(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-01
(54)【発明の名称】アルツハイマー病の治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/438 20060101AFI20240423BHJP
A61K 31/445 20060101ALI20240423BHJP
A61K 31/13 20060101ALI20240423BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240423BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
A61K31/438
A61K31/445
A61K31/13
A61P25/28
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568654
(86)(22)【出願日】2022-05-19
(85)【翻訳文提出日】2023-12-22
(86)【国際出願番号】 US2022030020
(87)【国際公開番号】W WO2022246059
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523421063
【氏名又は名称】アミリエーディー ファーマ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ロジャース,シャロン エル.
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC21
4C086CB05
4C086MA01
4C086MA02
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4C086NA05
4C086ZA16
4C086ZC75
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4C206MA57
4C206MA72
4C206NA05
4C206ZA16
4C206ZC75
(57)【要約】
本開示は、1’,3’-ジヒドロ-2H-スピロ[イミダゾ[1,2α]ピリジン-3,2’-インデン]-2-オンを、単一の活性薬剤として、または塩酸ドネペジル及び/または塩酸メマンチンとの併用投与として、1日量180mgで経口投与することによって、アルツハイマー病を治療することを目的とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
180mgの1日量のAD101をヒト対象に経口投与することを含む、アルツハイマー型認知症の治療方法。
【請求項2】
180mgの1日量のAD101及びある用量の塩酸ドネペジルをヒト対象に経口投与することを含む、アルツハイマー型認知症の治療方法。
【請求項3】
180mgの1日量のAD101をヒト対象に経口投与することを含む、アルツハイマー病の治療方法。
【請求項4】
180mgの1日量のAD101及びある用量の塩酸ドネペジルをヒト対象に経口投与することを含む、アルツハイマー病の治療方法。
【請求項5】
AD101による治療開始時のMMSEスコアが10~24であるヒト対象においてアルツハイマー型認知症を治療する方法であって、180mgの1日量のAD101を前記対象に経口投与することを含む、前記方法。
【請求項6】
AD101による治療開始時のMMSEスコアが10~24であるヒト対象においてアルツハイマー型認知症を治療する方法であって、180mgの1日量のAD101及びある用量の塩酸ドネペジルを前記対象に経口投与することを含む、前記方法。
【請求項7】
AD101による治療開始時にMMSEスコアが10~24であるヒト対象においてアルツハイマー病を治療する方法であって、AD101の1日量180mgを前記対象に経口投与することを含む、前記方法。
【請求項8】
AD101による治療開始時のMMSEスコアが10~24であるヒト対象においてアルツハイマー病を治療する方法であって、180mgの1日量のAD101及びある用量の塩酸ドネペジルを前記対象に経口投与することを含む、前記方法。
【請求項9】
前記対象は、AD101の初回投与前に、塩酸ドネペジルで既に治療されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項10】
前記対象は、AD101の初回投与前に、安定用量の塩酸ドネペジルで既に治療されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項11】
塩酸ドネペジルを、5mg、10mgまたは23mgの1日量で前記対象に投与する、請求項2、4、6、8、9及び10のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項12】
塩酸ドネペジルを、1日量5mgで前記対象に(例えば、フィルムコーティング錠または経口崩壊錠として)経口投与する、請求項2、4、6、8、9及び10のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項13】
塩酸ドネペジルを、1週間に1回の経皮パッチによって投与し、それによって前記対象が塩酸ドネペジル5mgの1日量の投与を受ける、請求項2、4、6、8、9及び10のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項14】
塩酸ドネペジルを、1日量10mgで前記対象に(例えば、フィルムコーティング錠または経口崩壊錠として)経口投与する、請求項2、4、6、8、9及び10のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項15】
塩酸ドネペジルを、1週間に1回の経皮パッチによって投与し、それによって前記対象が塩酸ドネペジル10mgの1日量の投与を受ける、請求項2、4、6、8、9及び10のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項16】
塩酸ドネペジルを、1日量23mgで前記対象に(例えば、フィルムコーティング錠として)経口投与する、請求項2、4、6、8、9及び10のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項17】
塩酸ドネペジルを、1日量10mgで少なくとも30日間、前記対象に(例えば、フィルムコーティング錠または経口崩壊錠として)経口投与する、請求項2、4、6、8、9及び10のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項18】
塩酸ドネペジル10mgの初期1日量を塩酸ドネペジル23mgの1日維持量まで増加させる、請求項17に記載の治療方法。
【請求項19】
AD101を1日1回(QD)1つ以上の錠剤として投与する、請求項1~18のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項20】
AD101を60mg×3、90mg×2または180mg×1の錠剤として投与する、請求項19に記載の治療方法。
【請求項21】
塩酸ドネペジルを1日1回(QD)投与する、請求項2、4、6及び8~20のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項22】
前記対象を1つ以上の追加の治療剤で治療する、請求項1~21のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項23】
前記1つ以上の追加の治療薬が、アルツハイマー病の対象を治療するのに有用である、請求項22に記載の治療方法。
【請求項24】
AD101、塩酸ドネペジル、及び存在する場合には1つ以上の追加の治療薬をそれぞれ別個の組成物として投与する、請求項2、4、6及び8~23のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項25】
AD101及び塩酸ドネペジルの前記併用投与が、AD101または塩酸ドネペジルの単独投与に対して、治療された対象の状態にさらなる有益な効果を有する、請求項2、4、6及び8~24のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項26】
前記対象が、治療後に認知機能またはグローバル機能の改善を示す、請求項1~25のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項27】
治療有効量のAD101及び治療有効量の塩酸メマンチンをヒト対象に経口投与することを含む、アルツハイマー病の治療方法。
【請求項28】
治療有効量のAD101及び治療有効量の塩酸メマンチンをヒト対象に経口投与することを含む、アルツハイマー型認知症の治療方法。
【請求項29】
前記対象が、AD101の初回投与前に、塩酸メマンチンで既に治療されている、請求項27または28に記載の治療方法。
【請求項30】
前記対象は、AD101の初回投与前に、安定用量の塩酸メマンチンで既に治療されている、請求項27または請求項28に記載の治療方法。
【請求項31】
AD101を1日1回投与する、請求項27~30のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項32】
AD101を1日量180mgで投与する、請求項27~31のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項33】
AD101を、1日1回(QD)の1つ以上の錠剤として投与する、請求項32に記載の治療方法。
【請求項34】
AD101を60mg×3、90mg×2または180mg×1の錠剤として投与する、請求項33に記載の治療方法。
【請求項35】
塩酸メマンチンを、約5mg~約30mgの1日量で前記対象に経口投与する、請求項27~34のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項36】
塩酸メマンチンを、1日量5mgで前記対象に経口投与する、請求項27~34のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項37】
塩酸メマンチンを、1日量20mgで前記対象に経口投与する、請求項27~34のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項38】
塩酸メマンチン5mgの初期1日量を塩酸メマンチン20mgの1日維持量まで増加させる、請求項36に記載の治療方法。
【請求項39】
塩酸メマンチンを、1日量7mg、14mgまたは28mgの徐放性カプセルとして前記対象に経口投与する、請求項27~34のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項40】
塩酸メマンチン7mgの初期1日量を、塩酸メマンチン14mgまたは28mgの1日維持量まで増加させる、請求項39に記載の治療方法。
【請求項41】
前記対象を1つ以上の追加の治療剤で治療する、請求項27~40のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項42】
前記1つ以上の追加の治療薬が、アルツハイマー病の対象を治療するのに有用である、請求項41に記載の治療方法。
【請求項43】
AD101、塩酸メマンチン、及び存在する場合には1つ以上の追加の治療剤をそれぞれ別個の組成物として投与する、請求項27~42のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項44】
追加の治療薬が塩酸ドネペジルである、請求項41~43のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項45】
塩酸ドネペジルを1日量10mgで前記対象に経口投与する、請求項44に記載の治療方法。
【請求項46】
塩酸ドネペジルを1日量23mgで前記対象に経口投与する、請求項44に記載の治療方法。
【請求項47】
塩酸ドネペジルを1日量10mgで少なくとも3か月間、前記対象に経口投与する、請求項44に記載の治療方法。
【請求項48】
塩酸ドネペジル10mgの初期1日量を塩酸ドネペジル23mgの1日維持量まで増加させる、請求項45に記載の治療方法。
【請求項49】
追加の治療薬は塩酸ドネペジルであり、塩酸メマンチンと塩酸ドネペジルとを共に単一の組成物で投与する、請求項41記載の治療方法。
【請求項50】
塩酸メマンチン及び塩酸ドネペジルを、塩酸メマンチン徐放剤(14mgまたは28mg)及び塩酸ドネペジル10mgを含むカプセルとして共に投与する、請求項49に記載の治療方法。
【請求項51】
AD101及び塩酸メマンチンの前記併用投与が、治療対象の状態に対して相乗効果を有する、請求項27~50のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項52】
AD101、塩酸メマンチン及び塩酸ドネペジルの前記併用投与が、治療対象の状態に対して相乗効果を有する、請求項27~50のいずれか1項に記載の処置方法。
【請求項53】
前記対象が、治療後に認知機能またはグローバル機能の改善を示す、請求項27~52のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項54】
AD101による治療開始時にMMSEスコアが10~24であるヒト対象におけるアルツハイマー病の治療方法であって、治療有効量のAD101及び治療有効量の塩酸メマンチンをヒト対象に経口投与することを含む、前記方法。
【請求項55】
AD101を1日1回投与する、請求項54に記載の治療方法。
【請求項56】
AD101を1日量180mgで投与する、請求項54または請求項55に記載の治療方法。
【請求項57】
AD101を1日1回(QD)1つ以上の錠剤として投与する、請求項56に記載の治療方法。
【請求項58】
AD101を60mg×3、90mg×2または180mg×1の錠剤として投与する、請求項57に記載の治療方法。
【請求項59】
AD101による治療開始時にMMSEスコアが10~24であるヒト対象におけるアルツハイマー病の治療方法であって、治療有効量のAD101、治療有効量の塩酸メマンチン、及び治療有効量の塩酸ドネペジルをヒト対象に経口投与することを含む、前記方法。
【請求項60】
AD101を1日1回投与する、請求項59に記載の治療方法。
【請求項61】
AD101を1日量180mgで投与する、請求項59または請求項60に記載の治療方法。
【請求項62】
AD101を1日1回(QD)1つ以上の錠剤として投与する、請求項61に記載の治療方法。
【請求項63】
AD101を60mg×3、90mg×2または180mg×1の錠剤として投与する、請求項62に記載の治療方法。
【請求項64】
前記対象が、アルツハイマー型の軽度の認知症を示す、請求項1~63のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項65】
前記対象が、アルツハイマー型の中等度の認知症を示す、請求項1~63のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項66】
前記対象が、アルツハイマー型の重度の認知症を示す、請求項1~63のいずれか1項に記載の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年5月19日に出願された米国仮特許出願第63/190,299号、2021年5月24日に出願された米国仮特許出願第63/192,398号、及び2022年4月14日に出願された米国仮特許出願第63/331,011号の優先権の利益を主張するものであり、これらの内容はすべて参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、1’,3’-ジヒドロ-2H-スピロ[イミダゾ-[1,2α]ピリジン-3,2’-インデン]-2-オン(「AD101」)をアルツハイマー病の患者を治療するために投与することを記載する。一態様において、AD101は、改善された投薬レジメンで投与される。一態様において、AD101は、塩酸メマンチン療法を受けている患者に投与される。
【背景技術】
【0003】
アルツハイマー病(「AD」)は神経変性障害であり、対症療法のみが存在し、その治療効果は限られている。ADの世界的な有病率は、2050年までに4倍の1億人超となり、その際、世界中の85人に1人がAD疾患と共に生活すると予測されている。それらの症例の40%超が後期段階ADにあり、介護施設でのケアと同等の高いレベルの注意を必要とする。ADは、物忘れなどの軽度の認知障害から始まり、最終的には自立した生活ができなくなる段階まで進行する。ADを発症する主な危険因子は年齢であり、65歳を超えると発症の可能性は約5年ごとに倍増し、85歳を超えるとリスクはほぼ50%に達する。家族歴があると、この疾患が発症するリスクも高まり、これは遺伝学なものまたは環境要因に起因する場合がある。
【0004】
ADは、認知症の最も一般的な原因である。認知症という用語は、記憶障害、知的障害、人格変化及び行動異常を特徴とする症候群を表す。これらの症状により、社会的及び職業的能力の低下を引き起こす。認知症には複数の病因や病態生理があり、その病態を治療するためにさまざまな薬剤が開発されている。アルツハイマー型認知症(「DAT」)は、認知及び記憶の悪化、日常生活の活動を実行する能力の進行性障害、多くの精神神経症状及び行動症状を特徴とする、進行性で致命的な神経変性状態と定義される。DATは高齢者で最も一般的な認知症の形態であり、年齢とともに増加することが予想される。
【0005】
現在、ADの認知症状の治療のために承認された4つの薬剤は、2つの群に分類されている。
1.コリンエステラーゼ阻害薬(ChEI):ドネペジル、リバスチグミン及びガランタミン。これらの薬剤は、薬剤を加水分解するコリンエステラーゼを阻害することにより、コリン作動性の伝達を増加させる。ガランタミンは軽度から中等度のADの治療に使用され、ARICEPT(登録商標)(塩酸ドネペジル錠)及びリバスチグミンもADに適応があり、軽症、中等症または重症の患者に使用することができる。
2.NMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)受容体アンタゴニスト:塩酸メマンチン。この薬剤は、神経機能障害を引き起こす可能性のあるグルタミン酸の病理学的増強濃度の上昇の効果を調節する。NAMENDA(登録商標)(塩酸メマンチン錠)は、中等症から重症のDAT患者の治療にのみ適応がある。
【0006】
これらの承認された薬剤のいずれも、この疾患の治療薬ではない。さらに、非選択的ChEIには、嘔吐や下痢などの好ましくない副作用が目立つ。したがって、AD患者における認知機能障害及びグローバル機能(すなわち、患者の日常活動において機能する全体的な能力)の低下を軽減するための他の治療選択肢が必要とされている。さらに、塩酸メマンチンは、AD患者に投与された場合には一般に良好な忍容性を示すが、他のAD薬と併用された場合には、増悪し、及び/または治療上の合併症を引き起こす可能性がある特定の副作用を示す。
【0007】
AD101(以前にAD101、ST101またはZTET1446として報告)は、化学名1’,3’-ジヒドロ-2H-スピロ[イミダゾ[1,2α]ピリジン-3,2’-インデン]-2-オンを有する小分子である。AD101及びその調製は、最初にWO 2001/09131A1に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。本開示は、塩酸ドネペジルの安定なレジメンを現在受けている対象を含む、アルツハイマー病(AD)の対象の治療において特に有効であり得る、1日量のAD101を提供する。したがって、AD101を1日1回(QD)180mg経口投与することにより、ADの発症または進展を示す患者における認知機能障害とグローバル機能の軽減、及び/または治療を受けた対象における認知機能障害とグローバル機能の改善を含む、AD対象の症状の緩和が得られる。
【0008】
本開示はまた、AD対象の治療に特に有効であり得る新規の併用療法を提供する。したがって、本開示は、塩酸メマンチンとAD101が安全に併用投与できることを記載している。驚くべきことに、AD101は、安定用量の塩酸メマンチンを服用しているAD対象に対して、少なくとも180mgまでの1日量で、重大な副作用を引き起こすことなく投与することができる。また、安定用量の塩酸メマンチンと安定用量の塩酸ドネペジルを服用しているAD対象に、AD101を少なくとも180mgまでの1日量で投与しても、この好ましい副作用プロファイルが維持されることも驚くべきことである。
【0009】
AD101と塩酸メマンチンの併用投与は、アルツハイマー病の発症または進展を示す患者における認知機能障害とグローバル機能の軽減、及び/または治療を受けた対象における認知機能とグローバル機能の改善を含む、AD対象(塩酸ドネペジルの安定なレジメンを現在受けている対象を含む)に特に症状の緩和を提供し得る。併用療法は、重大な安全性の問題を伴うことなく効果的であり得る。したがって、現在塩酸メマンチン及び/または塩酸ドネペジルで治療を受けているAD対象に対するAD101の投与(例えば180mg AD101 QD)は、重大な薬物関連の安全上の懸念を引き起こすことなく、特に効果的な症状緩和を提供し得る。
【発明の概要】
【0010】
本開示は、一態様では、AD101が180mgの1日量(QD)でアルツハイマー病の対象に安全に投与され得ることを記載する。
【0011】
本開示は、一態様では、AD101が180mgの1日量(QD)でアルツハイマー型認知症の対象に安全に投与され得ることを記載する。
【0012】
本開示は、一態様では、AD101が、アルツハイマー病の対象に塩酸メマンチンと共に安全に投与され得ることを記載する。本態様の一実施形態では、AD101は、少なくとも180mgまでの1日量(QD)で投与され得る。本態様のさらなる実施形態では、対象には塩酸ドネペジルも投与される(例えば、AD101が少なくとも180mgまでの1日量(QD)で投与される場合を含む)。
【0013】
本開示は、一態様では、AD101が、アルツハイマー型認知症の対象に塩酸メマンチンと安全に併用投与され得ることを記載する。本態様の一実施形態では、AD101は、少なくとも180mgまでの1日量(QD)で投与され得る。本態様のさらなる実施形態では、対象には塩酸ドネペジルも投与される(例えば、AD101が少なくとも180mgまでの1日量(QD)で投与される場合を含む)。
【0014】
本開示はまた、AD101が塩酸メマンチン及び/または塩酸ドネペジルと併用投与される場合を含め、対象に重大な安全上の懸念を引き起こすことなく、12週間を超える期間、例えば24週間または36週間またはそれ以上の期間にわたって、アルツハイマー病の対象に少なくとも180mg QDまでAD101を経口投与し得ることを記載する。
【0015】
本開示はさらに、塩酸メマンチン及び/または塩酸ドネペジル(例えば、Aricept(登録商標))による治療を受けているアルツハイマー病の対象に、AD101を少なくとも180mg QDまでで投与することが、治療を受けた対象における認知とグローバル機能の改善、及び/またはこれら両方の転帰の低下の遅延に特に有効であり得ることを記載する。
【0016】
したがって、一態様では、本開示は、アルツハイマー病に罹患しているヒト対象においてアルツハイマー病を治療する方法であって、180mgの1日量のAD101を対象に経口投与することを含む方法を提供する。
【0017】
一態様では、本開示は、アルツハイマー型認知症に罹患しているヒト対象においてアルツハイマー型認知症を治療する方法であって、180mgの1日量のAD101を対象に経口投与することを含む方法を提供する。
【0018】
一態様では、本開示は、アルツハイマー病に罹患しているヒト対象においてアルツハイマー病を治療する方法であって、180mgの1日量のAD101及びある用量の塩酸ドネペジルを対象に経口投与することを含む方法を提供する。
【0019】
一態様では、本開示は、アルツハイマー型認知症に罹患しているヒト対象においてアルツハイマー型認知症を治療する方法であって、180mgの1日量のAD101及びある用量の塩酸ドネペジルを対象に経口投与することを含む方法を提供する。
【0020】
前述の態様のいずれかの一実施形態では、対象は、AD101の初回投与前に、塩酸ドネペジルで既に治療されている。
【0021】
前述の態様のいずれかの一実施形態では、対象は、AD101の初回投与前に、安定用量の塩酸ドネペジルで既に治療されている。
【0022】
一態様では、本開示は、アルツハイマー病に罹患しているヒト対象においてアルツハイマー病を治療する方法であって、治療有効量のAD101及び治療有効量の塩酸メマンチンを対象に経口投与することを含む方法を提供する。
【0023】
一態様では、本開示は、アルツハイマー病に罹患しているヒト対象においてアルツハイマー病を治療する方法であって、180mgの1日量のAD101及び治療有効量の塩酸メマンチンを対象に経口投与することを含む方法を提供する。
【0024】
一態様では、本開示は、アルツハイマー型認知症に罹患しているヒト対象においてアルツハイマー型認知症を治療する方法であって、治療有効量のAD101及び治療有効量の塩酸メマンチンを対象に経口投与することを含む方法を提供する。
【0025】
一態様では、本開示は、アルツハイマー型認知症に罹患しているヒト対象においてアルツハイマー型認知症を治療する方法であって、180mgの1日量のAD101及び治療有効量の塩酸メマンチンを対象に経口投与することを含む方法を提供する。
【0026】
前述の態様のいずれかの一実施形態では、対象は、AD101の初回投与前に、塩酸メマンチンで既に治療されている。
【0027】
前述の態様のいずれかの一実施形態では、対象は、AD101の初回投与前に、安定用量の塩酸メマンチンで既に治療されている。
【0028】
前述の態様のいずれかの一実施形態では、対象は、AD101の初回投与前に、塩酸メマンチン及び塩酸ドネペジルで既に治療されている。
【0029】
前述の態様のいずれかの一実施形態では、対象は、AD101の初回投与前に、安定用量の塩酸メマンチン及び塩酸ドネペジルで既に治療されている。
【0030】
塩酸ドネペジル(例えばAricept(登録商標))は、好都合には、約5mg~約50mg(5mg、10mgまたは23mgを含む)の1日量で対象に経口投与されるか、または週1回の経皮パッチを介して5mgまたは10mgの1日量を投与され得る。塩酸ドネペジルの投与期間は、1か月以上、例えば少なくとも30日間であり得る。対象は、より低い用量(例えば5mgまたは10mg QD)の塩酸ドネペジルで開始し、その後、維持用量(例えば23mg QD)まで増加することができる。
【0031】
塩酸メマンチンは、好都合には、約5mg~約30mgの1日量で対象に経口投与され得る。一実施形態では、塩酸メマンチンは、5mgの1日量で投与される。一実施形態では、塩酸メマンチンは、20mgの1日量で投与される。一実施形態では、塩酸メマンチンは、1日5mgの初期用量で投与され、その後1日20mgの維持用量まで増加される。一実施形態では、塩酸メマンチンは、1日量7mg、14mgまたは28mgの徐放性カプセルとして対象に経口投与される。一実施形態では、塩酸メマンチンは、1日量7mgの徐放性カプセルとして最初に投与され、その後、1日維持用量14mgまたは28mgに増加される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】塩酸ドネペジルで安定治療を受けている対象を対象とした、AD101のAD治療における有効性、安全性及び忍容性に関する無作為化二重盲検プラセボ対照第3相臨床試験のフローチャートである。一次、二次、及び探索的有効性アウトカムを、治療上緊急の徴候・症状(TESS)、治療上緊急の臨床検査値異常(TEAV)、重篤な有害事象(SAE)、治療薬物モニタリング(TDM)を含む安全性及び忍容性の変数と共にモニタリングする。
【発明を実施するための形態】
【0033】
AD101は、ADに関連する学習と記憶のげっ歯類モデルにおいて、急性及び慢性投与両方の後に薬理活性を示している。AD101はまた、げっ歯類の脳におけるアセチルコリン(ACh)レベルを上昇させ、動物の多くの行動試験において学習と記憶を改善することを示している。(Yamaguchi Y.,et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.577:1079-1087(2006)、Ito Y.,et ai,J.Pharmacol.Exp.Ther.520:819-827(2007))。この機能的改善は、長期増強(LTP)における増強、記憶形成の電気生理学的相関、ならびにLTPの増強に関連する生化学的変化、例えば、タンパク質キナーゼC及びCa2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII(CaMK II)の活性の増大などと相関していた(Han,F.,et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.326:127-134(2008))。
【0034】
さらなる実験では、AD101がニコチン刺激によるACh放出を増強し、大脳皮質の細胞外ACh濃度を増加させ、海馬のAChとドーパミンの両方の細胞外濃度を増加させることが示された。AD101がその効果を発揮するモデルの幅の広さは、それらの過程に関連するシグナル伝達経路(複数可)の上流標的への関与の可能性を示唆している。
【0035】
AD101はまた、Αβ様沈着物の蓄積を減少させ、学習・記憶機能の改善をもたらすことから、AD101の行動学的効果は、Αβ産生及び/または蓄積の減少に関連し得ることを示唆している(米国特許出願公開第2008/103158号を参照)。AD101はまた、アミロイド前駆体タンパク質の切断を誘導し、プロADAM10及び/またはBACEタンパク質のレベルを低下させ、かつユビキチン-プロテアソーム系経路の活性を増強することが示されている(米国特許出願公開第2010/0168135号、同第2010/0267763号及び同第2010/0298348号を参照)。米国特許出願公開第2008/103158号、同第2010/0168135号、同第2010/0267763号、及び同第2010/0298348号の各内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0036】
したがって、AD101は、動物研究試験において2つの作用を示すという点で、市販されている治療法とは異なる。認知を改善し、かつ脳内の異常なタンパク質沈着の蓄積も減少させる。これらの2つの特性は、AD101がADの治療に有望な薬剤であることを示唆している。
【0037】
ヒトを対象とした概念実証試験では、AD101のさまざまな用量における安全性と忍容性、及び12週間の投与における認知機能とグローバル機能の改善能力が検討された。そのような試験の1つでは、ADの可能性が高く[精神障害の診断と統計マニュアル第4版(DSM-IV)及び米国国立神経・コミュニケーション障害・脳卒中研究所/アルツハイマー病及び関連障害協会の基準により定義]、MMSEスコアが10から20で、登録から18か月以内にADと一致するCTまたはMRIスキャンを受けた50歳以上の対象に、AD101を1日10mg、60mg、120mgの用量で12週間にわたって投与した。患者は、AD101による治療の少なくとも90日前から塩酸ドネペジルQD 10mgによる安定したレジメンを受けており、AD101による試験期間中も塩酸ドネペジルQD 10mgによる治療を継続していることが要求された。
【0038】
この試験の主要結果は、S.GauthierらによってJ Alzheimer’s Dis.2015;48(2):473-481に報告されている。試験中、120mg QDの用量まで重大なAD101関連の安全性の懸念は確認されず、有効性の結果は、安定用量の塩酸ドネペジルを受けている患者において、AD101が中等度のADでさらに症状改善効果を提供し得る可能性を支持するものであった。重要なことに、3つの用量を別々に分析した際の一次転帰の測定において治療群間で識別可能な用量反応がなく、AD101の用量をさらに増加させても、対象群における治療結果のさらなる改善につながる、または安全上の問題が生じないという徴候はなかった。しかし、驚くべきことに、AD101は少なくとも180mgまでの1日量でAD対象に安全に投与できることが判明したところであり、Aricept(登録商標)(塩酸ドネペジル)による治療も受けているDATの対象にAD101を1日180mg投与することで、AD101に関連する重大な安全上の懸念を引き起こすことなく、ADの症状を特に効果的に緩和することができることが判明した。
【0039】
したがって、本開示の発明者らは、塩酸ドネペジルの安定なレジメンを現在受けている対象を含む、アルツハイマー病(AD)の対象の治療に特に有効であり得るAD101の1日量を特定した。AD101を180mg QD経口投与することにより、アルツハイマー病の発症または進展を示す患者における認知機能障害とグローバル機能の軽減、及び/または治療を受けた対象における認知機能及びグローバル機能の改善を含む、そのような対象に特に症状の緩和を提供し得る。
【0040】
本開示の発明者らはまた、AD対象の治療に特に有効であり得る新規の併用療法を特定した。したがって、AD101と塩酸メマンチンの併用投与は、アルツハイマー病の発症または進展を示す患者における認知機能障害とグローバル機能の軽減、及び/または治療を受けた対象における認知機能とグローバル機能の改善を含む、そのような対象(現在、塩酸ドネペジルの安定なレジメンを受けている対象を含む)に特に症状の緩和を提供し得る。併用療法は、重大な安全性の問題を伴うことなく効果的であり得る。本態様の一実施形態では、AD101は、好都合には、約50mg~約250mg、例えば、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、110mg、120mg、130mg、140mg、150mg、160mg、170mg、180mg、190mg、200mg、210mg、220mg、230mg、240mgまたは250mgの1日量で対象に経口投与され得る。特定の一実施形態では、AD101は約120mgの1日量で経口投与される。特定の一実施形態では、AD101は約180mgの1日量で経口投与される。
【0041】
塩酸ドネペジル及び/または塩酸メマンチンの安定なレジメンとは、本明細書では、対象がAD101の初回用量を投与される前の長期間、通常少なくとも約1、2、3、4、5または6か月以上(例えば少なくとも約30日間)にわたって、アルツハイマー病の対象を治療するために投与された塩酸ドネペジル及び/または塩酸メマンチンの1日量を意味する。通常、対象は、AD101療法の間、塩酸ドネペジル及び/または塩酸メマンチンを投与され続ける。
【0042】
一般的な実施において、対象は、治療期間中、5mgの塩酸ドネペジルを1錠として毎日投与され、もしくは10mgの塩酸ドネペジルを1錠または2錠として毎日投与され(例えば、5mgまたは10mgの塩酸ドネペジルをQD投与される)、または少なくとも30日間にわたって10mgの塩酸ドネペジルを1日1錠または2錠(例えば、10mgの塩酸ドネペジルをQD投与される)投与され、その後、塩酸ドネペジル23mgを1錠とする、より高い1日量の投与に切り替えられてもよい。したがって、初回投与量180mgのAD101を投与された対象には、塩酸ドネペジル5mg QD、塩酸ドネペジル10mg QD、または塩酸ドネペジル23mg QDのいずれかを投与することもできる。より重篤なAD対象は、より長期間にわたって塩酸ドネペジルが投与されている可能性があるため、AD101 180mgの初回投与時に塩酸ドネペジル23mg QDを投与される可能性が高い。
【0043】
代替的に、塩酸ドネペジルは、例えば週ごとに交換することができる経皮パッチを介して投与され得る。そのようなパッチ(複数可)は、好都合に、塩酸ドネペジルを1日量5mgまたは10mg投与し得る。本明細書で使用する経皮パッチの例としては、ドネペジル無しの褐色のオーバーレイ裏打ち/粘着層、分離層、薬剤マトリックス、フィルム、接触粘着剤、及び剥離ライナーを含む長方形の6層の積層体であり、CORPLEX技術を使用しているADLARITY(登録商標)が挙げられる。
【0044】
対象がAD101と塩酸メマンチンで治療される場合、併用療法の期間中、好都合に、対象に5mgの塩酸メマンチンを投与し得る。代替的には、通常、AD101を最初に投与する前に、対象を最初に5mgの塩酸メマンチンで治療し、その後(例えば3か月以上後)、1日維持量20mgまで増加される。一実施形態では、塩酸メマンチンは、併用療法の期間中、1日量7mgの徐放性カプセルとして対象に経口投与される。さらなる実施形態では、塩酸メマンチンは、併用療法の期間中、1日量14mgの徐放性カプセルとして対象に経口投与される。別の実施形態では、塩酸メマンチンは、通常、AD101を最初に投与する前に、1日量7mgの徐放性カプセルとして最初に投与され、その後、1日維持量14mgまたは28mgに増加される。一実施形態では、対象はまた、通常、AD101を最初に投与する前に、好都合には、併用療法の期間にわたって1錠または2錠として投与される10mgの1日量の塩酸ドネペジル、または3か月以上にわたって投与される塩酸ドネペジル10mg QDで治療され、その後、塩酸ドネペジル23mgを1錠とする、より高い1日量の投与に切り替えられる。
【0045】
AD101を最初に投与された対象は、既により低い用量またはより高い維持用量で塩酸メマンチンを既に服用している場合がある。同様に、AD101を最初に投与された対象は、既により低い用量またはより高い維持用量で塩酸ドネペジルを既に服用している場合がある。より重篤なADの対象は、より長期間にわたって塩酸メマンチン及び/または塩酸ドネペジルが投与されている可能性があるため、AD101の初回投与時に、塩酸メマンチンの維持用量及び/または塩酸ドネペジルの維持用量を投与されている可能性がより高い。
【0046】
塩酸メマンチン及び塩酸ドネペジルの両方をADの対象に投与する場合、別々の経口組成物として投与されてもよいし、単一の経口組成物として投与されてもよい。一態様では、塩酸メマンチン及び塩酸ドネペジルは、塩酸メマンチン徐放剤(14mgまたは28mg)と塩酸ドネペジル10mgを含むカプセルとして共に投与される。
【0047】
Namenda(登録商標)(塩酸メマンチン)は、5mgまたは10mgの塩酸メマンチンを含有するカプセル型フィルムコーティング錠剤、または2mg/mLの経口溶液として市販されている。Namenda(登録商標)XR(塩酸メマンチン)は、7mg、14mg、21mgまたは28mgの塩酸メマンチンを含有する徐放性カプセルとして市販されている。
【0048】
Aricept(登録商標)(塩酸ドネペジル)は、5mg、10mgまたは23mgの塩酸ドネペジルを含有するフィルムコーティング丸剤で市販されている。
【0049】
AD101は、1種以上の賦形剤または担体と共に、約0.01%~約99%、または約0.25%~約75%の有効成分を含み得る錠剤またはカプセルとして経口投与され得る。
【0050】
AD101は、塩酸メマンチン及び/または塩酸ドネペジルと組み合わせて単一の経口剤形で使用してもよいが、好都合には、AD101、塩酸メマンチン及び塩酸ドネペジルは、別々の経口剤形で投与される。
【0051】
対象のADまたは関連する認知症の重症度を評価するための一般的な検査は、ミニメンタルステート検査(Mini-Mental State Examination:MMSE)である。MMSEは、思考能力(または「認知障害」)を測定するために使用される。これは、向き、学習、注意力、単語想起、言語使用及び理解、ならびに構成能力の6つの項目を評価する。より高いスコアは、より高い認知機能を示す。MMSEの最大スコアは30点である。スコアは、一般に、以下のようにグループ分けされる。
・25~30点:正常な認知
・21~24点:軽度の認知症
・10~20点:中等度の認知症
・9点以下:重度の認知症
【0052】
本開示において、アルツハイマー病の対象は、MMSEスコアが24以下の対象であり、例えば、AD101治療の開始時にMMSEスコアが10~24の対象であってもよい。
【0053】
AD101を含む医薬組成物は、AD101と固体の賦形剤/担体とを組み合わせ、混合物を任意に粉砕し、かつ錠剤またはカプセルを製造するために当業者に周知の標準的な手順を用いてさらに処理することにより、簡便に得ることができる。好適な賦形剤としては、例えば、ラクトースやスクロース、マンニトールやソルビトールなどの糖類のような充填剤、セルロース製剤(例えば、微結晶セルロース)及び/またはリン酸三カルシウムやリン酸水素カルシウムのようなリン酸カルシウム、ならびにトウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び/またはポリビニルピロリドンなどを使用するデンプンペーストのような結合剤が挙げられる。所望により、崩壊剤を添加することができ、例えば、上記のデンプン及びセルロース(LH-31のような低置換HPCを含む)、さらにカルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、もしくはアルギン酸またはアルギン酸ナトリウムのようなその塩が挙げられる。例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸またはその塩(例えばステアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸カルシウム)、及び またはポリエチレングリコールなどの流動調整剤ならびに滑沢剤も利用できる。錠剤は、例えば、アセチルセルロースフタレートまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなどの適切なセルロース製剤を使用して被覆され得る。染料または顔料が錠剤に添加され得る。
【0054】
経口的に使用され得る他の医薬製剤としては、ゼラチンで作製された押込嵌めカプセルや、ゼラチンとグリセロールやソルビトールなどの可塑剤で作られた軟性、密封カプセルが含まれる。押込嵌めカプセルは、乳糖などの充填剤、デンプンなどの結合剤、及び/またはタルクやステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、及び任意に安定剤と混合し得る顆粒の形態で有効成分を含有してもよい。軟性カプセルでは、有効成分を脂肪油や流動パラフィンなどの適切な液体に溶解または懸濁させることができる。加えて、安定剤が添加され得る。
【0055】
また、本明細書には、経口医薬製剤が腸溶性コーティングを含むAD101の剤形も含まれる。「腸溶性コーティング」という用語は、本明細書では、酸性媒体への化合物の溶解を阻害するが、中性からアルカリ性媒体では速やかに溶解し、長期保存に対して良好な安定性を有する、経口医薬剤形以上のあらゆるコーティングを指す。代替的には、腸溶性コーティングを有する剤形は、腸溶性コーティングとコアとの間に水溶性分離層を含んでもよい。腸溶性コーティング剤形のコアは、AD101を含む。場合により、コアは、医薬品添加剤及び/または賦形剤も含む。分離層は、水溶性の不活性成分またはフィルムコーティング用途のポリマーであり得る。分離層は、当業者に知られている従来のあらゆるコーティング技術によってコア上に適用される。分離層の例としては、糖類、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート及びヒドロキシプロピルメチルセルロースが挙げられるが、これらに限定されない。腸溶性コーティングは、任意の従来のコーティング技術によって分離層の上に適用される。腸溶性コーティング剤の例としては、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリビニルアセテートフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、メタクリル酸とメタクリル酸メチルエステルのコポリマー、例えばEudragit(登録商標)L 12,5またはEudragit(登録商標)L 100(Rohm Pharma)、水性分散体、例えばAquateric(登録商標)(FMC Corporation)、Eudragit(登録商標)L 100-55(Rohm Pharma)、Coating CE 5142(BASF)、Citroflex(登録商標)(Pfizer)のような水溶性可塑剤を含むものなどが挙げられるが、これらに限定されない。最終剤形は、腸溶性コーティング錠剤、カプセル剤またはペレットである。AD101は、180mgのAD101を含有する楕円形のフィルムコーティング錠剤として使用するのに好都合である。
【0056】
AD101は、10mg、30mg、60mg、90mgまたは180mg単位/錠剤などの適切な投与単位(例えば、個々の錠剤)で投与され得る。代替的には、例えば、約200mg~約360mgの単位及びそれらの間のすべてのmg用量単位を含むより大きな用量単位が提供されてもよく、場合によっては、投与のためにより小さな単位に容易に分割できるように刻み目が付けられてもよい。1つ以上のこのような単位は、180mg、例えば、6×30mg、3×60mg、2×90mgまたは1×180mgの望ましい1日量を達成するために対象に投与されてよい。錠剤として投与する場合、錠剤形状は好都合に円形、長円形または楕円形であってよい。
【0057】
理解されるように、ミニ錠剤などの個々の小単位の薬剤を組み合わせて、1日量180mgとして投与するのに適した単位を提供してもよい。このような小単位(ミニ錠剤など)を組み合わせて、例えば10mg、30mg、60mg、90mgまたは180mgの単位(カプセルなど)を製造してもよい。
【0058】
10mg、30mg、60mg、90mg及び180mgの錠剤の例を、以下の表1に示す。
【表1】
【0059】
一態様では、毎朝180mgのAD101がQDに投与される。一態様では、5mg、10mgまたは23mgの塩酸ドネペジルも毎日投与される(例えば5mg QD、10mg QDまたは23mg QD)。AD101の180mg QDと塩酸ドネペジルの5mg、10mgまたは23mg(例えば、5mg QD、10mg QDまたは23mg QD)の併用投与は、許容できない安全性の問題が現れるか、または対象が薬剤の併用からもはや利益を得なくなるまで継続することができる。実際には、対象が利益を受ける限り、AD101及び塩酸ドネペジルは、中断なく毎日投与されるべきである。上記のAD101及び塩酸ドネペジルを受けている特定の対象はまた、適切な用量の塩酸メマンチンを受けている場合がある。
【0060】
一態様では、180mg QD AD101による治療から特に利益を得ることができる対象には、ADの可能性があると診断された個人(例えば、National Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke - Alzheimer’s Disease and Related Disorders Associationにより定義される)が含まれる。
【0061】
一態様では、180mg QD AD101による治療から利益を得ることができる対象には、アルツハイマー病に起因する認知症と診断され(例えば、NIA/AA基準に一致)、血管性認知障害がない(例えば、2014 VASCOG基準または修正Hachinskiスコア>4により定義される)個人が含まれる。
【0062】
1つ以上の追加の治療薬は、本開示に従ってAD101、塩酸メマンチン及び/または塩酸ドネペジルと共に投与され得る。このような薬剤には、アルツハイマー病の対象に有用な治療薬も含まれ得る。存在する場合には、各有効成分は、好都合に、個別の組成物として便利に投与される。
【0063】
治療中、180mg QD AD101による治療の有効性は、例えば、アルツハイマー病評価尺度認知サブスケール(ADAS-Cog)、グローバル機能に関するアルツハイマー病共同研究-臨床全般印象プラス版(ADCS-CGI)、または対象の医療提供者の判断による対象の機能に関するその他の尺度(認知機能についてはMMSE、グローバル機能についてはClinical Dementia Rating Sum of Boxes(CDR-SB)、行動症状についてはNeuropsychiatric Inventory(NPI)を含むが、これらに限定されない)を用いて、異なる時点で測定することができる。リン酸-タウ217、ベータアミロイド42及び4の血漿中濃度の経時的変化など、特定のバイオマーカーの外観及び存在の変化も測定することができる。
【0064】
以下の実施例1は、以前のAD101単剤療法のAD試験または以前のAD101+Aricept(登録商標)AD試験を完了した対象を対象に、AD101用量を60mg QDから180mg QDに増量する3か月間の用量増量試験を実施した安全性延長試験である。AD101+Aricept(登録商標)AD試験から、塩酸メマンチンも投与されている5名の対象が延長試験に登録された。
【0065】
実施例1
安全性延長試験
AD101のADにおける有効性及び安全性に関する先行予備試験(Clinicaltrials.gov ID:NCT00842673、ST101-A001-201)を完了したAD対象、ならびにAD101とAricept(登録商標)のADにおける有効性及び安全性に関する先行予備試験(Clinicaltrials.gov ID:NCT00842816、ST101-A001-202)を完了したAD対象を対象に、12週間の非盲検多施設共同安全性延長試験を実施した。対象は次のように漸増された:すべての対象は最初の1か月は60mgを1日1回、2か月目は120mgを1日1回、3か月目は180mgを1日1回投与された。用量増加は、前の用量の対象の忍容性に依存していた。本研究の目的は、AD101への追加曝露を伴うこの集団の安全性及び忍容性を評価することである。
【0066】
結果
表2は、対象の処分をまとめたものである。合計293名のAD対象が登録された(ST101-A001-201試験から126名(適格対象率89%)、ST101-A001-202試験から167名(適格対象率90%))。257名(87.7%)の対象が延長試験を完了した。180mgへの増量に適格な対象の95%超が、8週目の来院で増量した。投与中止は各用量レベルで同様であり、60mg、120mg、180mgの各用量レベルでそれぞれ5.5%(16例)、4.8%(14例)、2.0%(6例)が試験を中止した。
【表2】
【0067】
全般的な安全性と忍容性
この試験の安全集団は293名の対象で構成されている。
【0068】
17人の対象に17件の重篤な有害事象(SAE)が発生した(1件は、対象がAD101 60mg、120mg、180mgをそれぞれ4週間投与された後、試験10日後に発生した多発性脳血管障害による死亡で、関連性はないと判断された;AD101 60mg投与で7件、AD101 120mg投与で5件、AD101 180mg投与で4件)、その結果を表3にまとめた。17名の対象のうち11名が中止し、6名が本試験を完了した。すべてのSAEは、SAE#00036(ST101 180mg投与中の86歳女性の場合の失神)を除き、治験責任医師により試験薬とは無関係と判断された。
【表3-1】
【表3-2】
【0069】
表4は、有害事象(AE)が発生した対象の数と割合を、発生率が2%以上の基本語別にまとめたものである。本試験に登録された293名の対象のうち、51.2%には有害事象が発生した。AEは、その事象が発生した時点で対象が服用していた用量に従って投与群に割り付けられた。すべての対象がAD101を投与されたため、本試験で報告されたAEを、本試験に対象を提供した201試験及び202試験で一般的に報告されたと考えられるAEと比較することは妥当である。本試験で上記の2%基準を満たした10件のAEのうち、3/10は201または202試験では5%基準を満たさなかった(激越、疲労、挫傷)。特定のAEの性質または頻度に関して、AD101用量に関連するパターンは存在しないと思われる。
【表4】
【0070】
塩酸メマンチンの投与を開始した安全性延長試験の対象
ST101-A001-202試験から非盲検延長試験(401試験)に登録された際に塩酸メマンチンを開始した対象は5名であった。すべての場合において、対象は、401試験を完了し、プロトコルに従ってAD101を180mgまで投与した。有害事象を含むこれら5名の対象に関する情報を表5にまとめた。臨床的に重要な臨床検査値やバイタルサインの異常は認められなかった。
【表5】
【0071】
結論
401試験は非盲検延長試験で、201試験または202試験を完了した対象が登録された。この3か月間の非盲検安全性延長試験では、新たな安全性及び忍容性の問題は確認されなかった。AD101の180mg QD投与は、より低用量の60mg QD及び120mg QD投与と少なくとも同程度の安全性が確認された。さらに、塩酸メマンチンを服用した5人の対象には、臨床的に重要な臨床検査値やバイタルサインの異常は認められなかった。
【0072】
本明細書で引用されるすべての参考文献、論文、刊行物、特許、特許公報、及び特許出願は、あらゆる目的のためにそれらの全体が参照により組み込まれる。しかしながら、本明細書で引用されるいずれの参考文献、論文、刊行物、特許、特許公報、及び特許出願の言及も、それらが有効な先行技術を構成するか、または世界のいずれかの国で共通の一般知識の一部を形成するという承認または何らかの形態の示唆ではなく、そのようにみなされるべきではない。
【国際調査報告】