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特表2024-518378PRAMEに特異的に結合する抗原結合タンパク質
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-01
(54)【発明の名称】PRAMEに特異的に結合する抗原結合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240423BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240423BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240423BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240423BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240423BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240423BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240423BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240423BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240423BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240423BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240423BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240423BHJP
   A61K 36/06 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/19
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 T
A61K48/00
A61K35/12
A61K35/17
A61K36/06
A61P35/00
A61P35/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023567906
(86)(22)【出願日】2022-05-04
(85)【翻訳文提出日】2023-12-22
(86)【国際出願番号】 EP2022062017
(87)【国際公開番号】W WO2022233956
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】21172351.5
(32)【優先日】2021-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】63/184,689
(32)【優先日】2021-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】506258073
【氏名又は名称】イマティクス バイオテクノロジーズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】プスツォラ,ガブリエーレ
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】フット,マイケ
(72)【発明者】
【氏名】ブンク,ゼバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ウンフェルドルベン,フェリックス
(72)【発明者】
【氏名】シュヴェーベル ,フランク
(72)【発明者】
【氏名】マウラー,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ヤヴォルスキ,マイケ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァークナー,クラウディア
(72)【発明者】
【氏名】シュヴェーラー.フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】シュスター,ハイコ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA91X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZB27
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB31
4C085DD62
4C085EE01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB57
4C087BB65
4C087BC11
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
4H045EA50
(57)【要約】
本発明は、PRAMEタンパク質由来抗原に対する抗原結合タンパク質に関する。本発明は、特に、腫瘍発現抗原PRAMEに特異的な抗原結合タンパク質を提供し、この腫瘍抗原は、配列番号50を含むか、またはからなり、かつ主要組織適合複合体(MHC)タンパク質との複合体で存在している。本発明の抗原結合タンパク質は、特に、前記PRAMEペプチドに特異的に結合する新規の操作されたT細胞受容体(TCR)の相補性決定領域(CDR)を含む。本発明の抗原結合タンパク質は、PRAME発現がん性疾患の診断、処置、および予防に使用される。本発明の抗原結合タンパク質をコードする核酸、前記核酸を含むベクター、前記抗原結合タンパク質を発現する組み換え細胞、および本発明の抗原結合タンパク質を含む医薬組成物がさらに提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号50のアミノ酸配列SLLQHLIGLを含むかまたはからなりかつ主要組織適合複合体(MHC)タンパク質との複合体で存在しているPRAME抗原ペプチドに特異的に結合する抗原結合タンパク質であって、
(a)相補性決定領域(CDR)CDRa1、CDRa2、およびCDRa3を含む可変ドメインVを含む第1のポリペプチドであって、
前記CDRa1は、アミノ酸配列VKEFQD(配列番号16)、または1、2、もしくは3個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号16と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなり、
前記CDRa3は、アミノ酸配列ALYNNLDMR(配列番号33)もしくはALYNNYDMR(配列番号34)、または1、2、もしくは3個(好ましくは1もしくは2個)のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号33もしくは配列番号34と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなり、
適宜、前記CDRa2は、アミノ酸配列FGPYGKE(配列番号32)、または1、2、もしくは3個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号32と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなる、
第1のポリペプチドと、
(b)CDRb1、CDRb2、およびCDRb3を含む可変ドメインVを含む第2のポリペプチドであって、
前記CDRb1は、アミノ酸配列SGHNS(配列番号10)、または1もしくは2個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号10と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなり、
前記CDRb3は、アミノ酸配列ASSXGXDXQY(配列番号327)(式中、Xは、P、A、もしくはTであり、Xは、AもしくはSであり、Xは、TもしくはIであり、Xは、KもしくはAである)、または1、2、もしくは3個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号327と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなり、
適宜、前記CDRb2は、アミノ酸配列FQNTAV(配列番号36)、または1、2、3、4、5、もしくは6個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号36と異なるCDRb2アミノ酸配列を含むか、またはからなる、
第2のポリペプチドと
を含む抗原結合タンパク質。
【請求項2】
前記抗原結合タンパク質は、
配列番号50の3、5、6、7、および8位(特に3、5、および7位)からなる群から選択される少なくとも3、4、もしくは5箇所のアミノ酸位置を含むかもしくはからなる機能エピトープに特定的に結合し、好ましくは、配列番号50のアミノ酸3、5、および7位、もしくは3、5、6、および7位、もしくは3、5、7、および8位、もしくは3、5、6、7、および8位からなるが好ましくは配列番号50のアミノ酸1および4位からならない機能エピトープに特異的に結合するか、または
配列番号50の1、3、4、5、6、7、および8位からなる群から選択される少なくとも6もしくは7箇所のアミノ酸位置を含むかもしくはからなる機能エピトープに特異的に結合する、
請求項1に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項3】
前記抗原結合タンパク質は、MHCタンパク質との複合体中のTMED9-001(配列番号51)、CAT-001(配列番号52)、DDX60L-001(配列番号53)、LRRC70-001(配列番号54)、PTPLB-001(配列番号55)、HDAC5-001(配列番号56)、VPS13B-002(配列番号57)、ZNF318-001(配列番号58)、CCDC51-001(配列番号59)、IFT17-003(配列番号60)、DIAPH1-004(配列番号62)、FADS2-001(配列番号63)、FRYL-003(配列番号64)、GIMAP8-001(配列番号65)、HSF1-001(配列番号66)、KNT-001(配列番号67)、MAU-001(配列番号68)、MCM4-001(配列番号69)、MPPE1-001(配列番号71)、MYO1B-002(配列番号72)、PRR12-001(配列番号73)、PTRF-003(配列番号74)、RASGRP1-001(配列番号75)、SMARCD1-001(配列番号76)、TGM2-001(配列番号77)、VAV1-001(配列番号78)、VIM-009(配列番号317)、FARSA-001(配列番号306)、ALOX15B-003(配列番号304)、FAM114A2-002(配列番号305)、GPR56-002(配列番号307)、IGHD-002(配列番号308)、NOMAP-3-0972(配列番号309)、NOMAP-3-1265(配列番号310)、NOMAP-3-1408(配列番号311)、NOMAP-3-1587(配列番号312)、NOMAP-3-1768(配列番号313)、NOMAP-5-0765(配列番号314)、PDCD10-004(配列番号315)、TSN-001(配列番号316)、ARMC9-002(配列番号187)、CLI-001(配列番号188)、COPG1-001(配列番号190)、COPS7A-001(配列番号192)、EIF-009(配列番号194)、EXT2-006(配列番号196)、LMNA-001(配列番号198)、PKM-005(配列番号200)、PSMB3-002(配列番号202)、RPL-007(配列番号204)、SPATS2L-003(配列番号206)、SYNE1-002(配列番号208)、TGM2-002(配列番号210)、およびTPR-004(配列番号212)からなる群から選択される少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20個、または全ての類似ペプチドに有意に結合せず、好ましくは、前記抗原結合タンパク質は、MHCタンパク質との複合体中のIFT17-003(配列番号60)に有意に結合しない、請求項1または2に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項4】
前記抗原結合タンパク質は、多重特異性であり、例えば、四重特異性、三重特異性、または二重特異性であり、好ましくは二重特異性であり、特に、前記抗原結合タンパク質は、二重特異性TCR、二重特異性抗体、または二重特異性TCR抗体分子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項5】
- 前記第1および前記第2のポリペプチドは、単一のポリペプチド鎖もしくは2つのポリペプチド鎖に含まれており、好ましくは、Vは、第1のポリペプチド鎖に含まれており、かつVは、第2のポリペプチド鎖に含まれており;ならびに/または
- 前記可変ドメインVは、VαドメインもしくはVγドメインであり、かつ前記可変ドメインVは、VβドメインもしくはVδドメインである、
請求項1~4のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項6】
は、FR1-a、FR2-a、FR3-a、およびFR4-aからなる群から選択される1つまたは複数のフレームワーク領域、好ましくは全てのフレームワーク領域をさらに含み、
- FR1-aは、配列番号345もしくは配列番号346のアミノ酸配列、または配列番号345と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、20位でKもしくはNを含み、より好ましくはKを含み、および/または2位でLもしくはMを含み、より好ましくはLを含み;
- FR2-aは、配列番号347もしくは配列番号348のアミノ酸配列、または配列番号347と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、39位でL、I、もしくはMを含み、より好ましくはLもしくはIを含み、47位でAもしくはDを含み、より好ましくはAを含み、44位でKもしくはWを含み、好ましくはKを含み、52位でFもしくはAを含み、好ましくはFを含み、および/または55位でYもしくはVを含み、好ましくはYを含み;
- FR3-aは、配列番号349のアミノ酸配列、または配列番号349と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、92位でTもしくはKを含み、より好ましくはTを含み、および/または93位でDもしくはGを含み、好ましくはDを含み;
- FR4-aは、配列番号350のアミノ酸配列、または配列番号350と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり;
は、FR1-b、FR2-b、FR3-b、およびFR4-bからなる群から選択される1つまたは複数のフレームワーク領域、好ましくは全てのフレームワーク領域をさらに含み、
- FR1-bは、配列番号351もしくは配列番号352のアミノ酸配列、または配列番号351と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、10位でHもしくはNを含み、より好ましくはHを含み、11位でE、L、もしくはKを含み、好ましくはEを含み、および/または22位でRもしくはHを含み;
- FR2-bは、配列番号353のアミノ酸配列、または配列番号353と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、43位でRもしくはKを含み、より好ましくはRを含み、44位でEもしくはQを含み、好ましくはEを含み、46位でMもしくはPを含み、より好ましくはPを含み、および/または48位でRもしくはQを含み、より好ましくはQを含み;
- FR3-bは、配列番号354もしくは配列番号355のアミノ酸配列、または配列番号354と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、84位で、D、A、E、R、K、Q、N、またはSを含み、より好ましくはD、A、E、Q、N、またはSを含み、より好ましくはDまたはAを含み、さらにより好ましくはDを含み;
- FR4-bは、配列番号356のアミノ酸配列、または配列番号356と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなる、
請求項1~5のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項7】
- Vは、配列番号132のアミノ酸配列、または配列番号132と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、配列番号16のCDRa1、配列番号32のCDRa2、および配列番号33、配列番号34、または配列番号9のCDRa3を含み、さらに、20位でKもしくはNを含み、好ましくはKを含み、39位でL、M、もしくはIを含み、好ましくはLもしくはIを含み、44位でKもしくはWを含み、好ましくはKを含み、52位でFもしくはAを含み、好ましくはFを含み、55位でYもしくはVを含み、好ましくはYを含み、92位でTもしくはKを含み、好ましくはTを含み、および/または93位でDもしくはGを含み、好ましくはDを含み、特に、Vは、配列番号132、配列番号129、配列番号137、または配列番号142のアミノ酸を含むか、またはからなり;
- Vは、配列番号134のアミノ酸配列、または配列番号134と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、配列番号10のCDRb1、配列番号36のCDRb2、および配列番号48、配列番号49、配列番号47、配列番号281、配列番号292、配列番号294、配列番号297、配列番号298、配列番号301、または配列番号283のCDRb3を含み、さらに、11位でE、L、もしくはKを含み、好ましくはEを含み、22位でRもしくはHを含み、44位でEもしくはQを含み、好ましくはEを含み、46位でPもしくはMを含み、好ましくはPを含み、48位でQもしくはRを含み、好ましくはQを含み、および/または84位でD、A、E、Q、N、もしくはSを含み、好ましくはDもしくはAを含み、特に、Vは、配列番号134、配列番号130、配列番号135、配列番号136、配列番号138、配列番号139、配列番号140、配列番号141、配列番号144、配列番号145、配列番号146、配列番号147、または配列番号148のアミノ酸配列を含むか、またはからなる、
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項8】
抗体軽鎖可変ドメイン(V)および抗体重鎖可変ドメイン(V)をさらに含み、好ましくはVおよびVは、CD2、CD3、特に、CD3γ、CD3δ、および/もしくはCD3ε、CD4、CD5、CD7、CD8、CD10、CD11b、CD11c、CD14、CD16、CD18、CD22、CD25、CD28、CD32a、CD32b、CD33、CD41、CD41b、CD42a、CD42b、CD44、CD45RA、CD49、CD55、CD56、CD61、CD64、CD68、CD90、CD94、CD95、CD117、CD123、CD125、CD134、CD137、CD152、CD163、CD193、CD203c、CD235a、CD278、CD279、CD287、Nkp46、NKG2D、GITR、FεR1、TCRα/βおよびTCRγ/δ、HLA-DR、ならびに4-1 BB、またはこれらの組合せからなる群から選択される抗原に結合し、ならびに/またはエフェクター細胞に結合し、特に、T細胞もしくはナチュラルキラー細胞に結合する、
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項9】
前記抗原結合タンパク質は、第1および第2のポリペプチド鎖を含み、
前記第1のポリペプチド鎖は、式[Ia]:
-L-D-L-V-L-D [Ia]
により表され、
前記第2のポリペプチド鎖は、式[IIa]
-L-D-L-V-L-D [IIa]
により表され、
式中、
- V、V、V、およびVは、可変ドメインであり、V~Vの内の1つは、Vであり、1つは、Vであり、1つはVであり、かつ1つはVであり;
- D、D、D、およびDは、二量体化ドメインであり、かつ存在してもよいし存在していなくてもよく、DおよびD、ならびにDおよびDは、互いに特異的に結合し、DおよびDまたはDおよびDの内の少なくとも1対は、存在しており、
- L、L、L、L、L、およびLは、リンカーであり、LおよびLは、存在しており、L、L、L、およびLは、存在してもよいし存在していなくてもよい、
請求項8に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項10】
- 配列番号100、103、105、106、111、122、126、128、151、155、156、157、158、159、166、167、169、171、173、175、177、178、179、180、181、183、189、191、193、195、197、199、201、203、205、207、209、211、213、215、217、285、291、295、299、および303から選択される第1のポリペプチド鎖、ならびに
- 配列番号101、102、104、107、110、119、121、131、133、143、152、160、161、162、163、164、165、168、170、172、174、176、182、184、185、186、216、218、220、222、224、228、230、232、234、236、238、240、242、244、246、248、250、252、254、256、258、260、262、264、266、268、270、272、274、276、278、282、284、296、または300から選択される第2のポリペプチド鎖
を含む請求項1~9のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質をコードする配列を含む単離核酸。
【請求項12】
請求項11に記載の核酸を含むベクター。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質、または請求項11に記載の核酸、または請求項12に記載のベクターを含む宿主細胞であって、好ましくは、前記宿主細胞は、リンパ球であり、好ましくは、Tリンパ球もしくはTリンパ球前駆細胞、または組み換え発現用の細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞もしくは酵母細胞である、宿主細胞。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質、請求項11に記載の核酸、請求項12に記載のベクター、または請求項13に記載の宿主細胞と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質を製造する方法であって、
a.宿主細胞を準備すること、
b.請求項1~10のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質をコードするコード配列を含む遺伝子コンストラクトを準備すること、
c.前記遺伝子コンストラクトを前記宿主細胞に導入すること、および
d.前記宿主細胞により前記遺伝子コンストラクトを発現させること
を含み、
e.適宜、前記宿主細胞からの前記抗原結合タンパク質の単離および精製、ならびに適宜、T細胞中での前記抗原結合タンパク質の再構築
をさらに含む方法。
【請求項16】
医薬での使用のための、特に、増殖性疾患、例えば、がんの診断、予防、および/または処置での使用のためのものであり、前記がんは、急性骨髄性白血病、乳がん、胆管細胞癌、胆嚢がん、膠芽腫、肝細胞癌、頭頸部扁平上皮癌、黒色腫、無色素性黒色腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん腺癌、非小細胞肺がん、扁平上皮非小細胞肺がん、卵巣がん、食道がん、腎細胞癌、小細胞肺がん、膀胱癌、子宮および子宮内膜がん、骨肉腫、慢性リンパ性白血病、結腸直腸癌、ならびに滑膜肉腫からなるがんの群から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質、請求項11に記載の核酸、請求項12に記載のベクター、請求項13に記載の宿主細胞、または請求項14に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PRAMEタンパク質由来抗原に対する抗原結合タンパク質に関する。本発明は、特に、腫瘍により発現された抗原PRAMEに特異的な抗原結合タンパク質を提供し、この腫瘍抗原は、配列番号50を含むか、またはからなり、かつ主要組織適合複合体(MHC)タンパク質との複合体で存在している。本発明の抗原結合タンパク質は、特に、前記PRAMEペプチドに特異的に結合する新規の操作されたT細胞受容体(TCR)の相補性決定領域(CDR)を含む。本発明の抗原結合タンパク質は、PRAME発現がん性疾患の診断、処置、および予防で使用される。本発明の抗原結合タンパク質をコードする核酸、前記核酸を含むベクター、抗原結合タンパク質を発現する組み換え細胞、および本発明の抗原結合タンパク質を含む医薬組成物がさらに提供される。
【背景技術】
【0002】
PRAMEは、「黒色腫中において優先的に発現された抗原(Preferentially Expressed Antigen in Melanoma)」を指しており、がん精巣抗原として既知の生殖細胞系列によりコードされた抗原のファミリーに属する。がん精巣抗原は、免疫療法介入の標的である。PRAMEは、多くの固形腫瘍、ならびに白血病およびリンパ腫で発現されている。ペプチドSLLQHLIGL(配列番号50)は、PRAME-004とも称され、完全長PRAMEタンパク質(配列番号328)のアミノ酸425~433に対応しており、前記ペプチドは、MHC分子(特に、HLA-A*02)との複合体で細胞表面上に提示される(Kessler et al., J Exp Med. 2001 Jan 1 ;193(1 ):73-88)。MHC分子により提示されるペプチドエピトープに、TCRが結合し得る。
【0003】
がん治療のための分子標的薬の開発が進歩しているが、当該技術分野では、依然として、がん細胞に対して非常に特異的であるが正常な組織細胞には特異的ではない分子を特異的に標的とする新規の抗癌剤を開発することが必要とされている。PRAME-004ペプチドは、腫瘍上で特異的に発現されることから、T細胞ベースの免疫療法の標的である。
【0004】
国際公開第2018/172533号パンフレットでは、MHCタンパク質複合体との複合体中のPRAME-004ペプチドに結合するTCR(例えば、TCR R11P3D3)、ならびにPRAMEを(過剰に)発現するがん性疾患の診断、処置、および予防での前記TCRの使用が開示されている。しかしながら、このTCRは、高い親和性で標的抗原に結合するようにCDR領域が設計されていない。
【0005】
ネイティブTCRは、典型的には低い親和性(K=300μM~1μM)で、MHC提示抗原に結合し、そのため、TCR結合親和性が1~10μMの範囲で十分に確立されているウイルス外来抗原とは対照的に、10μMを超える親和性でMTHC提示がん自己抗原への結合が観察されることは稀である(Aleksic et al. 2012, Eur J Immunol. 2012 Dec;42(12):3174-9)。この現象の説明の一部は、下記である:胸腺で発達するT細胞が自己ペプチド-MHCリガンド上で負に選択され、そのため、そのような自己ペプチド-MHCに対する親和性が過剰に高いT細胞が除去される(寛容誘導)。がん自己抗原に対するTCRのこの低い親和性は、腫瘍免疫回避に関する1つの可能性のある説明であり得る(Aleksic et al. 2012, Eur J Immunol. 2012 Dec;42(12):3174-9)。従って、養子細胞療法(ACT)における抗原認識コンストラクトとしての使用のために、がん自己抗原に、より高い親和性で結合するTCR変異体を設計することは望ましい戦略であると思われる。さらに、可溶性タンパク質として発現され得る高親和性TCR変異体の設計は、可溶性治療薬により(即ち、二重特異性分子を使用して)がん自己抗原を標的とするために望まれているだろう(Hickman et al. 2016, J Biomol Screen. 2016 Sep;21(8):769-85)。
【0006】
しかしながら、TCRの親和性の増加により、副作用のリスクも増加する場合がある。上述したように、自然界では、自己タンパク質である腫瘍関連抗原に対する高親和性TCRは、交差反応性による、正常組織上に存在する自己ペプチドの認識を回避するために、胸腺選択により排除されている。従って、TCRの標的配列に対する親和性を単に増加させるだけでは、がん特異的ではない類似ペプチドに対する親和性も増加する可能性があり、従って、交差反応性、および健康な組織に対する望ましくない細胞傷害効果のリスクが増加する。これは単なる理論上のリスクではないことが、MAGE-A3を標的とする操作されたTCRに関して痛切に見出されている。特に、既に公開された結果では、2例の患者において致死性毒性が示されており、これらの患者には、前臨床試験では交差反応性が予測されていなかったにもかかわらず、筋肉タンパク質タイチン由来のペプチドと交差反応する、MAGE-A3を標的とするTCRを発現するように操作されたT細胞が注入されていた(Linette GP et al. Blood 2013; 122:863-71, Cameron BJ, et al. Sci. Transl. Med. 2013; 5: 197-103)。これらの患者は、TCR操作T細胞が重篤で予測不可能なオフターゲットのおよび臓器特異的な毒性を有する可能性があることを示した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、より高い親和性で標的に特異的に結合し、そのため標的抗原ペプチドの発現が低下している腫瘍細胞または細胞株であっても標的とし得、同時に、潜在的なオフターゲットペプチド(「類似ペプチド」または「SimPeps」とも称される)との低いまたは低下した交差反応性に起因して、高い安全性プロファルが維持されている、抗原結合タンパク質を開発して提供するという未だ対処されていない医療ニーズが存在している。そのような抗原結合タンパク質はまた、理想的には、良好な代謝および/または薬物動態プロファイルも有しているべきであり、かつ工業的実施に適合した大規模での製造に適しているべきである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、本発明者らは、親TCR R11P3D3に由来するCDR変異体を含むPRAME-004ペプチドに特異的な抗原結合タンパク質を設計した。本明細書で提供される抗原結合タンパク質は、ペプチド-MHC複合体に対する結合親和性が増加しており、安定性が増加しており(例えば、発現および/もしくは精製中の凝集が低下しており)、ならびに/または溶解性が増加しており、そのため、医療用途により適している。
【0009】
さらに、本発明の抗原結合タンパク質(特に、二重特異性T細胞エンゲージング受容体(bispecific T cell engaging receptor)(TCER(登録商標))は、PRAME-004陽性腫瘍細胞(例えば、細胞株Hs695TおよびU2OS細胞)に対して高い細胞傷害性を発揮し、最大半量有効濃度(EC50)は、1~1000pMである。EC50は、PRAME-004陰性腫瘍細胞(例えば、細胞株T98G)の場合と比べて100倍高く、好ましくは1000倍超高く、このことは、本発明の抗原結合タンパク質の安定性の増加を示している。
【0010】
さらに、本発明者らは、本発明の抗原結合タンパク質の治療用インビボ(in vivo)マウスモデルにおいて、低用量で有意な腫瘍増殖阻害を示した。
【0011】
要約すると、本発明者らの驚くべき発見は、特に当該技術分野を超える下記の利点を提供する:(i)高い腫瘍選択性を維持しつつ標的ペプチドに対する親和性の増加;(ii)オフターゲットおよびオフ腫瘍の細胞傷害性の減少ならびに安全性プロファイルの全体的な改善をもたらす特異性の増加/交差反応性の減少;(iii)安定性の増加;(iv)大規模製造に好適な発現収量および溶解性の改善;ならびに(v)免疫原性の減少を有する抗原結合分子の提供。
【0012】
第1の態様では、本発明は、配列番号50のアミノ酸配列SLLQHLIGLを含むかまたはからなりかつ主要組織適合複合体(MHC)タンパク質との複合体で存在しているPRAME抗原ペプチドに特異的に結合する抗原結合タンパク質であって、
(a)相補性決定領域(CDR)CDRa1、CDRa2、およびCDRa3を含む可変ドメインVを含む第1のポリペプチドであって、
前記CDRa1は、アミノ酸配列VKEFQD(配列番号16)、または1、2、もしくは3個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号16と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなり、
前記CDRa3は、アミノ酸配列ALYNNLDMR(配列番号33)もしくはALYNNYDMR(配列番号34)、または1、2、もしくは3個(好ましくは1もしくは2個)のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号33もしくは配列番号34と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなる、
第1のポリペプチドと、
(b)CDRb1、CDRb2、およびCDRb3を含む可変ドメインVを含む第2のポリペプチドであって、
前記CDRb1は、アミノ酸配列SGHNS(配列番号10)、または1もしくは2個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号10と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなり、
前記CDRb3は、アミノ酸配列ASSXGXDXQY(配列番号327)(式中、Xは、P、A、もしくはTであり、Xは、AもしくはSであり、Xは、TもしくはIであり、Xは、KもしくはAである)、または1、2、もしくは3個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号327と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなる、
第2のポリペプチドと
を含む抗原結合タンパク質に関する。
【0013】
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様の抗原結合タンパク質をコードする配列を含む単離核酸に関する。
【0014】
第3の態様では、本発明は、本発明の第2の態様の核酸を含むベクターに関する。
【0015】
第4の態様では、本発明は、本発明の第1の態様の抗原結合タンパク質、第2の態様の核酸、または第3の態様のベクターを含む宿主細胞に関する。
【0016】
第5の態様では、本発明は、第1の態様の抗原結合タンパク質、第2の態様の核酸、第3の態様のベクター、または第4の態様の宿主細胞と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物に関する。
【0017】
第6の態様では、本発明は、本発明の第1の態様の抗原結合タンパク質を製造する方法であって、
(a)宿主細胞を準備すること、
(b)本発明の第1の態様の抗原結合タンパク質をコードするコード配列を含む遺伝子コンストラクトを準備すること、
(c)前記遺伝子コンストラクトを前記宿主細胞に導入すること、および
(d)前記宿主細胞により前記遺伝子コンストラクトを発現させること
を含む方法に関する。
【0018】
第7の態様では、本発明は、医薬での使用(特に、増殖性疾患の診断、予防、および/または処置での使用)のための第1の態様の抗原結合タンパク質、第2の態様の核酸、第3の態様のベクター、第4の態様の宿主細胞、または第5の態様の医薬組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】酵母表面提示によるTCRの安定化scTCRへの変換。形質転換されたサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)EBY100の表面上で提示されたscTCR分子を、抗Myc-FITC抗体で染色して発現レベルを決定し、PE標識されたHLA-A*02/PRAME-004四量体で染色して機能的結合を調べた。非改変scTCR P11P3D3(左側のパネル、配列番号5)を、scTCRライブラリの選択から得られた、CDR中に9つの安定化フレームワーク突然変異および3つの単一点突然変異を保有するR11P1D3_安定化scTCR変異体(右側のパネル、配列番号6)と比較する。
図2】酵母表面提示によるscTCR CDR1アルファの親和性突然変異。非改変および成熟CDR1アルファを含む安定化scTCRを、10nMの濃度にてHLA-A*02/PRAME-004単量体で染色した。PRAME-004(配列番号50)に対する配列類似性が高いペプチド(配列番号51~59)を含むHLA-A*02/SimPep四量体の混合物(それぞれ、10nMの濃度で適用される)によるカウンター染色。非改変アルファ鎖CDR1配列SSNFYN(配列番号13;右下のパネル)を有する安定化scTCR R11P3D3SD(配列番号6)を、親和性成熟アルファ鎖CDR1配列VKEFQD、NKEFQD、TREFQD、NREFQD、TSEFQD、TKEFQD、VREFQD、TAEFQD、VSEFQD、VAEFQD、IKEFQN、VREFQN、およびTAEFQN(配列番号16~28)それぞれを含むscTCR変異体と比較する。SSNFYN(配列番号13)は、安定化scTCR R11P3D3SDの対応するCDRa1配列である。
図3】類似ペプチドへの高親和性scTCR酵母クローンの結合。成熟CDRを有する安定化scTCR(配列番号79~87および89~92)を保有する酵母クローンを、PRAME-004標的ペプチドまたは7種の類似ペプチド(配列番号52~56および58~59)の内の1つを含む100nM HLA-A*02単量体で染色した。
図4】類似ペプチドへの高親和性scTCR酵母クローンの結合。成熟CDRを有する安定化scTCR(配列番号79~87および89~92)を保有する酵母クローンを、PRAME-004標的ペプチドまたは19種の類似ペプチド(配列番号51、57、60、62~69、および71~78)の内の1つを含む100nM HLA-A*02単量体で染色した。参照としてR16P1C10_CDR6_scTCR(配列番号357)を加えたが、このクローンに関しては、PRAME-004およびIFT17-003(配列番号60)への結合のみを評価した。
図5-1】高親和性scTCR酵母クローンによる結合モチーフの決定。成熟CDRを有する安定化scTCR(配列番号79、80、82、83、および85~87)を保有する酵母クローンを、10nM、3nM、1nM、および0.3nMの濃度でのHLA-A*02の適用下で、PRAME-004、およびアラニン置換を含むPRAME-004ペプチド変異体(配列番号318~324)で染色した。
図5-2】高親和性scTCR酵母クローンによる結合モチーフの決定。成熟CDRを有する安定化scTCR(配列番号79、80、82、83、および85~87)を保有する酵母クローンを、10nM、3nM、1nM、および0.3nMの濃度でのHLA-A*02の適用下で、PRAME-004、およびアラニン置換を含むPRAME-004ペプチド変異体(配列番号318~324)で染色した。
図6-1】可溶性scTCR-Fab分子に関する類似ペプチドのスクリーニング。HLA-A*02に関連する14種の類似ペプチド(配列番号187、188、190、192、194、196、198、200、202、204、206、208、210、および212)への結合を、生体層干渉法を使用して、1μM scTCR-Fabの濃度で分析した。各グラフでの上部の曲線は、標的HLA-A*02/PRAME-004単量体へのscTCR-Fab結合を表す。
図6-2】可溶性scTCR-Fab分子に関する類似ペプチドのスクリーニング。HLA-A*02に関連する14種の類似ペプチド(配列番号187、188、190、192、194、196、198、200、202、204、206、208、210、および212)への結合を、生体層干渉法を使用して、1μM scTCR-Fabの濃度で分析した。各グラフでの上部の曲線は、標的HLA-A*02/PRAME-004単量体へのscTCR-Fab結合を表す。
図7】標的陽性腫瘍細胞株および標的陰性腫瘍細胞株に対するTCER(登録商標)分子のインビトロ(in vitro)細胞傷害性。健康なHLA-A*02陽性ドナー由来のPBMCを、標的陽性腫瘍細胞株Hs695T(●)、または標的陰性であるがHLA-A*02陽性の腫瘍細胞株T98G(○)それぞれと共に、TCER(登録商標)の濃度を増加させつつ1:10の比でインキュベートした。TCER(登録商標)により誘発された細胞傷害性を、放出されたLDHの測定により、共培養の48時間後に定量した。TPP-93およびTPP-79を評価する実験の結果を、それぞれ、下部および上部のパネルに示す。
図8】標的陽性腫瘍細胞株および標的陰性腫瘍細胞株に対するTCER(登録商標)分子TPP-105のインビトロ細胞傷害性。健康なHLA-A*02陽性ドナー由来のPBMCを、標的陽性腫瘍細胞株Hs695T(●)、または標的陰性であるがHLA-A*02陽性の腫瘍細胞株T98G(○)それぞれと共に、TPP-105の濃度を増加させつつ1:10の比でインキュベートした。TCER(登録商標)により誘発された細胞傷害性を、放出されたLDHの測定により、共培養の48時間後に定量した。
図9】TCER(登録商標)Slot III分子の細胞傷害性データの概要。LDH放出アッセイで得られる用量反応曲線のEC50値を、非線形4点曲線フィッティングを利用して算出した。それぞれ評価されたTCER(登録商標)分子に関して、標的陽性腫瘍細胞株Hs695T(●)、U20S(○)、および標的陰性であるがHLA-A*02陽性の腫瘍細胞株T98G(*)に対して算出されたEC50値が描かれている。従って、各記号は、様々なHLA-A*02陽性ドナーに由来するPBMCを利用する1つのアッセイを表す。TPP-871/T98Gに関しては、T98GがTPP-871により認識されなかったことから、EC50は推定値である。
図10-1】様々な濃度の標的ペプチドが負荷されたT2細胞に対するTCER(登録商標)Slot III変異体のインビトロ細胞傷害性。細胞傷害性を、上清中に放出されたLDHを定量することにより決定した。エフェクター細胞として、ヒトPBMCを5:1のE:T比で使用した。読み取りを、48時間後に実施した。
図10-2】様々な濃度の標的ペプチドが負荷されたT2細胞に対するTCER(登録商標)Slot III変異体のインビトロ細胞傷害性。細胞傷害性を、上清中に放出されたLDHを定量することにより決定した。エフェクター細胞として、ヒトPBMCを5:1のE:T比で使用した。読み取りを、48時間後に実施した。
図10-3】様々な濃度の標的ペプチドが負荷されたT2細胞に対するTCER(登録商標)Slot III変異体のインビトロ細胞傷害性。細胞傷害性を、上清中に放出されたLDHを定量することにより決定した。エフェクター細胞として、ヒトPBMCを5:1のE:T比で使用した。読み取りを、48時間後に実施した。
図11-1】選択されたTCER(登録商標)Slot III変異体に関する正常組織細胞安全性分析。HLA-A*02を発現している5つの異なる正常組織細胞タイプに対するTCER(登録商標)媒介性細胞傷害性を、PRAME-004陽性Hs695T腫瘍細胞に対する細胞傷害性と比較して評価した。健康なHLA-A*02+ドナー由来のPBMCを、正常組織細胞またはHs695T腫瘍細胞(3重)と10:1の比で、それぞれの正常組織細胞培地(4、10a、または13a)およびT細胞培地(LDH-AM)の1:1混合物中で共培養したか、またはT細胞培地のみ中で共培養した。48時間後、正常組織細胞およびHs695T細胞の溶解を、LDH放出を測定することにより評価した(LDH-Glo(商標)Kit,Promega)。
図11-2】選択されたTCER(登録商標)Slot III変異体に関する正常組織細胞安全性分析。HLA-A*02を発現している5つの異なる正常組織細胞タイプに対するTCER(登録商標)媒介性細胞傷害性を、PRAME-004陽性Hs695T腫瘍細胞に対する細胞傷害性と比較して評価した。健康なHLA-A*02+ドナー由来のPBMCを、正常組織細胞またはHs695T腫瘍細胞(3重)と10:1の比で、それぞれの正常組織細胞培地(4、10a、または13a)およびT細胞培地(LDH-AM)の1:1混合物中で共培養したか、またはT細胞培地のみ中で共培養した。48時間後、正常組織細胞およびHs695T細胞の溶解を、LDH放出を測定することにより評価した(LDH-Glo(商標)Kit,Promega)。
図11-3】選択されたTCER(登録商標)Slot III変異体に関する正常組織細胞安全性分析。HLA-A*02を発現している5つの異なる正常組織細胞タイプに対するTCER(登録商標)媒介性細胞傷害性を、PRAME-004陽性Hs695T腫瘍細胞に対する細胞傷害性と比較して評価した。健康なHLA-A*02+ドナー由来のPBMCを、正常組織細胞またはHs695T腫瘍細胞(3重)と10:1の比で、それぞれの正常組織細胞培地(4、10a、または13a)およびT細胞培地(LDH-AM)の1:1混合物中で共培養したか、またはT細胞培地のみ中で共培養した。48時間後、正常組織細胞およびHs695T細胞の溶解を、LDH放出を測定することにより評価した(LDH-Glo(商標)Kit,Promega)。
図12-1】選択されたTCER(登録商標)Slot IV変異体に関する正常組織細胞安全性分析。HLA-A*02を発現している10個の異なる正常組織細胞タイプに対するTCER(登録商標)媒介性細胞傷害性を、PRAME-004陽性Hs695T腫瘍細胞に対する細胞傷害性と比較して評価した。健康なHLA-A*02+ドナー由来のPBMCを、正常組織細胞またはHs695T腫瘍細胞(3重)と10:1の比で、それぞれの正常組織細胞培地(3、4、8a、10a、13a、または16a)およびT細胞培地(LDH-AM)の1:1混合物中で共培養したか、またはT細胞培地のみ中で共培養した。48時間後、正常組織細胞およびHs695T細胞の溶解を、LDH放出を測定することにより評価した(LDH-Glo(商標)Kit,Promega)。
図12-2】選択されたTCER(登録商標)Slot IV変異体に関する正常組織細胞安全性分析。HLA-A*02を発現している10個の異なる正常組織細胞タイプに対するTCER(登録商標)媒介性細胞傷害性を、PRAME-004陽性Hs695T腫瘍細胞に対する細胞傷害性と比較して評価した。健康なHLA-A*02+ドナー由来のPBMCを、正常組織細胞またはHs695T腫瘍細胞(3重)と10:1の比で、それぞれの正常組織細胞培地(3、4、8a、10a、13a、または16a)およびT細胞培地(LDH-AM)の1:1混合物中で共培養したか、またはT細胞培地のみ中で共培養した。48時間後、正常組織細胞およびHs695T細胞の溶解を、LDH放出を測定することにより評価した(LDH-Glo(商標)Kit,Promega)。
図12-3】選択されたTCER(登録商標)Slot IV変異体に関する正常組織細胞安全性分析。HLA-A*02を発現している10個の異なる正常組織細胞タイプに対するTCER(登録商標)媒介性細胞傷害性を、PRAME-004陽性Hs695T腫瘍細胞に対する細胞傷害性と比較して評価した。健康なHLA-A*02+ドナー由来のPBMCを、正常組織細胞またはHs695T腫瘍細胞(3重)と10:1の比で、それぞれの正常組織細胞培地(3、4、8a、10a、13a、または16a)およびT細胞培地(LDH-AM)の1:1混合物中で共培養したか、またはT細胞培地のみ中で共培養した。48時間後、正常組織細胞およびHs695T細胞の溶解を、LDH放出を測定することにより評価した(LDH-Glo(商標)Kit,Promega)。
図12-4】選択されたTCER(登録商標)Slot IV変異体に関する正常組織細胞安全性分析。HLA-A*02を発現している10個の異なる正常組織細胞タイプに対するTCER(登録商標)媒介性細胞傷害性を、PRAME-004陽性Hs695T腫瘍細胞に対する細胞傷害性と比較して評価した。健康なHLA-A*02+ドナー由来のPBMCを、正常組織細胞またはHs695T腫瘍細胞(3重)と10:1の比で、それぞれの正常組織細胞培地(3、4、8a、10a、13a、または16a)およびT細胞培地(LDH-AM)の1:1混合物中で共培養したか、またはT細胞培地のみ中で共培養した。48時間後、正常組織細胞およびHs695T細胞の溶解を、LDH放出を測定することにより評価した(LDH-Glo(商標)Kit,Promega)。
図12-5】選択されたTCER(登録商標)Slot IV変異体に関する正常組織細胞安全性分析。HLA-A*02を発現している10個の異なる正常組織細胞タイプに対するTCER(登録商標)媒介性細胞傷害性を、PRAME-004陽性Hs695T腫瘍細胞に対する細胞傷害性と比較して評価した。健康なHLA-A*02+ドナー由来のPBMCを、正常組織細胞またはHs695T腫瘍細胞(3重)と10:1の比で、それぞれの正常組織細胞培地(3、4、8a、10a、13a、または16a)およびT細胞培地(LDH-AM)の1:1混合物中で共培養したか、またはT細胞培地のみ中で共培養した。48時間後、正常組織細胞およびHs695T細胞の溶解を、LDH放出を測定することにより評価した(LDH-Glo(商標)Kit,Promega)。
図13-1】選択されたTCER(登録商標)Slot IV変異体に関する正常組織細胞安全性分析。HLA-A*02を発現している6つの異なる正常組織細胞タイプに対するTCER(登録商標)媒介性細胞傷害性を、PRAME-004陽性Hs695T腫瘍細胞に対する細胞傷害性と比較して評価した。健康なHLA-A*02+ドナー由来のPBMCを、正常組織細胞またはHs695T腫瘍細胞(3重)と10:1の比で、それぞれの正常組織細胞培地(10a、13a、または16a)およびT細胞培地(LDH-AM)の1:1混合物中で共培養した。48時間後、正常組織細胞およびHs695T細胞の溶解を、LDH放出を測定することにより評価した(LDH-Glo(商標)Kit,Promega)。
図13-2】選択されたTCER(登録商標)Slot IV変異体に関する正常組織細胞安全性分析。HLA-A*02を発現している6つの異なる正常組織細胞タイプに対するTCER(登録商標)媒介性細胞傷害性を、PRAME-004陽性Hs695T腫瘍細胞に対する細胞傷害性と比較して評価した。健康なHLA-A*02+ドナー由来のPBMCを、正常組織細胞またはHs695T腫瘍細胞(3重)と10:1の比で、それぞれの正常組織細胞培地(10a、13a、または16a)およびT細胞培地(LDH-AM)の1:1混合物中で共培養した。48時間後、正常組織細胞およびHs695T細胞の溶解を、LDH放出を測定することにより評価した(LDH-Glo(商標)Kit,Promega)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義
「PRAME」または(黒色腫中において優先的に発現された抗原」は、最初は、黒色腫中において過剰発現されている抗原として同定された[Ikeda et al Immunity. 1997 Feb;6(2): 199-208];これは、CT130、MAPE、OIP-4としても既知であり、かつUniprotアクセッション番号P78395(2019年1月11日時に利用可能)を有する。このタンパク質は、レチノイン酸受容体シグナル伝達の受容体として機能する[Epping et al., Cell. 2005 Sep 23; 122(6):835-47]。PRAMEは、がん精巣抗原として既知の生殖細胞系によりコードされる抗原のファミリーに属する。がん精巣抗原は、典型的には正常な成人組織では発現が限定されているかまたは発現されていないことから、免疫療法介入の魅力的な標的である。PRAMEは、多くの固形腫瘍、ならびに白血病およびリンパ腫で発現されている[Doolan et al., Breast Cancer Res Treat. 2008 May; 109(2):359-65;Epping et al., Cancer Res. 2006 Nov 15;66(22): 10639-42;Ercolak et al., Breast Cancer Res Treat. 2008 May; 109(2):359-65;Matsushita et al., Leuk Lymphoma. 2003 Mar;44(3):439-44;Mitsuhashi et al., Int. J Hematol. 2014; 100(1 ):88-95;Proto-Sequeire et al., Leuk Res. 2006 Nov;30(11): 1333-9;Szczepanski et al., Oral Oncol. 2013 Feb;49(2): 144-51;Van Baren et al., Br J Haematol. 1998 Sep; 102(5): 1376-9]。本発明のPRAME標的化療法は、下記が挙げられるがこれらに限定されないがんの処置に特に好適であり得る:急性骨髄性白血病、乳がん、胆管細胞癌、胆嚢がん、神経膠芽腫、肝細胞癌、頭頸部扁平上皮癌、黒色腫、無色素性黒色腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん腺癌、非小細胞肺がん、扁平上皮非小細胞肺がん、卵巣がん、食道がん、腎細胞癌、小細胞肺がん、膀胱癌、子宮がんおよび子宮内膜がん、慢性リンパ性白血病、結腸直腸癌、骨肉腫および滑膜肉腫、好ましくは、乳がん、胆管細胞癌、肝細胞癌、頭頸部扁平上皮癌、扁平上皮非小細胞肺がん、卵巣がん、食道がん、腎細胞がん、小細胞肺がん、膀胱癌、子宮がんおよび子宮内膜がん、ならびに滑膜肉腫。
【0021】
「PRAME抗原ペプチド」は、Uniprotアクセッション番号P78395(2019年1月11日時に利用可能)下でアクセス可能な配列番号328のアミノ酸配列の完全長PRAMEタンパク質のアミノ酸425~433に対応するアミノ酸配列SLLQHLIGL(配列番号50)を含むか、またはからなる。アミノ酸配列SLLQHLIGL(配列番号50)を含むかまたはからなるPRAME由来のペプチドはまた、本明細書では、PRAME-004とも称される。PRAME-004ペプチドは、腫瘍関連タンパク質または腫瘍特異的タンパク質に由来するペプチドエピトープであり、主要組織適合複合体(MHC)の分子により細胞表面上に提示される。より具体的には、PRAME-004由来のペプチドは、HLA-A*02との複合体にて細胞表面上に提示される。Med. 2001 Jan 1; 193(1):73-88。本発明に関連して、「PRAME抗原ペプチド」、「PRAMEペプチド」、または「PRAME-004」という用語は、互換的に使用され、アミノ酸配列SLLQHLIGL(配列番号50)を含むかまたはからなるペプチドを指す。好ましくは、PRAMEペプチドは、アミノ酸配列SLLQHLIGLからなる。PRAMEペプチドが、アミノ酸配列SLLQHLIGLに加えてさらなるアミノ酸を含む場合には、PRAMEペプチドの全長は12個のアミノ酸を超えないことが好ましい。
【0022】
「抗原」または「標的抗原」という用語は、本明細書で使用される場合、抗原結合部位が結合可能な分子または分子もしくは複合体の部分を指しており、前記抗原結合部位は、例えば、本発明の抗体、TCR、および/または他の抗原結合タンパク質中に存在している。本発明に関連する抗原は、配列番号50のアミノ酸配列SLLQHLIGLを含むかまたはからなるPRAMEペプチドであり、より具体的には、MHCタンパク質(例えば、HLAタンパク質、例えばHLA-A*02)との複合体中の配列番号50のアミノ酸配列SLLQHLIGLを含むかまたはからなるPRAMEペプチドである。
【0023】
「ドメイン」は、タンパク質の任意の領域であり得、一般に、配列相同性に基づいて定義されており、特定の構造的なまたは機能的な実体と関連していることが多い。
【0024】
本発明に関連する「免疫グロブリン(Ig)ドメイン」という用語は、Greekキートポロジー(Greek key topology)を有する2つのβ-シート中に配置された7~9個の逆並行βストランドの2層サンドイッチからなるタンパク質ドメインを指す。Igドメインは、おそらく、天然に存在するタンパク質中で最も頻繁に使用される「構築ブロック」である。Igドメインを含むタンパク質は、免疫グロブリンスーパーファミリー(例えば、抗体、T細胞受容体(TCR)、および細胞接着分子を含む)に組み込まれる。Igドメインの例は、抗体およびTCRの可変ドメインおよび定常ドメインである。
【0025】
本発明に関連するVαは、TCR α鎖の可変ドメインを指す。
【0026】
本発明に関連するVβは、TCR β鎖の可変ドメインを指す。
【0027】
本発明に関連するVγは、TCR γ鎖の可変ドメインを指す。
【0028】
本発明に関連するVδは、TCR δ鎖の可変ドメインを指す。
【0029】
本発明に関連するVは、TCR由来のCDR、具体的には、α鎖由来のCDR1a、CDR3a、および適宜CDR2aを含む可変ドメインを指す。CDRを囲む配列(即ち、フレームワーク配列)は、TCRの可変ドメインに由来し得、即ち、TCR α鎖、β鎖、γ鎖、もしくはδ鎖の可変ドメイン、または抗体の可変ドメインに由来し得、好ましくは、TCR α鎖の可変ドメインに由来し得る。
【0030】
本発明に関連するVは、TCR由来のCDR、具体的には、β鎖由来のCDR1b、CDR3b、および適宜CDR2bを含む可変ドメインを指す。CDRを囲む配列(即ち、フレームワーク配列)は、TCRの可変ドメインに由来し得、即ち、TCR α鎖、β鎖、γ鎖、もしくはδ鎖の可変ドメイン、または抗体の可変ドメインに由来し得、好ましくは、TCR β鎖の可変ドメインに由来し得る。
【0031】
本発明に関連するVは、抗体軽鎖の可変ドメインを指す。
【0032】
本発明に関連するVは、抗体重鎖の可変ドメインを指す。
【0033】
本発明に関連するCは、抗体軽鎖の定常ドメインを指す。
【0034】
本発明に関連するCH1、CH2、およびCH3は、抗体重鎖(具体的にはIgG重鎖)の定常ドメインを指す。
【0035】
抗原決定基としても既知である「エピトープ」という用語は、免疫系により認識される抗原の部分のことである。本明細書で使用される場合、エピトープという用語は「構造エピトープ」および「機能エピトープ」という用語を含む。「構造エピトープ」は、抗原に結合した場合に抗原結合タンパク質によりカバーされる抗原(例えば、ペプチド-MHC複合体)のアミノ酸である。典型的には、抗原結合タンパク質のアミノ酸の任意の原子から5Å以内に存在する抗原の全てのアミノ酸がカバーされるとみなされる。抗原の構造エピトープは、X線結晶解析またはNMR解析を含む当該技術分野で既知の方法により決定され得る。抗体の構造エピトープは、典型的には、20~30個のアミノ酸を含む。TCRの構造エピトープは、典型的には、20~30個のアミノ酸を含む。「機能エピトープ」は、構造エピトープを形成するアミノ酸のサブセットであり、非共有結合的相互作用(例えば、H-結合、塩橋、芳香族スタッキング、もしくは疎水性相互作用)を直接形成することにより、または抗原の結合立体構造を間接的に安定化させることにより、本発明の抗原結合タンパク質またはその機能的断片と界面を形成するのに重要な抗原のアミノ酸を含み、例えば、突然変異スキャニングにより決定される。本発明に関連して、機能エピトープはまた、「結合モチーフ」とも称される。典型的には、抗体が結合した抗原の機能エピトープは、4~6個のアミノ酸を含む。典型的には、ペプチド-MHC複合体の機能エピトープは、ペプチドの2~6または7個のアミノ酸と、MHC分子の2~7個のアミノ酸とを含む。MHC Iにより提示されたペプチドは、典型的には8~10個のアミノ酸を有することから、それぞれの所与のペプチドのアミノ酸のサブセットのみが、ペプチド-MHC複合体の機能エピトープの一部である。エピトープ(特に、本発明の抗原結合タンパク質が結合する機能エピトープ)は、結合界面の形成に必要とされる抗原のアミノ酸を含むか、またはからなる。本発明に関連して、機能エピトープ(即ち、結合モチーフ)は、配列番号50のPRAME-004抗原ペプチドの少なくともアミノ酸3、5、および7を含み、好ましくはアミノ酸1および4を含まない。
【0036】
「主要組織適合複合体」(MHC)は、脊椎動物において獲得免疫系が外来分子を認識するのに必須の細胞表面タンパク質のセットであり、これにより組織適合性が決定される。MHC分子の主な機能は、病原体由来の抗原に結合し、それを細胞表面に提示して適切なT細胞に認識させることである。ヒトMHCはまた、HLA(ヒト白血球抗原)複合体(または単にHLA)とも呼ばれる。MHC遺伝子ファミリーは、クラスI、クラスII、およびクラスIIIの3つのサブグループに分けられる。ペプチドとMHCクラスIとの複合体は、適切なT細胞受容体(TCR)を持つCD8陽性T細胞により認識され、ペプチドとMHCクラスII分子との複合体は、適切なTCRを持つCD4陽性ヘルパーT細胞により認識される。CD8依存性反応およびCD4依存性反応は両方とも、共同して相乗的に抗腫瘍効果に寄与することから、腫瘍関連抗原および対応するT細胞受容体の同定およびキャラクタリゼーションは、ワクチンおよび細胞療法等のがん免疫療法の開発において重要である。HLA-A遺伝子は、6番染色体の短いアーム上に位置しており、HLA-Aの成分である大きなα鎖をコードしている。HLA-A α鎖の変異は、HLAの機能にとって重要である。この変異により、集団での遺伝子多様性が促進される。それぞれのHLAは、ある特定の構造のペプチドに対する親和性が異なることから、HLAの種類が多いということは、細胞表面に「提示」される抗原の種類が多いということを意味する。本開示に関連するMHCクラスI HLAタンパク質は、HLA-Aタンパク質、HLA-Bタンパク質、またはHLA-Cタンパク質であり得、好適にはHLA-Aタンパク質であり得、例えばHLA-A*02であり得る。MHCクラスI依存性免疫反応では、ペプチドは、腫瘍細胞により発現されるある特定のMHCクラスI分子に結合可能でなければならないだけでなく、その後に特異的T細胞受容体(TCR)を持つT細胞により認識されなければならない。
【0037】
「MHCタンパク質との複合体中の抗原ペプチド」は、本明細書では、MHC分子に非共有結合的に結合している抗原ペプチドを指す。具体的には、抗原ペプチドは、MHC分子により形成された「ペプチド結合溝」に位置している。MHC分子と抗原ペプチドとの複合体は、本明細書では、「ペプチド-MHC複合体」または「pMHC複合体」とも称される。PRAME抗原ペプチドの場合には、この複合体はまた、「PRAME抗原ペプチド-MHC複合体」または「PRME-004:MHC複合体」とも称される。
【0038】
「HLA-A*02」は、特定のHLA対立遺伝子を示しており、文字Aは、対立遺伝子を示しており、接頭辞「*02接頭辞」は、A2血清型を示す。
【0039】
「抗原結合タンパク質」という用語は、本明細書では、抗原に特異的に結合可能な抗原結合部位を含むポリペプチドを指す。本発明の抗原結合タンパク質は、TCR由来のCDRを含み、具体的には、TCR由来のCDRa1、CDRa3、および適宜CDRa2を含む可変ドメインVと、TCR由来のCDRb1、CDRb3、および適宜CDRb2を含む可変ドメインVとを含む。特定の実施形態では、Vドメイン全体および/またはVドメイン全体がTCR由来であり、そのため、VαドメインおよびVβドメイン、またはVγドメインおよびVδドメインである。本明細書での文脈では、抗原結合タンパク質という用語は、下記で定義する複数のTCRおよび抗体フォーマットを含む。ある例では、抗原結合タンパク質は、抗体の重鎖および軽鎖に移植されたTCR由来のCDR(具体的には、特許請求の範囲で定義されているTCR由来のCDRa1、CDRa3、CDRb1、CDRb3、ならびに適宜CDRa2およびCDRb2)を含む。別の例では、TCR由来のVαドメイン全体および/またはTCR由来のVβドメイン全体は、抗体の重鎖および軽鎖に移植されている。当業者は、そのようなコンストラクトがハイブリッド抗原結合タンパク質を表しており、このタンパク質は、CDRまたは可変ドメインが由来するTCRの抗原特異性を有するが、抗体の全体構造を有しており、そのため「抗体」と称され得ることを認識している。抗原結合タンパク質という用語は、二重特異性抗原結合タンパク質または多重特異性抗原結合タンパク質をさらに含む。特許請求の範囲で定義されているTCR由来のCDRa1、CDRa3、CDRb1、CDRb3、ならびに適宜CDRa2およびCDRb2を含むVおよびVに加えて、そのような二重特異性抗原結合タンパク質または多重特異性抗原結合タンパク質は、少なくとも1つの可変ドメインおよび適宜定常ドメインをさらに含み、可変ドメインおよび/または定常ドメインは、抗体またはTCRに由来し得る。繰り返しになるが、当業者は、抗体およびTCRの両方の要素を含むそのようなコンストラクトがハイブリッドフォーマットを表し、抗原結合タンパク質の組成に応じて「二重特異性TCR」、「二重特異性抗体」、または「二重特異性TCR抗体分子」と称され得るが、当業者の観点および/または焦点によっても称され得ることを認識している。いくつかの実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、特許請求の範囲で定義されているTCR由来のCDRa1、CDRa3、CDRb1、CDRb3、ならびに適宜CDRa2およびCDRb2を含むVおよびVを含み、VまたはVに直接的にまたは間接的に融合した追加のドメインをさらに含む。そのような抗原結合タンパク質は、「TCR融合タンパク質」と称され得る。「TCR融合タンパク質」に含まれる追加のドメインの例を、下記に列挙する。好ましい実施形態では、抗原結合タンパク質は、下記で定義する二重特異性TCR-抗体分子であり、より好ましくは、下記で定義する二重特異性T細胞エンゲージング受容体[TCER(登録商標)]である。そのような実施形態では、抗原結合タンパク質は、2つの異なる抗原結合部位を含み、例えば二重特異性抗体で既知であるように、同時に2つの異なる抗原に特異的に結合可能である。
【0040】
一実施形態では、本開示の抗原結合タンパク質は、配列番号50のアミノ酸配列SLLQHLIGLを含むかまたはからなりかつ主要組織適合複合体(MHC)タンパク質との複合体で存在しているPRAME抗原ペプチドに特異的に結合し、この抗原結合タンパク質は、
(a)相補性決定領域(CDR)CDRa1、CDRa2、およびCDRa3を含む可変ドメインVを含む第1のポリペプチドであって、
CDRa1は、アミノ酸配列VKEFQD(配列番号16)、または最大1個、最大2個、もしくは最大3個のアミノ酸置換により配列番号16と異なるアミノ酸配列を含み、
CDRa3は、アミノ酸配列ALYNNLDMR(配列番号33)もしくはALYNNYDMR(配列番号34)、または最大1個、最大2個、もしくは最大3個のアミノ酸置換により配列番号33もしくは配列番号34と異なるアミノ酸配列を含み、
CDRa2は、アミノ酸配列FGPYGKE(配列番号32)、または最大1個、最大2個、もしくは少なくとも3個のアミノ酸置換により配列番号32と異なるアミノ酸配列を含む、
第1のポリペプチドと、
(b)CDRb1、CDRb2、およびCDRb3を含む可変ドメインVを含む第2のポリペプチドであって、
CDRb1は、アミノ酸配列SGHNS(配列番号10)、または最大1個もしくは最大2個のアミノ酸置換により配列番号10と異なるアミノ酸配列を含み、
CDRb3は、アミノ酸配列ASSXGXDXQY(配列番号327)(式中、Xは、P、A、もしくはTであり、Xは、AもしくはSであり、Xは、TもしくはIであり、Xは、KもしくはAである)、または最大1個、最大2個、もしくは最大3個のアミノ酸置換により配列番号327と異なるアミノ酸配列を含み、
CDRb2は、アミノ酸配列FQNTAV(配列番号36)、または最大1個、最大2個、最大3個、最大4個、最大5個、もしくは最大6個のアミノ酸置換により配列番号36と異なるCDRb2アミノ酸配列を含む、
第2のポリペプチドと
を含む。
【0041】
一実施形態では、本開示の抗原結合タンパク質は、
配列番号16を含むCDRa1、
配列番号32を含むCDRa2、
配列番号33を含むCDRa3、
配列番号10を含むCDRb1、
配列番号36を含むCDRb2、および
配列番号327を含むCDRb3
を含む。
【0042】
一実施形態では、本開示の抗原結合タンパク質は、
配列番号16を含むCDRa1、
配列番号32を含むCDRa2、
配列番号34を含むCDRa3、
配列番号10を含むCDRb1、
配列番号36を含むCDRb2、および
配列番号327を含むCDRb3
を含む。
【0043】
ある実施形態では、アミノ酸置換は、保存的アミノ酸置換である。
【0044】
「少なくとも1」は、本明細書では、1つまたは複数の指定の対象を指しており、例えば、1、2、3、4、5、もしくは6、またはより多くの指定の対象を指す。例えば、少なくとも1個の結合部位は、本明細書では、1、2、3、4、5、もしくは6個、またはより多くの結合部位を指す。
【0045】
本発明に関連する「二重特異性」という用語は、2つの異なる抗原に対して少なくとも2種の価数および結合特異性を有する抗原結合タンパク質を指しており、そのため少なくとも2つの抗原結合部位を含む。「価数」という用語は、抗原結合タンパク質の結合部位の数を指しており、例えば、2価抗原結合タンパク質は、2つの結合部位を有する抗原結合タンパク質に関する。結合部位は、同一のまたは異なる標的に結合し得、即ち、2価抗原結合タンパク質は、単一特異性(即ち、1つの標的に結合する)であってもよいし、二重特異性(即ち、2つの異なる標的に結合する)であってもよい。本発明の抗原結合分子は、TCR由来のCDRを含む少なくとも1つの抗原結合部位を含む。好ましい実施形態では、本発明の抗原結合分子は、少なくとも1つのTCR由来の抗原結合部位を含む。
【0046】
「TCR」という用語は、本明細書で使用される場合、従来型/ネイティブTCR、および操作されたTCR、特に、機能的TCR断片、一本鎖TCR、および二重特異性または多重特異性TCRを含むことを意味する。
【0047】
「ネイティブTCR」は、自然界から単離され得る野生型TCRを指す。ネイティブTCRと同種のドメインおよびドメイン配置を有しており、かつTCR由来のCDRおよびフレームワーク領域を含むTCRは、「従来型TCR」とも称され得る。ネイティブ/従来型TCRは、免疫グロブリンスーパーファミリーのヘテロ二量体細胞表面タンパク質であり、このタンパク質は、シグナル伝達の媒介に関与するCD3複合体の不変のタンパク質と会合している。ネイティブヘテロ二量体TCRは、αβ型およびγδ型で存在しており、これらは、構造的に類似しているが、位置およびおそらく機能も異なる。ネイティブヘテロ二量体αβTCRおよびγδTCRの細胞外部分は、2つのポリペプチドを含み、これらのそれぞれは、膜近位の定常ドメイン(定常領域とも称される)と、膜遠位の可変ドメイン(可変領域とも称される)とを有する。本発明に関連して、そのようなTCRはまた、完全長TCRとも称される。ネイティブαβヘテロ二量体TCRは、α鎖およびβ鎖を有する。α鎖は、可変(V)領域、結合(J)領域、および定常(C)領域を含み、β鎖は、V領域、J領域、およびC領域を含み、通常は、可変領域と結合領域との間に短い多様性(D)領域をさらに含むが、この多様性領域は、結合領域の一部とみなされることが多い。TCR α鎖およびβ鎖の定常領域は、それぞれ、TRACおよびTRBCと称される(Lefranc, (2001), Curr Protoc Immunol Appendix 1: Appendix 10)。本発明に関連して、TCR α鎖およびβ鎖(TRACおよびTRBC)の定常領域は、膜貫通(TM)領域を含む。定常および可変領域(またはドメイン)のそれぞれは、鎖内ジスルフィド結合を含む。可変ドメインは、抗体の相補性決定領域(CDR)に類似する高度に多型のループを含む。
【0048】
それぞれのTCR可変ドメインは、フレームワーク配列に埋め込まれた3つの「TCR相補性決定領域」(CDR)を含み、1つは、CDR3と命名された超可変領域である。本発明に関連して、CDRa1、CDRa2、およびCDRa3は、α鎖CDRを示し、CDRb1、CDRb2、およびCDRb3は、β鎖CDRを示す。α鎖可変ドメインおよびβ鎖可変ドメインには、フレームワーク、CDR1、およびCDR2配列、ならびに部分的に定義されたCDR3配列により区別されるいくつかのタイプが存在している。α鎖可変ドメインタイプは、IMGT命名法において固有のTRAV番号で言及され、β鎖可変ドメインタイプは、IMGT命名法において固有のTRBV番号で言及されている(Folch and Lefranc, (2000), Exp Clin Immunogenet 17(1): 42-54; Scaviner and Lefranc, (2000), Exp Clin Immunogenet 17(2): 83-96; LeFranc and LeFranc, (2001), "T cell Receptor Factsbook", Academic Press)。抗体およびTCR遺伝子に関するさらなる情報を、国際的なImMunoGeneTics情報システム(登録商標)、Lefranc M-P et al., (Nucleic Acids Res. 2015 Jan;43(Database issue):D413-22;およびhttp://www.imgt.org/)に見出し得る。TCRでは、CDR1およびCDR3アミノ酸残基は、抗原ペプチドと接触し、CDR2アミノ酸残基は、HLA分子と主に接触する(Stadinski et al., J Immunol. 2014 June 15; 192(12): 6071-6082; Cole et al., J Biol Chem. 2014 Jan 10;289(2):628-38)。そのため、TCRの抗原特異性は、CDR3およびCDR1配列により定義される。CDR2配列は、抗原特異性の決定には必要ないが、ペプチド:MHC複合体に対するTCRの全体的な親和性で役割を果たし得る。
【0049】
「TCRフレームワーク領域」(FR)は、CDR間に挟まれたアミノ酸配列を指しており、即ち、異なるTCR間である程度保存されている可変ドメインの部分を指す。α鎖、β鎖、γ鎖、およびδ鎖可変ドメインは、それぞれ、本明細書ではそれぞれFR1-a、FR2-a、FR3-a、FR4-a(α鎖またはγ鎖の場合)、およびFR1-b、FR2-b、FR3-b、FR4-b(β鎖またはδ鎖の場合)と呼ばれる4つのFRを有する。従って、α鎖またはγ鎖可変ドメインは、(FR1-a)-(CDRa1)-(FR2-a)-(CDRa2)-(FR3-a)-(CDRa3)-(FR4-a)と説明され得、β鎖またはδ鎖可変ドメインは、(FR1-b)-(CDRb1)-(FR2-b)-(CDRb2)-(FR3-b)-(CDRb3)-(FR4-b)と説明され得る。本発明に関連して、α、β、γ、またはδ鎖可変ドメイン中のCDR/FR配列は、IMGT定義に基づいて決定される(Lefranc et al., Dev. Comp. Immunol., 2003, 27(1):55-77; www.imgt.org)。従って、TCRまたはTCR由来のドメインに関連する場合のCDR/FRアミノ酸位置は、前記IMGT定義に従って示される。好ましくは、可変ドメインVαのCDR/FRアミノ酸位置のIMGT位置は、TRAV24*01のIMGTナンバリングに類似して付与され、および/または可変ドメインVβのCDR/FRアミノ酸位置のIMGT位置は、TRBV12-3*01のIMGTナンバリングに類似して付与される。
【0050】
「α/β TCR/CD3複合体」という用語は、本発明に関連して、T細胞の表面上に存在するようなT細胞受容体複合体を指す。ほとんどのT細胞は、ジスルフィド結合したα鎖およびβ鎖で構成されたα/β TCRを発現し、このα/β TCRは、典型的には、MHCにより提示された抗原ペプチドの複合表面に結合する。TCRは、自己ではシグナルを生じないが、T細胞共受容体と呼ばれておりかつ細胞内シグナル伝達モチーフを含むタンパク質複合体であるCD3と構成的に会合している(Birnbaum et al.; PNAS vol. 11, no. 49; 17576-17581, 2014)。α/β TCRは、CD3εγ、CD3εδ、およびCD3ζζ二量体(これらは、合わせてα/β TCR/CD3複合体を形成する)を含むこの保存されたマルチサブユニットシグナル伝達装置と非共有結合的に共役している。
【0051】
「CD3」は、タンパク質複合体であり、4つの異なる鎖で構成されている。哺乳動物では、この複合体は、CD3γ鎖、CD3δ鎖、および2つのCD3ε鎖を含む。これらの鎖は、TCRおよびζ鎖と会合しており、Tリンパ球中において活性化シグナルを生じる。
【0052】
操作されたTCR(そのため、本発明に関連して使用される場合には、「TCR」という用語」)は、特に、機能的TCR断片、安定性成熟TCR、親和性成熟TCR、一本鎖TCR、キメラ、ヒト化、二重特異性および多重特異性TCR)を含む。「機能的TCR断片」は、(a)標的抗原に結合するTCR由来の能力を保持するネイティブまたは従来型TCRの断片、ならびに(b)TCR由来のCDR配列、特に、CDR1、CDR3、および適宜CDR2の配列を含む組換え/操作された抗原結合タンパク質を含む。標的抗原への結合は、これらのCDR配列により定義されることから、これらのCDR配列を含む抗原結合タンパク質は、CDRが由来するTCRの標的抗原に結合する能力を保持する。CDRにはフレームワーク領域(FR)が散在していなければならないが、その特定のアミノ酸配列は標的抗原の特異性にとって重要でないことを、当業者は認識している。そのため、TCR由来のCDRおよび抗体由来のFRを含む可変ドメインは、「機能的TCR断片」とみなされ得る。機能的TCR断片のさらなる例として、単一可変ドメイン、例えば、Vα、Vβ、Vδ、Vγ、またはα、β、δ、γ鎖の断片、例えば、「Vα-Cα」もしくは「Vβ-Cβ」、またはこれらの一部が挙げられる。そのような断片はまた、対応するヒンジ領域もさらに含む可能性がある。「一本鎖TCR(scTCR)」は、本明細書で使用される場合、TCRの可変ドメインが単一ポリペプチド上に位置しているTCRを示す。典型的には、scTCR中の可変ドメインは、リンカーにより分離されており、前記リンカーは、典型的には、10~30個のアミノ酸、例えば、25個のアミノ酸を含む。
【0053】
「キメラTCR」は、本明細書では、TCR鎖が複数の種由来の配列を含むTCRを指す。好ましくは、本発明に関連するTCRは、α鎖のヒト可変領域を含むα鎖(例えば、マウスTCR α鎖のマウス定常領域)を含み得る。「二重特異性TCR」は、二重特異性TCR-抗体分子、特に、scTCR-Fab、または下記で定義するT細胞エンゲージング受容体[TCER(登録商標)]を含む。
【0054】
「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、従来型/ネイティブ抗体および操作された抗体、特に、機能的抗体断片、一本鎖抗体、単一ドメイン抗体、二重特異性または多重特異性抗体を含むことを意味する。
【0055】
「ネイティブ抗体」は、自然界から単離され得る野生型抗体を指す。ネイティブ抗体と同種のドメインおよびドメイン配置を有しており、かつ抗体由来のCDRおよびFRの配列を含む抗体も、「従来型抗体」と称され得る。ネイティブ/従来型抗体では、2本の重鎖は、ジスルフィド結合により互いに連結されており、それぞれの重鎖は、ジスルフィド結合により軽鎖に連結されている。軽鎖には、ラムダ(λ)およびカッパ(κ)の2種が存在している。抗体分子の機能的活性を決定する下記の5種の主な重鎖クラス(またはアイソタイプ)が存在している:IgM、IgD、IgG、IgA、およびIGE。それぞれの鎖は、異なるドメイン(領域とも称される)を含む。軽鎖は、可変ドメイン(V)および定常ドメイン(C)という2つのドメインを含む。重鎖は、抗体アイソタイプに応じて、下記の4または5つのドメインを含む:可変ドメイン(V)、ならびに3または4つの定常ドメイン(まとめてCと称されるCH1、CH2、およびCH3、適宜CH4)。軽(V)鎖および重(V)鎖の両方の可変ドメインは、抗原に対する結合認識および特異性を決定する。軽(C)鎖および重(C)鎖の定常ドメインは、抗体鎖の会合、分泌、胎盤通過性、補体結合、およびFc受容体(FR)への結合等の重要な生物学的特性を付与する。
【0056】
抗体の特異性は、抗体結合部位と抗原決定基との間の構造的相補性に存在する。抗体結合部位は、主に「抗体相補性決定領域」(CDR)または超可変領域に由来する残基で構成されている。時には、非超可変領域またはフレームワーク領域(FR)の残基が、ドメイン全体の構造、ひいては結合部位に影響を及ぼす。CDRは、ネイティブ抗体結合部位の天然Fv領域の結合親和性および特異性を定義するアミノ酸配列を指す。抗体の軽鎖および重鎖は、それぞれ、それぞれCDR1-L、CDR2-L、CDR3-L、およびCDR1-H、CDR2-H、CDR3-Hと呼ばれる3つのCDRを有する。従って、抗体の抗原結合部位は、重鎖V領域および軽鎖V領域のそれぞれ由来のCDRセットを含む6つのCDRを含む。「抗体フレームワーク領域」(FR)は、CDR間に介在しているアミノ酸配列を指しており、即ち、抗体軽鎖および重鎖の可変領域の、単一種において異なる抗体間で比較的保存されている部分を指す。抗体の軽鎖および重鎖は、それぞれ、それぞれFR1-L、FR2-L、FR3-L、FR4-L、およびFR1-H、FR2-H、FR3-H、FR4-Hと呼ばれる4つのFRを有する。従って、軽鎖可変ドメインは、(FR1-L)-(CDR1-L)-(FR2-L)-(CDR2-L)-(FR3-L)-(CDR3-L)-(FR4-L)と説明され得、重鎖可変ドメインは、(FR1-H)-(CDR1-H)-(FR2-H)-(CDR2-H)-(FR3-H)-(CDR3-H)-(FR4-H)と説明され得る。本明細書で使用される場合、「ヒトフレームワーク領域」とは、天然に存在するヒト抗体のフレームワーク領域と実質的に同一(約85%以上、特に、90%、95%、97%、99%、または100%)であるフレームワーク領域のことである。本発明に関連して、抗体軽鎖または重鎖の可変ドメインにおけるCDR/FR定義は、IMGT定義に基づいて決定される(Lefranc et al., Dev. Comp. Immunol., 2003, 27(1):55-77; www.imgt.org)。従って、所与の可変鎖のCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列、ならびにFR1、FR2、FR3、およびFR4のアミノ酸配列は、前記IMGT定義に従って示される。
【0057】
操作された抗体フォーマットは、機能的抗体断片、一本鎖抗体、単一ドメイン抗体、およびキメラ抗体、ヒト化抗体、二重特異性抗体、または多重特異性抗体を含む。操作された抗体フォーマットは、TCR由来のCDR(場合によってはさらなる3、2、もしくは1個のNおよび/もしくはC末端フレームワーク残基を含む)またはTCR由来の可変ドメイン全体が、抗体重鎖または軽鎖上に移植されているコンストラクトをさらに含む。より具体的には、CDRa1、CDRa3、および適宜CDRa2は、可変重鎖アミノ酸配列に移植され得、CDRb1、CDRb3、および適宜CDRb2は、可変軽鎖アミノ酸配列に移植され得、逆もまた同様である。別の例として、抗体の軽鎖可変ドメインは、TCRのα鎖可変ドメインに置き換えられ得、重鎖可変ドメインは、TCRのβ鎖可変ドメインに置き換えられ得、逆もまた同様である。「機能的抗体断片」は、標的抗原に結合する能力を保持する完全長抗体の部分を指しており、特に、完全長抗体の抗原結合領域または可変領域を指す。機能的抗体断片の例として、Fv、Fab、F(ab’)2、Fab’、dsFv、(dsFv)2、scFv、sc(Fv)2、およびダイアボディが挙げられる。機能的抗体断片はまた、重鎖抗体等の単一ドメイン抗体でもあり得る。「Fab」という用語は、IgGをプロテアーゼ(例えば、パパイン)で処理して得られる断片の内、H鎖のN末端側の約半分とL鎖全体とがジスルフィド結合を介して互いに結合している、分子量が約50,000ダルトンであり抗原結合活性を有する抗体断片を示す。Fv断片は、抗体のFab断片のN末端部分であり、1本の軽鎖および1本の重鎖の可変部分からなる。
【0058】
本明細書で使用される場合、抗原結合タンパク質の「フォーマット」は、ドメイン(特に、可変ドメインおよび適宜定常ドメイン)の定義された空間的配置を指定する。そのような抗原結合タンパク質フォーマットの重要な特徴は、下記である:ポリペプチド鎖の数(一本鎖、二本鎖、または多重鎖)、異なるドメインを連結するリンカーのタイプおよび長さ、可変ドメインの数(従って、価数の数)、異なる可変ドメインの数(従って、異なる抗原に対する特異性の数、例えば、二重特異性、多重特異性)、ならびに可変ドメインの順序および方向(例えば、クロスオーバー、パラレル)。
【0059】
多くの異なる二重特異性フォーマットおよび多重特異性フォーマットが、抗体に関連して当該技術分野で説明されており、当業者に理解されるように、そのような二重特異性フォーマットおよび多重特異性フォーマットを、これらのフォーマットの抗体ドメインを、本発明に関連して説明されている可変ドメインに置き換えることにより、本発明に関連して使用し得る。そのようなフォーマットとして、例えば、ダイアボディ、クロスオーバー二重可変ドメイン(CODV)、および二重可変ドメイン(DV)タンパク質が挙げられる。様々な二重特異性抗体フォーマットおよびその製造方法の概要が、例えば、Brinkmann U. and Kontermann E.E. MAbs. 2017 Feb-Mar; 9(2): 182-212で開示されている。DVDフォーマットが、例えば、下記の科学文献(Wu C et al. Nat Biotechnol 2007; 25:1290-7; PMID:17934452;Wu C. et al. MAbs 2009; 1:339-47;Lacy SE et al. MAbs 2015; 7:605-19; PMID:25764208;Craig RB et al. PLoS One 2012; 7:e46778; PMID:23056448;Piccione EC et al. MAbs 2015)で開示されている。CODVが、例えば、Onuoha SC et al. Arthritis Rheumatol. 2015 Oct; 67(10):2661-72または例えば国際公開第2012/135345号パンフレット、同第2016/116626号パンフレットで開示されている。ダイアボディが、例えば、Holliger P et al. Protein Eng 1996; 9:299-305; PMID:8736497;Atwell JL et al. Mol Immunol 1996; 33:1301-12; PMID:9171890;Kontermann RE, Nat Biotechnol 1997; 15:629-31; PMID:9219263;Kontermann RE et al. Immunotechnology 1997; 3:137-44; PMID:9237098;Cochlovius B et al. Cancer Res 2000; 60:4336-41; PMID:10969772;およびDeNardo DG et al. Cancer Biother Radiopharm 2001; 16:525-35; PMID:11789029で説明されている。
【0060】
「ダイアボディ」は、同一の抗体由来であるかまたは異なる抗体由来である2つの可変ドメインをそれぞれ含む2本の鎖で構成されている2価分子を指す。抗体が異なる場合には、典型的には、一方の抗体(VLXおよびVHXを含む抗体X)の可変ドメインは、2本の異なるポリペプチド鎖上に位置しており、他方の抗体(VLYおよびVHYを含む抗体Y)の可変ドメインもまた、2本の異なるポリペプチド鎖上に位置している。これらのドメインは、頭から尾への向きに二量体化する。2本の鎖は、下記の構造を有し得る:VHX-LDb1-VLYおよびVHY-LDb2-VLX、またはVLX-LDb1-VHYおよびVLY-LDb2-VHX、またはVHX-LDb1-VHYおよびVLY-LDb2-VLX、またはVLX-LDb1-VLYおよびVHY-LDb2-VHX。ドメインの頭から尾への二量体化を可能にするために、2本の鎖は、可変ドメインを分離しかつ同一であり得るかまたは異なり得るリンカー(即ち、LDb1およびLDb2)を含む。このリンカーは、好ましくは、短いリンカーである。短いリンカーは、典型的には、2~12個、3~13個、例えば、3、4、5、6、7、8、9個のアミノ酸の長さであり、例えば、4、5[Brinkmann U. and Kontermann E.E. (MAbs. 2017 Feb-Mar; 9(2): 182-212]、または8個のアミノ酸の長さであり、例えば、配列番号290の「GGGS」、配列番号286の「GGGGS」、または配列番号214の「GGGSGGGG」である。
【0061】
「二重可変ドメイン免疫グロブリン」[DVD-Ig(商標)]フォーマットでは、モノクローナル抗体Yの標的結合可変ドメイン(ドメインVLYおよびVHY)は、典型的には、従来の抗体X(ドメインVLXおよびVHXを含む)に融合しており、そのため、この従来の抗体Xの軽鎖は、追加の軽鎖可変ドメイン(VLY)を含み、従来の抗体Xの重鎖は、追加の重鎖可変ドメイン(VHY)を含む。当該技術分野で説明されているDVD-Ig(商標)は、典型的には、下記の2本のポリペプチド鎖:VHY-L-VHX-L-CH1-CH2-CH3を含む1本の重鎖、およびVLY-L-VLX-L-Cを含む1本の軽鎖、またはVHX-L-VHY-L-CH1-CH2-CH3を含む1本の重鎖、およびVLX-L-VLY-L-Cを含む1本の軽鎖で構成されている。そのため、ドメインVHY/VLYおよびVHX/VLXは、並行して対を形成している。連結しているリンカーLおよびLは、好ましくは5~20個のアミノ酸であり、例えば5~15個のアミノ酸であり、および/または連結しているリンカーLおよびLは、存在していてもよいし存在していなくてもよい。
【0062】
当該技術分野で説明されている「クロスオーバー二重可変ドメイン」(CODV)フォーマットは、抗体Xの可変ドメイン(VLXおよびVHX)および抗体Yの可変ドメイン(VLYおよびVHY)が、これらの可変ドメインのクロスオーバー対形成を可能にする方法で連結されているフォーマットを表す。
【0063】
本発明に関連するCODV-Igフォーマットでは、ポリペプチド鎖は、例えば、下記の構造:VHX-L-VHY-L-CH1-CH2-CH3およびVLY-L-VLX-L-C、またはVHY-L-VHX-L-CH1-CH2-CH3およびVLX-L-VLY-L-C、またはVHX-L-VHY-L-CH1-CH2-CH3およびVLY-L-VLX-L-C、またはVHY-L-VHX-L-CH1-CH2-CH3およびVLX-L-VLY-L-Cを有する。連結しているリンカー(L~L)(全グリシンリンカーまたはセリン-グリシンリンカーとも称され得る)は、典型的には、長さが異なる。クロスオーバー対形成を可能にするために、1本の鎖(重鎖または軽鎖)は、典型的には、他の鎖と比べて長いリンカーを含む。例えば、上記で列挙されているCODV構造では、Lは、3~12個のアミノ酸残基の長さであり、Lは、3~14個のアミノ酸残基の長さであり、Lは、1~8個のアミノ酸残基の長さであり、かつLは、1~3個のアミノ酸残基の長さであるか、またはLは、5~10個のアミノ酸残基の長さであり、Lは、5~8個のアミノ酸残基の長さであり、Lは、1~5個のアミノ酸残基の長さであり、かつLは、1~2個のアミノ酸残基の長さであるか、またはLは、7個のアミノ酸残基の長さであり、Lは、5個のアミノ酸残基の長さであり、Lは、1個のアミノ酸残基の長さであり、かつLは、2個のアミノ酸残基の長さである。
【0064】
「ヒト化抗体」という用語は、完全にまたは部分的に非ヒト起源であり、かつヒトにおける免疫反応を回避するかまたは最小限に抑えるために、ある特定のアミノ酸(特に、重鎖および軽鎖のフレームワーク領域中)を置き換えることにより改変されている抗体を指す。ヒト化抗体の定常ドメインは、主にヒトのCドメインおよびCドメインである。抗体配列のヒト化のための多数の方法が、当該技術分野で既知であり;例えば、Almagro & Fransson (2008) Front Biosci. 13: 1619-1633による概説を参照されたい。
【0065】
当業者に理解されるように、抗体の構造、特に、抗体の重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインの構造は、TCR α鎖、β鎖、γ鎖、またはδ鎖の可変ドメインの構造に類似しており、本発明に関連して定義されているCDRの抗体(例えば、従来の抗体、二重特異性抗体、または多重特異性抗体)への移植が促進される。
【0066】
本発明の抗体、TCR、または抗原結合タンパク質のCDRのアミノ酸配列を知ることにより、当業者は、フレームワーク領域(例えば、TCRフレームワーク領域または抗体フレームワーク領域)を容易に決定し得る。CDRが示されていない場合には、当業者は、最初に、TCRに関するIMGT定義または抗体に関するIMGT定義に基づいてCDRアミノ酸配列を決定し得、次いで、フレームワーク領域のアミノ酸配列を決定し得る。
【0067】
二重特異性TCR-抗体フォーマット
好ましい実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、二重特異性分子であり、特に、二重特異性TCR-抗体分子であり、即ち、一方が抗体に由来しており、他方がTCRに由来しているかまたはTCRに由来するCDR(特に、CDR1a、CDR3a、CDR1b、CDR3b、ならびに適宜CDR2aおよびCDR2b)を少なくとも含む少なくとも2つの抗原結合部位を含む抗原結合タンパク質である。抗体に由来する抗原結合部位は、可変ドメインVおよびVを含む。
【0068】
そのような二重特異性TCR-抗体分子では、可変ドメインは、例えば、上述された様々な二重特異性抗体フォーマットに関して説明されているように配置され得る。そのような二重特異性抗体を作製する技術も、上記で引用された先行技術で開示されており、そのため、当業者は、本明細書で定義されているCDRまたは可変ドメインを使用して、本明細書で開示されているフォーマットで本発明の抗原結合タンパク質を容易に生成して作製し得る。加えて、さらなるフォーマット、例えば、各鎖上で、可変ドメインが、二量体化を媒介する定常ドメインにより分離されており、その結果、最終分子では、2つの抗原結合部位が二量体化定常ドメインの両側に位置しているようなフォーマットも可能である。当業者は、所望の立体構造で確実に折り畳まれるように適切なリンカーを選択することが完全に可能である。
【0069】
最も好ましい実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、TCR抗原結合部位および抗体抗原結合部位を含む可溶性Fc含有二重特異性抗原結合分子である二重特異性T細胞エンゲージング受容体[TCER(登録商標)]である。抗体抗原結合部位は、抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域により形成されており、エフェクター細胞(例えばT細胞)に結合して腫瘍へと動員することから「リクルーター」とも称される。TCER(登録商標)は、2本のポリペプチド鎖を含み、抗原結合部位は、クロスオーバー配向で異なるポリペプチド鎖上に位置する可変ドメインにより形成されている。
【0070】
本出願の文脈において、「参照配列と少なくとも85%同一」である配列とは、参照配列の全長との85%以上、特に、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を全長にわたり有する配列のことである。参照配列と「少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一」のアミノ酸配列からなるタンパク質は、参照配列と比較して突然変異(例えば、欠失、挿入、および/または置換)を含み得る。置換の場合には、参照配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一のアミノ酸配列からなるタンパク質は、参照配列とは別の種に由来する相同配列に対応し得る。
【0071】
本出願の文脈において、「同一性の割合」は、グローバルペアワイズアラインメントを使用して算出され得る(即ち、2つの配列が、その全長にわたり比較される)。2つ以上の配列の同一性を比較する方法は、当該技術分野で公知である。例えば、Needleman-Wunschグローバルアラインメントアルゴリズム(Needleman and Wunsch, 1970 J. Mol. Biol. 48:443-453)を使用して、2つの配列の全長を考慮した場合の最適なアラインメント(ギャップを含む)を見出す「ニードル」プログラムを使用し得る。ニードルプログラムは、例えば、ebi.ac.uk World Wide Webサイトで入手可能であり、下記の刊行物でさらに説明されている[EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite (2000) Rice, P. Longden, I. and Bleasby, A. Trends in Genetics 16, (6) pp. 276-277]。本発明に従う2つのポリペプチド間の同一性の割合は、“Gap Open”パラメータ 10.0、“Gap Extend”パラメータ 0.5、およびBlosum62マトリックスでEMBOSS:ニードル(グローバル)プログラムを使用して算出される。
【0072】
「アミノ酸置換」は、保存的であってもよいし被保存的であってもよい。好ましくは、置換は、保存的置換であり、この保存的置換では、1つのアミノ酸が、構造および/または化学的特性が類似する別のアミノ酸に置換される。
【0073】
ある実施形態では、保存的置換として、Dayhoff in "The Atlas of Protein Sequence and Structure. Vol. 5", Natl. Biomedical Research(この内容は、その全体が参照により組み込まれる)により説明されいてるものが挙げられ得る。例えば、ある態様では、下記の群の内の1つに属するアミノ酸が、互いに交換され得、そのため保存的交換を構成する:群1:アラニン(A)、プロリン(P)、グリシン(G)、アスパラギン(N)、セリン(S)、スレオニン(T);群2:システイン(C)、セリン(S)、チロシン(Y)、スレオニン(T);群3:バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アラニン(A)、フェニルアラニン(F);群4:リシン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H);群5:フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)、ヒスチジン(H);および群6:アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)。ある態様では、保存的アミノ酸置換は、T→A、G→A、A→I、T→V、A→M、T→I、A→V、T→G、および/またはT→Sから選択され得る。
【0074】
さらなる実施形態では、保存的アミノ酸置換として、アミノ酸の同クラスの別のアミノ酸[例えば、(1)非極性:Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe、Trp;(2)非荷電極性:Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn、Gln;(3)酸性:Asp、Glu;および(4)塩基性:Lys、Arg、His]による置換も挙げられ得る。他の保存的アミノ酸置換をまた、下記のように行ない得る:(1)芳香族:Phe、Tyr、His;(2)プロトン供与体:Asn、Gln、Lys、Arg、His、Trp;および(3)プロトン受容体:Glu、Asp、Thr、Ser、Tyr、Asn、Gln(例えば、内容全体が参照により組み込まれる米国特許第10,106,805号明細書を参照されたい)。
【0075】
別の実施形態では、保存的置換を、表1に従って行ない得る。タンパク質改変に対する耐性を予測する方法を、例えば、Guo et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 101(25):9205-9210 (2004)(この内容は、その全体が参照により組み込まれる)で見出し得る。
【0076】
【表1】
【0077】
別の実施形態では、保存的置換は、「保存的置換」という標題で表2に示されているものであり得る。そのような置換により生物学的活性が変化する場合には、表2において「例示的な置換」と表示されているより実質的な変化を導入して、必要に応じて生成物をスクリーニングし得る。
【0078】
【表2】
【0079】
本発明の抗原結合タンパク質は、任意の長さのものであり得、即ち、生物学的活性(例えば、標的抗原に特異的に結合する能力、宿主中の疾患細胞を検出する能力、または宿主の疾患を処置するかもしくは予防する能力等)を保持する限り、任意の数のアミノ酸を含み得る。
【0080】
本発明の抗原結合タンパク質は、1つまたは複数の天然に存在するアミノ酸の代わりに、合成アミノ酸を含み得る。そのような合成アミノ酸は、当該技術分野で既知であり、例えば下記が挙げられる:アミノシクロヘキサンカルボン酸、ノルロイシン、α-アミノ n-デカン酸、ホモセリン、S-アセチルアミノメチル-システイン、トランス-3-およびトランス-4-ヒドロキシプロリン、4-アミノフェニルアラニン、4-ニトロフェニルアラニン、4-クロロフェニルアラニン、4-カルボキシフェニルアラニン、β-フェニルセリン β-ヒドロキシフェニルアラニン、フェニルグリシン、α-ナフチルアラニン、シクロヘキシルアラニン、シクロヘキシルグリシン、インドリン-2-カルボン酸、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸、アミノマロン酸、アミノマロン酸モノアミド、N’-ベンジル-N’-メチル-リシン、N’,N’-ジベンジル-リシン、6-ヒドロキシリシン、オルニチン、α-アミノシクロペンタン カルボン酸、α-アミノシクロヘキサン カルボン酸、α-アミノシクロヘプタン カルボン酸、α-(2-アミノ-2-ノルボルナン)-カルボン酸、α,γ-ジアミノ酪酸、α,β-ジアミノプロピオン酸、ホモフェニルアラニン、およびα-tert-ブチルグリシン。
【0081】
一実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、グリコシル化され得るか、アミド化され得るか、カルボキシル化され得るか、リン酸化され得るか、エステル化され得るか、N-アシル化され得るか、例えばジスルフィド架橋を介して環化され得るか、もしくは酸付加塩に変換され得、および/または二量体化され得るかもしくは重合され得るか、またはコンジュゲートされてもよい。
【0082】
さらなる実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、塩の形態であり、例えば、薬学的に許容される塩の形態である。好適な薬学的に許容される酸付加塩として、鉱酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸、メタリン酸、硝酸、および硫酸)に由来するもの、ならびに有機酸(例えば、酒石酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、安息香酸、グリコール酸、グルコン酸、コハク酸、およびアリールスルホン酸、例えばp-トルエンスルホン酸)に由来するものが挙げられ得る。
【0083】
「共有結合的連結」は、本明細書では、例えば、ジスルフィド架橋、またはポリペプチドリンカー等のリンカーもしくはリンカー配列を介したペプチド連結もしくは共有結合的連結を指す。
【0084】
「リンカー」という用語は、本明細書で使用される場合、例えば、抗原結合タンパク質のクロスオーバー対形成(CODVフォーマットもしくはダイアボディフォーマットの内のいくつかにおける)またはパラレル対形成構成(例えば、DVDフォーマットにおける)で抗原結合部位を形成するために正しく折り畳むのに十分なドメインまたは要素(例えば、本発明の抗原結合タンパク質の可変ドメイン)の可動性を提供するためにドメイン間またはドメインと薬剤との間に挿入される1つまたは複数のアミノ酸残基を指す。
【0085】
いくつかの実施形態では、リンカーは、リンカーが存在していないことを意味する0個のアミノ酸からなる。リンカーは、アミノ酸配列レベルで、可変ドメイン間または可変ドメインと定常ドメインとの間(または二量体化ドメイン間)それぞれの転移で挿入される。抗体ドメインおよびTCRドメインのおおよそのサイズがよく理解されていることから、ドメイン間の転移を特定し得る。実験データにより実証されているように、またはモデリングもしくは二次構造予測の技術により想定され得るように、β-シートまたはα-ヘリックス等の二次構造要素を形成しないペプチドストレッチを位置付けることにより、ドメイン転移の正確な位置を決定し得る。本発明に関連して使用されるリンカーという用語は、L、L、L、L、L、およびLと称されるリンカーを含むが、これらに限定されない。
【0086】
、L、L、L、L、およびL等のリンカーは、それぞれの文脈において別途指定されない限り、少なくとも1~30個のアミノ酸の長さであり得る。いくつかの実施形態では、L、L、L、L、L、およびL等のリンカーは、2~25個、2~20個、または3~18個のアミノ酸の長さであり得る。いくつかの実施形態では、L、L、L、L、L、およびL等のリンカーは、14、13、12、11、10、9、8、7、6、または5個以下のアミノ酸の長さのペプチドであり得る。他の実施形態では、L、L、L、L、L、およびL等のリンカーは、5~25個、5~15個、4~11個、10~20個、または20~30個のアミノ酸の長さであり得る。他の実施形態では、L、L、L、L、L、およびL等のリンカーは、約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30個のアミノ酸の長さであり得る。特定の実施形態では、L、L、L、L、L、およびL等のリンカーは、24個未満、20個未満、16個未満のアミノ酸残基の長さであり得、12個未満、10個未満、例えば、5~24個未満、10~24個未満、または5~10個未満のアミノ酸残基の長さである。いくつかの実施形態では、前記リンカーは、1個以上のアミノ酸残基の長さであり、例えば、1個超、2個超、5個超、10個超、20個超のアミノ酸残基の長さであり、22個超のアミノ酸残基の長さである。
【0087】
、L、L、L、L、およびL等の例示的なリンカーは、GGGS(配列番号290)、GGGGS(配列番号286)、GGGAS(配列番号287)、GGGSGGGG(配列番号214)、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号61)、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号70)、GGSGG(配列番号226)、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号280)、GGGGSAAA(配列番号358)、特に、GGGSGGGG(配列番号214)、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号70)、およびGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号61)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
【0088】
「Fドメイン」という用語は、本発明に関連して使用される場合、ネイティブFおよびF変異体を包含しており、全抗体から消化されているか他の手段により生成されているかにかかわらず、単量体二量体および多量体Fドメインの両方を含む。
【0089】
「ネイティブF」という用語は、本明細書で使用される場合、単量体か、二量体か、または多量体の形態かにかかわらず、抗体の消化によって生じるかまたは他の手段により生成される非抗原結合断片の配列を含む分子を指しており、かつヒンジ領域を含み得る。ネイティブFの元の抗体源は、特にヒト起源であり、いずれかの抗体クラスであり得るが、IgG1およびIgG2が好ましい。ネイティブF分子は、共有結合(即ち、ジスルフィド結合)的会合および非共有結合的会合により二量体形態または多量体形態へと連結され得る単量体ポリペプチドで構成されている。ネイティブF分子の単量体サブユニット間の分子間ジスルフィド結合の数は、クラス(例えば、IgG、IgA、およびIgE)またはサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgA1、およびIgGA2)に応じて、1~4の範囲である。ネイティブFの一例は、IgGのパパイン消化により生じるジスルフィド結合二量体である。ネイティブFアミノ酸配列の一例は、配列番号329である。
【0090】
「F変異体」という用語は、本明細書で使用される場合、ネイティブFcから改変されているがサルベージ受容体FRn(新生児F受容体)の結合部位を依然として含む分子または配列を指す。例示的なFc変異体、およびこれとサルベージ受容体との相互作用は、当該技術分野で既知である。そのため、「F変異体」という用語は、非ヒトネイティブFからヒト化されている分子または配列を含み得る。さらに、ネイティブFは、除去され得る領域を含んでおり、なぜならば、この領域は、本発明の抗原結合タンパク質に必要とされない構造的特徴または生物学的活性を付与するからである。そのため、「F変異体」という用語は、1つもしくは複数のネイティブF部位もしくは残基を欠いているかまたは1つもしくは複数のF部位もしくは残基が改変されている分子または配列を含み、この部位もしくは残基は、下記に影響を及ぼすかまたは関与する:(1)ジスルフィド結合形成、(2)選択された宿主細胞との不適合性、(3)選択された宿主細胞中での発現時のN末端不均一性、(4)グリコシル化、(5)補体との相互作用、(6)サルベージ受容体以外のF受容体への結合、または(7)抗体依存性細胞傷害性(ADCC)。
【0091】
一実施形態では、Fcドメインは、ヒトIgG Fcドメインであり、好ましくは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4に由来しており、好ましくは、IgG1またはIgG2に由来しており、より好ましくは、IgG1に由来している。
【0092】
いくつかの実施形態では、抗原結合タンパク質が2つのFドメイン(Fc1およびFc2)を含む場合には、例えば、実施例で使用されるTCER(登録商標)フォーマットでは、これら2つのFドメインは、同一の抗体アイソタイプまたはアイソタイプサブクラスのものである。従って、いくつかの実施形態では、Fc1およびFc2の両方は、IgG1サブクラス、またはIgG2サブクラス、またはIgG3サブクラス、またはIgG4サブクラスのものである。好ましい実施形態では、Fc1およびFc2の両方は、IgG1サブクラスまたはIgG2サブクラスのものであり、より好ましくは、IgG1サブクラスのものである。
【0093】
いくつかの実施形態では、F領域は、本明細書の下記で定義するRFおよび/または「ノブ・イントゥ・ホール」突然変異をさらに含む。
【0094】
「RF突然変異」は、一般に、FドメインのCH3ドメインにおけるRFへのアミノ酸HYの突然変異、例えば、Jendeberg, L. et al., (1997, J. Immunological Meth., 201: 25-34)で説明されているCH3ドメイン中の突然変異H435RおよびY436Fを指しており、かつプロテインAの結合を消失させることから精製目的に有利であると説明されている。抗原結合タンパク質が2つのFドメインを含む場合には、RF突然変異は、一方または両方のFドメイン中に存在し得、好ましくは一方のFcドメイン中に存在し得る。
【0095】
「ノブ・イントゥ・ホール」技術は、米国特許第5731168号明細書および同第8216805号明細書(特に、参照により本明細書に組み込まれる)で説明されているヘテロ多量体形成を促進するための、CH3-CH3界面における突然変異T366S、L368A、およびY407V、特にT366S(ホール)およびT366W(ノブ)の両方を指す。このノブ・イントゥ・ホール突然変異は、さらなるシステインアミノ酸置換Y349CおよびS354Cの導入により、さらに安定化され得る。
【0096】
「ノブ」突然変異は、例えば、配列番号149のFアミノ酸配列中に存在しており、「ホール」突然変異は、例えば、配列番号150のFアミノ酸配列中に存在している。
【0097】
いくつかの実施形態では、一方のポリペプチドのFドメイン(例えば、Fc1)は、そのCH3ドメイン中にアミノ酸置換T366W(ノブ)を含んでおり、他方のポリペプチドのFドメイン(例えば、Fc2)は、そのCH3ドメイン中にアミノ酸置換T366S、L368A、およびY407V(ホール)を含んでおり、逆もまた同様である。
【0098】
いくつかの実施形態では、一方のポリペプチドのFドメイン(例えば、Fc1)は、そのCH3ドメイン中にアミノ酸置換S354Cを含むか、またはさらに含んでおり、他方のポリペプチドのFドメイン(例えば、Fc2)は、そのCH3ドメイン中にアミノ酸置換Y349Cを含んでいるか、またはさらに含んでおり、逆もまた同様である。
【0099】
従って、いくつかの実施形態では、一方のポリペプチドのFドメイン(例えば、Fc1)は、そのCH3ドメイン中にアミノ酸置換S354CおよびT366W(ノブ)を含んでおり、他方のポリペプチドのFドメイン(例えば、Fc2)は、そのCH3ドメイン中にアミノ酸置換Y349C、T366S、L368A、およびY407V(ホール)を含んでおり、逆もまた同様である。
【0100】
このアミノ酸置換のセットは、Wei et al. (Structural basis of a novel heterodimeric Fc for bispecific antibody production, Oncotarget. 2017)により説明されているように、一方のポリペプチドでのアミノ酸置換K409Aの含有、および他方ポリペプチドでのF405Kの含有により、さらに拡張され得る。従って、いくつかの実施形態では、一方のポリペプチドのFドメイン(例えば、Fc1)は、そのCH3ドメイン中にアミノ酸置換K409Aを含むか、またはさらに含んでおり、他方のポリペプチドのFドメイン(例えば、Fc2)は、そのCH3ドメイン中にアミノ酸置換F405Kを含むか、またはさらに含んでおり、逆もまた同様である。
【0101】
場合によっては、人工的に導入されたシステイン架橋により、最適には抗原結合タンパク質の結合特性を妨げることなく、抗原結合タンパク質の安定性が改善され得る。そのようなシステイン架橋により、ヘテロ二量体化がさらに改善され得る。
【0102】
得られたタンパク質のヘテロ二量体化を改善するためのさらなるアミノ酸置換(例えば、荷電対置換)は、当該技術分野(例えば、欧州特許第2970484号明細書)で説明されている。
【0103】
従って、一実施形態では、一方のポリペプチドのFドメイン(例えば、Fc1)は、荷電対置換E356K、E356R、D356R、またはD356K、およびD399K、またはD399Rを含むか、またはさらに含んでおり、他方のポリペプチドのFドメイン(例えば、Fc2)は、荷電対置換R409D、R409E、K409E、またはK409D、およびN392D、N392E、K392E、またはK392Dを含むか、またはさらに含んでおり、逆もまた同様である。
【0104】
さらなる実施形態では、一方または両方の、好ましくは両方のポリペプチド鎖上のFドメインは、Fガンマ受容体(FcyR)結合を阻害する1つまたは複数の変更を含み得る。そのような変更は、L234A、L235Aを含み得る。
【0105】
さらなる実施形態では、一方または両方の、好ましくは両方のポリペプチド鎖上のFドメインは、F部分内のN-グリコシル化部位を除去するためにN297Q突然変異を含み得、そのような突然変異は、Fガンマ受容体相互作用を無効にする。
【0106】
「ヒンジ」、「ヒンジ領域」、または「ヒンジドメイン」は、典型的には、CH1ドメインとCH2ドメインとの間に位置する重鎖の柔軟な部分を指す。これは、約25個のアミノ酸の長さであり、かつ「上部ヒンジ」、「中間ヒンジ」または「コアヒンジ」、および「下部ヒンジ」に分けられている。「ヒンジサブドメイン」は、上部ヒンジ、中間(もしくはコア)ヒンジ、または下部ヒンジを指す。IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4分子のヒンジのアミノ酸配列を、本明細書の下記に示す:
IgG1:E216PKSCDKTHTCPPCPAPELLG(配列番号330)
IgG2:E216RKCCVECPPCPAPPVAGP(配列番号331)
IgG3:ELKTPLGDTTHTCPRCPEPKSCDTPPPCPRCPE216PKSCDTPPPCPRCPAPELLG(配列番号332)
IgG4:E216SKYGPPCPSCPAPEFLG(配列番号333)。
【0107】
本発明に関連して、Fドメイン中のアミノ酸位置に言及されており、これらのアミノ酸の位置または残基は、例えば、Edelman, G.M. et al., Proc. Natl. Acad. USA, 63, 78-85 (1969)で説明されているようようなEUナンバリングシステムに従って示されている。
【0108】
ヒンジ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインからなるF部分、またはこの一部の抗原結合タンパク質(特に、二重特異性抗原結合タンパク質)への組み込みにより、Fc:Fcガンマ受容体(FγR)相互作用により誘発されるこれらの分子の非特異的固定化の問題が生じた。FγRは、IgG分子のFc部分により提示されるエピトープに対して様々な親和性で結合する様々な細胞表面分子(FγRI、FγRIIa、FγRIIb、FγRIII)で構成されている。そのような非特異的な(即ち、二重特異性分子の2つの結合ドメインのいずれによっても誘発されない)固定化は、i)分子の薬物動態への影響、およびii)免疫エフェクター細胞のオフターゲット活性化に起因して好ましくないことから、FγR結合を取り除くための様々なF変異体および突然変異が同定されている。これに関連して、Morgan et al. 1995, Immunology (The N-terminal end of the CH2 domain of chimeric human IgG1 anti-HLA-DR is necessary for C1q, FcyRI and FcyRIII binding)は、FγRI結合の消失、C1q結合の消失、およびFγRIII結合の減少をもたらす、ヒトIgG2に由来する対応する配列によるヒトIgG1の残基233~236の交換(即ち、残基233P、234V、および235A、ならびに236位にはアミノ酸が存在していない)を開示している。欧州特許第1075496号明細書は、F領域での多様性(例えば、233P、234V、235A、および236位での存在していない残基またはG、および327G、330S、および331Sの内の1つまたは複数)を有する抗体および他のF含有分子を開示しており、ここで、組換え抗体は、標的の顕著な補体依存性溶解または細胞媒介性破壊を始動させることなく、標的分子に結合可能である。
【0109】
従って、いくつかの実施形態では、F領域は、233P、234V、235A、236(残基なし)またはG、327G、330S、331Sからなる群より選択される1つまたは複数のアミノ酸または欠失を含むか、またはさらに含んでおり、好ましくは、F領域は、アミノ酸233P、234V、235A、236(残基なし)またはG、および327G、330S、331Sからなる群から選択される1つまたは複数のアミノ酸を含むか、またはさらに含んでおり、最も好ましくは、F領域は、アミノ酸233P、234V、235A、236(残基なし)、および331Sを含むか、またはさらに含んでいる。
【0110】
さらなる一実施形態では、Fドメインは、アミノ酸置換N297Q、N297G、またはN297A、好ましくはN297Qを含むか、またはさらに含む。
【0111】
アミノ酸置換「N297Q」、「N297G」、または「N297A」は、Fドメイン内のネイティブN-グリコシル化部位を無効にする297位でのアミノ酸置換を指す。このアミノ酸置換は、例えばTao, MH and Morrison, SL (J Immunol. 1989 Oct 15;143(8):2595-601.)で説明されているように、糖残基に起因して、Fガンマ受容体相互作用をさらに防止し、かつ最終タンパク質生成物(即ち、本発明の抗原結合タンパク質)の多様性を減少させる。
【0112】
さらなる一実施形態では、特に軽鎖がない場合には、Fドメインは、アミノ酸置換C220Sを含むか、またはさらに含む。アミノ酸置換「C220S」により、CH1-Cジスルフィド結合を形成するシステインが欠失する。
【0113】
いくつかの実施形態では、Fドメインは、少なくとも2つのさらなるシステイン残基を含むか、またはさらに含み(例えば、S354CおよびY349C、またはL242CおよびK334C)、ここで、ヘテロ二量体を形成するために、S354Cは、Fc1等の一方のポリペプチドのFドメイン中に存在しており、Y349Cは、Fc2等の他方のポリペプチドのFドメイン中に存在しており、ならびに/またはドメイン内C-C結合を形成するために、L242CおよびK334Cは、一方または両方のポリペプチドのFc1またはFc2のいずれか中の同一のFドメイン中に位置している。
【0114】
本開示の抗原結合タンパク質は、合成であり得、組換えであり得、単離され得、操作され得、および/または精製され得る。
【0115】
「精製された」は、ポリペプチド(例えば、本発明の抗原結合タンパク質)またはヌクレオチド配列(例えば、本明細書で説明されている抗原結合タンパク質またはその機能的断片をコードするヌクレオチド配列)に言及する場合には、示されている分子が、同一タイプの他の生物学的高分子の実質的非存在下で存在していることを意味する。「精製された」という用語は、特に本明細書で使用される場合、同一タイプの生物学的高分子の少なくとも75重量%、85重量%、95重量%、または98重量%が存在していることを意味する。
【0116】
特定のポリペプチドをコードする精製された核酸分子は、主題のポリペプチドをコードしない他の核酸分子を実質的に含まない核酸分子を指しており、しかしながら、この分子は、組成の基本特性に悪影響を及ぼさないいくつかのさらなる塩基または部分を含み得る。
【0117】
「単離された」という用語は、天然状態から変化したかまたは取り出されたことを意味する。例えば、生きている動物中に天然に存在する核酸またはペプチドは、「単離され」てはいないが、天然状態の共存物質から部分的または完全に分離された同一の核酸またはペプチドは、「単離され」ている。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在し得るか、または例えば宿主細胞等の非天然環境中で存在し得る。単離された抗原結合タンパク質は、異なる抗原特異性を有する他の抗原結合タンパク質を実質的に含まない(例えば、PRAMEに特異的に結合する抗原結合タンパク質は、PRAME以外の抗原に特異的に結合する抗原結合タンパク質を実質的に含まない)。さらに、単離された抗原結合タンパク質は、他の細胞物質および/または化学物質を実質的に含まない場合がある。
【0118】
「組換え」分子とは、組換え手段により調製されているか、発現されているか、作製されているか、または単離されている分子のことである。組換え分子は、天然には存在していない。
【0119】
「遺伝子」という用語は、1種または複数種のタンパク質または酵素の全てまたは一部を構成するアミノ酸の特定の配列をコードするかまたはそれに対応するDNA配列を意味しており、例えばこの遺伝子が発現される条件を決定する制御DNA配列(例えば、プロモーター配列)を含んでもよいし、含まなくてもよい。構造遺伝子ではないいくつかの遺伝子は、DNAからRNAへと転写され得るが、アミノ酸配列へとは翻訳されない。他の遺伝子は、構造遺伝子のレギュレーターとして機能し得るか、またはDNA転写のレギュレーターとして機能し得る。特に、遺伝子という用語は、タンパク質をコードするゲノム配列(即ち、レギュレーター、プロモーター、イントロン、およびエクソンの配列を含む配列)を対象とし得る。
【0120】
「親和性」は、本発明に関連して、抗原結合タンパク質とその抗原(即ち、MHCタンパク質との複合体中の配列番号50に係るPRAME-004ペプチド)との間の平衡結合により定義される。親和性は、例えば、最大半量有効濃度(EC50)または並行解離定数(K)で表され得る。本発明に関連して、高親和性は、≦100nM、≦50nM、≦10nM、または≦5nMのKでの結合を指す。
【0121】
「K」は、抗原結合タンパク質とその抗原との間の平衡解離定数(koff/konの比)である。Kおよび親和性は、逆相関している。K値は、抗原結合タンパク質の濃度に関係しており、K値が低いほど、抗原結合タンパク質の親和性が高くなる。親和性(即ち、K値)は、本明細書の下記の「抗原結合タンパク質」セクションでより詳細に説明するように、表面プラズモン共鳴(SPR)または生体層干渉法(BLI)による会合速度および解離速度の測定等の様々な既知の方法により実験的に評価し得る。Kは、好ましくは、生体層干渉法(BLI)により測定される。より好ましくは、PRAME抗原ペプチドに対する抗原結合タンパク質のKは、BLIにより、20℃~35℃、好ましくは25℃~32℃、より好ましくは約30℃の温度、および6.5~8.0、好ましくは7.0~7.6のpHで決定される。さらにより好ましくは、PRAME抗原ペプチドに対する抗原結合タンパク質のKは、BLIにより、20℃~35℃、好ましくは25℃~32℃、より好ましくは約30℃の温度、6.5~8.0、好ましくは7.0~7.6のpH、および100~200mM、好ましくは120~175mM、より好ましくは約140mMの塩濃度で決定される。最も好ましくは、PRAME抗原ペプチドに対する抗原結合タンパク質のKは、BLIにより、PBS、0.05% Tween-20、および0.1% BSAを含むからまたはからなる緩衝液中において、30℃で決定される。そのような測定では、抗原結合タンパク質の濃度は、典型的には、測定される相互作用の親和性に応じて1.56~500nMである。2種の異なるペプチド(例えば、標的ペプチド、および潜在的なオフターゲットペプチド/類似ペプチド)に関する抗原結合タンパク質のKを比較する場合には、2種のペプチドが類似のHLA結合強度を有する場合にペプチド-HLAのローディング条件は両方の測定に関して同一であり、抗原結合タンパク質濃度の範囲は、予想される親和性を考慮して選択される。
【0122】
「EC50」とも呼ばれる「最大半量有効濃度」は、典型的には、特定の暴露時間後にベースラインと最大値との中間の反応を誘発する分子の濃度を指す。EC50および親和性は逆相関しており、EC50値が低いほど、分子の親和性は高くなる。一例では、「EC50」は、特定の暴露時間後にベースラインと最大値との中間の反応を誘発する本発明の抗原結合タンパク質の濃度を指しており、特に、特定の暴露時間後にベースラインと最大値との中間の反応を誘発する本発明の抗原結合タンパク質の濃度を指している。EC50値を、例えば、ELISAもしくはフローサイトメトリー等の結合アッセイ、またはIFN-ガンマ放出アッセイもしくは乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出アッセイ等の機能アッセイを使用して、様々な既知の方法により実験的に評価し得る。
【0123】
抗原結合タンパク質
本発明の抗原結合タンパク質は、多くの突然変異が導入されている足場配列から設計されている。本発明の抗原結合タンパク質は、治療用途に特に適したプロファイルを有する。一般に、そのような抗原結合タンパク質の特定は簡単ではなく、典型的には、高い脱落率(attrition rate)を有する。
【0124】
まず第一に、当業者は、適切な出発(即ち、足場)配列を特定する必要がある。本発明の場合には、これは、標的ペプチド-HLA複合体に対する良好な親和性(例えば、200μM以上)有しており;高レベルの標的特異性、例えば、代替ペプチド-HLA複合体に比較的弱く結合するか、または結合せず;高収量でリフォールディングされて精製され得るTCRである。TCR認識の縮退特性を前提として、特定の足場であるTCR配列が、このTCR配列が治療用途のための設計に適格となるであろう特異性プロファイルを有するかどうかを決定することは、当業者にとっても非常に困難である(Wooldridge, et al., J Biol Chem. 2012 Jan 6;287(2): 1 168-77)。
【0125】
特に重要な工程は、このTCRを、安定的に発現され得る可溶性フォーマットへと変換することである。天然に存在するTCRは、膜結合型であり、CD3との複合体でのみ発現される。一本鎖可変フラグメント(scFv)分子として日常的に発現される抗体以外に、対応する一本鎖T細胞受容体可変ドメイン(scTv)コンストラクトは、凝集およびミスフォールディングを起こしやすい(Richman, et al. Mol Immunol. 2009 Feb;46(5):902-16. doi: 10.1016/j.molimm.2008.09.021. Epub 2008 Oct 29)。この工程は、活性な生物学的物質の生成に必須であるが、下記で説明するさらなる操作工程にとっても欠かせないだろう。scTv変換、および安定的で可溶性の分子の生成のプロセスは、典型的には、scTvの発現および安定性を増加させるために、TCR出発配列への、フレームワーク領域および/またはCDRでの1つまたは複数の特定の突然変異(例えば、限定されないが、置換、挿入、および/または欠失)の設計を伴う。それぞれのTCRは、可変ドメインの組合せおよびCDR3の構成に応じて、突然変異のセットが異なる。溶解性および安定性の有意な増加をもたらす特定の突然変異および/または突然変異の組合せは、予測不可能であり、脱落率が高い。多くの場合では、所与のTCR出発配列では溶解性および安定性の有意な増加を達成することは不可能な場合がある。
【0126】
次の課題は、特異性および収量等の望ましい特性を保持しつつ標的抗原に対してより高い親和性を有するようにTCRを設計することである。TCRは、自然界に存在する場合には、抗体と比較して標的抗原に対する親和性が弱く(低マイクロモル範囲)、がん抗原に対するTCRは、典型的には、ウイルス特異的TCRと比べて抗原認識が弱い(Aleksic, et al. Eur J Immunol. 2012 Dec;42(12):3174-9)。この弱い親和性は、がん細胞でのHLA下方制御と相まって、がん免疫療法のための治療用TCRが、典型的には、標的抗原に対する親和性を増加させ、そのためより強力な反応を生じるための設計を必要とすることを意味する。そのような親和性の増加は、可溶性TCRベースの試薬には必須である。そのような場合には、ナノモルからピコモルの範囲の抗原結合親和性が、数時間の結合半減期と共に望ましい。親和性成熟プロセスは、典型的には、抗原認識の強度を増加させるために、出発TCR配列への、CDR中での特定の突然変異および/またはCDR中での突然変異の組合せ(例えば、限定されないが、置換、挿入、および/または欠失)の設計を含む。所与の標的に対する所与のTCRの親和性を有意に増加させるために、当業者は、可能な選択肢の大きなプールからCDR中での突然変異の組合せを設計しなければならない場合がある。親和性を有意に増加させる特定の突然変異および/または突然変異の組合せは、予測不可能であり、脱落率が高い。多くの場合では、所与のTCR出発配列では、親和性の有意な増加を達成することは不可能かもしれない。
【0127】
親和性成熟プロセスはまた、TCR抗原特異性を維持する必要性も考慮しなければならい。TCRのその標的抗原に対する親和性の増加により、TCR抗原認識の固有の縮退の結果として、意図されない他の標的との交差反応が明らかになるという相当なリスクが生じる(Wooldridge, et al., J Biol Chem. 2012 Jan 6;287(2): 1 168-77;Wilson, et al., Mol lmmunol.2004 Feb;40(14-15): 1047-55;Zhao ef al., J Immunol. 2007 Nov 1 ;179(9):5845-54)。自然レベルの親和性では、交差反応性抗原の認識が過剰に低くて反応が生じない場合がある。交差反応性抗原が正常な健康細胞上で示される場合には、臨床毒性として現れる場合があるインビボでのオフターゲット結合が起こる可能性が高い。そのため、抗原結合強度の増加に加えて、当業者はまた、TCRが標的抗原に対する高い特異性を保持し、そのため前臨床試験において良好な安全性プロファイルを示すことを可能にする、CDR中での突然変異および/またはCDR中での突然変異の組合せも設計しなければならない。この場合もやはり、適切な突然変異および/または突然変異の組合せは、予測不可能である。この段階の脱落率は、さらに高く、多くの場合では、所与のTCR出発配列から全く達成されないかもしれない。上述した困難にもかかわらず、本発明者らは、特に高い親和性(低ナノモル範囲)および高い抗原特異度を有するCDR由来のTCRを含む抗原結合タンパク質を特定している。
【0128】
出発点として、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2018/172533号パンフレットで開示されているTCR R11P3D3を使用して、本発明者らは、Fabフラグメントと結合していてもよい一本鎖TCR(scTCR)フォーマットおよびTCER(登録商標)フォーマットのR11P3D3の可変アルファドメインおよび可変ベータドメインの変異体を設計し、製造し、かつ試験している。このようにして、本発明者らは、本発明の抗原結合タンパク質のその標的(即ち、MHCタンパク質との複合体中のRAME-004ペプチド)への高親和性および高特異性での結合に関連する様々なCDR(特に、CDRa1、CDRa3、CDRb1、およびCDR3、ならびに適宜、CDRa2およびCDRb2)を特定した。
【0129】
本発明者らは、二重特異性TCER(登録商標)分子、一本鎖TCR(scRCR)、および二重特異性scTCR-Fab分子を設計した。全てのコンストラクトは、PRAME-004ペプチドを含むペプチド-MHC複合体に特異的に結合する。実施例で開示されている二重特異性コンストラクトは、抗体由来「リクルーター」を介して、エフェクター細胞(特に、T細胞)にさらに結合する。そのため、本発明者らは、CDRが一本鎖TCRコンストラクトおよび二重特性TCR-抗体分子に使用され得ることを実証しており、そのため、特定されたCDRを使用して、MHCタンパク質との複合体中のPRAME-004ペプチドに対する高い親和性および高い特異性を有する様々な抗原結合タンパク質を製造し得ることも実証した。
【0130】
従って、第1の態様では、本発明は、配列番号50のアミノ酸配列SLLQHLIGLを含むかまたはからなりかつ主要組織適合複合体(MHC)タンパク質との複合体で存在しているPRAME抗原ペプチドに特異的に結合する抗原結合タンパク質であって、
相補性決定領域(CDR)CDRa1、CDRa2、およびCDRa3を含む可変ドメインVであり、
- CDRa1は、VKEFQD(配列番号16)のアミノ酸配列、または1、2、もしくは3個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号16と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなり、
- CDRa3は、ALYNNLDMR(配列番号33)もしくはALYNNYDMR(配列番号34)のアミノ酸配列、または1、2、もしくは3個(好ましくは、1もしくは2個)のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号33もしくは配列番号34と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなる、
可変ドメインVと、
CDRb1、CDRb2、およびCDRb3を含む可変ドメインVであり、
- CDRb1は、SGHNS(配列番号10)のアミノ酸配列、または1、2、もしくは3個(好ましくは、1もしくは2個)のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号10と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなり、
- CDRb3は、ASSXGXDXQY(式中、Xは、P、A、もしくはTであり、好ましくは、Pであり、Xは、AもしくはSであり、好ましくは、Aであり、Xは、TもしくはIであり、Xは、T、K、もしくはAであり、好ましくは、KもしくはAであり、より好ましくは、Kである)(配列番号327)のアミノ酸配列、または1、2、もしくは3個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号327と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなる、
可変ドメインV
を含む抗原結合タンパク質に関する。
【0131】
抗原結合タンパク質の特異性は、アミノ酸配列CDRa1、CDRa3、CDRb1、およびCDRb3により決定され、CDRa2およびCDRb2のアミノ酸配列には依存しない。
【0132】
いくつかの実施形態では、CDRa2は、配列番号32のアミノ酸配列、または1、2、もしくは3個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号32と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなり、および/またはCDRb2は、配列番号36のアミノ酸配列、または1、2、3、4、5、もしくは6個(好ましくは、5個以下、より好ましくは、4個以下、さらにより好ましくは、3個以下)のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号36と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
【0133】
いくつかの実施形態では、抗原結合タンパク質は、上記で定義されているCDRa1、CDRb1、ならびに適宜、CDRa2、およびCDRb2を含み、CDRa3は、配列番号33のアミノ酸配列、または1、2、もしくは3個(好ましくは、1もしくは2個)のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号33と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなり、CDRb3は、ASSXGXDXQY(配列番号327)(式中、Xは、P、A、もしくはTであり、好ましくは、Pであり、Xは、AもしくはSであり、好ましくは、Aであり、Xは、TもしくはIであり、Xは、T、K、もしくはAであり、好ましくは、KもしくはAであり、より好ましくは、Kである)のアミノ酸配列、または1、2、もしくは3個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号327と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
【0134】
いくつかの実施形態では、抗原結合タンパク質は、上記で定義されているCDRa1、CDRb1、ならびに適宜、CDRa2、およびCDRb2を含み、CDRa3は、配列番号34のアミノ酸配列、または1、2、もしくは3個(好ましくは、1もしくは2個)のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号34と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなり、CDRb3は、ASSXGXDXQY(配列番号327)(式中、Xは、P、A、もしくはTであり、好ましくは、Pであり、Xは、AもしくはSであり、好ましくは、Aであり、Xは、TもしくはIであり、Xは、T、K、もしくはAであり、より好ましくは、KもしくはAであり、好ましくは、Kである)のアミノ酸配列、または1、2、もしくは3個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号327と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
【0135】
好ましい実施形態では、CDRb3は、ASSPGXDXQY(配列番号364)(式中、Xは、AもしくはSであり、好ましくは、Aであり、Xは、TもしくはIであり、Xは、T、K、もしくはAであり、好ましくは、KもしくはAであり、より好ましくは、Kである)のアミノ酸配列、または1、2、もしくは3個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号364と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
【0136】
好ましい実施形態では、CDRb3は、ASSPGXTDXQY(配列番号363)(式中、Xは、AもしくはSであり、好ましくは、Aであり、Xは、T、K、もしくはAであり、好ましくは、KもしくはAであり、より好ましくは、Kである)のアミノ酸配列、または1、2、もしくは3個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号363と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
【0137】
他の好ましい実施形態では、CDRb3は、ASSPGAXDXQY(配列番号365)(式中、Xは、TもしくはIであり、好ましくは、Iであり、Xは、KもしくはAであり、好ましくは、Kである)のアミノ酸配列、または1、2、もしくは3個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号365と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
【0138】
いくつかの実施形態では、抗原結合タンパク質は、上記で定義されているCDRa1、CDRb1、ならびに適宜、CDRa2、およびCDRb2を含み、CDRa3は、配列番号33のアミノ酸配列、または1、2、もしくは3個(好ましくは、1もしくは2個)のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号33と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなり、CDRb3は、配列番号48のアミノ酸配列、または1、2、3、もしくは4個(好ましくは、1、2、もしくは3個、より好ましくは、1もしくは2個)のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号48と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
【0139】
いくつかの実施形態では、抗原結合タンパク質は、上記で定義されているCDRa1、CDRb1、ならびに適宜、CDRa2およびCDRb2を含み、CDRa3は、配列番号33のアミノ酸配列、または1、2、もしくは3個(好ましくは、1もしくは2個)のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号33と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなり、CDRb3は、配列番号48、もしくは配列番号283、もしくは配列番号281、もしくは配列番号297のアミノ酸配列、または1、2、もしくは3個(好ましくは、1もしくは2個)のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号48、配列番号297、配列番号281、もしくは配列番号283と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
【0140】
好ましい実施形態では、CDRa1、CDRa3、CDRb1、CDRb3、ならびに適宜、CDRa2およびCDRb2は、それぞれ、2個以下(好ましくは1個以下)のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により、配列番号16、配列番号33または34、配列番号10、配列番号327、配列番号32、および配列番号36と異なる。好ましい実施形態では、CDR中のアミノ酸置換は、保存的置換である。
【0141】
可変ドメインVおよび可変ドメインVは、共に、MHCタンパク質と複合体化されたPRAME-004抗原ペプチドに結合する抗原結合部位を形成する。以下、この抗原結合部位をまた、「第1の抗原結合部位」と称する場合もある。
【0142】
CDRa1、CDRa2、およびCDRa3は、TCR α鎖可変ドメインに由来しており、CDRb1、CDRb2、およびCDRb3は、TCR β鎖可変ドメインに由来している。
【0143】
CDRに加えて、VおよびVは、フレームワーク領域(FR)を含む。FR配列は、TCR由来であってもよく、即ち、TCR α鎖、β鎖、γ鎖、またはδ鎖の可変ドメインに由来してもよいし、抗体可変ドメインに由来してもよい。一例では、Vは、抗体軽鎖可変ドメインのFR配列を含み、そのため、(FR1-L)-(CDRa1)-(FR2-L)-(CDRa2)-(FR3-L)-(CDRa3)-(FR4-L)と説明され得、Vは、抗体重鎖可変ドメインのFR配列を含み、そのため、(FR1-H)-(CDRb1)-(FR2-H)-(CDRb2)-(FR3-H)-(CDRb3)-(FR4-H)と説明され得る。Vは、αまたはγ(好ましくはα)鎖可変ドメインのFR配列を含み、そのため、(FR1-a)-(CDRa1)-(FR2-a)-(CDRa2)-(FR3-a)-(CDRa3)-(FR4-a)と説明され得、Vは、βまたはδ(好ましくはβ)鎖可変ドメインのFR配列を含み、そのため、(FR1-b)-(CDRb1)-(FR2-b)-(CDRb2)-(FR3-b)-(CDRb3)-(FR4-b)と説明され得ることが好ましい。Vドメイン全体がTCR α鎖に由来している場合には、Vはまた、Vαとも称され得る。Vドメイン全体がTCR β鎖に由来している場合には、Vはまた、Vβとも称され得る。
【0144】
いくつかの実施形態では、
- IMGTに従うCDRa1の27位は、Vであるか、またはL、I、M、F、A、T、N、Q、H、E、D、およびSから選択される(特に、T、N、S、およびIから選択される)アミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRa1の28位は、Kであるか、またはR、Q、H、N、A、V、S、G、L、I、およびTから選択される(特に、R、A、およびSから選択される)アミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRa1の38位は、Dであるか、またはE、N、Q、H、K、およびR(特にN)から選択されるアミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRa2の64位は、Kであるか、またはR、Q、H、N、T、V、A、L、I、M、およびFから選択される(特に、R、T、およびVから選択される)アミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRa3の114位は、LもしくはYであるか、またはM、W、H、Q、A、I、K、R、V、D、E、F、およびNから選択される(特に、H、Q、A、I、K、R、V、D、E、F、およびNから選択され、より特に、H、Q、A、およびIから選択される)アミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRb2の56位は、Fであるか、またはY、M、L、W、H、V、I、およびAから選択される(特に、Y、M、およびLから選択される)アミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRb2の57位は、Qであるか、またはN、R、D、E、Q、H、K、およびK(特にN)から選択されるアミノ酸により置換されており、但し、63位のアミノ酸がTまたはSである場合には、57位のアミノ酸は、Nではなく、
- IMGTに従うCDRb2の58位は、Nであるか、またはQ、H、D、K、R、S、およびT(特にS)から選択されるアミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRb2の63位は、Tであるか、またはS、V、A、D、Q、およびEから選択される(特に、SおよびEから選択される)アミノ酸により置換されており、但し、57位のアミノ酸がNである場合には、63位でのアミノ酸は、TでもSでもなく、
- IMGTに従うCDRb2の64位は、Aであるか、またはV、L、I、S、G、およびT(特にT)から選択されるアミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRb2の65位は、Vであるか、またはL、I、M、A、T、F、およびSから選択される(特に、I、L、およびTから選択される)アミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRb3の108位は、P、A、もしくはTであるか、またはV、L、I、S、G、R、K、N、およびQから選択される(特に、RおよびSから選択される)アミノ酸により置換されており、但し、110位のアミノ酸がTまたはSである場合には、108位のアミノ酸は、Nではなく、
- IMGTに従うCDRb3の110位は、AもしくはSであるか、またはV、L、I、G、T、およびC(特にT)から選択されるアミノ酸により置換されており、但し、108位のアミノ酸がNである場合には、110位のアミノ酸は、TでもSでもなく、
- IMGTに従うCDRb3の113位は、TもしくはIであるか、またはV、L、I、G、およびTから選択されるアミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRb3の115位は、T、K、もしくはAであるか、またはG、L、I、V、R、Q、N、Y、H、E、およびFから選択される(特に、L、I、V、R、Q、N、Y、H、E、およびFから選択され、より特に、L、I、V、およびRから選択される)アミノ酸により置換されている。
【0145】
いくつかの実施形態では、
- CDRa1は、アミノ酸配列XEFQX(配列番号334)を含むか、またはからなり、式中、Xは、V、T、N、I、またはSであり、好ましくは、V、T、またはNであり、最も好ましくは、Vであり、Xは、K、R、S、またはAであり、より好ましくは、KまたはRであり、最も好ましくは、Kであり、Xは、DまたはNであり、好ましくは、Dであり、
- CDRa2は、アミノ酸配列FGPYGXE(配列番号335)を含むか、またはからなり、式中、Xは、K、R、T、またはVであり、好ましくは、KまたはRであり、最も好ましくは、Kであり、
- CDRa3は、アミノ酸配列ALYNNXDMR(配列番号336)を含むか、またはからなり、式中、Xは、L、Y、H、Q、A、I、K、R、V、D、E、F、またはNであり、好ましくは、L、Y、H、Q、A、I、K、またはRであり、より好ましくは、L、Y、H、Q、またはAであり、最も好ましくは、LまたはYであり、
- CDRb1は、好ましくは、アミノ酸配列配列番号10を含むか、またはからなり、
- CDRb2は、アミノ酸配列Xを含むか、またはからなり、式中、Xは、F、Y、M、またはLであり、好ましくは、FまたはYであり、最も好ましくは、Fであり、Xは、QまたはNであり、好ましくは、Qであり(XがNである場合には、Xもまた、Nである)、Xは、NまたはSであり、好ましくは、Nであり、Xは、T、S、またはEであり、好ましくは、TまたはSであり、最も好ましくは、Tであり(XがSである場合には、Xは、Qである)、Xは、AまたはTであり、好ましくは、Aであり、Xは、V、I、L、またはTであり、好ましくは、VまたはIであり、最も好ましくは、V(配列番号337)であり、より好ましくは、CDRb2は、アミノ酸配列XQXTX(配列番号359)を含むか、またはからなり、式中、Xは、F、Y、M、またはLであり、好ましくは、FまたはYであり、最も好ましくは、Fであり、Xは、NまたはSであり、好ましくは、Nであり、Xは、AまたはTであり、好ましくは、Aであり、Xは、V、I、L、またはTであり、好ましくは、VまたはIであり、最も好ましくは、Vであり、
- CDRb3は、アミノ酸配列ASSXGXDXQY(配列番号338)を含むか、またはからなり、式中、Xは、P、R、A、T、またはSであり、好ましくは、P、T、またはAであり、最も好ましくは、Pであり、Xは、AまたはSであり、好ましくは、Aであり、Xは、TまたはIであり、好ましくは、Tであり、Xは、K、A、L、I、V、R、Q、N、Y、T、H、E、またはFであり、好ましくは、K、A、L、I、V、R、Q、N、またはYであり、より好ましくは、K、A、L、I、V、またはRであり、最も好ましくは、KまたはAである。
【0146】
いくつかの実施形態では、
- CDRa1は、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、および配列番号28からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、もしくはからなり、
- CDRa2は、配列番号32、配列番号30、配列番号31、および配列番号29の配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、もしくはからなり、
- CDRa3は、配列番号33、配列番号34、配列番号227、配列番号233、配列番号219、配列番号229、配列番号231、配列番号235、配列番号237、配列番号221、配列番号223、配列番号225、および配列番号9からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、もしくはからなり、
- CDRb1は、配列番号10のアミノ酸配列を含むか、もしくはからなり、
- CDRb2は、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、および配列番号35からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、もしくはからなり、ならびに/または
- CDRb3は、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号239、配列番号241、配列番号243、配列番号245、配列番号247、配列番号249、配列番号251、配列番号253、配列番号255、配列番号257、配列番号259、配列番号261、配列番号263、配列番号265、配列番号267、配列番号273、配列番号275、配列番号277、配列番号279、配列番号281、配列番号283、配列番号292、配列番号293、配列番号294、配列番号297、配列番号298、配列番号301、配列番号302および配列番号271、および配列番号269からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、もしくはからなる。
【0147】
好ましくは、抗原結合タンパク質は、配列番号16のCDRa1、配列番号34のCDRa3、配列番号10のCDRb1、配列番号48または292のCDRb3、ならびに適宜、配列番号32のCDRa2、および配列番号36のCDRb2を含む。
【0148】
好ましい例では、抗原結合タンパク質は、配列番号16のCDRa1、配列番号34のCDRa3、配列番号10のCDRb1、配列番号48のCDRb3、ならびに適宜、配列番号32のCDRa2、および配列番号36のCDRb2を含む。そのため、抗原結合タンパク質は、配列番号16のCDRa1、配列番号34のCDRa3、配列番号10のCDRb1、配列番号48のCDRb3、配列番号32のCDRa2、および配列番号36のCDRb2を含み得る。
【0149】
別の好ましい例では、抗原結合タンパク質は、配列番号16のCDRa1、配列番号34のCDRa3、配列番号10のCDRb1、および配列番号292のCDRb3、ならびに適宜、配列番号32のCDRa2、および配列番号36のCDRb2を含む。そのため、抗原結合タンパク質は、配列番号16のCDRa1、配列番号34のCDRa3、配列番号10のCDRb1、配列番号292のCDRb3、配列番号32のCDRa2、および配列番号36のCDRb2を含み得る。
【0150】
抗原結合タンパク質が、改変されることなく、配列番号16のCDRa1、配列番号33、配列番号34、または配列番号9のCDRa3、配列番号10のCDRb1、配列番号48、配列番号49、配列番号47、配列番号281、配列番号292、配列番号294、配列番号297、配列番号298、配列番号301、または配列番号283のCDRb3、および適宜、配列番号32のCDRa2、および配列番号36のCDRb2を含むことが好ましい。
【0151】
いくつかの実施形態では、PRAME抗原ペプチドは、配列番号50からなる。
【0152】
いくつかの実施形態では、抗原結合タンパク質は、MHCタンパク質との複合体の配列番号50のアミノ酸配列に特異的に結合する。
【0153】
いくつかの実施形態では、MHCタンパク質は、MHCクラスI HLAタンパク質(例えば、HLA-A、HLA-B、またはHLA-C)であり、好ましくはHLA-Aであり、より好ましくはHLA-A*02である。
【0154】
好ましい実施形態では、抗原結合タンパク質は、配列番号50のPRAME-004抗原ペプチドの構造エピトープに特異的に結合する。より好ましい実施形態では、抗原結合タンパク質は、配列番号50のPRAME-004抗原ペプチドの機能エピトープに特異的に結合する。
【0155】
本発明者らは、本発明の抗原結合タンパク質による結合に関連するPRAME-004の残基を特定するために、実験を実施した(図5、表4、10、12、16)。結果として、本発明者らは、配列番号50のアミノ酸3、5、6、7、および8位が結合に関連することを特定し得た。3位のアミノ酸は、本発明の抗原結合タンパク質により強く認識される。5位のアミノ酸も、強く認識される。最も強く認識されるのは、7位のアミノ酸である。6および8位のアミノ酸は、寄与が小さい。配列番号50の3、5、および7位、ならびに適宜、6および8位はまた、本明細書では、PRAME-004の「結合モチーフ」とも称される。正確なエピトープまたは機能エピトープの決定が、使用される方法および選択されるカットオフ値に応じてわずかに異なる可能性があることを、当業者は認識している。
【0156】
いくつかの実施形態では、抗原結合タンパク質は、配列番号50の3、5、6、7、および8位、特に3、5、および7位からなる群から選択される3、4、または5箇所のアミノ酸位を含むかまたはからなる機能エピトープに特異的に結合する。いくつかの実施形態では、抗原結合タンパク質は、配列番号50のアミノ酸3、5、および7位を含む機能エピトープに特異的に結合する。いくつかの実施形態では、抗原結合タンパク質は、配列番号50のアミノ酸3、5、および7位、または3、5、6、および7位、または3、5、7、および8位、または3、5、6、7、および8位(好ましくは、配列番号50のアミノ酸1および4位ではない)からなる機能エピトープに特異的に結合する。換言すると、抗原結合タンパク質は、好ましくは、MHCタンパク質(特に、HLAタンパク質、より特に、HLA-A、さらにより特に、HLA-A*02)との複合体の配列番号50のアミノ酸3、5、および7位、ならびに適宜、6および/または8位(好ましくは、1または4位ではない)に特異的に結合する。一実施形態では、本開示の抗原結合タンパク質は、配列番号50の3、5、6、7、および8位からなる群から選択される少なくとも3箇所のアミン酸位を含む機能エピトープに特異的に結合し、但し、この抗原結合タンパク質は、配列番号50のアミノ酸1および4位には結合しない。一実施形態では、抗原結合タンパク質は、配列番号50の1、3、4、5、6、7、および8位からなる群から選択される少なくとも6または7箇所のアミノ酸位を含むかまたはからなる機能エピトープに特異的に結合する。
【0157】
少なくとも1箇所の位置が置換されている配列番号50に係るアミノ酸配列は、本明細書の文脈では、「PRAME変異体配列」と称される。特に、1箇所の位置は、アラニンに置換されている(配列番号318~324)。PRAME変異体配列を有するペプチドはまた、本明細書では、PRAME変異体ペプチドとも称される。一実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、低い親和性で、特に、配列番号50のPRAME抗原ペプチドへの結合に関するKと比較して≧2、≧5、≧10、≧20、または≧30倍高いKで、MHCタンパク質との複合体中の、1、3、4、5、6、7、および8位の内の少なくとも1つ、特に、3、5、6、7、および8位の内の1つ、より特に、3、5、および7位の内の1つがアラニンに置換されているPRAME変異体ペプチドに結合する。好ましくは、このKは、上記の定義セクションで規定された通りに決定される。
【0158】
本発明の抗原結合タンパク質で使用され、特に、二重特異性抗原結合タンパク質で使用され、より特に、TCER(登録商標)フォーマットで使用される場合には、本発明者らにより同定されたCDRアミノ酸配列は、特に参照タンパク質と比較して、抗原結合タンパク質の結合親和性、安定性、および特異性が増加する。
【0159】
「参照タンパク質」は、本明細書では、本発明の抗原結合タンパク質が比較されるタンパク質を指す。本発明の抗原結合タンパク質と参照タンパク質との比較は、好ましくは並行して、同様の(好ましくは同一の)実験条件下で行なわれる。そのような参照タンパク質は、国際公開第2018/172533号パンフレットで開示されている親/野生型TCR R11P3D3のCDRを含む抗原結合タンパク質であり得る。参照タンパク質は、好ましくは、比較される抗原結合タンパク質と同じフォーマットである。抗原結合タンパク質がscTCRである場合には、好適な参照タンパク質は、安定化突然変異を含むTCR R11P3D3の可変ドメインを含むscTCR R11P3D3SD(配列番号6)である。例えば、参照タンパク質は、TCR R11P3D3のCDRを含む、本明細書で説明されているTCER(登録商標)であり得る。あるいは、参照タンパク質は、「CDR6」のCDRを含む抗原結合タンパク質[例えばTCDR(登録商標)]である。「CDR6」のCDRは、アミノ酸配列DRGSQS(配列番号339)のCDRa1、アミノ酸配列IYSNGD(配列番号340)のCDRa2、アミノ酸配列AAVIDNDQGGILT(配列番号341)のCDRa3、アミノ酸配列PGHRA(配列番号342)のCDRb1、アミノ酸配列YVHGEE(配列番号343)のCDRb2、およびアミノ酸配列ASSPWDSPNVQY(配列番号344)のCDRb3である。参照タンパク質は、配列番号153を含むかまたはからなる第1のポリペプチド鎖と、配列番号154を含むかまたはからなる第2のポリペプチド鎖とを含むCDR6 TCER(登録商標)(TPP-1109)であり得る。TPP-1109は、配列番号108および109に対応するUCHT1(V17)リクルーターを含む。さらに、参照タンパク質は、配列番号357を含むかまたはからなるポリペプチド鎖を有するCDR6 scTCRであり得る。本発明者らは、実施例において、CDR6のCDRを含む抗原結合タンパク質[特にTCER(登録商標)TPP-1109]が、PRAME-004抗原ペプチドの5、6、7、および8位のアミノ酸に結合するが、2および3位のアミノ酸には結合しないことを示す(表16)。そのため、CDR6のCDRを含む抗原結合タンパク質は、PRAME-004抗原ペプチドのアミノ酸3には結合せず、このアミノ酸3は、対照的に、本発明の抗原結合タンパク質による強い結合/認識を受ける。
【0160】
親和性
本発明の抗原結合タンパク質は、PRAME-004:MHC複合体に対する親和性を高めるように選択されたCDR配列を含む(図2、表3)。実施例(表4、8、10、12、15、および16)から分かるように、本発明の抗原結合タンパク質は、高い親和性(特に、≦50nM、≦10nM、≦5nM、または≦3nMのK)でPRAME-004:MHC複合体に結合する。
【0161】
従って、一実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、親和性が増加しており、特に、参照タンパク質と比較して親和性が増加している。
【0162】
一実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、≦100nM、≦50nM、≦10nM、好ましくは≦5nM、より好ましくは≦3nM、例えば10pM~100nM、10pM~50nM、10pM~10nM、10pM~5nM、10pM~3nMのKで、配列番号50のアミノ酸配列およびHLA分子(好ましくはHLA-A*02)を含むかまたはからなるPRAMEペプチドの複合体に結合する。
【0163】
一例では、本発明の抗原結合タンパク質は、scTCR-Fabであり、かつ≦100nM、≦50nM、≦40nM、≦30nM、≦20nM、≦15nM、好ましくは≦15nM、例えば10pM~100nM、10pM~50nM、10pM~20nM、5nM~20nMのKで、配列番号50のアミノ酸配列およびHLA分子(好ましくはHLA-A*02)を含むかまたはからなるPRAMEペプチドの複合体に結合する。
【0164】
さらなる一例では、本発明の抗原結合タンパク質は、TCERであり、かつ≦100nM、≦50nM、≦10nM、好ましくは≦5nM、より好ましくは≦3nM、例えば10pM~100nM、10pM~50nM、10pM~10nM、10pM~5nM、10pM~3nMのKで、配列番号50のアミノ酸配列およびHLA分子(好ましくはHLA-A*02)を含むかまたはからなるPRAMEペプチドの複合体に結合する。
【0165】
等の親和性を測定する方法は、当業者に既知であり、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)および生体層干渉法が挙げられる。Kを決定する例示的な方法はまた、実施例セクションでも説明されている。当業者に既知であるように、これら実験に使用される実験条件(例えば、使用される緩衝液、タンパク質の濃度)は、結果に強い影響を及ぼす可能性がある。
【0166】
従って、一例では、本発明の抗原結合タンパク質は、例えばTCER(登録商標)として発現され、HLA-A*02:PRAME-004単量体に対する結合親和性に関して分析される。典型的には、測定を、例えば、典型的には製造業者により推奨される設定を使用するOctet RED384システムで実施する。簡潔に説明すると、結合反応速度を、典型的には、30℃で、かつ例えば、緩衝液としてPBS、0.05% Tween-20、0.1% BSAを使用して1000rpmの浸透速度で、測定した。ペプチド-HLA複合体(特に、HLA-A*02/PRAME-004複合体)を、TCER(登録商標)の連続希釈液を分析する前に、HIS1K等のバイオセンサー上にロードした。
【0167】
本明細書で開示されているように、本発明の抗原結合タンパク質は、配列番号50のアミノ酸配列を含むかまたはからなるPRAME抗原ペプチドと、HLA分子(好ましくはHLA-A*02)との複合体に、特異的に結合する。この抗原結合タンパク質が、T細胞上で発現されるTCRの場合には、この抗原結合タンパク質の前記複合体への結合により、結合時に免疫反応が誘発され得る。従って、一実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、免疫反応を誘導し、好ましくは、この免疫反応は、インターフェロンガンマ(IFNγ)レベルの増加を特徴とする。
【0168】
収量
本発明者らは、本抗原結合タンパク質が高い最終生成物収量を有しており、特に、≧1mg/l、≧1.5mg/l、≧2mg/l、≧5mg/l、≧10mg/l、≧15mg/l、≧20mg/l、≧30mg/l、≧40mg/l、≧50mg/l、≧60mg/lの収量を有していることを、実施例で実証している(表5、6、7、9、11、および14)。
【0169】
本発明者らは、本抗原結合タンパク質が、高い最終生成物収量を有しており、特に、参照タンパク質と比較して増加している収量を有しており、より特に、同一条件下で発現された「CDR6」のCDRを含む抗原結合タンパク質と比較して増加した収量を有していることを、実施例で実証している(表5、6、7、9、11、および14)。
【0170】
一例では、本抗原結合タンパク質は、scTCR-Fab(実施例2で説明されている)であり、かつ≧8mg/l、≧10mg/l、≧15mg/l、≧20mg/l、≧30mg/l、≧40mg/l、≧50mg/l、≧60mg/l、≧70mg/l、例えば、8mg/l~85mg/l、10mg/l~85mg/l、14mg/l~85mg/l、50mg/l~85mg/lの生成物収量を有している。
【0171】
別では、本抗原結合タンパク質は、Recruiter UCHT1V17のVLおよびVHを含むTCERであり、かつ≧10mg/l、≧12mg/l、≧15mg/l、≧16mg/l、≧17mg/l、≧18mg/l、好ましくは≧15mg/l、例えば10mg/l~30mg/l、15mg/l~25mg/l、15mg/l~30mg/l、好ましくは15mg/l~30mg/lの生成物収量を有する。
【0172】
最終生成物収量は、典型的には、トランスフェクション後10~11日で決定される。生成物収量を測定する方法は、当業者に既知である。例示的な手順は、実施例セクションで説明されている。
【0173】
従って、一実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、同一条件下で発現された場合に、特に参照タンパク質と比較して、収量が改善されている。
【0174】
安定性
本発明者らは、本抗原結合タンパク質が高い安定性を有することを、実施例で実証している(表5、6、7、9、11、および14)。
【0175】
本発明に関連する「安定性」という用語は、物理的安定性を指しており、かつ当該技術分野で説明されており、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery, 247-301, Vincent Lee Ed., Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., Pubs. (1991)およびJones, A. Adv. Drug Delivery Rev. 10: 29-90 (1993)で概説されている様々な分析技術を使用して、定性的におよび/または定量的に評価し得る。安定性を測定するために、本発明の抗原結合タンパク質を含むサンプルを、安定性試験で試験し得、この試験では、サンプルを、ストレス条件に、選択された期間にわたり暴露し、続いて、適切な分析技術を使用して、化学的安定性および物理的安定性の定量的分析および適宜定性的分析を行なう。本発明に関連して、この方法は、特に、濁度を測定することによる[例えば、動的光散乱(DLS)もしくは光遮蔽(LO)]、および/または目視検査による(例えば、色および透明度の決定による)、凝集体形成の評価[例えば、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用する]を指す。サンプルは、下記で定義するようにわずかな凝集だけがある場合に、安定とみなされる。
【0176】
本発明に関連して、安定性の改善は、例えば、熱ストレスに暴露された場合での物理的安定性の増加を指す。そのため、新たに開発された本発明の抗原結合タンパク質は、参照タンパク質と比べて、ストレス条件(特に、熱ストレス)によく耐え得る。
【0177】
「低凝集」は、例えば、本抗原結合タンパク質を含むサンプルは、典型的には、PBS等の緩衝液中でSEC-HPLC等のSECにより測定した場合に、ストレス条件(例えば、PBS等の緩衝液中での14日にわたる40℃の温度)に暴露された後に、≧80%、≧85%、≧90%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%の単量体含有量(例えば、94%~99%、95%~99%、96%~99%、97%~99%の単量体含有量)を有していることを意味する。SECの場合、単量体含有量の1%、2%、3%、4%、好ましくは1または2%、より好ましくは1%の差違は、使用されるカラム、操作圧力、および緩衝液の速度に依存する試験条件下で、本発明に関連して有意な差違とみなされる。換言すると、参照抗原結合タンパク質が、96%の単量体含有量を有しており、かつ本発明の抗原結合タンパク質が、97%の単量体含有量を有している場合には、本発明の抗原結合タンパク質の単量体含有量は、同一条件下で測定された場合に、参照抗原結合タンパク質と比較して有意に異なっており、そのため有意に増加している。
【0178】
本発明者らは、本抗原結合タンパク質が安定であり、特に、PBS等の緩衝液中における40℃での14日間後に、≧80%、≧85%、≧90%、≧92%、≧94%、≧95%、≧97%の単量体含有量を有することを実証している(表5、6、7、9、11、および14)。
【0179】
一実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、ある特定の期間にわたりストレス条件に暴露された場合(例えば、40℃の温度に14日間暴露された場合)に、特に参照タンパク質と比較して、安定であるか、または安定性が改善されている。
【0180】
一実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、ある特定の期間にわたりストレス条件に暴露された場合(例えば、40℃の温度に14日間暴露された場合)に、特に参照タンパク質と比較して、凝集を示さないかもしくはわずかしか示さず、または凝集の減少を示す。
【0181】
特異性
本発明者らは、実施例(図3~6、表3、4、8、13、15)において、本発明の抗原結合タンパク質が、標的抗原、即ち、MHCタンパク質との複合体(好ましくは、HLA-A*02との複合体)中における配列番号50を含むPRAME抗原ペプチドに、高い特異性で結合することを実証している。
【0182】
上記で説明したように、本発明者らは、PRAME-004抗原ペプチド(即ち、PRAME-004抗原ペプチドの「結合モチーフ」)への本発明の抗原結合タンパク質の結合に関連する配列番号50のアミノ酸3、5、6、7、および8位、特に3、5、および7位を同定した。本発明者らは、例えば、PRAME-004の配列および/またはモチーフに類似しており、そのため、PRAME-004に抗原結合タンパク質が結合するリスクが増加する、潜在的なオフターゲットペプチドを同定した。
【0183】
本発明に関連して、「類似ペプチド」は、本明細書では、潜在的なオフターゲットペプチドを指しており、即ち、生化学的/生物物理学的特性に基づいて本発明の抗原結合分子が結合する可能性があり得るペプチド(例えば、限定されないが、相同配列または類似モチーフ)を指す。類似ペプチドは、典型的には、8~11個のアミノ酸の長さである。本発明に関連する類似ペプチドは、典型的には、MHCにより提示されている。さらに、本発明に関連する類似ペプチドとして、PRAME-004抗原ペプチドのアミノ酸配列に類似するアミノ酸配列を含むかまたはからなるペプチドが挙げられ、より特に、PRAME-004抗原ペプチドのエピトープと比較して、一部または全てのアミノ酸が、PRAME-004ペプチドのエピトープを構成するアミノ酸と同一および/または類似の生化学的/生物物理学的特性を有するエピトープを含むペプチドが挙げられる。いくつかの実施例では、本発明に関連して調査する類似ペプチドを、PRAME-004の結合関連位置内での類似性スコアリング、および正常組織での少なくとも1つの検出の要件を使用して、腫瘍および正常組織により提示されたHLA-A*02結合ペプチドのデータベース(XPRESIDENT(登録商標)データベース)から選択した。MHCタンパク質により提示される類似ペプチドへの抗原結合タンパク質の結合は、有害反応を引き起こす場合がある。そのような有害反応は、Lowdell et al., Cytotherapy, published on December 4, 2018で報告されている特定のTCRと健康組織中の類似ペプチドとの交差反応性等の「オフ腫瘍(off-tumor)」副作用の場合がある。
【0184】
特に、下記のペプチドは、本発明に関連する類似ペプチドである:TMED9-001(配列番号51)、CAT-001(配列番号52)、DDX60L-001(配列番号53)、LRRC70-001(配列番号54)、PTPLB-001(配列番号55)、HDAC5-001(配列番号56)、VPS13B-002(配列番号57)、ZNF318-001(配列番号58)、CCDC51-001(配列番号59)、IFT17-003(配列番号60)、DIAPH1-004(配列番号62)、FADS2-001(配列番号63)、FRYL-003(配列番号64)、GIMAP8-001(配列番号65)、HSF1-001(配列番号66)、KNT-001(配列番号67)、MAU-001(配列番号68)、MCM4-001(配列番号69)、MPPE1-001(配列番号71)、MYO1B-002(配列番号72)、PRR12-001(配列番号73)、PTRF-003(配列番号74)、RASGRP1-001(配列番号75)、SMARCD1-001(配列番号76)、TGM2-001(配列番号77)、VAV1-001(配列番号78)、VIM-009(配列番号317) FARSA-001(配列番号306)、ALOX15B-003(配列番号304)、FAM114A2-002(配列番号305)、GPR56-002(配列番号307)、IGHD-002(配列番号308)、NOMAP-3-0972(配列番号309)、NOMAP-3-1265(配列番号310)、NOMAP-3-1408(配列番号311)、NOMAP-3-1587(配列番号312)、NOMAP-3-1768(配列番号313)、NOMAP-5-0765(配列番号314)、PDCD10-004(配列番号315)、TSN-001(配列番号316)、ARMC9-002(配列番号187)、CLI-001(配列番号188)、COPG1-001(配列番号190)、COPS7A-001(配列番号192)、EIF-009(配列番号194)、EXT2-006(配列番号196)、LMNA-001(配列番号198)、PKM-005(配列番号200)、PSMB3-002(配列番号202)、RPL-007(配列番号204)、SPATS2L-003(配列番号206)、SYNE1-002(配列番号208)、TGM2-002(配列番号210)およびTPR-004(配列番号212)。
【0185】
「特異性」という用語は、一般に、抗原結合タンパク質の、上記で定義された類似ペプチドから標的ペプチドを識別する能力を示す。換言すると、抗原結合タンパク質は、PRAME-004:MHC複合体に、高い親和性で結合し、特に、100nM未満、50nM未満、10nM未満、好ましくは5nM未満のKで結合するが、類似ペプチド:MHC複合体には有意に結合しない。
【0186】
当業者は、類似ペプチドの中には、検出可能な程度まで本発明の抗原結合タンパク質が結合しないもの(例えば、バックグラウンドレベルを超える結合シグナルまたは機能的反応が検出不能であるペプチド)が存在するであろうことを認識しており、「バックグラウンドレベル」は、非相同の「非類似」ペプチドの場合に観察されるかまたはペプチドの非存在下で観察される結合シグナルまたは機能的反応を指す。
【0187】
他の類似ペプチドの場合には、非常に低いが有意ではない結合が検出可能である。この後者の類似ペプチドはまた、「潜在的に関連する」類似ペプチドとも説明され得る。「有意ではない結合」、「有意に結合しない」という表現は、抗原結合タンパク質が、
1)PRAME-004ペプチド:MHC複合体への結合に関するKと比較して、≧25、≧30、≧40、≧50、≧75、もしくは≧100倍増加したKで結合する(例えば、類似ペプチド:MHC複合体に結合する)こと;
2)PRAME-004ペプチド:MHC複合体に対する機能的反応と比較して有意に低下した「機能的反応」(例えば、類似ペプチド:MHC複合体に対する機能的反応)を示すこと;または
3)PRAME-004ペプチド:MHC多量体による検出と比較して、標識された類似ペプチド:MHC多量体による有意に減少した検出を示すこと
を示す。
【0188】
親和性(特に、K)を、好ましくは、実施例セクションで説明する生体層干渉法(BLI)を使用して測定する。PRAME-004ペプチド:MHC複合体への結合に関するKと比較した類似ペプチド:MHC複合体への結合に関するKの増加をまた、2つのKの比としても表し得る。例えば、類似ペプチド:MHC複合体への結合に関するKが、PRAME-004ペプチド:MHC複合体への結合に関するKと比較して100倍増加している場合には、K比「類似ペプチド/PRAME-004」は、100である。当業者は、類似ペプチド:MHC複合体に対する親和性は、結合が弱すぎる場合に測定できない場合があることを認識している。
【0189】
「機能的反応」は、機能的アッセイ(例えば、IFN-ガンマ放出アッセイ等の活性化アッセイ)または本明細書の下記の実験セクションで説明されているLDH放出アッセイ等の細胞傷害性アッセイで測定される反応を指す。IFN-ガンマ放出アッセイは、特定のペプチド:MHC複合体に暴露されたT細胞により放出されたIFN-ガンマを測定する。LDH放出アッセイは、ペプチド:MHC複合体を表面上で発現する標的細胞から放出され、このペプチド:MHC複合体に特異的に結合するT細胞により殺滅されるLDHを測定する。この結合は、T細胞上で発現されるTCRを介して直接的であってもよいし、ペプチド:MHC複合体に結合しかつT細胞にも結合する(即ち、T細胞をリクルートする)可溶性二重特異性分子を介して間接的であってもよい。PRAME-004ペプチド:MHC複合体への結合に関するEC50と比較して、EC50が≧25、≧30、≧40、≧50、≧75、または≧100倍増加しており、好ましくは、≧200、≧300、≧500、または≧1000倍増加している場合には、IFN-ガンマ放出アッセイでの機能的反応は、有意に低下したとみなされる。PRAME-004ペプチド:MHC複合体への結合に関するEC50と比較して、EC50が≧25、≧30、≧40、≧50、≧75、または≧100倍増加しており、好ましくは、≧200、≧300、≧500、または≧1000倍増加している場合には、LDH放出アッセイでの機能的反応は、有意に低下したとみなされる。
【0190】
標識された類似ペプチド:MHC多量体による検出は、特に、類似ペプチド:MHC四量体による染色を指しており、抗原結合タンパク質は、細胞(好ましくは、酵母細胞)の表面上で発現される(実施例1.1および1.2)。陽性(即ち、染色された)細胞の数が、細胞の総数の≦5%、≦3%、もしくは≦1%である場合には、または陽性細胞の数が、PRAME-004ペプチド:MHC四量体で染色された陽性細胞の≦10%、≦5%、もしくは≦2.5%である場合には、またはEC50が、50分の1以下、75分の1以下、100分の1以下、150分の1以下、200分の1以下に減少した場合には、検出は、有意に減少したとみなされる。
【0191】
本発明の抗原結合タンパク質は、標的ペプチドに対して高い親和性を有するように設計されており、さらに類似ペプチドへの結合が回避されている。これは、本発明の抗原結合タンパク質の重要な利点であり、なぜならば、類似ペプチドへの結合は、正常な組織に存在する場合に副作用のリスクを増加させるからである。従って、本発明の抗原結合タンパク質が類似ペプチドに低親和性でのみ結合するという事実から、この抗原結合タンパク質は、安全性に関して有望な抗がん処置となる。
【0192】
本発明者らは、抗原結合タンパク質(特に、TCER(登録商標)分子)が、LDH放出アッセイにより、標的ペプチドPRAME-004が負荷されたT2細胞において細胞溶解を引き起こすことを実証している(表17)。本発明者らは、抗原結合タンパク質(特に、TCER(登録商標)分子)が、LDH放出アッセイにより、PRAME-陽性腫瘍細胞株において細胞溶解を引き起こすが、PRAME陰性腫瘍細胞株が、TCER(登録商標)分子との共培養により影響を受けなかったことをさらに実証している(図7~9)。これらのインビトロ実験により、さらに、本発明の抗原結合タンパク質の安全性が証明され、細胞傷害効果が、PRAME陽性腫瘍組織に対して高度に選択的であることが立証される。従って、本発明の分子は、有益な安全性プロファイルを示す。
【0193】
いくつかの実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、MHCとの複合体中のTMED9-001、CAT-001、DDX60L-001、LRRC70-001、PTPLB-001、HDAC5-001、VPS13B-002、ZNF318-001、CCDC51-001、IFT17-003、DIAPH1-004、FADS2-001、FRYL-003、GIMAP8-001、HSF1-001、KNT-001、MAU-001、MCM4-001、MPPE1-001、MYO1B-002、PRR12-001、PTRF-003、RASGRP1-001、SMARCD1-001、TGM2-001、VAV1-001、VIM-009、FARSA-001、ALOX15B-003、FAM114A2-002、GPR56-002、IGHD-002、NOMAP-3-0972、NOMAP-3-1265、NOMAP-3-1408、NOMAP-3-1587、NOMAP-3-1768、NOMAP-5-0765、PDCD10-004、TSN-001、ARMC9-002、CLI-001、COPG1-001、COPS7A-001、EIF-009、EXT2-006、LMNA-001、PKM-005、PSMB3-002、RPL-007、SPATS2L-003、SYNE1-002、TGM2-002、およびTPR-004からなる群から選択される少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20個、または全ての類似ペプチドに有意に結合しない。
【0194】
好ましい実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、MHCとの複合体中のIFT17-003に有意に結合しない。
【0195】
いくつかの実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、PRAME-004ペプチド:MHC複合体に対する機能的反応と比較して、MHCとの複合体中のTMED9-001、CAT-001、DDX60L-001、LRRC70-001、PTPLB-001、HDAC5-001、VPS13B-002、ZNF318-001、CCDC51-001、IFT17-003、DIAPH1-004、FADS2-001、FRYL-003、GIMAP8-001、HSF1-001、KNT-001、MAU-001、MCM4-001、MPPE1-001、MYO1B-002、PRR12-001、PTRF-003、RASGRP1-001、SMARCD1-001、TGM2-001、VAV1-001、VIM-009、FARSA-001、ALOX15B-003、FAM114A2-002、GPR56-002、IGHD-002、NOMAP-3-0972、NOMAP-3-1265、NOMAP-3-1408、NOMAP-3-1587、NOMAP-3-1768、NOMAP-5-0765、PDCD10-004、TSN-001、ARMC9-002、CLI-001、COPG1-001、COPS7A-001、EIF-009、EXT2-006、LMNA-001、PKM-005、PSMB3-002、RPL-007、SPATS2L-003、SYNE1-002、TGM2-002、およびTPR-004からなる群から選択される少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20個、または全ての類似ペプチドに対して有意に低い機能的反応を示す。好ましい実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、PRAME-004ペプチド:MHC複合体に対する機能的反応と比較して、MHCとの複合体中のIFT17-003に対する有意に低い機能的反応を示す。
【0196】
いくつかの実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質(特に、可溶性二重特異性抗原結合タンパク質、より特に、TCER(登録商標)フォーマットの抗原結合タンパク質)は、PRAME-004ペプチド:MHC複合体への結合に関するKと比較して≧25、≧30、≧40、≧50、≧75、または≧100倍増加しているKで、MHCとの複合体中のTMED9-001、CAT-001、DDX60L-001、LRRC70-001、PTPLB-001、HDAC5-001、VPS13B-002、ZNF318-001、CCDC51-001、IFT17-003、DIAPH1-004、FADS2-001、FRYL-003、GIMAP8-001、HSF1-001、KNT-001、MAU-001、MCM4-001、MPPE1-001、MYO1B-002、PRR12-001、PTRF-003、RASGRP1-001、SMARCD1-001、TGM2-001、VAV1-001、VIM-009、FARSA-001、ALOX15B-003、FAM114A2-002、GPR56-002、IGHD-002、NOMAP-3-0972、NOMAP-3-1265、NOMAP-3-1408、NOMAP-3-1587、NOMAP-3-1768、NOMAP-5-0765、PDCD10-004、TSN-001、ARMC9-002、CLI-001、COPG1-001、COPS7A-001、EIF-009、EXT2-006、LMNA-001、PKM-005、PSMB3-002、RPL-007、SPATS2L-003、SYNE1-002、TGM2-002、およびTPR-004からなる群から選択され、特に、GIMAP8-001、MYO1B-002、SMARCD1-001、VIM-009、FARSA-001、ALOX15B-003、FAM114A2-002、GPR56-002、IGHD-002、NOMAP-3-0972、NOMAP-3-1265、NOMAP-3-1408、NOMAP-3-1587、NOMAP-3-1768、NOMAP-5-0765、PDCD10-004、TSN-001からなる群、ならびに/またはARMC9-002、CLI-001、COPG1-001、COPS7A-001、EIF-009、EXT2-006、LMNA-001、PKM-005、PSMB3-002、RPL-007、SPATS2L-003、SYNE1-002、TGM2-002、およびTPR-004からなる群から選択される少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15個、または全ての類似ペプチドに結合する。好ましい実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質(特に、可溶性二重特異性抗原結合タンパク質、より特に、TCER(登録商標)フォーマットの抗原結合タンパク質)は、PRAME-004ペプチド:MHC複合体への結合に関するKと比較して≧25、≧30、≧40、≧50、≧75、または≧100倍増加しているKで、MHCとの複合体中のIFT17-003に結合する。
【0197】
いくつかの実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、特に、細胞表面上で発現された場合に、より特に、酵母細胞表面上で発現された場合に、PRAME-004ペプチド:MHC多量体による検出と比較して、MHCとの複合体の、TMED9-001、CAT-001、DDX60L-001、LRRC70-001、PTPLB-001、HDAC5-001、VPS13B-002、ZNF318-001、CCDC51-001、IFT17-003、DIAPH1-004、FADS2-001、FRYL-003、GIMAP8-001、HSF1-001、KNT-001、MAU-001、MCM4-001、MPPE1-001、MYO1B-002、PRR12-001、PTRF-003、RASGRP1-001、SMARCD1-001、TGM2-001、VAV1-001、VIM-009、FARSA-001、ALOX15B-003、FAM114A2-002、GPR56-002、IGHD-002、NOMAP-3-0972、NOMAP-3-1265、NOMAP-3-1408、NOMAP-3-1587、NOMAP-3-1768、NOMAP-5-0765、PDCD10-004、TSN-001、ARMC9-002、CLI-001、COPG1-001、COPS7A-001、EIF-009、EXT2-006、LMNA-001、PKM-005、PSMB3-002、RPL-007、SPATS2L-003、SYNE1-002、TGM2-002、およびTPR-004からなる群から選択される類似ペプチドを含み、特に、TMED9-001、CAT-001、DDX60L-001、LRRC70-001、PTPLB-001、HDAC5-001、VPS13B-002、ZNF318-001、CCDC51-001、IFT17-003、DIAPH1-004、FADS2-001、FRYL-003、GIMAP8-001、HSF1-001、KNT-001、MAU-001、MCM4-001、MPPE1-001、MYO1B-002、PRR12-001、PTRF-003、RASGRP1-001、SMARCD1-001、TGM2-001、およびVAV1-001からなる群から選択される類似ペプチドを含み、より特に、IFT17-003を含む標識された類似ペプチド:MHC多量体による有意に低い検出を示す。
【0198】
本発明の抗原結合性タンパク質は、高い安全性プロファイルを有する。
【0199】
「安全性プロファイル」は、本明細書では、腫瘍細胞(特に、PRAME-004:MHC複合体提示腫瘍細胞)と健康な細胞とを区別する能力を指す。この能力は、安全性ウィンドウの表示で表されることが多い。
【0200】
「安全性ウィンドウ」または「治療ウィンドウ」は、本明細書では、腫瘍細胞(特に、PRAME-004:MHC複合体提示腫瘍細胞)に対して、ある程度の細胞傷害性(例えば、10%、50%、90%、または100%の細胞傷害性)を誘導するのに必要な化合物の濃度と、健康な細胞に対して細胞傷害性(好ましくは、同程度の程度の細胞傷害性、より好ましくは、同程度の細胞傷害性)を誘導するのに必要な濃度とを比較するパラメータを指す。例えば、腫瘍細胞株に対して90%の細胞傷害性を誘導するのに必要な抗原タンパク質の濃度が1pMであり、例えば健康な細胞に対して90%の細胞傷害性を誘導するのに必要な濃度が1000pMである場合には、安全性ウィンドウは、1000であり、なぜならば、腫瘍細胞株に必要な細胞傷害性濃度は、健康な細胞に必要な濃度と比べて1000分の1であるからである。
【0201】
いくつかの実施形態では、安全性ウィンドウは、腫瘍細胞に対して最大半量(50%)細胞傷害性(EC50)を誘導するのに必要な化合物の濃度と、健康な細胞に対して最大半量(50%)細胞傷害性(EC50)を誘導するのに必要な化合物の濃度とを比較する。その結果、抗原結合タンパク質に関して、腫瘍細胞株に対するEC50が1pMであり、例えば健康な細胞に対するEC50が1000pMである場合には、安全性ウィンドウは、1000であり、なぜならば、腫瘍細胞株に対するEC50は、健康な細胞の場合と比べて1000分の1であるからである。
【0202】
好ましい実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、≧100、≧500、≧1000、≧2000、≧3000、≧4000、≧5000、≧6000、≧8000、≧10000、例えば、500~10000、好ましくは、1000~10000の安全性ウィンドウを特徴とする。
【0203】
「PRAME-004:MHC複合体提示細胞」は、本明細書では、PRAME抗原ペプチドを、MHC分子との複合体で、表面上にて提示する細胞を指しており、前記PRAME-004:MHC複合体のコピー数を、当業者に既知の方法で決定し得る。好ましい実施形態では、PRAME-004:MHC複合体提示細胞は、腫瘍細胞であり、この腫瘍は、好ましくは、本明細書の下記の「治療法および使用」セクションで定義されるがんである。本発明に関連して、PRAME-004:MHC複合体は、正常な(健康な)組織中の細胞(「健康な細胞」とも称される)の表面上の前記複合体のレベルと比較して、PRAME-004:MHC複合体提示細胞の細胞表面上に過剰に提示されている。「過剰に提示されている」は、PRAME-004:MHC複合体が、健康な組織に存在するレベルの少なくとも1.2倍のレベルで存在しており、好ましくは、健康な組織または細胞に存在するレベルの少なくとも2倍、より好ましくは5倍~10倍のレベルで存在していることを意味する。
【0204】
一実施形態では、PRAME-004:MHC複合体提示細胞は、50超、80超、100超、120超、150超、300超、400超、600超、800超、1000超、1500超、2000超のPRAME-004:MHC複合体コピー数を有しており、好ましくは、50~2000、例えば、80~2000、例えば、100~2000、例えば、120~2000のPRAME-004:MHCコピー数を有する。
【0205】
「コピー数」は、本明細書では、細胞(例えば、PRAME-004:MHC提示細胞、例えば、がん細胞、または健康な細胞)の細胞表面上に存在している、本発明に関連して定義されるPRAME-004:MHC複合体の数を指す。タンパク質のコピー数を、蛍光標識された抗原結合タンパク質による疾患細胞のFACS分析を含む様々な当該技術分野で既知の方法により決定し得る。
【0206】
「健康な細胞」または「正常な組織細胞」は、本明細書では、腫瘍細胞ではない細胞を指しており、好ましくは、健康な細胞は、本明細書では、PRAME-004:MHC提示細胞を取り囲む組織の細胞を指しており、特に、PRAME-004:MHC複合体提示腫瘍細胞を取り囲む組織の細胞を指す。しかしながら、場合によっては、健康な細胞も、その表面上にPRAME-004:MHC複合体を発現および提示するかもしれない。典型的には、本発明に関連する健康な細胞では、当業者に理解されるように、PRAME-004:MHC複合体は、腫瘍細胞中と比べて少ない量(コピー数)で存在する。従って、一実施形態では、健康な細胞は、50未満、20未満、10未満のPRAME-004:MHC複合体コピー数を有しており、好ましくは、10未満のPRAME-004:MHC複合体コピー数を有しており、好ましくは、0~10のPRAME-004:MHC複合体コピー数を有する。
【0207】
健康な細胞は、好ましくは、下記からなる群から選択される:アストロサイト、GABAニューロン、心筋細胞、心臓微小血管内皮細胞、軟骨細胞、大動脈内皮細胞、冠動脈内皮細胞、真皮微小血管内皮細胞、間葉系幹細胞、鼻上皮細胞、末梢血単核細胞、肺動脈平滑筋細胞、肺線維芽細胞、表皮ケラチノサイト、腎皮質上皮細胞および気管平滑筋細胞、好ましくは、アストロサイト、特に、iPSC由来のアストロサイト、心筋細胞、特に、iPSC由来の心筋細胞、大動脈内皮細胞、間葉系幹細胞、および気管平滑筋細胞。
【0208】
好ましい一実施形態では、腫瘍細胞(特に、PRAME-004:MHC複合体提示腫瘍細胞)において少なくとも90%、好ましくは100%の細胞傷害性を達成するのに必要な本発明の抗原結合タンパク質の濃度は、アストロサイト、GABAニューロン、心筋細胞、心臓微小血管内皮細胞、軟骨細胞、大動脈内皮細胞、冠動脈内皮細胞、真皮微小血管内皮細胞、間葉系幹細胞、鼻上皮細胞、末梢血単核細胞、肺動脈平滑筋細胞、肺線維芽細胞、表皮ケラチノサイト、腎皮質上皮細胞および気管平滑筋細胞、好ましくは、アストロサイト、特に、iPSC由来のアストロサイト、心筋細胞、特に、iPSC由来のアストロサイト、iPSC由来の心筋細胞、大動脈内皮細胞、間葉系幹細胞、および気管平滑筋細胞からなる群から選択される健康な細胞において少なくとも10%、少なくとも50%、少なくとも90%、または100%の細胞傷害性を達成するのに必要な濃度と比べて、100分の1以下、500分の1以下、1000分の1以下、5000分の1以下、または10000分の1以下である。
【0209】
本発明者らは、本特許請求の範囲で定義されたCDRが、様々なフォーマットを有する抗原結合タンパク質で使用され得ることを実証した。例えば、実験セクションにおいて、本発明者らは、これらのCDRを、TCER(登録商標)分子、およびFab断片と融合したscTCR(scTCR-Fab)を含む二重特異性TCR等の一本鎖TCRコンストラクトで使用した。
【0210】
従って、当業者は、これらの実験から、本明細書で説明されているCDRが本発明の様々な抗原結合タンパク質で使用される得ることを実際に理解する。
【0211】
一実施形態では、抗原結合タンパク質のフォーマットが変更されても、エピトープおよび結合特性は保存される。
【0212】
いくつかの実施形態では、抗原結合タンパク質は、TCRまたは抗体である。当業者は、抗原結合タンパク質が抗体である場合、この「抗体」は、本特許請求の範囲で定義されたTCR由来のCDR1、CDR3、および適宜CDR2の配列を少なくとも含み、そのため、ネイティブ抗体でも従来の抗体でもないことを認識する。しかしながら、例えばTCR由来のCDR、および抗体由来のフレームワーク領域、および抗体由来の定常ドメインを含む抗原結合タンパク質は、従来の抗体の全体構造を有することとなり、「抗体」と称され得る。
【0213】
いくつかの実施形態では、抗原結合タンパク質は、二重特異性であり、特に、二重特異性TCR、二重特異性抗体、または二重特異性TCR抗体分子である。当業者は、抗原結合タンパク質が二重特異性「抗体」である場合にも、抗原結合部位の内の1つは、本特許請求の範囲で定義されたTCR由来のCDR1、CDR3、および適宜CDR2の配列を含み、他の抗原結合部位は、完全に抗体由来であり得ることを認識する。
【0214】
一実施形態では、抗原結合タンパク質は、ヒト起源のものであり、これは、ヒト抗原遺伝子座から生成されており、従ってヒト配列(特に、ヒトTCRまたは抗体配列)を含むと理解される。
【0215】
一実施形態では、抗原結合タンパク質は、親和性成熟抗原結合タンパク質と特徴付けられており、これは、PRAME-004抗原ペプチド(特に、PRAME-004:MHC複合体)を、親分子(特に、TCR R11P3D3)と比べて高い親和性で特異的に結合可能である。
【0216】
いくつかの実施形態では、抗原結合タンパク質は、Vを含む第1のポリペプチド鎖と、Vを含む第2のポリペプチド鎖とを含む。
【0217】
いくつかの実施形態では、第1および第2のポリペプチド、そのためVおよびVは、単一のポリペプチド鎖上に位置している。そのような一本鎖コンストラクトは、一本鎖TCR(scTCR)、一本鎖抗体、または一本鎖二重特異性抗原結合タンパク質であり得、特に、一本鎖二重特異性抗体、一本鎖二重特異性TCR、または一本鎖二重特異性TCR抗体分子であり得る。一本鎖TCR(scTCR)の例は、実施例1で使用されるコンストラクトであり、これは、一本鎖TCR可変ドメイン(「scTv」)分子とも称され得る。一本鎖「抗体」の例は、CDRがTCR由来のCDRに置き換えられているscFvであるだろう。一本鎖二重特異性抗体の例は、一方の結合部位が抗体由来であり、他方の結合部位がTCR由来であるかまたはTCR由来のCDRを少なくとも含む抗体であるだろう。上記で論じたように、そのようなハイブリッド抗原結合タンパク質は、あるいは、一本鎖二重特異性TCRまたは一本鎖二重特異性TCR抗体分子と称され得る。
【0218】
フレームワーク領域
本発明の発明者らは、親TCR R11P3D3と比較して、抗原結合タンパク質のフレームワーク領域中での特異的突然変異が有利な効果を有することを、さらに発見した。
【0219】
では、有利な突然変異は、下記である:
- N20K(天然に存在する可能なNグリコシル化部位を除去する)、
- W44K(VでのQ44Eとの組合せで、可変ドメインの対合、親和性、および安定性を改善する)、ならびに
- A52F、V55Y、K92T、およびG93D(抗原結合タンパク質の安定性を増加させる)。
【0220】
では、有利な突然変異は、下記である:
- A84D、A84E、A84Q、A84N、A84S、好ましくはA84D(ペプチド-MC複合体に対する親和性を増加させる)
- Q44E(VでのW44Kとの組合せで、可変ドメインの対合、親和性、および安定性を改善する)
- M46PおよびR48Q(抗原結合タンパク質の安定性を増加させる)。
【0221】
突然変異は、IMGT命名法に従って示される。
【0222】
従って、本発明の抗原結合タンパク質は、好ましくは、V(R11P3D3のVαとの比較)中にN20K、W44K、A52F、V55Y、K92T、およびG93Dの内の1つまたは複数(好ましくは全て)を含み、かつV(R11P3D3のVβとの比較)中にA84D、Q44E、M46P、およびR48Qの内の1つまたは複数(好ましくは全て)を含む。
【0223】
本発明の抗原結合タンパク質は、V(R11P3D3のVαとの比較)中にL2M、L39I、およびQ14Kの内の1つまたは複数をさらに含み得、かつV(R11P3D3のVβとの比較)中にE11L、E11K、およびR22Hの内の1つまたは複数をさらに含み得る。
【0224】
従って、本発明の抗原結合タンパク質は、好ましくは、V中に下記のアミノ酸20K、44K、52F、55Y、92T、および93Dの内の1つまたは複数(好ましくは全て)を含み、かつV中に84D、44E、46P、および48Qの内の1つまたは複数(好ましくは全て)を含む。
【0225】
本発明の抗原結合タンパク質は、V中に下記のアミノ酸2M、39I、および14Kの内の1つまたは複数をさらに含み得、かつV中に11Lまたは11Kおよび22Hの内の1つまたは複数をさらに含み得る。
【0226】
一実施形態では、Vは、FR1-a、FR2-a、FR3-a、およびFR4-aからなる群から選択される1つまたは複数のフレームワーク領域、好ましくは全てのフレームワーク領域をさらに含み、
- FR1-aは、配列番号345もしくは配列番号346のアミノ酸配列、または配列番号345と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、20位でKもしくはNを含み、より好ましくはKを含み、および/または2位でLもしくはMを含み;
- FR2-aは、配列番号347もしくは配列番号348のアミノ酸配列、または配列番号347と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、39位でL、I、もしくはMを含み、より好ましくはLもしくはIを含み、47位でAもしくはDを含み、より好ましくはAを含み、44位でKもしくはWを含み、好ましくはKを含み、52位でFもしくはAを含み、好ましくはFを含み、および/または55位でYもしくはVを含み、好ましくはYを含み;
- FR3-aは、配列番号349のアミノ酸配列、または配列番号349と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、92位でTもしくはKを含み、好ましくはTを含み、および/または93位でDもしくはGを含み、好ましくはDを含み;
- FR4-aは、配列番号350のアミノ酸配列、または配列番号350と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり;
は、FR1-b、FR2-b、FR3-b、およびFR4-bからなる群から選択される1つまたは複数のフレームワーク領域、好ましくは全てのフレームワーク領域をさらに含み、
- FR1-bは、配列番号351もしくは配列番号352のアミノ酸配列、または配列番号351と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、10位でHもしくはNを含み、より好ましくはHを含み、11位でE、L、もしくはKを含み、好ましくはEを含み、および/または22位でRもしくはHを含み;
- FR2-bは、配列番号353のアミノ酸配列、または配列番号353と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、43位でRもしくはKを含み、より好ましくはRを含み、44位でEもしくはQを含み、好ましくはEを含み、46位でMもしくはPを含み、より好ましくはPを含み、および/または48位でRもしくはQを含み、より好ましくはQを含み;
- FR3-bは、配列番号354もしくは配列番号355のアミノ酸配列、または配列番号354と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、84位で、D、A、E、R、K、Q、N、またはSを含み、より好ましくはD、A、E、Q、N、またはSを含み、より好ましくはDまたはAを含み、さらにより好ましくはDを含み;
- FR4-bは、配列番号356のアミノ酸配列、または配列番号356と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
【0227】
本明細書で説明されている抗原結合タンパク質の変異体は、本明細書の上記の「定義」セクションで定義されている「参照配列と少なくとも85%同一」という表現を使用することが企図されており、かつ明示的に言及されている。例として、FR1-a、FR2-a、FR3-a、FR4-a、FR1-b、FR2-b、FR3-b、およびFR4-bのアミノ酸配列は、必要に応じて、少なくとも1つのアミノ酸置換により、特に、少なくとも1つの保存的アミノ酸置換および/またはカノニカル残基との置換により、参照配列である配列番号345、配列番号346、配列番号347、配列番号348、配列番号349、配列番号350、配列番号351、配列番号352、配列番号353、配列番号354、配列番号355、または配列番号356と異なり得る。特に、VおよびVの配列FR1-a、FR2-a、FR3-a、およびFR4-a、FR1-b、FR2-b、FR3-b、およびFR4-bは、必要に応じて、保存的アミノ酸置換のみにより、参照配列である配列番号345、配列番号346、配列番号347、配列番号348、配列番号349、配列番号350、配列番号351、配列番号352、配列番号353、配列番号354、配列番号355、または配列番号356と異なり得る。
【0228】
本発明の抗原結合タンパク質のアミノ酸配列中、および対応するDNA配列中それぞれに、改変および変更を行ない得、望ましい特性を有する機能的抗原結合タンパク質またはポリペプチドが依然として得られる。Vおよび/またはV(特に、フレームワーク領域またはCDR)中で、改変を行ない得る。
【0229】
およびVは、好ましくは、TCR R11P3D3と比較して、IMGTナンバリングに従う44位でアミノ酸置換を含む。抗原結合タンパク質がTCRである実施形態では、これらの置換により、鎖の対合(即ち、α鎖およびβ鎖の対合、またはγおよびδの対合)が改善される。VまたはV中において44位に存在するアミノ酸は、Q、R、D、E、K、L、W、およびVからなる群から選択されるアミノ酸により置換されてもよい。好ましいのは、配列番号347、配列番号348(FR2-a)、および配列番号353(FR2-b)それぞれ中に存在しており、かつアミノ酸対VA44K/VA44Eを生じる、V中での置換W44KおよびV中での置換Q44Eである。他の適切な組合せは、VA44Q/VB44Q、VA44D/VB44R、VA44R/VB44D、VA44E/VB44K、VA44D/VB44K、VA44K/VB44D、VA44R/VB44E;VA44E/VB44R、VA44L/VB44W、VA44W/VB44L、VA44V/VB44W、およびVA44W/VB44Vである。
【0230】
追加の置換および説明は、米国特許出願公開第2018-0162922号明細書で見出され得、この内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0231】
可変ドメイン
一実施形態では、Vは、配列番号100、103、105、106、111、122、124、126、128、151、155、156、157、158、159、166、167、169、171、173、175、177、178、179、180、181、183、189、191、193、195、197、199、201、203、205、207、209、211、213、215、217、285、291、295、299、または303のポリペプチドに含まれるTCR由来可変ドメインのアミノ酸配列を含むか、またはからなり、Vは、配列番号101、102、104、107、110、119、121、131、133、143、152、153、160、161、162、163、164、165、168、170、172、174、176、182、184、185、186、216、218、220、222、224、228、230、232、234、236、238、240、242、244、246、248、250、252、254、256、258、260、262、264、266、268、270、272、274、276、278、282、284、296、または300のポリペプチドに含まれるTCR由来可変ドメインのアミノ酸配列を含むか、またはからなる。当業者は、上述した配列番号のポリペプチド鎖内のTCR由来可変ドメインのアミノ酸配列を区別することが完全に可能である。
【0232】
一実施形態では、
- Vは、配列番号132のアミノ酸配列、または配列番号132と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、配列番号16のCDRa1、配列番号32のCDRa2、および配列番号33、配列番号34、または配列番号9のCDRa3を含み、さらに、20位でKもしくはNを含んでもよく、好ましくはKを含んでもよく、39位でL、M、もしくはIを含んでもよく、好ましくはLもしくはIを含んでもよく、44位でKもしくはWを含んでもよく、好ましくはKを含んでもよく、52位でFもしくはAを含んでもよく、好ましくはFを含んでもよく、55位でYもしくはVを含んでもよく、好ましくはYを含んでもよく、92位でTもしくはKを含んでもよく、好ましくはTを含んでもよく、および/または93位でDもしくはGを含んでもよく、好ましくはDを含んでもよく;
- Vは、配列番号134のアミノ酸配列、または配列番号134と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、配列番号10のCDRb1、配列番号36のCDRb2、および配列番号48、配列番号49、配列番号47、配列番号281、配列番号292、配列番号294、配列番号297、配列番号298、配列番号301、または配列番号283のCDRb3を含み、さらに、11位でE、L、もしくはKを含んでもよく、好ましくはEを含んでもよく、22位でRもしくはHを含んでもよく、44位でEもしくはQを含んでもよく、好ましくはEを含んでもよく、46位でPもしくはMを含んでもよく、好ましくはPを含んでもよく、48位でQもしくはRを含んでもよく、好ましくはQを含んでもよく、および/または84位でD、A、E、R、K、Q、N、もしくはSを含んでもよく、より好ましくはD、A、E、Q、N、もしくはSを含んでもよく、好ましくはDもしくはAを含んでもよい。
【0233】
- Vは、配列番号132のアミノ酸配列、または配列番号132と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、配列番号16のCDRa1、配列番号32のCDRa2、および配列番号33、配列番号34、または配列番号9のCDRa3を含み、さらに、20位でKもしくはNを含んでもよく、好ましくはKを含んでもよく、39位でL、M、もしくはIを含んでもよく、好ましくはLもしくはIを含んでもよく、44位でKもしくはWを含んでもよく、好ましくはKを含んでもよく、52位でFもしくはAを含んでもよく、好ましくはFを含んでもよく、55位でYもしくはVを含んでもよく、好ましくはYを含んでもよく、92位でTもしくはKを含んでもよく、好ましくはTを含んでもよく、および/または93位でDもしくはGを含んでもよく、好ましくはDを含んでもよく;
- Vは、配列番号134のアミノ酸配列、または配列番号134と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、配列番号10のCDRb1、配列番号36のCDRb2、および配列番号48、配列番号49、配列番号47、配列番号281、配列番号292、配列番号294、配列番号297、配列番号298、配列番号301、または配列番号283のCDRb3を含み、さらに、11位でE、L、もしくはKを含んでもよく、好ましくはEを含んでもよく、22位でRもしくはHを含んでもよく、44位でEもしくはQを含んでもよく、好ましくはEを含んでもよく、46位でPもしくはMを含んでもよく、好ましくはPを含んでもよく、48位でQもしくはRを含んでもよく、好ましくはQを含んでもよく、および/または84位でD、A、E、R、K、Q、N、もしくはSを含んでもよく、より好ましくはD、A、E、Q、N、もしくはSを含んでもよく、好ましくはDもしくはAを含んでもよい
ことが好ましい。
【0234】
好ましい実施形態では、
- Vは、配列番号132、配列番号129、配列番号137、または配列番号142のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、
- Vは、配列番号134、配列番号130、配列番号135、配列番号136、配列番号138、配列番号139、配列番号140、配列番号141、配列番号144、配列番号145、配列番号146、配列番号147、または配列番号148のアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
【0235】
- Vは、配列番号132のアミノ酸配列を含むか、もしくはからなり、かつVは、配列番号134のアミノ酸配列を含むか、もしくはからなるか;
- Vは、配列番号132のアミノ酸配列を含むか、もしくはからなり、かつVは、配列番号135のアミノ酸配列を含むか、もしくはからなるか;
- Vは、配列番号132のアミノ酸配列を含むか、もしくはからなり、かつVは、配列番号140のアミノ酸配列を含むか、もしくはからなるか;
- Vは、配列番号132のアミノ酸配列を含むか、もしくはからなり、かつVは、配列番号136のアミノ酸配列を含むか、もしくはからなるか;
- Vは、配列番号137のアミノ酸配列を含むか、もしくはからなり、かつVは、配列番号134のアミノ酸配列を含むか、もしくはからなるか;
- Vは、配列番号137のアミノ酸配列を含むか、もしくはからなり、かつVは、配列番号135のアミノ酸配列を含むか、もしくはからなるか;または
- Vは、配列番号137のアミノ酸配列を含むか、もしくはからなり、かつVは、配列番号134のアミノ酸配列を含むか、もしくはからなる
ことが特に好ましい。
【0236】
最も好ましくは、Vは、配列番号132のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、Vは、配列番号134、135、または140(特に、配列番号135)のアミノ酸配列を含むか、またはからなる。そのため、Vは、配列番号132のアミノ酸配列を含み得るか、またはからなり得、Vは、配列番号135のアミノ酸配列を含み得るか、またはからなり得る。あるいは、Vは、配列番号132のアミノ酸配列を含み得るか、またはからなり得、Vは、配列番号140のアミノ酸配列を含み得るか、またはからなり得る。
【0237】
本明細書で説明されている抗原結合タンパク質の変異体は、本明細書での上記定義セクションにて定義されている「参照配列と少なくとも85%同一」という表現を使用して企図されており、かつ明確に言及される。例えば、VおよびVの配列は、それぞれ配列番号132および配列番号134の参照配列と、少なくとも1つのアミノ酸置換により異なり得、特に、少なくとも1つの保存的アミノ酸置換、および/またはカノニカル残基との置換により異なり得る。特に、VおよびVの配列は、保存的アミノ酸置換のみにより、それぞれ配列番号132および配列番号134の参照配列と異なり得る。
【0238】
本発明の抗原結合タンパク質のアミノ酸配列、および対応するDNA配列において、それぞれ改変および変更を行ない得、それでも尚、望ましい特性を有する機能的な抗原結合タンパク質またはポリペプチドを得ることができる。
【0239】
一実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、下記:
(i)1つもしくは複数のさらなる抗原結合部位:
(ii)細胞質シグナル伝達領域を含んでもよい膜貫通領域;
(iii)診断薬;
(iv)治療薬;または
(v)PK改変部分
の内の1つまたは複数をさらに含む。
【0240】
上記に列挙された成分(i)~(v)が、本発明の抗原結合タンパク質に融合したポリペプチドである場合には、この抗原結合タンパク質は、「TCR融合タンパク質」とも称され得る。
【0241】
さらなる抗原結合部位は、好ましくは、抗体由来である。
【0242】
本発明に関連する「膜貫通領域」は、例えば、TCRアルファまたはベータ膜貫通ドメインであり得る。
【0243】
「細胞質シグナル伝達領域」は、例えば、TCRアルファまたはベータ細胞内ドメインであり得る。
【0244】
「診断薬」は、本明細書では、検出可能な分子または物質(例えば、蛍光分子、放射性分子、またはシグナルを生じる(直接的または間接的)ことが当該技術分野で既知のあらゆる他の標識を指す。
【0245】
当該技術分野で既知の「蛍光分子」として、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE)、青色レーザーで使用されるフルオロフォア(例えば、PerCP、PE-Cy7、PE-Cy5、FL3、およびAPCまたはCy5、FL4)、赤色、紫色、またはUVレーザーで使用されるフルオロフォア(例えば、パシフィックブルー、パシフィックオレンジ)が挙げられる。
【0246】
「放射性分子」として、I123、I124、In111、Re186、Re188、Tc99等のシンチグラフィ研究用の放射性原子が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の抗原結合タンパク質はまた、核磁気共鳴(NMR)撮像(磁気共鳴撮像、MRIとしても既知である)用のスピン標識(例えば、ヨウ素-123、インジウム-111、フッ素-19、炭素-13、窒素-15、酸素-17、ガドリニウム、マンガン、または鉄)も含み得る。
【0247】
そのような診断薬は、抗原結合タンパク質に直接結合(即ち、物理的に連結)されていてもよいし、間接的に連結されていてもよい。
【0248】
「治療薬」は、本明細書では、治療効果を有する薬剤を指す。治療薬(therapeutic agent)および治療薬(therapeutic drug)という用語は、本明細書では互換的に使用される。一実施形態では、治療薬は、細胞傷害剤または放射性同位体等の成長阻害剤であり得る。
【0249】
「成長阻害剤」または「抗増殖剤」(これらは無関係に使用される得る)は、インビトロまたはインビボのいずれかで細胞(特に腫瘍細胞)の成長を阻害する化合物または組成物を指す。
【0250】
「細胞傷害剤」という用語は、本明細書で使用される場合、細胞の機能を阻害するかもしくは予防するおよび/または細胞の破壊を引き起こす物質を指す。「細胞傷害剤」という用語は、化学療法剤、酵素、抗生物質、および毒素(例えば、細菌、真菌、植物、または動物起源の低分子毒素または酵素活性毒素)(これらの断片および/または変異体を含む)、ならびに下記で開示する様々な抗腫瘍剤または抗癌剤を含むことが意図されている。いくつかの実施形態では、細胞毒製剤は、タキソイド、ビンカ、タキサン、メイタンシノイドもしくはメイタンシノイド類似体(例えば、DM1もしくはDM4)、小薬、トマイマイシンもしくはピロロベンゾジアゼピン誘導体、クリプトフィシン誘導体、レプトマイシン誘導体、オーリスタチンもしくはドラスタチン類似体、プロドラッグ、トポイソメラーゼII阻害剤、DNAアルキル化剤、抗チューブリン剤、CC-1065、またはCC-1065類似体である。
【0251】
「放射性同位体」という用語は、癌の処置に適した放射性同位体を含むことが意図されており、例えば、At211、Bi212、Er169、I131、I125、Y90、In111、P32、Re186、Re188、Sm153、Sr89、およびLuの放射性同位体を含むことが意図されている。そのような放射性同位体は、一般には、主にベータ線を放射する。一実施形態では、放射性同位体は、アルファ放射体同位体であり、より正確には、アルファ線を放射するトリウム227である。
【0252】
いくつかの実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、直接的に、または切断可能なもしくは切断不可能なリンカーを介して、少なくとも1種の成長阻害剤に共有結合している。そのような少なくとも1種の成長阻害剤が結合している抗原結合タンパク質はまた、コンジュゲートとも称され得る。切断可能なリンカーは、細胞内での抗原結合タンパク質からの細胞毒製剤または成長阻害剤の放出を促進する。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、エステラーゼ不安定性リンカー、光不安定性リンカー、またはジスルフィド含有リンカー(例えば、米国特許第5,208,020号を参照されたい)を使用し得る。このリンカーはまた、場合によっては、より良好な耐性をもたらす可能性がある「切断不可能なリンカー」(例えば、SMCCリンカー)でもあり得る。
【0253】
そのようなコンジュゲート(例えば、免疫コンジュゲート)の調製は、国際公開第2004/091668号パンフレット、またはHudecz, F., Methods Mol. Biol. 298: 209-223 (2005) and Kirin et al., Inorg Chem. 44(15): 5405-5415 (2005)(これらの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)で説明されており、当業者は、そのような少なくとも1種の成長阻害剤が結合している本発明の抗原結合タンパク質の調製に転用し得る。
【0254】
あるいは、本発明の抗原結合タンパク質と、細胞傷害性ポリペプチドまたは増殖阻害性ポリペプチドとを含む融合タンパク質を、組み換え技術またはペプチド合成により作製し得る。DNAの長さは、互いに隣接しているコンジュゲートの2つの部分をコードするそれぞれの領域を含んでもよいし、コンジュゲートの所望の特性を破壊しないリンカーペプチドをコードする領域により分離された、コンジュゲートの2つの部分をコードするそれぞれの領域を含んでもよい。
【0255】
本発明の抗原結合タンパク質をまた、プロドラッグ(例えば、ペプチジル化学療法剤、国際公開第81/01145号パンフレットを参照されたい)を活性抗癌剤(例えば、国際公開第88/07378号パンフレットおよび米国特許第4,975,278号明細書を参照されたい)に変換するプロドラッグ活性化酵素にポリペプチドをコンジュゲートさせることにより、依存性酵素媒介プロドラッグ療法でも使用し得る。
【0256】
「PK改変部分」は、本明細書では、本発明の抗原結合タンパク質の薬物動態を改変する部位を指す。従って、この部分は、特に、本発明の抗原結合タンパク質のインビボでの半減期および分布を改変する。好ましい実施形態では、PK改変部分は、抗原結合タンパク質の半減期を増加させる。PK改変部分の例として下記が挙げられるが、これらに限定されない:PEG[Dozier et al., (2015) Int J Mol Sci. Oct 28;16(10):25831-64、およびJevsevar et al., (2010) Biotechnol J.Jan;5(1):113-28]、PAS化[Schlapschy et al., (2013) Protein Eng Des Sel. Aug;26(8):489-501]、アルブミン[Dennis et al., (2002) J Biol Chem. Sep 20;277(38):35035-43)]、抗体および/または非構造化ポリペプチドのF部分[Schellenberger et al., (2009) Nat Biotechnol. Dec; 27(12):1186-90]。
【0257】
一実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、酵素、サイトカイン(例えば、ヒトIL-2、IL-7、もしくはIL-15)、ナノキャリア、または核酸の内の1つまたは複数をさらに含む。
【0258】
第2の抗原結合部位
好ましい実施形態では、抗原結合タンパク質は、抗体軽鎖可変ドメイン(V)と、抗体重鎖可変ドメイン(V)とをさらに含む。可変ドメインVおよび可変ドメインVは、共に、抗原結合部位を形成する。これ以降、この抗原結合部位は、「第2の抗原結合部位」とも称されることがある。VおよびVにより形成された抗原結合部位は、好ましくは、エフェクター細胞の抗原に結合し、エフェクター細胞を腫瘍へとリクルートすることから「リクルーター」とも称され得る。本発明に関連して、「エフェクター細胞」は、T細胞またはナチュラルキラー細胞(NK細胞)を指す。
【0259】
好ましい実施形態では、VおよびVは、CD2、CD3(例えば、CD3γ、CD3δ、およびCD3ε鎖)、CD4、CD5、CD7、CD8、CD10、CD11b、CD11c、CD14、CD16、CD18、CD22、CD25、CD28、CD32a、CD32b、CD33、CD41、CD41b、CD42a、CD42b、CD44、CD45RA、CD49、CD55、CD56、CD61、CD64、CD68、CD90、CD94、CD95、CD117、CD123、CD125、CD134、CD137、CD152、CD163、CD193、CD203c、CD235a、CD278、CD279、CD287、Nkp46、NKG2D、GITR、FεRI、TCRα/β、TCRγ/δ、HLA-DR、および4-1 BB、もしくはこれらの組合せからなる群から選択される抗原に結合し、ならびに/またはVおよびVは、エフェクター細胞に結合する。「この組合せ」は、前記抗原の内の2つ以上の複合体(例えば、TCRα/β CD3複合体)を指す。好ましくは、抗原は、CD3、TCRα/β CD3複合体、またはCD28であり、より好ましくは、CD3、またはTCRα/β CD3複合体である。
【0260】
TCR-CD3複合体の標的化の場合には、CD3特異的ヒト化抗体hUCHT1(Zhu et al., Identification of heavy chain residues in a humanized anti-CD3 antibody important for efficient antigen binding and T cell activation. J Immunol, 1995, 155, 1903-1910)に由来するVおよびVドメインを使用し得、特に、UCHT1変異体UCHT1-V17、UCHT1-V17opt、UCHT1-V21、またはUCHT1-V23に由来するVおよびVドメインを使用し得、好ましくは、UCHT1-V17に由来するVおよびVドメインを使用し得、より好ましくは、配列番号109を含むかまたはからなるVおよび配列番号108を含むかまたはからなるVを使用し得る。あるいは、TCRα/β CD3複合体を標的とする抗体BMA031およびそのヒト化バージョン(Shearman et al., Construction, expression and characterization of humanized antibodies directed against the human alpha/beta T cell receptor, J Immunol, 1991, 147, 4366-73)に由来するVおよびVドメインを使用し得、特に、BMA031変異体BMA031(V36)またはBMA031(V10)に由来するVおよびVドメインを使用し得、好ましくは、BMA031(V36)に由来するVおよびVドメインを使用し得、配列番号112、または配列番号114(A02)、または配列番号115(D01)、または配列番号116(A02_H90Y)、または配列番号117(D01_H90Y)を含むかまたはからなるVおよび配列番号113を含むかまたはからなるVを使用し得る。別の選択肢として、CD3ε特異的抗体H2C(欧州特許第2155783号明細書で説明されている)に由来するVおよびVドメインを使用し得、特に、配列番号118、または配列番号123(N100D)、または配列番号125(N100E)、または配列番号127(S101A)を含むかまたはからなるVおよび配列番号120を含むかまたはからなるVを使用し得る。全ての位置およびCDR定義は、Kabatナンバリングスキームに従う。
【0261】
いくつかの実施形態では、VおよびVは、共に、TCRα/β CD3複合体に結合し、Vは、
- 配列番号381(SYVMH)のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、
- YINPYNDVTKYXKFXG(配列番号382)(式中、Xは、AもしくはNであり;Xは、EもしくはQであり;および/またはXは、QもしくはKである)のアミノ酸配列を含むHCDR2、
- HCDR3、ならびに
- 重鎖フレームワーク領域(HFR)1~4
を含み、
は、
- 配列番号383(SATSSVSYMH)のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)
- 配列番号384(DTSKLAS)のアミノ酸配列を含むLCDR2、および
- LCDR3
を含み、
- 正に荷電していない配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1の少なくとも1つのアミノ酸および/もしくは配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR2の少なくとも1つのアミンは、正に荷電しているアミノ酸により置換されており;ならびに/または
- 正に荷電していない配列番号3のアミノ酸配列を含むLCDR1の少なくとも1つのアミノ酸および/もしくは配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR2の少なくとも1つのアミンは、正に荷電しているアミノ酸により置換されており;ならびに/または
- HFR3は、Kabatナンバリングに従う90位でチロシン(Y)残基を含む。
【0262】
好ましくは、抗原結合ポリペプチドは、
重鎖中において、
- 31位での正に荷電したアミノ酸は、R、K、もしくはHであり;
- 53位での正に荷電したアミノ酸は、R、K、もしくはHであり;および/または
- 54位での正に荷電したアミノ酸は、RもしくはKであり;ならびに/または
軽鎖中において、
- 31位での正に荷電したアミノ酸は、RもしくはKであり;および/または
- 56位での正に荷電したアミノ酸は、RもしくはKである。
【0263】
いくつかの実施形態では、Vは、配列番号112、114~117、および366~376からなる群から選択される配列を含み、Vは、配列番号113、および377~380からなる群から選択される配列を含む。好ましくは、Vは、配列番号112、または114~117のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、Vは、配列番号113または378(好ましくは、113)のアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
【0264】
「CD28」は、T細胞上で発現され、T細胞活性化に必要な共刺激シグナルを生じ得る。CD28は、T細胞の増殖および生存、サイトカインの産生、ならびにTヘルパー2型の発生で重要な役割を果たす。
【0265】
「CD134」はまた、Ox40とも呼ばれる。CD134/OX40は、活性化後24~72時間で発現され、二次共刺激分子を定義するために利用され得る。
【0266】
「4-1BB」は、抗原提示細胞(APC)上の4-1 BBリガンドと結合可能であり、それにより、T細胞に対する共刺激シグナルが生じる。
【0267】
「CD5」は、T細胞上で主に見出される受容体の別の例であり、CD5はまた、低レベルにてB細胞上でも見出される。
【0268】
「CD95」は、T細胞の機能を改変する受容体のさらなる例であり、他の細胞の表面上で発現されるFasリガンドによるアポトーシスシグナル伝達を媒介するFac受容体としても知られている。CD95は、静止Tリンパ球でのTCR/CD3駆動シグナル伝達経路を調節することが報告されている。
【0269】
「NK細胞特異的受容体分子」は、例えば、CD16、低親和性Fc受容体、およびNKG2Dである。
【0270】
T細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞の両方の表面上に存在している受容体分子の例は、CD2、およびCD2スーパーファミリーのさらなるメンバーである。CD2は、T細胞およびNK細胞上の共刺激分子として機能し得る。
【0271】
二重特異性抗原結合タンパク質および多重特性抗原結合タンパク質
従って、本発明の抗原結合タンパク質は、好ましくは、PRAME-004:MHC複合体に特異的な第1の抗原結合部位を形成するVおよびV、ならびにエフェクター細胞(好ましくは、T細胞)に結合可能な第2の抗原結合部位を形成するVおよびVを含む。V、V、V、およびVは、単一のポリペプチド鎖上に位置していてもよいし、いくつかのポリペプチド鎖(好ましくは、2つのポリペプチド鎖)上に位置していてもよい。V、V、V、およびVに加えて、本発明の抗原結合タンパク質は、二量体化ドメイン(好ましくは、定常免疫グロブリンドメイン)を含んでもよいし含まなくてもよい。
【0272】
いくつかの実施形態では、V、V、V、およびVは、2つのポリペプチド鎖上に位置している。好ましくは、それぞれのポリペプチド鎖は、2つの可変ドメインを含む。一方のポリペプチド鎖はVを含み、他方のポリペプチド鎖はVを含むことが好ましい。好ましくは、Vを含むポリペプチド鎖は、VおよびVの内の一方を含み、Vを含むポリペプチド鎖は、VおよびVの内の他方を含む。Vを含むポリペプチド鎖は、VおよびVの両方を含み、Vを含むポリペプチド鎖は、VもVも含まないことも可能であり、逆もまた同様である。別の可能性は、1つのポリペプチド鎖がVを含み、1つのポリペプチド鎖がVを含み、第3のポリペプチド鎖がVおよびVを含むことである。
【0273】
好ましい実施形態では、抗原結合タンパク質は、第1および第2のポリペプチド鎖を含み、
第1のポリペプチド鎖は、式[Ia]:
-L-D-L-V-L-D [Ia]
により表され、
第2のポリペプチド鎖は、式[IIa]
-L-D-L-V-L-D [IIa]
により表され、
式中、
- V、V、V、およびVは、可変ドメインであり、1つは、Vであり、V~Vの内の1つは、Vであり、1つはVであり、かつ1つはVであり;
- D、D、D、およびDは、二量体化ドメインであり、かつ存在してもよいし存在していなくてもよく、DおよびD、ならびにDおよびDは、互いに特異的に結合し、DおよびDまたはDおよびDの内の少なくとも1対は、存在しており、
- L、L、L、L、L、およびLは、リンカーであり、LおよびLは、存在しており、L、L、L、およびLは、存在してもよいし存在していなくてもよい。
【0274】
およびVの内の一方はVであり、VおよびVの内の一方はVであり、残り2つの可変ドメインの内、一方はVであり、他方はVであることが好ましく、換言すると、VおよびVは、異なるポリペプチド鎖上に位置しており、VおよびVは、異なるポリペプチド鎖上に位置している。
【0275】
二量体化ドメインは、好ましくは、第1のポリペプチド鎖と第2のポリペプチド鎖とのヘテロ二量体化を媒介するが、2つの第1のポリペプチド鎖または2つの第2のポリペプチド鎖のホモ二量体化は媒介しないヘテロ二量体化ドメインである。好ましい実施形態では、1対の二量体化ドメイン(例えば、DおよびD、ならびに/またはDおよびD)は、免疫グロブリン定常ドメイン、例えば、抗体由来のCおよびCH1、またはC-FおよびCH1-F、またはTCR由来のCαおよびCβ、または1対のCH3ドメイン、または1対のFドメインを含み、CH3ドメインおよびFドメインは、好ましくは、ノブ・イントゥ・ホール等のヘテロ二量体化を強制する導入された突然変異を含む。
【0276】
さらにより好ましい実施形態では、抗原結合タンパク質は、第1および第2のポリペプチド鎖を含み、
第1のポリペプチド鎖は、式[Ib]:
-L-V-L-D [Ib]
により表され、
第2のポリペプチド鎖は、式[IIb]:
-L-V-L-D [IIb]
により表され、
式中、
- V、V、V、Vは、可変ドメインであり、1つは、Vであり、1つは、Vであり、1つは、Vであり、1つは、Vであり;
- DおよびDは、互いに特異的に結合する二量体化ドメインであり、好ましくはFcドメインであり;
- L、L、L、およびLは、リンカーであり、LおよびLは、存在してもよいし存在しなくてもよい。
【0277】
式IaおよびIIAに関して説明したように、VおよびVは、異なるポリペプチド鎖上に位置しており、VおよびVは、異なるポリペプチド鎖上に位置していること、ならびに二量体化ドメインはヘテロ二量体化ドメインであることが好ましい。
【0278】
好ましい実施形態では、DおよびDは、1対のFドメインFc1およびFc2であり、特に、Dは、Fc1であり、DはFc2であり、ここで、Fc1およびFc2は、同一であるか、または異なっており、好ましくは異なっており、好ましくは、ヘテロ二量体化を強制する突然変異を含む。一実施形態では、Fc1は、配列番号150のアミノ酸配列(ホール)を含むか、またはからなり、Fc2は、配列番号149のアミノ酸配列(ノブ)を含むか、またはからなり、逆もまた同様である。特に、Fc1が、Vを含むポリペプチド鎖上に位置しており、Fc2が、Vを含むポリペプチド鎖上に位置している場合には、Fc1は、配列番号149のアミノ酸配列(ノブ)を含むか、またはからなり、Fc2は、配列番号150のアミノ酸配列(ホール)を含むか、またはからなり、Fc1が、Vを含むポリペプチド鎖上に位置しており、Fc2が、Vを含むポリペプチド鎖上に位置している場合には、Fc1は、配列番号150のアミノ酸配列(ホール)を含むか、またはからなり、Fc2は、配列番号149のアミノ酸配列(ノブ)を含むか、またはからなる。
【0279】
それぞれ式IaおよびIIaまたはIbおよびIIbにより表される第1および第2のポリペプチド鎖を含む抗原結合タンパク質では、VおよびV、ならびにVおよびVは、DVDフォーマットのように並行配向であってもよいし、CODVフォーマットのように交差配向であってもよいことが、当業者により理解される。
【0280】
式IaおよびIIa、またはIbおよびIIbでは、V、V、V、およびVは、下記の配向を有し得る:
(1)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(2)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(3)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(4)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(5)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(6)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(7)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(8)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(9)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(10)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(11)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;または
(12)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vである。
【0281】
、V、V、およびVは、(1)~(8)で説明されている配向を有していることが好ましく、即ち、VおよびVは、異なるポリペプチド鎖上に位置しており、VおよびVは、異なるポリペプチド鎖上に位置していることが好ましい。より好ましくは、V、V、V、およびVは、(1)~(4)で説明されている配向を有しており、即ち、VおよびV、ならびにVおよびVは、交差配向を有している。
【0282】
リンカーL、L、L、L、Lは、本明細書の上記の「定義」セクションで定義されている。いくつかの実施形態では、特定のフォーマットでは、ある特定のリンカー長が好ましい可能性がある。しかしながら、リンカーの長さおよびアミノ酸配列に関する知識は、当該技術分野の一般的な知識に属しており、リンカー、および様々なフォーマットに関するリンカーアミノ酸配列は、当該技術分野の一部であり、かつ上記で引用されている開示において開示されている。
【0283】
本発明の抗原結合タンパク質は、TCER(登録商標)フォーマットであることが特に好ましい。TCER(登録商標)フォーマットの実施形態では、抗原結合タンパク質は、上記で定義された式[IIa]および[IIb]により表される第1のポリペプチド鎖および第2のポリペプチド鎖を含み、式中、
- Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
は、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
は、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;または
は、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであり;
- LおよびLは、存在せず;
- LおよびLは、好ましくは、配列番号214のアミノ酸配列を含むか、またはからなり;
- DおよびDは、1対のFドメインFc1およびFc2であり、Fc1およびFc2は、異なっており、かつヘテロ二量体化を強制する突然変異(好ましくは、「ノブ・イントゥ・ホール」突然変異)を含む。
【0284】
好ましい実施形態では、
- Vは、配列番号108のアミノ酸を含むか、もしくはからなり、かつVは、配列番号109のアミノ酸を含むか、もしくはからなるか、または
- Vは、配列番号113のアミノ酸を含むか、もしくはからなり、かつVは、配列番号112、配列番号114、配列番号115、配列番号116、もしくは配列番号117のアミノ酸を含むか、もしくはからなるか、または
- Vは、配列番号120のアミノ酸を含むか、もしくはからなり、かつVは、配列番号118、配列番号123、配列番号125、もしくは配列番号127のアミノ酸を含むか、もしくはからなる。
【0285】
特に好ましい実施形態では、抗原結合タンパク質は、配列番号100、103、105、106、111、122、126、128、151、155、156、157、158、159、166、167、169、171、173、175、177、178、179、180、181、183、189、191、193、195、197、199、201、203、205、207、209、211、213、215、217、285、291、295、299、および303から選択される第1のポリペプチド鎖と、配列番号101、102、104、107、110、119、121、131、133、143、152、160、161、162、163、164、165、168、170、172、174、176、182、184、185、186、216、218、220、222、224、228、230、232、234、236、238、240、242、244、246、248、250、252、254、256、258、260、262、264、266、268、270、272、274、276、278、282、284、296、または300から選択される第2のポリペプチド鎖とを含む。
【0286】
さらにより好ましい実施形態では、抗原結合タンパク質は、配列番号100、103、105、151、156、158、166、167、175、178、180、183、193、285、291、295、299、および303から選択され、より好ましくは配列番号100、103、105、167、183、193、285、291、295、299、および303から選択される第1のポリペプチド鎖と、配列番号101、102、104、160、161、162、163、164、165、170、172、174、176、182、185、186、284、296、または300から選択され、より好ましくは配列番号101、102、104、160、162、176、186、284、296、または300から選択される第2のポリペプチド鎖とを含む。
【0287】
最も好ましい実施形態では、抗原結合タンパク質は、下記を含む:
- 配列番号100の第1のポリペプチド鎖、および配列番号101の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号103の第1のポリペプチド鎖、および配列番号102の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号105の第1のポリペプチド鎖、および配列番号104の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号167の第1のポリペプチド鎖、および配列番号160の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号183の第1のポリペプチド鎖、および配列番号176の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号193の第1のポリペプチド鎖、および配列番号186の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号285の第1のポリペプチド鎖、および配列番号284の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号291の第1のポリペプチド鎖、および配列番号284の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号295の第1のポリペプチド鎖、および配列番号186の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号295の第1のポリペプチド鎖、および配列番号296の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号299の第1のポリペプチド鎖、および配列番号162の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号285の第1のポリペプチド鎖、および配列番号300の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号303の第1のポリペプチド鎖、および配列番号162の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号291の第1のポリペプチド鎖、および配列番号300の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号151の第1のポリペプチド鎖、および配列番号284の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号156の第1のポリペプチド鎖、および配列番号162の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号158の第1のポリペプチド鎖、および配列番号284の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号158の第1のポリペプチド鎖、および配列番号300の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号303の第1のポリペプチド鎖、および配列番号161の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号303の第1のポリペプチド鎖、および配列番号163の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号291の第1のポリペプチド鎖、および配列番号164の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号291の第1のポリペプチド鎖、および配列番号170の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号291の第1のポリペプチド鎖、および配列番号172の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号291の第1のポリペプチド鎖、および配列番号174の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号166の第1のポリペプチド鎖、および配列番号170の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号166の第1のポリペプチド鎖、および配列番号172の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号166の第1のポリペプチド鎖、および配列番号174の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号291の第1のポリペプチド鎖、および配列番号182の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号291の第1のポリペプチド鎖、および配列番号185の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号175の第1のポリペプチド鎖、および配列番号186の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号178の第1のポリペプチド鎖、および配列番号186の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号180の第1のポリペプチド鎖、および配列番号186の第2のポリペプチド鎖、
特に、
- 配列番号100の第1のポリペプチド鎖、および配列番号101の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号103の第1のポリペプチド鎖、および配列番号102の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号105の第1のポリペプチド鎖、および配列番号104の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号158の第1のポリペプチド鎖、および配列番号300の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号167の第1のポリペプチド鎖、および配列番号160の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号183の第1のポリペプチド鎖、および配列番号176の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号193の第1のポリペプチド鎖、および配列番号186の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号285の第1のポリペプチド鎖、および配列番号284の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号291の第1のポリペプチド鎖、および配列番号164の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号291の第1のポリペプチド鎖、および配列番号284の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号295の第1のポリペプチド鎖、および配列番号186の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号295の第1のポリペプチド鎖、および配列番号296の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号299の第1のポリペプチド鎖、および配列番号162の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号285の第1のポリペプチド鎖、および配列番号300の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号303の第1のポリペプチド鎖、および配列番号162の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号291の第1のポリペプチド鎖、および配列番号300の第2のポリペプチド鎖、
さらにより特に、
- 配列番号158の第1のポリペプチド鎖、および配列番号300の第2のポリペプチド鎖、または
- 配列番号291の第1のポリペプチド鎖、および配列番号164の第2のポリペプチド鎖。
【0288】
そのため、最も好ましい実施形態では、抗原結合タンパク質は、配列番号158の第1のポリペプチド鎖、および配列番号300の第2のポリペプチド鎖を含み得る。
【0289】
scTCR
いくつかの実施形態では、第1および第2のポリペプチド、そのためVおよびVは、単一のポリペプチド鎖上に位置している。そのような実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、一本鎖TCRとして説明され得る。しかしながら、これは、抗原結合タンパク質に含まれるFR配列および定常ドメインに応じて、上述したように、一本鎖抗体または一本鎖TCR抗体分子とも称され得る。
【0290】
scTCRは、第1のTCRに由来するかまたは第1のTCRに由来するCDRを少なくとも含む可変ドメイン、第2のTCRに由来するかまたは第2のTCRに由来するCDRを少なくとも含む可変ドメイン、および第1または第2のTCRの定常ドメインを含み得、換言すると、一本鎖TCRは、1つのTCR(例えば、αまたはγ鎖)に由来する可変ドメイン、および別のTCRの鎖全体(例えば、βまたはδ鎖)、またはその逆を含む。さらに、scRCRは、ドメインを互いに連結する1つまたは複数のリンカー(好ましくは、ペプチドリンカー)を含むでもよい。本発明のそのようなscTCRも提供され、これは、ヒトサイトカイン(例えば、IL-2、IL-7、またはIL-15)に融合している。
【0291】
一実施形態では、前記一本鎖TCRは、V-L-V、V-L-V、V-Cα-L-V、V-Cβ-L-V、V-L-V-Cβ、V-L-V-Cα、V-Cα-L-V-Cβ、V-C-L-V-Cα(好ましくは、V-L-V、V-L-V)からなる群から選択される一本鎖フォーマットの内の1つで存在しており、ここで、Vは、本明細書の上記で定義されている第1の可変ドメインであり、Vは、本明細書の上記で定義されている第2の可変ドメインであり、CαおよびCβは、それぞれ、存在しているかまたは存在していないTCRアルファ定常ドメインおよびTCRベータ定常ドメインであり、Lは、存在しているかまたは存在していない、本明細書の上記定義セクションで定義されているリンカーである。
【0292】
特定の実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、配列番号79~87もしくは89~92の内のいずれかのアミノ酸配列、または配列番号79~87もしくは89~92と少なくとも85%同一のアミノ酸配列を含み、好ましくは、配列番号87のアミノ酸配列を含むscTCRである。
【0293】
scTCR-Fab
一本鎖TCRは、C末端またはN末端のいずれかに連結されているさらなる可変ドメイン、特に、上記で説明されているVおよび/またはVを含み得る。
【0294】
一実施形態では、そのようなさらなる可変ドメインは、リンカーLを介して連結され得る。好ましい一実施形態では、リンカーLは、本明細書の上記で定義されたリンカーであるか、または配列番号360のアミノ酸配列のヒンジ-CH1配列である。
【0295】
特定の実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、V、V、およびVまたはV(好ましくは、V)を含む第1のポリペプチド鎖と、VおよびVの他方(好ましくは、V)を含む第2のポリペプチド鎖とを含むscTCR-Fabである。好ましくは、scTCR-Fabは、配列番号94~98のいずれかのアミノ酸配列、または配列番号94~98と少なくとも85%同一のアミノ酸配列を含むかまたはからなる第1のポリペプチド鎖と、配列番号93のアミノ酸配列、または配列番号93と少なくとも85%同一のアミノ酸配列を含むかまたはからなる第2のポリペプチド鎖とを含む。
【0296】
完全長TCR
別の実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、2つのポリペプチド鎖を含み、Vは、(完全長)TCRαまたはγ鎖に含まれており;Vは、(完全長)TCRβまたはδ鎖に含まれている。そのような実施形態では、抗原結合タンパク質は、好ましくは、上記で説明されている従来のαβ TCRまたはγδ TCRの構造を有する。一実施形態では、TCRは、αβTCRであり、配列番号361に従うα鎖定常ドメイン(TRAC)配列と、配列番号362に従うβ鎖定常ドメイン(TRBC1またはTRBC2)配列とを含む。
【0297】
一実施形態では、TCR定常ドメイン配列は、任意の好適な種(例えば、任意の哺乳動物、例えば、ヒト、ラット、サル、ウサギ、ロバ、またはマウス、好ましくはヒト)に由来し得る。いくつかの好ましい実施形態では、TCR定常ドメイン配列は、例えば、TCRの発現および安定性を増加させ得る異種配列(好ましくはマウス配列)の導入により、わずかに改変され得る。同様に、当該技術分野で既知のさらなる安定化突然変異(例えば、国際公開第2018/104407号パンフレット、PCT/EP2018/069151、国際公開第2011/044186号パンフレット、同第2014/018863号パンフレット、例えば、可変領域における望ましくないアミノ酸の置き換え、ならびに/またはTCR Cドメイン間のジスルフィド架橋の導入、および不対システインの除去)を導入し得る。
【0298】
特に、TCR定常ドメイン配列を切断または置換により改変して、TRACのエクソン2のCys4と、TRBC1またはTRBC2のエクソン2のCys2との間のネイティブなジスルフィド結合を欠失させ得る。アルファ鎖および/またはデルタ鎖の定常ドメイン配列をまた、TRACのThr48およびTRBC1またはTRBC2のSer57のシステイン残基の置換によっても改変し得、前記システインは、TCRのアルファ定常ドメインとベータ定常ドメインとの間にジスルフィド結合を形成する。TRBC1またはTRBC2は、定常ドメインの75位でのシステインからアラニンへの突然変異、および定常ドメインの89位でのアスパラギンからアスパラギン酸への突然変異をさらに含み得る。定常ドメインは、さらにまたはあるいは、ネイティブTRACおよび/またはTRBC1/2配列に対するさらなる突然変異、置換、または欠失を含み得る。TRACおよびTRBC1/2という用語は、天然の多型変異体(例えば、TRACの4位でのNからKへ)を包含する(Bragado et al Int Immunol. 1994 Feb;6(2):223-30)。
【0299】
本発明はまた、抗原結合タンパク質(特に、TCR)を提示する粒子、および粒子のライブラリ内の前記粒子の包含も含む。そのような粒子として、ファージ、酵母、リボソーム、または哺乳動物細胞が挙げられるが、これらに限定されない。そのような粒子およびライブラリを製造する方法は、当該技術分野で既知である(例えば、国際公開第2004/044004号パンフレット;同第01/48145号パンフレット,Chervin et al. (2008) J. Immuno. Methods 339.2: 175-184を参照されたい)。
【0300】
核酸、ベクター、および組換え宿主細胞
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様の抗原結合タンパク質をコードする配列を含むかまたはからなる単離核酸に関する。
【0301】
「核酸」という用語は、本発明に関連して、デオキシリボヌクレオチド、またはリボヌクレオチド塩基、または両方の一本鎖または二本鎖のオリゴマーまたはポリマーを指す。ヌクレオチド単量体は、核酸塩基、五炭糖(例えば、限定されないが、リボースまたは2’-デオキシリボース)、および1~3個のリン酸基で構成されている。典型的には、核酸は、個々のヌクレオチド単量体間のホスホジエステル結合により形成されている。本発明に関連して、核酸という用語は、リボ核酸(RNA)分子およびデオキシリボ核酸(DNA)分子を含むがこれらに限定されず、他の結合を含む核酸の合成形態も含む[例えば、Nielsen et al. (Science 254:1497-1500, 1991)で説明されているペプチド核酸]。典型的には、核酸は、一本鎖分子または二本鎖分子であり、天然に存在するヌクレオチドで構成されている。核酸の一本鎖の描写は、相補鎖の配列も(少なくとも部分的に)定義する。核酸は、一本鎖であってもよいし二本鎖であってもよいか、または二本鎖配列および一本鎖配列の両方の一部を含んでもよい。例示されている二本鎖核酸分子は、3’または5’オーバーハングを有し得、そのため、その全長にわたり完全な二本鎖である必要はないが、そうであると思われる。核酸という用語は、染色体または染色体セグメント、ベクター(例えば、発現ベクター)、発現カセット、裸のDNAまたはRNAポリマー、プライマー、プローブ、cDNA、ゲノムDNA、組換えDNA、cRNA、mRNA、tRNA、マイクロRNA(miRNA)、または低分子干渉RNA(siRNA)を含む。核酸は、例えば、一本鎖、二本鎖、または三本鎖であり得、任意の特定の長さに限定されない。別途示されない限り、特定の核酸配列は、明示的に示されている任意の配列に加えて、相補配列を含むか、またはコードする。
【0302】
核酸は、細胞全体中に存在し得、細胞溶解物中に存在し得、または部分的に精製されているかもしくは実質的に純粋な形態の核酸であり得る。核酸は、標準的な技術により、他の細胞成分または他の夾雑物(例えば、他の細胞核酸またはタンパク質)から精製されている場合に、「単離されている」か、または「実質的に純粋になっている」。
【0303】
本開示の核酸分子を、増幅およびRNAの逆転写の方法が挙げられるがこれらに限定されない標準的な分子生物学的技術を使用し得ることができる。例えば可変鎖をコードするDAN断片が得られると、このDNA断片を、標準的な組換えDNA技術によりさらに操作して、例えば可変領域遺伝子を完全長鎖遺伝子へと変換させ得る。この操作では、変異体をコードするDNA断片は、別のDNA分子、または別のタンパク質(例えば、定常領域またはフレキシブルリンカー)をコードする断片に、作動可能に連結されている。「作動可能に連結されている」という用語は、この文脈で使用される場合、例えば、2つのDNA断片によりコードされるアミノ酸配列がインフレームのままであるように、またはタンパク質が所望のプロモーターの制御下で発現されるように、これら2つのDNA断片が機能的に連結されていることを意味することが意図されている。可変コードDNAを、定常領域をコードする別のDNA分子に作動可能に連結することにより、可変領域(例えば、可変アルファ領域および/または可変ベータ領域)をコードする単離DNAを完全長鎖遺伝子へと変換させ得る。例えばTCRまたは抗体に関するヒト定常領域遺伝子の配列は、当該技術分野で既知であり、この領域を包含するDNA断片を、標準的なPCR増幅により得ることができる。
【0304】
典型的には、前記核酸は、DNA分子またはRNA分子であり、これらは、好適なベクターに含まれ得る。
【0305】
本明細書で説明されている第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドは、1つの核酸分子または2つの別々の核酸分子によりコードされ得る。
【0306】
従って、本明細書で説明されている抗原結合タンパク質またはその機能的断片を製造するための発現ベクターおよび宿主細胞も本明細書で提供される。
【0307】
第3の態様では、本発明は、本発明の第2の態様の核酸を含むベクターに関する。
【0308】
「ベクター」、「クローニングベクター」、および「発現ベクター」という用語は、DNAまたはRNA配列(例えば外来遺伝子)を宿主細胞に導入して、この宿主を形質転換して、導入された配列の発現(例えば、転写および翻訳)を促進し得る媒体を指す。
【0309】
様々な発現ベクターを採用して、抗原結合タンパク質またはその機能的断片をコードするポリヌクレオチドを発現させ得る。ウイルスベースの発現ベクターおよび非ウイルスベースの発現ベクターの両方を使用して、哺乳動物宿主細胞中において、本明細書で説明されている抗原結合タンパク質またはその機能的断片を産生させ得る。非ウイルス性のベクターおよびシステムとして、複数のプラスミド、プラスミド、コスミド、エピソーム、人工染色体、ファージ、またはウイルスベクターが挙げられる。
【0310】
そのようなベクターは、対象への投与時に前記ポリペプチドの発現を引き起こすかまたは誘導するために、調節エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、および同類のもの)を含み得る。動物細胞用の発現ベクターで使用されるプロモーターおよびエンハンサーの例として、SV40の初期プロモーターおよびエンハンサー(Mizukami T. et al. 1987)、Moloneyマウス白血病ウイルスのLTRプロモーターおよびエンハンサー(Kuwana Y et al. 1987)、抗体重鎖のプロモーター(Mason JO et al. 1985)およびエンハンサー(Gillies SD et al. 1983)、ならびに同類のものが挙げられる。
【0311】
例えば、哺乳動物(例えば、ヒトまたは非ヒト)細胞中における、本明細書で説明されているポリヌクレオチドおよびポリペプチドの発現に有用な非ウイルスベクターとして、タンパク質の発現用に当該技術分野で既知の全ての好適なベクターが挙げられる。プラスミドの他の例として、複製起点を含む複製プラスミド、または組込みプラスミド(例えばpUC、pcDNA、pBR、および同類のもの)が挙げられる。
【0312】
「ウイルスベクター」という用語は、ウイルス起源の少なくとも1つの要素を含み、ウイルスベクター粒子へとパッケージされる能力を有しており、かつ少なくとも外来性核酸をコードする核酸ベクターコンストラクトを指す。ベクターおよび/または粒子を、インビトロまたはインビボのいずれかで細胞に目的の核酸を導入する目的に利用し得る。多数の形態のウイルスベクターが、当該技術分野で既知である。有用なウイルスベクターとして、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルスに基づくベクター、SV40、パピローマウイルス、エプスタイン・バーウイルス、ワクシニアウイルスベクター、およびSemliki Forest virus(SFV)に基づくベクターが挙げられる。組換えウイルスを、当該技術分野で既知の技術により製造し得、例えば、パッケージング細胞をトランスフェクトすることにより製造し得るか、またはヘルパープラスミドもしくはウイルスによる一過性トランスフェクションにより製造し得る。ウイルスパッケージング細胞の典型例として、PA317細胞、PsiCRIP細胞、GPenv+細胞、293細胞等が挙げられる。そのような複製欠損組換えウイルスを製造するための詳細なプロトコルを、例えば、国際公開第95/14785号パンフレット、同第96/22378号パンフレット、米国特許第5,882,877号明細書、同第6,013,516号明細書、同第4,861,719号明細書、同第5,278,056号明細書、および国際公開第94/19478号パンフレットで見出し得る。
【0313】
本明細書で説明されている第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドをコードする核酸は、同一のベクター中または別々のベクター中に存在し得る。本明細書で説明されている第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドは、同一のベクター中または別々のベクター中に存在し得る。
【0314】
第4の態様では、本発明は、本発明の第1の態様の抗原結合タンパク質、第2の態様の核酸、または第3の態様のベクターを含む宿主細胞に関する。この宿主細胞は、本発明に係る核酸および/またはベクターでトランスフェクトされていてもよいし、感染されていてもよいし、形質転換されていてもよい。
【0315】
「形質転換」という用語は、宿主細胞が、導入された遺伝子または配列を発現して、所望の物質(典型的には、本明細書で説明されている抗原結合タンパク質またはその機能的断片)を産生するような、宿主細胞への「外来」(即ち外因性)遺伝子、DNA、またはRNA配列の導入を意味する。導入されたDANまたはRNAを受け取って発現する宿主細胞は、「形質転換されている」。
【0316】
本発明の核酸を使用して、好適な発現系で本発明の組換え抗原結合タンパク質を産生し得る。「発現系」という用語は、例えば、ベクターにより運ばれて宿主細胞に導入された外来DNAによりコードされるタンパク質の発現のための、好適な条件下での宿主細胞および適合するベクターを意味する。
【0317】
一般的な発現系として、大腸菌(E.coli)宿主細胞およびプラスミドベクター、昆虫宿主細胞およびバキュロウイルス(Baculovirus)ベクター、ならびに哺乳動物宿主細胞およびベクターが挙げられる。宿主細胞の他の例として、原核細胞(例えば細菌)、および真核細胞(例えば、酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等)が挙げられるが、これらに限定されない。具体例として、大腸菌(E.coli)、クリベロミセス属(Kluyveromyces)またはサッカロマイセス属(Saccharomyces)の酵母、哺乳動物細胞株(例えば、Vero細胞、CHO細胞、3T3細胞、COS細胞、HEK細胞等)、ならびに初代または確立された哺乳動物細胞培養物(例えば、リンパ芽球、線維芽細胞、胚細胞、上皮細胞、神経細胞、脂肪細胞等から産生されたもの)が挙げられる。例としてまた、マウスSP2/0-Ag14細胞(ATCC CRL1581)、マウスP3X63-Ag8.653細胞(ATCC CRL1580)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子が欠損しているCHO細胞(Urlaub G et al;1980)、ラットYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞(ATCC CRL1662)、および同類のものも挙げられる。いくつかの実施形態では、YB2/0細胞が好ましい場合があり、なぜならば、この細胞中で発現された場合には、キメラ抗体またはヒト化抗体のADCC活性が増強されるからである。
【0318】
上記によれは、一実施形態では、本発明は、本明細書の上記で定義されている本発明の抗原結合タンパク質、または本発明の抗原結合タンパク質をコードする核酸、または本発明の抗原結合タンパク質をコードするベクターに言及しており、前記宿主細胞は、好ましくは、a)リンパ球、例えば、Tリンパ球もしくはTリンパ球前駆細胞、例えば、CD4もしくはCD8陽性T細胞、またはb)組換え発現用の細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0319】
特に、本発明の抗原結合タンパク質(特に、連結されていない2つのポリペプチドを含む抗原結合タンパク質)の一部の発現のために、発現ベクターは、抗体重鎖をコードする遺伝子と抗体軽鎖をコードする遺伝子とが別々のベクターに存在するタイプ、または両方の遺伝子が同一のベクターに存在するタイプ(タンデム型)のいずれかであり得る。抗原結合タンパク質発現ベクターの構築の容易さ、動物細胞への導入の容易さ、ならびに動物細胞中での抗体H鎖およびL鎖の発現レベル間のバランスに関する限りでは、タンデム型のヒト化抗体発現ベクターが好ましい(Shitara K et al. J Immunol Methods. 1994 Jan. 3; 167(1-2):271-8)。タンデム型のヒト化抗体発現ベクターの例として、pKANTEX93(国際公開第97/10354号パンフレット)、pEE18、および同類のものが挙げられる。
【0320】
一実施形態では、そのような組換え宿主細胞を、本発明の少なくとも1種の抗原結合タンパク質の製造に使用し得る。
【0321】
医薬組成物
第5の態様では、本発明は、本発明の抗原結合タンパク質、本発明の核酸、本発明のベクター、または本発明の宿主細胞と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物に関する。
【0322】
本発明の抗原結合タンパク質は、腫瘍細胞に対して細胞傷害性をもたらし得ることが示されている。そのため、本発明の抗原結合タンパク質は、患者の腫瘍細胞を破壊するのに有用である。患者における免疫反応を、理想的には、免疫原性を増強する薬剤(即ち、アジュバント)と組み合わされた、説明されている抗原結合タンパク質の患者への直接投与により誘発し得る。そのような治療用ワクチン接種により生じる免疫反応は、腫瘍細胞に対して非常に特異的であることが予想され得、なぜならば、ペプチドSLLQHLIGL(配列番号50)は、正常組織上では、同程度のコピー数で提示されないかまたは過剰に提示されないからであり、患者の正常組織細胞に対する望ましくない自己免疫反応のリスクが予防される。
【0323】
本発明はまた、医薬品としての使用のための、本発明に係る抗原結合タンパク質にも関する。本発明はまた、医薬品としての使用のための、本発明の医薬組成物にも関する。
【0324】
「医薬組成物」または「治療用組成物」という用語は、本明細書で使用される場合、対象に適切に投与された場合に所望の治療効果を誘発可能な化合物または組成物を指す。
【0325】
いくつかの実施形態では、対象はまた、患者とも称され得る。
【0326】
そのような治療用組成物または医薬組成物は、投与様式に適合するように選択された薬学的にまたは生理学的に許容される製剤との混合物で、本発明の抗原結合タンパク質、または治療薬をさらに含む抗原結合タンパク質の治療上有効な量を含み得る。
【0327】
本発明の抗原結合タンパク質は、通常、薬学的に許容される担体および/または薬学的に許容される担体希釈剤を通常は含む滅菌医薬組成物の一部として供給される。
【0328】
「薬学的に」または「薬学的に許容される」は、必要に応じて、哺乳動物(特に、ヒト)に投与された場合に、有害反応、アレルギー反応、または他の有害な反応を生じない分子実態および組成物を指す。薬学的に許容される担体または賦形剤は、任意のタイプの非毒性の固体、半固体、または液体の充填剤、希釈剤、カプセル化材料、または製剤化補助剤を指す。
【0329】
「薬学的に許容される担体または賦形剤」はまた、「薬学的に許容される希釈剤」または「薬学的に許容される媒体」とも称され得、生理学的に適合する溶媒、増量剤、安定化剤、分散媒体、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤、および同類のものを含み得る。従って、一実施形態では、担体は、水性担体である。
【0330】
別の態様では、水性担体は、本明細書で説明されている抗原結合タンパク質と組み合わされた場合に、改善された特性(例えば、改善された溶解性、有効性、および/または改善された免疫療法)を付与することが可能である。
【0331】
医薬組成物の形態、投与経路、投与量、およびレジメンは、当然のことながら、処置する状態、疾病の重症度、患者の年齢、体重、および性別等に依存する。この医薬組成物は、(患者に投与する所望の方法に応じて)任意の好適な形態であり得る。この医薬組成物は、単位剤形で提供され得、一般に、密封容器で提供され得、かつキットの一部として提供され得る。そのようなキットは、通常は(必ずしもではないが)使用説明書を含むだろう。そのようなキットはまた、複数の前記単位剤形を含み得る。
【0332】
生物学的半減期等の経験による考察は、一般に、投与量の決定に寄与する。投与頻度は、決定されて治療期間中に調整され得、かつがん細胞の数の減少、がん細胞の減少の維持、がん細胞の増殖の減少、またはがん細胞の殺滅に基づいている。あるいは、抗原結合タンパク質の持続的連続放出製剤が適切であり得る。持続放出を達成するための様々な製剤およびデバイスが、当該技術分野で既知である。
【0333】
一実施形態では、抗原結合分子の投与量を、1回または複数回の投与を受けている個体において、経験的に決定し得る。個体に、抗原結合タンパク質の漸増投与量を投与する。抗原結合タンパク質の有効性を評価するために、がん細胞の状態のマーカーを追跡し得る。これには、FACS、他の撮像技術によるがん細胞の増殖および細胞死の直接測定、そのような測定により評価される場合の健康状態の改善、または受け入れられている検査により測定した場合の生活の質の向上、もしくは生存期間の延長が含まれる。投与量が、個体、疾患の段階、ならびに使用されている過去および同時の処置に応じて異なることは、当業者に明らかであるだろう。
【0334】
特に、本医薬組成物は、注射可能な製剤に薬学的に許容される媒体を含む。これは、特に、等張性の滅菌生理食塩水(リン酸一ナトリウムもしくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、もしくは塩化マグネシウム、および同類のもの、またはそのような塩の混合物)、または乾燥(特に凍結乾燥された)組成物であり得、これらは、場合によっては、滅菌水または生理食塩水の添加により注射液を構成し得る。
【0335】
投与に使用される用量を、様々なパラメータの関数として適合させ得、特に、使用される投与様式の関数として適合させ得るか、関連する病理の関数として適合させ得るか、あるいは所望の処置期間の関数として適合させ得る。
【0336】
医薬組成物を調製するために、本発明の抗原結合タンパク質の有効量を、薬学的に許容される担体または水性媒体に溶解させ得るか、または分散させ得る。
【0337】
注射用途に好適な医薬形態として、無菌の水溶液または分散液;ゴマ油、ピーナッツ油、または水性プロピレングリコールを含む製剤;および無菌の注射用の溶液または分散液の即時調製のための滅菌粉末が挙げられる。全ての場合で、製剤は、無菌でなければならず、かつ容易にシリンジで注入可能になる程度まで流体でなければならない。この製剤は、製造および保存の条件下で安定でなければならず、かつ細菌および真菌等の微生物の汚染作用に対して保たれていなければならない。
【0338】
遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液を、ヒドロキシプロピルセルロース等の界面活性剤と適切に混合された水中で調製し得る。分散液をまた、グリセロール、液状ポリエチレングリコール、およびこれらの混合物中でも調製し得、油中でも調製し得る。通常の保存および使用の条件下では、これらの製剤は、微生物の増殖を防ぐための防腐剤を含む。
【0339】
本発明の抗原結合タンパク質を、中性または塩の形態で組成物に配合し得る。薬学的に許容される塩として、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と形成される)が挙げられ、この酸付加塩は、無機酸(例えば、塩酸もしくはリン酸等)または有機酸(例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸、および同類のもの)と共に形成されている。遊離カルボキシル基と共に形成されている塩はまた、例えば、無機塩基(例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化第二鉄)、ならびに有機塩基(例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、グリシン、ヒスチジン、プロカイン、および同類のもの)からも誘導され得る。
【0340】
必要な量の活性化合物を、必要に応じて、上記で列挙されている様々な他の成分と共に、適切な溶媒に組込み、続いてろ過滅菌することにより、滅菌注射液を調製する。一般に、基本的な分散媒と、上記で列挙されたものからの必要な他の成分とを含む滅菌媒体に、様々な滅菌有効成分を組み込むことにより、分散液を調製する。滅菌注射液を調製するための滅菌粉末の場合には、好ましい調製方法は、予め滅菌ろ過した溶液から、有効成分および任意の追加の所望の成分の粉末を得る真空乾燥技術および凍結乾燥技術である。
【0341】
直接注射用のより多くのまたはより高濃度の溶液の調製も企図されており、溶媒としてのDMSOの使用により、非常に迅速な浸透がもたらされ、高濃度の活性剤が小さい腫瘍領域に送達されることが想定される。
【0342】
製剤では、溶液を、投与製剤と適合する方法で、および治療上有効な量で投与する。この製剤は、上述の注射液の種類等の様々な剤形で容易に投与されるが、薬物放出カプセルおよび同類のものも採用し得る。
【0343】
抗原結合タンパク質を製造する方法
第6の態様では、本発明は、本発明の第1の態様の抗原結合タンパク質を製造する方法であって、
(a)宿主細胞を準備すること、
(b)この抗原結合タンパク質をコードするコード配列を含む遺伝子コンストラクトを準備すること、
(c)前記遺伝子コンストラクトを前記宿主細胞に導入すること、ならびに
(d)前記宿主細胞により前記遺伝子コンストラクトを発現させること、ならびに適宜
(e)前記抗原結合タンパク質を発現するおよび/または分泌する細胞を選択すること
を含む方法に関する。
【0344】
一実施形態では、この方法は、宿主細胞からの抗原結合タンパク質の単離および精製、ならびに適宜、T細胞中での抗原結合タンパク質の再構成をさらに含む。当業者は、抗原結合タンパク質を発現させるのに好適な宿主細胞を選択することが完全に可能である。
【0345】
本発明の抗原結合タンパク質を、当該技術分野で既知の任意の技術(例えば、限定されないが、任意の化学的技術、生物学的技術、遺伝学的技術、または酵素的技術の単独または組合せ)により製造し得る。
【0346】
本発明の抗原結合タンパク質は、抗体精製手順(例えば、例えば、プロテインA-セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、または親和性クロマトグラフィー)により、培養培地から好適に分離される。
【0347】
一実施形態では、発現された抗原結合タンパク質またはポリペプチドを回収することは、本明細書では、プロテインAクロマトグラフィー、カッパセレクトクロマトグラフィー、および/またはサイズ排除クロマトグラフィー、好ましくはプロテインAクロマトグラフィーおよび/またはサイズ排除クロマトグラフィー、より好ましくはプロテインAクロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーを実施することを指す。
【0348】
所望の配列のアミノ酸配列を知ることにより、当業者は、ポリペプチドの製造のための標準的な技術により、本発明の抗原結合タンパク質を製造し得る。例えば、このタンパク質を、公知の固相法を使用して、特に、市販のペプチド合成装置(例えば、Applied Biosystems,Foster City,California製のもの)を使用して、かつ製造業者の指示に従って、合成し得る。あるいは、本発明の抗体および抗原結合タンパク質を、当該技術分野で公知の組換えDNAおよび遺伝性トランスフェクション技術により製造し得る[Morrison SL. et al. (1984) and patent documents US5,202,238; and US5,204, 244を参照されたい]。例えば、断片を、所望の(ポリ)ペプチドをコードするDNA配列を発現ベクターに組み込み、そのようなベクターを、所望のポリペプチドを発現する好適な真核生物または原核生物の宿主に導入した後に、DNA発現産物として得ることができ、その後、この断片を、公知の技術を使用して単離し得る。
【0349】
一例[即ち、TCER(登録商標)の場合]では、VHおよびVL、ならびに可変アルファ(Vアルファ)および可変ベータ(Vベータ)の様々な組合せをコードするDNA配列、ならびにリンカーをコードするDNA配列を、例えば遺伝子合成により得ることができる。得られたDNA配列を、例えば、それぞれヒトIgG4[Accession#:K01316]およびIgG1[Accession#:P01857]に由来するヒンジ領域、CHドメイン、およびCHドメインをコードする発現ベクターに、インフレームでクローニングし得、さらに操作し得る。Reiter et al. (Stabilization of the Fv Fragments in Recombinant Immunotoxins by Disulfide Bonds Engineered into Conserved Framework Regions. Biochemistry, 1994, 33, 5451 - 5459)により説明されている方法に従って、操作を実施して、追加の鎖間ジスルフィド結合安定化の有無にかかわらず、CHドメインにノブ・イントゥ・ホール突然変異を組み込み得;CH中のN-グリコシル化部位を除去し得(例えばN297Q突然変異);それぞれVおよびVにFサイレンシング突然変異を導入するかまたは追加のジスルフィド結合安定化を導入し得る。
【0350】
従来の組換えDNAおよび遺伝子のトランスフェクション技術に基づいてヒト化抗体を製造する方法は、当該技術分野で公知であり(例えば、Riechmann L. et al. 1988; Neuberger MS. et al. 1985を参照されたい)、抗原結合タンパク質の製造に容易に適用し得る。
【0351】
一例では、本発明の組換え抗原結合タンパク質の発現用のベクターを、例えば、HCMV由来のプロモーターエレメント、pUC19誘導体により制御されるモノシストロニックとして設計した。プラスミドDNAを、例えば、標準的な培養方法に従って大腸菌(E.coli)中で増殖させ、その後に市販のキット(Macherey & Nagel)を使用して精製した。精製されたプラスミドDNAを、例えば、製造業者の指示に従って、CHO-S細胞の一過性トランスフェクションに使用した(ExpiCHO(商標)システム;Thermo Fisher Scientific)。トランスフェクトされたCHO細胞を、例えば32℃~37℃で6~14日にわたり培養し、ExpiCHO(商標)Feed溶液の1~2回の餌を与えた。
【0352】
条件付け細胞上清を、例えば、Sartoclear Dynamics(登録商標)Lab Filter Aid(Sartorius)を利用するろ過(0.22μm)により清澄化した。二重特異性抗原結合タンパク質を、例えば、親和性クロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーをインラインで実施するように装備されたAekta Pure 25 L FPLCシステム(GE Lifesciences)を使用して精製した。親和性クロマトグラフィーを、例えば、標準的な親和性クロマトグラフィープロトコルに従ってプロテインAまたはLカラム(GE Lifesciences)で実施した。例えば、サイズ排除クロマトグラフィーを、例えば、標準プロトコルに従ってSuperdex 200 pg 16/600カラム(GE Lifesciences)を使用して、親和性カラムからの溶出(pH2.8)直後に実施して、高純度の単量体タンパク質を得た。タンパク質濃度を、例えば、予測されるタンパク質配列に従って算出された減衰係数を使用して、NanoDropシステム(Thermo Scientific)で決定した。濃度を、必要に応じて、Vivaspinデバイス(Sartorius)を使用して調整した。最後に、精製された分子を、例えば、2~8℃の温度で約1mg/mLの濃度にて、リン酸緩衝生理食塩水中で保存した。
【0353】
精製された二重特異性抗原結合タンパク質の品質を、例えば、Vanquish UHPLC-System内で、300 mM NaClを含む50mM リン酸ナトリウム(pH6.8)で動作するMabPac SEC-1カラム(5μm、7.8×300mm)によるHPLC-SECにより決定した。
【0354】
治療方法および治療用途
第7の態様では、本発明は、医薬での使用のための、特に、増殖性疾患の診断、予防、および/または処置での使用のための、第1の態様の抗原結合タンパク質、第2の態様の核酸、第3の態様のベクター、第4の態様の宿主細胞、または第5の態様の医薬組成物を提供する。治療用途(即ち、予防および/または処置)のために、本抗原結合タンパク質は、MHCとの複合体中のPRAME抗原ペプチドに結合する第1の抗原結合部位(即ち、VおよびVにより形成された抗原結合部位)と、エフェクター細胞の抗原に結合する第2の抗原結合部位(即ち、VおよびVにより形成された抗原結合部位)とを含むことが好ましい。本発明者らは、本発明のいくつかの二重特異性化合物に関して、Hs695TおよびU20S等のPRAME陽性がん細胞株に対するコンストラクトの細胞傷害活性を、インビトロでの実験セクションで示している。本発明者らは、ペプチドPRAME-004を提示しない細胞株では、二重特異性抗原結合タンパク質により誘発された溶解はわずかであったのみであったことから、前記細胞傷害活性は、高度に特異的であり、かつPRAME陽性細胞に限定されることをさらに実証している。
【0355】
従って、本発明の抗原結合タンパク質[特に、TCER(登録商標)等の二重特異性抗原結合タンパク質]を使用して、がんを処置し得る。本発明の抗原結合タンパク質を、ヒトおよび/または非ヒト哺乳動物での治療目的に使用し得る。一実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、腫瘍細胞に結合して、細胞表面上でペプチドSLLQHLIGL(配列番号50):MHC複合体を提示する腫瘍細胞の増殖を減少させ得、および/または殺滅し得る。この抗原結合タンパク質を、生理学的(例えば、インビボ)条件で結合を促進する濃度にて投与することが理解される。別の実施形態では、抗原結合タンパク質を、肺、乳房、卵巣、または腎臓等の様々な組織の腫瘍細胞に対する免疫療法に使用し得る。別の実施形態では、この抗原結合タンパク質は、単独で腫瘍細胞に結合して、この腫瘍細胞の増殖を減少させ得、および/または殺滅し得る。
【0356】
従って、本発明は、増殖性疾患または障害を処置するかまたは予防する方法であって、本明細書の上記「抗原結合タンパク質」、「核酸」、または「医薬組成物」セクションで定義されている本発明に係る抗原結合タンパク質、核酸またはベクター、宿主細胞または医薬組成物の治療上有効な量を、必要な対象に投与することを含む方法に関する。
【0357】
特定の実施形態では、本発明は、増殖性疾患を有する対象を処置する方法であって、前記対象に、細胞表面上で本発明の抗原結合タンパク質を発現するT細胞を投与することを含む方法に関する。
【0358】
さらなる実施形態では、本発明は、増殖性疾患を有する対象において免疫反応を誘発する方法であって、前記対象に、細胞表面上で本発明のコンストラクトを認識する抗原を発現するT細胞を含む組成物を投与することを含む方法に言及する。
【0359】
一実施形態では、前記方法で言及されている免疫反応は、細胞傷害性T細胞反応である。
【0360】
一実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質、本発明の核酸または本発明のベクター、本発明の宿主細胞または本発明の医薬組成物は、増殖性疾患の診断、予防、および/または処置での使用のためのものである。
【0361】
本発明は、対象の増殖性疾患または障害を処置するかまたは予防するための医薬品の調製のための、本発明に係る抗原結合タンパク質、核酸またはベクター、宿主細胞または医薬組成物の使用にさらに言及する。
【0362】
一実施形態では、本発明は、MHCタンパク質との複合体中のSLLQHLIGL(配列番号50)のアミノ酸配列を含むかまたはからなるペプチドを提示するがんを有する患者において免疫反応を誘発する方法であって、この患者に、本開示の抗原結合タンパク質を投与することを含み、前記がんは、急性骨髄性白血病、乳がん、胆管細胞癌、胆嚢がん、膠芽腫、肝細胞癌、頭頸部扁平上皮癌、黒色腫、無色素性黒色腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん腺癌、非小細胞肺がん、扁平上皮非小細胞肺がん、卵巣がん、食道がん、腎細胞癌、小細胞肺がん、膀胱癌、子宮および子宮内膜がん、骨肉腫、慢性リンパ性白血病、結腸直腸癌、ならびに滑膜肉腫からなるがんの群から選択される、方法に言及する。
【0363】
一実施形態では、本発明は、対象の疾患または障害を処置するかまたは予防するための、本発明に係る抗原結合タンパク質、核酸またはベクター、宿主細胞または医薬組成物の使用を指す。
【0364】
「対象」または「個体」という用語は、互換的に使用され、例えば、ヒトまたは非ヒト哺乳動物であり得、好ましくはヒトであり得る。
【0365】
本発明に関連して、「処置する」または「処置」という用語は、治療的使用(即ち、所与の疾患を有する対象に対する)を指しており、そのような障害または状態の1つまたは複数の症状の反転、緩和、進行の阻害を意味する。従って、処置は、疾患が完全に治癒される処置を指すだけでなく、疾患の進行を遅延させるおよび/または対象の生存期間を延ばす処置も指す。
【0366】
「予防する」は、予防的使用(即ち、所与の疾患を発症しやすい対象に対する)を意味する。
【0367】
一実施形態では、「疾患」または「障害」とは、本発明の抗原結合タンパク質による処置から利益を得るであろうあらゆる状態のことである。一実施形態では、これには、対象を問題の障害にかかりやすくさせる病理学的状態を含む慢性および急性の障害または疾患が含まれている。「処置が必要な」という用語は、障害を既に有する対象、および障害を予防すべきである対象を指す。
【0368】
特定の実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、二重特異性であり、より具体的には、本明細書で説明されているTCER(登録商標)である。
【0369】
がん等の「増殖性疾患」は、細胞の無秩序なおよび/または不適当な増殖を伴う。
【0370】
従って、一実施形態では、増殖性障害は、がんである。
【0371】
さらなる実施形態では、がんは、PRAME抗原が、過剰発現されている、突然変異している、および/またはMHCと関連するPRAME由来の腫瘍関連抗原が提示されるがんである。
【0372】
従って、特に好ましいがんは、PRAME陽性がんである。
【0373】
本発明に関連して、関連するペプチド(例えば、PRAME-004ペプチド)が、NCIによるガイドラインに従って全がんの98%超で提示されている場合には、がんは、「PRAME陽性」とみなされる。ここで挙げられた全ての他の適応症では、生検を、これらの癌の処置で標準的であることから実施し得、ペプチドを、XPresident(登録商標)および関連する方法に従って[国際公開第03/100432号パンフレット;同第2005/076009号パンフレット;同第2011/128448号パンフレット;同第2016/107740号パンフレット、米国特許第7,811,828号明細書、同第9,791,444号明細書、および米国特許出願公開第2016/0187351号明細書(それぞれの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に従って]同定し得る。一実施形態では、例えば、本発明の抗原結合タンパク質を使用することにより、がんを容易にアッセイする(即ち、診断する)。抗原結合タンパク質を使用して、抗原を発現するがんを同定する方法は、当業者に既知である。癌腫は、身体の臓器を補強するかまたは覆う皮膚または組織で出現する特定のタイプのがんであることから、「がん」および「癌腫」という用語は、本明細書では互換的に使用されないことを理解しなければならない。
【0374】
一実施形態では、PRAME「陽性」である(即ち、標的ペプチドを提示する)がんは、急性骨髄性白血病、乳がん、胆管細胞癌、胆嚢がん、膠芽腫、肝細胞癌、頭頸部扁平上皮癌、黒色腫、無色素性黒色腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん腺癌、非小細胞肺がん、扁平上皮非小細胞肺がん、卵巣がん、食道がん、腎細胞癌、小細胞肺がん、膀胱癌、子宮および子宮内膜がん、骨肉腫、慢性リンパ性白血病、結腸直腸癌、ならびに滑膜肉腫からなる群から選択され、好ましくは、乳がん、胆管細胞癌、肝細胞癌、頭頸部扁平上皮癌、扁平上皮非小細胞肺がん、卵巣がん、食道がん、腎細胞癌、小細胞肺がん、膀胱癌、子宮および子宮内膜がん、ならびに滑膜肉腫からなる群から選択される。
【0375】
一実施形態では、がんが、PRAME抗原が過剰発現されている、突然変異している、および/またはMHCに関連するPRAEM由来の腫瘍関連抗原が提示されているがんである場合には、例えば本発明の抗原結合タンパク質を使用することにより、容易にアッセイされる。抗原結合タンパク質を使用して、抗原を発現するがんを同定する方法は、当業者に既知である。
【0376】
がん治療のガイドラインを示すテキストは、Cancer, Principles and Practice of Oncology, 4th Edition, DeVita et al, Eds. J. B. Lippincott Co., Philadelphia, Pa. (1993)である。関連分野で認識されているように、特定のタイプのがん、および他の因子(例えば、患者の全身状態)に従って、適切な治療アプローチが選択される。本発明の抗原結合タンパク質を、それ自体で使用し得るか、またはがん患者の処置で他の抗新生物剤を使用する治療レジメンに加え得る。
【0377】
従って、いくつかの実施形態では、例えば、抗原結合タンパク質を、化学療法剤、非化学療法剤、抗新生物剤、および/または放射線等のがん処置で広く採用されている様々な薬物および処置と同時に、その前に、またはその後に投与し得る。
【0378】
一実施形態では、本発明は、MHCタンパク質との複合体でSLLQHLIGL(配列番号50)のアミノ酸配列を含むかまたはからなるペプチドを提示するがんを有する患者を処置する方法であって、この患者に、本開示の抗原結合タンパク質を投与することを含み、前記がんは、急性骨髄性白血病、乳がん、胆管細胞癌、胆嚢がん、膠芽腫、肝細胞癌、頭頸部扁平上皮癌、黒色腫、無色素性黒色腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん腺癌、非小細胞肺がん、扁平上皮非小細胞肺がん、卵巣がん、食道がん、腎細胞癌、小細胞肺がん、膀胱癌、子宮および子宮内膜がん、骨肉腫、慢性リンパ性白血病、結腸直腸癌、ならびに滑膜肉腫からなるがんの群から選択される、方法に関する。
【0379】
「診断」は、本明細書では、医学的診断を指しており、どの疾患または状態がヒトの症状および徴候を説明するかを決定することを指す。
【0380】
抗原結合タンパク質またはその医薬組成物の「治療上有効な量」は、任意の医学的処置に適用可能な妥当なベネフィット/リスク比で前記増殖性疾患を処置するのに十分な量の抗原結合タンパク質を意味する。しかしながら、本発明の抗原結合タンパク質、核酸またはベクター、宿主細胞または医薬組成物の1日当たりの総使用量は、健全な医学的判断の範囲内で主治医により決定されることが理解されるだろう。任意の特定の患者に関する具体的な治療上有効な用量は、様々な因子に依存しており、この因子として下記が挙げられる:処置される障害および障害の重症度;採用される具体的な抗原結合タンパク質の活性;採用される具体的な組成物;患者の年齢、体重、全体的な健康状態、性別、および食事;採用される具体的なポリペプチドの投与時間、投与経路、および排出速度;処置の継続期間;採用される具体的なポリペプチドと併用されるかまたは同時に使用される薬物;ならびに医学技術分野で公知の同類の因子。例えば、所望の治療効果を得るのに必要なレベルと比べて低いレベルで化合物の用量を開始し、所望の効果が得られるまで投与量を徐々に増加させることが当業者に公知である。
【0381】
一実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質による処置の有効性を、例えば、がんのマウスモデルにおいて、例えば、処置群とコントロール群との間の腫瘍体積の変化を測定することにより、インビボでアッセイする。
【0382】
本発明の医薬組成物、ベクター、核酸、および細胞は、実質的に純粋な形態で提供され得、例えば、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%純粋な形態で提供され得る。
【0383】
本発明の抗原結合タンパク質、本発明の核酸または本発明のベクター、本発明の宿主細胞または本発明の医薬組成物を、任意の実現可能な方法により投与し得る。
【0384】
本明細書で開示されているように、いくつかの実施形態では、本明細書の上記で定義されている宿主細胞を、本明細書で説明されている医療用途または処置方法で使用する。同じ実施形態では、宿主細胞は、好ましくは、a)リンパ球、例えば、Tリンパ球またはTリンパ球前駆細胞であり、例えば、CD4またはCD8陽性T細胞であり、最も好ましくはT細胞である。
【0385】
従って、本発明の宿主細胞(好ましくは、T細胞)を、治療用組成物の有効成分として使用し得る。そのため、本発明はまた、ペプチドSLLQHLIGL(配列番号50)を含むポリペプチドを標的細胞が異常発現する患者において標的細胞を殺滅する方法であって、患者に、宿主細胞(好ましくはT細胞)の有効数を投与することを含む方法も提供する。この方法に関連して、宿主細胞は、対象に投与されると、好ましくは免疫反応を誘発する。
【0386】
ある態様では、TCRにより誘発された反応、またはT細胞反応は、インビトロまたはインビボにおける、SLLQHLIGL(配列番号50)等のペプチドにより誘発されるエフェクター機能の増大および活性化を指し得る。MHCクラスIにより制限された細胞傷害性T細胞の場合には、例えば、エフェクター機能は、ペプチドパルスされた、ペプチド前駆体パルスされた、もしくは天然にペプチドを提示する標的細胞の溶解、ペプチドにより誘発されるサイトカイン(好ましくは、インターフェロン-ガンマ、TNF-アルファ、もしくはIL-2)の分泌、ペプチドにより誘発されるエフェクター分子(例えば、グランザイムもしくはパーフォリン)の分泌、または脱顆粒であり得る。
【0387】
従って、本明細書の上記で定義されている宿主細胞は、対象由来であってもよいし(自己)、別の個体であってもよく、好ましくは、前記他の個体は、健康である。
【0388】
「健康」は、対象が、一般に良好な健康状態であり、好ましくは、適格性の免疫系を有しており、より好ましくは、容易に検査されて検出され得る任意の疾患に罹患していないことを意味する。
【0389】
具体例では、宿主細胞は、T細胞である。従って、本発明に関連して、本明細書の上記で定義されているT細胞を医薬品として使用する場合には、通常、T細胞を、アフェレーシスにより細胞から採取する。次いで、T細胞を、その細胞表面上で本発明の抗原結合タンパク質を発現するように遺伝子操作し、次いで、遺伝子操作されたT細胞を増殖させて、次いで対象に再注入する。この例では、抗原結合タンパク質は、好ましくはTCRである。
【0390】
別のアプローチでは、宿主細胞は、間葉系幹細胞等の幹細胞であり得、本発明の抗原結合タンパク質を発現するように操作されている。この例では、抗原結合タンパク質は、本明細書の上記で定義されている抗体、scTCR、またはダイアボディ等の可溶性タンパク質である。
【0391】
従って、宿主細胞は、本明細書の上記「核酸、ベクター、および組換え宿主細胞」セクションで説明されているように、本発明に係る核酸および/またはベクターでトランスフェクトされているか、感染されているか、または形質転換されている。
【0392】
本発明の抗原結合タンパク質を発現させるために宿主細胞をトランスフェクトした場合には、好ましくは、細胞は、抗原結合タンパク質を発現可能な発現ベクターを含む。次いで、宿主細胞は、活性化宿主細胞と称され得る。
【0393】
このいわゆるT細胞の養子移入のプロトコルは、当該技術分野で公知である。概説を、Gattioni et al.およびMorgan et al.[Gattinoni, L. et al., Nat.Rev.Immunol. 6 (2006): 383-393;Morgan, R. A. et al., Science 314 (2006): 126-129]で見出し得る。
【0394】
多くの他の方法を使用して、インビトロでT細胞を生成し得る。例えば、自己腫瘍浸潤リンパ球を、CTLの生成で使用し得る。Plebanski et al. (Plebanski, M. et al., Eur.J Immunol 25 (1995): 1783-1787)は、T細胞の調製において自己末梢血リンパ球(PLB)を使用した。同様に、B細胞を、自己T細胞の製造で使用し得る。
【0395】
T細胞の調製では同種細胞も使用し得、方法が、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6805861号明細書で詳細に説明されている。
【0396】
ペプチドSLLQHLIGL(配列番号50)に対して本発明の抗原結合タンパク質を発現する宿主細胞は、治療に有用である。そのため、本発明のさらなる態様は、本発明の上述の方法により得られる活性化宿主細胞を提供する。
【0397】
上記方法により製造される活性化宿主細胞は、ペプチドSLLQHLIGL(配列番号50)を含むポリペプチドを異常発現する細胞を特異的に認識し得る。
【0398】
「異常発現される」により、本発明者らはまた、ポリペプチドが、正常な(健康な)組織の発現レベルと比較して過剰発現されていること、または腫瘍が由来する組織では遺伝子がサイレントであるが腫瘍内では遺伝子が発現されることも意味する。「過剰発現される」により、本発明者らは、ポリペプチドが、正常組織中に存在するレベルの少なくとも1.2倍のレベルで存在することを意味しており、好ましくは、正常組織中に存在するレベルの少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも5倍または10倍のレベルで存在することを意味している。
【0399】
ある態様では、宿主細胞(特に、T細胞)は、その抗原結合タンパク質(特に、そのTCR)を介してPRAME-004複合体と相互作用する(例えば結合する)ことにより、細胞を認識する。宿主細胞は、ペプチドSLLQHLIGL(配列番号50)を含むポリペプチドを標的細胞が異常発現する患者の標的細胞を殺滅する方法で有用であり、この患者に、活性化宿主細胞の有効数を投与する。患者に投与されるT細胞は、患者に由来し得、上述したように活性化され得る(即ち,自己T細胞である)。あるいは、T細胞は、患者由来ではないが、別の個体由来である。当然のことならが、これは、個体が健康な個体である場合に好ましい。「健康な個体」により、本発明者らは、個体が、一般に良好な健康状態であり、好ましくは、適格性の免疫系を有しており、より好ましくは、容易に検査されて検出され得る任意の疾患に罹患していないことを意味する。
【0400】
インビボでは、本発明に係るCD8陽性T細胞の標的細胞は、腫瘍の細胞(MHCクラスIIを発現することがある)および/または腫瘍(腫瘍細胞)を取り囲む間質細胞(MHCクラスIIも発現することがある)であり得る[Dengjel, J. et al., Clin Cancer Res 12 (2006): 4163-4170]。
【0401】
診断用途
PRAMEは、本明細書の上記で定義されたPRAME発現がんの表面上で発現される。抗原PRAMEは、がんマーカーを構成し、従って、抗がん治療の有効性を示すために使用される可能性を有するか、または疾患の再発の検出のために使用される可能性を有する。
【0402】
そのため、別の態様では、本発明は、診断薬としての使用のための、特に、インビボ診断薬としての使用のための、第1の態様の抗原結合タンパク質、第2の態様の核酸、第3の態様のベクター、第4の態様の宿主細胞、または第5の態様の医薬組成物を提供する。好ましい実施形態では、この診断薬は、増殖性疾患の診断用である。より好ましい実施形態では、この診断薬は、MHCタンパク質との複合体でSLLQHLIGL(配列番号50)のアミノ酸配列を含むかまたはからなるペプチドを提示するがんの診断用であり、好ましくは、前記がんは、急性骨髄性白血病、乳がん、胆管細胞癌、胆嚢がん、膠芽腫、肝細胞癌、頭頸部扁平上皮癌、黒色腫、無色素性黒色腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん腺癌、非小細胞肺がん、扁平上皮非小細胞肺がん、卵巣がん、食道がん、腎細胞癌、小細胞肺がん、膀胱癌、子宮および子宮内膜がん、骨肉腫、慢性リンパ性白血病、結腸直腸癌、ならびに滑膜肉腫からなるがんの群から選択される。
【0403】
当業者は、診断目的では、本抗原結合タンパク質は、VおよびVを含むが、好ましくはVおよびVを含まないことを認識している。
【0404】
ある実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、治療薬に対する患者の感受性を決定するために、抗がん治療の有効性をモニタリングするために、または処置後の疾患の再発を検出するために、PRAMEを発現する腫瘍を標的とする治療に関連するアッセイの構成要素として使用される。特に、本明細書で定義されるVドメインおよびVドメインを含む抗原結合タンパク質が、診断アッセイの構成要素として使用され、二重特異性抗原結合タンパク質が、治療薬の構成要素として使用される。
【0405】
そのため、本発明のさらなる目的は、対象中でのPRAME発現をインビボで検出するための使用のための、または対象の生物学的サンプル中でのPRAME発現をエクスビボもしくはインビトロで検出するための使用のための、本発明に係る抗原結合タンパク質に関する。前記検出は、特に、下記が意図され得る:
a)対象におけるがんの存在を診断すること、または
b)PRAMEを標的とする治療薬に対する、がんを有する患者の感受性を決定すること、または
c)腫瘍細胞上の表面タンパク質PRAMEの発現を検出することにより、特に、本発明に係る二重特異性による治療に関して、抗PRAMEがん治療の有効性をモニタリングすること、または抗PRAMEがん治療後にがん再発を検出すること。
【0406】
ある実施形態では、本抗原結合タンパク質は、インビトロまたはエクスビボでの使用が意図されている。
【0407】
キット
最後に、本発明はまた、本発明の少なくとも1種の抗原結合タンパク質を含むキットも提供する。
【0408】
一実施形態では、キットは、
a)本明細書の上記「抗原結合タンパク質」セクションで定義されている本発明の少なくとも1種の抗原結合タンパク質、
b)適宜パッケージング材料、および
c)適宜前記抗原結合タンパク質ががんの処置に有効であるかまたはがんの処置のための使用に有効であることを示す、前記パッケージング材料に含まれるラベルまたはパッケージング挿入物
を含む。
【0409】
関連する実施形態では、本発明の少なくとも1種の抗原結合タンパク質は、単室および/または多室のプレ充填シリンジ[例えば、液体シリンジおよび凍結乾燥シリンジ(lyosyringe)]に入っている。
【0410】
一実施形態では、本発明は、単回容量投与単位を製造するためのキットを包含する。
【0411】
従って、一実施形態では、本発明のキットのa)で言及されている本発明の少なくとも1種の抗原結合タンパク質は、第1の容器に入っている本発明の乾燥抗原結合タンパク質である。次いで、このキットは、水性製剤が入っている第2の容器をさらに含む。
【0412】
従って、一実施形態では、キットは、
a)本明細書の上記「抗原結合タンパク質」セクションで定義されている本発明の少なくとも1種の乾燥抗原結合タンパク質が入っている第1の容器、
b)水性製剤が入っている第2の容器、
c)適宜パッケージング材料、および
d)適宜前記抗原結合タンパク質ががんの処置に有効であるかまたはがんの処置のための使用に有効であることを示す、前記パッケージング材料に含まれるラベルまたはパッケージング挿入物
を含む。
【0413】
水性製剤は、典型的には、本明細書の上記「医薬組成物」セクションで定義されている薬学的に許容される担体を含む水溶液である。
【0414】
関連する実施形態では、「第1の容器」および「第2の」容器は、多室のプレ充填シリンジ(例えば、凍結乾燥シリンジ)のチャンバーを指す。
【0415】
本願全体を通して、「および/または」という用語は、これが接続する場合の内の1つまたは複数が起こり得ることを包含すると解釈されるべき文法上の接続詞である。例えば、「そのような天然配列タンパク質を、標準的な組換え方法および/または合成方法を使用して調製し得る」という文言は、天然配列タンパク質を、標準的な組換え方法および合成方法を使用して調製し得ること、または天然配列タンパク質を、標準的な組換え方法を使用して調製し得ること、または天然配列タンパク質を、合成方法を使用して調製し得ることを示す。
【0416】
さらに、本願全体を通して、「含む」という用語は、具体的に言及された全ての特徴だけでなく、任意の、追加の、不特定のものも包含すると解釈されるべきである。本明細書で使用される場合、「含む」という用語の使用はまた、具体的に言及された特徴以外の特徴が存在していない(即ち、「からなる」)実施形態も開示する
【0417】
さらに、不定冠詞「a」または「an」は、複数を除外しない。ある特定の手段が相互に異なる従属請求項で列挙されているという単なる事実は、これらの手段の組合せが有利に使用され得ないことを示すものではない。
【0418】
これより、本発明を、下記の図面および実施例を参照してより詳細に説明する。本明細書で引用されている全ての文献および特許文献は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明を、下記の説明において詳細に示して説明しているが、実施例は例示的なものであり限定的ではないと考えられるべきである。
【実施例
【0419】
[実施例1]
【0420】
一本鎖TCR(scTCRフォーマット)
[実施例1.1]
安定したscTCRの生成
本発明では、可変アルファ(配列番号3)およびベータ(配列番号4)ドメイン、ならびに適切なグリシン-セリンリンカー配列(配列番号61)を使用して、TCR R11P3D3(配列番号1および2、完全長)を、一本鎖TCRコンストラクト(scTCR R11P3D3、配列番号5)へと変換した。酵母表面提示によるTCR成熟のために、対応する配列のDNAを合成し、pCT302をベースとする酵母提示ベクター(yeast display vector)と共に、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)EBY100(MATa AGA1::GAL1-AGA1::URA3 ura3-52 trp1 leu2-delta200 his3-delta200 pep4::HIS3 prbd1.6R can1 GAL)(ATCC(登録商標)MYA-4941(商標))に形質転換した(Boder and Wittrup, Methods Enzymol. 2000;328:430-44;)。酵母中での相同組換え後に得られた融合タンパク質(配列番号325)は、Aga2pタンパク質(配列番号88)のN末端でのリーダーペプチド(Boder and Wittrup, Nat Biotechnol. 1997 Jun;15(6):553-7)と、目的のタンパク質(即ち、scTCR R11P3D3(配列番号5)またはその変異体と、融合タンパク質の発現レベルを決定するための追加のペプチドタグ[FLAGおよびMyc(配列番号99および288)]とを含む。scTCR変異体のライブラリを、縮重プライマーを使用するPCRにより作製し、国際公開第2018/091396号パンフレットで説明されているように酵母細胞の形質転換を実施し、1つのライブラリ当たり10個の酵母クローンを得た。
【0421】
HLA-A*02に関連してPRAME-004への結合が改善された突然変異体scTCR変異体を持つ酵母クローンの選択プロセスを、本質的には、Smith et al.(Methods Mol Biol. 2015;1319:95-141)で説明されているように実施した。Mycタグ-FITC染色により決定された発現、特に、HLA-A*02/PRAME-004四量体染色による機能的結合を、最も有望な候補を選択するために適用した(図1)。酵母表面提示によるscTCR変換により、3つの単一点CDR突然変異と組み合わされた9つのフレームワーク突然変異が明らかとなり、その結果、安定化scTCR R11P3D3SD(配列番号6)が、改善された発現およびHLA-A*02/PRAME-004四量体結合を示した。
[実施例1.2]
【0422】
安定化scTCRの親和性成熟、結合モチーフおよび特異性の評価
HLA-A*02/PRAME-004に対する結合親和性がより高いscTCR分子を生成するために、既に同定されている安定化scTCR R11P3D3SD(配列番号6)を使用して、全てのCDRを個々に成熟させた。CDR残基を、本質的には既に説明されている(Smith et al., Methods Mol Biol. 2015;1319:95-141)縮退DNAオリゴプライマーを使用して無作為化した。得られたDNAライブラリを、実施例1で説明されているように形質転換した。
【0423】
親和性が増強されている特異的なR11P3D3SD scTCR変異体を選択するために、HLA-A*02/PRAME-004四量体または単量体の濃度を減少させつつ、各選択ラウンドに使用した。4回の選択ラウンド後、単一scTCRクローンを単離して配列決定し、多くの親和性成熟CDR配列を得た。成熟CDRa1配列を有するscTCR(配列番号16~28、図2)に関して例示的に示されるように、HLA-A*02/PRAME-004単量体の結合における強力な改善を、成熟CDRa2およびCDRb2を有するscTCR(配列番号29~32および35~45、表3)に関しても実証し得た。PRAME-004ペプチド(配列番号50)に対する配列類似性の程度が高いペプチド(類似ペプチドまたはSimPep)を含むHLA-A*02四量体のミックスへのscTCRの低い結合により裏付けられるように、HLA-A*02/PRAME-004結合の選択性は成熟中に保持されていた。全ての選択されたscTCR突然変異変異体は、10nMの濃度でHLA-A*02/PRAME-004単量体による実質的な染色を示したが、参照としての非成熟の安定化scTCR R11P3D3SDは、染色を示さなかった(図2および表3)。さらに、10nMの濃度でのHLA-A*02四量体の高結合活性フォーマットで適用された類似ペプチドのミックスへの成熟scTCRの結合は、検出され得なかったか、またはHLA-A*02/PRAME-004単量体結合と比較して低いシグナルしか示さず、このことから、高度に特異的にPRAME-004標的ペプチドに結合するscTCR成熟変異体の能力が裏付けられる。
【0424】
【表3】
【0425】
scTCRクローンの親和性をさらに増加させるために、上述されたCDRライブラリで同定された成熟CDRを、1つのDNAライブラリに系統的に組み合わせ、実施例1.1で説明されているように、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)EBY100に形質転換した。このライブラリを、HLA-A*02/PRAME-004単量体を使用して選択し、単一酵母クローン由来のscTCRを配列決定し、PRAME-004標的ペプチド、またはPRAME-004との配列類似性を共有する26種のペプチド(類似ペプチド)(配列番号51~60、62~69、および71~78)の群に由来する1つのペプチドのいずれかを含むHLA-A*02単量体に対する結合に関して分析した。選択された全ての高親和性scTCR変異体(配列番号79~87、および89~92)は、非線形4点曲線フィッティングにより算出した場合に、低ナノモルまたはサブナノモル範囲の結合EC50値で、HLA-A*02/PRAME-004単量体に強く結合した(表4)。バックグラウンドをわずかに上回る結合シグナルを誘発したSMARCD1-001(配列番号76)を除いて(図4)、scTCR変異体(配列番号79~87および89~92)はいずれも、100nMの濃度で適用されたHLA-A*02単量体に関連して類似ペプチド(配列番号51~60、62~69、および71~78)のいずれに対してもバックグラウンドレベルを上回る結合を示さなかった(図3図4、表4)。提示されたデータは、CDR突然変異と組み合わされたscTCR変異体の高い結合特異性を裏付けており、この結合特性は、PRAME-004結合と区別できないレベルでIFT17-003(配列番号60)への強い結合を示す参照scTCR(R16P1C10_CDR6_scTCR、配列番号357)よりも優れていた(図4)。
【0426】
酵母表面提示から選択された高親和性scTCRのセットを、結合モチーフと呼ばれるHLA-A*02提示に関連する標的ペプチド上の機能エピトープに関してさらに検討した。このことを、PRAME-004標的ペプチド(配列番号318~324)の1、3、4、5、6、7、および8位の単一アラニン置換、およびHLA-A*02に関連するそれぞれのPRAME-004ペプチド変異体に対するscTCR保有酵母細胞の結合の評価により対処した。4種の濃度(10nM、3nM、1nM、0.3nM)のHLA-A*02単量体およびPRAME-004またはそれぞれのアラニン置換ペプチドを使用して、高親和性scTCR保有酵母細胞を染色し、試験した全ての単量体濃度での染色シグナルの欠如により裏付けられるように、3、5、および7位で強く認識される全てのscTCR変異体に関して広範な結合モチーフが明らかになった。PRAME-004ペプチドの6および8位に関しては、結合モチーフへの寄与が想定され得、なぜならば、これらの位置でのアラニン置き換えが、たとえ3、5、および7位と比べて低いストリンジェンシーで観察されても、染色シグナルを有意に減少させたからである。PRAME-004ペプチドの1および4位に関しては、結合モチーフへの寄与はわずかであるかまたはないことを決定し得、なぜならば、アラニン置換により、PRAME-004標的ペプチドで観察されたものとほぼ同等の染色強度が得られたからである(図5および表4)。
【0427】
さらなる分析のために、5種のscTCRクローンR11P3D3SDA7_A02_scTCR(配列番号79)、R11P3D3SDA7_A09_scTCR(配列番号82)、R11P3D3SDA7_A10_scTCR(配列番号83)、R11P3D3SDA7_B03_scTCR(配列番号85)、およびR11P3D3SDA7_B06_scTCR(配列番号87)を、さらなるタンパク質の特徴を決定するために、scTCR-Fab二重特異性フォーマットへ変換した(下記の実施例を参照されたい)。
【0428】
【表4】
[実施例2]
【0429】
可溶性scTCR-Fab分子の製造およびキャラクタリゼーション
VアルファドメインおよびVベータドメインからなるTCRを設計し、ヒト化UCHT1抗体のFab断片と共役した一本鎖(scTCR)フォーマットで製造して試験した(表5および表18)。組換えタンパク質の発現用のベクターを、HCMV由来プロモーターエレメントpUC19誘導体により制御されるモノシストロニックとして設計した。プラスミドDNAを、標準的な培養方法に従って大腸菌(E.coli)中で増幅させ、その後に市販のキット(Macherey & Nagel)を使用して精製した。精製されたプラスミドDNAを、CHO細胞の一過性トランスフェクションに使用した。トランスフェクトされたCHO細胞を、32℃~37℃で10~11日にわたり培養した。
【0430】
条件付け細胞上清を、Sartoclear Dynamics(登録商標)Lab Filter Aid(Sartorius)を利用するろ過(0.22μm)により清澄化した。二重特異性分子を、親和性クロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーをインラインで実施するように装備されたAekta Pure 25 L FPLCシステム(GE Lifesciences)を使用して精製した。親和性クロマトグラフィーを、標準的な親和性クロマトグラフィープロトコルに従ってプロテインLカラム(GE Lifesciences)で実施した。サイズ排除クロマトグラフィーを、標準プロトコルに従ってSuperdex 200pg 16/600カラム(GE Lifesciences)を使用して、親和性カラムからの溶出(pH2.8)直後に実施して、高純度の単量体タンパク質を得た。タンパク質濃度を、予測されるタンパク質配列に従って算出された減衰係数を使用して、NanoDropシステム(Thermo Scientific)で決定した。濃度を、必要に応じて、Vivaspinデバイス(Sartorius)を使用して調整した。最後に、精製された分子を、2~8℃の温度で約1mg/mLの濃度にて、リン酸緩衝生理食塩水中で保存した。最終生成物の収量を、精製および製剤化の完了後に算出した。
【0431】
精製された二重特異性分子の品質を、Vanquish uHPLC-System内で、300mM NaClを含む50mM リン酸ナトリウム(pH6.8)で動作するMabPac SEC-1カラム(5μm、4×300mm)によるHPLC-SECにより決定した。
【0432】
ストレス安定性試験を、40℃で最大2週間にわたり、PBSで製剤化された分子のインキュベーションにより実施した。完全性、凝集体含有量、および単量体回収量を、上述したようにHPLC-SEC分析により分析した。
【0433】
【表5】
【0434】
scTCR-Fab分子TPP-70~TPP-74を、生体層干渉法により、PRAME-004標的ペプチドを含むHLA-A*02単量体に対する結合親和性に関して分析した。測定を、製造業者により推奨される設定を使用してOctet RED384システムで実施した。アッセイを、センサーオフセット3mm、および取得速度5Hzで行った。結合反応速度を、緩衝液としてPBS、0.05% Tween-20、0.1% BSAを使用して、30℃および1000rpm振盪速度で測定した。Hisタグ付きHLA-A*02/PRAME-004単量体をHIS1Kバイオセンサーにロードした後に、scTCR-Fab分子の連続希釈液を分析した。データの評価を、Octet Data Analysis HT Softwareを使用して行なった。強い結合親和性を、4nM~12nMの範囲のK値で、scTCR-Fab分子に関して決定した(表4)。さらに、scTCR-Fab変異体を、14種の類似ペプチド(配列番号187、188、190、192、194、196、198、200、202、204、206、208、210、および212)への結合に関してスクリーニングした。類似ペプチドによるスクリーニングを、弱い結合シグナルの検出を可能にするために1μMという高濃度のscTCR-Fab分子を分析することで、本質的に上述した生物層干渉法により実施した。成熟scTCR変異体はいずれも、試験した類似ペプチドのいずれとも結合しなかった(図6)。TPP-74からのscTCRを、TCER(登録商標)フォーマット等の代替フォーマットによる二重特異性分子の生成に使用した。
[実施例3]
【0435】
T細胞エンゲージング受容体[TCER(登録商標)]フォーマット
[実施例3.1]
二重特異性TCER(登録商標)フォーマットでの可溶性scTCRの製造およびキャラクタリゼーション
TCER(登録商標)分子の構築のために、抗CD3抗体UCHT1の新規のヒト化バージョンであるhUCHT1(Var17)、TCR/CD3複合体に結合するヒト化抗体であるBMA031(V36)、または抗CD3抗体ID4のいずれかに由来するVHおよびVLをコードするDNA配列、ならびにVアルファおよびVベータおよびそれぞれのリンカーをコードする配列を、遺伝子合成により得た。得られたDNA配列を、ヒトIgG1[Accession#:P01857]由来のヒンジ領域、CH2およびCH3ドメインをコードする発現ベクターに、インフレームでクローニングした。CH2およびCH3ドメインを、Fcガンマ受容体および補体との結合を阻害するために、および鎖間ジスルフィド結合がさらに安定化されているCH3ドメインにノブ・イントゥ・ホール構造を組み込むために、様々な突然変異(N297Q突然変異を含む)を含むように操作した。TCER(登録商標)分子(表6、表18)の製造、精製、およびキャラクタリゼーションを、実施例2で概説したように実施した。
【0436】
【表6】
【0437】
PRAME-004標的ペプチドを細胞表面に提示するHLA-A*02陽性腫瘍細胞株(例えばHs695T)の殺滅に関するTCER(登録商標)分子の機能性を、LDH放出アッセイで評価した。加えて、HLA-A*02陽性であるがPRAME-004陰性の腫瘍細胞株(例えばT98G)を評価して、TCER(登録商標)変異体の非特異的なまたはオフターゲットの活性をキャラクタライズした。腫瘍細胞株を、TCER(登録商標)濃度を増加させつつ、1:10の比で、健康なHLA-A*02陽性ドナー由来のPBMCと共培養した。TCER(登録商標)により誘発された細胞傷害性を、放出されたLDHの測定により、48時間の共培養後に定量した。用量反応曲線のEC50値を、非線形4点曲線フィッティングを利用して算出した。3種のTCER(登録商標)分子を代表する結果(表6、表18)を、図7および図8に示す。この結果から、様々な動員抗体ドメインを利用する3種全てのTCER(登録商標)分子が機能的であり、PRAME-004に厳密に依存した方法で、T細胞により媒介される細胞傷害性を誘発することが実証される。
[実施例3.2]
【0438】
Slot I
TCER(登録商標)分子を、hUCHT1(Var17)またはBMA031(V36)由来のVHおよびVLドメイン、ならびに上述したVアルファおよびVベータを利用して構築した(実施例3.1)。TCER(登録商標)分子(表7、表18)の製造、精製、およびキャラクタリゼーションを、実施例2に概説したように実施した。
【0439】
【表7】
【0440】
TCER(登録商標)Slot I変異体TPP-106、TPP-108~TPP-129を、生体層干渉法により、標的ペプチド-HLA複合体(HLA-A*02/PRAME-004)に対する結合親和性に関して分析した。測定を、上述したようにOctet RED384システムで実施した。強い結合親和性を、3nM~10nMの範囲のK値で決定した(表8)。これらのデータは、TCR突然変異bA84DおよびaN114Yのさらなる親和性改善効果を示すが、突然変異bT115L/K、bL11E、bP46M、bQ48R、aN20Kは、結合親和性に影響を及ぼさないように見える。さらに、HLA-A*02に関連する潜在的なオフターゲットペプチドとして機能する3種の選択された類似ペプチドに関して、結合親和性を決定し、標的ペプチド-HLAの結合と比較してKウィンドウを算出した。類似ペプチドに対する最も強いTCER(登録商標)結合は、GIMAP8-001で観察され、Kウィンドウは、26倍から168倍の範囲であった。25倍超のKウィンドウは、良好な治療ウィンドウを既に提供する。
【0441】
【表8】
[実施例3.3]
【0442】
Slot II
さらなるTCER(登録商標)分子を、BMA031(V36)またはID4由来のVHおよびVLドメイン、ならびに上述したVアルファおよびVベータを利用して構築した(実施例3.1)。それぞれのTCER(登録商標)分子(表9、表18)の製造、精製、およびキャラクタリゼーションを、実施例2に概説したように実施し、それにより、全てのID4ベースの分子を、MAbSelect SuREカラム(GE Lifesciences)を使用して精製した。
【0443】
【表9】
【0444】
TCER(登録商標)Slot II変異体TPP-207~TPP-222およびTPP-227~TPP-230を、生体層干渉法により、標的ペプチド-HLA複合体(HLA-A*02/PRAME-004)に対する結合親和性に関して分析した。測定を、上述したOctet RED384システムで実施した。強い結合親和性を、1nM~7nMの範囲のK値で決定した(表10)。BMA031(V36)リクルーター(TPP-219~TPP-222対TPP-211~TPP-214)と比較した場合に、ID4リクルーターと組み合わされた同一のTCR変異体(即ち、同一のVおよびV)に関して、より高い結合親和性を観察した。スロットIのTCER(登録商標)分子(実施例3.2)で観察されたように、TCR突然変異bA84DおよびaN114Yの親和性改善効果は、スロットIIで生成されたTCER(登録商標)変異体でも確認され得たが、突然変異bT115L/K、bP46M、bQ48R、aN20Kでも、親和性への効果が見出されなかった。
【0445】
TCR結合モチーフを、選択されたTCER(登録商標)分子に関して評価した。結合モチーフを決定するために、標的ペプチド-HLA複合体(HLA-A*02/PRAME-004)、およびペプチド1、3、4、5、6、7、または8位でアラニン置換を保有するPRAME-004変異体との複合体に関して、親和性を測定した。親和性測定を、上述したOctet RED384またはHTXシステムで実施した。アラニン置換ペプチド変異体に関して結合親和性またはシグナル(分析した最高濃度で測定)の、2分の1以下への減少が検出された場合には、PRAME-004の位置を、TCR結合モチーフの一部であるとみなした。全てのTCER(登録商標)変異体は、少なくとも4箇所のペプチドPRAME-004の位置を認識する幅広い結合モチーフを示した(表10)。
【0446】
【表10】
[実施例3.4]
【0447】
Slot IIa
先のTCER(登録商標)変異体(実施例3.3)に関して作成されたデータに基づいて、タンパク質の特性または結合特性へのプラスの効果が先の実験で検出され得た、選択されたTCRアミノ酸の位置が系統的に置換された新規の変異体を生成した。それぞれのTCER(登録商標)分子(表11および表18)の製造、精製、およびキャラクタリゼーションを、実施例3.3に概説したように実施した。生産性およびストレス安定性のデータの概要を、表11にまとめる。
【0448】
【表11】
【0449】
TCER(登録商標)Slot IIa変異体TPP-235~-250、-252~-268、-270、-277、-279を、生体層干渉法により、標的ペプチド-HLA複合体(HLA-A*02/PRAME-004)に対する結合親和性に関して分析した。測定を、上述したOctet RED384またはHTXシステムで実施した。強い結合親和性を、2nM~15nMの範囲のK値で見出した(表12)。bA84位では、アミノ酸置換から、bA84Dが最も好ましい置換であることが分かった。aN114位では、親和性がaN114Yに相当する代替アミノ酸置換(例えば、A、H、I、およびL)を見出した。同等の親和性を有するbT115K/の代替を特定し、R、A、I、およびVが挙げられた。突然変異bA110Sを導入することにより、それぞれの変異体の親和性がわずかに低下した。
【0450】
結合モチーフを、選択されたTCER(登録商標)変異体に関して評価した。結合モチーフを決定するために、上述したように、標的ペプチド-HLA複合体(HLA-A*02/PRAME-004)、およびペプチド1、3、4、5、6、7、または8位でアラニン置換を保有するPRAME-004変異体との複合体に関して、親和性を測定した。アラニン置換ペプチド変異体に関して結合親和性またはシグナル(分析した最高濃度で測定)の、2分の1以下への減少が検出された場合には、PRAME-004の位置を、TCR結合モチーフの一部であるとみなした。試験した全てのTCER(登録商標)変異体は、少なくとも3箇所のペプチド位置を認識する幅広い結合モチーフを示した(表12)。
【0451】
結合モチーフに加えて、選択されたTCER(登録商標)Slot IIおよびIIa変異体の結合特異性を、オフターゲットペプチドとして潜在的に機能する16種の類似ペプチドのセットへの結合に関して、生物層干渉法によりさらに分析した。測定を、基本的には上述したOctet HTXシステムで実施した。分析するために、PRAME-004標的ペプチド、類似ペプチドのセットの内の個々のペプチド、またはコントロールペプチドを含むペプチド-HLA複合体を、HIS1Kバイオセンサー上にロードし、TCER(登録商標)変異体の結合を、1μMという高いTCER(登録商標)濃度で分析した。5分間の会合段階の終了時の反応シグナルを使用して、選択されたTCER(登録商標)変異体に対するPRAME-004標的ペプチドと比較した類似ペプチドの相対結合シグナルを算出した(表13)。この条件下では、有意ではないと説明され得る非常に低い親和性での結合事象(例えば、PRAME-004ペプチド:MHC複合体への結合の場合のKと比較して、Kが25倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、75倍以上、または100倍以上増加する結合)であっても、検出されることとなる。16種の分析された類似ペプチドの内、11種のペプチドは、選択されたTCER(登録商標)変異体のいずれに対してもいかなる結合も示さなかった。16種の類似ペプチドの内の5種に関しては、PRAME-004と比較してシグナルが低い結合が検出され、これらのペプチドの内の4種を、TCER(登録商標)Slot III変異体に関してより詳細に分析した(例えば、PRAME-004標的ペプチドと比較してKウィンドウを測定した)。
【0452】
【表12】
【0453】
【表13】
[実施例3.5]
【0454】
Slot III
上述したように(実施例3.1)、BMA031(V36)もしくはその変異体(A02およびD01)、またはID4に由来するVHドメインとVLドメイン、ならびにVアルファおよびVベータを利用して、さらなるTCER(登録商標)を構築した。UCHT1-V17動員抗体(TPP-1109)に基づくさらなるTCER(登録商標)分子を、参照として生成した。それぞれの分子をコードするDNAコンストラクトを、上記で概説したように生成した。得られたプラスミドを、TCER(登録商標)変異体の一過性発現および産生のために、エレクトロポレーション(MaxCyte)によるCHO-S細胞のトランスフェクションに使用した(表14および表18)。分子の精製、製剤化、および初期キャラクタリゼーションを、上記実施例3.3で概説したように実施した。
【0455】
【表14】
【0456】
細胞表面上で様々なレベルのPRAME-004標的ペプチドを提示するHLA-A*02陽性腫瘍細胞株の殺滅に関するTCER(登録商標)分子の能力を、LDH放出アッセイで評価した。加えて、HLA-A*02陽性であるがPRAME-004陰性の腫瘍細胞株(例えばT98G)を評価して、TCER(登録商標)変異体の非特異的なまたはオフターゲットの活性をキャラクタライズした。腫瘍細胞株を、TCER(登録商標)濃度を増加させつつ、1:10の比で、健康なHLA-A*02陽性ドナー由来のPBMCエフェクターと共培養した。TCER(登録商標)により誘発された細胞傷害性を、放出されたLDHの測定により、48時間の共培養後に定量した。用量反応曲線のEC50値を、非線形4点曲線フィッティングを利用して算出した。2種のPRAME-004陽性腫瘍細胞株(Hs695TおよびU20S)ならびにPRAME-004陰性腫瘍細胞株(T98G)に関するEC50値を、PBMCドナーが異なる様々な実験で決定し、概要を図9にグラフでまとめる。
【0457】
TCER(登録商標)Slot III変異体TPP-214、-222、-230、-666、-669、-871、-872、-876、-879、-891、-894を、生体層干渉法により、標的ペプチド-HLA複合体(HLA-A*02/PRAME-004)に対する結合親和性に関して分析した。測定を、30℃にてOctet HTXシステムで実施した。アッセイを、アッセイ緩衝液としてPBS、0.05% Tween-20、0.1% BSAを使用して、16チャネルモードのHIS1Kバイオセンサーで、センサーオフセット3mm、および取得速度5Hzにて行った。下記のアッセイ工程シーケンスを繰り返して、全ての結合親和性を測定した:再生(5秒、10mMグリシンpH1.5)/中和(5秒、アッセイ緩衝液;1再生サイクルは、再生/中和の4回の反復からなる)、ベースライン(60秒、アッセイ緩衝液)、ローディング(120秒、10μg/ml ペプチド-HLA)、ベースライン(120秒、アッセイ緩衝液)、会合(300秒、100nM~1.56nMまたは50nM~0.78nMの範囲のTCER(登録商標)の2倍連続希釈液、参照としてアッセイ緩衝液)、解離(300秒、アッセイ緩衝液)。データの評価を、Octet Data Analysis HT Softwareを使用して実行した。参照センサーの減算を実施して、バイオセンサー上にロードされたペプチド-HLAの潜在的解離(緩衝液中で測定されたペプチド-HLAをロードしたバイオセンサーを介する)を減算した。データ追跡を、ベースライン(最後の5秒の平均)に合わせ、解離工程に対して工程間補正を行ない、Savitzky-Golayフィルタリングを適用し、1:1結合モデル(Rmaxは、センサーによりリンクされていない)を使用して、曲線を全体的にフィットさせた。強い結合親和性を、2nM~5nMの範囲のK値で見出した(表15)。さらに、結合親和性を、4種の既に同定された潜在的なオフターゲットペプチドに関して決定し、標的ペプチド-HLAの結合と比較してKウィンドウを算出した。測定を、30℃にてOctet RED384またはHTXシステムで実施した。アッセイを、アッセイ緩衝液としてPBS、0.05% Tween-20、0.1% BSAを使用して、16チャネルモードのHIS1Kバイオセンサーで、センサーオフセット3mm、および取得速度5Hzにて行った。下記のアッセイ工程シーケンスを繰り返して、全ての結合親和性を測定した:再生(5秒、10mMグリシンpH1.5)/中和(5秒、アッセイ緩衝液;1再生サイクルは、再生/中和の4回の反復からなる)、ベースライン(60秒、アッセイ緩衝液)、ローディング(120秒、10μg/ml ペプチド-HLA)、ベースライン(120秒、アッセイ緩衝液)、会合(300秒、500nM~7.81nMの範囲のTCER(登録商標)の2倍連続希釈液、参照としてアッセイ緩衝液)、解離(300秒、アッセイ緩衝液)。データの評価を、Octet Data Analysis HT Softwareを使用して実行した。参照センサーの減算を実施して、バイオセンサー上にロードされたペプチド-HLAの潜在的解離(緩衝液中で測定されたそれぞれのペプチド-HLAをロードしたバイオセンサーを介する)を減算した。データ追跡を、ベースライン(最後の5秒の平均)に合わせ、解離工程に対して工程間補正を行ない、Savitzky-Golayフィルタリングを適用し、1:1結合モデル(Rmaxは、センサーによりリンクされていない)を使用して、曲線を全体的にフィットさせた。全体として、標的ペプチドと比較して潜在的なオフターゲットペプチドへのかなり弱い結合を、全ての変異体において見出し、少なくとも60倍~完全に結合なしのウィンドウが示された。NOMAP-3-1408を、VIM-009に相当する相対的結合シグナルを示したにもかかわらず、K決定には選択しなかった(表13)。VIM-009に関しては、測定された最小のKウィンドウは、100倍超であった(表15)。そのため、VIM-009への結合は無関係であり、NOMAP-3-1408の結合の親和性決定は、VIM-009と同等の結合シグナルに基づいて不必要であるとみなした。1つの相互作用に関して、50倍のKウィンドウを算出した。しかしながら、この相互作用および他のいくつかの相互作用に関して、フィッティングアルゴリズムにより算出されたRmax値が過剰に低いことから、相互作用は、算出と比べて弱いと想定され、そのためウィンドウが大きくなる。それぞれの相互作用を、表15に示す。異なる変異体の特異性をさらに分析するために、結合モチーフを、1、3、4、5、6、7、8位に対する標的ペプチド-HLA複合体およびアラニン置換変異体の親和性を測定することにより決定した。測定を、30℃にてOctet HTXシステムで実施した。アッセイを、アッセイ緩衝液としてPBS、0.05% Tween-20、0.1% BSAを使用して、16または8チャネルモードのHIS1Kバイオセンサーで、センサーオフセット3mm、および取得速度5Hzにて行った。下記のアッセイ工程シーケンスを繰り返して、全ての結合親和性を測定した:再生(5秒、10mMグリシンpH1.5)/中和(5秒、アッセイ緩衝液;1再生サイクルは、再生/中和の4回の反復からなる)、ベースライン(60秒、アッセイ緩衝液)、ローディング(120秒、10μg/ml ペプチド-HLA)、ベースライン(120秒、アッセイ緩衝液)、会合(150秒、400nM~6.25nMの範囲のTCER(登録商標)の2倍連続希釈液、参照としてアッセイ緩衝液)、解離(300秒、アッセイ緩衝液)。データの評価を、Octet Data Analysis HT Softwareを使用して実行した。参照センサーの減算を実施して、バイオセンサー上にロードされたペプチド-HLAの潜在的解離(緩衝液中で測定された各ペプチド-HLAをロードしたバイオセンサーを介する)を減算した。データ追跡を、ベースライン(最後の5秒の平均)に合わせ、解離工程に対して工程間補正を行ない、Savitzky-Golayフィルタリングを適用し、1:1結合モデル(Rmaxは、センサーによりリンクされていない)を使用して、曲線を全体的にフィットさせた。ある位置を、親和性または結合シグナルが2分の1以下に減少した場合には、結合モチーフの一部とみなした(分析された最高濃度で測定)。試験した全てのTCER(登録商標)変異体は、少なくとも4箇所および最大で全箇所の分析されたペプチド位置を認識する幅広い結合モチーフを示した(表16)。bA84、aN114L、およびbA110S/bT115Aに関しては、結合モチーフにプラスの効果が観察され、このことは、過去のデータと一致している。比較のために、代替PRAME-004標的化TCER(登録商標)参照分子(TPP-1109)の結合モチーフを分析した。このTCER(登録商標)は、ペプチドの5~8位を認識し、そのため、結合は、このペプチドストレッチに限定されるが、TCER(登録商標)Slot III変異体により認識される位置は、ペプチド全体を通してより均一に分布している。
【0458】
TCER(登録商標)スロットIII変異体TPP-214、-222、-230、-666、-669、-871、-872、-876、-879、-891、-894を、様々なレベルの標的ペプチドを負荷したT2細胞を殺滅する能力に関してさらにキャラクタライズした。2時間にわたる各濃度のPRAME-004とのT2細胞の負荷後、ペプチド負荷T2細胞を、48時間にわたりTCER(登録商標)変異体の濃度を増加させつつ、5:1のE:T比でヒトPBMCと共培養した。上清中に放出されたLDHのレベルを、CytoTox 96 Non-Radioactive Cytotoxicity Assay Kit(Promega)を使用して定量した。全てのTCER(登録商標)変異体は、10nMのペプチド負荷濃度にて、サブピコモルEC50値でのPRAME-004負荷T2細胞の強力な殺滅を示した(図10、表17)。EC50値は、PRAME-004負荷レベルの低下に伴い増加した。しかしながら、PRAME-004負荷濃度が10pMと非常に低い場合であっても、TPP-214を除く全てのTCER(登録商標)変異体により殺滅が誘発された。
【0459】
【表15】
【0460】
【表16】
【0461】
【表17】
【0462】
【表18】
【0463】
表18では、TPP-70、TPP-71、TPP-72、TPP-73、およびTPP74を除いて、「α鎖」という用語は、Vα(即ち、TCRα鎖由来の可変ドメイン)を含むポリペプチド鎖を指す。「β鎖」という用語は、Vβ(即ち、TCRβ鎖由来の可変ドメイン)を含むポリペプチド鎖を指す。TPP-70、TPP-71、TPP-72、TPP-73、およびTPP74の場合には、「α鎖」は、いかなるTCR由来の可変ドメインも含まないが、「β鎖」は、2つのTCR由来の可変ドメイン(1つはTCRα鎖由来、1つはTCRβ鎖由来)を含む。
[実施例3.6]
【0464】
選択されたTCER(登録商標)Slot III候補の安全性評価
TCER(登録商標)分子TPP-230、TPP-666、TPP-871、およびTPP-891の安全性プロファイル(表14~18)を、星状細胞および心筋細胞(人工多能性幹細胞由来)、ならびに大動脈内皮細胞、間葉系幹細胞、および気管平滑筋細胞による殺滅実験で評価した。図11は、TCER(登録商標)濃度を増加させつつ、1:10(標的細胞:エフェクター細胞)の比で、健康なHLA-A*02+ドナー由来のPBMCエフェクター細胞との上記の正常細胞タイプ(全てHLA-A*02を発現する)の共培養の結果を示す。細胞を、それぞれの正常組織細胞培地とT細胞培地の1:1混合物中、またはT細胞培地単独(LDH-AM)中で共培養した。48時間の共培養後、上清を回収し、LDH-Glo(商標)Kit(Promega)によりLDH放出を測定することにより、TCER(登録商標)により誘発された正常組織細胞溶解を評価した。安全性ウィンドウを決定するために、TCER(登録商標)分子を、正常組織細胞培地とT細胞培地とのそれぞれ1:1混合物中のPRAME-004陽性腫瘍細胞株Hs695Tとの同一設定で共培養し、続いてLDH放出を評価した。
【0465】
図11に示すように、TPP-230およびTPP-871では、100nMという最高TCER(登録商標)濃度であっても、正常組織細胞に対する細胞傷害性を観察しなかった。TPP-666およびTPP-891の場合には、100nM TCER(登録商標)濃度ではある程度の正常組織細胞の溶解を観察したが、10nMでは溶解を検出しなかった。試験した全てのTCER(登録商標)分子に関して100pMで顕著な溶解を示し、いくつかの分子に関しては10pM濃度でさえ溶解を示したHs695T腫瘍細胞と比較して、100nM濃度での正常組織細胞の溶解は、1,000倍(TPP-666およびTPP-891)またはより大きな(TPP-230およびTPP-871)安全性ウィンドウを示す。
[実施例3.7]
【0466】
Slot IV
さらなるTCER(登録商標)を、BMA031(V36)またはその改変変異体(A02およびD01)、もしくはID4由来のVHおよびVLドメイン、ならびに上述したVアルファおよびVベータを利用して構築した(実施例3.1)。それぞれの分子をコードするDNAコンストラクトを、上記で概説したように生成した。得られたプラスミドを、TCER(登録商標)変異体の一過性発現および産生のために、エレクトロポレーション(MaxCyte)によるCHO-S細胞のトランスフェクションに使用した(表20および表18)。分子の精製、製剤化、および初期キャラクタリゼーションを、上記実施例3.3で概説したように実施した。
【0467】
【表19】
【0468】
表20では、「α鎖」という用語は、Vα(即ち、TCRα鎖由来の可変ドメイン)を含むポリペプチド鎖を指す。「β鎖」という用語は、Vβ(即ち、TCRβ鎖由来の可変ドメイン)を含むポリペプチド鎖を指す。
【0469】
細胞表面上で様々なレベルのPRAME-004標的ペプチドを提示するHLA-A*02陽性腫瘍細胞株の殺滅に関するTCER(登録商標)分子の能力を、LDH放出アッセイで評価した。加えて、HLA-A*02陽性であるがPRAME-004陰性の腫瘍細胞株(例えばT98G)を評価して、TCER(登録商標)変異体の非特異的なまたはオフターゲットの活性をキャラクタライズした。腫瘍細胞株を、TCER(登録商標)濃度を増加させつつ、1:10の比で、健康なHLA-A*02陽性ドナー由来のPBMCエフェクターと共培養した。TCER(登録商標)により誘発された細胞傷害性を、放出されたLDHの測定により、48時間の共培養後に定量した。用量反応曲線のEC50値を、非線形4点曲線フィッティングを利用して算出した。PRAME-004陽性腫瘍細胞株U20SおよびPRAME-004陰性腫瘍細胞株(T98G)に関するEC50値を、PBMCドナーが異なる様々な実験で決定し、概要を図21にまとめる。
【0470】
【表20】
【0471】
TCER(登録商標)Slot IV変異体TPP-1292、-1294~-1298、-1300~-1309、-1333、-1334を、生体層干渉法により、標的ペプチド-HLA複合体(HLA-A*02/PRAME-004)に対する結合親和性に関して分析した。測定を、30℃にてOctet HTXシステムで実施した。アッセイを、アッセイ緩衝液としてPBS、0.05% Tween-20、0.1% BSAを使用して、16チャネルモードのHIS1Kバイオセンサーで、センサーオフセット3mm、および取得速度5Hzにて行った。下記のアッセイ工程シーケンスを繰り返して、全ての結合親和性を測定した:再生(5秒、10mMグリシンpH1.5)/中和(5秒、アッセイ緩衝液;1再生サイクルは、再生/中和の4回の反復からなる)、ベースライン(60秒、アッセイ緩衝液)、ローディング(120秒、10μg/ml ペプチド-HLA)、ベースライン(120秒、アッセイ緩衝液)、会合(300秒、100nM~1.56nMまたは50nM~0.78nMの範囲のTCER(登録商標)の2倍連続希釈液、参照としてアッセイ緩衝液)、解離(300秒、アッセイ緩衝液)。データの評価を、Octet Data Analysis HT Softwareを使用して実行した。参照センサーの減算を実施して、バイオセンサー上にロードされたペプチド-HLAの潜在的解離(緩衝液中で測定されたペプチド-HLAをロードしたバイオセンサーを介する)を減算した。データ追跡を、ベースライン(最後の5秒の平均)に合わせ、解離工程に対して工程間補正を行ない、Savitzky-Golayフィルタリングを適用し、1:1結合モデル(Rmaxは、センサーによりリンクされていない)を使用して、曲線を全体的にフィットさせた。強い結合親和性を、2nM~15nMの範囲のK値で見出した(表22)。さらに、結合親和性を、2種の既に同定された潜在的なオフターゲットペプチドに関して決定し、標的ペプチド-HLAの結合と比較してKウィンドウを算出した。測定を、30℃にてOctet RED384またはHTXシステムで実施した。アッセイを、アッセイ緩衝液としてPBS、0.05% Tween-20、0.1% BSAを使用して、16チャネルモードのHIS1Kバイオセンサーで、センサーオフセット3mm、および取得速度5Hzにて行った。下記のアッセイ工程シーケンスを繰り返して、全ての結合親和性を測定した:再生(5秒、10mMグリシンpH1.5)/中和(5秒、アッセイ緩衝液;1再生サイクルは、再生/中和の4回の反復からなる)、ベースライン(60秒、アッセイ緩衝液)、ローディング(120秒、10μg/ml ペプチド-HLA)、ベースライン(120秒、アッセイ緩衝液)、会合(300秒、500nM~7.81nMの範囲のTCER(登録商標)の2倍連続希釈液、参照としてアッセイ緩衝液)、解離(300秒、アッセイ緩衝液)。データの評価を、Octet Data Analysis HT Softwareを使用して実行した。参照センサーの減算を実施して、バイオセンサー上にロードされたペプチド-HLAの潜在的解離(緩衝液中で測定されたそれぞれのペプチド-HLAをロードしたバイオセンサーを介する)を減算した。データ追跡を、ベースライン(最後の5秒の平均)に合わせ、解離工程に対して工程間補正を行ない、Savitzky-Golayフィルタリングを適用し、1:1結合モデル(Rmaxは、センサーによりリンクされていない)を使用して、曲線を全体的にフィットさせた。全体として、標的ペプチドと比較して潜在的なオフターゲットペプチドへのかなり弱い結合を全ての変異体に関して見出し、少なくとも10倍~完全に結合なしのウィンドウが示された。それぞれの相互作用を、表22に示す。変異体TPP-1294、-1295、-1298、-1333、-1334の特異性をさらに分析するために、結合モチーフを、1、3、4、5、6、7、8位に対する標的ペプチド-HLA複合体およびアラニン置換変異体の親和性を測定することにより決定した。測定を、30℃にてOctet HTXシステムで実施した。アッセイを、アッセイ緩衝液としてPBS、0.05% Tween-20、0.1% BSAを使用して、16または8チャネルモードのHIS1Kバイオセンサーで、センサーオフセット3mm、および取得速度5Hzにて行った。下記のアッセイ工程シーケンスを繰り返して、全ての結合親和性を測定した:再生(5秒、10mMグリシンpH1.5)/中和(5秒、アッセイ緩衝液;1再生サイクルは、再生/中和の4回の反復からなる)、ベースライン(60秒、アッセイ緩衝液)、ローディング(120秒、10μg/ml ペプチド-HLA)、ベースライン(120秒、アッセイ緩衝液)、会合(150秒、400nM~6.25nMの範囲のTCER(登録商標)の2倍連続希釈液、参照としてアッセイ緩衝液)、解離(300秒、アッセイ緩衝液)。データの評価を、Octet Data Analysis HT Softwareを使用して実行した。参照センサーの減算を実施して、バイオセンサー上にロードされたペプチド-HLAの潜在的解離(緩衝液中で測定された各ペプチド-HLAをロードしたバイオセンサーを介する)を減算した。データ追跡を、ベースライン(最後の5秒の平均)に合わせ、解離工程に対して工程間補正を行ない、Savitzky-Golayフィルタリングを適用し、1:1結合モデル(Rmaxは、センサーによりリンクされていない)を使用して、曲線を全体的にフィットさせた。ある位置を、親和性または結合シグナルが2分の1以下に減少した場合には、結合モチーフの一部とみなした(分析された最高濃度で測定)。試験した全てのTCER(登録商標)変異体は、少なくとも5箇所および最大で全箇所の分析されたペプチド位置を認識する幅広い結合モチーフを示した(表23)。
【0472】
【表21】
【0473】
【表22】
[実施例3.8]
【0474】
選択されたTCER(登録商標)Slot IV候補の安全性評価
TCER(登録商標)分子TPP-1294、TPP-1295、TPP-1298、TPP-1333、およびTPP-1334の安全性プロファイル(表18および20~23)を、星状細胞、GABA作動性ニューロン、および心筋細胞(人工多能性幹細胞由来;それぞれ、iHA、iHN、およびiHCM)、ならびに肺線維芽細胞(HPF)、心臓微小血管内皮細胞(HCMEC)、皮膚微小血管内皮細胞(HDMEC)、大動脈内皮細胞(HAoEC)、冠動脈平滑筋細胞(HCASMC)、腎皮質上皮細胞(HRCEpC)、および気管平滑筋細胞(HTSMC)による殺滅実験で評価した。さらに、架橋分子TPP-891を、以前のスロットからの他の分子TPP-214およびTPP-669と共に試験した。図12および13は、TCER(登録商標)濃度を増加させつつ、1:10(標的細胞:エフェクター細胞)の比で、健康なHLA-A*02+ドナー由来のPBMCエフェクター細胞との上記の正常細胞タイプ(全てHLA-A*02を発現する)の共培養の結果を示す。細胞を、それぞれの正常組織細胞培地とT細胞培地の1:1混合物中、またはT細胞培地単独(LDH-AM)中で共培養した。48時間の共培養後、上清を回収し、LDH-Glo(商標)Kit(Promega)によりLDH放出を測定することにより、TCER(登録商標)により誘発された正常組織細胞溶解を評価した。安全性ウィンドウを決定するために、TCER(登録商標)分子を、正常組織細胞培地とT細胞培地とのそれぞれ1:1混合物中のPRAME-004陽性腫瘍細胞株Hs695Tとの同一設定で共培養し、続いてLDH放出を評価した。
【0475】
図12および13に示すように、10nM TCER(登録商標)の濃度まで、いずれの試験した分子に関しても、正常組織細胞に対する細胞傷害性を観察しなかった。100nMの濃度では、架橋分子および参照分子TPP-891、TPP-669、およびTPP-214のみが、バックグラウンドを超える細胞傷害性レベルのいくらかの上昇を示す。唯一の例外は、iPSC由来星状細胞中のTPP-1294であり、100nMでのみ細胞傷害性が上昇する。試験した全てのTCER(登録商標)分子に関して100pMで顕著な溶解を示し、いくつかの分子に関しては10pM濃度でさえ溶解を示したHs695T腫瘍細胞と比較して、100nM濃度での正常組織細胞の溶解は、1,000倍(TPP-1294)またはより大きな(TPP-1295、TPP-1298、TPP-1334、およびTPP-1335)の安全性ウィンドウを示す。
[実施例4]
【0476】
質量分析による原発性組織上でのPRAMEペプチドの検出
質量分析によるHLAリガンドの同定および相対的定量のために、ショック凍結組織サンプルからのHLA分子を精製し、HLA関連ペプチドを単離した。この単離ペプチドを分離し、オンラインナノエレクトロスプレーイオン化(nanoESI)液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)実験により配列を特定した。このペプチドは、原発性腫瘍のHLA分子のリガンドとして直接同定されたことから、この結果は、原発性がん組織上の同定されたペプチドの自然なプロセシングおよび提示の直接的な証拠となる。その後、取得したLC-MSデータを、配列特定、スペクトルクラスタリング、イオン計数、保持時間アラインメント、電荷状態のデコンボリューション、および正規化のためのアルゴリズムを組み合わせた専用ラベルフリー定量データ解析パイプラインを使用して、処理して定量する。得られた標的検出頻度を、本明細書の下記の表19に示す。
【0477】
【表23】
【0478】
項目
1.配列番号50のアミノ酸配列SLLQHLIGLを含むかまたはからなりかつ主要組織適合複合体(MHC)タンパク質との複合体で存在しているPRAME抗原ペプチドに特異的に結合する抗原結合タンパク質であって、
(a)相補性決定領域(CDR)CDRa1、CDRa2、およびCDRa3を含む可変ドメインVを含む第1のポリペプチドであって、
前記CDRa1は、アミノ酸配列VKEFQD(配列番号16)、または1、2、もしくは3個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号16と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなり、
前記CDRa3は、アミノ酸配列ALYNNLDMR(配列番号33)もしくはALYNNYDMR(配列番号34)、または1、2、もしくは3個(好ましくは1もしくは2個)のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号33もしくは配列番号34と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなる、
第1のポリペプチドと、
(b)CDRb1、CDRb2、およびCDRb3を含む可変ドメインVを含む第2のポリペプチドであって、
前記CDRb1は、アミノ酸配列SGHNS(配列番号10)、または1もしくは2個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号10と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなり、
前記CDRb3は、アミノ酸配列ASSXGXDXQY(配列番号327)(式中、Xは、P、A、もしくはTであり、Xは、AもしくはSであり、Xは、TもしくはIであり、Xは、KもしくはAである)、または1、2、もしくは3個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号327と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなる、
第2のポリペプチドと
を含む抗原結合タンパク質。
【0479】
2.
(a)前記CDRa2は、アミノ酸配列FGPYGKE(配列番号32)、または1、2、もしくは3個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号32と異なるアミノ酸配列を含むか、またはからなり、および/または
(b)前記CDRb2は、アミノ酸配列FQNTAV(配列番号36)、または1、2、3、4、5、もしくは6個のアミノ酸突然変異、好ましくはアミノ酸置換により配列番号36と異なるCDRb2アミノ酸配列を含むか、またはからなる
項目1に記載の抗原結合タンパク質。
【0480】
3.
- IMGTに従うCDRa1の27位は、Vであるか、またはL、I、M、F、A、T、N、Q、H、E、D、およびSから選択される(特に、T、N、S、およびIから選択される)アミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRa1の28位は、Kであるか、またはR、Q、H、N、A、V、S、G、L、I、およびTから選択される(特に、R、A、およびSから選択される)アミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRa1の38位は、Dであるか、またはE、N、Q、H、K、およびR(特にN)から選択されるアミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRa2の64位は、Kであるか、またはR、Q、H、N、T、V、A、L、I、M、およびFから選択される(特に、R、T、およびVから選択される)アミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRa3の114位は、LもしくはYであるか、またはM、W、H、Q、A、I、K、R、V、D、E、F、およびNから選択される(特に、H、Q、A、I、K、R、V、D、E、F、およびNから選択され、より特に、H、Q、A、およびIから選択される)アミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRb2の56位は、Fであるか、またはY、M、L、W、H、V、I、およびAから選択される(特に、Y、M、およびLから選択される)アミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRb2の57位は、Qであるか、またはN、R、D、E、Q、H、K、およびK(特にN)から選択されるアミノ酸により置換されており、但し、63位のアミノ酸がTまたはSである場合には、57位のアミノ酸は、Nではなく、
- IMGTに従うCDRb2の58位は、Nであるか、またはQ、H、D、K、R、S、およびT(特にS)から選択されるアミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRb2の63位は、Tであるか、またはS、V、A、D、Q、およびEから選択される(特に、SおよびEから選択される)アミノ酸により置換されており、但し、57位のアミノ酸がNである場合には、63位のアミノ酸は、TでもSでもなく、
- IMGTに従うCDRb2の64位は、Aであるか、またはV、L、I、S、G、およびT(特にT)から選択されるアミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRb2の65位は、Vであるか、またはL、I、M、A、T、F、およびSから選択される(特に、I、L、およびTから選択される)アミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRb3の108位は、P、A、もしくはTであるか、またはV、L、I、S、G、R、K、N、およびQから選択される(特に、RおよびSから選択される)アミノ酸により置換されており、但し、110位のアミノ酸がTまたはSである場合には、108位のアミノ酸は、Nではなく、
- IMGTに従うCDRb3の110位は、AもしくはSであるか、またはV、L、I、G、T、およびC(特にT)から選択されるアミノ酸により置換されており、但し、108位のアミノ酸がNである場合には、110位のアミノ酸は、TでもSでもなく、
- IMGTに従うCDRb3の113位は、TもしくはIであるか、またはV、L、およびGから選択されるアミノ酸により置換されており、
- IMGTに従うCDRb3の115位は、T、K、もしくはAであるか、またはG、L、I、V、R、Q、N、Y、H、E、およびFから選択される(特に、L、I、V、R、Q、N、Y、H、E、およびFから選択され、より特に、L、I、V、およびRから選択される)アミノ酸により置換されている、
項目1または2に記載の抗原結合タンパク質。
【0481】
4.前記抗原結合タンパク質は、MHCタンパク質(特に、HLAタンパク質、より特に、HLA-A、さらにより特に、HLA-A*02)との複合体の配列番号50のアミノ酸配列に特異的に結合する、項目1~3のいずれか1つに記載の抗原結合タンパク質。
【0482】
5.前記抗原結合タンパク質は、配列番号50の3、5、6、7、および8位、特に3、5、および7位からなる群から選択される少なくとも3、4、または5箇所のアミノ酸位置を含むかまたはからなる機能エピトープに特異的に結合し、好ましくは、配列番号50のアミノ酸3、5、および7位、または3、5、6、および7位、または3、5、7、および8位、または3、5、6、7、および8位からなるが、好ましくは配列番号50のアミノ酸1および4位ではない機能エピトープに結合する、項目1~4のいずれか1つに記載の抗原結合タンパク質。
【0483】
6.前記抗原結合タンパク質は、配列番号50の1、3、4、5、6、7、および8位からなる群から選択される少なくとも6または7箇所のアミノ酸位置を含むかまたはからなる機能エピトープに特異的に結合する、項目1~4のいずれか1つに記載の抗原結合タンパク質。
【0484】
7.前記抗原結合タンパク質は、≦100nM、≦50nM、≦10nM、好ましくは≦5nMのKDで、前記PRAME抗原ペプチドとMHCタンパク質(特に、HLAタンパク質、より特に、HLA-A、さらにより特に、HLA-A*02)との複合体に結合する、項目1~6のいずれか1つに記載の抗原結合タンパク質。
【0485】
8.前記抗原結合タンパク質は、MHCタンパク質との複合体中のTMED9-001(配列番号51)、CAT-001(配列番号52)、DDX60L-001(配列番号53)、LRRC70-001(配列番号54)、PTPLB-001(配列番号55)、HDAC5-001(配列番号56)、VPS13B-002(配列番号57)、ZNF318-001(配列番号58)、CCDC51-001(配列番号59)、IFT17-003(配列番号60)、DIAPH1-004(配列番号62)、FADS2-001(配列番号63)、FRYL-003(配列番号64)、GIMAP8-001(配列番号65)、HSF1-001(配列番号66)、KNT-001(配列番号67)、MAU-001(配列番号68)、MCM4-001(配列番号69)、MPPE1-001(配列番号71)、MYO1B-002(配列番号72)、PRR12-001(配列番号73)、PTRF-003(配列番号74)、RASGRP1-001(配列番号75)、SMARCD1-001(配列番号76)、TGM2-001(配列番号77)、VAV1-001(配列番号78)、VIM-009(配列番号317)、FARSA-001(配列番号306)、ALOX15B-003(配列番号304)、FAM114A2-002(配列番号305)、GPR56-002(配列番号307)、IGHD-002(配列番号308)、NOMAP-3-0972(配列番号309)、NOMAP-3-1265(配列番号310)、NOMAP-3-1408(配列番号311)、NOMAP-3-1587(配列番号312)、NOMAP-3-1768(配列番号313)、NOMAP-5-0765(配列番号314)、PDCD10-004(配列番号315)、TSN-001(配列番号316)、ARMC9-002(配列番号187)、CLI-001(配列番号188)、COPG1-001(配列番号190)、COPS7A-001(配列番号192)、EIF-009(配列番号194)、EXT2-006(配列番号196)、LMNA-001(配列番号198)、PKM-005(配列番号200)、PSMB3-002(配列番号202)、RPL-007(配列番号204)、SPATS2L-003(配列番号206)、SYNE1-002(配列番号208)、TGM2-002(配列番号210)、およびTPR-004(配列番号212)からなる群から選択される少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20個、または全ての類似ペプチドに有意に結合せず、好ましくは、前記抗原結合タンパク質は、MHCタンパク質との複合体中のIFT17-003(配列番号60)に有意に結合しない、項目1~7のいずれか1つに記載の抗原結合タンパク質。
【0486】
9.前記抗原結合タンパク質は、多重特異性であり、例えば、四重特異性、三重特異性、または二重特異性であり、好ましくは二重特異性であり、特に、前記抗原結合タンパク質は、二重特異性TCR、二重特異性抗体、または二重特異性TCR抗体分子である、項目1~8のいずれか1つに記載の抗原結合タンパク質。
【0487】
10.前記第1および前記第2のポリペプチドは、単一のポリペプチド鎖もしくは2つのポリペプチド鎖に含まれており、好ましくは、Vは、第1のポリペプチド鎖に含まれており、かつVは、第2のポリペプチド鎖に含まれている、項目1~9のいずれか1つに記載の抗原結合タンパク質。
【0488】
11.Vは、FR1-a、FR2-a、FR3-a、およびFR4-aからなる群から選択される1つまたは複数のフレームワーク領域、好ましくは全てのフレームワーク領域をさらに含み、
- FR1-aは、配列番号345もしくは配列番号346のアミノ酸配列、または配列番号345と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、20位でKもしくはNを含み、より好ましくはKを含み、および/または2位でLもしくはMを含み、より好ましくはLを含み;
- FR2-aは、配列番号347もしくは配列番号348のアミノ酸配列、または配列番号347と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、39位でL、I、もしくはMを含み、より好ましくはLもしくはIを含み、47位でAもしくはDを含み、より好ましくはAを含み、44位でKもしくはWを含み、好ましくはKを含み、52位でFもしくはAを含み、好ましくはFを含み、および/または55位でYもしくはVを含み、好ましくはYを含み;
- FR3-aは、配列番号349のアミノ酸配列、または配列番号349と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、92位でTもしくはKを含み、より好ましくはTを含み、および/または93位でDもしくはGを含み、好ましくはDを含み;
- FR4-aは、配列番号350のアミノ酸配列、または配列番号350と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり;
は、FR1-b、FR2-b、FR3-b、およびFR4-bからなる群から選択される1つまたは複数のフレームワーク領域、好ましくは全てのフレームワーク領域をさらに含み、
- FR1-bは、配列番号351もしくは配列番号352のアミノ酸配列、または配列番号351と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、10位でHもしくはNを含み、より好ましくはHを含み、11位でE、L、もしくはKを含み、好ましくはEを含み、および/または22位でRもしくはHを含み;
- FR2-bは、配列番号353のアミノ酸配列、または配列番号353と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、43位でRもしくはKを含み、より好ましくはRを含み、44位でEもしくはQを含み、好ましくはEを含み、46位でMもしくはPを含み、より好ましくはPを含み、および/または48位でRもしくはQを含み、より好ましくはQを含み;
- FR3-bは、配列番号354もしくは配列番号355のアミノ酸配列、または配列番号354と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、84位で、D、A、E、R、K、Q、N、またはSを含み、より好ましくはD、A、E、Q、N、またはSを含み、より好ましくはDまたはAを含み、さらにより好ましくはDを含み;
- FR4-bは、配列番号356のアミノ酸配列、または配列番号356と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなる、
項目1~10のいずれか1つに記載の抗原結合タンパク質。
【0489】
12.
- Vは、配列番号132のアミノ酸配列、または配列番号132と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、配列番号16のCDRa1、配列番号32のCDRa2、および配列番号33、配列番号34、または配列番号9のCDRa3を含み、さらに、20位でKもしくはNを含み、好ましくはKを含み、39位でL、M、もしくはIを含み、好ましくはLもしくはIを含み、44位でKもしくはWを含み、好ましくはKを含み、52位でFもしくはAを含み、好ましくはFを含み、55位でYもしくはVを含み、好ましくはYを含み、92位でTもしくはKを含み、好ましくはTを含み、および/または93位でDもしくはGを含み、好ましくはDを含み;
- Vは、配列番号134のアミノ酸配列、または配列番号134と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、好ましくは、配列番号10のCDRb1、配列番号36のCDRb2、および配列番号48、配列番号49、配列番号47、配列番号281、配列番号292、配列番号294、配列番号297、配列番号298、配列番号301、または配列番号283のCDRb3を含み、さらに、11位でE、L、もしくはKを含み、好ましくはEを含み、22位でRもしくはHを含み、44位でEもしくはQを含み、好ましくはEを含み、46位でPもしくはMを含み、好ましくはPを含み、48位でQもしくはRを含み、好ましくはQを含み、および/または84位でD、A、E、Q、N、もしくはSを含み、好ましくはDもしくはAを含む
項目1~11のいずれか1つに記載の抗原結合タンパク質。
【0490】
13.
- Vは、配列番号132、配列番号129、配列番号137、または配列番号142のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、
- Vは、配列番号134、配列番号130、配列番号135、配列番号136、配列番号138、配列番号139、配列番号140、配列番号141、配列番号144、配列番号145、配列番号146、配列番号147、または配列番号148のアミノ酸配列を含むか、またはからなる、
項目1~12のいずれか1つに記載の抗原結合タンパク質。
【0491】
14.下記:
(i)1箇所または複数箇所のさらなる抗原結合部位;
(ii)細胞質シグナル伝達領域を含んでもよい膜貫通領域;
(iii)診断薬;
(iv)治療薬;および
(v)PK改変部分
の内の1つまたは複数をさらに含む項目1~13のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
【0492】
15.抗体軽鎖可変ドメイン(V)および抗体重鎖可変ドメイン(V)をさらに含む項目1~14のいずれか1つに記載の抗原結合タンパク質。
【0493】
16.VLおよびVHは、CD2、CD3、特に、CD3γ、CD3δ、および/もしくはCD3ε、CD4、CD5、CD7、CD8、CD10、CD11b、CD11c、CD14、CD16、CD18、CD22、CD25、CD28、CD32a、CD32b、CD33、CD41、CD41b、CD42a、CD42b、CD44、CD45RA、CD49、CD55、CD56、CD61、CD64、CD68、CD90、CD94、CD95、CD117、CD123、CD125、CD134、CD137、CD152、CD163、CD193、CD203c、CD235a、CD278、CD279、CD287、Nkp46、NKG2D、GITR、FεRI、TCRα/βおよびTCRγ/δ、HLA-DR、ならびに4-1 BB、またはこれらの組合せからなる群から選択される抗原に結合し、ならびに/またはエフェクター細胞に結合し、特に、T細胞もしくはナチュラルキラー細胞(NK細胞)に結合する、
項目15に記載の抗原結合タンパク質。
【0494】
17.前記抗原結合タンパク質は、第1および第2のポリペプチド鎖を含み、
前記第1のポリペプチド鎖は、式[Ia]:
-L-D-L-V-L-D [Ia]
により表され、
前記第2のポリペプチド鎖は、式[IIa]
-L-D-L-V-L-D [IIa]
により表され、
式中、
- V、V、V、およびVは、可変ドメインであり、V~Vの内の1つは、Vであり、1つは、Vであり、1つはVであり、かつ1つはVであり;
- D、D、D、およびDは、二量体化ドメインであり、かつ存在してもよいし存在していなくてもよく、DおよびD、ならびにDおよびDは、互いに特異的に結合し、DおよびDまたはDおよびDの内の少なくとも1対は、存在しており、
- L、L、L、L、L、およびLは、リンカーであり、LおよびLは、存在しており、L、L、L、およびLは、存在してもよいし存在していなくてもよい、
項目15または16に記載の抗原結合タンパク質。
【0495】
18.前記抗原結合タンパク質は、第1および第2のポリペプチド鎖を含み、
前記第1のポリペプチド鎖は、式[Ib]:
-L-V-L-D [Ib]
により表され、
前記第2のポリペプチド鎖は、式[IIb]:
-L-V-L-D [IIb]
により表され、
式中、
- V、V、V、Vは、可変ドメインであり、好ましくは、VおよびVの内の一方は、Vであり、VおよびVの内の一方は、Vであり、残りの2つの可変ドメインの内の一方は、Vであり、他方はVであり;
- DおよびDは、二量体化ドメインであり、好ましくはFcドメインであり;
- L、L、L、およびLは、リンカーであり、LおよびLは、存在してもよいし存在しなくてもよい、
項目15~17のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
【0496】
19.
(1)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(2)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(3)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(4)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(5)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(6)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(7)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(8)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(9)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(10)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;
(11)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vであるか;または
(12)Vは、Vであり、Vは、Vであり、Vは、Vであり、かつVは、Vである、
項目17または18に記載の抗原結合タンパク質。
【0497】
20.
- 配列番号100、103、105、106、111、122、126、128、151、155、156、157、158、159、166、167、169、171、173、175、177、178、179、180、181、183、189、191、193、195、197、199、201、203、205、207、209、211、213、215、217、285、291、295、299、および303から選択される第1のポリペプチド鎖、ならびに
- 配列番号101、102、104、107、110、119、121、131、133、143、152、160、161、162、163、164、165、168、170、172、174、176、182、184、185、186、216、218、220、222、224、228、230、232、234、236、238、240、242、244、246、248、250、252、254、256、258、260、262、264、266、268、270、272、274、276、278、282、284、296、または300から選択される第2のポリペプチド鎖
を含む項目1~19のいずれか1つに記載の抗原結合タンパク質。
【0498】
21.Vは、TCR α鎖もしくはγ鎖に含まれており;および/またはVは、TCR β鎖もしくはδ鎖に含まれている、項目1~13のいずれか1つに記載の抗原結合タンパク質。
【0499】
22.項目1~21のいずれか1つに記載の抗原結合タンパク質をコードする配列を含む単離核酸。
【0500】
23.項目22に記載の核酸を含むベクター。
【0501】
24.項目1~21のいずれか1つに記載の抗原結合タンパク質、または項目22に記載の核酸、または項目23に記載のベクターを含む宿主細胞。
【0502】
25.前記宿主細胞は、
-リンパ球、好ましくはTリンパ球もしくはTリンパ球前駆細胞、例えば、CD4陽性T細胞もしくはCD8陽性T細胞、または
- 組換え発現用の細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞もしくは酵母細胞
である、項目24に記載の宿主細胞。
【0503】
26.項目1~21のいずれか1つに記載の抗原結合タンパク質、項目22に記載の核酸、項目23に記載のベクター、または項目24もしくは25に記載の宿主細胞と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【0504】
27.項目1~21のいずれか1つに係る抗原結合タンパク質を製造する方法であって、
a.宿主細胞を準備すること、
b.項目1~21のいずれかに記載の抗原結合タンパク質をコードするコード配列を含む遺伝子コンストラクトを準備すること、
c.前記遺伝子コンストラクトを前記宿主細胞に導入すること、および
d.前記宿主細胞により前記遺伝子コンストラクトを発現させること
を含む方法。
【0505】
28.前記宿主細胞からの前記抗原結合タンパク質の単離および精製、ならびに適宜、T細胞中での前記抗原結合タンパク質の再構築をさらに含む項目27に記載の方法。
【0506】
29.医薬での使用のための、項目1~21のいずれか1つに記載の抗原結合タンパク質、項目22に記載の核酸、項目23に記載のベクター、項目24もしくは25に記載の宿主細胞、または項目26に記載の医薬組成物。
【0507】
29.増殖性疾患、例えば、がんの診断、予防、および/または処置での使用のためのものあり、前記がんは、急性骨髄性白血病、乳がん、胆管細胞癌、胆嚢がん、膠芽腫、肝細胞癌、頭頸部扁平上皮癌、黒色腫、無色素性黒色腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん腺癌、非小細胞肺がん、扁平上皮非小細胞肺がん、卵巣がん、食道がん、腎細胞癌、小細胞肺がん、膀胱癌、子宮および子宮内膜がん、骨肉腫、慢性リンパ性白血病、結腸直腸癌、ならびに滑膜肉腫からなるがんの群から選択される、項目1~21のいずれか1つに記載の抗原結合タンパク質、項目22に記載の核酸もしくは項目23に記載のベクター、項目24もしくは25に記載の宿主細胞、または項目26に記載の医薬組成物。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図11-1】
図11-2】
図11-3】
図12-1】
図12-2】
図12-3】
図12-4】
図12-5】
図13-1】
図13-2】
【配列表】
2024518378000001.app
【国際調査報告】