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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-01
(54)【発明の名称】中性子束生成装置用の部品
(51)【国際特許分類】
   G21B 1/13 20060101AFI20240423BHJP
   C22C 27/04 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
G21B1/13
C22C27/04 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564632
(86)(22)【出願日】2022-04-22
(85)【翻訳文提出日】2023-10-20
(86)【国際出願番号】 EP2022060755
(87)【国際公開番号】W WO2022223811
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】2105750.0
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523288204
【氏名又は名称】オックスフォード シグマ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】デービス・トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ロイド・マシュー
(57)【要約】
核融合炉などの中性子束生成装置用の部品の新しい材料組成、設計及び構成、並びに前記新しい部品の製造方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子束生成装置用の部品(300、400、500)であって、
天然タングステンの支持部を備える第1のセクションと、
中性子束に近接し、比較的軽いタングステン同位体の割合が天然タングステンより大きい同位体濃縮タングステン(300、410、510)の第2のセクションとを備える、部品(300、400、500)。
【請求項2】
前記第2のセクションは、同位体濃縮度のレベルが前記部品の深さに伴って減少する、請求項1に記載の部品。
【請求項3】
前記支持部(420、520)は、
フェライト系鋼、
オーステナイト系鋼、
酸化物分散強化鋼、
グラファイト又は他の炭素系材料、
天然又は同位体濃縮モリブデン、
チタン-ジルコニウム-モリブデン(TZM)、
タンタル系合金、
銅-クロム-ジルコニウム(CuCrZr)又は他の銅系合金、又は
ベリリウムのうちの1つを更に備える、請求項1に記載の部品(400、500)。
【請求項4】
液体、気体又は溶融塩が流れるための少なくとも1つの導管(320、420、520)を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の部品(300、400、500)。
【請求項5】
前記少なくとも1つの導管(320、420、520)は、
前記同位体濃縮タングステンも含む外層(340、440、540)と、
液体又は気体又は溶融塩に対して非透過性の材料を含む内層(350、450、550)とを備える、請求項4に記載の部品(300、400、500)。
【請求項6】
前記内層(350、450、550)は、
銅-クロム-ジルコニウム(CuCrZr)、又は他の銅系合金、
フェライト系鋼、
オーステナイト系鋼、
ジルコニウム系合金、
酸化物分散強度鋼、
同位体濃縮タングステン、
天然又は同位体濃縮モリブデン、
チタン-ジルコニウム-モリブデン(TZM)、又は
ニッケル系合金のうちの1つを含む、請求項5に記載の部品(300、400、500)。
【請求項7】
前記内層はセラミックコーティングを含む、請求項6に記載の部品(300、400、500)。
【請求項8】
前記セラミックコーティングは、
酸化アルミニウム、又は
酸化クロムを含む、請求項7に記載の部品(300、400、500)。
【請求項9】
天然タングステンは、
26~28重量%のタングステン-182、
13~15重量%のタングステン-183、
30~32重量%のタングステン-184、及び
27~29重量%のタングステン-186を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の部品。
【請求項10】
前記同位体濃縮タングステンは、原子量184以下のタングステンで濃縮される、請求項1~9のいずれか1項に記載の部品(300、400、500)。
【請求項11】
前記同位体濃縮タングステンは、タングステン-182、タングステン-183、又はそれらの組み合わせで更に濃縮される、請求項10に記載の部品(300、400、500)。
【請求項12】
前記同位体濃縮タングステンは、重量%で、
割合が自然存在割合より大きいタングステン-182と、
割合が自然存在割合より大きいタングステン-183とを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の部品(300、400、500)。
【請求項13】
前記同位体濃縮タングステンは、重量%で、割合が自然存在比率より大きいタングステン-182を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の部品(300、400、500)。
【請求項14】
前記第1のセクション及び/又は前記導管外層は、厚さが少なくとも100nmである、請求項1~13のいずれか1項に記載の部品(300、400、500)。
【請求項15】
前記第1のセクションは、厚さが100nm~20cmである、請求項1~14のいずれか1項に記載の部品(300、400、500)。
【請求項16】
前記第1のセクションは、厚さが1μm~10cmである、請求項1~15のいずれか1項に記載の部品(300、400、500)。
【請求項17】
前記外層は、厚さが500μm~5cmである、請求項1~16のいずれか1項に記載の部品(300、400、500)。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の部品(300、400、500)を備える核融合炉用ダイバータ。
【請求項19】
核融合炉用の核融合増殖材ブランケットであって、
第1壁を備え、
前記第1壁は請求項1~18のいずれか1項に記載の部品(300、400、500)である、核融合増殖材ブランケット。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載の部品(300、400、500)を備える、核融合炉用の第1壁部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核融合炉などの中性子束生成装置に用いられる部品の材料構成及び設計に関する。
【背景技術】
【0002】
より環境に優しく、よりクリーンなエネルギーへの需要が高まるにつれ、エネルギー分野では核融合エネルギー技術への関心が高まっている。核融合とは、2つの原子核がクーロン斥力に打ち勝って融合する物理反応である。核融合エネルギー技術は、水素の2つの同位体の融合においてこの基本的な核反応を利用する。
【0003】
水素は既知の化学元素の中で最も軽く、宇宙に最も豊富に存在する化学物質であり、全バリオン質量の約75%を占めている。水素には、プロチウム(P)、デューテリウム(D)及びトリチウム(T)という3つの天然同位体がある。水素の最も一般的な同位体であるPは、1つの陽子を有し、中性子を有さず、地球の海洋に自然に存在する水素の99.98%以上を占めている。デューテリウムとして知られるDは、1つの陽子と1つの中性子とを有し、地球の海洋には、水素6420個中、約1個の原子が自然に存在しており、海洋に自然に存在する全水素の約0.02%(0.03質量%)を占めている。Tは水素の希少な放射性同位体であり、1つの陽子と2つの中性子とを有する。自然に存在するトリチウムは地球上で非常にまれである。大気には、大気ガスと宇宙線との相互作用によって生成される、極わずかな量しか含まれない。核融合エネルギー技術は、DとTとのプラズマの核融合を利用している。核融合反応は、D及びT以外に、プロトン及びホウ素-11、又はDとHe-3などの材料を使用して行ってもよい。
【0004】
磁場閉じ込め核融合では、D-Tプラズマが限界温度(>50,000,000℃)で融合し、高エネルギーの中性子とヘリウム原子核とを放出する。D-Tの核融合によって生成される17.6MeVのエネルギーの約80%は、放出された中性子によって獲得される。この反応は次の方程式に纏められる。
【0005】
【数1】
【0006】
磁気ミラー、Z-ピンチ、ステラレータ、トカマクなど、多くの磁場閉じ込め型D-Tプラズマ核融合装置が長年にわたって研究及び開発されてきた。現在まで、D-T核融合には、強力な磁場を用いて高温のD-Tプラズマをトーラス状に閉じ込めるトカマク装置が最も一般的に使用されている。
【0007】
最も先進的なトカマクの設計には、欧州トーラス共同研究施設(Joint European Torus)やITERに用いられる「D字型トカマク(従来型トカマクとも呼ばれる)、及びトーラスの内半径を最小化する球形トカマクがある。球形トカマクはアスペクト比がA<2.5である。ここで、アスペクト比Aは、トーラスの短半径に対する長半径の比として定義される。トカマクの典型的な特徴として、高いプラズマ電流、大きなプラズマ体積、プラズマの起動及び加熱のための補助加熱、従来型磁石又は超伝導磁石によって供給される強力なトロイダル磁場が挙げられる。核融合発電の条件として、トカマク装置には、長い閉じ込め時間、高いプラズマ密度、自続融合が可能な高い温度が必要である。
【0008】
図1は、例示のみを目的として、トロイダルトカマク核融合炉100の断面図を示している。トカマク型核融合炉の断面図には、真空チャンバと呼ばれる中空中央部110と、トカマクの内面を覆う増殖ブランケットタイル130の前壁120や、真空容器の底部に位置するダイバータ140などの複数の構成部品とが示されている。
【0009】
以下、前壁120やダイバータ140などの構成部品について説明する。
【0010】
増殖ブランケットタイル130は、核融合炉で使用するトリチウムを増殖するための装置であり、通常、D-T核融合反応中に放出される中性子に曝されるリチウム含有材料を含む。増殖ブランケットのもう一つの機能は、中性子加熱によって中性子から放出されるエネルギーを抽出して、熱-蒸気タービンサイクルによって発電することである。
【0011】
増殖ブランケットタイル130の前壁120は、核融合炉の核融合プラズマを核融合増殖ブランケットタイル130の内部の部品から隔離する壁である。前壁120は、中性子透過可能な材料から形成され、これにより、中性子束は核融合プラズマから核融合増殖ブランケットタイル130を通過し易くなる。
【0012】
ダイバータ140(ダイバータ部品としても知られる)は、トカマク内において、原子炉の運転中にヘリウム、未燃のトリチウムやデューテリウム、構造材料の不純物などの廃棄物をプラズマから除去する装置である。これにより、燃料中の核融合生成物の蓄積を制御し、プラズマに混入した不純物を除去することができる。
【0013】
商用発電の場合、核融合炉は定常状態で運転する必要があるため、トカマク内の部品は、プラズマ、及び核融合反応によって生成される中性子により生じた中性子衝撃により、極端なレベルの熱流束(5~20MW/m2)を受けることになる。従って、これらの部品は、高い融点と優れた高温時機械的特性とを備えた材料で形成されなければならない。
【0014】
高熱流束への曝露及び中性子照射損傷の問題は、ダイバータカセット及び増殖ブランケットだけでなく、核融合炉のすべての構成部品に関連する課題である。
【0015】
中性子反射材及び/又は減速材(減速とは、材料との非弾性衝突によって中性子のエネルギーを減速させる動作)で部品を冷却すると、放射線による損傷の割合が増加する可能性がある独特の現象が発生する可能性がある。例えば、部品が水や水素化物質(メタンなど)で冷却されると、中性子エネルギーが減速(即ち、減少)され、中性子の一部が構造材料へ反射されることにより、放射線損傷が増加する。
【0016】
従って、中性子束が高い領域の部品に使用される材料は少なくとも、高い融点(>1500℃)、高い熱伝導率(>50W/m/K)、高いプラズマスパッタリング閾値、良好な高温動作ウィンドウ、及び放射線損傷に対する優れた耐性という要件を満たさなければならない。また、この材料は高濃度の核廃棄物を生成してはならない。いくつかの材料がこれらの基準に適合している。例えば、タングステン、モリブデン、炭素、クロム、タンタルなどが挙げられる。しかし、炭素はトリチウムをよく保持し、タンタルは非常に高価であり、クロムは部品の動作温度で再結晶し、モリブデンは著しく放射化する可能性があるため、タングステンが部品の基材として望ましい。
【0017】
説明のみを目的として、図2に原子炉のそのような部品の1つを詳細に示している。図2には、ダイバータの一例が示されており、ダイバータは、出口パイプ210及び入口パイプ220を取り囲む、例えばステンレス鋼製の支持構造(図示せず)を備える。支持構造及び/又は出口パイプ210及び入口パイプ220の上部には、内側垂直ターゲット230と、外側垂直ターゲット240と、「ドーム」と呼ばれる中央部分250という3つの部品がある。ダイバータ部品は、燃焼物、未燃焼物及び不純物をプラズマから排出するものである。ダイバータは、プラズマ制御、物理評価及び最適化のための多数の検出部品を管理してもよい。内側垂直ターゲット230及び外側垂直ターゲット240は、それぞれプラズマ粒子の衝撃が特に強くなる磁力線の交点に配置される。高エネルギーのプラズマ粒子が垂直ターゲット230、240に衝突すると、その運動エネルギーは熱に変換される。この熱は、部品を能動的に冷却によって除去することができる。従って、ダイバータは、動作中にプラズマから熱及び廃棄物を除去するという二重の機能を提供する。
【0018】
ダイバータの構成部品である内側垂直ターゲット230及び外側垂直ターゲット240は、~5-10MW/m2(定常状態)、20~MW/m2(低速過渡状態)、及び20MW/m2超(エッジローカルモード(Edge Localized Mode(ELM))の崩壊時)の推定熱流束を受ける(商用発電炉構成の場合)。従って、内側垂直ターゲット230及び外側垂直ターゲット230は、タングステンなどの高融点の材料から形成されなければならない。
【0019】
希少金属元素であるタングステン(ウォルフラム、Wとも呼ばれる)は、純粋な状態では最高融点(3,422℃、6,192°F)、最低蒸気圧(1,650℃、3,000°F以上の温度)を持ち、高い引張強度を有する。地球上に天然に存在するWは、ほぼ、W-182(26.50%)、W-183(14.31%)、W-184(30.64%)及びW-186(28.43%)という4つの安定同位体と、非常に長寿命の放射性同位体、W-180(0.12%)[W-180の半減期は(1.8±0.2)×l018年]とのみである。
【0020】
未照射の金属多結晶タングステンは、核融合エネルギーが部品に与える構造的・機能的な課題に対応できると思われる。しかし、中性子照射が構造材料や機能材料に深刻な損傷を与えることは、原子力材料の分野ではよく知られており、安全上の懸念材料となっている。
【0021】
残念なことに、Wは融点が高く熱伝導率が高いという利点があるにもかかわらず、プラズマ対向部品やその他の部品に使用される場合、高い中性子束(及びフルエンス)に曝される。このため、例えば、体積変化(膨潤)、降伏応力/硬度の増加(脆化とも呼ばれる)、耐クリープ性の低下、延性の著しい低下、熱的特性(熱伝導率など)の低下、環境による亀裂の発生し易さの増加などが生じる。
【0022】
核変換とは、核プロセスによってある元素を別の元素に変換する(及び、ある同位体を別の元素に変換する)方法である。特にWの場合、核変換の中性子断面積(特定の核反応の確率の基本単位である中性子吸収としても知られる)は、核融合中性子の場合に十分に高く(主にタングステン共鳴領域及び核融合中性子のフルエンス/束に起因する)、化学的挙動や物理的特性の変化につながる大量の核変換を引き起こすことにより、最終的に核融合炉内のW成分の貯蔵寿命が制限されてしまう。
【0023】
この分野の最近の研究では、Wにおける核変換効果がWの機械的及び熱物理的特性の劣化の主な原因であると示している。また、Wの機械的及び熱物理的特性は、中性子の衝突に起因する転位、転位ループ、及び空隙形成の影響を受ける。核変換は、中性子照射下で発生する物質の化学組成を変化させる核プロセスの組み合わせである。Wにおける核変換効果として、一連の中性子吸収(n、ガンマ)又は中性子損失反応(n、2n)/(n、3n)によるW内の元素の形成、及びそれに続くベータ(b)崩壊が含まれる。これらの中性子相互作用中に生成される同位体は不安定であるため、崩壊する場合が多い。Wはこのプロセスにより、主にW、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、及びタンタル(Ta)の同位体が形成されると共に、主要な核変換体であるReも形成される。
【0024】
以下は、このような核変換効果をもたらす中性子吸収プロセスの一例である。
【0025】
【数2】
【0026】
【数3】
【0027】
以下は、このような核変換効果をもたらす中性子損失プロセスの一例である。
【0028】
【数4】
【0029】
当業者であれば、前壁120及びダイバータ140に対する高中性子束の影響に関する上記の検討は、それらの特定の部品に限定されず、中性子束に近接する装置内のすべての部品に同様に適用されることを理解するであろう。例えば、装置内の部品は、ネジ、ナット、ボルト、バネなどの機械部品であり得る。或いは、部品はストラット、フレーム、バッフル、支持構造などの構造部品であり得る。
【0030】
平井他は、「Use of tungsten material for the ITER divertor」(Nuclear Materials and Energy,Vol.9,pp.616-622(2016))と題された論文において、Wベースのモノブロックを備えるダイバータ設計を含む、ITERダイバータ設計におけるWの使用について論じている。
【0031】
Gilbert他は、「Spatial heterogeneity of tungsten transmutation in a fusion device」(Nucl.Fusion誌、57,044002,(2017))と題された論文において、中性子照射下でのWの核変換率と、水冷モノブロックにおける中性子の反射及び減速とを正確に定量化する方法について論じている。
【0032】
Gilbert及びSubletは、「Handbook of activation, transmutation, and radiation damage properties of the elements simulated using FISPACT-II &TENDL-2015; Magnetic Fusion Plants」(Culham Centre for Fusion Energy出版(2016))で核変換反応経路について論じている。
【0033】
Lloyd他は、「Decoration of voids with rhenium and osmium transmutation products in neutron irradiated single crystal tungsten」(Scripta Materialia出版,Vol.173,pp.96-100,(2019))と題された論文で、タングステンにおける核変換の影響と、その機械的及び熱物理学的特性の劣化への影響とについて論じている。
【0034】
中性子束生成装置のための新たな材料設計及び構成により、Wの核変換によるRe/Osの生成が大幅に減少し、使用後の全体的な放射能インベントリが減少し、動作中の機械的特性の劣化速度が減少し、構造破損のリスクが軽減し、そのような部品の耐用年数が延長される(これにより、発電所全体の稼働率が向上する)。新しい設計はタイル構造を備えており、増殖ブランケットの第1壁やダイバータなど、高中性子束に曝される任意の部品であり、核融合炉などの装置の全体的な機能を改善し、部品の寿命を延長することが想定される)。
【0035】
以下、図を参照しながら、本発明の様々な実施形態及び態様をについて説明するが、本発明はこれに限定されない。
【発明の概要】
【0036】
本発明の第1の態様によれば、中性子束生成装置用部品が提供される。
【0037】
該部品は、中性子束に近接し、天然タングステンよりも比較的軽いタングステン同位体を多く含む同位体濃縮タングステンを備える。
【0038】
該部品は、前記中性子束から離れ、前記同位体濃縮タングステンを支持する支持部を更に備えてもよい。
【0039】
該部品は、液体、気体、又は溶融塩を流すための導管を更に備えてもよい。該導管は、例えば、水や水素/炭素含有ガスなどのよく減速/反射する冷却材である場合、それ自体が反射され減速された中性子束の供給源となり得る。
【0040】
該導管は、前記同位体濃縮タングステンを含む外層と、液体、ガス、又は溶融塩に対して非透過性の材料を含む内層とを備えてもよい。
【0041】
本発明は、核変換によるRe/Osの生成率、及び部品への機械的損傷を低減することにより、動作中の部品の長寿化を実現する。また、本発明は、放射性廃棄物の発生の低減、処分時の毒性及び放射性毒性の低減、及び動作中及び動作後の安全性の向上(換言すれば、故障率の低減)も実現する。
【0042】
同位体濃縮タングステン及び天然タングステン(及びその他の材料系)の組み合わせと複数の冷却オプションとを合わせて使用することで、複数の部品構成が想定される。これらの部品は、核融合プラズマに直接面する部品(プラズマ対向部材(plasma-facing component:PFC)又は第1壁タイル)のように、高い中性子束、極端な熱流束、及びプラズマ浸食を受ける部品である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1図1は、PFCを備えるトロイダル型トカマク型核融合炉の断面図である。
図2図2は、PFCを備えるダイバータの一例を示す図である。
図3】(a)は、核融合炉の単一のPFC又は他の部品の断面を示す簡略図であり、(b)は、複数のPFC同士が連なって、例えばダイバータ部品の内側垂直ターゲット及び/又は外側垂直ターゲットを形成している例を示す図である。
図4図4は、PFC設計の詳細を示す断面図である。
図5a図5aは、x-y平面における他のPFC設計の詳細を示す断面図である。
図5b図5bは、図5aに示すPFC設計のz-y平面における詳細を示す断面図である。
図6図6は、図3~5の部品を製造するためのイオン注入製造方法を示す図である。
図7図6は、図3~5の部品を製造するための粉末床溶融製法を示す図である。
図8図7は、図3~5の部品を製造するための溶融フィラメント製造装置を示す図である。
図9図8は、図3~5の部品を製造するための熱間静水圧加圧装置を示す図である。
図10図10は、図3~5の部品を製造するためのコールドスプレー装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図3aは、複数のPFCの一部を形成可能な単一の部品300の一例を示す断面図である。部品300は、例えば、図2に示すようなダイバータの内側垂直ターゲット及び/又は外側垂直ターゲットの一部を形成し得る。又は、第1壁タイル、例えば図1に140で示すような、増殖ブランケットの第1壁タイルを形成し得る。或いは、部品300及び/又は複数のそのような部品は、核融合炉内において任意の位置に配置されてもよく、或いは、プラズマや中性子源が存在する(核分裂炉、中性子増倍材料、又は中性子散乱材料など)核融合炉の部品に使用されてもよく、又はそれに取り付けられてもよい。
【0045】
部品300は、中性子束に近接(例えば、プラズマ対向)し、比較的軽いタングステンの同位体の割合が天然Wよりも大きい同位体濃縮Wを備える。つまり、同位体濃縮Wは天然Wよりも軽い。特に、同位体濃縮Wは、W-186が枯渇し、残りの組成物がW-180、W-182、W-183、及びW184を含むものであり得る。
【0046】
部品300は、同位体濃縮度が部品の深さに伴って減少する複数の層を有してもよい。該部品は、一方の層(例えば、片面)が、比較的軽度に濃縮されたタングステン又は天然タングステンから形成され、中性子束に近い反対側の層が、比較的重度の同位体濃縮タングステンから形成されていてもよい。例えば、部品の片側は、高濃縮タングステンを含む部品の反対側を支持することができる天然タングステンの層を含んでいてもよい。その間にはさまざまな濃縮レベルのタングステンが介在してもよい。つまり、部品の同位体濃縮度は、最も濃縮度の高い層から深さに伴って減少してもよい。
【0047】
各部品は、液体、気体、又は溶融塩が流れる少なくとも1つの導管320を備えていてもよい。液体としては、例えば、水、ナトリウム、鉛、鉛-リチウム混合物などが挙げられる。気体としては、例えば、ヘリウム、メタン、二酸化炭素、水素(及びそれらの同位体、例えばデューテリウム)などが挙げられる。溶融塩としては、Li2FBe4、NaCl、KC1などが挙げられる。以下、導管320を流れる物質を「流体」という。
【0048】
図3bは、複数の部品300の断面図である。複数の部品300は、各部品300の少なくとも1つの導管320が重なり合うよう互いに連なり、流体が流れる1つの長い導管を形成している。
【0049】
或いは、少なくとも1つの導管320は、各部品にパイプ構造が挿入される開口部を備えていてもよい。
【0050】
或いは、少なくとも1つの導管320は、各部品に、パイプ構造と一体的に形成された開口部を備えていてもよい。例えば、パイプ構造は、部品の製造中に部品内に形成されてもよい。複数の部品が互いに連なると、部品内のパイプ構造は1つのパイプ構造を形成する。
【0051】
少なくとも1つの導管320及び/又は少なくとも1つの導管に挿入されたパイプ構造又は部品の開口部と一体的に形成されたパイプ構造は、外層340及び内層350を備えてもよい。
【0052】
外層340は同位体濃縮Wを含んでいてもよく、内層350は導管内の流体に対して非透過性の材料を含んでいてもよい。
【0053】
図4は、部品400の設計の詳細を示す断面図である。部品400は、ダイバータの内側垂直ターゲット及び外側垂直ターゲット、又は第1壁タイルを形成することができる。或いは、部品は核融合炉のプラズマ対向部品であってもよい。部品400は、中性子束に近接し、天然Wよりも軽い同位体である同位体濃縮W410を含む。部品400は、プラズマ核融合炉によって生成される中性子束から離れ、部品400を支持するための支持部420を更に備える。
【0054】
部品400の支持部420は、Wの固形ブロックを含んでもよく、天然Wは、Wの天然同位体の存在量を有する。特に、部品400の第1のセクション410は、1重量%未満のW-180と、約26~28重量%のW-182と、13~15重量%のW-183と、30~32重量%のW-184と、27~29重量%のW-186とを含む。範囲を設けているのは、天然タングステンの同位体の組成が、地球上の採掘場所によって異なる可能性があるからである。
【0055】
部品400は、同位体濃縮度が部品の深さに伴って減少する複数の層から形成されてもよい。部品の片側が天然タングステンで形成され、反対側が高濃度の同位体濃縮タングステンで形成されてもよい。例えば、部品の支持部を備える第1のセクションが天然タングステンを含み、第1のセクションの上部にある第2のセクションが同位体濃縮タングステン層を備えてもよい。これにより、第2のセクションに備えられる層の濃縮レベルは、第2のセクションの深さに伴って減少することができる。
【0056】
或いは、部品400の支持部420は、フェライト系鋼、オーステナイト系鋼、酸化物分散強度鋼、グラファイトなどの炭素系材料、天然又は同位体濃縮モリブデン(Mo)などの耐火金属、W、タンタル(Ta)、チタン-ジルコニウム-モリブデン(TZM)などの耐火金属からなる合金、Ta系合金、又はベリリウム(Be)などの部品製造の総コストを削減する他の適切な材料を含んでもよい。
【0057】
部品400の同位体濃縮W410は、W-186が枯渇し、残りの組成はW-180、W-182、W-183、及びW-184を含む。例えば、同位体濃縮Wは、W-180、W-181、W-182、W-184又はW-183で濃縮されていてもよい。
【0058】
好ましくは、部品400の同位体濃縮W410は、W-182、W-183、又はそれらの組み合わせを含む。部品400の同位体濃縮W410は、W-186を除去する必要がある。
【0059】
部品400の同位体濃縮Wは、好ましくは、重量%で、自然存在割合より多い(好ましくは、28重量%のW-182より多い)W-182、自然存在割合より多い(好ましくは、15重量%のW-183より多い)W-183、又はそれらの組み合わせを含む。濃縮される場合、W-182は少なくとも42%(好ましくは、少なくとも60%)に濃縮され、及び/又はW-183は少なくとも23%(好ましくは、少なくとも30%)に濃縮される。
【0060】
部品400の同位体濃縮Wは、重量%で、少なくとも自然存在割合より多いW-182を含んでいてもよい。
【0061】
部品400の同位体濃縮W410は、厚さ(a)が少なくとも100nmである。好ましくは、同位体濃縮W410の厚さ(a)は100nm~20cmである。より好ましくは、同位体濃縮W420の厚さ(a)は1μm~10cmである。
【0062】
第1壁又はダイバータ領域に組み立てる場合、PFC400のプラズマ対向の同位体濃縮W410を傾ける(~0.5°)ことにより、表面の位置ずれ(μm~mm)を防ぐことができる。これは、タイル構造へのプラズマ衝突による局所的なホットスポットを減らすためである。全ての開示された設計には、必要に応じて、このような特徴が含まれる。
【0063】
有利なことに、W-186の除去は、核変換によるRe及びOsの同位体生成を抑制する。Re及びOsの元素は、動作中にW金属の化学的及び物理的特性を著しく劣化させる。バルク材料からW-186の量を減らすことによって、核変換によるRe及びOsの生成が抑制される。
【0064】
有利なことに、機械的特性と熱物理的特性とが核変換レベルに関連しているため、Re及びOsの核変換生成物の除去は、天然Wに比べ、劣化の速度が遅く、動作中の部品の寿命が延長される。これにより、操作上の安全性が高められ、故障率が減少し、部品の性能が向上する。また、部品の交換の必要性が減少するため、プラント全体の稼働率が向上する。
【0065】
さらなる利点として、W-186の除去により、動作中における熱拡散率や熱伝導率などの熱物理的特性の劣化が低減される。これらの特性は、例えば第1壁部品の動作に不可欠なものである。それは、部品から冷却水に熱流束を伝導させることが第1壁部品の主な役割の1つであるためである。
【0066】
さらなる利点は、W-186の除去により、特定の質量あたりの中性子放射化プロセスから生成される長期放射能レベルが低下することである。これにより、核融合炉が生み出す放射性廃棄物の負担が軽減される。
【0067】
さらなる利点は、W-186及びW-187の除去により、Re-186、Re-186、W-187、Re-184などの高放射性同位体が部品内に存在しなくなるか、核変換によって形成されなくなるため、放射性崩壊(W/kg)によって発生する熱が減少することである。これらの高放射性同位体が除去されると、放射性崩壊によって発生する比熱出力が減少し(W/kg)、比放射能も減少(Bq/kg)する。また、ガンマ線量率が減少する(主にW-187及びRe-186によるガンマ線量率)。
【0068】
さらなる利点は、(放射性)Osを除去することで、この元素とその関連化合物とに関連する放射毒性、毒性、危険性を低減/除去できることである。例えば、真空喪失事故の場合、侵入した酸素が放射性Os(W及びReの核変換によって生成される)と反応して、揮発性の四酸化オスミウムを形成する。
【0069】
さらなる利点は、同位体濃縮Wは、天然Wに比べて中性子に対してより透明になる(即ち、より多くの中性子集団が材料を通過する)ことである。このため、本発明を増殖ブランケットの第1壁タイルとして使用した場合、増殖ブランケット内のトリチウム増殖比を高めることができる。
【0070】
或いは、プラズマ405に近接する部品400の同位体濃縮W410は、表面層に、酸素が侵入する真空喪失事故での耐酸化性のためのイットリウム含有Wを有する濃縮Wの固形ブロックを備える。特に、酸化濃縮Wは、W-(10-14Cr)-(0.25-1Y)[wt%]のようなイットリウム(Y)及びクロム(Cr)を含む合金を含んでいてもよい。
【0071】
有利なことに、Y及びCrの使用により、酸素が侵入する真空喪失事故の際、Wよりも酸化物を優先的に形成する。三酸化タングステンの生成を抑制することは有利である。該化合物は人体に有害であり、核融合環境では放射性であり、数kg/hrの速度で酸化するからである。
【0072】
部品は、動作中にタイルを冷却するための流体が流れる少なくとも1つの導管430を含んでもよい。図4に示す導管430は円形である。しかし、その形状は例示的なものに過ぎない。導管430の形状としては、正方形の導管や長方形の導管など、他の形状の導管も考えられる。冷却管に渦巻管テープを使用して、冷却剤の熱伝達係数を高めることができる。また、図4に示す導管430は、部品の支持部420の中央にある。しかし、支持部420における導管430の位置は、例示的なものに過ぎない。導管420の、部品400の支持部420における位置は任意である。或いは、導管430は、部品400の同位体濃縮W410内に位置してもよい。図4には1つの導管のみを示しているが、最適な冷却のために、多数の導管を含んでもよい。
【0073】
導管430は、外層440と内層450とを備える。
【0074】
外層440は同位体濃縮Wを含む。外層の同位体濃縮Wは、部品400のプラズマ対向同位体濃縮W410と同一であってもよい。
【0075】
導管430の外層440の厚さは500μm~5cmである。
【0076】
内層450は、導管内の流体に対して非透過性の材料を含む。例えば、導管430内の流体が水である場合、内層450は、銅系合金(銅-クロム-ジルコニウム、CuCrZrなど)、ジルコニウム系合金、フェライト系鋼、オーステナイト系鋼、酸化物分散強化鋼、ニッケル系合金、又はそれらの組み合わせなどの金属合金を含んでいてもよい。
【0077】
或いは、導管430内の流体は、液体ナトリウム、鉛、鉛リチウム合金、又は気体(ヘリウム、メタン、二酸化炭素、又は水素(存在可能なあらゆる同位体を含む)、或いは溶融塩(Li2BeF4、NaCl、KC1など)であってもよい。
【0078】
溶融塩冷却材を使用する場合、Mo、TZM合金、天然W、同位体濃縮W、ニッケル系合金、又は鋼などの難燃材料を冷却材に面して使用することが好ましい。
【0079】
当業者であれば、導管430に多種多様な流体が流れ得ること、及び内層450がその流体に対して非透過性の既知の材料から選択される材料を含むことは、理解されるであろう。この材料は、単一の既知の材料であってもよく、既知の材料の組み合わせであってもよい。
【0080】
内層450は、水素ガスの透過(溶融塩又は鉛-リチウム液体合金におけるトリチウムの生成など)や、腐食を低減するために、酸化アルミニウム(III)などの酸化物コーティングを更に含んでもよい。
【0081】
図5aは、x-y平面における別のPFC500の詳細を示す断面図である。PFC500は、プラズマ対向同位体濃縮W510と、プラズマ核融合炉から発生する中性子束から離れた支持部520とを備える。PFC500は寸法が部品400と同一であってもよい。
【0082】
PFC500の支持部520は、部品400の支持部420と同一であってもよい。例えば、支持部520は、支持部420と同一の材料で構成され得る。
【0083】
PFC500のプラズマ対向同位体濃縮W510は、部品400のプラズマ対向同位体濃縮W410と同一であってもよい。例えば、プラズマ対向同位体濃縮W510は、同位体濃縮W410と同一の組成を有していてもよい。プラズマ対向同位体濃縮W510は、厚さが同位体濃縮410と同一であってもよい。更に、プラズマ対向同位体濃縮W510は、同位体濃縮410と同じ利点を有する。
【0084】
PFC500も、動作中にタイルを冷却するための液体、気体、又は溶融塩(「流体」)が流れるための少なくとも1つの導管530を含んでもよい。図5に示す導管530は、PFCの支持部510内に位置し、支持部510のy方向に延伸している。しかし、導管530は、支持部510内で任意の方向に延伸してもよい。また、導管530の支持部510内における位置は、例示的なものに過ぎない。或いは、導管520は、プラズマ対向同位体濃縮W510内に配置されてもよく、プラズマ対向同位体濃縮W510及び支持部510内に配置されてもよい。
【0085】
支持部520内の各導管530は、図5に示すように、細長く、支持部510の厚みに沿って延伸し、「指状」導管を形成している。導管530は、互いに間隔をあけて配置されている。
【0086】
各導管530は、PFC400の導管430と同一の構成を有し、外層540と内層550とを備える。外層540及び内層550は、外層440及び内層450と同一の材料から構成されてもよい。外層540及び内層550は、厚さが外層440及び内層450と同一であってもよい。
【0087】
導管530は、導管間の流体が流れるように、互いに接続されていてもよい。例えば、導管を対で接続して一連の「U」字型導管を形成してもよい。或いは、導管同士を接続して1つの長い「蛇」のような導管を形成してもよい。或いは、導管は、迷路や迷宮のような三次元(3D)アレイを形成するように、x-y平面とは異なる平面にある導管に接続されてもよい。当業者であれば、部品内の導管は、流体が流れ得る様々な構造であり得ることを理解するであろう。導管は冷却の最適化に基づいて構成される。
【0088】
図5bは、PFC500の導管の上記のような構成の一例をx-z平面で示す図である。図5bの例では、複数対の導管530が、流体が流れるように、複数対の「U」字型導管に接続されている。複数対の導管530は、3次元における導管に更に接続されて、導管の迷路又は迷宮のような3次元(3D)アレイを形成することもできる。しかし、当業者であれば、図5bの導管の構成及び接続方法は一例に過ぎず、他の構成も使用可能であることを理解するであろう。
【0089】
当業者であれば、部品400及び500は、中性子束生成装置の部品の一例であり、網羅的なものではないことを理解できるであろう。中性子束生成装置の部品は、いずれも、同位体濃縮Wを使用して上記の方法で設計及び構成する必要がある場合がある。例えば、部品はネジ、ナット、ボルト、バネなどの機械部品であってもよい。或いは、部品は、ストラット、フレーム、バッフル、支持構造などの構造部品であってもよい。
【0090】
以下、上記の部品のいくつかの製造/構築方法について説明する。
【0091】
イオン注入
【0092】
図6は、材料の表面にイオンを注入して図3~5の部品を製造するためのイオン注入装置を示す図である。イオン注入法は、材料の表面に別の物質を含浸させるために使用できる。
【0093】
一例として、図6は、例えばペレトロン620(ペレトロンは静電粒子加速器の一種)の片側に天然WがあるWのブロック610を示している。また、W-183などのWの多くの同位体のうちの一つで濃縮された濃縮Wの供給源630も設けられている。濃縮Wの供給源630は、例えばスパッタリングイオン源としての天然W金属粉末、又は濃縮W粉末(後者は、所望の同位体のスパッタリング収率を増加させる)であってもよい。供給源630は他の構成であってもよい。
【0094】
濃縮Wの供給源630は、例えばペレトロンにおけるWのブロック610とは反対側に設けられる。ペレトロンの動作中、濃縮Wの供給源630からの濃縮Wのビーム640は、一連の加速器静電磁石650を介して、Wのブロック610の表面に向けて照射される。濃縮Wのビームは、Wのブロック610の表面に衝突すると、Wのブロック610の表面に注入されて、Wのブロック610を例えばW-183で濃縮する。
【0095】
或いは、供給源620は、天然Wの供給源であってもよい。この例では、イオン加速部650の前にスイッチング磁石をペレトロンに設け、天然Wを形成する異なる同位体を分離する。
【0096】
分離されると、例えばW-183でWのブロック610を濃縮しようとする、Wの同位体は、一連の加速器磁石650を介してビーム640でブロック610に導かれる。一方、Wの他の同位体は、同一の一連の加速器磁石650を介して廃棄物回収装置に導かれる。これは、化学物質の異なる同位体は異なる化学質量を持ち、磁場中での軌道が異なるため実現できる。
【0097】
当業者であれば、図示されたもの以外の他のタイプの粒子加速装置を使用して、上記と同様のイオン注入プロセスを容易にできることを理解するであろう。更に、当業者であれば、部品の層接着と材料特性を最適化するために、フラックス、温度、及びポストアニーリングプロセスを制御する必要があることを理解するであろう。
【0098】
イオン注入による製造方法では、有利なことに、核融合プラズマからのプラズマ衝撃と共に最も高い中性子束が存在する浅い層における純粋な同位体濃縮が可能になる。また、濃縮部により、酸素が侵入する真空喪失事故の際に、Os核変換生成物と酸素との反応が抑制される(Osは人体に極めて有害なOs04を形成し、核融合環境では放射性物質でもある)。表面イオン注入法により、事故シナリオにおける天然WからのOs放出のリスクが大幅に低減される。
【0099】
粉末床溶融結合(Powder bed fusion:PBF)
【0100】
図7は、図3~5の部品を製造するためのPBF装置を示す図である。粉末床溶融結合とは、レーザーや電子ビームなどのエネルギー源を使用して、金属、セラミック、ポリマーなどの粒子材料を融合し、3次元(3D)オブジェクトを形成する積層造形(Additive Manufacturing:AM)プロセスである。一般的な技術として、選択的レーザー焼結(selective laser sintering:SLS)、選択的レーザー溶融(selective laser melting:SLM)、及び電子ビーム積層造形(Electron Beam Melting:EBM)などがある。PBFプロセスでは、予め形成された層の上に粉末材料を敷き、エネルギー源を使用して予め形成された層と融合させる。粉末材料を予め形成された層上に敷く機構は、ローラーやブレードなど、様々である。
【0101】
PBFは、3Dオブジェクトの形成に使用される使用中パウダーを保持及び保存するパウダープラットフォーム710と、3Dオブジェクトが形成されるビルドプラットフォーム720とを備える。パウダープラットフォーム710及びビルドプラットフォーム720は、いずれも、例えば各プラットフォームを必要に応じて昇降させることが可能なピストン(730a、730b)で動作する。
【0102】
溶融フィラメントの製造(Fused Filament Fabrication:FFF)
【0103】
図8は、図3~5の部品を製造するためのFFF装置を示す図である。溶融フィラメントの製造は、熱可塑性材料の連続フィラメントを使用する積層造形(AM)プロセスである。フィラメントは、移動する加熱されたプリンタ押出ヘッドによって大きなスプールから供給され、プラットフォーム810上に形成された造形中ワーク(部品)上に堆積される。
【0104】
図8に示すFFF装置は、加熱されたプリンタ押出ヘッド840のノズル830a、830bにそれぞれ接続された2つのスプール820a、820bを備える。一方のスプール820aは、加熱されたプリンタ押出ヘッド840の第1ノズル830aに接続された天然Wのスプールを備える。他方のスプール820bは、加熱されたプリンタ押出ヘッド830の第2ノズル830bに接続された同位体濃縮Wのスプールを備える。
【0105】
ノズルを備えた加熱されたプリンタ押出ヘッドが所定の形状でプラットフォーム上を移動すると、その時に製造中の部品のセクションに応じて、第1ノズル又は第2ノズルのいずれかから「ロード」と呼ばれる押出プラスチックの薄いビーズが堆積される。堆積された「ロード」は以前に堆積された基材の「ロード」と接触すると急速に固化する。
【0106】
完全な層が堆積されると、プラットフォームが下降し、次の層が堆積される。
【0107】
FFFを用いた部品の製造において、該部品は同位体Wの濃縮レベルを上げながら層ごとに構築されてもよい。これにより、部品の層は、同位体濃縮レベルが、部品の最も同位体濃縮された層から深さに伴って減少する。
【0108】
熱間等方圧加圧法(Hot isostatic pressing:HIP)
【0109】
図9は、図3~5の部品を製造するためのHIP装置を示す図である。HIPは、金属の気孔率を下げ、多くのセラミック材料の密度を上げるために使用される製造プロセスである。これにより、材料の機械的特性及び加工性が向上する。
【0110】
HIP製造において、部品910は、高圧格納容器940内で高温920及び等方性ガス圧力930の両方に曝される。使用される加圧ガスは、部品910を形成する材料が加圧ガスと化学反応しない不活性ガスである。最も広く使用されている加圧ガスはアルゴンであるが、化学的に不活性な他のガスも使用可能である(例えば、He)。
【0111】
HIPを使用して図3~5の部品を製造するには、圧粉体を備える部品910が使用される。圧粉体を高圧格納容器940に入れ、高温920及び等方性ガス圧力930の両方に曝して、完成部品を製造する。
【0112】
圧粉体は、粉末をプレスして幾何学的な形/形状/構成に圧縮する粉末プレス技術によって作られる固形部品である。圧粉体の強度は圧縮性に依存し、通常、手で分解できるが、優しく扱えるほどに十分な強度もある。
【0113】
HIPによる図3~5の部品の製造では圧粉体は、天然W及び濃縮Wの粉末が、部品の設計及び構成に従って分布されている。
【0114】
コールドスプレー
【0115】
図10は、図3~5の部品を製造するためのコールドスプレー装置を示す図である。該コールドスプレー装置は、通過するガスを押圧して圧縮するコンプレッサー1010を備える。使用するガスは、アルゴンやヘリウムなどの不活性ガスである。これにより、製造プロセスにおいて、ガスが他の物質と接触しても反応しない。
【0116】
一旦圧縮されると、冷たいガスストリーム1020は熱交換器1030を通過して加熱されることにより、加熱されたガスストリーム940になる。続いて、加熱されたガスストリーム1040は、2つの粉末貯蔵槽1060、1070に接続されたノズル1050を通過する。第1の粉末貯蔵槽1060は天然タングステンの粉末を収容し、第2の粉末貯蔵槽1070は濃縮タングステンの粉末を収容する。或いは、第1の粉末貯蔵槽1060は濃縮タングステンの粉末を収容し、第2の粉末貯蔵槽1070は天然タングステンの粉末を収容する。
【0117】
製造中、第1の粉末貯蔵槽1060及び第2の粉末貯蔵槽1070は、天然W又は濃縮Wのいずれかを、ノズルに、ひいては加熱ガス流の経路に供給するように作動する。加熱されたガスストリームは、ノズルに入った粉末を基板1080に吹き付ける。基板の材料は、フェライト鋼、オーステナイト鋼、酸化物分散強化鋼、ニッケル系合金、モリブデン系合金、又は銅系合金が挙げられる。作動中に、天然W及び濃縮Wのいずれをノズルへ供給するかは、切り替え機構(図示せず)によって制御することができる。ノズルを通過する熱風ストリームによって粉末が基板1080上に堆積されると、部品が造形される。
【0118】
図10のコールドスプレー装置は、装置の一例に過ぎない。当業者であれば、図10の装置が低圧コールドスプレー装置であることを理解するであろう。しかし、コールドスプレー装置は、高圧コールドスプレー装置として構成されてもよい。
【0119】
更に、当業者であれば、製造プロセス中に誘発される内部応力を軽減するために、コールドスプレーされたW部品にはポストアニーリングプロセスが必要であることを理解するであろう。
【0120】
特許請求の範囲は、上述の正確な構成及び部品に限定されないことを理解されたい。添付の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲から逸脱することなく、上記の第1壁及びダイバータ部品などの部品の配置、動作及び詳細、並びにその製造方法において、様々な修正、変更、及び変形を行うことができる。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】