(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-01
(54)【発明の名称】口腔内のウイルスまたは微生物負荷を低下させるための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240423BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240423BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20240423BHJP
A61P 31/22 20060101ALI20240423BHJP
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A61P 31/04 20060101ALI20240423BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20240423BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240423BHJP
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A61K 8/73 20060101ALN20240423BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P31/14
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A61P31/20
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A61K8/02
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A61K8/34
A61K8/36
A61K8/25
A61K8/9789
A61K8/73
A61K131:00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570127
(86)(22)【出願日】2022-05-11
(85)【翻訳文提出日】2024-01-11
(86)【国際出願番号】 US2022028801
(87)【国際公開番号】W WO2022241010
(87)【国際公開日】2022-11-17
(32)【優先日】2021-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】500429103
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ペンシルバニア
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ヘンリー
(72)【発明者】
【氏名】リシャルディ ロバート ピー
【テーマコード(参考)】
4B014
4B018
4C076
4C083
4C084
4C088
【Fターム(参考)】
4B014GB13
4B014GG07
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4C088ZA67
4C088ZA75
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4C088ZB35
(57)【要約】
口腔内のウイルス負荷、特にコロナウイルスおよびインフルエンザウイルス負荷を低下させるための組成物および方法が開示される。また、口腔内の細菌負荷を低減するための組成物および方法も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の口腔からウイルス負荷を低下させる方法であって、ウイルスの表面上のタンパク質またはグルカンに親和性を有する捕捉分子を含む担体を含む組成物の治療的有効量を対象に経口投与することを含み、前記捕捉分子が前記表面タンパク質またはグルカンを結合することにより、前記ウイルスを前記担体内に捕捉し、前記対象の前記口腔内のウイルス負荷を低下させる、方法。
【請求項2】
投与が、対象がウイルスに暴露される前に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
投与が、対象がウイルスに曝露された後に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
投与することにより、ウイルス感染による少なくとも1つの合併症の回復時間が短縮されるか、排除されるか、または最小化される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ウイルスが、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、パピローマウイルス、エプスタインバーウイルス、肝炎ウイルス、ジカウイルス、およびHHV-7から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ウイルスがコロナウイルスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
コロナウイルスが、アルファコロナウイルス、ベータコロナウイルス、ガンマコロナウイルス、およびデルタコロナウイルスのうちの少なくとも1つを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
コロナウイルスが、MERS-CoV、SARS-CoV、およびSARS-CoV-2のうちの少なくとも1つを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ウイルスがSARS-CoV-2である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記ウイルスがSARS-CoV-2であり、前記捕捉分子がACE2またはCTB-ACE2であり、前記担体中にウイルスを含むスパイクタンパク質を捕捉し、それにより口腔内のウイルス負荷を低下させる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ウイルスがアルファインフルエンザウイルスであり、インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルス、およびインフルエンザCウイルスのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記捕捉分子が、前記担体中でインフルエンザウイルス粒子を捕捉するインフルエンザウイルスA(IVA)遮断ペプチドである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記IVA遮断ペプチドが、HAおよび/またはノイラミニダーゼタンパク質のウイルス結合部分を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記捕捉分子が、前記担体中でインフルエンザウイルス粒子を捕捉するFRILである、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記担体が、チューインガム、長時間作用型トローチ、または錠剤である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
ウイルスの表面上のタンパク質グルカンに対する結合親和性を有する捕捉分子の有効量を含む組成物であって、前記ウイルスは任意選択でエアロゾル化により感染可能であり、前記捕捉分子は経口投与に適した担体中に存在する組成物。
【請求項17】
前記担体が、チューインガム、長時間作用型トローチ、または錠剤である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記ウイルスがSARS-CoV-2であり、前記捕捉分子がACE2またはCTB-ACE2であり、前記表面タンパク質がスパイクタンパク質であり、前記担体がチューインガムである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記ウイルスがSARS-CoV-2であり、前記捕捉分子が、前記ウイルスの表面上のグルカンと結合するフジマメ粉末末中に存在するFRILであり、前記担体がチューインガムである、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
前記ウイルスがインフルエンザAウイルスであり、前記捕捉分子がIVA遮断ペプチドであり、前記担体がチューインガムである、請求項16に記載の組成物。
【請求項21】
前記IVA遮断ペプチドが、HAおよびまたはノイラミニダーゼタンパク質のウイルス結合部分を含む、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記ウイルスがインフルエンザAウイルス、ヘルペスウイルスまたはパピローマウイルスであり、前記捕捉分子が前記ウイルスの表面上のグルカンと結合するフジマメ(lablab bean)粉末由来のFRILタンパク質であり、前記担体がチューインガムである、請求項16に記載の組成物。
【請求項23】
前記チューインガムが、マルチトール(20.4%)、ソルビトール(13%)、キシリトール(13%)、イソマルト(13%)、天然および人工フレーバー、ステアリン酸マグネシウム(3%)、二酸化ケイ素(0.43%)、ステビア(0.65%)を含むガムベース(28.2%)を含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項24】
対象の口腔から病原性微生物負荷を低下させる方法であって、前記微生物に対して親和性を有する捕捉分子を含む担体を含む組成物の治療的有効量を前記対象に経口投与することを含み、前記微生物と前記捕捉分子との結合が、前記微生物を前記担体内に捕捉し、それにより前記対象の前記口腔内の微生物負荷を低下させる、方法。
【請求項25】
微生物が細菌であり、投与が対象が細菌に曝露される前に行われる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
微生物が細菌であり、投与が対象が細菌に曝露された後に行われる、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
投与が、細菌感染による少なくとも1つの合併症の回復時間を短縮するか、排除するか、または最小化する、請求項24から26に記載の方法。
【請求項28】
前記細菌が、連鎖球菌性咽頭炎を引き起こすストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyrogenes)である、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
細菌に対する結合親和性を有する捕捉分子の有効量を含む組成物であって、前記細菌が口腔内に存在し、任意選択的にエアロゾル化により感染可能であり、前記捕捉分子が経口投与に適した担体中に存在する組成物。
【請求項30】
前記担体が、チューインガム、長時間作用型トローチ、または錠剤である、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
前記細菌がストレプトコッカス・ピオゲネス(S. pyogenes)であり、前記捕捉分子が抗菌ペプチドであり、前記担体がチューインガムである、請求項29に記載の組成物。
【請求項32】
真菌に対する結合親和性を有する捕捉分子の有効量を含む組成物であって、前記真菌は口腔内に存在し、任意選択でエアロゾル化により感染可能であり、前記捕捉分子は経口投与に適した担体中に存在する、組成物。
【請求項33】
前記真菌がカンジダ・アルビカンス(C. albicans)であり、前記捕捉分子がリパーゼであり、前記担体がチューインガムである、請求項32に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2021年5月12日に出願された米国仮出願第63/187,924号の利益を主張するものであり、その全内容は、あたかも全文が記載されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
助成金に関する記載
この発明は、米国国立衛生研究所から授与されたR01HL107904の政府支援を受けて行われた。米国政府は、本発明において権利を有する。
【0003】
本発明は、ウイルス感染および抗ウイルス組成物の分野に関する。より具体的には、本発明は、口腔内のウイルス負荷を効果的に低下させ、それによって特にSARS-CoV-2、インフルエンザ、その他の感染性ウイルスのウイルス感染を減少させる組成物および方法を提供する。また、口腔内の細菌および真菌の負荷を低下させるための組成物および方法も提供される。
【背景技術】
【0004】
本発明が関係する技術水準を説明するために、本明細書全体を通していくつかの刊行物および特許文献が引用されている。なお、これらの引用文献はすべて記載が、本明細書においては参照により援用される。
【0005】
SARS-CoV-2の感染は、飛沫感染とエアロゾル感染の両方を通じて起こり、その大部分は、有症状または無症状の感染者との屋内曝露と関連している。感染を抑制するためには、マスクをすることや物理的な距離を置くことで、室内エアロゾルの濃度を下げる必要がある。公共建築物(教室、小売店、レストラン、ジム、教会など)では、外気換気、最低効率評価値13(MERV13)を通した再循環空気、またはHEPAフィルターを通した空気の通過により、1時間あたり4~6回の空気の入れ替えが推奨される(Allen, 2021)。より大きな粒子(100μm以上)は重力によって停滞する可能性があるが、ほとんどの人は会話や呼吸、咳の際に100倍以上小さなエアロゾル(5μm未満)を排出する。
【0006】
高いSARS-CoV-2ウイルス負荷が唾液から検出されることが多い。インフルエンザ、麻疹、SARS-CoV2のような呼吸器系ウイルスでは、感染力の強い空気中の飛沫が主な感染原因である。ヒトパピローマウイルス、単純ヘルペスウイルス1型、エプスタイン・バーウイルス、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスは経口感染し、口腔上皮での複製はよく知られている。唾液中の平均RNAウイルス負荷が7×106コピー/mlのSARS-CoV-2では、50μm2の口腔液滴に少なくとも1個のウイルスが含まれている可能性がある。無症状および有症状のCOVID-19患者の唾液からは、高いSARS-CoV-2ウイルス負荷が検出される。実際、唾液中のウイルス量は味覚や嗅覚の喪失を含むCOVID-19症状の重症度と相関しており、ウイルスは唾液腺や口腔粘膜で複製される。したがって、口腔粘膜と唾液はSARS-CoV-2の感染経路として危険性が高いと思われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在のところ、口腔および咽喉からウイルスを特異的かつ効果的に除去する組成物および方法はない。本発明の目的は、この必要性に対処することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に従って、口腔内のウイルス負荷を低下させる方法が開示される。例示的な方法は、担体と、ウイルス表面のタンパク質またはグルカン(単体または複合体)と結合する捕捉分子とを含む治療的有効量の組成物を対象に経口投与することを含み、表面タンパク質またはグルカンと捕捉分子との結合が、ウイルスを前記担体内に捕捉し、口腔内のウイルス負荷を低下させる。特定の実施形態において、前記対象の口腔内のウイルス負荷の低下は、ウイルスの感染を減少させる。特定の実施形態では、投与は、対象がウイルスに暴露される前に行われる(例えば、個人防護具(PPE)を使用するため)。他の実施形態では、投与は対象がウイルスに暴露された後に行われる。好ましくは、投与は、ウイルス負荷を低下させ、ウイルス感染の回復時間を短縮し、ウイルス感染による少なくとも1つの合併症を除去し、または最小化し、あるいはウイルス感染を減少させる。ウイルスには、口腔内に存在するあらゆるウイルスが含まれる。このようなウイルスには、限定はされないが、コロナウイルス、ヘルペスウイルス、パピローマウイルス、インフルエンザウイルス、エプスタインバーウイルス、サイトメガロウイルス、C型肝炎ウイルス、ジカウイルス、および唾液腺をリザーバーとする他のウイルスが含まれる。
【0009】
本発明の1つの態様において、ウイルスはコロナウイルス、例えばアルファコロナウイルス、ベータコロナウイルス、ガンマコロナウイルスおよびデルタコロナウイルスの少なくとも1つを含む。他の態様では、コロナウイルスは、MERS-CoV、SARS-CoV、およびSARS-CoV-2のうちの少なくとも1つを含む。
【0010】
特に好ましい実施形態では、ウイルスはSARS-CoV-2である。
【0011】
別の好ましい実施形態では、ウイルスはSARS-CoV-2であり、捕捉分子はACE2またはCTB-ACE2であり、ウイルス表面のスパイクタンパク質と結合し、前記ウイルスを前記担体に捕捉し、それにより口腔内のウイルス負荷を低下させる。
【0012】
別の実施形態では、ウイルスはアルファインフルエンザウイルスであり、インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルス、およびインフルエンザCウイルスの少なくとも1つを含む。この実施形態において、捕捉分子は、前記インフルエンザウイルス上のインフルエンザヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)タンパク質の一部と結合し、前記担体中にインフルエンザウイルス粒子を捕捉する、インフルエンザウイルスA(IVA)遮断ペプチドであり得る。特定の実施形態では、IVA遮断ペプチドはHAとノイラミニダーゼタンパク質のウイルス結合部分を含んでいる。
【0013】
担体には、チューインガム、長時間作用型トローチ、または錠剤でもよい。好ましい実施形態では、担体はチューインガムである。
【0014】
本発明はまた、上記に開示した方法に有用な組成物を提供する。例示的な組成物は、エアロゾル化により感染する場合もしない場合もある、口腔内に存在するウイルスの表面タンパク質またはグルカン(単体または複合体)に対する結合親和性を有する捕捉分子の有効量を含む担体を含み、ここで、担体は経口投与に適している。担体はチューインガムでもよいが、長時間作用型トローチや経口錠剤でもよい。好ましい実施形態では、担体はチューインガムである。組成物の特に好ましい実施形態において、処置されるウイルスはSARS-CoV-2であり、前記捕捉分子はACE2またはCTB-ACE2であり、担体はチューインガムである。
【0015】
組成物の別の態様において、ウイルスはインフルエンザAウイルスであり、前記捕捉分子はIVA遮断ペプチドであり、前記担体はチューインガムである。この態様では、IVA遮断ペプチドはHAとノイラミニダーゼタンパク質のウイルス結合部分を含むことができる。
【0016】
組成物の別の態様において、ウイルスはインフルエンザAウイルス、SARS-CoV02、ヘルペスウイルスまたはパピローマウイルスであり、前記捕捉分子はフジマメ(lablab bean)粉末から単離されたFRILであり、前記担体はチューインガムである。
【0017】
さらに別の実施形態に従って、口腔内の細菌や真菌などの微生物を減少させる方法が開示される。例示的な方法は、担体と、微生物の表面上のタンパク質と結合する捕捉分子とを含む治療的有効量の組成物を対象に経口投与することを含み、表面タンパク質と捕捉分子との結合は、微生物を前記担体内に捕捉し、口腔内の微生物負荷を捕捉する。特定の実施形態において、前記対象の口腔内の微生物負荷の低減は、微生物の感染を低減する。
【0018】
本発明はまた、上記に開示した方法に有用な組成物を提供する。例示的な組成物は、口腔に存在する微生物の表面タンパク質に対する結合親和性を有する捕捉分子の有効量を含む担体を含み、この捕捉分子は、エアロゾル化により伝播可能であっても、または伝播可能でなくてもよく、担体は、経口投与に適している。担体はチューインガムでもよいが、長時間作用型トローチや経口錠剤でもよい。ある特定の実施形態では、微生物はストレプトコッカス・ピオゲネスなどの細菌であり、捕捉分子は抗菌ペプチドである。この目的に適した抗菌ペプチドとしては、これらに限定されないが、プロテグリン、レトロサイクリンディフェンシン、PGLA(カエル皮膚ペプチド)、セクロピン、アピデシン、メリチン、MSI-99、ボンビニン、マガイニン、ボセプレビル、およびテラプレビルが挙げられる。
【0019】
さらに別の実施形態に従って、口腔内のカンジダ・アルビカンス(C. albicans)などの真菌を減少させる方法が開示される。例示的な方法は、担体とリパーゼなどの酵素とを含む治療的有効量の組成物を対象に経口投与することを含む。脂質は真菌の形態形成や菌糸の伸長にとって重要な膜成分である(Rella et al 2016)。特定の実施形態において、前記対象の口腔内の真菌負荷の低減は、真菌の感染を低減する。
【0020】
本発明はまた、上記に開示した方法に有用な組成物を提供する。例示的な組成物は、担体とリパーゼなどの酵素を含み、担体は経口投与に適している。担体はチューインガムでもよいが、長時間作用型トローチや経口錠剤でもよい。特定の実施形態では、微生物はカンジダ・アルビカンスなどの真菌であり、捕捉分子はリパーゼである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】エアロファームスとフラウンホーファーの異なる齢における1株当たりの生鮮重量(g)とACE2発現量(mg/g乾燥重量)。ACE2の発現量は、ホモジネートの総タンパク質(μg/μl)に基づいて定量し、植物乾燥重量のmg/g(mg/g DW)に換算した。数値は平均値±SD(n=3)。ACE2タンパク質の葉タンパク質全体に占める割合は、各列の上に青色で示されている。CTB-ACE2植物材料の総葉タンパク質含量(mg/g DW)は、各列の上部に赤色で表示されている。数値は平均値±SD(n=8)。異なる年齢で収穫された生鮮バイオマスの総量(Kg)は、各列の上に黒字で表示されている。植物の年齢は、発芽日からの相対的なものである。生育条件は異なるが、1株当たりのバイオマス収量は80~90日では同程度であったが、株が大きくなるにつれて減少した。しかし、最も劇的な違いはCTB-ACE2の発現レベルであった。エアロファームスで栽培された植物の最大発現量が2mg CTB-ACE2/g乾燥重量未満であったのに対し、フラウンホーファーUSAでの発現レベルは15~22mg/g乾燥重量であった。
【
図2A-2C】SARS-CoV-2スパイク擬似型レンチウイルスの中和。ルシフェラーゼ発現スパイク擬似型レンチウイルス粒子をVero細胞に感染させた。(
図2A)生の発光値。(
図2B)相対的感染力は、ACE2-ガムの発光を対応するプラセボと比較することにより決定した。値は、ガムについてはn=6、ウイルス単独、感染細胞、非ウイルス対照についてはn=3-4の平均値±SDで示した。表示されているのは、ガム処理についてはn=6(両側検定によって決定されたように、すべての処理についてp<0.0001)、ウイルスのみ、感染細胞または非感染細胞についてはn=3-4の相対的感染力平均値±SDである。(
図2C)ルシフェラーゼを発現するSARS-CoV-2スパイク糖タンパク質擬似型ウイルスを、標記の濃度のACE2ガムと室温で90分間インキュベートした。遠心分離後、ウイルス含有上清をACE2発現CHO細胞と72時間インキュベートし、ルシフェラーゼを介してウイルス感染性を測定した。示されたデータは、N = 2-3検体の3つの独立した実験の代表的なものである。棒グラフは条件平均を表す。記号は二重アッセイまたは三重アッセイの平均を表す。エラーバーはSEMを表す。p<0.01 ** p<0.001***、p<0.0001****(Kruskal-Walis ANOVAによる)。
【
図3】ACE2がVSVスパイク粒子の侵入に及ぼす影響:CTB-ACE2およびACE2ガム粉末とのインキュベーション後のVSV-S粒子侵入の相対的阻害は、未処置のVSV-S対照と比較して、すべての処置群で統計的に有意であると算出された。図**のグラフは、2つの独立した実験における2反復の代表である。(student's t-test, p < 0.05) * = p <0.05, ** = p <0.01
【
図4A-4B】NP綿棒検体中のSARS-CoV-2の中和。(
図4A)異なる条件で処置した臨床NP綿棒検体の画像。すべての画像はスケールバーを共有している。(
図4B)。相対的阻害率は、ガム処置サンプルと未処置サンプルの気泡数の比較によって決定した。
【
図5A-5D】唾液中のACE-2と植物由来の全長ACE2の速度論的測定(Kinetic reading)。(
図5A-および5B)対照10検体およびCOVID(赤)10検体における、蛍光性Mca-APK(Dnp)基質の切断により測定したACE-2活性。deltaRFUは、タイムポイント90分のデータからタイムポイント0分のデータを差し引いて計算した。(
図5C) ACE-2酵素活性は酵素単位(mU/mg)で表示される。データはStudent's t-testを用いて分析した。**: p< 0.0024(
図5D)全長CTB-ACE2と組換えSARS-COV-2スパイクタンパク質との相互作用。ACE2活性は、20μgのCTB-ACE2タンパク質抽出物を用いて、10μgのスパイクタンパク質(SARS-COV-2 RBD、およびSARS-COV-2 S1-S2)の存在下および非存在下で、発蛍光性Mca-APK(Dnp)基質の切断により測定した。NC、陰性対照(基質と緩衝剤のみ)。
【
図6A-6C】チューインガム培養でddPCRにより検出されたCOVID-19コピーの減少:COVID-19陽性唾液サンプルをACE2粉末ガムとインキュベートした。(
図6A)N1標的はSARS-CoV-2に特異的であり、(
図6B)RP標的は非特異的である。N1のコピー数はACE2チューインガムによって非常に減少する。(
図6C)このデータを数値化したグラフ。
【
図7A-7B】
図1植物由来のSARS-CoV-2ウイルス捕捉タンパク質であるCTB-ACE2とFRILの遮断および中和メカニズム(Fig. 7A) チューインガム錠剤に含まれるレタスベースのCTB-ACE2の5量体不溶性微粒子は、ウイルスのスパイクタンパク質と効果的に結合し、SARS-CoV-2ウイルスを沈降させ、ヒト細胞へのウイルス侵入を阻止する。(
図7B)ホモテトラマーである植物由来レクチンFRIL(フジマメ)は、ウイルス表面糖タンパク質上に存在する複合型N型グリカンに結合して凝集体を形成し、エンドソーム後期でビリオンを封鎖して核への侵入を防ぐことにより、強力な抗SARS-CoV-2および抗インフルエンザ活性を有する。
【
図8】CTB-ACE2チューインガムの研究室から臨床までのプロセスの模式図。CTB-ACE2を発現する植物の作出と特性評価、チューインガムの製造と特性評価、臨床開発へのステップに至るチューインガム製造プロセスの時系列的な順序。ステップ#1からステップ#11までは、Daniell et al.2020およびDaniell et al.2021に詳述されている)。ステップ#8は、Per Os Biosciences社が米国特許9,744,128号で記載している。
【
図9A-9B】CTB-ACE2ガム錠剤の放出および総投与量の定量。(
図9A、9B)超音波処理なしのCTB-ACE2即時放出に関するウェスタンブロット分析。データは平均±SD;n=4。(
図9C、9D)CTB-ACE2総用量定量用のウェスタンブロット分析。データは平均値±SD;n=4。
【
図10A-10B】FRILによるNP綿棒検体中のSARS-CoV-2オミクロン変異型の中和。(
図10A)FRIL豆粉末(それぞれ5,10,25mgの豆粉末に20,40,100μgのFRILタンパク質)で処置した患者#620と#613の臨床NP/OP綿棒検体の画像。(
図10B)気泡の数が数値化されている。すべての画像は同じスケールバーを共有している。データは一元配置分散分析検定で分析した。すべての濃度において、未処置とFRIL豆粉末の間のマイクロバブル数に有意差がある(***p値 < 0.0001)。
【
図11A-11D】CTB-ACE2ガムによるNP綿棒検体中のSARS-CoV-2デルタおよびオミクロン変異型の中和。(
図11A) ACE2ガム(それぞれ25mgおよび50mgのガム中に0.46または0.92μgのCTB-ACE2タンパク質)で処理した患者#614、#615の臨床NP/OP綿棒検体の画像。(
図11B) 泡の数を定量化。データは一元配置分散分析検定で分析した。両濃度において、未処置のオミクロン株とACE2ガムとの間には、マイクロバブル数に有意差がある。(***p-value = 0.0001)。すべての画像は同じスケールバーを共有している。(
図11C)ACE2ガム(それぞれ25mgおよび50mgのガム中0.46μgまたは0.92μgのCTB-ACE2タンパク質)で処置した患者#151、#153および#155の臨床NP/OP綿棒検体からの画像。(
図11D)バブル数が数値化されている。データは一元配置分散分析検定で分析した。両濃度において、未処置のデルタ株とACE2ガムとの間には、マイクロバブル数に有意差がある。(***p値=0.0009)
【
図12】ACE2チューインガムの捕捉効果は、RAPIDによる診断で評価された。20mgのACE2チューインガム曝露前後の20個のSARS-CoV-2臨床サンプル(左Y軸)の電気化学インピーダンス分光測定における正規化電荷移動抵抗値。ACE2チューインガムに暴露する前の感染サンプルのqPCRから得られたRNAコピーμL
-1(右Y軸)。サンプルの下の数字は患者IDである。その他の詳細は表1を参照されたい。検体ID 593は遺伝子型決定されなかった。検体595-609はデルタ、613-631はオミクロンSARS-CoV-2株は、全ゲノムシークエンシングまたはS遺伝子標的不成功または採取日に基づく。RNA抽出は140 μlの患者検体(1/50 μlを表示)から行い、RAPIDは100 μlの患者検体(10 μlのRct値を表示)で行った。
【
図13A-13F】FRILプラーク減少中和アッセイ。H1N1(A/California/7/2009-X181)、H3N2(A/Singapore/INFMH-16/0019/2016)、およびHCoV-OC43ウイルスを用いたFRILプラーク減少中和アッセイ。ウイルスは、100 μl中、37℃で1時間、精製FRILタンパク質またはフジマメ粉末の可溶性抽出物の量を増やしながらプレインキュベートした。その後、前処理したウイルスを細胞に加え、プラーク減少アッセイを行い、2種類のFluウイルスについては感染後28時間で、HCoV-OC43ウイルスについては感染後5日でプラーク数を定量した。データは2つの独立した実験から得られたプラーク数の平均値±SDを表す。4mgの精製FRILは1mgのFRIL豆粉末に相当するため、精製FRIL(mg)と比較した用量反応曲線を得るためには、より多くのFRIL豆粉末(mg)の投入重量が必要であった。比較の便宜のため、FRILタンパク質の各用量反応曲線における50%重量阻害をナノグラム(ng)で表した。
【
図14】FRILプラーク減少中和アッセイ。H1N1(A/California/7/2009/X181)およびH3N2(A/Singapore/INFMB-16/0019/2016)の感染用量におけるVeroのFRIL阻害。
【
図15A-15B】FRILによるインフルエンザウイルスの封じ込め。(
図15A)H1N1(A/California/7/2009-X181)細胞培養ウイルス単独(左パネル)と、10μg/mLおよび150μg/mLのFRILでインキュベートした後のFRILと凝集したウイルス粒子(右パネル)のネガティブ染色EM像。データは2つの独立した実験の代表値である。(
図15B)スクロースグラジエント精製したX181ビリオン単独(左パネル)と、150μg/mL FRILと混合した後の凝集X181ウイルス粒子(右パネル)のネガティブ染色EM像。スケールバー:それぞれ100nmと500nm。
【
図16】CTB-ACE2チューインガム試験デザイン。第I/II相プラセボ対照二重盲検無作為化ACE2またはプラセボガム試験で、1~3日目に4ガムずつ、計13ガムを4日間使用した。非刺激性の全唾液サンプルを飲食前または歯磨き前に採取する。対象はCTB-ACE2チューインガム/プラセボガム(CTB-ACE2またはプラセボを2g含む試験製品)を10分間噛み、その後直ちに、事前にラベル付けした唾液採取チューブに治療後2~5mLの唾液サンプルを採取する。ウイルス負荷はqPCRまたはタンパク質(Nまたはスパイク)定量によって定量される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上述したように、唾液中には高いSARS-CoV-2ウイルス負荷が検出されることが多い(Li et al. Mol Oral Microbiol.2020 35(4):141-145)。実際、唾液のウイルス負荷は、味覚や嗅覚の喪失を含むCOVID-19症状の重症度と相関しており、ウイルスは唾液腺や口腔粘膜で複製される(Huang et al.2021 May;27(5):892-903)。したがって、口腔粘膜と唾液はSARS-CoV-2の感染経路として危険性が高く、口腔内でのウイルス不活化はウイルス感染性を低下させる重要な戦略であると考えられる。過酸化水素とヨードポビドンを含む洗口液は、in vitroでコロナウイルスに対する活性を有するが、接触時間が短いため、その全体的な大きさと制御の持続時間についてはさらなる調査が必要である(Vergara-Buenaventura and Castro-Ruiz Brit J Oral Maxillofac Surg.58(8):924-927)。
【0023】
ウイルス複製の主要部位である口腔における標的ウイルスの減少化の新規戦略をテストするために、SARS-CoV-2ウイルスを捕捉するタンパク質CTB-ACE2が葉緑体中で発現され、FDAの要件を満たす臨床グレードの植物材料が開発された。
図1を参照されたい。最大17.2mg ACE2/g DW(葉タンパク質11.7%)のCTB-ACE2を発現した植物細胞を含むチューインガム(2グラム)は、従来のガムのような物理的特性、味/風味を有し、ガムの圧縮中にタンパク質が失われることはない。CTB-ACE2ガムは、ルシフェラーゼまたは赤色蛍光で定量すると、レンチウイルススパイクまたはVSV-スパイク偽ウイルスのVero/CHO細胞への侵入を効率的に(95%以上)阻害した。CTB-ACE2微粒子のインキュベーションは、マイクロバブル(フェムトモラー濃度)またはqPCRで評価した場合、COVID-19綿棒/唾液検体中のSARS-CoV- 2ウイルス数を95%以上減少させ、ウイルスの捕捉と細胞侵入の阻止の両方を実証した。COVID-19の唾液サンプルは、健常人と比較してACE2活性が低いか検出されなかった(2582対50126 ΔRFU;27対225 酵素単位)ことから、感染患者のウイルス侵入感受性が高いことが確認された。CTB-ACE2活性は、SARS-COV-2 RBDとのプレインキュベーションによって完全に阻害され、COVID-19患者の唾液中のACE2活性の低下を説明することができた。ウイルスを捕捉するタンパク質を含むガムを噛むことで、減少させ、他者への感染を最小限に抑え、ほとんどの口腔ウイルス再感染から患者を守ることができる。
【0024】
本発明者は、驚くべきことに、ACE2を含むチューインガムが、ヒト細胞への侵入を阻害することにより、SARS-CoV-2による感染を最小限に抑え、感染力を低下させる効果があることを見出した。特筆すべきことに、これらの知見は、インフルエンザや麻疹など、空気感染する他のウイルスにも当てはめることができる。例えば、インフルエンザの治療には、チューインガムは、インフルエンザウイルスと結合し、口腔内の濃度を低下させ、インフルエンザの感染性を低下させるIAV遮断ペプチドを含んでいる。あるいは、チューインガムは、フジマメ粉末から得られるFRILを含むことができる。FRILはSARS-CoV2とインフルエンザウイルスの両方の表面タンパク質と結合する。
【0025】
SARS-CoV-2とインフルエンザは経鼻感染と経口感染の両方があるが、経口感染は経鼻感染より3-5桁可能性が高い。植物細胞で発現させたウイルス捕捉タンパク質(CTB-ACE2、FRIL)を用いた、両ウイルスの減少について説明する。ウイルス捕捉タンパク質は、チューインガムを通して送達され、主要な感染部位である喉の表面でウイルスを最適に中和する。オミクロン鼻咽頭(NP)検体において、マイクロバブリング数(N-抗原に基づく)は、FRIL 20μg(p<0.0001)およびCTB-ACE2 0.925μg(p=0.0001)により有意に減少した。デルタ株またはオミクロン株に感染した20人の患者のNP検体のうち、17検体のウイルス負荷はRAPIDアッセイでスパイクタンパク質の検出レベル以下であった。インフルエンザ株H1N1、H3N2およびコロナウイルスHCoV-OC43に対して、50-100 ngのFRILを用いた場合、精製FRILとフジマメ粉末の両方で用量依存的に50%のプラーク減少が観察された。電子顕微鏡写真では、重なり合ったインフルエンザ粒子とFRILタンパク質の大きく密に詰まった塊が150μg/mLのFRIL濃度で観察されたが、細胞培養の未処置ウイルス粒子やスクロース勾配で精製した粒子では観察されなかった。これらの結果を総合すると、チューインガムが口腔や咽頭で口腔ウイルスを除去するタンパク質を送達し、感染や伝播を減少させるという原理を証明するものである。実際、ヒトパピローマウイルス、単純ヘルペスウイルスI型、エプスタインバーウイルス、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスも経口感染するので、これらのウイルスの表面タンパク質と結合する分子を含む担体も、口腔を除去してウイルス感染を減らすのに有利に使用できる。
【0026】
CTBは経粘膜キャリアであり、5量体構造を形成して腸GM1上皮レセプターに結合することにより、治療用タンパク質の経口送達を促進する(Daniell et al 2019 Biotechnol.Adv.37, 107413; Biomaterials.2020 233:119750; Plant Biotechnol.2021 J.19:430-447; Kwon and Daniell, Mol Ther.2016 24(8):1342-1350). CTB-ACE2は、GM1受容体およびACE2受容体の両方に効率的に結合するため、特に両受容体が濃縮された口腔上皮細胞において、ウイルスのスパイクタンパク質の結合を効果的に阻害する(Xu et al. Int J Oral Sci. 2020 24;12(1):1-5.)。ACE2とSARS-CoV-2スパイクタンパク質との直接結合は、ウイルス粒子を捕捉し、感染性を低下させる。この発見に従って、本発明は、SARS-CoV-2の侵入および口腔からのウイルスの伝播を阻害するための、経口投与に適した担体(例えば、チューインガム、長時間作用型トローチ、錠剤など)中にCTB-ACE2を含む組成物を提供する。注目すべきは、舌は頬や歯肉組織よりもACE2の貯蔵庫が大きいことである(Xu et al; 2020, 上掲)。ACE2チューインガムは、SARS-CoV-2スパイクを含む粒子を除去するための高度に的を絞ったアプローチであり、咀嚼によって外因的に放出された場合、口腔からSARS-CoV-2ウイルス負荷を効果的に除去するために、洗口剤よりも持続性が高くなる。
【0027】
別の用途では、緊急処置、特に歯科処置を必要とする感染患者には、経口SARS-CoV-2の減少が必要である。CTB-ACE2チューインガムは、このような患者のウイルス負荷を低下させ、医療従事者をより保護することができる。他のアプローチでは、CTB-ACE2チューインガムを公共の場で予防的に摂取することで、食事中などマスクの使用が不可能または困難な状況において、マスク着用を補強または代替することができる。この戦略は、上述したように、口腔からSARS-CoV-2以外のウイルスを除去するためにも採用できる。
【0028】
定義
ネイティブおよびコドン最適化CTB-ACE2の発現配列は、米国特許10,806,775に記載されており、この特許は参照により本明細書に組み込まれる。
図21Aと21Bを参照。
【0029】
本明細書で使用される場合、対象への組成物の「投与」または「投与する」という用語には、その意図される機能を果たすために化合物を対象に導入または送達する任意の経路が含まれる。空気感染症の治療には、経口または経鼻投与が望ましい。CTB-ACE2の投与が有益と思われるその他の治療については、非経口(静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下)、直腸、局所など、他の経路を採用することができる。投与または服用には、自己投与と他者による投与が含まれる。
【0030】
本明細書において、「疾患」、「障害」または「合併症」という用語は、対象における正常な状態からの逸脱を指す。
【0031】
本明細書で使用する「感染」とは、病気を引き起こす、または病原性のある生物を、他の生物、組織、または細胞に導入すること、および/または存在させることを指す。
【0032】
本明細書で使用する「抗菌ペプチド(AMP)」とは、あらゆる生物に見られる自然免疫応答の一部を構成する宿主防御ペプチド(HDP)を指す。これらのペプチドは強力で幅広いスペクトルを持つ抗生物質であり、新規治療薬としての可能性を示している。抗菌ペプチドは、グラム陰性およびグラム陽性の細菌、エンベロープ・ウイルス、真菌、さらには形質転換した細胞や癌細胞をも殺すことが実証されている。従来の抗生物質の大部分とは異なり、抗菌ペプチドは頻繁に生体膜を不安定化させ、膜貫通チャネルを形成することができる。また、免疫調節物質として機能することで、免疫力を高める能力もあるかもしれない。本明細書に開示される方法において使用するのに適したAMPとしては、これらに限定されないが、プロテグリン、レトロサイクリンディフェンシン、PGLA(カエル皮膚)、セクロピン、アピデシン、メリチン、MSI-99、ボンビニン、マガイニン、ボセプレビル、およびテラプレビルが挙げられる。
【0033】
本明細書で使用する「Flt3受容体相互作用レクチン」または「FRIL」は、よく知られているコンカナバリンA(ConA)と48%の配列同一性を有し、類似のb-prism type-IIフォールドを持ち、モノマーあたり1つの糖鎖結合ドメイン(CBD)を持つマメ科のレクチンを指す。これまでの研究から、FRILはマンノース、グルコース、N-アセチルグルコサミンの単糖に対する親和性から、グルコース/マンノース特異的レクチンであり、a-アノマー型を強く好むことが示唆されている。
【0034】
本明細書で使用する「リパーゼ」とは、脂肪の加水分解を触媒する酵素ファミリーを指す。リパーゼは、ある種の真菌を適当な担体に捕捉するのに有利に利用できる。
【0035】
本明細書において、「呼吸器」とは呼吸に機能する細胞および器官のシステムを意味し、特に呼吸器の器官、組織および細胞には、肺、鼻、鼻腔、副鼻腔、鼻咽頭、喉頭、気管、気管支、細気管支、呼吸細気管支、肺胞管、肺胞嚢、肺胞、肺細胞(タイプ1とタイプ2)、繊毛性粘膜上皮、粘膜上皮、扁平上皮細胞、肥満細胞、杯細胞および上皮内樹状細胞が含まれる。
【0036】
本発明による経口摂取可能な製品は、摂取用、栄養用、または口腔衛生用に適したあらゆる調製物または組成物であり、ヒトの口腔内に導入され、一定期間そこに留まり、その後嚥下されるか(例えば、摂取可能な食品)、または再び口腔から除去される(例えば、チューインガムまたは口腔衛生用製品)ことを意図した製品である。これらの製品には、加工、半加工または未加工の状態で、ヒトまたは動物が摂取することを意図したすべての物質または製品が含まれる。これには、経口摂取可能な製品(例えば、エキス、栄養素、サプリメント、医薬品などの有効成分)の製造、処理、加工時に添加され、ヒトの口腔内に導入されることを意図した物質も含まれる。
【0037】
本明細書において、「有効量」「有効な量」などの用語は、所望の結果を得るのに必要な用量および期間において有効な量を意味する。
【0038】
本明細書において、「抑制する」または「予防する」という用語は、疾患状態に曝露され得るかまたはその素因を有するが、疾患状態の症状をまだ経験または発現していない対象において、疾患状態の臨床症状を悪化または発症させないようにすること、例えば疾患の発症を抑制することを意味する。
【0039】
本明細書において、遺伝子またはポリヌクレオチドの文脈における「発現」という用語は、遺伝子またはポリヌクレオチドのRNAへの転写を含む。また、この用語は、必ずしもそうとは限らないが、その後のRNAのポリペプチド鎖への翻訳と、タンパク質への組み立てを含むこともある。
【0040】
植物残物(A plant remnant)は、目的のタンパク質が発現された植物に由来する1つ以上の分子(タンパク質およびその断片、ミネラル、ヌクレオチドおよびその断片、植物構造成分など)を含みうるが、これらに限定されない。従って、全植物材料(例えば、植物の葉、茎、果実などの全体または一部)または粗植物抽出物に係る組成物は、1つ以上の検出可能な植物残物を有する目的の精製タンパク質を含む組成物と同様に、確実に高濃度の植物残物を含むであろう。具体的な実施形態では、植物残物はルビスコである。
【0041】
別の実施形態において、本発明は、空気媒介性ウイルスによる感染および/または感染を治療または阻害するための投与可能な組成物に関する。特定の実施形態において、組成物は、治療的有効量のACE2、Covid-19の処置のためのCTB-ACE2、または植物および植物残物によって発現されたそれらの組み合わせを含む。本発明の組成物はまた、エアロゾル感染の発生率を低下させるために予防的に使用することもできる。
【0042】
重要なことは、この発見をインフルエンザなど他の空気感染ウイルスの感染や感染力を抑制するために利用できることである。この実施形態では、対象は、インフルエンザAウイルス(IAV)遮断ペプチドを含むチューインガムを摂取し、口腔内のインフルエンザウイルス負荷を低下させる。
【0043】
植物および植物細胞を形質転換するための方法、ベクター、および組成物は、例えばWO 01/72959;WO03/057834;およびWO 04/005467に教示されている。WO 01/64023はマーカーフリー遺伝子構築物の使用について述べており、それぞれ参照により本明細書に組み込まれる。
【0044】
特定の実施形態において、ACE2、CTB-ACE2、またはHAを発現することができる葉緑体を含む植物材料(例えば、レタス材料)は、均質化され、凍結乾燥され、カプセル化される。ある具体的な実施形態では、レタス材料の抽出物がカプセル化されている。別の実施形態では、レタス材料はカプセル化の前に粉末化される。その他の有用植物としては、トマト、ニンジン、リンゴなどの食用植物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
いくつかの態様において、口腔内のウイルス負荷を低下させるための医薬組成物は、チューインガムとして製剤化することができる。ガムベースの配合は、調製される特定の製品、および最終製品に望まれる咀嚼特性やその他の官能特性によって大きく異なる。一例として、ガムベース成分の典型的な範囲としては、エラストマー化合物5~80wt%、天然樹脂および/または合成樹脂(エラストマー可塑剤)5~80wt%、ワックス0~40wt%、ワックス以外の軟化剤5~35wt%、充填剤0~50wt%、および酸化防止剤、着色剤などのその他の成分0~5wt%が挙げられる。ガムベースは、チューインガムの総重量の約5~95wt%、しばしば約10~60wt%または約40~50wt%を構成することができる。
【0046】
多くの場合、緩衝剤が使われる。使用できる緩衝剤の例としては、トリス緩衝剤、アミノ酸緩衝剤、モノ炭酸塩、重炭酸塩またはセスキ炭酸塩を含む炭酸塩、グリセリン酸塩、リン酸塩、グリセロリン酸塩、酢酸塩、グリコン酸塩またはアルカリ金属のクエン酸塩、例えば、クエン酸三ナトリウムおよびクエン酸三カリウム、またはアンモニウム、およびそれらの混合物が挙げられる。その他の緩衝剤の例としては、酢酸、アジピン酸、クエン酸、フマル酸、グルコノ-Δ-ラクトン、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、マレイン酸、酒石酸、コハク酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、リン酸、オルトリン酸ナトリウム、オルトリン酸カリウム、オルトリン酸カルシウム二リン酸ナトリウム、二リン酸カリウム、二リン酸カルシウム、三リン酸五ナトリウム、三リン酸五カリウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、炭酸、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、またはそれらの組み合わせ。
【0047】
緩衝剤は、ある程度マイクロカプセル化されるか、または1つ以上の緩衝剤よりも唾液への溶解性が低いポリマーおよび/または脂質で顆粒としてコーティングされる。このようなマイクロカプセル化によって溶解速度が制御され、緩衝効果の時間枠が延長される。緩衝剤の量は、チューインガムの総重量に基づいて、0~約15%の範囲であり、多くの場合、約0.5~約10%の範囲である。
【0048】
エラストマーは、ガムにゴムのような粘着性を与えるために使用される。ガムベースおよびガムに使用するのに適したエラストマーには、天然型または合成型がある。ガムベースの硬さを変えるために、エラストマー可塑剤を使用することもできる。エラストマーの分子間鎖相互作用(可塑化)に対するこれらの特異性は、軟化点の違いと共に、ベースとして使用した場合のガムの硬さや混和性(compatibility)の完成度を変化させる。これにより、ワックスのアルカン鎖により多くのエラストマー鎖が露出する可能性がある。
【0049】
ガムベースに採用されるエラストマーは、所望されるガムベースの種類、所望されるガム製剤のテクスチャー、および最終的なチューインガム製品を製造するために製剤に使用される他の成分などの様々な要因に応じて変化し得る。エラストマーは、当該技術分野で知られている水不溶性ポリマーであれば何でもよく、チューインガムやバブルガムに利用されているガムポリマーも含まれる。例えば、ガムベースに使用するのに適したポリマーとしては、限定されないが、チクルガム、天然ゴム、クラウンガム、ニスペロ、ロシディーニャ、ジェルトン、ペリロ、ニガーグッタ、トゥヌ、バラタ、グッタペルチャ、レチカプシ、ソルバ、グッタケイなどの天然物質(植物由来)、およびそれらの混合物が挙げられる。合成エラストマーの例としては、特に限定されないが、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、ポリイソブチレン、イソブチレン-イソプレン共重合体、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニルなど、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0050】
天然樹脂は本発明に従って使用することができ、天然ロジンエステルであってもよく、エステルガムと呼ばれるものには、部分水添ロジンのグリセリンエステル、重合ロジンのグリセリンエステル、部分二量化ロジンのグリセリンエステル、タリー油ロジンのグリセリンエステル、部分水添ロジンのペンタエリスリトールエステル、ロジンのメチルエステル、ロジンの部分水素化メチルエステル、ロジンのペンタエリスリトールエステル、α-ピネン、β-ピネン、および/またはd-リモネンから誘導されるテルペン樹脂などの合成樹脂、および天然テルペン樹脂などがある。
【0051】
樹脂はテルペン樹脂、例えば、α-ピネン、β-ピネン、および/またはd-リモネンから誘導されるもの、天然テルペン樹脂、ガムロジンのグリセリンエステル、トール油ロジン、木材ロジン、または、部分水素化ロジンのグリセリンエステル、重合ロジンのグリセリンエステル、部分的に二量化されたロジンのグリセリンエステル、部分的に水素化されたロジンのペンタエリスリトールエステル、ロジンのメチルエステルなどの誘導体、ロジンの部分水素化メチルエステルまたはロジンのペンタエリスリトールエステルおよびそれらの組み合わせから選ぶことができる。
【0052】
その他のチューインガム成分は、バルク甘味料、香料、乾燥結合剤、打錠助剤、固結防止剤、乳化剤、酸化防止剤、増強剤、吸収促進剤、緩衝剤、高強度甘味料、軟化剤、着色料、およびこれらの組み合わせから選択することができる。乳化剤の非限定的な例としては、シクロデキストリン、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、マクロゴールアルキルエーテル、エチレンとプロピレンオキシドのブロックコポリマー、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンステアレート、ソビタンエステル、モノグリセリドのジアセチル酒石酸エステル、ラクチル化モノグリセリド、およびそれらの組み合わせを含む。乳化剤の量は、チューインガムの総重量に基づいて約0.1%から約25wt%の範囲であることが多い。
【0053】
石油ワックスは、ガムベースから作られた完成品のガムの硬化を助けるだけでなく、保存性と食感を向上させる。ワックスの結晶の大きさは風味の放出に影響する。イソアルカンを多く含むワックスは、ノルマルアルカンを多く含むワックス、特に炭素数30以下のノルマルアルカンを含むワックスよりも結晶サイズが小さい。結晶サイズが小さいと、結晶サイズが大きいワックスに比べて、フレーバーがワックスから逃げるのを邪魔するので、フレーバーの放出が遅くなる。ノルマルアルカンワックスを使用したガムベースの混和性(compatibility)性は、イソアルカンワックスを使用したガムベースと比較して低い。
【0054】
石油ワックス(精製パラフィンとマイクロクリスタリンワックス)とパラフィンワックスは、主に直鎖ノルマルアルカンと分岐イソアルカンから構成されている。ノルマルアルカンとイソアルカンの比率は様々である。
【0055】
ノルマルアルカンワックスは一般的に炭素鎖長がC-18を超えるが、C-30を超えるものはあまりない。主にノルマルアルカンのワックスでは、分岐構造や環構造は鎖の末端付近に位置する。ノルマルアルカンワックスの粘度は<10mm2/s(100℃)、数平均分子量は<600g/モルである。
【0056】
イソアルカンワックスは一般的にC-30以上の炭素長を持つ。イソアルカンが主体のワックスでは、分岐鎖や環構造が炭素鎖に沿ってランダムに配置されている。イソアルカンワックスの粘度は10mm2/s(100℃)以上で、数平均分子量は600g/モル以上である。合成ワックスは、石油ワックスとは異なる方法で製造されるため、石油ワックスとはみなされない。合成ワックスとしては、分岐アルカンを含み、プロピレン、ポリエチレン、フィッシャー・トロプシュ型ワックスなどのモノマーと共重合したワックスを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ポリエチレンワックスは、エチレンモノマーが結合した様々な長さのアルカン単位を含む合成ワックスである。
【0057】
ワックスや油脂は、チューインガムベースを調製する際に、食感の調整やチューインガムベースの軟化のために従来から使用されている。従来から使用されている適切な種類の天然および合成ワックスと油脂を使用することができ、例えば、米ぬかワックス、ポリエチレンワックス、石油ワックス(精製パラフィン、マイクロクリスタリンワックス)、モノステアリン酸ソルビタン、獣脂、プロピレングリコール、パラフィン、ミツロウ、カルナウバロウ、キャンデリラロウ、ココアバター 、脱脂ココア粉末 、および任意の適切な油脂、例えば完全または部分的に水素化された植物油、完全または部分的に水素化された動物油脂などである。
【0058】
酸化防止剤は、ガムベース、完成品ガム、または油脂やフレーバーオイルを含むそれぞれの成分の保存期間と貯蔵を延長する。ガムベースに使用するのに適した酸化防止剤には、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ベタカロテン、トコフェロール、ビタミンCなどの酸味料、没食子酸プロピル、その他の合成および天然タイプ、またはそれらの混合物が含まれる。
【0059】
チューインガムは、バルク甘味料、砂糖甘味料、砂糖代替甘味料、人工甘味料、高強度甘味料、またはそれらの組み合わせを含む甘味料などの他の従来の成分を含むことができる。バルク甘味料は、チューインガムの約5~約95重量%、より典型的には約20~約80重量%、約30~約70重量%、または約30~約60重量%を構成することができる。
【0060】
有用な糖甘味料は、チューインガム技術分野において一般的に知られているサッカリド含有成分であり、これには、スクロース、デキストロース、マルトース、デキストリン、トレハロース、D-タガトース、乾燥転化糖、フルクトース、レブロース、ガラクトース、コーンシロップ固形物などが含まれるが、これらに限定されず、単独で又は組み合わせて使用される。
【0061】
ソルビトールは砂糖以外の甘味料として使用できる。他の有用な非糖類甘味料としては、マンニトール、キシリトール、水素化デンプン加水分解物、マルチトール、イソマルト、エリスリトール、ラクチトールなどの他の糖アルコールが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、単独でまたは組み合わせて使用される。
【0062】
高強度人工甘味料も単独で、または上記の甘味料と組み合わせて使用することができる。高強度甘味料の非限定的な例としては、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムの塩、アリテーム、サッカリンおよびその塩、シクラミン酸およびその塩、グリチルリチン、ジヒドロカルコン、タウマチン、モネリン、ステリオシドなどを単独または組み合わせて使用することができる。より長持ちする甘味と風味の知覚を提供するために、人工甘味料の少なくとも一部をカプセル化するか、その他の方法で放出を制御することが望ましい場合がある。湿式造粒、ワックス造粒、噴霧乾燥、噴霧冷却、流動床コーティング、保存、酵母細胞への封入、繊維押出などの技術を使用して、所望の放出特性を達成することができる。甘味料のカプセル化は、樹脂化合物などの別のチューインガム成分を用いて行うこともできる。
【0063】
人工甘味料の使用量は、甘味料の効能、放出速度、製品に望まれる甘味、使用するフレーバーのレベルや種類、コストなどの要因によって大きく異なる。人工甘味料の活性レベルは、約0.001~約8重量%であり、多くの場合、約0.02~約8重量%の範囲である。カプセル化に使用される担体が含まれる場合、カプセル化された甘味料の使用量は比例して高くなる。砂糖および/または非砂糖甘味料の組み合わせは、必要に応じて使用することができる。
【0064】
チューインガムおよび/またはガムベースは、1種類以上の充填剤/テクスチャライザーを含むことができ、例えば、炭酸マグネシウムや炭酸カルシウム、硫酸ナトリウム、粉砕石灰石、ケイ酸マグネシウムやケイ酸アルミニウムなどのケイ酸塩化合物、カオリンやクレー、酸化アルミニウム、酸化ケイ酸、タルク、酸化チタン、モノ-、ジ-、トリ-リン酸カルシウム、木材などのセルロースポリマー、およびそれらの組み合わせである。
【0065】
ワックス、油脂、軟化剤、充填剤、香料、酸化防止剤、乳化剤、着色剤、結合剤、酸味料を含むが、これらに限定されない、他の多くのよく知られたチューインガム成分が存在してもよい。チューインガムには、ハードコーティング、ソフトコーティング、可食性フィルムコーティング、またはそれらの組み合わせなどの外側コーティングを施してもよい。
【0066】
いくつかの態様において、ウイルス表面タンパク質と結合する捕捉分子(例えば、CTB-ACE2、FRIL、IVA遮断ペプチド)は、分子がガムベース中に実質的に均一に含まれるように、ガムベースの他の成分とともに配合される。分子はさまざまな形で、例えば、植物粉末、凍結乾燥葉として、または、細かく分割されたケイ酸、非晶質シリカ、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、カオリン、クレー、結晶性アルミノケイ酸塩、マカロイドベントナイト、活性炭、アルミナ、ヒドロキシルアパタイト、微結晶セルロース、またはそれらの任意の組み合わせのような吸着剤上で提供される。ある種のアプローチでは、分子をカプセル化して、所望の制御放出または徐放を行うことができる。ニコチンを徐放するチューインガムの例は、U.S.2007/0014887に記載されており、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。このチューインガムは、本明細書に開示した目的に適合させることができる。
【0067】
同様の放出プロフィールは、錠剤、カプセルなどの経口剤形によっても達成できる。例えば、錠剤は、ニコチンを含むコア層で持続放出を行い、CBDを含む外層で即時放出を行うことができる。他の組み合わせも可能である。例えば、層の一方または両方がCBDとニコチンの両方を含み、それぞれの活性成分が即時放出と徐放の両方で放出されるようにすることができる。
【0068】
以下の材料と方法は、本明細書に開示された方法の実践を容易にするために提供される。
【0069】
実施例1の材料と方法
唾液検体収集
ペンシルバニア大学IRBによって承認されたプロトコル#823392に基づくインフォームド・コンセントの後、SARS-CoV-2感染が確認された入院患者から唾液と鼻咽頭および口腔咽頭の綿棒ぬぐい液を採取した。唾液は患者が自発的に分泌したもので、口腔咽頭および鼻咽頭のサンプルはフロック加工したナイロン製綿棒(Copan Diagnostics社製)で採取し、2mlのウイルス輸送培地で一緒に溶出した。健康なボランティア(SARS-CoV-2陰性が確認されている)の唾液は、UPenn IRBによって承認されたプロトコル#842613のもと、インフォームド・コンセントに従って採取された。検体は使用するまで-80℃で保存した。
【0070】
フラウンホーファー、エアロファームスでの植物育成、バイオマス収穫、凍結乾燥
フラウンホーファーUSAの水耕栽培システムには、CTB-ACE2を発現するトランスプラストミック・レタスを栽培するために照明されたマルチレベルの栽培棚がある。成長トレイには、溶融玄武岩を紡いで繊維状にした軽量な水耕栽培用基質であるロックウールが、支持基質として入っている(オランダのGrodan社製)。ロックウールは、約80%の栄養液を保持し、約15%の空隙と約5%の繊維を持つように設計されており、水はけがよく、植物の根系による栄養液の迅速な吸収を促す。栄養液は、窒素、リン酸、カリ(酸化カリ)の比率が20-10-20のピーターズ・プロフェッショナル汎用肥料(ICLファーティライザーズ、オハイオ州)を200ppmとし、ヤラリバ・カルシニット(硝酸、アンモニウム・カルシウム塩)(ヤラ・ノース・アメリカ)を102ppm添加した。この濃縮栄養剤は、飲料水と1:100の割合でドサトロンから供給された。苗の間隔は81/2インチで、ロックウールの表面に対角線上の格子状に植えた。温度(24±2℃昼/20±2℃ 夜)および湿度(60±10%)の条件下で、日中16時間、夜間8時間の光周期で、平均368μmols/m2・SのLED照明(Fluence SPYDRx)を生育室で照射した。植物を横切る気流は約1.2m/sだった。
【0071】
フラウンホーファーUSAでは、播種後58日目、90日目、107日目、120日目に、光周期の約9時間(8~11時間)に、植物から移植レタスを繰り返し収穫した。レタスの葉は、実験用手袋をはめた作業員が葉柄の根元で切断し、上部の葉はそのまま残し、収穫したバイオマスの生鮮重量を記録した。葉をUSP精製水ですすぎ、食品グレードの次亜塩素酸カルシウムを用いて調製した200ppmのコリン溶液で約5分間洗浄した後、USP精製水で3回連続してすすぎ、最終的なコリン濃度を塩素除菌テストストリップを用いて測定し、レベルが4ppm未満であることを確認した。その後、食品用遠心レタス乾燥機を用いて葉の表面から余分な水分を取り除き、ポリビニールのジッパー付き袋に移した。バッグはドライアイス上で凍結され、その後-60℃~-80℃で保管された。CTB-ACE2融合タンパク質を発現している冷凍レタスの葉を凍結乾燥機(Ultra50, SP Scientific, Stone Ridge, NY)で凍結乾燥した。凍結乾燥機は、使用ごとに徹底的に洗浄・消毒され、サイクルパラメーターに関する記録が収集される。直接粉砕に移らない場合、原料はMiniPax(登録商標)シリカゲル吸収剤の入った保存袋に入れられる。凍結乾燥された原料は、暗色のスチールキャビネットに入れられ、室温の保管室で保管される。凍結乾燥された葉は、グラインダーでシングルスピードで1回3秒間粉砕される(細胞の破壊が最小限になるように最適化される)。粉砕された粉末は、25メッシュ(0.71mm)の手ふるいにかけられ、最終的な無菌容器に充填される。ふるいを通らなかったものは廃棄される。材料は無菌容器(FDA認可)に入れられ、スチールキャビネット内の暗所、室温で保管される。
【0072】
フラウンホーファーで栽培されたトランスプラストミックACE2レタスは、種まきから58、90、107、120日目に収穫され、エアロファームスで栽培されたものは79、100日目に収穫された。葉は、滅菌手袋をはめたハサミで葉柄の根元から切り、上部の葉3~5枚はそのまま残した。葉はポリビニールのジッパー付き袋に移される。袋には生鮮重量、収穫日、株列がラベル付けされ、すぐに冷凍される。ポリビニールのジップトップバッグに貯蔵されたバイオマスは、-60℃~-80℃で貯蔵される。CTB-ACE2融合タンパク質を発現している冷凍レタスの葉を凍結乾燥機(Ultra50, SP Scientific, Stone Ridge, NY)で凍結乾燥する。棚は-40℃に予冷され、15段の棚にはそれぞれ0.5Kgの凍結葉が載せられ、凍結乾燥機用プローブが1段おきに植物材料の中央に置かれ、製品温度をモニターした。各凍結乾燥サイクルは、植物材料を-40℃で3時間保持することから始まる。続いて、3段階からなる乾燥サイクルが行われた:第一段階の乾燥は-40℃で10分間、第二段階では温度が25℃まで上昇し、3260分間行われる。PVG/CMの差が43mTorrに達すると、Ultra 50は第3段階の乾燥に移行し、温度が22℃まで下がり、8時間保持される。サイクル終了後、植物原料は引き上げられ、適切に梱包され、計量された。
【0073】
含水率
含水率は、利用可能な水分がヨウ素および二酸化硫黄と反応して三酸化硫黄とヨウ化水素を生成するカールフィッシャー滴定によって測定された。簡単に説明すると、サンプルを秤量し、サンプルバイアルにキャップをし、Metrohm 850 KF Thermoprepに入れ、150℃に加熱した。サンプルからの気化水をMetrohm 851 Titrandoに毎分50mLの速度でポンプにより注入した。水分パーセントは、Hydranal水標準(Honeywell)を参照対照として、サンプル重量と反応出力から計算した。最近の凍結乾燥機(Virtis Ultra 50)には、含水率を評価・監視する新しい仕掛けがある。
【0074】
バイオバーデン
バイオマスの収穫後、葉を200ppmの塩素溶液で洗浄し、USP精製水で3回すすいだ。その後、葉から余分な水分を取り除き、組織を凍結保存した。その後、組織を凍結乾燥機(Ultra50, SP Scientific, Stone Ridge, NY)で凍結乾燥し、含水率を評価した後、粉砕し、ふるいにかけて再度含水率とバイオバーデンを評価した。バイオバーデンは、USP <61>(非滅菌製品の微生物学的検査:微生物列挙試験)およびUSP <62>(非滅菌製品の微生物学的検査:特定微生物の試験)に従って評価した。好気性微生物と真菌の負荷は、連続希釈液をそれぞれトリプティカーゼ大豆寒天培地とサブウロードデキストロース寒天培地に二重でプレートし、それぞれ30~35℃で3~5日間、または20~25℃で 5~7日間培養して評価した。経口投与については、USP <1111>(非滅菌製品の微生物検査:医薬製剤および医薬用物質の受入基準)に従い、好気性微生物総数≦2×103cfu/g、酵母およびカビ総数≦2×102cfu/gを受入基準とした。
【0075】
全タンパク質抽出とACE2の定量
CTB-ACE2の発現レベルは、CTB抗体と標準物質を用いたウェスタンブロットにより、前述(Daniell et al 2020)のように、適切な修正を加えて定量した。凍結乾燥した植物粉末5 mgを、100 mM NaCl、10 mM EDTA(pH8)、200 mM Tris(pH8)、100 mM DTT、1X PIC、2 mM PMSF、および10 mM β-メルカプトエタノールを含むタンパク質抽出緩衝液(PEB)500 μlで抽出した。サンプルは4℃でボルテックスしながら5分間インキュベートし、14,000 rpm、4℃で10分間遠心分離した。最初の上清を捨て、ペレットを500μlのPEBに懸濁し、ボルテックスしながら4℃で1時間インキュベートした。続いて、ソニケーター3000(Misonix, Farmingdale, NY)を用いて、80%の振幅で10秒間オン、15秒間オフ(3X)の超音波処理を行った。その後、サンプルを14,000 rpm、4℃で10分間遠心分離し、2回目の上清を廃棄した。ペレットを200μlのPEB緩衝液に再懸濁し、上記のように超音波処理した。全タンパク質濃度はBradford assay(Bio-rad Laboratories, Hercules, CA)で定量し、ホモジナイズしたタンパク質を1X Laemmliバッファー中70℃で15分間加熱し、10% SDS-ポリアクリルアミドページで分析した。各サンプルについて、25ngと50ngの総タンパク質をウェスタンブロットゲルにロードし、抗CTB抗体(1:10,000)(Gen Way Biotech, San Diego, CA)、ヤギ抗ウサギIgG-HRP二次抗体(1:4000)(Southern Biotechnology, Birmingham, AL)、およびprecision plus タンパク質標準(Bio-rad Laboratories, Hercules, CA)をすべてのウェスタンブロット分析に使用した。ACE2タンパク質は、iBright Western Blot Imaging Systems(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)のSupersignal west Pico Chemiluminescent substrate(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)で検出した。ACE2タンパク質の定量は、iBright Analysis Software(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)を用いて、CTB標準濃度に従って行った。
【0076】
植物抽出物および唾液中のACE2酵素活性アッセイ
SARS-CoV-19感染者と健常者の唾液を用いてACE2活性測定を行った。唾液サンプルは1:5希釈で調製した。この調製したサンプル75μlを、ACE2緩衝液(1mol/L NaCl、75mmol/L Tris HCl、pH 7.5、50μmol/L ZnCl2)25μlと、ACE2特異的蛍光ペプチド基質VI Mca-APK(Dnp)(R&D Systems, Minneapolis, MN)20μmol/Lを含む黒色96ウェルマイクロタイタープレートに加えた。酵素活性は、28℃、5分間隔で90分間、光学位置を上にしてゲインを伸ばし、励起は340nm、発光は405nmで記録した。読み取り後、各時点での相対蛍光単位をプロットした。ΔRFUは、時点90分のデータから時点0分のデータを差し引くことにより算出した。残りの唾液サンプル中の総可溶性タンパク質は、標準的なダニエル研究室のプロトコルを用いてBradford assayで測定した。最終的なACE-2酵素活性は、pmol/min/mg(mU/mg)=Δpmol/90min/mg総タンパク質として計算した。
【0077】
マイクロバブリングSARS-CoV-2抗原アッセイ
150μLの患者検体を各粉末チューブに加え、ボルテックスした。その後、チューブを回転させながら4℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後、チューブを再度ボルテックスし、14,000RPM、4℃で20分間スピンした。チューブを回収し、上清120μLをまず10%TWEEN 20(100×、1.2μL)および100×プロテアーゼ阻害剤カクテル(1.2μL)のウイルス溶解バッファーと混合し、室温で30分間インキュベートした。次に、溶解したサンプルをマイクロバブリングSARS-CoV-2抗原アッセイ (Chen H. et al. 2019, 2021)により試験した。簡単に説明すると、サンプル溶液(100μL)を、50万個の捕捉抗体機能化磁気ビーズの懸濁液とともに、ローラー(12rpm)上で室温で30分間インキュベートした。その後、ビーズをマグネットで分離し、0.01% TWEEN 20を含むPBSバッファーpH7.4で3回洗浄した後、1% BSAを含むPBS中、250 ng/mLのビオチン化検出抗体100 μLに再懸濁し、ローラー(12 rpm)上で室温、30分間静置した。その後、ビーズをマグネットで分離し、0.01% TWEEN 20を含むPBS緩衝液pH7.4で3回洗浄した後、1% BSAを含むPBS中、1 μg/mLのNeutrAvidin官能基化PtNP 100 μLに再懸濁し、ローラー(12 rpm)で室温、30分間静置した。その後、ビーズをマグネットで分離し、0.01% TWEEN 20を含むPBSバッファーpH7.4で3回洗浄し、100μLの30% H2O2に再懸濁した。その後、磁気ビーズスラリーをマイクロバブリングマイクロチップのチャンバーに加えた。マイクロバブリングマイクロチップをネオジムディスク磁石の上に1分間置き、ビーズをマイクロチップの底に引き下ろした。マイクロバブリングマイクロチップ上のマイクロバブルを、uHandy携帯電話用顕微鏡でiPhone 11またはiPadを使って画像化した (9倍、焦点距離5mm、Aidmics Biotechnology社、台北、台湾)。
【0078】
レンチウイルス-スパイク中和アッセイ
レンチウイルス粒子を、Crawfordら(Crawford, Katharine HD, et al. "Protocol and reagents for pseudotyping lentiviral particles with SARS-CoV-2 spike protein for neutralization assays." Viruses 12.5 (2020): 513)に従って293FT細胞で調製した。Vero細胞を96ウェルプレートに1.25x104細胞/ウェルで 一晩播種し、37℃、5%CO2の加湿インキュベーター内で培養した。ACE2ガムまたは対応するプラセボを、バックグラウンドのルシフェラーゼ活性の少なくとも200倍のシグナルを生成するのに十分なウイルス粒子を含む800μLの増殖培地と合わせた。4℃で1時間穏やかに混合した後、14,000rpm、4℃で20分間遠心して上清を回収し、100μLの上清を各ウェルに添加し、さらに5μg/mLのポリブレンを含む新鮮培地を110μL添加した。24時間処理後、細胞をBright-Glo Luciferase Assay System(Promega社製)を用いて、製造元の推奨に従って処理し、マイクロプレートリーダーで発光を測定した。
【0079】
VSV-S擬似型中和アッセイ
VSV-S擬似型粒子は、以前に記載された水疱性口内炎ウイルス(VSV)プラットフォームを用いて作製した(1, 2)。簡単に説明すると、SARS-CoV-2 Spikeタンパク質をエンベロープに組み込んだ偽型VSVビリオンは、HEK293T細胞に、細胞質側末端に18残基の切断を持つコドン最適化SARS-CoV-2 S遺伝子をコードするpCG1 SARS-CoV-2 S delta18発現プラスミド(Paul BatesとStefan Pohlmannの好意により提供された)をトランスフェクションすることにより産生された(3)。トランスフェクション後30時間で、SARS-CoV-2スパイク発現細胞をVSVΔG-RFP擬似型で4時間形質導入した。ウイルス接種液を除去し、細胞をPBS 1xで2回洗浄し、結合していないウイルスを除去した。導入後28時間で、VSV-S擬似型を含む培地を採取し、4,000rpmで15分間、2回遠心分離して清澄化した。VSV-S擬似型は、ACE2中和試験に使用するまで、分注し、-80℃で保存した。
【0080】
Vero E6細胞を96ウェルプレートに1ウェル当たり1×10^4細胞で播種し、37℃で一晩培養した。培地中の100ulのVSV-S擬似型粒子(~1.2x104赤色蛍光単位)を、250ngのCTB-ACE2または5mg、10mg、20mgまたは50mgのACE2ガム粉末と混合し、4℃で30分間端から端まで回転させた。試料を14.8K rpm、4℃で20分間遠心分離してガム粉末をペレット化し、上清を37℃で1時間、15分ごとに振り混ぜながらVero細胞に加えた。ウイルス接種液を除去し、細胞をPBS 1xで2回洗浄し、結合していないウイルス粒子を除去した。導入後24時間で、赤色蛍光タンパク質(RFP)の発現を蛍光顕微鏡で可視化し、定量した。各条件におけるRFPの発現は、2回の独立した実験で行った2つのテクニカルレプリケートで測定した。VSV-Sの侵入阻害率は、未処置のVSV-Sコントロールに対する相対値で計算し、統計的有意性はstudent t-testで解析した。
【0081】
ddPCRアッセイ
15人のCOVID-19患者の唾液サンプルがペンシルバニア大学の医療スタッフによって採取された。実験室の汚染によるウイルス感染や偽陽性の結果を避けるため、すべての実験はBSL2強化バイオセーフティキャビネット内で行われた。140μlの唾液を混合し、100mgのACE2ガム粉末とともに室温で1時間、回転させながらインキュベートした後、14,000rpmで20分間スピンした。全RNAはQIAamp viral RNA mini kit(Qiagen)を用い、製造者の指示に従って上清から抽出した。ddPCRはCOVID-19 digital PCR detection kit(Biorad)を用いて二重に行った。すべての手順は、スーパーミックスプローブ(Bio-Rad)を用いたQX200 Droplet Digital PCR Systemの製造説明書に従った。ヌクレオカプシドN1、N2遺伝子、Rnase P遺伝子陽性参照遺伝子の領域を検出できるキットである。各反応ミックス22マイクロリットルをQX200液滴発生器(Bio-Rad)で液滴に変換した。液滴分割したサンプルを96ウェルプレートに移し、密封した後、T100 Thermal Cycler(Bio-Rad社製)を用いて以下のサイクリングプロトコルでサイクリングした:95℃、10分間(DNAポリメラーゼ活性化)、94℃、30秒間(変性)、60℃、1分間(アニーリング)のサイクルを40回繰り返した後、4度の無限フォールドを行う。その後、サイクリングしたプレートを移し、QX200リーダー(Bio-Rad)を用いてFAMおよびHEXチャンネルで読み取った。データはQuantaSoft analysis Pro 1.0.596ソフトウェア(Bio-Rad)を用いて解析した。
【0082】
以下の実施例は、本発明の種々の実施形態を例示するために提供される。これらは本発明を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0083】
実施例1
チューインガム中のACE2またはHAを用いて口腔内ウイルスの伝播と感染を減少させる
フラウンホーファーUSA、エアロファームスにおける臨床グレードのACE2プラント生産
CTB-ACE2植物は、以前の発表(Daniell et al 2020, 上掲)で報告されたように作成した。同じロットの種子がフラウンホーファーとエアロファームスに提供され、植物が方法のセクションに記載されているように栽培された。生育条件は異なるが、1株当たりのバイオマス収量は80~90日では同程度であったが、株が大きくなるにつれて減少した。エアロファームスで栽培された植物の最大発現量が2mg CTB-ACE2/g乾燥重量未満であったのに対し、フラウンホーファーUSAでの発現量は15-22mg/g乾燥重量であり、これは改変された葉でこれまでに達成された最高発現量を示していると思われる(
図1および表1)。しかし、生育条件に関係なく、両施設でバイオマスが最も少なく収穫されたときに、最も古い植物で最も高い発現が観察された。したがって、最終収穫を1回遅らせることで、タンパク質製剤の生産量と収量をさらに向上させることができる。乾燥重量に基づく総タンパク質も、フラウンホーファー(140~147mg/g DW)の方がエアロファームス(93~129mg/g DW)より高く、栄養液の違いがタンパク質合成に影響していることが示唆された。高レベルの発現は、チューインガムや治療用ACE2の経口投与に必要な植物粉末の量を減少させるため、重要な生産指標となる。
【0084】
表1:フラウンホーファーとエアロファームスで栽培されたCTB-ACE2植物の生鮮な収穫バイオマス、含水率、総タンパク質含量、およびACE2含量と、年齢および生育条件との関係。CTB-ACE2発現の値は平均値±SD(n=3)である。総葉タンパク質の値は平均±SD(n=8)である。
【表1】
【0085】
チューインガム
Per Os Biosciences社(メリーランド州ハントバレー)では、植物粉末が入ったチューインガム錠剤を圧縮法で調製したが、従来のガム製造工程では、高温と押し出し/圧延が必要で有効成分濃度にばらつきが生じる。ガム錠剤は、最高の風味、味、柔らかさ、圧縮を提供するために、ガムベース(28.2%)、マルチトール(20.4%)、ソルビトール(13%)、キシリトール(13%)、イソマルト(13%)、天然および人工香料、ステアリン酸マグネシウム(3%)、二酸化ケイ素(0.43%)、ステビア(0.65%)、およびACE2を発現する凍結乾燥植物細胞を含んでいた。このガム錠剤は、物理的特性から従来のチューインガムとまったく同じように噛み、機能する。凍結乾燥した植物細胞を5回と10回のパルスで粉砕し、上澄みにより多くのタンパク質を放出させ、咀嚼中に歯による機械的粉砕を必要とする可能性のある無傷の植物細胞内の保持を少なくした。2種類の濃度のACE2ガム粉末を、2グラムのチューインガム錠剤と、CTB-ACE2凍結乾燥植物細胞を含まないプラセボガムにした。
【0086】
SARS-CoV-2スパイク擬似型レンチウイルス粒子を用いた中和アッセイ
CTB-ACE2は、ヒト細胞表面に近接して存在するGM1受容体とACE2受容体の結合部位に効果的に結合し、ヒト細胞へのウイルス侵入を阻止する可能性がある。そこで、スパイクを介したウイルス感染に対するACE2ガムの中和効果を調べるために、SARS-CoV-2擬似型レンチウイルス(レンチウイルス粒子とも呼ばれる)を用いた。ヒトACE2を発現するCHO細胞を感染させるために、ウイルスのスパイクタンパク質で擬似型を作り、ルシフェラーゼレポーター遺伝子を発現する偽ウイルスを保有するレンチウイルス粒子を使用した。ルシフェラーゼを発現するSARS-CoV-2スパイク糖タンパク質擬似型ウイルスを、指示濃度のACE2ガムと室温で90分間インキュベートした。遠心分離後、ウイルス含有上清をACE2発現CHO細胞と72時間インキュベートし、ウイルス感染性をルシフェラーゼで測定した。
図2Aに示すように、レンチウイルスをACE2ガムとともにインキュベートすると、用量依存的にルシフェラーゼ活性が有意に低下し、スパイクを介した感染が効果的に中和されることが示された。特に、ACE2ガム処置と対応するプラセボとの比較では、ACE2がスパイク媒介感染を有意に抑制することが示された。例えば、50mgのACE2ガムは、対応するプラセボと比較して、感染力を約95%減少させる効果があった(
図2B)。
【0087】
図2Cに示したデータは、3つの独立した実験(N = 2-3サンプル)の代表である。棒グラフは条件平均、記号は二重または三重アッセイの平均、エラーバーはSEMを表す。擬似型レンチウイルスとCTB-ACE2ガムとのインキュベーションは、用量依存的にルシフェラーゼ活性を有意に低下させた;50mgのCTB-ACE2で、最も高い阻害(p<0.0001****)が観察された(
図2A、2Bおよび2C)。このことは、レンチウイルスのスパイクタンパク質がCHO細胞に侵入するのをブロックするこのタンパク質の能力を、スパイクタンパク質への直接結合、またはCHO細胞上のACE2/GM1レセプターへのCTB-ACE2の結合のいずれかによって確認している。
【0088】
VSV-S擬似型の侵入は組換えCTB-ACE2とACE2ガム粉末によって阻害される
RFPを発現するVSV-S擬似型粒子は、SARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質を利用して細胞に結合し侵入する。精製した組換えCTB-ACE2タンパク質またはACE2ガム粉末がVSV-S粒子と結合し、Vero細胞へのウイルス粒子の侵入を阻害するかどうかを評価した。実験を繰り返した結果、CTB-ACE2を添加すると、VSV-Sの侵入が未処置のコントロールに比べて約85%阻害されることがわかった(
図3)。また、VSV-S粒子をACE2ガム粉末の濃度を上げてインキュベートしたところ、用量依存的に侵入が阻害された(
図3)。実際、蛍光顕微鏡の代表的な画像は、コントロールと20mgのACE2ガム粉末サンプルとでは、RFPを発現している細胞数に明らかな有意差があることを強調している。これらのデータを総合すると、CTB-ACE2タンパク質とACE2ガム粉末がVSV-S疑似型粒子を捕捉し、スパイクタンパク質に直接結合するか、Vero細胞表面のACE2/GM1レセプターに結合することにより、ウイルスの侵入を減少させることが示された。
【0089】
マイクロバブルとガムによる綿棒検体中のSARS-Cov-2の評価
SARS-CoV-2の核酸とヌクレオカプシド抗原が陽性であった患者から採取した数種類の非同定鼻咽頭(NP)綿棒検体を用いて、ACE2-ガムによるウイルス粒子の中和作用を評価した。マイクロバブリングSARS-CoV-2抗原アッセイはSARS-CoV-2のヌクレオカプシド抗原をフェムトモル濃度で検出する。(参考文献欄に追加した参考文献を参照、Chen et al. Ange Chemie 31, 14060-14066 (2019); Chen et al. MedRxiv doi:10.1101/2021.03.17.21253847.)マイクロバブルの数とサイズは、サンプル中のヌクレオカプシド抗原の量と相関する。患者1と患者2の試料は150μLの試料あたり25mgのガムで処置し、患者3の試料は150μLの試料あたり50mgのガムで処置した。その後、サンプルはマイクロバブリングSARS-CoV-2抗原アッセイを用いて検査された。
図4に示すように、ACE-2ガムで綿棒検体をインキュベートすると、プラセボガムや未処置群と比較して、マイクロバブル数が有意に減少した。これは、ACE-2ガムが患者検体中のヌクレオキャプシド抗原の量を減少させたことを示している。減少率は70%から89%であった。対照的に、プラセボガムを未処置群と比較した場合、有意な変動は少なかった(p値0.892)。ACE2ガムは、COVID-19患者サンプル中のヌクレオカプシド抗原量を非常に低濃度(25mg)でも減少させたが、各ガムの重量は2gであった。これらの結果から、ACE2がSARS-CoV-2のスパイクタンパク質に直接結合し、CTB-ACE2の5量体不溶性微粒子に封入されることで、遠心分離による結合ウイルス粒子の除去が容易になることが確認された。
【0090】
対照とCOVID-19患者の唾液中のACE2活性
COVID-19患者10名(年齢範囲)と健常対照者10名から唾液サンプルを採取した。ACE2活性は、COVID-19患者では対照群と比べて著しく低下していた(
図5A-C)。COVID-19患者10人から採取したウイルスが付着した唾液中のACE2活性は、健常人と比較して大幅に低下していることが観察された(2582±439.82 vs 71356±2116ΔRFU、27.63±9.52 vs 257±7.89mU/mg酵素活性単位)。ACE2の蛍光切断産物(Mca-YVADAPK)は、対照唾液サンプルで90分まで着実に増加した。すべてのCovid-19唾液サンプルは同様に低く、ほとんど検出されないACE2活性を示したが、1つのサンプルは対照唾液と同様の酵素活性(38504±9688 ΔRFU;236.4±60.28mU/mg 酵素活性単位)を持つ異常値として際立っており、これは
図4B、Cで除外されている。この患者はカルテによれば無症状であり、COVID-19を発症していないが、PCRデータではSARS-CoV-2の存在が確認された。したがって、唾液中のACE2活性は、症候性COVID-19患者と無症候性COVID-19患者を区別する強力なバイオマーカーである。人口統計学的データに基づく健康な患者のACE2活性のわずかな変動は、異なる年齢層や民族的背景を持つ患者において現在調査中である。
【0091】
全長CTB-ACE2の活性はSARS-COV-2スパイクタンパク質によって阻害される
COVID-19唾液中のACE2活性の低下、SARS-COV-2スパイクタンパク質による阻害の機構的理由を調べるために、SARS-COV-2スパイクタンパク質(RBD、S1-S2) の存在下または非存在下で全長CTB-ACE2を用いてin vitro酵素アッセイを行った。CTB-ACE2をCTB-ACE2トランスプラストミック凍結乾燥葉粉末から抽出し、20μg のタンパク質抽出物を蛍光速度論的アッセイに使用した。CTB-ACE2タンパク質抽出物の蛍光切断産物(Mca-YVADAPK)は、90分まで徐々に増幅し、ACE2が酵素的に活性であることを示した(
図5D)。しかしこの活性は、CTB-ACE2を10μgのSARS-COV-2 S1-S2スパイクタンパク質と30分間RTでプレインキュベートすると、部分的に阻害された(
図5D)。実際、ACE2活性は10μgのSARS-COV-2 RBDのプレインキュベーション(30分)によって完全に阻害された。これらを総合すると、SARS-COV-2スパイクタンパク質はRBDを介して全長ACE2に結合し
[4,5,6]、ACE2活性を低下させることが示唆された。
【0092】
ddPCRによる唾液中のSARS-CoV-2のデバルキングによる評価
SARS-CoV-2陽性患者から採取した数種類の唾液サンプルを用いて、ACE2またはプラセボガムによるウイルス粒子のデバルキングをddPCRで評価した。実際のウイルス粒子を測定するマイクロバブルアッセイとは異なり、ddPCRはウイルスRNAを増幅するため、患者に存在するウイルスRNAの実際のコピーは測定されない。PCR増幅は唾液検査の感度を高めるために用いられるが、定量的ではない。実際、PCR増幅はCOVID-19の重症度予測にはまだ使われていない。このようなPCR法の限界を考慮し、我々は唾液中のウイルスの脱落を測定するためにこの方法を評価した。増幅にもかかわらず、検査したほとんどのサンプルで、プラセボでは2~4倍、ACE2ガムでは10倍以上の減少が見られ、ddPCRで確実に測定できる最小コピー数までほぼ減少した。
図6Aおよび6Bに示すように、唾液サンプルとACE-2ガムのインキュベーションは、プラセボガムおよび未処置群と比較して、SARS-Cov2コピーを有意に減少させた。ほとんどの処理サンプルで、90%以上の減少率を示した。
図6Cを参照されたい。
【0093】
ディスカッション
健康なヒトの肺では、ACE2は主にII型肺胞上皮細胞に発現している。この細胞は肺胞の崩壊を防ぐために界面活性剤を産生し、体液の浸出を制限するタイトジャンクションを持っている。ACE2はレニン-アンジオテンシン系(RAS)の不可欠な部分であり、血管収縮、炎症、凝固亢進、線維化を引き起こすアンジオテンシンII(Ang II)を切断し(Gheblawi et al. Circ Res.2020;126:1456-1474)、抗炎症性、細胞保護性のアンジオテンシン1-7(Ang 1-7)ペプチドを産生する。ヒトACE2は、可溶性型(sACE2)と膜結合型(mACE2)の両方で存在し、後者が最も優勢である(Rahman et al. Rev Med Virol.2021;1-12; Anand et al. Viruses 2020, 12, 1104; Batlle et al. 2020 Clinical Science 134:543-545).sACE2の存在量が少なく、寿命が短く、SARS-CoV-2-sACE2複合体として宿主細胞に侵入することが、COVID-19を併発した患者が防御を得られない理由の一つであると説明されている(Rahman et al 2021, surpra)。治療用ACE2の場合、追加注入は、失われたsACE2を補い、COVID-19患者におけるダウンレギュレーションを防止することによってRASのバランスを助ける可能性がある(Zoufalyら、Lancet Respir Med.2020;8:1154-1158)、あるいは肺高血圧症モデルにおいて経口ACE2を投与すると、右室(RV)肥大、RV収縮期圧、総肺抵抗、肺動脈リモデリングの低下とともに肺高血圧症の発症が抑制される(Daniell Hら, 2020, surpra; Shenoyら, 2014 Hypertension 64, 1248-1259)。注入された切断型(膜貫通型)sACE2(Zoufalyら、2020年、上掲)とは対照的に、全長経口CTB-ACE2は、バイオカプセル化植物細胞の経口投与により、血漿中よりも10倍高い濃度で肺に蓄積し(Daniellら、2020年、2021年、上掲)、COVID-19患者を治療するためのさらに別のアプローチを提供する。実際、植物にバイオカプセル化されたタンパク質医薬品の経口投与は、法外に高価な発酵、精製、輸送/貯蔵のためのコールドチェーン、無菌注射を排除することによってコストを削減する(Daniellら、2019、上掲;2021、上掲;Parkら、2020 Biomaterials 233、119591)。
【0094】
ACE2チューインガムがSARS-CoV-2を捕捉し、ウイルスを除去して経口感染を減少させることができるかどうかが調査された。ACE2受容体を介したSARS-CoV-2のヒト細胞への侵入は広く報告されているが、GM1共受容体の必要性についてはあまり研究されていない(Fantini et al. Int J Antimicrob Agents.2020; 56:106020)。同様に、発表された文献はACE2レセプターに焦点を当てたものが多く、可溶性ACE2の役割はあまり理解されていない。実際、SARS-CoV-2は、他の既知のコロナウイルスよりも、単量体の可溶性ACE2との結合親和性が高い(Anandら、2020、上掲)。
【0095】
本研究の実験は、以下の目的でデザインされた:1) CTB-ACE2がスパイクタンパク質に直接結合し、遠心分離後のガムベースまたはペレットにウイルス粒子を捕捉する; 2)CTB-ACE2は5量体の不溶性ナノ粒子を形成する(これによりウイルス粒子の捕捉が容易になるはずである); 3) SARS-CoV-2は細胞侵入にACE2レセプターとGM1コ・レセプターの両方を必要とする - CTB-ACE2は、GM1レセプターに対するCTBの高い親和性により、これら両方のレセプターを飽和させることができるため、スパイクタンパク質を発現させるか、ヒト口腔上皮細胞への侵入を阻止するように改変したVSVまたはレンチウイルスを用いたVero細胞でのウイルス中和研究が容易になる。したがって、sACE2はSARS-CoV-2とACE2受容体結合部位を競合させ、「おとり」として働き、またSARS-CoV-2のスパイクタンパク質と直接結合し、ヒト細胞への侵入を防ぐことができる(Daniellら2021年、上掲;Batleら2020年、上掲)。実際、最近の研究では、偽ウイルスで改変されたスパイクタンパク質が、ACE2をダウンレギュレートし、結果としてミトコンドリア機能を阻害することによって、血管内皮細胞にダメージを与えることが示されている(Lei et al.Circulation Research 2021;128:1323-1326)。したがって、ACE2チューインガムを用いてSARS-CoV-2を捕捉し、スパイクタンパク質レベルを低下させることは、治療上および予防上、極めて重要である。
【0096】
プラセボ効果があり、その強さは本研究で試験したウイルス粒子密度に依存することに留意すべきである。48種類の糖アルコール化合物のインシリコ・スクリーニングにより、ウイルスタンパク質との結合親和性が最大となる3種類の糖アルコール化合物(ソルビトール、マンニトール、ガラクチトール)が同定され、特に結合エネルギーと水素結合相互作用の数から、エボラ出血熱VP40のソルビトールに対する親和性が高いことが判明した(Nagarajan et al 2019 Molecular Biology Reports 46:3315-3324)。ACE2チューインガムには、マルチトール(20.4%)とソルビトールとキシリトールがそれぞれ13%含まれている。Wrigley's社、Mondelaz社、Hershey's社製の砂糖不使用チューインガム製品には、キシリトール、ソルビトール、イソマルト、マルチトールの様々な組み合わせが含まれている。チューインガムの2大ブランド、ストライド(モンデラーズ)とアイスブレーカーズ(ハーシーズ)には、これら4種類の糖アルコールがすべて含まれている。したがって、パンデミック時にガムを噛む人は、口腔内のウイルスを減少させる上で何らかの利点があるかもしれないが、ガムベースにACE2を加えることで、ウイルス粒子の捕捉と中和が劇的に促進されることは注目に値する。
【0097】
偽ウイルスの評価
SARS-CoV-2のSタンパク質を発現するVSV粒子は、ACE2発現細胞へのこのコロナウイルスの侵入を正確に模倣するために使用できる。特筆すべきは、このアッセイ法はBSL-2レベルで迅速に実施でき、エントリー阻害剤の有効性を初期評価できることである。ここでは、この方法を用いて、組換えCTB-ACE2とACE2ガム粉末の濃度を上げると、対照に比べてVSV-S粒子の侵入が効果的に阻害されることを示した。一貫して、ACE2ガム粉末はスパイク擬似型レンチウイルス粒子による感染も効果的に阻害した。
【0098】
インフルエンザ感染予防のためのチューインガム
1918年の最初のインフルエンザ・パンデミックと2005/2005年の流行以来、WHOはインフルエンザを監視するための149のナショナルセンターを設置している。ヒトのインフルエンザは感染性の呼吸器疾患である。インフルエンザウイルスには4つのタイプがある:A(IAV)、B(IVB)、C(ICV)、D(IDV)。A型とB型が最も一般的で、A型はパンデミックや季節的流行の原因となる。インフルエンザA、Bウイルスは、直径80~120 nm、質量約170~200,000 kDaの一本鎖RNAの8本の線状セグメントを有する(Paules & Subbarao, Lancet 2017, 390, 697-708.; Jang & Seong, 2017 Front.Cell Infect.Microbiol.9, 344)。インフルエンザウイルス表面のほぼ40%はスパイクタンパク質で覆われており、350個のヘマグルチニン(H亜型)と70個のノイラミニダーゼ(N亜型)のスパイクがあり、変異はウイルス粒子の感染性に影響を与える(Ksenofontov et al. Molekulyarnaya Biologiya, 2008, Vol. 42, No. 6, pp. 1078-1080)。中国では2013年と2017年に鳥インフルエンザウイルス(H7N9)の流行が発生した。インフルエンザウイルスは宿主細胞のシアル酸レセプターとHAタンパク質のレセプター結合ドメインを利用している。季節性インフルエンザのたびに、抗原的にドリフトした変異型のために新しいインフルエンザワクチンが開発されている (Krammer et al. Nat. Rev. Drug Discov.14 (3) (2015) 167-182)。IAVに対するワクチンが開発される一方で、新たに進化する鳥類/哺乳類またはコウモリ由来の血清型(H1-H18、N1-N11、Wuら, Trends Microbiol.22 (4) (2014) 183-191)がより大きな危険をもたらす。SARS-Cov-2スパイクタンパク質についてこの実施例で述べた概念を用いれば、チューインガム中の改変されたIAV遮断ペプチド(または実施例2で開示したFRIL)でウイルスを減少することにより、季節性インフルエンザの間のインフルエンザウイルス感染を減少させることができる。このようなペプチドはHAやノイラミニダーゼタンパク質の一部を含むことができる。これらの組成物および方法は、罹患者のウイルス負荷を低下させることにより、治療上および社会的利益をもたらすであろう。
【0099】
実施例2
口腔内の異なるコロナ(SARS-COV-2デルタ、オミクロン、OC43)ウイルス株およびインフルエンザ(H1N1、H3N2)ウイルス株を、チューインガムに分子を捕捉することにより除去し、感染および伝播を減少させる。
【0100】
微生物感染によって引き起こされる口腔疾患は、世界中で35億人を苦しめている。細菌や真菌は歯の表面に定着し、粘着性が高く難治性のバイオフィルムを形成して重度のう蝕を引き起こすが、唾液は飛沫やエアロゾル化した粒子として感染する病原体の主要な供給源である [1] 。最近懸念されているのはCOVID-19で、唾液腺がSARS-CoV-2の主要な複製部位となり、味覚と嗅覚の喪失につながる[2-5]。さらに、インフルエンザ、HPV、HSV1、EBV、KSHVウイルスも経口感染し、口腔上皮におけるライフサイクルはよく知られている[6-11]。これらのウイルスはそれぞれ、FRILが結合できる単体または複合体のグルカンを表面に持っている。
【0101】
SARS-CoV-2は、ワクチン未接種者間での感染が拡大し続ける主な原因であるが、ワクチン接種を受けた患者でも、ピーク時のウイルス負荷はワクチン未接種者と同程度であり、家庭内でも効率的にウイルスを伝播する[12]。同様に重要なのは、SARS-CoV-2の進化パターンであり、抗体耐性変異によってウイルスの感染力が強化されることである[13]。SARS-CoV-2は経鼻および経口感染するが、経口感染は経鼻感染より3-5桁高い[14-28]。健康な対象の唾液飛沫の空気浮遊量は、呼気飛沫よりも3~5桁多い。4つの単語を話すと、1時間の呼吸全体よりも多くのウイルス粒子が放出されることから、経口ウイルス負荷の低下がウイルス感染に大きな影響を及ぼす可能性が示唆される[14-28]。そのため、口腔内の病原体を除去し、感染を最小限に抑える新しい方法が提案されている。
【0102】
COVID-19患者における洗口液の臨床評価では、洗口後2時間までの唾液ウイルス負荷に統計的に有意な変化は認められなかった[29]。症状が消失してから数週間後にSARS-CoV-2が検出され[30-32]、その後CDCが感染発症から90日後まではqPCR検査を行わないようガイドラインを出したことからも明らかなように、qPCRでは生存していないウイルス粒子が検出される可能性がある。ACE2酵素は、これまでの研究で肺高血圧症を治療するために葉緑体中で発現されてきたが、現在、COVID-19患者を治療するために臨床へと進んでいる。さらに、実施例1で上に説明したように、CTB-ACE2チューインガムは、可溶性ACE2へのスパイクタンパク質の直接結合によって、マイクロバブルまたはqPCR [34]によって測定されたCOVID-19患者の唾液または綿棒検体中のSARS-CoV-2を顕著に減少する(95%以上)ことができた(
図7A)。CTB-ACE2によるACE2およびGM1レセプターへのスパイクタンパク質の関与の阻害(
図7A)は、レンチウイルスまたはVSV疑似型ビリオンのVero細胞への取り込みを阻害することで評価した。この研究で使用されたネイティブなヒトACE2酵素に加え、SARS-CoV-2に対してより高い親和性を持ついくつかの変異型が開発されており、ウイルス捕捉タンパク質として利用することも可能である[35,36]。
【0103】
SARS-CoV-2とインフルエンザは、エアロゾル感染によって拡散し、最も多くの人々に病気と死亡をもたらす最も強力なウイルスである。植物レクチンFRILの意義は、アウターエンベロープに複合型Nグリカン(
図7B)を発現するウイルスを優先的に捕捉することにある[38,39]。エンベロープ・ウイルスは高マンノース、複合型N-結合型グリカン、あるいは非複合型ハイブリッド多糖のいずれかを発現する。SARS-CoV-2とインフルエンザ(Flu)の両ウイルスは、そのエンベロープに複合型Nグリカンを含むことが示されている[38-41]。インフルエンザ(Flu)は、特に重要な呼吸器系ウイルスであり、世界中の人々に影響を及ぼしている[42]。感染症は季節性で主に風土病であり、罹患率と死亡率が高い [42] 。世界的に、インフルエンザは毎年50万人の死者を出している[40]。エンベロープ・ウイルスエンザ・ワクチンは、少しずつ変異のある新型株(Genetic Drift)に基づいて開発される[42]。インフルエンザは、ヒトのインフルエンザのHAとNAを別々にコードする分節化されたゲノム鎖が、鳥やブタなどの異なる種に感染した際に混在すると、特に生命を脅かす(Genetic Shift)[42]。過去150年間にいくつかの大きなパンデミックが起こったが、1918年は最悪のケースで、5000万人が死亡し、世界人口の3分の1が感染した[40,42]。H5N1型鳥インフルエンザは2013年に中国で発生し、ヒトに直接感染し、世界中に広がる可能性がある[43]。
【0104】
ネイティブヒトタンパク質ACE2を用いたSARS-CoV-2のデバルキングに対するCOVIDガムの成功(実施例1参照)に基づき、本実施例では、マイクロバブリング(N-抗原)またはRAPID(スパイクタンパク質)アッセイを用いて、SARS-CoV-2の異なる株における封じ込め効果を検討した。さらに、SARS-CoV-2およびインフルエンザウイルスを中和する可能性のあるウイルス捕捉植物タンパク質レクチン(FRIL)について、プラーク減少アッセイおよび電子顕微鏡写真を用いた封入メカニズムについて検討した。タンパク質製剤は50年間、無菌注射薬として提供されてきたため、低温保存や輸送が必要となり、患者の購入しやすさやコンプライアンスを低下させてきた。こうした課題のいくつかに対処するため、ダニエルの研究室では、植物細胞へのタンパク質薬剤のカプセル化による経口デリバリーシステムを開発してきた[44-49]。植物細胞のバイオカプセル化は、低温保存/輸送の課題を解消する[50-53]。植物細胞は現在、バイオフィルムを破壊してう蝕の原因となる病原体を死滅させたり[50]、唾液中のSARS-CoV-2を除去して再感染と伝播を減少させたり[34]、口腔内に定着する病原体に対してタンパク質薬剤を送達する新しい戦略として開発されている。この方法は、唾液中のウイルス負荷を減らしたり、ほとんどのウイルス感染が発生する喉の表面をきれいにしたりするのに特に適している。チューインガムは、1928年以来[54]、アスピリン[55]、カフェイン[56]、炭酸カルシウム[57]、クロルヘキシジン[58]、ニコチン[59,60]、キシリトール[61]などの低分子を送達するために使用されてきたが、ガムを介してタンパク質を送達することは、その安定性と放出動態においてさらなる課題をもたらす。例えば、チューインガム錠剤に含まれるインスリンは、胃液でほとんど分解され、動物実験では検証されなかったが [62]、植物細胞にバイオカプセル化されたインスリンの経口投与は可能である [63]。同様に、タンパク質を植物細胞にバイオカプセル化すると、ガムの製造工程(高温を要する)で分解されず、チューインガム中で数年間安定する[34,50]。本研究では、口腔内におけるタンパク質の臨床試験を開始するために、チューインガムからのタンパク質放出動態を最適化する。
【0105】
実施例2の材料と方法
医療用CTB-ACE2レタス薬物タンパク質のチューインガム錠剤製造のための調製
CTB-ACE2レタス植物材料は、フラウンホーファー社において、先に実施例1に記載した手順に従って栽培、洗浄、凍結乾燥を行った。植物材料の粉砕は、クリーンルーム内の消毒済みベンチで、スチール製粉砕機(BioloMix Mill Grinder, Swing -700g)を用いて行った。洗浄した器具はすべて、70%イソプロピルアルコール(IPA)/エタノールで消毒し、表面に付着したバイオロードを除去した。鉗子、アルミホイルシート、ふるい(USA標準ふるい-ASTM E11仕様、No.25、710 μm)を121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。凍結乾燥した葉を滅菌アルミホイルシートの上に置き、クリーンベンチに置き、あらかじめ滅菌した鉗子を用いて中肋を除去した。あらかじめ消毒した秤で10グラムの植物を秤量し、粉砕機に移した。植物を12秒間粉砕した。粉砕時間はTraceable Nano Timer(Fisher Scientific)を用いて注意深くモニターした。粉砕した粉末をASTM E11 No.25 710 μm孔径のふるいを用いて滅菌アルミホイル上で無菌的にふるい分け、滅菌済みのUline黒色容器に移した。ふるい上に残ったものはすべて廃棄された。材料が入ったUlineの容器は、室温でスチールキャビネットに保管された。USP<61>および<62>に準じて、バイオバーデン評価について、総微生物数および酵母・カビ数を評価するために、100mgの粉砕サンプルを無菌容器に無菌的に取り出した。ガム調製に使用した植物原料の含水率は、上述のプロトコルで測定した(
図8)。
【0106】
CTB-ACE2チューインガムの準備
CTB-ACE2植物粉末が配合されたチューインガム錠剤は、Per Os Biosciences社(メリーランド州ハントバレー)が製造した。従来のガム製造技術では、タンパク質濃度にばらつきが生じ、有効性を低下させる可能性のある高温での押し出し/圧延を日常的に行っていたが、この方法では有効成分の有効性を保持することができる。CTB-ACE2ガム錠は、以下の賦形剤-ガムベース(24.46%)、ステアリン酸マグネシウム(3.00%)、マルチトール(15.98%)、キシリトール(1.98%)、ソルビトール(20.93%)、二酸化ケイ素(0.40%)、イソマルト(10.00%)、ステビア99%(0.45%)、天然香料(マルトデキストリン、デキストロース、アラビアガム、エッセンシャルオイル)を使用し、ガム錠剤を風味豊かにし、圧縮を助長する。こうして製造された50mgの植物粉末(2g/錠)を含有するガムは、物理的特性に関して、市場で入手可能な従来のガムとまったく同様の性能を発揮する。Per Os Biosciences社から受け取ったガム錠剤は、吸湿を避けるためにマイラーバッグに入れて保管した。少数の錠剤をUlineの黒色容器に入れ、一般的検査、すなわちバイオバーデン、含水率、薬物投与量の定量および放出を行った(
図8)。
【0107】
CTB-ACE2ガムの総投与量と放出量の定量化
ガム2g錠剤中のCTB-ACE2の総量をウェスタンブロット法で調べた。粉砕したガム粉末100 mgを500 μLの植物抽出バッファー(100 mM NaCl; 10 mM EDTA; 200 mM Tris-HCl, pH 8.0; 0.05% (v/v) Tween-20; 1 x protease inhibitor cocktail; 0.1% SDS; 14 mM β -Mercapto-ethanol; 400 mM sucrose; and 2 mM Phenyl-methylsulfonyl fluoride (PMSF))に懸濁し、ボルテックスで4℃、1時間インキュベートした。続いて、ソニケーター3000(Misonix, Farmingdale, NY)を用いて、80%の振幅で10秒間オン、15秒間オフを6サイクル繰り返した。総タンパク質定量用のブラッドフォードアッセイと、総CTB-ACE2用量定量用のイムノブロット分析は、ダニエル研究室が開発したプロトコルに従って行った。実施例1を参照。
【0108】
CTB-ACE2の放出を評価するために、100 mgの砕いたガムタブレットを500 μLの植物抽出バッファー(PEB)に懸濁した(10 mM EDTA; 400 mM Sucrose; 100 mM NaCl; 0.05% (v/v) Tween-20; 0.1% SDS; 14 mM β-Mercapto-ethanol; 200 mM Tris-HCl, pH 8.0; 2 mM PMSF; and 1 x protease inhibitor cocktail)に懸濁し、4℃でボルテックスしながら30分間インキュベートした。この後、750g、5分間、4℃で遠心分離を行った。上清画分は分析まで氷上で保存した。残りのペレット画分をPEBに再懸濁し、ソニケーター3000(Misonix, Farmingdale, NY)を用いて、80%の振幅で5秒間オン、10秒間オフを3サイクル繰り返した。総タンパク質定量用のブラッドフォードアッセイとCTB-ACE2放出の免疫ブロット分析は、ダニエル研究室が開発したプロトコルに従って行った。
【0109】
上咽頭綿棒ぬぐい検体の準備
ペンシルベニア大学病院に入院し、臨床的にCOVID-19感染が確認された患者から、口腔咽頭(OP)および鼻咽頭(NP)綿棒検体をフロック付きナイロン製綿棒(Copan Diagnostics社製)を用いて採取した。OP綿棒とNP綿棒は、前述のように1.5mlのウイルス輸送培地(VTM)で一緒に溶出され[64]、分析前に分注され、凍結保存(-80℃)された。インフォームド・コンセントは、ペンシルバニア大学IRB(プロトコル#823392)の承認を受けたプロトコルのもと、すべての研究参加者から提供された。ウイルスの定量は、N1プライマーを用いたqPCRにより、以前に記載されたとおりに行った[64]。ウイルス系統(表2)の割り当ては、全ゲノム配列決定に基づいて、記載されているようにPangolin系統を用いて割り当てるか[65]、またはオミクロン系統のマーカーである患者の臨床診断サンプルのRT-PCRにおけるS遺伝子標的失敗に基づいて割り当てた[66, 67]。いくつかのケースでは、オミクロン系統の割り当ては、サンプリング時の地域コミュニティ内でのほぼ100%のオミクロン循環に基づいていた。
【0110】
表2:FRILおよびCTB-ACE2抗ウイルス捕捉タンパク質で処置し、マイクロバブルSARS-CoV抗原アッセイおよびRAPIDで評価したSARS-CoV-2 NP/OP検体のオミクロン変異型のウイルス力価情報。
【表2】
【0111】
マイクロバブリングSARS-CoV-2抗原アッセイ
マイクロバブルSARS-CoV-2抗原アッセイは、上記のように臨床NP綿棒検体を用いて実施した。SARS-CoV-2のオミクロン変異型の4つの患者NP/OPサンプルのうち、2つはFRIL豆粉末で、残りの1つはCTB-ACE2ガム粉末で試験した。簡単に説明すると、患者サンプル(150μL)を、異なる用量のFRIL豆粉末(それぞれ20、40、100μgのタンパク質を含む5、10、25mg)およびCTB-ACE2ガム(それぞれ0.18、0.46、0.92μgを含む10、25、50mg)と共に、4℃で30分間インキュベートした。この後、14000rpm、20分間、4℃で遠心分離を行った。こうして回収された上清(120μL)は、ペレットを破砕することなく、別のチューブに注意深く集められた。上清をまず10% Tween 20(100倍、1.2 μL)と100倍プロテアーゼ阻害剤カクテル(1.2 μL)の溶解バッファーで処理し、室温で30分間インキュベートした。100μLの溶解サンプルを、96ウェルプレート中で50万個の捕捉抗体機能化磁気ビーズの懸濁液とインキュベートし、ローテーター(12rpm)により30分間室温で固定した。その後、96ウェルプレートを、磁気ビーズを分離するマグネットの上に置き、ウェルを洗浄バッファー(PBSバッファー、pH7.4中0.05% Tween 20)で3回洗浄し、その後、1% BSAを含むPBS中250 ng/mLのビオチン化検出抗体100 μLに再懸濁した。室温で30分間インキュベートした後、ビーズを同様に3回洗浄し、その後1 μg/mLのNeutrAvidin官能基化白金ナノ粒子100 μLに室温で30分間再懸濁した。その後、ビーズを3回洗浄し、最後に100 μLの30% H2O2に再懸濁した。磁性ビーズ/標的タンパク質/PtNpsの間に形成された免疫サンドイッチ複合体を含む磁性ビーズミックスを、以前に設計された[68,69]マイクロバブリングマイクロチップを含むマイクロウェルアレイ(14 μm x 14 μm、深さ7 μm、100 x 100)に移した。その後、これらのマイクロチップをネオジムディスク磁石の上に置き、外部磁場に9分間さらすことで、ビーズをマイクロウェルに引き下ろした。H2O2分解によるPtNPs触媒によってマイクロウェル内に酸素が蓄積した結果形成されたマイクロバブルを、iPadとuHandy携帯電話顕微鏡(倍率9倍、焦点距離5mm;Aidmics Biotechnology社製、台北、台湾)を用いて画像化した。
【0112】
迅速アッセイ
電気化学センサーは、以前に記載されたとおりに調製した[70]。ウイルスの検出には、SquidStat Plus(Admiral Instruments社製)のポテンショスタットと電気化学インピーダンス分光法(EIS)を用いた。EIS測定は、既述の方法で行った[70]。SARS-CoV-2デルタおよびオミクロン変異型のNP/OP患者綿棒検体を56℃で1時間熱不活化した。RAPIDアッセイでは、各試料150μLを20mgのCTB-ACE2破砕ガム粉末で4℃で攪拌下1時間処理した。インキュベーション後、サンプルを再度ボルテックスし、14,000rpm、4℃で20分間スピンダウンした。まず、作用電極に10μLのVTM(ブランク)を添加し、2分間放置した後、すべての電極(対極、参照電極、作用電極)を覆うように200μLの酸化還元プローブを添加し、ブランクシグナルを得るためにEIS実験を行った。ブランクを分析した後、センサーをPBS(pH7.4)で洗浄し、得られたCTB-ACE2チューインガムのインキュベーションおよび遠心分離前後のサンプルの上清の10μLアリコートを、バイオセンサーの作用電極上に直接置いた。試料は2分間の暴露後に取り出し、PBSで注意深く洗浄した後、200μLの酸化還元プローブを加えてEIS分析を行った。
【0113】
細胞株
アフリカミドリザル腎上皮Vero E6細胞を、5%熱処理ウシ胎児血清(FBS、Sigma)、100単位/mLペニシリン、2mM L-グルタミン、50μg/mLゲンタマイシン、100μg/mLストレプトマイシン、1.25 μg/mLのアムホテリシンB(Fungizone)、および10 mM HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazine ethanesulfonic acid、pH 7.2)。細胞は5%CO2、37℃でインキュベートされた。Madin-Darby Canine Kidney(MDCK)細胞を、5%熱処理ウシ胎児血清(FBS、シグマ)、100単位/mLペニシリン、2mM L-グルタミン、50μg/mLゲンタマイシン、100μg/mLストレプトマイシン、1.25μg/mLアムホテリシンB(ファンギゾン)、10mM HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸、pH7.2)を添加した最小必須培地 Alpha(MEMα、Gibco)で培養した。
【0114】
FRILタンパク質の精製
Lablab purpureus(フジマメ)豆の粉末をPBS緩衝液で抽出し、塩濃度を下げて一晩透析した。次に、沈殿物を20mMリン酸緩衝液(pH8.0)に再懸濁し、Unosphare Qカラム(BioRad, Hercules, California)に移した。結合タンパク質は、異なるNaCl勾配(0~0.5M)で抽出した。中和価の最も高い画分をプールし、濃縮し、Superdex s200 10/300GLサイズ排除カラム(GE, Boston, Massachusetts)にロードした。中和価の最も高い画分をプールし、濃縮した。最後に、FRILを示すバンドをシバードンブルーアフィニティークロマトグラフィー(Affi-Gel、BioRad社)のフロースルーで分離し、~30kDaと40kDaの非特異的バンドから分離した。
【0115】
プラーク減少アッセイ
インフルエンザウイルス: 精製FRILおよびFRILの供給源であるフジマメ粉末について、定量的ウイルスプラーク減少アッセイを用いて、インフルエンザウイルス株H1N1(A/California/7/2009-X181)およびH3N2(A/Singapore/INFMH-16/0019/2016)の感染を予防する能力を評価した。アッセイは100μL中で、Flu株(80pfu)と無血清培地中の精製FRIL(0~3.2μg)またはPBS中のBean Powderのタンパク質抽出物(0~2mg)の量を増加させてを37℃で1時間、共培養して行った。その後、ウイルスとFRILおよび粉末をそれぞれ、48ウェルプレート内のMDCK細胞(~90%コンフルエント)に添加し、感染させた。37℃で1時間吸着後、ウイルス混合物を吸引し、未吸着のFluを除去するために洗浄した。細胞をAvicel/メチルセルロースで覆い、37℃で28時間インキュベートした後、固定し、抗Flu核タンパク質抗体で免疫染色した。ウイルス斑を顕微鏡で数え、用量反応曲線を作成した。
【0116】
コロナウイルス:OC43を、無血清培地中の精製FRIL(0~3.2μg)またはPBS中のフジマメ粉末のタンパク質抽出物(0~2mg)の量を増加させて1時間共インキュベートした。その後、無血清培地中、34℃で100μLのOC43 FRIL混合液を1時間吸着させることによりVero細胞を感染させ、熱処理した血清を含む培養液中に37℃で5日間置いた後、細胞を固定し、4%ホルムアルデヒドと0.2%クリスタルバイオレットで染色した。ウイルス斑を顕微鏡で数え、用量反応曲線を作成した。
【0117】
ネガティブ染色電子顕微鏡法
H1N1ウイルスの培養:H1N1(A/California/7/2009-X181)ウイルスと精製FRILタンパク質(10 μg/mLおよび150 μg/mL)をHEPES緩衝液(50 nM、pH = 8.0)中で37℃、60分間共インキュベートした。H1N1ウイルスは、4×107pfu/mLのストック濃度からHEPES緩衝液を用いて1×106pfu/mLの力価に希釈した。ウイルスと精製FRILタンパク質を15,000rpmで5分間遠心分離して前処理した。インキュベーション後、試料をグロー放電カーボンでコーティングした400メッシュ銅グリッドに塗布した。カーボンコートしたグリッドを2%酢酸ウラニルで染色し、5μLのdiH2Oで2回洗浄する。その後、透過型電子顕微鏡(FEI Tecnai T12)とCMOSカメラ(Gatan Oneview, Pleasanton, California)を用いて、100 kVでウイルスを観察した。画像はGatan Digital Gatan Digital Micrographicソフトウェアを用いて42Kの倍率で撮影された。
【0118】
精製H1N1ウイルス:顕微鏡による可視化には、スクロース勾配で精製したウイルスを使用した。H1N1(A/California/7/2009-X181)ウイルスと150μg/mLのFRILを37℃で30分間共インキュベートした。カーボンコート400メッシュ銅グリッドのグロー放電処理は、PELCOeasiGlowTM91000グロー放電洗浄システム(Ted Pella Inc.)を用いて実施した。グリッドは15 mAの電流で30秒間グロー放電された。インキュベーション後、サンプルはPBS緩衝液で希釈され、カーボンコートされたグリッドにロードされた。グリッドはNano-W(Nanoprobes, Yaphank, New York)でネガティブ染色である。ウイルスは電子顕微鏡(JEM-1400)で観察した。日本電子、ピーボディ、マサチューセッツ州)を120kVで作動させ、CCDカメラ(Gatan 895。Gatan、プレザントン、カリフォルニア州)を設置した。画像はGatan Digital Micrographicソフトウェアにより2.6Kおよび5Kの倍率で撮影された。
【0119】
統計分析
CTB-ACE2の総用量定量および放出データは、平均値±SDで示した。マイクロバブリングSARS-CoV-2抗原アッセイのデータは、平均値±SDで示した。統計的有意性は、各条件の3反復の平均値としてOne-Way 電気化学インピーダンス測定法を用いて決定した。グラフを作成し、GraphPad Prism 9.2で統計検定を行った。プラーク減少アッセイでは、解剖顕微鏡下でプラーク数を定量した。半値最大EC50値は、Prizm 6ソフトウェア(GraphPad Software, LaJolla, CA)を用いて、可変勾配、4パラメータ用量反応モデルへの非線形回帰フィッティングにより求めた。
【0120】
結果
冒頭で指摘したように、SARS-CoV-2の経口感染は鼻腔感染より3-5桁高い[14-28]。パンデミックから2年経った現在でも、SARS-CoV-2陽性反応後の隔離や職場復帰を終了させるFDA認可の定量的検出方法はまだない。症状が消失してから数週間後にSARS-CoV-2が検出されたことから明らかなように、qPCRでは生存不可能なウイルス粒子が検出される可能性があり [30-32]、CDCのガイドラインでは感染発症から90日後までのqPCR検査は支持されていない。定量的抗原検査を開発し、ウイルス捕捉タンパク質に対するCOVID-19サンプルのウイルス負荷の変化を調べるために、本研究では2つの異なるアプローチを利用する。マイクロバブリング(N抗原)およびRAPID(スパイクタンパク質)アッセイを用いて、CTB-ACE2ガムまたはウイルス捕捉タンパク質-FRILを含むフジマメ粉末を評価する(
図7A、7B)。さらに、インフルエンザウイルス株に対するFRILの影響をプラーク減少アッセイで評価した。FRILの封じ込めのメカニズムについては、さらに電子顕微鏡を用いた研究を行った。CTB-ACE2を発現する植物の作出、種子、バイオマスの生産、滅菌、凍結乾燥、粉砕/ふるい分け、凍結乾燥植物粉末によるチューインガムの生産、FDA要求事項の評価(含水率、バイオバーデン、薬剤投与量、安定性など)、機能特性評価、毒性/薬物動態試験、IND申請、臨床試験デザインに関わる様々な工程を
図8にまとめた。
【0121】
CTB-ACE2の用量定量とインキュベーション中のガムタブレットからの放出:
ガム錠剤のウェスタンブロット評価により、CTB-ACE2の総投与量は352.45±18.9μg/2g錠剤であることが明らかになった(
図9A、9B)。超音波処理なしでのCTB-ACE2の放出は、研究室で行った最適化された実験条件下で37±1.0μg/タブレット(2g)であった(
図9C、9D)。チューインガムのドラッグデリバリーシステムに適したタンパク質の放出を最大化するために、粉砕条件を最適化した。これは、経口投与されるタンパク質薬剤 [49,63]がバイオカプセル化されているため、胃液による胃での分解から保護され、その後、微生物による植物細胞壁の消化によって腸内で放出されるのとは異なる。ガムおよびガム錠剤の調製に使用した植物材料のバイオバーデン評価では、FDAパラメータに準拠した微生物および真菌の増殖は認められなかった。臨床グレードのCTB-ACE2レタス粉末の含水率は5.5%であり、経口投与される植物粉末のFDA要件を満たしていることがわかった。こうして調製されたガム錠剤は、FDAの規格に適合しており、臨床試験に使用できる。
【0122】
CTB-ACE2ガムとFRIL豆タンパク質で処置した綿棒検体中のSARS-CoV-2のマイクロバブリングによる評価
マイクロバブリング SARS-CoV-2 抗原アッセイは、ヌクレオカプシド(N)抗原をフェムトモル濃度で検出するように設計されている[68]。サンプル量に限りがあるため、用量依存性分析は3用量に限定した。患者#620および#613のオミクロンバリアントNPサンプルについて、それぞれ20、40および100μgの用量でFRIL豆タンパク質の除去能を試験し、患者#614および#615について、0.18、0.46および0.92μgの用量でCTB-ACE2ガムの除去能を試験した。4つのオミクロン変異型NPサンプルのウイルス力価を表1に示す。
【0123】
図10Aおよび10Bに見られるように、FRILタンパク質は最低用量の20μgでもマイクロバブル数を有意に減少させることができる(p<0.0001)。
【0124】
CTB-ACE2ガムでは、マイクロバブルの用量依存的な減少が見られ、0.92 g処置サンプルでマイクロバブルの数が最も少なかった(p=0.0001)(
図11A、11B)。
【0125】
両植物由来の抗ウイルス捕捉タンパク質の用量を比較すると、CTB-ACE2は0.46μgの用量で有効であるのに対し、FRILは20μgでほぼ同様の減少効果が見られたことは興味深い。最近発表した論文[34]では、
図11C、11Dに見られるように、ウイルスのデルタ変異型に対するCTB-ACE2のデバルキング効果を示した。CTB-ACE2の中和能はSARS-CoV-2の両バリアントに有効である。これらの結果から、植物レクチンであるFRILのSARS-CoV-2デバルキング効率は、CTB-ACE2のそれとは異なることが確認された。ACE2がSARS-CoV-2のスパイクタンパク質に直接結合し、CTB-ACE2の5量体不溶性微粒子構造にウイルスを封じ込めるのに対し[34]、FRILは凝集体を形成するウイルス糖タンパク質上の複合型N-グリカンに優先的に結合する[38]。これらの明確なメカニズムはいずれも、取り込まれたウイルス粒子の除去を容易にするため、ウイルス感染を抑制する効果的な予防手段となりうる。4例すべての綿棒検体において、RT-PCR法で測定したウイルス負荷と、N抗原の有無に依存するマイクロバブル数との間に正の相関は認められなかった(表1)。ウイルス負荷が多い患者(#620、#613)ではマイクロバブル数が少ないことから、RT-PCRは、抗体結合のエピトープを持つ無傷のN1抗原を生成しないN1遺伝子断片を検出している可能性が示唆される[69]。
【0126】
CTB-ACE2ガム処置後のRAPIDによる臨床綿棒検体中のSARS-CoV-2の評価
われわれが以前に開発したRAPID(Real-time Accurate Portable Impedimetric Detection)法[70,71]は、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を用いてスパイクタンパク質とヒト受容体ACE2との結合を検出するもので、ここではCTB-ACE2チューインガムの捕捉効果を検証するために用いた[72-76]。アッセイに最適な分析条件を明らかにするため、数百の臨床サンプルを用いた先行研究[70,71]に基づき、以下の式で定義される正規化R
CTレスポンスを使用した:
【数1】
ここで、Zはサンプル群のR
CTであり、Z
0はブランク群(ウイルス輸送培地、VTM)のR
CTである。RAPIDは、シグナル/ノイズ比(S/N=3)及び(S/N=10)に基づき、VTM培地においてそれぞれ低い検出限界(LOD、6.29 fg
mL
-1 SP)及び定量限界(LOQ、20.96 fg
mL
-1 SP)を示す[70]。1サンプル(ID 593)を除き、サンプルは全ゲノム配列決定、またはS遺伝子の標的不成功、または採取日に基づいて遺伝子型を決定した(表1、
図12)。サンプル595-609はSARS-CoV-2のデルタ株、613-631はオミクロン株である。全サンプルのRNA抽出は、同量の患者サンプル(140μl)から行い、抽出したRNAを再懸濁し、同様の条件下でqPCRにより定量した。デルタ検体とオミクロン検体の間でウイルス負荷に特異的な変化は認められなかったが、ウイルス負荷は患者間で有意に異なっていた。患者サンプル(150μlのサンプル)をCTB-ACE2チューインガムとインキュベートし、患者サンプルの10μlアリコートでRAPIDを行った(
図12)。R
CTの値は患者サンプルによって大きく異なる。CTB-ACE2チューインガムは、ウイルス粒子を効率的に捕捉することができ、分析した20検体すべてにおいてウイルス濃度を低下させた(
図12)。このうち17検体では、CTB-ACE2チューインガムとのインキュベーション後、RAPIDでウイルス粒子は検出されなかったことは、この材料が、非常に低いSARS-CoV-2 SP濃度レベル(RAPIDのLOD以下)までウイルス粒子を捕捉する能力を持つことを強調している。
【0127】
FRILはインフルエンザウイルスとコロナウイルスを強力に中和する
FRILは複合型N-結合型糖鎖に結合親和性を持つので、インフルエンザウイルス、HBV、HSVのような複合型N-結合型グリカンを発現するエンベロープ・ウイルスに対して広く有効であると考えられる[79-81]。ここでは、精製FRILタンパク質およびフジマメ粉末のインフルエンザH1N1(A/California/7/2009-X181)およびH3N2(A/Singapore/INFMH-16/0019/2016)、ならびにコロナウイルスHCoV-OC43に対する抗ウイルス活性を、プラーク減少アッセイを用いて調べた(
図13、
図14)。
【0128】
インフルエンザのプラーク減少アッセイでは、精製FRILタンパク質はH1N1(
図13A)に対して95ng(100μL処理量中)、H3N2(
図13B)に対して96ngの中間点阻害を示した。興味深いことに、OC43に対する76 ngのFRILの抗ウイルス力は、ウイルス力価やプラーク数のわずかな違いの可能性を考慮すると、実験的にはインフルエンザウイルスのそれに近かった(
図13C)。これらの結果は、以前に報告されたH1N1、H3N2、およびhCoV-19/Taiwan/NTU04/2020に対する50%プラーク減少中和試験(PRNT
50)の値に相当する[38]。
【0129】
重要なことは、フジマメ粉末の抗ウイルス能力はこれまで研究されてこなかったということである。精製されたFRILに比べ、フジマメ粉末は、手頃な価格、入手のしやすさ、酵素の安定性に関連した利点があり、抗ウイルスチューインガムのより良い候補である。そこで、豆粉末1mgあたり4μgのFRILタンパク質を含むフジマメ粉末の中和能力を調べた。得られた全可溶性フジマメタンパク質の濃度は、出発フジマメ粉末1mgあたり149.28μgであった。可溶性フジマメ粉末を用いたプラークアッセイでは、H1N1に対しては25μg(推定100ng FRIL放出)(
図13D)、H3N2に対しては21μg(84ng FRIL)(
図13E)、OC43に対しては13μg(52ng FRIL)(
図13F)の中間点阻害値を示した。さらに重要なことは、中間点阻害で放出された可溶化FRILの推定量は、ウイルス力価およびプラーク数のわずかな違いの可能性を考慮すると、中間点阻害に使用した精製FRILの量に実験的に近いということである。例えば、フジマメ粉末はH1N1に対して25μgで中間点阻害に達し、3732.5ngの可溶化タンパク質と100ngの可溶化FRILを放出すると推定され、一方、精製FRILは95 ngの可溶化FRILで中間点阻害に達する。このことは、抗ウイルス活性が可溶化FRILを介したものであるのに対して、フジマメ粉末には他の植物タンパク質が370倍も含まれているという点で重要である。これらのデータは、フジマメ粉末からFRILを精製する必要がないことを示しており、フジマメ粉末でチューインガムを製造するための論理的基礎を築くものである。
【0130】
まとめると、インフルエンザ染色とOC43コロナウイルスの両方に対して、1mg/mL未満のフジマメ粉末(これは4μg/mLのFRILを放出する)は、すべての感染を効果的に阻害することができる。嚥下前の唾液量が男性で0.87ml、女性で0.66mlであることを考慮すると[81]、チューインガム中の1mg未満のフジマメ粉末は、唾液中の異なるインフルエンザウイルス株およびコロナウイルスを効果的に減少させ、それによって感染を防ぐことができると推定される。このような高い効力を持つFRIL豆の粉末は、インフルエンザとコロナウイルスの両方の感染リスクを効果的に低減できるFRIL含有チューインガムの製造を可能にする。
【0131】
FRIL豆タンパク質によるウイルス封じ込めのメカニズム
CTB-ACE2の除去機構とは異なり、FRILはウイルスエンベロープ上の複合型N結合型グリカンへの結合親和性によってビリオンを捕捉する。10μg/mLのFRILに未精製のインフルエンザウイルスを加え、ネガティブ染色EMを用いて、捕捉されたウイルス粒子の集合体を観察した(
図15A)。インフルエンザ粒子は、未処置のウイルス粒子と比較して、FRILによって互いにかなり接近して結合し、FRILタンパク質が目に見える形でウイルス凝集体を取り囲んでいた。重なり合ったインフルエンザ粒子とFRILタンパク質の大きく密な塊が、150μg/mLのFRIL濃度で観察されたが、未処置のウイルス粒子では観察されなかった(
図15A)。
【0132】
インフルエンザ粒子の凝集をよりよく観察するために、スクロースグラジエント精製ウイルスと150μg/mL精製FRILを用いてプロトコルを実施した。FRIL凝集体を取り囲むように、インフルエンザウイルス粒子の凝集体が観察される(
図15B)。未処置のインフルエンザウイルスで多く観察される分離インフルエンザウイルス量は、FRILの添加により大幅に減少する。
【0133】
これらの画像は、FRILの4つのモノマーそれぞれにある糖鎖結合ドメイン(CBD)が、複数のウイルス粒子を結合させ、それによってFRILタンパク質の10-150μg/mLで大きな凝集体にビリオンを封じ込める可能性を示唆している(
図15)。ウイルス粒子のクラスタリングは、FRILの除去機構を説明することができる:巻き込まれたインフルエンザウイルス粒子は遠心分離中に中和され、サンプルから除去される。さらに、他のウイルス捕捉レクチンMBLとSP-Dは、免疫系によるウイルスクリアランスを促進することが報告されており[82]、FRILも同様の効果を持つ可能性がある。SARS-CoV-2ウイルスのエンベロープに存在するスパイク(S)タンパク質は、単量体あたり22の複合型N-結合型グリカン部位をコードしていることから[41]、FRILはマイクロバブルアッセイにおいてスパイクタンパク質のN-結合型グリカン部位に結合することで、SARS-CoV-2を捕捉し、除去することができるという仮説を立てた。主に、患者サンプルをインキュベートする際、フジマメ粉末から放出されたFRILタンパク質がSARS-CoV-2ウイルス粒子を捕捉し、塊を形成した。そして、遠心分離の際に、巻き込まれたウイルス粒子が除去され、マイクロバブル数が減少する。
【0134】
チューインガムによるウイルス捕捉タンパク質の送達を実験室から臨床へ前進させる
生体外でのSARS-CoV-2除去は、伝播性の高いオミクロン株を含む様々なSARS-CoV-2株に対して有効であるが、SARS-CoV-2による唾液の再増殖に要する時間はまだ不明である。現在のCTB-ACE2ガムは、短期間(歯科医院、公共交通機関、集会、レストランなど)使用することができるが、COVID-19患者のウイルス負荷を低下させるためにCTB-ACE2ガムを治療的に使用するには、唾液中のウイルス負荷動態に関するデータが必要である。CTB-ACE2チューインガムの第I/II相プラセボ対照二重盲検試験を、
図16に示す試験計画に沿って実施する予定である。
【0135】
主要な安全性解析は、試験製剤を投与された全参加者を対象に実施され、年齢層別に提示される。すべての勧誘されたAEおよび非勧誘AEは、全群について群ごとの頻度、および年齢層別にパーセンテージでまとめられ、関連する正確な95%Clopper-Pearson信頼区間とともに提示される。ウイルス学的評価項目については、1,2,3,4日目のSARS-CoV-2 RNAレベルを、ノンパラメトリックWilcoxon順位和検定および記述統計学を用いて、予定された各測定時間に分けて群間で比較する。さらに、上記のマイクロバブルまたはRAPIDアッセイを用いて、唾液サンプル中のウイルス抗原(Nまたはスパイクタンパク質)を定量する。COVID 19の臨床的進展の評価については、COVID-19に関連する1日の総症状スコアの経時的な曲線下面積AUCに基づいて重症度ランキングを行う。
【0136】
結論
アメリカの人口の約4分の1が週に2~3回ガムを噛んでいるが [85]、そのほとんどは嗜好品としてであり、低分子の送達は、現在あるいは過去に、アスピリン、ニコチン、カフェインの送達、あるいは口腔衛生や健康増進のために使用されている。インスリンのような治療用タンパク質をチューインガムを使って投与する試みは、これまで失敗してきた。我々のデータは、チューインガムを介して中和病原体を口腔内または喉の表面に送達することが、ウイルス負荷を低下させ、感染伝播を減少させるのに有効であることを示している。最も重要なことは、植物で生産されたタンパク質は、高温での生産時や常温での長期保存時に、ガム中で驚異的な安定性を示すことである。この研究は、SARS-CoV-2やインフルエンザウイルスの感染と伝播を減少させるために、チューインガムにウイルス捕捉タンパク質を投与することの威力と、このプラットフォームを他の様々な経口感染するウイルス性疾患、細菌性疾患、真菌性疾患に発展させる可能性を示している。
【0137】
参考文献
以上、本発明の好ましい実施の特定について説明し、具体的に例示したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。以下の特許請求の範囲に記載されているように、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、様々な修正を行うことができる。
【国際調査報告】