらの用語は、特定のDNA位置、好ましくは、細胞内のゲノム位置のみならず、遺伝材料の本体とは独立に存在し得る遺伝材料、例えば、非限定的な例として、プラスミド、エピソーム、ウイルス、トランスポゾン、またはオルガネラ、例えば、ミトコンドリアの一部分もさす。標的配列は、標的の1つの鎖の5'から3'への配列によって定義される。通常、標的配列は、上流(5'側の位置)または下流(3'側の位置)のいずれかにおいて、プロセシングされる遺伝子座に隣接または近接している。好ましい態様において、標的配列およびタンパク質は、プロセシングされる遺伝子座が、2つのそのような標的配列の間に位置するよう、設計される。タンパク質の触媒ドメインに依って、標的配列は、5~50塩基(bp)、好ましくは、10~40bp、より好ましくは、15~30、さらに好ましくは、15~25bp、離れていてよい。これらの後者の距離は、本明細書および実施例において言及されるスペーサーを定義する。それは、同じ分子上の、標的配列と、触媒ドメインによってプロセシングされる核酸配列との間の距離を定義することもできる。
【0226】
- 本明細書において使用されるように、「外来性」配列とは、通常、選択された遺伝子座に元々存在しなかったヌクレオチドまたは核酸配列をさす。反対に、「内在性配列」とは、遺伝子座に元々存在する細胞ゲノム配列を意味する。したがって、「外来性」配列は、細胞に導入された外来配列であり、したがって、この外来性配列が遺伝子座に組み込まれていない姉妹細胞と、改変された細胞を区別することを可能にする。
【0227】
- 「DNA切断を誘導する配列特異的試薬」とは、好ましくは、少なくとも9bp長、より好ましくは、少なくとも10bp長、さらに好ましくは、少なくとも12bp長の、ゲノム遺伝子座内の選択されたポリヌクレオチド配列を特異的に認識する能力を有し、ポリヌクレオチドの共有結合骨格の破壊を触媒する活性分子を意味する。本発明による「DNA切断を誘導する配列特異的試薬」の非限定的な例には、ニッカーゼ活性またはエンドヌクレアーゼ活性を有する試薬が含まれる。配列特異的試薬は、DNA結合ドメインと、触媒活性を示すもう1つのドメインとを含むキメラポリペプチドであり得る。そのような触媒活性は、例えば、遺伝子不活性化を実施するためのヌクレアーゼ、または相同組換えによる遺伝子組み込みを容易にするための付着末端を生成することによって遺伝子挿入を優先的に実施するための、もしくはKomor et al.(2016)Nature 19;533(7603):420-4に記載されているような塩基編集を実施するためのニッカーゼもしくはダブルニッカーゼであり得る。
【0228】
- 「エンドヌクレアーゼ」という用語は、通常、DNA分子またはRNA分子、好ましくは、DNA分子において核酸間の結合の加水分解(切断)を触媒することができる野生型または変異型の酵素をさす。エンドヌクレアーゼは、その配列と無関係にDNA分子またはRNA分子を切断するのではなく、「標的配列」または「標的部位」とも呼ばれる特定のポリヌクレオチド配列において、DNA分子またはRNA分子を認識し、切断する。エンドヌクレアーゼは、典型的には、10塩基対(bp)を超える長さ、より好ましくは、14~55bpのポリヌクレオチド認識部位を有する時、低頻度切断エンドヌクレアーゼとして分類され得る。低頻度切断エンドヌクレアーゼは、明確な遺伝子座においてDNA二本鎖切断(DSB)を誘導することによって相同組換えを有意に増加させ、それによって、遺伝子修復治療または遺伝子挿入治療を可能にする(Pingoud, A. and G. H. Silva (2007). Precision genome surgery. Nat. Biotechnol. 25(7):743-4)。
【0229】
- 「切断」という用語は、ポリヌクレオチドの共有結合骨格の破壊をさす。切断は、ホスホジエステル結合の酵素的または化学的な加水分解を含むが、これらに限定されるわけではない、多様な方法によって開始され得る。一本鎖切断および二本鎖切断の両方が可能であり、2つの異なる一本鎖切断イベントの結果として二本鎖切断が起こることもある。二本鎖のDNA、RNA、またはDNA/RNAハイブリッドの切断は、平滑末端または突出末端のいずれかの生成をもたらし得る。
【0230】
- 「ベクター」とは、連結されているもう1つの核酸を輸送することができる核酸分子を意味する。本発明における「ベクター」には、ウイルスベクター、プラスミド、PCR産物、RNAベクター、または染色体、非染色体、半合成、もしくは合成の核酸からなっていてよい直鎖状もしくは環状のDNA分子もしくはRNA分子が含まれるが、これらに限定されるわけではない。好ましいベクターは、自律複製が可能なもの(エピソーマルベクター)および/または連結された核酸の発現が可能なもの(発現ベクター)である。多数の適切なベクターが、当業者に公知であり、市販されている。ウイルスベクターには、レトロウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス、AAV)、コロナウイルス、マイナス鎖RNAウイルス、例えば、オルトミクソウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、ラブドウイルス(例えば、狂犬病および水疱性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、麻疹およびセンダイ)、プラス鎖RNAウイルス、例えば、ピコルナウイルスおよびアルファウイルス、ならびに二本鎖DNAウイルス、例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス1型および2型、エプスタイン・バーウイルス、サイトメガロウイルス)、ならびにポックスウイルス(例えば、ワクシニア、鶏痘、およびカナリアポックス)が含まれる。他のウイルスには、例えば、ノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パポーバウイルス、ヘパドナウイルス、および肝炎ウイルスが含まれる。レトロウイルスの例には、トリ白血病肉腫、哺乳類C型、B型ウイルス、D型ウイルス、HTLV-BLV群、レンチウイルス、スプーマウイルスが含まれる(Coffin,J.M.,Retroviridae:The viruses and their replication,In Fundamental Virology,Third Edition,B.N.Fields,et al.,Eds.,Lippincott-Raven Publishers,Philadelphia,1996)。
【0231】
- 「造血幹細胞」とは、自己再生能を有し、かつ顆粒球(例えば、前骨髄球、好中球、好酸球、好塩基球)、赤血球(例えば、網状赤血球、赤血球)、血小板(thrombocytes)(例えば、巨核芽球、血小板産生巨核球、血小板(platelets))、単球(例えば、単球、マクロファージ)、樹状細胞、ミクログリア、破骨細胞、ならびにリンパ球(例えば、NK細胞、B細胞、およびT細胞)を含むが、これらに限定されるわけではない、骨髄系またはリンパ系の細胞系譜の種々の細胞型および組織の全てに分化する独特な能力を有する、骨髄由来の多能性幹細胞を意味する。そのような細胞は、CD34+細胞を含む場合もあるし、含まない場合もあることが、当技術分野において公知である。CD34+細胞は、CD34細胞表面マーカーを発現する未熟細胞である。ヒトにおいて、CD34+細胞は、前記定義の幹細胞特性を有する細胞の亜集団を含むと考えられているが、マウスにおいて、HSCはCD34-である。さらに、HSCは、長期造血再構築能を持つHSC(LT-HSC)および短期造血再構築能を持つHSC(ST-HSC)もさす。LT-HSCとST-HSCとは、機能的な可能性および細胞表面マーカー発現に基づき区別される。例えば、いくつかの態様において、ヒトHSCは、CD34+、CD38-、CD45RA-、CD90+、CD133+、またはCD34+、CD38-、CD45RA-、CD90-、CD133-である。さらに、ST-HSCは、ホメオスタシス条件下で、LT-HSCより静止状態でなく(即ち、より高活性であり)、より増殖性である。しかしながら、LT-HSCは、より大きい自己再生可能性を有する(即ち、成人期を通して生存し、連続的なレシピエントに連続移植され得る)のに対し、ST-HSCは、限定された自己再生を有する(即ち、限定された期間しか生存せず、連続移植可能性を保有しない)。これらのHSCのうちの任意のものが、本明細書に記載される方法のうちの任意のものにおいて使用され得る。いくつかの態様において、ST-HSCは、高度に増殖性であり、したがって、分化した子孫をより迅速に発生させることができるため、有用である。
【0232】
- 「長期造血再構築能を持つHSC」または「LT-HSC」とは、一生涯を通して自己再生および多系譜分化の可能性を維持し得るタイプの造血幹細胞を意味する。LT-HSCに特徴的な表現型マーカーには、CD34+、CD38-、CD45RA-、CD90+、およびCD133+が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0233】
- 「初代細胞」とは、生体組織(例えば、生検材料または血液試料)から直接採取され、限定された量の時間のインビトロ増殖のために確立された細胞を意味し、即ち、それらは、限定された数の集団倍化を経ることができる。初代細胞は、持続的な腫瘍形成性の細胞株または人工的に不死化された細胞株とは対照的である。そのような細胞株の非限定的な例は、CHO-K1細胞;HEK293細胞;Caco2細胞;U2-OS細胞;NIH 3T3細胞;NSO細胞;SP2細胞;CHO-S細胞;DG44細胞;K-562細胞、U-937細胞;MRC5細胞;IMR90細胞;ジャーカット細胞;HepG2細胞;HeLa細胞;HT-1080細胞;HCT-116細胞;Hu-h7細胞;Huvec細胞;Molt4細胞である。
【0234】
- 「に由来する」とは、細胞、例えば、HSCまたはT細胞が、HIESに罹患している患者から得られたことを意味する。通常、細胞は、当技術分野において公知の多様な方法を通じて、例えば、Schwartz J.ら[Guidelines on the use of therapeutic apheresis in clinical practice-evidence-based approach from the Writing Committee of the American Society for Apheresis: the sixth special issue (2013) J. Clin. Apher. 28(3):145-284]によって概説されたような白血球アフェレーシス技術によって、患者から提供される。HSCおよび前駆細胞は、針または注射器を使用して、骨髄から、より具体的には、骨盤の腸骨稜から採取され得る。あるいは、細胞が骨髄を離れ、血管内を循環するよう誘導するHSC動員剤、例えば、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)および/またはプレリキサホルをドナーに注射しながら、循環末梢血からHSCを採集してもよい。HSCは、臍帯血から採集されてもよい。HSCは、患者由来の人工多能性幹(iPS)細胞から得られてもよい。
【0235】
- 「同一性」とは、2つの核酸分子またはポリペプチドの間の配列同一性をさす。同一性は、比較の目的のため整列化され得る各配列の位置を比較することによって決定され得る。比較された配列の位置が同じ塩基によって占拠されている時、それらの分子は、その位置において同一である。核酸配列またはアミノ酸配列の間の類似性または同一性の程度は、核酸配列によって共有されている位置における同一のまたは一致するヌクレオチドの数の関数である。GCG配列分析パッケージ(University of Wisconsin、Madison、Wis.)の一部として入手可能であり、例えば、デフォルト設定で使用され得るFASTAまたはBLASTを含む、様々なアライメントアルゴリズムおよび/またはプログラムが、2つの配列の間の同一性を計算するために使用され得る。例えば、本明細書に記載される特定のポリペプチドと少なくとも70%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有し、好ましくは、実質的に同じ機能を示すポリペプチドが企図され、そのようなポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも企図される。他に記されない限り、本明細書に記載されるものと同じ機能を有し、少なくとも70%、一般的には、少なくとも80%、より一般的には、少なくとも85%、好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%、さらに好ましくは、少なくとも97%を共有するポリペプチドおよびポリヌクレオチドが、本発明に包含される。
【0236】
- 「対象」または「患者」という用語は、本明細書において使用されるように、ヒト、より具体的には、HIESに罹患しているヒトを意味する。
【0237】
- 本明細書において使用されるように、「約」という用語は、それと共に使用されている数の数値のプラスマイナス10%を意味する。
【0238】
数的な限度または範囲が本明細書に記される場合、エンドポイントが含まれる。数的な限度または範囲に含まれる全ての値および部分範囲も、明示的に書き出されたかのごとく具体的に含まれる。
【0239】
本明細書において使用されるように、不定冠詞「a」および「an」は、文脈が明確に他のことを指示しない限り、「少なくとも1つ」または「1つまたは複数」を意味する。
【0240】
本明細書において使用されるように、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「有する」という用語、およびそれらの文法的変化形は、記された特色、工程、または成分を指定するものとして解釈されるべきであり、1つまたは複数の付加的な特色、工程、成分、またはそれらの群の追加を除外するものではない。
【0241】
本発明の上記の説明は、この分野の当業者が、本発明を製造し、使用することができるよう、本発明の製造および使用の様式およびプロセスを提供しており、この実施可能性(enablement)は、具体的には、最初の明細書の一部を構成する添付の特許請求の範囲の主題について提供される。
【0242】
本発明を一般的に説明したが、例示の目的のために本明細書において提供されるに過ぎず、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定するためのものではない、いくつかの具体例を参照することによって、さらなる理解を得ることが可能である。
【実施例
【0243】
高IgE症候群患者のSTAT3配列決定分析は、疾患を引き起こす変異の大多数が、STAT3をコードするエクソン10~24に位置することを示した(図1)。この所見に基づき、STAT3エクソン10~24配列を機能性配列に交換し、したがって、変異に関係なく、STAT3発現を回復させることを目指した、ワン・セラピー・フィッツ・オール(one-therapy-fits-all)アプローチを開発した。
【0244】
実施例1:材料および方法
細胞の培養および活性化
Blood Donation Center of the Medical Center - University of Freiburgから厚意により提供されたロイコリダクション・システム(leukoreduction system)(LRS)チャンバー(ドナー同意、匿名)から、健常ドナー(HD)の末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。簡単に説明すると、血液を、LRSチャンバーから回収し、2mM EDTA(Sigma-Aldrich、カタログ番号59418C)が補足されたリン酸緩衝生理食塩水(PBS、life technologies、カタログ番号50004147)で洗浄し、製造業者の説明に従って、Biocoll Separation Solution(Biochrom GmbH、カタログ番号50002912)密度勾配遠心分離に供した。最上部の血漿層の除去後、白血球を洗浄し、5~50×106細胞/mlの濃度でCryoStor CS10(StemCell Technologies、カタログ番号07930)で凍結させ、さらに使用するまで液体窒素中に保管した。
【0245】
STAT3患者のPBMCは、Freeze Biobank of the Medical Center - University of Freiburgから得られた(ドナー同意、匿名、倫理委員会承認)。PBMCを解凍し、5%ヒトAB血清(Sigma-Aldrich、カタログ番号H4522)および200IU/mlの組換えヒトインターロイキン2(rhIL-2;Immunotools、カタログ番号11340027)が補足されたX-Vivo 15培地(Lonza、カタログ番号60121783)に2×106細胞/mlの濃度で4時間播種した。
【0246】
活性化のために、細胞を計数し、CD2、CD3、およびCD28ビーズに対する抗体とコンジュゲートされた5μl/ml CD2/3/28 Immunocult(Stemcell Technologies、カタログ番号10970)の存在下で、1×106細胞/mlの密度で3日間再播種した。
【0247】
遺伝子編集試薬およびmRNA作製:
TALENおよびmRNA作製
STAT3特異的TALEヌクレアーゼ、TALEN-i7(SEQ ID NO:21およびSEQ ID NO:22)、TALEN-i8(SEQ ID NO:23およびSEQ ID NO:24)、TALEN-i9(SEQ ID NO:25およびSEQ ID NO:26)をコードするmRNAを、製造業者の説明に従って、HiScribe T7 ARCA mRNAキット(NEB、カタログ番号E2065S)を使用して作製した。
【0248】
外来性ポリヌクレオチドテンプレート構築物:
TALEN-i7およびTALEN-i9の切断部位に関して、特異的なドナーテンプレートを作製した。これらのベクターは、人工スプライシング部位(SEQ ID NO:28)の後に機能性のコドン最適化されたSTAT3のコピーを含有していた。全ての場合において、テンプレート配列の左側および右側には、それぞれのTALENによって切断されたSTAT3遺伝子座への組み込みを媒介する相同アームが隣接していた(図2、TALEN-i7についてはSEQ ID NO:41、TALEN-i9についてはSEQ ID NO:47)。注目すべきことに、コドン最適化は、STAT3-αアイソフォームおよびSTAT3-βアイソフォームを生成するオルタナティブなスプライスドナー部位およびスプライスアクセプター部位を含有する「エクソン22 - イントロン22 - エクソン23」配列には拡張されなかった。これらのアイソフォームのバランスを維持することは、治療の成功にとって重要であると見なされ、最適なTALEN/AAVドナーペアを決定する時に徹底的に査定された。
【0249】
これらの実験に含まれたポリペプチドおよびポリヌクレオチドの配列は、実験セクションの最後にある表12に詳述される。
【0250】
遺伝子編集プロトコル
遺伝子編集のために、各条件につき1×106個のPBMCを採集し(300×g、5分)、細胞ペレットを50μlのCliniMACS Electroporation緩衝液(Miltenyi Biotec、カタログ番号170-076-625)に再懸濁させた。次いで、細胞懸濁物をTALEN mRNA(1μgの各TALENアーム)と混合し、2mm電気穿孔キュベット(VWR、カタログ番号732-1136)に移し、CliniMACS Prodigyデバイス(Miltenyi Biotec)を使用して電気穿孔した。電気穿孔後、細胞を、予め加温された400μlの培養培地に直ちに移した。37℃での15分間の回復の後、1~10×104ゲノムコピー(GC)/細胞のそれぞれのAAV6ドナーを添加し、細胞を32℃で一晩培養した。次いで、細胞を37℃のインキュベーターに移し、最終分析まで最長2ヶ月間、細胞を拡大増殖させた。
【0251】
ゲノムDNAの抽出:
細胞を採集し、300×gで5分間遠心分離した。上清を除去した後、製造業者の説明に従って、NucleoSpin(登録商標)Tissueキット(Macherey-Nagel、カタログ番号740952.250)を使用してゲノムDNAを抽出した。ゲノムDNA濃度を、Nanodrop 2000c分光光度計(Thermo Fisher Scientific、USA)で測定した。
【0252】
T7E1アッセイによるTALEN切断効率の査定:
それぞれのTALENの変異原性活性を、Dreyerら[15]によって以前に発表されたようなT7エンドヌクレアーゼ1(T7E1)アッセイを実施することによって査定した。それぞれ、表1および2に示されるプライマーおよびプログラムを使用して、PCRを実施した。
【0253】
(表1)T7E1アッセイのために使用されたプライマー
【0254】
(表2)T7E1アッセイのためのPCRプログラム
【0255】
標的特異的アンプリコン配列決定によるTALEN誘導インデルの頻度の査定
表3に示されるプライマーおよびQ5ポリメラーゼ(カタログ番号M0493L)を使用した、処理されたPBMCゲノムDNAに対するPCRによって、TALENの標的部位を増幅した。精製されたPCRアンプリコンの濃度を、Qubit Fluorometerを使用して決定した。プールされた試料(各20ng)を、NEBNext Ultra II Library Prep Kit for Illumina(NEB、カタログ番号E7645L)を使用したDNAライブラリ調製に供した。DNAライブラリを、ddPCR Library Quantification Kit for Illumina TruSeq(Bio-Rad、カタログ番号1863040)を使用して、配列決定前に定量化した。調製されたライブラリの配列決定を、8pMの濃度で、ペアエンドリードによって、MiSeq Reagent kit v2(500サイクル)(Illumina、カタログ番号MS-102-2003)を使用して、Illumin MiSeqシステムにおいて実施した。NGS実行後、最小平均クオリティスコアを20に設定したphred33クオリティスコア(q20)に基づく設定で、CRISPResso2を使用し、予測された切断部位の40bp以内のウインドウ(w40)においてインデルを定量化し、SNPを考慮しないよう、定量化のために置換イベントを無視して、リードを分析した。
【0256】
(表3)PCRにおいて使用されたプライマー
【0257】
ウエスタンブロット分析
STAT3のリン酸化を査定するために、それぞれ、1×106個のHDおよびSTAT3患者に由来するPBMCを、IL-2なしで24時間培養し、次いで、未処理のままにするか、または50ng/mlの組換えヒトIL-6(rhIL-6、Immunotools、カタログ番号11340066)によって30分間刺激した。細胞を採集し、タンパク質溶解に供し、供給元のプロトコルに従って、Western Mini Protean TGX Precastゲル(勾配:4~15%、10ウェル、50μl;BioRad、カタログ番号456-8084)で実行した。表4にリストされる抗体によってウエスタンブロットを実施した。
【0258】
(表4)ウエスタンブロットにおいて使用された抗体のリスト
【0259】
ImageJソフトウェア(https://imagej.nih.gov/ij/)を使用して、STAT3およびリン酸化STAT3の発現を定量化した。バックグラウンド差し引き後、各リン酸化STAT3シグナルを、それぞれのSTAT3バンドに対してノーマライズした。
【0260】
mRNA抽出およびcDNA合成
最大5×106個の細胞を採集し、PBSで洗浄した(300×g、5分)。製造業者の説明に従って、RNeasy Miniキット(Qiagen、カタログ番号74106)を使用して、ペレットを溶解し、mRNAを抽出した。製造業者の説明に従って、QuantiTect逆転写キット(Qiagen、カタログ番号205314)を使用して、cDNAへの逆転写を実施した。
【0261】
RT-PCRを使用したSTAT3アイソフォーム発現の査定
7.5ng cDNAを用いて、製造業者のプロトコルに従って、表5および表6に示されるプライマーおよびプログラムならびにTaqポリメラーゼ(NEB、カタログ番号M0495S)を用いて、STAT3アイソフォームの増幅を実施した。PCR産物を、TAE緩衝液中の0.3μg/mlエチジウムブロマイドを含有している2%アガロースゲルにおけるゲル電気泳動によって分析した。
【0262】
(表5)RT-PCRのために使用されたプライマー
【0263】
(表6)RT-PCRのためのPCRプログラム
【0264】
ddPCRによる組み込み効率の査定
製造業者のプロトコルに従って、25ngのゲノムDNAと共にEvaGreen Supermix(Bio-Rad、カタログ番号1864034)を使用したddPCRによって、ドナー組み込みの定量化を実施した。両末端からのイン/アウトPCRを、それぞれ、表7および表8に示されるプログラムおよびプライマーを用いて実施した。
【0265】
(表7)組み込み効率査定のためのddPCRプログラム
【0266】
(表8)組み込み効率査定のために使用されたプライマー
【0267】
アイソフォーム発現の定量的査定
2~4ngのcDNAを用いて、製造業者のプロトコルに従って、EvaGreen Supermix(Bio-Rad、カタログ番号1864034)を使用して、導入遺伝子の発現またはSOCS3の発現を定量化するために、RT-ddPCRを使用した。各標的についてRT-PCR反応を実施し、HPRT1についての反応に対してノーマライズした。使用されたddPCRのプログラムおよびプライマーは、表9および表10に提供される。
【0268】
(表9)RT-ddPCRのddPCRプログラム
【0269】
(表10)RT-ddPCRのために使用されたプライマー
【0270】
活性化およびT細胞サブセットの査定
STAT3患者の細胞またはHD対照の細胞を、(表11に提供される)抗CD4抗体、抗CD25抗体、抗CD62L抗体、および抗CD45RA抗体での染色によって特徴決定した。フローサイトメトリー分析のために、2~5×105個の細胞を採集し、5%FCS(PAN Biotech、カタログ番号P40-47500)が補足されたPBSからなる25μLのFACS緩衝液に再懸濁させた。細胞を暗所で4℃で30分間インキュベートし、FACS緩衝液で1回洗浄(300×g、5分間)し、次いで、150μlのFACS緩衝液に再懸濁させた。
【0271】
(表11)フローサイトメトリーのために使用された抗体
【0272】
試料をBD Accuri(BD Biosciences)で分析し、BD AccuriおよびFlowJoバージョン10ソフトウェアで評価した。
【0273】
サイトカイン放出アッセイ(CBA)
未処理のPBMCおよび編集されたPBMCの上清を、刺激後のIFNγ、TNF、IL-17、およびIL-10の放出を査定するために、サイトメトリックビーズアレイ(CBA、BD Biosciences)に供した。1×106個の細胞を、10ngのホルボールミリスタートアセタート(PMA、Sigma-Aldrich、カタログ番号P1585)および200ngのイオノマイシン(Sigma-Aldrich、カタログ番号I0634)の存在下または非存在下で、10%FCSおよび100IU/ml rhIL-2が補足された200μlのIMDM(Life technologies)において培養した。5時間のインキュベーションの後、25μlの上清を採集し、破片を除去するために、遠心分離(300×g、5分)し、製造業者の説明に従って、但し、1試料当たりのキャプチャービーズおよび検出抗体の体積を1μlから0.3μlにスケールダウンして、CBAに供した。最終インキュベーション後、各試料を300μlのFACS緩衝液に再懸濁させ、FACS Canto II(BD Biosciences)で分析した。FSC/SSCプロットでビーズ集団をゲーティングし、次いで、APC/APC-Cy7パターンに基づきそれぞれのキャプチャービーズを同定し、次いで、PEチャネルにおける平均蛍光強度(MFI)に基づき各サイトカインのサイトカインプロファイルを定量化することによって、FlowJoバージョン10を使用して、データ分析を実施した。
【0274】
実施例2:HD PBMCにおける最適なTALEN/テンプレートの組み合わせの同定
健常ドナー(HD)のPBMCに、まず電気穿孔によって、イントロン7(TALEN-i7 SEQ ID NO:21およびSEQ ID NO:22)、イントロン8(TALEN-i8 SEQ ID NO:23およびSEQ ID NO:24)、またはイントロン9(TALEN-i9 SEQ ID NO:25およびSEQ ID NO:26)のいずれかを標的とするTALEN mRNAを導入した。T7E1アッセイ(図3A、B)およびNGS(図3C)によって決定されたTALEN誘導インデル頻度は、いずれの分析ツールでも、3つのTALENペア全てについて、80~95%の範囲の比較可能な高さであった。次に、最適なTALEN/テンプレート組み合わせを同定するために、組み込みの百分率およびSTAT3アイソフォームの相対発現を、イントロン7またはイントロン9を標的とするTALENおよびそれぞれのドナーテンプレートによって査定した。この目的のために、PBMCを、対応するTALEN mRNAで電気穿孔し、次いで、1~10×104GC/細胞のそれぞれのAAV6ドナーテンプレートによって形質導入した(図4)。最も高いAAV6ドナーの量(105GC/細胞)は、試験された全ての組み合わせについて、55~80%の範囲の最も高い組み込み頻度を与えた(図4A、B)。次いで、相対STAT3導入遺伝子発現を査定したところ、2つのTALEN/AAV6ドナー組み合わせについて、発現レベルは比較可能であり、最も高いAAV6用量で、組み込まれたトランスジェニックSTAT3から、約50%のSTAT3発現が起こった(図4C、D)。さらに、試験された2つの組み合わせによるゲノム編集によるSTAT3β/α導入遺伝子発現比は、適正範囲内であった(図4E)。TALEN i7と105GC/細胞のAAVi7とが、以後の最適候補として選択された。
【0275】
実施例3:3人の例示的なSTAT3患者のPBMCにおけるSTAT3修正
TALEN i7/AAVi7ベースの治療が、根底にある変異および表現型の違いとは独立に、全ての高IgE症候群患者のための治療として役立ち得ることをバリデートするために、Freiburgコホートの(変異V637M、R382W、およびK340Eを有する)3人のSTAT3患者を選択した。予想通り、STAT3特異的刺激IL-6で刺激された患者の細胞における相対STAT3p/STAT3発現は、HD細胞より有意に低かった(図5A)。さらに、STAT3下流標的SOCS3の発現が、有意に低かった(図5B)。注目すべきことに、高IgE症候群患者の細胞は、他の特徴的なサイトカイン、例えば、IL-17、IFNγ、TNF、およびIL-10のサイトカイン放出プロファイルにおいても異なっていた(図5C~F)。
【0276】
この点に対処するために、TALEN i7処理後の切断効率のみならず、その後のAAVi7形質導入の後の組み込みおよび相対導入遺伝子発現も査定した。TALEN i7 mRNAによるPBMCの電気穿孔は、高いインデル頻度(68~82%、図6A、B)、組み込み頻度(50~60%、図6C)、およびHD対照と比較可能なSTAT3導入遺伝子発現(35~45%の全STAT3、図6D)をもたらした。長期培養後のT細胞サブセット分析は、未処理のTALEN i7/AAVi7編集試料および再刺激されたTALEN i7/AAVi7編集試料における一定のメモリーT細胞集団(およそ40%)を明らかにした(図6E)。
【0277】
要約すると、これらの所見は、この治療アプローチがクリニカルトランスレーション(clinical translation)に適していることを強調している。
【0278】
(表12)本発明による方法において使用される好ましいポリペプチドおよびポリヌクレオチドの配列
【0279】
本願において引用された参考文献
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
【配列表】
2024517989000001.app
【国際調査報告】