(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-25
(54)【発明の名称】強度促進不織布
(51)【国際特許分類】
D04H 3/011 20120101AFI20240418BHJP
D04H 3/14 20120101ALI20240418BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20240418BHJP
D01F 6/92 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
D04H3/011
D04H3/14
D01F8/14 B
D01F6/92 301F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023569889
(86)(22)【出願日】2022-05-13
(85)【翻訳文提出日】2023-12-27
(86)【国際出願番号】 CZ2022050052
(87)【国際公開番号】W WO2022237925
(87)【国際公開日】2022-11-17
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CZ
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522342086
【氏名又は名称】ピーエフノンウーヴンズ ホールディング スポレチノスト エス ルチェニム オメゼニム
(71)【出願人】
【識別番号】307036487
【氏名又は名称】ピーエフノンウーヴンズ チェク スポレチノスト エス ルチェニム オメゼニム
(74)【代理人】
【識別番号】110002398
【氏名又は名称】弁理士法人小倉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポラスコヴァ,ニコル
(72)【発明者】
【氏名】コラリク,ローマン
(72)【発明者】
【氏名】カウシュケ,ミヒャエル
【テーマコード(参考)】
4L035
4L041
4L047
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035DD01
4L035EE01
4L035FF06
4L035JJ20
4L041BA02
4L041BA05
4L041BA09
4L041BA21
4L041BB07
4L041BC04
4L041BD04
4L041CA15
4L041CB11
4L041DD05
4L047AA21
4L047AA27
4L047AA29
4L047AB03
4L047BA08
4L047CB01
4L047CC03
4L047CC08
4L047CC16
4L047EA05
4L047EA10
(57)【要約】
エンドレス繊維及び接着圧痕又は接着点を含む不織布(21)であって:
前記エンドレス繊維は,脂肪族ポリエステルを少なくとも80重量%含有し,
前記エンドレス繊維は,繊維表面の少なくとも55%を占める第1成分を含有し,前記第1成分は少なくとも1種の脂肪族ポリエステル及び少なくとも0.1重量%の添加剤を含有し,
前記添加剤はアミド基を含み,
前記添加剤は下記一般式(i)又は(ii)又は(iii)に対応し,
(i)R1‐(CO)‐NH2
(ii)R1‐CO‐NH‐R2
(iii)R1‐(CO)‐NH‐R3‐NH‐(CO)‐R2
式中,R1,R2,及びR3は脂肪族炭化水素鎖である
不織布(21)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドレス繊維及び接着圧痕又は接着点を含む不織布(21)であって:
前記エンドレス繊維は,脂肪族ポリエステルを少なくとも80重量%含有し,
前記エンドレス繊維は,繊維表面の少なくとも55%を占める第1成分を含有し,前記第1成分は少なくとも1種の脂肪族ポリエステル及び少なくとも0.1重量%の添加剤を含有し,
前記添加剤はアミド基を含み,
前記添加剤は下記一般式(i)又は(ii)又は(iii)に対応し,
(i)R1‐(CO)‐NH
2
(ii)R1‐CO‐NH‐R2
(iii)R1‐(CO)‐NH‐R3‐NH‐(CO)‐R2
式中,R1,R2,及びR3は脂肪族炭化水素鎖である
不織布(21)。
【請求項2】
不織布(21)であって,
a.R1は,炭素原子数が少なくとも10個,より好ましくは少なくとも12個,最も好ましくは少なくとも15個である長さを有する脂肪族炭化水素鎖であり;及び/又は
b.R2は,炭素原子数が少なくとも10個,より好ましくは少なくとも12個,最も好ましくは少なくとも15個である長さを有する脂肪族炭化水素鎖である
ことを特徴とする請求項1記載の不織布(21)。
【請求項3】
不織布(21)であって,
a.R1は,炭素原子数が30個以下,好ましくは25個以下である長さを有する脂肪族炭化水素鎖であり;及び/又は
b.R2は,炭素原子数が30個以下,好ましくは25個以下である長さを有する脂肪族炭化水素鎖である
ことを特徴とする請求項1又は2記載の不織布(21)。
【請求項4】
不織布(21)であって,
a.R1は直鎖脂肪族鎖であり;及び/又は
b.R2は直鎖脂肪族鎖であり;及び/又は
c.R3は直鎖脂肪族鎖である
ことを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載の不織布(21)。
【請求項5】
不織布(21)であって,
a.R1は飽和脂肪族鎖であり;及び/又は
b.R2は飽和脂肪族鎖であり;及び/又は
c.R3は飽和脂肪族鎖である
ことを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載の不織布(21)。
【請求項6】
R1及び/又はR2は,炭素原子数が10~30個,好ましくは15~25個である直鎖飽和脂肪族鎖であることを特徴とする請求項1~5いずれか1項記載の不織布(21)。
【請求項7】
前記第1成分は前記添加剤を少なくとも0.15重量%,より好ましくは少なくとも0.20重量%,最も好ましくは少なくとも0.25重量%含有することを特徴とする請求項1~6いずれか1項記載の不織布(21)。
【請求項8】
前記第1成分は前記添加剤を10%以下,より好ましくは5%以下,最も好ましくは1%以下含有することを特徴とする請求項1~7いずれか1項記載の不織布(21)。
【請求項9】
前記第1成分は,前記繊維表面の少なくとも70%,好ましくは前記繊維表面の少なくとも85%,より好ましくは前記繊維表面の少なくとも90%,最も好ましくは前記繊維表面の少なくとも95%を占めることを特徴とする請求項1~8いずれか1項記載の不織布(21)。
【請求項10】
前記第1成分は,芯‐鞘型繊維の二成分繊維中で鞘を構成することを特徴とする請求項1~9いずれか1項記載の不織布(21)。
【請求項11】
前記第1成分は,並列型繊維の二成分繊維中で一方側を構成することを特徴とする請求項1~9いずれか1項記載の不織布(21)。
【請求項12】
前記エンドレス繊維はポリマー構成成分を少なくとも90重量%,より好ましくはポリマー構成成分を少なくとも95重量%,最も好ましくはポリマー構成成分を少なくとも99重量%含有することを特徴とする請求項1~11いずれか1項記載の不織布。
【請求項13】
前記第1成分は冷結晶化熱の値が異なる複数の脂肪族ポリエステルの混合物を含有することを特徴とする請求項1~12いずれか1項記載の不織布。
【請求項14】
前記第1成分は,PLA,又は冷結晶化熱の値が異なる少なくとも2種のPLAの組み合わせを含有することを特徴とする請求項1~13いずれか1項記載の不織布。
【請求項15】
前記添加剤は一般式(iii)に対応し,R3は炭素原子数が1~3個,好ましくは2個である長さを有する脂肪族炭化水素鎖であることを特徴とする請求項14記載の不織布(21)。
【請求項16】
前記添加剤はN,N’‐エチレンビス(ステアリン酸アミド)であることを特徴とする請求項15記載の不織布(21)。
【請求項17】
前記添加剤は一般式(i)に対応し,R1は炭素原子数が10~30個である長さを有する飽和脂肪族炭化水素鎖であることを特徴とする請求項14記載の不織布(21)。
【請求項18】
前記添加剤はベヘンアミドであることを特徴とする請求項17記載の不織布(21)。
【請求項19】
前記第1成分はPLAと別の脂肪族ポリエステルとの混合物から成ることを特徴とする請求項1~18いずれか1項記載の不織布(21)。
【請求項20】
第2成分を含有し,前記第1成分の溶融温度は前記第2成分のものより低いことを特徴とする請求項1~19いずれか1項記載の不織布(21)。
【請求項21】
前記第2成分は少なくとも1種の脂肪族ポリエステル,好ましくはPLA又は冷結晶化熱の値が異なる様々な種類のPLAの混合物を含有することを特徴とする,請求項20記載の不織布(21)。
【請求項22】
不織布(21)の製造方法であって:以下の工程:
a)エンドレス繊維を製造するための材料を調製する工程であって,前記材料は少なくとも80重量%のポリマー構成成分を含有し,前記エンドレス繊維の第1成分の構成成分を含有し,前記第1成分は,少なくとも1種の脂肪族ポリエステル,及び前記第1成分の総量に対して少なくとも0.1重量%の量の添加剤を含有し,前記添加剤はアミド基を含み,下記一般式(i)又は(ii)又は(iii)に対応し,
(i)R1‐(CO)‐NH
2
(ii)R1‐(CO)‐NH‐R2
(iii)R1‐(CO)‐NH‐R3‐NH‐(CO)‐R2
式中,R1,R2,及びR3は脂肪族炭化水素鎖である,工程;
b)前記第1成分の少なくとも前記構成成分を溶融及び混合する工程;
c)少なくとも前記第1成分を紡糸口金のノズルに送り,そこで前記エンドレス繊維を形成し,前記第1成分は前記表面の少なくとも55%を構成し,次いでこのように形成した繊維を冷却及び延伸した後,移動ベルト上に集積する工程;並びに
d)その後,このように形成したバットを熱接着する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項23】
前記工程d)では,カレンダ処理及び/又は熱風により前記バット(21)を接着することを特徴とする請求項22記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,熱接着効率が高い脂肪族ポリエステルを含有し,布地の強度を高めるスパンメルト型熱接着不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布の強度又は機械的耐性は,特に2つの主要な要因により決定される。第1の要因は,繊維自体(ポリマー組成及びその結晶化の特性,分布のタイプ,繊維の太さ)に起因する。バイオポリマー,特にポリ乳酸(PLA)などの脂肪族ポリマーに関し,例えば,米国出願の米国特許第7994078号のKimberly-Clark社の特許が知られており,これは繊維,ひいては不織布の品質を向上させるための脂肪族ポリエステルの好適な混合物(複数の結晶性ポリマーと非晶質ポリマーとの組み合わせ)を記載している。上記の混合物は単成分繊維中で,又は様々に組み合わせた二成分繊維中で使用可能であり,ここでは,繊維の表面上に更に非晶質で更に融点が低い構成成分を使用することが望ましい。
【0003】
得られた不織布の機械的特性に基本的に影響を与える第2の要因は,繊維同士の相互接着である。本開示の目的上,熱接着に関する説明は,繊維の一部が溶融し,繊維の軟化した部分又は更に溶融した部分が接合して接着領域を形成する熱接着に限定している。非常に一般的なタイプの接着は,例えば一対のカレンダローラにより行うものであり,これは温度の効果に加えて圧力も利用し,カレンダローラの一方又は両方の突起がいわゆる接着圧痕を提供する。別の公知の方法としては,例えば,熱風が布地全体を通過する熱風接着が挙げられ,ここでは繊維同士の接触点に接着点が形成される。接着の方法及び様々な利点は,例えば文献WO2012130414又はWO2017190717に開示されており,これら文献は平滑な接着ローラと突起付きローラの対により形成される接着圧痕の様々な形状及び分布の利点を強調している。熱風接着及びその利点は,例えば,文献WO2020103964,又はチェコ国出願第PV2020‐591(未公開)に開示されている。
【0004】
発明の概要
本発明は,脂肪族ポリエステルと共に繊維を含有する不織布の強度を促進することを目的とし,エンドレス繊維及び接着圧痕又は接着点を含む不織布により本目的は達成し,前記不織布は:
前記エンドレス繊維は,脂肪族ポリエステルを少なくとも80重量%含有し,
前記エンドレス繊維は,繊維表面の少なくとも55%を占める第1成分を含有し,
前記第1成分は少なくとも1種の脂肪族ポリエステル及び少なくとも0.1重量%の添加剤を含有し,
前記添加剤はアミド基を含み,
前記添加剤は下記一般式(i)又は(ii)又は(iii)に対応し,
(i)R1‐(CO)‐NH2
(ii)R1‐CO‐NH‐R2
(iii)R1‐(CO)‐NH‐R3‐NH‐(CO)‐R2
式中,R1,R2,及びR3は脂肪族炭化水素鎖である。
【0005】
好ましくは,
a.R1は,炭素原子数が少なくとも10個,好ましくは少なくとも12個,より好ましくは少なくとも15個である長さを有する脂肪族炭化水素鎖である;及び/又は
b.R2は,炭素原子数が少なくとも10個,好ましくは少なくとも12個,より好ましくは少なくとも15個である長さを有する脂肪族炭化水素鎖である;及び/又は
c.R3は,炭素原子数が少なくとも1~7個,好ましくは1~3個である長さを有する脂肪族炭化水素鎖である。
【0006】
更に,以下の条件である場合に好ましい:
a.R1は,炭素原子数が30個以下,好ましくは25個以下,より好ましくは20個以下である長さを有する脂肪族炭化水素鎖である;及び/又は
b.R2は,炭素原子数が30個以下,好ましくは25個以下,より好ましくは20個以下である長さを有する脂肪族炭化水素鎖である。
【0007】
更に,以下の条件である場合に好ましい:
a.R1は直鎖脂肪族鎖である;及び/又は
b.R2は直鎖脂肪族鎖である;及び/又は
c.R3は直鎖脂肪族鎖である。
【0008】
好ましい実施形態によれば:
a.R1は飽和脂肪族鎖である;及び/又は
b.R2は飽和脂肪族鎖である;及び/又は
c.R3は飽和脂肪族鎖である。
【0009】
第1成分は添加剤を少なくとも0.15重量%,好ましくは少なくとも0.20重量%,より好ましくは少なくとも0.25重量%含有することが更に好ましい。
【0010】
好ましい実施形態では,第1成分は添加剤を10%以下,好ましくは5%以下,より好ましくは1%以下含有する。
【0011】
添加剤は,好ましくはN,N’‐エチレンビス(ステアリン酸アミド)である。
【0012】
この成分は,繊維表面の少なくとも70%,好ましくは少なくとも85%,より好ましくは少なくとも90%,更に好ましくは少なくとも95%を占めることが好ましい。
【0013】
好ましくは,芯‐鞘型の二成分繊維内で,第1成分は鞘を形成する。
【0014】
別の実施形態では,並列型の二成分繊維内で,第1成分は一方側を構成する。
【0015】
エンドレス繊維はポリマー構成成分を,少なくとも90重量%,好ましくは少なくとも95重量%,より好ましくは少なくとも99重量%含有することが好ましい。
【0016】
第1成分は冷結晶化熱の値が異なる複数の脂肪族ポリエステルの混合物を含有することが更に好ましい。
【0017】
また,第1成分は,PLA,又は冷結晶化熱の値が異なる少なくとも2種のPLAの組み合わせを含有し,最終的には,第1成分はPLA及び別の脂肪族ポリエステルから成ることも好ましい。
【0018】
特に好ましい実施形態では,不織布の繊維は第2成分を含有し,第1成分の融点は第2成分の融点より低い。
【0019】
第2成分は少なくとも1種の脂肪族ポリエステル,好ましくはPLA又は冷結晶化熱の値が異なる様々な種類のPLAの混合物を含有することが好ましい。
【0020】
上記の目的は,以下の工程を含む不織布の製造方法によっても達成される:
a)エンドレス繊維を製造するための材料の調製であって,この材料は少なくとも80重量%のポリマー構成成分を含有し,エンドレス繊維の第1成分の構成成分を含有し,第1成分は,少なくとも1種の脂肪族ポリエステル,及び第1成分の総量に対して少なくとも0.1重量%の量の添加剤を含有し,前記添加剤はアミド基を含み,下記一般式(i)又は(ii)又は(iii)に対応する;
(i)R1‐(CO)‐NH2
(ii)R1‐(CO)‐NH‐R2
(iii)R1‐(CO)‐NH‐R3‐NH‐(CO)‐R2
b)第1成分の少なくとも構成成分を溶融及び混合する;
c)少なくとも第1成分を紡糸口金のノズルに送り,そこでエンドレス繊維を形成し,第1成分は表面の少なくとも55%を構成する。次いで,このように形成した繊維を冷却及び延伸した後,移動ベルト上に集積する。ここでは,
d)その後,このように形成したバットを熱接着する。
【0021】
好ましくは,工程d)では,カレンダ処理,及び/又は熱風によりバットを接着する。
【0022】
定義
「バット」は本明細書では,互いに接着する前の複数の繊維材料を指すために使用する。「バット」は,通常,互いに接着していない個々の繊維から成るが,繊維間である程度は予備接着してもよく,この予備接着は,例えば,スパンメルトプロセスにおける繊維の敷設中又は敷設直後に行ってもよい。しかし,この予備接着はまだ相当数の繊維を自由に可動にし,繊維の位置を変えられる。「バット」は,スパンメルトプロセスにおいていくつかの紡糸ヘッドから繊維を集積することにより得られるいくつかの層から構成してもよい。個々のヘッドから敷設された複数の「副層」では繊維径の太さ及び空隙率の分布に有意な差はない。繊維の隣接する層同士は急激な遷移により互いに分離させる必要はなく,個々の層は境界付近の領域で部分的に混ざってもよい。
【0023】
「フィラメント」は基本的にエンドレス繊維を意味し,用語「ステープル繊維」は定義した長さに切断した繊維を指す。本明細書で使用する用語「繊維」と「フィラメント」とは互換的である。
【0024】
「繊維径」を表すには,国際単位系(SI)の長さ単位であるマイクロメートル(μm)又はナノメートル(nm)を使用する。用語「繊維径」又は「繊維の太さ」は,本明細書の目的上,互換的である。繊維が円形径を持たない場合,直径が円形である同等の繊維に対応する繊維径を考慮する。繊維の繊度又は粗度のレベルを表すには,用語「9000m当たりの繊維のグラム数」(タイターデニール(titr denier)又はTden又はden)又は「10000m当たりの繊維のグラム数」(dTex)を使用する。
【0025】
「単成分繊維」とは,二成分繊維又は多成分繊維と区別して,単一のポリマー構成成分又はポリマー成分の単一の混合物から形成した繊維を指す。
【0026】
本明細書における「混合物」又は「ブレンド」は通常,例えば複数種のポリマーをまとめて混合する場合に繊維中に含まれるポリマー材料を指す。これは,通常は少量である他の材料(例えば着色剤,プロセス添加剤,表面特性調整添加剤等)の添加を排除するものではない。ブレンドは,単成分繊維のみならず二成分繊維や多成分繊維にも使用できる。
【0027】
「二成分繊維」は,繊維径が,2種の個別のポリマー構成成分,ポリマー構成成分の2種の個別の混合物,又は個別のポリマー構成成分,及びポリマー構成成分の個別の混合物から成る繊維を指す。「二成分繊維」は一般的な用語「多成分繊維」に包含される。二成分繊維の断面は,例えば同軸配列,芯‐鞘配列,並列,「セグメントパイ」等の任意の形状又は配列の様々な構成成分から成る2つ以上の部分に分割できる。用語「主成分」は,繊維中で相対的に高い重量割合を占める構成成分を表す。
【0028】
「第1成分」は,単成分繊維の場合は単一成分であり,多成分繊維の場合は成分のうちの1種であるポリマー又はポリマー混合物を表す。
【0029】
「鞘‐芯構造」を有する二成分フィラメントは,その断面が2つの個々の部分的断面から成るフィラメントであり,各断面は,異なるポリマー構成成分又はポリマー構成成分の異なる混合物から成る。ここでは,芯を形成するポリマー構成成分又はポリマー構成成分の混合物は,鞘を形成するポリマー構成成分又はポリマー構成成分の混合物に取り囲まれている。例えば,用語「C/S 70/30」は,芯‐鞘配列の二成分繊維を表し,芯は繊維の70重量%を占め,鞘は繊維の30重量%を占める。
【0030】
「不織布」は方向性を有する配向又はランダムな配向の繊維から製造した布帛又は繊維層である。これらは初めにバットへと形成し,次いでまとめて一体化(consolidated)及び接着する。一体化及び接着は,摩擦,凝集力,接着,あるいは局所的な圧縮,及び/又は圧力,熱,超音波,もしくは加熱エネルギーの印加,もしくはこれらの組み合わせから生じる1種以上のパターンの接着及び接着圧痕により行う。この用語には,撚り糸又はフィラメントで製織,編み込み,又は縫製した布地は含まれない。繊維は天然由来でも人工由来でもよく,またステープルフィラメントでも連続フィラメントでもよく,又はその場で形成してもよい。市販の繊維は約0.0005mm~約0.25mmの直径を有し,いくつかの異なる形態:短繊維(ステープル繊維,又はチョップド繊維として公知),連続単繊維(フィラメント又はモノフィラメント),連続フィラメントの無撚束(トウ),及び連続フィラメントの撚束(撚り糸)がある。不織布は多数のプロセスにより形成可能であり,それらのプロセスとしてはメルトブロー,スパンボンド,スパンメルト,溶剤紡糸,電界紡糸,梳毛,フィルム細線維化,溶融フィルム細線維化,エアレイ処理,ドライレイ処理,ステープル繊維を用いたウェットレイ処理,及び当該技術分野で公知のこれらのプロセスの組み合わせが挙げられるが,これらに限定されるものではない。不織布の坪量は通常,1平方メートル当たりのグラム(gsm)で表す。
【0031】
「スパンボンド」プロセスは,ポリマーをフィラメントへと直接変換する工程を含む不織布の製造プロセスであり,変換の直後に,このようにして製造したフィラメントを敷設して,ランダムに配列したフィラメントから成る不織布バットを形成する。次いで,繊維間に接着を形成することにより不織布が形成されるように,この不織バットを強化する。強化プロセスは様々な方法,例えばエアスルー接着,接着ローラ間への通過等により実施できる。
【0032】
「フィラメント間接着」又は「接着点」とは,フィラメントが互いに交差しているか,又は局所的に接近もしくは当接している領域において,通常2本のフィラメントを連結する接着を指す。接着点/強化接着は,2本を超えるフィラメントを連結する場合も,同じフィラメントの2つの部分を連結する場合もある。従って,用語「接着点」は本明細書では,融点の低い構成成分を相互連結することによる接触点での2本の繊維/フィラメント間の連結を表す(
図1B参照)。接着点では,融点の高い構成成分は損傷も変形もしない。これに対し,用語「接着圧痕」は,カレンダローラの突起が作用した領域を表す(
図1V参照)。接着圧痕の面積は,接着ローラの突出の寸法により規定され,通常,接着圧痕の厚さはその周囲より小さい。通常,接着の際,接着圧痕の領域には大幅な機械的圧力が生じ,この機械的圧力は,接着圧痕領域内の構成要素全ての形状に影響を与え得る。
【0033】
本明細書において,「接着ローラ」,「カレンダローラ」,及び「ローラ」という表現は互換的である。
【0034】
本明細書において「衛生吸収性物品」とは,身体の滲出液を吸収し,保持する手段又は補助具を指し,より具体的には,着用者の身体に直接,又は近接させて配置し,身体から排出された様々な滲出液を吸収及び保持する手段又は補助具を指す。吸収性物品としては,使い捨ておむつ,トレーニングパンツ,下着,及び成人用失禁下着及びパッド,女性用衛生パッド,乳房パッド,ケアマット,よだれ掛け,創傷ドレッシング製品等が挙げられる。本明細書において使用する場合,用語「滲出液」としては,尿,血液,膣排出物,母乳,汗,及び糞便が挙げられるが,これらに限定されるものではない。
【0035】
不織布帛材料の製造及び不織布帛材料自体に関し,「交差方向」(CD)とは,布帛材料を製造する製造ラインで布帛材料の前進方向に対してほぼ垂直な,布帛材料に沿った方向を指す。接着不織布帛を形成するために一対のカレンダローラのニップを移動するバットに関し,交差方向はニップを移動する方向に対して垂直であり,ニップに対して平行である。
【0036】
不織布帛材料の製造及び不織布帛材料自体に関し,「機械方向」(MD)とは,布帛材料を製造する製造ラインで布帛材料の前進方向とほぼ平行な,布帛材料に沿った方向を指す。接着不織布帛を形成するために一対のカレンダローラのニップを移動する不織バットに関し,機械方向はニップを移動する方向に対して平行であり,ニップに対して垂直である。
【0037】
用語「脂肪族ポリエステル」は,脂肪族ポリエステルをベースとする生分解性ポリマー(単重合体並びに共重合体)全てを表す。本発明に有用な生分解性脂肪族ポリエステルの例としては,以下の収載に限定するものではないが,例えば,ポリヒドロキシブチレート(PHB),ポリヒドロキシブチレート‐コ‐バレレート(PHBV),ポリカプロラクトン(PCL),ポリブチレンサクシネート(PBS),ポリブチレンサクシネート‐コ‐アジペート(PBSA),ポリグリコール酸(PGA),ポリラクチド又はポリ乳酸(PLA),ポリブチレンオキサレート,ポリエチレンアジペート,ポリジオキサノン(PDO)又はポリオキサレート(例えば,2004年の米国特許出願公開第20050027081号に記載)が一般的である。入手可能性及び価格を考慮すると,現在,ポリ乳酸群,特にPLA及びその誘導体が最も好ましい。
【0038】
用語「極性中心部」又は「中心極性部」は,添加剤分子の極性中心である官能基‐(C=O)‐NH‐を表す。中心極性部は,アミド(i)の例のように‐(C=O)‐NH2の形態で分子の端縁に,又はN‐置換アミド(ii)の例のように複数の脂肪族残基R1及びR2に囲まれた分子の中心に位置することが可能である。添加剤分子には,中心極性部を1回又は複数回含ませることが可能である。その後,隣接する中心極性部同士は脂肪族鎖R3により連結される。
【0039】
「接着突起」又は「突起」は,凹領域に囲まれた,半径方向最外部にある接着ローラの特徴部である。接着ローラの回転軸に対して,接着突起は,接着面形状及び接着面形状領域が一般に接着ローラ回転軸からの半径がほぼ一定である外側円筒面に沿っている半径方向最外側接着面を有するが;しかし,個別かつ分離した形状の接着面を有する複数の突起は,接着ローラの半径に対して非常に小さいので,接着面が平坦/平面に見えることも多く;接着面形状面積は,同じ形状の平面面積とかなり近似している。接着突起は,接着面に対して垂直な側面を有していてもよいが,その側面は通常,接着突起の基部の断面が接着面より大きくなるように傾斜している。複数の接着突起をカレンダローラ上でパターン状に配列してもよい。複数の接着突起の接着面積は,外側円筒状表面の単位表面積当たりの接着面積で表し,これは百分率で表すことが可能であり,単位内の複数の突起の接着形状面積を合わせた合計の,単位の全表面積に対する比率である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】接着圧痕を用いて接着した布地(V),及び接着点を用いて接着した布地(B)の断面の概略比較図である;
【
図2A】実施例1に従った比較不織布の接着圧痕の走査電子顕微鏡(SEM)画像である;
【
図2B】実施例2に従った本発明の比較不織布の接着圧痕のSEM画像である;
【
図3】不織布のスパンメルト型製造ラインの概略配置図である;
【
図4】2つの加熱ローラ(カレンダローラ)を使用する熱接着用の概略配置図である;
【
図5A】実施例13に従った不織布の上面写真である;
【
図5B】実施例12に従った不織布の上面写真である;
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の主題は,脂肪族ポリエステル又は脂肪族ポリエステルの混合物と,繊維中材料の結晶化の動態を変化させ,熱接着の効率を促進する非ポリマー添加剤とを組み合わせて含む,スパンメルト型エンドレス繊維から成る熱接着不織生地である。
【0042】
脂肪族ポリエステルは熱接着時に特徴的な挙動を示す。熱流に曝されると,特定量の熱を吸収(例えば,いわゆる冷結晶化系)した後にポリマーの体積に変化が生じる。この現象は収縮として公知である。収縮は一般に望ましからざる現象とみなされており,当技術分野では,熱接着繊維の表面の少なくとも一部に,高割合の非晶質構成成分を含む脂肪族ポリエステルを使用するという明確な傾向がある(高割合の非晶質構成成分を含む脂肪族ポリエステルは冷結晶化熱の値が低いという特徴があり,典型的にはその融点は結晶性構成成分より低い)。理論に縛られる意図なく,ある程度の発熱性冷結晶化が望ましいと考えられる。非常に非晶質なポリマーの場合,繊維全体,又は少なくともその接着成分全体を加熱及び軟化させることなく,その表面を急速に溶融させることが可能である。繊維表面上のポリマーの溶融部分は粘着性があり,ラインのいずれかの部品の表面に容易に付着する。このような繊維を放出するには,ベルト上に自由に敷設した繊維を放出する場合より大きい力が必要である。複数の繊維が付着すると,ベルトに対する繊維層の総接着力は高まり,繊維層は裂け,製造ラインの構成要素に繊維ベルトが不必要に巻き付く可能性がある。
【0043】
同時に,収縮の程度が比較的低い場合でさえ,製造中に問題が発生する可能性がある。製造中,バットを配置する移動ベルト,ドラム,又はローラは完全には平坦にならない傾向があることを理解していることは重要である。一体化前では,不織布バットは,繊維部が部分的に動く比較的開放された構造を示している。従って,材料の最初の収縮率が低くても,突起又は陥没に非常に近接している繊維やその一部は突起又は陥没に容易に付着するか又は巻き付く場合がある。上記の例と同様に,放出にはより大きな力が必要となり,バットが破断する危険性がある。このような状況は典型的には,突起のある高温ローラと接触するとき,バットが構成要素間を通過するとき,ドラム乾燥機のドラム又は熱風接着ユニット等と接触するときに発生する。
【0044】
結晶性の程度が異なる,言い換えれば冷結晶化潜熱の値が異なる複数の脂肪族ポリエステルが利用可能であり,上記で説明した両効果が合わさり,互いに支持し,不織布の熱接着のプロセスウィンドウを狭める可能性がある。上記で説明した挙動は例えば,140℃を超える温度かつ150m/minの速度で,又は例えば110℃を超える温度かつ7m/minの速度で,繊維表面にほぼ非晶質なポリマーを有するPLA繊維において観察された。
【0045】
理論に縛られることなく,結晶化の動態を変化させる添加剤は,繊維の焼結又は繊維の接着成分の焼結が起こるように,ポリマーのより均質な軟化及び後続の溶融に寄与すると同時に,脂肪族ポリエステルの軟化開始温度をシフトさせ,繊維表面同士を適切に熱的相互連結させると考えられる。
【0046】
本発明に従った添加剤は,中心部,及び1つ以上の非極性末端から成る非ポリマー有機化合物である。極性中心部は一般に脂肪族ポリエステルの構造に適合するが,比較的短く,その3D構造に関しては比較的可撓性である非極性末端は,ポリマーの結晶化の動態に局所的に影響を及ぼす。短かすぎる末端は所望の効果を確実にもたらす訳ではなく,長すぎる末端はクラスターを形成し,脂肪族ポリエステルの極性環境における混合物の均質性を低下させる傾向がある。
【0047】
本発明の好ましい実施態様によれば,中央極性部は,中央部の構成要素上にある正及び負の部分電荷の組み合わせから成る。好ましくは,中心部は,アミド(i)又はN‐置換アミド(ii)を含み,ここでは窒素は,ケトン基C=Oの炭素への単結合により,そして連続脂肪族鎖R1‐(CO)‐(NH)‐R2の追加炭素上での更なる単結合により,結合する。
【0048】
本発明に従った実施形態では,添加剤は,‐(CO)‐(NH2)及び炭化水素残基R1(i)により形成された中心極性部から成る。
【0049】
特に好ましい実施形態では,R1は炭素原子数が10~30個,好ましくは15~25個である直鎖飽和脂肪族鎖である。
【0050】
本発明に従った別の実施形態では,添加剤は‐(CO)‐(NH)‐及び炭化水素残基R1,R2(ii)から成る中心極性部から成る。
【0051】
許容範囲内で単純化すると,分子内の原子のこの配置は,共鳴の効果により酸素に部分的な負電荷を生じさせ,またケト基の炭素又は隣接するアミド窒素にも部分的な正電荷を生じさせるので,脂肪族エステルの極性鎖と良好に適合すると言える。ここでは,添加剤の核中の基‐(CO)‐(NH)‐とR1‐(CO)‐(NH)‐R3‐(NH)‐R1(iii)との組み合わせが繰り返される場合,前記効果は更に促進できる。よって添加剤分子は,脂肪族鎖R3により接続された2つ以上の中心極性部を含むことが可能である。脂肪族鎖R1,R2,及びR3は,異なる長さとなり得る。
【0052】
本発明の好ましい実施形態によれば,R1は,炭素原子数が少なくとも10個,好ましくは少なくとも12個,より好ましくは少なくとも15個である長さを有する脂肪族炭化水素残基を表す。
【0053】
本発明の好ましい実施形態によれば,R1は,炭素原子数が30個以下,好ましくは25個以下である長さを有する脂肪族炭化水素残基を表す。
【0054】
本発明の好ましい実施形態によれば,R2は,炭素原子数が少なくとも10個,好ましくは少なくとも12個,より好ましくは少なくとも15個である長さを有する脂肪族炭化水素残基を表す。
【0055】
本発明の好ましい実施形態によれば,R2は,炭素原子数が30個以下,好ましくは25個以下である長さを有する脂肪族炭化水素残基を表す。
【0056】
好ましくは,R3はエステル結合間のポリマーの一部に対応する。好ましい実施形態を表1に示す:
【0057】
【0058】
本発明の好ましい実施形態によれば,PLAと共に使用する場合,R3は,炭素原子数が1~3個,好ましくは2個である長さを有する脂肪族炭化水素残基を表す。
【0059】
本発明の好ましい実施形態によれば,R1及び/又はR2及び/又はR3は直鎖脂肪族鎖により形成される。
【0060】
本発明の好ましい実施形態によれば,R1及び/又はR2及び/又はR3は飽和脂肪族鎖により形成される。
【0061】
本発明の特に好ましい実施形態によれば,R1及び/又はR2は,炭素原子数が10~30個,好ましくは15~25個である直鎖飽和脂肪族鎖である。
【0062】
本発明の好ましい実施形態によれば,R1及び/又はR2及び/又はR3は直鎖飽和脂肪族鎖により形成される。
【0063】
本発明の好ましい実施形態によれば,R1及びR2は長さが同じ脂肪族飽和直鎖炭化水素残基により形成される。
【0064】
アミド(i)の群から選択される好適な非ポリマー添加剤の例としては,例えば,エルカミド,ベヘンアミド(ドコサンアミド),又はオレアミド(構造式は以下に示し,表2に説明する)に表される。
【0065】
【0066】
N‐置換アミドの群から選択される好適な非ポリマー添加剤の例は,式C
38H
76N
2O
2を有する略称EBSで知られるN,N’‐エチレンビス(ステアラミド)で表される。その構造式を以下に示す。
N,N’‐エチレンビス(ステアラミド)=EBS
【0067】
EBSは,本発明に従った不織布用の添加剤であり,EBS中,疎水性残基R1及びR2は炭素原子数が17個である同一の長さを有する脂肪族飽和直鎖であり,R3は炭素原子数が2個である長さを有する脂肪族飽和直鎖である。
【0068】
本発明の好ましい実施形態によれば,不織布単成分繊維は,少なくとも0.10重量%,好ましくは少なくとも0.20重量%,より好ましくは少なくとも0.25重量%の非ポリマー添加剤を含有する。
【0069】
本発明の好ましい実施形態によれば,本発明に従った非ポリマー添加剤の量は10%以下,好ましくは5%以下,より好ましくは1%以下である。
【0070】
バットを不織布へ熱接着する場合,二成分繊維又は多成分繊維を使用することが好ましい場合もあり,この繊維中,繊維表面の少なくとも一部(例えば,鞘/芯の組み合わせにおける鞘,又は並列の組み合わせにおける一方側)に含まれる第1成分は,融点が他方の成分の融点より低い材料から形成する。接着の際,主に,第1成分の軟化が起こり,第1成分を含有する繊維表面の接触点で接着が形成される。脂肪族ポリエステルを使用する場合,好ましくは,第1成分が含有する非晶質ポリエステルは第2成分中の非晶質ポリエステルより多い。
【0071】
本発明の好ましい実施形態によれば,第1成分は,繊維表面の少なくとも55%,好ましくは繊維表面の少なくとも70%,より好ましくは繊維表面の少なくとも85%,更に好ましくは繊維表面の少なくとも90%,更に好ましくは繊維表面の少なくとも95%を占める。
【0072】
本発明の好ましい実施形態によれば,第1成分は,少なくとも0.10重量%,好ましくは少なくとも0.20重量%,より好ましくは少なくとも0.25重量%の本発明に従った非ポリマー添加剤を含有する。
【0073】
本発明の好ましい実施態様によれば,本発明に従った非ポリマー添加剤の量は10%以下,好ましくは5%以下,より好ましくは1%以下である。
【0074】
PLA‐EBSの混合物と比較した純粋PLAの挙動を,示差走査熱量測定(DSC)を用いて試験した。結果を表3及び表4に収載する。
【0075】
【0076】
結晶タイプPLA1の上記データから,添加剤の存在はガラス転移温度に影響をほぼ及ぼさないが,冷結晶化の動態系(zone)(開始,終了,及び受けた熱量に関して)と共に,溶融系(軟化開始温度が20%減少し,温度間隔が半分縮小)でも有意な変化が見られることは明らかである。
【0077】
冷結晶化系は,EBSの添加により顕著に縮小し(56℃の間隔から31℃の間隔へ縮小),発熱量も減少した(34J/gから21J/gへ減少)。理論に縛られる意図なく,説明した非ポリマー添加剤に起因する冷結晶化の動態変化により,縮小の程度は抑制され,その結果,製造ライン部品への繊維の不必要な巻き込みが制限されると考えられる。これ以上の増加は,製造ラインに望ましからざる影響を及ぼす可能性がある(布地の巻き込みやバット破断のリスクが増大する)。
【0078】
溶融開始温度の低下は,例えば,カレンダ接着の場合の圧力により形成される接着圧痕や,熱風接着の場合の繊維接触点で形成される接着点の形態の不織布をより良好に相互連結することに役立つ別の利点でもある。
【0079】
【0080】
非晶質タイプPLA2の上記データから,この場合も添加剤の存在はガラス転移温度に影響を及ぼさないが,冷結晶化及び溶融温度の系において有意な影響が見られることは明らかである。しかし,表4に示すデータから,他のポリエステル(芳香族ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT),結晶性脂肪族PLA1)の添加剤は,本発明に従った添加剤の説明した所望の効果を妨げないことも分かる。冷結晶化系は,EBSの添加により顕著に強化された。非晶質PLA2は何も示さないが,ポリマーの両混合物において同様の系で冷結晶化が観察でき(約106℃から約130℃),発熱量も同程度である(約30J/g)。特定のタイプのポリマーの熱接着の際,最大効果が得られるように本明細書ではEBSの量を最適化する ― 理論に縛られる意図なく,その最適な系では冷結晶化熱と溶融熱とが互いに近接していることが観察された。
【0081】
結晶タイプPLA1の場合とは異なり,溶融温度の軽い上昇が観察でき,その温度は144~145℃に達し,前述の値141℃に近い。溶融温度は顕著に変化し,1J/gから31~34J/gへの増加が観察された。理論に縛られる意図なく,上述の溶融温度の上昇はポリマー表面の溶融を遅延させ,換言すれば,その上昇は成分全体の溶融の均一化に寄与し,これにより,熱接着中に繊維又は繊維の一部が望ましく焼結し,製造ライン部品への布地の巻き込みや,繊維状バットの破断の危険性が減少すると考えられる。
【0082】
理論に縛られる意図なく,芳香族ポリエステル,より好ましくは生分解性芳香族ポリエステルを添加することが有利になり得ると考えられる。自由電子が特異的に分布し,比較的立体的な空間構造を有するベンゼン核であれば,特にポリマーの非晶質部分の結晶化を促進し,一方では,非ポリマー添加剤が結晶化を所望レベルに維持する。
【0083】
好ましい実施形態では,芳香族ポリエステル,好ましくは生分解性芳香族ポリエステルを添加することが有利になり得る。好ましい実施形態によれば,芳香族ポリエステルの添加量は,第1成分の10重量%以下,好ましくは第1成分の7重量%以下,より好ましくは第1成分の5重量%以下である。本発明の好ましい実施形態によれば,生分解性芳香族ポリエステルは,例えばPBATである。
【0084】
DSC法を用いて説明した上述の変化は不織布上で,例えば接着圧痕の特性においても直接観察できる。例えば,純粋PLAの接着圧痕(実施例1の説明に従って作成)のSEM写真は,満足に相互連結していない繊維の接着圧痕を示している。使用の二成分繊維の被覆部同士は適切に相互連結しておらず,むしろ表面だけで付着し合っているように,あるいは単に圧力効果だけで付着し合っているように見える(
図2A)。このように形成した連結は必要な強度を持たず,繊維は比較的簡単に分離できてしまう。2枚目の写真は,EBSの含有量が0.3%であるPLA接着圧痕(実施例2の説明に従って作成)を示したもので,繊維同士の完全な相互連結が見られる(
図2B)。この写真に示す不織布は,強度及び表面摩耗耐性が顕著に高い。両試料の製造中,同じ温度及び圧力の同一のカレンダローラを使用した。純PLAの場合,接着温度を上げようとすると,布地がローラに巻き込まれ,布地ベルトが巻き取られて製造プロセスが中断する危険性があった。
【0085】
同様に,上述の変化は
図5でも見られ,
図5ではズリーンのトーマスバタ大学(UTB),Centre of Polymer systemsの実験室製造ラインで実施例12及び13の説明に従って製造した不織布のSEM写真を示している。ここでも,添加剤を含まない比較試料が適切に相互連結していないことは明らかである。上面写真(5B)から,接着圧痕が膨張し,渦を巻いていることが明らかである。その原因は断面図(5D) ― 不織布はその厚さ全体に渡って適切に相互連結しておらず,接着圧痕は布地の表面のみに存在している ― から明らかである。しかし,本発明に従った試料(5A及び5C)を見ると,断面において,布地の厚さ全体に渡って相互連結した直線的接着圧痕が見られる。両試料の強度は,表6に示すように,説明した構造変化にも対応している。
【0086】
スパンボンドプロセスは,ノズル下でのポリマー溶融紡糸に基づいている。製造ライン(
図3)は,スパンボンド型繊維の製造に適合した1つ以上の紡糸口金
1を備えてもよい。各紡糸口金は少なくとも1つの押出機に接続し,その押出機に,必要なポリマー混合物を送る。押出機内の混合物を溶融し,紡糸ノズル
5に搬送する。当業者であれば,断面形状及び直径が異なる複数の繊維を得るために,様々な構成(例えば,芯/鞘,並列,海島状(islands in the sea)等)の単成分又は多成分繊維の形成を可能にする様々な構成の紡糸ノズルを使用できることは熟知している。ノズル
5により形成されたスパンボンド型の初期繊維
4を,空気流(空気流は,冷却空気及び延伸空気の供給部
6により送られる)を用いて冷却延伸チャンバ
7内で冷却及び延伸し,次いで拡散装置
8内で振盪し,移動面
2に集積し,浸透性ベルトにすることが可能である。必要であれば,バットは,1つ以上の予備一体化ユニット
9及び
10により予備一体化できる。より多くの連続した紡糸口金を使用する場合,第2紡糸口金及び後続の紡糸口金
1から送られた繊維は,先行する紡糸口金
1によって形成されたバット上に落下する。ポリマー組成及び/又は紡糸口金
1のプロセス設定(例えば,出力,冷却速度,及び延伸速度)を異ならせると,所与の紡糸口金により基層上に集積したバットの特性が異なり ― 特定の特性を有する様々な多層複合体を形成できる。
【0087】
当業者であれば,スパンボンド紡糸口金の間に1つ以上の紡糸口金,例えばメルトブロー紡糸口金,アドバンストメルトブロー(advanced meltblown)紡糸口金,又は溶融細繊維化紡糸口金を設置でき,それにより通常,スパンボンド層の間にかなり小さい繊維径のバリア層を挿入できることは熟知している。これらの複合体はスパンボンド‐メルトブロー‐スパンボンド(SMS)材料として公知である。
【0088】
使用の全紡糸口金により形成したバットは個々の繊維から成り,その繊維間では,繊維が特定の方法で接着できるとしても,通常はまだ相互に強固な接着が形成されていない。この予備接着は,予備一体化ユニット9及び10内で,自由繊維に形成された層の集積中に,又はその直後に,例えばローラ,熱風,熱放射等により起こる。しかし,この予備一体化はまだ相当量の繊維の自由運動を可能にし,よって繊維は移動し得る。このバットは熱的に(例えば,ローラ,熱媒体の流れ等を用いて)接着し,不織布を形成できる。
【0089】
本発明に従った不織布の繊維に含まれるポリマー成分又は混合物は,特に脂肪族ポリエステル,より具体的には例えばポリ乳酸ポリマー(PLA)などのポリマー材料をベースとする1種以上の粒状物から形成できる。本発明の好ましい実施形態によれば,脂肪族ポリエステルは,繊維の少なくとも80重量%,好ましくは繊維の少なくとも90重量%,より好ましくは繊維の少なくとも95重量%,更に好ましくは繊維の少なくとも99重量%を占める。ポリマー構成成分の割合又は脂肪族ポリエステルの割合は,繊維が単成分であるか多成分であるかに関わらず,繊維全体から計算することは言及に値する。
【0090】
本発明の好ましい実施形態によれば,1種の脂肪族ポリエステルは,全脂肪族ポリエステル含有量の少なくとも60重量%を占めるベース構成成分を指す。
【0091】
本発明の好ましい実施形態によれば,ポリ乳酸をベースとする脂肪族ポリエステルは,脂肪族ポリエステル含有量の少なくとも60重量%を占めるベース構成成分を指す。
【0092】
本発明に従った不織繊維は,着色顔料,肌触り(軟質な肌触り,コットン風肌触り等)の快適さを高める材料,プロセス添加剤等の他の添加剤を含有してもよい。
【0093】
本発明に従った不織布繊維は,芳香族ポリエステル,熱可塑性多糖類,及び他の材料などの更なる追加材料を含有できる。これらの更なる追加材料は生分解性であることが好ましい。当業者であれば,脂肪族ポリエステル混合物の利点を認識しているものとする。例えば,異なる比率及び結晶状態のPLAとPBSとを組み合わせる利点は多数の先行文献において説明されている。
【0094】
本発明に従った不織布繊維は,少なくとも2種の脂肪族ポリエステルの混合物を含有することが可能であり,このうちの少なくとも1種の冷結晶化熱の値は他のものより低いことを特徴とする。本発明に従った好ましい解決策は少なくとも2種の脂肪族ポリエステルの混合物によるものであり,そのうちの少なくとも1種の冷結晶化熱は,組成物中の少なくとも1種の別の脂肪族ポリエステルのものより少なくとも1J/g,好ましくは少なくとも2J/g,より好ましくは少なくとも3J/g低い。ここでは,異なるグレードであるが化学的に同一の脂肪族ポリエステルであっても別の脂肪族ポリエステルとみなす。
【0095】
本発明に従った不織布繊維は,例えば脂肪族ポリオレフィン,例えばポリプロピレン又はポリエチレン,最終的にはこれらの共重合体などの更なる追加材料を含有してもよい。
【0096】
個々の繊維は単成分又は二成分とすることが可能である。多成分繊維は特に二成分繊維,例えば芯‐鞘型又は並列型の繊維を含む。個々の成分は多くの場合,第1成分 ― 融点の低い接着構成成分 ― 及び第2成分に分離できる。脂肪族ポリエステルの場合,より非晶質性の高い形態のポリエステルを低融点の第1成分として使用することが可能であり,それにより,熱接着の際,第1成分が接着剤として作用するようになる。並列型又は偏心芯/鞘型の繊維は,例えば非常にボリュームのある材料の製造に有利に使用し得る。二成分繊維の個々の構成成分に好適なポリマーを使用することにより,例えば,不織布の嵩高性を大幅に増加させる,いわゆる自己捲縮繊維を得ることが可能になる。本発明に従った解決策にとって,融点の低い第1成分が,少なくとも1種の脂肪族ポリエステル及び添加剤を含有する上述の混合物であることが好ましい。当業者であれば,異なるタイプの繊維の使用について他の様々な可能性及び利点を容易に認識するであろう。本発明に従った解決策にとって,二成分繊維中の第1成分と第2成分との溶融温度の差が少なくとも5℃,より好ましくは少なくとも10℃であり,溶融温度の低い第1成分が繊維表面の少なくとも55%,好ましくは少なくとも70%,より好ましくは少なくとも85%,更に好ましくは少なくとも90%,一層好ましくは少なくとも99%を占めることが好ましい。
【0097】
本発明に従った解決策にとって,第1成分が繊維の少なくとも5重量%,好ましくは少なくとも10重量%,好ましくは少なくとも15重量%を占めることが好ましい。
【0098】
本発明に従った解決策は,第1成分の割合が繊維の少なくとも5重量%であり,第1成分が繊維表面の少なくとも55%を占める二成分スパンボンド繊維を主に含有するスパンレイ不織布として実施できる。
【0099】
このように調製した布地は接着ユニット3において熱接着に供し,この熱接着は様々な方法 ― 例えば,一対の加熱カレンダローラ50及び51又は熱媒体(例えば空気)流により実施できる。
【0100】
本発明に従った解決策は,好ましくは,一対のカレンダローラ
50及び
51による不織布の熱接着を利用することで実現し得る。この種の熱接着の技術的手順は,繊維が統合し,ある程度相互連結して布帛を形成している間に繊維間を接着させてバットを形成する工程から成り,この工程では同時に,機械的特性,例えば引張強度が増加し,この機械的特性は,その後の製造プロセス中及び最終製品使用の際に,材料が十分な構造的完全性及び寸法安定性を維持するために必要となる可能性がある。
図4から明らかなように,カレンダ処理による接着を行う場合,バット
21aが一対の回転カレンダローラ
50,
51間の間隙を通過し,その結果,繊維が圧縮されて統合し,不織布
21が形成される。カレンダローラ
50及び
51の一方又は両方を加熱し,ローラ間の間隙における圧縮中に,加熱,塑性変形,ブレンド,及び/又は繊維層同士の熱溶融/接着を支持する。ローラは接着機構の機能部分を構成することが可能であり,ローラ同士は,間隙内で必要な圧縮力/必要な圧力を掛けるように,制御可能な規模の力により互いに押圧する。いくつかのプロセスでは,接着機構には,繊維への超音波振動の伝達を可能にする超音波源を組み込んでもよく,この超音波源は,接着を向上させる熱エネルギーを再度発生させる。
【0101】
機械加工,エッチング,又は他の方法で,カレンダローラ
50及び
51の一方又は両方の外面に接着突起及び凹領域から成る接着パターンを形成することが可能であり,これにより,間隙52を通過する間にバットに作用する接着圧力が,接着突起の接着面に集中するが,凹領域では減少するか,又は大幅に制限される。接着面の形状は予め決める。その結果,パターンを有する不織布
21が形成され,そのパターンは,不織布
21を構成する繊維間の接着圧痕
V(
図1参照)から成り,接着圧痕
Vの形状は,カレンダローラ
50及び
51の表面と同一のパターンで配列された接着圧痕の形状に対応している。第1ローラ,例えばローラ
51はパターンの無い平坦な円筒状の表面を有してもよいので,押圧ローラ又は当接ローラであってもよく,一方,第2ローラ50は上述のパターンを有してもよいので,加工材料に接着圧痕を形成するローラであってもよく;このローラの組み合わせで不織布上に形成されたパターンは,前記第2のローラ
50上のパターンに正確に対応している。場合によっては,ローラ
50及び
51の両方にパターンを設けることが可能であり,これらのパターンは異なっていてもよい。このような場合,これらのパターンを不織布に対して作用させることにより,組み合わせのパターンを形成する。このようなパターンは,例えば特許文献米国特許第5,370,764号に開示されている。
【0102】
本発明に従った解決策にとって,総接着面積(接着圧痕の総面積)が不織布の総面積の少なくとも8%,好ましくは不織布の総面積の少なくとも11%を占めることが好ましい。
【0103】
本発明に従った解決策にとって,総接着面積が不織布の総面積の30%以下,好ましくは不織布の総面積の25%以下,より好ましくは不織布の総面積の20%以下であることが好ましい。
【0104】
カレンダローラは,温度と圧力とを組み合わせて繊維同士を接着する。従って,ローラの温度は,接着ポリマーの溶融温度をほぼ下回る温度に設定することが好ましい。この温度は,接着ポリマーの溶融温度より1~15℃低く,より好ましくは1~10℃低くなるように設定することが好ましい。前記接着温度は十分に高速の製造ラインに適しており,特にベルト速度が数メートルの範囲にある低速実験室ラインでは,顕著に低い温度が適切である。ローラ温度の推奨限界値は,少なくとも50m/minの生産速度に対応する。
【0105】
本発明に従った解決策は,好ましくは,高熱媒体を使用した不織布の熱接着により実施してもよい。一般に,バットへの熱伝達は,製造工程の様々な段階で,例えば,フィラメントをベルト上に集積して構造を予備一体化した直後,熱活性化プロセス中,接着プロセス(最終一体化)中等に起こる。
【0106】
高温の液体がフィラメントバットの表面に入り,フィラメントの周囲を流れ,高温の液体により伝達される熱の一部は,より低温のフィラメントへ流れる。言及するに値することとして,フィラメント間接着の生成は流体抵抗圧力の局所的な強さにも依存し,即ち,フィラメントは相互に接触又は交差していてもよく,フィラメントは接着(接着点)を形成しないか,又は弱い接着(接着点)しか形成しないが,一方で,より強く接触しているフィラメントは,溶融温度がより低い溶融ポリマーから,強度がより強い接着(接着点)を形成する。本発明に従った解決策にとって,高熱媒体が布地を流れ,不織布の体積全体に渡って熱伝達することが好ましい。
【0107】
本発明に従った好ましい実施形態は,少なくとも3つの異なる一体化部を用いて実施する接着プロセス(最終一体化)を含む。空気流は,布地に対してほぼ垂直であり,変動が小さく均一な温度及び流量を維持する。
【0108】
第1一体化部は,接着ポリマーの温度をほぼ下回る温度まで布地を予熱する。この温度は,接着ポリマーの溶融温度より5~20℃,好ましくは接着ポリマーの溶融温度より5~15℃,より好ましくは接着ポリマーの溶融温度より5~10℃低く設定することが好ましい。第1一体化部では,布地の第1及び第2外面に入る熱流の方向が交互になることが好ましい。
【0109】
第2一体化部は,溶融接着が形成されるように,溶融温度が低いポリマー組成物の溶融温度範囲を狭くするように設定する。一方,布地の坪量,繊維の寸法,ポリマー構成成分の断面積の比率に関しては,設定温度は,接着ポリマーの溶融温度より5.0℃低い温度から最大3.0℃高いという温度範囲より広い範囲にならないようにすることが好ましい。例えば,溶融温度が130℃である場合,設定温度は,接着ポリマーの溶融温度より5℃低い温度から接着ポリマーの溶融温度に等しい温度までの範囲,好ましくは接着ポリマーの溶融温度より4℃~1℃低い範囲に設定することが好ましい。第2一体化部では,布地の第1及び第2外面から入る熱流の方向が交互になることが好ましい。
【0110】
第3一体化部は,かなり低温の空気,好ましくは10~40℃,より好ましくは20~30℃の空気を供給する冷却部である。周囲空気を使用してもよい。冷却部は,フィラメント,又は少なくとも布地表面上のフィラメントの結束に寄与し,また形成した布地階層構造の安定化に寄与する。好ましくは,冷却プロセスの直前及び冷却プロセス中に張力を追加しない。追加の空気流,冷却ローラ等により冷却を追加できる。第3一体化部から出た布地の温度がまだ周囲温度に達していないときに,冷却を追加することが好ましい。布地は周囲温度,好ましくは40~10℃,より好ましくは20~30℃に達することが好ましい。経済的に有利な理由から,本明細書で説明したプロセスは,高生産能及び高生産速度で,フェルト化する傾向の低い嵩高かつ軟質な不織布を製造するために利用する。
【0111】
例えば,本発明に従った実施形態では,4つのドラムを備え,熱風を通過させる効果を利用する一体化装置を使用できる。この装置により,プロセスでは,高速であってもアイドル時間が短くなるのみならず,繊維の最大化経路に沿った熱風速及び熱風量への曝露が十分になり,定義した狭いパラメータ範囲で溶融接着を形成するために必要な溶融流が低粘度になる。機械方向において,ドラムは,不織布との接触角を少なくとも100°,好ましくは少なくとも130°,より好ましくは少なくとも150°,更に好ましくは少なくとも160°にできる。
【0112】
所与の装置の正確なパラメータ設定範囲は,選択した接着ポリマーのみならず,フィラメントの寸法,フィラメント断面,及びポリマー構成成分の配合間の重量比に依存する。
【0113】
4つのドラムを備えるこの装置により,空気は短時間で,強く,交互に,また基本的に垂直に不織布の基材を流れるようになる。最初のドラム対は,溶融温度の低いポリマー組成物の溶融温度をやや下回る温度で布地構造を予熱するように設定する。第2のドラム対は,溶融温度の低いポリマー組成物の溶融温度範囲にし,溶融接着を形成できるように設定する。布地の構造を維持する目的で,また確実に溶融接着を無傷に維持するために,最後のドラムはその機械方向の円周に沿って高温部及び冷却部を備える。布地構造,又は布地構造の少なくとも表面は,一体化装置から布地を放出する前に結束させることが好ましい。布地を横断する冷却空気の流速が高い別個の追加冷却ローラを一体化装置の最後のドラムからできる限り最短距離に配置し,エアスルー接着を利用して即時冷却で布地の結束を終了させる。
【0114】
相互連結した不織布21は最終段階で巻取機11に巻き取る。例えば,流体移送を改善するため,又は流体排出能を高めるために不織布の表面特性を改変する必要がある場合,移動ベルトと最終一体化装置との間,又は最終一体化装置と糸巻きとの間に噴霧装置又は浸漬ローラを配置する。
【0115】
本発明に従った不織布は,必要に応じて,他の公知の方法で調整してもよい。例えば,不織布を軟化させるための「水力拡張(ハイドロエンゴルジメント:hydroengorgement)」と呼ばれる水噴流の使用(例えば特許文献米国特許第8093163号に記載),又は接着圧痕を含む不織布の改変を直接的な目的とする「ハイドロパターン(hydro-patterned)処理」(まだ未公開の特許出願米国特許第63/183,148号に記載)が知られている。本発明に従った布地は例えば,様々な方法(過接着,熱針,水噴流等)を用いて穿孔できる。
【0116】
本発明に従った不織布はどのような坪量で製造してもよい。当業者であれば,坪量が高いほど一般に,キャリパ(caliper)が高くなり,最終布地の肌触りが向上するが,これに相応して高コストを伴うことは認識しているものとする。対照的に,坪量が低いほど,これに相応してコストが低くなるが,同時に,例えば,特定レベルの被覆能又は他のバリア特性が要求される衛生吸収性製品の被覆外層を形成することは困難になる。この予見によれば,このような場合,本発明に従った不織布としては,60gsm以下,好ましくは40gsm以下,より好ましくは30gsm以下,更に好ましくは26gsm以下の坪量を有するものを使用してよい。当業者であれば,所望の特性を達成するためには,本発明に従った不織布は少なくとも最小量の材料を含む必要があることは認識しているものとする。この推定によれば,このような場合,本発明に従った不織布としては,少なくとも6gsm,好ましくは8gsm,より好ましくは少なくとも10gsmの坪量を有するものを使用してよい。
【0117】
他の場合では,少なくとも,本発明に従った不織布を使用して,使い捨て衣料品,おむつの吸収性芯の部分,ワイパー,又はダスターなどの物品を製造する場合には,坪量は150gsm以下,好ましくは100gsm以下であってよい。最適な坪量は,材料コストのみならず個々の使用方法に関連する様々な必要性により決定する。
【0118】
不織布の製造に関する以下の実施例1~11では,Sachsisches Textilforschunginstitut社(STFI)のパイロットラインにおいて,ノズル出力220~225kg/h/mでREICOFIL 4技術により,スパンボンド型紡糸口金を用い,平均厚が14~17ミクロン,成分重量比が芯:鞘=80:20の芯/鞘型二成分繊維の1層を調製した。個々の成分に使用した脂肪族ポリエステルのタイプ,並びに添加剤のタイプ及び量は,各例について表5に示す。Ingeo(登録商標)タイプはNature Works社製の製品であり,Luminy(登録商標)タイプはTotal Corbion社製の製品である。実施例1,3,及び9は,本発明に従った添加剤を添加しない比較組成物を示す。実施例4~8及び10~11の鞘は,脂肪族ポリエステル及び本発明に従った添加剤に加えて,成分(鞘)の5重量%を超えない量で,ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT) ― 芳香族ポリエステル ― を含む。バットは,一対の熱カレンダローラ50及び51(平坦ローラ,パターン処理ローラ)を用いて熱接着し,その一方は,グラビアU2888(Ungricht社製)として知られる隆起パターンを備え,総接着面積は18.1%であった。ローラの温度及び圧縮の数値も表5に示し,製造不織布の測定した特性を以下の表6に示す。
【0119】
【0120】
【0121】
全ての実施例は,2社の異なる製造元から入手した様々な異なるタイプのPLAの組み合わせを示し,溶融温度が低い方のタイプは常に鞘に含まれる。本発明に従った不織布の強度は常に有意な増加を示し,その範囲は2分の1の増加(実施例2では+41%)~3倍の増加(実施例10及び11では+200%)であった。増加の程度が様々であることは,異なるタイプの市販ポリマーは,記載した添加剤を使用して達成する所望の状態とは様々に異なることを示している。
【0122】
実施例1及び2は,脂肪族ポリエステル(この場合はPLA)から製造した熱接着(この場合,カレンダ処理による)不織布の強度に対する添加剤(この場合はEBS)の効果を示す。比較例1は,融点の低い構成成分が鞘を構成するように,二成分繊維中に100%のPLAを配置した組成物を示す。実施例2は,鞘にEBS添加剤を添加した以外は同じポリマー組成物を示す。強度の顕著な増加が直ちに観察される(MDで+41%,CDで+64%)。
図2Aと2Bとは,接着圧痕の外観にも明らかな違いがあり,実施例1に従った不織布上の接着圧痕の繊維は,単に互いに付着しているだけのように見えるが,実施例2に従った不織布上の接着圧痕中の繊維は接着圧痕中で焼結し,かなり強い単位を形成している。
【0123】
実施例4~8及び9~10は,鞘中に,即ち約2%~5%弱の濃度で芳香族ポリエステル(PBAT)を添加した材料を示す。添加量が5%まで増加した例は無い。この結果から明らかなように,説明した芳香族ポリエステルの添加は,添加剤の正の効果を制限するものではない。それどころか,相乗効果の可能性が示されている。
【0124】
実施例6及び7は,坪量が低い(20gsm及び15gsm)本発明に従った不織布を示す。強度増加を計算するための添加剤を含まない標準物質が入手できなくても,実施例3(25gsm)との比較により,強度が著しく増加したことは明らかである。坪量15gsmの本発明に従った不織布(実施例7)の強度は,添加剤を含まない坪量25gsmの比較不織布(実施例3)の強度より高い。
【0125】
本発明に従った不織布は,例えばズリーンのトーマスバタ大学(UTB)の実験室製造ラインで調製することが可能である。型番LBS‐300を備えたこの実験室製造ラインにより,スパンボンド又はメルトブロー型不織布用の単成分又は二成分繊維の製造が可能になる。2台の押出機から成る押出システムにより,ポリマーを最大450℃まで加熱できる。スパンボンド型不織布用の繊維は,6×6cmの正方形の領域に72個の開口部(直径0.35mm,長さ1.4mm)を備えるスパンボンド型押出機を使用して製造できる。二成分繊維の加工には,押出器具のいくつかの可能な配置 ― 芯/鞘,並列成分,セグメントパイ,海島状 ― が挙げられる。システムは開放型であり;注入システムでは,押出空気の圧力は150kPaのレベルまでが利用可能である。フィラメントは,そのままの状態で回収することも,0.7~12m/minの範囲の速度で移動するベルト上に敷設することも可能である。製品の最終的な長さは最大で10cmである。ラインの総出力は0.02~2.70kg/hの範囲で設定できる。最終坪量は30~150g/m2の範囲で設定できる。実施例12及び13に記載する層の製造には実験室製造ラインを使用した。
【0126】
以下の実施例12及び13では,二成分繊維の1層を製造し,その層は芯/鞘型であり,平均直径が16ミクロンであり,成分の芯:鞘の質量比は80:20に等しく,ノズルの出力は0.44g/min/1細管であり,空気圧は85kPaに設定した。芯はPLAポリマー(Nature Works社製Ingeoタイプ6100D)から形成し,鞘はPLA(Nature Works社製Ingeoタイプ6752)及び添加剤の組成物から形成した。繊維層を移動多孔性ベルト上に敷設し,一対の熱カレンダロール50及び51(平坦ローラは102℃,パターンローラは102℃)を用いて7m/minの速度で熱接着し,そのうちの一方に,接着面が25%の隆起した楕円形状パターンを設けた(
図5参照)。
【0127】
実施例12は比較試料を示し,ここで鞘組成物は添加剤を全く含有しない。
【0128】
実施例13は本発明に従った解決策を示し,ここで鞘組成物は0.2%のベヘンアミドを含有する。
【0129】
両試料を坪量125g/m2で製造した。
【0130】
【0131】
アミド基(i)の代表例として選択されたベヘンアミドは,EBSで観察された効果と同様の効果を示す。この添加剤は不織布の強度を大幅に増加させる(この場合163%増)。
図5は実施例12及び13のSEM写真であり,この増加の原因が明確に分かる。実施例12では,接着圧痕が布地の厚さ全体に渡って布地と適切に相互連結していないことが明らかであるが,(本発明に従う)実施例13では,不織布の厚さ全体に渡って(特に断面図において)接着圧痕が見られる。
【0132】
測定方法
不織布の「坪量」は,欧州国際標準化機構(EN ISO)規格9073‐1:1989に準拠した測定方法(NONWOVEN STANDARD PROCEDURES(WSP)130.1に準拠した方法に相当する)を用いて測定する。測定には10層の不織布を使用し,試料の寸法は10×10cm2である。
【0133】
「材料の強度及び伸度」は,WSP110.4.R4(12)仕様に定義されている欧州不織布協会(EDANA)の標準方法を用いて測定し,試料の幅は50mmであり,ジョー部同士の距離は100mmであり,速度は100mm/minであり,予負荷は0.1Nである。
【0134】
「結晶化度」,「結晶化(潜)熱」,「冷結晶化温度」,「溶融熱」,及び「溶融温度」は,米国材料試験協会(ASTM)D3417の測定法を用いてDSCにより測定し,温度変化率は25~230℃の測定領域の中で10℃/minであり,試料重量は7.0~7.5mgである。
【0135】
産業上の利用可能性
本発明は,脂肪族ポリエステルを含有する不織布が必要とされる場所であればどのような場所にも ― 例えば,吸収能を有する衛生製品(例えば,乳児用おむつ,失禁製品,女性用衛生製品,使い捨て乳児用交換パッド等)の様々な構成要素の形態での衛生産業に,又は,例えば,創傷治療用スポンジ及び/もしくは保護衣,手術用カバーシート,下敷き,及びバリア材料から形成した他の製品の一部としてのヘルスケアに適用できる。別の可能な用途としては,例えば,保護衣の一部,濾過,断熱,梱包,吸音,靴産業,自動車産業,家具産業等の形態の工業用途が挙げられる。本発明は,特に,再生可能資源由来であること,及び部分的又は完全に生分解性であることが要求される用途に適用できることが好ましい。
【国際調査報告】