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特表2024-518179車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測システムおよび予測方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-25
(54)【発明の名称】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測システムおよび予測方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/88 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
B60T8/88
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571213
(86)(22)【出願日】2022-05-12
(85)【翻訳文提出日】2024-01-10
(86)【国際出願番号】 EP2022062944
(87)【国際公開番号】W WO2022243168
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】102021205089.1
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ゼウツィウス,ミヒャエル
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246BA02
3D246BA05
3D246BA08
3D246DA01
3D246GA01
3D246GA02
3D246GC14
3D246GC16
3D246HA03A
3D246HA04A
3D246HA13A
3D246HA35A
3D246HA38A
3D246HA39A
3D246HA48A
3D246HA81A
3D246HA83A
3D246HA90A
3D246HA94A
3D246HA95A
3D246HB02A
3D246HB07A
3D246HB21A
3D246HC01
3D246HC07
3D246KA15
3D246KA19
3D246LA02Z
3D246LA04Z
3D246LA13Z
3D246LA15Z
3D246LA16Z
3D246LA20Z
3D246LA52Z
3D246LA63Z
3D246LA72Z
3D246MA01
(57)【要約】
本発明は、車両(12)のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測システム(10)および予測方法に関し、車両(12)の運転者主導式および/または自律式の少なくとも1つのブレーキングの間にそれぞれ少なくとも2つの異なる量の値群が判定され、同じ値群の少なくとも2つの量は同時に、かつ、上記量のうちの少なくとも1つがそれぞれ設定される正常値範囲の外にある、および/または上記量のうちの少なくとも1つの時間微分がそれぞれの量にそれぞれ設定される準静的な範囲の外にある、ブレーキ状況で判定され、判定された値群を参照して、少なくとも所定の予測時間インターバルの間にブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントで少なくとも1つの機能障害が発生する蓋然性が高いかどうかが見積もられる。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(12)のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測システム(10)において、
車両(12)の運転者主導式および/または自律式の少なくとも1つのブレーキングの間にそれぞれ少なくとも2つの異なる量(x,v,p,MおよびI)の値群を判定するために設計および/またはプログラミングされた第1のエレクトロニクス装置(10a)を有し、前記第1のエレクトロニクス装置(10a)により同じ値群の前記少なくとも2つの量(x,v,p,MおよびI)を同時に、かつ、前記量(x,v,p,MおよびI)のうちの少なくとも1つがそれぞれ設定される正常値範囲の外にある、および/または前記量(x,v,p,MおよびI)のうちの少なくとも1つの時間微分がそれぞれの前記量(x,v,p,MおよびI)にそれぞれ設定される準静的な範囲の外にある、ブレーキ状況で、判定可能であり、前記少なくとも2つの量(x,v,p,MおよびI)のうち少なくとも1つの第1の量(xおよびv)は車両(12)の運転者によるブレーキペダル操作ならびに/または車両(12)のブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラのブレーキ希望設定をそれぞれ反映し、前記少なくとも2つの量(x,v,p,MおよびI)のうち少なくとも1つの第2の量(p、MおよびI)は、ブレーキペダル操作および/もしくはブレーキ希望設定量に対するブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの反応、少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの表面および/もしくは内部における状態、ならびに/またはブレーキシステムにより制動される車両(12)の物理量(M)をそれぞれ反映し、
前記予測システム(10)の前記第1のエレクトロニクス装置(10a)および/または第2のエレクトロニクス装置(10b)は、判定された値群を参照して、少なくとも所定の予測時間インターバルの間にブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントで少なくとも1つの機能障害が発生する蓋然性が高いかどうかを見積もるために設計および/またはプログラミングされる、予測システム。
【請求項2】
前記第1のエレクトロニクス装置(10a)および/または前記第2のエレクトロニクス装置(10b)は、少なくとも1つの前記第1の量(xおよびv)を表す少なくとも1つの第1の軸と、少なくとも1つの前記第2の量(p、MおよびI)を表す少なくとも1つの第2の軸とを有する座標系に値群を記入するために設計および/またはプログラミングされる、請求項1に記載の予測システム(10)。
【請求項3】
前記第1のエレクトロニクス装置(10a)は、少なくとも1つの前記第1の量(xおよびv)および少なくとも1つの前記第2の量(p、MおよびI)に追加して、同時に車両(1)で走行されている車道の摩擦値をさらに含む値群を判定するために追加的に設計および/またはプログラミングされる、請求項1または2に記載の予測システム(10)。
【請求項4】
前記第1のエレクトロニクス装置(10a)および/または前記第2のエレクトロニクス装置(10b)は、少なくとも1つの前記第1の軸および少なくとも1つの前記第2の軸に追加して、前記第1の軸または前記第1の軸のうちの1つと、前記第2の軸または前記第2の軸のうちの1つとを通って広がる平面に摩擦値を表す少なくとも1つの摩擦値軸または摩擦値を表すセクターをさらに含む座標系に値群を記入するために設計および/またはプログラミングされる、請求項2および3に記載の予測システム(10)。
【請求項5】
前記第1のエレクトロニクス装置(10a)は、少なくとも1つの前記第1の量(xおよびv)および少なくとも1つの前記第2の量(p,MおよびI)に追加してさらに少なくとも1つの第3の量を含む値群を判定するために追加的に設計および/またはプログラミングされ、少なくとも1つの前記第3の量は同じ値群の少なくとも1つの前記第1の量(xおよびv)および少なくとも1つの前記第2の量(p,MおよびI)と同時に判定されて環境パラメータを反映する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の予測システム(10)。
【請求項6】
前記第1のエレクトロニクス装置(10a)および/または前記第2のエレクトロニクス装置(10b)は、少なくとも1つの前記第1の軸および少なくとも1つの前記第2の軸に追加して、少なくとも1つの前記第3の量を表す少なくとも1つの第3の軸をさらに含む座標系に値群を記入するために設計および/またはプログラミングされる、請求項2および5に記載の予測システム(10)。
【請求項7】
前記第1のエレクトロニクス装置(10a)および/または前記第2のエレクトロニクス装置(10b)は、座標系に記入された値群にそれぞれブレーキ動作点を割り当て、ブレーキ動作点の分布を追加的に考慮したうえで、少なくとも所定の予測時間インターバルの間にブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントで少なくとも1つの機能障害が発生する蓋然性が高いかどうかを見積もるために設計および/またはプログラミングされる、請求項2,4または6に記載の予測システム(10)。
【請求項8】
前記第1のエレクトロニクス装置(10a)は車両(12)に組付可能であり、または組み付けられており、前記第1のエレクトロニクス装置(10a)の、または前記第1のエレクトロニクス装置(10a)を装備する車両(12)の、第1の通信装置(14a)を作動させて、判定された値群を含む、および/または判定された値群を有する少なくとも1つの座標系を含む、データ(16)を、車両(12)とは別個に存在する前記第2のエレクトロニクス装置(10b)の第2の通信装置(14b)に伝送させるために設計および/またはプログラミングされ、前記第2の通信装置(10b)は、前記第1の通信装置(14a)から伝送される値群を受信するために設計される、請求項1から7までのいずれか1項に記載の予測システム(10)。
【請求項9】
車両(12)のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法において、次の各ステップを有し、
車両(12)の運転者主導式および/または自律式の少なくとも1つのブレーキングの間にそれぞれ少なくとも2つの異なる量(x,v,p,MおよびI)の値群が判定され、同じ値群の前記少なくとも2つの量(x,v,p,MおよびI)は同時に、かつ、前記量(x,v,p,MおよびI)のうちの少なくとも1つがそれぞれ設定される正常値範囲の外にある、および/または前記量(x,v,p,MおよびI)のうちの少なくとも1つの時間微分がそれぞれの前記量(x,v,p,MおよびI)にそれぞれ設定される準静的な範囲の外にある、ブレーキ状況で、判定され、前記少なくとも2つの量(x,v,p,MおよびI)のうち少なくとも1つの第1の量(xおよびv)は車両(12)の運転者によるブレーキペダル操作ならびに/または車両(12)のブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラのブレーキ希望設定をそれぞれ反映し、前記少なくとも2つの量(x,v,p,MおよびI)のうち少なくとも1つの第2の量(p、MおよびI)は、ブレーキペダル操作および/もしくは少なくとも1つのブレーキ希望設定量に対するブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの反応、少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの表面および/もしくは内部における状態、ならびに/またはブレーキシステムにより制動される車両(12)の物理量(M)をそれぞれ反映し(S1)、判定された値群を参照して、少なくとも所定の予測時間インターバルの間にブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントで少なくとも1つの機能障害が発生する蓋然性が高いかどうかが見積もられる(S2)、予測方法。
【請求項10】
少なくとも1つの前記第1の量(xおよびv)として、ブレーキペダルに連結された入力ロッドのロッドストローク(x)、入力ロッドの位置調節速度(v)、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、ブレーキシステムのモータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの目標モータ電流強さ、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの目標動作電圧、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの目標モータトルク、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの目標消費電力、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、モータ式のブレーキ圧生成デバイスの位置調節可能な少なくとも1つのピストンの目標位置調節ストローク、ならびに/またはブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、ブレーキシステムで使用される少なくとも1つのポンプの目標ポンプ速度が判定される、請求項9に記載の予測方法。
【請求項11】
少なくとも1つの前記第2の量(p、MおよびI)として、ブレーキシステムのマスタブレーキシリンダにおけるマスタブレーキシリンダ圧力(p)、ブレーキシステムの少なくとも1つのホイールブレーキシリンダにおける少なくとも1つのブレーキ圧、ブレーキシステムのモータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータのモータ電流強さ(I)、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの動作電圧、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータのモータトルク、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの消費電力、モータ式のブレーキ圧生成デバイスの少なくとも1つの位置調節可能なピストンの位置調節ストローク、場合により行われるブレーキ圧コントロールに関する、もしくは場合により行われるビークルダイナミックコントロールに関する、コントローラ状態情報、モータ式のブレーキ圧生成デバイスの表面および/もしくは内部における少なくとも1つの温度、ブレーキシステムで使用される少なくとも1つのポンプのポンプ速度、モータ式のブレーキ圧生成デバイスに連結されたブレーキシステムのギヤのギヤ効率、ブレーキシステムの少なくとも1つの弁の少なくとも1つの切換状態、ブレーキシステムによって車両(12)に惹起されるブレーキ力、ブレーキシステムによって車両(12)に惹起されるブレーキトルク(M)、車両(12)の操舵角、車両(12)のヨーレート、ブレーキシステムによって車両(12)に惹起される車両減速、車両(12)の前後方向速度、車両(12)の左右方向速度、車両(12)の左右方向加速度、ならびに/または車両(12)の車内電力システムの車内電力システム電圧が判定される、請求項9または10に記載の予測方法。
【請求項12】
少なくとも1つの前記第1の量(xおよびv)および少なくとも1つの前記第2の量(p,MおよびI)に追加してさらに少なくとも1つの第3の量を含む値群が判定され、少なくとも1つの前記第3の量は同じ値群の少なくとも1つの前記第1の量(xおよびv)および少なくとも1つの前記第2の量(p,MおよびI)と同時に判定されて環境パラメータを反映する、請求項9から11までのいずれか1項に記載の予測方法。
【請求項13】
少なくとも1つの前記第3の量として、同時に車両(12)で走行されている車道の摩擦値、車道傾斜角、ウインドワイパステータス、および/または外気温が判定される、請求項12に記載の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測システムに関する。同様に本発明は、車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術から、自動車を監視する方法が知られている。たとえば特許文献1は、特に自動車を停車へと移行させるために構成される少なくとも1つの電力消費部への供給を行うエネルギー蓄積器が監視される、自動化された走行機能を有する自動車を監視する方法を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】ドイツ特許出願公開第102017218446A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、請求項1の構成要件を有する、車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測システムを提供し、および請求項9の構成要件を有する、車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの監視だけでなく、早期診断も行うための好ましい手段を提供する。このように本発明は、それぞれのブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのすでに生じている失陥の認識だけでなく、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの将来的な機能性、および将来的な動作挙動に関わる予測も可能にする。あとで詳しく説明するとおり、多数のさまざまなブレーキシステムコンポーネントについて、たとえばそれぞれのブレーキシステムのマスタブレーキシリンダに前置される電気機械式のブレーキブースタについて、および/またはそれぞれのブレーキシステムに統合されるモータ式のプランジャ装置(特にIPBすなわちインテグレーテッドパワーブレーキなど)について、その将来的な機能性を本発明によって高い信頼度で予測することができる。本発明を適用することで、それぞれのブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの将来的な機能障害または将来的な失陥を早期に予測可能なので、本発明は、それぞれのブレーキシステムを装備する車両の自律走行の安全確保にも好適であるという利点がある。
【0006】
本発明の1つの特別な利点は、それによって特にダイナミックなブレーキ操作を、ならびに/またはそれぞれのブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくは車両のコントローラにより要求される動的負荷の高いブレーキングを、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントで考えられる少なくとも1つの機能障害の発生の予測のために利用できることにある。それに伴って本発明は、特に高負荷および/または動的負荷を伴うブレーキングのときには、少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントにもうすぐ生じる蓋然性が比較的高い機能障害またはさらに失陥の前兆を検知可能であり、それに対して穏やかな/準静的なブレーキングのときには、その種の前兆を比較的稀にしか検知可能でないことを考慮する。それに伴い、高負荷および/または動的負荷を伴うブレーキングだけが、少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの以後の機能性の予測のために評価されると特別に好ましい。このようにして、予測のために費やされる作業コストを明らかに削減することができる。同様に、このようにして予測に使用されるエレクトロニクスの所要メモリもしばしば削減することができる。
【0007】
予測システムの好ましい実施形態では、第1のエレクトロニクス装置および/または第2のエレクトロニクス装置は、少なくとも1つの第1の量を表す少なくとも1つの第1の軸と、少なくとも1つの第2の量を表す少なくとも1つの第2の軸とを有する座標系に値群を記入するために設計および/またはプログラミングされる。値群が記入されたこのような座標系を、引き続いて予測のために評価することができるという利点がある。
【0008】
好ましい発展例として、第1のエレクトロニクス装置は、少なくとも1つの第1の量および少なくとも1つの第2の量に追加して、同時に車両で走行されている車道の摩擦値を含む値群を判定するために追加的に設計および/またはプログラミングされていてよい。このことは、引き続いての予測の際に、少なくとも1つの第1の量と少なくとも1つの第2の量の間の関係と、検出された摩擦値とを特別に「比較」することを可能にする。このようにして、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントが、運転者、車両のブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/または車両のコントローラによって要求されるブレーキングに対して、まだ「希望に即して」反応しているかどうかを早期に認識することができる。引き続き、少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測のために、得られた知見を援用することができる。
【0009】
たとえば第1のエレクトロニクス装置および/または第2のエレクトロニクス装置は、少なくとも1つの第1の軸および少なくとも1つの第2の軸に追加して、第1の軸または第1の軸のうちの1つと、第2の軸または第2の軸のうちの1つとを通って広がる平面に、摩擦値を表す少なくとも1つの摩擦値軸または摩擦値を表すセクターをさらに含む座標系に値群を記入するために設計および/またはプログラミングされる。それに伴ってこの座標系は、少なくとも1つの第1の量と少なくとも1つの第2の量との間のそのつどの関係が、そのつどの摩擦値に即した挙動を示しているどうかを検証するために、好ましく利用することができる。
【0010】
予測システムの別の好ましい実施形態では、第1のエレクトロニクス装置は、少なくとも1つの第1の量および少なくとも1つの第2の量に追加してさらに少なくとも1つの第3の量を含む値群を判定するために追加的に設計および/またはプログラミングされ、少なくとも1つの第3の量は同じ値群の少なくとも1つの第1の量および少なくとも1つの第2の量と同時に判定されて、環境パラメータを反映する。このことは、車両の少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについて、ここで説明している予測システムの実施形態によって行われる予測をいっそう追加的に改善する。特に、少なくとも1つの環境条件も予測にあたって加味されることによって、蓋然性の高い最大の走行距離を、ここで説明している予測システムの実施形態によって高い信頼度で見積もることができる。
【0011】
第1のエレクトロニクス装置および/または第2のエレクトロニクス装置は、少なくとも1つの第1の軸および少なくとも1つの第2の軸に追加して、少なくとも1つの第3の量を表す少なくとも1つの第3の軸をさらに含む座標系に値群を記入するために設計および/またはプログラミングされるのが好ましい。それに伴い、少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントでの少なくとも1つの機能障害の考えられる発生に関わる以下に説明する座標系の評価によって、数多くのさまざまな量を簡易な方式で迅速に、かつ高い信頼度で調べることができる。
【0012】
第1のエレクトロニクス装置および/または第2のエレクトロニクス装置は、座標系に記入された値群にそれぞれブレーキ動作点を割り当て、ブレーキ動作点の分布を追加的に考慮したうえで、少なくとも所定の予測時間インターバルの間にブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントで少なくとも1つの機能障害が発生する蓋然性が高いかどうかを見積もるために設計および/またはプログラミングされるのが好ましい。このことは、ここで説明している技術により、高負荷および/または動的負荷を伴うブレーキングについての値群がブレーキシステムの正しい動作状態として座標系のブレーキ特性マップと照合され、誤機能として解釈されないように配慮されることによって、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについてここで説明している予測システムの実施形態によって行われる予測を改善する。
【0013】
予測システムの特別に好ましい実施形態では、第1のエレクトロニクス装置は車両に組付可能であり、または組み付けられており、第1のエレクトロニクス装置の、または第1のエレクトロニクス装置を装備する車両の、第1の通信装置を作動させて、判定された値群を含む、および/または判定された値群を有する少なくとも1つの座標系を含む、データを、車両とは別個に存在する第2のエレクトロニクス装置の第2の通信装置に伝送させるために設計および/またはプログラミングされ、第2の通信装置は、第1の通信装置から伝送される値群を受信するために設計される。このケースでは、同じく好ましい予測のために利用される第2のエレクトロニクス装置を車両に組み付けることが必要ない。したがって、ここで説明している予測システムの実施形態では、第2のエレクトロニクス装置を比較的大きい容積および/または比較的高い重量で問題なく構成することができる。さらに、ここで説明している予測システムの実施形態では、第2のエレクトロニクス装置は、第1のエレクトロニクス装置の第1の通信装置から伝送される値群/座標系を複数の車両から受信することもでき、それにより、それぞれのブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントを監視および早期診断するために、予測システムの第2のエレクトロニクス装置を多数の車両のために利用することができる。
【0014】
上で説明した利点は、車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための相応の予測方法が実行されたときにも保証される。
【0015】
予測方法の好ましい実施形態では、少なくとも1つの第1の量として、ブレーキペダルに連結された入力ロッドのロッドストローク、入力ロッドの位置調節速度、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、ブレーキシステムのモータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの目標モータ電流強さ、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの目標動作電圧、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの目標モータトルク、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの目標消費電力、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、モータ式のブレーキ圧生成デバイスの位置調節可能な少なくとも1つのピストンの目標位置調節ストローク、ならびに/またはブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、ブレーキシステムで使用される少なくとも1つのポンプの目標ポンプ速度を判定する。少なくとも1つのブレーキ希望設定量についてのここに挙げた例は、従来からすでに各々の車両型式で採用されているセンサ機構を用いて測定可能であり、または、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラの少なくとも1つの信号から高い信頼度で読取り可能である。
【0016】
その代替または追加として、少なくとも1つの第2の量として、ブレーキシステムのマスタブレーキシリンダにおけるマスタブレーキシリンダ圧力、ブレーキシステムの少なくとも1つのホイールブレーキシリンダにおける少なくとも1つのブレーキ圧、ブレーキシステムのモータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータのモータ電流強さ、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの動作電圧、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータのモータトルク、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの消費電力、モータ式のブレーキ圧生成デバイスの少なくとも1つの位置調節可能なピストンの位置調節ストローク、場合により行われるブレーキ圧コントロールに関する、もしくは場合により行われるビークルダイナミックコントロールに関する、コントローラ状態情報、モータ式のブレーキ圧生成デバイスの表面および/もしくは内部における少なくとも1つの温度、ブレーキシステムで使用される少なくとも1つのポンプのポンプ速度、モータ式のブレーキ圧生成デバイスに連結されたブレーキシステムのギヤのギヤ効率、ブレーキシステムの少なくとも1つの弁の少なくとも1つの切換状態、ブレーキシステムによって車両に惹起されるブレーキ力、ブレーキシステムによって車両に惹起されるブレーキトルク、車両の操舵角、車両のヨーレート、ブレーキシステムによって車両に惹起される車両減速、車両の前後方向速度、車両の左右方向速度、車両の左右方向加速度、ならびに/または車両の車内電力システムの車内電力システム電圧を判定することができる。それに伴い、ここで説明している予測方法の実施形態は、従来からすでに車両に組み込まれているセンサ機構を拡張することなく実施することができる。
【0017】
予測方法の好ましい発展形態として、少なくとも1つの第1の量および少なくとも1つの第2の量に追加してさらに少なくとも1つの第3の量を含む値群を判定することができ、少なくとも1つの第3の量は、同じ値群の少なくとも1つの第1の量および少なくとも1つの第2の量と同時に判定されて環境パラメータを反映する。車両のブレーキ挙動はしばしば環境条件によっても損なわれるので、少なくとも1つの環境パラメータが加味されることは、予測方法によって実行される予測を追加的に改善する。
【0018】
たとえば少なくとも1つの第3の量として、同時に車両で走行されている車道の摩擦値、車道傾斜角、ウインドワイパステータス、および/または外気温を判定することができる。少なくとも1つの環境パラメータについてここで挙げた例も、通常、従来からすでに車両に組み込まれているセンサ機構を拡張することなく決定することができる。
【0019】
次に、本発明の詳しい構成要件と利点について図面を参照しながら説明する。図面は次のものを示す。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1a】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法の第1の実施形態を説明するためのフローチャートである。
図1b】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法の第1の実施形態を説明するための座標系である。
図1c】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法の第1の実施形態を説明するための座標系である。
図1d】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法の第1の実施形態を説明するための座標系である。
図1e】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法の第1の実施形態を説明するための座標系である。
図1f】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法の第1の実施形態を説明するための座標系である。
図1g】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法の第1の実施形態を説明するための座標系である。
図1h】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法の第1の実施形態を説明するための座標系である。
図2a】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法の第2の実施形態を説明するための座標系である。
図2b】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法の第2の実施形態を説明するための座標系である。
図2c】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法の第2の実施形態を説明するための座標系である。
図3a】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法の第3の実施形態を説明するための座標系である。
図3b】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法の第3の実施形態を説明するための座標系である。
図3c】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法の第3の実施形態を説明するための座標系である。
図3d】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法の第3の実施形態を説明するための座標系である。
図3e】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法の第3の実施形態を説明するための座標系である。
図4】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測システムの実施形態の機能形態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1aから1hは、車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法の第1の実施形態を説明するためのフローチャートと座標系を示している。
【0022】
以下に説明する予測方法は、さまざまに異なる多数の型式のブレーキシステムについて実施可能である。ブレーキ・バイ・ワイヤ・ブレーキシステムについても、以下に説明する予測方法を実施することができる。明文をもって指摘しておくと、この予測方法の実施可能性は、それぞれのブレーキシステムを装備する車両/自動車の特別な車両型式/自動車型式に限定されるものではない。
【0023】
予測方法の方法ステップS1で、それぞれ少なくとも2つの異なる量x,vおよびpの値群が、車両の運転者主導式および/または自律式の少なくとも1つのブレーキングの間に判定される。これらの値群は、選択的に、能動的に実行されるビークルダイナミックコントロール中に判定するか、または、ビークルダイナミックの非実行中に判定することができる。ビークルダイナミックコントロールとは、コントローラによって要求されるコントロールであり、たとえばABSコントロール(アンチロックコントロール)、ESPコントロール(エレクトロニックスタビリティコントロール)、TCSコントロール(駆動スリップコントロール、Traction Control System)、またはACCコントロール(車間距離コントロール、Adaptive Cruise Control)であると理解することができる。
【0024】
明文をもって指摘しておくと、同じ値群の少なくとも2つの異なる量x,vおよびpは同時に判定される。さらに、方法ステップS1で規定される値群は、量x,vおよびpのうちの少なくとも1つがそれぞれ設定された正常値範囲の外にある、または量x,vおよびpのうちの少なくとも1つの時間微分が、量x,vおよびpにそれぞれ設定される準静的な範囲の外にある、ブレーキ状況のときに判定される。このことは、方法ステップS1で規定される値群が、高負荷および/または動的負荷のあるブレーキ状況で規定されると言い換えることもできる。
【0025】
方法ステップS1で規定された値群において、各々の値群の少なくとも2つの量x,vおよびpのうち少なくとも1つの第1の量xおよびvは、車両の運転者によるブレーキペダル操作ならびに/または車両のブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラのブレーキ希望設定をそれぞれ反映する。少なくとも1つの第1の量xおよびvとは、特に、運転者によるブレーキペダル操作の操作強度、ならびに/またはブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラのブレーキ希望設定のブレーキ強度を表す量/単位であると理解することができる。ブレーキ自動制御装置または走行自動制御装置とは、車両の少なくとも速度を自律的に制御するための自動装置、たとえば車間距離コントロール(ACC,Adaptive Cruise Control)であると理解することができる。任意選択としてブレーキ自動制御装置または走行自動制御装置は、車両の自律的なブレーキングを作動させるための自動装置(たとえば非常ブレーキシステム)や、車両の自律的な(無人式の)走行のための自動装置であってもよい。コントローラの例はすでに上で挙げている。
【0026】
各々の値群の少なくとも1つの第1の量xおよびvは、方法ステップS1の任意選択の部分ステップS1aで決定/測定することができる。図1aから1hの例では、少なくとも1つの第1の量xおよびvは、ブレーキペダルに連結された入力ロッドのロッドストロークxと、入力ロッドの位置調節速度vである。ロッドストロークxは、たとえばロッドストロークセンサによって容易に高い信頼度で検知することができる。ロッドストロークxから、追加的に、入力ロッドの位置調節速度vを容易に導き出すことができる。しかしながらここで挙げている少なくとも1つの第1の量xおよびvの例は、限定をするものと解釈されるべきではない。各々の値群の少なくとも1つの第1の量xおよびvとして、たとえばブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、ブレーキシステムのモータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの目標モータ電流強さ、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの目標動作電圧、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの目標モータトルク、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの目標消費電力、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、モータ式のブレーキ圧生成デバイスの位置調節可能な少なくとも1つのピストンの目標位置調節ストローク、ならびに/またはブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、ブレーキシステムで使用される少なくとも1つのポンプの目標ポンプ速度を判定することもできる。少なくとも1つの第1の量xおよびvについてここで説明している例はすべて、運転者によるブレーキペダル操作の操作強度を、またはブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラのブレーキ希望設定のブレーキ強度を、良好に反映する。
【0027】
部分ステップS1aと同時に、方法ステップS1の任意選択の部分ステップS1bで、各々の値群の少なくとも2つの量x,vおよびpの少なくとも1つの第2の量pが判定/測定されることを実行することができる。少なくとも1つの第2の量pは、それぞれ、ブレーキペダル操作および/もしくはブレーキ希望設定量に対するブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの反応、少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの表面および/もしくは内部における状態(ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの反応中)、ならびに/またはブレーキシステムにより制動される車両の物理量を反映する量/単位であると理解することができる。例示として、ここで説明している実施形態では、ブレーキシステムのマスタブレーキシリンダにおけるマスタブレーキシリンダ圧力pが、少なくとも1つの第2の量pとして判定される。マスタブレーキシリンダ圧力pとは、ブレーキシステムのフィード圧力pであると理解することもできる。たとえばマスタブレーキシリンダ圧力pの判定のために、ブレーキシステムのフィード圧力センサを利用することができる。しかしながらマスタブレーキシリンダ圧力pの代替または補足として、ブレーキシステムの少なくとも1つのホイールブレーキシリンダにおける少なくとも1つのブレーキ圧、ブレーキシステムのモータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータのモータ電流強さ、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの動作電圧、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータのモータトルク、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの消費電力、モータ式のブレーキ圧生成デバイスの少なくとも1つの位置調節可能なピストンの位置調節ストローク、場合により行われるブレーキ圧コントロールに関する、もしくは場合により行われるビークルダイナミックコントロールに関する、コントローラ状態情報、モータ式のブレーキ圧生成デバイスの表面および/もしくは内部における少なくとも1つの温度、ブレーキシステムで使用される少なくとも1つのポンプのポンプ速度、モータ式のブレーキ圧生成デバイスに連結されたブレーキシステムのギヤのギヤ効率、ブレーキシステムの少なくとも1つの弁の少なくとも1つの切換状態、ブレーキシステムによって車両に惹起されるブレーキ力、ブレーキシステムによって車両に惹起されるブレーキトルク、車両の操舵角、車両のヨーレート、ブレーキシステムによって車両に惹起される車両減速、車両の前後方向速度、車両の左右方向速度、車両の左右方向加速度、ならびに/または車両の車内電力システムの車内電力システム電圧を、少なくとも1つの第2の量pとして判定することもできる。ここに挙げた少なくとも1つの第2の量pについての例は、従来すでに各々の車両型式で使用されているセンサ機構によって測定可能である。
【0028】
任意選択の発展例として、部分ステップS1aおよびS1bと同時に、方法ステップS1の部分ステップS1cをさらにそれぞれ実行することができ、これにより、少なくとも1つの第1の量xおよびvと少なくとも1つの第2の量pに追加して、各々の値群についてさらに少なくとも1つの第3の量が判定される。このとき部分ステップS1cは、少なくとも1つの第3の量が、同じ値群の少なくとも1つの第1の量xおよびvおよび少なくとも1つの第2の量pと同時に判定されるように、部分ステップS1aおよびS1bと同時に実行される。少なくとも1つの第3の量は、環境パラメータを反映する量/単位であると理解される。少なくとも1つの第3の量は、たとえば同時に車両で走行されている車道の摩擦値、車道傾斜角、ウインドワイパステータス、および/または外気温であってよい。それに伴い、ここで挙げている少なくとも1つの第3の量についての例を決定するのに適したセンサ機構は、従来すでに多くの車両型式/自動車型式に存在している。同時に車両で走行されている車道の摩擦値を決定するために、同じ値群の他の量x,vおよびpの決定中に、そのときに車両で走行されている車道の位置表示を判定し、そのつどの位置表示を参照して、同時に車両で走行されている車道の摩擦値を所定の摩擦値マップから読み取り/照会することができる。
【0029】
方法ステップS1の迅速な実行可能性を保証するために、部分ステップS1a,S1bおよびS1cは好ましくは値群ごとにそれぞれ1回だけ実行され、部分ステップS1aからS1cの実行中には、判定された量x,vおよびpのうちの少なくとも1つが、それぞれ設定された正常値範囲の外にあるか否かは顧慮されず、ならびに/または、判定された量x,vおよびpのうちの少なくとも1つの時間微分が、それぞれ設定された準静的な範囲の外にあるか否かは顧慮されない。そして、場合により部分ステップS1aからS1cの実行後に方法ステップS1の部分ステップS1dがさらに実行され、この部分ステップで、以前に判定された値群のうち、判定された量がいずれもそれぞれ設定された正常値範囲の外にないものは、ならびに/または判定された量x,vおよびpのうちの少なくとも1つの時間微分がいずれもそれぞれ設定された準静的な範囲の外にないものは、以後の方法ステップのために適用される値群から除外される。
【0030】
次の方法ステップS2で、少なくとも所定の予測時間インターバルの間にブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントで少なくとも1つの機能障害が発生する蓋然性が高いか否かについて、判定された(かつ除外されていない)値群が見積られる。このとき方法ステップS2が利用するのは、特に、高負荷および/または動的負荷のあるブレーキ状況のもとで同時に判定された少なくとも1つの値群を参照すれば、そのつどの負荷を実行するために併用されるブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントが、その負荷に完全に耐えることができなくなっていることを早期に認識可能であるということである。それに伴い、ここで説明している予測方法は、克服されるべき高負荷および/または動的負荷に基づいて、機能性の僅かな低下でさえもっとも早期に認識可能である少なくとも1つのブレーキ状況の値群を、好ましい予測のために的確に利用する。これに加えて、方法ステップS1で判定された(かつ除外されていない)値群だけを適用したうえでの予測の実行は、そのために使用されるエレクトロニクスや併用されるデータ記憶装置に低い要求事項しか課すことがない。方法ステップS2で評価される値群の数が比較的少ないからである。
【0031】
ここで説明している予測方法により、特に、ブレーキシステムの電気機械式のブレーキブースタの、またはブレーキシステムの統合型のプランジャデバイスの(たとえば特にIPB、Integrated Power Brake)、全体機能性も、その将来的な利用可能性/機能性の予測という観点から検査することができる。特にこの手法により、従来式の監視手法や従来技術に基づくセンサによっては、たとえばモータ位置センサや差動センサによっては、予測可能ではない、電気機械式のブレーキブースタの、または統合型のプランジャデバイスの、将来的な失陥も予測することができる。このように、ここで説明している予測方法は、特に車両のブレーキシステムの電気機械式のブレーキブースタや統合型のプランジャデバイスについて、好ましい早期診断を可能にする。しかしながら明文をもって指摘しておくと、これ以外のブレーキシステムコンポーネントも、差し迫った機能障害/将来的な失陥に関してこの予測方法により検査することができる。
【0032】
方法ステップS1で判定された値群は、方法ステップS2の部分ステップS2aで、少なくとも1つの第1の量xおよびvを表す少なくとも1つの第1の軸と、少なくとも1つの第2の量pを表す少なくとも1つの第2の軸とを有する座標系に記入されるのが好ましい。少なくとも1つの第1の量xおよびvおよび少なくとも1つの第2の量pに追加して、さらに少なくとも1つの第3の量を含んでいる値群が方法ステップS1で判定されている場合、座標系は、少なくとも1つの第1の軸および少なくとも1つの第2の軸に追加して、少なくとも1つの第3の量を表す少なくとも1つの第3の軸をさらに有することができる。特に、少なくとも1つの第3の量として、同時に車両で走行されている車道の摩擦値が値群ごとに方法ステップS1/S1cでそれぞれ判定される場合、座標系は、摩擦値を表す摩擦値軸に代えて摩擦値を表すセクターを、第1の軸または第1の軸のうちの1つと、第2の軸または第2の軸のうちの1つとを通って広がる平面に有することができる。
【0033】
このような種類の座標系の例が図1bから1hに具象的に図示されており、図1bから1hの座標系の軸は、入力ロッドのロッドストロークx(単位mm/ミリメートル)、入力ロッドの位置調節速度v(単位mm/s、すなわち1秒あたりのミリメートル)、マスタブレーキシリンダ圧力p(単位バール)、および頻度Nを表す。図1bから1eの座標系は、矢印A1によって具象的に図示するように、部分ブレーキから急激にABSコントロールへと転換されたブレーキ状況を反映しており、走行されている車道の低い摩擦値(マーキングM1によってマーキング)と、走行されている車道の高い摩擦値(マーキングM2によってマーキング)との間の転換が飛躍的に生じている。それに伴ってこのブレーキ状況は、矢印A2によって具象的に図示するように再び部分ブレーキを続行できるようになるまで、高いダイナミクスを有している。それに伴ってこのブレーキ状況は、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントでの少なくとも1つの機能障害の発生が、少なくとも所定の予測時間インターバルの間に高い蓋然性をもって差し迫っているかどうかを予測するのに良く適している。図1bから1dの座標系に記入された領域B1およびB2によって具象的に表されているように、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの機能性がごく僅かに低下しただけでも、それをもっとも早期に表す値群を的確に選択することができる。このような値群の評価のために必要な所要メモリ、およびそのために費やされるべき作業コストが、このようにして小さくなる。したがって、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントに作用する負荷に関わる「ワーストケース操作」が見出されることで、予測がその品質に関して改善されるだけでなく、予測を実行するのに必要な作業コストとメモリコストも有意に低減することができる。
【0034】
方法ステップS2の別の任意の部分ステップS2bで、座標系に記入されている値群にそれぞれブレーキ動作点を割り当てることができる(ただし図1bから1hの座標系には、図を見やすくするためにブレーキ動作点は記入していない)。それに続いて、ブレーキ動作点の分布を追加的に考慮したうえで、少なくとも所定の予測時間インターバルの間にブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントで少なくとも1つの機能障害が発生する蓋然性が高いかどうかを見積ることができる。明文をもって指摘しておくと、特に環境データ、車道データ、および/または交通状況データに依存して、各々の全体システム状態にそれぞれブレーキ動作点を割り当てることができる。そして、それぞれの座標系におけるそれぞれのブレーキ動作点の位置が、特定のブレーキ動作について意図される目標位置と相違している場合、このことは、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキコンポーネントの機能性の低下を示唆している。たとえば運転者が乾いた道路から雪上への移行時にブレーキをかけることによる、第1のブレーキ動作点から第2のブレーキ動作点への移行を同じく検出し、相応に評価することができる。このようにブレーキ動作点の追加の評価は、それぞれのブレーキシステムについての瞬間的でハイダイナミックな早期診断を可能にする。さらに部分ステップS2bは、新たな(すなわちそれまで未知であった)ブレーキ動作点を検出し、状態移行を含めてブレーキ特性マップに保存しておくことができる「学習モデル」を提供する。そしてこうした新たなブレーキ動作点を、システム複合体で異常性の有無に関して評価することができる。予測/早期診断のためにそれぞれ利用されるブレーキ特性マップは、ストローク関連、位置関連、速度関連、および/またはエネルギー関連であってよい。
【0035】
このように、ここで説明している予測方法は、それぞれのブレーキシステムにおける故障や機能障害を早期に認識するための非常に感度の高い手段である。そのつど作成される座標系を参照して、ブレーキシステムのまだ機能性のあるブレーキシステムコンポーネントが近い将来に、最善のケースでも制約された機能性しか有さなくなるかどうかを、高い信頼度で予測できるという利点がある。特にブレーキシステムにおける「不具合の始まり」を、そのつど作成される座標系を参照して認識/予測することができる。特に高負荷および/または動的負荷が生じるブレーキ状況では、少なくとも1つのコンポーネントの摩擦挙動の変化として表面化する、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの摩耗を、運転者、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/またはコントローラのブレーキ希望の充足に必要であるがモデル予想とは相違するエネルギー消費量から、導き出すことができる。ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントで徐々に進行する経年劣化も、たとえばキロメートル水準に依存するデータの定期的な保存によって認識することができる。たとえばキロメートル水準に依存する、作成された座標系の定期的な保存は、その後の早期診断のための基準データを追加的に保証することができる。その補足として、運転者の走行挙動も予測にあたって加味することができる。そのために実行されるべき方法ステップS1およびS2は、それにもかかわらず比較的低コストな比較的小規模のエレクトロニクスによって実行可能である。
【0036】
特に、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントにおける少なくとも1つの機能障害が、予測時間インターバルの間に発生する蓋然性が高いことが方法ステップS2で予測/推測される場合、任意選択の方法ステップS3として、発光表示、音響出力、および/または画像表示によって、相応の警告を車両の運転者に伝えることができる。警告を伝えるために、少なくとも車両の発光部材、車両の音響出力装置、車両の画像表示装置、および/または車両の移動機器、たとえばその移動電話を利用することができる。このようにして多様な形態で、工場を訪れるよう運転者に要請することができる。その代替または追加として方法ステップS3で、予測に呼応する定期点検情報を工場へ送ることもできる。
【0037】
逆に方法ステップS2で、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントで少なくとも1つの機能障害が予測時間インターバルの間に発生する懸念がないことが予測/推測された場合には、任意選択の方法ステップS4として、車両の自律走行についての許可基準を出力することもできる。それに応じて、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントで少なくとも1つの機能障害が予測時間インターバルの間に発生する蓋然性が高いことが方法ステップS2で予測/推測された場合には、車両の自律走行についての許可基準を不作動化することができる。このケースでは、車両の自律走行に使用される自動装置は、許可基準が存在しているときにのみ、車両の自律走行に適した動作モードに自動装置が切り換えられるように構成されるのが好ましい。このようにして、少なくとも自律走行がなされる蓋然性の高い時間のあいだにブレーキシステムでの機能障害が高い蓋然性で排除できる場合にのみ、車両が自律走行へと移ることが保証される。
【0038】
別の任意選択の方法ステップS5で、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントで少なくとも1つの機能障害が少なくとも所定の予測時間インターバルの間に発生する蓋然性が高いことが認識された後に、車両の走行ルートを、負荷を最小化する新たなルートに設定することもできる。同様に、車両の走行形態を相応に適合化して、車両の継続走行中にたとえば機能の縮小および/またはパラメータ化の適合化による負荷の最小化を実現し、それにより、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントが車両の継続走行中にいっそう保全されるようにすることができる。このようにして、少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントで少なくとも1つの機能障害が実際に起こる時点を、少なくとも若干はさらに遅らせることができる。
【0039】
さらに任意選択の方法ステップS6で、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントで少なくとも1つの機能障害が少なくとも所定の予測時間インターバルの間に発生する蓋然性が高いことが認識された後に、車両を停止へと移行させることができる。特に、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントでクリティカルな異常が認識された後に、車両の車両停止を強制することができる。このことは車両の安全性水準を改善する。
【0040】
図2aから2cは、車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法の第2の実施形態を説明するための座標系を示している。
【0041】
図2aから2cの座標系によって図示されている予測方法が、上で説明した実施形態と相違するのは、少なくとも1つの第2の量Mとして、ブレーキシステムによって車両に惹起されるブレーキトルクM(単位Nm、すなわちニュートンメートル)が、入力ロッドのロッドストロークx(単位mm/ミリメートル)および入力ロッドの位置調節速度v(単位mm/s、すなわち1秒当たりのミリメートル)とともに決定されて、上ですでに説明した方式で評価されることだけである。
【0042】
図2aから2cの座標系に記入された領域B1およびB2によって具象的に示されているように、このケースでも、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの機能性の僅かな低下でさえもっとも早期に表す値群を的確に選択することができる。
【0043】
図3aから3eは、車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法の第3の実施形態を説明するための座標系を示している。
【0044】
上で説明した各実施形態とは異なり、図3aから3eによって図示されている予測方法では、少なくとも1つの第2の量Iとして、ブレーキシステムのモータのモータ電流強さI(単位A/アンペア)が、入力ロッドのロッドストロークx(単位mm/ミリメートル)および入力ロッドの位置調節速度v(単位mm/s、すなわち1秒当たりのミリメートル)とともに決定されて、上ですでに説明した方式で評価される。この実施形態でも、記入されている領域B1およびB2によってあらためて表されているように、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの機能性の僅かな低下でさえもっとも早期に表す値群を的確に選択することができる。
【0045】
図4は、車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測システムの実施形態の機能形態を説明するための模式図を示している。
【0046】
以下に説明する予測システム10は、車両12のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測のために、特に早期診断のために、適用可能である。以下に説明する予測システム10の適用可能性は、それぞれのブレーキシステムの特別なブレーキシステム型式には限定されず、それぞれのブレーキシステムを装備する車両/自動車12の特別な車両型式/自動車型式にも限定されない。
【0047】
予測システム10は、運転者主導式および/または自律式の少なくとも1つのブレーキングの間にそれぞれ少なくとも2つの異なる量の値群を判定するために設計および/またはプログラミングされた第1のエレクトロニクス装置10aを含んでいる。さらに第1のエレクトロニクス装置により、同じ値群の少なくとも2つの量が同時に判定可能であり/判定される。同様に、上記量のうちの少なくとも1つがそれぞれ設定される正常値範囲の外にある、および/または上記量のうちの少なくとも1つの時間微分がそれぞれの量にそれぞれ設定される準静的な範囲の外にある、ブレーキ状況で、各々の値群について少なくとも2つの量が判定可能であり/判定される。このように値群はすべて、高負荷および/または動的負荷が生じる少なくとも1つのブレーキ状況で決定される。
【0048】
少なくとも2つの量のうち少なくとも1つの第1の量は、車両の運転者によるブレーキペダル操作ならびに/または車両のブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラのブレーキ希望設定をそれぞれ反映し、それに対して、少なくとも2つの量のうち少なくとも1つの第2の量は、ブレーキペダル操作および/もしくはブレーキ希望設定量に対するブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの反応、少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの表面および/もしくは内部における状態、ならびに/またはブレーキシステムにより制動される車両の物理量をそれぞれ反映する。好ましい発展例として、第1のエレクトロニクス装置はこれらに追加して、少なくとも1つの第1の量および少なくとも1つの第2の量に追加してさらに少なくとも1つの第3の量を含む値群を判定するために設計および/またはプログラミングされていてよく、少なくとも1つの第3の量は同じ値群の少なくとも1つの第1の量および少なくとも1つの第2の量と同時に判定されて、環境パラメータを反映する。環境パラメータは、特に、同時に車両12で走行されている車道の摩擦値であってよい。少なくとも1つの第1の量、少なくとも1つの第2の量、および少なくとも1つの第3の量のさらに別の例はすでに上に列挙している。
【0049】
さらに、予測システム10の第1のエレクトロニクス装置10aおよび/または第2のエレクトロニクス装置10bは、判定された値群を参照して、少なくとも所定の予測時間インターバルの間にブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントで少なくとも1つの機能障害が発生する蓋然性が高いかどうかを見積るために設計および/またはプログラミングされる。それに伴い、ここで説明している予測システム10も、上ですでに説明した利点をもたらす。
【0050】
特に、第1のエレクトロニクス装置10aおよび/または第2のエレクトロニクス装置10bは、少なくとも1つの第1の量を表す少なくとも1つの第1の軸と、少なくとも1つの第2の量を表す少なくとも1つの第2の軸とを有する座標系に値群を記入するために設計および/またはプログラミングされていてよい。座標系は、少なくとも1つの第1の軸および少なくとも1つの第2の軸に追加して、少なくとも1つの第3の量を表す少なくとも1つの第3の軸をさらに含むことができる。特に座標系は、第1の軸または第1の軸のうちの1つと、第2の軸または第2の軸のうちの1つとを通って広がる平面に、摩擦値を表す摩擦値軸または摩擦値を表すセクターを有することができる。好ましい発展例として、第1のエレクトロニクス装置10aおよび/または第2のエレクトロニクス装置10bは、上記に追加して、座標系に記入された値群にそれぞれブレーキ動作点を割り当て、ブレーキ動作点の分布を追加的に考慮したうえで、少なくとも所定の予測時間インターバルの間にブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントで少なくとも1つの機能障害が発生する蓋然性が高いかどうかを見積もるために設計および/またはプログラミングされていてよい。予測システム10は、すなわちその第1のエレクトロニクス装置10aおよび/または第2のエレクトロニクス装置10bは、特に、上で説明した各方法ステップを実行するために設計/プログラミングされていてよい。
【0051】
図4の例では、第1のエレクトロニクス装置10aはそれぞれの車両12に組付可能であり/組み付けられている。さらに第1のエレクトロニクス装置10aは、第1のエレクトロニクス装置10aの、または第1のエレクトロニクス装置10aを装備する車両の、第1の通信装置14aを作動させて、判定された値群を含む、および/または判定された値群を有する少なくとも1つの座標系を含む、データ16を、車両12とは別個に存在する第2のエレクトロニクス装置10bの第2の通信装置14bに伝送させるために設計/プログラミングされている。そして第2の通信装置14bは、第1の通信装置14aから伝送されるデータ16を受信するために設計される。その補足として通信装置14aおよび14bを通じて、第2のエレクトロニクス装置10bに保存されている情報を、たとえば摩擦値マップおよび/または気象情報を、第1のエレクトロニクス装置10aに提供可能であってよい。
【0052】
第1のエレクトロニクス装置10aは事前予測を作成するために設計/プログラミングされていてよく、特に、作成された座標系に未知の動作点または疑問のある動作点が存在する場合に、事前予測を含むデータ16を第2のエレクトロニクス装置10bに伝送することができる。第2のエレクトロニクス装置10bは、少なくとも判定された値群を含むデータ16を受信した後、上ですでに説明した方式で、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについて予測/早期診断を作成する。そのために車両モデル、特性マップ、および/またはワーストケース操作に関する情報とその帰結などが第2のエレクトロニクス装置10bに保存されていてよい。
【0053】
そして、第2のエレクトロニクス装置10bにより決定された予測情報18を、再び通信装置14aおよび14bを通じて車両12に送信することができる。予測情報18は特に命令20を含むことができ、これが車両12で、上ですでに説明した方法ステップS3からS6のうちの少なくとも1つをリリースする。
【0054】
このように第2のエレクトロニクス装置10bは、これと車両12との間の比較的広い距離のもとでも、依然として好ましい予測/早期診断を行うことができる。このように車両12と第2のエレクトロニクス装置10bとの連携は、車両12の重量を増やすことがなく、第2のエレクトロニクス装置10bのために車両12で利用する設計スペースが必要とされることもない。このことは、比較的大容積および/または比較的重量のある第2のエレクトロニクス装置10bの構成も可能にし、そのことが予測システム10/その第2のエレクトロニクス装置10bの適用可能性を損なうことがない。さらに、このようなケースでの車両12と第2のエレクトロニクス装置10bとの連携は、車両12の製造コストを増やすことなく可能である。
【0055】
図4に具象的に示すように、第2の通信装置14bを装備する第2のエレクトロニクス装置10bは、予測/早期診断を実行するために複数の車両12と連携することもできる。車両12は、通常、独自の通信装置14aを装備しているので、それによって第2のエレクトロニクス装置10bを多様に利用可能である。任意選択として、このような方式で早期診断を「2つのレベルで」行うこともでき、それは、最初に車両レベルで予測が作成され、最後に「さらに高いレベルで」、複数/多数の車両12からなる全保有車両でクラウドが相関づけされることによる。予測システム10/その第2のエレクトロニクス装置10bは、好ましい発展例としてさらに追加的に、予測の検証をするためのテキストシーケンスを、好ましくは車両12での実行がその走行挙動にも運転者の快適性にも影響しないテキストシーケンスを、それぞれの車両12に送るために設計/プログラミングされていてよい。
【符号の説明】
【0056】
10 予測システム
10a 第1のエレクトロニクス装置
10b 第2のエレクトロニクス装置
12 車両
14a 第1の通信装置
14b 第2の通信装置
16 データ
x,v,p,M,I 量
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図1f
図1g
図1h
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
図4
【手続補正書】
【提出日】2024-01-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(12)のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測システム(10)において、
車両(12)の運転者主導式および/または自律式の少なくとも1つのブレーキングの間にそれぞれ少なくとも2つの異なる量(x,vx,p,MおよびI)の値群を判定するために設計および/またはプログラミングされた第1のエレクトロニクス装置(10a)を有し、前記第1のエレクトロニクス装置(10a)により同じ値群の前記少なくとも2つの量(x,vx,p,MおよびI)を同時に、かつ、前記量(x,vx,p,MおよびI)のうちの少なくとも1つがそれぞれ設定される正常値範囲の外にある、および/または前記量(x,vx,p,MおよびI)のうちの少なくとも1つの時間微分がそれぞれの前記量(x,vx,p,MおよびI)にそれぞれ設定される準静的な範囲の外にある、ブレーキ状況で、判定可能であり、前記少なくとも2つの量(x,vx,p,MおよびI)のうち少なくとも1つの第1の量(xおよびvx)は車両(12)の運転者によるブレーキペダル操作ならびに/または車両(12)のブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラのブレーキ希望設定をそれぞれ反映し、前記少なくとも2つの量(x,vx,p,MおよびI)のうち少なくとも1つの第2の量(p、MおよびI)は、ブレーキペダル操作および/もしくはブレーキ希望設定量に対するブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの反応、少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの表面および/もしくは内部における状態、ならびに/またはブレーキシステムにより制動される車両(12)の物理量(M)をそれぞれ反映し、
前記予測システム(10)の前記第1のエレクトロニクス装置(10a)および/または第2のエレクトロニクス装置(10b)は、判定された値群を参照して、少なくとも所定の予測時間インターバルの間にブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントで少なくとも1つの機能障害が発生する蓋然性が高いかどうかを見積もるために設計および/またはプログラミングされる、予測システム。
【請求項2】
前記第1のエレクトロニクス装置(10a)および/または前記第2のエレクトロニクス装置(10b)は、少なくとも1つの前記第1の量(xおよびvx)を表す少なくとも1つの第1の軸と、少なくとも1つの前記第2の量(p、MおよびI)を表す少なくとも1つの第2の軸とを有する座標系に値群を記入するために設計および/またはプログラミングされる、請求項1に記載の予測システム(10)。
【請求項3】
前記第1のエレクトロニクス装置(10a)は、少なくとも1つの前記第1の量(xおよびvx)および少なくとも1つの前記第2の量(p、MおよびI)に追加して、同時に車両(1)で走行されている車道の摩擦値をさらに含む値群を判定するために追加的に設計および/またはプログラミングされる、請求項1または2に記載の予測システム(10)。
【請求項4】
前記第1のエレクトロニクス装置(10a)および/または前記第2のエレクトロニクス装置(10b)は、少なくとも1つの前記第1の軸および少なくとも1つの前記第2の軸に追加して、前記第1の軸または前記第1の軸のうちの1つと、前記第2の軸または前記第2の軸のうちの1つとを通って広がる平面に摩擦値を表す少なくとも1つの摩擦値軸または摩擦値を表すセクターをさらに含む座標系に値群を記入するために設計および/またはプログラミングされる、請求項2に記載の予測システム(10)。
【請求項5】
前記第1のエレクトロニクス装置(10a)は、少なくとも1つの前記第1の量(xおよびvx)および少なくとも1つの前記第2の量(p,MおよびI)に追加してさらに少なくとも1つの第3の量を含む値群を判定するために追加的に設計および/またはプログラミングされ、少なくとも1つの前記第3の量は同じ値群の少なくとも1つの前記第1の量(xおよびvx)および少なくとも1つの前記第2の量(p,MおよびI)と同時に判定されて環境パラメータを反映する、請求項に記載の予測システム(10)。
【請求項6】
前記第1のエレクトロニクス装置(10a)および/または前記第2のエレクトロニクス装置(10b)は、少なくとも1つの前記第1の軸および少なくとも1つの前記第2の軸に追加して、少なくとも1つの前記第3の量を表す少なくとも1つの第3の軸をさらに含む座標系に値群を記入するために設計および/またはプログラミングされる、請求項5に記載の予測システム(10)。
【請求項7】
前記第1のエレクトロニクス装置(10a)および/または前記第2のエレクトロニクス装置(10b)は、座標系に記入された値群にそれぞれブレーキ動作点を割り当て、ブレーキ動作点の分布を追加的に考慮したうえで、少なくとも所定の予測時間インターバルの間にブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントで少なくとも1つの機能障害が発生する蓋然性が高いかどうかを見積もるために設計および/またはプログラミングされる、請求項2,4または6に記載の予測システム(10)。
【請求項8】
前記第1のエレクトロニクス装置(10a)は車両(12)に組付可能であり、または組み付けられており、前記第1のエレクトロニクス装置(10a)の、または前記第1のエレクトロニクス装置(10a)を装備する車両(12)の、第1の通信装置(14a)を作動させて、判定された値群を含む、および/または判定された値群を有する少なくとも1つの座標系を含む、データ(16)を、車両(12)とは別個に存在する前記第2のエレクトロニクス装置(10b)の第2の通信装置(14b)に伝送させるために設計および/またはプログラミングされ、前記第2の通信装置(14b)は、前記第1の通信装置(14a)から伝送される値群を受信するために設計される、請求項1または2に記載の予測システム(10)。
【請求項9】
車両(12)のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントについての予測方法において、次の各ステップを有し、
車両(12)の運転者主導式および/または自律式の少なくとも1つのブレーキングの間にそれぞれ少なくとも2つの異なる量(x,vx,p,MおよびI)の値群が判定され、同じ値群の前記少なくとも2つの量(x,vx,p,MおよびI)は同時に、かつ、前記量(x,vx,p,MおよびI)のうちの少なくとも1つがそれぞれ設定される正常値範囲の外にある、および/または前記量(x,vx,p,MおよびI)のうちの少なくとも1つの時間微分がそれぞれの前記量(x,vx,p,MおよびI)にそれぞれ設定される準静的な範囲の外にある、ブレーキ状況で、判定され、前記少なくとも2つの量(x,vx,p,MおよびI)のうち少なくとも1つの第1の量(xおよびvx)は車両(12)の運転者によるブレーキペダル操作ならびに/または車両(12)のブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラのブレーキ希望設定をそれぞれ反映し、前記少なくとも2つの量(x,vx,p,MおよびI)のうち少なくとも1つの第2の量(p、MおよびI)は、ブレーキペダル操作および/もしくは少なくとも1つのブレーキ希望設定量に対するブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの反応、少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの表面および/もしくは内部における状態、ならびに/またはブレーキシステムにより制動される車両(12)の物理量(M)をそれぞれ反映し(S1)、判定された値群を参照して、少なくとも所定の予測時間インターバルの間にブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントで少なくとも1つの機能障害が発生する蓋然性が高いかどうかが見積もられる(S2)、予測方法。
【請求項10】
少なくとも1つの前記第1の量(xおよびvx)として、ブレーキペダルに連結された入力ロッドのロッドストローク(x)、入力ロッドの位置調節速度(vx)、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、ブレーキシステムのモータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの目標モータ電流強さ、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの目標動作電圧、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの目標モータトルク、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの目標消費電力、ブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、モータ式のブレーキ圧生成デバイスの位置調節可能な少なくとも1つのピストンの目標位置調節ストローク、ならびに/またはブレーキ自動制御装置もしくは走行自動制御装置および/もしくはコントローラにより要求される、ブレーキシステムで使用される少なくとも1つのポンプの目標ポンプ速度が判定される、請求項9に記載の予測方法。
【請求項11】
少なくとも1つの前記第2の量(p、MおよびI)として、ブレーキシステムのマスタブレーキシリンダにおけるマスタブレーキシリンダ圧力(p)、ブレーキシステムの少なくとも1つのホイールブレーキシリンダにおける少なくとも1つのブレーキ圧、ブレーキシステムのモータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータのモータ電流強さ(I)、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの動作電圧、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータのモータトルク、モータ式のブレーキ圧生成デバイスのモータの消費電力、モータ式のブレーキ圧生成デバイスの少なくとも1つの位置調節可能なピストンの位置調節ストローク、場合により行われるブレーキ圧コントロールに関する、もしくは場合により行われるビークルダイナミックコントロールに関する、コントローラ状態情報、モータ式のブレーキ圧生成デバイスの表面および/もしくは内部における少なくとも1つの温度、ブレーキシステムで使用される少なくとも1つのポンプのポンプ速度、モータ式のブレーキ圧生成デバイスに連結されたブレーキシステムのギヤのギヤ効率、ブレーキシステムの少なくとも1つの弁の少なくとも1つの切換状態、ブレーキシステムによって車両(12)に惹起されるブレーキ力、ブレーキシステムによって車両(12)に惹起されるブレーキトルク(M)、車両(12)の操舵角、車両(12)のヨーレート、ブレーキシステムによって車両(12)に惹起される車両減速、車両(12)の前後方向速度、車両(12)の左右方向速度、車両(12)の左右方向加速度、ならびに/または車両(12)の車内電力システムの車内電力システム電圧が判定される、請求項9または10に記載の予測方法。
【請求項12】
少なくとも1つの前記第1の量(xおよびvx)および少なくとも1つの前記第2の量(p,MおよびI)に追加してさらに少なくとも1つの第3の量を含む値群が判定され、少なくとも1つの前記第3の量は同じ値群の少なくとも1つの前記第1の量(xおよびvx)および少なくとも1つの前記第2の量(p,MおよびI)と同時に判定されて環境パラメータを反映する、請求項9または10に記載の予測方法。
【請求項13】
少なくとも1つの前記第3の量として、同時に車両(12)で走行されている車道の摩擦値、車道傾斜角、ウインドワイパステータス、および/または外気温が判定される、請求項12に記載の予測方法。
【国際調査報告】