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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-25
(54)【発明の名称】ラクチドを製造する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C07D 319/12 20060101AFI20240418BHJP
   B01D 3/32 20060101ALI20240418BHJP
   B01D 3/28 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
C07D319/12
B01D3/32 Z
B01D3/28
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575492
(86)(22)【出願日】2021-02-22
(85)【翻訳文提出日】2023-08-22
(86)【国際出願番号】 SG2021050083
(87)【国際公開番号】W WO2022177500
(87)【国際公開日】2022-08-25
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523319449
【氏名又は名称】聚晟(新加坡)私人有限公司
【氏名又は名称原語表記】POLYWIN PTE.LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100119585
【弁理士】
【氏名又は名称】東田 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100131576
【弁理士】
【氏名又は名称】小金澤 有希
(72)【発明者】
【氏名】スイ ジェンジュン
【テーマコード(参考)】
4D076
【Fターム(参考)】
4D076AA13
4D076AA22
4D076AA24
4D076BA05
4D076BA12
4D076BB04
4D076BB05
4D076BB06
4D076BB23
4D076BC02
4D076EA05Z
4D076EA14Z
4D076HA11
4D076JA04
(57)【要約】
本発明は、第1の反応蒸留システム、第2の反応蒸留システム、主蒸留システム及びサイドドロー還流器を含む、光学的に純粋なラクチドを連続的に製造する方法に関する。4つのシステムのそれぞれについて、総圧力損失を減少させ、したがって高い底部温度に関連する副反応を減少させるために、新規な水平上部取り付け型凝縮器が使用される。さらに、パージ流に含まれる金属汚染物質を除去し、含まれた未変換の乳酸オリゴマーを粗ラクチドに解重合する目的で、拭い取り薄膜蒸発器、ショートパス蒸発器又はそれらの組み合わせを用いて、第2の反応蒸留システムからのパージ流を濃縮し、これらすべては、ラクチド製造にさらなる利点をもたらす。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸の水溶液から光学的に純粋なラクチドを連続的に製造する方法であって、第1の反応蒸留システム、第2の反応蒸留システム、主蒸留システム及びサイドドロー還流器を含み、新規な水平上部取り付け型(HTM)凝縮器を用いて圧力損失を低くすることで、高い底部温度に関連する副反応を減少させ、前記第2の反応蒸留システムからのパージ流を濃縮するための濃縮装置を用いて、パージ流に含まれた金属汚染物質を除去し、金属がシステム内で蓄積することを防止し、含まれた未変換の乳酸オリゴマーの解重合によって粗ラクチドを回収する、方法。
【請求項2】
前記HTM凝縮器は、前記第1の反応蒸留システムの蒸留塔の頂部に直接的に溶接又は接続される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記HTM凝縮器は、前記第2の反応蒸留システムの蒸留塔の頂部に直接的に溶接又は接続される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記HTM凝縮器は、前記主蒸留システムの頂部に直接的に溶接又は接続される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記HTM凝縮器は、前記サイドドロー還流器の頂部に直接的に溶接又は接続される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記HTM凝縮器は、改良された水平シェル及びチューブ式熱交換器であり、
円筒状のシェル、及び、前記シェルの内部に取り付けられた複数の管と、
前記シェルの中央部に約3~7°の傾斜で設置され、前記シェルの内部空間をその上方の管配置セクションとその下方の空のセクションに分離する縦バッフルであって、前記管配置セクションにおいて、2つの垂直な単一のセグメントバッフルが、左右端で前記縦バッフルに別々に接続され、前記2つの垂直な単一のセグメントバッフルの間に別の3つの垂直な単一のセグメントバッフルが設置される縦バッフルと、
前記HTM凝縮器の底部に位置する、蒸気塔の頂部から上昇する蒸気用の蒸気入口と、前記HTM凝縮器の頂部の未凝縮蒸気出口と、凝縮物を蓄積するための前記蒸気入口の周りの環状セクションと、前記環状セクションの低い位置にある塔頂液体生成物出口と、前記環状セクションの高い位置にある内部還流出口とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記HTM凝縮器は、凝縮される蒸気用の1つのシェル通路と、複数の、好ましくは2~8の範囲の冷却媒体用の管通路とを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記HTM凝縮器において、蒸留塔の頂部からの蒸気は、前記縦バッフル及び前記5つの垂直なバッフルによってガイドされ、管内を流れる冷却媒体と熱交換する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記HTM凝縮器の管配置セクションにおいて、蒸気凝縮は、前記縦バッフル及び前記5つの垂直な単一のセグメントバッフルによって形成される領域で発生し、前記縦バッフルの左右端の外側の領域でより少ない程度で発生する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記HTM凝縮器において、形成された凝縮物の大部分は、前記傾斜した縦バッフルを横切って、前記縦バッフルと前記シェルの内壁との間の隙間を通ってシェルの空の空間に流れ込み、残りの凝縮物は、前記縦バッフルの左右端の外側から空の空間に直接的に落下する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記HTM凝縮器において、形成された全ての凝縮物は、最終的に前記蒸気入口の周りの前記環状セクションに収集される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記HTM凝縮器は、動作中の圧力損失が2ミリバール未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記濃縮装置は、拭い取り薄膜蒸発器及び外部凝縮器を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記濃縮装置において、前記拭い取り薄膜蒸発器内で生成された粗ラクチドの蒸気は、前記外部凝縮器内で凝縮される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記濃縮装置は、ショートパス蒸発器又は拭い取り薄膜蒸発器とショートパス蒸発器の組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記濃縮装置において、濃縮された留分は、金属汚染物質を含み、金属を回収するための後続のプロセスに送られる、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応蒸留に基づいて光学的に純粋なラクチドを連続的に製造する方法に関する。本発明はまた、動作中に非常に低い圧力損失を引き起こす新規な凝縮器を含む、ラクチドを製造する装置に関する。さらに、第2の反応蒸留システムの底部からのパージ流を濃縮するための装置が記載されている。同様に、これらの装置と方法の両方の使用目的が記載されている。
【背景技術】
【0002】
ラクチドは、乳酸の環状二量体であり、高分子量ポリ乳酸の製造における中間体として使用することができる。これらのポリマーは、環境的に許容可能な分解生成物を形成しながら、生物学的及び加水分解的に分解される能力があるため、生物医学産業及びその他の用途に有用であり、例えば分解可能な包装材料として有用である。
【0003】
ラクチドを合成する既知の方法の一例は、原料としての乳酸を乳酸濃縮器で濃縮して含水量を低減し、乳酸分子間のエステル化の開始を促進する工程と、プレポリマー反応器内で乳酸を予備重合させて、エステル化により生じた水を除去する間に乳酸オリゴマーを生成する工程と、得られた乳酸オリゴマーを解重合反応器内で粗ラクチドに解重合する工程とを含む。上記濃縮、予備重合及び解重合を行うための方法は、例えば米国特許第6326458号など、本技術分野において知られている。
【0004】
乳酸が2つの光学異性体、即ち(R)-乳酸及び(S)-乳酸を含むことは、本技術分野でよく知られている。したがって、乳酸の鏡像異性体からラクチドを形成すると、(R,R)-ラクチド(又はD-ラクチド)、(S,S)-ラクチド(又はL-ラクチド)及び(R,S)-ラクチド(又はメソ-ラクチド)として区別される、異なる幾何学的構造を有する3つの立体異性体が生じる。実際には、システムに供給される粗乳酸は、(S)-乳酸及び(R)-乳酸から選択される2種類の乳酸のいずれかを主成分として含んでいる。したがって、解重合によって製造された粗ラクチドは、大量の光学的に純粋なラクチド(L-ラクチド又はD-ラクチド)、少量のメソ-ラクチド、及びさらに少量の残りの第3のラクチドを含む。
【0005】
米国特許第6326458号に記載されているこのような3段階の方法により乳酸の水溶液から粗ラクチドを得ることができるが、このプロセスの1つの欠点は、乳酸が濃縮され、乳酸オリゴマーに予備重合されるにつれて、乳酸が高温に晒される量が増えることである。出発乳酸は通常、光学純度が非常に高く、(S)-乳酸の方が商業的に利用可能である。しかしながら、これらの条件下では一部のラセミ化が起こり、例えば主成分としての(S)-乳酸が(R)-乳酸に変換され、その結果、主生成物であるL-ラクチドが損失し、粗ラクチド中のメソ-ラクチドの量が増加する。これにより、光学的に純粋なラクチド、例えばL-ラクチドからメソ-ラクチドを分離する際に問題を引き起こす可能性がある。L-ラクチドを重合させる前に、追加の精製工程が必要とされる場合がある。
【0006】
さらに、米国特許第6326458号に記載されているように、乳酸濃縮器及びプレポリマー反応器から出た水蒸気は、それぞれ、2つの別々の凝縮器で凝縮され、水蒸気は、必然的にいくらかの乳酸を運ぶ。運ばれた乳酸は、好ましくは、凝縮器を通過した後に凝縮物から分離され、乳酸濃縮器又はプレポリマー反応器に再循環する。しかしながら、凝縮物から乳酸を回収するには、多量の熱エネルギーが必要とされる。
【0007】
上記欠点は、乳酸濃縮器とプレポリマー反応器という2つの装置を1つの装置、即ち乳酸の滞留時間を短縮し、かつ乳酸からの水の分離を促進する反応蒸留システムに置き換えることによって緩和される。反応蒸留システムは、好ましくは、少なくともポット、蒸留塔、凝縮器及び蒸発器を含む。蒸発器は、水の蒸発に必要なエネルギーを供給するだけでなく、乳酸凝縮(予備重合)反応が起こる場所でもある。蒸留塔内には、精留セクションで水が濃縮され、ストリッピングセクションで乳酸及び乳酸オリゴマーなどの高沸点成分が濃縮されるにつれて、濃度勾配が形成される。乳酸の水溶液に含まれる水及び乳酸凝縮中に生成された水は、実質的に水からなる塔頂生成物流として留去される。
【0008】
蒸留塔の導入により、反応蒸留システムの圧力損失が増加し、その結果、関連する蒸発器及びポットの動作温度が上昇する可能性がある。しかしながら、この問題は、蒸留塔に適した物質移動要素を適切に選択することにより軽減される。蒸留塔に関連する従来の凝縮器は、一般的に約5~20ミリバールの圧力損失を引き起こすため、反応蒸留システムの反応温度を低下させ、したがって乳酸ラセミ化を低減するために、非常に低い圧力損失を有する凝縮器を提供することが望ましいであろう。
【0009】
同様に、解重合反応器のために第2の反応蒸留システムが提案されており、このシステムは、少なくともポット、蒸留塔、蒸発器及び非常に低い圧力損失を有する凝縮器を含む。
【0010】
第2の反応蒸留システムからの粗ラクチドは、ラクチドだけでなく、残留乳酸、水、乳酸オリゴマー及び他の反応副生成物などの他の不純物も含む。ポリ乳酸の分子量は、ラクチド中のヒドロキシル不純物の量によって制御される。特に、ラクチド中の水、乳酸及び乳酸オリゴマーの存在は、重合を遅らせる傾向があり、得られたポリ乳酸は、生分解性ポリマーとしてその使用に適した高分子量を有さない。L-ラクチドからの不純物の分離は、成分間の揮発度の違いに基づく蒸留によって達成できることが示される。粗ラクチド中の主成分の揮発度が相対的に低下する順序は、水、乳酸、メソ-ラクチド、L-ラクチド、乳酸二量体であり、それらの大気圧での沸点は、それぞれ、約100℃、215℃、250℃、255℃、350℃であり、また乳酸三量体、乳酸四量体などの沸点は、さらに高い。
【0011】
米国特許第5236560号に記載されているように、ラクチド、乳酸、乳酸オリゴマー及び水を含む粗ラクチドが蒸留塔に供給され、精製されたラクチドが蒸留塔のサイドドローから蒸気の形態で吸引される。米国特許第8569517号には、液体の形態の精製されたラクチドを垂直分割壁の反対側の主分別ゾーンから得る分離壁型蒸留塔を介して粗ラクチドを分離することが提案されている。
【0012】
実質的に乳酸を含まない精製されたラクチドは、米国特許第5236560号及び米国特許第8569517号に記載されている蒸留塔から得ることができるが、依然として少量のメソ-ラクチド及び乳酸オリゴマーを含む。乳酸オリゴマーの一部は、蒸留プロセスにおいて高温に晒された乳酸とラクチドの副反応によって形成される。精製されたラクチド中の残留乳酸オリゴマーは、重合速度に悪影響を及ぼし、その結果、比較的に低分子量のポリ乳酸が生成される。実質的に光学的に純粋なラクチドを得るために、精製されたラクチドは、例えば溶融結晶化などのさらなる精製工程に供される。溶融結晶化によって、残留メソ-ラクチドをラクチドから容易に分離することができる。しかしながら、乳酸オリゴマーがより粘稠でラクチドの表面に付着する傾向があるため、溶融結晶化によってラクチドから残留乳酸オリゴマーを除去することは困難である。
【0013】
上記問題は、蒸気サイドドローを備えた主蒸留塔の下流に接続された小さなカラム、即ちサイドドロー還流器の導入によって克服されるか又は少なくとも軽減されるであろう。主蒸留塔から吸引された蒸気サイドドロー流は、頂部凝縮器を備えたサイドドロー還流器の底部に直接的に供給され、サイドドロー還流器からの底部生成物は主蒸留塔に還流される。乳酸及び乳酸オリゴマーを実質的に含まない光学的に純粋なラクチド流は、サイドドロー還流器の頂部で得られる。同様に、主蒸留塔の底部温度を下げ、乳酸とラクチドの副反応を減少させるために、主蒸留塔とサイドドロー還流器は、動作中に生じる圧力損失が低い新規な凝縮器を個別に備える。
【0014】
粗ラクチドが生成されると、システム全体への供給原料中に存在する一部の高沸点又は不揮発性の汚染物質は、第2の反応蒸留システムのポットに濃縮されると考えられる。このような汚染物質は、触媒残留物及びシステム内のステンレス鋼の腐食により蓄積した金属を含む。光学的に純粋なラクチドの収率は、第2の反応蒸留システムのポットの底部にパージ流がない状態で一定期間にわたってラクチド形成プロセスで減少することが観察される。これは、金属汚染物質がラクチドの生成に有害であり、かつパージ流の組み込みが必要とされることを示している。
【0015】
好ましくは、金属汚染物質の蓄積を防止するためにパージ流を第2の反応蒸留システムに再循環させない。パージ流を加熱して濃縮して、パージ流中に含まれる乳酸オリゴマーの解重合によってラクチドを回収すると共に、パージ流中に存在する金属の大部分を除去して任意の周知の手段による金属の回収のためのさらなるプロセスに送ることができる装置を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0016】
本発明の1つの目的は、2つの反応蒸留と2つの従来の蒸留に基づいて光学的に純粋なラクチドを製造する方法及び装置であって、各蒸留に新規な凝縮器を用いて全圧力損失を減少させ、乳酸のラセミ化及び乳酸とラクチドの副反応を減少させる、ラクチドを製造する方法及び装置を開発することにある。当該新規な凝縮器は、各蒸留塔の頂部に直接的に溶接又は接続される水平上部取り付け型(HTM)凝縮器である。
【0017】
本発明の別の目的は、蓄積した金属汚染物質を除去して第2の反応蒸留におけるラクチドの生成を増加させる方法及び装置を提供することにある。具体的に、この装置は、拭い取り薄膜蒸発器(wiped film evaporator)、ショートパス蒸発器(short path evaporator)又はそれらの組み合わせを含む。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る好ましいラクチド製造システムの概略図である。
図2】本発明に係る好ましいHTM凝縮器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
従来の反応順序について、乳酸濃縮器で加熱により乳酸に含まれる水分を蒸発させ、続いて乳酸凝縮装置で乳酸凝縮(予備重合)反応を進行させて乳酸オリゴマーを生成する。本発明によれば、上記2つの装置、即ち乳酸濃縮器及びプレポリマー反応器は、第1の反応蒸留システムに置き換えられる。第1の反応蒸留システムの設置に必要な設備費及び空間が大幅に減少する。さらに、第1の反応蒸留システムの利用は、乳酸の滞留時間を短縮し、乳酸のラセミ化を減少させ、したがって光学的に純粋なラクチドの収率を増加させるという利点を有する。
【0020】
供給原料としての乳酸の水溶液は、それぞれ、例えば0~50重量%の水、及び50~100重量%の乳酸を含んでもよい。乳酸の水溶液の温度は、好ましくは60~150℃の範囲にあり、より好ましくは100~130℃の範囲にある。
【0021】
第1の反応蒸留では、乳酸濃縮及び乳酸凝縮反応が進行し、乳酸オリゴマーが生成される。乳酸凝縮反応により得られた乳酸オリゴマーの平均分子量は、一般的に300~10000であり、好ましくは450~5000であり、より好ましくは600~2500である。
【0022】
本発明によれば、第1の反応蒸留システムは、好ましくは、少なくともポット、蒸留塔、凝縮器及び蒸発器を含む。ポットの向きは、プロセス条件に応じて水平又は垂直であってもよい。蒸留塔は、従来の塔、又は塔の内部空間を分割する分割壁を備えた分離壁型蒸留塔であってもよい。蒸発器は、水の蒸発に必要なエネルギーを供給するだけでなく、乳酸凝縮反応が起こる場所でもある。
【0023】
本発明は、第1の反応蒸留システムの蒸留塔に設置される物質移動要素の種類が特に限定されない。トレイ、ランダムパッキン、構造化充填物及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される適切な物質移動要素を使用することにより良い結果が得られる。また一方、構造化充填物は、蒸留塔における圧力損失及び塔内の液体滞留を減少させるという利点を有するため、物質移動要素として特に適する。構造化充填物の比表面積は、好ましくは50~750m/mの範囲にあり、より好ましくは125~500m/mの範囲にある。
【0024】
第1の反応蒸留における蒸留塔は、少なくとも1つの蒸発器を備える。蒸発器は、化学工業で一般的に見られるタイプの蒸発器であってもよく、流下薄膜(falling film)型蒸発器、強制循環(forced circulation)型蒸発器、熱サイホン(thermosiphon)型蒸発器などを含むが、これらに限定されない。流下薄膜型蒸発器は、特に液体の滞留が少なく、熱伝達率が高いため、乳酸の滞留時間を短縮し、乳酸のラセミ化などの好ましくない副反応を減少させるのに好ましい。
【0025】
従来の凝縮器は、通常、接続エルボ(connection elbow)及び配管を介して蒸留塔に接続される。5~20ミリバールの範囲の圧力損失は、通常、蒸留の過程で従来の凝縮器とこの凝縮器の接続配管及び金具とによって引き起こされる。水分の除去及び乳酸分子間の凝縮反応を促進するために、第1の反応蒸留は、25ミリバール以下の減圧下で行われることが望ましい。動作中に生成された水蒸気の大部分は、真空システムによって達成される減圧下、例えば冷却媒体として冷水を最大限に利用することによる20ミリバールの好ましい圧力で、凝縮器内で凝縮される。蒸留塔と従来の凝縮器によって引き起こされた圧力損失を考慮すると、ポット及び蒸発器の圧力は、30~45ミリバールの範囲にあり、これは、蒸発器内の凝縮反応温度が望ましい温度よりも高く、それに応じて乳酸のラセミ化が比較的に高くなる可能性があることも示している。
【0026】
図2に示すように、HTM凝縮器は、改良された水平シェル及びチューブ式熱交換器であり、典型的には、蒸留塔の頂部から上昇する凝縮される蒸気用の1つのシェル通路と、複数の、好ましくは2~8の範囲の冷却媒体用の管通路とを有する。HTM凝縮器は、該シェルの中央部に約3~7°の傾斜で設置され、該シェルの内部空間をその上方の管配置セクションとその下方の空のセクションに分離する縦バッフルを含む。該管配置セクションにおいては2つの垂直な単一のセグメントバッフル(バッフル#1及び#2)は、左右端で該縦バッフルに別々に接続され、該2つの垂直な単一のセグメントバッフルの間に別の3つの垂直な単一セグメントバッフル(バッフル#3、#4及び#5)が設置される。蒸留塔の頂部から水平上部取り付け型HTM凝縮器の蒸気入口まで上向きに流れる蒸気は、縦バッフルによって2つの反対方向にガイドされ、次に凝縮のために5つの垂直バッフルによって方向付けられる。蒸気凝縮は、該縦バッフル及び該5つの垂直な単一のセグメントバッフルによって形成される領域で管内を流れる冷却媒体との熱交換により発生し、該縦バッフルの左右端の外側の領域でより少ない程度で発生する。形成された凝縮物の大部分は、傾斜した縦バッフルを横切って、縦バッフルとシェルの内壁との間の隙間を通ってシェルの空の空間に流れ込み、残りの凝縮物は、縦バッフルの左右端の外側から空の空間に直接的に落下する。全ての凝縮物は、最終的に蒸気入口の周りの環状セクションに収集され、環状セクションの低い位置にある出口から留去された塔頂液体生成物流と、より高い位置にある出口から取られて塔の頂部にフィードバックされる内部還流流とに分割される。未凝縮の蒸気は、HTM凝縮器の頂部にある蒸気出口から除去される。
【0027】
その特殊な幾何学的構成により、適切に設計されたHTM凝縮器によって、動作中に2ミリバール未満の圧力損失を実現することができる。したがって、第1の反応蒸留塔の頂部から上昇する蒸気を凝縮して蒸発器とポットの動作圧力を最小限に抑えるために、従来の凝縮器の代わりにHTM凝縮器が提案される。さらに、HTM凝縮器は、使用される接続金具及び配管の数が少ないため、従来の凝縮器に比べて設置費用が安くなるという利点もある。
【0028】
第1の反応蒸留では、好ましくは、水平上部取り付け型HTM凝縮器を備えた蒸留塔と蒸発器とをそれぞれポットの上部に取り付けて、乳酸凝縮と蒸留が行われる単一の密閉領域を形成する。乳酸の水溶液は、蒸留塔の上端と下端との間の位置にある入口に連続的に供給される。反応溶液は、流下薄膜型蒸発器の上部から入り、熱伝達ゾーン及び反応ゾーンを含む長い垂直管を流れ落ち、気液二相の形態で管の底部から出る。二相流が接続されたポットに直接的に流れ、そこで蒸気が液体から解放される。解放された蒸気は、上部取り付け型蒸留塔の底部に上向きに流れ、液体は、ポットに回収される。流下薄膜型蒸発器の管の内部での液膜が破壊されることを防止するために、反応溶液の蒸発は、一般的に15~30重量%未満である。反応溶液としてポットの底部から取り出された液体の大部分は、乳酸の連続的な凝縮のために移送ポンプを介して流下薄膜型蒸発器の頂部に再循環し、そのごく一部は、次の解重合反応器に供給される。反応溶液は、通常、120~200℃の範囲、好ましくは150~180℃の範囲の温度で加熱される。
【0029】
第1の反応蒸留のプロセスにおいて、塔内には、精留セクションで水が濃縮され、ストリッピングセクションで乳酸及び乳酸オリゴマーなどの高沸点成分が濃縮されるにつれて、濃度勾配が形成される。乳酸の水溶液に含まれる水及び乳酸凝縮中に生成された水は、塔頂蒸気流として留去され、この塔頂蒸気流をHTM凝縮器によって凝縮して、下方に流れる内部還流と、廃棄される、実質的に水からなる塔頂生成物流とを得る。HTM凝縮器で凝縮されなかった蒸気は、真空システムによって除去される。実質的に塔内で液化した乳酸及び乳酸オリゴマーからなる高沸点留分は、ポットに逆流することができる。
【0030】
本発明によれば、解重合反応器のために第2の反応蒸留システムが用いられ、このシステムは、少なくともポット、蒸留塔、HTM凝縮器及び流下薄膜型蒸発器を含む。同様に、第1の反応蒸留では、水平上部取り付け型HTM凝縮器を備えた蒸留塔と、それに関連する流下薄膜型蒸発器とをそれぞれポットの上部に直接的に取り付けて、解重合及び蒸留が行われる単一の密閉領域を形成する。構造化充填物は、塔の圧力損失及び塔内の液体滞留を減少させるという利点を有するため、蒸留塔の物質移動要素として特に適する。構造化充填物の比表面積は、好ましくは50~750m/mの範囲にあり、より好ましくは125~500m/mの範囲にある。
【0031】
第2の反応蒸留では、ジオクタン酸スズ(tin dioctoate)などの触媒を加え、第1の反応蒸留からの乳酸オリゴマーと混合し、この混合物を反応溶液の一部として流下薄膜型蒸発器の頂部に供給し、そこでラクチドを生成して蒸発させる。気液二相流が流下薄膜型蒸発器の管の底部から出て、接続されたポットに直接的に流れ、そこで蒸気が液体から解放される。解放された蒸気は、ポットを介して上部取り付け型蒸留塔の底部に上向きに流れ、液体は、ポットに回収される。流下薄膜型蒸発器の管の内部での液膜が破壊されることを防止するために、反応溶液の蒸発は、一般的に15~30重量%未満である。
【0032】
反応溶液は、蒸発器内で、100ミリバール以下、好ましくは10ミリバール以下の減圧下で、120~250℃の範囲、好ましくは150~220℃の範囲の温度で加熱される。塔頂低沸点蒸留物流、すなわち、大部分のL-ラクチドといくらかのメソ-ラクチド、乳酸オリゴマー、残留水及び乳酸、例えば60~99重量%のL-ラクチド、0~15重量%のメソ-ラクチド、0~10重量%の乳酸、0~12重量%の乳酸オリゴマー及び0~3重量%の水からなる粗ラクチドが形成される。実質的に未変換の乳酸オリゴマーからなる高沸点留分は、ポットに逆流する。
【0033】
反応溶液の一部としてポットの底部から取り出された液体の大部分は、連続的な解重合反応のために移送ポンプを介して流下薄膜型蒸発器の頂部に再循環し、そのごく一部は、パージ流として除去される。パージ流は、大部分の未変換の乳酸オリゴマーと、少量の高沸点汚染物質又は不揮発性汚染物質、例えば触媒残留物及びステンレス鋼の腐食によって蓄積された金属を含む。未変換の乳酸オリゴマーが解重合されて粗ラクチドになる間にパージ流中に存在する金属の大部分を除去することが望ましい。このラクチドは、回収され、さらなる純度の確認のために第2の反応蒸留からの塔頂生成物流と混合される。
【0034】
本発明の好ましい実施形態によれば、パージ流の濃縮に拭い取り薄膜蒸発器が使用される。拭い取り薄膜蒸発器は、薄膜蒸発器又は撹拌式薄膜蒸発器とも呼ばれ、典型的には、ジャケット付きシェル(jacketed shell)、撹拌器、液滴分離器及び駆動ユニットを含む。加熱媒体は、加熱ジャケット内を流れ、パージ流中の乳酸オリゴマーの解重合と生成された粗ラクチドを含む揮発性成分の蒸発に必要な熱エネルギーを提供する。駆動ユニットによって駆動される撹拌器は、パドル、ワイパー又はスクレーパを備え、シェルに配置される。このように、入口を介して蒸発器に供給されるパージ流は、加熱ジャケットの内面全体に膜として均一に分配される。蒸発した成分は、シェルの頂部に取り付けられた液滴分離器に入って、凝縮のために蒸発器から蒸気出口を介して外部凝縮器へ出る前に同伴液体を除去する。スズ触媒の残留物及び金属汚染物質を含む揮発性の最も低い成分は、液体出口を介して除去され、金属を回収するための後続のプロセスに送られる。
【0035】
あるいは、加熱ジャケットの表面から外部凝縮器に流れる蒸気の圧力損失を考慮して、加熱ジャケットの表面から短い距離でシェル内に内部凝縮器を配置して圧力損失を減少させ、このように、実際にショートパス蒸発器が得られる。
【0036】
第2の反応蒸留からの粗ラクチドは、L-ラクチドの精製のために次の主蒸留塔に送られる。粗ラクチドは、各成分の揮発度の差に基づいて分画される。粗ラクチド中の主成分の揮発度が相対的に低下する順序は、水、乳酸、メソ-ラクチド、L-ラクチド、乳酸オリゴマーである。L-ラクチドよりも沸点が高い乳酸オリゴマーなどの揮発性の低い成分は、塔の底部で濃縮され、底部生成物として除去される。主蒸留塔からの塔頂生成物流は、大部分のメソ-ラクチドと少量の乳酸及びL-ラクチドを含む。高純度のL-ラクチドを含むラクチド生成物は、主蒸留塔から蒸気サイドドローとして吸引される。
【0037】
主蒸留塔の頂部の塔頂蒸気流がHTM凝縮器によって凝縮されて、メソ-ラクチドが豊富な凝縮物流が得られる。凝縮器で凝縮されなかった蒸気は、真空システムによって除去される。好ましくは、凝縮物流の一部を塔内に還流させ、他の部分を蒸留、結晶化又はそれらの組み合わせなどの追加の精製システムに供して純粋なメソ-ラクチドを得る。
【0038】
ストリッピングセクションで濃縮された液体底部流は、主蒸留塔の底部から取り除かれ、続いて底部生成物流と再循環流とに分割される。底部生成物流中の乳酸オリゴマー含有量の増加は、比較的に高い底部温度の条件下でラクチドと残留乳酸との間で起こる副反応により観察される。底部生成物流は、好ましくは、解重合のための反応溶液の一部として第2の反応蒸留システムに還流される。
【0039】
主蒸留塔の蒸気サイドドローとして取り出されるラクチド生成物流には、水及び乳酸が実質的に含まれない。しかしながら、蒸留のプロセスにおいてラクチドと残留乳酸との間で副反応が起こるため、ラクチド生成物流に依然として少量の乳酸オリゴマーが含まれる。ラクチド生成物流中の残留乳酸オリゴマーは、重合速度に悪影響を及ぼし、その結果、比較的に低分子量のポリ乳酸が生成される。
【0040】
本発明によれば、主蒸留塔の蒸気サイドドロー流は、HTM凝縮器を備えたサイドドロー還流器の底部に直接的に供給され、サイドドロー還流器からの底部生成物は主蒸留塔に還流される。サイドドロー還流器では、L-ラクチドが残留乳酸オリゴマーから分離され、実質的に乳酸及び乳酸オリゴマーを含まない、精製されたL-ラクチドがサイドドロー還流器の頂部で得られる。
【0041】
主蒸留塔及びサイドドロー還流器は、好ましくは、低温、減圧下で行う。主蒸留塔の頂部の圧力は、好ましくは3~25ミリバールの範囲にあり、より好ましくは5~15ミリバールの範囲にある。主蒸留塔の底部の圧力は、好ましくは10~35ミリバールの範囲にあり、より好ましくは12~25ミリバールの範囲にある。
【0042】
主蒸留塔及びサイドドロー還流器に設置された物質移動要素は、トレイ、ランダムな充填物、構造化充填物及びそれらの任意の組み合わせで構成される。また一方、構造化充填物は、塔の圧力損失及び液体滞留を減少させるという利点を有するため、物質移動要素として特に適する。構造化充填物の比表面積は、好ましくは125~750m/mの範囲にあり、より好ましくは250~350m/mの範囲にある。
【0043】
図1は、本発明に係る好ましいラクチド製造システムを概略的に示す。このシステムは、第1の反応蒸留塔2、HTM凝縮器3、ポット7、流下薄膜型蒸発器8、ポンプ10、第2の反応蒸留塔13、HTM凝縮器14、ポット18、流下薄膜型蒸発器19、ポンプ21、拭い取り薄膜蒸発器24、外部凝縮器27、主蒸留塔31、HTM凝縮器32、ポンプ37、流下薄膜型蒸発器39、サイドドロー還流器43及びHTM凝縮器44を含む。
【0044】
乳酸の水溶液は、流1を通じて第1の反応蒸留塔2に連続的に供給される。実質的に水からなる塔頂蒸気は、取り除かれ、その後にHTM凝縮器3で凝縮される。凝縮物は、蒸留塔2の頂部から留去された塔頂液体生成物流6と、蒸留塔2の頂部にフィードバックされる内部還流流5とに分割される。未凝縮の蒸気は、流4を通じて除去される。乳酸及び乳酸オリゴマーは、塔2の底部で濃縮され、ポット7に逆流する。ポット7の底部から取り出された底部流9は、その後にポンプ10を介して移送され、底部生成物流12と再循環流11に分割され、この再循環流は、流下薄膜型蒸発器8の頂部に供給され、部分的に蒸発してからポット7に流れる。蒸気は、ポット7内の液体から解放される。解放された蒸気は、塔2の底部に上向きに流れ、塔2内の液体は、ポット7に戻る。
【0045】
底部生成物流12は、解重合触媒流30と混合され、この混合物は、流22及び41と混合され、流下薄膜型蒸発器19の頂部に連続的に供給される。ラクチドの大部分を含む塔頂蒸気は、取り出され、その後にHTM凝縮器14で凝縮される。凝縮物は、蒸留塔13の頂部から留去された塔頂液体生成物流17と、蒸留塔13の頂部にフィードバックされる内部還流流16とに分割される。未凝縮の蒸気は、流15を通じて除去される。未変換の乳酸オリゴマーは、塔13の底部で濃縮され、ポット18に逆流する。ポット18の底部から取り出された底部流20は、その後にポンプ21を介して移送され、パージ流23と再循環流22とに分割される。流下薄膜型蒸発器19では、液体反応溶液は、部分的に蒸発してからポット18に流れる。蒸気は、ポット18内の液体から解放される。解放された蒸気は、塔13の底部に上向きに流れ、塔13内の液体は、ポット18に戻る。
【0046】
パージ流23は、拭い取り薄膜蒸発器24の入口に供給される。拭い取り薄膜蒸発器24から生成された蒸気は、流26を介して外部凝縮器27で凝縮される。凝縮器27からの凝縮物は、塔頂生成物流17と混合され、未凝縮の蒸気は、流28を介して除去される。揮発性が最も低い成分は、流25を介して拭い取り薄膜蒸発器24から除去される。
【0047】
蒸留塔13からの塔頂生成物流17は、主蒸留塔31に供給される。メソ-ラクチドが豊富な塔頂蒸気は、取り出され、その後にHTM凝縮器32で凝縮される。凝縮物は、主蒸留塔31の頂部から留去された塔頂生成物流35と、主蒸留塔31の頂部にフィードバックされる内部還流流34とに分割される。未凝縮の蒸気は、流33を通じて除去される。乳酸オリゴマーは、主蒸留塔31の底部で濃縮され、底部流36として取り出される。底部流36は、その後に底部生成物流41と再循環流38とに分割され、この再循環流は、流下薄膜型蒸発器39の入口に供給され、部分的に蒸発してから流40を介して主蒸留塔31の底部に流れる。主蒸留塔31から取り出された蒸気サイドドロー流48は、サイドドロー還流器43の底部に供給される。実質的にL-ラクチドからなるサイドドロー還流器43内の塔頂蒸気は、取り出され、その後にHTM凝縮器44内で凝縮される。凝縮物は、塔頂液体生成物流れ47と、サイドドロー還流器43の頂部にフィードバックされる内部還流流46とに分割される。未凝縮の蒸気は、流45を通じて除去される。サイドドロー還流器43からの底部生成物流49は、主蒸留塔31に還流される。
【0048】
続いて、図面及び実施例を参照しながら本発明について以下にさらに詳細に説明する。
【実施例
【0049】
実施例1
図1に示される本発明の一実施形態に係る第1の反応蒸留システムによる蒸留を行った。蒸留塔2は、合計9つの理論段階を有した。温度110℃での質量流量が4600kg/hである乳酸の水溶液流1(乳酸90重量%)を、供給原料入口が理論段階7の位置にある蒸留塔2に連続的に供給した。比表面積が441m/m及び250m/mである構造化充填物を、蒸留塔2の精留セクション及びストリッピングセクションの物質交換要素としてそれぞれ使用した。流下薄膜型蒸発器8で反応溶液を180℃の温度まで加熱した。底部生成物流12は、大部分の乳酸オリゴマーを含むものであった。
【0050】
HTM凝縮器3は、長さが4500mmで、外径(OD)が25.4mmである合計815本の管を含むものであった。HTM凝縮器3のシェルの内径(ID)は、2000mmであった。HTM凝縮器3の全表面積は、282mであった。蒸留塔2の頂部から上昇する水蒸気を直接的にHTM凝縮器3の蒸気入口に供給し、そこで管内を流れる冷却媒体との熱交換により凝縮を行った。凝縮物を蒸気入口の周りの環状セクションに収集し、環状セクションのより低い位置で留去された塔頂液体生成物流6と、塔2の頂部にフィードバックされる内部還流流5とに分割した。未凝縮の蒸気流4をHTM凝縮器3の頂部にある蒸気出口を通して除去した。さらなる水処理のために、実質的に純水からなる、質量流量が1240kg/hである塔頂生成物流6を除去した。HTM凝縮器3と蒸留塔2によって引き起こされた圧力損失は、それぞれ1.9ミリバールと4.3ミリバールであり、これらの圧力損失を加えると、システムの合計圧力損失は、6.2ミリバールとなった。真空システムによって蒸気出口流4の圧力を18.5ミリバールに設定すると、動作中の蒸発器8及びポット7の圧力は、24.7ミリバールとなった。
【0051】
実施例2
図1に示される本発明の一実施形態に係る第2の反応蒸留システムによる反応蒸留を行った。蒸留塔13は、合計6つの理論段階を有した。第1の反応蒸留からの底部生成物流12を、スタティックミキサー(図1には示されていない)内で触媒(ジオクタン酸スズ)流30と混合し、流22及び41と合わせて、反応溶液の混合物を形成した。この混合物は、3500kg/hの質量流量を有し、流下薄膜型蒸発器19の頂部に供給された。比表面積が125m/mである構造化充填物を、蒸留塔13の物質交換要素として使用した。粗ラクチドは、流下薄膜型蒸発器19内での乳酸オリゴマーの解重合によって生成される間に留去され、この蒸発器で反応溶液を215℃の温度まで加熱した。
【0052】
HTM凝縮器14は、長さが4000mmで、ODが19.05mmである合計605本の管を含むものであった。HTM凝縮器14のシェルIDは、1700mmであった。HTM凝縮器14の全表面積は、139mであった。蒸留塔13の頂部から上昇する粗ラクチド蒸気を直接的にHTM凝縮器14の蒸気入口に供給し、そこで管内を流れる冷却媒体との熱交換により凝縮を行った。凝縮物を蒸気入口の周りの環状セクションに収集し、環状セクションのより低い位置で留去された塔頂液体生成物流17と、塔13の頂部にフィードバックされる内部還流流16とに分割した。未凝縮の蒸気流15をHTM凝縮器14の頂部にある蒸気出口を通して除去した。さらなる精製のために、85重量%のL-ラクチドを超える、3035kg/hの質量流量を有する塔頂生成物流17を除去した。HTM凝縮器14と蒸留塔13によって引き起こされた圧力損失は、それぞれ1.7ミリバールと2.9ミリバールであり、これらの圧力損失を加えると、システムの合計圧力損失は、4.6ミリバールとなった。真空システムによって蒸気出口流15の圧力を5ミリバールに設定すると、動作中の蒸発器19及びポット18の圧力は、9.6ミリバールとなった。
【0053】
実施例3
400kg/hのパージ流23を拭い取り薄膜蒸発器24に供給した。粗ラクチドを含む蒸発した成分は、拭い取り薄膜蒸発器24から離れ、流26を介して外部凝縮器27に入り、そこで凝縮が起こった。凝縮物流29は、360kg/hの質量流量を有し、塔頂生成物流17に入った。未凝縮の蒸気を、流28を介して除去した。さらなるプロセスのために、流25を介して、スズ触媒の残留物及び金属汚染物質を含む揮発性が最も低い成分を除去した。拭い取り薄膜蒸発器24の動作温度及び圧力を、それぞれ、200~230℃の範囲及び6ミリバールに設定した。
【0054】
実施例4
図1に示される本発明の一実施形態に係るサイドドロー還流器を備えた主蒸留塔による蒸留を行った。主蒸留塔31は、合計35個の理論段階を有し、サイドドロー還流器43は、合計6つの理論段階を有する。107℃の温度で3550kg/hの供給原料を、供給原料入口が理論段階9の位置にある主蒸留塔31に連続的に供給した。
【0055】
HTM凝縮器32は、長さが4000mmで、ODが25.4mmである合計360本の管を含むものであった。HTM凝縮器32のシェルIDは、1600mmであった。HTM凝縮器32の全表面積は、110mであった。動作中、HTM凝縮器32によって引き起こされた全圧力損失は、1.6ミリバールであった。
【0056】
HTM凝縮器44は、長さが3500mmで、ODが25.4mmである合計242本の管を含むものであった。HTM凝縮器44のシェルIDは、1100mmであった。HTM凝縮器44の全表面積は、65mであった。動作中、HTM凝縮器44によって引き起こされた全圧力損失は、1.2ミリバールであった。
【0057】
本発明に係る上記の実施例で説明したように、従来の凝縮器の代わりにHTM凝縮器を使用することは、システムの全圧力損失を減少させ、それに応じてシステムの動作温度を低下させるのに特に有用である。さらに、拭い取り薄膜蒸発器は、パージ流に含まれる金属汚染物質の除去と、含まれる未変換の乳酸オリゴマーの解重合による粗ラクチドの回収とに利用される。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-08-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸の水溶液から光学的に純粋なラクチドを連続的に製造する方法であって、第1の反応蒸留システム、第2の反応蒸留システム、主蒸留システム及びサイドドロー還流器を含み、新規な水平上部取り付け型(HTM)凝縮器を用いて圧力損失を低くすることで、高い底部温度に関連する副反応を減少させる、方法。
【請求項2】
前記HTM凝縮器は、前記第1の反応蒸留システムの蒸留塔の頂部に直接的に溶接又は接続される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記HTM凝縮器は、前記第2の反応蒸留システムの蒸留塔の頂部に直接的に溶接又は接続される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記HTM凝縮器は、前記主蒸留システムの頂部に直接的に溶接又は接続される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記HTM凝縮器は、前記サイドドロー還流器の頂部に直接的に溶接又は接続される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記HTM凝縮器は
筒状のシェル、及び、上記シェルの内部に取り付けられた複数の管と、
上記シェルの中央部に約3~7°の傾斜で設置され、上記シェルの内部空間をその上方の管配置セクションとその下方の空のセクションに分離する縦バッフルであって、上記管配置セクションにおいて、2つの垂直な単一のセグメントバッフルが、左右端で上記縦バッフルに別々に接続され、上記2つの垂直な単一のセグメントバッフルの間に別の3つの垂直な単一のセグメントバッフルが設置される縦バッフルと、
蒸留塔の頂部から上昇する蒸気用の、前記HTM凝縮器の底部の蒸気入口、前記HTM凝縮器の頂部の未凝縮蒸気出口、凝縮物を蓄積するための上記蒸気入口の周りの環状セクション、前記環状セクションの低い位置にある塔頂液体生成物出口、及び、前記環状セクションの高い位置にある内部還流出口とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記HTM凝縮器は、凝縮される蒸気用の1つのシェル通路と、複数の冷却媒体用の管通路とを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記HTM凝縮器において、蒸留塔の頂部からの蒸気は、前記縦バッフル及び前記5つの垂直なバッフルによってガイドされ、管内を流れる冷却媒体と熱交換する、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記HTM凝縮器の前記管配置セクションにおいて、蒸気凝縮は、前記縦バッフル及び前記5つの垂直な単一のセグメントバッフルによって形成される領域で発生し、前記縦バッフルの左右端の外側の領域でより少ない程度で発生する、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記HTM凝縮器において、形成された凝縮物の大部分は、前記傾斜した縦バッフルを横切って、前記縦バッフルと前記シェルの内壁との間の隙間を通って前記シェルの前記空の空間に流れ込み、残りの凝縮物は、前記縦バッフルの左右端の外側から前記空の空間に直接的に落下する、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記HTM凝縮器において、形成された全ての凝縮物は、最終的に前記蒸気入口の周りの前記環状セクションに収集される、請求項に記載の方法。
【請求項12】
前記HTM凝縮器は、動作中の圧力損失が2ミリバール未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
第2の反応蒸留システムからのパージ流を濃縮するために用いられ、パージ流に含まれる金属汚染物質を除去し、金属がシステム内で蓄積することを防止し、未変換の乳酸オリゴマーの解重合によって粗ラクチドを回収する、濃縮装置。
【請求項14】
前記濃縮装置は、拭い取り薄膜蒸発器及び外部凝縮器を含む、請求項13に記載の濃縮装置
【請求項15】
前記拭い取り薄膜蒸発器内で生成された前記粗ラクチドの蒸気は、前記外部凝縮器内で凝縮される、請求項14に記載の濃縮装置
【請求項16】
前記濃縮装置において、濃縮された留分は、金属汚染物質を含み、金属を回収するための後続のプロセスに送られる、請求項13に記載の濃縮装置
【国際調査報告】