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特表2024-518038エポキシ熱硬化性物質を再利用する方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-24
(54)【発明の名称】エポキシ熱硬化性物質を再利用する方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/08 20060101AFI20240417BHJP
   B29B 17/00 20060101ALI20240417BHJP
   B29B 17/04 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
C08J11/08 ZAB
B29B17/00
B29B17/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564630
(86)(22)【出願日】2022-04-22
(85)【翻訳文提出日】2023-12-19
(86)【国際出願番号】 IB2022053768
(87)【国際公開番号】W WO2022224211
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】202021046285
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519334122
【氏名又は名称】アディティア・ビルラ・ケミカルズ・(タイランド)・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】シン、チャンダン クマール
(72)【発明者】
【氏名】ダービー、プラディップ クマール
(72)【発明者】
【氏名】コシンスキー、シモン タデウツ
(72)【発明者】
【氏名】マハント、サティッシュ クマール
(72)【発明者】
【氏名】シン、バラス
(72)【発明者】
【氏名】マトゥール、パンカジ
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA21
4F401AA28
4F401AB06
4F401AD08
4F401BA13
4F401BB01
4F401CA14
4F401CA29
4F401CA30
4F401CA51
4F401CB01
4F401CB18
4F401EA46
4F401EA54
4F401EA55
4F401EA58
4F401EA59
4F401EA62
4F401EA63
4F401EA65
4F401EA66
4F401EA68
4F401EA69
4F401FA01Z
4F401FA07Z
(57)【要約】
本発明は、開裂可能な結合を含むエポキシ熱硬化性物質を再利用する方法及びシステムに関する。本方法は、酸溶液を用いてエポキシ熱硬化性物質を溶解し、熱可塑性酸性混合物から酸溶液を脱揮して熱可塑性成分を生成する。本方法により、再利用可能な熱可塑性成分及び任意に再利用可能な強化マトリックス成分を回収することができる。本方法は、加熱条件下でエポキシ熱硬化性物質を酸溶液に溶解して熱可塑性混合物を得るステップと、任意に熱可塑性混合物を濾過して熱可塑性溶液から強化マトリックス成分を分離するステップと、熱可塑性溶液を脱揮して再利用可能な熱可塑性成分を得るステップと、を含む。

【選択図】 図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの再利用可能な成分を含むエポキシ熱硬化性物質を再利用する方法であって、
i.熱可塑性混合物を形成するために、50~110℃の加熱条件下で、前記エポキシ熱硬化性物質を酸溶液に溶解するステップと、
ii.熱可塑性溶液から強化マトリックス成分を分離するために、前記熱可塑性混合物を濾過するステップと、
iii.再利用可能な熱可塑性成分を得るために、前記熱可塑性溶液を脱揮して、前記酸溶液を除去するステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記濾過は、遠心分離、手動選別、光学選別、又はそれらの組み合わせによる成分の選別を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸溶液は、酢酸、乳酸、プロピオン酸、他の脂肪族酸、他の有機酸、又はそれらの組み合わせであり、酢酸の濃度は5~70%であり、乳酸の濃度は20~80%である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記酸溶液は、水、ブタノール、イソプロパノール、プロパノール、エタノール、メタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ニトロメタン、炭酸プロピレン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジオキサン、グライム、ポリエーテル、ジエチルエーテル、その他の非極性溶媒、その他の極性非プロトン性溶媒、その他の極性プロトン性溶媒、及びそれらの組み合わせから選択される溶媒を含有する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
除去された前記酸溶液、溶媒、又はその両方は、プロセスにおいて再利用される請求項1又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記エポキシ熱硬化性物質は、
ジエポキシ樹脂、及び、アミン系硬化剤、チオール系硬化剤、ポリアミノ化合物、他の酸不安定性硬化剤、若しくはそれらの組み合わせである再利用可能な酸不安定性硬化剤、又は
酸分解性のアセタール、ケタール、オルトカーボネート、オルトエステル、オルトシリケート、若しくはシラン結合を含む再利用可能なエポキシ樹脂、及び、硬化剤から調製される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記強化マトリックス成分は、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ジュート、草、竹、松、バルサ、その他の天然繊維、及びそれらの組み合わせを含み、再利用可能である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法を用いて得られる再利用可能な熱可塑性成分。
【請求項9】
少なくとも1つの再利用可能な成分を含むエポキシ熱硬化性物質を再利用するシステムであって、
i.熱可塑性混合物を形成するために、加熱条件下で前記エポキシ熱硬化性物質を酸溶液に溶解するように構成された溶解サブシステムと、
ii.熱可塑性溶液から強化マトリックス成分を分離するために、前記熱可塑性混合物を濾過するように構成された濾過サブシステムと、
iii.再利用可能な熱可塑性成分を得るために、前記熱可塑性溶液から前記酸溶液を除去するように構成された脱揮サブシステムであって、押出機、落下膜蒸発器、蒸留ユニット、又はそれらの組み合わせを含む脱揮サブシステムと、を備えるシステム。
【請求項10】
前記脱揮サブシステムは、前記熱可塑性溶液から溶媒を除去するように構成される請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記システムは、連続式又はバッチ式に構成され、除去された前記酸溶液、溶媒、又はその両方をプロセスに再利用するように構成される請求項9又は10に記載のシステム。
【請求項12】
再利用可能な成分を含むエポキシ熱硬化性物質を再利用する方法であって、
i.熱可塑性混合物を形成するために、前記エポキシ熱硬化性物質を酸溶液に溶解し、前記エポキシ熱硬化性物質を少なくとも部分的に溶解するステップと、
ii.強化マトリックス成分を含む再利用可能な熱可塑性成分を得るために、前記熱可塑性混合物を脱揮して、前記酸溶液を除去するステップと、を含む方法。
【請求項13】
前記エポキシ熱硬化性物質は、前記酸溶液に溶解する前にサイズが縮小される請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記エポキシ熱硬化性物質の前記酸溶液への浸漬は、50℃~110℃の加熱条件下で行われる請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記酸溶液は、酢酸、乳酸、プロピオン酸、他の脂肪族酸、他の有機酸、硫酸、リン酸、他の無機酸、又はそれらの組み合わせであり、酢酸の濃度は5~70%であり、乳酸の濃度は20~80%であり、硫酸の濃度は1~10%の濃度であり、リン酸の濃度は20~90%である請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記酸溶液は、水、ブタノール、イソプロパノール、プロパノール、エタノール、メタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ニトロメタン、炭酸プロピレン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジオキサン、グライム、ポリエーテル、ジエチルエーテル、その他の非極性溶媒、その他の極性非プロトン性溶媒、その他の極性プロトン性溶媒、及びそれらの組み合わせから選択される溶媒を含有する請求項12に記載の方法。
【請求項17】
除去された前記酸溶液、溶媒、又はその両方は、プロセスにおいて再利用される請求項12又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記エポキシ熱硬化性物質は、
ジエポキシ樹脂、及び、アミン系硬化剤、チオール系硬化剤、ポリアミノ化合物、他の酸不安定性硬化剤、若しくはそれらの組み合わせである再利用可能な酸不安定性硬化剤、又は
酸分解性のアセタール、ケタール、オルトカーボネート、オルトエステル、オルトシリケート、若しくはシラン結合を含む再利用可能なエポキシ樹脂、及び、硬化剤から調製される請求項12に記載の方法。
【請求項19】
請求項12に記載の方法を用いて得られる再利用可能な熱可塑性成分。
【請求項20】
再利用可能な成分を含むエポキシ熱硬化性物質を再利用するシステムであって、
i.熱可塑性混合物を形成するために、前記エポキシ熱硬化性物質を酸溶液に溶解するように構成された溶解サブシステムと、
ii.強化マトリックス成分を含む再利用可能な熱可塑性成分を得るために、前記熱可塑性溶液から前記酸溶液を除去するように構成された脱揮サブシステムであって、押出機、落下膜蒸発器、蒸留ユニット、又はそれらの組み合わせを含む脱揮サブシステムと、を備えるシステム。
【請求項21】
前記脱揮サブシステムは、前記熱可塑性溶液から溶媒を除去するように構成される請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記システムは、連続式又はバッチ式に構成され、除去された前記酸溶液、溶媒、又はその両方をプロセスに再利用するように構成される請求項20又は21に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸溶液を使用した後、熱可塑性酸性混合物から酸溶液を脱揮する、開裂可能な結合を含むエポキシ熱硬化性物質を再利用する方法及びシステムに関する。本方法により、再利用可能な熱可塑性成分及び任意に再利用可能な強化マトリックス成分を回収・再利用することができる。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は熱硬化性化合物の重要なクラスである。エポキシ樹脂は経済的で、毒性が低く、他の熱硬化性樹脂では得られない耐熱性、機械抵抗性、耐薬品性の固有の組み合わせを提供する。これらは耐薬品性、耐溶剤性が高く、収縮率が低く、様々な基材への接着性に優れている。エポキシ樹脂は、繊維強化ポリマー複合材料の製造にも使用される。
【0003】
エポキシ熱硬化性物質は多様な用途があり、自動車、宇宙・防衛機器、風車、構造用接着剤、エレクトロニクス、セラミック製造、マイクロエレクトロニクス包装などに広く使用されている。また、構造部品、エポキシセメント、フロアコーティング、金属コーティング、船舶用コーティング、塗料、装飾美術品、ラッカーなど、土木・建築分野にも幅広い用途がある。優れた性能により、エポキシ樹脂は缶コーティング、粉体コーティング、食品・包装コーティングなどのコーティング用途にも好まれている。
【0004】
しかしながら、従来のエポキシ樹脂は、熱硬化後にエポキシ樹脂が汎用の溶剤に不溶となるため、再利用が困難である。特に、エポキシ樹脂は一度硬化すると熱で溶融しないため、樹脂材料としての再利用が困難である。そのため、従来のエポキシ樹脂硬化物や、エポキシ樹脂硬化物が付着・塗布された製品の製造では、大量の廃棄物が生じていた。また、製品寿命後は、重合体エポキシマトリックスから有益な成分を回収して再利用すること、及び/又は、エポキシ自体を再利用することが課題となる。一般に、全ての成分は焼却や埋め立てによって処分され、失われる。これらの廃棄方法は、環境への不可逆的な損傷及び汚染を引き起こす。
【0005】
再利用可能なエポキシ類は、熱硬化性ポリマーが開裂可能な結合を有するエポキシ樹脂の解重合を可能にするために開発された。再利用可能なエポキシは、再利用可能な酸不安定性硬化剤と従来のエポキシ樹脂、あるいは、再利用可能なエポキシ樹脂と従来の硬化剤を用いて調製される。形成されたエポキシ熱硬化性ポリマーは開裂可能な結合を有し、再利用可能な解重合を可能にする。エポキシ複合材料の場合、解重合後、エポキシ樹脂を溶解し、金属、ガラス繊維、炭素繊維などの他の物質を分離、回収し、再利用することができる。
【0006】
先行技術における再利用可能な熱硬化性樹脂及び複合材料の再利用方法は、酸や溶媒などの分解剤を利用する。先行技術における再利用可能な熱硬化性樹脂の再利用方法は、再利用可能なエポキシ熱硬化性物質の熱可塑性成分を溶解するために使用される酸をNaOHを用いて中和するNaOH中和ステップを利用する。このステップは、下水廃棄物として処分できない酢酸ナトリウムなどの廃棄物を発生させるため好ましくない。また、先行技術の方法は、工業的に適切でないバッチプロセスであり、容易にスケールアップすることができない。そのため、エポキシ熱硬化性物質及びその複合材料の成分を環境への影響を低減しながら回収することができる工業的、商業的に実現可能で、効果的かつスケーラブルな再利用プロセスに対するニーズが存在する。
【0007】
したがって、当該技術分野で知られている方法に関連する1つ以上の問題に対処する、あるいは少なくともそのような方法の実行可能な代替案を提供する、エポキシポリマー及びその複合材料の再利用方法を開発する機会が残されている。
【発明の概要】
【0008】
一実施形態によれば、本発明は、少なくとも1つの再利用可能な成分を含むエポキシ熱硬化性物質を再利用する方法であって、
i.熱可塑性混合物を形成するために、50~110℃の加熱条件下で、エポキシ熱硬化性物質を酸溶液に溶解するステップと、
ii.熱可塑性溶液から強化マトリックス成分を分離するために、熱可塑性混合物を濾過するステップと、
iii.再利用可能な熱可塑性成分を得るために、熱可塑性溶液を脱揮して、酸溶液を除去するステップと、を含む方法である。
【0009】
別の実施形態によれば、本発明は、少なくとも1つの再利用可能な成分を含むエポキシ熱硬化性物質を再利用するシステムであって、
i.熱可塑性混合物を形成するために、加熱条件下でエポキシ熱硬化性物質を酸溶液に溶解するように構成された溶解サブシステムと、
ii.熱可塑性溶液から強化マトリックス成分を分離するために、熱可塑性混合物を濾過するように構成された濾過サブシステムと、
iii.再利用可能な熱可塑性成分を得るために、熱可塑性溶液から酸溶液を除去するように構成された脱揮サブシステムであって、押出機、落下膜蒸発器、蒸留ユニット、又はそれらの組み合わせを含む脱揮サブシステムと、を備えるシステムである。
【0010】
別の実施形態によれば、本発明は、再利用可能な成分を含むエポキシ熱硬化性物質を再利用する方法であって、
i.熱可塑性混合物を形成するために、エポキシ熱硬化性物質を酸溶液に溶解し、エポキシ熱硬化性物質を少なくとも部分的に溶解するステップと、
ii.強化マトリックス成分を含む再利用可能な熱可塑性成分を得るために、熱可塑性混合物を脱揮して、酸溶液を除去するステップと、を含む方法である。
【0011】
別の実施形態によれば、本発明は、再利用可能な成分を含むエポキシ熱硬化性物質を再利用するシステムであって、
i.熱可塑性混合物を形成するために、エポキシ熱硬化性物質を酸溶液に溶解するように構成された溶解サブシステムと、
ii.強化マトリックス成分を含む再利用可能な熱可塑性成分を得るために、熱可塑性溶液から酸溶液を除去するように構成された脱揮サブシステムであって、押出機、落下膜蒸発器、蒸留ユニット、又はそれらの組み合わせを含む脱揮サブシステムと、を備えるシステムである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明の実施形態を参照するが、その例は添付の図に示されている。これらの図は、例示であって限定を意図するものではない。本発明は、これらの実施形態に関連して一般的に説明されるが、本発明の範囲をこれらの特定の実施形態に限定することを意図するものではないことを理解されたい。
【0013】
図1】エポキシ熱硬化性物質を完全に溶解する、エポキシ熱硬化性物質を再利用する本方法の実施形態を示す(溶解プロセス)。
図2】エポキシ熱硬化性物質を少なくとも部分的に溶解する、エポキシ熱硬化性物質を再利用する本方法の実施形態を示す(非溶解プロセス)。
図3】エポキシ熱硬化性物質を完全に溶解する、エポキシ熱硬化性物質を再利用する本システムの一実施形態を示す(溶解プロセス装置)。
図4】エポキシ熱硬化性物質を少なくとも部分的に溶解する、エポキシ熱硬化性物質を再利用する本システムの一実施形態を示す(非溶解プロセス装置)。
図5a】60℃における異なる濃度の酸が及ぼすエポキシ廃棄物の再利用における経時的な影響について示したグラフデータである。
図5b】80℃における異なる濃度の酸が及ぼすエポキシ廃棄物の再利用における経時的な影響について示したグラフデータである。
図5c】100℃における異なる濃度の酸が及ぼすエポキシ廃棄物の再利用における経時的な影響について示したグラフデータである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の詳細な説明において、実施形態は、当業者が本発明を実施できるように十分に詳細に説明されるが、他の実施形態が利用されてもよく、本発明の範囲から逸脱することなく変更が加えられてもよいことが理解される。当業者が本明細書に記載された実施形態を実施できるようにするために必要でない詳細を避けるために、本明細書では、当業者に公知の特定の情報を省略することがある。したがって、明細書及び図面は、制限的ではなく例示的な意味でみなされ、このようなすべての変更例は、本教示の範囲内に含まれることが意図される。単数形の「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明らかにそうでないと指示されない限り、複数の参照語を含むことを理解されたい。本明細書で使用される場合、用語「含む(comprises/comprising)」は、記載された特徴、整数、ステップ又は構成要素の存在を特定するために用いられるが、1つ又は複数の他の特徴、整数、ステップ、構成要素又はそれらのグループの存在又は追加を排除するものではないことが強調されるべきである。
【0015】
本発明は、一実施形態において、少なくとも1つの再利用可能な成分を含むエポキシ熱硬化性物質を再利用する方法であって、
熱可塑性混合物を形成するために、50~110℃の加熱条件下で、エポキシ熱硬化性物質を酸溶液に溶解するステップと、
熱可塑性溶液から強化マトリックス成分を分離するために、熱可塑性混合物を濾過するステップと、
再利用可能な熱可塑性成分を得るために、熱可塑性溶液を脱揮して、酸溶液を除去するステップと、を含む方法を提供することで、前述の先行技術の欠点に対応することを意図している。
【0016】
本方法は工業的な溶解プロセスであり、エポキシ熱硬化性物質の溶解により熱可塑性混合物が形成される。好ましい実施形態では、このプロセスは100℃で実施される。好ましい実施形態では、エポキシ熱硬化性物質は、酸溶液に溶解する前にサイズ縮小される。熱可塑性物質は酸溶液に完全に溶解し、得られる熱可塑性混合物は、熱可塑性溶液中に懸濁された強化マトリックス成分や再利用不可能な成分などの未溶解成分を含む。濾過により、未溶解成分を熱可塑性溶液から除去することができる。酸溶液に溶解した熱可塑性物質は、蒸留、拭き取り膜蒸発、脱揮押出機などを用いて酸溶液を脱揮することにより、酸を除去した後に回収される。このような方法で得られた再利用可能な熱可塑性成分は、コンパウンドや反応押出成形により、様々なグレードの使用可能な熱可塑性物質を製造することができる。
本方法の一実施形態では、濾過は、遠心分離、手動選別、光学選別、又はそれらの組み合わせによる未溶解成分の選別をさらに含む。未溶解成分は、回収、再利用するために選別してもよいし、廃棄してもよい。除去・再利用される強化マトリックス成分は、ほぼ新品の材料と同等である。これにより、補強材のほぼ全価値又は部分的な価値を再捕捉することができる。本方法の一実施形態では、強化マトリックス成分は、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ジュート、草、竹、松、バルサ、その他の天然繊維、及びそれらの組み合わせを含み、再利用可能である。
【0017】
溶解プロセスの一実施形態では、酸溶液は、酢酸、乳酸、プロピオン酸、他の脂肪族酸、他の有機酸、又はそれらの組み合わせであり、酢酸の濃度は5~70%であり、乳酸の濃度は20~80%である。好ましい実施形態によれば、酸溶液は10~15%の酢酸又は50%の乳酸である。再利用プロセスは穏やかであり、好ましくは弱酸を使用する。本方法の一実施形態では、酸溶液は、水、ブタノール、イソプロパノール、プロパノール、エタノール、メタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ニトロメタン、炭酸プロピレン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジオキサン、グライム、ポリエーテル、ジエチルエーテル、その他の非極性溶媒、その他の極性非プロトン性溶媒、その他の極性プロトン性溶媒、及びそれらの組み合わせから選択される溶媒を含有する。
【0018】
酸を含む全ての脱溶媒は再利用できる。本方法の一実施形態では、除去された酸溶液、溶媒、又はその両方は、プロセスに再利用される。一実施形態では、プロセスは連続又はバッチ式である。好ましい実施形態では、プロセスは連続式である。
【0019】
本方法の一実施形態では、エポキシ熱硬化性物質は、ジエポキシ樹脂及び再利用可能な酸不安定性硬化剤から調製され、再利用可能な酸不安定性硬化剤は、アミン系硬化剤、チオール系硬化剤、ポリアミノ化合物、その他の酸不安定性硬化剤、又はそれらの組み合わせである。
一実施形態では、再利用可能な酸不安定性硬化剤は、以下の式1の化合物である。
【化1】
式中、mは2、1、又は0であり、nは2、3、又は4であり、mとnの和は4である。
R1はそれぞれ独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロ環、ヘテロシクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アリール、ヘテロアリール、アルキルオキシアルキル、又はアルキニルである。
Aはそれぞれ独立して、非置換のエチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ヘキシレン、エチレンオキシエチレン、エチレンアミノエチレン、
【化2】
である。
R2はそれぞれ独立して、-NHR3であり、R3はそれぞれ独立して、水素、アルキル、アミノアルキル、アルキルアミノアルキル、シクロアルキル、ヘテロ環、アルケニル、アリール、又はヘテロアリールである。あるいは、-O-A-R2基は2個ごとに独立して、それらが結合している炭素原子と共に、4個以上の環員を有するジオキサニル環を形成し、2個の-O-A-R2基が結合している炭素原子以外の環炭素原子の1個以上が、1個以上の独立したアミノ基又はアミノアルキルで置換されていてもよい。アミノ基はそれぞれ独立して、第1級又は第2級アミノ基である。
一実施形態では、再利用可能な酸不安定性硬化剤は、以下の式2の化合物である。
【化3】
式中、qは4、3、2、又は1であり、tは0、1、2、又は3であり、qとtの和は4である。
Wはそれぞれ独立して、アルキレン、シクロアルキレン、ヘテロシクリレン、アルケニレン、アルキニレン、シクロアルケニレン、アリーレン、又はヘテロアリーレンであり、Rはそれぞれ独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アルケニル、アルキニル、シクロアルケニル、アリール、ヘテロアリール、アミノアルキル、アミノアリール、置換アミノ基、又はORである。Rは、アルキル(例えば、メチル、エチル)、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アルケニル、アルキニル、シクロアルケニル、アリール(例えば、フェニル)、又はヘテロアリールである。
一実施形態では、式1、2、又はそれらの組み合わせの再利用可能な酸不安定性硬化剤は、BPAジグリシジルエーテル、BPFジグリシジルエーテル、BPSジグリシジルエーテル、反応性希釈剤、ジグリシジルアミン、水性エポキシ樹脂、配合エポキシ樹脂、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される従来のジエポキシ樹脂と共に使用される。
【0020】
本方法の一実施形態では、エポキシ熱硬化性物質は、再利用可能なエポキシ樹脂及び硬化剤から調製され、再利用可能なエポキシ樹脂は、酸分解性のアセタール、ケタール、オルトカーボネート、オルトエステル、オルトシリケート、又はシラン結合を含む。
一実施形態では、再利用可能なエポキシ樹脂は、以下の式3又は式4の化合物である。
式3:
【化4】

式4:
【化5】
式中、m=0の場合n=4であり、m=1の場合n=3であり、m=2の場合n=2である。Aは炭素又はケイ素であり、Dは酸素又は窒素又はカルボキシル基であり、Xは酸素又は硫黄である。s及びtは独立して1~20である。R1及びR2は独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロシクリル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロアリール、アルコキシアリール、アルコキシアルキルである。Bは独立して、アリーレン、アリーレンエーテル、アルキレンアリーレン、アルキレンアリーレンアルキレン、アルケニレンアリーレン、アルケニレンアリーレンアルケニレン、アルキレンアリーレンアルケニレン、アルキニレンアリーレン、アルキニレンアリーレンアルキニレン、ヘテロアリーレン、アルキレンヘテロアリーレン、アルキレンヘテロアリーレンアルキレン、アルケニレンヘテロアリーレン、アルケニレンヘテロアリーレンアルケニレン、アルキレンヘテロアリーレンアルケニレン、アルキニレンヘテロアリーレン、アルキニレンヘテロアリーレンアルキニレン、アルキレン、アルキレンヘテロアルキレン、アルケニレン、アルケニレンヘテロアルケニレン、アルキレンヘテロアルケニレン、アルキニレン、シクロアルキレン、アルキレンシクロアルキレン、アルキレンシクロアルキレンアルキレン、アルケニレンシクロアルキレン、アルケニレンシクロアルキレンアルケニレン、アルキレンシクロアルキレンアルケニレン、アルキニレンシクロアルキレン、アルキニレンシクロアルキレンアルキニレン、ヘテロシクロアルキレン、アルキレンヘテロシクロアルキレン、アルキレンヘテロシクロアルキレンアルキレン、アルケニレンヘテロシクロアルキレン、アルケニレンヘテロシクロアルキレンアルケニレン、アルキレンヘテロシクロアルキレンアルケニレン、アルキニレンヘテロシクロアルキレン、アルキニレンヘテロシクロアルキレンアルキニレン、シクロアルケニレン、アルキレンシクロアルケニレン、アルキレンシクロアルケニレンアルキレン、アルケニレンシクロアルケニレン、アルケニレンシクロアルケニレンアルケニレン、アルキレンシクロアルケニレンアルケニレン、アルキニレンシクロアルケニレン、アルキニレンシクロアルケニレンアルキニレン、ヘテロシクロアルケニレン、アルキレンヘテロシクロアルケニレン、アルキレンヘテロシクロアルケニレンアルキレン、アルケニレンヘテロシクロアルケニレン、アルケニレンヘテロシクロアルケニレンアルケニレン、アルキレンヘテロシクロアルケニレンアルケニレン、アルキニレンヘテロシクロアルケニレン、アルキニレンヘテロシクロアルケニレンアルキニレンである。
一実施形態では、式3、4又はそれらの組み合わせの再利用可能なエポキシ成分は、脂肪族アミン、脂環式ポリアミン、芳香族アミン、ポリエーテルアミン、ケトイミン、無水物、ポリアミド、イミダゾール、ポリチオール、ポリフェノール、ポリコルボン酸、カルボン酸系ポリエステル、カルボン酸系ポリアクリレート、UV硬化剤、水性硬化剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される従来の硬化剤と共に使用される。
【0021】
溶解プロセスの一実施形態では、エポキシ熱硬化性物質は、酸溶液に溶解する前にサイズ縮小される。サイズ縮小は、シュレッダ、粉砕ユニット、グラインダ、ブレンダ、クラッシャ、又はそれらの組み合わせを使用して達成される。
【0022】
一実施形態では、本発明は、本明細書で請求、開示された溶解プロセスを用いて得られる再利用可能な熱可塑性成分である。
【0023】
別の実施形態によれば、本発明は、少なくとも1つの再利用可能な成分を含むエポキシ熱硬化性物質を再利用するシステムであって、
熱可塑性混合物を形成するために、加熱条件下でエポキシ熱硬化性物質を酸溶液に溶解するように構成された溶解サブシステムと、
熱可塑性溶液から強化マトリックス成分を分離するために、熱可塑性混合物を濾過するように構成された濾過サブシステムと、
再利用可能な熱可塑性成分を得るために、熱可塑性溶液から酸溶液を除去するように構成された脱揮サブシステムであって、押出機、落下膜蒸発器、蒸留ユニット、又はそれらの組み合わせを含む脱揮サブシステムと、を備えるシステムである。
【0024】
システムの一実施形態では、脱揮サブシステムは、熱可塑性溶液から溶媒を除去するように構成される。一実施形態では、システムは、除去された酸溶液、溶媒、又はその両方をプロセスに再利用するように構成される。一実施形態では、システムは連続又はバッチ式に構成される。好ましい実施形態では、システムは連続式である。
【0025】
別の実施形態によれば、本発明は、再利用可能な成分を含むエポキシ熱硬化性物質を再利用する方法であって、
熱可塑性混合物を形成するために、エポキシ熱硬化性物質を酸溶液に溶解し、エポキシ熱硬化性物質を少なくとも部分的に溶解するステップと、
強化マトリックス成分を含む再利用可能な熱可塑性成分を得るために、熱可塑性混合物を脱揮して、酸溶液を除去するステップと、を含む方法である。
本方法は工業的な非溶解プロセスであり、酸溶液中でエポキシ熱硬化性物質の部分溶解が起こり、熱可塑性混合物が形成される。非溶解プロセスでは、熱可塑性溶液から強化マトリックス成分を濾過しないが、酸は脱揮によって除去される。これにより、他の生産物としてリサイクル/再利用可能な、強化された再利用可能な熱可塑性成分が生成される。このような方法で得られた再利用可能な熱可塑性成分は、コンパウンドや反応押出成形により、様々なグレードの使用可能な熱可塑性物質を製造することができる。
【0026】
非溶解プロセスの一実施形態では、エポキシ熱硬化性物質は、酸溶液に溶解する前にサイズ縮小される。サイズ縮小は、シュレッダ、粉砕ユニット、グラインダ、ブレンダ、クラッシャ、又はそれらの組み合わせを使用して達成される。非溶解プロセスの一実施形態では、エポキシ熱硬化性物質の酸溶液への浸漬は、50℃~110℃の加熱条件で行われる。このプロセスでは100℃で実施される。
【0027】
非溶解プロセスの一実施形態では、酸溶液は、酢酸、乳酸、プロピオン酸、他の脂肪族酸、他の有機酸、硫酸、リン酸、他の無機酸、又はそれらの組み合わせであり、酢酸の濃度は5~70%であり、乳酸の濃度は20~80%であり、硫酸の濃度は1~10%の濃度であり、リン酸の濃度は20~90%である。好ましい実施形態によれば、酸溶液は10~15%の酢酸、50%の乳酸、又は85%のリン酸である。非溶解プロセスの一実施形態では、酸溶液は、水、ブタノール、イソプロパノール、プロパノール、エタノール、メタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ニトロメタン、炭酸プロピレン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジオキサン、グライム、ポリエーテル、ジエチルエーテル、その他の非極性溶媒、その他の極性非プロトン性溶媒、その他の極性プロトン性溶媒、及びそれらの組み合わせから選択される溶媒を含有する。
【0028】
非溶解プロセスの一実施形態では、除去された酸溶液、溶媒、又はその両方は、プロセスに再利用される。
【0029】
非溶解プロセスの一実施形態では、エポキシ熱硬化性物質は、ジエポキシ樹脂及び再利用可能な酸不安定性硬化剤から調製され、再利用可能な酸不安定性硬化剤は、アミン系硬化剤、チオール系硬化剤、ポリアミノ化合物、その他の酸不安定性硬化剤、又はそれらの組み合わせであるか、あるいは、再利用可能なエポキシ樹脂及び硬化剤から調製され、再利用可能なエポキシ樹脂は、酸分解性のアセタール、ケタール、オルトカーボネート、オルトエステル、オルトシリケート、又はシラン結合を含む。
一実施形態では、再利用可能な酸不安定性硬化剤は、式1、2、又はそれらの組み合わせである。一実施形態では、再利用可能なエポキシ樹脂成分は、式3、4、又はそれらの組み合わせである。
【0030】
非溶解プロセスの一実施形態では、強化マトリックス成分は、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ジュート、草、竹、松、バルサ、その他の天然繊維、及びそれらの組み合わせを含む。
【0031】
一実施形態では、本発明は、本明細書で請求、開示された非溶解プロセスを用いて得られる再利用可能な熱可塑性成分である。
【0032】
別の実施形態によれば、本発明は、再利用可能な成分を含むエポキシ熱硬化性物質を再利用するシステムであって、
熱可塑性混合物を形成するために、エポキシ熱硬化性物質を酸溶液に溶解するように構成された溶解サブシステムと、
強化マトリックス成分を含む再利用可能な熱可塑性成分を得るために、熱可塑性溶液から酸溶液を除去するように構成された脱揮サブシステムであって、押出機、落下膜蒸発器、蒸留ユニット、又はそれらの組み合わせを含む脱揮サブシステムと、を備えるシステムである。
【0033】
システムの一実施形態では、脱揮サブシステムは、熱可塑性溶液から溶媒を除去するように構成される。一実施形態では、システムは連続又はバッチ式に構成される。好ましい実施形態では、システムは連続式である。一実施形態では、システムは、除去された酸溶液、溶媒、又はその両方をプロセスに再利用するように構成される。
【0034】
本方法を用いて溶解したエポキシ熱硬化性物質には、エポキシ熱硬化性物質、エポキシ熱硬化性物質複合材料、又は製造廃棄物からのエポキシ熱硬化性物質が含まれるが、これらに限定されるものではない。複合材料は、強化マトリックスと、任意で再利用不可成分とを含む。また、エポキシ熱硬化性物質は、顔料、軟化剤、強靭化剤、表面改質剤、充填剤、発泡剤、硬化触媒、促進剤、及びそれらの組み合わせなどの添加剤で構成されてもよい。
【0035】
本明細書で開示される方法では、熱可塑性溶液又は熱可塑性混合物から酸溶液(例えば酢酸)及び/又は溶媒が脱揮サブシステムで蒸発されるため、中和ステップは必要ない。熱可塑性溶液又は熱可塑性混合物を脱揮することにより、酸溶液が除去され、再利用可能な熱可塑性成分が得られる。
【0036】
前述した再利用方法では、熱可塑性溶液/熱可塑性混合物中の酸(例えば酢酸)の中和を用いており、中和は脱揮よりも技術的に容易である。本方法では、濾過された熱硬化性物質溶液又は熱可塑性混合物を脱揮押出機に通すことで、中和を必要とせずに過剰の溶媒及び/又は酸(触媒)を除去する。したがって、本方法は、先行技術の中和プロトコルの副産物である酢酸ナトリウムが発生しないため、環境への影響を低減する。また、単位プロセスの削減により、プロセスのコストも削減される。さらに、脱揮された酸溶液、溶媒、又はその両方をプロセスに再利用することができるため、本方法の経済的利点がさらに高まる。
【0037】
図1は、エポキシ熱硬化性物質を完全に溶解する、エポキシ熱硬化性物質を再利用する本方法の実施形態を示す。図1の溶解プロセスの実施形態では、少なくとも1つの再利用可能な成分を含むエポキシ熱硬化性物質を、50~110℃の加熱条件下で酸溶液に浸漬し、エポキシ熱硬化性物質を溶解して熱可塑性混合物を形成すること(101)を含む、エポキシ熱硬化性物質の再利用を行う。一実施形態では、酸溶液に溶解する前に、より効率的な開裂、ひいては迅速な溶解を可能にするため、エポキシ熱硬化性物質をより小さい断片に縮小してもよい。次に、酸性の熱可塑性混合物を濾過して、熱可塑性溶液から強化マトリックス成分と、任意で再利用不可成分を分離する(102)。熱可塑性溶液を脱揮して、酸溶液を除去し、再利用可能な熱可塑性成分を得る(103)。このような方法で得られた再利用可能な熱可塑性成分は、コンパウンドや反応押出成形により、様々なグレードの使用可能な熱可塑性物質を製造することができる。本方法の利点の1つは、酸性熱可塑性溶液からの酸溶液を、苛性で中和する必要なく単に蒸発させることができることである。これにより、酸の再利用が可能になり、廃棄物も発生しない。試験時、溶解プロセスにより、炭素繊維布(強化マトリックス成分)を新品状態に近い状態で完全に回収することができた。
【0038】
図2は、エポキシ熱硬化性物質を少なくとも部分的に溶解する、エポキシ熱硬化性物質を再利用する本方法の実施形態を示す。非溶解プロセスでは、再利用可能な成分を含むエポキシ熱硬化性物質を、酸溶液に浸漬し、少なくとも部分的に溶解して熱可塑性混合物を形成すること(201)を含む、エポキシ熱硬化性物質の再利用を行う。一実施形態では、酸溶液に溶解する前に、より効率的な開裂、ひいては迅速な溶解を可能にするため、エポキシ熱硬化性物質をより小さい断片に縮小してもよい。次に、酸性熱可塑性混合物を脱揮して、酸溶液を除去し、強化マトリックス成分を含む再利用可能な熱可塑性成分を得る(202)。このような方法で得られた再利用可能な熱可塑性成分は、コンパウンドや反応押出成形により、様々なグレードの使用可能な熱可塑性物質を製造することができる。非溶解プロセスでは繊維は回収できないが、繊維が安価(例えばガラス繊維)である場合には好ましい選択肢となり得る。本方法の利点の1つは、酸性熱可塑性溶液からの酸溶液を、苛性で中和する必要なく単に蒸発させることができることである。これにより、酸の再利用が可能になり、廃棄物も発生しない。
【0039】
図3は、エポキシ熱硬化性物質を完全に溶解する、エポキシ熱硬化性物質を再利用する本システムの一実施形態を示す(溶解プロセス装置)。本実施形態の装置は、エポキシ廃棄物をシュレッダに通した後、金属検出器を用いて金属部分を除去することを含む。残りのエポキシ廃棄物は、熱可塑性混合物を形成するために、エポキシ熱硬化性物質を加熱条件下で酸溶液に溶解するように構成された溶解サブシステム(301)に通される。酸性の熱可塑性混合物は、熱可塑性溶液から強化マトリックス成分と任意に再利用不可成分を分離するために、熱可塑性混合物を濾過するように構成された濾過サブシステム(302)に通される。次に、熱可塑性溶液は、再利用可能な熱可塑性成分を得るために、熱可塑性溶液から酸溶液を除去するように構成された脱揮サブシステム(303)に通される。脱揮サブシステムは、押出機、本実施形態で使用される有機酸蒸発槽などの落下膜蒸発器、蒸留ユニット、又はそれらの組み合わせを含み得る。有機酸(及び使用されている場合は溶媒)がプロセスに再利用されるため、本方法は技術的にも経済的にも有利である。この装置は好ましくは連続式である。この装置は、エポキシ廃棄物を5~50%の濃度の酢酸溶液に1~3日間、20~100℃の温度で浸すことにより、エポキシ樹脂を熱可塑性に変換するものである。その他の酸として、乳酸とプロピオン酸が試験され、有効であることも示されている。100℃等の高温での再利用には、密閉されており、沸騰によって発生する圧力に対応できる容器を設計する必要があった(高圧定格の再利用装置が必要だった)。この装置により、発生する悪臭を軽減し、高温での急速な蒸発による溶液の損失を減少させることができた。
【0040】
図4は、エポキシ熱硬化性物質を少なくとも部分的に溶解する、エポキシ熱硬化性物質を再利用する本システムの一実施形態を示す(非溶解プロセス装置)。本実施形態の装置は、エポキシ廃棄物をシュレッダに通した後、金属検出器を用いて金属部分を除去することを含む。残りのエポキシ廃棄物は、熱可塑性混合物を形成するために、エポキシ熱硬化性物質を酸溶液に部分的に溶解するように構成された溶解サブシステム(401)と、強化マトリックス成分を含む再利用可能な熱可塑性成分を得るために、酸性熱可塑性混合物から酸溶液を除去するように構成された脱揮サブシステム(402)とに通される。脱揮サブシステムは、本実施形態に示すような押出機、落下膜蒸発器、蒸留装置、又はそれらの組み合わせを含み得る。
【0041】
図5aは、60℃における異なる濃度の酢酸が及ぼすエポキシ廃棄物の再利用における経時的な影響について示したグラフデータである。図5bは、80℃における異なる濃度の酢酸が及ぼすエポキシ廃棄物の再利用における経時的な影響について示したグラフデータである。図5cは、100℃における異なる濃度の酢酸が及ぼすエポキシ廃棄物の再利用における経時的な影響について示したグラフデータである。酢酸の濃度が高いほど、60℃、80℃、及び100℃での再利用が速くなる。沸騰温度(100℃)では、再利用の速度に劇的な効果がある。沸騰温度(100℃)で、12.5%酢酸の場合、2時間で完全に再利用される。高濃度の酢酸では、温度が上がるほど、再利用の時間が短縮され、50%酢酸の場合、60℃で約8時間かかるが(不図示)、80℃(図5b)ではわずか2時間で再利用が完了する。どの化学プロセスでも、温度が上昇するにつれて速度が上がる。一方、低濃度の酢酸の場合、再利用は非常に遅いか(例えば、60C、10%酢酸では、6時間で20%の重量しか再利用されない)、まったく進まない(例えば、5%酢酸では3時間では進まない)が、驚くべきことに、100℃では、10%酢酸はわずか3時間で再利用が完了し、5%酢酸は半分完了する。このように、低濃度の酢酸を使用しながら再利用時間を短縮するために、温度と酢酸の濃度を最適化した。25%、50%、それ以上の濃度の酢酸では、再利用時に溶液の粘度が上昇する。10~15%の酢酸では、樹脂溶液はそれほど高い粘度にならず、その後の再利用に使用できる。
【0042】
エポキシ産業は持続可能性に懸念があり、特に使用済みエポキシ複合材料の廃棄物管理に懸念が抱かれている。また、回収不可能な製造廃棄物による価値の損失も大きい。本発明の再利用プロセスは、工業的に実現可能でスケーラブルな再利用・回収プロセスであり、前述の懸念に対処するものである。様々な酸を使用することができるが、酢酸、乳酸などの安価な弱酸を高温でこの目的に使用することで、工業的に適切なプロセスとなる。
【0043】
本発明は、開裂可能な結合を含む再利用可能なエポキシ熱硬化性物質のための工業的に実行可能な再利用プロセスであり、このプロセスは、エポキシ熱硬化性物質を溶解するために酸溶液を使用し、熱可塑性酸性混合物から酸溶液を脱揮して熱可塑性成分を生成する。このプロセスは、環境的にも経済的にも有利であり、熱可塑性成分及び任意に強化マトリックス成分の効率的な回収が可能であり、両者はさらなる使用のために再利用することができる。
【0044】
本発明を特定の実施形態に関して説明したが、以下の特許請求の範囲に定義された本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正を行うことができることは、当業者にとって明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図5c
【国際調査報告】