(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-30
(54)【発明の名称】T細胞リダイレクト治療薬及び抗CD44治療薬を含む組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/06 20060101AFI20240422BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240422BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240422BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240422BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240422BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240422BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240422BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240422BHJP
C07K 16/46 20060101ALN20240422BHJP
C07K 16/30 20060101ALN20240422BHJP
【FI】
A61K45/06
C12N15/13
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
A61K45/00
A61P43/00 105
A61K39/395 T
A61K39/395 U
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C07K16/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571476
(86)(22)【出願日】2022-05-16
(85)【翻訳文提出日】2024-01-11
(86)【国際出願番号】 IB2022054529
(87)【国際公開番号】W WO2022243838
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509087759
【氏名又は名称】ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】ハイドリッヒ,ブラッドリー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ナイル-グッタ,プリヤンカ
(72)【発明者】
【氏名】ガウデット,フランソワ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084AA23
4C084NA05
4C084ZB021
4C084ZB091
4C084ZB261
4C084ZB271
4C084ZC751
4C085AA14
4C085BB01
4C085BB11
4C085BB31
4C085BB41
4C085BB43
4C085EE03
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
T細胞リダイレクト治療薬及び抗CD44治療薬を含む医薬組成物、並びにがん細胞を死滅させるためのその使用が、本明細書に開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞リダイレクト治療薬及び抗CD44治療薬を含む医薬組成物であって、前記T細胞リダイレクト治療薬は、T細胞表面抗原に免疫特異的に結合する第1の結合領域と、腫瘍関連抗原(TAA)に免疫特異的に結合する第2の結合領域と、を含む、医薬組成物。
【請求項2】
医薬的に許容される担体を更に含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記T細胞リダイレクト治療薬は、抗体又はその抗原結合断片である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記T細胞表面抗原は、CD3、CD2、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28、CD40L、CD44、KI2L4、NKG2E、NKG2D、NKG2F、BTNL3、CD186、BTNL8、PD-1、CD195、及びNKG2Cからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記T細胞表面抗原は、CD3である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記TAAは、CD123、BCMA、GPRC5D、CD33、CD19、PSMA、TMEFF2、CD20、CD22、CD25、CD52、ROR1、HM1.24、CD38、及びSLAMF7からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記T細胞リダイレクト治療薬は、CD123に免疫特異的に結合する第1の抗原結合部位と、CD3に免疫特異的に結合する第2の抗原結合部位と、を有するCD123×CD3二重特異性抗体である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記CD123×CD3二重特異性抗体は、第1の重鎖(HC1)、第1の軽鎖(LC1)、第2の重鎖(HC2)、及び第2の軽鎖(LC2)を含み、前記HC1及び前記LC1は、対になって、前記第1の抗原結合部位を形成し、前記HC2及び前記LC2は、対になって、前記第2の抗原結合部位を形成する、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記HC1は、配列番号1のアミノ酸配列を含み、前記LC1は、配列番号2のアミノ酸配列を含み、前記HC2は、配列番号3のアミノ酸配列を含み、前記LC2は、配列番号4のアミノ酸配列を含む、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記T細胞リダイレクト治療薬は、CD123に免疫特異的に結合する第1の抗原結合部位と、CD3に免疫特異的に結合する第2の抗原結合部位と、を有するBCMA×CD3二重特異性抗体である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記BCMA×CD3二重特異性抗体は、第1の重鎖(HC1)、第1の軽鎖(LC1)、第2の重鎖(HC2)、及び第2の軽鎖(LC2)を含み、前記HC1及び前記LC1は、対になって、前記第1の抗原結合部位を形成し、前記HC2及び前記LC2は、対になって、前記第2の抗原結合部位を形成する、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記HC1は、配列番号5のアミノ酸配列を含み、前記LC1は、配列番号6のアミノ酸配列を含み、前記HC2は、配列番号7のアミノ酸配列を含み、前記LC2は、配列番号8のアミノ酸配列を含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記抗CD44治療薬は、抗CD44抗体又はその抗原結合断片である、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記抗CD44抗体又はその抗原結合断片は、モノクローナル抗体、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びF(v)断片、重鎖単量体若しくは二量体、軽鎖単量体若しくは二量体、並びに1つの重鎖及び1つの軽鎖からなる二量体からなる群から選択される、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記抗CD44治療薬は、CD44アンタゴニストである、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
VLA-4接着経路阻害剤を更に含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記VLA-4接着経路阻害剤は、抗VLA-4抗体又はその抗原結合断片である、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記抗VLA-4抗体又はその抗原結合断片は、モノクローナル抗体、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びF(v)断片、重鎖単量体若しくは二量体、軽鎖単量体若しくは二量体、並びに1つの重鎖及び1つの軽鎖からなる二量体からなる群から選択される、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記VLA-4接着経路阻害剤は、VLA-4アンタゴニストである、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記VLA-4アンタゴニストは、BIO1211、TCS2314、BIO5192、及びTR14035からなる群から選択される、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
がん細胞と間質細胞との間の細胞間接触を破壊することを含む、がん細胞を死滅させる方法であって、がん細胞を治療有効量の請求項1~20のいずれか一項に記載の医薬組成物に供することを含む、方法。
【請求項22】
前記がんは、血液悪性腫瘍又は固形腫瘍である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記がんは、AML又はMMである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記T細胞リダイレクト治療薬及び前記抗CD44治療薬は、同時に又は連続的に投与される、請求項21~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記抗CD44治療薬は、前記T細胞リダイレクト治療薬の投与前に投与される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記抗CD44治療薬は、前記T細胞リダイレクト治療薬の投与後に投与される、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
請求項1~20のいずれか一項に記載の医薬組成物を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年5月18日出願の米国特許仮出願第63/189,737号の利益を主張するものであり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、T細胞リダイレクト治療薬を利用した組成物及びがん治療に関する。
【0003】
(電子的に提出された配列表の参照)
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出済みである、その全体が参照により本明細書に組み込まれる配列表を含む。当該ASCIIコピーは、2022年2月28日に作成され、名称はJBI6553WOPCT1_SeqListing.txtであり、サイズは24,576バイトである。
【背景技術】
【0004】
いくつかの治療選択肢にもかかわらず、現在、急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia、AML)及び多発性骨髄腫(multiple myeloma、MM)の治療法は存在しない。骨髄(bone marrow、BM)中の白血病芽球(AML)又は形質細胞(MM)の存在が5%以下であるとして定義される血液学的完全寛解(complete hematologic remission、CR)を高い率(50%~80%)で達成した後でさえ(1、2)、AML又はMMを有する患者の大部分が再発する(3~5)。再発は、少数のがん幹細胞(cancer stem cell、CSC)、又は他の悪性前駆細胞が除去されず、療法後でさえ存続する、微小残存病変(minimal residual disease、MRD)に関連付けられている(6)。再発を予防し、AML及びMMの治療法を見つけるためには、MRDを排除するためのより良好な戦略を見つける必要がある。
【0005】
造血幹細胞(hematopoietic stem cell、HSC)と同様に、AML及びMMにおけるCSCがBMニッチに存在し、選択的に存続する(7、8)。BMニッチは、可溶性成長因子の分泌及びCSCを保護する細胞間相互作用を介して、特殊な微小環境を提供する(9)。更に、BMニッチは、免疫抑制性であり、正常な造血及び免疫細胞生成を可能にするために、定常状態で免疫特権の部位であると理解される(10)。BMニッチのこれらの態様は、化学療法、標的小分子阻害剤、及び抗体ベースの療法を含むいくつかの抗がん薬に対する耐性をもたらし、その有効性を最小限に抑えた(11~14)。
【0006】
T細胞が腫瘍細胞を特異的に溶解し、サイトカインを分泌してがんに対する免疫を動員及び支持する能力により、それらは治療法の魅力的な選択肢となる。とりわけ、二重特異性T細胞エンゲージャー(小さい二重特異性生物製剤)、キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor、CAR)、及び二重特異性抗体などのいくつかのアプローチが、この戦略を利用している(15)。二重特異性T細胞エンゲージャー及び抗体媒介性リダイレクトは、腫瘍細胞上の特定のエピトープ及びT細胞上のCD3を関与させることによって、T細胞を腫瘍細胞に交差結合し、T細胞の活性化、及び最終的に腫瘍細胞を死滅させるパーフォリン及びグランザイムの分泌をもたらす。これらのCD3リダイレクト療法は、急性リンパ芽球性リンパ腫(acute lymphoblastic lymphoma、ALL)に対するCD19×CD3(ブリナツモマブ)の承認とともに、臨床における有効な抗がん戦略として確認されている(16)。しかしながら、BMニッチの免疫抑制及び保護の性質は、潜在的に、T細胞リダイレクト療法に大きなハードルをもたらす。
【0007】
例えば、本明細書に示されるように、特異的腫瘍抗原(CD123)及びCD3を標的とする二重特異性抗体を使用して、BM間質細胞とのAML細胞株の共培養が、インビトロで、二重特異性T細胞媒介性溶解からがん細胞を有意に保護したことが観察された。低下したCD3リダイレクト細胞傷害性は、低減したT細胞エフェクター応答と相関し、それによって二重特異性抗体の活性の喪失を説明するためのメカニズムを提供した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
T細胞リダイレクト治療薬及び抗CD44治療薬を含む医薬組成物であって、T細胞リダイレクト治療薬は、T細胞表面抗原に免疫特異的に結合する第1の結合領域と、腫瘍関連抗原(TAA)に免疫特異的に結合する第2の結合領域と、を含む、医薬組成物が本明細書において提供される。
【0009】
医薬組成物の一実施形態では、組成物は、医薬的に許容される担体を更に含む。
【0010】
医薬組成物の更なる実施形態では、T細胞リダイレクト治療薬は、抗体又はその抗原結合断片である。
【0011】
医薬組成物のなお更なる実施形態では、T細胞表面抗原は、CD3、CD2、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28、CD40L、CD44、KI2L4、NKG2E、NKG2D、NKG2F、BTNL3、CD186、BTNL8、PD-1、CD195、及びNKG2Cからなる群から選択される。
【0012】
医薬組成物のなお更なる実施形態では、T細胞表面抗原は、CD3である。
【0013】
医薬組成物のなお更なる実施形態では、TAAは、CD123、BCMA、GPRC5D、CD33、CD19、PSMA、TMEFF2、CD20、CD22、CD25、CD52、ROR1、HM1.24、CD38、及びSLAMF7からなる群から選択される。
【0014】
医薬組成物のなお更なる実施形態では、T細胞リダイレクト治療薬は、CD123に免疫特異的に結合する第1の抗原結合部位と、CD3に免疫特異的に結合する第2の抗原結合部位と、を有するCD123×CD3二重特異性抗体である。一実施形態では、CD123×CD3二重特異性抗体は、第1の重鎖(HC1)、第1の軽鎖(LC1)、第2の重鎖(HC2)、及び第2の軽鎖(LC2)を含み、HC1及びLC1は、対になって、第1の抗原結合部位を形成し、HC2及びLC2は、対になって、第2の抗原結合部位を形成する。一実施形態では、HC1は、配列番号1のアミノ酸配列を含み、LC1は、配列番号2のアミノ酸配列を含み、HC2は、配列番号3のアミノ酸配列を含み、LC2は、配列番号4のアミノ酸配列を含む。
【0015】
医薬組成物のなお更なる実施形態では、T細胞リダイレクト治療薬は、CD123に免疫特異的に結合する第1の抗原結合部位と、CD3に免疫特異的に結合する第2の抗原結合部位と、を有するBCM×CD3二重特異性抗体である。一実施形態では、BCMA×CD3二重特異性抗体は、第1の重鎖(HC1)、第1の軽鎖(LC1)、第2の重鎖(HC2)、及び第2の軽鎖(LC2)を含み、HC1及びLC1は、対になって、第1の抗原結合部位を形成し、HC2及びLC2は、対になって、第2の抗原結合部位を形成する。一実施形態では、HC1は、配列番号5のアミノ酸配列を含み、LC1は、配列番号6のアミノ酸配列を含み、HC2は、配列番号7のアミノ酸配列を含み、LC2は、配列番号8のアミノ酸配列を含む。
【0016】
医薬組成物のなお更なる実施形態では、抗CD44治療薬は、抗CD44抗体又はその抗原結合断片である。
【0017】
医薬組成物のなお更なる実施形態では、抗CD44抗体又はその抗原結合断片は、モノクローナル抗体、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びF(v)断片、重鎖単量体若しくは二量体、軽鎖単量体若しくは二量体、並びに1つの重鎖及び1つの軽鎖からなる二量体からなる群から選択される。
【0018】
医薬組成物のなお更なる実施形態では、抗CD44治療薬は、CD44アンタゴニストである。
【0019】
医薬組成物のなお更なる実施形態では、組成物は、VLA-4接着経路阻害剤を更に含む。
【0020】
医薬組成物のなお更なる実施形態では、VLA-4接着経路阻害剤は、抗VLA-4抗体又はその抗原結合断片である。
【0021】
医薬組成物のなお更なる実施形態では、抗VLA-4抗体又はその抗原結合断片は、モノクローナル抗体、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びF(v)断片、重鎖単量体若しくは二量体、軽鎖単量体若しくは二量体、並びに1つの重鎖及び1つの軽鎖からなる二量体からなる群から選択される。
【0022】
医薬組成物のなお更なる実施形態では、VLA-4接着経路阻害剤は、VLA-4アンタゴニストである。
【0023】
医薬組成物のなお更なる実施形態では、VLA-4アンタゴニストは、BIO1211、TCS2314、BIO5192、及びTR14035からなる群から選択される。
【0024】
がんの治療を必要とする対象においてがんを治療する方法であって、治療有効量の上記の医薬組成物をその対象に投与することを含む、方法が、本明細書で更に提供される。
【0025】
本方法の一実施形態では、対象は、新たに診断されたがんを有する。
【0026】
本方法の更なる実施形態では、対象は、再発しているか、又は以前の抗がん療法に対して不応性である。
【0027】
本方法のなお更なる実施形態では、がんは、血液悪性腫瘍又は固形腫瘍である。
【0028】
本方法のなお更なる実施形態では、対象は、AML又はMMを有する。
【0029】
本方法のなお更なる実施形態では、T細胞リダイレクト治療薬及び抗CD44治療薬は、同時に又は連続的に投与される。
【0030】
本方法のなお更なる実施形態では、抗CD44治療薬は、T細胞リダイレクト治療薬の投与前に投与される。
【0031】
本方法のなお更なる実施形態では、抗CD44治療薬は、T細胞リダイレクト治療薬の投与後に投与される。
【0032】
本方法のなお更なる実施形態では、T細胞リダイレクト治療薬及びVLA-4接着経路阻害剤は、同時に又は連続的に投与される。
【0033】
本方法のなお更なる実施形態では、VLA-4接着経路阻害剤は、T細胞リダイレクト治療薬の投与前に投与される。
【0034】
本方法のなお更なる実施形態では、VLA-4接着経路阻害剤は、T細胞リダイレクト治療薬の投与後に投与される。
【0035】
本方法のなお更なる実施形態では、抗CD44治療薬及びVLA-4接着経路阻害剤は、同時に又は連続的に投与される。
【0036】
本方法のなお更なる実施形態では、抗CD44治療薬は、VLA-4接着経路阻害剤の投与前に投与される。
【0037】
本方法のなお更なる実施形態では、抗CD44治療薬は、VLA-4接着経路阻害剤の投与後に投与される。
【0038】
上記に提供される医薬組成物を含むキットが、本明細書になお更に提供される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
前述の概要、並びに本出願の詳細な説明及び実施形態は、添付される特許請求の範囲及び図面と併せて読まれることで、よりよく理解されるであろう。ただし、本発明は、本明細書に開示される正確な記述に限定されるものでないことは理解されるべきである。
【
図1A】間質細胞(4×10
4細胞/ウェル)の非存在下(四角)又は存在下(黒丸)において、ヒトT細胞(8×10
4細胞/ウェル)をCFSE標識KG-1又はHL-60(4×10
4細胞/ウェル)と共培養した場合の細胞傷害性を示すグラフである。
【
図1B】間質細胞(4×10
4細胞/ウェル)の非存在下(四角)又は存在下(黒丸)において、ヒトT細胞(8×10
4細胞/ウェル)をCFSE標識KG-1又はHL-60(4×10
4細胞/ウェル)と共培養した場合のT細胞活性化率を示すグラフである。CD123xCD3二重特異性抗体を、100nM(15μg/mL)から開始して各後続用量の条件に対して10倍に希釈して、用量応答で48時間添加した(共培養の24時間後)。死滅CFSE
+標的細胞の割合を計算することによって細胞傷害性(
図1A)を評価し、これは、フローサイトメトリーによって定量化された。T細胞活性化(
図1B)を生存CD45
+/CD3
+/CD25
+T細胞の割合として評価した。用量滴定を3人の個々のT細胞ドナーからプロットし、4パラメータ非線形回帰曲線あてはめで分析した。3人の健常ドナー由来のT細胞を、示された細胞株を用いてT細胞リダイレクションアッセイにおいて試験した。平均±SDをグラフ化した。平均±SDは、2つの実験を代表するものであった。MSC:間葉幹細胞。
【
図2】BM間質細胞をKG-1細胞と共培養したときの、CD123xCD3二重特異性抗体によって媒介される分泌サイトカインの変化を示す棒グラフである。KG-1細胞との72時間の共培養アッセイからの上清を、MILLIOPLEX(登録商標)MAPキットにおいて、ヒトサイトカインIL-1β(a.)、IL-1ra(b.)、IL-2(c.)、IL-3(d.)、TNF-α(e.)、IFN-γ(f.)及びケモカインG-CSF(g.)及びVEGF(h.)について評価した。条件には、KG-1細胞+T細胞(「間質なし」)又はKG-1細胞+T細胞+BM間質細胞(「BM間質」)が含まれた。上清を各T細胞ドナーについて2連で2回の実験からプールし、平均±SDとしてグラフ化した。
【
図3】BM間質細胞をHL-60細胞と共培養したときの、CD123xCD3二重特異性抗体によって媒介される分泌サイトカインの変化を示す棒グラフである。HL-60細胞との72時間の共培養アッセイからの上清を、MILLIOPLEX(登録商標)MAPキットにおいて、ヒトサイトカインIL-1β(a.)、IL-1ra(b.)、IL-2(c.)、IL-3(d.)、TNF-α(e.)、IFN-γ(f.)並びにケモカインG-CSF(g.)及びVEGF(h.)について評価した。条件には、KG-1細胞+T細胞(「間質なし」)又はKG-1細胞+T細胞+BM間質細胞(「BM間質」)が含まれた。上清を各T細胞ドナーについて2連で2回の実験からプールし、平均±SDとしてグラフ化した。
【
図4A】CD44がAML及びHS-5間質細胞上で発現され、原発性AML患者試料上で有意に増加することを示すグラフである。AML細胞株及びHS-5間質細胞を、細胞表面マーカーについてフローサイトメトリーによって評価して、CD44、CD123、VLA-4、VLA-5、CXCR4、FLT3を確認した図であり、CD3抗原を陰性対照として使用した。上:未染色;中央:アイソタイプ;下:染色。
【
図4B】CD44がAML及びHS-5間質細胞上で発現され、原発性AML患者試料上で有意に増加することを示すグラフである。公開データセット(GSE15061)のバイオインフォマティクス分析は、AML、MDS、及び非白血病骨髄試料(正常)上での発現を示すグラフである。mRNA発現をy軸上にlog
2スケールでプロットした(AML、n=202;MDS、n=164、正常、n=69)。テューキー多重比較検定(α=0.05)による一元配置分散分析を行って、群を比較した(
****p<0.0001)。ns、有意差なし。
図4Aは、3回の実験反復を表現する。
【
図5】CD123xCD3二重特異性抗体による死滅の間質媒介性抑制が、抗CD44抗体によって回復したことを示すグラフである。ヒトT細胞(80,000細胞/ウェル)を、CFSE標識AML(KG-1、HL-60、MV4-11、MOLM-13、SKNO-1)及びHS-5間質細胞(40,000細胞/ウェル;黒色の線)を抗CD44(20μg/mL)と共培養した。24時間後、CD123xCD3二重特異性抗体を、100nM(15μg/mL)で開始し、更に48時間の後続用量のために10倍に希釈して、用量反応で添加した。死滅CFSE
+標的細胞の割合を計算することによって細胞傷害性を評価した。T細胞活性化をCD25
+及びPD-1
+T細胞の割合として評価し、これはフローサイトメトリーによって定量化された。3人の健常ドナー由来のT細胞を、示された細胞株を用いてT細胞リダイレクションアッセイにおいて試験した。平均±SDをグラフ化した。平均±SDは、少なくとも3回以上の実験を代表するグラフであった。NS=間質なし。
【
図6】CD44、VLA-4及びCXCR-4がKG-1細胞、T細胞及び間質細胞上で発現されることを示すグラフである。KG-1細胞、T細胞、初代骨髄(BM)間質細胞、及びHS-5間質細胞を、細胞表面マーカーについてフローサイトメトリーによって評価して、CD44、VLA-4、及びCXCR4発現を評価した。間質細胞株は、非常に高レベルのCD44を発現し、KG-1及びT細胞上では中程度に低レベルであった。VLA-4は、試験した全ての細胞の間で均一なレベルで観察された。CXCR4は、KG-1細胞上でより低いレベルで発現され、T細胞及び間質細胞上でより高いレベルで発現された。示されたデータは、2回の実験反復を代表するものであった。上:アイソタイプ;下:染色。
【
図7】KG-1細胞との共培養におけるCD123xCD3二重特異性抗体のHS-5間質媒介性抑制が、抗CD44抗体によって回復されたことを示すグラフである。72時間の共培養アッセイからの上清を、MILLIOPLEX(登録商標)MAPキットにおいて、ヒトサイトカインIL-2、IL-3、TNF-α、IFN-γについて評価した。条件は、KG-1細胞+T細胞(間質なし)+/-抗CD44抗体、又はKG-1細胞+T細胞+HS-5間質細胞+/-抗CD44抗体、又は細胞単独を含んだ。上清を各T細胞ドナーについて2連で2回の実験からプールし、平均±SDとしてグラフ化した。
【
図8】CD44がKG-1及びHS-5 CD44 KO細胞株において検出可能ではないことを示すグラフである。CD44をKG-1及びHS-5間質細胞株からノックアウトし、限界希釈によって生成してクローン集団を作製した。細胞表面マーカーについてフローサイトメトリーによって細胞を評価して、CD44のノックアウトと、他の細胞表面マーカー、CD123、VLA-4、VLA-5、CXCR4、及びFLT3が変化しなかったこととを確認した。CD3抗原を陰性対照として用いた。データは、3回の実験を代表するものであった。上:未染色;中央:アイソタイプ;下:染色。
【
図9】KG-1及びHS-5細胞におけるCD44の遮断が、CD123xCD3二重特異性抗体により細胞傷害性及びT細胞活性化の間質媒介性抑制を回復させたことを示すグラフである。抗CD44抗体(20μg/mL)を有するHS-5
wt又はHS-5
CD44KO間質細胞(4×10
4細胞/ウェル)の非存在下又は存在下で、ヒトT細胞(8×10
4細胞/ウェル)をCFSE標識AML(KG-1
wt又はKG-1
CD44KO)と共培養した。24時間後、CD123xCD3二重特異性抗体を0.001nM(0.045μg/mL)で更に24時間添加した。死滅CFSE
+標的細胞の割合を計算することによって、細胞傷害性を評価した。T細胞活性化をCD25
+T細胞の割合として評価し、これはフローサイトメトリーによって定量化された。平均±SDをグラフ化した。平均±SDは、2回の実験を代表するグラフであった。HS-5細胞と共に培養されたKG-1細胞は、実験において観察された最大抑制を示す。3人の健常ドナー由来のT細胞を、示された細胞株を用いてT細胞リダイレクションアッセイにおいて試験した。平均±SDをグラフ化した。平均±SDは、2回の実験を代表するグラフであった。
【
図10】CD44の遮断がグランザイム-Bレベルを高め、PD-1発現を増加させたことを示すグラフである。ヒトT細胞(8×10
4細胞/ウェル)は、抗CD44(20μg/mL)を有するCFSE標識AML(KG-1
wt又はKG-1
CD44KO)及びHS-5
wt又はHS-5
CD44KO間質細胞(4×10
4細胞/ウェル)と共培養した。24時間後、CD123xCD3を0.001nM(0.045μg/mL)で更に24時間添加した。T細胞におけるグランザイム-Bレベル並びにT細胞初期活性化を、PD-1
+T細胞の割合として評価し、これはフローサイトメトリーによって定量化された。3人の健常ドナー由来のT細胞を、示された細胞株を用いてT細胞リダイレクションアッセイにおいて試験した。平均±SDをグラフ化した。平均±SDは、少なくとも2回以上の実験を代表するグラフであった。
【発明を実施するための形態】
【0040】
「背景技術」において、また、本明細書全体を通して各種刊行物、論文及び特許を引用又は記載し、これら参照文献の各々はその全容が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書に含まれる文書、操作、材料、デバイス、物品などの考察は、本発明のコンテキストを与えるためのものである。かかる考察は、これらの事物のいずれか又は全てが、開示又は特許請求されるいずれかの発明に対する先行技術の一部を構成することを容認するものではない。
【0041】
特に規定のない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。そうでない場合、本明細書で使用される特定の用語は、本明細書に記載される意味を有するものである。
【0042】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用するとき、単数形「a」、「an」及び「the」は、特に文脈上明らかでない限り、複数の指示対象物を含むことに留意する必要がある。
【0043】
別途記載されない限り、本明細書に記載される濃度又は濃度範囲などのあらゆる数値は、全ての場合において、用語「約」によって修飾されているものとして理解されるべきである。したがって、数値は、典型的には、記載される値の±10%を含む。例えば、1mg/mLの濃度は0.9mg/mL~1.1mg/mLを含む。同様に、1%~10%(w/v)の濃度範囲は0.9%(w/v)~11%(w/v)を含む。本明細書で使用される場合、数値範囲の使用は、文脈上別途明確に示されない限り、その範囲内の整数及び値の分数を含む、全ての可能な部分範囲、その範囲内の全ての個々の数値を明示的に含む。
【0044】
別途記載のない限り、一連の要素に先行する用語「少なくとも」は、一連の全ての要素を指すと理解されるべきである。当業者であれば、単なる通常の実験手順を使用するだけで、本明細書に記載した本発明の特定の実施形態に対して多くの均等物を認識するか、又は確認することができよう。かかる均等物は、本発明によって包含されることが意図される。
【0045】
本明細書で使用するとき、用語「備える(comprises)、「備える(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」、「含有する(contains)」、若しくは「含有する(containing)」、又はこれらの任意の他の変形は、述べられている整数又は整数群を含むことが意図されるが、これら以外の他の整数又は整数群を除外するものではなく、非排他的又は非制限的であることが意図されることが理解されよう。例えば、一連の要素を含む組成物、混合物、プロセス、方法、物品、又は装置は、必ずしもそれらの要素のみに限定されるものではなく、明示的に列挙されない、又はかかる組成物、混合物、プロセス、方法、物品、若しくは装置に本来存在しない他の要素を含んでもよい。更に、明示的に反対に明記されない限り、「又は」は包括的な「又は」を指すものであり、排他的な「又は」を指すものではない。例えば、条件A又はBは、Aが真であり(又は存在する)かつBが偽である(又は存在しない)場合、Aが偽であり(又は存在しない)かつBが真である(又は存在する)場合、並びにA及びBの両方が真である(又は存在する)場合、のいずれか1つによって満たされる。
【0046】
本明細書に使用される場合、複数の列挙された要素間の「及び/又は」という接続的な用語は、個々の及び組み合わされた選択肢の両方を包含するものとして理解される。例えば、2つの要素が「及び/又は」によって接続される場合、第1の選択肢は、第2の要素なしに第1の要素が適用可能であることを指す。第2の選択肢は、第1の要素なしに第2の要素が適用可能であることを指す。第3の選択肢は、第1及び第2の要素が一緒に適用可能であることを指す。これらの選択肢のうちのいずれか1つは、意味に含まれ、したがって、本明細書に使用される場合、「及び/又は」という用語の要件を満たすことが理解される。選択肢のうちの2つ以上の同時適用性もまた、意味に含まれ、したがって、「及び/又は」という用語の要件を満たすことが理解される。
【0047】
本明細書で使用するとき、用語「からなる(consists of)」、又は「からなる(consist of)」若しくは「からなる(consisting of)」などの変形は、明細書及び特許請求の範囲全体にわたって使用されるとき、任意の列挙された整数又は整数群を包含するが、追加の整数又は整数群が、指定の方法、構造、又は組成物に追加されないことを示す。
【0048】
本明細書で使用されるとき、用語「から本質的になる(consists essentially of)」、又は「から本質的になる(consist essentially of)」若しくは「から本質的になる(consisting essentially of)」などの変形は、明細書及び特許請求の範囲全体にわたって使用されるとき、任意の列挙された整数又は整数群を包含し、任意選択で、指定の方法、構造、又は組成物の基本的又は新規の特性を実質的に変化させない任意の列挙された整数又は整数群も包含することを示す。M.P.E.P.§2111.03を参照されたい。
【0049】
本明細書で使用するとき、「対象」は、任意の動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトを意味する。本明細書で使用される場合、用語「哺乳動物」は、あらゆる哺乳動物を包含する。哺乳動物の例としては、これらに限定されるものではないが、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、サル、ヒトなど、より好ましくはヒトが挙げられる。
【0050】
「右」、「左」、「下方」、及び「上方」という語は、参照される図面内での方向を指定する。
【0051】
好ましい本発明の構成要素の寸法又は特徴を指すときに本明細書で使用される「約」、「およそ」、「概ね」、「実質的に」などの用語は、当業者には理解されるように、記載の寸法/特徴が厳密な境界又はパラメータではなく、機能的に同じ又は類似する、それらからのわずかな相違を除外するものではないことを示すことも理解すべきである。最小値では、数値パラメータを含むこのような参照は、当該技術分野において受け入れられている数学的及び工業的原理(例えば、四捨五入、測定又は他の系統的誤差、製造公差など)を使用すると、最小有効数字は変化しない変形形態を含むであろう。
【0052】
本明細書で使用するとき、「単離(された)」という用語は、生物学的構成成分(例えば、核酸、ペプチド、又はタンパク質)が、これらの構成成分が天然に生じる生物の他の生物学的構成成分(すなわち、他の染色体及び染色体外DNA及びRNA、並びにタンパク質)から実質的に分離されたか、これらの他の成分とは別に生成されたか、又はこれらの他の成分から精製されたものであることを意味する。このため、「単離(された)」核酸、ペプチド、及びタンパク質は、標準的な精製法により精製された核酸及びタンパク質を含む。「単離(された)」核酸、ペプチド、及びタンパク質は、組成物の一部であることができ、その組成物が核酸、ペプチド、又はタンパク質の本来の環境の一部ではない場合であっても単離される。また、この用語は、宿主細胞中での組換え発現により調製された核酸、ペプチド、及びタンパク質、並びに化学合成された核酸も包含する。
【0053】
本明細書で使用するとき、用語「ポリヌクレオチド」は、同義的に「核酸分子」、「ヌクレオチド」、又は「核酸」とも称され、非修飾RNA若しくはDNA又は修飾RNA若しくはDNAであってもよい、任意のポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドを指す。「ポリヌクレオチド」としては、一本鎖及び二本鎖DNA、一本鎖及び二本鎖の領域の混合物であるDNA、一本鎖及び二本鎖RNA、並びに一本鎖及び二本鎖の領域の混合物であるRNA、一本鎖又はより典型的には二本鎖又は一本鎖及び二本鎖の領域の混合物であってもよいDNA及びRNAを含むハイブリッド分子が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、「ポリヌクレオチド」は、RNA若しくはDNA又はRNA及びDNAの両方を含む三本鎖領域を指す。ポリヌクレオチドという用語には、1つ又は2つ以上の修飾された塩基を含有するDNA又はRNA、及び安定性又は他の理由により修飾された骨格を有するDNA又はRNAも含まれる。「修飾された」塩基は、例えば、トリチル化塩基及び異常な塩基、例えば、イノシンを含む。様々な修飾をDNA及びRNAに行うことができる。したがって、「ポリヌクレオチド」は、典型的には天然に認められるポリヌクレオチドの化学的、酵素的又は代謝的に修飾された形態、並びにウイルス及び細胞のDNA及びRNAの特徴を有する化学的形態を包含する。「ポリヌクレオチド」はまた、比較的短い核酸鎖(多くの場合、オリゴヌクレオチドと称される)も包含する。
【0054】
本明細書で使用するとき、用語「ベクター」は、別の核酸セグメントを機能的に挿入することによってそのセグメントの複製又は発現を行うことができるレプリコンのことである。
【0055】
本明細書で使用するとき、用語「宿主細胞」は、本発明の核酸分子を含む細胞を指す。「宿主細胞」は、例えば、初代細胞、培養中の細胞、又は細胞株由来の細胞のいずれのタイプの細胞であってもよい。一実施形態では、「宿主細胞」は、本発明の核酸分子をトランスフェクト又は形質導入した細胞である。別の一実施形態では、「宿主細胞」は、かかるトランスフェクト又は形質導入された細胞の子孫又は潜在的な子孫である。ある細胞の子孫は、例えば、後続の世代で生じ得る変異若しくは環境の影響、又は宿主細胞ゲノムへの核酸分子の組み込みによって、親細胞との同一性を有していない場合がある。
【0056】
本明細書で使用するとき、用語「発現」は、遺伝子産物の生合成を指す。この用語は、遺伝子のRNAへの転写を包含する。この用語はまた、RNAの1つ又は2つ以上のポリペプチドへの翻訳も包含し、全ての天然に生じる、転写後及び翻訳後修飾も更に包含する。
【0057】
本明細書で使用するとき、「抗体」という用語は、広義の意味を有し、モノクローナル抗体(マウス、ヒト、ヒト化、及びキメラモノクローナル抗体を含む)、抗原結合断片、二重特異性、三重特異性、四重特異性などの多重特異性抗体、二量体、四量体、又は多量体抗体、一本鎖抗体、ドメイン抗体、並びに必要とされる特異性の抗原結合部位を含む免疫グロブリン分子の任意の他の修飾された形態を含む免疫グロブリン分子を含む。「完全長抗体」は、ジスルフィド結合により相互接続された、2本の重鎖(heavy chain、HC)及び2本の軽鎖(light chain、LC)、並びにこれらの多量体(例えばIgM)で構成される。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)、及び重鎖定常領域(ドメインCH1、ヒンジ、CH2、及びCH3からなる)で構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(light chain constant region、CL)で構成される。VH領域及びVL領域は、フレームワーク領域(framework region、FR)が散在しており相補性決定領域(complementarity determining region、CDR)と呼称される超可変領域に更に細分化され得る。各VH及びVLは、以下の順序でアミノ末端からカルボキシ末端に配置された3つのCDR及び4つのFRセグメントで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4。免疫グロブリンは、重鎖定常ドメインアミノ酸配列に応じて、5つの主要なクラス、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMに割り当てられ得る。IgA及びIgGは、アイソタイプのIgA1、IgA2、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4として更に細分類される。どのような脊椎動物種の抗体軽鎖も、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、2つの明確に異なるタイプ、すなわち、カッパ(κ)及びラムダ(λ)のうちの一方に割り当てることができる。
【0058】
本明細書で使用するとき、「モノクローナル抗体」という用語は、抗体分子の実質的に均質な集団(すなわち、集団を含む個々の抗体が、抗体重鎖からのC末端リジンの除去、あるいはアミノ酸異性化若しくはアミド分解、メチオニン酸化、又はアスパラギン若しくはグルタミンアミド分解などの翻訳後修飾などの、可能な周知の変化を除いて同一である)から入手される抗体を指す。モノクローナル抗体は、典型的には、1つの抗原性エピトープに結合する。二重特異性モノクローナル抗体は、2つの異なる抗原性エピトープに結合する。モノクローナル抗体は、抗体集団内で不均一なグリコシル化を有し得る。モノクローナル抗体は、単一特異性であってもよく、又は、二重特異性などの多重特異性であってもよく、一価、二価、又は多価であってもよい。
【0059】
本明細書で使用するとき、「ヒト抗体」という用語は、ヒト対象に投与されたときに、最小の免疫応答を有するように最適化された抗体を指す。ヒト抗体の可変領域は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する。ヒト抗体が定常領域又は定常領域の一部を含む場合、その定常領域もヒト免疫グロブリン配列に由来する。ヒト抗体は、ヒト抗体の可変領域がヒト生殖系列免疫グロブリン又は再編成された免疫グロブリン遺伝子を使用する系から得られた場合、ヒト起源の配列に「由来する」重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。このような例示的な系は、ファージにディスプレイされたヒト免疫グロブリン遺伝子ライブラリ、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座を保有するトランスジェニック非ヒト動物、例えばマウス又はラットである。「ヒト抗体」は、典型的には、ヒト抗体及びヒト免疫グロブリン遺伝子座を得るために使用した系の違い、フレームワーク若しくはCDRへの体細胞変異の導入若しくは置換の意図的な導入、又はこれらの両方により、ヒトで発現した免疫グロブリンと比較したときにアミノ酸の違いを含有する。典型的には、「ヒト抗体」は、ヒト生殖系列免疫グロブリン又は再編成された免疫グロブリン遺伝子によってコードされているアミノ酸配列に対して、アミノ酸配列が少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一である。場合によっては、「ヒト抗体」は、例えばKnappik et al.,(2000)J Mol Biol 296:57-86に記載されるヒトフレームワーク配列分析から得られたコンセンサスフレームワーク配列、又は例えばShi et al.,(2010)J MolBiol 397:385-96及び国際公開第2009/085462号に記載される、ファージ上に提示されたヒト免疫グロブリン遺伝子ライブラリに組み込まれた合成HCDR3を含有し得る。少なくとも1つのCDRが非ヒト種に由来する抗体は、「ヒト抗体」の定義には含まれない。
【0060】
本明細書で使用するとき、「ヒト化抗体」という用語は、少なくとも1つのCDRが非ヒト種に由来し、少なくとも1つのフレームワークがヒト免疫グロブリン配列に由来する抗体を指す。ヒト化抗体は、フレームワークに置換を含むことができるため、フレームワークは、発現したヒト免疫グロブリン又はヒト免疫グロブリン生殖細胞系列遺伝子配列の厳密なコピーではない場合がある。
【0061】
「単離抗体」という用語は、他の細胞材料及び/又は化学物質を実質的に含まない抗体を指し、より高い純度、例えば80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の純度まで単離された抗体を包含する。
【0062】
本明細書で使用するとき、「抗原結合断片」又は「抗原結合ドメイン」という用語は、抗原に結合する免疫グロブリン分子の一部分を指す。抗原結合断片は、合成ポリペプチド、酵素により入手可能なポリペプチド、又は遺伝子組換えされたポリペプチドであってよく、VH、VL、VH及びVL、Fab、F(ab’)2、Fd及びFv断片、1つのVHドメイン又は1つのVLドメインからなるドメイン抗体(dAb)、サメ可変IgNARドメイン、ラクダ化VHドメイン、FR3-CDR3-FR4部分などの、抗体のCDRを再現するアミノ酸残基からなる最小認識単位、HCDR1、HCDR2、及び/又はHCDR3、並びにLCDR1、LCDR2、及び/又はLCDR3が挙げられる。VH及びVLドメインは互いに、合成リンカーを介して結合し、様々なタイプの一本鎖抗体設計を形成することができ、VH及びVLドメインが、別個の一本鎖抗体構築物により発現される場合では、VH/VLドメインが分子内、又は分子間で対形成し、一価の抗原結合部位、例えば一本鎖Fv(single chain Fv、scFv)又はダイアボディを形成することができ、これらは、例えば国際公開第1998/44001号、同第1988/01649号、同第1994/13804号、及び同第1992/01047号に記載されている。
【0063】
「二重特異性」という用語は、2つの異なる抗原、又は同じ抗原内の2つの異なるエピトープに特異的に結合する抗体を指す。二重特異性抗体は、他の関連抗原、例えば、ヒト又はサル、例えば、Macaca cynomolgus(例えば、カニクイザル(cynomolgus、cyno))若しくはPan troglodytesなどの他の種由来の同じ抗原(ホモログ)に対して交差反応性を有し得るか、あるいは2つ又は3つ以上の異なる抗原間で共有されているエピトープに結合し得る。
【0064】
本明細書で使用するとき、「多重特異性」という用語は、少なくとも2つの異なる抗原、又は同じ抗原内の少なくとも2つの異なるエピトープに特異的に結合する抗体を指す。多重特異性抗体は、例えば、2つ、3つ、4つ、若しくは5つの異なる抗原、又は同じ抗原内の異なるエピトープに結合し得る。
【0065】
抗体又は抗体フラグメントの文脈において使用されるとき、「特異的結合」若しくは「免疫特異的結合」、又はそれらの派生語は、免疫グロブリン遺伝子又は免疫グロブリン遺伝子のフラグメントによりコードされるドメインを介して、分子の混合集団を含有するサンプル中の他の分子に優先的に結合することなく、目的のタンパク質の1つ又は2つ以上のエピトープに結合することを表す。典型的には、抗体は、表面プラズモン共鳴アッセイ又は細胞結合アッセイによって測定された場合、約1×10-8M未満のKdで、同種抗原に結合する。
【0066】
「がん」という用語は、身体における異常細胞の制御されていない成長を特徴とする様々な疾患の広範な群を指す。制御されていない細胞分裂及び成長は、隣接組織を浸潤する悪性腫瘍の形成をもたらし、リンパ系又は血流を介して身体の遠位部分にも転移し得る。「がん」又は「がん組織」は、腫瘍を含み得る。
【0067】
本明細書で使用するとき、「組み合わせ」という用語は、2つ又は3つ以上の治療薬が、混合物中で一緒に、単独の薬剤として同時に、又は単独の薬剤として任意の順番で連続的に対象に投与されることを意味する。
【0068】
本明細書で使用するとき、「向上させる」又は「向上した」という用語は、対照分子と比較したときの試験分子、又は1つ若しくは2つ以上の対照分子と比較したときの試験分子の組み合わせの1つ又は2つ以上の機能の向上を指す。測定され得る例示的な機能は、腫瘍細胞死滅、T細胞活性化、相対的若しくは絶対的T細胞数、Fc媒介性エフェクター機能(例えば、ADCC、CDC、及び/若しくはADCP)、又はFcγ受容体(FcγR)若しくはFcRnへの結合である。「向上した」とは、約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、若しくはそれ以上の向上、又は統計的に有意な向上であることができる。
【0069】
本明細書で使用するとき、「変異」という用語は、参照配列と比較したときのポリペプチド又はポリヌクレオチド配列における操作された変化又は自然発生的変化を指す。変更は、1つ又は2つ以上のアミノ酸又はポリヌクレオチドの置換、挿入、又は欠失であってもよい。
【0070】
本明細書で使用するとき、「非固定組み合わせ」という用語は、異なる実体として、特定の中断時間の制限なしに同時、併行的、又は連続的のいずれかで投与されるT細胞リダイレクト治療薬及びVLA-4接着経路阻害剤の別々の医薬組成物を指し、ここで、そのような投与は、対象の体内で2つの化合物の有効なレベルを提供する。
【0071】
本明細書で使用するとき、「医薬組成物」という用語は、有効成分及び医薬的に許容される担体を含む組成物を指す。
【0072】
「医薬的に許容される担体」又は「賦形剤」という用語は、対象に対して毒性のない、活性成分以外の医薬組成物中の成分を指す。
【0073】
本明細書で使用するとき、「組換え」という用語は、異なる供給源由来のセグメントが結合されて組換えDNA、抗体、又はタンパク質を産生するときに、組換え手段によって調製、発現、作製、又は単離されるDNA、抗体、及び他のタンパク質を指す。
【0074】
本明細書で使用するとき、「低減する」又は「低減された」という用語は、対照分子と比較したときの試験分子、又は1つ若しくは2つ以上の対照分子と比較したときの試験分子の組み合わせの1つ又は2つ以上の機能の低減を指す。測定され得る例示的な機能は、腫瘍細胞死滅、T細胞活性化、相対的若しくは絶対的T細胞数、Fc媒介性エフェクター機能(例えば、ADCC、CDC、及び/若しくはADCP)、又はFcγ受容体(FcγR)若しくはFcRnへの結合である。「低減した」は、約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、若しくはそれ以上の低減、又は統計的に有意な向上であり得る。
【0075】
本明細書で使用するとき、「難治性」という用語は、外科的介入に対して修正可能ではなく、初期には療法に対して応答しないがんを指す。
【0076】
本明細書で使用するとき、「再発性」という用語は、治療に応答したが、その後再発するがんを指す。
【0077】
本明細書で使用するとき、「対象」という用語は、任意のヒト又は非ヒト動物を含む。「非ヒト動物」は、例えば、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類などの哺乳動物及び非哺乳動物などの全ての脊椎動物を含む。記載されている場合を除き、「患者」及び「対象」という用語は、互換的に使用される。
【0078】
本明細書で使用するとき、「治療有効量」という用語は、所望の治療結果を得るための、必要な用量及び期間での有効量を指す。治療有効量は、個体の病態、年齢、性別、及び体重などの要因、並びに個体において所望の応答を誘発する治療薬又は治療薬の組み合わせの能力によって変動し得る。有効な治療薬又は治療薬の組み合わせの例示的な指標としては、例えば、患者の改善された健康が挙げられる。
【0079】
本明細書で使用するとき、「治療する」、又は「治療」という用語は、治療的処置、及び予防的(prophylactic)若しくは予防的(preventative)手段の両方を意味し、目的は、望ましくない生理学的変化又は障害を予防する、又は減速する(減少させる)ことである。有益な又は所望の臨床結果としては、検出可能又は検出不可能にかかわらず、症状の緩和、疾患の程度の軽減、安定した(すなわち、悪化しない)疾患状態、疾患の進行の遅延又は鈍化、疾患状態の改善又は緩和、及び寛解(部分的又は全体的にかかわらず)が挙げられる。「治療」はまた、対象が治療を受けていない場合に予想される生存期間と比較して、生存期間を延長させることを意味し得る。治療を必要とする者には、既に病態若しくは疾患を有している者、及び、病態若しくは疾患を有しやすい者、又は病態若しくは疾患を予防しようとする者が含まれる。
【0080】
本明細書で使用するとき、「腫瘍細胞」又は「がん細胞」という用語は、自然発生的な又は導入された表現型の変化を有する、インビボ、エクスビボ、又は組織培養のいずれかにおけるがん性、前がん性、又は形質転換細胞を指す。これらの変化は、必ずしも新たな遺伝物質の取り込みを伴うものではない。形質転換は、形質転換ウイルスの感染及び新たなゲノム核酸の組み込み、外因性核酸の取り込みにより発生させることもでき、自然発生的に又は発がん物質に曝露した後に発生し、それによって内因性の遺伝子が変異する場合もある。形質転換/がんは、ヌードマウスなどの好適な動物宿主、インビトロ、インビボ、及びエクスビボにおける形態学的変化、細胞の不死化、異常な成長制御、病巣の形成、増殖、悪性腫瘍、腫瘍特異的マーカーレベルの調節、浸潤性、腫瘍成長によって例示される。
【0081】
T細胞リダイレクト治療薬
本明細書に開示されるT細胞リダイレクト治療薬(本出願全体を通して、「T細胞リダイレクト二重特異性抗体」又は「二重特異性抗体」とも称される)は、2つ又は3つ以上の結合領域を含有する分子であり、結合領域のうちの1つは、標的細胞又は組織上の細胞表面抗原(腫瘍関連抗原(TAA)など)に特異的に結合し、分子の第2の結合領域は、T細胞表面抗原(CD3など)に特異的に結合する。この二重/多重標的結合能力は、T細胞を標的細胞又は組織に動員して、標的細胞又は組織の根絶をもたらす。
【0082】
本明細書で使用されるT細胞リダイレクト治療薬は、抗体、抗体由来タンパク質、又は例えば、抗原結合部位を示す組換えタンパク質であってもよい。一実施形態では、本明細書で使用されるT細胞リダイレクト治療薬は、二重特異性抗体であり、「全」抗体、例えば、全IgG又はIgG様分子、及び小さい組換え形式、例えば、タンデム一本鎖可変断片分子(tandem single chain variable fragment molecule、taFv)、ダイアボディ(diabody、Db)、一本鎖ダイアボディ(single chain diabody、scDb)、並びにこれらの様々な他の誘導体を包含する(様々な二重特異性抗体形式を示す
図2を含むByrne H.et al.(2013)Trends Biotech,31(11):621-632によって記載されるような二重特異性抗体形式;Weidle U.H.et al.(2013)Cancer Genomics and Proteomics 10:1-18、特に、様々な二重特異性抗体形式を示す
図1;及び様々な二重特異性抗体形式を示す
図3を含むChan,A.C.and Carter,P.J.(2010)Nat Rev Immu 10:301-316を参照されたい)。二重特異性抗体形式の例としては、クアドローマ、化学的に結合されたFab(断片抗原結合)、及びBiTE(登録商標)(二重特異性T細胞エンゲージャー)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
一実施形態では、本明細書で使用される二重特異性抗体は、トリオマブ、ハイブリッドハイブリドーマ(クアドローマ)、多重特異性アンチカリンプラットフォーム(Pieris)、ダイアボディ、一本鎖ダイアボディ、タンデム一本鎖Fv断片、TandAb、三重特異性Ab(Affimed)(105~110kDa)、Dart(dual affinity retargeting、二重親和性再標的化、Macrogenics)、二重特異性Xmab(Xencor)、二重特異性T細胞エンゲージャー(Bite、Amgen、55kDa)、トリプルボディ、トライボディ=Fab-scFv融合タンパク質(CreativeBiolabs)多官能性組換え抗体誘導体(110kDa)、デュオボディプラットフォーム(Genmab)、ドックアンドロックプラットフォーム、ノブイントゥーホール(Knob into hole、KIH)プラットフォーム、ヒト化二重特異性IgG抗体(REGN1979)(Regeneron)、Mab2二重特異性抗体(F-Star)、DVD-Ig=二重可変ドメイン免疫グロブリン(Abbvie)、カッパ-ラムダボディ、四価二重特異性タンデムIg、及びCrossMabを含む群から選択され得る。
【0084】
更なる実施形態では、本明細書で使用される二重特異性抗体は、CrossMab、DAF(ツーインワン)、DAF(フォーインワン)、DutaMab、DT-IgG、ノブインホール共通LC、ノブインホール集合、電荷対、Fabアーム交換、SEEDbody、トリオマブ、LUZ-Y、Fcab、κλボディ、及び直交Fabを含む、二重特異性IgG様抗体(BsIgG)から選択され得る。これらの二重特異性抗体形式は、例えば、Spiess C.,Zhai Q.and Carter P.J.(2015)Molecular Immunology 67:95-106、特に、
図1及び対応する説明、例えば、p.95~101に図示及び記載される。
【0085】
なお更なる実施形態では、本明細書で使用される二重特異性抗体は、DVD-IgG、IgG(H)-scFv、scFv-(H)IgG、IgG(L)-scFv、scFV-(L)IgG、IgG(L,H)-Fv、IgG(H)-V、V(H)-IgG、IgG(L)-V、V(L)-IgG、KIH IgG-scFab、2scFv-IgG、IgG-2scFv、scFv4-Ig、scFv4-Ig、Zybody、及びDVI-IgG(フォーインワン)を含む追加の抗原結合部分を有する、IgG付加抗体から選択され得る。これらの二重特異性抗体形式は、例えば、Spiess C.,Zhai Q.and Carter P.J.(2015)Molecular Immunology 67:95-106、特に、
図1及び対応する説明、例えば、p.95~101に図示及び記載される。
【0086】
なお更なる実施形態では、本明細書で使用される二重特異性抗体は、ナノボディ、ナノボディ-HAS、BiTE、ダイアボディ、DART、TandAb、scダイアボディ、sc-ダイアボディ-CH3、ダイアボディ-CH3、トリプルボディ、ミニ抗体、ミニボディ、TriBiミニボディ、scFv-CH3 KIH、Fab-scFv、scFv-CH-CL-scFv、F(ab’)2、F(ab’)2-scFv2、scFv-KIH、Fab-scFv-Fc、四価HCAb、scダイアボディ-Fc、ダイアボディ-Fc、タンデムscFv-Fc、及びイントラボディを含む、二重特異性抗体断片から選択され得る。これらの二重特異性抗体形式は、例えば、Spiess C.,Zhai Q.and Carter P.J.(2015)Molecular Immunology 67:95-106、特に、
図1及び対応する説明、例えば、p.95~101に図示及び記載される。
【0087】
なお更なる実施形態では、本明細書で使用される二重特異性抗体は、ドックアンドロック、ImmTAC、HSAbody、scダイアボディ-HAS、及びタンデムscFv-Toxinを含む、二重特異性融合タンパク質から選択され得る。これらの二重特異性抗体形式は、例えば、Spiess C.,Zhai Q.and Carter P.J.(2015)Molecular Immunology 67:95-106、特に、
図1及び対応する説明、例えば、p.95~101に図示及び記載される。
【0088】
なお更なる実施形態では、本明細書で使用される二重特異性抗体は、IgG-IgG、Cov-Xボディ、及びscFv1-PEG-scFv2を含む、二重特異性抗体コンジュゲートから選択され得る。これらの二重特異性抗体形式は、例えば、Spiess C.,Zhai Q.and Carter P.J.(2015)Molecular Immunology 67:95-106、特に、
図1及び対応する説明、例えば、p.95~101に図示及び記載される。
【0089】
なお更なる実施形態では、本明細書で使用される二重特異性抗体は、任意の免疫グロブリンクラス(例えば、IgA、IgG、IgMなど)及びサブクラス(例えば、IgA1、IgA2、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4など)に基づき得る。態様では、本明細書で使用される二重特異性抗体は、通常、2つの重鎖及び2つの軽鎖を含むIgG様形式(IgGに基づき、(「IgGタイプ」とも称される)を有し得る。IgG様形式を有する抗体の例としては、クアドローマ及び様々なIgG-scFv形式を含み(Byrne H.et al.(2013)Trends Biotech,31(11):621-632;
図2A~
図2E)、2つの異なるハイブリドーマの融合によって生成されるクアドローマが好ましい。IgGクラス内で、二重特異性抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4サブクラスに基づき得る。
【0090】
なお更なる実施形態では、本明細書で使用される二重特異性抗体は、IgG様抗体形式であり、これは、例えば、ハイブリッドハイブリドーマ(クアドローマ)、共通軽鎖を含むノブイントゥーホール、様々なIgG-scFv形式、様々なscFv-IgG形式、ツーインワンIgG、二重VドメインIgG、IgG-V、及びV-IgGを含み、これらは、例えば、Chan,A.C.and Carter,P.J.(2010)Nat Rev Immu 10:301-316の
図3cに示され、当該論文に記載される。更なる例示的な二重特異性IgG様抗体形式としては、例えば、DAF、CrossMab、IgG-dsscFv、DVD、IgG-dsFV、IgG-scFab、scFab-dsscFv、及びFv2-Fcが挙げられ、これらは、Weidle U.H.et al.(2013)Cancer Genomics and Proteomics 10:1-18の
図1Aに示され、当該論文に記載される。なお更なる例示的な二重特異性IgG様抗体形式としては、DAF(ツーインワン)、DAF(フォーインワン)、DutaMab、DT-IgG、ノブインホール集合、電荷対、Fabアーム交換、SEEDbody、トリオマブ、LUZ-Y、Fcab、κλボディ、直交Fab、DVD-IgG、IgG(H)-scFv、scFv-(H)IgG、IgG(L)-scFv、scFV-(L)IgG、IgG(L,H)-Fv、IgG(H)-V、V(H)-IgG、IgG(L)-V、V(L)-IgG、KIH IgG-scFab、2scFv-IgG、IgG-2scFv、scFv4-Ig、scFv4-Ig、Zybody、及びDVI-IgG(フォーインワン)(例えば、Spiess C.,Zhai Q.and Carter P.J.(2015)Molecular Immunology 67:95-106、特に、
図1及び対応する説明、例えば、p.95~101に図示及び説明されるような)が挙げられる。
【0091】
例えば、二重特異性抗体は、3つの異なる方法:(i)化学的架橋を伴う化学的コンジュゲーション、(ii)2つの異なるハイブリドーマ細胞株の融合、又は(iii)組換えDNA技術を伴う遺伝的アプローチによって産生され得る。2つの異なるハイブリドーマの融合は、二重特異性分子を含む不均一な抗体集団を分泌するハイブリッド-ハイブリドーマ(又は「クアドローマ」)を産生する。代替的なアプローチは、2つの異なるmAb及び/又はより小さい抗体断片の化学的コンジュゲーションを含んだ。2つの異なる抗体又は抗体断片を連結するための酸化再会合戦略は、複数の天然ジスルフィド結合の再酸化中の副反応の存在に起因して非効率的であることがわかった。化学的コンジュゲーションのための現在の方法は、ホモ又はヘテロ二官能性架橋試薬の使用に焦点を当てている。組換えDNA技術は、遺伝子の人工操作を通して二重特異性抗体の最大範囲をもたらし、二重特異性抗体生成のための最も多様なアプローチを表す(過去20年で45個の形式、Byrne H.et al.(2013)Trends Biotech,31(11):621-632を参照されたい)。
【0092】
特に、そのような組換えDNA技術を使用することによって、更なる多重特異性抗体も近年出現している。「多重特異性抗体」という用語は、2つ以上のパラトープ、及び2つ又は3つ以上の異なるエピトープに結合する能力を有するタンパク質を指す。したがって、「多重特異性抗体」という用語は、上記で定義されたような二重特異性抗体を含むが、典型的には、特に3つ又は4つ以上の異なるエピトープに結合するタンパク質、例えば、抗体、足場、すなわち、3つ又は4つ以上のパラトープを有する抗体も含む。特に3つ又は4つ以上のパラトープを有する、そのような多重特異性タンパク質は、典型的には、組換えDNA技術によって達成される。本発明の文脈において、抗体はまた、特に3つ以上の特異性、したがって、3つ以上のパラトープも有し得、これは、少なくとも2つのパラトープ、例えば、標的細胞に対して1つ、及びT細胞に対してもう1つが、本発明に従って必要とされるためである。したがって、本発明に従って使用される抗体は、2つのパラトープに加えて、特に更なる特異性に関連して更なるパラトープを有し得る。したがって、本発明はまた、多重特異性抗体を含む。したがって、本発明は、二重特異性抗体に限定されないが、本明細書では特に、最小要件を表す二重特異性抗体に言及されることが理解される。したがって、二重特異性抗体について本明細書で述べられることは、多重特異性抗体にも適用され得る。
【0093】
上記で定義された二重特異性抗体及び多重特異性抗体は、疾患プロセスにおいて重要な役割を果たす標的細胞に対してエフェクター細胞をリダイレクトすることができる。特に、本明細書で使用されるT細胞リダイレクト特異性抗体は、例えば、T細胞受容体(T cell receptor、TCR)複合体に結合し、例えば腫瘍細胞などの標的細胞にT細胞を「リダイレクトする」ことができる。この目的で、本明細書で使用されるそのような二重特異性抗体は、典型的には、少なくとも1つの特異性、例えば、T細胞、好ましくはT細胞表面抗原、例えば、CD3に特異的である、T細胞を動員するための少なくとも1つのパラトープ、及び少なくとも1つの他の特異性、例えば、腫瘍細胞、好ましくは腫瘍細胞上のTAAに特異的である、T細胞を腫瘍細胞に方向付けるための少なくとも1つのパラトープを有する。T細胞リダイレクト二重特異性抗体による腫瘍細胞へのT細胞のそのような「リダイレクト」は、典型的には、腫瘍細胞のT細胞媒介性細胞死滅をもたらす。
【0094】
一実施形態では、本明細書で使用されるT細胞リダイレクト治療薬は、T細胞表面抗原に対する特異性を有する第1の結合領域と、腫瘍細胞上のTAAに対する特異性を有する第2の結合領域と、を含む。
【0095】
更なる実施形態では、T細胞表面抗原は、CD3、CD2、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28、CD40L、CD44、KI2L4、NKG2E、NKG2D、NKG2F、BTNL3、CD186、BTNL8、PD-1、CD195、及びNKG2Cから選択され得る。又は、T細胞表面抗原は、CD3である。
【0096】
なお更なる実施形態では、TAAは、B細胞成熟抗原(B-cell maturation antigen、BCMA)、CD123、GPRC5D、CD33、CD19、PSMA、TMEFF2、CD20、CD10、CD21、CD22、CD25、CD30、CD34、CD37、CD44v6、CD45、CD52、CD133、ROR1、B7-H6、B7-H3、HM1.24、SLAMF7、Fms様チロシンキナーゼ3(FLT-3、CD135)、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン4(chondroitin sulfate proteoglycan 4、CSPG4、黒色腫関連コンドロイチン硫酸プロテオグリカン)、上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor、EGFR)、Her2、Her3、IGFR、IL3R、線維芽細胞活性化タンパク質(fibroblast activating protein、FAP)、CDCP1、Derlin1、テネイシン、frizzled 1-10、VEGFR2(KDR/FLK1)、VEGFR3(FLT4、CD309)、PDGFR-アルファ(CD140a)、PDGFR-ベータ(CD140b)、エンドグリン、CLEC14、Tem1-8、又はTie2から選択され得る。腫瘍細胞上の更なる例示的なTAAとしては、A33、CAMPATH-1(CDw52)、がん胎児性抗原(Carcinoembryonic antigen、CEA)、カルボアンヒドラーゼIX(MN/CA IX)、de2-7、EGFRvIII、EpCAM、Ep-CAM、葉酸結合タンパク質、G250、c-Kit(CD117)、CSF1R(CD115)、HLA-DR、IGFR、IL-2受容体、IL3R、MCSP(melanoma-associated cell surface chondroitin sulphate proteoglycane、黒色腫関連細胞表面コンドロイチン硫酸プロテオグリカン)、Muc-1、前立腺幹細胞抗原(prostate stem cell antigen、PSCA)、前立腺特異的抗原(prostate specific antigen、PSA)、hK2、TAG-72、又は腫瘍細胞新生抗原が挙げられる。又は、TAAは、BCMA、CD123、GPRC5D、CD33、CD19、PSMA、TMEFF2、CD20、CD22、CD25、CD52、ROR1、HM1.24、CD38、及びSLAMF7から選択され得る。又は、TAAは、BCMA若しくはCD123から選択され得る。又は、TAAは、CD123であり得る。
【0097】
一実施形態では、T細胞リダイレクト治療薬は、CD123+ AML細胞及びCD3 T細胞に免疫特異的に結合する、CD123×CD3二重特異性抗体である。CD123×CD3二重特異性抗体は、US9,850,310(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に開示されるもののような二重特異性DuoBody(登録商標)抗体であってもよい。一実施形態では、CD123×CD3抗体は、配列番号1のアミノ酸配列を有するHC1、配列番号2のアミノ酸配列を有するLC1、配列番号3のアミノ酸配列を有するHC2、及び配列番号4のアミノ酸配列を有するLC2を含み、HC1及びLC1は、対になって、CD123に免疫特異的に結合する第1の抗原結合部位を形成し、HC2及びLC2は、対になって、CD3に免疫特異的に結合する第2の抗原結合部位を形成する。
【0098】
配列番号1
EVQLVQSGAEVKKPGESLKISCKGSGYSFTSYWISWVRQMPGKGLEWMGIIDPSDSDTRYSPSFQGQVTISADKSISTAYLQWSSLKASDTAMYYCARGDGSTDLDYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK
【0099】
配列番号2
EIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSSYLAWYQQKPGQAPRLLIYGASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQDYGFPWTFGQGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0100】
配列番号3
EVQLVESGGGLVQPGGSLKLSCAASGFTFNTYAMNWVRQASGKGLEWVGRIRSKYNAYATYYAASVKGRFTISRDDSKNTAYLQMNSLKTEDTAVYYCTRHGNFGNSYVSWFAYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFLLYSKLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK
【0101】
配列番号4
QAVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCRSSTGAVTTSNYANWVQQKPGQAPRGLIGGTNKRAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGAQPEDEAEYYCALWYSNLWVFGGGTKLTVLGQPKAAPSVTLFPPSSEELQANKATLVCLISDFYPGAVTVAWKADSSPVKAGVETTTPSKQSNNKYAASSYLSLTPEQWKSHRSYSCQVTHEGSTVEKTVAPTECS
【0102】
一実施形態では、T細胞リダイレクト治療薬は、BCMA+ MM細胞及びCD3 T細胞に免疫特異的に結合する、BCMA×CD3二重特異性抗体である。BCMA×CD3二重特異性抗体は、WO2007/117600、WO2009/132058、WO2012/066058、WO2012/143498、WO2013/072406、WO2013/072415、WO2014/122144、及びUS10,072,088(参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)に開示されるものから選択され得る。
【0103】
一実施形態では、T細胞リダイレクト治療薬は、配列番号5のアミノ酸配列を有する第1の重鎖(HC1)、配列番号6のアミノ酸配列を有する第1の軽鎖(LC1)、配列番号7のアミノ酸配列を有する第2の重鎖(HC2)、及び配列番号8のアミノ酸配列を有する第2の軽鎖(LC2)を含むBCMA×CD3二重特異性抗体であり、HC1及びLC1は、対になって、BCMAに免疫特異的に結合する第1の抗原結合部位を形成し、HC2及びLC2は、対になって、CD3に免疫特異的に結合する第2の抗原結合部位を形成する。
【0104】
配列番号5
QLQLQESGPGLVKPSETLSLTCTVSGGSISSGSYFWGWIRQPPGKGLEWIGSIYYSGITYYNPSLKSRVTISVDTSKNQFSLKLSSVTAADTAVYYCARHDGAVAGLFDYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK
【0105】
配列番号6
SYVLTQPPSVSVAPGQTARITCGGNNIGSKSVHWYQQPPGQAPVVVVYDDSDRPSGIPERFSGSNSGNTATLTISRVEAGDEAVYYCQVWDSSSDHVVFGGGTKLTVLGQPKAAPSVTLFPPSSEELQANKATLVCLISDFYPGAVTVAWKGDSSPVKAGVETTTPSKQSNNKYAASSYLSLTPEQWKSHRSYSCQVTHEGSTVEKTVAPTECS
【0106】
配列番号7
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFNTYAMNWVRQAPGKGLEWVARIRSKYNNYATYYAASVKGRFTISRDDSKNSLYLQMNSLKTEDTAVYYCARHGNFGNSYVSWFAYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFLLYSKLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK
【0107】
配列番号8
QTVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCRSSTGAVTTSNYANWVQQKPGQAPRGLIGGTNKRAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGVQPEDEAEYYCALWYSNLWVFGGGTKLTVLGQPKAAPSVTLFPPSSEELQANKATLVCLISDFYPGAVTVAWKADSSPVKAGVETTTPSKQSNNKYAASSYLSLTPEQWKSHRSYSCQVTHEGSTVEKTVAPTECS
【0108】
抗CD44治療薬
CD44抗原は、細胞間相互作用、細胞接着及び移動に関与する細胞表面糖タンパク質である。ヒトでは、CD44抗原は、第11染色体上のCD44遺伝子によってコードされる。CD44は、造血幹細胞(HSC)及び白血病幹細胞(LSC)の接着特性に寄与することが示されている(例えば、Schroeder et al.,「mesenchymal Stromal Cells in Myeloid Malignancies」,Blood Research Vol 51,No.4,Dec 2016及びPleyer et al.,「Mesenchymal Stem and Progenitor Cells in Normal and Dysplastic Hematopoiesis-Masters of Survival and Clonality」,Int.J.Mol.Sci.2016,17,1009を参照されたい)。AMLでは、CD44は、AML芽球及びLSC上で上方制御され、様々な経路を介して生存シグナルとして機能する(例えば、Gul-Uludag et al.,「Polymeric nanoparticle-mediated silencing of CD44 receptor in CD34+ acute myeloid leukemia cells」,Leukemia research.2014;38(11):1299-1308;Garg et al.,「Antigen expression on a putative leukemia stem cell population and AML blast」,Int J Hematol.2016;103(5):567-571;Chen et al.,「Bone marrow stromal cells protect acute myeloid leukemia cells from anti-CD44 therapy partly through regulating PI3K/Akt-p27(Kip1)axis」,Mol Carcinog.2015;54(12):1678-1685;及びGadhoum et al.,「Anti-CD44 antibodies inhibit both mTORC1 and mTORC2:a new rationale supporting CD44-induced AML differentiation therapy」,Leukemia.2016;30(12):2397-2401を参照されたい)。以下の実施例の節において提供されるように、CD44タンパク質は、種々のAML細胞株において一貫して発現される(
図4A)。初代AML細胞(n=202)におけるCD44 mRNA発現もまた評価し、骨髄異形成症候群(MDS;n=164)及び正常対照(n=69;
図4B)と比較して有意な上方制御が観察された。これは、MDS疾患からAML疾患への疾患進行においてCD44発現が重要であり得るという考えと一致する。
【0109】
任意の好適な抗CD44治療薬が本明細書中で使用され得、これには、開示される抗CD44抗体又はそれに由来するCD44結合断片、CD44アンタゴニストなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
一実施形態では、本明細書で使用される抗CD44治療薬は、抗CD44抗体又はFab、Fab’、F(ab’)2、及びF(v)断片などの抗CD44抗体に由来するCD44結合断片;重鎖単量体又は二量体;軽鎖単量体又は二量体であってもよく、1つの重鎖及び1つの軽鎖からなる二量体も、本明細書で企図される。そのような抗体断片は、化学的方法によって、例えば、ペプシン若しくはパパインなどのプロテアーゼでインタクトな抗体を切断することによって、又は組換えDNA技術を介して、例えば、切断された重鎖及び/若しくは軽鎖遺伝子で形質転換された宿主細胞を使用することによって産生され得る。重鎖及び軽鎖単量体は、同様に、インタクトな抗体をジチオトレイトール若しくはβ-メルカプトエタノールなどの還元剤で処理することによって、あるいは所望の重鎖若しくは軽鎖のいずれか若しくは両方をコードするDNAで形質転換された宿主細胞、又はモノクローナル抗体若しくはその抗体断片を使用することによって産生され得る。
【0111】
CD44機能性を遮断することができる任意の好適な抗CD44抗体又はCD44結合断片が本明細書で使用され得、これには、RG7356、抗CD44 abクローンA3D8、抗CD44 abクローンH90、抗CD44 abクローン515が挙げられるが、これらに限定されない。好適な抗CD44抗体はまた、米国特許第7361347号、米国特許出願公開第20140308301号、同第20070237761号、同第20090004103号、同第20100092484号、及び同第20050214283号に開示されるものから選択されてもよい。
【0112】
VLA-4接着経路阻害剤
α4β1と呼ばれることも知られている最晩期抗原-4(Very late antigen-4、VLA-4)は、細胞表面受容体のβ1インテグリンファミリーのメンバーである。VLA-4は、α4鎖及びβ1鎖を含有し、細胞間相互作用に関与する。その発現は、主にリンパ球及び骨髄細胞に制限される。それは、細胞接着において重要な役割を果たす。研究はまた、VLA-4がBM中のAML/MM-間質相互作用を媒介する際に重要な役割を果たすことを示している。血管細胞接着分子-1(VCAM-1)(骨芽細胞及び内皮細胞によって発現)並びにフィブロネクチン(細胞外マトリックスの構成成分)は、VLA-4の2つのリガンドである。
【0113】
本明細書で使用されるVLA-4接着経路阻害剤は、VLA-4媒介性接着経路を遮断することができる任意の分子であってもよい。
【0114】
例えば、本明細書で使用されるVLA-4接着経路阻害剤は、抗VLA-4抗体又はFab、Fab’、F(ab’)2、及びF(v)断片などの抗VLA-4抗体に由来するVLA-4結合断片;重鎖単量体又は二量体;軽鎖単量体又は二量体であってもよく、1つの重鎖及び1つの軽鎖からなる二量体も、本明細書で企図される。そのような抗体断片は、化学的方法によって、例えば、ペプシン若しくはパパインなどのプロテアーゼでインタクトな抗体を切断することによって、又は組換えDNA技術を介して、例えば、切断された重鎖及び/若しくは軽鎖遺伝子で形質転換された宿主細胞を使用することによって産生され得る。重鎖及び軽鎖単量体は、同様に、インタクトな抗体をジチオトレイトール若しくはβ-メルカプトエタノールなどの還元剤で処理することによって、あるいは所望の重鎖若しくは軽鎖のいずれか若しくは両方をコードするDNAで形質転換された宿主細胞、又はモノクローナル抗体若しくはその抗体断片を使用することによって産生され得る。
【0115】
VLA-4媒介性接着経路を遮断することができる任意の好適な抗VLA-4抗体又はVLA-4結合断片が、本明細書で使用され得、これには、ナタリズマブ、並びに米国特許第6,602,503号及び米国特許出願公開第2014/0161794(A1)号(参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)に開示されるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0116】
特定の実施形態では、本明細書で使用されるVLA-4接着経路阻害剤は、VLA-4媒介性接着経路を遮断することができるVLA-4アンタゴニストであってもよい。本明細書で使用される例示的なVLA-4アンタゴニストとしては、Tocris Bioscience製のVLA-4アンタゴニスト(例えば、BIO1211、TCS2314、BIO5192、及びTR14035)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0117】
VCAM-1及びフィブロネクチンが、VLA-4のリガンドであるため、VLA-4接着経路阻害剤は、VCAM-1又はフィブロネクチンのアンタゴニスト(抗体を含む)も含み得る。
【0118】
医薬組成物
上記に開示されるT細胞リダイレクト治療薬と、上記に開示される抗CD44治療薬と、医薬的に許容される担体と、を含む医薬組成物が、本明細書に更に開示される。本発明のポリヌクレオチド、ポリペプチド、宿主細胞、及び/又は遺伝子操作された免疫細胞と、それらを含む組成物はまた、本明細書で言及される治療用途のための薬剤の製造において有用である。特定の実施形態では、医薬組成物は、上記に開示されるT細胞リダイレクト治療薬と、上記に開示される抗CD44治療薬と、医薬的に許容される担体と、を含む別個の組成物である。他の実施形態では、医薬組成物は、上記に開示されるT細胞リダイレクト治療薬と、上記に開示される抗CD44治療薬と、医薬的に許容される担体と、を含む別個の組成物ではない。
【0119】
一実施形態では、本明細書に開示される医薬組成物は、上記に開示されるVLA-4接着経路阻害剤を更に含み得る。一態様では、医薬組成物は、T細胞リダイレクト治療薬と、抗CD44治療薬と、VLA-4接着経路阻害剤と、を含む別個の組成物である。別の態様では、医薬組成物は、T細胞リダイレクト治療薬を含む第1の組成物と、抗CD44治療薬及びVLA-4接着経路阻害剤を含む第2の組成物と、を含む別個の組成物である。なお別の態様では、医薬組成物は、別個の組成物ではなく、医薬組成物は、T細胞リダイレクト治療薬と、抗CD44治療薬と、VLA-4接着経路阻害剤と、医薬的に許容される担体と、を含む。
【0120】
本明細書で使用するとき、用語「担体」は、任意の賦形剤、希釈剤、充填剤、塩、緩衝液、安定剤、可溶化剤、油、脂質、脂質含有小胞、ミクロスフェア、リポソーム封入体、又は医薬製剤で使用するための当該技術分野において周知である他の材料を指す。担体、賦形剤又は希釈剤の特性は、特定の用途の投与経路によって決まる点は理解されよう。本明細書に使用される場合、「医薬的に許容される担体」という用語は、本発明による組成物の有効性にも本発明による組成物の生物学的活性にも干渉しない非毒性性材料を指す。特定の実施形態によれば、本開示を考慮すると、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、宿主細胞、及び/又は遺伝子操作された免疫細胞の医薬組成物における使用に好適な、任意の医薬的に許容される担体を、本発明で使用できる。
【0121】
医薬的に許容される担体を有する医薬的活性成分の製剤は、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(例えば21st edition(2005)及びそれ以降の任意の改訂版)にあるように、当該技術分野において既知である。追加成分の非限定的な例としては、緩衝剤、希釈剤、溶媒、張度調節剤、防腐剤、安定剤、及びキレート剤が挙げられる。1つ以上の医薬的に許容される担体が、本発明の医薬組成物を配合する際に使用され得る。
【0122】
本開示の一実施形態では、医薬組成物は、液体製剤である。液体製剤の好ましい例は、水性製剤、すなわち、水を含む製剤である。液体製剤は、溶液、懸濁液、エマルジョン、マイクロエマルジョン、ゲルなどを含んでいてもよい。
【0123】
一実施形態では、医薬組成物は、例えば注射デバイス(例えば、注射器又は注入ポンプ)を介して注射することができる注射剤として製剤化され得る。注射は、例えば、皮下に、筋肉内に、腹腔内に、硝子体内に、又は静脈内に送達され得る。
【0124】
別の一実施形態では、医薬組成物は、固体製剤、例えば、そのまま使用することができるか、又は医師若しくは患者が使用前に溶媒及び/若しくは希釈剤を加える、凍結乾燥又は噴霧乾燥組成物である。
【0125】
使用方法
別の一般的な態様では、本発明は、がんの治療を必要とする対象においてがんを治療する方法であって、本明細書に開示されるT細胞リダイレクト治療薬、抗CD44治療薬を含む医薬組成物を、対象に投与することを含む、方法に関する。一実施形態では、医薬組成物は、本明細書に開示されるVLA-4接着経路阻害剤を更に含み得る。
【0126】
別の一般的な態様では、本発明は、がん細胞を死滅させる方法であって、がん細胞を、本明細書に開示されるT細胞リダイレクト治療薬及び抗CD44治療薬を含む組成物に供することを含む、方法に関する。一実施形態では、医薬組成物は、本明細書に開示されるVLA-4接着経路阻害剤を更に含み得る。
【0127】
対象は、新たに診断されたがんを有し得るか、又は以前の抗がん療法に対して再発性若しくは難治性である。がんは、血液悪性腫瘍又は固形腫瘍であり得る。
【0128】
本発明の実施形態によると、医薬組成物は、治療有効量の本明細書に開示されるT細胞リダイレクト治療薬、抗CD44治療薬、及び任意選択的なVLA-4接着経路阻害剤を含む。本明細書で使用するとき、「治療有効量」という用語は、対象に所望の生物学的又は薬理的応答を惹起する活性成分又は構成成分の量を指す。治療有効量は、記載される目的に対して経験的かつ通常の方法で決定することができる。
【0129】
T細胞リダイレクト治療薬及び抗CD44治療薬に関して本明細書で使用するとき、治療有効量とは、免疫応答の調節を必要とする対象においてそれを行う、抗CD44治療薬と組み合わせたT細胞リダイレクト治療薬の量を意味する。また、T細胞リダイレクト治療薬に関して本明細書で使用するとき、治療有効量とは、疾患、障害、若しくは状態の治療をもたらすか、疾患、障害、若しくは状態の進行を予防する若しくは遅延させるか、又は疾患、障害、若しくは状態に関連する症状を低減する若しくは完全に緩和する、抗CD44治療薬を伴うT細胞リダイレクト治療薬の量を意味する。
【0130】
治療有効量又は用量は、治療される疾患、障害又は状態、投与手段、標的部位、対象の生理学的状態(例えば、年齢、体重、健康状態を含む)、対象がヒトであるか動物であるか、投与される他の薬剤、及び、治療が予防的なものであるか治療的なものであるか、などの様々な因子によって異なり得る。治療投薬量は、安全性及び有効性を最適化するために最適に漸増される。
【0131】
特定の実施形態によれば、本明細書に記載される組成物は、対象への想定される投与経路に好適であるように製剤化される。例えば、本明細書に記載される組成物は、静脈内投与、皮下投与、又は筋肉内投与に好適であるように製剤化することができる。
【0132】
本明細書で使用するとき、用語「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」、及び「治療(treatment)」は全て、がんに関連する少なくとも1つの測定可能な身体的パラメータの改善又は回復を指し、これは対象において必ずしも認識されるとは限らないが、対象において認識可能な場合もある。用語「治療する」、「治療すること」、及び「治療」はまた、疾患、障害、又は病態を退縮させる、その進行を防止する、又は少なくともその進行を遅らせることを指す場合もある。特定の実施形態では、「治療する」、「治療すること」、及び「治療」は、腫瘍若しくはより好ましくはがんなどの疾患、障害、若しくは病態と関連する1つ以上の症状の緩和、進行若しくは発症の予防、又はその期間の短縮を指す。特定の実施形態では、「治療する」、「治療すること」、及び「治療」は、疾患、障害、又は病態の再発の防止を指す。特定の実施形態では、「治療する」、「治療すること」、及び「治療」は、疾患、障害、又は病態を有する対象の生存率の向上を指す。特定の実施形態では、「治療する」、「治療すること」、及び「治療」は、対象における疾患、障害、又は病態の消失を指す。
【0133】
特定の実施形態によると、がんの治療で使用される医薬組成物が提供される。がん療法のために、提供される医薬組成物は、化学療法、抗CD20mAb、抗TIM-3mAb、抗LAG-3mAb、抗EGFRmAb、抗HER-2mAb、抗CD19mAb、抗CD33mAb、抗CD47mAb、抗CD73mAb、抗DLL-3mAb、抗アペリンmAb、抗TIP-1mAb、抗FOLR1mAb、抗CTLA-4mAb、抗PD-L1mAb、抗PD-1mAb、他の免疫腫瘍学薬、抗血管新生薬、放射線療法、抗体-薬物複合体(antibody-drug conjugate、ADC)、標的療法、又は他の抗がん薬が挙げられるがこれらに限定されない、別の治療法と併用され得る。
【0134】
特定の実施形態によると、がんの治療を必要とする対象においてそれを行う方法は、本明細書に開示される抗CD44治療薬及び任意選択的なVLA-4接着経路阻害剤と組み合わせてT細胞リダイレクト治療薬を、対象に投与することを含む。
【0135】
本明細書で使用するとき、対象への2つ以上の療法の投与の文脈における用語「組み合わせで」は、2つ以上の療法の使用を指す。用語「組み合わせで」の使用は、療法を対象に投与する順序について限定しない。例えば、第1の治療薬(例えば、本明細書に記載されるT細胞リダイレクト治療薬)は、対象への第2の治療薬(例えば、VLA-4接着経路阻害剤)の投与の前(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、16時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、若しくは12週間前)、それと同時、又はその後(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、16時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、若しくは12週間後)に投与され得る。
【0136】
キット
別の一般的な態様では、本明細書に開示されるT細胞リダイレクト治療薬と、本明細書に開示される抗CD44治療薬と、任意選択的に本明細書に開示されるVLA-4接着経路阻害剤と、任意選択的に医薬担体と、を含むキット、単位投与量、及び製造物品が本明細書に提供される。特定の実施形態では、キットは、好ましくは、その使用のための取扱説明書を提供する。
【0137】
別の特定の態様では、(1)本明細書に開示されるT細胞リダイレクト治療薬と、(2)本明細書に開示される抗CD44治療薬と、を含むキットが本明細書に提供される。
【0138】
別の特定の態様では、(1)本明細書に開示されるT細胞リダイレクト治療薬と、(2)本明細書に開示される抗CD44治療薬と、(3)本明細書に開示されるVLA-4接着経路阻害剤と、を含むキットが本明細書に提供される。
【0139】
別の特定の態様では、(1)本明細書に開示されるT細胞リダイレクト治療薬と、(2)本明細書に開示される抗CD44治療薬と、(3)医薬的に許容される担体と、を含む医薬組成物を含むキットが本明細書に提供される。
【0140】
別の特定の態様では、(1)本明細書に開示されるT細胞リダイレクト治療薬と、(2)本明細書に開示される抗CD44治療薬と、(3)本明細書に開示されるVLA-4接着経路阻害剤と、(4)医薬的に許容される担体と、を含む医薬組成物を含むキットが本明細書に提供される。
【0141】
実施形態
本発明の実施形態1は、T細胞リダイレクト治療薬及び抗CD44治療薬を含む医薬組成物であって、T細胞リダイレクト治療薬が、T細胞表面抗原に免疫特異的に結合する第1の結合領域と、腫瘍関連抗原(TAA)に免疫特異的に結合する第2の結合領域と、を含む、医薬組成物を含む。
【0142】
本発明の実施形態2は、医薬的に許容される担体を更に含む、実施形態1に記載の医薬組成物を含む。
【0143】
本発明の実施形態3は、T細胞リダイレクト治療薬が、抗体又はその抗原結合断片である、実施形態1又は2に記載の医薬組成物を含む。
【0144】
本発明の実施形態4は、T細胞表面抗原が、CD3、CD2、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28、CD40L、CD44、KI2L4、NKG2E、NKG2D、NKG2F、BTNL3、CD186、BTNL8、PD-1、CD195、及びNKG2Cからなる群から選択される、実施形態1~3のいずれか1つに記載の医薬組成物を含む。
【0145】
本発明の実施形態5は、T細胞表面抗原が、CD3である、実施形態4に記載の医薬組成物を含む。
【0146】
本発明の実施形態6は、TAAが、CD123、BCMA、GPRC5D、CD33、CD19、PSMA、TMEFF2、CD20、CD22、CD25、CD52、ROR1、HM1.24、CD38、及びSLAMF7からなる群から選択される、実施形態1~5のいずれか1つに記載の医薬組成物を含む。
【0147】
本発明の実施形態7は、T細胞リダイレクト治療薬が、CD123に免疫特異的に結合する第1の抗原結合部位と、CD3に免疫特異的に結合する第2の抗原結合部位と、を有するCD123×CD3二重特異性抗体である、実施形態6に記載の医薬組成物を含む。
【0148】
本発明の実施形態8は、CD123×CD3二重特異性抗体が、第1の重鎖(HC1)、第1の軽鎖(LC1)、第2の重鎖(HC2)、及び第2の軽鎖(LC2)を含み、HC1及びLC1が、対になって、第1の抗原結合部位を形成し、HC2及びLC2が、対になって、第2の抗原結合部位を形成する、実施形態7に記載の医薬組成物を含む。
【0149】
本発明の実施形態9は、HC1が、配列番号1のアミノ酸配列を含み、LC1が、配列番号2のアミノ酸配列を含み、HC2が、配列番号3のアミノ酸配列を含み、LC2が、配列番号4のアミノ酸配列を含む、実施形態8に記載の医薬組成物を含む。
【0150】
本発明の実施形態10は、T細胞リダイレクト治療薬が、CD123に免疫特異的に結合する第1の抗原結合部位と、CD3に免疫特異的に結合する第2の抗原結合部位とを有するBCMA×CD3二重特異性抗体である、実施形態6に記載の医薬組成物を含む。
【0151】
本発明の実施形態11は、BCMA×CD3二重特異性抗体が、第1の重鎖(HC1)、第1の軽鎖(LC1)、第2の重鎖(HC2)、及び第2の軽鎖(LC2)を含み、HC1及びLC1が、対になって、第1の抗原結合部位を形成し、HC2及びLC2が、対になって、第2の抗原結合部位を形成する、実施形態10に記載の医薬組成物を含む。
【0152】
本発明の実施形態12は、HC1が、配列番号5のアミノ酸配列を含み、LC1が、配列番号6のアミノ酸配列を含み、HC2が、配列番号7のアミノ酸配列を含み、LC2が、配列番号8のアミノ酸配列を含む、実施形態11に記載の医薬組成物を含む。
【0153】
本発明の実施形態13は、抗CD44治療薬が、抗CD44抗体又はその抗原結合断片である、実施形態1~12のいずれか1つに記載の医薬組成物を含む。
【0154】
本発明の実施形態14は、抗CD44抗体又はその抗原結合断片が、モノクローナル抗体、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びF(v)断片、重鎖単量体若しくは二量体、軽鎖単量体若しくは二量体、並びに1つの重鎖及び1つの軽鎖からなる二量体からなる群から選択される、実施形態13に記載の医薬組成物を含む。
【0155】
本発明の実施形態15は、抗CD44治療薬が、CD44アンタゴニストである、実施形態1~12のいずれか1つに記載の医薬組成物を含む。
【0156】
本発明の実施形態16は、医薬組成物が、VLA-4接着経路阻害剤を更に含む、実施形態1~16のいずれか1つに記載の医薬組成物を含む。
【0157】
本発明の実施形態17は、VLA-4接着経路阻害剤が、抗VLA-4抗体又はその抗原結合断片である、実施形態16に記載の医薬組成物を含む。
【0158】
本発明の実施形態18は、抗VLA-4抗体又はその抗原結合断片が、モノクローナル抗体、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びF(v)断片、重鎖単量体若しくは二量体、軽鎖単量体若しくは二量体、並びに1つの重鎖及び1つの軽鎖からなる二量体からなる群から選択される、実施形態17に記載の医薬組成物を含む。
【0159】
本発明の実施形態19は、VLA-4接着経路阻害剤が、VLA-4アンタゴニストである、実施形態16に記載の医薬組成物を含む。
【0160】
本発明の実施形態20は、VLA-4アンタゴニストが、BIO1211、TCS2314、BIO5192、及びTR14035からなる群から選択される、実施形態19に記載の医薬組成物を含む。
【0161】
本発明の実施形態21は、がん細胞を死滅させる方法であって、がん細胞を治療有効量の実施形態1~20のいずれか1つに記載の医薬組成物に供することを含み、がん細胞が、何らかの形態の細胞死を受ける、方法を含む。
【0162】
本発明の実施形態22は、T細胞リダイレクト治療薬及び抗CD44治療薬が、同時に又は連続的に投与される、実施形態21に記載の方法を含む。
【0163】
本発明の実施形態23は、抗CD44治療薬が、T細胞リダイレクト治療薬の投与前に投与される、実施形態22に記載の方法を含む。
【0164】
本発明の実施形態24は、抗CD44治療薬が、T細胞リダイレクト治療薬の投与後に投与される、実施形態22に記載の方法を含む。
【0165】
本発明の実施形態25は、がん細胞と間質細胞との間の細胞間接触を破壊することを含む、がん細胞を死滅させる方法であって、がん細胞を、治療有効量の実施形態1~20のいずれか1つに記載の医薬組成物に供することを含み、がん細胞が、何らかの形態の細胞死を受ける、方法を含む。
【0166】
本発明の実施形態26は、T細胞リダイレクト治療薬及び抗CD44治療薬が、同時に又は連続的に投与される、実施形態25に記載の方法を含む。
【0167】
本発明の実施形態27は、抗CD44治療薬が、T細胞リダイレクト治療薬の投与前に投与される、実施形態26に記載の方法を含む。
【0168】
本発明の実施形態28は、抗CD44治療薬が、T細胞リダイレクト治療薬の投与後に投与される、実施形態26に記載の方法を含む。
【0169】
本発明の実施形態29は、T細胞依存性細胞傷害性を高めることを含む、がん細胞を死滅させる方法であって、がん細胞を、治療有効量の実施形態1~20のいずれか1つに記載の医薬組成物に供することを含み、がん細胞が、何らかの形態の細胞死を受ける、方法を含む。
【0170】
本発明の実施形態30は、T細胞リダイレクト治療薬及び抗CD44治療薬が、同時に又は連続的に投与される、実施形態29に記載の方法を含む。
【0171】
本発明の実施形態31は、抗CD44治療薬が、T細胞リダイレクト治療薬の投与前に投与される、実施形態30に記載の方法を含む。
【0172】
本発明の実施形態32は、抗CD44治療薬が、T細胞リダイレクト治療薬の投与後に投与される、実施形態30に記載の方法を含む。
【0173】
本発明の実施形態33は、がん細胞と間質細胞との間の細胞間接触を破壊することと、T細胞依存性細胞傷害性を高めることと、を含む、がん細胞を死滅させる方法であって、がん細胞を、治療有効量の実施形態1~20のいずれか1つに記載の医薬組成物に供することを含み、がん細胞が、何らかの形態の細胞死を受ける、方法を含む。
【0174】
本発明の実施形態34は、T細胞リダイレクト治療薬及び抗CD44治療薬が、同時に又は連続的に投与される、実施形態33に記載の方法を含む。
【0175】
本発明の実施形態35は、抗CD44治療薬が、T細胞リダイレクト治療薬の投与前に投与される、実施形態34に記載の方法を含む。
【0176】
本発明の実施形態36は、抗CD44治療薬が、T細胞リダイレクト治療薬の投与後に投与される、実施形態34に記載の方法を含む。
【0177】
本発明の実施形態37は、腫瘍微小環境における免疫抑制を変化させる方法であって、腫瘍微小環境を、治療有効量の実施形態1~20のいずれか1つに記載の医薬組成物に供することを含み、免疫抑制が、腫瘍微小環境において減少し、がん細胞が、何らかの形態の細胞死を受ける、方法を含む。
【0178】
本発明の実施形態38は、T細胞リダイレクト治療薬及び抗CD44治療薬が、同時に又は連続的に投与される、実施形態37に記載の方法を含む。
【0179】
本発明の実施形態39は、抗CD44治療薬が、T細胞リダイレクト治療薬の投与前に投与される、実施形態38に記載の方法を含む。
【0180】
本発明の実施形態40は、抗CD44治療薬が、T細胞リダイレクト治療薬の投与後に投与される、実施形態38に記載の方法を含む。
【0181】
本発明の実施形態41は、がん細胞と間質細胞との間の細胞間接触を破壊することを含む、腫瘍微小環境における免疫抑制を変化させる方法であって、腫瘍微小環境を、治療有効量の実施形態1~20のいずれか1つに記載の医薬組成物に供することを含み、免疫抑制が、腫瘍微小環境において減少し、がん細胞が、何らかの形態の細胞死を受ける、方法を含む。
【0182】
本発明の実施形態42は、T細胞リダイレクト治療薬及び抗CD44治療薬が、同時に又は連続的に投与される、実施形態41に記載の方法を含む。
【0183】
本発明の実施形態43は、抗CD44治療薬が、T細胞リダイレクト治療薬の投与前に投与される、実施形態42に記載の方法を含む。
【0184】
本発明の実施形態44は、抗CD44治療薬が、T細胞リダイレクト治療薬の投与後に投与される、実施形態42に記載の方法を含む。
【0185】
本発明の実施形態45は、T細胞依存性細胞傷害性を高めることを含む、腫瘍微小環境における免疫抑制を変化させる方法であって、腫瘍微小環境を、治療有効量の実施形態1~20のいずれか1つに記載の医薬組成物に供することを含み、免疫抑制が、腫瘍微小環境において減少し、がん細胞が、何らかの形態の細胞死を受ける、方法を含む。
【0186】
本発明の実施形態46は、T細胞リダイレクト治療薬及び抗CD44治療薬が、同時に又は連続的に投与される、実施形態45に記載の方法を含む。
【0187】
本発明の実施形態47は、抗CD44治療薬が、T細胞リダイレクト治療薬の投与前に投与される、実施形態46に記載の方法を含む。
【0188】
本発明の実施形態48は、抗CD44治療薬が、T細胞リダイレクト治療薬の投与後に投与される、実施形態46に記載の方法を含む。
【0189】
本発明の実施形態49は、がん細胞と間質細胞との間の細胞間接触を破壊することと、T細胞依存性細胞傷害性を高めることと、を含む、腫瘍微小環境における免疫抑制を変化させる方法であって、腫瘍微小環境を、治療有効量の実施形態1~20のいずれか1つに記載の医薬組成物に供することを含み、免疫抑制が、腫瘍微小環境において減少し、がん細胞が、何らかの形態の細胞死を受ける、方法を含む。
【0190】
本発明の実施形態50は、T細胞リダイレクト治療薬及び抗CD44治療薬が、同時に又は連続的に投与される、実施形態49に記載の方法を含む。
【0191】
本発明の実施形態51は、抗CD44治療薬が、T細胞リダイレクト治療薬の投与前に投与される、実施形態50に記載の方法を含む。
【0192】
本発明の実施形態52は、抗CD44治療薬が、T細胞リダイレクト治療薬の投与後に投与される、実施形態50に記載の方法を含む。
【0193】
本発明の実施形態53は、がんの治療を必要とする対象においてがんを治療する方法であって、治療有効量の実施形態1~20のいずれか1つに記載の医薬組成物を対象に投与することを含む、方法を含む。
【0194】
本発明の実施形態54は、対象が、新たに診断されたがんを有する、実施形態53に記載の方法を含む。
【0195】
本発明の実施形態55は、対象が、以前の抗がん療法に対して再発性又は難治性である、実施形態53に記載の方法を含む。
【0196】
本発明の実施形態56は、がんが、血液悪性腫瘍又は固形腫瘍である、実施形態53~55のいずれか1つに記載の方法を含む。
【0197】
本発明の実施形態57は、対象が、AML又はMMを有する、実施形態57に記載の方法を含む。
【0198】
本発明の実施形態58は、T細胞リダイレクト治療薬及び抗CD44治療薬が、同時に又は連続的に投与される、実施形態53~57のいずれか1つに記載の方法を含む。
【0199】
本発明の実施形態59は、抗CD44治療薬が、T細胞リダイレクト治療薬の投与前に投与される、実施形態58に記載の方法を含む。
【0200】
本発明の実施形態60は、抗CD44治療薬が、T細胞リダイレクト治療薬の投与後に投与される、実施形態58に記載の方法を含む。
【0201】
本発明の実施形態61は、実施形態1~20のいずれか1つに記載の医薬組成物を含むキットを含み、医薬組成物は、別個にパッケージングされている。
【0202】
本発明の実施形態62は、実施形態1~20のいずれか1つに記載の医薬組成物を含むキットを含み、医薬組成物は、一緒にパッケージングされている。
【0203】
本発明の実施形態63は、VLA-4接着経路阻害剤を投与することを更に含む、実施形態21~60のいずれか1つに記載の方法を含む。
【0204】
本発明の実施形態64は、VLA-4接着経路阻害剤が、治療有効量の実施形態1~20のいずれかに記載の医薬組成物に関して同時に又は連続的に投与される、実施形態63に記載の方法を含む。
【実施例】
【0205】
材料及び方法
抗体設計
ヒトCD123及びCD3を標的とする二重特異性抗体を産生し、抗CD123抗体及び抗CD3抗体を、Genmab技術を使用して制御された断片抗原結合アーム交換を生成することによって、精製後に一緒に結合した(17、18)。これにより、ヒトCD123+AML細胞及びCD3 T細胞に特異的に結合する一価の結合二官能性DuoBody(登録商標)抗体が得られた。抗体媒介性エフェクター機能を最小限に抑えるために、Fcドメインに変異を導入して、Fcγ受容体との相互作用を低減した。以下の実験で使用されるCD123×CD3二重特異性は、第1の重鎖(HC1)、第2の重鎖(HC2)、第1の軽鎖(LC1)、及び第2の軽鎖(LC2)を含み、HC1及びLC1は、対になって、CD123に免疫特異的に結合する第1の抗原結合部位を形成し、HC2及びLC2は、対になって、CD3に免疫特異的に結合する第2の抗原結合部位を形成する。以下の実施例で使用されるCD123×CD3二重特異性は、配列番号1のアミノ酸配列を有するHC1、配列番号2のアミノ酸配列を有するLC1、配列番号3のアミノ酸配列を有するHC2、及び配列番号4のアミノ酸配列を有するLC2を含む。
【0206】
インビトロ細胞傷害性アッセイ
腫瘍細胞株(KG-1、HL-60、MOLM-13、MV4-11、及びSKNO-1)を計数し、DPBS-/-(カルシウム又はマグネシウムを含まない)で2回洗浄した後、生存可能な色素であるカルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE、150μLのジメチルスルホキシドに再懸濁し、1:10,000に希釈した)を含有する5~15mLのDPBS-/-と暗所で室温(room temperature、RT)で8分間インキュベートした。染色を等量の熱不活性化(heat inactivated、HI)ウシ胎児血清(fetal bovine serum、FBS)でクエンチした。AML標的細胞を完全培地中で2回洗浄した後、完全培地中に3×105細胞/mLで再懸濁した。HS-5間質細胞を採取し、完全培地で洗浄し、完全培地中に3×105細胞/mLで再懸濁した。凍結した初代脂肪細胞、BM間質細胞、MSC、T細胞、及び骨芽細胞を解凍し、完全培地中で1回洗浄し、再懸濁した(間質細胞:3×105細胞/mL及びT細胞:6×105細胞/mL)。等量(67μL)のAML、間質細胞及びT細胞を96ウェルTC処理U底プレート[エフェクター:標的:間質(2:1:1)]に添加した。間質細胞を含まない対照ウェルには、67μLの完全培地を添加した。次に、Southern Biotech(Birmingham,Alabama)から入手した0.5mg/mLの滅菌無アジド低エンドトキシンヒト免疫グロブリン(IgG)を、Fcブロックとして添加した。96ウェルプレートを、5%CO2中37℃で一晩インキュベートした。
【0207】
CD123xCD3二重特異性抗体を完全培地中で100nMの最終開始濃度に希釈し、更に10倍希釈し、適切なウェルに添加した。全てのプレートを、37℃、5%CO2で、更に24~48時間インキュベートした。次いで、細胞をDPBSで洗浄し、LIVE/DEAD近赤外線を含有する様々なマーカーで室温で30分間染色した。最後に、細胞を洗浄し、染色緩衝液中に再懸濁した。
【0208】
抗CD44抗体を含有する試験は、R&D Systems(Minneapolis,Minnesota)から入手し、DPBS-/-中で再構成し、細胞添加時に示された条件に20μg/mLで添加した(CD123xCD3添加の24時間前)。
【0209】
フローサイトメトリー分析
CD44、VLA-4、VLA-5、CXCR4、CD123、CD54、CD3、及びFlt3[抗体は、Biolegend(San Diego,California)から購入した]の表面発現を、KG-1wt、KG-1CD44 KO、MV4-11wt、MV4-11CD44 KO、HL-60wt、HL-60CD44 KO、HS-5wt、及びHS-5CD44 KO細胞株で評価した。AML細胞株を完全培地中で約70%コンフルエンスまで増殖させ、回収し、1回洗浄し、DPBS中に1×106細胞/mL-/-で再懸濁した。HS-5間質細胞株を完全培地中で培養し、1回洗浄し、DPBS-/-中に再懸濁した。
【0210】
全ての細胞株を96 U底プレートに100μL/ウェル(1×105細胞/ウェル)で添加した。プレートを遠心分離し、上清を廃棄した。細胞を、各抗原又はアイソタイプについて、RTでDPBS-/-中のLIVE/DEAD色素で個々に染色した。
【0211】
AML及びMDSサンプルのCD44発現
CD44発現を、AML、骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome、MDS)及び正常対照におけるMills Heme(GSE15061)研究から評価し、GraphPad Prismバージョン9(San Diego,California)を使用してプロットした。
【0212】
統計的方法
全てのデータをGraphPadソフトウェアPrismバージョン9によって分析した。非線形回帰(4パラメータ)曲線あてはめを
図1及び
図5に利用した。EC
50及び最大細胞傷害性値は、前述の分析から得られた。トップパラメータ(α=0.05)を比較することによって、4パラメータ非線形あてはめに対してF検定分析を行い、
図1の統計的有意性を評価した。
図4b(テューキー多重比較検定、
*100nM条件分析)、
図5(100nM評価、テューキー多重比較検定)、
図9及び
図10(ダネット多重比較検定)について多重比較検定(α=0.05)を用いてANOVA分析を行った。
【0213】
サイトカイン分析
図1及び
図5からの上清を、ヒトサイトカイン及びケモカインを測定するMillipore Sigma MILLIPLEX(登録商標)MAP KIT(Burlington,Massachusetts)を使用して分析した。上清を、湿った氷上で解凍し、4℃で5分間、500×重力(g)で遠心分離させ、次いで氷上に置いた。試料をニート(希釈なし)濃度で使用した。磁気ビーズパネルキットは、製造業者のプロトコルに従った。標準曲線を、RPMI媒体中で再構成された、提供された較正物質の連続希釈によって調製した。各試料又は標準の25μLアリコートを、技術的に2連でプレートに直接添加した。その後のインキュベート及び洗浄は、全て製造元のプロトコルに従って手持ち磁石を使用して実施した。アッセイプレートをFLEXMAP 3D(登録商標)システムで読み取った。分析をプログラムFLEXMAP 3D(登録商標)ソフトウェアで実施して、試料ごとのサイトカインの濃度を決定した。最後に、データを、可視化のためにPrismバージョン9を使用して配置した。
【0214】
結果
初代骨髄間質細胞は、インビトロでKG-1細胞に対するCD123xCD3抗体の有効性を低減する
骨髄は、免疫細胞及び間質細胞の異種集団から構成される。BM間質細胞の構成成分の1つは、線維芽細胞、骨芽細胞、及び脂肪細胞に分化することができる間葉系幹細胞(MSC)である。BM間質線維芽細胞は、VLA-4に関与する細胞間相互作用を介してT細胞リダイレクト媒介細胞傷害性を抑制することができることが以前に示されている(Nair-Gupta P et al.,Blockade of VLA4 sensitizes leukemia and myeloma tumor cells to CD3 redirection in the bone marrow microenvironment.Blood Cancer Journal.2020;10(6))。BMの他の構成成分がT細胞リクルーター抗体の細胞傷害性効果を低減することができるかどうかを試験するために、CD123xCD3二重特異性抗体を、健常対照(HC)汎CD3
+ T細胞及び様々なBM間質細胞型の存在下で、CD123
+ AML細胞に対して試験した。(Nair-Gupta P et al.,Blockade of VLA4 sensitizes leukemia and myeloma tumor cells to CD3 redirection in the bone marrow microenvironment.Blood Cancer Journal.2020;10(6);Gaudet F et al.,Development of a CD123xCD3 Bispecific Antibody(JNJ-63709178)for the Treatment of Acute Myeloid Leukemia (AML).Blood.2016;128(22):2824)間質細胞の非存在下では、CD123xCD3二重特異性抗体は、KG-1細胞を効果的に死滅させた(最大細胞傷害性78%、CD123
high;骨髄起源(
図1))。対照的に、HS-5間質細胞の存在は、KG-1細胞の死滅の有意な減少をもたらした(38~50%;
図1及び表1)。同様の結果が、初代BM間質細胞、間葉系幹細胞、ヒト骨芽細胞及び脂肪細胞などの他のBM間質成分で観察され、BMのいくつかの成分がT細胞媒介性細胞傷害性を抑制し得ることが示唆された(
図1及び表1)。KG-1細胞株は、元々、白血病患者のBMから単離されたものであり、間質相互作用の影響をより受けやすい可能性がある(Mrozek K,et al.,Molecular cytogenetic characterization of the KG-1 and KG-1a acute myeloid leukemia cell lines by use of spectral karyotyping and fluorescence in situ hybridization. Genes Chromosomes Cancer. 2003;38(3):249-252)。BMに由来しないCD123
+細胞株がBM間質細胞によって同様に影響を受けるかどうかを評価するために、これらの間質細胞の影響を、前骨髄性白血病の末梢血に由来し、間質相互作用への依存性が潜在的に低い可能性があるHL-60細胞(CD123
low)の存在下で評価した(Collins SJ et al.,Terminal differentiation of human promyelocytic leukemia cells induced by dimethyl sulfoxide and other polar compounds.Proc Natl Acad Sci U S A.1978;75(5):2458-2462)。実際に、CD123xCD3二重特異性抗体は、HL-60細胞を死滅させることができたが、BM間質細胞は、細胞傷害活性にそれほど有意に影響を与えなかった(5~22%の低減;表2及び表3)。興味深いことに、T細胞活性化(CD25細胞表面マーカーを用いて評価したとき)は、間質細胞(骨芽細胞を除く)と共培養した場合、KG-1細胞において中程度にしか影響を受けなかったが、HL-60細胞は、有意に変化しなかった(
図1及び表1)。間質細胞の存在下で観察されたCD25の発現の低減もまた、サイトカイン分泌の低減と相関した(
図2及び
図3)。これらの結果は、間質細胞の存在がT細胞機能を抑制し、標的細胞の死滅の低減をもたらし得ることを示唆している。
【0215】
【表1】
EC、有効濃度;NS、間質細胞の添加なし;BM、骨髄間質細胞;MSC、間葉系幹細胞;EC
50値は、48時間時点からのものである;%Maxは、4パラメータ非線形フィット曲線からの最高値を表す。
【0216】
【表2】
EC、有効濃度;NS、間質なし。
EC50値は、48時間の時点からのものであり、%Maxは、4パラメータ非線形フィット曲線からの最高値を表す。
【0217】
【表3】
上に示したP値は、CD123xCD3細胞傷害性又はT細胞活性化(CD25又はPD-1)のHS-5媒介性抑制のいずれかの統計的有意性、及びそれぞれの各AML細胞株への抗CD44添加の回復効果の表示である。CD123xCD3(100nM)のテューキー多重比較検定による一元配置ANOVAを評価した(α=0.05)。P値>0.05、有意差なし。
Ab、抗体;NS、間質細胞なし。
【0218】
CD44はAML細胞上で上方制御される
VLA-4が腫瘍細胞と間質細胞(線維芽細胞)との間の相互作用を媒介してT細胞抑制をもたらし得ること、及びVLA-4の遮断がT細胞リダイレクト剤からの死滅を回復させ得ることが示されている(Nair-Gupta P et al.,Blockade of VLA4 sensitizes leukemia and myeloma tumor cells to CD3 redirection in the bone marrow microenvironment.Blood Cancer Journal.2020;10(6))。この抑制を媒介し得る更なるタンパク質を同定するために、AMLにおける細胞-細胞表面相互作用に関与する種々の候補タンパク質を考慮した。1つの特定のタンパク質であるCD44は、HSC及びLSCの接着特性に寄与することが示されている(Schroeder T et al.,Mesenchymal stromal cells in myeloid malignancies.Blood Res.2016;51(4):225-232;Pleyer L et al.,Mesenchymal Stem and Progenitor Cells in Normal and Dysplastic Hematopoiesis-Masters of Survival and Clonicity.Int J Mol Sci 2016;17(7))。AMLでは、CD44は、AML芽球及びLSC上で上方制御され、様々な経路を介して生存シグナルとして機能する(Gul-Uludag H et al.,Polymeric nanoparticle-mediated silencing of CD44 receptor in CD34+acute myeloid leukemia cells. Leukemia research.2014;38(11):1299-1308;Garg S et al.,Antigen expression on a putative leukemia stem cell population and AML blast.Int J Hematol.2016;103(5):567-571;Chen P et al.,Bone marrow stromal cells protect acute myeloid leukemia cells from anti-CD44 therapy of partially through regulating PI3K/Akt-p27(Kip1)axis.Mol Carcinog.2015;54(12):1678-1685;及びGadhoum SZ et al.,Anti-CD44 antibodies inhibits both mTORC1 and mTORC2:a new rationale supporting CD44-induced AML differentiation therapy.Leukemia.2016;30(12):2397-2401)。様々なAML細胞株におけるCD44タンパク質発現を評価し、一貫して発現されることが見出された(
図4A)。次に、初代AML細胞(n=202)におけるCD44 mRNA発現を評価し、骨髄異形成症候群(MDS;n=164)及び正常対照(n=69;
図4B)と比較して有意な上方制御が見出された(Mills KI et al.,Microarray-based classifiers and prognosis models identify subgroups with distinct clinical outcomes and high risk of AML transformation of myelodysplastic syndrome.Blood.2009;114(5):1063-1072)。これは、MDSからAML疾患への疾患進行においてCD44発現が重要であり得るという考えと一致する。
【0219】
抗CD44はCD123xCD3による死滅の間質媒介性抑制を回復する
CD44がCD123xCD3二重特異性抗体によるT細胞死滅の間質媒介性抑制に関与するかどうかを評価するために、抗CD44抗体を共培養物に添加してCD44を中和した。更なるAML細胞株(MV4-11、MOLM-13、及びSKNO-1;全てのCD123
+)もまた試験した。
図5に示すように、CD123xCD3二重特異性抗体は、間質細胞の非存在下で試験された全ての細胞株の中で強固かつ有意な細胞傷害活性をもたらした(表3及び表4)。これに関連して、抗CD44抗体は、細胞傷害活性又はT細胞活性化に影響を及ぼさなかった。対照的に、AML細胞株を間質細胞と共培養した場合、抗CD44抗体、細胞傷害効果及びT細胞活性化は、CD44
lowであるHL-60細胞を除いて、試験した全ての細胞株において様々な程度に回復した(
図5)。試験した全ての細胞は、CD44を発現することが示された(
図6)。これらの結果は、他のCD123
+ AML細胞を用いた以前の知見が、AMLにおけるCD44の役割がより広い可能性があることを示唆することを更に確実なものとする。サイトカインを上清中で更に評価し、細胞傷害性と相関することを見出した。詳細には、間質の非存在下でCD123xCD3二重特異性抗体の添加は、試験されたCD123xCD3二重特異性抗体の2つの最高濃度でIFN-γ、IL-2、IL-3、及びTNF-αの強力な放出をもたらした。しかしながら、HS-5細胞の添加は、サイトカイン放出を鈍化させた。抗CD44の添加は、IFN-γ、IL-3及びTNF-αの同様のレベルをもたらしたが、IL-2レベルをバックグラウンド近くまで低減した。HS-5細胞を含有する共培養物に抗CD44を添加した場合、IFN-γレベルは、完全に回復したが、IL-2、IL-3、及びTNF-αのレベルは、部分的に回復した(
図7)。要約すると、これらの結果は、CD44発現が間質細胞の存在下でT細胞リダイレクト治療薬に対する感受性を低減し得ること、及び抗体によるCD44の遮断がこの活性を回復させ得ることを示唆する。
【0220】
【表4】
P値は、それぞれの間質細胞を間質細胞なしの条件と比較したCD123xCD3細胞の細胞傷害性についての統計的有意性の表示として上に示した。上位パラメータ(α=0.05)を比較することによって、4パラメータ非線形曲線あてはめ内で追加の二乗和F検定分析を行った。P値>0.05、有意差なし。
BM、骨髄間質細胞;MSC、間葉系幹細胞。
【0221】
CD44 KO細胞株はCD123xCD3のHS-5間質媒介性抑制に対して耐性である
共培養物への抗CD44抗体の添加は、CD123xCD3二重特異性抗体の機能を回復させたので、CD44が、CD123xCD3二重特異性抗体によるT細胞媒介性死滅の抑制において重要な役割を果たしていると仮定された。CD44は、HS-5間質細胞及びKG-1 AML細胞上で発現される。抗CD44抗体の影響が、間質細胞又は腫瘍細胞(又は両方)に対するCD44の遮断に由来するかどうかを確立するために、HS-5細胞及び腫瘍細胞におけるCD44のKOを作製した。
図8に示すように、もはやCD44を発現しない細胞が問題なく作製された(一方、対照VLA-4及びCXCR4のレベルは不変のままであった)。次いで、これらの細胞を、CD123xCD3二重特異性抗体の存在下での細胞傷害性アッセイにおいて使用して、いずれかの細胞型の表面上のCD44の喪失の影響を評価した。
図9は、HS-5CD44KO又はKG-1CD44KO細胞(表5)を共培養系において使用した場合に、細胞傷害性が有意に回復したことを示す。データは、CD44が腫瘍細胞又は間質細胞において欠失されたかどうかにかかわらず、影響が同様であったことを示唆する。両方の細胞型におけるCD44の欠失は、いかなる付加的結果ももたらさなかった。このデータは、HS-5及びKG-1の両方で発現されるCD44が、HS-5細胞で見られる抑制効果に寄与することができ、いずれかの細胞型上のCD44の欠失が、CD123xCD3二重特異性抗体の細胞傷害機能を回復させることができることを立証する。これらの知見は、上記の抗CD44を用いた実験と一致しており、AMLにおけるT細胞リダイレクトに対する耐性機構としてのCD44発現を更に確立する。
【0222】
【表5】
上に示したP値は、そのそれぞれの比較についての各サイトカインの統計的有意性の表示である。CD123xCD3のダネット多重比較検定による一元配置ANOVAを評価した(α=0.05)。P値>0.05、有意差なし。
KO、ノックアウト;wt、野生型。
【0223】
CD44の遮断はグランザイム-Bレベルを増強し、PD-1発現を増加させる
腫瘍細胞又は間質細胞上のCD44の中和又は除去がT細胞機能に直接影響を与えるかどうかを確立するために、T細胞によってシナプス中に分泌され、腫瘍細胞によって取り込まれ、アポトーシスの誘導をもたらす、T細胞中のグランザイム-Bのレベルを決定することとした。
図10及び表5に示されるように、KG-1又はHS-5細胞における抗CD44抗体又はCD44のKOの添加は、T細胞におけるグランザイム-Bの増加をもたらし、これは、より大きな細胞傷害性を部分的に説明し得る。驚くべきことに、抗CD44の添加はまた、T細胞をKG-1CD44 KO細胞と共にインキュベートした場合にグランザイム-Bの増加をもたらした。同様の結果が、T細胞上のPD-1発現を評価したときに見出された(
図10及び表5)。これらの結果は、CD44発現が、腫瘍細胞上での発現以外の機構を介してT細胞リダイレクト抗体の細胞傷害性を抑制し得ることを示唆する。
【0224】
考察
AMLにおける一次化学療法又は自己造血幹細胞移植に続く微小残存病変は、再発の主要な理由である。BMはAML LSCに対して保護的微小環境であるので、これらのがん細胞は、一般に二次療法及び処置に対して耐性である。BM微小環境の状況における耐性の機構を理解することは、免疫リダイレクトアプローチを含む現在及び将来の治療にとって重要である。
【0225】
本明細書では、複数のBM間質細胞型が、KG-1細胞に対するT細胞リダイレクタ抗体であるCD123xCD3二重特異性抗体の活性を阻害し得ることが示される。一方、T細胞活性化(CD25発現)はあまり影響を受けなかった。サイトカイン放出は、初代BM間質細胞によって強力に抑制され、これは細胞傷害性と相関した。
【0226】
結果は、BM間質細胞及び腫瘍細胞上のCD44発現が、CD123xCD3二重特異性抗体の細胞傷害活性のBM間質抑制において重要な役割を果たすことを立証する。腫瘍細胞又は間質細胞のいずれかにおける、抗CD44抗体によるCD44の阻害、又はCRISPRによるCD44遺伝子のKOは、使用される細胞株に応じて、間質媒介性抑制を様々な程度まで回復させた。CD44の阻害は、本発明者らのT細胞リダイレクト剤であるCD123xCD3二重特異性抗体の細胞傷害性を回復させただけでなく、腫瘍細胞死滅と一致して、T細胞活性化及びサイトカイン放出の増加も引き起こした。
【配列表】
【国際調査報告】