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特表2024-518501フルオロポリマーを含む、電池のための絶縁組立部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-01
(54)【発明の名称】フルオロポリマーを含む、電池のための絶縁組立部品
(51)【国際特許分類】
   C08F 214/26 20060101AFI20240423BHJP
   H01M 50/193 20210101ALI20240423BHJP
   H01M 50/586 20210101ALI20240423BHJP
   H01M 50/593 20210101ALI20240423BHJP
【FI】
C08F214/26
H01M50/193
H01M50/586
H01M50/593
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023569814
(86)(22)【出願日】2022-05-06
(85)【翻訳文提出日】2024-01-09
(86)【国際出願番号】 EP2022062373
(87)【国際公開番号】W WO2022238271
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】21173659.0
(32)【優先日】2021-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】コライアンナ, パスクア
(72)【発明者】
【氏名】ベサーナ, ジャンバッティスタ
(72)【発明者】
【氏名】カルヴァルゾ, ガエターノ
(72)【発明者】
【氏名】カニル, ジョルジョ
(72)【発明者】
【氏名】ジラルディ, ルイージ
(72)【発明者】
【氏名】マンゾーニ, クラウディア
【テーマコード(参考)】
4J100
5H011
5H043
【Fターム(参考)】
4J100AC26P
4J100AE39Q
4J100AE39R
4J100CA04
4J100CA05
4J100DA24
4J100DA42
4J100FA03
4J100FA28
4J100FA29
4J100GC16
4J100GC35
4J100JA01
4J100JA03
4J100JA44
5H011AA01
5H011AA02
5H011AA03
5H011BB04
5H011GG02
5H011HH02
5H011KK02
5H011KK04
5H011KK06
5H043AA01
5H043AA07
5H043AA13
5H043BA19
5H043GA22
5H043GA24
5H043GA26
5H043GA30
5H043KA30E
5H043KA45E
5H043LA14E
5H043LA15E
5H043LA41E
5H043LA45E
(57)【要約】
本発明は、1種以上のフルオロポリマーを含む、電気化学セルのための絶縁組立部品であって、前記フルオロポリマーは、- 87~99モル%の、テトラフルオロエチレン(TFE)に由来する繰り返し単位、- 1~13モル%の、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)に由来する繰り返し単位、- 0~3モル%の、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)に由来する繰り返し単位を含み、且つ(5kg荷重下において372℃で測定される)40~300g/10分のメルトフローレート(MFR)を有する、絶縁組立部品に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上のフルオロポリマーを含む、電気化学セルのための絶縁組立部品であって、前記フルオロポリマーは、
- 87~99モル%の、テトラフルオロエチレン(TFE)に由来する繰り返し単位、
- 1~13モル%の、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)に由来する繰り返し単位、
- 0~3モル%の、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)に由来する繰り返し単位
を含み、且つ(5kg荷重下において372℃で測定される)40~300g/10分のメルトフローレート(MFR)を有する、絶縁組立部品。
【請求項2】
前記1種以上のフルオロポリマーは、
- 1~10モル%、好ましくは2~8モル%、より好ましくは3~7モル%の、PMVEに由来する繰り返し単位、
- 0~3モル%、好ましくは0~2.5モル%、より好ましくは0~2モル%、更により好ましくは0.1~1.5モル%の、PPVEに由来する繰り返し単位
を含む、請求項1に記載の絶縁組立部品。
【請求項3】
前記1種以上のフルオロポリマーは、1未満、好ましくは0.5未満、より好ましくは0.3未満、最も好ましくは0.2未満である、PPVEに由来する繰り返し単位と、PMVEに由来する繰り返し単位との間のモル比(PPVE/PMVE)を有する、請求項1又は2に記載の絶縁組立部品。
【請求項4】
前記1種以上のフルオロポリマーは、260℃~310℃、好ましくは270℃~305℃、より好ましくは275℃~300℃の溶融温度Tを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の絶縁組立部品。
【請求項5】
前記1種以上のフルオロポリマーは、(5kg荷重下において372℃で測定される)50~200、好ましくは60~160、より好ましくは70~130g/10分のMFRを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の絶縁組立部品。
【請求項6】
前記1種以上のフルオロポリマーは、前記絶縁組立部品の少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、最も好ましくは少なくとも99重量%を構成する、請求項1~5のいずれか一項に記載の絶縁組立部品。
【請求項7】
前記電気化学セルは、電池セル、好ましくは二次電池セル、より好ましくはリチウム電池セルである、請求項1~6のいずれか一項に記載の絶縁組立部品。
【請求項8】
射出成形された絶縁組立部品である、請求項1~7のいずれか一項に記載の絶縁組立部品。
【請求項9】
シーリングガスケット、絶縁プレート又は電極ホルダーである、請求項1~8のいずれか一項に記載の絶縁組立部品。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の電気化学セルのための絶縁組立部品を製造する方法であって、熱可塑性ポリマー組成物の射出成形を介して前記絶縁組立部品を形成する工程を含み、前記組成物は、
- 87~99モル%の、テトラフルオロエチレン(TFE)に由来する繰り返し単位、
- 1~13モル%の、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)に由来する繰り返し単位、
- 0~3モル%の、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)に由来する繰り返し単位
を含み、且つ(5kg荷重下において372℃で測定される)40~300g/10分のメルトフローレート(MFR)を有する1種以上のフルオロポリマーを含む、方法。
【請求項11】
前記金型は、各キャビティが個別の絶縁組立部品の成形を可能にする少なくとも4つのキャビティを含む多数個取り金型である、請求項10に記載の電気化学セルのための絶縁組立部品を製造する方法。
【請求項12】
前記熱可塑性組成物は、少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、最も好ましくは少なくとも99重量%の前記1種以上のフルオロポリマーを含む、請求項10又は11に記載の電気化学セルのための絶縁組立部品を製造する方法。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか一項に記載の少なくとも1つの絶縁組立部品を含む二次電池。
【請求項14】
前記少なくとも1つの絶縁組立部品は、シーリングガスケット、絶縁プレート及び/又は電極ホルダーである、請求項13に記載の二次電池。
【請求項15】
電気化学セルで使用するための絶縁組立部品を製造するための、好ましくは二次電池のためのシーリングガスケット、絶縁プレート及び/又は電極ホルダーを製造するための、1種以上のフルオロポリマーを含む熱可塑性ポリマー組成物の使用であって、前記フルオロポリマーは、
- 87~99モル%の、テトラフルオロエチレン(TFE)に由来する繰り返し単位、
- 1~13モル%の、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)に由来する繰り返し単位、
- 0~3モル%の、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)に由来する繰り返し単位
を含み、且つ(5kg荷重下において372℃で測定される)40~300g/10分のメルトフローレート(MFR)を有する、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年5月12日出願の欧州特許出願公開第21173659.0号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)との特定の選択されたコポリマーを含む、特に二次電池で使用するための、電気化学セルの構築に使用される絶縁組立部品、射出成形に介してそのような絶縁組立部品を製造する方法及びそのような絶縁組立部品を含む電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0003】
当業者に公知であるように、電池は、化学エネルギーを電気エネルギーに変換することができる1つ以上の個別の電気化学セルを含む。いくつかの電池は、1回使用できるにすぎないが、他のものは、電池が使用されるときに電気エネルギーとして再び放出され得る化学エネルギーに電気エネルギーを変換することによって再充電することができる。これらは、「再充電可能電池」又は「二次電池」と呼ばれる。再充電可能電池は、特に、電気エンジンへの目下の関心のために業界で一層注目を集めつつある。
【0004】
各電気化学セルは、典型的には、エネルギー変換プロセスに直接関与する多数の「能動」素子:正極、負極、多孔質セパレータ及び典型的には液体であるが、ゲル又は固体形態でもある電解質を含む。商業用電池は、典型的には、1つ以上の電気化学セルを容器内に詰め込んでいる。
【0005】
言及された能動素子以外に、電気化学セルは、それ自体能動的ではないが、セルの適切な構成及び性能を確保するために必要であり、且つ極めて重要である他の組立部品も含む。各セルは、実際に、セルケースによって他のセルから電気的に絶縁されていなければならず、正端子及び負端子も、セルケースの外側で利用可能であり、セルの接続を可能にしなければならない。円筒形セル又は角柱セルなどの典型的なセル構成において、これは、ガスが内部で形成される場合にセルのバルジングを避けるための安全ベントを典型的に含むセルキャップを使用することによって達成される。シーリング及び絶縁ガスケットは、典型的には、キャップ又はクロージャの周りに存在して、電解質の漏洩及び水分の侵入を防ぐためにセルをシールし、セルの能動素子と接触しているため、ガスケットはまた、電気的に絶縁された材料でできていなければならない。更に、絶縁プレートは、望ましくない短絡を防ぐために電極の両側に典型的に存在し、必然的に、絶縁プレートはまた、電気的に絶縁された材料でできていなければならない。電極ホルダー(電流コレクタホルダーとも言われる)などの他の絶縁組立部品は、当業者に公知であるように、多くの電気化学セル構成に典型的に存在する。構成は、変わることができ、いくつかの場合、同じ部品が1つ以上の機能を果たすことができ、他の場合、より多くの個別の部品が単一の機能を果たすために使用され得る。全てのこれらの絶縁組立部品は、共通して、電気的絶縁体であり、電気化学セル中に存在する化学薬品に対して本質的に不活性でありながら、エネルギーを蓄積及び/又は放出するのにセルを機能させる電気化学反応に直接関与しない。
【0006】
全てのこれらの組立部品は、1つの単一部品さえの破損が漏洩又は短絡を引き起こし得るため、セルの寿命及び安全性にとって極めて重要である。特に、絶縁材料でできた組立部品は、電極及び/又は電解質材料中に存在する溶媒と直接接触し、且つ電池寿命中に連続的な温度変動に曝される。そのため、これらの絶縁組立部品は、電気的に絶縁性であるのみならず、高められた温度、温度変化並びに溶媒及び攻撃的な化学薬品との接触にも耐えることができる材料を使用して製造されなければならない。絶縁組立部品は、圧力又は機械的応力が長時間繰り返し加えられる場合でもシーリング及び分離を確実にするのに十分に可撓性でもなければならない。
【0007】
このため、電気化学セルにおける、とりわけ厳しい環境下でも長い耐用年数を確実にしなければならない二次電池のためのセルにおけるほとんどの絶縁組立部品にとって、高性能プラスチック材料が典型的に好ましい。
【0008】
これらの絶縁組立部品の中でも、電気化学セル構成において特に大きい重要性を有する1つの部品は、いわゆる「ガスケット」又は「シーリングガスケット」である。
【0009】
ガスケットは、電解質が漏れ出すこと及び空気中の水分が電池に侵入することを防ぐために電池キャップの周りに典型的に配置されるシールである。シーリングガスケットは、正極及び負極が接触し、短絡を引き起こすことを防ぐための電気絶縁性も提供する。電池の安全性及び寿命を確実にするために、シーリングガスケット(例えば、自動車用途向け)のシーリング及び絶縁機能は、15年間以上の連続使用を保証しなければならない。シーリングガスケット材料は、クリープ変形を引き起こすことができる、高温及び長期応力などの悪条件下でシールの有効性を維持するための復元力を有しなければならず、且つこれらの特性を電池の全体寿命にわたって維持しなければならない。
【0010】
別の重要な絶縁組立部品は、2つの導体間の短絡を防ぐために使用されるプラスチックシートである、いわゆる「絶縁プレート」である。例えば、典型的には、円筒形セルには2つの絶縁プレートが存在する。第1のプレートは、ジェリーロールの底部とカンの底部との間に設置される。第2のプレートは、ジェリーロールの最上部とシーリングガスケットとの間に設置される。当業者に公知であるように、絶縁プレートは、多くの場合、同じ機能を有する多くの異なる電池セル構成に含まれる。
【0011】
電極ホルダーは、典型的には、電極プレートを正しい位置に維持し、且つ短絡を防ぐために使用される。上述のように、電気化学セルのための絶縁組立部品は、優れた機械的及び化学的特性を備え、且つそれらの特性を長時間維持しなければならない。このため、フルオロポリマー、特に過フッ素化ポリマーがそのような絶縁組立部品を形成するために使用されてきた。
【0012】
ポリテトラフルオロエチレン系の熱可塑性材料は、電池絶縁組立部品を形成するための要件を全て満たす。そのような絶縁組立部品を形成するためのTFEとPAVEとのコポリマーの使用、特にPFAとして商業的に知られているTFE/パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)コポリマーの使用の豊富な開示が先行技術において存在する。
【0013】
例えば、ダイキンによる国際公開第13115374号パンフレットは、電池のための絶縁組立部品で使用するためのシーリング材料であって、372℃で約4g/10分のMFRを有するTFE/PPVEコポリマーをベースとするシーリング材料を記載している。
【0014】
電気化学セルのための絶縁組立部品は、圧縮成形及び射出成形などの溶融加工技法を用いてフルオロポリマーから製造することができる。射出成形は、それが多数個取り金型の使用を可能にし、こうして単一の射出プロセスでいくつかの絶縁組立部品の調製を可能にするために特に好ましい。
【0015】
成形の技術分野の当業者に公知であるように、射出成形のための熱可塑性材料は、装置及び金型の腐食並びにエネルギー消費の両方がより低いため、比較的低い温度で加工可能であることが好ましい。射出成形のための好ましい材料はまた、より多くのキャビティを有する金型を誤差なく充填できるように、加工温度で低い粘度を有し、且つまた完成物上に表面欠陥を形成することなく高速で金型で射出可能であるべきである。
【0016】
他方では、TFE/PPVEコポリマー(引用された先行技術で使用されるものなど)の粘度及び融点は、PPVEの含有量を増やすことによって下げることができることが知られているが、高いPPVE含有量のそのようなコポリマーは、低い粘度に機械的特性の低下及びまた熱安定性の低下が伴うため、意図される用途向けに好適でないことも知られている。
【0017】
熱安定性は、ポリマー自体の安定性についてのみならず、また重量減少が、典型的には射出成形するために用いられる高価な装置についての腐食の主な原因であるガス形態のフッ化水素(HF)などの様々な化合物の損失を伴うため、フルオロポリマーの射出成形にも非常に関係しており、そのため、加熱時に重量を減らす物質は、より高い腐食及びその結果として金型についてより短い寿命も引き起こすであろう。重量減少は、成形品中の気泡などの欠陥の形成を引き起こし得るガス発生とも関係し得る。
【0018】
そのため、公知のポリマーの機械的安定性、耐化学薬品性、絶縁性能、シーリング能力等の要件を全て満たすが、より低い温度で射出成形でき、且つまた成形中により熱的に安定であるフルオロポリマー組成物から得られる、電気化学セルのための絶縁組立部品が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0019】
一態様において本発明は、1種以上のフルオロポリマーを含む、電気化学セルのための絶縁組立部品であって、前記フルオロポリマーは、
- 87~99モル%の、テトラフルオロエチレン(TFE)に由来する繰り返し単位、
- 1~13モル%の、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)に由来する繰り返し単位、
- 0~3モル%の、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)に由来する繰り返し単位
を含み、且つ(5kg荷重下において372℃で測定される)40~300g/10分のメルトフローレート(MFR)を有する、絶縁組立部品に関する。
【0020】
別の態様において、本発明は、電気化学セルのための絶縁組立部品を製造する方法であって、熱可塑性ポリマー組成物の射出成形を介して前記絶縁組立部品を形成する工程を含み、前記組成物は、上記で定義されたような1種以上のフルオロポリマーを含む、方法に関する。
【0021】
更なる態様において、本発明は、好ましくは、シーリングガスケット、絶縁プレート又は電極ホルダーのような絶縁組立部品を含む二次電池に関する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本説明の目的のために、電気化学セルに言及される用語「絶縁組立部品」は、電気化学反応に関与しない(すなわち電極、電解質及びセパレータ)並びに電気を通さない(すなわちコネクタ、配線等を除く)電気化学セルの全ての固体構成部品を示す。これらは、例えば、シーリングガスケット、絶縁体、シール、電極ホルダー(電流コレクタホルダーとも言われる)、絶縁ケース、絶縁電池等である。電気化学セルは、典型的には、電池のためのセル、好ましくは二次電池セル、より好ましくはリチウム電池セルである。絶縁組立部品は、好ましくは、シーリングガスケット、絶縁プレート及び/又は電極ホルダーである。
【0023】
モルによる全ての百分率又は繰り返し単位は、ポリマー中に存在する繰り返し単位の総量に対して言及される。
【0024】
上述のように、本発明は、電気化学セル、典型的には電池セルのための絶縁組立部品に関連し、そのような組立部品は、1種以上の選択されたTFE/PAVEフルオロポリマーを含む。
【0025】
本発明のために選択されるTFE/PAVEフルオロポリマーは、1~13モル%、好ましくは1~10モル%、より好ましくは2~8モル%、更により好ましくは3~7モル%の、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)に由来する繰り返し単位を含む。
【0026】
本発明のために選択されるTFE/PAVEフルオロポリマーは、0~3モル%、好ましくは0~2.5モル%、より好ましくは0~2モル%、更により好ましくは0.1~1.5モル%の、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)に由来する繰り返し単位も含み得る。
【0027】
一般に、(仮に存在する場合)PPVEに由来する繰り返し単位のモル量は、PMVEに由来する繰り返し単位のモル量よりも小さく、すなわち、PPVEに由来する繰り返し単位と、PMVEに由来する繰り返し単位との間のモル比(PPVE/PMVE)は、1未満、好ましくは0.5未満、より好ましくは0.3未満、最も好ましくは0.2未満である。
【0028】
任意選択的に、本発明で使用するためのTFE/PAVEコポリマーは、6%以下の、式(20A)のパーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)、式(21A)のパーフルオロ(1,3-ジオキソール)及び式(26A)の2,2,4-トリフルオロ-5-トリフルオロメトキシ-1,3-ジオキソール:
【化1】
から選択される環状モノマーに由来する繰り返し単位を含み得る。
【0029】
存在する場合、そのような環状モノマーは、好ましくは、0.1~5モル%、より好ましくは0.1~4モル%、更により好ましくは0.1~3モル%である。
【0030】
本発明のために選択されるTFE/PAVEフルオロポリマーは、87~99モル%の量の、TFEに由来する繰り返し単位を含む。TFEに由来するもの以外の他の繰り返し単位、PAVE及び上述の環状モノマーは、好ましくは、不在であるが、存在する場合、好ましくは完全にフッ素化されており、フルオロポリマーの繰り返し単位の総量を基準として好ましくは2モル%未満である。
【0031】
末端鎖、不純物、欠陥及び少量の他のコモノマー(これらの後者は、ポリマーの繰り返し単位の総モル量に対して、一般に0.5%を超えない、好ましくは0.1%を超えない量である)は、これらが前記TFE/PAVEコポリマーの特性に実質的に影響を及ぼすことなしに存在し得る。
【0032】
本発明のために選択されるTFE/PAVEフルオロポリマーは、40~300、好ましくは50~200、より好ましくは60~160、更により好ましくは70~130g/10分(5kg荷重下において372℃で測定される)のメルトフローレート(MFR)を有することで更に特徴付けられる。
【0033】
本発明のために選択されるTFE/PAVEフルオロポリマーは、好ましくは、260℃~310℃、好ましくは270℃~305℃、より好ましくは275℃~300℃に含まれる、ASTM D3418に従って測定される融点Tで更に特徴付けられる。
【0034】
本発明の絶縁組立部品は、好ましくは、上記の選択されるTFE/PAVEフルオロポリマーが前記絶縁組立部品の少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、最も好ましくは少なくとも99重量%を構成する好ましくは熱可塑性ポリマー組成物である組成物でできている。
【0035】
本発明の組立部品を製造するために使用される組成物に添加され得る追加の任意選択的な原料は、組成物の10重量%未満の量で好ましくは存在する、安定化添加物、離型剤、可塑剤、潤滑剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、接着促進剤、充填材、顔料及びその他などの従来の添加剤である。
【0036】
存在する場合、充填材は、例えば、タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、黒鉛、カーボンブラックなどの無機充填材から選択することができる。
【0037】
本出願人は、意外にも、上記の選択されたTFE/PAVEフルオロポリマーを含む絶縁組立部品が製造される場合、製造は、先行技術のTFE/PPVEフルオロポリマーの使用よりも低い温度及び速い射出速度での射出成形を介して可能であり、これは、そのような絶縁組立部品を製造するために特に効率的な方法である多数個取り金型の使用を可能にすることを見出した。本発明の選択されたTFE/PAVEポリマーの使用は、重量減少の低下及び結果として生じる成形中のHFなどのガス放出化学種の発生の低下と関連し、それは、金型についてより長い耐用年数及び成形品中の欠陥の減少にもつながる。本発明の絶縁組立部品は、先行技術によるTFE/PPVEポリマーを使用して得られる同様な組立部品と比べて同等の機械的特性、耐化学薬品性及び長期間にわたる安定性を有する。本発明によって提供される便益を支持する実験データに関して、以下の実施例が言及される。
【0038】
物品を製造する方法
本発明は、電気化学セルのための絶縁組立部品を製造する方法にも関する。本方法は、熱可塑性ポリマー組成物の射出成形を介して、電気化学セルで使用するための絶縁組立部品を形成する工程を含み、前記組成物は、上記のような1種以上の選択されたTFE/PAVEフルオロポリマーを含む。
【0039】
本発明の方法において、金型は、好ましくは、多数個取り金型、より好ましくは各キャビティが別個の絶縁組立部品の成形を可能にする少なくとも4つのキャビティを有する多数個取り金型である。本組成物の低い粘度は、温度及び圧力の穏和な条件下で効率的に複数のキャビティの速い充填を可能にし、平滑面を有し、且つ欠陥を含まない個別の成形品を生成する。
【0040】
代わりに、しかしあまり好ましくはないが、本発明の絶縁組立部品は、圧縮成形又は射出成形と異なる他の溶融加工技法によって製造することができる。
【0041】
射出成形する工程は、一般に、融解した熱可塑性組成物を、ラム又はスクリュー式プランジャーを用いて金型キャビティ中に押し込み;前記金型のキャビティ内において、組成物は、1個取り金型又は多数個取り金型であり得る金型の輪郭に従った形状に固化する。
【0042】
上述のように、射出成形プロセスは、好ましくは、少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、最も好ましくは少なくとも99重量%の、上記の選択されたTFE/PAVEフルオロポリマーの1種以上を含む熱可塑性組成物を使用して行われる。
【0043】
本明細書で記載される射出成形プロセスは、シーリングガスケット及び絶縁プレート、コレクタホルダー等などの絶縁組立部品の製造に特に好適である。本発明の絶縁組立部品についての典型的な形状は、電気化学セルのジオメトリに応じて変動し得る。例示的な形状は、例えば、0.2~1mmの厚さを有する平坦部品(長方形又はディスク形状)、ディスク、プレート、o-リング、棒等である。
【0044】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0045】
ここで、以下の実施例に関連して本発明をより詳細に記載するが、その目的は、単に例示的なものであり、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例
【0046】
試験方法
MFR:(メルトフローレート)は、5kgのピストン荷重下において372℃でASTM 1238に従って測定し、g/10分として表現する。
【0047】
TGA:重量減少試験は、TAによるTGA5500機器を用いてISO 11358に従って行った。
【0048】
融点の測定
融点Tは、ASTM D 3418規格に従ってDSCによって第2の溶融温度として測定した。手順は、以下の通りであった:ポリマー試料を、それらを10℃/分の温度ランプで10℃から400℃まで加熱して溶融させた。試料を次いで400℃で5分間維持し、次いで温度を10℃/分のランプで400℃から10℃まで下げて再結晶化させた。ポリマーを次いで10℃で10分保ち、次いで再び10℃/分の温度ランプで400℃まで加熱した。融点は、この第2のランプ中の融解の温度として測定した。
【0049】
C-永久歪み(圧縮永久歪み):圧縮永久歪み値は、ASTM 395Bに従って測定した。試料を、以下に記載される手順に従って射出成形により調製された120mmの外径及び厚さ2mmを有する射出成形ディスクから得た。これらのより大きいディスクから、13mmの直径及び厚さ2mmを有するより小さいディスク状試料をカットした。これらのより小さいディスクを圧縮試験にかけた。圧縮試験において試料を元々2mmである厚さに沿って圧縮し、それを1mmに至るまで圧縮した。試料を70℃において120時間オーブン中で圧縮下に保った。この時間後に試料をオーブンから取り出し、圧縮を取り除き、室温状態調節の30分後に試料の厚さを測定した。以下の式によってC-永久歪み値を求めた。
C-永久歪み(%)=[(t-t)/t-t)]×100
=検体の元の厚さ(この場合には約2mm)
=検体のターゲット圧縮厚さ(この場合には1mm)
=室温状態調節後の検体の最終厚さ
【0050】
引張特性:降伏応力を、ASTM D3307に従って成形プラークに関して23℃において1%オフセットで測定した(MPa単位において)。ペレットの形態の試験用ポリマーを、約1.2mmの厚さを有するプラークの製造のための垂直プレスにおいて360℃で溶融圧縮成形にかけた。
【0051】
誘電特性:ASTM D149に従って絶縁耐力及びASTM D3638に従い、CTI(比較トラッキング指数)を、引張特性を測定するために使用された同じ成形プラークに関して得た。
【0052】
毛細管試験(サメ皮検出):ASTM D 3835に従って行った。試験は、L/D=10及びD=1及び0.54mmを用いる毛細管レオメーター装置(Rheograph 2003)で実施した。融解材料を、毛細管を通して押し出し、押出物の表面をその平滑性/粗さに関して評価した。この試験を用いて、いずれが、表面粗さを示すことなく材料を(所与のTで)押し出すことができる最大せん断速度であるかを評価した。表面粗さ(サメ皮)の形成は、試料の簡単な蝕覚検査によって毛細管試験を行う当業者に直ちに明白である。
【0053】
使用される材料:
ポリマーP1(本発明による) - 281℃のT及び88g/10分の372℃-5kgでのMFRを有する、4.75モル%のPPMVE、0.39モル%PPVE及び94.86モル%TFEを含むTFE/PPVE/PMVEコポリマー。
【0054】
ポリマーP2(比較) - 308℃のTを有し、且つ13.3g/10分の372℃-5kgのMFRを有する、1.6モル%のPPVE及び98.4モル%のTFEを含むTFE/PPVEコポリマー。
【0055】
ポリマーP1の調製
400rpmで動作する攪拌機を備えた22リットルAISI 316スチール垂直反応器に、真空にした後に以下の原料:
- 13.9ltの脱塩水、
- 85gのパーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、
- 39.7gのカルボン酸アンモニウム末端基を有する1種のイオン性パーフルオロポリエーテル、23gの中性末端基を有する1種のパーフルオロポリエーテル及び65.3g水を混合することによって米国特許第4864006号明細書に従って調製された128gのマイクロエマルション
を順に導入した。
【0056】
全ての原料を添加したら、反応器を75℃に至るまで加熱し、0.15バールのエタン及び3.7バールのパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)を供給した。次いで、21絶対バールの圧力に達するまで21のモル比のガス状TFE/PMVE混合物を圧縮器によって添加した。計量供給ポンプによって118mlの過硫酸アンモニウム溶液0.044Mを供給し、こうして重合を開始した。重合圧を、前記のモノマー混合物を供給することによって一定に保ち、20%の転化率に達したときに8.6gの追加量のエタンを添加した。合計8715gの上記の混合物を供給した後、モノマー混合物供給を中断し、撹拌を止め、圧力が7.5絶対バールに達するまで圧力を低下するままにした。反応器を次いで室温で冷却し、エマルジョンを排出させ、硝酸65%溶液で凝固させた。ポリマーを水で洗浄し、220℃においてオーブン中で乾燥させ、次いでCoperion二軸スクリュー押出機48Dを約302℃の押出温度で用いてペレット化した。名目ポリマー組成は、PMVE 4.75モル%、PPVE 0.39モル%及びTFE 94.86モル%であった。MFRは、88g/10分であり、及び融点は、281℃であった。
【0057】
ポリマーP1及びポリマーP2の射出成形:ポリマーP1及びポリマーP2を使用して120mmの直径及び2mmの厚さを有するディスクを、射出成形を介して調製した。成形は、30mmのバレルの直径を有する射出成形機Negri-Bossi(NB100)で行った。射出成形によって得られたディスクを上述のようなC-永久歪み測定のために使用した。
【0058】
成形条件は、両方のポリマーP1及びP2について最適化した:ポリマーP1(本発明による)は、315/320/325/330℃のC1/C2/C3/C4のシリンダー温度、ノズル温度330℃及び432バールの圧力(保持圧力)以下での射出成形機で加工した一方、ポリマーP2(比較)は、370/375/380/385℃のC1/C2/C3/C4のシリンダー温度、ノズル温度385℃及び520バールの圧力(保持圧力)以下での射出成形機で加工した。両方の成形操作は、65秒のサイクル時間を要した。
【0059】
得られた両方のディスクは、完全に平坦であり、クラック又は欠陥もなかった。この成形実施例は、ポリマーP1が、ポリマーP2よりも低い温度及び圧力でどのように射出成形できるかを示す。
【0060】
降伏応力の測定
降伏応力を、上記の通り得られた成形プラークに関して測定した。得られた結果は、両方のポリマーP1及びP2の試料が約12.5MPaの同じ降伏応力を有することを示す。
【0061】
圧縮永久歪み(C-永久歪み)の測定
C-永久歪みを、上記のような成形ディスクから調製された両方のポリマー1及びP2の試料に関して測定した。結果は、両方の試料が約73%の同じC-永久歪みを有することを示した。圧縮後の試験片は、欠陥又はクラックを示さなかった。
【0062】
誘電特性の測定
絶縁耐力及びCTIを、機械的特性の測定のために使用した同じ成形プラークに関して測定した。得られた結果は、両方のポリマーP1及びP2が約32KV/mmの同じ絶縁耐力及び600V超のCTIを有することを示す。
【0063】
毛細管試験
両方のポリマーP1及びP2を毛細管試験にかけた。融解ポリマーを機器の毛細管に注入し、様々な温度でそれを通して押し出した。押し出された材料の表面を、平滑(合格)及び粗い(不合格)かどうかについて評価した。ポリマーが各温度で平滑面を示す最大せん断速度を「サメ皮開始せん断速度」として記録した。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
結果は、本発明に従って選択されたポリマーP1が、表面欠陥の形成のリスクなしに、ポリマーP2よりもはるかに速い速度でどのように射出成形できるかを示す。
【0066】
重量減少の測定
重量減少をTAによるTGA5500機器で0.030g試料に関して測定した。2つの重量減少試験を行った。第1の試験では、ポリマー試料を1分当たり10℃の温度ランプで室温から380℃に至るまで加熱した(ダイナミック加熱試験)。
【0067】
第2の試験では、ポリマー試料をそれらの成形温度(P1について330℃及びP2について380℃)まで同じランプで加熱し、温度を4時間維持した(等温試験)。重量減少データを以下の表2に報告する。
【0068】
【表2】
【0069】
重量減少データは、ポリマーP1の試料が380℃に至るまでのダイナミック加熱後にどのように重量減少の低下を表すかを示す。これは、成形中にHFガスなどの分解生成物の発生の減少並びに従って装置についてのより長い耐用年数及び成形品における欠陥(例えば、気泡)の数の減少を暗示する。注目すべきことに、実際の用途において、ポリマーP1の成形温度は、P2の成形温度よりもはるかに低く、それは、等温重量減少試験によって示されるように分解生成物の発生の更により際立った減少を暗示する。
【0070】
電気化学セルのための絶縁組立部品の調製
絶縁プレートの調製例
ポリマーP1を射出成形機で加工した。溶融物を、8mmの直径及び0.5mmの厚さを有するディスクの形状の4つのキャビティを有する多数個取り金型に注入した。リングは、全て良好に形成され、平滑であり、且つクラック又は欠陥を含まなかった。ディスクを次いで円筒形のLiセルのための絶縁プレートとして使用した。
【0071】
概して、データは、電池のための絶縁組立部品を製造するための本発明の選択されたポリマーの使用が、同じ用途向けに当技術分野で使用される一般的なPFAポリマーに対して、成形中により低い成形温度、より速い射出成形プロセス(溶融ポリマーをより高いせん断速度にかけることができるため)及びより低い重量減少の記録(より低いレベルの腐食性ガス放出に対応する)を用いて、射出成形を介してこれらの部品を効率的に製造することをどのように可能にするかを示す。意外にも、得られた部品は、従来使用されているPFAポリマーのものに一致する機械的及び電気的特性を有する。
【国際調査報告】