(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-01
(54)【発明の名称】流体中の粒子を捕捉する音響流体デバイス及び方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/42 20060101AFI20240423BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20240423BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
C12M1/42
B81B3/00
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023567991
(86)(22)【出願日】2022-05-03
(85)【翻訳文提出日】2024-01-04
(86)【国際出願番号】 EP2022061881
(87)【国際公開番号】W WO2022233893
(87)【国際公開日】2022-11-10
(32)【優先日】2021-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508092576
【氏名又は名称】エーテーハー チューリヒ
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゲルト,ミヒャエル セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ルッペン,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ドゥアル,ヨルグ
(72)【発明者】
【氏名】パンケ,スヴェン
【テーマコード(参考)】
3C081
4B029
【Fターム(参考)】
3C081AA13
3C081BA23
3C081BA45
3C081BA48
3C081BA55
3C081CA14
3C081DA03
3C081EA29
4B029AA23
4B029BB01
(57)【要約】
移動するキャリア流体中に含まれる正の音響コントラストを有する粒子を捕捉する音響流体デバイス及び方法が開示される。本デバイスは、移動するキャリア流体14を導く第1のチャネル11と、第2のチャネル12とを備える。第1のチャネル11と、第2のチャネルの第1のチャネル11に対して平行な部分121とは、共通の分離壁13によって分離される。音響トランスデューサー30を駆動する駆動回路部31は、第1のチャネル11内の粒子に対して、分離壁13の固有振動モードの変位の腹に向かう音響放射力17が発生する周波数で、音響トランスデューサー30を駆動するように構成され、一方、移動するキャリア流体14によって少なくとも2つの反対回転流れ渦18が形成され、これを音響放射力17と組み合わせることで、固有モードの上記変位の腹において粒子トラップ19を形成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動するキャリア流体中に含まれる、正の音響コントラストを有する粒子、特に細胞を、捕捉する音響流体デバイスであって、
前記粒子(15)を含む前記移動するキャリア流体(14)を導く第1のチャネル(11)と、
前記第1のチャネルに対して平行な部分(121)を有する第2のチャネル(12)であって、前記第1のチャネル(11)及び前記第2のチャネルの前記平行部分(121)は、共通の分離壁(13)によって分離される、第2のチャネル(12)と、
前記第1のチャネル(11)において超音波場を励起する音響トランスデューサー(30)であって、前記超音波場は、前記粒子(15)に対して音響放射力(17)を発生させ、前記分離壁(13)を振動させる、音響トランスデューサー(30)と、
前記トランスデューサー(30)を駆動する駆動回路部(31)であって、前記駆動回路部(31)は、前記分離壁(13)が固有振動モードで振動する周波数、また、前記第1のチャネル(11)内の正の音響コントラストを有する前記粒子(15)が受ける前記音響放射力(17)が前記固有モードの変位の腹に向かう周波数で、前記音響トランスデューサー(30)を駆動するように構成される、駆動回路部(31)と、
を備え、
前記駆動回路部(31)は、前記移動するキャリア流体(14)によって少なくとも2つの反対回転流れ渦(18)が形成され、これを前記音響放射力(17)と組み合わせることで、前記固有モードの前記変位の腹において粒子トラップ(19)を形成するように、前記音響トランスデューサー(30)を駆動するように構成されることを特徴とする、前記音響流体デバイス。
【請求項2】
前記第1のチャネル(11)及び前記第2のチャネル(12)は、基板平面を画定する共通の基板(20)に形成され、前記第1のチャネル及び前記第2のチャネルは、前記基板平面に対して横並びで配置され、前記分離壁(13)は、前記基板(20)と一体に形成されるとともに前記基板平面に対して垂直に延在する、請求項1に記載の音響流体デバイス。
【請求項3】
前記第1のチャネル(11)及び前記第2のチャネル(12)は、前記分離壁(13)が前記基板平面に対して平行な自立端部を呈するように、特にエッチング若しくは微細加工によって、前記基板(20)の材料を除去することによって形成される、又は、
前記第1のチャネル(11)及び前記第2のチャネル(12)は、前記分離壁(13)が前記基板平面に対して平行な自立端部を呈するように、前記基板(20)の前記材料を成形することによって形成される、
請求項2に記載の音響流体デバイス。
【請求項4】
前記音響流体デバイスは、カバープレート(40)を備え、前記カバープレート(40)は、前記分離壁(13)の前記自立端部を固定する、請求項3に記載の音響流体デバイス。
【請求項5】
前記分離壁(13)の前記固有振動モードは、前記基板平面に対して垂直な方向にちょうど1つの変位の腹を呈する、請求項4に記載の音響流体デバイス。
【請求項6】
前記分離壁(13)は、前記基板平面に対して前記基板(20)の第1の側に形成され、前記音響トランスデューサー(30)は、前記基板平面に対して前記第1の側とは反対の前記基板(20)の第2の側に配置される、請求項2~5のいずれか1項に記載の音響流体デバイス。
【請求項7】
前記第2のチャネル(12)は、少なくとも1つの開放端部、好ましくは2つの開放端部を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の音響流体デバイス。
【請求項8】
前記第1のチャネルは、前記第1のチャネル(11)内に流体を導く2つ以上の入口(111、112)を備える、請求項1~7のいずれか1項に記載の音響流体デバイス。
【請求項9】
前記第1のチャネル(11)及び/又は前記第2のチャネル(12)は、本質的に矩形の断面を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の音響流体デバイス。
【請求項10】
前記第2のチャネル(12)は、気体(16)を収容する、請求項1~9のいずれか1項に記載の音響流体デバイス。
【請求項11】
移動するキャリア流体(14)中に含まれる正の音響コントラストを有する粒子、特に細胞を、捕捉する方法であって、
粒子(15)を含むキャリア流体(14)を準備することと、
音響流体デバイス、好ましくは請求項1~10のいずれか1項に記載の音響流体デバイスの第1のチャネル(11)を通る前記キャリア流体(14)の流れを確立することであって、前記音響流体デバイスは、前記第1のチャネルに対して平行な部分(121)を有する第2のチャネル(12)を備え、前記第1のチャネル(11)及び前記第2のチャネルの前記平行部分(121)は、共通の分離壁(13)によって分離されることと、
前記第1のチャネル(11)内で超音波場を励起するように音響トランスデューサー(30)を駆動することであって、前記超音波場は、前記粒子(15)に対する音響放射力(17)を発生させ、前記分離壁(13)を振動させることと、
を含み、
前記音響トランスデューサー(30)は、前記分離壁(13)が固有振動モードで振動する周波数、また、前記第1のチャネル内の正の音響コントラストを有する前記粒子(15)が受ける前記音響放射力(17)が、前記固有モードの変位の腹に向かう周波数で駆動され、
前記音響トランスデューサー(30)は、前記移動するキャリア流体(14)によって少なくとも2つの反対回転流れ渦(18)が形成され、これを前記音響放射力(17)と組み合わせることで、前記固有モードの前記変位の腹において粒子トラップ(19)を形成するように駆動されることを特徴とする、前記方法。
【請求項12】
前記粒子(15)を含む前記キャリア流体(14)の流れを妨害することと、
その後、前記第1のチャネル(11)を通る置換流体(70)の流れを確立することと、
を更に含む、請求項11に記載の粒子を捕捉する方法。
【請求項13】
前記粒子(15)を含む前記キャリア流体(14)と同じ入口(111)及び/又は異なる入口(112)を通して、前記置換流体(70)を前記第1のチャネル(11)に供給することを更に含む、請求項12に記載の粒子を捕捉する方法。
【請求項14】
前記音響トランスデューサー(30)をオフに切り替え、前記第1のチャネル(11)を通る前記置換流体(70)の流れを維持しながら前記粒子(15)を解放することを更に含む、請求項12又は13に記載の粒子を捕捉する方法。
【請求項15】
前記置換流体(70)は、エレクトロポレーションに好適な低伝導性流体である、請求項12~14のいずれか1項に記載の粒子を捕捉する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動するキャリア流体中に含まれる正の音響コントラストを有する粒子を捕捉する音響流体デバイス及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体中に含まれる小粒子を操作することが可能であることは、多くの状況において重要である。1つの顕著な例として、エレクトロポレーションで細胞を調製する際に、細胞を増殖培地から異なる流体に移し替える必要がある。エレクトロポレーションは、電気ショック中に細胞膜に細孔を形成するプロセスである。細孔が形成されると、細胞内に遺伝物質を送達することができる。これは、遺伝子工学の多くのワークフローにおいて必須のステップである。エレクトロポレーションを成功させるには、細胞を強い電場に短時間さらすことから、細胞生存率に影響を与える強い電流及びそれに続くジュール加熱を防止するために、細胞を低伝導性媒体中に懸濁させる必要がある。この要件は、細胞増殖に必要な塩及び他の荷電分子が溶解していることで高い導電性をもたらす増殖培地とは非常に対照的である。したがって、媒体の交換が、形質転換の各形態に対する不可欠な準備ステップとなり、コンピテントセルを調製するプロトコルは、通常、煩雑で時間のかかる遠心分離に基づく洗浄ステップを含む。
【0003】
マイクロ流体システムにおいて連続的に媒体を交換するいくつかの方法が開発されている。これらの方法は、粒子の捕捉、液体界面を通る粒子の引き込み、連続的なバッファー交換、液滴の融合、及び流体の再配置に基づく。媒体の交換を達成するのに利用される力は多岐にわたる。最も一般的に使用される力は、誘電力、磁気力、流体力学、及び音響力である。
【0004】
音響力を使用した粒子の非接触操作である音響泳動は、非侵襲性、標識不要性、柔軟な設計性、及び生体適合性があるため、粒子操作に最も使用される技法の1つである。音響泳動は、音響放射力及び音響ストリーミングによる抗力に基づく。音響放射力は、粒子の表面における超音波の散乱によって生じる。音響放射力の大きさは、主に、粒子サイズ、粒子とその周囲の媒体との間の密度及び圧縮率の差、並びに音圧の振幅に応じて決まる。
【0005】
バルク弾性波(BAW)デバイスにおいて、流体における弾性波長をチャネル寸法に一致させることによって、マイクロ流体チャネル内に弾性定在波が発生する。生体サンプルに典型的な正の音響コントラストを有する粒子は、一次元定在波の圧力ノードに蓄積する。この効果を使用すると、例えば、粒子の流れをマイクロ流体チャネルの中心に収束させることができる。
【0006】
一例として、特許文献1は、高伝導性の細胞バッファーを含むシース流から、チャネルの中心を流れる低伝導性のエレクトロポレーションバッファーに細胞を移動させる音響駆動型高速バッファー交換装置を開示している。音響トランスデューサーが、チャネル基板に取り付けられ、音場を生成し、それにより、粒子の流れをチャネルの中心に向かって、ひいては、低伝導性のエレクトロポレーションバッファー流体の流れ領域内に収束させ、そこで、粒子がチャネルの中心線上に位置する出口を通して収集されるように構成される。
【0007】
しかしながら、用途によっては、粒子をチャネル中心の代わりにチャネル壁のうちの1つに向かって収束させることが好都合である場合がある。従来技術において、これは、チャネル壁のうちの1つの音響特性を変化させることによって達成される。これは、以下の2つの例において記載されている。
【0008】
特許文献2は、流体中の粒子を集中させる装置を開示している。この装置は、実質的に音響的に透明な膜、好ましくは振動発生器の上面によって画定される流れチャネルを備える。代替的に、振動発生器と流体との間に配置される追加の層によって、振動発生器がチャネル内の流体から隔離される構成も開示されている。振動発生器は、流体内に音場を生成することを可能にし、音場は、流体内に少なくとも1つの圧力最小値を生成する。膜は、圧力解放面として機能し、すなわち、反射波が入射波と180度位相がずれ、圧力波が変位波と90度位相がずれているため、膜の表面に位置する圧力ノードが生じる。次いで、正の音響コントラストを有する粒子が、この圧力ノードに対して駆動される。
【0009】
特許文献3は、粒子を含む流体を搬送するチャネルに近接して位置する音響拡張構造を備えるマイクロ流体粒子セパレーターを開示している。この音響拡張構造は、少なくとも1つの圧力ノードを粒子流体チャネル内で偏心して位置決めするように使用され、粒子流体チャネルに対して実質的に平行に位置する第2の流体チャネルで、2つのチャネル間の壁が「音響的に透明」であるのに十分な薄さとなるような第2の流体チャネルからなるか、又は粒子流体チャネルに隣接して位置決めされるゲルからなる。
【0010】
音響泳動の1つの主な欠点は、粒子サイズに関する制限である。臨界粒子半径を下回る粒子の操作は、音響ストリーミングにより生じる抗力によって妨げられる。音響ストリーミングは、流体の調和的な圧送に起因する時間平均化された非線形粘性効果である。音響放射力は、r3(rは粒子半径)に伴って増減し、一方、境界駆動ストリーミングに起因するストークス抗力は、rに比例して増減する。したがって、粒子半径が小さくなるほど、抗力と音響放射力との間の競合が強くなる。
【0011】
上述したマイクロ流体デバイスの例はいずれも、抗力を無視することができない小粒子を捕捉するという問題に取り組んでいない。
【0012】
BAWデバイスにおける小粒子の効率的な収束を可能にするために、特許文献4は、音響ストリーミング場を抑制するためにバーストモード音響励起を使用する方法を開示している。
【0013】
移動する流体中の小粒子を収束させる別の手法は、特定の形状を呈する音響ストリーミング場を発生させることである。例えば、正方形チャネルの中心に向かう単一の渦を呈する音響ストリーミング場が、非特許文献1及び非特許文献2によって示されており、また、特許文献5に開示されている。
【0014】
代替的に、音響ストリーミング場は、音響インピーダンス勾配を調節することによって成形することもできる。これは、非特許文献3によって示されている。
【0015】
上記に開示された音響ストリーミング場を調節するこれらの方法は、粒子の収束は可能にするが、捕捉は可能にせず、すなわち、粒子は、チャネル中心に集まるが、移動するキャリア流体とともに移動を続ける。
【0016】
サブミクロン粒子を捕捉するために、音響トラップ内により大きなシード粒子を予め装填し、粒子間の相互作用によって捕捉を向上させることに基づく技法が、非特許文献4によって開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2020/047504号
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/0245745号
【特許文献3】米国特許出願公開第2013/0043170号
【特許文献4】米国特許第5,831,166号
【特許文献5】国際公開第2014/178782号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】M. Antfolk et al., "Focusing of sub-micrometer particles and bacteria enabled by two-dimensional acoustophoresis", Lab on a chip 14, 2791-2799, (2014), DOI: 10.1039/c4lc00202d
【非特許文献2】Z. Mao et al., "Enriching Nanoparticles via Acoustofluidics", ACS Nano 11(1), 603-612, (2017), DOI: 10.1021/acsnano.6b06784
【非特許文献3】D. Van Assche et al., "Gradient acoustic focusing of sub-micron particles for separation of bacteria from blood lysate", Sci Rep 10, 3670 (2020). DOI: 10.1038/S41598-020-60338-2
【非特許文献4】B. Hammarstrom et al., "Seed particle-enabled acoustic trapping of bacteria and nanoparticles in continuous flow systems", Lab on a Chip 12, 4296-4304, (2012), DOI: 10.1039/c2lc40697g
【発明の概要】
【0019】
第1の態様において、本発明の目的は、移動する流体中に含まれる正の音響コントラストを有する粒子を捕捉する音響流体デバイスを提供することである。特に、本発明の音響流体デバイスは、音響ストリーミングによって生じる抗力の影響が無視できない、例えば細胞等の小粒子を捕捉することを可能にする。
【0020】
この目的は、請求項1に記載の音響流体デバイスによって達成される。本発明の更なる実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0021】
移動するキャリア流体中に含まれる、正の音響コントラストを有する粒子、特に細胞を捕捉する音響流体デバイスが開示される。音響流体デバイスは、
粒子を含む移動するキャリア流体を導く第1のチャネルと、
第1のチャネルに対して平行な部分を有する第2のチャネルであって、第1のチャネル及び第2のチャネルの平行部分は、共通の分離壁によって分離される、第2のチャネルと、
第1のチャネルにおいて超音波場を励起する音響トランスデューサーであって、超音波場は、粒子に対する音響放射力を発生させ、分離壁を振動させる、音響トランスデューサーと、
トランスデューサーを駆動する駆動回路部と、
を備える。
【0022】
本発明の音響流体デバイスにおいて、駆動回路部は、分離壁が固有振動モードで振動する周波数、また、第1のチャネル内の正の音響コントラストを有する粒子が受ける音響放射力が上記固有モードの変位の腹に向かう周波数で、音響トランスデューサーを駆動するように構成される。「変位の腹」という用語は、分離壁のうち、変位振幅が極大値をとる部分に関するものとして理解される。
【0023】
加えて、駆動回路部は、移動するキャリア流体によって少なくとも2つの反対回転流れ渦が形成され、これを音響放射力と組み合わせることで、固有モードの上記変位の腹において粒子トラップを形成するように、対応して設定される振幅及び/又は周波数を有する駆動信号を提供することによって、音響トランスデューサーを駆動するように構成される。
【0024】
理論に縛られることは望まないが、本発明の理論的根拠をよりよく理解するために以下の説明を提供する。様々な式の詳細な導出は、H. Bruus, "Acoustofluidics 7: The acoustic radiation force on small particles", Lab on a Chip 12, 1014-1021 (2012), DOI: 10.1039/C2LC21068A、M. Settnes et al., "Forces acting on a small particle in an acoustical field in a viscous fluid", Phys. Rev. E 85, 016327 (2012), DOI: 10.1103/PhysRevE.85.016327、及びT. Laurell et al., "Microscale Acoustofluidics", Royal Society of Chemistry (2014), ISBN: 978-1-84973-671-8, chapter 4に見出すことができる。
【0025】
非粘性流体中の粒子の場合、音響放射力F
radは、ゴルコフ(Gor'kov)ポテンシャルの負の勾配によって与えられる。すなわち、
【数1】
ここで、粒子半径r、入射音圧場p、音速場v、流体音速c、粒子周囲の流体密度ρ
f、並びに単極子散乱係数f
0及び双極子散乱係数f
1であり、これらは音響コントラスト係数φに関連する。音響コントラスト係数φは以下のようになる。
【数2】
式中、ρ
pは粒子の密度であり、κ
pは粒子の圧縮率であり、κ
fは粒子周囲の流体の圧縮率である。
【0026】
「正の音響コントラストを有する粒子」とは、音響コントラスト係数が正となる、すなわち、φ>0となる粒子として理解される。
【0027】
山括弧は、時間平均を示す。すなわち、
【数3】
式中、T=1/fであり、ここで、fは、音響励起周波数である。
【0028】
本発明の音響流体デバイスにおいて考慮する必要のある別の力として、音響ストリーミングによって生じる抗力がある。
【数4】
ここで、流体動粘度η、粒子半径r、流速v
str、及び粒子速度v
prtである。
【0029】
同様の大きさの音響放射力及び抗力を受ける粒子の場合、音響放射力及び抗力が空間的に反対方向に向かう流体の領域にトラップを形成することができる。
【0030】
一方では、本発明のマイクロ流体デバイスにおける駆動回路部は、ゴルコフポテンシャルが分離壁の固有振動モードの変位の腹における最小値を呈する周波数で、音響トランスデューサーを駆動するように構成される。換言すれば、正の音響コントラストを有する粒子は、分離壁の固有振動モードの上記変位の腹に向かって押される。他方では、駆動回路部は、上記ゴルコフポテンシャル最小値に加えて、移動するキャリア流体中に少なくとも2つの反対回転渦が存在するように、音響トランスデューサーを駆動するように構成される。一般性を失わず、第1のチャネル内の流体の流れ方向は、デカルト座標系におけるx方向と呼ぶことができ、分離壁に対して垂直な方向は、横方向又はy方向と呼ぶことができ、流れ方向x及び横方向yの双方に対して垂直な方向は、高さ方向又はz方向と呼ぶことができる。各渦の回転方向は、振動する分離壁の固有モードの上記変位の腹の高さ(z方向に対する)でyz平面において観察される流速ベクトルが、分離壁とは反対に向かうようになっている。
【0031】
力及び流れ場のこの配置は、分離壁の固有振動モードの上記変位の腹において粒子トラップを形成する。
【0032】
有利な実施形態において、第1のチャネル及び第2のチャネルは、デバイスの製造及び取り扱いを容易にするために、共通の基板に形成することができ、分離壁は、基板と一体に形成されるとともに基板平面に対して垂直に延在する。すなわち、基板平面がxy平面である場合、分離壁はxz平面において延在する。
【0033】
第1のチャネル及び第2のチャネルは、分離壁が、流れ方向(x)に沿って基板平面に対して平行に延在する自立端部を呈するように、特にエッチング又は微細加工によって、基板の材料を除去することによって形成することができる。
【0034】
代替的に、第1のチャネル及び第2のチャネルは、分離壁が、流れ方向(x)に沿って基板平面に対して平行に延在する自立端部を呈するように、基板の材料を成形することによって形成することができる。
【0035】
音響流体デバイスは、カバープレートを備えることができ、カバープレートは、分離壁の自立端部を固定する。分離壁の自立端部を固定することにより、分離壁の高さの半分において変位の腹を特徴付ける基本固有振動モードの励起が促進される。
【0036】
有利な実施形態において、分離壁の固有振動モードは、z方向に、好ましくは分離壁の高さの半分においてちょうど1つの変位の腹を呈することができ、すなわち、固有振動モードは、z方向における基本モードに対応し、yz平面においてちょうど2つの反対回転渦をもたらし、z方向においてただ1つの捕捉領域を生成する。
【0037】
単純で効率的な音響励起を可能にするために、分離壁は、基板平面に対して基板の第1の側に形成することができ、音響トランスデューサーは、基板平面に対して第1の側とは反対の基板の第2の側に配置することができる。
【0038】
分離壁の好ましい振動パターンを得るために、第2のチャネルは、少なくとも1つの開放端部、好ましくは2つの開放端部を有し、周囲環境に対する第2のチャネル内の流体の圧力補償を可能にすることができる。
【0039】
有利な実施形態において、第2のチャネルは、気体を収容することができ、特に、気体によって充填することができる。
【0040】
第1のチャネルは、第1のチャネル内に流体を導く2つ以上の入口を備えることができる。有利な実施形態において、第1の入口は、第1のチャネル内にキャリア流体を導くように使用することができ、第2の入口は、第1のチャネル内に置換流体を導くように使用することができる。
【0041】
第1のチャネル及び/又は第2のチャネルは、本質的に矩形の断面を有することができることが好ましい。本文脈において、「本質的に矩形」とは、チャネル壁間の角度が、90°の角度を目指しているものの、製造プロセス、例えばエッチングによって生じる通常の不可避の量だけ90°から逸脱してもよいことを意味する。
【0042】
第2の態様において、本発明の目的は、移動するキャリア流体中に含まれる正の音響コントラストを有する粒子を捕捉する方法を提供することである。本方法は、
粒子を含むキャリア流体を準備することと、
音響流体デバイス、好ましくは本発明の第1の態様に係る音響流体デバイスの第1のチャネルを通るキャリア流体の流れを確立することであって、音響流体デバイスは、第1のチャネルに対して平行な部分を有する第2のチャネルを備え、第1のチャネル及び第2のチャネルの平行部分は、共通の分離壁によって分離されることと、
第1のチャネル内で超音波場を励起するように音響トランスデューサーを駆動することであって、超音波場は、粒子に対する音響放射力を発生させ、分離壁を振動させることと、
を含み、
音響トランスデューサーは、分離壁が固有振動モードで振動する、また、第1のチャネル内の正の音響コントラストを有する粒子が受ける音響放射力が、上記固有モードの変位の腹に向かう周波数で駆動され、
音響トランスデューサーは、移動するキャリア流体によって少なくとも2つの反対回転流れ渦が形成され、これを音響放射力と組み合わせることで、上記固有モードの変位の腹において粒子トラップを形成するように駆動されることを含む。
【0043】
粒子を捕捉する方法は、粒子を含むキャリア流体の流れを妨害することと、その後、第1のチャネルを通る置換流体の流れを確立することとを更に含むことができる。
【0044】
置換流体は、粒子を含むキャリア流体と同じ入口及び/又は異なる入口を通して、第1のチャネルに供給することができる。
【0045】
本方法は、音響トランスデューサーをオフに切り替え、第1のチャネルを通る置換流体の流れを維持しながら粒子を解放することを更に含むことができる。
【0046】
本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して以下に記載する。図面は、本発明の好ましい実施形態を例示するためのものであり、本発明を限定するためのものではない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】
図1は、好ましい実施形態に係るマイクロ流体デバイスの概略平面図である。
【
図2】
図2は、
図1のマイクロ流体デバイスの概略断面図である。
【
図3a】
図3aは、
図1のマイクロ流体デバイスの概略拡大断面図である。
【
図3b】
図3bは、
図1のマイクロ流体デバイスの概略拡大断面図である。
【
図4】
図4は、本発明に係るマイクロ流体デバイスを使用する好ましい方法の概略側面図である。
【
図5a】
図5aは、本発明に係るマイクロ流体デバイスを使用する好ましい方法の概略拡大平面図である。
【
図5b】
図5bは、本発明に係るマイクロ流体デバイスを使用する好ましい方法の概略拡大平面図である。
【
図5c】
図5cは、本発明に係るマイクロ流体デバイスを使用する好ましい方法の概略拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
<定義>
本開示において、「キャリア流体」は、粒子を搬送することができる任意のタイプの流体とすることができる。特に、キャリア流体は、細胞を増殖していた増殖培地とすることができる。
【0049】
「置換流体」は、そこに粒子が移し替えられる任意のタイプの流体とすることができる。特に、置換流体は、キャリア流体よりも低い導電率を有する水溶液とすることができる。具体的には、置換流体は、細胞の生存率に影響を与えることなく上記溶液中の細胞のエレクトロポレーションを可能にするのに十分低い導電率を有する溶液とすることができる。
【0050】
「音響トランスデューサー」は、第1のチャネル内で超音波を誘導し、分離壁を振動させることが可能な任意のタイプのトランスデューサーとすることができる。特に、音響トランスデューサーは、圧電トランスデューサーとすることができる。
【0051】
「駆動回路部」という用語は、トランスデューサーが第1のチャネル内で超音波を誘導し、分離壁を振動させるように、特定の音響トランスデューサーを駆動することができる任意のデバイス又はデバイスの構成に関連するものとして理解されたい。特に、駆動回路部は、調整可能な周波数を有する周期的な電圧信号を発生させる関数発生器を備えることができ、また、電圧増幅器を備えることもできる。
【0052】
<好ましい実施形態>
図1~
図5は、本発明の好ましい実施形態に係る音響流体デバイスを示している。音響流体デバイスは、非常に概略化されて示されており、図面は縮尺どおりでないことを理解すべきである。
図2、
図3a、及び
図3bの断面図の断面平面は、
図1において平面A-Aとして示されている。
【0053】
音響流体デバイスは、チャネル機構10を備える。チャネル機構10は、第1のチャネル11及び第2のチャネル12を含む。第2のチャネル12は、第1のチャネル11に対して平行な部分121を有する。第1のチャネル11及び第2のチャネル12の平行部分121は、共通の分離壁13によって分離される。第1のチャネル及び第2のチャネルの平行部分121は、共通平面において横並びで配置される。共通平面は、以下で、基板平面又はxy平面と称する。方向は、以下のように規定する。x方向は、第2のチャネルの平行部分121に沿って延在する。y方向は、x方向に対して垂直な、基板平面の横方向である。z方向は、x方向及びy方向の双方に対して垂直な方向である。
図1は、好ましいチャネル機構10の平面図(xy平面)を示している。
【0054】
第1のチャネルは、第1の入口111及び第2の入口112を有する。第2のチャネル12は、両端部が開放している。チャネル11及び12は、基板20に埋め込まれ、特に、基板20は、シリコンウェハーとすることができる。
【0055】
図2は、
図1の平面A-Aにおける音響流体デバイスの断面図を示している。第1のチャネル11の中心は、基板20の中心に対してy方向に距離dだけオフセットさせることができる。分離壁13は、基板20と一体に形成され、xz平面におけるz方向に沿って、すなわち、基板平面に対して垂直に延在する。分離壁13は、基板20の第1の側に形成され、音響トランスデューサー30は、第1の側とは反対の基板20の第2の側に配置される。音響トランスデューサー30は、接着剤32の層を使用して基板20に接続することができる。音響流体デバイスは、分離壁13の自立端部を機械的にクランプするカバープレート40を更に備える。カバープレート40は、基板20に陽極接合されるガラスウェハーとすることができる。第1のチャネル11は、粒子15を含むキャリア流体14を導く。第2のチャネル12は、気体16を収容し、特に、気体16は、空気とすることができる。
【0056】
音響トランスデューサー30は、駆動回路部31によって駆動される。音響トランスデューサー30は、第1のチャネル11内で超音波場を励起し、分離壁13を振動させる。超音波場は、粒子15に対する音響放射力17を発生させる。駆動回路部31は、分離壁13が、変位の腹を呈する固有振動モードで振動する際の周波数で、音響トランスデューサー30を駆動する。固有振動モードは、x方向に複数の変位の腹を呈することができるが、z方向にちょうど1つの変位の腹を呈することが好ましい。変位の腹は、
図3a及び
図3bに概略的に示されているように、(z方向に沿って)分離壁13の高さの半分に位置することが好ましい。第1のチャネル11内の正の音響コントラストを有する粒子15が受ける音響放射力17は、トランスデューサー30を上記周波数で駆動した場合、上記固有モードの変位の腹に向かう。音響放射力17の大きさ及び方向は、それぞれ、
図3aの矢印の長さ及び方向によって概略的に示されている。
【0057】
加えて、駆動回路部31は、移動するキャリア流体11によって少なくとも2つの反対回転流れ渦18が形成され、これを音響放射力17と組み合わせることで、固有モードの上記変位の腹において粒子トラップ19を形成するように、音響トランスデューサー30を駆動する。流速の大きさ及び方向は、それぞれ、
図3bの矢印の長さ及び方向によって示されている。
【0058】
図4及び
図5は、音響流体デバイス1を使用して粒子15の周りの流体を交換する好ましい方法を概略的に示している。
【0059】
図4に見ることができるように、粒子15を含むキャリア流体14がリザーバー51内に備えられ、置換流体70がリザーバー52内に備えられる。流体供給機構60は、リザーバー51及び52をチャネル機構10に接続する。供給機構60は、入口111及び入口112に挿入されるとともに2成分接着剤によって固定されるガラス毛細管を、備えることができる。流体供給機構60は、合流部及び/又は弁を更に備えることができる。流れ発生デバイス81及び82は、キャリア流体14及び置換流体70の流れをそれぞれ確立するように提供される。流れ発生デバイス81及び82は、流体に対して機械的圧力を及ぼすポンプ、例えば、シリンジポンプ若しくは蠕動ポンプ、又は、流体に接触する気体における空気圧をもたらす空気圧源とすることができる。流れ発生デバイス81は、流れ発生デバイス82とは異なる動作原理に基づいてもよい。
【0060】
好ましい方法の第1のステップにおいて、流れ発生デバイス81を使用して、第1のチャネル11を通る、粒子15を含むキャリア流体14の流れが確立される。キャリア流体14は、第1の入口111を通って第1のチャネル11に入ることが好ましい。音響トランスデューサー30は、駆動回路部31を使用して、分離壁13が固有振動モードで振動する周波数で、また、第1のチャネル11内の粒子15が受ける音響放射力17が上記固有モードの1つ以上の変位の腹に向かう周波数で、駆動される。さらに、音響トランスデューサーは、移動するキャリア流体14によって各変位の腹の近傍に少なくとも2つの反対回転流れ渦18が形成され、これを音響放射力17と組み合わせることで、固有モードの上記変位の腹において粒子トラップ19を形成するように駆動される。
【0061】
図5a~
図5cは、上から見たチャネル機構10の抜粋を示している。
図5aに概略的に示されているように、粒子は、分離壁13の固有振動モードの変位の腹に位置するトラップ19に蓄積する。
【0062】
図5bに示されている好ましい方法の第2のステップにおいて、粒子15を含むキャリア流体14の流れが妨害される。流れ発生デバイス82を使用して、第1のチャネル11を通る置換流体70の流れが確立される。置換流体70は、第2の入口112を通って第1のチャネル11に入ることが好ましい。粒子15がトラップ19内に留まる間、キャリア流体の流れを妨害した後に第1のチャネル11内に依然として存在するキャリア流体14を、置換流体70によって置換する。
【0063】
好ましくは、キャリア流体14が第1のチャネル11から完全に追い出され次第実行される、好ましい方法の第3のステップにおいて、音響トランスデューサー30をオフに切り替え、第1のチャネル11を通る置換流体70の流れを維持しながら、粒子15を解放する。
【0064】
その後、粒子15を含む置換流体70は、出口機構90を使用して収集することができ、出口機構90は、第1のチャネル11の下流端部に挿入されるとともに2成分接着剤によって固定されるガラス毛細管を、含むことができる。
【0065】
<励起周波数の決定>
音響流体学において、デバイスの性能のベンチマークとして音響エネルギー密度を使用するのが通例である。平均音響エネルギー密度
【数5】
は、以下のように与えられる。
【数6】
式中、Vは体積であり、pは入射音圧場であり、vは音速場であり、ρは流体密度であり、κは圧縮率である。
図2に示されているチャネル機構10の断面の2次元数値モデルは、デバイスの周波数応答を分析するために、有限要素解析の原理に基づいて動作するプログラム、例えばCOMSOL Multiphysicsを使用して実装及び評価することができる。数値シミュレーションに必要な正確なチャネル寸法を得るために、チャネル機構の断面は、光学顕微鏡法を使用して評価することができる。音響ストリーミング効果を適切に予測するためには、チャネルエッジ、すなわち流体対基板界面及び流体対カバープレート界面において、有限要素メッシュを改良し、それにより粘性境界層を考慮することが推奨される。収束メッシュパラメーターを決定するためにメッシュスタディを実行することができる。数値的な実装に関する更なる詳細は、P. Muller et al., "A numerical study of microparticle acoustophoresis driven by acoustic radiation forces and streaming-induced drag forces", Lab on a Chip 12, 4617-4627, (2012), DOI: 10.1039/C2LC40612H、及びT. Baasch et al., "Acoustic radiation force acting on a heavy particle in a standing wave can be dominated by the acoustic microstreaming", Physical Review E 100, 061102, (2019), DOI: 10.1103/PhysRevE.100.061102に見出すことができる。
【0066】
第1のチャネル11の断面にわたって積分し、その面積によって除算した平均音響エネルギー密度は、トランスデューサー30が励起される周波数fの関数として評価することができる。さらに、2次元数値モデルを使用して、周波数fの関数として分離壁13の固有振動モードの振幅を予想することができる。周波数軸上の位置に関して一致する、平均音響エネルギー密度及び分離壁変位の固有振動モードの振幅の最大値は、デバイスの共振を示す。これらの共振周波数において、ゴルコフポテンシャル及び流速場から導出される音響放射力を数値的に評価して、以下を検証することができる。
1.音響放射力が、分離壁の固有モードの変位の腹に向かうこと(
図3aに概略的に示されている)、及び、
2.2つの反対回転渦が生じ、各渦の回転方向は、振動する分離壁の固有モードの変位の腹の高さ(z方向)における流速ベクトルが、第1のチャネル11の中心に向かうようになっていること(
図3bに概略的に示されている)。
【0067】
これらの2つの基準に従って選択される励起周波数は、分離壁の固有モードの変位の腹における粒子トラップの形成をもたらす。シミュレーションの入力として使用される理想化された材料パラメーターと実際の材料パラメーターとの間の不一致を考慮するために、駆動回路部31は、上述した基準を満たす数値的に決定された周波数の周りで励起周波数を掃引するように構成することができる。さらに、駆動回路部31は、音響トランスデューサーが励起周波数に依存するインピーダンスを有し得ることを考慮するために、音響トランスデューサーを駆動するのに使用される駆動信号の振幅を調整するように構成することができる。粒子捕捉を最適化するために、周波数を掃引し及び/又は駆動信号の振幅を調整することは、粒子捕捉プロセスを観察しながら実験的に行うことができる。粒子捕捉プロセスの効率は、顕微鏡を使用して捕捉領域を撮像すること、又は、第1のチャネル11の下流のキャリア流体における粒子濃度を求め、それを第1のチャネル11の上流のキャリア流体における粒子濃度と比べることにより、リアルタイムで評価することができる。
【0068】
<寸法の考慮事項、材料の考慮事項、及びデバイスの製造>
本発明の特定の実施形態において、基板20は、シリコンからなることができ、幅ws=4mm及び高さhs=500μmを有することができる。第1のチャネル11及び第2のチャネルの平行部分121の双方は、本質的に矩形断面を有する。第1のチャネル11及び第2のチャネルの平行部分121の双方は、高さhc=200μmを有することができる。第1のチャネル11の中心は、基板20の中心に対してy方向に距離d=200μmだけオフセットさせることができる。第1のチャネル11は、幅wc1=154μmを有することができ、一方、第2のチャネルの平行部分121は、幅wc2=150μmを有することができる。カバープレート40は、ガラスからなることができ、厚さtg=700μmを有することができる。
【0069】
分離壁は、この特定の実施形態において、分離壁13が基板20に接続される場所では4μmの厚さを有することができ、分離壁13がカバープレート40に接触する場所では5μmの厚さを有することができる。トランスデューサーは、長さlp=10mm、高さhp=0.9mm、及び幅wp=2mmを有することができるとともに、波形発生器からの高周波増幅されたAC信号によって周波数f=1.8MHzで駆動することができる、圧電素子(ピエゾ)とすることができる。大腸菌(E. coli)細胞を捕捉するためにこの特定のデバイスを使用する特定の方法において、キャリア流体14の流量は、プロセスの第1のステップでは10μL/分に設定することができ、プロセスの第2のステップでは、キャリア流体の流量をゼロに設定することができるとともに、ピエゾを駆動したままで置換流体70の流量を10μL/分に設定することができる。プロセスの第3のステップでは、ピエゾを駆動する波形発生器がオフに切り替えられ、置換流体70の流量を20μL/分に設定することができる。
【0070】
好ましい実施形態において、基板20は、シリコンからなることができ、チャネル機構10は、以下のように得ることができる。最初に、フォトリソグラフィーを使用して(レジスト:S1813、Shipley社、4000rpm;露光量:230mJ/cm
2;デベロッパー:AZ 351B、Microchemicals社、現像時間15秒)、クロムマスクからシリコンウェハー上に設計を転写する。次に、ウェハーを誘導結合プラズマ深掘り反応性イオンエッチング(ICP-DRIE)機(Estrellas、Oxford instruments社)に入れる。M.S. Gerlt et al., "Reduced etch lag and high aspect ratios by deep reactive ion etching (DRIE)", https://arxiv.org/abs/2104.02763, (2021)によって記載されているように改変された高速プロセスを用いると、約350の選択比(フォトレジストとシリコンとのエッチング速度の比)及び約89.7°の角度αを有する真っ直ぐなチャネル壁が達成される。ここで、αは、分離壁が振動していないときの、基板平面と分離壁との間のyz平面における角度として規定される(
図3a及び
図3bを参照)。
【0071】
更なる実施形態において、基板20は、限定はしないが、酸化物(例えば、ガラス)、金属(例えば、鋼、タングステン、チタン)、エラストマー(例えば、PDMS)、熱可塑性物質(例えば、PET、PS、COC)、又は熱硬化性ポリマーからなることができる。
【0072】
チャネルは、エッチングによって形成される代わりに、機械的若しくは光学的な微細加工によって、又は基板の材料を成形することによって形成することができる。
【0073】
カバープレート40の材料は、ガラスに限定されず、別の任意の好適な材料又は材料の組合せとすることができる。
【0074】
本発明の更なる実施形態は、上述した例示的な実施形態とは異なるチャネル寸法を呈することができる。第1のチャネルの幅及び高さは変更することができるが、好ましくは、第1のチャネルのチャネル断面積が30000μm2~40000μm2の間を維持するようになっている。第2のチャネルの高さ(すなわち、z方向に沿う)は、第1のチャネルの高さと同じであることが好ましい。分離壁は、異なる厚さ及び異なる壁角度を有することができる。第1のチャネルの断面積が30000μm2~40000μm2の場合、分離壁の平均厚さは、好ましくは15μm未満であり、壁角度αは、好ましくは87°~90°であり、分離壁の長さ(x方向における)は、好ましくは1mm~8mmである。更なる実施形態に係るマイクロ流体デバイスは、広範囲の励起周波数、通常、1kHz~3MHzで動作することができる。最適な励起周波数は、幾何学的寸法及び材料選択の組合せによって変わるが、上述した数値的及び実験的ステップの組合せを使用して常に求めることができる。
【0075】
<他の変更形態>
上述したマイクロ流体デバイスの多くの変更形態が可能である。例えば、入口111及び112は、基板20に埋め込む代わりに、基板の外部に配置してもよく、例えば、1つ又は複数の合流部を備える毛細管構成によって形成してもよい。入口及び出口の数も制限されず、入口及び出口は、三次元空間の全ての方向に配置することができる。流体は、カバープレートを介して第1のチャネル11に向かって及び/又は第1のチャネル11の外に導くこともできる。
【符号の説明】
【0076】
10 チャネル機構
11 第1のチャネル
12 第2のチャネル
13 分離壁
14 キャリア流体
15 粒子
16 気体
17 音響放射力
18 流れ渦
19 粒子トラップ
20 基板
30 音響トランスデューサー
31 駆動回路部
32 接着剤の層
40 カバープレート
51 リザーバー
52 リザーバー
60 供給機構
70 置換流体
81 流れ発生デバイス
82 流れ発生デバイス
111 入口
112 入口
121 第2のチャネルの平行部分
α 角度
【国際調査報告】