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特表2024-518371エアレイド不織布材料用のバイオベースバインダー組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-01
(54)【発明の名称】エアレイド不織布材料用のバイオベースバインダー組成物
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/587 20120101AFI20240423BHJP
   D06M 15/03 20060101ALI20240423BHJP
   D06M 13/184 20060101ALI20240423BHJP
   D04H 1/732 20120101ALI20240423BHJP
   D04H 1/64 20120101ALI20240423BHJP
【FI】
D04H1/587
D06M15/03
D06M13/184
D04H1/732
D04H1/64
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023567237
(86)(22)【出願日】2022-05-04
(85)【翻訳文提出日】2023-11-29
(86)【国際出願番号】 SE2022050429
(87)【国際公開番号】W WO2022235189
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】2150568-0
(32)【優先日】2021-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519058594
【氏名又は名称】オルガノクリック アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウェンマン、マリア
(72)【発明者】
【氏名】ヘルベリ、モルテン
(72)【発明者】
【氏名】キシャーニ、サイナ
【テーマコード(参考)】
4L033
4L047
【Fターム(参考)】
4L033AB07
4L033AC11
4L033BA16
4L033CA02
4L047AA08
4L047AB02
4L047AB06
4L047BA15
4L047BA16
4L047BC01
(57)【要約】
本発明は、環境に優しく、再生可能で、堆肥化可能であり、かつ/又は生分解性である、バイオベースバインダー組成物に関する。バイオベース組成物は、キトサン、酸及び可塑剤を含む。本発明によるバイオベースバインダーでエアレイド不織布材料を処理することにより、以前に入手可能なバイオベースバインダーで処理したエアレイド不織布材料と比較して、より高い伸び、すなわち破断伸び及び強度を示すエアレイド不織布材料を提供することが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアレイド不織布材料用の水性バイオベースバインダー組成物であって、前記バインダー組成物が、酸、可塑剤、及びキトサンを含むカチオン性高分子電解質を含み、
‐前記キトサンが、66~100%の脱アセチル化度を有し、前記バインダー組成物が、0.005~20重量%のキトサンを含み、
‐前記水性バインダー組成物中の前記酸が、ブレンステッド酸及び/又はルイス酸であり、前記ブレンステッド酸が、任意の有機酸及び/又は無機酸から選択され、前記ルイス酸が、任意のカチオン性一価原子又はカチオン性多価原子から選択され、前記水性バインダー組成物が、好ましくは0.01~30重量%の酸を含み、
‐前記水性バインダー組成物が、少なくとも15重量%の可塑剤、好ましくは少なくとも20重量%の可塑剤を含み、
‐前記バインダー組成物のpHが、7未満であり、
前記カチオン性高分子電解質が、アニオン性高分子電解質と複合体を形成していない、
水性バイオベースバインダー組成物。
【請求項2】
前記組成物が、アニオン性高分子電解質を含有しない、
請求項1に記載の水性バインダー組成物。
【請求項3】
前記組成物が、0.005~15重量%のキトサン、又は0.005~10重量%のキトサン、又は好ましくは0.005~5重量%のキトサンを含む、
請求項1又は請求項2に記載の水性バインダー組成物。
【請求項4】
前記可塑剤が、ポリオールであり、好ましくは、前記ポリオールが、グリセロール、マンニトール、マルチトール、キシリトール及びソルビトール、並びにグルコース、マンノース、フルクトース、スクロース、スクラロース、スクロースエステル、シクロデキストリン、加水分解デンプン、デキストリンから選択される糖類のうちの1又は複数から選択される、
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の水性バインダー組成物。
【請求項5】
前記酸が、酢酸、アセチルサリチル酸、アジピン酸、ベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、クエン酸、ジヒドロキシフマル酸、ギ酸、グリコール酸、グリオキシル酸、塩酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、マレイン酸、マンデル酸、シュウ酸、パラ-トルエンスルホン酸、フタル酸、ピルビン酸、サリチル酸、硫酸、酒石酸及びコハク酸のうちの1又は複数から選択され、好ましくは乳酸である、
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の水性バインダー組成物。
【請求項6】
前記組成物が、消泡剤、発泡剤、湿潤剤、融合助剤、触媒、界面活性剤、乳化剤、保存剤、架橋剤、レオロジー調整剤、充填剤、非イオン性ポリマー、染料及び顔料から選択される添加剤のうちの少なくとも1又は複数をさらに含み、前記添加剤の濃度が0~50重量%、より好ましくは0~30重量%である、
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の水性バインダー組成物。
【請求項7】
前記組成物が、少なくとも22重量%、好ましくは少なくとも24重量%、さらにより好ましくは少なくとも25重量%の可塑剤を含む、
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の水性バインダー組成物。
【請求項8】
前記組成物が、1~2.5重量%のキトサン、20~40重量%の可塑剤、0.05~3重量%の酸、並びに所望により0.05~10重量%の、消泡剤、発泡剤、湿潤剤、融合助剤、触媒、界面活性剤、乳化剤、保存剤、架橋剤、レオロジー調整剤、充填剤、非イオン性ポリマー、染料及び顔料から選択される添加剤のうちの少なくとも1又は複数を含む、
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の水性バインダー組成物。
【請求項9】
エアレイド不織布材料をバイオベースバインダー組成物で処理する方法であって、前記方法が、
a)酸、可塑剤、及びキトサンを含むカチオン性高分子電解質を含むバインダー組成物を提供する工程であって、前記キトサンが、66~100%の脱アセチル化度を有し、
前記バインダー組成物中の前記酸が、ブレンステッド酸及び/又はルイス酸であり、前記ブレンステッド酸が、任意の有機酸及び/又は無機酸から選択され、前記ルイス酸が、任意のカチオン性一価原子又はカチオン性多価原子から選択される、工程と、
b)所望により、前記バインダー組成物を請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の水性バインダー組成物に希釈する工程と、
c)形成されたエアレイド不織布ウェブ上に前記バインダー組成物を塗布することによって、工程a)又は工程b)の組成物をエアレイド不織布に塗布する工程と、
d)所望により、前記処理されたエアレイド不織布材料を硬化させる工程であって、好ましくは、前記硬化が、20~200℃で実行される、工程と、を含む、
方法。
【請求項10】
前記方法が、前記処理されたエアレイド不織布のより高い伸びをもたらし、好ましくは、前記方法が、少なくとも4%、好ましくは少なくとも6%の伸びをもたらす、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の水性バインダー組成物で処理された、
エアレイド不織布材料。
【請求項12】
前記材料が、少なくとも4%、好ましくは少なくとも6%の伸びを示す、
請求項11に記載のエアレイド不織布材料。
【請求項13】
エアレイド不織布材料を処理するための、
請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の水性バインダー組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境に優しく、再生可能で、堆肥化可能であり、かつ/又は生分解性である、バイオベースバインダー組成物に関する。バイオベース組成物は、キトサン、酸及び可塑剤を含む。本発明はさらに、本発明によるバイオベースバインダー組成物でエアレイド不織布を処理する方法に関する。
【0002】
本発明による組成物は、エアレイド不織布材料用のバインダーとして好適である。本発明によるバインダー組成物によるエアレイド不織布材料の処理は、以前に入手可能なバイオベースバインダーで処理されたエアレイド不織布材料と比較して、より高い伸び、すなわち破断伸び及び強度を示すエアレイド不織布材料を提供する。
【背景技術】
【0003】
エアレイド不織布は、使い捨ておむつ、女性用衛生用品、工業用ワイプ(拭き取り繊維)、ウェットワイプ、ナプキン、テーブルクロス及び高い柔軟性を必要とする他の製品の製造に伝統的に使用されている。それらは通常、嵩高性、柔軟性及び高い吸水性を特徴とする。
【0004】
エアレイドプロセスでは、媒体として空気を使用して繊維の連続ウェブが形成される。一般に、繊維は、空気流中に分散され、例えば移動するワイヤ上に堆積される。次いで、得られた堆積物は、例えば圧力又は真空によって圧縮される。しかしながら、材料は、この段階では、例えば湿式プロセスで形成された水素結合により得るウェットレイド不織布又は紙のように内部強度を高めることができないため、完全に接着されていない。
【0005】
エアレイド不織布の接着又は他の機械的改善を達成するために、バインダーが通常添加され、使用されるバインダーの種類に応じて製造プロセスの異なる段階で導入され得る。伝統的に、液体バインダー、スラリー、懸濁液、フォーム、又は粉末バインダーの両方が使用されてきた。最も一般的な接着技術は、形成されたウェブの側面に添加され、その後に硬化されるラテックスなどの液体バインダーの添加である。別の接着代替法は、熱接着であり、この場合、合成繊維が繊維空気分散系に添加され、得られた不織布材料が加熱され、合成繊維間の接着をもたらす。
【0006】
伸びは、エアレイド不織布材料の重要な要件である。硬すぎる、すなわち柔らかい手触りを伴い柔軟でない場合、エアレイド不織布は、ユーザにとって不快であると知覚される。また、エアレイド不織布材料の強度及び柔軟性が十分でないと、使用時に破れてしまうことがある。したがって、エアレイド不織布を開発する場合には、強度、柔らかい手触り及び柔軟性を組み合わせることが非常に重要である。加えて、材料の生成及び加工は、高い伸び及び強度を必要とする。
【0007】
合成バインダー、すなわちプラスチックバインダーの使用を低減する試みにおいて、エアレイド不織布に使用される合成ポリマーに取って代わることができるバイオベースポリマーに注目が集まっている。それにもかかわらず、これまでの選択肢のいずれも、そのような製品にとって重要なパラメータである十分に高い伸びを有するエアレイド不織布物品を達成することができない。
【0008】
国際公開第2020/068151号パンフレットなどの不織布における合成バインダーの使用を低減又は排除するための以前の試みがなされている。しかしながら、国際公開第2020/068151号パンフレットに開示されている物品は、依然として合成繊維及び/又は湿潤強度剤を含む。
【0009】
不織布材料におけるバインダー成分としてのキトサンの使用は、国際公開第2012/015863号パンフレットなどで以前に検討されている。しかしながら、国際公開第2012/015863号パンフレットに明確に述べられているように、唯一のバインダーとしてのキトサンは、例えば引張強度などの十分に良好なレベルの機械的特性を提供することができない。したがって、これらの特性並びに強度及び伸び特性を改善するために、合成成分、すなわち酢酸ビニルエチレンが提供される。
【0010】
バイオベース高分子電解質複合体(PEC、polyelectrolyte complexes)もまた、繊維系材料、織物、織布及び不織布などの材料の環境に優しいバインダー代替物として研究されてきた。PECは、反対に帯電したポリカチオンとポリアニオンとの間に形成された会合複合体であり、反対に帯電したポリイオン間の静電相互作用により形成される。そのようなバインダーは、例えば、国際公開第2018/038671号パンフレットに記載されている。しかしながら、PECバインダー組成物で処理されたエアレイド不織布は、約3%の伸びしか示さず、これは前述のように、エアレイド不織布物品にとって十分に高くはない。通常、約6~9%の伸びが必要である。
【0011】
したがって、エアレイド不織布に使用される従来の合成バインダーに匹敵する強度及び最も重要な伸び特性を提供する、エアレイド不織布用のバイオベースバインダーが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、エアレイド不織布材料用のバインダーとして好適なバイオベースバインダー組成物を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、処理されたエアレイド不織布材料に十分に高い伸びを与えるバイオベースバインダー組成物を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、環境に優しく、再生可能で、堆肥化可能であり、かつ/又は生分解性である、バイオベースバインダー組成物を提供することである。
【0015】
本発明のさらなる目的は、強度及び十分に良好な伸び、好ましくは少なくとも4%の伸びを示すエアレイド不織布を提供することである。
【0016】
上記の目的の任意の組み合わせも可能である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
1つの一般的な態様では、本発明は、エアレイド不織布材料用の水性バイオベースバインダー組成物であって、酸、可塑剤、及びキトサンを含むカチオン性高分子電解質を含む、水性バイオベースバインダー組成物に関し、
‐キトサンは、66~100%の脱アセチル化度を有し、組成物は、0.005~20重量%のキトサンを含み、
‐水性バインダー組成物中の酸は、ブレンステッド酸及び/又はルイス酸であり、ブレンステッド酸は、任意の有機酸及び/又は無機酸から選択され、ルイス酸は、任意のカチオン性一価原子又はカチオン性多価原子から選択され、水性バインダー組成物は、好ましくは0.01~30重量%の酸を含み、
‐水性バインダー組成物は、少なくとも15重量%の可塑剤、好ましくは少なくとも20重量%の可塑剤を含み、
‐水性バインダー組成物のpHは、7未満であり、
カチオン性高分子電解質は、アニオン性高分子電解質と複合体を形成していない。
【0018】
本発明による水性バイオベースバインダー組成物によって、大量の再生可能材料を含む、又は完全に再生可能材料で作製されたエアレイド不織布材料用のバインダーが達成される。さらに、驚くべきことに、本発明による水性バインダー組成物は、エアレイド不織布材料中のバインダーとしてより良好に作用することができ、したがって、業界によって使用される従来の合成バインダーと比較して、十分に高い強度及び伸びの両方を示す材料をもたらすことが見出された。キトサンは、他のカチオン性高分子電解質と比較して、バインダー組成物で処理された材料により高い引張指数を付与する。好ましくは、バインダー組成物は、少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、さらにより好ましくは少なくとも80重量%、最も好ましくは少なくとも90重量%のバイオベース、すなわち天然起源の成分を含む。
【0019】
本発明によるバインダー組成物では、組成物中にアニオン性高分子電解質対イオンが存在しないキトサンを含むカチオン性高分子電解質が、エアレイド不織布材料内により良好に広がることができ、したがってより均一な分布をもたらすことが見出された。理論に束縛されるものではないが、カチオン性高分子電解質とアニオン性高分子電解質との間の静電相互作用の欠如は、カチオン性高分子電解質をより膨張した形状にすると考えられる。カチオン性高分子電解質がアニオン性対成分と相互作用する場合、得られる高分子電解質複合体は、よりコイル状の構造を示す。より膨張した形状を達成することにより、カチオン性高分子電解質は、エアレイド不織布構造内により良好に広がることができると考えられる。これは、キトサンがそれ自体及びエアレイド不織布材料内の繊維と連結する結合成分として作用するので、PECバインダー組成物が使用された場合と比較して、より強力でより柔軟なエアレイド不織布材料をもたらす。キトサンを含むカチオン性高分子電解質と可塑剤との間の相乗効果は、エアレイド不織布用のバインダーとして好適な組成物をもたらし、これは、使用される従来の合成バインダーに匹敵する処理材料の強度及び伸びの両方を達成することができる。
【0020】
キトサンがそのカチオン形態であるためには酸性環境が必要であるため、水性バインダー組成物においてpHが7未満であることが重要である。好ましくは、組成物のpHは、6.5未満であり、好ましくは組成物のpHは、1.8~5である。
【0021】
一態様では、水性バインダー組成物は、蒸留水、水道水及び脱イオン水から選択される溶媒をさらに含んでもよい。
【0022】
一態様では、水性バインダー組成物は、カチオン性高分子電解質としてのキトサン、酸としての乳酸、並びに可塑剤としてのソルビトール、加水分解デンプン、キシリトール及びマルチトールのうちの少なくとも1つを含む。好ましくは、可塑剤は、加水分解デンプンを含む。
【0023】
水性バイオベースバインダー組成物の成分の各々の量は、組成物の意図する用途、並びにその用途に必要な特性、例えば強度、柔軟性及び/又は伸びなどに依存する。
【0024】
一態様では、水性バインダー組成物は、少なくとも22重量%、好ましくは少なくとも24重量%、さらにより好ましくは少なくとも25重量%の可塑剤をさらに含んでもよい。一態様では、組成物は20~30重量%の可塑剤を含む。
【0025】
一態様では、水性バインダー組成物中のカチオン性高分子電解質は、キトサンからなる。
【0026】
一態様では、水性バインダー組成物は、アニオン性高分子電解質を含有しない。かなりの量のアニオン性高分子電解質が組成物中に存在する場合、カチオン性高分子電解質及びアニオン性高分子電解質は、高分子電解質複合体(PEC)を形成し、前述のようにバインダー組成物の機能性が損なわれる。
【0027】
一態様では、水性バインダー組成物は、0.005~15重量%のキトサン、好ましくは0.005~10重量%、さらにより好ましくは0.005~5重量%のキトサンを含む。一態様では、組成物は、0.5~3重量%、さらにより好ましくは1.5~2.5重量%のキトサンを含む。キトサンの重量%は、所望の粘度に基づいて最適化される。好ましくは、組成物は、約2重量%のキトサンを含む。一態様では、組成物は、2.1重量%のキトサンを含む。
【0028】
一態様では、可塑剤は、ポリオールであり、好ましくはポリオールは、グリセロール、マンニトール、マルチトール、キシリトール及びソルビトール、並びにグルコース、マンノース、フルクトース、スクロース、スクラロース、スクロースエステル、シクロデキストリン、加水分解デンプン、デキストリンなどから選択される糖類のうちの1又は複数から選択される。一態様では、可塑剤は、好ましくはソルビトールである。
【0029】
可塑剤との関連において、加水分解デンプンは、様々な天然源からのデンプンの化学的処理又は酵素的処理からの生成物である。加水分解デンプンは、水素化することができ、ポリオールの混合物を含み、本発明に好適なブランドは、CAS番号68425-17-2及び/又はCAS番号1259528-21-6などのものであり得る。
【0030】
一態様では、酸は、酢酸、アセチルサリチル酸、アジピン酸、ベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、クエン酸、クエン酸一水和物、ジヒドロキシフマル酸、ギ酸、グリコール酸、グリオキシル酸、塩酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、マレイン酸、マンデル酸、シュウ酸、パラ-トルエンスルホン酸、フタル酸、ピルビン酸、サリチル酸、硫酸、酒石酸及びコハク酸のうちの1又は複数から選択され、好ましくは乳酸である。
【0031】
一態様では、水性バインダー組成物は、消泡剤、発泡剤、湿潤剤、融合助剤、触媒、界面活性剤、乳化剤、防腐剤、レオロジー調整剤、充填剤、非イオン性ポリマー、染料及び顔料から選択される添加剤のうちの少なくとも1又は複数をさらに含み、添加剤の濃度は、組成物の総重量の0~50重量%、より好ましくは0~30重量%である。前記添加剤は、適用方法及び予想される最終材料特性に応じて選択される。
【0032】
触媒は、粘土、コロイド状シリカ又は非コロイド状シリカ、ジアルデヒド、有機アミン、有機アミド、第四級アミン、金属酸化物、金属硫酸塩、金属塩化物、硫酸尿素、塩化尿素及びケイ酸塩に基づく触媒などのルイス塩基及び酸から選定することができる。
【0033】
防腐剤は、殺真菌剤、殺菌剤、医薬品防腐剤、化粧品防腐剤及び食品防腐剤のうちの1又は複数から選択することができる。防腐剤を含むことは、バインダー組成物中のカビの成長を抑制するのに役立つ。さらに、防腐剤を含まないバインダー組成物は、防腐剤を含むバインダー組成物よりも黄色/茶色になることが発見された。たとえ黄色が多い組成物と黄色が少ない組成物との間で性能が同じであっても、黄色は、材料に転写され、望ましくない黄変を引き起こす。
【0034】
充填剤は、アラビアガム、コンニャクグルコマンナン、有機充填剤、デンプン大豆粉、オリーブ種子粉、コルク粉、トウモロコシ穂軸、米ぬか殻などの木粉、並びに炭酸カルシウム、ガラス繊維、カオリン、タルク及びマイカなどの無機充填剤、並びに当業者に公知の他の充填剤のうちの1又は複数から選択されてもよい。
【0035】
一態様では、水性バインダー組成物は、1~2.5重量%のキトサン、20~40重量%の可塑剤、0.05~3重量%の酸、並びに所望により0.05~10重量%の、消泡剤、発泡剤、湿潤剤、融合助剤、触媒、界面活性剤、乳化剤、保存剤、架橋剤、レオロジー調整剤、充填剤、非イオン性ポリマー、染料及び顔料から選択される添加剤のうちの少なくとも1又は複数を含む。
【0036】
別の一般的な態様では、本発明は、エアレイド不織布材料をバイオベースバインダー組成物で処理する方法を対象とし、方法は、
a)酸、可塑剤、及びキトサンを含むカチオン性高分子電解質を含むバインダー組成物を提供する工程であって、キトサンが、66~100%の脱アセチル化度を有し、バインダー組成物中の酸が、ブレンステッド酸及び/又はルイス酸であり、ブレンステッド酸が、任意の有機酸及び/又は無機酸から選択され、ルイス酸が、任意のカチオン性一価原子又はカチオン性多価原子から選択される、工程と、
b)所望により、バインダー組成物を前述の態様のいずれか1つに記載の水性バインダー組成物に希釈する工程と、
c)形成されたエアレイド不織布ウェブ上にバインダー組成物を塗布することによって、工程a)又は工程b)の組成物をエアレイド不織布に塗布する工程と、
d)所望により、処理されたエアレイド不織布材料を硬化させる工程であって、好ましくは、硬化が20~200℃で実行される、工程と、を含む。
【0037】
一態様では、工程a)で提供されるバインダー組成物は、前述の態様のいずれかによる水性バインダー組成物である。一態様では、工程a)で提供される水性バインダー組成物は、酸、可塑剤、及びキトサンを含むカチオン性高分子電解質を含み、
‐キトサンは、66~100%の脱アセチル化度を有し、水性バインダー組成物は、0.005~20重量%のキトサンを含み、
‐水性バインダー組成物中の酸は、ブレンステッド酸及び/又はルイス酸であり、ブレンステッド酸は、任意の有機酸及び/又は無機酸から選択され、ルイス酸は、任意のカチオン性一価原子又はカチオン性多価原子から選択され、水性バインダー組成物は、好ましくは0.01~30重量%の酸を含み、
‐水性バインダー組成物は、少なくとも15重量%の可塑剤、好ましくは少なくとも20重量%の可塑剤を含み、
‐バインダー組成物のpHは、7未満であり、
カチオン性高分子電解質は、アニオン性高分子電解質と複合体を形成していない。
【0038】
本発明の一態様では、工程b)におけるバインダー組成物は、1~2.5重量%のキトサン、20~40重量%の可塑剤、0.05~3重量%の酸、並びに所望により0.05~10重量%の、消泡剤、発泡剤、湿潤剤、融合助剤、触媒、界面活性剤、乳化剤、保存剤、架橋剤、レオロジー調整剤、充填剤、非イオン性ポリマー、染料及び顔料から選択される添加剤のうちの少なくとも1又は複数を含む水性バインダー組成物に希釈される。
【0039】
本発明による方法を使用することにより、従来のバインダーで接着されたエアレイド不織布に匹敵する改善された強度及び伸び特性を示すエアレイド不織布材料が達成される。これにより、エアレイド不織布材料の機械的特性を損なうことなく、従来のバインダーをより環境に優しい代替物で置き換えることが可能になる。
【0040】
一態様では、本方法は、処理されたエアレイド不織布のより高い伸びをもたらし、好ましくは、本方法は、少なくとも4%、好ましくは少なくとも6%の伸びをもたらす。本明細書で使用される場合、伸びは、standard Edana20.2-89に従って測定された全破断伸びを意味する。
【0041】
一態様では、硬化は、20~200℃で実行される。好ましくは、硬化は、135℃超、好ましくは150℃超で実行される。
【0042】
バインダー組成物は、例えば、エアレイド不織布材料上にバインダー組成物を噴霧することによって、又はエアレイド不織布材料上にバインダー組成物をコーティングすることによって、又はエアレイド不織布材料上にバインダー組成物を含浸させることによって、塗布することができる。
【0043】
別の一般的な態様では、本発明は、前述の態様のいずれか1つで定義されたバインダー組成物で処理されたエアレイド不織布材料を対象とする。一態様では、処理されたエアレイド不織布材料は、前述の態様のいずれか1つで定義されたバインダー組成物で処理され、組成物はバインダーとして作用する。
【0044】
一態様では、エアレイド不織布材料は、前述の態様のいずれか1つで定義された水性バインダー組成物での処理後に少なくとも4%の伸びを示す。好ましくは、伸びは、少なくとも6%である。伸びは、Edana20.2-89に従って測定される。
【0045】
別の一般的な態様では、本発明は、エアレイド不織布材料を処理するための、前述の態様のいずれか1つによる水性バインダー組成物の使用を対象とする。水性組成物の使用は、以前に入手可能なバイオベースバインダーで処理されたエアレイド不織布材料と比較して、より高い伸び、すなわち破断伸び及び強度を提供するためであることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の詳細な説明を提供する。
【0047】
本明細書で使用される場合、「重量%」は、言及される化合物又は組成物の総重量に対して言及される1つの構成成分又は複数の構成成分の重量パーセントを指す。
【0048】
本明細書で使用される場合、「約」は、当業者が、そのような変動が開示された発明において実行するのに適切であることを理解する限りにおいて、指定された値の+/-5%以下、さらにより好ましくは+/-1%以下、なおより好ましくは+/-0.1%以下の変動を包含することを意味する量などの測定可能な値を指す。しかしながら、「約」が指す値自体も具体的に開示されていることを理解されたい。
【0049】
本明細書で使用される場合、エアレイド不織布材料は、エアレイド(ドライレイド)プロセスによって生成された不織布材料である。エアレイド不織布は、天然繊維、例えば木部繊維(例えばパルプ)、フラッフパルプ、又はマンベードバイオベース繊維、例えばビスコース、リヨセル、PLAなどによって生成することができる。少量又はかなりの量の合成繊維、例えばPES、PET、PPなどもエアレイド不織布材料中に存在することができる。エアレイド不織布材料は、乳児用おむつ、女性用衛生製品及び不潔ケア製品などの衛生用途;ナプキン又はテーブルクロスなどの卓上製品;フィルタ材料;自動車用不織布;ティーバッグ及びコーヒーフィルタ;フェイスマスク、手術用ガウン及びヘアカバーに使用される医療用不織布;食品包装材料;ワイプ及びウェットワイプ;ジオテキスタイルなどの用途に使用することができるが、これらに限定されない。
【0050】
以下に、実施例1~5で使用される全ての実験化学物質、装置及び方法を記載する。
【0051】
化学物質
本発明内で使用される全ての化学物質を表1に記載する。
【表1】
【0052】
機器
本特許で使用された全ての機器を以下に列挙する。
・IKA T25デジタルUltra-Turraxを使用して、配合物の均質化を行った。
・Wichelhaus WI-MU 505 A水平パダーを用いて不織布のコーティングを実行した。
・処理された不織布の乾燥は、針フレームを備えたTermaks製のオーブンで行った。
・Wintest分析ソフトウェアと共にTestometric M250-2.5AT(機械容量2.5kN)を使用して、引張試験を実施した。
【0053】
材料
2つの不織布基材を本実験に使用した。それらは、表2にさらに記載されている。取り扱い及び輸送のための材料を安定させるために、少量のEVAが存在する。
【表2】
【0054】
方法
以下のセクションでは、実施例で参照される全ての方法を記載する。
・方法A:圧力0.1MPa及び速度11.6を使用して、ステンターフレームで150℃で3分間乾燥させながら、不織布を水平パダーでコーティングする。試験点ごとに3~5枚の不織シートを処理した。各試験点で2~3個の試料試験片を切り出して試験した。
・方法B:試験片を23℃及び50%RHに少なくとも20時間放置した後、Testometric M250-2.5AT(プリテンション:0.01N、試料長:200mm、幅:50mm、速度:100mm/分、ロードセル1:250kgf)を使用して、乾燥不織布の引張試験を実行した。
・方法C:試験片を23℃及び50%RHに少なくとも20時間放置し、次いで、フィンチカップ内で15秒間水に浸した後、Testometric M250-2.5AT(プリテンション:0.01N、試料長:200mm、幅:50mm、速度:100mm/分、ロードセル1:250kgf)を使用して、湿潤不織布の引張試験を実行した。
【0055】
実験
【0056】
実験1:機械的特性を評価するためのPECバインダーの基本概念の設計。
ポリカチオン、ポリアニオン、酸及び可塑剤を含む2つの初期概念配合物を作成して、不織布基材の機械的特性を評価した。2つの概念配合物は、クエン酸(表3)又は乳酸(表4)のいずれかを含んでいた。概念配合物内で、異なる可塑剤を試みた。
【表3】

【表4】
【0057】
全ての配合物が透明又はわずかに不透明になった。フィルムをポリプロピレン上にキャストした。キシリトールを含むフィルムは、水素化加水分解デンプンを含むフィルムよりも柔軟であった。凍結後は、全てのフィルムが硬くなる。冷蔵庫(7℃)では、水素化加水分解デンプンのみを含むフィルムは、硬くなったが、キシリトール及びキシリトール+水素化加水分解デンプンを含むフィルムは、依然として柔軟であった。これは、適正な可塑剤又は可塑剤の組み合わせを選定することによって、バインダーフィルムの柔軟性を適正なレベルに調整できることを意味する。
【0058】
ウェットレイド不織布材料を方法Aに従って処理した。処理した不織布材料を用いた機械的試験を方法B(乾燥)及び方法C(湿潤)に従って実行した。結果を表5に示す。
【表5】
【0059】
クエン酸の代わりに乳酸を使用すると、ウェットレイド不織布材料でわずかにより良好な伸びが得られた。他の1つの発見は、可塑剤としての水素化加水分解デンプンが全体的により良好な強度を与えることであった。
【0060】
実施例2:高歪みを有するバインダーの概念の開発
以下の試験の目的は、不織布材料の伸びを増加させることであった。実施例1の結論から、及びパラメータをより活用するために、PECのアニオン性部分を除外することを試験した。カチオン性ポリマー(キトサン)は、湿潤強度へのその寄与のために保たれた。2つのレシピを作成した(表6参照)。
【表6】
【0061】
ウェットレイド不織布材料を方法Aに従って処理した。処理した不織布材料の機械的試験を方法B(乾燥)に従って実行した。結果を表7に示す。
【表7】
【0062】
図から分かるように、一方の配合物は、他方よりも高い歪みに寄与した。
【0063】
実験3.ウェットレイド不織布材料とエアレイド不織布材料との比較
ウェットレイド不織布とエアレイド不織布との間のデータを比較するために、同じバインダーを2種類の不織布に塗布した。可塑剤(ポリオール)を変えることができるが、同じ量(%)を保つレシピを確立した。レシピは、ポリアニオン及びポリカチオンの両方、したがってPECを含有していた。使用した異なるポリオールは、ソルビトール、キシリトール及びマルチトールであった。表8のレシピを参照されたい。
【表8】
【0064】
ウェットレイド不織布及びエアレイド不織布を方法Aに従って処理した。処理した不織布材料を用いた機械的試験を方法B(乾燥)に従って実行した。結果を表9に示す。
【表9】
【0065】
結果は、伸びが一般にウェットレイドよりもエアレイド不織布の方が高く、これは材料の性質に起因することを示している。可塑剤を変えることによって、両方の材料の伸びが変化することも分かる。しかしながら、4%のレベルの歪みは、通常、エアレイド材料では十分ではない。したがって、エアレイド不織布材料には、新しい環境に優しいバインダーが必要である。
【0066】
実験4:エアレイド不織布用の水性バインダー
エアレイド不織布をバインダー5で処理し、キトサンは異なるグレード間で変更した。可塑剤は、元のレシピと同じままとした。エアレイド不織布を方法Aに従って処理した。処理した不織布材料を用いた機械的試験を方法B(乾燥)に従って実行した。結果を表10に示す。
【表10】
【0067】
表10に見られるように、ポリアニオンを含まないバインダーを使用する場合、エアレイド不織布材料で7%に近い伸びに達することができる。さらに、実験4で使用されたバインダーは、バイオベースであるため、これは、エアレイド不織布材料用の従来の合成バインダーの有効な代替物を作成し、十分に良好な強度及び伸び特性の両方を提供することができる。結果はまた、適切な脱アセチル化度を有するキトサンを選択することによって、強度及び伸び特性を制御できることを示している。
【0068】
実験5:エアレイド不織布の伸びの比較
実験の目的は、カチオン性ポリマーのみ、アニオン性ポリマーのみ、並びにカチオン性及びアニオン性ポリマーのPECを使用した場合の伸びの差を分析することであった。
表11のレシピに従って、異なるポリマー(キトサン及びCMC)を水、水素化加水分解デンプン、殺生物剤及び乳酸中で均質化した。ポリマーは、単独(1.6重量%)又は組み合わせ(それぞれ0.8重量%)のいずれかで存在した。
【表11】
【0069】
バインダー組成物を14%に希釈し、綿毛パルプからなり、片面がEVA(エチレンビニルアセテート)で接着されたエアレイド不織布材料を、パダー(速度11.6rpm、圧力11.6MPa)を使用して含浸させた。材料をコンベヤベルト上に置き、160℃に設定したオーブンに30分間通すと乾燥した。材料から10個の試験片を切り出し、垂直引張試験機で試験した。結果を表12にまとめる。
【表12】
【0070】
結果から、2つの異なるポリマーで別々に処理した材料との比較において、PEC組成物で処理した材料の伸びが低いことが分かる。CMCの存在なしでポリマー成分としてキトサンを使用する場合、又はCMCのみを使用する場合、引張指数がより高いことも分かる。
【国際調査報告】