(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-25
(54)【発明の名称】ゲル内スフェロイド培養用の流体チャネル内マイクロパターン化3Dハイドロゲルマイクロアレイ
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240418BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240418BHJP
C12N 5/09 20100101ALI20240418BHJP
【FI】
C12N5/071
C12M1/00 A
C12N5/09
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568045
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(85)【翻訳文提出日】2023-12-26
(86)【国際出願番号】 SG2022050263
(87)【国際公開番号】W WO2022235210
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】10202104559S
(32)【優先日】2021-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506076891
【氏名又は名称】ナンヤン テクノロジカル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ホウ、ハン ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】スー、チェンシュン
(72)【発明者】
【氏名】チュア、ヨン ジン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC01
4B029DF10
4B029GA08
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4B065AA90X
4B065AC20
4B065BC46
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本明細書にはスフェロイドをゲル内に封入する方法が開示されている。本方法はベースと、そのベースから突出したアイランドとを備えるフレームを提供する工程と、そのアイランド上に1つまたは複数の懸濁液を載せる工程であってその1つまたは複数の懸濁液が異なる細胞を含むものである工程と、その1つまたは複数の懸濁液をそのアイランドから重力の働く方向にハンギングさせるようにフレームを配置することで、スフェロイドの成長を促す工程と、そのスフェロイドがアイランド上に静置した状態でそのスフェロイド上にゲルを載せることにより、そのゲルにスフェロイドを封入させる工程と、ベースが基材から遠位に配設された状態でフレームをその基材に対して配置することで、(i)ゲルがアイランドと基材の間に制限され、かつ(ii)ゲルにスフェロイドを封入させる工程とを含む。本開示は、スフェロイドをゲル内に封入するように構成されるデバイスを含む。本デバイスはベースと、そのベースから突出したアイランドと、を備えるフレームと基材とを備える。ここでそのフレームは、(i)ゲルをアイランドと基材の間に制限し、かつ(ii)ゲルにスフェロイドを封入させるために、そのベースがその基材から遠位に配設された状態で基材に対して配置可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スフェロイドをゲル内に封入する方法であって、
ベースと、前記ベースから突出したアイランドと、を備えるフレームを提供する工程と、
前記アイランド上に1つまたは複数の懸濁液を載せる工程であって、前記1つまたは複数の懸濁液が異なる細胞を含むものである工程と、
前記1つまたは複数の懸濁液を前記アイランドから重力の働く方向にハンギングさせるように前記フレームを配置することで、前記スフェロイドの成長を促す工程と、
前記スフェロイドが前記アイランド上に静置した状態で前記スフェロイド上にゲルを載せることにより、前記ゲルに前記スフェロイドを封入させる工程と、
前記ベースが基材から遠位に配設された状態で前記フレームを前記基材に対して配置することで、(i)前記ゲルが前記アイランドと前記基材の間に制限され、かつ(ii)前記ゲルに前記スフェロイドを封入させる工程とを含む、方法。
【請求項2】
前記ゲルが前記スフェロイドを封入した後に、1つまたは複数の培地を前記ゲルに導入する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つまたは複数の懸濁液を載せる工程が、前記1つまたは複数の懸濁液を載せる工程の前に前記1つまたは複数の懸濁液を前記ゲルと混合する工程を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記1つまたは複数の懸濁液が少なくとも1μLの体積を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ゲルを載せる工程の前に前記1つまたは複数の懸濁液を前記スフェロイドから蒸発させる工程をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ゲルがコラーゲン、ゼラチンメタクリロイル、マトリゲル(matrigel)(登録商標)を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記フレームを前記基材に対して配置した後に、前記スフェロイドを封入するために前記ゲルを温度30~40℃にすることで、前記ゲル内を架橋状態にする工程をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ゲルの架橋後に接着層をコートする工程であって、前記接着層がポリドーパミン、フィブロネクチン、コラーゲン、ポリ-L-リジンまたはゼラチンを含む工程をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ゲルが前記スフェロイドを封入した後に、そのゲル封入スフェロイドを回収するために前記フレームを前記基材から除去する工程をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞がヒト臍帯静脈内皮細胞、ヒト肺線維芽細胞またはヒト乳がん細胞を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
スフェロイドをゲル内に封入するように構成されるデバイスであって、前記デバイスは、
ベースと、前記ベースから突出したアイランドと、を備えるフレームと、
基材とを備え、
前記フレームは、(i)前記ゲルを前記アイランドと前記基材の間に制限し、かつ(ii)前記ゲルに前記スフェロイドを封入させるために、前記ベースが前記基材から遠位に配設された状態で前記基材に対して配置可能である、デバイス。
【請求項12】
前記フレームが2つの支持構造を備え、各支持構造が前記ベースの対向する端縁に構成されかつ前記端縁から伸びているものであり、
前記アイランドが、(i)前記2つの支持構造の間に構成され、(ii)前記2つの支持構造が伸びる方向と同じ方向に前記ベースから伸びており、(iii)前記2つの支持構造よりも垂直方向に短い、
請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記フレームが2つの凹部をさらに備え、各凹部が前記2つの支持構造のうちの1つと前記アイランドとの間に存在する、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記2つの支持構造が前記ベースから少なくとも150μm伸びている、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記アイランドが1つのチャネルまたは複数のチャネルを備えるものであって、前記複数のチャネルが同一のまたは異なる深さを有する、請求項11~14のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項16】
前記アイランドが、各々異なる深さを有する複数の凹部により規定される少なくとも1つのチャネルを備える、請求項11に記載のデバイス。
【請求項17】
前記アイランドが高さ10μm~500μmの範囲で前記ベースから突出している、請求項11~16のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項18】
前記アイランドが、上から見下ろした時、円形、三辺形、四辺形または五辺形を備える、請求項11~17のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項19】
前記1つのチャネルまたは前記複数のチャネルが直線状または曲線状である、請求項15~18のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項20】
前記アイランドが、各々異なる深さを有する複数の凹部により規定される少なくとも1つのチャネルを備え、前記少なくとも1つのチャネルが、前記アイランド内の一点から一定半径で前記アイランドを水平に横断して伸びており、前記アイランドが、前記アイランドを垂直に貫通するルーメンを備える、請求項16~19のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は2021年5月3日に出願されたシンガポール特許出願第10202104559S号に基づく優先権を主張し、その内容は全ての目的のために当該出願の全体を参照することにより本願に組み込まれる。
【0002】
(技術分野)
本開示はゲル内にスフェロイド(spheroid)を封入する方法に関連する。本開示はスフェロイドをゲル内に封入させるように構成されるデバイスにも関連する。
【背景技術】
【0003】
臨床試験のフェーズIからフェーズIIIの総合成功率は13.8%と見積もられ、がんの薬物療法では3.4%ほどの低さであろう。このフェーズ移行の失敗は、イン・ビボ(in vivo)の動物実験への依存に、および生理学に関連した文脈における薬剤の有効性(efficacy)と毒性を予測できるイン・ビトロ(in vitro)腫瘍モデルがないなどのヒトでの薬剤応答を正確に予測できる前臨床のin vitroモデルの欠如に大きく起因することがある。従来の細胞培養フラスコ(tissue culture flasks)における2次元(2D)培養および3次元(3D)トランスウェル(transwell)(登録商標)共培養(co-culture)は腫瘍微小環境を再現しない傾向にある。3Dスフェロイドは、より生理条件に近いだろうが、細胞外マトリックス(ECM)の存在なしに、または血管系との共培養なしに懸濁液で培養される。これら因子がスフェロイドの生存能力、薬剤拡散速度論(drug diffusion kinetics)、IC50に影響を与えるであろう。
【0004】
組織エンジニアリングおよびマイクロ流体学の進歩に伴い、スフェロイド培養および臓器チップ(organ-on-a-chip)プラットフォームを含む比較的複雑なin vitro 3D細胞モデルが開発され近年使用が拡大している。そのような複雑な3Dモデルであっても、細胞-細胞間相互作用および組織模倣構造を再現することによって構造的・機能的特性の点でより高度な生理学的複雑性を提供するためにスフェロイドを利用することがある。3Dスフェロイドは、伝統的に懸濁液中(ハンギングドロップ法や丸底96ウェルプレート等)で培養されることができ、細胞の極性形成、静止、運動の指示シグナルを仲介する重要な役割を担うことのある外周細胞外マトリックス(extracellular matrix、ECM)を持たないことがある。
【0005】
一方、微小スケールで設計された臓器チップシステムは、液体の流れと、3D組織構造およびECM微小環境の制御と、を正確に操作することによってヒト臓器の肝要な機能単位を再構成するために広く用いられてきたであろう。
【0006】
どのような細胞培養プラットフォームにおいても、ECM/ハイドロゲルのパターン化を導入することにより(1)ハイドロゲル表面上でのより生理条件に近い2D細胞単層、(2)細胞含有ハイドロゲルを用いた3D細胞培養、(3)2D/3D複合組織構造を再構築するためのハイドロゲルの区画分けによる多細胞種の共培養、が実現すると考えられるであろう。マイクロ流体学における古典的な表面張力に基づくハイドロゲルパターン化は微小柱(micropillar)または狭い開口部の使用を含む。しかし、断続的な物理的バリアは非連続な細胞-ECM境界を生む可能性があり、それにより細胞-細胞間および細胞-ECM間のコミュニケーションを妨げる可能性があり、もしくは異なる生化学的および生物物理学的刺激に細胞をさらすこととなる。
【0007】
これら問題に対処するため、フェーズガイド(phaseguide)式の、修復可能な弾性バリア、すなわち懸濁したゲル(suspended gel)を用いた、囲い込まれ型マイクロチャネル(enclosed microchannels)において連続的な細胞-ECM境界を形成するいくつかのハイドロゲルパターン化技術の研究が行われてきたであろう。ゲル内スフェロイド培養は上述の方法を用いてスフェロイド含有ECMをパターン化することにより達成できるが、本方法は単一のスフェロイドを取り扱うことができない点、および囲い込まれ型マイクロチャネルのECM内でのスフェロイドの位置を正確に制御できない点で制約を受ける。本方法は単一スフェロイドのアッセイに対応するため開放型チャンバーにおけるハイドロゲルパターン化技術に適応する必要性に帰結するだろう。しかし、スフェロイド形成が細胞懸濁液内で行われる傾向があるため、本方法は既に形成された個々のスフェロイドをハイドロゲル封入用マイクロ流体デバイスに手作業で移動させる必要がある。この作業は骨が折れヒューマンエラーを引き起こしがちである。
【0008】
このように上述の1つまたは複数の制約に対処する解決策を提供する需要がある。この解決策は、単一のスフェロイドの正確な位置決めを可能にし、スフェロイド形成とゲル内培養を単一のデバイス上に統合するゲル内スフェロイド培養プラットフォームを少なくとも提供するものであるのがよい。
【発明の概要】
【0009】
本明細書で開示するのは幾何学的に規定されたマイクロアレイにおいてハイドロゲルをパターン化する融通の利く方法である。本方法の生物医学的応用は実施例の項において、後述の効果を備えうるゲル内スフェロイド培養プラットフォームの創出によって例示される。その効果は(1)ハンギングドロップ培養による最適なスフェロイド形成のために液滴サイズを調整可能である点、(2)幾何学的に規定されたハイドロゲルパターンでスフェロイドを所定の位置に封入するという点、(3)高用量薬剤スクリーニングへの応用のための拡張性があるという点、(4)スフェロイドを血管細胞と共培養することでスフェロイドのECM領域を囲む血管網を形成させる実現可能性がある点である。
【0010】
第1態様では、スフェロイドをゲル内に封入する方法であって、
ベースと、前記ベースから突出したアイランドと、を備えるフレームを提供する工程と、
前記アイランド上に1つまたは複数の懸濁液を載せる工程であって、前記1つまたは複数の懸濁液が異なる細胞を含むものである工程と、
前記1つまたは複数の懸濁液を前記アイランドから重力の働く方向にハンギングさせるように前記フレームを配置することで、前記スフェロイドの成長を促す工程と、
前記スフェロイドが前記アイランド上に静置した状態で前記スフェロイド上にゲルを載せることにより、前記ゲルに前記スフェロイドを封入させる工程と、
前記ベースが基材から遠位に配設された状態で前記フレームを前記基材に対して配置することで、(i)前記ゲルが前記アイランドと前記基材の間に制限され、かつ(ii)前記ゲルに前記スフェロイドを封入させる工程とを含む、方法が提供される。
【0011】
別の態様では、スフェロイドをゲル内に封入するように構成されるデバイスであって、前記デバイスは、
ベースと、前記ベースから突出したアイランドとを備えるフレームと、
基材とを備え、
前記フレームは、(i)前記ゲルを前記アイランドと前記基材の間に制限し、かつ(ii)前記ゲルに前記スフェロイドを封入させるために、前記ベースが前記基材から遠位に配設された状態で前記基材に対して配置可能である、デバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本図面は必ずしも縮尺通りではなく、どちらかと言えば主に本開示の原理を説明することに重点が置かれている。後述の記載において本開示の様々な実施形態は以下の図を参照することにより説明される。
【
図1】
図1Aは本開示のCBVに基づくプレスオン・ハイドロゲル位置制限法(CBV-based press-on hydrogel confinement method)の作業の流れを説明する概略図である。
図1Bはデバイス製造のための2ステップフォトリソグラフィーおよびポリジメチルシロキサン(PDMS)レプリカ成型処理の概略図である。
図1Cはゲルローディング、および食用赤色色素や食用緑色色素と混合したI型コラーゲン(3mg/mL)を用いたプレスオン・ゲル位置制限の実演例である。本デバイスの断面画像(下図)。赤色領域(濃い領域)はプレスオン・ゲル位置制限後のゲルの位置を示す。
【
図2】
図2はハイドロゲルパターン化処理前のハイドロゲルアイランドの異なる形状の明視野画像を示す(上段)。I型コラーゲン(3mg/mL、10mM FITC含有)はCBV効果の下、異なる形状のハイドロゲルアイランド内に制限された(下段)。スケールバー=1mm。
【
図3】
図3Aは直径が異なる円形アイランド内に制限されるI型コラーゲン(3mg/mL、10mM FITC含有)を示す。スケールバー=1mm。
図3BはI型コラーゲン(3mg/mL、10mM FITC含有)を用いてパターン化された2つの隣接する円形アイランド間の異なる端部距離を示す。スケールバー=1mm。
【
図4】
図4はパターン化された円形アイランド内に制限された、架橋メカニズムが異なるハイドロゲル(10mM FITC含有)を示す。スケールバー=1mm。
【
図5】
図5はオンチップ・ゲル内スフェロイド形成(on-chip spheroid-in-gel formation)の作業の流れの概略図を示す。
【
図6】
図6AはFITC含有液滴の蛍光画像を示す。
図6Bは疎水的表面と親水的表面の両方における、円形アイランドの異なる直径での液滴の高さと液滴の体積を示す。
図6Cは細胞数、液滴体積、アイランドサイズのMCF-7スフェロイド形成に対する影響を示す。
【
図7】
図7Aはゲル内スフェロイド培養用5×6マイクロアレイチップとして具体的には当該チップ内に制限された(食用色素と混合した)水滴の画像を示す。
図7Bはチップ上で2日間培養した後のハンギングドロップ中のMCF-7スフェロイドの明視野画像を示す。
図7Cは
図7Aのチップの断面図である。
【
図8】
図8Aはハンギングドロップ中の様々なサイズのMCF-7スフェロイドの明視野画像を示す。
図8Bは3つの異なる環境下での培地液滴の蒸発速度の線グラフである。
図8Cはハイドロゲル内に埋め込まれた6つのスフェロイドを含むチャネル全体の明視野画像を示す。各アイランド間距離は正確な縮尺ではない。
【
図9】
図9はハイドロゲル封入後、(4日目から)異なる培地で培養した7日目のスフェロイド生存率を例示する。生細胞にはカルセインAM(Calcein-AM)染色(緑色)、死細胞にはエチジウムホモダイマー1(ethidium homodimer-1)染色(赤色)。スケールバー=200μm。
【
図10】
図10Aはコラーゲン中とマトリゲル(Matrigel)(登録商標)中でのMCF-7スフェロイドのHUVECとの共培養を例示する。MCF-7はDiO標識された。F-アクチンは赤色。DAPIは青色。
図10Bはスフェロイド含有ハイドロゲルのピンセットを用いた回収およびマイクロチューブでの再懸濁を例示する。スフェロイド(小さな白い点)は裸眼で観察でき、矢印で強調した。
【
図11】
図11はF-アクチンシグナル(赤色、灰色影領域)とヘキスト(Hoechst)(登録商標)シグナル(青色、灰色影部分)で測定したスフェロイド範囲の比較を示す。白い点線の円はチャネル境界を示す。スフェロイドはI型コラーゲン(3mg/mL)内に埋め込まれていた。
【
図12-1】
図12Aは単一レーンハイドロゲルチップにおける段差(stepped height)に基づくハイドロゲルパターン化の概略図である。ハイドロゲルチャネルにおけるFITC標識したI型コラーゲン(3mg/mL)がローディングされたチップの蛍光視野と明視野を重ね合わせた画像(上段)。上記チップの断面図では白色双頭矢印でチャネルの高さ170μmを示すと同時に、別の黄色矢印(双頭矢印)でチャネルの高さ140μmを示す(下段)。
図12BはI型コラーゲン(1mg、3mg/mLであり、FITC標識)とマトリゲル(4mg、8mg/mLであり、FITC標識)について、異なる時点でのゲルローディング処理を示す蛍光画像である。黄色点線はチャネル境界を示す。
【
図12-2】
図12Cは1レーンハイドロゲルチップにおける1×PBS、I型コラーゲン(1mg、2mg、3mg/mL)、マトリゲル(2mg、4mg、6mg、8mg/mL)のローディング速度の棒グラフを示す。
図12Dはレーン数が奇数の場合は1段の段差を用い、レーン数が偶数の場合は2段の段差を用いる複数レーンハイドロゲル位置制限の概念を説明する概略図を示す。黒色矢印(濃)は第1層チャネル(高さが低いもの)、赤色矢印(淡い灰色の陰影)は第2層チャネル(高さが中程度のもの)、青色矢印は第3層チャネル(高さが最も高いもの)を示す。
図12Eは3レーンハイドロゲルローディングの一連の工程の概略図である。
図12Fは第1レーンと第3レーンにおいてFITC標識したI型コラーゲン(3mg/mL)がローディングされ、第2レーンにおいてR6G標識したI型コラーゲンがローディングされたチップの蛍光視野と明視野を重ね合わせた画像を示す(真ん中)。チップの断面図において、白色矢印はチャネルの高さ145μmを示す一方、黄色矢印はチャネルの高さ120μmを示す(下段)。
図12GはHLF含有I型コラーゲンの2レーンと、そのレーン間で細胞を含まないI型コラーゲンの1レーンとを備えるチップの蛍光画像を示す(F-アクチンは赤色、ヘキスト(登録商標)は青色)。
【
図12-3】
図12Hは1レーンハイドロゲルチップ、3レーンハイドロゲルチップおよびプレスオン(press-on)・ハイドロゲルマイクロアレイチップの製造方法を示す。
図12Iは1レーンハイドロゲルチップ(左)と3レーンハイドロゲルチップ(右)の画像を示す。
【
図13】
図13は囲い込まれ型マイクロチャネルにおける異なった表面張力に基づくハイドロゲルパターン化技術の概略図を示す。一番左の図は柱に基づく古典的方法を、中央の図はフェーズガイドに基づく古典的な方法を、一番右の図は段差に基づく手法を示す。
【
図14】
図14AはPDMS基材上のパターン化アイランド上におけるプレスオン・ハイドロゲル位置制限の概略図である。
図14Bは食用赤色色素、食用緑色色素を混合したI型コラーゲン(3mg/mL)を用いた、ゲルローディングとプレスオン・ハイドロゲル位置制限の実演例である(上段)。デバイスの断面画像では黄色矢印が段差約190μmを示す(下段)。
図14Cは異なる形のハイドロゲルアイランド内に制限された、FITC標識したI型コラーゲンの蛍光画像を示す。白色点線はパターン化ハイドロゲルアイランドの形状を示す。
図14Dはオンチップ・ゲル内スフェロイド形成の作業の流れの概略図である。
【
図15】
図15Aは疎水性および親水性の突出した円形アイランド形状部における、FITCを含有する液滴の蛍光画像を示す。
図15Bは疎水的表面(左のグラフ)と親水的表面(右のグラフ)の両方における、異なるアイランド直径と液滴体積に対する液滴高さを示す棒グラフである。
図15CはMCF-7スフェロイド形成に対する細胞数、液滴体積、アイランドサイズの影響を例示する。
【
図16】
図16は疎水的表面(左のグラフ)と親水的表面(右のグラフ)の両方における、異なるアイランド直径と液滴体積に対する接触角を示す棒グラフである。データは平均値±標準偏差(n=3)で示した。
【
図17】
図17Aは5×6マイクロアレイチップ内に制限された(食用色素と混合した)水滴の画像を示す。
図17Bは2日間チップ上で培養した後のハンギングドロップ内のスフェロイドの明視野画像を張り合わせたものを示す。
図17Cは3つの異なる環境下での培地液滴の蒸発速度を示す。データは平均値±標準偏差(n=3)で示した。
図17Dはコラーゲンゲル内に埋め込まれたスフェロイドを備える5×6マイクロアレイチップの単一チャネルの明視野画像を張り合わせたものを示す。赤色の円はハイドロゲルアイランド領域を示し、青色の円はスフェロイドマイクロウェルの領域を示す。
【
図18】
図18はゲル内スフェロイド培養用マイクロアレイチップ上の1つのアイランドの断面図を示す。
【
図19】
図19はI型コラーゲン(3mg/mL)中のおよびマトリゲル(4mg/mL)中のHUVECと共培養したMCF-7スフェロイドへの、FITC単体/FITC標識した10kDaデキストラン(0.1μM)の取り込みを示す。24時間インキュベーションの後、イメージングのためチャネルを洗浄し4%PFAで固定した。白色点線の円はチャネル境界を示す。
【
図20】
図20はハイドロゲル封入後、(4日目から)異なる培地で培養した7日目のスフェロイド生存率を例示する。(カルセインAMは緑色、PIは赤色)。
【
図21】
図21Aはコラーゲン中とマトリゲル中でのMCF-7スフェロイドの内皮細胞(HUVEC)との共培養を示す。MCF-7はDiO標識された。F-アクチンは赤色。ヘキスト(登録商標)は青色。
図21BはPTX処理後のスフェロイド生存率を表す重ね合わせ蛍光画像を示す(カルセインAMは緑色、PIは赤色)。
図21Cは3日間1nM、100nM、500nMのPTXで処理した後の、HUVECと共培養したスフェロイドおよび共培養しなかったスフェロイドにおける、正規化したカルセインAM蛍光強度を示す折れ線グラフである。PFAで固定したスフェロイドは陰性対照として用いた。データは平均値±標準偏差(n=3)で示す。
図21Dは3日間のPTX処理後の共培養内のスフェロイドとHUVECの生存率を表す重ね合わせた蛍光画像を示す(カルセインAMは緑色、PIは赤色)。
【
図22】
図22はチップの、あるアイランドにおけるECM領域(I型コラーゲン、3mg/mL)を取り囲むHUVEC層の再構築3D蛍光イメージである(F-アクチンは赤色。ヘキスト(登録商標)は青色)。
【
図23】
図23はゲル内スフェロイドチップに培養した内皮細胞の蛍光画像である(VE-カドヘリン(VE-Cad)は緑色、ヘキスト(登録商標)は青色、F-アクチンは赤色)。
【
図24】
図24は3日間1nM、100nM、500nMのPTXで処理した後の、HUVECと共培養したスフェロイドおよび共培養しなかったスフェロイドにおける、正規化したPI蛍光強度の折れ線グラフである。PFAで固定したスフェロイドは陰性対照として用いた。データは平均値±標準偏差(n=3)で示した。
【
図25】
図25は未処理対照、100nM、500nMパクリタキセル(PTX)処理したHUVECについてハイドロゲル内での正規化した蛍光強度の折れ線グラフである。画像を撮影し分析する前に、FITC-デキストラン70kDa(10μg/mL)をチップ内にローディングし、60分かけてアイランドに拡散させた。蛍光強度は倍率の変化として表現し(60分時点を0分時点で割る)、未処理対照の平均で正規化した。結果は平均値±標準偏差、**p(アスタリスク2つで示すp値)<0.005として表現した。
【
図26】
図26はスフェロイド含有ハイドロゲルのピンセットを用いた回収およびマイクロチューブでの再懸濁を示す。スフェロイド(小さな白い点)は裸眼で観察でき、赤色矢印で強調した。
【
図27】
図27は様々な流速におけるI型コラーゲン(3mg/mL)およびマトリゲル(4mg/mL)の安定性を例示する。ハイドロゲルは可視化のため蛍光マイクロビーズと混合した。画像は5分間還流させた後に撮影した。
【
図28】
図28Aは2重レーン曲線状チャネルチップのハイドロゲルパターン化一連の工程の概略図である。
図28Bは3ステップフォトリソグラフィーおよびPDMSレプリカ成型を用いた製造方法を示す。
図28Cは2重レーン曲線状チャネルチップを用いた還流培養の概略図である。
【
図29】
図29はI型コラーゲンがローディングされた2重レーン曲線状チャネルチップの写真を示す(上図)。チップの断面図(下図)。黄色矢印は段差約50μmを示す。赤色矢印は段差約100μmを示す。
【
図30】
図30Aは単一インレットローディング法(one-inlet loading method)の結果を示す。I型コラーゲン(3mg/mL)を1つのインレットからチップにローディングし、溢れると即停止させた。緑色の四角囲い(上の列の左から数えて4番目と5番目の画像)は成功したゲルパターン化処理を示す。赤色四角囲いは失敗したゲルパターン化処理を示す。
図30Bは2箇所のインレットローディング法(two-inlet loading method)の結果を示す。I型コラーゲン(3mg/mL)を一方のインレットからチップにローディングしてチャネル半分を満たし、残り半分は他方のインレットからローディングした。ゲルローディング工程は溢れると即停止させた。緑色の四角囲い(下の列の左から数えて2番目から最後までの画像)は成功したゲルパターン化処理を示す。赤色四角囲いは失敗したゲルパターン化処理を示す。
【
図31】
図31Aはゲルが進む距離(弧の長さ)の計算法の概略図である。
図31Bはチップ3/1/1と4/1/1におけるゲルが移動する距離(弧の長さ)の定量値の棒グラフである。結果は平均値±標準偏差で示した。
【
図32】
図32は貫通孔ルーメンを備えるチップについてのゲルローディングの結果である。チップには2箇所のインレットローディング法を用いて両方のハイドロゲルチャネルに対してI型コラーゲン(3mg/mL)がローディングされた。緑色の四角囲いは成功したゲルパターン化処理を示す(左から数えて2番目から4番目までの画像)。赤色四角囲いは失敗したゲルパターン化処理を示す。
【
図33】
図33AはI型コラーゲン(3mg/mL)をローディングしたチップの還流前の画像であり、赤色の円で囲った棒はインレット密封材である。
図33Bは(赤色色素を混ぜた)着色水を10mL/minで還流した状態のチップの写真である。
図33Cは10mL/minで5分間還流した後のチップの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(詳細な説明)
以下の詳細な説明は、本開示が実施可能な具体的な詳細および実施形態を例によって示す添付図面を参照する。
【0014】
ある実施形態の文脈において記述される特徴は別の実施形態における同一のまたは類似した特徴に合わせて応用可能である。ある実施形態の文脈において記述される特徴はたとえ別の実施形態において明確に記載されていなくても別の実施形態に合わせて応用可能である。さらにある実施形態の文脈における特徴のために記載されるような追加および/または組み合わせおよび/または代替は別の実施形態における同一のまたは類似する特徴に合わせて応用可能である。
【0015】
本開示はスフェロイド(spheroid)をゲル内に封入する方法、およびスフェロイドがゲル内に封入された状態にするデバイスに関連する。本方法およびデバイスに係る様々な実施形態の詳細、そしてその様々な実施形態に関連する効果を以下に記す。その下の実施例のセクションにおいて前記実施形態および/または前記効果をさらに説明しているので、簡潔のため再掲することはない。
【0016】
本方法は、ベースと、前記ベースから突出したアイランドと、を備えるフレームを提供する工程と、前記アイランド上に1つまたは複数の懸濁液を載せる工程であって、前記1つまたは複数の懸濁液が異なる細胞を含むものである工程と、前記1つまたは複数の懸濁液を前記アイランドから重力の働く方向にハンギングさせるように前記フレームを配置することで、前記スフェロイドの成長を促す工程と、前記スフェロイドが前記アイランド上に静置した状態で前記スフェロイド上にゲルを載せることにより、前記ゲルに前記スフェロイドを封入させる工程と、前記ベースが基材(substrate)から遠位に配設された状態で前記フレームを前記基材に対して配置することで、(i)前記ゲルが前記アイランドと前記基材の間に制限され、かつ(ii)前記ゲルに前記スフェロイドを封入させる工程とを含む。
【0017】
用語「フレーム」は前記デバイスの構成要素を指し、本明細書では「チップ」として交換可能である。そのフレームは基材に対して構成され配置されるとき、キャピラリーバーストバルブ(capillary burst valve(CBV))効果を介してアイランドと基材で規定される空間にゲルを制限するのを助ける。これはより良い理解のため
図1Aで説明する。
【0018】
本開示の文脈において、用語「スフェロイド」は3次元(3D)細胞培養を指し、細胞が増殖中に凝集し球状体形成するものである。球状体形成は完全な球状であっても実質的に(substantially)球状(すなわち完全な球体ではない)であってもよい。
【0019】
様々な実施形態において、本方法は前記ゲルが前記スフェロイドを封入した後に、1つまたは複数の培地を前記ゲルに導入する工程をさらに含んでよい。前記1つまたは複数の培地を前記ゲルに注入することによって前記1つまたは複数の培地は、前記スフェロイドを封入した前記ゲル内に導入されてもよい。
【0020】
様々な実施形態において前記1つまたは複数の懸濁液を載せる工程が、前記1つまたは複数の懸濁液を載せる工程の前に前記1つまたは複数の懸濁液を前記ゲルと混合する工程を含んでよい。前記1つまたは複数の懸濁液それぞれが異なる細胞種を含んでよい。換言すると本方法は、本デバイスを用い異なる細胞種をゲル内に封入する異なる細胞種の共培養を含む。前記細胞に係る非限定的な例としてヒト臍帯静脈内皮細胞、ヒト肺線維芽細胞、ヒト乳がん細胞またはこれらの混合株を含む。
【0021】
様々な実施形態において前記1つまたは複数の懸濁液が少なくとも1μL、少なくとも2μL、少なくとも3μL、少なくとも4μL、少なくとも5μL等の体積を含んでもよく、または載せられてもよい。
【0022】
様々な実施形態において本方法は前記ゲルを載せる工程の前に前記1つまたは複数の懸濁液を前記スフェロイドから除去する工程をさらに含んでよい。つまり前記スフェロイドが形成した後かつ前記ゲルが載せられる前に、残った懸濁液が蒸発することで不要なまたは過剰な水分を除去することができる。蒸発処理は37℃、5vol%CO2条件で行われてもよい。
【0023】
様々な実施形態において前記ゲルがハイドロゲルであってもよい。前記ゲルはコラーゲン、ゼラチンメタクリロイルおよび/またはマトリゲル(matrigel)(登録商標)を含んでよい。スフェロイドと細胞を破壊しない、あらゆる適したタイプのゲルまたはあらゆる適した細胞外マトリックス(ECM)物質を用いることができる。
【0024】
本方法は前記フレームを前記基材に対して配置した後に、前記スフェロイドを封入するために前記ゲルを30~40℃、30~35℃、35~40℃等の温度にすることで前記ゲル内を架橋状態にする工程をさらに含んでよい。
【0025】
本方法は前記ゲルの架橋後に接着層をコートする工程をさらに含んでよい。様々な実施形態において前記接着層がポリドーパミン、フィブロネクチン、コラーゲン、ポリ-L-リジン、ゼラチンまたは他のあらゆるハイドロゲルを含んでもよく、本開示の文脈において接着層として適した細胞外マトリックス物質を用いてもよい。非限定的な例としてポリドーパミンおよび/またはフィブロネクチンはヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)用の前記接着層として用いることができる。ある非限定的な例ではポリドーパミンをHUVEC由来スフェロイド用の前記接着層として用いることができる。ある非限定的な例ではフィブロネクチンを前記接着層として用いることができる。
【0026】
本方法は前記ゲルが前記スフェロイドを封入した後に、そのゲル封入スフェロイドを回収するために前記フレームを前記基材から除去する工程をさらに含んでよい。
本開示は上述の通りスフェロイドをゲル内に封入された状態にするために構成されるデバイスも提供する。本デバイスは本明細書において「プラットフォーム」「マイクロチップ」「マイクロアレイ」と交換可能に呼ぶことができる。本方法の第1態様で記載される実施形態および効果は、本明細書にて後述する本デバイスについても類似的に効力を有し逆もまた然りであろう。様々な実施形態および効果は既に前記され、実施例はこの項で例示されたため、簡潔のため再掲することはない。
【0027】
本デバイスは、ベースと、前記ベースから突出したアイランドとを備えるフレームと、基材とを備えるデバイスであって、前記フレームは、(i)前記ゲルを前記アイランドと前記基材の間の位置に制限し、かつ(ii)前記ゲルに前記スフェロイドを封入させるために、前記ベースが前記基材から遠位に配設された状態で前記基材に対して配置可能である。
【0028】
様々な実施形態では前記フレームが2つの支持構造を備え、各支持構造が前記ベースの対向する端縁に構成されかつ前記端縁から伸びているものであり、前記アイランドが、(i)前記2つの支持構造の間に構成され、(ii)前記2つの支持構造が伸びる方向と同じ方向に前記ベースから伸びており、(iii)前記2つの支持構造よりも垂直方向に短くてよい。上記フレームの非限定的な例は
図1A及び1Bに示す。
【0029】
ある非限定的な例では前記フレームが2つの凹部をさらに備え、各凹部が前記2つの支持構造のうちの1つと前記アイランドとの間に存在してよい。前記アイランドと前記基材間のギャップがより狭いことにより所定の位置にゲルを制限するのに十分な表面張力を生むため、上記構造は、前記フレームが前記基材に押し付けられる時CBV効果を発揮する助けになる。
【0030】
様々な実施形態では前記2つの支持構造が前記ベースから少なくとも150μm、少なくとも300μm、少なくとも400μm、少なくとも500μm、少なくとも530μm等の長さ伸びている。
【0031】
様々な実施形態では前記アイランドが1つのチャネルまたは複数のチャネルを備えるものであって、前記複数のチャネルが同一のまたは異なる深さを有してよい。そのようなアイランドを備えるフレームの非限定的な例を
図5、
図7A、
図7C、
図12A、
図12Dの一番右の図等に示す。ある非限定的な例では前記1つのチャネルまたは前記複数のチャネルが細胞培養物(すなわち細胞の前記1つまたは複数の懸濁液)の沈着用の1つまたは複数のマイクロウェルを備えてよい。
【0032】
ある非限定的な例では前記アイランドが、各々異なる深さを有する複数の凹部により規定される少なくとも1つのチャネルを備えてよい。これの非限定的な例は
図12Dの(左から数えて)2番目と4番目の図で示される。前記チャネルの前記複数の凹部の深さの上記違いは「段差(stepped height)」を有するとして言及される。
【0033】
様々な非限定的な実施形態では前記アイランドが少なくとも高さ340μm前記ベースから突出している。様々な非限定的な実施形態では前記アイランドが高さ10μm~500μm、100μm~500μm、200μm~500μm、300μm~500μm、400μm~500μm、10μm~340μm、340μm~500μm等の範囲で前記ベースから突出している。
【0034】
様々な実施形態では前記アイランドが、上から見下ろした時、円形、三辺形、四辺形または五辺形を有してもよく、または備えてもよい。例えば前記アイランドが円形、半円形、三角形(正三角形等)、長方形、正方形、五角形等であってよい。
【0035】
様々な実施形態では前記アイランドにおいて前記1つのチャネルまたは前記複数のチャネルが直線状または曲線状であってよい。様々な実施形態では前記1つのチャネルまたは前記複数のチャネルが細胞培養物(すなわち細胞の前記1つまたは複数の懸濁液)の沈着用の1つまたは複数のマイクロウェルを備えてよい。
【0036】
ある非限定的な実施形態では前記アイランドが、各々異なる深さを有する複数の凹部により規定される少なくとも1つのチャネルを備え、前記少なくとも1つのチャネルが、前記アイランド内の点から一定半径で前記アイランドを水平に横断して伸びていてよい。その非限定的な実施形態では前記アイランドが、前記アイランドを垂直に貫通するルーメンを備えてよい。上記実施形態の非限定的な実施例を
図28A~
図28Cで示す。
【0037】
用語「実質的に(substantially)」は「完全に(completely)」を排除せず、例えばYを「実質的に含まない」組成はYを完全に含まないことを意味しうる。必要であれば用語「実質的に」を本開示の定義から削除してよい。
【0038】
様々な実施形態の文脈で、ある、1つの特徴や要素に関連して用いる冠詞「a」「an」「the」は1つのまたは複数の特徴や要素を参照することを含む。
様々な実施形態の文脈で、数値に適用される記号「~」、用語「約(about)」「およそ(approximately)」は特定の値および合理的な分散を網羅する。
【0039】
本明細書で用いる場合、用語「および/または」は1つまたは複数のリスト化した関連項目のあらゆるかつ全ての組み合わせを含む。
別段の定めがない限り用語「含んでいる(comprising)」「含む(comprise)」および文法上変形した用語は、「オープンな(open)」「非限定的な(inclusive)」言葉を表すものと意図しており、この表現は言及された要素だけでなく追加の言及されていない要素も包含する。
【0040】
(実施例)
本開示は(本明細書では「デバイス」と交換可能に呼ばれる)マイクロ流体培養プラットフォームにおける規定されたハイドロゲルパターン内での1つのスフェロイド局所封入の容易な戦略に関連する。本プラットフォームにより、他の細胞種との共培養を確立できる汎用性を有するキャピラリーバーストバルブ(CBV)に基づくハイドロゲルパターン化技術を用いたマイクロアレイ内でのスフェロイド3D培養が可能になる。本プラットフォームはハイスループット研究のためすぐにスケールアップ可能である。そして本プラットフォームはより生理学に関連する文脈における機械論的研究と予測に係る薬剤スクリーニングとを含む、臓器チップ(organ-on-a-chip)分野、再生医学(オルガノイド由来の肝細胞)分野、がん研究分野での潜在用途での使用のためすぐにスケールアップ可能である。
【0041】
本開示の様々な実施例は幾何学的に規定されたハイドロゲル内でのスフェロイド局所形成および封入のための、スケールアップ可能なマイクロ流体培養プラットフォームを例示する。本プラットフォームは、細胞含有液滴の最初の位置制限を円滑にすることでハンギングドロップ培養によってスフェロイドを形成する。次にハイドロゲル所定位置へのスフェロイドの封入はキャピラリーバーストバルブ(CBV)効果に基づき行われる。本アプローチを用いることで、改良された前臨床薬剤スクリーニング研究の道を拓く堅牢なゲル内スフェロイド培養が達成された。
【0042】
本開示の様々な実施例は、チャネルが示す段差と、血管研究についてのキャピラリーバーストバルブ(CBV)効果とに基づくハイドロゲルパターン化方法に依存するであろう。様々な実施例は囲い込まれ型マイクロチャネルにおける3D細胞培養のための、および開放型チャネルマイクロアレイフォーマットにおけるゲル内スフェロイド培養のための段差に基づく技術の汎用性およびスケールアップ可能性をさらに調査する。様々な実施例は、平行なレーン構成へのハイドロゲル(I型コラーゲン)パターン化処理を例示しており、この処理は、1つまたは2つの段差形状部を用いることで多重化できる。
【0043】
1ステップ「プレスオン(press-on)」ハイドロゲル位置制限法を用いたゲル内スフェロイド培養用マイクロチップを開発した。乳がん細胞(MCF-7)スフェロイドの初期形成はオンチップ・ハンギングドロップ培養を用いて達成され、その後各スフェロイドは個々のハイドロゲルアイランド内の同一位置にオンチップで直接封入された。最後にスフェロイドはスフェロイドECM領域を取り囲む血管層を形成するために内皮細胞(HUVEC)とともに共培養し、当該スフェロイドは本モデルにてがんの薬剤試験(パクリタキセル)を実演した。総合すると、開発したハイドロゲルパターン化方法は標準的なフォトリソグラフィーおよびソフトリソグラフィーによって容易に製造され容易に使用されハイスループット3Dスフェロイドアッセイ用の開放型チャネルでの使用に即適応可能である。
【0044】
本方法および本デバイスは下記に説明する通り非限定的な実施例の様式でさらに詳細に記述される。
(実施例1A)
CBVに基づくプレスオン・ハイドロゲル位置制限法。
【0045】
実施例1Aから1Dはゲル内にスフェロイドを封入する本デバイスおよび本方法の非限定的な例を例示する。
CBVに基づくECMパターン化方法に基づき、z軸におけるチャネル高さの急拡大によって境界を示された指定チャネル内にハイドロゲルを制限することができる。ここで本実施例はスフェロイド形成とマイクロアレイフォーマットの所定位置へのハイドロゲル封入を含む、より多くの応用の可能性を拓く1ステップかつ迅速なプレスオン・ハイドロゲル位置制限を可能にする方法を例示する。変更した構成はメインチャネルの天井から突出したハイドロゲル「アイランド」を含有する。まずハイドロゲルは前記アイランドにローディングされ位置を制限され本デバイスはその後さっと裏返され、チャネルを密封するためにスライドガラス上にプレスされる(press on)。前記ハイドロゲルはチャネル高さの違いに起因するCBV効果によりアイランド内に制限された状態を維持される(
図1A)。CBV効果を達成するために必要な段差(step height)を製造するため、2ステップフォトリソグラフィーを実行することで鋳型を形成しその後ポリジメチルシロキサン(PDMS)の標準的ソフトリソグラフィーを用いることでチップを製造した(
図1B)。ここで採用した2ステップフォトリソグラフィーにより、本デバイスを得られるPDMSレプリカ成型処理が1ステップで可能になる。本製造方法は、段差を形成するために2ピースの異なるチャネルデザインのPDMSを手作業で並べ一緒に結合させる従来開発された方法と比較して労力がより少なく、より堅牢である。堅牢なゲルローディングとゲル位置制限のためメインチャネルのチャネル高さとハイドロゲルアイランドのチャネル高さは例えばそれぞれ約530μmと約340μmに設定されその結果段差は約190μmになる(
図1C)。成功したゲルローディング処理とプレスオン・ゲル位置制限は、食用色素を混合したI型コラーゲン(3mg/mL)を用い実演された(
図1C)。ゲルローディングの前にアイランド表面上でハイドロゲルが均一に拡散することを保証するためプラズマクリーナー(Harrick社製)を用いてPDMS表面を1分間のプラズマ処理により親水化処理した。
【0046】
(実施例1B)
ハイドロゲルパターン化のための幾何学的要件。
ハイドロゲルパターン化のための異なるデバイス構成の汎用性を調査するためにまずハイドロゲルアイランドの形状を変えた。ハイドロゲルパターン化処理は円形、正方形、長方形、五角形を含む異なる形状でも成功した一方で、角度が60度よりも小さい形状(例えば正三角形)については(まだ機能するが)比較的望ましくないという結果が示された(
図2)。前記正三角形についてフィレット半径0.6mmを有するパターン化ハイドロゲルが形成された。
【0047】
円形ハイドロゲルアイランドについて直径および縁距離を含めた寸法パラメータをさらに変更した。円直径が1.5mmより大きい場合ハイドロゲルを成功裏にパターン化できたこと(
図3A)、および縁距離が0.5mmより大きい場合隣接するパターン化ハイドロゲルが交差しないこと(
図3B)が示された。
【0048】
さらに別の架橋メカニズムを有するハイドロゲルを成功裏に円形アイランドにパターン化できたことを例示した(
図4)。
(実施例1C)
オンチップ・ゲル内スフェロイド形成(on-chip spheroid-in-gel formation)の作業の流れ。
【0049】
3Dがん細胞スフェロイドを形成する一般的なアプローチの一つはハンギングドロップ法である。簡潔に述べると、がん細胞懸濁液の液滴をペトリ皿カバー上にスポットし、重力による細胞の凝集とスフェロイド形成が可能になるよう裏返す。この場合、本実施例ではPDMSデバイスのマイクロパターン化アイランド上にがん細胞懸濁液を直接ローディングすることができ、ハンギングドロップ培養用デバイスを裏返した後スフェロイドを形成できることが例示された。続いて、培地蒸発処理後のスフェロイドを封入するためハイドロゲルをローディングする。当該チップをその後裏返しスライドガラス上で密閉し、それによりスフェロイド含有ハイドロゲルはCBV効果により位置を制限された状態を維持する。最後にゲル内スフェロイドマイクロアレイを形成するために、スフェロイド含有ハイドロゲルがゲル化したメインチャネルに培地を添加する。代わりに別の細胞種(接着細胞または浮遊細胞)をチャネルに導入することによりチップ上で共培養を行ってもよい。培地蒸発処理中の明確な可視化のためにアイランドは中央集中型マイクロウェルを備えるようにさらに設計されてもよい(
図5)。
【0050】
(実施例1D)
オンチップ・スフェロイドハンギングドロップ培養に関する結果の研究と議論。
液滴の高さは液滴の体積および円形アイランドの直径を変えることで設定可能かどうかの調査を実施した。液滴形成は疎水的および親水的PDMS表面の両方で見られた。疎水的表面では、調査した4つの体積(1μL、2μL、3μL、4μL)について直径が1.5mmより大きなアイランド上で液滴形成が可能である一方、親水的表面では直径が2.0mmより大きなアイランド上でのみ液滴形成が可能である(
図6A)。より重要なことに、アイランド表面全体に液体が拡散する傾向が高まるので親水的表面では、より広い範囲の液滴高さが達成可能である(
図6B)。それゆえ、より広い範囲の到達可能な液滴高さを理由にさらなる実験には親水的表面を用いる。次に乳がん細胞株(MCF-7)のオンチップ・スフェロイド形成を成功させるために必要な細胞数と液滴高さの調査を実施した。チップはプラズマ処理し使用前に紫外線で30分滅菌処理した。規定量のMCF-7細胞懸濁液をまずアイランド上にローディングしハンギングドロップ培養用水リザーバーの上で裏返し、その2日後にスフェロイド形成を観察した。興味深いことにスフェロイド形成には細胞数に関わらず最小液滴高さ1.35±0.0075mmが必要であることが観察された(
図6C)。それゆえスフェロイド形成のため直径2mmの円形プラットフォーム上での細胞懸濁液を3μLにすることを採用した。
【0051】
ハイスループット研究を促進するため、完成したゲル内スフェロイドチップの構成は5つの平行メインチャネルから構成されそれにより各チャネルが6つのアイランドを備える(
図7A)。着色水はアイランド内の水滴の位置をうまく制限することを示すために用いた。またチップ上でのスフェロイド形成が成功したことを示した(
図7B)。各アイランドは培地蒸散中の明確な可視化を実現するために直径1mmの中央集中型マイクロウェルを備えるように設計される。メインチャネルのチャネル高さは約930μmになるように製造され同時にマイクロウェルのチャネル高さは約820μmであり、それにより様々なサイズのスフェロイドを収容できる(
図7C)。
【0052】
異なる細胞数のスフェロイドをチップ上で形成できることがさらに例示された(
図8A)。次に37℃5%CO
2インキュベーター、安全キャビネット、顕微鏡室を含む3つの異なる環境における培地蒸発速度を調べた。20分後、安全キャビネットが最も高い蒸発速度を示すとともに3つすべての環境で液滴高さについて少なくとも50%の減少がみられた(
図8B)。マイクロウェルの縁まで液滴が蒸発した後、スフェロイドを封入するために2μLのI型コラーゲン(3mg/mL)をアイランドに添加し、続いてチップを裏返し滅菌スライドガラス上で密封した。前記チップはその後37℃インキュベーターに移されコラーゲンを架橋させ、続いて培地を前記チップ内に注入することでスフェロイドに添加した(
図8C)。
【0053】
チップ上で共培養を行う実現可能性を調べるために、異なる培地をチャネルに導入した後、スフェロイドの生存率を試験するためのLIVE/DEAD(登録商標)アッセイを行った。その結果スフェロイドは3つすべての被験培地について7日間にわたり細胞死が最小であった(
図9)。
【0054】
In vivoで観察されるような腫瘍を取り囲む血管ネットワークを再構築するためにヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)とMCF-7スフェロイドの共培養をチップ上で実施した。ハイドロゲルの架橋によりチャネルは細胞接着を促進するポリドーパミン(1mg/mL)でコートされ、その後HUVEC懸濁液(1.5×10
6/mL)を前記チャネル内にローディングした。I型コラーゲンおよびマトリゲル(Matrigel)(登録商標)の両方でコンフルエント状態のHUVEC層が2日後に形成された(
図10A)。さらにチップは、必要な場合にスフェロイド含有ゲルを回収するためにスライドガラスから容易に剥離可能である(
図10B)。
【0055】
(実施例2A)
デバイス製造および細胞培養の別の非限定的な実施例。
フレーム(これはデバイスの構成要素であり残りの構成要素は基材である。)は標準的なフォトリソグラフィーとソフトリソグラフィーを用いて製造された。簡潔に述べると、ポリジメチルシロキサン(PDMS)のプレポリマーを硬化剤(ダウコーニング社(Dow Corning)、ミッドランド、ミシガン州、USA)と10:1(w/w)の比率で混合し、パターン化シリコンウエハの鋳型に注ぎ30分脱気し75℃で2時間かけて硬化させた。PDMSの平板を切断し前記鋳型から回収した後、生検トレパン(biopsy puncher)を用いて前記デバイスのインレットとアウトレットを形成した。レーン構成のチップについては、PDMSの平板はプラズマクリーナー(PDC-002、ハリックプラズマ社(Harrick Plasma Inc)、イサカ、ニューヨーク州、USA)を用いてスライドガラスにプラズマ処理により結合させた。結合したデバイスを75℃で一晩置くことで結合を強め、疎水性を回復させた。デバイスはオンチップ・細胞培養実験の前に紫外線で30分処理し滅菌した。
【0056】
細胞培養のためHUVECは、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(P/S)を添加した内皮細胞増殖培地2(EGM(登録商標)-2)バレットキット(BulletKit)(登録商標)(ロンザ(Lonza)、バーゼル、スイス)を用いて維持された。ヒト肺線維芽細胞(HLF)はFGM(登録商標)-2線維芽細胞増殖培地2(FGM(登録商標)-2)BulletKit(登録商標)(ロンザ)を用いて維持した。ヒト乳がん細胞(MCF-7)は、10%ウシ胎児血清(FBS)(Gibco(登録商標)、ライフテクノロジーズ社(Life Technologies)、カールスバッド、カリフォルニア州、USA)と1%P/Sとを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Gibco(登録商標))を用いて維持した。前記細胞は37℃で湿潤5%CO
2インキュベーター内にて維持され、コンフルエント状態で1mM EDTA(Gibco(登録商標))含有0.25%トリプシンを用いて継代した。HUVEC(
図21A~21D)およびHLF(
図12G)について継代数は3~10回であった。
【0057】
(実施例2B)
実施例2Aについてのレーンフォーマットチップにおけるオンチップ・細胞培養。
レーン構成のチップに細胞を播種するため、I型コラーゲン(3mg/mL)(ラットの尾由来、コーニング(Corning)社、ニューヨーク州、USA)を準備した後、前記チップにゲルをローディングしゲルを37℃で30分間架橋させた。1レーンハイドロゲルチップ内にHUVECを播種するために、細胞を播種する前に37℃で30分間流体チャネルを50g/mLのフィブロネクチン(シグマアルドリッチ(Sigma Aldrich)、セントルイス、ミズーリ州、USA)でコートした。HUVECは解離させ再懸濁させ2×106細胞数/mLの濃度にした後、当該懸濁液を流体チャネルにローディングしHUVECがコンフルエント状態になるまで増殖させた。
【0058】
HLFを3レーンハイドロゲルチップ内に播種するためHLFを解離させI型コラーゲン(3mg/mL)に再懸濁させ1×106細胞数/mLの濃度にした。HLF含有コラーゲンを側方2つのハイドロゲルチャネルにローディングし37℃で30分間架橋させた後、細胞を含まないコラーゲンで中央のハイドロゲルチャネルを満たした。最後に細胞を再増殖させるために当該2つの流体チャネルにFGM(登録商標)-2をローディングした。前記チップは固定および撮影の前に37℃で2日間インキュベートした。
【0059】
(実施例2C)
実施例2Aについてのマイクロアレイチップにおけるオンチップ・ゲル内スフェロイド培養。
【0060】
マイクロアレイチップ上におけるゲル内スフェロイド培養のため、アイランド表面上でのハイドロゲルの均一な拡散処理を保証する目的でプラズマクリーナー(PDC-002、ハリックプラズマ社(Harrick Plasma Inc)、イサカ、ニューヨーク州、USA)を用いて1分間プラズマ処理によりPDMS表面を親水化処理した。MCF-7細胞を解離させ再懸濁させ1.7×106細胞数/mLの濃度にした。当該懸濁液にI型コラーゲンを20g/mL添加しスフェロイド形成を促進させた。MCF-7懸濁液を各アイランド上にローディングし(1アイランド当たり3L)、その後ハンギングドロップ培養のためPDMSチップを水リザーバーの上に裏返した。
【0061】
オンチップ・スフェロイド形成を成功させるための細胞数と液滴高さの調査するため、MCF-7懸濁液の濃度と体積を適切に変えた。チップはスフェロイド形成のため37℃で2日間維持した。ある特定の実験でMCF-7細胞はチップ上に播種する前にヴィブラント(Vybrant)(登録商標)DiO細胞標識溶液(サーモフィッシャー(Thermo Fisher)、ウォルサム、マサチューセッツ州、USA)を用いて標識された。スフェロイド形成に際し、前記チップを37℃インキュベーターに入れ培地蒸発させた後、所定の位置へのスフェロイドの封入のためにI型コラーゲン(3mg/mL)またはマトリゲル(4mg/mL、コーニング(Corning)社、ニューヨーク州、USA)を各アイランドにローディングした(1アイランド当たり2L)。
【0062】
前記チップはコラーゲンとマトリゲルのゲル化のために37℃30分間インキュベートした後、10%FBS含有DMEMを流体チャネル内に添加した。HUVECと共培養するためにチャネルは37℃30分間ポリドーパミン(1mg/mL)でコートすることでHUVECの接着及び増殖を促進した。ポリドーパミン溶液はドーパミン塩酸塩(シグマアルドリッチ、セントルイス、ミズーリ州、USA)をトリス-HCl緩衝液(pH8.5)に溶解させることで準備した。前記チャネルは1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄した後、HUVEC懸濁液(1.5×106細胞数/mL)を前記チャネルにローディングしコンフルエント状態に達するまで2日間増殖させた。HUVECは静置状態で培養した。
【0063】
(実施例2D)
実施例2Aについての免疫染色、薬剤処理およびLIVE/DEAD(登録商標)アッセイ。
【0064】
チップを1×PBSで洗浄し15分間4%パラホルムアルデヒド(PFA)(シグマアルドリッチ、セントルイス、ミズーリ州、USA)で固定した後、アレクサフルーア(AlexaFlour)(登録商標)568 ファロイジン(phalloidin)(0.17μm、ライフテクノロジーズ(Life Technologies)、カールスバッド、カリフォルニア州、USA)とヘキスト(Hoechst)(登録商標)33342(1μg/mL、ライフテクノロジーズ、カールスバッド、カリフォルニア州、USA)を用いて室温で45分間インキュベートすることで細胞を染色した。VE-カドヘリンを有するHUVECを染色するために細胞を0.1%トリトン(Triton(登録商標))X-100のPBS溶液で15分間透過処理し、1×PBSで3回洗浄し、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)のPBS溶液で室温2時間ブロッキング処理した。
【0065】
その後、VE-カドヘリン用ウサギ由来抗ヒトCD144一次抗体(10μg/mL、エンゾ(Enzo)、ファーミングデール、ニューヨーク州、USA)を用いて4℃で一晩細胞を染色した。翌日細胞を0.1%BSAのPBS溶液で3回リンスしアレクサフルーア(AlexaFlour)(登録商標)488ヤギ由来抗ウサギ二次抗体(20μg/mL、ライフテクノロジーズ、カールスバッド、カリフォルニア州、USA)で室温4時間蛍光標識した。スフェロイドのLIVE/DEAD(登録商標)アッセイのため前記チップを1×PBSで洗浄し、そしてカルセインAM(Calcein-AM)(0.4μM、ライフテクノロジーズ、カールスバッド、カリフォルニア州、USA)、よう化プロピジウム(PI)(2μg/mL、バイオレジェンド(BioLegend))、ヘキスト(Hoechst)(登録商標)-33342(1μg/mL、ライフテクノロジーズ、カールスバッド、カリフォルニア州、USA)を用いて37℃で30分間染色した。
【0066】
細胞/スフェロイドはその後蛍光顕微鏡(ニコンエクリプスTi(Nikon Eclipse Ti)、メルビル、ニューヨーク州、USA)を用いて撮影した。薬剤処理のためHUVECがコンフルエント状態に到達した時点でパクリタキセル(サーモフィッシャー、ウォルサム、マサチューセッツ州、USA)を濃度100nMおよび500nMで流体チャネルに添加し、続いてチップを3日間培養した後LIVE/DEAD(登録商標)アッセイを行った。4%PFAで固定したスフェロイドは陰性対照として用いた。カルセインAMとPIの蛍光強度はImageJを用いて分析し下記の等式(1)に従って計算した。
【0067】
【0068】
ここでI
tは積分した強度、I
bはバックグラウンド強度、Aはスフェロイド面積を示す。スフェロイド面積はヘキスト(登録商標)染色によって決定される。ヘキスト(登録商標)染色とF-アクチン染色によるスフェロイド面積の定量化は同様の数値を示す(
図11)。I
bは細胞がない灰色領域の平均値を測定しこの値を画像面積に乗じることにより見積もった。カルセインAMの強度は各実験の未処理群で正規化した。蛍光強度における不正確さを最小限にするため画像を撮影するとき露光時間、焦点面を含むイメージングパラメータは同一セットを用いた。
【0069】
(実施例2E)
実施例2Aについての内皮バリア完全性の研究。
ゲル内スフェロイドチップにおける薬剤処理後の内皮バリア完全性を評価するためにI型コラーゲン(3mg/mL)とHUVECを、実施例2Cに示すチップ内に播種した。サブコンフルエント状態のHUVECをパクリタキセル処理し(100nMと500nM)、3日間培養した後バリア透過性試験を行った。フルオレセインイソチオシアナート(fluorescein isothiocyanate)(FITC、シグマアルドリッチ、セントルイス、ミズーリ州、USA)と結合させた70kDaデキストランを10μg/mLの濃度で流体チャネルにローディングした状態で1時間インキュベートする前後で蛍光画像を撮影した。ハイドロゲルアイランド内の蛍光強度は倍率変化(60分時点を0分時点で割る)として表現し未処理対照で正規化した。
【0070】
(実施例3A)
実施例2Aについての、囲い込まれ型マイクロチャネル内の段差ベースハイドロゲルパターン化の結果についての議論。
【0071】
ECM/ハイドロゲルは微小柱(micropillar)または微小構造を一切用いず、チャネル高さの急拡大によって規定されたマイクロチャネル領域内に位置を制限できる。簡潔に述べると、2層のPDMSデバイスを伴うこと、およびハイドロゲルチャネルと流体チャネルの界面における段差形状部を伴うことで底層に導入したECMが、z軸に沿ったチャネル急拡大により与えられるCBV効果により前記段差で位置を制限される。
【0072】
ここでは、隣接する複数(>2)のハイドロゲルレーンをパターン化するための本技術のスケールアップ可能性を検討した。比較的浅いチャネル(中央)内でのハイドロゲル位置制限(I型コラーゲン)のために2ステップフォトリソグラフィー法を用いて、3つの平行チャネルと約30μmの段差形状部(黄色矢印)を備えるマイクロ流体プラットフォームを製造した(
図12A,
図12H、
図12I)。続いて内皮細胞(HUVEC)をコラーゲン両側の2つの流体チャネル内で培養することで臓器チップへの応用のコンセプトの証明として3D内皮バリアを構築した(
図12G)。
【0073】
次に異なるハイドロゲルのパターン化処理について1×PBS、I型コラーゲン(1mg/mL、2mg/mL、3mg/mL)、マトリゲル(2mg/mL、4mg/mL、6mg/mL、8mg/mL)のローディング速度を特徴づけることにより検討した。試験した全ゲル条件で本デバイス内に成功裏に位置が制限され、このことは本技術の汎用性を示す。予想されるようにコラーゲンとマトリゲルの両方で比較的高い粘度に起因する濃度依存的なローディング速度の減少がみられ当該速度は約3.78×10
-3~2.04×10
-2m/sの範囲に及ぶ(
図12Bおよび
図12C)。
【0074】
共培養のためのまたは微小環境のモデル構築のための微小柱に基づく複数レーンハイドロゲルパターン化処理は他者によって報告されている(
図13の一番左の図を参照)。この本実施例はハイドロゲルの複数レーンパターン化のために段差を用いることを例示する。当該ハイドロゲルパターン化の原則に基づき流体チャネルを備えるマイクロ流体設計において前記流体チャネルの両側にハイドロゲルのレーン数が奇数の場合は1段の段差形状部を検討し、ハイドロゲルのレーン数が偶数の場合は2段の段差形状部を検討した(
図12D)。これを例示するために1段の段差(約25μm)を備える3レーンハイドロゲルチップを製造した(
図12H、
図12I)。3レーンハイドロゲル(赤色色素または緑色色素で満たされたコラーゲン)の一連のパターン化処理が達成され(
図12Eと
図12F)、ヒト肺線維芽細胞(HLF)を含有するハイドロゲル2レーンと、それらの間に挟まれた細胞を含まないハイドロゲルとをパターン化することによって前記チップは3D細胞培養を実演するために用いられた(
図12G)。そのプラットフォームは3D細胞遊走アッセイに潜在的に有用である。
【0075】
(実施例3B)
実施例2Aについての開放型チャネルマイクロアレイチップでの迅速な「プレスオン」・ハイドロゲルパターン化処理の結果に対する議論。
【0076】
本方法は、マイクロパターン化PDMS基材とスライドガラスを用いた開放型チャネルにおける1ステップ「プレスオン」・ハイドロゲル位置制限に適応された。PDMS基材はまず、個々の「ハイドロゲルアイランド」を形成するゲルパターン化処理に必要な突出した段差形状部を有するようにパターン化された。簡潔に述べるとハイドロゲル液滴をPDMS開放面の突出形状部(アイランド)上に載せ、その後当該デバイスをさっと裏返しスライドガラス上にプレスする(press on)。
【0077】
ハイドロゲルが接触すると、チャネル高さの差異に起因する表面張力によってハイドロゲルはアイランド内に制限された状態を維持する(
図14A)。堅牢なゲルローディングとプレスオン・ゲル位置制限のため、メインチャネルのチャネル高さとハイドロゲルアイランドのチャネル高さはそれぞれ約530μmと約340μmに設定され、その結果段差が約190μmになる(
図14B)。載せたゲル体積は各アイランドの面積とチャネル高さで計算する(約2.5μL)。
【0078】
成功したゲルローディングとプレスオン・ゲル位置制限は、食用色素を混合したI型コラーゲン(3mg/mL)を用い実演されユーザーは希望に応じて異なるゲルを各アイランドにスポットできる(
図14B)。特筆すべきは開放面/開放型チャネルにゲルをローディングするプロセスは、ユーザーがゲルをローディングする際の圧力を制御する必要がないため従来の囲い込まれ型マイクロチャネルにおけるゲルパターン化処理と比較して極めて容易であり、そしてゲルローディング速度を電動ピペットの使用によりさらに上昇させることが可能である。
【0079】
ハイドロゲルパターン化処理の汎用性を検討するためにハイドロゲルアイランドの形状を変更した。結果によるとハイドロゲルパターン化処理は円形、正方形、長方形、五角形を含む異なる形状でも成功した一方で、角度が60度よりも小さい形状(例えば正三角形)についてはまだ使用可能ではあるが比較的望ましくなかった(
図14C)。前記正三角形についてフィレット半径0.6mmのパターン化ハイドロゲルが形成され、これはハイドロゲル自体の表面張力の性質に起因すると考えられる。
【0080】
直径と各アイランド間の縁距離とを含む、円形アイランドに係る寸法パラメータを検討した。円形アイランドは本来アイソメトリックであり従来のハンギングドロップスフェロイド培養に類似した凹状面(ドーム状)を形成可能であるため円形アイランドを後述の研究のために選択した。ハイドロゲルは1.5mmより大きい円直径について成功裏にパターン化でき(
図3A)、隣接するパターン化ハイドロゲルは縁距離が0.5mmよりも大きい場合こぼれないことが示された(
図3B)。
【0081】
さらに、異なる架橋メカニズム(熱または紫外線)を有するハイドロゲル(I型コラーゲン、マトリゲル、ゼラチンメタクリロイル)を前記円形アイランド内で成功裏にパターン化できることを示した(
図4)。
【0082】
(実施例3C)
実施例2Aについてのプレスオン・ハイドロゲルパターン化処理を用いたゲル内スフェロイド培養用アレイの結果に対する議論。
【0083】
3Dがん細胞スフェロイドを培養するアプローチの1つはハンギングドロップ法である。簡潔に述べると、がん細胞懸濁液の液滴をペトリ皿カバー上にスポットし、凹状面において重力による細胞凝集およびスフェロイド形成が可能になるように裏返す。本実施例ではPDMS基材上での突出したアイランド形状部を用いたオンチップ・ハンギングドロップ培養用アレイを開発した。
【0084】
スフェロイドハンギングドロップ培養は平らで疎水的なPDMS表面で実施できるが、突出したアイランドが、ガラス基材との接触に起因するCBV効果によりハイドロゲルの位置制限を達成するための段差を提供することが望ましい。次にゲル内スフェロイドアイランドのアレイは、囲い込まれ型チャネル内におけるパターン化アイランドの外で接着細胞(例えば内皮細胞)の共培養を促進できる。
【0085】
本プラットフォームを用いることでがん細胞懸濁液を突出アイランド上に直接ローディングし液滴として制限された状態を維持した(
図14D)。ハンギングドロップ培養におけるスフェロイド形成により培地の一部が蒸発によって除去され、その結果スフェロイドを封入するためにハイドロゲルを前記アイランド上に載せることが可能になった。前記ハイドロゲルが架橋された時点で培地をチャネル内にローディングしてもよく、スフェロイド培養のために培地はハイドロゲルを通して拡散させることができる。突出したアイランド形状部に加えて、開発したゲル内スフェロイドチップにおいてスフェロイドの中央集中を促すために中央集中型マイクロウェルを追加した。
【0086】
(実施例3D)
実施例2Aについてのオンチップ・スフェロイドハンギングドロップ培養の結果に対する議論。
【0087】
液滴形状がスフェロイド形成に影響を与える可能性があるため、まず液滴体積、円形アイランドの直径、PDMS表面の疎水性度合いを変更することによって液滴高さと接触角を調整可能かどうか検討した。本デバイスの手作業での操作の間にスフェロイドの中央集中を促すため、パターン化アイランドは追加のマイクロウェル形状部を有する。疎水的表面により、調査した4つの体積(1μL、2μL、3μL、4μL)について1.5mmより大きな直径のアイランド上での液滴形成が可能になった一方、親水的表面について2mmより大きな直径のアイランド上でしか液滴が形成されなかった(
図15A)。
【0088】
親水的表面は湿潤性が比較的高いことに起因し液滴高さも比較的低い(
図15Bおよび
図16)。それゆえ液滴高さと接触角のより広い範囲での到達可能性を理由に親水的表面を後述のスフェロイド実験に用いた(
図15B)。次に本実施例では乳がん細胞株(MCF-7)を用いたオンチップ・スフェロイド形成を成功させるためにがん細胞数と液滴高さを検討した。規定量のMCF-7細胞懸濁液をまずアイランド上にローディングしハンギングドロップ培養のため2日間裏返した状態にした。興味深いことにスフェロイド形成には細胞数に関わらず最小液滴高さ1.35±0.0075mmが必要であることが観察された(
図15C)。それゆえ最適なスフェロイド形成のため直径2mmの円形アイランド上での細胞懸濁液の体積が3μLになるように設定した。
【0089】
ハイスループット研究のコンセプトの証明としてのゲル内スフェロイドチップの最終構成では5つの平行なメインチャネルを備え各チャネルが6つの個別の円形ハイドロゲルアイランドを備える(
図17A)。前記メインチャネルのチャネル高さは約930μmであると同時にマイクロウェルのチャネル高さが約820μmであることにより様々なサイズのスフェロイドを収容する(
図18)。オンチップ・ハンギングドロップ法に段差ベースハイドロゲルパターン化処理を同一プラットフォーム上で組み合わせるために、ハイドロゲル添加前に各アイランド上の培地を除去した。
【0090】
2日間のハンギングドロップ培養後スフェロイド形成に成功すると(
図17B)、本実施例では37℃5%CO
2インキュベーター、安全キャビネット、顕微鏡室(室温)を含む3つの異なる環境における培地蒸発速度を調べた。20分後、3つすべての環境で液滴高さについて少なくとも50%の減少がみられ、安全キャビネットが最も高い蒸発速度を有したが、これはおそらく他の対流気流に起因するものであろう(
図15C)。
【0091】
アイランド形状部の外に培地がこぼれることを回避するためにハイドロゲル添加前に培地の一部を除去する蒸発ステップが重要であった。あらゆる悪影響を最小化するためにスフェロイドが培地内に含有された状態を維持することを保証する目的で本プロセスもまた慎重に行われた。特筆すべきは培地中の可溶性因子の濃度の一時的な上昇が細胞代謝に影響を与える可能性があることであり、これをさらに調査することができる。
【0092】
培養したスフェロイドに対する最小ダメージを保証するため、残りの実験の間、37℃インキュベーター中で培地蒸発を行った。次にI型コラーゲン(2μL)を各アイランドに添加してスフェロイドを封入し、その後「プレスオン」・ゲルパターン化処理を用いてチャネルを囲い込み、スフェロイド含有コラーゲンをスライドガラスに対して固定した。
【0093】
意図したとおりスフェロイドはマイクロウェル領域内に制限された(
図15D)。スフェロイドの位置がハイドロゲルアイランド内で異なりうるため、前記スフェロイドの位置が分子取り込みに影響を与えうるかどうかを調査する目的で拡散試験(diffusion study)を実施した。FITC(約400Da)を含むスフェロイドおよびFITC-10kDaデキストランを含むスフェロイドを24時間インキュベートすることによって、スフェロイドの位置に依らない効果的な拡散およびスフェロイドへの両分子の取り込みが観察された(
図19)。
【0094】
(実施例3E)
実施例2Aについてのゲル内スフェロイド形成および内皮細胞との共培養の結果に対する議論。
【0095】
次に本実施例ではin vivoで観察されるような腫瘍を取り囲む血管バリアを再構築するため、内皮細胞とのスフェロイドの共培養を実施する実現可能性を調査した。細胞共培養のため、別の細胞は一般的な培地を用いて適切に再び満たされなければならない。同様にして、異なる培地(DMEM(がん細胞用)、EGM-2(内皮細胞用)、DMEM+DGM-2(1:1))を4日間導入し7日目にスフェロイド生存率を測定した。3つ全ての被験培地についてスフェロイドが7日わたって最小の細胞死であることが観察できた(
図20)。内皮細胞の最適な増殖を保証するためにEGM-2培地をスフェロイドと内皮細胞の共培養のために用いた。
【0096】
チャネル底部と、MCF-7ゲル内スフェロイドアイランドのゲル表面に沿った場所と、で単層を形成させるためヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)は流体チャネル内に導入された。予想されるようにHUVECのコンフルエント状態の層は2日後、接着結合マーカー(VE-カドヘリン)存在下で(
図23)スフェロイドECM領域を取り囲んで形成された(
図21Aと
図22)。このことは本プラットフォームを用いたゲル内スフェロイド共培養を確立する実現可能性を示す。
【0097】
薬剤スクリーニングへの応用コンセプトの証明として、HUVEC共培養を伴うまたは伴わないスフェロイドを3日間パクリタキセル(PTX)処理した後前記スフェロイドの生存率を調べた。LIVE/DEAD(登録商標)染色(カルセインAM/PI)によると単培養スフェロイドで薬剤濃度が高くなるにつれてMCF-7の細胞死が増加することが観察されHUVECとの共培養スフェロイドは内皮細胞(EC)の細胞死が増加することが観察された(
図21B、
図21D)。スフェロイドのカルセインAM強度の定量はさらに、単培養と比較して顕著な差は観察されなかったものの共培養においてスフェロイドの生存率がより良くなる傾向を示した。
【0098】
これは、取り囲むHUVECによる内皮バリアまたは傍分泌効果の存在に起因する可能性があり、このことは生理的微小環境において薬剤スクリーニング研究を行う重要性を示す(
図21C、
図21D)。LIVE/DEAD(登録商標)染色(カルセインAM/PI)によると薬剤濃度が増加するにつれてMCF-7と内皮細胞(EC)の細胞死が増加することが観察された(
図21B、
図21D)。スフェロイドのカルセインAM強度の定量はさらに、単培養と比較して顕著な差は観察されなかったものの共培養においてスフェロイドの生存率がより良くなる傾向を示した(
図21C)。
【0099】
また、薬剤処理した単培養と共培養のスフェロイド間でPI強度の差は無視できる程度であり(
図24)、これは赤色のバックグラウンドノイズが高かったことおよび使用した2Dイメージング法の感度が限定的であったことに起因するであろう。最後に、内皮細胞(EC)の細胞死増加(
図21D)により、ハイドロゲルアイランドへのFITC-デキストラン70kDaの拡散(
図25)に基づく内皮バリアの完全性も損なわれた。もし白血球が培養プラットフォームに存在すればこのバリアの破綻はスフェロイドと免疫細胞の相互作用に影響を与えるであろう。このことは将来の仕事として腫瘍微小環境のより良いモデル構築のために免疫要素を添加することの重要性を示す。
【0100】
ゲル内スフェロイドプラットフォームにおける可逆的な結合のおかげでPDMS基材はスライドガラスから分離可能であるため、個々のスフェロイド含有ゲルをピンセットを用いて手作業で回収できることを例示する(
図26)。この特徴、すなわち選択したスフェロイドとECMの回収が、ECM内の腫瘍および免疫/血管周囲細胞の両方の特徴を明らかにするための下流がん免疫研究にとって重要な因子であると想像される。
【0101】
(実施例4)
実施例2Aについての結果の議論のまとめ。
前述の実施例において段差に基づくハイドロゲルパターン化技術が、囲い込まれ型マイクロチャネルにおける3D細胞培養用の、および開放型チャネルにおけるゲル内スフェロイド培養用の、異なるチップ構成を生成するために開発された。本実施例で記述される段差に基づく方法では、複数の高さのパターン化形状部を備えるウエハ鋳型を製作するために標準的なフォトリソグラフィーを用い、最終デバイスを得るために1ステップPDMSソフトリソグラフィーを用いる。それゆえ当方法は、標準的なフォトリソグラフィーとソフトリソグラフィーを広く用い容易に使用できる研究所によって容易に採用できる。
【0102】
二重レーン段差ベースハイドロゲルチップが動脈壁オンチップ(arterial wall-on-a-chip)用に報告されているが、本実施例では単一または二重の段差を用いて隣接する複数のハイドロゲルレーンをパターン化する本方法のスケールアップ可能性をさらに示した。隣接する3つのハイドロゲルレーンをパターン化するため、射出成型された培養プラットフォームが報告されているが、このプラットフォームは最初の2レーンに異なる2つのハイドロゲルをパターン化できる柔軟性を欠いている。
【0103】
加えて側方ハイドロゲルレーンと中央ハイドロゲルレーンの高さは15倍異なり、異なるハイドロゲルレーン間の細胞-細胞間または細胞-ECM間相互作用を潜在的に妨げることができる。ここで、段差形状部が上側のPDMSチャネルに存在するので、チャネル底部における細胞単層のイメージングに係る技術的問題が最小化され、さらに底部基材に臓器チップデバイスのリアルタイムバイオセンシング性能のための電極センサーの集積がしやすくなる。
【0104】
第二に本実施例はこの段差に基づくハイドロゲルパターン化方法が寸法の点でスケールアップ可能であること、および3Dゲル内スフェロイド培養用アレイを確立するための開放型チャネルでの操作に適応可能であることを例示した。本研究において例示された培養プラットフォームはスフェロイド培養のために5つのメインチャネルを備え各チャネルが6つのアイランドを含有するように構成される。前記構成は必要に応じて容易に修正できスケールアップ可能である。ハイドロゲルパターン化形状部を備えないPDMSに基づくハンギングドロップ培養プラットフォームが報告されたが、そのような培養システムではスフェロイド封入後に囲い込むことができず、それゆえ還流培養や他の細胞種を有するスフェロイドの共培養を実行できない。
【0105】
本実施例では単純で迅速なプレスオン・ハイドロゲル位置制限法を用いて、(1)異なるハイドロゲルアイランド形状をパターン化できる汎用性、(2)オンチップ・スフェロイド形成と所定位置へのゲル封入を統合することで各スフェロイドをゲル内に手作業で移動させる必要を回避すること、(3)別の細胞種との共培養を実行できる柔軟性、(4)チップ外での下流分析のための個々のスフェロイドの回収、を含む特性を達成した。
【0106】
せん断力が内皮機能において役割を果たすので今回開発したプラットフォームにおいて水流(流速最大500μL/minで5分間)の下でハイドロゲルアイランドが剥がれ落ちないであろうことが例示され(
図27)、このことは還流培養を実施できる潜在力を示す。他には共焦点イメージングを用いてハイドロゲルアイランド内の3Dスフェロイド構造を識別できる潜在力がある。最後に本実施例では3日間の薬剤処理後の毒性効果を例示したが、将来スフェロイドの薬剤応答の長期モニタリングを実行することに大変興味を惹かれている。
【0107】
総合すると、ゲル内スフェロイド培養のプラットフォームは前記プラットフォームの単純な製造および単純な操作ステップのおかげで、およびハイスループット研究のためのスケールアップ可能性を残しつつ生理学的妥当性のために必要な生物学的複雑さを保存する性能のおかげで既存のスフェロイド培養プラットフォームを上回る説得力のある効果を提供する。開発したハイドロゲルパターン化技術およびプラットフォームは基礎研究と、高用量の薬剤スクリーニング等の臨床フェーズ移行研究との両方で大変興味深いと考えられる。
【0108】
(実施例5)
ゲル内スフェロイド培養用流体チャネルにおけるマイクロパターン化3Dハイドロゲルマイクロアレイの別の非限定的な実施例。
【0109】
本技術の柔軟性をさらに模索するため曲線状チャネルにおけるハイドロゲルパターン化を検討した。コンセプト証明のため2重レーンのハイドロゲルチップは、円形チャンバーを取り囲む3つの同心円チャネルを備える曲線状デザインに適応された(
図28A)。この構成は、直線状チャネルを伴う2重レーンハイドロゲルチップと同様に3ステップフォトリソグラフィー法を用いて製造できる(
図28B)。この構成は、還流培養を実行する柔軟性を有する、動脈断面を再構築するような臓器チップ応用に非常に役立つであろう(
図28C)。そのうえ以前報告において表面曲率が細胞(上皮細胞、線維芽細胞、気道平滑筋細胞(air way SMC)など)と組織の時空間的な組織化を導くのに役割を果たすことが示された。それゆえ、この構成は曲線状界面に起因する細胞挙動(増殖、配向、遊走等)の変化を研究するためにも役立つであろう。さらに血管モデルを構築するよう意図した応用に加え、この構成は創傷治癒のような別の生物学的現象を研究するために役立つであろう。この創傷治癒では界面の曲線が、細胞挙動を導くメカノバイオロジー的な手がかりを提供するのに役割を果たすことが知られている。
【0110】
せん断力の役割に係る研究を促進するためにECMの側壁上でより多くの細胞を増殖させることが望ましい(
図28C)。それゆえチャネル高さと段差はこのチップのためにそれぞれ約500μmと約50μmで製作した。予想通り一連のハイドロゲルパターン化処理は、コラーゲンがローディングされた2つのハイドロゲルチャネルを備える曲線状チャネル(第1ハイドロゲルチャネルは半透明な見た目、第2ハイドロゲルチャネルは透明な見た目)の中で達成された(
図29)。
【0111】
曲線状チャネルではゲルが移動する軌道が円弧状になる。それゆえハイドロゲルパターン化の成功に必要なチャネル幅は、直線状チャネルで必要な幅とは異なるであろう。これを調査するためチャネル幅とルーメン直径が異なる5つの構成においてハイドロゲルパターン化を試験した。まず、ゲルを第1ハイドロゲルチャネルにローディングし、ゲルが溢れ始めたらすぐにやめた。続いてゲルを重合化させ、そしてゲルの移動距離を計測した。チャネル幅650μmと1mmについてゲルが中央のルーメンに溢れることが観察された一方で、チャネル幅1mmについてゲルは前記チャネルの中間点に到達するまでに溢れることはなかった(
図30A)。チャネル幅>1.5mmについてゲルは隣接チャネルに溢れることなくうまく開始点から終着点まで移動することが可能である(
図30A)。チャネル幅1mmについてゲルがチャネルの中間点に到達可能であるため、ゲルを一方のインレットからローディングしてチャネル長さの半分をみたし、その後残り半分を他方のインレットからローディングすることが提案された。想像通りチャネル幅1mmのチップを、この「2箇所のインレットローディング法(two-inlet loading)」法を用いて確実にローディング可能である(
図30B)。第1レーンのコラーゲン(見た目が半透明)のパターン化および重合化した後、第2レーンのコラーゲン(見た目が透明)もまた前記「2箇所のインレットローディング」法を用いて成功裏にパターン化できた(
図30B)。
【0112】
次に同一のチャネル幅および異なるルーメン直径を有する2つのチップ(3/1/1と4/1/1)を用いてルーメン直径がゲルの移動距離に影響を与えるかどうか解明した。1箇所のインレットローディング法(one-inlet loading method)を用いてコラーゲンを前記チップにローディングし、コラーゲンが溢れたらすぐにゲルローディングを止めた。その結果4/1/1に係るゲルの移動距離は3/1/1よりも顕著に長かった(4/1/1は5.65±0.21mm、一方3/1/1は4.92±0.35mm)(
図31Aと
図31B)。
【0113】
上述の通り曲線状のチャネルチップの顕著な効果とは、ルーメンを通して還流培養を実行することによって流体の流れを培養システムに組み込む実現可能性があることである。チューブと流量調節器との接続を可能にするために貫通孔はルーメン領域のPDMSを除去する工程によって形成可能である。ルーメン領域でのPDMS除去により、第1ハイドロゲルチャネルに係る段差由来のCBV効果がより大きくなったことから、ゲルパターン化特性がまだ変化していないと期待される。予想通り貫通孔ルーメンを有する全てのデザインについて同一の結果に達した(
図32)。
【0114】
本チップを用いて還流培養を実行する実現可能性を検証するためにチップ(4/1.5/1.5)には、両方のチャネルにコラーゲンがローディングされ、液体漏出を回避するため還流前にインレットを棒で密封した(
図33A)。10mL/minで5分間連続して還流してもゲルがずれたり破壊されたりすることなく無傷の状態のままであることが観察され、同時にチップ全体における赤色色素の拡散により裏付けられる中央ルーメンから外側チャネルへの液体の効率的拡散が確立された(
図33C)。
【0115】
(実施例6)
商業的応用と潜在的応用。
本明細書で示されたゲル内スフェロイド培養プラットフォームはがん研究用または幹細胞オルガノイドのような他の3D細胞モデル用のハイスループットな機械論的研究と薬剤スクリーニングを促進するためにバランスを取られる。本プラットフォームはハイスループット研究のためのスケールアップ可能性を残しつつ、生理学的妥当性のために必要な生物学的な複雑さを保存する性能のおかげで既存のin vitroスフェロイド培養プラットフォームを上回る説得力ある効果を提供する。それゆえ基礎科学研究(機械論的研究)と臨床フェーズ移行研究(高用量の薬剤スクリーニング)の両方について本プラットフォームは大変興味深いと考えられる。
【0116】
本開示は特に特定の実施形態に関連して表現および記述してきたが、添付した特許請求の範囲に規定されるような本開示の精神と範囲から出発することなく形態および詳細の様々な変更を本開示に加えてもよいということを当業者は理解するべきである。本開示の範囲は、添付した特許請求の範囲によって上述のように示され、それゆえ前記特許請求の範囲と同等の意味と範囲内に起因する全ての変更を採用することが意図される。
【国際調査報告】