(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-01
(54)【発明の名称】デマルチプレクサ及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/29 20060101AFI20240423BHJP
G02F 1/035 20060101ALI20240423BHJP
G06E 3/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
G02F1/29
G02F1/035
G06E3/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548832
(86)(22)【出願日】2022-03-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-10
(86)【国際出願番号】 EP2022057326
(87)【国際公開番号】W WO2023179841
(87)【国際公開日】2023-09-28
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523305899
【氏名又は名称】テンセント・モビリティ・リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】523305903
【氏名又は名称】テンセント・クラウド・ヨーロッパ・(ジャーマニー)・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ロレド,ジュアン
(72)【発明者】
【氏名】ウォルサー,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ハンセン,リーナ
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102AA22
2K102BA01
2K102BA31
2K102BB01
2K102BB04
2K102BB05
2K102BC04
2K102BD01
2K102DA01
2K102DD03
2K102DD05
2K102EB02
2K102EB10
2K102EB12
2K102EB20
(57)【要約】
一般的に光デマルチプレクサを記載する。光デマルチプレクサは、電気光学変調器であって、前記電気光学変調器が第1状態にあるとき、第1偏光を有し前記電気光学変調器を通過する光パルスの偏光を、前記第1偏光から第2偏光へと変化させるように構成された電気光学変調器と、第1ミラー及び第2ミラーであって、前記電気光学変調器は、前記第1ミラーと前記第2ミラーの間の光軌道に、前記電気光学変調器を通過するために前記第1ミラーと前記第2ミラーの間の前記光軌道内を移動する光パルスに対して配置され、前記第1ミラーと前記第2ミラーは、前記第1ミラーと前記第2ミラーの間の前記光軌道内を移動する前記光パルスが、前記第1ミラーと前記第2ミラーの間を往復移動するたびに、前記第1ミラーと前記第2ミラーの間の前記光パルスの伝播方向と垂直に変位するように前記光デマルチプレクサ内に配置される、第1ミラー及び第2ミラーと、前記第1ミラーと前記電気光学変調器との間の前記光軌道に配置された第1偏光ビームスプリッタであって、前記第1偏光ビームスプリッタは、前記第1偏光を有する光パルスを透過し、前記第2偏光を有する光パルスを反射して、前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間の前記光軌道から前記第2偏光を有する光パルスを除去するように構成されており、前記第1偏光ビームスプリッタは、前記伝播方向に対して相互に垂直に変位された光パルスを各々異なる出力軌道に反射するように構成されている、第1偏光ビームスプリッタと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光デマルチプレクサであって、
電気光学変調器であって、前記電気光学変調器が第1状態にあるとき、第1偏光を有し前記電気光学変調器を通過する光パルスの偏光を、前記第1偏光から第2偏光へと変化させるように構成された電気光学変調器と、
第1ミラー及び第2ミラーであって、前記電気光学変調器は、前記第1ミラーと前記第2ミラーの間の光軌道に、前記電気光学変調器を通過するために前記第1ミラーと前記第2ミラーの間の前記光軌道内を移動する光パルスに対して配置され、前記第1ミラーと前記第2ミラーは、前記第1ミラーと前記第2ミラーの間の前記光軌道内を移動する前記光パルスが、前記第1ミラーと前記第2ミラーの間を往復移動するたびに、前記第1ミラーと前記第2ミラーの間の前記光パルスの伝播方向と垂直に変位するように前記光デマルチプレクサ内に配置される、第1ミラー及び第2ミラーと、
前記第1ミラーと前記電気光学変調器との間の前記光軌道に配置された第1偏光ビームスプリッタであって、前記第1偏光ビームスプリッタは、前記第1偏光を有する光パルスを透過し、前記第2偏光を有する光パルスを反射して、前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間の前記光軌道から前記第2偏光を有する光パルスを除去するように構成されており、前記第1偏光ビームスプリッタは、前記伝播方向に対して相互に垂直に変位された光パルスを各々異なる出力軌道に反射するように構成されている、第1偏光ビームスプリッタと、
を含む光デマルチプレクサ。
【請求項2】
前記第2ミラーと前記電気光学変調器との間の前記光軌道に配置された第2偏光ビームスプリッタをさらに含み、前記第2偏光ビームスプリッタは、
前記第1偏光を有する光パルスを透過し、
前記第2偏光を有する光パルスを反射して、前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間の前記光軌道から前記第2偏光を有する前記光パルスを除去する、
ように構成され、前記第2偏光ビームスプリッタは、前記伝播方向に対して互いに垂直に変位した光パルスを各々異なる出力軌道に反射するように構成される、請求項1に記載の光デマルチプレクサ。
【請求項3】
前記電気光学変調器と前記第1偏光ビームスプリッタとの間の前記光軌道に配置された第1集光レンズであって、前記第1集光レンズは、前記第1集光レンズと前記第1偏光ビームスプリッタとの間を互いに対して平行に移動するよう前記伝播方向に対して互いに垂直に変位した光パルスに対して、前記電気光学変調器から前記第1集光レンズへ前記光軌道を移動する前記光パルスを集光するよう構成される、第1集光レンズを更に含む請求項1又は2に記載の光デマルチプレクサ。
【請求項4】
前記電気光学変調器と前記第2ミラーとの間の前記光軌道に配置された第2集光レンズであって、前記第2集光レンズは、前記第2集光レンズと前記第2ミラーとの間を互いに対して平行に移動するよう前記伝播方向に対して互いに垂直に変位した光パルスに対して、前記電気光学変調器から前記第2集光レンズへ前記光軌道を移動する前記光パルスを集光するよう構成される、第2集光レンズを更に含む請求項3に記載の光デマルチプレクサ。
【請求項5】
前記第2集光レンズは、前記電気光学変調器と前記第2偏光ビームスプリッタとの間の前記光軌道に配置され、前記第2集光レンズは、前記第2集光レンズと前記第2偏光ビームスプリッタとの間を互いに対して平行に移動するよう前記伝播方向に対して互いに垂直に変位した光パルスに対して、前記電気光学変調器から前記第2集光レンズへ前記光軌道を移動する前記光パルスを集光するよう構成される、請求項2に従属する請求項4に記載の光デマルチプレクサ。
【請求項6】
前記第1集光レンズと前記第2集光レンズが、単位倍率の望遠鏡構成で前記光デマルチプレクサに配置されている、請求項4又は5に記載の光デマルチプレクサ。
【請求項7】
前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間の前記光軌道を進む光パルスの前記光デマルチプレクサへの入力経路が、前記望遠鏡構成の中心軸に平行に配置され及び該中心軸から変位している、請求項6に記載の光デマルチプレクサ。
【請求項8】
前記電気光学変調器が前記望遠鏡構成の中心又は中心領域に配置されている、請求項6又は7に記載の光デマルチプレクサ。
【請求項9】
前記第1ミラーは、前記第1集光レンズから前記第1ミラーへの前記光軌道を移動する光パルスを反射するための第1ミラー構成要素と第2ミラー構成要素を含み、前記第1ミラー構成要素と前記第2ミラー構成要素は、互いに垂直又は実質的に垂直に配置され、前記第1ミラー構成要素と前記第2ミラー構成要素は、前記第1集光レンズと前記第1ミラーの間で前記光パルスが互いに平行に移動する前記光軌道に対して、45度又は実質的に45度の角度で配置される、請求項3~8のいずれか一項に記載の光デマルチプレクサ。
【請求項10】
前記第2ミラーは、前記第2集光レンズから前記第2ミラーへの前記光軌道を移動する光パルスを反射するための第3ミラー構成要素と第4ミラー構成要素を含み、前記第3ミラー構成要素と前記第4ミラー構成要素は、互いに垂直又は実質的に垂直に配置され、前記第3ミラー構成要素と前記第4ミラー構成要素は、前記第2集光レンズと前記第2ミラーの間で前記光パルスが互いに平行に移動する前記光軌道に対して、45度又は実質的に45度の角度で配置される、請求項4に従属する請求項9に記載の光デマルチプレクサ。
【請求項11】
前記第1ミラーと前記第2ミラーの一方又は両方が、前記第1ミラーと前記第2ミラーの間の前記光軌道に提供される光パルスのための開口部を含む、請求項1~10のいずれかに記載の光デマルチプレクサ。
【請求項12】
前記第1ミラーと前記第2ミラーの間で反対方向に進むように前記光パルスを反射するために、前記光軌道の終端部分における前記光軌道に対して垂直入射の光軌道の終端に配置された第3ミラーをさらに含む請求項1~11のいずれかに記載の光デマルチプレクサ。
【請求項13】
前記光デマルチプレクサが、前記電気光学変調器を第2状態から前記第1状態に切り換えるときに、前記第1偏光ビームスプリッタを介して、異なる時間モードと同じ空間モードを持つ光パルスを前記光軌道から除去して、異なる空間モードにするように構成され、前記第2状態では、前記光パルスが前記電気光学変調器を通過することによって前記第1偏光を持つ前記光パルスの前記偏光が変化しない、請求項1~12のいずれかに記載の光デマルチプレクサ。
【請求項14】
前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間の前記光軌道上を移動するすべての光パルスが前記第1偏光を有することに基づき、及び前記第1状態の前記電気光学変調器を通じて移動するとき前記第1偏光から前記第2偏光に変更されるすべての光パルスの偏光について、前記電気光学変調器が前記第2状態から前記第1状態に切り換えられると、前記第1偏光ビームスプリッタが、前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間の前記光軌道からすべての光パルスを同時に又は10ナノ秒未満で除去するように構成される、請求項13に記載の光デマルチプレクサ。
【請求項15】
前記電気光学変調器が前記第2状態から前記第1状態に切り換えられると、前記第1偏光ビームスプリッタが、前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間の前記光軌道からすべての光パルスを同時に又は10ナノ秒以内に除去するように構成されており、前記出力軌道の各々が前記光パルスのうちの単一の光パルスを含む、請求項14に記載の光デマルチプレクサ。
【請求項16】
前記電気光学変調器はポッケルスセルを含み、前記第1状態は前記ポッケルスセルがオンになっている状態に関係する、請求項1~15のいずれかに記載の光デマルチプレクサ。
【請求項17】
前記電気光学変調器は、10ナノ秒未満で、前記第1状態と第2状態との間で切り換え可能であり、前記第1状態では、前記第1偏光を有する前記光パルスの前記偏光が、前記光パルスが前記電気光学変調器を通過すると変化し、前記第2状態では、前記第1偏光を有する前記光パルスの前記偏光が、前記光パルスが前記電気光学変調器を通過するとき変化しない、請求項1~16のいずれかに記載の光デマルチプレクサ。
【請求項18】
少なくとも6メートルの光軌道長に対して、1.5メートル以下の寸法を有する領域内の光軌道を0.5メートル以下で区切るために、前記光軌道内に配置されたさらなるミラーのセットをさらに含む、請求項1~17のいずれかに記載の光デマルチプレクサ。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載の光デマルチプレクサを含む量子計算システム。
【請求項20】
システム、特に量子計算システムであって、
請求項1~18のいずれかの光デマルチプレクサと、
単一光子のストリームを生成する単一光子源であって、前記単一光子源は前記光デマルチプレクサに結合され、前記単一光子源により前記光デマルチプレクサに前記単一光子のストリームを提供する、単一光子源と、
を含み、前記光デマルチプレクサが、複数の区別できない単一光子を、異なる出力軌道の対応する各々の出力軌道に出力するように構成される、システム。
【請求項21】
複数の単一光子を異なる出力軌道のうちの対応する各々の出力軌道に出力する方法であって、前記方法は、
請求項20に記載のシステムを提供するステップと、
単一光子源により、第1ミラーと第2ミラーとの間の光軌道の中心軸に平行に配置されて該中心軸から変位させて、前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間の前記光軌道に第1偏光を有する複数の光パルスを提供するステップと、
電気光学変調器を第2状態から第1状態に切り換えるステップであって、前記第2状態では、第1偏光を持つ光パルスの偏光が、前記光パルスが前記電気光学変調器を通過することにより変化せず、前記第1状態は、前記光パルスの前記偏光を前記第1偏光から第2偏光に変化する、ステップと、
前記第1ミラーと前記第2ミラーの間の前記光軌道から前記光パルスを除去するために、前記第1偏光ビームスプリッタが前記第2偏光を持つ前記光パルスを反射することに基づいて、前記複数の単一光子を異なる出力軌道のうちの対応する各々の出力軌道に出力するステップと、
を含む方法。
【請求項22】
1つ以上の光パルスは前記第1ミラーと前記第2ミラーの間を複数回往復し、前記光パルスの1つが前記第1ミラーと前記第2ミラーの間を往復する最後のラウンドで移動している間に、前記電気光学変調器は、前記第2状態から前記第1状態に切り替わる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記単一光子源により提供される前記光パルスのビーム横空間幅が2ミリメートル又は約2ミリメートルである、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
量子計算を行う光学的方法であって、(i)請求項1~18のいずれか一項に記載の光デマルチプレクサ又は請求項19に記載の量子計算システムを使用して異なる出力軌道に反射された光パルス、又は(ii)請求項20のシステムを使用して異なる出力軌道のうちの対応する各々の出力軌道に出力された複数の単一光子、に基づいて量子計算を行う光学的方法。
【請求項25】
コンピュータプログラムであって、1つ以上のコンピューティング装置に請求項24に記載の方法を実行させるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、デマルチプレクサに関するものであり、特に、1つの能動素子を使用して、同じ空間モードの任意の数の時間モードを異なる同期された空間モードにルーティングする。
【背景技術】
【0002】
一般に、古典的領域と量子領域の両方を対象とするフォトニクスでは、偏光や光の時間的及び空間的情報など、光の様々な特性が操作される。フォトニクスプラットフォームがますます複雑になっていることを考慮すると、結果的に同時に操作する必要があるモードの数が増加する。従来技術による幾つかのアプローチでは、複数の同時モードを生成することを目指す場合、時間から空間へと多重分離された光パルスのストリームを含む単一の空間モードから開始することができる。これにより、同期された(同時の)異なる空間モードにルーティングされる(非同時)パルスが発生する。
【0003】
多重分離(demultiplexing)プロトコルは、フォトニック(光学)量子計算において使用される場合があり、この中で、多重分離された(demultiplexed)信号が多光子源から生成され、多重分離された信号が、量子計算を可能にする量子情報を処理するために使用される場合がある。
【0004】
図1は、従来技術によるデマルチプレクサのアプローチを示す。この例では、デマルチプレクサ100で、単一光子源(これは、例えば光ファイバのような、全て同じ空間モードを通じて移動する光の個々の粒子のストリームである)からの光が最初に能動素子、この例ではポッケルス(Pockels)セル102を通過し、光子の偏光が2つの直交する偏光状態の間で交互になるようになっている。その後、光子は偏光に応じて光子を選別する偏光ビームスプリッタ104を通過する。これにより、単一光子の2つの空間モードが生じる。このプロセスは、ポッケルスセル(例えば、ポッケルスセル106、110)と偏光ビームスプリッタ(例えば偏光ビームスプリッタ108、112)のネットワーク内で繰り返すことができ、これにより、異なる偏光を持つ異なる光子を、異なる出力経路に向けてミラー(例えば、ミラー114)によって反射することができる。
【0005】
この例では、例えば12.5nsごとに発生するレーザパルスは、一連の電気光学変調器(この例ではポッケルスセル)と偏光ビームスプリッタを通過し、異なる空間出力に能動的にルーティングされる。
【0006】
光遅延を1つ以上の出力に適用して、それらの時間的不整合を補正する。時間的遅延は、例えば、出力に適用されたファイバを介して実装され、異なる光子の到着時間を補正して一致させることができる。
【0007】
図1に示すアプローチでは、単一光子源は、ポッケルスセル102と偏光ビームスプリッタ104の第1段階で、同期された2光子源に多重分離される。
図1の例のように、上記のプロセスは、新たに作成された空間モードごとに繰り返され、能動要素が1つ増えるたびに追加されてもう1つの出力空間モードが作成され、結果として多重分離された多光子源となる。
【0008】
必要な能動要素の数は、この例では、ターゲット出力モードの数から1を引いた数に等しい。
【0009】
多重分離光子モードは、例えば10から20までの光子モードのソースに基づいて、光量子計算実験で使用されることがある。これらの光子モードの生成は、実験室でかなりのスペースを占有する可能性のある多くの能動素子が必要であり、すべての能動素子は一般的に困難な同期を伴う高価な高電圧パルスを必要とするため、実験的に煩雑である可能性がある。
【0010】
そのため、デマルチプレクサの改良が必要である。
【発明の概要】
【0011】
本開示によれば、光デマルチプレクサが提供される。光デマルチプレクサは、電気光学変調器を含み、電気光学変調器は、電気光学変調器が第1状態にあるとき、第1偏光を有し電気光学変調器を通過する光パルスの偏光を、第1偏光から第2偏光へと変化させるように構成される。光パルスの偏光は、ここでは光パルスの偏光状態を指すことができ、光パルスの偏光状態が第1偏光を有する光パルスに関連する場合、電気光学変調器は、光パルスが電気光学変調器を出るときに第2偏光を有するように光パルスの偏光状態を変化させるように構成される。光デマルチプレクサはさらに、第1ミラーと第2ミラーを含み、第1ミラーと第2ミラーの間の光軌道を移動する光パルスが電気光学変調器を通過するように、電気光学変調器が第1ミラーと第2ミラーの間の光軌道に配置され、光デマルチプレクサに第1ミラーと第2ミラーが配置されて、第1ミラーと第2ミラーの間の光軌道を移動する光パルスが、第1ミラーと第2ミラーの間を往復するたびに、第1ミラーと第2ミラーの間の光パルスの伝播方向に対して垂直に変位するようにする。光デマルチプレクサは、第1ミラーと電気光学変調器との間の光軌道に配置された第1偏光ビームスプリッタをさらに含み、第1偏光ビームスプリッタは、
第1偏光を有する光パルスを透過し、
第2偏光を有する光パルスを反射して、第1ミラーと第2ミラーとの間の光軌道から第2偏光を有する光パルスを除去するように構成され、
第1偏光ビームスプリッタは、伝播方向に対して互いに垂直に変位した光パルスを各々異なる出力軌道に反射するように構成される。光パルスが第1偏光を持ち、第1偏光ビームスプリッタがそのような光パルスを透過するかどうか、又は光パルスが第2偏光を持ち、第1偏光ビームスプリッタがそのような光パルスを反射するかどうかは、電気光学変調器の状態を制御することで制御できる。幾つかの例では、電気光学変調器が第1状態にあるときにオンになり、光パルスが電気光学変調器を通過するときに、第1偏光を持つ光パルスの偏光状態が第2偏光に変化する。
【0012】
ここに記載されている光デマルチプレクサは、実用的な多重分離多光子源を生成するために必要な技術的負荷を軽減することを可能にすることができる。複数の高電圧電気パルス発生器が不要になるため、多光子源を準備するために必要なコストとスペースが削減される。
【0013】
電気光学変調器は光パルスの偏光を切り換えることができ、一度切り換えると、ビームスプリッタは光パルスを反射して第1ミラーと第2ミラーの間の光軌道から光パルスを除去することができる。
【0014】
光パルスがミラー間の伝播方向に対して相互に垂直に変位すると、それらはビームスプリッタによって各々異なる出力軌道に反射されることができる。
【0015】
光パルスは、それらの間の時間間隔で生成され、従って相互に「変位」することがあるという点で、相互に変位している場合があることに注意する。このような光パルスは、ミラー間の伝播方向に対して垂直に相互に変位しない場合、同じ出力軌道(異なる時間になる可能性がある)になる。
【0016】
幾つかの例では、電気光学変調器は、ニオブ酸リチウム結晶(LiNbO3)、ヒ化物クロップ結晶(GaAs)、タンタル酸リチウム結晶(LiTaO3)などの特定の電気光学結晶の電気光学効果を利用する変調器であってよい。電気光学効果は、電気光学結晶に電圧が印加されると、電気光学結晶の屈折率が変化して結晶の光ポータビリティが変化し、光信号の位相、振幅、強度、偏光状態の変調を実現することができる。
【0017】
幾つかの例では、限定ではないがウォラストン(Wollaston)プリズムのような偏光ビームスプリッタは、複屈折材料を使用して光を直交する偏光状態の2つのビームに分割することができる。複屈折材料は、光を(例えばS偏光)反射光と(例えばP偏光)透過光に分割するための比較的単純で安価な方法である場合がある。
【0018】
幾つかの好ましい実装では、デマルチプレクサは、第2ミラーと電気光学変調器との間の光軌道に配置された第2偏光ビームスプリッタをさらに含み、第2偏光ビームスプリッタは、
第1偏光を有する光パルスを透過し、
(電気光学変調器が第1偏光から第2偏光に光パルスの偏光を切り換えたことに基づき)第2偏光を有する光パルスを反射して、第1ミラーと第2ミラーとの間の光軌道から第2偏光を有する光パルスを除去する、
ように構成され、第2偏光ビームスプリッタは、伝播方向に対して互いに垂直に変位した光パルスを各々異なる出力軌道に反射するように構成される。上記で概説したような第2偏光ビームスプリッタを設けることは、出力ビームの数を増加できる(例によっては2倍になる)ため、特に有利である。
【0019】
幾つかの好ましい実装では、デマルチプレクサはさらに、電気光学変調器と第1偏光ビームスプリッタとの間の光軌道に配置された第1集光レンズであって、第1集光レンズは、第1集光レンズと第1偏光ビームスプリッタとの間を互いに対して平行に移動するよう伝播方向に対して互いに垂直に変位した光パルスに対して、電気光学変調器から第1集光レンズへ光軌道を移動する光パルスを集光するよう構成される、第1集光レンズを更に含む。これは、第1ミラーと第2ミラーの間の光軌道から除去された光パルスが、異なる各々の出力軌道に反射された後に平行に進むことを可能にし、光パルスのさらなる使用を単純化することができる(例えば、各々の光パルスが各々の出力軌道に反射される正確なタイミングが必要な場合)。
【0020】
幾つかの好ましい実装では、デマルチプレクサはさらに、電気光学変調器と第2ミラーとの間の光軌道に配置された第2集光レンズであって、第2集光レンズは、第2集光レンズと第2ミラーとの間を互いに対して平行に移動するよう伝播方向に対して互いに垂直に変位した光パルスに対して、電気光学変調器から第2集光レンズへ光軌道を移動する光パルスを集光するよう構成される、第2集光レンズを更に含む。これは、第1ミラーと第2ミラーの間の光軌道から除去された光パルスが、異なる各々の出力軌道に反射された後に平行に進むことを可能にし、光パルスのさらなる使用を単純化することができる(例えば、各々の光パルスが各々の出力軌道に反射される正確なタイミングが必要な場合)。
【0021】
幾つかの好ましい実装では、デマルチプレクサはさらに、電気光学変調器と第2偏光ビームスプリッタとの間の光軌道に配置された第2集光レンズであって、第2集光レンズは、第2集光レンズと第2偏光ビームスプリッタとの間を互いに対して平行に移動するよう伝播方向に対して互いに垂直に変位した光パルスに対して、電気光学変調器から第2集光レンズへ光軌道を移動する光パルスを集光するよう構成される、第2集光レンズを更に含む。これは、第1ミラーと第2ミラーの間の光軌道から除去された光パルスが、異なる各々の出力軌道に反射された後に平行に進むことを可能にし、光パルスのさらなる使用を単純化することができる(例えば、各々の光パルスが各々の出力軌道に反射される正確なタイミングが必要な場合)。
【0022】
幾つかの好ましい実装では、第1集光レンズと第2集光レンズが、単位倍率の望遠鏡構成で光デマルチプレクサに配置されている。これにより、より限定された光デマルチプレクサを提供することができ、それによって多光子源を準備するために必要なスペースをさらに削減することができる。
【0023】
幾つかの好ましい実装では、第1ミラーと第2ミラーとの間の光軌道を進む光パルスの光デマルチプレクサへの入力経路が、望遠鏡構成の中心軸に平行に配置され及び該中心軸から変位している。これは、光ビームを光デマルチプレクサに提供する簡単な方法であり、2つのミラーの間を往復して移動するときに、光ビームがその伝播方向に対して垂直に変位する。
【0024】
幾つかの好ましい実装では、電気光学変調器が望遠鏡構成の中心又は中心領域に配置されている。これにより、2つの鏡の間を行き来するすべての光ビームに対して光ビームの偏光を切り換えることができると同時に、電気光学変調器は望遠鏡構成の中心又は中心領域の(小さな)空間に限定することができる。
【0025】
幾つかの好ましい実装では、第1ミラーは、第1集光レンズから第1ミラーへの光軌道を移動する光パルスを反射するための第1ミラー構成要素と第2ミラー構成要素を含み、第1ミラー構成要素と第2ミラー構成要素は、互いに垂直又は実質的に垂直に配置され、第1ミラー構成要素と第2ミラー構成要素は、第1集光レンズと第1ミラーの間で光パルスが互いに平行に移動する光軌道に対して、45度又は実質的に45度の角度で配置される。これにより、2つのミラー間の伝播方向に垂直な方向に光ビームを変位させて、最終的に光ビームを異なる各々の出力軌道に反射させる簡単で費用対効果の高い方法が可能になる。
【0026】
幾つかの好ましい実装では、第2ミラーは、第2集光レンズから第2ミラーへの光軌道を移動する光パルスを反射するための第3ミラー構成要素と第4ミラー構成要素を含み、第3ミラー構成要素と第4ミラー構成要素は、互いに垂直又は実質的に垂直に配置され、第3ミラー構成要素と第4ミラー構成要素は、第2集光レンズと第2ミラーの間で光パルスが互いに平行に移動する光軌道に対して、45度又は実質的に45度の角度で配置される。これにより、更に、2つのミラー間の伝播方向に垂直な方向に光ビームを変位させて、最終的に光ビームを異なる各々の出力軌道に反射させる簡単で費用対効果の高い方法が可能になる。
【0027】
幾つかの好ましい実装では、第1ミラーと第2ミラーの一方又は両方が、第1ミラーと第2ミラーの間の光軌道に提供される光パルスのための開口部を含む。これは、本開示全体を通して概説されている実装例のいずれか1つ又は複数で提供される可能性があり、所望の方法で光デマルチプレクサに光ビームを提供する単純で費用対効果の高い方法を可能にする可能性がある。
【0028】
幾つかの好ましい実装では、デマルチプレクサは、第1ミラーと第2ミラーの間で反対方向に進むように光パルスを反射するために、光軌道の終端部分における光軌道に対して垂直入射の光軌道の終端に配置された第3ミラーをさらに含む。これは、異なる各々の出力軌道に出力される光パルスの数が2倍になる可能性があるため、特に有利である可能性がある。
【0029】
幾つかの好ましい実装では、光デマルチプレクサは、電気光学変調器を第2状態から第1状態に切り換えるときに、第1偏光ビームスプリッタを介して、異なる時間モードと同じ空間モードを持つ光パルスを光軌道から除去して、異なる空間モードにするように構成され、第2状態では、光パルスが電気光学変調器を通過することによって第1偏光を持つ光パルスの偏光が変化しない。それによって、元々異なる時間モードと同じ空間モードを持つ光パルスを互いに独立してさらに使用することができる。これは、本開示全体で概説されている実装例のいずれか1つ以上で提供することができる。
【0030】
幾つかの好ましい実装では、第1ミラーと第2ミラーとの間の光軌道上を移動するすべての光パルスが第1偏光を有することに基づき、及び第1状態の電気光学変調器を通じて移動するとき第1偏光から第2偏光に変更されるすべての光パルスの偏光について、電気光学変調器が第2状態から第1状態に切り換えられると、第1偏光ビームスプリッタが、第1ミラーと第2ミラーとの間の光軌道からすべての光パルスを同時に又は10ナノ秒未満で除去するように構成される。これにより、80MHzの繰り返しレートシステムでは、変調の切り換え時間が標準的な12.5nsよりも短くなる可能性がある。これは、本開示全体で概説されている実装例のいずれか1つ以上で提供することができる。
【0031】
幾つかの好ましい実装では、電気光学変調器が第2状態から第1状態に切り換えられると、第1偏光ビームスプリッタが、第1ミラーと第2ミラーとの間の光軌道からすべての光パルスを同時に又は10ナノ秒以内に除去し、すべての光パルスを異なる各々の出力軌道へと反射するように構成されており、出力軌道の各々が光パルスのうちの単一の光パルスを含む。これにより、80MHzの繰り返しレートシステムでは、変調の切り換え時間が標準的な12.5nsよりも短くなる可能性がある。これは、本開示全体で概説されている実装例のいずれか1つ以上で提供することができる。
【0032】
幾つかの好ましい実装では、電気光学変調器はポッケルスセルを含み、第1状態はポッケルスセルがオンになっている状態に関係する。ポッケルスセルは、超高速かつ精密な光変調を可能にするため、特に有利である可能性がある。ポッケルスセルは、ポッケルス効果を利用する電気光学変調デバイスとして定義される場合がある。ポッケルス効果は、特定の結晶の屈折率が電場の強さに比例する光電現象を指す。外部電場の制御により、ある方向の屈折率が変化することで、ポッケルスセルは可変半波チップとして動作することができ、分極状態の変化を実現する。
【0033】
幾つかの好ましい実装では、電気光学変調器は、10ナノ秒未満で、第1状態と第2状態との間で切り換え可能であり、第1状態では、第1偏光を有する光パルスの偏光が、光パルスが電気光学変調器を通過すると変化し、第2状態では、第1偏光を有する光パルスの偏光が、光パルスが電気光学変調器を通過するとき変化しない。これにより、80MHzの繰り返しレートシステムでは、変調の切り換え時間が標準的な12.5nsよりも短くなる可能性がある。これは、本開示全体で概説されている実装例のいずれか1つ以上で提供することができる。
【0034】
幾つかの好ましい実装では、デマルチプレクサは、少なくとも6メートルの光軌道長に対して、1.5メートル以下の寸法を有する領域内の光軌道を0.5メートル以下で区切るために、光軌道内に配置されたさらなるミラーのセットをさらに含む。光デマルチプレクサに必要なスペースは、ここでさらに削減され、特にコスト削減につながる可能性がある。
【0035】
さらに、ここに記載された実装のいずれか1つ、特に上記の実装の光デマルチプレクサを含む量子計算システムが提供される。
【0036】
システム、特に量子計算システムが更に提供され、
ここに及び特に上記に記載された実装のいずれか1つの光デマルチプレクサと、
単一光子のストリームを生成する単一光子源であって、単一光子源は光デマルチプレクサに結合され、前記単一光子源により光デマルチプレクサに単一光子のストリームを提供する、単一光子源と、
を含み、光デマルチプレクサが、複数の区別できない単一光子を、異なる出力軌道の対応する各々の出力軌道に出力するように構成される。これにより、区別できない単一光子を、複数の高電圧電気パルス発生器を使用せず生成することができ、それによって多光子源を準備するために必要なコストとスペースを削減する。
【0037】
更に複数の単一光子を異なる出力軌道のうちの対応する各々の出力軌道に出力する方法が提供され、方法は、
ここに記載され、特に上記に記載された実装のいずれか1つのシステムを提供するステップと、
単一光子源により、第1ミラーと第2ミラーとの間の光軌道の中心軸に平行に配置されて該中心軸から変位させて、第1ミラーと第2ミラーとの間の光軌道に第1偏光を有する複数の光パルスを提供するステップと、
電気光学変調器を第2状態から第1状態に切り換えるステップであって、第2状態では、第1偏光を持つ光パルスの偏光が、光パルスが電気光学変調器を通過することにより変化せず、第1状態は、光パルスの偏光を第1偏光から第2偏光に変化する、ステップと、
第1ミラーと第2ミラーの間の光軌道から光パルスを除去するために、第1偏光ビームスプリッタが第2偏光を持つ光パルスを反射することに基づいて、複数の単一光子を異なる出力軌道のうちの対応する各々の出力軌道に出力するステップと、
を含む。上記で概説したように、複数の高電圧電気パルス発生器を使用せずに光パルスを生成することができ、それによって多光子源を準備するために必要なコストとスペースを削減する。
【0038】
幾つかの好ましい実装では、1つ以上の光パルスは第1ミラーと第2ミラーの間を複数回往復し、光パルスの1つが第1ミラーと第2ミラーの間を往復する最後のラウンドで移動している間に、電気光学変調器は、第2状態から第1状態に切り替わる。これにより、異なる各々の出力軌道に出力される光パルスの所定の数が可能になる。追加又は代替として、単一光子源を介して提供される光パルスのビーム横空間幅は(1/e強度との関係で)2ミリメートル又は約2ミリメートルであり、これは数メートルのレイリー(Rayleigh)範囲を維持することを可能にする(これは、幾つかの例では、光パルス間の典型的な分離が約12.5ns、すなわち固定された時間枠で約4mであるため、重要である場合がある)。
【0039】
さらに、(i)ここに記載され、特に上に記載された実装例のいずれか1つのシステムの光デマルチプレクサ又は量子計算システムを使用して、異なる出力軌道に反射/出力される光パルス、又は(ii)ここに記載され、特に上に記載された実装例のいずれか1つのシステムを使用して、異なる出力軌道のうちの対応する各々の出力軌道に出力される複数の単一光子、に基づいて量子計算を実行する方法が提供される。
【0040】
更にコンピュータプログラムプロダクトであって、コンピュータプログラムプロダクトが1つ以上のコンピューティング装置で実行されると、上記に記載された方法を実行するプログラムコード部分を含むコンピュータプログラムプロダクトが提供される。幾つかの好ましい例では、コンピュータプログラムプロダクトはコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納される。
【0041】
ここで説明する実装例に基づいて、時間空間デマルチプレクサにおけるスケーラビリティの問題が解決される。1つの能動要素のみを使用して任意の数の出力モードに入力ソースを多重分離するために、入力単一光子源のパスに準反復性ジオメトリを使用することができる。構成により、結果として得られる多重分離されたモードは、それ以上の光学的遅延が必要ないように同期される。
【0042】
本開示を通して、能動(光学)素子は、電気エネルギによって光子の運動特性(例えば、偏光、振幅など)を変化させる電子部品を指すことがある。幾つかの例では、能動素子は、例えば、電気光学変調ポッケルスセルのような電気光学変調器である。
【0043】
ここに記載されている実装例を使用して、実用的な多重分離多光子源を生成するために必要な技術的負荷が軽減される。多くの高電圧電気パルス発生器の困難な取り扱いは克服される。その結果、ここに記載されているような実装は、コストを削減し、同時に研究室内で必要とされる体積とスペースを削減することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0044】
ここで、本発明のこれらの態様及びその他の態様について、例示のみを目的として、添付の図を参照してさらに説明する。同様の参照番号は、同様の部分を表す。
【
図1】従来技術によるデマルチプレクサの概略図を示す。
【
図2A】本開示の幾つかの実装例に従ったデマルチプレクサの概略図を示す。
【
図2B】本開示の幾つかの実装例に従ったデマルチプレクサの概略図を示す。
【
図2C】本開示の幾つかの実装例に従ったデマルチプレクサの概略図を示す。
【
図2D】本開示の幾つかの実装例に従ったデマルチプレクサの概略図を示す。
【
図2E】
図2Dのデマルチプレクサモードの空間出力分布を示している。
【
図3】本開示の幾つかの実装例によるデマルチプレクサの概略図を示す。
【
図4】本開示の幾つかの実装例によるシステムの概略ブロック図を示す。
【
図5】本開示の幾つかの実装例による方法のフローチャートを示す。
【
図6】本開示の幾つかの実装例による方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本開示は、一般にリソース効率の良い能動的時間空間デマルチプレクサに関する。
【0046】
幾つかの実装によると、同じ空間モードの任意の数の時間モードを異なる同期された空間モードに向けてルーティングするために、単一の能動素子を使用するデマルチプレクサモジュールが提示される。同じ空間軌道を進む光パルスのストリームは、各々が同時に1つのパルスを含む複数の軌道に変換することができる。
【0047】
本開示の幾つかの実装例によれば、デマルチプレクサは、一般的に、主に3種類の光学素子:1つ以上の偏光ビームスプリッタ(polarizing beam-splitter (PBS))、高反射ミラー、及び例えば10MHzを超えるスイッチングレートを持つ1つの超高速電気光学変調器(例えば、ポッケルスセル)、を使用して構築される。
【0048】
ここに記載されている実装例に従ってデマルチプレクサを使用する場合、デマルチプレクサは、「ローディング」段階と「リリース」段階で動作させることができる。「ローディング」段階では、電気光学変調器がオフ状態に保たれている限り、光子源の入力経路にデマルチプレクサモジュールが使用され、増大する準反復性ジオメトリを横断する。「リリース」段階では、電気光学変調器がオン状態に切り換えられ、その結果、電気光学変調器を通過するすべての光パルスの偏光が反転するため、各パルスが同時に異なる出力軌道をとることができる。
【0049】
N個のパルスを多重分離するために、本開示の幾つかの例の実装に従った時間空間デマルチプレクサで必要とされる能動素子の数は、既存の代替品におけるようなN個から、一般的にNに関係なく、1つの能動素子のみに削減された。ここで、Nは、本開示の幾つかの例の実装に従うと、使用される光学素子のサイズにのみ依存することができる多重化されるパルスの数を示すことができる。その結果、一般的に比較的高価な高電圧増幅器の数が減少し、より少ない複屈折結晶しか利用する必要がなく、本開示に従う例の実装では、マルチパルス同期のための複雑な電子機器を回避することができる。
【0050】
図2A~Dは、本開示の幾つかの実装例によるデマルチプレクサ200の概略図を示す。
【0051】
この例では、
図2Aに見られるように、デマルチプレクサ200は、一般に、電気光学変調器(electro-optic modulator (EOM))202、第1ミラー204及び第2ミラー206を含む。この例では、第1ミラー204は、第1ミラー構成要素204a及び第2ミラー構成要素204bを含む。更に、この例では、第2ミラー206は、第3ミラー構成要素206a及び第4ミラー構成要素206bを含む。
【0052】
最終的に第1ミラー204と第2ミラー206との間の光軌道208の光出力を結合するために、第1偏光ビームスプリッタ210と第2偏光ビームスプリッタ212が設けられている。しかし、理解されるように、第1ミラー204と第2ミラー206との間で光軌道208からの光出力を結合するためには、単一の偏光ビームスプリッタで十分であろう。
【0053】
この例では、第1集光レンズ214が電気光学変調器202と第1ポールビームスプリッタ210との間の光軌道に配置され、第2集光レンズ216が電気光学変調器202と第2偏光ビームスプリッタ212との間の光軌道に配置される。
【0054】
この例では、デマルチプレクサ200への光源(ディラック記法を用いて表される光子、|h>)の入力経路218は、この例では同一のレンズである第1集光レンズ214と第2集光レンズ216によって形成される望遠鏡構成の中心軸から平行に変位して配置されており、望遠鏡構成は単位倍率を示す。単位倍率で望遠鏡構成の中心軸に対して入力経路218がこのようにわずかに平行に変位した配置は、望遠鏡の出力で変位が反対方向にミラーリングされる結果となる。これにより、入力ビーム軌道のほぼ反復的なジオメトリが得られる。
【0055】
望遠鏡の中心(又は中心領域)は、この例では、能動的な電気光学変調器202(幾つかの例ではポッケルスセル)を含み、望遠鏡自体は偏光ビームスプリッタ210及び212内に配置される。
【0056】
この例では、後述するように、出力モード数を倍にするために、すべてのビームを再び後方進行方向に戻すミラー220が光学軌道の終端に配置されている。
【0057】
図2Aに示すような配置によると、本開示によるデマルチプレクサアプローチの第1段階では、幾つかの例では、例えば、水平偏光光パルスは、偏光ビームスプリッタ212、2つの集光レンズ214と216で作られた望遠鏡、及び電気光学変調器202を通過することができる。
【0058】
図2Bに示すように、ビーム軌道を揃えるために各々の構成要素を持つミラー204と206が使用され、偏光ビームスプリッタ、集光レンズ、及び電気光学変調器を通過した後、電気光学変調器がオフになっている限り、光は平行に変位した軌道で設定に戻るが、現在は反対方向(
図2Bに示すパス2、4、6、8)に進むようになっている。このプロセスは、光学素子の透明な開口部が許す限り、電気光学変調器がオフになっている間、複数回反復し続ける。このようにして、光軌道はほぼ反復的なジオメトリで構築され続け、光の偏光はこの例では水平に維持される。
【0059】
図2Aに関連してすでに示されているように、この例では、すべてのビームが再び後方進行方向に戻るように、ミラー220が光軌跡の最後に垂直入射で配置される。したがって、
図2Cに示すように、出力モードの数は、同じ透明な開口サイズに対して2倍(この例では16個のモード)になる。
【0060】
図2Aから2Cに示す手順は、本開示に従う幾つかのプロトコルの多重分離される光パルスの「ロード」段階を達成する。
【0061】
このプロトコルの「リリース」段階では、電気光学変調器202がオンになり、この例では、光パルスの偏光が垂直方向に回転する。その結果、この例では、偏光ビームスプリッタ210と212が光パルスを反射して、光パルスが元の光軌道から解放され、それにより多重分離プロトコルが完成する(
図2D参照)。入力光パルス間のすべての初期時間遅延は、すべての光パルスが同期されたままになるように、セットアップジオメトリ自体によって消去される。このようにして、光パルスは異なる(同期された)出力軌道に放出され、結果として多重分離された信号となる。
【0062】
入力光が単一光子のストリームで構成されている場合、デマルチプレクサは、例えば光量子計算内のプロトコルのマルチモード干渉計に接続して干渉させる準備ができているなど、複数の区別できない単一光子のソースを準備することができる。このように、デマルチプレクサの重要な用途は、光量子情報処理のための多光子源の構築であるが、他の用途も可能であり、当業者には理解されるだろう。
【0063】
デマルチプレクサの技術的態様について考慮すべき関連パラメータは、光損失、受動及び能動偏光コントラスト、ビーム軌道空間幅、明瞭な(clear、透明な)開口、及び電気光学変調器(ポッケルスセル)の立ち上がり時間である。
【0064】
デマルチプレクサの幾つかの例では、ミラーは99.99%以上の反射率(つまり、素子あたり0.01%未満の損失)を示す。追加又は代替として、偏光ビームスプリッタは素子あたり1%未満の損失を示す。追加又は代替として、集光レンズは素子あたり1%未満の損失を示す。追加又は代替として、電気光学変調器は素子あたり1%未満の損失を示す。
【0065】
幾つかの例では、偏光ビームスプリッタのs偏光とp偏光の光透過(反射)の偏光コントラスト比は、透過ポートと反射ポートの両方で1000:1よりも大きい。さらに、幾つかの例では、電気光学変調器は100:1より大きい能動偏光コントラストに達することができる。
【0066】
幾つかの例では、ビームの横方向の空間幅は変化する可能性があり、幾つかの例では、約2mmの直径(1/e強度に関連する)に選択することができ、それによって数メートルのレイリー範囲を維持する。光パルス間の典型的な間隔は約12.5ns、すなわち固定された時間枠で約4mであるため、これは重要な場合がある。これによりレイリー範囲は、ビームのウエストからその経路に沿って、ウエストからその面積の2倍の断面までの距離を指すことがあり、その点で断面半径はウエスト半径の約1.414(√2)である。
【0067】
幾つかの例では、ミラーのサイズは1インチ又は約1インチであり、及び/又は偏光ビームスプリッタのサイズは1インチ又は約1インチである。幾つかの例では、2つの集光レンズの焦点距離は300mmで、開口部のサイズは2インチである。明瞭な開口部を増やす必要がある例では、例えば、幾つかの偏光ビームスプリッタを隣り合わせて積み重ねて、効果的に大きな開口部を実現することができる。
【0068】
電気光学変調器(例えば、ポッケルスセル)は、幾つかの例では、10ns未満でオフ状態からオン状態(及び/又はその逆)に切り換えることができる。これにより、80MHzの繰り返しレートシステムでは、変調の切り換え時間が標準的な12.5nsよりも短くなる可能性がある。幾つかの例では、ポッケルスセルに沿った駆動切り換え電圧は約1kVである。
【0069】
デマルチプレクサの概念的な幾何学をテストするために、
図2Dにあるようなより小さなバージョンが、標準的な1インチサイズの光学素子のみを使用して構築され、その結果、16個の出力空間モードが得られた。16個の出力すべての空間モードは、
図2Eに示されているように入力モードに似ており、これにより、すべての出力が高いファイバ結合効率(すなわち、シングルモードファイバで高い収集効率を可能にする)で収集できることが保証される可能性がある。
【0070】
前述のパラメータのうち、能動素子の立ち上がり時間はシステムサイズに直接影響するパラメータである。これは、進行中の光パルスが、その軌道の最後のラウンドトリップ内で偏光を切り換える必要があるためであり、これは、各ラウンドトリップの(時間等価)空間がパルス間の分離よりも小さい必要があることを意味する。市販の最先端のポッケルスセルは、約10nsのスイッチ時間で光の偏光を切り換えることができる。したがって、80MHzの繰り返し率(12.5nsのパルス分離)を持つ標準的なレーザ/光システムを使用できる。
【0071】
しかし、理解されるように、時間的に12.5nsは光パルスの自由空間で3.75mに相当し、結果として
図2Dの位置合わせに従い約8mの長さの実装になる。これを回避するために、
図3のデマルチプレクサ300に示すように、デマルチプレクサの概念的な動作を変更しないが、フットプリントのサイズを小さくするのに役立つ追加のミラー320a-hを実装することができる。幾つかの例では、デマルチプレクサは、この例では12出力のデマルチプレクサの場合に約1.5m×0.5mのサイズを持つ。
【0072】
図4は、本開示の幾つかの実装例によるシステム400の概略ブロック図を示す。
【0073】
この例では、デマルチプレクサ200、300は、単一光子のストリームを生成するための単一光子源402とともにシステム400(量子計算システムであってもよい)に含まれており、単一光子源402は、単一光子源402によって光デマルチプレクサ200,、300に単一光子のストリームを提供するために光デマルチプレクサ200、300に結合されている。このシステム400では、デマルチプレクサ200、300は、区別できない複数の単一光子を、異なる出力軌道の対応する各々の出力軌道に出力するように構成されている。
【0074】
図5は、本開示の幾つかの実装例による方法500のフローチャートを示す。
【0075】
方法500は、ステップ502において、システム、特に量子計算システムを提供するステップを含み、該システムは光デマルチプレクサを含み、該光デマルチプレクサは、
電気光学変調器であって、電気光学変調器が第1状態にあるとき、第1偏光を有し電気光学変調器を通過する光パルスの偏光を、第1偏光から第2偏光へと変化させるように構成された電気光学変調器と、
第1ミラー及び第2ミラーであって、電気光学変調器は、第1ミラーと第2ミラーの間の光軌道に、電気光学変調器を通過するために第1ミラーと第2ミラーの間の光軌道内を移動する光パルスに対して配置され、第1ミラーと第2ミラーは、第1ミラーと第2ミラーの間の光軌道内を移動する光パルスが、第1ミラーと第2ミラーの間を往復移動するたびに変位するように光デマルチプレクサ内に配置される、第1ミラー及び第2ミラーと、
第1ミラーと電気光学変調器との間の光軌道に配置された第1偏光ビームスプリッタであって、第1偏光ビームスプリッタは、第1偏光を有する光パルスを透過し、第2偏光を有する光パルスを反射して、電気光学変調器が第1偏光から第2偏光へと光パルスの偏光を切り換えたことに基づき、第1ミラーと第2ミラーとの間の光軌道から第2偏光を有する光パルスを分離するように構成されており、第1偏光ビームスプリッタは、伝播方向に対して相互に垂直に変位された光パルスを各々異なる出力軌道に分離するように構成されている、第1偏光ビームスプリッタと、
を含む。
【0076】
ステップ504において、方法500は、単一光子源により、第1ミラーと第2ミラーとの間の光軌道に平行に配置させ及び第2ミラーとの間の光軌道の中心軸から変位させて、第1ミラーと第2ミラーとの間の光軌道に第1偏光を持つ複数の光パルスを提供するステップを含む。
【0077】
ステップ506において、方法500は、電気光学変調器を、第2状態から第1状態に切り換えるステップであって、第2状態では、光パルスが電気光学変調器を通過するとき、第1偏光を持つ光パルスの偏光が変化せず、第1状態は、光パルスの偏光を第1偏光から第2偏光に変化させる、ステップを含む。
【0078】
ステップ508において、方法500は、第1偏光ビームスプリッタが、第1ミラーと第2ミラーの間の光軌道から光パルスを除去するために第2偏光を持つ光パルスを反射することに基づいて、複数の単一光子を異なる出力軌道のうちの対応する各々の出力軌道に出力するステップを含む。光パルスを、対応する各々の出力軌道に出力することができる。
【0079】
単一光子源により提供される光パルスのビーム横空間幅は、幾つかの例では、2ミリメートル又は約2ミリメートルである。
【0080】
図6は、本開示の幾つかの実装例による方法600のフローチャートを示す。
【0081】
ステップ602で、ここに記載されている実装例のいずれかに従ったデマルチプレクサ又はシステムが提供される。ステップ604では、量子計算は、(i)ここに記載された実装例のいずれか1つの光デマルチプレクサを使用して、異なる出力軌道に出力される光パルス、又は(ii)ここに記載された実装例のいずれか1つのシステムを使用して、異なる出力軌道のうちの対応する各々の出力軌道に出力される複数の単一光子、に基づいて実行される。
【0082】
本開示による時間空間多重分離用モジュールは、同じ空間モード内の任意の数の時間モードを異なる同期出力空間モードにルーティングするために、単一の能動素子を使用する。デマルチプレクサを横断する、すべて同じ空間モードの光パルスのストリームは、様々な出力軌道に変換され、各々が同時にそのようなパルスの1つを持つ。
【0083】
デマルチプレクサは、幾つかの例では、3種類の光学素子:直交する偏光を空間的にソートするための1つ以上の偏光ビームスプリッタ、高反射ミラー(反射率が例えば99.99%を超えるもの)、及び1つの(超高速)電気光学変調器で、特にポッケルスセルの形態であり、実行速度が10MHzを超えるもの、を含む。概念的には、プロトコルは、上で概説したように、「ローディング」段階と「リリース」段階に分けられる。前者では、入力(レーザ)パルスは、電気光学変調器(ポッケルスセル)がオフに維持されている間、次第に増大し、ほぼ反復するジオメトリを通過する。後者では、電気光学変調器(ポッケルスセル)がオンになり、すべてのパルス偏光を直交状態に反転させ、ここでそれらを反復的なジオメトリから解放させ、代わりに異なる同期軌道で各々デバイスを出ることができる。
【0084】
本開示によるデバイスでは、N個のパルス、既存の代替品では典型的にはN-1個の能動素子、を単一の能動素子にまで多重分離するために必要な能動素子の数が削減される。多重分離できるモードの数は概念的に任意であり、実際には使用中の光学素子の有限の開口によってのみ制限される。ここで提示されたアプローチでは、典型的に高価な高電圧増幅器とドライバ、複屈折結晶、及び複雑なマルチパルス電子機器がすべて各ケースの1つにまで削減されるため、価格、フットプリントのサイズが削減され、及び実装が容易になる。適切な明瞭な開口部があれば、ここで説明する実装例に従ったデマルチプレクサは、常に同じフットプリントサイズを占有しながら、数十の出力を多重分離するように構成することができる。
【0085】
以上に概説した処理このように、デマルチプレクサの重要な用途は、光量子情報処理のための多光子源の構築であるが、他の用途も可能であり、当業者には理解されるだろう。この点に関しては、量子状態の調整を含む特定の順序でのもつれ状態の操作と測定によって、計算プロセスを特定の複雑なもつれ状態に符号化することによって、量子計算を達成することができるであろう。測定に基づく量子計算は、高度にもつれたクラスタ状態に基づいて量子計算されるリソース状態である。計算自体は、クラスタ状態から隣接する量子ビットを継続的に測定することによって達成される場合がある。測定の順序は、測定デバイスとともに、任意の単一量子ビット及び2量子ビット(又は複数量子ビット)操作を効果的に実装することによって、汎用的な量子計算のためのコンピュータシステムを定義する場合がある。
【0086】
他の多くの効果的な代替手段が当業者に発生することは間違いない。本発明は、記載された実施形態に限定されるものではなく、当業者に明らかであり、本願明細書に添付された請求の範囲内にある変更を含むことが理解されるであろう。
【国際調査報告】