IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

2024-518105皮膚欠損創の治療に用いられる間葉系幹細胞
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-24
(54)【発明の名称】皮膚欠損創の治療に用いられる間葉系幹細胞
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20240417BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20240417BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240417BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240417BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240417BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240417BHJP
   A61P 7/10 20060101ALI20240417BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240417BHJP
   A61K 35/51 20150101ALI20240417BHJP
   A61K 35/50 20150101ALI20240417BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240417BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240417BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240417BHJP
   A61K 35/36 20150101ALI20240417BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240417BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P17/02
A61P17/00
A61P37/06
A61P37/08
A61P29/00
A61P7/10
A61K9/10
A61K35/51
A61K35/50
A61K47/42
A61K47/36
A61K47/38
A61K35/36
A61K45/00
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570327
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(85)【翻訳文提出日】2023-11-13
(86)【国際出願番号】 EP2022063731
(87)【国際公開番号】W WO2022243517
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】21174929.6
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519050794
【氏名又は名称】シンテラ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ルンドグレン アーケランド,エヴィー
(72)【発明者】
【氏名】スジョバーグ,フォルク
(72)【発明者】
【氏名】リム,フイ チン
(72)【発明者】
【氏名】エルセラフィー,アーメッド
(72)【発明者】
【氏名】エルマズリー,モウスタファ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA22
4C076BB11
4C076BB31
4C076CC18
4C076CC29
4C076EE30
4C076EE31
4C076EE36
4C076EE37
4C076EE41
4C076EE42
4C076EE43
4C076FF11
4C084AA19
4C084AA22
4C084MA02
4C084MA23
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA511
4C084ZA512
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB112
4C084ZB131
4C084ZB132
4C084ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087BB48
4C087BB58
4C087BB59
4C087BB63
4C087MA02
4C087MA05
4C087MA23
4C087MA63
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA36
4C087ZA51
4C087ZA89
4C087ZB11
4C087ZB13
(57)【要約】
本発明は、皮膚欠損創の治療及び/または再生で使用するための、インテグリンα10で選択された間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物における皮膚欠損創の治療及び/または再生において使用するための、インテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物。
【請求項2】
哺乳動物の皮膚の線維症の予防に使用するための、インテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物。
【請求項3】
哺乳動物の皮膚欠損創の部位における皮膚の再生方法及び/または皮膚欠損創の治癒に起因する瘢痕形成を低減する方法であって、前記方法が、インテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物を、前記皮膚欠損創に投与することを含む、前記方法。
【請求項4】
前記皮膚欠損創が、慢性創傷などの治癒困難な創傷である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
前記治癒困難な創傷が、静脈不全、動脈不全及び糖尿病性合併症、鎌状赤血球貧血などのまれな疾患または褥瘡に関連する治癒困難な創傷である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
前記治癒困難な創傷が、血管不全または血管の糖尿病性障害に起因した皮膚潰瘍、創傷、または皮膚欠損創である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記皮膚欠損創が、外的要因により誘発される皮膚障害である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
前記外的要因によって引き起こされる皮膚障害が、褥瘡、摩擦または機械的応力によって引き起こされる皮膚疾患、異物によって引き起こされる皮膚疾患、冷気への曝露によって誘発または悪化した皮膚疾患、熱または電気によって誘発された皮膚疾患、光または紫外線による皮膚疾患、電離放射線による皮膚疾患、アレルギー性接触皮膚炎、光アレルギー性接触皮膚炎、刺激性接触皮膚炎、アレルギー性接触蕁麻疹、タンパク質接触皮膚炎、アレルギー性接触感作、光活性剤との皮膚接触に対する光毒性反応、有毒動物または有毒動物に対する皮膚反応である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
前記外的要因によって引き起こされる皮膚障害が、熱傷、ベッドの長時間の安静による褥瘡、外傷によって誘発される皮膚欠損創、または切断である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
前記皮膚欠損創が炎症性皮膚疾患である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
前記炎症性皮膚疾患が、皮膚炎、湿疹、アトピー性皮膚炎、乳頭扁平上皮疾患、じんましん、血管性浮腫またはその他の硬膜障害、炎症性紅斑及びその他の反応性炎症性皮膚疾患、皮膚の免疫水疱性疾患、皮膚エリテマトーデス、瘢痕化または硬化性炎症性皮膚疾患である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
前記皮膚欠損創が、皮膚の処置後の障害である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
前記皮膚の処置後の障害が、皮膚の不十分な外科的傷跡、皮膚皮弁壊死、筋皮弁壊死、皮膚移植片不全、複合移植片不全である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項14】
前記皮膚の処置後の障害が、外科的切開である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項15】
前記皮膚欠損創が、皮膚に影響を及ぼす遺伝性障害及び/または発達性障害である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項16】
前記皮膚に影響を及ぼす遺伝性障害及び/または発達性障害が、表皮水疱症、または類天疱瘡性皮膚炎などの遺伝性皮膚疾患である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項17】
前記表皮水疱症が、単純表皮水疱症、接合部表皮水疱症、栄養障害性表皮水疱症、劣性表皮水疱症、軟骨性表皮水疱症、表皮水疱症及び表皮水疱症からなる群から選択される、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項18】
前記皮膚欠損創が外部欠陥である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項19】
前記皮膚欠損創が開放性欠陥である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項20】
前記皮膚欠損創が炎症を起こした創傷である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項21】
前記皮膚欠損創が感染しているものである、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項22】
前記皮膚欠損創が急性欠損または慢性欠損である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項23】
前記皮膚欠損創が全層皮膚欠損創である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項24】
前記組成物が、局所投与に適合されている、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項25】
前記組成物が前記皮膚欠損創に局所的に投与される、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項26】
前記組成物が注射によって投与される、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項27】
前記組成物が、治療される皮膚欠損創のcmあたり20,000~150,000個のMSCを含むように投与される、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項28】
前記組成物が、薬学的に許容される液体培地中の細胞懸濁液の形態で投与される、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項29】
前記薬学的に許容される液体媒体が、ヒト血清アルブミンを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項30】
前記薬剤的に許容される液体媒体が、生理食塩水で希釈された臨床等級のヒト血清アルブミンなどのヒト血清アルブミンを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項31】
前記組成物が、生理食塩水中に希釈された2.5%の臨床等級のヒト血清アルブミンの細胞懸濁液の形態で投与される、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項32】
前記組成物を包帯またはリザーバに投与する、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項33】
前記MSCの少なくとも50%が、インテグリンアルファ10サブユニットを発現する、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項34】
前記MSCの少なくとも50%、例えば、少なくとも55%、例えば、少なくとも60%、例えば、少なくとも65%、例えば、少なくとも70%、例えば、少なくとも75%、例えば、少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、例えば、少なくとも90%、例えば、少なくとも95%、例えば、少なくとも96%、例えば、少なくとも97%、例えば、少なくとも98%、例えば、少なくとも99%、例えば、少なくとも100%が、インテグリンアルファ10サブユニットを発現する、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項35】
前記MSCが、間葉系幹細胞を含む組織から単離され、インテグリンアルファ10ベータ1の発現について選択され、培養において拡大されている、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項36】
間葉系幹細胞含有組織が、脂肪組織、骨髄、滑膜、臍帯血、ウォートンジェリー、または羊水である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項37】
前記MSCが、MHCII陰性、CD45陰性、CD34陰性、CD11b陰性、CD19陰性及び/またはCD79アルファ陰性である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項38】
前記MSCが、CD73、CD90及び/またはCD105を発現する、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項39】
前記組成物が、抗炎症因子及び/または免疫調節因子を分泌する、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項40】
前記組成物が、50%未満の前記MSCがインテグリンアルファ10サブユニットを発現する組成物と比較してより高い濃度で、増殖因子、抗炎症因子及び/または免疫調節因子を分泌する、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項41】
前記組成物が増殖因子を分泌する、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項42】
前記増殖因子、抗炎症因子及び/または免疫調節因子が、インドレアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、プロスタグランジンE2(PGE2)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)及び/または肝細胞増殖因子(HGF)である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項43】
前記MSCが、間葉系幹細胞、間葉系前駆細胞、及び間葉系間質細胞、またはそれらの混合物からなる群から選択される、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項44】
前記MSCが、インテグリンα10サブユニットを発現するように誘導されている、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項45】
前記MSCが、インビトロ細胞懸濁液である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項46】
前記MSCの選択が抗インテグリンα10抗体を用いて行われている、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項47】
前記MSCが、同種異系または自家である、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項48】
前記投与が、投与部位でのコラーゲン産生の増加をもたらす、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項49】
前記投与が、投与部位における基底膜の再生をもたらす、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項50】
前記投与が、投与部位における皮膚の角化をもたらす、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項51】
前記組成物が、ヒドロゲルをさらに含む、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項52】
前記ヒドロゲルが、フィブリン糊、ヒアルロン酸、ゼラチン、コラーゲン、アルギン酸、セルロースまたはペクチンである、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項53】
前記組成物がさらに、角化細胞、例えば自家または同種異系の角化細胞を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項54】
抗炎症剤をさらに含む、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項55】
前記組成物が、細胞の拒絶を防止するための免疫抑制剤をさらに含む、先行請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項56】
哺乳動物の皮膚欠損創の治癒から生じる瘢痕形成を低減するための、インテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞(MSC)を含む化粧品組成物の使用。
【請求項57】
哺乳動物の皮膚欠損創の非治療的処置のためのインテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物の使用。
【請求項58】
前記組成物が、請求項24から47までのいずれか1項で規定されたものである、請求項56または57に記載の使用。
【請求項59】
皮膚欠損創を治療するための医薬の調製のためのインテグリンアルファ10で選択されたMSCを含む組成物の使用。
【請求項60】
皮膚欠損創の治療を必要とする哺乳動物における前記皮膚欠損創を治療する方法であって、インテグリンアルファ10で選択されたMSCを含む組成物を前記皮膚欠損創を治療するのに有効な量で前記哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚欠損創の治療で使用するための、インテグリンα10で選択された間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性皮膚創傷は、ヘルスケアシステムにとって大きな課題であると考えられている。糖尿病、血管不全、及び褥瘡の結果としての慢性潰瘍の発生率は、平均年齢の増加と一致して上昇している。脚部潰瘍は、EUの予算の約1~2%の総医療費がかかると見積もられている。英国では、褥瘡性潰瘍に関連するコストは、総医療費の約4%である。さらに、治療が困難な創傷は、数ヶ月または数年にわたって持続する可能性のある疼痛、可動性の制限、生活の質の低下、生産性の制限及び経済的ストレスを伴う可能性がある。他方で、火傷患者は、生命を脅かす負傷及び長期的な影響を受ける可能性がある。現在の管理方針は、全体表面積の50~60%を上回る広範囲の火傷に関する機能的結果または審美的結果の対応する改善がなおも達成されていないものの、死亡率の顕著な低下に関連している。
【0003】
細胞療法は、創傷治癒と大きな火傷創傷の被覆を、メッシュ状の自家皮膚移植片を用いてまたは用いずに改善する、損傷した皮膚を代替して再生を促進するための新たなアプローチである(El-Serafi et al.2017;El-Serafi et al.2018)。培養された自家角化細胞を改良された治療用医薬品として調査した。残念なことに、多くの困難に直面した。例えば、単離するのが困難であり、増殖速度が遅く、細胞を単離するために皮膚生検が必要であり、深刻な場合には、これを入手することができない場合がある(Karlsson et al.2020)。さらに、これらの細胞によって形成される表皮層は、通常、柔軟性が限られているため脆い。代わりの潜在的な供給源として、脂肪由来幹細胞(ADSC)は、表皮細胞を含むさまざまな細胞系統へ分化する可能性をもたらす(Kosaric et al.2019;Raghuram et al.2020)。残念ながら、ADSCを表皮細胞に効率的にインビトロで分化させることは、満たされていない課題を表している。一方、ADSC及び他の幹細胞型の局所適用は、治癒特性の向上に関連し得る。
【0004】
MSCは、1995年にヒトにおいて初めて細胞性医薬品として使用された。MSCを治療薬剤として利用して数年が経過した後、最終産物におけるMSC集団の不均一性、インビボでのその免疫調節能力を活性化するための適切な条件、バンキング処置の結果、その送達のための最良の経路、ストレスの多い状態に対するその応答など、その挙動に関する多くの疑問は解決されていない(Garcia-Bernal et al.2021)。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、哺乳動物の皮膚欠損創の治療及び/または再生において使用するための、インテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物、したがって、MSCの均質な組成物に関する。実際に、本発明者らは、本明細書ではXSTEMとも称されるインテグリンアルファ10で選択されたMSCが創傷に局所的に適用された結果、ブタモデルにおいて創傷の優れた治癒をもたらすことを見出し、新たに形成された皮膚組織は正常な皮膚に非常に類似している。基底膜の再生、皮膚の角化、及び束状に構造化され、皮膚に天然に存在するコラーゲンに似ている高レベルのコラーゲンの形成を示した。インテグリンアルファ10で選択されたMSCも移植皮膚細胞と比較して瘢痕化が少なかった。最も興味深いことに、インテグリンアルファ10で選択されたMSCは、自家角化細胞または幹細胞を含む、試験された他の細胞と比較してより堅牢かつ完全な再上皮化を生じ、後者は、特定のマーカーについて選択されていない、特にインテグリンアルファ10発現について選択されていないMSCも含む不均一系細胞組成物である。
【0006】
表面上でのインテグリンアルファ10の発現に基づいてMSCを選択することにより、非選択のMSCを含む細胞組成物と比較して、優れた免疫調節能力、抗炎症能力、及び皮膚再生能力を有する均質な細胞組成物が得られる。
【0007】
本開示の一態様では、哺乳動物における皮膚欠損創の治療及び/または再生において使用するための、インテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物を提供する。
【0008】
本開示の別の態様では、哺乳動物の皮膚欠損創の治癒から生じる瘢痕形成を低減するための、インテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞(MSC)を含む化粧品組成物の使用を提供する。
【0009】
本開示の別の態様では、哺乳動物における皮膚欠損創の非治療的処置のための、インテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】手術創を作製した直後、すなわち、細胞を適用する前ならびに1週間及び2週間後の創傷の巨視的画像。いずれの創傷でも、炎症、裂傷または感染の徴候は検出されなかった。自家幹細胞(50万個)及び自家角化細胞を含む及び含まない50万個の細胞のXSTEMの創傷治癒パターンは、特に興味深かった。ビヒクルは、生理食塩水中2.5%のヒト血清アルブミンであった。
図2】細胞適用の2週間後の皮膚創傷生検のヘマトキシリン及びエオシン染色。50万個の細胞のXSTEM(E)の表皮構造は、正常皮膚生検(A)と同等であった。その一方で、細胞を自家角化細胞と組み合わせた場合(F)、表皮の厚さは薄かった。100万個の細胞のXSTEMは、細胞は、組織化されていない表皮及び過角化症と関連していた。自家の50万個の幹細胞(D)、自家の7×10個の角化細胞(C)及びビヒクル(B)を用いた表皮の発達は、あまり効率的ではなかった。スケールバーを100μmに設定した。
図3】細胞適用の2週間後の皮膚創傷生検のマッソンの三重染色法。50万個の細胞のXSTEM(E)のコラーゲン線維束性細胞のパターン及び染色苦境度は、正常皮膚生検(A)に匹敵していた。コラーゲン染色の強度は、細胞を自家角化細胞(F)または50万個の自家幹細胞(D)と組み合わせた場合の対照よりも高かった。100万個の細胞のXSTEMは、あまり組織化されていない表皮及び強度の低いコラーゲン染色(G)と関連していた一方、自家7×10個の角化細胞(C)は、ビヒクル(B)と比較してコラーゲン産生が少なかった。スケールバーを100μmに設定した。
図4A】上皮化の臨床的評価。50万個の細胞のXSTEMは、1週間後及び2週間後にビヒクルと比較して上皮化が良好な傾向を示し、これは、創傷の治癒が速いことを反映している。さらに、50万個の細胞のXSTEMは、特に初期の時点(7日)で、研究された群の大部分よりも良好な上皮化傾向を有した。主に創縁部収縮によって起こる創傷サイズの変化は、研究されている細胞型のいずれによっても影響を受けないように見えた。
図4B】創傷サイズの臨床的評価。50万個の細胞のXSTEMは、1週間後及び2週間後にビヒクルと比較して上皮化が良好な傾向を示し、これは、創傷の治癒が速いことを反映している。さらに、50万個の細胞のXSTEMは、特に初期の時点(7日)で、研究された群の大部分よりも良好な上皮化傾向を有した。主に創縁部収縮によって起こる創傷サイズの変化は、研究されている細胞型のいずれによっても影響を受けないように見えた。
図5A】創傷治癒を促進する因子の分泌。炎症促進性サイトカインIFΝγ及びTNFα(それぞれ、40ng/mL及び60ng/mLのそれぞれのサイトカイン)の種々の濃度でXSTEMを刺激した後72時間にわたり、分泌されたPGE2(A)及びIDO(B)の濃度を測定した。刺激を受けていない(0ng/mL)XSTEMは対照として機能した。培養上清中のXSTEMから分泌されたVEGF(C)及びHGF(D)の濃度は、より多くの細胞数を含む細胞調製物においてより高い。
図5B】創傷治癒を促進する因子の分泌。炎症促進性サイトカインIFΝγ及びTNFα(それぞれ、40ng/mL及び60ng/mLのそれぞれのサイトカイン)の種々の濃度でXSTEMを刺激した後72時間にわたり、分泌されたPGE2(A)及びIDO(B)の濃度を測定した。刺激を受けていない(0ng/mL)XSTEMは対照として機能した。培養上清中のXSTEMから分泌されたVEGF(C)及びHGF(D)の濃度は、より多くの細胞数を含む細胞調製物においてより高い。
図5C】創傷治癒を促進する因子の分泌。炎症促進性サイトカインIFΝγ及びTNFα(それぞれ、40ng/mL及び60ng/mLのそれぞれのサイトカイン)の種々の濃度でXSTEMを刺激した後72時間にわたり、分泌されたPGE2(A)及びIDO(B)の濃度を測定した。刺激を受けていない(0ng/mL)XSTEMは対照として機能した。培養上清中のXSTEMから分泌されたVEGF(C)及びHGF(D)の濃度は、より多くの細胞数を含む細胞調製物においてより高い。
図5D】創傷治癒を促進する因子の分泌。炎症促進性サイトカインIFΝγ及びTNFα(それぞれ、40ng/mL及び60ng/mLのそれぞれのサイトカイン)の種々の濃度でXSTEMを刺激した後72時間にわたり、分泌されたPGE2(A)及びIDO(B)の濃度を測定した。刺激を受けていない(0ng/mL)XSTEMは対照として機能した。培養上清中のXSTEMから分泌されたVEGF(C)及びHGF(D)の濃度は、より多くの細胞数を含む細胞調製物においてより高い。
【0011】
定義
「抗インテグリンα10抗体」または「抗インテグリンα10サブユニット抗体」は、ヘテロダイマー性タンパク質インテグリンα10β1のインテグリンα10サブユニットを少なくとも認識し、結合することのできる抗体を指すために本明細書において交換可能に使用される。これらの抗体は、ヘテロダイマー性タンパク質のインテグリンα10β1のエピトープを認識する抗体であってもよく、エピトープは、インテグリンα10サブユニット及びインテグリンβ1サブユニットの両方のアミノ酸残基を含む。
【0012】
本明細書で使用される場合、「インテグリンα10」または「インテグリンアルファ10」とは、ヘテロダイマー性タンパク質インテグリンα10β1のα10サブユニットを指す。この表示は、インテグリンα10サブユニットに結合し、インテグリンα10β1ヘテロダイマーの4級構造を形成するインテグリンβ1サブユニットの存在を排除するものではない。ヒトインテグリンα10鎖配列は知られており、GenBank(商標)/EBIデータバンク登録番号AF074015で公開されており、Camper 1998に記載されている。「アルファ」及び「α」、ならびに「アルファ10」及び「アルファ10」は、同等の用語である。
【0013】
本明細書で使用される場合、文脈上明らかに別段に示されている場合を除き、「a」、「an」及び「the」という単数形には、複数の言及物が含まれる。
【0014】
「いくつかの実施形態」という用語は、1つまたは2つ以上の実施形態を含むことができる。
【0015】
本文全体で使用される場合、あるいは特許請求の範囲及び/または本明細書において用語「含む」と合わせて使用される場合の「a」または「an」という用語の使用は、「1つ」を意味する場合もあるが、それはまた「1つ以上」、「少なくとも1つ」、及び「1つまたは1つ以上」の意味とも一致する。
【0016】
本明細書で使用される場合、「単離する」、「選別する」及び「選択する」という用語は、ある細胞を特定の型の細胞であると識別し、それを同じ細胞型または別の分化状態に属さない細胞から分離する行動を指す。さらに、これらの用語はまた、特定のマーカーの存在によって細胞を識別する行動を指す場合もある。例えば、本発明では、インテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞(MSC)に関する。通常、単離とは、例えば機械的であり得る分離の第1の工程を指すが、「選択」はより特異的であり、例えば抗体を用いて行われる。細胞を「単離」、「選別」または「選択」する手順により、前記細胞の濃縮がもたらされることを当業者は理解するであろう。
【0017】
本明細書で使用される場合、「インテグリンアルファ10で濃縮されたMSC」という用語は、「インテグリンアルファ10MSC」、「インテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞」及び「間葉系幹細胞の濃縮されたインテグリンα10high集団」という用語と同義である。実施例1に記載されているように、本発明で使用されるMSCは、インテグリンアルファ10を発現するMSCを濃縮する手順を用いて、例えば、抗インテグリンアルファ10抗体を用いてインテグリンアルファ10を発現するそれらのMSCを選択することによって、選択される。当業者は、特定の特性のために選択された細胞、例えば、インテグリンアルファ10を発現するMSCまたはインテグリンアルファ10MSCが、特定の均一な細胞集団を形成し得ることを理解するであろう。
【0018】
本明細書で使用される場合、「間葉系幹細胞」または「MSC」とは、細胞療法に関する国際協会の間葉系幹細胞及び組織幹細胞委員会(Dominici M et al.,Cytotherapy.8(4):315-7(2006)を参照されたい)によって定義されるような多能性間質細胞を指す。MSCは、標準的な培養条件で維持される場合に可塑付着性でなければならず、かつCD105、CD73及びCD90を発現しなければならず、かつCD45、CD34、CD14またはCD11b、CD79アルファまたはCD19及びHLA-DR表面分子の発現を欠いていなければならない。MSCは、インビトロで骨芽細胞、脂肪細胞または軟骨芽細胞に分化する能力を有していなければならない。
【0019】
本明細書で使用される場合、「皮膚欠損創」という用語は、内部または外部組織に対する損傷または外傷、好ましくは皮膚の表皮及び/または真皮に対する損傷または外傷を指すが、これらに限定されない。創傷は、急性創傷でも慢性創傷であってもよい。例えば、急性創傷は、切開部、裂傷部、すり傷痕または熱傷、穿刺創傷、貫通創傷、または乾癬、にきび及び湿疹などの皮膚疾患に起因する創傷であってもよい。例として、慢性創傷は、静脈性潰瘍、糖尿病性潰瘍、褥瘡性潰瘍、角膜潰瘍、消化性潰瘍または虚血及び放射線被毒の結果として生じる創傷であってもよい。
【0020】
本明細書で使用される場合、「皮膚欠損創の治療及び/または再生」は、創傷部位での治癒、すなわち創傷部位における機能的皮膚の形成の促進、加速、及び/または改善に関する。このように、「皮膚欠損創の治療及び/または再生」は、理想的には、機能的な皮膚の特徴を示す基底層を含む真皮及び表皮の形成または再生をもたらす。
【0021】
「治癒困難な創傷」、「難治性創傷」及び「慢性創傷」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。本明細書で使用する場合、「治癒困難な創傷」及び「慢性創傷」という用語は、治癒しなかった創傷を指す。例えば、約4~6週以内に治癒しない創傷は、慢性とみなされる。「慢性創傷」は、秩序ある適時の修復シーケンスを経て進行しない創傷であるか、治療に反応しない創傷であり、及び/または治療の要求が、患者の身体的健康、許容力または持久力を超えている創傷である。最初に急性創傷と考えられた多くの創傷は、いまだ十分に解明されていない要因により、最終的には慢性創傷となる。重要な要因の1つは、創傷内でのプランクトン菌の移行によるバイオフィルムの形成である。例えば、慢性創傷は、創傷表面全体を覆わない上皮層を有することがあり、細菌定着を受けることがあり、その結果、抗菌剤による処理に対して耐性であるバイオフィルムが形成される可能性がある。
【0022】
一般的に、慢性創傷は、その主な原因に基づいて静脈不全、動脈不全及び糖尿病性合併症の3つの大きなカテゴリ、または褥瘡関連であると分類される。静脈不全による治癒困難な創傷は、治癒困難な創傷の70%~90%を占め、高齢者に多くみられる。静脈不全は静脈性高血圧を引き起こし、この静脈性高血圧では血流が遮断され、その後の虚血が引き起こされる。静脈不全は、弁損傷による静脈流出または逆流に対する障害の結果として発生し得る。ある期間の虚血後、組織の再灌流は、再灌流傷害を引き起こすことがあり、これにより、創傷形成をもたらす組織の損傷が引き起こされる。
【0023】
典型的な慢性創傷は、皮膚の浅い、発赤した領域であり得る第1度熱傷;ブリスター液を取り除いた後に自然に治癒し得る水疱部位であり得る第2度熱傷;皮膚全体の熱傷であり、通常は創傷治癒に外科的介入が必要である第3度熱傷;熱湯、グリース、またはラジエーター液によって発生する可能性のある熱湯熱傷;炎との接触後に発生する可能性があり、通常は深い火傷である熱傷;酸やアルカリによって発生する可能性があり、通常は深い火傷である化学的火傷;電気火傷;通常深いものであり、マフラーのテールパイプ、熱いアイロン及びストーブ、またはその他の物質によって発生する可能性がある接触火傷を含む「熱傷潰瘍」を含む場合がある。
【0024】
「重篤な遺伝性水疱性疾患」及び「表皮融解性の水疱症」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。
【0025】
本明細書で使用される場合、「予防する」または「予防」としては、疾患、障害、または状態の発症を遅らせる、停止させる、またはそのリスクを低下させることが挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
インテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞
本開示のいくつかの実施形態では、MSCの少なくとも50%が、インテグリンα10サブユニットを発現する。
【0027】
実施例1は、本開示に示されるインテグリンアルファ10で選択されたMSCの製造方法を記載している。インテグリンアルファ10で選択されたMSCの重要な利点は、インテグリンアルファ10タンパク質発現の基準を用いて選択されており、したがってMSCの均一な培養及び/または集団であることである。これらの細胞は、幹細胞マーカーのロバストな発現を示すことが示されており、例えば、WO 2018/138322を参照されたい。当業者は、細胞を選択し、それによって濃縮するためのいくつかの方法を使用できることを知っているであろう。本発明では、単離/選択の手順の間にMSCを発現するインテグリンアルファ10を濃縮させる。このために、抗インテグリンアルファ10抗体を使用することができる。MSCの単離及び選択は、参照により本明細書に組み込まれるWO 2018/138322に記載されているように実施され得る。
【0028】
実施例1で開示されているように、選択段階において、抗インテグリンアルファ10抗体を用いてインテグリンアルファ10の発現により選択された、選択されたMSCは、インテグリンアルファ10を発現する。より具体的には、選択された細胞は、インテグリンアルファ10サブユニットがインテグリンベータ1サブユニットと共に発現されるため、ヘテロダイマージンインテグリンアルファ10ベータ1(α10β1)を発現するMSCである。選択段階に続いて、選択されたMSCのそれぞれのインテグリンアルファ10発現が変化し得る、拡大段階が行われ、すなわち、すべてのMSCが、拡大中、つまりは投与時に常にインテグリンアルファ10を発現し得るわけではない。しかしながら、MSCを患者に投与する時点では、投与された細胞の少なくとも50%が、インテグリンアルファ10サブユニットを発現する。
【0029】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCの少なくとも50%、例えば少なくとも55%、例えば少なくとも60%、例えば少なくとも65%、例えば少なくとも70%、例えば少なくとも75%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも96%、例えば少なくとも97%、例えば少なくとも98%、例えば少なくとも99%、例えば少なくとも100%が、インテグリンアルファ10サブユニットを発現する。
【0030】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは、MHCクラスII、CD45、CD34、CD11b及び/またはCD19陰性である。
【0031】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは、CD73、CD90及び/またはCD105を発現する。
【0032】
本開示のいくつかの実施形態では、組成物は、増殖因子、抗炎症因子及び/または免疫調節因子を分泌する。
【0033】
本開示のいくつかの実施形態では、組成物は、50%未満のMSCがインテグリンアルファ10サブユニットを発現する組成物と比較してより高い濃度で、増殖因子、抗炎症因子及び/または免疫調節因子を分泌する。
【0034】
本開示のいくつかの実施形態では、組成物は、50%未満のMSCがインテグリンアルファ10サブユニットを発現する組成物と比較してより高い濃度で、増殖因子、抗炎症因子及び/または免疫調節因子を分泌する。
【0035】
本開示のいくつかの実施形態では、増殖因子、抗炎症因子及び/または免疫調節因子は、インドレアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、プロスタグランジンE2(PGE2)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)及び/または肝細胞増殖因子(HGF)である。血管内皮増殖因子(VEGF)及び肝細胞増殖因子(HGF)は、組織の再生及び皮膚の再生を促進する増殖因子である。本開示のインテグリンアルファ10で選択されたMSCは、これらの因子を、インテグリンアルファ10発現について選択されていないMSC集団と比較してより多くの量及び/または濃度で分泌し、したがって、本明細書で定義されるように慢性創傷を治療しかつ皮膚欠損創部位において皮膚を再生させるためにより有効である。
【0036】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは、間葉系幹細胞、間葉系前駆細胞、及び間葉系間質細胞、またはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0037】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは、インテグリンα10サブユニットを発現するように誘導される。
【0038】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは、哺乳動物血清及びFGF-2を含む培地中で培養される。
【0039】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは、血小板溶解物及び/または血小板溶解物成分を含む培地中で培養される。
【0040】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは、FGF-2及び血小板溶解物及び/または血小板溶解物成分を含む培地中で培養される。
【0041】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは、哺乳動物血清及び血小板溶解物及び/または血小板溶解物成分を含む培地中で培養される。
【0042】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは、TGFβを含む培地中で培養される。
【0043】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは、FGF2を含む培地中で培養される。
【0044】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは、血小板溶解物及び/または血小板溶解物成分を含む無血清培地中で培養される。
【0045】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは、増殖因子を含む無血清培地中で培養される。
【0046】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは、増殖因子であるFGF2及び/またはTGFβを含む無血清培地中で培養される。
【0047】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは同種異系または自家である。
【0048】
本開示のいくつかの実施形態では、MSC及び哺乳動物は同一種由来である。
【0049】
本開示のいくつかの実施形態では、MSC及び哺乳動物は異なる種由来である。
【0050】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは、間葉系幹細胞を含む組織から単離され、インテグリンアルファ10ベータ1の発現のために選択され、培養において拡大される。
【0051】
本開示のいくつかの実施形態では、抗インテグリンα10抗体を用いてMSCの選択を行った。
【0052】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは、脂肪組織、骨髄、滑膜、末梢血、臍帯血、臍帯血、ウォートンジェリー、及び/または羊水に由来する。
【0053】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは脂肪組織に由来する。
【0054】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは骨髄に由来する。
【0055】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは、胎児、新生児、年少者または成人のMSC及び/または前駆細胞に由来する。
【0056】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCは、胚細胞または胚に由来するものではない。
【0057】
本開示のいくつかの実施形態では、MSCはインビトロ細胞培養である。本開示のいくつかの実施形態では、MSCはインビトロ細胞懸濁液である。
【0058】
本開示のいくつかの実施形態では、インテグリンアルファ10で選択されたMSCを含む組成物は、化粧品組成物である。
【0059】
本開示のいくつかの実施形態では、インテグリンα10で選択されたMSCを含む組成物は、非治療用組成物である。
【0060】
皮膚欠損創の治療
一態様では、本開示は、哺乳動物における皮膚欠損創の治療及び/または再生において使用するための、インテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物を提供する。
【0061】
本開示の別の態様は、哺乳動物の皮膚の線維症の予防に使用するための、インテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物を提供する。
【0062】
本開示のさらなる態様は、哺乳動物の皮膚欠損創の部位における皮膚の再生方法及び/または皮膚欠損創の治癒に起因する瘢痕形成を低減する方法であって、前記方法が、インテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物を、皮膚欠損創に投与することを含む方法を提供する。
【0063】
本明細書に開示された治療は、複数の皮膚欠損創を対象とする。これらは、治癒困難な創傷または慢性創傷、外的要因によって引き起こされる皮膚障害、炎症性皮膚疾患、皮膚の処置後障害、及び皮膚の遺伝性疾患などの皮膚の遺伝性疾患または発達性障害などの、非広汎なカテゴリに分類することができる。
【0064】
本開示のいくつかの実施形態では、慢性創傷などの治癒困難な創傷である哺乳動物の皮膚欠損創の治療及び/または再生に使用するための、インテグリンアルファ10で選択されたMSCを含む組成物が提供される。
【0065】
本発明者らは、治癒困難な創傷などのヒトの皮膚欠損創の治癒を試験するために最も受け入れられている広く普及した動物モデルであるブタモデルにおいて、インテグリンアルファ10で選択されたMSCが、皮膚欠損創を治癒する能力を示した。実際、試験に用いられる動物のうち、ブタは、ヒトの皮膚に最も似た皮膚を有する。さらに、急性創傷及び治癒困難な創傷の創傷治癒過程及びプロセスは、治癒困難な創傷の場合に基礎疾患の存在の可能性があることを除いて基本的に同じである。さらに、本発明者らの研究で作製された全層厚の創傷のサイズ及び深さは、大きな創傷サイズが拘縮による自然治癒を許容していないため、慢性創傷に似ている。当業者は、他の動物モデルを使用して、皮膚欠損創を治癒するためにインテグリンアルファ10で選択されたMSCの能力を確認できることを認識するであろう。
【0066】
本開示のインテグリンアルファ10で選択されたMSCは、皮膚を再生する能力と、炎症に抗して作用しかつ免疫系を調節することにより、及び/または組織再生を促進することによって創傷治癒を促進する分泌因子とが実証されているため、治癒困難な創傷を含む皮膚欠損創を治療するのに適しておりかつ成功している。
【0067】
本開示のいくつかの実施形態では、治癒困難な創傷は、静脈不全、動脈不全及び糖尿病性合併症、鎌状赤血球貧血などのまれな疾患または褥瘡に関連する治癒困難な創傷である。
【0068】
本開示の一部の実施形態では、治癒困難な創傷は、血管不全または血管の糖尿病性障害に起因した皮膚潰瘍、創傷、または皮膚欠損創である。例えば、糖尿病性足症候群/糖尿病性足潰瘍及び糖尿病性神経障害性潰瘍は、複数の種類の治癒困難な創傷であり、これらは本開示の治療の恩恵を受けることができる。
【0069】
本開示のいくつかの実施形態では、皮膚欠損創は、外的要因によって引き起こされる皮膚障害である。
【0070】
外的要因によって引き起こされる皮膚障害としては、例えば、褥瘡、摩擦または機械的応力によって引き起こされる皮膚疾患、異物によって引き起こされる皮膚疾患、冷気への曝露によって誘発または悪化した皮膚疾患、熱または電気によって誘発された皮膚疾患、光または紫外線による皮膚疾患、電離放射線による皮膚疾患、アレルギー性接触皮膚炎 、光アレルギー性接触皮膚炎、刺激性接触皮膚炎、アレルギー性接触蕁麻疹、タンパク質接触皮膚炎、アレルギー性接触感作、光活性剤との皮膚接触に対する光毒性反応、有毒動物または有毒動物に対する皮膚反応が挙げられる。
【0071】
本開示のいくつかの実施形態では、外部要因によって引き起こされる皮膚障害は、熱傷、ベッドの長時間の安静による褥瘡、外傷によって誘発される皮膚欠損創、または切断である。
【0072】
本開示のいくつかの実施形態では、外部要因によって引き起こされる皮膚障害は火傷である。例えば、この火傷は、深い火傷または熱傷などの第2度熱傷であり得る。火傷は、低温、熱、電気、光、UV放射、電離放射線、アレルゲン、酸及び塩基などの化学物質、ならびに他の外部の剤への曝露によって引き起こされ得る。
【0073】
本開示のいくつかの実施形態では、皮膚欠損創は、炎症性皮膚疾患である。
【0074】
本開示の治療の恩恵を受け得る炎症性皮膚疾患の例は 、皮膚炎、湿疹、アトピー性皮膚炎、乳頭扁平上皮疾患、じんましん、血管性浮腫またはその他の硬膜障害、炎症性紅斑及びその他の反応性炎症性皮膚疾患、皮膚の免疫水疱性疾患、皮膚エリテマトーデス、瘢痕化または硬化性炎症性皮膚疾患である。
【0075】
本開示のいくつかの実施形態では、皮膚欠損創は、皮膚の処置後の障害である。
【0076】
本開示の治療の恩恵を受け得る、皮膚の処置後の障害の例は、皮膚の不十分な外科的傷跡、皮膚皮弁壊死、筋皮弁壊死、皮膚移植片不全、複合移植片不全である。
【0077】
本開示の一部の実施形態では、皮膚の処置後の障害は、外科的切開である。
【0078】
本開示のいくつかの実施形態では、皮膚欠損創は、皮膚に影響を及ぼす遺伝性障害及び/または発達性障害である。
【0079】
本開示の治療の恩恵を受け得る、皮膚に影響を及ぼす遺伝性障害及び/または発達性障害の例は、表皮水疱症、または類天疱瘡性皮膚炎などの遺伝性皮膚疾患である。
【0080】
本開示のいくつかの実施形態では、表皮水疱症は、単純表皮水疱症、接合部表皮水疱症、栄養障害性表皮水疱症、劣性表皮水疱症、軟骨性表皮水疱症、表皮水疱症及び表皮水疱症からなる群から選択される。
【0081】
皮膚欠損創の基礎となる原因とは無関係に、本開示のインテグリンアルファ10で選択されたMSCを含む組成物は、本明細書に記載される物理的特性を有する皮膚欠損創を治療または再生するために使用され得る。
【0082】
本開示のいくつかの実施形態では、皮膚欠損創は、外部欠損である。したがって、皮膚欠損創は、真皮及び/または表皮の欠損である場合がある。
【0083】
さらに皮膚欠損創は、皮下まで及ぶ可能性があり、これは皮下または皮下とも呼ばれる。
【0084】
本開示のいくつかの実施形態では、皮膚欠損創は、真皮及び/または表皮及び/または皮下の欠損である。
【0085】
本開示のいくつかの実施形態では、皮膚欠損は開放性欠損である。
【0086】
本開示のいくつかの実施形態では、皮膚欠損創は、炎症を起こした創傷または潰瘍である。
【0087】
本開示のいくつかの実施形態では、皮膚欠損は急性皮膚欠損創である。
【0088】
本開示のいくつかの実施形態では、皮膚欠損は慢性皮膚欠損創である。本明細書で提供される場合、慢性皮膚欠損創は、治癒困難な皮膚欠損創である。急性皮膚欠損創は、正常環境下で4~6週間以内に治癒しない場合、慢性皮膚欠損創となることがある。
【0089】
本開示のいくつかの実施形態では、皮膚欠損は全層皮膚欠損創である。例えば、真皮と表皮の両方に影響を及ぼす皮膚欠損創は、全層皮膚欠損創であるとみなされる。
【0090】
本開示のいくつかの実施形態では、皮膚欠損は部分厚さの皮膚欠損創である。例えば、真皮と表皮の一部のみに影響を及ぼす皮膚欠損創は、部分厚さの皮膚欠損創であるとみなされる。
【0091】
本開示のいくつかの実施形態では、皮膚欠損創は、少なくとも0.3cm×0.3cmの表面積を有し、最大で治療される哺乳動物の全身を覆う。本開示のインテグリンアルファ10で選択されたMSCを含む組成物は、任意のサイズの皮膚欠損創を治療するために使用され得る。
【0092】
訓練された医師を含む当業者は、皮膚欠損創が、創傷の原因及び治癒過程中に生じる合併症に応じて変動し得ることを認識するであろう。例えば、例えば0.3cm×0.3cm程度の小さな創傷は、糖尿病性合併症を有する患者において一般的であるように、患者に対して困難を引き起こす可能性があり、また十分に治癒しない場合には感染リスクをもたらす可能性がある。その一方で、特定の条件では、患者の皮膚領域の最大100%が罹患する場合があり、これは例えば重度の熱傷の場合である。本明細書に記載のインテグリンアルファ10で選択されたMSCは、任意のサイズの創傷を治療するために使用することができる。
【0093】
本開示のいくつかの実施形態では、本開示によるインテグリンアルファ10で選択されたMSCを含む組成物の投与は、投与部位におけるコラーゲン産生の増加をもたらす。さらに、産生されたコラーゲンは、機能的な皮膚に典型的な束状の構造へと配列されると思われる。
【0094】
本開示のいくつかの実施形態では、本開示によるインテグリンアルファ10で選択されたMSCを含む組成物の投与は、投与部位における基底膜の再生をもたらす。
【0095】
本開示のいくつかの実施形態では、本開示によるインテグリンアルファ10で選択されたMSCを含む組成物の投与は、投与部位における皮膚の角化をもたらす。
【0096】
投与形態
哺乳動物における皮膚欠損創の治療及び/または再生において使用するための、インテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物は、いくつかの実施形態では、局所投与に適合されている。
【0097】
本明細書で使用される場合、「局所投与」または「局所に投与する」とは、薬剤の生物学的効果が望まれる、動物の体の上または内部の部位で、またはその付近で、薬剤の直接投与を意味する。
【0098】
本開示のいくつかの実施形態では、組成物は、皮膚欠損創に局所的に投与される。
【0099】
本開示のいくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物は、注射によって投与されてもよい。例えば、皮膚欠損創は、哺乳動物の皮膚欠損創を被覆するのに適したフィルム、例えばプロピレンフィルムまたは他の任意の材料からなるフィルムで被覆されていてもよく、皮膚欠損創とフィルムとの間のエンクロージャが形成されていてもよい。次いで、本明細書に開示された組成物は、注射針を皮膚を横方向に通過させることによって、皮膚欠損創部とフィルムとの間のエンクロージャなどの皮膚欠損創部に注射され得る。このような手順は、当業者に知られている。
【0100】
本開示のいくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物は、皮膚への注射によって投与される。
【0101】
本開示のいくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物は、皮下注射によって投与される。
【0102】
本開示のいくつかの実施形態では、皮膚欠損創は、本明細書に開示された組成物で治療される前に被覆される。
【0103】
本開示のいくつかの実施形態では、皮膚欠損創は、本明細書に開示された組成物で治療された後に被覆される。
【0104】
前記組成物が、100,000~2,000,000のMSC、例えば200,000~1,000,000のMSC、例えば約200,000のMSC、例えば約300,000のMSC、例えば約400,000のMSC、例えば約500,000個のMSC、例えば約600,000個のMSC、例えば約700,000個のMSC、例えば約800,000個のMSC、例えば約900,000個のMSC、例えば約1,000,000個のMSC、例えば約1,200,000個のMSC、例えば約1,500,000個のMSCを含む、先行項目のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
【0105】
治療すべき皮膚欠損創のサイズに応じて、異なる量の本開示のMSCを投与することができる。
【0106】
本開示のいくつかの実施形態では、組成物は、治療される皮膚欠損創のcmあたり20,000~150,000個のMSC、例えば、治療される皮膚欠損創のcmあたり30,000~130,000個のMSC、例えば、治療される皮膚欠損創のcmあたり30,000~120,000個のMSC、例えば、治療される皮膚欠損創のcmあたり30,000~100,000個のMSC、例えば、治療される皮膚欠損創のcmあたり30,000~90,000個のMSC、例えば、治療される皮膚欠損創のcmあたり30,000~80,000個のMSC、例えば、治療される皮膚欠損創のcmあたり30,000~75,000個のMSC、例えば、治療される皮膚欠損創のcmあたり30,000~70,000個のMSC、例えば、治療される皮膚欠損創のcmあたり30,000~60,000個のMSC、例えば、治療される皮膚欠損創のcmあたり40,000~60,000個のMSC、例えば、治療される皮膚欠損創のcmあたり40,000~70,000個のMSC、例えば、治療される皮膚欠損創のcmあたり40,000~75,000個のMSC、例えば、治療される皮膚欠損創のcmあたり40,000~80,000個のMSC、例えば、治療される皮膚欠損創のcmあたり50,000~100,000個のMSC、例えば、治療される皮膚欠損創のcmあたり50,000~120,000個のMSC、例えば、治療される皮膚欠損創のcmあたり50,000~130,000個のMSC、例えば、治療される皮膚欠損創のcmあたり50,000~150,000個のMSCを含むように投与される。
【0107】
本開示のいくつかの実施形態では、組成物は、薬学的に許容される液体媒体中の細胞懸濁液の形態で投与される。
【0108】
本開示のいくつかの実施形態では、医薬的に許容可能な液体媒体は、ヒト血清アルブミンを含む。
【0109】
本開示のいくつかの実施形態では、医薬的に許容可能な液体媒体は、生理食塩水で希釈された臨床等級のヒト血清アルブミンなどのヒト血清アルブミンを含む。
【0110】
本開示のいくつかの実施形態では、組成物は、生理食塩水中で希釈された2.5%の臨床等級のヒト血清アルブミン中の細胞懸濁液の形態で投与される。
【0111】
代替的に、または追加的に、注射によって本開示のMSCまたは組成物を局所的に投与することに加えて、インテグリンアルファ10で選択されたMSCがロードされた包帯またはリザーバを用いて皮膚欠損創を治療することも可能である。したがって、本開示のいくつかの実施形態では、組成物は、包帯またはリザーバ上の皮膚欠損創に局所的に投与される。
【0112】
本開示のいくつかの実施形態では、皮膚欠損創の治療及び/または再生で4回使用されるMSCは、同種異系である。
【0113】
本開示のいくつかの実施形態では、皮膚欠損創の治療及び/または再生で4回使用されるMSCは、自家である。
【0114】
本開示のいくつかの実施形態では、組成物は、ヒドロゲルをさらに含む。ヒドロゲルは、皮膚欠損創の部位を感染から保護するのに役立ち、したがって治癒過程に役立ち得る。
【0115】
当業者に保湿皮膚での使用が知られているさまざまなヒドロゲルが使用され得る。例えば、ヒドロゲルは、フィブリン糊、ヒアルロン酸、ゼラチン、コラーゲン、アルギン酸、セルロースもしくはペクチン、または任意の機能的に等価なヒドロゲルであってよい。
【0116】
本開示のいくつかの実施形態では、組成物は、自家または同種異系の角化細胞などの角化細胞をさらに含む。角化細胞は、上皮化を促進し、皮膚欠損創部位の血管ネットワークを回復するのに役立ち得る。
【0117】
本開示のいくつかの実施形態では、組成物は抗炎症剤をさらに含む。抗炎症剤の存在は、皮膚欠損創部の炎症を最小限に抑えるのに役立ち得、またこれは治癒を促進するのに役立ち得る。
【0118】
本開示のいくつかの実施形態では、組成物は、細胞の拒絶及び/または治療失敗を防止するための免疫抑制剤をさらに含む。これは、同種異系インテグリンアルファ10で選択されたMSCが単独でまたは同種異系角化細胞と一緒になった場合に、本開示の組成物において特に有用であると考えられる。
【0119】
方法及び使用
本開示の一態様は、インテグリンアルファ10で選択されたMSCを含む組成物の、皮膚欠損創を治療する薬剤の調製のための使用を提供する。
【0120】
本開示の別の態様は、それを必要とする哺乳動物における皮膚欠損創を治療する方法であって、インテグリンアルファ10で選択されたMSCを含む組成物を皮膚欠損創を治療するのに有効な量で哺乳動物に投与することを含む、方法を提供する。
【0121】
本開示の一態様は、哺乳動物の皮膚欠損創の治癒から生じる瘢痕形成を低減するための、インテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物の非治療的化粧用使用に関する。
【0122】
本開示の別の態様では、哺乳動物における皮膚欠損創の非治療的処置のための、インテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物の使用を提供する。
【0123】
本開示のインテグリンアルファ10で選択されたMSCを含む組成物は、瘢痕を低減または最小化するために、例えば瘢痕形成を低減または最小化するためにも使用され得る。本明細書で使用される場合、「低減または最小化する」という用語は、好ましくは、傷のデノボ形成を低減または最小化するための、本開示の組成物の対象への投与を指す。さらに、瘢痕の低減は、好ましくは、瘢痕形成時の疼痛及び/または掻痒の改善または予防も含む。瘢痕を減少させるために、本開示の組成物は、好ましくは、皮膚欠損創が治癒の過程にある間に、皮膚欠損創の部位に局所的に投与される。
【0124】
本開示のいくつかの実施形態では、インテグリンアルファ10で選択されたMSCを含む化粧品組成物であって、化粧品として許容される担体をさらに含む、化粧品組成物が提供される。
【0125】
本開示のいくつかの実施形態では、インテグリンアルファ10で選択されたMSCを含む非治療的組成物であって、化粧品として許容される担体をさらに含む、非治療的組成物が提供される。
【実施例
【0126】
実施例1:インテグリンアルファ10が濃縮されたMSCの製造
目的
この実施例は、インテグリンアルファ10で選択されたMSCが単離され、選択され、拡大され、処置モデルにおいて使用されるまでの間に保存される方法を示している。
【0127】
本明細書で使用される場合、「XSTEM」という用語は、「インテグリンアルファ10が濃縮されたMSC」という用語と同義であり、XSTEMは、インテグリンアルファ10が濃縮されたMSCを指すために使用される内部呼称である。
【0128】
材料及び方法
インテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞(MSC)を、ヒトもしくは動物の脂肪供与組織または他のMSC含有供給源から単離した。脂肪組織を解離/消化させ、脂肪由来間質血管画分(SVF)をMSC拡大培地中に再懸濁させて、細胞培養フラスコに播種し、MSCをプラスチックに付着させ、増殖させた。
【0129】
プラスチック付着細胞を、フローサイトメトリーにより測定して、細胞表面マーカーCD73、CD90及びCD105の陽性発現(≧95%)ならびにCD45、CD34、CD11b、CD19及びHLA-DRの陰性発現(≦2%)について分析した。この特定の抗原発現基準は、International Society for Cellular Therapy (Dominici 2006)により定められたMSC定義の一部でもある。MSC調製物を、MSC拡大培地中の単層培養中で拡大させ、インテグリンアルファ10発現MSCを、インテグリンアルファ10に特異的に結合する抗体(それにより、完全受容体インテグリンアルファ10ベータ1、すなわちインテグリンα10β1を認識する)及び磁気ビーズ分離を用いて選択するか、またはFACS細胞分別により選択した。インテグリンアルファ10で選択されたMSCをさらに拡大し、定義されたMSC抗原の細胞表面発現をチェックし、さらに三種分化能を実証した。アルファ10で選択されたMSCを凍結保存培地中で生きたまま凍結し、使用されるまで凍結した。
【0130】
結果:
この手順により、投与、例えば局所投与に使用可能なバイアル中で拡大及び凍結された、インテグリンアルファ10で選択されたMSC(XSTEM)が得られた。
【0131】
結論
こ の製造プロセスは、ヒトMSCを規定する最低限の基準を満たすアルファ10で選択されたMSCを生成し、細胞療法に適用することができる。
【0132】
実施例2:インテグリンアルファ10で選択されたMSCにより分泌された創傷治癒因子
目的
この実施例は、免疫調節因子、抗炎症因子及び再生促進因子の分泌によるインテグリンアルファ10が濃縮されたMSC(XSTEM)のパラクリン効果を示す。本明細書で使用される場合、「XSTEM」という用語は、「インテグリンアルファ10が濃縮されたMSC」という用語と同義である。
【0133】
材料及び方法
インテグリンアルファ10で選択された間葉系幹細胞(XSTEM)を炎症促進性サイトカイン系インターフェロンγ(IFΝγ)及び腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)で72時間刺激した。培養上清を収集し、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)により、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)及びプロスタグランジンE2(PGE2)について分析した。定常状態でさまざまな細胞数のXSTEMで放出される培養上清中の血管内皮増殖因子(VEGF)及び肝細胞増殖因子(HGF)の濃度も、Luminex multiplexアッセイによって測定した。
【0134】
結果:
PGE2は、刺激されていないXSTEMで有意に発現し、IFΝγ及びTNFαで刺激すると発現がさらに上昇した(図5A)。XSTEMのIFΝγ刺激及びTNFα刺激も、IDOの発現を誘導した(図5B)。PGE2及びIDOは、T細胞の増殖を抑制し、マクロファージM2の分極を促進することによって免疫調節の役割を果たすことが知られている抗炎症分子である。さらに、XSTEMは皮膚創傷治癒を促進することが知られている、HGF及びVEGFを含む再生促進増殖因子も分泌する(図5C)(Guillamat-Prats et al.2021)。インテグリンアルファ10で選択されたMSCが非選択のMSCよりも有意に多くのPGE2を分泌するという従来の研究に基づき(Uvebrant et al.2019)、IDO、HGF及びVEGFなどの他の抗炎症性及び免疫調節因子の分泌も、インテグリンアルファ10発現について選択されていないMSCと比較してインテグリンアルファ10で選択されたMSC(及びこれらのMSCの大部分を含む組成物)において優ると予想される。
【0135】
結論
インテグリンアルファ10で選択されたMSCは、創傷治癒過程及び組織再生を促進することが知られている重要なサイトカイン及び増殖因子を分泌する。したがって、インテグリンアルファ10で選択されたMSCは、実施例3に示すように、創傷治癒を促進する因子を分泌する優れた能力と、皮膚を再生できるという事実により、炎症を特徴とする創傷などの慢性創傷または治癒困難な創傷を含む皮膚欠損創の治療に成功した。
【0136】
実施例3:皮膚欠損創のインビボ治療。
【0137】
目的
これらの実験の目的は、検証済みのブタモデルにおける皮膚欠損創の治癒のためのインテグリンアルファ10で選択されたMSCの治療効果を実証及び評価することであった。ブタの皮膚は、皮膚の付着性、毛髪の被覆性、表皮と真皮の厚さ、及び治癒機序に関してヒトの皮膚に近似している。したがって、ブタは、創傷治癒研究にとって適切な種であると考えられている(Sullivan et al.2001)。さらに、本発明者らの研究で作製された全層厚の創傷のサイズ及び深さは、大きな創傷サイズが拘縮による自然治癒を許容していないため、慢性創傷に似ている(Jeschke et al.2017)。慢性創傷の治癒機序は、原則的に非慢性創傷と同じである。しかしながら、慢性創傷は、創傷部位における炎症及び/または感染または基礎疾患の存在のために治癒するのが困難であることが多い。
【0138】
材料及び方法
皮膚創傷生体内試験を、以下のワークフローに従って2頭のブタにおいて実施した:
- 0日目に、下にある脂肪を含む皮膚の全層生検を外科的に摘出した。皮下脂肪層を機械的に解離させた。脂肪部分を細かく砕き、37℃で90分間コラゲナーゼI中で振とうしながらインキュベートして、脂肪由来幹細胞(ADSC)を単離した。皮膚部分を裁断して小片とし、これを4℃でディスパーゼ中で一晩インキュベートした。次に表皮を真皮から機械的に剥離し、トリプシンとともに37℃で30分間インキュベートした。リン酸緩衝生理食塩水で適切に洗浄した後、細胞を計数し、生理食塩水中の2.5%ヒト血清アルブミン(臨床等級)に再懸濁させた。標的細胞数に応じてそれぞれのグループについて容量を1mlに調整した。
- 翌日(1日目)に、それぞれのブタの背中に6つの臨界サイズ(少なくとも3×3cmの面積)の全層の皮膚創傷を外科的に創傷した。
- また、1日目に、単離された自家細胞及び実施例1に記載のとおりに調製したインテグリンアルファ10で選択されたMSCを、異なる濃度で適用した:創傷中に、自家角化細胞(7×10個の細胞/創傷)、自家幹細胞(脂肪由来幹細胞(ADSC)、5×10個の細胞/創傷)、インテグリンアルファ10で選択されたMSC(5×10個の細胞/創傷)、インテグリンアルファ10で選択されたMSC+自家角化細胞(それぞれ5×10+5×10個の細胞/創傷)、インテグリンアルファ10で選択されたMSC(1×10個の細胞/創傷)。手術指針に従って創傷を適切に覆い、非吸収性ドレッシングを適用した後、細胞を創傷内に注入した。
- 7日目:1週間後に皮膚欠損創の治癒(創傷サイズ及び上皮化)を追跡した。
- 14日目2週間後に皮膚欠損創の治癒(創傷サイズ及び上皮化)を追跡した。さらに、実験を終了し、組織学的評価のために創傷を切除した。創傷を臨床的に評価し、生検を収集し、固定し、組織学的評価のために調製した。切片を、局所的プロトコールに従ってヘマトキシリン及びエオシンならびにマッソンの三重染色法で染色した。
【0139】
結果
自家ADSC及び角化細胞ならびにヒトインテグリンアルファ10で選択されたMSC(XSTEM)を、全層、臨界的なサイズの皮膚創傷モデルに適用し、2週間にわたり追跡した。細胞を、5×10個の自家角化細胞を含むものと含まない5×10個のXSTEM細胞、ならびに1×10個のXSTEM細胞として適用した。対照のために、5×10個の自家ADSC、7×10個の自家角化細胞及びビヒクルを適用した。
【0140】
巨視的には、いずれの創傷でも、炎症、裂傷または感染の徴候は検出されなかった(図1)。
【0141】
ヘマトキシリン及びエオシン染色により、50万個の細胞のXSTEM表皮構造は、正常な皮膚に匹敵することが示された(図2E及びA)。細胞を自家角化細胞と組み合わせた場合、表皮の厚さはより薄かった(図2F)。100万個の細胞のXSTEMは、細胞は、組織化されていない表皮及び過角化症と関連していた(図2G)。表皮発達は、自家幹細胞、角化細胞またはビヒクルではあまり効率的ではなかった(それぞれ図2D図2C図2B)。
【0142】
マッソンの三重染色法により、50万個の細胞のXSTEMのコラーゲン線維束性細胞のパターン及び染色強度は、正常な皮膚と同等であることが示された(図3E及び図3A)。細胞を自家角化細胞または自家幹細胞と組み合わせた場合、コラーゲン染色の強度は対照よりも高かった(図3F及び図3D)。100万個の細胞のXSTEMは、表皮の組織化が低く、コラーゲン染色の強度が低いことと関連していた(図3G)。一方、自家角化細胞は、ビヒクルと比較してコラーゲン産生が少ないことと関連していた(図3C及び図3B)。
【0143】
結論
14日後の5×10(50万)個のインテグリンアルファ10で選択されたMSC/創傷の皮膚欠損創の局所治療により、基底膜の再生、皮膚の角化、及び束状に構造化され皮膚に天然に存在するコラーゲンに類似する高レベルのコラーゲンの形成が得られた。100万個のインテグリンアルファ10で選択されたMSC/創傷による局所治療でも真皮及び表皮の再生が観察されたが、あまり組織化されていない表皮が観察された。これらの効果は、ビヒクル(プラセボ)、自家幹細胞、または自家角化細胞で処置した皮膚欠損創では観察されなかった。
【0144】
参照文献
Hady Shahin,Moustafa Elmasry,Ingrid Steinvall,Katrin Markland,Pontus Blomberg,Folke Sjoberg,Ahmed El-Serafi(2020). Human Serum Albumin as a Clinically Accepted Cell Carrier Solution for Skin Regenerative Application. Scientific Reports 10:14486.
Matilda Karlsson, Ingrid Steinvall, Pia Olofsson, Johan Thorfinn, Folke Sjоberg, Liselott Astrand, Fayiz S., Ahmad Khalaf, Divyasree Parambath, Ahmed T.El-Serafi, Moustafa Elmasry (2020). Sprayed Cultured Autologous Keratinocytes in the Treatment of Severe Burns:A Retrospective Matched Cohort Study. Annals of Burns and Fire Disasters 33:134-142.
Anjali Raghuram,Roy Yu,Andrea Lo,Cynthia Sung,Melissa Bircan,Holly Thompson,Alex K Wong(2020). Role of stem cell therapies in treating chronic wounds:A systematic review. World Journal of Stem Cells 12,659-675.
Nina Kosaric,Harriet Kiwanuka and Geoffrey C Gurtner(2019)Stem cell therapies for wound healing. Expert Opinion on Biological Therapy 19:575-585.
Ahmed T El-Serafi,Moustafa Elmasry and Folke Sjоberg(2018). Cell Therapy,the Future Trend for Burn Management. Editorial in Clinics in Surgery 3:1896.
Ahmed T.El-Serafi,Ibrahim El-Serafi,Moustafa Elmasry,Ingrid Steinvall,Folke Sjoberg(2017). Skin Regeneration in Three Dimensions,Current Status,Challenges and Opportunities. Differentiation 96:26-29.
Dominici M et al.,Cytotherapy.8(4):315-7(2006)
Garcia-Bernal,D.,et al.,The Current Status of Mesenchymal Stromal Cells:Controversies,Unresolved Issues and Some Promising Solutions to Improve Their Therapeutic Efficacy. Front Cell Dev Biol,2021.9:p.650664.
Uvebrant K.,Reimer Rasmusson L.,Talts JF.,Alberton P.,Aszodi A.and Lundgren-Akerlund E.“Integrinα10β1-selected Equine MSCs have Improved Chondrogenic Differentiation,Immunomodulatory and Cartilage Adhesion Capacity.” Ann Stem Cell Res.2,001-009(2019).Sullivan TP,Eaglstein WH,Davis SC,Mertz P.The pig as a model for human wound healing. Wound Repair Regen.2001 Mar-Apr;9(2):66-76.
Jeschke MG,Sadri A-R,Belo C,Amini-Nik S.A surgical device to study the efficacy of bioengineered skin substitutes in mice wound healing models. Tissue Eng Part C Methods.2017;23:237-4
Guillamat-Prats,R.,The Role of MSC in Wound Healing,Scarring and Regeneration. Cells,2021.10(7)
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
【国際調査報告】