(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-01
(54)【発明の名称】てんかんの処置用のカンナビジオール-C4誘導体
(51)【国際特許分類】
C07C 39/23 20060101AFI20240423BHJP
C07C 29/147 20060101ALI20240423BHJP
C07C 69/16 20060101ALI20240423BHJP
C07C 69/18 20060101ALI20240423BHJP
C07C 62/32 20060101ALI20240423BHJP
C07C 51/377 20060101ALI20240423BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20240423BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20240423BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240423BHJP
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A61K 9/16 20060101ALI20240423BHJP
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A61P 43/00 20060101ALI20240423BHJP
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A61K 31/5513 20060101ALI20240423BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20240423BHJP
C07D 249/04 20060101ALN20240423BHJP
C07D 253/06 20060101ALN20240423BHJP
C07H 9/04 20060101ALN20240423BHJP
C07D 239/62 20060101ALN20240423BHJP
C07D 317/54 20060101ALN20240423BHJP
C07D 243/12 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
C07C39/23 CSP
C07C29/147
C07C69/16
C07C69/18
C07C62/32
C07C51/377
A61K31/05
A61P25/08
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/14
A61K9/16
A61K9/02
A61K9/06
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A61P43/00 121
A61K31/4192
A61K31/53
A61K31/7048
A61K31/505
A61K31/36
A61K31/5513
A61K31/19
C07D249/04 506
C07D253/06
C07H9/04
C07D239/62
C07D317/54
C07D243/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023569986
(86)(22)【出願日】2022-05-11
(85)【翻訳文提出日】2024-01-04
(86)【国際出願番号】 GB2022051199
(87)【国際公開番号】W WO2022238700
(87)【国際公開日】2022-11-17
(32)【優先日】2021-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】319016758
【氏名又は名称】ジーダブリュー・リサーチ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アラン・ジェームズ・シルコック
(72)【発明者】
【氏名】カレン・カ-イェン・ツェ
【テーマコード(参考)】
4C057
4C076
4C086
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
本発明は、薬学的に活性である化合物、及びその調製方法に関する。本発明の化合物は7-ヒドロキシ-カンナビジオール-C4(7-OH-CBD-C4)及び7-カルボキシ-カンナビジオール-C4(7-COOH-CBD-C4)である。本発明の化合物はカンナビジオール(CBD)に関連している。CBDは、様々な疾患及び障害を処置するために使用されている非向精神性カンナビノイドである。これらの処置薬は有望であるが、当技術分野においては更に有効な処置薬がなお求められており、これは本発明の化合物によって実現された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物又はその塩。
【化1】
【請求項2】
純粋化合物、単離化合物、又は合成化合物としての、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式(I)の化合物又はその塩を含む、医薬組成物。
【請求項4】
液剤、溶液剤、懸濁液剤、乳剤、シロップ剤、舐剤、洗口剤、滴剤、錠剤、顆粒剤、散剤、薬用キャンディー剤、トローチ剤、カプセル剤、カシェ剤、丸剤、アンプル剤、急速静注剤、坐剤、ペッサリー剤、チンキ剤、ゲル剤、ペースト剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、油剤、フォーム剤、噴霧剤、及びエアロゾル剤から選択される形態の、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
担体、希釈剤、賦形剤、アジュバント、充填剤、緩衝剤、結合剤、崩壊剤、保存料、酸化防止剤、潤滑剤、安定剤、可溶化剤、界面活性剤(例えば湿潤剤)、マスキング剤、着色料、香味料、及び甘味料から選択される1種又は複数の成分を含む、請求項3又は4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
医薬としての使用のための、式(I)の化合物又はその塩。
【請求項7】
医薬がてんかんを処置するための医薬である、請求項6に記載の使用のための化合物。
【請求項8】
医薬が全般発作、焦点起始発作、又は強直間代発作を処置するための医薬である、請求項6又は7に記載の使用のための化合物。
【請求項9】
処置方法における使用のための、式(I)の化合物又はその塩。
【請求項10】
処置方法がてんかんを処置する方法である、請求項9に記載の使用のための化合物。
【請求項11】
処置方法が全般発作、焦点起始発作、又は強直間代発作を処置する方法である、請求項9又は10に記載の使用のための化合物。
【請求項12】
1種又は複数の同時投与抗てんかん薬(AED)との組み合わせで使用される、請求項9から11のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項13】
AEDがルフィナミド;ラモトリジン;トピラマート;フェルバマート、スチリペントール、クロバザム、及びバルプロ酸から選択される、請求項12に記載の使用のための化合物。
【請求項14】
化合物の用量が1~2,000mg/日、例えば20~1,000mg/日、例えば50~500mg/日である、請求項9から13のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項15】
処置を必要とする対象に治療有効量の式(I)の化合物又はその塩を投与する工程を含む、処置方法。
【請求項16】
てんかんを処置する方法である、請求項15に記載の処置方法。
【請求項17】
全般発作、焦点起始発作、又は強直間代発作を処置する方法である、請求項15又は16に記載の処置方法。
【請求項18】
以下の工程を含む、式(I)の化合物の製造のための方法:
i)3,5-ジメトキシベンジルブロミドをプロピルグリニャール試薬で処理して1-ブチル-3,5-ジメトキシベンゼンを製造する工程;
ii)1-ブチル-3,5-ジメトキシベンゼンを脱メチル化試薬で処理して5-ブチルベンゼン-1,3-ジオールを製造する工程;
iii)5-ブチルベンゼン-1,3-ジオールと(R)-イソリモネンジオール 7-O-アセテートとを酸の存在下でカップリングして7-アセトキシ-CBD-C4を製造する工程;及び
iv)7-アセトキシ-CBD-C4を還元剤で処理して式(I)の化合物を製造する工程。
【請求項19】
グリニャール試薬がn-プロピルマグネシウムクロリド及びn-プロピルマグネシウムブロミド、例えばn-プロピルマグネシウムクロリドから選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
脱メチル化試薬が三臭化ホウ素、二塩化ベリリウム、三塩化アルミニウム、ヨウ化トリメチルシリル、及びピリジン塩酸塩;例えば三臭化ホウ素から選択される、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
酸がp-トルエンスルホン酸及び三塩化アルミニウム、例えばp-トルエンスルホン酸触媒から選択される、請求項18から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
還元剤が水素化アルミニウムリチウム、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム(red-Al)、ジボラン、及び水素化ホウ素ナトリウム;例えば水素化ホウ素ナトリウムから選択される、請求項18から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
以下から選択される、式(I)の化合物の製造方法において形成される中間体。
【化2】
【請求項24】
式(II)の化合物又はその塩。
【化3】
【請求項25】
純粋化合物、単離化合物、又は合成化合物としての、請求項24に記載の化合物。
【請求項26】
式(II)の化合物又はその塩を含む、医薬組成物。
【請求項27】
液剤、溶液剤、懸濁液剤、乳剤、シロップ剤、舐剤、洗口剤、滴剤、錠剤、顆粒剤、散剤、薬用キャンディー剤、トローチ剤、カプセル剤、カシェ剤、丸剤、アンプル剤、急速静注剤、坐剤、ペッサリー剤、チンキ剤、ゲル剤、ペースト剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、油剤、フォーム剤、噴霧剤、及びエアロゾル剤から選択される形態の、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項28】
担体、希釈剤、賦形剤、アジュバント、充填剤、緩衝剤、結合剤、崩壊剤、保存料、酸化防止剤、潤滑剤、安定剤、可溶化剤、界面活性剤(例えば湿潤剤)、マスキング剤、着色料、香味料、及び甘味料から選択される1種又は複数の成分を含む、請求項26又は27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
医薬としての使用のための、式(II)の化合物又はその塩。
【請求項30】
医薬がてんかんを処置するための医薬である、請求項29に記載の使用のための化合物。
【請求項31】
医薬が全般発作、焦点起始発作、又は強直間代発作を処置するための医薬である、請求項29又は30に記載の使用のための化合物。
【請求項32】
処置方法における使用のための、式(II)の化合物又はその塩。
【請求項33】
処置方法がてんかんを処置する方法である、請求項32に記載の使用のための化合物。
【請求項34】
処置方法が全般発作、焦点起始発作、又は強直間代発作を処置する方法である、請求項32又は33に記載の使用のための化合物。
【請求項35】
1種又は複数の同時投与抗てんかん薬(AED)との組み合わせで使用される、請求項32から34のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項36】
AEDがルフィナミド;ラモトリジン;トピラマート;フェルバマート、スチリペントール、クロバザム、及びバルプロ酸から選択される、請求項35に記載の使用のための化合物。
【請求項37】
化合物の用量が1~2,000mg/日、例えば20~1,000mg/日、例えば50~500mg/日である、請求項32から36のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項38】
処置を必要とする対象に治療有効量の式(I)の化合物又はその塩を投与する工程を含む、処置方法。
【請求項39】
てんかんを処置する方法である、請求項38に記載の処置方法。
【請求項40】
全般発作、焦点起始発作、又は強直間代発作を処置する方法である、請求項38又は39に記載の処置方法。
【請求項41】
以下の工程を含む、式(II)の化合物の製造のための方法:
i)7-ヒドロキシ-CBD-C4(式(I)の化合物)を得る工程;
ii)7-ヒドロキシ-CBD-C4をアシル化試薬及び塩基で処理して7-ヒドロキシ-CBD-C4 ジ-O-アセテートを得る工程;
iii)7-ヒドロキシ-CBD-C4 ジ-O-アセテートと酸化剤とを反応させて7-ホルミル-CBD-C4 ジ-O-アセテートを得る工程;
iv)7-ホルミル-CBD-C4 ジ-O-アセテートを例えば亜塩素酸ナトリウム及びリン酸一ナトリウムで酸化して7-カルボキシ-CBD-C4 ジ-O-アセテートを得る工程;並びに
v)カルボキシ-CBD-C4 ジ-O-アセテートを還元剤を使用して脱保護して式(II)の化合物を製造する工程。
【請求項42】
アシル化試薬が無水酢酸、塩化アセチル、酢酸N-スクシンイミジル、1-アセチル-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジン、及びN-アセチルイミダゾール;例えば無水酢酸から選択される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
塩基が炭酸アンモニウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、及び炭酸ナトリウム;例えば炭酸セシウムから選択される、請求項41又は42に記載の方法。
【請求項44】
酸化剤が二酸化マンガン;Dess-Martinペルヨージナン;IBX;TEMPO;TPAP;DMSO及び塩化オキサリル;DMSO及びカルボジイミド;並びにSO
2・Py;例えば二酸化マンガンから選択される、請求項41から43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
還元剤が水素化ホウ素ナトリウムから選択される、請求項41から44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
工程i)が以下の工程を含む、請求項41から45のいずれか一項に記載の方法:
i)3,5-ジメトキシベンジルブロミドをn-プロピルマグネシウムクロリド等のプロピルグリニャール試薬で処理して1-ブチル-3,5-ジメトキシベンゼンを製造する工程;
ii)1-ブチル-3,5-ジメトキシベンゼンを三臭化ホウ素等の脱メチル化試薬で処理して5-ブチルベンゼン-1,3-ジオールを製造する工程;
iii)5-ブチルベンゼン-1,3-ジオールと(R)-イソリモネンジオール 7-O-アセテートとをp-トルエンスルホン酸触媒等の酸の存在下でカップリングして7-アセトキシ-CBD-C4を製造する工程;及び
iv)7-アセトキシ-CBD-C4を水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤で処理して7-ヒドロキシ-CBD-C4を製造する工程。
【請求項47】
以下から選択される、式(II)の化合物の製造方法において形成される中間体。
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年5月12日(12.05.2021)出願のGB 2106788.9に関連しかつその優先権を主張するものであり、その内容は全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は、薬学的に活性である新規化合物、及びその調製方法に関する。特に、本発明は、7-ヒドロキシ-カンナビジオール-C4(7-OH-CBD-C4)及び7-カルボキシ-カンナビジオール-C4(7-COOH-CBD-C4)、並びにてんかんの処置におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
てんかんは世界中の人口の約1%において発生しており(Thurmanら、2011年)、そのうち70%は入手可能な既存の抗てんかん薬(AED)によって症状を適切に制御可能である。しかし、この患者群の30%(Eadieら、2012年)は、入手可能なAEDによって発作消失を獲得することができておらず、したがって難治性又は「治療抵抗性てんかん」(TRE)に罹患していると呼ばれる。
【0004】
難治性又は治療抵抗性てんかんは、国際抗てんかん連盟(ILAE)により2009年に「忍容されかつ適切に選択及び使用された2回のAEDスケジュール(単剤療法、併用療法にかかわらず)の適切な試みによって持続的な発作消失を実現できないこと」と定義された(Kwanら、2009年)。
【0005】
人生の最初数年の間にてんかんを発生させる個人は、処置が困難であることが多く、したがって治療抵抗性と呼ばれることが多い。小児期に頻繁な発作を経験する小児は、認知遅延、行動遅延、及び運動遅延を引き起こしうる神経障害を負うことが多い。
【0006】
小児てんかんは、小児及び若年成人における比較的一般的な神経障害であり、有病率は100,000人当たり約700人である。これは人口当たりのてんかん成人数の2倍である。
【0007】
小児又は若年成人が発作を呈する際に、通常は原因を調査するために調査が行われる。小児てんかんは多くの異なる症候群及び遺伝子変異により引き起こされることがあり、したがってこれらの小児の診断にはある程度の時間を要することがある。
【0008】
てんかんの主な症状は反復性発作である。患者が罹患しているてんかん又はてんかん症候群の種類を確定するために、患者が経験している発作の種類に関する調査が行われる。臨床観察及び脳波記録(EEG)検査が行われ、発作の種類がILEA分類に従って分類される。
【0009】
発作が両側に分布したネットワーク内で生じて該ネットワークを急速に巻き込む、全般発作は、6つのサブタイプ、すなわち強直間代発作(大発作);欠神発作(小発作);間代発作;強直発作;脱力発作;及びミオクローヌス発作に分けることができる。
【0010】
発作が片側大脳半球のみに限定されるネットワーク内で生じる、焦点発作(部分発作)も、やはりサブカテゴリーに分けられる。ここで発作は、聴覚性、運動性、自律性、及び認識性/応答性を含む、発作の1つ又は複数の特徴に従って特徴づけられる。発作が限局性発作として始まり、急速に進展して両側ネットワーク内に分布する場合、この発作は両側痙攣発作と呼ばれる。この用語は続発性全般発作(焦点発作から進展してもはや限局性にはとどまらない全般発作)の代替として提案されたものである。
【0011】
対象の認識性/応答性が変容する焦点発作は、機能障害を伴う焦点発作と呼ばれ、対象の認識性又は応答性が損なわれない焦点発作は、機能障害を伴わない焦点発作と呼ばれる。
【0012】
大麻植物由来の非向精神性誘導体であるカンナビジオール(CBD)は、動物モデル及びヒトの両方におけるいくつかの事例報告、前臨床試験、及び臨床試験において抗痙攣性を示した。3回のランダム化対照試験は、Dravet及びLennox-Gastaut症候群を有する患者においてCBDの精製医薬製剤の有効性を示した。
【0013】
これら3回の試験に基づいて、植物由来の精製CBD調製物(Epidiolex(登録商標))が、Dravet及びLennox-Gastaut症候群に関連する発作の処置に関して、FDAにより2018年6月に、EMAにより2019年9月に承認された。2020年7月に、FDAは、結節性硬化症に関連する発作の処置用の薬物を承認した。
【0014】
以前、本出願人はEP3160457において、化合物7-ヒドロキシ-カンナビジオール(7-OH-CBD)及び7-ヒドロキシ-カンナビジバリン(7-OH-CBDV)が抗痙攣活性を示すことを示した。EP3160457に示されたデータは、全般発作のペンチレンテトラゾール誘発(PTZ)モデル及び全般発作の最大電気ショック(MES)モデルにおいて、これらの化合物の抗痙攣作用を実証した。
【0015】
WO 01/95899では、多くの他の誘導体CBDに加えて、7-ヒドロキシ-カンナビジオール(7-OH CBD)の合成的製造が開示されている。該化合物を炎症モデルにおいて試験したところ、有効であることがわかった。本出願では引き続き、該化合物が炎症モデルにおいて示す機構に基づいて、該化合物が鎮痛剤、抗不安剤、抗痙攣剤、神経保護剤、抗精神病薬、及び抗炎症剤として有用でありうることを示唆する。
【0016】
ノルカンナビジオールとも呼ばれる、カンナビジオール-C4(CBD-C4)は、短鎖がメチレン架橋1個分短縮されたCBDの相同体である。それは大麻植物中に少量で見つかる天然カンナビノイドである。このカンナビノイドは合成手段によって製造されることもある。
【0017】
WO 2020/104796において、本出願人は、化合物CBD-C4が抗痙攣活性を示すことを開示した。治療有効性が全般発作のMESモデルにおいて示された一方で、一連の毒性スクリーニングは該化合物の毒性が許容されるものであることを証明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】EP3160457
【特許文献2】WO 01/95899
【特許文献3】WO 2020/104796
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】"Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use", 2nd Edition, 2002, Stahl and Wermuth (Eds), Wiley-VCH, Weinheim, Germany
【非特許文献2】Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition, 2000, pub. Lippincott, Williams & Wilkins; and Handbook of Pharmaceutical Excipients, 9th edition, 2020, pub. Pharmaceutical Press
【非特許文献3】国際抗てんかん連盟(ILAE)によるてんかんの実用的臨床定義、2014年
【非特許文献4】ILAEによるてんかん発作型の操作的分類、2017年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明はこれらの考慮事項に鑑みて考案された。
【0021】
最も一般的には、本発明は、新規化合物7-OH-CBD-C4及び7-COOH-CBD-C4が生物活性があり、したがって疾患の処置において有用であるという驚くべき発見に関する。これらの新規化合物は、経口、経皮、頬側、鼻内、肺内、直腸、又は眼内を含むがそれに限定されない、多種多様な経路により投与することができる。これらの化合物は、てんかん等の医学的状態の処置又は予防に使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の第1の態様では、式(I)の化合物又はその塩が提供される。
【0023】
【0024】
1つの実施形態では、第1の態様の化合物は純粋化合物、単離化合物、又は合成化合物である。
【0025】
本発明の第2の態様では、式(I)の化合物又はその塩を含む、医薬組成物が提供される。
【0026】
1つの実施形態では、第2の態様の医薬組成物は、担体、希釈剤、賦形剤、アジュバント、充填剤、緩衝剤、結合剤、崩壊剤、保存料、酸化防止剤、潤滑剤、安定剤、可溶化剤、界面活性剤(例えば湿潤剤)、マスキング剤、着色料、香味料、及び甘味料から選択される1種又は複数の成分を含む。
【0027】
1つの実施形態では、第2の態様の医薬組成物は、液剤、溶液剤、懸濁液剤、乳剤、シロップ剤、舐剤、洗口剤、滴剤、錠剤、顆粒剤、散剤、薬用キャンディー剤、トローチ剤、カプセル剤、カシェ剤、丸剤、アンプル剤、急速静注剤、坐剤、ペッサリー剤、チンキ剤、ゲル剤、ペースト剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、油剤、フォーム剤、噴霧剤、及びエアロゾル剤から選択される形態である。
【0028】
本発明の第3の態様では、医薬、例えばてんかんの処置用の医薬としての使用のための、式(I)の化合物又はその塩が提供される。
【0029】
本発明の第4の態様では、処置方法、例えばてんかんを処置する方法における使用のための、式(I)の化合物又はその塩が提供される。
【0030】
本発明の第5の態様では、処置を必要とする対象に治療有効量の式(I)の化合物又はその塩を投与する工程を含む、処置方法が提供される。
【0031】
1つの実施形態では、式(I)の化合物又はその塩は、1種又は複数の同時投与抗てんかん薬(AED)との組み合わせで使用される。
【0032】
1つの実施形態では、式(I)の化合物の用量は1~2,000mg/kgである。
【0033】
本発明の第6の態様によれば、以下の工程を含む、式(I)の化合物の製造のための方法が提供される:
i)3,5-ジメトキシベンジルブロミドをn-プロピルマグネシウムクロリドで処理して1 ブチル-3,5-ジメトキシベンゼンを製造する工程;
ii)1-ブチル-3,5-ジメトキシベンゼンを三臭化ホウ素で処理して5 ブチルベンゼン-1,3-ジオールを製造する工程;
iii)5-ブチルベンゼン-1,3-ジオールと(R)-イソリモネンジオール 7-O-アセテートとをp-トルエンスルホン酸触媒の存在下でカップリングして7-アセトキシ-CBD-C4を製造する工程;及び
iv)7-アセトキシ-CBD-C4を水素化ホウ素ナトリウムで処理して式(I)の化合物を製造する工程。
【0034】
本発明の第7の態様では、以下から選択される、式(I)の化合物の製造方法において形成される中間体が提供される。
【0035】
【0036】
本発明の第8の態様では、式(II)の化合物又はその塩が提供される。
【0037】
【0038】
1つの実施形態では、式(II)の化合物は純粋化合物、単離化合物、又は合成化合物である。
【0039】
本発明の第9の態様では、式(II)の化合物又はその塩を含む、医薬組成物が提供される。
【0040】
1つの実施形態では、第9の態様の医薬組成物は、担体、希釈剤、賦形剤、アジュバント、充填剤、緩衝剤、結合剤、崩壊剤、保存料、酸化防止剤、潤滑剤、安定剤、可溶化剤、界面活性剤(例えば湿潤剤)、マスキング剤、着色料、香味料、及び甘味料から選択される1種又は複数の成分を含む。
【0041】
1つの実施形態では、第9の態様の医薬組成物は、液剤、溶液剤、懸濁液剤、乳剤、シロップ剤、舐剤、洗口剤、滴剤、錠剤、顆粒剤、散剤、薬用キャンディー剤、トローチ剤、カプセル剤、カシェ剤、丸剤、アンプル剤、急速静注剤、坐剤、ペッサリー剤、チンキ剤、ゲル剤、ペースト剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、油剤、フォーム剤、噴霧剤、及びエアロゾル剤から選択される形態である。
【0042】
本発明の第10の態様では、医薬、例えばてんかんの処置用の医薬としての使用のための、式(II)の化合物又はその塩が提供される。
【0043】
本発明の第4の態様では、処置方法、例えばてんかんを処置する方法における使用のための、式(II)の化合物又はその塩が提供される。
【0044】
本発明の第5の態様では、処置を必要とする対象に治療有効量の式(II)の化合物又はその塩を投与する工程を含む、処置方法が提供される。
【0045】
1つの実施形態では、式(II)の化合物又はその塩は、1種又は複数の同時投与抗てんかん薬(AED)との組み合わせで使用される。
【0046】
1つの実施形態では、式(II)の化合物の用量は1~2,000mg/kgである。
【0047】
本発明の第13の態様では、以下の工程を含む、式(II)の化合物の製造のための方法が提供される:
i)3,5-ジメトキシベンジルブロミドをn-プロピルマグネシウムクロリドで処理して1-ブチル-3,5-ジメトキシベンゼンを製造する工程;
ii)1-ブチル-3,5-ジメトキシベンゼンを三臭化ホウ素で処理して5-ブチルベンゼン-1,3-ジオールを製造する工程;
iii)5-ブチルベンゼン-1,3-ジオールと(R)-イソリモネンジオール 7-O-アセテートとをp-トルエンスルホン酸触媒の存在下でカップリングして7-アセトキシ-CBD-C4を製造する工程;
iv)7-アセトキシ-CBD-C4を水素化ホウ素ナトリウムで処理して7-ヒドロキシ-CBD-C4を製造する工程;
v)7-ヒドロキシ-CBD-C4を無水酢酸及び炭酸セシウムで処理して7-ヒドロキシ-CBD-C4 ジ-O-アセテートを得る工程;
vi)7-ヒドロキシ-CBD-C4 ジ-O-アセテートと二酸化マンガンとを反応させて7-ホルミル-CBD-C4 ジ-O-アセテートを得る工程;
vii)7-ホルミル-CBD-C4 ジ-O-アセテートを酸化して7-カルボキシ-CBD-C4 ジ-O-アセテートを得る工程;並びに
viii)カルボキシ-CBD-C4 ジ-O-アセテートを水素化ホウ素ナトリウムを使用して脱保護して式(II)の化合物を製造する工程。
【0048】
本発明の第14の態様では、以下から選択される、式(II)の化合物の製造方法において形成される中間体が提供される。
【0049】
【0050】
本発明のこれらの及び他の態様及び実施形態を以下で更に詳細に説明する。
【0051】
以下に列挙する図面を参照して本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】実施例2に記載のマウスでのミニMEST試験における、化合物I及び化合物IIとして示される試験化合物の評価を示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明は、生物活性があり、したがって疾患の処置において有用である、化合物7-OH-CBD-C4及び7-COOH-CBD-C4に関する。
【0054】
化合物I
本発明は、式(I)の化合物を提供する。
【0055】
【0056】
式(I)の化合物は(1'R,2'R)-4-ブチル-5'-(ヒドロキシメチル)-2'-(プロパ-1-エン-2-イル)-1',2',3',4'-テトラヒドロ-[1,1'-ビフェニル]-2,6-ジオールである。本明細書において、それを式(I)の化合物又は化合物Iと呼ぶ。
【0057】
合成方法
本発明は、以下の工程を含む、式(I)の化合物の製造のための方法を提供する:
i)3,5-ジメトキシベンジルブロミドをプロピルグリニャール試薬で処理して1-ブチル-3,5-ジメトキシベンゼンを製造する工程;
ii)1-ブチル-3,5-ジメトキシベンゼンを脱メチル化試薬で処理して5-ブチルベンゼン-1,3-ジオールを製造する工程;
iii)5-ブチルベンゼン-1,3-ジオールと(R)-イソリモネンジオール 7-O-アセテートとを酸の存在下でカップリングして7-アセトキシ-CBD-C4を製造する工程;及び
iv)7-アセトキシ-CBD-C4を還元剤で処理して式(I)の化合物を製造する工程。
【0058】
好適なグリニャール試薬としてはn-プロピルマグネシウムクロリド及びn-プロピルマグネシウムブロミドが挙げられる。好ましい実施形態では、n-プロピルマグネシウムクロリドが使用される。
【0059】
好適な脱メチル化試薬としては三臭化ホウ素、二塩化ベリリウム、三塩化アルミニウム、ヨウ化トリメチルシリル、及びピリジン塩酸塩が挙げられる。好ましい実施形態では、三臭化ホウ素が使用される。
【0060】
好適な酸としてはブレンステッド酸及びルイス酸が挙げられる。好適なブレンステッド酸の例としてはp-トルエンスルホン酸が挙げられる。好適なルイス酸の例としては三塩化アルミニウムが挙げられる。好ましい実施形態では、p-トルエンスルホン酸、例えばp-トルエンスルホン酸触媒が使用される。
【0061】
好適な還元剤としては水素化アルミニウムリチウム、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム(red-Al)、ジボラン、及び水素化ホウ素ナトリウムが挙げられる。好ましい実施形態では、水素化ホウ素ナトリウムが使用される。
【0062】
中間体
本発明は、以下から選択される、式(I)の化合物の製造方法において形成される中間体を提供する。
【0063】
【0064】
化合物II
本発明は、式(II)の化合物を提供する。
【0065】
【0066】
式(II)の化合物は(1R,6R)-4'-ブチル-2',6'-ジヒドロキシ-6-(プロパ-1-エン-2-イル)-1,4,5,6-テトラヒドロ-[1,1'-ビフェニル]-3-カルボン酸である。本明細書において、それを式(II)の化合物又は化合物IIと呼ぶ。
【0067】
合成方法
本発明は、以下の工程を含む、式(II)の化合物の製造のための方法を提供する:
i)7-ヒドロキシ-CBD-C4(式(I)の化合物)を得る工程;
ii)7-ヒドロキシ-CBD-C4をアシル化試薬及び塩基で処理して7-ヒドロキシ-CBD-C4 ジ-O-アセテートを得る工程;
iii)7-ヒドロキシ-CBD-C4 ジ-O-アセテートと酸化剤とを反応させて7-ホルミル-CBD-C4 ジ-O-アセテートを得る工程;
iv)7-ホルミル-CBD-C4 ジ-O-アセテートを例えば亜塩素酸ナトリウム及びリン酸一ナトリウムで酸化して7-カルボキシ-CBD-C4 ジ-O-アセテートを得る工程;並びに
v)カルボキシ-CBD-C4 ジ-O-アセテートを還元剤を使用して脱保護して式(II)の化合物を製造する工程。
【0068】
好適なアセチル化剤としては無水酢酸、塩化アセチル、酢酸N-スクシンイミジル、1-アセチル-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジン、及びN-アセチルイミダゾールが挙げられる。好ましい実施形態では、無水酢酸が使用される。
【0069】
好適な塩基としては炭酸アンモニウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、及び炭酸ナトリウムが挙げられる。好ましい実施形態では、炭酸セシウムが使用される。
【0070】
好適な酸化剤としては二酸化マンガン;Dess-Martinペルヨージナン;IBX;TEMPO;TPAP;DMSO及び塩化オキサリル;DMSO及びカルボジイミド;並びにSO2・Pyが挙げられる。好ましい実施形態では、二酸化マンガンが使用される。
【0071】
好適な還元剤としては水素化ホウ素ナトリウムが挙げられる。好ましい実施形態では、水素化ホウ素ナトリウムが使用される。
【0072】
好ましい実施形態では、工程i)は以下の工程を含む:
i)3,5-ジメトキシベンジルブロミドをn-プロピルマグネシウムクロリド等のプロピルグリニャール試薬で処理して1-ブチル-3,5-ジメトキシベンゼンを製造する工程;
ii)1-ブチル-3,5-ジメトキシベンゼンを三臭化ホウ素等の脱メチル化試薬で処理して5-ブチルベンゼン-1,3-ジオールを製造する工程;
iii)5-ブチルベンゼン-1,3-ジオールと(R)-イソリモネンジオール 7-O-アセテートとをp-トルエンスルホン酸触媒等の酸の存在下でカップリングして7-アセトキシ-CBD-C4を製造する工程;及び
iv)7-アセトキシ-CBD-C4を水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤で処理して7-ヒドロキシ-CBD-C4を製造する工程。
【0073】
中間体
本発明は、以下から選択される、式(II)の化合物の製造方法において形成される中間体を提供する。
【0074】
【0075】
塩
いくつかの実施形態では、式(I)又は(II)の化合物は遊離塩基の形態で提供される。
【0076】
或いは、該化合物の対応する塩、例えば薬学的に許容される塩を調製すること、精製すること、及び/又は取り扱うことが好都合であるか又は望ましいこともある。薬学的に許容される塩の例は"Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use", 2nd Edition, 2002, Stahl and Wermuth (Eds), Wiley-VCH, Weinheim, Germanyにおいて説明されている。
【0077】
したがって、いくつかの実施形態では、式(I)又は(II)の化合物は塩として、例えば好適な対アニオンと一緒になったプロトン化形態で提供される。
【0078】
好適な対アニオンは有機アニオン及び無機アニオンの両方を含む。好適な無機アニオンの例としては、塩素アニオン(Cl-)、臭素アニオン(Br-)、ヨウ素アニオン(I-)、硫酸アニオン(SO4
2-)、亜硫酸アニオン(SO3
2-)、硝酸アニオン(NO3
-)、亜硝酸アニオン(NO2
-)、リン酸アニオン(PO4
3-)、及び亜リン酸塩アニオン(PO3
3-)を含む、無機酸に由来するアニオンが挙げられる。好適な有機アニオンの例としては2-アセトキシ安息香酸アニオン、酢酸アニオン、アスコルビン酸アニオン、アスパラギン酸アニオン、安息香酸アニオン、カンファースルホン酸アニオン、桂皮酸アニオン、クエン酸アニオン、エデト酸アニオン、エタンジスルホン酸アニオン、エタンスルホン酸アニオン、ギ酸アニオン、フマル酸アニオン、グルコン酸アニオン、グルタミン酸アニオン、グリコール酸アニオン、ヒドロキシリンゴ酸アニオン、カルボン酸アニオン、乳酸アニオン、ラウリンアニオン、乳酸アニオン、マレイン酸アニオン、リンゴ酸アニオン、メタンスルホン酸アニオン、オレイン酸アニオン、シュウ酸アニオン、パルミチン酸アニオン、フェニル酢酸アニオン、フェニルスルホン酸アニオン、プロピオン酸アニオン、ピルビン酸アニオン、サリチル酸アニオン、ステアリン酸アニオン、コハク酸アニオン、スルファニル酸アニオン、酒石酸アニオン、トルエンスルホン酸アニオン、及び吉草酸アニオンが挙げられる。好適なポリマー有機アニオンの例としては、タンニン及びカルボキシメチルセルロースに由来するアニオンが挙げられる。
【0079】
或いは、いくつかの実施形態では、式(I)又は(II)の化合物は塩として、例えば好適な対カチオンと一緒になった脱プロトン化形態で提供される。
【0080】
好適な対カチオンは有機カチオン及び無機カチオンの両方を含む。好適な無機カチオンの例としては、Na+及びK+等のアルカリ金属イオン、Ca2+及びMg2+等のアルカリ土類カチオン、並びにAl3+等の他のカチオンが挙げられる。好適な有機カチオンの例としてはアンモニウムイオン(すなわちNH4
+)及び置換アンモニウムイオン(例えばNH3R+、NH2R2
+、NHR3
+、NR4
+)が挙げられる。置換アンモニウムイオンの例としては、エチルアミン、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン、ベンジルアミン、フェニルベンジルアミン、コリン、メグルミン、及びトロメタミン、並びにリジン及びアルギニン等のアミノ酸に由来するイオンが挙げられる。一般的な第四級アンモニウムイオンの一例はN(CH3)4
+である。
【0081】
溶媒和物
いくつかの実施形態では、式(I)又は(II)の化合物は脱溶媒和形態、例えば脱水形態で提供される。
【0082】
或いは、該化合物の対応する溶媒和物を調製すること、精製すること、及び/又は取り扱うことが好都合であるか又は望ましいこともある。
【0083】
したがって、いくつかの実施形態では、式(I)又は(II)の化合物は溶媒和物(溶質(例えば化合物、化合物の塩)と溶媒との複合体)の形態で提供される。溶媒和物の例としては水和物、例えば一水和物、二水和物、及び三水和物が挙げられる。
【0084】
医薬組成物
式(I)又は(II)の化合物を単独で投与することが可能であるが、式(I)又は(II)の化合物を1種又は複数の他の薬学的に許容される成分と共に含む医薬組成物(例えば製剤、調製物、又は医薬)を投与することが好ましい。
【0085】
したがって、本発明は、式(I)若しくは(II)の化合物又はその塩を1種又は複数の薬学的に許容される成分と共に含む、医薬組成物を提供する。
【0086】
好適な薬学的に許容される成分(例えば担体、希釈剤、賦形剤等)は標準的な薬学の教科書、例えばRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition, 2000, pub. Lippincott, Williams & Wilkins; and Handbook of Pharmaceutical Excipients, 9th edition, 2020, pub. Pharmaceutical Pressに見ることができる。
【0087】
好適な薬学的に許容される成分の例としては、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、アジュバント、充填剤、緩衝剤、結合剤、崩壊剤、保存料、酸化防止剤、潤滑剤、安定剤、可溶化剤、界面活性剤(例えば湿潤剤)、マスキング剤、着色料、香味料、及び甘味料が挙げられる。
【0088】
好ましい実施形態では、薬学的に許容される成分は担体、油、崩壊剤、潤滑剤、安定剤、香味料、酸化防止剤、及び希釈剤から選択される。場合によっては、別の薬学的に有効な化合物が含まれてもよい。
【0089】
医薬組成物は任意の好適な形態でありうる。好適な形態の例としては液剤、溶液剤(水性、非水性)、懸濁液剤(水性、非水性)、乳剤(例えば水中油型、油中水型)、シロップ剤、舐剤、洗口剤、滴剤、錠剤(例えばコーティング錠剤を含む)、顆粒剤、散剤、薬用キャンディー剤、トローチ剤、カプセル剤(例えば硬及び軟ゼラチンカプセル剤を含む)、カシェ剤、丸剤、アンプル剤、急速静注剤、坐剤、ペッサリー剤、チンキ剤、ゲル剤、ペースト剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、油剤、フォーム剤、噴霧剤、並びにエアロゾル剤が挙げられる。
【0090】
好ましい実施形態では、医薬組成物は錠剤、カプセル剤、顆粒剤、吸入用散剤、スプリンクル剤、経口溶液剤、及び懸濁液剤の形態でありうる。
【0091】
医学的処置
本発明者らは、式(I)及び(II)の化合物が生物活性があることを発見した。実施例では、式(I)及び(II)の化合物が発作のマウスモデルにおいて抗痙攣活性を示すことを実証する。したがって、式(I)及び(II)の化合物並びにそれらの塩、並びに式(I)若しくは(II)の化合物又はそれらの塩を含む医薬組成物は、医学的処置において有用であろう。
【0092】
したがって、本発明は、処置方法における使用のための、例えば治療によるヒト又は動物の身体の処置の方法(すなわち治療方法)における使用のための、式(I)若しくは(II)の化合物又はその塩を提供する。
【0093】
本発明はまた、医薬としての使用のための、式(I)若しくは(II)の化合物又はその塩を提供する。
【0094】
本発明はまた、処置を必要とする対象に治療有効量の式(I)若しくは(II)の化合物又はその塩を投与する工程を含む、処置方法を提供する。
【0095】
本発明はまた、医薬の製造のための、式(I)若しくは(II)の化合物又はその塩の使用を提供する。
【0096】
本発明はまた、処置方法における、式(I)若しくは(II)の化合物又はその塩の使用を提供する。
【0097】
処置される状態
本発明者らは、式(I)及び(II)の化合物が全般発作のマウスモデルにおいて抗痙攣活性を示すことを発見した。したがって、式(I)及び(II)の化合物、それらの塩、並びに式(I)若しくは(II)の化合物又はそれらの塩を含む医薬組成物は、発作に関連する特定の状態の処置において有用であろう。
【0098】
同様に、式(I)及び(II)の化合物、それらの塩、並びに式(I)若しくは(II)の化合物又はそれらの塩を含む医薬組成物は、発作に関連する特定の状態を処置するための医薬として(また、それを処置するための医薬の製造において)有用であろう。
【0099】
好ましい実施形態では、発作に関連する状態はてんかんである。
【0100】
1つの実施形態では、発作に関連する状態は全般発作、例えばてんかんに関連する全般発作である。
【0101】
1つの実施形態では、発作に関連する状態は焦点起始発作、例えばてんかんに関連する焦点起始発作である。
【0102】
1つの実施形態では、発作に関連する状態は強直間代発作、例えばてんかんに関連する強直間代発作である。
【0103】
対象/患者
通常、処置方法は、対象又は患者に式(I)若しくは(II)の化合物又はその塩を投与する工程を含む。
【0104】
対象/患者は脊索動物、脊椎動物、哺乳動物、有胎盤哺乳動物、有袋動物(例えばカンガルー、ウォンバット)、げっ歯類(例えばモルモット、ハムスター、ラット、マウス)、マウス類(例えばマウス)、ウサギ類(例えばウサギ)、鳥類(例えばトリ)、イヌ類(例えばイヌ)、ネコ類(例えばネコ)、ウマ類(例えばウマ)、ブタ類(例えばブタ)、ヒツジ類(例えばヒツジ)、ウシ類(例えば雌ウシ)、霊長類、サル類(例えばサル若しくは類人猿)、サル(例えばマーモセット、ヒヒ)、類人猿(例えばゴリラ、チンパンジー、オランウータン、テナガザル)、又はヒトでありうる。
【0105】
対象/患者はその発達形態のいずれかでありうる。例えば、対象/患者は乳児又は小児でありうる。
【0106】
好ましい実施形態では、対象/患者は哺乳動物、より好ましくはヒト、更に好ましくは成体のヒトである。
【0107】
また、対象/患者は実験研究において使用される非ヒト哺乳動物、例えばげっ歯類でありうる。げっ歯類としてはラット、マウス、モルモット、及びチンチラが挙げられる。
【0108】
投与経路
処置方法は、全身/末梢であれ局所(すなわち作用が望まれる部位)であれ、任意の好都合な投与経路によって、式(I)若しくは(II)の化合物又はその塩を対象に投与する工程を含みうる。
【0109】
投与経路は経口(例えば経口摂取による);頬側;舌下;経皮(例えばパッチ、プラスター等によるものを含む);経粘膜(例えばパッチ、プラスター等によるものを含む);鼻内(例えば点鼻薬による);眼内(例えば点眼薬による);肺内(例えば、エアロゾルを例えば使用しての、例えば口若しくは鼻を通じた、吸入療法若しくはガス注入療法による);直腸(例えば坐剤若しくは浣腸による);膣内(例えばペッサリーによる);例えば注射若しくは注入による、皮下、皮内、筋肉内、静脈内、動脈内、心臓内、くも膜下腔内、脊髄内、嚢内、嚢下、眼窩内、腹腔内、気管内、表皮下、関節内、くも膜下、及び胸骨内を含む、非経口;又は例えば皮下若しくは筋肉内でのデポー若しくはリザーバの埋め込みによる経路でありうる。
【0110】
投与量
通常、処置方法は、対象に治療有効量の式(I)若しくは(II)の化合物又はその塩を投与する工程を含む。
【0111】
式(I)若しくは(II)の化合物、それらの塩、並びに式(I)若しくは(II)の化合物又はそれらの塩を含む医薬組成物の適切な投与量は、患者毎に異なりうる。一般に、最適な投与量を確定することは、任意の危険性又は有害副作用に対して治療効果のレベルのバランスを取ることを包含する。選択される投与量レベルは、式(I)又は(II)の化合物の特定の化合物の活性、投与経路、投与時間、該化合物の排泄速度、処置期間、併用される他の有効な薬剤、化合物、及び/又は材料、状態の重症度、並びに患者の種、性別、年齢、体重、体調、全身的健康、及び前病歴を含むがそれに限定されない、種々の要因に依存する。投与量及び投与経路は最終的には臨床医の裁量によるが、一般的には、投与量は、相当な有害副作用を引き起こすことなく所望の作用を実現する局所濃度を作用部位において実現するように選択される。
【0112】
いくつかの実施形態では、式(I)又は(II)の化合物の用量は1~2,000mg/日である。好ましい実施形態では、用量は20~1,000mg/日、より好ましくは50~500mg/日である。
【0113】
投与は1つの用量で処置期間全体にわたって連続的に又は断続的に(例えば分割用量で適切な間隔を空けて)実行することができる。1回又は複数回の投与を行うことができ、投与レベル及び投与パターン処置は処置臨床医が選択する。
【0114】
同時投与
処置方法は、対象に式(I)若しくは(II)の化合物又はその塩を他の医薬の非存在下で投与する工程を含みうる。
【0115】
いくつかの実施形態では、処置方法は、対象に式(I)若しくは(II)の化合物又はその塩を1種又は複数の同時投与抗てんかん薬(AED)との組み合わせで投与する工程を含む。
【0116】
好適なAEDとしてはルフィナミド;ラモトリジン;トピラマート;フェルバマート、スチリペントール、クロバザム、及びバルプロ酸が挙げられる。
【0117】
投与は同時に行っても順次行ってもよい。
【0118】
他の態様及び実施形態
上記の実施形態のあらゆる適合性のある組み合わせは、あらゆる組み合わせが個々にかつ明示的に記載されているかのように、本明細書に明示的に開示される。
【0119】
本発明の様々な更なる態様及び実施形態は、本開示を考慮すれば当業者には明らかであろう。
【0120】
「及び/又は」は、使用される場合、関連する単独の各構成要素又は特徴の具体的な開示、及び該構成要素又は特徴の組み合わせの具体的な開示と見なされるべきである。例えば、「A及び/又はB」は、i)A、ii)B、並びにii)A及びBのそれぞれを、各自が個々に記載されているかのように具体的に開示するものと見なされるべきである。
【0121】
文脈により別途規定されない限り、先に記載された特徴の記述及び定義は、本発明の任意の特定の態様又は実施形態に限定されるものではなく、記載されるすべての態様及び実施形態に同様に当てはまる。
【0122】
定義
本発明を記述するために使用されるいくつかの用語の定義を以下に詳述する。
【0123】
本出願に記載の化合物を以下に列挙する。
【0124】
【0125】
てんかんは、以下の条件のうちいずれかにより規定される脳の疾患であると見なされる: (1)少なくとも2回の非誘発性(又は反射性)発作が24時間を超える間隔で生じること;(2)1回の非誘発性(又は反射性)発作が生じ、その後10年間の発作再発率が2回の非誘発性発作後の一般的な再発リスク(少なくとも60%)と同程度であること;(3)てんかん症候群と診断されること(国際抗てんかん連盟(ILAE)によるてんかんの実用的臨床定義、2014年)。
【0126】
「焦点発作」(「焦点起始発作」)という用語は、片側大脳半球に限定されるネットワーク内で生じる発作を意味する。発作は不連続的に限局していることもあれば、より広く分布していることもある。焦点発作は皮質下構造において生じることがある(ILAEによるてんかん発作型の操作的分類、2017年)。
【0127】
「全般発作」(「全般起始発作」)という用語は、脳内の何らかの地点で生じて両側に分布したネットワークを急速に巻き込むものとして概念化された発作を意味する(ILAEによるてんかん発作型の操作的分類、2017年)。
【0128】
「薬学的に許容される」という用語は、妥当な医学的判断の範囲内で、問題となる対象(例えばヒト)の組織と接触させての使用に好適であり、過度の毒性、刺激作用、アレルギー応答、又は他の問題若しくは懸念事項がなく、妥当なベネフィット/リスク比に相応している、化合物、成分、材料、組成物、剤形等に関する。また、各成分(例えば担体、希釈剤、賦形剤等)は、組成物の他の成分と適合性があるという意味で「許容される」ものでなければならない。
【0129】
「治療有効量」という用語は、所望の処置レジメンに従って投与される際に、何らかの所望の治療効果を生じさせるために有効であり、妥当なベネフィット/リスク比に相応している、化合物、又は化合物を含む材料、組成物、若しくは剤形の量に関する。
【0130】
「強直間代発作」は2つの期、すなわち、筋硬直及び意識消失を通常は包含する強直期、並びに肢部の律動性筋収縮を通常は包含する間代期において生じる。
【0131】
ヒト等価用量(HED)は下記式を使用して推定することができる:
【0132】
【0133】
ラットのKmは6であり、ヒトのKmは37である。したがって、約60Kgのヒトに関して、ラットにおける用量200mg/Kgはヒト一日量約2,000mgと等しくなる。
【実施例】
【0134】
本発明の特定の態様及び実施形態を実施例によって、かつ上記の図面を参照して説明する。
【0135】
(実施例1)
化合物I及びIIの合成的製造方法
本実施例では、薬理活性を示した新規化合物を製造するために使用した新規合成方法が記載される。以下のスキーム1では、いくつかの中間体を通じて形成された新規化合物を製造するために使用した4段階の反応が記載される。
【0136】
以下のスキーム1は、2工程での化合物Iの合成経路、及び3工程での化合物IIの合成経路を示す。工程1では、化合物Iの調製に必要な5-ブチルベンゼン-1,3-ジオール(化合物c)を製造する。工程2では、工程1の化合物cを使用して化合物Iを製造する。工程3では、化合物Iを使用して化合物IIを製造する。
【0137】
要約すると、工程1では、3,5-ジメトキシベンジルブロミドをテトラクロロ銅酸二リチウム触媒の存在下でn-プロピルマグネシウムクロリドにより処理して1-ブチル-3,5-ジメトキシベンゼンを得る。ジクロロメタン中でフェノールメチルエーテルを三臭化ホウ素で除去して、クロマトグラフィー精製後に5-ブチルベンゼン-1,3-ジオールを得る。
【0138】
工程2では、(R)-イソリモネンジオール 7-O-アセテートと5-ブチルベンゼン-1,3-ジオールとをジクロロメタン中、p-トルエンスルホン酸触媒の存在下でカップリングして7-アセトキシ-CBD-C4を得ることにより、化合物Iの合成を実現する。水素化ホウ素ナトリウムを使用して酢酸基を除去して、クロマトグラフィー精製後に化合物Iを得る。
【0139】
工程3では、化合物Iを無水酢酸及び炭酸セシウムで処理してフェノール基を選択的に保護することでジアセテートを得る。アリルアルコールを二酸化マンガンで酸化して対応するアルデヒドを得る。このアルデヒドをPinnick条件下で更に酸化して、精製後に7-カルボキシ-CBD-C4 ジ-O-アセテートを得る。水素化ホウ素ナトリウムを使用して脱保護して化合物IIを得る。
【0140】
スキーム1:化合物I及び化合物IIの合成
【0141】
【0142】
【0143】
工程1:化合物cの製造
3,5-ジメトキシベンジルブロミド(1.00g、4.33mmol)及び0.1M四塩化銅二リチウムのテトラヒドロフラン(4.3mL、0.43mmol)溶液に窒素下、-78℃で2Mプロピルマグネシウムクロリドのジエチルエーテル(5.4mL、10.8mmol)溶液を滴下した。反応混合物を室温に昇温させ、2.5時間撹拌した。得られた混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液(30mL)で反応停止させ、ジエチルエーテル(30mL)で希釈した。2つの層を分離し、水性相をジエチルエーテル(2x30mL)で抽出した。合わせた有機層を水(60mL)、飽和食塩水(60mL)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、濃縮して淡褐色油状物を得た。この粗材料をBiotage社のIsolera自動クロマトグラフィーシステムを使用して順相条件(シリカカラム、石油エーテル中0~12%ジエチルエーテルの勾配)下、検出波長254nmで精製して1-ブチル-3,5-ジメトキシベンゼン(0.68g、81%)を無色油状物として得た。
【0144】
1-ブチル-3,5-ジメトキシベンゼン(0.68g、3.48mmol)の無水ジクロロメタン(11mL)溶液に-78℃で1M三臭化ホウ素ジクロロメタン溶液(10.4mL、10.4mmol)を加え、混合物を-78℃で10分間、続いて室温で4.5時間撹拌した。得られた混合物を0℃に冷却し、メタノール(5mL)及び水(15mL)で慎重に反応停止させた。層を分離し、水性相をジクロロメタン(2x10mL)で抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水(30mL)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、濃縮して橙色油状物を得た。この残留油状物をBiotage社のIsolera自動クロマトグラフィーシステムを使用して順相条件(シリカカラム、石油エーテル中0~60%酢酸エチルの勾配)下、検出波長254nmで精製して5-ブチルベンゼン-1,3-ジオール(0.55g、96%)を淡黄色油状物として得た。
【0145】
工程2:化合物Iの製造
5-ブチルベンゼン-1,3-ジオール(0.50g、3.00mmol)の無水ジクロロメタン(100mL)溶液に0℃でp-トルエンスルホン酸一水和物(286mg、1.50mmol)を加えた後、((1S,4R)-1-ヒドロキシ-4-(プロパ-1-エン-2-イル)シクロヘキサ-2-エン-1-イル)メチルアセテート(0.63g、3.00mmol)の無水ジクロロメタン(7mL)溶液を滴下し、得られた溶液を室温で40分間撹拌した。反応液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(100mL)で反応停止させ、層を分離した。水性層をジクロロメタン(3×40mL)で抽出し、合わせた有機層を飽和食塩水(100mL)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、濃縮した。残留材料をBiotage社のIsolera自動クロマトグラフィーシステムを使用して順相条件(シリカカラム、石油エーテル中5~35%ジエチルエーテルの勾配)下、検出波長254nmで精製して((1R,6R)-4'-ブチル-2',6'-ジヒドロキシ-6-(プロパ-1-エン-2-イル)-1,4,5,6-テトラヒドロ-[1,1'-ビフェニル]-3-イル)メチルアセテート(295mg、27%)を淡黄色油状物として得た。
【0146】
((1R,6R)-4'-ブチル-2',6'-ジヒドロキシ-6-(プロパ-1-エン-2-イル)-1,4,5,6-テトラヒドロ-[1,1'-ビフェニル]-3-イル)メチルアセテート(295mg、0.82mmol)の無水エタノール(41mL)溶液に水素化ホウ素ナトリウム(47mg、1.23mmol)を加え、混合物を80℃で1時間加熱した。反応混合物を室温に冷却し、水(30mL)を加え、溶液を濃縮してエタノールを除去した。得られた混合物を酢酸エチル(4×20mL)で抽出し、合わせた有機層を飽和食塩水(50mL)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、濃縮して淡橙色油状物を得た。この残留材料をBiotage社のIsolera自動クロマトグラフィーシステムを使用して順相条件(シリカカラム、石油エーテル中10~55%酢酸エチルの勾配)下、検出波長254nmで精製して化合物I、すなわち(1'R,2'R)-4-ブチル-5'-(ヒドロキシメチル)-2'-(プロパ-1-エン-2-イル)-1',2',3',4'-テトラヒドロ-[1,1'-ビフェニル]-2,6-ジオール(157mg、61%)をオフホワイトの固体として得た。
【0147】
工程3:化合物IIの製造
化合物I、すなわち(1'R,2'R)-4-ブチル-5'-(ヒドロキシメチル)-2'-(プロパ-1-エン-2-イル)-1',2',3',4'-テトラヒドロ-[1,1'-ビフェニル]-2,6-ジオール(508mg、1.61mmol)を無水アセトニトリル(27mL)に溶解させ、炭酸セシウム(1.10g、3.37mmol)を加え、得られた濃紫色不均一混合物を5分間撹拌した。この混合物に無水酢酸(329mg、300μL、3.22mmol)を加え、撹拌を室温で1.5時間続けた。水(100mL)を加え、得られた混合物を酢酸エチル(3×100mL)で抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水(200mL)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、濃縮して褐色油状物を得た。この残留材料をBiotage社のIsolera自動クロマトグラフィーシステムを使用して順相条件(シリカカラム、石油エーテル中9~65%酢酸エチルの勾配)下、検出波長254nmで精製して(1'R,2'R)-4-ブチル-5'-(ヒドロキシメチル)-2'-(プロパ-1-エン-2-イル)-1',2',3',4'-テトラヒドロ-[1,1'-ビフェニル]-2,6-ジイルジアセテート(387mg、60%)を橙色油状物として得た。
【0148】
(1'R,2'R)-4-ブチル-5'-(ヒドロキシメチル)-2'-(プロパ-1-エン-2-イル)-1',2',3',4'-テトラヒドロ-[1,1'-ビフェニル]-2,6-ジイルジアセテート(387mg、0.97mmol)の無水ジクロロメタン(20mL)溶液に酸化マンガン(IV)(1.68g、19.3mmol)を加え、得られた黒色懸濁液を還流温度で2時間加熱した。懸濁液をセライトを通じて濾過し、濃縮して(1'R,2'R)-4-ブチル-5'-ホルミル-2'-(プロパ-1-エン-2-イル)-1',2',3',4'-テトラヒドロ-[1,1'-ビフェニル]-2,6-ジイルジアセテート(229mg、77%)を黄色油状物として得た。
【0149】
(1'R,2'R)-4-ブチル-5'-ホルミル-2'-(プロパ-1-エン-2-イル)-1',2',3',4'-テトラヒドロ-[1,1'-ビフェニル]-2,6-ジイルジアセテート(229mg、0.57mmol)のtert-ブタノール(14mL)及び2-メチル-2-ブテン(1.02g、1.54mL、14.5mmol)溶液に飽和リン酸二水素ナトリウム水溶液(0.78mL)を加えた。反応混合物に亜塩素酸ナトリウム(80%、229mg、2.53mmol)を小分けにして加え、撹拌を室温、オーバーナイトで続けた。水(50mL)を加え、混合物を酢酸エチル(4×30mL)で抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水(60mL)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、濃縮して(1R,6R)-2',6'-ジアセトキシ-4'-ブチル-6-(プロパ-1-エン-2-イル)-1,4,5,6-テトラヒドロ-[1,1'-ビフェニル]-3-カルボン酸(294mg、定量)を黄色油状物として得た。
【0150】
(1R,6R)-2',6'-ジアセトキシ-4'-ブチル-6-(プロパ-1-エン-2-イル)-1,4,5,6-テトラヒドロ-[1,1'-ビフェニル]-3-カルボン酸(294mg、0.71mmol)の無水エタノール(18mL)溶液に水素化ホウ素ナトリウム(40mg、1.06mmol)を加え、反応混合物を80℃で2時間加熱した。得られた混合物を室温に冷却し、水(10mL)を加え、溶液を濃縮してエタノールを除去した。混合物を酢酸エチル(4×20mL)で抽出し、合わせた有機層を飽和水(20mL)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、濃縮して化合物II、すなわち(1R,6R)-4'-ブチル-2',6'-ジヒドロキシ-6-(プロパ-1-エン-2-イル)-1,4,5,6-テトラヒドロ-[1,1'-ビフェニル]-3-カルボン酸(195mg、83%)をオフホワイトの固体として得た。
【0151】
(実施例2)
最小標本サイズを使用するマウスにおける最大電気ショック発作閾値(MEST)試験(ミニMEST)を使用する抗痙攣活性に関する新規化合物の評価
式I及び式IIの新規化合物の有効性を、全般発作の新規マウスモデルにおいて、通常使用されるよりも少ないn数を使用するミニMEST(最大電気ショック発作閾値)試験によって試験した。
【0152】
最大電気ショック発作閾値(MEST)試験は、試験化合物の痙攣誘発性又は抗痙攣性を評価するために広く前臨床的に利用されている(Loscherら、1991年)。
【0153】
MEST試験では、後肢伸筋強直痙攣を誘発するために必要な発作閾値電流を変化させる薬物の能力を、「上下型」ショック滴定法に従って測定する(Kimballら、1957年)。発作閾値の増加は抗痙攣作用を示すものである。全般強直間代発作に対する有効性が臨床的に証明されている、ナトリウムチャネル遮断薬(例えばラモトリギン)を含む抗てんかん薬はいずれも、この試験でマウスにおける抗痙攣性を示す。
【0154】
逆に、発作閾値の減少は、ピクロトキシン等の公知の痙攣誘発剤で観察される痙攣誘発作用を示すものである。
【0155】
後肢伸筋強直痙攣の存在を誘発するために必要な、電流(mA)として表される刺激強度を変化させる試験化合物の能力をMESTにおいて評価する。処置群内の動物の50%における、後肢強直痙攣を生じさせる電流により観察される後肢伸筋強直痙攣の存在(+)又は非存在(0)の結果(CC50)によって、処置群の発作閾値を確定し、次にこれらの効果を媒体対照群のCC50と比較した。
【0156】
方法
試験の詳細:
ナイーブマウスを最大7日間ホームケージ内の処置室に順応させ、食物及び水を自由に入手可能にした。
【0157】
すべての動物を試験開始時に体重測定し、群間の平均体重分布に基づいて処置群にランダムに割り当てた。すべての動物に媒体、100mg/kg(化合物I)若しくは150mg/kg(化合物II)の試験化合物、又は2.5mg/kgのジアゼパムを腹腔内注射(i.p)によって10mL/kgで投与した。
【0158】
媒体、試験化合物、及びジアゼパムの投与30分後の1回の電気ショックによる後肢伸筋強直痙攣の発生について、動物を個々に評価した。
【0159】
処置群内の最初の動物には予想又は推定CC50電流でショックを与えた。後続の動物では、先行動物からの痙攣の結果に応じて、電流を対数スケール間隔で低下又は上昇させた。
【0160】
各処置群から作成したデータを使用して、処置群のCC50±SEM値を計算した。
【0161】
試験化合物:
媒体:(85%生理食塩水中5%エタノール、10% Solutol)を以下のように調製した:エタノール1mL、Solutol 2mLを生理食塩水17mL中で60℃に昇温させた(1:2:17)。
【0162】
陽性対照:ジアゼパムを2.5mg/kgで使用した。
【0163】
本明細書に化合物I及び化合物IIとして記載される試験化合物を、それぞれ式I及び式IIとして示す。試験化合物を化合物Iは100mg/kg(腹腔内)、化合物IIは150mg/kg(腹腔内)で、1:2:17エタノール:Solutol:0.9%生理食塩水製剤として投与した。
【0164】
試料採取:
痙攣発生の直後に、1986年の動物(化学的処置)法による「スケジュール1に基づく動物の人道的殺処分」に基づいて、頭蓋を叩きつけることで脳を破壊した後、断頭により循環の恒久的停止を確実にすることで、各動物を人道的に殺処分した。断頭後に末梢血及び脳の採取を行った。
【0165】
血液をリチウム-ヘパリン管に採取し、4℃、1500xgで10分間遠心分離した。得られた血漿を取り除き(100μL超)、2つのアリコートに分割して、安定化用のアスコルビン酸(100mg/mL)10μLを収容する0.5mLエッペンドルフチューブに入れた。脳を取り除き、生理食塩水中で洗浄し、半分に分けた。各半分を別々の2mLスクリューキャップクリオバイアルに入れ、秤量し、ドライアイス上で凍結させた。
【0166】
統計解析
各処置群のデータを使用される各電流レベルでの+及び0の数として記録し、次に、この情報を使用してCC50値(動物の50%が発作挙動を示すために必要な電流)±標準誤差を計算する。
【0167】
また、試験化合物の効果を媒体対照群からのCC50のパーセント変化として計算した。
【0168】
薬物処置動物と対照との間の有意差をLitchfield及びWilcoxon(1949年)に従って評価した。
【0169】
結果
図1及びTable 1(表3)には、この実験において作成されたデータが記載されている。
【0170】
媒体群では、CC50値は25.0mAであると計算された。
【0171】
試験30分前に腹腔内投与されたジアゼパム(2.5mg/kg)処置群では、CC50値は97.8mAであった。この結果は媒体対照に比べて統計的に有意であった(p<0.001)。
【0172】
試験30分前に腹腔内投与した化合物Iは、媒体に比べて明らかな発作閾値の増加を生じさせ、100mg/kgでCC50>131mAであった。試験した6匹の動物内で「+」の後肢強直痙攣が見られなかったため、正確な値は計算されなかった。CC50は確定されなかったが、化合物IはミニMESTにおいて発作閾値の明らかな増加を示した。この処置群内の動物が痙攣を示さなかったため、化合物Iの明らかな活性が実証された。
【0173】
やはり試験30分前に腹腔内投与した化合物IIは、化合物Iほど高い発作閾値の増加は生じさせず、150mg/kgでCC50<43mAであった。
【0174】
これらのデータは、これらの化合物に治療効果があることを示すものである。
【0175】
【0176】
結論
ミニMESTモデルを使用して作成されたデータは、これらの化合物の治療効果を実証するものである。特に、化合物Iは強力な治療効果を示し、CC50は媒体対照に比べて424%超も増加した。このパーセント変化は陽性対照よりもいっそう大きいものである。
【0177】
このデータは、これらの新規化合物が治療上有益でありうることに関するこれまで未知であったエビデンスを示すことから、重要である。
【0178】
(実施例3)
新規化合物のバイオアナリシス
血漿及び脳中の化合物I及び化合物IIの定量的測定値を確定するためにバイオアナリシス実験を行った。
【0179】
方法
6匹のマウスに化合物Iを100mg/kgで投与し、別の6匹に化合物IIを150mg/kgで腹腔内(i.p)注射により投与した。投与30分後に試料量40μLを使用して試料分析を行った。内部標準(アセトニトリル中)及びイソプロパノールの添加後に、試料をアセトニトリルの添加によりタンパク質沈殿させた。試料を遠心分離し、上澄み液をクリーンな96ウェルプレートに移し(プレート材料に対する非特異的結合を最小化するためにTweenを加えながら)、蒸発乾固させ、次に好適な溶媒中で再構成した。抽出物を超高速液体クロマトグラフィータンデム質量分析(UPLC-MS/MS)により定量化した。
【0180】
結果
Table 2(表4)は、この実験において作成されたデータを示す。高濃度の化合物I及び化合物IIが血漿中及び脳中で検出された。
【0181】
【0182】
結論
このデータは、化合物I及び化合物IIが定量可能なレベルで血漿及び脳に存在することを確定するものである。
【国際調査報告】