(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-25
(54)【発明の名称】アルコール性肝障害の影響を改善する方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/13 20160101AFI20240418BHJP
A61K 31/7084 20060101ALI20240418BHJP
A61K 31/706 20060101ALI20240418BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
A23L33/13
A61K31/7084
A61K31/706
A61P1/16
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021564619
(86)(22)【出願日】2021-04-02
(85)【翻訳文提出日】2021-10-28
(86)【国際出願番号】 US2021025672
(87)【国際公開番号】W WO2022211821
(87)【国際公開日】2022-10-06
(32)【優先日】2021-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521474018
【氏名又は名称】フルゲント・ライフ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】FULGENT LIFE INC.
(71)【出願人】
【識別番号】521474029
【氏名又は名称】グワンドン・ハオ・バン・イ・ヤオ・ジャン・カン・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GUANGDONG HAO BANG YI YAO JIAN KANG CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ,フェイ
(72)【発明者】
【氏名】タン,シェンチェン
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ケ
(72)【発明者】
【氏名】ティエン,シリウ
(72)【発明者】
【氏名】イー,ロン
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018MD18
4B018ME14
4B018MF02
4C086AA01
4C086AA02
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4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA75
(57)【要約】
本開示の実施態様によれば、対象における急性アルコール性肝障害を治療、予防または改善する方法は、対象に、NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)+水素(H))またはNRH(ジヒドロニコチンアミドヌクレオシド)を含む外因性ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)源を投与することを含む。また、外因性NAD+源の投与を用いて、対象のアルコール耐性を高めることができ、かつ/またはアルコール二日酔いの症状を治療、予防または軽減することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における急性アルコール性肝障害を治療、予防または改善する方法であって、対象に、NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)+水素(H))またはNRH(ジヒドロニコチンアミドヌクレオシド)を含む外因性ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)源を投与することを含む、方法。
【請求項2】
外因性NAD+源の投与が、対象がアルコールを飲む前またはアルコールに曝露される前に外因性NAD+源を投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
外因性NAD+源の投与が、対象がアルコールを飲んだ後またはアルコールに曝露された後に外因性NAD+源を投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
外因性NAD+源の投与が、外因性NAD+源を含む栄養補助食品を対象に経口投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
外因性NAD+源の投与が、外因性NAD+源を含む医薬組成物を対象に経口投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
医薬組成物がさらに、1種または複数の薬学的に許容できる担体、賦形剤、アジュバントおよび/または希釈剤を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
外因性NAD+源の投与が、約0.01 mg/kg~約20 mg/kg(1日当たり)の用量の外因性NAD+源を投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
外因性NAD+源の投与が、1日用量の外因性NAD+源を投与することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
外因性NAD+源の投与が、外因性NAD+源の1日用量を1日間から14日間投与することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
対象のアルコール耐性を高める方法であって、対象に、NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)+水素(H))および/またはNRH(ジヒドロニコチンアミドヌクレオシド)を含む外因性ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)源を投与することを含む、方法。
【請求項11】
外因性NAD+源の投与が、対象がアルコールを飲む前またはアルコールに曝露される前に外因性NAD+源を投与することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
外因性NAD+源の投与が、外因性NAD+源を含む栄養補助食品を対象に経口投与することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
外因性NAD+源の投与が、約0.01 mg/kg~約20 mg/kg(1日当たり)の用量の外因性NAD+源を投与することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項14】
外因性NAD+源の投与が、1日用量の外因性NAD+源を投与することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
対象におけるアルコール二日酔いの症状を治療、予防または軽減する方法であって、対象に、NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)+水素(H))および/またはNRH(ジヒドロニコチンアミドヌクレオシド)を含む外因性ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)源を投与することを含む、方法。
【請求項16】
外因性NAD+源の投与が、対象がアルコールを飲む前またはアルコールに曝露される前に外因性NAD+源を投与することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
外因性NAD+源の投与が、対象がアルコールを飲んだ後またはアルコールに曝露された後に外因性NAD+源を投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
外因性NAD+源の投与が、外因性NAD+源を含む栄養補助食品を対象に経口投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
外因性NAD+源の投与が、約0.01 mg/kg~約20 mg/kg(1日当たり)の用量の外因性NAD+源を投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
アルコールは、何世紀にもわたり様々な文化によって消費されてきた精神活性物質である。しかし、アルコールは、乱用やアルコール依存症を引き起こし得る中毒物質でもある。次に、アルコール依存症は、多くの病気を引き起こし、もしアルコール乱用を放置し続けると、死に至ることもある。
【0002】
例えば、飲酒は、急性肝傷害と慢性肝疾患の主な原因である。そのような疾患の1つに、アルコール性肝疾患(ALD)があり、その特徴は、最初は肝臓脂肪が蓄積されているが、炎症反応後に末期肝不全を引き起こすことである。実際に、アルコール依存症は、アルコール性脂肪肝疾患(AFLD)、アルコール性脂肪性肝炎、アルコール性肝炎(AH)、進行性線維化、肝硬変および肝不全を含む多くの種類の肝疾患を加速させ得る。ALD患者、特にアルコール肝硬変に進行した患者は、肝細胞癌(HCC)に発展するリスクが大幅に増加する。したがって、アルコール依存症は、多くの社会で社会的かつ経済的な負担とも言える。しかし、これまで、大量または過剰の飲酒によって引き起こされる肝障害のための有効な治療法が不足していた。
【0003】
概要
本開示の実施態様によれば、対象における急性アルコール性肝障害を治療、予防または改善する方法は、対象に、NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)+水素(H))および/またはNRH(ジヒドロニコチンアミドヌクレオシド)を含む外因性ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)源を投与することを含む。いくつかの実施態様では、外因性NAD+源の投与は、対象がアルコールを飲む前またはアルコールに曝露する前に外因性NAD+源を投与することを含む。いくつかの実施態様では、外因性NAD+源の投与は、対象がアルコールを飲んだ後またはアルコールに曝露した後に外因性NAD+源を投与することを含む。
【0004】
いくつかの実施態様によれば、外因性NAD+源の投与は、外因性NAD+源を含む栄養補助食品を対象に経口投与することを含む。また、いくつかの実施態様では、外因性NAD+源の投与は、外因性NAD+源を含む医薬組成物を対象に経口投与することを含む。医薬組成物は、1種または複数の薬学的に許容できる担体、賦形剤、アジュバントおよび/または希釈剤をさらに含み得る。
【0005】
いくつかの実施態様では、外因性NAD+源の投与は、約0.01 mg/kg~約1000 mg/kg(1日当たり)の用量の外因性NAD+源を投与することを含む。外因性NAD+源の投与は、1日用量の外因性NAD+源を投与することを含み得る。また、いくつかの実施態様では、外因性NAD+源の投与は、1日用量の外因性NAD+源を1日間から14日間投与することを含み得る。
【0006】
本開示のいくつかの実施態様によれば、対象のアルコール耐性を高める方法は、対象に、NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)+水素(H))および/またはNRH(ジヒドロニコチンアミドヌクレオシド)を含む外因性ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)源を投与することを含む。外因性NAD+源の投与は、対象がアルコールを飲む前またはアルコールに曝露する前に外因性NAD+源を投与することを含み得る。いくつかの実施態様では、外因性NAD+源の投与は、外因性NAD+源を含む栄養補助食品を対象に経口投与することを含む。外因性NAD+源の投与は、約0.01 mg/kg~約1000 mg/kg(1日当たり)の用量の外因性NAD+源を投与することを含み得る。また、外因性NAD+源の投与は、1日用量の外因性NAD+源を投与することを含み得る。
【0007】
本開示のいくつかの実施態様では、対象におけるアルコール二日酔いの症状を治療、予防または軽減する方法は、対象に、NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)+水素(H))および/またはNRH(ジヒドロニコチンアミドヌクレオシド)を含む外因性ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)源を投与することを含む。外因性NAD+源の投与は、対象がアルコールを飲む前またはアルコールに曝露する前に外因性NAD+源を投与することを含み得る。また、いくつかの実施態様では、外因性NAD+源の投与は、対象がアルコールを飲んだ後またはアルコールに曝露した後に外因性NAD+源を投与することを含み得る。外因性NAD+源の投与は、外因性NAD+源を含む栄養補助食品を対象に経口投与することを含み得る。また、外因性NAD+源の投与は、約0.01 mg/kg~約1000 mg/kg(1日当たり)の用量の外因性NAD+源を投与することを含み得る。
【0008】
特許または出願書類は、色付きで作成された少なくとも1つの図面を含む。色付きの図面を含むこの特許または出願公報の複写は、請求および必要費用の支払いがあれば官庁によって提供される。
【0009】
本開示の実施態様のこれらのおよび他の特徴および利点は、適宜、下記の添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照することでより良く理解され得る:
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、対照(青色)、1mM NADH(褐色)、1mM NRH(赤色)または1mM NMN(紫色)で3時間処理した様々な哺乳動物細胞系(すなわち、LN229、MIN6、およびC2C12およびAML12細胞)のNAD+レベルを比較したグラフである。
【
図2】
図2Aは、50、100、250、500、750および1000μM NADHで3時間処理したAML12細胞のNADHの用量反応グラフである。
図2Bは、1mM NADHと0.5、1、3、6および12時間インキュベートしたAML12細胞の時間依存的なNADH増大NAD+レベルのグラフである。
図2Cは、1mM NMN、NRHまたはNADHで6時間処理したAML12細胞において測定されたNAD
+/NADH比のグラフである。
【
図3】
図3Aは、C2C12、Neuro2aおよびAML12細胞を1mM NADHで24時間処理した後に測定された細胞総数(褐色)を対照(青色)と比較したグラフである。
図3Bは、Annexin Vで染色し、1mM NADHまたはNRHで処理した、生存している(褐色)、アポトーシスを引き起こした(青色)、および壊死した(灰色)AML12細胞の総数を対照と比較したグラフである。
図3Cは、Caspase 3/7染色し、1mM NADHまたはNRHで処理した、生存している(褐色)、アポトーシスを引き起こした(青色)、および壊死した(灰色)AML12細胞の総数を対照と比較したグラフである。
【
図4-1】
図4Aは、1mM NADHの存在下または非存在下、500 μM HPで3時間処理したAML12細胞の細胞生存率を対照に対して比較したグラフである。
図4Bは、1mM NADHの存在下または非存在下、500 μM HPで3時間処理したAML12細胞のNAD+レベルを対照に対して比較したグラフである。
【
図4-2】
図4Cは、250 μM NADHまたは250 μM NMNの存在下または非存在下、500 μM HPで3時間処理したAML12細胞の細胞生存率を対照に対して比較したグラフである。
図4Dは、250 μM NADHまたは250 μM NMNの存在下または非存在下、500 μM HPで3時間処理したAML12細胞のNAD+レベルを対照に対して比較したグラフである。
【
図5】
図5Aは、雄のC57BL/6Jマウスに1000 mg /kg NADH(褐色)を腹腔内注射して4時間後の血液、肝臓、脳および副睾丸脂肪組織におけるNAD+含有量を対照(青色)に対して比較したグラフである。
図5Bは、雄のC57BL/6Jマウスに250 mg/kg NMN(褐色)、250 mg/kg NRH(緑色)、250 mg/kg NADH(紫色)とビヒクル単独(対照、青色)を腹腔内注射して4時間後の肝臓におけるNAD+含有量を対象に対して比較したグラフである。
【
図6】
図6Aは、8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)の投与の15分前に、500 mg/kg NRH(褐色)、500 mg/kg NADH(赤色)またはビヒクル(対照、青色)を投与したマウスの血中アルコール(エタノール)濃度対時間(エタノール投与後)を比較したグラフである。
図6Bは、8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)の投与の15分前に、500 mg/kg NRH(褐色)、500 mg/kg NADH(赤色)またはビヒクル(対照、青色)を投与したマウスの血中アセトアルデヒド濃度対時間(エタノール投与後)を比較したグラフである。
図6Cは、8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)の投与の15分前に、500 mg/kg NRH(褐色)、500 mg/kg NADH(赤色)またはビヒクル(対照、青色)を投与したマウスの肝酸化還元分率(すなわち、NAD+/NADH比)対時間(エタノール投与後)を比較したグラフである。
【
図7】
図7Aは、8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)の投与の30分前に、500 mg/kg NRH、500 mg/kg NADHまたはビヒクル(対照として)を胃内投与した雄のC57BL/6Jマウスの血漿中アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)レベルを比較したグラフである。
図7Bは、8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)の投与の30分前に、500 mg/kg NRH、500 mg/kg NADHまたはビヒクル(対照として)を胃内投与した雄のC57BL/6Jマウスの血漿中アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルを比較したグラフである。
【
図8】
図8Aは、8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)の投与の15分前に、500 mg/kg NRH、500 mg/kg NADHまたはビヒクル(対照として)を胃内投与した雄のC57BL/6Jマウスのマロンジアルデヒド(MDA)活性を比較したグラフである。
図8Bは、8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)の投与の15分前に、500 mg/kg NRH、500 mg/kg NADHまたはビヒクル(対照として)を胃内投与した雄のC57BL/6Jマウスのスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)活性を比較したグラフである。
【
図9-1】
図9Aは、雄のC57BL/6J対照マウス、8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)を単独投与した後の雄のC57BL/6Jマウス、8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)の投与の15分前に500 mg/kg NRHで前処理した後の雄のC57BL/6Jマウス、および8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)の投与の前に500 mg/kg NADHで前処理した後の雄のC57BL/6JマウスのオイルレッドOで染色した肝臓標本の光学顕微鏡(400倍拡大)写真の描写である。
【
図9-2】
図9Bは、8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)を単独投与した後の雄のC57BL/6Jマウス、8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)の投与の15分前に500 mg/kg NRHで前処理した後の雄のC57BL/6Jマウス、および8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)の投与の前に500 mg/kg NADHで前処理した後の雄のC57BL/6Jマウスのトリグリセリド(TG)レベルを対照に対して比べた比較したグラフである。
図9Cは、8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)を単独投与した後の雄のC57BL/6Jマウス、8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)の投与の15分前に500 mg/kg NRHで前処理した後の雄のC57BL/6Jマウス、および8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)の投与の前に500 mg/kg NADHで前処理した後の雄のC57BL/6Jマウスの血清超低密度リポタンパク質(VLDL)活性を対照に対して比較したグラフである。
【
図10】
図10Aは、8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)の投与の15分前に500 mg/kg NRHで前処理した後の雄のC57BL/6Jマウス、および8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)の投与の前に500 mg/kg NADHで前処理した後の雄のC57BL/6JマウスのLORR率を、8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)を単独投与した後の雄のC57BL/6Jマウスに対して比較したグラフである。
図10Bは、8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)の投与の15分前に500 mg/kg NRHで前処理した後の雄のC57BL/6Jマウス、および8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)の投与の前に500 mg/kg NADHで前処理した後の雄のC57BL/6JマウスのLORR潜伏期間を、8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)を単独投与した後の雄のC57BL/6Jマウスに対して比較したグラフである。
【0011】
詳細な説明
長期飲酒によるALDの生物学的メカニズムは明らかになっているが、この疾患による障害を予防または回復させるための公認された治療法はない。現在、ALDは、飲酒からの発病率と死亡率の増加および関連医療費の増加の主な原因である。そのため、アルコール依存症による肝障害を予防または回復させるための有効かつ受け入れられる治療法が不足していることが、現在のプロトコルの主な欠点の一つである。
【0012】
禁酒は、ALDによる早期障害を比較的正常な状態に回復させることができるが、ALDが後期に進展するにつれて、従来の知識では障害は不可逆的になると考えられている。これは、ある程度、長期飲酒とそれによる肝障害が肝臓の細胞と分子の様々な変化を伴うことに起因しており、これらの変化は肝臓の機能と代謝を損なう可能性がある。多くの薬物が代謝と除去を肝臓に主に依存するため、この肝臓の機能と代謝への障害は、治療プロトコルを複雑化している。しかし、肝臓がこのような障害状態にある場合、肝機能障害は薬物の排泄を減らし、血漿薬物濃度を高め得るため、これらの薬物を慎重に使用する必要がある。そのため、ALDの治療に用いられる従来の薬物の治療効果は限られており、多くの患者にこれらの薬物の有害な副作用が現れている。
【0013】
本開示の実施態様によれば、患者の(または対象の)NAD+(すなわち、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)濃度を増加させることは、肝機能障害を予防または治療する、肝障害の影響を改善する、および/またはその他の方法で肝機能を改善するか持続的な肝障害(または追加の肝障害)から肝臓を保護する、自然で無害で有効な方法である。また、患者の(または対象の)NAD+濃度を増加させると、対象のアルコール耐性を高めることができ、アルコール二日酔いの症状を治療、予防または軽減し得る。
【0014】
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)は細胞呼吸に必要な化合物であり、生きているすべての細胞に存在する重要な補酵素でもある。代謝中の酸化還元生化学反応ではNAD+が電子担体として機能する。細胞呼吸におけるNAD+の役割はよく知られている。グルコースと脂肪酸が酸化されると、NAD+はヒドリド当量(hydride equivalent)を受け取り、NADHに還元されることができる。NADHはヒドリド当量を供給し、酸化してNAD+に戻ることができる。これらの還元-酸化サイクルはNAD+を利用してヒドリドイオンを一時的に貯蔵するが、それらはNAD+を消費しない。
【0015】
NAD+のもう一つの主な機能はアルコール代謝に関与することである。アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)やアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)のようなアルコール代謝に関わる酵素は、NAD+を利用してアルコールの酸化代謝の連鎖反応を駆動する。そのため、以下の反応スキーム1に示すように、NAD+はアルコールの代謝と解毒に重要な役割を果たす。
【0016】
【0017】
反応スキーム1に示すように、アルコール代謝の最初の工程は、主に肝臓に存在しかつ一連の異性体を含有する、ADHによって触媒される。NAD+は、アルコールから還元当量(水素原子と電子)を受け入れる必要がある。その結果として、エタノールはアセトアルデヒドとビタミン補助因子に酸化され、NAD+はNADHとH+に還元される。このADH反応は可逆的である。
【0018】
2番目の工程はALDHによって触媒される。アセトアルデヒドはアセテートに酸化され、NAD+は補助因子であり、NADHに還元される。このALDH反応は基本的に不可逆である。アルコール酸化によって産生されたアセトアルデヒドのほとんどは肝臓でアセテートに酸化される。通常、アセトアルデヒドの循環レベルは非常に低い。
【0019】
3番目の工程において、アセトアルデヒドの酸化によって産生されたアセテートのほとんどは肝臓を離れ、周囲の組織に循環し、そこで重要なアセチルCoAとして活性化される。アルコールからの炭素原子は最終的に炭水化物、脂肪およびタンパク質(二酸化炭素、脂肪酸、ケトン体およびコレステロールを含む)の酸化によって産生された生成物と同じで、この生成物は、エネルギー状態ならびに栄養およびホルモン条件に依存して形成される。
【0020】
上で一般的に議論したように、本開示の実施態様によれば、患者のNAD+濃度を高めることによりアルコール性肝障害を予防、治療、または改善することができる。いくつかの実施態様では、例えば、患者に外因性NAD+源を投与することで、患者のNAD+濃度を高めることができる。いくつかの実施態様では、外因性NAD+源は、NADH(すなわち、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)+水素(H))またはNRH(すなわち、ジヒドロニコチンアミドヌクレオシド)であるかそれを含み得る。また、外因性NAD+源(例えば、NADHまたはNRH)の投与は、対象のアルコール耐性を高めることができ、本明細書においてさらに議論するように、アルコール二日酔いの症状を治療、予防または軽減し得る。
【0021】
NADHは、生きているすべての細胞に存在する補酵素で、5’-リン酸基で連結されたヌクレオチドを2つ含み、一方はアデニン塩基を含み、もう一方はニコチンアミドを含む。NADHも自然界に広く存在し、電子担体として酸化(NAD+)と還元(NADH)を交互に行うことを含む多くの酵素反応に関与している。NRHはNAD+の前駆体の一つであり、NAD+への新規生合成経路の起点である。驚いたことに、NADHまたはNRH(外因性NAD+源として)を投与することは、例えば、ニコチンアミドリボシド(NR)、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)またはビタミンB3(すなわち、ナイアシンと結合したニコチンアミド)を補充するよりも、培養細胞におけるNAD+のレベルを大幅により効果的に高める。NADHとNRHの化学構造は以下に示される。
【0022】
【0023】
外因性NAD+源の投与のタイミングは特に限られているわけではなく、外因性NAD+源はアルコール性肝障害や治療、予防または軽減が意図される症状が出現する任意のタイミングで患者(または対象)に投与することができる。例えば、いくつかの実施態様では、外因性NAD+源は、アルコールを飲む前またはアルコールに曝露する前に投与することができる。これらの実施態様では、以下でさらに詳しく開示するように、外因性NAD+源の投与は、後にアルコールを摂取することで発症する可能性のあるアルコール性肝障害から肝臓を保護することができる。このような外因性NAD+源を使用した前処理は、対象のアルコール耐性を高めることもでき、また、アルコール二日酔いに関連する症状の発症を予防し、その重症度や持続時間(すなわち、過剰飲酒に関連する有害な生理学的副作用)を減少させることもできる。
【0024】
しかし、いくつかの実施態様では、外因性NAD+源は、アルコールを飲んだ後またはアルコールに曝露した後に投与することができる。これらの実施態様では、また、以下でさらに詳しく開示するように、外因性NAD+源の投与は、アルコール摂取によるアルコール性肝障害から肝臓をより迅速かつ効率的に回復させることを助けることができる。このような外因性NAD+源による後処理は、対象のエタノール代謝率を増加させ、アルコール摂取による肝毒性を減少させ、アルコール二日酔いに関連する症状の重症度や持続時間を減少させることもできる。
【0025】
外因性NAD+源(例えば、NADHまたはNRH)は、制限なく任意の適切な方法で投与することができる。例えば、外因性NAD+源(例えば、NADHまたはNRH)は、非経口、経口、舌下、経皮、局所、鼻内、気管内または直腸内で投与ことができる。しかし、ある特定の実施態様では、外因性NAD+源(例えば、NADHまたはNRH)は経口投与される。このような経口投与は、特に限定するものではなく、外因性NAD+源(例えば、NADHまたはNRH)を含む栄養補助食品によって、または医師が定める処方に従う医薬組成物によって実現することができる。栄養補助食品および/または医薬組成物は、固体または液体の形態をとることができる。固体の形態としては、錠剤、カプセル剤または粉末剤(粉末剤は乾燥した形で投与してもよいし、液体中に分散または懸濁してもよい)を含むことができる。
【0026】
いくつかの実施態様では、栄養補助食品および/または医薬組成物は、治療または予防効果のある量の外因性NAD+源(例えば、NADHまたはNRH)(またはその薬学的に許容できる塩もしくは誘導体)を含むことができる。いくつかの実施態様では、栄養補助食品および/または医薬組成物は、外因性NAD+源(例えば、NADHまたはNRH)(またはその薬学的に許容できる塩もしくは誘導体)と、1種または複数の薬学的に許容できる担体、賦形剤、アジュバントまたは希釈剤とを含むことができる。許容できる担体、賦形剤および希釈剤は当技術分野でよく知られており、意図される投与経路と標準実践に基づいて選択することができる。いくつかの非制限的な例としては、結合剤、潤滑剤、懸濁剤、コーティング剤、可溶化剤、保存剤、湿潤剤、乳化剤、界面活性剤、甘味剤、着色剤、調味剤、匂い剤、緩衝剤、酸化防止剤、安定剤、および/または塩類が挙げられる。
【0027】
いくつかの実施態様では、例えば、栄養補助食品および/または医薬組成物は、少なくとも1種の薬学的に許容できる担体を含む。担体の特性は投与経路に依存する。本明細書において使用する場合、「薬学的に許容できる」という用語は、細胞、細胞培養物、組織または生物などの生体系に適合し、かつ活性成分の生物活性の有効性を妨害しない、無毒物質のことを意味する。したがって、本開示の実施態様による栄養補助食品および/または医薬組成物は、外因性NAD+源(例えば、NADHまたはNRH)(またはその薬学的に許容できる塩もしくは誘導体)に加えて、1種または複数の希釈剤、充填剤、塩類、緩衝剤、安定剤、可溶化剤および/または当技術分野において周知の他の材料を含み得る。薬学的に許容できる製剤の調製は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pa., 18th edition, 1990に記載されている。
【0028】
本明細書において使用する場合、「薬学的に許容できる塩」という用語は、外因性NAD+源(例えば、NADHまたはNRH)(またはその薬学的に許容できる塩もしくは誘導体)の期待される生物活性を維持しかつ極めて小さいまたは期待されない毒性学的効果を示す塩を指す。このような適切な薬学的に許容できる塩の非制限的な例としては、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸など)と形成される酸付加塩、および有機酸(例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、安息香酸、タンニン酸、パモ酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸およびポリガラクツロン酸など)と形成される塩が挙げられる。
【0029】
本明細書に記載の外因性NAD+源(例えば、NADHまたはNRH)(またはその薬学的に許容できる塩もしくは誘導体)は、当業者に知られている薬学的に許容できる四級塩、例えば、-N(R)2-(式中、Rは水素、アルキルまたはベンジルであり、Zは、対イオンである(非制限的な例として、塩化物、臭化物、ヨウ化物、O-アルキル、トルエンスルホン酸塩、メチルスルホン酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、またはカルボン酸塩(非制限的な例として、安息香酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、グリコール酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、アスコルビン酸塩、安息香酸塩、シナモン酸塩、マンデル酸塩、ベンジロアート(benzyloate)、およびジフェニル酢酸塩)))で表される四級アンモニウム塩として投与することもできる。
【0030】
いくつかの実施態様によれば、本明細書に記載の外因性NAD+源(例えば、NADHまたはNRH)(またはその薬学的に許容できる塩もしくは誘導体)は、栄養補助食品または医薬組成物中に、薬学的に許容できる担体または希釈剤と共に、適量で存在することができる。例えば、外因性NAD+源(例えば、NADHまたはNRH)(またはその薬学的に許容できる塩もしくは誘導体)は、患者または対象に深刻な毒性影響を与えることなく(またはその影響のリスクを最小限に抑えて)治療または予防効果のある量の外因性NAD+源(例えば、NADHまたはNRH)(またはその薬学的に許容できる塩もしくは誘導体)を患者または対象に送達するのに十分な量で存在することができる。いくつかの実施態様では、例えば、活性化合物(すなわち、外因性NAD+源(例えば、NADHまたはNRH)(またはその薬学的に許容できる塩もしくは誘導体))は、約0.01~20 mg/kg(1日当たりまたは1用量当たり)、例えば、約0.01~10 mg/kg(1日当たりまたは1用量当たり)、または約5~約10 mg/kg(1日当たりまたは1用量当たり)の用量で任意の経路によって投与することができる。いくつかの実施態様では、例えば、活性化合物は、約5 mg/kg(1日当たり)(または1投与当たり)~約8 mg/kg(1日当たり)(または1投与当たり)の用量で投与することができる。また、NADHとNRHは共に類似した用量で投与することができる一方で、いくつかの実施態様では、NADHは、約5~約8 mg/kg(1日当たり)(または1投与当たり)の用量で任意の経路によって投与することができ、NRHは、約5 mg/kg(1日当たり)(または1投与当たり)の用量で任意の経路によって投与することができる。当業者によって理解されるように、薬学的に許容できる誘導体または塩類の有効投与量の範囲は、送達される親化合物の重量に基づいて計算することができる。誘導体または塩自体が活性を示す場合は、誘導体の重量を使用して上記のようにまたは当業者に公知の他の任意の手段によって有効投与量を推定することができる。当業者によって理解されるように、濃度、治療または栄養補助食品プロトコール、及び投与経路は、特定の患者と治療(または予防または改善)されるべき肝傷害の程度によって変化する。
【0031】
また、外因性NAD+源の投与の投与レジメンは特に限られておらず、患者(または対象)または処方医が状況に応じて決定することができる。しかし、投与レジメンは、対象(または患者)の生理状況、レジメンの所望の結果(例えば、将来可能なアルコール性肝障害からの保護、または現在のアルコール性肝障害の影響の改善)によって異なる場合があることが理解される。例えば、いくつかの実施態様では、外因性NAD+源を栄養補助食品として(例えば、将来起こる可能性のあるアルコール性肝障害から保護するため、アルコールを飲む前に)投与した患者(または対象)は、無期限に1日用量の外因性NAD+源を服用することができる。例えば、いくつかの実施態様では、外因性NAD+源を飲酒後に(例えば、現在のアルコール性肝障害の影響を改善または治療するために)投与した患者(または対象)は、アルコール性肝障害の影響を十分または効果的に改善または治療するために、飲酒後に1日用量の外因性NAD+源を一定期間服用してもよい。例えば、いくつかの実施態様では、この患者(または対象)は、1日間から14日間、3日間から14日間、または3日間から10日間、1日用量を服用することができる。
【0032】
本開示の実施態様によれば、外因性NAD+源の投与は、アルコール代謝を促進し、急性アルコール曝露による早期肝傷害を予防または改善することができる。したがって、外因性NAD+源の投与(例えば、栄養補助食品を介した)は、過剰飲酒の有害な影響を予防または軽減することができる。代替的にまたは追加的に、外因性NAD+源の投与(例えば、医薬組成物を介した)は、細胞や組織におけるNAD+の濃度を高め、それによって、アルコールやその他の有害因子による肝機能障害から保護し、かつ肝機能を回復させることができる。
【0033】
実際に、本開示の実施態様によれば、開示された栄養補助食品および/または医薬組成物の投与を介して患者のNAD+濃度を高めることは、急性アルコール性肝傷害の影響を治療、予防または改善する。具体的には、例えば、外因性NAD+源の投与は、肝酸化還元分率(すなわち、NAD+/NADH)を生理学的に改変することができ、デヒドロゲナーゼ反応をさらにエタノールの酸化方向に進展させることができる。
【0034】
特定の理論に拘束されることなく、患者への外因性NAD+源の投与(例えば、本開示の実施態様による栄養補助食品および/または医薬組成物を介した)は、患者のアルコール代謝を加速し、過剰または大量の飲酒によるアルコール性肝傷害を防止(または低減)すると考えられる。このような加速は、外因性NAD+源が飲酒の前に投与されるか後に投与されるかにかかわらず、発生すると考えられる。同様に、特定の理論に拘束されることなく、飲酒の前か後かのいずれかの本開示の実施態様による外因性NAD+源の投与はまた、通常、飲酒後に観察されるアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアラニントランスアミナーゼ(ALT)の血漿中レベルの上昇を顕著に低減させ、それゆえ、この投与は、アルコール性肝毒性の治療、予防または低減において治療または予防効果があると考えられる。また、特定の理論に拘束されることなく、本開示の実施態様による外因性NAD+源の投与はまた、急性アルコール性肝障害の患者に典型的に観察される脂質代謝異常を軽減すると考えられる。したがって、本開示の実施態様による外因性NAD+源の投与は、「二日酔い」の症状を緩和し、かつ/または、過剰または大量の飲酒によって起こる肝機能障害(例えば、急性肝機能障害)を予防または治療することに使用することができる。
【0035】
実際に、いくつかの実施態様によれば、外因性NAD+源の投与は、急性アルコール性肝障害の患者または急性アルコール性肝障害のリスクがある患者の肝臓全体の健康を改善することができる。例えば、前述のように、いくつかの実施態様では、外因性NAD+源の投与は、アルコール代謝を促進し、急性アルコール曝露による早期肝傷害を予防または改善することができる。結果として、外因性NAD+源の投与は、二日酔いを解消したり、あるいは二日酔いの症状を治療、予防および/または軽減したりすることができる。また、いくつかの実施態様では、外因性NAD+源の投与は、同様にまたは代替的に、エタノールとメタノールの分解速度を増加させ、患者のエタノール代謝を増加させ、それによって、患者の(または対象の)アルコール耐性を増加させることもできる。さらに、いくつかの実施態様では、外因性NAD+源の投与は、同様にまたは代替的に、例えば肝細胞の活性化によって、肝機能を改善し、回復させることもできる。加えて、いくつかの実施態様では、外因性NAD+源の投与は、同様にまたは代替的に、アルコール性肝疾患の損傷を含むアルコール性肝障害の影響を治療または改善することもできる。また、いくつかの実施態様では、外因性NAD+源の投与は、同様にまたは代替的に、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアラニントランスアミナーゼ(ALT)の血漿レベルを下げることもできる。いくつかの実施態様では、外因性NAD+源の投与は、同様にまたは代替的に、低密度リポタンパク質およびトリグリセリドのレベルを下げることができる。そのため、外因性NAD+源の投与は、肝臓を保護し、アルコールおよび他の有害因子による肝機能障害から肝臓を回復させることを助けることができる。
【0036】
外因性NAD+源を投与することは肝臓にとって有益であるほか、本開示の実施態様による外因性NAD+源の投与は、アルコール摂取後の中枢神経系の健康および能力を改善することもできる。例えば、特定の理論に拘束されることなく、外因性NAD+源の投与は、飲酒後の認知機能を改善し、神経細胞と脳細胞を活性化することができると考えられる。実際に、以下の実験は、この認知改善を実証しており、アルコール摂取後のしばしば見られる正向反射消失の発生、持続時間および潜伏期間の顕著な低下を示す。外因性NAD+源が、アルコール性肝障害の治療、予防および/または改善に関連して本明細書に記載される任意の経路を介してかつ用量および投与レジメンで投与されるとき、これらの認知改善を達成することができる。
【0037】
実験
以下の実施例と実験は、説明の目的のためだけに提示され、本開示の範囲を制限するものではない。
【0038】
以下の実験では、雄のC57BL/6Jマウスにアルコール(52% w/v)、NADHまたはNRHを経口的に与えた。アルコール代謝を示す血中のエタノールおよびアセトアルデヒドの濃度ならびに正向反射消失(LORR)を評価した。アルコール誘導肝傷害を反映するアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアラニントランスアミナーゼ(ALT)の血漿レベルならびに肝組織中のマロンアルデヒド(MDA)およびスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)のレベルを検査した。下の実験に示すように、NADHまたはNRHによる処理は、アルコール代謝を加速させ、過剰飲酒によるアルコール性肝傷害を防ぐことも、アルコール摂取後の認知機能を改善することもできる。注目すべきは、NADHまたはNRHによる前処理および後処理は共に、飲酒後のASTとALTの上昇を顕著に下げることができ、NADHとNRHがアルコール性肝毒性に治療効果があり、認識機能障害を含む飲酒の副作用を予防する(またはそれに対して予防効果を有する)ことを示している。また、急性アルコール性の給餌マウスの増大した組織損傷、より高い肝臓トリグリセリド(TG)含有量および血清超低密度リポタンパク質(VLDL)の活性も、NADHまたはNRHを補充することによって減少し、このことは、NADHまたはNRHが急性アルコール性肝障害の脂質代謝異常を軽減することができることを示唆している。
【0039】
NADHとNRHも有効なNAD+濃度増強剤であることが認められる。NMNと比較して、同じ濃度で供給されたNADHとNRHは、より大きなNAD+の増加を提供する。C57BL/6Jマウスの腹腔内にNADHとNRHを注射することで、また、肝臓、血液、脳と脂肪におけるNAD+含有量が大幅に増加する。重要なことは、NADHとNRHは、肝臓のNAD+/NADH比を有意に増加させるが、細胞のアポトーシスマーカーを誘導しなかったことである。NADHまたはNRHで処理された細胞は、NAD+枯渇遺伝子毒素、例えば過酸化水素による細胞死に耐性がある。したがって、マウスにNADHまたはNRHを投与することで、肝酸化還元分率(NAD+/NADH)を生理学的に改変することができ、デヒドロゲナーゼ反応をさらにエタノールの酸化方向に進展させることができる。
【0040】
以下の実験では、特に明記されていない限り、使用するビヒクルはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。
【0041】
また、細胞培養は以下の通りである。10%ウシ胚胎血清(FBS)、100単位/mlペニシリンと100μg/mlストレプトマイシンを補充したDulBecco’s改良Eagle培地(DMEM)でLN229、Neuro2a、及びC2C12細胞を生育させた。MIN6細胞を、15%胎児ウシ血清、100単位/mlペニシリンと100μg/mlストレプトマイシンを含むDMEMで培養した。AML12細胞を、10% FCS、15 mM HEPES、40 ng/mlデキサメタゾン、0.005 mg/mlヒト組換えインスリン、5ng/ml亜セレン酸ナトリウム、及び0.005 mg/mlトランスフェリン(Sigma Aldrich)を補充した、DMEM高グルコース/Ham’s F-12とl-グルタミンの1:1混合物で培養した。細胞を5% CO2、95%空気を供給した加湿培養タンクに37℃で保持した。
【0042】
また、以下のアッセイでは、SPSS 20.0統計ソフトを用いて独立したt検定を行い、治療群と対照群間の差異を分析した。以下の議論で述べるように、すべての結果は平均値±SDで表した。P < 0.05の差異は統計学的に有意あると見なした。
【0043】
NADHとNRHの曝露によるNAD+濃度の上昇
NADHが細胞に吸収され、NAD+濃度を変化させることができるかどうかを検討するために、いくつかの哺乳動物細胞系(インスリン原細胞(MIN6)、ニューロン様細胞(LN229)、筋様細胞(C2C12)および正常な肝細胞(AML12))を、ビヒクル(対照)、1 mM NADH、1 mM NRHまたは1 mM NMNで3時間処理した。
【0044】
細胞を約80%コンフルエンスに達するまで6穴プレートに播種した。細胞を指定濃度のNADH、NRHまたはNMNとともにインキュベートし、トリプシンで消化して収集した。特に明記されていない限り、NADHまたはNRHの処理時間は3時間であった。血球計数器とTrypan Blueで細胞数を計数した。次いで、収集した細胞を3000×gで3分間沈殿させた。残留培地を除去した後、細胞を7%過塩素酸で溶解してNAD+を保存した後、NaOH(2 M)とK2HPO4(500 mM)で中和した。細胞内NAD+濃度の測定は、Li W, Sauve AA, “NAD(+) content and its role in mitochondria,” Methods Mol Biol 2015, 1241:39-48(その内容全体は参照により本明細書に組み入れられる)に公表されているアッセイ結果と一致した。
【0045】
図1は、アッセイされた細胞におけるNAD+濃度の変化のグラフであり、褐色はNADHを表し、赤色はNRHを表し、紫色はNMNを表し、青色はビヒクル対照を表す。細胞NAD+の変化は対照群の倍率で示され、データは平均値±SD(n=3)で表される。*は対照と比べてp < 0.01;#はNADHに比べてp < 0.01。
図1から分かるように、NADHとNRHに曝露された細胞では、NAD+濃度の変化は2.7~11倍であり、これは他の報告されているいかなるNAD+前駆体のレベルよりはるかに高い。
図1はまた、NADHの細胞内NAD+を促進する効果がNRHより大きいことを示している。
図1はまた、すべての細胞系において、NADHとNRHが誘導するNAD+レベルが、NMNが誘導するレベルよりはるかに高いことを示している。これらのデータは、NADHとNRHが、培養された哺乳動物細胞におけるNAD+増加を刺激する際に有意に(かつ驚くほど)より効果的であり、同じ課題でNADHはNRHよりもより効果的であることを示している。
【0046】
肝細胞AML12細胞の用量-反応曲線も測定した。これらの細胞は上昇濃度のNADHで3時間処理した。
図2Aは、NADHについてのこの用量-反応曲線のグラフであり、データは平均値±SDで表される(n=3)。対照と比較して、*はp < 0.01;**はp < 0.001。
図2Aに示すように、NADHの最低濃度、50μMにおいて、NAD+の濃度は対応する対照群の約4倍であった。
図2Aはまた、500μMで飽和度に達し、濃度が未処理対照群の10倍に達したことを示している。
【0047】
NADH作用の時間過程研究も行った。AML12細胞をNADHと様々なインキュベート時間(0~12時間)でインキュベートし、次いで、収集し、NAD+レベルを評価した。
図2Bは、これらの結果をグラフ化したもので、データは平均値±SDで表される(n=3)。対照と比較して、*はp < 0.01;**はp < 0.001。
図2Bに示すように、NAD+濃度増加効果は0.5時間という早さで現れ、3時間後に完全効果が現れた。注目すべきは、NADH処理の12時間後、NAD+は高濃度のままであったことである。
【0048】
最後に、1mM NMN、1 mM NRHまたは1mM NADHで6時間処理したAML12細胞で、NAD
+/NADH比を測定した。
図2Cは、これらの結果のグラフ化したもので、データは平均値±SDで表される(n=3)。対照と比較して、*はp < 0.01;**はp < 0.001。
図2Cに示すように、NMN、NRH、及びNADHは肝細胞のNAD
+/NADH比を顕著に高めることができるが、NRHとNADHの効果はNMNよりはるかに優れている。
【0049】
遺伝毒性における低毒性と救済機能
NAD+濃度の急激な増加は細胞に対して毒性の可能性があることを示している。この毒性を評価するために、C2C12、Neuro2aおよびAML12細胞を1 mM NADHで24時間処理した後、総細胞数を測定した。具体的には、C2C12、Neuro2aおよびAML12細胞を1 mM NADHまたはNRHと24時間インキュベートした後、細胞計数のためにトリプシン剥離した。細胞はTrypan Blueで染色し、その後、血球計数器で計数した。AML12細胞のアポトーシスを検出するために、PBS、1 mM NADHまたはNRHを6穴プレートに添加して24時間処理した。Annexin V/PI染色キットとCaspases3/7/SYTOX死細胞染色キット(LifeTechnologies)を用いて、BD FACSCelesta(商標)フローサイトメトリーで細胞を計数した。製造業者の説明書に従って、アポトーシス細胞、壊死細胞、および生細胞の象限を特定し、定量した。
【0050】
図3Aは、これらの結果をグラフ化したもので、NADHを褐色、対照を青色で示し、データは平均値±SD、n=4で表される。アポトーシスマーカーを調べるために、AML12細胞をAnnexin VとCaspase3/7について染色し、フローサイトメトリーで細胞を計数した。
図3BはAnnexin Vの結果を示し、
図3CはCaspase3/7の結果を示し、両グラフは、生細胞を褐色で、アポトーシス細胞を青色で、壊死細胞を灰色で示す。データは平均値±SDで表される(n=3)。生細胞(褐色)、壊死細胞(灰色)、及びアポトーシス細胞(青色)の象限を定量した。
【0051】
図3Aに示すように、培養された細胞は、1 mM NADHに24時間曝露した後に、明らかに損失がないことが観察された。例えば、対照群とNADH処理細胞では、C2C12、Neuro2aおよびAML12細胞の細胞数が類似していた。Trypan Blue陽性細胞はこれら3つのケースで似ており、5%未満であり、アポトーシスマーカーに注目すべき差はなかった。
図3Bと3Cに示すように、NADHとNRHで処理した細胞では、対照群と比較してAnnexin VまたはCaspase3/7群に有意な変化はなかった。その結果、細胞はミリモル濃度でNADHとNRHに対して良好な認容性を有し、高いNAD+レベルも良好な認容性を有し、それは少なくとも24時間以内に明らかな毒性作用を生じないことが示された。
【0052】
NAD+濃度の増加の程度は注目すべき問題であるため、NADHがNAD+枯渇ストレス条件下での細胞生存率を高めることができるかどうかも評価した。そのため、遺伝毒性はDNA損傷を引き起こし、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼを活性化し、NAD+枯渇を誘導することができるため、遺伝毒性を検査した。強い遺伝毒性は細胞によるNAD+の深刻な消費を引き起こし、細胞死をもたらす。遺伝毒性を検査するために、1mM NADHが存在する場合と存在しない場合で、500μM過酸化水素(HP)でAML12細胞を3時間処理し、その後、細胞数を計数し、NADH(1mM)またはそのビヒクルと一緒に処理したサンプルにおけるNAD+を検出した。
図4Aは、HP処理細胞、NADH処理細胞、及びHP+NADH処理細胞の細胞生存率を対照に対して比較したグラフである。そして、
図4Bは、HP処理細胞、NADH処理細胞、及びHP+NADH処理細胞のNAD+レベルを対照に対して比較したグラフである。
図4A~Bにおける細胞生存率と細胞NAD+レベルは平均値±SDで表される(n=3)。*は対照に比べてp < 0.01;#はHPに比べてp < 0.01。
【0053】
図4Aに示すように、HP+NADH処理下で、細胞生存率は12%から72%近くに増加した。また、
図4Bに示すように、HP+NADHで処理した細胞では、NAD+レベルが高く保たれているのに対し、HP細胞では、NAD+濃度が対照値よりはるかに低かった。インスリンを含み、HPに敏感なINS1細胞で同様の結果が得られた(データは示されていない)。
【0054】
より低い濃度(250μM)のNADHとNMNのAML12細胞に対する効果も別個のアッセイで検査した。具体的には、AML12細胞を、250μm NADHまたはNMNの存在下または非存在下、500μM HPで3時間処理した。
図4Cは、HP処理細胞、HP+NADH処理細胞、及びHP+NMN処理細胞の細胞生存率を対照に対して比較したグラフである。そして、
図4Dは、HP処理細胞、HP+NADH処理細胞、及びHP+NMN処理細胞のNAD+レベルを対照に対して比較したグラフである。
図4C~Dにおける細胞生存率と細胞NAD+レベルは平均値±SDで表される (n = 3)。*は対照群に比べてp < 0.01;#はHPに比べてp < 0.01;$はHP+NMNに比べてp < 0.01。
【0055】
図4Cと4Dから分かるように、NADHはNAD+レベルだけでなく、細胞の生存にも保護作用を有していた。また、
図4Cと
図4DはNMN処理も有効であることを示しているが、これらのグラフはNAD+含有量と細胞生存の維持におけるNMNの効果がNADHに比べてかなり劣っていることを示している。
【0056】
インビボNADH
以下のインビボアッセイでは、C57BL/6J雄マウス(The Jackson Laboratory)(40日齢)を使用した。温度が22±1℃、暗/明周期が12/12時間、相対湿度が55±5%の標準実験室条件下でこれらを飼育した。すべての動物は、指定された絶食期間(および投与前2時間の絶食期間中に指示がない場合)を除き、食べ物と水を自由に得ることができた。
【0057】
NADHのマウスに対する生物学的効果を評価するため、C57BL/6Jマウスに1000mg/kg NADHを腹腔内注射し、4時間後に組織におけるNAD+の含有量を測定した。具体的には、8週齢の雄C57BL/6Jマウス(The Jackson Laboratory)10匹をポリカーボネートケージに閉じ込め、12時間の明/暗周期下で自由に食べ物と水を与えた。次いで、マウスをランダムに2つの群に分け、治療群には、PBSに溶かした1000mg/kg NADHまたはNRHを腹腔内注射し、そして、対照群にはPBS(ビヒクル)のみを腹腔内注射した。4時間後、心臓穿刺で血液サンプルを集め、マウスを安楽死させた。肝臓、脳、筋肉と脂肪組織を集め、直ちに液体窒素中で凍結し、その後、NAD+の分析を実施するまで-80℃で保存した。少量でのNADHまたはNRH及びNMNの効果を比較するために、同様の実験を行った(すなわち、250mg/kg NRH、250mg/kg NADH、250mg/kg NMNまたはPBSを腹腔内注射する)。4時間後、マウスを安楽死させ、組織サンプルを集めた。すべての動物研究は実験動物の管理と使用に関するガイドラインに基づいて行われた。このNAD+アッセイについては、約100mgの冷凍組織を液体窒素中で破砕し、7%過塩素酸で超音波均質化した後、溶液を中和してここに記載のNAD+測定を行った。
【0058】
図5Aは、NADH(褐色)注射後の血液、脳、肝臓、筋肉、及び脂肪組織におけるNAD+レベルを対照(青色)に対して比較したグラフである。データは平均値±SDとして示される(n=4);それらの対応する対照群と比較して、*はp < 0.05;**はp < 0.01。
図5Aに示すように、血液、脳、脂肪におけるNAD+の含有量は数倍に増加し、肝臓の最も高い増加は4時間以内で7倍以上であった。NADHのNAD+促進効果は骨格筋の中で最も低いが、その結果、NADHが強力なNAD+濃度増強剤であることを示している。実際、単回投与後、多くの動物組織と臓器におけるNAD+濃度は異なる程度に、しかもしばしば顕著な程度に増加した。
【0059】
NADHが他のNAD+前駆体よりインビボでより効果的かどうかを評価するために、NADH、NRH、NMN、またはビヒクル単独を250 mg/kg腹腔内注射し、4時間後に肝臓のNAD+の含有量を評価した。その結果を
図5Bに示し、この
図5Bは、NADH(紫色)、NRH(緑色)、NMN(褐色)の注射後の肝臓におけるNAD+レベル(対照に対する倍率として報告する)を対照(青色)に対して比較したグラフである。データは平均値±SDとして示される(n=4);*はそれらの対応する対照と比べてp < 0.05;#はNMNと比べてp < 0.05。
図5Bに示すように、肝臓では、NADHはNAD+濃度を680%増加させ、NRHとNMNはそれぞれ500%と170%に達した。これらの結果から、同じ投与量では、NADHはNRHとNMNよりも驚くほど顕著により大きなNAD+増加をもたらし、肝臓ではNADHが低投与量でも非常に顕著なNAD+増加を実現していることがわかった。これは、他のNAD+前駆体に比べてNADH(とNRH)により観察された薬理学的効果の改善と一致し、これらの知見は上記の細胞培養研究で観察された結果をさらに立証した。
【0060】
NADHとNRHがインビボの血中エタノールとアセトアルデヒドのレベルおよび肝臓のNAD+/NADH比に与える効果
NADHとNRHが血中エタノールとアセトアルデヒドのレベルに与える効果を評価するため、雄C57BL/6Jマウス(6~8匹のマウス)は12時間空腹で、その後、8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)を投与する15分前に、胃に500 mg/kg NRH、500 mg/kg NADHまたはビヒクル(対照)を投与した。さらに具体的には、マウスを無作為に正常群(未治療群)、対照群、及び治療群に分け、各群は8匹である。8 ml/kgエタノール(40%w/v、水道水中)を単回投与する15分前に、治療群のマウスに500 mg/kg NRHまたは500 mg/kg NADHを胃内投与した。これはヒトのアルコール依存症を模倣した最もよく使われる動物のアルコール摂取モデルで、5~6g/kg体重で、75キロの人体消費量0.75リットルのウイスキー(40% v/v)に相当する。対照群には同じエタノール溶液と相応の蒸留水を与え、正常群には相応の蒸留水のみを与えた。実験の異なる時点で、マウスは10%抱水クロラール(350 mg/kg体重)を腹腔内注射して麻酔を行った。各動物から血液と肝組織を摘出し、上記の生物分析のためにすぐに肝組織を冷凍した。
【0061】
エタノール投与後の異なる時点で眼窩下静脈叢から血液サンプルを採取した。具体的には、眼球血液サンプル(0.3 mL)を取り、8 mLのヘッドスペースバイアルに入れ、このバイアルには、0.6 M過塩素酸1.2mL、トリクロロ酢酸(10%)0.5 mLと内部標準 (第3級ブタノール160 mg/L)0.3 mLが含まれており、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーでエタノールとアセトアルデヒドの濃度を測定した。Isse T, Matsuno K, Oyama T, Kitagawa K, Kawamoto T, “Aldehyde dehydrogenase 2 gene targeting mouse lacking enzyme activity shows high acetaldehyde level in blood, brain, and liver after ethanol gavages,” Alcohol Clin Exp Res 2005, 29(11):1959-1964、および Lee HS, Isse T, Kawamoto T, Woo HS, Kim AK, Park JY, Yang M, “Effects and action mechanisms of Korean pear(Pyrus pyrifolia cv. Shingo) on alcohol detoxification,” Phytother Res 2012, 26(11):1753-1758(両者の内容全体は、参照により本明細書に組み入れられる)に記載されているようにガスクロマトグラフィーでエタノールとアセトアルデヒドを定量した。
【0062】
図6Aは、対照(青色)に対するNRH(赤色)とNADH(褐色)投与後の血中エタノール濃度対時間を比較したグラフである。
図6Bは対照(青色)に対するNRH(赤色)とNADH(褐色)投与後の血中アセトアルデヒド濃度対時間を比較したグラフである。
図6Aに示すように、エタノール投与の15分前にNADHとNRHを経口投与すると、エタノール投与の30分後に血液中のエタノールが明らかに減少した。具体的には、
図6Bに示すように、アルコール代謝プロセスの最初の工程(すなわち、アルコールからアセトアルデヒドへの変換)のアルコール消費速度は、対照(青色)と比較してNADH(赤色)またはNRH(褐色)を投与したマウスで顕著に増加する。したがって、
図6Aに示すように、血中に存在するアルコールは時間と共により急速に低下することが示される。結果はまた、NADHがNRHよりもより速くかつより強力に作用し、エタノール投与のちょうど15分後に作用し始めることを示す。
【0063】
また、
図6Bによると、NADHとNRH処理はエタノール投与後2時間以内にマウスの血中アセトアルデヒドレベルを著しく増加させることを示し、NADHとNRHがエタノール代謝の初回通過速度を速めることができることを実証している。上記の
図6Aのデータと併せて、このことは、アルコール投与(または飲酒)の前にNADHまたはNRHを投与すると、エタノールは速やかにアセトアルデヒドに代謝され、アセトアルデヒドはゆっくりと酢酸に代謝されることを示している。実際に、アルコール投与の2時間後、NADHとNRHを投与したマウスは、血液中のアセトアルデヒドを顕著に低下させ、NRHの効果はNADHよりもより顕著であった。これらの結果はすべて、NADHとNRHはアルコール代謝を速めることができることを示している。
【0064】
NADHとNRHのアルコール耐性機能をさらに解明するために、
図6Aに関連して上記処理したマウスの肝臓におけるNAD
+/NADHの比を検出した。具体的には、雄のC57BL/6Jマウス(6~8匹のマウス)は空腹12時間後、8 ml/kgエタノール(40% w/v、水道水中)の投与の15分前に胃に500 mg/kg NRH、500 mg/kg NADHまたはビヒクル(対照)を投与した。次いで、エタノール投与後、異なる時間に肝臓のNAD
+/NADH比を測定した。
【0065】
製造業者の説明書に従って、NAD+/NADH定量比色キット(ABIN411692)を用いてNAD+/NADH比を検出した。snapで80℃凍結保存した肝臓サンプルから新鮮な組織溶解物を調製し、肝臓20mgをNAD+/NADH抽出緩衝液(400 μL)でホモジネートした。NADHを消費する可能性のある酵素を速やかに除去するため、サンプルは検出前に10kD分子量カットオフフィルターで濾過した。NADHを検出するために、抽出したサンプルを加熱ブロックに入れて60℃に30分間加熱し、NAD+を分解した。NADH検量線を用いて濃度を計算した。
【0066】
その結果を
図6Cに示し、
図6Cは、対照(青色)に対するNRH(赤色)とNADH(褐色)投与の肝臓NAD+/NADH比対時間(エタノール投与後)を比較したグラフである。
図6Cに示すように、エタノール代謝により肝細胞におけるNAD
+/NADH酸化還元比率は低下しているが、NADHまたはNRHを投与することでこの低下が顕著に抑制された。このことは、マウスにNADHまたはNRHを投与することにより、肝臓の肝酸化還元分率であるNAD
+/NADHを生理学的に改変することができ、それによってデヒドロゲナーゼ反応をさらにエタノールの酸化方向に進展させることができることを示している。
【0067】
NADHとNRHは急性アルコール誘導肝毒性を軽減する
血漿中の肝マーカー酵素、例えばアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)とアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)は、早期肝障害の感受性生化学マーカーとして知られている。これにより、エタノール消費後の血漿中のASTとALTのレベルを測定することにより、NADHとNRHによる急性アルコール性肝傷害の予防と治療効果を検討した。具体的には、NADHとNRH投与の予防効果を評価するために、雄C57BL/6Jマウスは12時間絶食させ、8 ml/kgエタノール(40%w/v、水道水中)を投与する30分前に500 mg/kg NRH、500 mg/kg NADHまたはビヒクル(対照として)を胃に投与した。アルコール処理の6時間後に採血し、生化学指標を検出した。NADHとNRH投与の治療効果を評価するため、マウスに3日間連続で24時間ごとに40%エタノールを与え、急性肝傷害を引き起こした。対照群にはエタノールの代わりに同量の生理食塩水を与えた。アルコール処理の3日後、マウスを毎日500 mg/kg NADHまたは500 mg/kg NRHで3日間連続処理した。この2つのアッセイで各群のマウスのASTとALTの血漿レベルを測定し、その結果は、
図7Aと7Bに示す。
【0068】
抗凝固試験管で血液サンプルを採取し、1500 rpmで10分間遠心分離して血漿を得ることによって、ASTとALTの血漿レベルを測定した。血漿ASTとALT活性は、製造業者の説明書に従って市販のキット(Sigma-Aldrich)を使用して測定した。
図7Aは、アルコール単独に曝露したマウス(赤色)、アルコール曝露前にNRH前処理に曝露したマウス(一番左の褐色のバー)、アルコール曝露後にNRHで処理したマウス(一番右の褐色のバー)、アルコール曝露前にNADHで前処理したマウス(一番左の緑色のバー)、そしてアルコール曝露後にNADHで処理したマウス(一番右の緑色のバー)のASTの血漿レベルを対照(青色)に対して比較したグラフである。そして、
図7Bは、アルコール単独に曝露したマウス(赤色)、アルコール曝露前にNRH前処理に曝露したマウス(一番左の褐色のバー)、アルコール曝露後にNRHで処理したマウス(一番右の褐色のバー)、アルコール曝露前にNADHで前処理したマウス(一番左の緑色のバー)、そしてアルコール曝露後にNADHで処理したマウス(一番右の緑色のバー)のALTの血漿レベルを対照(青色)に対して比較したグラフである。データは平均±SDで表す(n=8);*p < 0.01 vs対照;#p < 0.01 vsアルコール曝露。
【0069】
図7Aと7Bに示すように、急性アルコール曝露単独が劇的に血漿ASTとALTのレベルを増加させた。対照群と比較して、実験群は飲酒前にNADHとNRHを摂取すると血漿ASTとALTのレベルを著しく下げることができ、NADHとNRHは急性アルコール毒性から肝組織を保護できることが認められた。また、
図7Aと7Bは、アルコール曝露後のNADHまたはNRHによる処理もASTとALTのレベルを著しく下げることができることを示しており、NADHとNRHは予防効果ほど強力ではないにしても、アルコール肝毒性を治療する明白な効果があることを示している。
【0070】
NADHとNRHの急性アルコール摂取による酸化損傷に対する保護効果(前処理)
酸化ストレスは肝炎、NASH、線維化、肝硬変、肝臓癌など多くの肝臓病に病原作用がある。そのため、フリーラジカル制御に関与する内因性/外因性抗酸化物質と酵素をモニタリングすることは疾病の発症と進行に重要な役割を果たし、抗酸化治療の良好なアジュバントとすることもできる。
【0071】
NADHとNRHのインビボでの急性アルコール摂取による酸化損傷に対する保護効果を評価するため、肝組織における生化学パラメーターであるマロンジアルデヒド(MDA)(酸化損傷指数)とスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)(抗酸化剤指標)を検査した。具体的には、雄のC57BL/6Jマウスを12時間絶食させ、8 ml/kgエタノール(40%w/v、水道水中)の投与の15分前に500 mg/kg NRH、500 mg/kg NADHまたはビヒクル(対照として)を胃内投与した。アルコールによる処理の6時間後に、MDAとSODの測定のために肝組織を採取した。
【0072】
低温等張食塩水で均一化して肝臓サンプルを調製した。ホモジネート(10%、w/v)を4500 gで10分間遠心分離し、上部清澄液は生化学分析に用いた。MDA、SOD、及びTGレベルを、製造業者の説明書に従って市販のキット(Abcam, #ab118970;Thermofisher, # EIASODCおよびAbcam, ab65336)で測定した。結果を、製造業者の説明書に従ってBCAタンパク検査キット(Abcam, #ab102536)によって決定した総タンパク質に対して正規化した。
【0073】
結果を、
図8A(MDA)と8B(SOD)に示す。これらは、単独のアルコール曝露後、アルコール曝露前にNRHで前処理した後、アルコール曝露前にNADHで前処理した後のマウスのMDA(
図8A)またはSOD(
図8B)活性を対照に対して比較したグラフである。
図8Aと8Bの両方のデータは平均値±SDで表される(n=8)。*p < 0.01 vs対照;#p < 0.01 vsアルコール曝露。
【0074】
図8Aと8Bに示すように、実験群のSOD活性が低下し、MDA含有量が劇的に増加し、対照群のほぼ2倍になった。これらの結果から、NADHとNRHを事前に(つまり、アルコールを投与したり、飲酒したりする前に)投与することは、アルコール負荷マウスの肝臓におけるMDA含有量を著しく低下させ、SOD活性を高めることができることが認められた。要するに、これらの結果は、NADHとNRHが急性アルコール摂取による高い酸化ストレスから肝臓を保護し得ることを示している。
【0075】
NADHとNRHが肝組織病理学と脂質代謝に及ぼす効果
異なる群のマウス肝組織の組織学的特徴を評価することにより、NADHとNRHによるアルコール性肝傷害と肝保護効果をさらに検討した。このアッセイでは、雄のC57BL/6Jマウスは12時間絶食させ、8 ml/kgエタノール摂取(40% w/v、水道水中)の投与の15分前に、胃に500 mg/kg NRH、500 mg/kg NADH、またはビヒクルを投与した。オイルレッドO染色法を用いて肝組織病理学を検出した。標準的な操作手順に従って、組織病理学的評価のために一部の肝組織を固定した。肝臓のもう一方は-80℃に保存した。10mm厚の凍結切片をオイルレッドOで染色して肝臓脂肪変性を検出した。染色切片は400倍の光学顕微鏡で調べた。Bio-Tek synergy2マルチスキャンスペクトル(Botten Instruments Co.)を用いて血清サンプルにおけるVLDLレベルを調べた。
【0076】
図9Aは、対照マウス、アルコール単独曝露後マウス、アルコール曝露前にNRHで前処理後マウス、アルコール曝露前にNADHで前処理後マウスの顕微鏡写真を示す。
図9Aから分かるように、オイルレッドO染色は対照群の肝組織の構造が正常であることを示し、肝組織にコラーゲン沈着と細胞外マトリックス(ECM)沈着は見られなかった。しかし、エタノール群(すなわちアルコール単独曝露)のマウスの肝臓脂肪変性は非常に顕著であった。
図9Aから、NADHとNRH前処理群の脂肪変性の程度は明らかに低下しており、NADHとNRHの保護効果を示している。
【0077】
アルコール性肝傷害を評価するために、上記処理を行ったマウスの肝臓脂質代謝指数(すなわち肝組織におけるトリグリセリド(TG)レベル)と血清超低密度リポタンパク質(VLDL)活性も
図9Aに基づいて測定した。これらの結果を
図9B(肝臓トリグリセリド)と
図9C(VLDL)に示す。これらは、単独アルコール曝露後のマウス、アルコール曝露前のNRH前処理後のマウスとアルコール曝露前のNADH前処理後のマウスのトリグリセリド(TG)レベル(
図9B)、及びVLDLレベル(
図9C)を対照に対して比較したグラフである。
図9Aと9Bの両方のデータは平均値±SDで表される(n=8);*p < 0.01 vs対照;#p < 0.01 vsアルコール曝露。
【0078】
図9Bと9Cに示すように、単独アルコール曝露のマウスの肝臓TGと血清VLDL活性は正常対照群と比較してそれぞれ1.9倍と1.5倍上昇した。モデル対照群(すなわち単独アルコール曝露)と比較して、アルコール曝露前にNADHとNRHで前処理されたマウスの肝臓指数、TGとVLDLレベルが低下し、NADHとNRHが急性アルコール性肝障害の脂質代謝異常を軽減できることが認められた。
【0079】
NADHとNRHが急性アルコール曝露耐性に及ぼす効果
アルコールは中枢神経系に作用し、様々な行動および/または認知問題、例えば、正向反射消失(LORR)を引き起こす。アルコール催眠作用に対するマウスの耐性は、Ozburn AR, Harris RA, Blednov YA, “Chronic voluntary alcohol consumption results in tolerance to sedative/hypnotic and hypothermic effects of alcohol in hybrid mice,” Pharmacol Biochem Behav 2013, 104:33-39(その内容全体は参照により本明細書に組み入れられる)に説明されているように、正向反射消失(LORR)試験で評価することができる。LORRは、マウスがアルコールを摂取してから30秒以内に3回自己修復できない現象と定義されている。LORR潜伏期間は飲酒からLORRが発生するまでの時間と定義され、LORR持続時間はLORRの発生から回復までの時間と定義される。
【0080】
中枢神経系へのアルコールの作用に対するNADHとNRH処理による効果を評価するために、雄のC57BL/6Jマウスは12時間絶食させ、8 ml/kgエタノール摂取(40% w/v、水道水中)の投与の15分前に、胃に500 mg/kg NRH、500 mg/kg NADHまたはビヒクルを投与した。Fisher精密確率検査を用いて、マウスの正向反射消失(LORR)を分析した。結果を
図10Aと10Bに示す。これらは、モデル対照マウス(単独アルコール曝露)に対するアルコール曝露前にNRH前処理をしたマウスとアルコール曝露前にNADH前処理をしたマウスのLORR率(
図10A)とLORR潜伏期間(
図10B)を比較したグラフである。LORR潜伏期間と持続時間を表すデータは平均値±SDで表される(n=10);*はアルコール群に比べてp < 0.05。
【0081】
図10Aと10Bに示すように、モデル群(すなわち単独アルコール曝露)において、すべてのマウスで急性アルコール摂取はLORR(100% LORR率)を14.76分(潜伏期間)の平均時間以内で誘導し、LORRの平均長さは約798.68分であった。しかし、NADHとNRHで前処理したマウスは、LORR率と持続時間が低下し、潜伏期間が延長した。注目すべきことに、NADH前処理群では、半分以下のマウスが飲酒後に正向反射し(つまり、マウスの半数以上が正向反射消失を有した)、LORRを有したマウスのLORR持続時間は265.00分に大きく短縮され、モデル群のほぼ3分の1であった。さらに、平均潜伏期間は60.24分に増加し、モデル群の4倍であった。したがって、これらのデータは、アルコール曝露前にNADHとNRHを投与すると、マウスの急性アルコール曝露に対する耐性を劇的に改善できることを示している。
【0082】
以上のように、飲酒の前または後のいずれかでNADHまたはNRHで処理することは、各種急性アルコール性肝障害に大きな効果を及ぼすことができる。実際、前記で詳しく議論したように、NADHとNRHは、飲酒前に前処理として使用すると保護/予防効果を有し、例えば、アルコール(エタノール)の血中濃度を減らし、エタノールからアセトアルデヒドへのより速い代謝を促進することによって、急性アルコール性肝障害の程度を限定し、飲酒による肝毒性を低下させ、急性アルコール摂取による高い酸化ストレスから肝臓を保護し、肝臓指数、TG、VLDLレベルを低下させ、急性アルコール性肝障害における脂質代謝異常を緩和する。また、NADHとNRH処理は、観察されたLORR発生、持続時間および潜伏期間の顕著な低下に関連して前記で議論したように、アルコール摂取に関連した認識機能障害も改善する。さらに、前記で詳しく議論もしたように、飲酒後にNADHとNRHを投与すると、飲酒後でもASTとALTのレベルを低下させ、アルコール性肝毒性を減少させることができる。
【0083】
本開示のいくつかの例示的な実施態様について説明・解説したが、当業者は、本説明に続く特許請求の範囲で定義されるように、本発明とその均等物の精神および範囲を逸脱することなく、記載の実施態様に様々な変更および修正を加えることができることを認識する。例えば、一部の成分は単数形、すなわち「一種類の」化合物、「一種類の」賦形剤などで記述することがあるが、本開示によると、これらの成分の1つまたは複数を任意の組み合わせで使用することができる。
【0084】
さらに、ある実施態様は、指定された成分を「含む(comprising)」または「含む(including)」として説明したが、リストされた成分「から本質的になる」または「からなる」実施態様も本開示の範囲内にある。例えば、本開示の実施態様は、外因性NAD+源と薬学的に許容できる担体とを含む栄養補助食品または医薬組成物を含むとして説明したが、これらの成分から本質的になるまたはからなる実施態様も本開示の範囲内である。したがって、栄養補助食品または医薬組成物は外因性NAD+源と薬学的に許容できる担体とから本質的になる可能性がある。この場合、「から本質的になる」とは、任意の追加成分が、栄養補助食品または医薬組成物の化学、物理、治療、予防、食事または薬物の特性に実質的に影響しないことを意味する。
【0085】
本明細書において使用する場合、特に明記されていない限り、数値、範囲、量、またはパーセントを表すものなどのすべての数字は、明示されていなくても、「約」という語を前置きして読むことができる。さらに、「約」という語は、程度の用語ではなく、近似の用語として使用され、本開示が関係する技術分野の当業者が理解するように、測定値、有効数字および相互置換性に関連する内在的な変化を反映する。本明細書に記載する任意の数値範囲は、その中に含まれるすべてのサブ範囲を包含することを意図する。複数は単数を含み、逆も同様である。例えば、本開示では、「一種類の」化合物または「一種類の」賦形剤について説明できるが、この材料の混合物を用いることもできる。範囲が与えられた場合、これらの範囲の任意の端点および/またはこれらの範囲内の数字は、本開示の範囲内で組み合わせることができる。用語「含む(including)」および類似の用語は、別段の規定がある場合を除き、「含むが、これに限定されない」を意味する。
【0086】
本明細書に示した数値範囲とパラメーターは近似値かもしれないが、実施例と実験に示した数値は実際と同じくらい正確であると報告されている。しかし、どの数値にも一定の誤差が本質的に含まれており、これらの誤差は必然的にそれぞれの検査測定で発見された標準偏差に起因する。「含む(comprising)」という語およびその変形は、本説明および特許請求の範囲において使用される場合、本開示を限定して任意の変形または補完を排除するものはでない。
【国際調査報告】