(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-30
(54)【発明の名称】酸素レベルの可視化を生成するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/1455 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
A61B5/1455
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571179
(86)(22)【出願日】2022-05-13
(85)【翻訳文提出日】2023-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2022063026
(87)【国際公開番号】W WO2022243188
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ショーネンベルク ゲルト アントニウス フランシスクス
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038KK01
4C038KL07
4C038KY10
(57)【要約】
対象者の解剖学的構造中の組織中の酸素レベルの可視化を生成するためのシステム及び方法が開示されている。解剖学的構造中の血管のロケーション/構造と組織の少なくとも1つの酸素レベル測定値とを含むデータが受信される。組織全体にわたる解剖学的データと確認された酸素レベルとに基づいて酸素レベルと血管構造とを示す可視化が生成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の解剖学的構造の組織中の酸素レベルの可視化を生成するための処理システムであって、前記処理システムは、
前記解剖学的構造中の血管のロケーションを表す血管ロケーションデータを受信することと、
前記解剖学的構造中のそれぞれの少なくとも1つのロケーションにおける前記組織の少なくとも1つの酸素レベル測定値を受信することと、
前記解剖学的構造の前記組織全体にわたって酸素レベルを確認するために、前記血管ロケーションデータを使用して、前記解剖学的構造中のそれぞれの少なくとも1つのロケーションにおける前記少なくとも1つの酸素レベル測定値を補間することと、
前記解剖学的構造の少なくとも一部分の前記組織中の酸素レベルの前記可視化を生成することと
を行う、処理システム。
【請求項2】
前記処理システムは、さらに、
前記血管ロケーションデータと、前記確認された酸素レベルとに基づいて、前記解剖学的構造中の前記血管に関して前記組織中の酸素レベルの前記可視化を生成すること
を行う、請求項1に記載の処理システム。
【請求項3】
前記解剖学的構造が器官、好ましくは心臓である、請求項1又は2に記載の処理システム。
【請求項4】
前記処理システムは、前記解剖学的構造のかん流のモデルを使用して、前記血管ロケーションデータと前記少なくとも1つの酸素レベル測定値とを処理することによって、前記少なくとも1つの酸素レベル測定値を補間する、請求項1から3のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項5】
前記処理システムは、さらに、
前記解剖学的構造の輪郭を得ることと、
前記解剖学的構造の前記得られた輪郭上に前記確認された酸素レベルを重ねることと、
前記血管ロケーションデータに基づいて、前記解剖学的構造の前記得られた輪郭の上に前記血管の表現を重ねることと
を行う、請求項1から4のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項6】
前記処理システムは、さらに、
前記血管ロケーションデータと前記少なくとも1つの酸素レベル測定値とに基づいて潜在的罹患血管セグメントを特定することと、
前記生成された可視化上に前記潜在的罹患血管セグメントのロケーションの指示を重ねることと
を行う、請求項1から5のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項7】
前記処理システムは、さらに、
前記血管ロケーションデータと前記少なくとも1つの酸素レベル測定値とに基づいて潜在的罹患微小血管エリアを特定することと、
前記生成された可視化上に前記潜在的罹患微小血管エリアのロケーションの指示を重ねることと
を行う、請求項1から6のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項8】
前記生成された可視化は、酸素レベル測定値が利用可能でないロケーションの指示をさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項9】
前記少なくとも1つの酸素レベル測定値が、異なる波長における光学特性の差に基づく、請求項1から8のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項10】
対象者の解剖学的構造の組織中の酸素レベルの可視化を生成し、表示するためのシステムであって、前記システムは、
異なる波長における光学特性の差に基づいて前記解剖学的構造の前記組織中の少なくとも1つの酸素レベルを測定し、それによって、少なくとも1つの酸素レベル測定値を生成するための酸素レベル測定システムと、
前記酸素レベル測定システムからの前記解剖学的構造中の前記組織の前記少なくとも1つの酸素レベル測定値を受信するための、請求項1から9のいずれか一項に記載の処理システムと、
前記処理システムから、前記生成された可視化を受信し、表示するためのディスプレイデバイスと
を備える、システム。
【請求項11】
前記酸素レベル測定システムが、
少なくとも2つの別個の光波長における電磁放射を発するためのデバイスと、
組織の光学特性を測定し、それによって光学測定値を生成するためのセンサと、
前記センサからの光学測定値に基づいて少なくとも1つの酸素レベル測定値を計算するためのプロセッサと
を備える、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記デバイス及び前記センサが、前記組織が光学測定中に前記デバイスと前記センサとの間に位置するように配置されるか、又は
前記デバイス及び前記センサが光学測定中に前記組織の同じ側に配置された、
請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
ユーザ入力デバイスをさらに備え、前記処理システムは、さらに、
前記ユーザ入力デバイスにおいて受信されたユーザ入力に応答して前記組織中の酸素レベルのさらなる可視化を生成することであって、前記さらなる可視化が、前記可視化によって与えられたビューとは異なるビューからの前記組織中の前記酸素レベルを示す、さらなる可視化を生成することと、
前記さらなる可視化を前記ディスプレイデバイスに出力することと
を行う、請求項10から12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
対象者の解剖学的構造の組織中の酸素レベルの可視化を生成するためのコンピュータ実装方法であって、前記コンピュータ実装方法は、
前記解剖学的構造中の血管のロケーションを表すデータを受信するステップと、
前記解剖学的構造中のそれぞれの少なくとも1つのロケーションにおける前記組織の少なくとも1つの酸素レベル測定値を受信するステップと、
前記解剖学的構造の前記組織全体にわたって酸素レベルを確認するために、血管ロケーションデータを使用して、前記解剖学的構造中のそれぞれの少なくとも1つのロケーションにおける前記少なくとも1つの酸素レベル測定値を補間するステップと、
前記解剖学的構造の少なくとも一部分の前記組織中の酸素レベルの前記可視化を生成するステップと
を有する、コンピュータ実装方法。
【請求項15】
処理システム上で実行されたときに、前記処理システムに請求項14に記載の方法のステップを実行させる、コンピュータプログラムコード手段を含む、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素レベルの可視化を生成する分野に関し、特に、解剖学的構造中の筋組織中の酸素レベルの可視化を生成することに関する。
【背景技術】
【0002】
心筋虚血(myocardial ischemia)は、心臓への血流が減少し、それにより、心筋が十分な酸素を受け取ることが妨げられたときに発生する。心筋虚血には、冠状動脈中の狭窄(冠状動脈疾患)、及び心筋に酸素の豊富な血液を送るための冠状動脈から分岐した小血管の狭窄(微小血管冠動脈疾患)を含む、様々な原因があり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
心筋虚血を診断する現在の方法は、冠状動脈のコントラスト強調X線画像が撮られる冠動脈アンギオグラフィなど、間接的手段に依拠している。これらの手段は、一般に、微小血管冠動脈疾患の場合には心筋虚血を検出しない。
【0004】
したがって、心筋中の酸素レベルについての情報の改善が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は特許請求の範囲によって定義される。
【0006】
本発明の一態様による例によれば、対象者の解剖学的構造中の筋組織中の酸素レベルの第1の可視化を生成するための処理システムが提供される。
【0007】
本処理システムは、解剖学的構造中の動脈のロケーションを表す動脈ロケーションデータを受信することと、解剖学的構造中の筋組織の少なくとも1つの酸素レベル測定値を受信することと、解剖学的構造の、又は解剖学的構造中に含まれる関心領域の筋組織全体にわたって酸素レベルを予測するために、動脈ロケーションデータと少なくとも1つの酸素レベル測定値とを使用して、少なくとも1つの酸素レベル測定値を補間することと、動脈ロケーションデータと予測された酸素レベルとに基づいて解剖学的構造中の動脈に関して筋組織中の酸素レベルの第1の可視化を生成することとを行う。
【0008】
本発明は、虚血は、血液供給の低減、すなわち酸素レベルの低下の結果を測定することによって最も良く検出されると認識している。
【0009】
酸素レベル測定値と動脈情報の両方を使用することによって、第1の可視化は、虚血の厳密なロケーションを特定することが可能である。第1の可視化はまた、どの動脈の血流が制限され、それにより酸素レベルの低下が起こり得るか、及び動脈中に重大な病変が見つからなかった場合に、解剖学的構造のどのエリアに罹患微小血管系(microvasculature)があり得るかを、臨床医が決定することを可能にする。
【0010】
解剖学的構造中の動脈のロケーションを表すデータは、一般的なものであることもあり、対象者固有のものであることもある。対象者固有の動脈情報により、より正確な可視化が得られる。対象者固有の動脈ロケーションデータは、任意の好適な撮像方法、例えば、撮像モダリティに対応する造影剤を用いる又は用いないX線、CT、MRI又は超音波撮像を使用して得られる。
【0011】
第1の可視化は、視覚的表現を与えるためにディスプレイデバイスによって処理することができるディスプレイデータを含むか、又はそのようなディスプレイデータから形成される。視覚的表現は、解剖学的構造の動脈に関して(解剖学的構造の)筋組織中の酸素レベルを視覚的に表す。
【0012】
本処理システムはまた、生成された第1の可視化をディスプレイデバイスに与える。
【0013】
いくつかの例では、本処理システムは、解剖学的構造中の各酸素レベル測定値のロケーションを表す測定値ロケーションデータを取得し、さらに測定値ロケーションデータを使用して少なくとも1つの酸素レベル測定値を補間する。
【0014】
いくつかの実施形態では、解剖学的構造は心臓である。このシステムは、臨床医が心筋虚血のロケーションを評価することを可能にし、それによって、臨床医が心筋虚血の原因を特定するのを助ける。
【0015】
いくつかの実施形態では、本処理システムは、解剖学的構造のかん流(perfusion)のモデルを使用して、動脈ロケーションデータと少なくとも1つの酸素レベル測定値とを処理することによって、少なくとも1つの酸素レベル測定値を補間する。
【0016】
解剖学的構造のかん流のモデルは、酸素レベル測定値と組み合わせて、測定値ロケーションからさらに上又は下の血流の酸素レベルを予測するために使用される。
【0017】
いくつかの実施形態では、本処理システムは、さらに、解剖学的構造の輪郭を得ることと、解剖学的構造の得られた輪郭上に予測された酸素レベルを重ねることと、動脈ロケーションデータに基づいて、解剖学的構造の得られた輪郭の上に動脈の表現を重ねることとによって、第1の可視化を生成する。
【0018】
これにより、第1の可視化が臨床医によってより容易に解釈されることが可能になり、それにより、臨床医は、解剖学的構造内の対象者の動脈の位置を見ることが可能になる。
【0019】
輪郭は、解剖学的構造についての一般的な輪郭であり得る。輪郭は、解剖学的構造の視覚的表現、特に解剖学的構造の境界の視覚的表現である。
【0020】
いくつかの実施形態では、本処理システムは、さらに、動脈ロケーションデータと少なくとも1つの酸素レベル測定値とに基づいて潜在的罹患動脈セグメントを特定し、生成された第1の可視化上に潜在的罹患動脈セグメントのロケーションの指示を重ねる。
【0021】
このようにして、より低い酸素レベルに対応する動脈セグメントが臨床医に提示される。
【0022】
いくつかの実施形態では、本処理システムは、さらに、動脈ロケーションデータと少なくとも1つの酸素レベル測定値とに基づいて潜在的罹患微小血管エリアを特定し、生成された第1の可視化上に潜在的罹患微小血管エリアのロケーションの指示を重ねる。
【0023】
このようにして、より低い酸素レベルに対応する微小血管エリアが臨床医に提示される。
【0024】
いくつかの実施形態では、生成された第1の可視化は、酸素レベル測定値が利用可能でないロケーションの指示をさらに含む。
【0025】
これにより、さらなる酸素レベル測定値が必要とされるかどうか、及びさらなる測定値の所望のロケーションを、臨床医が決定することが可能になる。
【0026】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの酸素レベル測定値は光の異なる波長間の光浸透率(light penetration)の差に基づく。
【0027】
これにより、酸素化血液と脱酸素化血液とは異なる波長において異なる光減衰係数を有することが認識される。例えば、酸素化ヘモグロビンは、脱酸素化ヘモグロビンよりも多い赤外光と少ない赤色光とを吸収する。
【0028】
また、対象者の解剖学的構造中の筋組織中の酸素レベルの第1の可視化を生成し、表示するためのシステムが提案される。本システムは、光の異なる波長間の筋組織を通る光浸透率の差に基づいて解剖学的構造の筋組織中の少なくとも1つの酸素レベルを測定し、それによって、少なくとも1つの酸素レベル測定値を生成するための酸素レベル測定システムと、酸素レベル測定システムからの解剖学的構造中の筋組織の少なくとも1つの酸素レベル測定値を受信するための、上記で説明した処理システムと、処理システムから、生成された第1の可視化を受信し、表示するためのディスプレイデバイスとを備える。
【0029】
いくつかの実施形態では、酸素レベル測定システムは、光の少なくとも2つの異なる波長を発するためのデバイスと、光を測定し、それによって光測定値を生成するためのセンサ(又は検出器)と、センサ(又は検出器)からの光測定値に基づいて少なくとも1つの酸素レベル測定値を計算するためのプロセッサとを備える。
【0030】
このシステムは、光の異なる波長間の光浸透率の差に基づいて酸素レベルを測定することを可能にする。
【0031】
いくつかの実施形態では、デバイス及びセンサは、筋組織がデバイスとセンサとの間に位置するように配置可能である。
【0032】
このようにして、センサは、筋組織を透過した光を測定する。デバイス及び/又はセンサは、例えば、解剖学的構造中に、例えば解剖学的構造内の動脈中に挿入される静脈内デバイス又は介入デバイス上に取り付けられる。
【0033】
いくつかの実施形態では、デバイスは、光の少なくとも2つの波長の放出中にセンサと同じ側の筋組織上に配置される。
【0034】
このようにして、センサは、筋組織から反射された光を測定する。これにより、筋組織が厚すぎるので、光の発せられた波長が筋組織を通って浸透することができない場合、又は筋組織の2つの側で測定することが臨床的に困難である場合に、酸素レベルを測定することが可能になる。
【0035】
いくつかの実施形態では、本システムは、ユーザ入力デバイスをさらに備え、処理システムは、さらに、ユーザ入力デバイスにおいて受信されたユーザ入力に応答して筋組織中の酸素レベルの第2の可視化を生成することであって、第2の可視化が、第1の可視化によって与えられたビューとは異なるビューからの筋組織中の酸素レベルを示す、第2の可視化を生成することと、第2の可視化をディスプレイデバイスに出力することとを行う。
【0036】
これにより、解剖学的構造の1つのビューだけでは、解剖学的構造の筋組織中の酸素レベルに関するすべての必要とされる情報が臨床医に与えられないことがあることが認識される。臨床医がビューを変更することを可能にすることは、解剖学的構造中の酸素レベルのより完全なピクチャを構築する機会を臨床医に与える。
【0037】
本発明の別の態様によれば、対象者の解剖学的構造中の筋組織中の酸素レベルの第1の可視化を生成するためのコンピュータ実装方法が提供される。
【0038】
本コンピュータ実装方法は、解剖学的構造中の動脈のロケーションを表すデータを受信するステップと、解剖学的構造中の筋組織の少なくとも1つの酸素レベル測定値を受信するステップと、解剖学的構造の、又は解剖学的構造中に含まれる関心領域の筋組織全体にわたって酸素レベルを予測するために、動脈ロケーションデータと少なくとも1つの酸素レベル測定値とを使用して、少なくとも1つの酸素レベル測定値を補間するステップと、動脈ロケーションデータと、予測された酸素レベルとに基づいて、解剖学的構造中の動脈に関して筋組織中の酸素レベルの第1の可視化を生成するステップとを有する。
【0039】
また、処理システムを有するコンピュータデバイス上で実行されたときに、その処理システムに上記で説明した方法のすべてのステップを実行させる、コンピュータプログラムコード手段を含む、コンピュータプログラムが提案される。
【0040】
本発明のこれらの及び他の態様は、以下で説明する実施形態から明らかになり、それらの実施形態を参照すれば解明されよう。
【0041】
本発明のより良い理解のために、及び本発明がどのように実施されるかをより明らかに示すために、次に、単に例として添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明の一実施形態による、対象者の解剖学的構造中の筋組織中の酸素レベルの可視化を生成し、表示するためのシステムを示す図である。
【
図2】酸素化ヘモグロビン及び脱酸素化ヘモグロビンについてのヘモグロビン吸収スペクトルを示す図である。
【
図3】健康な対象者の心臓中の心筋酸素レベルの例示的な可視化を示す図である。
【
図4】心尖(apex of heart)中に虚血がある対象者の心臓中の心筋酸素レベルの例示的な可視化を示す図である。
【
図5】心尖中に虚血がある対象者の心臓中の心筋酸素レベルの別の例示的な可視化を示す図である。
【
図6】
図1に示された酸素レベル測定システムの代替的な酸素測定システムを示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態による、対象者の解剖学的構造中の筋組織中の酸素レベルの可視化を生成するためのコンピュータ実装方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図を参照しながら本発明について説明する。発明を実施するための形態及び具体例は、装置、システム及び方法の例示的な実施形態を示しているが、例示の目的のためのものにすぎず、本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。また、1つの例に関して説明される特徴は別の例においても使用されることがあること、及び、簡潔のために各例において必ずしもすべての特徴が繰り返されるとは限らないことが諒解されるべきである。例えば、システムに関して説明される特徴は、コンピュータ実装方法において、及びコンピュータプログラムに、対応する様式で実装されることがある。本発明の装置、システム及び方法のこれらの及び他の特徴、態様、及び利点は、以下の説明、添付の特許請求の範囲、及び添付の図面からより良く理解されよう。図は概略にすぎず、一定の縮尺で描かれていないことを理解されたい。また、図全体にわたって同じ又は同様の部分を示すために同じ参照番号が使用されることを理解されたい。
【0044】
本発明の概念によれば、対象者の解剖学的構造中の筋組織中の酸素レベルの可視化を生成するためのシステム及び方法が提案される。解剖学的構造中の動脈のロケーション/構造と、筋組織の少なくとも1つの酸素レベル測定値とを含む、データが受信される。動脈データと、少なくとも1つの酸素レベル測定値と、少なくとも1つの酸素レベル測定値の補間値とに基づいて、酸素レベルと動脈構造とを示す可視化が生成される。実施形態では、動脈に言及することによって例について説明するが、本発明は、一般に、筋組織に囲まれている静脈又は筋組織に隣接する静脈を含む、血管についても適用可能である。解剖学的構造の筋組織全体にわたって酸素レベルを予測することに加えて、解剖学的構造中に含まれる関心領域の筋組織全体にわたって酸素レベルを予測することも企図される。いずれの実施形態においても、関心領域は、解剖学的構造からユーザインターフェース(例えば、ポインタ、タッチスクリーン)によって本システムのユーザによって選択され得る。
【0045】
実施形態は、動脈アナトミーに関する解剖学的構造の筋組織中の酸素レベルの直接的な可視化は、その解剖学的構造中の虚血の厳密なロケーションを示しており、酸素レベルの低下を引き起こす血流の制限がある動脈及び/又は微小血管系を特定するために使用され得るという認識に少なくとも部分的に基づく。
【0046】
例示的な実施形態は、例えば、経皮的冠動脈診断及び介入手順、末梢血管手順及び神経学的手順など、診断及び介入手順において採用される。
【0047】
図1は、本発明の一実施形態による、対象者の解剖学的構造中の筋組織中の酸素レベルの可視化を生成し、表示するためのシステム100を示している。本システムは、酸素レベル測定システムと、処理システム110と、ディスプレイデバイス120とを備える。処理システム110は、それ自体が本発明の一実施形態である。
【0048】
図1では、解剖学的構造は心臓130であり、本システムは、心筋酸素レベルの可視化を生成し、表示する。しかしながら、本システムは、対象者の任意の好適な解剖学的構造中の酸素レベルの可視化を生成し、表示するために使用され得る。例えば、本システムは末梢血管手順及び神経学的手順において使用される。
【0049】
酸素レベル測定システムは、筋組織を通る光の異なる波長間の光浸透率の差に基づいて解剖学的構造中の筋組織中の少なくとも1つの酸素レベルを測定する、すなわち、少なくとも1つのサンプルを生成する。このことは、酸素化血液と脱酸素化血液とは、異なる波長において異なる光減衰係数を有するという認識に基づく。各測定された酸素レベルは解剖学的構造内の異なるロケーションにおいて得られる。
【0050】
図2は、1つの研究による、酸素化ヘモグロビン210についてのヘモグロビン吸収スペクトルと、脱酸素化ヘモグロビン220についてのヘモグロビン吸収スペクトルとを示している。
図2が示しているように、酸素化ヘモグロビンは、脱酸素化ヘモグロビンと比較して、(例えば940nmの波長をもつ)より多い赤外光を吸収し、(例えば660nmの波長をもつ)より多い赤色光を通過させる。
【0051】
特定の波長における光の吸収は、したがって、酸素化のレベルが異なる血液ごとに異なる。異なる波長において吸収される光の量の測定値に基づいて酸素レベルを計算するために、アルゴリズムが使用される。この原理は、例えば、指先又は耳たぶにおける血液中の酸素レベルを測定する既存のパルスオキシメータにおいて使用されている。
【0052】
この原理は、他の組織、例えば心筋組織の酸素レベルを測定するためにも使用され得ることを、本発明者らは認識した。研究により、左心室壁厚は6~12mmの平均厚さを有することが示されている(例えば、Lee ら(2013)、「Left Ventricular Wall Thickness and the Presence of Asymmetric Hypertrophy in Healthy Young Army Recruits」、Circulation: Cardiovascular Imaging、Vol.6、No.2、pp.262-267参照)。
【0053】
そのような厚さにおいて、左室壁組織中の酸素レベルを測定するために660nm及び940nmの波長が使用されるが、より厚い左心室壁中の660nm光の浸透率はあまり信頼できないことがある。波長が長くなるほど、筋組織中に深く浸透するので、例えば、940nm及び1200nmの波長を使用すると組織浸透率の向上につながる。酸素化血液についての実効減衰係数と脱酸素化血液についての実効減衰係数とは、波長が高くなるほど類似する。
【0054】
図1に戻ると、酸素レベル測定システムは、光の少なくとも2つの異なる波長を発するためのデバイス140と、光を測定するためのセンサ150と、センサからの光測定値に基づいて少なくとも1つの酸素レベル測定値を計算するためのプロセッサ160とを備える。
【0055】
デバイス140は、例えば、1つ又は複数のLEDを備え、使用されるセンサ150は感光センサであり得、それの正確な構成は、デバイスによって発せられる光の波長に依存する。例えば、デバイスが660~940nmの波長範囲内の少なくとも2つの異なる波長の光を発する場合、シリコン(Si)センサがその光を測定するために好適であり、デバイスが660~1800nmの波長範囲内の少なくとも2つの異なる波長の光を発する場合、テルル化カドミウム水銀(HgCdTe)センサがその光を測定するために好適であり、デバイスが1000~1350nmの波長範囲内の少なくとも2つの異なる波長の光を発する場合、ヒ化インジウムガリウム(InGaAs)センサがその光を測定するために好適である。
【0056】
図1によって示されているシナリオでは、左心室壁がデバイスとセンサとの間にあるように、デバイス140は対象者の心臓130の左心室135中に配置され、センサ150は冠状動脈中に配置される。センサは、したがって、左心室壁を透過した光を測定する。デバイス及びセンサは、それぞれ、それらを対象者の身体中に挿入し、所望の位置に(例えば、大動脈に沿って心臓まで)移動することを可能にするために、カテーテル又はワイヤ(例えばガイドワイヤ)上に取り付けられる。
【0057】
図1は、好適な酸素レベル測定システムの一例を示しているにすぎないが、筋組織を通る光の異なる波長間の光浸透率の差に基づいて解剖学的構造中の筋組織中の少なくとも1つの酸素レベルを測定する、代替的な酸素レベル測定システムも想定される。好適な酸素レベル測定システムのさらなる例について以下でより詳細に説明する。
【0058】
いくつかの実施形態では、システム100は、デバイス及びセンサがそれの上に取り付けられたカテーテル及び/又はワイヤがそれに接続された(
図1に示されていない)インターフェースモジュールをさらに備える。プロセッサ160は、その場合、インターフェースモジュールに接続される。代替的に、デバイス及びセンサがそれの上に取り付けられたカテーテル及び/又はワイヤは、プロセッサ160を備えるモジュールに接続される。
【0059】
プロセッサ160は、上記で説明したように、デバイス140によって発せられた波長における酸素化血液についての実効減衰係数と脱酸素化血液についての実効減衰係数との差を使用して、センサからの光測定値に基づいて少なくとも1つの酸素レベル測定値165(すなわち「サンプル」)を計算する。
【0060】
プロセッサ160はまた、各酸素レベル測定値について、解剖学的モデル内の酸素レベル測定値のロケーション/位置を特定する測定値ロケーションデータを取得/生成する。(解剖学的構造内の)各酸素レベル測定値の位置は特定可能であり、例えば、デバイス及び/又はセンサを追跡することによって自動的に決定されるか、或いは、例えば、解剖学的構造のモデル上にマーキングするか、又は別様に(例えばテキスト入力を使用して)ロケーションを特定することによって、ユーザによって示される。
【0061】
解剖学的構造内のデバイスを追跡するための機構の一例は、対象者中のデバイスのロケーションを追跡するために、対象者中に注入される直交交流電流を使用する、米国特許第5983126(A)号によって示唆されている手法である。他の手法は、米国特許第7158754(B2)号、米国特許第4173228号、並びにZhou、Jun、Leonid Zamdborg、及びEvelyn Sebastian、「Review of advanced catheter technologies in radiation oncology brachytherapy procedures.」Cancer management and research 7 (2015): 199によって示唆されている。
【0062】
解剖学的構造内のデバイスのロケーションを追跡するか又は別様に決定するためのこれらの手法は、従来技術において十分に確立されている。もちろん、システム100は、解剖学的構造内のデバイス/センサの位置/ロケーションを追跡するか又は決定するために使用することができるデバイス/センサ追跡システム(図示せず)を備え得る。
【0063】
処理システム110は、プロセッサ160から少なくとも1つの酸素レベル測定値165を受信し、少なくとも1つの酸素レベル測定値に基づいて心筋組織中の酸素レベルの少なくとも第1の可視化を生成する。いくつかの実施形態では、プロセッサ160は処理システム110の一部である(すなわち、単一の処理システムが、少なくとも1つの酸素レベル測定値を計算することと、筋組織中の酸素レベルの可視化を生成することの両方を行う)。
【0064】
処理システム110はまた、解剖学的構造中の動脈のロケーションを表す動脈ロケーションデータを受信する。動脈ロケーションデータは、一般的なデータ、モデルから生成されたデータ、又は対象者固有のデータであり得る。動脈ロケーションデータは、例えば、2D、3D又は4Dである。対象者固有の動脈ロケーションデータを得るための方法はよく知られており、それぞれの撮像モダリティに対応する造影剤を用いる又は用いないX線、CT、MRI又は超音波撮像などの撮像方法を含む。いくつかの例では、そのような方法から生成された画像は、動脈ロケーションデータを特定するためにさらなる処理を受ける、例えばセグメンテーションなどを受ける。
【0065】
処理システム110は、次いで、筋組織全体にわたって酸素レベルを予測するために、動脈ロケーションデータと少なくとも1つの酸素レベル測定値とを使用して、少なくとも1つの酸素レベル測定値を補間する。
【0066】
補間方法はよく知られており、筋組織全体にわたって酸素レベルを予測するために任意の好適な補間方法が使用される。例えば、十分な酸素レベル測定値がある場合、簡単なバイキュービック補間が使用される。他の例では、バイキュービック補間の使用のための十分な測定点がない場合、より洗練された方法が使用される。いくつかの例では、補間は、(例えば、古典的なナビエ-ストークス(Navier-Stokes)方程式を使用する)解剖学的構造のかん流の1つ又は複数のシミュレートされたモデルに基づく。いくつかの例では、測定されたサンプルに基づいて酸素レベルを予測するために、人工知能(AI)ネットワークがトレーニングされる。
【0067】
処理システム110は、さらに、補間を実行するために測定ロケーションデータを使用し得る。
【0068】
特に、処理システム110は、動脈ロケーションデータに基づいて補間を実行するために、各測定された酸素レベル(すなわち各酸素レベルサンプル)の位置/ロケーションを使用し得る。補間は、仮想解剖学的モデル内の特定の位置に既知の酸素レベルを配置することと、(仮想解剖学的モデルに対して)動脈ロケーションデータに基づいて異なる酸素レベル間を補間することとを含み得る。したがって、(動脈ロケーションデータからの)測定された酸素レベルと動脈との間の位置関係を、補間を実行するときに考慮に入れることができる。これにより補間の精度が向上する。
【0069】
言い換えれば、処理システムは、解剖学的構造中の各酸素レベル測定値のロケーションを表す測定ロケーションデータを取得し、さらに測定ロケーションデータを使用して少なくとも1つの酸素レベル測定値を補間する。
【0070】
したがって、いくつかの実施形態では、少なくとも1つの酸素レベル測定値を受信するステップは、補間を実行する際に使用するための各少なくとも1つの酸素レベル測定値のロケーションを受信するステップをも有する。ロケーションは、例えば、(それのための手法が当技術分野でよく知られている)解剖学的構造内のデバイス/センサのロケーションを追跡する自動プロセスによって、及び/又は(例えば、解剖学的構造の視覚的表現上にマーキングすることによって)解剖学的構造内の各酸素レベル測定値のロケーションを示すためのユーザ入力を使用して、導出することができる。
【0071】
処理システム110は、動脈ロケーションデータと予測された酸素レベルとに基づいて解剖学的構造中の動脈に関して筋組織中の酸素レベルの第1の可視化を生成する。第1の可視化は、解剖学的構造の輪郭上のオーバーレイ(例えば着色されたオーバーレイ)を含み得る。例えば、処理システムは、解剖学的構造の輪郭(例えば一般的な2D心臓輪郭)を取得し、取得された輪郭上に、動脈ロケーションデータに基づいて、予測された酸素レベルと動脈の表現とを重ねる。オーバーレイは、例えば、100%の酸素には緑、より低い酸素レベルには黄/オレンジ、極めて低い酸素レベル(例えば70%未満の酸素)には赤など、異なる酸素レベルを表すために異なる色を使用するか、又は単色の濃淡の異なるレベル(例えばグレースケール)を使用する。
【0072】
いくつかの実施形態では、第1の可視化は、(例えば測定値ロケーションデータに基づく)各測定値ロケーションの指示、潜在的罹患動脈セグメントのロケーションの指示、潜在的罹患微小血管エリアのロケーションの指示、及び/又は酸素レベル測定値が利用可能でないロケーションの指示など、追加の情報を含む。
【0073】
いくつかの例では、処理システム110は、少なくとも1つの酸素レベル測定値の各々について、その酸素レベル測定値が取得された解剖学的構造内のロケーションに対応する測定値ロケーションの指示を重ねる。測定値ロケーションは、(例えば、磁石、X線撮像、交差する電界に対するデバイス上の電極の応答など)体内のデバイスの位置を決定する任意の好適な方法によって決定される、デバイス140のロケーションとセンサ150のロケーションとに基づいて決定される。
【0074】
いくつかの例では、処理システム110は、動脈ロケーションデータと少なくとも1つの酸素レベル測定値(又は予測された酸素レベル)とに基づいて1つ又は複数の潜在的罹患動脈セグメントを特定し、特定された潜在的罹患動脈セグメントのロケーションの指示を第1の可視化上に重ねる。潜在的罹患動脈セグメントは、酸素レベルがそれの周りで又はそれの向こう側でしきい値を下回っている(例えば酸素が95%を下回っている)ことが決定された動脈セグメントを潜在的罹患動脈セグメントとして特定することによって特定される。
【0075】
同様に、処理システム110は、動脈ロケーションデータと少なくとも1つの酸素レベル測定値(又は予測された酸素レベル)とに基づいて1つ又は複数の潜在的罹患微小血管エリアを特定し、特定された潜在的罹患微小血管エリアのロケーションの指示を第1の可視化上に重ねる。潜在的罹患微小血管エリアは、酸素レベルがしきい値を下回っている(例えば酸素が95%を下回っている)ことが決定された解剖学的構造のエリアを潜在的罹患微小血管エリアとして特定することによって特定される。
【0076】
いくつかの例では、処理システム110は、解剖学的構造全体における酸素レベルを確実に予測するために補間を使用することができないことを決定し、酸素レベルを確実に予測することができないことが決定された1つ又は複数のロケーションにおける第1の可視化上に、酸素レベル測定値が利用可能でないという指示を重ね得る。例えば、筋組織中の酸素レベルを示すためにカラーオーバーレイを使用した場合、酸素レベルが利用可能でないエリアはグレー表示される。
【0077】
処理システム110が第1の可視化を生成すると、処理システムは、生成された第1の可視化を、第1の可視化を受信し、表示するためのディスプレイデバイス120に与える。
【0078】
いくつかの実施形態では、システム100は、処理システムに接続された(
図1に示されていない)ユーザ入力デバイスをさらに備える。ユーザ入力デバイスは、解剖学的構造中の筋組織中の酸素レベルの第2の可視化を生成するユーザ命令を受信するために使用される。
【0079】
例えば、第1の可視化が3Dデータに基づく場合、プロセッサは、ユーザ入力デバイスにおいて受信されたユーザ入力に応答して、第1の可視化によって与えられたビューとは異なるビューからの筋組織中の酸素レベルを示す第2の可視化を生成する。第1の可視化は、例えば、事前定義されたビュー(例えば、一般に、解剖学的構造中の酸素レベルを可視化するための最も有用なビューであることが分かっているビュー)からの酸素レベルを示すために生成され、第2の可視化は、異なる事前定義されたビューからの、又は受信されたユーザ入力によって決定されたビューからの酸素レベルを示すために生成され得る。
【0080】
別の例では、処理システムは、それぞれ解剖学的構造の異なるビューからの、筋組織中の酸素レベルの複数の可視化を(ユーザ入力によって促されずに)生成し、ユーザ入力デバイスからのユーザ入力は、これらの複数の可視化のうちのどれがディスプレイデバイス120において表示されるかを決定するために使用される(例えば、ユーザ入力デバイスは、ユーザが、表示された可視化を異なるビューを通して回転することを可能にする)。
【0081】
システム100は、(半)自動報告中のデータを使用するために(
図1に示されていない)エクスポートモジュールをさらに備え得る。
【0082】
図3は、健康な対象者(すなわち虚血がない対象者)の心臓中の心筋酸素レベルの例示的な可視化300を示している。可視化は、
図1に示されているシステム100を使用して生成される。
【0083】
可視化300は、一般的な2D心臓輪郭310と、動脈又は動脈ツリー320(例えば冠状動脈)のオーバーレイと、酸素レベルオーバーレイ330とを含む。動脈オーバーレイは動脈の構造を示しているが、酸素レベルオーバーレイは酸素レベルに従って着色される。可視化には、どの色がどの酸素レベルに対応するかを示す、キー340又は凡例が添付されている。
図3は健康な心臓の可視化を示しているので、酸素レベルオーバーレイ330は、心臓全体にわたって100%の酸素を示す、濃淡のない色である。
【0084】
図4は、心尖(可視化400の右下部分)中に虚血がある対象者の心臓中の心筋酸素レベルの例示的な可視化400を示している。可視化は、
図3中の可視化300と同様であり、心臓輪郭410と、動脈又は動脈ツリー420のオーバーレイと、酸素レベルオーバーレイ430とをもつが、可視化400は測定値ロケーションの指示450をさらに含む。酸素レベルオーバーレイ430は右下部分において濃淡が変動し、この部分において酸素レベルがより低いことを示している。
【0085】
図5は、
図4と同じ対象者の心臓中の心筋酸素レベルの別の例示的な可視化500を示している。可視化は、
図4中の可視化400と同様であり、心臓輪郭510と、動脈又は動脈ツリー520のオーバーレイと、酸素レベルオーバーレイ530とをもつが、可視化500は、潜在的罹患動脈セグメントの指示560と、潜在的罹患微小血管セグメントエリアの指示570とをさらに含む。
【0086】
一実施形態では、解剖学的構造中の血管のロケーションを表す血管ロケーションデータが取得される。解剖学的構造中の組織の少なくとも1つの酸素レベル測定値が解剖学的構造中のそれぞれの少なくとも1つのロケーションにおいて取得される。酸素レベルに関して、動脈(320、420、520)、例えば冠状動脈中の血液は完全に酸素化されていると仮定する。補間は、解剖学的構造中のそれぞれの少なくとも1つのロケーションにおける少なくとも1つの酸素レベル測定値と、仮定された完全に酸素化された動脈又は動脈ツリーとの間で実行される。処理システム110は、補間を実行するために測定ロケーションデータを使用する。特に、処理システム110は、動脈ロケーションデータに基づいて補間を実行するために、各測定された酸素レベル(すなわち各酸素レベルサンプル)の位置/ロケーションを使用する。補間は、仮想解剖学的モデル内の特定の位置に既知の酸素レベルを配置することと、(仮想解剖学的モデルに対して)動脈ロケーションデータに基づいて異なる酸素レベル間を補間することとを含む。したがって、(動脈ロケーションデータからの)測定された酸素レベルと動脈との間の位置関係を、補間を実行するときに考慮に入れることができる。その酸素化の可視化を生成するために解剖学的構造の組織にわたって酸素レベル値を予測するために、バイリニア補間方法又はバイキュービック補間方法を使用することができる。これらの補間方法は当技術分野でよく知られている。したがって、解剖学的構造中のそれぞれの少なくとも1つのロケーションにおいて取得された解剖学的構造中の組織の少なくとも1つの酸素レベル測定値を考慮に入れ、完全に酸素化された血液を含む、解剖学的構造の完全な動脈ツリーを考慮に入れたときに、解剖学的構造全体(例えば、心臓、肝臓、腎臓、脳)の酸素レベルを決定することができる。組織中の酸素レベルの生成された可視化は、したがって、動脈又は動脈ツリーのオーバーレイを用いて又は用いずに、解剖学的構造全体の関心部分のみをカバーすることもあり、解剖学的構造全体をカバーすることもある。
【0087】
代替的に、解剖学的構造中の組織の複数の酸素レベル測定値は解剖学的構造中のそれぞれの複数の別個のロケーションにおいて取得され、補間は、複数の酸素レベル測定値と、それぞれの複数の酸素レベル測定値が取得されたロケーションの情報とを使用して実行される。複数の酸素レベル測定値のみをそれらのそれぞれのロケーションとともに考慮に入れるそのような事例では、解剖学的構造の組織全体にわたる酸素レベルの予測は、境界が測定値のロケーションによってカバーされた解剖学的構造の部分について行われ、筋組織中の酸素レベルの生成された可視化は、境界が測定値のロケーションによってカバーされた解剖学的構造の部分をカバーする。解剖学的構造中のそれぞれの複数の別個のロケーションにおいて取得された解剖学的構造中の筋組織の複数の酸素レベル測定値に基づいて、筋組織全体にわたって酸素レベルを予測するために、任意の好適な補間方法が使用される。例えば、十分な酸素レベル測定値がある場合、簡単なバイキュービック補間が使用される。他の例では、バイキュービック補間の使用のための十分な測定点がない場合、より洗練された方法が使用される。いくつかの例では、補間は、(例えば、古典的なナビエ-ストークス方程式を使用する)解剖学的構造のかん流の1つ又は複数のシミュレートされたモデルに基づく。いくつかの例では、測定されたサンプルに基づいて酸素レベルを予測するために、人工知能(AI)ネットワークがトレーニングされる。別のデータソースからのかん流情報も知られている場合、組織についての酸素レベルの代替的なセットを補間するために、これを使用することができる。
【0088】
さらなる実施形態では、解剖学的構造中の組織の複数の酸素レベル測定値が解剖学的構造中のそれぞれの複数の別個のロケーションにおいて取得され、補間は、複数の酸素レベル測定値と、それぞれの複数の酸素レベル測定値が取得されたロケーションの情報とを使用して、冠状動脈又は冠状動脈ツリーが、完全に酸素化された血液を含むという仮定をも考慮に入れて実行される。筋組織中の酸素レベルの生成された可視化は、したがって、動脈又は動脈ツリーのオーバーレイを用いて又は用いずに、解剖学的構造全体の関心部分のみをカバーすることもあり、解剖学的構造全体をカバーすることもある。
【0089】
図6は、
図1に示されている酸素レベル測定システムの代替的な酸素測定システム600を示している。酸素測定システムは、
図1の酸素レベル測定システムと同様であり、ワイヤ上に取り付けられ、冠状動脈中に配置されたセンサ650をもつが、単一の発光デバイスの代わりに、複数の光源642をもつ自己拡張型(self-expanding)メッシュ641が使用される。
【0090】
自己拡張型メッシュ641は、例えば、自己拡張型ステント又は弁において使用されるものなど、ニチノールメッシュであり得る。このシステムは、光が筋組織のより大きい表面積を通って発せられることを可能にし、また、筋組織の近くに光源を配置するのを助ける。
【0091】
例えば、
図6では、酸素レベル測定システム600は、対象者の心臓630中の酸素レベルを測定するために使用される。自己拡張型メッシュ641は左心室635を満たすように拡張し、それにより、光源642を左心室壁に配置することが容易になる。酸素レベル測定値が左心室中の血液中の酸素レベルの測定値を含む可能性を低減するためには、光源を左心室壁の近くに配置することが望ましい。
【0092】
複数の光源の使用は、左心室壁を透過した光をセンサが検出することができる位置を見つけることがより容易になることを意味し、センサ650の位置のみを調整しながら複数の酸素レベル測定値を取ることを可能にする。
【0093】
図1も
図6も、光が左心室から発せられ、冠状動脈から検出される、酸素レベル測定システムを示しているが、他の例はその逆であり得る(例えば、光が冠状動脈から発せられ、左心室から検出される)。光が心筋組織のセクションの一方の側から発せられ、心筋組織を通過して検出されるような、心臓中の他の位置も使用され得る。
【0094】
また他の例では、光の反射測定値が、透過測定値の代わりに、筋組織の酸素レベルを測定するために使用される。これは、発光デバイスとセンサとを筋組織の同じ側に配置することによって達成される。例えば、デバイス及びセンサは、左室壁組織中の酸素レベルを測定するために、カテーテルなど、単一の介入デバイス上に取り付けられ、左心室又は冠状動脈のいずれかの中に配置される。
【0095】
少なくとも2つの異なる波長の光の放出の反射を受信することによって酸素レベルを測定する酸素レベル測定システムは、厚すぎて透過測定値を取得することができない筋組織(すなわち、発せられた波長のうちの少なくとも1つの浸透深さと同様の、又はそのような浸透深さよりも大きい厚さを有する筋組織)中の酸素レベルを測定するために使用される。
【0096】
そのようなシステムはまた、筋組織の反対側に発光デバイスとセンサとを配置することが臨床的に困難であるロケーションにおいて酸素レベルを測定することを可能にする。
【0097】
デバイス及び/又はセンサが動脈中に配置されたいくつかの例では、デバイス及び/又はセンサは、酸素レベル測定値に影響を及ぼし得る動脈中の血液を防ぐためのバルーンを有するカテーテル上に取り付けられる。
【0098】
いくつかの例では、デバイス及びセンサ(又はそれらがそれの上に取り付けられたカテーテル/ワイヤ)は、体内にデバイスとセンサとを配置するのを助けるために磁石を装備する。磁石は、それらをオン及びオフにすることを可能にするために電磁石であり得る。
【0099】
他の例では、デバイス及びセンサは、解剖学的構造中に誘導された交差する電界に(電気的に)応答するように構成された電極を装備する。これにより、例えば、電極の応答が、交差する電界内のそれの位置に応じて変化するので、デバイス及び/又はセンサの位置の追跡が可能になる。
【0100】
いくつかの例では、酸素レベル測定システムは、デバイス及びセンサが、(例えば、デバイス上の磁石とセンサ上の磁石とからの位置情報に基づいて)測定値を取得するために好適に配置されているという指示を与える。
【0101】
いくつかの例では、酸素レベル測定システムは、取得された酸素レベル測定値の品質の指示を与える。取得された酸素レベル測定値の品質は、デバイスとセンサとの間の距離と、デバイスとセンサとの相対位置とに基づいて決定される。
【0102】
デバイス及びセンサが、測定値、及び/又は取得された酸素レベル測定値の品質の指示を取得するために好適に配置されているという指示は、
図1のディスプレイデバイス120など、ディスプレイデバイスに出力される。
【0103】
上記の例では、対象者の心臓中の心筋組織中の酸素レベルを測定及び可視化することについて説明した。しかしながら、本明細書で説明するシステム及び方法は、他の解剖学的構造中の筋組織中の酸素レベルを測定及び/又は可視化するためにも使用され得る。
【0104】
例えば、例えば対象者の脚における2つの大血管間の筋組織中の酸素レベルは、少なくとも2つの異なる波長の光を発するためのデバイスを2つの大血管の一方の中に配置し、筋組織を透過した光を検出するためのセンサを2つの大血管の他方の中に配置することによって測定される。2つの大血管間の筋組織中の酸素レベルの可視化は、周辺微小血管疾病を診断するのを助ける。
【0105】
別の例では、対象者の皮膚に近い筋組織の酸素レベルが、皮膚に対して発光デバイスを配置し、筋組織の他方の側の血管中にセンサを配置すること(又はその逆)によって測定される。
【0106】
図7は、本発明の一実施形態による、対象者の解剖学的構造中の筋組織中の酸素レベルの可視化を生成するためのコンピュータ実装方法700を示している。
【0107】
方法700はステップ710から開始し、ステップ710では、例えば、解剖学的構造中の動脈のロケーションを特定することができる解剖学的データが受信される。
【0108】
ステップ720において、解剖学的構造中の筋組織の少なくとも1つの酸素レベル測定値が受信される。ステップ720は、解剖学的構造中の各測定値のロケーションを表す測定値ロケーションデータを取得するステップをも有する。
【0109】
ステップ730において、少なくとも1つの酸素レベル測定値は、解剖学的構造の筋組織全体にわたって酸素レベルを予測するために、解剖学的データ(例えば動脈ロケーションデータ)と、少なくとも1つの酸素レベル測定値(及び随意に測定値ロケーションデータ)とを使用して補間される。補間を実行するための手法については前に説明した。
【0110】
ステップ740において、解剖学的データ(例えば動脈ロケーションデータ)と、予測された酸素レベルとに基づいて、解剖学的構造に(例えば解剖学的構造中の動脈に)関する筋組織中の酸素レベルの第1の可視化が生成される。
【0111】
本発明は、例えば冠状動脈と関係がある、酸素レベルを表示する。低い酸素レベルは、酸素化血液の流れが妨げられていることを示す。これは、一般に血管造影図(angiogram)上で見える太い冠状動脈中の問題、又は(一般に血管造影図上で見えない)微小血管系中の問題によるものであり得る。動脈ツリー(例えば冠状動脈ツリー)に対する酸素レベルの視覚的な重ね合わせは、医師が疾病を診断し、したがって治療を最適化するのを助ける。網羅的でない例示的な状況は以下の通りである。
血管造影図上で大血管は健康に見えるが、器官(例えば心筋)のいくつかの領域中の酸素レベルが低く見える場合、その領域中の動脈(例えば冠状動脈)の完全閉塞(total occlusion)の兆候があるか、又は微小血管系に問題がある。
器官(例えば心筋)の酸素レベルは正常に見えるが、動脈(例えば冠状動脈)中に小さい病変がある場合、このことは、小さい病変を治療しないことの追加のエビデンスとして働く。
ある領域中の器官(例えば心筋)の酸素レベルが低く見え、その領域に血液を供給する動脈(例えば冠状動脈)中に病変がある場合、ほぼ確実にその病変が問題である。
病変のステント又は血管形成術(angioplasty)の場合に、血管の治療後に、酸素レベルが適切なレベルまで改善した場合、根本原因は解消されたように思われるが、酸素レベルが低いままである場合、微小血管系も寄与要因である。
【0112】
酸素化は、それ自体で医師に有益な情報を与えるが、特に、動脈又は動脈ツリー(例えば冠状動脈ツリー)のロケーションに対する組織中の酸素レベルの関係は、治療と、臨床手順の文書化とを最適化するために、それが局在化の文脈を与えるので、医師にとって解釈することがより容易であり、全体的に見て、それは診断目的のために有益である。
【0113】
開示された方法はコンピュータ実装方法であることが理解されよう。したがって、コンピュータプログラムの概念も提案され、そのコンピュータプログラムは、前記プログラムが処理システム上で実行されたときに、説明した方法を実施するためのコード手段を含む。
【0114】
上記で説明したように、本システムは、データ処理を実行するためにプロセッサを利用する。プロセッサは、必要とされる様々な機能を実行するために、ソフトウェア及び/又はハードウェアを用いて、多数の様式で実装することができる。プロセッサは、一般に、必要とされる機能を実行するためにソフトウェア(例えばマイクロコード)を使用してプログラムされる1つ又は複数のマイクロプロセッサを採用する。プロセッサは、必要とされる機能を実行するための専用のハードウェアの組合せとして実装され得る。プロセッサは、いくつかの機能を実行するための専用のハードウェアと、他の機能を実行するための1つ又は複数のプログラムされたマイクロプロセッサ及び関連付けられた回路との組合せとして実装され得る。
【0115】
本開示の様々な実施形態において採用される回路の例としては、限定はしないが、従来のマイクロプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)がある。
【0116】
様々な実装形態では、プロセッサは、RAM、PROM、EPROM、及びEEPROMなど、揮発性及び不揮発性のコンピュータメモリなど、1つ又は複数の記憶媒体に関連付けられる。記憶媒体は、1つ又は複数のプロセッサ及び/又はコントローラ上で実行されたときに、必要とされる機能を実行する、1つ又は複数のプログラムとともに符号化され得る。様々な記憶媒体は、プロセッサ又はコントローラ内に固定されることもあり、その上に記憶された1つ又は複数のプログラムをプロセッサ中にロードすることができるように可搬式であることもある。
【0117】
開示された実施形態の変形形態は、図面、本開示及び添付の特許請求の範囲の研究から、特許請求される発明を実施する際に、当業者によって理解され、実施され得る。特許請求の範囲において、「備える」及び「有する」という単語は他の要素又はステップを除外せず、単数形の要素は複数を除外しない。
【0118】
単一のプロセッサ又は他のユニットは、特許請求の範囲に記載されているいくつかの項目の機能を果たし得る。
【0119】
相互に異なる従属請求項においていくつかの手段が具陳されているという単なる事実は、これらの手段の組合せを有利に使用することができないことを示さない。
【0120】
コンピュータプログラムは、他のハードウェアと一緒に、又は他のハードウェアの一部として供給される光記憶媒体又はソリッドステート媒体など、好適な媒体上に記憶/配布され得るが、インターネット又は他のワイヤード若しくはワイヤレス電気通信システムを介してなど、他の形態でも配布され得る。
【0121】
「ように適応された」という用語が特許請求の範囲又は明細書において使用される場合、「ように適応された」という用語は「ように構成された」という用語と等価であることが意図されていることに留意されたい。
【0122】
特許請求の範囲におけるいかなる参照符号も、範囲を限定するものとして解釈されるべきでない。
【国際調査報告】