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  • 特表-アラミド溶液を製造する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-24
(54)【発明の名称】アラミド溶液を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/09 20060101AFI20240417BHJP
   D01F 6/60 20060101ALI20240417BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240417BHJP
   C08L 77/10 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
C08J3/09
D01F6/60 371
C08J5/18 CFG
C08L77/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562198
(86)(22)【出願日】2022-04-12
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2022059732
(87)【国際公開番号】W WO2022218972
(87)【国際公開日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】21168636.5
(32)【優先日】2021-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501469803
【氏名又は名称】テイジン・アラミド・ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Teijin Aramid B.V.
【住所又は居所原語表記】Tivolilaan 50, 6824 BW Arnhem, the Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ベルト ヘッベン
(72)【発明者】
【氏名】モニーク メウセン-ヴィアトス
【テーマコード(参考)】
4F070
4F071
4J002
4L035
【Fターム(参考)】
4F070AA54
4F070AC13
4F070CA12
4F070CB05
4F070CB11
4F071AA56
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4J002CL061
4J002GK01
4L035AA04
4L035BB04
4L035EE09
(57)【要約】
本願は、アラミドの溶液を製造する方法であって、i)溶媒と塩基とを合して溶媒-塩基混合物を得ることと、ii)アラミド材料を溶媒-塩基混合物に添加して組成物を得ることと、iii)組成物を混合してアラミドの溶液を得ることとを含み、溶媒-塩基混合物を得るために、溶媒1リットル当たり少なくとも1モルの塩基を添加する方法に関する。本発明は、また、アラミド溶液、溶液をさらに加工する方法、および高い伸度を有する連続アラミド繊維にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミドの溶液を製造する方法であって、
i)溶媒と塩基とを合して溶媒-塩基混合物を得ることと、
ii)アラミド材料と前記溶媒-塩基混合物とを合して組成物を得ることと、
iii)前記組成物を混合してアラミドの溶液を得ることと
を含み、
前記溶媒-塩基混合物を得るために、溶媒1リットル当たり少なくとも1モルの塩基を添加する、
方法。
【請求項2】
前記溶媒-塩基混合物が、前記アラミド材料と合する前に化学平衡状態にある、請求項1記載の方法。
【請求項3】
溶媒1リットル当たり少なくとも1.5モル、好ましくは少なくとも2モル、より好ましくは少なくとも2.5モル、さらに好ましくは少なくとも3モル、またはさらに好ましくは少なくとも4モルの塩基を添加する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒および/または前記溶媒-塩基混合物および/または前記組成物および/または前記溶液が、前記溶媒の重量に対して、かつ/または前記溶媒-塩基混合物の重量に対して、かつ/または前記組成物の重量に対して、かつ/または前記溶液の重量に対して最大でも10重量%のプロトン供与体、好ましくは最大でも5重量%、さらに好ましくは最大でも2重量%のプロトン供与体を含む、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記組成物を剪断に供する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
少なくとも工程iii)を二軸スクリュー混練機または二軸スクリュー押出機内で行い、好ましくは工程ii)および工程iii)を二軸スクリュー混練機または二軸スクリュー押出機内で行う、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
アラミド材料の量が、前記組成物の重量に対して少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも2重量%、より好ましくは少なくとも4重量%、さらに好ましくは少なくとも4.5重量%、最も好ましくは少なくとも10重量%である、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
溶媒、塩基およびアラミドを含む溶液であって、前記溶液が、溶媒1リットル当たり少なくとも1モルの塩基、好ましくは溶媒1リットル当たり少なくとも1.5モル、より好ましくは少なくとも2モル、さらに好ましくは少なくとも2.5モルの塩基、さらに好ましくは溶媒1リットル当たり少なくとも3モルの塩基を含む、溶液。
【請求項9】
前記溶液が、前記溶液の重量に対して少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも2重量%、より好ましくは少なくとも4重量%、さらに好ましくは少なくとも4.5重量%、最も好ましくは少なくとも10重量%のアラミドを含む、請求項8記載の溶液。
【請求項10】
異方性液晶挙動を示す、請求項8または9記載の溶液。
【請求項11】
前記アラミドが、核磁気共鳴分光法によって決定されるプロトン化アミド基を最大でも5モル%、さらに好ましくは最大でも2モル%含む、請求項8から10までのいずれか1項記載の溶液。
【請求項12】
連続アラミド繊維を製造する方法であって、
i)請求項8から11までのいずれか1項記載の溶液または請求項1から7までのいずれか1項記載の方法に従って生成した溶液を準備することと、
ii)前記溶液を紡糸口金に通すことと、
iii)前記溶液を凝固させて繊維を得ることと、
iv)前記繊維を洗浄することと
を含む、方法。
【請求項13】
ASTM D7269に準拠して決定される破断点伸びが、少なくとも5%、好ましくは少なくとも7.5%、より好ましくは少なくとも10%または少なくとも15%である、連続アラミド繊維。
【請求項14】
アラミドナノファイバーを製造する方法であって、
i)請求項8から11までのいずれか1項記載の溶液または請求項1から7までのいずれか1項記載の方法に従って生成した溶液を準備することと、
ii)前記溶液に所定量のプロトン供与体を添加することと
を含む、方法。
【請求項15】
請求項14記載の方法によって得られるアラミドナノファイバーを含み、好ましくはコーティングおよび複合材から選択される、材料。
【請求項16】
アラミドフィルムを製造する方法であって、
i)請求項8から11までのいずれか1項記載の溶液または請求項1から7までのいずれか1項記載の方法に従って生成した溶液を準備することと、
ii)前記溶液を表面上に供給することと、
iii)前記溶液を固化させてフィルムを形成することと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミドの溶液を製造する方法、アラミドを含む溶液、および溶液を連続アラミド繊維、アラミドナノファイバーまたはアラミドフィルムにさらに加工する方法に関し、また、連続アラミド繊維、およびアラミドナノファイバーを含む材料にも関する。
【0002】
欧州特許出願公開第0309229号明細書には、DMSO等の液体スルホキシド中の芳香族ポリアミドアニオン塩(例えば、カリウムまたはナトリウム塩)の等方性および異方性溶液から物品を作製することが記載されている。この溶液は、繊維、フィルムおよびコーティングに加工することができる。アラミド溶液は、概して、約1.5~1.7重量%の固形分で調製される。例えば溶媒を真空で蒸発させるか、または凍結乾燥させることにより、12重量%までのより高いポリマー含有量を有する溶液を得ることができる。
【0003】
欧州特許出願公開第1631707号明細書には、高い相対粘度を有するパラアラミドの非繊維性アラミド溶液が記載されている。この溶液は、極性アミド溶媒、アルカリ塩化物またはアルカリ土類塩化物、水および1~8重量%のアラミドを含む。この溶液は異方性挙動を示し、ジェット紡糸により加工してパルプ状繊維を得ることができる。
【0004】
米国特許出願公開第2013/0288050号明細書には、マクロスケールアラミド繊維をアラミドナノファイバー(ANF)に解離することができる方法が記載されている。アラミドナノファイバーを得るために、マクロスケールアラミド繊維を、塩基(KOH)および非プロトン性溶媒(DMSO)を含有する溶液と合し、撹拌する。微量のマクロスケールアラミド繊維が懸濁液中に存在する。アラミドナノファイバーの懸濁液を形成するプロセスは、非常に長時間(数日)を要する。
【0005】
国際公開第2017/117376号には、非プロトン性成分、プロトン性成分および塩基を含有する反応媒体を調整することによって分岐ANFを作製することができる方法が開示されている。溶媒の量に対してアラミドおよび塩基の濃度は低い。反応時間は、概して、数日または数週間程度である。
【0006】
中国特許出願公開第110055797号明細書には、パラアラミド繊維およびKOHをDMSOに添加し、混合物を超音波処理に供し、水を添加し、この懸濁液を密閉し、撹拌してアラミドナノファイバーを得る、アラミドナノファイバーの調製方法が記載されている。この方法では、より多量のパラアラミド繊維(4重量%まで)を添加することができ、反応時間はより短い(例えば12時間)。
【0007】
中国特許出願公開第103937237号明細書には、0.05~3.6重量%のアラミド濃度を有するパラアラミドナノファイバー溶液の調製方法が開示されており、パラアラミドナノファイバーは、20~50nmの直径および2μm~10μmの長さを有する。この方法において、DMSOと混合する脱プロトン化試薬の量は、0.42~33.5mmolであり、溶解プロセスは6~72時間を要し、低アラミド濃度の例では少なくとも36時間または48時間の溶解時間が必要とされ、3.6重量%のアラミド濃度では72時間の溶解時間が必要とされる。
【0008】
さらに高いアラミド濃度を有する溶液を調製し、特にアラミドナノファイバーおよびアラミド連続繊維を含む様々な材料に加工することができるアラミド材料からアラミドの異方性溶液を得ることが所望されている。特に、高いアラミド含有量を有するかかる溶液を短時間で得ることが重要である。好ましくは、かかるプロセスは、最初に希薄アラミド溶液を調製してアラミドを溶解し、続いて、かかる溶液を濃縮することを必要としない。
【0009】
このことは、本請求項に係る、アラミドの溶液を製造する方法であって、
i)溶媒と塩基とを合して溶媒-塩基混合物を得ることと、
ii)アラミド材料と溶媒-塩基混合物とを合して組成物を得ることと、
iii)組成物を混合してアラミドの溶液を得ることと
を含み、
溶媒-塩基混合物を得るために、溶媒1リットル当たり少なくとも1モルの塩基を添加する、
方法によって可能となる。
【0010】
アラミド材料は、アラミド繊維(連続アラミド繊維、非連続アラミド繊維を含むが、これらに限定されない)、アラミドパルプ、アラミドフィルム、アラミド紙、アラミドフィブリド、アラミドポリマー粒子(例えば、粉末またはクラム)およびそれらの任意の組合せを含み得る。アラミド材料は、リサイクルから得られるアラミド、ひいては使用済み材料または生産廃棄物をベースとしたアラミドを含み得る。好ましくは、出発原料として使用されるアラミド材料は、非連続アラミド繊維を含む。非連続アラミド繊維は、好ましくは、0.1mm~最大でも100cm、好ましくは最大でも50cm、より好ましくは最大でも20cm、さらに好ましくは最大でも10cm、または5cmまでの範囲の長さ(または最大寸法)を有する。
【0011】
繊維は、(長さに対して垂直な断面積を横切る)幅に対する長さの比率が高い比較的柔軟な物質の単位と理解される。
【0012】
本願の文脈において、「長さ」という用語は、短繊維では長さ加重長(LL)を指し、より長い繊維では平均長を指す。長さ<250ミクロンの粒子を含む長さ6mmまでの短繊維(およびパルプ、フィブリルおよびフィブリド)については、長さ加重長は、Pulp Expert(商標) FS(Metso製)を用いて決定することができる。
【0013】
より長い繊維(>6mm)については、長さは数平均繊維長(平均長、ML)を指し、
【数1】
によって算出することができ、式中、nは或る特定の長さLの繊維の数であり、Nは繊維の総数である。平均長は、Classifiber(Keisokki製)等の繊維長分布試験装置を用いて決定することができる。
【0014】
アラミド繊維は、ショートカットの形態であってもよい。
【0015】
ショートカットは短いフィラメントを含み、例えば連続糸、織物または織布を切断することによって得ることができる。
【0016】
アラミド材料はパルプを含み得る。パルプは、フィブリルの形成をもたらす剪断力を受けた短繊維からなり、フィブリルの大部分は元の繊維の「軸」に繋がっているが、より細いフィブリルがより太いフィブリルから剥離している。これらのフィブリルはカールしており、ときおりリボン状であり、様々な長さおよび太さを示す。
【0017】
一実施形態では、アラミドショートカット繊維は、0.1~20mm、好ましくは1~10mm、より好ましくは3~8mmの範囲の長さを有する。
【0018】
好ましくは、アラミドショートカットは狭い長さ分布を有する。
【0019】
一実施形態では、アラミドショートカットの長さ分布は、フィラメントの少なくとも50重量%が、長さ分布曲線におけるピーク最大値の長さの30%以内の長さを有するようなものである。好ましくは、フィラメントの少なくとも70重量%が、長さ分布曲線におけるピーク最大値の長さの30%以内の長さを有する。
【0020】
本明細書の文脈において、アラミドは、アミドフラグメントを介して互いに直接結合した芳香族部分からなる芳香族ポリアミドを指す。アラミドを合成する方法は、当業者に公知であり、通例、芳香族ジアミンと芳香族二酸ハロゲン化物との重縮合を含む。アラミドは、メタ型およびパラ型で存在し得る。好ましくは、アラミド材料はパラアラミド材料である。
【0021】
本願の目的上、パラアラミドという用語は、芳香族部分間に少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%のパラ配向結合を有する全芳香族ポリアミドポリマーおよびコポリマーのクラスを指す。一実施形態では、結合の少なくとも95%または全て(すなわち100%)がパラ配向結合である。本発明に使用可能なパラ配向型芳香族ジアミンの例としては、パラフェニレンジアミン、4,4’-ジアミノビフェニル、2,6-ナフタレンジアミン、1,5-ナフタレンジアミンおよび4,4’-ジアミノベンズアニリドが挙げられる。最大50モル%まで、2-メチル-パラフェニレンジアミンおよび2-クロロ-パラフェニレンジアミン等の置換芳香族ジアミンを使用することができる。本発明に使用可能なパラ配向型芳香族ジカルボン酸ハロゲン化物の例としては、テレフタロイルジクロリド、4,4’-ベンゾイルジクロリド、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジクロリドおよび1,5-ナフタレンジカルボン酸ジクロリドが挙げられる。
【0022】
典型的なパラアラミドは、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)(PPTA)、ポリ(4,4’-ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン-4,4’-ビフェニレンジカルボキサミド)およびポリ(パラフェニレン-2,6-ナフタレンジカルボキサミド)、5,4’-ジアミノ-2-フェニルベンズイミダゾールもしくはポリ(パラフェニレン-co-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド)、またはそれらのコポリマーである。好ましくは、アラミド材料はポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)を含むか、またはそれからなる。
【0023】
溶媒は非プロトン性溶媒、好ましくは極性非プロトン性溶媒である。
【0024】
一実施形態では、溶媒はジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジクロロメタン(DCM)、ジメチルアセトアミド(DMAcまたはDMA)、テトラメチル尿素もしくはN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、またはそれらの混合物から選択される。
【0025】
好ましくは、溶媒はDMSOである。
【0026】
溶媒は硫酸ではない。好ましくは、溶媒は、アルカリ塩およびアルカリ土類塩、特に塩化物を含まない。
【0027】
塩基は、好ましくは強塩基、好ましくは少なくとも10の解離定数pKa(水中)を有する塩基、より好ましくは少なくとも11の解離定数pKaを有する塩基である。かかる塩基としては、例えばアルカリ金属の酸化物が挙げられる。
【0028】
一実施形態では、塩基として水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、カリウムエトキシド(EtOK)、水素化ナトリウム(NaH)、カリウムtert-ブトキシド(tBuOK)、水素化カリウム(KH)またはナトリウムアミド(NaNH)が使用される。
【0029】
一実施形態では、溶媒としてDMSO、塩基としてKOHが使用される。
【0030】
方法の一実施形態では、溶媒1リットル当たり少なくとも1.5モルの塩基、または好ましくは溶媒1リットル当たり少なくとも2モルの塩基、より好ましくは溶媒1リットル当たり少なくとも2.5モルの塩基、または溶媒1リットル当たり少なくとも3モルを添加して、溶媒-塩基混合物を得る。一実施形態では、さらには溶媒1リットル当たり少なくとも4モルの塩基を添加する。追加量の塩基を組成物に添加してもよい。このため、最初に溶媒1リットル当たり少なくとも1モルの塩基または溶媒1リットル当たり少なくとも1.5モルの塩基を溶媒と合する。続いて、追加量の塩基を組成物に添加するか、または溶液の形成時に添加する。
【0031】
本方法では、溶媒-塩基混合物は、アラミド材料と合する前に化学平衡状態にある。このため、溶媒-塩基混合物は、アラミド材料を溶媒-塩基混合物に添加する前に化学平衡状態にある。多量の塩基、通常、過剰な塩基の添加により、化学平衡が達成される。化学平衡状態では、反応商(反応生成物の量と反応物の量との商)は、特定の温度および圧力で時間とともに一定となり、平衡定数に等しくなる。このため、塩基は溶媒に(例えば飽和まで)溶解しており、溶媒に溶解している塩基の濃度は、基本的には所与の温度で時間とともに変化しない。特に、塩基に由来するカチオン(塩基としてKOHを使用する場合はK)、溶媒に由来するアニオン(溶媒としてDMSOを使用する場合はジムシル)、塩基(例えばKOH)および溶媒(例えばDMSO)の濃度は、好ましくは、或る特定の温度および圧力で一定のままである。溶媒に添加する塩基の量に応じて、溶解していない過剰な固体の塩基が、溶媒-塩基混合物および/または組成物および/または溶液中に存在する場合がある。塩基および溶媒は、撹拌によって混合することができる。好ましくは、溶媒としてDMSOを使用する場合、ジムシルイオンが形成された後にのみアラミド材料を添加する。
【0032】
一実施形態では、溶媒および/または組成物および/または懸濁液は、溶媒の重量に対して、かつ/または溶媒-塩基混合物に対して、かつ/または組成物に対して、かつ/または溶液に対して最大でも10重量%のプロトン供与体、好ましくは最大でも5重量%、さらに好ましくは最大でも2重量%、あるいは最大でも1重量%のプロトン供与体を含む。より好ましくは、プロトン供与体の含有量は最大でも0.5重量%、あるいは最大でも0.2重量%ですらある。プロトン供与体は、例えば水、または例えばエタノール等のアルコール、または酸である。
【0033】
低いプロトン供与体または水の含有量は、分析グレードまたは窒素フラッシュ溶媒を用いて実施し、N雰囲気下で実施することによって達成することができる。
【0034】
一実施形態では、アラミド材料の解砕およびその後の溶解を改善するために、組成物を剪断、好ましくは強い剪断に供する。これにより、アラミド材料の溶解を改善することができる。剪断は、組成物の激しい撹拌、混練または超音波処理によって施すことができる。超音波処理は10~50kHz、好ましくは15~25kHzの範囲の周波数で用いることができる。
【0035】
アラミド材料の溶解は、好ましくは、ポリマーの(加水)分解を回避するために、室温または僅かに高い温度であるが、50℃未満、好ましくは40℃未満、より好ましくは35℃未満で行われる。好ましくは、アラミド材料の溶解は、少なくとも15℃、好ましくは少なくとも18℃の温度で行われる。
【0036】
一実施形態では、方法の少なくとも工程iii)(組成物の混合)は、ミキサー、特に高剪断ミキサー、例えば二軸スクリュー混練機、二軸スクリュー押出機、二軸シャフト混練機もしくはミキサー、一軸スクリュー混練機もしくは一軸スクリュー押出機、またはDraisミキサー内で行われる。好ましくは、工程ii)および工程iii)は、高剪断ミキサー、例えば二軸スクリュー混練機、二軸スクリュー押出機、二軸シャフト混練機もしくはミキサー、一軸スクリュー混練機もしくは一軸スクリュー押出機、またはDraisミキサー内で行われる。
【0037】
特に大規模プロセスについては、かかる装置の使用が十分な剪断を生じさせ、より短い混合時間を用い、連続プロセスを可能にするのに有利であることが見出されている。
【0038】
大規模プロセスについては、以下の方法の実施形態を用いることができる。溶媒および指定量の塩基を室温にて容器内で(高)剪断で撹拌し、化学平衡に到達させる。溶媒-塩基混合物をミキサー、例えば二軸スクリュー押出機に導入する。二軸スクリュー押出機は、液体溶媒-塩基混合物および固体アラミド材料用に別々の入口を有し得る。液体溶媒-塩基混合物を高圧下で導入し、固体アラミド材料と合することができる。好ましくは、固体アラミド材料を液体溶媒-塩基混合物の添加前に押出機に投入する。任意で、追加量の塩基を固体形態またはその水溶液のいずれかで押出機に添加する。かかる追加量の塩基は、例えば溶媒-塩基混合物を押出機に添加する場所の下流で添加することができる。アラミド材料および溶媒-塩基混合物の量は、少なくとも5重量%、好ましくは7~22重量%、より好ましくは10~20重量%、さらに好ましくは12~18重量%の最終ポリマー濃度が得られるように調整するのが望ましい。(二軸スクリュー)押出機内での処理は、最大でも50℃、好ましくは最大でも25℃の温度で行うのが望ましい(必要に応じて冷却を施す)。供給量および出口流(押出物)を調整することにより、混合時間を調整する。高剪断を達成するために、例えば300rpmまでの回転速度を用いることができる。押出機のスクリュー構成は、移送、混合および混練要素等の多数の異なる要素で構築することができる。
【0039】
好ましくは、以下のスクリュー構成を用いることができる:進入ゾーン要素は、好ましくは3~6D(Dはmm単位のスクリューの直径を表す)の長さを有し、6~9D程度の長さを有することができ、一条または二条ねじである移送要素を備える。一条および二条ねじ要素は、搬送時に圧密を引き起こさない公知の搬送要素である。混合および溶解ゾーンは、15~30D、好ましくは20~23Dの長さを有することができ、移送特性を有しない要素(W&PのIgelまたはHedgehogおよび/または単列/多列歯混合ZME;Berstorffの単列または多列歯混合ZB、およびClextralの多列歯混合BMEL等のスクリュー要素)または断続移送特性を有する要素(W&PのSME型またはBerstorffのEAZ-ME型等のスクリュー要素)が使用される。移送特性を有しない混合要素は、搬送を起こさず、したがって、生成物で完全に満たされ、分散混合特性を有することを特徴とする。断続移送特性を有する混合要素は、搬送特性を有するチャネルを有する。これらの要素は、分配混合特性を有し、完全に満たされる必要はない。
【0040】
代替的には、以下のスクリュー構成を用いることができる:進入ゾーン要素は2~10D、好ましくは5~7D(Dはmm単位のスクリューの直径を表す)の長さを有する。
【0041】
混合および溶解ゾーンは10~20D、好ましくは13~16Dの長さを有することができ、移送特性を有する要素が使用される。脱ガスゾーンは、3~8D、好ましくは2~4Dの長さを有することができ、真空ロックとしての負の移送要素および(二軸スクリュー)押出機の真空接続部での正の移送要素が使用される。
【0042】
混合および圧縮ゾーンは10~30D、好ましくは16~19Dの長さを有することができ、移送または圧縮特性を有する要素が使用される。
【0043】
任意で、押出機内で真空(負圧)を適用して、あらゆるガスを除去し、更なる処理に適した、ガスを含まないアラミド溶液を得ることができる。好ましくは、押出物を密閉容器またはバレルに回収する(プロトン供与体、例えば湿潤空気の存在を排除するため)。
【0044】
任意で、大きな未溶解塩基粒子、例えば0.5μm超のサイズを有する粒子を、アラミド材料と溶媒-塩基混合物とを合する前に溶媒-塩基混合物から除去する。大規模プロセスでは、大きな未溶解塩基粒子の除去は、溶媒-塩基混合物を混合デバイスに導入する前に(例えば沈降、デカンテーションまたは濾過によって)行うことができる。
【0045】
任意で、未溶解アラミド材料をアラミドの溶液から、例えば沈降、デカンテーションまたは濾過によって除去する。
【0046】
本方法については、組成物中のアラミド材料の濃度または量は、組成物の重量に対して少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも2重量%、より好ましくは少なくとも4重量%、さらに好ましくは少なくとも4.5重量%であり得る。組成物中のアラミド材料の濃度は、25重量%までの範囲とすることもできる。好ましくは、組成物中のアラミド材料の濃度は、少なくとも10重量%である。
【0047】
好ましくは、このように溶解した溶液中のアラミドの濃度は、同じ範囲である。
【0048】
一実施形態では、アラミド材料と溶媒-塩基混合物とを少なくとも2工程、好ましくは少なくとも3工程、より好ましくは少なくとも4工程で合することにより、アラミド材料と溶媒-塩基混合物とを合する。好ましくは、1工程で添加するアラミド材料の量は、溶液の重量に対して0.1~2重量%の範囲である。
【0049】
例えば、1工程当たり、溶液の重量に対して0.5重量%~1重量%の範囲のアラミド材料の量を添加することができる。工程間に撹拌または超音波処理を施してもよい。1工程当たりに添加するアラミド材料の量は、工程数にわたって均等に配分してもよいし(例えば3工程のそれぞれで1/3)、量を工程間で変化させてもよい(例えば工程間で増加または減少させる)。
【0050】
一実施形態では、合計で溶媒1リットル当たり少なくとも2モルの塩基を添加して、溶媒-塩基混合物を調製し、少なくとも2.5重量%のアラミド材料を溶媒-塩基混合物と合して溶液、好ましくは溶媒1リットル当たり少なくとも2.5モルの塩基および少なくとも4重量%のアラミド材料を得る。
【0051】
本方法の利点は、アラミド溶液が得られるまでの時間が短いことである。第1の方法工程、すなわち、塩基と溶媒とを合して、化学平衡状態にある溶媒-塩基混合物を得る工程は、混合デバイスの選択に応じて、好ましくは2~24時間を要する。粒径の小さな塩基を使用することにより、時間を短縮することができる。第3の方法工程、すなわち、組成物を混合してアラミドの溶液を得る工程は、混合デバイスの選択に応じて、好ましくは5分~2時間を要する。
【0052】
本願の別の対象は、溶媒、塩基およびアラミドを含む溶液であって、溶液が、溶媒1リットル当たり少なくとも1モルの塩基、好ましくは溶媒1リットル当たり少なくとも1.5モル、より好ましくは少なくとも2モル、さらに好ましくは少なくとも3モルの塩基を含む溶液である。
【0053】
一実施形態では、本願の対象は、溶媒、塩基およびアラミドを含む溶液であって、溶液が塩基の量に関して飽和している溶液である。このため、或る特定の温度および圧力で塩基はそれ以上溶液に溶解しない。
【0054】
この溶液は、最初に過剰な塩基を溶媒に添加して溶媒-塩基混合物を作製し、過剰な固体の塩基を(例えば、溶媒-塩基混合物のデカンテーションまたは濾過によって)除去し、所定量のアラミドを添加することによって得ることができる。
【0055】
本方法の使用により、本アラミドの溶液(すなわちアラミド溶液)は、アラミドポリマー鎖内のアミド結合がほとんど、好ましくは完全に、脱プロトン化された非繊維性溶液である。結晶形態(未溶解)のアラミドポリマーは、依然として水素結合にプロトンを含んでいる。アラミドのプロトン化状態は、NMR(核磁気共鳴分光法)、特にH-NMRによって決定することができる。
【0056】
赤色の溶液の形成は、アラミドポリマーの溶解および少なくとも部分的な脱プロトン化を示す。
【0057】
塩基を含む溶媒によるアラミドの(完全な)脱プロトン化を決定および証明するために、塩基を含む重水素化溶媒中のアラミドの溶液を作製し、H NMRスペクトルにおけるアミドプロトンの存在を決定する。ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)(PPTA)およびDMSOの場合、DMSO-d6/KOH中のPPTAの溶液を作製し、室温で撹拌する。
【0058】
溶解後に、サンプルの標準HスペクトルをBrukerのAvance III 400 MHz NMRで記録した。10mgのDMSOを含む、別途測定したDMSO-d6/KOHの溶液から、内部標準をサンプルスペクトルの空領域に投影する、いわゆるeretic法を用いて定量化を行った。DMSO-d6は交換可能な重陽子を含まないため、アミドプロトンは、通常、H NMRスペクトルにおいて9~11ppmの間に予想される。DMSO-d6/KOH中で記録されたスペクトルにかかるシグナルがないことは、アミド基の完全な脱プロトン化を示す。
【0059】
このため、H NMRスペクトルにおいてアミドプロトンが(ほとんど)存在しないこと(すなわち最大2モル%)によって証明されるように、PPTAはDMSO/KOH溶液中で完全に脱プロトン化される。
【0060】
したがって、好ましくは、本発明のアラミド溶液は、上記のように決定されるプロトン化アミド基を最大でも5モル%、さらに好ましくは最大でも2モル%含む。加えて、13C{H} NMRスペクトルを記録して、末端基含有量を観察および推定することができる。DMSO-d6/KOH溶液中の2%(m/m)PPTAから行った推定では、予想範囲の末端基含有量が得られる。したがって、DMSO/KOH溶液中でのポリマーの分解は起こらなかったと結論付けることができる。
【0061】
アラミドナノファイバー分散液、または共溶媒(例えばCaCl)を含むアミド溶媒(例えばNMP)中のアラミドポリマーの分散液、または硫酸中のアラミドの溶液を調製する従来技術の方法は、本発明の解決手段とは異なる。従来技術の方法は、アミド結合が完全には脱プロトン化されていないアラミドナノファイバーの分散液またはアラミドポリマーの分散液である。本解決手段では、アミド結合は、好ましくは完全に脱プロトン化される。
【0062】
硫酸中のアラミドの溶液では、ポリマー中のアミド基がプロトン化されている。共溶媒を含むNMPの溶液では、共溶媒のイオン(例えばCa2+)がアミド基に結合している。プロトン供与体を用いてANF分散液を生成する場合、アミド基は少なくとも部分的にプロトン化される。
【0063】
一実施形態では、溶液は、溶液の重量に対して少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも2重量%、より好ましくは少なくとも4重量%、さらに好ましくは少なくとも4.5重量%のアラミドを含む。溶液中のアラミドの濃度は、25重量%までの範囲であってもよい。好ましくは、組成物中のアラミド材料の濃度は、少なくとも10重量%である。
【0064】
溶液の濃度は、更なる処理に応じて選択することができる。溶液を繊維へと紡糸するためには、比較的高い濃度が好ましく(例えば5~25重量%)、樹脂複合材を作製するためには、比較的低い濃度を用いることができる(例えば5重量%まで)。
【0065】
好ましくは、アラミド溶液は光学異方性(液晶挙動)を示し、すなわち、アラミド分子は密に充填され、秩序配置となる。
【0066】
溶液の光学異方性は、偏光顕微鏡(明視野(bright image))下で検査し、かつ/または撹拌時に乳白光として見ることができる。
【0067】
通常、少なくとも3重量%のアラミドを含むアラミド溶液(室温)は、光学異方性を示す。より高濃度(例えば少なくとも4重量%、少なくとも5重量%または少なくとも10重量%)のアラミド溶液は、光学異方性を示す。
【0068】
光学異方性は複屈折と称することもある。
【0069】
本発明は、溶液を連続アラミド繊維、アラミドナノファイバー、アラミドフィルム、またはアラミドを含む複合材等の様々な形状の製品または材料に加工する方法にも関する。
【0070】
このため、本発明は、連続アラミド繊維を製造する方法であって、
i)上記のような溶液または方法の実施形態のいずれかに従って生成した溶液を準備することと、
ii)溶液を紡糸口金に通すことと、
iii)溶液を凝固させて繊維を得ることと、
iv)繊維を洗浄することと
を含む方法に関する。
【0071】
好ましくは、連続アラミド繊維を製造する方法の紡糸プロセスは、ドライジェット湿式紡糸プロセスである。これは、溶液が紡糸口金から出た後、凝固浴に入る前にガス状媒体を通過することを意味する。好ましくは、溶液はガス状媒体を通過する。ガス状非凝固媒体は、好ましくは空気からなる。
【0072】
ガス状媒体(エアギャップとも称される)は、好ましくは2~20mm、より好ましくは3~15mm、さらに好ましくは5~10mmの範囲の長さを有する。
【0073】
溶液が通過するガス状媒体において、溶液中に存在するアラミドを延伸する。しかしながら、湿式紡糸プロセスにおいてエアギャップを用いることなく溶液を連続繊維に加工することも可能であり、したがって、溶液は紡糸口金を出た後、直接凝固浴に入る。
【0074】
凝固浴を出る際のフィラメントの長さと紡糸口金の紡糸口を出る際の溶液の平均長さとの比率である延伸度は、1.5~15、好ましくは2~6の範囲であり得る。
【0075】
凝固後、形成された連続アラミド繊維を凝固浴から取り出し、洗浄し、乾燥させ、ボビンに巻き取る。使用される紡糸口金自体は、ドライジェット湿式紡糸に公知のタイプのものであり得る。
【0076】
驚くべきことに、アラミド溶液の紡糸、特に低力価フィラメントへの紡糸、およびその後のフィラメントの洗浄により、塩基の効率的な除去が可能であることが見出された。
【0077】
それまで加工または成形していないパラアラミドポリマーを出発原料(アラミド材料)として用いて溶液を作製する場合、このプロセスによって得られる連続パラアラミド繊維は、スルホン酸基を含まない。
【0078】
一方、アラミド材料が再生アラミドを含む場合、このプロセスによって得られる連続パラアラミド繊維は、スルホン酸基を有する。
【0079】
このようにして生成した連続アラミド繊維は、魅力的な機械的特性を有することがあり、例えば、より少ないフィブリル化(より高い耐磨耗性)を示し、高い破断点伸びおよび/または横圧縮に対する高い耐性を有することがある。
【0080】
上記方法によって生成した連続アラミド繊維は、好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも7.5%、さらに好ましくは少なくとも10%の破断点伸びを有し得る。破断点伸びは、15%より高いことさえある。破断点伸びは、ASTM D1776に準拠して20℃および65%相対湿度で14時間コンディショニングした後、ASTM D7269に準拠して決定される。
【0081】
したがって、本発明の対象は、上記のように決定される破断点伸びが、少なくとも5%、より好ましくは少なくとも7.5%、さらに好ましく少なくとも10%または少なくとも15%である、連続アラミド繊維でもある。
【0082】
本発明の別の対象は、アラミドナノファイバーを製造する方法であって、
i)上記溶液または方法の実施形態のいずれかに従って生成した溶液を準備することと、
ii)溶液に所定量のプロトン供与体を添加することと
を含む方法である。
【0083】
プロトン供与体は、例えば水およびアルコール(例えばエタノールまたはメタノール)から選択され得る。
【0084】
このプロセスによって得られるアラミドナノファイバーは、特に基材の特性または少なくとも基材の表面特性を修正または改善するために、様々な基材のコーティングに使用することができる。例えば、アラミドナノファイバーのコーティングは、基材の耐火性を改善するために用いることができる。
【0085】
さらに、アラミドナノファイバーを複合材料の強化に使用することができ、特にアラミドナノファイバーを複合材の樹脂またはマトリックス材に添加することができる。
【0086】
代替的には、アラミドナノファイバーを(例えば、紙等のシート状の材料または複合材における)充填材または接着剤として使用することができる。
【0087】
本発明の別の対象は、アラミドフィルムを製造する方法であって、
i)上記のような溶液または方法の実施形態のいずれかに従って生成した溶液を準備することと、
ii)溶液を表面上に供給することと、
iii)溶液を固化させてフィルムを形成することと
を含む方法である。
【0088】
一実施形態では、溶液を表面上に供給する前に、溶液を別のポリマーの溶液と合してもよい。合した溶液を用いて、別のポリマーを含むアラミドフィルムを製造することができる。
【0089】
表面は支持体表面であり得る。代替的には、表面は、溶液のフィルムでコーティングすべき物体の一部である。
【0090】
溶液は、例えばダイからのキャスティング、またはローラーを用いた塗布によって(支持体)表面に供給することができる。
【0091】
代替的には、溶液のフィルムでコーティングすべき物体を溶液に浸漬するか、または吹付けもしくは他の公知の方法を含む他の方法によってコーティングする。
【0092】
続いて、溶液を固化させてフィルムを形成する。これは、乾燥または凝固によって達成することができる。凝固のために溶液を水性凝固剤、例えば水または溶媒の水溶液に供する。
【0093】
好ましくは、フィルムをすすぐか、または洗浄して残留溶媒および/または塩基を除去する。洗浄したフィルムを延伸および乾燥に供してもよい。任意で、乾燥させたフィルムを熱処理してもよい。
【0094】
溶液を樹脂複合材の製造にも使用することができる。溶液を樹脂と合するか、または樹脂溶液(例えばエポキシ樹脂を含む)に添加して、硬化させた後の樹脂の機械的特性を改善することができる。
【0095】
したがって、本願は、アラミド溶液を加工する方法のいずれかによって得られるアラミドナノファイバー、アラミドフィルムおよび連続アラミド繊維にも関する。さらに、本願は、上記の方法によって得られたアラミドナノファイバーを含む材料に関する。材料は、コーティングおよび複合材から選択され得る。
【図面の簡単な説明】
【0096】
図1】実施例1および実施例2のフィルムのSEM画像である(右画像:実施例2、左画像:実施例1)。
【0097】
本発明を以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【0098】
実施例1
窒素流を入れた後にガラス栓およびパラフィルムで閉じた密閉250mLエルレンマイヤー内で、5.61gのKOHを50mLのDMSOに溶解することによって溶液を形成した(溶媒中2Mの塩基)。溶媒を24時間撹拌した。溶媒(50mL)をデカントし、1Lガラス反応器に入れ、そこに1.68gのp-フェニレンテレフタルアミド(PPTA、Twaron(登録商標) 1000ショートカット、長さ6mm)を添加し、およそ1.5時間撹拌した(3重量%のアラミド濃度に相当する)。交差偏光を用いるLeicaの光学顕微鏡によって目に見えるPPTA繊維が検出されなくなった時点で溶解が完了した。
【0099】
溶液からフィルムを作製した。溶液の一部(実験用スプーン1杯)をドクターブレードによってガラス板上に広げた。フィルムが完全に凝固するまでガラス板を脱塩水浴に入れた。フィルムをアルコール浴に入れ、水分を洗い流した。最後に、ヒュームフード内にてフィルムをガラス板上で乾燥させた。
【0100】
実施例2
窒素流を入れた後にガラス栓およびパラフィルムで閉じた密閉250mLエルレンマイヤー内で、2.80gのKOHを50mLのDMSOに溶解することによって溶液を形成した(溶媒中1Mの塩基)。溶媒を24時間撹拌した。溶媒(50mL)をデカントし、1Lガラス反応器に入れ、そこに1.68gのPPTA(Twaron(登録商標) 1000ショートカット、長さ6mm)を添加し、およそ3時間撹拌した(3重量%のアラミド濃度に相当する)。交差偏光を用いるLeicaの光学顕微鏡によって目に見えるPPTA繊維が検出されなくなった時点で溶解が完了した。
【0101】
溶液からフィルムを作製した。溶液の一部(実験用スプーン1杯)をドクターブレードによってガラス板上に広げた。フィルムが完全に凝固するまでガラス板を脱塩水浴に入れた。フィルムをアルコール浴に入れ、水分を洗い流した。最後に、ヒュームフード内にてフィルムをガラス板上で乾燥させた。
【0102】
実施例1および実施例2のフィルムを走査電子顕微鏡法(SEM)によって分析した。
【0103】
SEM画像を図1に示す(右画像:実施例2、左画像:実施例1)。
図1
【国際調査報告】