IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オミクロン イターリア エス.アール.エル.の特許一覧

特表2024-518482緑内障の処置に使用するための、シチコリン及びニコチンアミドに基づく経口溶液
<>
  • 特表-緑内障の処置に使用するための、シチコリン及びニコチンアミドに基づく経口溶液 図1a
  • 特表-緑内障の処置に使用するための、シチコリン及びニコチンアミドに基づく経口溶液 図1b
  • 特表-緑内障の処置に使用するための、シチコリン及びニコチンアミドに基づく経口溶液 図2
  • 特表-緑内障の処置に使用するための、シチコリン及びニコチンアミドに基づく経口溶液 図3
  • 特表-緑内障の処置に使用するための、シチコリン及びニコチンアミドに基づく経口溶液 図4
  • 特表-緑内障の処置に使用するための、シチコリン及びニコチンアミドに基づく経口溶液 図5
  • 特表-緑内障の処置に使用するための、シチコリン及びニコチンアミドに基づく経口溶液 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-01
(54)【発明の名称】緑内障の処置に使用するための、シチコリン及びニコチンアミドに基づく経口溶液
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/455 20060101AFI20240423BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240423BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240423BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
A61K31/455
A61K31/7068
A61P27/02
A61P43/00 121
A61K47/12
A61K47/26
A61P25/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023569666
(86)(22)【出願日】2022-05-06
(85)【翻訳文提出日】2024-01-09
(86)【国際出願番号】 IB2022054202
(87)【国際公開番号】W WO2022238833
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】102021000011852
(32)【優先日】2021-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】512216931
【氏名又は名称】オミクロン イターリア エス.アール.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビルノ、クリスチアーノ
(72)【発明者】
【氏名】マリツィア、マルコ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076BB01
4C076CC01
4C076CC10
4C076DD41
4C076DD42
4C076DD67
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC19
4C086EA17
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA52
4C086NA11
4C086ZA01
4C086ZA33
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、シチコリン及びニコチンアミドを含む水溶液の形態での経口使用のための組成物、並びに緑内障の処置に使用するための前記組成物に関する。本発明はさらに、高いバイオアベイラビリティを特徴とする水溶液中の医薬形態に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シチコリン及びニコチンアミドを含む、水溶液の形態での経口使用のための組成物。
【請求項2】
前記シチコリンが、25mg/ml~100mg/ml、好ましくは49.75mg/ml~50.25mg/mlに含まれる濃度、又は約50mg/mLで存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ニコチンアミドが、5mg/ml~20mg/ml、好ましくは9.95mg/ml~10.05mg/mlに含まれる濃度、又は約10mg/mLで存在する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
シチコリン遊離酸とニコチンアミドとの比が、2.5:0.5~10:2に含まれ、好ましくは5:1である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
以下の化合物:ソルビン酸カリウム、乳酸ナトリウム、フルクトース、クエン酸の1又は複数をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ソルビン酸カリウムが、1.34mg/ml~3.00mg/ml、好ましくは2.67mg/ml~2.69mg/mlに含まれる濃度、若しくは約2.68mg/mLで存在し、及び/又は前記60%乳酸ナトリウムが、2.5mg/ml~7mg/ml、好ましくは4.975~5.025mg/mlに含まれる濃度、若しくは約5mg/mLで存在し、及び/又は前記フルクトースが、150mg/ml~400mg/ml、好ましくは298.5~301.5mg/mlの範囲に含まれる濃度、若しくは約300mg/mLで存在し、及び/又は前記無水クエン酸が、0.92mg/ml~2.00mg/ml、好ましくは1.82~1.84mg/mlに含まれる濃度、若しくは約1.83mg/mLで存在する、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
1又は複数の賦形剤及び/又は添加剤をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
高いバイオアベイラビリティを有し、特にシチコリン及びニコチンアミドの前記バイオアベイラビリティが静脈内投与のバイオアベイラビリティに匹敵し、特に90%~100%に含まれ、好ましくは少なくとも98%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
pHが、3~5、好ましくは3.9~4.1に含まれ、又は約4.00である、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
密度が、1.116~1.156g/mlに含まれ、好ましくは1.136g/mlである、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
神経変性病態の処置に使用するための、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
緑内障の処置に使用するための、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が1日に1回、好ましくは朝に投与される、請求項11又は12に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1~13に記載の組成物を調製する方法であって、前記有効成分、シチコリン及びニコチンアミドを水に溶解及び混合するステップを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、シチコリン及びニコチンアミドを含む水溶液の形態での経口使用のための組成物に関する。前記組成物は、神経変性病態の処置に使用するため、特に緑内障の処置に使用するために利用される。
【背景技術】
【0002】
緑内障は、網膜神経節細胞(RGC)、視神経線維の損傷、及び視野の進行性低下を特徴とする神経変性眼科慢性病態である。これは、不可逆的失明の第2の原因であり、最も頻繁であり、さらに最も潜行性の形態は、開放隅角緑内障(OAG)である。年齢、精通度、重度の近視、高眼内圧(IOP)は、疾患を発症する確率を高め得る危険因子のほんの一部である。高IOPは唯一の修正可能な危険因子を表し、これを受けて、第1の治療アプローチは、点眼剤を仮定することによって、又は十分でない場合には、レーザー若しくは手術に基づく。
【0003】
ヒトにおける組織学的及びインビボイメージング研究は、緑内障の存在下で、光学経路全体が、視神経及び脳構造、例えば、一次視覚領域の座部である膝状核及び視覚皮質に損傷を与えるシナプス間変性プロセスに関与することを実証している。高圧損傷によって活性化されるそのようなプロセスは、解剖学的及び機能的結果として、網膜神経線維の層の漸進的な菲薄化、視神経乳頭の漸進的な掘削、及びその後の視野における暗点領域(視覚ではない)の開始及び漸進的な拡大によって特徴付けられる視覚機能の障害を引き起こす。
【0004】
最近の研究は、緑内障がアルツハイマー及びパーキンソンのような神経変性病態であることを実証している。それらは、異なる座に局在するニューロンが変性に関与し、アポトーシスにより死滅する疾患である。アルツハイマー病では、このプロセスは海馬で始まり、パーキンソン病では黒質(substantia nigra)で始まり、緑内障では網膜神経節細胞のレベルで始まる。
【0005】
高圧性の性質を有する一次傷害に続いて、この構造の毛細血管領域のレベルで通常の血液供給を妨げるニューロンのアポトーシスが引き起こされ、神経節細胞の生存に不可欠な代謝産物及びニューロトロフィンの順行性及び逆行性の両方の規則的な軸索輸送が損なわれる。アポトーシスは、アポトーシスにおいて細胞によって解放されたグルタメートによるNMDA受容体の過剰刺激に起因する局所興奮毒性の機構に関連する二次傷害の原因である。実際、グルタミン酸は、細胞外空間に過剰な濃度で存在する場合、Ca2+のチャネルの開口を決定する周囲のニューロンの表面上のNMDA受容体を過剰刺激し、ニューロン自体のアポトーシスをもたらす生化学的カスケードの引き金となり、次いで、一次傷害がなくても自己供給することができる機構が確立される。
【0006】
緑内障は、酸化ストレス、神経炎症及びミトコンドリア機能障害の間の異なる機構を介してニューロンを損傷することが実証された。高IOPの存在下でのフリーラジカルの蓄積に関連する酸化ストレスは、エネルギーを提供し異なる機能(例えば、細胞恒常性調節)を保証する細胞内オルガネラであるミトコンドリアの機能性を危険にさらすことによって、CGRがそうであるように、特に感受性の細胞に当たる。網膜神経節細胞は、その正確な操作のために非常に高く連続的なエネルギー摂取を必要とするため、中枢神経系のどのニューロンよりも多くのミトコンドリアを有する。酸化ストレスがミトコンドリアを損傷すると、機能障害を受け、最も重篤な場合にはアポトーシスを受ける網膜神経節細胞に必要な量のエネルギーを供給することに成功しない。
【0007】
光路を伴うこの変性の機能的結果は、視野の漸進的な狭小化であり、非視覚領域(暗点領域)が一般に最初に周辺部に現れ、次いで、完全な視力喪失まで中央領域まで広がる。
【0008】
有効な圧力制御にもかかわらず、緑内障患者が損傷の進行を受け、その結果視野が低下するまで数年にわたって継続することが、いくつかの臨床的証拠によってこれまでに確認されている。National Institute of Healthによって実施されたEMGT(Early Manifest Glaucoma Trial)研究は、低血圧対照にもかかわらず、緑内障患者の45%が進行性の視野損傷を有することを強調した。
【0009】
いくつかの研究では、低血圧薬に加えて、CGRの機能性の維持及び脆弱性の低減を直接目的とした神経保護分子と呼ばれる分子を摂取することによって、このような変性プロセスを低減又は少なくとも減速する可能性が評価された。
【0010】
神経保護の分野における特に関心は、その作用機序並びに緑内障患者で得られた実験結果及び臨床結果について、シチコリン(シチジン-5’-ジホスホコリン)及びニコチンアミド(すなわちビタミンB3)に向けられている。
【0011】
緑内障病態におけるシチコリンの神経保護特性を、中枢神経系の神経変性病態においてしばらくのあいだ既に使用されている注射製剤を用いて初めて評価した。Virnoらは、実際に、10年間の追跡調査を用いた研究により、緑内障患者の筋肉内シチコリンを用いた処置によって得られた、知覚されない領域として評価される周辺欠陥の減少を実証した。これらの結果は、さらなる長期試験(8年間の追跡調査)によって確認され、OAG患者における網膜及び皮質の生体電気応答の有意な改善を通してシチコリンの有効性が確認された。
【0012】
緑内障を処置するためのシチコリンの筋肉内投与は、慢性患者にとって、及び注射を行うことができる人を利用可能にする必要性にとって明らかに非常に不快であっても、緑内障患者に有効であるという結果になった。
【0013】
全身型で得られた結果は、シチコリン系経口製剤の開発を促進し、その結果、緑内障患者の処置に対するコンプライアンスを増加させた。b遮断薬による処置において、制御されたIOP(<18mmHg)を有する患者に関する研究は、経口シチコリンによる処置が、基礎値に対するチェックと比較して、PERGシグナルの幅の改善(p<0.01)及びVEPのレイテンシータイムの減少(p<0.01)を誘導することを示した。これらの結果に基づいて、経口溶液製剤が開発され、そこでは以下の臨床試験(1)が行われ、パレルモの大学で実施され、これは、プラセボに対し二重盲検で、経口溶液中のシチコリン(500mg/die)が、降圧療法のみで処置された患者に対して、GDXを通じて網膜層の神経線維の喪失を遅らせることを実証した。経口溶液中のシチコリンのサイクルが、電気生理学的に実証された視覚機能(pEVでのレイテンシータイム及びpERGでの幅)の喪失を遅らせることを可能にすることがさらに実証された。経口溶液中のシチコリンは、pERGのP50-N95域の幅を特に100%増加させることによって、実際に電気機能パラメータを改善した。
【0014】
ニコチンアミドに関する限り、Jackson Laboratory/ Howard Hughes Medical Institute and Bascom Palmer Eye Institute di Miamiで行われ、その結果が雑誌Scienceによって出版されたごく最近の実験研究は、ビタミンB3が処置群における緑内障の発生率を低下させることを実証した(2)。研究者らは、緑内障を発症しやすいように遺伝子改変されたマウス群、並びに健常対照群に対して、一連の遺伝子、代謝及び神経生物学的試験を行った。結果は、ニコチンアミドが年齢とともに減少し、飲料水に加えてこの分子の投与が、マウスを緑内障の発症から保護することを確認した。
【0015】
上記に照らして、緑内障を処置するための新規組成物を提供するという問題は依然として非常に感じられている。
【発明の概要】
【0016】
本発明によって配置され解決される技術的課題は、特に静脈内投与される溶液のバイオアベイラビリティに匹敵する高いバイオアベイラビリティを特徴とする、緑内障の処置のための経口使用のための組成物を提供することである。
【0017】
このような問題は、シチコリン及びニコチンアミドに基づく水溶液の形態の経口使用のための組成物によって解決される。緑内障は、実際には多因子病原性を有し、網膜神経節細胞から視覚皮質への光路に沿って走行するシナプス間変性を特徴とし、徐々に視野を喪失させる。
【0018】
有利には、本発明の著者らは、水溶液中の本明細書に記載の製剤が、シチコリン及びニコチンアミドの非常に高いバイオアベイラビリティを決定することを見出し、これらの有効成分を静脈内投与した場合に得られるものと比較することができた。有効成分が溶解している場合、実際には、それは吸収ステップにすぐに利用可能な形態であり、これは、固体状態で、例えば錠剤又は懸濁液において投与される場合に対して、より高いバイオアベイラビリティを保証する。
【0019】
したがって、先行技術の製剤に対して、本発明の組成物は、静脈内投与のバイオアベイラビリティに匹敵するこれらの2つの有効成分の高いバイオアベイラビリティを、高いコンプライアンス、低コスト及び安全性などの経口経路の古典的な利点につなぐという莫大な利点を有する。本出願の実験セクションに示される臨床研究の結果によって強調されるように、緑内障に罹患した患者における本明細書に記載されるような水溶液の形態での経口使用のための組成物の投与は、本発明の組成物中の2つの有効成分間の作用相乗作用を確認することによって、個々に投与されたシチコリン及びニコチンアミドの効果の合計に基づいて予測可能なものに対して、特に視覚機能の改善、網膜層の構造的保護に関して驚くほどより効果的であることが明らかになった。
【0020】
したがって、本発明は、シチコリン及びニコチンアミドを含む水溶液の形態での経口使用のための組成物、並びに緑内障の処置におけるその使用に関する。
【0021】
本発明はまた、前記組成物を調製する方法に関する。
【0022】
本発明の好ましい特徴は、従属請求項に記載されている。
【0023】
本発明の他の利点、特徴及び使用形態は、限定目的ではなく例として示されるいくつかの実施形態の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0024】
本発明及び好ましい実施形態の以下の詳細な説明は、以下の図を参照してよりよく構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】静脈内、経口溶液及び錠剤で投与されたシチコリン(1a)及びニコチンアミド(1b)のバイオアベイラビリティの曲線。経口溶液中のシチコリン及びニコチンアミドのバイオアベイラビリティは100%に近い。
図2】好ましい実施形態による水溶液の製造方法のフロー図。
図3】ERGで評価した網膜電図異常に対する、例2に記載されるいくつかの処置の効果の定量的分析。
図4】細胞アポトーシスに対する例2に記載されるいくつかの処置の効果(TUNELアッセイ)。
図5】カスパーゼ-3のレベルに対する例2に記載されるいくつかの処置の効果。
図6】健常対照群、プラセボ処置群、及びシチコリン+ニコチンアミド処置群の間のシナプトフィジン(赤色)の免疫蛍光の比較。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、シチコリン及びニコチンアミドを含む水溶液の形態での経口使用のための組成物に関する。
【0027】
シチコリンは、その構造は以下の通りであり、
【化1】

パーキンソン病、多発性硬化症、外傷及び脳損傷、脳血管イベント、認知障害などの中枢神経系の病態において広く認識されている有効性を有する向知性薬である。
【0028】
シチコリンは、多因子作用機序により様々なレベルで作用する:カルジオリピン及びスフィンゴミエリン(それぞれミトコンドリア内膜及び網膜神経節細胞の軸索の膜のリン脂質成分)のレベルを保存し、ホスファチジルコリン(神経細胞膜において最も豊富なリン脂質の1つ)を回復させ、酸化的損傷及び神経アポトーシスの開始を予防することによってミトコンドリア機能を保存し、グルタチオン合成を刺激し、その濃度を低下させることによってグルタミン酸興奮毒性を予防し、ミエリン合成を刺激し、ニューロン膜の完全性の改善をもたらし、アセチルコリン及びドーパミンなどの神経伝達物質の合成を増加させ、内皮機能不全を予防する。特に、リン脂質に対するその効果は、神経伝達物質に対するさらなる機能的作用を伴うその構造的作用の基礎である。
【0029】
最近の証拠は、シチコリンがプロテアソーム(細胞レベルでのタンパク質分解に関与する分子複合体)と相互作用することができることを実証している。プロテアソームに影響を及ぼす機能不全は、神経変性病態の典型的な状況に従ってタンパク質の蓄積につながる。シチコリンは、アミロイド形成性タンパク質(α-シヌクレイン)の中でもタンパク質に対する複合体の酵素特性を有意に刺激し、したがって神経保護効果を発揮する。
【0030】
経口溶液又は非経口的に摂取されたシチコリンは、P-コリン及びシチジン-5’-モノホスファート(CMP)に直ちに分解される。リン酸化化合物は血液脳関門を通過しないので、P-コリン及びCMPはさらにコリン及びシチジンに脱リン酸化される。コリンは血液脳関門を通過し、SNCではP-コリンにリン酸化されるが、シチジンはヒトではウリジンに変換され、次に血液脳関門を通過し、SNCではウリジン三リン酸(UTP)にリン酸化され、CTPに変換される。P-コリン及びCTPは、シチジン-5’-三リン酸ホスホコリンシチジル-トランスフェラーゼ酵素の作用のおかげで再びシチコリンを形成し、可逆的反応を伴い、その方向及び速度は基質の濃度に依存する。そこから、採取された調製物のバイオアベイラビリティの他の化合物よりも高い基本的な重要性が導出される。
【0031】
排泄に関しては、糞便からの排泄は少なく(最適吸収の指標)、呼吸器(CO)及び尿経路による排泄が観察された。異化物が生物学的構造に組み込まれたことを実証することにより、5日間でのマークされた生成物の排泄はわずか16%であった。排泄は二相性であり、第1の段階は数時間で起こり、第2の段階は非常にゆっくりである。この過程は、吸収されたシチコリンが細胞膜に取り込まれ、次いで生物学的構造の生理学的代謝運命に従って排泄されることのさらなる証明である。
【0032】
ニコチンアミド、すなわちビタミンB3は、その構造は以下の画像に表され、
【化2】

食品を通して定期的に摂取しなければならない水溶性ビタミン群に属する。これは、酸化/細胞還元反応において重要な役割を果たし、異化及び同化プロセスに関連するNAD及びNADP酸化物還元補酵素の前駆体である。上述の作用機構のおかげで、ニコチンアミドは異なる作用を説明し、特に、シナプス可塑性及び軸索成長を促進することによって、神経系の動作において基本的な役割を有する。
【0033】
加齢と同様に、ニコチンアミド欠乏及びその結果としてのNAD及びNADP減少は、視神経及び神経細胞を眼内圧上昇の影響を受けやすくするので、緑内障の発症の素因となる因子である。
【0034】
経口摂取されたニコチンアミドの腸吸収は高く、70%にさえ達することができる。これは、ほとんどの場合、ナトリウム依存性担体によって媒介される拡散によって起こる。ニコチンアミドは、血流中に存在するビタミンB3の主要な形態である。血液からは、単純な拡散によって細胞膜を通って移動するが、尿細管及び赤血球における輸送は担体を必要とする。細胞内では、ニコチンアミドを使用してNADを合成し、次いでこれをNADPにリン酸化することができる。それらの両方が2つの電子及び1つのプロトンを受け取ることができ、NADH及びNADPHを形成する。ニコチンアミドは、5-ホスホリボシル-1-ピロリン酸との反応によってNADに変換され、ATP及びNADは、ATPとの反応によってNADPに変換される。ニコチンアミドの異化の主な経路は、肝臓におけるメチル化及びその後の酸化である。ニコチンアミドはN-メチル-ニコチンアミド(NMN)に代謝され、ATP及びMg2+並びにメチルドナーとしてのS-アデノシルメチオニンが関与する。NMNは、N-メチル-2-ピリドン-カルボキサミド(2-Pyr)及びN-メチル-4-ピリドン-カルボキサミド(4-Pyr)に酸化することができ、これらは両方とも血漿中及び尿中に存在する。
【0035】
本発明の一実施形態によれば、シチコリンは、25mg/ml~100mg/ml、好ましくは49.75~50.25mg/mlの範囲に含まれる濃度、又は約50mg/mLで組成物中に存在し、ニコチンアミドは、5mg/ml~20mg/ml、好ましくは9.95~10.05mg/mlの範囲に含まれる濃度、又は約10mg/mLの濃度を有する。
【0036】
さらなる実施形態によれば、組成物は、好ましくは2.5:0.5~10:2に含まれる、シチコリン遊離酸とニコチンアミドとの比を有する。
【0037】
好ましい実施形態によれば、組成物は、5:1に等しいシチコリン遊離酸とニコチンアミドとの比を有する。
【0038】
本発明の別の実施形態は、本明細書に記載の他の実施形態によれば、1.34mg/ml~3mg/ml、好ましくは2.67mg/ml~2.69mg/mlの範囲に含まれる濃度、又は約2.68mg/mLのソルビン酸カリウムを含むことができる。
【0039】
ソルビン酸カリウムは、その式は以下に表され、
【化3】

防腐剤として、とりわけ化粧品及び食品分野において、その抗真菌性及び抗菌性のために使用される。これは酸性pHでのみ活性であり、水に非常に可溶性である。これは、天然に存在するアスコルビン酸を水酸化カリウム(KOH)と反応させることによって合成される。
【0040】
本発明の一実施形態によれば、組成物はさらに60%の乳酸ナトリウムを、2.5mg/ml~7mg/ml、好ましくは4.975mg/ml~5.025mg/mlの範囲に含まれる濃度、又は約5mg/mLで含むことができる。
【0041】
乳酸ナトリウムは、その式は以下の画像に表され、
【化4】

天然起源の抗酸化機能を有する乳酸のナトリウム塩である。酸性度調整剤、湿潤剤、帯電防止剤、乳化剤及び/又は増粘剤としても作用する。それは水溶性化合物であり、高温に特に敏感ではない。
【0042】
本発明の別の実施形態によれば、組成物は、150mg/ml~400mg/ml、好ましくは298.5mg/ml~301.5mg/mlの範囲に含まれる濃度、又は約300mg/mLのフルクトースをさらに含むことができる。
【0043】
フルクトースは、構造式として以下のものを有し、
【化5】

グルコースの単糖のトポロジカルな異性体であり、アルドースではなくケトースであるため、そこから区別される。これは、ヒト及び動物の栄養において重要であり、スクロースに関して、より大きな甘味力を有し、わずかに低いカロリー摂取量を有し、より低い血糖指数を有するので、甘味料として使用されることが多い。
【0044】
本発明のさらなる実施形態は、0.92mg/ml~2.00mg/ml、好ましくは1.82mg/ml~1.84mg/mlの範囲に含まれる濃度、又は約1.83mg/mLの無水酸さえ含むことができる。
【0045】
以下の画像で表されるクエン酸は、
【化6】

食品及び飲料において芳香剤及び防腐剤として使用される。さらに、それは、酸味料として、乳化剤として、レモンジュースの代替物として、及び染料のpHを補正するために利用される。炭酸水素ナトリウムと組み合わせて、発泡性調製物にも使用される。
【0046】
好ましい実施形態は、記載された実施形態のいずれか1つによる組成物が、50mg/mLに等しい濃度のシチコリン、10mg/mLに等しい濃度のニコチンアミド、2.68mg/mLに等しい濃度のソルビン酸カリウム、5mg/mLに等しい濃度の60%乳酸ナトリウム、300mg/mLに等しい濃度のフルクトース、及び1.83mg/mLに等しい濃度のクエン酸を含むか、又はそれによって置き換えられることを提供する。
【0047】
本発明の一実施形態によれば、組成物は、本明細書に記載の他の実施形態によれば、1又は複数の賦形剤及び/又は添加剤をさらに含むことができる。液体形態で経口使用するための組成物のための賦形剤の特徴的な例は、ソルビトール、グリセロール、スクロース、グリセリン、リン酸ナトリウム、p-オキシ安息香酸メチル、p-オキシ安息香酸プロピル、水溶性香料などである。
【0048】
本発明の一実施形態は、前記組成物が、本明細書に記載される実施形態のいずれか1つによれば、シチコリンの高いバイオアベイラビリティを有すること、特にそのバイオアベイラビリティが90%~100%に含まれること、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも98%であることを提供する。
【0049】
「バイオアベイラビリティ」という用語の下では、血流中の有効成分、この場合はシチコリンの量を指し、これはその生物学的アベイラビリティを定義する。中央区画と周辺組織との間に平衡が確立されているため、組織濃度と血漿濃度との間に対応関係があると仮定する。バイオアベイラビリティのプロファイルは、血漿濃度対時間の曲線によって記載され、それを記載するために使用される薬物動態パラメータは、吸収速度に正比例する最大血漿濃度(Cmax)、吸収速度に反比例する最大血漿濃度に達する時間(tmax)、及び吸収された有効成分の量に正比例する曲線下面積(AUC)である。バイオアベイラビリティは、絶対的及び相対的の両方を意味することができる。
【0050】
特に、「絶対バイオアベイラビリティ」という表現では、血管外経路(この場合は経口経路)の曲線下面積と静脈内経路の曲線下面積との間の比を意味し、それぞれが投与された用量に応じて補正される。このパラメータは、100%バイオアベイラビリティが静脈内でのみ達成され、吸収ステップが欠けていることを考慮して、経口投与した場合にどれだけ少ないシチコリン及びニコチンアミドが吸収されるかを理解することを可能にする。
【0051】
対照的に、「相対バイオアベイラビリティ」という表現では、静脈内投与とは異なる2つの異なる経路によって投与されたか、又は同じ経路を介して投与されたが製剤化が異なる同じ有効成分(例えば、錠剤及び経口溶液として製剤化された有効成分)によって生成された曲線下面積間の比を指す。
【0052】
本明細書で異なる指定がない限り、バイオアベイラビリティのパーセンテージは絶対バイオアベイラビリティである。
【0053】
好ましい実施形態によれば、組成物は水溶液として製剤化される。
【0054】
経口使用のための組成物は、バイオアベイラビリティ、速度及び吸収プロファイルに関してそれらの間で非常に異なり得、有効成分が等しいことから、製剤が決定因子である。経口経路による製剤は、固体(錠剤、カプセル剤、後期製剤、胃保護製剤など)又は液体(懸濁液及び溶液)であり得る。どのような製剤が使用される場合であっても、経口経路によって投与される薬物は、吸収されるために、胃腸液に必ず溶解しなければならない。次いで、経口固体製剤は、有効成分を放出しなければならない。これは、固体製剤の破壊及び薬物自体の可溶化を含む二段階プロセスである。同じ有効成分の異なる固体形態は、破壊及び可溶化時間に応じて異なる吸収プロファイルを有することができ、これは、使用される賦形剤、外部因子又は化学的-物理的特性に応じて有意に異なり得る。
【0055】
液体製剤(溶解されるシロップ、フェーズ、サシェなど)は懸濁液又は溶液であり得、実際、後者はより大きなバイオアベイラビリティを保証することができる。懸濁液中の製剤は、実際には、液相に懸濁された微小固体粒子の形態の有効成分を有し、その場合、破壊ステップを有さなくても、粒子は吸収されるべき溶液中に入るはずである。その代わりに、溶液は、有利には既に溶解した有効成分を有し、次いで吸収ステップにすぐに利用可能な形態であり、これはより大きなバイオアベイラビリティを保証する。
【0056】
本発明のさらなる実施形態によれば、本明細書に記載の実施形態のいずれか1つに基づいて、水溶液は、3.9~4.1に含まれるpH、好ましくは4.00のpHを有する。
【0057】
本発明のさらなる実施形態によれば、本明細書に記載の実施形態のいずれか1つに基づいて、水溶液は、1.116~1.156g/mlに含まれる密度、好ましくは1.136g/mlの密度を有する。
【0058】
本発明の一実施形態によれば、組成物は、神経変性病態の処置に使用するためのものである。
【0059】
「神経変性疾患」という表現の下では、一連の状態がとりわけ中枢神経系の全てのニューロンに影響を及ぼすことを意味する。それらは、神経細胞の進行性変性及び/又は死を引き起こす衰弱性かつ非治癒性の病態である。
【0060】
本発明の好ましい実施形態によれば、組成物は緑内障の処置に使用するためのものである。科学文献は、シチコリンが緑内障患者の視野損傷の進行を遅らせるので、神経保護効果を有すること、及びニコチンアミドが網膜内層の機能性を増加させ、視野を改善することを実証している。ニコチンアミドの作用は、高いバイオアベイラビリティを有する特定の製剤中のシチコリンの神経保護効果と組み合わされるので、本発明の組成物は、2つの面で神経保護を提供する可能性を提供する。
【0061】
本発明の一実施形態によれば、組成物は、上述の投与量で、1日1回、好ましくは朝に、5ml~20ml、又は約10mlの体積で投与される。
【0062】
本発明はさらに、その実施形態のいずれか1つに記載の組成物を調製する方法に関する。特に、このような方法は、水への溶解及び組成物を構成する要素の混合を提供する。
【0063】

例1.本発明による組成物の調製及びバイオアベイラビリティ試験
ソルビン酸カリウム(2.6mg/mL)、60%乳酸溶液(5mg/mL)、フルクトース(300mg/mL)、シチコリン遊離酸(50mg/mL)、ニコチンアミド(10mg/mL)、無水クエン酸(1.83mg/mL)を含む水溶液。
態様:透明な溶液
色:無色
pH:4.00
密度:1.136g/ml
【0064】
調製方法:シチコリン遊離酸、ニコチンアミド、及び保存剤としてソルビン酸カリウム、酸性度調整剤として乳酸ナトリウム及びクエン酸、甘味料としてフルクトースなどの、このタイプの製剤に通常使用される賦形剤を用いて水溶液を調製した。水への相対溶解のために、上記の量に従って成分を秤量し、混合した。溶液のpH及び密度を上記の値まで調節した。図2に示すフロー図に従って組成物を調製した。
【0065】
方法
バイオアベイラビリティ研究
本発明に関する組成物中に存在するシチコリンのバイオアベイラビリティを、Sprague-Dawleyラットでバイオアベイラビリティ試験を行うことによって調査した。特に、体重175g及び225gの30匹のSprague-Dawley雄ラットを、投与の16時間前に絶食させた。動物を3つの群に分けた:
群1:シチコリン+ニコチンアミドを用いて静脈内で処置したラット10匹
群2:経口溶液中のシチコリン+ニコチンアミドを用いて処置したラット10匹
群3:錠剤中のシチコリン+ニコチンアミドを用いて処置したラット10匹
【0066】
放射性標識製剤の調製のために、14C-メチルシチコリン及び714C-ニコチンアミドを使用した。
【0067】
調製物は、イソ酪酸:水:アンモニア:EDTA(500:280:21:8)、n-ブタノール:酢酸:水(12:3:5)、エタノール:1mol/l酢酸アンモニウムpH7(5:2)、エタノール:飽和ホウ砂(8%):0.5mol/l EDTA:5mol/l酢酸アンモニウム(220:80:0.5:20)を用いたイオン交換クロマトグラフィで精製した。
【0068】
14Cのプログラムに従って、試料を液体シンチレータカウンタLSCで分析した。
【0069】
定量分析のために、Packard soluene(可溶化剤)、H(漂白剤)及びPackard Instagel(シンチレータ)を試薬として使用した。
【0070】
製剤をそれぞれ5mg/kgの用量で投与した:群1、頸静脈内に静脈内投与;群2、経鼻胃管によって投与された経口溶液中;群3、生理食塩水に溶解し、経鼻胃管によって投与した錠剤中。
【0071】
約100mlの血液試料の収集物をプログラムされた時間(10’、20’、30’、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、24時間での投与後)に得た。
【0072】
絶対バイオアベイラビリティの計算は、静脈内投与/水溶液及び静脈内投与/錠剤投与についてそれぞれ得られた平均値の曲線下面積(AUC)の比によって行った(図1)。
【0073】
経口投与される医薬形態の中で、シチコリン+ニコチンアミドに基づく水溶液中の製剤は、錠剤に対して、その有効成分のより大きなバイオアベイラビリティを示した。水溶液中で投与されたシチコリン+ニコチンアミドのバイオアベイラビリティは、静脈内投与のバイオアベイラビリティに匹敵する結果となった。
シチコリン+ニコチンアミドに基づく水溶液の投与後の14シチコリンのバイオアベイラビリティ:
【数1】

AUC24静脈内:77.42;AUC24水溶液:71.58
シチコリン+ニコチンアミドに基づく水溶液の投与後の14ニコチンアミドのバイオアベイラビリティ:
【数2】

AUC24静脈内:70.55;AUC24水溶液:64.20
【0074】
得られた結果は、100%に近い、水溶液中で経口使用するための組成物として製剤化されたシチコリン及びニコチンアミドのバイオアベイラビリティを実証した。そのような結果は、経口溶液が有効成分を吸収のために直ちに利用可能にし、注射経路に匹敵するバイオアベイラビリティを保証するので、医薬形態に起因するものである(図1)。
【0075】
例2.動物における神経変性の実験モデルに関するインビボ研究
方法
経口溶液中のシチコリン+ニコチンアミド会合の神経保護効果を、db/dbマウスで行われた実験研究で評価した。db/dbマウスはレプチン受容体遺伝子に変異を有し、網膜神経変性の動物モデルである。そのようなモデルは、緑内障などの神経変性病態に見られる病態生理学的事象を模倣するのに有用である。
【0076】
20匹のdb/dbラット(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/OlaHsd、雄、10週)を5群にランダム化し、以下に基づく経口溶液で15日間経口経路により処置した。
1.10%ラクトース溶液中シチコリン0.5%(Cit.)を経鼻胃管(SNG)で投与、
2.10%ラクトース溶液中ニコチンアミド0.1%(Nic.)をSNGで投与、
3.10%ラクトース溶液中シチコリン0.5%+ニコチンアミド0.1%(Cit+Nic)をSNGで投与、
4.10%ラクトース溶液(プラセボ)をSNGで投与、
5.健康、非糖尿病対照(対照)。
【0077】
15日目に、いくつかの処置の投与から1時間後、マウスを(i)非常に高解像度のスペクトルドメイン光干渉断層法(SD-OCT)に供して、異なる網膜層の形態に関する詳細な画像をインビボで得た。マウスを、80mg/mlのケタミン、12mg/mlのキシラジン(Sigma-Adrich)の単回腹腔内注射によって誘導される麻酔に供した。続いて、散瞳を誘導するために、0.5%トロピカミドの1滴を滴下し、次いで、各マウスをOCTの対物レンズの前に配置した。
【0078】
全ての動物について、右眼のみを検査し、各眼について3回の連続した網膜走査から得られた平均を各層について考慮した。OCT画像は、ART(自動リアルタイム)を用い、視神経の頭部に焦点を合わせた30度の視野でノイズ低減ソフトウェアと組み合わせた二次元走査(B走査)によって取得した。OCT検査後、動物を頸椎脱臼によって屠殺し、眼を直ちに摘出した。
【0079】
(ii)全視野網膜電図(ffERG)を通して、網膜細胞の電気活性、次いで機能性を評価した。記録は、GanzfeldのERGプラットフォーム(Phoenix Research Laboratories,Pleasanton,CA,USA)を使用し、ISCEV(International Society for Clinical Electrophysiology of Vision)の推奨に従って測定した。
免疫組織化学的アッセイを通して、神経変性組織学的マーカーを研究した(グリア活性化及びアポトーシス):
【0080】
(iii)グリア線維酸性タンパク質GFAP(ウサギの抗GFAP)に対する抗体を使用することによって、共焦点レーザー走査型顕微鏡法によってグリア活性化を評価した。グリア活性化のレベルを評価するために、GFAP(グリア線維酸性タンパク質)着色の伸長に基づいてスコアリングシステム(1~5)を使用した。
【0081】
切片をメタノール(-20°C)中で2分間固定し、続いて生理食塩水リン酸緩衝液PBSで3回洗浄した(それぞれ5分間)。切片をTris Saline Buffer TBS-Triton X-100(0.025%)で処理し、PBS中のウシアルブミン血清BSAと10%ヤギ血清の1%溶液中で室温にて2時間インキュベートした。次いで、切片をウサギの抗GFAPと4°Cで一晩、湿潤雰囲気下でインキュベートした。PBSで3回(それぞれ5分間)洗浄した後、切片を二次抗体Alexa AF488ヤギ抗ウサギ(希釈液1:200をブロッキング溶液中で調製)とインキュベートした。切片をPBSで洗浄し、Hoestchで着色し、カバーガラスを備えたFlourescence Mounting Mediumで組み立てた。取り付け支持体が乾燥したら、同一の輝度及びコントラスト設定を使用して、共焦点レーザー走査型顕微鏡Fluoview FV 1000 Olympus(日本国東京都新宿区オリンパス)で試料の比較デジタル画像を記録した。
【0082】
(iv)細胞アポトーシスの事象の検索を、キットDeadEnd(商標)Fluorometric TUNEL System(PROMEGA,Madison,WI,USA)を使用することによるTUNELアッセイによって行った。KitシステムTUNEL Fluorometric DeadEnd(PROMEGA,Madison,WI,USA)を用いて、TUNEL(Terminal Transferase dUTP Nick-End Labeling)染色を行った。網膜の凍結切片を、0.1%クエン酸ナトリウム中の0.1% Triton X-100と氷上で2分間インキュベートすることによって透過処理した。二次抗体はAlexa 488ヤギ抗ウサギであった。共焦点レーザー走査型顕微鏡による評価では、励起波長は488nmであった(515~565nmの範囲で検出(緑色))。
【0083】
(v)カスパーゼ-3及びシナプトフィジンの定量化を免疫蛍光法によって行った。切片をメタノール(20°C)中で1分間固定し、pH7.4の0.01M緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。次いで、切片を10%溶液NGS、0.1% Triton X-100、PBS中で室温で1時間インキュベートし、続いて特異的一次抗体(それぞれウサギの抗カスパーゼ-3及び抗シナプトフィジンモノクローナル抗体)と4°Cで一晩インキュベートした。翌日、洗浄後、切片を蛍光二次抗体Alexa 594(抗ウサギ-Life Technologies S.A,Madrid,Spain)と1時間インキュベートし、続いて洗浄した。最後に、核をHoechstで着色し、カバーガラスを備えたFlourescence Mounting Medium(Prolunga,Invitrogen)で集合させた。画像は、共焦点レーザー走査型顕微鏡(FV1000;Olympus,Hamburg,Germany)で取得した。5つの視野(中央網膜に対応する3つ及び周辺網膜に対応する2つ)を分析した。画像の蛍光強度をソフトウェアImageJを用いて定量した。
【0084】
統計分析は、独立したデータについてのスチューデントの検定t及びANOVA検定を用いて行った。値p<0.05を統計学的に有意とみなした。
【0085】
結果
(i)評価網膜厚OCT:SD-OCTでの測定から得られた結果(表1に示す)は、健常対照に対して、プラセボ群(非処置db/dbマウス)におけるRNFL(網膜神経線維層)、GC/IPL(神経節細胞/内神経叢層)及びINL(内核層)の層の厚さの有意な変化を強調した。シチコリンのみで処置した糖尿病マウス及びニコチンアミドのみで処置した群では、層の厚さの減少が少なく、RNFL層及びGC/IPL層についてプラセボ群に対して有意差が認められた(p<0.05)。驚くべきことに、そのような変化は、シチコリン+ニコチンアミドで処置した群では取り消される結果となり、健常対照に対して上述の層の厚さに差がないことが強調され、したがって、長期糖尿病の毒性効果に対する網膜神経節細胞(軸索及び体細胞)に対する組み合わせの相乗的保護効果が示唆される(p<0.01)。
【表1】
【0086】
(ii)評価網膜電図:図3では、様々な群におけるフラッシュ強度に応じた波bの幅の定量分析。db/dbマウスでは、低強度(10 cd s/m2)及び平均強度(40 cd s/m2)の両方の刺激に応答したERGでの波bの幅の減少が見られている。そのような低下は、Cit.群及びNic群の両方において、プラセボに対して減弱される結果となる。このような効果は、Cit+Nic群で相乗的に強化され、プラセボ群に対して統計学的に有意に差がある(p<0.05)。
【0087】
(iii-v)免疫組織化学的アッセイ:
(iii)健常対照群では、GFAPタンパク質の発現は主にGCL層のレベルで見られた。対照的に、プラセボで処置した糖尿病マウスは、全ての網膜層の有意な増加を強調し、神経変性炎症プロセスによるグリア過活性化状態を示した。実際、プラセボ群の糖尿病マウスの100%が、GFAPスコア≧3のスコアを示した(表2)。シチコリン及びニコチンアミドの投与は、反応性グリオーシスの有意な減少をもたらし、両方の場合においてGFAPスコア≦3であった。このようなスコアは、驚くべきことに、Cit.+Nic会合で処置した群においてかなりの改善を得て、糖尿病マウスの94%において1に等しい(100%において≦2)。
【表2】
【0088】
(iv)TUNELアッセイを通して、GCL網膜層中のアポトーシス細胞のパーセンテージは、糖尿病マウスでは非糖尿病対照マウスよりも有意に高いことが強調され、したがって、糖尿病によって誘導される神経変性プロセスの後に網膜の神経節細胞に影響を及ぼすアポトーシス現象の重要な増加が示された(図4)。シチコリンで処置した糖尿病マウスは、ビヒクルで処置した糖尿病マウスに対して、アポトーシス率が低かっただけであった(p<0.05)。Nic.群のマウスでさえ、ビヒクルで処置した糖尿病マウスよりも低いアポトーシスレベルを示したが、統計学的に有意なレベルではなかった。驚くべきことに、Cit+Nic群の結果は、アポトーシスの減少及び防止における相乗効果を強調しており、単一処置に対して及びプラセボ群に対して統計学的に有意な差があり、対照群に対して統計学的に有意ではない。そのような結果は、2つの有効成分:シチコリンの多因子作用機構及びニコチンアミドの抗酸化細胞作用の作用相乗効果と比較することができる。このような相乗効果は、細胞構造に対する強力な保護効果及びアポトーシスの防止に関与し、したがって重要な神経保護効果を保証する。
【0089】
(5)シナプスの抗アポトーシス及び保護の役割は、様々な群に見られるカスパーゼ-3及びシナプトフィジンのレベルに関連する結果によって確認された。カスパーゼ-3は、アポトーシスプロセスに積極的に関与する細胞プログラム死に関与する酵素であり、そのレベルは神経変性プロセス中に確実に増加する。db/dbマウスでは、対照群に対してカスパーゼ-3のレベルの統計的に有意な増加が強調された。そのようなレベルは、Cit+Nic群ではかなり低下し、プラセボ群に対してだけでなく、単独で投与された単一処置(Cit.;Nic)に対しても統計学的に有意に差がある(図5)。シナプトフィジンは、シナプス前小胞に存在するタンパク質であり、シナプス損失及びその結果生じるニューロン死の第1の指標である。プラセボで処置したdb/dbマウスでは、対照群に対して統計学的に有意なシナプトフィジンの下方制御が見られている(p<0.05)。Cit.群及びNic.群では、シナプトフィジンのレベルの統計学的に有意な増加が見られ、これはCit+Nic群の健常対照の値に達し、同じ単回投与分子に対してより高い有効性を有する(図6)。このような結果は、シチコリン+ニコチンアミド会合の強力な相乗効果、特にアポトーシスが神経変性プロセスの最初の原因である神経変性病態のための重要な神経保護療法を表すであろうその抗アポトーシス機構を再び確認する。
【0090】
例3.開放隅角緑内障に罹患した患者の臨床観察
本発明による経口溶液中のシチコリン+ニコチンアミド会合の神経保護効果を、開放隅角緑内障に罹患した患者に対して行われた臨床観察で評価した。選択された患者は、少なくとも2年間、開放隅角緑内障の診断を受けなければならず、任意の低血圧薬物療法を用いて眼内圧(IOP≦18mmHg)の観点から制御されなければならず、患者は、過去2年間に少なくとも4つの視野を通して実証された、1年あたり少なくとも1dBの平均欠損(MD)の減少という視野損傷の進行速度(進行速度-RoP)を有しなければならない。
【0091】
12人のランダム化した患者を4つの群に含めた:
・CIT.群-降圧療法に加えて、500mg/dieのシチコリンに相当する10ml/dieの経口溶液中のシチコリンで処置された3人の患者;
・NIC.群-降圧療法に加えて、100mg/dieのジニコチンアミドに相当する10ml/dieの経口溶液中のニコチンアミドで処置された3人の患者;
・CIT.+NIC.群-降圧療法に加えて、500mg/dieのジシチコリン及び100mg/dieのニコチンアミドに相当する10ml/dieの経口溶液中のシチコリン+ニコチンアミドで処置された3人の患者。
・NT群-降圧療法のみで処置した3人の患者。
【0092】
患者を処置し、6ヶ月間追跡した。ベースライン時及び処置の6ヶ月後:視力を含む完全な眼検査、ゴールドマン眼圧測定(GAT)による眼内圧(IOP)の制御;視野試験、電気機能的及び形態学的検査を行った。
【0093】
(1)視野試験は、自動視野測定(HFA,Sita Standard 24-2プロトコル;Zeiss,San Leandro,CA,USA)を用いて行った。そのような分析は、緑内障患者の診断及びフォローアップのためのゴールドスタンダードを表し、その周辺視野を測定することによってさえ、視覚能力の空間の拡張を図式的に表すことを可能にする。各検査について2つの分析を実施し、分析のために第2の試験を考慮した。試験を実施するために、患者を器具の前に配置した。検査されていない眼を覆って額と顎をドームの内側に入れた後、彼らは、たとえ不十分な強度であっても自身に対して光刺激を知覚するたびに中心ターゲットを固定し、ボタンを押し始めた。MDを周辺指標とみなした。
【0094】
次いで、(2)電気機能試験:PERGパターン及びPEV視覚誘発電位からの網膜電図を実施して、視覚刺激から誘発された網膜神経節細胞及び視覚皮質のそれぞれの生体電気応答を評価した。患者は、5 cd/m2の輝度の均一なフィールドに囲まれたディスプレイの前に、音響的に断熱された半暗室に配置された。PERG及びPEVでの記録は、同じ視覚刺激を採用することによって行った:18×18度サイズのTVモニタでは、チェス盤のようなコントラスト変調が示され、白色及び黒色の要素が時間的に周期的に交互になっている(18度の視覚的な弧、80%のコントラスト、及び毎秒2回の反転の割合)。そのような方法は、緑内障眼における網膜及び網膜後の機能不全の検出におけるPERG及びPEVの最大感度及び特異性を検出することを可能にする。PERG及びPEVに対するシグナルを、下眼瞼の上及び頭皮の上にそれぞれ配置したAg/AgClの小さな電極によって記録した。PERGに対する一時的な応答は、それぞれ負、正、及び負の極性の3つの後続ピークを有するいくつかの波によって特徴付けられる。視覚的に正常な対象では、これらのピークは以下のレイテンシータイムを有する:35.50及び95ms(N35、P50、N95-文字は極性、レイテンシータイム数を指定)。ピークピーク幅は、各波についてPERG P50-N95で測定した。PEVに対する一時的な応答は、それぞれ負、正、負の極性の3つの後続ピークを有するいくつかの波によって特徴付けられる。視覚的に正常な対象では、これらのピークはこれらのレイテンシータイム75、100及び145msを有する(N75、P100、N145)。記録に表示された平均波のそれぞれについてPEV P100レイテンシータイムを測定した。記録セッション中、同時のPERG及びPEVを少なくとも2回(2~6回)記録し、得られた波形を重ね合わせて結果の再現性を検証した。記録セッション中、ms(PEV P100でのレイテンシータイムについて)及びμV(PERG P50-N95及びPEV N75-P100での幅について)の差が個体内変動値(pev P100黙示時間あたり2ms、並びに、幅PERG P50-N95及びPEV N75-P100について約±0.18μV)よりも低い2つの後続波を重ね合わせることができ、したがって再現性があるとみなした。
【0095】
(3)RNFL神経線維の層の厚さの評価は、スペクトルドメイン光干渉断層法SD-OCT(RTVue Model-RT100バージョン3.5;Optovue Inc,Fremont,CA,USA)を用いて行った。そのような分析は、細胞層及びそれらの神経叢の構造的詳細を高解像度断面を通して強調することができる網膜の断層撮影調査を可能にし、網膜の変化の定性的及び定量的分析を可能にする。患者は、器具の前に配置され、発光標的を観察するように促された:器具は、分析される眼構造が集束されると、走査を実行する。OCTの結果において、四分円あたり4つの測定値のRNFL-Tの平均値を考慮した:高位(RNFL-TS)、低位(RNFL-TI)、鼻側(RNFL-TN)、側頭(RNFL-TT)。全象限で得られた全データ(16個の値の平均)をRNFL一般(RNFL-TO)と同定した。
【0096】
最後に、患者をアンケートに供して、治療の遵守及び起こり得る有害作用を評価した。
【0097】
最も悪い眼に関するデータのみを考慮した。全ての試験について、有意水準をp<0.05に固定した。
【0098】
結果
表3に、ベースラインでの12人の患者の特徴を示す。
【表3】
【0099】
表4では、IOP、MD、PERG、PEVに関連する6ヶ月後の結果及びRNFL厚さに関連する値を示す。
【表4】
【0100】
シチコリンのみで処置した群(Cit.)において、ベースラインに対するMDの有意な改善が強調された。このような改善は、未処置群に関してさえ統計学的に有意であるという結果をもたらす。ニコチンアミドのみで処置した群(Nic.)において、試験終了時に、本発明者らは、未処置群(NT)に対してより低いMD値の減少を認めている。経口溶液中のCit.+Nic.会合で処置した群において、本発明者らは、驚くべきことに、MDの顕著な改善を見ている。個々に試験した様々な分子の投与との比較は、視覚機能に対する会合のより高い有効性を実証することによって、会合の相乗効果を明らかにした。
【0101】
電気機能評価は、全ての処置患者におけるPERGまでの幅及びPEVまでのレイテンシータイムに関するパラメータの改善を強調した。未処置群では、本発明者らはこのようなパラメータの著しい悪化を認めている。経口溶液中のCit+Nic会合によるより大きな有効性が強調され、統計学的に有意な差が、非処置群に対してだけでなく、単一処置に対しても認められる(p<0.05)。
【0102】
最後に、形態学的検査は、様々な処置の網膜層に対する神経保護有効性を確認する。特に、Cit.+Nic.会合の結果は、驚くべきことに、全ての群に対して統計的に有意な方法で神経線維の肥厚を止めることによって最も効果的なものである。この場合でも、会合によって得られた改善は、2つの有効成分の作用相乗作用を確認することによって、個々に投与された単一分子の効果の合計よりも高い。このような肥厚は、非処置群ではかなり顕著になる。いずれの処置についても有害反応は記録されなかった。
【0103】
参考文献
1.Morreale Bubella R et al.Neuroprotection of patient with open-angle chronic Glaucoma:role of citicoline in oral solution”.Ottica Fisiopatologica 2011.
開放隅角緑内障を有する患者の神経保護:経口溶液におけるシチコリンの役割
2.Williams PA,et al.Vitamin B3 modulates mitochondrial vulnerability and prevents glaucoma in aged mice.Science 2017;355,756-760.
ビタミンB3はミトコンドリアの脆弱性を調節し、老化マウスの緑内障を予防する
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】