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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-01
(54)【発明の名称】分析用HPLC
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20240423BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20240423BHJP
   G01N 30/34 20060101ALI20240423BHJP
   B01D 15/42 20060101ALI20240423BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20240423BHJP
   A61K 51/00 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
G01N30/88 C
G01N30/26 A
G01N30/34 E
B01D15/42
G01N30/86 J
A61K51/00 200
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565467
(86)(22)【出願日】2022-04-26
(85)【翻訳文提出日】2023-12-15
(86)【国際出願番号】 EP2022061004
(87)【国際公開番号】W WO2022229155
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】2105950.6
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】305040710
【氏名又は名称】ジーイー・ヘルスケア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100131990
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 玲恵
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,アラン
(72)【発明者】
【氏名】エンゲルブレヒト,ヘンドリック,ペトルス
(72)【発明者】
【氏名】グリッグ,ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】カーン,イムティアズ アハメド
(72)【発明者】
【氏名】ウィケネ,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】マクロビー,グレイム
【テーマコード(参考)】
4C085
4D017
【Fターム(参考)】
4C085HH07
4C085KA29
4C085KB20
4C085KB39
4C085KB56
4D017AA03
4D017BA04
4D017CA13
4D017CA14
4D017DA03
4D017EA05
4D017EB01
(57)【要約】
本発明は、陽電子放出断層撮影(PET)トレーサーを含む、[18F]で標識された化合物の合成に有用なHPLC分離方法に関する。本発明の方法は、遊離の[18F]フッ化物のニーズにより課される以前の方法の制約に対処する。本発明は、[18F]で標識された化合物の合成において遊離の[18F]フッ化物および化学的不純物の迅速な分離および分析を可能にする簡略化された方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆相HPLCを用いて放射性医薬品組成物の放射化学的純度および化学的不純物を分析する方法であって、前記放射性医薬品組成物が[18F]で標識された化合物またはその薬学的に許容される塩を含み、前記方法が、
(a)放射性医薬品組成物の試料をHPLCカラムに供給するステップであって、移動相が水、もしくは水および有機溶媒、または中性のpHバッファー、もしくは中性のpHバッファーおよび有機溶媒である、ステップと、続いて、
(b)酸変性剤、水および有機溶媒を含む異なる移動相を前記HPLCカラムに供給するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
ステップ(a)における前記移動相が、水および有機溶媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機溶媒が、アセトニトリルまたはメタノールから選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(a)および/またはステップ(b)の前記移動相が、1種以上の有機溶媒を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(a)およびステップ(b)において、1種以上の有機溶媒が同一である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(a)における有機溶媒の割合が10%~60%である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(b)における有機溶媒の割合が1%~100%である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
有機溶媒の割合が、ステップ(b)において勾配をもって増加する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(b)における有機溶媒の割合の増加が、段階的に行われるか、または連続的増加で行なわれる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(b)における酸変性剤の割合が、少なくとも0.1%である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(b)における前記酸変性剤が、トリフルオロ酢酸(TFA)、ギ酸、酢酸、リン酸、クエン酸、および1種以上の酸性リン酸バッファー、またはこれらの組合せから選択される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記放射性医薬品組成物がエタノールおよびシクロデキストリンをさらに含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記放射性医薬品組成物がアスコルビン酸をさらに含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(a)とステップ(b)の間の時間が少なくとも1秒間である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(a)とステップ(b)の間の時間が1秒間~5分間である、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(a)とステップ(b)の間の時間が5秒間~60秒間である、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(a)とステップ(b)の間の時間が0秒間である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
移動相Aにおけるバッファーの濃度が0.1~100mMである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記放射性医薬品組成物が陽電子放出断層撮影(PET)に使用される、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
放射性医薬品が[18F]FMAU(2’-デオキシ-2’-[18F]フルオロ-5-メチル-1-ベータ-D-アラビノフラノシルウラシル)、[18F]FMISO([18F]フルオロミソニダゾール)、[18F]FHBG(9-(4-[18F]-フルオロ-3-[ヒドロキシメチル]ブチル)グアニン)、[18F]AV-45、[18F]AV-19、[18F]AV-1、[18F]フルテメタモル、[18F]FES(フルオロエストラジオールF18)、[18F]フルルピリダズ、[18F]K5、[18F]HX4、[18F]W372、[18F]VM4-037、[18F]CP18、[18F]ML-10、[18F]T808、[18F]T807、2-[18F]フルオロメチル-L-フェニルアラニン、
【化1-1】
【化1-2】
またはこれらの組合せから選択される、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
放射性医薬品が、[18F]フルルピリダズ
【化2】
である、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、逆相HPLCを用いて放射性医薬品組成物の放射化学的純度および化学的不純物を分析するための改良された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性医薬品は、放射性元素で標識されており、医用画像、診断または治療の分野で使用されるインビボの哺乳類への投与に適した化合物である。放射性医薬品組成物は放射標識された化合物またはその薬学的に許容される塩、溶媒、および1種以上の安定剤を含む。放射性医薬品組成物、または「薬剤製品(製剤)」は、患者に投与できるようになる前に、徹底的な品質管理(QC)プロセスを経なければならない。品質管理または品質保証基準は、たとえばUSPにより発行されている(usp.org)。General Chapter <825> Radiopharmaceuticals-Preparation, Compounding, Dispensing, and Repackaging, originally published 1 June 2019 and General Chapter <1823> Positron Emission Tomography Drugs-Information。QCプロセスの重要な試験の1つは薬剤製品(製剤)の化学的不純物および放射化学的純度(RCP)を定量化することである。この分析は高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)によって日常的に行われる。
【0003】
放射性医薬品は患者に投与する前短期間内に製造される。この理由は、放射性医薬品内の放射性元素の放射能が放射性壊変のため徐々に減少し、したがって製品の放射性効力の低下を引き起こすからである。放射性医薬品組成物にはQCプロセスを実施しなければならず、患者への投与のために公開される前にすべてのQC試験に合格しなければならない。したがってQCプロセスを実施するのに必要な時間はできるだけ短いのが望ましい。
【0004】
フッ素-18([18F])は、診断に使用するのに適した放射性医薬品に一般的に使われる放射性フッ素同位体である。フッ素-18の壊変は陽電子放出(97%)および電子捕獲(3%)により起こる。放射性同位体[18F]が壊変するとき、放出される陽電子は陽電子放出断層撮影(PET)イメージングに利用される。このインビボイメージング方法は特に心臓イメージング、腫瘍イメージングおよび脳イメージングに使用される。
【0005】
18F]の半減期は109.77分である。すなわち、[18F]を含有する放射性医薬品試料の放射能の量は109分ごとに半減する。したがって、放射性医薬品製剤試料を分析して、患者に投与のために公開することができる速さは極めて重大である。
【0006】
18F]放射性医薬品のHPLC分析は高濃度の製剤マトリックス成分の存在下での化学的不純物および放射性不純物の分析を必要とする。放射性不純物はすべて[18F]放射性核種を含む。[18F]放射性医薬品のHPLC分析は[18F]放射性核種の性質によりさらに複雑になる可能性がある。放射性医薬品で[18F]核種は疎水性の化合物に組み入れられることが多い。しかしながら、存在することがあり、患者に投与のために公開される前に製剤中で定量化しなければならない遊離の[18F]フッ化物は非常に親水性である。分析はより疎水性のPET放射性医薬品の逆相HPLC分析に使用される固定相への遊離の[18F]フッ化物の吸着によりさらに複雑になり、遊離の[18F]フッ化物の計量が困難になる。逆相HPLCカラムからの遊離の[18F]フッ化物の定量化可能なピークとしての溶出の確保は伝統的に中性に近いpHに調節されたpHの移動相を必要としていた。しかしながら、より疎水性のPET放射性医薬品のすべての分析が中性のpHで最良に達成されるわけではない。HPLC系の移動相を提供するには複雑な溶媒系が必要である。放射性医薬品のいくらかのHPLC分析は酸性の移動相で最良に達成される。しかしながら、遊離の[18F]フッ化物は酸性の条件下で定量化することができない。
【0007】
遊離の[18F]フッ化物の必要性によって課されるいかなる制約もないHPLC分離方法を開発することができれば大いに有利であろう。本発明はこれを達成することを可能にし、放射性医薬品製剤中の遊離の[18F]フッ化物および化学的不純物の迅速な分析を可能にする簡略化されたプロセスを提供する。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、[18F]放射性医薬品中の[18F]フッ化物の定量化および化学的不純物の定量化のための、改良された分析用HPLC方法に関する。
【0009】
本発明の一態様は、逆相HPLCを用いて放射性医薬品組成物中の放射化学的純度および化学的不純物を分析する方法であって、放射性医薬品組成物が[18F]で標識された化合物またはその薬学的に許容される塩を含み、方法が、
(a)放射性医薬品組成物の試料をHPLCカラムに供給するステップであって、移動相が水もしくは水および有機溶媒、または中性のpHバッファー、もしくは中性のpHバッファーおよび有機溶媒である、ステップと、続いて、
(b)酸変性剤、水および有機溶媒を含む異なる移動相をHPLCカラムに供給するステップと
を含む、方法に関する。
【0010】
この方法は、放射性医薬品組成物を含む試料を逆相HPLCで分析することを可能にし、遊離の[18F]フッ化物はステップ(a)中に溶出され、別途、試料の残りの成分は[18F]で標識された放射性医薬品化合物またはその塩を含み、ステップ(b)中に溶出される。
【0011】
放射性医薬品組成物(または「薬剤製品(製剤)」)の試料がステップ(a)でHPLCカラムに供給されたとき、移動相(「移動相A」)は有機溶媒および水、または有機溶媒および中性のpHバッファーのみを含有する。放射性医薬品組成物自体は最初移動相A内に局部的なpH調節された環境を提供する。すなわち、水および有機溶媒を用いてステップ(a)を実施すると、試料プラグがフッ化物回収のためのpH調節を提供する。中性のバッファーおよび有機溶媒を用いてステップ(a)を実施すると、pH調節は移動相により提供される。製剤マトリックスにより提供される移動相が遊離の[18F]フッ化物の容易に定量化可能なクロマトグラフピークとしての溶出に有利なpH環境(pH5~7)を確実にするので、遊離の[18F]フッ化物の回収が可能になる。
【0012】
ステップ(b)で、遊離の[18F]フッ化物がカラムを溶出してしまったかまたはカラムを溶出し始めた後、水、有機溶媒および酸変性剤を含む異なる移動相(「移動相B」)をカラムに分配する。酸変性剤のため移動相Bは酸性のpHを有する。移動相Bの酸性pHは製剤マトリックス成分の調節された溶出の利点を付与し、試料の残りの成分のカラムを通過する溶出により適切な移動相pHを提供することができる。本発明の方法は[18F]フッ化物の迅速かつ正確な定量化および化学的不純物および放射性不純物の良好な分解(resolution)を可能にする。
【0013】
本発明は、遊離の[18F]フッ化物の計量の必要性により制約されることなく、放射性医薬品組成物の可能な最良の分析を与える移動相を選ぶ自由を与える。放射性不純物および薬剤関連の化学的不純物の最適化された分離は酸性の移動相でしばしば達成される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の方法および遊離の[18F]フッ化物の定量化を可能にするように特別に考案された現在のHPLC溶媒系のHPLCクロマトグラムの比較を示す図である。
図2】現在の方法および本発明の方法による[18F]フッ化物で標識された放射性医薬品組成物の試料のHPLCクロマトグラムにおける放射性不純物の分解の比較を示す図である。
図3】移動相系の勾配に基づく現在の方法および本発明の方法によるHPLCクロマトグラムにおける放射性不純物の分解の比較を示す図である。
図4】移動相系に基づく現在の方法および本発明の方法によるHPLCクロマトグラムにおける化学的不純物の分解の比較を示す図である。
図5】本発明の方法によるHPLCトレースおよび化学的不純物および放射性不純物を分離するために移動相に使用した勾配を示す図である。
図6】本発明の方法で移動相に使用した溶媒濃度勾配を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
放射性医薬品および放射性医薬品組成物は通例ラジオファーマシーまたはPETセンターで調製され、そこで品質管理試験も受ける。製剤は、品質管理(QC)プロセスに合格し、患者への投与用に公開されたら、PETスキャニング設備が存在する現場で患者に投与され得るか、またはPETスキャニング施設に輸送され得る。
【0016】
QCプロセスの重要な試験の1つは製剤の化学的不純物および放射化学的純度(RCP)を定量化することである。この分析は日常的に高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)によって行われる。HPLCは固定相(通常シリカをベースとするカラム)およびカラムを通る移動相または溶離液と液体組成物の様々な成分との異なる相互作用によってそれら成分の分離を達成する。成分の化学的性質は、分子間相互作用に基づく固定相に対するそれらの親和性、および溶出する前にカラム内で費やす時間を決定する。分離プロセス中の移動相組成は一定でもよいし(すなわちアイソクラチック溶出)、または変化してもよい(すなわち勾配溶出)。極めて異なる化学的性質を有する成分を含む組成物を分離するために、通例移動相中の溶媒の割合を増加させることによって、追加の溶媒をカラムに導入してもよい。検出ユニット(たとえばUV検出器)およびコンピュータープロセッシングユニットは被験物質が溶出する時間を記録し、分離された成分に対する信号ピークを示すクロマトグラムを生成する。信号ピークは定性および定量データを提供し、成分の濃度の計算を可能にする。保持時間(t)は成分の系への注入からそのカラムの溶出(検出)までの時間を意味する。逆相HPLCは極性の移動相および非極性の固定相を使用するクロマトグラフィーモードを記述する。化合物は、通常増加するレベルの有機溶媒の添加により、すなわち、移動相中の有機溶媒の割合を増加させることにより、移動相が次第に非極性になるにつれて選択的に固定相から溶出する。ポリマーベースのカラムを逆相クロマトグラフィーに使用することができる。しかし、最も普遍的な固定相は有機材料のシリカ粒子への共有結合によって調製される。有機材料はフェニル型化合物、またはより普通にはアルキル鎖であることができる。アルキル鎖長は固定相の疎水性を決定し、アルキル鎖長がC2~C30の範囲のHPLCカラムが利用可能である。普遍的な固定相はシリカに結合したC18であり、典型的な移動相は水と有機溶媒、たとえばアセトニトリルまたはメタノールとの水性混合物を含む。
【0017】
放射化学的純度(RCP)は、HPLCを用いて決定することができ、クロマトグラム内の(放射標識された)薬剤物質ピークと全体の(放射標識された)ピークとの比として定義することができる。
【0018】
用語放射性医薬品はその慣習の意味を有し、診断または治療に使用されるインビボの哺乳類投与に適した放射性化合物を指す。哺乳類、たとえばヒトへの注入に適した[18F]で標識された放射性医薬品および薬学的に許容される賦形剤、安定剤、溶媒などを含むあらゆる放射性医薬品組成物を本発明のHPLC方法により分析することができる。
【0019】
用語「含むcomprising」はこの出願を通じてその慣習の意味を有し、組成物が列挙されている成分を有していなければならないが、加えてその他の特定されてない化合物または種が存在してもよいことを暗示している。
【0020】
放射性医薬品組成物
以下の記載は放射性医薬品組成物の様々な可能な成分を例示する役割を果たす。本発明の方法で使用される放射性医薬品組成物は放射性医薬品、溶媒、可溶化剤および放射性安定剤(radiostabilizer)を含む。本発明の方法で使用される放射性医薬品組成物は、逆相HPLCにより分析可能である、[18F]で標識された放射性医薬品を含み得る。放射標識された化合物は[18F]で標識された放射性医薬品、またはその薬学的に許容される塩を含み得る。かかる[18F]で標識された放射性医薬品の例には、[18F]FMAU(2’-デオキシ-2’-[18F]フルオロ-5-メチル-1-ベータ-D-アラビノフラノシルウラシル)、[18F]FMISO(F18フルオロミソニダゾール)、[18F]FHBG(9-(4-18F-フルオロ-3-[ヒドロキシメチル]ブチル)グアニン)、[18F]AV-45、[18F]AV-19、[18F]AV-1、[18F]フルテメタモル、[18F]FES(フルオロエストラジオールF18)、[18F]フルルピリダズ、[18F]K5、[18F]HX4、[18F]W372、[18F]VM4-037、[18F]CP18、[18F]ML-10、[18F]T808、[18F]T807、2-[18F]フルオロメチル-L-フェニルアラニン、またはこれらの組合せがある。
【0021】
放射標識された化合物は式(I)の化合物であり得る:
【0022】
【化1】
式中、AはN(R)、S、O、C(=O)、C(=O)O、NHCHCHO、結合、またはC(=O)N(R)から選択され;
存在するとき、Bは水素、アルコキシアルキル、アルキルオキシ、アリール、場合によりイメージング部分で置換されていてもよいC-Cアルキル、ヘテロアリール、およびイメージング部分から選択され;
存在するとき、Cは水素、アルコキシアルキル、アルキルオキシ、アリール、場合によりイメージング部分で置換されていてもよいC-Cアルキル、ヘテロアリール、およびイメージング部分から選択され;
Dは水素、アルコキシアルキル、アルキルオキシ、アリール、場合によりイメージング部分で置換されていてもよいC-Cアルキル、ヘテロアリール、およびイメージング部分から選択されるか;または
CおよびDは、それらが結合している原子と共に、3もしくは4員の炭素環式環を形成し;
Gはハロまたはハロアルキルであり;
nは0、1、2、または3であり;
、R、R、R、R、RおよびRは独立して水素、場合によりイメージング部分で置換されていてもよいC-Cアルキル、およびイメージング部分から選択され;
は場合によりイメージング部分で置換されていてもよいC-Cアルキルであり;
Eは結合、炭素、および酸素から選択されるが、ただしEが結合であるとき、BおよびCは存在せず、Dはアリールおよびヘテロアリールから選択され、またEが酸素であるとき、BおよびCは存在せず、Dは水素、アルコキシアルキル、アリール、場合によりイメージング部分で置換されていてもよいC-Cアルキル、およびヘテロアリールから選択され;
ただし、少なくとも1つのイメージング部分が式(I)中に存在する。
【0023】
式(I)の置換基AはOであり得る。Rはtert-ブチルであり得る。Gはクロロであり得る。イメージング部分は本明細書中で言及するあらゆる放射性同位体であり得、たとえば18Fである。
【0024】
放射標識された化合物は次の構造を有する[18F]フルルピリダズ(フルルピリダズ18Fともいわれる)を含み得る:
【0025】
【化2】
【0026】
放射標識された化合物は:
【0027】
【化3-1】
【0028】
【化3-2】
から選択される化合物であり得る。
【0029】
放射性医薬品組成物は付加的な任意の賦形剤を含有し得る。たとえば、かかる付加的な任意の賦形剤には:抗菌性保存剤、pH調節剤(バッファー)、充填剤、可溶化剤またはオスモル濃度調節剤がある。安定剤は放射性医薬品製剤でその保存可能期間中の放射性不純物の形成を低減するのに必要である。適切な安定剤にはとりわけエタノール、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸、マレイン酸、パラアミノ安息香酸、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、ゲンチシン酸および塩化カルシウムがある。
【0030】
放射性医薬品組成物は生体適合性の担体を含み得る。生体適合性の担体は、組成物が生理学的に容認できる、すなわち毒性または過度の不快感なく哺乳類の身体に投与することができるように放射性医薬品が懸濁するかまたは好ましくは溶解することができる流体、殊に液体である。生体適合性の担体は適切には、注射可能な担体液体、たとえば注射用の無菌パイロジェンフリー水;水溶液、たとえば生理食塩水(有利には注射用の最終製品が等張になるように平衡させ得る);生体適合性の緩衝剤を含む水性バッファー(たとえばリン酸バッファー);1種以上の等張化物質(たとえば血漿カチオンと生体適合性の対イオンとの塩)の水性溶液、糖類(たとえばグルコースまたはスクロース)、糖アルコール(たとえばソルビトールまたはマンニトール)、グリコール(たとえばグリセロール)またはその他の非イオン性ポリオール物質(たとえばポリエチレングリコール、プロピレングリコールなど)である。好ましくは、生体適合性の担体は注射用のパイロジェンフリー水、等張生理食塩水またはリン酸バッファーである。
【0031】
放射性医薬品組成物は、たとえば、放射標識された化合物、アスコルビン酸、エタノールおよびシクロデキストリンを含み得る。代表的な放射性医薬品組成物はアスコルビン酸およびエタノール、シクロデキストリン、たとえばヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン(HPbCD)、および放射標識された化合物[18F]フルルピリダズを含む。アスコルビン酸は約1~約100mg/mLの量で存在することができ、エタノールは約2~約10%(v/v)の量で存在することができ、HPbCDは約1~約1000mg/mL、たとえば約1~約350mg/mL、たとえば約1~約100mg/mL、たとえば約30mg/mL~約70mg/mL、たとえば約50mg/mLの量で存在することができる。エタノールは通例組成物の10体積%以下である。
【0032】
HPLC方法
18F]フッ化物のHPLC分析は多くの要因を考慮する必要があるので一般に困難である。酸性の環境で遊離の[18F]フッ化物はカラムの固定相に吸収され、溶出が困難である:遊離の[18F]フッ化物は定量化することができる別々のクロマトグラフピークとして溶出しない。
【0033】
本発明は、逆相HPLCを用いて放射性医薬品組成物を含む試料中の放射化学的純度および化学的不純物を分析する方法であって、放射性医薬品組成物が[18F]で標識された化合物またはその薬学的に許容される塩を含み、方法が、(a)放射性医薬品組成物を含む試料をHPLCカラムに供給するステップであって、移動相が水、もしくは水および有機溶媒、または中性のpHバッファー、もしくは中性のpHバッファーおよび有機溶媒である、ステップと;続いて、(b)酸変性剤、水および有機溶媒を含む異なる移動相をHPLCカラムに供給するステップとを含む、方法に関する。
【0034】
通例、放射性医薬品組成物は水、エタノール、バッファーまたは安定剤、たとえばアスコルビン酸、およびシクロデキストリンを含む。
放射性医薬品組成物(製剤)の試料がHPLCカラムに供給されたとき、移動相(「移動相A」)は有機溶媒および水のみを含有する。あるいは、移動相Aは中性のpHバッファー、または中性のpHバッファーおよび有機溶媒を含み得る。
【0035】
「移動相A」が有機溶媒および水のみを含有する場合、この移動相はpH調節を提供しない。放射性医薬品組成物の試料がHPLCカラムに注入されると、試料のマトリックスはpH調節を確立する。すなわち、試料のマトリックスは初期移動相(「移動相A」)内でフッ化物イオン(遊離の[18F]フッ化物)の周りに局部的な微小環境を提供し、これによりフッ化物が確実にカラムから溶出する。注入された試料がそのマトリックス成分のためにpH5~7のpH環境を提供するので遊離の[18F]フッ化物がカラムから溶出する。これはカラムからの遊離の[18F]フッ化物の溶出のための有利な環境を作り出し、結果として容易に定量化可能なクロマトグラフピークを生じる。
【0036】
製剤の「マトリックス」は、製剤(たとえば放射性医薬品組成物)中に存在する[18F]フッ化物で放射標識された化学化合物以外のあらゆる成分として定義される。マトリックスはたとえば放射性医薬品組成物に関して上記したエタノール、バッファー塩(ギ酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、および/または1種以上のアミノ酸)、放射性安定剤、可溶化剤を含み得る。
【0037】
遊離の[18F]フッ化物がカラムから溶出してしまったかまたはカラムを溶出し始めた後、異なる移動相(「移動相B」)がカラムに分配される。移動相Bは酸変性剤、水および有機溶媒を含む。いかなる酸変性剤も移動相Bに使用することができ、移動相BのpHを酸性にする。酸性のpHは7.0未満と定義される。好ましくは移動相BのpHは5.0未満、より好ましくは4.5未満、0~5.0、0~4.0、1.0~3.0、1.5~2.5、たとえば約2.0である。移動相中の適切な酸変性剤の例としては、とりわけ、トリフルオロ酢酸(TFA)、ギ酸、酢酸、リン酸、クエン酸および酸性のリン酸バッファーがある。移動相B中の酸変性剤の割合は一定であってもよいし、または次第に増加させてもよい。いろいろな成分の混合物が移動相Bに使用される場合、そのそれぞれの割合は勾配をもって増加してもまたは低下してもよい。
【0038】
pH変性剤は移動相に添加され、pHを制御または調節する際に補助するあらゆる物質である。酸変性剤は移動相に添加され、通常7.0未満のpHと定義される酸性のpHを確立するあらゆる物質である。本発明の目的から、酸変性剤は移動相に添加され、5.0またはそれ以下の酸性のpHを確立するあらゆる物質として定義される。塩基性の変性剤は移動相に加えられ、ポリマーベースのカラムで通常7.0より大きいpHとして定義される塩基性のpHを確立するあらゆる物質である。
【0039】
一般に、トリフルオロ酢酸(TFA)は、化学的および放射化学的不純物を含む試料の成分の良好な分離を補助するので、HPLCにおいて移動相、または溶離液に極めて有用なpH変性剤(酸変性剤)である。しかしながら、(たとえば[18F]で放射標識されたPET製品の品質管理試験において)[18F]放射性医薬品の分析のためのHPLC方法は通常移動相酸変性剤としてTFAを使用しない。その理由は、TFAが遊離の[18F]フッ化物の定量化を可能にしないからである。本発明者は、移動相A(pH変性剤を含有しない)の初期の一時的なpH調節を提供する放射性医薬品組成物試料プラグ自体により、試料中に存在する遊離の[18F]フッ化物の簡易分析が達成されることを見出した。
【0040】
その後、移動相は、試料の残りの成分の分離を最適化するように調節することができる。試料(特に遊離の[18F]フッ化物)がカラムから溶出し始めたらステップ(b)で(「移動相B」の一成分として)酸変性剤のみを移動相に分配する。酸変性剤は増加する勾配で移動相に分配され、正確なpH調節を与えることができ、これが残りの成分のカラムからの溶出の制御に寄与する。
【0041】
親水性である遊離の[18F]フッ化物とは異なり、残りの成分はより疎水性であり、移動相はこれらの成分がカラムを通って溶出するために次第に非極性になる必要がある。これは、たとえば、より疎水性の成分を溶出させるために移動相の水に対する有機溶媒の割合を増加させることにより達成することができる。移動相は2つ以上の溶媒タンクからカラムに供給する。タンクからの、たとえば第1および第2のタンクからのカラムに対する寄与の比を変えることにより、移動相の組成を変更することができる。HPLC装置は少なくとも2つのタンク、たとえば2つ、3つまたは4つのタンクを含み得る。タンクは、たとえば、異なる成分または異なる濃度のある種の成分を含有し得る。各タンクの組成は一定のままであるが、移動相の組成は所与の時における各々のタンクから移動相への寄与の比を変えることにより変更し得る。
【0042】
移動相Aは酸変性剤を含有しないでカラムを貫通する移動相として本明細書で定義される。移動相Bはある量の酸変性剤をしており、カラムを貫通する移動相として本明細書で定義される。移動相Bの組成は、成分の割合を変更することにより、たとえば勾配をつけてタンクからの寄与を変更することにより、変化させ得る。
【0043】
移動相Aは水およびある量の有機溶媒である。たとえば、移動相Aは水中に0-60%の有機溶媒、たとえば10-60%の有機溶媒、たとえば30%の有機溶媒~50%の有機溶媒を含有し得る。移動相Aは1種以上の有機溶媒を含み得る。
【0044】
本発明の代わりの実施形態において、1種以上の中性pHバッファーを移動相Aとして使用することができる。適切な中性のpHバッファーはほぼ4.0~8.0の範囲のpHを維持するいずれかのバッファーである。適切なバッファーには、限定されることはないが、リン酸塩、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、酒石酸塩、クエン酸-リン酸塩、クエン酸塩、ピリジン-ギ酸塩、ピリジン-酢酸塩、グルタル酸ジメチル、コハク酸塩、フタル酸塩、酢酸ピコリン、カコジル酸塩バッファー、トリスマレイン酸塩、マレイン酸水素ナトリウムバッファー、ヒ酸ナトリウム、およびイミダゾールがある。好ましい中性のpHバッファーにはリン酸塩、酢酸アンモニウム、およびギ酸アンモニウムがある。中性のpHバッファーの好ましい濃度範囲は0.1~100mMである。
【0045】
移動相Bで、酸変性剤が有機溶媒および水と共にカラムに導入される。移動相B中の有機溶媒の割合は1%~100%の有機溶媒、たとえば、30%~100%の有機溶媒であり得る。有機溶媒の割合が100%未満である場合、残りは水である。移動相B中の有機溶媒の量は、カラムからの溶出を補助するために勾配をもって、たとえば、水中1%から95%、1%から50%、30%から95%、30%から80%、50%から80%または50%から70%の有機溶媒で増加し得る。移動相Bは1種以上の有機溶媒を含み得る。
【0046】
1種以上の有機溶媒は、移動相Aおよび移動相Bにおいて同一でも異なってもよい。好ましくは、1種以上の有機溶媒は移動相Aおよび移動相Bにおいて同一である。酸変性剤の割合は0.05%~1%、たとえば0.1%~0.25%であり得る。酸変性剤の割合は一定、たとえば、0.1%のままでよいか、またはそれが入っている溶媒の割合の増加に比例して増加してもよい。これは使用するHPLC装置に依存し得る。
【0047】
移動相Aおよび/または移動相Bの有機溶媒は、たとえば、アセトニトリルまたはメタノールから選択され得る。移動相Aは、たとえば、最初30%MeCNおよび70%水を含み得る。カラムを通る移動相中のMeCNの割合は、溶媒タンクからの寄与を調節することにより、勾配をもって増加し得る。移動相BはMeCN、水および酸変性剤を含み得る。勾配の険しさ(有機溶媒の割合の経時的増加)は試料成分の特性に依存する。カラムを通過する移動相の最終の割合は、たとえば、70%のMeCN、29.9%以下の水および少なくとも0.1%の酸変性剤であり得る。別の例において、移動相AおよびBはMeOHおよび水を含み得る。たとえば、移動相Aは50%MeOHおよび50%水を含み得る。移動相B中のMeOHの割合は、溶媒タンクからの寄与を調節することにより、勾配をもって増加し得る。移動相Bはさらに酸変性剤を含む。酸変性剤は、たとえば、トリフルオロ酢酸、ギ酸、酢酸、リン酸、クエン酸および酸性リン酸バッファーまたはリン酸バッファーであり得る。
【0048】
pHの調節はクロマトグラフィーにおいて決定的と考えられる。この理由は、イオン化可能な官能基が逆相クロマトグラフィーにおいてそのイオン化した状態に応じて異なってふるまうからである。イオン化可能な基の電荷はpHに依存して変化する。したがって、HPLCのような分析を実施するとき、pHの調節は極めて重要であることが多い。pHの調節はpH変性剤、たとえば、酸性のpHを達成するための酸変性剤(およびポリマーベースのカラムで塩基性のpHを達成するための塩基変性剤)によって達成することができる。頑健なpH調節を達成し、かつ変動を相殺するためにバッファーも使用することができる。
【0049】
当技術分野で標準的な手順と対照的に、pH調節を必要とする被験物質(たとえばフッ化物)の分析に関して、pH変性剤は移動相Aに含まれない。むしろ、フッ化物の近くのpH調節(約pH5~pH7)は製剤マトリックス自体に起因する。これにより、遊離の[18F]フッ化物の溶出および正確な定量化が可能になる。移動相Aが中性のバッファーであるときpH調節はその中性バッファーにより提供される。その後移動相Bの酸変性剤の導入は酸性の環境を提供し、遊離の[18F]フッ化物の溶出および定量化を妨げることなく、試料の化学的不純物を含めた残りの成分の良好な分離および定量化が可能になる。本発明の方法は[18F]フッ化物の容易な定量化ならびに試料中の化学的不純物の良好な分解を可能にする。以下にさらに詳細に記載するように、酸変性剤の添加は製剤のマトリックス物質に起因するクロマトグラムの大きいピークの調節にとって非常に重要である。
【0050】
カラムへの製剤試料の導入とカラムへの移動相Bの導入との間の時間は1秒間程度に短いことができる。好ましくは、カラムへの製剤試料の導入からカラムへの移動相Bの導入までの時間は1秒間~5分間、好ましくは5秒間~60秒間、より好ましくは5秒間~30秒間、たとえば約20秒間である。別の実施形態において、カラムへの製剤試料の導入からカラムへの移動相Bの導入までの時間はゼロ秒間である。
【0051】
本発明の方法のもう1つ別の利点は、製剤試料のHPLC分析をおよそ10分以内に実施することができることである。これは、通常およそ20分かかる現在の方法と対照的である。すでに説明したように、放射性医薬品組成物は、放射性核種の放射性壊変に鑑みて、患者への投与に先立って短い時間枠内に調製されかつ品質管理試験に付される。HPLC分析を行なうのに必要とされる時間を半減することは大いに有利である。本発明の方法は後の非遊離[18F]フッ化物-成分の分離をできるだけ最適な方法で行なうことを可能にし、したがって分析時間を大幅に低減することを可能にする。これは図を参照してさらに説明される。
【0052】
本発明のHPLC方法は[18F]フッ化物で放射標識された放射性医薬品製剤のためのあらゆる逆相HPLC分析に適用可能である。あるカラム寸法、粒径および細孔径のあらゆるシリカをベースとする逆相HPLCカラム(C2~C30)が本発明の方法に使用するのに適している。本発明で使用することができる代表的なカラムにはZorbax SB-C18 P/N 822975-902(Agilent, USA)、およびKinetex C18, P/N 00B-4462-E0(Phenomenex Inc.)がある。
【0053】
図1はHPLCクロマトグラムを示す。トレースには上から下へトレース1、トレース2、トレース3およびトレース4と番号を付けてある。
【0054】
トレース1は、水中遊離の[18F]フッ化物の試料についてHPLCを行なって生じたクロマトグラムを示す。移動相は最初酸を含有しない。試料注入後TFAが移動相に加えられる。その結果、pHがおよそ2.0に下がる。しかしながら、トレース1から分かるように、水だけの試料マトリックスのとき、遊離の[18F]フッ化物は約2.3分~3.8分で広いピークとしてカラムから溶出する。広いピークは定量化可能でない。
【0055】
トレース2は、水中遊離の[18F]フッ化物の試料についてHPLCを行なって生じたクロマトグラムを示す。移動相はpH6.0で緩衝塩酢酸アンモニウム(NH酢酸塩)を含む。遊離の[18F]フッ化物は容易に溶出し、クロマトグラムで定量化可能なピークを示す。しかしながら、この移動相はラジオファーマシーまたはPETセンターで取扱うのがより困難である。緩衝化した移動相の使用は患者への投与のための製剤の公開に先立って分析を行なうラジオファーマシーに追加の負担を課す。緩衝塩を用いた移動相の調製およびpH修正はより労働集約的であり、緩衝化した移動相を用いた後機器内での緩衝塩の沈殿を避けるために機器を厳格に洗浄しなければならない。
【0056】
トレース3は、現在の標準的な方法に従ってC18カラムを用いて[18F]フッ化物で標識された放射性医薬品製剤の試料についてHPLCを行なって生じたクロマトグラムを示す。製剤は[18F]フルルピリダズ(GE Healthcare、USA)、アスコルビン酸、エタノールおよびシクロデキストリン(HP-b-シクロデキストリン、シクロデキストリンHPB EMPROVE、Merck P/N 1.42020)を含む。移動相はpH6.0で緩衝塩酢酸アンモニウム(NH酢酸塩)を含む。遊離の[18F]フッ化物は0.5分付近で溶出する。放射性医薬品は13分付近で大きい鋭いピークとして溶出し、放射性不純物は12.5~17.5分で溶出する(小さいピーク)。クロマトグラムは鋭いピークを示すが、移動相が酢酸アンモニウムを含むので、方法は20分のランタイムを要する。方法が10分長くかかる理由は、方法が多次元分析であるからである。放射性不純物(すべて[18F]フッ化物で標識されている)があり、また放射標識されてない化学的不純物もある。たとえば大量のアスコルビン酸およびシクロデキストリンを含む製品マトリックスはHPLC分析(UV光の吸収を用いて検出)で大きな応答を与える。酸性の移動相はこれらのマトリックス成分がカラムから速やかに溶出するのを可能にする。しかしながら、酢酸アンモニウムにより提供される中性のpHで、マトリックス成分はカラムから溶出するのに約10分かかり、クロマトグラムで大きなピークを形成する。
【0057】
トレース4は、本発明に従って[18F]フッ化物で標識された製剤の試料についてHPLCを行なって生じたクロマトグラムを示す。製剤は[18F]フルルピリダズ(GE Healthcare、USA)、アスコルビン酸、エタノールおよびシクロデキストリンを含む。試料はトレース4で分析したのと同じ[18F]フッ化物で標識された製剤である。製剤試料は最初C18カラムに注入され、それ自体が一時的な移動相Aを提供する。試料プラグのpHは5.0~7.0であり、製剤のpHにより決定される。これは、遊離の[18F]フッ化物が1.0~1.4分付近で鋭い定量化可能なピークとして速やかに溶出することを可能にする。製剤試料の注入に続いて、TFAが移動相Bの成分としてカラムに分配される。それによりpHはおよそpH2.0に下がる。放射性医薬品は5~6.3分付近で強い鋭いピークとして溶出し、放射性不純物は5.0~7.5分で溶出する(小さいピーク)。全体のランタイムはおよそ10分である。
【0058】
図2図1のトレース3とトレース4を比較する。HPLC分析は[18F]フッ化物で標識された同じ放射性医薬品製剤の試料について行われる。トレース4で、製剤試料がカラムに注入され、それ自体が移動相Aに一時的なpH調節を提供する。遊離の[18F]フッ化物は1.0~1.4分付近で鋭い定量化可能なピーク(ピーク1)として速やかに溶出する。製剤試料の注入に続いて、TFAが移動相Bの成分としてカラムに分配される。それによりpHレベルは2.0に下がる。放射性医薬品は4.5~5分付近で鋭いピークとして溶出し(ピーク3)、追加の放射性不純物は4.0~6.5分で溶出する(ピーク2および4)。全体のランタイムはおよそ10分である。対照的に、トレース3で、同じ製剤試料がカラムに注入され、酢酸アンモニウムが移動相に6.0のpHを提供する。遊離の[18F]フッ化物は鋭い定量化可能なピークとして(ピーク1)速やかに溶出するが、放射性医薬品(ピーク3)および化学的不純物(ピーク2および4)は長い保持時間を有し、12.5~14.5分にカラムから流出する。この図を詳細に見ると、TFAでは追加の放射性不純物が主ピークのテールに見られることを示している。言い換えると、TFAを使用することができると、放射性不純物のより良好な分離および放射性医薬品のより正確な分析をもたらす。最適な移動相を選ぶ柔軟性を有することは大きな利益である。
【0059】
図3図1のトレース3とトレース4の放射性不純物の分解を比較する。クロマトグラムに重ねて移動相の勾配プロフィールが破線として描かれている。タンクAは酢酸アンモニウムおよび水を含有し、最初の移動相を提供する。タンクBは100%MeCNを含有する。タンクからの寄与を調節してカラム内の移動相の勾配を達成する。酢酸アンモニウム中の分析の場合破線は分析中の移動相の有機溶媒含量の変化を表し、量は6.0~14.5分の期間直線的に増加した。その後、有機溶媒のレベルをさらに1.5分一定に保ってすべての化合物をカラムから確実に溶出する。17.5分で有機溶媒は次の分析を始めるのに適したレベルに戻される。
【0060】
図4図1のトレース3とトレース4の化学的不純物の分解を比較する。クロマトグラムに重ねて移動相の勾配プロフィールが点線として描かれている。トレース4(移動相BがTFAを含む)で見ることができるようにマトリックス成分はクロマトグラムで大きいピークを生じ2分のうちに溶出する。トレース3(酢酸アンモニウム)では、マトリックス成分(ここでは:アスコルビン酸およびシクロデキストリン)が大きい広いピークを生じ、溶出はおよそ10分かかる。これは酢酸アンモニウムで緩衝化した移動相の中性のpHに起因する。マトリックス成分がカラムから完全に溶出してしまうまで他の化合物を分析することができない。したがって、化学的不純物のピークはおよそ12~16分まで溶出しない。移動相BにTFAを用いたトレース(トレース4)ではピーク(1と番号を付けてある)が分解されているがトレース3では見ることができないということも分かる。さらに、移動相BにTFAを用いたトレースでは、ピーク2および3が2つの別々のピークとして分解されている。トレース3で、ピーク2および3は分離されない。この比較は、移動相中の酸変性剤、たとえばTFAが、マトリックス物質の溶出の調節(溶出するのに10分かかり、その後の溶出プロフィールに影響を及ぼす広いピークと比較して2分以内に溶出するより鋭いピークを生じる)と、試料中の他の成分の分解の改良の点の両方で果たす役割を明確に示している。
【0061】
図5は分析の多次元性を示す。図5は2つのクロマトグラムトレースであり、[18F]で標識された放射性医薬品組成物(図1のトレース4に関する)の試料中の化学的不純物および放射化学的不純物の分解を示す。遊離の[18F]フッ化物は溶出して、遊離の[18F]フッ化物の量の定量化を可能にするよく分解されたピークを生じ、放射性医薬品製剤試料のマトリックス成分は調節されて溶出する。クロマトグラムに重ねて移動相Bの勾配プロフィールが描かれている(破線)。勾配は二元ポンプHPLC系で達成され-すなわち、HPLC系はここではタンクAおよびタンクBとする2つの溶媒タンクを有する。移動相の勾配プロフィールを下記表1に示す。タンクAは水中30%アセトニトリルである。タンクBは95%v/vアセトニトリル、水(5%v/v)および0.1%v/vTFAである。
【0062】
【表1】
【0063】
勾配は、TFAの濃度が分析の間に0.00~0.075%v/vの範囲であることを意味する(勾配プロフィールは図5に点線で示されている)。しかし濃度が勾配の最初の部分で0.00から0.025%に上昇してもpH調節を課すのに充分な酸が存在する(マトリックス成分に起因するピークの集束により示される)。
【0064】
上記溶媒勾配は二元ポンプHPLC系で行なわれる。しかしながら、本発明はまたタンクA、B、CおよびDからの移動相の3つまたは4つの別々の成分を利用する三元(3つのタンク)または四元(4つのタンク)ポンプ系でも行なわれ得る。
【0065】
表2はたとえば四元のポンプ系で3つの溶離液チャンネル(すなわちタンクA、BおよびC)を用いて行われる移動相勾配プロトコルを示す。タンクAは100%水であり、タンクBは100%アセトニトリルであり、タンクCは水中0.15%v/vTFAである(TFAの量は必要であれば変えることができる)。
【0066】
【表2】
【0067】
本発明の方法が利用可能な3つの溶離液チャンネルのHPLC系で行なわれる場合、移動相の調製は大幅に簡略化される。記載した例で、TFAの濃度はクロマトグラムの放射性医薬品に関連する化合物が溶出する領域でずっと一定に維持される。カラムのTFAの濃度は必要であれば、移動相Cを調製するときにより多くのTFAを加えることにより増加させることができる。
【0068】
図6で、TFAおよびMeCNの勾配プロフィールが、表2に示した勾配から予想される破線としてクロマトグラムに重ね合わせられている。
【0069】
本発明の方法は単一の溶媒系を用いて遊離の[18F]フッ化物ならびに放射性および化学的不純物のHPLC分析を可能にする。本発明者は、製剤試料自体を使用して移動相A内でフッ化物の近くに一時的なpH調節を提供することにより、遊離の[18F]フッ化物の定量化を達成し、移動相Bの成分として酸性の変性剤を使用する技量によって放射性医薬品および化学的不純物のよく分解されたピークを達成することが可能であることを見出した。本発明の方法によるHPLC分析のランタイムは現在の方法と比較して半分より少なく、これは重大な利点である。
【0070】
以下の非限定的実施例を参照して本発明を記載する。
【実施例
【0071】
本発明の方法を用いた遊離の[18F]フッ化物の定量化および[18F]フッ化物回収の正確さ
【0072】
表4のデータは、現在の方法(酢酸アンモニウム)と、組成物自体を使用して移動相A内に初期の一時的なpH調節を提供し、続いて移動相B内の酸変性剤としてTFAを使用する本発明の方法(TFA)を用いた、[18F]フルルピリダズを含む同一の放射性医薬品組成物における遊離の[18F]フッ化物のHPLC分析の比較である。決定の正確さを示すために既知の量の遊離の[18F]フッ化物を試料に加えた。
【0073】
活性測定から存在する遊離の[18F]フッ化物のレベル(バックグラウンド補正済):0.7%
【0074】
【表3】
【0075】
放射性クロマトグラムは報告閾値0.3%を適用して(すなわち0.3%未満のレベルで存在する不純物は報告されない)QC手法に従って分析される。
1)Zorbax C18(50×4.6mm)1.8μmカラムで行なう分析。移動相はほぼ中性のpHである、酢酸アンモニウム(pH6)。
2)Kinetex C18(50×4.6mm)2.6μmカラムで行なう分析。移動相は最初水性のMeCN(pH変性剤なし)で、勾配中0.1%TFAに遷移。
両方の方法は遊離の[18F]フッ化物ピーク(ピーク1)に対して0.7%の相対面積を与える。
【0076】
以下の実施例および表5は四元ポンプ系のHPLC系に基づいて中性のバッファーを組み込む方法に関する。表5はたとえば四元ポンプ系で4つの溶離液チャンネル(すなわちタンクA、B、CおよびD)を用いて行われる移動相勾配プロトコルを記載する。タンクAは水中30%アセトニトリルであり、タンクBは95%アセトニトリル中0.10%v/vTFAであり(TFAの量は必要であれば変えることができる)、タンクCは水中10mM酢酸アンモニウムであり(酢酸アンモニウムの量は必要であれば変えることができるか、または代わりの中性のバッファーを選ぶことができる)、タンクDは100%アセトニトリルである。
タンクA:30%MeCN
タンクB:95%MeCN中0.10%TFA
タンクC:水中10mM酢酸アンモニウム(NHAc)
タンクD:100%MeCN
【0077】
【表4】
【0078】
当業者には容易に理解されるように、本明細書に記載した本発明の実施形態は広く有用であり応用することができる。したがって、本明細書では代表的な実施形態に関連して本発明を詳細に記載したが、この開示は実施形態の実例で典型であって、代表的な実施形態の実施可能な開示を提供するためのものであると理解されたい。本開示は本発明の実施形態を限定するかまたはその他あらゆるかかる実施形態、適合、変形、修正および均等な配列を排除すると解されることを意図していない。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲により規定される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】