(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-25
(54)【発明の名称】皮膚瘢痕の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 35/15 20150101AFI20240418BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20240418BHJP
C12N 5/0781 20100101ALI20240418BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240418BHJP
C12N 5/0786 20100101ALI20240418BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240418BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240418BHJP
【FI】
A61K35/15
C12N5/078
C12N5/0781
C12N5/0783
C12N5/0786
A61P17/02
A61K35/17
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023562243
(86)(22)【出願日】2022-04-13
(85)【翻訳文提出日】2023-12-07
(86)【国際出願番号】 EP2022059936
(87)【国際公開番号】W WO2022219073
(87)【国際公開日】2022-10-20
(32)【優先日】2021-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522244458
【氏名又は名称】アプロサイエンス アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミルドナー、ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】アンケルスミット、ヘンリク ヤン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA94X
4B065BB40
4B065BD14
4B065BD50
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA89
(57)【要約】
本発明は、皮膚瘢痕の治療に使用するための末梢血単核細胞(PBMC)細胞培養物の上清を含む組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
末梢血単核細胞(PBMC)細胞培養物の上清を含む、皮膚瘢痕の治療に使用するための組成物。
【請求項2】
末梢血単核細胞(PBMC)細胞培養物の上清を含む有効量の組成物を皮膚瘢痕に投与する工程を含む、皮膚瘢痕の美容治療の方法。
【請求項3】
組成物が皮膚瘢痕に適用されるか、又は皮膚瘢痕に注射される、請求項1に記載の使用のための組成物又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
組成物が、針によって、又は複数のマイクロニードルを含むマイクロニードルアセンブリによって、皮膚瘢痕に注射される、請求項3に記載の使用のための組成物又は請求項3に記載の方法。
【請求項5】
組成物が、針又はマイクロニードルの除去の間に、少なくとも一部が皮膚瘢痕に注射される、請求項4に記載の使用のための組成物又は請求項4に記載の方法。
【請求項6】
皮膚瘢痕が、肥厚性瘢痕、ケロイド瘢痕又はストレッチマークである、請求項1もしくは3~5のいずれか一項に記載の使用のための組成物又は請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
PBMC細胞培養物が、単球、T細胞、B細胞及び/又はNK細胞を含む、請求項1もしくは3~6のいずれか一項に記載の使用のための組成物又は請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
PBMCが、細胞増殖培地、好ましくはCellGro培地、より好ましくはCellgro GMP DC培地、RPMI、DMEM、X-vivo及びUltracultureからなる群より選択される細胞培養培地中で培養される、請求項1もしくは3~7のいずれか一項に記載の使用のための組成物又は請求項2~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
PBMCが、培養前又は培養中に1つ以上のストレス誘導条件に供される、請求項1もしくは3~8のいずれか一項に記載の使用のための組成物又は請求項2~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ストレス誘導条件が、放射線、特に電離放射線又は紫外線、低酸素、オゾン、熱、浸透圧及びpHシフトからなる群より選択される、請求項9に記載の使用のための組成物又は請求項9に記載の方法。
【請求項11】
PMCが、少なくとも10Gy、好ましくは少なくとも20Gy、より好ましくは少なくとも40Gy、より好ましくは少なくとも50Gyの線量の電離放射線に供される、請求項10に記載の使用のための組成物又は請求項10に記載の方法。
【請求項12】
PBMCが、その上清を単離する前に、少なくとも4時間、好ましくは少なくとも6時間、より好ましくは少なくとも12時間培養される、請求項1もしくは3~11のいずれか一項に記載の使用のための組成物又は請求項2~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
PCBMC細胞培養物が、1×10
5~1×10
8個のPBMC/ml、好ましくは1×10
6~1×10
7個のPBMC/ml、より好ましくは2×10
6~5×10
6個のPBMC/mlを含む、請求項1もしくは3~12のいずれか一項に記載の使用のための組成物又は請求項2~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚瘢痕治療の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞(SC)からの馴化培地の投与により、SC自体ではなく分泌された因子が有益なパラクリン作用を発揮し、初期所見の大半を説明することが明らかになった。ストレスを受けた末梢血単核細胞(PBMC)は、強い再生活性を有する細胞セクレトーム(APOSEC)の容易にアクセス可能で豊富な供給源であることが以前に示されている。いくつかの作用機序が最近解明されており、創傷治癒、急性心筋梗塞、自己免疫性心筋炎、脳虚血及び脊髄損傷を含む様々な臨床適応症がAPOSECについて既に記載されている。
【0003】
病的瘢痕の形成は複雑な医学的問題であり、関連する世界的な疾患負荷を表す。西欧諸国では、毎年1億人を超える人々が瘢痕を生じ、推定1100万人がケロイドを発症する。手術又は熱傷後に肥厚性瘢痕を発症するリスクは30%を超える。通常の瘢痕とは対照的に、肥厚性瘢痕は、損傷領域内の過剰な線維化過程を特徴とする。これに対し、ケロイドは、瘢痕組織内に形成され、元の損傷の境界を過剰増殖させる進行性の線維増殖性奇形である。肥厚性瘢痕又はケロイドの形成につながる分子機構は十分に理解されていない。重大な心理学的問題を課すことに加えて、肥厚性瘢痕及びケロイドは有痛性、掻痒性であり、運動制限を引き起こす。治療選択肢は依然として限られており、病的瘢痕の治療のためのゴールドスタンダードは存在しない。可能性のある選択肢は、1)線維芽細胞増殖を阻害するステロイドの投与、2)線維芽細胞の放射線誘発細胞周期停止及び細胞死、3)創傷張力に影響を及ぼす加圧治療、並びに4)瘢痕組織の外科的除去であるが、これは極めて高い再発率を示す。さらに、化学療法剤及び他の物質が使用されているが、顕著な効果はない。これまでのところ最も有望な治療選択肢は、外科的除去とそれに続くステロイドによる治療との組合せである。
【0004】
したがって、手術及び/又は望ましくない副作用を有する薬剤を必要としない、皮膚瘢痕を除去/治療する方法を提供することが本発明の目的である。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、皮膚瘢痕の治療に使用するための末梢血単核細胞(PBMC)細胞培養物の上清を含む組成物に関する。
【0006】
驚くべきことに、PBMC細胞培養物の上清は皮膚瘢痕の治療に使用できることが判明した。PBMC細胞培養物の上清は、皮膚創傷のような損傷組織の治療に使用されることが既に公知である(例えば欧州特許第2379085号参照)。しかしながら、成熟皮膚瘢痕と比較して、完全に異なる生物学的プロセス及び細胞型が創傷治癒に関与している。
【0007】
創傷治癒は複雑なプロセスであり、4つの段階:止血段階、炎症段階、増殖段階及び成熟段階からなる。創傷治癒の主な機能は、損傷領域の迅速な閉鎖及び環境に対する新しい保護バリアの確立であるが、瘢痕は、創傷治癒後に残存する線維性組織であり、正常な皮膚に取って代わる。正常な皮膚とは対照的に、瘢痕組織は、コラーゲンCOL1A1及びCOL3A1、エラスチン(ELN)、フィブロネクチン1(FN1)、並びにプロコラーゲン(PCOLCE)などの細胞外マトリックスの過剰産生を主に特徴とする(
図2)。さらに、サイトカイン(例えばインスリン様成長因子結合タンパク質4(IGFBP4))、プロテアーゼ(例えばマトリックスメタロプロテイナーゼ-3(MMP3))及びプロテアーゼ阻害剤(例えばセルピンファミリーEメンバー1(SERPINE1)を含む、細胞外マトリックスを改変するいくつかの因子は、瘢痕組織において有意に調節解除される(
図2)。さらに、筋線維芽細胞は非常に活性であり、皮膚収縮をもたらす。したがって、瘢痕治療の主な目標は、筋線維芽細胞及び細胞外マトリックスの成分の過剰産生の減少、並びに調節解除された産生及びマトリックス修飾因子の正常化である。
【0008】
本発明の別の態様は、末梢血単核細胞(PBMC)細胞培養物の上清を含む有効量の組成物を皮膚瘢痕に投与する工程を含む、皮膚瘢痕の美容治療の方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、APOSECがTGF媒介筋線維芽細胞分化に対抗することを示す。A)TGFベータの非存在下又は存在下で、培地又はAPOSECで刺激した初代ヒト皮膚線維芽細胞のウェスタンブロット。APOSECは、アルファSMAの発現によって示されるように、線維芽細胞の筋線維芽細胞へのTGFベータ誘導分化を防止した。TGFベータで刺激した線維芽細胞の上清のELISAは、エラスチンの産生増強を示した。APOSECの添加は、エラスチンの分泌増強を減少させた。
【0010】
【
図2】
図2は、培地又はAPOSECを用いてエクスビボで処置したヒト肥厚性瘢痕及び正常皮膚の生検のscRNAseqを示す。皮膚線維症に関連する遺伝子を示す。APOSECによる処置は、これらの遺伝子の発現を正常な皮膚で観察される値に正常化した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、皮膚瘢痕の治療に使用するためのPBMC細胞培養物の上清を含む組成物に関する。
【0012】
細胞、特に哺乳動物細胞は、培養中に細胞培養培地中に多数の物質を分泌することが公知である。そのようにして得られた馴化培養培地は、様々な疾患及び障害の治療及び/又は予防に使用することができる。例えば、国際公開第2010/070105号及び国際公開第2010/079086号は、PBMCの培養によって得られ、様々な炎症状態の治療に使用することができる馴化培養培地(「上清」)を開示している。したがって、本明細書で使用される「末梢血単核細胞(PBMC)細胞培養物の上清」とは、培養培地中でインビトロでPBMCを培養することによって得られる任意の上清を指す。培養工程の後、実質的に無細胞、好ましくは完全に無細胞の上清を得るために、培養されたPBMCを培養培地から除去する。PBMC培養物の上清は、培養培地の成分を別にして、PBMC及び/又は溶解されたPBMCによって産生され、分泌される物質を含む。「上清」は、PBMCを培養することによって得られる馴化培養培地と交換可能に使用することができる。
【0013】
本発明の上清は、PBMCを培養することによって得ることができ、PBMCは培養前又は培養中に電離放射線に供される。電離放射線は、好ましくはガンマ線である。
【0014】
本明細書で使用される「皮膚瘢痕」は、皮膚損傷後に正常な皮膚組織に取って代わる線維性組織を指す。皮膚瘢痕は、皮膚における創傷修復の生物学的プロセスの結果である。瘢痕組織は、典型的には、取って代わる組織と同じタンパク質(すなわちコラーゲン)で構成される。しかし、瘢痕組織の線維組成は、瘢痕のない組織の線維組成とは有意に異なる。正常な組織では、コラーゲンはランダムなバスケットウィーブを形成するが、瘢痕組織では、コラーゲンは架橋され、単一方向の整列を形成する。このコラーゲン瘢痕組織の整列のために、瘢痕皮膚は通常、正常なコラーゲンのランダム化された整列と比較して機能的品質が劣るので、皮膚は、例えば、紫外線に対する耐性が低くなり、汗腺及び毛包は瘢痕組織内では再び成長しない。本発明によれば、「皮膚瘢痕」は、任意の種類の皮膚瘢痕、特に肥厚性瘢痕、ケロイド瘢痕及びストレッチマークを指す。
【0015】
肥厚性瘢痕はコラーゲンの過剰産生の結果であり、これは瘢痕を隆起させるが、元の創傷の境界内である。それらは通常、創傷感染又は創傷閉鎖後4~8週間以内に起こる。
【0016】
ケロイド瘢痕は、大きな腫瘍状の(良性であるが)新生物へと無制限に成長することができるので、過度の瘢痕化のより深刻な形態である。ケロイド瘢痕は通常、元の創傷領域の外側に広がる。それらは、かゆみがあるか又は有痛性であり得、それらの外科的除去は、ケロイドの状態及び悪化を増悪させ得る。
【0017】
皮膚線条としても公知のストレッチマークも瘢痕化の一形態である。これらは、皮膚が急速に引き伸ばされるとき(例えば妊娠中、著しい体重増加、もしくは思春期の身長発育スパート)、又は治癒過程の間に皮膚が張力下に置かれるときに引き起こされる。
【0018】
本明細書で使用される皮膚瘢痕の「治療」及び「治療すること」という用語は、瘢痕体積及び/又は瘢痕サイズの少なくとも20%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の減少、及び/又は理想的には元の組織の再建を指す。本発明の組成物の投与は、正常組織への瘢痕組織の部分的又は完全な転換をもたらすはずである。
【0019】
本発明のさらなる態様は、末梢血単核細胞(PBMC)細胞培養物の上清を含む有効量の組成物を皮膚瘢痕に投与する工程を含む、皮膚瘢痕の美容治療の方法に関する。
【0020】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の組成物は、皮膚瘢痕に適用されるか、又は皮膚瘢痕に注射される。
【0021】
本発明の組成物は、皮膚瘢痕に局所的に適用するか、又は注射することができる。より小さい皮膚瘢痕については、瘢痕への本発明の組成物の局所投与で十分であることが判明した。特に、ストレッチマークは局所的に処置することができる。瘢痕がコラーゲンの過剰な蓄積を含む場合、本発明の組成物を瘢痕及び/又は瘢痕を取り囲む組織に注入することが有利である。
【0022】
本発明の組成物が局所投与される場合、前記組成物は、ゲル、好ましくはヒドロゲルとして、軟膏として、ペーストとして、クリームとして、粉末として、塗布剤として、又はローションとして提供され得る。油性基剤、吸収性基剤、油中水型エマルジョン基剤、水中油型エマルジョン基剤、水溶性又は水混和性基剤をこれらの局所剤形の製剤に使用することができ、ビタミンCなどの抗酸化剤も含有し得る。
【0023】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、組成物は、針又は複数のマイクロニードルを含むマイクロニードルアセンブリによって皮膚瘢痕に注射される。
【0024】
本発明の組成物は、針を使用することによって皮膚瘢痕に注射することができる。瘢痕の大きさに応じて、組成物を1つ以上の注射部位で瘢痕に注射する。複数のマイクロニードルを含むマイクロニードルアセンブリの使用が特に有利である。そのようなマイクロニードルアセンブリの使用は、本発明の組成物を2つ以上の注射部位で同時に注射することを可能にする。さらに、マイクロニードルアセンブリは、あらかじめ本発明の組成物で覆われた瘢痕を貫通することによって本発明の組成物を皮膚瘢痕に導入するのに特に適している。そのような場合、マイクロニードルアセンブリを皮膚に数回出し入れする。
【0025】
マイクロニードルアセンブリはまた、皮膚瘢痕に適用される本発明の組成物を含む経皮パッチの一部であり得る。そのような経皮パッチは、本発明の組成物を長期間にわたって継続的に投与することを可能にするので、特に適している。
【0026】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、組成物は、針又はマイクロニードルの除去の間に少なくとも一部が皮膚瘢痕に注入される。
【0027】
本発明の組成物を皮膚瘢痕内でより均一に広げるために、皮膚瘢痕から1つ以上の針を除去する間に組成物を注入することが好ましい。
【0028】
皮膚瘢痕は、好ましくは肥厚性瘢痕、ケロイド瘢痕又はストレッチマークである。
【0029】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、PBMC細胞培養物は、単球、T細胞、B細胞及び/又はNK細胞を含む。
【0030】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、PBMC細胞は、細胞増殖培地、好ましくはCellGro培地、より好ましくはCellgro GMP DC培地、RPMI、DMEM、X-vivo及びUltracultureからなる群より選択される細胞培養培地で培養される。
【0031】
PBMC細胞培養物のPBMCは、培養前又は培養中に電離放射線に供される。これらのストレス誘導条件に加えて、PBMCはさらなるストレスに供され得る。したがって、本発明の好ましい実施形態によれば、PBMCは、培養前又は培養中に1つ以上のさらなるストレス誘導条件に供される。
【0032】
本明細書で使用される「ストレス誘導条件下」という用語は、ストレスを受けた細胞をもたらす培養条件を指す。細胞に対するストレスを引き起こす条件としては、とりわけ、熱、化学物質、放射線、低酸素、浸透圧などが挙げられる。
【0033】
本発明の細胞に対するさらなるストレスは、炎症性皮膚状態、特に虚血に関連する皮膚状態を治療するのに有益な物質の発現及び分泌のさらなる増加をもたらす。
【0034】
本発明の好ましい実施形態によれば、ストレス誘導条件は、低酸素、オゾン、熱(例えばPBMCの最適培養温度、すなわち37℃より2℃超高い、好ましくは5℃超高い、より好ましくは10℃超高い)、放射線(例えば紫外線、ガンマ線)、化学物質、浸透圧(すなわち、体液中、特に血液中で通常生じる浸透圧条件と比較して少なくとも10%上昇した浸透圧条件)又はそれらの組合せを含む。
【0035】
したがって、本発明のさらに好ましい実施形態によれば、ストレス誘導条件は、放射線、特に電離放射線又は紫外線、低酸素、オゾン、熱、浸透圧及びpHシフトからなる群より選択される。
【0036】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、PMCは、少なくとも10Gy、好ましくは少なくとも20Gy、より好ましくは少なくとも40Gy、より好ましくは少なくとも50Gyの線量の電離放射線、好ましくはガンマ線に供される。
【0037】
本発明の好ましい実施形態によれば、PBMCは、その上清を単離する前に、少なくとも4時間、好ましくは少なくとも6時間、より好ましくは少なくとも12時間培養される。
【0038】
本発明の好ましい実施形態によれば、PCBMC細胞培養物は、1x105~1x108個のPBMC/ml、好ましくは1x106~1x107個のPBMC/ml、より好ましくは2x106~5x106個のPBMC/mlを含む。
【0039】
本発明の組成物は、希釈剤(例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、NaCl溶液又はハンクス平衡塩類溶液(HBSS)のような緩衝液)、安定剤(例えばブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ビタミンC、ビタミンE)、担体などの薬学的に許容される賦形剤を含み得る。これらを調製する方法は、当業者に周知である。
【0040】
本発明による組成物の貯蔵寿命を延ばすために、上清を凍結乾燥してもよい。そのような調製物を凍結乾燥する方法は、当業者に周知である。
【0041】
凍結乾燥調製物は、その使用前に、水又は緩衝剤、安定剤、塩などを含む水溶液と接触させることができる。
【0042】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、本発明の組成物は、ヒト並びにウマ、イヌ、ネコ及びラクダなどのあらゆる種類の哺乳動物の皮膚瘢痕を治療するために使用することができる。
【0043】
本発明を以下の例によってさらに説明するが、これに限定されない。
【実施例】
【0044】
例
材料及び方法
【0045】
患者材料
【0046】
切除された瘢痕組織は、選択的瘢痕切除術を受けた3人の患者から得た。瘢痕は、以前に形成外科医によってPOSASによる肥厚性の病理学的瘢痕として分類された(Fearmonti RM et al.Plastic and reconstructive surgery 127,242(2011))。全ての瘢痕は成熟瘢痕であり、すなわち少なくとも2年目に、手術を受けておらず、以前にコルチコステロイド、5-FU、照射又は同様のもので治療されていなかった。全ての瘢痕試料は、慢性疾患を有さない又は慢性投薬を受けていない45歳未満の男性及び女性患者から得た。健康な皮膚は、25~45歳の3人の健常女性ドナーから、選択的腹部形成術中に切除された余剰腹部皮膚から得た。
【0047】
動物
【0048】
全ての動物実験において、8~12週齢の雌Balb/cマウス(Medical University of Vienna Animal Breeding Facility,Austria)を使用した。マウスを、選択した無菌環境において12/12時間の明/暗サイクルで、強化標準飼育法に従ってマウスを飼育し、食餌と水は自由に摂取させた。
【0049】
マウスにおける全層創傷及び瘢痕化モデル
【0050】
全層皮膚創傷及び瘢痕化モデルのために、マウスを腹腔内ケタミン80~100mg/kg、キシラジン10~12.5mg/kgで深麻酔し、飲料水中の0.1ml/10mgのブプレノフィン及びピリトラミド7.5mg/mlの皮下注射による術後鎮痛を行った。9×9mmの正方形領域を背部にしるし付け、鋭利な鋏で切除した。創傷を、4週間さらなる介入を行うことなく覆わずに放置して治癒させ、得られた瘢痕組織を観察し、記録した。
【0051】
APOSECの生成
【0052】
PBMCのセクレトームを、記載されているように(Wagner T et al.Sci Rep 8,18016(2018);Laggner M et al.Stem cell research&therapy 11,9(2020))、Austrian Red Cross,Blood Transfusion Service for Upper Austria(Austria)による優良医薬品製造基準(GMP)に従って生成した。Ficoll-Paque PLUS(GE Healthcare,USA)支援密度勾配遠心分離によってPBMCを得、25×106細胞/mL(25U/ml、1単位=100万細胞のセクレトーム)の濃度に調整し、60Gyのセシウム137ガンマ線照射(IBL 437C,Isotopen Diagnostik CIS GmbH,Germany)に曝露した。細胞をフェノールレッド不含のCellGenix GMP DC培地(CellGenix GmbH,Germany)中で24±2時間培養した。細胞及び細胞残屑を遠心分離によって除去し、上清を0.2μmフィルタに通した。ウイルスクリアランスについては、記載されているように(Gugurell A et al,Blood Transfus 18(2020):30-39)メチレンブルー処理を行った。セクレトームを凍結乾燥し、高線量ガンマ線照射によって最終滅菌し、-80℃で保存した。全ての実験は、以下のバッチのGMP下で生成されたセクレトームを使用して行った:A000918399086、A000918399095、及びA000918399098、A000918399101、A000918399102及びA000918399105。実験を行う直前に、凍結乾燥物を0,9%NaCl中に再懸濁して25U/mlの元の濃度にした。
【0053】
マウス瘢痕のAPOSEC刺激
【0054】
皮膚創傷後29日目から開始して、マウスに、100ylの0.9%NaCl、培地(フェノールレッド不含のCellGenix GMP DC培地)、又は上記のように調製したAPOSECを2日ごとに2週間注射した。その後、各群のマウスの半数を犠死させ、分析に供し、他の半数は、さらなる介入を行わずにさらに2週間放置し、次いで犠死させた。
【0055】
エクスビボでの皮膚及び瘢痕刺激
【0056】
ヒトの皮膚及び瘢痕組織から、6mmのパンチ生検を採取し、皮下脂肪組織を除去し、生検を、400ylのDMEM(Gibco,Thermo Fisher,USA、10%ウシ胎仔血清及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含む)、並びに100μlのCellGenix培地又は100ylのAPOSECを添加した12ウェルプレートに入れた。さらに、100μlの培地又はAPOSECを生検の中央の真皮上層に注射した。生検を24時間インキュベートし、次いでscRNAseq分析のために採取した。
【0057】
皮膚及び瘢痕APOSEC刺激、細胞の単離及び液滴ベースのscRNAseq
【0058】
マウス瘢痕並びにヒト刺激皮膚及び瘢痕試料を、Miltenyi Whole Skin dissociation Kit(Miltenyi Biotec,Germany)中で2.5時間、製造業者のプロトコルに従って消化し、GentleMACS OctoDissociator(Miltenyi)で処理した。細胞懸濁液を100μm及び40μmフィルタに通し、1500rpmで10分間遠心分離し、2回洗浄し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中0.04%FBSに再懸濁した。DAPI 1μl/100万細胞を30秒間添加し、細胞を再び2回洗浄し、MoFlo Astrios高速細胞選別装置(Beckman-Coulter,USA)で生存能によって選別し、明確にDAPI陰性細胞のみをさらなる処理に使用した。選別の直後に、生細胞を10Xクロム機器(Single cell gene expression 3’v 2/3,10X Genomics,USA)に負荷して、エマルジョン中のゲルビーズ(GEM)を生成した。GEMの生成、ライブラリの調製、RNA配列決定、逆多重化及び計数は、Center for Molecular Medicine(CeMM,Austria)のBiomedical Sequencing Core Facilityによって行われた。配列決定は、Illumina HiSeq 3000/4000(Illumina,USA)で、2×75bpのペアエンドで行った。
【0059】
結果
【0060】
APOSECは真皮弾性線維のTGFベータ媒介破壊を防止する
【0061】
エクスビボ生検にTGFベータ1、TGFベータ1及び培地、並びにTGFベータ1及びAPOSECを注射した。正常ヒト皮膚の生検にTGFベータ1を注射して、瘢痕様組織リモデリングを誘導した。TGFベータ1の注射の2日後、緻密な細胞外マトリックス(ECM)及び弾性線維の破壊が観察された。TGFベータ1及び培地を皮膚に注射した場合、同様の形態学的変化が観察された。TGFベータ1とAPOSECとの組合せは、ECM沈着及び弾性線維の分解を阻害した。
【0062】
APOSECはマウス皮膚におけるTGFベータ誘導のECM蓄積を防止する
【0063】
次に、APOSECをインビボでマウス皮膚に注射した場合に同様の効果が観察されるかどうかを試験した。分析は、APOSECがTGFベータ1の注射後にコラーゲン産生及び沈着を有意に減少させたことを示した。さらに、筋線維芽細胞を表すアルファ平滑筋アクチンの発現低下が観察された。
【0064】
APOSECは線維芽細胞の筋線維芽細胞へのTGFベータ誘導分化を妨げる。
【0065】
線維芽細胞の収縮性筋線維芽細胞への分化に対する効果をさらに調べるために、ヒト初代線維芽細胞をインビトロでTGFベータで刺激した。TGFベータによる刺激は、筋線維芽細胞のタンパク質マーカであるアルファ平滑筋アクチン(アルファSMA)の発現を強く誘導した。培地単独の添加はアルファSMA発現に影響を及ぼさなかったが、APOSECの添加は、線維芽細胞の筋線維芽細胞へのTGFベータ誘導分化を完全に無効にした(
図1A)。さらに、エラスチンのタンパク質発現はTGFベータによって有意に誘導され、APOSECによって阻害された(
図1B)。
【0066】
エクスビボでのヒト瘢痕へのAPOSECの皮内注射は瘢痕関連遺伝子のRNA発現を調節する
【0067】
ヒト皮膚及び瘢痕組織のパンチ生検にAPOSEC又は対照培地を皮内注射した。24時間後、生検を酵素的に解離させ、単一細胞RNA配列決定によって単一細胞を分析した(
図2)。瘢痕形成に関連するいくつかのmRNAは、APOSECの注射後に有意な調節を示した。瘢痕組織へのAPOSECの投与は、mRNAプロファイルを健康な皮膚(すなわち非瘢痕皮膚)で生じるレベルに明らかに変化させた。
【0068】
結論
【0069】
これらの分析は、APOSECの投与、特に皮内注射が、筋線維芽細胞の分化並びに細胞外マトリックス成分の産生及び沈着を阻害することによって瘢痕の質を改善することができることを示す。APOSECは、(瘢痕の新たな発症とは対照的に)既に存在する成熟瘢痕を明らかに改善する。
【手続補正書】
【提出日】2023-01-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
末梢血単核細胞(PBMC)細胞培養物の上清を含む、皮膚瘢痕の治療に使用するための組成物
であって、
該皮膚瘢痕が、肥厚性瘢痕又はケロイド瘢痕であり、かつ該PBMC細胞培養物が、単球、T細胞、B細胞及びNK細胞を含む、
上記組成物。
【請求項2】
末梢血単核細胞(PBMC)細胞培養物の上清を含む有効量の組成物を皮膚瘢痕に投与する工程を含む、皮膚瘢痕の美容治療の方法
であって、
該PBMC細胞培養物が、単球、T細胞、B細胞及びNK細胞を含む、
上記方法。
【請求項3】
組成物が皮膚瘢痕に適用されるか、又は皮膚瘢痕に注射される、請求項1に記載の使用のための組成物又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
組成物が、針によって、又は複数のマイクロニードルを含むマイクロニードルアセンブリによって、皮膚瘢痕に注射される、請求項3に記載の使用のための組成物又は請求項3に記載の方法。
【請求項5】
組成物が、針又はマイクロニードルの除去の間に、少なくとも一部が皮膚瘢痕に注射される、請求項4に記載の使用のための組成物又は請求項4に記載の方法。
【請求項6】
皮膚瘢痕
が、ストレッチマークであ
る、請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
PBMCが、細胞増殖培地、好ましくはCellGro培地、より好ましくはCellgro GMP DC培地、RPMI、DMEM、X-vivo及びUltracultureからなる群より選択される細胞培養培地中で培養される、請求項1もしくは3~
5のいずれか一項に記載の使用のための組成物又は請求項2~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
PBMCが、培養前又は培養中に1つ以上のストレス誘導条件に供される、請求項1もしくは3~
5、もしくは7のいずれか一項に記載の使用のための組成物又は請求項2~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ストレス誘導条件が、放射線、特に電離放射線又は紫外線、低酸素、オゾン、熱、浸透圧及びpHシフトからなる群より選択される、請求項
8に記載の使用のための組成物又は請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
PMCが、少なくとも10Gy、好ましくは少なくとも20Gy、より好ましくは少なくとも40Gy、より好ましくは少なくとも50Gyの線量の電離放射線に供される、請求項
9に記載の使用のための組成物又は請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
PBMCが、その上清を単離する前に、少なくとも4時間、好ましくは少なくとも6時間、より好ましくは少なくとも12時間培養される、請求項1もしくは3~
5もしくは7~10のいずれか一項に記載の使用のための組成物又は請求項2~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
PCBMC細胞培養物が、1×10
5~1×10
8個のPBMC/ml、好ましくは1×10
6~1×10
7個のPBMC/ml、より好ましくは2×10
6~5×10
6個のPBMC/mlを含む、請求項1もしくは3~
5もしくは7~11のいずれか一項に記載の使用のための組成物又は請求項2~
11のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】